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西日本鉄道(株)ほか2名に対する件

独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)

平成21年(判)第19号ないし第21号,第23号,第25号及び第26号

審判請求棄却審決(審判審決,課徴金の納付を命ずる審決)

福岡市中央区天神一丁目11番17号
被審人 西日本鉄道株式会社
同代表者 代表取締役 竹 島 和 幸
同代理人 弁 護 士 田 淵 智 久
同          清 水   真
同          阿 南   剛

横浜市西区花咲町六丁目145番地
被審人 株式会社バンテック
同代表者 代表取締役 山 田 敏 晴
同代理人 弁 護 士 厚 谷 襄 児
同          谷 本 誠 司

東京都中央区日本橋本町一丁目8番16号KLL日本橋ビル
被審人 ケイラインロジスティックス株式会社
同代表者 代表取締役 勝 瑞   護
同代理人 弁 護 士 矢 吹 公 敏
同          髙 木 加奈子
同          一 色 由 香
同          加 藤 彰 仁

公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判官酒井紀子及び審判官三輪睦から提出された事件記録並びに規則第75条の規定により被審人らから提出された異議の申立書及び規則第77条の規定により被審人西日本鉄道株式会社から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第8と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人らに対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成23年10月17日

委員長 竹島 一彦
委 員 後藤  晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代
委 員 細川  清

平成21年(判)第19号ないし第21号,第23号,第25号及び第26号

審   決   案

福岡市中央区天神一丁目11番17号
被審人 西日本鉄道株式会社
同代表者 代表取締役 竹 島 和 幸
同代理人 弁 護 士 田 淵 智 久
同          清 水   真
同          阿 南   剛

横浜市西区花咲町六丁目145番地
被審人 株式会社バンテック
同代表者 代表取締役 山 田 敏 晴
同代理人 弁 護 士 厚 谷 襄 児
同          谷 本 誠 司

東京都中央区日本橋本町一丁目8番16号KLL日本橋ビル
被審人 ケイラインロジスティックス株式会社
同代表者 代表取締役 勝 瑞   護
同代理人 弁 護 士 矢 吹 公 敏
同          髙 木 加奈子
同          一 色 由 香
同          加 藤 彰 仁

上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主     文
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。

