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ハマナカ(株)による審決取消請求事件

独禁法19条(一般指定12項1号及び2号)

平成22年(行ケ)第12号

判決

京都市右京区花園藪ノ下町2番地の3
原告 ハマナカ株式会社
同代表者代表取締役 濱中貞宏
同訴訟代理人弁護士 赤坂久雄

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 竹島一彦
同指定代理人 田中久美子
同 秋沢陽子
同 佐藤真紀子
同 坪田 法
同 小髙 真侑
同 渡辺 健一

平成22年(行ケ)第12号審決取消請求事件

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
被告が原告に対し公正取引委員会平成20年(判)第23号審判事件につき平成22年6月9日付けでした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は,原告が,正当な理由がないのに,小売業者に対し値引き限度価格を維持するとの条件を付けて手編み毛糸等を供給し,卸売業者に対し,小売業者に値引き限度価格を維持させるとの条件を付けて手編み毛糸等を供給している行為が,平成21年法律第51号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)2条9項に基づき公正取引委員会が定めた平成21年10月28日改正前の「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)の12項1号及び2号に該当し,同法19条に違反するとして,原告に対し,同法20条1項に基づき排除措置命令(以下「本件排除命令」という。)をした。
本件排除命令について,原告が被告に対し審判を請求したところ,被告は,平成22年6月9日,原告の審判請求を棄却する審決(以下「本件審決」という。)をした。
本件は,原告が,本件審決を不服として提起した審決取消訴訟である。
2 原告の行う取引の概要
(1) 原告は,肩書地に本店を置き,手編み毛糸又は手芸糸(以下「手芸手編み糸」という。)を玉状等にまとめ,「ハマナカ」又は「Rich More」の商標を付したもの(以下「ハマナカ毛糸」という。)を,他の事業者に委託して製造させ,販売する事業を営む会社である。
(2) 原告は,ハマナカ毛糸を,自ら又は卸売業者を通じて小売業者に販売するほか,通信販売等の方法により直接一般消費者への販売も行っている。
原告は,ハマナカ毛糸について,標準価格等と称する希望小売価格(以下「標準価格」という。)を定め,自ら又は卸売業者を通じて,小売業者に周知させている。
3 本件審決の内容
(1) 本件審決の認定した事実の概要
ア ユザワヤ株式会社及びユザワヤ商事株式会社への対応
かねてから,ハマナカ毛糸を他店より安く販売する小売店が存在し,周辺の小売業者から原告に対し苦情が寄せられていたが,原告は,安く販売している小売店に対して,極端な安売りは周辺の小売店に影響するのでやめるよう申入れをするなどして,個別に対応していた。
東京都に本店を置き,主に関東地区及び近畿地区に店舗を展開する大手の小売業者であるユザワヤ株式会社及び同社が販売する商品の仕入れを行っているユザワヤ商事株式会社(以下,両社を併せて「ユザワヤ」という。)は,原告からハマナカ毛糸を直接仕入れて,標準価格から10パーセントないし30パーセント引きの価格で販売していた。
ユザワヤは,平成17年7月ころ,大阪市に出店した際,当該店舗において「オープン記念セール」として,ハマナカ毛糸の一部を玉単位で標準価格の40パーセント引き,袋単位で標準価格の50パーセント引きの価格で販売した。これについて周辺の小売業者から原告に対し,極端な安売りをされると経営が成り立たないといった苦情が寄せられた。
そこで,原告は,ハマナカ毛糸について,玉単位で販売する場合には標準価格の10パーセント引きの価格,袋単位で販売する場合には標準価格の20パーセント引きの価格を下限とし(以下,これらの価格を「値引き限度価格」という。),値引き限度価格以上の価格で販売させる方針に基づいて,同年9月以降,ユザワヤに対し,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう再三にわたり申し入れた。
