文字サイズの変更
背景色の変更
本文表示
         content

PDFダウンロード

(株)東芝ほか1名による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成22年(行ケ)第29号

判決

東京都港区芝浦一丁目1番1号
原告 株式会社東芝
同代表者代表執行役 佐々木則夫
東京都港区芝五丁目7番1号
原告 日本電気株式会社
同代表者代表取締役 遠藤信博
原告ら訴訟代理人弁護士 西迪雄
同 柴田保幸
同 向井千杉
同 富田美栄子
同 小林幸弘

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 竹島一彦
同指定代理人 田中久美子
同 島崎伸夫
同 秋沢陽子
同 藤原昌子
同 小髙真侑
同 天田弘人

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が原告らに対し公正取引委員会平成16年(判)第10号及び同第11号審判事件につき平成22年10月25日付けでした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は,原告らが,郵政省が発注する郵便番号自動読取区分機類の一般競争入札において,平成17年法律第35号による改正(以下「平成17年改正」という。)前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条6項に該当する不当な取引制限を行ったとして,原告らに対し,平成15年6月27日,審判審決により排除措置を命じた後,平成16年6月14日,同審決が認定したものと同一の違反行為について課徴金納付命令をした。
原告らは,この課徴金納付命令に対し,審判開始請求をし,被告は,審判手続で審理した結果,平成22年10月25日,原告株式会社東芝(以下「原告東芝」という。)に対しては,21億7053万円の課徴金を,原告日本電気株式会社(以下「原告日本電気」という。)に対しては,20億4106万円の課徴金を,それぞれ国庫に納付することを命じる審決(以下「本件審決」という。)をした。
本件は,原告らが,本件審決を不服として提起した審決取消訴訟である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実及び記録上明らかな事実)
(1) 原告らによる郵政省の区分機類の受注状況等
ア 原告らは,電気機械器具製造業等を営む者であり,平成9年12月までの間,我が国において,郵便物自動選別取りそろえ押印機(以下「選別押印機」という。),選別台付自動取りそろえ押印機(以下「台付押印機」という。),郵便物あて名自動読取区分機(以下「あて名区分機」という。),新型区分機,新型区分機用情報入力装置(以下「情報入力装置」という。),バーコード区分機(A型及びB型)及び区分機用連結部(以下「連結部」という。)の各機械類(以下「区分機類」という。)のほとんど全てを製造販売していた。
郵政省は,区分機類を,昭和61年度までは随意契約により,昭和62年度からは指名競争入札の方法により発注していたが,平成7年度以降は,一般競争入札の方法により発注するようになった。
イ 原告らは,郵政省により平成7年度から平成9年度までの間に実施された区分機類の一般競争入札に参加し,上記期間に発注された区分機類合計71物件のうち原告らで合わせて70物件を受注した。
上記一般競争入札においては,入札執行前に郵政省の担当官らから,各入札物件についての情報(区分機類の種類,台数,配備先郵便局及び配備時期等についての情報)が物件ごとに原告らのいずれか一方にのみ提示され,その提示を受けた原告だけが当該物件の入札に参加し,他方の原告は当該物件の入札を辞退することによって,その情報の提示を受けた原告が落札していた(以下,この郵政省からの情報の提示を「郵政省内示」という。)。原告らの受注割合は,発注金額にして,総発注額の概ね半分ずつであった。
(2) 本件本案審決の概要及びその取消訴訟の結果
ア 被告は,原告らが,郵政省が平成7年度ないし平成9年度に一般競争入札の方法により発注した区分機類について,遅くとも平成7年7月3日から平成9年12月10日までの間,入札執行前に郵政省の調達事務官等から情報の提示を受けた者を当該情報の提示を受けた物件についての受注予定者とし,受注予定者のみが当該物件の入札に参加し,受注予定者以外の者は当該物件の入札には参加しないことにより,「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする旨の意思の連絡」の下に,「受注予定者を決定し,受注予定者のみが入札に参加して受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反する。」として,原告らに対し,平成15年6月27日,審判審決にて排除措置を命じた(平成10年(判)第28号,以下,この審決を「本件本案審決」という。また,これによって認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。排除措置の内容(主文)は,①原告東芝及び原告日本電気は,遅くとも平成7年7月3日以降,郵政省が国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(昭和55年政令第300号)の規定が適用される一般競争入札の方法により発注する選別押印機,台付押印機,あて名区分機,新型区分機,情報入力装置,バーコード区分機及び連結部について,受注者予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。②原告東芝及び原告日本電気は,前項に基づいて採った措置を速やかに被告に報告しなければならない,というものであった。
なお,審判官がこの審判手続を終結する旨宣言した日は,平成14年9月24日である。
イ 原告らは,東京高等裁判所に対し,本件本案審決の取消しを求める訴えを提起した(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第335号)。
東京高等裁判所は,平成16年4月23日,独禁法54条2項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件を認めることができないとして,本件本案審決を取り消す旨の判決をしたので,被告は,最高裁判所に上告受理申立てをした(最高裁判所平成16年(行ヒ)第208号)。
最高裁判所は,平成19年4月19日,上記東京高等裁判所判決を破棄し,事件を東京高等裁判所に差し戻した。
差戻審である東京高等裁判所は,平成20年12月19日,原告らの請求を棄却する旨の判決をした(東京高等裁判所平成19年(行ケ)第12号)。
原告らは,差戻審の上記東京高等裁判所判決を不服として,最高裁判所に上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成22年12月3日,原告らの上告を棄却し,上告審として受理しない旨の決定をし(最高裁判所平成21年(行ツ)第108号,同年(行ヒ)第127号),本件本案審決は確定した。
(3) 課徴金納付命令及び本件審決の経緯等
ア 被告は,平成16年6月14目,原告らに対し,本件違反行為について課徴金納付命令(以下「本件課徴金納付命令」という。)をした。
原告らは,これに対し,審判手続開始の請求をし,被告は,平成16年7月13日に審判開始決定をし,審判手続(以下「本件審判手続」という。)で審理した結果,平成22年10月25日,原告東芝に対しては,21億7053万円の課徴金を,原告日本電気に対しては,20億4106万円の課徴金を,それぞれ国庫に納付することを命じる本件審決をした。
イ 課徴金の計算の基礎
本件本案審決において本件違反行為の実行期間であるとされた平成7年7月3日から平成9年12月10日までの間に,郵政省が一般競争入札の方法により発注した区分機類に係る原告らの売上額は,原告東芝が別紙1記載の36件の契約により定められた対価の額を合計した361億7564万3880円となり,原告日本電気が別紙2記載の34件の契約により定められた対価の額を合計した340億1769万3407円となる(これらの売上げに係る別紙1及び2に記載の各物件を以下「本件各物件」という。)。
上記各売上額を前提にして独禁法7条の2第1項及び4項の規定により課徴金の額を算出すると,原告東芝については,上記361億7564万3880円に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された21億7053万円となり,原告日本電気については,上記340億1769万3407円に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出された20億4106万円となる。本件審決はこの計算結果に基づくものである(本件各物件全ての売上げを課徴金算定の基礎とした場合に上記の計算結果になること自体には争いがないが,後記争点(6)のとおり,本件各物件を課徴金算定の基礎となる売上げに計上できるのかについて争いがある。)。
(4) 本件審決の要旨
ア 争点
(ア) 本件審判手続は違法であるか否か―課徴金納付命令についての除斥期間の経過等(「本件審決争点1」といい,以下の争点についても順に同様に呼称する。)
(イ) 原告らに,独禁法2条6項に定める「共同して・・・・相互にその事業活動を拘束し」に該当する行為(すなわち,「一般競争入札の方法により発注する区分機類について,郵政省の担当官らから郵政省内示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,郵政省内示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の担当官らから郵政省内示のあった者が受注するようにする」旨の黙示による意思の連絡(以下「本件合意」という。))があったか否か(本件審決争点2)
(ウ) 本件合意は,独禁法2条6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものであるか否か(本件審決争点3)
(エ) 本件合意は,独禁法2条6項の「公共の利益に反して」に該当するか否か(本件審決争点4)
(オ) 本件合意は,独禁法7条の2第1項の「対価に係るもの」に該当するか否か(本件審決争点5)
(カ) 別紙1及び2に記載の本件各物件の中に,課徴金の対象から除外すべきものがあるか否か(本件審決争点6)
本件審決争点1は,本件審判手続の適法性の問題であり,本件審決争点2ないし4は,本件違反行為の成否の問題であり,本件審決争点5及び6は,課徴金固有の問題である。
イ 判断
(ア) 本件審決争点1(本件審判手続は違法であるか否か)について
