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JX日鉱日石エネルギー(株)ほか2名に対する件

独禁法7条の2(独禁法3条後段)

平成20年(判)第11号ないし第13号

課徴金の納付を命ずる審決

東京都千代田区大手町二丁目6番3号
被審人 JX日鉱日石エネルギー株式会社
同代表者 代表取締役 木 村   康
同代理人 弁 護 士 西   迪 雄
同          向 井 千 杉
同          富 田 美栄子
同          渡 邉 和 之

東京都港区芝浦一丁目1番1号
被審人 コスモ石油株式会社
同代表者 代表取締役 木 村 彌 一
同代理人 弁 護 士 宮 代   力
同          西 山   彬
同          石 田 英 遠
同          中 野 雄 介
同          副 田 達 也
上記被審人代理人石田英遠復代理人
佐 橋 雄 介

東京都港区台場二丁目3番2号
被審人 昭和シェル石油株式会社
同代表者 代表取締役 新 井   純
同代理人 弁 護 士 梶 谷   剛
同          岡   正 晶
同          藤 原   寛

平成20年(判)第11号ないし第13号

審       決

東京都千代田区大手町二丁目6番3号
被審人 JX日鉱日石エネルギー株式会社
同代表者 代表取締役 木 村   康
同代理人 弁 護 士 西   迪 雄
同          向 井 千 杉
同          富 田 美栄子
同          渡 邉 和 之
         
東京都港区芝浦一丁目1番1号
被審人 コスモ石油株式会社
同代表者 代表取締役 木 村 彌 一
同代理人 弁 護 士 宮 代   力
同          西 山   彬
同          石 田 英 遠
同          中 野 雄 介
同          副 田 達 也
上記被審人代理人石田英遠復代理人
佐 橋 雄 介

東京都港区台場二丁目3番2号
被審人 昭和シェル石油株式会社
同代表者 代表取締役 新 井   純
同代理人 弁 護 士 梶 谷   剛
同          岡   正 晶
同          藤 原   寛

 公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官大久保正道及び審判官佐藤郁美から提出された事件記録及び規則第84条の規定により被審人らから提出された異議の申立書に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

              主       文
被審人JX日鉱日石エネルギー株式会社は金21億5601万円を,
被審人コスモ石油株式会社は金17億5115万円を,
被審人昭和シェル石油株式会社は金5億7744万円を,
それぞれ課徴金として平成23年4月18日までに国庫に納付しなければならない。

              理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,別紙審決案の34ページ4行目の「受注予定者」を「受注者」に改めるほかは,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第8と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人らに対し,独占禁止法第54条の2第1項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成23年2月16日

公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委 員 後藤  晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代
委 員 細川 清

平成20年(判)第11号ないし第13号

審   決   案

東京都千代田区大手町二丁目6番3号
被審人 JX日鉱日石エネルギー株式会社
同代表者 代表取締役 木 村   康
同代理人 弁 護 士 西   迪 雄
同          向 井 千 杉
同          富 田 美栄子
同          渡 邉 和 之
         
東京都港区芝浦一丁目1番1号
被審人 コスモ石油株式会社
同代表者 代表取締役 木 村 彌 一
同代理人 弁 護 士 宮 代   力
同          西 山   彬
同          石 田 英 遠
同          中 野 雄 介
同          副 田 達 也
上記被審人代理人石田英遠復代理人
佐 橋 雄 介

東京都港区台場二丁目3番2号
被審人 昭和シェル石油株式会社
同代表者 代表取締役 新 井   純
同代理人 弁 護 士 梶 谷   剛
同          岡   正 晶
同          藤 原   寛

上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人JX日鉱日石エネルギー株式会社は金21億5601万円を,
被審人コスモ石油株式会社は金17億5115万円を,
被審人昭和シェル石油株式会社は金5億7744万円を,
それぞれ課徴金として国庫に納付しなければならない。

