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(株)タクマによる審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成22年(行ケ)第33号

判決

兵庫県尼崎市金楽寺町二丁目2番33号
原告 株式会社タクマ
代表者代表取締役 手島肇
訴訟代理人弁護士 寺上泰照
同 岩下圭一
同 佐藤水暁
同 森一生
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
代表者委員長 竹島一彦
指定代理人 田中久美子
同 島崎伸夫
同 秋沢陽子
同 藤原昌子
同 坪田法
同 小髙真侑
同 横手哲二

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告が,原告に対する公正取引委員会平成19年(判)第7号課徴金納付命令審判事件について平成22年11月10日付けでした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
第2 事案の概要等
1 本件は,指名競争入札等の方法により地方公共団体が発注するごみ焼却施設の新設,更新又は増設の工事に関し,原告が不当な取引制限をしたとして,被告が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づき,平成22年11月10日付けで原告に対してした,課徴金として47億0265万円を平成23年1月11日までに国庫に納付することを命じる審決(以下「本件審決」という。)について,原告が,その取消しを求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実及び被告が本件審決で認定した事実で原告が実質的な証拠の欠缺を主張していない事実)
(1) 本件審決に至る経緯
ア 被告は,原告が,日立造船株式会社(以下「日立造船」という。),JFEエンジニアリング株式会社(日本鋼管株式会社が平成15年4月1日付けで商号変更したもの。以下「日本鋼管」という。),三菱重工業株式会社(以下「三菱重工業」という。)及び川崎重工業株式会社(以下「川崎重工業」という。)の4社(以下,併せて「4社」という。)と共同して,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するごみ焼却施設の新設,更新又は増設の工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにすることにより,公共の利益に反して,上記工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであるとして,原告及び4社(以下,併せて「5社」という。)に対し,平成18年6月27日,審判審決にて排除措置を命じた(以下,この審判審決を「本案審決」という。)。
イ 原告は,東京高等裁判所に対し,本案審決の取消しを求める訴えを提起したが,同裁判所は,平成20年9月26日,原告の請求を棄却する旨の判決をした。原告は,これを不服として最高裁判所に上告及び上告受理申立てをしたが,同裁判所は,平成21年10月6日,上告棄却及び上告不受理の決定をした。
ウ 被告は,本案審決を前提として,平成19年3月23日,原告に対し,別紙課徴金算定対象物件一覧記載の各工事(以下,それぞれの工事は「工事名」欄記載の略称を使用して「東金市外三町清掃組合」工事などといい,全ての工事を総称して「本件各工事」という。)を課徴金算定対象工事として課徴金納付命令(以下「本件課徴金納付命令」という。)を発し,同年5月21日に本件課徴金納付命令に係る審判開始決定をした(これが本件審判である。)。
(2) ごみ焼却施設の概要とその建設の発注方法等
ア ごみは,家庭生活の営みに伴って排出される一般廃棄物と,事業者の事業活動に伴って排出される産業廃棄物とに区分されるところ,廃棄物の処理及び清掃に関する法律により,一般廃棄物は市町村が処理することになっている。このため,市町村は,その区域内で排出される一般廃棄物を処理するために単独で,又は他の市町村と共に,「一部事務組合」又は「広域連合」(いずれも地方自治法に定める地方公共団体の組合である。)を結成してごみ処理施設を整備しており,国は,市町村,一部事務組合及び広域連合(以下,併せて「地方公共団体」という。)が一般廃棄物を円滑かつ適正に処理するために行うごみ処理施設の整備事業について,補助金を交付している。
  なお,地方公共団体が整備するごみ処理施設は,ごみの処理方法により,①ごみ焼却施設,②ごみ燃料化施設,③粗大ごみ処理施設,④廃棄物再生利用施設及び⑤高速堆肥化施設に区分される。
イ ごみ焼却施設は,燃焼装置である焼却炉を中心に,ごみ供給装置,灰出し装置,排ガス処理装置等の焼却処理設備を配置し,ごみの焼却処理を行う施設であり,上記各設備に加えて,灰溶融設備や余熱利用設備が附帯して設置される場合がある。また,地方公共団体は,ごみ焼却施総を建設するに当たって,粗大ごみ処理施設又は廃棄物再生利用施設を併設することもある。
ごみ焼却施設は,1日当たりの稼働時間により,①24時間連続稼働する全連続燃焼式(以下「全連」という。),②16時間稼働する准連続燃焼式(以下「准連」という。)及び③8時間稼働するバッチ燃焼式に区分される。また,ごみ焼却施設は,採用される燃焼装置の燃焼方式により,①ストーカ式燃焼装置(ごみをストーカ(火格子)上で乾燥して焔燃焼させ,次に,おき燃焼させて灰にする装置をいう。)を採用する焼却施設(以下「ストーカ炉」という。),②流動床式燃焼装置を採用する焼却施設及び③ガス化溶融式燃焼施設がある。
ウ 地方公共団体は,全連又は准連のストーカ炉の新設,更新又は増設の工事(以下「ストーカ炉の建設工事」という。)を指名競争入札,一般競争入札,指名見積り合わせ又は特命随意契約(以下,併せて「指名競争入札等」という。)の方法により発注している。前記イのとおり,地方公共団体がごみ焼却施設建設に際して,粗大ごみ処理施設又は廃棄物再生利用施設を併設する場合には,当該地方公共団体は,これらの施設をごみ焼却施設と一体として一括発注することがある。
地方公共団体は,競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している者の中から指名競争入札の参加者を指名している。また,一般競争入札に当たっても,資格要件を定め,一般競争入札に参加しようとする者が当該資格要件を満たすかどうかを審査し,資格要件を有する者だけを一般競争入札の参加者としている。
(3) 5社の概要とその実績等
ア 5社は,ごみ焼却施設の建設等を行う事業者であり,プラントメーカーといわれている。
イ 平成6年度から平成10年度までの間におけるストーカ炉の建設工事のプラントメーカーとしては,5社のほかに,株式会社荏原製作所(以下「荏原製作所」という。),株式会社クボタ(以下「クボタ」という。),住友重機械工業株式会社(以下「住友重機械工業」という。),石川島播磨重工業株式会社(以下「石川島播磨重工業」という。),ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。)等が存在していた(以下,5社以外のこれらのプラントメーカーを「アウトサイダー」という。)。
ウ 5社は,ストーカ炉の建設工事の施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さから,ストーカ炉の建設工事について,プラントメーカーの中にあって「大手5社」と称されており,地方公共団体が実施するストーカ炉の建設工事の指名競争入札等において指名を受ける機会が多く,指名競争入札等に数多く参加していた。
平成6年度から平成10年度までの間に,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の総発注件数は87件(発注トン数[1日当たりのごみ処理能力トン数]23,529トン,発注金額約1兆1031億円)であり,このうち,5社のいずれかの者が受注した工事は66件である。
(4) 違反行為
5社は,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,以下の合意(以下「本件合意」という。)をしていた。
ア 地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,各社が受注希望の表明を行い,受注希望者が1社の工事については,その者を当該工事の受注予定者とする。
受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。
イ 5社の間で受注予定者を決定した工事について,5社以外の者が指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注することができるようにその5社以外の者に協力を求める。
ウ 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注することができるように協力する。
そして,5社は,本件合意の下に,後記(5)の方法で受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにしていた(以下,このような行為を「本件違反行為」という。)。
(5) 本件違反行為の実施方法
本件違反行為の実施方法は,以下のとおりである。
