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(株)日新に対する件

独禁法66条2項(独禁法7条の2)

平成21年(判)第24号

審判請求棄却審決(課徴金の納付を命ずる審決)

横浜市中区尾上町六丁目84番地
被審人 株式会社日新
同代表者 代表取締役 筒 井 雅 洋
同代理人 弁 護 士 向   宣 明
同    弁 護 士 山 田 洋 平
同復代理人弁 護 士 脇 田 未菜子

公正取引員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官大久保正道,審判官酒井紀子及び審判官三輪睦から提出された事件記録に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人の審判請求を棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成23年5月10日

公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委 員 後藤  晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代
委 員 細川 清

平成21年(判)第24号

審   決   案

横浜市中区尾上町六丁目84番地
被審人 株式会社日新
同代表者  代表取締役 筒 井 雅 洋
同代理人  弁 護 士 向   宣 明
同     弁 護 士 山 田 洋 平
同復代理人 弁 護 士 脇 田 未菜子

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人の審判請求を棄却する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
平成21年(納)第11号課徴金納付命令のうち,97万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める。
第2 事案の概要(争いのない事実及び公知の事実)
1 被審人は,他の事業者と共同して,別紙記載の運送に係る業務(以下「国際航空貨物利用運送業務」という。)の運賃及び料金について,荷主向け燃油サーチャージ,一定額以上のAMSチャージ,一定額以上のセキュリティーチャージ及び一定額以上の爆発物検査料(これらの4料金を併せて,以下「4料金」という。)を荷主に対し新たに請求する旨を合意することにより(この合意を,以下「本件合意」という。),公共の利益に反して,我が国における国際航空貨物利用運送業務の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)。
なお,「荷主向け燃油サーチャージ」,「AMSチャージ」,「セキュリティーチャージ」及び「爆発物検査料」の詳細については,後記第3の1(2)で述べるとおりである。
2 公正取引委員会は,本件違反行為について,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであるとして,平成21年3月18日,被審人を含む12社に対し,平成21年(措)第5号排除措置命令書(以下「本件排除措置命令書」という。)により排除措置を命じた(以下「本件排除措置命令」という。)。本件排除措置命令書の謄本は,同月19日,被審人に送達された。
3 公正取引委員会は,本件違反行為に係る被審人の国際航空貨物利用運送業務について,独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものであり,小売業又は卸売業には該当しないとの判断の下に,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)の施行日前である平成18年1月3日以前の売上額14億6642万1128円に対しては算定率6パーセント(平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項)を,同月4日以降の売上額43億7228万8982円に対しては算定率10パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)を,それぞれ適用して,課徴金を5億2521万円と算定し,平成21年3月18日,被審人に対し,平成21年(納)第11号課徴金納付命令書(以下「本件納付命令書」という。)のとおり課徴金の納付を命じた(以下「原処分」という。)。本件納付命令書の謄本は,同月19日,被審人に送達された。
4 被審人は,本件排除措置命令に対して,独占禁止法第49条第6項の規定による審判請求をしなかったので,本件排除措置命令は,同条第7項の規定により確定した。
5 被審人は,原処分について,国際航空貨物利用運送業務は小売業に当たるから小売業の算定率(平成18年1月3日以前の売上額に対しては2パーセント,同月4日以降の売上額に対しては3パーセント)が適用されるべきであって,その結果算出された金額(1億6049万円)が課徴金の額となるから,原処分のうち,この金額を超える部分は取り消されるべきであるとして,原処分の一部取消しを求めて審判請求をした。
被審人は,審判手続開始後,第3回審判期日(平成21年12月9日)の直前である同月2日付けで審判請求の趣旨変更申立書を提出し,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務の対価に係るものではないから,本件違反行為のうち荷主向け燃油サーチャージに関する部分の売上額に課徴金を課することは許されないとして,審判請求の趣旨を,荷主向け燃油サーチャージに関する部分の売上額を除いた売上額に被審人の主張する小売業の算定率を適用して算出した金額(97万円)を超える部分についての取消しを求めるものに変更する旨の申立てをした(この申立てを,以下「本件変更申立て」という。)。
なお,これによると,最終的な課徴金の額は97万円となり,独占禁止法第7条の2第1項ただし書により,その納付を命ずることができないこととなるから,原処分の全部について取り消されることになる。
第3 原処分の原因となる事実等(以下の事実のうち,1(7)の事実は公知の事実であり,その余の事実は争いがない。)
1 本件違反行為に至る経緯を含む本件の事実経過等
(1) 本件違反行為者等について
ア (ア) 被審人,日本通運株式会社(以下「日本通運」という。),郵船航空サービス株式会社(以下「郵船サービス」という。),株式会社近鉄エクスプレス(以下「近鉄」という。),西日本鉄道株式会社,バンテックワールドトランスポート株式会社(旧商号・東急エアカーゴ株式会社。平成17年2月1日に現商号に変更。),ケイラインロジスティックス株式会社(旧商号・川崎航空サービス株式会社。平成18年7月1日に現商号に変更。),ヤマトグローバルロジスティクス株式会社(平成14年10月1日に,当時のヤマト・ユーピーエス・インターナショナル・エアカーゴ株式会社がヤマトグローバルフレイト株式会社に商号を変更し,平成16年10月1日に同社がヤマトロジスティクス株式会社に商号を変更し,平成20年8月1日に同社が現商号に変更したもの。以下,上記一連の商号変更の前後を通じて,「ヤマト」という。),商船三井ロジスティクス株式会社(以下「商船三井」という。),阪神エアカーゴ株式会社(以下「阪神エアカーゴ」という。)及びユナイテッド航空貨物株式会社(以下「ユナイテッド」という。)の11社(以下「11社」という。)並びにDHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社(旧商号・ダンザス丸全株式会社。平成18年12月1日,DHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社に商号変更。以下,上記商号変更の前後を通じて,「DHL」という。)は,貨物利用運送事業法(平成元年法律第82号)の規定に基づき国土交通大臣の行う登録又は国土交通大臣の許可を受けて,国際航空貨物利用運送業務を営む者である。
(イ) 株式会社阪急阪神交通社ホールディングス(以下「阪急阪神交通社」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,国際航空貨物利用運送業務を営んでいた者であるが,平成20年4月1日,同社が全額出資している株式会社阪急エクスプレスに対し,吸収分割により当該業務を承継させ,以後,当該業務を営んでいない。
(ウ) エアボーンエクスプレス株式会社(以下「エアボーン」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,国際航空貨物利用運送業務を営んでいた者であるが,平成15年12月31日,当該業務を廃止し,以後,当該業務を営んでいない。
イ (ア) 11社及びDHLは,社団法人航空貨物運送協会(以下「協会」という。)の正会員である。阪急阪神交通社及びエアボーンは,国際航空貨物利用運送業務を営んでいた当時,協会の正会員であった。
(イ) 11社及びDHLは,協会に設けられた国際部会役員会と称する組織(以下「国際部会役員会」という。)の構成員会社である。阪急阪神交通社及びエアボーンは,国際航空貨物利用運送業務を営んでいた当時,国際部会役員会の構成員会社であった。
(ウ) 11社,DHL,阪急阪神交通社及びエアボーンの14社(以下「14社」という。)は,おおむね2か月ごとに開催される国際部会役員会の会合に出席していた。
