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(株)クボタによる審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成23年(行ケ)第9号

判決

大阪市浪速区敷津東一丁目2番47号
原告 株式会社クボタ
代表者代表取締役 益本康男
訴訟代理人弁護士 高部道彦

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員一会
代表者委員長 竹島一彦
指定代理人 田中久美子
同上 島崎伸夫
同上 秋沢陽子
同上 藤原昌子
同上 坪田法
同上 小髙真侑
同上 岡田哲也

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告が,原告に対する公正取引委員会平成20年(判)第22号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律に基づく課徴金納付命令審判事件について平成23年3月9日付けでした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
第2 事案の概要等
1 本件は,原告は,他の事業者と共同して,別紙1記載の杭(以下「特定鋼管杭」という。)の建設業者向け販売価格を引き上げる旨の合意をすることにより,不当な取引制限をしたとして,被告が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則4条2項の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「平成17年改正前の独占禁止法」という。)7条の2第1項に基づき原告に対してされた課徴金納付命令(平成20年(納)第28号。(以下「本件課徴金命令」という。))の取消しを求める審判請求を棄却した被告の審決(以下「本件審決」という。)について,原告が,その取消しを求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実及び被告が本件審決で認定した事実で原告が実質的な証拠の欠缺を主張していない事実)
(1) 本件審決に至る経緯
ア 原告,新日本製鐵株式会社(以下「新日鐵」という。),JFEスチール株式会者(以下「JFEスチール」という。)及び住友金属工業株式会社(以下「住友金属」という。)の4社(以下「4社」という。)は,一定の仕様の鋼管杭について定められたベース価格と称する額(以下「ベース価格」という。)に,必要に応じてエキストラ価格等と称する一定の額を加算したものを特定鋼管杭の建設業者向け販売価格とし,自ら又は販売業者を通じてベース価格の交渉を行うことにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を定め,当該建設業者向け販売価格から販売業者の口銭等を差し引くなどしたものを自らの販売価格としていた。
なお,4社は,通常,財団法人建設物価調査会が発行する「月刊建設物価」等に掲載されている額をエキストラ価格等と称する一定の額としていた。また,4社の特定鋼管杭の販売量の合計は,我が国における特定鋼管杭の総販売量のほとんどを占めていた。
イ 4社は,かねてから,各社の営業課長級の者による会合(以下「課長会」という。)及び各社の営業係長級の者による会合(以下「小委員会」という。)を開催し,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格並びに特定鋼管杭に係る建設業者からの引合いの状況及び各社の受注希望について情報交換を行ってきたところ,平成15年ころから特定鋼管杭の原材料である鉄鉱石,石炭等の価格が上昇したことから,同年12月ころ以降,課長会及び小委員会を開催して特定鋼管杭の建設業者向け販売価格の引上げについて検討を行い,平成16年2月19日ころ,東京都中央区所在の鉄鋼会館内の鋼管杭協会の会議室において開催した課長会において,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格について,同年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,全国規模で営業を展開する建設業者(以下「大手ゼネコン」という。)のうち最大手級の者(以下「スパーゼネコン」という。),スーパーゼネコン以外の大手ゼネコン等の建設業者の区分ごとに,別紙2の「価格」欄記載の価格以上とすることにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げることに合意した。
ウ 4社は,同年秋ころ,鉄鉱石,石炭等の価格が引き続き上昇することが見込まれたことから,同年12月ころ以降,課長会及び小委員会を開催して特定鋼管杭の建設業者向け販売価格の引上げについて検討を行い,平成17年3月3日ころまでに,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格について,同年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,スーパーゼネコン,スーパーゼネコン以外の大手ゼネコン等の建設業者の区分ごとに,別紙3の「価格」欄記載の価格以上とすることにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げることに合意した。
エ 4社は,前記イ及びウの合意(以下「本件カルテル合意」という。)に基づき,それぞれ建設業者等に対して特定銅管杭の建設業者向け販売価格を引き上げる旨の申入れを行うなどして,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を引き⊥げていた(このような本件カルテル合意に基づき販売価格を引き上げる行為を「本件違反行為」という。)。
オ 被告が,同年5月27日,JFEスチールの親会社であるJFEホールディングス株式会社が全議決権を有するJFEエンジニアリング株式会社を含む鋼橋上部工事業者を刑事告発し,同年6月15日,新日鐵を含む鋼橋上部工事業者を追加して,刑事告発したところ,4社は,同年6月21日,前記鉄鋼会館内の会議室において課長会を開催し,今後課長会及び小委員会を開催しないことを決定した。これにより,同日,本件カルテル合意は,事実上,破棄された。
(2) 本件課徴金命令の内容
ア 被告は,原告に対し,平成20年6月4日,本件課徴金命令により,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)による改正前の独占禁止法(以下「平成21年改正前の独占禁止法」という。)7条の2第1項の規定に基づき,課徴金2億1291万円を納期限同年9月5日までに納付するように命じた。
イ 被告は,本件課徴金命令の命令書において,原告及びJFEスチールに対する排除措置の命令書を引用し,原告が,JFEスチール,新日鐵及び住友金属と共同して,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を引き上げる旨合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定鋼管杭の販売分野における競争を実質的に制限していた旨認定し,課徴金の額については,違反行為の実行期間を平成16年4月1日から平成17年6月20日までとした上,同期間における原告の特定鋼管杭に係る売上額を50億6938万4653円と算定し,この売上額に法定の利率を乗ずるなど所用の許算をして,上記課徴金を算定し,その納付を命じた。
ウ 本件課徴金命令の対象とされた原告の前記売上額は,①原告が,第1次商社を介して建設業者に対して販売した特定鋼管杭(このような形で販売された製品を,以下「K契約・Kマーク製品」という。)の売上げ及び②原告が新日鐵に納入し,新日鐵が第1次商社を介して建設業者に販売した特定銅管杭(このような形で販売された製品を,以下「S契約・Kマーク製品」又は「本件製品」という。)の原告から新日鐵への納入段階の売上げ(以下「本件売上額」という。)が合算されたものであった。
なお,原告が製造していた特定鋼管杭には,上記①及び②のほかに,新日鐵が建設業者から直接受注して,その製造を原告に発注し,これを受けて原告がOEM製造する新日鐵ブランドの特定鋼管杭(以下「S契約・Sマーク製品」という。)があったが,S契約・Sマーク製品の売上げは,本件課徴金命令の対象とされた売上額に含まれていない。
(3) 本件審決取消訴訟提起に至る経緯
ア 原告は,平成20年8月1日,本件課徴金命令を不服として審判請求を行った。原告は,被告がK契約・Kマーク製品に係る本件違反行為の実行期間中の売上額に対して課徴金を課したことは争わないが,本件製品は,原告が新日鐵との委託加工取引に基づき,新日鐵に納入した特定鋼管杭であり,原告が新日鐵との委託加工取引により得た特定鋼管杭の加工賃は,本件違反行為の実行期間中逓減しており,本件違反行為の拘束を受けた取引でないことは明らかであり,かつ,本件製品について本件違反行為により不当利得を得たのは,新日鐵であって,本件製品の売上額を原告に対する課徴金納付命令の対象とした本件課徴金命令には,命令の名宛人を誤った違法があるので,取り消されるべきであるなどと主張した。
イ 審判請求事件は,11回にわたって審判が行われ,平成22年6月2日に結審した。原告は,平成23年1月11日に原告の審判請求を棄却する旨の審決案の送達を受け,これに対して異議を申し立てたところ,被告は,原告に対し,本件審判請求を棄却する旨の審決書を送達した。
3 本件審決の要旨
(1) 本件売上額は,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に該当し,原告に対する課徴金算定の基礎となるか否かについて
(独占禁止法7条の2第1項の「当該商品・・・の売上額」について)
ア 独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為の対象とされた商品で,当該違反行為による拘束を受けたものをいうところ,本件製品が本件違反行為の対象とされていたことについては,当事者間に争いがない。加えて,証拠によると,原告は,4社間で合意された販売価格に従って建設業者に対して本件製品の価格を提示し,価格の交渉を行ったことが認められるのであるから,本件製品が本件違反行為の拘束を受けた商品であることは明らかである。
イ また,独占禁止法7条の2第1項は,「当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間における…売上額」と定めており,課徴金を賦課するためには各違反行為者が違反行為の実行としての事業活動を行う前提とした規定となっていること,同法7条の2第1項の「売上額」の算定方法を定めた施行令6条は,「違反行為に係る商品の対価がその販売に係る契約の締結の際に定められる場合において,…売上額の算定の方法は,…契約により定められた商品の販売の対価の額を合計する方法とする。」と定めて,違反行為に関して締結された契約の対価の額を売上額の計算において基準とする旨定めていること及び課徴金の制度趣旨は,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的とするものであること(最高裁判所平成17年9月13日判決・民事判例集第59巻7号1950頁参照)に照らすと,同法第7条の2第1項に規定する「当該商品…の売上額」とは,違反行為の対象となった商品(本件においては本件製品)について違反行為の実行としての取引を行った者の売上額を意味すると解するべきである。
ウ 本件違反行為は,我が国における特定鋼管杭の総販売量のほとんどを製造販売する特定鋼管杭の製造販売業者である4社が,建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げることを合意するものであること,4社は,自ら又は販売業者を通じて建設業者とベース価格の交渉を行うことにより,特定鋼管杭の建設業者向け販売価格を定め,当該建設業者向け販売価格から販売業者の口銭等を差し引くなどしたものを自らの販売価格としていたこと等の本件カルテル合意の内容及び特定鋼管杭の取引の実態にかんがみると,本件違反行為の実行としての取引とは,特定鋼管杭について,各違反行為者が需要者である建設業者を相手方として自ら又は販売業者を通じて行った販売行為(以下「本件販売行為」という。)となる。