ア 5社は,平成6年4月以降,随時,5社の営業責任者クラスの者が集  まる会合で,地方公共団体が計画しているストーカ炉の建設工事について各社が把握している情報を,その1日当たりのごみ処理能力の規模別等に区分してリストを作成した上で,その情報を交換し,その情報を共通化するようにする。5社は,この情報交換により得られた情報を基に,受注希望表明の対象となる工事を「確定」する。
イ 5社は,随時,5社の営業責任者の会合で,ごみ処理能力の規模(大型,中型,小型等)により3種に区分された工事ごとに,各社が受注を希望する工事を表明する。各社が受注希望を表明した工事について,希望者が重複しなかった工事はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。
ウ 受注予定者は,各社の受注の均衡を念頭において決定される。この受注の均衡は,各社が受注する工事に係る施設のごみ処理能力トン数を目安とする。
エ アウトサイダーが入札に参加した場合,受注予定者は,自社が受注することができるよう協力を求め,その協力を得るようにする。
オ 受注予定者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも含めて各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注することができるように協力する。
(6) 競争の実質的制限
5社は,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間において,地方公共団体の発注するストーカ炉の建設工事の過半について,受注予定者を決定し,これを受注することにより,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
(7) 本件違反行為の終了
5社は,平成10年9月17日に被告が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,同日以降,5社の会合を開催しておらず,本件違反行為を行っていない。
3 本件審決の要旨
(1) 独占禁止法7条の2の「当該役務」の解釈
ア 独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品支は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合にあっては,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解するべきである。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象工事には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該個別の入札に係る工事は,「当該商品又は役務」に該当するものと認められる。
イ 証拠によると,①5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さから,プラントメーカーの中にあって「大手5社」と称されていること,②本件違反行為が実施された期間において地方公共団体が発注したストーカ炉の建設工事は87件(発注金額は1兆1031億円)であるところ,全ての入札について5社のうち大半のものが指名されて参加しており,このうち5社全体が入札に参加した工事は67件にも上ること,③5社は,随時,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合を開催し,当該会合で地方公共団体が計画するストーカ炉の建設工事の情報を共通化した上で,各社が受注する工事に係る施設のごみ処理能力トン数を目安に各社が均衡して受注することができるように発注トン数の規模別に受注予定者を決定していたこと,④5社の営業担当社員の中には,5社の受注状況を指数化して把握していた者もいたこと,及び⑤5社は,アウトサイダーが入札に参加した場合には,当該アウトサイダーに協力を求めるようにしていたことが認められる。
加えて,本件合意に参加し,本件合意の詳細を最もよく知り得る立場にある原告において,いまだに本件合意及び本件違反行為の存在を否定し,本件合意の詳細(とりわけ,合意の対象工事が「地方公共団体発注のストーカ炉の建設工事」であること以外に何らかの限定があったのか否かについて)を明らかにしないことをも総合考慮すると,本件合意は,地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認するほかない。
そうすると,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事で,かつ,5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事(本件各工事は,全てこれに該当する。)については,特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効果が個別の工事に及んでいたものと推認するのが相当である。
ウ この推認を覆すに足りる特段の事情があるというためには,この当時本件合意が存在していたにもかかわらず,何らかの事情があって個別の工事において受注予定者が決定されなかったこと,受注予定者が決定されたがこれが覆されたことなど,当該工事の入札実施前に本件合意の対象から除外されたことをうかがわせるに足りるだけの反証をする必要があるというべきである。
なお,この種の事件において,しばしば被審人の側から,個別の工事の入札参加者の中にアウトサイダーが存在したことを指摘し,「アウトサイダーとの間で価格競争があったから,当該入札に関しては基本合意の競争制限効果が及んでいない。」との趣旨の主張がされることがある。しかし,入札制度は,本来,全ての入札参加者が当該入札の条件に従って公正な競争を行うことを予定するものであり,入札参加者間における競争回避を内容とする合意の介入は一切許されていないのであるから,入札参加者全員の間で行われるべき競争が行われないこととなって,独立して意思決定を行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認められるべきものである。
そうすると,入札参加者にアウトサイダーが存在した場合においても,一部とはいえ同じく入札参加者である5社の間で本件合意が実施され受注予定者が決定されているのであれば,本件の具体的事情の下では競争制限効果は発生しているのであって,実際の入札において,上記受注予定者とアウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効果を消滅させるような影響はないと解するべきである。そうすると,上記のようなアウトサイダーとの間で価格競争があったとの主張は,本件特段の事情の主張としては,主張自体失当である。
(2) 本件各工事について,
本件各工事については,本件合意に基づき原告が5社間で受注予定者として決定され,受注したものであって,本件合意による競争制限効果が及んでいるものと推認されるところ,この推認を揺るがす特段の事情をうかがわせるに足りる事実の主張立証はないから,本件各工事は課徴金算定の対象となるものである。なお,本件各工事に関しては,上記一般原則論に加えて,以下のとおり,個別に上記推認を強める事実が存在するものである。
ア 「置賜広域行政事務組合」工事
「置賜広域行政事務組合」工事は,「(仮称)置賜広域行政事務組合清掃センターごみ処理施設建設工事」として,置賜広域行政事務組合が指名競争入札の方法により発注したごみ処理能力255トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成8年7月1日に入札が行われ,原告が128億8800万円で落札(落札率99.23パーセント)している(査1,2)。
川崎重工業のリスト(査3)の原告の略称を示す「T」とストーカ炉の略称を示す「S」によって表される「T-S」と記載された欄に「置賜市」「255」(「255」は,上記のごみ処理能力の数値と一致する。)との記載があること及び落札率が99.23パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
イ 「札幌市(第5清掃工場)」工事
「札幌市(第5清掃工場)」工事は,「(仮称)第5清掃工場建設工事(プラント工事)」として,札幌市が指名競争入札等の方法により発生したごみ処理能力900トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成9年4月22日に入札が行われ,原告が345億5000万円で落札(落札率96.62パーセント)している(査1,2)。
川崎重工業のリストの「T-S」と記載された欄に「札幌市」「900」(「900」は,上記のごみ処理能力の数値と一致する。)との記載があること及び日本鋼管提出に係る「札幌市ごみ焼却炉の件」と題する文書等(査33,34)におけるメモ書きの内容は,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものであ る。
ウ 「名古屋市(猪子石工場)」工事
「名古屋市(猪子石工場)」工事は,「名古屋市猪子石工場新築焼却設備工事」として,名古屋市が一般競争入札の方法により発注したごみ処理能力600トンの全連ストーカ炉の更新工事であり,平成9年5月20日に入札が行われ,原告が174億円で落札(落札率100パーセント)している(査1,2)。
川崎重工業のリストの「T-S」と記載された欄に,「名古屋市猪子」「600」(「600」は,上記のごみ処理能力の数値と一致する。)との記載があることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