独禁法7条の2第6項は,「当該審判手続が終了した日から一年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずることができないと定めている。原告らは,「当該審判手続が終了した日」とは,審判官が本件本案審決のための審判手続を終結する旨宣言した平成14年9月24日をいい,本件課徴金納付命令は除斥期間経過後の平成16年6月14日に発出されたもので違法であると主張する。
しかし,独禁法48条の2第1項ただし書は,課徴金の納付について「当該違反行為について審判手続が開始された場合には,審判手続が終了した後でなければ命ずることができない」と定め,他方,独禁法7条の2第6項は,「当該審判手続が終了した日から一年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずることはできないと定めている。独禁法が,このような除斥期間の規定を設けた趣旨は,適正迅速な行政事務の遂行を確保するとともに,排除措置命令に不服のある被審人の利益にも配慮し,当該排除措置命令について審判が開始された場合には,同命令に係る違反事実の存否についての公正取引委員会の判断が示されるまでは,課徴金の納付を命ずることができないこととし,その一方で,いったん同委員会の判断が示されたときには,速やかに課徴金の納付を命ずることとして,これを同委員会に義務付け,これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにある。そうすると,上記公正取引委員会の判断は審決の形式をもって示されるのであるから,独禁法48条の2第1項ただし書及び7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは,同委員会の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当である。
本件では,平成15年6月27日に本件本案審決がされ,平成16年6月14日に本件課徴金納付命令がされているから,除斥期間は経過していない。
本件本案審決を行ったのと同一の構成の公正取引委員会が本件審判手続を行い本件審決を行うことが適正手続に反すると解する余地はない。
(イ) 本件審決争点2(本件合意があったか否か)について
原告らは,それまで指名競争入札において郵政省内示を前提にして完全に一致した行動を採ってきた経緯もあって,郵政省から一般競争入札下においても郵政省内示を継続する旨伝えられたことにより,互いに,相手方について,指名競争入札の当時と同じ行動を採るであろうと確信することができ,遅くとも一般競争入札が導入された平成7年7月3日までには,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,両社ともに,郵政省内示を受けた物件については入札に参加し,郵政省内示を受けない物件については入札を辞退するという一致した行動を採ることについて,相互に認識ないし予測し,相互に協調する状況になっていたものと認められる。以上によれば,原告らの間には本件合意(郵政省内示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,郵政省内示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省内示のあった者が受注できるようにする旨の黙示の合意)が成立していたものというべきである。
(ウ) 本件審決争点3(本件合意は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものであるか否か)について
本件合意は,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機預についての受注調整に関するものであるから,本件において検討されるべき一定の取引分野は,郵政省が発注する区分機類の販売に係る取引となるところ,区分機類を製造・販売する事業者としては現に原告らが存在し,郵政省は,原告らに対し,郵政省内示に当たり,前年度の読取率の善し悪しを考慮して情報を提示する台数に差を設けるとして,原告らの技術開発を促し,原告らも,より多くの台数の郵政省内示を得るために技術開発を競っていたこと,郵政省が発注する区分機類の中には,他社製の既設機との接続を要する区分機類も存在するところ,他社製の選別押印機等と自社製のあて名区分機等との接続及び連結部等の製造は,インターフェース情報等接続に関する技術情報が開示されれば技術的に可能であったことに加えて,郵政省は会計法等に基づいて全ての区分機類を一般競争入札の方法で発注していることからすれば,郵政省が発注する区分機類の販売に係る取引分野における競争の存在は明らかである。そして,平成7年度から平成9年度にかけての区分機類の販売市場における原告らのシェアは,ほぼ100パーセントであったから,本件合意は郵政省発注の区分機類の取引分野における一般競争入札による競争を実質的に制限するものである。
(エ) 本件審決争点4(本件合意は「公共の利益に反して」に該当するか否か)について
不当な取引制限に該当する入札談合は,原則としてそれ自体で公共の利益に反するというべきであり,原告らにおいて本件合意が公共の利益に反しないことを反証することが必要である。
確かに,増大する郵便物の効率的な処理,郵便局における人員削減等を実現するために,各地の郵便局に早期に区分機類を配備することが国家的に重要なプロジェクトであることは明白であるものの,その実現のために郵政省内示及び本件合意による受注調整という方法しかなかったという反論反証はない。他方,被告の立入検査が行われた後は,いまだ各郵便局への区分機類の配備が終了していなかったと推認されるにもかかわらず,郵政省は,郵政省内示を中止しているが,これによって上記プロジェクトの遂行に障害が生じたとの主張立証もないことに照らせば,郵政省内示及び本件合意による受注行為は,上記国家プロジェクト達成のために必ずしも必要不可欠なものではなかったものと推認される。したがって,本件では,本件合意が公共の利益に反すること等の推認を揺るがすに足りる反証はないものといわざるを得ない。
(オ) 本件審決争点5(本件合意は「対価に係るもの」に該当するか)について
独禁法7条の2第1項にいう「対価に係るもの」とは,商品や役務の対価そのものを合意の内容とするもののほか,商品や役務の対価への影響を目的とするものや,対価に対して直接的な効果を及ぼすことが明らかなものを含むと解される。そして,入札制度が入札価格を基準として受注予定者を決定するものであることに照らすと,入札における競争を対象とする不当な取引制限(いわゆる入札談合)の場合には,受注予定者を決定するとともに,受注予定者以外のものは,価格競争を回避して受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しないという合意を当然に包含するものといえるから,定型的に「対価に係るもの」に該当すると解するべきである。
本件合意は,受注予定者を決定し,当該受注予定者が受注できるようにすることを内容とするものであり,本件合意に基づいて受注予定者とされた者が,郵政省の予定価格の範囲内ではあるものの,他の原告との価格競争を全く考慮することなく,自社の利益を最大限とする価格で入札することを可能とし,かつ落札することをも実現させるから,商品の対価に直接影響するものであることが明らかである。
したがって,本件合意は独禁法7条の2第1項に規定する「商品の対価に係るもの」に該当する。
なお,原告らは,課徴金賦課の要件として,違反行為者である事業者及びその従業員に故意・過失,違法性の認識及び違法性の認識可能性が存在することを要すると解するべきであると主張するが,独禁法7条の2は,課徴金賦課の要件として,事業者又はその従業員の故意・過失,違法性の認識等を必要とする旨定めておらず,また,課徴金制度の趣旨からも,そのように解釈すべきとは認められない。
(カ) 本件審決争点6(別紙1及び2に記載の本件各物件の中に,課徴金の対象から除外すべきものがあるか否か)について
a 独禁法7条の2第1項は,事業者が商品又は役務に係る不当な取引制限をした場合には,被告は,事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動が行われた期間における「当該商品又は役務」の売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。入札談合における「当該商品又は役務」とは,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解するべきである。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象物件には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,基本合意の対象から除外された等の特段の事情がない限り,「当該商品」に該当するものと認められる。
本件において,別紙1及び2に記載の本件各物件については,いずれも本件合意に従って受注予定者が原告らのいずれか一方に決定され,郵政省内示を受けた者のみが入札に参加し,郵政省内示を受けなかった者は入札に参加せず,受注予定者が受注しているから,本件各物件には本件合意による競争制限効果が及んでいるものと認められる。
したがって,本件各物件は独禁法7条の2第1項の「当該商品」に該当するものである。
b 原告らは,個別物件は,郵政省内示により受注予定者が特定されていたのであり,たとえ,それらの物件の調達が形式上一般競争入札に付されたとしても,およそ実質的な競争を期待し得ない客観的状況にあったことから,かかる事情を有する入札物件は,課徴金賦課の対象となるものではないと主張する。
この原告らの主張は,要するに,郵政省内示によって区分機類の市場の競争が完全に排除されていたことを前提とするものであり,失当である。
入札談合においては,これに参加する事業者間において,受注予定者を決定して価格競争を回避するとともに受注機会の均等化等を図ることがあり,特定の違反行為者しか受注し得ない物件を包含することは当然にあり得ることであるから,各個別物件ごとにおいて競争可能性を判断することは意味を有するものではない。したがって,個別物件の入札時において原告らが競争し得る状況ではなかったこと及び受注予定者が特定の原告に決定せざるを得なかった等の事情は「当該商品」の該当性の判断を左右しない。
加えて,区分機類の個別物件の入札案件において,事実上,郵政省内示を受けた原告しか落札できない状況になっていたのは,本件合意を形成していた原告らの意向を受けて,これに同調した郵政省が,その意向に沿うように入札を渾用したからであって,正に本件合意によるものであり,およそ実質的な競争を期待し得ない客観的状況にあったものではない。このことからしても,当初から競争がなかったわけではなく,本件合意が競争を排除したものであることは明らかである。
