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日本鋳鉄管(株)ほか2名による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成21年(行ケ)第11号,同13号及び同14号

判決

東京都中央区築地2丁目12番10号
第11号事件原告 日本鋳鉄管株式会社
         (以下「原告日本鋳鉄管」という。)
代表者代表取締役 秋田眞次
訴訟代理人弁護士 池田幸司
大阪市西区北堀江1丁目12番19号
第13号事件原告 株式会社栗本鐵工所
         (以下「原告栗本鐵工所」という。)
代表者代表取締役 福井秀明
訴訟代理人弁護士 高橋善樹
大阪市浪速区敷津東1丁目2番47号
第14号事件原告 株式会社クボタ
         (以下「原告クボタ」という。)
代表者代表取締役 益本康男
訴訟代理人弁護士 寺上泰照
同 岩下圭一
同 佐藤水暁
同 小原正敏
同 村田恭介

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号 中央合同庁舎第6号館B棟
被告 公正取引委員会
代表者委員長 竹島一彦
指定代理人 田中久美子
同 島崎伸夫
同 秋沢陽子
同 髙野雄二
同 藤原昌子
同 坪田法
同 小髙真侑
同 岡田哲也 

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 第11号事件
 (1) 公正取引委員会平成12年(判)第2号ないし第7号課徴金納付命令審判事件について,被告が平成21年6月30日付けで原告日本鋳鉄管に対してした審決を取り消す。
 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 第13号事件
(1) 公正取引委員会平成12年(判)第2号ないし第7号課徴金納付命令審判事件について,被告が平成21年6月30日付けで原告栗本鐵工所に対してした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第14号事件
(1) 公正取引委員会平成12年(判)第2号ないし第7号課徴金納付命令審判事件について,被告が平成21年6月30日付けで原告クボタに対してした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
本件は,被告が,原告らが,ダクタイル鋳鉄管直管の市場において,受注シェアを合意し,合意されたシェアに合致するように受注調整を行ったことにより,公共の利益に反して,ダクタイル鋳鉄管直管の取引分野における競争を実質的に制限したことが,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律35号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項,3条に違反する不当な取引制限に該当し,同法7条の2第1項の「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」であるとして,原告らに対し,課徴金の納付を命じたところ,原告らがいずれも審判手続の開始を請求し,被告が,原告らをそれぞれ被審人とする審判手続を開始し,各審判手続を併合した上,平成21年6月30日付けで,原告ら3社に対し,課徴金の納付を命じる審決(公正取引委員会平成12年(判)第2ないし7号。以下「本件審決」という。)を行ったところ,原告らが,独占禁止法2条6項,3条に定める「不当な取引制限」を行ったことは認めるものの,課徴金納付命令の要件である「供給量の制限」あるいは「対価への影響」を認める実質的な証拠はないなどと主張して,本件審決の取消しを求めた事案である。
なお,本件第1回ないし第3回口頭弁論調書中に裁判官「門田友一」とあるのは「門田友昌」の誤記である。
第3 前提事実等(争いのない事実及び本件審決が認定した事実で原告らが実質的な証拠の不存在を主張していない事実)
1 当事者等
(1) 原告らは,いずれも,ダクタイル鋳鉄管直管の製造販売業を営む者である(争いがない。)。
(2) 平成8年度(平成8年4月から平成9年3月まで。以下「年度」というときは,この例による。)及び平成9年度において,ダクタイル鋳鉄管直管の取引分野(以下「本件市場」という。)に占める原告らの累積出荷集中度(シェアの合計)は100パーセントであり,それ以前を含めて,原告らのダクタイル鋳鉄管直管の供給量の合計は,我が国における同製品の総供給量のほとんどすべてを占めている(査54の1及び2)。
2 製品について
(1) ダクタイル鋳鉄管直管は,水道,下水道,農業用水道,工業用水道,都市ガス等の導管として用いられている(争いがない。)。
(2) ダクタイル鋳鉄管直管は,その形状等に応じて様々な品種に区分されるが,一部大口径の製品を除いては原告らのいずれもが製造・販売を行っている。
そして,原告クボタは,戦後いち早く,ダクタイル鎗鉄管の発明に注目して独自の製造技術を開発しつつ特許の実施許諾を受け,大量生産のための鋳造法の技術開発や実用化の研究を行っており,同一規格の水道管が複数の製造業者によって供給されることを希望する水道事業者の意向に従い,原告栗本鐵工所や原告日本鋳鉄管に,自社が取得した特許技術の実施を許諾し,ノウハウの一部も提供してきている。
したがって,原告らが製造するダクタイル鋳鉄管直管そのものについて,品質の相違はほとんどなく,また技術的な差別化も行われていなかった。
(査9,審A5)
(3) ダクタイル鋳鉄管直管については,小口径のもの及び中口径のものの一部を中心に見込生産を行う割合が高くなっている(査45ないし47)。
3 ダクタイル鋳鉄管直管の流通
(1) ダクタイル鋳鉄管直管の流通経路は,
ア 水道事業又は水道用水供給事業を経営する地方公共団体等(以下「水道事業者」という。)に対して原告らから直接供給される経路(以下,この経路によるダクタイル鋳鉄管直管の取引分野を「直需分野」という。その大部分は競争入札の方法により発注されている。)
イ ダクタイル鋳鉄管直管の布設工事を受注した建設業者(以下「建設業者」という。)に対して原告らから第一次販売業者,第二次販売業者等の販売業者を経由して,あるいは,都市ガス供給業者等の需要者に対して原告らから直接又は販売業者を経由して供給される経路(以下,この経路によるダクタイル鋳鉄管直管の取引分野を「間需分野」という。)
に分かれている(争いがない。)。
(2) ダクタイル鋳鉄管直管の市場は,当初直需分野が殆どであったが,その後,次第に間需分野の取引が増加し,ダクタイル鋳鉄管直管の総供給量に占める直需分野及び間需分野における供給量の割合は,平成8年度及び平成9年度当時,直需分野が約20パーセント,間需分野が約80パーセントとなっていた(争いがない。)。
4 背景事情等
(1) ダクタイル鋳鉄管直管の販売については,原告クボタと原告栗本鐵工所の間で,原告クボタが7割,原告栗本鐵工所が3割のシェアを決めていたところ,昭和20年代後半,東京瓦斯株式会社(以下「東京ガス」という。)を顧客としてガス管を供給していた原告日本鋳鉄管が水道管市場への進出を図り,これに対抗した原告クボタや原告栗本鐵工所が水道管を増産したこともあって,原告らの間で激しい価格競争となり,各社とも収支が急速に悪化した。
そこで,昭和31年3月ころ,特に収支が悪化した原告日本鋳鉄管を再建するために,原告クボタと原告栗本鐵工所は,それぞれシェアの10パーセントを原告日本鋳鉄管に拠出し,原告クボタ63パーセント,原告栗本鐵工所27パーセント,原告日本鋳鉄管10パーセント(使用鉄材の重量ベース。以下「基本配分シェア」という。)として,原告日本鋳鉄管の救済を図ることとした。
その理由は,水道管のような重要な公共財については,水道事業者が,公正の観点から一社が独占することを嫌い,また,安定的に供給できる体制の確保などの点からメーカーが複数存在することを重視していたことから,ダクタイル鋳鉄管直管の製造業者が減少すると,製造業者が相当数ある鋼管,合成管,コンクリート管などの競合管が採用される可能性があること,さらに,原告日本鋳鉄管が撤退することになれば,同社の顧客である東京ガスにガス管を供給する競合管メーカーの大手鉄鋼会社などが鋳鉄管業界に参入する可能性があることであったとうかがわれる。
(2) そして,原告らは,昭和30年代前半ころから,毎年度ダクタイル鋳鉄管直管の全国市場の総需要数量の予測を立てるとともに,基本配分シェアを前年度の各社の実績と計画率との過不足で修正した当該年度の各社の受注計画率(年度配分シェア)を決定し,年度配分シェアが実現されるような受注調整を行うようになった。
その当時は,ダクタイル鋳鉄管直管の取引は,水道事業者が直接原告らから入札により購入するという直需分野におけるものがほとんどであったため,原告らは,各水道事業者が実施する入札において,談合で受注予定者を決めるという方法で年度配分シェアを維持していたが,昭和42年ころから,大都市を除く水道事業者等で,地元建設業者の育成や購入したダクタイル鋳鉄管直管の保管管理に係る経費の節約等のため,管路工事を地元の指定工事店や地元ゼネコンに,また大型工事は大手ゼネコンに発注するようになったため,間需分野の取引が増えていった。このため,原告らは,基本配分シェアに応じたダクタイル鋳鉄管直管の販売ルートを構築していくことにより,年度配分シェアを維持していた。
そして,間需分野の需要動向が安定してきた昭和60年代ころには,全国におけるダクタイル鋳鉄管直管の需要は40万トンから50万トンの間で推移し,工事を受注する建設業者の顔ぶれも全体としては大きな変化がなく,ダクタイル鋳鉄管直管を購入する建設業者は,同製品の最終的な需要者である水道事業者等から発注されるおおむね一定量の工事を,おおむね一定量ずつ受注した上,特定の第一次販売業者又は第二次販売業者から管路工事に必要な資材を購入し,一方,第一次販売業者は,特定のダクタイル鋳鉄管直管の製造業者と販売代理店契約を締結しており,更に第一次販売業者と有力な第二次販売業者との取引も固定的であり,このような状況の下で,間需分野における原告らの全販売景に占める各受注量の割合は,基本配分シェアに近いものとすることができていた。
(査9,10,43,44)
5 違反行為
(1) 上記の状況の下で,原告らは,概ね以下の方法により,ダクタイル鋳鉄管直管の販売について,受注調整を行っていた。
すなわち,原告らは,全国を北海道地区,東北地区,東京地区,中部地区,大阪地区,九州地区の6地区(以下「6地区」という。)に区分し,原告らにおける営業担当課長以上の東京地区の受注調整担当者は,毎年5月ころ,原告ら各社における6地区から東京地区を除いた地区(以下「5地区」という。)の受注調整担当者に対し,それぞれが担当する地区の当該年度の総需要見込数量を報告するよう求め,5地区の受注調整担当者は,毎年5月下旬か6月の初めころ,各社の需要見込数量を算出するとともに,各地区の他の原告の受注調整担当者と連絡を取り合い,当該地区の市場別需要見込数量とメーカーごとのシェア配分案(地区原案)を作成し,これを東京地区の受注調整担当者に報告していた。
そして,東京地区の受注調整担当者は,東京地区における需要見込数量を算出する一方,上記報告を受け,過去の地区別の受注実績,各地区の意見や要望なども集約検討した上で,全国の総需要見込数量及び地区ごとの需要見込数量を算出し,総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に,各社の前年度の受注数量等を勘案した数量を加減して,当該年度の各社の年度配分シェアを決定していた。
(査6,16ないし25,27)
(2) 平成8年度の違反行為
ア 原告らは,平成8年5月下旬ころ,6地区における平成8年度のダクタイル鋳鉄管直管の需要見込数量を把握した上,同年6月4日ころから同月下旬ころまでの間,原告日本鋳鉄管の本店会議室又は原告栗本鐵工所が借用した東京都港区に所在する貸会議室において,原告らの東京地区の営業担当課長級の者による会合を数度にわたり開催し,
(ア) ダクタイル鋳鉄管直管の6地区における需要見込数量に基づいて平成8年度の我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し,5地区における各社の受注すべき数量の割合を取りまとめ(以下,地区ごとの各社の受注すべき数量の割合を「地区配分シェア」という。),
(イ) 前記(ア)の総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に各社の平成7年度の受注数量等を勘案した数量を加減して算出した平成8年度の各社の受注見込数量の前記(ア)の総需要見込数量に対する割合,すなわち,原告クボタについては62.85パーセント,原告栗本鐵工所については26.97パーセント,原告日本鋳鉄管については10.18パーセントを平成8年度の年度配分シェアとするとともに,
(ウ) 前記(イ)の各社の受注見込数量から,5地区の地区配分シェアに基づく各社の受注見込数量の合計を差し引いた残余に占める各社の受注見込数量の割合を東京地区の地区配分シェアとした上で,
平成8年度の年度配分シェア,6地区における地区配分シェア等を内容とする計画案を作成した。
イ 原告らは,平成8年8月20日ごろ,東京都中央区所在の水道用ポリエチレンパイプシステム研究会会議室で開催した各社の営業担当部長級の者及び東京地区の営業担当課長級の者の会合において,平成8年度の年度配分シェアを前記アの計画案に基づくものとすることを決定し,同年度末までに各社においてそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合をこの決定に係る同年度の年度配分シェアに合致させるよう,受注数量の調整を行うことを合意した。
ウ 原告らは,前記イの合意に基づき,ダクタイル鋳鉄管直管に係る原告らと販売業者との間及び販売業者と建設業者との間のそれぞれの取引関係が固定的であることを利用し,その取引関係を維持しつつ,毎月の受注数量を相互に連絡して,各社の年度当初からの受注数量と年度配分シェアに基づく数量との差異を確認した上で,水道事業者が競争入札の方法により発注するダクタイル鋳鉄管直管について,物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにするなど,各社のダクタイル鋳鉄管直管の受注数量の調整を行い,年度の途中において,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量の増加が見込まれるときは,年度配分シェアの微調整を行うことによって,平成8年度の年度配分シェアにほとんど一致する割合でダクタイル鋳鉄管直管を受注していた。
(3) 平成9年度の違反行為
ア 原告らは,平成9年5月下旬ころ,6地区における平成9年度のダクタイル鋳鉄管直管の需要見込数量を把握した上,同年6月10日ころから同月20日ころまでの間,原告日本鋳鉄管の本店会議室又は原告栗本鐵工所が借用した東京都港区に所在する貸会議室において,原告らの東京地区の営業担当課長級の者による会合を数度にわたり開催し,
(ア) ダクタイル鋳鉄管直管の6地区における需要見込数量に基づいて平 成9年度の我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し,地区配分シェアを取りまとめ,
(イ) 前記(ア)の総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に各社の平成7年度及び平成8年度の受注数量等を勘案した数量を加減して算出した平成9年度の各社の受注見込数量の前記(ア)の総需要見込数量に対する割合,すなわち,原告クボタについては62.91パーセント,原告栗本鐵工所については26.95パーセント,原告日本鋳鉄管については10.14パーセントを平成9年度の年度配分シェアとするとともに,
(ウ) 前記(イ)の各社の受注見込数量から,5地区の地区配分シェアに基づく各社の受注見込数量の合計を差し引いた残余に占める各社の受注見込数量の割合を東京地区の地区配分シェアとした上で,
平成9年度の年度配分シェア,6地区における地区配分シェア等を内容とする計画案を作成した。