理       由
第1 本件審判事件の概要等
1 被審人らの概要
被審人JX日鉱日石エネルギー株式会社(以下「被審人JX」という。),被審人コスモ石油株式会社(以下「被審人コスモ」という。)及び被審人昭和シェル石油株式会社(以下「被審人昭和シェル」という。)の3社(以下「被審人3社」という。)は,それぞれ肩書地に本店を置き,石油製品の製造販売業を営む者である。
被審人JXは,平成22年7月1日,新日本石油株式会社(以下「新日本石油」という。)が新日本石油精製株式会社(以下「新日石精製」という。)及び株式会社ジャパンエナジー(平成15年4月設立。後記2の株式会社ジャパンエナジーとは別の法人である。)を吸収合併して,現商号に変更したものである。新日本石油は,平成11年4月1日,石油製品の製造販売業を営んでいた日本石油株式会社(以下「日本石油」という。)が同製造販売業を営んでいた三菱石油株式会社(以下「三菱石油」という。)を吸収合併したものであり,合併に際して日石三菱石油株式会社(以下「日石三菱石油」という。)に商号変更し,さらに,平成14年6月27日に新日本石油に商号変更した。新日石精製の平成14年4月1日以前の商号は,日石三菱精製株式会社であり,平成11年7月1日以前の商号は,日本石油精製株式会社(以下「日石精製」という。)であった(以下では,平成11年4月1日以前の被審人JXについては,それぞれ別個の法人であったことにかんがみ,「日本石油」,「三菱石油」及び「日石精製」と区別して呼称する。また,以下の事実認定においては,平成11年4月1日から平成22年7月1日までの間は,当時の日石三菱石油及び新日本石油のみを意味するものとして「被審人JX」という。)。
2 排除措置命令
公正取引委員会は,別添平成11年(判)第7号審決書(写し)記載のとおり,日本石油,三菱石油,被審人コスモ及び被審人昭和シェルの4社(平成11年4月1日以前の上記4社を,以下「被審人ら4社」という。)が,遅くとも平成7年4月以降,株式会社ジャパンエナジー(平成15年4月1日にジャパンエナジー電子材料株式会社に商号を変更し,平成15年10月1日に新日鉱ホールディングス株式会社に吸収合併された。以下「新日鉱ホールディングス」という。),出光興産株式会社(以下「出光興産」という。),扶桑石油株式会社,ゼネラル石油株式会社(当時の商号である。平成12年7月1日に,東燃ゼネラル石油株式会社に商号を変更した。以下「東燃ゼネラル」という。),キグナス石油株式会社,九州石油株式会社,太陽石油株式会社(以下「太陽石油」という。)及びタイホー工業株式会社(以下「タイホー工業」という。)の8社(以下「8社」という。航空タービン燃料の取引分野については,8社のうち太陽石油及びタイホー工業を除く6社。以下同じ。)と共同して,防衛庁調達実施本部(以下「調達実施本部」という。)が指名競争入札の方法により発注する自動車ガソリン,灯油,軽油(一般用及び艦船用),A重油及び航空タービン燃料(以下,併せて「本件石油製品」という。)について,物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注することができるよう協力する旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにすることにより,公共の利益に反して,調達実施本部発注の本件石油製品の油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものとして,被審人3社に対し,平成19年2月14日,審判審決をした(以下,この審決を「本案審決」という。)。
被審人3社は,東京高等裁判所に対し,本案審決の取消しを求める訴えを提起し,同裁判所は,平成21年4月24日,被審人3社の請求をいずれも棄却する旨の判決をした(以下「本件高裁判決」という。)。被審人JXは,本件高裁判決に対して,不服申立てをしなかったが,被審人コスモ及び同昭和シェルは,本件高裁判決を不服として,最高裁判所に上告及び上告受理申立てをした。最高裁判所は,平成22年11月25日,上記両被審人のいずれについても,上告棄却及び上告不受理決定をした。以上により,被審人3社のすべてについて本案審決が確定している。
なお,公正取引委員会は,平成11年10月13日,独占禁止法第73条に基づき,被審人3社及び8社を,不当な取引制限の罪(独占禁止法第95条第1項第1号,第89条第1項第1号,第3条)で検事総長に刑事告発し,上記11社は,同日同罪により東京高等裁判所に起訴された。東京高等裁判所は,平成16年3月24日,11社すべてについて同罪の成立を認め,有罪判決を下している(東京高等裁判所平成16年3月24日判決・公正取引委員会審決集第50巻915頁。同判決は,平成17年11月21日,最高裁判所で上告が棄却され,既に確定している。)。
3 課徴金納付命令
公正取引委員会は,本案審決を前提として,平成20年1月16日,被審人3社に対して,それぞれ課徴金納付命令(以下「本件各課徴金納付命令」という。)を発し,平成20年3月24日に本件各課徴金納付命令に係る審判開始決定をした(これが本件審判である。)。
第2 事実等(争いがない事実及び本案審決により認定された事実)
1 本件石油製品の調達
(1) 本件石油製品のうち自動車ガソリン,灯油,一般用軽油及びA重油については,一般の市場に流通している石油製品である。艦船用軽油は,一般用軽油と比較して引火点や流動点に若干の違いがあるが,基本的には一般用軽油と同じ石油製品である。
航空タービン燃料は,灯油を主成分とし,これに,ガソリン,酸化防止剤,氷結防止剤等を添加した石油製品である。航空タービン燃料については,その製造設備等について認定制度が採用されており,認定を受けた工場は認定工場,認定工場所在のタンクは認定タンク,油槽所所在のタンクは届出タンクと称されている。
(2) 調達実施本部は,国防上の弊害があること並びに確実な供給及び品質の保証が可能な資力及び信頼性が要請されることを理由として本件石油製品のほとんどすべてを指名競争入札の方法により発注していた。
調達実施本部は,航空タービン燃料及び艦船用軽油の物件のうち,調達数量が多く1社のみでは納入できない物件について,入札参加者に希望数量と単価を入札させ,予定価格を超えない単価の入札者のうち価格の低い入札者から,入札価格が同じ場合は希望数量の多い入札者から,順に調達数量に達するまでの者を落札者とするという複数落札入札制度を採用していた(同制度を採用している物件を以下「複数落札物件」という。)。
(3) 調達実施本部は,本件石油製品について,おおむね6月から8月分までを第1期,9月から11月分までを第2期,12月から2月分までを第3期,3月分を第4期とし,このほか4月から5月分を緊急分とし,年度末に保管分として合計年度6回の調達を行っていた。
また,調達実施本部は,各発注物件を,本件石油製品の油種ごと,基地ごとに区分しており,各期の発注物件は400件から500件に上ることがあった。これらの発注物件は,数量が数キロリットルのものから数万キロリットルのもの,納入形態がタンクローリー車,ドラム缶,タンカーによるもの,納地が離島やレーダーサイトであるものなど多種多様であった。
2 本件石油製品の調達の流れ
(1) 調達実施本部は,航空タービン燃料については,登録業者(調達実施本部が指名競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している者をいう。以下同じ。)に供給可能な基地及び供給可能数量の報告を求め,これに基づき基地ごとに2ないし7の指名業者を選定して指名競争入札を行い,他の油種については,登録業者に供給可能な地域の報告を求め,これに基づき基地の所在する地域ごとに8ないし13の指名業者を選定して指名競争入札を実施していた。
なお,平成7年4月から平成10年11月20日までの間において,調達実施本部発注の本件石油製品の指名競争入札に参加していたのは,被審人ら4社及び8社の12社(以下「12社」という。)並びにエッソ石油株式会社(以下「エッソ石油」という。)のみであった。
(2) 調達実施本部は,訓令に基づき市場価格方式により基準価格(京浜地区内にタンクローリー車で納入する場合の輸送費を含んだ石油製品の1キロリットル当たりの税抜き価格)にグレード差,地域差(輸送費差額),荷姿費,揮発油税等の税金及びその他の経費(以下「固定経費」という。)を加えたものを予定価格としていた。
ただし,航空タービン燃料については,市場価格がなかったため,主成分である灯油の1キロリットル当たりの基準価格から2,100円を差し引いた金額をもって基準価格としていた。
(3) 調達実施本部は,後記4で詳述するとおり,本件石油製品について発注物件ごとに,業者を指名して,指名競争入札を通常3回実施し(以下,この3回の入札を「当初入札」という。),3回目の入札までには1社を除き指名業者が辞退するため,3回目の入札に応札した業者と随意契約を前提とした商議と称する価格交渉(以下「商議」という。)を行い,商議においても,業者が提出する見積価格が当初入札の予定価格を上回るので商議を不調として終了し,その後,商議を踏まえた新たな予定価格を設定し,新たな指名競争入札(以下「新たな入札」という。)を行うという手順で本件石油製品を調達していた。
3 配分会議
(1) 配分会議開催まで
ア 12社は,遅くとも平成7年4月以降,調達実施本部発注の本件石油製品について,発注の都度,受注予定者を決定するための会合(以下「配分会議」という。)を,当初入札の行われる日の2日前ころに開催していた。
イ 被審人コスモの担当者は,配分会議における各社の受注希望の取りまとめ役として,調達実施本部が開催した入札説明会終了後配分会議までの間に以下(ア)ないし(ウ)の準備作業を行っていた。
(ア) 航空タービン燃料を除く4油種の数量配分案の作成
当該期の各油種ごとの発注数量から調整分の数量(10ないし20パーセントに当たる数量)を差し引き,残った数量に各社の前年度における受注実績の割合を乗じ,当該期において各社の受注すべき目安となる数量を算出した。
(イ) 航空タービン燃料の物件ごとの配分案の作成
航空タービン燃料については,1物件当たりの発注数量が多く,他の油種と同様に配分会議において各社の受注希望を聞くこととすると,受注希望が重なり,受注予定者の決定が難航することが予測されたことから,配分会議において円滑かつ効率的に物件ごとの受注予定者の決定を行えるようにするため,各社の前年度における受注実績の割合を勘案して,物件ごとの受注予定者の配分案及び複数落札物件についての各受注予定者の受注予定数量の案を作成していた。
(ウ) 当初入札における入札価格及び商議において提示する価格の算出
調達実施本部が予定価格を算定する際に基礎としていた各市況資料の集計分析を行い,当初入札の予定価格の算定に用いられる基準価格の水準を予測し,各社が当初入札において入札する価格を決定するための油種ごとの基準価格の幅及び商議において提出する見積価格をあらかじめ算出していた。
(2) 配分会議における受注予定者等の決定
ア 受注予定者の決定
(ア) 自動車ガソリン,灯油,軽油及びA重油
被審人コスモの担当者が,配分会議において前記(1)イ(ア)の各社ごとの受注希望の目安となる数量等をホワイトボードに記入するなどして各社の担当者に示した後,同会議に出席している各社の担当者が順番に受注希望物件及び複数落札物件についての受注希望数量の表明を行っていた。
その結果,物件ごとに,受注を希望する者(以下「受注希望者」という。)が1社の場合は,その者が受注予定者となり,受注希望者が重複した場合は,被審人コスモの担当者の裁定で受注予定者が決定されていた。
また,山間へき地,離島等所在の基地に納入する小口物件等輸送コストがかさむ物件で各業者から受注希望表明がされない物件については,被審人コスモの担当者が,過去に納入実績のある業者に対して納入可能であれば受注予定者となるよう提案し,当該業者に納入困難な事情がある場合には,ほぼ全国的に納入可能な被審人コスモ又は日本石油を受注予定者とすることが多かった。
(イ) 航空タービン燃料
被審人コスモの担当者は,12社のうち太陽石油及びタイホー工業を除く10社の前年度における受注実績の割合を勘案してあらかじめ作成した物件ごとの受注予定者の配分案及び複数落札物件についての各受注予定者の受注予定数量の案を,ホワイトボードに張った物件一覧表に記入するなどして,会合に出席した各社の担当者に提示し,各社の事情等を聞くなどして,各社の受注すべき物件について提案した。
上記10社は,ほぼ被審人コスモの担当者の提案どおり,受注予定者及び複数落札物件についての各受注予定者の受注予定数量を決定していた。
イ 「追っかけ」の指定等
12社は,当初入札において1回目の入札又は2回目の入札で受注予定者以外の者すべてが辞退して入札を不調としてしまうことは不自然であるとして,当初入札は3回目まで行うこととした。このため,被審人コスモの担当者は,前記アのとおり受注予定者を決定した後,すべての物件について,受注予定者以外の指名業者の中から当初入札3回目で辞退する業者(以下「ダミー業者」という。)を1社指定していた。12社は,このような業者を「追っかけ」などと呼んでいた。
また,被審人コスモの担当者は,複数落札物件についても,複数の受注予定者が当初入札において提示する受注希望数量の合計が調達数量とすべて一致するのは不自然であるとして,配分会議において,複数の受注予定者が提示する受注希望数量の合計が調達数量より若干多くなるように特定の受注予定者の受注希望数量を多めに設定することがあり,この場合には,あらかじめ受注数量を減らされることになる業者を定めて,これを調達実施本部の担当官に伝えていた。
(3) 配分会議における当初入札の入札価格等の説明
配分会議において,前記(2)アのとおり受注予定者等が決定されると,被審人コスモの担当者は,当初入札の予定価格の算定に用いられると想定される油種ごとの基準価格について説明した上,当初入札の1回目から3回目までの各入札において各社が参考にすべき油種ごとの基準価格の幅,商議において各社が提示すべき油種ごとの基準価格の水準等(主に前回の受注における基準価格に加減する額)についてホワイトボードに記入するなどして説明していた。
配分会議の最後に,前回発注における基準価格及び固定経費の価格を記載した価格リストが出席者に配布されていた。
4 12社の入札時の対応
(1) 当初入札
12社は,指名された物件ごとに,あらかじめ配分会議で被審人コスモの担当者から示された基準価格の幅に従って,1回目から3回目までの入札札を事前に作成しておいた。
当初入札においては,予定価格以下の価格で入札を行う業者はなく,当初入札の1回目においては指名された各社が入札し,当初入札の2回目においては受注予定者及びダミー業者を残してすべての者が辞退し,当初入札の3回目においてはダミー業者も辞退して受注予定者のみが入札して,当初入札を不調とするとともに,引き続き行われる商議に受注予定者のみが残るようにしていた。
(2) 商議
商議では,12社の担当者は,あらかじめ被審人コスモの担当者から示された基準価格の水準に従って,油種ごとに一律の基準価格について価格交渉を行っていた。