ウ 14社は,原則として,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を設定又は変更したときは,貨物利用運送事業報告規則(平成2年運輸省令第32号)の規定に基づき,その設定又は変更を行った後,国土交通大臣に届出を行っていた。
エ 14社は,自らが荷主に請求する国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を定め,これを,自ら又は代理店を含む他の事業者を通じて,荷主に請求していた。
オ 14社の国際航空貨物利用運送業務における貨物量の合計は,我が国における国際航空貨物利用運送業務における総貨物量の大部分を占めており,日本通運,近鉄及び郵船サービスの3社(以下「大手3社」という。)の国際航空貨物利用運送業務における貨物量の合計は,14社の国際航空貨物利用運送業務における貨物量の合計の大部分を占めていた。
(2) 本件合意について
ア 荷主向け燃油サーチャージについて
(ア) a 平成14年8月頃,航空燃油価格(以下「燃油価格」という。)が上昇し始めたため,国際航空運送業務を営む者(以下「航空会社」という。)は,我が国に所在する空港を出発地空港とする国際路線で運航される航空機(以下「我が国発の航空機」という。)に搭載される貨物について,燃油サーチャージ(航空会社が,燃油価格の高騰時に限り,同価格の変動の程度に合わせて設定し,航空運賃に付加して顧客に請求するものをいう。以下同じ。)を設定し請求することとし,順次,国土交通大臣の認可を受けて,同年10月16日以降,国際航空貨物利用運送業務を営む者(以下「国際航空貨物利用運送事業者」という。)に対する燃油サーチャージの請求を開始した。
b 大手3社は,平成14年9月中旬に,航空会社から,燃油価格の上昇が続いているため,同年10月16日以降に我が国発の航空機に搭載される貨物について,燃油サーチャージを設定する予定である旨の説明を受けた。
(イ) a 前記(ア)bの説明により,航空会社から燃油サーチャージの請求を受ける見込みが強まったことから,これに対応するため,14社のうち日本通運及びDHLを除く者らは,平成14年9月18日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビル(貨物について利用運送契約が締結されたことを証するために国際航空貨物利用運送事業者と荷送人との間で作成される航空運送状をいう。以下同じ。)の発行日が同年10月16日以降である貨物を対象に,利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額を,荷主に対する燃油サーチャージ(以下「荷主向け燃油サーチャージ」という。)として荷主に対し新たに請求する旨を合意した。
b 日本通運及びDHLは,遅くとも平成14年11月8日までに,前記aの合意に加わった。
イ AMSチャージについて
(ア) a アメリカ合衆国の税関当局は,航空運送に関する保安対策の一環として,同国外に所在する空港を離陸して同国内に所在する空港に着陸する航空機に搭載された貨物についての情報を,航空会社から,オートメイテッド・マニフェスト・システムと称する通関システム(以下「AMS」という。)を通じて電子的に送信する方法により,同局に対し事前に申告させる制度(以下「航空貨物情報事前申告制度」という。)を平成16年8月13日以降段階的に実施することとし,同年12月13日以降,同国内に所在する全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に,航空貨物情報事前申告制度を実施することとした。
b 航空会社は,航空貨物情報事前申告制度に対応するため,平成16年8月13日以降,国際航空貨物利用運送事業者から,運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビル情報(ハウスエアウェイビルに記載された情報をいう。以下同じ。)について,当該事業者から提供を受けてこれをAMSを通じて電子的に送信する方法により,アメリカ合衆国の税関当局に申告することとした。
c また,航空会社は,平成16年8月13日以降,国際航空貨物利用運送事業者に対し,あらかじめ定めた一定の額のハウスエアウェイビル情報送信手数料(ハウスエアウェイビル情報をAMSを通じて電子的に送信するための手数料をいう。以下同じ。)を請求することとし,同年7月中旬頃,近鉄に対し,その旨説明した。
(イ) 11社,DHL及び阪急阪神交通社の13社(以下「13社」という。)は,ハウスエアウェイビル情報送信手数料を含めた,航空貨物情報事前申告制度が実施されたことに伴い生ずる費用を賄うため,平成16年11月22日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が原則として平成16年12月13日(遅くとも平成17年1月1日)以降である貨物であって,アメリカ合衆国を仕向地(貨物の到着地をいう。以下同じ。)とするもの及び同国を経由して運送されるものであってヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とするものを対象に,ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上を,AMSチャージとして荷主に対し新たに請求する旨を合意した。
ウ セキュリティーチャージ及び爆発物検査料について
(ア) a 国土交通省は,航空運送に関する保安対策の一環として,平成18年4月1日以降,国際航空貨物利用運送事業者に対し,原則として,航空会社が運航する航空機に搭載される全ての貨物について,爆発物検査(貨物の安全を確認するために行う爆発物検査装置による検査又は開披検査をいう。以下同じ。)を行うことを義務付けるとともに,保安教育訓練,施設の管理及び貨物の取扱い等について適切な保安措置を講じていると認められる国際航空貨物利用運送事業者を特定航空貨物利用運送事業者として認定し,特定航空貨物利用運送事業者が自らと取引を行っている荷主のうち保安体制を確保していることを確認した者(以下「特定荷主」という。)から運送を引き受けた貨物であって,特定荷主から出荷して航空会社へ引き渡すまでを当該特定航空貨物利用運送事業者が一貫して取り扱うものについては,原則として,爆発物検査を免除することとした。
b 13社は,いずれも,平成18年4月1日までに特定航空貨物利用運送事業者としての認定を受け,また,爆発物検査を行う必要がある貨物について,自ら又は他の事業者に委託して爆発物検査を行うこととして,そのための体制を整備した。
(イ) 13社は,平成18年2月20日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が同年4月1日以降である貨物を対象に,以下のとおりの合意をした。
a 特定航空貨物利用運送事業者として講じた適切な保安措置を維持するために必要な費用を賄うため,ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上を,セキュリティーチャージとして荷主に対し新たに請求する。
b 爆発物検査を行うために必要な費用を賄うため,爆発物検査を実施したときは,前記セキュリティーチャージに加えて,ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を,爆発物検査料として荷主に対し新たに請求する。
(3) 14社は,前記(2)の合意(本件合意)の実効性を確保するため,国際部会役員会の会合の場を利用して,荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ及びセキュリティーチャージ等の収受状況を互いに発表するなどしていた。
(4) 14社は,本件合意に基づき,荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料を荷主に請求し,おおむねこれを収受していた。
(5) 大手3社は,アメリカ合衆国司法省,欧州委員会等が,競争法違反の疑いにより,アメリカ合衆国,ヨーロッパ等の地域に所在する国際航空貨物利用運送事業者に対する調査を開始した旨の情報に接したこと等から,平成19年11月12日,東京都港区に所在する日本通運の本社の会議室において開催した大手3社の役員級の者らの会合において,今後,国際部会役員会の会合を開催しないことを申し合わせ,同日以降,同会合は開催されていない。これにより,同日以降,本件合意は事実上消滅している。
(6) 以上のとおり,14社は,共同して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,本件合意をすることにより,公共の利益に反して,我が国における国際航空貨物利用運送業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条に違反するものである。
(7) 公正取引委員会は,前記第2の2のとおり,本件違反行為に関して,11社及び阪急阪神交通社の12社(以下「12社」という。)に対し,本件排除措置を命じたところ,被審人,日本通運,近鉄,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド及び阪急阪神交通社の8社は,審判請求を行わず,本件排除措置命令が確定している。
また,公正取引委員会は,本件違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する対価に係るものであるとして,12社に対し,課徴金の納付を命じたところ,前記8社のうち被審人を除く7社は,審判請求を行わず,各課徴金納付命令が確定している。
