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三菱レイヨン(株)に対する件

独禁法7条の2(独禁法3条後段)

平成22年(判)第13号

課徴金の納付を命ずる審決

東京都港区港南一丁目6番41号
被審人 三菱レイヨン株式会社
同代表者 代表取締役  越 智    仁
同代理人 弁 護 士  岩 下 圭 一
同    佐 藤 水 暁

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官後藤健,審判官原一弘から提出された事件記録に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

              主       文
被審人は,課徴金として金5億4361万円を平成24年7月31日までに国庫に納付しなければならない。

              理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第6と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第54条の2第1項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成24年5月30日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  竹  島  一  彦
委 員  神  垣  清  水
委 員  濵  田  道  代
委 員  小 田 切  宏  之

   健
平成22年(判)第13号

審   決   案

東京都港区港南一丁目6番41号
被審人 三菱レイヨン株式会社
同代表者 代表取締役 越 智   仁
同代理人 弁 護 士 岩 下 圭 一
同          佐 藤 水 暁

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人は,課徴金として金5億4361万円を国庫に納付しなければならない。

理       由
第1 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,他の事業者と共同して,モディファイヤー(プラスチックが有する化学的,物理的性質を損なうことなく,衝撃強度,耐候性,加工性等を改良し,製品物性,外観,生産性等を向上させるために用いられる改質剤)のうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの(以下「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」ともいう。)の販売価格の引上げを決定することにより,公共の利益に反して,我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであるとして,平成21年11月9日,排除措置を命じる審判審決をした(平成16年(判)第3号。以下「本案審決」という。)。
被審人は,東京高等裁判所に対し本案審決の取消しを求める訴えを提起したが,東京高等裁判所は,平成22年12月10日,被審人の請求を棄却する判決を言い渡した。これに対し,被審人は,最高裁判所に対し上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成23年9月30日,上告棄却及び上告不受理の決定をしたため,本案審決は確定した。
2 公正取引委員会は,本案審決を前提として,平成22年6月2日,被審人に対し,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき,課徴金の納付を命じたところ(平成22年(納)第93号),被審人が,同年7月2日,同条第5項の規定に基づく審判手続の開始を請求したため,独占禁止法第49条第2項の規定により当該請求に係る事件について審判手続を開始した(本件審判事件)。
第2 前提となる事実等(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。)
1 本件違反行為者ら
被審人,株式会社カネカ(平成16年9月1日に鐘淵化学工業株式会社から商号変更した者であり,以下「カネカ」という。)及び株式会社クレハ(平成17年10月1日に呉羽化学工業株式会社から商号変更した者であり,以下「クレハ」といい,上記3社を併せて「3社」という。)は,いずれもモディファイヤーの製造販売業を営む事業者である。
2 モディファイヤーについて
(1) モディファイヤーは,プラスチック(合成樹脂)に少量添加することにより,プラスチックが有する化学的,物理的性質を損なうことなく,衝撃強度,耐候性,加工性等を改良し,製品物性,外観,生産性等を向上させるために用いられる改質剤である。
(2) モディファイヤーは,元々,塩化ビニル樹脂に添加するために開発されたものであり,需要の多くは塩化ビニル樹脂に添加して用いられるものであるが,ポリカーボネート(PC)樹脂,ABS樹脂,ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂,エポキシ樹脂など,いわゆる非塩化ビニル樹脂に添加するためのモディファイヤーの需要も増えつつある。(査第1号証,第3号証,第24号証)
被審人においても,元々,塩化ビニル樹脂に添加するためのモディファイヤーの製造販売のみを行っていたが,平成9年頃から,ダイオキシン問題による塩化ビニル樹脂から非塩化ビニル樹脂への転換及び成型メーカーの海外移転に伴う国内の塩化ビニル樹脂の需要の減少等の事情から,非塩化ビニル樹脂に添加するためのモディファイヤーを新たに開発し,改良するなどしている。(審第2号証)
3 塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーについて
(1) 下記5の本件違反行為の対象商品とされている塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーには,①MBS樹脂(透明性を確保しつつ,衝撃強度を向上させるために用いられるもの),②アクリル系強化剤(衝撃強度とともに耐候性を向上させるために用いられるもの)及び③アクリル系加工助剤(MBS樹脂又はアクリル系強化剤を添加した際の加工性等を向上させるために,MBS樹脂又はアクリル系強化剤とともに用いられるもの)の3種類があり,これらは,いずれも3社が共通して製造販売していた。
