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(株)クボタに対する件

独禁法66条2項(独禁法7条の2)

平成20年(判)第22号

審判請求棄却審決(課徴金の納付を命ずる審決)

大阪市浪速区敷津東一丁目2番47号
被審人 株式会社クボタ
同代表者 代表取締役 益 本 康 男
上記代理人弁護士   鈴 木 祐 一
同          栗 原 正 晴
同          渡 部 夕雨子
同          中 澤 智 憲
同          帯 刀 康 一
同          中 村   香
同          高 部 道 彦

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官大久保正道,審判官佐藤郁美及び審判官酒井紀子から提出された事件記録及び規則第75条の規定により被審人から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人の審判請求を棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成23年3月9日

公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委 員 後藤  晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代
委 員 細川 清

平成20年(判)第22号

審   決   案

大阪市浪速区敷津東一丁目2番47号
被審人 株式会社クボタ
同代表者 代表取締役 益 本 康 男
上記代理人弁護士   鈴 木 祐 一
同          栗 原 正 晴
同          渡 部 夕雨子
同          中 澤 智 憲
同          帯 刀 康 一
同          中 村   香
同          高 部 道 彦


上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人の審判請求を棄却する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
平成20年(納)第28号課徴金納付命令のうち,76万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める。
第2 事案の概要
1 被審人は,他の事業者と共同して,別紙1記載の杭(以下「特定鋼管杭」という。)の建設業者向け販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定鋼管杭の販売分野における競争を実質的に制限していた。
2 公正取引委員会は,被審人の上記行為(以下「本件違反行為」という。)について,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであるとして,被審人に対し,平成20年(措)第12号排除措置命令書(以下「本件排除措置命令書」という。)により排除措置を命ずる(以下「本件排除措置命令」という。)とともに,被審人に対し,別添の課徴金納付命令書により2億1291万円の課徴金の納付を命じた(以下「原処分」という。)。
なお,原処分は,本件違反行為による被審人の特定鋼管杭の売上額を50億6938万4653円であると認定し,これを前提にして,課徴金額を2億1291万円と算出したものであった。
3 被審人は,本件違反行為については争わず,本件排除措置命令に対して審判請求をしなかったので,本件排除措置命令は確定した。
他方,被審人は,原処分が認定した上記50億6938万4653円の売上額のうち,被審人から新日本製鐵株式会社(以下「新日本製鐵」という。)を介して建設業者向けに販売された特定鋼管杭(被審人のブランド名が付された製品であり,いわゆる「S契約・Kマーク製品」と称される製品である。以下「本件製品」という。)に係る売上額(後記第3の2(2)の本件実行期間内における被審人の新日本製鐵に対する本件製品の売上額50億5107万1798円,以下「本件売上額」という。)については,被審人が新日本製鐵から原材料の支給を受け加工した本件製品を新日本製鐵に納入したこと,新日本製鐵が,これを被審人のブランド名にて,建設業者向けに販売していたものであること等を理由に,被審人に対する本件違反行為の課徴金の計算の基礎とすることはできない旨主張し(後記第5の1(2)及び同2(1)参照),これを前提にすると,本件違反行為による被審人の売上額は,原処分が認定した50億6938万4653円から本件売上額を控除した1831万2855円となるから,被審人が納付すべき課徴金は76万円と算出されるべきであるとして,原処分中,76万円を超えた部分の取消しを求めて審判請求をした。
第3 原処分の原因となる事実
本件排除措置命令及び原処分で認定されている事実によれば,以下のとおり認められる。
1 本件違反行為の詳細等
(1) ア 被審人,新日本製鐵,JFEスチール株式会社(以下「JFEスチール」という。)及び住友金属工業株式会社(以下「住友金属工業」という。)は,それぞれ,鋼鉄のみにより製造された杭(継手及び付属品を取り付けたものを含む。以下「鋼管杭」という。)の製造販売業を営む者である。
イ 被審人,新日本製鐵,JFEスチール及び住友金属工業の4社(以下「4社」という。)は,販売業者を通じて,建設業者に対し,特定鋼管杭を販売していた。
ウ 4社の特定鋼管杭の建設業者向けの販売価格は,一定の仕様の鋼管杭について定められたベース価格と称する額(以下「ベース価格」という。)に,必要に応じてエキストラ価格等と称する一定の額(以下「エキストラ価格」という。)を加算したものであり,4社は,自ら又は販売業者を通じて建設業者とベース価格の交渉を行うことにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を定め,当該建設業者向け販売価格から販売業者の口銭等を差し引くなどしたものを自らの販売価格としていた。
なお,4社は,通常,財団法人建設物価調査会が発行する「月刊建設物価」等に掲載されている額を,エキストラ価格としていた。
エ 4社の特定鋼管杭の販売量の合計は,我が国における特定鋼管杭の総販売量のほとんどを占めていた。
(2) ア 4社は,かねてから,各社の営業課長級の者による会合(以下「課長会」という。)及び各社の営業係長級の者による会合(以下「小委員会」という。)を開催し,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格並びに特定鋼管杭に係る建設業者からの引合いの状況及び各社の受注希望について情報交換を行ってきたところ,平成15年ころから特定鋼管杭の原材料である鉄鉱石,石炭等の価格が上昇したことから,平成15年12月ころ以降,課長会及び小委員会を開催して鋼管杭の建設業者向け販売価格の引上げについて検討を行い,平成16年2月19日ころ,東京都中央区所在の鉄鋼会館内の鋼管杭協会の会議室において開催した課長会において,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格について,平成16年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,全国規模で営業を展開する建設業者(以下「大手ゼネコン」という。)のうち最大手級の者(以下「スーパーゼネコン」という。),スーパーゼネコン以外の大手ゼネコン等の建設業者の区分ごとに,別紙2記載の「価格」欄記載の価格以上とすることにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げることを合意した。
イ 4社は,平成16年秋ころ,引き続き鉄鉱石,石炭等の価格が上昇することが見込まれたことから,平成16年12月ころ以降,課長会及び小委員会を開催して特定鋼管杭の建設業者向け販売価格の引上げについて検討を行い,平成17年3月3日ころまでに,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格について,平成17年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,スーパーゼネコン,スーパーゼネコン以外の大手ゼネコン等の建設業者の区分ごとに,別紙3記載の「価格」欄記載の価格以上とすることにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げることを合意した。
(3) 4社は,前記(2)ア及びイの合意(以下「本件合意」という。)に基づき,それぞれ建設業者等に対して特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を引き上げる旨の申入れを行うなどして,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を引き上げていた。
(4) 4社は,共同して,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定鋼管杭の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
2 課徴金の計算の基礎(以下のうち事実については争いがない。)
(1) 被審人は,特定鋼管杭の製造販売業を営む者であり,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第4条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる改正法による改正前の独占禁止法(以下「平成17年改正前の独占禁止法」という。)第7条の2第1項に該当する事業者である。
(2) 本件合意によると,被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成16年4月1日と認められる。また,被審人は,平成17年6月21日に本件合意を事実上破棄したもの(本件排除措置命令書4頁)と認められ,同月21日以降その実行としての事業活動はなくなっている。したがって,被審人について,平成17年改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は平成16年4月1日から平成17年6月20日までとなる(以下「本件実行期間」という。)。
(3) 本件実行期間における特定鋼管杭の被審人の売上額は,改正法附則第4条第2項のなお従前の例によることとする規定により,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「施行令」という。)第6条の規定に基づき算定すべきところ,当該規定に基づき算定すると,50億6938万4653円となる。
(4) 被審人は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)による改正前の独占禁止法(以下「平成21年改正前の独占禁止法」という。)第7条の2第9項第1号の規定により,公正取引委員会による調査開始日である平成19年7月31日以後,課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則の一部を改正する規則(平成21年公正取引委員会規則第12号)による改正前の課徴金減免に係る報告及び資料の提出に関する規則(以下「改正前の課徴金減免規則」という。)第5条に規定する期日までに,改正前の課徴金減免規則第4条及び第6条に定めるところにより,単独で,公正取引委員会に本件違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(既に公正取引委員会によって把握されている事実に係るものを除く。)を行った者であり,当該報告及び資料の提出を行った日以後において当該違反行為をしていた者でない。また,当該違反行為について,平成21年改正前の独占禁止法第7条の2第7項第1号又は第8項第1号若しくは第2号の規定による報告及び資料の提出を行った者の数は3に満たないところ,これらの規定による報告及び資料の提出を行った事業者であって被審人より先に改正前の課徴金減免規則第4条第1項に規定する報告書の提出を行った者の数を合計した数は3に満たない。したがって,被審人は,平成21年改正前の独占禁止法第7条の2第9項の規定の適用を受ける事業者である。
(5) 前記(3)の50億6938万4653円に100分の6を乗じて得た額から,平成21年改正前の独占禁止法第7条の2第9項の規定により当該額に100分の30を乗じて得た額を減額し,平成17年改正前の独占禁止法第7条の2第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てると,2億1291万円となる。
3 本件違反行為当時の被審人の事業状況等
(1) 4社のうち被審人を除く3社は,いずれも特定鋼管杭の材料となる帯鋼(以下「コイル」という。)を自社で製造していたが,被審人のみは,新日本製鐵からコイルを購入して特定鋼管杭を製造していた。(査第21号証)
(2) 被審人が製造する特定鋼管杭には,被審人が建設業者から直接受注した被審人ブランドの特定鋼管杭(以下「Kマーク製品」という。本件製品もこれに含まれる。)と新日本製鐵が建設業者から直接受注してその製造を被審人に発注し,これを受けて被審人がOEM製造する新日本製鐵ブランドの特定鋼管杭(以下「K製造・Sマーク製品」という。)があった。(査第1号証ないし第4号証)
第4 本件の争点
1 本件売上額は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に該当し,被審人に対する課徴金算定の基礎となるか否か(争点1)
2 原処分が本件売上額を被審人に対する課徴金算定の基礎としたことに何らかの違法があり,そのために原処分に取消事由があるか否か(争点2)
第5 双方の主張
1 争点1(本件売上額は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に該当し,被審人に対する課徴金算定の基礎となるか否か)について
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限等をしたときは,事業者に対し「当該行為の実行としての事業活動」が行われた期間における「当該商品」の売上高を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定しているところ,ここにいう「当該商品」とは,「当該行為」すなわち課徴金の対象となる違反行為の対象とされた商品全体を意味し,一定の取引分野における競争を実質的に制限する違反行為が行われた場合において,その対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為の拘束を受けたものをいう。そして,対象商品の範ちゅうに属する商品については,通常,当該違反行為による拘束を受け,当該違反行為の影響が及んでいるものと推認されるから,原則として,特段の事情がない限り,当該範ちゅうに属する商品全体が「当該商品」に該当する(公正取引委員会平成8年4月24日審決・同審決集第43巻3頁〔以下「中国塗料審決」という。〕,同平成11年11月10日審決・同審決集第46巻119頁〔以下「東京無線タクシー審決」という。〕,同平成14年9月25日審決・同審決集第49巻111頁〔以下「オーエヌポートリー審決」という。〕参照)。
