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一般社団法人日本音楽著作権協会に対する件

独禁法66条3項

平成21年(判)第17号

排除措置命令を取り消す審決

東京都渋谷区上原三丁目6番12号
被審人 一般社団法人日本音楽著作権協会
同代表者 理   事 菅 原 瑞 夫
同代理人 弁 護 士 田 中   豊
同          藤 原   浩
同          矢 吹 公 敏
同          鈴 木 道 夫
同          市 村 直 也
同          髙 木 加奈子

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官後藤健,審判官真渕博及び審判官山田健男から提出された事件記録に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
平成21年2月27日付けの排除措置命令
(平成21年(措)第2号)を取り消す。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第3項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成24年6月12日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  竹  島  一  彦
委 員  神  垣  清  水
委 員  細  川     清
委 員  小 田 切  宏  之

平成21年(判)第17号

審   決   案

東京都渋谷区上原三丁目6番12号
被審人 一般社団法人日本音楽著作権協会
同代表者 理   事 菅 原 瑞 夫
同代理人 弁 護 士 田 中   豊
同          藤 原   浩
同          矢 吹 公 敏
同          鈴 木 道 夫
同          市 村 直 也
同          髙 木 加奈子

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
平成21年2月27日付けの排除措置命令
(平成21年(措)第2号)を取り消す。

理       由
第1 審判請求の趣旨
主文と同旨。
第2 事案の概要
被審人は,著作権者から音楽著作権の管理を受託した楽曲の利用を放送事業者等に許諾し,使用料を徴収して著作権者に分配する事業を営む者である。
被審人は,放送等利用に係る音楽著作権の大部分の管理を受託しており,ほとんど全ての放送事業者との間で音楽著作物の利用許諾契約を締結し,楽曲の利用の有無や回数に関係なく当該放送事業者の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で音楽著作物の放送等利用に係る使用料を算定し,徴収している。
本件は,被審人による使用料の算定において,放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占める被審人が管理を受託した音楽著作物の割合が反映されておらず,放送事業者が,被審人以外の著作権管理事業者の管理する楽曲を利用すると追加負担が生じるため,それらの楽曲をほとんど利用しないこととなり,被審人以外の著作権管理事業者は放送等利用に係る音楽著作権の管理を受託することができず,放送等利用に係る音楽著作権の管理事業を営むことが困難になった,したがって,被審人による上記のような使用料の算定,徴収は他の著作権管理事業者の事業活動を排除するものであり,独占禁止法第2条第5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当するなどとして,公正取引委員会が,被審人に対して,同法第3条に違反することを理由に,同法第7条第1項の規定に基づき,平成21年(措)第2号排除措置命令書により排除措置命令を行ったところ,被審人が,独占禁止法第3条違反の成立を争い,当該排除措置命令の全部の取消しを求めて審判を請求した事案である。
第3 本件の基本的事実
当事者間に争いがない事実及び公知の事実並びに証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)を総合すれば,以下のとおり認められる(以下において,証拠を掲記していない事実は,争いがない事実又は公知の事実として認められる。)。
1 被審人について
被審人は,肩書地に主たる事務所を置き,音楽の著作物(以下「音楽著作物」という。)の著作権(以下「音楽著作権」という。)に係る著作権管理事業(以下「管理事業」という。)を営む者(以下「管理事業者」という。)である。
2 管理事業について
(1) 管理事業とは,我が国において,音楽著作権を有する作詞者及び作曲者(以下「著作者」という。)並びに著作者より音楽著作権の譲渡を受けた音楽出版社(個人の著作者の多くは,音楽著作権を音楽出版社に譲渡している。以下,著作者と音楽出版社を合わせて「著作権者」ということがある。)から音楽著作権の管理の委託を受け,音楽著作物の利用者に対し,著作権を管理する音楽著作物(以下「管理楽曲」という。)の利用を許諾し,その利用に伴い当該利用者から使用料を徴収し,管理手数料を控除して著作権者に分配する事業である。
(2) 管理事業者が管理事業を行うに当たり,大別して,利用者に対する利用許諾,利用者からの使用料の徴収,著作権者への使用料の分配という3つの業務が存在する。
利用者に対する利用許諾には,楽曲を特定して利用を許諾する「曲別許諾」と,楽曲を特定せずに管理事業者が管理する全ての楽曲の利用を包括的に許諾する「包括許諾」がある。
利用者からの使用料の徴収には,1曲1回の曲別使用料に利用楽曲数を乗じた金額を徴収する「個別徴収」と,楽曲の利用の有無や回数にかかわらず定額又は定率によって算出される包括的な使用料を徴収する「包括徴収」がある。利用許諾が「曲別許諾」の場合には必然的に「個別徴収」により使用料を徴収することとなる一方,利用許諾が「包括許諾」の場合には,使用料を「包括徴収」により徴収することが多いが(包括許諾と包括徴収を内容とする契約は「ブランケット契約」,「包括契約」などと称されることがある。),「個別徴収」により徴収する場合もある。
著作権者への使用料の分配に関しては,使用料が「個別徴収」によって徴収された場合には,使用料と楽曲との対応が明らかなので,使用料は,管理事業者が管理手数料を控除した上で,当該楽曲の著作権者に対して分配される。他方,使用料が「包括徴収」によって徴収された場合には,別途,利用者から報告される楽曲の利用実績のデータを基に,徴収した使用料を著作権者に分配する作業が必要となるところ,分配の方法には,利用者から報告されるデータの差異によって,利用者からの全曲報告に基づく場合と,利用者からのサンプリング報告に基づく場合がある。
(審第38号証)
3 管理事業法について
(1) 管理事業法の制定
管理事業は,平成13年10月1日に著作権等管理事業法(平成12年法律第131号。以下「管理事業法」という。)が施行されるまでの間は,著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(昭和14年法律第67号。以下「仲介業務法」という。)の規定に基づく許可制とされており,音楽著作権については,事実上,被審人のみが上記許可を受けて管理事業を営んでいた。
しかし,平成13年10月1日,管理事業法が施行されるとともに仲介業務法が廃止され,同日以降は,管理事業法の規定に基づき,文化庁長官の登録を受け管理委託契約約款及び使用料規程を文化庁長官に届け出ることにより管理事業を営むことが可能となった。
(2) 管理事業法による規制の概要
管理事業法は,管理事業者について登録制度を実施し,管理委託契約約款及び使用料規程の届出及び公示を義務付ける等その業務の適正な運営を確保するための措置を講ずることにより,著作権等の管理を委託する者を保護するとともに,著作物,実演,レコード,放送及び有線放送の利用を円滑にし,もって文化の発展に寄与することを目的としている(第1条)。
文化庁長官の登録(第3条)を受けた管理事業者は,管理委託契約約款と使用料規程を定めて,あらかじめ,文化庁長官に届け出る必要があり,それを変更する場合も同様とされている(第11条,第13条)。使用料規程に関しては,管理事業者は,これを定め,又は変更しようとするときは,利用者又はその団体からあらかじめ意見を聴取するように努めなければならず(第13条第2項),使用料規程に定める額を超える額の使用料を請求してはならない(同条第4項)。なお,管理事業者は,正当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないこととなっている(第16条)。
