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昭和シェル石油(株)による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成23年(行ケ)第7号

判決

東京都港区台場2丁目3番2号
原告 昭和シェル石油株式会社
同代表者代表取締役 新井純
同訴訟代理人弁護士 岡正晶
藤原寛
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 竹島一彦
同指定代理人 田中久美子
島崎伸夫
藤原昌子
小髙真侑

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告が原告に対する公正取引員会平成20年(判)第13号課徴金納付命令審判事件について,平成23年2月16日付けでした審決のうち,金3億8025万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,平成7年から同10年にかけて,防衛庁調達実施本部(当時。以下「調達実施本部」という。)が発注した石油製品(以下「本件石油製品」という。)について,原告ほか11社(当時。以下併せて「12社」という。)が行った受注予定者等の決定に係る行為が,平成17年法律第35号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)3条違反(不当な取引制限)の行為であるとして,被告が原告に対してなした金5億7744万円の国庫納付を命ずる課徴金納付の審決(公正取引員会平成20年(判)第13号事件の審決。以下「本件審決」という。)に対し,原告が,主な事実関係を争わずに,①課徴金算定の基礎とすべきではない物件(競争制限の効果が及んでいない物件)が同算定の基礎とされていること,②課徴金算定の際に,特定の取引先から購入したひとまとまりの製品に係る売上げについて,卸売業としての課徴金算定率が適用されていないことを理由として,金3億8025万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める事案である。
なお,原告は,本件石油製品についての法違反に関し,法違反被告事件等(東京高等裁判所平成11年(の)第2号(審共200),最高裁判所平成16年(あ)第1478号(審共214)。有罪・罰金3500万円確定),並びに排除措置命令審判事件(公正取引委員会平成11年(判)第7号。以下「本件本案審判事件」という。)及び同審決取消請求事件等(東京高等裁判所平成19年(行ケ)第7号ないし第9号,最高裁判所平成21年(行ツ)第221号及び同年(行ヒ)第278号。請求棄却確定)では,本件石油製品全体についての競争性等を,本件審決事件では,法違反行為が,法7条の2第1項の「対価に係るもの」であること等も争っていたが,本件ではこれらの点を争わず,上記2点(①,②)のみを争っている。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実並びに本件審決が認定した事実で原告が実質的な証拠の不存在を主張していない事実)
(1) 当事者等
原告は,肩書地に本店を置き,石油製品の製造販売業等を営む株式会社である。
被告は,内閣府設置法(平成11年法律第89号)49条3項の規定に基づいて,法1条の目的を達成することを任務として設置された機関であり(法27条1項),内閣総理大臣の所轄に属している(同条2項)。
調達実施本部は,自衛隊の任務遂行に必要な装備品等及び役務で主要なものを一元的に調達する防衛庁の特別の機関であった。
(2) 本件石油製品の調達
ア 本件石油製品は,自動車ガソリン,灯油,軽油(一般用及び艦船用),A重油及び航空タービン燃料であり,このうち自動車ガソリン,灯油,軽油(一般用及び艦船用),A重油は,一般の市場に流通している石油製品であるが,航空タービン燃料は,その製造設備等について認定制度が採用されており,認定を受けた工場は認定工場,認定工場所在のタンクは認定タンク,油槽所所在のタンクは届出タンクと称されている。
イ 調達実施本部は,国防上の弊害があること並びに確実な供給及び品質の保証がいずれも可能な資力,信頼性が要請されることを理由に,本件石油製品のほとんどすべてを指名競争入札の方法により発注していた。
上記発注による調達は,第1期から年間6回実施され,本件石油製品の油種ごと,基地ごとに区分されており,各期の発注物件は400件から500件に上ることがあった。これらの発注物件には,数量が数キロリットルのものから数万キロリットルのもの,納入形態がタンクローリー車,ドラム缶,タンカーによるもの,納地が離島やレーダーサイトであるものなど多種多様であった。
ウ 調達実施本部の実施する指名競争入札は,航空タービン燃料に関し,基地ごとに2から7までの指名業者を選定し,他の油種に関し,基地の所在する地域ごとに8から13までの指名業者を選定し,それぞれ指名競争入札をするものであった。
調達実施本部の指名競争入札実施手順は,①訓令に基づいて,予め予定価格を算定すること,②本件石油製品について,発注物件ごとに業者を指名して,指名競争入札を通常3回実施すること(これら入札を,以下「当初入札」という。),③3回目の入札までには,1社を除いて指名業者が辞退するために,3回目の入札に応札した業者と随意契約を前提とした「商議」と称する価格交渉(以下「商議」という。)を行うこと,④商議においても,業者が提出する見積価格が予定価格を上回ることから,商議を不調として終了させること,⑤その後商議を踏まえた新たな予定価格を設定し,新たな指名競争入札を行うことというものであった。