イ 原告らは,平成9年7月9日ころ,東京都新宿区所在の日本水道協会会議室で開催した各社の営業担当部長級の者及び東京地区の営業担当課長級の者の会合において,平成9年度の年度配分シェアを前記アの計画案に基づくものとすることを決定し,同年度末までに各社においてそれぞれの受注数量の総需要数量に対する割合をこの決定に係る同年度の年度配分シェアに合致させるよう,受注数量の調整を行うことを合意した。
ウ 原告らは,前記イの合意に基づき,ダクタイル鋳鉄管直管に係る原告らと販売業者との間及び販売業者と建設業者との間のそれぞれの取引関係が固定的であることを利用し,その取引関係を維持しつつ,毎月の受注数量を相互に連絡して,各社の年度当初からの受注数量と年度配分シェアに基づく数量との差異を確認した上で,水道事業者が競争入札の方法により発注するダクタイル鋳鉄管直管について,物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにするなど,各社のダクタイル鋳鉄管直管の受注数量の調整を行い,よって,平成9年度の年度配分シェアにほとんど一致する割合でダクタイル鋳鉄管直管を受注していた。
((2)及び(3)につき,査6ないし8,10,11,13,14,16ないし25,27,29ないし35,44,47)
(4)ア 前記(2)及び(3)の各違反行為は,カルテルに参加した事業者が,共同して,本件市場全体における実際の総販売数量に占める各カルテル参加者の販売数量の割合をあらかじめ決定し実行する合意であって,いわゆるシェア配分カルテルに該当する。
そして,これにより,原告らは,公共の利益に反して,本件市場における競争を実質的に制限していたものであるから,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものである(以下,「平成8年度の違反行為」と「平成9年度の違反行為」を併せて「本件各違反行為」又は「本件カルテル」という。)。
イ なお,平成9年度の違反行為については,平成11年4月22日に排除措置を命じる勧告審決(平成11年(勧)第7号。公正取引委員会審決集第46巻201頁)がされている。
ウ また,本件各違反行為については,東京高等裁判所により,原告らに対し,平成12年2月23日,独占禁止法95条1項,89条1項1号,3条に該当するものとして有罪判決がされている(公正取引委員会審決集第46巻733頁。以下「東京高裁刑事判決」という。)。
6 課徴金の計算の基礎となる事実(争いがない。)
(1) 実行期間
原告らが,本件各違反行為の実行として事業活動を行った期間は,平成8年8月20日から平成9年3月31日(以下「平成8年度の実行期間」という。)及び平成9年7月9日から平成10年3月31日まで(以下「平成9年度の実行期間」という。)である。
(2) 課徴金の計算の基礎としての売上額
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令5条の規定に基づき算定すると,原告らの上記各実行期間におけるダクタイル鋳鉄管直管の売上額は,次のとおりとなる。
ア 原告クボタについて
(ア) 平成8年度の実行期間 554億4829万7751円
(イ) 平成9年度の実行期間 624億1984万3791円
イ 原告栗本鐵工所
(ア) 平成8年度の実行期間 228億0472万5884円
(イ) 平成9年度の実行期間 261億1021万1195円
ウ 原告日本鋳鉄管
(ア) 平成8年度の実行期間 86億3381万1123円
(イ) 平成9年度の実行期間 89億2537万8852円
7 課徴金納付命令等
(1) 被告は,平成11年12月22日,原告らの本件各違反行為が,独占禁止法3条に違反し,同法7条の2第1項の「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」に該当するとして,課徴金の額について,同項の規定により,上記各実行期間における売上げに100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出し,原告らに対し,次の課徴金の納付を命じた。
  原告クボタに対し
平成8年度の違反行為について     33億2689万円
平成9年度の違反行為について     37億4519万円
以上合計 70億7208万円
原告栗本鐵工所に対し
平成8年度の違反行為について     13億6828万円
平成9年度の違反行為について     15億6661万円
以上合計 29億3489万円
原告日本鋳鉄管に対し
平成8年度の違反行為について      5億1802万円
平成9年度の違反行為について      5億3552万円
以上合計 10億5354万円
(2) しかし,原告らは,これを不服として審判手続の開始を請求し,平成12年2月10日,審判開始決定がされた。
8 本件審決について
(1) 被告は,平成21年6月30日付けで,原告らに対し,上記7(1)の課徴金の納付を命ずる本件審決をした。
(2) その要旨は,以下のとおりである。
ア 独占禁止法7条の2第1項の趣旨
独占禁止法7条の2第1項の立法経緯や文理等にかんがみると,同項にいう「供給量」とは,需要量と供給量の関係で価格が決まってくるという機能における「供給量」を意味し,生産や流通の段階で在庫として保有されるものを含めて販売又は提供のために市場に供される商品又は役務(以下合わせて「商品等」という。)の量をいうと解釈すべきであり,「供給量を制限する」とは,価格の変化を通じて需給が調整され,供給量が決定されるという機能の発揮を阻害する人為的な介入により供給量に対して何らかの限界・範囲を設定して当該限界・範囲の中に供給量を抑えることをいうものと解すべきである。また,「実質的に・・・供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」とは,市場全体に対する供給量総量を制限するものであることを要するが,供給量を制限することを合意の内容とし,又はそれを直接企図したカルテルに限られず,供給量を制限する効果を有するカルテル,すなわちカルテルの効果として市場全体の供給量を制限することとなるものは,これに含まれるものと解すべきである。
そして,商品等の市場全体への供給量が制限されれば,それが対価に影響を与えることは経済上の経験則であるから,当該市場がかかる需給関係が機能しない市場である等の特段の事情がない限り,価格に影響を及ぼすことになるというべきである。
イ シェア配分カルテルの一般的性質
(ア) シェア配分カルテルは,カルテルに参加した事業者が,共同して,当該市場全体における一定の期間の実際の総販売数量に占める各カルテル参加者の販売数量の割合をあらかじめ決定し実行する合意である。
(イ) 供給量制限効果
一般的に,シェア配分カルテルは,カルテル参加者がカルテルの対象となる商品等について,その総需要見込数量を設定し,これを合意されたシェアに応じて販売予定数量として各カルテル参加者に割り当て,各カルテル参加者は,当該販売予定数量に適合するように自社の供給能力を行使することとなり,その数量を超えて供給しようとはしないことになるから,その供給量,すなわち販売等のため市場に供する商品等の数量は,自由競争の下におけるそれよりも結果として低位の水準に抑えられることになり(そのことは,在庫量についてみれば,販売の促進に備えるための在庫量の抑制として現れる。),その結果,参加者全員の市場への供給量を抑えることになる。
また,カルテル参加者は,価格をある程度自由に決定することができる地位にあるから,設定する総需要見込数量は,カルテルによる相互拘束状態において形成されるであろう(又は,これまで形成されてきた)価格を前提としてのものであり,自由競争の下に形成されるであろうそれとは異なるものであって,一般的に前者は後者より低い数量に抑えられるものである。
以上のとおり,シェア配分カルテルの拘束の下に形成される各参加者の供給量の和,すなわち供給総量は,自由競争市場におけるそれよりも抑制されるから,シェア配分カルテルは,その一般的性質を有するものである場合には,需要量が外的要因により完全に固定的であること,カルテル参加者の供給能力が完全に固定されていることなどの特段の事情がない限り,全体の供給量を制限,抑制する効果を持つものである。
(ウ) 対価影響性
シェア配分カルテルが供給量制限効果を有するものに該当する限り,特段の事情のない限り,価格に影響を及ぼすことになる。
ところで,シェア配分カルテルは,シェア獲得競争を制限するものであるから,そのこと自体によって価格競争を行う経済的誘因を阻害し,カルテルがなかった場合より高い利益を可能とする水準での価格の安定効果(価格の高値安定効果)が生じるが,これに加えて,上記の供給量制限効果によっても,当該商品の価格の高値安定効果を有するものであり,この双方があいまって,対価に影響を及ぼすことになる。
したがって,シェア獲得競争の制限自体による対価影響性が存在することは,「供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」との要件該当性を妨げるものではない。
(エ) 以上により,シェア配分カルテルは,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当し得るものであり,かつ,個別のシェア配分カルテルが,シェア配分カルテルの一般的性質を具有する場合には,前記特段の事情がない限り,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルに該当するものと判断される。
ウ 本件カルテルについて
(ア) 供給量制限効果
本件カルテルにおいて,原告らは,ダクタイル鋳鉄管直管の年間総需要見込数量を設定するに当たって,地区ごと,また,東京地区では発注,事業体区分ごとに精緻な需要量の見積りを行い,各社の担当者から報告された総需要見込数量の妥当性についても細かく協議し,実需要量にできる限り近い数量となるべき総需要見込数量の算出を行っていること,そして,このような精緻な方法で算出され,原告らの協議で慎重に設定された総需要見込数量に基本配分シェアを乗じた数量を各社に割り当て,これに前年度分の年度配分シェアを超過した数量分を減じ又は前年度分の年度配分シェアに足りなかった数量分を上乗せした結果の数量を,各社の販売予定数量とし,これを総需要見込数量との関係で比率に換えて,各社の年度配分シェアとしたこと,更に当初の総需要見込数量と実際の発注実績及び年度配分シェアと各社の実際の受注実績の差異は,最終的には東京地区の一般直需分野等で調整されていたことが認められる。
加えて,本件カルテルでは,全国の総需要見込数量と発注実績が大きく食い違ったことにより配分されるべきシェアが変わってくる場合には,年度当初の総需要見込数量の設定時と同様の慎重な手順を経て,総需要見込数量の再見積りを実施し,これにより修正された総需要見込数量等を基に各社に販売予定数量を配分し,これを修正した総需要見込数量との関係で比率に換えて各社の年度配分シェアとしたことが認められるのであるから,本件カルテルについて,総需要見込数量に基づいて各社に配分された販売予定数量は,各社において,これを超えて販売してはならない販売予定数量として実効的に機能していたと認められる。
そして,原告らは,総需要見込数量と年度配分シェア及び地区の販売予定数量と地区配分シェアを,それぞれ当該地区の受注調整担当者に伝え,毎月,受注予定数量と実際の受注数量の相違等を把握して,本件カルテルの進捗状況を確認し,管理していたこと及び原告らの販売数量が合意された年度配分シェアを上回った場合には,当該超過分が翌年度における各原告の販売予定数量から差し引かれていたことが認められるのであるから,本件カルテルは,各社の販売数量が合意されたシェアに対応する範囲内に収まることで,原告らの間で設定した総需要見込数量に近似する販売総量が実現され,よって原告らの間で合意されたシェアが維持できるという仕組みを有するという実効性の高いシェア配分カルテルであり,このような実効性の高いシェア配分カルテルの場合には,カルテル参加者は,自社に配分された販売予定数量に応じて生産計画を立て供給量を調整し,当該販売予定数量の範囲内に自社の販売数量を制限しようとすることとなるから,本件カルテルにより各社の供給能力の行使が制限され,その和である原告らの市場全体の供給能力の行使もまた制限されることとなる。
なお,原告らのダクタイル鋳鉄管直管の供給量の合計は我が国における同製品の総供給量のほとんどすべてを占めており,原告らは長年にわたりダクタイル鋳鉄管直管市場においてシェア配分カルテルを継続してきたものであるところ,本件カルテルにおいて原告らが設定した総需要見込数量は,原告らが長年にわたり継続してきたシェア配分カルテルの下において形成されてきた,自由競争の下で形成されるであろうそれよりも抑制されたものということができる。
(イ) 対価影響性
以上のとおり,本件カルテルは,本件市場における供給量を制限する効果を有するものであり,需給関係による価格メカニズムが機能しない市場である等の特段の事情も認められないのであるから,供給量を制限することによる対価への影響が認められる。
また,平成10年度のダクタイル鋳鉄管直管の直需分野における価格が,平成9年度と比較して1トン当たり1500円下落しており,間需分野においても,単価が240円下落していることも,本件カルテルによる対価への影響を裏付けるものである。
そして,この対価への影響は,シェアの維持自体によるものを含むと考えられるが,本件市場が価格の変化を通して需要と供給が調整されるという価格メカニズムが機能する市場である以上,上記の対価への影響のうち少なくとも一部は,本件カルテルの供給量制限効果によるものであると認められる。
エ 間需分野について
本件カルテルにおける年度配分シェアの決定は,直需分野及び間需分野を区別することなく,ダクタイル鋳鉄管直管の取引の総体に関して行われたものであり,また,年度末までに調整を行うことを合意した受注数量も,各社のダクタイル鋳鉄管直管全体の受注数量である。
さらに,原告らが,毎月の受注数量を相互に連絡して確認した各社の年度当初からの受注数量と年度配分シェアに基づく数量との差異は,直需分野と間需分野を合わせた各社の受注数量と,年度配分シェアに基づいて算出された各社の受注すべき数量との差異であったこと及び原告らが間需分野において年度配分シェア以上の実績を上げることは,結局は直需分野における自社の取り分の減殺につながることに照らすと,本件カルテルによる供給量制限効果及び対価影響性は,直需分野及び間需分野を通じて機能していたものというべきである。
したがって,本件カルテルによる間需分野における取引に係る売上額は,課徴金額の算定の基礎に含まれる。
第4 争点
1 本件カルテルが,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」(独占禁止法7条の2第1項)に該当することについて実質的な証拠がないか。
2 本件審決に法令の違反があるか。
第5 当事者の主張
1 原告日本鋳鉄管の主張
(1) 実質的証拠の不存在
ア 原告日本鋳鉄管は,直需分野及び間需分野の双方を含む市場全体にわたり,本件カルテルが成立することを争うものではないが,カルテルが成立したからといって,それが直ちに課徴金賦課の対象となるものではなく,課徴金を賦課するには,本件カルテルが「実質的に商品等の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」といえる必要がある。
そして,実質的に商品等の供給量を制限するカルテルといえるためには,それが価格カルテルと並んで課徴金賦課の対象に加えられることとなった制度趣旨,立法経緯に照らしても,当該カルテルが価格カルテルと実質的に同一の効果を有し,価格カルテルと同視し得るカルテルである必要があるところ,直需分野においては受注調整・入札談合が行われていたが,間需分野においては,活発な価格競争が行われており,「実質的に商品等の供給量を制限するもの」であることについての具体的事実も実質的証拠も存在しない。
イ 一般的なシェア配分カルテルについて