理     由
1 審判請求の趣旨
(1) 西日本鉄道株式会社
ア 平成21年(判)第19号審判事件
平成21年(措)第5号排除措置命令の全部の取消しを求める。
イ 平成21年(判)第23号審判事件
平成21年(納)第9号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
(2) 株式会社バンテック
ア 平成21年(判)第20号審判事件
平成21年(措)第5号排除措置命令の全部の取消しを求める。
イ 平成21年(判)第25号審判事件
平成21年(納)第12号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
(3) ケイラインロジスティックス株式会社
ア 平成21年(判)第21号審判事件
平成21年(措)第5号排除措置命令の全部の取消しを求める。
イ 平成21年(判)第26号審判事件
平成21年(納)第13号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
2 事案の概要
 以下の事実は,当事者間に争いがない。
(1) 公正取引委員会は,被審人らが,他の事業者と共同して,他人の需要に応じ,有償で,航空運送事業を営む者の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送(これに先行及び後続する当該貨物の集配のためにする自動車による運送を併せて行う場合における当該運送を含む。)業務(以下「国際航空貨物利用運送業務」という。)の運賃及び料金について,荷主向け燃油サーチャージ,一定額以上のAMSチャージ,一定額以上のセキュリティーチャージ及び一定額以上の爆発物検査料(これら4料金を併せて,以下「4料金」という。)を荷主に対し新たに請求する旨を合意することにより(上記4料金についての合意を,以下「本件合意」という。),公共の利益に反して,我が国における国際航空貨物利用運送業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであるとして,平成21年3月18日,被審人らを含む12社に対し,平成21年(措)第5号排除措置命令書(以下「本件排除措置命令書」という。)により排除措置を命じた(以下「本件排除措置命令」という。)。本件排除措置命令書の謄本は,被審人西日本鉄道株式会社(以下「被審人西鉄」という。)及び被審人株式会社バンテック(以下「被審人バンテック」という。)に対しては同月18日,被審人ケイラインロジスティックス株式会社(以下「被審人ケイライン」という。)に対しては同月19日に送達された(ただし,被審人バンテックについて,本件排除措置命令及びその送達を受けたのは,後記第3の1(1)のとおり被審人バンテックにつき商号変更及び合併がされる前のバンテックワールドトランスポート株式会社である。)。
(2) 公正取引委員会は,本件排除措置命令書に係る違反行為は「独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものである。」として,平成21年3月18日,被審人西鉄に対し,平成21年(納)第9号課徴金納付命令書により8億5196万円の課徴金の納付を,被審人バンテックに対し,平成21年(納)第12号課徴金納付命令書により4億1789万円の課徴金の納付を,被審人ケイラインに対し,平成21年(納)第13号課徴金納付命令書により3億2078万円の課徴金の納付を,それぞれ命じた(以下,上記被審人らに対する各課徴金納付命令書を併せて「本件各課徴金納付命令書」,各命令を併せて「本件各課徴金納付命令」という。)。本件各課徴金納付命令書の謄本は,被審人西鉄及び被審人バンテックに対しては同月18日,被審人ケイラインに対しては同月19日に送達された(ただし,前記1と同様,被審人バンテックについて,上記課徴金納付命令及びその送達を受けたのは,バンテックワールドトランスポート株式会社である。)。
本件各課徴金納付命令は,違反行為に係る被審人らの国際航空貨物利用運送業務について,小売業又は卸売業には該当しないとの判断の下に,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)の施行日前である平成18年1月3日以前の売上額に対しては算定率6パーセント(平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項)を,同月4日以降の売上額に対しては算定率10パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)を,それぞれ適用して課徴金を算定している。
(3) 被審人らは,4料金について不当な取引制限に該当する行為を行った事実はない,被審人らと他の事業者との間に何らかの合意があったとしても,合意の対象となった各料金の額が少額であり,国際航空貨物利用運送業務の料金全体に占める割合が低いことなどによれば,同業務の競争を実質的に制限するものではない,などと主張し,本件排除措置命令の全部の取消しを求めて各審判請求をした(平成21年(判)第19号ないし21号)。
(4) 被審人らは,不当な取引制限に該当する行為を行っていないとの主張に加えて,仮に,不当な取引制限に該当する行為を行っていたとしても,当該行為は国際航空貨物利用運送業務の対価に係るものではない,国際航空貨物利用運送業務は小売業又は卸売業に該当するから課徴金を課す場合には,3パーセント(平成18年1月3日以前の行為については2パーセント)又は2パーセント(同日以前の行為については1パーセント)の算定率が適用されるべきである,などと主張し,本件各課徴金納付命令の全部の取消しを求めて各審判請求をした(平成21年(判)第23号,25号及び26号)。
3 本件の基本的事実
当事者間に争いがない事実及び公知の事実並びに証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)を総合すれば,以下のとおり認められる(以下において,証拠を掲記していない事実は,争いがない事実又は公知の事実として認められる。)。
(1) 被審人ら及び他の事業者について
ア 被審人西鉄,被審人バンテック(平成17年2月1日に,当時の東急エアカーゴ株式会社がバンテックワールドトランスポート株式会社に商号を変更した後,平成21年4月1日に,当時のバンテック・グループ・ホールディングスがバンテックワールドトランスポート株式会社を吸収合併し,現商号に変更したもの。以下,上記一連の商号変更及び合併の前後を通じて「被審人バンテック」というが,上記合併前の会社について特に「バンテックワールドトランスポート」ということがある。),被審人ケイライン(平成18年7月1日に,当時の川崎航空サービス株式会社が現商号に変更したもの。以下,商号変更の前後を通じて「被審人ケイライン」という。),郵船ロジスティクス株式会社(平成22年10月1日に,当時の郵船航空サービス株式会社が現商号に変更したもの。以下,商号変更の前後を通じて「郵船」という。),日本通運株式会社(以下「日本通運」という。),株式会社近鉄エクスプレス(以下「近鉄」という。),株式会社日新(以下「日新」という。),ヤマトグローバルロジスティクス株式会社(平成14年10月1日に,当時のヤマト・ユーピーエス・インターナショナル・エアカーゴ株式会社がヤマトグローバルフレイト株式会社に商号を変更し,平成16年10月1日に同社がヤマトロジスティクス株式会社に商号を変更し,平成20年8月1日に同社が現商号に変更したもの。以下,上記一連の商号変更の前後を通じて,「ヤマト」という。),商船三井ロジスティクス株式会社(以下「商船三井」という。),阪神エアカーゴ株式会社(以下「阪神エアカーゴ」という。)及びユナイテッド航空貨物株式会社(以下「ユナイテッド」という。)の11社(以下「11社」という。)並びにDHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社(平成18年12月1日に,当時のダンザス丸全株式会社が,エクセルジャパン株式会社から事業譲渡を受けるとともに事業許可も承継し,同日,現商号に変更したもの。以下,上記事業承継及び商号変更の前後を通じて,「DHL」という。)は,貨物利用運送事業法(平成元年法律第82号)の規定に基づき国土交通大臣の行う登録又は国土交通大臣の許可を受けて,国際航空貨物利用運送業務(以下「本件業務」という。)を営む者である。
(査共第7号証ないし第10号証,第50号証)
イ 株式会社阪急阪神交通社ホールディングス(平成20年4月1日に,当時の株式会社阪急交通社が現商号に商号変更したもの。以下「阪急交通社」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,本件業務を営んでいたが,平成20年4月1日,同社が全額出資している株式会社阪急エクスプレスに対し,吸収分割により当該業務を承継させ,以後,当該業務を営んでいない。
エアボーンエクスプレス株式会社(以下「エアボーン」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,本件業務を営んでいたが,平成15年12月31日,当該業務を廃止し,以後,当該業務を営んでいない。
(査共第7号証ないし第10号証)
(2) 国際航空貨物利用運送事業の概要等について
ア 貨物利用運送事業とは,他人の需要に応じ,有償で,利用運送を行う事業であって,第一種貨物利用運送事業と第二種貨物利用運送事業とがある。第二種貨物利用運送事業は,船舶運航事業者,航空運送事業者又は鉄道運送事業者の行う運送(実運送に係るものに限る。)に係る利用運送と当該利用運送に先行し及び後続する当該利用運送に係る貨物の集貨及び配達のためにする自動車(軽自動車等を除く。)による運送とを一貫して行う事業をいい,第一種貨物利用運送事業は,第二種貨物利用運送事業を除く利用運送事業をいう(貨物利用運送事業法第2条第6項ないし第8項,道路運送車両法第2条第2項)。ここにいう実運送とは,船舶運航事業者,航空運送事業者,鉄道運送事業者又は貨物自動車運送事業者の行う運送をいい,利用運送とは,運送事業者の行う実運送を利用してする貨物の運送をいう(貨物利用運送事業法第2条第1項)。
貨物利用運送事業を営もうとする者は,貨物利用運送事業法の規定に基づき,第二種貨物利用運送事業にあっては国土交通大臣の許可(同法第20条)を,第一種貨物利用運送事業にあっては国土交通大臣の登録(同法第3条)を受けなければならない。
(査共第1号証)
イ 国際航空貨物利用運送事業(以下「本件事業」という。)は,貨物利用運送事業のうち,国際航空運送事業を営む者(以下「航空会社」という。)が我が国と外国との間で運航する航空機による航空運送(実運送)を利用してする貨物利用運送事業であり,本件事業における業務が本件業務である。
前記1で認定したとおり,11社及びDHLは本件事業を営んでおり,阪急交通社及びエアボーンは本件事業を営んでいた。以上の14社(以下「14社」という。)のうち,ユナイテッドだけが第一種貨物利用運送事業を営んでおり,その余の13社は第二種貨物利用運送事業を営んでいた。
(査共第1号証,第2号証)
ウ 14社の本件業務における貨物量の合計は,我が国における本件業務における総貨物量の大部分を占めていた(平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における総貨物量に対して,14社(平成16年以降は14社のうちエアボーンを除く13社〔以下「13社」という。〕)の貨物量の合計は,別紙1のとおり,最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセントを占めていた。)。
さらに,郵船,日本通運及び近鉄の3社(以下「大手3社」という。)の本件業務における貨物量の合計は,14社の本件業務における貨物量の合計の大部分を占めていた(平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における14社(平成16年以降は13社)の貨物量の合計に対する大手3社の貨物量の合計は,最小で61.6パーセント,最大で64.9パーセントを占めていた。)。
(査共第35号証)
(3) 14社の事業内容,運賃及び料金等について
ア 具体的な業務内容等 
(ア) 上記のとおり14社は本件事業を営む者(以下「本件事業者」という。)であるところ,14社が荷主(荷送人又は荷受人をいう。以下同じ。)に提供していた業務(本件業務)の内容は,不特定多数の荷主との間で,輸出に係る貨物(以下「貨物」という。)について,利用運送契約を締結し,同一の仕向地(貨物の到着地をいう。以下同じ。)の貨物をまとめて「混載貨物」として仕立て,運送機関として航空会社が運航する我が国発の航空機(我が国に所在する空港を出発地空港とする国際路線で運航される航空機をいう。以下同じ。)による航空運送を利用して仕向地の空港まで運送する(航空機による運送に先行する荷送人からの貨物の集貨及び航空機による運送に後続する荷受人までの貨物の配達のために行う自動車による運送を併せて行う場合における当該運送を含む。)というものである。(査共第2号証ないし第6号証,審D第2号証)
(イ) 14社は,おおむね,国内で荷送人からの貨物の集貨,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への引渡し及び航空機への搭載を行い,その後,航空機による運送を経て外国(仕向地)の空港に到着後,航空機からの取卸し,混載貨物仕分,輸入通関手続及び荷受人までの貨物の配達を行っている。(査共第3号証ないし第6号証)
(ウ) 前記アの「混載貨物」とは,14社が,自己の利用運送約款に基づき,不特定多数の荷主から運送を引き受けた貨物を同一の仕向地ごとの貨物に一括して仕立てて,自らが「荷送人」となって,航空会社が行う航空機による運送を利用して運送する貨物である。(査共第4号証,第6号証,審D第2号証)
(エ) 混載貨物については,14社と個々の荷主との間では個々の貨物について利用運送契約が締結され,各貨物を仕向地ごとに仕立てた混載貨物について,14社と航空会社との間で実運送契約(14社は,航空会社に対しては自ら荷送人となる。)が締結される。
また,混載貨物については,荷主から指定される荷受人の荷受場所までの間,一貫して14社が運送責任を負っている。
(査共第2号証,第4号証,第6号証ないし第10号証,審D第2号証)
イ ハウスエアウェイビル及びマスターエアウェイビル
(ア) 「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(ワルソー条約)は,航空機により有償で行う貨物の国際運送について規定し,貨物の運送については航空運送状が交付されるとする(第4条)。そして,上記条約第7条第1項は,航空運送状は荷送人が原本3通を作成すると規定し,そのうち,第一の原本には「運送人用」と記載し荷送人が署名,第二の原本には「荷受人用」と記載し荷送人及び運送人が署名,第三の原本には運送人が署名し運送人が貨物を引き受けた後荷送人に手交するとされる(同条第2項)。しかし,航空運送状は,荷送人の要請がある場合には,運送人が作成することもできるとされる(同条第4項)。
(イ) 荷主と本件事業者との間で利用運送契約が締結された場合,これを証するため,運送を引き受けた貨物1件ごとに作成される航空運送状はハウスエアウェイビルと呼ばれる(HAWBと略称される。以下「ハウスエアウェイビル」という。)。ハウスエアウェイビルは,原則として,荷送人が作成・発行することとされているが,実際の取引においては,運送人である本件事業者が荷送人に代わって作成・発行しており,14社は,いずれも,ハウスエアウェイビルを自社の名で作成・発行していた。(査共第4号証,第6号証,第11号証)
(ウ) また,本件事業者と航空会社との間で実運送契約が締結された場合,これを証するため,航空機に搭載される混載貨物1件ごとに作成される航空運送状はマスターエアウェイビルと呼ばれる(MAWBと略称される。以下「マスターエアウェイビル」という。)。マスターエアウェイビルは,本件事業者が作成・発行しており,14社は,いずれも,マスターエアウェイビルを自社の名で作成・発行していた。(査共第4号証,第6号証,第11号証)
ウ 荷主に請求する運賃及び料金 
(ア) 法令による規制の概要
a 貨物利用運送事業法は,「貨物運送取扱事業法」が改正・名称変更されたものであり,平成15年4月1日から施行された。
b 貨物運送取扱事業法第9条第1項では,本件事業者に対し,運賃及び料金を設定又は変更する場合には,あらかじめ,運輸大臣(現国土交通大臣)に届け出ることを義務付けていた(いわゆる「事前届出制」)。また,同法第64条第2号では,第9条第1項の規定による届出をしないで運賃又は料金を収受した者は罰金に処する旨を規定していた。
(査共第17号証)
c 貨物利用運送事業法には,運賃及び料金の届出に係る規定はなく,貨物利用運送事業報告規則(平成2年運輸省令第32号)の規定に基づき,14社は,原則として,本件業務の運賃及び料金を設定又は変更したときは,その設定又は変更を行った後,国土交通大臣に対し運賃及び料金設定(変更)届出書(以下「届出書」という。)を提出していた。(査共第6号証,第12号証,第13号証,第15号証,第16号証,第218号証)
(イ) 運賃及び料金の内容
a 14社は,荷主に請求する本件業務の運賃及び料金を前記(1)イで述べた個々の作業に対応する形で定めており,運賃及び料金は,その名称は同一ではないものの,航空運賃(本体運賃,混載運賃とも称される。以下「本体運賃」という。)並びに後述する荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ,爆発物検査料等の料金で構成されていた。(査共第3号証ないし第6号証,第18号証ないし第21号証,第248号証)
b 14社は,本体運賃について,航空会社が設定する航空運賃の区分及び計算方法に準じて設定していたが,混載貨物から生ずる混載差益を利用して,原則として,同一の重量区分でみた場合,航空会社の航空運賃より安い本体運賃を設定していた(別紙2の1枚目参照)。(査共第5号証,第6号証,第12号証,第13号証,第15号証,第218号証,審D第2号証)
c 航空会社は,路線ごと,かつ,重量区分ごとにあらかじめ定めた賃率(貨物1キログラム当たりの航空運賃額をいう。以下同じ。)によって航空運賃を定めており(別紙2の1枚目参照),賃率に貨物の重量を乗じることにより当該貨物の航空運賃の額が算出されていた。
貨物に適用すべき賃率は,一般に,貨物の重量区分ごとに異なっており,貨物の重量が増加するのに比例して賃率が低くなる重量逓減制が採用されていた。ただし,賃率に重量を乗じて得た額が一定額に満たない場合は,重量に関係なく,「最低料金」として定められた航空運賃が適用されていた。
賃率を適用すべき貨物の重量は,一般に,「賃率適用重量(CW,チャージャブルウェイト)」と称されており,これには,①「実重量(GW,グロスウェイト)」及び②「容積重量(VW,ボリュームウェイト)」があった。実重量は貨物の実際の重量であり,容積重量は貨物の容積が6,000立方センチメートルを超える場合には,6,000立方センチメートルを1キログラムとして得た重量のことである。
航空運賃の計算に当たっては,実重量と容積重量のいずれか大きい方の重量に賃率を適用することとされていた。
(査共第4号証ないし第6号証,審D第2号証)
(ウ) 混載差益
混載差益には,重量逓減制により生じるものと,実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物とを組み合わせることにより生じるものがある。
14社は,不特定多数の荷主から運送を引き受けた比較的重量の小さい貨物を,①重量逓減制を利用し,又は②実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物を組み合わせることにより,重量の大きい貨物として仕立て,混載差益を生じさせるようにしていた(重量逓減制を利用した混載差益の仕組みの例については別紙2の2枚目参照)。
14社は,この仕組みを利用して,荷主からは高い賃率(重量の小さい貨物)が適用される本体運賃を請求・収受する一方,航空会社に対しては安い賃率(重量の大きい貨物)が適用される航空運賃を支払うことにより,この差額を利益としていた。
(査共第4号証ないし第6号証,審D第2号証)
(エ) 荷主に請求する運賃及び料金の計算方法
14社は,荷主から運送を引き受ける貨物について,荷主の求めに応じて,荷送人の荷渡場所から荷受人の荷受場所までの一貫した運送又はその一部の運送という業務を提供し,荷主に提供した個々の作業の価額を合算した金額を,当該業務の運賃及び料金として荷主に請求していた。
(査共第3号証ないし第6号証)
(4) 社団法人航空貨物運送協会の国際部会役員会の概要等について
ア 社団法人航空貨物運送協会(JAFAとも称される。以下「協会」という。)は,東京都中央区に主たる事務所を置き,国土交通大臣の許可又は登録を受けた本件事業者等を正会員とする事業者団体であり,航空に係る利用運送事業等の健全な発達を図るための調査研究,指導等を行い,これら事業の発展を通じて航空貨物輸送の円滑な提供を確保し,もって利用者の保護及びその利便の増進に寄与することを目的とする。
11社及びDHLは,協会の正会員であり,阪急交通社及びエアボーンは,本件業務を営んでいた当時,協会の正会員であった。
(査共第30号証ないし第33号証,審B第1号証)
イ 協会には,業務執行の意思決定機関として理事会が置かれ,理事会の下に,国際部会,国際宅配便部会,国内部会等が設置されていた。各部会には役員会と称する組織が置かれていたが,協会の定款その他の規程類には役員会に関する規定はなく,役員会は協会の公式の組織ではなかった。
 国際部会は,主として国際航空貨物利用運送に関わることを取り扱う部門であり,国際部会の役員会(以下「国際部会役員会」という。)は,14社で構成されていた。ただし,前記1(2)のとおりエアボーンは本件業務を廃止したため,平成16年1月以降の国際部会役員会の構成員は13社となった。
(査共第30号証ないし第33号証,審B第1号証,第2号証)
ウ 国際部会役員会は,従前は,年に1,2回開催される程度であったが,後記のとおり燃油サーチャージの問題が発生した平成13年度以降は,2,3か月に1回くらいの割合で開催されるようになった。
国際部会役員会には,基本的に,各社の役員クラスの者の出席が予定されており,平成13年度以降においては,別紙3-1記載の者が出席予定者とされていた。これらの者は理事会のメンバーであることも多かったために,理事会が開催された当日に引き続いて国際部会役員会が開催されることが多かった。ただし,実際には,必ずしも上記出席予定者が出席するとは限らず,別紙3-2記載のとおり,上記出席予定者の指示を受けた代理の者が出席したり,一つの会社から複数の者が出席したりしたこともあった。
(査共第26号証ないし第33号証)
エ 国際部会の長である国際部会長は,遅くとも平成14年6月以降は,当時近鉄の代表取締役であった本博圭(以下「近鉄の本」という。)が務めており,平成18年6月以降は,当時近鉄の専務取締役であった田中洋一(以下「近鉄の田中」という。)が務めていた。(査共第31号証,第52号証)
オ 国際部会役員会の会合は,協会の会議室において開催されており,平成18年5月以前は近鉄の本が,平成18年6月以降は近鉄の田中が,それぞれ議事進行を担っていた。
少なくとも,平成14年9月18日,平成16年11月22日及び平成18年2月20日には,国際部会役員会の会合が開催されており,いずれの会合においても,近鉄の本が議事進行役を務めた。
(査共第31号証,第52号証,第136号証,第187号証)
(5) 燃油サーチャージについて 
ア 燃油サーチャージとは,航空会社が,燃油価格(航空会社が航空機の燃料として使用する航空燃油の価格。以下同じ。)の高騰時に限り,同価格の変動の程度に合わせて設定し,航空運賃に付加して顧客に請求するものである。例えば,当時の日本航空株式会社(平成16年4月1日,株式会社日本航空インターナショナルに商号変更。以下,商号変更の前後を通じて,「日本航空」という。)が導入した燃油サーチャージ制度は,あらかじめ基準レベルを設定し,一定期間(20連続営業日)の間,燃油価格が基準レベルを超えた場合又は下回った場合に,国土交通大臣の認可を得て,設定,変更(増額又は減額)又は廃止するというものであった。(査共第25号証,第44号証,第48号証,第62号証,審D第2号証)
イ 平成8年頃から航空燃油が高騰したことから,航空会社が,燃油サーチャージ方式の導入を求める機運が高まった。(査共第25号証,第44号証,第48号証,第62号証)
ウ 日本航空は,我が国発の航空機に搭載される貨物について,平成13年5月16日以降,1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,14社が日本航空運航の航空機を利用した場合,14社に対し燃油サーチャージの請求を開始した。日本航空以外の航空会社も,それぞれ,燃油サーチャージを設定,変更又は廃止する基準を定めて,順次,国土交通大臣の認可を得て,燃油サーチャージを設定し,14社が当該航空会社運航の航空機を利用した場合,14社に対し燃油サーチャージの請求を開始した。(査共第25号証,第44号証,第46号証,第49号証,第62号証)
エ 航空会社の燃油サーチャージが設定された場合には,航空会社が14社に請求する燃油サーチャージの額は,航空会社が運送を引き受けた貨物の重量(賃率適用重量)に基づき,その時点で適用する燃油サーチャージの料率(1キログラム当たりの額)を乗じて算出されていた。ただし,航空会社は,賃率によって計算される航空運賃が最低料金を満たさず,貨物の重量に関係なく航空運賃として「最低料金」が適用される場合には,燃油サーチャージを適用しない,つまり14社に燃油サーチャージを請求しないこととしている場合が多かった。(査共第4号証,第6号証,第12号証,第13号証,第15号証,第22号証ないし第24号証,第218号証)
オ 14社は,前記(3)記載のとおり航空会社による14社に対する燃油サーチャージの請求開始に先立って,これが開始された場合には,航空会社から請求される燃油サーチャージ(その額は,上記のとおり航空会社が運送を引き受けた貨物の賃率適用重量に基づき,その時点で適用する燃油サーチャージ率を乗じて算出される。)に相当する金額を,荷主に対する燃油サーチャージ(以下「荷主向け燃油サーチャージ」という。)として荷主に請求することを検討し,貨物運送取扱事業法の規定に基づき,国土交通大臣に対して届出書を提出することによって届出を行っていた。
14社の上記届出に係る荷主向け燃油サーチャージの内容は,おおむね同様であり,「利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用する場合には,賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額を燃油サーチャージとする。なお,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用しない場合,あるいは廃止した場合には,適用しない。」という内容であった。
(査共第18号証ないし第21号証,第25号証,第44号証,第48号証,第62号証)
カ その後,燃油価格が下落し,燃油サーチャージを廃止する基準レベルを満たしたことから,遅くとも平成14年1月1日までに,航空会社のほとんど全ては,燃油サーチャージを一旦廃止し,14社に対する燃油サーチャージの請求を取りやめた。これを受けて,14社は,荷主向け燃油サーチャージに係る国土交通大臣に対する届出内容に基づいて,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージを請求することを取りやめた。その際,14社は,国土交通大臣に対する届出を取り下げる必要がなかったことから,届出を取り下げなかった。(査共第25号証,第44号証,第48号証ないし第54号証,第61号証,第62号証)
キ 当初,14社の中には,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージについて,本来,航空会社が荷主から支払を受けるべきものを,本件事業者が荷主に代わって航空会社に立替払し,その後荷主から回収するものであるから,航空会社に対しコミッション(燃油サーチャージを荷主から回収し航空会社に支払うことに対する手数料)を要求できるのではないか,と考える者もあった。(査共第50号証,第58号証,第59号証)
ク 平成14年8月頃,燃油価格が上昇し始めたため,航空会社は,再び,顧客に対して,燃油サーチャージを設定して請求することとした。
同年9月中旬,大手3社は,航空会社から,燃油価格の上昇が続いているため,同年10月16日以降に我が国発の飛行機に搭載する貨物について燃油サーチャージを設定する予定である旨説明を受けた。
航空会社は,順次,国土交通大臣の認可を受けて,同日以降,本件事業者に対して,燃油サーチャージの請求を開始した。
(査共第25号証,第48号証ないし第52号証,第62号証)
ケ 平成17年9月,被審人らは,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージについて,航空会社に対しコミッションを要求することを検討していた。日本通運は,荷主向け燃油サーチャージについて,本件事業者の独自の料金として国土交通大臣に対して届出書を提出しており,航空会社に代わって荷主から回収しているものではなく,本件事業者が独自に荷主に請求し収受しているものなのではないかとの疑問点を指摘した。(査共第50号証,第89号証,第217号証)
(6) AMSチャージについて 
ア アメリカ合衆国は,平成13年9月11日に発生したいわゆる同時多発テロ事件を契機として,国土安全保障省税関・国境警備局(国境保護局とも訳される。Customs and Border Protection。以下「アメリカ合衆国税関当局」という。)を設置した。
アメリカ合衆国税関当局は,航空運送に関する保安対策の一環として,同国外に所在する空港を離陸して同国内に所在する空港に着陸する航空機に搭載された貨物についての情報を,航空会社から,オートメイテッド・マニフェスト・システムと称する通関システム(以下「AMS」という。)を通じて電子的に送信する方法により,同局に対し事前に申告させる制度(以下「航空貨物情報事前申告制度」という。)を平成16年8月13日以降段階的に実施することとし,同年12月13日以降は,同国内に所在する全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に,航空貨物情報事前申告制度を実施することとした。
(査共第112号証ないし第122号証)
イ 航空会社は,航空貨物情報事前申告制度に対応するため,平成16年8月13日以降,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビル情報(ハウスエアウェイビルに記載された情報をいう。以下同じ。)について,当該事業者から提供を受けて,これをAMSを通じて電子的に送信する方法により,アメリカ合衆国税関当局に申告することとした。(査共第112号証ないし第114号証,第116号証ないし第122号証)
ウ また,航空会社は,平成16年8月13日以降,本件事業者に対し,あらかじめ定めた一定の額のハウスエアウェイビル情報送信手数料(ハウスエアウェイビル情報をAMSを通じて電子的に送信するための手数料をいう。以下同じ。)を請求することとし,同年7月中旬頃,近鉄に対し,その旨説明した。(査共第113号証ないし第117号証,第119号証ないし第122号証)
エ 以上のとおり,航空貨物情報事前申告制度が実施されることに伴い,本件事業者には新たな費用が発生することとなったことから,協会では,国際部会運送委員会及び国際宅配便部会運送委員会の両部会が合同して,AMSワーキンググループを設置し,そこで対応策等について検討するとともに,各事業者においても,この費用を荷主に請求する方法について検討した(上記のとおり,航空貨物情報事前申告制度の実施によって本件事業者に生ずる費用を荷主に請求するものを,以下「AMSチャージ」という。)。
(査共第113号証の1及び2,第114号証,第116号証,第117号証,第119号証ないし第121号証)
(7) セキュリティーチャージ及び爆発物検査料について
ア 国土交通省は,航空運送に関する保安対策の一環として,平成16年12月27日付け「航空保安対策基準」(以下「新航空保安対策基準」という。)を発出し,本件事業者に対し,原則として,航空会社が運航する航空機に搭載される全ての貨物について,爆発物検査(貨物の安全を確認するために行う爆発物検査装置による検査又は開披検査をいう。以下同じ。)を行うことを義務付けるとともに,ノウンシッパー・レギュレーテッドエージェント制度(以下「RA制度」という。)を導入して,保安教育訓練,施設の管理,貨物の取扱い等について適切な保安措置を講じていると認められる本件事業者を特定航空貨物利用運送事業者(レギュレーテッドエージェント。以下「特定事業者」という。)として認定し,特定事業者と取引を行っている荷主が,貨物の安全を確保する体制を講じており,当該特定事業者がその安全性を確認した場合には,この荷主を特定荷主(ノウンシッパー)として取り扱い,特定荷主から運送を引き受けた貨物であって,特定荷主から出荷して航空会社へ引き渡すまでを当該特定事業者が一貫して取り扱うものについては,原則として,爆発物検査を免除することとした。これらの措置は,平成17年10月1日から試行的に実施され,平成18年4月1日から本格的に実施された。(査共第159号証ないし第165号証,第168号証)
イ 被審人らは,平成18年3月31日までに,国土交通省から特定事業者としての認定を受け,また,爆発物検査を行う必要がある貨物について,自ら又は他の事業者に委託して爆発物検査を行うこととして,そのための体制を整備したが,このような体制の維持及び爆発物検査の実施に伴って,新たな費用が生ずることとなった。(査共第159号証ないし第165号証,第168号証)
(8) 本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の発令等
ア 公正取引委員会は,前記第2の1のとおり11社及び阪急交通社に対して,本件排除措置命令をした。このうち,日本通運,近鉄,日新,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド及び阪急交通社の8社は,本件排除措置命令に対して審判請求をしなかったので,この8社については,本件排除措置命令が確定している。
イ 公正取引委員会は,前記第2の2のとおり,本件排除措置命令書に係る違反行為は「独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものである。」として11社及び阪急交通社に対し,それぞれ課徴金の納付を命じたところ,日本通運,近鉄,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド及び阪急交通社の7社は,課徴金納付命令に対して審判請求をしなかったので,この7社については,それぞれ課徴金納付命令が確定している。
なお,日本通運は,本件排除措置命令書記載の違反行為に係る事実を公正取引委員会に報告したことにより,課徴金の減額の措置を受けている。
(9) 被審人らの売上額
ア 被審人西鉄の売上額
審査官が被審人らの違反行為の実行期間であると主張する平成16年11月12日から平成19年11月11日までの間の被審人西鉄の本件業務に係る荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に相当する金額を合計すると,平成18年1月3日以前については,25億4563万3633円であり,同月4日以降については,69億9224万6213円である。
イ 被審人バンテックの売上額
上記(1)の実行期間における被審人バンテックの本件業務に係る荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に相当する金額を合計すると,平成18年1月3日以前については,12億5029万5421円であり,同月4日以降については,34億2882万2503円である。
ウ 被審人ケイラインの売上額