調達実施本部の担当官は,業者との交渉を踏まえて油種ごとに業者が受け入れるであろうと判断した最低の基準価格を,各商議の相手方となった業者をすべて集めた場において提示し,当該業者すべてに対して,この価格での供給意思の有無を確認していた。業者は,この提示された基準価格を指値(以下,調達実施本部の担当官から提示された基準価格を「指値」という。)と呼んでいた。
12社は,指値に固定経費を加えて算定した見積価格(以下「最低商議価格」という。)を記載した見積書及び最低商議価格を下回る価格では供給する意思がない旨記載した書面を提出することにより,商議を不調により終了させていた。
(3) 新たな入札
当初入札と同じ業者を指名して実施された新たな入札において,受注予定者は商議における最低商議価格で入札し,受注予定者以外の者は,受注予定者が入札する価格よりも高い価格で入札することによって受注予定者が受注することができるようにしていた。
新たな入札においては,事実上,商議における最低商議価格が予定価格とされ,12社の担当者はこのことを知っていた。このため,受注予定者は,常に新たな予定価格と同一の価格で落札していた。
5 本件違反行為
以上3及び4によれば,12社は,調達実施本部発注の本件石油製品について,遅くとも,平成7年4月以降,各社の安定した受注量及び利益を確保するため,発注ごとの各社の本件石油製品の油種ごとの受注数量の割合が,前年度の各社の本件石油製品の油種ごとの受注実績の割合に見合うものとなるように物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注することができるよう協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)をしていた。そして,12社は,本件合意の下に,以下(1)及び(2)の行為(以下「本件違反行為」という。)をしていた。
(1) 発注ごとに当初入札の数日前に配分会議を開催するなどして,調達実施本部発注の本件石油製品のうち,航空タービン燃料については,被審人コスモの担当者があらかじめ作成した物件ごとの受注予定者の案に基づきそれぞれの受注予定者を決定し,自動車ガソリン,灯油,軽油及びA重油については,各社がそれぞれ受注を希望する物件を表明し合い,受注希望者が1名の物件については,それぞれの物件の受注希望者を受注予定者とし,受注希望者が複数の物件については,被審人コスモの担当者が前年度の受注実績の割合を勘案して裁定する等によりそれぞれの物件の受注予定者を決定し,受注希望者がいない物件については,被審人コスモの担当者の提案に基づき,それぞれの物件の受注予定者を決定していた。
(2) 当初入札を不調に終わらせることにより新たな予定価格を引き上げさせ,もって受注価格を引き上げるため,当初入札において,予定価格を上回る価格で入札するとともに,受注予定者以外の指名業者は3回目の入札までに辞退して入札を不調とさせ,さらに,商議を不調とさせた上,新たな入札において,受注予定者以外の指名業者は受注予定者の入札価格より高い価格で入札することにより受注予定者が受注することができるようにしていた。
6 実施状況
12社は,平成7年度緊急分から平成10年度第3期分までの間に行われた合計23回の調達において,エッソ石油受注分を除く本件石油製品のすべての物件について受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにしていた。
7 配分会議の取りやめ
平成10年11月20日,入札説明会の終了後,被審人コスモの担当者が,その場に残っていた業者の担当者に対し,配分会議を取りやめる旨提案したところ,その場で賛同が得られたことから,以後において配分会議を取りやめることを決定し,12社は,同日以降,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにする行為を取りやめている。
第3 課徴金に係る事実等
1 本件実行期間
前記第2の5によると,被審人ら4社が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成7年11月20日以前であると認められる。また,被審人ら4社は,平成10年11月20日,本件違反行為を取りやめており(争いがない。),その後,その実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えることとなるため,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成7年11月21日から平成10年11月20日まで(以下「本件実行期間」という。)の3年間となる。
2 売上額
被審人ら4社の本件実行期間における調達実施本部に対する本件石油製品の販売に係る売上額は,改正法附則第2条のなお従前の例によることとする規定により,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「施行令」という。)第6条の規定に基づき算定すると,別紙「油種ごとの売上額,課徴金額等一覧表」の各「売上額」欄記載の金額となる(施行令第6条に基づき計算した場合の課徴金算定の基礎となる被審人ら4社の売上額〔消費税込み〕が別紙「売上額」欄記載の金額となることについては争いがない。)。
第4 本件の争点
本件審判は本件各課徴金納付命令に係るものであり,争点は下記1ないし4のとおりである。
なお,被審人3社は,本件違反行為が存在しない旨をも主張しているが,本件違反行為の存否に関しては,公正取引委員会は,既に,審判手続を経た上で,本件違反行為の存在を認定し,独占禁止法第54条第2項及び規則第87条第1項の規定により本案審決を行っている。その後,本件違反行為について同一の被審人に対して課徴金納付命令が発せられたことにより,これを不服として,本件審判が申し立てられたものである。被審人3社は,既に,本案審決に係る審判手続において本件違反行為の存否を争う機会を与えられており,公正取引委員会は,被審人3社の主張立証を踏まえて本件違反行為の存在を認定して本案審決を行ったものである。このような場合には,課徴金に係る審判において,被審人3社が重ねて本件違反行為の不存在を主張することは許されないと解するのが相当であるから,本件違反行為が存在しない旨の被審人3社の主張はそれ自体失当であり,本件審判においては,本案審決の認定に係る本件違反行為の存在を前提とした上で,判断すべきこととなる。
1 本件違反行為は,独占禁止法第7条の2第1項に規定する「対価に係るもの」に該当するか否か(争点1)
2 被審人各社の売上げの対象物件の中に,課徴金算定の対象から除外するべきものがあるか否か(争点2)
3 本件石油製品の売上額に係る課徴金の算定率(争点3)
4 課徴金算定の基礎となる売上額(契約基準適用の可否,消費税並びに揮発油税,地方道路税,石油税及び原油関税各相当額を売上額に算入することの可否)(争点4)
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(本件違反行為は,独占禁止法第7条の2第1項に規定する「対価に係るもの」に該当するか否か)について
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第7条の2第1項に規定する「対価に係るもの」とは,不当な取引制限の内容が対価を対象としているものであること,すなわち,事業者が「共同して」「相互にその事業活動を拘束」するという行為が価格を対象としているものであることを意味する。したがって,本件違反行為が「対価に係るもの」であるかどうかも,本件違反行為が,調達実施本部が指名競争入札の方法で発注した本件石油製品の価格を対象として行われた不当な取引制限に当たるか否かという観点から検討されるべきものである。
応札価格を基準として契約の相手方を定める方法がとられている入札における入札談合は,事業者間で受注予定者を定め,受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力する行為であり,かかる協力行為は,事業者間で価格競争をせず,受注予定者よりも高い価格で応札するか,入札を辞退すること等によって,受注予定者が価格競争を度外視して定めた入札価格で受注できるように協力するものであるから,受注予定者の具体的な落札価格まで取り決めなかったとしても,落札価格に関する価格競争を制限するものであって,価格を対象とした事業活動の相互拘束という「対価に係るもの」に該当する。
イ 本件違反行為における受注予定者は,新たな入札においては,指値にあらかじめ開示されていた固定経費を合算することにより推定される新たな予定価格で入札することにより最大限の発注価格を実現することが可能であるため,12社は,最大限の発注価格の実現を目指して,配分会議において,当初入札及び商議において提示する価格についても合意し,提示価格が最大限のものとなるように対応していたのであって,これは,本案審決において認定されているとおりである。
ウ 調達実施本部が当初入札及び新たな入札における予定価格並びに商議において交渉が行われる価格について,いずれも,油種ごとに一律の基準価格を基にしていたことは,大量の物件を短時間に処理しなければならなかったことによるものであり,落札額における基準価格を一律にすることまでは想定されていなかったこと,また,商議において調達実施本部が提示していた指値は,調達実施本部がこれに固定経費を加えた価格よりも高い価格で本件石油製品を購入することはできないという上限価格であって,指値に固定経費を加えた価格により入札するように入札参加者を拘束するものではなかったことは,いずれも本案審決において認定されているとおりである。
(2) 被審人3社の主張
ア 被審人JX
課徴金に係る制度が,不当な取引制限行為のすべてを課徴金納付命令の対象とせず,その対象行為を,不当な取引制限のうち,「商品若しくは役務の対価に係るもの」又は「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」に限定した趣旨は,違反行為が不当な利得を発生させる違法行為であることを前提に,課徴金納付命令が事業者に対する不利益処分であることから,その対象となる不当な利得を発生させる違反行為を類型化し,明確にした点にある。
それゆえ,事業者に不当な利得を発生させる違反行為といえない場合まで,これを課徴金の対象とすることは,課徴金制度の究極目的に反し,また,上記趣旨にも反することとなる。
本件石油製品の入札手続は,形式的には指名競争入札の方法が採られていたものの,本件石油製品の契約価格は,調達実施本部が提示する指値によって決定され,12社は,配分会議において,調達実施本部の要請の下,全調達物件の安定調達を確保するために各調達物件について納入責任会社を決定していたにすぎず,価格調整は行っていなかったのであるから,12社の行為は「対価に係る」不当な取引制限ではない。
また,本件石油製品の入札手続の形骸化による利益は,専ら調達実施本部にあり,自由競争が実施され,調達実施本部による指値の拘束がない場合における本件石油製品の契約価格は,12社が契約を強いられていた契約価格よりも高額となることは明らかであって,本件の受注調整は12社に対し,制度的に不当な利益を発生させるものではなかった。このことは,本件違反行為後における本件石油製品の契約価格をもって,本件当時に自由競争が行われた場合に形成されたであろう価格を推定し,これと本件違反行為当時における本件石油製品の契約価格を比較した結果からも明らかである。
したがって,12社の行為は,課徴金の対象とされる「対価に係る」不当な取引制限には該当しない。
イ 被審人コスモ
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項における「対価」とは,実際の取引における商品ないし役務の価格である。したがって,具体的な落札価格についての競争を制限すると認められなければ,課徴金は課されない。また,改正法第7条の2第1項第1号は価格競争を直接制限するものであり,同項第2号はそれ以外の競争制限で価格に影響があることについての蓋然性を有するものを指すことは明らかであるから,同号の旧規定である独占禁止法第7条の2第1項もまた価格競争を直接制限する行為を指すことは明らかである。そして,「対価に係るもの」とは,正に対価を意思の連絡の対象としていることを指すと解される。
しかるに,被審人コスモは,対価を意思の連絡の対象として価格競争を直接制限した行為を行っていない。
(イ) 本件においては,12社が調達実施本部に提示していた価格としては,①当初入札における価格,②商議の際に口頭で提示する価格,③商議札で提示する価格及び④新たな入札における価格があるが,これらの価格のうち落札価格となるのは④だけである。しかして,④の価格は,調達実施本部の指値又は調達実施本部の指値による意思表示とそれに対する12社の承諾の意思表示の合致によって成立した合意により決まったものであり,新たな入札における価格競争を制限したことによって決まったものではない。本件実行期間中の本件石油製品の契約金額が低廉な価格であり,落札者に不当な利得などなく,むしろ調達実施本部にこそ有利な価格であったことからも,本件石油製品の落札価格は,入札参加業者の競争によって決まるのではなく,調達実施本部が決定していたことが明らかである。
(ウ) また,12社が行った受注予定者の決定と当初入札の不調との間に因果関係はなく,受注予定者の決定は落札価格に全く影響を与えず,本件石油製品の対価におよそ影響を及ぼすものではないから,「商品の対価に係るもの」に該当しない。
(エ) 課徴金は,不正な利益を吐き出させることをその趣旨とすることにかんがみれば,市場価格よりも安い価格で販売した場合(とりわけ,発注官庁の主導に従って安く販売した場合)にまで課徴金納付命令を行うことは,憲法第29条第1項が保障する財産権の侵害に当たる。したがって,本件課徴金納付命令は,憲法に違反し,許されない。
ウ 被審人昭和シェル
(ア) 違法なカルテルによって得た不当な利得をカルテル参加者から国がはく奪することにより,社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するという課徴金制度の趣旨及びそれを踏まえて課徴金対象行為が「対価に係るもの」という特定の狭い行為に限定されている根拠からすれば,本件のように,カルテルによる不当な経済的利得の発生していないことが明白な,自由な競争が行われていたならば形成されたであろう想定落札価格より大幅に低く,また,市況平均値から推認される客観的価格より低い契約価格で調達実施本部が本件石油製品を調達できていた場合には,「対価に係るもの」に該当しないと解すべきである。
(イ) 「不当な取引制限」とは,①共同行為により,②競争を実質的に制限することである。したがって,「不当な取引制限であって,対価に係るもの」というためには,文理上,①共同行為,②競争の実質的制限のいずれもが,ともに対価を対象としていることが必要である。