これに対し,ユザワヤは,当初は,他の小売業者の販売価格を引き合いにして販売価格の引上げに応じなかったものの,再三にわたる原告の申入れを受け,原告が他の小売業者にも値引き限度価格以上の価格で販売させるようにすることを条件として原告の申入れに応ずることとし,同年10月ころ以降,値引き限度価格以上の価格で販売した。
(査1号証ないし3号証,原告代表者)
イ ユザワヤ以外の小売業者等への対応
上記アのとおり,ユザワヤに対する申入れの結果,ユザワヤは,原告の申し入れた価格でハマナカ毛糸を販売するようになったことから,原告は,他の値引き限度価格を下回る価格で販売している事業者についても,順次,同様の申入れをし,あるいは卸売業者をして申し入れさせることとし,これを実施した。個別の事業者に対する対応は,以下のとおりである。
(ア) 株式会社ABCクラフト(ABCクラフト)への対応
大阪府に本店を置き,主に近畿地区に店舗を展開する小売業者であるABCクラフトは,ハマナカ毛糸を卸売業者から仕入れ,玉単位で標準価格の20パーセント引き及び袋単位で標準価格の30パーセント引きの価格で販売していた。
原告の販売部長吉田弘は,平成17年10月上旬ころ,ABCクラフトにハマナカ毛糸を卸している卸売業者2社の各営業担当者を同行してABCクラフトに赴き,ABCクラフトに対し,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れた。しかし,ABCクラフトがその申入れに応じなかったことから,原告は,当該卸売業者2社に対するハマナカ毛糸の出荷を停止し,これによって,ABCクラフトに対するハマナカ毛糸の供給を停止させた。
原告の出荷停止を受けて,同月中旬ころ,ABCクラフトは,ハマナカ毛糸を品ぞろえしておく必要があることから原告の申入れに従わざるを得ないと考え,原告の申入れに応じ,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売する旨を原告に伝え,それ以降,当該価格で販売した。
(査1号証,4号証ないし6号証,原告代表者)
(イ) 小野株式会社(小野)への対応
香川県に本店を置き,主に四国地区に「手芸センタードリーム」という名称で店舗を展開する小売業者である小野は,ハマナカ毛糸を原告から直接仕入れ,「会員価格」と称して,通常は玉単位で標準価格の10パーセント引きの価格で販売していたが,セール時には玉単位で標準価格の20パーセント引き又は30パーセント引きで販売していた。
平成17年10月ころ,小野がハマナカ毛糸を特別セールとして玉単位で標準価格の30パーセント引きで販売していたことから,原告は,小野に対し,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れた。しかし,小野が原告の申入れに応じなかったことから,原告は,小野に対するハマナカ毛糸の出荷を停止した。
原告の出荷停止を受けて,小野は,ハマナカ毛糸を品ぞろえしておく必要があることから原告の申入れを拒絶することはできないと考え,やむなく原告の申入れに応じることとし,当該特別セール終了後はハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売する旨を原告に伝え,それ以降,当該価格で販売した。
(査7号証,8号証)
(ウ) イオン株式会社(イオン)への対応
千葉県に本店を置き,主に関東地区に店舗を展開する事業者であるイオンは,ハマナカ毛糸を二次卸売業者である有限会社銀河夢(銀河夢)から仕入れ,玉単位で標準価格の15パーセント引きの価格で販売していた。銀河夢は,ハマナカ毛糸を一次卸売業者から仕入れていた。
原告は,平成17年10月ないし11月ころ,銀河夢に,イオンに対しハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れさせた。しかし,イオンがその申入れに応じなかったことから,原告は,同年11月21日から同月24日ころにかけてハマナカ毛糸を販売していたイオンの約150店舗のうち約半数の店舗においてハマナカ毛糸をすべて買い上げるとともに,同月ころ,銀河夢のハマナカ毛糸の仕入先である一次卸売業者に,銀河夢に対するハマナカ毛糸の出荷を停止させた。さらに,原告は,他の卸売業者に対しても,銀河夢からハマナカ毛糸の注文があっても販売しないよう連絡するとともに,卸売業者から受けた注文のうち当該卸売業者が銀河夢から注文を受けて原告に発注したとみられるものについて,当該卸売業者に出荷しないようにした。
平成20年1月の時点において,イオンは,見切り品及び廃番品以外のハマナカの毛糸を取り扱っていない。