本件審決は,シェア配分カルテルは一般的に供給量を制限する性質を有するとし,「このため,各カルテル参加者は,自社に配分された販売予定数量の範囲内に収まるように商品等の販売を行うのである。そして,各カルテル参加者は,当該販売予定数量を考慮の上生産計画を立て,市場に供する供給量を調整することとなる。したがって,シェア配分カルテルは,各カルテル参加者の供給能力の行使を制限する効果を有するものであり,これにより,各カルテル参加者の供給能力の和であるカルテル参加者全体の供給能力の行使もまた制限されることとなる」とするが,要するにカルテル参加者がそのような供給量を制限する活動を行えば,そのような効果が生ずるというだけのトートロジーでしかない。シェア配分カルテルの場合に,カルテル参加者は,そのような供給量を制限する活動をするかという事実そのものが問題であり,それは具体的な事実・証拠によって証明されなければならない。
しかし,これまで被告が課徴金賦課の対象としたシェア配分カルテルのケースは,単にシェア配分カルテルにとどまることなく,具体的に目に見える形の供給量制限行為が行われ,いわばシェア配分カルテルと数量制限カルテルが同時に行われているのであり,本件のようなシェア配分カルテルのみの事例は,本件以外には存在しない。したがって,そのような目に見える具体的な供給量制限行為が伴っていない,いわばシェア配分カルテルだけのケースにおいて,販売予定数量を上限とした販売活動の制限やそれに合わせた生産量・供給量の調整が一般的に行われ,それが一般的性質と化しているなどとはいえず,シェア配分カルテルが,その一般的な性質として,供給量を制限するものといえるとする点については,何らの事実の裏付けも実質的証拠もなく,およそシェア配分カルテルが,その一般的な性質として供給量を制限するものといえるとの命題は成り立たない。
そして,被告は,本件審決が示すシェア配分カルテルの一般的性質は,一般的な考え方を示したものであり,証拠によって認定されるべき具体的事実ではないと主張して,シェア配分カルテルの一般的性質として供給量制限効果が認められるとの主張にはおよそ証拠が存在しないことを自認した。しかし,シェア配分カルテルの一般的性質として供給量制限効果が認められるかどうかというのは,純粋に事実の問題であり,論理の問題ではないから,事実・証拠によって基礎付けられる必要がある。被告の主張内容を見ても,何ら論理の問題ではなく,純然たる事実の主張をしているのである。
被告が課徴金納付を命じたシェアのみを協定したカルテルの事案は,本件カルテル以外には存在しないから,被告がシェア配分カルテルの一般的性質として供給量制限効果が認められるとするシェア配分カルテルのモデルを求めようにも,本来,本件カルテル以外に実例はなく,審決案が掲げた「シェア算定期間中における調整手段」,「カルテル参加者各社のシェアに応じた進捗状況の定期的な確認,管理」,「次年度のシェアを減じるなどの制裁措置」,「総需要見数量の再設定の仕組み」などの特徴は,本件カルテルの特徴点を先取りし摘記したものであることが明らかであり,その特徴点が一致するのはいわば当然であって,これが一致し共通するからといって,本件カルテルについても,シェア配分カルテルに一般的に認められる性質が妥当するとするのは,甚だトリッキーな循環論法である。
ウ 本件カルテルについて
上記のとおり,シェア配分カルテルの一般的性質として供給量制限効果が認められるとの本件審決に証拠が存在しないことは,取りも直さず,本件カルテル自体に関しても,供給量制限効果が認められるとする証拠が存在しないことを意味し,審決案が本件カルテルを巡る事実として掲げている「カルテル参加者が,自社に割り当てられた販売予定数量の範囲内に収まるように商品等の販売を行い,当該販売予定数量を考慮の上生産計画を立て,市場に供する供給量を調整する」との事実に該当する具体的事実の摘示もない。
そもそも,被告が,シェア配分カルテルの一般的性質として供給量制限効果が認められるとする主張は,本件カルテルとともに,それと表裏一体のものとして生産調整カルテルが行われた(本件カルテルは,同時に生産調整カルテルでもある。)との主張に他ならず,審判手続における審判官の指揮により,もはや許されない主張である。
エ 間需分野について
(ア) 被告が間需分野に関して主張するところは,本件カルテルが間需分野においても成立するというにとどまり,それ以上に間需分野でも本件カルテルが供給量を制限するものであったことを明らかにするものではない。
(イ) 直需分野での価格下落は1トン当たり1500円であるが,間需分野での価格下落は240円程度(査15)とその違いは余りにも大きく,間需分野での価格下落は,シェア配分カルテルの終了による直接の効果ではなく,単に直需分野でのそれに引きずられて下落したというにすぎない可能性もないとはいえず,少なくとも価格カルテルと同視されるものの終了による直需分野での価格下落とはおよそ同一に評価し得るものではない。
(ウ) また,間需分野においては,一部の例外を除き,基本的に受注調整は行われておらず,需要者の大半が何万もの零細な水道工事業者で占められており,これら事業者は,それぞれが一国一城の主という気概を強く持ち,メーカー側がコントロールしたり,組織化を図ることはとてもできない状況にあり,これら事業者は,ダクタイル鋳鉄管直管の購入に当たっても,複数の第二次販売業者に合い見積もりを出させ,最も安い店から仕入れるといったことが多々あり,そうした第二次販売業者からの価格競争に晒されていたことから,メーカーとしても取引先確保のために仕切価格を下回る価格で販売することも常時三割程度を占めており,間需分野においては,販売競争,価格競争が日常的に行われていた。
(エ) 東京高裁刑事判決でも,間需分野では,一部の例外はあったとしても,基本的に受注調整は行われておらず,原告らによる活発な販売競争,価格競争が行われていたのであり,本件違反行為は受注量の配分協定にとどまり,市場価格や市場への供給量などについての影響も直接的なものではなかったことを認め,間需分野の実情は,価格カルテルが行われていたと同視し得る状況にはなかったことを認めている。
(オ) 以上のとおり,間需分野においては,受注調整は困難であり,基本的に受注調整は行われておらず,活発な価格競争が行われており,およそ供給量に限度・限界が設けられ,その中に抑えられるといった状況になかったことは明らかである。
(2) 法令違反について
ア 独占禁止法7条の2第1項の解釈適用を誤った違反
(ア) 上記のとおり,本件カルテルが独占禁止法7条の2第1項の「実質的に商品等の供給量を制限するもの」に当たるとの実質的な証拠がないにもかかわらず,同条項を適用したことは法令違反である。
(イ) 平成17年法律35号による独占禁止法の改正(以下「平成17年改正」という。)に先立ち被告が公表した平成16年5月19日付け「独占禁止法改正について」の添付資料3「独占禁止法改正(案)の考え方」には,改正前の独占禁止法上の課徴金の賦課対象として「入札談合,価格・数量カルテル」との記載があり,改正(案)に関しては,「入札談合,価格・数量・シェア・取引先を制限するカルテル/私的独占,購入カルテル」との記載があり,これらは明らかに,改正前の独占禁止法7条の2第1項が課徴金の賦課対象として規定するのは「入札談合,価格・数量カルテル」のみであるが,改正によりそれを「シェア・取引先を制限するカルテル」も含むようにその拡大を図ったとの趣旨と解することができる。
また,平成17年改正作業担当官による解説記事(審C1)は,「シェア(市場占拠率)カルテルは,現行の課徴金の適用対象外であることから,それを含むように改正(見直し)を提言した」と述べている。
のみならず,被告は,日本経済団体連合会等が「シェア・取引先を制限するカルテル等を新たに課徴金適用の対象に加える理由が不明。」との意見を述べたのに対し,何ら異論やコメントを加えることなく,「現行の課徴金対象行為は,課徴金制度創設時において,価格引上げカルテルが頻発していた状況に対応するということを念頭に,課徴金の対象については,価格カルテル及び価格に影響があることが明白かつ直接的なものに限るという整理がなされたことによる」などと述べ,改正前の同条項がおよそシェア配分カルテルを課徴金の賦課対象とは考えていなかったことを肯定している。
上記のとおり,本来,独占禁止法7条の2第1項にいう「実質的に商品等の供給量を制限するもの」には,シェアのみを協定したシェア配分カルテルが含まれないことは明らかであり,これに本件カルテルが該当すると解釈・適用したことは法令違反である。
イ 「適正かつ公正な手続の保障」の観点の本件審決・審決案及びそれに至る審判手続上の法令違反
(ア) 第13回審判期日において,「本件課徴金に係る違反行為につき,生産調整カルテルでもあるとする主張は許さない」とされたにもかかわらず,審査官の第14回準備書面以降の主張は,一旦撤回した主張を再び蒸し返し(主位的主張),あるいは許さないとされた主張を取り繕って主張し直すもの(予備的主張)であり,そのような主張を許し,審理を続けることは,およそ手続の公正さに欠け,適正な手続の保障の観点からも許されない。
さらに,本件審決は,被告が生産調整の主張はしないとの態度を明らかにしていたはずであるのに,逆に本件カルテルにおいて生産調整が行われたことを前提とする判断をしているのであり,原告らに対する甚だしい「不意打ち」であり,原告らの防御活動を無視し侵害するものである。
(イ) 上記のとおり,被告は,課徴金納付命令を根拠付け,理由付けるのに,およそ一貫性のある理由を明らかにし得ず,何回にもわたる理由や根拠の変更を要し,審判開始から審決に至るまで9年以上の年月を要したものであり,手続面だけからいっても,かくも長期間を要するということは,適正な手続の保障の観点からも許されない。
2 原告栗本鐵工所の主張
(1) 実質的証拠の不存在
ア 供給量の制限について
(ア) 原告らは,毎年のダクタイル鋳鉄管直管の需要を予測し,これらを持ち寄って総合し,当該年度のダクタイル鋳鉄管直管の総需要予測を立て,予測された総需要に対する供給のうち,各々が割り当てられるべきシェアを決め,このシェア配分にしたがってダクタイル鋳鉄管直管を顧客に供給するが,予測された需要よりも実需が多い年度においては,受注した社は,それに応じて顧客に供給し,その分は次年度におけるシェア割当てから減らされ,その減らされた分は他社にシェアとして割り当てられ,このようにして割り当てられたシェアに基づいてその年度における総需要に対して3社が供給するので,全体としての供給が減ることはなく,3社のシェアが増減するのみである。
(イ) 昭和59年度から平成9年度までの14年間のシェア配分により決めたとされる原告らの受注予定量及び実際の原告らの受注量(実績)を見ても,11年分について,実績の方が受注予定量を上回っていたのであり,このことからも本件カルテルにおける総需要見込数量の算出は,ダクタイル鋳鉄管直管の供給量に上限を設定する効果がなかったことは明らかである。
(ウ) 本件審決は,シェア配分カルテルー般について述べるが,本件審決が前提とするのは実需の増大に応じて供給をすることがないカルテルによる硬直的な供給制限を前提としており,本件には当然には当てはまらない。
(エ) 原告栗本鐵工所においては,各営業担当者が毎年1月(見直しについては8月)に需要調査(需要量,受注見込量)を行い,業務部で全国分の需要調査の結果を集計し,その量を基に利益計画策定を開始し,各営業担当者は,需要調査の結果が当該年度のノルマとなることを認識し,概ね全国的に少ない値で報告することが通例となっており,報告の需要量,受注量だけでなく,政府予算動向等も参考にし,業務部で需要量・受注量の積み上げを行い,数値を確定させ,この数値が,以降の受注・売上・利益計画策定に用いられるのであり,原告栗本鐵工所の利益計画は,シェア配分とは関係なく,独自の判断により作成されたものである。
平成8年度及び平成9年度の期初計画値や目標値は,いずれも配分シェアよりも大きな数値になっており,配分シェアの目標値は受注・売上・利益計画には全く連動しておらず,配分シェアの数字が決定されたのは,平成8年度は8月20日ころ,平成9年度は7月9日ころとされているが,事業部には全く知らされておらず,利益計画に反映させることは全くなかった(審B3)。
ダクタイル鋳鉄管直管は,口径,継ぎ手の接合形式,管厚,管内面の塗額装,管外面の塗覆装などその用途に応じて様々な規格があり,日本工業規格では約1800種類以上の製品があり,8割の間需分野のうち約92パーセントは小口径管,中口径管が占め,これらの発注から納品までの期間を考えると,原告らで受注調整を行うことは不可能であり,シェアを基に販売予定数量を算出したとしても,これを生産に反映させるなどということはおよそ不可能であることは明白である。
(オ) また,原告栗本鐵工所においては,人事評価は,受注売上目標値すなわち単年度利益計画で決められた目標値の達成度により行われており,シェア配分の数値とは無関係であった。
イ 対価影響性について
本件カルテルが,対価に実際に影響があることを裏付ける実質的証拠はない。
間需分野において単価が1トン当たり240円下落したというが,トン当たりの単価が約20万円前後であったことを考慮すれば,僅かに約0.12パーセントの下落にすぎず,およそ本件カルテルの価格への影響とは評価できない。
ウ 間需分野について
(ア) さらに,間需分野においては,特約販売店と販売店及び工事業者との平成7年度から9年度までの3年間に及ぶ売上実績の推移,受注確率,他社との競合関係の調査の結果,3年間とも受注できたのは1割強にすぎず,販売店間に競争が存在したことを示している。また,原告栗本鐵工所においては,単年度利益計画の目標達成のために,特約販売店に対し,当該年度の売上目標値を設定し,これを達成した場合には,販売奨励金を支払う内容の奨励金制度を設け,多額の奨励金を支払っていること,間需分野においては,特約販売店に対し,仕切価格(特約販売店への標準卸価格)を下げて販売した件数が平成8年度で75パーセント,平成9年度で74パーセント,本数にしていずれも79パーセントであることのほか,工事の積算協力,工事の進捗に影響する希望納期対応等の非価格競争も行われており,販売店間に激しい競争が存在したことが認められる。
(イ) また,間需分野における在庫量の縮減効果はなかった。すなわち,汎用品である小口径の注文数の割合は76パーセント,トン数にして63パーセントになり,受注から1週間以内に59パーセント,2週間以内に75パーセントが出荷されており,受注してから生産していたのでは間に合わない。配分シェアは総需要量に対して受注できるであろうトン数を決めていたのであり,生産計画に必要な継ぎ手,口径,管厚,本数などを決めていたわけではないから,シェア配分によって工程管理が行いやすく,結果として実需に沿った生産を行うことができ,過剰な在庫を抱えなくて済んだということはない。
平成7年から9年にかけては,在庫量縮減の方針をとったことにより在庫量は縮減しているが,それ以前の平成5,6年とシェア配分カルテルが消滅した平成10年以降の在庫量は殆ど変わっておらず,シェア配分カルテルに在庫縮減効果がなかったことを示している。
(2) 法令違反
ア 独占禁止法7条の2第1項の解釈
平成17年改正により,独占禁止法7条の2第1項の課徴金の対象は,「商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの」として「市場占有率」が記載されたが,改正前は,「対価に係るもの」又は「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」のみを課徴金の対象としていた。
そして,平成15年10月に独占禁止法研究会から公表された独占禁止法研究会報告に関し,被告のホームページに掲載されている「独占禁止法研究会報告書について」の別紙「独占禁止法研究会報告書のポイント」4頁における「課徴金の適用範囲の拡大」の項に,明確に「シェア・カルテル,取引先制限カルテル,購入カルテル,対価に係る私的独占,競争事業者を排除する私的独占等」と記載されていることからすると,改正前の独占禁止法7条の2第1項においては,シェア配分カルテルは課徴金の対象としていない趣旨であることは明らかである。