そうであれば,本件違反行為について,原告の本件製品に係る売上額が独占禁止法7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に該当するか否かは,原告が,本件販売行為を実行したと認められるか否かという事実認定に帰結することとなり,これを認定するに当たっては,本件製品の販売行為を実際に担当したものがだれであるかという外形的,形式的な側面に加えて,その取引の相手方である建設業者の認識,取引条件の決定権限の所在,取引による利益の帰属や責任の所在,取引の対象となる製品の製造者,所有者等の諸々の事情を勘案の上,本件製品に係る取引の実態に即して判断するべきである。
なお,この点については,証拠によると,本件の排除措置命令及び原処分に係る事前説明において,①本件製品が4社間の合意の対象であり,相互拘束を受けていた「当該商品」に当たること,②本件製品の売上げは,原告と新日鐵の2社に計上されているが,受注活動,価格交渉,品質保証,アフターサービスなど売り手としての活動を行っていたのは原告であったと認められること及び③本件製品は,原告ブランドであることを理由として,実質的に本件製品を販売したと認められるのは原告であるから,原告の本件製品についての売上げが原告の課徴金賦課の対象となる旨審査官が説明しているところである。
エi 原告は,独占禁止法が,賦課金の賦課割合を製造業者,小売業者,卸売業者によって区別していること等を理由として,「製造業者から卸売業者に販売される市場」,「卸売業者から小売業者に販売される市場」,「小売業者から需要者に販売される市場」のいずれの市場において不当な取引制限が行われたか確定する必要があると主張する。
しかしながら,本件違反行為における一定の取引分野とは,本件の排除命令の命令書によると,「特定鋼管杭の販売分野」であるところ,本件カルテル合意の内容及び特定鋼管杭の取引の実態に照らすと,原告,新日鐵,商社,建設業者へと転々とした流通経路において存在する取引ごとに一定の取引分野が成立すると解することは妥当ではなく,本件違反行為における販売分野とは,建設業者の発注に係る特定鋼管杭が製造され,商社等を経て当該建設業者に販売されるまでの取引のすべてを包含する販売に係る取引分野と解するのが相当である。
ⅱ 原告は,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」とは,違反行為者間で合意された価格と連動性を有する価格で取引された商品を意味すると解するべきであり,本件製品の商流において価格連動性が認められる取引は,新日鐵の商社に対する売上げであるから,新日鐵の本件製品に係る売上げが「当該商品…の売上額」に該当すると主張する。また,原告は,JFEスチールや住友金属は,本件製品に係る原告と新日鐵との取引の存在自体を認識していなかったのであるから,当該取引に本件違反行為の拘束を及ぼすつもりはなく,よって,原告が新日鐵から取得した対価は,本件違反行為による拘束を受けた商品の対価ではないとも主張する。
しかしながら,これらの主張も本件取引を流通経路において形式上存在する取引ごとに分断し,その取引ごとに価格連動性及び本件違反行為の拘束性の有無を問題とするものであり,前記iに照らし,失当である。
ⅲ 原告は,課徴金制度は違法なカルテルによる経済的利得を国が徴収することにより,社会的公正を確保すると同時に,違反行為の抑制を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するための行政上の措置を定めた制度であることから,課徴金を賦課するためには,違反行為の結果として一定の価格以上の価格で販売したことによる不当利得の存在が必要であると主張する。
しかしながら,課徴金制度は,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させて,その経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として設けられたものであり,具体的なカルテル行為による現実の経済的利得とは切り離し,一律かつ画一的に算定された金額を,行政目的を達成するための金銭的不利益とするものであるから,課徴金を賦課するに際して,違反行為の結果として一定の価格以上の価格で販売したことによる不当利得が存在することは必要ないというべきである。独占禁止法の条文上もそのような根拠を見い出せない。したがって,原告の主張は理由がない。
ⅳ 原告は,独占禁止法7条の2第1項の「売上額」とは,企業会計原則等確立された基準に基づき,一律かつ画一的に算定する必要があるから,「取引の主体」という基準が適用される余地はない旨主張する。
しかしながら,そもそも企業会計原則は,企業の会計処理において準拠すべき基準であるところ,本件は,本件製品に係る課徴金納付命令の,受命者はどの事業者かという売上額算定の前提に係る問題であるから,企業会計原則の適用が要請される場合には該当しない。
また,本件製品のように,価格カルテルという違反行為の対象商品の取引の商流に複数のカルテル参加者が介在しており,複数のカルテル参加者の売上げが計上されている場合には,当該対象商品に係る課徴金をどのカルテル参加者に課すべきかを判断する前提として,だれが違反行為の実行者といえるのか(すなわち,どのカルテル参加者が当該対象商品について違反行為の実行としての取引を行ったのか)を認定する必要がある。審査官が本件審判において主張した「取引の主体」という基準も,本件カルテル合意に基づき行われた本件カルテル合意の実行行為(本件製品の建設業者向けの販売行為)において,どのカルテル参加者が違反行為の実行者と認定されるべきかという観点から使用されているものである。したがって,「取引の主体」という基準が用いられたからといって,一律かつ画一的な課徴金の算定ができなくなるわけではない。原告の主張は,独自の見解に基づくものであって,採用することはできない。
(本件販売行為を実行した者について)
ア 認定事実によれば,原告は,社内に鋼管杭事業に係る営業部門を置いて,特定鋼管杭が使用される工事に関する情報収集や当該工事の受注が見込まれる建設業者に対する本件製品の売り込み活動などの営業を独自に行っていること,原告は,建設業者との間で,販売する本件製品の種類,仕様,販売価格,納期等の取引条件の交渉を行い,合意を成立させていたこと,合意が成立すると,当該取引の営業担当者らは,原告の注文入力システムに,受注した製品の物件名や仕様等注文内容を入力し,当該建設業者への直接の販売者となる商社に対して,当該注文内容に従って,新日鐵に注文を入れるように指示していたこと,本件製品の受注予定者として貼り付けを受けていたのは,新日鐵ではなく,原告であること及び原告は,建設業者との合意内容に従って,本件製品を製造の上,建設業者に納品していたのみならず,原告の名義で鋼管検査証明書を発行して,本件製品に係る瑕疵等についての責任を負担していたことが認められる。
これらの各事実に加えて,①原告は,本件製品の販売において,建設業者に対し,本件製品が新日鐵を介して販売されるものである旨説明しておらず,JFEスチール及び住友金属も本件販売行為の主体は,原告であると認識していたこと,②原告は,本件製品の販売価格が上昇したとしても,直接利益を受ける立場にはなかったものの,販売価格が上昇すれば,翌年における原告の新日鐵に対する本件製品の販売価格の増額要因となっていたことからすれば,本件製品の販売価格が上昇することは,長期的には原告の利益に結び付くものであり,原告には,本件製品の販売価格の引上げを実行する利益があったといえること及び③原告は,新日鐵から本件製品の取引の終了を申し入れられた際にも,取引を終了することは原告の不利益になるとして,その継続を要求していたのであって,これによれば,原告は,新日鐵との取引を自社にとって利益となる取引であるとの判断の下に,本件製品の取引を自主的,積極的に行っていたものと推認されることに照らすと,原告は,自ら主体となって本件販売行為を実行していたもの(すなわち,本件販売行為を実行した者は,原告である。)と認められる。
なお,新日鐵については,原告から提出させた「契約価格内訳表(アタッチシート)兼価格訂正伺」(以下「アタッチシート」という。)に記載された本件製品の建設業者へのベース価格が,新日鐵の「最低目標販売価格」,「社内基準」及び「予算価格」並びに本件カルテル合意に基づく価格に照らして適切な水準にあるか否かを確認した上で,原告と建設業者との取引条件について決裁を行っていたこと,本件製品について,月次で,原告に施主名,ゼネコン名,物件名,鋼管杭の受注重量等を報告させて,原告の本件製品の販売状況や売上実績を確認,管理していたこと及び本件販売行為による直接の損益は,新日鐵に帰属していたことが認められる。
しかしながら,新日鐵が行っていた決裁は,多くは原告と建設業者との販売価格についての合意が妥結した後に行われていたため,仮に,新日鐡が,上記価格は安値であるとして,そのような価格となったことに関して不満を抱いたとしても,原告に説明を求めることはできても,上記合意を覆すほどのものではなく,結局のところ,説明を求めた上で,原告の販売活動を追認するものにすぎなかったこと,他方で,原告は,建設業者との間で,新日鐵に対する説明が困難なほどの安値価格で合意した場合には,便宜上,新日鐵に対しては決裁が得られるような金額で合意した旨の虚偽の報告をして決裁を得ておき,後日商社との間で差額分を調整することもあったこと,新日鐵の決裁に時間がかかる場合には,納期に間に合うように,原告の判断で,決裁を待たずに注文処理を先行する等していたことなどを考慮すると,原告は,新日鐵の決裁がなければ,建設業者との間で本件製品の取引についての合意ができないとの認識はなかったものと認められ,このことは,原告が本件販売行為を自ら主体となって行っていたことを裏付けるものである。
また,新日鐵は,原告に対して原材料を提供するとともに,本件製品の取引によって発生する損益が帰属する立場にあったことからすると,新日鐵が,自社の販売計画等の作成や原材料調達のために,原告と建設業者間の本件製品の取引状況について,販売計画や販売実績も含めて,原告から報告を受ける必要があったのは,むしろ当然のことであり,これらの報告を受けていたというだけでは,本件販売行為が新日鐵自身の取引であることをうかがわせる事実とはいえない。
なお,上記報告についていえば,原告は,受注が確定するまでは,新日鐵に対して重量以外の報告事項について「諸口」として物件をまとめて報告したり,「某物件」とするなど物件名を明示することなく報告していたこともあり,新日鐵が原告から受けていた報告の内容が,原告の判断によって抽象的ものに止まり,原告が建設業者との間で行っている本件製品の取引の内容の詳細が不明となることもあったことに照らせば,この程度の内容の報告を受けていたからといって,本件販売行為の主体が新日鐵であったことの裏付けにはなり得ない。むしろ,これらの事実は,原告が本件製品の取引に係る営業活動を,新日鐵のためではなく自らのために実施していたことを推認させる事実である。
さらに,原告と新日鐡との取引の開始の経緯が,原告と建設業者との間に成立した本件製品の取引の流通過程に新日鐵が介入することによって原告の鋼管杭の事業活動のリスクを軽減するとともに新日鐵自身も利益を得るということにあったことを考慮すると,本件販売行為による直接の損益が新日鐵に帰属することになっているとしても,そのことが,直ちに本件販売行為の主体が新日鐵であったことを裏付けるものとはいえない。
以上によれば,原告は,本件販売行為の主体として,これを実行していたものであり,本件販売行為の実行者と認められる。したがって,本件製品に係る原告の売上額は,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に該当する。
イi 原告は,新日鐵が,本件製品を含めた新日鐵グループのシェア拡大を目指すとともに本件製品を含めて新日鐵グループの販売計画や利益計画を策定していたこと,新日鐵が,特定鋼管杭の販売に係る事業において,原告に比し圧倒的に優位な地位に立っており,原告の鋼管杭事業は,新日鐵によって同グループの一員として位置づけられていたことなどによれば,原告は,新日鐵に支配され,従属的な地位にあったといえるから,本件製品に係る原告の販売行為は,本来新日鐵が行うべき業務を原告が代行していたにすぎない等と主張する。
しかしながら,原告が新日鐵のために本件販売行為を実行したと認めることはできないし,証拠によると,鋼管杭事業において,原告及び新日鐵が提携関係にあり,新日鐵グループとしてシェア拡大を目指していたこと,本件製品を含めて新日鐵グループの販売計画及び利益計画を策定していたこと,鋼管杭事業において新日鐵が原告に比し優位な地位に立っていたこと等が認められるものの,当該事実のみでは,本来新日鐵が行うべき業務を原告が代行していたにすぎないということはできず,本件製品を建設業者に販売した主体がだれであるかということについての前記認定が影響されるものではない。