そして,上記②の競争の実質的制限とは,「特定の事業者または事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすこと」をいうところ(東京高等裁判所昭和28年12月7日判決),本件では,①調達実施本部が,自由な競争が行われていたならば形成されていたであろう想定落札価格よりも大幅に低い契約価格(指値)で調達しており,「物差し」方式で比較すれば,航空タービン燃料の実行期間中の契約価格は,自由競争により形成されていたであろうと想定される落札価格より,1キロリットル当たり,数千円安いこと,②調達実施本部が,厳格な内部統制及び客観的ルールに基づいて,上記のような低い契約価格(指値)を決定していたこと,③指値に係る調達実施本部関係者及び業者担当者の供述内容からして,「被審人らがその意思で,ある程度自由に,本件石油製品の価格を左右していた」とは到底認められない。
(ウ) 配分会議においては,調達実施本部から全案件につき一律の契約価格(指値)を決定,合意することが目指されており,その影響はいかなる業者にも等しく適用される統一価格への影響にすぎず,案件ごとに個別の価格競争がなされる場合におけるその競争価格(案件ごとに異なる価格)に影響を及ぼすものではないから,価格についての競争を制限する行為である「対価に係るもの」には該当しないと解すべきである。
2 争点2(被審人各社の売上げの対象物件の中に,課徴金算定の対象から除外するべきものがあるか否か)について
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限をしたときは,公正取引委員会は,事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動が行われた期間における当該商品又は役務の売上額を基礎として算定した額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。そして,本件のような受注調整の場合においては,違反行為の対象商品又は役務の範ちゅうに属する商品又は役務であって,当該違反行為者間で受注予定者になる者が絞り込まれて競争単位が減少すること等によって,具体的に競争制限効果が発生するに至ったものは,ここにいう「当該商品又は役務」に該当する。
イ 被審人3社がそれぞれ「当該商品」に該当しないと主張する物件(以下,これら物件をまとめて「本件各物件」という。)は,いずれも本件違反行為の対象である調達実施本部が指名競争入札の方法で発注した本件石油製品の範ちゅうに属するものである。
また,12社は,本件違反行為においては,本件石油製品のすべての物件について,配分会議を開催する等して受注予定者を決定していた。12社が,本件石油製品のすべての物件を本件違反行為の対象として,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていたことは明らかであり,かつ,被審人3社の担当者を含む12社の担当者の供述からすれば,本件各物件の中に,いったん受注予定者が決定された後に,この決定が覆されて全指名業者が各々自由に入札に参加することとなった物件(いわゆるフリー物件)も存在しないのであって,いずれの物件についても競争単位が減少して本来行われるべき指名業者全員による自由な競争が行われなかったこととなるから,これらの物件について具体的に競争制限効果が発生していたことは疑う余地がない。
ウ 被審人3社の主張について
(ア) 被審人JXの主張について
a 入札日当日,調達実施本部から指値以下の価格で入札を指示された物件があったとしても,指名競争入札である以上,受注予定者とされた事業者以外の指名業者が各々自由に入札に参加することは可能であった。にもかかわらず,受注予定者を決定している以上,当該物件について,本来行われるべき指名業者全員による自由な競争が行われなかったことに変わりはない。
b 海上自衛隊沖縄基地隊向けの艦船用軽油(以下「沖縄物件」という。)について,被審人JXが主張する事実があったとしても,それはせいぜい被審人JXが他の指名業者に比して相対的に納入が容易であるとも言い得るにすぎず,本来行われるべき指名業者全員による自由な競争が行われたか否かを検討する「当該商品」該当性の判断を左右するものとはいえない。
c 八戸地区向け航空タービン燃料(以下「八戸物件」という。),海上自衛隊岩国航空基地隊向け航空タービン燃料(以下「岩国物件」という。)及び海上自衛隊厚木航空基地隊向け航空タービン燃料(以下「厚木物件」という。)については,指名業者間に受注をめぐる競争の可能性はあったのであり,被審人JXと他の事業者とがそもそも競争関係にないとはいえない。
d 海上自衛隊余市防備隊向け艦船用軽油(以下「余市物件」という。)については,平成10年度第1期補正分について配分会議が開催された当時,新日鉱ホールディングスが納入した艦船用軽油について,燃料フィルターの目詰まりのクレームが発生していたことから,新日鉱ホールディングスの担当者はこれを受けて配分会議において受注を希望しないこととし,その結果新日鉱ホールディングス以外の事業者が受注予定者に決定されたのであって,余市物件について日本石油が受注予定者に決定されたのは,配分会議によるものであることは明らかである。
e 保管分物件については,本件合意参加者らは,このような物件を含めて,配分会議で各受注予定者を決定していたのであり,このような物件が受注調整の対象から除外されていたとはいえない。
(イ) 被審人コスモの主張について
被審人コスモの主張する個別事情は,せいぜい被審人コスモが他の指名業者に比して相対的に納入条件を満たすことが容易であったことを示すものにすぎず,本来行われるべき指名業者全員による自由な競争が行われたか否かを検討する「当該商品」該当性の判断を左右するものとはいえない。
また,航空自衛隊見島分屯基地に係る物件(以下「見島物件」という。)については,少なくとも潜在的競争関係があったといえる。
(ウ) 被審人昭和シェルの主張について
a 海上自衛隊硫黄島基地に係る物件(以下「硫黄島物件」という。)及び航空自衛隊春日基地に係る物件(以下「春日物件」という。)が配分会議に上程され,前年度の各社の受注実績の割合に見合うものとなるように配分されていたことは,被審人コスモの担当者の供述からも明らかである。
b 被審人昭和シェルが主張する個別事情は,せいぜい被審人昭和シェルが他の指名業者に比して相対的に納入条件を満たすことが容易であったことを示すものにすぎず,本来行われるべき指名業者全員による自由な競争が行われたか否かを検討する「当該商品」該当性の判断を左右するものとはいえない。
被審人昭和シェル以外の事業者が,被審人昭和シェルに代わって硫黄島物件又は春日物件を受注したとしても,上野トランステック株式会社に船舶の使用申請を行うとか,福岡給油施設株式会社(以下「福岡給油施設」という。)にタンクの使用申請を行うなどして納入を行う可能性は排除されていない。また,少なくとも潜在的競争関係があったといえる。
(2) 被審人3社の主張
ア 被審人JX
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項における「当該商品又は役務」とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指し,本件のような受注調整にあっては,当該事業者が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果競争制限効果が発生したことを要する(東京高等裁判所平成16年2月20日判決・公正取引委員会審決集第50巻708頁参照。)ところ,被審人JXが課徴金対象除外物件と主張する各物件については,下記(イ)のとおり,配分会議において納入責任会社の決定を行うか否かに関係なく,日本石油及び三菱石油のみが受注可能であったのであるから,配分会議における納入責任会社の決定により,競争制限効果,すなわち「受注調整手続を行った結果として競争者の数が限定されることによって入札価額が完全な競争状態下における価額より高額化する等の競争を制限する具体的な効果」(公正取引委員会平成16年8月4日審決・同審決集第51巻87頁)が発生しておらず,「当該商品」に当たらないというべきである。
そして,「当該商品又は役務」に係る基準は,大雑把に論ぜられ運用されてきている不当な取引制限の違反要件論を,真剣勝負の課徴金計算の段階において,妥当なものへと微修正する原理であるから,たとえ本案審決において,「一定の取引分野」という概括的概念の下,一括,抽象的に本件違反行為の対象物件として認定されていたとしても,本件課徴金審判手続においては,個別物件ごとの具体的な競争制限効果の発生の検討が不可欠である。
(イ) 以下の各物件は,日本石油及び三菱石油が受注せざるを得ず,配分会議における納入責任会社の決定に競争制限効果はなく,「当該商品」に当たらないことは明らかである。
a 調達実施本部から指値以下での落札を求められた物件
上記物件は,調達実施本部が指値を行った後に,予算不足の事情にあるとして,納入責任会社であった日本石油及び三菱石油の各担当者のみに,個別に予算限度を示し,指値及び固定経費によって計算される価格以下の,特に低価による入札を内密に指示されたという事情があった。このような特に指値によるもの以下の予算制限は,日本石油及び三菱石油のみに特別に指示されたものであり,それを知らない他社は落札できない状況にあったのであるから,当該事情の存する物件は,「当該商品」には該当せず,課徴金の対象から除外されるべきである(高松高等裁判所昭和33年12月10日判決・高等裁判所刑事判例集第11巻10号618頁参照。)。また,明らかに事業者側が価格を決定したのではなく,そもそも「対価に係る」ものでもないから,これらが,「当該商品」に当たらないことは明らかである。
b 沖縄物件
艦船用軽油を海上自衛隊沖縄基地に納入するには,事実上,これを保管するための専用のタンクを当該基地近傍で保有していることが必要であるところ,上記専用のタンクを保有している会社が日本石油に限られていた以上,沖縄物件は,配分会議の如何にかかわらず,日本石油が受注することになる。
c 八戸物件
八戸地区の陸上自衛隊八戸駐屯地,海上自衛隊八戸航空基地隊及び航空自衛隊三沢基地の近傍に航空タービン燃料の専用タンクを保有している業者は,日本石油と被審人コスモのみであり,そもそも,それら各社の専用タンクの容量に制約がある上,それらの専用タンクに供給し得る航空タービン燃料の量は,それら専用タンクへの供給体制にある各社の製油所の精製能力との関係上,必然的に制約を受けることになる等の事情から,それら3基地において必要とされる航空タービン燃料は,日本石油及び被審人コスモの両社が共に専用タンク容量を限度に供給することにより,ようやく全調達量に対応し得る状況にあった。
d 岩国物件
海上自衛隊岩国航空基地の近傍に航空タービン燃料の専用タンクを保有している業者は,日本石油及び新日鉱ホールディングスのみであるところ,新日鉱ホールディングスのタンク保管容量は,0.9キロリットルのみであったため,同社のみによっては,需要量である年間2万8900キロリットルの航空タービン燃料を供給することが不可能であった以上,日本石油でなければ受注し得なかった案件である。
e 厚木物件
海上自衛隊厚木航空基地の近傍に航空タービン燃料の専用タンクを保有している業者は,日本石油及び被審人コスモであるところ,同基地についても,需要量である年間3万3500キロリットルを被審人コスモ単独で供給することは困難であり,日本石油の納入に頼らざるを得なかったのである。
f 余市物件
余市物件については,ミサイル艇の艦船用軽油を調達するものであるところ,従前は,新日鉱ホールディングスが納入責任会社とされていたが,同社の納入した艦船用軽油がミサイル艇の燃料フィルターの目詰まりを引き起こしたことから,調達要求元の余市防備隊は,調達実施本部に対し,以前に納入実績のあった日本石油からの調達を強く希望した。これを受けた調達実施本部は,当初日本石油が室蘭製油所においては艦船用軽油を製造できないことを理由に納入をちゅうちょしたにもかかわらず,小型のミサイル艇のゆえに使用燃料は一般用軽油であっても法令上差し支えないという理由の下に,各指名業者から余市防備隊に対する艦船用軽油の納入は困難である旨の文書を提出させ,調達油種を艦船用軽油から一般用軽油に変更した上,日本石油に納入させる措置を採った。
このように,同物件の受注者を日本石油に決定したのは,調達実施本部であって,配分会議によるものではない。
g 保管分
保管分調達とは,年度末に予算に余剰が生じたときに,調達実施本部が予算を費消する目的等により,業者の製油所又は油槽所にある業者保有のタンクに保管することを納入条件として,予算の残余分をもって翌会計年度初めに使用する航空タービン燃料と艦船用軽油を調達していたものであり,保管分の納入場所は,特定地区の業者タンクとされている。このような仕様に合致した受注が可能なのは,現実問題として,当該基地周辺にタンクを保有する業者に限定され,しかも,調達量は,それら業者保有タンクの備蓄可能容量に制約されるため,調達実施本部は,あらかじめ,各業者のタンクの空き容量を調査した上,それに合致した数量をもって調達量とした。
イ 被審人コスモ
見島基地の所在する見島は,山口県萩市の沖合の孤島で,周囲18キロメートルしかない小さな島である。見島基地における石油製品の納入については,自衛隊の指定するドラム缶での納入が条件とされており,萩港にドラム缶の集積・保管場所がなければおよそ納入が不可能である。長年,被審人コスモ以外の業者が見島基地に本件石油製品を納入した実績がないことからしても,納入が可能なのは被審人コスモだけであり,競争入札に付すること自体がそもそも失当であり,競争がなかったことは明らかである。
したがって,他の入札参加者は,見島物件について「通常の事業活動の範囲内においてかつ事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく納入期限内に」納入することが可能とは到底言えず,「潜在的な競争関係」は存在しない。
ウ 被審人昭和シェル
(ア) 硫黄島物件は,他の物件とは異なり,海岸の浸食により桟橋を作れないという厳しい条件下で荷役を実施するため,通常の船舶には装備されていない600メートルのフローティングホースとこれを巻き取るための巨大リールを装備している船舶を使用しなければ納入することができない物件であるが,同ホースを備えている船舶は一隻しかなく,同船舶につき,上野トランステック株式会社(船舶保有会社)と長期の専用船傭船契約をしていたのは被審人昭和シェルだけであったため,被審人昭和シェルだけが納入可能な物件であった。
(イ) 春日物件も,福岡空港内の特定の民間タンクへ納入することが納入条件とされており,他の納入方法は一切認められていなかったが,同タンクにつき,福岡給油施設(タンク保有会社)と長期の使用契約を締結していたのは被審人昭和シェルだけであったため,被審人昭和シェル1社だけが納入可能な物件であった。