本件審決では,この改正は,課徴金の対象となるカルテルの適用範囲をより明確にしたものであるとするが,明確化の趣旨はいわゆる確認規定を意味すると解するべきであり,上記被告の資料で創設規定として公表したことと明らかに矛盾する解釈であることは明白であり,また,本件審決がその解釈の根拠として挙げる学説は,その多くが,供給量制限を要件として数量制限カルテル以外のカルテルを含み得る点を示唆したにとどまるものである。
上記のとおり,平成17年改正は,課徴金の適用範囲を拡大したものであり,改正前は改正後よりも適用範囲が狭く,シェア配分カルテルが供給量を制限して対価に実際に影響がある場合に適用すると解すべきである。
イ 供給量の制限効果
本件審決は,供給量の制限合意がなくても,供給量制限効果があれば,同要件を充足するとし,シェア配分カルテルの一般的性質をもって供給量制限効果を導くことができると解釈するが,法解釈は,法の要件に事実をあてはめることにより行われるものであり,一般的性質なるものをいくら述べたところで,事実を主張しなければ法の適用はあり得ない。
しかも,シェア配分カルテルは,シェアを維持する合意であり,供給量が増加しても,それに対応したシェアが維持されることが重要であって,供給量が増加することに対して何ら抑制的な作用を伴わないことに本質があるというべきであり,シェア配分カルテルの一般的性質の理解も誤っている。
シェア配分カルテルが供給量を制限するか否かの判断はケース・バイ・ケースに行われる必要があり,ある商品につき総供給量が決まっており,この範囲内で各カルテル参加者が一定のシェアを割り当てられる場合には,各参加者は割り当てられたシェアのみの販売しかできないこととなるので,かかるシェア配分カルテルは供給制限の効果を有するということができるが,本件におけるシェア配分の仕組みは,一定の需要予測に基づいて三社のシェア配分を決定し,これに基づいて供給するが,実需が需要予測を上回る場合には,実需に応じて供給を行い,割当超過分については次年度のシェア割当から差し引くという形で調整をするというものであり,供給が制限されるとはいえない。
したがって,本件カルテルは,独占禁止法7条の2第1項に規定する実質的に商品の供給を制限することによりその対価に影響があるものには該当しない。
ウ 独占禁止法3条と同法7条の2
独占禁止法3条は,不当な取引制限の成立を画する条文であるのに対し,同法7条の2は課徴金を課すための条文であり,成立したカルテルについて,課徴金を課すか否かという観点から解釈するのは当然である。そして,同法3条の不当な取引制限の「一定の取引分野」は,ダクタイル鋳鉄管直管の全体市場であるが,同法7条の2の「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」の対象となる市場は,直需分野と間需分野に分け,それぞれ別個に「供給量を制限」しているか否かを判断すべきである。
すなわち,本件カルテルは,数量は需要に応じて増減し得るので,もともと市場の供給量を左右する機能を有するものではなく,直需分野と間需分野では取引形態が異なり,直需分野では販売の相手方が地方公共団体であり,直接に競争入札の方法で供給するが,間需分野では販売店を通じて供給し,直需分野において価格を引き上げると,この分の顧客が間需分野に購買を切り替えるという関係にはなく,間需分野では,原告らが販売業者に付随サービスを提供したり,特別仕切と称する値引きを行うなど,直需分野においては見られない競争方法・販売方法を採っている。
このような直需分野と間需分野の販売形態や競争形態の差異を無視して,これらを一括して取扱い,課徴金の対象とする方法は誤りである。
   エ 対価影響性
上記のとおり,平成17年改正は,課徴金の適用範囲を拡大したもので  あり,「対価に影響することとなる」,すなわち蓋然性で足りるとされたが,改正前はこれより適用範囲が狭く,「対価に影響があること」,すなわち対価に実際に影響がある場合に適用すると解するべきである。
しかるに,被告がその根拠とする証拠(査15,36)は,市場のうちのごく一部を取り上げたにすぎず,上記のとおり,間需分野における下落は,およそ本件カルテルの価格への影響とは評価できない数値である。
(3) 手続違反
審判開始決定においては,生産量調整の合意の記載はなかったが,約4年半を経過した時点で,審査官は,それまでの主張を撤回し,生産量調整の合意を追加主張した。しかるに,審判官は,同主張の追加を許さないとの審判指揮を行い,約9か月間審理が中断された後,審判が続行された。
これに対し,原告らは,審査官が第14回準備書面において主張する主位的主張は,従前の撤回した主張の蒸し返しであり,予備的主張は,生産量調整の合意を合意という言葉を使わずに言い換えたにすぎないとして,異議を申し立てたが,却下され,審判が続行されることになった。
しかし,上記のとおり,第14回準備書面における審査官の主位的主張は,従前撤回した主張であり,それ自体禁反言の法理に照らして許されず,これを許した審判官の審判指揮は,禁反言に反し,許されない。
また,第14回準備書面における審査官の予備的主張は,審査官の指摘する①原告らが我が国におけるダクタイル鋳鉄管直管の供給者の全てである,②ダクタイル鋳鉄管直管は,メーカーによって品質に差異がなく,価格以外の付加価値による差異がない,③原告らは,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を極めて正確に見積もっていた,④原告らは,ダクタイル鋳鉄管直管の実際の販売量を頻繁かつ詳細に報告しあっていた,⑤原告らは,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を柔軟に変更していた,⑥ある年度において原告らのいずれかの敗売数量が決定された年度配分シェアに基づく販売予定数量を上回った場合には,翌年の年度配分シェアを決定する際に当該超過分が予定販売数量から差し引かれる,⑦原告らは高い利益率を享受し,それが生産管理の容易さと過剰在庫の圧縮によるものであるとの認識を有していたとの事実が充たされる場合には,独占禁止法7条の2第1項の要件を充足するというものであるが,上記①ないし⑦の事実は第10回準備書面とほぼ同様であり,結局,審判官から許されないとされた内容を「供給能力の不行使の合意」という言葉を使わずに言い換えただけであり,独占禁止法7条の2第6項に違反することになる。
さらに,本件においては,審判官は,平成15年2月4日,審査官に対し,同日の審判指揮に応じた主張をするよう促したことは明らかであり,その時点で準備手続が終了し,争点整理が終了した以後であることも明らかである。しかるに,審査官は,約9か月の間,準備書面を提出しなかったのであり,そのことについて合理的理由の説明もなく,審判官が審査官の第14回準備書面の主張を時機に後れた攻撃方法として却下しなかったことは,民事訴訟法157条1項の解釈適用を誤った処分である。
3 原告クボタの主張
(1) 本件においては,独占禁止法7条の2第1項に定める①実質的に商品等の供給量を制限すること,②対価に影響があることのいずれについても,審決にはこれを証明する実質的な証拠が存在しないから,本件審決は取り消されるべきである。
(2) 独占禁止法7条の2第1項の解釈
ア 課徴金制度は,カルテル行為によって得た不当な経済利得の剥奪を目的とする制度と理解されているが,その実質は,国家が一方的に財産権を奪う金銭的不利益処分であり,制裁的要素を含むものであり,独占禁止法2条6項の不当な取引制限(シェア配分カルテル)を行ったという理由で直ちに課徴金を賦課できるのではなく,シェア配分カルテルの要件を満たした上,さらに同法7条の2第1項後段の要件を具備する必要があり,このような観点からすると,同法7条の2第1項の解釈は厳格に行うべきであり,本件においては,シェア配分カルテルによって本件市場全体の供給量が実質的に制限され,これによって市場全体の価格に影響があることが主張,立証されなければならない。
イ 独占禁止法7条の2第1項については,平成17年改正により「市場占有率」が明記されたのであるから,改正前は,シェア配分カルテルを行って価格に影響があったとしても,それだけでは課徴金の納付を命ずることはできず,課徴金を賦課するためには,「供給量の制限」があったことを主張・立証する必要がある。
ここでいう「供給量」が在庫量を含まない販売最を指すことは,柳川隆教授の意見書(審A11)が指摘するとおりであり,販売数量の制限を行ったとの事実が具体的に認定される必要がある。
そして,実質的に供給量を制限するとは,市場全体の供給量を実質的に制限するということであり,本件では,シェア配分カルテルによって本件市場全体の供給旦が実質的に制限され,これによって市場全体の価格に影響があることが主張,立証されなければならない。
ウ また,同様に,平成17年改正により,独占禁止法7条の2第1項の「対価に影響があるもの」との規定は「対価に影響することとなるもの」と改められているところ,これは対価への影響の存在の立証の程度を蓋然性のレベルで足りると軽減したものと解され,それとの対比においても,独占禁止法7条の2第1項の規定は,被告に対し,違反行為によって現実に「対価に影響」が生じたことを,因果関係を含めて,通常のレベルの立証,すなわち証拠の優越を超える程度までの立証を求めていると解すべきである。
そして,不当な取引制限につき課徴金を賦課するためには,カルテルによる利得の発生が明確に現れ得ると評価されなければならず,そのためには,具体的かつ現実にカルテルが対価に影響を与え,それがカルテル参加事業者の売上額に反映していることが必要である。
(3) 供給量の制限
ア(ア) 本件審決によれば,シェア配分カルテルは,「カルテルに参加した事業者が,共同して,当該市場全体における一定の期間の実際の総販売数量に占める各カルテル参加者の販売数量の割合をあらかじめ決定し,実行する合意」であり,供給量制限カルテルとは異なり,需要に対応する数量を供給し,ただ単にそのシェアのみを配分するものにすぎず,そもそも本質的に供給量を制限する効果を有するものではない。
(イ) 本件審決は,シェア配分カルテルの一般的性質として供給量制限効果・対価影響性を有するとし,特段の事情がなければ,本件カルテルも供給量制限効果・対価影響性を有するとの結論を導こうとするが,それは単に論理をすり替えているにすぎない。本件審決において,シェア配分カルテルの一般的性質として供給量を制限する効果を持つかについて,「シェア配分カルテルは,通常,以下のような仕組みを有することとなる。」と述べるところは,審判官が独自に作り上げたものであり,何ら経済学上の根拠,論文等の根拠はない。むしろ,過去の事例からは,シェアの配分を実現するために供給量の制限を行うことまでは必要がなく,一方,数量の割当がされている事案では,数量の合意がされた結果であって,シェア配分の合意から当然に又は一般的に導かれるものではない。したがって,被告が供給量制限との関係で主張するシェア配分カルテルの一般的性質が成り立つ余地はない。
(ウ) 本件審決は,「カルテル参加者は,自社に配分された販売予定数量に応じて生産計画を立て供給量を調整し,当該販売予定数量の範囲内に自社の販売数量を制限しようとすることとなるから,本件カルテルにより各社の供給能力の行使が制限され,その和である原告らの市場全体の供給能力の行使もまた制限されることとなる」とする。
しかし,上記は,総量が固定したなかで限られた数量を分け合う合意を前提としており,実際の総需要見込数量を超えるときは,その超過分を各社が供給する本件カルテルには妥当しない。
また,「自社に配分された販売予定数量」とあるが,課徴金納付命令に係る違反事実に関して供給量制限効果があったようにキーワードを挿入させ,微妙に変更させることによって違反事実を認定したものであり,「自社に配分された販売予定数量」なるものは存在せず,販売予定数量に基づき生産計画を立てた事実もない。
生産計画には,年間生産計画と月度生産計画が存在するが,本件カルテルの算定とこれらは全く無関係である。すなわち,トン数ベースの計画である年間生産計画の策定は毎年2月~3月であり,7月~8月にかけて行われていた年度配分シェアの決定に基づく「トン数ベースの自社に配分された販売予定数量」が年間生産計画に影響を及ぼすことは時間的に不可能であるし,トン数ベースでされるシェア配分の数字を基に月度生産計画を立て又は修正することも全く不可能である。実際,平成7年から平成9年まで各年度とも,生産実績・出荷実績ともに販売予定数量を大きく超過している(査25,審A8,9)。
イ むしろ,本件では供給量の制限がなかったことを立証する証拠が存在する。
(ア) 本件では,市場の特性にかんがみ,地方自治体からは製品を安定供給することを求められ,これに応じて,原告らは供給責任を果たしてきた。その結果として,平成元年度から平成8年度までの間,平成3年度以外は,全て当初見込需要量より実際の需要量が多い(審A2,査25)。これは,原告らが,需要に応じた供給を行っていたこと,すなわち,カルテルの実行期間中も供給量の制限がなかったことを端的に証明している。
(イ) また,カルテル期間中に供給量を制限していたとすれば,カルテル終了後は,当然供給量は増加すべきところ,カルテル期間中及びカルテル終了後の期間について,被告が定義する供給量(当月初滞貨と当月生産の合計)は減少し続けている(審A8,9)。
(ウ) さらに,柳川隆教授は,その意見書(審A11,甲C1)において,「供給量制限」とは,①一定の取引分野それ自体が供給量の増える可能性のあるものであること,②カルテル参加者が,一定の取引分野全体への供給量を増やす能力を持つものであること,③カルテルが②のカルテル参加者の一定の取引分野全体への供給能力の行使を制限するものであること,④カルテル参加者が一定の取引分野への供給量を増やしたときに需要者の購入量が増える可能性のあることの四つの要件を指摘し,本件カルテルでは,③及び④を満たさないから,対価に影響がある供給量を制限したとはいえないと結論付け,さらに,本件の事実関係に対して経済学的分析を加え,本件カルテルを通じて供給量の制限があったと結論付けることは,価格の変化に係る事実との整合性がとれないとしているところ,専門家である同教授のこれら意見書は尊重されるべきである。
(エ) また,東京高裁刑事判決の事実認定においても,「間需市場における受注量調整を,積極的に行っていたとまで認めるべき証拠は見出せず」とあるほか,市場全体の供給量を制限したなどとは一言も認定していない(査5)。
ウ(ア) この点,被告は,自由競争下では,事業者は価格を低下させてシェアを伸ばそうとするため,供給過多となるところ,シェア配分カルテルの下では,需要自体が自由競争下で形成されるであろう供給量よりも低い数量に抑えられていた旨主張し,昭和20年代後半の原告日本鋳鉄管進出時の事情を挙げるが,昭和28年度から昭和30年度の市場全体の供給量は,自由競争下であったにもかかわらず,毎年10パーセント程度供給量が減少していた(査55)し,「自由競争下であれば発生し得た需要の拡大」が存在しないことは,カルテル終了後である平成10年以降,需要は拡大どころか縮小していることからも明らかである(査55)。
(イ) また,水道事業について,工事を計画し決定するのは水道事業体であるが,水道事業体の複数年度にわたる総合的な整備計画に基づき,年度当初に工事計画が確定しており,仮に鉄管の値段が下がっても工事が追加されることはなく,直需分野においても,値段が下がったからといって使途目処もなく水道工事資材の一つである鉄管の購入量を増やすことは税金の無駄使いとして許されるものではなく,水道事業予算と鉄管の総需要との関係はほぼ完全に一致する。このように,本件市場は,水道管敷設工事という必要に応じて需要が発生するのであり,鉄管の価格変動に対して需要が反応しない,需要の価格弾力性が極めて乏しい市場であり,カルテルの下にある実需要量が,自由競争の下におけるそれよりも低位の水準に抑えられるものではない。さらに言えば,需要の価格弾力性が乏しい市場で供給量を制限していたとすれば,カルテル解消後,価格が急落するのが経済学上の常識であるが,本件ではそのような事実は一切見られない。
(ウ) さらに,被告は,カルテル参加者は,共同して価格をある程度自由に決定することができる地位にあるため,カルテル下における実需要量は,自由競争の下におけるそれよりも低位の水準に抑えられる旨主張するが,原告らがある価格を前提にして総需要見込数量を算出した事実も全くない。