なお,証拠によると,受注予定者の割り振りである貼り付け(以下「貼り付け」という。)に当たり,原告と新日鐵の各担当者らは,小委員会や課長会が開催される前に,両社の考え方をすり合わせるなどしていたことが認められるが,本件製品の価格の下落を回避することが原告の利益となる可能性もあったことに照らすと,当該すり合わせにおいて原告が新日鐵の指示に従うことがあったとしても,原告が新日鐵に完全に支配されていると評価できるものではない。
ⅱ 原告は,貼り付けに関して,具体的にどの物件を原告に貼り付けるかについては,既に,新日鐵の販売計画策定の段階で決まっており,新日鐵のコントロール下で,新日鐵分としてのシェアの配分を受けるか,原告分としてシェアの配分を受けるか決定されていたのであるから,貼り付けの事実は,原告が,本件販売行為の主体であることを裏付ける関係にはない旨主張する。
しかしながら,貼り付けにより原告が受注予定者とされたということは,4社間で当該建設業者との取引の当事者を原告とすることを意味するのであるから,貼り付けの事実は,原告が本件販売行為の主体であったことを推認させる事実である。また,原告は,貼り付けにおいてシェアの分配を受けて,新日鐵とは別に一定の販売量が保証されており,貼り付けに参加することは,原告の利益にもなっていたのである。
ⅲ 原告は,原告と新日鐵との本件製品の取引は,実質的に委託加工取引である旨主張する。
新日鐵が原材料であるコイルを原告に提供し,原告がコイルから製造した鋼管杭を新日鐵に納入するという形式に着目すれば,原告と新日鐵との間の本件製品の取引は,加工委託契約に類似する側面を有するものということができる。また,新日鐵及び原告も,原告と新日鐵との間の取引を委託加工取引と呼んでいたことが認められる。
しかしながら,そもそも,本件製品は,原告ブランドの製品であり,原告自らが建設業者との間で交渉を行って販売し,建設業者との合意の内容に従って,原告が製造していた製品であり,原告が原告名義の検査証明書を添付して建設業者に納品したものである。上記原告の主張は,原告が,営業行為をし,建設業者の指示に従って,製造販売する原告ブランドの製品を新日鐵が原告に加工を委託しているというものであって,その主張自体からして,通常の経験則に照らして,不自然である。また,実質的に加工委託契約であるとすれば,通常は,原告が新日鐵からコイルを預かり,これを加工して鋼管杭を製造し,新日鐵に納入するというものであって,コイルから鋼管杭に至るまでその所有権は終始一貫して新日鐵に帰属し,原告は,新日鐵から加工賃を受領するだけであって,原告と新日鐵との間に売買契約が成立することはないはずのところ,実際には,原告と新日鐵とのコイルの取引及び本件製品の取引については,いずれも売買契約が締結されているのである。さらに,新日鐵は,原告の鋼管杭事業を支援するために,原告から本件製品を定額で購入することとし,そのために原告と商社との間の商流に介在していたことに照らすと,本件製品の実質的な製造業者は,原告であって,新日鐵とは認められず,よって,原告と新日鐵との取引は,実質的に加工委託取引であるとは認められない。
また,原告は,鋼管杭の規格,仕様,寸法,数量等について新日鐵の加工指示を受けて,原告が鋼管杭の製造を行っていたと主張するが,新日鐵が行う加工指示は,価格についての決裁が通った後に,製造の開始を指示するだけのものであり,実際の規格等についての合意は,原告が建設業者と行ったものであるから,新日鐵の当該加工指示は,鋼管杭の規格,仕様,寸法,数量等に係る指示とは認められない。
以上より,本件製品に係る原告と新日鐵との取引は,実質的に本件製品の加工委託を内容とする取引である旨の原告の主張は採用できず,本件製品は,原告の製造した原告の製品であり,製造業者である原告から,新日鐵,商社,建設業者へと転々と流通したものと認められる。
ⅳ 原告は,与信リスクを回避し,代金回収の確実性及び支払期日の一定化を図るために中間商社が介在していることが明らかな本件製品の流通において,更に加えて新日鐵が商社に準じた立場にあるとすることは,明らかに論理矛盾である,新日鐵は,本件違反行為の当事者であり,流通経路の中に介在する商社に準ずる立場にあると評価することは,極めて不当である等と主張する。
しかしながら,新日鐵は本件販売行為の主体とは認められないのであるから,その地位は,原告と建設業者との間に成立した販売に係る取引に介在することによって,原告の鋼管杭の事業活動のリスクを軽減するとともに新日鐵自身も金銭的な利益を得るというものであったと解されるのであって,この意味において,新日鐵は,商社に準じた地位にあったものといえる。新日鐵が利益を取得する仕組みが,商品取引に介在して一定の口銭を取得するという通常の商社の場合とは異なり,商品の販売価格が上昇することによって,直接利益を享受する形態となっていたのは,対等な企業である原告と新日鐵が互いの利害得失を考慮した上で,そのような内容の合意をしたからにすぎないのであるから,このような事情があったとしても,本件製品の取引における新日鐵の役割が商社に,準じたものであったという上記評価には影響しないというべきである。
(小括)
以上のとおり,本件製品に係る本件販売行為の主体は,原告であり,原告が本件販売行為を実行していたと認められるから,原告の本件製品に係る売上額は,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に該当する。
したがって,原告が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,平成17年改正前の独占禁止法7条の2第1項により,原告の上記売上額50億6938万4653円に100分の6を乗じて得た額から,平成21年改正前の独占禁止法7条の2第9項の規定により当該額に100分の30を乗じて得た額を減額し,平成17年改正前の独占禁止法7条の2第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された2億1291万円である。
(2) 原処分が本件売上額を原告に対する課徴金算定の基礎としたことに何ら  かの違法があり,そのために原処分に取消事由があるか否かについて
ア 原告は,本件違反行為に係る課徴金算定の基礎とされた違反行為者の売上額は,いずれも,「原告から商社に」,「JFEスチールから商社に」,「新日鐵から商社に」販売した売上額であるにもかかわらず,本件製品についてだけ,原告の新日鐵に対する納入額を課徴金の計算の基礎とすることは,売上額の算定は,明確かつ画一的な基準に基づいて行われるとの被告の従来の見解と矛盾する旨主張する。
しかしながら,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に係る解釈は,前記(1)イのとおりであり,本件違反行為の対象となった特定鋼管杭について,いずれも建設業者を相手方として自ら又は販売業者を通じた販売行為を実行した者の売上額を課徴金の計算の基礎としており,その判断基準は,明確かつ画一的である。
イ 原告は,審査官は,「取引の主体」という法令に全く規定されていない独自の概念を持ち出し,自らの設定した「取引の主体」の概念に,本件製品に係る原告の新日鐵に対する売上げを当てはめる作業を営々と行っているが,課徴金を課すか否か及びその額等に関して一切裁量権を有しない被告において,独占禁止法の要件でない「取引の主体」なる独自の基準に基づき,原告に対して課徴金を課すということは,法律に基づいてされなければならない行政権の行使の域を超えた,極めて恣意的な行政権の行使(行政権の濫用)である旨主張する。
しかしながら,審査官の主張する「取引の主体」とは,本件販売行為において,どのカルテル参加者が違反行為の実行者と認定されるべきかという観点で使用されているものであって,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品…売上額」の解釈に関係する主張である。したがって,審査官が独占禁止法上の要件でない取引の主体なる独自の基準に基づき裁量権を行使したとの原告の主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
ウ 原告は,本件製品について原告に対してのみ課徴金を課すことは,法の下の平等に反すると主張する。
しかしながら,そもそも課徴金賦課の要件を充足するか否かは,違反行為者ごとに検討されるべきであるから,本件製品に関して新日鐵に対して課徴金納付が命じられなかったとしても,これによって原告に対する課徴金納付命令が違法となるものではない。加えて,本件製品については,原告が本件販売行為を実行した事業者と認められ,よって,原告の売上額のみが独占禁止法7条の2第1項の「当該商品…の売上額」に該当するから,原告の主張は,いずれにしろ理由がない。
エ 以上より,原処分に処分の取消事由となる違法性が存在する旨の原告の主張は,いずれも理由がない。
4 争点
(1) 本件製品について課徴金納付命令の対象とされた原告と新日鐵との取引は,違反行為の実行として行われた事業活動か。また,原告と新日鐵との取引の対象とされた本件製品は,「当該商品」に該当するか。
(2) 本件課徴金命令の名宛人となるべき者は,原告か。
(3) 被告が,原告申立てに係る文書提出命令を却下したのは,独占禁止法81条1項1号に該当するか。
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
(原告の主張)
ア 新日鐵が,原告との取引において,原告に対し,実質的に造管費(委託加工費)の支払しかしなかったことからすると,原告と新日鐵との取引は,委託加工取引である。また,原告と新日鐵との取引において,S契約・Sマーク製品と本件製品のいずれについても同一の契約条件に基づき取引が行われ,いずれの製品についても,原告と新日鐵の双方が,原材料のコイルについて,実質的には新日鐵の所有であるとの認識の下に,原告において新日鐵に対し,管理状況を報告していた事実等を踏まえると,S契約・Sマーク製品だけでなく,本件製品に係る原告と新日鐵との間の取引も委託加工取引であることは明らかである。さらに,原告と新日鐵との間の取引が,実態として委託加工取引でなければ,本件製品の建設業者向け販売による利得の全てを新日鐵が獲得できるシステムを当事者間で合意することは,経験則上あり得ない。
原告と新日鐵との取引が,形式上売買契約とされていたのは,主として,新日鐵の利益のために,特定鋼管杭市場の新日鐵の実質シェアが50パーセント近いことをカムフラージュするためであったこと,原告が新日鐵から原材料のコイルを購入する際の代金も,原告がコイルを本件製品に加工後,新日鐵に「売買」する際のコイルの代金分も同額とされていたため,コイルの代金が原告の損益に影響を及ぼすものではなく,原告の売上げがコイルの分だけ大きくなることから,原告と新日鐵との取引を形式上売買契約とした方が原告にメリットがあったためであることによるのであって,売買契約の形式をとったことは,原告と新日鐵との取引が,実質的には委託加工取引であったことに影響を及ぼすものではない。加えて,S契約・Sマーク製品についても,原告と新日鐵との取引は,形式上売買契約とされているから,本件製品の取引が形式上売買契約とされていることは,委託加工取引であることを否定する根拠にはならない。
したがって,本件審決の本件製品に係る原告と新日鐵との間の取引が「売買契約」であるとの認定は,審判で取り調べられた証拠から合理的に導き出せるものではなく,実質的な証拠がない。そして,原告と新日鐵との間の取引は,本件カルテル合意の実行としての事業活動ではないし,他の違反行為者と競争関係に立つものではなく,上記取引に係る特定鋼管杭は,競争が制限された市場に向けて提供されるものでもなく,その対価について競争の実質制限が起こったものでもないから,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」に当たらない。
イ 独占禁止法7条の2第1項所定の「当該商品」の意義は,「違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいう。」とされているところ,本件違反行為の対象とされた取引分野は,「特定鋼管杭の販売分野」であり,いかに「販売」の意義を抽象化したとしても,本件製品に係る原告と新日鐵との取引を「特定鋼管杭の販売分野」に含めることはできず,原告と新日鐵との間の取引には,本件違反行為の拘束が及んでおらず,価格連動性が認められない。新日鐵が原告に対して支払う造管費(委託加工費)は,ベース価格が上昇しているにもかかわらず,平成14年度,7万9985円(円/キロ),平成15年度,7万8885円(円/キロ),平成16年度,7万8685円(円/キロ),平成17年,7万8685円(円/キロ)と逓減傾向にあり,客観的には,前年度の本件製品の建設業者への販売価格の増減は,造管費の額の増減とは全く連動せず,かえって,建設業者向けの販売価格が上昇したのに,造管費の額が下降する関係にあり,実際には値上げされる可能性すらなかったものである。
