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日立造船(株)による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成22年(行ケ)第32号

判決

大阪市住之江区南港北1丁目7番89号
原告 日立造船株式会社
代表者代表取締役 古川実
訴訟代理人弁護士 寺上泰照
同 岩下圭一
同 佐藤水暁
同 森一生
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
代表者委員長 竹島一彦
指定代理人 田中久美子
同 島崎伸夫
同 秋沢陽子
同 藤原昌子
同 坪田法
同 小髙真侑
同 横手哲二

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告が,原告に対する公正取引委員会平成19年(判)第6号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改上前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律に基づく課徴金納付命令審判事件について平成22年11月10日付けでした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 被告は,原告に対する公正取引委員会平成19年(判)第6号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について平成22年11月10日付けで審決をした(以下「本件審決」という。)。
本件は,原告が,(1)本件審決別紙審決案の別紙「課徴金算定対象物件一覧」記載の各工事(本件各工事)は,いずれも独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該役務」に該当しないから課徴金算定の対象とならない,(2)本件審決は,同法7条の2第6項の規定する除斥期間の経過後にされたものであるから違法であると主張して,本件審決の取消しを求めている事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実及び被告が本件審決で認定した事実で原告が実質的な証拠の欠缺を主張していない事実。以下,略称は,特記したもののほかは本件審決のものを用いる。)
(1) 被告は,原告がタクマ,日本鋼管,三菱重工業,川崎重工業の4社(4社)と共同して,地方公共団体(市町村,一部事務組合,広域連合等)が指名競争入札等の方法により発注するごみ焼却施設の新設,更新及び増設工事(ストーカ炉の建設工事)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにすることにより,公共の利益に反して,上記工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであるとして,原告及び4社に対し,平成18年6月27日,審判審決(本案審決)において排除措置(本件排除措置)を命じ,原告は東京高等裁判所に本案審決の取消しを求める訴えを提起したが同裁判所は,平成20年9月26日,原告の請求を棄却する旨の判決をし原告はこれを不服として最高裁判所に上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成21年10月6日,上告棄却及び上告不受理の決定をし,本件排除措置は確定した。
(2) 被告は,本案審決を前提として,平成19年3月23日,原告に対し,地方公共団体が発注したストーカ炉の建設工事であって,原告がその入札に参加し受注した本件各工事を課徴金算定対象工事として課徴金納付命令(本件課徴金納付命令)を発したところ,原告が審判開始手続の申立てをしたので,同年5月21日,本件課徴金納付命令に係る審判開始決定を行い,平成22年11月10日,本件審決をした。
(3) 本件審決の主文は,「被審人(原告)は,課徴金として金49億102万円を平成23年1月11目までに国庫に納付しなければならない。」とのものである。
(4) 本件審決において,争いがない事実及び本案審決の認定した事実とされた事実は,概要,以下のとおりである,
ア 原告は,ごみ焼却施設の建設等を行う者であり,同様にごみ焼却施設の建設等を行う4社と原告を併せた5社はプラントメーカーといわれているが,平成6年度から平成10年度までの間におけるストーカ炉(ごみをストーカー上で乾燥して焔燃焼させ,次に,おき燃焼させて灰にする装置を採用する焼却施設)の建設工事のプラントメーカーとしては,5社のほかに,荏原製作所,クボタ,住友重機械工業,石川島播磨重工業,ユニチカ等(アウトサイダー)が存在した。
5社は,ストーカ炉の建設工事の施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さからストーカ炉の建設工事についてプラントメーカーの中にあって「大手5社」と称されており,平成6年度から平成10年度までの間に,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の総発注件数87件のうち5社のいずれかの者が受注した工事は66件である。
イ 5社は,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,以下の合意(本件合意)をしていた。
(ア) 地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,各社が受注希望の表明を行い
a 受注希望者が1名の工事については,その者を当該工事の受注予定者とする
b 受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する
(イ) 5社の間で受注予定者を決定した工事について,5社以外の者が指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注することができるように5社以外の者に協力を求める
(ウ) 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注することができるように協力する
そして,5社は,本件合意の下に,次の方法で受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにしていた(本件違反行為)。
ウ 本件違反行為の実施方法は,以下のとおりである。
(ア) 5社は,平成6年4月以降,随時,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合で,地方公共団体が建設を計画しているストーカ炉の建設工事について各社が把握している情報を,その1日当たりの処理能力の規模別等に区分してリストを作成した上で,その情報を交換し,その情報を共通化するようにする。5社は,この情報交換により得られた情報を基に,受注希望表明の対象となる工事を「確定」する。