(3) 以上によれば,本件各工事について,受注予定者が決定されることにより本件合意による競争制限効果が及んだことが認められるのであり,本件各工事は,いずれも独占禁止法7条の2第1項所定の「当該役務」に該当する。
(4) 課徴金の計算
本件各工事の売上額は,いずれも課徴金算定の対象となるところ,本件実行期間における原告の売上額を独占禁止法施行令6条の規定に基づき算定すると,本件各工事の契約により定められた対価の額を合計した783億7758万円となる。上記売上額を前提として独占禁止法7条の2第1項の規定により課徴金の額を算出すると,前記783億7758万円に100分の6を乗じて得られる額から,同条4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出される47億0265万円となる。
4 争点
(1) 本件各工事が,独占禁止法7条の2第1項の「当該役務」に当たり,課徴金算定の対象となるか。
(2) 本件審決に係る審判手続に取り消されるべき重大な違法があるか。
(3) 本件課徴金納付命令は,独占禁止法7条の2第6項に定める除斥期間を経過した後にされたものか。
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
ア 総論
(原告の主張)
(ア) 最高裁判所によっても是認され確定している土屋企業株式会社による審決取消請求事件に関する東京高等裁判所平成16年2月20日第3特別部判決(公正取引委員会審決集第50巻708頁以下)が判示するとおり,独占禁止法7条の2第1項における「『当該商品又は役務』とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指し,本件のような受注調整にあっては,当該事業者が,基本合意に基づいて受注予定者として決定され,受注するなど,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解するべきである。そして,課徴金には当該事業者の不当な取引制限を防止するための制裁的要素があることを考慮すると,当該事業者が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果競争制限効果が発生したことを要する。」と解するのが相当である。すなわち,上記東京高等裁判所判決は,全ての課徴金事件に共通する課徴金の金銭的不利益という「制裁的要素」を考慮して,「当該事業者が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果」として「競争制限効果が発生したこと」を「当該役務」該当性の要件としているのであり,具体的に不利益な制裁を課す上でのバランスを考慮して一種の絞りをかけた判断を示してのるのである。
(イ) そうすると,「受注予定者が決定された際の具体的経緯」の立証が問題になるのであり,およそ基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが何らかの方法で認められれば足りるという本件審決の判示は,全ての課徴金事件に共通する要素を考慮して必要な要件を課した上記の司法の判断を意図的に無視するものであり,明白な判例違反である。
それどころか,本件審決の判示は,「個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象工事には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該個別の入札に係る工事は,『当該商品又は役務』に該当するものと認められる」と断定的に判示しているが,結局のところは,基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが何らかの方法で推察されれば足りるというレベルにまで要件を緩和して判断を下しており,このような推認と称するもの自体,到底合理的な証拠に基づく推認とはいえず,所詮憶測の域を出るものではない。
(ウ) このような推認が許されるとしたら,結局,入札談合案件の課徴金審判において,対象となる全ての個別物件について落札者が直接又は間接に受注調整に関与したと推定される結果となり,結果的に被審人側は,対象物件全てについて受注調整への不関与という不存在事実の証明(いわゆる悪魔の証明)を強いられることになる。
  これでは,課徴金審判において,審査官が個別物件に関する具体的な受注調整事実を主張立証した場合にのみ,被審人側はそれを取っ掛かりにして反証の可能性を有するにすぎないことになり,そうでない場合には,反証が不可能であり,本案審判で全て決まってしまい,独占禁止法改正前後を問わず,独自に課徴金審判制度を置き,そこで係争させること自体が全く無意味なものとなってしまう。
(エ) 被告の主張する5社の施工実績の多さ等や5社の入札参加実績などという事実は,あくまでも事後の結果にすぎない事実であり,社会通念上,5社の競争力の強さを推認する間接事実にはなり得ても,「本件合意は,地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認するほかない」と認める間接事実には到底なり得ないものである。また,受注状況を指数化して把握する者がいたとしても,その指数は,各工事について,どのような時点で加算等がされることになっていたのかが明らかではなく,具体的な受注希望表明に際して,どのような方法でどの程度考慮されていたのかも明らかではない。さらに,アウトサイダーに協力を求めるようにしていたことも,全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったということに直ちに結び付くものではなく,その推認の根拠となる間接事実にはなり得ないものである。しかも,被告の主張は,審判手続において違反行為に関する主張立証責任が被告にあることを全く無視し,実質的に原告に主張立証責任を転換するだけでなく,憲法31条の保障する原告の適正手続に関する権利をも否定するものである。
(オ) 我が国の判例・通説は,独占禁止法2条6項の「競争の実質的制限」について,競争が減少して特定の当事者がその意思である程度自由に,価格その他各般の条件を左右することによって「市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」と解釈してきたのであり,本件のような受注調整事件における多数の個々の入札が集積した市場においては,個々の入札にそのような支配力を及ぼすことができる基本合意を違反行為としてとらえて排除措置の対象としてきたのである。ところが,本件審決は,その「独立して意思決定を行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認められるべきものである」との判示から明らかなとおり,個々の入札における参加者の一部で競争回避を内容とする合意をしていれば「競争制限効果が認められるべき」とするものであって,上記の合意当事者の「市場支配力」という重要な要件を全く無視し,「市場支配力」の認定なくして「競争の実質的制限」を認める判断をしているのである。このような判断は,我が国の独占禁止法が不当な取引制限(2条6項)の成立要件として規定する「競争の実質的制限」と不公正な取引方法(2条9項)の成立要件として規定する競争制限には至らない「競争の減殺」で足りる「公正競争阻害性」という2つの重要な違反行為の成立要件の区別を極めて曖昧にするものであり,到底容認できない明らかな判例違反である。前者は刑事処罰の対象にもなる(独占禁止法89条)のであり,罪刑法定主義の要請からも,両者の区別を曖昧にすることは絶対に許されない。
本件各工事の入札は,指名競争入札又は一般競争入札であり,このような入札制度においては,入札参加者は入札価格という1点のみにおいて他の入札参加者と争うのであるから,受注予定者とアウトサイダーとの間で価格競争が存在していれば,5社の市場支配力など認めることはできず,したがって,競争の実質的制限が生じているということもできない。
(被告の主張)
(ア) 独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の「当該商品又は役務」とは,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきである。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象工事には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該入札に係る工事は,「当該商品又は役務」に該当するものと認められる。
また,「当該役務」該当性の判断において,「個別の工事において受注調整が実施され,その結果,受注予定者が決定されたこと」を立証する方法は種々存在するのであって,個別の工事ごとに受注予定者が決定された際の具体的な経緯まで証拠でもって明らかにしなければ「当該役務」に該当すると認定することができないと解するべき理由はなく,不当な取引制限に該当する意思の連絡により相互拘束(本件においては本件合意)の存在が認められる場合に,この事実と他の証拠とを総合して,個別の工事において受注予定者が決定されたことを推認することは,事実認定の手法として,当然に許容されるものである。