(2) 被審人は,自らが取り扱うモディファイヤーを「メタブレン」の商品名で製造販売しており,そのうち,①MBS樹脂には「メタブレンCタイプ」,②アクリル系強化剤には「メタブレンWタイプ」,③アクリル系加工助剤には「メタブレンPタイプ」という商品名を付していた。これらの各タイプには,各需要者の用途や要求性能等に応じてそれぞれグレードが設けられており,各グレードの名称には,例えば「C-102」,「P-531」というように,その属するタイプのアルファベットが付されている。(査第7号証,審第2号証,第12号証)
審査官が,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであるとして,被審人に対する課徴金の算定対象であると主張している商品は全て,メタブレンCタイプ,メタブレンWタイプ及びメタブレンPタイプのいずれかに属しており,そのグレードの名称にはC,W又はPのいずれかが含まれている。
4 被審人が製造販売するモディファイヤーについて
被審人が製造販売するメタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーは,元来,塩化ビニル樹脂に添加するためのモディファイヤーであるが,非塩化ビニル樹脂に添加することも可能であり,原則として,同一の商品(同一のグレードに属する商品)であっても,その需要者によって,塩化ビニル樹脂に添加するために販売される場合と,非塩化ビニル樹脂に添加するために販売される場合とがある。もっとも,被審人は,上記各商品の大部分を,塩化ビニル樹脂に添加するために販売しており,非塩化ビニル樹脂に添加するために販売されるのは,ごく僅かの割合にすぎない。
他方,被審人は,「メタブレンEタイプ」など,専ら非塩化ビニル樹脂に添加するために開発したモディファイヤーの製造販売もしている。
被審人は,非塩化ビニル樹脂に添加するためにモディファイヤーを購入する需要者に対しては,専ら非塩化ビニル樹脂に添加するために開発したメタブレンEタイプ等を販売することもあるし,メタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーを非塩化ビニル樹脂のために振り向けて販売することもある。(査第9号証,第24号証,審第1号証の1ないし3,第10号証,第12号証,第19号証,第20号証)
5 本件違反行為
3社は,平成11年10月中旬頃,同年11月21日出荷分から,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を,MBS樹脂及びアクリル系強化剤については1キログラム当たり20円,アクリル系加工助剤については同20円又は25円引き上げる旨を合意し(以下,この合意を「平成11年合意」という。),また,平成12年11月21日までに,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格を,MBS樹脂及びアクリル系強化剤については1キログラム当たり20円,アクリル系加工助剤については同20円又は25円引き上げる旨を合意し(以下,この合意を「平成12年合意」という。),これにより,共同して,公共の利益に反して,我が国における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」又は「本件合意」という。)ものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係るものである。
6 課徴金の計算の基礎
(1) 本件違反行為の実行期間
被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成11年12月31日以前である。また,被審人は,平成15年1月1日以降,当該違反行為を取りやめており,平成14年12月31日にその実行としての事業活動はなくなっている。したがって,被審人については,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成12年1月1日から平成14年12月31日までの3年間となる。
(2) 被審人の売上額
審査官が本件違反行為の対象商品(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー)であると主張する商品について,上記(1)の実行期間における被審人の売上額は,改正法附則第2条のなお従前の例によることとする規定により,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条の規定に基づき算定すると,90億6028万2135円である。
(3) 本件係争商品
被審人は,審査官が本件違反行為の対象商品(塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー)であると主張する商品のうちの一部について,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーではないから,「当該商品」(独占禁止法第7条の2第1項)には該当せず,課徴金算定の対象とはならない旨主張している。被審人が「当該商品」に該当しないと主張している商品は,別紙1ないし3(メタブレンCタイプについて別紙1,メタブレンWタイプについて別紙2,メタブレンPタイプについて別紙3)の「販売先」及び「ユーザー名」欄に記載の需要者に販売した「グレード」欄に記載のグレードの各商品(以下「本件係争商品」という。)である。
第3 本件の争点
被審人が販売した本件係争商品が,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当するか。
第4 争点についての双方の主張
1 審査官の主張
(1) 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」について