(ウ) 硫黄島物件及び春日物件は,被審人昭和シェル1社だけが納入可能な物件であり,かつ,調達実施本部もそのことを前提とした措置を採っていたから,客観的にも,調達実施本部及び業者の認識としても,競争の可能性がない案件であり,論理的に,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生することがない案件であった。
また,硫黄島物件及び春日物件は,被審人昭和シェル1社だけが納入可能な物件であることから,受注可能な業者の中から受注予定者を決定することを前提とする配分会議の対象からは除外されており,少なくとも,配分会議による拘束を受けていなかった。配分会議の手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至っていないことも明らかである。
(エ) よって,硫黄島物件及び春日物件は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当せず,課徴金の対象とはならない。
3 争点3(本件石油製品の売上額に係る課徴金の算定率)について
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第7条の2第1項の業種の判断
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項は,課徴金の額の計算方法について,「当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額」に「百分の六(小売業については百分の二,卸売業については百分の一とする。)を乗じて得た」額を課徴金として納付を命じなければならない旨規定しており,上記売上額は施行令第5条及び第6条により商品又は役務の対価の額を合計する方法を基本として算定される。このように独占禁止法は,政令の定める方法により合計して算定した売上額を一体のものとして扱って,それに違反行為の実行としての事業活動から認定される単一の業種に対応した単一の算定率を乗じて課徴金の計算を行うこととしている。この趣旨は,例えばある商品の製造販売業と卸売業の両方を行っている事業者について,資料の制約や,そもそも,自身で製造した商品と他から仕入れた商品が在庫として混在し区別がつかない状態となった後に販売され,特定の期間に販売された商品について,それが自身で製造したものか他の事業者から仕入れたものかを特定すること自体ができないことも珍しくないところ,これを特定することは,明確かつ画一的な算定方法を採用して行政上の措置に求められる迅速性及び合理性を確保しようという課徴金制度上の要請に反すると考えられる点にある。
そして,上記のように課徴金の計算の基礎となる売上額を一体のものとして扱って単一の算定率を乗じている独占禁止法の規定内容からすると,課徴金制度の迅速性及び合理性確保の観点から,卸売業及び小売業に認定されるべき事業活動における取引とそれ以外の事業活動における取引についての各売上額が実際に区別できるか否かを個別事案ごとに判断することを要することなく,違反行為の実行としての事業活動に対して画一的に単一の業種を認定することを予定しているものと解される。
(イ) 以上を踏まえると,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合には,実質的にみて卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情の有無を検討して,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動(特段の事情により同視できる事業を含む。)のいずれが過半を占めているかによって,業種の判断を行うべきこととなる(公正取引委員会平成17年2月22日審決・同審決集第51巻292頁)。
また,独占禁止法第7条の2第1項が,課徴金算定率について,6パーセントを原則としつつ,卸売業及び小売業については例外的に軽減した算定率を設定している趣旨は,卸売業や小売業の取引は商品を右から左に流通させることによりマージンを受けるという側面が強く,事業活動の性質上,売上高営業利益率も小さくなっている実態を考慮したためである。したがって,一般的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うことが相当である(東京高等裁判所平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁。以下「東燃ゼネラル事件東京高裁判決」という。)。
イ 被審人JXについて
日石精製は,元々日本石油が有していた製油所の現物出資を受けて同社が販売する石油製品の製造を目的として設立され,資本面や役員構成においても結び付きが強く,本件実行期間の当時,日本石油と日石精製に共通する業務は合同部で一体的に行われる等の事実にみられるように人的組織的に密接な関係を有していた。
そして,日石精製が製造する石油製品の生産計画及び設備投資計画の作成や原油の買い付けは,いずれも合同部で日本石油の販売計画に沿うように一体的に行われ,現実に生産された石油製品はほぼすべてが日本石油に供給されていた。石油製品の規格は日本石油が決定し,同社に対する販売価格も,当該石油製品の販売による利益を両社で折半するように決定されていた。
以上によれば,日本石油が主導して両社一体的に策定された計画に従って,合同部が調達した原油から石油製品を生産する過程を日石精製が担当し,生産された製品を販売する過程を日本石油が担当していた実態があり,日石精製からの製品の供給はこの一連の製造販売過程の一部として機能していた。
このような事実に照らせば,日石精製は日本石油の一部門と同視できる地位にあったということができ,日石精製の事業の状況を踏まえると日本石油には「実質的にみて卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情」が存在するのであるから,本件実行期間中に調達実施本部に納入した本件石油製品の大半を日石精製から仕入れていた日本石油の事業活動は卸売業又は小売業以外の事業活動が過半を占めていたといえる。
したがって,日本石油には製造業者として6パーセントの算定率を適用すべきである。
ウ 被審人昭和シェルについて
被審人昭和シェルが調達実施本部に納入した本件石油製品についてみると,軽油については,被審人昭和シェルが実行期間中において西部石油株式会社(以下「西部石油」という。)から購入して調達実施本部に納入した製品の売上額が,当該期間において調達実施本部に納入した軽油の全売上額の62.5パーセントと過半を占め,その他の各油種について,被審人昭和シェルが西部石油から購入して調達実施本部に納入した製品の全売上額に占める割合をみると,自動車ガソリンについては37.7パーセント,灯油については14.7パーセント,A重油については31.4パーセント,航空タービン燃料については33.2パーセントであり,いずれも過半に至らない。そして,昭和四日市石油株式会社及び東亜石油株式会社の2社に製造委託により製造させた石油製品を納入する取引については卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動以外のものと認められる特段の事情が存在する。
したがって,被審人昭和シェルに対しては,軽油については卸売業に適用される算定率1パーセントを,その他の油種については,いずれも卸売業又は小売業以外の業種に適用される算定率6パーセントを適用すべきこととなる。
(2) 被審人JXの主張
ア 本件実行期間の当時の日本石油及び日石精製は,各自独立した別個の法人であり,事業主体としての実質を有していたから,日本石油が卸売業に該当することは明らかである。
日本石油は,法人格を異にする日石精製との間において,石油製品の売買契約を締結し,本件石油製品のほぼ全量を同社から購入し,調達実施本部に売却していたところ,日本石油と日石精製は親子会社の関係にあるとはいえ,各自,事業意思決定の下に石油製品の取引を行っているのであって,もとよりその経理処理は別異であり,別途所要の税負担を行っている。そして,両者間における精製油の取引価格は,RSP(日本石油が国内需要者に対して販売する石油製品の銘柄別平均販売価格〔SP〕に日石精製の原油調達コストを足して2で除した金額)をもって算定され,調達実施本部による指値及び固定経費によって決定された本件石油製品の契約価格とは何ら連動しないものである。
それゆえ,日本石油と日石精製との事業,特に本件石油製品の取引に係る事業は全く別異なものであると言わざるを得ない。
したがって,仮に本件違反行為について課徴金が課されるとしても,その算定率は製造業の6パーセントが適用されるのではなく,卸売業に係る1パーセントとされるべきである。
イ 審査官は,日本石油受注分に対する課徴金算定率について,卸売業の1パーセントではなく,より重い製造業の6パーセントを適用すべきとの結論を導くために,恣意的に取り上げられた事項に基づく主張を行うものであって,審査官が主張する事実は,日本石油と日石精製との関係の一部を指摘するにすぎないのであるから,このことをもって,「日石精製が日本石油の一部門と同視できる地位」にあるなどという結論を導くことができないことは明白である。
ウ 日本石油は,日石精製が所有する精製設備の利用権などというものを保有していないことはもとより,日石精製が製造する石油製品の原材料たる原油を日石精製に提供したこともなく,あくまで,日石精製が精製した石油製品を買い取る契約を締結していたにすぎず,この石油製品についても,日本石油への引渡しまでは,日石精製がその所有権を有していたのであり,また,日石精製の日本石油に対する石油製品の販売価格についても,前記のとおりRSPをもって算出することとされ,本件石油製品の契約価格とは連動しないものとなっていることに加え,精製費用は,日石精製の負担とされ,日本石油が,日石精製が製造する石油製品の精製費用を負担することはなかったのである。
このように,日本石油と日石精製との間においては,東燃ゼネラル事件東京高裁判決において,南西石油株式会社(東燃ゼネラルの仕入先)が東燃ゼネラルの一部門と同視できる地位にあったと評価する上で,重要な判断要素とされた「原油の供給及び製品の引取りと一体の過程」を認定する要素に欠けるものであるから,「日石精製が日本石油の製造部門と同視できる地位」にないことは明らかである。
エ 日石精製は,第二次大戦後の日本市場において,原油確保のために一定のルートを確保したい日本石油と,米国石油メジャーとして日本市場への参画をもくろむカルテックス・ペトロリアム・コーポレーション(以下「カルテックス」という。)の双方の各別の意図の下において設立された合弁会社であって,双方の出資比率は同等であったことに加えて,役員構成においても,各出身者は同数とされ,日本石油との兼務役員は,全役員22名中2名にすぎないのに対し,カルテックスとの兼務役員は11名にのぼり,代表権は双方の兼務役員の取締役各1名にも付与され,共同代表とされていたのである。
そもそも,日石精製を日本石油の一部門と評価するためには,少なくとも,日本石油によって,日石精製の株主総会において決定される重要事項の意思決定が支配されていることが必要というべきであるが,平成8年3月以前は,日本石油は日石精製の過半数に満たない株式のみを保有するにとどまり,特別決議事項はもとより,普通決議事項ですら,カルテックスの同意なく決定し得なかったのである。
このような実態をみても,日本石油が日石精製を支配していなかったことは明らかである。そして,これは日本石油と日石精製との間の製品取引についても同様である。
(3) 被審人昭和シェルの主張
自動車ガソリン,灯油,A重油及び航空タービン燃料のいずれの油種であるかを問わず,西部石油が被審人昭和シェルに出荷した本件石油製品について,被審人昭和シェルの業種を卸売業と認定して算定率を1パーセントとすべきである。
独占禁止法第7条の2第1項の立法趣旨及び行政上の措置に求められる実務上の要請の双方を勘案し,卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合には,原則として,審査官が主張するように,卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動のいずれが過半を占めているかによって,業種の認定を行うことが相当であるが,資料の制約がなく,商品が自身で製造したものか他の事業者から仕入れたものかを容易に特定することができるなど,実務上の支障がない場合には,案件ごとに,自社で製造して販売したものは製造販売業,他社から購入して販売したものは卸売業と認定して,課徴金の額を計算すべきである。
他の事業者から仕入れたものであることを特定するのに実務上の支障がない場合にまで,審査官が主張するような処理を貫くことは独占禁止法第7条の2第1項の立法趣旨を著しく損ねる不利益を被審人らに課すことになり,同条項に反し違法というべきである。また,仮に,同一の違反行為の実行としての事業活動について単一の業種を認定しなければならないとしても,本件においては,個別案件ごとに,別々に,違反行為の実行としての事業活動を観念することができるから,個別案件や地方区域ごとに「一定の取引分野」が成立すると考えることも可能であり,よって,案件ごとに単一の業種を認定することに支障はない。
これを本件についてみると,被審人昭和シェルが本件の課徴金納付命令に先立つ調査において,また,今般,本件審判において改めて証拠提出した調達実施本部契約一覧表・全出荷一覧には,本件実行期間中に被審人昭和シェルが受注した各案件ごとに,発注年度,期,要求番号,品名,数量,契約金額(合計金額),出荷地,製油所,荷姿及び納地が明記されており,これにより,各案件ごとに,自社で製造して調達実施本部に販売したものと,西部石油から購入して調達実施本部に販売したものを容易に特定することができ,その特定に実務上の不都合は一切ない。
したがって,本件においては,案件ごとに,自社で製造して販売したものは製造販売業,他社から購入して販売したものは卸売業と認定すべく,自動車ガソリン,灯油,A重油及び航空タービン燃料のいずれの油種であるかを問わず,西部石油出荷分のすべてを卸売業と認定し,それ以外の被審人昭和シェルが自社製油所で製造して調達実施本部に販売した案件を製造販売業と認定して,課徴金の額を計算すべきである。
4 争点4(課徴金算定の基礎となる売上額)について
(1) 審査官の主張
ア 契約基準の適用
施行令第6条が設けられた趣旨や,この契約基準によるべき場合は,「著しい差異があるとき」ではなく,「著しい差異を生じる事情があると認められるとき」であるとしている同条の規定の文言,規定の仕方に照らせば,同条の適用の判断は,施行令第5条の定める引渡基準によった場合の対価の額の合計額と契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるかどうかを判断して決すれば足りるものと解せられる(東燃ゼネラル事件東京高裁判決)。