そして,自社が入札に参加して受注した工事について,本件合意の対象か否か,又は本件合意の対象から除外されたか否かを最もよく把握しているのは原告であるから,原告は,審査官が個別物件に関する具体的な受注調整事実を主張立証したか否かにかかわらず,十分に反証することが可能であって,原告に特段の事情をうかがわせるに足りるだけの反証を行わせることが不可能を強いるものとはいえない。また,被告は,証拠によって認められる事実から合理的に推認することによって,本件各工事に本件合意の競争制限効果が及んでいると主張しているのであって,主張立証責任を転換しているものではない。
また,そもそも本件審決は,「競争の実質的制限」の有無について判断したものではない。そして,入札制度は,本来,全ての入札参加者が当該入札の条件に従って公正な競争を行うことを予定するものであり,入札参加者間における競争回避を内容とする合意の介入は一切許されていないのであるから,入札参加者全員の間で行われるべき競争が行われないこととなって,独立して意思決定を行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認められるべきものである。そうすると,入札参加者にアウトサイダーが存在した場合においても,一部とはいえ同じく入札参加者である5社の間で本件合意が実施され受注予定者が決定されているのであれば,本件の具体的事情の下では競争制限効果は発生しているのであって,実際の入札において,上記受注予定者とアウトサイダーが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効果を消滅させるような影響はないと解するべきである。
(イ) 5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さから,プラントメーカーの中にあって大手5社と称されていること,本件違反行為が実施された期間において地方公共団体が発注したスト一カ炉の建設工事は87件(発注金額は1兆1031億円)であるところ,全ての入札について5社のうち大半のものが指名されて参加しており,このうち5社全社が入札に参加した工事は67件にも上ること,5社は,随時,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合を開催し,当該会合で地方公共団体が計画するストーカ炉の建設工事の情報を共通化した上で,各社が受注する工事に係る施設のごみ処理能力トン数の規模別に受注予定者を決定していたこと,5社の営業担当社員の中には,5社の受注状況を指数化して把握していた者もいたこと,5社は,アウトサイダーが入札に参加した場合には,当該アウトサイダーに協力を求めるようにしていたことが認められ,これらに加えて,本件合意に参加し,本件合意の詳細を最もよく知り得る立場にある原告において,いまだ本件合意及び本件違反行為の存在を否定し,本件合意の詳細を明らかにしないことをも総合考慮すると,本件合意は,地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認するほかない。そうすると,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事で,かつ,5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事(本件各工事は,全てこれに該当する。)については,特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効果が個別の工事に及んでいたものと推認するのが相当である。この推認を覆すに足りる特段の事情があるというためには,この当時本件合意が存在していたにもかかわらず,何らかの事情があって個別の工事において受注予定者が決定されなかったこと,受注予定者が決定されたがこれが覆されたことなど,当該工事の入札実施前に本件合意の対象から除外されたことをうかがわせるに足りるだけの反証をする必要がある。
イ 「東金市外三町清掃組合」工事及び「小野市・社町・東条町」工事について
(原告の主張)
原告が受注した「東金市外三町清掃組合」工事及び「小野市・社町・東条町」工事の2件は,本案審決において,具体的証拠から受注調整が推認されると摘示された30件にも含まれておらず,そもそも受注調整を推認させる具体的証拠が存在しない。
(被告の主張)
本件各工事については,特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効果が個別の工事に及んでいたものと推認されるところ,これは証拠によって認められる事実から合理的に推認されたものである。
ウ 「置賜広域行政事務組合」工事及び「名古屋市(猪子石工場)」工事について
(原告の主張)
「置賜広域行政事務組合」工事及び「名古屋市(猪子石工場)」工事については,アウトサイダーが入札に参加しており,受注調整が推認されるとはいえない。
(被告の主張)
入札参加者の一部の者の間であっても本件合意が実施されているのであれば,競争制限効果は発生するのであり,アウトサイダーが入札に参加したという事実だけでは5社間で受注予定者を決定することの障害となるものではないし,本件合意においては,アウトサイダーが存在する場合にはその協力を求めることが合意されていたのであって,本件合意はそもそもアウトサイダーの存在を前提としたものであったと推認されるから,個別の取引についてアウトサイダーが存在したことだけでは,特段の事情には当たり得ないというべきである。
エ 「札幌市(第5清掃工場)」工事について
(原告の主張)
「札幌市(第5清掃工場)」工事に関する査第33号証及び査第34号証のうち,査第33号証は,「日本鋼管環境第一営業部第一営業室長林有三が所持していた平成9年12月22日付けの社内資料」とされており,かつ,同文書には「A次長が札幌市B市議に12/16挨拶し,協力依頼を行った件についてヒアリング」という記載があるところ,「札幌市(第5清掃工場)」工事の入札が行われたのは平成9年4月22日であるから,既に入札が終了して原告が落札受注している同工事について,日本鋼管が札幌市議会議員に受注の協力依頼をすることはあり得ず,「札幌市ごみ焼却炉の件」と題する査第33号証の文書は,「札幌市(第5清掃工場)」工事に関して記載したものでないことが明白である。
また,査第33号証及び査第34号証は,文書の体裁からは,日本鋼管の次長クラスの者が札幌市の市議会議員と面談したときの内容をメモしたものと推測できるところ,「Tは市役所の幹部を引き取ったり,献金していないのか調べてほしい」,「もっと,市当局への表の営業をやってほしい。2回/月位は顔出すこと。」,「市当局のキーマンはやっぱりC助役か」等の記載内容及び文書全体の文脈からすると,札幌市主導で何らかのごみ焼却炉建設工事を日本鋼管に受注させようと画策していたことがうかがわれるものとなっており,少なくとも,これらの文書は,日本鋼管が何らかのごみ焼却炉建設工事の受注を目的として札幌市議会議員に接触していたこと及び札幌市が何らかのごみ焼却炉建設工事を日本鋼管に落札させるように画策していたことをうかがわせるものではあっても,5社が基本合意に基づいて原告を「札幌市(第5清掃工場)」工事の受注予定者に決定していた事実を示すものではない。むしろ,日本鋼管の次長クラスの者が札幌市議会議員と接触して何らかのごみ焼却炉建設工事を受注できるように依頼していたという事実は,5社の間であらかじめごみ焼却炉建設工事の受注予定者を決めていたという事実とは明らかに矛盾するものであり,したがって,査第33号証及び査第34号証の記載をもって「札幌市(第5清掃工場)」工事について「本件合意に基づき被審人が受注予定者として決定されたとの推測を裏付けるものである」などとは到底いえない。
(被告の主張)
査第33号証は,本案審決で認定されているとおり,日本鋼管の担当者が,日本鋼管の協力会社の担当者から,その当時,札幌市の市議会議員に協力依頼をした経過についてヒアリングした内容をメモしたものとみられるが,これによれば,同市議会議員から,「第5清掃工場の時に,…(略)…いつの間にか(メーカー通しの話しで)タクマに決まっていた。今回途中で降りることはないネ」との発言があった旨記載されており,査第34号証にも,同市議会議員への依頼の際に「(第5のとき)…(略)…『NK頑張れと言っていたのにもかかわらず,メーカーどうしの話しでTに決まった』」との記載があって,これらの書面の記載によれば,同市議会議員は,「札幌市(第5清掃工場)」工事について,原告が受注予定者に決められていたものとの認識を有していたものと推認されるのである。
よって,査第33号証及び査第34号証は,「札幌市(第5清掃工場)」工事について5社間で受注予定者を決めるなどしていたのではないかということをうかがわせる事情が記載された日本鋼管の社内資料が存在することを意味し,このことは,同工事について,本件合意に基づいて原告が5社間で受注予定者として決定され,受注したものであるとの推認を強めるものというべきである。
(2) 争点(2)について
(原告の主張)
ア 被告の本件審判手続においては,被審人である原告に防御の機会を与えるという適正手続の保障(憲法31条)を怠り,被審人である原告の反証を手続上も不可能にした違法がある。