2 課徴金の計算の基礎
(1) 本件違反行為の主体
被審人は,前記1(1)のとおり国際航空貨物利用運送事業者であり,独占禁止法第7条の2第1項に該当する事業者である。
(2) 本件違反行為の実行期間
被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成16年11月11日以前である。また,被審人は平成19年11月12日以降,本件違反行為を取りやめており,同月11日にその実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,被審人については,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,平成17年改正法附則第5条第2項及び第3項の規定により変更して適用される独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成16年11月12日から平成19年11月11日までの3年間となる。
(3) 被審人の売上額
前記(2)の実行期間における国際航空貨物利用運送業務に係る荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に相当する部分を,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条第1項の規定に基づき算定すると,平成17年改正法の施行日である平成18年1月4日(以下「施行日」という。)前に係るものについては14億6642万1128円,施行日以後に係るものについては43億7228万8982円となる(上記売上額自体については争いがない。なお,被審人は,上記売上額のうち,荷主向け燃油サーチャージに相当する部分は,課徴金の対象となる売上額には該当しないと主張しており,この点については,後記第6の2で判断する。)。
上記売上額を基に,被審人の事業である国際航空貨物利用運送業務が小売業及び卸売業に当たらないとの前提で課徴金の額を算出すると,施行日前の分は,平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定により,前記14億6642万1128円に100分の6を乗じて得た額,施行日以後の分は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,前記43億7228万8982円に100分の10を乗じて得た額であるから,これらの額を合計し,同条第18項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された5億2521万円となる(なお,被審人は,国際航空貨物利用運送業務が小売業又は卸売業に該当すると主張しており,この点については,後記第6の3で判断する。)。
第4 本件の争点
1 本件変更申立ては,独占禁止法第59条第2項に違反するため,又は,時機に後れたものであって審判手続を著しく遅延させることになるため,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更は許されないか否か。(争点1)
2 本件違反行為のうち荷主向け燃油サーチャージに関する部分は独占禁止法第7条の2第1項の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当するか否か(すなわち,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務の対価であるか否か。)。(争点2)
3 被審人の業務である国際航空貨物利用運送業務は小売業又は卸売業に該当するか否か。(争点3)
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(本件変更申立ては,独占禁止法第59条第2項に違反するため,又は,時機に後れたものであって審判手続を著しく遅延させることになるため,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更は許されないか否か。)について
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第59条第2項の規定によれば,独占禁止法第49条第7項の規定により審判請求期間内に審判請求がないために課徴金納付命令に係る排除措置命令が確定したときは,被審人は,当該課徴金納付命令に係る違反行為の不存在を主張することができない。ここにいう「違反行為」とは,排除措置命令書に記載されている違反行為又はその認定の基礎となった事実に当たるものをいい,具体的には,不当な取引制限に係る合意,一定の取引分野,競争の実質的制限の有無等をいう。
本件変更申立ては,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務の「対価」(独占禁止法第7条の2第1項第1号)に該当しないことを理由とするものであるから,結局,本件違反行為の不存在を主張するものであって,独占禁止法第59条第2項に反し,許されない。
よって,本件変更申立ては,法律上許されない主張を根拠とするものであるから,このような審判請求の趣旨の変更は許されない。
イ 本件変更申立ての理由となっている「荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務の対価に該当しないこと」は,被審人において,審判請求時,あるいは審判開始直後に主張することが可能であった。
そうであるにもかかわらず,被審人が本件変更申立てをしたのは,審判請求から6か月以上経過した第3回審判期日であり,この時点での審判手続は,双方の主張立証がほぼ終了し,参考人審尋などの人証調べを残すのみとなっていた。
よって,本件変更申立ては,時機に後れたものであり,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更を許せば,著しく審判手続を遅延させることになるから,民事訴訟法第143条第1項ただし書及び第157条の趣旨に鑑み,このような審判請求の趣旨の変更は許されない。
(2) 被審人の主張
ア 独占禁止法第59条第2項により課徴金納付命令に係る審判手続において制限される主張は,「違反行為の不存在」の主張,つまり,「不当な取引制限」に該当する行為が存在しなかった旨の主張である。したがって,排除措置命令の対象となる違反行為であることは争わないが,かかる行為が「商品又は役務の対価に係るもの」に当たらないため,課徴金納付命令の対象とならないと主張することは,「違反行為の不存在」を主張するものではない。
被審人が,本件変更申立てにおいて主張するところは,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務という「役務の対価に係るもの」ではなく,課徴金の納付命令の対象となる「売上額」に該当しないというものであって,「不当な取引制限」に該当する行為があったことを争っているわけではない。
したがって,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更に何ら違法な点はなく,認められるべきである。
イ 独占禁止法には,時機に後れた攻撃防御方法の却下に係る規定はないし,民事訴訟法第143条第1項ただし書及び第157条が適用あるいは準用される旨の規定もない。
審判手続では,審査官が処分の適法性・相当性について全面的に主張立証責任を負っており,証拠の偏在も顕著であるから,民事訴訟法と同列に論じて,民事訴訟法第143条及び第157条の規定を審判手続に持ち込むことには疑問がある。公正取引委員会の審判に関する規則(以下「審判規則」という。)第28条が,審査官の主張変更についてのみ,これを制約する規定を設けていることも,上記主張を裏付けるものである。
また,民事訴訟法第157条は,新たな抗弁及び証拠といった攻撃防御方法の提出時期について定めるものであって,請求の趣旨の変更申立ての許否には関係がない。
以上によれば,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更は許されるべきである。
2 争点2(本件違反行為のうち荷主向け燃油サーチャージに関する部分は独占禁止法第7条の2第1項の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当するか否か。)について
(1) 審査官の主張
ア 本件違反行為は,本件排除措置命令書記載のとおりであり,被審人を含む14社が国際航空貨物利用運送業務という役務の運賃及び料金について,4料金として荷主に対して新たに請求する旨合意することにより国際航空貨物利用運送業務の取引分野における競争を実質的に制限したというものである。
イ 本件違反行為の対象となる役務は,国際航空貨物利用運送業務であるところ,同業務は,個々の作業が全体として一つの業務を構成しているものである。
14社は,荷主の求めに応じて,国際航空貨物利用運送業務の全部又は一部を提供し,その全体として一つに構成された業務の代金,すなわち対価として,4料金を含む運賃及び料金を荷主に対して請求し収受していたのであるから,当該運賃及び料金が国際航空貨物利用運送業務の対価である。
被審人は,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金のうち,荷主向け燃油サーチャージのみを切り離し,同業務の対価ではないと主張するが,一つの業務の対価のうち,一部分のみを取り出してその性質を論じることはできない。