文化庁長官は,著作物等の種類及び利用方法に応じた利用区分において,一定の要件を満たす管理事業者を当該利用区分に係る指定管理事業者として指定することができ(第23条第1項),指定管理事業者は,当該利用区分に係る利用者代表から使用料規程に関する協議を求められたときは,これに応ずる義務がある(同条第2項)。指定管理事業者が協議に応じず,又は協議が成立しなかった場合であって,利用者代表から申立てがあったときは,文化庁長官は,指定管理事業者に対して協議の開始等を命ずることができる(同条第4項)が,それでも協議が成立しないときは,文化庁長官が,当事者からの申請に基づいて,一定の手続を経て裁定をする仕組みが設けられている(第24条第1項ないし第5項)。
使用料規程を変更する必要がある旨の裁定があったときは,その使用料規程は裁定の内容に従って変更され(同条第6項),他方,指定管理事業者と利用者代表との協議が成立したときは,指定管理事業者は,その結果に基づいて使用料規程を変更しなければならない(第23条第5項)。被審人は,放送等(放送及び当該放送用の録音)利用を含むほとんどの利用区分において文化庁長官から指定管理事業者として指定を受けている(審第38号証)。
文化庁長官は,管理事業者の業務又は財産の状況について報告させたり,その職員をして管理事業者の事業所に立ち入って業務の状況等を検査させることができる(第19条)ほか,管理事業者の業務の運営に関して委託者又は利用者の利益を害する事実があると認めるときは業務改善命令を発することができ(第20条),さらには,管理事業者が一定の要件に該当する場合にはその登録を取り消したり,業務停止命令を発することができる(第21条)。
4 被審人における管理事業の概要
(1) 著作権者との関係
被審人は,管理事業法上の「管理委託契約約款」として,被審人と著作権者との委託契約の内容を定めた「著作権信託契約約款」,著作権者への使用料の分配方法を定めた「著作物使用料分配規程」,使用料分配の際に控除する管理手数料率を定めた「管理手数料規程」等10の規程を設けており,これらを管理事業法に基づいて文化庁長官に届け出ている。
著作権者は,著作権を信託財産として被審人に移転し,契約上は受益者の地位に立つ(著作権信託契約約款第3条)。信託期間は原則3年であり,一定の事由がなければ,従前と同一の条件で契約が更新されることとされている(同約款第8条,第9条)。
(査第8号証,審第38号証)
(2) 音楽著作物の利用者との関係
被審人との間で放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾に関する契約(以下「利用許諾契約」という。)を締結している放送事業者(放送法等の一部を改正する法律(平成22年法律第65号。以下「放送法等改正法」という。)による改正前の放送法(昭和25年法律第132号)第2条第3号の2に規定する放送事業者及び放送法等改正法による廃止前の電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)第2条第3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち衛星役務利用放送(放送法施行規則の一部を改正する省令(平成23年総務省令第62号)による廃止前の電気通信役務利用放送法施行規則(平成14年総務省令第5号)第2条第1号に規定する衛星役務利用放送をいう。)を行う者)は,①日本放送協会(以下「NHK」という。),②地上波放送を行う一般放送事業者(これらの放送事業者には,社団法人日本民間放送連盟(以下「民放連」という。)に加盟する放送事業者(以下,民放連に加盟し,地上波放送を行う一般放送事業者を「民間放送事業者」という。)とコミュニティ放送を行う放送事業者が含まれる。),③衛星放送を行う一般放送事業者(以下「衛星放送事業者」という。),④放送大学学園に大別することができる。
被審人が管理事業法に基づいて届け出た使用料規程においては,放送等使用料の徴収方法として,包括徴収と個別徴収が定められているが,個別徴収を選択すると,1曲1回の利用ごとに被審人から放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾を受けなければならず,かつ,1曲1回の利用に係る放送等使用料が6万4000円と高額であって,包括徴収による場合に比して,放送等使用料の総額が著しく高くなる。
そのため,上記①ないし④のほとんど全ての放送事業者は,被審人との間で放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結している。
なお,被審人は,前記3(2)のとおり,ほとんどの利用区分において管理事業法上の指定管理事業者に指定されているため,使用料規程について利用者代表から協議を求められた場合にはこれに応ずる義務があるほか,利用者代表との協議が成立した場合には,その結果に従って使用料規程を変更する義務を負うことから,放送等利用については,事前に,放送事業者又は放送事業者の団体と協議を行い,その都度,そこで合意した内容を使用料規程に反映させて,文化庁長官に届け出ている。
(査第3号証,第9号証ないし第24号証,審第38号証)
(3) 音楽著作物の利用者からの利用報告について
被審人は,放送等利用に係る管理事業において,著作権者に対してより精度の高い放送等使用料の分配を行うために,放送事業者が放送番組で利用した被審人管理楽曲を全曲被審人に電子的な形で報告できる仕組みの構築を目指して,放送楽曲報告受付システム(以下「J-BASS」という。)を開発し,これを平成15年10月から利用している。放送事業者は,放送番組で利用した楽曲をデータ化し,J-BASSに送信することにより,それまでの紙媒体による利用曲目報告に替えることができるようになった。
しかし,このJ-BASSへの電子データ報告を実施するには,放送事業者において自ら利用した楽曲をデータ化する作業が必要となるところ,この電子データ化の仕組みや方法は,それぞれの放送事業者によって異なるものであるため,放送事業者によるJ-BASSへの利用楽曲の報告内容は,放送事業者により,全曲報告であったり,一部の楽曲の報告にとどまったりしていた。その結果,平成18年度には,民間放送事業者から被審人に報告された利用楽曲総数(推計)に占めるJ-BASSへの電子データ報告数の割合は約31パーセントであり,電子データをJ-BASSに送信することにより完全な全曲報告を行っている放送事業者数は,民放連に加盟しているFMラジオ局53社のうちの39社であった。
被審人は,放送事業者からの全曲報告を促進するべく,民放連との間で,平成19年3月6日付けの「利用曲目報告に関する覚書」を締結し,民放連の会員である一般放送事業者が電子データによる全曲報告を行えば,放送等使用料の減額を行うこととしており,その減額幅は,最大で5パーセントである。なお,NHKは,平成13年以降,J-BASSによることなく被審人に対しておおむね全曲報告を行っている。
また,J-BASSを通じて楽曲報告を行っている放送事業者は,当該楽曲が被審人の管理楽曲であるか否かを区別していないことから,被審人は,J-BASSのデータを分析することにより,他の管理事業者の管理楽曲についても放送における利用状況を把握することができる。
(査第11号証,審第4号証の1ないし第6号証,第9号証,第38号証)
5 被審人とNHK及び民放連との利用許諾契約の締結状況
(1) NHK
被審人とNHKは,昭和53年度以降を対象とする利用許諾契約において,初めて放送等使用料を包括徴収により徴収する旨の条項を設け,以後,徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を数年ごとに締結している。
被審人とNHKは,平成11年4月頃から,平成13年度以降の利用許諾契約締結に向けて交渉を行い,この交渉の中で,被審人は,我が国の放送等使用料は先進諸国の水準と比べて低過ぎるとして,従前導入された100分の50の調整係数(放送等使用料の急激な増加を緩和するため,従前の利用許諾契約で放送等使用料に乗ずるものとして定めた係数)の撤廃等を求めた。
この交渉の結果,被審人は,NHKとの間で,平成13年4月1日から平成23年3月31日までの期間について,平成13年11月1日付けで利用許諾契約を締結した。