(イ) 5社は,随時,5社の営業責任者の会合で,処理能力の規模別(大型,中型,小型等)により3種に区分された工事ごとに,各社が受注を希望する工事を表明する。各社が受注希望を表明した工事について,希望者が重複しなかった工事はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。
(ウ) 受注予定者は各社の受注の均等を念頭において決定する。この受注の均衡は,各社が受注する工事のトン数を目安とする。
(エ) アウトサイダーが入札に参加した場合,受注予定者等は,自社が受注することができるように協力を求め,その協力を得るようにする。
(オ) 受注予定者は,自社の受注価格を定め,他社が入札する価格をも定め各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注することができるよう協力する。
エ 5社は,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間において,地方公共団体の発注するストーカ炉の建設工事の過半について,受注予定者を決定し,これを発注することにより,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
オ 5社は,平成10年9月17日に被告が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,同日以降,5社の会合を開催しておらず,本件合意に基づき受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにする行為を行っていない。
(5) 本件審決は,上記事実関係を前提として,次のとおり判断した。
ア 独占禁止法7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限をした場合には,公正取引委員会は,事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動が行われた期間における当該商品又は役務の売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。
同項にいう「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合にあっては,基本合意の成立が認められ,この基本合意によって対象となる商品又は役務が特定されたとしても,各商品又は役務について個別の入札が実施されるため,基本合意の成立によって発生した競争制限効果が当然に各商品又は役務に及ぶことにはならない。このような場合の「当該商品又は役務」とは,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解するべきである。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象工事には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該個別の入札に係る工事は,「当該商品又は役務」に該当するものと認められる。
イ 争いのない事実及び証拠によると,①5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さから,プラントメーカーの中にあって大手5社と称されていること,②本件違反行為が実施された期間において地方公共団体が発注したストーカ炉の建設工事は87件(発注金額は1兆1031億円)であるところ,すべての入札について5社のうち大半のものが指名されて参加しており,このうち5社全社が入札に参加した工事は67件にも上ること,③5社は,随時,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合を開催し,当該会合で地方公共団体が計画するストーカ炉の建設工事の情報を共通化した上で,各社が受注する工事のトン数を目安に各社が均衡して受注することができるように発注トン数の規模別に受注予定者を決定していたこと,④5社の営業担当社員の中には,5社の受注状況を指数化して把握していた者もいたこと及び⑤5社は,アウトサイダーが入札に参加した場合には,当該アウトサイダーに協力を求めるようにしていたことが認められるほか,本件合意に参加し,本件合意の詳細を最もよく知り得る立場にある被審人(原告)において,本件合意の詳細(とりわけ,合意の対象工事が「地方公共団体発注のストーカ炉の建設工事」であること以外に何らかの限定があったのか否かについて)を明らかにしないことをも総合考慮すると,本件合意は,地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認するほかない。
そうすると,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事で,かつ,5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事(本件各工事は,いずれもこれに該当する。)については,何らかの特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効果が個別の工事に及んでいたものと推認するのが相当である。
この推認を覆すに足りる特段の事情があるというためには,この当時本件合意が存在していたにもかかわらず,何らかの事情があって個別の工事において受注予定者が決定されなかったこと,受注予定者が決定されたがこれが覆されたことなど,当該工事の入札実施前に本件合意の対象から除外されたこと(本件特段の事情)をうかがわせるに足るだけの反証をする必要がある。
なお,この種の事件において,しばしば被審人の側から,個別の工事の入札参加者の中にアウトサイダーが存在したことを指摘し,「アウトサイダーとの間で価格競争があったから,当該入札に関しては基本合意の競争制限効果が及んでいない。」との趣旨の主張がされることがある。しかし,入札制度は,本来,全ての入札参加者が当該入札の条件に従って公正な競争を行うことを予定するものであり,入札参加者間における競争回避を内容とする合意の介入は一切許されていないのであるから,入札参加者全員の間で行われるべき競争が行われないこととなって,独立して意思決定行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認められるべきものである。
そうすると,入札参加者にアウトサイダーが存在した場合においても,一部とはいえ同じく入札参加者である5社の間で本件合意が実施され受注予定者が決定されているのであれば,本件の具体的事情の下では競争制限効果は発生しているのであって,実際の入札において,上記受注予定者とアウトサイダーが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効果を消滅せるような影響はないと解するべきである。
そうすると,上記のようなアウトサイダーとの間で価格競争があったとの主張は,本件特段の事情の主張としては,主張自体失当である。
