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(株)カネカに対する件

独禁法7条の2(独禁法3条後段)

平成22年(判)第12号

課徴金の納付を命ずる審決

大阪市北区中之島三丁目2番4号
被審人 株式会社カネカ
同代表者 代表取締役 菅 原 公 一
同代理人 弁 護 士 石 川   正
同          長 澤 哲 也
同          古 賀 大 樹

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官後藤健,審判官原一弘から提出された事件記録に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

              主       文
被審人は,課徴金として金6億458万円を平成24年7月31日までに国庫に納付しなければならない。

              理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第6と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第54条の2第1項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成24年5月30日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  竹  島  一  彦
委 員  神  垣  清  水
委 員  濵  田  道  代
委 員  小 田 切  宏  之

平成22年(判)第12号

審   決   案

大阪市北区中之島三丁目2番4号
被審人 株式会社カネカ
同代表者 代表取締役 菅 原 公 一
同代理人 弁 護 士 石 川   正
同          長 澤 哲 也
同          古 賀 大 樹

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人は,課徴金として金6億458万円を国庫に納付しなければならない。

理       由
第1 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,他の事業者と共同して,モディファイヤー(プラスチックが有する化学的,物理的性質を損なうことなく,衝撃強度,耐候性,加工性等を改良し,製品物性,外観,生産性等を向上させるために用いられる改質剤)のうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの(以下「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」ともいう。)の販売価格の引上げを決定することにより,公共の利益に反して,我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであるとして,平成21年11月9日,排除措置を命じる審判審決をした(平成16年(判)第3号。以下「本案審決」という。)。
被審人は,東京高等裁判所に対し本案審決の取消しを求める訴えを提起したが,東京高等裁判所は,平成22年12月10日,被審人の請求を棄却する判決を言い渡した。これに対し,被審人は,最高裁判所に対し上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成23年9月30日,上告棄却及び上告不受理の決定をしたため,本案審決は確定した。
2 公正取引委員会は,本案審決を前提として,平成22年6月2日,被審人に対し,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき,課徴金の納付を命じたところ(平成22年(納)第92号),被審人が,同月29日,同条第5項の規定に基づく審判手続の開始を請求したため,独占禁止法第49条第2項の規定により当該請求に係る事件について審判手続を開始した(本件審判事件)。
第2 前提となる事実等(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。)
1 本件違反行為者ら
被審人(平成16年9月1日に鐘淵化学工業株式会社から商号変更した者である。),三菱レイヨン株式会社(以下「三菱レイヨン」という。)及び株式会社クレハ(平成17年10月1日に呉羽化学工業株式会社から商号変更した者であり,以下「クレハ」といい,上記3社を併せて「3社」という。)は,いずれもモディファイヤーの製造販売業を営む事業者である。
2 モディファイヤーについて
(1) モディファイヤーは,プラスチック(合成樹脂)に少量添加することにより,プラスチックが有する化学的,物理的性質を損なうことなく,衝撃強度,耐候性,加工性等を改良し,製品物性,外観,生産性等を向上させるために用いられる改質剤である。
モディファイヤーは,元々,塩化ビニル樹脂に添加するために開発されたものであり,需要の多くは塩化ビニル樹脂に添加して用いられるものであるが,ポリカーボネート(PC)樹脂,ABS樹脂,ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂,エポキシ樹脂など,いわゆる非塩化ビニル樹脂に添加するためのモディファイヤーの需要も増えつつある。
(2) 下記3の本件違反行為の対象商品とされている塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーには,①MBS樹脂(透明性を確保しつつ,衝撃強度を向上させるために用いられるもの),②アクリル系強化剤(衝撃強度とともに耐候性を向上させるために用いられるもの)及び③アクリル系加工助剤(MBS樹脂又はアクリル系強化剤を添加した際の加工性等を向上させるために,MBS樹脂又はアクリル系強化剤とともに用いられるもの)の3種類があり,これらは,いずれも3社が共通して製造販売していた。
被審人は,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーについて,①MBS樹脂を「カネエースB」,②アクリル系強化剤を「カネエースFM」及び「カネエースFT」,③アクリル系加工助剤を「カネエースPA」という製品名で販売していた。
3 本件違反行為
3社は,平成11年10月中旬頃,同年11月21日出荷分から,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を,MBS樹脂及びアクリル系強化剤については1キログラム当たり20円,アクリル系加工助剤については同20円又は25円引き上げる旨を合意し,また,平成12年11月21日までに,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を,MBS樹脂及びアクリル系強化剤については1キログラム当たり20円,アクリル系加工助剤については同20円又は25円引き上げる旨を合意し,これにより,共同して,公共の利益に反して,我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」又は「本件合意」という。)ものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係るものである。
4 塩化ビニル樹脂コンパウンドについて
塩化ビニル樹脂は,配合剤等の僅かな配合の違いによって成形加工特性や製品物性が多様に変化する性質を有する。塩化ビニル樹脂製品の成形に用いられる配合剤は,安定剤,可塑剤,滑剤,充填剤,加工助剤,耐衝撃性改良剤など多様な種類があり,本件違反行為の対象商品とされている塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,このような配合剤の一種である。
塩化ビニル樹脂製品の生産に際して,通常は,このような塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーをはじめとする配合剤を配合してペレットの形に一次加工(ペレット化)し,塩化ビニル樹脂製品の成形時に使用する配合済み原料である塩化ビニル樹脂コンパウンド(以下「塩ビコンパウンド」という。)の形にする。このような成形加工の技術は複雑で,塩ビコンパウンド事業自体が一つの独立した技術分野を形成している。