この利用許諾契約においては,上記の調整係数が撤廃され,放送等使用料の算定の基礎も従来の受信料収入から放送事業収入へ拡大され,NHKの各年度の放送等使用料は,当該年度の前年度における放送事業収入(消費税を含まない。)に1.5パーセントを乗じて得た額とされた。ただし,放送等使用料の急激な増加を避けるため,年度係数を設け,放送等使用料の額は段階的に増えることとされた。
(査第3号証,第10号証,第11号証,第27号証,審第32号証,第38号証)
(2) 民放連
被審人は,まず,民間放送事業者全てから委任を受けた民放連との間で,管理楽曲の放送等使用料の算定方法について協定を締結し,その後,個々の民間放送事業者との間で,放送等使用料の算定方法については被審人と民放連の協定の定めによるという形で利用許諾契約を締結している。
被審人と民放連は,NHKと同様,昭和53年度以降を対象とする協定において,初めて放送等使用料を包括徴収により徴収する旨の条項を設け,以後,徴収方法を包括徴収とする協定を数年ごとに締結している。
被審人と民放連は,平成11年4月頃から,平成13年度以降の協定締結に向けて交渉をし,この交渉の中で,被審人は,NHKとの上記交渉と同様に,我が国の放送等使用料は低過ぎるとして,従前導入された100分の50の調整係数の撤廃等を求めた。
この交渉の結果,被審人は,民放連との間で,平成13年4月1日から平成18年3月31日までの期間について,平成13年7月30日付けで音楽著作物の放送等利用に関する協定を締結した上,被審人と民間放送事業者は,この協定に基づき,それぞれ利用許諾契約を締結した。この協定において,民間放送事業者の各年度の放送等使用料は,当該年度の前年度における放送事業収入(消費税を含まない。)に1.5パーセントを乗じて得た額とされ,当該放送事業収入の中に番組制作収入を含むこととされたが,上記調整係数の撤廃については,次の協定締結の際の協議事項とすることとされ,協定の有効期間は5年とされた。
被審人と民放連は,平成17年4月頃から平成18年度以降の協定締結に向けて交渉をしたが,上記調整係数の撤廃について意見が対立したため平成13年に締結した協定の有効期間の末日である平成18年3月31日までに協定を締結することができず,しばらくの間,被審人と民間放送事業者との間で利用許諾契約のない状態が続いた。
被審人と民放連は,平成18年9月21日付けで,平成18年4月1日から平成25年3月31日までの期間について,平成18年4月1日に遡って音楽著作物の放送等利用に関する協定(以下「民放連平成18年協定」という。)を締結し,被審人と民間放送事業者は,この協定に基づき,同年9月28日付けで,それぞれ利用許諾契約を締結した。
この協定において,民間放送事業者の各年度の放送等使用料は,当該年度の前年度における放送事業収入(消費税を含まない。)に1.5パーセントを乗じた額として維持した上,上記の調整係数を撤廃する代わりに,番組と番組の間のスポットCM(放送広告)で利用された楽曲に関しては,広告代理店が被審人に対してCM放送使用料を別途支払っているため,放送事業収入からスポットCMに係る収入相当額を控除する趣旨で放送等使用料を25パーセント減額するとともに,放送等使用料の額が段階的に増えるように年度係数を設けた。
(査第3号証,第12号証ないし第15号証,第23号証,第24号証,第27号証,審第33号証,第38号証)
6 管理事業法施行後の新規参入の状況
(1) 平成13年10月1日の管理事業法の施行に伴い,被審人のほか,株式会社イーライセンス(以下「イーライセンス」という。),株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス(以下「JRC」という。),ダイキサウンド株式会社(以下「ダイキサウンド」という。)及び株式会社アジア著作協会(平成15年4月30日までの商号は株式会社韓日著作協会。以下「アジア著作協会」という。)も,順次,管理事業を開始した。
(2) 音楽著作物の利用方法には,放送等利用のほかに,録音等に係る利用,インタラクティブ配信(インターネット等を利用した配信をいう。)に係る利用,業務用通信カラオケに係る利用等があるところ,管理事業者は,これらのうち一部の利用方法に限定して文化庁長官の登録を受けることができる(管理事業法第4条第1項第4号)。また,著作権者も,音楽著作物の利用方法ごとに管理事業者を選択して音楽著作権の管理を委託することができる。
イーライセンス,JRC及びダイキサウンドは,放送等利用については管理事業を開始せず,アジア著作協会は,放送等利用について管理事業を開始したが,放送等使用料を徴収しなかったため,平成18年9月までの間は,放送等利用に係る管理事業を行い,放送事業者から放送等使用料を徴収していた事業者は被審人のみであった。こうして,放送等利用に係る音楽著作権のほとんど全てを被審人が管理しているため,全ての放送事業者は,被審人との間で利用許諾契約を締結し,被審人の管理楽曲をその放送番組において利用している。
(査第5号証ないし第7号証,第9号証ないし第22号証)
7 イーライセンスの放送等利用に係る管理事業への新規参入
(1) イーライセンスは,平成12年9月に設立され,管理事業を営む者である。イーライセンスは,平成14年4月から,レコード,ビデオグラム等の録音権とインタラクティブ配信の分野で管理事業を営んでいた。(査第4号証)
(2) イーライセンスは,平成18年4月から放送等利用に係る管理事業を営むことができるよう,平成17年7月にNHKと民放連に対して協議の開始を申し入れた。(査第4号証,第25号証,三野明洋参考人審尋速記録)
ア  NHKとの協議
イーライセンスは,当初,NHKに対し,NHKと被審人との利用許諾契約と同様に,音楽著作物の利用許諾の方法を包括許諾,放送等使用料の徴収方法を包括徴収とし,放送等使用料は,NHKの放送事業収入に1.5パーセントを乗じた額に,イーライセンスと被審人の録音権の使用料徴収額の比率に基づいた「管理事業者係数」を乗じた金額とすることを提案した。しかし,NHKは,イーライセンスの管理楽曲数が不明であり,イーライセンスの管理楽曲を実際にどの程度利用するか不明であったことなどから,包括許諾,個別徴収の方法を主張した。
イーライセンスとNHKは,平成18年初頭に,当面,包括許諾,個別徴収の方法を採ることに合意し,その後,個別徴収の放送等使用料の額をめぐって交渉を継続し,平成18年9月13日,利用許諾の方法を包括許諾とし,放送等使用料の徴収の方法を個別徴収とする平成18年8月31日付けの合意書を締結し,イーライセンスが放送等利用に係る音楽著作権を管理する楽曲(以下「イーライセンス管理楽曲」という。)で,NHKが利用したものについて全曲報告を行うことで合意した。
さらに,イーライセンスとNHKは,平成19年2月,イーライセンス管理楽曲の使用報告や放送等使用料の支払方法の詳細について合意した。
(査第4号証,第11号証,審第32号証,石井亮平参考人審尋速記録)
イ  民放連との協議
イーライセンスは,当初,民放連に対し,音楽著作物の利用許諾の方法を包括許諾,放送等使用料の徴収方法を包括徴収とした上で,放送等使用料は,各放送事業者の放送事業収入に1.5パーセントを乗じた額に,インタラクティブ配信の分野での実績を基に,イーライセンスと被審人の録音権の使用料徴収額の比率に基づいた「管理事業者係数」を乗ずる形とすることを提案した。
イーライセンスと民放連は,平成18年4月以降,包括許諾,個別徴収の方法を採ることを前提に,個別徴収の放送等使用料の額をめぐって交渉を継続し,平成18年10月31日,利用許諾の方法を包括許諾とし,放送等使用料の徴収の方法を個別徴収とする同年9月28日付けの「音楽著作物の利用に関する合意書」(査第31号証)を締結した。
イーライセンスと民放連は,平成19年2月,イーライセンス管理楽曲の使用報告,放送等使用料の支払方法の詳細,実施細則等について覚書を締結した。
なお,株式会社テレビ朝日(以下「テレビ朝日」という。),株式会社東京放送(以下「東京放送」という。)及び株式会社Kiss-FM KOBE(以下「Kiss-FM」という。)は,イーライセンスと利用許諾契約を締結したが,株式会社エフエム東京(以下「エフエム東京」という。),株式会社J-WAVE(以下「J-WAVE」という。),株式会社エフエムナックファイブ(以下「NACK5」という。),株式会社ベイエフエム(以下「ベイエフエム」という。)を含む多くの放送事業者のほか,コミュニティエフエム放送事業者及び衛星放送事業者はイーライセンスと利用許諾契約を締結していない。