原告らは,入札前に配備予定局との間で具体的な搬入・据付打合せが行われていた物件及び入札前に玉突き移設のスケジュールが策定されており郵政省と特定の原告の間で綿密な打合せが行われていた物件や連結部や情報入力装置等を入札の対象とする物件等について,一方当事者しか入札に参加できない事情を種々述べたり,また,連結部のみの入札について,区分機本体の受注者以外の原告が参加できないことは明白であると述べるなど,これらの物件については競争が存在しなかったと主張する。
しかしながら,前記のとおり,個別物件の入札時において原告らが競争し得る状況ではなかったこと及び受注予定者を特定の原告に決定せざるを得なかった等の事情は「当該商品」の該当性の判断を左右しない。加えて原告らの上記主張も,郵政省内示及び本件合意の存在を所与のものとして競争不能を述べているだけであるところ,郵政省内示及び本件合意がなければ,当初から,区分機類の仕様や付属の予備部品リストも,原告らに共通した,より一般化された形式となる余地はあったはずであるし,連結部の仕様についても,情報開示等の手段が講じられ,競争入札にふさわしい条件が整った可能性はあるのであり,このような可能性がある以上,競争可能性は否定されないのであるから,原告らの主張は理由がない。
(キ) 結論
別紙1及び2記載の本件各物件の売上額は全て課徴金の計算の基礎として算定されることになるから,課徴金の額は,原告東芝については,21億7053万円となり,原告日本電気については,20億4106万円となる。
3 本件訴訟における争点
(1) 本件課徴金納付命令は,除斥期間を経過した後にされたものか(本件審決争点1に対応する争点)
(2) 本件違反行為を認定した本件本案審決が確定した場合でも,本件審決の取消訴訟において,再度本件違反行為の存否を争えるか
(3) 仮に争点(2)で再度本件違反行為の存否を争えるとした場合,本件合意があったか否か(本件審決争点2に対応する争点)
(4) 仮に争点(2)で再度本件違反行為の存否を争えるとした場合,本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するものか否か(本件審決争点3に対応する争点)
(5) 本件合意は,独禁法7条の2第1項の「対価に係るもの」に該当するか(本件審決争点5に対応する争点)
(6) 別紙1及び2に記載の本作各物件は,独禁法7条の2第1項の「当該商品又は役務」に該当するか(本件審決争点6に対応する争点)
(7) 課徴金を賦課するには,故意,過失,違法性の認識,違法性の認識可能性という主観的要素が存在することが必要か(本件審決争点5に対する判断の部分で触れられている争点)
4 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(本件課徴金納付命令は,除斥期間を経過した後にされたものか)について
(原告らの主張)
独禁法7条の2第6項は,違反行為についての審判手続が開始された場合にあっては,「当該審判手続が終了した日」から1年を経過したときは,公正取引委員会は,当該違反行為に係る課徴金の納付を命ずることができないと規定している。この「当該審判手続が終了した日」とは,本案審決の審判手続において審判官が審判手続を終了する旨宣言した日をいうのであり,本案審決が行われた日をいうのではない。本件本案審決の審判手続において審判官が審判手続を終結する旨宣言した日は平成14年9月24日であり,本件課徴金納付命令は,それから約1年8か月が経過した後である平成16年6月14日にされたものであり,除斥期間を経過しているため無効である。
独禁法の立法過程に照らしても「審判」及び「審判手続」には「審決」を包摂するものでないことは明らかであるというべきである。同法54条において,「審判手続を経た後…審決をもって…措置を命じなければならない」とされ,「審判手続」には「審決」を包摂しない旨の規定があるように,同法53条の3から54条の2の各規定には「審判手続」と「審決」とを区別している明文がある。
「審判手続」は,公正取引委員会が「審決」という特別の形式をもってする行政処分の事前手続(行政手続)としての聴聞手続であって,公正取引委員会の意思表示である行政処分たる「審決」を含むものではない。このことは,準司法機関としての公正取引委員会の判断過程及び独禁法の規定の文理解釈から明らかである。独禁法にいう「審判手続」に「審決」を含むものでないことは,審決には,勧告審決,同意審決等審判手続を経由しないものが規定されていることに照らしても明らかである。公正取引委員会の審査及び審判に関する規則も第4章「審判手続」と第5章「審決」を区分して規定しており,審判手続には審決を含まないとして制定されたものであることは明らかである。
独禁法7条の2第6項所定の除斥期間は,同条1項に規定する違反行為をした事業者が,当該違反行為につき排除措置に係る審判手続が開始された場合に,当該事業者の法律関係の早期の安定を図り,その利益を保護する機能をも有するものであり,課徴金を課すべきかどうかについて,審判官が本案審決の審判手続を終了する旨宣言した後1年以内に判断が可能であるとし,これを除斥期間としたものである。除斥期間の起算点を本案審決が行われた時と解すると,公正取引委員会による本案審決の作成が遅滞する限り,除斥期間の起算点が無限定に後ろにずれて,被審人の法的地位が長期にわたり不安定に陥ることになり,許されない。
(被告の主張)
本件審決が判断しているとおり,独禁法は,排除措置命令について審判が開始された場合には,同命令に係る違反事実の存否についての公正取引委員会の判断が示されるまでは,課徴金の納付を命ずることができないこととしているのであるから,本案審決において違反事実の存否に係る被告の判断が示される前の時点をもって,課徴金納付命令の除斥期間の起算点とすることを独禁法が想定しているとは到底いえない。したがって,独禁法7条の2第6項の「審判手続が終了した日」を本件本案審決が行われた平成15年6月27日と解し,本件課徴金納付命令について,その除斥期間が経過していないとした本件審決に,同法7条の2第6項の解釈適用の誤りはない。
原告らは,独禁法の立法過程等からすれば,同法にいう「審判手続」に審決が含まれないのは明らかである旨述べるが,「審判手続」とは,審判開始決定書の通知から,①審査官・被審人の最終意見陳述までをいう場合,②審判官による審決案の作成までをいう場合,③審決を行うところまでをいう場合があると解されており,同法の「審判手続」に審決が含まれないことが明らかであるとはいえないから,原告らの主張は理由がない。
(2) 争点(2)(本件違反行為を認定した本件本案審決が確定した場合でも,本件審決の取消訴訟において,再度本件違反行為の存否を争えるか)について
(原告らの主張)
本件本案審決は,これに対する取消訴訟についての最高裁判所の決定により確定したが,そのことは,本件審決取消訴訟の審理判断に何らの効果も影響も与えるものではない。
現行の独禁法59条2項の規定(以下「平成17年改正後の現行59条2項」という。他の条文も同様にいうことがある。)は,平成17年改正により新設されたものであるから,本件課徴金納付命令に係る審判手続には適用はない。
本件当時,同一の独禁法違反行為について,排除措置命令と課徴金納付命令とは,その各制度の趣旨・目的及び課題が異なることから,別異の事件として,それぞれの審判手続及び審決が別個独立のものとして制度設計されていたものである。そして,この制度の下における当然の事理として,本件課徴金納付命令に係る審判手続においては,本件排除措置命令事件とは別個独立のものとして,改めて主張・立証が行われ,これに基づく審決がされたものである。
本件審決は,本件本案審決が確定する前に発出されたものであるが,同審決の確定の効果は,その主文(排除措置の内容)についてのみ既判力と同様な効果を生じるものであるが,その理由中の事実認定及び法律判断については,既判力はもとよりこれと類似の効果であるいわゆる争点効と同様な効果を生じるものではない。
準司法機関としての公正取引委員会の行った審決の確定の効果は,独禁法に特段の規定(平成17年改正後の現行59条2項)がある場合は格別,そうでない限り,審決の主文についてのみ既判力類似の不可抗争力を生じるが,審決の理由中の事実認定及び法律判断については,争点効類似の不可抗争力等の効力は生じないものというべきである。
(被告の主張)
本件違反行為の存在を認定した本件本案審決については,原告らから取消訴訟が提起され,最高裁判所の決定により原告らの敗訴が確定しているところであり,本件審決の司法審査においては,確定した本件本案審決において判断されている本件違反行為の存在を前提として他の課徴金賦課の要件について判断すべきである。
原告らは,排除措置命令事件と課徴金納付命令事件とは別個独立のものであるとして,本件本案審決の確定によって,本件審決に対する司法審査に何らかの拘束や影響も生じるものではないと主張する。
しかし,独禁法は,同一事業者の同一違反行為について排除措置に係る審判手続中に課徴金の納付を命ずることができない(48条の2第1項ただし書)と規定する等,違反行為の存否について争いがある場合,まず排除措置に係る審判手続において違反行為に係る事実認定について判断を確定し,この判断を前提に,さらに課徴金についての固有の要件を検討した上で課徴金の納付を命ずることとしている。これは,同一違反行為について排除措置を命ずる手続と課徴金納付命令手続とで同一事業者に関する同一事実の認定が不統一となること及び同一行政庁における審理の重複による手続上の不経済を回避するためであると解される(平成20年7月11日東京高裁判決・公正取引委員会審決集55巻864頁)。このような独禁法の審判手続構造からすれば,排除措置に係る審決が存在する場合には,同審決における違反行為の判断に基づいて課徴金を賦課すべきである。
本件においては,本件本案審決が審決取消訴訟において一旦取消判決を受けたため(なお,当該判決は独禁法54条2項の要件を欠くこと(既往の違反行為について排除措置が特に必要があると認められないこと)を理由とするものであって,本件違反行為の存在を否定するものではなかった。),課徴金納付命令の審判手続においては,慎重を期するため,本件本案審決を前提とせず,本件審決を行ったが,本件本案審決が確定している以上,本件審決の司法審査においては,本件本案審決において判断されている本件違反行為の存在を前提として他の課徴金賦課要件について判断すべきである。
(3) 争点(3)(仮に争点(2)で再度本件違反行為の存否を争えるとした場合,本件合意があったか否か)について
(原告らの主張)
ア 本件合意推認の重要な根拠となっている間接事実は,原告らが「郵政省内示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,郵政省内示のなかった者は当該物件の入札に参加しない」という並行行為である。