なお,平成7年4月から平成10年11月20日までの間において,調達実施本部発注の本件石油製品の指名競争入札に参加していたのは,12社及びチッソ石油株式会社のみであった。
(3) 本件合意の成立
12社は,調達実施本部発注の本件石油製品について,遅くとも,平成7年4月以降,各社の安定した受注量及び利益を確保するため,発注ごとの各社の本件石油製品における油種ごとの受注数量の割合が,前年度の各社の本件石油製品における油種ごとの受注実績の割合に見合うものとなるように物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注することができるよう協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)をしていた。
(4) 配分会議による受注予定者などの決定
ア 12社は,遅くとも平成7年4月以降,調達実施本部発注の本件石油製品について,発注の都度、受注予定者を決定する会合(以下「配分会議」という。)を,当初入札日の2日前ころに開催していた。
イ 12社のうち,コスモ石油株式会社(以下「コスモ」という。)の担当者(以下「コスモの担当者」という。)は,配分会議における各社の取りまとめ役として,調達実施本部が開催した入札説明会終了後配分会議までの間に,以下の準備作業を行っていた。
(ア) 航空タービン燃料を除く4油種の数量配分案の作成
当該期の油種ごとの発注数量から調整分の数量(10から20パーセントに当たる数量)を差し引き,残った数量に各社の前年度における受注実績の割合を乗じ,当該期における各社の受注すべき目安となる数量を算出する。
(イ) 航空タービン燃料の物件ごとにおける配分案の作成
航空タービン燃料については,1物件当たりの発注数量が多く,受注希望が重なり得るため,配分会議における円滑かつ効率的な決定のため,各社の前年度における受注実績の割合を勘案し,物件ごとの受注予定者の配分案及び複数落札物件についての各受注予定者における受注予定数量の案を作成する。
(ウ) 当初入札における入札価格及び商議において提示する価格の算出
調達実施本部が予定価格を算定する際に基礎としていた各市況資料 の分析を行い,当初入札の予定価格を予測し,各社が当初入札において入札する価格を決定するための油種ごとの基準価格の幅及び商議において提出する見積価格を算出する。
ウ 配分会議では,航空タービン燃料を除く4油種について,油種ごとに協議が進められ,コスモの担当者による上記イ(ア)の受注目安数量に基づき,各社の担当者が受注希望物件及び複数落札物件についての受注希望数量の表明を行った後,コスモ担当者の裁定などがあって,受注予定者が決定された。山間へき地、離島等に所在の基地に納入する小口物件等輸送コストのかさむ物件については,受注希望が表明されないことがあったが,コスモの担当者が過去に納入実績のある業者に受注予定者になるよう提案するなどし,当該業者に納入困難な事情がある場合には,ほぼ全国的に納入可能なコスモ又は日本石油株式会社を受注予定者にすることが多かった。
航空タービン燃料については,コスモ担当者の上記イ(イ)の物件ごとの受注予定者の配分案及び複数落札物件についての各受注予定者における受注予定数量の案が提案され,ほぼその提案どおり受注予定者及び上記受注予定数量が決定された。
上記のほか,配分会議では,指名競争入札による落札が不自然な形にならないように,入札回数,ダミー業者の指定などが合意されたほか,コスモの担当者から当初入札の入札価格の説明がなされ,資料も配布された。
エ 海上自衛隊硫黄島基地に係る物件(以下「硫黄島物件」という。)及び航空自衛隊春日基地に係る物件(以下「春日物件」といい,両物件を併せて,硫黄島物件等」という。)も,配分会議で,受注予定者が原告とされ,同各物件の数量は,他の物件における受注数量の割合を計算する際に,計算の基礎に入れられた。
(5) 12社の入札時の対応
12社は,本件合意に基づき,コスモの担当者から上記(4)ウの説明を受け,当初入札において,予定価格以下の入札を行わず,3回目の入札が終わった時点で,配分会議で決定された入札予定者だけが残るようにし,同予定者だけが,調達実施本部の担当者と商議を行った。
商議では,上記担当者から示された基準価格の水準に従って油種ごとに一律の基準価格について価格交渉が行われ,同交渉を踏まえて,同担当者が,油種ごとに,業者が受け入れるであろうと判断した最低の基準価格を提示すると,12社は、自社が受注予定者となった物件について,同基準価格に固定経費を加えて算定した価格(以下「最低商議価格」という。)を記載した見積書などを提出し,商議を不調により終了させていた。
その後実施される新たな入札においては,事実上最低商議価格が予定価格とされ,12社の担当者はこのことを知っており,受注予定者は,常に新たな予定価格と同一の価格で落札していた。
(6) 実施状況と売上額
12社は,平成7年度緊急分から平成10年度第3期分までの間に行われた3年間にわたる合計23回の調達において,エッソ石油受注分を除き,本件石油製品のすべての物件について受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
この間(3年間)における原告の本件石油製品の売上額は,別紙1記載のとおり,合計128億7279万0459円であり,その油種ごとの内訳は,別紙1記載のとおりである。これらの中には,硫黄島物件等の各売上額が含まれている。
