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㈱新井組ほか3名による審決取消請求事件

独占禁止法7条の2(独占禁止法3条後段)

平成22年(行ヒ)第278号

判決

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
上告人 公正取引委員会
同代表者委員長 竹島一彦
同指定代理人 田中久美子
       島崎伸夫
       秋沢陽子
       藤原昌子
       小髙真侑
       渡辺健一

兵庫県西宮市池田町12番20号
被上告人 株式会社新井組
同代表者代表取締役 中西政治
同訴訟代理人弁護士 青木武男
          千葉睿一
          森葉子
          杉森洋平
大阪市阿倍野区松崎町2丁目2番2号
被上告人 株式会社奥村組
同代表者代表取締役 奥村太加典
同訴訟代理人弁護士 俵谷利幸
          伴義聖
東京都新宿区西新宿1丁目25番1号
被上告人 大成建設株式会社
同代表者代表取締役 山内隆司
同訴訟代理人弁護士 竹内淳
          柏原智行
東京都千代田区三番町1番地
被上告人 飛島建設株式会社
同代表者代表取締役 伊藤寛冶
同訴訟代理人弁護士 加瀬洋一

上記当事者間の東京高等裁判所平成20年(行ケ)第25号,第26号,第32号,第38号審決取消請求事件について,同裁判所が平成22年3月19日に言い渡した判決に対し,上告人から上告があった。よって,当裁判所は,次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被上告人らの請求をいずれも棄却する。
訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人南雅晴ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,公共下水道工事等の入札において被上告人らを含む事業者らがした受注予定者の決定等に関する合意が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47号による改正前のもの,以下「法」という。)2条6項所定の「不当な取引制限」に当たる行為(談合)であるとして,上告人から課徴金の納付を命ずる審決(公正取引委員会平成14年(判)第1号ないし第34号。以下「本件審決」という。)を受けた被上告人らが,上告人に対し,それぞれ本件審決のうち白らに対して課徴金の納付を命じた部分の取消しを求めている事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 財団法人東京都新都市建設公社(以下「公社」という。)は,東京都の区域のうち区部及び島しょ部を除く区域(以下「多摩地区」という。)に所在する市町村から委託を受けるなどして,多摩地区において公共下水道の建設等の・都市基盤整備事業を行う法人である。
公社は,原則として,公共下水道等の土木工事を指名競争入札の方法により発注しており,予定価格が500万円以上である土木工事のうち,一の事業者によって施工される工事(以下「単独施工工事」という。)の発注においては,公社が入札参加資格を満たす者として登録している事業者の中から入札参加希望者を募り,その中から指名競争入札に参加する事業者(以下「入札参加業者」という。)を指名し,また,二の事業者の共同施工方式により施工される工事(以下「共同施工工事」という。)の発注においては,上記と同様の方法で募る入札参加希望者の中から共同企業体(以下「JV」という。)の構成員となるべき者を指名してこれらの者により結成されたJVを入札に参加させていた(以下,公社の上記各指名に係る事業者を「指名業者」といい,共同施工工事の指名競争入札に参加するJVを「入札参加JV」という。)。公社は,これを工事希望型指名競争入札と称し,工事発注予定表をもってその発注する工事の件名等を公示し,入札参加希望者に工事希望票を提出させ,工事希望票の提出者の中から指名業者を選定していた。公社は,指名業者の選定に当たっては,単独施工工事については10者が入札参加業者となり,共同施工工事については10組のJVが入札参加JVとなるように選定することを常としていた。
公社は,上記の入札参加資格を満たす者として登録している事業者を,その事業規模等により工種区分ごとにAからEまでのいずれかのランク(以下「事業者ランク」という。)に格付けした上,格付けごとに順位(以下「格付順位」という。)を付していた。また,公社は,発注する土木工事を,その工事の予定価格を基準とし,これに工事の技術的な難易度等を勘案して,事業者ランクがAからEまでのいずれかの1者による単独施工工事(以下,事業者ランクがAの者による単独施工工事を「Aランクの工事」という。)並びに事業者ランクがいずれもAの2者,A及びBの2者又はA及びCの2者で結成するJVによる共同施工工事(以下,これらの共同施工工事を順に「AAランクの工事」,「ABランクの工事」,「ACランクの工事」という。)に分けて格付けしており,予定価格1億7000万円以上2億6000万円未満の工事がAランクの工事,2億6000万円以上3億円未満の工事がACランクの工事,3億円以上5億6000万円未満の工事がABランクの工事,5億6000万円以上の工事がAAランクの工事におおむね対応していた。