しかしながら,(ア)平成6年度の指名競争入札当時の郵政省の発注の仕方から,原告らは,その一方が郵政省内示を受ければその者のみが入札・落札・契約締結が可能であり,郵政省内示を受けない者は入札・落札・契約締結が実際上不可能であることを知っていたこと,(イ)原告らはいずれも,郵政省内示が自社にあれば他社にはないことを知り得る状況にあったこと,(ウ)郵政省内示を受けない者は,当該入札に参加しても無駄な結果に終わることが自明であったこと,(エ)郵政省が,平成7年1月上旬頃,一般競争入札導入後も配備計画どおり区分機類が納入されないと困るので郵政省内示を継続する旨決定し,原告らにもその旨伝えたこと等の事実関係があるのであり,このような事実関係があったので,原告らは,郵政省の上記決定のあることを知った時点以降は,一般競争入札導入後も「郵政省内示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,郵政省内示のなかった者は当該物件の入札に参加しない」という行為又は不行為を各自が独自の意思に基づいて行うことが可能であり,かつ,実際にも各自が独自の考えに基づいて行っていたものである。
郵政省は,郵政省内示のみでなく,内示前には特定の郵便局に配備する区分機類の製造メーカーを特定した具体的な配備計画を決定し,内示後・入札前には,内示をした原告らの一方に対し,納入日程等の調整や官報公示及び仕様書の交付をし,当該原告に対して発注予定の区分機類の納入のみでなく,これと,通常の製造期間である6か月に比し著しく短期間での納入サービス(短期間納入条件),当該原告製区分機類の予備部品(他の原告は製造不可能)を共に納入すること(予備部品条件),当該原告製選別押印機又は台付押印機とそれぞれ接続できる機能を有すること(接続条件)等とを不可分に結合させた集合商品役務として発注する旨の入札条件を付し,原告ら各社と個別的価格に関するやり取り等を行っていた等の事実をも考慮すると,これら郵政省の反競争行為は,郵政省が一般競争入札前に事実上落礼者を決定する現実的効果を生じさせていたことは明らかであり,原告らは,郵政省内示に応じて内示物件に入札する以外の選択肢はなかったのである。
本件審決のいう並行行為は,郵政省内示のみによって生じた現象であって,郵政省内示がありさえすれば「本件合意」などなくても,原告らそれぞれが独自の判断により行い得た行為の結果の現象にすぎないものである。
イ 本件特有の事実関係のもとにおいては,原告らの上記行為又は不行為 は,あくまでも独禁法違反とはいえない意識的並行行為にすぎないと推認すべきものであるが,原告らの上記行為又は不行為をもって意識的並行行為と異質な独禁法違反行為とされる暗黙の通謀行為・合意に当たると推認するためには,プラス・ファクターの認定が必要であると解するのが,独禁法上適法な意識的並行行為を違法な暗黙の通謀行為・合意と誤って判断することを避けるために必要な,条理に基づく証拠法則というべきである。
そして,プラス・ファクターとして評価し得る証拠(間接事実を含む。)として重要な点は,アメリカの連邦最高裁の判例が指摘する,複数の市場当事者の行為が相互的合意又は意思の連絡に基づく行為であるというがために,当該市場当事者が独立して行動していたという可能性を排除し得る証拠(間接事実を含む。)であるが,本件においてはプラス・ファクターとしての証拠価値のある間接事実は認められない。したがって,本件合意の推認は不合理で実質的証拠を欠く違法なものである。
ウ 本件合意の対象は区分機類であるとされるが,郵政省が原告ら各自に発注し,原告ら各自が落札・契約締結したものは,上記集合商品役務であったのであるから,区分機類を対象とする合意を形成することなどありえない。
(被告の主張)
原告らは,意識的並行行為と暗黙の通謀行為に関する欧米の判例・学説を引用するなどして,暗黙の通謀行為を認定するためには,意識的並行行為と区別するためのプラス・ファクターの事実を認定することが必要であるのに,これを認定しないまま,通謀行為を認定した本件審決の判断は,実質的証拠を欠き不合理であるなどと主張する。
しかし,不当な取引制限に必要とされる「意思の連絡」があったといえるか否かの判断に当たっては,受注調整に至った前後の諸事情を勘案して事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討し,事業者相互間に共同の認識,認容があるかどうかを判断すべきである。そして,本件審決は,これらの事情を十分な証拠をもって事実認定をし,認定された事実を総合判断している。つまり,本件審決は,原告らの一致した行動のみならず,原告らが一般競争入札の導入に反対し,郵政省に対し,原告東芝は一般競争入札の導入の中止を要請し,原告日本電気は,郵政省内示の継続という公正な一般競争入札の実施とは相容れない内容の要請をした等の事実を総合考慮して,不当な取引制限に該当する本件合意が存在していると認定しているのである。
原告らの上記主張は,本件審決が,内示のあった物件の入札にのみ参加するという原告らの外形上一致する行為のみから本件合意を認定しているとの理解の上でされているものと解されるところ,本件審決は単に原告らの間に外形上一致する行為が存在することから本件合意を認定しているものではなく,上記のように認定された事実を総合考慮して本件合意を認定しているのである。そして,上記のように原告らにおける本件合意を認定できる以上,原告らのいうような意識的並行行為と暗黙の通謀行為とを区別するためのプラスファクターを認定することを要するものではなく,本件審決の認定は何ら不合理なものではないのであって,実質的証拠を備えている。
(4) 争点(4)(仮に争点(2)で再度本件違反行為の存否を争えるとした場合,本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するものか否か)について
(原告らの主張)
本件審決は,「一定の取引分野」を「郵政省が発注する区分機類の販売に係る取引」とし,そこに原告らの競争が存在することを認めた。
しかしながら,本件の区分機類等の需要者は郵政省のみのいわゆる買手独占という極めて特殊な市場構造であり,郵政省は競争を歪め得る市場支配力を有していたこと,その郵政省が,郵便事業の機械化という国家的プロジェクト達成のため,特定の郵便局に配備する区分機類を原告東芝製又は原告日本電気製のいずれかと決定した配備計画に基づき,この計画を確実に達成するため,「区分機類」機械というハードのみでなく,これと,当該区分機類の製造者のみが製造可能な予備部品を添付すること(予備部品条件),当該内示を受けた原告製の既設区分機類との接続可能な区分機類であること(接続条件),6か月をはるかに下回る短期間での納入サービスの提供を求めること(短期間納入条件)などの商品又は役務(サービス等のソフト)とを不可分に結合した集合商品役務を対象として入札に付したこと等の事実があるのであって,集合商品役務の一部にすぎない「区分機類」機械というハードのみを取引対象としたものではないのである。
そして,郵政省が,原告東芝に対して内示した集合商品役務と原告日本電気に対して内示した集合商品役務とは,予備部品条件,接続条件及び短期間納入条件といった各条件が付されることによって内示を受けていない方の原告にとっては納入することが不可能であり,また,そもそも各別に開発された技術特性を異にする商品であり,需要代替性も供給代替性もないから,同一市場に属しないものであり,競争関係に立つものではない。
しかも,独禁法が保護すべき競争とは,同法2条4項柱書所定の要件,すなわち,「通常の事業活動の範囲内」「当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく」「することができる状態」の要件を充足したものでなければならないのであり,内示を受けていない原告がその要件を充足した上で郵政省の要求を満たす集合商品役務を供給することは不可能であって,競争関係は認められない。
したがって,「一定の取引分野」を「郵政省が発注する区分機類の販売に係る取引」とし,そこに原告らの競争が存在することを認めた本件審決は,独禁法2条6項,2条4項の解釈適用を誤り,また,実質的証拠原則に反する違法なものである。
(被告の主張)
原告らが「サービス等のソフト」とするものは,区分機類の取引条件であるところ,これらの条件にかかわらず,原告らのいずれもが区分機類の取引を行い得たし,本件合意がなければ,郵政省が発注する区分機類の市場において競争可能性があったのである。すなわち,流れ型の点を除けば,原告2社の区分機類の性能・品質に大差はなかったこと,流れ型の点についても,平成8年度や平成9年度の一般競争入札において原告らはそれぞれ逆流れ型の区分機類の入札にも参加していること,選別押印機及び台付押印機をあて名区分機,新型区分機等と接続する場合に,ある社のものを他社のものと接続することは,接続に関する技術情報が開示されていれば可能であることからすれば,入札条件について,原告らはいずれも履行することが可能であったといえる。
原告らの主張は,個々の入札物件に付された具体的な予備部品条件や接続条件等について,入札に付された時点での各条件の現実の履行可能性を検討しなければならず,一方しか履行可能でなかったならば,当該条件が付された「集合商品役務」のみを対象とする一つの市場が形成され,独禁法2条6項において検討されるべき「一定の取引分野」も当該市場をもって画定すべきであり,そのように画定した当該市場においては,原告ら双方は競争関係にないと判断すべきであると述べるものとも解される。
しかしながら,独禁法は,公正かつ自由な競争を促進することを目的とし,3条により不当な取引制限(2条6項)を規制することを通して,市場の競争機能(需要と供給により価格が決まるという市場メカニズム)の保護を図ろうとするものであって,個々の取引における競争行為を直接保護しようというものではない。それゆえ,同法2条6項の「一定の取引分野」の画定に当たり,取引に付される具体的な条件を個々に見て,当該各条件に係る取引時点での現実の履行可能性を検討することは妥当ではない。そのような検討をしなければならないとすれば,独禁法の目的である市場メカニズムの保護を図ることができないからである。このような独禁法の趣旨からすると,一定の取引分野に係る原告らの上記主張は誤りである。「郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野」をもって「一定の取引分野」と認定した本件審決に誤りはない。
さらにいえば,本件合意がなければ,郵政省が発注する区分機類の市場において競争可能性があったのであり,区分機類の取引において郵政省内示を受けた原告しか現実には受注することができない状況になったのは,郵政省内示のあった物件についてのみ入札に参加し,納入日程調整等の措置(以下,納入日程の調整,配備先郵便局での実便の画像収集,区分機類の搬入の打合せ等入札前に行われた郵政省と原告らとの準備行為を「入札前措置」という。)を行うことによって,競争することなく一定の受注が見込めること,入札前から確実に受注予測ができることなどのメリットがあった原告2社が郵政省内示を利用して本件合意を成立させ,これに基づき入札に参加したことによるもの,つまり,自らが競争を回避する行動を取った結果なのであり,これを無視する原告らの主張は失当である。