イ 本件違反行為は,4社が特定鋼管杭の建設業者向け販売価格に関して相互に事業活動を拘束したものであって,その対象商品が特定鋼管杭であることは本件排除措置命令における認定から明らかであり,同命令は既に確定していることから,かかる対象商品の認定には争いがない。そして,本件製品も特定鋼管杭であることから,同製品が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明白である。したがって,特段の事情がみられない以上,本件における課徴金算定対象たる「当該商品」は,被審人ら各社が供給する特定鋼管杭に属する商品全体であり,本件製品が除外される余地はない。
本件では,各違反行為者が各々自社製品に関して販売価格引上げを他社と合意し,実施したものであるから,各社に対する課徴金の計算の基礎となる売上額はその範囲に即してみることになる。
ウ 本件製品は,以下(ア)ないし(エ)に述べるとおり,需要家である建設業者に対する営業活動,引き合いを受けた際の価格交渉等のすべてを被審人が行い,被審人が受注したものであって,被審人は本件製品に関する取引の主体であり,その売上額は被審人に対する課徴金の計算の基礎に含めるべきものである一方,商社に準じた立場で商流上介在していたにすぎない新日本製鐵に関しては,その売上額を課徴金計算の基礎とすべきではない。
(ア) 建設業者に対する恒常的かつ主体的営業活動
被審人は,鋼管杭事業の営業部門として鋼管事業部鋼管営業部を置いており,同営業部においては特定鋼管杭の販売をはじめ,販売代金の回収,特約店の管理及び指導,アフターサービス及びクレームの処理も担当しており,さらに,東京本社土木建材第一グループ及び大阪本社土木建材グループ並びに各支社鋼管課の担当者ごとに地区,需要者等を割り当て,特定鋼管杭が使用される工事に関する情報収集や当該工事の受注が見込まれる建設業者に対する被審人ブランドの特定鋼管杭の売り込み活動を行い,見積書の作成依頼があった場合には自ら見積書を作成して提出している。このように,被審人は,自ら情報収集等の営業活動を積極的に行い,また,受注に向けて注力する物件の取捨選択等も自らの判断で行っていた。
(イ) 「貼り付け」による受注物件の確保
4社は,各社の特定鋼管杭の受注目標シェアを定め,各年度における各社の受注重量が当該シェアの範囲に収まるよう「貼り付け」と称して物件ごとに納入業者を割り振り,競争を回避して受注できるよう相互に協力し合ってきたところ,被審人も本件製品をもって他3社に並ぶ製造業者と認知され,対等の立場で物件を分け合ってきた。各社のシェアは全国をいくつかの地区に分けた上で各々設定され,例えば,関東地区でのシェアは,被審人が14.2パーセント,新日本製鐵が31.4パーセント,JFEスチールが40.2パーセント,住友金属工業が14.2パーセントであり,被審人に配分されたシェアが本件製品を対象としていたからこそ14.2パーセントものシェアを確保できたのである。
そして,被審人は独自の営業努力によって得た建設業者からの引き合い情報や官公庁の発注予定情報を他の3社に開示し,自社が納入業者となるべく受注を希望する物件を主張して,自社の受注目標シェアに相当する受注重量を確保するようにしていた。
(ウ) 建設業者との価格交渉
需要家である建設業者から引き合いがあった後,妥結に至るまでの価格交渉は,鋼管杭製造業者と建設業者との間で直接行うことが通例であり,本件製品に関しては被審人が自ら建設業者と価格交渉を行っている。鋼管杭製造業者の製品販売方法は,決定した販売条件を商社に対して連絡し,商社が連絡を受けた内容で当該建設業者と契約する形態によっている。本件製品に関しても例外ではなく,形式的には商社との直接の契約相手は新日本製鐵になるものの,被審人が販売条件等を商社と新日本製鐵に連絡し,それで双方が契約できるよう手配している。このように,本件製品の価格交渉については,専ら被審人が建設業者と行い,新日本製鐵は価格交渉には関与していない。
(エ) 納品及び品質保証
本件製品の納品に当たっては,被審人が直接建設業者と打合せを行い,建設業者が指定する日時,場所に,指定された数量の納品を行っており,新日本製鐵は納品に一切関与していない。
また,鋼管杭の製品引渡し(納品)に際しては,日本工業規格において,納入相手に対して検査証明書を発行することとなっており,被審人は,本件製品について自らの名義で「鋼管検査証明書」を発行し,建設業者に交付している。これにより被審人は本件製品について,施主や建設業者からの品質等に関するクレームも,自らが対応することとしていて,そこには新日本製鐵の関与が全く想定されていない。
エ 被審人の主張に対する反論
(ア) 課徴金の基礎となる売上額の算定に当たっては,ひとまず対象商品の範ちゅうに属するものの売上額を認定すれば足りるのであって,これとは別に,不当な取引制限が行われた一定の取引分野を「製造業者から卸売業者に」,「卸売業者から小売業者に」,「小売業者から需要者に」それぞれ商品が販売されるいずれかの取引段階として画定することなど法は予定していない。確かに,一定の取引分野は取引段階を共通にする範囲において成立することが多いとしても,そうであるからといって,一定の取引分野をそのように固定的に理解すべき必然性はないのであって,一定の取引分野は,不当な取引制限行為等の違反行為の態様に照らして画定されるべきものである。このことは,入札談合において発注者から落札・受注する取引段階と落札業者から受注する次の取引段階を含めて「一定の取引分野」を認定した東京高等裁判所平成5年12月14日判決・高等裁判所刑事判例集第46巻3号322頁(いわゆるシール談合に係る刑事事件)からも明らかである。
(イ) 課徴金の算定対象となる当該商品として,違反行為の拘束を受けているといえるためには,必ずしもその売上げの生じる個々の取引ないしその対価への個別の影響や結果が発生していることを意味しないから,そもそも,違反行為と販売価格の間に連動性が要求される訳ではない。違反行為と販売価格との間に連動性が認められる場合には,拘束を受けていることがより確実であるというだけである。そのため,価格の連動性が認められなければ,拘束を受けたとはいえないとの被審人の主張は失当である。
(ウ) 被審人は,本件製品に関する被審人と新日本製鐵との取引の実態が委託加工取引にすぎないと主張する。
しかしながら,本件製品に関しては被審人が営業活動を主体的に行い,自ら引き合いを受け,価格交渉を経て受注し,製造し,納品していることから,同製品は被審人の自社製品であって被審人と新日本製鐵との取引の実態は委託加工取引ではない。また,本件製品に関する被審人と新日本製鐵の関係は,被審人がその材料を新日本製鐵から一手に供給を受ける反面,当該材料により製造した製品を,すべて新日本製鐵を介して流通させる形態を採っていたものであり,新日本製鐵から被審人への材料の供給も,被審人から新日本製鐵への本件製品の納入も,一般にみられる売買取引と異ならない。
(エ) 被審人は受注物件の販売価格について,事前に新日本製鐵の了承を得る建前になっていたものの,実際に新日本製鐵が了承するのは被審人と建設業者との交渉が妥結した後であったため,新日本製鐵が既に妥結された取引条件を覆すことは困難であり,そのため,被審人の建設業者向け販売価格は,事実上専ら被審人と建設業者との交渉次第で合意されていた。さらに,被審人は新日本製鐵の正式な加工指示を待たずに特定鋼管杭の製造を開始することができたことから,決裁手続は形骸化していた。
被審人は,建設業者から引き合いのあった物件について,交渉の過程で販売価格を低くせざるを得ないことが見込まれる場合には,受注を確保するために,商社をして,建設業者に対しては実際の妥結額で販売させるものの,新日本製鐵と商社が契約する際の価格を実際の妥結額より高い価格とさせ,その差額について一部又は全部を新日本製鐵に知られていない販売割戻金として商社に対して提供することで補塡する対応をしていた。かかる販売割戻金により,被審人は,建設業者に対する販売価格を自ら決定することができたのであり,新日本製鐵が実質的な価格決定権を有していたわけではない。
(オ) 被審人は,新日本製鐵がコイルの生産計画を立てることができるように,新日本製鐵に対し,被審人が建設業者などから特定鋼管杭の引き合いの情報を入手した時点で物件名並びに特定鋼管杭の種類,重量及び納期を報告し,さらに引き続き当該物件の受注が完了するまでの間,月次で各報告項目の変動の有無を報告していたものの,実際には,被審人は,物件の報告に当たり,物件を特定されないよう複数物件を「諸口」として合計重量をまとめて報告する,あるいは物件名を伏せて「某物件」と記載して報告するなど,受注を巡って新日本製鐵との衝突が生じることが予想される場合には,物件を秘匿していた。
したがって,具体的にどの物件を新日本製鐵の物件として貼り付けるか,被審人の物件として貼り付けるかについて,新日本製鐵の完全なコントロールの下にあったわけではなく,新日本製鐵の販売計画策定の段階ですべてが決まっていたということはできない。
(カ) 商社は,特定鋼管杭の取引において,取引価格,取引数量等の取引条件の設定に関与することはなく,与信リスクの回避,代金決済上の便宜として,被審人と建設業者との間で成約した取引の仲立ちをする立場にあるといえる。新日本製鐵は,本件製品に関して,被審人のように建設業者から引き合いを受けるでもなく,価格交渉をするでもなく,もとより製造もせず,単に商流上介在しているにすぎないのであるから,被審人との比較において商社に準じた立場とみることは合理的である。
(2) 被審人の主張
ア 不当な取引制限とは,「事業者が,・・・他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,・・・相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいう(独占禁止法第2条第6項)ところ,課徴金を賦課する要件となる不当な取引制限は,一定の取引分野において,価格等を支配できる力を形成・維持・強化することをいうのであるから,不当な取引制限がいかなる「一定の取引分野」において行われているのかを画定する必要がある。
そして,ある商品が製造業者→卸売業者→小売業者→需要者と流通する場合を例にとれば,独占禁止法が,課徴金の賦課割合を製造業者,小売業者,卸売業者によって区別しており,課徴金の算定に当たり,「製造業者から卸売業者に販売される市場」,「卸売業者から小売業者に販売される市場」,「小売業者から需要者に販売される市場」がそれぞれ観念されていることからすると,いずれの市場において,不当な取引制限が行われたかが画定されなければならないことは当然である。
したがって,独占禁止法第7条の2第1項により課徴金納付命令を受ける「事業者」とは問題となる市場における違反行為者を,課徴金算定の基礎となる「当該商品」とは問題となる市場において供給される商品を,当該商品の「売上額」とは問題となる市場において供給された当該商品に係る売上額をいうことは明らかであるのみならず,施行令第6条にいう「実行期間において締結した契約により定められた商品の販売・・・の対価」も,独占禁止法第7条の2第1項による委任に基づく規定である以上,問題となる市場において契約された当該商品の対価ということはいうまでもない。
施行令第6条に基づく被審人に対する売上額は,違反行為者間で合意された販売価格に基づき建設業者向けに販売された契約において定められた対価の額の合計であるところ,被審人において,本件製品はこの要件を満たすものではない。
イ (ア)  中国塗料審決,東京無線タクシー審決及び東京高等裁判所平成16年2月20日判決(土屋企業株式会社に対する審決取消訴訟判決)等の各先例は,「当該商品」の該当性の有無を,「違反行為による拘束を受けた商品」であるか否かの観点から判断しているところ,本件において,本件違反行為の価格拘束下で販売された商品のみが「違反行為による拘束」を受けた「当該商品」に該当する。
また,中国塗料審決において,「当該商品」の該当性判断に当たり,典型的対象商品と,対象商品の範ちゅうに属しながら典型的対象商品とは別類型をなす商品との間の価格形成の価格連動性が問題にされ,また,東京無線タクシー審決や,公正取引委員会平成8年8月5日審決・同審決集第43巻68頁(以下「東芝ケミカル審決」という。)等においても,同様に,価格連動性が問題とされて,価格連動性が認められない商品については,「当該商品」から除外されていることから,これらの審決例を踏まえれば,価格連動性が,「違反行為による拘束」の該当性を判断する最も重要な要素であることは明らかであり,審査官が主張する取引の主体であることは要件ではない。
(イ) 前記(ア)のとおり,本件において,本件製品が「当該商品」に該当するか否かは,「当該違反行為の拘束を受けたもの」との要件を充足すること,すなわち,被審人の新日本製鐵に対する本件製品の販売価格が,4社間で合意した価格(前記第3の1(2)参照)と連動しているか否かによって決せられる。
これを本件についてみるに,被審人の新日本製鐵に対する特定鋼管杭の納入価格は,本件製品の場合も含めて,①材料費(コイル代),②造管費(加工賃),③エキストラ及び付属品並びに④代行輸送費を要素として決められていたが,個別物件ごとの建設業者との妥結価格にかかわらず,年度ごとに新日本製鐵と被審人との契約によって定額に定められていたものであり,本件合意による直接の影響を受けて連動するものではなかった。また,加工賃は,年度が終了した後,事後的に,販売価格の変化や新日本製鐵のコイル製造コスト等を考慮して決定され,これが年度当初にさかのぼって適用されていたものの,現実には一貫して低落傾向にあった。
このように,新日本製鐵,JFEスチール及び住友金属工業が建設業者向けに販売した特定鋼管杭の価格については,本件合意との価格連動性が認められるものの,被審人の新日本製鐵に対する本件製品の納入価格については,本件合意との価格連動性は一切認められないのである。
(ウ) また,違反行為当事者は,本件合意に基づいて建設業者に対し営業活動を行っており,本件合意によるベース価格は,需要家たる建設業者が特定鋼管杭を購入する際の基本価格であるところ,本件製品においては,この基本価格は,一次商社の新日本製鐵に対する注文書に添付されるアタッチシート(内訳表)上の「本体」の「A価格」に記載されていること,新日本製鐵社内においても,これらが,新日本製鐵の最低目標販売価格,社内基準,予算価格ひいては違反行為当事者の協定価格に照らして適切な水準にあるか否かが確認されていたこと,新日本製鐵がこのような確認を行っていた目的は,被審人による安値販売を牽制すると同時に,本件合意に基づく販売価格を遵守し,値崩れを防止するためであったこと及び新日本製鐵は,被審人の本件製品の売上げを,新日本製鐵の販売計画及び利益要素の一つとして位置付け,被審人に販売計画や受注状況を報告させることにより管理していたことが認められ,本件製品の商流において,本件合意との価格連動性が認められるのは,新日本製鐵の商社に対する売上げ以外にはないのである。