塩化ビニル樹脂製品は,可塑剤を配合した軟質製品と,可塑剤を含まない硬質製品に大別されることから,塩ビコンパウンドも軟質と硬質に大別される。
(審第2号証,第20号証,第21号証,阿岸鉄也参考人)
5 被審人における塩ビコンパウンド事業
被審人は,かつて,モディファイヤーの製造販売業のほかに,塩ビコンパウンドの製造・販売の事業も行っていた。その際,被審人は,被審人の大阪工場において塩ビコンパウンドを製造し,これを「カネビニールコンパウンド」(その略称はKVCであり,以下「KVC」という。)という商品名で販売していた。(審第1号証ないし第3号証,第20号証,第21号証,阿岸鉄也参考人)
6 昭和化成工業株式会社について
(1) 昭和化成工業株式会社(以下「昭和化成」という。)は,昭和31年に創業した塩ビコンパウンドの製造業者であり,被審人をはじめとするメーカーから塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー等の原料を購入して,埼玉県の羽生工場等の自社工場及び委託加工先において塩ビコンパウンドを製造し,主に東日本において販売していた(このように昭和化成が独自に製造・販売していた塩ビコンパウンドを,以下「昭和化成コンパウンド」という。)。(審第4号証,第20号証,阿岸鉄也参考人)
(2) また,昭和化成は,平成12年4月,チッソ株式会社の塩ビコンパウンド事業を承継し,同社が製造・販売していた塩ビコンパウンド(以下「チッソコンパウンド」という。)についても,羽生工場等において製造し,販売するようになった。当時,チッソコンパウンドの副原料として使用される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,三菱レイヨン製のものがほとんどであった。(審第4号証,第20号証,第21号証,阿岸鉄也参考人,桑原靖参考人)
(3) 被審人と昭和化成の関係等について
ア 被審人は,昭和63年に昭和化成に資本参加し,継続的に昭和化成コンパウンド向けのモディファイヤー等を昭和化成に販売していた。
被審人は,平成6年12月1日,昭和化成との間で,KVCの一部の製造を昭和化成に委託し,昭和化成は,このKVCの一部について,羽生工場等の自社工場において製造し,又は外部に委託して製造していた。(審第4号証ないし第6号証,第20号証,阿岸鉄也参考人)
イ 平成10年10月の子会社化及び営業譲渡
被審人は,平成10年10月1日,昭和化成を子会社(持ち株割合71.37パーセント)とするとともに,昭和化成に対し,被審人の塩ビコンパウンド事業の国内営業権を譲渡した。これにより,被審人及び昭和化成における塩ビコンパウンドの販売及び物流業務が昭和化成に一本化され,物流の効率化や短納期化が図られることになった。
もっとも,被審人の大阪工場におけるKVCの生産設備等は上記営業譲渡の対象とはされず,営業譲渡後は,昭和化成が被審人に対しKVCの製造を委託する形で,被審人の大阪工場におけるKVCの生産は継続された。
(審第4号証,第7号証ないし第10号証,第20号証,第23号証,第25号証,第26号証)
以後,昭和化成は,KVC及び昭和化成コンパウンドの双方を製造・販売することになり,平成12年4月以降には,これらに加えてチッソコンパウンドも製造・販売することになった。このうち昭和化成が製造・販売するKVCは,①昭和化成が被審人に製造委託し,被審人の大阪工場において製造される場合(このように製造されるKVCを,以下「被審人受託製造KVC」ともいう。),②昭和化成の羽生工場等の自社工場において製造される場合及び③その他の昭和化成の加工委託先において製造される場合がある。なお,この頃,KVCの生産量は,1か月当たり約3,500トン(内訳は,硬質の塩ビコンパウンドが約1,000トン,軟質の塩ビコンパウンドが約2,500トン),昭和化成コンパウンドの生産量は,1か月当たり約700ないし800トン(そのほとんどが軟質の塩ビコンパウンドである。),チッソコンパウンドの生産量は,1か月当たり約500トン(内訳は,硬質及び軟質のコンパウンドが半分ずつ程度)であった。(審第20号証ないし第23号証,阿岸鉄也参考人,桑原靖参考人)
ウ 平成13年8月の原料調達方法の変更
平成13年8月までは,昭和化成から委託されて被審人がKVCを製造する場合(被審人受託製造KVC)には,塩化ビニル樹脂等の主原料やモディファイヤーをはじめとする副原料を,被審人が生産又は調達した上で,完成したKVCを昭和化成に引き渡していた。他方,昭和化成がKVCを自社工場で製造する場合や被審人以外の他社に委託して製造する場合には,その主原料や副原料を,昭和化成が被審人又は他の原料供給先から調達していた。
しかし,平成13年8月,被審人がKVCを受託製造する場合においても,昭和化成が,その主原料や副原料を一括して調達した上で,これを被審人に無償で支給し(主原料や副原料の所有権は昭和化成に留保される。),被審人がKVCの受託製造をするという形式の契約に変更された。これにより,被審人受託製造KVCに使用される副原料である塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーについては,もともと被審人が社内購買をする形式で調達していたものが,昭和化成が被審人から一括して塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入した上で,そのうちの被審人受託製造KVC向けのモディファイヤーを被審人に無償で支給する形式に変更された(平成13年8月以降,被審人受託製造KVCに使用される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを,以下「被審人受託製造KVC向けモディファイヤー」という。)。
このように,被審人がKVCを受託製造する場合の原料調達方法が変更されたのは,上記のとおり被審人及び昭和化成において二元化されていた原料調達等の業務を昭和化成に一元化することにより,事務の効率化を図るとともに,スケールメリット(購入量の増加による利益)を利用した調達コストの軽減を図るためであった。
(審第7号証,第18号証,第20号証,第21号証,第23号証,阿岸鉄也参考人)
7 課徴金の計算の基礎
(1) 本件違反行為の実行期間
被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成11年12月31日以前である。また,被審人は,平成15年1月1日以降,当該違反行為を取りやめており,平成14年12月31日にその実行としての事業活動はなくなっている。したがって,被審人については,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成12年1月1日から平成14年12月31日までの3年間となる。
なお,被審人は,本件違反行為の実行としての事業活動は,平成14年11月5日,遅くとも同年12月10日までには終了していると主張するが,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 被審人の売上額
本件違反行為の対象商品(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー)について,上記(1)の実行期間における被審人の売上額は,改正法附則第2条のなお従前の例によることとする規定により,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条の規定に基づき算定すると,100億7639万4127円である。
(3) 本件における係争商品
被審人は,本件違反行為の対象商品(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー)のうち,被審人が昭和化成に対して販売した塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー(別紙に記載のもの。以下「昭和化成向けモディファイヤー」ともいう。)については,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当しないと主張している。