原告は,本件取引を流通経路において形式上存在する取引ごとに分断し,その取引ごとに価格連動性及び本件違反行為の拘束性の有無を問題にしているのではない。
(被告の主張)
原告の主張は,原告,新日鐵,商社,建設業者へと転々とした流通経路において形式上存在する取引ごとに分断して,その取引ごとに競争関係,価格連動性及び本件違反行為の拘束性を問題にするものであるから,妥当ではない。また,独占禁止法7条の2第1項が規定する「当該商品」とは,違反行為の対象とされた商品で,当該違反行為による拘束を受けたものをいうところ,本件製品が本件違反行為の対象とされていたこと及び本件違反行為の拘束を受けた商品であることが明らかであるから,本件製品が「当該商品」に該当することは,明白である。
そもそも,本件製品は,原告ブランドの製品であり,原告自らが建設業者との間で交渉を行って販売し,建設業者との合意の内容に従って原告が製造していた製品であること及び原告が原告名義の検査証明書を添付して建設業者に納品したものであるところ,原告の主張は,原告が営業し,建設業者の指示に従い,製造して販売する原告ブランドの製品を新日鐵が原告に加工を委託しているというものであって,通常の経験則からして不自然な主張である。また,実質的に加工委託取引であるとすれば,通常は,原告が新日鐵からコイルを預かり,これを加工して,鋼管杭を製造し,新日鐵に納入するというものであり,コイルから鋼管杭に至るまで,その所有権は,終始一貫して新日鐵に帰属し,原告は,新日鐵から加工賃を受領するだけであって,原告と新日鐵との間に売買契約が成立することはないはずのところ,実際には,原告と新日鐵とのコイルの取引及び本件製品の取引については,いずれも売買契約が締結されている,さらに,新日鐵は,原告の鋼管杭事業を支援するために,原告から本件製品を定額で購入することとし,そのために,原告と,商社との間の商流に介在していたことに照らすと,本件製品の実質的な製造業者は,原告であって,新日鐵とは認められず,原告と新日鐵との取引は,実質的に加工委託取引であるとは認められない。また,新日鐵が,特定鋼管杭市場の新日鐵の実質シェアが50パーセント近いことをカムフラージュしていたという原告の主張は,具体的な根拠はない。
(2) 争点(2)について
(原告の主張)
ア 新日鐵が,別紙1に記載する特定鋼管杭を,一次商社を介して,別紙2及び別紙3に記載するスーパーゼネコン等の建設業者に販売し,不当な経済的な利得を得たのであって,本件課徴金命令の名宛人は,新日鐵以外にあり得ない。
原告が行っていた営業活動,納品,品質保証及びブランド表示のいずれも,原告が,新日鐵の傘下において新日鐵の特定鋼管杭の販売を補完・拡大する立場にあったことに起因するものである。新日鐵が,営業活動,納品,品質保証及びブランド表示に関し,原告を介在させていた背景には,特定鋼管杭市場の新日鐵の実質シェアが50パーセント近いことをカムフラージュしつつ,営業コストを全くかけないで,原告が行った営業活動の成果を利用して,商流における利得を全部獲得する目的が新日鐵にあったことが明らかである。
課徴金命令の名宛人は,販売に伴う「事実上の営業活動」を行った者であって,実際に違反行為の対象となった商品を販売した違反行為者ではないとの結論を独占禁止法7条の2第1項の解釈として導き出すことに文理上の手がかりは認められず,上記解釈は,不当であって,独自の見解と言わざるを得ない上,本件審決の上記解釈に基づく判断は,本件製品の建設業者に対する販売が,特定鋼管杭市場の新日鐵の実質シェアが50パーセント近いことをカムフラージュするとの新日鐵の利益のために構築されていたことをあえて看過しようとするものである。
イ 課徴金納付命令の名宛人の特定は,事実認定によって決せられるべき問題ではなく,事実認定を前提に法的観点から判断されるべきである。課徴金の制度がカルテルによる不当な利得をはく奪する制度である以上,課徴金納付命令の名宛人を特定するに当たり,だれがカルテルによって不当な利得を得たのかが最も重要な判断基準であることは明らかである。そして,課徴金命令の名宛人が複数存在する可能性がある場合に,名宛人を特定するに当たっては,カルテルによる不当な経済的利得を得た者がだれであるかは,極めて重要な判断基準である。
新日鐵は,他の違反行為者の課徴金賦課の対象となった売上げと同じく,S契約・Kマーク製品を一次商社を介して建設業者に販売したことにより,本件カルテル合意による不当な利益を得ていた。しかも,新日鐵が,本件製品の販売価格を上昇させたことによって得た直接的な利益(カルテルによる不当な経済的利得)は,少なくとも3億円を下らない。他方,原告が新日鐵から取得する造管費は,カルテルの実行期間中,増加するどころか逓減傾向にあった。
以上に対し,本件審決は,課徴金納付命令の名宛人の特定に当たり,本件カルテルによる不当な経済的利益を得た者がだれであるかとの観点からすれば,新日鐵しかその対象者がなくなるところ,「取引による利益の帰属」という曖昧な基準を定立し,しかも,将来の予想に過ぎず,事実に基づかない「取引による利益の帰属の可能性」を問題にし,原告にも「取引による利益の帰属」があったと認定するものであって,明らかに失当である。なお,原告が新日鐵との取引の継続を希望したのは,高炉メーカーではない原告が安定的に原材料の供給を受け,委託加工契約の下で安定した加工賃収入を得られるというメリットがあったからであり,違反行為の存在を前提とする課徴金納付命令の名宛人の特定と関連性を有するものではない。
ウ 課徴金納付命令の名宛人の特定に当たっては,だれが取引条件の決定権限として重要な本件製品の価格決定権を有していたかが重要である。
原告は,新日鐵が原告に指示した価格基準に基づき建設業者との価格交渉を行っていたから,新日鐵の追認を得ることができた。このように,新日鐵は,商流の支配を示す価格決定権の行使という重要な場面に主体的に関与していた。原告が,新日鐵に対し,その決裁が得られるような金額で,合意した旨の虚偽の報告をし,あるいは新日鐵の決裁を得ておき,後日商社との間で差額分を調整することもあったことや新日鐵の決裁に時間がかかる場合には納期に間に合うように,原告の判断で新日鐵の決裁を待たずに注文処理を先行する等のことをしていたことは,新日鐵が,本件製品の価格決定権を有していたことを左右するものではない。原告が,建設業者との間で,新日鐵の決裁が得られないような安い価格で合意した場合,原告がいわゆる販売割戻金を商社に支払ったことがあったが,新日鐵の建設業者への売上額が全体で約56億円であるのに対し,原告が支払った販売割戻金の総額は,約3100万円に止まり,率にして,約0.56パーセントにすぎない。この金額からしても,原告による販売割戻金の支払が,新日鐵の指示した価格基準に従うことができない極めて例外的な場合にのみ実施されたことは明らかであり,本件製品に関し,新日鐵が価格決定権を有していたとの認定に影響を及ぼすものではない。原告に建設業者への販売価格を自由に決定する権限があれば,原告にとって損失となる販売割戻金を支払うことは考えられないのであるから,販売割戻金の支払の事実は,むしろ,新日鐵に価格決定権が存在したことを強く推認させる事実である。また,新日鐵は,新日鐵と商社間の販売価格を原告に知らせることなく変更する等していたが,このことは,新日鐵が,本件取引の利益の帰属主体であるが故に,自らの判断で販売価格を変更できたこと及び本件製品に係る販売価格の決定権限を有していたことを示す証左である。
エ 被告は,大型カラー映像装置談合事件(平成7年(納)第79号・平成7年3月28日審決集41巻387頁)において,「事実上の営業活動」を行った松下通信工業株式会社(以下「松下通信工業」という。)に対して課徴金の納付を命じず,販売者(法的な意味における「販売」を行った者)である松下電器産業株式会社(以下「松下電器産業」という。)に対して課徴金の納付を命じた。
また,被告は,防衛庁航空機用タイヤ談合事件(平成16年(勧)第35号,平成17年1月31日)において,営業活動を行った販売会社に課徴金を課さず,メーカーに課徴金を課しているが,これは,だれが防衛庁との契約を締結したのか,だれが違反行為による不当な経済的利得を得たのかが決め手となったことによるものと強く推認される。
さらに,被告の担当者は,課徴金の算定に当たっては,同一事件の他の対象事業者に対する販売分については,購入した当該メンバーが転売するものであれば,対象売上額から除外されて,当該転売分の方の売上額が課徴金の算定対象になるのは当然であると説明していたが,本件においては,原告も新日鐵も本件違反行為者とされ,「転売」に該当する原告と新日鐵の取引が,賦課金賦課の対象とされているのであり,被告の上記説明と矛盾している。
以上に対し,本件審決が,事実上の営業活動を行ったに止まる原告を課徴金納付命令の名宛人としたのは,これらの先例等に反し,著しく法的安定性を欠くものである。
オ 新日鐵は,本件違反行為において「業界のリーダー」であり,通常の商社とは異なり,本件違反行為による利益の全部を享受していたと認められるから,本件審決が認定したように「商社に準じた」地位であるはずがない。
カ 以上のとおり,本件課徴金命令が名宛人を原告としたのは,誤りである。
(被告の主張)
ア 本件審決は,独占禁止法7条の2第1項及び同法施行令6条の規定並びに課徴金制度の趣旨から,「当該商品…の売上額」とは,違反行為の対象となった商品について違反行為の実行としての取引を行った者の売上額を意味すると解し,本件カルテル合意の内容及び特定鋼管杭の取引の実態を踏まえて,本件違反行為の実行としての取引とは,特定鋼管杭について,各違反行為者が需要者である建設業者を相手方として自ら又は販売業者を通じて行った販売行為となると判断しているものであり,本件審決の判断は,独占禁止法7条の2第1項の規定から導き出すことはできないという原告の主張は,理由がない。
イ 課徴金の制度趣旨は,カルテルによる不当な利得を徴収することを目的とする制度ではない。
原告が本件販売行為を実行していたと認められるか否かを判断するに当たって,「取引による利益の帰属」に関連する事項として勘案すべき事情は,当該取引による直接の利益に限られず,得られる利益の増額の可能性も含まれるから,原告の主張は,理由がない。すなわち,販売価格が上昇すれば,翌年における原告の新日鐵に対する本件製品の販売価格の増額要因となっていたことからすれば,本件製品の販売価格が上昇することは長期的に原告の利益に結び付くものであるといえるのであり,本件審決は,原告が,本件製品の販売価格が上昇したとしても,直接利益を受ける立場にはなかったことを踏まえた上で,上記の点から,原告には,本件製品の販売価格の引上げを実行する利益があったといえること等を勘案して,原告が実行する利益があったといえること等を勘案して,原告が自ら主体となって本件販売行為を実行していたものと認定しているものである。加えて,本件販売行為による直接の損益は,新日鐵に帰属していたことについても,その取引開始の経緯が,原告と建設業者との間に成立した本件製品の取引の流通過程に新日鐵が介入することによって,原告の鋼管杭の事業活動のリスクを軽減するとともに新日鐵自身も利益を得るということにあったことを考慮すると,そのことが直ちに,本件販売行為の主体が新日鐵であったことを裏付けるものとはいえない。また,原告は,新日鐵の申入れどおりに取引を終了することは,原告の不利益になるとして,その継続を要求していたのであり,当該取引を自主的,積極的に行っていたものと推認されるところ,本件審決は,この事情に,原告と新日鐵の「取引による利益の帰属」に関連する事項等その他諸々の事情を勘案して,原告が本件販売行為を実行していたと判断するものであって,何ら論理の飛躍があるものではない。
ウ 原告が本件販売行為を実行したと認められるか否かを判断するに当たり,本件製品の販売行為を実際に担当したものがだれであるかという点を勘案して判断することは,合理的であり,「外形的,形式的側面」として「だれが…売上げを計上したか」という点しか考慮する必要がないかのような原告の主張は,理由がない。また,「外形的,形式的側面」として本件製品の販売行為を実際に担当したものがだれであるかという点を勘案したからといって,原告の主張する「だれが…売上げを計上したか」という点を勘案せずに,原告が本件販売行為を実行したと認められるか否かを判断するということにもならない。本件審決は,「だれが…売上げを計上したか」,すなわち,本件販売行為による直接の損益が新日鐵に帰属することをも踏まえた上で,原告が主体となって本件販売行為を実行していたと認定するものであり,原告の主張は,理由がない。