独占禁止法第7条の2第1項に定める「当該商品」とは,課徴金の対象となる違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいい,独占禁止法は,課徴金によってはく奪しようとする事業者の不当な経済的利益を具体的な法違反による現実的な経済的利益そのものとは切り離して,算定する売上額に一定の比率を乗じて一律かつ画一的に算出された金額をはく奪すべき事業者の経済的利益と擬制しているのであるから,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外していたこと,又はこれと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示すような特段の事情がない限り,当該範囲に属する商品全体が課徴金の算定対象となるというべきである(東京高等裁判所平成22年4月23日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊134頁,公正取引委員会平成22年1月12日審決・同審決集第56巻第1分冊479頁)。
本件においては,上記特段の事情がない限り,「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」の範ちゅうに属する商品全体が課徴金の算定対象となる。
(2) 本件合意の内容について
本件違反行為の対象商品である「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」とは,本件合意の対象商品を包括的に表現したものにすぎないのであるから,その文言に着目してその意義を解すべきではなく,本件違反行為(本件合意)の内容に沿ってその意義を解すべきである。
そして,クレハにおいて,平成11年ないし12年当時,モディファイヤー担当課長又は部長であった金田仁が,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは3社間の協議の対象とはしていなかった旨供述していること(査第1号証),クレハはモディファイヤーのうち非塩化ビニル樹脂用のものを通常の塩化ビニル樹脂用のモディファイヤーから明確に区別していたことから,本件合意の対象とならなかった非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとは,クレハにおけるエンジニアリングプラスチックス用耐衝撃性改質剤である「クレハパラロイドEXLシリーズ」等専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途のモディファイヤーを意味すると解される。
そうすると,本件違反行為の対象商品である「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」とは,専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途のモディファイヤーを除いた全てのMBS樹脂,アクリル系強化剤及びアクリル系加工助剤を意味すると解すべきである。これは,モディファイヤーの商品としての位置付けを示すものであり,個別の需要者において塩化ビニル樹脂に使用するものを指しているわけではない。
(3) 前記第2の3(2)のとおり,本件係争商品は全て,メタブレンCタイプ,メタブレンWタイプ及びメタブレンPタイプのいずれかに属しているところ,これらの商品は,被審人のカタログにおいて専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途であることを示す記載がされていないことからすると(査第7号証),いずれも「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」といえる。
また,前記第2の4のとおり,メタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーは,基本的には塩化ビニル樹脂と非塩化ビニル樹脂の双方に添加することが可能な商品であること,被審人とアトフィナ・ホランド・ホールディング社との合弁会社であるメタブレンカンパニー社の概要を記載した平成13年11月1日付け文書において,「7.生産品種並びに販売状況(2001年予算)」の「品種」欄に「メタブレンCタイプ(塩ビ用耐衝撃性改質剤)」,「メタブレンWタイプ(塩ビ用耐候性衝撃強度改質剤)」,「メタブレンPタイプ(塩ビ用加工助剤)」と記載されていること(査第9号証)からも,本件係争商品が,専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途のものではなく,「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」であることが裏付けられる。
さらに,被審人は,本件係争商品について,その需要者が非塩化ビニル樹脂の事業者であることから本件違反行為の対象商品に該当しないと主張するが,本件係争商品の需要者のうち,出光石油化学株式会社(以下「出光石油化学」という。),帝人株式会社(以下「帝人」という。),帝人化成株式会社(以下「帝人化成」という。),三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社(以下「三菱エンプラ」という。)及び旭化成株式会社(以下「旭化成」という。)が,本件合意による販売価格引上げ交渉の状況確認のための3社間の会合において報告の対象とされていたことからすれば,これらの需要者に対する取引に本件合意の拘束力が及んでいなかったなどとはいえず,本件合意から本件係争商品が除かれていたなどといえないことは明らかである。
(4) まとめ
以上のとおり,本件係争商品は,いずれも,「専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途のモディファイヤーを除いた全てのMBS樹脂,アクリル系強化剤及びアクリル系加工助剤」,すなわち「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」の範ちゅうに属するものである。
そして,本件係争商品について,被審人が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外していたこと,又はこれと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外していたことを示すような特段の事情もうかがわれない。