ウ 本件各工事については,本件合意に基づき原告が5社間で受注予定者として決定され,受注したものであって,本件合意による競争制限効果が及んでいると推認されるところ,この推認を揺るがす本件特段の事情をうかがわせるに足りる事実の主張立証はないから,本件各工事は課徴金算定の対象となる。
なお,本件各工事に関しては,上記一般原則論に加えて,個別に上記推認を強める事情が存在する。
(ア) 「尼崎市」工事
「尼崎市」工事は,「第2機械炉第2期整備工事」として,尼崎市が指名競争入札の方法により発注した処理トン数150トンの24時間連続稼働する全連続燃焼式(全連)ストーカ炉の増設工事であり,平成8年8月19日に入札が行われ,原告を構成員とする日立・三井・山本共同企業体が103億円で落札(落札率96.28パーセント)している(査1,2,20),
川崎重工業のリスト(査3)の,原告の略称を示す「H」とストーカ炉の略称を示す「S」によって表される「H-S」欄に「尼崎市」「150」(「150」は,上記の処理トン数と一致する。)との記載があること及び落札率が96.28パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
(イ) 「福岡市(臨海工場)」工事
「福岡市(臨海工場)」工事は,「福岡市臨海工場プラント建設工事」として,福岡市が指名競争入札の方法により発注した処理トン数900トンの全連ストー力炉の新設工事であり,平成8年8月21日に入札が行われ,原告が289億6000万円で落札(落札率99.97パーセント)している(査1,2,36)。
川崎重工業のリストの「H-S」欄に「福岡市」「900」(「900」は,上記の処理トン数と一致する。)との記載があること及び落札率が99.97パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
(ウ) 「東京都(中央地区清掃工場)」工事
「東京都(中央地区清掃工場)」工事は,「東京都中央地区清掃工場建設工事」として,東京都が一般競争入札の方法により発注した処理トン数600トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成10年1月26日に入札が行われ,原告を構成員とする日立造船・前田・日本国土建設共同企業体が280億円で落札(落札率94.68パーセント)している(査1,2,38)。
川崎重工業のリスト,日本鋼管のメモ(査12),日立造船のリスト(査13)及び査5ないし11によれば,平成7年9月28日ころの時点で上記工事についてはタクマが受注予定者とされていたところ,上記工事の近くに工場を有する石川島播磨重工業が上記工事の受注を強く希望し,調整のための話合いが行われたこと,その結果,石川,島播磨重工業は,日本鋼管,原告及びタクマの3社がそれぞれ受注予定者となっていた各工事のうち,原告が受注予定であった「東京都(足立工場)」工事の受注予定者となる代わりに上記工事の受注希望を取り下げることとなり,5社に石川島播磨重工業,荏原製作所,クボタ及び住友重機械工業のアウトサイダーを加えた9社の了解を得たことが認められ,これらによれば,上記工事については,原告が本件合意に基づき受注予定者となったことが認められる。
(エ) 「西村山広域行政事務組合」工事
「西村山広域行政事務組合」工事は,「西村山広域行政事務組合寒河江地区クリーンセンターごみ焼却処理施設建設工事」として,西村山広域行政事務組合が指名競争入札の方法により発注した処理トン数100トンの全連ストーカ炉の更新工事であり,平成10年5月25日に入札が行われ,原告が59億8000万円で落札(落札率98.88パーセント)している(査1,2)。
日本鋼管のメモに「西村山(山形)」と,○で囲まれたHが手書きで記載されていること,日立造船のリストの「山形県西村山(組)」の欄と「焼却」の欄の交差する箇所に「100」(「100」は上記の処理トン数と一致する。)に加えて手書きで原告の略称を示す「H」が記載されていること,川崎重工業のメモ(査14)において,「60-200T未満」の小型工事リストの「西村山」工事の該当欄の左端に,手書きで「H1」と記載されていること及び落札率が98.88パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
エ 以上によれば,本件各工事について,受注予定者が決定されることにより本件合意による競争制限効果が及んだことが認められ,本件各工事はいずれも独占禁止法7条の2第1項所定の「当該役務」に該当する。
オ 本件各工事の売上額は,いずれも課徴金算定の対象となるところ,本件実行期間における本件各工事に係る原告の売上額を独占禁止法施行令(改正法附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令)6条の規定に基づき算定すると,本件各工事の契約により定められた対価の額を合計した816億8380万円となる。上記売上額を前提にして独占禁止法7条の2第1項の規定により課徴金を算定すると,原告が国庫に納付すべき課徴金の額は,前記816億8380万円に100分の6を乗じて得られる額から1万円未満の端数を切り捨てて算出される49億102万円となる。
3 争点
(1) 本件各工事の「当該役務」該当性
(2) 除斥期間の経過の有無
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件各工事の「当該役務」該当性)について
ア 原告の主張
(ア) 最高裁判所においても是認された確定判決である東京高等裁判所平成16年2月20日第3特別部判決(公正取引委員会審決集第50巻708頁以下)は,独占禁止法7条の2第1項における「『当該商品又は役務』とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指し,本件のような受注調整にあっては,当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定され,受注するなど,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきである。そして,課徴金には当該事業者の不当な取引制限を防止するための制裁的要素があることを考慮すると,当該事業者が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果競争制限効果が発生したことを要するというべきである。」と判示しており,すべての課徴金事件に共通する課徴金の金銭的不利益という制裁的要素を考慮して,当該事業者が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果として競争制限効果が発生したことを「当該役務」該当性の要件としているのであり,具体的に不利益な制裁を課す上でのバランスを考慮して一種の絞りをかけた判断を示している。
したがって,上記判決は,受注予定者が決定された際の具体的な経緯の立証を問題としているのであり,およそ基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが何らかの方法で認められれば足りるとする本件審決の判示は,すべての課徴金事件に共通する要素を考慮して必要な要件を課した確定判決である司法の判断を無視するものであり,判例違反である。