(5) 争点(5)(本件合意は,独禁法7条の2第1項の「対価に係るもの」に該当するか)について
(原告らの主張)
本件合意が,本件審決の認定のごとく,郵政省内示があった原告だけが入札し,他の原告は入札しない,という内容のものであったのだとすれば,独禁法7条の2第1項の「対価に係るもの」の要件は満たさないと考えるべきである。
通常の入札談合事件では,受注予定者が受注価格を定めて他の談合参加者に知らせ,それより高い価格で入札させる,ということを認定するのが例となっており,この場合は「対価に係るもの」に当たることになる。
しかし,本件合意のように,郵政省内示があった原告だけが入札し,他の原告は入札を辞退するという場合には,「入札価格そのものの取決め」があれば「対価に係るもの」に該当するが,本件審決は,「入札価格そのものの取決め」を認定していないのであるから,「対価に係るもの」の要件を満たさないことになる。
本件合意は,郵政省の相手方となって区分機類の取引をする者を郵政省から内示を受けた者に制限するという,郵政省との取引の相手方を郵政省内示を受けた者に制限する合意にすぎず,価格を合意の内容とするものでないことは明らかである。
平成17年改正後の現行7条の2第1項2号は,同項1号とは別に取引の相手方や市場占有率を制限することにより対価に影響することになるものを第2類型として掲げている。もし,本件審決がいうように,供給の割当てを決めて他は辞退するという共同行為であっても「対価に係るもの」に該当するというのであれば,2号は全くの空振りであって,1号のみがあれば足りるはずである。そのような矛盾した法律規定はないはずであるから,本件審決が採用した前提そのものがおかしい。
平成17年改正により,本件合意のような行為は,現行7条の2第1項2号の「対価に影響」の類型には確実に該当するようになった。「甲郵便局に係る発注物件は東芝で,乙郵便局に係る発注物件は日本電気」といった合意は,「甲郵便局に係る発注をする郵政省」と「乙郵便局に係る発注をする郵政省」という2つの取引の相手方を分け合って相互に制限する行為に該当すると思われるからである。高額の金銭的負担を伴う不利益処分について立法の不備があったならば,拡張解釈でなく,新たな立法によるのが,法律による行政の原理が要請するところであり,現にそのような法改正が実現している。旧法を解釈によって拡張し法改正の内容を過去に遡及させることは,慎むべきである。
(被告の主張)
本件合意は,受注予定者を決定し,当該受注予定者が受注できるようにすることを内容とするものであって,受注予定者とされた原告が他の原告との価格競争を全く考慮することなく,自社の利益を最大限とする価格で入札することを可能とし,かつ落札することをも実現させるから,対象商品の価格に直接影響を及ぼすものであり,独禁法7条の2第1項にいう「対価に係る」ものに該当するものである。加えて,入札談合の場合には,受注予定者を決定するとともに,受注予定者以外の者は,価格競争を回避して受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しないという合意を当然に包含するものであり,本件合意の内容からすれば,本件合意に基づき,郵政省内示を受けた原告のみが入札に参加し,郵政省内示のなかった原告は入札に参加しないことで価格競争を全く考慮することのない行動が可能となるのであり,両者が共同して受注予定者の入札する価格で受注できるようにしているものといえ,そのような入札談合に係る本件合意を,単に取引の相手方を制限するだけのカルテルと評価するのは誤りである。
以上からすれば,本件合意は,単に取引の相手方を制限するものではなく,受注価格についての合意を包含するものといえ,本件合意が「対価に係るもの」に該当するとした本件審決は独禁法7条の2第1項を何ら拡張解釈するものではない。
(6) 争点(6)(別紙1及び2に記載の本件各物件は,独禁法7条の2第1項の「当該商品又は役務」に該当するか)について
(原告らの主張)
ア 独禁法2条6項の不当な取引制限の違反要件をめぐる議論が概括的なものとならざるを得ないことを背景として,同法7条の2第1項の「当該商品又は役務」の要件は違反要件論の概括性を個別の取引に即して修正する機能を与えられている。「当該商品又は役務」の要件は,当該個別物件について微視的に独禁法2条6項の要件を適用したならば,どうなるか,という視点から,解釈すべきことになる,
そうすると,課徴金の対象となし得る個別物件は,個別物件ごとの競争可能性の存在が当然の前提とされるべきであり,一般競争入札の仕様上,特定の事業者しか履行できないものであるとすれば,それは課徴金納付の対象となる「当該商品又は役務」に該当しないことになる。ここでいう「競争」とは,独禁法2条4項で定義された「競争」であることはいうまでもなく,個別物件ごとに,同法2条4項の定める「通常の事業活動の範囲内において,且つ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく」「同種又は類似の商品又は役務を供給」「することができる状態」という要件の有無の判断は不可欠であって,その場合,企業の経済的合理性に基づき経営判断としてそのようなことが可能であるか否かが基準とされるべきものである。
イ 本件において,平成7年度ないし同9年度の各入札の対象物件は,郵政省以外に需要者が全く存在しない特殊な機器である「区分機類」及びその予備部品等であり,独占的買手である郵政省の特定の目的達成のための選択・嗜好に基づく「区分機類」の選別・特定,郵政省内示及び郵政省の入札前措置並びに入札条件(予備部品条件,短期間納入条件及び接続条件)の設定がされたことにより,郵政省内示を受けなかった原告においては,郵政省内示を受けなかった物件についての製造・供給は,通常の事業の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなくすることができる状態ではなかったから,個別物件ごとの競争可能性は存在しなかった。特に,平成9年度においては,郵政省は,平成10年2月実施予定の郵便番号7桁化を支障なく確実に実現するため,原告らに対し,175台にも及ぶ多数の新型区分機類に係る入札・落札・契約締結,その納入期限内の履行に加えて,190台もの既設機の新型機能への改造及び移設という極めて複雑かつ多様な作業の実行を求めていたのであり,あらかじめ原告らそれぞれから区分機預の生産能力に関する事情を聴取し,原告ら各自の生産能力の限界までの生産量等を盛り込み,配備予定機種,配備先郵便局等を原告ら各別に特定して,郵政省内示及び郵政省の入札前措置を実施し,これにより郵政省が内示をした原告を受注予定者として決定したもので,郵政省内示を受けなかった原告は当該物件から排除されたものであり,競争可能性はなかったというべきである。
しかるに,本件審決は,原告東芝の落札・契約締結に係る各物件・集合商品役務と原告日本電気の落札・契約締結に係る各物件・集合商品役務とが競争可能であったとしており,独禁法2条4項1号,同条6項及び7条の2第1項の解釈適用を誤ったものである。
(被告の主張)
ア 入札談合における「当該商品又は役務」とは,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解するべきである。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象物件には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,基本合意の対象から除外された等の特段の事情がない限り「当該商品」に該当するものと認められる。
本件において,別紙1及び2記載の本件各物件については,いずれも本件合意に従って受注予定者が決定されたものと認められるから,本件各物件については本件合意により競争制限効果が及んでいるものと認められる。したがって,本件各物件は独禁法7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
イ 独禁法7条の2第1項は,不当な取引制限(同法2条6項)の成立を前提として課徴金賦課を規定しているのであり,課徴金賦課の対象として同項の「当該商品又は役務」該当性を判断するにあたり個別物件についてあらためて不当な取引制限(同法2条6項)の要件を検討すべきという主張は条文の規定から離れた独自の意見といわざるを得ない。かかる独自の意見を前提として個別物件ごとに同法2条4項の競争可能性を検討すべきとする原告らの主張は採り得るものではない。
ウ 仮に,原告らが主張するように個別物件ごとに競争可能性を検討するとしても,本件の区分機類の個別物件の入札時において,接続条件,予備部品条件及び短期納入条件などにより事実上,郵政省内示を受けた原告しか落札できない状況になっていたのは,本件合意を形成していた原告らの意向を受けて,これに同調した郵政省がその意向に沿うように入札を運用したからであって,まさに本件合意によるものであり,もともと競争の余地がなかったとは到底いえない。
原告らの主張は,結局のところ,郵政省内示及び本件合意の存在を所与のものとして競争不能を述べているものにすぎない。郵政省内示及び本件合意がなければ,当初から,区分機類の仕様や付属の予備部品リストも,原告2社に共通した,より一般化された形式となる余地があったはずであるし,連結部の仕様についても,情報開示等の手段が講じられ,競争入札にふさわしい条件が整った可能性はあるのであり,このような可能性がある以上,競争可能性は否定されない。
(7) 争点(7)(課徴金を賦課するには,故意,過失,違法性の認識,違法性の認識可能性という主観的要素が存在することが必要か)について
(原告らの主張)
課徴金納付命令が財産の収奪という制裁としての性質を持つ侵害的行政処分であることは否定できないのであるから,条理及び手続の適正のみならず,実体法の適正をも要求する憲法31条に課徴金制度が適合するためにも,課徴金納付命令の要件としては,憲法上の要請として,当該違反行為につき,その事業者又はその従業員に故意又は過失及び違法性の認識又は違法性の認識の可能性という主観的要素が存在することを要するものと解すべきである。
課徴金制度の趣旨・目的及び課題は,事業者の過去の独禁法違反行為を専ら対象とし,当該行為による利得の剥奪という不利益を課すことによって,事業者の独禁法違反を犯そうとする意欲を減少させて違反行為を抑止することにある。そして,行動を思いとどまらせるためには,行為者の意思に働きかけることが必要不可欠であり,故意等の主観的要素が存在しないときに,課徴金を課すことは,課徴金制度の本質的な目的・課題に反するものというべきである。