本件は,調達の対象となる期間が均一であるとはいえないこと,調達実施本部の本件石油製品の発注は契約上の納期がおおむね2か月ないし3か月で,契約から引渡しまで相当の期間を要し,両基準による売上額の不一致が生じ得ること,期間ごとの発注量を大きく変動させる演習が存在すること,本件実行期間の直前の調達と実行期間内の最後の調達を比較すると,実行期間の区切りとの関係で課徴金の対象に含まれ得る期間に著しい不均衡が生じていること及び一般に各油種の単価自体が原油価格の変動に伴い相当に変動し得るものであり,実際にも変動していること等の事情が認められる。これらの事情を勘案すれば,本件においては,引渡基準によった場合の対価の合計額と契約基準によった場合の対価の合計額との間に著しく差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に存在すると認められるため,被審人3社の売上額の算定は契約基準によることが相当である。
イ 消費税,揮発油税,地方道路税,石油税及び原油関税各相当額
東燃ゼネラル事件東京高裁判決が判示するように,消費税並びに揮発油税,地方道路税,石油税及び原油関税各相当額(以下「石油諸税相当額」という。)は,単に売主である被審人らが購入者に納税額に相当する金額を転嫁させるためにその金額分だけ商品の対価の額自体を増額させたにすぎないものと社会通念上も法律上も扱われており,かつ,多種多様な諸税金につき逐一控除の可否を検討することは課徴金制度の迅速で実効性ある運用を著しく妨げるものであることからしても,これら石油諸税相当額等が商品の「対価の額」に含まれると解されることは明らかである。
(2) 被審人JX及び同昭和シェルの主張
ア 被審人JX
課徴金制度は,カルテルによって得た利得をはく奪する点にその主眼が置かれているところ,消費税及び石油諸税は,売主が国に支払うべきこれらの租税を買主に転嫁するために製品を買主に販売する際にその対価に上乗せするにすぎないものであって,事業者の収益とは関係なく,利得の源泉を構成するものではない以上,課徴金の計算における売上額の算定から除外すべきである。
自動車ガソリン及び航空タービン燃料については,揮発油に属するため,揮発油税法及び地方道路税法の特例が適用され,税額は,租税特別道路措置法第89条第2項に基づき,明確に定められているのであるから,その算定は極めて容易であり,これを控除することによって,課徴金制度の「迅速で実効性のある運用を著しく妨げる」ことにはならない。
また,石油諸税は,その性質上,被審人の実質的売上げに当たらず,それによって被審人が何ら利益を得るものではないから,課徴金納付制度の目的に照らし,このような明確な間接税額を事業者の売上額に包含して,課徴金算定の基礎とすることは,著しく不合理である。しかも,揮発油税及び地方道路税は,使用用途に応じ免除されているのであるから,これら石油諸税相当額を売上額に含めることは,同一油種の同一数量であるにもかかわらず,課徴金額が異なるという不合理かつ極めて不公平な結果となる。
また,消費税相当額については,各契約上,明確に区分されて記載されているのであるから,その算定はきわめて容易であり,これを「売上額」から控除することにより,「課徴金制度の迅速で実効性のある運用を著しく妨げる」ことにはなり得ないのである。
したがって,消費税及び石油諸税相当額を課徴金算定の基礎とされる「対価の額」に含めることは,誤りであることは明らかである。
イ 被審人昭和シェル
(ア) 施行令第6条を適用するためには,「実行期間において引き渡した商品・・・の対価の額の合計額と実行期間において締結した商品の販売・・・に係る契約により定められた対価の合計額との間に著しい差異を生ずる事情があると認められるとき」という要件に該当することが必要であるにもかかわらず,審査官は上記要件について何ら主張立証をしていないのだから,同条に基づいて計算した額の課徴金の納付を命じることは許されない。
(イ) 課徴金制度は,違法なカルテルによって得た不当な利得をカルテル参加事業者から国がはく奪することにより,社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するためにとられる行政上の措置である。
しかるに,①消費税及び石油諸税相当額は,売主が国に支払うべきこれらの租税を買主に転嫁するために製品を買主に販売する際にその対価に上乗せするものにすぎないものであって,その性質は一種の預り金であり,そもそも売主の営業利益の源泉になるものではないこと,②したがって,このような租税相当額が,課徴金対象の「売上額」の意義について規定する「商品の対価」(施行令第6条)の一部でないことは明らかであり,社会的及び商慣習上の常識であること,③消費税法の法文上も,「対価」とは「課税資産等につき課されるべき消費税額及び地方消費税額に相当する額を含まないものとする」と定義していること(消費税法第28条第1項本文),④企業会計上も消費税は売上げと区別して仮受消費税等の勘定とされていること,⑤以上に加えて,石油諸税相当額については,石油税が納入数量1キロリットル当たり2,040円,揮発油税が納入数量1キロリットル当たり5万3800円という極めて高額の課税がなされ,消費税相当額に比してより一層,売主の営業利益の源泉とはならないことが明らかであることから,消費税及び石油諸税相当額は課徴金対象の「売上額」には含まれないと解すべきである。
(ウ) 東京高等裁判所平成9年6月6日判決(公正取引委員会審決集第44巻521頁)は,結果的には消費税相当額を課徴金対象の売上額に含めることを認めたものの,「課徴金の基本的な性格は,前示のように,社会的公正を確保するために,カルテル行為に参加した事業者が当該カルテル行為によって得た不当な経済的利得を保持し得ないように,これをはく奪する」という点にあるから,この観点からすれば,課徴金の納付を命ずることによってはく奪すべきは,カルテル行為による「事業者の不当な経済的利得」それ自体であって,それ以上のものではない,ということになる。
また,東燃ゼネラル事件東京高裁判決は最高裁判所によって是認されているわけではない上に不合理であるから,これに依拠することは許されない。
(エ) よって,消費税及び石油諸税相当額は上記「売上額」及び「商品の対価」には含まれないと解すべきである。
第6 審判官の判断
1 争点1(本件違反行為は,独占禁止法第7条の2第1項に規定する「対価に係るもの」に該当するか否か)について
(1) 独占禁止法第7条の2第1項にいう「対価に係るもの・・・をしたとき」とは,商品や役務の対価そのものを合意の内容とするもののほか,商品や役務の対価への影響を目的とするものや,対価に対して直接的な効果を及ぼすことが明らかなものを含むと解される。そして,入札制度が入札価格を基準として受注予定者を決定するものであることに照らすと,入札を対象とする不当な取引制限(いわゆる入札談合)の場合には,受注予定者を決定するとともに,受注予定者以外の者は,価格競争を回避して受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しないという合意を当然に包含するものといえるから,定型的に「対価に係るもの」に該当すると解すべきである。
本件合意は前記第2の5のとおり,調達実施本部発注の本件石油製品について,物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注することができるよう協力する旨の合意であるから,入札において受注予定者との価格競争を回避して受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しない旨をも共通意思及び相互拘束の内容とするものである。加えて,前記第2の4(2)のとおり,12社は,商議においてあらかじめ被審人コスモの担当者から示された基準価格の水準に従って,油種ごとに一律の基準価格について価格交渉を行い,その後指値が提示され,新たな入札においては,受注予定者以外の者は受注予定者の入札価格よりも高い価格で入札し,その結果,受注予定者は最低商議価格で受注していたというのであるから,本件違反行為は本件石油製品の対価に直接的な効果を及ぼすものであることは明らかである。
よって,本件違反行為は「対価に係るもの」に該当する。
(2) 被審人3社の主張について
ア 被審人3社は,本件石油製品の契約価格は,調達実施本部が提示する指値によって決定され,12社は,受注予定者(納入責任会社)を決定していたにすぎず,価格調整が行われていなかったから,対価に係る不当な取引制限ではないと主張する。
しかしながら,本案審決によると,当初入札及び商議を不調にさせ,新たな入札において,受注予定者は新たな予定価格と同額で入札することにより価格競争を制限したのは,12社であり(本案審決別紙2審決案89頁),調達実施本部がこれら行為を12社に指示又は主導した事実があったわけではなく,同本部の行為により12社の入札における価格競争が妨げられていたものではないこと(本案審決4頁)及び調達実施本部の担当官は,当初入札における予定価格を超えない価格での入札や新たな入札における最低商議価格を下回る価格での入札を許さないなどとする言動はとっていなかったこと(本案審決別紙2審決案73頁)が認められるのであるから,調達実施本部が,新たな入札において最低商議価格以下の価格による入札を制限し,これを12社に強制していたという事実は認められない。また,被審人コスモの担当者が,当初入札に先立って開催された配分会議において,当初入札において入札する価格を決定するための基準価格の幅や商議において交渉する価格を配分会議に出席した12社のそれぞれの担当者に対して周知していたこと及び12社の担当者らは当該価格の水準に従って,調達実施本部の担当官と価格交渉を行っていたことは前記第2の3(1)イ(ウ),同(3)及び第2の4からも認められるところであり,本件石油製品の契約価格が指値によって決定されており,価格調整が行われていなかったとの被審人3社の主張は,その前提を欠くものであって,採用することはできない。
イ 被審人JXは,独占禁止法第7条の2第1項は,課徴金納付命令の対象となる不当な利得を発生させる違反行為を類型化し,明確にする趣旨の規定であるから,事業者に不当な利得を発生させる違反行為といえない場合は課徴金の対象とすべきではない旨主張する。そして,本件において自由競争が実施され,調達実施本部による指値の拘束がない場合における本件石油製品の契約価格は,被審人ら4社が契約を強いられていた契約価格よりも高額となることは明らかであるから,本件違反行為は制度的に不当な利得を発生させるものではなかったと主張し,これを裏付ける証拠として,審B第11号証及び第12号証を提出する。被審人コスモ及び同昭和シェルもこれと同様の主張をしており,上記事実を裏付けるものとして被審人コスモは審A第1号証,第2号証及び第5号証を,同昭和シェルは審C第1号証,第2号証及び第5号証をそれぞれ提出する。
しかしながら,そもそも独占禁止法の定める課徴金の制度は,「カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,・・・設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである」(最高裁判所平成17年9月13日判決・民事判例集第59巻7号1950頁)。また,課徴金の額の算定について,違反行為の実行期間における対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式が採用されているのは,「課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることが望ましく,また,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではない」(同最高裁判決)からである。以上のような課徴金制度の趣旨・目的及び同法の定める課徴金の算定方式によれば,同法は,実行期間における対象商品又は役務の売上額に一定率を乗じたものを,違反行為者に対する金銭的不利益として,その納付を命じているものと解するのが相当である。そうすると,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないし,また,実際に行われた違反行為に基づく売上げと,違反行為が存在しない場合に想定される仮定的な売上げとの差額を算定し,前者が後者を上回った場合にのみ,その差額をもって「不当な利得」が発生したものとし,このような場合のみを課徴金の対象とするものでもないというべきである。
加えて,本来なら市場の決定に委ねるべき価格に係る事項について事業者間で何らかの合意を行うことは,需給の調整を市場メカニズムに委ね,事業者が市場の需給関係に適応しつつ価格決定を行うという自由競争経済の前提を損ない,競争秩序に与える影響は重大であることに照らすと,課徴金の対象を被審人3社が主張するような場合に限定すべき理由はない。よって,上記主張は前記(1)の認定を左右するものではない。
なお,調達実施本部との本件石油製品の取引において被審人3社(当時は被審人ら4社)が全体として利益を得ていたことについては争いがない。
ウ 被審人コスモは,当初入札,商議及び新たな入札の各段階を分けて,新たな入札における対価を意思の連絡の対象としている場合のみが「対価に係るもの」に該当する旨主張する。しかし,そもそも「対価に係るもの」の該当性を肯定するために価格連絡が必要となるものではない。また,12社は,当初入札から新たな入札までの一連の行為において本件違反行為を実施していたのであるから,12社の新たな入札における行為のみを問題とする被審人コスモの主張は採用することができない。
エ 被審人昭和シェルは,「『対価に係るもの』とは,12社がその意思で,ある程度自由に,価格を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらしていた」と認められることが必要である旨主張する。しかし,本件違反行為が当該状態にあり,実質的に競争を制限するものであることについては本案審決において本件違反行為の認定の際に既に判断されており,重ねて本件において認定する必要はない。
オ 被審人コスモ及び同昭和シェルはその他「対価に係る」該当性等に関して種々主張するが,いずれも前記認定を左右するものではない。
2 争点2(被審人各社の売上げの対象物件の中に,課徴金算定の対象から除外するべきものがあるか否か)について
(1) 独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限をした場合には,公正取引委員会は,事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動が行われた期間における当該商品又は役務の売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。