(査第23号証,第24号証,第32号証,第40号証ないし第42号証,第52号証,審第23号証,第24号証,第33号証ないし第35号証,三野明洋参考人審尋速記録,深尾隆一参考人審尋速記録,髙橋英夫参考人審尋速記録,吉田乾朗参考人審尋速記録)
8 エイベックス・グループのイーライセンスに対する音楽著作権の管理委託及びその解約
(1) エイベックス・エンタテインメント株式会社は,音楽・映像コンテンツの制作,楽曲の管理等の業務を行う株式会社であり,株式会社エイベックス マネジメントサービスは,主にコンサルタント業務を行う会社であり,エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社(以下「エイベックス・グループ・ホールディングス」という。)は,この2社を含む関連会社全体の管理・統括を行う持株会社である。これらの3社等は,楽曲の管理業務を共同で行っている(以下,エイベックス・グループ・ホールディングス及びその子会社を「エイベックス・グループ」という。)。(査第33号証,第34号証,審第37号証)
(2) 音楽出版社等は,音楽著作物をテレビ・ラジオのCM,映画等で使用する場合に,当該音楽著作物の使用料を免除するという,いわゆるタイアップにより,音楽著作物の利用の機会を増加させ,当該音楽著作物のCD等の売上げの増大を図っており,特に,ダブル・タイアップ(例えば,特定の放送広告(CM)のために作成された楽曲を映画で利用する場合に,当該楽曲のCM放送使用料に加えて,映画利用に係る使用料も免除する仕組み),トリプル・タイアップ等と称される複数のタイアップは,音楽著作物のプロモーション(販売促進)効果を高めるための重要な手段となっている。しかし,被審人は,平成18年10月当時,タイアップを全面的に認める制度を設けていなかったため,エイベックス・グループは,被審人の制度に不満を有していた。また,エイベックス・グループは,被審人による放送等使用料の分配が全曲報告ではなくサンプリング報告に基づくものであって,不明朗であることにも不満を有していた。
一方,イーライセンスは,放送等利用に係る管理事業に参入するに当たり,タイアップの実施を柔軟に認めること,放送事業者から全曲報告を受けることを表明していたことから,エイベックス・グループは,イーライセンスに対して音楽著作権の管理を委託することで上記の不満が解消されるものと期待していた。
(査第33号証,第34号証,第96号証,第99号証,審第37号証,三野明洋参考人審尋速記録,谷口元参考人審尋速記録)
(3) エイベックス・グループは,平成18年7月終わりから8月初め頃,イーライセンスから,同年10月以降に放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託するよう勧誘され,平成18年9月末頃,同社に対して,60曲の楽曲について放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した。エイベックス・グループが委託した楽曲(以下「エイベックス楽曲」という。)の中には,人気楽曲となることが予想され,又は既に人気楽曲であったことから放送等利用が見込まれる楽曲が含まれており,特に,平成18年10月25日にCDの発売が予定されていた大塚愛の「恋愛写真」は,トリプル・タイアップを実施することが決まっていたため,メリットが大きいと判断してイーライセンスに管理を委託することとしたものであって,放送等利用が見込まれる楽曲であった。
イーライセンスは,エイベックス・グループから楽曲の管理の委託を受けて,平成18年10月1日から放送等利用に係る管理事業を開始した。
(査第4号証,第33号証,第34号証,審第37号証,谷口元参考人審尋速記録)
(4) エイベックス・グループでは,楽曲やアーティストのプロモーションに従事するプロモーターが,放送事業者にエイベックス・グループの楽曲を利用してもらうため,定期的に放送事業者の番組制作プロデューサー,番組制作ディレクター等を訪問している。
平成18年10月初旬頃,同月25日にCDが発売される大塚愛の「恋愛写真」の放送が解禁されたので,プロモーターは,「恋愛写真」のCDを持参し,放送で使用するよう活動を行っていたところ,それらのプロモーターから,イーライセンス管理楽曲を放送で利用しないという対応を行い,あるいは,既に決まっていた大塚愛自身のゲスト出演のキャンセルを検討している首都圏のラジオ局が存在するとの情報がもたらされた。
そこで,イーライセンスとエイベックス・グループは,平成18年10月16日頃,NHKを除く放送事業者に対し,同月1日に遡り,同年12月31日までの期間,エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることを決定し,同年10月19日頃,この決定を通知する文書を首都圏のFMラジオ局及びAMラジオ局にファクシミリ送信するとともに,同月20日頃,民放連に送付したところ,民放連は,同月25日にこの文書を一部修正し,同日以降,加盟する放送事業者に対し送付した。
(査第4号証,第33号証ないし第35号証,第56号証,第96号証,第98号証,審第37号証,谷口元参考人審尋速記録)
(5) エイベックス・グループは,平成18年12月末,イーライセンスとの間で,放送等利用に係る音楽著作権の管理委託契約を解約した。
9 エイベックス・グループ以外の著作権者のイーライセンスへの管理委託の状況
イーライセンスがエイベックス・グループ以外の著作権者から委託を受けて放送等利用に係る音楽著作権を管理している楽曲の数は,平成19年3月31日には184曲であったが,年々その数は増加し,平成22年9月30日には3,600曲強となった。(審第21号証,第43号証の1ないし第49号証の2,三野明洋参考人審尋速記録)
10 その他の管理事業者の参入状況
放送等使用料を徴収して放送等利用に係る管理事業を行っている管理事業者は,被審人及びイーライセンスのみである。
第4 本件の争点
1 被審人が,ほとんど全ての放送事業者との間で放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結し,この契約に基づき,放送等使用料を徴収している行為(以下「本件行為」ともいう。)は,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するか。
2 本件行為は,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するか。
3 本件行為は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか。
4 本件行為は,公共の利益に反するものであるか。
5 本件排除措置命令は,競争制限状態の回復のために必要な措置であり,かつ,被審人に実施可能であるか。
第5 双方の主張の要旨
1 争点1(本件行為が,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するか)について
(1) 審査官の主張
ア  被審人の放送等使用料の包括徴収による追加負担の発生の有無
 被審人は,全ての放送事業者との間で,放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結しているところ,これらの契約における包括徴収は,当該年度の前年度の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で放送等使用料の額を算定するものであって,いずれも,放送等使用料の算定に当たり放送等利用割合(放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占める被審人の管理楽曲の割合をいう。)を反映させていない(以下「本件包括徴収」という。)。
 各放送事業者が一定期間内の放送番組において利用する音楽著作物の総数は,それぞれほぼ一定であるところ,管理事業者が放送事業者から放送等使用料を包括徴収の方法により徴収する場合において,放送等利用割合を反映させない場合は,当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払うと,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額は,当該放送事業者が他の管理事業者に支払う放送等使用料の額だけ増加することとなる。被審人は,管理事業法の施行後,全ての放送事業者から本件包括徴収の方法により放送等使用料を徴収しているから,放送事業者が被審人以外の管理事業者に放送等使用料を支払うと,これが追加負担となる。 