(イ) また,本件審決は,「個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象工事には,自由な競争を行わないという基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該個別の入札に係る工事は, 『当該商品又は役務』に該当するものと認められる」と判示しているが,結局のところは,基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが何らかの方法で推察されれば足りるというレベルにまで要件を緩和して判断を下しており,かかる推認と称するもの自体,到底合理的な証拠に基づく推認とはいえず,所詮憶測の域を超えるものではない。
このような推認が許されるとしたら,結局,入札談合案件の課徴金審判において,対象となるすべての個別物件について落札者が直接又は間接に受注調整に関与したと推定される結果となり,結果的に被審人側は,対象物件すべてについて受注調整への不関与という不存在事実の証明(悪魔の証明)を強いられることになる。
これでは,課徴金審判において,審査官が個別物件に関する具体的な受注調整事実を主張立証した場合にのみ被審人側はそれを取っ掛かりにして反証の可能性を有するにすぎないことになり,そうでない場合には反証が不可能であり本案審判ですべてが決まってしまい,独自に課徴金審判制度を置きそこで係争させること自体が無意味なものとなってしまう。
(ウ) 本件審決は,本件各工事で受注予定者が決定されたと推認されるとするが,本件審決が挙げる事実はいずれも推認の根拠にならない。
a 本件審決は,①5社の施工実績の多さ等や②5社の入札参加実績などという事実を指摘するが,これらは,あくまでも事後の結果にすぎない事実であり,社会通念上,5社の競争力の強さを推認する間接事実にはなり得ても,本件合意が地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認する間接事実にはなり得ない。
b 本件審決は,③各社が受注する工事のトン数を目安に各社が均衡して受注することができるようにしていたことを指摘するが,受注の均衡は,本案審決においても本件審判においても証拠上一切証明されていない以上,すべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象としていたとの上記推認の根拠となる間接事実にはなり得ない。
c 本件審決は,④5社の受注状況を指数化して把握していた者もいたことを指摘するが,本案審決別紙審決案(142頁等)でも「この指数は,各工事について,どのような時点で加算等がされることになっていたのかが明らかでなく,具体的な受注希望表明に際して,どのような方法でどの程度考慮されていたのかも明らかではない」,「この5社の指数の算定方法では,各社の指数がどのような数値であり,受注希望表明にどのように反映されたのか否かをうかがうことはできない」などと認定されている。
したがって,すべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象としていたとの推認の根拠として上記④の事実を挙げることは誤りである。
d 本件審決は,⑤アウトサイダーに協力を求めるようにしていたということを指摘するが,2件の工事で間接的な証拠が存在するにすぎず,それ自体,すべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったことに直ちに結び付くものではなく,同推認の根拠となる間接事実にはなり得ない。
(エ) 本件審判手続は,平成22年3月19日の第14回審判期日をもって終結したが,その直前の第13回審判期日は平成21年11月19日であり,そこでは審査官の最終意見が陳述されていて,それ以前の第12回審判期日は平成21年7月15日であった。他方で被審人5社は,本案審決が認定した違反行為の存在を争い,審決取消訴訟を提起し係争し,最終的に最高裁判所が5社の上告を棄却し,上告審として受理しない旨の決定を行ったのは平成21年10月6日である。このように同時並行的に進行していた訴訟手続と本件審判手続の経過に鑑みれば,本件審決において「被審人において,いまだに本件合意の詳細(とりわけ,合意の対象工事が何らかの限定があったのか否かについて)を明らかにしないことをも総合考慮すると,…推認するほかはない」などという認定がされることなど,原告において,およそ想定できるはずなどなく,原告に不可能を強いる以外の何物でもない。原告は,正当な権利の行使として,本件合意の有無を争っていたにもかかわらず,本件合意の存在を当然の前提として上記の如き不可能を原告に強いることは,原告の適正手続に関する権利を踏みにじるものである。
また,「この推認を覆すに足りる特段の事情があるという」反証を被審人側がする必要があるとの認定は,本案審決の事実認定や本件審判の証拠状況を無視して主張立証責任を被審人側に転換する憲法違反の認定である。なぜならば,本案審判においても本件審判手続においても,審査官は個別入札の受注調整の経過を具体的に主張立証できていないのであり,そのような具体的主張の取っ掛かりなくして被審人側からの一方的な特段の事情の反証を要求することは,被審人に受注調整の不存在等の「悪魔の証明」を強いることにほかならないからである。
上記の本案審判の審判過程に鑑みれば,それを無視した本件審決の上記認定は不意打ちであり,原告の防御権を無視した法の適正手続(憲法31条)違反の審決である。
(オ) 本件審決は,「入札参加者にアウトサイダーが存在した場合においても,5社の間で本件合意が実施され受注予定者が決定されているのであれば,競争制限効果は発生しているのであって,実際の入札において,上記受注予定者とアウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効果を消滅させるような影響はないと解するべきである。そうすると,上記のようなアウトサイダーとの間で価格競争があったとの主張は,本件特段の主張としては,主張自体失当である」と判示し,受注予定者がアウトサイダーの協力を得られずにアウトサイダーとの間で価格競争を行っても「本件特段の事情」にはならないとするが,他方で,「しかしながら,入札参加者の一部の者の間であっても本件合意が実施され受注予定者が決定されているのであれば,競争制限効果は発生するところ,本件合意が存在したにもかかわらず,具体的な入札においてアウトサイダーの協力が得られずに自由競争となったことについては,本件特段の事情として,被審人においてこれをうかがわせるに足りるだけの反証をする必要がある」とも判示し,アウトサイダーの協力を得られずに自由競争になったことは「本件特段の事情になる」としている。実際の入札では複数の,時には4社以上のアウトサイダーが入札に参加していたのであるから,両者の区別は極めて曖昧であり,実質的には同一審決中の判断における齟齬であって自己矛盾である。