(査1号証,2号証,9号証ないし11号証,20号証)
(エ) 株式会社三喜(三喜)への対応
千葉県に本店を置き,主に関東地区に店舗を展開する小売業者である三喜は,ハマナカ毛糸を卸売業者から仕入れ,玉単位で標準価格の25パーセント引きの価格で販売していた。
原告は,平成18年4月ころ,三喜に対し,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れ,その際に,その申入れに従わない場合には三喜に対するハマナカ毛糸の出荷を停止することを示唆した。
三喜は,ハマナカ毛糸を品ぞろえしておく必要があることから,出荷停止されることを恐れ,原告の申入れに従わざるを得ないと考え,やむなく原告に対して,上記価格でハマナカ毛糸を販売する旨を伝えた。しかし,三喜は,25パーセント引きの価格で販売することを見込んで仕入れており,原告の申入れに従って直ちに値上げすると売行きが悪くなり,在庫が増えるおそれがあることから,原告の東京支店販売部長納谷良人に対し,値上げの時期を遅らせることを認めてほしい旨申し入れたところ,同人がこれを認めたため,同年10月以降に販売価格を値引き限度価格に引き上げた。
(査12号証,13号証)
ウ インターネット小売業者への対応
平成18年ころから,上記ア及びイのとおり原告の申入れに応じた小売業者等から原告に対し,インターネットを利用した方法によりハマナカ毛糸が値引き限度価格を下回る価格で販売されていることについても是正すべきであるという苦情が寄せられていた,同年後半ころ,原告は,インターネット小売業者の販売価格の是正について検討するために,その価格の調査を行った。さらに,平成19年4月ころ,価格の是正を申し入れるために,改めて,販売価格の調査を行ったところ,多くのインターネット小売業者が玉単位で標準価格の20パーセント引きの価格で販売していることを把握した。そこで,同年5月ころ,原告は,インターネットを利用した方法により販売される場合においても,同年7月1日以降,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格,すなわち,玉単位で標準価格の10パーセント引き以上の価格で販売させることとした。
原告は,同年6月ころ,値引き限度価格を下回る価格で販売しているインターネット小売業者を中心に少なくとも15社のインターネット小売業者に対し,同年7月1日以降値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れるとともに,卸売業者に,当該卸売業者がハマナカ毛糸を販売しているインターネット小売業者に対し値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れさせた。この申入れを受けたインターネット小売業者は,おおむねこれに応じて,同日以降,小売価格を引き上げた。
例えば,埼玉県に本店を置くインターネット小売業者である株式会社コーダ(コーダ)は,インターネットを利用した方法によりハマナカ毛糸を標準価格の20パーセント引きの価格で販売していたところ,上記の申入れを受け,他のインターネット小売業者の同日以降の販売価格が原告の申入れに沿った価格に改められていることを確認した上で,その申入れに応じて,それ以後,値引き限度価格で販売することとして,販売価格を引き上げた。
その結果,インターネット小売業者の小売価格は,おおむね標準価格の10パーセント引きの価格となった。
(査1号証,3号証,14号証ないし21号証)
エ 以上の原告の行為(以下「本件行為」という。)により,小売業者は,ハマナカ毛糸をおおむね値引き限度価格以上の価格で販売している。
(査1号証ないし8号証,12号証,13号証,17号証ないし20号証)
オ ハマナカ毛糸は,原告等が発行する編み物雑誌に掲載される作品例に頻繁に使用されていることから,他の手芸手編み糸に比して知名度が高く,一般消費者には,ハマナカ毛糸を指名して購入する者が少なくない。このため,ハマナカ毛糸は,手芸手編み糸を取り扱う小売業者にとって品ぞろえに加えておくことが重要な商品となっている。このようなことから,ハマナカ毛糸を取り扱う小売業者の多くは,原告の要請に従わざるを得ないと考えていた。
(査3号証ないし6号証,8号証ないし10号証,13号証,21号証)