イ  放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の利用回避の有無
 上記のとおり,被審人が放送等使用料を本件包括徴収の方法により徴収しており,放送事業者がイーライセンス管理楽曲を利用すれば追加負担が生じることから,FMラジオ局を中心とする放送事業者は,平成18年10月上旬以降,自ら制作する放送番組においてイーライセンス管理楽曲をほとんど利用しなかった。
(ア) 主な放送事業者の対応は,以下のとおりである。
a  テレビ朝日においては,平成18年9月27日頃,番組制作担当者に対し,イーライセンス管理楽曲を放送で利用した場合,1曲ごとの使用料が発生し,その使用料は番組制作費からの負担となる旨,また,楽曲の利用実績は全て報告する必要がある旨説明する文書を配布した。この文書について,同社の当時のコンテンツ事業局ライツ推進部長であった髙橋英夫(以下「テレビ朝日の髙橋」という。)は,同社の番組制作担当者にイーライセンス管理楽曲の放送を差し控えさせる効果があった旨述べている。
b  株式会社TBSテレビ(以下「TBSテレビ」という。)においては,平成18年9月29日頃,同社及び同社の当時の親会社であって実質的に一体となってテレビ放送事業を営む東京放送の番組制作担当者等に対し,イーライセンス管理楽曲を放送で利用した場合,1曲ごとに使用料を支払う必要があり,また,利用報告を行う必要がある旨注意喚起する文書をイーライセンス管理楽曲のリストとともに送付したところ,同年10月20日頃までの間,東京放送の放送番組において,イーライセンス管理楽曲は一度も放送されなかった。上記文書について,TBSテレビの当時の編成局コンテンツ&ライツセンター長兼メディアライツ推進部長であった深尾隆一(以下「TBSの深尾」という。)は,番組制作担当者にとって,イーライセンス管理楽曲の放送での利用を自粛させる効果があった旨述べている。
c  J-WAVEにおいては,平成18年10月上旬頃,番組制作担当者に対し,イーライセンス管理楽曲の利用を回避するよう文書で周知した。
 これについて,J-WAVEの当時の編成責任者であった阿瀬川行敏(以下「J-WAVEの阿瀬川」という。)は,被審人の放送等使用料の本件包括徴収が維持される中で,イーライセンス管理楽曲が増え,他の管理事業者も放送等利用に係る管理事業に参入すれば,放送等使用料が膨らむことに危機感を持った上,イーライセンスへの放送等使用料は事前に予算として計上しておらず,個々の番組の制作費から支出しなければならなかったところ,番組制作費は削減を続けていたので,追加経費が生じることは,金額の多寡によらず受け入れ難いことであった旨述べている。
d  NACK5においては,平成18年10月12日頃,番組制作担当者に対し,イーライセンス管理楽曲の利用を回避するよう文書で周知した。
 NACK5の当時の専務取締役であった田中秋夫(以下「NACK5の田中」という。)は,大塚愛が,平成18年10月25日発売の新曲である「恋愛写真」のCDのプロモーションのため,同年11月1日の同社の放送番組へ出演する予定になっていたところ,この放送番組へ大塚愛をゲスト出演させる以上,「恋愛写真」を同社の放送番組において利用せざるを得ないが,イーライセンス管理楽曲を利用すると追加の経費がかかるため,大塚愛のゲスト出演をキャンセルすることを検討した旨述べている。
e  ベイエフエムにおいては,上記「恋愛写真」のCDの発売に合わせたプロモーションのため,同年11月の連休に放送予定の特別番組への大塚愛の出演及び同社の放送番組における「恋愛写真」の放送利用を予定していたところ,同年10月初め,イーライセンス管理楽曲のリストの送付を受けて,「恋愛写真」を利用すれば追加費用が発生することが判明したため,「恋愛写真」の放送番組での利用を回避するとともに,対応を検討することとなった。その後,平成18年10月中旬,イーライセンス管理楽曲の放送等使用料が無料とされたことから,同社は,「恋愛写真」の利用の回避を取りやめ,放送番組における利用を開始するとともに,予定どおり大塚愛を上記特別番組に出演させた。
f  株式会社静岡朝日テレビ(以下「静岡朝日テレビ」という。)においては,平成18年10月12日頃,番組制作担当者に対し,イーライセンス管理楽曲の利用を回避するよう文書で周知した。
 その後,同社は,イーライセンス管理楽曲の放送等使用料が期間限定で無料とされたことについても制作部門等に周知したが,上記無料期間は平成18年12月末で終了し,平成19年1月以降,イーライセンス管理楽曲を利用すると放送等使用料が生じることから,平成18年12月27日頃,再度,自社の番組制作部門等に対し,イーライセンス管理楽曲の利用を回避するよう文書で周知した。
g  株式会社茨城放送(以下「茨城放送」という。)においては,平成18年9月末から10月初め頃,自社の放送番組にイーライセンス管理楽曲を利用しないよう社内に周知した。
 その後,同社は,イーライセンス管理楽曲の放送等使用料が無料とされたことは社内に周知せず,上記無料期間が平成18年12月末で終了し,平成19年1月以降,イーライセンス管理楽曲を利用すると放送等使用料が生じることから,平成18年12月30日頃,番組制作担当者に対し,イーライセンス管理楽曲の利用を回避するよう文書で周知した。
(イ) 民放連事務局次長の発言
a  平成17年10月11日に行われた民放連とイーライセンスとの交渉において,民放連の町田和男事務局次長(以下「民放連の町田」という。)は,「放送において,音楽に支払うパイは一定です。そのため,民放連としては,e-Licenseへの放送使用料が,現状のJASRACへお支払いしている使用料にadd-onする形なら,むしろe-Licenseの曲を使いません。」との発言(以下「アドオン発言」という。)を行った。
b  この発言は,放送事業者がイーライセンスに支払う放送等使用料が被審人への放送等使用料との関係で追加負担となるのであれば,放送事業者はイーライセンス管理楽曲を利用しないという民放連としての意思の表明であり,放送事業者が追加負担を理由にイーライセンス管理楽曲を利用しなかったことを示している。
ウ  エイベックス・グループがイーライセンスとの管理委託契約を解約した経緯
 平成18年10月上旬以降,FMラジオ局を中心とした放送事業者が自ら制作する放送番組においてイーライセンス管理楽曲をほとんど利用しなかったことは,イーライセンス及びエイベックス・グループにとって深刻な問題であった。エイベックス・グループは,大塚愛の「恋愛写真」のCD発売日が同月25日であり,首都圏のFMラジオ局の番組で放送されるか否かがCDの売上げに大きな影響を及ぼすことから,上記の事態を早急に改善する必要があると考えた。
 平成18年10月16日頃,イーライセンス代表取締役の三野明洋(以下「イーライセンスの三野」という。)及び同社の取締役副社長であった名越禎二(以下「イーライセンスの名越」という。)並びにエイベックス・グループ・ホールディングスの取締役コーポレート企画本部国際戦略室長兼知財戦略室長であった谷口元(以下「エイベックスの谷口」という。)及び同社のコーポレート企画本部知財戦略室長付であった西牟田昌弘(以下「エイベックスの西牟田」という。)は,協議を行い,エイベックスの谷口が,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を回避したのは追加負担を避けるためであることが確認されていたため,同年10月1日に遡り,同年12月31日までの間,民放連に加盟する放送事業者に対するエイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることを提案したところ,イーライセンスの三野もこの提案に同意した。また,エイベックスの谷口は,イーライセンスの三野に対し,エイベックス楽曲の利用回避について同年12月末までに何らかの決着をつけるよう求め,イーライセンスの三野は,エイベックスの谷口に対し,首都圏のFMラジオ局等を訪問し,エイベックス楽曲の利用を回避しないように説得することを約束した。
 この協議を受け,イーライセンスの三野及びエイベックスの西牟田は,同年10月19日頃,エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることを内容とする文書を首都圏のFMラジオ局及びAMラジオ局にファクシミリで送信するとともに,同月20日頃,民放連に送付したところ,民放連は,表現の一部を修正した上で,同月25日以降,加盟する放送事業者に上記文書を送付した。