(カ) 我が国の判例・通説は,独占禁止法2条6項の「競争の実質的制限」について,競争が減少して特定の当事者がその意思である程度自由に,価格その他各般の条件を左右することによって「市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」と解釈してきたのであり,本件のような受注調整事件における多数の個々の入札が集積した市場においては,個々の入札にそのような支配力を及ぼすことができる基本合意を違反行為として捉えて排除措置の対象としてきた。ところが,本件審決は,個々の入札における参加者の一部で競争回避を内容とする合意をしていれば「競争制限効果が認められるべき」とするものであって,合意当事者の「市場支配力」という重要な要件を無視し,「市場支配力」の認定なくして「競争の実質的制限」を認める判断をしている。
このような判断は,我が国の独占禁止法が不当な取引制限(2条6項)の成立要件として規定する「競争の実質的制限」と不公正な取引方法(2条9項)の成立要件として規定する競争制限には至らない「競争の減殺」で足りる「公正競争阻害性」という二つの重要な違反行為の成立要件を曖昧にするものであり,判例違反である。
イ 被告の主張
(ア) 独占禁止法7条の2第1項の「当該商品又は役務」は,原則として,不当な取引制限の対象となった商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の「当該商品又は役務」とは,基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきである。そして,個別の入札において基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象工事には,自由な競争を行わないという基本合意によって発生した競争制限効果が及んでいるものと認められるから,当該入札に係る工事は,「当該商品又は役務」に該当するものと認められる。
また,「当該役務」該当性の判断において,「個別の工事において受注調整が実施され,その結果受注予定者が決定されたこと」を立証する方法は種々存在するのであって,個別の工事ごとに受注予定者が決定された際の具体的な経緯までを証拠をもって明らかにしなければ「当該役務」に該当すると認定することができないと解するべき理由はなく,不当な取引制限に該当する意思の連絡により相互拘束(本件においては本件合意)の存在が認められる場合に,この事実と他の証拠とを総合して,個別の工事において受注予定者が決定されたことを推認することは,事実認定の手法として,当然に許容される。
原告は,入札談合案件の課徴金審判事件において,結果的に被審人側は,対象となるすべての個別案件について,受注調整への不関与という不存在事実の証明(悪魔の証明)を強いられることになると主張するが,本件審決は,単に抽象的な「基本合意」さえ認められれば,どのような場合でもその事実から個別の入札における受注調整の事実を推認することができるとしているわけではなく,あくまでも,本件で認定することができた本件合意の内容及びその周辺事情を総合考慮した上で,本件特段の事情のない限りは,個別の入札における受注調整の事実が推認されるとしているものである。
そして,自社が入札に参加して受注した工事について,本件合意の対象か否か又は本件合意の対象から除外されたか否かを最もよく把握しているのは原告自身であるから,原告は,審査官が個別物件に関する具体的な受注調整事実を主張立証したか否かにかかわらず,十分に反証することが可能であって,原告に本件特段の事情をうかがわせるに足りるだけの反証を行わせることが不可能を強いるものとはいえない。
(イ) 本件審決は,①5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さから,ブラントメーカーの中にあって大手5社と称されていること,②本件違反行為が実施された期間において地方公共団体が発注したストーカ炉建設工事は87件(発注金額は1兆1031億円)であるところ,すべての入札について5社のうち大半のものが指名されて参加しており,このうちの5社全社が入札に参加した工事は67件にも上ること,③5社は,随時,5社の営業責任者クラスの者が集まる会合を開催し,当該会合で地方公共団体が計画するストーカ炉の建設工事の情報を共通化した上で,各社が受注する工事のトン数を目安に各社が均衡して受注することができるように発注トン数の規模別に受注予定者を決定していたこと,④5社の営業担当者の中には,5社の受注状況を指数化して把握していた者もいたこと,⑤5社は,アウトサイダーが入札に参加した場合には,当該アウトサイダーに協力を求めるようにしていたこと,⑥本件合意に参加し,本件合意の詳細を最もよく知り得る立場にある原告において,本件合意及び本件違反行為の存在を否定し,本件合意の詳細(とりわけ,合意の対象工事が「地方公共団体発注のストーカ炉の建設工事」であること以外に何らかの限定があったのか否かについて)を明らかにしないことから,本件合意によって発生した自由な競争をしないという競争制限効果が個別の工事に及んでいると推認するのが相当であると判断したが,上記①ないし⑥の各事由からすれば,本件合意は地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認することができるというべきである。すなわち,上記①及び②の各事由からすれば,5社は,本件市場において有力な地位にあり,本件市場全体において本件合意に基づく受注調整を行い得る立場にあるから,共同することにより,すべてのストーカ炉の建設工事において受注調整をなし得る地位にあるということができる。同③及び④の各事由からすれば,5社は,営業責任者クラスの者が随時会合を開催して,地方公共団体が計画するストーカ炉の建設工事の情報を共通化し,トン数というすべての工事に共通する指標を目安に受注予定者を決定していた上に,中には受注状況を指数化していた者もいたというのであるから,すべてのストーカ炉の建設工事が本件合意の対象となっていたことがうかがわれる。同⑤の事由からすれば,5社は,アウトサイダーの参加の有無にかかわらず,すべてのストーカ炉の建設工事において受注調整の対象とするものであったということができる。同⑥の事由からすれば,仮に,本件合意の対象工事に何らかの限定が付されていたのであれば,原告はこれを主張することにより課徴金の賦課を免れ得るところ,そうであるにもかかわらず原告はそれをしないのであるから,本件合意には対象工事に制限が付されていなかったことがうかがわれる。
そして,本件合意が地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったことからすれば,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事で,5社のいずれかが入札に参加し受注した工事については,特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定されたと認められ,本件合意によって発生した競争制限効果は個別の工事に及んでいたということができる。