カ 以上のアないしオの事実によれば,原告は,平成17年9月ころ以降,ハマナカ毛糸の小売業者が標準価格を大幅に下回る販売価格で販売することにより小売業者間の価格競争が激化することを防止するため,ハマナカ毛糸の値引き限度価格を定めて,小売業者にその価格以上の価格で販売させることとし,その価格を下回る価格で販売している小売業者が判明した場合には,自ら又は卸売業者を通じて,当該小売業者に対し,その価格以上の価格で販売するよう申し入れ,小売業者にこれに応じさせ,小売業者がその申入れに応じない場合には,当該小売業者に対する出荷を停止し,あるいは当該小売業者にハマナカ毛糸を販売している卸売業者に対する出荷を停止することにより当該小売業者への出荷を停止させ,又はかかる出荷停止を示唆するなどし,これにより,小売業者に,値引き限度価格を実効性をもって維持させていると認められる。
(2) 本件審決の判断の概要
ア 原告の行為の一般指定12項該当性
上記(1)の事実によれば,原告は,ハマナカ毛糸の「販売価格を定め」た上で,小売業者に対し,当該販売価格を維持するという「拘束の条件をつけて」ハマナカ毛糸を供給し,かつ,卸売業者に対し,小売業者に当該販売価格を維持させるという「拘束の条件をつけて」ハマナカ毛糸を供給しているものといえる。
したがって,上記(1)の原告の一連の行為は,包括して一般指定12項1号及び2号に該当する。
イ 原告の行為に正当な理由があるかどうか
ハマナカ毛糸の小売価格を維持させる本件行為が,小売業者間のハマナカ毛糸に係る価格競争を阻害するものであって,公正競争阻害性を有するものであることは,その性質上明らかである。
一般指定12項所定の「正当な理由」とは,専ら公正な競争秩序維持の見地からみた観念であって,当該拘束条件が相手方の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいうものであり,単に通常の意味において正当のごとくみえる場合すなわち競争秩序の維持とは直接関係のない事業経営上又は取引上の観点等からみて合理性ないし必要性があるにすぎない場合などは含まないものと解される。
原告は,本件行為が大多数の中小の小売業者が生き残る途であり,また産業としての,文化としての手芸手編み業を維持し,手芸手編み業界全体を守るために必要であると主張するが,これらの目的は,小売業者の事業活動における「自由な競争を阻害するおそれがないこと」をいうものとは解されず,むしろ,競争秩序の維持とは直接関係のない観点からの合理性ないし必要性をいうものであって,上記「正当な理由」を基礎付けるものということはできず,「正当な理由」を基礎付ける事実と認めるに足りない。
ウ したがって,原告に対して下記4の排除命令を行うべきであり,原告の審判請求は理由がない。
4 本件排除命令の主文
(1) 原告は,次のアの行為を取りやめるとともに,取締役会において次のイの事項を決議しなければならない。
ア ハマナカ毛糸の販売に関し,自ら又は卸売業者を通じて,小売業者に対し,原告が定めた値引き限度価格(原告が定めた標準価格等と称する希望小売価格から値引きして販売する場合に下限とすべき価格をいう。)以上の価格で販売するようにさせている行為
イ アの行為を取りやめる旨及び今後,アと同様の行為を行わない旨
(2) 原告は,(1)に基づいて採った措置を,卸売業者及び小売業者に対し通知するとともに,一般消費者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知,周知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
(3) 原告は,今後,ハマナカ毛糸の販売に関し,(1)アの行為と同様の行為に  より,小売業者の販売価格を制限してはならない。
(4) 原告は,ア及びイに基づいて採った措置を速やかに被告に報告しなけれ ばならない。
5 原告の主張
(1) 実質的証拠の欠缺
本件審決の認定した事実(上記3(1))のうち,以下の点については,実質的証拠に基づくものとはいえない。
ア 本件審決は,ユザワヤが,平成17年10月ころ以降,原告の申入れに応ずることとし,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売したと認定している(上記3(1)ア)が,ユザワヤは,原告の要請と無関係に販売価格を設定していることが認められるから,この認定は,実質的証拠に基づくものといえない。
イ 本件審決は,原告が小野に対し,平成17年10月ころハマナカ毛糸の出荷を停止したと認定している(上記3(1)イ(イ))が,この認定は,実質的証拠に基づくものといえない。