すなわち,原告が受注した本件各工事のうち,「置賜広城行政事務組合」工事,「札幌市(第5清掃工場)」工事及び「名古屋市(猪子石工場)」工事の3件については,いずれも川崎重工業のリスト(査第3号証)の記載が受注予定者を決定したと推認する根拠とされているところ,審査官は,査第3号証の信用性等を裏付ける根拠として同査号証の所持者であった川崎重工業の溝口行雄の供述調書及び審訊調書の一部(査第37ないし査第48号証。以下「本件溝口調書」という。)を作成後10年もの間一切証拠提出することなく手許に留め置きながら(したがって,本案審判に係る手続でも全く証拠提出されていない。),突如として本件審判手続において証拠申出してきたのである。そのため,被審人である原告らは,それらの証拠採用に反対したが,審判官が証拠採用したために,溝口行雄の供述調書及び審訊調書の一部が恣意的に提出されている可能性等があるなどの理由によって,防御権の正当な行使として,審査官が保有している「査第3号証に関する溝口行雄の供述調書及び審訊調書のうち,査第37ないし査第48号証を除く10通」(以下「未提出溝口調書」という。)等の文書提出命令を申し立てたが,審判官は,これを採用しないとの決定(以下「本件不採用決定」という。)をし,原告らの異議申立てについても,被告は,これを却下した。
イ しかし,原告が上記文書提出命令の申立てを行わざるを得なくなったのは,審査官が,本案審判において本件溝口調書を提出せず手許に隠蔽しておきながら,本件課徴金審判において,作成時から約10年が経過した時点で突然証拠として申し出たためであり,それらは平成10年又は11年に作成された合計22通の溝口氏の供述調書及び審訊調書の一部であり,既に各調書の作成から10年以上が経過しており,原告が本件溝口調書の証拠能力や信用性等について独自に調査を行うことは著しく困難になっていたのである。したがって,原告の防御のためには,本件溝口調書が一切採用されないか,あるいは,少なくとも関連する未提出溝口調書等の開示がされる必要があったのである。それにもかかわらず,被告は,審判官のした本件不採用決定を,本件溝口調書の立証趣旨は供述の状況であって供述内容の証明力は問題にならないから,当該文書提出命令申立てには必要性も相当性もないなどとして追認したのであり,これは,憲法31条及び独占禁止法52条1項が規定する原告の防御権を侵害するものであって,手続的正義に反する違憲・違法なものといわざるを得ない。
ウ また,証拠提出された本件溝口調書には,本案審判において提出されていなかったリストが添付されており(例えば,査第42号証に添付された「営業活動状況報告(H10年8月度)」),審査官が本案審判及び本件審判において提出したリスト以外にも,いわゆる物件リストが存任することが判明したのであり,本案審判及び本件審判における審査官の主張が,恣意的に選択したリストに記載された物件との比較により,審査官が主張する事実のみを立証した可能性を推認させ,査第42号証に添付されたリストだけでも審査官の主張が恣意的なものであることを十分にうかがわせるのである。また,比較の基礎となるリストが異なれば,審査官の主張は破綻するのであって,原告の防御権の行使のためには,審査官が所持している全てのリスト(審査官がプラントメーカーから留置したリストであり,プラントメーカーが作成ないし取得したとされるストーカ炉の建設工事の発注予定,受注結果,又は発注予定及び受注結果が記載されたリスト)が開示される必要があることは明らかであったのであり,被告及び審判官の上記決定の違憲・違法性をより一層裏付けるものであったのである。
エ 本件不採用決定は,「審査官に対し,その所持する文書等について,証拠申出に関する審査官の判断権(独占禁止法第51条の3)を制約するような提出命令を発することが相当性を有するのは,それ相応の具体的必要性が認められる場合に限られるものと解される。」と判示している。
しかし,このような「審査官の判断権」なるものを尊重すべきとの要件は,法令上も,また,審判規則上も規定されていない要件であり,被審人の防御権を不当に制約するものであって,違憲・違法であるといわざるを得ない。すなわち,上記不採用決定が引用する独占禁止法51条の3は,「第46条第2項[審査官の指定]の規定により指定された審査官は,審判に立ち会い,証拠の申出その他必要な行為をすることができる。」としか規定しておらず,「審査官の判断権」なるものは一切規定されていない。そもそも,同法51条の3の趣旨については,一般に,「審判における審査官の任務について,昭和28年の改正の際,それまで審査審判規則によっていたものを法定化したものである。本条は,前条とあいまって,審判が訴追機能を分担する審査官とこれを防御する被審人とが相対立し,当事者主義により進行する形態が確立したといえる。」と説明されているにとどまる。このように,同条は,同法46条2項の規定により指定された審査官について審判への立会等を認めることで審判手続における当事者主義を実現するための規定であって,同法51条の3の規定があることをもって証拠申出に関する審査官の判断権を広範に認めたものとはいえないのである。被告には,事件について必要な調査をするため,事件関係人又は参考人に出頭を命じて審尋し,又はこれらの者から意見若しくは報告を徴する等の処分をする権限が認められ(同法46条等),これに応じない者には刑事罰が科される旨が規定されているが(同法94条等),これらの強制的権限は,審査官が収集した証拠に基づき,客観的真実に基づく適正な命令を発するため(すなわち客観的な真実を発見するため)に被告に与えられたものにほかならない。そうである以上,審判手続において,原告が,被告が真実発見のために収集した証拠について真実発見に役立つとして提出を求めている場合には,審判の遅延目的等の不当な目的であるといった特段の事情でもない限り,当然提出を命じて事実認定の基礎としなければならないのであって,逆に,「審査官の判断権」なるものを持ち出して,原告の文書提出命令申立てを採用せずに認定から排斥する合理的な根拠又は理由など,法律上全く見出し得ない。
オ 他方,仮に,「審査官の判断権」なるものが存在するとしても,文書提出命令の制度が存在する以上,その要件を満たせば,「審査官の判断権」を制約するか否かについて考慮されるまでもなく,文書提出命令が発せられなければならないことは当然であって,文書提出命令の要件を満たすか否かの判断に当たっては,原告の防御権を不当に制約することにならないこと,並びに具体的必要性及び相当性のみが考慮されるべきである。そして,本件審決の認定内容(基本合意からの推認)を前提にすれば,原告は,全ての本件対象物件について受注調整の不存在又は不関与という不存在事実の証明(悪魔の証明)を強いられているのであるから,本件不採用決定は,被審人である原告の防御権を不当に侵害するものである。
(被告の主張)
ア 本件審決に係る審判手続において審判官が本件溝口調書を採用した点については,被告の行う審判手続は刑事の訴訟手続とは性格を異にし,証拠法則に関して同訴訟手続におけるのと同様の厳格な手続的規制はされていないから,当事者が申出をした証拠は,当該事件に関連し,かつ,明白な違法ないし不当性が認められない限り,原則として採用されてしかるべきものと解されるところ,本件溝口調書の立証趣旨は,溝口行雄が査第3号証等についての審査官の質問に対し不自然,不合理な供述,供述の回避又は供述の変更をしていたこと等であるから,本件審決に係る事件に関連するものであることは明らかである上に,本件溝口調書は原告が査第3号証の証明力を争ったことを受けて,それに反ばくするために提出されたものであることからすれば,審判官が本件溝口調書を採用したことに明白な違法性ないし不当性は認められないというべきである。
イ 審判官が原告の文書提出命令の申立てを却下した点についても,被告の行う審判手続においてされた文書提出命令の申立ては,被審人の防御権を不当に制約することにならない限り,事件の内容,提出命令申立ての目的,被審人の提出を求める文書の性質及び所持者,証すべき事実,審判の経過等諸般の状況にかんがみ,その具体的必要性及び相当性を勘案して,申立ての採否を決することができるものと解されるところ,本件溝口調書は査第3号証等に関する溝口行雄の供述の状況を立証しようとするものであって,その供述内容に沿う事実の存在そのものを立証しようとするものでは,ないから,その供述内容の証明力等が問題になるものではないことに鑑みれば,原告において本件溝口調書についての証拠評価をするために上記文書提出命令申立てに係る未提出溝口調書等の開示を受けることが必要であると認めることはできず,本件不採用決定が違法であるとは認められないというべきである。
(3) 争点(3)について
(原告の主張)
独占禁止法7条の2第6項は,「当該行為についての審判手続が開始された場合にあっては,当該審判手続が終了した日から1年を経過したとき(中略)は,公正取引委員会は,当該違反行為に係る課徴金の納付を命ずることができない」と定めているところ,ここに「審判手続が終了した日」とは「審理を終結した日」と解するのが正当である。そうすると,本件課徴金納付命令は,平成19年3月23日に発令されているが,当該違反行為についての審判手続である本案審判の審理は平成17年7月27日に終結しているから,上記の除斥期間を経過した後に発令された違法な命令である。
(被告の主張)
独占禁止法48条の2第1項ただし書は,課徴金の納付について,「当該違反行為について審判手続が開始された場合には,審判手続が終了した後でなければ命ずることができない」と定め,他方,同法7条の2第6項は,「当該審判手続が終了した日から1年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずることはできないと定めている。同法がこのような除斥期間の規定を設けた趣旨は,適正迅速な行政事務の遂行を確保するとともに,排除措置命令に不服のある被審人の利益にも配慮し,当該排除措置命令について審判が開始された場合には,同命令に係る違反事実の存否についての被告の判断が示されるまでは,課徴金の納付を命ずることができないこととし,その一方で,いったん被告の判断が示されたときには,速やかに課徴金の納付を命ずることとして,これを被告に義務付け,これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにある。そうすると,上記被告の判断は審決の形式をもって示されるのであるから,独占禁止法48条の2第1項ただし書及び7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは,被告の終局判断である審決がされた時点を指すと解するのが相当である。そもそも,独占禁止法には,「審判手続」に審決が含まれることを前提とした規定もあるのであり(同法51条の2),法文上,「審判手続」に審決が含まれないことが明らかというわけでもない。