ウ  荷主向け燃油サーチャージが国際航空貨物利用運送業務の対価でないとする被審人の主張が誤りであることは,以下に述べるところからも明らかである。
(ア) 14社は,荷主に提供した国際航空貨物利用運送業務の内容に応じて,荷主に対し,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金」として,本体運賃(14社が荷主に請求する航空運賃をいう。以下同じ。)及び4料金以外のその余の料金(以下「その余の料金」という。)とともに4料金を請求し,収受しており,本体運賃及びその余の料金と別個に4料金を請求したことはなかった。
(イ) 被審人は,荷主向け燃油サーチャージについて,被審人が航空会社のために荷主から代行回収するものであるなどと主張するが,国際航空貨物利用運送業務における契約関係は,荷主と14社との間は利用運送という運送契約であり,14社と航空会社との間は実運送という運送契約であって,荷主と航空会社の間には何ら契約関係はない。したがって,代行回収などということはない。
(ウ) 14社は,①重量逓減制(貨物に適用すべき賃率〔貨物1キログラム当たりの航空運賃の額をいう。以下同じ。〕が,一般に,貨物の重量区分ごとに異なっており,貨物の重量が増加するのに比例して賃率が低くなるという制度をいう。以下同じ。)を利用して,不特定多数の荷主から運送を引き受けた比較的重量の小さい貨物を重量の大きい貨物として仕立てる,又は,②実重量(貨物の実際の重量をいう。以下同じ。)が適用される貨物と容積重量(貨物の容積が6,000立方センチメートルを超える場合には,6,000立方センチメートルを1キログラムとして得た重量をいう。以下同じ。)が適用される貨物があることを利用して,不特定多数の荷主から引き受けたこれらの貨物の組合せを工夫する,といった手法により,荷主からは高い賃率(重量の小さい貨物)が適用される本体運賃を請求・収受する一方,航空会社に対しては安い賃率(重量の大きい貨物)が適用される航空運賃を支払うことにより,この差額を利益としていた(この利益を,以下「混載差益」という。)。
同様に,14社が荷主に対して請求する荷主向け燃油サーチャージについて,航空会社に支払う燃油サーチャージの料率(1キログラム当たりの額。以下同じ。)と同じ料率の荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求・収受する場合でも,上記のとおり実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物を組み合わせることにより混載差益を生じることがあった。そのため,荷主が14社に対して負担する荷主向け燃油サーチャージの額が,14社が航空会社に支払う額より多い場合もあった。
被審人が主張するように,荷主向け燃油サーチャージが航空会社のために代行回収するものであるとすれば,このような事態が生ずるはずはない。このような事態が生ずるということは,荷主向け燃油サーチャージが,国際航空貨物利用運送事業者と荷主との間の契約から発生する国際航空貨物利用運送業務の対価の一部であることを示すものである。
(エ) 被審人は,荷主向け燃油サーチャージが航空会社のために代行回収するものであることの根拠として,旅客向け燃油サーチャージについては,旅行会社が航空会社に代わって代行回収しているとされることを指摘する。
しかし,前記(イ)のとおり,国際航空貨物利用運送業務における契約関係は,荷主と国際航空貨物利用運送事業者との間は利用運送という運送契約であり,国際航空貨物利用運送事業者と航空会社との間は実運送という運送契約であって,混載貨物について「荷送人」となって航空会社が行う航空機による実運送を利用するのは,あくまでも国際航空貨物利用運送事業者である。これに対し,旅行会社は,航空会社との間で旅客運送契約を締結することはなく,航空会社と実運送契約を締結するのは旅客であるから,そもそも国際航空貨物利用運送業務の場合とは契約の態様が異なっている。実際にも,旅行会社が,利用運送業務を行っている実例はない。
(2) 被審人の主張
ア 荷主向け燃油サーチャージは,独占禁止法第7条の2第1項にいう「商品又は役務の対価」ではないから,本件違反行為のうち荷主向け燃油サーチャージに係る合意は対価に係るものではなく,同条の適用を受けない。
イ (ア) 競争の促進を図るという独占禁止法の趣旨(独占禁止法第1条参照)と取引分野の画定は需要者にとっての代替性が重要であることからすると,一定の取引分野は,競争相手ごとに区分されると解される。
(イ) 国際航空貨物利用運送業務は,集貨業務,輸出通関業務,航空機による混載貨物の運送業務,相手国における輸入通関業務,荷受人までの配達業務等から構成されるが,国際航空貨物利用運送事業者のみが行うことができるのは,航空機による混載貨物の運送業務であり,これ以外の業務では,競争相手が異なるから,取引分野も異なる。よって,国際航空貨物利用運送事業者の提供する役務は,同事業者しか行えない「航空機による混載貨物の運送業務」であるとみるべきである。
「航空機による混載貨物の運送業務」の対価に該当するのは,本体運賃であって,荷主向け燃油サーチャージは上記業務の対価には該当しない。
(ウ) 以上のとおり,国際航空貨物利用運送事業は,複数の取引分野に属する業務により構成される事業であるから,独占禁止法第7条の2の適否を論ずる局面において,個々の作業が全体として一つの業務を構成しているとして,全てを渾然一体と捉えることは不当である。さらに,個々の業務が全体として一つの業務を構成しているものであるとしても,それだけでは,荷主向け燃油サーチャージも国際貨物利用運送業務の対価となる理由が不明である。
ウ (ア) 燃油サーチャージは,燃油価格が高騰したことから,実運送事業者が燃油価格の変動に応じた金額を利用者に請求するようになったものである。
荷主向け燃油サーチャージは,国際航空貨物利用運送事業者を介して航空運送が行われる場合に,運送による便益を享受する荷主が負担する燃油サーチャージである。
(イ) 荷主向け燃油サーチャージについての国際航空貨物利用運送事業者と荷主の間の合意は,「運送が実施された時点で国際航空貨物利用運送事業者が航空会社に対して立替払をした燃油サーチャージを実費で支払う」という内容になる。この合意の対象となっている役務は,国際航空貨物利用運送事業者が航空会社に燃油サーチャージを「立替払をすること」であり,国際航空貨物利用運送業務契約における本来の役務である「航空機による混載貨物の運送業務」ではない。
このように荷主向け燃油サーチャージは,国際航空貨物利用運送事業者が提供する役務とは無関係のものとして合意されているのである。
(ウ) 荷主向け燃油サーチャージは,賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額とされており,国際航空貨物利用運送事業者が実運送事業者に対して支払う燃油サーチャージの金額と同様の計算方法となっている。したがって,荷主が負担する荷主向け燃油サーチャージの額と国際航空貨物利用運送事業者が航空会社から請求される燃油サーチャージの額は同じ金額である。
他方,本体運賃についてみると,国際航空貨物利用運送事業者は,航空会社が設定する航空運賃にマージンを上乗せした金額を本体運賃として荷主に請求するのであり,この上乗せしたマージンこそが国際航空貨物利用運送事業者が提供する役務の対価なのである。こうした点からも,荷主向けサーチャージは役務の対価でないことがうかがわれる。
なお,実運送事業者が賃率適用重量に応じて燃油サーチャージを請求する以上,常に同額で荷主に請求することは不可能であり,利益が生じることがあるが,そのようなことがしばしばあるわけではないし,意図して利益を生じさせることができるわけでもない。そもそも,荷主向け燃油サーチャージは,国際航空貨物利用運送事業者が提供する役務の対価ではないから,利益が生じたとしても対価には当たらない。
(エ) 被審人は,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求するに際して,本体運賃とは別個の費目に分類している。このことも,荷主向け燃油サーチャージが役務の対価でないことをうかがわせるものである。
(オ) 国際航空貨物利用運送事業者は,荷主向け燃油サーチャージの徴収について,航空会社の代行回収をしているという認識を持っている。この「代行回収」は,法的な意味での代行回収ではなく,燃油サーチャージが,経済的にみて,荷主が負担し,航空会社に支払うべきものであって,国際航空貨物利用運送事業者が負担すべきものではないとの意味である。
(カ) 審査官は,国際航空貨物利用運送事業者は航空会社との間で燃油サーチャージの額を交渉することが可能であると主張するが,それはあくまでも法律上可能であるということにすぎない。実際には,航空会社(実運送会社)と国際航空貨物利用運送事業者との間では,航空会社(実運送会社)が非常に優越的な地位にあり,交渉を試みても実現の可能性はなく,航空会社から請求された燃油サーチャージを言わば言い値で支払うしかない状況にある。
(キ) 国際航空貨物利用運送業務には,本件で問題となっている混載という事業形態のほかに,荷主が航空会社と直接運送契約を締結し,航空会社が自ら荷主に運送を提供し,国際航空貨物利用運送事業者は単に航空会社の代理店として事務を行う,という事業形態があり,直載と呼ばれている。直載の場合においては,契約上航空会社に対して燃油サーチャージの支払義務を負うのは,荷主であるところ,決裁システムの関係から,まず国際航空貨物利用運送事業者が荷主に代わって航空会社に燃油サーチャージを支払い(代行支払),その後,荷主から燃油サーチャージを回収している(代行回収)。