上記(1)の実行期間における被審人ケイラインの本件業務に係る荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に相当する金額を合計すると,平成18年1月3日以前については,8億935万3754円であり,同月4日以降については,27億2221万2917円である。
4 処分の適法性を基礎付ける事実についての双方の主張
(1) 審査官の主張
ア 本件排除措置命令について
(ア) 被審人らによる不当な取引制限
a 14社の市場における地位について
14社の本件業務における貨物量の合計は,我が国における本件業務の総貨物量の大部分を占めており(平成13年から平成20年までにおいて最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセント),大手3社の本件業務における貨物量の合計は,14社の本件業務における貨物量の合計の大部分を占めていた。
b 本件合意について
(a) 荷主向け燃油サーチャージについて
14社のうち,被審人西鉄,被審人バンテック,被審人ケイライン,郵船,近鉄,日新,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド,阪急交通社及びエアボーンの12社(以下「12社」という。)は,平成14年9月18日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,本件業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が同年10月16日以降である貨物を対象に,利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額を,荷主向け燃油サーチャージとして荷主に新たに請求する旨を合意した(以下「本件荷主向け燃油サーチャージ合意」という。)。
日本通運及びDHLは,遅くとも平成14年11月8日までに,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わった。
(b) AMSチャージについて
13社は,ハウスエアウェイビル情報送信手数料を含めた,航空貨物情報事前申告制度が実施されたことに伴い生ずる費用を賄うため,平成16年11月22日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,本件業務の運賃及び料金について,①ハウスエアウェイビルの発行日が原則として平成16年12月13日(遅くとも平成17年1月1日)以降である貨物であって,②アメリカ合衆国を仕向地とするもの及び同国を経由して運送されるものであってヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とするものを対象に,③ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上を,AMSチャージとして荷主に対し新たに請求する旨を合意した(以下「本件AMSチャージ合意」という。)。
(c) セキュリティーチャージ及び爆発物検査料について
13社は,平成18年2月20日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,本件業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が同年4月1日以降である貨物を対象に,以下のとおりの合意をした(以下「本件セキュリティーチャージ等合意」という。)。
特定事業者として講じた適切な保安措置を維持するために必要な費用を賄うため,ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上を,セキュリティーチャージ(本件事業者が後記新航空貨物保安措置の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するものをいう。以下同じ。)として荷主に対し新たに請求する。
爆発物検査を行うために必要な費用を賄うため,爆発物検査を実施したときは,前記セキュリティーチャージに加えて,ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を,爆発物検査料(本件事業者が爆発物検査の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するものをいう。以下同じ。)として荷主に対し新たに請求する。
c 14社(平成16年1月以降は13社)は,共同して,本件業務の運賃及び料金について,前記(イ)の合意(以下「本件合意」という。)をすることにより,公共の利益に反して,我が国における本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって(以下「本件違反行為」という。),これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものである。
(イ) 排除措置命令の必要性について
大手3社は,平成19年11月12日,役員級の者らの会合において,今後,国際部会役員会の会合を開催しないことを申し合わせ,同日以降,同会合は開催されていないから,これにより,同日以降,本件違反行為は事実上消滅している。
しかしながら,本件違反行為が平成14年から平成19年までの長期間にわたって行われていたことなど本件における一切の事情を総合考慮すれば,被審人らに対して,本件違反行為が既になくなっている旨の周知措置その他本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずる必要がある(独占禁止法第7条第2項本文)。
(ウ) まとめ
よって,本件排除措置命令は適法であり,被審人らの各審判請求はいずれも理由がない。
イ 本件各課徴金納付命令について
(ア) 14社による不当な取引制限(本件違反行為)
前記1(1)アと同じ。
(イ) 本件違反行為が役務の対価に係るものであること
本件合意は,荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料の4料金に関するものであるところ,これらは,全て本件業務の対価であるから,本件違反行為は役務の対価に係るものである。
(ウ) 本件違反行為の実行期間
被審人らが本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成16年11月11日以前であると認められる。また,前記1(1)イのとおり,本件違反行為は平成19年11月12日以降消滅しているため,同月11日には,被審人らの本件違反行為の実行としての事業活動はなくなっている。
以上によれば,被審人らの本件違反行為の実行期間は3年を超えるため,平成17年改正法附則第5条第2項及び第3項の規定により変更して適用される独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成16年11月12日から平成19年11月11日までの3年間(以下「本件実行期間」という。)となる。
(エ) 売上額
本件実行期間における被審人らの4料金に相当する売上額の合計は,被審人西鉄について,平成18年1月3日以前の分が25億4563万3633円,同月4日以降の分が69億9224万6213円であり,被審人バンテックについて,同月3日以前の分が12億5029万5421円,同月4日以降の分が34億2882万2503円であり,被審人ケイラインについて,同月3日以前の分が8億935万3754円,同月4日以降の分が27億2221万2917円である。
(オ) 課徴金の算定率及び算定額
被審人らの業務は本件業務であり,小売業又は卸売業に当たらないから,平成18年1月3日以前の売上額には6パーセント(平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項)の,同月4日以降の売上額には10パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)の算定率が適用され,1万円未満の端数は課徴金額から切り捨てられる(同条第23項)ところ,それらを前提に被審人らが納付すべき課徴金額を算出すると,被審人西鉄が納付すべき課徴金額は8億5196万円,被審人バンテックが納付すべき課徴金額は4億1789万円,被審人ケイラインが納付すべき課徴金額は3億2078万円となる。
(カ) まとめ
よって,本件各課徴金納付命令はいずれも適法であり,被審人らの各審判請求はいずれも理由がない。
(2) 被審人らの主張
ア 本件排除措置命令について
(ア) 12社が本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたこと,この合意に日本通運及びDHLが加わったことは,いずれも否認する。
13社が本件AMSチャージ合意をしたこと,本件セキュリティーチャージ等合意をしたことは,いずれも否認する。
(イ) 仮に,本件合意があったとしても,合意の内容からして,不当な取引制限は成立しない。
(ウ) 仮に,本件合意があったとしても,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであることは否認する。
(エ) 本件排除措置命令の必要性については争う。
イ 本件各課徴金納付命令について
(ア) 本件合意の成立及び本件合意が本件業務の対価に係るものであることは否認する。
(イ) 課徴金の算定率については争う。
5 本件の争点
(1) 被審人バンテックに対する本件排除措置命令の効果(被審人バンテックの被審人適格)(争点1)
(2) 本件合意の内容(争点2)
(3) 本件合意の成否(争点3)
(4) 本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否か(争点4)
(5) 本件排除措置命令の必要性(争点5)
(6) 本件合意は「商品又は役務の対価に係るもの」(独占禁止法第7条の2第1項第1号)に該当するか否か(争点6)
(7) 本件業務は小売業又は卸売業に該当するか否か(争点7)
(8) 課徴金算定の基礎となる売上額に消費税相当額が含まれるか否か(争点8)
6 本件の争点に係る双方の主張
(1) 争点1(被審人バンテックに対する本件排除措置命令の効果〔被審人バンテックの被審人適格〕)について
ア 審査官の主張
前記第2の1のとおり,本件排除措置命令書は,平成21年3月19日,バンテックワールドトランスポートに対して有効に送達されており,同命令の効力が生じている。そして,本件排除措置命令の名宛人であるバンテックワールドトランスポートが,本件排除措置命令を受けた後,被審人バンテックに吸収合併されて消滅したとしても,本件排除措置命令書の送達時点における本件排除措置命令の有効性が失われることはない。
イ 被審人バンテックの主張
前記第2の1のとおり,公正取引委員会は,平成21年3月18日,バンテックワールドトランスポートに対し本件排除措置命令を発令したが,その後,前記第3の1(1)のとおり,被審人バンテックは,同年4月1日,本件排除措置命令とは関わりなく,バンテックワールドトランスポートを吸収合併し,これによりバンテックワールドトランスポートは消滅した。本件排除措置命令の主文の内容は,対人処分で一身専属的性格のものであり,違反行為者に対してのみ効力が生ずるものであるから,同命令は同年3月31日をもって失効したものというべきである。
同年6月3日に改正された独占禁止法第7条第2項には,排除措置命令の名宛人として「当該行為をした事業者が法人である場合において,当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し」た法人が含まれることとなった(同条項第2号)。改正法において前記規定が創設されたのは,不利益処分である排除措置命令を違反行為者以外の者に対して発令することは,立法の手当てがない限り不可能であるからである。すなわち,本件のような場合に合併後存続する会社に排除措置命令の効力を及ぼすのであれば,法律により,そのような不利益処分をなし得る権原を創設しなければならないところ,その旨の規定は存在しない。
以上のとおり,合併後の存続会社に対し排除措置の執行を求めることを認める規定が一切存在せず,また,排除措置命令の内容が対人的な不利益処分であることに照らせば,消滅会社であるバンテックワールドトランスポートに対し発令された本件排除措置命令は,その名宛人である同社が消滅したことにより失効している。
(2) 争点2(本件合意の内容)について
ア 審査官の主張
本件合意の内容である「請求する」旨の「請求」とは,14社が荷主に提供する本件業務の代金である4料金について,金額を決め,その支払を求めることを意味するものである。すなわち,本件荷主向け燃油サーチャージ合意においては「航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額」,本件AMSチャージ合意においては「一定額以上のAMSチャージ」,本件セキュリティーチャージ等合意においては「一定額以上のセキュリティーチャージ及び爆発物検査料」という金額を決定し,それぞれ荷主に対しその支払を求めることを内容としていることはいずれも本件排除措置命令書の文理上明らかである。
したがって,本件合意は,本件業務の対価を決定するものであり,価格の決定カルテルとして不当な取引制限に当たる。
イ 被審人らの主張
(ア) 本件合意の内容に関する審査官の前記主張によれば,本件合意の対象は,荷主に対し4料金を請求すること,すなわち4料金の支払を求めることのみに限定されており,荷主と価格交渉をすることや4料金を収受することは本件合意の対象に含まれていないこととなる。このような請求することのみを対象とする本件合意は,通常の価格カルテルとは異なり,荷主との間で合意する実際の価格を制限するものではないから,不当な取引制限には該当せず,主張自体失当である。(被審人バンテック)
(イ) 審査官が主張する本件荷主向け燃油サーチャージ合意の内容は,利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額を荷主向け燃油サーチャージとして荷主に新たに請求するというものである。これは,航空会社の予定を前提とした未確定のもので,しかも内容を第三者である航空会社が決めるという不確定なものであって,また,包括的内容であり,このような不確定条件付きの合意が不当な取引制限に該当することはないというべきであるから,審査官の主張する本件荷主向け燃油サーチャージ合意は主張自体失当である。(被審人バンテック及び被審人ケイライン)
(3) 争点3(本件合意の成否)について
ア 審査官の主張
(ア) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
a 合意の成否について
(a) 平成14年9月18日に開催された国際部会役員会の会合(以下「14.9役員会」という。)には,構成員である14社のうち12社が出席し,各社は,近鉄の本の議事進行の下,順番に,日本航空を含む航空会社が燃油サーチャージを設定することに対する自社の対応方針を発表した。12社のうちユナイテッドを除く11社の対応方針は,航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなる平成14年10月16日以降,荷主に対し航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額の全額を荷主向け燃油サーチャージとして請求し収受することとして,そのための交渉を荷主と行うということで一致した。
ユナイテッドは,荷主が株主であるため,荷主向け燃油サーチャージの請求先が株主となることから,事前に説明して株主の理解を得る必要がある旨を述べたが,荷主向け燃油サーチャージを請求し,収受していく方針については反対しなかった。
(b) 14.9役員会において,12社は,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージを請求し,その全額を収受するために,航空会社,荷主の各別に対応策を検討した。
例えば,航空会社については,航空運賃から燃油サーチャージの額に相当する1キログラム当たり12円を値引きするよう交渉すること,荷主については,取引先として競合する荷主に対しても,14社が協力して,荷主向け燃油サーチャージを全額請求し収受できるよう,説得することを検討・確認した。また,荷主に対する対応としては,荷主に請求する荷主向け燃油サーチャージについては,その全額又は一部を請求しないという方法により,荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするための営業の手段,つまり競争の手段として使用しないこととし,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額の全額を荷主に請求し収受していくことを確認した。
以上のような検討や確認の過程において,12社の出席者で反対意見を述べた者はいなかった。
(c) 以上の事実によれば,14.9役員会において,12社の間で本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したといえる。
b 日本通運及びDHLの合意への参加について
(a) 平成14年11月8日,協会の理事会の会合(以下「14.11理事会」という。)が開催された。14.11理事会には,14.9役員会を欠席した日本通運及びDHLの担当者も出席した。
(b) 近鉄の本は,14.11理事会において,国際部会の活動報告を行った。近鉄の本は,その中で,14.9役員会を開催したこと,この役員会に参加した12社に対し,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージへの対応について確認したところ,各社とも燃油サーチャージに相当する額の全額を荷主に請求し収受することで一致したことなどを報告したが,日本通運及びDHLの出席者は,この報告に対し,反対意見を述べなかった。
(c) 以上の事実及び後記(ウ)の事情等を総合すれば,日本通運及びDHLは,遅くとも14.11理事会が行われた平成14年11月8日までに,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したといえるのであり,これにより本件合意は,国際部会役員会の構成員14社全てが参加したものとなった。
c 荷主向け燃油サーチャージの請求等に係る事情について
(a) 14社は,別紙4の「荷主向け燃油サーチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しているところ,その請求内容・請求開始時期はおおむねそろっているのであって,この事実は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の存在を裏付ける事情である。
(b) 14社は,上記のとおり荷主向け燃油サーチャージの請求を開始した日以降に開催された国際部会役員会において,自社の収受率や未収受額等を発表し,改めて,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として使用しないことを確認し,荷主向け燃油サーチャージの支払を拒否した荷主の具体的名称を発表し,支払交渉担当会社を決定するなどしていた。仮に,各社が個別の判断により対応するのであれば,国際部会役員会において,14社が荷主向け燃油サーチャージの収受率等を発表する必要はないはずであるから,このことは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が存在していたことを裏付ける事情である。
(イ) 本件AMSチャージ合意について
a 合意の成否について
(a) 平成16年11月22日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.11役員会」という。)には,構成員である13社全てが出席した。16.11役員会では,近鉄の本が議事進行し,各社の出席者は,AMSチャージについて,荷主に対する請求額や請求開始時期に関する各社の考えを発表した。その後,請求額について多数決を採ったところ,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円とするものが多数を占めた。
(b) これに対して,近鉄の本は,最低500円を請求することを提案し,また,請求開始時期については,平成16年12月13日からとすることを提案するなどした。さらに近鉄の本は,各社とも一致してAMSチャージを荷主に請求し収受すること,これを競争の手段としないことなどを提案した。上記一連の近鉄の本の提案に対して,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
(c) 以上の事実によれば,16.11役員会において本件AMSチャージ合意が成立したといえる。
b AMSチャージの請求等に係る事情について
(a) 13社は,その後,別紙4の「AMSチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,AMSチャージの請求を開始しているところ,その請求開始時期はそろっており,請求内容も最低額は500円以上であっておおむねそろっているのであって,この事実は,本件AMSチャージ合意の存在を裏付ける事情である。
(b) 13社は,上記のとおりAMSチャージの請求を開始した日以降に開催された国際部会役員会において,自社の請求額,収受率,支払を拒否した荷主の具体的名称を発表するなどしていたほか,改めて,AMSチャージを競争の手段として使用しないことを確認するなどしていた。仮に,各社が個別の判断により対応するのであれば,国際部会役員会において,13社がAMSチャージの収受率等を発表する必要はないはずであるから,このことは,本件AMSチャージ合意が存在していたことを裏付ける事情である。
(ウ) 本件セキュリティーチャージ等合意について
a 合意の成否について
(a) 平成18年2月20日に開催された国際部会役員会の会合(以下「18.2役員会」という。)には,構成員である13社全てが出席した。
(b) 13社の出席者は,近鉄の本の議事進行の下,それぞれ,新航空保安対策基準及びRA制度(以下「新航空貨物保安措置」という。)に対する自社の対応方針を発表したが,その内容は,金額の点はともかくとして,荷主に対して,保安措置維持に必要となる費用であるセキュリティーチャージ及び爆発物検査に必要となる費用である爆発物検査料を新たに請求するということにおいて,おおむね一致していた。
(c) 上記のとおり各社が対応方針を発表した後,近鉄の本の提案により,荷主に対して,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料として請求する額について多数決を採った。近鉄の本は,その結果を踏まえて,13社として,セキュリティーチャージについては,全ての荷主に対しハウスエアウェイビル1件当たり最低300円を請求すること,爆発物検査料については,ハウスエアウェイビル1件当たり最低1,500円を請求すること,請求開始時期は平成18年4月1日とすることを提案した。この提案に対して,反対意見を述べた者はいなかった。
(d) 以上の事実によれば,18.2役員会において本件セキュリティーチャージ等合意が成立したといえる。
b 本件セキュリティーチャージ等の請求等に係る事情について
(a) 13社は,その後,別紙4の「セキュリティーチャージ」欄及び「爆発物検査料」欄に記載のとおり,荷主に対し,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求を開始しているが,その請求開始時期,請求内容はおおむね同一であって,この事実は,本件セキュリティーチャージ等合意の存在を裏付ける事情である。
(b) 13社は,上記のとおりセキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求を開始した日以降に開催された国際部会役員会において,自社の請求状況や収受状況を発表するなどしたほか,近鉄の本がセキュリティーチャージの請求開始時期の変更を提案したこともあった。仮に,各社が個別の判断により対応するのであれば,国際部会役員会において,13社がセキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求状況や収受状況を発表する必要はないはずであるから,この事実は,本件セキュリティーチャージ等合意が存在していたことを裏付ける事情である。
(エ) 会合出席者の価格決定権限について
a 一般に,法人たる事業者が独占禁止法違反の主体となるのは,当該事案における事実関係を総合すると,法人の事業に関してなされた従業員等の自然人の行為が当該法人の行為と評価されることによるからである。
東京高等裁判所平成21年9月25日判決(公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」・株式会社トクヤマほか3名による審決取消請求事件〔以下「ポリプロピレン価格カルテル審決取消請求事件判決」という。〕)が,「部長会のメンバーに値上げの実質的権限がないという点については,前記のような『意思の連絡』の趣旨からすれば,会合に出席した者が,値上げについて自ら決定する権限を有している者でなければならないとはいえず,そのような会合に出席して,値上げについての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されているならば,その者を通じて『意思の連絡』は行われ得るということができる。」と判示することからも,明らかである。
b 本件合意に関しては,14社の代表取締役,本件業務に関わる取締役,同業務に関わる実務担当者等が国際部会役員会の会合に出席しており,これらの出席者は,いずれも各法人事業者の事業活動の一環として出席していたのであるから,各出席者の行為は法人の行為と評価できるのである。形式的な社内権限の有無は問題とならない。
イ 被審人らの主張
(ア) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
a 14.9役員会の出席者について
(a) 被審人西鉄の主張
審査官は,14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したと主張するが,この役員会に被審人西鉄の誰が出席していたのか等については,何ら主張立証されていない。この当時,被審人西鉄において価格決定権限を有していたのは,取締役航空貨物事業本部長の地位にあった北古賀正司(以下「被審人西鉄の北古賀」という。)であるが,同人が14.9役員会に出席した事実はなく,事前又は事後に合意内容を承諾したこともない。また,被審人西鉄の専務取締役であった野上義夫(かつては航空貨物事業本部長,平成15年6月から常任顧問。以下「被審人西鉄の野上」という。)及び航空業務部営業企画課企画係副長であった古賀柳治(平成17年7月から航空業務部営業企画課付課長,平成18年5月から航空貨物事業本部営業企画部課長。以下「被審人西鉄の古賀」という。)も,14.9役員会には出席していない。
よって,14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したとは認められない。
(b) 被審人ケイラインの主張
14.9役員会に被審人ケイラインの社員が出席していた事実を否認する。14.9役員会に出席した被審人ケイラインの社員について具体的な主張立証がされていない以上,14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したとはいえない。
b 14.9役員会の状況等について
(a) 本件業務の取引分野において圧倒的1位のシェアを有する日本通運及び有力事業者であるDHLが出席していない14.9役員会において,12社間で価格カルテルが成立するなどということはあり得ない。(被審人西鉄及び被審人バンテック)
(b) 14.9役員会に先立って,12社間において,荷主向け燃油サーチャージに関する意見のすり合わせがされたり,12社に対して合意に必要な事前の情報伝達がされたことはない。
また,14.9役員会が開催された時点では,日本航空は,未だ燃油サーチャージを再導入することを国土交通大臣に申請しておらず,国土交通大臣の認可が得られるか否かは全く確定していなかった。
このような状況において,僅か1回の会合(14.9役員会)で本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したというのは不自然であるといわざるを得ない。(被審人西鉄及び被審人バンテック)
c 日本通運及びDHLの本件合意への参加について
14.11理事会における14.9役員会についての報告は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意があったことを内容とするものではなく(査共第63号証参照),同理事会で報告を受けたことをもって,日本通運及びDHLが本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わったことにはならない。(被審人西鉄及び被審人ケイライン)
d 荷主向け燃油サーチャージの性質等について
14社は,CASS(本件事業者が航空会社に支払う運賃及び料金の自動精算システム)により燃油サーチャージを航空会社から一方的に徴収されるため,当該額を荷主向け燃油サーチャージとして荷主から回収しなければ,回収できない分は14社自身の負担となってしまうこととなり,その額も営業上無視することができないほど多額であった。そのため,14社においては,燃油サーチャージを荷主から回収しなければならない営業上の必要性が極めて高く,航空会社から燃油サーチャージの請求を受けた場合に,14社が荷主向け燃油サーチャージの全額を請求するのは当然のことであって,これを請求するか否かとか,請求する金額をいくらにするかといったことは改めて決定するまでもないことであった。
また,このような状況においては便益(航空会社の航空運送サービスの役務の提供)を受ける者が費用を負担するのが公平であるという観点から,14社は,燃油サーチャージについて,燃油の費消により直接に便益を受ける者である荷主がその全額を負担すべきものであるという認識,すなわち,実質的には,航空会社が荷主から収受すべき料金を14社が航空会社に対し立て替える「立替金」であるという認識を有していた。そうすると,審査官の主張する本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,燃油サーチャージの立替払いをした14社が,それを本来の負担者である荷主に請求することを確認したにすぎないものということとなり,それが不当な取引制限に該当しないことは明らかである。
さらに,前記第3の5(5)のとおり,14社は,平成14年10月16日の日本航空による燃油サーチャージの請求再開より前に,既に荷主向け燃油サーチャージにつき国土交通大臣に届け出ていたのであり,その内容に従って荷主向け燃油サーチャージの請求を再開したにすぎない。
以上によれば,14社は,それぞれ独自の判断で自主的に荷主向け燃油サーチャージの請求を決定したのであり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は成立していない。(被審人ら)
e 本件合意の拘束力について
(a) 国際部会役員会における被審人らの収受率の発表等については,発表内容が営業秘密に該当するものではない上,発表内容の正確性が制裁等により担保されていたわけでもないことから,本件合意により相互にその事業活動を拘束していた(独占禁止法第2条第6項)とはいえない。(被審人ケイライン)
(b) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,大手3社のみの申合せにより事実上消滅しており,被審人ケイラインは大手3社から合意の消滅につき連絡を受けていない。本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,この程度の拘束力のないものであった。(被審人ケイライン)
f その他,次の各事情等に照らしても,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したとはいえない。
(a) 14.9役員会の時点において,航空会社から請求されると見込まれていた燃油サーチャージの金額は1キログラム当たり12円であり,航空会社の燃油サーチャージがそれよりも値上がりすることは当時誰も想像していなかったから(査共第63号証参照),仮に,14.9役員会において荷主向け燃油サーチャージについて何らかの合意があったとしても,それは,1キログラム当たり12円(当時見込まれていた航空会社の燃油サーチャージの金額)の荷主向け燃油サーチャージを請求する旨の合意でしかあり得ない。本件荷主向け燃油サーチャージ合意のように,本件事業者が航空会社に支払う燃油サーチャージがいくらになろうとも,常に14社を拘束するといった合意が成立することはあり得ない。そして,仮に,14.9役員会で上記のような合意が成立したとしても,航空会社の燃油サーチャージが1キログラム当たり18円に値上がりした時点をもって合意は消滅したと評価するほかない。(被審人バンテック)
(b) DHLを除く13社が荷主向け燃油サーチャージの請求を開始した日が平成14年10月16日とそろっているのは,航空会社が燃油サーチャージを適用した日が同日であるからであって,請求開始日がそろっていることにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立が裏付けられるものではない。
また,前記のとおり,荷主向け燃油サーチャージは,実質的な立替金として,14社が航空会社から請求を受けた燃油サーチャージに相当する全額を荷主に請求するのが当然という性格を有するものであるから,14社の荷主向け燃油サーチャージの請求内容がそろっているのも当然であって,これにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意の存在が基礎付けられるものとはいえない。
なお,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したとされていない本件事業者32社のうち29社においても荷主向け燃油サーチャージの請求開始時期はおおむねそろっているし,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したとされていない本件事業者32社のうち28社の荷主向け燃油サーチャージの収受状況と13社の収受状況は極めて近似していることから(査共第249号証参照),本件荷主向け燃油サーチャージ合意と13社の荷主向け燃油サーチャージの収受状況とは全く関連性がないものというべきである。(被審人ら)
(c) 荷主向け燃油サーチャージの請求が開始された後の国際部会役員会において,14社が荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表したこと等については,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の実効性を確保するようなものではなく,単に協会の情報収集活動等の一環として報告をしていたにすぎない。よって,このような事後の事情により,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が推認されるものではない。(被審人ら)
(d) 本件排除措置命令において本件荷主向け燃油サーチャージ合意が消滅したとされている平成19年11月12日以降と,それ以前とで,被審人西鉄による荷主向け燃油サーチャージに係る行為には変化がなかったことは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意がなかったことを示すものである。(被審人西鉄)
(イ) 本件AMSチャージ合意について
本件荷主向け燃油サーチャージ合意と同様に,仮に,13社による何らかの情報交換活動等が存在したとしても,それだけでは不当な取引制限に当たる本件AMSチャージ合意があるとはいえず,その他審査官が主張する事情は,いずれも本件AMSチャージ合意の存在を裏付けるものとはいえない。被審人らは,AMSチャージについても,各社が独自に料金設定をしていたものである。(被審人ら)