被告は,原告らが高い利益率を有していたというが,いかなる基準を根拠に高いというかを指摘しておらず,原価を引き下げれば利益率は高くなることは明らかであり,高い利益率であったから,本件カルテルがなかった場合よりも高い利益を可能とする水準でダクタイル鋳鉄管直管の価格を設定し得ていたことの証拠にはならない。実際,カルテル解消後も,原告クボタは大幅な受注減にもかかわらず,10パーセントの高い利益率を確保している。
エ そもそも原告らが本件カルテルを行った意図は,大口需要者である地方自治体等が,水道管のような重要な公共財については,製造業者が相当数存在して安定的に供給できる体制にあることを重視していたため,業界第3位の企業を上位2社が救済する必要性があったのであり,供給量を制限し,価格を引き上げようとしたものではなく,通常カルテルが行われる場合の一般的な目的である利潤増大とはかけ離れたものである。
(4) 対価への影響
ア 本件で対価への影響を裏付ける証拠は全くない。
審査官が提出した証拠(査36ないし39)は,いわゆる入札談合に係る直需分野に関するものであり,間需分野についての証拠は提出されていない。
イ 平成9年度と比較したダクタイル鋳鉄管直管の平成10年度の1トン当たりの価格は,直需分野では1500円,間需分野では240円下落したと認定されているが,下落率で見ると,直需分野では0.74パーセント,間需分野では0.12パーセントであり,国内卸売物価の下落率にすら満たない下落率であり,社会通念上は誤差と呼ばれるものであり,むしろ対価への影響がなかったことを立証しているというべきである。
4 被告の主張
(1) 独占禁止法7条の2第1項の趣旨
 ア 独占禁止法7条の2第1項は,公正かつ自由な競争の促進のためには,需要量と供給量の関係で価格が決まり,価格の変化を通じて需要と供給が調整されるという市場メカニズムが発揮される市場を維持,促進することが,消費者の利益にかない,最も重要であるとの考え方を踏まえ,供給量制限効果に重きを置いて課徴金の範囲を価格カルテル以外に拡大したものと考えられること,価格カルテルについては「対価に係るもの」との表現を用いているのに対し,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルについては,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」との表現を用いていることからすると,供給量制限効果及び対価影響性を有するカルテルは,供給量そのものを制限することを目的とするカルテルのみを予定するのではなく,個別のカルテルごとに「供給量を制限する」,「その対価に影響がある」という効果・機能の有無について実質的に判断すべきことを予定していると考えられる。
イ そして,このような課徴金制度に係る立法経緯や独占禁止法7条の2第1項の文理等にかんがみると,「供給量」とは,生産や流通の段階で在庫として保有されるものを含めて販売又は提供のために市場に供される商品等の量をいうと解釈すべきであり,「供給量を制限する」とは価格の変化を通じて需給が調整され,供給量が決定されるという機能の発揮を阻害する人為的な介入により供給量に対して何らかの限界・範囲を設定して,当該限界・範囲の中に供給量を抑えることをいうものと解するべきであり,また,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」とは,市場全体に対する供給量総量を制限するものであることを要するが,供給量を制限することを合意の内容とし,又はそれを直接企図したカルテルに限られず,供給量を制限する効果を有するカルテルは,これに含まれると解すべきである。
したがって,独占禁止法7条の2第1項の「供給量の制限」については,供給量制限効果を有するカルテルが行われたことの立証があれば足り,制限された具体的な供給量についての立証まで必要となるものではない。
ウ また,商品等の市場全体への供給量が制限されれば,それが対価に影響を与えることは経済上の経験則であり,当該市場がかかる需給関係が機能しない市場である等の特段の事情のない限り,価格に影響を及ぼすことになるのであるから,対価に影響があるとの要件については,通常,供給量を制限する効果を有するカルテルが行われたことの立証があれば足り,影響があった対価の額等の立証を要するものではない。
エ 平成17年改正により,独占禁止法7条の2第1項に市場占有率が明記されたが,同改正は,課徴金の対象となるカルテルの範囲をより明確にするとともに,供給量制限効果の存否についての個別的な判断を要せず,シェア配分カルテルは対価に影響することとなる限り課徴金の適用対象となることとしたものである。
(2) 一般的なシェア配分カルテルについて
シェア配分カルテルは,カルテルに参加した事業者が,共同して,当該市場全体における一定の期間の実際の総販売数量に占める各カルテル参加者の販売数量の割合を決定し,実行する合意であるところ,シェアは事後の総販売数量に対する割合であって,シェア算定期間における総販売数量が判明した後に初めて算出することが可能になるものであり,このように事後的に定めるべきシェアを事前にカルテル参加者で合意して実行するためには,カルテル参加者間において,シェア算定期間における総需要見込数量を設定することが必要となることは論を俟たない。
そして,当該カルテルを実効性あるものにしようとすると,定められた総需要見込数量に合意するシェアを乗じた販売予定数量が各カルテル参加者に配分され,各参加者が,自社に配分された販売予定数量の範囲内に収まるように商品等の販売を行うこと,販売予定数量を考慮して生産計画を立てた上で,市場に供する供給量を調整することなどは,いずれも当該カルテルに参加した者が採る通常の行動として,極めて容易に想定される極めて合理的な内容のものであり,想像の域を出ない,あるいは独自のストーリーなどというものではない。
また,本件審決が示すシェア配分カルテルの一般的性質は,本件カルテルが独占禁止法7条の2第1項に規定するカルテルに該当するか否かについて,証拠に基づき事実認定をする前提として一般的な考え方を示したものであり,証拠によって認定されるべき具体的事実ではない。
(3) 本件カルテルについて
ア 供給量制限効果
(ア) 本件審決は,本件カルテルが供給量制限効果を持つものであると認定しているが,その根拠として,本件カルテルについて総需要見込数量に基づいて各社に配分された販売予定数量が,各社において,これを超えて販売してはならない販売予定数量として実効的に機能していたこと,また,本件カルテルが,各社の販売数量が合意されたシェアに対応する範囲内に収まることで,原告ら3社間で設定した総需要見込数量に近似する販売数量が実現され,よって,原告ら3社間で合意されたシェアが維持できるという仕組みを有する実効性の高いシェア配分カルテルであることに係る具体的事実を摘示し,その事実関係を前提として,その効果や機能を慎重に評価して上記認定を導いているものであり,その判断は証拠及び経済上の経験則に,基づくものである。
(イ) 本件カルテルは,ダクタイル鋳鉄管直管の総需要見込数量を算出し,年度配分シェアなどを内容とする計画案を作成し,年度配分シェアを当該計画案に基づくものとすることを決定し,受注数量の調整を行うことを合意したものである。
本件市場におけるダクタイル鋳鉄管直管の供給者は,原告らがすべてであり,間需分野において,昭和42年ごろから,基本配分シェアに応じたダクタイル鋳鉄管直管の販売ルートを構築してきた結果,本件カルテルの時点以前には,取引も固定的となり,また,需要動向も安定したものとなっていたことなどにかんがみれば,原告らは,ダクタイル鋳鉄管直管の需要量について,かなり正確な予測を行うことが可能であったと認められ,このような状況の下,原告らは,数回にわたって会合を開き,地区ごとに,特に東京地区では発注事業体区分ごとに需要量の見積りを行い,各社の担当者から報告された総需要見込数量の妥当性についても細かく検討し,相当の緻密性をもって,慎重に年間の総需要見込数量を設定しており,原告らが,本件カルテルにおける総需要見込数量の算出に際し,正確性を重要視していたことを示している。
そして,本件カルテルにおいて,原告らは,毎月の需要動向や販売状況について報告し合い,実際の販売状況や受注状況を管理していたこと,次年度への繰り越しや東京地区の一般直需分野において年度配分シェアに応じた販売となるような調整を講じていたこと等からすれば,本件カルテルは,各社の実際の販売数量を最終的な取引数量を分母としたシェアの範囲内に収めることで,需要に応じて供給できるという仕組みを有するシェア配分カルテルであったのであり,このことに照らせば,カルテルに合意した参加者は,シェアの範囲内と予想されて自社に配分された販売予定数量に応じてダクタイル鋳鉄管直管の生産及び販売を制限しようとするのが通常であると解される。
したがって,本件カルテルの下では,原告ら3社の供給量の和である市場全体の供給量を需要の範囲内に制限する効果を有するのである。
(ウ) 一方,自由競争下であれば,供給者である事業者は,それぞれの調査で需要を予測することとなるが,市場のほぼ100パーセントを占める事業者が行うような正確さをもって需要を予測することなど到底不可能であり,また,自由競争下においては各事業者はシェアを拡大するために,価格を下げてでもより多く供給しようとして供給過多となるので,在庫を含む供給量を実需要量に近似させるような供給活動を行うことはできない。このことは,実際,昭和20年代後半,原告日本鋳鉄管の参入に際し,原告クボタ及び原告栗本鐵工所が生産量を増加したことにより,原告らの間で激しい価格競争となったことが,本件審決において認定されているところである。
(エ) また,商品の需要量は価格によって決定されるため,ある商品の需要量を予想するためには,特定の価格を基礎として需要量を算定することが不可欠となり,事業者が商品の販売計画を立てる場合には,算出された需要量を基に,自社商品をいくらで販売した場合にはどのくらい売れるかを試算するのであり,当該商品の販売価格を勘案することなく販売量を予想することはあり得ない。
本件カルテルは,シェア100パーセントの原告らによって実施されており,原告らは,それぞれ自社にとって利益を最大化する価格を設定することが可能であり,シェア配分カルテルは,シェア獲得競争を制限するものであるから,そのこと自体によって価格競争を行う経済的誘因を阻害し,カルテルがなかった場合より高い利益を可能とする水準での価格の安定効果が生じること,ダクタイル鋳鉄管直管事業に係る原告らの利益率は高かったこと等の各事情を勘案すると,原告らが総需要見込数量を算出する際に基礎とした価格は,自由競争が機能する市場において需要量と供給量のバランスによって決定される価格よりも高額であったことは容易に推認されるところであり,そうであれば,価格によって需要量が決定されるという経済原則に照らせば,原告らが本件カルテルの期間の当初に設定した総需要見込数量は,本件市場が,本件カルテルの存否にかかわらず,需要量や供給能力が完全に固定的であるなどの特段の事情のない限り,自由競争が機能している市場における需要量より も低く抑えられていたと認められる。
イ 対価影響性
(ア) 本件カルテルが供給量制限効果を有することは,アのとおりであり,また,本件市場が需給関係が機能しない市場であるという特段の事情はないから,本件カルテルは対価影響性を有するものであると認められる。
(イ) 本件カルテルの結果,競争とりわけ価格競争を消滅ないし減少させたことにより,ダクタイル鋳鉄管直管の価格は,本件カルテルが行われた平成9年度までは年度ごとにほぼ一定で変化がなかったが,本件カルテルの終了後である平成10年度になって変化が生じ,下落している。
(ウ) 原告らは,本件カルテルに基づく精緻な予測を基本として損益計画を立てることが可能であり,原価管理がしやすく,コストを適正に算定・予測することができるとともに,工場の工程管理も緻密に行うことができ,無駄を省いた生産計画の見通しを立てることが可能であって,本件カルテルによる受注予定数量を生産計画に反映させ,ダクタイル鋳鉄管直管の在庫を含む供給量を調整し,在庫管理に係る損失の発生を防止することができた。
(エ) 原告らは,本件カルテルにより,ダクタイル鋳鉄管直管の価格を高く維持するとともに,適正な生産計画及び販売計画を策定することが可能となったことにより,安定して高い利益率を獲得していた。
ウ 間需分野について
(ア) 独占禁止法7条の2第1項は,事業者が行った不当な取引制限が供給量を制限することによりその対価に影響があるものであるときは,当該事業者に対して課徴金納付を命ずることを被告に義務付けているところ,本件カルテルは,ダクタイル鋳鉄管直管の市場全体におけるシェアをあらかじめ決定し,実行するシェア配分カルテルであり,直需分野の一部における受注調整行為は,原告らが決定したシェアに合致させるための調整手段にすぎず,そのような調整手段を有し,市場全体を対象としたカルテルが違反行為なのであり,受注調整行為それ自体を不当な取引制限として評価しているものではない。
(イ) 原告らは,間需分野における取引のうち大手ゼネコンが受注するような大型工事について,シェアを維持するため,受注を調整していた。
また,80パーセントのシェアを占める間需分野における自由競争の結果生じる原告らの販売予定数量の差異を,直需分野における入札談合で解消できたとすることは不自然であり,間需分野においても原告らによる調整があったとみるのが自然である。
さらに,原告らは,各地区における受注予定数量及び地区配分シェアを各地区の受注調整担当者に伝えており,また,有力な第一次販売業者は,本件カルテルの存在を認識していたのであるから,本件カルテルの影響を受けることなく,全く自由に営業活動を行っていたとは考えられない。
(ウ) 原告らは,間需分野においても,シェアを維持する目的で,取引先販売業者が安値による売り込みをかけた場合にそれを抑え込み,販売業者が,その系列にある原告に注文を行った場合であっても,これを断ったり,納期に間に合わない等の理由で他の原告の製品を販売させたりしたのであり,これらは,間需分野における取引関係が固定的であることを利用し,その取引関係を維持していた行為であり,まさに本件カルテルの実行としての行為といい得るものである。
(4) 法令違反について
審判官が,審査官の主位的主張及び予備的主張を制限しなかったという点については,原告らが審判官の審判指揮に対して行った異議の申立てについての決定のとおり,直ちに原告らの防御権を侵害し,審判手続上の信義則等に反するとはいえず,時機に後れたものとして却下すべきものではないことは明らかである。
第6 当裁判所の判断
1 独占禁止法7条の2第1項の趣旨
(1) 独占禁止法7条の2第1項は,「事業者が,不当な取引制限・・・で,商品若しくは役務の対価に係るもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるものをしたときは,・・・事業者に対し,・・・当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に」所定の率を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨規定する。
この課徴金の制度は,昭和52年法律第63号による改正において,カルテルの予防効果を強化するために,既存の刑事罰の定めやカルテルによる損害回復のための損害賠償制度に加えて新設されたものであり,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。
そして,このような課徴金制度の目的や改正の当初案では価格カルテルのみが対象とされていたものが,これに限らず「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」にまで拡大されたという経緯などに照らせば,独占禁止法7条の2第1項は,同法が目的とする公正かつ自由な競争の促進のためには,需要量と供給量の関係で価格が決まり,価格の変化を通して需要と供給が調整されるという市場メカニズムが発揮される市場を維持,促進することが,消費者の利益に適い,最も重要であるという考えに立ち,供給量制限効果に重きを置いて課徴金の対象となる範囲を価格カルテル以外のカルテルに拡大したものであり,その文言についても,価格カルテルについては「対価に係るもの」とするのに対し,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」との表現を用い,「供給量の制限に係るもの」としていないことからすると,供給量そのものの制限を目的とするカルテルのみならず,個別のカルテルごとに「供給量の制限」及び「対価への影響」を実質的に判断すべきこととしていると考えられる。