本件審決は,本件製品の販売行為を実際に担当したのがだれであるか,取引の相手方である建設業者の認識,取引条件の決定権限の存在,取引による利益の帰属や責任の所在等の諸々の事情を勘案の上,本件製品に係る取引の実態に即して,本件販売行為を実行したと認められるのは,だれかを判断しているものであって,原告が建設業者向け販売価格の決定権を有していたということを認定しているものでも,そうであるから原告が本件販売行為の主体であると認定しているものでもない。また,新日鐵による決裁については,その実態からすれば,取引の成立に不可欠なものであるという認識が原告になかったものと認められ,むしろ,原告が本件販売行為を自ら主体となって行っていたことを裏付けるものであるといえるし,新日鐵への報告についても,それだけで本件販売行為が新日鐵の取引できることをうかがわせる事実とはいえない,直接の損益の帰属についても,取引の開始の経緯を考慮すると,そのことで直ちに本件販売行為の主体が新日鐵であったと判断することもできない。新日鐵が,「最低目標販売価格」等の新日鐵が決裁を行う際に用いていた基準に沿わないとして不満を抱いたとしても,原告が建設業者との間で既にした合意を覆すほどのものではなく,原告が建設業者との間で新日鐵に対する説明が困難なほどの安値で合意した場合には,便宜上,新日鐵に対しては決裁が得られるような金額で合意をした旨の虚偽の報告をして決裁を得ておき,後日商社との間で差額分を調整することもあったというのであるから,新日鐵の価格基準は,新日鐵が原告に指示し,それに基づいて原告が交渉していたと評価できるようなものではない。このことは,新日鐵の決裁が得られない場合であっても,原告が建設業者との間で決定した価格について変更することなく合意することが可能であったということであり,新日鐵の決裁が得られない価格での合意という事態が実際に生じたことがあった場合の割戻金の額が建設業者に販売した売上額全体の0.56パーセントにすぎないものであったとしても,この事実に変わりはない。
新日鐵が,新日鐵と商社間の販売価格を原告に知らせることなく,変更していたことは,新日鐵と商社との間の取引に係るものであり,建設業者を相手方とする取引に係る認定を左右するものではない。
エ 大型カラー映像装置談合事件については,親子会社関係にあった松下電器産業と松下通信工業の違反行為の実態にかんがみて,両社を一体の競争関係ととらえるべきであるとの判断がされた事案と解され,そもそも親子関係のない本件における原告と新日鐵とは,事案を異にするものであるし,防衛庁航空機用タイヤ談合事件についても,誰が違反行為による不当な経済的利得を得たのかが決め手となったことが推認されるという原告の主張には,何ら具体的な根拠がなく,これをもって本件販売行為を実行した原告に課徴金を賦課した本件審決が先例に反するといえるものではない。
また,被告の担当者の説明も,メーカー間融通やOEM供給について述べたものであり,本件とは,事案が異なる。
オ 新日鐵は,本件販売行為の主体とは認められないのであるから,その地位は,原告と建設業者との間に成立した販売に係る取引に介在することによって,原告の鋼管杭の事業活動のリスクを軽減するとともに,新日鐵自身も金銭的な利益を得るというものであったと解されるのであって,この意味において,新日鐵は商社に準じた地位にあったということができる。上記新日鐵が利益を取得する仕組みが,商品取引に介在して一定の口銭を取得するという通常の商社の場合と異なり,商品の販売価格が上昇することによって直接利益を享受する形態になっていたのは,対等な企業である原告と新日鐵が互いの利害得失を考慮した上でそのような内容を合意をしたからにすぎないのであり,このような事情があったとしても,上記評価に影響しない。
(3) 争点(3)について
(原告の主張)
被告は,公正取引委員会事務総局審査局審査官笠原宏から新日鐵宛の平成19年12月10日付け報告命令及び平成20年3月10日付け報告命令に基づき新日鐵が被告に提出した報告書(以下「新日鐵報告」という。)につき原告が申し立てた文書等提出命令について,新日鐵報告書は,新日鐵の事業上の秘密が含まれている可能性があるから,この点を踏まえて文書提出命令の必要性を検討する必要があるとして,本件製品の取引において,新日鐵の利得額を確定する必要はなく,新日鐵がどういう立場にあるかは,文書等提出命令によらずとも,原告自身において何らかの証拠収集が可能なはずであり,その証拠の提出につき文書等提出命令によらなければならないという意味の必要性はないという理由から却下した。
しかしながら,本件審判手続は,抗告訴訟の第1審と同等の手続的権利の保障がされるべきである。公正取引委員会の審判に関する規則(以下「審判規則」という。)46条2項は,文書等提出命令の許否を被告の合理的な裁量に委ねているが,被告の合理的裁量は,通常訴訟の手続によって当事者が行使し得る手続的権利の保障を前提としたものでなければならないことは,明らかである。
上記却下の理由は,東芝ケミカル異議申立て事件(平成2年8月31日決定審決集37巻83頁)を墨守したものであるが,この判断は,旧民事訴訟法の文書提出義務を前提とした判断である。平成13年の民事訴訟法の一部改正によって,公務員が職務に関して保管又は所持する文書については,一定の秘密文書を除き,広く文書提出命令の対象とされるに至った。
新日鐵報告書は,民事訴訟法220条4号の除外事由のいずれにも該当しない。また,民事訴訟法上,上記却下の理由のように,秘密が含まれている「可能性がある。」という理由で却下できない。しかも,本件審判手続においては,審判手続の当事者以外から徒出された内部資料,物件情報等を数多く証拠として提出しているが,被告は,これらの提出した証拠の作成者の「職業上の秘密」は無視できるが,原告の文書等提出命令の申立てにおいては,当該文書の作成者の「職業上の秘密の可能性」を理由に本件申立てを却下できるという不公平な判断が許されるものではない。
審判規則46条2項は,文書等提出命令の要件として「具体的必要性」を要求していないところ,被告が,本件の文書等提出命令の申立ての判断において要求している「具体的必要性」は,他に代替証拠がないこと,すなわち,補充性を要求しているものと解され,このような判断は,文書等提出命令の意義,趣旨を理解していないものである。
原告は,新日鐵が「商社に準じた地位」にないことを,新日鐵が,個々の取引において,最終的にいかなる価格で一次商社に販売していたかを客観証拠によって明らかにすること等を目的に,本件の文書等提出命令を申し立てたが,被告は,原告が新日鐵の一次商社に対する販売価格を知り得る立場にないことを認識しつつ,「原告自身において何らかの証拠収集が可能である」と述べて却下している。これは,原告の防御権を不当に制約するものであり,民事訴訟法の文書提出命令で要件とされていない補充性に等しい高度の必要性を要求する不当なものである。
以上のとおり,被告は,民事訴訟法の改正及びこれに伴う審判規則の解釈の変更により,当然に審査官に対して命じるべきであった文書等提出命令を却下したものであり,このことは,独占禁止法81条1項1号の「公正取引委員会が,正当な理由がなくて,当該証拠を採用しなかった場合」に該当することは明らかである。
(被告の主張)
審判官は,審判手続における文書等提出命令の申立てに理由があるか否かについて,審判規則46条2項に基づき,被審人の防御権を不当に制約することとならない限り,事件の内容,提出命令の目的,証すべき事実,審判の経過等諸般の事情に鑑み,その具体的必要性及び相当性を勘案して,申立ての採否を決することができるというべきである。本件審判手続においても,審判官は,上記基準に照らして判断した結果,原告の文書等提出命令を却下しているのであって,審判官が新日鐵報告書に係る文書等提出命令の申立てを却下したことに何ら違法はない。
審判官の判断が補充性を要求するというのは,原告の独自の解釈にすぎないし,新日鐵がいかなる価格で一次商社に販売していたかを確認して不当利得の額を把握する必要はない。新日鐵が本件商流においてどのような立場にあったかという点についても,新日鐵がいかなる価格で一次商社に販売していたかによって,建設業者を相手方とする取引に係る認定を左右するものではないのであるから,原告の主張は,理由がない。
独占禁止法の審判手続における文書等提出命令と民事訴訟法におけるそれとは異なるものであり,民事訴訟法における規定がそのまま独占禁止法の審判手続に妥当するものではなく,民事訴訟法220条各号の事由に該当しない限り認められるものではない。
審判官が新日鐵報告書に係る文書等提出命令の申立てを却下したことに何ら違法はなく,「公正取引委員会が,正当な理由がなくて,当該証拠を採用しなかった場合」(独占禁止法81条1項1号)に該当するものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)及び争点(2)について
(1) 事実関係
本件審判事件記録及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる.
ア 貼り付け
4社は,官公庁等が発注する建設工事を受注した建設業者向けに販売する特定鋼管杭の価格について,目標販売価格を定め,鋼管杭の各製造業者がこの目標販売価格以上の価格で建設業者に販売できるようにしていたところ,その実施に際して,北海道,東北,関東,新潟,静岡,北陸,中部,近畿,中国,四国,九州及び沖縄の各地区ごとに,各社の特定鋼管杭の基準シェアを定め,各年度における各社の受注重量が当該シェアの範囲に収まるようにするために,国土交通省,農林水産省等の国の機関,地方公共団体等が発注する特定鋼管杭について,物件ごとに受注予定者を貼り付けていた。
また,4社は,小委員会を開催し,各社が集めてきた物件情報を集約して,これを基に貼り付けを行い,小委員会の上部組織として課長会を結成し,小委員会で解決できない問題が生じたときは,課長会で解決を図っていたほか,建設業者から安値販売を求められた場合などに状況を報告し合い,必要に応じて対応を協議するなどしていた。
原告と新日鐵の各担当者らは,小委員会や課長会が開催される前に,原告の希望する物件の報告や,各会での議論検討をどのように進めていくかについて両者の考え方をすり合わせるなどしていた。
(査1,18ないし20,審10ないし16)
イ 原告と新日鐵との取引関係
i 特定鋼管杭に係る取引
(ア) Sマーク製品とKマーク製品
4社のうち原告を除く3社は,特定鋼管杭の原材料であるコイルを自社で製造しているが,原告は,自社で製造することなく,「基本契約書」(査8,9)に基づいてすべてのコイルを新日鐵から購入していた。
原告が製造する特定鋼管杭には,新日鐵が建設業者から直接受注したものを原告に製造を発注し,これを受けて原告がOEM製造する特定鋼管杭(S契約・Sマーク製品),原告が建設業者から直接受注し,製造の上,新日鐵及び商社を介して建設業者に販売される特定鋼管杭(S契約・Kマーク製品。本件製品.),原告が建設業者から直接受注し,製造の上,原告から商社のみを介して建設業者に販売される特定銅管杭(K契約・Kマーク製品)があった。S契約・Sマーク製品の売上額は全体の約10パーセント,S契約・Kマーク製品及びK契約・Kマーク製品の売上額は全体の約90パーセントであった。なお,K契約・Kマーク製品は,原告が新日鐵には知られないように余材のコイルを使用して製造した製品であったため,その販売数量は少なく,S契約・Kマーク製品及びK契約・Kマーク製品の全体の約2ないし3パーセント程度にすぎなかった。
原告と新日鐵は,原告が新日鐵から提供を受けたコイルを使用して特定鋼管杭を製造し,これを新日鐵に納入するという原告と新日鐵の一連の取引(S契約・Sマーク製品及び本件製品の取引)を委託加工取引と呼んでいた。
(査1ないし5,21,25,審4,6の1ないし3,18,19)
(イ) 購買基本契約
原告が製造した特定鋼管杭のうち,本件製品及びS契約・Sマーク製品は,原告と新日鐵との間で締結された「購買基本契約書」に従って,すべて新日鐵に販売されていた。
その際。新日鐵が原告に支払う特定鋼管杭の対価は,建設業者に対する実際の販売価格にかかわらず,①材料費(コイル代),②造管費(加工賃),③エキストラ代及び付属品代並びに④代行輸送費の価格構成要素別に具体的な金額が定められており,これは年度ごとに原告と新日鐵との協議によって決まっていた。このため,年度の途中で建設業者に対する販売価格が高騰したり,下落したりしても,当該年度においては原告が新日鐵から支払を受ける対価には,何ら影響することはなかった。
上記のうち,材料費とは,新日鐵が原告に提供するコイルの価格であり,重量トン当たり4万5000円(平成7年以降変更なし)に96.8パーセントと設定した歩留まり率(加工における使用原料に対する製品の出来高の割合)を乗じた上で,原告が製品とならない余材のコイルをスクラップとして販売する利益を控除して,製品トン当たりの材料費を設定していた。原告は,上記余材のコイル(原告が新日鐵から購入するコイルの2パーセント程度。2000トン程度)を使用して,新日鐵には知られないようにK契約・Kマーク製品を製造し,商社を経由して建設業者に販売していた。