(ウ) 本件セキュリティーチャージ等合意について
本件荷主向け燃油サーチャージ合意と同様に,仮に,13社による何らかの情報交換活動等が存在したとしても,それだけでは不当な取引制限に当たる本件セキュリティーチャージ等合意があるとはいえず,その他審査官が主張する事情は,いずれも本件セキュリティーチャージ等合意の存在を裏付けるものとはいえない。被審人らは,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料についても,各社が独自に料金設定をしていたものである。(被審人ら)
(エ) 会合出席者の価格決定権限について
不当な取引制限に当たる本件合意が成立するためには,4料金について価格決定権限を有する者,又はその者から権限を付与された者が会合に出席する必要があるが,被審人らを含む14社において4料金の価格決定権限を有する者が国際部会役員会に出席していないから,本件合意は成立しない。(被審人ら)
(4) 争点4(本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否か)について
ア 審査官の主張
(ア) 競争の実質的制限
a 一定の取引分野における競争を実質的に制限するとは,競争自体が減少して,特定の事業者または事業者集団が,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによつて,市場を支配することができる形態が現れているか,または少なくとも現れようとする程度に至つている状態をいう(東京高等裁判所昭和28年12月7日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」〔東宝株式会社ほか1名による審決取消請求事件〕)ものである。
b 一般に,価格は費用や市場の情勢等の今後の需要見通しを含む様々な要因を総合的に考慮して定められるべきものであり,その価格の設定に当たっては,競争業者の動向が不明であるため,どのように設定するかにより各事業者は相当のリスクを負うのである(東京高等裁判所平成20年4月4日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」〔株式会社サカタのタネほか14名による審決取消請求事件〕参照。)。
ところが,本件においては,市場占有率約75パーセントを有する14社による4料金に係る合意(本件合意)が,4料金の金額を決定し請求することとされていたために,14社は,本件業務の対価の一部として4料金を荷主に請求しても競争上不利にならなかったのであって,価格等の取引条件を左右することによって市場を支配することができたのである。このような状態は,本件業務の取引分野において,公正かつ自由な競争が制限され,競争自体が減少していたものといえる。
(イ) 被審人らの主張に対する反論
被審人らは,4料金のうちの各料金について個別に競争の実質的制限の有無を判断するべきであること,本件業務に係る運賃及び料金のごく一部を占めるにすぎない4料金について本件合意がされたとしても,それ以外の運賃及び料金に関しては競争が消滅していない以上,本件業務の全体につき競争が実質的に制限されるものではないこと等を主張する。
しかしながら,4料金は本件業務の運賃及び料金と別個に合意され支払われるものではなく,これらと併せて合意され支払われるものであるから,荷主が14社と本件業務の取引をするに当たっては,4料金の金額を含む運賃及び料金の額を基にして,取引先である本件事業者を選択し,選択した事業者との間で,取引価格である運賃及び料金の額を決定することにならざるを得ない。そうすると,14社は,4料金部分での競争を停止することにより,本件業務の取引条件である価格の全体について,その意思で,ある程度自由に左右する状態をもたらしていたということができるから,被審人らの前記主張は理由がない。
イ 被審人らの主張
(ア) 4料金の取引分野について
4料金の性格及び金額はそれぞれ異なっており,それぞれ別個に表示されて請求されていることからすれば,料金ごとに一定の取引分野を画定すべきである。そうすると,競争の実質的制限の有無についても,4料金のうちの各料金について個別に判断されるべきこととなる。(被審人ら)
(イ) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
a 本件荷主向け燃油サーチャージ合意の有無にかかわらず,14社が真の負担者であるべき荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの負担を求めたことは明らかであり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,実質上,14社が航空会社に立替払いしたものを本来の負担者である荷主に請求するという当然のことを確認したものにすぎず,また,既に国土交通大臣に届け出ている内容を遵守することを確認したものにすぎないというべきである。そうすると,仮に本件荷主向け燃油サーチャージ合意が存在したとしても,これにより14社間の競争が実質的に制限されることはない。(被審人ら)
b 仮に,荷主向け燃油サーチャージによる競争が可能であるとしても,14社による荷主との交渉内容は取引上の力関係により異なっていること,結果として,荷主向け燃油サーチャージの収受状況も各社で異なっていたことからすれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意によって,現実に,荷主向け燃油サーチャージの部分における競争は停止していない。(被審人ケイライン)
(ウ) 本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意について
AMSチャージについて,被審人ケイライン及び日本通運が,実際には本件AMSチャージ合意の内容に反し,ハウスエアウェイビル1件当たり500円を下回る料金を荷主に請求していたなど(審D第12号証参照),13社間において,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に係る競争は現実に行われていたのであって,競争は停止されていなかった。(被審人ケイライン)
仮に,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に係る競争が停止していたとしても,これら3料金の金額が本件業務の対価全体に占める割合は,合計しても約0.1パーセントとごく僅かにすぎず,この部分の合意によって運賃及び料金全体が左右されることはないから,本件合意により本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されるものではない。(被審人ら)
(エ) 本件業務の取引分野における競争の実質的制限について
a 本件合意の対象とされる4料金は,本件業務に係る運賃及び料金全体のうちごく一部を占めるにすぎない(審査官の主張によっても,4料金の合計で12.2パーセントにすぎない。)。14社は,荷主から収受する運賃及び料金の総額をもって相互に競争を行っており,仮に,4料金について本件合意がされたとしても,それ以外の運賃及び料金(審査官の前記主張によれば,運賃及び料金全体の87.8パーセントということになる。)については競争が消滅していない以上,運賃及び料金の全体をコントロールすることはできず,本件業務の全体について競争が実質的に制限されるものではない。(被審人ら)
b 需要者の圧力について
本件業務の需要者である荷主は,供給先(本件事業者ら)を切り替えることが容易であり,切替えの可能性を本件事業者らに示すことによって価格交渉力を有していたのであり,14社に対して需要者(荷主)からの競争圧力が働いていた。よって,本件合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではなかった。(被審人ケイライン)
(5) 争点5(本件排除措置命令の必要性)について
ア 審査官の主張
(ア) 違反行為が長期間にわたって行われていたこと
本件違反行為については,平成14年9月18日の本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加えて,平成16年11月12日の本件AMSチャージ合意,更に平成18年2月20日の本件セキュリティーチャージ等合意が行われており,本件違反行為が終了する平成19年11月12日までの約5年余りの長期にわたって行われていた。
(イ) 違反行為の取りやめが自発的な意思に基づくものでないこと
本件違反行為が終了したと認定されたのは,大手3社が,アメリカ合衆国司法省,欧州委員会等が,競争法違反の疑いにより,アメリカ合衆国,ヨーロッパ等の地域に所在する本件事業者に対する調査を開始した旨の情報に接したこと等から,国際部会役員会の会合を開催しないことを申し合わせ,それ以降,国際部会役員会の会合が開催されていないという外部的要因によるものであり,13社の自発的意思に基づくものではない。
(ウ) 代表取締役を含む役員らにより行われていたものであること
本件違反行為は,国際部会役員会の会合の場を利用して行われており,13社からは,一部の事業者を除いて,各事業者の代表取締役を含む役員級の者が出席していた。
そして,国際部会役員会の会合に出席していた役員らは,国際部会役員会の会合の場において行っていたことを,独占禁止法に違反する行為と認識することなく,あるいは,独占禁止法に違反する行為と認識しつつも,これを取りやめることなく継続していたのである。
(エ) 確実に違反行為を抑止するに足る事情があるとはいえないこと
本件排除措置命令の名宛人12社(以下「本件名宛人ら」という。)のほとんど全ては,独占禁止法遵守マニュアルを制定し,内部通報者制度を設置していたにもかかわらず,代表取締役を含む役員級の者によって本件が引き起こされたことからすれば,独占禁止法遵守マニュアルも内部通報者制度も,独占禁止法違反行為を防止するために十分な実効性を有するものでなかったといわざるを得ない。
(オ) まとめ
以上の事情を総合的に考慮すると,本件名宛人らにおいて,本件と同様の違反行為が繰り返されるおそれがあるというべきであって,これに対して措置を採る必要がある。したがって,独占禁止法第7条第2項の「特に必要があると認めるとき」に該当するのであり,本件名宛人らに対し,同条項に基づき必要な措置を命じた原処分は相当である。
イ 被審人らの主張
(ア) 被審人西鉄の主張
本件排除措置命令において本件違反行為は事業者により自発的に取り止められたと認定されている上,本件合意の場とされている国際部会役員会は,本件違反行為の消滅日とされている日から2年近くもの間開催されていない。また,被審人西鉄は,協会の招集に応じて国際部会役員会に出席し,近鉄の本から求められて収受率の報告をするなど,国際部会役員会への関与は受動的であった。また,国際部会役員会の出席者である被審人西鉄の古賀は,被審人西鉄の役員等ではない。そうすると,仮に,本件排除措置命令において認定された違反行為が存したとしても,当該違反行為は既に十分に排除されているものといえる。
さらに,被審人西鉄は,過去において不当な取引制限を理由とする命令や警告を受けたことがないことからすれば,今後,被審人西鉄が本件業務の取引分野において不当な取引制限に該当する行為を行う可能性は皆無である。
したがって,被審人西鉄に対し,排除措置を命じることが特に必要(独占禁止法第7条第2項)と認められる事情は存在せず,本件排除措置命令は,公正取引委員会に認められた裁量を逸脱するものである。
(イ) 被審人バンテックの主張
本件セキュリティーチャージ等合意がされたのは平成18年2月20日であり,本件違反行為が消滅したのは平成19年11月12日であるから,本件違反行為が長期にわたって行われていたとはいえず,被審人バンテックに対する排除措置命令の必要性はない。
また,本件排除措置命令の主文第3項において「11社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を決定してはならない」と命じられている。しかし,ここでいう「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金」の範囲が不明である。本体運賃等については本件事業者間において激しい競争が一貫して行われているにもかかわらず,それをも含めて繰り返しの禁止を命じるのは,不当に拡大された命令である。また,本件排除措置命令で違法行為の対象とされたAMSチャージ及びセキュリティーチャージ等は,料金のうちの一部にすぎないにもかかわらず,それ以外の「料金」についても共同の決定の繰り返しを禁じているのは,不当に拡大された命令である。
(6) 争点6(本件合意は,独占禁止法第7条の2第1項第1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当するか否か)について
ア 審査官の主張
本件違反行為の対象役務である本件業務は,航空機による運送のほか貨物の集荷,配送,混載貨物仕立て,通関手続等も含む個々の作業が全体として一つの業務を構成しているものであるところ,14社は,荷主の求めに応じて,本件業務の全部又は一部を提供し,その全体として一つに構成された業務の対価として4料金を含む運賃及び料金を荷主に請求し収受していたのであるから,本件違反行為が本件業務の対価に係るものであることは明らかである。
イ 被審人らの主張
(ア) 荷主向け燃油サーチャージについては,前記のとおり,本件事業者が航空会社に立替払した燃油サーチャージ相当額を本来の負担者である荷主から回収するという実態があり,本件業務,あるいは本件業務における個々の業務のいずれかに対応して設定されているものではなく,その設定金額の多寡が本件業務の内容に影響を与えるものでもない。よって,荷主向け燃油サーチャージは,荷主が本件事業者から提供を受ける本件業務の反対給付とはいえず,本件業務という役務の対価ではない。(被審人西鉄及び被審人ケイライン)
(イ) 本件実行期間を通じて被審人ケイラインが航空会社に支払った燃油サーチャージの総額は,荷主から回収できた荷主向け燃油サーチャージの総額よりも多く(審D第1号証),燃油サーチャージの収支はマイナスであって,被審人ケイラインは燃油サーチャージの収受による経済的利益を全く得ていない。したがって,不当な経済的利益を剥奪するという課徴金制度の趣旨は該当しない以上,荷主向け燃油サーチャージは,本件業務という役務の対価には当たらない。(被審人ケイライン)
(7) 争点7(本件業務は小売業又は卸売業に該当するか否か)について
ア 審査官の主張
課徴金制度の導入当時,課徴金の算定率の設定に係る業種の分類については,日本標準産業分類(当時,行政管理庁告示。)に準拠することとされていた。そして,現行の日本標準産業分類では,本件業務に係る事業は「運輸業,郵便業」の「道路貨物運送業」又は「運輸に附帯するサービス業」に分類されており,「卸売業,小売業」と「運輸業,郵便業」とは別個独立の大分類とされている。また,課徴金制度が導入された昭和52年当時においても,本件業務に係る事業は「運輸・通信業」の「運輸に附帯するサービス業」に分類されており「卸売業,小売業」と「運輸・通信業」とは別個独立の大分類とされていた。
また,日本標準産業分類では,卸売業及び小売業について「この大分類には,原則として,有体的商品を購入して販売する事業所が分類される」とされており,そもそも「役務」自体を取引する事業者を卸売業又は小売業に分類することは予定されていない。
よって,被審人らの業務である本件業務は「小売業」又は「卸売業」には該当せず,課徴金の算定率は,平成18年1月3日以前の違反行為に係るものについては6パーセント(平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項),同月4日以降の違反行為に係るものについては10パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)である。
イ 被審人らの主張
独占禁止法第7条の2第1項の「小売業」又は「卸売業」の該当性は実質的に判断すべきであり,財(商品)であろうとサービス(役務)であろうと,取引を媒介し,手数料的なものとして対価を受け取るという事業構造を有し,そのため利益率が低い事業者については,「小売業」又は「卸売業」に該当するものと解すべきである。
本件業務については,本件事業者が,航空会社から貨物を搭載・運送するための航空機内の一定のスペースを仕入れ,これを不特定多数の荷主に対し,個別に分けて販売しているという実態がある。また,本件業務は,航空会社が提供する航空貨物サービスの利用を媒介し,荷主から収受した運賃収入と航空会社へ支払った運賃との差益をもって収入とすることにより僅かな利幅で事業活動を行うという性格も有する。そして,被審人らの本件業務の売上高に対する営業利益率は,小売業及び卸売業のものに近似しているのであり,その点においても,被審人らの本件業務は,小売業又は卸売業の実質を有しているものといえる。
したがって,被審人らの業務である本件業務は小売業又は卸売業に該当し,課徴金の算定率は,平成18年1月3日以前の売上額については2パーセント(小売業)又は1パーセント(卸売業)(平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項),同月4日以降の売上額については3パーセント(小売業)又は2パーセント(卸売業)(独占禁止法第7条の2第1項)が適用される。(被審人ら。ただし,被審人ケイラインは小売業のみを主張している。)
(8) 争点8(課徴金算定の基礎となる売上額に消費税相当額が含まれるか否か)について
ア 審査官の主張
消費税相当額を独占禁止法第7条の2第1項に規定する「売上額」から控除しない取扱いについては,課徴金制度の趣旨を踏まえた実効性を図る観点からの行政上の合理性に基づくものであり,立法裁量の問題として是認されることは明らかである(東京高等裁判所平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁・東燃ゼネラル石油審決取消請求事件判決参照)。
イ 被審人バンテックの主張
被審人バンテックが本件課徴金納付命令に従い国庫に納付した金額の中には,売上高の5パーセントの消費税相当額が含まれており,被審人バンテックはこの消費税相当額を荷主から得て国に納めたのである。一方で,適法な対価の収受であるかのごとく扱い消費税を徴収し,その一方で,これを違法な行為として消費税に係る分も含めて制裁として課徴金を徴収することは,一貫しない不合理な行為であり,不当な二重取りというべきものである。
よって,課徴金額の算定に当たり,売上額に消費税相当額を含めることは違法である。
7 審判官の判断
(1) 争点1(被審人バンテックに対する本件排除措置命令の効果〔被審人バンテックの被審人適格〕)について
前記第2の1のとおり,公正取引委員会は,平成21年3月18日,バンテックワールドトランスポートに対し本件排除措置命令を発令し, 本件排除措置命令書は,同年3月19日,バンテックワールドトランスポートに対し送達された。その後,前記第3の1(1)のとおり,被審人バンテックは,同年4月1日,バンテックワールドトランスポートを吸収合併し,これによりバンテックワールドトランスポートは消滅したが,被審人バンテックは,同年5月15日,本件排除措置命令に対し審判請求をした。そこで,本件排除措置命令の効果が被審人バンテックに及ぶか否か(同命令から生じる権利義務を被審人バンテックが承継するか否か)は,本件審判手続における被審人バンテックの被審人適格の有無にも関係するので,この点につき検討する。
独占禁止法上,排除措置命令などの行政処分が行われた後に,名宛人が合併等により消滅した場合における当該行政処分の効果やその承継に関する規定は存在しないものの,一般に,株式会社の吸収合併がされた場合,存続会社は,消滅会社の権利義務を包括的に承継するとされている(会社法第750条第1項)のであって,承継される権利義務には,原則として,私法上のもののみならず公法上のものも含まれるものと解される。もっとも,消滅会社のみに専属する一身専属的な権利義務は,例外的に合併により消滅し,存続会社に承継されないものと解すべきであり,そのような一身専属的な権利義務であるか否かについては,当該権利義務の性質,それが公法上のものであれば,当該権利義務の根拠法の趣旨,目的その他の事情に照らして,個別に判断すべきである。
これを本件についてみるに,独占禁止法上の排除措置命令は,市場において自由競争秩序が制限されている状態を回復し,それを維持することで,独占禁止法の目的(同法第1条)を実現しようとするものであるから,原則として,当該違反行為の違反行為者たる事業者(以下「違反事業者」という。)に対して効果を及ぼせば足りるものである。しかしながら,違反事業者が,営業譲渡,合併等によって,当該違反行為に係る事業(以下「当該事業」という。)を別法人に承継させ,この法人(以下「承継法人」という。)が当該事業を継続している場合等を想定すると,違反事業者は既に当該事業を行ってはいないとはいえ,市場における自由競争秩序が制限されている状態は存続しているのであるから,これを回復し,維持するために,承継法人に対して排除措置命令の効果を及ぼす必要があることは明らかである。
また,一般に,既往の違反行為に対して命じられる排除措置の内容は,「当該違反行為が既になくなっている旨の周知措置」,「将来において同様の違反行為を行わないこと」等であるから,承継法人にとっても容易に履行が可能なものであって,違反事業者でなければ履行できないという性質のものではない。
以上検討したところによれば,一般に,排除措置命令に基づく義務は,独占禁止法の趣旨,目的や当該義務の内容等に照らして,その性質上一身専属的なものではなく,承継法人はこれを承継するものというべきである。
上記の理を,本件における具体的な事情に照らしてみても,合併が行われた場合には,消滅会社は清算されることはなく(会社法第475条第1号,第471条第4号),事業活動は存続会社に包括的に承継されるところ(同法第750条第1項),被審人バンテックは,前記第3の1(1)のとおり,バンテックワールドトランスポートから本件業務を承継し,現在においても本件業務を営んでいることに照らせば,バンテックワールドトランスポートにおいて本件違反行為を行っていたことが認められるのであれば,競争秩序を回復して本件違反行為の再発防止を図るためには,バンテックワールドトランスポートを承継した被審人バンテックに対して,排除措置命令の効果を承継させる必要性があることは明らかである。
被審人は,平成21年に改正された独占禁止法第7条第2項第2号により,違反行為者が合併により消滅した場合における排除措置命令の名宛人として,合併後の存続会社が新たに規定されたことを根拠にして,独占禁止法上に明文規定が存在しない以上,本件排除措置命令は,名宛人であるバンテックワールドトランスポートが消滅したことにより失効し,被審人バンテックはこれを承継しない旨主張する。しかし,前記改正法の趣旨の解釈はさておき,そもそも被審人が主張している前記条項は,合併による存続会社に対して排除措置命令を発令することができるとする規定であって,既に,排除措置命令が発令され送達もされた後,名宛人(バンテックワールドトランスポート)が合併により消滅した場合に,存続会社(被審人バンテック)が同命令を承継するか否かが問題となっている本件とは前提となる事実関係が異なるのであるから,被審人バンテックの前記主張は理由がない。
以上によれば,被審人バンテックは,本件排除措置命令から生じる権利義務を承継しており,本件審判手続における被審人適格を有するものと認められる。
(2) 争点2(本件合意の内容)について
ア 本件排除措置命令書によれば,本件合意のうち本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額を,荷主に対する燃油サーチャージとして荷主に対し新たに請求する」というものである。
ここでいう「当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額を,荷主に対する燃油サーチャージとして荷主に対し新たに請求する」とは,航空会社から燃油サーチャージとして請求を受けることとなる金額に相当する金額を荷主向け燃油サーチャージの額として決定し,その金額を荷主に対して請求することであり,請求するに当たっては,請求する金額を決定することが当然の前提となる。そして,上記合意の趣旨は,要するに,航空会社が定めた燃油サーチャージ相当額と同額を荷主向け燃料サーチャージとして請求することにより,新たに発生した費用(燃油サーチャージ相当額)を自社で負担することなく実際の役務の利用者である荷主に転嫁することにあると解される。
本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意も,同様に解することができる。すなわち,本件AMSチャージ合意は,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上を,AMSサーチャージとして荷主に対し新たに請求する」というものであり,本件セキュリティーチャージ等合意は「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上を,セキュリティーチャージとして荷主に対し新たに請求する」,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を,爆発物検査料として荷主に対し新たに請求する」というものであって,いずれも,新たに発生した費用について,当該費用の金額を決定し,荷主に対し請求することを合意したものであり,その合意の趣旨は,新たに発生した費用を自社で負担することなく実際の役務の利用者である荷主に転嫁するものであると解される。
したがって,本件違反行為に係る本件合意(本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意)は,4料金のそれぞれについて金額を決定したものであるから,独占禁止法第2条第6項の「対価を決定」するものに他ならず,不当な取引制限に該当する。
イ 被審人らの主張について
(ア) 被審人バンテックは,本件合意は,荷主に対し4料金を請求することのみを合意したものであり,荷主と価格交渉をすることや4料金を収受することは合意されていないから,荷主との間で合意する実際の価格を制限するものではなく,これが不当な取引制限に該当するとする審査官の主張は,主張自体失当である旨主張する。
しかし,本件合意は,前記(1)のとおり,4料金の金額を決定し,その金額を荷主に対して請求することを内容とするものであり,このような内容の本件合意によって,14社は,それぞれ,荷主との間で価格交渉をし,4料金の全額を収受することを企図したものであるから,それが「対価を決定」(独占禁止法第2条第6項)するものとして不当な取引制限に該当することは明らかである。よって,本件合意につき主張自体失当であるとする被審人バンテックの前記主張は理由がない。
(イ) 被審人バンテック及び被審人ケイラインは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,航空会社の予定を前提とした未確定のもので,しかも内容を第三者である航空会社が決めるという不確定なものであり,また,包括的内容であって,このような不確定条件付きの合意が不当な取引制限に該当することはないから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に係る審査官の主張は主張自体失当である旨主張する。
しかし,一般に,「対価を決定」(独占禁止法第2条第6項)する合意(いわゆる価格カルテル)とは,商品・役務の供給又は購入に係る対価に影響を及ぼし得る競争者間の取決め全般を指すものであり,その性質上,金額などの合意内容が一義的に明確に定められていることまで必要とされるものではない。本件荷主向け燃油サーチャージ合意においては,「航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるとき」との条件が付され,対価につき「当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額」と金額が確定されていないが,いずれも容易に確定され得る内容であり(なお,後記3(1)アで認定するとおり,現に,14社は,航空会社から燃油サーチャージの請求を受け,ほぼ同時期に荷主向け燃油サーチャージの請求を開始している。),その合意が「対価を決定」するものとして不当な取引制限に該当することは明白である。よって,本件荷主向け燃油サーチャージ合意につき主張自体失当であるとする被審人バンテック及び被審人ケイラインの前記主張は理由がない。
(3) 争点3(本件合意の成否)について
ア 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
(ア) 前記第3で認定したところに証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)を総合すると,燃油サーチャージ導入の経緯並びにその後の協会及び14社の対応等について,以下のとおり認めることができる。
a 平成13年の燃油サーチャージ導入の経緯及びこれに対する協会の対応等
(a) 平成8年以降,燃油価格が高騰したことから,航空業界では,燃油価格について航空運賃とは別建てで顧客に請求できるようにするサーチャージ方式(燃油価格が高騰している期間に限って利用者から特別の運賃を付加的に徴収し,燃油価格が元に戻った場合には徴収をやめるという仕組みであり,本体の航空運賃自体の変動を抑えつつ,燃油価格の変動にも機動的に対応することができるシステム)の導入を求める声が高まった。
これを受けて,国際航空運送協会は,平成9年8月,サーチャージ方式による燃油サーチャージ制度を決議したが,結果として,この決議は発効するには至らず,燃油サーチャージ制度の導入が実現するまでには至らなかった。
(査共第25号証,第44号証,第48号証,第62号証)
(b) 平成12年になると燃油価格が再び上昇を始めたため,航空会社は,航空運賃の値上げによってこれに対応した。14社を含む本件事業者は,この航空運賃の値上げに対処するため,荷主に対する本件業務の運賃及び料金を値上げしようと取り組んだが,ほとんどの荷主に応じてもらえず,結果として,航空運賃の値上げによる損失をそのまま負担する状況となった。こうした状況を踏まえて,本件事業者業界は,航空会社に対して,燃油価格の高騰に対応する場合には,航空運賃本体を値上げするのではなく,航空運賃とは別に燃油サーチャージ方式による値上げにして欲しい旨を要望した。
(査共第44号証,第47号証,第48号証)
(c) 以上のような経緯を経て,我が国の航空会社(日本航空を含む5社)は,平成13年3月,国土交通省航空局に対し,我が国発の航空機に搭載される貨物について,航空運賃とは別に燃油サーチャージを設定することについての認可申請を行って同月中に認可を受け,同年5月16日から,本件事業者などの利用者に対して燃油サーチャージを請求することができることとなった。
上記燃油サーチャージの内容は,「基準価格を,1995年から1999年までのシンガポールのケロシン(航空燃油)の平均価格である1バレル当たり23.20アメリカドルとし,燃油価格が基準価格の130パーセント,つまり30.16アメリカドル以上を20営業日連続して超えた場合に,1キログラム当たり12円を設定する。燃油価格が基準価格を20営業日連続して下回った場合に燃油サーチャージを廃止する。」というものであった。
(査共第25号証,第44号証,第47号証,第48号証,第62号証)
(d) 上記のとおり航空会社による燃油サーチャージの導入が決まったことにより,航空会社の利用者である本件事業者は,航空会社から,航空運賃に付加して新たに燃油サーチャージの請求を受けてこれを支払うこととなった。その結果,本件事業者としては,荷主に対して,これまでの本件業務の代金に付加して上記燃油サーチャージに相当する金額を請求して収受することができなければ,上記燃油サーチャージに相当する金額を自社で負担することとなるため,その金額次第では経営上深刻な問題をもたらす可能性もあった。
このような事情もあって,燃油サーチャージ導入が決定したことを受けて,協会の国際部会役員会において,その対応策が話し合われるようになった。
例えば,平成13年3月16日及び同月27日に開催された国際部会役員会の会合では,燃油サーチャージを導入する航空会社に対しては航空運賃の値引きを交渉していくこと,荷主に対しては荷主が荷主向け燃油サーチャージの支払に応ずるよう交渉していくこと,以上の交渉については業界が足並みをそろえて一斉に行うこと,燃油サーチャージの対応については今後2週間に1回程度の連絡会議を開催することなどが話し合われたほか,燃油サーチャージが導入された場合に,本件事業者が荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することができるようにしておくために,各社において,貨物運送取扱事業法に基づく国土交通大臣への運賃及び料金の変更の届出を行うことが確認された。
(査共第36号証ないし第38号証,第44号証ないし第46号証,第48号証)
(e) その後,14社を含む協会の会員47社は,前記運賃及び料金の変更届を行った。
14社の上記届出の内容は,おおむね同様であり,「利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用する場合には,賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額を燃油サーチャージとする。なお,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用しない場合,あるいは廃止した場合には,適用しない。」というものであった。
(査共第18号証ないし第21号証,第62号証)
(f) 国際部会役員会の会合は,平成13年4月26日及び同年5月14日にも開催され(4月26日には,国際部会役員会の構成員14社全てが参加した。),引き続き,燃油サーチャージの導入に対する対応策が議論された。
5月14日の会合では,出席者各自が燃油サーチャージ導入についての自社の対応を発表したところ,荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求するという社が多かったが,請求することは難しい又は請求し得ないとした社が数社あり,各社の対応が分かれた。議事進行役の近鉄の本は,会合の最後に,今回会員各社の足並みはそろわないが,荷主向け燃油サーチャージを請求する方向で足並みをそろえる努力をすることなどの方針を述べた。
(査共第39号証の1及び2ないし第43号証,第46号証)
(g) 平成13年5月17日,被審人西鉄,被審人バンテック,近鉄,日本通運,郵船及び阪急交通社の6社の担当者が集まり,荷主向け燃油サーチャージへの対応について話し合った。近鉄の担当者を中心に,被審人バンテック,郵船及び阪急交通社の4社の担当者は,各社がまとまって荷主向け燃油サーチャージを請求する方向性を打ち出そうとしたが,被審人西鉄及び日本通運の方針が必ずしも一致しなかったため,各社が足並みをそろえるという方向性を打ち出すことはできなかった。(査共第230号証)
(h) 日本航空を含む航空会社は,我が国発の航空機に搭載される貨物について,平成13年5月16日以降,1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,14社に対し燃油サーチャージの請求を開始したため,14社は,航空会社に対して,航空運賃に加えて燃油サーチャージを支払うことを余儀なくされることとなった。
これに対して,14社の中には,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求した社もあったが,燃油サーチャージ相当額の全額ではなく一部のみを請求した社や,荷主向け燃油サーチャージを請求しない社もあった。その結果,荷主向け燃油サーチャージを負担してもらうことについての荷主の理解を得られず,結果として,請求した社も含めて,業界全体としては,荷主から燃油サーチャージに相当する金額を収受することはほとんどできなかった。
(査共第25号証,第49号証ないし第52号証)