 さらに,エイベックスの西牟田は,同月20日頃,イーライセンス管理楽曲の利用を回避していたNACK5など首都圏のFM放送局数局に対し,追加負担を強いることになったことを謝罪した上,エイベックス楽曲の放送等使用料を3か月間に限り無料にするので放送してもらえるよう依頼する文書をファクシミリで送信した。
 上記のとおり,NACK5は,イーライセンス管理楽曲の利用を回避するよう周知し,同社の放送番組への大塚愛のゲスト出演をキャンセルすることを検討していた。そこで,イーライセンスは,平成18年10月25日及び30日,NACK5を訪問して協議を行った結果,NACK5は,エイベックス楽曲の放送等使用料が無料となる平成18年10月から同年12月までの期間に限り,利用回避の措置を解除し,同年11月1日,同社の番組に大塚愛をゲスト出演させるとともに「恋愛写真」を放送番組で利用した。もっとも,NACK5は,平成19年1月以降は,追加負担が生じることから,イーライセンスとの間で利用許諾契約を締結していない。
 エイベックスの西牟田は,平成18年11月6日,イーライセンスの名越に対し,放送事業者との交渉状況を報告するよう求めるとともに,イーライセンスへの音楽著作権の管理委託を取りやめることを検討している著作者もいることを伝えた。そこで,平成18年11月9日頃,イーライセンスは,エイベックス・グループを訪問し,ベイエフエム,NACK5,株式会社ニッポン放送(以下「ニッポン放送」という。)及び横浜エフエム放送株式会社(以下「横浜エフエム」という。)との交渉状況に関し,各放送事業者とも追加負担が発生することを極めて厳しいものと受け止めている旨を説明した。
 このように,イーライセンスは,放送事業者の説得を試みたが,平成19年1月以降,放送等使用料を徴収することとした場合,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を回避しないとの確証が得られず,また,放送事業者との間で利用許諾契約の締結を進展させることもできなかった。
 一方,エイベックス・グループにおいては,イーライセンスに放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託することのメリットとデメリットを整理した資料を作成し,管理の委託を継続すべきか否かにつき検討を進めた結果,被審人による本件包括徴収が変更されない中で,エイベックス楽曲の無料期間が経過した後,放送事業者による利用回避がなくなり,イーライセンスが放送事業者から放送等使用料を徴収し,エイベックス・グループに分配できるようになることがほとんど見込まれなかったことから,エイベックス・グループは,平成18年12月下旬,イーライセンスとの間で,平成19年1月以降のイーライセンスへの放送等利用に係る音楽著作権の管理委託契約を解約した。
エ  エイベックス・グループ以外の著作権者とイーライセンスとの関係
エイベックス・グループ以外の著作権者も,被審人が全ての放送事業者から本件包括徴収により放送等使用料を徴収している中,放送事業者が自ら制作する放送番組においてイーライセンス管理楽曲を利用することはほとんど見込まれないため,イーライセンスに対し,放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託することはほとんどない。
 このため,イーライセンスは,放送等利用が見込まれる音楽著作物をほとんど確保することができず,管理楽曲が放送事業者の放送番組においてほとんど利用されないことから,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態となっている。
オ  その他の管理事業者の不参入
 被審人が全ての放送事業者から本件包括徴収の方法により放送等使用料を徴収しており,放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用せず,著作権者が被審人以外の管理事業者に放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託しても,放送等使用料の分配を受けることはほとんどできないものと見込まれるため,被審人及びイーライセンス以外の管理事業者は,著作権者から放送等利用に係る音楽著作権の管理の委託を受けることができず,放送等利用に係る管理事業への新規参入が阻害されている。
カ  まとめ
 以上によれば,被審人が放送等使用料を本件包括徴収の方法により徴収していることにより,放送事業者は,追加負担を避けるため,自ら制作する放送番組において被審人以外の管理事業者の管理楽曲をほとんど利用しないこととなり,このため,イーライセンス及びその他の被審人以外の管理事業者は,著作権者から放送等利用に係る音楽著作権の管理を受託することができず,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態となり,放送等利用に係る管理事業への新規参入が阻害されている状態にあるといえる。
(2) 被審人の主張
ア  被審人による放送等使用料の包括徴収による追加負担の発生の有無について
(ア) 被審人が,ほとんど全ての放送事業者との間で,放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結していること,これらの契約における包括徴収は,当該年度の前年度の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で放送等使用料の額を算定するものであることは認める。ただし,一部の放送事業者との間では徴収方法を個別徴収とする利用許諾契約を締結している。
しかし,放送において利用される楽曲の中には,被審人が著作権者から管理を受託していない楽曲(著作権消滅楽曲及び自己管理楽曲)が含まれており,被審人は,管理事業法施行の前後を通じ,このような非管理楽曲の割合を最大限に多く見積もって30パーセントとし,これを前提として放送事業者との間で利用許諾契約を締結してきた。民放連平成18年協定の中の算定式における1.5パーセントという使用料率も,被審人の管理楽曲の利用割合を最も保守的に見込んだ上で,その誤差をも考慮して合意されたものである。
このように,被審人と放送事業者の間で締結された利用許諾契約中の包括徴収の方法は,放送等利用割合を反映させたものといえる。
(イ) 放送事業者が一定期間内の放送番組において利用する音楽著作物の総数がほぼ一定であるとの事実は否認する。利用する音楽著作物の総数は,番組編成上の方針(音楽の利用頻度の高い番組の多寡),番組制作上の判断(音楽の選定,利用場面の決定等)により変動する。加えて,被審人の管理楽曲数も毎年変動しているから,放送事業者が利用する被審人の管理楽曲数も変動している。
放送事業者が被審人に支払う放送等使用料はこのような差異を前提に定められており,したがって,放送事業者が他の管理事業者に放送等使用料を支払うことをもって追加負担が発生したという審査官の主張も誤りである。
(ウ) 審査官は,被審人が放送等利用割合を反映しない包括徴収をするため,放送事業者に追加負担が生じ,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を回避するという因果関係を主張するので,被審人が包括徴収において放送等利用割合を反映させれば,放送事業者に追加負担が生じず,イーライセンス管理楽曲の利用を回避しないといえるかどうかを検討する。
横浜エフエムを例に,放送事業者が1日約250回の音楽著作物を利用し,そのうち4回イーライセンス管理楽曲を利用するものとすると,被審人の管理楽曲の放送等利用割合は98.4パーセントとなる(246÷250=0.984)。横浜エフエムが被審人に平成18年に支払った放送等使用料は2265万2000円であったことから,放送等利用割合を反映させると,被審人への放送等使用料は36万2432円の減額となる(22,652,000×(100%-98.4%)=362,432)。他方,横浜エフエムが,イーライセンスとの間で,放送等使用料を1曲当たり2,000円の個別徴収で合意したとすると,1年間の放送等使用料は292万円となる(上記のとおり1日4回利用すると,2,000×4×365=2,920,000)。