(7) 配分会議のとりやめ
12社は,平成10年11月20日以降配分会議をとりやめており,以後は,法違反行為の実行としての事業活動はしていない。
(8) 本件審決における認定・判断
ア 12社は,調達実施本部発注の本件石油製品について,遅くとも,平成7年4月以降,各社の安定した受注景及び利益を確保するために,本件合意をし,同合意の下に,①入札日の前に配分会議などを開催して,油種ごとに受注予定者を決定し,②当初入札,商議をいずれも不調に終わらせ,調達実施本部に新たな予定価格を引き上げさせると共に,受注予定者に新たな予定価格で落札できるようにしていた。
イ 本件石油製品については,自動車ガソリン,灯油,軽油,A重油及び航空タービン燃料の油種ごとに,違反行為(法違反行為)が成立する。
ウ 課徴金の計算については,硫黄島物件等も売上げの対象物件に含め,油種ごとに売上額を算定し,油種ごとに業種を認め,各売上額に各業種の算定率を乗じ,その結果を合算すると,別紙1記載のとおり,課徴金が合計5億7744万円となる。
3 適用法令(課徴金納付命令の根拠規定及び課徴金算定の売上額算定規定)
(1) 「事業者が,不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で,商品若しくは役務の対価に係るもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に係るものをしたとき,公正取引員会は,第8章第2節に規定する手続に従い,事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは,当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼって3年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に100分の6(小売業については100分の2,卸売業については100分の1とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし,その額が50万円未満であるときは,その納付を命ずることができない。」(法7条の2第1項〉
(2) 「法7条の2第1項に規定する政令で定める売上額の算定の方法は,次条で定める場合を除き,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法とする。(以下略)」(平成17年政令第318号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「施行令」という。)5条1項前段。次条(施行令6条)が例外となるが,この場合も,「実行期間において締結した商品の販売又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額を合計する方法とする。」としている。)
4 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 硫黄島物件等は,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」であり,課徴金の算定の基礎となる売上額の対象に含めるべきか。
(被告の主張)
硫黄島物件等は,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」であり,課徴金算定の基礎となる売上額の対象に含めるべきである。
基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが認められれば,当該入札の対象物件には自由な競争を行わないという基本合意によって成立した競争制限効果が及んでいるものと認められるべきところ,本件合意は,調達実施本部が発注する本件石油製品すべてを対象とし,12社は,配分会議で硫黄島物件等を含む本件石油製品すべてについて,受注予定者を決定し,当該決定された受注予定者が受注していたものである。
したがって,硫黄島物件等についても,基本合意による競争制限効果が及んでいるから,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」に該当し,課徴金の対象となる。
(原告の主張)
硫黄島物件等は,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」には当たらず,課徴金算定の基礎となる売上額の対象に含めるべきではない。
硫黄島物件等は,立地場所,設備の確保等からして,いずれも原告以外には受注する者がない物件である。硫黄島物件は,硫黄島には海岸の浸食により桟橋が造れず,給油に特殊装備の船舶が必要であるが,同装備を備えた船舶は一隻しかないこと,春日物件(福岡空港内)は,空港内の特定の民間タンクヘの納入が納入条件であり,他の納入方法が一切認められていなかったことから,原告が,上記特殊装備の船舶(れい丸)を長期傭船契約で,上記民間タンクを長期の使用契約で,いずれも確保していた。このため,他業者は,手が出せない状態であり,基本合意等がなくとも,原告が落札できるのが確実であり,このことは,平成12年3月期以降の完全な自由競争秩序のもとで入札が行われた期間においても,他社が一切落札していないことからも裏付けられ,硫黄島物件等については,競争がなかったのである。