したがって,本件係争商品は,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当し,課徴金の算定対象となる。
2 被審人の主張
(1) 以下の各事情に照らせば,本件係争商品は,「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」の範ちゅうに属する商品ではないから,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当せず,課徴金の算定対象から除外すべきである。
ア 本件係争商品の需要者は,いずれも非塩化ビニル樹脂の業界に属しており,旭化成,住友ダウ株式会社,出光石油化学,日東電工株式会社,帝人化成及び三菱エンプラなど,塩化ビニル樹脂の成型やコンパウンド等の事業を全く行っていない事業者が大部分である。
イ 本件係争商品を含む非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,被審人ら3社のほかに,日本エイアンドエル株式会社及びバイエルマテリアルサイエンス株式会社等の会社も販売しており,被審人がバイエルマテリアルサイエンス株式会社に取引先を奪われるなど,3社以外の者との間で激しい競争が行われている。このように,本件係争商品を含む非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,その他の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとは,競争事業者及び競争方法が大きく異なっている。
ウ 本件係争商品は,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとして販売した商品,つまり,他社が非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとして販売している商品が競合品であり,他社の一般的な塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとの代替性がない商品である。
すなわち,本件係争商品は,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野とは異なる非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野という市場において販売されている商品であるから,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品ではない。
エ 被審人は,販売価格の値上げの際,形式的にはモディファイヤー全般についての値上げとして対外的に発表することが多いが,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーと非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとでは,営業戦略として全く異なる判断をしている。被審人が非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーと位置付けている本件係争商品の販売価格の推移をみると,全く値上げしていないものもあれば,逆に値下げしているものもある。
また,メタブレンC,W及びPの各タイプの同一グレードの商品であっても,塩化ビニル樹脂に添加するモディファイヤーとして販売する場合と非塩化ビニル樹脂に添加するモディファイヤーとして販売する場合とでは,価格が全く異なっており,両者は明確に区別されている。(審第10号証)
オ 非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,その機能において塩化ビニル樹脂向けのものよりも高性能が要求されるものであることから,価格よりも品質が重視され,その販売に当たっては,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとは異なる営業手法が用いられる。被審人においても,塩化ビニル樹脂向けの事業と非塩化ビニル樹脂向けの事業とを明確に区別して営業方針を立てており,社内における事業としての位置付けも異なるし,営業方針も全く異なっている。そして,本件係争商品は,いずれも,被審人において非塩化ビニル樹脂向けの事業の商品として分類されている。
カ 審査官は,本件係争商品の需要者のうち,出光石油化学,帝人,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成について,本件合意による販売価格引上げ交渉の状況確認のための3社間の会合において報告の対象とされていたことを指摘する。
(ア) しかし,仮に3社間で,出光石油化学等の需要者に販売するモディファイヤー,すなわち,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーである本件係争商品の販売価格について,何らかの情報交換が行われていたとしても,それは,本件違反行為に基づくものではなく,本件違反行為とは全く関係のない別の事実である。
(イ) 審査官が3社間の会合の内容が記載された書面であるとする査第10号証,第11号証及び第14号証には,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成等について,「非塩ビ」との記載がされている。これは,3社が,帝人化成等に対して販売しているモディファイヤーは,専ら非塩化ビニル樹脂に添加されるものとして,本件違反行為の対象外であると認識していたことを示すものである。
また,被審人の社員が3社の会合について作成した書面とされる査第10号証(11枚目)には,「クレハは非塩ビも値上げを打ち出している模様。非塩ビ向けの値上げについて,当社の姿勢と動きにお聞きしたいとのこと。特にGEについて。旭化成(加工助剤)も相談あり。」と記載されている。旭化成に販売するモディファイヤーも本件違反行為の対象であったのであれば,本件違反行為に従って値上げ交渉をして,その進捗状況を報告し合えば良いだけのことであって,改めて相談を申し入れる必要はないから,上記記載は,3社が,旭化成に販売するモディファイヤーが専ら非塩化ビニル樹脂に添加されるものとして本件違反行為の対象外であると認識していたことを示すものである。