(エ) 加えて,被審人及び新日本製鐵以外の本件違反行為の参加者であるJFEスチールや住友金属工業においては,本件製品に係る被審人と新日本製鐵の取引関係の存在自体が認識されていなかったのであるから,カルテルによる相互拘束の前提となる違反行為当事者相互の予測可能性すら否定されるのであって,本件違反行為の参加者には,被審人が新日本製鐵に本件製品を納入する際の価格に対して,本件違反行為の拘束を及ぼすつもりがなかったことは明らかである。
(オ) これらを踏まえると,被審人が新日本製鐵に対して納入した本件製品が,本件違反行為による拘束を受けたものではないこと,すなわち,「当該商品」に当たらないことは明らかである。
ウ (ア) 独占禁止法の課徴金制度は,その商品又は役務に係る市場における競争秩序の維持を実質的に制限する競争制限行為が行われた場合に,違反行為者に帰属することとなった不当利得等を画一的・機械的基準に基づきはく奪する制度である。課徴金制度が,違法なカルテルによる経済的利得を国が徴収することにより,違反行為者が利得をそのまま保持し得ないようにすることによって,社会的公正を確保すると同時に,違反行為の抑制を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するための行政上の措置を定めた制度であることについて異論はなく,その制度趣旨が,違反行為当事者が当該違反行為によって得た不当利得のはく奪をベースにしていることに争いはない。
このような課徴金制度の趣旨は,本件製品が,「違反行為による拘束」を受けたか否かを判断するに当たっても,欠くことのできない判断要素である。けだし,「違反行為による拘束」を受けた「当該商品」には,違反行為の結果として,カルテルの合意に基づき,一定の価格以上の価格で販売したことによる不当利得の存在,換言すれば,違反行為と不当利得の存在との間に対応関係が認められるからである。
(イ) 新日本製鐵,JFEスチール及び住友金属工業の3社は,特定鋼管杭の材料となるコイルを自社の高炉で製造するに当たって,原材料となる鉄鉱石や石炭等の価格上昇による影響を受ける結果,原材料の価格上昇が特定鋼管杭の製造コストに直接影響し,製造コストの増加分を需要者たる建設業者向け販売価格に転嫁する必要があった。
これに対し,被審人は,上記3社とは異なり,特定鋼管杭の原材料となる鉄鉱石や石炭等の価格上昇によっても特定鋼管杭の製造コストが増加する等の影響を受ける立場にはなく,鉄鉱石や石炭等の価格上昇分を需要者たる建設業者向け販売価格に転嫁すべき必要性に乏しい状況にあった。
加えて,被審人から新日本製鐵への特定鋼管杭の納入価格は,個別物件ごとの建設業者との妥結価格にかかわらず,年度ごとに新日本製鐵との契約によって定額に定められていたから,本件違反行為に基づいて特定鋼管杭の建設業者向け販売価格が引き上げられたとしても,被審人の新日本製鐵に対する本件製品の売上額には何ら影響を及ぼすことはなく,したがって,被審人は本件違反行為による利益を享受する立場にはなかった。他方,新日本製鐵は,特定鋼管杭の原材料となる鉄鉱石や石炭等の価格上昇分を需要者たる建設業者向け販売価格に転嫁することによって,特定鋼管杭の製造コストの増加という自社の負担を軽減することが可能であり,本件違反行為による利益を享受する立場にあった。
このように,新日本製鐵は,本件製品を含めて本件違反行為に基づく特定鋼管杭の建設業者向け販売価格引上げによる利益を享受する立場にあった一方,被審人はそのような立場になかったのであり,違反行為による不当利得のはく奪という課徴金制度の趣旨にかんがみて,本件製品に係る課徴金を課す相手方が,新日本製鐵であることは明らかである。
エ 独占禁止法第7条の2第1項の「売上額」は,企業会計原則等確立された基準に基づき一律かつ画一的に算定する必要があり,審査官の「取引の主体」に係る主張は,たとえ,条文上の根拠を「売上額」に求めたとしても明らかに失当である。
オ 審査官の主張に対する反論
(ア) 建設業者向け特定鋼管杭の製造・販売における被審人と新日本製鐵間の取引は,以下aないしcに述べるとおり,実質的に委託加工取引であり,かつ,新日本製鐵自身が,被審人を独立した競合会社とは認識しておらず,新日本製鐵グループの一員として扱っており,被審人が,本件製品の取引の主体であるはずがない。
a 被審人と新日本製鐵との取引形態が委託加工取引であること
(a) 被審人が新日本製鐵に本件製品を納入する際の取引に適用される両者間の「購買基本契約書」において,被審人から新日本製鐵への同製品の納入価格につき,「スパイラル鋼管加工費」と記載されるとともに,新日本製鐵から被審人に供給される原材料コイルの価格と加工賃(造管費)に分けて詳細に規定されていること
(b) コイルは新日本製鐵から,トン当たり4万5000円の定額で供給され,さらに鋼管杭の規格・仕様・寸法・数量等について新日本製鐵の加工指示を受けて,被審人が鋼管杭の製造を行っていたこと
(c) 製造した製品については新日本製鐵を介さずに,被審人が自由に販売することが禁止されていたこと
(d) 新日本製鐵から被審人に対しては,事実上,コイルが無償で支給されていたものであり,新日本製鐵によって,被審人の事実上の「取り分」は加工賃(造管費)のみに限定されていたこと
(e) 新日本製鐵の指定により被審人から新日本製鐵あてに提出するものとされていた支払請求明細書に該当する「大径管加工明細書」上,被審人は「加工メーカー」と位置付けられていること
(f) 上記の各事実は,新日本製鐵のブランドが付されて販売された特定鋼管杭であるか本件製品であるかを問わず共通であったこと
(g) 新日本製鐵担当者においても,本件製品を含め,被審人との取引を委託加工取引と認識していたこと
b 被審人の鋼管杭事業が新日本製鐵の傘下に位置付けられていたこと
特定鋼管杭の販売に係る事業においては,新日本製鐵は,被審人を支配下のグループ企業とみなした上で販売計画等を策定していたほか,本件製品の販売について被審人の担当者に営業支援活動を担わせつつ,同製品の販売先及び販売価格等を把握していたのであって,本件製品における被審人と新日本製鐵との取引において,新日本製鐵が被審人に比し圧倒的に優位な地位に立ち,被審人が従属的な地位にあったことは,以下から明らかである。
(a) 新日本製鐵において,被審人の鋼管杭事業を新日本製鐵の傘下に位置付けて,本件製品を含めて新日本製鐵グループとしての実質市場シェアや損益の計算を行っていたこと
(b) 新日本製鐵の特定鋼管杭事業に係る受注計画,販売計画等には,本件製品が盛り込まれていること
(c) このため,被審人は,新日本製鐵からの要求・指示に基づいて,種々の報告や資料の提出が義務付けられていたこと
(d) 新日本製鐵が,被審人のコイル在庫の棚卸しを行うこともあったこと
(e) 被審人の工場が,新日本製鐵の鋼管杭製造工場及び関連会社に位置付けられ,実際に,新日本製鐵は,被審人の工場閉鎖を含めたコスト削減案を検討し,被審人に提示してきたこと
(f) JFEスチールや住友金属工業を交えた課長会や小委員会での対応について,被審人は,新日本製鐵の意向に沿うよう指導がなされていたこと
c 本件違反行為の売上げが新日本製鐵に帰属していること
本件違反行為の対象となる価格に基づく契約の売上げ,すなわち,違反行為によって合意された建設業者向け販売価格から商社口銭を控除した金額に相当する売上げは,本件製品についても,K製造・Sマーク製品(前記のとおり被審人が新日本製鐵からの発注を受けてOEM製造している特定鋼管杭)や新日本製鐵が製造・販売する新日本製鐵ブランドの特定鋼管杭(以下「S製造・Sマーク製品」という。)と同じように,すべて新日本製鐵に帰属し,会計上も,同社の売上げとして計上されている。
そして,本件製品について上記のとおり新日本製鐵に帰属した売上げから新日本製鐵が被審人に対して支払った対価を差し引いた,本件違反行為期間における新日本製鐵の利得は3億円を超えている。
本件において,公正取引委員会は,本件製品を除き,「建設業者向け販売価格から商社口銭を控除した金額」を一律に課徴金算定の基礎となる売上額として扱っているところ,課徴金制度の趣旨,明確性・透明性及び画一性の観点から,本件製品のみを異なる扱いとし,本件違反行為に基づく建設業者向け販売価格の引上げとは全く連動せず,年度ごとに新日本製鐵との契約によって定額にされていた被審人から新日本製鐵への納入価格をもって課徴金算定の基礎とすること自体,被審人に課徴金を課すことに無理があることを端的に物語っている。
(イ) 新日本製鐵は商社に準じた立場ではないこと
a 本件製品についても,中間商社が介在しているのに,これに加えて新日本製鐵が商社に準じた立場にあるとすることは明らかな論理矛盾である。特定鋼管杭の販売に係る流通経路において,製造業者と需要者の間に商社が介在している理由は,製造業者において,建設業者に対する与信リスクを回避し,代金回収の確実性及び支払期日の一定化を図ることにあるところ,本件製品についても,新日本製鐵と需要者である建設業者との間に商社が介在していたのは,新日本製鐵において,与信リスクの回避等を目的としていたことによるものである。被審人にとって,新日本製鐵が商社として,上記のような役割を果たしたものでないことは明らかである。
新日本製鐵は,被審人,JFEスチール及び住友金属工業とともに,本件違反行為の当事者であり,このような立場にある新日本製鐵を,特定鋼管杭の販売に係る流通経路の中に介在する商社に準ずる立場にあると評価することは極めて不当である。
b 新日本製鐵が商社に準じた立場ではないことは以下の事実からも認められる。
(a) 本件製品の商流において,本来の目的のために介在した商社の選定に関して,原則として,新日本製鐵が指定しており,被審人が自由に商流を決定することは一切認められていなかった。
(b) 新日本製鐵が取得する利益は,建設業者向け販売価格に対する一定割合として算出される口銭ではなく,本件カルテルの合意に基づく建設業者向け販売価格から本来の商社口銭を控除した額と被審人に支払った対価との差額であるから,取得する取り分の計算自体が,商社とは全く異なる。
(c) 本来の目的のために介在した商社に対して口銭を支払っていたのは,本件製品についても,S製造・Sマーク製品及びK製造・Sマーク製品(この両製品を,以下「Sマーク製品」という。)と同じく新日本製鐵であり,被審人は,最終的に,どの商社にどの程度の口銭が支払われているのか,どの商社が商流に関与しているのかを確定的に知り得る立場にはなかった。さらに,個別案件での建設業者向け販売価格決定についても,被審人が自由に決定することは認められておらず,個別案件ごとに新日本製鐵の決裁が必要とされ,新日本製鐵が価格の当不当を個別具体的に判断し,不当と判断された場合,被審人は新日本製鐵から修正を指示されるなど,その決裁権は形式的なものにとどまらず,実質的なものであった。
(d) 被審人の鋼管杭事業が,製造・販売のいずれにおいても新日本製鐵の傘下に位置付けられ,新日本製鐵の管理監督下に置かれていた。
(ウ) 本件製品は,新日本製鐵が建設業者に向けて商社に販売したものである。審査官が,被審人をして本件製品の取引の主体であったと主張する根拠として挙げる各事実は,被審人に対して,法令上の根拠なく課徴金を賦課するために,被審人が本件製品を販売していたように見える事実を意図的に抽出したものであって,以下述べるとおり,課徴金の名あて人を決するための要素としては不合理なものである。
a 建設業者に対する営業活動及び建設業者との価格交渉
(a) 新日本製鐵は,被審人の鋼管杭事業を新日本製鐵の傘下に位置付け,被審人のブランドで販売されていた本件製品も,Sマーク製品と区別することなく,販売計画の策定やシェアの算定等を行っていた。本件製品について被審人が行う営業活動は,新日本製鐵がカバーできない顧客層を補うという役割が求められていたのであって,新日本製鐵の認識としても,同社の営業支援という位置付けにあった。また,本件製品についても,Sマーク製品と同様に,契約上の売上げが新日本製鐵に帰属していたこと等の事実を踏まえれば,被審人が行っていた営業活動は,新日本製鐵グループのシェア拡大,新日本製鐵の売上げ増加に貢献する目的で行われていた側面を有するものであり,本件製品に関して被審人が建設業者に対する営業活動を行っていたという点をもって,同製品における取引の主体が被審人であったとすることはできない。
(b) 既に述べたとおり,新日本製鐵は,本件製品に係る建設業者との販売価格の決定に関して実質的な決裁権を有しており,かつ,本件製品の売上げが帰属していたのも新日本製鐵である。
これに対し,被審人が新日本製鐵に納入した本件製品の対価については,年度ごとの契約によって定額とされていたことから,建設業者との間で個別物件ごとの販売価格を交渉しても,被審人にとっては,交渉の結果による影響を一切受けることがなかった。
新日本製鐵は,本件製品を含めた新日本製鐵グループのシェア拡大を目指すとともに,本件製品を含めて新日本製鐵グループの販売計画や利益計画を策定していたこと等の事実を踏まえれば,本件製品に関して,被審人が建設業者との間で行っていた価格交渉は,上記のような決裁権を背景とした新日本製鐵の価格に対するプレッシャーを常に受けながら,本来新日本製鐵が行うべき業務を代行していたにすぎず,この点をもって,本件製品の取引の主体が被審人であったと解することはできない。
b 「貼り付け」による受注物件の確保
新日本製鐵が,被審人の鋼管杭事業を新日本製鐵の傘下に位置付け,本件製品も含めて新日本製鐵グループのシェアの算定等を行っていたことからすれば,新日本製鐵にとっては,「貼り付け」の場面において,新日本製鐵自身にシェアが配分されようが,被審人にシェアが配分されようが,建設業者向け販売価格から商社口銭を控除した金額に相当する売上げはすべて新日本製鐵に帰属し,会計上も,同社の売上げとして計上されることに変わりはなく,被審人の収入の多寡に影響を及ぼすものではない。具体的にどの物件に新日本製鐵を貼り付けるか(Sマーク製品を納品するか),被審人を貼り付けるか(本件製品を納品するか)については,既に,新日本製鐵の販売計画策定の段階で決まっていたものであり,新日本製鐵のコントロール下で,新日本製鐵分(Sマーク製品)としてシェアの配分を受けるか,被審人分(本件製品)としてシェアの配分を受けるかが決定されていたものである。したがって,審査官が主張するように,「貼り付け」の事実は,被審人が,取引の主体であることを裏付ける関係に当たるとは到底いえない。
加えて,審査官は,本件製品が被審人ブランドの製品であることを被審人が取引の主体であるとする根拠として主張しているが,被審人と新日本製鐵の間の本件製品の取引とK製造・Sマーク製品の取引とは同様の形態であったこと,Sマーク製品とするか本件製品とするかは,新日本製鐵のコントロールの下で決定されており,その基準は,本件取引分野における新日本製鐵のシェアを過大なものとしないという点に向けられていたことを踏まえると,本件製品が被審人ブランドの製品であることは,被審人が取引の主体ではなく,新日本製鐵こそが取引の主体であったとの被審人の主張の正当性を左右するものではない。
c 納品及び品質保証