したがって,硫黄島物件等は,基本合意による競争制限効果が及んでいないから,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」ではなく,課徴金の対象とすることは許されない。
(2) 原告の売上額のうち,西部石油から購入した製品に係るものは,「卸売業による売上げ」として課徴金算定率100分の1を適用すべきか。
(被告の主張)
原告の課徴金の算定については,油種ごとの5つの違反行為ごとに原告の売上額を区分し,油種ごと(違反行為ごと)に,定型的に実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて法7条の2第1項の業種(卸売業,小売業,又はそれら以外)を認定してそれに合う課徴金算定率を乗ずるべきであり,西部石油から購入した製品に係る取引のみをとりだして,「卸売業による売上げ」として課徴金算定率100分の1を適用すべきではない。
そもそも,法7条の2第1項は,違反行為ごとに業種の認定をすることを予定しており,違反行為の内容である個々の取引について,個別の認定をすることを予定していない。
そして,違反行為に係る取引について,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合には,定型的に実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定すべきである(以下,この考え方を「過半理論」という。)。
本件では,原告には,本件本案審決(排除措置命令の審決)が認定する油種ごとの5つの違反行為があるから,油種ごとに,過半理論を当てはめて業種を認定すると,原告が西部石油から購入した製品に係るもののうち,卸売業が過半に達するのは軽油だけであり,ほかの油種は,卸売業又は小売業以外の業種となる。
したがって,軽油については「卸売業による売上げ」として課徴金算定率100分の1を,それ以外の油種は同100分の6を適用すべきである。
(原告の主張)
原告の課徴金の算定については,原告が西部石油から購入した「ひとまとまり」の製品に係る売上げについて,「卸売業による売上げ」として課徴金算定率100分の1を適用すべきである。
被告は,法7条の2第1項は,違反行為ごとに業種の認定をすることを予定しているとするが,違反行為という概念自体が不明確であり,その単位について法律上の根拠がない。そして,①すべての調整行為は,1つの基本合意に基づいているので,全期間を通じて,すべての取引を1つの違反行為とみることも自然であるし,②調達期ごとに,1つの配分会議が開かれ,そこで具体的な配分が決められていたのであるから,1配分会議ごとの調整(全油種が対象)が1つの違反行為とみることも十分自然である。かえって,被告の主張する③全期間を通じ,油種ごとに縦割りで,配分会議の枠を超えて違反行為を括りだす方法には,不自然さ,人為的なものがある。このような違反行為という不安定不確定な概念と,実行期間,当該商品又は役務,売上額との概念を結びつけることは,妥当でないし,法令上の根拠もない。違反行為ごとに,業種の認定をする根拠もない。
また,被告は、業種認定について,過半理論をいうが,同理論は,独占禁止法の文言を無視した取扱いをする理論であり,法7条の2第1項では,「小売業による売上額」又は「卸売業による売上額」と認定できる「ひとまとまり」の売上額がある場合には,その「ひとまとまり」部分については,軽減した算定率を適用すると単純に定めているだけである。実質的にみても,小売業・卸売業による売上額が,「ひとまとまり」として存在する場合,違反行為ごとに過半を占めていなかったとしても,卸売業による売上げという実体上の性格が失われるわけではないから,この点でも過半理論は不当である。
    本件では,原告が,西部石油から購入して調達実施本部に納入した製品の売上額がすべて実数で把握されており,その金額は合計52億8495万3675円である。この金額は,「ひとまとまり」の事業である卸売業による売上額であるから,この売上額には,課徴金算定率100分の1を適用すべきである。
第3 当裁判所の判断
1 課徴金納付命令の対象行為としての入札談合行為
争点(1),(2)の判断の前提として,課徴金納付命令の対象行為としての入札談合行為が問題になり得るので,検討する。
課徴金納付命令(法7条の2第1項)は,法違反者に金銭的不利益を課すことによって,法違反の経済的誘因を小さくし,法違反行為の抑止を図ることを目的とする行政上の措置であるところ,その対象行為は,「不当な取引制限」(法3条)又は「不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約」(法6条)で,「商品若しくは役務の対価に係るもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるものをした」行為(以下「課徴金納付命令対象行為」という。)である。
ところで,本件のようないわゆる入札談合行為の場合は,課徴金納付命令対象行為のうち,「不当な取引制限」行為に該当し得るところ,入札談合行為には,①受注予定者の選定方法など談合手続を定める基本ルールを策定する基本合意(以下「基本合意」という。)と,②個別の発注があった場合に,基本合意にのっとって受注予定者を具体的に決定する個別談合行為・個別調整行為(以下「個別調整行為」という。)がみられるのが一般である。
