文字サイズの変更
背景色の変更
本文表示
         content

PDFダウンロード

東日本電信電話(株)による審決取消請求事件

独禁法3条前段

平成21年(行ヒ)第348号

判決

東京都新宿区西新宿3丁目19番2号
上告人 東日本電信電話株式会社
同代表者代表取締役 江部 努
同訴訟代理人弁護士 川合弘造
木目田裕
弘中聡浩
一場和之
東 貴裕
宇野伸太郎
山田将之
小林和真呂
沼田知之
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被上告人 公正取引委員会
同代表者委員長 竹島一彦
同指定代理人  田中久美子
秋沢陽子
佐藤真紀子
小髙真侑
大胡勝

上記当事者間の東京高等裁判所平成19年(行ケ)第13号審決取消請求事件について,同裁判所が平成21年5月29日に言い渡した判決に対し,上告人から上告があった。よって,当裁判所は,次のとおり判決する。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人川合弘造ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,東日本地区を業務区域とする電気通信事業者である上告人において,平成14年6月1日から同16年3月31日までの間(以下「本件行為期間」という。),光ファイバ設備を用いた戸建て住宅向けの通信サービス(以下「FTTHサービス」という。)を自ら提供するに際し,その利用者から徴収する料金(後記のユーザー料金)を,上告人と同等のFTTHサービスを利用者に提供するために上記設備に接続する他の電気通信事業者から上告人が取得すべき料金(後記の接続料金)より低額に設定した行為につき,被上告人から,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下「独禁法」という。)54条3項に基づき,当該行為は独禁法2条5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当し,独禁法3条に違反すると認める旨の審決(以下「本件審決」という。)を受けたため,その取消しを求めた事案である。
2 電気通信事業法(平成15年法律第125号による改正前のもの。以下同じ。)によれば,電気通信回線設備を設置して電気通信事業を行う者(以下「第一種電気通信事業者」という。)は,電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがある場合等を除き,他の電気通信事業者からその電気通信設備を当該電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは,その請求に応ずる義務を負い(38条),他の電気通信事業者の電気通信設備との接続が利用者の利便の向上及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない電気通信設備として総務大臣の指定を受けた電気通信設備(以下「第一種指定電気通信設備」という。)を設置する第一種電気通信事業者は,当該第一種指定電気通信設備と他の電気通信事業者の電気通信設備との接続に関し,当該第一種電気通信事業者が取得すべき金額(以下「接続料金」という。)及び接続の条件について接続約款を定め,総務大臣の認可を受けなければならず,接続約款を変更しようとするときも同様である(38条の2第1項,2項)。第一種指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者は,原則として,上記認可を受けた接続約款によらなければ,他の電気通信事業者との間において,第一種指定電気通信設備との接続に関する協定を締結し,又は変更してはならない(同条6項)。
そして,総務大臣は,第一種電気通信事業者が認可を受けた接続料金がその原価に照らして不適当となったため公共の利益の増進に支障があると認めるとき等には,当該事業者に対し,相当の期限を定め,接続約款の変更の認可を申請すべきことを命ずることができる(36条2項。以下,この命令を「変更認可申請命令」という。)。
また,第一種電気通信事業者の提供する電気通信役務については,その利用者から徴収する料金(以下「ユーザー料金」という。)の総務大臣への届出が義務付けられており(31条1項),他の電気通信事業者との間の公正な競争の確保等の観点から,総務大臣は,届け出られたユーザー料金につき,その算出方法が適正かつ明確に定められていないとき(同条2項1号),特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき(同項2号),又は他の電気通信事業者との間に不当な競争を引き起こすものであり,その他社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため,利用者の利益を阻害するものであるとき(同項3号)には,相当の期限を定め,ユーザー料金の変更を命ずることができる(同項柱書き。以下,この命令を「料金変更命令」という。)。