また,被審人は,上記昭和化成向けモディファイヤーのうち,少なくとも,被審人受託製造KVC向けモディファイヤー(別紙のうち,「需要家」欄が「KVC1係」,「KVC2係」又は「加工2課1」とされているもの)は,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当しないと主張している。
第3 本件の争点
独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」の該当性
1 被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーが,「当該商品」に該当するか。
2 被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーのうち,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーが,「当該商品」に該当するか。
第4 争点についての双方の主張
1 争点1(昭和化成向けモディファイヤーの「当該商品」該当性)について
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」について
独占禁止法第7条の2第1項に定める「当該商品」とは,課徴金の対象となる違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいい,独占禁止法は,課徴金によってはく奪しようとする事業者の不当な経済的利益を具体的な法違反による現実的な経済的利益そのものとは切り離して,算定する売上額に一定の比率を乗じて一律かつ画一的に算出された金額をはく奪すべき事業者の経済的利益と擬制しているのであるから,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外していたこと,又はこれと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示すような特段の事情がない限り,当該範囲に属する商品全体が課徴金の算定対象となるというべきである(東京高等裁判所平成22年4月23日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊134頁,公正取引委員会平成22年1月12日審決・同審決集第56巻第1分冊479頁)。
本案審決において認定された本件違反行為の対象商品は,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであるところ,取引先による限定は加えられていないから,被審人が本件実行期間内に販売した昭和化成向けモディファイヤーは,いずれも,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であるといえる。
イ 特段の事情について
以下の各事情を考慮すれば,昭和化成向けモディファイヤーについて,本件違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外していたこと,又はこれと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情は認められないから,昭和化成向けモディファイヤーは「当該商品」に該当し,課徴金算定の対象となる。
(ア) 被審人と昭和化成が親子会社の関係にあるとしても,昭和化成が被審人とは別個の法人格を有し,法律上も独立の取引主体として活動しているものである以上,そのような子会社に販売した商品であるからといって,本件違反行為の対象である商品から除外されるとはいえない。
被審人は,昭和化成が購入する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの選定が被審人の意向で行われていた旨主張し,この主張は,被審人から昭和化成に出向した従業員が塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの選定を行っていたことをその根拠とするものであると推測される。しかし,被審人から昭和化成に出向した従業員が同社の購入・使用する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの選定を行っていたとしても,被審人とは別個の法人格を有し,法律上も独立の取引主体として活動している事業者としての昭和化成が選定している事実には変わりはない。また,現に需要家からの指定等により昭和化成が被審人以外の事業者からも塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入していたことからすれば,昭和化成が被審人以外の事業者からの塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの購入を法律上,あるいは契約上禁じられていなかったことは明らかである。したがって,昭和化成が被審人以外の事業者から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することは可能であり,被審人が主張するように,昭和化成向けモディファイヤーに係る取引が,競争制限が生じたとする市場の埒(らち)外において実施されていたとはいえない。
(イ) 本案審決において,昭和化成が本件合意による値上げ交渉の妥結事例に含まれ,昭和化成向けモディファイヤーが本件違反行為による拘束を受けたものと認定されていることからすれば,被審人と昭和化成との取引実態がどのようなものであるかにかかわらず,昭和化成向けモディファイヤーが「当該商品」に該当することは明らかである。
また,昭和化成向けモディファイヤーも,3社による本件違反行為に基づく販売価格引上げ交渉の状況確認のための会合において報告の対象とされていたことからすれば,昭和化成向けモディファイヤーが,3社間で本件違反行為である相互拘束の対象とされていたことは明白である。
(ウ) 被審人の平成13年度の中期計画の実行計画達成状況に係る内部資料に「年度目標」として「昭和化成の高シェアを維持する」と記載されているとおり,被審人は昭和化成に対する売上げを維持・拡大しようと企図していることがうかがわれる。このことは,昭和化成が被審人以外の者とも取引をし得ることを前提とするものにほかならず,また,被審人において昭和化成が他の主要なユーザーと同等の取引先事業者として扱われていたことを示すものである。これらの事実からすれば,昭和化成が何ら制限を受けず自らの自由意思で取引を行っており,被審人の意向に反して自らの意思で被審人以外の事業者から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することが可能であったことは明らかであり,被審人と昭和化成との間の取引が本件違反行為によって競争制限が生じたとする市場の埒(らち)外において実施されていたなどという被審人の主張に理由がないことも明らかである。
(エ) その他,①被審人の昭和化成に対する議決権割合は約71.37パーセントにすぎなかったこと,②昭和化成の取締役6名のうち被審人からの出向者又は兼任者は4名にすぎなかったこと,③本件違反行為の実行期間において,被審人と昭和化成との塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引は売買契約であり,昭和化成は,被審人等から購入した商品を原料として製造した製品を自ら需要者に対して販売していたこと及び④昭和化成に対する商品の販売条件(支払条件・単価等)は,他社に対する販売条件と比べて異なる点が見当たらないこと等にも照らせば,上記「特段の事情」が存在するとはいえない。
(2) 被審人の主張
ア 以下のとおり,被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーについては,定型的に本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められ,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」には該当しないから,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。