上記のうち造管費については,本件製品を官公庁,電力,複合杭,民間土木及び民間建築の5つに区分し,これに新日鐵契約分(S契約・Sマーク製品)を加えた6区分ごとに,本件製品の建設業者への販売価格の変化,原告の鋼管事業部の損益状況,新旧鐵のコイル製造コストの変化,新日鐵の鋼管杭事業における損益状況等を考慮して,原告と新日鐵との間の協議により毎年決定していた。造管費を決定するに際しては,前年度の本件製品の建設業者への販売価格が重視され(平成17年度は当年度の販売価格が重視された。),前年度の価格が前々年度に比べて高くなっていれば,造管費の引上げ要因になり,低くなっていれば,引下げ要因となっていた。したがって,前年度の建設業者に対する販売価格の増減は,翌年度の造管費に影響する可能性を有するものであった。また,原告は,鋼管事業部の前年度の損益状況を,毎年7月上旬ころまでに新日鐵に報告していた。
(査1ないし4,6,7,10,審18)
(ウ) 平成15年ころまでの特定鋼管杭の建設業者への販売価格は,年々下落傾向にあったものの,原告は,新日鐵から定額で原料の支給を受け,製造した特定鋼管杭を年度ごとに新日識に定額で販売していたため,原告の鋼管杭事業は,材料費の高騰による影響を受けることはなく,建設業者に対する販売価格の下落も,当該年度に限ってみれば,事業収益に影響を与えるものではなかった。しかし,販売価格の下落は,翌年における造管費を合意する際に増減要因とされていたから,翌年以降の事業収益に影響を与える可能性を有するものであった。
他方,新日鐵が本件製品の販売において取得する主な収益は,建設業者への販売価格から商社の口銭等を控除した額と原告に支払う本件製品の対価との差額であった。
(査1,3,審14,17)
ⅱ 原告と新日鐵との間の鋼管杭に関する取引の経緯(以下,査1ないし3,5,10,審18)
(ア) 原告は,昭和30年代に新日鐵の前身であった富士製鉄株式会社(以下「富士製鉄」という。)と鋼材の調達などの取引関係にあったところ,富士製鉄のあっせんによりスパイラル鋼管(スパイラル方法で成形された鋼管。当初は,水道管用に製造されていた。)の製造販売を事業化することとし,昭和34年ころ,原告の大浜工場で,富士製鉄から購入したコイルを使用してスパイラル鋼管を製造し,販売するという事業を開始した。昭和36年ころには,スパイラル鋼管が鋼管杭として使用されることとなり,富士製鉄も鋼管杭の販売を開始した。
当時は,①材料となるコイルはすべて富士製鉄が納入し,原告はこのコイルを使用して,鋼管杭を製造していた。②原告が製造する鋼管杭の約60パーセントは,富士製鉄ブランドとして販売されるもの(以下「富士製鉄ブランド製品」という。)であり,富士製鉄が原告に加工を委託して,原告が鋼管杭を製造し,これを富士製鉄に納入していた。③残りの約40パーセントは,原告ブランドとして販売されるもの(以下「原告ブランド製品」という。)であり,原告が富士製鉄からコイルを購入して鋼管杭を製造していた。④富士製鉄ブランド製品については,富上製欽が独自に営業し,商社を通じて建設業者に販売していた。⑤原告ブランド製品については,原告が独自に営業し,商社を通じて建設業者に販売していた。
(イ) 昭和37年ころになると,鋼材価格が上昇する一方で鋼管杭は,普及が進まず,価格が低迷していたため,原告の鋼管杭事業は,業績不振となった。このため,昭和38年になると,富士製鉄と原告が協議した結果,原告の鋼管杭事業を維持継続するために,富士製鉄が全面的に協力することとなり,それまで原告が富士製鉄からコイルを購入して製造し,富士製鉄を介さずに独自に販売していた原告ブランド製品についても,それまでどおりに原告が独自に営業して販売はするものの,事務処理上,富士製鉄を通して販売する形式とし,いったん富士製鉄が全量を買い上げることとした。その結果,原告ブランド製品については,それまでは原告,商社,建設業者という商流であったものが,その中に富士製鉄が介入し,原告,富士製鉄,商社,建設業者という商流となった。このような原告ブランド製品の取引方法の変化によって,原告は,富士製鉄ブランド製品のみならず,原告ブランド製品についても,富士製鉄から安定的に一定の対価を得られるようになり,原告の鋼管杭事業は,安定した。
なお,上記のような取引方法の変化によって,原告ブランド製品についても,富士製鉄から原告へのコイルの提供,原告から富士製鉄への鋼管杭の納入という一連の取引を全体としてみたときに,富士製鉄ブランド製品と同様に,実質的にみて委託加工契約に近いものとなった。
昭和41年ころまでに,銅管杭の需要が急増したことから,富士製鉄と原告ほか2社が出資して関東大径鋼管株式会社を設立し,市川工場を所有した。昭和47年に原告が同社を吸収合併したため,原告が所有する工場は,大浜工場と市川工場の2工場となった。昭和45年には,富士製鉄が八幡製鐵株式会社と合併して,新日鐵となった。八幡製鐵株式会社は,同社が所有する二つの工場で粗鋼から鋼管杭までを一貫して生産していたため,新日鐵が受注した新日鐵ブランドの鋼管杭は,原則として新日鐵の工場で製造されることとなったが,一部については,従前富士製鉄が富士製鉄ブランド製品の加工を原告に委託していたのと同様に,原告にコイルが提供されて鋼管杭の製造が発注され,原告の工場での製造が継続された(この取引が,後にS契約・Sマーク製品の取引になったものと推認される。)。他方で,上記合併後も,富士製鉄時代に引き続いて,新日鐵と原告との間の上記原告ブランド製品の取引も継続された(この取引が,後に本件製品の取引になったものと推認される。)。
(ウ) 昭和50年代半ばになると,第2次オイルショックの影響で景気が低迷し,鋼管杭の需要も落ち込んだため,新日鐵と原告の両者合わせて4工場となっていた鋼管杭の工場の統廃合について協議し,結果として原告の大浜工場が閉鎖されることとなった。その代償として,新日鐵は,原告に対し,原告の鋼管杭事業に全面的に協力することを約束した。
ウ 本件製品の建設業者への販売
i 建設業者との交渉・妥結等
原告は,本社内に鋼管杭事業に係る鋼管事業部営業部を置き,各支店の鋼管課等の担当者らを通じて鋼管杭が使用される工事に関する情報収集を行い,貼り付けの対象としたり,建設業者から見積書の作成依頼があった場合には,自ら見積書を作成して,提出したりしていた。また,原告は,貼り付けの対象外となった工事等について,当該工事の受注が見込まれる建設業者に対して積極的にS契約・Kマーク製品又はK契約・Kマーク製品の売り込み活動等を行っていた。
また,原告は,本件製品を購入しようとする建設業者との間で,価格,仕様,納期等の取引条件の交渉を行い,当該取引条件について合意していた。
新日鐵は,本件製品について,建設業者に対する営業活動をしたり,取引条件の交渉をしたりしたことはなかった。新日鐵は,実際には,本件製品の商流に介在し,本件製品から利益を得ていたにもかかわらず,本件製品の購入者である建設業者や,同業者であるJFEスチール及び住友金属は,その事実を知らなかった。また,原告は,建設業者に対して,本件製品が新日鐵を介して販売されていることや本件製品の価格が上がることにより直接利益を受けるのが新日鐵であること等を説明していなかった。
(査1ないし5,11ないし17,審16ないし18)
ⅱ 新日鐵による販売計画及び受注実績の確認
(ア) 新日鐵は,原告に対して,月次で,施主名,ゼネコン名,物件名,鋼管杭の受注重量等に係る当月の受注状況,前月の受注実績及び次月の受注計画を報告させる等して本件製品の販売状況や売上実績を確認,管理していた。また,新日鐵は,月次及び半期で,本件製品を含めた鋼管杭事業に係る自社の販売計画を策定した(新日鐵が策定した販売計画は,原告には交付されていなかった。)。
ただし,受注が確定するまでは,原告から物件名が明らかにされないことも多く,たとえば,上記報告に際し,「諸口」としていくつかの物件がまとめられていたり,「某物件」とするなどして物件名が明示されなかったりすることがあり,まだ,施主についても,「官需」とか「民需」とだけ記載された報告書が提出されることもあった。
もっとも,重量についてだけは,「貼り付け」で重量ベースの各社のシェアが決まっており,4社で地区ごとにおおよその重要予測を行い,4社各々の受注予定量が予測できていたことから,実際の受注重量からそれほど大きく外れない数値が報告されていた。
(査1,3,4)
(イ) また,新日鐵は,原告に対して,アタッチシート等によって,原告と建設業者との間で価格等の取引条件が合意される前に,新日鐵の承認を得ること(以下,この承認を「決裁」という。)を要請していた。しかし,実際は,取引件数が膨大で,すべての物件について合意前に価格決裁を行うことは難しく,結果的に原告と建設業者との間で取引条件について合意がされた後に,新日鐵の決裁が行われることが多かった。
原告の本件製品の担当者らは,本件カルテル合意に従った価格であれば,新日鐵の決裁を受けられるであろうこと,それ以下の価格であれば,決裁を受けられない可能性があることを認識しており,本件カルテル合意後に営業担当者らに指示を出すに際しては,これからはベース○○円で出して下さい,これ以下の場合は新日鐵に認知されない(決裁を受けられない)可能性があるので,注文書を提出する際に理由が必要です,などと述べていた。
(査3,4,審13,14,17,18)
エ 本件製品の受注から納品までの流れ
i 受注
特定鋼管杭は,顧客ごとに必要とする企画や仕様が異なるため,顧客から特定鋼管杭の注文を受けてからの受注製造であった。
原告の担当者らは,特定鋼管杭の取引条件に係る交渉が建設業者と妥結し,注文を獲得した後,原告の注文入力システムに受注した鋼管杭の物件名,仕様(サイズ,数量,規格,杭加工,塗装等)等の注文内容を入力していた。これにより,原告の工場に製作指示がされ,工場によるコイルの在庫確保等の製造準備が開始された(ただし,製造は,新日鐵による加工指示が出された後であった。)。
また,原告の担当者らは,上記システムに入力した情報を基に新日鐵の注文書様式で注文書を作成した後,当該注文書を新日鐵と同社が選任した商社にそれぞれ交付していた。
(査1,3ないし5,審17,21)
ⅱ 新日鐵による決裁
原告は,前記iの注文書とともに,建設業者への納入時のベース価格,支払条件及び鋼管杭の仕様を記載したアタッチシートを新日鐵の担当支店に送付し,当該支店は,原告から提出されたアタッチシートの内容を確認の上,新日鐵の本社にこれを送付していた。
新日鐵の本社では,アタッチシート上の「本体」の「A価格」に記載された価格が,新日鐵の「最低目標販売価格」,「社内基準」及び「予算価格」並びに本件カルテル合意に基づく価格に照らして適切な水準にあるか否かを確認した上で,当該建設業者との取引条件について決裁をしていた。
前記価格が新日鐵の「予算価格」よりも著しく低い水準であった場合には,新日鐵は,安値受注として,その理由について原告に納得のいく説明を求めた上で,決裁をしていた。
もっとも,新日鐵にアタッチシートが提出された時点では,原告と建設業者との間では,既に価格等の取引条件について合意が成立していたため,新日鐵としても,原告に建設業者との価格交渉をやり直すように求めることはできず,その場合には,原告から安値受注の理由を可能な限度で説明してもらうことで,最終的に決裁するほかなかった。他方,原告の方では,安値販売について新日鐵に納得してもらうような説明が到底できないような場合には,建設業者と合意していた納期に間に合わせるため,やむを得ず,アタッチシートに記載した価格を実際よりも高くして提出することがあった。この場合には,建設業者に対する納入価格に対して,商社が新日鐵から購入する価格が高くなってしまうため,原告から商社に対して販売割戻金として金銭を支払い,商社の損失分を一部負担していた。
(査1,3ないし5,審17ないし19)
ⅲ 発注
原告は,新日鐵にアタッチシートを提出すると同時に,商社に対して新日鐵に注文を入れることを指示していた。新日鐵は,アタッチシートに決裁を行った時点で,当該注文を正式に受け付けていたが,原告が安値で受注した場合などのように,アタッチシートに対する新日鐵の決裁に時間がかかる場合には,納期に間に合わせるため,新日鐵の決裁を待たずに注文処理を先行して行うこともあった。
(査1,3,審18)
ⅳ 製造
新日鐵は,アタッチシートの決裁を行い,商社からの注文を正式に受け付けた後に,原告に対して加工指示を出していた。原告は,自社システムに入力された注文情報と新日鐵から受けた加工指示の内容を確認し,内容に食い違いがなく,問題がなければ,注文情報に記載された仕様等に従って本件製品の製造を行っていた。