(i) その後,燃油価格が下落し,燃油サーチャージを廃止する基準レベルを満たしたことから,遅くとも平成14年1月1日までに,航空会社のほとんど全ては,燃油サーチャージを一旦廃止し,14社に対する燃油サーチャージの請求を取りやめた。これを受けて,14社は,荷主向け燃油サーチャージに係る国土交通大臣に対する届出内容に基づいて,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求することを取りやめた。(査共第25号証,第44号証,第48号証,第49号証,第51号証ないし第54号証,第61号証,第62号証)
b 平成14年の燃油サーチャージ再開の経緯及びこれに対する協会の対応等
(a) 平成14年8月頃,燃油価格が上昇し始め,燃油サーチャージを設定する基準レベルを満たすことが見込まれたことから,日本航空は,国土交通大臣の認可を受けて,我が国発の航空機に搭載される貨物について,1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,平成14年10月16日以降,14社に対する燃油サーチャージの請求を開始した。
日本航空以外の航空会社も,順次,国土交通大臣の認可を受けて,我が国発の航空機に搭載される貨物について,燃油サーチャージを設定し,平成14年10月16日以降,14社に対する燃油サーチャージの請求を開始した。
(査共第25号証,第48号証ないし第52号証,第62号証)
(b) 日本航空の担当者は,航空会社による前記aの再度の燃油サーチャージの設定(以下「本件再設定」という。)に先立つ平成14年9月10日から13日頃にかけて,大手3社に対し,日本航空が国土交通大臣に対し申請を予定している燃油サーチャージの内容について説明した。(査共第44号証,第50号証,第51号証,第55号証,第62号証)
(c) 上記のとおり日本航空から本件再設定の説明を受けた近鉄の本は,平成13年に燃油サーチャージが設定された際に,荷主から荷主向け燃油サーチャージを収受することに業界全体として成功しなかったことについて,業界としての取組が各社まちまちであったことが大きく影響しているものと考えていたこともあり,14社を含む業界全体が一致団結して,荷主向け燃油サーチャージの請求及び収受に取り組む必要があると判断した。そこで,近鉄の本は,本件再設定の開始に先立って,業界全体で足並みをそろえて荷主と交渉することについて意思統一を図るべく,理事会や国際部会などの会合において各社に対し働き掛けをすることとした。(査共第51号証,第52号証)
(d) 平成14年9月10日付けで,協会事務局から,国際部会役員会の各社宛てに,14.9役員会を開催するため出席されたい旨,同役員会では燃油サーチャージについて議題とする旨などが通知された。(査共第222号証)
(e) 平成14年9月18日,14.9役員会が開催され,12社が出席し,近鉄の本,近鉄の総務部秘書グループ担当課長であった佐伯和重(以下「近鉄の佐伯」という。),被審人バンテックの輸出事業部次長であった益子和夫(以下,「被審人バンテックの益子」という。),日新の東京航空部海外業務課長であった山本明彦(以下,「日新の山本」という。)などが出席していた。
近鉄の本の議事進行の下,12社の出席者は,それぞれ各社の本件再設定への対応方針を発表した。ユナイテッドを除く11社の対応方針は,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受するために荷主と交渉を行うというものであった。ユナイテッドの対応方針は,同社が同社の株主である運送業者らから貨物の利用運送を引き受けており,荷主向け燃油サーチャージの請求対象である荷主が株主であることから,その方針として,荷主向け燃油サーチャージを請求し収受する前に,これらの株主に説明し理解を得る必要があるというものであり,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受していくという方向性に反対するものではなかった。
以上の発表を受けて,近鉄の本は,12社の出席者に対して,各社足並みをそろえて荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの全額を請求していくこと,荷主向け燃油サーチャージを請求しなかったり,一部しか請求しなかったりすることで,荷主との間の貨物の取扱量を増やしたり,新たな取引先を開拓したりすることはやめること(すなわち,荷主向け燃油サーチャージを全額収受できるよう荷主に交渉することで各社が協調することとし,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として用いないこと)を提案した。12社の出席者は,この提案に際して,誰も反対意見を述べなかった。
(査共第50号証ないし第52号証,第57号証ないし第62号証,本博圭参考人,佐伯和重参考人,益子和夫参考人,山本明彦参考人)
(f) 平成14年11月8日に静岡県において開催された14.11理事会には,14社のうちヤマトとエアボーンを除く各社が出席した。14.9役員会を欠席していた日本通運からは,当時代表取締役であった浅田元紀が,DHLからは,当時チーフオペレーションオフィサーであった池田敏がそれぞれ出席した。
近鉄の本は,国際部会の活動報告として,14.9役員会を開催し,12社が出席したこと,この役員会において,出席した12社の方針を確認したこと,その上で本件再設定が開始された場合には,国際部会役員会のメンバー各社が荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することとなったことなどを報告した。この報告に対して,上記浅田及び池田は,何ら反対意見を述べなかった。
(査共第63号証)
c 荷主向け燃油サーチャージについてのその後の14社の行動等
(a) 14社のうちDHLを除く各社は,いずれも,燃油サーチャージが設定された日である平成14年10月16日又はそれに近接した日から,我が国の航空会社を利用する貨物に関して,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しており,各社の請求開始時期はおおむね一致していた。上記各社が荷主に請求した荷主向け燃油サーチャージの内容は,「賃率適用重量に利用する航空会社が適用する利率を乗じた額」であって,請求内容も一致していた。
DHLは,平成14年12月16日から荷主向け燃油サーチャージの請求を開始したが,請求内容は,「賃率適用重量に利用する航空会社が適用する利率を乗じた額」であり,上記各社と一致していた。
(査共第64号証ないし第71号証,第249号証)
(b) 平成14年11月15日,協会において,「国際部会・国際宅配便部会代表役員会」と称する会合(以下「14.11代表役員会」という。)が開催され,14社のうち日本通運,近鉄,郵船,被審人西鉄,阪急交通社,被審人バンテック,日新及び被審人ケイラインの8社が出席した。8社の出席者は,互いに荷主向け燃油サーチャージの収受率や荷主からの収受状況を発表し合った。収受状況としては,全般に良好ではなく,特に大手の荷主からは荷主向け燃油サーチャージが収受できていないというものであった。(査共第72号証)
(c) 平成15年3月17日に開催された国際部会役員会の会合(以下「15.3役員会」という。)には,14社が出席した。14社の出席者は,自社の平成15年1月及び同年2月の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表した。(査共第44号証,第73号証)
(d) 平成15年4月2日に開催された国際部会役員会の会合(以下「15.4役員会」という。)には,構成員会社である14社全てが出席しており,被審人西鉄の北古賀,被審人バンテックの当時の取締役田村純一,被審人ケイラインの当時の代表取締役濱田一壽(以下「被審人ケイラインの濱田」という。)などが出席していた。
14社の出席者は,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり18円に値上げすることを受けての各社の対応方針等を発表した。出席者の中には,荷主向け燃油サーチャージの収受率を引き上げるためには,14社が協力し合う必要があるとか,14社が足並みをそろえて荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求する必要があるなどとする意見を述べた者もあった。
14社は,会合の最後に,利用する航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり18円に値上げした場合,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージとして,その同額を請求し,全額を収受するよう交渉していくことを確認した。
(査共第74号証の1及び2)
(e) 平成16年3月5日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.3役員会」という。)には,13社のうちDHLを除く各社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの当時の取締役二宮誠人,被審人ケイラインの濱田などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率,荷主向け燃油サーチャージを全額支払わないか又は一部しか支払わない荷主(以下「支払拒否荷主」という。)の具体的な名称,支払拒否の理由,航空会社の担当者を同行して行った支払交渉の状況などを発表した。出席者の中には,本体運賃に荷主向け燃油サーチャージを含めている荷主に対しては,「外出し」,つまり本体運賃と荷主向け燃油サーチャージを個別に支払ってもらえるよう営業活動を行うことを徹底する必要があると提案する者もいた。
近鉄の本は,航空会社の担当者を同行して支払拒否荷主に全額支払ってもらうための交渉を行うこと並びにそのために交渉相手となる荷主(以下「対象荷主」という。)ごとに交渉を担当する会社(以下「交渉担当会社」という。)及び同行する航空会社を決めておくことを提案し,具体的には,以下のとおりの案を提示したところ,反対意見を述べた者はいなかった。
対象荷主 交渉担当会社(同行する航空会社)
富士通株式会社
(以下「富士通」という。) 日本通運(日本貨物航空株式会社。〔以下「日本貨物航空」という。〕)
三菱自動車工業株式会社 阪急交通社(日本貨物航空)
セイコーエプソン株式会社
(以下「セイコーエプソン」という。) 被審人西鉄(日本航空)
松下電器産業株式会社
(以下「松下電器産業」という。) 近鉄(日本航空)
日本ビクター株式会社 ヤマト(日本航空)
トヨタ自動車株式会社
(以下「トヨタ自動車」という。) 郵船(日本航空)
さらに,近鉄の佐伯及び協会事務局の担当者は,協会の顧問弁護士に確認した結果として,航空会社が13社に請求する燃油サーチャージの額については減額の交渉が可能である旨を報告し,この点については,荷主には知られないようにする必要がある旨述べて,出席した各社に注意を喚起した。
(査共第75号証,第76号証)
(f) 平成16年4月6日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.4役員会」という。)には,13社のうち日本通運及び被審人バンテックを除く各社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人ケイラインの当時の常務取締役赤岡輝男(以下「被審人ケイラインの赤岡」という。)などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率,支払拒否荷主の名称及び支払拒否の理由,航空会社の担当者を同行して行った荷主向け燃油サーチャージの支払交渉の状況などを発表した。この発表内容により,荷主向け燃油サーチャージの収受について13社が協調的に行動していることが確認できたことから,近鉄の本は,「足の引っ張り合いがなかったことは良いことである」旨を述べた。
(査共第77号証ないし第80号証)
(g) 平成16年6月3日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.6役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの当時の専務取締役営業本部長木村弘(平成17年3月から取締役兼専務執行役員営業本部長,平成19年6月からは代表取締役社長。以下「被審人バンテックの木村」という。),被審人ケイラインの当時の取締役佐藤市郎(平成18年3月から常務取締役。以下「被審人ケイラインの佐藤」という。)などが出席していた。
各出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表するとともに,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり24円に値上げすることに対する対応方針を発表した。その際,被審人ケイラインの佐藤は,被審人ケイラインは,上記燃油サーチャージの値上げ分を自社で吸収できないので,荷主に対し,24円全額を支払うよう営業活動をすること,併せて,協会としても,日本経済新聞に広告を掲載するなどして宣伝広報活動に注力して,荷主向け燃油サーチャージの支払を荷主が自動的に認めるような環境整備を行ってほしい旨発言した。
最後に,近鉄の本は,各社ともに,荷主向け燃油サーチャージについて1キログラム当たり24円に値上げし,荷主に対し,その全額の支払を求めて交渉するという対応を取ること,交渉に際しては航空会社の担当者を同行し,その担当者をして,荷主が荷主向け燃油サーチャージを全額支払わない場合には,航空機に予定どおり貨物を搭載できないこともあり得ることを説明させることを検討すべきことなどを述べた。また,近鉄の本は,荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり24円に値上げするに当たって,各社とも,これを競争の手段として使用しないこと,つまり荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取引量を増やしたりするための手段として,荷主向け燃油サーチャージを値引きすることはせず,その全額を請求することなどを述べて,各社一致して協調行動を取ることを要請した。上記一連の近鉄の本の発言に対して,反対意見を述べた出席者はいなかった。
(査共第81号証ないし第86号証)
(h) 平成17年1月28日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.1役員会」という。)には13社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの当時の取締役荒巻長正(以下「被審人ケイラインの荒巻」という。)などが出席していた。出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表したが,これに加えて荷主から収受できるようになった具体的な金額を発表した者もいた。(査共第118号証,第134号証,第151号証ないし第154号証)
(i) 平成17年4月18日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.4役員会」という。)には13社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの当時の取締役松倉孝明(以下「被審人ケイラインの松倉」という。)などが出席していた。
この役員会では,同年5月16日又は同年6月1日から,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり30円から同36円に値上げすることを受けて,荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり36円に値上げして請求することが確認され,値上げの時期についても意見交換が行われたほか,各社の荷主向け燃油サーチャージの収受率が発表された。
(査共第122号証,第155号証ないし第158号証)
(j) 平成17年8月3日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.8役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人西鉄の当時の営業企画課長福間正憲,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,航空会社の燃油サーチャージの値上げに伴い,13社が荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり42円に値上げすることに対する荷主の反応状況,支払拒否荷主の具体的な名称や交渉状況等を発表した。被審人ケイラインの荒巻は,大手荷主から荷主向け燃油サーチャージを収受するに当たっては,中小の本件事業者の対応には限界があり,まず,13社のうち大手の本件事業者が大手荷主との間で交渉し荷主向け燃油サーチャージを全額収受できるようにしてもらいたい旨発言した。
そこで,近鉄の本は,支払拒否荷主のうち,各社に共通する荷主を10社程度選定し,原則として,当該荷主との間で貨物の取引量が最も多い者を交渉担当会社とすること,それぞれの荷主に対する対応については当該荷主と取引のある業者間で協議することなどを提案し,以下の10社を対象荷主とすること,以下の各社を交渉担当会社とすることが決定された。また,近鉄の本は,13社の間で荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求し収受するに当たって,「足の引っ張り合い」はないと発言した。
対象荷主 交渉担当会社
MARUWA株式会社 阪急交通社
富士通 日本通運
日本特殊陶業株式会社 郵船
ソニー株式会社 日本通運
矢崎総業株式会社 郵船
トヨタ自動車 郵船
松下電器産業 近鉄
三菱電機株式会社 近鉄
京セラ株式会社 近鉄
セイコーインスツル株式会社
(以下「セイコーインスツル」という。) 被審人西鉄
(査共第87号証ないし第93号証,第211号証)
(k) 近鉄の佐伯は,17.8役員会における検討を踏まえて,同年9月8日,対象荷主及び交渉担当会社,交渉の実施方法等について,被審人西鉄の古賀,郵船の営業総括部に所属していた曽根広則(以下「郵船の曽根」という。),日本通運の赤井,阪急交通社の和田彰に対し,改めて電子メールで連絡した。(査共第94号証,第210号証ないし第213号証)
(l) 平成17年12月12日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.12役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席していた。
出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率及び未収受額,また,荷主向け燃油サーチャージの支払拒否荷主の名称を挙げて,当該荷主との間で荷主向け燃油サーチャージの支払に向けて行った交渉状況や交渉結果について発表した。
(査共第44号証,第163号証,第164号証,第168号証,第170号証,第172号証ないし第180号証)
(m) 平成18年9月19日に開催された国際部会役員会の会合(以下「18.9役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの赤岡などが出席していた。
上記会合においては,平成18年6月に近鉄の本に代わって国際部会長に就任していた近鉄の田中が議事進行役を務めた。燃油サーチャージについて,全日本空輸株式会社は,平成18年9月16日から,日本貨物航空は,同年10月16日から,いずれも1キログラム当たり60円とする予定であり,日本航空は,同日から,目的地ごとに燃油サーチャージの金額を設定する「距離制」を採用することとなっていたところ,これらについて各社の意見交換が行われ,さらに,各社の荷主向け燃油サーチャージの収受率が発表された。
近鉄の田中は,日本航空が距離制の燃油サーチャージを設定することになると,同社の航空機を利用する場合,13社が荷主に請求する荷主向け燃油サーチャージの額も,目的地によって他の航空会社を利用する場合に比べて安くなるため,これを「営業のツール」,つまり競争の手段として使用しないことを提案した。この提案の趣旨は,例えば,荷主に対し,自社は日本航空の航空機を利用するので荷主向け燃油サーチャージの額を安くできるといった営業を行うことにより,荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするための手段として使用しないというものであった。これに対し,反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第95号証ないし第100号証)
(n) 平成19年7月17日に開催された国際部会役員会の会合(以下「19.7役員会」という。)には,13社のうち日本通運を除く各社が出席しており,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席していた。被審人西鉄の担当者も出席した。
各出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの平成19年5月及び同年6月の収受率及び未収受額を発表した。
出席者は,日本航空が平成19年8月1日から燃油サーチャージを値上げし,他の航空会社もこれに追随することが見込まれ,これによって,13社が航空会社に支払う燃油サーチャージの額も相当な額となるため,再度,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージの全額を請求することを確認した。
会合の席上,当時阪急交通社の専務取締役国際輸送事業本部長であった多田尊則が,荷主向け燃油サーチャージを全額収受できない理由の一つとして,13社のうち同一の荷主と取引している者が複数いることを指摘した。これを受けて,近鉄の田中は,次回に開催する国際部会役員会の会合の場において,支払拒否荷主の具体的な名称を挙げて,その対応策を検討することを提案したところ,これに対し,反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第62号証,第101号証ないし第106号証)
(o) 平成19年9月18日に開催された国際部会役員会の会合(以下「19.9役員会」という。)には,13社のうち被審人バンテック及びヤマトの2社を除く各社が出席しており,被審人西鉄の古賀,被審人ケイラインの荒巻などが出席していた。
11社の出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの平成19年7月及び同年8月の収受率及び未収受額を発表し,その後,荷主向け燃油サーチャージの全額を荷主から収受するための方策についての意見交換を行った。当時日本通運の取締役常務執行役員であった伊藤康生は,支払拒否荷主に対する対応として,近鉄の本が国際部会長を務めていた当時に実施した「対象荷主を選定し,交渉担当会社を決めて交渉を行う」という方法により,一定の効果が上がったことから,再び同様の方法を実施してみてはどうかという趣旨の提案を行った。
そこで,近鉄の田中が,次回に開催する国際部会役員会の会合の場においては,各社が取引している荷主の荷主向け燃油サーチャージの収受状況を具体的な荷主名を挙げて発表することを提案したところ,これに対し,反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第44号証,第106号証ないし第111号証)
(イ) 前記第3及び前記アで認定した事実経過によれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立をうかがわせるものとして,特に以下の事実を指摘することができる。すなわち,まず,平成8年以降の燃油価格の高騰により,航空業界では,航空運賃自体を変更することなく燃油価格の高騰に臨機応変に対応する手法として,サーチャージ方式の導入が提唱されていたこと,平成13年に至って我が国の航空会社においても燃油価格についてサーチャージ方式が導入され,航空会社は,同年5月16日から,利用者に対して航空運賃とは別に燃油サーチャージを請求することとなったこと,上記燃油サーチャージの設定に伴い,14社は,新たに航空会社に支払うこととなる燃油サーチャージ相当額を可能な限り荷主に転嫁するという共通の目的を有するに至り,上記燃油サーチャージの実施に先立って協会の国際部会役員会において,その対策が話し合われたが,結果としては,14社が一致して協調行動を取ることはできず,業界全体として,荷主向け燃油サーチャージを収受することに失敗したこと,平成14年10月16日以降本件再設定がされるに際して,近鉄の本は,前年度の経験を踏まえて,業界が一致して協調行動を取らなければ,荷主向け燃油サーチャージを収受することは難しいと考えたこと,そこで,近鉄の本は,14.9役員会において,荷主向け燃油サーチャージについての各社の対応を確認したところ,各社とも荷主に請求し収受するという基本的な対応方針には違いがなかったので,12社の出席者に対して,各社足並みをそろえて荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの全額を請求し,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として用いないことを提案したところ,各社ともこの提案に反対しなかったこと,14社のうちDHLを除く各社は,我が国の航空会社を利用した貨物の契約について,いずれも平成14年10月16日又はそれに近接した日から荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しており,請求内容も同じであったこと,近鉄の本が,14.11理事会において,14.9役員会の協議内容を報告したのに対し,日本通運及びDHLの出席者は何ら反対意見を述べなかったこと,DHLは,平成14年12月16日から荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しているが,その請求内容は上記各社と同じであったことを指摘することができる。このように,平成13年に燃油サーチャージが設定されたときには,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求するか否かについて各社の対応にばらつきがあったが,本件再設定に際しては,14.9役員会を経て,14社のうちDHLを除く13社がほぼ同時期に同内容の燃油サーチャージの請求を開始しており,DHLも,請求開始時期は他社より2か月遅れているものの,他社と同内容の請求をしているのであって,14社の行動は,平成13年時の行動と比較して明らかに協調的になっていること,日本通運及びDHLは,本件排除措置命令及び本件違反行為に関して同2社に発令された各課徴金納付命令に対して審判請求を行わず,各命令はいずれも確定していること(なお,日本通運は本件違反行為に係る事実を公正取引委員会に報告したことにより課徴金の減額の措置を受けていること),以上の事実を指摘することができる。
(ウ) 以上の事実経過によれば,14.9役員会において,12社間に,「本件業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が平成14年10月16日(本件再設定が実施される日)以降である貨物を対象に,利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該燃油サーチャージに相当する金額を荷主に対して新たに請求する」旨の合意(すなわち,本件荷主向け燃油サーチャージ合意)が成立し,日本通運及びDHLは,遅くとも14.11理事会までに,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したものと認めることができる。
(エ) さらに,前記ア(ウ)で認定したところによれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の遂行に関して,特に次の事実を指摘することができる。すなわち,14社は,平成14年11月から平成19年11月までの間に,度々国際部会役員会の会合を開催し,その中で,その時々における各社の荷主からの燃油サーチャージの収受状況,交渉状況及び支払拒否荷主の具体名などを発表し合っていたこと(14.11代表役員会,15.3役員会,16.3役員会,16.4役員会,17.1役員会,17.4役員会,17.8役員会,17.12役員会,18.9役員会,19.7役員会及び19.9役員会),14社は,航空会社によって燃油サーチャージが値上げされるたびに,国際部会役員会において,その対応を話し合い,荷主に荷主向け燃油サーチャージを請求し,収受する方向で各社が協調した行動を取ることを確認していたこと(15.4役員会,16.6役員会,17.8役員会及び18.9役員会),14社は,国際部会役員会において,荷主向け燃油サーチャージの収受率を高めるための方策として,荷主ごとに14社の中から交渉担当会社及び交渉に同行する航空会社を決めるなどしていたこと(16.3役員会及び17.8役員会),以上の国際部会役員会においては,議事進行役を務めた近鉄の本や近鉄の田中によって,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求し,収受するという方向で14社が一致して協調行動を取ること,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段に用いないことが繰り返し述べられていたが,これに対して,出席者の中で,反対したり異議を述べたりした者はいなかったことを指摘することができる。
また,以上のような国際部会役員会開催の経緯等の事情に加えて,証拠(各該当箇所の末尾に括弧書きで掲記)によれば,被審人西鉄が,近鉄,日本通運,郵船及び阪急交通社との間で,「ロームアポロ」,「東芝」及び「日亜化学工業」といった個別の荷主との荷主向け燃油サーチャージに係る交渉について,相互に連絡を取り合い,足並みをそろえて交渉を行っていたこと(査共第213号証,第225号証,第226号証),被審人バンテックが,日本通運及び郵船と共同して,個別の荷主である「リコーロジスティック」との間で,荷主向け燃油サーチャージにつき交渉していたこと(査共第219号証。なお,被審人らは,査共第219号証の信用性等を争っているが,郵船の社内文書という同号証の性質上,何らかの作為等が介在する可能性は低いと考えられ,その記載内容から上記事実が合理的に推認できるものといえる。),被審人ケイラインが,日本通運及び郵船とともに,個別の荷主である「ファナック」に対し,荷主向け燃油サーチャージにつき共同して申入れをしていたこと(査共第219号証),前記ア(ウ)eのとおり16.3役員会で被審人西鉄は,対象荷主であるセイコーエプソンの交渉担当会社となったが,その後社内で検討したところ,同社との取引は多くないこと等が判明したため,16.4役員会までの間に近鉄等の了解を得た上で,対象荷主をセイコーエプソンからセイコーインスツルに変更したという経緯があり,実際に被審人西鉄の北古賀らがセイコーインスツルと交渉を行ったこと(査共第78号証,第79号証,第214号証,第232号証,第234号証),14社は,交渉担当会社が対象荷主と交渉している間は,他社が荷主向け燃油サーチャージについて交渉担当会社の妨げとなるような交渉をしないよう対応することとしていたこと(査共第25号証,第93号証,第214号証,第233号証)の各事実が認められる。これらを総合すれば,14社は,各国際部会役員会における方針に従って,荷主に対しては一貫して荷主向け燃油サーチャージ全額の支払を求めて交渉し,国際部会役員会で決定された交渉担当会社が実際に荷主との交渉に当たり,必要に応じて個別の荷主に対する交渉を共同して行うなどしていたものと推認される。
このように14社は,長年にわたり,繰り返し国際部会役員会の会合を開催し,本来であれば,競争相手に対して秘密にするはずの,自社の取引先との交渉内容,交渉経過及び交渉結果等の情報を披れきし合い,取引先に対する競合他社の行動についての情報を入手してその動向を把握し(これにより14社は,容易に,互いに,荷主向け燃油サーチャージに関する他社の過去の行動を把握し,将来の行動を予測した上で,自社の行動を決定することができたものと推認される。),その上で各社とも取引先に対して同一の行動を取っていたのであって,このようなことは,本件事業者業界において自由な競争が行われていたとすれば,到底あり得ないものというほかない。これに加えて,本件全証拠を総合しても,平成14年11月から平成19年11月までの間に,14社のうちのいずれかの会社が,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段にして荷主と交渉し,他社から顧客を奪おうとしたり,従前と比較して取引量を増やそうとしたりした具体的事例があったことをうかがうことすらできないのである。
以上述べた事情は,14社間に本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立していたことを強く裏付けるものである。
(オ) 被審人らの主張について
a 14.9役員会の出席者について
(a) 前記ア(イ)eの認定事実のとおり,被審人西鉄及び被審人ケイラインについては,14.9役員会に出席した具体的な個人(社員)が特定されていないところ,被審人西鉄及び被審人ケイラインは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立が認められるためには,審査官において,14.9役員会における両社の出席者を具体的に特定して主張立証することを要する旨主張する。
(b) しかし,不当な取引制限が成立するためには,事業者が相互に事業活動を拘束することにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することが証拠により認められれば足りるのであるから(独占禁止法第2条第6項),必ずしも会合出席者全員を具体的に特定する必要があるとはいえない。また,排除措置命令は,刑事罰が,行為者である自然人を処罰した上で,両罰規定によって事業者を処罰するものである(独占禁止法第89条,第90条)のとは異なり,事業者の違反行為を認定して,措置を講ずることを命じるものにすぎない。加えて,カルテルのための会合等は,その性質上,秘密裏に行われることが多く,常に会合出席者個人が特定されなければ法人についても不当な取引制限に該当しないこととなると,事業者に対する排除措置命令により自由競争秩序の回復等を図ろうとした独占禁止法の趣旨を実現することが困難となるおそれがあることにも思いを致せば,不当な取引制限に該当するために必ずしも会合出席者を具体的に特定する必要はないものと解すべきである。
(c) そして,前記ア(イ)eで掲記した証拠(査共第50号証ないし第52号証,第57号証ないし第62号証,本博圭参考人,佐伯和重参考人,益子和夫参考人,山本明彦参考人)によれば,個人名を特定するまでには至らないものの,被審人西鉄及び被審人ケイラインの担当者も14.9役員会に出席していたことが認められる。とりわけ,被審人バンテックの益子が同役員会の場で進行に沿って会合の内容等を記載したという(査共第50号証,益子和夫参考人)メモ(査共第58号証。以下「益子メモ」という。)には,被審人西鉄及び被審人ケイラインの担当者による発表内容等が記載されているところ,この益子メモの記載について誤認,誤記や何らかの作為が介在していることをうかがわせるような事情は認められないから,被審人西鉄及び被審人ケイラインの担当者も14.9役員会に出席していたことが認められるというべきである。
(d) また,被審人ケイラインに関しては,当時代表取締役社長であった森光雄(以下「被審人ケイラインの森」という。)が,14.9役員会の内容を踏まえて,その当日に作成し,同社の役員等向けに送付した電子メール(査共第59号証。以下「森メール」という。)が存在することからも(審D第11号証参照),被審人ケイラインの担当者が14.9役員会に出席していたことが推認される。