本件の事実関係の下において,原告ら及びその担当従業員らには,郵政省が平成7年度ないし平成9年度において一般競争入札の方法により発注した区分機類の落札・契約締結につき,独禁法7条の2第1項に違反する違法な行為であることの認識がなく,かつ,認識可能性がなかったものである。
したがって,本件審決は同法7条の2第1項の解釈適用を誤った違法なものというべきであるから,取り消されるべきものである。
(被告の主張)
独禁法7条の2は,課徴金賦課の要件として,事業者又はその従業員の故意・過失,違法性の認識等を必要とする旨定めていない。
また,課徴金制度は,独禁法違反行為に対する経済的利得を国が徴収し,違反行為者がそれを保持し得ないようにすることによって,社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,独禁法違反行為の規制の実効性を確保するために課されるものであり(平成17年9月13日最高裁第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁),かかる趣旨からも,課徴金を課すにあたって違法性の認識等が必要とは解されない。このように,課徴金は,当該違反行為の反社会性ないし反道徳性に着目して課される刑事罰とは異なるのであって,刑事罰を科すにあたっては違法性の認識等の主観的要素が考慮されるとしても,課徴金を賦課するにあたっては主観的要素を考慮する必要はないのであるから,本件審決の独禁法7条の2第1項の解釈適用に何ら違法はない。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件課徴金納付命令は,除斥期間を経過した後にされたものか)について
(1) 独禁法48条の2第1項ただし書は,被告が課徴金納付を命ずるにつき「当該違反行為について審判手続が開始された場合には,審判手続が終了した後でなければ命ずることができない。」と規定する。その趣旨は,課徴金納付命令も不当な取引制限等の違反行為の存在を前提とするものであるから,先行する排除措置に係る審判手続において,当該違反行為の存否について審理されている場合には,その手続で当該違反行為の存在について被告の判断が示されてから,すなわち,当該違反行為の存在を認定した本案審決が行われてから,課徴金の納付を命ずるのが,排除措置を命ずる手続と課徴金納付を命ずる手続とで同一の違反事実について審理が重複したり,判断が不統一になるのを避けることができ,合理的であるためと解される。したがって,同法48条の2第1項ただし書の「審判手続が終了した」とは,被告が排除措置命令に係る本案審決をしたことをいい,課徴金納付はその後でないと命ずることができないものと解される。
そして,同法7条の2第6項は,課徴金納付命令の除斥期間として「当該審判手続が終了した日から一年を経過したとき」と定めるが,除斥期間の趣旨からして,同法48条の2第1項ただし書によって課徴金納付命令をすることが許されないにもかかわらず,その除斥期間が進行することはないというべきであるから,同法7条の2第6項の「当該審判手続が終了した日」とは,同法48条の2第1項ただし書の「審判手続が終了した」日と同じく,本案審決がされた日をいうものと解すべきである。
(2) 原告らは,独禁法にいう「審判手続」には「審決」は含まれないとして,同法7条の2第6項の「審判手続が終了」とは,審判官が本案審決の審判手続を終結する旨宣言したことをいうと主張する。
しかしながら,原告らが指摘する同法53条の3から54条の2の各規定のように「審判手続」と「審決」とを区別し,審決を包摂しない意味で「審判手続」の用語を用いている条文もあるものの,同法51条の2のように「審判手続(審決を除く。)」として「審判手続」には審決も含むことを前提としている条文も存在するのであって,独禁法の「審判手続」が一義的に審決を含まないと解することはできない。
また,同法7条の2第6項にいう「審判手続が終了」を原告らの主張する意味に解した場合には,審判官が本案審決の審判手続を終結する旨宣言してから本案審決まで時間を要するのもやむを得ない事案においては,本案審決を待たずに課徴金納付命令を発出しないと除斥期間が経過することになりかねず,排除措置を命ずる手続と課徴金納付を命ずる手続とで審理の重複による不経済が生じたり,判断の不統一を生じるおそれがあるのであって,同法48条の2の趣旨にも反する結果となり,妥当ではない。さらに,審判官が審判手続の終結を宣言した後においても,被告は,必要があると認めるときは,自ら審判を開き,又は審判官に対し審判手続の再開を命ずることができる(平成17年10月19日公正取引委員会規則第8号による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則87条2項)から,「審判手続が終了」の文言を,原告ら主張のように解すると,課徴金納付命令についての除斥期間が進行を始めた後に,再び審判手続が実施される可能性があることになる。
したがって,同法7条の2第6項の「審判手続が終了」の文言を,審判官が本案審決の審判手続を終結する旨宣言したことと解することはできない。
(3) 以上によれば,本件本案審決の審判手続において審判官が審判手続を終結する旨宣言した平成14年9月24日から除斥期間が進行するという原告らの主張は採用できず,本件本案審決が平成15年6月27日に行われ,そのころ原告らに送達され,平成16年6月14日に本件課徴金納付命令が出されたという本件の事実経過に照らすと,本件課徴金納付命令が除斥期間が経過した後に出されたものでないことは明らかである。
2 争点(2)(本件違反行為を認定した本件本案審決が確定した場合でも,本件審決の取消訴訟において,再度本件違反行為の存否を争えるか)について
原告らは,平成17年改正後の現行59条2項のような特段の規定がない限り,本件本案審決が確定したとしても,同審決の主文は別として,理由中で認定された本件違反行為の存在については,本件審決取消訴訟の審理判断に何らの影響を及ぼすものではなく,原告らは,再度,本件審決取消訴訟において本件違反行為の存在を争えると主張する。
平成17年改正後の現行59条2項3号は,課徴金「納付命令に係る違反行為についての排除措置命令に係る審決において,当該違反行為の全部又は一部が認定されたとき」には,納付命令に係る審判手続において,被審人は当該納付命令に係る違反行為(当該認定に係る部分に限る。)の不存在を主張することができない旨規定しており,これは,排除措置命令に係る審決の取消訴訟が提起されたか否かを問わないものである。本案審決で公正取引委員会によって違反行為が認定された以上,課徴金納付命令に係る審判で再度違反行為の存否を争えるとすることは手続の安定性,効率性の観点から適当でないため,このような規定が設けられたものと解される。
本件で適用のある平成17年改正前の独禁法においては,平成17年改正後の現行59条2項のような規定は存在しないが,前記1(1)のとおり,独禁法48条の2第1項ただし書は,排除措置を命ずる手続と課徴金納付を命ずる手続とで同一の違反事実について審理が重複したり,判断が不統一になるのを避けるため,先行する排除措置に係る審判手続において,審決によって当該違反行為の存在についての被告の認定判断が示されてから,その認定を前提として課徴金納付を命ずるという手続構造を採用しており,当該違反行為の存在を争いたい被審人には,排除措置に係る審判手続においてその機会があるし,本案審決で当該違反行為が認定され排除措置を命じられたとしても,さらに,本案審決の取消訴訟で争う機会があり,違反行為の存否については,被審人に排除措置に係る審判手続及び本案審決に対する取消訴訟で争うことを要求したとしても,十分な防御の機会を与えているといえるのであり,その保護に欠けることはない。むしろ,違反行為の存否を争う被審人に排除措置を命ずる手続と課徴金納付を命ずる手続の双方で全く同じ問題を争う機会を与えることは,手続の安定性と効率性の観点から合理的でないと解される。
さらに,本件では,本件本案審決において本件違反行為が認定されたにとどまらず,同審決の取消訴訟が最高裁判所まで争われ,本件本案審決が適法であることが訴訟上も確定している。したがって,平成17年改正前の独禁法が適用される本件においても,前記の趣旨から,本件本案審決と同じ違反行為を前提とする本件審決の取消訴訟において,原告らが改めて本件違反行為の不存在を主張することは許されないものと解すべきであり,本件訴訟においては本件違反行為の存在を前提として課徴金納付命令固有の要件について判断すべきである。このことは,被告が,本件審決において本件本案審決が認定した本件違反行為と同一の違反行為を改めて認定していたとしても左右されないというべきである。よって,この点についての原告らの主張は理由がなく,争点(3)及び(4)については判断を要しない。
3 争点(5)(本件合意は,独禁法7条の2第1項の「対価に係るもの」に該当するか)について
入札談合の場合には,受注予定者を決定するとともに,受注予定者以外の者は,受注予定者が入札する価格以下の価格で入札しないという合意を当然に包含するものである。この受注予定者の入札価格が談合の関与者に周知されている場合には,受注予定者に特定の価格で落札させることについて合意が存在することになるから,対価に係る合意が存在するということは明らかである。これに対し,本件合意のように,受注予定者以外の者は入札に参加しないという場合には,受注予定者の入札価格が談合の関与者に周知される必要がなく,入札価格が受注予定者以外の者に知らされていなければ,特定の価格についての合意が存在することにはならない。しかし,この場合も,特定の価格が合意されていないとはいえ,入札価格は受注予定者に一任し,それ以下の価格で入札しない(入札に参加しない)という合意をしていることに変わりはなく,この合意は対価に係るものということができ,その合意の結果として,受注予定者の入札価格で契約が成立することになるのである。
結局,他の者が,受注予定者が入札する特定の価格を承知の上,形式上それを超える価格で入札して受注予定者に落札させる場合と,入札価格は受注予定者に一任し,他の者は入札に参加せずに受注予定者に落札させる場合を比較すると,受注予定者にその入札価格で落札させるための手法が若干異なるにすぎず,質的に異なる行為であるとは考えられないのであって,前者の場合には「対価に係る」合意が存在すると認められ,課徴金を賦課することができるが,後者の場合には「対価に係る」合意が認められず,課徴金を賦課できないと解するのは不合理である。いずれの場合も受注予定者の入札価格以下の価格では入札しないという「対価に係る」合意をしていると認められるというべきである。