同項にいう「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合にあっては,基本合意の成立が認められ,この基本合意によって対象となる商品又は役務が特定されたとしても,各商品又は役務について個別の入札が実施されるため,基本合意の成立によって発生した競争制限効果が当然に各商品又は役務に及ぶこととはならない。このような場合の「当該商品又は役務」とは,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきである。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象物件には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該個別の入札に係る物件は,「当該商品又は役務」に該当するものと認められる(公正取引委員会平成15年6月13日審決・同審決集第50巻3頁,同平成17年9月28日審決・同審決集第52巻100頁,同平成18年4月28日審決・同審決集第53巻99頁,同平成20年11月19日審決・同審決集第55巻480頁参照)。
前記第2の5によると,本件合意は,各社の本件石油製品の油種ごとの受注数量の割合が,前年度の各社の本件石油製品の油種ごとの受注実績の割合に見合うものとなるように受注予定者を決定するというものであり,また,前記第2の3(2)ア(ア)によると,配分会議において,出席各社の担当者が順番に受注希望物件等の表明を行い,物件ごとに,受注を希望する者が1社の場合は,その者が受注予定者となり,受注希望者が重複した場合は,被審人コスモの担当者の裁定で受注予定者が決まっており,山間へき地,離島等所在の基地に納入する小口物件等輸送コストがかさむ物件で各業者から受注希望表明がされない物件については,被審人コスモの担当者が,過去に納入実績のある業者に対して納入可能であれば受注予定者となるよう提案し,当該業者に納入困難な事情がある場合には,ほぼ全国的に納入可能な被審人コスモ又は日本石油を受注予定者とすることが多かったというのであるから,本件合意が,調達実施本部が発注する本件石油製品すべてを受注調整の対象とするものであることは明らかである。
そして,被審人コスモの担当者が,「私としては,各社がそれぞれの思惑で出来る限り採算上効率の良い物件の受注を希望してくる中で,全物件を配分できるように仕切らなければならない立場にあるので,いわゆるおいしい物件とおいしくない物件を一緒に配分したほうが物件配分が円滑に行えると判断しておりました。」(査共第16号証)と供述し,100件以上ある不人気案件について,1件1件決めていった旨(審共第80号証の3)供述していることからすると,12社は,当初入札の数日前に開催された配分会議で,山間へき地,離島等所在の基地に納入する小口物件等輸送コストがかさむ物件を含む本件石油製品のすべてについて受注予定者を決定し,当該受注予定者が受注していたと認められる。
よって,調達実施本部が発注し,被審人3社(当時は被審人ら4社)のいずれかが受注した本件石油製品はすべて独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
(2) 被審人3社の主張について
ア 被審人3社は,それぞれ,本件各物件は,いずれも配分会議において納入責任会社の決定を行うか否かに関係なく,受注者となった者のみが受注可能であったと述べて,本件各物件に競争が存在しないと主張する。また,被審人JXは,配分会議における納入責任会社の決定により,競争制限効果,すなわち「受注調整手続を行った結果として競争者の数が限定されることによって入札価格が完全な競争状態下における価額より高額化する等の競争を制限する具体的な効果」(公正取引委員会平成16年8月4日審決・同審決集第51巻87頁)も発生しておらず,「当該商品」に当たらない旨主張する。
しかしながら,入札談合は,受注調整の対象となる物件を違反行為者の中で配分するものであり,特定の違反行為者が受注しやすい物件を包含することや,入札談合の結果,特定の違反行為者しか受注し得ない状況となることはあり得ることである。被審人3社の上記主張は,本件合意の存在を所与のものとして受注者となった者のみが受注可能であった旨述べているだけであるところ,当初から本件合意がない場合には,受注者となった者以外の者であっても,必要な設備等を整えるなどして本件石油製品を納入することが可能であったと推認されるから,競争は存在したものということができる。
また,競争入札は入札参加者各自が独立して入札価格を決定することを前提として,入札参加者間の公正で自由な競争を通じて受注者や価格を決定しようとするシステムであるところ,このような入札制度を採用する取引分野において,競争を回避して受注予定者を決定するということ自体が,公正で自由な競争を制限するものである。
なお,被審人JXが引用する上記審決は,受注調整手続に上程されたものの受注予定者が決定されなかった事案に対するものであり,受注予定者が決定された本件とは事案が異なる。
イ 被審人JXは,余市物件について,同物件の受注予定者を日本石油に決定したのは,調達実施本部であって配分会議によるものではない旨主張する。しかし,被審人JXは,余市物件が配分会議の対象となり,同被審人(当時は日本石油)が受注予定者とされたことを争うものではないところ,余市物件の受注予定者が12社間で実施する配分会議で決定されている以上,余市物件が「当該商品」に該当することは前記(1)で述べたとおりである。当該受注予定者の決定が調達実施本部の希望を受け入れたものであったか否かは上記認定を左右するものではない。
ウ 被審人昭和シェルは,配分会議は受注可能な業者の中から受注予定者を決定することを前提としていたから,被審人昭和シェル1社だけが納入可能な物件である硫黄島物件及び春日物件は,配分会議の対象からは除外されていたと主張し,被審人昭和シェルの村社慶三(以下「被審人昭和シェルの村社」という。)はこれに沿う内容の供述(審C第7号証,村社慶三参考人)をしている。
しかしながら,被審人コスモの担当者は,被審人昭和シェルの担当者が,春日物件や硫黄島物件について被審人昭和シェルが受注予定者とされることにより,その分被審人昭和シェルの他物件の配分量が減らされることに不満を有しており,これら物件に係る数量を配分の分母から除外してもらいたい旨を被審人コスモの担当者に対して要請してきたが,これを断ったという趣旨のことを述べていること(査共第16号証)及び被審人昭和シェルの村社自身も,本件違反行為に係る刑事事件(前記第1の2)の公判手続においても,硫黄島物件及び春日物件が配分会議において受注予定者決定の対象となったことをうかがわせる供述(審共第146号証の1)を行っていることに照らすと,硫黄島物件及び春日物件が配分会議の対象から除外されていたとの被審人昭和シェルの村社の供述はその信用性に疑問がある。
他に硫黄島物件及び春日物件が本件合意から除外されていたことをうかがわせるに足りる事情は認められず,よって,硫黄島物件及び春日物件はいずれも「当該商品」に該当する。
(3) 以上より,被審人3社がそれぞれ主張する本件各物件はいずれも「当該商品」に該当し,その売上額は課徴金算定の基礎となる。
3 争点3(本件石油製品の売上額に係る課徴金の算定率)について
(1) 課徴金の算定率
独占禁止法第7条の2第1項は,不当な取引制限で,商品の対価に係るものをしたときは,「事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間・・・における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の六(小売業については百分の二,卸売業については百分の一とする。)を乗じて得た額に相当する額」の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨定める。
このように,課徴金の算定率について,6パーセントを原則としつつ,卸売業・小売業に対しては例外的に低く(卸売業は1パーセント,小売業は2パーセント)設定した趣旨は,卸売業及び小売業の取引が,第三者の商品を流通させることによってマージンを受け取るという側面が強く,その事業活動の性質上,売上高営業利益率も小さくなっていることを考慮したためである。この趣旨にかんがみれば,違反行為の拘束を受けた取引について,違反行為者が形式的には第三者から商品を購入して,これを販売している場合であっても,その利益構造や業務内容等から,違反行為者が実質的にみて卸売業者又は小売業者の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる場合には,卸売業又は小売業以外の事業を行っているものとして業種の認定を行い,課徴金の算定率も卸売業・小売業以外のものを用いることが相当である。
(2) 被審人JXについて
ア 査新日石第1号証ないし第8号証,審B第8号証,第14号証及び西田英俊参考人によると,日石精製の設立から本件違反行為当時までの間の日本石油と日石精製との本件石油製品の取引について以下の各事実が認められる。
(ア) 株式保有関係
日石精製は,昭和26年10月に,日本石油が販売するための石油製品を安定的に供給すること及びカルテックスが有する石油精製技術の供与を受けることを目的として,日本石油が当時所有していた横浜製油所及び下松製油所の2製油所を現物出資し,カルテックスが資本などの資金を出資するという方法で,それぞれ株式の50パーセントを取得して設立されたものであり,設立の当初から本件違反行為の当時まで,日本石油が販売する石油製品はほとんどすべて日石精製が製造していた。
平成8年4月1日に,日本石油はカルテックスが保有する日石精製の全株式の譲渡を受け,日石精製を100パーセント子会社とした(以下,日本石油が株式を保有する関連会社を「日本石油グループ」という。)。
(イ) 役員関係
平成8年4月1日以降,日石精製の役員はすべて日本石油の役員と兼任又は日本石油グループ出身者であった。
日本石油とカルテックスが株主であった平成8年3月末までは,日石精製の代表取締役3名のうち,代表取締役社長が日本石油グループの出身者であり,代表取締役副社長はカルテックス関係者が,その他の代表取締役を日本石油の代表取締役会長が,それぞれ兼務していた。また,日石精製の役員22名のうち半数が日本石油グループ出身者又は日本石油との兼任役員であった。
(ウ) 合同部
日石精製は日本石油が販売する石油製品を製造していたが,カルテックスの影響を強く受けており,業務処理の方法が日本石油と異なり非効率的であったため,日本石油は,昭和36年ころに,日石精製と日本石油の両社の業務のうち共通する業務を一体的に行うための組織である合同部を設け,日本石油と日石精製両社の管理部門の統合が行われた。なお,日石精製の本社は,日本石油の本社内にあった。平成8年4月時点における合同部は,社長室,総務部,人事部,経理部,財務部,供給部,製造部,工務部,環境保安部などであり,合同部における決裁,伝票等の処理については,決裁等を要する業務が日石精製か日本石油のどちらの業務か判別できるように管理され,一般管理費のうち人件費等の共通する費用は,日本石油が63.25パーセント,日石精製が36.75パーセントの割合で負担していた。ただし,合同部の管理職は,日本精製及び日本石油いずれの業務についても責任者としての立場を有していた。
(エ) 生産計画及び設備投資計画
日石精製が製造する石油製品の生産計画は,合同部である製造部が作成し,やはり合同部である社長室に提出し,社長室で,日本石油の販売部が作成した販売計画案と整合性がとれるように生産計画案を策定の上,社長,執行委員会及び取締役会の承認を得ていた。製造部は,当該生産計画に基づいて四半期ごとの生産計画を作成し,さらにそれを細分化して月次生産計画を作成しており,その際,需要動向を正確に反映させるために,日本石油の販売部及び産業燃料部(いずれも単独部)と調整を行っていた。
また,設備投資計画案も,日本石油及び日石精製のいずれにとっても利益になることを前提として,製造部が作成の上,社長室に提出して,社長の承認を得るなどしていた。
(オ) 原油の買い付け等
日石精製設立当初,日石精製は,カルテックスからかなりの比率で原油を調達していたが,平成7年度から平成10年度までの期間は,日本精製が購入する原油の約50パーセントから60パーセントについて,日本石油が100パーセント出資して設立した原油調達のための現地法人等からの調達となっていた。
原油の買い付けは,合同部である供給部が日本石油及び日石精製を含む日本石油グループからの原油購入注文をある程度まとめており,購入された原油は,供給部が最も効率的な輸送計画となるように立案した輸送計画に従って輸送されていた。
日石精製が生産する石油製品は,日本石油が日石精製に通知した規格に適合することが要請されていた。
(カ) 販売等
日石精製は商社等から不定期に精製を受託していたが,当該受託量は数量的にはごく少量であり,日石精製が生産した石油製品のほとんどすべては日本石油に対して供給されていた。
また,日石精製から日本石油への石油の販売価格は,日本石油の国内平均販売価格に日石精製の原油調達コスト(原油価格,輸送コスト,備蓄基地使用料及び関税等)を加えて,それを2で除した金額とされていた。
イ これらの事実によると,日石精製の取締役の半数(平成8年4月以降は全員)が日本石油グループの関係者であり,日本石油は日石精製の株主(平成8年4月1日までは50パーセント。同日以降は100パーセント。)として,株式保有を通じて利益の配分を受ける関係にあったこと,合同部である供給部において日本石油グループのための原油の買い付けがなされ,当該原油が日石精製に供給されており,日石精製は当該原油から日本石油に販売するための石油製品を製造して日本石油に販売していること,製造業としての日石精製に重要な生産計画や設備投資計画についても,合同部である製造部及び社長室において日本石油の販売計画等と整合するように策定されていること及び日石精製から日本石油への販売価格の決定方法をみても両社間において販売価格と原油調達コストの差額を折半して各社の利益とするという関係があることが認められるのであって,以上の事情を総合すれば,日本石油と日石精製は,実質上同一の経済主体として,両社が策定した生産計画に従って両社が原油を調達し,当該原油調達から石油製品の生産までの過程を日石精製が担当し,その後の過程である販売を日本石油が担当していたとの実態(言いかえれば,日石精製における石油製品の製造は,これに先立つ合同部による原油の調達,調達した原油の日石精製への供給及びその後の日本石油の日石精製からの製品の引取りと一体の過程として予定されていたこと)が認められる。
そうすると,本件石油製品に関する日本石油の事業活動には,本件石油製品を第三者から購入してこれを販売するという卸売業としての実態はなく,日本石油は,実質的にみて卸売業者又は小売業者の機能に属しない他業種の事業活動を行っていたものと認められるから,日本石油の本件石油製品の売上額に係る課徴金算定率については,卸売業又は小売業以外の業種に係る6パーセントを適用すべきこととなる。
ウ 被審人JXの主張について
(ア) 被審人JXは,日本石油と日石精製が,各自事業意思決定の下に石油製品の取引を行っていること,経理処理は別異であること及び別途所要の税負担を行っていること等を指摘し,本件石油製品の取引に係る両社の事業は別異なものであると主張する。