3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) FTTHサービスは,ブロードバンドサービス(インターネットに接続して大量のデータ通信を可能とするサービス)の中でも,通信速度が速い(毎秒最大100メガビット)上に通信方向や収容局からの距離に左右されず,接続が安定しており通信品質が良く,1本の回線で音声や動画等を統合したサービスが可能である等といった特徴を有している。加入者もこうしたFTTHサービスの特徴を認識していることが多く,ブロードバンドサービスのうち,より通信料金の安価な非対称デジタル加入者線を用いた通信サービス(以下「ADSLサービス」という。)等からFTTHサービスヘと移行する者はいても,いったんFTTHサービスを選択した後にADSLサービス等の他種のブロードバンドサービスヘと移行する者はほとんどいない。
また,FTTHサービスは,その利月開始に際して加入者宅に光ファイバを引き込む工事が必要であり,事業者を変更するには上記工事を再度行う必要があるため,電話回線による利用が可能であるADSLサービスと比較して,一度加入者と契約した事業者は当該契約を長期間維持することができるという傾向が強い。
(2)第一種電気通信事業者である上告人は,平成15年3月末において,加入者光ファイバ(収容局から加入者宅に設置される回線終端装置までを結ぶための光ファイバ)約380万芯を保有していたところ,そのうち,上告人が自社のFTTHサービス(集合住宅向け及びビジネス向けのものを含む。)に使用しているのが約9万芯,上告人がFTTHサービス(前同)以外の通信サービスに使用しているのが約84万芯,他の電気通信事業者が接続しているのが約2万芯であり,その余の約285万芯(全体の約75%)は未使用の光ファイバ(以下「ダークファイバ」という。)であった。また,同時期において,上告人の保有する加入者光ファイバがFTTHサービス(前同)に係る事業者の保有する加入者光ファイバ全体に占める割合は,東日本地区のいずれの都道県でもおおむね芯線数の70%以上を占めていた。なお,上告人の設置している加入者光ファイバ設備(加入者光ファイバ並びにこれらと一体として使用される伝送装置及び加入者主配線盤の総称)は,第一種指定電気通信設備である。
(3) 一般に,電気通信事業者が自ら管路又は電柱を設置して加入者光ファイバを設置することには困難が伴うところ,特に,FTTHサービスの需要が多く見込まれる都市部では,電線の地中化が進展しているために光ファイバの地下埋設工事の実施が可能な時期が限定される上,敷設費用も高額となる。また,既設の管路や電柱を賃借しようとしても,その所有者の協力が得られる保障はなく,仮に賃借が可能であってもその手続に相当長期間を要する。このため,本件行為期間において,東日本地区で自らの加入者光ファイバ設備を用いてFTTHサービスを提供していた事業者は,上告人以外では主に東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)及び株式会社有線ブロードネットワーク(当時の商号。以下「有線ブロード」という。)に限られ,両社のサービス提供地域も,東京電力では東京都特別区,武蔵野市,三鷹市及び調布市の各一部に,有線ブロードでは東京都世田谷区周辺及び横浜市の各一部にそれぞれ限定されていた。
また,上告人が大都市圏の管路の多くを保有していたこと,東京電力及び有線ブロードの保有する加入者光ファイバ設備は芯線数が少なく,その敷設範囲も上記のとおり限定されていたこと,東京電力には電気通信事業に適した収容局が一部しかなく接続に要する設備や管理運営体制も整っていなかったことなどから,本件行為期間において,第一種電気通信事業者が設置する既存の加入者光ファイバ設備と接続してFTTHサービスを提供しようとする電気通信事業者にとっては,事実上,その接続対象として上告人の加入者光ファイバ設備以外の加入者光ファイバ設備を選択することは考え難い状況であった。
他方,平成15年9月末の時点における上告人のFTTHサービス(ビジネス向けのものを含む。)の市場占有率は,東日本地区の各都道県で開通件数の82ないし100%を占めていた。