本件において,本案審決は平成18年6月27日に行われており,本件課徴金納付命令は平成19年3月23日にされているのであるから,同命令は当該審判手続が終了した日から1年を経過する前に発せられたものであり,除斥期間を経過していない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 独占禁止法7条の2第1項について
ア 独占禁止法7条の2第1項は,事業者が不当な取引制限で商品又は役務の対価に係るものをしたときは,公正取引委員会は,所定の手続に従い,当該事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動が行われた期間における当該役務の政令で定める方法により算定した売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。そして,同項にいう「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合には,自由な競争を行わないという,不当な取引制限に該当する意思の連絡による相互拘束たる基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において,当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定されて受注するなど,基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきである。
イ そして,5社の概要とその実績,本件合意の内容,本件違反行為の実施方法など前記前提事実に照らせば,本件合意は,地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認されるというべきであるから,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事であり,かつ,5社のうちいずれかが入札に参加した工事については,特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した競争制限効果が個別の工事の入札に及んでいたものと推認するのが相当である。すなわち,仮に,個別の入札について,当該事業者が受注予定者として決定されるに至った具体的経緯まで証拠によって認定することができないとしても,当該入札の対象となった役務又は商品が本件合意の対象の範囲内のものであって,これにつき受注調整が行われたこと及び事業者である原告が受注したことが認められれば,特段の反証がない限り,原告が直接又は間接に関与した受注制限手続の結果,競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。
この点に関し,原告は,そのような推認が許されるとすれば,入札談合案件の課徴金審判において,対象となる全ての個別物件について落札者が直接又は間接に受注調整に掲与したと推定されることになり,結果的に,被審人側は,対象物件全てについて受注調整への不関与という不存在事実の証明(悪魔の証明)を強いられることになると主張する。しかしながら,自社が入札に参加して受注した工事について,それが本件合意の対象となるものであったか否か,また,本件合意の対象から除外されたか否かについて,その事実関係を最もよく把握しているのは原告であるから,原告は,当該入札については本件合意の対象から除外されたという事実等を具体的に主張立証して十分に反証をすることが可能であって,それは不存在事実の証明を強いるものではないというべきである。
ウ また,5社の概要とその実績,本件合意の内容,本件違反行為の実施方法などの前記前提事実に照らせば,入札手続にアウトサイダーが参加している場合であっても,そのことのみによって直ちに基本合意による競争制限効果が失われるということはできず,具体的な入札行動等に照らし,基本合意による競争制限効果が失われ,実質的な競争が行われたと認められるか否かを判断すべきである。
(2) 「置賜広域行政事務組合」工事について
ア 「置賜広域行政事務組合」工事は,「(仮称)置賜広域行政事務組合清掃センターごみ処理施設建設工事」として,置賜広城行政事務組合が指名競争入札の方法により発注したごみ処理能力255トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成8年7月1日に入札が行われ,原告が128億8800万円で落札(落札率99,23パーセント)している(査1,2)。
イ 本件審決は,前記前提事実に加えて,本件合意に参加し,本件合意の詳細を最もよく知り得る立場にある原告において,いまだに本件合意及び本件違反行為の存在を否定し,本件合意の詳細(とりわけ,合意の対象工事が「地方公共団体発注のストーカ炉の建設工事」であること以外に何らかの限定があったのか否かについて)を明らかにしないことをも総合考慮すると,本件合意は,地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認するほかなく,特段の事情がない限り,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事で,かつ,5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事(本件各工事は,全てこれに該当する。)については,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効果が個別の工事に及んでいたものと推認するのが相当であり,この推認を覆すには,この当時本件合意が存在していたにもかかわらず,何らかの事情があって個別の工事において受注予定者が決定されなかったこと,受注予定者が決定されたがこれが覆されたこと,当該工事の入札実施前に本件合意の対象から除外されたことなど,特段の事情の存在を立証する必要があるところ,上記特段の事情は認められないものとして,「置賜広域行政事務組合」工事は,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意による競争制限効果が発生していたものとしている。
さらに,本件審決は,川崎重工業のリスト(査3)の原告の略称を示す「T」とストーカ炉の略称を示す「S」によって表される「T-S」と記載された欄に「置賜市」「255」(「255」は,上記のごみ処理能力の数値と一致する。)との記載があること及び落札率が99.23パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものであるとしている。
ウ 原告は,「置賜広域行政事務組合」工事については,そもそも受注調整を推認させる具体的証拠が存在せず,また,アウトサイダーが入札に参加しており,受注調整が推認されるとはいえないと主張する。
エ しかし,前記前提事実のとおり,平成6年4月以降,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合で,ストーカ炉の建設工事について受注調整が行われていたこと,出席者は,発注が予定される物件については,事前に各自が情報を把握した上,その情報を共通化していたこと,受注予定者の決定方法は,発注が予定される物件について,そのごみ処理能力の規模別に,各出席者が受注を希望する工事を表明し,受注希望者が1社の場合は当該希望者が受注予定者となり,受注希望者が2社以上の場合は,希望者同士が話し合って受注予定者を決定していたこと,受注予定者は,各社の受注の均衡を念頭に決定されていたこと,受注予定者に決定された者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも含めて各社に連絡して協力を求め,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう5社が協力していたこと,また,アウトサイダーが5社と共に指名を受けて入札に参加した場合には,受注予定者がアウトサイダーに協力を求めていたことなどの事案が認められるものである。
オ さらに,平成6年11月から川崎重工業の環境装置第1営業部に所属してごみ処理施設関係工事の営業に従事していた溝口行雄が平成7年9月28日ころ作成した文書と認められる「年度別受注予想」と題する文書(査第3号証)には,それぞれ川崎重工業,三菱重工業,日立造船,日本鋼管,原告を示す「K」,「M」,「H」,「N」,「T」とストーカ炉を示す「S」を組み合せたものと認められる「K-S」,「M-S」,「H-S」,「N-S」,「T-S」と記載した各欄ごとに,年度別に工事名及び処理能力のトン数が割り付けられて記載されていることが認められるところ,その平成8年度分として記載された合計15件の工事のうち,10件が同年度末までに,また,2件が翌平成9年度中に実際に発注され,この発注された合計12件の工事については,アウトサイダーであるクボタが落札した2件を除く10件において,いずれも上記「年度別受注予想」において割り付けられた事業者が落札していることが認められる(査第2号証)。