これに対し,被審人ケイラインは,被審人ケイラインの森は,14.9役員会の直前に開催されていた理事会(以下「14.9理事会」という。)にのみ出席し,その後の14.9役員会には出席せずに帰社して,14.9理事会の内容のみを踏まえて森メールを作成したものであり,このことは,森メールの送信時間が同日の15時39分となっていることからも裏付けられるから,森メールの存在は,14.9役員会に被審人ケイラインの社員等が出席していたことの根拠とはならない旨主張する。
しかし,14.9役員会は午後2時から3時までの間に開催される予定であったこと(査共第222号証),14.9役員会が開催された場所(八丁堀)から当時の被審人ケイラインの森の執務場所(田町)まではタクシーで30分程の距離であって,当日被審人ケイラインの森はタクシーで帰社していること(審D第11号証)などに照らせば,森メールが14.9役員会の結果を踏まえて作成されたものであるとしても,森メールの送信時間とは矛盾しないこと(すなわち,被審人ケイラインの森が14.9理事会に続いて14.9役員会にも出席した上で帰社したとしても,森メールを送信することができた可能性はあるし,そうでないとしても,14.9役員会に出席した者から報告を受けた上で森メールを送信することは十分に可能であったこと),森メールには「本日のJAFAの国際部会で・・・」として14.9役員会を指すと思われる記載があることに加えて,森メールの記載内容を検討すると,被審人ケイラインの森が,14.9役員会の内容を踏まえずに14.9理事会の内容のみから,森メールを作成したとするのは不自然であるといわざるを得ない。すなわち,森メールの記載内容について,上記のとおり14.9役員会に出席した際に作成された益子メモ及び同様に作成された(査共第61号証,山本明彦参考人)日新の山本のメモ(査共第60号証。以下「山本メモ」という。)の記載内容と比較対照すると,①運賃について「外出し」との記載(森メール,山本メモ),②他の航空会社も日本航空に追随する旨の記載(森メールでは「追従」,山本メモでは「追づい」と記載),③航空会社が燃油サーチャージを設定する基準に関して,「$23.20/バレル」を「30%」超える「$30.16」(いずれも,森メール,益子メモ,山本メモに記載)が一定期間(森メールでは「連続21日間 Working Days」,益子メモでは「20日間 ワーキングデー」,山本メモでは「20 WORKING DAYS」と記載)継続した場合である旨の記載,④各社とも荷主に転嫁する旨の記載(森メールには「各社とも・・・荷主に転嫁する以外無い」。山本メモには「各社,荷主に転か」と記載),⑤航空会社が本件事業者に手数料を支払わないのは問題であり,個別交渉も可能である旨の記載(森メールには「Commissionを払わないと言うのはおかしいと言う事には,内容に依って個別交渉の余地もあるらしい・・・」,益子メモには「対航空会社 個別交渉,集金手数料」,山本メモには「値引き交渉する」と記載)などが見られる。これらの記載をみると,森メールには,益子メモ及び山本メモと同趣旨の言葉や表現が多く使われており,その記載内容や記載順序もかなり重なっているものといえ,しかもそれらについては14.9理事会の議事録(査共第57号証)にはみられない内容であることから(なお,被審人バンテックの益子及び日新の山本は,いずれも14.9理事会には参加しておらず〔査共第57号証〕,益子メモ及び山本メモに同理事会の内容が記載されている可能性はないと考えられる。),被審人ケイラインの森が,14.9役員会の内容を踏まえずに14.9理事会の内容のみから森メールを作成したとするのは不自然であるといわざるを得ない。そうすると,森メールは,被審人ケイラインの森自らが出席したのか,出席した社員等から報告を受けたのかは不明であるものの,いずれにしても14.9役員会の内容を踏まえて作成されたものと認められ,被審人ケイラインの担当者が14.9役員会に出席していたことが推認されるのである。
(e) 以上に加えて,前記ア(ウ)のとおり,被審人西鉄及び被審人ケイラインが14.9役員会の後,他社とほぼ同時期に同内容の荷主向け燃油サーチャージの請求を開始し,その後も国際部会役員会に出席するなどして14社間で長期間にわたる協調関係を続けていたことなどからすれば,被審人西鉄及び被審人ケイラインをも含めた14社による本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立していたといえることは明らかである。よって,被審人西鉄及び被審人ケイラインの上記主張は理由がない。
b 14.9役員会の状況等について
(a) 被審人西鉄及び被審人バンテックは,本件業務の取引分野において圧倒的1位のシェアを有する日本通運及び有力事業者であるDHLが出席していない14.9役員会において,12社間で本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立することはあり得ないと主張する。しかし,14.9役員会には14社中12社,大手3社のうち2社が出席していること,平成14年当時,日本通運の市場占有率は21.87パーセント,DHLの市場占有率は1.46パーセントであり,これに対し12社の市場占有率の合計は50パーセントを超えていたこと(査共第35号証)から,日本通運及びDHLが出席していない14.9役員会における12社間の本件荷主向け燃油サーチャージ合意は実効性をもって成立し得たものといえ,被審人西鉄及び被審人バンテックの上記主張は理由がない。
(b) 被審人西鉄及び被審人バンテックは,14.9役員会に先立って12社間における意見のすり合わせ等がされず,また,同役員会の時点では,航空会社は,未だ国土交通大臣の認可が得られるかが不明で,燃油サーチャージの導入が確定していなかったのであり,このような状況下の僅か1回の会合で本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したことは不自然である旨主張する。
しかし,前記ア(イ)dのとおり,協会事務局から平成14年9月10日付けで各社に送付された14.9役員会の開催案内に,燃油サーチャージについて議題とする旨が記載されており,平成13年に燃油サーチャージが導入された際の経緯に鑑みても,この当時の14社には荷主向け燃油サーチャージに関する共通の問題意識があったものと考えられるし,また,平成14年10月16日からの本件再設定が間近に迫っていた時期であって,本件再設定がほぼ確実に見込まれていたことがうかがわれ(なお,合意に不確定条件等が付されていても,不当な取引制限の該当性が否定されないことは,前記2(2)イのとおりである。),さらに,前記ア(ウ)のとおり,現実に,上記同日から本件再設定がされ,14社も,ほぼ同時期に荷主向け燃油サーチャージの請求を開始していることなどを総合すれば,12社間に14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したことが認められるのであって,被審人西鉄及び被審人バンテックの上記主張は理由がない。
c 日本通運及びDHLの合意への参加について
被審人西鉄及び被審人ケイラインは,遅くとも14.11理事会が行われた平成14年11月8日までに,日本通運及びDHLが本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わったとはいえない旨主張している。
しかし,証拠(末尾に括弧書きで掲記)によれば,日本通運は,平成14年11月5日までに,既に特定の荷主(「ファナック」,「リコーロジスティック」及び「三菱重工」等)に対し,14社のうちの一部と歩調を合わせて荷主向け燃油サーチャージ全額の支払の交渉をしていたこと(査共第219号証),日本通運は,同月15日の時点で,大手荷主との間で荷主向け燃油サーチャージの交渉をし,他社と共同歩調を取っていたこと(査共第72号証)が認められる。これに加えて,前記ア(イ)fのとおり,日本通運及びDHLの担当者は,14.11理事会における14.9役員会の結果報告に対して何ら反対意見を述べなかったこと,前記ア(ウ)のとおり,日本通運及びDHLは,同理事会以降,他社と同内容の(日本通運についてはほぼ同時期に)荷主向け燃油サーチャージの請求を開始し,その後も国際部会役員会に出席するなどして協調関係を続けていたことが認められ,これらの事情に照らせば,日本通運とDHLが平成14年11月8日までに本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加していたことが認められる。
なお,前記のとおり,両社が本件排除措置命令及びこれに関する課徴金納付命令を受け入れて不服申立てをしていないこと,日本通運は本件違反行為に係る事実を公正取引委員会に報告したことにより課徴金の減額の措置を受けていることも,両社が平成14年11月8日までに本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加していたことを裏付ける事情である。
d 荷主向け燃油サーチャージの性質等について
被審人らは,14社は,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージを荷主に転嫁しなければその分が本件事業者の損失となってしまうのであるから,荷主向け燃油サーチャージ全額を請求するのは当然のことであって,実質上,航空会社への立替金の回収として荷主向け燃油サーチャージを請求するという性格を有しているものであり,また,本件再設定に先立ち既に国土交通大臣に届け出ていた内容に従って荷主向け燃油サーチャージの請求を再開したにすぎないと主張し,このような性質を有する荷主向け燃油サーチャージについて相互に確認をしたとしても,それは独自の判断として,不当な取引制限に該当しないことは明らかであり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は成立していない旨主張する。
本件業務に係る契約関係についてみると,前記第3の3(1)エのとおり,本件事業者と荷主との間では個々の貨物につき利用運送契約が締結され,本件事業者と航空会社との間では混載貨物につき実運送契約が締結される(本件事業者は航空会社に対しては自ら荷送人となる。)が,航空会社と荷主との間には何らの契約関係も存しないのであるから,14社が荷主のために航空会社に対し立替払をするという法的関係は成り立ち得ない。
なお,被審人ケイラインは,本件業務について,旅行業と比較して主張しているが,旅行業の場合には,通常,旅行業者は,航空会社との間で契約を締結せずに,代理店の立場で媒介をするにすぎず,旅行者自身が航空会社との間で旅客運送契約を締結することとなるから,本件業務とは契約関係が異なっており,比較して論じることはできない。
また,本件事業者が荷主向け燃油サーチャージを請求するのは,飽くまでも,燃油価格の高騰による燃料費の増加分として航空会社から請求される燃油サーチャージについて,自らの利益が減少するのを回避するために,できる限り全額を荷主に転嫁しようとするものにすぎないから,これを実質的にみても,航空会社への立替金の回収として荷主に請求するという性質を有しているとはいえない。前記ア(ウ)のとおり,14社間で,荷主向け燃油サーチャージを競争手段とはしない旨の確認が度々されていたことも,翻って,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求するかどうか,燃油サーチャージと同額で請求するかどうかについては,荷主との取引を獲得する手段として,各社が自主的かつ独立して判断することができるものであったことをうかがわせるものといえる。また,前記第3の5(5)のとおり,14社が請求する荷主向け燃油サーチャージの金額は,航空会社に支払う燃油サーチャージと同じ料率で計算されるが,実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物とを組み合わせることなどにより,本体運賃の場合(前記第3の3(3)のとおり)と同様に混載差益が生じ得ることとなり(査共第4号証,第227号証,第228号証,第229号証),14社が航空会社に支払う燃油サーチャージの金額と荷主に請求する荷主向け燃油サーチャージの金額とが必ずしも一致するものとはなっていないことからも,荷主向け燃油サーチャージの請求が,実質的に航空会社への立替金の回収としての性質を有するものとはいえない。
以上によれば,14社が荷主向け燃油サーチャージ全額を請求するのは当然のことで,この旨を合意したとしても不当な取引制限には該当しないとする被審人らの主張には理由がない。確かに,14社は,14.9役員会以前から,各社独自の判断としても,荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することを企図していたものとうかがわれ,各担当者らはこれを立替金として回収するものと考えていたようであるが(本博圭参考人,佐伯和重参考人,益子和夫参考人及び山本明彦参考人はいずれも,荷主向け燃油サーチャージは立替金であると認識していた旨供述している。),それは飽くまでも,14社は,航空会社に支払う燃油サーチャージ相当額を荷主に転嫁できなければ,その分は自らが負担することとなり利益が減少することとなるから,本件事業者の経営上,是非とも荷主から収受したい性質のものであるという認識を有していたことをいうものにすぎない。結局,14社は,各社独自の経営判断により,上記企図どおりの行動することのリスク(独自の判断で荷主向け燃油サーチャージを請求することにより,荷主との交渉に支障を来したり,荷主向け燃油サーチャージを請求しない競争相手に顧客を奪われたりする可能性)を回避するために,他社と意思を通じ合って協調行動に出たものと推認されるのであり,これは不当な取引制限に該当するものというほかはない。
また,被審人らは,既に国土交通大臣に届け出ていた内容(前記第3の5(5)のとおり)に従って荷主向け燃油サーチャージの請求を再開したにすぎない旨主張する。しかし,前記ア(ア)hのとおり,平成13年に航空会社が燃油サーチャージを設定した当時には,既に上記届出がなされていたにもかかわらず,荷主向け燃油サーチャージの請求につき本件事業者間で対応が分かれ,結果として,業界全体としては,荷主から燃油サーチャージに相当する金額をほとんど収受することができなかったのである。このように実際にほとんど収受することができなかった荷主向け燃油サーチャージについて,協調行動によって収受することができるようにすることが不当な取引制限に該当することは明らかであるから,国土交通大臣に対する上記届出の有無やその時期等の事情によって,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成否が左右されるものではない。
以上のとおり,被審人らの上記主張は理由がない。
e 本件合意の拘束力について
(a) 被審人ケイラインは,国際部会役員会における被審人らの収受率の発表等について,発表内容が営業秘密に該当するものではなく,発表内容の正確性が担保されていたわけではないから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の実効性を確保するようなものではなく,本件合意により相互にその事業活動を拘束していた(独占禁止法第2条第6項)とはいえないと主張する。しかし,一般に,不当な取引制限の事案において,事業者間における意思の連絡(合意)が認められれば,その実効を担保するための制裁の定め等がなくても「相互にその事業活動を拘束」する場合に該当すると解されるところ(最高裁判所昭和59年2月24日判決・刑集第38巻第4号1287頁参照),本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したと認められることは前記のとおりであるから,本件合意が拘束力を持たないものであるということはできない。
(b) 被審人ケイラインは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,大手3社のみの申し合わせにより事実上消滅しており,自らは何らの連絡も受けていなかったとして,この程度の拘束力のない合意であった旨主張する。しかし,前記第3の2(3)のとおり,大手3社の本件業務における貨物量の合計は,14社におけるそれの大部分を占めていた(61.6パーセントないし64.9パーセント)のであり,このようなシェアを有する大手3社が申し合わせれば,合意の実効性が失われ,違反行為が事実上消滅することは一般にみられることであるから,このような事実から本件荷主向け燃油サーチャージ合意が拘束力を持たなかったということはできない。
f 被審人らのその他の主張について
(a) 被審人バンテックは,仮に14.9役員会において何らかの合意があったとしても,それは,1キログラム当たり12円(当時見込まれていた航空会社の燃油サーチャージの金額)の荷主向け燃油サーチャージを請求する旨の合意でしかあり得ず,この合意は,航空会社の燃油サーチャージが1キログラム当たり18円に値上がりした時点で消滅したと主張する。
前記ア(ウ)のとおり,14社は,14.9役員会の後,航空会社の燃油サーチャージが値上げされると,国際部会役員会において,その全額に相当する額を荷主向け燃油サーチャージとして荷主に請求することを改めて相互に確認している。しかし,航空会社の燃油サーチャージの金額が変動し得ることは,その性質上当然であるし,前記のとおり,被審人らが,荷主向け燃油サーチャージの請求は実質的には立替金の回収であって荷主に請求するのが当然である等と主張していることなどからしても,14.9役員会の当時においても,14社が,航空会社の燃油サーチャージの全額に相当する額を荷主向け燃油サーチャージとして請求し収受することを企図していたことがうかがわれるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したと認めることができるのであって,被審人バンテックの前記主張は理由がない。
(b) 被審人らは,DHLを除く13社が荷主向け燃油サーチャージの請求を開始した日が平成14年10月16日に一致しているのは,航空会社が燃油サーチャージを適用した日が同日であるからであり,この13社の請求開始日が一致していたり,荷主向け燃油サーチャージの請求内容が一致するのは当然のことであって,本件合意に参加していない事業者にも同じような収受状況がみられることにも照らせば,これらの事情により本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立が裏付けられるものではない等と主張している。
前記ア(ア)hのとおり,平成13年に航空会社が燃油サーチャージを設定した際には,本件事業者の間では,荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求するかどうかという最も基本的な点ですら対応が分かれていたのに対し,平成14年の本件再設定に際しては,DHLを除く13社の荷主向け燃油サーチャージについての対応が,荷主に対して請求するという方向で一致したばかりでなく,請求開始時期や請求内容までもほぼ一致していたということは,人為的な作為があったことをうかがわせるものであって,これは14社間に何らかの意思の連絡があったことを推認させる一つの事情といい得る。そして,前記イないしエのとおり,このような請求開始時期や請求内容のおおよその一致という事情のみならず,14.9役員会の状況やその後の14社の行為に関する事情等をも併せて検討すれば,前記のとおり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したことが認められるのである。よって,DHLを除く13社が荷主向け燃油サーチャージの請求を開始した日について,航空会社が燃油サーチャージを設定したのと同じ日であるという理由があるとしても,また,14社のほかにも,同日に荷主向け燃油サーチャージの請求を開始した本件事業者が存在するとしても(査共第249号証参照),そのような事実のみで本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を否定することはできないものというべきである。
(c) 被審人らは,荷主向け燃油サーチャージの請求が開始された後の国際部会役員会において,14社が荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表したこと等について,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の実効性を確保するようなものではなく,単に協会の情報収集活動等の一環として報告をしていたにすぎない旨主張する。
しかし,協会の活動の一環として行われていたことと,14社が本件荷主向け燃油サーチャージ合意の実効性を確保するため,国際部会役員会の場を利用して情報交換等を行っていたこととは必ずしも相互に矛盾するものではなく,協会の活動であるというだけで正当化されるものではない。さらに,14社が,本件再設定後,再三一同に会して,本来企業秘密であるはずの取引先との交渉内容や交渉結果を発表し合ったり,荷主向け燃油サーチャージを競争手段としないことを確認し合ったりすることは,協会活動の一環としてのみ行われたとすれば不自然であるといわざるを得ないから,前記被審人らの主張は理由がない。
(d) 被審人西鉄は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が消滅したとされている平成19年11月12日以降と,それ以前とで,被審人西鉄による荷主向け燃油サーチャージに係る行為には変化がなかったことは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意がなかったことを示すものであると主張する。しかし,これまでにみてきたとおり,被審人西鉄を含む14社は,もともと荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することを企図していたのであるから,被審人西鉄が,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が終了した後においても,顧客である荷主が応じる限り,荷主向け燃油サーチャージを請求する行動に出ることは不自然なことではなく,このような事情が本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を否定することにはならないというべきである。
(e) その他,被審人らは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立していないことを示す事情として様々な主張をしているが,いずれも,前記のとおり14社が長期にわたって協調行動を取っていたとことなど既に認定した事実経過を顧慮せず,細部にわたる事情を取り出して主張するのみであって,いずれも採用することはできない。
イ 本件AMSチャージ合意について
(ア) 前記第3で認定した事実及び証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)によれば,以下のとおり認められる。
a 航空貨物情報事前申告制度の導入
前記第3の6(1)のとおり,アメリカ合衆国税関当局は,航空運送に関する保安対策の一環として,航空貨物情報事前申告制度の実施を決定し,同制度は平成16年8月13日以降段階的に実施され,同年12月13日以降,同国内に所在する全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に実施されることとなった。
航空貨物情報事前申告制度では,航空機に搭載される貨物のハウスエアウェイビル情報等についてAMSを通じて電子的に送信する方法でアメリカ合衆国税関当局に申告することが義務付けられていた。
(査共第112号証ないし第122号証)
b 協会のワーキンググループの設置及び検討
平成15年には,航空貨物情報事前申告制度が将来実施されることが判明していたことから,協会では,実務上の問題点や対応策を検討するため,同年9月18日に開催された理事会の会合において,国際部会運送委員会及び国際宅配便部会運送委員会の両部会が合同して,AMSチャージに関するワーキンググループ(以下「WG」という。)を設置した。
WGの委員会社になったのは,13社のうち被審人西鉄,被審人バンテック,近鉄,日本通運,郵船,阪急交通社及び日新の7社であり,近鉄が委員長会社となった。WGの会合(以下「WG会合」という。)には,同グループの委員会社の実務担当者及び情報処理システム関係者が出席し,航空貨物情報事前申告制度の内容の確認,同制度の実務上の問題点,対応策等の検討を重ねた。
(査共第114号証,第116号証,第117号証,第119号証ないし第121号証)
c 航空会社の航空貨物情報事前申告制度への対応内容
航空会社は,航空貨物情報事前申告制度に対応するため,平成16年8月13日以降,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビル情報を当該事業者から提供を受け,AMSを通じてこれを電子的に送信する方法により,アメリカ合衆国税関当局に申告することとした。
平成16年7月12日,日本航空の総販売代理店である株式会社ジャルカーゴセールス(以下「ジャルカーゴ」という。)の田島らは,WGの委員長会社の担当者である近鉄の佐伯らに対し,ジャルカーゴは,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビル情報を同社(日本航空を含む。)がAMSを通じて申告するに当たって,本件事業者に対し,その手数料として,ハウスエアウェイビル情報送信手数料を請求する旨を説明した。
(査共第113号証の1及び2,第114号証,第117号証ないし第119号証,第124号証)
d 航空貨物情報事前申告制度への対応に伴う費用の発生
13社には,航空貨物情報事前申告制度に対応するため,以下の費用の全部又は一部が発生することとなった。すなわち,①アメリカ合衆国税関当局が要求するハウスエアウェイビル情報を提供できるよう,自社の既設の航空貨物情報処理システムを改良するための費用,②自社の航空貨物情報処理システムへのハウスエアウェイビル情報の入力作業に伴う費用,③航空会社に支払うハウスエアウェイビル情報送信手数料及び④航空会社にハウスエアウェイビル情報を送信するに当たり,カーゴ・コミュニティー・システム・ジャパン株式会社(略称はCCSJ)が運営するカーゴ・コミュニティー・システムを経由する場合には,その通信費用(ハウスエアウェイビル1件当たり30円)である。
このため,13社は,かかる費用の全部又は一部を荷主に請求し,負担してもらうことを検討していた。
(査共第114号証,第116号証ないし第122号証)
e 国際部会役員会の会合及びWG会合における検討
(a) 平成16年9月21日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.9役員会」という。)には,13社のうちヤマトを除く各社が出席し,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの赤岡などが出席していた。
議事進行役を務めた近鉄の本は,各出席者に対し,航空貨物情報事前申告制度が実施されたことに伴い,AMSチャージとして荷主に幾ら請求するのか等についての検討状況を尋ねた。被審人西鉄の古賀は,ハウスエアウェイビル1件当たり150円を荷主に請求する予定であると述べ,被審人バンテックの木村は,ハウスエアウェイビル1件当たり200円を荷主に請求する予定であると述べ,被審人ケイラインの赤岡は,検討中であり金額は定まっていないと述べた。荷主に請求する金額が定まっていない会社もあり,荷主に請求する金額も各社まちまちであったことから,引き続き,各社において検討を続け,国際部会役員会での検討も続けられることとなった。
(査共第114号証,第119号証,第125号証ないし第129号証)
(b) 郵船の曽根と近鉄の佐伯は,平成16年10月26日,電子メールを送受信する方法により,AMSチャージを荷主に請求し収受するための施策について意見交換等を行った。両者は,16.11役員会に先立ってWG会合を開催し,そこで13社が足並みをそろえてAMSチャージを請求することやその金額等の方向性を出しておき,それを踏まえて16.11役員会で決定するという段取りにすること,各社の暗黙の理解として共同歩調を取ることを確認することが重要であること,AMSチャージの金額に幅を持たせる場合には,下限に落ち着くことが容易に想像できるため,下限だけは設定すべきことなどを確認した。(査共第114号証,第119号証,第130号証)
(c) 平成16年11月12日,WG会合が開催され(以下「16.11WG会合」という。),WGの委員会社11社のうちティエヌティエクスプレス株式会社を除く各社が出席した。
16.11WG会合では,16.11役員会でAMSチャージについての13社の意見が一致をみるようにするための協議が行われ,①AMSチャージの請求対象貨物については,「アメリカ合衆国を仕向地とする貨物」とする意見と「アメリカ合衆国及び同国を経由し第三国を仕向地とする貨物」とする意見があり,②AMSチャージの請求額については,下限額を設定することでは一致したが,「ハウスエアウェイビル1件当たり500円」とする意見と「同1件当たり1,000円」とする意見があり,③AMSチャージの請求開始時期については,「平成16年12月13日」とする意見と「荷主に対する案内期間を考慮して平成17年1月1日」とする意見が出された。
協議の結果,16.11役員会においては,16.11WG会合の総括として,①については,「アメリカ合衆国及び同国を経由し第三国を仕向地とする貨物」とし,②については「ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円」とすることが望ましいとし,③については,「平成17年1月1日」とすることを提案することとなった。
(査共第114号証,第117号証,第120号証,第121号証,第131号証ないし第134号証)
(d) 近鉄の佐伯は,16.11役員会に先立って,16.11WG会合の協議結果等を取りまとめて役員会用の説明資料を作成し,近鉄の本に提出した。
同資料には,16.11WG会合での各社の意見が表にまとめられているほか,請求対象貨物,請求金額,請求開始時期のそれぞれについてポイントとなる事項(請求金額については,「下限の設定が必要であること」及び「各社が値引きをサービスの対象としないこと」)が記載されており,また,問題点として「ここでの決まり事をどのように会員に伝えるか」「周知徹底をどのように図るか」との記載があった。このほかに,同資料の末尾には「公取への配慮からレターは出せない,電話による対応か」という記載もあった。
(査共第134号証,第135号証)
f 16.11役員会の開催
16.11役員会は13社が出席して開催された。被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席していた。
冒頭,議事進行役を務める近鉄の本が,16.11WG会合において,WG会員会社である11社のうち国際部会に所属する7社が発表した意見を取りまとめた結果を報告した。
続いて,各社の出席者は,AMSチャージについて,荷主に対する請求額や請求開始時期に関する各社の考えを述べた。被審人西鉄の古賀は,AMSチャージの請求額につき,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円とすることで検討している旨,以前に500円と言ったところ,上司である被審人西鉄の北古賀に怒られた旨述べた。被審人バンテックの木村は,AMSチャージの請求額として最低でもハウスエアウェイビル1件当たり1,000円とすることで検討している旨発表した。被審人ケイラインの荒巻は,何らかの費用は荷主から収受したいが,いまだ社内で議論を終えておらず,この役員会で出た方針に従いたい旨述べた。
その後,AMSチャージとして請求する額を幾らにするかについて挙手による採決が行われ,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円とする者が多数を占めたが,近鉄の本は,荷主向け燃油サーチャージを荷主から全額収受する必要もあり,その金額との調整も考慮して,AMSチャージについてはハウスエアウェイビル1件当たり最低500円を請求することを提案したところ,出席者の賛同を得た。
また,近鉄の本は,AMSチャージの請求対象貨物については,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物とすること,請求開始時期については,平成17年1月1日からとすることを提案した。
上記請求対象貨物については出席者の賛同を得たが,請求開始時期については,被審人ケイラインの荒巻が,航空会社からハウスエアウェイビル情報送信手数料を平成16年12月13日から請求されることが判明しているにもかかわらず,あえて荷主への請求開始時期を遅らせる必要はない旨の意見を述べて,平成16年12月13日から請求することを提案した。最終的に,請求開始時期は,同日とするが,遅くとも平成17年1月1日から請求するということで出席者の賛同を得た。
以上のとおり,16.11役員会の出席者の間では,AMSチャージの請求対象貨物は,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物とすること,請求金額は,ハウスエアウェイビル1件当たり最低500円とすること,請求開始時期は平成16年12月13日からとし,遅くとも平成17年1月1日から請求することで意見の一致をみた。
最後に,近鉄の本が,AMSチャージを荷主に請求し収受することを絶対に守ることとし,これを競争の手段,つまり荷主に対しAMSチャージを請求しない,又は値引きするといった営業を行うことにより,荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするための手段として使用しないことを提案したところ,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第114号証,第116号証,第118号証,第120号証,第122号証,第132号証,第134号証,第136号証ないし第146号証)
g 13社によるAMSチャージの請求の開始
13社は,別紙4の「AMSチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,請求を開始した(請求開始日については,被審人西鉄,被審人バンテック及びヤマトは平成17年1月1日,その他の会社は平成16年12月13日であった。)。(査共第71号証,第116号証,第147号証ないし第150号証)
h 国際部会役員会の会合等における検討
(a) 前記のとおり17.1役員会には,13社が出席し,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席した。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,既に荷主に請求を開始していたAMSチャージについて,自社の荷主に対する請求額,収受率,AMSチャージを支払わない荷主の名称等を発表した。
最後に,近鉄の本は,荷主からAMSチャージを全額収受できるよう努力する必要があること,AMSチャージの収受率の計算方法について,件数により算出した数字,つまり荷主に対しAMSチャージを請求したハウスエアウェイビルの総件数に対する荷主からAMSチャージを収受したハウスエアウェイビルの総件数の割合とすることを確認した。
(査共第114号証,第118号証,第134号証,第151号証ないし第154号証)
(b) 前記のとおり17.4役員会には13社が出席し,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの松倉などが出席した。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,AMSチャージの荷主に対する請求額及び収受率を発表した。
最後に,近鉄の本は,AMSチャージを競争の手段に使用しない,つまり荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするための手段として,AMSチャージを請求しないこと,値引きすることはせず,その全額を請求することを確認した。これに対し,出席者の中に反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第122号証,第155号証ないし第158号証)