入札制度は,入札参加者が価格競争を行い,最も低い価格で入札した者を受注者とすることによって,自由な競争の中での合理的な価格決定を目的とする制度であるところ,そうした価格決定の制度において,入札談合を行い受注予定者を決定し,その者の入札価格で受注価格を決定することを可能にする行為は,単に受注予定者に「仕事」を確保させるにとどまらず,入札における価格競争を回避して受注価格の低落防止を直接の目的とするものであって,そのような対価の維持を直接の目的とする合意は,「対価に係る」合意に該当すると解すべきである。
以上によれば,本件合意を独禁法7条の2第1項の「対価に係る」ものであると認定した本件審決に誤りはないというべきである。
4 争点(6)(別紙1及び2に記載の本件各物件は,独禁法7条の2第1項の「当該商品又は役務」に該当するか)について
(1) 独禁法7条の2第1項は,「事業者が,不当な取引制限・・・で,商品若しくは役務の対価に係るもの・・・をしたときは,公正取引委員会は,・・・事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間・・・における『当該商品又は役務』の政令で定める方法により算定した売上額に百分の六・・・を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない」旨規定する。そして,上記の「当該商品又は役務」とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指すが,入札談合による受注調整の場合にあっては,基本合意の対象となる商品又は役務であることのほかに,基本合意に基づいて受注予定者として決定され,受注するなど,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきである。
本件審決は,別紙1及び2記載の本件各物件が全て「当該商品又は役務」に該当することを前提に課徴金を算出しているところ,本件合意は,原告ら2社間でされた,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,郵政省の担当官らから郵政省内示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,郵政省内示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の担当官らから郵政省内示のあった者が受注する旨の黙示による意思の連絡であり,原告らは,郵政省内示の有無に応じて,本件合意の内容と同様の行動を採った結果,原告東芝が別紙1記載の各物件を,原告日本電気が別紙2記載の各物件を受注している。したがって,本件各物件の受注は,本件合意に基づいて決定されたということができ,原則として,本件合意に基づく具体的な競争制限効果が及んでいるものということができる。
(2) これに対し,原告らは,本件は,独占的買手である郵政省の特定の目的達成のための選択・嗜好に基づく「区分機類」の選別・特定,郵政省内示及び入札前措置並びに入札条件(予備部品条件,短期間納入条件及び接続条件)の設定がされたことにより,郵政省内示を受けなかった原告においては,郵政省内示を受けなかった物件についての製造・供給は,通常の事業の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなくすることができる状態ではなかったから,個別物件ごとの競争可能性は存在しなかったと主張しているので,この主張が本件合意に基づく具体的な競争制限効果を否定し,本件各物件の「当該商品及び役務」該当性を否定することになるかを検討する。
(3) 本件審決の認定事実
本件審決は,各箇所に適示した各証拠により,また,証拠の適示のない部分は当事者間に争いがないものとして,以下の事実を認定しており,これらの事実については,合理的な事実認定と認めることができる。
ア 平成6年度から平成9年度までの区分機類の性能・品質等
(ア) 情報入力装置を除く区分機類については,原告東芝は専ら右流れ型のものを,原告日本電気は専ら左流れ型のものを製造販売しており,この流れ型の点を除けば,両社の区分機類の性能・品質に大差はなかった。
(イ) 区分機類の入札においては,従前から,原告東芝が右流れ型の,原告日本電気が左流れ型の,それぞれ大部分を落札しており,平成6年度から平成9年度にかけての当時も同様であったが,平成8年度の一般競争入札においては,原告東芝が左流れ型の区分機類2物件の入札に参加して落札・受注しており,平成9年度の一般競争入札においては,原告日本電気が右流れ型の区分機類2物件の入札に参加して落札・受注し,原告東芝が左流れ型の区分機類1物件の入札に参加して落札・受注した。
(ウ) 選別押印機及び台付押印機をあて名区分機,新型区分機等と接続する場合に,ある社のものを他の社のものと接続することは,接続に関する技術情報が開示されていれば可能であり,平成10年5月頃郵政省が株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。)の求めに応じて接続に関する技術情報を開示し,その後は,他社製の選別押印機及び台付押印機と自社製のあて名区分機,新型区分機等との接続が行われている(査共第21号証,第22号証,第29号証の1及び2,第90号証,第95号証,第101号証,第110号証,第112号証,第189号証,第194号証,審第127号証,第128号証,参考人堀江寿,参考人池田修)。
(エ) 原告らが区分機類の製造に要する期間は,郵政省の平成7年度ないし平成9年度の入札当時,部品の手配から製品の完成まで,通常約6か月とされている。
イ 指名競争入札が行われていた当時の状況
(ア) 郵政省は,昭和62年度以降,区分機類を指名競争入札の方法により発注するようになっていたところ,原告らは,そのころには,それぞれ郵政省の担当官から郵政省内示を受けるようになっていた。
(イ) 原告らは,郵政省内示を受けた物件については自社だけが入札に参加して確実に落札できるという一致した認識を有しており,原告らのうち郵政省内示を受けた者のみがその物件の入札に参加し,郵政省内示を受けなかった者はその物件の入札に参加しないという行動を採っていた(査共第23号証,第68号証の1ないし8,第69号証の1ないし10,第79号証,第88号証,第91号証,第188号証,第190号証)。
その結果,競争入札であるにもかかわらず,郵政省内示を受けた者のみが入札に参加し,他者と価格競争することなく落札する,といった事態が長期間にわたりほぼ例外なく継続しており,原告らは,それぞれ郵政省の発注額のおおむね半分ずつを受注していた(査共第23号証,第68号証の1ないし8,第69号証の1ないし10,第79号証,第88号証,第91号証)。
(ウ) 郵政省内示を受けた後,原告らは,それぞれ同省担当者との間で,入札実施前に,郵政省内示を受けた区分機類の納入日等の調整を行った。
ウ 一般競争入札の導入について
(ア) 平成6年9月2日,郵政省において,同省の担当官らと原告らの担当者らの間で会合が開かれ,郵政省から原告らに対して,区分機類の発注を一般競争入札にせざるを得ない旨の説明がされたところ,原告らは一般競争入札の実施に反対する趣旨の発言をした。原告ら側から,一般競争入札にすると,現在のように契約から納入までの期間が1か月から3か月と短期に定められている物件の納入に問題が生じるのではないかとの質問がされたのに対し,郵政省側は一般競争入札の場合は,契約から納入までに最低6か月は必要であると考えると回答した(査共第48号証,第88号証,第92号証,第95号証,第188号証,第192号証,第193号証,第197号証ないし第199号証)。
(イ) 平成6年11月頃,原告東芝の担当者は,郵政省の担当官に対し,一般競争入札の導入の中止を要請したが,同担当官は,一般競争入札の導入は既に郵政省として決定した事項であったため,それはできないと断った(査共第92号証,第198号証,第199号証)。
(ウ) 平成7年1月初旬頃,原告日本電気の担当者は,郵政省の担当官に対し,郵政省内示を継続するように要請したが,郵政省の担当官は,上司らの判断がいまだされていないことから,この要請に対して回答しなかった(査共第92号証,第198号証)。
(エ) 平成7年1月上旬頃,郵政省の担当官らは,配備計画どおりに平成7年度の区分横額が納入されないと困ることから,郵政省内示を継続することを決定した。
エ 一般競争入札における郵政省内示,入札前措置
(ア) 郵政省の担当官らは,平成7年2月頃,原告らの担当者らに対して,それぞれ郵政省内示を行った。
原告らの担当者は,郵政省内示を受けた物件について,自社工場部門に物件の製造を指示するとともに,郵政省の担当官らと納入日程の調整を行い,同年4月頃に,配備先郵便局で実便の画像収集の作業を行い,その後も地方郵政局からの要請を受けて,区分機類の搬入の打合せに出席した(入札前措置)。
平成7年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成7年5月2日に行われた。仕様書には,原則として,右流れ型には原告東芝が作成した予備部品リストが,左流れ型には原告日本電気が作成した予備部品リストが添付されていた。入札は同年7月3日に行われた。
(イ) 平成8年度及び平成9年度の一般競争入札についても,平成7年度と同様,郵政省の担当官らから,原告らに対し,官報公示の相当前に郵政省内示が行われ,原告らの担当者は,入札の実施を待たずに自社の工場部門に内示を受けた物件の製造を開始するよう指示するとともに,郵政省の担当官らと納入日程等の調整等を行った。仕様書の内容も平成7年度と同様であった。
(ウ) 平成9年度に特有の事情として,郵政省が平成9年度に発注する区分機類は,平成10年2月に実施する郵便番号7桁化に対応した新型区分機が中心で,従前よりも発注台数が多く,また,既設のあて名区分機を新型区分機並みの性能に改造して他の郵便局に移設する(以下「玉突き移設」という。)必要があった。
郵政省の担当官らは,原告らの担当者らと打ち合わせをしながら,平成8年6月頃から平成9年度の区分機類の具体的な配備計画を検討し,平成8年8月頃には配備計画をほぼ詰め終わった。そして,郵政省の担当官らは,原告らに対し,同年10月頃までに郵政省内示を行った。
その後,原告らの担当者は,郵政省の担当官に納入日程案を提出し,同担当官の依頼も踏まえ,修正を繰り返し,平成9年4月頃までに納入日程が確定した。平成9年度は,発注予定の区分機類の台数が多く,また,玉突き移設の問題もあったため,従来より多数回の修正が行われた。
平成9年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成9年3月19日に行われ,入札は同年5月16日に行われた。
オ 公正取引委員会の立入検査及び日立製作所の参入後の状況等
(ア) 平成9年12月10日,被告が原告らに立入検査を行った。以後,郵政省の担当官らは郵政省内示を行わなくなり,区分機類の納入日程の調整は入札後に行われるようになり,官報公示において入札日から初回の納入期限までの期間を短期間に設定することもなくなった。