(ア) 子会社が自らの自由意思で親会社以外の他社から当該商品を購入することができない事情が認められる場合には,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められると解すべきである。言い換えれば,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められるか否かは,当該商品の特質や当該商品に関する取引実態を踏まえた上で,当該商品に関する取引が競争制限が生じた市場の埒(らち)外で実施されたものか否かという観点から,個別事案ごとに慎重に判断されるべきである。
平成10年10月に被審人の子会社になった後の昭和化成は,単なる出資関係(持株割合71.37パーセント)にとどまらず,被審人からの過半数の取締役派遣,従業員の出向及び内部統制等を受けつつ,自社及び被審人の塩ビコンパウンド事業を一元化していた。被審人の子会社になった後の昭和化成における塩ビコンパウンド事業全般の運営においては,KVC向けのモディファイヤーのみならず,昭和化成コンパウンド向けのモディファイヤーの選定も被審人の意向に基づいて行われており,需要家からの指定により他社のモディファイヤーを配合せざるを得ない場合や,被審人のモディファイヤーの中に同等の分子量を有する品番が存在しない場合などの例外的な事情が存在する場合を除いて,被審人の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーが選定されていた。また,昭和化成が平成12年4月に事業承継をしたチッソコンパウンドについても,他社の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーが使用されていたのを,被審人の製品に切り替える作業が順次進められていた。そして,競合他社である三菱レイヨン及びクレハ等もこの状況を当然に認識していた。
このような状況に鑑みれば,被審人と昭和化成間の同一企業グループ内取引は,審査官が本件違反行為によって競争制限が生じたとする市場の埒(らち)外において実施されていたものと言うべきであり,定型的に本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められる。
(イ) 審査官は,昭和化成は被審人とは別個の法人格を有し,昭和化成が被審人以外の事業者からの塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの購入を法律上,あるいは契約上禁じられていなかったのであるから,子会社である昭和化成に販売した商品が本件違反行為の対象商品から除外されるとはいえないと主張する。
しかし,発行済株式総数の3分の2以上の株式を保有する親会社は,単独の意思で,子会社の株主総会において特別決議を行うことができ,事業目的を含む定款変更や取締役の解任など子会社経営の根幹に関わる重要事項を決議でき,子会社を解散させることすら可能である。実際に,被審人は,自社から派遣・出向させた役員や従業員をして昭和化成の経営・執行に直接関与させるとともに,昭和化成の方針・計画・予算を統制し,介入していた。このような実質的支配関係がある以上,昭和化成が,被審人とは別個の法人格を有し,被審人以外の事業者からの塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの購入を禁じられていなかったとしても,被審人の意向に反して自らの意思で被審人以外の事業者から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することは不可能であった。よって,被審人と昭和化成間の当該同一企業グループ内取引は,審査官が本件違反行為によって競争制限が生じたとする市場の埒(らち)外において実施されていたものであり,定型的に本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められる。
(ウ) 審査官は,昭和化成向けモディファイヤーについて,本件合意による値上げ交渉の妥結事例に含まれていること,3社による販売価格引上げ交渉の状況確認のための会合において報告の対象とされていたことを主張する。
しかし,昭和化成が被審人以外の他社から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することも例外的にあることから,被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーが,本件合意による価格引上妥結事例に含まれていたり,3社会合における報告対象となっていたことがあったとしても,それにより,直ちに本件違反行為の対象商品に含まれるということにはならない。当該取引は,被審人の意向に反するものではない以上,本件違反行為によって競争制限が生じたとされる市場の埒(らち)外において実施されていたものであり,定型的に本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められる。
イ 課徴金算定の対象となる売上額
審査官の主張する実行期間内に被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーの売上額は,別紙のとおり,5億9006万7177円であるから,上記金額は,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。そうすると,本件違反行為の実行期間における課徴金の対象となる売上額は,前記第2の7(2)の100億7639万4127円から上記5億9006万7177円を控除した94億8632万6950円である。
2 争点2(被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの「当該商品」該当性)について
(1) 審査官の主張
以下の各事情を考慮すれば,被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーのうち,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについて,本件違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外していたこと,又はこれと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情は認められないから,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーは「当該商品」に該当し,課徴金算定の対象となる。
ア 被審人と昭和化成とは別個の法人格を有し,法律上も独立の取引主体として塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引を行っているものであり,昭和化成は,平成13年8月以降,被審人から購入したモディファイヤー等を原料として,自社又は被審人大阪工場をはじめとする委託加工先においてKVCを製造し,これを自ら需要者に対して販売しているものである。被審人から昭和化成に出向した従業員が同社の購入する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの選定を行っていたという点については,被審人とは別個の法人格を有し,法律上も独立の取引主体として活動している事業者である昭和化成が選定していることに変わりはなく,これをもって自家消費と同視できるとする被審人の主張を根拠付ける事情とならないことは明らかである。
イ 平成13年8月までとその後における両社の取引形態は,被審人が昭和化成に対して被審人受託製造KVC向けモディファイヤーを販売しているという点において,さらには,当該被審人受託製造KVC向けモディファイヤーは昭和化成の所有の下で消費されるという点において異なっている。そのため,平成13年8月の前においては,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーに係る企業会計上の売上額が計上される取引関係が存在しなかったのに対し,同月以降はその企業会計上の売上額が計上される取引関係になったのである。したがって,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの販売について,被審人の自家消費と同視できるものとはいえない。
(2) 被審人の主張