さらに,被審人の社員が3社の会合について作成した書面とされる上記査第10号証(7枚目)には,「・MEP こちらとしてもC-102改が採用間近だし,アナウンスのみ。クレハは『塩ビで決まったらお願いします』と言ったらしい。購買としては,『少量だし,塩ビ業界が決まったら抵抗する力はないですから,,,,』というところか。」と記載されているが,このような記載は,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの値上げと非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの値上げがそれぞれ独立して別々に行われるものであることを明らかにするとともに,三菱エンプラに対しては非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとしての値上げ交渉を行っていることを示している。
(ウ) また,審査官の上記主張によっても,本件係争商品の需要者のうち,出光石油化学,帝人,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成を除く需要者は,本件合意による販売価格引上げ交渉の状況確認のための会合において報告の対象とされていなかったのであるから,これらの需要者に対する取引に本件合意の拘束力が及んでいなかったことは明白である。よって,少なくとも,本件係争商品のうち,上記5社を除く需要者に販売したものは,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーではなく,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品ではない。
(2) C-132E及びC-223Eについて
本件で課徴金納付命令の対象とされているメタブレンC,W及びPの各タイプは,基本的には塩化ビニル樹脂と非塩化ビニル樹脂の双方に添加することが可能な商品である。しかし,メタブレンCタイプのうち「C-132E」と「C-223E」の商品(いずれも本件係争商品の中に含まれている。)は,「C-132」及び「C-223」の商品をエンジニアプラスチック向けに改良して,専ら非塩化ビニル樹脂に添加されるモディファイヤーとして開発し,非塩化ビニル樹脂の事業者にのみ販売している商品である。
よって,少なくとも,本件係争商品のうちC-132E及びC-223Eは,専ら非塩化ビニル樹脂に添加する用途のモディファイヤーであるから,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品ではない。
(3) まとめ
以上のとおり,本件係争商品は,「モディファイヤーのうち塩化ビニル樹脂に添加されるもの」の範ちゅうに属する商品ではないから,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当せず,課徴金の算定対象から除外すべきである。
そうすると,前記第2の6(1)の実行期間における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに係る被審人の売上額は,前記第2の6(2)のとおり審査官が主張する売上額90億6028万2135円から,本件係争商品に係る売上額である2億9538万5500円を控除した87億6489万6635円である。そして,被審人が納付すべき課徴金の額は,この売上額に100分の6を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てて算出される5億2589万円である。
第5 審判官の判断
1 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」について
独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限等をしたときは,事業者に対し,「当該行為の実行としての事業活動」が行われた期間における「当該商品」の売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。この「当該商品」とは,一定の取引分野における競争を実質的に制限する違反行為が行われた場合において,その対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいうと解される。そして,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一般的に当該違反行為の影響が及ぶものといえるから,当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束を受けたものと推認され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するものと解される(東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊194頁参照)。
2 本件合意の対象等について
(1) 証拠(査第1号証,第24号証,審第14号証)によれば,3社は,全てのモディファイヤーではなく,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーのみを本件合意の対象としたことが認められる。そして,上記各証拠によれば,3社がこのように本件合意の対象から非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーを除外し,本件合意の対象を塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに限定した理由は,①非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,近年になって製品開発が活発になったため,塩化ビニル樹脂向けのものよりも需要者との特許関係による制約を受けることが多いこと及び②非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの製品開発についてクレハが他の2社に先行していることなどから,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーについては,3社間で需要者の競合関係が生じて価格競争等になることが少なかったためであると認められる。