旅客運送契約においては,旅客と航空会社が直接運送契約を締結する点において上記直載の場合と同様であるところ,旅客向け燃油サーチャージは,旅行会社が航空会社に代わって徴収業務を代行しているとされているから,この点でも上記直載の場合と同様である。
混載と直載の違いは,国際航空貨物利用運送事業者が自ら運送(航空会社から仕入れた運送)を提供するか否かという点だけであり,その実態に相違はない。
以上によれば,混載の場合の荷主向け燃油サーチャージのみを,直載の場合や旅客運送契約の場合と別異に解釈することは不当であり,混載の場合の荷主向け燃油サーチャージについても,国際航空貨物利用運送事業者が代行回収しているものと考えるべきである。
(ク) 以上述べたところによれば,荷主向け燃油サーチャージについては,荷主が航空会社に支払うべき燃油サーチャージを国際航空貨物利用運送事業者が代行支払をし,これを荷主向け燃油サーチャージとして荷主から回収しているものと解するべきであって,いずれにしろ,国際航空貨物利用運送業務の対価でないことは明らかである。
3 争点3(被審人の業務である国際航空貨物利用運送業務は小売業又は卸売業に該当するか否か)について
(1) 審査官の主張
ア 課徴金の判断の枠組み
(ア) 課徴金制度は明確かつ画一的に算定された売上額と一定の比率とを乗ずる方法により形式的に算定する制度を採用している(東京高裁平成9年6月6日判決・公正取引委員会審決集第44巻521頁〔大日本印刷株式会社ほか2名による審決取消請求事件〕)。
(イ) 課徴金の算定率を適用するに当たって,卸売業又は小売業の該当性の判断は,日本標準産業分類によることを前提としている(東京高裁平成13年11月30日判決・公正取引委員会審決集第48巻550頁〔東京海上火災保険株式会社ほか17名による審決取消請求事件。以下「機械保険審決取消請求事件判決」という。〕,東京高裁平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁〔東燃ゼネラル石油株式会社による審決取消請求事件。以下「東燃ゼネラル審決取消請求事件判決」という。〕)。
(ウ) 「小売業」及び「卸売業」のみを明示して例外的な算定率を定めているのであるから,国際航空貨物利用運送業務と小売業の事業の実態が類似していること,また,小売業の売上高営業利益率と近似していることを理由として,小売業に係る算定率を適用・準用することは許されない。このことは,機械保険審決取消請求事件判決においても「課徴金制度は一律的な非裁量制度として法定されており,『卸売業』及び『小売業』のみを明示して例外的な算定率を定めている独禁法の下では,保険業に流通業的性格があるとか,保険業と卸・小売業の各売上高営業利益率が近似しているという点をとらえて,保険業に卸・小売業に係る算定率を準用することは許されない。」と判示されている。
(エ) 東燃ゼネラル審決取消請求事件判決は,違反行為を行った事業者の事業活動の内容が,形式的には卸売業又は小売業に属するものであっても,実質的には卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められるときは,卸売業又は小売業の機能に属しない他業種として認定して,課徴金の算定に当たって原則の算定率(6パーセント又は10パーセント)を適用したというものであるが,このような事例があるからといって,形式的基準から卸売業又は小売業以外の業種と判断される場合について,実質的基準により卸売業又は小売業に該当するか否かを判断することが要請されているものではない。
イ 国際航空貨物利用運送事業者である被審人は小売業者及び卸売業者に該当しないこと
以下の事実によれば,国際航空貨物利用運送業務は小売業及び卸売業のいずれにも該当しないから,課徴金の算定率は平成18年1月3日以前の違反行為に対しては6パーセント,同月4日以降の違反行為に対しては10パーセントとなる。
(ア) 国際航空貨物利用運送事業者である14社は,荷主の求めに応じて,独自の「利用運送」という運送役務である国際航空貨物利用運送業務の全部又は一部を提供していた。
(イ) 本件国際航空貨物利用運送業務は,日本標準産業分類上は,卸売業又は小売業以外の業種と判断される業種である。
(ウ) 被審人は,荷主の求めに応じて,独自の「利用運送」という運送役務である国際航空貨物利用運送業務を提供するものである。審第3号証の1及び2(ハウスエアウェイビル)によると,被審人は,同号証に記載された貨物の利用運送を荷主から引き受けるに当たって,アメリカ合衆国のサンディエゴに所在する荷受人まで当該貨物を利用運送することとして引き受け,当該貨物を混載貨物に仕立て,被審人自らが荷送人となって,大韓航空を利用してアメリカ合衆国のロサンゼルス空港まで運送し,更に,ロサンゼルス空港からサンディエゴまで,米国日新等をして手配した運送機関を利用して運送して,荷主から指定されたサンディエゴに所在する荷受人に配達したことが認められるのであり,被審人の事業は,実質的にみても,小売業又は卸売業には該当しないというべきである。
(2) 被審人の主張
ア 課徴金の判断の枠組み
(ア) 課徴金制度が一律的な非裁量的制度として法定されていることと,小売業かどうかを判断するに当たり,事業実態を認定することは矛盾するものではない。
事業実態を判断するに当たり,事実を認定し,評価を加えることは当然に予定されている。
「卸売業」,「小売業」といった分類が規定されているのみで定義規定がおかれていないことは,個々の事業の実態を認定し,当該事業が「卸売業」,「小売業」に該当するか否かを判断することが期待されているといえる。
(イ) 独占禁止法第7条の2第1項の「小売業」に該当するか否かは,商品を仕入れ,それを小口にして需要者に供給するかどうかという事業活動の実態に照らして判断するべきである(東燃ゼネラル審決取消請求事件判決参照)。
(ウ) 小売業について,課徴金算定率が低く設定されているのは,商品を仕入れて販売するという事業実態からマージンによって利益を得るものであり,売上げに比して経済的利得(売上高営業利益率)が小さいから,比較的低い算定率によっても,十分に経済的利得を剥奪するという目的を達成することができるためである。
(エ) 日本標準産業分類は,当該事業所全体の業種区分を定めることに用いるものであるのに対し,課徴金算定率に係る業種分類は,違反行為の対象商品・役務についての事業活動の実態に着目して適用されるものであり,両者は趣旨を異にしているから,日本標準産業分類が直ちに本件業種区分を認定する根拠にはならない。
イ 被審人が小売業者に該当すること
以下の事実によれば,被審人は実質的に小売業というべきであり,算定率は平成18年1月3日以前の違反行為に対しては2パーセント,同月4日以降の違反行為に対しては3パーセントとなる。
(ア) 国際航空貨物利用運送業務は,実運送人である航空会社から,航空会社の実運送という商品を仕入れ,それを荷主に対して小口で販売し,その際のマージンにより利益を得ているものであり,小売業と同様の構造を有している。国際航空貨物利用運送事業者が実運送をゼロから作り出すものではない。
このことは,航空貨物運送状(エアウェイビル)(審第2号証ないし第4号証)をみれば,被審人が実運送を行う航空会社から発行を受けたマスターエアウェイビルの貨物の重量がこれに対応する荷主に対して発行するハウスエアウェイビルの各荷主の貨物の重量の和と一致することからしても明らかである。
(イ) 国際航空貨物利用運送事業者は,小売業が有しているとされる買物情報提供機能,購買代理機能,価格調整機能,立地的・時間的便宜性提供機能といった機能を有している。
(ウ) 国際航空貨物利用運送業務についても,利益率は低く,利益は荷主から受け取る運送料と実運送事業者に支払う利用料との差額(マージン)にすぎない。
第6 審判官の判断
1 争点1(本件変更申立ては,独占禁止法第59条第2項に違反するため,又は,時機に後れたものであって審判手続を著しく遅延させることになるため,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更は許されないか否か。)について
(1) 審査官は,本件変更申立てについて,違反行為の不存在を主張するものであり,独占禁止法第59条第2項に違反するものであると主張する。しかし,被審人は,本件変更申立ての理由において,本件違反行為のうち14社の国際航空貨物利用運送業務についての合意が独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条に違反することを争っているものではなく,当該合意が不当な取引制限に該当すること自体は認めた上で,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務という役務の対価ではないから,独占禁止法第7条の2第1項にいう対価に係るものではないと主張しており,この主張が実質的にも違反行為の不存在を主張することになるわけではないから,被審人の主張は,独占禁止法第59条第2項に反するものではないというべきである。
したがって,本件変更申立てが独占禁止法第59条第2項に反することを理由として,審判請求の趣旨の変更が許されないとする審査官の主張は,採用することができない。