(イ) 前記第3,前記(1)ア及び前記アで認定した事実によれば,本件AMSチャージ合意の成立をうかがわせる事情として,特に,以下の事実を指摘することができる。すなわち,まず,平成16年から航空貨物情報事前申告制度が導入されることにより,本件事業者は,航空会社からハウスエアウェイビル情報送信手数料の請求を受けることになったほか,上記制度に対応するために諸費用を負担することとなったこと,これらの費用(AMSチャージ)は,本件事業者にとって新制度の導入によって生ずる新たな費用であり,これを荷主に転嫁できなければ自らの負担となるため,13社は,各社とも,AMSチャージを荷主に負担してもらうことを検討していたこと,協会では,上記制度の実施に先立って,平成15年にWGを設置し,国際部会役員会やWG会合において,航空貨物情報事前申告制度に対する対応策などを話し合うようになっていたが,この当時13社は,既に,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に基づく協調行動を取っていたこと,16.9役員会において,出席した各社のAMSチャージについての検討状況が発表されたが,この時点では各社の対応は一致していなかったこと,その後,WG委員会社の実務担当者であった近鉄の佐伯と郵船の曽根において,荷主にAMSチャージを請求する方向で13社の対応を一致させるべく意見交換を行った後,16.11役員会で各社の意見の一致をみるように段取りをすべく,実務担当者の会合として16.11WG会合を開催し,この会合で各社の対応を確認し,意見の集約に努めるなどしたこと,その後開催された16.11役員会においては,16.11WG会合の結果を踏まえて,13社の各社がAMSチャージについての意見を発表し,挙手による採決も行われた上で,最終的に,請求対象貨物,請求金額及び請求開始時期について出席者の意見の一致をみたこと,会合の最後に近鉄の本が,AMSチャージを荷主に請求し収受することを守ることとし,AMSチャージを競争の手段としないことを提案したところ,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかったことを指摘することができる。さらに,13社のうち被審人西鉄,被審人バンテック及びヤマトを除いた各社は,平成16年12月13日から荷主に対するAMSチャージの請求を開始し,被審人西鉄,被審人バンテック及びヤマトは,平成17年1月1日から荷主に対するAMSチャージの請求を開始したが,これらの開始時期は16.11役員会での集約意見と一致していたこと,請求対象貨物は「アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してカナダ及び中・南アメリカを仕向地とする貨物」とすることで13社全てが一致しており,16.11役員会での集約意見とほぼ一致していたこと及び請求金額はハウスエアウェイビル1件当たり500円以上となっており,これも16.11役員会における集約意見と一致していたこと,以上の事実を指摘することができる。
(ウ) 以上認定した事実経過によれば,16.11役員会において,13社間に本件AMSチャージ合意が成立したと認めることができる。
(エ) そして,前記アで認定したところによれば,13社は,16.11役員会の後に開催された役員会(17.1役員会及び17.4役員会)において,互いにAMSチャージについての荷主との交渉状況や交渉結果を発表していたことが認められる。このように13社は,16.11役員会の後も,役員会の会合を開催し,本来であれば,競争相手に対して秘密にするはずの,自社の取引先との交渉内容,交渉経過,交渉結果等の情報を披れきし合い,取引先に対する競合他社の行動についての情報を入手してその動向を把握していたのであって,このようなことは,本件取引分野において自由な競争が行われていたとすれば,到底あり得ないものである。これに加えて,本件全証拠を総合しても,平成16年12月から平成19年11月までの間に,13社のうちのいずれかの会社が,AMSチャージを競争の手段にして荷主と交渉し,他社から顧客を奪おうとしたり,従前と比較して取引量を増やそうとしたりした具体的事例があったことをうかがうことはできないのである。
以上述べた事情は,13社間に本件AMSチャージ合意が成立していたことを強く裏付けるものである。
(オ) 被審人らの主張について
a 被審人西鉄は,AMSチャージの請求額について,16.11役員会の会合に先立つ平成16年7月頃には,ハウスエアウェイビル1件当たり500円とする旨の試算を既に行っており,この当初の試算に従って,平成17年1月1日から,荷主に対し,ハウスエアウェイビル1件当たり500円でAMSチャージの請求を開始したのであるから,AMSチャージの金額を自ら独自に定めたものであって,本件AMSチャージ合意の成立は認められない旨主張する。
しかし,被審人西鉄が平成16年7月頃には上記試算を独自に行っていたことを認め得る証拠は提出されていない。また,前記ア(カ)のとおり,被審人西鉄の古賀は,16.11役員会においては,AMSチャージの請求額につき,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円とすることで検討している旨(なお,以前に500円と言ったところ上司である被審人西鉄の北古賀〔本部長〕に怒られた旨)発言しており,当時AMSチャージの金額を前記1,000円とする検討をしていたとうかがわれ,その後,証拠(査共第139号証)によれば,同年12月21日には,被審人西鉄の古賀は,AMSチャージの請求額は,協会での申し合わせで最低500円となっており,自社においても本部長決裁で500円としている旨社内メールで連絡していることが認められ,いずれかの時点でAMSチャージの金額を申し合わせに従い前記500円と方針変更したことがうかがわれる。これらの事情・経緯に照らせば,被審人西鉄が同年7月頃には既にAMSチャージの請求額を前記500円と試算し,これに基づき独自の判断でAMSチャージの決定をしたとする被審人西鉄の上記主張を採用することはできない。
b 被審人バンテックについては,証拠(査共第140号証)によれば,16.11役員会に出席していた被審人バンテックの木村が,平成16年11月25日,社内の会議において,AMSチャージにつき同役員会で話し合われた内容(1件当たりのAMSチャージ請求額が1,000円と500円で意見が二分し,結果的にミニマムが500円となったこと,実施日は同年12月13日とし,平成17年1月1日からは完全に収受することとなったこと)を説明した上で,被審人バンテックとしては,1件当たり500円を請求し,同年12月1日をめどに顧客へ案内する方針であることを述べた事実が認められ,この発言内容からしても,被審人バンテックがAMSチャージにつき独自に意思決定をしていた旨の主張を採用することはできない。
c 被審人ケイラインについては,上記ア(カ)のとおり,16.11役員会において,被審人ケイラインの荒巻が,AMSチャージにつき,何らかの費用は荷主から収受したいが,いまだ社内で議論を終えておらず,この役員会で出た方針に従いたい旨述べていることなどに照らせば,被審人ケイラインがAMSチャージにつき独自に意思決定をしていた旨の主張は採用することができない。
d その他,被審人らは,本件AMSチャージ合意が成立していないことを示す事情として様々な主張をしているが,いずれも,上記のとおり13社が協調行動を取っていたことなど既に認定した事実経過を顧慮しない主張であって,採用することはできない。
ウ 本件セキュリティーチャージ等合意について
(ア) 前記第3で認定した事実及び証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)によれば,以下のとおり認められる。
a 新航空貨物保安措置の導入の経緯等
(a) 前記第3の7(1)のとおり,国土交通省は,平成16年12月27日付けで新航空保安対策基準を発出するとともに,RA制度を導入した。これらの措置については,平成17年10月1日から試行的に実施され,平成18年4月1日から本格的に実施された。
(b) 前記第3の7(1)のとおり,RA制度は,特定事業者(レギュレーテッドエージェント)が特定荷主(ノウンシッパー)の貨物を取り扱う場合には,新航空保安対策基準で義務付けられている爆発物検査を行うことを免除する制度である。
(c) 前記第3の7(2)のとおり,13社は,いずれも,平成18年3月31日までに,国土交通省から特定事業者の認定を受けた。
(査共第159号証ないし第165号証,第168号証)
b 新航空貨物保安措置の実施に伴う費用の発生
13社は,それぞれ新航空貨物保安措置に対応するため,自社の倉庫の施設が同基準を満たすよう保安対策措置などの必要な措置を講じたり,必要に応じて,X線検査装置又は爆発物探知装置を購入・配備し又は上屋会社若しくは倉庫会社に対する爆発物検査を委託する体制を整備したりするなどした。
13社は,このように,特定航空貨物利用運送事業者として講じた適切な保安措置を維持するために,また,爆発物検査を行うために,新たな費用を負担し,今後も負担し続けることとなったため,かかる費用の全部又は一部を荷主に請求して収受することを検討するようになった。
(査共第162号証ないし第165号証,第168号証)
c 国際部会役員会の会合等における検討
(a) 平成17年11月25日,13社のうち被審人ケイライン及び日新を除く各社の実務担当者が出席して「新保安措置に関するSC関連会議」と称する会合(以下「17.11SC会合」という。)が開催され,被審人西鉄の古賀などが出席していた。
17.11SC会合は,17.12役員会において新航空貨物保安措置に対する対応方針を検討することとされていたため,これに先立って,実務担当者間で同対応方針を検討することを目的としていた。
上記各社の実務担当者は,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料(以下「セキュリティーチャージ等」という。)の請求内容や請求開始時期について検討を行った。
(査共第166号証ないし第168号証)
(b) 当時被審人ケイラインの成田ロジスティックスセンター輸出混載課長兼輸出業務課長兼東京営業本部仕入課長であった井坂修(以下「被審人ケイラインの井坂」という。)は,17.11SC会合を欠席したが,協会の事務局に対して,欠席する旨を電子メールで連絡した際に,併せて,当該メールに,X線検査装置又は爆発物探知装置を設置するまでは開披検査を実施することとし,その料金設定を最低料金2,000円,1個当たり500円としており,爆発物検査料も同様に設定する方針である旨,業界での統一料金が設定された場合には,その料金をもって荷主に請求することとする旨を記載し,セキュリティーチャージ等についての被審人ケイラインの方針を表明した。(査共第165号証,第168号証,第170号証)
(c) 協会事務局の髙橋成光事務局次長(以下「協会の髙橋次長」という。)は,近鉄の佐伯の依頼を受けて,13社に対し,17.12役員会において,13社各社から,セキュリティーチャージ等について荷主に対する対応方針,検討状況,請求する対象貨物又は対象荷主,新航空貨物保安措置に関して各社が検討している具体的内容,請求開始日等を発表してもらう旨を電子メールで連絡した。(査共第168号証,第171号証)
(d) 17.12役員会には13社が出席し,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席した。
近鉄の本の議事進行の下,出席者は,自社の新航空貨物保安措置に対する対応方針や検討状況について発表した。被審人西鉄の古賀は,セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり300円を荷主に請求し,爆発物検査料については500円を荷主に請求したい旨発表した。被審人バンテックの木村は,社内での検討を終えていないが,業界で決定された料金にそろえたい旨述べた。被審人ケイラインの荒巻は,開披検査料として最低2,000円,1個当たり500円としていることから,これをそのまま爆発物検査料とする案もあるものの,社内で詳細な検討はしておらず,業界での統一料金が出ればそれに従うと述べた。
このように,各社の新航空貨物保安措置に対する検討状況は,いまだ対応方針が決まっていなかったり,請求方法や請求額もまちまちであったりしたことから,近鉄の本は,セキュリティーチャージ等の請求方法や請求額を検討するため,13社に対し,原価等についてアンケート調査を実施することを提案した。そして,アンケート調査の結果を踏まえて,平成18年2月20日に国際部会役員会の会合を開催し,上記事項について検討することとなった。
(査共第44号証,第163号証,第164号証,第168号証,第170号証ないし第180号証)
(e) 13社に対するアンケート調査の実施
協会の髙橋次長は,17.12役員会における検討の結果に従って,13社に対し,平成17年12月19日付けで「SC制度に関する調査」と題する書面(以下「アンケート調査票」という。)を電子メールで送付した。
アンケート調査は,AMSチャージ及びISS(インシュアランスサーチャージ。航空会社が本件事業者に請求している航空保険特別料金のことで,本件事業者は荷主に転嫁して請求することを検討していた。)の収受率,セキュリティーチャージの予想コスト,AMSチャージ,ISS及びセキュリティーチャージの請求方法,爆発物検査料の請求方法等を確認するものであり,平成18年1月10日を回答期限とした。
アンケート調査票を受け取った13社は,それぞれ,協会の事務局に対し,自社の収受状況や検討している内容を回答した。被審人らの荷主に対する請求内容に係る回答は,以下のとおりであった。
被審人西鉄
セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり300円,爆発物検査料として貨物1個当たり500円を請求する。
被審人バンテック
セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり1,000円,爆発物検査料としてハウスエアウェイビル1件当たり4,000円を請求する。
被審人ケイライン
セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり500円,爆発物検査料として貨物1個当たり1,000円(上限10,000円)を請求する。
(査共第163号証,第164号証,第168号証,第169号証,第179号証,第181号証ないし第186号証,審D第12号証)
(f) 平成18年2月20日,18.2役員会が開催されて13社が出席し,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席していた。
13社の出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の新航空貨物保安措置に対する対応方針を発表した。被審人西鉄の古賀は,セキュリティーチャージについては,ハウスエアウェイビル1件当たり300円を,爆発物検査料については,1個当たり500円を請求する予定であるが,協会の方針に合わせる旨発言した。被審人バンテックの木村は,セキュリティーチャージについては,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円を,爆発物検査料については,関東地区では,ハウスエアウェイビル1件当たり1,200円に横持ち料(貨物を施設と施設との間で移動させるための料金)として1キログラム当たり10円を加算して請求する旨発表した。被審人ケイラインの荒巻は,セキュリティーチャージについては,ハウスエアウェイビル1件当たり500円を,爆発物検査料については,1個当たり1,000円で上限額を1万円として請求する旨発表した。
出席者の発表が終わった後,近鉄の本は,セキュリティーチャージ等の請求額について多数決の方法により決定することを提案したところ,反対意見を述べる者はいなかったので,挙手の方法により多数決を行った。その結果,全ての荷主に対し,ハウスエアウェイビル1件当たり300円を請求する案に賛成したのは7社,同500円を請求する案に賛成したのは5社,同1,000円を請求する案に賛成したのは1社であった。
また,爆発物検査料の請求額について挙手の方法により多数決を行った。その結果,ハウスエアウェイビル1件当たり500円を請求する案に賛成した者はなく,同1,000円を請求する案に賛成したのは5社,同1,500円を請求する案に賛成したのは6社,同2,000円を請求する案に賛成したのは2社であった。ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円を請求する案と同1,500円を請求する案に賛成した者の数が拮抗していたため,再度,挙手の方法により多数決を行ったところ,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円を請求する案に賛成したのは4社,同1,500円を請求する案に賛成したのは9社であった。
これらの結果を踏まえて,近鉄の本から,13社としては,AMSチャージ,ISSとは別建てにしてセキュリティーチャージを請求すること,セキュリティーチャージについては,全ての荷主に対しハウスエアウェイビル1件当たり最低300円を請求すること,爆発物検査料については,ハウスエアウェイビル1件当たり最低1,500円をそれぞれ請求すること,請求開始時期は,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料ともに平成18年4月1日からとすることを提案した。これらに対し,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第146号証,第163号証ないし第165号証,第168号証,第169号証,第179号証,第187号証ないし第195号証,第199号証)
d 13社のセキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求開始
(a) セキュリティーチャージ
13社は,別紙4の「セキュリティーチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,セキュリティーチャージの請求を開始した。(査共第71号証,第200号証ないし第203号証)
(b) 爆発物検査料
13社は,別紙4の「爆発物検査料」欄に記載のとおり,荷主に対し,爆発物検査料の請求を開始した。(査共第71号証,第196号証ないし第199号証)
e 国際部会役員会の会合における収受の状況の報告と検討
(a) 平成18年5月15日に開催された国際部会役員会の会合には13社が出席し,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの濱田などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,セキュリティーチャージについて,請求状況や請求するに至っていない理由を発表し,爆発物検査料について,荷主に対する請求内容を具体的な金額を挙げて発表し,その収受状況を発表した。出席者の発表を受けて,近鉄の本は,爆発物検査料についても,収受率100パーセントを目指す必要がある旨確認した。
また,近鉄の本は,セキュリティーチャージについては,消費税が課税となるのか免税となるのか国税当局の見解が明らかになっていないこと,各社の貨物情報処理システムの変更が遅れていること,航空会社が本件事業者に請求を予定している「保安サーチャージ」(セキュリティサーチャージとも称されている。)の国土交通省の認可が遅れていることが障害となっていると指摘し,航空会社が「保安サーチャージ」の請求を開始する平成18年6月ないし同年7月に合わせて,荷主に対するセキュリティーチャージの請求を開始する方針に変更することを提案した。この提案に対し,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第204号証ないし第209号証)
(b) 18.9役員会には13社が出席し,被審人西鉄の古賀,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの赤岡などが出席していた。
出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,自社のセキュリティーチャージの収受率を発表した。
(査共第95号証ないし第100号証)
(c) 19.7役員会には13社のうち日本通運を除く各社が出席し,被審人バンテックの木村,被審人ケイラインの荒巻などが出席していた。
出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,平成19年5月及び同年6月の自社のセキュリティーチャージの収受率及び収受額を発表した。
(査共第62号証,第101号証ないし第106号証)
(イ) 前記第3,前記(1)ア,前記(2)ア及び前記アで認定した事実によれば,本件セキュリティーチャージ等合意の成立をうかがわせる事情として,特に,以下の事実を指摘することができる。すなわち,まず,本件事業者は,新航空貨物保安措置の導入に伴って,新たな費用を負担することになったところ,この費用(セキュリティーチャージ等)を荷主に転嫁できなければ自らの負担となるため,各社ともに,可能な限り荷主に転嫁することを検討していたこと,新航空貨物保安措置は平成18年4月1日から本格的に導入されることになっていたため,平成17年11月,13社のうち被審人ケイライン及び日新を除く各社が出席して17.11SC会合が開催されたこと,この当時,13社は,既に本件荷主向け燃油サーチャージ合意及び本件AMSチャージ合意に基づき,荷主向け燃油サーチャージ及びAMSチャージに関して協調行動を取っており,上記会議においても,セキュリティーチャージ等を荷主に請求することを前提として,請求対象貨物,請求内容,請求開始時期について意見交換がされたこと,当初は13社の対応方針は必ずしも一致していなかったものの,その後,国際部会役員会においてそれぞれの対応方針が発表されたり,アンケート調査が実施されたりする中で,13社の意見が徐々に集約され,18.2役員会において,セキュリティーチャージと爆発物検査料のそれぞれについて挙手による多数決が行われ,この結果を踏まえて,議事進行役であった近鉄の本が,セキュリティーチャージについてはハウスエアウェイビル1件当たり最低300円とすること,爆発物検査料についてはハウスエアウェイビル1件当たり最低1,500円とすること,請求開始時期は平成18年4月1日とすることを提案し,これに対して,出席者は誰も反対しなかったことを指摘することができる。さらに,その後,セキュリティーチャージについては,各社とも平成18年4月1日から8月1日までの間に請求を開始し(開始時期について,上記本の提案と一致せず,各社にばらつきがみられるのは,前記ア(オ)aのとおり,当初,セキュリティーチャージに消費税が課せられるのか否かが不明であったために,判明まで荷主への請求を控える会社があったことなどによる。),請求額は,各社ともハウスエアウェイビル1件当たり300円以上であって,上記本の提案と一致していたこと,爆発物検査料については,請求開始時期は阪神エアカーゴのみが平成18年5月1日であり,その余の各社は同年4月1日であって,上記本の提案と一致しており,請求額も各社ともハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上であって,上記本の提案と一致していたこと,以上の事実を指摘することができる。
(ウ) 以上認定した経緯によれば,18.2役員会において,本件セキュリティーチャージ等合意が成立したものと認められる。
(エ) そして,前記ア(オ)認定のとおり,その後開催された役員会で,13社がセキュリティーチャージ等についての自社の収受率を発表し,情報交換していたことについては,本来,秘密であるべき自社の取引先との交渉内容,交渉経過等を発表していることに照らして,自由な競争が行われていたとすれば,到底考えられないことであり,13社間に意思の連絡があったことをうかがわせる事情である。これに加えて,本件全証拠を総合しても,平成18年2月から平成19年11月までの間に,13社のうちのいずれかの会社が,セキュリティーチャージ等を競争の手段にして荷主と交渉し,他社から顧客を奪おうとしたり,従前と比較して取引量を増やそうとしたりした具体的事例があったことをうかがうこともできないのである。
以上述べた事情は,13社間に本件セキュリティーチャージ等合意が成立していたことを強く裏付けるものである。
(オ) 被審人らの主張について
a 被審人西鉄は,セキュリティーチャージについて,18.2役員会に先立つ平成17年11月末頃には,ハウスエアウェイビル1件当たり300円とする試算を既に行っており,当初の試算に従い,平成18年7月1日から,荷主に対し,ハウスエアウェイビル1件当たり300円でセキュリティーチャージの請求を開始したのであるから,独自の判断で金額を定めたのであって,本件セキュリティーチャージ等合意は成立していない旨主張する。
しかし,被審人西鉄が平成17年11月末頃に上記試算を独自に行っていたことを認め得る証拠は提出されていない上,前記アで認定したとおり,被審人西鉄の古賀が,18.2役員会の前後を通じて国際部会役員会に度々出席して他社と情報交換や議論を行い,18.2役員会においては,セキュリティーチャージ等について協会の方針に合わせる旨発言し,その後行われたセキュリティーチャージ等の内容を決定するための挙手による多数決にも参加しているなどの事情・経緯に照らすならば,セキュリティーチャージにつき18.2役員会での合意とは無関係に独自に決定をしたとする被審人西鉄の上記主張を採用することはできない。
また,被審人西鉄は,爆発物検査料についても,18.2役員会に先立つ平成17年11月末頃には,貨物1個当たり500円とする試算を既に行っており,また,その後,爆発物検査料をハウスエアウェイビル1件当たり2,000円という,同役員会における近鉄の本の提案とは異なる内容の決定をしていることから,独自の判断で爆発物検査料の金額を定めたのであって,本件セキュリティーチャージ等合意は成立していない旨主張する。
しかし,被審人西鉄が平成17年11月末頃には上記試算を独自に行っていたことを認め得る証拠は提出されていない上,爆発物検査料をハウスエアウェイビル1件当たり2,000円とすることは本件セキュリティーチャージ等合意の内容(ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を請求するというもの)と合致しているし,上記のとおりの被審人西鉄の古賀による国際部会役員会への出席状況や言動等にも照らせば,爆発物検査料につき18.2役員会での合意とは無関係に独自に決定したとする被審人西鉄の上記主張も採用することはできない。
b 被審人ケイラインは,爆発物検査料に関して,平成17年12月6日から実施していた開披検査の料金を最低料金2,000円,1個当たり500円としていたところ,RA制度の開始に伴い開披検査から爆発物検査に移行しても,爆発物検査料として同額を請求することを当初から予定しており,この当初の予定に従って,平成18年4月1日から荷主に対し爆発物検査料を設定したものであり,しかも,この爆発物検査料に係る決定は,社内で決定権限を有する被審人ケイラインの井坂が,国際部会役員会に出席していた被審人ケイラインの荒巻と連絡することなく,18.2役員会の決定とは無関係に行ったものであるから,被審人ケイラインは,独自の判断で爆発物検査料を設定したものであって,本件セキュリティーチャージ等合意が成立したとはいえないと主張する。
しかし,上記ア(ウ)bのとおり,被審人ケイラインの井坂は,17.11SC会合を欠席する旨を電子メールで協会事務局に連絡した際,併せて,当該メールに,セキュリティーチャージ等に係る被審人ケイラインの方針を記載するとともに,業界での統一料金が設定された場合には,その料金をもって荷主に請求することとする旨を記載しているところ,証拠(査共第170号証)によれば,被審人ケイラインの井坂は,この電子メールをそのまま被審人ケイラインの荒巻に転送して,同人に対し,協会に上記内容を伝えた旨を報告していることが認められる。また,証拠(査共第203号証)によれば,被審人ケイラインの井坂は,平成18年7月24日,セキュリティーチャージに関するものではあるが,社内における電子メールで「実質JAFAで決めた料金ですが,JAFAで決めたというと独禁法に触れるらしいのでお客様への説明ではJAFAで決めたといわないで下さい。」と記載していることが認められ,国際部会役員会等の場においてセキュリティーチャージ等が決定されていることを十分に認識した上でそれを前提として行動していることがうかがわれる。かかる事情にも照らせば,被審人ケイラインの井坂が,18.2役員会に出席していた被審人ケイラインの荒巻と連絡することなく,同役員会での決定とは無関係に独自に爆発物検査料の決定を行ったとするのは不自然であるといわざるを得ない。さらに,上記のとおりの被審人ケイラインの井坂の協会事務局宛て電子メールの記載内容(業界での統一料金が設定された場合には,その料金をもって荷主に請求することとする旨),国際部会役員会における被審人ケイラインの荒巻の言動(上記ア(ウ)のとおり,18.2役員会の前後を通じて国際部会役員会に度々出席して他社と情報交換や議論を行っていたこと,17.12役員会において,業界での統一料金が出ればそれに従う旨発言したこと,18.2役員会において,セキュリティーチャージ等の内容を決定するための挙手による多数決に参加したこと等),被審人ケイラインの主張する爆発物検査料の内容(最低料金2,000円,1個当たり500円)は,本件セキュリティーチャージ等合意の内容(爆発物検査料としてハウスエアウェイビル1件当たり最低1,500円)と何ら矛盾しないこと(この点は被審人ケイラインも争ってはいない。)などの事情に照らせば,被審人ケイラインが,18.2役員会の決定とは無関係に独自の判断で爆発物検査料の決定をしたとは認められないというべきである。
c その他,被審人らは,本件セキュリティーチャージ等合意が成立していないことを示す事情として様々な主張をしているが,いずれも,上記のとおり13社が協調行動を取っていたことなど既に認定した事実経過を顧慮しない主張であって,採用することはできない。
エ 会合出席者の価格決定権限について
(ア) 被審人らは,不当な取引制限に当たる合意が成立するためには,合意が成立した会合に価格決定権限を有する者が出席していなければならないところ,審査官において本件合意が成立したと主張する国際部会役員会には,各社の価格決定権限を有する者は出席していないから,本件合意は成立しないと主張する。
しかし,不当な取引制限に該当する行為は,法律行為ではなく,当該事業者が不当な取引制限に該当する行為を行ったものと評価することができれば足りるのであって,価格決定権限を有する者同士が直接意思の連絡をしなければならないというものではない。会合に出席した者に価格決定権限がないとしても,当該出席者が,当該事業者から,会合に出席することなどによって価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されているのであれば,その者を通じて事業者間に合意が成立したものと評価することはできるのである(東京高等裁判所平成21年9月25日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベース」〔ポリプロピレン価格カルテル審決取消請求事件判決〕参照)。
(イ) これを本件についてみるに,前記第3で認定したとおり,国際部会役員会の出席予定者は,別紙3-1記載のとおりであり,そのほとんどが各社の役員クラス(代表取締役又は取締役)であって,理事会のメンバーも兼ねていることが多かったこと,国際部会役員会は燃油サーチャージ問題が発生した平成13年以降は,2,3か月に1回の割合で定期的に開催されていたこと,実際に,国際部会役員会の会合に出席していた者は,別紙3-2記載のとおりであって,会社の役員でないとしても営業部門の部課長クラスがほとんどであり,これらの者は前記出席予定者の指示を受けて,その代理として出席していたことが認められる。以上によれば,国際部会役員会の出席者は,実際に14社(平成16年以降は13社)を代表する権限を有する者であったか,そうでないとしても,当該代表者又は役員クラスの者から,会合に出席することなどによって価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されている者であったと推認することができる。
(ウ) この点を被審人らについてみると次のとおりである。
a 被審人西鉄について
(a) 前記(1)オ(ア)で認定のとおり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立した14.9役員会においては,被審人西鉄からの出席者個人を特定することはできないものの,被審人西鉄の担当者も出席していたことが推認され,前記(1)ア,前記(2)ア及び前記(3)アで認定のとおり,本件AMSチャージ合意が成立した16.11役員会,本件セキュリティーチャージ等合意が成立した18.2役員会,さらに本件合意の前後に度々開催されていたその他の国際部会役員会等のほぼ全てに,被審人西鉄から出席していたのは,被審人西鉄の古賀である。
(b) そこで,まず被審人西鉄の古賀についてみると,被審人西鉄の古賀は,国際部会役員会等に出席した際には,その都度,被審人西鉄の北古賀又は被審人西鉄の野上に対し,会合の内容等を詳細にまとめた報告書等を作成し,報告していたことが認められる(査共第32号証,第199号証,第214号証,第216号証,第232号証)。その記載内容をみると,例えば,14社それぞれの荷主向け燃油サーチャージやAMSチャージ等の収受率,支払拒否荷主やその交渉担当会社等につき記載され,また,近鉄の本が,各社が荷主向け燃油サーチャージの値上げを「セールスツールとしないように」と発言したこと(査共第82号証)なども記載されている(査共第43号証,第76号証,第79号証,第82号証,第89号証,第109号証,第132号証,第157号証)。
このように報告を受けていた被審人西鉄の北古賀が,同社において,荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ及びセキュリティーチャージ等の価格決定権限を有していたことは,被審人西鉄も争っていないし,被審人西鉄の野上についても,その立場は,平成7年6月から平成13年6月まで被審人西鉄の北古賀の前任者として航空貨物事業本部長の地位にあり,平成13年6月から専務取締役,平成15年6月から常任顧問の地位にあること(査共第32号証,第43号証),前記第3の4(3)のとおり,役員クラスの者として国際部会役員会の出席予定者とされていたこと(別紙3-1参照),被審人西鉄の古賀は,被審人西鉄の野上の命令により,平成13年頃から国際部会役員会に出席するようになったとしていること(査共第32号証)などに照らせば,少なくとも被審人西鉄の北古賀と同程度の権限を有していたものとみるのが相当である。
そうすると,本件AMSチャージ合意が成立した16.11役員会及び本件セキュリティーチャージ等合意が成立した18.2役員会等に出席していた被審人西鉄の古賀は,被審人西鉄の北古賀又は被審人西鉄の野上の指示を受けて,同社から,会合に出席することなどによって価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されていた者であると認めることができる。
(c) 次に,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立した14.9役員会については,前記(1)ア(ウ)のとおり,被審人西鉄が14.9役員会の後,他社とほぼ同時期に同内容の荷主向け燃油サーチャージの請求を開始し,その後も,前記のとおり被審人西鉄の古賀が国際部会役員会に度々出席するなどして,14社間で長期間にわたる協調関係を続けていたことなどを考慮すれば,被審人西鉄からの出席者個人を特定することはできないものの,被審人西鉄を代表する者若しくは被審人西鉄の北古賀又は被審人西鉄の野上の指示を受けるなどして,同社から,価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されていた者が出席していたものと推認することができる。