(4) 上告人は,本件行為期間において,毎秒最大100メガビットの通信速度によるFTTHサービスを,収容局と加入者宅とを直結して光ファイバ1芯を加入者が1人で利用する方式(以下「芯線直結方式」という。)によるベーシックタイプのサービスに加え,収容局の内外に分岐装置を設置して光ファイバ1芯を複数の加入者(最大32人)で共用する方式(以下「分岐方式」という。)によるニューファミリータイプのサービスとしても提供していた。分岐方式は,1芯の光ファイバを共用する複数の加入者が同時に利用した場合には芯線直結方式よりも通信速度が低下する可能性があった。また,分岐方式において上告人が他の電気通信事業者から取得すべき接続料金は,光信号伝送装置,収容局内外の分岐装置等を含む加入者光ファイバ1芯単位のものとして定められ認可されており,これによれば,加入者の人数が増加するごとに加入者1人当たりの金額が逓減する(例えば,1芯当たりの加入者が1人の場合は2万0130円であるが,32人の場合は2326円となる。)ものとされていた。他方,芯線直結方式において上告人が他の電気通信事業者から取得すべき接続料金は,加入者1人当たり最低でも月額6328円となるものとして認可されていた。
(5) 第一種電気通信事業者が提供するFTTHサービスのユーザー料金と接続料金との関係について具体的に規制する法令は存在しないが,総務省においては,第一種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者の設定するユーザー料金が接続料金を下回るという逆ざやが生ずることのないよう行政指導が行われていた。
上告人は,平成14年4月11日,総務大臣に対し,同年6月1日から提供を開始するニューファミリータイプのユーザー料金を月額5800円と設定して届け出た。その際,上告人は,上記の金額について,ニューファミリータイプの加入者が平均で1芯当たり約19人であると想定した場合は,その加入者1人当たりの接続料金(回線管理運営費等を含む。)が月額約4906円となることから,これをベースとし,これに一定程度の営業費を見込んだものであると説明していた。しかし,実際には,上記ユーザー料金は,東京電力が同年3月から開始する予定であった毎秒最大100メガビットの通信速度によるFTTHサービスのユーザー料金相当額(上告人は月額6000円程度と推測していた。)に対抗するために設定されたものであった。なお,ベーシックタイプのユーザー料金は月額9000円と設定されていた。
上告人は,自社のFTTHサービスにつきニューファミリータイプを導入する際,加入者が少ないうちは芯線直結方式を用い,加入者が増えてきたら分岐方式を用いる方が自社の費用面で経済的であること等を踏まえ,新規加入者に対しては芯線直結方式の設備を設置すること,ベーシックタイプからニューファミリータイプへ移行する加入者に対しても本来必要となる加入者宅内工事を不要とすること等の手順を定め,当面,ニューファミリータイプについても芯線直結方式によって提供することとした。他方で,上告人は,どのような状況になれば分岐装置を設置するかについて具体的な基準は策定せず,将来的に分岐方式を導入する場合であっても,新たに利用する芯線についてのみ分岐方式で提供を行い,それでも芯線が不足した場合に初めて,芯線直結方式で既に提供している回線を分岐方式に移行することに経済的合理性があるとの認識を有していた。
また,上告人は,FTTHサービスの加入者を獲得するため,電話やインターネットで申込みを受け付ける従来の営業方法に加えて,訪問営業をも併用することとし,訪問営業において加入者光ファイバに係る設備情報を活用することとしたが,ダークファイバの所在等が他の電気通信事業者に明らかになることを避けるため,対外的には上記設備情報の開示を行わないこととした。
(6) 上告人は,東京電力が平成14年12月にそのFTTHサービスの値下げを実施したことを受け,これに対抗する必要から,同15年1月27日,ニューファミリータイプにおける分岐方法を変更して収容局から収容局外の分岐装置までの加入者光ファイバを共用する加入者数を増やしたために加入者1人当たりのコストが更に低下したことを理由とする接続料金変更認可の申請を行い,同年3月14日,総務大臣からその認可を受け,同月18日には,同年4月1日からニューファミリータイプのユーザー料金を月額4500円に引き下げる旨を総務大臣に届け出た。ニューファミリータイプの申込件数は,上記値下げ等を受け,平成14年5月の受付開始から同15年2月までの10か月間で計約3万3000件であったものが,同年4月から6月にかけては毎月2万件前後にまで増加した。
(7) 上告人は,平成15年9月,総務省から,ニューファミリータイプの実際の設備構成等について報告を求められた。上告人は,同年8月末当時,ニューファミリータイプの大部分を本来の分岐方式ではなく芯線直結方式により提供していたこと,その理由は,まだ需要が少なく加入者が点在している過渡期においては芯線直結方式の方が設備費用が安価であったためであること,需要が堅調に出始めたことから早急に分岐方式に移行するよう検討を行っていること等を回答した。