(2) 審査官は,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更は,民事訴訟法第143条第1項ただし書及び第157条の趣旨に鑑み,時機に後れたものとして,また,著しく手続を遅延させるものとして許されないと主張する。これに対して,被審人は,独占禁止法や審判規則に民事訴訟法第143条第1項ただし書及び第157条を適用又は準用する規定がないことや審判規則第28条の反対解釈を根拠に,審判手続には,民事訴訟法第143条第1項ただし書及び第157条の適用はないと主張する。
独占禁止法第58条第2項に基づく規則第28条第1項は,訴追者たる審査官の原処分の原因となる事実の変更が被審人の防御権の行使を害する可能性が高いため,事実の変更が可能であることを明らかにするために置かれた規定であり,同条第2項は,争訟手続上の信義則という一般原則を定めたものと解すべきであるから,その趣旨は,被審人についても類推適用されるべきものである。したがって,これと同趣旨の規定である民事訴訟法第143条第1項ただし書及び第157条の趣旨が手続上の信義則により,審判手続においても類推適用されることはあり得ると解される。
そこで検討するに,本件変更申立ては,当初,本件違反行為が対価に係るものであることを争っていなかった被審人が,「荷主向け燃油サーチャージ」は国際航空貨物利用運送業務という役務の対価ではないから,本件違反行為のうち荷主向け燃油サーチャージについての合意は,対価に係る不当な取引制限ではなく,したがって,荷主向け燃油サーチャージに係る売上額に課徴金を課すことはできないとして,審判請求の趣旨の変更を申し立てたものである。
本件審判の経過は,第1回審判期日平成21年8月25日,第2回審判期日同年10月15日,第3回審判期日同年12月9日,第4回審判期日平成22年2月18日,第5回審判期日同年4月16日,第6回審判期日同年6月8日,第7回審判期日同年6月28日(参考人審尋),第8回審判期日同年9月7日(審判手続終結)というものであり,本件変更申立てに係る審判請求の趣旨変更申立書は,第3回審判期日の直前である平成21年12月2日に提出されている。
「荷主向け燃油サーチャージ」が国際航空貨物利用運送業務という役務の対価であることを認めていた被審人が,これを否認するに至ったことにより,それまでの審査官の主張立証に加えて,更に主張立証が必要となる可能性があり,ある程度手続が遅延することがあるとしても,本件変更申立ては本件違反行為全体について主張立証が必要となるようなもの,すなわち,著しく手続を遅滞させるようなものではないと認められる。
以上検討したところによれば,少なくとも,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更及びこれに伴う主張の変更は,それ以前の双方の主張立証の状況から判断して,看過できない程に審判手続を遅延させるものであったとはいえず,審査官のこの点に関する主張は,失当である。
(3) 以上によれば,本件変更申立てによる審判請求の趣旨の変更は許されるというべきである。
2 争点2(本件違反行為のうち荷主向け燃油サーチャージに関する部分は独占禁止法第7条の2第1項の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当するか否か。)について(以下,各項末尾に括弧書きで当該部分を認定した証拠を掲記した。)
(1) 本件違反行為の対象となる役務
本件排除措置命令書によれば,本件違反行為の対象となる役務は国際航空貨物利用運送業務であり,他人の需要に応じ,有償で,航空運送事業を営む者の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送(これに先行及び後続する当該貨物の集配のためにする自動車による運送を併せて行う場合における当該運送を含む。)とされる。具体的には,荷送人からの貨物の集荷,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への貨物の引渡し,航空機への搭載,航空機による運送,仕向地の空港への到着後の航空機からの取りおろし,混載貨物仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等という業務から成り,アメリカ合衆国によって実施されたAMSを利用した航空貨物情報事前申告制度導入に伴う業務,国土交通省によって実施された保安対策及び爆発物検査等の実施に伴う作業もこの運送業務に含まれる。
   (査第3号証,第4号証)
(2) 本件違反行為の対象となる役務の対価
国際航空貨物利用運送事業者が,国際航空貨物利用運送業務を提供する場合,その運賃及び料金は,提供した個々の作業の料金及び費用の合算によって決定されている。すなわち,同業務は,荷送人から荷受人までの貨物の運送について,運送,航空貨物情報事前申告,保安対策,爆発物検査等という作業を提供するものであり,それぞれの作業について対応する料金及び費用が発生するが,これらを併せて,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金とされている。したがって,国際航空貨物利用運送事業者は,航空運送に対応する料金及び費用として運送料及び荷主向け燃油サーチャージ,AMS申告制度に対応する料金及び費用としてAMSチャージ,保安対策体制の整備に対応する料金及び費用としてセキュリティーチャージ,爆発物検査に対応する料金及び費用として爆発物検査料等をそれぞれ合算したものをもって国際航空貨物利用運送業の運賃及び料金として荷送人に対し請求している。
(査第4号証,第5号証)
(3) 荷主向け燃油サーチャージの国際航空貨物利用運送業務における対価性
ア 燃油サーチャージ及び荷主向け燃油サーチャージの導入に関する事実関係
(ア) 航空会社は,平成8年頃から燃油価格の高騰に応じて,燃油サーチャージ方式の導入を求めるようになった。
(査第13号証,審第1号証)
(イ) 我が国発の航空機に搭載される貨物についての燃油サーチャージは,平成13年10月16日から,株式会社日本航空,全日本空輸株式会社及び日本貨物航空株式会社の3社と外国の航空会社とが導入したが,平成14年1月に一旦廃止された。
しかし,同年8月頃,燃油価格が上昇し始めたため,航空会社は,燃油価格の高騰時に限り,燃油価格の変動に合わせて設定し,航空運賃に付加して請求するものとして燃油サーチャージを設定して請求することとした。
同年9月中旬,大手3社は,航空会社から,燃油価格の上昇が続いているため,同年10月16日以降に我が国発の航空機に搭載する貨物について燃油サーチャージを設定する予定である旨説明を受けた。
航空会社は,順次,国土交通大臣の認可を受けて,同年10月16日以降,国際航空貨物利用運送事業者に対して,燃油サーチャージの請求を開始した。
(前記第3の1(2)ア(ア)の事実,査第4号証)
(ウ) 14社は,航空会社が請求する燃油サーチャージを支払うことになったことから,利用した航空会社の燃油サーチャージ額に対応して荷主向け燃油サーチャージを設定し,荷主に請求することとした。(査第4号証)
(エ) 平成15年4月2日に開催された協会の国際部会役員会の会合の場において,航空会社の燃油サーチャージについて,航空会社との間で,個別に減額するための交渉を行うことが可能である旨,顧問弁護士から説明された。
(査第8号証の1,2)
(オ) 平成16年3月5日に開催された国際部会役員会の会合の場において,航空会社の燃油サーチャージに関して,協会の顧問弁護士に確認した結果として,航空会社が13社に請求する燃油サーチャージの額については減額の交渉が可能である旨報告されるとともに,この点について荷主に知られないようにする必要がある旨注意喚起された。
(査第9号証)
(カ) 平成17年9月,14社は,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージについて,航空会社に対しコミッション(燃油サーチャージを荷主から回収し航空会社に支払うことに対する手数料。以下同じ。)を要求することを検討していた。これに対し,日本通運が,荷主向け燃油サーチャージについては,国際航空貨物利用運送事業者の独自の料金として国土交通大臣に対し運賃及び料金設定(変更)届出書を提出しており,航空会社に代わって荷主から回収しているものではなく,国際航空貨物利用運送事業者が独自に荷主に請求し収受しているものである旨の意見を述べた。
(査第6号証)
イ 荷主向け燃油サーチャージの性質等
(ア) 契約関係
燃油サーチャージに係る契約関係としては,航空会社と国際航空貨物利用運送事業者との間に国際航空貨物運送契約がある。また,荷主向け燃油サーチャージに係る契約関係としては,国際航空貨物利用運送事業者と荷主との間に国際航空貨物利用運送契約がある。そして,国際航空貨物利用運送事業者は航空会社に対し,また,荷主は国際航空貨物利用運送事業者に対し,それぞれの契約に従って,それぞれの業務の提供の代金として料金を支払うことになる。燃油サーチャージは国際航空貨物運送契約の料金として支払われ,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金として支払われる。(査第4号証)
しかし,航空会社と荷主との間には何ら契約関係はなく,荷主と航空会社の間に債権債務は発生しない。したがって,法的にいえば,荷主が航空会社に対し燃油サーチャージの支払義務を負うことはなく,航空会社には荷主に対して燃油サーチャージを請求する権利はないから,荷主が国際航空貨物利用運送事業者に対して,航空会社に対して燃油サーチャージの立替払を依頼することはあり得ず,国際航空貨物利用運送事業者が航空会社の燃油サーチャージの請求を,航空会社に代わって行うこともあり得ない。実際,被審人も,航空会社から「燃油サーチャージを荷主から代行回収して欲しい」旨の依頼をされたことはないし,荷主から「航空会社に対して燃油サーチャージの立替払をして欲しい」旨の依頼をされたこともない。(査第4号証,参考人山本明彦)