そして,課徴金納付命令対象行為のうち,「不当な取引制限」は,事業者が,「相互にその事業活動を拘束」し,「公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限する」などを要件としていることから(法2条6項),1回的な個別の行為ではなく,ある程度の広がりをもった一般的継続的な競争制限行為を予定していると解される。また,その処罰に関する法定刑も,3年以下の懲役又は500万円以下の罰金(法89条1項1号)で,入札談合行為における個別調整行為の法定刑(刑法96条の3第2項:2年以下の懲役又は250万円以下の罰金)と比べて重くなっているところ,基本合意は,個別調整行為の原因行為となるもので,一般的継続的に,発注元である公共機関に対して取引の相手方を制限することによって,入札談合行為の参加者間において,相互に事業活動を拘束し,公共の利益に反して,公共機関による入札という取引分野における競争を実質的に制限するものであるから,入札談合行為の場合に限って述べれば,個別調整行為の該当性はともかくとして,基本合意自体は,「不当な取引制限」行為に該当することが明らかである。
2 争点(1)(硫黄島物件等は,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」であり,課徴金の算定の基礎となる売上額の対象に含めるべきか。)について
(1) 課徴金納付命令は,課徴金納付命令対象行為を原因として,法違反の事業者に課すものであるから,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」とは,課徴金納付命令対象行為,すなわち法3条,6条の違反行為のうち,「商品若しくは役務の対価に係るもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるものをした」行為の対象とされた商品又は役務全体を指すが,本件のような入札談合行為においては,前記のとおり,入札談合行為が基本合意と個別調整行為の2段階になることから,基本合意の対象となっているだけでは足りず,当該事業者が基本合意に基づいて,個別調整行為によって,受注予定者として決定され,そのとおり受注するなど,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至った商品又は役務と解すべきである。
本件においては,前記前提事実によると,本件合意が,各社の安定した受注量及び利益を確保するため,発注ごとの各社の本件石油製品における油種ごとの受注数量の割合が,前年度の各社の本件石油製品における油種ごとの受注実績の割合に見合うものとなるように物件ごとの受注予定者を決定し,受注予定者以外の指名業者は受注予定者が受注することができるよう協力するという合意であるから,法3条の規定する「不当な取引制限」に当たる基本合意ということができるし,同合意に基づいて,発注の都度配分会議という個別調整行為が行われ,硫黄島物件等を含めて,受注予定者が決定され,実際に同決定に従って原告が受注していたのであるから,硫黄島物件等についても,競争制限効果が発生していたものと認めることができる。
したがって,硫黄島物件等も,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」であって,課徴金の算定の基礎となる売上額の対象に含めるべきである。
(2) 原告は,前記第2の4(1)のとおり,硫黄島物件等については,立地場所,設備の確保等からして,いずれも原告以外には受注する者がないなどとして,硫黄島物件等については,競争がなく,基本合意による競争制限効果が及んでいないから,法7条の2第1項の「当該商品又は役務」ではなく,課徴金の対象とすることは許されない旨主張する。
確かに,証拠(被告作成の参考人村社慶三審訊調書,審共7,22~35,146の2,審C6の1~3,7)及び弁論の全趣旨によると,①硫黄島物件については,硫黄島に桟橋が造れず,給油に特殊装備の船舶が必要であるが,原告が,上記特殊装備を唯一備えていた船舶(れい丸)を長期傭船契約で確保していたこと,②春日物件については,調達実施本部からの納入条件が,「福岡空港内の福岡給油施設株式会社タンク(以下「福岡給油タンク」という。)払出しピット渡し」とされていたが,原告は,同社との間で福岡給油タンクの使用契約をしていたこと,③硫黄島物件等については,配分会議とりやめ後も,原告が随意契約の形で調達実施本部と売買契約を締結していたことが認められるから,硫黄島物件等の指名競争入札において,原告が極めて有利な立場にあったことは否定することができない。
しかしながら,他方,証拠(査共15~17,査昭和シェル石油㈱6,7,18,審共4,5,7)及び弁論の全趣旨によると,④調達実施本部が,燃料の調達は,競争入札の方法によるという一般的な方針の下,防衛庁(当時)に有資格者登録している元売業者から,毎年度末に納入可能地域等の報告を求め,同報告によって一覧表を作成し,同一覧表に基づいて複数の供給可能な指名業者を選定し,入札ごとに開催していた入札説明会でも,指名を受ける業者に個別の調達物件ごとに指名を確認させていたこと,⑤このため,調達実施本部では,指名業者は,調達物件の納入が可能であると考えていたこと,⑥硫黄島物件等についても,いずれも複数の登録業者から調達実施本部に対し,納入可能基地であるとして届出があったことから,同本部は,複数の供給可能な指名業者を選定していたこと,⑦配分会議において,原告の担当者から,コスモの担当者に対し,硫黄島物件等について,原告が受注予定者とされることにより,その分原告の他の物件の配分量が減らされることに不満であり,配分の分母から除外してもらいたい旨の要望が出されたが,コスモの担当者が,原告の担当者に対し,「やろうと思えば,コスモはホース付きの船を造って,硫黄島に納入できますよ」と伝え,結局,硫黄島物件等も配分会議で,原告を受注予定者と定め,同物件等も他の件の受注数量の割合を計算する際に,計算の基礎に入れられたことを認めることができる。