上告人は,平成15年11月,総務省から,ニューファミリータイプについて,そのサービスの内容が事実上ベーシックタイプと同じであり,現在の設備構成が将来にわたって継続する場合には電気通信事業法31条2項2号の「不当な差別的取扱い」又は3号の「社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため,利用者の利益を阻害するもの」に該当すると考えられるため,既存加入者の分岐方式への移行についてはできる限り前倒しでその工事を行うとともに,より柔軟な接続料金の設定について検討し報告すること等を求める行政指導を受けたが,上告人に対して変更認可申請命令や料金変更命令が発出されることはなかった。
(8) 被上告人は,平成15年12月,ニューファミリータイプにおけるユーザー料金が接続料金を下回っており,これにより上告人の加入者光ファイバ設備と接続しようとする他の電気通信事業者の新規参入を阻害している行為が独禁法3条に違反するなどとしてその停止等を勧告したが,上告人がこれを応諾しなかったため,同16年1月,上告人に対する審判開始決定をした。
(9) 上告人は,遅くとも平成16年4月11日以降,ニューファミリータイプのFTTHサービスに関し,新規加入者に対する芯線直結方式での提供を停止し,同月27日には,既に芯線直結方式での提供をしている加入者についても,今後2年間をめどに順次分岐方式へ移行する予定であることを明らかにし,同年10月13日には,総務大臣に対し,分岐方式の設備を一括して使用させる従来の方法に加え,その一部のみを使用させる方式を追加すること,分岐端末回線の接続料金を引き下げること等を内容とする接続約款変更認可の申請を行い,同年12月21日にその認可を受けた。
本件行為期間後である平成16年10月以降になって,ソフトバンクBB株式会社が上告人の収容局に自らの分岐装置を設置して上告人の加入者光ファイバ設備に分岐方式で接続するなど,自らは加入者光ファイバ設備を設置していない電気通信事業者によるFTTHサービス市場への本格的な新規参入が行われるようになった。
(10)被上告人は,平成19年3月26日付けで,上告人が,本件行為期間において,ニューファミリータイプのFTTHサービスを自ら加入者に提供するに際し,分岐方式を用いることを前提に光ファイバ1芯を共用する加入者の人数が増えるに従って1人当たりの金額が逓減する接続料金に係る認可を受けていながら,実際には芯線直結方式を用い,他の電気通信事業者が芯線直結方式で上告人の加入者光ファイバ設備に接続してFTTHサービスを提供するために支払うべき接続料金を下回るユーザー料金を設定したこと(以下「本件行為」という。)が排除型私的独占に該当すると認めることなどを内容とする本件審決(公正取引委員会平成16年(判)第2号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件)をした。
4 独禁法は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させて事業活動を盛んにすることなどによって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的(1条)とし,事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするものである。その趣旨にかんがみれば,本件行為が独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為(以下「排除行為」という。)に該当するか否かは,本件行為の単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである。この点は,具体的には,競業者(FTTHサービス市場における競業者をいい,潜在的なものを含む。以下同じ。)が加入者光ファイバ設備接続市場において上告人に代わり得る接続先を確保することの難易,FTTHサービスの特性,本件行為の態様,上告人及び競業者のFTTHサービス市場における地位及び競争条件の差異,本件行為の継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断すべきものと解される。しかるところ,上記事実関係等によれば,当時東日本地区において既存の加入者光ファイバ設備と接続してFTTHサービスを提供しようとする電気通信事業者にとって,その接続対象は,大都市圏の管路を多く保有し,光ファイバの芯線数及び敷設範囲で他社に比して極めて優位な地位にあり,接続に要する設備等も整っていた上告人に事実上限られていた。加えて,FTTHサービスは,主として事業の規模によってその効率が高まり,かつ,加入者との間でいったん契約を締結すると競業者への契約変更が生じ難いという点で,市場における先行者である上告人に有利な特性を有していたものといえる。