そして,公社は,指名業者を選定するに当たり,① 単独施工工事については,発注する工事に対応する事業者ランクに格付けされた者の中から指名することを基本とし,② ABランクの工事又はACランクの工事については,事業者ランクがAの者をJVの構成員のうちの代表者(以下「メイン」という。)として指名し,事業者ランクがB又はCの者をJVのその他の構成員(以下「サブ」という。)として指名することを基本とし,指名を受けたメインとサブに結成させたJVを入札参加JVとし,③ AAランクの工事については,メインとサブを区別せずに,事業者ランクがAの者の中から指名することを基本とし,指名を受けた者同士に結成させたJVを入札参加JVとしていた。
規模が大きい工事や高度な施工技術が求められる工事については,公社が工事希望票を提出してきた者の中から原則として格付順位が上位の者を優先して指名業者に選定していたため,その上位に格付けされていた後記(2)のゼネコンが指名業者に選定されることが多かった。また,公社は,何度も工事希望票を提出しているにもかかわらず指名されていない事業者を救済する目的で,工事希望票の提出回数,指名回数及び受注回数を考慮して指名業者を選定する場合があった。
公社は,入札の実施に当たって予定価格及び最低制限価格を設定し,各入札参加業者又は入札参加JVの入札価格の全部が予定価格を上回る場合にはその場で3回まで入札を行い,最低制限価格を下回る価格で入札した入札参加業者又は入札参加JVは失格とし,最低制限価格以上予定価格以下の価格で入札した入札参加業者又は入札参加JVの中で最も低い価格で入札した者を落札者としていた。公社は,平成13年9月以前は,予定価格及び最低制限価格を事前に公表していなかったが,公社の設定する最低制限価格は予定価格の80%に相当する額であり,このことは後記(2)のゼネコンの入札担当者に広く認識されていた。
JVを結成して公社の指名競争入札に参加する場合には,通常,JVのメインが入札価格を決定していた。
(2) 被上告人らを含む本件審決の被審人らのうちa,b及びcを除く31社並びに吸収合併前のd及びe(以下,これらを併せて「本件33社」という。)は,いずれも建設業法所定の許可を受けて国内の広い地域において総合的に建設業を営む者(以下「ゼネコン」という。)であり,多摩地区においても営業所を置くなどして事業活動を行っていた。
平成9年10月1日から同12年9月27日までの間(以下「本件対象期間」という。)においては,本件33社に加え,いずれも多摩地区で事業活動を行うゼネコンであるaほか46社(以下「その他47社」という。)が,公社から,入札参加資格を満たす者として前記(1)の登録を受け,土木工事のうち下水道工事,一般土木工事等の特定の工種区分における事業者ランクをAとして格付けされていた。
また,本件対象期間においては,多摩地区で建設業を営むゼネコン以外の事業者165社(協同組合を含む。以下「地元業者」という。)等も,公社から入札参加資格を満たす者として前記(1)の登録を受け,公社が発注する土木工事の指名競争入札に参加していた。地元業者のうち,本件対象期間において,公社から下水道工事の工種区分における事業者ランクをAとして格付けされていた者は,74社であった。
(3) 公社は,指名競争入札の方法により発注する土木工事であるAAランクの工事,ABランクの工事,ACランクの工事又はAランクの工事(以下「Aランク以上の土木工事」と総称する。)で,本件33社及びその他47社のうちの複数の者又はこれらのいずれかの者をメインとする複数のJVを入札参加業者又は入札参加JVの全部又は一部とするもの(以下「公社発注の特定土木工事」という。)を,本件対象期間中に72件発注した。
本件33社は,それぞれ本件対象期間中に入札が実施された上記72件の工事に
係る指名競争入札の一部において指名業者となり,それぞれ入札参加業者又は入札参加JVの構成員として1ないし3件の工事を落札して受注した。本件33社の落札及び受注に係る工事の合計数は34件であり(以下,これらの工事を「本件34件の工事」という。),その予定価格に対する落札価格の割合(以下「落札率」という。)は,99%を超えるものが21件,98%を超え99%に満たないものが5件,97%を超え98%に満たないものが2件,90%に満たないものが6件であった。また,本件34件の工事のうち24件の工事の指名競争入札においては,地元業者が入札参加業者又は入札参加JVのメインの中に含まれていた。