カ そして,5社による受注予定者決定の対象となるストーカ炉建設工事について,何らかの限定がされていたことをうかがわせる証拠はないし,また,アウトサイダーが落札したことはあるものの,5社の中で受注予定者以外の事業者が落札したことはない。
キ 以上の事実を総合すると,「置賜広域行政事務組合」工事が落札された際,本件合意は,地方公共団体が発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認するのが相当であって,この認定を左右するに足りる実質的証拠はなく,「置賜広域行政事務組合」工事は,本件合意に基づく受注調整の対象の範囲に含まれるものと認められる。そうすると,「置賜広域行政事務組合」工事は,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定されたものであり,本件合意による競争制限効果が及んでいたとする本件審決の事実認定は,合理的なものであり,実質的証拠に基づくものと認められる。
ク ところで,査第2号証によれば,「置賜広域行政事務組合」工事の入札には,5社のほか,アウトサイダーである荏原製作所が指名競争入札に参加していたことが認められる。
しかし,前記前提事実のとおり,5社においては,本件合意により受注予定者として決定された事業者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも定めて各社に連絡し,受注予定者以外の事業者は,受注予定者から連絡を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注することができるように協力するものとされていたことが認められ,「置賜広域行政事務組合」工事について,これと異なる方法が採られたことを認めるに足りる実質的証拠はないから,同工事についても,上記の方法により,原告が入札価格を128億8800万円と決定して入札したものと認められる。その上,査第2号証によれば,次順位の入札者である三菱重工業の入札価格は129億8000万円であり,第3順位の入札者である日立造船の入札価格は134億2700万円であり,第4順位の入札者である川崎重工業の入札価格は134億9000万円であるところ,アウトサイダーである荏原製作所の入札価格はこれらよりも高い137億円であったこと,また,入札予定価格は129億8800万円であって,原告による落札率が99.23パーセントであることが認められるのであり,これらの事実を考慮すれば,アウトサイダーとの間で競争が行われたことによって入札価格が低下したとはうかがわれないのであって,「置賜広域行政事務組合」工事の入札において,本件合意による競争制限効果がアウトサイダーの参加により失われたものとは認められない。
(3) 「名古屋市(猪子石工場)」工事
ア 「名古屋市(猪子石工場)」工事は,「名古屋市猪子石工場新築焼却設備工事」として,名古屋市が一般競争入札の方法により発注した処理能力600トンの全連ストーカ炉の更新工事であり,平成9年5月20日に入札が行われ,3回実施された入札の結果いずれも原告が最も低い金額の入礼者であったが,入札額が予定価格を上回っていたため,随意契約により,原告が174億円で受注(予定価格と同額)している(査1,2)。
イ 本件審決は,本件合意の前記内容から,「名古屋市(猪子石工場)」工事について,本件合意による競争制限効果が及んでいたと推認し,査第3号証の記載からもこれが裏付けられ,これを覆すに足りる特段の事情は認められないとする。
ウ これに対し,原告は,「名古屋市(猪子石工場)」工事については,そもそも受注調整を推認させる具体的証拠が存在せず,また,アウトサイダーが入札に参加しており,受注調整が推認されるとはいえないと主張する。
エ しかし,本件合意が,地方公共団体の発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なものであり,実質的証拠に基づくものと認められることは前記のとおりである。しかも,査第3号証には,「T-S」と記載された欄に,「名古屋市猪子」「600」(「600」は,上記のごみ処理能力の数値と一致する。)との記載があるところ,これによれば,「名古屋市(猪子石工場)」工事が5社による受注調整の対象とされ,原告が受注予定者と決定されたことがうかがわれるのであって,査第3号証は,そのことを裏付ける実質的証拠ということができる。
オ ところで,査第2号証によれば,「名古屋市(猪子石工場)」工事の入札には,5社のほか,アウトサイダーであるクボタが指名競争入札に参加していたことが認められる。
しかし,前記前提事実のとおり,5社においては,本件合意により受注予定者として決定された事業者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも定めて各社に連絡し,受注予定者以外の事業者は,受注予定者から連絡を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注することができるように協力するものとされていたことが認められ,「名古屋市(猪子石工揚)」工事について,これと異なる方法が採られたことを認めるに足りる実質的証拠はないから,同工事についても,上記の方法により,原告が入札価格を決定して入札したものと認められる。その上,査第2号証によれば,第3回目の入札における原告の入札価格は175億円であるところ,次順位の入札者である川崎重工業の入札価格は177億5000万円であり,第3順位の入札者である日立造船の入札価格は178億円,第4順位の入札者である三菱重工業の入札価格は178億5000万円であり,アウトサイダーであるクボタの入札価格は178億7000万であって入札予定価格である174億円を上回っており,5社中の原告,川崎重工業,日立造船及び三菱重工業の各入札価格をも上回っていたことが認められ,さらに,原告以外の事業者は第4回目の入札を辞退するという経過をたどって,原告が随意契約により予定価格と同額の174億円で受注したことが認められるのであって,これらの事実を考慮すれば,アウトサイダーとの間で競争が行われたことによって入札価格が低下したとはうかがわれないのであって,「名古屋市(猪子石工場)」工事の入札において,本件合意による競争制限効果がアウトサイダーの参加により失われたものとは認められない。
(4) 「札幌市(第5清掃工場)」工事について
ア 「札幌市(第5清掃工場)」工事は,「(仮称)第5清掃工場建設工事(プラント工事)」として,札幌市が指名競争入札等の方法により発注したごみ処理能力900トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成9年4月22日に入札が行われ,原告が345億5000万円で落札(落札率96.62パーセント)している(査1,2)。
イ 本件審決は,本件合意の前記内容から,「札幌市(第5清掃工場)」工事について,本件合意による競争制限効果が及んでいたと推認し,査第3号証並びに査第33号証及び査第34号証の記載からもこれが裏付けられ,これを覆すに足りる特段の事情は認められないとする。
ウ これに対し,原告は,査第33号証は,「日本銅管環境第一営業部第一営業室長林有三が所持していた平成9年12月22日付けの社内資料」とされており,かつ,同文書には「A次長が札幌市B市議に12/16挨拶し,協力依頼を行った件についてヒアリング」という記載があるところ,「札幌市(第5清掃工場)」工事の入札が行われたのは同年4月22日であるから,既に入札が終了して原告が落札受注している同工事について,日本鋼管が札幌市議会議員に受注の協力依頼をすることはあり得ず,査第33号証は,「札幌市(第5清掃工場)」工事に関して記載したものでないと主張する。
また,査第33号証及び査第34号証は,日本鋼管が何らかのごみ焼却炉建設工事の受注を目的として札幌市議会議員に接触していたこと及び札幌市が何らかのごみ焼却炉建設工事を日本鋼管に落札させるように画策していたことをうかがわせるものではあっても,5社が基本合意に基づいて原告を「札幌市(第5清掃工場)」工事の受注予定者に決定していた事実を示すものではない。むしろ,5社の間であらかじめごみ焼却炉施設建設工事の受注予定者を決めていたという事実とは明らかに矛盾するものであり,したがって,査第33号証及び杏第34号証の記載をもって「札幌市(第5清掃工場)」工事について「本件合意に基づき被審人が受注予定者として決定されたとの推測を裏付けるものである」などとは到底いえないと主張する。
エ しかし,本件合意が,地方公共団体の発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なものであり,実質的証拠に基づくものと認められることは前記のとおりである。しかも,査第3号証には,「T-S」と記載された欄に「札幌市」「900」(「900」は,上記のごみ処理能力の数値と一致する。)との記載があるところ,これによれば,「札幌市(第5清掃工場)」工事が5杜による受注調整の対象とされ,原告が受注予定者と決定されたことがうかがわれるのであって,査第3号証は,そのことを裏付ける実質的証拠ということができる。