(イ) 混載差益
14社は,不特定多数の荷主から運送を引き受けた比較的重量の小さい貨物を,①重量逓減制を採用し,又は②実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物を組み合わせることにより,重量の大きい貨物として仕立て,混載差益を生じさせるようにしていた。14社は,この仕組みを利用して,荷主からは高い賃率(重量の小さい貨物)が適用される本体運賃を請求・収受する一方,航空会社に対しては安い賃率(重量の大きい貨物)が適用される航空運賃を支払うことにより,この差額を利益としていた。(査第4号証,第7号証,審第6号証)
荷主向け燃油サーチャージは,賃率適用重量に利用する航空会社が適用する料率を乗じた額とされており,国際航空貨物利用運送事業者が航空会社に対して支払う燃油サーチャージの金額と同様の計算方法となっているため,荷主向け燃油サーチャージと運送事業者向け燃油サーチャージとは同じ金額となることが多かったが,14社は,前記②の実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物とを組み合わせることによって混載差益を生じさせ,差益分の利益を得ることもあった。(査第4号証,第7号証)
(ウ) 荷主向け燃油サーチャージと運送料の関係
燃油サーチャージは,航空運送において,運送料に付加して支払われるものである。そもそも,燃油サーチャージは,航空燃油付加料金と言われるもので,燃油価格の高騰により設けられたものであり,航空運送業務という役務を提供するに当たり,燃油価格の変動に応じて,航空運送料自体を変更することなく,燃油価格の高騰による航空運送における燃料費の増加により利益が減少するのを避けるため,すなわち,航空会社が国際航空貨物利用運送事業者に対してこれを負担させるために導入されたものである。これは,制度上,直ちに運送料を値上げすることができないことから,別立てとして燃油サーチャージを付加することによって,燃油価格の高騰に対し弾力的に対応することができるようにしたものである。形式的には,運送料と別立ての料金であるが,運送料と離れて,燃油サーチャージのみが請求されることはない。
他方,荷主向け燃油サーチャージは,航空会社による燃油サーチャージの導入により発生するものであり,国際航空貨物利用運送事業者が燃油サーチャージを負担することにより実質的に国際航空貨物利用運送業務による利益が減少することを回避するために導入されたものである。燃油サーチャージは実質的には燃油料金の一部であって,国際航空貨物利用運送事業者が航空会社から航空運送の役務の提供を受けるに当たって負担することになる費用であることからすると,荷主向け燃油サーチャージも国際航空貨物利用運送業務の提供を受ける場合に請求されるものであり,国際航空貨物利用運送業務の対価の一部として,実質的には運送料の一部をなすものと解される。ただ,形式的には運送料とは別立てにされていることから,運送に係る費用とされている。
(査第4号証)
ウ 以上検討したところによれば,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務を提供するに当たり請求し収受されるものであり,他の検査等の料金及び費用とともに合算されることで当該業務の運賃及び料金とされるから,本件違反行為に係る役務の対価であるということができる。
(4) 被審人の主張に対する判断
ア (ア) 被審人は,国際航空貨物利用運送業務においては,これを構成する個々の作業ごとに個別の取引分野が成立するとし,このうち,国際航空貨物利用運送事業者が提供する業務は,同事業者しか行えない「航空機による混載貨物の運送業務」のみであって,その対価に該当するのは本体運賃のみであるから,荷主向け燃油サーチャージは役務の対価ではなく,課徴金の対象とならない旨主張する。
しかし,本件排除措置命令書の記載によれば,本件における一定の取引分野は,国際航空貨物利用運送業務の取引分野とされる。
前記(1)で述べたとおり,本件違反行為の対象となる役務は,複数の作業から成るが,これらは航空運送業務と一体となって一つの役務を構成しており,国際航空貨物利用運送事業者もこの一つとなった役務を提供し対価を収受しているのであって,「航空機による混載貨物の運送業務」のみを提供し対価を収受しているわけではない。実際にも,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に係る作業について,個別に取引が行われることはない。
したがって,個別の作業ごとに取引分野が成立し,「航空機による混載貨物の運送業務」の対価のみが課徴金の対象となるとする被審人の主張を採用することはできない。
(イ) 被審人は,全体としての国際航空貨物利用運送業務という取引分野は存在せず,当該業務を構成する個々の作業ごとに取引分野が成立する旨主張する。
しかし,仮に,個々の作業について別個の取引分野が成立するとしても,取引分野は重畳的に成立するものであるから,それだけで国際航空貨物利用運送業務に係る役務の全体について,一つの取引分野が成立しないというわけではないから,被審人の主張は理由がない。
(ウ) 被審人は,本件合意の対象は国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金のうち荷主向け燃油サーチャージ,一定額以上のAMSチャージ,一定額以上のセキュリティーチャージ及び一定額以上の爆発物検査料4料金であるところ,これらの各料金に対応する各作業は,作業ごとに競争相手となるべき者が異なること,国際航空貨物利用運送事業者が荷主に料金を請求するに際して,これらの各料金を別項目に分けて請求しているが,このことは項目に対応する役務が異なることを示していることなどによれば,それぞれ市場(一定の取引分野)が異なるのであって,これらを一つにまとめて「役務」とすることは許されないと主張する。
しかし,既に述べたとおり,個々の作業は,国際航空貨物利用運送業務に含まれ,航空運送を利用して輸出に係る貨物を運送する業務である国際航空貨物利用運送業務として提供されるから,個々の作業は航空運送業務と一体となって一つの役務となるとみることができる。被審人は,各料金について,競争相手となる者が異なるというが,前記(1)で述べたとおり,各作業は,貨物の航空運送業務に付随して行われるものであり,個別に取引が行われるものではないのであるから,その主張は採用することができない。
また,被審人は,料金を請求するに当たり項目が分かれていることからして,それに対応する作業があるというが,それだけで別個の役務として取引分野が成立するわけではないことは既に述べたとおりである。
(エ) 以上のとおり,本件違反行為の対象役務は国際航空貨物利用運送業務であり,当該業務の取引分野をもって一定の取引分野とするものである。
イ 被審人は,経済的実態としてみた場合,荷主向け燃油サーチャージは,航空会社との関係では燃油サーチャージを本来負担すべき荷主から代行回収するものであり,他方,荷主との関係では,航空会社に対し立替払をするものである旨主張する。
(ア) そもそも,荷主向け燃油サーチャージの請求の目的が,航空会社が燃油価格の高騰による航空運送における燃料費の増加分を燃油サーチャージとして国際航空貨物利用運送事業者に負担させようとするものについて,国際航空貨物利用運送事業者が自社においてこれを負担することによって利益が減少することがないようにするために荷主に負担させようとするものであるとしても,燃油サーチャージの全額を荷主向け燃油サーチャージとして荷主に請求しなければならないものではない。現に,国際航空貨物利用運送事業者において,特定の荷主に対して請求しないことも,あるいは,特定の荷主が国際航空貨物利用運送事業者に対する支払を拒絶することもあった。(査第4号証,審第6号証)
そして,14社の間で,荷主向け燃油サーチャージを競争手段とはしない旨の話がされていたことは,翻って,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求するかどうか,値引きせず同額で請求するか,それとも値引きして請求するかどうかについては,荷主との取引を獲得する手段として,各社が自主的かつ独立して判断することができるものであったことをうかがわせる。(査第8号証の2)
(イ) 実際にも,前記(3)イ(イ)で認定したところによれば,国際航空貨物利用運送事業者が収受する荷主向け燃油サーチャージと航空会社に支払う燃油サーチャージは算定方法こそ同じであるが,必ずしも一致するものではなく,国際航空貨物利用運送事業者は,その差を利用して混載差益を得ていた。すなわち,14社は,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージを請求し収受していたが,14社が荷主に請求し収受する荷主向け燃油サーチャージについて,航空会社に支払う燃油サーチャージの料率と同じ料率の荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求・収受する場合でも,実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物を組み合わせることにより,混載差益を生じることがあったことが認められる。