そして,本件行為期間において,上告人はニューファミリータイプのFTTHサービスを芯線直結方式によって提供しており,当時の需給関係等からみてこれによってもダークファイバが不足するような事態は容易に想定し難く,上告人においても分岐方式への移行の具体的な予定がなかったことなどからすれば,ニューファミリータイプのFTTHサービスはその実質において芯線直結方式を前提とするベーシックタイプと異なるものではなかったというべきところ,ニューファミリータイプのユーザー料金は芯線直結方式において他の電気通信事業者から取得すべき接続料金を下回るものであったというのであるから,上告人の加入者光ファイバ設備に接続する電気通信事業者は,いかに効率的にFTTHサービス事業を営んだとしても,芯線直結方式によるFTTHサービスをニューファミリータイプと同額以下のユーザー料金で提供しようとすれば必ず損失が生ずる状況に置かれることが明らかであった。しかも,上告人はニューファミリータイプを分岐方式で提供するとの形式を採りながら,実際にはこれを芯線直結方式で提供することにより,正に上記のような状況が生ずることを防止するために行われていた行政指導を始めとするユーザー料金等に関する種々の行政的規制を実質的に免れていたものといわざるを得ない。他方で,上告人は,FTTHサービス市場において他の電気通信事業者よりも先行していた上,その設置した加入者光ファイバ設備を自ら使用していたためユーザー料金が接続料金を下回っていたとしても実質的な影響はなく,ダークファイバの所在等に関する情報も事実上独占していたこと等にもかんがみれば,上告人と他の電気通信事業者との間にはFTTHサービス市場における地位及び競争条件において相当の格差が存在したということができる。また,本件行為期間は1年10か月であるところ,その間のFTTHサービス市場の状況にかんがみ,当時同市場は急速に拡大しつつあったものと推認されるから,上記の期間は上告人による市場支配力の形成,維持ないし強化という観点から相応の有意な長さのある期間であったというべきである。
以上によれば,本件行為は,上告人が,その設置する加入者光ファイバ設備を,自ら加入者に直接提供しつつ,競業者である他の電気通信事業者に接続のための設備として提供するに当たり,加入者光ファイバ設備接続市場における事実上唯一の供給者としての地位を利用して,当該競業者が経済的合理性の見地から受け入れることのできない接続条件を設定し提示したもので,その単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,当該競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にする効果を持つものといえるから,同市場における排除行為に該当するというべきである。
5 また,前記事実関係等によれば,本件行為期間において,ブロードバンドサービスの中でADSLサービス等との価格差とは無関係に通信速度等の観点からFTTHサービスを選好する需要者が現に存在していたことが明らかであり,それらの者については他のブロードバンドサービスとの間における需要の代替性はほとんど生じていなかったものと解されるから,FTTHサービス市場は,当該市場自体が独立して独禁法2条5項にいう「一定の取引分野」であったと評価することができる。そして,この市場においては,既に競業者である東京電力及び有線ブロードが存在していたが,これらの競業者のFTTHサービス提供地域が限定されていたことやFTTHサービスの特性等に照らすと,本件行為期間において,先行する事業者である上告人に対するFTTHサービス市場における既存の競業者による牽制力が十分に生じていたものとはいえない状況にあるので,本件行為により,同項にいう「競争を実質的に制限すること」,すなわち市場支配力の形成,維持ないし強化という結果が生じていたものというべきである。さらに,上告人が本件行為を停止した後に他の電気通信事業者が本格的にFTTHサービス市場への新規参入を行っていること,その前後を通じて東京電力及び有線ブロードの競争力に変動があったことを示すような特段の事情はうかがわれないこと等からすれば,FTTHサービス市場における上記のような競争制限状態は本件行為によってもたらされたものであり,両者の間には因果関係があるということができる。なお,前記事実関係等に照らすと,総務大臣が上告人に対し本件行為期間において電気通信事業法に基づく変更認可申請命令や料金変更命令を発出していなかったことは,独禁法上本件行為を適法なものと判断していたことを示すものでないことは明らかであり,このことにより,本件行為の独禁法上の評価が左右される余地もないものというべきである。
6 したがって,本件行為は排除型私的独占に該当するから本件審決の取消しを求める上告人の請求を棄却すべきものとした原審の結論は,是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷

平成22年12月17日

裁判長裁判官 千葉勝美
裁判官 古田佑紀
裁判官 竹内行夫
裁判官 須藤正彦

〈別紙「上告受理申立て理由書」〉省略

PDFダウンロード

戻る 新規検索