(4) 本件34件の工事のうち被上告人らの落札及び受注に係る各工事(以下「本件個別工事」という。)における入札の実施状況は,次のとおりである。
ア 公社は,八王子市の下水道工事(本件審決にいう番号11の物件)について,ACランクの工事として,平成10年4月16日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年5月26日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,本件33社のうちの被上告人株式会社新井組を含む4社,その他47社のうちの4社及び地元業者2社であった。同被上告人を除くゼネコン各社をメインとする7組のJVは,予定価格を上回る価格で入札し,地元業者をメインとする2組のJVは,入札価格が最低制限価格を下回ったため失格した。その結果,同被上告人をメインとするJVが落札し,落札率は89.79%であった。
イ 公社は,立川市の下水道工事(本件審決にいう番号24の物件)について,AAランクの工事として,平成10年8月27日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年9月28日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,本件33社のうちの被上告人大成建設株式会社を含む4社及びその他47社のうちの6社であった。同被上告人を除く各社をメインとするJVは,予定価格を上回る価格で入札した。その結果,同被上告人をメインとするJVが落札し,落札率は99.62%であった。
ウ 公社は,前記イの工事の継続工事である立川市の下水道工事(本件審決にいう番号26の物件)について,AAランクの工事として,平成10年11月26日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年12月25日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,本件33社のうちの被上告人大成建設を含む4社及びその他47社のうちの6社であった。同被上告人を除く各社をメインとするJVは,予定価格を上回る価格で入札した。その結果,同被上告人をメインとするJVが落札し,落札率は99.60%であった。
エ 公社は,立川市の下水道工事(本件審決にいう番号30の物件)について,AAランクの工事として,平成11年2月25日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年3月29日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,本件33社のうちの被上告人X3を含む3社及びその他47社のうちの7社であった。同被上告人を除く各社をメインとするJVは,予定価格を上回る価格で入札した。その結果,同被上告人をメインとするJVが落札し,落札率は99.97%であった。
オ 公社は,前記イ,ウの工事の継続工事である立川市の下水道工事(本件審決にいう番号34の物件)について,AAランクの工事として,平成11年4月1日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年5月6日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,本件33社のうちの被上告人大成建設を含む4社及びその他47社のうちの6社であった。同被上告人を除く各社をメインとするJVは,同被上告人をメインとするJVの入札価格より高い価格で入札した。その結果,2回目の入札において同JVが落札し,落札率は97.99%であった。
カ 公社は,前記エの工事と一体の工事である立川市の下水道工事(本件審決にいう番号52の物件)について,AAランクの工事として,平成11年11月25日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同12年1月6日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,本件33社のうちの被上告人飛島建設を含む3社及びその他47社のうちの7社であった。同被上告人を除く各社をメインとするJVは,予定価格を上回る価格で入札した。その結果,同被上告人をメインとするJVが落札し,落札率は99.89%であった。
キ 公社は,八王子市の下水道工事(本件審決にいう番号71の物件)についてて,AAランクの工事として,平成12年7月21日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年8月23日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,本件33社のうちの被上告人株式会社奥村組を含む3社及びその他47社のうちの7社であった。同被上告人を除く各社をメインとするJVは,予定価格を上回る価格で入札した。その結果,同被上告人をメインとするJVが落札し,落札率は99.75%であった。