(ウ) このように,国際航空貨物利用運送事業者である14社が荷主向け燃油サーチャージの額を航空会社から請求を受ける額と同額として請求しなければならないものではないことは明らかであり,経済的実態に鑑みても,荷主向け燃油サーチャージを請求することが,燃油サーチャージの代行回収及び立替払であるとすることはできない。
(エ) その他の被審人の主張についてみても,いずれも,実質的に代行回収及び立替払に当たるということを認めるに足るものではない。
ウ さらに,法的関係についてみても,前記(3)イ(ア)のとおり,荷主向け燃油サーチャージは,燃油サーチャージとは別個の契約関係から生じるものであり,航空会社から燃油サーチャージが請求されることを契機として,国際航空貨物利用運送事業者が荷主に請求するものであるとしても,航空会社と荷主との間に契約関係が生じるわけではない。したがって,荷主が航空会社に対して支払義務を負うものを国際航空貨物利用運送事業者が荷主に代わって航空会社に対して立替払をするという関係にはない。また,航空会社が荷主に対し請求し支払を受けることができるものを国際航空貨物利用運送事業者が代わって回収し,航空会社に引き渡すという関係でもない。
実際,前記(3)イ(ア)のとおり,被審人従業員の山本明彦も,航空会社から代行回収することや立替払をすることの依頼を受けたことはないと供述しており,このことを裏付けるものといえる。
エ 以上のとおり,荷主向け燃油サーチャージは,経済的実態においても,法的関係においても,燃油サーチャージを代行回収及び立替払をするものではなく,国際航空貨物利用運送業務の対価である。
被審人は,その他にも,荷主向け燃油サーチャージが国際航空貨物利用運送業務の対価に当たらない理由を種々主張するが,いずれも採用できず,上記結論を左右するものではない。
オ なお,被審人は,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務の対価ではない(したがって,独占禁止法第7条の2の課徴金の対象とはならない。)と主張するほか,仮に,本件違反行為に独占禁止法第7条の2の適用があるとしても,燃油サーチャージに係る部分は,「売上額」に含まれないという主張もしているが,「売上額」に含まれないとする根拠は,結局のところ,荷主向け燃油サーチャージは国際航空貨物利用運送業務の対価ではないということに尽きるのであって,いずれにしても被審人の主張は理由がない。
3 争点3(被審人の業務である国際航空貨物利用運送業務は小売業又は卸売業に該当するか否か。)について
(1) 被審人の業種
ア 業種と算定率
独占禁止法第7条の2第1項は,課徴金の算定率について,「当該商品又は役務(中略)の百分の十(小売業については百分の三,卸売業については百分の二とする。)」と規定する。算定率の原則は,10パーセントであり,例外として「小売業」に該当する場合は3パーセント,「卸売業」に該当する場合は2パーセントとされるのである。
いずれの業種に該当するかについては,当該事業者の事業全体ではなく,違反行為の対象となる業務に限って判断されるべきであり,また,個別の事業者ごとに判断することになる。
「小売業」及び「卸売業」については,独占禁止法に定義規定はない。しかし,消費税法施行令(平成22年3月31日政令第71号)第57条第6項によれば,「卸売業とは,他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうもの」とされ,「小売業とは,他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で同項第一号に掲げる事業(注:卸売業)以外のもの」をいうものとされている。一般的にも,「小売業」とは,商品を生産者・卸売業者等から買い入れてこれを一般消費者に分けて販売する事業であり,「卸売業」とは,生産者・輸入商等から商品を買い入れて小売業者に販売する事業であるとされている。このように,買い入れた商品をそのまま販売すること,つまり買い入れた商品をその同一性を保持したままで流通させる場合には,商品を流通させることによりマージンを受けるという側面が強いことから,算定率を軽減したものと解される。
イ 国際航空貨物利用運送業務の業種
本件違反行為の対象となった国際航空貨物利用運送業務は役務であり,通常,「役務の提供」は,商品の販売とは異なるものとされるから,商品を買い入れてそのまま販売する「小売業」及び「卸売業」とは異なる業種であることが明らかである。
国際航空貨物利用運送業務は,運輸業の一種であると認められるところ,日本標準産業分類によれば,「小売業,卸売業」と「運輸・通信業」とは別個の分類とされている。
課徴金制度は一律的な非裁量的制度として法定されており,「卸売業」及び「小売業」のみを明示して例外的な算定率を定めている独占禁止法の下では,国際航空貨物利用運送業務に流通業的性格があるとか,国際航空貨物利用運送業と卸・小売業の各売上高営業利益率が近似しているという点を捉えて,国際航空貨物利用運送業務に卸・小売業に係る算定率を準用することは許されない。このことは,課徴金制度は,カルテル行為による不当な利益を剥奪する趣旨のものではあるものの,強制的行政措置としての非裁量性,簡明性,明確性,透明性及び迅速性の要請から,卸・小売業のみを例外として一律の算定率を定めるものであり,その結果,課徴金の額が現実の不当利得の額と乖離し,その乖離の幅にも業種によって差が生じる可能性があるが,この差は行政措置としての上記要請に基づき生じるもので,合理性を有していると解される(同旨・機械保険審決取消請求事件判決)。
したがって,国際航空貨物利用運送業務は,小売業,卸売業のいずれにも当たらないというべきである。
なお,前記2(1)及び(3)イ(ア)によれば,国際航空貨物利用運送業務は,荷主と国際航空貨物利用運送事業者との間で契約が締結されるが,その内容は,荷主からの貨物の集荷,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への貨物の引渡し,航空機への搭載,航空機による運送,仕向地の空港への到着後の航空機からの取りおろし,混載貨物仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等という業務から成り,アメリカ合衆国によって実施されたAMS制度導入に伴う作業,国土交通省によって実施された保安対策及び爆発物検査等の実施に伴う作業はこの運送業務に含まれるのであって,以上によれば,国際航空貨物利用運送業務を全体としてみるならば,その実質からしても,小売業や卸売業の実態があるなどということはできない。
(2) 被審人の主張に対する判断
ア 被審人は,航空会社による貨物運送の部分を取り出して「小売業」に当たるとするようであるが,国際航空貨物利用運送業務において,航空機による運送はその業務の一部であるにすぎず,これが基本の業務であるとしても,これを行うにおいて不可欠である作業が存在し,これらが機能的に一体となり,一つの業務を構成するものであることは前記2(1)で述べたとおりである。国際航空貨物利用運送業務は,買い入れた商品の同一性を保持したままで流通させる事業,つまり航空会社から一定容量あるいは一定重量の貨物を運送する役務を買い入れ,同一性を保持したままで荷主に販売するというものではなく,航空会社の運送を利用して輸出に必要な検査等の手続を行うことも含めて荷主の貨物を運送するという役務を提供するものである。仮に,航空会社による貨物運送については仕入れて販売するというものとみることができるとしても,それ以外の貨物の運送に不可欠である作業を付加して一つの業務とすることで,航空会社による貨物運送とは別個の業務となったものであることからすると,単に商品(役務)を流通させる事業とはいえないのであって,「小売業,卸売業」には当たらない。
イ 被審人は,審第3号証の1及び2に記載された貨物の利用運送を荷主から引き受けるに当たって,アメリカ合衆国のサンディエゴに所在する荷受人まで当該貨物を利用運送することとして引き受け,当該貨物を混載貨物に仕立て,被審人自らが荷送人となって,大韓航空を利用してアメリカ合衆国のロサンゼルス空港まで運送し,さらに,ロサンゼルス空港からサンディエゴまで,米国日新等をして手配した運送機関を利用して運送して,荷主から指定されたサンディエゴに所在する荷受人に配達したのであって,国際航空貨物利用運送業務の一部である航空会社の実運送のみをもって,業種を判断することはできない。
ウ 以上のとおり,いずれにしても被審人の主張は採用できない。
4 結論
以上のとおりであるから,各争点に係る被審人の主張はいずれも理由がない。
第7 法令の適用
以上判断したところによれば,被審人に対し,原処分のとおり,課徴金の納付を命ずるべきであり,被審人の本件請求は理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。
   
平成23年3月17日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  大久保 正 道

審判官  酒 井 紀 子

審判官  三 輪   睦


別 紙

他人の需要に応じ,有償で,航空運送事業を営む者の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送(これに先行及び後続する当該貨物の集配のためにする自動車による運送を併せて行う場合における当該運送を含む。)

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