以上によれば,放送事業者からの包括徴収において,放送等利用割合を反映させると,被審人に支払う放送等使用料は年間約36万円減額となり,審査官の主張によれば,これで追加負担は生じないことになるが,イーライセンスに支払う放送等使用料は292万円であり,放送事業者が292万円の負担を理由にイーライセンス管理楽曲の利用を回避するのであれば,被審人に支払う放送等使用料が36万円強減額になるとしても,放送事業者はイーライセンス管理楽曲の利用回避を継続したと考えられる。よって,放送等利用割合を反映しない包括徴収がなければイーライセンス管理楽曲の利用回避がないとはいえないから,両者の間に因果関係は認められない。
イ  放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の利用回避
(ア) 審査官は,FMラジオ局を中心とした放送事業者が自ら制作する放送番組においてイーライセンス管理楽曲を利用しなかったと主張し,これをもって,イーライセンスに対する排除効果があったと主張するが,53局あるFMラジオ局は,被審人と包括徴収を内容とする利用許諾契約を締結している470の放送事業者の一部(約11.3パーセント)にすぎない上,FMラジオ局は,自ら制作する放送番組以外に,キー局及び他社から配信される番組を放送しており,自ら制作する放送番組の割合は放送番組全体の2割ないし4割にすぎないから,仮に,FMラジオ局の自ら制作する放送番組におけるイーライセンス管理楽曲の利用回数が少ないという事実が認められるとしても,それをもって,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野全体において排除効果を認めることはできない。なお,FMラジオ局以外では,大手のAMラジオ局,衛星放送事業者,コミュニティ放送事業者等において,イーライセンス管理楽曲の利用を回避した事実は存在しない。
(イ) FMラジオ局を中心とした放送事業者が平成18年10月上旬以降イーライセンス管理楽曲をほとんど利用しなかったとの事実は否認する。下記のとおり,放送事業者は,イーライセンス管理楽曲を利用していた。
被審人のJ-BASSへの報告結果によれば,大塚愛の「恋愛写真」は,放送事業者の放送番組において,平成18年10月1日から同年12月31日までの3か月間に729回,平成18年10月17日(イーライセンスが無料通知文書を作成したとされる同月18日の前日)までの間に限っても,128回利用された。民間放送事業者から被審人に報告された利用楽曲総数に占めるJ-BASSへの電子データ報告数の割合は,約31パーセントであるから,実際の利用回数は,これを大幅に上回ると考えられる。
同様に,エイベックス・グループがイーライセンスに平成18年10月1日までに放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した60曲(以下「エイベックス60曲」という。)及び同月半ば頃に管理を委託した67曲(以下「エイベックス67曲」という。)についてみると,J-BASSへの報告結果によれば,J-BASSに全曲報告を行っていたFMラジオ局39局において,平成18年10月1日から同年12月31日までの間に,エイベックス60曲が986回,エイベックス67曲が810回,それぞれ利用され,平成18年10月17日までの間に限っても,エイベックス60曲が218回,エイベックス67曲が166回,それぞれ利用された。
また,上記のデータからJFNネット番組(全国FM放送協議会〔以下「JFN」という。〕に加盟する放送事業者〔以下「JFN加盟放送事業者」という。〕に配信される番組のうち,キー局が自ら放送する番組以外の番組をいう。)及びJFNC番組(株式会社ジャパンエフエムネットワーク〔以下「JFNC」という。〕がJFNC加盟放送事業者から委託を受けて制作し,JFN加盟放送事業者に配信される番組をいう。)における利用回数を除外しても,「恋愛写真」,エイベックス60曲及びエイベックス67曲は,いずれも相当回数利用された。
J-BASSへの報告結果により,大塚愛の「恋愛写真」(平成18年10月25日CD発売)の利用回数の推移と,J-POPと称される日本の大衆娯楽音楽(ポピュラー音楽)に分類される他の楽曲で,「恋愛写真」とCD発売日が同日又は近接していて,かつ平成18年10月第4週のオリコンチャート(毎週月曜日から7日間のCD等の売上げを集計したもの)の上位を占めた楽曲3曲(「シーサイドばいばい」,「SAYONARA」及び「夢のうた」であり,いずれも被審人の管理楽曲である。)の利用回数の推移を比較すると,いずれもおおむね同月第1週から11月第4週の約8週間において,徐々に利用回数が増加してCD発売日前後に最多となり,その後減少している。また,「恋愛写真」以外の大塚愛の楽曲で,「恋愛写真」と近接してCDが発売された楽曲4曲(「フレンジャー」,「ユメクイ」,「CHU-LIP」及び「PEACH」)のJ-BASSに報告された利用回数の推移も,4週間ほど前から徐々に増加しておおむねCD発売日前後に最多となり,その後徐々に減少しており,「恋愛写真」とほぼ同様である。
このように,「恋愛写真」は,他の人気楽曲と比較して遜色なく放送で利用されていた。
(ウ) 審査官は,FMラジオ局を中心とした15の放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと主張し,15の放送事業者について,担当者の供述調書が提出されている。しかし,この15社の担当者の供述のうち,イーライセンス管理楽曲を利用しなかったことを明言するものは,10社の担当者の供述にすぎない。
さらに,この15社のうち,J-BASSへの報告結果によっては利用実績を明らかにできない4社(テレビ朝日,東京放送,静岡朝日テレビ,茨城放送)を除いた11社について,J-BASSへの報告結果によって,平成18年10月から同年12月までの間の自ら制作する放送番組における「恋愛写真」と他のオリコンチャートの上位楽曲の利用実績をまとめると,供述どおりに利用を回避していたといえる可能性があるのはNACK5と株式会社エフエム青森(以下「エフエム青森」という。)の2社にすぎず,他の9社については,自ら制作した放送番組において,イーライセンス管理楽曲を利用したことが認められる。また,静岡朝日テレビについては,平成18年10月16日までに少なくとも3回イーライセンス管理楽曲を利用したことが認められる。
(エ) 以下のとおり,放送事業者は,追加負担を理由にイーライセンス管理楽曲の利用を回避しなかった。
NHKも民放連も,放送等利用に係る管理事業に新規参入したイーライセンスとの間で利用許諾契約の締結交渉を回避しようとしたことは一切なく,むしろイーライセンスへの放送等使用料の支払が発生することを当然の前提として,イーライセンスを積極的に受け入れる方向で契約交渉を進めていた。
NHK,TBSテレビ及びテレビ朝日の担当者は,イーライセンス管理楽曲を利用する必要が生じた場合には,放送等使用料がかかるとしても利用するのであり,放送等使用料の負担を理由としてイーライセンス管理楽曲の利用を回避したという事実はないと供述している。
放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の利用に関する社内通知文書のうち,テレビ朝日,TBSテレビ及びエフエム東京が作成したものの内容は,当時イーライセンスが民放連に対して提案していた契約書案の条項を説明したにすぎず,イーライセンス管理楽曲の利用を回避するよう示唆したものとはいえない。
J-WAVEの社内通知文書には,やむを得ない場合を除いて,当面は極力使用を避けるよう要請する旨の記載があるが,使用を避ける理由としては,報告・支払など煩雑な作業が発生することが挙げられているのであって,追加負担が発生することが挙げられてはいない。
NACK5に関し,追加負担を理由にイーライセンス管理楽曲の利用回避を求める社内通知文書を配布し,平成18年11月1日の放送番組への大塚愛のゲスト出演の取りやめを検討していたとの同社役員の供述調書は存在する。しかし,NACK5は,同年10月20日頃にはイーライセンス管理楽曲の放送等使用料を無料化する旨の通知をエイベックス・グループからファクシミリで受領していたが,その時点では,大塚愛の上記番組への出演やイーライセンス管理楽曲の利用回避の停止を決定せず,その後,イーライセンスの三野らが2度にわたってNACK5を訪れて交渉した後にようやくこれらを決定した。このように交渉を重ねたのは,上記の出演停止や利用回避措置が追加負担を理由とするものではなかったことを示している。
(オ) 民放連の町田が,民放連とイーライセンスの交渉において,アドオン発言をした事実は認める。
しかし,この発言は,交渉の場に同席したイーライセンスの弁護士の高圧的な言辞に挑発されて発せられたものであり,民放連としての考え方を述べたものではないから,この発言をもって,放送事業者が追加負担を理由にイーライセンス管理楽曲を利用しなかった根拠ということはできない。