(5) 上告人は,平成20年7月24日付けの本件審決において,次のアないしキの事実を認定し,イの本件33社による合意は,法2条6項所定の「不当な取引制限」に当たり,かつ,法7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」であり,本件個別工事はいずれも同項にいう「当該…役務」として課徴金の対象となると判断して,被上告人新井組につき1374万円,同奥村組につき2986万円,同大成建設につき5046万円,同飛島建設につき1348万円のそれぞれ課徴金を国庫に納付すべき旨を命じた。
ア 多摩地区に営業所を置くゼネコンは,以前,三多摩建友会と称する組織に会員として参加していた。同組織は,昭和54年頃から平成4年頃まで存続し,上告人が同年に会員のゼネコンを含む埼玉県発注の土木工事の入札への参加者に対して勧告を行ったのを機に解散したが,その後も,旧会員らのほか,解散後に多摩地区に進出したゼネコンや多摩地区に営業所を置かずに事業活動を行っているゼネコンの営業担当者を含めて,恒例的に懇親会が開催されていた。また,同組織の解散以前にはゼネコン各社の営業担当者の名簿が作成されていたところ,同組織の解散後もほぼ同じ体裁の名簿が作成されていた。
上記組織の存続当時,上記名簿に掲載されていたゼネコンの間では,工事の入札に当たって,受注意欲を持つ者や発注される工事との関連性を持つ者がある場合には,当該受注意欲や関連性を尊重することによって競争を避けることが望ましいとの認識が存しており,受注を希望する者の間の話合いが難航した場合には,同組織の会長等の役員が調整に当たっていた。同組織の解散後においても,多摩地区において事業活動を行うゼネコン各社は,上記と同じ認識を有していた。
イ 本件33社は,遅くとも平成9年10月1日以降,公社発注の特定土木工事について,受注価格の低落防止を図るため,① 公社から入札参加業者又は入札参加JVの構成員として自社が指名を受けた場合には,当該工事若しくは当該工事の施工場所との関連性(以下「条件」という。)が強い者又は当該工事についての受注の希望を表明する者(以下「受注希望者」という。)が1名のときは,その者又はその者を構成員とするJVを受注予定者とし,受注希望者が複数のときは,それぞれの者の条件等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決め,② 受注すべき価格は,受注予定者が決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその決定した価格で受注できるように協力する旨の合意(以下「本件基本合意」という。)をしていた。
ウ 本件基本合意に基づく具体的な受注調整の方法は,次のとおりである。
(ア) 受注希望者は,当該工事の発注が予測された時点又は公社が入札の執行を公示した時点で,他のゼネコン又はその多摩地区における営業担当者のうちの有力者に対して,自社が受注を希望し又は条件を有していることを必要に応じてアピールしていた。受注希望者が複数いる場合には,受注希望者の間でいずれの者の条件等が強いかを話し合うことにより,受注予定者が決められていた。アピールを受けた他社全てが受注希望を表明しなかったときは,入札指名前の段階でも受注希望者が1社に絞り込まれていた。
(イ) 受注希望者は,前記(ア)のアピールに代えて又はこれと併せて,他のゼネコンに対して,公社に工事希望票を提出するよう依頼していた。この依頼は,他のゼネコンに指名競争入札に参加して自社の受注に協力してほしいという趣旨で行われるものであるが,同時に,指名業者のうち,自社の受注への協力を見込めるゼネコンが占める割合を多くすることにより,自社が受注できる可能性を高めることも目的としていた。
(ウ) 条件は,具体的には,① 当該工事が過去に自社が施工した工事の継続工事であること,② 自社と特別な関係にある建設コンサルタント業者が当該工事の調査又は設計の入札に参加していること,③ 当該工事の施工場所又はその近隣で施工実績があること,④ 当該工事の施工場所の近隣に自社の資材置場や営業所等の施設があること,⑤ 自社又は関連会社が当該工事の施工場所の地権者であること等である。これらの条件の中では,①及び⑤がそれ以外の条件よりも強い条件であるとされ,その他の条件については強さの順序が明確ではなかった。
(エ) 発注される工事について,自社に強い条件があり,他社に条件がない場合には,他社に対して直接の受注希望の表明ないし入札における協力の依頼をしなくとも,自社に強い条件があることを他社が認識していれば,受注予定者とされていた。したがって,当該工事を受注しようとする者は,自社に強い条件があることが他の相指名業者にも明らかであると考える場合には,その相指名業者に対し入札における協力を依頼しないこともあった。