(2) そうすると,独占禁止法7条の2第1項にいう「供給量」も,本件審決がいうように,需要量と供給量の関係で価格が決定されるという機能における「供給量」を意味し,生産や流通の段階で在庫として保有されるものであっても,市場に販売し又は提供する目的で保有されている限り,それは価格決定に影響するものであるから,これら在庫を含めて販売又は提供のために市場に供される商品等の量をいうものと解するべきであり,「供給量を制限する」とは,需要量と供給量の関係で価格が決定されるという機能を阻害する人為的な介入により供給量に対して何らかの限界・範囲を設定して供給量を抑えることをいい,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」とは,市場全体に対する供給量の総量を制限するものであることを要するが,供給量を制限することを合意の内容とし,又はそれを直接企図したカルテルに限られず,カルテルの効果として市場全体の供給量を制限し,対価に影響を与えるカルテルはこれに含まれると解するのが相当である。
(3) 原告クボタは,上記「供給量」は在庫を含まない「販売量」を指すものと解するべきである旨主張し,これに沿う柳川隆教授の意見書(審A11,甲C)を提出する。
しかしながら,同意見書においては,ダクタイル鋳鉄管直管は,腐敗したり,流行などもないので直ちに大安売りする必要がなく,事業者は,在庫量を睨みながら生産量を調整するのであり,在庫は,生産と販売の間の時点の乖離の調節のために生じるというのであるが,ダクタイル鋳鉄管直管は,腐敗はしないけれども,日本水道協会の検査を受け,合格したものを販売するところ,その有効期限は原則3年間であり,これを経過すると不良在庫となり,順次廃却するというのであり(審B11,親泊利昭参考人審尋速記録(以下「参考人親泊」という。)),在庫として抱えることとなると,保管場所などの経費もかかることから,安売りをすることも十分考えられるのである。そして,上記見解に従っても,在庫はいずれは販売することが予定されているものであり,また,販売のために市場に提供したものであっても,需要がなければ在庫とならざるを得ないのであって,これらを区別して供給量から除くことは不合理であると言わざるを得ない。
そして,独占禁止法7条の2第1項の立法趣旨等からすると,同項における「供給量」は,需要量と供給量の関係で価格が決定されるという機能における供給量をいうものと解すべきことは上記のとおりであって,これに反する上記意見書は採用できない。
(4) また,原告日本鋳鉄管及び原告栗本鐵工所は,平成17年改正により,独占禁止法7条の2第1項の課徴金の対象につき,「対価に係るもの」のほか「次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの」として「市場占有率」が規定されるに至ったことから,平成17年改正前は,シェア配分カルテルは課徴金の対象ではなかった旨主張する。
しかしながら,独占禁止法7条の2第1項は,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」と規定するのみで,特にシェア配分カルテルを排除するものではなく,平成17年改正が「市場占有率」を規定したのは,これまでも課徴金の対象となっていたものを,改正に当たり,課徴金の対象となるカルテルの範囲をより明確にすることなどの観点から,追加されたものである(諏訪園貞明編「平成17年改正独占禁止法」)と理解することができるから,シェア配分カルテルであっても,それが「実質的に商品若しくは役務の供給景を制限することによりその対価に影響があるもの」に該当する限り,独占禁止法7条の2第1項の課徴金の対象となると解するのが相当であり,この点に閲する原告日本鋳鉄管及び原告栗本鐵工所の主張は採用できない。
(5) そうすると,シェア配分カルテルの一般的性質如何にかかわらず,本件カルテルが,上記解釈の下で,「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」といえる場合には,本件カルテルは課徴金の対象となるというべきである。
そして,上記のとおり,需要量と供給量の関係で価格が決定されるというのが通常の市場メカニズムであるから,実質的に供給量を制限すれば,特段の事情がない限り,その価格に影響を与えることになる。
2 原告らは,本件カルテルが「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」とする実質的証拠が存在しない旨主張するので検討するのに,本件について,本件審決が認定した事実は概ね以下のとおりであり,同認定は,摘示された証拠に基づき,合理的な事実認定と認めることができる。
(1) 原告らによる年間総需要見込数量の把握
原告らは,全国を6地区に区分し(なお,原告日本鋳鉄管は大阪地区以西には営業拠点を持っていない。),毎年5月ころ,原告らにおける営業担当課長以上の受注調整担当者(本件に関しては,原告クボタにおいては小林悠貴(以下「小林」という。),原告栗本鐵工所においては友雅男(以下「友」という。),原告日本鋳鉄管においては白石一二(以下「白石」という。)であり,これら3名を併せて「小林ら」という。)が,5地区の受注調整担当者に対し,それぞれが担当する地区の当該年度の市場別需要見込数量等を報告するよう求め,5地区の受注調整担当者は,各社の需要見込数量を算出するとともに,同じ地区の他の原告の受注調整担当者と連絡を取り合って,それぞれが算出した需要見込数量を比較検討し,当該地区における原告らの共通の認識としての総需要見込数量を算出し,5地区におけるシェアについても,5地区の受注調整担当者間で調整し,地区原案として5月末から6月初めにかけて小林らに報告していた。
なお,原告クボタは毎年2月ころ,同栗本鐵工所は毎年1月末ころ,同日本鋳鉄管は毎年2月中旬ころ,それぞれ社内で需要予測を立てていた。
(査6,10,14,16ないし25,27,47)
(2) 原告らによる総需要見込数量の決定
ア 平成8年度
(ア) 小林らは,平成8年6月4日,第1回の検討会議を開き,それぞれ社内で作成した東京地区における発注事業体区分(①東京ガス,京葉瓦斯株式会社等のガス会社の区分,②東京都水道局など直接原告3社からダクタイル鋳鉄管直管を購入する水道局等の事業体の区分,③原告3社が販売業者等を通じて建設業者にダクタイル鋳鉄管直管を販売する間需分野,④NTT,電力会社等民間の区分並びに⑤農業用水及び下水の区分)ごとの需要見込数量及び全国の地区別の需要見込数量を持ち寄り,調整を行った結果,全国の地区別需要見込数量について,北海道地区2万9000トン,東北地区4万9000トン,東京地区19万8720トン,西地区(中部地区,大阪地区及び九州地区)23万9920トンとし,全国では51万6640トンの数値を仮に算出し,これを白石が表に取りまとめた。
(イ) 小林らは,同月11日,東京地区における需要見込数量の設定について更に慎重を期すために2回目の検討会議を行い,1回目に報告のあった数値を修正するなどして発注事業体別に調整を行った上で,東京地区の需要見込数量を19万9000トンとした。
(ウ) 小林らは,同月24日,3回目の検討会議を行い,東京地区については,神奈川県内広域水道企業団の発注が翌年度に回ることが判明したため,需要見込数量を前回の19万9000トンから19万5700トンに修正し,東北地区を4万9000トンから5万トンに,西地区を23万9920トンから24万トンに,それぞれ修正し,この結果,全国の総需要見込数量を51万4700トンとした。
(査16,22ないし25)
イ 平成9年度
(ア) 小林らは,平成9年6月10日,第1回の検討会議を開催し,東京地区における発注事業体区分ごとの需要見込数量について,各社がそれぞれ持ち寄った見込数量を報告し,検討の結果,19万3950トンとなるが,平成8年度の実績である21万3779トンを大幅に下回り,そのように大幅に下回る事情も見当たらないので,需要見込数量を増やすこととし,発注事業体区分ごとの数量を見直すこととなった。
(イ) 小林らは,同月20日に第2回の検討会議を行い,平成8年度と同様の方法により,まず,東京地区における需要見込数量を19万7000トンとし,次に,全国の地区別需要見込数量を決定し,この結果,平成9年度における全国の総需要見込数量を52万4000トンとした。
なお,この際にも,東京地区及び5地区から報告のあった地区別の需要見込数量を足し上げると,昨年度の発注実績を下回り,このように下回る特段の事情も見当たらなかったことから,5地区からの需要見込数量の報告を見直し,少しずつ多めの需要見込数量に変更した。
(査6,17,22,23,27)
(3) 各社の受注予定数量及び年度配分シェアの決定
上記により,全国の総需要見込数量及び地区ごとの需要見込数量が算出されると,小林らは,当該年度の総需要見込数量に各社の基本配分シェアをそれぞれ乗じて算出した数量に,各社の前年度の年度配分シェアに総販売数量を乗じた数値と実際の販売実績との過不足を加減し,総需要見込数量に占める割合を算出することにより年度配分シェアを決定していた。
地区配分シェアについては,5地区から小林らに報告が行われる前に,事前に5地区の受注調整担当者間ですり合わせが行われている場合もあり,原則として,5地区から報告を受けた地区配分シェアを優先して使うこととしていたが,最終的には,過去の実績等も勘案しつつ,小林らによる検討会議の場で調整が行われ,決定されていた。
(査6,18,22)
ア 平成8年度
平成7年度の受注実績については,平成7年1月の阪神・淡路大震災の復旧に伴う原告クボタ及び原告栗本鐵工所の受注増と,原告日本鋳鉄管の顧客である東京ガスがポリエチレン管を採用したことによる同原告の受注減により,原告らの間で,年度配分シェアに総販売数量を乗じた数値と実際の販売実績との間に大きな過不足が生じており,平成7年度の原告らの受注実績は,同年度の年度配分シェアに同年度の総販売数量を乗じた数量と比べると,原告クボタについては2369トン,原告栗本鐵工所については380トンの超過,原告日本鋳鉄管については2749トンの不足という状況にあった。
そして,この過不足分を平成8年度の年度配分シェアに反映させると,東京地区で受注調整を行う上で影響が大き過ぎ,単年度では消化し切れなくなるため,小林らは,原告日本鋳鉄管の了承を得て,平成8年度以降の3年間にわたり3分の1ずつ反映させることにより調整することとし,原告日本鋳鉄管については,不足分2749トンの3分の1である920トンを繰り越し,原告クボタと同栗本鐵工所については,それぞれ超過分の3分の1である790トン及び130トンを両原告の受注予定数量から減ずることとなった。
これにより,平成8年度の原告らの受注予定数量は,市場全体の総需要見込数量である51万4700トンに基本配分シェアである原告クボタ63パーセント,原告栗本鐵工所27パーセント,原告日本鋳鉄管10パーセントをそれぞれ乗じた各社の基本受注予定数量に上記過不足の調整分を加減して,原告クボタ32万3470トン,原告栗本鐵工所13万8840トン,原告日本鋳鉄管5万2390トンとなり,年度配分シェアは,総需要見込数量に占める各社の受注予定数量の割合を算出することにより,原告クボタ62.85パーセント,原告栗本鐵工所26.97パーセント,原告日本鋳鉄管10.18パーセントとなった。
また,既に5地区における地区別の需要見込数量が決定されていることから,これに各社の地区配分シェアを乗じることによって,各社の地区別の受注予定数量を算出し,東京地区については,平成8年度の各社の受注予定数量から5地区の受注予定数量の合計を差し引いたものを東京地区における各社の受注予定数量とした。
(査6,16,17,24,25,27)
イ 平成9年度
平成9年度の総需要見込数量である52万4000トンに原告らの基本配分シェアを乗じた数量に,前年度までの過不足を加減した結果,平成9年度の原告らの受注予定数量は,それぞれ,原告クボタ32万9638トン,原告栗本鐵工所14万1218トン,原告日本鋳鉄管5万3144トンとなり,これらを総需要見込数量で割ること等により,年度配分シェアは,それぞれ,原告クボタ62.91パーセント,原告栗本鐵工所26.95パーセント,原告日本鋳鉄管10.14パーセントとなった。
全国各地区の各社の受注予定数量及び地区配分シェアについては,平成8年度と同様の方法により決定した。
(査6,17,23,27)
(4) 合意の成立
小林らは,こうして決定した全国の総需要見込数量,地区ごとの需要見込数量,各社の受注予定数量及び年度配分シェアに係る計画案(以下「計画案」という。)を「市場別・地区別計画総量」との標題の表にまとめ,それぞれの上司に報告した上,最終的には,上記前提事実(第3の5(2)イ,同(3)イ)のとおり,小林ら及び各社の担当部長等による会議(以下「部長会」という。)の場でそれぞれ原案どおり正式に決定した。
なお,小林は,平成9年度の部長会の席上,平成8年度においては,実際の発注量が当初の総需要見込数量を大幅に超えた理由として,①阪神・淡路大震災の特需が残っていたこと,②各地区でダクタイル鋳鉄管を耐震管に替える需要が発生したこと,③大型補正予算による発注があったこと等による旨説明した。
また,同部長会では,①原告クボタの第一次販売業者である安田が同原告に報告せず勝手に東京都練馬区に営業所を開設したことから,同原告は販売店としては安田の練馬営業所を認めない等の対処方法,②山梨県下において第二次販売業者が安値により他の原告の販売店の得意先建設業者に対して売り込みをかけるケースが見受けられ,これにより山梨県におけるダクタイル鋳鉄管直管等の販売価格が安くなっていることへの対応,③併売店(第二次販売業者のうち複数の原告のダクタイル鋳鉄管直管の販売業務を行っている第二次販売業者をいう。以下同じ。)が安値による売り込みをかけることが多く見られることから,今後は併売店をなくしていくとの方針等が話し合われた。
(査7,8,13,16,17,23ないし25,27,29,44)
(5) 原告らにおける社内への地区配分シェア等の伝達
小林らは,全国各地区における各社の受注予定数量及び地区配分シェアを,それぞれ5地区の受注調整担当者に伝えていた。
ア 原告クボタでは,地区の受注調整担当者の本件カルテルの認識の程度に応じて,当該担当者の担当地区以外の地区や全国の総需要見込数量や年度配分シェアを伝える場合もあった。さらに,会社としてどの程度受注することになるのか,地区別ではどうなっているのかを部長以上の者に知らせるため,社内の鉄管営業部門の部長級以上の者が集まる会議においても,受注調整の計画を説明していた。
イ 原告栗本鐵工所では,友が,5地区内で地区配分シェアに基づき受注数量を調整させるため,5地区の支店等の営業担当課長に対し,地区ごとの需要見込数量及び地区配分シェアを連絡していた。
ウ 原告日本鋳鉄管では,白石又は同社の営業部長の木村太一が,各地区の営業所長が出席する営業所長会議の後などに,地区配分シェアについて説明を行い,各担当者にこのシェアとなるように受注数量の調整を行う旨指示した。
(査6,8,10,17ないし25,27)
(6) 原告らによる毎月の受注実績の把握
小林らは,最終的に年度配分シェアどおりの受注数量となるよう調整するために資料を作成し,毎月,受注予定数量と実際の受注数量の相違等を把握していた。
ア 原告クボタでは,各地区における原告らの受注実績等に関するデータを毎月作成していた。そして,原告クボタの本社の鉄管企画部販売促進課では,毎月3日又は4日に出力されるこのデータを集計し,「月ごとの地区別受注実績表」(以下「1番目の表」という。),「月ごとの市場別受注実績表」(以下「2番目の表」という。),地区別及び市場別の受注実績を一つにまとめ,毎月の実績を累計により示した表(以下「3番目の表」という。)及び上水市場におけるブロック別・都道府県別の受注実績表(以下「4番目の表」という。)を作成していた。