被審人が,新日本製鐵に代わって,納品等を行っていたのは,価格交渉等と同様に,新日本製鐵の傘下に位置付けられ,新日本製鐵の管理監督下に置かれていた被審人が,新日本製鐵が行うべき業務つまり,新日本製鐵の建設業者に対する納入義務をサポートし,新日本製鐵の委託を受けて代行していたにすぎないのである。
したがって,やはり,この点をもって,本件製品の取引の主体が被審人であったと解することはできない。
2 争点2(原処分が本件売上額を被審人に対する課徴金算定の基礎としたことに何らかの違法があり,そのために原処分に取消事由があるか否か)について
(1) 被審人の主張
ア 不当性
本件違反行為に係る課徴金算定の基礎とされた違反行為者の売上額は,本件売上額を除いて,すべて,違反行為者(被審人,JFEスチール及び新日本製鐵)から商社に販売された商品の売上額であるにもかかわらず,本件製品についてだけ,商社ではなく新日本製鐵に対して販売された商品の売上額が課徴金の計算の基礎とされている。このように,本件製品についてだけ別異の取扱いを行っていることは,「売上額」の算定は,明確かつ画一的な基準に基づいて行われるとの公正取引委員会のこれまでの公式な場での主張に反するものであって,不当である。明確かつ画一的な基準によれば,本件製品についても,新日本製鐵が商社に対して販売した売上額が,課徴金算定の基礎とされるべきである。このような不当性をもった原処分は取り消されるべきである。
イ 行政権の濫用
審査官は,取引の主体という法令に全く規定されていない独自の概念を持ち出し,自らの設定した取引の主体の概念に被審人を当てはめるための作業を営々と行っている。
審査官は,一方では,取引の主体といえるか否かによって,課徴金を課すか否かを判断すると主張しながら,他方では,本件製品に関しては被審人が取引の主体に当たるか否かは,法律上の要件ではないと主張しているのであり,実質は,法律上の要件ではなく,かつ,審査官が本件のために恣意的に設定した基準により,被審人に対して課徴金を課したことを認めているといわざるを得ない。
課徴金を課すか否か及びその額等に関して一切裁量権を有しない公正取引委員会において,独占禁止法上の要件でない取引の主体なる独自の基準に基づき,被審人に対して課徴金を課すということは,法律に基づいてなされなければならない行政権の行使の域を超えた,極めて恣意的な行政権の行使(行政権の濫用)であり,このような原処分は取り消されるべきである。
ウ 平等原則違背
審査官は,法律上の要件でもない取引の主体論によって,かつ,独占禁止法第7条の2の権限行使に当たり,裁量権もないのに,課徴金を課すべき違反行為者を被審人のみとする誤りを犯したのである。
公正取引委員会に課徴金を課すか否かの裁量権がない以上,本件製品について被審人に対してのみ課徴金を課すことは,法の下の平等に反し,違法であり,原処分は取消しを免れない。
エ 先例拘束性違反
公正取引委員会は,これまで,独占禁止法第7条の2に基づいて課徴金の納付を命ずる行政処分について,覉束裁量である旨を裁判上主張し,かつ,前記1(2)イの審決例においても,同様の判断を行ってきた。しかるに,審査官の主張によれば,本件においては,当該商品に該当する場合であっても,その違反行為者が取引の主体に当たる場合に限って,課徴金を課すというのであるから,これまでになかった新たな裁量基準が定立されたものと考えざるを得ない。そうであれば,公正取引委員会は,あらかじめ,新たな裁量基準を定立した旨を被審人を含む事業者に周知徹底する措置を講じた上で,さらに合理的な期間を経過した後でなければ,このような裁量基準に基づく処分をすることは出来ないはずである(東京高等裁判所平成8年3月29日判決・判例時報第1571号48頁参照。)。しかるに,本件において,このような措置は一切講じられていないから,原処分には裁量権を逸脱した違法があり,取消しを免れない。
また,公正取引委員会平成7年3月28日課徴金納付命令(同審決集第41巻第387頁)では,松下電器産業株式会社(以下「松下電器産業」という。)及び松下通信工業株式会社(以下「松下通信工業」という。)のいずれも,違反行為者でありながら,違反行為の対象とされた行為が,官公庁等が指名競争入札等の方法により発注する大型カラー映像表示装置についての販売行為であり,当該販売行為を行っていたのは,松下電器産業であったことから,同社に課徴金の納付が命じられたことは明らかである。上記課徴金納付命令において,課徴金算定の対象となる売上額が,明確かつ画一的な基準によって判断されていることは疑いがなく,原処分は,上記課徴金納付命令に明らかに反している。
(2) 審査官の主張
課徴金算定の基礎となる売上額が明確かつ画一的な基準により判断されるべきものであることは当然である。その上で,課徴金を課す事業者,課徴金の対象となる商品ほか,計算の前提となる諸項は,違反行為の態様等の事実関係を基に事案に応じて判断するものであることはいうまでもなく,これは適切な事実認定が行われたかどうかという問題であって,裁量権の行使が問題となる場面ではない。
取引の主体とは,本件製品を自社製品として建設業者向けに販売した主体を判断する要素を包括した表現であり,自社製品としての売上額を認定する具体的事実を説明する用語として用いたにすぎない。
本件製品は,被審人ブランドの製品であって,新日本製鐵を介するものの,被審人が自ら営業活動をして建設業者に販売していたものであることから,その売上額は,被審人に対する課徴金計算の基礎に含めるべき「当該商品・・・の売上額」に当たるのである。一方,本件製品は,新日本製鐵にとってはその余の自社製品と異なる被審人ブランドの製品であり,新日本製鐵は,本件製品の取引において,商社に準じた立場で商流に介在したのみであって,建設業者に対する営業活動には一切関わっていなかったのであるから,本件製品についての新日本製鐵の売上額は,同社の課徴金計算の基礎に含めるべきものには当たらないのである。すなわち,この取扱いは外形上の課徴金賦課要件の該当性に差異がないのに裁量的判断により一方を受命者としたものでなく,本件の事実関係に即して「当該商品の売上額」を判断した事実認定の結果である。
第6 審判官の判断
1 判断に係る事実
(1) 貼り付け
本件違反行為の内容は,前記第3の1において述べたとおりであるところ,4社は,本件違反行為を実施するに当たって,次のとおり貼り付けと称する受注予定者の割り振りを行っていた(以下,この割り振りを「貼り付け」という。)。
4社は,官公庁等が発注する建設工事を受注した建設業者向けに販売する特定鋼管杭の価格について,目標販売価格を定め,鋼管杭の各製造業者がこの目標販売価格以上の価格で建設業者に販売できるようにしていた(本件違反行為)ところ,その実施に際して,北海道,東北,関東,新潟,静岡,北陸,中部,近畿,中国,四国,九州及び沖縄の各地区ごとに,各社の特定鋼管杭の基準シェアを決め,各年度における各社の受注重量が当該シェアの範囲に収まるようにするために,国土交通省や農林水産省といった国の機関,地方公共団体等が発注する特定鋼管杭について,物件ごとに受注予定者を貼り付けていた。
基準シェアは地域ごとに異なっており,関東地区での各社の基準シェアは,被審人は14.2パーセント,新日本製鐵が31.4パーセント,JFEスチールが40.2パーセント,住友金属工業が14.2パーセントであったが,関西地区や北陸地区では被審人の基準シェアが4社の中で一番大きかった。
また,4社は,前記第3の1(2)のとおり,小委員会を開催し,各社が集めてきた物件情報を集約して,これを基に貼り付けを行い,さらに,小委員会の上部組織として課長会を結成し,小委員会で解決できない問題が生じたときは,課長会で解決を図っていたほか,建設業者から安値販売を求められた場合などに状況を報告し合い,必要に応じて対応を協議するなどしていた。
被審人と新日本製鐵の各担当者らは,小委員会や課長会が開催される前に,被審人の希望する物件の報告や,各会での議論検討をどのように進めていくかについて両社の考え方をすり合わせるなどしていた。
(査第1号証,第18号証ないし第20号証,審第10号証ないし第16号証)
(2) 被審人と新日本製鐵との取引関係
ア 特定鋼管杭に係る取引
(ア) Kマーク製品とSマーク製品
4社のうち被審人を除く3社は,特定鋼管杭の原材料であるコイルを自社で製造しているが,被審人は,自社で製造することなく,「基本契約書」(査第8号証,第9号証)に基づいて,すべてのコイルを新日本製鐵から購入していた。
被審人が製造する特定鋼管杭には,Kマーク製品(前記のとおり被審人が建設業者から直接受注した特定鋼管杭)とK製造・Sマーク製品(前記のとおり新日本製鐵が建設業者から直接受注したものを被審人に製造を発注し,これを受けて被審人がOEM製造する特定鋼管杭)があり,Kマーク製品の売上額は全体の約90パーセント,K製造・Sマーク製品の売上額は全体の約10パーセントを占めていた。
また,Kマーク製品には,被審人から新日本製鐵及び商社を介して建設業者に販売されるもの(被審人が「S契約」と称するもの。これが「S契約・Kマーク製品」であり,本件製品である。)と,被審人から商社のみを介して建設業者に販売されるもの(被審人が「K契約」と称するもの。以下「K契約・Kマーク製品」という。)があったが,K契約・Kマーク製品は,後記(イ)に記載のとおり,被審人が新日本製鐵には知られないように余材のコイルを使用して製造した製品であったため,その販売数量は少なく,Kマーク製品全体の約2~3パーセント程度でしかなかった。
被審人と新日本製鐵は,被審人が新日本製鐵から提供を受けたコイルを使用して特定鋼管杭を製造し,これを新日本製鐵に納入するという被審人と新日本製鐵間の一連の取引(K製造・Sマーク製品及び本件製品の取引)を委託加工取引と呼称していた。
(査第1号証ないし第5号証,第21号証,第25号証,審第4号証,第6号証の1ないし3,第18号証,第19号証)
(イ) 購買基本契約
被審人が製造した特定鋼管杭のうち,本件製品及びK製造・Sマーク製品は,被審人と新日本製鐵との間で締結された「購買基本契約書」に従って,すべて新日本製鐵に販売されていた。
その際,新日本製鐵が被審人に支払う特定鋼管杭の対価は,建設業者に対する実際の販売価格にかかわらず,①材料費(コイル代),②造管費(加工賃),③エキストラ代及び付属品代並びに④代行輸送費の価格構成要素別に具体的な金額が定められており,これは年度ごとに被審人と新日本製鐵との協議によって決まっていた。このため,年度の途中で建設業者に対する販売価格が高騰したり,下落したりしても,当該年度においては,被審人が新日本製鐵から支払いを受ける対価には何ら影響することはなかった。
上記のうち,材料費とは,新日本製鐵が被審人に提供するコイルの価格であり,重量トン当たり4万5000円(平成7年以降変更なし)に96.8パーセントと設定した歩留まり率(加工における使用原料に対する製品の出来高の割合)を乗じた上で,被審人が製品とならない余材のコイルをスクラップとして販売する利益を控除して,製品トン当たりの材料費を設定していた。被審人は上記余材のコイル(被審人が新日本製鐵から購入するコイルの2パーセント程度。2000トン程度。)を使用して,新日本製鐵には知られないようにK契約・Kマーク製品を製造し,商社を経由して建設業者に販売していた。
上記のうち造管費については,本件製品を官公庁,電力,複合杭,民間土木及び民間建築の5つに区分し,これに新日本製鐵契約分(K製造・Sマーク製品)を加えた6区分ごとに,本件製品の建設業者への販売価格の変化,被審人の鋼管事業部の損益状況,新日本製鐵のコイル製造コストの変化,新日本製鐵の鋼管杭事業における損益状況等を考慮して,被審人と新日本製鐵との間の協議により毎年決定していた。造管費を決定するに際しては,前年度の本件製品の建設業者への販売価格が重視され(平成17年度は当年度の販売価格が重視された。),前年度の価格が前々年度に比べて高くなっていれば造管費の引上げ要因になり,低くなっていれば引下げ要因となっていた。したがって,前年度の建設業者に対する販売価格の増減は,翌年度の造管費に影響する可能性を有するものであった。また,被審人は,鋼管事業部の前年度の損益状況を,毎年7月上旬ころまでに新日本製鐵に報告していた。
(査第1号証ないし第4号証,第6号証,第7号証,第10号証,審第18号証)
(ウ) 平成15年ころまでの特定鋼管杭の建設業者への販売価格は,年々下落傾向にあったものの,被審人は,前記(イ)のとおり,新日本製鐵から定額で原料の支給を受け,また,製造した特定鋼管杭を年度ごとに新日本製鐵に定額で販売していたため,被審人の鋼管杭事業は,材料費の高騰による影響を受けることはなく,また,建設業者に対する販売価格の下落も,当該年度に限ってみれば,事業収益に影響を与えるものではなかった。ただし,販売価格の下落は,前記(イ)のとおり,翌年における造管費を合意する際に増減要因とされていたから,翌年以降の事業収益には影響を与える可能性を有するものであった。
他方,新日本製鐵が本件製品の販売において取得する主な収益は,建設業者への販売価格から商社口銭等を控除した額と被審人に支払う本件製品の対価との差額であった。
(査第1号証,第3号証,審第14号証,第17号証)
イ 被審人と新日本製鐵との間の鋼管杭に関する取引の経緯
被審人と新日本製鐵との間の鋼管杭に関する取引の経緯は,以下のとおりである。
(ア) 被審人は,昭和30年代に,新日本製鐵の前身であった富士製鉄株式会社(以下「富士製鉄」という。)と鋼材の調達などの取引関係にあったところ,富士製鉄のあっせんによりスパイラル鋼管(スパイラル方法で成形された鋼管。当初は水道管用に製造されていた。)の製造販売を事業化することとし,昭和34年ころ,被審人の大浜工場で,富士製鉄から購入したコイルを使用してスパイラル鋼管を製造し販売するという事業を開始した。昭和36年ころには,スパイラル鋼管が鋼管杭として使用されることとなり,富士製鉄も鋼管杭の販売を開始した。
当時の事業内容は,以下のとおりであった。すなわち,①材料となるコイルはすべて富士製鉄が被審人に納入し,被審人はこのコイルを使用して鋼管杭を製造していた。②被審人が製造する鋼管杭の約60パーセントは,富士製鉄ブランドとして販売されるもの(以下「富士製鉄ブランド製品」という。)であり,富士製鉄が被審人に加工を委託して,被審人が鋼管杭を製造し,これを富士製鉄に納入していた。③残りの約40パーセントは,被審人ブランドとして販売されるもの(以下「被審人ブランド製品」という。)であり,被審人が富士製鉄からコイルを購入して鋼管杭を製造していた。④富士製鉄ブランド製品については,富士製鉄が独自に営業し,商社を通じて建設業者に販売していた。⑤被審人ブランド製品については,被審人が独自に営業し,商社を通じて建設業者に販売していた。
(イ) 昭和37年ころになると,鋼材価格が上昇する一方で鋼管杭は普及が進まず価格が低迷していたため,被審人の鋼管杭事業は業績不振となった。このため,昭和38年になると,富士製鉄と被審人が協議した結果,被審人の鋼管杭事業を維持継続するために,富士製鉄が全面的に協力することとなり,これまで被審人が富士製鉄からコイルを購入して製造し,富士製鉄を介さずに独自に販売していた被審人ブランド製品についても,これまでどおりに被審人が独自に営業して販売はするものの,事務処理上,富士製鉄を通して販売する形式とし,いったん富士製鉄が全量を買い上げることとした。その結果,被審人ブランド製品について,これまでの被審人,商社,建設業者という商流であったものが,その中に富士製鉄が介入し,被審人,富士製鉄,商社,建設業者という商流となった。このような被審人ブランド製品の取引方法の変化によって,被審人は,富士製鉄ブランド製品のみならず,被審人ブランド製品についても,富士製鉄から安定的に一定の対価を得られるようになり,被審人の鋼管杭事業は安定した。