(オ) 受注予定者が決められた場合には,受注予定者が,相指名業者となったゼネコンに対して,入札価格を連絡し,連絡を受けたゼネコンは,受注予定者の入札価格より高い価格で入札していた。また,相指名業者となったゼネコンは,経験的に,発注工事と同等の過去の工事の入札結果等を勘案して積算することにより予定価格を推計できることから,受注予定者から入札価格の連絡がなくても,受注予定者の受注を妨げないであろう価格を比較的容易に予測し得たので,そのような価格で入札していた。このような入札価格の連絡を受けることにより,相指名業者が受注予定者を知ることもあった。
(カ) JVを結成して指名競争入札に参加する場合には,JVの受注への協力の依頼,受注予定者を決めるための話合い及び入札価格の連絡,確認は,通常,JVのメインの間で行われていた。
エ 本件33社は,本件基本合意に基づき,本件34件の工事について,それぞれ本件33社中の1社である入札参加業者又は本件33社中の1社をメインとする入札参加JVを受注予定者と決め,そのうち33件の工事については,受注予定者が入札参加業者又は入札参加JVのメインとなった他のゼネコンの協力を得て落札し受注するとともに,他の1件の工事については,受注予定者以外の本件33社中の1社をメインとするJVが本件基本合意に基づく受注調整の結果を利用して落札し受注した。
オ 本件34件の工事のうち地元業者が入札参加業者又は入札参加JVのメインとなった24件の工事については,少なくともそのうちの20件の入札において,当該地元業者に,受注予定者からの協力依頼に応じ又は高めの価格で入札して競争を回避する行動がみられた。
カ 本件個別工事においては,いずれも,指名を受けたゼネコン各社のうち,当該工事を落札し受注したJVのメインとなった各被上告人を除く各社が,当該被上告人による工事希望票の提出依頼,入札価格の連絡,確認等の過程で,当該被上告人をメインとするJVが当該工事の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかったことにより,当該JVが受注予定者とされていた。
キ 平成12年9月27日,上告人が法の規定に基づき審査を開始したところ,同日,本件基本合意は事実上消滅した。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断し,本件審決のうち被上告人らに対して課徴金の納付を命じた部分を取り消すべきものとした。
上告人が本件審決において認定する本件基本合意とは,本件33社において,公社の発注するAランク以上の土木工事は受注希望を有する者が受注すればよい,受注希望者が複数いれば当該受注希望者同士で自社の条件等を話し合えばよい,その他の者は受注希望者から工事希望票の提出依頼や入札価格の連絡等がされた場合にはこれに従い受注希望者の落札を妨害する行為はしない,という共通認識があったという程度のものにすぎず,この程度の認識を建設業者らが有していたことをもって直ちに自由で自主的な営業活動上の意思決定を将来にわたって拘束するほどの合意の成立があったと断ずることはできない。また,上告人が本件審決において認定する本件個別工事に係る前記2(5)カの事実をもって競争が実質的に制限されたと断ずるには論理の飛躍があり,更に建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止され又は排除されたというような,その結果競争が実質的に減少したと評価できるだけの事実も認定されなければならないというべきところ,そのような事実までを認定するに足りる証拠はなく,かえって本件個別工事のいずれの受注においても本件における取引分野で予定されている競争は正常に行われたと評するのが相当とさえいうことができる。したがって,本件個別工事の受注において法2条6項所定の「不当な取引制限」があったとの事実を認定するに足りる実質的な証拠があるとはいえず,本件審決のうち被上告人らに対して課徴金の納付を命じた部分は,その基礎となった事実を立証する実質的な証拠がないものであるから,取消しを免れない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 本件審決に係る審判で取り調べられた証拠によれば,上告人が本件審決において,前記2(5)のうちイを除く各事実を認定したことは合理的であり,また,同イの事実を認定したことも,本件対象期間において,多摩地区で事業活動を行うゼネコンのうち少なくとも本件33社が,少なくともAランク以上の土木工事のうちの公社発注の特定土木工事を対象として,本件基本合意をしていた旨を認定したものとして合理的であるというべきであるから,これらの認定事実には,それを立証する実質的な証拠があるものと認められる。