上記④から⑦までの認定事実のほか,原告が船舶(れい丸)や福岡給油タンクを確保していたのは,私法上の契約に基づくものにすぎないこと,本件合意の下で,船舶(れい丸)や福岡給油タンクの確保が長年固定化していた結果にすぎないことからすると,他の指名業者が参入する余地がなかったとはいえず,前記のとおり,原告が極めて有利な立場にあったことは否定できないとしても,それを超えて,潜在的な競争も含めて,競争が全くなかった(競争が生じ得なかった)とまで断定することはできないというべきである。 
付言するに,原告の主張は,本件合意という取引制限行為に当たる基本合意と,配分会議における硫黄島物件等についての個別調整行為のいずれもが存在したことを前提としながら,硫黄島物件等について競争がなかったから,基本合意の競争制限効果が及んでいないというものであるが,そもそも,このような主張が論理的に成り立つのか疑問がないではない。すなわち,事業者が,特定の商品又は役務について,基本合意と個別調整行為を経たのであれば,当該商品又は役務について,競争制限による何らかの利益を得,他の商品又は役務による利益を他の事業者に譲ったことになる場合が一般であり,仮に,当該事業者が,当該商品又は役務において,客観的には競争上有利な立場にある場合であっても,基本合意と個別調整を経ることにより,受注における有利な立場をより確実にできるし,競争相手がないことが確認できることにより,入札価格を低額にする必要がなく,受注価格の面でも有利にできる面があるから,そのような事情が全くないのであれば,基本合意,少なくとも個別調整行為には含めない行動を取るのが一般であると解されるところである。そうすると,基本合意と個別調整行為を経たのであれば,当該商品又は役務について,競争制限効果が生じるのが原則であり,これを争うのであれば,競争が事実上全くなかったという事情だけでなく,価格面での利益も全くなく,基本合意と個別調整行為の各対象に含めたことが不合理であるなど特段の事情が必要であるが,原告は,そのような事情について主張立証はしていない。
加えて,原告の主張は,配分会議で,硫黄島物件等の数量が,他の物件における受注数量の割合を計算する際に,計算の基礎に入れられたことを否定しないものであるが,他の物件については,競争がなかったことを主張していないから,配分会議で,競争のなかったものと競争のあったものを調整して合意したとの主張となるが,そのような不合理な合意をした根拠について,十分な理由は説明していない。また,そもそも,原告は,硫黄島物件等を除く,他の物件では競争があることを争っていないから,調達実施本部が調達する本件石油製品について,基本合意と配分会議によって,すべての本件石油製品を個別調整行為の対象としていることから,採算制の低い物件であっても,本件石油製品全体における競争制限の効果のための手段として用いられているといえ(査昭和シェル石油㈱29),競争制限効果が及んでいると同視することができる。
以上よりすると,原告の主張は,いずれにしても採用することができない。
3 争点(2)(原告の売上額のうち,西部石油から購入した製品に係るものは,「卸売業による売上げ」として課徴金算定率100分の1を適用すべきか。)について
(1)ア 前記1のとおり,入札談合行為を内容とする「不当な取引制限」の場合には,基本合意が認められるのであれば,それに基づく法違反行為として,当該行為の実行としての事業活動について,課徴金納付命令が発せられることになる。
もっとも,基本合意の範囲,個数は,合意の内容だけでなく,法が公正かつ自由な競争を促進することを目的としていること(法1条)から,合意によって制限される取引分野ごとの競争の数も考慮して決定されなければならないと解される。そして,基本合意が認められる場合であれば,基本合意自体が法違反行為となることから,違反行為の数も,基本合意を基準にすることになる(個別調整行為は,基本合意に包括されるためである。)。
本件においては,前記前提事実によると,12社による本件合意が存在し,同合意に基づいて,個別調整行為である配分会議が行われ,受注予定者が決定等されていることから,範囲,個数は別にして,本件合意が基本合意に関連する合意として認められることが明らかである。
そして,事実としての本件合意は1つであるが,法的な基本合意の範囲,数を検討すると,本件合意の内容は,本件石油製品における油種ごとの受注数量の割合が,前年度の各社における油種ごとの受注実績の割合に見合うものとなるように,物件ごとの受注予定者を決めるものであり,それに従って油種ごとに受注予定者を決めていたのであるから,合意内容においても,制限される取引分野ごとの競争においても,油種が基本となっており,法的には,基本合意の範囲は油種ごとに考えるべきである。そのため,基本合意は油種の数に従って5つあり,同各合意に基づく違反行為も5つあるとみることができるといわなければならない。