なお,上記のような取引方法の変化によって,被審人ブランド製品についても,富士製鉄から被審人へのコイルの提供,被審人から富士製鉄への鋼管杭の納入という一連の取引を全体としてみたときに,富士製鉄ブランド製品と同様に,実質的にみて委託加工契約に近いものとなった。
昭和41年ころまでには,鋼管杭の需要が急増したことから,富士製鉄と被審人ほか2社が出資して関東大径鋼管株式会社を設立し,市川工場を所有した。昭和47年に被審人が同社を吸収合併したため,被審人が所有する工場は大浜工場と市川工場の2工場となった。昭和45年には,富士製鉄が八幡製鐵株式会社と合併して新日本製鐵となった。八幡製鐵株式会社は同社が所有する二つの工場で粗鋼から鋼管杭までを一貫して生産していたため,新日本製鐵が受注した新日本製鐵ブランドの鋼管杭は,原則として新日本製鐵の工場で製造されることとなったが,一部については,従前富士製鉄が富士製鉄ブランド製品の加工を被審人に委託していたのと同様に,被審人にコイルが提供されて鋼管杭の製造が発注され,被審人の工場での製造が継続された(この取引が,後にK製造・Sマーク製品の取引になったものと推認される。)。他方で,上記合併後も,富士製鉄時代に引き続いて,新日本製鐵と被審人との間の上記被審人ブランド製品の取引も継続された(この取引が,後に本件製品の取引になったものと推認される。)。
(ウ) 昭和50年代半ばになると,第2次オイルショックの影響で景気が低迷し,鋼管杭の需要も落ち込んだため,新日本製鐵と被審人の両社合わせて4工場となっていた鋼管杭の工場の統廃合について協議し,結果として被審人の大浜工場を閉鎖することとした。その代償として新日本製鐵は,被審人に対し,被審人の鋼管杭事業に全面的に協力することを約束した。
(以上(ア)ないし(ウ)について,査第1号証ないし第3号証,第5号証,第10号証,審第18号証)
(3) 本件製品の建設業者への販売
ア 建設業者との交渉・妥結等
被審人は,本社内に鋼管杭事業に係る鋼管事業部営業部を置き,各支社の鋼管課等の担当者らを通じて鋼管杭が使用される工事に関する情報収集を行い,貼り付けの対象としたり,建設業者から見積書の作成依頼があった場合には,自ら見積書を作成して提出したりしていた。また,被審人は,貼り付けの対象外となった工事等について,当該工事の受注が見込まれる建設業者に対して積極的にKマーク製品の売り込み活動等を行っていた。
また,被審人は,本件製品を購入しようとする建設業者との間で,価格,仕様,納期等の取引条件の交渉を行い,当該取引条件について合意していた。
新日本製鐵は,本件製品について,建設業者に対する営業活動をしたり,取引条件の交渉をしたりしたことはなかった。のみならず,新日本製鐵は,実際には,本件製品の商流に介在し,本件製品から利益を得ていたにもかかわらず,本件製品の購入者である建設業者や,同業者であるJFEスチール及び住友金属工業はその事実を知らなかった。また,被審人は,建設業者に対して,本件製品が新日本製鐵を介して販売されていることや本件製品の価格が上がることにより直接利益を受けるのが新日本製鐵であること等を説明していなかった。
(査第1号証ないし第5号証,第11号証ないし第17号証,審第16号証ないし第18号証)
イ 新日本製鐵による販売計画及び受注実績の確認
(ア) 新日本製鐵は,被審人に対して,月次で,施主名,ゼネコン名,物件名,鋼管杭の受注重量等に係る当月の受注状況,前月の受注実績及び次月の受注計画を報告させる等して本件製品の販売状況や売上実績を確認,管理していた。また,新日本製鐵は,月次及び半期で,本件製品を含めた鋼管杭事業に係る自社の販売計画を策定していた(新日本製鐵が策定した販売計画は被審人には交付していなかった。)。
ただし,受注が確定するまでは,被審人から物件名が明らかにされないことも多く,例えば,上記報告に際し,「諸口」としていくつかの物件がまとめられていたり,「某物件」とするなどにより物件名が明示されなかったりすることがあり,また施主についても「官需」とか「民需」とだけ記載された報告書が提出されることもあった。
もっとも,重量についてだけは,「貼り付け」で重量ベースの各社のシェアが決まっており,また,4社で地区ごとにおおよその需要予測を行い,4社各々の受注予定量が予測できていたことから,実際の受注重量からそれほど大きく外れない数値が報告されていた。
(査第1号証,第3号証,第4号証)
(イ) また,新日本製鐵は,被審人に対して,後記(4)イのとおりアタッチシート等によって,被審人と建設業者との間で価格等の取引条件が合意される前に,新日本製鐵の承認を得ること(以下,この承認を「決裁」という。)を要請していた。しかし,実際は,取引件数が膨大ですべての物件について合意前に価格決裁を行うことは難しく,結果的に被審人と建設業者との間で取引条件について合意がなされた後に,新日本製鐵の決裁が行われることが多かった。
被審人の本件製品の担当者らは,本件合意に従った価格であれば,新日本製鐵の決裁を受けられるであろうこと,それ以下の価格であれば決裁を受けられない可能性があることを認識しており,本件合意後に営業担当者らに指示を出すに際しては,これからはベース○○円で出して下さい,これ以下の場合は新日本製鐵に認知されない(決裁を受けられない)可能性があるので,注文書を提出する際に理由が必要です,などと述べていた。
(査第3号証,第4号証,審第13号証,第14号証,第17号証,第18号証)
(4) 本件製品の受注から納品までの手続の流れ
本件製品の受注から納品までの手続の流れは,以下のとおりである。
ア 受注
特定鋼管杭は顧客ごとに必要とする規格や仕様が異なるため,顧客から特定鋼管杭の注文を受けてからの受注製造であった。
被審人の担当者らは,特定鋼管杭の取引条件に係る交渉が建設業者と妥結し注文を獲得した後,被審人の注文入力システムに受注した鋼管杭の物件名,仕様(サイズ,数量,規格,杭加工,塗装等)等の注文内容を入力していた。これにより,被審人の工場に製作指示がなされ,工場によるコイルの在庫確保等の製造準備が開始されていた(ただし,製造は後記エの新日本製鐵による加工指示が出された後であった。)。
また,被審人の担当者らは,上記システムに入力した情報を基に新日本製鐵の注文書様式で注文書を作成した後,当該注文書を新日本製鐵と同社が選任した商社にそれぞれ交付していた。
(査第1号証,第3号証ないし第5号証,審第17号証,第21号証)
イ 新日本製鐵による決裁
被審人は,前記アの注文書とともに,建設業者への納入時のベース価格,支払条件及び鋼管杭の仕様を記載した「契約価格内訳表(アタッチシート)兼価格訂正伺」(以下「アタッチシート」という。)を新日本製鐵の担当支店に送付し,当該支店は,被審人から提出されたアタッチシートの内容を確認の上,新日本製鐵の本社にこれを送付していた。
新日本製鐵の本社では,アタッチシート上の「本体」の「A価格」に記載された価格が,新日本製鐵の「最低目標販売価格」,「社内基準」及び「予算価格」並びに本件合意に基づく価格に照らして適切な水準にあるか否かを確認した上で,当該建設業者との取引条件について決裁を行っていた。
前記価格が新日本製鐵の「予算価格」よりも著しく低い水準であった場合には,新日本製鐵は,安値受注として,その理由について被審人に納得のいく説明を求めた上で決裁をしていた。
もっとも,新日本製鐵にアタッチシートが提出された時点では,被審人と建設業者の間では,既に価格等の取引条件について合意が成立していたため,新日本製鐵としても,被審人に建設業者との価格交渉をやり直させることはできず,その場合には,被審人から安値受注の理由を可能な限度で説明してもらうことで,最終的に決裁するほかなかった。他方,被審人の方では,安値販売について新日本製鐵に納得してもらうような説明が到底できないような場合には,建設業者と合意していた納期に間に合わせるため,やむを得ず,アタッチシートに記載した価格を実際よりも高くして提出することがあった。この場合には,建設業者に対する納入価格に対して,商社が新日本製鐵から購入する価格が高くなってしまうため,被審人から商社に対して販売割戻金として金銭を支払い,商社の損失分を一部負担していた。
(査第1号証,第3号証ないし第5号証,審第17号証ないし第19号証)
ウ 発注
被審人は,新日本製鐵にアタッチシートを提出すると同時に,商社に対して新日本製鐵に注文を入れることを指示していた。新日本製鐵は,アタッチシートに決裁を行った時点で,当該注文を正式に受け付けていたが,被審人が安値で受注した場合などのように,アタッチシートに対する新日本製鐵の決裁に時間がかかる場合には,納期に間に合わせるため,新日本製鐵の決裁を待たずに注文処理を先行して行うこともあった。(査第1号証,第3号証,審第18号証)
エ 製造
新日本製鐵は,アタッチシートの決裁を行い,商社からの注文を正式に受け付けた後に,被審人に対して加工指示を出していた。被審人は,自社システムに入力された注文情報と新日本製鐵から受けた加工指示の内容を確認し,内容に食い違いがなく問題がなければ,注文情報に記載された仕様等に従って本件製品の製造を行っていた。
被審人は,基本的に月に1回,コイルの在庫状況と特定鋼管杭の製造スケジュールから算出したコイルの必要数量を基に,新日本製鐵に対してコイルを発注していた。新日本製鐵は,被審人から提出された月次の販売計画等に基づいて次月のコイルのおおよその必要量を推定して,被審人から正式な注文が入る前にあらかじめ新日本製鐵社内においてコイルの供給枠を確保していた。また,不定期に,新日本製鐵が被審人のコイル在庫状況を帳簿と照らし合わせて確認することもあった。
(査第1号証,第3号証ないし第5号証)
オ 出荷
被審人は,製造した製品を,建設業者と合意した内容に従って直接建設業者の指定する場所に配送して納品していた(この点は,K製造・Sマーク製品もK契約・Kマーク製品も同様であった。)。
また,製品出荷の都度,いつ,どの注文について,どれだけの数量が出荷されたのかという内容の出荷記録が新日本製鐵にもオンラインで伝送されており(この点は,K製造・Sマーク製品も同様であった。),本件製品が被審人の工場から出荷されると被審人は本件製品に係る売上げを計上していた。
被審人は,上記特定鋼管杭の出荷実績を月末で取りまとめ,翌月初旬に前月に出荷した分の製品代金の請求書を新日本製鐵に送っていた。新日本製鐵は,商社に対して請求書を発行して代金を回収し,その後,当該請求書を提出した月の月末に被審人に本件製品の代金が支払われていた。
(査第1号証,第3号証ないし第5号証)
カ 品質保証
日本工業規格では,製造業者は,「JIS G 0415」の検査証明書を納入相手に対して提出することが要請されていた。被審人は,本件製品について,自らの名義で当該検査証明書を発行し,これを建設業者に提出していた。(査第1号証,第3号証,第5号証,第22号証)
(5) 被審人と新日本製鐵とのその後の本件製品の取引等
ア 以上認定した被審人と新日本製鐵との間の本件製品についての取引は,新日本製鐵の申入れにより,平成19年3月31日をもって終了した。また,被審人と新日本製鐵との間のK製造・Sマーク製品の取引も同時期に終了した。このため,被審人と新日本製鐵との取引は,平成19年4月1日以降,被審人が新日本製鐵からコイルを購入するだけの取引となっており,被審人は,製造した特定鋼管杭のすべてについて,新日本製鐵を介在させることなく建設業者に販売している。
イ 新日本製鐵が上記のとおり本件製品に係る取引終了の申入れをした主たる理由は,コイルの製造コストの急激な上昇と鋼管杭の需要減少による鋼管杭事業全体の収益悪化にあった。また,新日本製鐵内部では,新日本製鐵が,鋼管杭事業において競争相手であるはずの被審人ブランド製品である本件製品の商流に介在して収益を得ていながら,これを顧客に知らせていないことや,被審人が製造する製品を新日本製鐵が販売する場合には,新日本製鐵の名称を検査証明書に記載することが望ましいが,今更そのような記載はできないためこれを放置せざるを得ないことなどが,企業コンプライアンス上問題があるのではないかということが問題とされており,これも取引終了の申入れの一因となった。
ウ 被審人は,上記新日本製鐵の取引終了の申入れに対して,取引を終了することは被審人にとって不利益であるとの考えから,取引の継続を主張したが,取引を終了したいとの新日本製鐵の意向が強かったために,最終的には新日本製鐵の申入れを受け入れた。
(以上アないしウについて,査第1号証,第3号証,第10号証,審第18号証,第19号証)
2 争点1(本件売上額は独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に該当し,被審人に対する課徴金算定の基礎となるか否か)について
(1) 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」について
ア (ア) 独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引をしたときは,事業者に対し,「当該行為の実行としての事業活動」が行われた期間における「当該商品」の「売上額」を基礎として計算した額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。
同項に規定する「当該商品」とは,違反行為の対象とされた商品で,当該違反行為による拘束を受けたものをいう(公正取引委員会昭和60年8月6日審決・同審決集第32巻14頁,中国塗料審決,東芝ケミカル審決,東京無線タクシー審決,オーエヌポートリー審決,同平成19年12月4日審決・同審決集第54巻314頁参照。)ところ,本件製品が本件違反行為の対象とされていたことについては当事者間において争いがない。加えて,被審人の岡野政治郎の供述調書(審第11号証)及び被審人の大北義隆(以下「被審人の大北」という。)の供述調書(審第13号証)によると,被審人は4社間で合意された販売価格に従って建設業者に対して本件製品の価格を提示し価格交渉を行ったというのであるから,本件製品が本件違反行為の拘束を受けた商品であることは明らかである。
(イ) また,独占禁止法第7条の2第1項は「当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間における・・・売上額」と定めており,課徴金を賦課するためには各違反行為者が違反行為の実行としての事業活動を行うことを前提とした規定となっていること,同法第7条の2第1項の「売上額」の算定方法を定めた施行令第6条は,「違反行為に係る商品の対価がその販売に係る契約の締結の際に定められる場合において,・・・売上額の算定の方法は,・・・契約により定められた商品の販売の対価の額を合計する方法とする。」と定めて,違反行為に関して締結された契約の対価の額を売上額の計算において基準とする旨定めていること及び課徴金の制度趣旨は,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的とするものであること(最高裁判所平成17年9月13日判決・民事判例集第59巻7号1950頁参照。)に照らすと,同法第7条の2第1項に規定する「当該商品・・・の売上額」とは,違反行為の対象となった商品(本件においては本件製品)について違反行為の実行としての取引を行った者の売上額を意味すると解するべきである。