同課の集計作業担当者は,これらの四つの表に同原告の数値を記入し,さらに,毎月10日ごろには原告日本鋳鉄管から送付されたデータを付けて,これらを原告栗本鐵工所の担当者に送付し,同原告の担当者は,自社の実績及び原告日本鋳鉄管のデータを整理して,上記四つの表を完成させ,毎月20日から25日ころまでの間に原告クボタの集計作業担当者に送り返していた。
イ 原告クボタの集計作業担当者は,これらの四つの表を本社の鉄管企画部販売促進課長に交付し,本社の鉄管企画部販売促進課は,毎月,1番目ないし3番目の表並びに4番目の表のうち東北地区及び東京地区の分を原告クボタの小林に社内便で送付し,中部地区,大阪地区及び九州地区の分は,本社鉄管営業部の課長に手渡していた。
小林は,これらの送付を受けて,毎月,需要見込数量と比べた受注数量の割合,年度配分シェアと比べた各社の受注実績及び地区別の地区配分シェアと比べた各社の受注実績が分かるようにした「地区別実績表」,東京地区における市場分野別,主たる発注事業体別,都県別の受注実績を示した表である「東京地区実績表」及び上工水の都県別,直需・間需別の配分率又は受注見込割合と比べた各社の受注実績を示した表である「上水受注実績表」という三つの表を自ら作成し,小林らにおいて,毎月の進捗状況を管理していた。
ウ さらに,小林らは,例年,2月か3月の年度末近くに会合を開催して,それまでの受注実績と3月の各社の受注予定を持ち寄り,それを集計して,当該年度の最終的なシェアの実績の見込みについて検討していた,
(査11,16ないし18,22,24,25,29ないし33)
(7) 東京地区の直需分野における受注数量の調整
ア 東京地区における受注調整担当者でもあった小林らは,各社の全国における受注数量を年度配分シェアに従ったものとするため,東京地区の直需分野を中心に受注調整により受注予定者を決めることで,最終調整を行っていた。
ただし,東京都水道局発注分については,従来の経緯により原告クボタ58.0パーセント,原告栗本鐵工所27.0パーセント,原告日本鋳鉄管15.0パーセントと定まっていたことから,かかる調整のために利用することはなく,実際の調整枠に当てられていたのは,東京地区の一般直需分野であった。
このため,同分野について,小林らは,その受注予定数量の合計についてのみ各社の配分シェアを決め,水道事業者別の受注予定数量や配分シェアはあえて決めずに,柔軟に調整を行うこととしていた。
(査6,16,24,25,29)
イ 東京地区の一般直需分野における受注予定者の決定は,入札などの指名がある都度行われていた。
発注者から入札参加の指名等があった場合は,その発注者を担当している各社の担当課長から,発注物件,物件ごとの数量,入札日等の連絡があり,小林らは,相互に電話で連絡を行い,入札案件ごとに,対象となる管種,口径の在庫があるか否か,納期に間に合うか否か等の事項を確認した上で,決められた配分シェアとなるよう受注予定者を決めていた。
しかし,当初の総需要見込数量と実際の発注実績及び年度配分シェアと各社の実際の受注実績の間には差異が生じるため,小林らは,毎年1月ころからは,東京地区の一般直需分野の配分シェアにとらわれず,前記(6)イの資料等を見ながら,最終的に各年度配分シェアどおりとなるように受注予定者を決定していた。
(査11,23,24,29)
ウ 東京地区の直需分野で受注調整した結果については,友が,原告らの受注実績を,月別,発注事業体別に取りまとめ,パソコンで管理し,これを小林に渡し,同人はこれを確認した上で白石に渡していた。
なお,東京地区の直需分野の受注調整は,原告らの年度配分シェアの計画がまだ決まっていない年度当初の4月から行っていたが,例年,原告らのシェアに大きな変動がないことから,受注シェアの配分が決まる前までに受注調整を行う場合は,取りあえず,前年度の配分シェアに基づいて受注調整を行っていた。
(査11,18,22,24,25)
(8) 年間の総需要見込数量の修正(平成8年度に実施)
ア 平成8年度においては,陳神・淡路大震災に係る復興需要等により,当初の総需要見込数量を大幅に超えて発注がされ,小林が平成8年11月初旬に算出したところでは,当初の総需要見込数量が51万4700トンであったのに対し,10月までの発注量は34万6867トン,需要見込数量に対する発注量の割合である進捗率は67.4パーセントであり,これは平成7年度に比べて高いものであり,また,原告日本鋳鉄管があまり営業を行っていない西日本地区におけるダクタイル鋳鉄管直管に対する需要が拡大し,全国レベルで約2万トンの増加が見込まれた上,同原告の顧客であった東京ガスが,東京地区においてダクタイル鋳鉄管直管をポリエチレン管に切り替えていった等の事情から,東京地区の一般直需分野の配分枠では調整し切れなくなる可能性が生じた。
このため,小林らは,前記と同じ方法で,当該年度の総需要見込数量の再設定を行うことを決定した。
イ 小林らは,同年11月下旬,それぞれ見込んだ平成8年度の総需要見込数量を持ち寄って検討会議を行い,平成8年度における総需要見込数量を当初のそれより約2万トン増加させて53万5000トンとし,これに基本配分シェアを乗じて得た数量に前年度の過不足分を加減して算出される原告らの受注予定数量を原告クボタが33万7050トン,原告栗本鐵工所が14万4450トン,原告日本鋳鉄管が5万3500トンに変更し,年度配分シェアを原告クボタ62.86パーセント,原告栗本鐵工所26.98パーセント,原告日本鋳鉄管10.16パーセントと修正した。
さらに,小林らは,見直し後の総需要見込数量を基に東京地区の地区配分シェア及び同地区の一般直需分野の配分シェアを算出し,今後,どのような割合で東京地区の一般直需分野における受注予定者を決めていけばよいかを検討した結果,今後の発注予定にかんがみると,原告日本鋳鉄管の生産管種及び生産能力では,同原告に配分された同分野における受注割合は実現することが難しいと判断されたため,それまでの同原告の受注実績を勘案して,東北地区及び大阪地区における同原告の地区配分シェアを見直すこととした。
これらの見直しの結果について,小林らは,いずれも上司の担当部長に報告し,その了承を得た。
ウ 原告らは,平成8年12月ころまでは,前記イの修正後の東京地区の一般直需分野の配分シェアに従って受注予定者を決めていたが,小林が毎月作成する年度配分シェアと実際の受注を比較すると,全国ベースでは,原告日本鋳鉄管が2245トンもマイナスとなっていた。
また,平成9年3月までには,消費税率の引上げ前の駆込み需要や補正予算の執行などにより更に多くの発注が予想されたことから,平成8年度の総需要見込数量は,11月時点での見込みを更に上回り,当初のそれより4万5000トンの需要量の増加(総需要量56万105トンに達する。)が見込まれた。
このため,小林らは,平成9年3月10日ごろ,平成8年分の最終的な需要見込数量と受注シェアを検討するために会合を開き,平成8年度の総需要見込数量を56万105トン(原告クボタ35万2866トン,原告栗本鐵工所15万1228トン,原告日本鋳鉄管5万6011トン)とする調整を行った。
(査14,16,18,19,22,24,25,29,33ないし35)
(9) 年度配分シェアの達成状況
原告らは,以下のとおり各年度の年度配分シェアにほとんど一致する割合でダクタイル鋳鉄管直管を受注していた。
   ア 平成8年度
前記(8)イのとおり,平成8年11月下旬に実施された総需要見込数量の修正の結果,平成8年度の年度配分シェアは,原告クボタ62.86パーセント,原告栗本鐵工所26.98パーセント,原告日本鋳鉄管10.16パーセントと合意されていたところ,平成8年度における受注実績は,原告クボタ62.75パーセント,原告栗本鐵工所27.03パーセント,原告日本鋳鉄管10.22パーセントであった(査6)。
イ 平成9年度
前記(3)イのとおり,平成9年度の年度配分シェアは,原告クボタ62.91パーセント,原告栗本鐵工所26.95パーセント,原告日本鋳鉄管10.14パーセントと合意されていたところ,平成9年度における受注実績は,原告クボタ62.82パーセント,原告栗本鐵工所27.30パーセント,原告日本鋳鉄管9.88パーセントであった(査11)。
3 本件カルテルについて
(1) 供給量の制限
ア 前提事実及び上記2の認定事実のとおり,原告らは,国内におけるダクタイル鋳鉄管直管の取引分野(本件市場)において100パーセントのシェアを占め,長期間にわたりシェア配分カルテルを行い,間需分野においては,ほぼ基本配分シェアに応じた受注数量の割合になるような販売ルートが構築されるなど安定した市場となっており,このような状況の下で,小林らは,5地区の受注調整担当者から地区ごとの需要見込数量の報告を受け,東京地区については発注事業体ごとに需要見込数量を見積もり,さらに報告された需要見込数量の妥当性についても細かく協議した上で,相当程度実需要量に近い正確な数字で総需要見込数量を算出し,また,総需要見込数量が大きく発注実績と異なる場合などには,年度当初の総需要見込数量の算出時と同様の慎重な手順を経て,総需要見込数量の再見積りを実施するなど,総需要見込数量の算出に当たっては,実需要量に近似するよう正確性を期していたことが認められる。
そして,小林らは,このように精緻に算出された総需要見込数量に基本配分シェアを乗じた数量に,前年度の年度配分シェアに基づいて計算される受注予定数量と受注実績との過不足分を加減した数量を当該年度の各社の受注予定数量とし,これを総需要見込数量に対する比率に換えて当該年度配分シェアを算出し,このようにして算出した総需要見込数量と年度配分シェア及び地区ごとの受注予定数量と地区配分シェアを5地区の受注調整担当者にも伝達し,最終的に東京地区の一般直需分野における受注調整で年度配分シェアに応じた受注割合が達成できるように,毎月,受注予定数量と実際の受注数量の相違等を把握してその進捗状況を確認し,それでも誤差が生じた場合には,翌年の年度配分シェアの算定において加減修正することとして,年度配分シェアに殆ど一致する受注割合を達成していたことが認められる。
このような本件カルテルの実態に照らせば,本件カルテルは,本件審決がいうように,原告らの販売数量が合意した受注予定数量の範囲内に収まることにより,総需要見込数量に近似する販売総量が実現され,原告らにおいて合意した年度配分シェアが維持されるという仕組みを有する実効性の高いカルテルであるといえ,殊に,平成7年度の受注実績に見られたように,東京地区の直需分野における受注調整だけでは調整し切れない乖離が生ずることになれば,数年度にわたって受注調整をしなければならない事態に陥り,本件カルテルの維持が困難となるおそれがあることを勘案すれば,実需要量に近似するように精緻に算出された総需要見込数量に各社ごとの年度配分シェアを乗じることによって算出される各社ごとの受注予定数量は,これを超えて販売してはならないという限度を画するものであったとみることができる。
そして,原告らは,仮に上記受注予定数量を超えて販売しても翌年の年度配分シェアの算定の際にはその分だけシェアを減じられることになるし,また,受注予定数量を超えて生産しても,販売できないのであれば在庫として抱えることになり,保管費用なども嵩むことになるのであるから,合理的な経済活動としては,受注予定数量に応じた生産計画を立て,受注予定数量の範囲内に収まるように供給量を調整することになるであろうことは,極めて容易に予測し得ることであり,一般の経験則に従っても明らかであるといえる。
したがって,総需要見込数量に年度配分シェアを乗じて算出される受注予定数量は,これを超えては生産及び販売をしないという上限を画し,その範囲内に原告らの供給量を制限するものであり,原告らの供給量の和である本件市場全体の供給量も,その範囲内に制限されることとなる。
イ(ア) 一方,本件カルテルがなければ,原告らは,上記のような受注予定数量を算出することはできず,自由競争の下では,シェア拡大のために生産量を増加させることが極めて容易に想定される。特に,本件のダクタイル鋳鉄管直管のように,公共財であり欠品が許されないものであれば,それを避けるためにも相当程度の余剰を見込んで生産せざるを得ないのであって,このようなことからすると,そもそも本件カルテルの下での実需要量は,自由競争下での需要量よりも制限されたものとなっていたと考えられる。
(イ) そして,また,本件市場は,長年にわたる本件カルテルの実施により価格競争がなく,ダクタイル鋳鉄管直管の利益率は高かったこと(査9,10,15)などに照らせば,その実需要量は自由競争下における価格よりも高値の下での需要であり,自由競争下において需要量と供給量の関係で決定される価格の下での需要量よりも抑えられた需要量であったといえる。
(ウ) さらに,自由競争下においては供給量が増加するであろうことは,原告日本鋳鉄管がダクタイル鋳鉄管直管の市場に参入した昭和20年代後半に,原告クボタ及び同栗本鐵工所が増産し,激しい価格競争になり,本件シェア配分カルテルが行われるようになったという経緯(査9)からも裏付けられるところである。
(エ) 以上によれば,本件カルテルは,本件市場におけるダクタイル鋳鉄管直管の供給量を自由競争下における供給量よりも制限するものと認められる。
ウ これに対し,原告らは,総需要見込数量を超えても実需要量に応じて供給してきたものであるから,供給量の制限はなかった旨主張し,実際,原告らは,実需要量が総需要見込数量を超える場合にも,実需要量に応じた供給を行ってきたこと(審A2)が認められる。
しかしながら,実需要量は,当該年度が終わって初めて判明するものであり,年度配分シェアを決める段階においては不明であるから,本件カルテルにおいては,やむなく実需要量に一致するように精緻に総需要見込数量を算出し,これを基に受注予定数量を算出しているにすぎず,本来は実需要量がシェアの分母となるべきものであるから,実需要量に応じた供給を行うことはむしろ当然である。そして,上記のとおり,そもそも本件カルテルの下における需要量は,自由競争下における需要量よりも抑えられたものであるとみられるのであるから,そのような抑えられた需要量に応じた供給を行ってきたとしても,それは何ら供給量を制限しなかったことの証左となるものではない。
エ(ア) 原告クボタは,自由競争下においても供給量が増えるものではないとして,原告日本鋳鉄管が参入した昭和28年から昭和30年のダクタイル鋳鉄管直管の供給量は10パーセント程度減少しており,また,本件カルテル終了後にも,出荷量は減少している旨主張する。
確かに,証拠(査55)によれば,昭和28年はその前年に比して,日本水道協会によるダクタイル鋳鉄管直管の検査実績が飛躍的に増加しており,これは原告日本鋳鉄管が参入したことによると思われるが,その後の昭和28年から同30年までの間にかけては,検査実績は減少しており,また,本件カルテル終了後の平成10年以降も検査実績が減少していることが認められる。
しかしながら,昭和28年から同30年までにかけては,石綿セメント管の検査実績が相当程度増加しており,その影響によってダクタイル鋳鉄管直管全体の需要が減少したものであり,それがなければやはりダクタイル鋳鉄管直管の供給は増加していたと推察されるのであるし,また,本件カルテル終了後の平成10年以降については,殆どの水道用資機材の検査実績が減少しており,水道管工事自体が減少したことがうかがわれるのであって,上記原告クボタの主張は上記認定を左右するものではない。
(イ) また,原告クボタは,ダクタイル鋳鉄管直管が高い利益率を得ていたことについて,原価を引き下げれば利益率は高くなるから,高い利益率であることは,本件カルテルがなかった場合よりも高い価格を設定し得たことの証拠にはならず,本件カルテル終了後も10パーセントの高い利益率を確保している旨主張するが,原価を引き下げればその分だけ価格の引き下げも可能となり,自由競争下においては,当然に安値による価格競争が起こることが予測されるところ,本件カルテルがあったために,そのような価格競争に陥ることなく,それまでの価格を維持し得た。ものとみることができ,本件カルテルは相当長期間にわたって行われ,平成8,9年度当時本件市場の約8割を占める間需分野においては,基本配分シェアに応じた販売ルートが構築されている状況にあったのであるから,本件カルテルが終了後,直ちに利益率に変化がみられないとしても不合理ではなく,原告クボタの主張は採用できない。