(2) 前記第2の4のとおり,被審人が製造販売するメタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーは,元来,塩化ビニル樹脂に添加するためのモディファイヤーであり,非塩化ビニル樹脂に添加することも可能であるため,ごく僅かの割合が非塩化ビニル樹脂に添加するものとして販売されることもあるというものである。したがって,メタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーは,上記(1)のとおり他社と需要者の競合関係が生じることが少ない非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとは異なる。
なお,被審人の製品の中で,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーといえるものとしては,専ら非塩化ビニル樹脂に添加するために開発されたメタブレンEタイプなどがある。
(3) そして,前記第2の3のとおり,メタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーは,3社による本件合意の対象とされた塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーに含まれるMBS樹脂,アクリル系強化剤,アクリル系加工助剤の3種類にそれぞれ対応している。
(4) したがって,メタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーは,いずれも本件合意の対象商品の範ちゅうに属するといえる。そして,本件係争商品も,メタブレンC,W及びPの各タイプのいずれかに属するものである以上,本件合意の対象商品の範ちゅうに属するといえる。
(5) なお,証拠(査第22号証ないし第24号証)によれば,被審人は,本件合意の後,モディファイヤーの値上げの通知や発表を行うに際し,値上げの対象となる商品について,MBS樹脂(メタブレンCタイプ),アクリル系改質剤(メタブレンW,Sタイプ)及びアクリル系加工助剤(メタブレンPタイプ)としたり,モディファイヤーの全グレードとするなどしており,メタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーのうち非塩化ビニル樹脂に添加されるものを区別して,値上げの対象から除外することを示すなどの言動はしていなかったことが認められる。このように,被審人が,モディファイヤーの値上げの通知や発表に際し,本件係争商品を区別して除外する旨を示すなどしていなかったことは,本件係争商品についても本件合意の対象とされていたことを示す事情ということができる。 
(6) また,証拠(査第3号証,第10号証ないし第19号証)によれば,3社の担当者らは,本件合意の後,複数回にわたり会合を開催し,本件合意に基づく各需要者との値上げ交渉の進捗状況等について相互に報告し合っていたが,そのうち,平成11年11月19日頃,同年12月8日頃,同月17日頃,平成12年12月22日頃,平成13年1月24日頃,同年2月19日頃及び同年3月13日頃に開催された各会合において,本件係争商品の需要者である出光石油化学,帝人,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成に対する3社の値上げ交渉の状況も,他の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの需要者に対する交渉状況とともに報告されていたことが認められる。このように,本件係争商品の需要者に含まれる上記5社との値上げ交渉の状況が,3社間の会合において報告の対象とされていたということは,本件係争商品についても本件合意の対象とされていたことを裏付けるといえる。
3 被審人の主張について
(1) 被審人は,本件係争商品の需要者がいずれも非塩化ビニル樹脂の業界に属する事業者であることから,本件係争商品は,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの範ちゅうに属する商品ではなく,「当該商品」に該当しないと主張する。
しかし,特定のモディファイヤーが本件合意の対象商品の範ちゅうに属するか否かは,本件合意の対象が「塩化ビニル樹脂向けモディファイヤー」であるという本件合意の内容に沿って判断すべきであり,そのモディファイヤーの需要者が塩化ビニル樹脂の業界に属するかどうかにより判断すべきではない。そして,前記2のとおり,本件係争商品は,本件合意の対象商品の範ちゅうに含まれるメタブレンC,W及びPのいずれかのタイプに属するのであるから,その需要者が行う事業内容や,需要者が実際に塩化ビニル樹脂に使用したのか,非塩化ビニル樹脂に使用したのかにかかわらず,本件合意の対象商品の範ちゅうに含まれるものである。
(2) 被審人は,①本件係争商品は非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであり,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーは,競争事業者及び競争方法が塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとは異なる及び②本件係争商品は,他社が非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとして販売している商品が競合品であって,他社の一般的な塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとの代替性がない商品であり,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野とは異なる非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売分野という市場において販売されている商品であると主張し,これらの事実によれば,本件合意の対象商品の範ちゅうに属する商品ではないと主張する。