ウ 本件審決は,原告がイオンに対するハマナカ毛糸の出荷を停止するという措置を講じたと認定している(上記3(1)イ(ウ))が,原告はイオンと直接取引をしていないし,また,イオンは,原告や代理店の要請等に何ら拘束されることなく販売価格を設定してハマナカ毛糸の販売を継続したのであるから,上記認定に実質的証拠はない。
エ 本件審決は,原告が平成18年4月ころ,三喜に対し,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れ,申入れに従わない場合には三喜に対するハマナカ毛糸の出荷を停止することを示唆したと認定する(上記3(1)イ(エ))が,この認定に実質的証拠はない。原告が価格引上げを要請したとされる「ハマナカモヘア」及び「ハマナカモヘアカラフル」という商品は秋冬に主に売れる商品であり,秋冬物の商戦が終わった時期に出荷停止の話をすることはあり得ない。
オ 本件審決は,原告が平成19年6月ころ,値引き限度価格を下回る価格で販売しているインターネット小売業者を中心に少なくとも15社のインターネット小売業者に対し,同年7月1日以降値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れるとともに,卸売業者に,当該卸売業者がハマナカ毛糸を販売しているインターネット小売業者に対して,値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れさせたと認定する(上記3(1)ウ)が,原告は,インターネット小売業者から,小売店が廃業したり倒産したりしないよう,ハマナカ毛糸が適切な販売価格で足並みをそろえて継続的に販売されるように願いたいとの申入れがあったので,この申入れを他のインターネット小売業者に伝達したにすぎないのであり,インターネット小売業者の違法行為に加功し,幇助を行ったにすぎず,上記認定に実質的証拠はない。
カ 本件審決は,原告が,ハマナカ毛糸の値引き限度価格を下回る価格で販売している小売業者が判明した場合には,当該小売業者に対し,その価格以上の価格で販売するよう申し入れ,小売業者がその申入れに応じない場合には,当該小売業者に対する出荷を停止し,又は出荷停止を示唆するなどして,小売業者に対し,値引き限度価格を実効性をもって維持させていると認定する(上記3(1)カ)。
しかし,イオンは,原告による出荷停止等を受けても原告の要請に従っていないし,小売業者の規模の大小,周囲の状況,景気の状況等の種々の要因により小売業者の対応は異なるから,原告が値引き限度価格を実効性をもって維持しているという認定に実質的証拠はない。
また,インターネット通販サイトヘの参入は極めて容易であり,インターネットを利用してハマナカ毛糸を販売する業者を特定するのは難しく,すべてのインターネット小売業者及びその販売価格を把握するのは困難であること,平成19年6月以前からインターネット通販を実施していた事業者数は53店であり,15社への伝達によって53店全部が販売価格を決めることはあり得ないことを考慮すると,原告が値引き限度価格の維持に係る実効性を確保したという認定は誤りであって,この認定に実質的証拠はない。
(2) 原告の行為の正当な理由
ア 手芸手編み業界は,中小の小売業者の店員等が消費者に編み方の指導等をし,手芸手編み糸を販売することにより成り立っている。
ところが,大手の小売業者や量販店がハマナカ毛糸について大幅な値引きをして販売をするようになったため,消費者は,中小の小売業者等の指導により編み方を習得した後,大手小売業者等から安い手芸手編み糸を購入するようになり,その結果,中小の小売業者の中には,適正な利益の確保が困難になり,倒産,廃業する店が増加してきた。
原告は,多数の中小の小売業者が値引き競争のために経営が苦しくなり,値引き限度価格以上の価格での販売を希望したため,大多数の中小の小売業者が生き残れるようにし,産業としての,文化としての手芸手編み業を維持し,手芸手編み業界全体を守るため,小売業者に対して値引き限度価格以上の価格で販売するように条件を付けてハマナカ毛糸を供給する等したものである。
イ 独占禁止法は,国民経済の民主的で健全な発展を促進することを目的とする(1条)ところ,国民経済の民主的で健全な発展とは,経済活動の基本原則として事業者の営業の自由の尊重を意味するのであって,小規模事業者の事業機会の確保が重要である。
また,独占禁止法は,一般消費者の利益を確保することを目的とする(1条)ところ,産業の発展,文化の発展は,直接の競争の要因とは性格を異にするが,一般消費者の利益に役立つものであり,広い意味で公益に関わるものである。