(ウ) さらに,原告クボタは,本件市場が需要の価格弾力性が乏しい市場であり,このような市場においては,供給量の僅かな制限により価格が大きく変化することになるところ,本件市場においては,本件カルテル終了後も大幅な価格変化が見られない旨の柳川隆教授の意見書(甲Cの1)を提出して主張する。
しかしながら,本件カルテルは長期間にわたって行われ,間需分野においては,基本配分シェアに従った販売ルートが構築されていたのであるから,本件カルテル終了後に直ちに顕著な価格変化が現れなかったとしても不合理ではなく,また,およそ本件市場が価格の低下に伴い需要が増加する可能性を有しない市場であるとは認められないのであり,原告クボタの主張は,上記結論を左右するものではない。
(エ) なお,原告クボタは,本件カルテル実施の目的が,製造業者が複数存在することにより水道管の安定的供給体制を確保することを重視する水道事業者の意向に沿って原告日本鋳鉄管を救済することにあり,利潤増大とはかけ離れたものである旨主張するが,上記のとおり,それ以前に原告日本鋳鉄管の参入により原告クボタ及び原告栗本鐵工所がダクタイル鋳鉄管直管を増産し,激しい価格競争となったという経緯を軽視することはできない。
オ そして,本件カルテルの下では,原告らは,受注予定数量に応じた販売量となるように受注を調整し,生産するようになると考えられることは上記のとおりであるところ,原告クボタ及び原告栗本鐵工所は,同原告らの利益計画・生産計画等の策定と本件カルテルによる年度配分シェアとは無関係である旨主張する。
 (ア) まず,原告クボタは,年間生産計画の策定は毎年2月から3月であり,毎年7月から8月に決定される年度配分シェアが年間生産計画に影響を及ぼすことは不可能であり,トン数ベースのシェア配分の数字では,生産計画など立てられないなどと主張する。
しかしながら,同原告においては,シェア算定のための総需要見込数量の算出の資料については,2月に本社に提出した需要予測数量に新たに判明した事業体等の計画等を加味して報告した(査19)というのであり,年間生産計画の策定とシェア算定について,同じ資料が基になっていると思われること,年間計画の段階では,機種別に何トンの出荷をし,生産するかを計画として作る必要があるが,管種・口径等の製品別の計画は必要がないこと(市川孝参考人審尋速記録),実際には,営業部門からの報告には,管種・口径などもできる限り記載されており,ある程度の管種の別もわかること(査48,東千秋参考人審尋速記録(以下「参考人東」という。)),口径・管種別については,営業部門が出す向こう3か月の受注出荷見込みをもとに翌月の工程・生産計画を出してゆく(参考人東)というのであることに加え,長年にわたるシェア配分カルテルの結果,間需分野では基本配分シェアに応じた販売ルートが構築され,ある程度受注の見通しが立ち,東京地区の一般直需分野での受注調整を行うだけであったという状況を併せ考えれば,シェア配分の合意が生産計画に影響を及ぼすことは不可能とはいえず,結果として,年度配分シェアが達成できていたことに照らしても,年度配分シェアが生産計画と無関係であったとは考えられない。
(イ) また,原告栗本鐵工所も,平成8年度及び同9年度の期初計画値や目標値が,いずれも年度配分シェアよりも大きい数値であったことや,同原告の人事評価方法などを挙げ,利益計画・生産計画と年度配分シェアとは無関係である旨主張する。
しかしながら,期初計画値が年度配分シェアよりも大きいことは,営業部から報告する数字に業務部で上積みをするのが慣例になっていた(審B11,参考人親泊)というように,社員向けなどのために目標を高くしたにすぎないと思われる。
そして,同原告においては,毎年1月末ころに総需要見込数量を調査し,シェア調整のための数量は,そのデータを基にして,その後変更する必要が生じた場合に改めてその量を調査して算出しており(査22),単年度利益計画の策定も,毎年1月初めころから末にかけて,営業部門の需要受注調査からスタートし,7月末から8月中旬にかけて,再度,営業部門の需要受注調査の見直しを行い,これを受けて修正をするということからすると,シェア配分のための資料と利益計画の策定のための資料は同じ需要調査を基にしていると思われ,また,需要の見直しの時期は年度配分シェアの決定時期と近接している上,例えば平成8年度の受注計画で見れば,営業が15万1000トン受注するということが事業活動のベースであり,これを受けて受注売上げ利益額達成のための事業活動を行っていく(参考人親泊)というのであり,たとえトン数ベースの数字であっても事業活動のベースとなり得ることに加え,結局において,年度配分シェアに近い受注割合が達成されていることなどに照らせば,上記(ア)と同様,生産計画・利益計画が年度配分シェアと無関係であったとは考えられない。
(2) 対価への影響
ア 上記のとおり,本件カルテルは供給量を制限するものといえ,そうであれば,特段の事情のない限り,価格(対価)に影響を与えるものである。そして,本件市場が需給関係による価格メカニズムが機能しない市場である等の特段の事情は認められないから,本件カルテルは,供給量を制限することにより対価に影響するものと認められる。
そして,価格への影響については,東京都水道局・横浜市水道局・千葉県水道局発注分について,それまで落札価格は一定していたところ,東京都水道局等が原告らに入札の公正確保に関して注意を促し,市民オンブズマンがダクタイル鋳鉄管直管の落札単価を問題視し始めた平成9年後半ころから落札価格に変動がみられるようになり,平成10年5月ないし6月ころには落札単価の下落が顕著になっており(査36ないし38〉,本件カルテルの終了後である平成10年度のダクタイル鋳鉄管直管の価格は,平成9年度と比較して,直需分野において1トン当たり1500円,間需分野においても1トン当たり240円下落している(査15)ことからも裏付けられる。
イ この点,原告クボタは,上記価格の下落は,直需分野において0.74パーセント,間需分野において0.12パーセントにすぎず,誤差の範囲ともいうべきであって,価格の下落はない旨主張する。
しかしながら,上記アのとおり,少なくとも直需分野においては,それまで価格の変動がなかったものであり,0.74パーセントにせよ,価格が下落したことは,本件カルテルの価格影響性を裏付けるものというべきである。
また,原告栗本鐵工所は,直需分野に比較して間需分野における価格の減少が少ないことを捉え,間需分野については,本件カルテルの影響がなかった旨主張するけれども,間需分野においては,既に長期間にわたり,基本配分シェアに応じた販売ルートが構築されていたことに照らせば,入札の行われる直需分野に比べて直ちに著しい価格の下落がなかったとしても不合理ではなく,このことをもって,間需分野において価格影響性がなかったとすることはできない。
(3) 間需分野について
ア 独占禁止法7条の2第1項は,事業者が,実質的に商品等の供給量を制限することによりその対価に影響があるカルテルを行ったときには,当該行為の実行としての事業活動を行った期間の商品等の政令で定める方法により算定した売上額について,一定額の課徴金の納付命令を規定しているところ,上記前提事実及び上記2の認定事実によれば,本件カルテルは,間需分野・直需分野を区別することなく本件市場全体における総需要見込数量を算出して年度配分シェアを決定し,その後の進捗状況の確認においても特に間需分野・直需分野を区別していなかったこと,東京地区の一般直需分野における受注調整は,間需分野を含めた本件市場全体を対象とするものであったこと,間需分野においても一部受注調整が行われていた上,間需分野においては,原告らが長年にわたり配分シェアを決め,そのシェアのとおりとなるように調整を行った結果,販売ルートが確立してほぼ基本配分シェアのとおりの受注数量となるようになっていたこと,したがって東京地区の一般直需分野における調整によって年度配分シェアのとおりになるよう受注調整ができていたこと(査13)などが認められ,これらによれば,本件カルテルは,間需分野・直需分野を問わず,本件市場全体について年度配分シェアを達成するために,東京地区の一般直需分野における受注調整という手段を有するカルテルであったとみられるのであり,したがって,課徴金の対象としては間需分野も含まれると解するべきである。
イ(ア) これに対し,原告栗本鐵工所は,3年間において同原告の特約販売店が継続して販売店及び工事業者から受注できたのは約1割にすぎず,特約販売店に対しては,売上げ目標値を達成した場合に販売奨励金を支払うという奨励金制度を設け,特約販売店に対し,仕切価格を下げて販売した件数が70パーセントを超えるなど,間需分野においては,激しい価格競争が行われていた旨主張する。
確かに,間需分野においては,原告らと第一次販売業者は代理店契約を締結しているものの,第二次販売業者には複数のメーカーの商品を扱う併売店が多く,これら第二次販売業者や建設業者との間ではある程度の競争が行われ,仕切価格を下回る価格で販売した事実が認められるけれども,仕切価格を下げた販売は,第一次販売業者が第二次販売業者あるいは建設業者から受注するためのものであり(参考人親泊),価格以外の競争や販売奨励金なども,受注が確実でない第二次販売業者あるいは建設業者との間の競争であり,飽くまで間需分野において構築された基本配分シェアに従った販売ルートを確保するためのものであったとみられるのであり,これをもって間需分野において自由競争が行われていたなどと評価することはできず,むしろ,上記行為はシェア配分に基づいた販売ルートを維持するための行為であり,本件カルテルの実行としての行為と評価し得るものである。
(イ) また,原告栗本鐵工所は,間需分野における小口径,中口径の取引では,受注から出荷までの期間が短いことから見込生産とならざるを得ず,本件カルテルの配分シェアは受注できるであろうトン数を決めていただけで,管種を決めていたものではないから,本件カルテルによるシェア配分は,生産量,販売量,在庫量に影響を与えるものではなく,カルテル解消後の平成10年以降,在庫量は殆ど変わっていないことからも,本件カルテルに在庫量縮減効果はなかった旨主張する。
しかしながら,上記3(1)オ(イ)からすると,原告栗本鐵工所は,シェア配分のための資料と利益計画ないし生産計画策定のための資料は同じ需要調査を基にしていると思われること,トン数が事業活動のベースであったこと,間需分野においては,販売ルートが確立しており,建設業者が受注した段階で,ある程度の受注の可否やその内容もある程度予測できたことなどに照らせば,本件カルテルと生産計画が全く無関係であるとはいえないし,また,カルテル解消後の在庫量の増減についても,需要量との相関関係をみることなく,供給量あるいは在庫量だけをみて,直ちに供給量が減少したとか在庫量が変わらないなどとはいえない上,本件カルテルは,長期間にわたって行われ,間需分野においては販売ル一トが確立されていたのであるから,本件カルテルが終了したからといって,直ちにその影響が全く払拭されるものでもない。
ウ また,原告日本鋳鉄管は,直需分野における価格下落と間需分野における価格下落の違いは大きく,同一に評価できるものではなく,間需分野においては,基本的に受注調整は行われておらず,第二次販売業者段階からの価格競争に晒され,仕切価格を下回る価格で販売することが常時三割程度を占めるなど,販売競争や価格競争が行われていた旨主張する。
しかしながら,価格の下落の点については上記3(2)イに述べたとおりであり,また,間需分野における仕切価格を下回る価格での販売についても,上記イにおいて述べたとおり,一部の第二次販売業者間での客の奪い合いにより,基本配分シェアに基づいた販売ルートが崩れることを防ぐためのものであり,およそ原告らによる販売競争や価格競争といえるようなものではなかったと認められる(査12)。
(4) 以上のとおり,証拠に基づいて認定される本件カルテルを巡る上記事実関係に一般的ないし経済上の経験則を総合すれば,本件カルテルは「実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することにより対価に影響があるもの」と認めることができ,同認定を妨げる事情は認められない。
そして,本件審決も,それを一般的なシェア配分カルテルの性質というかどうかはともかく,上記と同様に本件カルテルを巡る事実関係から本件カルテルの仕組みを認定し,当該仕組みの下では,原告らは,自社に配分された受注予定数量(販売予定数量)に応じて供給量を調整し,販売予定数量の範囲内に自社の販売数量を制限しようとすることになり,本件市場全体への供給量が制限され,これにより対価に影響すると推認し,本件カルテルが実質的に商品等の「供給量を制限することにより対価に影響があるもの」であると結論付けたものであり,そこに不合理な点や経験則違背等があったとは認められないから,実質的証拠がない旨の原告らの主張は採用できない。
また,原告らは,供給量の制限の立証の程度について,現実に供給量が制限されたことを立証すべきであるなどと主張するところ,本件カルテルによる供給量の制限は,本件市場における原告らのダクタイル鋳鉄管直管の供給量が,本件カルテルの下では,自由競争下におけるよりも制限されていたというものであり,これを具体的な数字をもって確定することはできないけれども,上記認定した事実関係に照らせば,自由競争下におけるよりも供給量が制限されていたことは,これを認めることができる。
4 法令違反について
(1) 原告日本鋳鉄管及び原告栗本鐵工所は,本件審決の取消事由として法令違反を主張するところ,まず,独占禁止法7条の2第1項の解釈については,上記に述べたとおりであり,本件審決にその解釈の違反があるということはできない。
(2) 原告栗本鐵工所は,本件審決が,本件カルテルが供給量を制限するものであるとし,また,対価に影響があるとしたことや,間需分野と直需分野では販売形態や競争形態が異なるにもかかわらず,これらを一括して取り扱ったことが違法である旨主張するが,上記3に述べたとおりであり,原告栗本鐵工所の主張は採用することができない。
(3) また,原告日本鋳鉄管は,本件カルテルが独占禁止法7条の2第1項の「実質的に供給量を制限するもの」に該当するとの実質的な証拠がないにもかかわらず,同項を適用したことが法令違反である旨主張するが,実質的な証拠がないとはいえないことは,上記3に述べたとおりである。
(4) さらに,原告栗本鐵工所及び原告日本鋳鉄管は,審判段階において,審査官が,本件カルテルはシェア配分カルテルであり,およそシェア配分カルテルであれば論理必然的に供給量の制限に当たるとしていた主張を撤回し,本件カルテルについて,シェア配分カルテルであるとともに生産調整カルテルでもあるとの主張を追加変更したのに対し,審判官が,第13回審判期日において,同主張の追加を許さないとの審判指揮を行ったにもかかわらず,第14回準備書面で審有官が主張した主位的主張は,従前に撤回したシェア配分カルテルであれば論理必然的に供給量の制限に当たるとの主張の蒸し返しであり,予備的主張は,審判官から許されないとされた生産量調整の合意を合意という言葉を使わずに言い換えたにすぎず,そのような主張を許した審判指揮が違法であるなどと主張する。
しかしながら,審判手続において,従前の主張への変更が認められないわけではなく,予備的主張は,生産量調整の合意と同一とはいえない上,未だ争点整理段階での主張変更であり,原告らはその後も攻撃防御を尽くすことができたのであり,その防御権を不当に侵害するものではなく,禁反言の法理や信義則に反するとか,時期に後れた攻撃防御方法であるなどと認めることはできず,その他本件審決に取消事由となるべき法令の違反があると認めることはできない。
5 よって,本件審決には,原告らが主張するような違法はなく,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

平成23年10月28日

裁判長裁判官 下田文男
裁判官 綿引穣
裁判官 脇由紀
裁判官 門田友昌
裁判官 鈴木昭洋

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