原告は,基本的に月に1回,コイルの在庫状況と特定鋼管杭の製造スケジュールから算出したコイルの必要数量を基に,新日鐵に対してコイルを発注していた。新日鐵は,原告から提出された月次の販売計画等に基づいて次月のコイルのおおよその必要量を推定して,原告から正式な注文が入る前にあらかじめ新日鐵社内においてコイルの供給枠を確保していた。また,不定期に,新日鐵が原告のコイルの在庫状況を帳簿と照らし合わせて確認することもあった。
(査1,3ないし5)
ⅴ 出荷
原告は,建設業者と合意した内容に従って製造した製品を,建設業者と合意した内容に従って直接建設業者の指定する場所に配送して,納品していた(この点は,S契約・Sマーク製品と本件製品で違いはなかった。)。
また,製品出荷の都度,いつ,どの注文について,どれだけの数量が出荷されたのかという内容の出荷記録が新日鐵にもオンラインで伝送されており(この点は,S契約・Sマーク製品も同様であった。),本件製品が原告の工場から出荷されると,原告は,本件製品に係る売上げを計上していた。
原告は,上記特定銅管杭の出荷実績を月末で取りまとめ,翌月初旬に前月に出荷した分の製品代金の請求書を新日鐵に送っていた。新日鐵は,商社に対して請求書を発行して代金を回収し,その後,当該請求書を提出した月の月末に原告に本件製品の代金が支払われていた。
(査1,3ないし5)
ⅵ 品質保証
日本工業規格では,製造業者は,「JIS G 0415」の検査証  明書を納入相手に対して提出することが要請されていた。原告は,本件製品について,自らの名義で当該検査証明書を発行し,これを建設業者に提出していた。
(査1,3,5,22〉
オ 原告と新日鐵とのその後の本件製品の取引等(以下,査1,3,10,審18,19)
i 原告と新日鐵との間の本件製品についての取引は,新日鐵の申入れにより,平成19年3月31日をもって終了した。また,原告と新日鐵との間のS契約・Sマーク製品の取引も同時期に終了した。このため,原告と新日鐵との取引は,同年4月1日以降,原告が新日鐵からコイルを購入するだけの取引となっており,原告は,製造した特定鋼管杭のすべてについて,新日鐵を介在させることなく建設業者に販売している。
ⅱ 新日鐵が上記のとおり本件製品に係る取引の終了を申し入れた主な理由は,コイルの製造コストの急激な上昇と鋼管杭の需要減少による鋼管杭事業全体の収益悪化にあった。また,新日鐵内部では,新日鐵が,鋼管杭事業において競争相手であるはずの原告ブランド製品である本件製品の商流に介在しで収益を得ていながら,これを顧客に知らせていないことや,原告が製造する製品を新日鐵が販売する場合には,新日鐵の名称を検査証明書に記載することが望ましいが,今更そのような記載はできないため,これを放置せざるを得ないことなどが,企業コンプライアンス上問題があるのではないかということが問題とされており,これも取引終了の申入れの一因となった。
ⅲ 原告は,上記新日鐵からの取引終了の申入れに対して,取引を終了することは,原告にとって不利益であるとの考えから,取引の継続を主張したが,最終的には,新日鐵の申入れを受け入れた。
(2) 争点(1)(原告と新日鐵の取引の違反行為の該当性及び本件製品の課徴金の対象となる商品該当性)について
ア 独占禁止法7条の2第1項は,事業者が,不当な取引制限をしたときは,当該事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行をしての事業活動がなくなるまでの期間における当該商品又は役務の売上額に一定の割合を乗じて得た額の課徴金の納付を命じるものとされている。
そして,上記条項の「当該商品」とは,違反行為の対象とされた商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいうものと解される。
本件製品が本件違反行為の対象とされていたことは,当事者間に争いがなく,前記(1)の事実によれば,本件製品について受注の活動をしたのは,原告の担当者らであり,原告の担当者らと建設業者が合意した本件製品の価格については,新日鐵の決裁を得ることが必要であったが,この決裁の基準に本件カルテル合意も含まれていたことから,原告の担当者らは,本件カルテル合意の価格を前提に取引の交渉を行ったことが認められるから,本件製品の価格は,本件違反行為の拘束を受けていたと解される。
以上からすると,本件製品は,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」に当たると認められる。
イ 原告は,原告と新日鐵との取引は,委託加工取引であって,本件審決が認定したように売買契約ではなく,したがって,他の違反行為者と競争関係に立つことなく,本件カルテル合意の実行としての事業活動ではないと主張するので,以下検討する。
前記(1)の事実によれば,原告と新日鐵は,両者の一連の取引を委託加工取引と呼んでいたこと,原告が新日鐵に本件製品を納入した対価は,造管費と呼ばれる加工賃相当額であることが認められる。
しかし,原告は,自社でコイルを製造することがなかったので,新日鐵からコイルを購入していたものであること,本件製品は,「購買基本契約書」に従って,新日鐵に販売されていたこと,原告と新日鐵が現在のような取引になる経緯には,原告が原告ブランド製品を製造して販売していたところ,原告の鋼管杭事業が業績不振になったため,新日鐵の前身である富士製鉄が,原告にコイルを売却し,原告が製造した特定鋼管杭である原告ブランド製品を全量買い上げることにより経営支援するようになったということがあり,それが新日鐵にも引き継がれたものであることが認められ,これに,原告と新日鐵との契約が委託加工であるとしたら,本件製品の所有権は,新日鐵にあるところ,本件製品の受注,出荷,品質保証をすべて原告が行っていることは,業務委託契約等の存在が認められない本件では不自然であることからすると,原告と新日鐵の取引が,上記取引の呼び方や原告が受け取る対価のことを考慮しても,委託加工取引であるとは認められず,これを売買契約であると認定した本件審決に実質的な証拠がないにもかかわらず,事実認定をした違法があるとはいえない。
ウ 原告は,原告と新日鐵との間の取引には,本件違反行為の拘束力が及んでおらず,価格連動性が認められないと主張するので,以下検討する。
確かに,前記(1)の事実によれば,原告と新日鐵との取引において,原告が新日鐵から受け取る特定鋼管杭の対価は,年度ごとに原告と新日鐵との協議によって定められており,建設業者に対する年度の途中の販売価格の変化の影響を受けることはなかったことが認められる。
しかしながら,原告と新日鐵との特定鋼管杭の対価を定める協議は,前年度の建設業者に対する販売価格等を考慮要素とするものであり,原告が取得する対価は,間接的ながら,本件違反行為の拘束を受けているといえる上,原告の主張は,その主張にもかかわらず,実質的に「製造業者から卸売業者に販売される市場」,「卸売業者から小売業者に販売される市場」,「小売業者から需要者に販売される市場」に区分して,各段階の価格拘束性を問題にするものであるところ,本件においては,特定鋼管杭の販売の分野で不正な取引制限が行われたのであるから,原告の主張のように区分して価格拘束性を考えるのは,相当ではない。
したがって,本件カルテル合意の当事者である原告が,本件カルテル合意を前提とした価格で,建設業者から特定鋼管杭の購入を受注し,前記価格で,本件製品を商流に置くことをしたのであるから,原告が新日鐵から取得する対価が,上記のとおり,本件カルテル合意の拘束を直接受けないものであっても,本件製品に本件違反行為の拘束力が及んでおらず,価格連動性が認められないということはできない。
エ 以上のとおりであるから,原告の主張は,理由がなく,争点(1)で原告が主張する取消事由が,本件審決にあるものとは認められない。
(3) 争点(2)(本件課徴金命令の名宛人)について
ア 独占禁止法7条の2第1項によれば,課徴金を課する要件として,違反行為を実行したことを要するから,本件のように,一つの商流に複数の違反行為者が関与している事案においては,だれが違反行為を実行したかを判断することが必要となる。そして,違反行為を実行したか否かは,事実上の営業活動を行ったか否かにより判断されるというべきである。
前記(1)の事実及び第2の2によれば,原告は,本件違反行為を行った4社の一員であり,本件違反行為を実施するに当たり,貼り付けを受け,官公庁等が発注する建設工事を受注した建設業者向けの特定鋼管杭の取引において,受注予定者となっていたこと,原告の担当者は,貼り付けに基づき営業活動をし,建設業者との間で,価格,仕様,納期等について交渉し,取引条件を合意していたこと,原告は,建設業者との合意に従って製造した本件製品を建設業者と合意した内容に従って直接建設業者の指定する場所に配送して,納品していたこと,原告は,本件製品について,日本工業規格により要請された検査証明書を発行し,これを建設業者に提出していたこと,他方,新日鐵が,本件製品について,建設業者に対する営業活動をしたり,取引条件の交渉をしたことはなかったこと,新日鐵が本件製品の商流に介在していることは,本件製品の購入者である建設業者も同業者であるJFEスチール及び住友金属も知らなかったし,原告の方でも,建設葉者に対し,新日鐵が商流に介在している事実を告げなかったこと,新日鐵と原告との取引等は,新日鐵からの申入れにより,取引終了となったが,当初,原告は,取引終了が原告にとって不利益になると考えて,反対したことが認められる。
これらの事実によれば,本件製品の販売について,事実上の営業活動を行ったのは原告であり,原告が本件違反行為を行ったものと認められる。
イi 原告は,本件製品を建設業者に販売したのは新日鐵であるから,販売に伴う事実上の営業活動をしたのは新日鐵であり,本件課徴金命令の名宛人は新日鐵であるべきであると主張する。
しかし,上記事実のとおり,新日鐵は,本件製品について営業活動等をしていないのであり,建設業者等も本件製品を販売しているのが新日鐵であることを認識していなかったのである。他方,原告は,貼り付けに基づいて営業活動をしており,建設業者も本件製品を販売するのは原告であると認識していたというべきであるし,新日鐵が,本件製品の商流に介在するようになったのは,富士製鉄のとき以来の原告と新日鐵の取引の結果であって,この取引の経過においては,本件製品を販売し,販売に伴う事実上の営業活動をしたのが原告であることが認められ,原告の主張は,理由がない,
ⅱ 原告は,課徴金納付命令の名宛人を決めるに当たっては,不当な経済的な利得を得た者がだれであるかは,きわめて重要な判断基準であると主張する。
しかしながら,「独禁法の定める課徴金の制度は,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また,課徴金の額の算定方式は,実行期間のカルテルの対象商品又は役務の売上額に一定率を乗じる方式を採っているが,これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることか望ましく,また,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切でないとして,そのような算定方式が採用され,維持されているものと解される。そうすると,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないというべきである。」(最高裁判所平成14年(行ヒ)第72号・同17年9月13日第3小法廷判決民集59巻7号1950頁)から,不当な経済的な利得の存在は,事実上の営業活動の有無を判断する際の一つの要素とみることはできても,課徴金納付命令の名宛人を特定する重要な要素であるとはいえない。
確かに,上記事実によれば,本件カルテル合意に従って本件製品を建設業者に販売することにより直接の利得を得るのは,新日鐵である。また,原告は,本件カルテル合意に従って引き上げられた価格により特定鋼管杭が販売されても,それが直接造管費の増額に結び付く関係にはない。
しかしながら,造管費は,前年度の本件販売価格が高くなっていれば,高くなる可能性があるものであって,本件違反行為と原告の利得が無関係ということはできない(このような可能性についても,事実上の営業活動をしたのが誰であるかを判断する際の一要素とすることはできると解される。)から,不当な経済的な利益を得た者は,新日鐵であるから,課徴金納付命令の名宛人は新日鐵とすべきであるという原告の主張は,理由がない。
ⅲ 原告は,本件製品の取引において価格決定権を有していた者は新日鐵であるから,新日鐵が課徴金納付命令の名宛人であると主張する。