(d) 以上によれば,被審人西鉄について,本件合意が成立したものと認められる。
b 被審人バンテックについて
本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立した14.9役員会において,被審人バンテックから出席していたのは,被審人バンテックの益子であるところ,同人は,被審人バンテックの高田治(当時,取締役副社長。以下「被審人バンテックの高田」という。)から,荷主向け燃油サーチャージが議題とされている14.9役員会に出席するよう命じられ,同人の代理の立場で同役員会に出席し,事後に被審人バンテックの高田に対し同役員会の結果を報告していたことが認められる(査共第50号証,益子和夫参考人)。そして,このように被審人バンテックの益子に同役員会への出席を命じ,その結果報告を受けていた被審人バンテックの高田が,当時,同社の取締役副社長の地位にあり,役員クラスの者として国際部会役員会の出席予定者とされていたこと(別紙3-1参照)からすれば,被審人バンテックの益子は,被審人バンテックの高田の指示を受けて,同社から,会合に出席することなどによって価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されていた者であると認めることができる。
本件AMSチャージ合意が成立した16.11役員会及び本件セキュリティーチャージ等合意が成立した18.2役員会において,被審人バンテックから出席していたのは,被審人バンテックの木村であり,同人は,当時,同社の専務取締役の地位にあり,役員クラスの者として国際部会役員会の出席予定者とされていたこと(別紙3-1参照)から,その権限については何ら問題がないということができる。
以上によれば,被審人バンテックについて,本件合意が成立したものと認められる。
c 被審人ケイラインについて
前記(1)オ(ア)で認定のとおり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立した14.9役員会においては,被審人ケイラインからの出席者個人を特定することはできないものの,被審人ケイラインの担当者も出席していたことが推認される。そして,前記のとおり,当時,同社の代表取締役であった被審人ケイラインの森が,14.9役員会の内容を踏まえた森メール(査共第59号証)を,当日のうちに作成し,同社の役員等に送信しており,同役員会の内容を了承していたといえること,また,前記(1)ア(ウ)のとおり,被審人ケイラインの役員等が国際部会役員会に度々出席するなどして,14社間で長期間にわたる協調関係を続けていたことなどを考慮すれば,被審人ケイラインからの出席者個人を特定することはできないとしても,被審人ケイラインを代表する者又は被審人ケイラインの森の指示を受けるなどして,同社から,価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されていた者が同役員会に出席していたものと推認することができる。
本件AMSチャージ合意が成立した16.11役員会及び本件セキュリティーチャージ等合意が成立した18.2役員会において,被審人ケイラインから出席していたのは,被審人ケイラインの荒巻であり,同人は,当時,同社の取締役の地位にあり,その職務内容等(審D第12号証参照)からしても,その権限については何ら問題がないものということができる。
以上によれば,被審人ケイラインについて,本件合意が成立したものと認められる。
(4) 争点4(本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否か)について
ア 14社(平成16年以降は13社)の本件業務における貨物量の合計は,平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における総貨物量に対して,最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセントを占めていたことは,前記第3の2(3)で認定したとおりである。
このような市場占有率を有する14社によって,本件業務に関して不当な取引制限に当たる合意が成立すれば,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することとなることは明らかである。
イ 前記第3で認定した事実,前記3(1)ア,3(2)ア及び3(3)アで認定した事実並びに前記3で判断したところを総合すれば,本件合意は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意によって構成されているところ,これらの合意が成立するに至った一連の過程に照らすと,14社(平成16年以降は13社)は,航空業界等において新しい制度等が導入されることによって,本件事業者において,次々と新たに負担することを余儀なくされるに至った費用である4料金について,これを荷主に転嫁しようと企図するとともに,各社独自の経営判断に基づいて行動することによるリスクを回避するために,合意を形成し,互いの競争を回避してきたものであり,14社がこのような行動に出たのは,燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料といった本件業務を構成する個別の作業の取引分野が存在することを前提として,当該個別の取引分野における競争を回避するためではなく,本件業務という一個の役務の取引分野についての競争を回避するためであったものと認められる。現実にも,本件業務と離れて燃油サーチャージのみの個別の取引分野は存在しないと解されるし,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料については,これに対応する個別の取引分野を観念することは不可能ではないが,少なくとも,14社が本件業務から離れて,これらの個別の取引分野で個々に競争していたことをうかがわせる証拠はない。
以上検討したところによれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意,本件セキュリティーチャージ等合意を,それぞれ別個の取引分野を前提に不当な取引制限に該当する行為と評価するのは相当ではなく,飽くまでも,本件業務の取引分野における競争を回避するために行われた一連の一個の不当な取引制限に該当する行為と評価するのが相当である。
ウ 被審人らの主張について
(ア) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
a 被審人らは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,実質上,14社が航空会社に立替払いしたものを本来の負担者である荷主に請求するという当然のことを確認したものにすぎないから,一定の取引分野における競争が実質的に制限されることはない旨主張する。しかし,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が形式的にも実質的にもそのような性質を有しないことは前記3(1)オ(エ)で判断したとおりであり,被審人らの上記主張は理由がない。
b 被審人らは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,既に国土交通大臣に届け出ている内容を遵守することを確認したものにすぎないから,一定の取引分野における競争が実質的に制限されることはない旨主張する。また,被審人西鉄は,平成14年9月18日当時,本件事業者は,国土交通大臣に対する運賃及び料金の事前届出を義務付けられ(貨物運送取扱事業法第9条),届出内容と異なる運賃又は料金を収受することは禁止されており(同法第64条第2号),国土交通大臣に対して一旦届出をした後は当該届出内容に沿って運賃及び料金を徴収しなければならなかったのであるから,その限度で既に競争が制限されていたのであって,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,競争を実質的に制限する効果をそもそも有しない旨主張する。
しかし,貨物運送取扱事業法第9条は,本件事業者に対し,運賃及び料金の国土交通大臣への事前届出義務を定めたにすぎないものであり,その文言上,事前に届け出た内容に沿って運賃及び料金を徴収する義務を課したものというよりは,運賃及び料金を請求し収受する場合には事前届出義務があることを定めたものであると解される。同法上,本件事業者が既に届け出ている内容と異なる運賃及び料金を請求し収受しようとするならば,変更の届出をした上でそのような収受をすることが可能であると解されるし(同条後段),既に届け出ている内容どおりの運賃及び料金を請求し収受しようとして交渉しても荷主が応じない場合に,運賃及び料金を変更せず,当該荷主とは契約をしないという選択肢も存在する。このように,本件事業者は,運賃及び料金について,事前届出義務があっても競争することが可能なのであるから,同法によって既に競争が制限されていたものとはいえない。本件事業者が,変更の届出をせずに,届出と異なる内容の運賃及び料金を請求し収受した場合に,形式的には届出義務違反に該当することはあり得ても,それ故に競争を実質的に制限しないという結論にはならない。
また,国土交通大臣に対する届出の有無やその時期等の事情にかかわらず,平成13年当時には実際にほとんど収受することができていなかった荷主向け燃油サーチャージについて,14社の協調行動によって収受することができるようにすることが不当な取引制限に該当することが明らかであることは,前記3(1)オ(エ)で判断したとおりであり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意によって,一定の取引分野における競争が実質的に制限されたものといえるのである。
よって,被審人らの上記主張は理由がない。
c 被審人ケイラインは,14社による荷主との交渉内容は取引上の力関係により異なっていること,結果として,荷主向け燃油サーチャージの収受状況も各社で異なっていたことからすれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意によって,現実に,同部分における競争は停止していないと主張する。しかし,不当な取引制限が行われた場合において,需要者との交渉の結果,実際には合意の内容どおりの値上げ等が実現できないという事態はしばしばみられるところである。このような場合においても,合意の存在によって,自己の判断により取引条件を決定する競争単位が減少したという事実には変化はなく,一定の取引分野における競争の実質的制限が依然として存在するといい得るのであって,被審人ケイラインの上記主張は理由がない。
(イ) 本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意について
a 被審人ケイラインは,AMSチャージについて,本件AMSチャージ合意の内容(ハウスエアウェイビル1件当たり500円)を下回る金額を請求している例を挙げて,AMSチャージ等に係る競争は現実に行われていた旨主張する。しかし,被審人ケイラインは,AMSチャージ等を値引きすることによって取引先を奪おうとしたなど現実に競争が行われていたことを示す事情を主張することなく,単に合意を下回る金額を請求している例を挙げるのみであるところ,実際に合意の内容どおりの値上げが実現できないような場合であっても,競争の実質的制限が否定されないことは上記ア記載のとおりであるから,被審人ケイラインの上記主張は理由がない。
b 被審人らは,AMSチャージ,セキュリティーチャージ等に係る競争が停止していたとしても,これら3料金の金額が本件業務の対価全体に占める割合はごく僅かにすぎず,本件合意により本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されるものではないと主張する。しかし,前記(2)のとおり,本件合意は,一連の行動による一個の不当な取引制限に該当する行為と評価するのが相当であるから,そのような観点から競争の実質的制限を判断すべきものであって,本件合意のうち本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意のみを取り出して,競争の実質的制限を判断することはできず,被審人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件業務の取引分野における競争の実質的制限について
a 被審人らは,仮に,4料金について本件合意がされたとしても,それ以外の運賃及び料金については競争が消滅していない以上,本件業務の全体について競争が実質的に制限されるものではないと主張する。
b まず,本件実行期間(平成16年11月から平成19年11月まで)の4料金の売上げの合計額が,本件業務の売上額に占める割合(以下「4料金割合」という。)がどの程度であるかについて検討する。
審査官は,本件実行期間における13社全体での4料金割合について,12.2パーセントであると主張している(答弁書95頁)。本件証拠中には,これを直接裏付ける証拠はないものの,被審人らは,上記審査官の主張を積極的に争ってはいないし,上記期間における被審人西鉄の4料金割合は約13パーセントであり(審B第12号証),同期間における被審人ケイラインの4料金割合も約13パーセントであると認められ(審D第10号証),これらは審査官が主張する上記数値におおむね沿うものである。
そうすると,13社全体における4料金割合は,審査官が主張するように12パーセント程度であると推認することができるのであり,その割合からしても,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していると優に評価することができるものである。
c また,被審人らは,本件業務においては,4料金以外の運賃及び料金については競争が消滅していないと主張する。しかし,平成14年9月から平成19年11月までの間に,14社(平成16年以降は13社)間において,4料金以外の部分(本体運賃等)を競争手段とする競争が実際に存在したこと,すなわち,14社のいずれかが,荷主に対して,本体運賃等を値引きすることによって,取引先を奪おうとしたり,取引数量を増やそうとしたりしたことを,具体的にうかがわせる証拠は存在しない。また,被審人らも,そのような具体的な事実があったことを主張していない。
被審人らが主張するように,14社間において4料金以外の部分(本体運賃等)で自由な競争が行われていたとすれば,本件業務の運賃及び料金の中で,ごく僅かの割合を占めるにすぎない,AMSチャージ,セキュリティーチャージ,爆発物検査料等に関して,14社が不当な取引制限を行う必要はないはずである。ところが,これまで検討してきたところに照らせば,14社は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意のみならず,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意を成立させ,その後も,国際部会役員会において,各社の交渉状況,収受状況等を発表し合うといったことを継続し,互いの行動についての情報を収集し,把握しながら協調行動を取っていたのである。
このような14社の行動に鑑みれば,本件業務の取引分野においては,少なくとも本件違反行為期間中は,4料金以外の部分(本体運賃等)で競争が行われることはほとんどなかったものと推認されるのであり,そうであるからこそ,各社とも,ごく僅かな割合の費用についてすら,各社の自由な競争となることを恐れ,度々会合を重ね,互いの行動についての情報を交換し合うなどして協調行動を取り続けていたことが合理的に理解できるのである。
以上のとおりであり,4料金以外の部分(本体運賃等)で自由な競争が行われていたとは考え難く,4料金以外の部分でも,少なくとも本件合意が無意味となるような程度の競争は行われていなかったものと推認するほかはない。したがって,被審人らの上記主張を採用することはできない。
(エ) 需要者の圧力について
被審人ケイラインは,本件業務の需要者の圧力を理由にして,本件合意は競争を実質的に制限しない旨主張するが,単に,抽象的に需要者の価格競争力が強いとか取引先の切替えも容易であったなどと主張するのみであって,本件合意の存在にもかかわらず,本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されなかったことについて,具体的な反証をしない。本件合意が本件業務の取引分野において70パーセント以上のシェアを占める14社によって行われたものであり,少なくとも売上額の10パーセント以上の割合を占める4料金についての不当な取引制限であったことに照らすならば,本件合意が競争を実質的に制限するものであることは明らかであり,被審人ケイラインの上記主張は理由がない。
(5) 争点5(本件排除措置命令の必要性)について
ア ア 証拠(査共第111号証,第231号証)によれば,平成19年11月12日,当時日本通運の代表取締役副社長であった中谷桂一,近鉄の田中,当時郵船の代表取締役社長であった矢野俊一,当時協会の理事長であった土橋正義及び協会の事務局長であった髙橋武が,東京都港区に所在する日本通運の本社の会議室において,国際部会役員会の会合の在り方について話し合い,アメリカやヨーロッパにおいて本件事業者に対する独占禁止法違反の調査が及んでいるとの情報を得たこと等から,当面は同会合を開催しないことを申し合わせたため,同日以降国際部会役員会の会合は開催されていないことが認められ,本件違反行為は,平成19年11月12日以降,事実上消滅しているものと認められる。
イ 独占禁止法第7条第2項は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,事業者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているところ,「特に必要があると認めるとき」とは,既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解され,この要件の該当性の判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する公正取引委員会の専門的な裁量が認められるものと解される(最高裁判所平成19年4月19日判決・最高裁判所裁判集民事224号123頁参照)。
ウ 既に認定したとおり,本件違反行為は,平成14年9月18日の本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立時から,平成19年11月12日に消滅するまでの間,5年以上もの長期間にわたって行われており,その間,被審人らを含む14社(平成16年以降は13社)は,度々国際部会役員会等を開催して互いに情報交換や意思の確認を繰り返し,本件違反行為を継続していた。本件違反行為が消滅したのは,大手3社の代表者等が,アメリカやヨーロッパにおいて本件事業者に対する独占禁止法違反の調査が及んでいるとの情報を得たこと等から,当面は同会合を開催しないことを申し合わせたことによるものであり,自発的な意思に基づき終了させたものとはいえない。加えて,本件違反行為は,各社の代表取締役を含む役員クラスの者が多く関与していたこと,本件違反行為の場として利用された国際部会役員会は,平成19年11月12日以降開催されていないものの,未だ存続はしていること,本件事業者業界においては,本件事業者にとって需要者である荷主及び供給者である航空会社双方による競争圧力が大きく,一般的にみて違反行為を行いやすい環境にあるといえることなど,本件の一切の事情を総合考慮すれば,本件違反行為が繰り返されるおそれを否定することはできない。したがって,被審人らに対し,本件違反行為が既になくなっている旨の周知措置その他本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置等を命ずる必要があると認められる。
また,このような観点から本件排除措置命令を検討すると,その内容とするところは全て,本件において,被審人らに命ずることが必要な措置であり,その判断が,公正取引委員会の裁量の範囲を超え又は裁量を濫用したものとはいえない。
イ 被審人バンテックの主張について
被審人バンテックは,本件排除措置命令の主文について,4料金以外の運賃及び料金をも含めて違反行為の繰り返しの禁止を命じられており,不当に拡大された命令である旨主張する。
しかし,排除措置命令において具体的にいかなる措置を命じるかは,違反行為を排除するために必要な範囲内又は違反行為が排除されたことを確保するために必要な範囲内であれば,公正取引委員会の裁量に委ねられていると解されるところ,前記のとおり,本件違反行為については,4料金につき別個の取引分野を前提に判断するのは相当ではなく,飽くまでも,本件業務全体の取引分野における競争を回避するために行われた一連の違反行為と評価するのが相当であると解される。したがって,本件業務全体の取引分野について違反行為が排除されたことを確保する必要があるから,本件排除措置命令において命じられている措置が,公正取引委員会の裁量の範囲を超え又は裁量を濫用したものとはいえない。
(6) 平成21年(判)第19号ないし第21号(本件排除措置命令に対する審判請求事件)についてのまとめ
ア 14社の市場における地位について
平成13年から平成20年までにおいて,14社(平成16年以降は13社)の本件業務における貨物量の合計が,我が国における本件業務における総貨物量の70パーセント以上を占めていたことは,前記第3の2(3)で認定したとおりである。
イ 本件合意について
(ア) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
14.9役員会において,12社間に本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したこと,その後平成14年11月8日までに日本通運及びDHLが本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わったこと,以上の事実は,前記3(1)で認定したとおりである。
(イ) 本件AMSチャージ合意について
16.11役員会において,13社間に本件AMSチャージ合意が成立したことは前記3(2)で認定したとおりである。
(ウ) 本件セキュリティーチャージ等合意について
18.2役員会において,本件セキュリティーチャージ等合意が成立したことは前記3(3)で認定したとおりである。
(エ) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意を一連の一つの不当な取引制限と評価すべきことは前記4(2)で述べたとおりである。
ウ 本件違反行為について
これまで判断してきたところによれば,14社(平成16年以降は13社)は,本件合意をすることにより,公共の利益に反して,我が国における本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第3条に違反する。
エ 措置の必要性について
被審人らに対し,本件違反行為が既になくなっている旨の周知措置その他本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置等を命ずる必要があると認められることは,前記5のとおりである。
オ まとめ
以上によれば,本件排除措置命令は適法であって何ら違法な点はないから,本件排除措置命令に対する被審人らの各審判請求はいずれも理由がない。
(7) 争点6(本件合意は,独占禁止法第7条の2第1項第1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当するか否か)について
ア 本件違反行為は,4料金について個別の取引分野を前提とするものではなく,本件業務という一個の役務の取引分野を前提に,同取引分野における競争を回避するために行われた一連・一個の行為と評価すべきであることは,前記4(2)で判断したとおりである。そして,前記第3の3(3)イのとおり,4料金は,本件業務の運賃及び料金の一部であるから,本件業務という役務の対価であって,4料金に係る本件合意は,独占禁止法第7条の2第1項第1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当する。
イ 被審人らの主張について
(ア) 被審人西鉄及び被審人ケイラインは,荷主向け燃油サーチャージは,本件事業者が航空会社に立替払した燃油サーチャージ相当額を本来の負担者である荷主から回収するという実態があり,本件業務における個々の業務のいずれかに対応して設定されているものではないから,本件業務という役務の対価ではないと主張する。
しかし,荷主向け燃油サーチャージが,被審人らの主張するような実態を有するものではないことは,前記3(1)オ(エ)で判断したとおりであり,荷主向け燃油サーチャージに対応する具体的な業務を観念することができなくても,上記のとおり,荷主向け燃油サーチャージが,運賃及び料金の一部であって,本件業務という一個の役務の対価であるといえるのであるから,被審人西鉄及び被審人ケイラインの上記主張は理由がない。
(イ) 被審人ケイラインは,燃油サーチャージの収支(航空会社に支払った燃油サーチャージの総額と荷主から回収できた荷主向け燃油サーチャージの総額の収支)はマイナスであって,燃油サーチャージの収受による経済的利益を全く得ていないから,荷主向け燃油サーチャージは,本件業務という役務の対価には当たらない旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件における不当な取引制限は,本件業務という一個の役務の取引分野を前提とするものであるから,そもそも,本件業務の対価(運賃及び料金)のうち,荷主向け燃油サーチャージのみを取り出して,その収支を問題とし,本件業務という役務の対価には当たらないとする上記主張は理由がない。
(8) 争点7(本件業務は小売業又は卸売業に該当するか否か)について
ア 業種と算定率
独占禁止法第7条の2第1項は,課徴金の算定率について,「当該商品又は役務(中略)の百分の十(小売業については百分の三,卸売業については百分の二とする。)」と規定する。算定率の原則は,百分の十であり,例外として「小売業」に該当する場合は百分の三,「卸売業」に該当する場合は百分の二とされるのである。
いずれの業種に該当するかについては,当該事業者の事業全体ではなく,違反行為の対象となる業務に限って判断されるべきであり,また,個別の事業者ごとに判断することになる。
「小売業」及び「卸売業」については,独占禁止法に定義規定はないものの,消費税法施行令(平成22年3月31日政令第71号)第57条第6項によれば,「卸売業とは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうもの」とされ,「小売業とは,他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で同項第一号に掲げる事業(注:卸売業)以外のもの」をいうものとされている。一般的にも,「小売業」とは,商品を生産者・卸売業者等から買い入れてこれを一般消費者に分けて販売する事業であり,「卸売業」とは,生産者・輸入商等から商品を買い入れて小売業者に販売する事業であるとされている。このように,買い入れた商品をそのまま販売すること,つまり買い入れた商品を,その同一性を保持したままで流通させる場合には,商品を流通させることによりマージンを受けるという側面が強いことから,算定率を軽減したものと解される。
イ 本件業務の業種
本件違反行為の対象となった本件業務は役務であり,通常,「役務の提供」は,商品の販売とは異なるものとされるから,商品を買い入れてそのまま販売する「小売業」及び「卸売業」とは異なる業種であることが明らかである。
また,本件業務は,運輸業の一種であると認められるところ,日本標準産業分類によれば,「小売業,卸売業」と「運輸・通信業」とは別個の分類とされている。
課徴金制度は一律的な非裁量的制度として法定されており,「卸売業」及び「小売業」のみを明示して例外的な算定率を定めている独占禁止法の下では,本件業務に流通業的性格があるとか,国際航空貨物利用運送業と卸・小売業の各売上高営業利益率が近似しているという点を捉えて,本件業務に卸・小売業に係る算定率を準用することは許されない(東京高等裁判所平成13年11月30日判決・公正取引委員会審決集第48巻493頁参照)。そして,課徴金制度は,「カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的」(前掲最高裁判所平成17年9月13日判決参照)とするものであって,強制的行政措置としての非裁量性,簡明性,明確性,透明性及び迅速性の要請から,卸・小売業のみを例外として一律の算定率を定めるものであり,その結果,課徴金の額が現実の不当利得の額とかい離し,そのかい離の幅にも業種によって差が生じる可能性があるが,この差は行政措置としての上記要請に基づき生じるもので,合理性を有するものである(前掲東京高等裁判所平成13年11月30日判決参照)。
したがって,本件業務は,小売業及び卸売業のいずれにも当たらないものと認められる。
なお,前記第3で認定した事実,前記3(2)ア及び3(3)アで認定した事実によれば,本件業務は,荷主と本件事業者との間で契約が締結されるが,その内容は,荷主からの貨物の集荷,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への貨物の引渡し,航空機への搭載,航空機による運送,仕向地の空港への到着後の航空機からの取りおろし,混載貨物仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等という業務から成り,AMS制度導入に伴う作業,新航空貨物保安措置の実施に伴う作業もこの運送業務に含まれるのであって,これらの本件業務を全体としてみるならば,その実質からしても,小売業や卸売業の実態があるとはいえない。
ウ 以上のとおり被審人らの主張を採用することはできず,被審人らの業務である本件業務は「小売業」及び「卸売業」には該当しない。
したがって,課徴金の算定率は,10パーセント(平成18年1月4日以降の違反行為に係るものについて)又は6パーセント(同月3日以前の違反行為に係るものについて)ということになる。
(9) 争点8(課徴金算定の基礎となる売上額に消費税相当額が含まれるか否か)について
ア 消費税法上,商品の販売等の場合には,売り手側の事業者が消費税の納税義務者とされている。他方,消費者側は,消費税相当額を経済的に転嫁されて負担するにとどまり,法律的には納税義務者とはされていない。消費者側が支払う消費税相当額は,商品等本体の代金額の金員と同一の法的性質を有する金員として一体的に事業者に支払われ,事業者が,消費者側から受領した金員の中から,自らの義務として消費税を納付することが予定されている。したがって,消費税相当額は,法的性質上,商品又は役務の「対価」(独占禁止法施行令第5条第1項)に含まれているものと解され,課徴金額算定の基礎となる「売上額」に含まれることとなる。これは,消費税が経営的,経済的に原材料等の費用と同様の機能を果たしており,これらの費用が「売上高」に含まれていること,独占禁止法施行令第5条第1項が,消費税相当額を独占禁止法第7条の2第1項所定の売上額から控除される項目として列挙していないことからも,裏付けられる(東京高等裁判所平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁〔東燃ゼネラル石油審決取消請求事件判決〕参照。)。
イ 被審人バンテックの主張について
被審人バンテックは,課徴金額算定の基礎となる売上額に消費税相当額が含まれるとの上記解釈に対し,不当な二重取りであり違法である等と主張する。しかし,前記(1)のとおり,消費税の納税義務者は事業者であって,消費者側は消費税相当額を経済的に転嫁されて負担するにとどまり,消費税相当額は商品等本体の代金額と同一の性質を有するもので,対価の一部であると解されることからすれば,課徴金算定の基礎となる売上額に消費税相当額が含まれると解しても,必ずしも不当な二重取りということにはならない。また,独占禁止法は,課徴金によって剥奪しようとする事業者の不当な経済的利得の把握の方法として,具体的な法違反行為による現実的な経済的利得そのものとは切り離し,一律かつ画一的に算定する売上額に一定の比率を乗じて算出された金額を観念的に剥奪すべき事業者の経済的利得と擬制する立場をとり,これにより簡明かつ迅速な処理を指向する課徴金制度の基本的姿勢に立っており,消費税相当額を売上額から控除すべき合理性は認められない(前掲東燃ゼネラル石油審決取消請求事件判決参照)。
ウ 以上のとおり,課徴金額算定の基礎となる「売上額」(独占禁止法第7条の2第1項)には,消費税相当額が含まれる。
(10)  平成21年(判)第23号,第25号及び第26号(本件各課徴金納付命令に対する審判請求事件)についてのまとめ
ア 本件違反行為について
前記6(3)のとおりである。
イ 本件違反行為が役務の対価に係るものであること
前記7で判断したとおりであり,本件違反行為は,本件業務の対価に係るものである。
ウ 本件違反行為の主体及び実行期間
被審人らは,本件業務を営む者であり,独占禁止法第7条の2第1項に該当する事業者であることは争いがない。
前記3で認定したところによれば,本件違反行為は平成14年9月18日に開始され,他方,前記5(1)で認定したところによれば,本件違反行為は平成19年11月12日以降事実上消滅しているものと認められるから,本件違反行為の実行期間は,平成16年11月12日から平成19年11月11日までの3年間となる。
エ 売上額
本件実行期間における被審人らの4料金に相当する売上額の合計は,独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づき算定すると,被審人西鉄について,平成18年1月3日以前の分が25億4563万3633円,同月4日以降の分が69億9224万6213円であり,被審人バンテックについて,同月3日以前の分が12億5029万5421円,同月4日以降の分が34億2882万2503円であり,被審人ケイラインについて,同月3日以前の分が8億935万3754円,同月4日以降の分が27億2221万2917円である(この売上額については当事者間に争いがない。)。
オ 課徴金の算定率
前記8のとおり,被審人らの本件業務は小売業及び卸売業には該当しないから,平成17年改正法の施行日前(平成18年1月3日以前)の売上額には,平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定により6パーセントの算定率が適用され,施行日(同月4日)以後の売上額には,独占禁止法第7条の2第1項の規定により10パーセントの算定率が適用される。
カ まとめ
以上を前提として,被審人らの納付すべき課徴金額を算出すると,被審人西鉄の納付すべき課徴金額は合計8億5196万円,被審人バンテックが納付すべき課徴金額は合計4億1789万円,被審人ケイラインが納付すべき課徴金額は合計3億2078万円となる(独占禁止法第7条の2第23項の規定により1万円未満の端数は切り捨てられる。)。
よって,被審人らに対し,これと同額の課徴金の納付を命じた本件各課徴金納付命令はいずれも適法であって,本件各課徴金納付命令に対する被審人らの各審判請求はいずれも理由がない。
8 法令の適用
以上によれば,被審人らの本件排除措置命令に対する各審判請求及び本件各課徴金納付命令に対する各審判請求は,いずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成23年7月1日

公正取引委員会事務総局

審判官  酒 井 紀 子

審判官  三 輪   睦

審判長審判官大久保正道は転任のため署名押印できない。

審判官  酒 井 紀 子

※ 別紙省略。

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