(ウ) 本件違反行為は,我が国における特定鋼管杭の総販売量のほとんどを製造販売する特定鋼管杭の製造販売業者である4社が,建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げることを合意するものであること,4社は自ら又は販売業者を通じて建設業者とベース価格の交渉を行うことにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を定め,当該建設業者向け販売価格から販売業者の口銭等を差し引くなどしたものを自らの販売価格としていたこと(前記第3の1(1)ウ)等の本件合意の内容及び特定鋼管杭の取引の実態にかんがみると,本件違反行為の実行としての取引とは,特定鋼管杭について,各違反行為者が需要者である建設業者を相手方として自ら又は販売業者を通じて行った販売行為(以下「本件販売行為」という。)となる。
そうであれば,本件違反行為について,被審人の本件製品に係る売上額が独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に該当するか否かは,被審人が,本件販売行為を実行したと認められるか否かという事実認定に帰結することとなり,これを認定するに当たっては,本件製品の販売行為を実際に担当したものがだれであるかという外形的,形式的な側面に加えて,その取引の相手方である建設業者の認識,取引条件の決定権限の所在,取引による利益の帰属や責任の所在,取引の対象となる製品の製造者,所有者等の諸々の事情を勘案の上,本件製品に係る取引の実態に即して判断するべきである。
なお,この点については,審第2号証によると,本件排除措置命令及び原処分に係る事前説明において,①本件製品が4社間の合意の対象であり,相互拘束を受けていた「当該商品」に当たること,②本件製品の売上げは,被審人と新日本製鐵の2社に計上されているが,受注活動,価格交渉,品質保証,アフターサービスなど,売り手としての活動を行っていたのは被審人であったと認められること及び③本件製品は被審人ブランドであることを理由として,実質的に本件製品を販売したと認められるのは被審人であるから,被審人の本件製品についての売上げが被審人の課徴金賦課の対象となる旨審査官が説明しているところである。
イ 被審人の主張について
(ア) 被審人は,独占禁止法が,課徴金の賦課割合を製造業者,小売業者,卸売業者によって区別していること等を理由として,「製造業者から卸売業者に販売される市場」,「卸売業者から小売業者に販売される市場」,「小売業者から需要者に販売される市場」のいずれの市場において不当な取引制限が行われたか画定する必要があると主張する。
しかしながら,本件違反行為における一定の取引分野とは本件排除措置命令書によると「特定鋼管杭の販売分野」であるところ,前記ア(ウ)で述べた本件合意の内容及び後記(2)で認定する特定鋼管杭の取引の実態に照らすと,被審人,新日本製鐵,商社,建設業者へと転々とした流通経路において存在する取引ごとに一定の取引分野が成立すると解することは妥当ではなく,本件違反行為における販売分野とは,建設業者の発注に係る特定鋼管杭が製造され商社等を経て当該建設業者に販売されるまでの取引のすべてを包含する販売に係る取引分野と解するのが相当である(被審人は,本件製品に係る被審人と新日本製鐵間の取引は,実質的には委託加工契約であり,当該取引は,「特定鋼管杭の販売分野」とは取引段階が異なるかのような主張も行うが,当該主張を採用することができないことについては後記(3)ウにおいて述べる。)。
なお,平成17年改正前の独占禁止法第7条の2第1項が,課徴金の算定率として6パーセントを原則としつつ,卸売業及び小売業に対しては例外的に低く設定したのは,利益率の基礎となる事業者の事業活動の実態を考慮したからであり(平成18年2月24日東京高等裁判所判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁参照。),同項における算定率の差異をもって,課徴金の算定に当たって,独占禁止法が取引段階ごとに取引分野を限定して課徴金を賦課することを要請したものとは解されない。その上,本件製品は,前記1(4)オ,後記(3)ウ及びエ記載のとおり,製造業者から口銭を取得するだけの商社を通じて需要者(建設業者)に販売されたにすぎないもので,製品自体も,製造業者である被審人から直接需要者に納品されているのであって,製造業者からいったん,卸売業者や小売業者に販売され,更にこれらの業者から需要者に販売されるといった,卸売や小売等の実態を伴った取引を経由して需要者に販売されたものでもない。
(イ) 被審人は,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」とは,違反行為者間で合意された価格と連動性を有する価格で取引された商品を意味すると解するべきであり,本件製品の商流において価格連動性が認められる取引は,新日本製鐵の商社に対する売上げであるから,新日本製鐵の本件製品に係る売上げが「当該商品・・・の売上額」に該当する旨主張する。そして,当該主張の根拠として,先例審決や判決では,価格連動性が価格拘束下で販売された商品を判断する重要な要素として用いられていることからすると,価格連動性が認められる取引に係る売上額が「当該商品・・・の売上額」に該当すると主張する。
また,被審人は,JFEスチールや住友金属工業は,本件製品に係る被審人と新日本製鐵との取引の存在自体を認識していなかったのであるから,当該取引に本件違反行為の拘束を及ぼすつもりはなく,よって被審人が新日本製鐵から取得した対価は本件違反行為による拘束を受けた商品の対価ではないとも主張する。
しかしながら,これらの主張も本件取引を流通経路において形式上存在する取引ごとに分断し,その取引ごとに価格連動性及び本件違反行為の拘束性の有無を問題とするものであり,前記(ア)に照らし失当である。
なお,中国塗料審決及び東京無線タクシー審決は,いずれも,違反行為の対象となったことが明らかではない商品等について,違反行為の対象となった商品の範ちゅうに属する商品であれば,特段の事情がない限り,違反行為による拘束を受けたものと推認することを述べたものであるところ,本件製品は,前記ア(ア)のとおり,本件違反行為の対象であったことが明らかであるから,上記審決によっても本件製品が本件違反行為の拘束を受けたものであることは明白である。
(ウ) 被審人は,課徴金制度は違法なカルテルによる経済的利得を国が徴収することにより,社会的公正を確保すると同時に,違反行為の抑制を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するための行政上の措置を定めた制度であることから,課徴金を賦課するためには,違反行為の結果として一定の価格以上の価格で販売したことによる不当利得の存在が必要であると主張する。
しかしながら,課徴金制度は,前記ア(イ)のとおり,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として設けられたものであり,具体的なカルテル行為による現実の経済的利得とは切り離し,一律かつ画一的に算定された金額を,行政目的を達成するための金銭的不利益とするものであるから,課徴金を賦課するに際して,違反行為の結果として一定の価格以上の価格で販売したことによる不当利得が存在することは必要ないというべきである。独占禁止法の条文上もそのような根拠は見い出せない。したがって,被審人の主張は理由がない。
(エ) 被審人は,独占禁止法第7条の2第1項の「売上額」とは,企業会計原則等確立された基準に基づき,一律かつ画一的に算定する必要があるから,「取引の主体」という基準が適用される余地はない旨主張する。
しかしながら,そもそも企業会計原則は企業の会計処理において準拠すべき基準であるところ,本件は,本件製品に係る課徴金納付命令の受命者はどの事業者かという売上額算定の前提に係る問題であるから,企業会計原則の適用が要請される場合には該当しない。
また,本件製品のように,価格カルテルという違反行為の対象商品の取引の商流に複数のカルテル参加者が介在しており,複数のカルテル参加者に売上げが計上されている場合には,当該対象商品に係る課徴金をどのカルテル参加者に課すべきかを判断する前提として,だれが違反行為の実行者といえるのか(すなわち,どのカルテル参加者が当該対象商品について違反行為の実行としての取引を行ったのか)を認定する必要がある。審査官が本件審判において主張した「取引の主体」という基準も,前記ア(ウ)及び審査官の主張によると,本件合意に基づき本件製品に関して行われた本件合意の実行行為(本件製品の建設業者向けの販売行為)において,どのカルテル参加者が違反行為の実行者と認定されるべきかという観点から使用されているものである。したがって,「取引の主体」という基準が用いられたからといって,一律かつ画一的な課徴金の算定ができなくなるわけではない。被審人の主張は,独自の見解に基づくものであって,採用することはできない。
(2) 本件販売行為を実行した者について
ア 前記1(1)ないし(4)において認定した各事実によれば,被審人は,社内に鋼管杭事業に係る営業部門を置いて,特定鋼管杭が使用される工事に関する情報収集や当該工事の受注が見込まれる建設業者に対する本件製品の売り込み活動などの営業活動を独自に行っていること,被審人は,建設業者との間で,販売する本件製品の種類,仕様,販売価格,納期等の取引条件の交渉を行い,合意を成立させていたこと,合意が成立すると,当該取引の営業担当者らは被審人の注文入力システムに,受注した製品の物件名や仕様等注文内容を入力し,当該建設業者への直接の販売者となる商社に対して,当該注文内容に従って新日本製鐵に注文を入れるよう指示していたこと,本件製品の受注予定者として貼り付けを受けていたのは新日本製鐵ではなく被審人であること及び被審人は,建設業者との合意内容に従って本件製品を製造の上,建設業者に納品していたのみならず,被審人の名義で鋼管検査証明書を発行して本件製品に係る瑕疵等についての責任を負担していたことが認められる。
これらの各事実に加えて,①被審人は,本件製品の販売において,建設業者に対して,本件製品が新日本製鐵を介して販売されるものである旨の説明を行っておらずJFEスチール及び住友金属工業も本件販売行為の主体は被審人であると認識していたこと(前記1(3)ア),②被審人は,本件製品の販売価格が上昇したとしても直接利益を受ける立場にはなかったものの,販売価格が上昇すれば,翌年における被審人の新日本製鐵に対する本件製品の販売価格の増額要因となっていたことからすれば,本件製品の販売価格が上昇することは長期的には被審人の利益に結び付くものであり,被審人には,本件製品の販売価格の引上げを実行する利益があったといえること及び③被審人は,新日本製鐵から本件製品の取引の終了を申し入れられた際にも,取引を終了することは被審人の不利益になるとして,その継続を要求していたのであって,これによれば,被審人は,新日本製鐵との取引を自社にとって利益となる取引であるとの判断の下に,自主的,積極的に行っていたものと推認されることに照らすと,被審人は,自ら主体となって本件販売行為を実行していたもの(すなわち,本件販売行為を実行した者は被審人である。)と認められる。
イ なお,新日本製鐵については,被審人から提出させたアタッチシートに記載された本件製品の建設業者へのベース価格が,新日本製鐵の「最低目標販売価格」,「社内基準」及び「予算価格」並びに本件合意に基づく価格に照らして適切な水準にあるか否かを確認した上で,被審人と建設業者との取引条件について決裁を行っていたこと(前記1(4)イ),本件製品について,月次で,被審人に施主名,ゼネコン名,物件名,鋼管杭の受注重量等を報告させて,被審人の本件製品の販売状況や売上実績を確認,管理していたこと(前記1(3)イ)及び本件販売行為による直接の損益は新日本製鐵に帰属していたことが認められる。
しかしながら,新日本製鐵が行っていた決裁は,多くは被審人と建設業者との間の販売価格についての合意が妥結した後に行われていたため,仮に,新日本製鐵が上記価格は安値であるとして不満を抱いたとしても,そのような価格となったことに関して被審人に説明を求めることはできても,上記合意を覆すほどのものではなく,結局のところ,説明を求めた上で被審人の販売活動を追認するものにすぎなかったこと,他方で被審人は,建設業者との間で,新日本製鐵に対する説明が困難なほどの安値価格で合意した場合には,便宜上,新日本製鐵に対しては決裁が得られるような金額で合意した旨の虚偽の報告をして決裁を得ておき,後日商社との間で差額分を調整することもあったこと(すなわち,この場合には,商社が建設業者に販売する価格よりも,商社が新日本製鐵から購入する価格の方が高くなり,商社に損失が発生するため,商社の損失分を,被審人と商社が分担していたのである。),新日本製鐵の決裁に時間がかかる場合には納期に間に合うように,被審人の判断で決裁を待たずに注文処理を先行する等していたことなどを考慮すると,被審人は,新日本製鐵の決裁がなければ,建設業者との間で本件製品の取引についての合意ができない,すなわち,取引の成立に新日本製鐵の決裁が必要不可欠なものであるとの認識はなかったものと認められ,このことは,被審人が,本件販売行為を自ら主体となって行っていたことを裏付けるものである。
また,新日本製鐵は,被審人に対して原材料を提供するとともに,本件製品の取引によって発生する損益が帰属する立場にあったことからすると,新日本製鐵が,自社の販売計画等の作成や原材料調達のために,被審人と建設業者間の本件製品の取引状況について,販売計画や販売実績も含めて,被審人から報告を受ける必要があったのは,むしろ当然のこと(査第1号証,第3号証)であり,これらの報告を受けていたというだけでは,本件販売行為が新日本製鐵自身の取引であることをうかがわせる事実とはいえない。
なお,上記報告についていえば,被審人は,受注が確定するまでは,新日本製鐵に対して,重量以外の報告事項について「諸口」として物件をまとめて報告したり,「某物件」とするなど物件名を明示することなく報告したりしていたこともあり,新日本製鐵が被審人から受けていた報告の内容が,被審人の判断によって抽象的なものに止まり,被審人が建設業者との間で行っている本件製品の取引の内容の詳細が不明となることもあったことに照らせば,この程度の内容の報告を受けていたからといって,本件販売行為の主体が新日本製鐵であったことの裏付けには到底なり得ないものというべきである。むしろ,これらの事実は,被審人が本件製品の取引に係る営業活動を,新日本製鐵のためではなく自らのために実施していたことを推認させる事実である。