したがって,原告の行った上記の行為は,独占禁止法の究極の目的に合致するものといえる。
一般指定12項の「正当な理由」については,独占禁止法の直接の保護法益である競争秩序の維持とは直接関係のない観点からのものであっても,独占禁止法1条の目的の実現のために認められる必要性であれば,これに含まれるものと解すべきところ,上記のとおり,原告の行った行為は,独占禁止法の究極の目的に合致するから,正当な理由があるものといえる。
第3 当裁判所の判断
1 本件審決の事実認定について
 (1) 当裁判所は,本件審決の認定した事実(前記第2の3(1))は,いずれも前記各項目末尾掲記の証拠により合理的に認定できるものであって,実質的証拠があるといえると判断する。以下,原告が指摘する諸点について検討を加える。
(2) ユザワヤヘの対応(前記第2の3(1)ア)について
原告は,ユザワヤが原告の要請と無関係に販売価格を設定しているから,ユザワヤが,平成17年10月ころ以降,原告の申入れに応じてハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売したという本件審決の認定について,実質的証拠はないと主張し,その根拠として査3号証(ユザワヤ従業員Aの供述調書)を挙げる。しかし,査3号証において,Aは,当初原告の要請と無関係に販売価格を設定していたが,その後,原告の申入れを受け入れたことを認めているから,原告の主張は失当である。
(3) 小野への対応(前記第2の3(1)イ(イ))について
原告は,原告が小野に対し,平成17年10月ころハマナカ毛糸の出荷を停止したという本件審決の認定について,実質的証拠に基づくものといえないと主張する。しかし,査7号証(原告の第二販売部次長Bの供述調書)及び査8号証(小野の代表取締役の供述調書)中には,小野が特別セールとしてハマナカ毛糸を値引き販売していたところ,原告が小野に対し,値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れたこと,小野が申入れに応じなかったため,原告が出荷を停止したこと,小野からの問い合わせに対して,原告は在庫があるにもかかわらず品切れであると返答したこと,その後,小野が申入れに従う旨述べたことから出荷を再開したことを認める部分があるから,上記認定は実質的証拠に基づくものといえる。
(4) イオンヘの対応(前記第2の3(1)イ(ウ))について
原告は,①原告とイオンは直接の取引をしていない,②イオンは,出荷停止があったとされた時期以降も,原告や代理店の要請等に何ら拘束されることなく販売価格を設定してハマナカ毛糸の販売を継続していた,として,それを根拠に,原告がイオンに対してハマナカ毛糸の出荷を停止する措置を講じたという本件審決の認定について,実質的証拠はないと主張する。
しかし,査1号証(原告販売部長吉田の供述調書),査2号証(原告東京支店長Cの供述調書),査9号証(銀河夢代表取締役の供述調書),査10号証(イオン従業員Dの供述調書),査11号証(E営業部次長Fの供述調書)中には,ア原告がハマナカ毛糸を一次代理店であるEに販売し,Eは,これを二次代理店銀河夢に販売し,銀河夢はこれをイオンに販売していたこと,イ原告が平成17年11月21日から24日ころにかけてハマナカ毛糸を販売していたイオンの約150店舗のうち約半数の店舗においてハマナカ毛糸をすべて買い上げたこと,ウ原告が,平成17年11月ころ,Eに対し,銀河夢に対するハマナカ毛糸の出荷を停止させたこと,エ原告は,他の卸売業者に対しても,銀河夢からハマナカ毛糸の注文があっても販売しないよう連絡するとともに,卸売業者から受けた注文のうち当該卸売業者が銀河夢から注文を受けて原告に発注したとみられるものについて,当該卸売業者に出荷しないようにしたこと,以上の事実をいずれも認める供述がある。また,査10号証によれば,平成17年11月下旬以降,イオンにおけるハマナカ毛糸の売上高が大幅に減っていることが認められ,イオンがハマナカ毛糸を従前と同様に販売することができなくなっていることも認められる。
以上によれば,原告が卸売業者に対する指示を通じてイオンに対してハマナカ毛糸の出荷を停止するという措置を講じた事実について,実質的証拠があるといえる。
(5) 三喜への対応(前記第2の3(1)イ(エ))について