ア 以下のとおり,被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーのうち,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについては,定型的に本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められ,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」には該当しないから,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。
(ア) 平成13年8月以降に被審人が昭和化成に販売した被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについても,同月までの調達形態である被審人の自家消費(なお,このような塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引は,課徴金算定の対象とはされていない。)と同視すべきである。すなわち,前記第2の6(3)ウのとおり,平成13年8月,被審人受託製造KVCに使用される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの調達方法について,もともと被審人が社内購買をする形式で調達していたものが,昭和化成が被審人から購入した上で被審人に無償支給する形式に変更されたが,平成13年8月の前後を通じて,さらに言えば,昭和化成が被審人の子会社になる以前,すなわち被審人が製造したKVCを自ら販売していた時期から現在に至るまで,被審人大阪工場において生産されるKVCの製造主体,製造場所,製造方法(モディファイヤーを始めとする原材料の選定方法を含む。)等の製造実態は,何ら変更されておらず,自家消費と同視すべきものである。
(イ) 平成13年8月の前後を通じて,被審人から昭和化成に在籍出向した技術開発担当者がKVCに関する配合剤の選定及び配合方法を全面的に決定し続けており,被審人のKVC向けモディファイヤーが他社の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに切り替えられる余地が全くないことが被審人と昭和化成の間はもとより対外的(競合他社である三菱レイヨン等)にも明らかであったことなどに鑑みれば,同月以降の被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの取引も,自家消費と同視することができる。
イ 被審人が販売した被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの売上額は,別紙のとおり,1億98万1227円であり,少なくとも上記金額は,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。
第5 審判官の判断
1 争点1(昭和化成向けモディファイヤーの「当該商品」該当性)について
(1) 認定事実
前記第2で認定した事実及び証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)によれば,以下の事実が認められる。
ア 被審人における塩ビコンパウンド向け配合剤の決定等
前記第2の5のとおり,被審人は,かつて塩ビコンパウンドの製造販売業を行っており,自らの大阪工場等においてKVCを製造・販売していた。このKVC向けのモディファイヤーを始めとする配合剤の選定及び配合処方については,被審人大阪工場内の技術開発担当者が全面的に決定し,よほど例外的な技術的問題等がない限り,被審人が製造する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーが配合されていた。(審第20号証,第21号証,第22号証,阿岸鉄也参考人,桑原靖参考人)
イ 平成10年10月の昭和化成の子会社化後の経緯等
(ア) 被審人による昭和化成の経営に対する関与等
前記第2の6(3)イのとおり,被審人は,平成10年10月1日,昭和化成を子会社(持ち株割合71.37パーセント)とするとともに,昭和化成に対し,被審人の塩ビコンパウンド事業の国内営業権を譲渡し,その後,昭和化成は,KVC及び昭和化成コンパウンドを製造・販売することになった。昭和化成は,さらに,平成12年4月以降,チッソコンパウンドを製造・販売するようになった。
被審人による昭和化成の子会社化に伴い,昭和化成の取締役6名のうち4名を被審人の役員兼任者又は出向者が占めるようになった。また,従前,被審人において塩ビコンパウンド事業の営業及び技術開発等に携わっていた担当者らは,順次,昭和化成に出向した。(審第11号証,第12号証,第20号証,阿岸鉄也参考人)
さらに,被審人の子会社となった昭和化成の毎年の予算及び中期計画の策定に際して,被審人化成事業部がヒアリングや承認を行ったり,被審人の関連会社支援部が関係会社社長会や関係会社業績報告会等を開催するなどしていた。(審第13号証ないし第16号証,第20号証,第23号証,第24号証,阿岸鉄也参考人)
(イ) 昭和化成における塩ビコンパウンドの生産計画等
昭和化成の生産管理の部署の担当者は,需要者の要望等に応じて,KVC,昭和化成コンパウンド及びチッソコンパウンドの生産計画を立案し,それぞれについて昭和化成が自社工場で製造するもの,被審人に委託して製造するもの及びその他の加工委託先に委託して製造するものの割り振り等を行っていた。その際に,被審人が昭和化成に対し,指示をすることはなかった。(阿岸鉄也参考人)
(ウ) 昭和化成における塩ビコンパウンド向け配合剤の決定等
昭和化成が製造・販売する塩ビコンパウンド(KVC,昭和化成コンパウンド及びチッソコンパウンド)の生産に使用する配合剤の選定や配合方法の決定に際しては,塩ビコンパウンドの需要者が具体的な配合を指定する場合(指定配合)と,需要者が要求特性のみを伝える場合とがある。指定配合がされる割合は,塩ビコンパウンド全体の数パーセント程度である。いずれの場合にも,昭和化成は,各種の配合剤を使用して見本を作り,需要者の確認を経た上で,最終的な配合を確定させる。
需要者が塩ビコンパウンドの要求特性のみを伝える場合には,被審人から出向した技術開発担当者(平成14年9月までは藤田民雄,同年10月以降は桑原靖が責任者であった。)が,塩ビコンパウンド(KVC,昭和化成コンパウンド及びチッソコンパウンド)に使用する配合剤を選定し,配合方法を決定していた。この配合剤の選定及び配合方法の決定に当たり,被審人が指示をすることはなかったが,被審人から出向した技術開発担当者らは,できる限り被審人製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを選定しようと考えていた。実際に,昭和化成が,価格が安いという理由で他社製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを使うことはなかった。
もっとも,需要者による指定配合であるため他社製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを配合せざるを得ない場合や,被審人の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの中に同等の分子量を有する品番が存在しない場合などには,例外的に,被審人製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーが選定されないこともあった。
(審第20号証ないし22号証,第29号証,阿岸鉄也参考人,桑原靖参考人)
(エ) 昭和化成コンパウンド等の配合剤の置き換え作業等
被審人による昭和化成の子会社化前には,昭和化成コンパウンドの配合方法は昭和化成が,チッソコンパウンドの配合方法は事業承継前のチッソ株式会社が,それぞれ決定していたため,これらの塩ビコンパウンドには,被審人製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーだけではなく,三菱レイヨンなど他社製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーも配合されていた。