さらに,被審人と新日本製鐵との取引の開始の経緯が,被審人と建設業者との間に成立した本件製品の取引の流通過程に新日本製鐵が介入することによって被審人の鋼管杭の事業活動のリスクを軽減するとともに新日本製鐵自身も利益を得るということにあった点を考慮すると,本件販売行為による直接の損益が新日本製鐵に帰属することになっているとしても,そのことが直ちに,本件販売行為の主体が新日本製鐵であったことを裏付けるものとはいえない。
ウ 以上によれば,被審人は,本件販売行為の主体として,これを実行していたものであり,本件販売行為の実行者と認められる。したがって,本件製品に係る被審人の売上額は,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に該当する。
なお,審第19号証によると,新日本製鐵が,同社と商社間の販売価格を被審人に知らせることなく変更する等していたことがうかがわれるが,当該事実は,新日本製鐵と商社間の取引に係るものであり,建設業者を相手方とする取引に係る上記認定を左右するものではない。
(3) 被審人の主張について
ア 被審人は,新日本製鐵が,本件製品を含めた新日本製鐵グループのシェア拡大を目指すとともに本件製品を含めて新日本製鐵グループの販売計画や利益計画を策定していたこと,新日本製鐵が,特定鋼管杭の販売に係る事業において,被審人に比し圧倒的に優位な地位に立っており,被審人の鋼管杭事業は,新日本製鐵によって同グループの一員として位置付けられていたことなどによれば,被審人は,新日本製鐵に支配され,従属的な地位にあったといえるから,本件製品に係る被審人の販売行為は,本来新日本製鐵が行うべき業務を被審人が代行していたにすぎない,又は被審人が新日本製鐵の営業を支援していたものにすぎない等と主張する。そして,これを裏付けるものとして,被審人の久保田康弘の陳述書(審第18号証,第19号証)等を提出する。
しかしながら,被審人が新日本製鐵のために本件販売行為を実行したと認めることができないことは前記(2)で述べたとおりである。また,査第1号証ないし第3号証,第5号証,審第5号証ないし第8号証及び第19号証によると,鋼管杭事業において,被審人及び新日本製鐵が提携関係にあり,新日本製鐵グループとしてシェア拡大を目指していたこと,本件製品を含めて新日本製鐵グループの販売計画及び利益計画を策定していたこと,鋼管杭事業において新日本製鐵が被審人に比し優位な地位に立っていたこと等が認められるものの,当該事実のみでは,本来新日本製鐵が行うべき業務を被審人が代行していたにすぎないなどとは到底いうことはできず,本件製品を建設業者に販売した主体がだれであるかということについての前記認定が影響されるものではない。
なお,審第10号証及び第14号証によると,貼り付けに当たり,被審人と新日本製鐵の各担当者らは,小委員会や課長会が開催される前に,両社の考え方をすり合わせるなどしていたことが認められるが,被審人の大北が「当社としてもゼネコンからあまり低い受注価格で受注を受けていれば,新日本製鐵との次年度の加工賃の改訂交渉の際に,加工賃の引下げ要求材料となるおそれがありますので,当社としても,ゼネコンから少しでも高い価格で受注できるようゼネコンに対し営業及び価格交渉を行ってきました。」(審第17号証)と陳述するように,本件製品の価格下落を回避することが被審人の利益となる可能性もあったことにも照らすと,当該すり合わせにおいて被審人が新日本製鐵の指示に従うことがあったとしても,被審人が新日本製鐵に完全に支配されていると評価できるものではない。
イ 被審人は,貼り付けに関して,具体的にどの物件を被審人に貼り付けるかについては,既に,新日本製鐵の販売計画策定の段階で決まっており,新日本製鐵のコントロール下で,新日本製鐵分としてシェアの配分を受けるか,被審人分としてシェアの配分を受けるかが決定されていたのであるから,貼り付けの事実は,被審人が,本件販売行為の主体であることを裏付ける関係にはない旨主張する。
しかしながら,貼り付けにより被審人が受注予定者とされたということは,4社間で当該建設業者との取引の当事者を被審人とすることを意味するのであるから,貼り付けの事実は被審人が本件販売行為の主体であったことを推認させる事実である。また,被審人は,貼り付けにおいてシェアの分配を受けて,新日本製鐵とは別に一定の販売量が保証されており,貼り付けに参加することは被審人の利益にもなっていたのである。
なお,本件における全証拠に照らしても,新日本製鐵が,本件製品すべてについて,新日本製鐵分としてシェアの配分を受けるか又は被審人分としてシェアの配分を受けるかを決定していたとは認められない。
ウ 被審人は,被審人と新日本製鐵との本件製品の取引は実質的に委託加工取引である旨主張する。この主張の意味は,前記のとおり,被審人と新日本製鐵との間の取引が「特定鋼管杭の販売分野」とは取引段階が異なる旨の主張及び本件製品は新日本製鐵の製品であるとの主張と解することができるため,以下検討する。
前記認定したところによれば,被審人と新日本製鐵との間の本件製品の取引は,新日本製鐵が原材料であるコイルを被審人に提供し,被審人がコイルから製造した鋼管杭を新日本製鐵に納入するという形式に着目すれば,加工委託契約に類似する側面を有するものということができる。また,前記1(2)ア(ア)によれば,新日本製鐵及び被審人も被審人と新日本製鐵との間の取引を委託加工取引と呼称していたことが認められる。
しかしながら,そもそも,本件製品は,被審人ブランドの製品であり,被審人自らが建設業者との間で交渉を行って販売し,建設業者との合意の内容に従って被審人が製造していた製品であること及び被審人が被審人名義の検査証明書を添付して建設業者に納品したものであることは既に認定したところであり,上記被審人の主張は,被審人が営業し,建設業者の指示に従い製造して販売する被審人ブランドの製品を新日本製鐵が被審人に加工を委託しているというものであって,その主張自体からして,通常の経験則に照らして,不自然である。また,実質的に加工委託契約であるとすれば,通常は,被審人が新日本製鐵からコイルを預かり,これを加工して鋼管杭を製造し,新日本製鐵に納入するというものであって,コイルから鋼管杭に至るまでその所有権は終始一貫して新日本製鐵に帰属し,被審人は新日本製鐵から加工賃を受領するだけであって,被審人と新日本製鐵との間に売買契約が成立することはないはずのところ,実際には,前記1(2)ア(ア)及び(イ)のとおり,被審人と新日本製鐵とのコイルの取引及び本件製品の取引については,いずれも売買契約が締結されているのである(査第6号証ないし第9号証。なお,審第18号証の資料2によると,被審人と新日本製鐵の提携関係は,昭和43年に委託加工契約から購入販売契約に変更されたことが認められる。)。さらに,前記1(2)イ(イ)で述べたように,新日本製鐵は,被審人の鋼管杭事業を支援するために,被審人から本件製品を定額で購入することとし,そのために被審人と商社との間の商流に介在していたことに照らすと,本件製品の実質的な製造業者は被審人であって,新日本製鐵とは認められず,よって被審人と新日本製鐵との取引は,実質的に加工委託取引であるとは認められない。
なお,新日本製鐵の法務部門の見解を紹介する被審人従業員のメールには,「市川製作のクボタマーク物件については,被審人が営業して実質上販売者となっており,契約形態だけの委託加工であるから,JISの規定上はミルシートを連名にする必要はないだろう」(なお,「市川製作のクボタマーク物件」とは本件製品のことであり,「ミルシート」とは前記1(4)カの検査証明書の別称である。)との記載があり(査第10号証),上記のメールの記載によれば,新日本製鐵の法務部門も,被審人と新日本製鐵との取引を契約形態(形式)だけの委託加工取引であると判断しているのであって,これは,被審人との取引が実質的に加工委託契約ではない旨の上記認定に沿うものである。
また,被審人は,鋼管杭の規格,仕様,寸法,数量等について新日本製鐵の加工指示を受けて,被審人が鋼管杭の製造を行っていたと主張するが,前記1(4)エによると,新日本製鐵が行う加工指示は,価格についての決裁が通った後に,製造の開始を指示するだけのものであり,実際の規格等についての合意は被審人が建設業者と行ったものであるから,新日本製鐵の当該加工指示は,鋼管杭の規格,仕様,寸法,数量等に係る指示とは認められない。
その他被審人は,新日本製鐵が被審人のコイル在庫の棚卸しをしていたこと等種々述べて,本件製品に係る被審人と新日本製鐵との間の取引が委託加工取引であると主張するが,いずれも上記認定を左右するものではない。
以上より,本件製品に係る被審人と新日本製鐵との取引は,実質的に本件製品の加工委託を内容とする取引である旨の被審人の主張は採用することができず,本件製品は被審人の製造した被審人の製品であり,本件製品は,製造業者である被審人から,新日本製鐵,商社,建設業者へ転々と流通したものと認められる。
エ 被審人は,与信リスクを回避し,代金回収の確実性及び支払期日の一定化を図るために,中間商社が介在していることが明らかな本件製品の流通において,更に加えて新日本製鐵が商社に準じた立場にあるとすることは明らかな論理矛盾である,新日本製鐵は本件違反行為の当事者であり流通経路の中に介在する商社に準ずる立場にあると評価することは極めて不当である等主張する。
しかしながら,前記(2)イのとおり,新日本製鐵は本件販売行為の主体とは認められないのであるから,その地位は,被審人と建設業者との間に成立した販売に係る取引に介在することによって,被審人の鋼管杭の事業活動のリスクを軽減するとともに新日本製鐵自身も金銭的な利益を得るというものであったと解される(査第5号証には,本件製品は,事務処理上,新日本製鐵を経由して注文を受けたように事務処理をしたものにすぎない旨の記載がある〔7項,8項〕)のであって,この意味において新日本製鐵は商社に準じた地位にあったものといえる。上記の新日本製鐵が利益を取得する仕組みが,商品取引に介在して一定の口銭を取得するという通常の商社の場合とは異なり,商品の販売価格が上昇することによって直接利益を享受する形態となっていたのは,対等な企業である被審人と新日本製鐵が互いの利害得失を考慮した上でそのような内容の合意をしたからにすぎないのであるから,このような事情があったとしても,本件製品の取引における新日本製鐵の役割が商社に準じたものであったとの上記評価には影響しないというべきである。
3 小括
以上のとおり,本件製品に係る本件販売行為の主体は被審人であり,被審人が本件販売行為を実行していたと認められるから,被審人の本件製品に係る売上額は,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に該当する。
したがって,被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,平成17年改正前の独占禁止法第7条の2第1項により,前記50億6938万4653円に100分の6を乗じて得た額から,平成21年改正前の独占禁止法第7条の2第9項の規定により当該額に100分の30を乗じて得た額を減額し,平成17年改正前の独占禁止法第7条の2第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された2億1291万円である。
4 争点2(原処分が本件売上額を被審人に対する課徴金算定の基礎としたことに何らかの違法があり,そのために原処分に取消事由があるか否か)について
(1) 被審人は,本件違反行為に係る課徴金算定の基礎とされた違反行為者の売上額は,いずれも,「被審人から商社に」,「JFEスチールから商社に」,「新日本製鐵から商社に」販売した売上額であるにもかかわらず,本件製品についてだけ,被審人の新日本製鐵に対する納入額を課徴金の計算の基礎とすることは,売上額の算定は明確かつ画一的な基準に基づいて行われるとの公正取引委員会の従来の見解と矛盾する旨主張する。
しかしながら,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に係る解釈は前記2(1)アのとおりであり,本件違反行為の対象となった特定鋼管杭について,いずれも建設業者を相手方として自ら又は販売業者を通じた販売行為を実行した者の売上額を課徴金の計算の基礎としており,その判断基準は明確かつ画一的である。
(2) 被審人は,審査官は,「取引の主体」という法令に全く規定されていない独自の概念を持ち出し,自らの設定した「取引の主体」の概念に,本件製品に係る被審人の新日本製鐵に対する売上げを当てはめる作業を営々と行っているが,課徴金を課すか否か及びその額等に関して一切裁量権を有しない公正取引委員会において,独占禁止法上の要件でない「取引の主体」なる独自の基準に基づき,被審人に対して課徴金を課すということは,法律に基づいてなされなければならない行政権の行使の域を超えた,極めて恣意的な行政権の行使(行政権の濫用)である旨主張する。
しかしながら,審査官の主張する「取引の主体」とは,前記のとおり,本件製品に関して行われた行為(本件製品の建設業者向けの販売行為,すなわち,本件販売行為)において,どのカルテル参加者が違反行為の実行者と認定されるべきか,言い換えれば,カルテル参加者のうちのだれが本件販売行為の主体であったか,という観点で使用されているものであって,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」の解釈に関係する主張である。したがって,審査官が独占禁止法上の要件でない取引の主体なる独自の基準に基づき裁量権を行使したとの被審人の主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
(3) 被審人は,本件製品について被審人に対してのみ課徴金を課すことは,法の下の平等に反すると主張する。
しかしながら,そもそも課徴金賦課の要件を充足するか否かは違反行為者ごとに検討されるべきであるから,本件製品に関して新日本製鐵に対して課徴金納付が命じられなかったとしても,これによって被審人に対する課徴金納付命令が違法となるものではない。加えて,本件製品については被審人が本件販売行為を実行した事業者と認められ,よって被審人の売上額のみが独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」に該当することは前記2(2)で認定したとおりであるから,被審人の主張はいずれにしろ理由がない。
なお,被審人が掲げる公正取引委員会平成7年3月28日課徴金納付命令(同審決集第41巻第387頁)は,親子会社の関係にあった松下電器産業と松下通信工業の違反行為の実態にかんがみて,両社を一体の競争主体ととらえるべきであるとの判断がなされた事案と解され,そもそも親子関係のない本件における被審人と新日本製鐵との関係とは事案を異にするものである。
(4) 以上より,原処分に処分の取消事由となる違法性が存在する旨の被審人の主張はいずれも理由がない。
第7 法令の適用
以上判断したところによれば,独占禁止法第7条の2第1項,平成21年改正前の独占禁止法第7条の2第9項並びに平成17年改正前の独占禁止法第7条の2第1項及び第4項の規定により,被審人に対して原処分のとおり,課徴金の納付を命ずるべきであり,被審人の審判請求は理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成22年12月27日