しかし,前記第2の4のとおり,被審人が製造販売するメタブレンC,W及びPの各タイプのモディファイヤーは,塩化ビニル樹脂と非塩化ビニル樹脂の双方に添加することが可能な商品である。これは,本件係争商品についても同様であり,本件係争商品は,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとしてのみ販売可能なわけではなく,塩化ビニル樹脂に添加するために販売される場合と,非塩化ビニル樹脂に添加するために販売される場合があるにすぎない。
そうすると,本件係争商品を非塩化ビニル樹脂に添加するために販売する場合に,塩化ビニル樹脂に添加するために販売する場合と競争事業者及び競争方法が異なり,他社が非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとして販売している商品が競合品となるとしても,本件係争商品は,塩化ビニル樹脂に添加することが可能である以上,他の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーと性質の異なる商品とはいえない。
したがって,本件係争商品が,本件合意の対象商品の範ちゅうに属するとの判断は動かない。
(3) 被審人は,メタブレンC,W及びPの各タイプに属する商品であっても,塩化ビニル樹脂に添加するモディファイヤーとして販売する場合と非塩化ビニル樹脂に添加するモディファイヤーとして販売する場合とでは,価格が全く異なっており,両者は明確に区別されているから,後者に該当する本件係争商品は,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品ではないと主張する。
しかし,上記(2)のとおり,本件係争商品は,他の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーと同様に,塩化ビニル樹脂に添加するものとして販売することが可能であるから,たとえ,非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとして販売される場合に,その価格が塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとして販売される場合と異なるとしても,本件係争商品が他の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーと性質の異なる商品とはいえない。
よって,本件係争商品が本件合意の対象商品の範ちゅうに属するとの判断は左右されない。
なお,同一の商品であっても,塩化ビニル樹脂に添加するモディファイヤーとして販売する場合と非塩化ビニル樹脂に添加するモディファイヤーとして販売する場合で,価格に差があり,後者の価格が前者の価格よりも全般的に高いことをうかがわせる証拠(審第10号証,第13号証の1ないし3,第14号証の1ないし3,第19号証)はあるものの,平成11年合意及び平成12年合意の前後において,本件係争商品の価格の推移が,その他の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの価格の推移と異なることを認めるに足りる証拠はないから,本件係争商品の価格の推移が本件係争商品が本件合意から除外されていたことをうかがわせるとはいえない。
(4) 被審人は,本件係争商品について,非塩化ビニル樹脂向けの事業と位置付け,塩化ビニル樹脂向けの事業とは明確に区別して,それとは異なる営業方針を立てている等と主張する。しかし,このような被審人内部における本件係争商品の位置付けや営業方針の違い等の事情は,本件係争商品の「当該商品」該当性の判断を左右するものではない。
(5) 出光石油化学等との交渉状況が報告されていたことについて
ア 被審人は,3社間の会合において,本件係争商品の需要者のうち出光石油化学,帝人,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成との値上げ交渉の状況が報告されていたとしても,それは,本件違反行為に基づくものではなく,本件違反行為とは全く関係のない別の事実であると主張する。
しかし,前記2(6)のとおり,本件合意に基づく各需要者との値上げ交渉の進捗状況等を報告し合う会合において,本件係争商品の需要者である上記5社との交渉状況が,他の需要者との交渉状況とともに報告されていたのであるから,本件係争商品も本件合意の対象となっていたことが裏付けられるものである。上記5社に関する報告が本件合意とは関係のない別の事実であるとする被審人の主張は,不自然であって,採用することができない。
イ 証拠(査第10号証,第11号証,第14号証)によれば,本件合意の後に3社間で開催された会合の内容が記載された書面において,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成等につき,「非塩ビ」と記載されていることが認められる。被審人は,この記載について,3社が,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成等に対して販売しているモディファイヤーを,専ら非塩化ビニル樹脂に添加されるものであって,本件違反行為の対象外であると認識していたことを示すものである等と主張する。
確かに,上記「非塩ビ」との記載からは,3社が,帝人化成,三菱エンプラ及び旭化成等を非塩化ビニル樹脂の業界に属する需要者であると認識していたことが認められる。しかし,前記(1)のとおり,メタブレンC,W及びPのいずれかのタイプに属する本件係争商品については,需要者が行う事業内容や,需要者が実際に塩化ビニル樹脂に使用したのかどうかにかかわらず,本件合意の対象商品の範ちゅうに含まれるものというべきであるから,3社が上記のような認識を有していたからといって,非塩化ビニル樹脂の業界に属する需要者に対して販売された本件係争商品が本件合意の対象商品の範ちゅうに属するとの判断は左右されない。