原告は,三喜に価格引上げを要請したとされる「ハマナカモヘア」及び「ハマナカモヘアカラフル」は秋冬に売れる商品であり,秋冬物の商戦が終わった時期にこれらの商品について出荷停止の話をするのは不合理であることから,原告が平成18年4月ころ,三喜に対し,ハマナカ毛糸を値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れ,これに従わない場合に出荷停止を示唆したという本件審決の認定に実質的証拠はないと主張する。
しかし,査13号証(三喜の従業員Gの供述調書)によれば,「ハマナカモヘア」及び「ハマナカモヘアカラフル」は,毛足が柔らかく,他の毛糸と絡めていろいろな作品が作れるという特徴があり,原告の商品の中でも有名で,年間を通じて売れ行きが良い商品であることが認められるから,原告が三喜に対し,平成18年4月に出荷停止の話をしたことが不合理とはいえない。そして,査13号証中には,原告が三喜に対し,値引き限度価格以上で販売するように申し入れ,従わない場合には出荷停止を示唆したことを認める供述があるから,上記の認定には実質的証拠があるといえる。
(6) インターネット小売業者への対応(前記第2の3(1)ウ)について
原告は,インターネット小売業者からの申入れを他のインターネット小売業者に伝達したにすぎないのであり,原告が15社のインターネット小売業者に対し,自ら又は卸売業者を通じて値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れたとの本件審決の認定について,実質的証拠はないと主張する。
しかし,査14号証ないし16号証(原告の社内文書),査17号証(原
告販売部長吉田の供述調書),査18号証(原告東京支店長Cの供述調書),査19号証(原告東京支店販売部次長納谷の供述調書),査20号証(原告第一販売部従業員Hの供述調書)及び査21号証(株式会社コーダ代表取締役の供述調書)によれば,原告は,取引先であるインターネット小売業者をリストアップし,毛糸の種類ごとに各社の販売価格を調査し,その結果,値引き限度価格を下回る価格で販売していることが判明したインターネット小売業者について,各社の関連部署である東京支店,第一販売部及び第二販売部が対処することとし,各部署の販売担当者が値引き限度価格以上の価格で販売するように申入れを行ったことが認められるのであり,原告が,他の業者からの伝達にとどまらず,積極的に上記の行為を実行したことについて,実質的証拠があるといえる。
(7) 値引き限度価格の維持(前記第2の3(1)カ)について
原告は,①イオンが原告による出荷停止等を受けても原告の値引き限度価格以上で販売するようにとの要請に従っていないこと,②小売業者の対応は,当該小売業者の規模,周囲の状況,景気の状況等の種々の要因により異なること,③インターネット小売業者及びその販売価格を把握するのは困難であること,④15社への申入れによってインターネット通販を実施していた53店全部が販売価格を決めることはあり得ないことを考慮すると,原告が値引き限度価格を実効性をもって維持させているという本件審決の認定は誤りであって,この認定について実質的証拠はないと主張する。
しかし,②については,一般的には,小売業者の対応は景気の動向等に左右され,小売業者の規模が大きいほど販売業者の要望と無関係に価格を決定しやすいものと考えられるが,前記第2の3(1)のとおり,ハマナカ毛糸を取り扱う小売業者の多くは,ハマナカ毛糸が,手芸手編み糸を取り扱う小売業者にとって品ぞろえに加えておくことが重要な商品となっているため,原告の要請に従わざるを得ないと考えていたこと,実際に,大手の業者であるユザワヤ,ABCクラフト,小野及び三喜は,原告からの出荷停止又はその示唆を受けて,不本意ながら原告の要請に従うことを決めたことからすれば,大規模な小売業者においても,ハマナカ毛糸を販売できなくなれば小さくない不利益を被ることになると認識していたものと認められるから,原告は,値引き限度価格を実効性をもって維持させていると合理的に認定することができる。
①については,査10号証によれば,イオンは,原告による買上げ及び出荷停止等を受けても,原告の要請に従って販売価格を値引き限度価格以上に引き上げることはしなかったことが認められるが,上記(4)のとおり,原告がイオンに対してハマナカ毛糸の出荷を停止する措置を講じたため,イオンはハマナカ毛糸を従前と同様に販売することができなくなり,前記第2の3(1)イ(ウ)のとおり,平成20年1月には,見切り品及び廃番品以外のハマナカの毛糸を取り扱わなくなったのであり,このことは他の小売業者に対しても「見せしめ」的な効果をもつことは明らかであるから,原告が値引き限度価格を実効性をもって維持させているとの認定は左右されない。