(ウ) 原告は,同時並行的に進行していた訴訟手続と本件審判手続の経過に鑑みれば,被審人においていまだに本件合意の詳細(とりわけ,合意の対象工事が何らかの限定があったのか否かについて)を明らかにしないことをも総合考慮すると,本件合意が地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであると推認するほかはないなどという認定がされることなど,原告において,およそ想定できるはずなどなく,原告に不可能を強いる以外の何物でもないと主張するが,仮に,原告が本件合意や違反行為の存在を争っていたとしても,本件各工事において自由競争が行われたことを主張立証することは可能であるから,本件審決の論理構成に矛盾があるということはできない。
(エ) 原告は,本件審決が,受注予定者がアウトサイダーの協力を得られずにアウトサイダーとの間で価格競争を行っても本件特段の事情にはならないが,アウトサイダーの協力を得られずに自由競争になったことは本件特段の事情になるというのは自己矛盾であると主張するが,本件審決は,入札参加者である5社の間で本件合意が実施され受注予定者が決定されているのであれば,実際の入札において上記受注予定者とアウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効果を消滅させるような影響はないが,本件合意が実施され受注予定者が決定されたにもかかわらず,実際の入札においてアウトサイダーの協力が得られずに,5社による受注予定者の決定が覆され自由競争になった場合には,本件特段の事情が認められるとしているのであって,何ら矛盾はない。
(オ) 原告は,本件審決が,入札参加者全員の間で行われるべき競争が行われないこととなって,独立して意思決定を行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認められるべきものであると判断していることについて,合意当事者の市場支配力という重要な要件を全く無視し,市場支配力の認定なくして競争の実質的制限を認める判断をしていると主張するが,本件審決は競争の実質的制限の有無について判断したものではない。
そして,入札制度は,本来,すべての入札参加者が当該入札の条件に従って公正な競争を行うことを予定するものであり,入札参加者間における競争回避を内容とする合意の介入は一切許されていないのであるから,入札参加者全員の間で行われるべき競争が行われないこととなって独立して意思決定を行う競争者が減少するということ自体に競争制限効果が認められるべきものである。そうすると,入札参加者にアウトサイダーが存在した場合においても,一部とはいえ同じく入札参加者である5社の間で本件合意が実施され受注予定者が決定されているのであれば本件の具体的事情の下では競争制限効果は発生しているのであって,実際の入札において,上記受注予定者とアウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効果を消滅させるような影響はないと解するべきである。
(2) 争点(2)(除斥期間の経過の有無)について
ア 原告の主張
独占禁止法においては,「審判手続」は,被告が「審決」という特別の形式をもってする行政処分の事前手続(行政手続)であって,被告の意思表示である行政処分たる「審決」を含むものではない。
したがって,独占禁止法7条の2第6項が定める「審判手続が終了した日」とは,「審理を終結した日」と解するのが正当である。
このことは,独占禁止法に対応する公正嫁引委員会の審査及び審判に関する規則82条が「審判官は,審判手続を終結した後,遅滞なく審決案を作成し,これを事件記録とともに委員会に提出し,かつ,審決案の謄本を審査官及び被審人又はその代理人に送達するものとする。」と規定していることからも,裏付けられる。
本件では平成17年7月27日に審理を終結しているから,被告が平成19年3月23日に課徴金納付命令を発したのは違法である。
イ 被告の主張
独占禁止法48条の2第1項ただし書は,課徴金の納付について,「当該違反行為について審判手続が開始された場合には,審判手続が終了した後でなければ命ずることができない」と定め,他方,同法7条の2第6項は,「当該審判手続が終了した日から一年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずることはできないと定めている。同法がこのような除斥期間の規定を設けた趣旨は,適正迅速な行政事務の遂行を確保するともに,排除措置命令に不服のある被審人の利益にも配慮し,当該排除措置命令についての審判が開始された場合には,同命令に係る違反事実の存否についての被告の判断が示されるまでは,課徴金の納付を命ずることができないこととし,その一方で,いったん被告の判断が示されたときには,速やかに課徴金の納付を命ずることとして,これを被告に義務付け,これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにある。
そうすると,上記被告の判断は審決の形式をもって示されるのであるから,独占禁止法48条の2第1項ただし書及び7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは,被告の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当である。
独占禁止法には,「審判手続」に審決が含まれることを前提とした規定もあるのであり(同法51条の2),法文上,「審判手続」に審決が含まれないことが明らかというわけでもない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各工事の「当該役務」該当性)について
(1) 独占禁止法7条の2第1項は,事業者が不当な取引制限で商品又は役務の対価に係るものをしたときは,公正取引委員会は,所定の手続に従い,当該事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動が行われた期間における当該役務の政令で定める方法により算定した売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。そして,同項にいう「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合には,自由な競争を行わないという不当な取引制限に該当する意思の連絡による相互拘束たる基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において,当該事業者が基本合意に基づいて受注予定者として決定されて受注するなど,基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきである。