本件本案審決は,本件合意の下,本件違反行為により,「本件石油製品の油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限していた」と認定判断しており,同審決取消訴訟の判決においても,その認定判断が維持され,同判決が確定している(以上の本件本案審決の考え方を前提として,本件審決も同様の認定判断をしている。)。これは,違反行為を油種ごとに5つとみるものであるが,本件合意の下に違反行為を認定していることから,基本合意を捨象しているとは解されないが(仮に捨象しているとすると,個別調整行為のみを法違反行為とみていることになる。),法的な基本合意の範囲,数については明確ではない。したがって,①基本合意は油種ごとに5つである,②基本合意は1つであるが,違反行為は油種ごとに5つであるとのいずれかの立場と考えられるところ,①であれば,上記説示と同様の立場であるが,②であれば,下記イの範疇の立場ともなり得るものと解される。
イ 上記アの説示とは別の考え方として,本件合意においては,油種が基本になっているとしても,合意内容は,調達実施本部発注の本件石油製品全部に及んでおり,5つの油種は同種又は類似の石油製品であるともいえること,5つの油種は,品目では8つに分かれ,配分の便宜のために5つにしていたにすぎないこと(査共16),本件石油製品全体が,常に同一の発注者が同一時期に発注する石油製品であり,常に一体のものとして取り扱われていることからすると,油種は受注予定者の決め方の問題に過ぎないのであって,合意内容においても,制限される取引分野ごとの競争の数においても,大きな意味で基本合意及び違反行為は,すべての石油製品の取引を通じて包括的に1個であるとみる考えもあり得る(ちなみに,刑事事件の判決(審共200)において,罪数については包括一罪としている。)。この点は,後に,課徴金額の算定の項で触れることとする。
ウ 他方,違反行為を,上記よりもさらに細分化して,配分会議ごと,配分会議における油種ごとにとらえる考え方もあり得るところであるが,いずれも一回的,一部的な合意等をとらえるものであり,それぞれ,前後の配分会議,同じ配分会議での他の油種との比較において,新たな競争制限の基本ルールを策定するものではないことから,配分会議ごと,配分会議における油種ごとの合意は,基本合意ではなく,あくまで個別調整行為又はその集合体にすぎないというべきであり,上記の考え方は採用できない。
エ なお,上記の基本合意の範囲,数や違反行為の数の問題は,違反行為の存否そのものを問題とするものではないし(平成17年法律第35号による改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律59条2項の主張制限に関する規定参照),課徴金の額の算定方法に係わる事柄で,本件本案審判事件,同審決取消請求事件等でも問題になった形跡はないから,本件でこの問題を検討することには,特段信義則上の問題等はない。
(2) 上記(1)を前提に課徴金の額を検討する。
ア 法7条の2第1項及び施行令(5条1項前段,6条1項)が定める計算方法は,次のとおりである。
① 「当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(最高3年間。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の施行令5条1項前段及び6条1項が定める計算方法で,対価を合計した結果としての売上額
② 100分の6(小売業については100分の2,卸売業については100分の1)
③ ①×②=課徴金納付額
イ 上記のうち,ア①の「当該行為」は,課徴金納付命令対象行為を指すことから,入札談合行為を内容とする「不当な取引制限」の場合に,基本合意の下で行われた違反行為が認められる場合であれば,①の「当該商品又は役務」は,基本合意を前提とするものであるから,基本合意の対象となった商品又は役務を指すことになる。
本件では,前記のとおり,本件合意の内容は,本件石油製品における油種ごとの受注数量の割合が,前年度の各社における油種ごとの受注実績の割合に見合うよう,物件ごとの受注予定者を決めるものであり,それに従って油種ごとの受注予定者を決めて,本件石油製品の油種ごとの取引分野における競争を実質的に制限していたものであるから,「当該商品又は役務」に当たるものは,別紙1のとおり,3年間の本件石油製品における油種ごとの製品となる。
ウ そして,ア②の課徴金算定率について,法7条の2第1項及び施行令(5条1項前段及び6条1項)が実行期間における違反行為の対象商品又は役務の売上額(対価を合計した結果としての売上額)に,原則として100分の6,小売業については100分の2,卸売業については100分の1とし,1つの課徴金算定率を乗じることを予定している(「1違反行為1算定率」ということができる。)のは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準が明確であることが望ましく,また,課徴金制度の積極的かつ効率的な運営により法違反行為の抑止効果を確保するためには,算定が容易であることが必要であることが考慮されたものと解される。したがって,このような法及び施行令全体の趣旨からして,売上額を業種ごとに分別して,それぞれに業種に応じた課徴金算定率を乗じた上で,その結果を合算するとの方式を予定しているとは到底解されないし,そのような解釈は,課徴金算定を複雑煩瑣なものとし,法の趣旨にそぐわないものといわざるを得ない。