被審人による昭和化成の子会社化後,被審人から昭和化成に出向した技術開発担当者らは,昭和化成の経営会議の方針に従い,昭和化成コンパウンド及びチッソコンパウンドに配合される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを,できる限り被審人製のものに置き換える作業を行った。この作業は,塩ビコンパウンドの需要者等との間で,実際に塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを置き換えても従前と同等以上の品質を実現できるか否かを慎重に確認し,塩ビコンパウンドの需要者の承認を得た上で,初めて可能になるものである。この作業の結果,最終的に,平成14年10月頃までの間に,昭和化成が販売する塩ビコンパウンドの9割以上について,被審人製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを配合する形に置き換えたが,残りの塩ビコンパウンドについては,需要者による指定配合であることや,被審人の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの中に同等の分子量を有する品番が存在しないことなどを理由に,三菱レイヨンなど他社製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーが配合されている。
なお,被審人が昭和化成に対し,この置き換え作業について,指示をすることはなかった。
(審第20号証,第21号証,第22号証,阿岸鉄也参考人,桑原靖参考人)
(オ) 昭和化成向けモディファイヤーの販売条件等
昭和化成の購買担当者は,被審人との間で,被審人が販売する昭和化成向けモディファイヤーに係る価格交渉を行い,その販売価格を決定していた。(査第8号証,桑原靖参考人)
そして,被審人が昭和化成に対して販売する昭和化成向けモディファイヤーの支払条件及び単価等の販売条件は,被審人がその他のメーカー等に対して販売する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売条件と異なるところはなかった。(審第20号証,阿岸鉄也参考人)
(カ) 昭和化成と被審人以外の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー製造販売業者の関係等
前記(ウ)及び(エ)のとおり,塩ビコンパウンドに配合する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの選定の決定権は,塩ビコンパウンドメーカーの技術開発担当者にあるため,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの営業担当者は,塩ビコンパウンドメーカーの技術開発担当者に対して営業活動を行うのが一般的である。しかし,三菱レイヨン及びクレハ等の他社が,昭和化成の技術開発担当者である藤田民雄や桑原靖に対し,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの営業活動を行ったことはなかった。
もっとも,昭和化成が,被審人以外の事業者から,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することを,法律上又は契約上,禁じられていたわけではなく,前記(ウ)及び(エ)のとおり,実際に,僅かの割合ではあるが,昭和化成の塩ビコンパウンドの原材料として,三菱レイヨンなど他社の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することもあった。
また,三菱レイヨンは,昭和化成との間で,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの値上げ交渉を行ったことがあり,その際,昭和化成は,三菱レイヨンに対し,値上げには応じられないが,被審人の販売する昭和化成向けモディファイヤーが値上げされれば,三菱レイヨンの塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの値上げについても相談に応じる旨述べていた。(査第1号証,阿岸鉄也参考人,桑原靖参考人)
ウ 平成13年8月の原料調達方法の変更後の経緯等
(ア) 原料調達方法の変更等
前記第2の6(3)ウのとおり,平成13年8月,事務の効率化と調達コストの削減を図るため,被審人受託製造KVCに使用される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの調達方法について,もともと被審人が社内購買をする形式で調達していたものが,昭和化成が被審人から一括して塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入した上で,そのうちの被審人受託製造KVC向けモディファイヤーを被審人に無償で支給する形式に変更された。
もっとも,平成13年8月以降も,被審人が生産した被審人受託製造KVC向けモディファイヤーは,被審人大阪工場に直接納入されており,昭和化成に一旦納入された後に被審人に納入される形に変更されることはなかった。(阿岸鉄也参考人)
(イ) 塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引条件の変更等
被審人と昭和化成との間の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引条件は,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーが取引対象ではなかった平成13年8月以前は,①決済条件が月末締め・90日後現金払い,②1キログラム当たりの主要グレードの単価がカネエースPAにつき510円,カネエースBにつき350円,カネエースFMにつき510円であった。これに対し,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーも取引対象に加わった平成13年8月以降の取引条件は,①決済条件が月末締め・130日後現金払い,②1キログラム当たりの主要グレードの単価がカネエースPAにつき450円,カネエースBにつき325円,カネエースFMにつき480円と変更された。(審第20号証,阿岸鉄也参考人)
平成13年8月以降に被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーのうち,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーと,それ以外のものとでは,商品の種類,価格等の点において異なるところはなかった。(阿岸鉄也参考人)
(ウ) KVCの取引条件の変更
被審人と昭和化成との間のKVCの取引条件は,平成13年8月以前は,①決済条件が月末締め・130日後現金払い,②1キログラム当たりの単価が一般硬質につき99.50円,硬質ブローにつき108.70円であった。これに対し,平成13年8月以降の取引条件は,①決済条件が月末締め・130日後現金払い,②1キログラム当たりの単価が一般硬質につき82.10円,硬質ブローにつき75.10円と変更された。このように被審人と昭和化成との間のKVCに関する取引条件(単価)が引き下げられたのは,平成13年8月以前はKVC単価に含まれていた原材料費が,原材料調達方法の変更に伴い,KVC単価に含まれなくなったことが一因であったと考えられる。(審第20号証,阿岸鉄也参考人)
(2) 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」について
独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限等をしたときは,事業者に対し,「当該行為の実行としての事業活動」が行われた期間における「当該商品」の売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。この「当該商品」とは,一定の取引分野における競争を実質的に制限する違反行為が行われた場合において,その対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいうと解される。そして,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一般的に当該違反行為の影響が及ぶものといえるから,当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束を受けたものと推認され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するものと解される(東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊194頁参照)。