そして,5社の概要とその実績,本件合意の内容,本件違反行為の実施方法などの上記前提事実に照らせば,本件合意は,地方公共団体が発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったと推認されるというべきであるから,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事であり,かつ,5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事については,特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した自由な競争を行わないという競争制限効果が個別の工事の入札に及んでいたものと推認するのが相当である。
(2) 以下,原告の主張について検討する。
ア 原告は,個別の入札について受注予定者が決定された際の具体的経緯まで立証がされなければ「当該役務」該当性の判断ができない旨主張するが,基本合意(本件合意)の存在を前提とし,当該基本合意に基づき受注予定者が決定された事実が認められる場合には,それが推認によるときであっても,基本合意の参加者が直接又は間接に受注調整に関与したことの推認が働くことはいうまでもないから,個別の入札ごとに受注予定者が決定された際の具体的な経緯までを証拠によって明らかにしなければ,基本合意の参加者が受注調整に関与したことが認定できず,ひいて「当該役務」に該当すると認定できないと解すべき理由はない。
イ 原告は,このような推認が許されるとしたら,結局,入札談合案件の課徴金審判において,対象となるすべての個別物件について落札者が直接又は間接に受注調整に関与したと推定される結果となり,被審人側は,対象物件すべてについて受注調整への不関与という不存在事実の証明(悪魔の証明)を強いられることになると主張する。
しかし,自社が入札に参加して受注した工事について,それが本件合意の対象となるものであったか否か,また,本件合意の対象から除外されたか否かについて,その事実関係を最もよく把握しているのは原告であるから,原告は,当該入札については本件合意の対象から除外されたという事実等を具体的に主張立証して十分に反証をすることが可能であって,それは不存在事実の証明を強いるものではないというべきである。
ウ 原告は,本件審決が挙げる事実はいずれも本件合意が地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするとの推認の根拠にはならず,本件各工事で受注予定者が決定されたと推認することはできない旨主張する。
しかし,本件審決が挙げる事実によれば,5社は,本件市場において有力な地位にあり,本件市場全体において本件合意に基づく受注調整を行い得る立場にあることからすれば,共同することにより,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設工事において受注調整をなし得る立場にあるということができること,5社は,営業責任者クラスの者が随時会合を主催して,地方公共団体が計画するストーカ炉の建設工事の情報を共通化し,トン数というすべての工事に共通する指標を目安に受注予定者を決定していた上,中には受注状況を指数化していた者もいたというのであるから,地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設工事が本件合意の対象となっていたことがうかがわれるということができること,仮に,本件合意の対象工事に何らかの限定が付されていたのであれば,原告はこれを主張立証することにより課徴金の賦課を免れ得るところ,そうであるにもかかわらず原告はそれをしないのであるから,本件合意には対象工事に制限が付されていなかったことがうかがわれるのであって,これらの事実関係を総合すれば,本件合意が地方公共団体の発注するすべてのストーカ炉の建設工事を受注調整の対象とするものであったことを推認することができるのである。したがって,本件審決の挙げる事実をもって,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事で,5社のうちいずれかが入札に参加し受注した工事については,特段の事情がない限り,本件合意に基づいて5社間で受注予定者が決定され,本件合意によって発生した競争制限効果が個別の入札(工事)に及んでいたと推認することには合理性がある。
なお,原告は,「受注の均衡」は,本案審決においても本件審判においても証明されていない旨主張するが,本案審決は,審判手続を経た上で,原告の主張立証を踏まえて「受注予定者は各社の受注の均等を念頭において決定する。この受注の均衡は,各社が受注する工事のトン数を目安とする。」として,本件違反行為の存在(実施方法)を認定しているのであり(本件審決別添本案審決別紙審決案179頁),本案審決が既に確定していることに徴すれば,原告が本案審決を前提とする本件課徴金納付命令に係る審判手続において本件違反行為が不存在であるとの主張をすることはできないと解するのが相当である。したがって,本件審決が前提とする上記「第2 事案の概要」の「2 前提事実」の(4)ウに記載の本件違反行為の存在(実施方法)の事実に関する原告の主張は失当である。
エ 原告は,同時並行的に進行していた訴訟手続(本案審決取消訴訟)において原告は本件合意や違反行為の存在を争っていたのであるから,本件合意の詳細を明らかにしないことを理由に本件各工事について競争制限効果が及んでいたと本件審決で認定するのは,原告に不可能を強いるものである旨主張するが,原告が最もその間の事情に通じていたことはいうまでもないところである。そして,原告が本件合意の存在や違反行為の存在を争っていた場合に,本件各工事に係る入札において個別的に自由競争が行われたことの立証ができない理由はない。
したがって,原告のこの点に関する主張は失当である。
オ 原告は,本件審決が,受注予定者がアウトサイダーの協力を得られずにアウトサイダーとの間で価格竸争を行っても本件特段の事情にはならないとする一方で,アウトサイダーの協力を得られずに自由競争になったことは本件特段の事情になるというのは自己矛盾であると主張するが,入札参加者である5社の間で本件合意が実施され受注予定者が決定されている場合には,公正な競争に参加する者が少なくなっているのであるから,実際の入札において上記受注予定者とアウトサイダーとが価格競争を行ったとしても,既に発生した競争制限効果を消滅させるような影響はないといわなければならない。他方,本件合意が実施され受注予定者が決定されたにもかかわらず,実際の入札においてアウトサイダーの協力が得られずに,5社による受注予定者の決定が覆され自由競争になった場合(すなわち,本件合意の対象から除外された場合)には,本来の競争参加者がすべて価格競争に参加することになるのであるから,この場合には本件合意に基づく競争制限効果は当該入札(工事)には及ばないことになる。
したがって,両者を区別し,後者のような場合に本件特段の事情が認められるとすることに矛盾はなく,原告のこの点に関する主張は失当である。
力 原告は,独占禁止法2条6項の「競争の実質的制限」について,合意当事者の「市場支配力」を認定すべきである旨主張するが,本件は入札談合の事案であり,入札制度は,本来,すべての入札参加者が当該入札の条件に従って公正な競争を行うことを予定するものであるから,入札参加者にアウトサイダーが存在した場合であっても,本件合意の参加者において受注予定者が決定しているのであれば,本件合意による競争制限効果が発生しているのであり,その点で不当な取引制限があると解するのが相当である。