しかしながら,独占禁止法第7条の2第1項における業種の認定方法は前記(1)のとおりであり,その事業活動の実態を考慮すべきであるところ,被審人JXの主張に係る各事情は,いずれも日本石油と日石精製が別法人としての形式を有していることを示すにすぎず,前記イの認定を左右するものではない。
なお,被審人JXは,日石精製を日本石油の一部門と評価するためには,少なくとも,日本石油が日石精製の株式の過半数を保有していることが必要というべきであると主張するが,グループ会社における株式の保有率は,事業活動の実態を把握するための一つの要素にすぎないから,被審人JXの主張を採用することはできない。同様に,カルテックスが日石精製の株式の半数を保有していたという平成8年4月1日以前の事情も,前記イの認定に影響することはない。
(イ) 被審人JXは,日本石油は日石精製が精製した石油製品を買い取る契約をしていたにすぎず,当該石油製品の所有権は日本石油が引き取るまで日石精製が有していたこと,本件石油製品の日石精製から日本石油への販売価格は本件石油製品の契約価格とは連動していないこと,精製費用は日石精製の負担であったことから,日本石油と日石精製には「原油の供給及び製品の引取りと一体の過程」がなく,日石精製が日本石油の製造部門と同視できる地位にないことは明らかであると主張する。
しかしながら,日本石油と日石精製との関係においても,石油製品の製造と原油の供給及び製品の引取りとの間に一体の過程が認められることは前記イのとおりである。本件事実関係の下では,石油製品の所有権が両社のいずれにあったか,本件石油製品の販売価格が契約価格と連動していたか否か及び精製費用を両社のいずれが負担していたかは上記認定を左右するものではない。
(3) 被審人昭和シェルについて
ア 本件では,自動車ガソリン,灯油,軽油,A重油及び航空タービン燃料の油種ごとに本件違反行為が成立するところ,課徴金の算定は,課徴金納付の実効性を担保するため,効率性及び簡明性が要請されていること等にかんがみると,独占禁止法第7条の2第1項は,違反行為の対象となった油種における個々の取引について個別に業種の認定を行うことは予定していないと解すべきであり,油種ごとに違反行為の実行としての事業活動である取引全体を基準として業種の認定を行うのが妥当である。
そして,違反行為に係る取引について,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合には,定型的に実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定することが相当である。
イ そこで,被審人昭和シェルが本件実行期間中において西部石油から購入して調達実施本部に納入することによってマージンを取得したにすぎない製品の売上額(契約価格)の全売上額における割合をみてみると,当該期間において調達実施本部に納入した本件石油製品のうち西部石油から購入した製品の売上額が油種全売上額(契約価格の合計)の過半を占めるのは,62.5パーセントの軽油のみであり,他のいずれの油種においてもその割合は過半に至らない(査昭和シェル第31号証。なお,被審人昭和シェルが昭和四日市石油株式会社及び東亜石油株式会社から購入した製品については業種の認定に係る争いはない。)。
したがって,被審人昭和シェルについて,軽油については卸売業に適用される算定率1パーセントを,その他の自動車ガソリン,灯油,A重油及び航空タービン燃料については,いずれも卸売業又は小売業以外の業種に適用される算定率6パーセントを適用するべきこととなる。
なお,被審人昭和シェルは,他の事業者から仕入れたものであることを特定するのに実務上の支障がない場合にまで,審査官が主張するような処理を貫くことは独占禁止法第7条の2第1項の立法趣旨を著しく損ね,違法というべきである旨主張するが,課徴金の制度趣旨は前記1(2)イのとおりであり,また,前記アのとおり,独占禁止法第7条の2第1項は個別取引ごとに業種認定を行うことを予定するものではないから,上記主張は根拠がない。
(4) 被審人3社の業種
以上より,本件石油製品に係る被審人3社の業種は以下のとおりとなる。
ア 被審人JX
(ア) 日本石油
本件石油製品に係る事業の業種は全油種とも製造業
(イ) 三菱石油
本件石油製品に係る事業の業種は全油種とも製造業
イ 被審人コスモ
本件石油製品に係る事業の業種は全油種とも製造業
ウ 被審人昭和シェル
軽油に係る事業の業種は卸売業
自動車ガソリン,灯油,A重油及び航空タービンに係る事業の業種は製造業
4 争点4(課徴金算定の基礎となる売上額)について 
(1) 施行令第6条の適用
ア 課徴金算定の基礎となる売上額について,施行令第6条において,例外としての「契約基準」が設けられた趣旨は,不当な取引制限が実行期間において受注する商品等のみに係る場合においては,受注から引渡し等までに期間を要するのが通常であり,引渡基準に従って実行期間内に引き渡した商品等の対価の額を合計する方法で売上額を算定すると,実行期間中の不当な取引制限行為に基づく事業活動の結果が反映されないことが生じ得るので,このような事態を避け,不当な取引制限の実行としての事業活動による不当な利得が適正に反映するように,契約基準によって売上額を算定することとしたものと解される。
そして,契約基準によるべき場合を,「著しい差異」があるときではなく,「著しい差異を生ずる事情」があると認められるときとしていることに照らせば,引渡基準によった場合の対価の合計額と契約により定められた対価の合計額との間に著しい差異を生ずる蓋然性が類型的ないし定性的に認められるかどうかを判断して契約基準の適用の可否を決すれば足りるものと解するのが相当である。
イ 本件石油製品は,発注日から契約上の納期までの期間がおおむね2か月ないし3か月であり(査共第6号証),契約から引渡しまで期間を要する取引であり,また発注額も均一ではないこと(査共第7号証)等の事情を勘案すると,本件では,引渡基準によった場合の対価の合計額と契約により定められた対価の合計額との間に著しい差異を生ずる蓋然性が類型的ないし定性的に存在すると認められ,よって,課徴金算定の基礎となる売上額の算定について,施行令第6条の契約基準によることが相当である。
(2) 消費税及び石油諸税相当額の取扱い
ア 消費税相当額について
独占禁止法第7条の2第1項は,課徴金算定の基礎となる売上額について,政令で定める方法により算定するものとしており,施行令第6条は,この方法について,実行期間において締結した商品の販売又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額を合計する方法とする旨規定する。一般に商品の「対価」とは商品の「販売価格」を指すと考えられるところ,消費税法は,商品の販売等の資産の譲渡について,当該商品を販売する事業者等の資産の譲渡を行った事業者を消費税の納税義務者としており,商品の購入者等の資産の譲受人は,消費税相当額を経済的に転嫁されて負担する立場にとどまり,法律的には納税義務者ではない。商品の購入者が支払う消費税相当額は,商品本体等の代金相当額の金員と同一の法的性質を有する金員として一体的に事業者に支払われ,事業者が,消費者から受領した金員の中から自らの義務として消費税を納付することが予定されているのである。したがって,消費税相当額は,法的性質上,商品の「販売価格」の一部であり,施行令第6条にいう商品の「対価」に含まれていると解すべきである(最高裁判所平成10年10月13日・判例タイムズ991号107頁,公正取引委員会平成17年2月22日審決・同審決集第51巻292頁,東燃ゼネラル事件東京高裁判決参照)。
イ 石油諸税相当額について
石油諸税が課される製品の購入者は,納税義務者が支払った税金を経済的に転嫁されて負担する立場にとどまり,法律的には納税義務者ではない。そして,これらの税金については,当該製品の価額の一部を構成するものとして社会的に認識されている。よって,被審人らが取得する本件石油製品の代金額のうち石油諸税相当額は,法的性質からしても社会通念の観点からしても,商品の対価の一部として課徴金算定の基礎となる売上額に含まれるものと解することが相当である。
ウ 被審人JX及び同昭和シェルの主張
(ア) 被審人JX及び同昭和シェルは,課徴金制度は,カルテルによって得た利得をはく奪する点にその主眼が置かれていることを述べ,これを根拠として,利得とは関係のない消費税相当額及び石油諸税相当額は売上額の認定から除外するべきであると主張する。
しかしながら,課徴金制度の目的は,前記1(2)イのとおりであり,また,消費税相当額や石油諸税相当額が売上額の一部を構成するものであることは,前記ア及びイのとおりである。さらに,課徴金の制度の設計及び運用は,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにする必要があるところ(前掲最高裁判所平成17年9月13日判決),各種各様に存在し,今後も経済情勢の推移に応じて刻々と変化する諸税金について,その一つ一つの税額を算定し,これを売上額の中から控除すべきであるとすると,課徴金制度の実効性を著しく減殺し,上記課徴金制度の目的に反することとなる。
したがって,被審人JX及び同昭和シェルの主張を採用することはできない。
(イ) 被審人JXは,揮発油税及び地方道路税は,使用用途に応じ免税されているのであるから,これら石油諸税相当額を売上額に含めることは,同一油種の同一数量であるにもかかわらず,違反行為者間で課徴金額が異なるという不合理かつ極めて不公平な結果となると主張するが,同一油種の同一数量を売り上げた場合であっても,諸税を含めた売上額が異なる以上,課徴金額が異なることは当然であって,このことは,不合理でも不公平でもないから,被審人JXの主張は失当である。
(ウ) 被審人昭和シェルは,消費税法第28条の定義規定や企業会計上も消費税は売上げとは区別されていること等種々主張するが,消費税法第28条の定義の適用は消費税法に限定されていることは同条の文言からも明らかである。また,個々の企業における消費税の会計上の位置付けによって売上額の認定が左右されるものではない。
第7 課徴金の計算の基礎
前記第3及び第6の3(4)により,被審人3社がそれぞれ国庫に納付すべき課徴金の額は,以下(1)ないし(3)のとおりとなる。
(1) 被審人JX
自動車ガソリンについて,日本石油の売上額である5億2854万5077円に100分の6を乗じて得た額と,三菱石油の売上額である1億8274万5804円に100分の6を乗じて得た額を合計した額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された4267万円,灯油について,日本石油の売上額である6億42万1418円に100分の6を乗じて得た額と,三菱石油の売上額である2億7675万3829円に100分の6を乗じて得た額を合計した額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された5263万円,軽油について,日本石油の売上額である58億8794万6467円に100分の6を乗じて得た額と,三菱石油の売上額である28億401万6547円に100分の6を乗じて得た額を合計した額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された5億2151万円,A重油について,日本石油の売上額である22億4412万9973円に100分の6を乗じて得た額と,三菱石油の売上額である13億7206万8520円に100分の6を乗じて得た額を合計した額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された2億1697万円と,航空タービン燃料について,日本石油の売上額である172億824万3934円に100分の6を乗じて得た額と,三菱石油の売上額である48億2907万4490円に100分の6を乗じて得た額を合計した額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された13億2223万円を合計した計21億5601万円
(2) 被審人コスモ
自動車ガソリンについて,売上額である3億9594万6572円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された2375万円,灯油について,売上額である6億3837万663円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された3830万円,軽油について,売上額である59億7142万8513円に100分の6を乗じて得た額を合計した額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された3億5828万円,A重油について,売上額である26億660万1485円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された1億5639万円と,航空タービン燃料について,売上額である195億7391万7186円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された11億7443万円を合計した計17億5115万円
(3) 被審人昭和シェル
自動車ガソリンについて,売上額である2億4670万2110円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された1480万円,灯油について,売上額である4億833万1784円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された2449万円,軽油について,売上額である38億9807万9203円に100分の1を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された3898万円,A重油について,売上額である24億4131万7301円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された1億4647万円と,航空タービン燃料について,売上額である58億7836万61円に100分の6を乗じて得た額から,1万円未満の端数を切り捨てて算出された3億5270万円を合計した計5億7744万円
第8 法令の適用
以上によれば,本件については,独占禁止法第7条の2第1項,第4項及び第5項の規定を適用して,被審人3社に対し,同法第54条の2第1項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成22年12月8日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  大久保 正 道

審判官  佐 藤 郁 美

審判官中出孝典は退任のため署名押印できない。

審判長審判官  大久保 正 道

※ 別紙及び別添(本案審決)省略。

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