         公正取引委員会事務総局

             審判長審判官   大久保  正 道

審判官   佐 藤  郁 美

審判官   酒 井  紀 子

別紙1

鋼鉄のみにより製造された杭(継手及び付属品を取り付けたものを含む。)であって,国,地方公共団体,国又は地方公共団体が過半を出資する法人,北海道旅客鉄道株式会社,東日本旅客鉄道株式会社,東海旅客鉄道株式会社,西日本旅客鉄道株式会社,四国旅客鉄道株式会社,九州旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社が発注する建設工事を請け負う建設業者が同工事に使用するもの(回転杭を除く。)

別紙2

建設業者の区分 価格
スーパーゼネコン 93円を基本として,必要に応じて個別のスーパーゼネコンごとの事情を踏まえて設定した価格
スーパーゼネコン以外の大手ゼネコン 95円を基本として,必要に応じて個別の大手ゼネコン(スーパーゼネコンを除く。)ごとの事情を踏まえて設定した価格
大手ゼネコン以外の建設業者 98円を基本として,当該建設業者が受注する建設工事の施工場所が所在する地区ごとの事情を踏まえて設定した価格

別紙3

建設業者の区分 価格
スーパーゼネコン 97円を基本として,必要に応じて個別のスーパーゼネコンごとの事情を踏まえて設定した価格
スーパーゼネコン以外の大手ゼネコン 98円を基本として,必要に応じて個別の大手ゼネコン(スーパーゼネコンを除く。)ごとの事情を踏まえて設定した価格
大手ゼネコン以外の建設業者 103円を基本として,当該建設業者が受注する建設工事の施工場所が所在する地区ごとの事情を踏まえて設定した価格

※別添(課徴金納付命令書)省略

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