(2) 本件基本合意は,前記2(5)イのとおり,各社が,話合い等によって入札における落札予定者及び落札予定価格をあらかじめ決定し,落札予定者の落札に協力するという内容の取決めであり,入札参加業者又は入札参加JVのメインとなった各社は,本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところを,このような取決めがされたときは,これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において,各社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件基本合意は,法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足するものということができる。そして,本件基本合意の成立により,各社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件基本合意は,同項にいう「共同して…相互に」の要件も充足するものということができる。
また,法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件基本合意のような一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される。そして,本件基本合意の当事者及びその対象となった工事の規模,内容や,前記2(1)のとおり,公社では,予定価格が500万円以上の工事の発注について工事希望型指名競争入札と称する方式を採用し,規模の大きい工事や高度な施工技術が求められる工事については,入札参加希望者の中から原則として格付順位の上位の者が優先して指名業者に選定されていたためその上位に格付けされていたゼネコンが指名業者に選定されることが多かったことから,Aランク以上の土木工事については,入札参加を希望する事業者ランクがAの事業者の中でも,本件33社及びその他47社が指名業者に選定される可能性が高かったものと認められることに加え,本件基本合意に基づく個別の受注調整においては,同(5)ア,エ及びオのとおり,その他47社からの協力が一般的に期待でき,地元業者の協力又は競争回避行動も相応に期待できる状況の下にあったものと認められることなども併せ考慮すれば,本件基本合意は,それによって上記の状態をもたらし得るものであったということができる。しかも,前記2(3)及び同(5)エのとおり,本件対象期間中に発注された公社発注の特定土木工事のうち相当数の工事において本件基本合意に基づく個別の受注調整が現に行われ,そのほとんど全ての工事において受注予定者とされた者又はJVが落札し,その大部分における落札率も97%を超える極めて高いものであったことからすると,本件基本合意は,本件対象期間中,公社発注の特定土木工事を含むAランク以上の土木工事に係る入札市場の相当部分において,事実上の拘束力をもって有効に機能し,上記の状態をもたらしていたものということができる。そうすると,本件基本合意は,法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するものというべきである。さらに,以上のような本件基本合意が,法2条6項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかである。
以上によれば,本件基本合意は,法2条6項及び7条の2第1項所定の「不当な取引制限」に当たるというべきである。
(3) 法の定める課徴金の制度は,不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的として,刑事罰の定め(法89条)や損害賠償制度(法25条)に加えて設けられたものである(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)。
本件基本合意は,法7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ,上記の課徴金制度の趣旨に鑑みると,同項所定の課徴金の対象となる「当該…役務」とは,本件においては,本件基本合意の対象とされた工事であって,本件基本合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。そして,前記2(4)及び同(5)カのとおり,本件個別工事は,いずれも本件基本合意に基づく個別の受注調整の結果,受注予定者とされた者が落札し受注したものであり,しかもその落札率は89.79%ないし99.97%といずれも高いものであったから,本件個別工事についてその結果として具体的な競争制限効果が発生したことは明らかである。
以上によれば,本件個別工事は,法7条の2第1項にいう「当該…役務」として同項所定の課徴金の対象となるものというべきである。
5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平成24年2月20日

裁判長裁判官  白木 勇 
裁判官  宮川光治 
裁判官  櫻井龍子 
裁判官  金築誠志  
裁判官  横田尤孝

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