そして,上記事実によれば,本件製品の取引においては,価格について新日鐵の決裁を得て製造が開始されていたことが認められる。しかしながら,決裁の対象である価格は,原告の担当者が建設業者と商談をすることにより決定されるものであって,新日鐵は,原告から送付を受けたアタッチシート上の価格が本件カルテル合意に基づく価格等の基準に照らして著しく安いときに,原告に説明を求めることができるくらいで,原告に建設業者と再交渉するように指示することはできなかったし,安値販売について新日鐵に納得してもらう説明が到底できないような場合には,原告は,アタッチシートに記載する価格を実際よりも高くして提出し,割戻金を支払って,商社の損失分を一部負担していたこと(原告は,割戻金の割合が少ないことを価格決定権が新日鐵にあった根拠として主張するが,事実上の営業活動をだれがしたかについて判断する場合においては,価格について割戻金による処理という方途が原告にあったということに意味があるのであって,その割合がどの程度かは問題ではない。)からすると,価格の決定権は,原告にあったというべきであって,原告の主張は,理由がない。
なお,新日鐵が,新日鐵と商社間の販売価格を原告に知らせることなく変更する等していたことが認められる(審19)が,これは,新日鐵と商社間で販売価格を変更したものであって,原告が建設業者との間で決めた販売価格を新日鐵の一存で変更したわけではないから,価格の決定権が原告にあったという上記判断を覆すものではない。
ⅳ 原告が先例違反であると主張する大型カラー映像装置談合事件も防衛庁航空機用タイヤ事件も,本来競合関係にある者が商流に関与した本件のような場合とは,事案を異にするので,本件審決に先例違反の瑕疵があるものとは認められない。また,被告の担当者の説明と異なるとの原告の主張も,被告の担当者は,メーカ間融通,OEM供給について説明したものであり,本件とは事案を異にするというべきである。
ⅴ 原告は,新日鐵は商社に準じた地位にはないと主張するが,上記認定の本件製品の受注から納品までの流れからすると,商社に準じた立場にあったと認められる。
また,原告と新日鐵の取引においては,原告と新日鐵の各担当者らは,小委員会や課長会が開催される前に両者の考え方をすり合わせていたこと,原告は,鋼管事業部の前年度の損益状況を,毎年新日鐵に報告していたこと,新日鐵との協議の結果,閉鎖された原告の工場があること,新日鐵は,原告に対し,販売計画及び受注実績の報告を求めていたこと,本件製品の取引においては,原告と建設業者の合意が成立する前に新日鐵の決裁が要求されていたこと,新日鐵が不定期に原告におけるコイルの在庫状況を帳簿と照らし合わせて確認することもあったことという事実が存在する。
しかし,原告と新日鐵は本件製品やS契約・Sマーク製品の取引を行っており,4社のうちの他の2社であるJFEスチール及び住友金属よりも利害関係が一致することが多かったことから,原告と新日鐵の担当者が4社の小委員会の前に事前のすり合わせを行ったものに過ぎない,また,原告の月次の販売状況や受注実績の確認も,「諸口」,「某物件」などという報告がされることもあり,正確な情報が与えられたものではなかった上,新日鐵の決裁も,実際は形式的なものであったことは,上記のとおりであるし,原告におけるコイルの在庫状況の確認も,新日鐵が原告にコイルを供給する必要上生じたものである。その余の事由も,コイルの供給メーカーとして原告を支援していたということ以上に,新日鐵が,原告に対して優位に立っていることを基礎づけるものではない。したがって,上記すり合わせ等の事由は,いずれも新日鐵が,本件製品の取引において,原告に対し,優位に立ち,原告が,新日鐵の指示のまま,形式的に営業活動等をしたということを裏付ける事情とはいうことはできない。
以上からすると,新日鐵は,本件製品の取引においては,商社に準じた地位にあると認めるのが相当である。
ウ 以上のとおりであるから,本件審決に,課徴金納付命令の名宛人を誤ったという原告が主張する瑕疵があるものとは,認められず,争点(2)に関する原告の主張は,理由がない。
3 争点(3)について
(1) 本件審判事件記録及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,平成21年6月2日,本件の審判手続において,新日鐵報告書等について,本件製品の取引において,新日鐵が「商社に準じた立場」ではなく,「取引の主体」であったことを証すべき事実として,文書等提出命令の申立てをした。
イ 同年9月1日の審判期日において,審判官からの求釈明に対し,被告の審査官は,新日鐵報告書においては,新日鐵が本件製品の売上げを自社の売上げに含め,計算していることを認めた。
ウ 原告は,同年10月15日付けの意見書を提出し,この意見書にて,新日鐵報告書の提出命令を発令する必要性として,新日鐵が,本件カルテル合意に基づき本件製品を販売し,いくらの不当利得が発生しているかを明確に立証するために,新日鐵報告書によって,新日鐵が販売した本件製品の価格を個別契約ごとに確認する必要があること,新日鐵報告書により本件製品の取引において,新日鐵がいかなる立場にあったかが明らかになることを主張した。
エ 審判官は,同年11月26日の審判期日において,新日鐵報告書は,本件審判手続の当事者ではない新日鐵の提出文書であるから,新日鐵の事業上の秘密が含まれている可能性があるから,この点を踏まえて,文書等提出命令の必要性を検討する必要があるとした上で,新日鐵の利得額は,原告への本件課徴金命令の是非及び金額に影響を与えるものではないこと,本件製品の取引において,新日鐵がどういう立場にあったかは,原告自身がよく知ることができるポジションにいたものと考えられるし,原告の「新日鐵が原告の与り知らぬところで取引活動を行っていた」という主張のためには,文書等提出命令によらなくても,原告自身において何らかの証拠収集が可能であるはずであり,文書等提出命令によって得られる情報によらなければならないという意味における必要性があるとはいえないと判断して,文書等提出命令を却下した。
(2) 文書等提出命令については,審判規則46条2項で「審判官は,前項の申立てを理由があると認めるときは,文書その他の物件の所持者に対し,その提出を命ずるものとする。」と定めるのみであるが,「審判手続においては,本来,被審人は,自らその主張を明らかにする資料を調査,収集して審判に提出すべきであって,審判官は求めがあればすべて提出を命じなければならないものではなく,被審人の防禦権を不当に制約することとならない限り,事件の内容,提出命令の目的,被審人の提出を求める文書の性質及び所有者,証すべき事実,審判の経過等諸般の状況に鑑み,その具体的必要性及び相当性を勘案して,申立ての採否を決することができるものというべきである」(平成元年(判)第1号平成2年5月28日審決集37巻83頁)から,文書等提出命令を命じるか否かに当たる必要性等の判断は,被審人の防禦権を不当に制約しない限り,審判官の合理的な裁量に委ねられているものである。
原告は,民事訴訟法の改正や同法220条4号等を根拠に,審判官が原告の文書等提出命令を却下したのは違法であると主張するが,独占禁止法上の文書等提出命令と民事訴訟法上のそれとは制度を異にするものであり,民事訴訟手続における審判手続に妥当するものとすることはできない上,原告が指摘するのは,文書提出義務に関する事柄であり,本件で問題になっている取調べの必要性とは,次元の異なるものというべきである。そのほか,審判手続における文書等提出命令の却下の理由が,補充性を要求したという主張も,必要性について説示したまでで,補充性を要求したものとは認められないから,理由がない。
(3) そこで,本件文書等提出命令の必要性等について検討するに,新日鐵報告書は,その性質上,第三者に閲覧させることを前提としないで作成されたものであり,その中には新日鐵の事業上の秘密が記載されていることが想定される。もし,このような秘密が文書等提出命令により競合他社である原告に知られるならば,新日鐵に大きな不利益が生じる可能性があるし,業務上の秘密が文書等提出命令により他社に知られるということになれば,今後の独占禁止法の審査に著しい弊害を及ぼすおそれがある。仮に,業務上の秘密にわたる事項についてマスキングしたとしても,他社にこれを知られるおそれがあるということで生じる審査手続に対する影響は防ぎきれるものではない。
したがって,審判官が,業務上の秘密を踏まえて,必要性を検討したことを違法ということはできない。
また,本件課徴金命令の当否は,利得額等新日鐵の取引が具体的に明らかになることにより判断が左右されるものではない。本件製品の取引においては,原告の担当者が,建設業者と決めた価格が本件製品の価格となっているはずであり,新日鐵の利得額を推測する根拠となる金額も原告において明らかになっているというべきである。さらに,本件製品の取引における新日鐵の立場は,新日鐵報告書により利得額等新日鐵の取引が具体的に明らかにされなくても,本件製品についての新日鐵と建設業者との交渉の有無,その内容等を明らかにすることにより立証できたものである。
そして,新日鐵報告書の文書等提出命令が認められないことにより,原告の防禦権がどのように不当に制約されたかも明らかではない。
以上からすると,新日鐵報告書の文書等提出命令は必要性を欠き,これを却下したことは違法とはいえず,本件において,独占禁止法81条1項1号の「公正取引委員会が,正当な理由がなくて,当該証拠を採用しなかった場合」に該当する事由があるものとは認められない。
4 本件訴訟で申し立てられた文書提出命令(当庁平成23年(行タ)第167号事件)について
(1) 原告は,本件訴訟において,文書提出命令を申し立てた。その申立ての趣旨及び理由は別紙4「文書提出命令申立書」記載のとおりである。
(2) 独占禁止法80条1項は,審決取消訴訟については,「公正取引委員会の認定した事実は,これを立証する実質的な証拠があるときには,裁判所を拘束する。」と規定し,いわゆる実質的証拠法則を採用している。
その結果,「裁判所は,審決の認定事実については,独白の立場で新たに認定をやり直すのではなく,審判で取り調べられた証拠から当該事実を認定することが合理的であるかどうかの点のみを審査する。」ことになる(最高裁判所昭和46年(行ツ)第82号同50年7月10日第1小法廷判決民集第29巻第6号888頁)。
そして,審決取消訴訟においては,公正取引委員会が認定した事実に関する証拠の申出は,①公正取引委員会が,正当な理由がなくて,当該証拠を採用しなかった場合又は②公正取引委員会の審判に際して当該証拠を提出できず,かつ,これを提出できなかったことについて重大な過失がなかった場合に該当することを理由とするものであることを要すると規定され(独禁法81条1項ただし書),証拠の提出が制限されている。また,裁判所は,上記証拠の申出に理由があり,当該証拠を取り調べる必要があると認めるときは,公正取引委員会に対し,当該事件を差し戻し,当該証拠を取り調べた上適当な措置をとるべきことを命じなければならないとされている(同法81条3項)。
(3) 原告は,本件訴訟において,本件は裁判所において審理される訴訟手続である以上,本来被告の所持する文書については,民事訴訟法220条4号の除外事由がなければ,文書提出命令の申立ては認められると主張する。
しかしながら,本件は,審決取消訴訟であり,いわゆる実質的証拠法則が適用されるので,文書提出命令といっても,被告が認定した事実に関する証拠の申出は,上記制限の適用を受けるものと解される。
そこで,以下,独占禁止法81条1項ただし書の要件の有無について,検討するに,上記3のとおり,原告は,審判手続において,文書提出命令の申立てをしているので,審判において当該証拠を提出できなかったときには当たらず,被告が,正当な理由がなくて,当該証拠を採用しなかったときという場合にも当たらない。
したがって,本件訴訟における文書提出命令の申立ては,例外的に新証拠の申出をすることを認める独占禁止法81条1項の要件を充たさないものであるから,却下すべきこととなる。
また,新日鐵報告書に本件製品の売上げを自社の売上げを含めて計上していることは争いがないこと,本件文書提出命令申立書の証明すべき事実及び原告が本件訴訟において新日鐵報告書の文書提出命令を申し立てる理由等によれば,文書提出命令に基づき新日鐵報告書が取り調べられたとしても,当初の相手方の認定が変更される可能性があることは認められず,独占禁止法81条3項の「当該証拠を取り調べる必要があると認められるとき」に当たるものと認められない。
以上のとおりであるから,本件訴訟における文書提出命令の申立ては,必要性を欠き,却下すべきものである。
5 結論
以上のとおりであるから,本件審決に独占禁止法82条1項の規定する審決の取消事由は認められず,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし(同法81条3項の差戻しの事由も認められない。),訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

平成24年2月24日

裁判長裁判官 岡久幸治
裁判官 三代川俊一郎
裁判官 生島弘康
裁判官 片山憲一
裁判官 梶智紀

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