被審人は,被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーについて,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当しない旨主張するが,この昭和化成向けモディファイヤーも,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであり,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものであることは明らかである。そこで,被審人の昭和化成向けモディファイヤーについて,本件違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められるか否かを検討する。
(3) 判断
ア 前記(1)イ(ア)のとおり,平成10年10月以降,昭和化成は被審人の子会社であり(持ち株割合71.37パーセント),昭和化成の取締役6名のうち4名を被審人の役員兼任者又は出向者が占め,被審人の営業や技術開発等を担当する従業員が昭和化成に出向し,さらに,被審人は,昭和化成の予算及び中期計画の策定に関与したり,関係会社社長会や関係会社業績報告会等を開催するなどしていた。また,前記(1)イ(ウ)及び(エ)のとおり,昭和化成の子会社化後,昭和化成が製造・販売する塩ビコンパウンド(KVC,昭和化成コンパウンド及びチッソコンパウンド)の副原料である塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーについては,被審人から昭和化成に出向した技術開発担当者が,選定及び決定を行い,需要者による指定配合であるなど例外的な場合を除き,できる限り被審人製の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを選定するようにしていた。そして,実際に,昭和化成が製造・販売する塩ビコンパウンドに使用される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーのうち,被審人製のものの割合が9割以上となった。
このように,被審人と昭和化成とは親子会社として密接な関係があり,両社間の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引は,同一企業グループ内の取引という側面を有する。
しかし,昭和化成は,被審人と別個の法人格を有し,法律上も独立の取引主体として活動しているものである。上記のとおり,被審人から出向した技術開発担当者が,昭和化成が購入する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの選定等の業務を行っているが,その選定等の主体は,あくまでも昭和化成である。また,上記のとおり被審人は昭和化成に役員を派遣して予算や中期計画の決定に関与しているが,これも子会社に対する親会社の一般的な対応の域を出ない。そうすると,被審人と昭和化成との親子会社としての密接な関係や両社の取引が同一企業グループ内の取引にあることを理由に,直ちに,昭和化成向けモディファイヤーが本件違反行為による拘束から除外されているということはできない(上記東京高等裁判所平成22年11月26日判決参照)。
イ 証拠(査第1号証ないし第6号証)によれば,3社の担当者らは,本件違反行為(本件合意)の後,複数回にわたり会合を開催し,本件違反行為に基づく各需要者との値上げ交渉の進捗状況等について相互に報告し合っていたが,そのうち,平成11年11月19日頃,同年12月8日頃,同月17日頃,平成12年12月5日頃,平成13年2月19日頃,同年3月13日頃に開催された各会合において,昭和化成向けモディファイヤーの値上げ交渉の状況等についても報告がされていたことが認められる。これは,昭和化成向けモディファイヤーが本件違反行為の対象とされていたことを示すものといえる。
また,前記(1)イ(オ)のとおり,昭和化成の購買担当者は,被審人との間で,昭和化成向けモディファイヤーに係る価格交渉を行っていたところ,その際の販売条件は,被審人が昭和化成以外の事業者に販売する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売条件と異ならなかったのであるから,昭和化成向けモディファイヤーの価格は,被審人が他社に販売する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの価格と同様に決定されていたものであって,その価格が本件違反行為と無関係に決定されていたとはいえない。
これらの事情によれば,昭和化成向けモディファイヤーについても本件違反行為による拘束が及んでいたことは明らかである。
ウ 被審人は,昭和化成は被審人の意向に反して被審人以外の事業者から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することは不可能であったから,被審人と昭和化成の間の同一企業グループ内取引は,本件違反行為によって競争制限が生じたとされる市場の埒(らち)外において実施されたものであり,本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があると主張する。
前記(1)イ(イ)ないし(エ)及び(カ)のとおり,被審人による子会社化後の昭和化成は,①塩ビコンパウンドの生産計画等の段階,②塩ビコンパウンドの原材料の配合方法の決定の段階及び③昭和化成コンパウンド等に使用される配合剤の置き換え作業の段階において,被審人から具体的な指示を受けることはなく,被審人以外の事業者から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することを,法律上又は契約上禁じられていたわけではない。前記(1)イ(ウ)のとおり,被審人から出向した技術担当者らは,できる限り被審人が製造・販売する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを選定しようと考えていたが,それは,被審人から昭和化成に出向した社員として,昭和化成及びその親会社である被審人の双方に利益となるように,できる限り被審人が製造する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを使おうと意識していたにすぎない(阿岸鉄也参考人及び桑原靖参考人)。昭和化成は,価格が安いことを理由に他社製のモディファイヤーを使うことはなかったが,前記(1)イ(ウ),(エ)及び(カ)のとおり,少ない割合ではあるものの,需要者による指定配合である場合や,被審人の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの中に同等の分子量を有する品番が存在しない場合などには,三菱レイヨン等他社が製造する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入し,配合していた。
また,証拠(査第7号証)によれば,被審人のモディファイヤー事業部における平成13年度の中期計画の実行計画達成状況に係る内部資料において,「年度目標」として「昭和化成の高シェアを維持する」等と記載されていることが認められ,このように被審人が昭和化成に対する塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの高いシェアを維持することを目標にしていたということは,昭和化成が被審人以外の事業者とも塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引をし得ることを前提とするものであるといえる。さらに,前記(1)イ(カ)のとおり,三菱レイヨンは,昭和化成との間で,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの値上げ交渉を行っており,その際,昭和化成が,三菱レイヨンの値上げには応じられないが,被審人の昭和化成向けモディファイヤーが値上げされれば相談に応じる旨述べていたのであり,この事実も,昭和化成が,被審人及び三菱レイヨンの双方と塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの取引をし得ることを前提とするものであるといえる。