したがって,違反行為に係る取引について,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合に,上記のとおり1つの算定率が用いられるべきであることからすれば,当該事業活動全体で,どの業種の事業活動の性格が強いかにより,業種の認定をせざるを得ないことになる。そうすると,実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定するのが相当である。このように解すると,認定されなかった業種に係る事業活動が生じることになるが,課徴金制度は,個々の事案ごとに経済的利益を算定することを予定しておらず,課徴金の額は「不当な取引制限」行為によって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないから,問題はないというべきである(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)。
そうすると,卸売行為による売上げが一部に含まれている場合であっても,全体として卸売業に基づく事業活動が過半であると認定されない場合,課徴金算定率は,原則の100分の6が適用されるべきである。
(3) 以上を前提にして,原告に対する課徴金の額を算定すると,西部石油から購入した製品に係る売上額が過半を占めていたのは軽油のみであるから(弁論の全趣旨),別紙1のとおり,課徴金算定率は,軽油についてのみ100分の1が適用され,その他の油種についてはいずれも100分の6が適用される結果,合計5億7744万円となる,
なお,仮に,基本合意に基づく違反行為は,すべての石油製品の取引を通じて包括的に1個であるとの考え方(前記(1)イ)によると,原告の主張によっても,西部石油から購入して調達実施本部に納入した製品の売上額合計は52億8495万3675円であり,本件石油製品の売上高合計128億7279万0459円の過半に達しないことから,別紙2のとおり,課徴金算定率は,一律に100分の6が適用される結果,課徴金の額は7億7236万円となる。
したがって,いずれの考え方においても,課徴金の額を5億7744万円とする本件納付命令は,あるべき課徴金の範囲内ということになる。
(4) 原告の主張について
原告は,前記第2の4(2)のとおり,違反行為という概念自体が不明確であり,その単位について法律上の根拠がないこと,過半理論は,法の文言を無視した理論であるとし,「小売業による売上額」又は「卸売業による売上額」と認定できる「ひとまとまり」の売上額がある場合には,その「ひとまとまり」部分については,軽減した算定率を適用すべきであるから,原告が西部石油から購入して調達実施本部に納入した製品の売上額については,「ひとまとまり」の事業である卸売業による売上額であるから,この売上額には,課徴金算定率100分の1を適用すべきである旨主張する。
しかしながら,前記1のとおり,課徴金納付命令は,法違反者に対し,金銭的不利益を課すことによって,法違反の経済的誘因を小さくし,法違反行為の抑止を図ることを目的とする行政上の措置であるから,法違反行為を対象とすべきであって,課徴金算定の基本も,法違反行為を基準にした「商品又は役務」とすべきところ,原告の主張では,法違反行為と商品又は役務との関係を捨象して,まず小売業としての行為か,卸売業としての行為か,さらにはそのほかの行為であるかを明らかにし,小売業としての売上額,卸売業としての売上額,そのほかの売上額を算定し,それぞれに課徴金算定率を掛け合わせて課徴金額を算定し,同算定額を合算することになる。これでは,違反行為ごとではなく,小売業としての行為か,卸売業としての行為か,さらにはそのほかとしての行為かが前提となり,課徴金が違反行為の制裁であることを無視することになる。なお,原告は,西部石油という特定の取引先から購入した「ひとまとまり」の製品として,他の製品から容易に区別できるとも主張するが,「ひとまとまり」とはいえ,個々の売上げの集合体にすぎないものであり,結局,個々の売上げについて業種認定をするのと変わりはないから,課徴金制度の明確性,効率性にそぐわないという批判は免れない。
また,法及び施行令に定める課徴金算定方法は,まず,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計して売上額を算定し,これに対して業種に応じて算定率を乗じて課徴金額を算定するものであるところ,原告の主張する課徴金算定方法は,売上額の合計を算定する前に,業種の認定をし,その上で業種ごとの売上額を算定し,それに対して,業種に応じた課徴金算定率を乗じた上で,算定された課徴金を合算するというものであり,法及び施行令が予定しない算定方法というほかはない。
したがって,いずれにしても原告の主張する課徴金算定方法は採り得ないところであり,原告が西部石油から購入して調達実施本部に納入した製品の売上額については,「ひとまとまり」の事業である卸売業による売上額として,課徴金算定率100分の1を適用することはできないから,原告の主張を採用することはできない。
4 小括
以上によると,本件課徴金納付命令は,あるべき課徴金の範囲での納付命令であるから適法であるということができる。
第4 結論
よって,原告の請求は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成24年5月25日

裁判長裁判官 芝田俊文
裁判官 三代川俊一郎
裁判官 今泉秀和
裁判官 都築民枝
裁判官 浅見宣義

別紙1及び2<略>

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