また,査第33号証及び査第34号証は,「札幌市(第5清掃工場)」工事の入札が実施された時期より後に,日本鋼管の担当者が,日本鋼管の協力会社の担当者から,その当時,札幌市の市議会議員に協力依頼をした経過についてヒアリングした内容をメモしたものとみられるが,そうであったとしても,これらの内容によれば,同市議会議員は,既に入札が実施された「札幌市(第5清掃工場)」工事について,原告が受注予定者に決められていたものと認識を有していたものと推認できるような発言をしていたというのであるから,このように,当該入札について5社間で受注予定者を決めるなどしていたのではないかとうかがわせる事情が記載された資料が存在することを立証するものであると認めることができるのであって,これらの証拠は,当該工事に係る入札について,本件合意に基づいて原告が5社間で受注予定者として決定され,受注したものであるとの推認を強めるものというべきである。
(5) 「東金市外三町清掃組合」工事について
ア 「東金市外三町清掃組合」工事は,「東金市外三町環境クリーンセンター新ごみ処理施設建設工事」として,東金市外三町清掃組合が指名競争入札等の方法により発注したごみ処理能力210トンの全連ストーカ炉の更新工事であり,平成7年11月30日に入札が行われ,3回実施した入札の結果,いずれも原告が最も低い金額の入札者であったが,入札額が予定価格を上回っていたため,随意契約により,原告が70億9800万円で受注(予定価格の99.97パーセント)している(査1,2)。
イ 本件審決は,本件合意の前記内容から,「東金市外三町清掃組合」工事について,本件合意による競争制限効果が及んでいたと推認できるとする。
ウ これに対し,原告は,「東金市外三町清掃組合」工事は,本案審決においても,具体的証拠から受注調整が推認されると摘示された30件にも含まれておらず,そもそも受注調整を推認させる具体的証拠が存在しないと主張する。
エ しかし,本件合意が,地方公共団体の発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なものであり,実質的証拠に基づくものと認められることは前記のとおりである。「東金市外三町清掃組合」工事について,これと異なる方法が採られたことを認めるに足りる実質的証拠はないから,同工事についても,上記の方法により,原告が入札価格を決定して入札し,前記のとおり受注に至ったものと認められる。
(6) 「小野市・社町・東条町」工事について
ア 「小野市・社町・東条町」工事は,「小野クリーンセンターごみ焼却施設増設工事」として,小野市・社町・東条町環境施設事務組合が指名競争入札等の方法により発注したごみ処理能力50トンの准連ストーカ炉の更新工事であり,平成8年6月14日に入札が行われ,原告が31億5000万円で落札(落札率94.68パーセント)している(査1,2)。
イ 本件審決は,本件合意の前記内容から,「小野市・社町・東条町」工事について,本件合意による競争制限効果が及んでいたと推認できるとする。
ウ これに対し,原告は,原告が受注した「小野市・社町・東条町」工事は,本案審決においても,具体的証拠から受注調整が推認されると摘示された30件にも含まれておらず,そもそも受注調整を推認させる具体的証拠が存在しないと主張する。
エ しかし,本件合意が,地方公共団体の発注する全てのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであるとの本件審決の認定が合理的なものであり,実質的証拠に基づくものと認められることは前記のとおりである。「小野市・社町・東条町」工事について,これと異なる方法が採られたことを認めるに足りる実質的証拠はないから,同工事についても,上記の方法により,原告が入札価格を31億5000万円と決定して入札したものと認められる。
2 争点(2)について
(1) 本件審判事件記録及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる
ア 本件審判において,審査官は,平成19年9月20日に査第3号証について証拠の申出をしたが,その立証趣旨は,「『置賜広域行政事務組合』工事,『札幌市(第5清掃工場)」工事及び『名古屋市(猪子石工場)』工事について,本件合意に基づき被審人が受注予定者に決定されたこと等というものであった。
イ その後,審査官が平成20年11月18日に本件溝口調書の証拠申出をしたのは,原告が査第3号証の証明力を争ったことを受けて,それに反ばくするためであった。
ウ 本件溝口調書の立証趣旨は,主に,査第3号証に関する溝口行雄の供述状況等であり,具体的には,溝口行雄が査第3号証の保管された「案件一覧」と題するファイルの表題の「案件一覧」の文字が自らの筆跡であることを認める供述をしたこと,しかし,それにもかかわらず,溝口行雄が,そのファイルの中の文書について説明せず,「私のものではありません」等の不自然な供述に終始していること,査第3号証が同ファイル中にある理由が分からない旨供述したこと,査第3号証に記載されたアルファベット「K,M,H,N,T」の略称の意味について不自然に供述を回避したことなどであった。
エ 原告は,平成21年6月22日,未提出溝口調書等を対象として,文書提出命令の申立てをした。
オ これに対し,審判官は,平成21年6月29日,本件不採用決定をした。その理由の要旨は,「審査官に対し,その所持する文書等について,証拠申出に関する審査官の判断権(独占禁止法第51条の3)を制約するような提出命令を発することが相当性を有するのは,それ相応の具体的必要性が認められる場合に限られるものと解される。」,「本件申立てに関する被審人の主張の内容は,いずれも,上記の意味での具体的必要性を明らかにするものとはいえない。」というものであった。
(2) 原告は,当審においても,平成23年6月17日,未提出溝口調書等について文書提出命令の申立てをした。
これに対し,当裁判所は,平成23年9月30日,当該申立てを却下する決定をした。その理由の要旨は,「未提出溝口調書等の提出を命ずる具体的必要性が認められないとした公正取引委員会の判断は,正当な理由がないとはいえない。そうすると,独占禁止法81条1項1号又は2号所定の各場合に該当するものではない。したがって,本件文書提出命令申立ては,例外的に新証拠の申出をすることを認める独占禁止法81条1項所定の要件を満たさないものである。また,本件溝口調書の立証趣旨や本件文書提出命令申立てに係る証すべき事実(その内容は,審判手続における文書提出命令申立てに係る証すべき事実とほぼ同旨である。)によれば,未提出溝口調書等については,これらを取り調べる必要があるとはいえず,独占禁止法81条3項所定の要件も満たさない。」というものである。
(3) 公正取引委員会の行う審判手続においては,証拠法則に関して刑事訴訟手続におけるのと同様の厳格な手続的規制はされていないから,当事者が申出をした証拠は,当該事件に関連し,かつ,明白な違法ないし不当性が認められない限り,原則として採用されてしかるべきものと解されるところ,本件溝口調書の立証趣旨は,溝口行雄が査第3号証等についての審査官の質問に対し不自然,不合理な供述,供述の回避又は供述の変更をしていたこと等であるから,本件審決に係る事件に関連するものであることは明らかである上に,本件溝口調書は原告が査第3号証の証明力を争ったことを受けて,それに反ばくするために提出されたものであることからすれば,審判官が本件溝口調書を採用したことに明白な違法性ないし不当性は認められないというべきである。
他方,本件溝口調書がそのような位置付けのものであって,その供述内容に沿う事実の存在そのものを立証しようとするものではなく,その供述内容の証明力等が問題になるものではないことに鑑みれば,未提出溝口調書については,これを更に取り調べる必要性があるとはいえないのであるから,審判官が,本件溝口調書についての証拠評価のための文書として未提出溝口調書の提出を求める文書提出命令申立てにつき,本件不採用決定をしたことが違法であるとは認められないというべきである。
3 争点(3)について
独占禁止法7条の2第6項は,「当該審判手続が終了した日から一年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずることはできないと定めている。同法がこのような除斥期間の規定を設けた趣旨は,適正迅速な行政事務の遂行を確保するとともに,排除措置命令に不服のある被審人の利益にも配慮し,当該排除措置命令について審判が開始された場合には,同命令に係る違反事実の存否についての被告の判断が示されるまでは,課徴金の納付を命ずることができないこととし,その一方で,いったん上記の被告の判断が示されたときには,速やかに課徴金の納付を命ずることとして,これを被告に義務付け,これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにある。そうすると,上記の被告の判断は審決の形式をもって示されるのであるから,独占禁止法48条の2第1項ただし書及び7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは,被告の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当である。
本件において,本案審決は平成18年6月27日に行われており,本件課徴金納付命令は平成19年3月23日にされているのであるから,同命令は当該審判手続が終了した日から1年を経過する前に発せられたものであり,除斥期間を経過していない。
4 結論
以上のとおりであるから,本件審決に独占禁止法82条1項の規定する審決の取消事由は認められず,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

平成23年11月11日

裁判長裁判官 岡久幸治
裁判官 三代川俊一郎
裁判官 小宮山茂樹
裁判官 杉原則彦
裁判官 門田友昌

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