ウ 査第10号証(11枚目)によれば,被審人の社員が3社の会合について作成したとされる書面中に,「クレハは非塩ビも値上げを打ち出している模様。非塩ビ向けの値上げについて,当社の姿勢と動きにお聞きしたいとのこと。特にGEについて。旭化成(加工助剤)も相談あり。」との記載があることが認められる。被審人は,この記載について,旭化成に販売するモディファイヤーも本件合意の対象であったのならば,その値上げについて改めて相談を申し入れる必要はないから,上記記載は,3社が,旭化成に販売するモディファイヤーが本件合意の対象外であると認識していたことを示すものであると主張する。しかし,この箇所の「非塩ビ」,「非塩ビ向けの値上げ」の意味や,本件合意との関係は明確ではなく(例えば,本件合意の対象商品以外のモディファイヤーやその値上げを指すことが考えられる。),この記載をもって被審人が主張する事実を認めることはできない。
エ 査第10号証(7枚目)によれば,被審人の社員が3社の会合について作成したとされる書面中に,「・MEP こちらとしてもC-102改が採用間近だし,アナウンスのみ。クレハは『塩ビで決まったらお願いします』と言ったらしい。購買としては,『少量だし,塩ビ業界が決まったら抵抗する力はないですから,,,,』というところか。」と記載があることが認められる。被審人は,この記載について,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの値上げと非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの値上げがそれぞれ独立して別々に行われるものであることや,三菱エンプラに対しては非塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーとしての値上げ交渉を行っていることを示すと主張する。
しかし,「クレハは『塩ビで決まったらお願いします』と言った」との部分は,クレハが,本件合意の対象商品について塩化ビニル樹脂の業界に対する値上げが決まったら,三菱エンプラも本件合意の対象商品の値上げを受け入れてほしいと言ったと理解することが可能であるから,この記載をもって,被審人が主張する事実を認めることはできない。
オ 被審人は,本件係争商品の需要者のうち,上記5社を除く需要者は,3社間の会合において報告の対象とされていなかったから,これらの需要者に対する取引に本件合意の拘束力が及んでいなかったと主張する。
しかし,前記2のとおり,本件係争商品は,本件合意の対象商品の範ちゅうに属するといえるのであって,3社間の会合において,上記5社を除く需要者との交渉状況が報告されていなかったとしても,それにより,直ちに,これらの需要者に対して販売された商品が,本件合意の対象から除外されていたということはできない。
(6) C-132E及びC-223Eについて
被審人は,本件係争商品のうち,C-132E及びC-223Eは,専ら非塩化ビニル樹脂に添加されるモディファイヤーとして開発し,非塩化ビニル樹脂の事業者にのみ販売している商品であるから,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品ではないと主張する。そして,証拠(審第20号証)によれば,C-132Eは,被審人が,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであるC-132(メタブレンCタイプに属する。)を,日東電工株式会社が非塩化ビニル樹脂であるエポキシ樹脂を使った半導体に添加するために改良した商品であり,C-223Eは,開発された経緯は不明であるものの,被審人が,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであるC-223(メタブレンCタイプに属する。)を,三菱エンプラ及び帝人化成等が非塩化ビニル樹脂であるポリカーボネート樹脂に添加するために改良した商品であることが認められる。
しかし,C-132E及びC-223Eの性質が,その他のメタブレンCタイプのモディファイヤーと具体的にどのように異なるのかは本件全証拠によっても明らかではなく,C-132E及びC-223Eは,いずれも,塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーであるC-132及びC-223を改良したものにすぎないから,他の本件係争商品と同様に,塩化ビニル樹脂に添加することが可能であると推認され,これを覆すに足りる証拠はない。
また,モディファイヤーの値上げの通知や発表に際し,被審人がC-132E及びC-223Eを特に区別して除外する旨を示すなどしていなかったことは,前記2(5)と同様である。
そうすると,C-132E及びC-223Eは,他の本件係争商品と同様に,本件合意の対象商品の範ちゅうに属するということができ,この判断は,これらの商品が,専ら非塩化ビニル樹脂に添加されるモディファイヤーとして開発され,現実には非塩化ビニル樹脂の事業者にのみ販売されているとしても,左右されるものではない。
4 特段の事情について
前記2及び3で検討したところによれば,本件違反行為を行った被審人が,本件係争商品について,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。
5 結論
以上のとおり,被審人が販売した本件係争商品は,本件合意の対象商品の範ちゅうに属する商品であると認められ,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
これを前提にすると,被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,被審人の売上額90億6028万2135円(前記第2の6(2)参照)に100分の6を乗じて得た額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された5億4361万円である。
第6 法令の適用
以上によれば,本件については,独占禁止法第7条の2第1項及び第4項の規定を適用して,被審人に対し,同法第54条の2第1項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。
   
平成24年4月11日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  後 藤   健

審判官  原   一 弘

審判官三輪睦は転任のため署名押印できない。

審判長審判官  後 藤   健

※ 別紙省略。

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