したがって,原告のこの点に関する主張は失当である。
(3) 本件各工事について
本件各工事については,上記のとおり,本件合意に基づき原告が5社間で受注予定者として決定され,受注したものであって,本件合意による競争制限効果が及んでいると推認されるところ,本件特段の事情の存在は認められないから,本件各工事は独占禁止法7条の2第1項所定の「当該役務」に該当し,その売上額は課徴金算定の対象となる。
なお,本件各工事のうち,「尼崎市」工事,「南河内清掃施設組合(第2清掃工場)」工事,「東京都(中央地区清掃工場)」工事,「西村山広域行政事務組合」工事にはアウトサイダーが含まれているが(査2),アウトサイダーが入札に参加したという事実だけでは5社間で受注予定者を決定することの障害になるとはいえないことは前記のとおりである。また,「尼崎市」工事,「日立市」工事,「東京都(中央地区清掃工場)」工事は,共同企業体方式で受注しているが(査2),共同企業体方式で入札に参加したからといって受注調整ができないとみるべき事情は見あたらないから,共同企業体方式で受注した事実だけでは5社間で受注予定者を決定することの障害になるとはいえない。
そして,本件審決は,本件各工事のうち,「尼崎市」工事,「福岡市(臨海工場)」工事,「東京都(中央地区清掃工場)」工事,「西村山広域行政事務組合」工事については,上記推認を強める事情があるとしているところ,次のとおり,いずれも,同認定については実質的な証拠がある。
ア 「尼崎市」工事
「尼崎市」工事は,尼崎市が指名競争入札の方法により発注した処理トン数150トンの全連ストーカ炉の増設工事であり,平成8年8月19日に入札が行われ,原告を構成員とする日立・三井・山本共同企業体が103億円で落札(落札率96.28パーセント)している(査1,2,20)。
川崎重工業のリスト(査3)の,原告の略称を示す「H」とストーカ炉の略称を示す「S」によって表される「H-S」欄に「尼崎市」「150」(「150」は,上記の処理トン数と一致する。)との記載があること及び落札率が96.28パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
イ 「福岡市(臨海工場)」工事
「福岡市(臨海工場)」工事は,福岡市が指名競争入札の方法により発注した処理トン数900トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成8年8月21日に入札が行われ,原告が289億6000万円で落札(落札率99.97パーセント)している(査1,2,36)。
川崎重工業のリスト(査3〉の「H-S」欄に「福岡市」「900」(「900」は,上記の処理トン数と一致する。)との記載があること及び落札率が99.97パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
ウ 「東京都(中央地区清掃工場)」工事
「東京都(中央地区清掃工場)」工事は,東京都が一般競争入札の方法により発注した処理トン数600トンの全連ストーカ炉の新設工事であり,平成10年1月26日に入札が行われ,原告を構成員とする日立造船・前田・日本国土建設共同企業体が280億円で落札(落札率94.68パーセント)している(査1,2,38)。
川崎重工業のリスト(査3),日本鋼管のメモ(査12),日立造船のリスト(査13)及び査5ないし11によれば,平成7年9月28日ころの時点で上記工事についてはタクマが受注予定者とされていたところ,上記工事の近くに工場を有する石川島播磨重工業が上記工事の受注を強く希望し,調整のための話合いが行われたこと,その結果,石川島播磨重工業は,日本鋼管,原告及びタクマの3社がそれぞれ受注予定者となっていた各工事のうち,原告が受注予定であった「東京都(足立工場)」工事の受注予定者となる代わりに上記工事の受注希望を取り下げることとなり,5社に石川島播磨重工業,荏原製作所,クボタ及び住友重機械工業のアウトサイダーを加えた9社の了解を得たことが認められ,これらによれば,上記工事については,原告が本件合意に基づき受注予定者となったことが認められる。
エ 「西村山広域行政事務組合」工事
「西村山広域行政事務組合」工事は,西村山広域行政事務組合が指名競争入札の方法により発注した処理トン数100トンの全連ストーカ炉の更新工事であり,平成10年5月25日に入札が行われ,原告が59億8000万円で落札(落札率98.88パーセント)している(査1,2)。
日本鋼管のメモ(査12)に「西村山(山形)」と,○で囲まれたHが手書きで記載されていること,日立造船のリスト(査13)の「山形県西村山(組)」の欄と「焼却」の欄の交差する箇所に「100」(「100」は上記の処理トン数と一致する。)に加えて手書きで原告の略称を示す「H」が記載されていること,川崎重工業のメモ(査14)において,「60-200T未満」の小型工事リストの「西村山」工事の該当欄の左端に,手書きで「H1」と記載されていること及び落札率が98.88パーセントであることは,上記工事について,本件合意に基づき原告が受注予定者として決定されたとの推認を裏付けるものである。
2 争点(2)(除斥期間の経過の有無)について
独占禁止法7条の2第6項は,「当該審判手続が終了した日から一年を経過したとき」は,課徴金の納付を命ずることはできないと定めている。同法がこのような除斥期間の規定を設けた趣旨は,適正迅速な行政事務の遂行を,確保するとともに,排除措置命令に不服のある被密人の利益にも配慮し,当該排除措置命令についての審判が開始された場合には,同命令に係る違反事実の存否についての被告の判断が示されるまでは課徴金の納付を命ずることができないこととし,その一方で,いったん上記の被告の判断が示されたときには,速やかに課徴金の納付を命ずることとして,これを被告に義務付け,これにより法律関係の早期安定を図ろうとしたことにある。そうすると,上記の被告の判断は審決の形式をもって示されるのであるから,独占禁止法48条の2第1項ただし書及び7条の2第6項にいう「審判手続が終了した」ときとは,被告の終局判断である審決が行われた時点を指すと解するのが相当である。
本件において,本案審決は平成18年6月27日に行われており,本件課徴金納付命令は平成19年3月23日にされているのであるから,同命令は当該審判手続が終了した日から1年を経過する前に発せられたものであり,除斥期間を経過していない。
3 よって,本件審決に独占禁止法82条1項の規定する審決の取消事由は認められず,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

平成24年3月2日

裁判長裁判官 下田文男
裁判官 滝澤雄次
裁判官 北澤純一
裁判官 梶智紀
裁判官綿引穣は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 下田文男

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