(イ) 日立製作所が,平成10年4月9日付け文書で,郵政省に対し,原告東芝製及び同日本電気製の選別押印機等との接続に関する技術情報の開示を求めたところ,郵政省はこれに応じて,同年5月8日付け文書で技術情報を開示し,日立製作所は,その開示を受けて技術的に接続が可能であることを確認して同年6月9日の区分機類の一般競争入札に参加した。
また,郵政省が平成11年3月19日に一般競争入札の方法により発注した区分機類について,原告日本電気は,原告東芝製の選別押印機との接続を条件とする新型区分機の入札に参加し,落札・受注し,納入している。また,日立製作所も,同日の入札において,原告東芝製の選別押印機との接続を条件とする新型区分機の物件の入札に参加し,落札・受注した。
(4) 上記(3)の認定事実によれば,①郵政省と原告らとの間では,昭和62年度以降,区分機類の発注について指名競争入札が行われていた頃から,郵政省内示及び入札前措置が行われ,郵政省内示を受けた原告のみが入札に参加することにより,原告らは,価格競争を回避しながら,郵政省の発注額のおおむね半分ずつを安定的に受注しており,そうした事態が長期間継続してきたこと,②平成6年に郵政省から区分機類の発注について一般競争入札を導入することが示された際も,原告らは反対の意向を表明し,原告日本電気は,郵政省内示の継続を要請したこと,③平成7年1月上旬頃,郵政省は,配備計画どおりに区分機類の納入がされないことは困ることから,郵政省内示を継続することを決めたこと,④平成7年度以降,区分機類の発注について一般競争入札が行われたが,郵政省内示及び入札前措置が継続されたことが認められる。そして,上記(1)で説示したとおり,原告らは,本件合意に基づいた行動を採り,本件各物件を受注している。
以上によれば,郵政省が郵政省内示を行い,原告らとの間で入札前措置を行い,原告らがそれぞれ郵政省内示を受けた物件のみの入札に参加して受注するという方法が指名競争入札の時代から長期間継続してきたが,これは配備計画どおりに区分機類を納入したいという郵政省の意向と価格競争を回避して安定的に区分機類を受注したいという原告らの意向が合致していたために,郵政省と原告らが歩調を合わせてきたものというべきである。郵政省が郵政省内示により,一方的に受注者を決定し,原告らがこれに従属せざるを得なかったにすぎないと評価するのは相当ではなく,原告らも自社の利益を図るため,自ら主体的に郵政省内示を受け入れ,郵政省内示のあった物件についてのみ入札し,競争を回避する行動を採るという前提があったからこそ,郵政省内示及び入札前措置が継続されてきたというべきである。郵政省内示,入札前措置,本件合意に基づく入札行動といった,競争入札を形骸化させ,競争を制限する運用は,郵政省と原告らが協調して行ったものと評価できる。
(5) これに対し,原告らは,郵政省内示及び入札前措置を前提とする現実の入札条件(予備部品条件,短期間納入条件及び接続条件)の下では,郵政省内示を受けなかった原告には競争可能性がなかったと主張するので,さらにこの点について検討する。
ア 短期間納入条件
原告らが主張する短期間納入条件とは,区分機預を受注してから6か月をはるかに下回る短期間で物件を納入することが条件とされていることをいう。前記(3)ア(エ)に記載のとおり,区分機類の製造に要する期間は部品の手配を含めて通常約6か月とされている。
本件各物件の入札条件には,納入期間が6か月未満の短期間で設定されたものがあるが,それは,事前に郵政省内示や入札前措置が行われ,郵政省内示を受けた原告が受注前に製造準備に着手できることが前提になっている。
したがって,短期間納入条件は,郵政省と原告らが協調して競争を制限する運用を行った結果として設けられたものであり,正に原告らも関与して行った競争制限の結果にすぎないというべきであるから,短期間納入条件をもって競争可能性を否定することはできない。
前記(3)オ(ア)に記載のとおり,被告の立入検査後は郵政省内示は行われなくなり,区分機類の納入日程の調整は入札後に行われるようになり,納入期限までの期間を短期間に設定することもなくなっているが,これは,郵政省と原告らが協調して競争を制限する運用が行われなければ,一般的に競争可能な納入期限の条件が設定されたはずであることを示すものである。
また,前記(3)エ(ウ)に記載のとおり,平成9年度については,平成10年2月に実施する郵便番号7桁化に対応するため,発注台数が多く,玉突き移設の必要があり,配備計画の検討にも原告らの担当者が関与し,郵政省内示後の納入日程の調整でも多数回の修正が行われた上で入札が実施されたことが認められるが,こうした入札前措置も郵政省と原告らが協調して競争を制限をする運用をしていたからこそ行われたというべきである。そうした運用をしていなければ,発注台数が多い等の事情があったとしても,それらの事情も考慮に入れた上で一般的に競争可能な納入期限の条件が設定されていたはずであって,平成9年度の特殊事情を考慮しても,もともと競争可能性がなかったとは認められない。
イ 予備部品条件
原告らが主張する予備部品条件とは,ある区分機類の入札条件として,原告のうち一方が製造している予備部品を添付することが条件となっていることをいい,そのため,当該予備部品を製造している原告しか当該区分機類の入札ができず,競争可能性がないのではないかが問題となるものである。
前記(3)エ(ア),(イ)に記載のとおり,仕様書には,原則として,右流れ型には原告東芝が作成した予備部品リストが,左流れ型には原告日本電気が作成した予備部品リストが添付されていたが,これは,郵政省と原告らが協調して競争を制限する運用を行っていた結果として,官報公示前の段階で,ある区分機類の受注予定者がいずれか一方の原告に事実上絞られるために,当該原告が製造している予備部品を添付することが入札条件で設定されていたものと推認できる。
そうすると,予備部品条件も,原告らも関与して行った競争制限の結果を反映して設けられたにすぎないというべきであるから,これをもって競争可能性を否定することはできない。郵政省と原告らが協調して競争を制限する運用を行わなければ,予備部品の添付が入札条件とされたとしても,仕様書に特定の原告の予備部品リストが添付されるような形ではなく,一般的に競争可能な方式で定められたはずである。
ウ 接続条件
原告らが主張する接続条件とは,ある区分機類の入札条件として,原告のうち一方が既に当該郵便局に設置している区分機類と接続可能であることが条件になっていることをいい,そのため,既設区分機類を製造した原告しか区分機類の入札ができず,競争可能性がないのではないかが問題となるものである。
本件各物件の入札条件には,既設区分機類との接続が条件とされたものがあるが,前記(3)ア(ウ),オ(イ)に記載のとおり,他社の既設区分機類に新たな区分機類を接続することは,接続に関する技術情報が開示されていれば可能であり,日立製作所が平成10年5月に郵政省からその情報開示を受けて他社製の区分機類との接続が必要な区分機類の一般競争入札に参加しているし,その後,原告日本電気も他社製の区分機類との接続が必要な区分機類の一般競争入札に参加していることからすれば,接続条件の達成は技術的には不可能ではなかったのであり,同条件の存在により競争可能性がなかったとはいえない。むしろ,原告らは,郵政省と協調して競争を制限する運用を行い,競争を回避して安定して区分機類を受注していたため,あえて積極的に接続に関する技術情報の開示を求めて他社製の既設区分機類との接続を要する区分機類の入札に参加してまで競争を行う意思がなかったことから競争が生じなかったにすぎないものと推認される。
エ 以上によれば,郵政省内示,入札前措置を前提として現実に設定された入札条件(予備部品条件,短期間納入条件及び接続条件)については,郵政省と原告らが協調して競争を制限する運用を行っていた結果として設けられたもの(短期間納入条件及び予備部品条件)か,もともと技術的には競争可能なところを原告らが競争を行う意思がなかったもの(接続条件)というべきであって,これらの入札条件は,競争可能性を否定する客観的条件とはいえない。したがって,これらの入札条件の存在は,本件各物件につき,本件合意に基づく具体的な競争制限効果が及んでいることを否定するような事情とはいえず,本件各物件は,「当該商品及び役務」に該当するものと認められる。
5 争点(7)(課徴金を賦課するには,故意,過失,違法性の認識,違法性の認識可能性という主観的要素が存在することが必要か)について
独禁法の定める課徴金の制度は,昭和52年法律第63号による改正において,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである(最高裁平成17年9月13日第3小法廷判決・民集59巻7号1950頁)。
独禁法7条の2は,課徴金賦課の要件として,事業者又はその従業員の故意,過失,違法性の認識,違法性の認識可能性といった主観的要素を要求しておらず,課徴金制度が,既存の刑事罰とは別個に独禁法違反行為を抑止するための行政上の措置として設けられているという趣旨に照らすと,立法論は別として,これら主観的要素を要件とすべきことが憲法上要請されていると解することはできない。
原告らは,課徴金制度の趣旨が,事業者の独禁法違反を犯そうとする意欲を減少させて違反行為を抑止することにあり,行動を思いとどまらせるには,行為者の意思に働きかけることが必要不可欠であるから,課徴金を賦課するには故意等の主観的要素が必要である旨主張する。
しかしながら,課徴金制度の趣旨が金銭的不利益を課して違反行為を抑止することにあるからといって,課徴金賦課の要件として故意等の主観的要素が当然に要求されるとはいえない。故意等の主観的要素を要件としない課徴金制度であっても,それが存在することにより,違反行為を抑止する効果は期待できるし,違反行為の抑止を口的として不利益を課す行政上の措置を設ける場合には,必ず故意等の主観的要素を要求しない限り,不当な制度であって憲法に違反することになるともいえないのであって,この点に関する原告らの主張には理由がない。
したがって,課徴金賦課の要件として,明文のない故意等の主観的要素は不要というべきであって,独禁法7条の2第1項の解釈適用上,原告らの主観的要素を考慮しなかった本件審決に誤りはない。
第4 結論
以上のとおりであって,原告らに対し,本件違反行為について課徴金の納付を命じた本件審決に違法はない。
よって,原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成24年2月17日

裁判長裁判官 鈴木健太
裁判官 小宮山茂樹
裁判官 吉田尚弘
裁判官 藤澤孝彦
裁判官林俊之は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官 鈴木健太

PDFダウンロード

戻る 新規検索