③④については,一般的にはインターネット小売業者及びその販売価格を把握するのは困難であるとしても,前記第2の3(1)ウのとおり,原告は,平成19年4月ころ,インターネット小売業者の販売価格の調査を行い,相当数のインターネット小売業者の販売価格を把握した上で,平成19年6月ころ,少なくとも15社のインターネット小売業者に対して,自ら又は卸売業者を通じて,同年7月1日以降,値引き限度価格以上の価格で販売するよう申し入れたこと,同年7月1日以降,申入れを受けたインターネット小売業者が販売価格を引き上げ,その他の小売業者も追随した結果,インターネット小売業者の販売価格が概ね標準価格の10パーセント引きの価格となったことが認められるから,原告が値引き限度価格を実効性をもって維持させているとの認定は動かない。
2 原告の行為の一般指定12項該当性について
本件審決の認定した事実(前記第2の3(1))によれば,原告は,自己の供給する商品であるハマナカ毛糸を購入する小売業者に対して,ハマナカ毛糸の販売価格を値引き限度価格以上と定め,この販売価格を維持するという拘束の条件をつけてハマナカ毛糸を供給し,かつ,ハマナカ毛糸を購入する卸売業者に対して,小売業者の販売価格を値引き限度価格以上と定め,この販売価格を維持させるという拘束の条件をつけてハマナカ毛糸を供給しているものということができる。
したがって,これらの原告の一連の行為(本件行為)は,包括して一般指定12項1号及び2号に該当するものといえる。
3 本件行為に正当な理由があるかどうかについて
原告は,本件行為の目的は,大多数の中小の小売業者が生き残れるようにし,産業としての,文化としての手芸手編み業を維持し,手芸手編み業界全体を守ることにあるところ,中小小売業者の生き残りを図るという部分は国民経済の民主的で健全な発展を促進するという独占禁止法の目的に,産業としての,文化としての手芸手編み業を維持するという部分は,一般消費者の利益を確保するという独占禁止法の目的に,それぞれ合致するものであり,本件行為には,一般指定12項の正当な理由があると主張する。
しかしながら,独占禁止法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は,公正かつ自由な競争秩序を維持することにあるから,同法2条9項4号(相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること)の「不当に」は,この法の趣旨に照らして判断すべきであり,同号の規定を具体化した一般指定12項は,再販売価格の拘束が相手方の事業活動における競争を阻害する点に不当性を認め,具体的な場合にこの不当性がないものを除外する趣旨で「正当な理由がないのに」との限定を付したものと解すべきである。したがって,この「正当な理由」は,公正な競争秩序維持の観点から,当該拘束条件が相手方の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいう。
原告の主張する目的のうち,中小小売業者の生き残りを図るという部分は,中小小売業者が自由な価格競争をしないことで生き残りを図るというのであるから,公正かつ自由な競争秩序維持の見地からみて正当性がないことは明らかであり,国民経済の民主的で健全な発展の促進という独占禁止法の目的に沿うともいえない。また,原告の主張する目的のうち,産業としての,文化としての手芸手編み業を維持するという部分は,一般的にみて保護に値する価値とはいえるものの,それが一般消費者の利益を確保するという独占禁止法の目的と直接関係するとはいえない上,同法23条の指定も受けていない商品について,上記の目的達成のために相手方の事業活動における自由な競争を阻害することが明らかな本件行為という手段を採ることが,必要かつ相当であるとはいえない。
よって,本件行為に一般指定12項の正当な理由があるとはいえない。
第4 結論
以上によれば,原告の審判請求を棄却した本件審決は正当であり,本件請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第3特別部

平成23年4月22日

裁判長裁判官 鈴木健太
裁判官 小池喜彦
裁判官 大沼和子
裁判官 後藤健
裁判官 林俊之

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