加えて,被審人が販売する昭和化成向けモディファイヤーが,本件違反行為の対象商品である塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーと性質が異なる特殊な商品であるなどの事情は認められない。
これらの各事情に照らせば,昭和化成が被審人の意向に反して被審人以外の事業者から塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを購入することが不可能であったとはいえないから,これを理由に,被審人と昭和化成間の取引が本件違反行為によって競争制限が生じたとされる市場の埒(らち)外において実施されたとする被審人の主張は理由がない。
(4) 小括
以上によれば,被審人の昭和化成向けモディファイヤーについて,本件違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められないから,昭和化成向けモディファイヤーは,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
2 争点2(被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの「当該商品」該当性)について
(1) 被審人は,被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーのうち,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについて,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当しない旨主張するが,この被審人受託製造KVC向けモディファイヤーも,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであり,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものであることは明らかである。そこで,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについて,本件違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められるか否かを検討する。
前記第2の6(3)ウのとおり,平成13年8月までは,被審人受託製造KVCに配合される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,被審人が社内購買をする形式で調達していたため,被審人において当該塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの売上額が計上されることはなく,当該部分は課徴金算定の対象とはされていない(当事者間に争いがない。)。しかし,前記第2の6(3)ウのとおり,平成13年8月に被審人受託製造KVCに使用される塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの調達方法が変更され,同月以降,昭和化成が被審人受託製造KVC向けモディファイヤーも含めて塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを一括して被審人から調達することとなったため,被審人の昭和化成に対する被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの売上額が計上されることとなった。このように経理処理上計上されることとなった被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの売上額について,上記特段の事情が認められるか否かが問題となる。
(2) 前記1(1)ウ(ア)のとおり,平成13年8月の前後を通じて,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーは,被審人から昭和化成に一旦納入されずに被審人大阪工場に直接納入され,被審人大阪工場においてKVCの受託製造が行われており,その意味で被審人大阪工場におけるKVCの製造実態は変更されていないといえる。
しかし,前記1(1)ウ(ア)のとおり,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについては,原料調達等の業務を昭和化成に一元化することにより事務の効率化とコストの削減を図るため,調達をする主体が被審人から昭和化成へと変更されたところ,前記1(1)ウ(イ)のとおり,その結果,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの価格は,他の昭和化成向けモディファイヤーの価格と何ら区別されることなく決定されるようになったのであるから,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについても,他の昭和化成向けモディファイヤーと同様に,本件違反行為の影響が及んでいたというほかなく,平成13年8月以前の調達形態であった被審人の自家消費と同視することはできない。
そして,本件違反行為が被審人受託製造KVC向けモディファイヤーの価格決定に影響していたという事実は,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーが被審人から被審人大阪工場に直接納入されていたとか,被審人大阪工場におけるKVCの製造実態が変わらなかったという事実により何ら左右されるものではない。
また,被審人は,昭和化成が被審人から購入していたKVC向けモディファイヤーが他社の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに切り替えられる余地が全くなかったと主張するが,この事実が認められないことは,前記1(3)ウと同様である。
(3) 小括
以上によれば,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーについて,本件違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められないから,被審人受託製造KVC向けモディファイヤーは,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
3 結論
前記1及び2のとおり,被審人が販売した昭和化成向けモディファイヤーは全て独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
これを前提にすると,被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,被審人の売上額100億7639万4127円(前記第2の7(2)参照)に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された6億458万円である。
第6 法令の適用
以上によれば,本件については,独占禁止法第7条の2第1項及び第4項の規定を適用して,被審人に対し,同法第54条の2第1項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。
   
平成24年4月17日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  後 藤   健

審判官  原   一 弘

審判官三輪睦は転任のため署名押印できない。

審判長審判官  後 藤   健

※ 別紙省略。

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