ウ  エイベックス・グループがイーライセンスとの管理委託契約を解約した経緯
(ア) 審査官の主張のうち,イーライセンスとエイベックス・グループが平成18年10月16日に協議を行って,イーライセンス管理楽曲の放送等使用料を3か月間に限って無料にすることを決定し,これを民放連に加盟する放送事業者に伝えたこと,エイベックス・グループがイーライセンスとの管理委託契約を平成18年12月末限りで解約したことは認めるが,その余の事実は否認する。
(イ) イーライセンスは,平成18年10月16日のエイベックス・グループとの協議の際,エイベックス・グループに対し,一部の放送事業者がイーライセンス管理楽曲を利用していない理由について,民放連が,イーライセンスとの協議がまとまったのに,その結果について加盟する放送事業者に連絡をしていないため,放送事業者が反発したのではないかと説明した。しかし,実際には,その時点では,イーライセンスは,民放連との合意書の締結に至っておらず,民放連に加盟する放送事業者との間で利用許諾契約も締結できていなかった。
エイベックス・グループは,イーライセンスに対し,平成18年12月までに可能な限り放送局を訪問する等して円滑に放送等使用料の徴収を開始するように要請するとともに,この3か月間については,放送等使用料を徴収することよりもエイベックス楽曲を放送事業者に利用してもらうことを優先するため,放送等使用料を免除することを提案し,イーライセンスもこれを承諾した。
この協議を受けて,イーライセンスとエイベックス・グループは,民放連に加盟する放送事業者に対して放送等使用料の無料化措置について通知をした。
(ウ) 次のとおり,イーライセンスは,平成18年10月,準備不足のまま放送等利用に係る管理事業を開始し,その後も極めて杜撰な体制のまま管理事業を進めた。
イーライセンスと民放連は,包括許諾・個別徴収の方法を採ることを前提に利用許諾契約について交渉を継続したが,ラジオ局に適用される使用料額について交渉が難航したため,平成18年10月1日の時点で合意は成立しておらず,同日までにイーライセンスとの間で利用許諾契約を締結した民間放送事業者は1社もなかった。イーライセンスは,そのような中で放送等利用に係る管理事業を開始した。
イーライセンスと民放連は,平成18年10月31日に「音楽著作物の利用に関する合意書」を締結したが,同合意書の中で別途締結することが定められていた取扱基準,報告事項,放送事業者の類別,実施細則等に関する覚書は,平成19年2月下旬まで締結されず,民放連に加盟する放送事業者は,それ以前にイーライセンスと利用許諾契約を締結することが事実上不可能であった。
イーライセンスに対する放送等使用料の支払の対象となる管理楽曲については,イーライセンスは,管理事業が開始される直前の平成18年9月29日には58曲のリスト,管理が開始された同年10月には60曲のリスト,同月20日頃には67曲のリストを放送事業者に提出するなど,放送事業者に対し,自ら管理する楽曲の正確な内容すら提示できなかった。放送での音楽の利用が多いFMラジオ局では,イーライセンス管理楽曲の範囲が不明確であるばかりか,放送等使用料の上限も,利用楽曲の報告方法も未定であった上,イーライセンス管理楽曲の利用報告を怠ると高額のペナルティが科されるという風評が広まっていたため,その現場は大いに混乱していた。
(エ) エイベックス・グループがイーライセンスとの管理委託契約を解約した真の理由は,放送事業者が追加負担を避けるためにイーライセンス管理楽曲の利用を回避するという事態の改善が見込まれなかったことにあるのではなく,イーライセンスにおいて放送等利用に係る管理事業を遂行できる状態になかったことにある。
上記のとおり,エイベックス・グループは,イーライセンスに対し,平成18年10月16日の協議において,同年12月末までに,管理事業者として各放送事業者から円滑に放送等使用料の徴収を始められるようにするよう要請したが,イーライセンスは,同年12月までに民放連との間で上記覚書を締結することができず,したがって一般の放送事業者との間で利用許諾契約を締結することもできず,エイベックス・グループに対して,状況改善についての具体的な報告を行わず,改善に向けた方向性も将来的な見通しも示すことはできなかった。平成18年12月に入り,イーライセンスからエイベックス・グループに対して放送等利用に係る楽曲の管理は被審人に委託してもらってかまわない旨の申入れがあったため,エイベックス・グループは,同年12月をもって,イーライセンスとの管理委託契約を解約した。
エ  エイベックス・グループ以外の著作権者とイーライセンスとの関係
エイベックス・グループ以外の著作権者がイーライセンスに対して放送等利用に係る音楽著作権の管理をほとんど委託していないとの事実は否認する。イーライセンスの放送等利用に係る管理楽曲数は,平成18年10月には約60曲であったが,平成22年3月31日には3,242曲となっており,その管理楽曲の中には,生命保険会社のCMソングとして使われ,オリコンチャートの24位にランクインした「まねきねこダックの歌」のように実際に放送で利用されている楽曲も含まれている。
したがって,イーライセンスにおいて,放送等利用が見込まれる音楽著作物をほとんど確保することができないという事実はない。
仮に,イーライセンスの得る放送等使用料が増加していないとすれば,その理由は,イーライセンスが,放送等利用に係る音楽著作権の管理を受託しているにもかかわらず,放送事業者と利用許諾契約を締結し,放送等使用料を徴収していないからである。
加えて,NHKは,イーライセンスとの間で平成20年3月以降も利用許諾契約を継続し,イーライセンス管理楽曲を継続して利用し,それに応じた放送等使用料を支払っているから,イーライセンスが,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっているとはいえない。
オ  その他の管理事業者の不参入
イーライセンス以外の管理事業者が放送等利用に係る管理事業に新規に参入しない理由は,放送番組における音楽著作物の利用形態が数秒の利用から1曲の利用まで様々であり,放送事業者における音楽著作物の利用データの電子的管理はいまだに不十分で,書面を中心とした報告となっていること,放送事業者も首都圏に所在するいわゆるキー局から地方のFMラジオ局まで様々であること等から,音楽著作物の管理が手続的に非常に煩瑣であり,他の管理事業者において容易に収益を見込めるものではない点に存するのであって,被審人が放送事業者との間で放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結していることとはおよそ関係がない。
2 争点2(本件行為が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するか)について
(1) 審査官の主張
ア 本件行為及びその効果についての被審人の認識
(ア) 被審人は,管理事業法施行前の平成13年4月18日の段階で,管理事業法の施行に伴い,被審人以外の管理事業者が管理事業に参入することを認識し,他の管理事業者が参入した場合の対応の必要性について検討していた。
(イ) 公正取引委員会が開催したデジタルコンテンツと競争政策に関する研究会の報告書(平成15年3月31日公表)の中で,コンテンツに係る著作権等の管理について,複数の管理事業者との包括契約に関する競争の観点からの課題及び考え方が指摘された。
(ウ) 同研究会から意見を求められたことに対応して被審人において開催した独占禁止法検討会議の平成14年8月以降の会合において,複数の管理事業者が参入した後に,仲介業務法の下で認可された包括使用料の額を引き続き適用していくことは,新規事業者の参入を妨げるなど独占禁止法上の問題を生じるおそれはないか,といった課題について検討を行った。
(エ) 独占禁止法検討会議のメンバーである弁護士から平成15年3月に被審人に提出された意見書では,包括使用料の定めが私的独占(独占禁止法第3条前段)となるおそれがあること,他の管理事業者が出現したことを受けて使用料を減額する必要はないものの,私的独占等にならないかを十分注意して使用料制度を運営することが肝要であることが指摘された。
(オ) 平成16年4月7日,公正取引委員会は,被審人に対し,被審人のようなシェアの高い事業者が利用者との関係について包括契約のみ又は実質的に包括契約のみを規定することは,音楽著作物の管理事業における競争阻害要因となること,また,新規参入事業者が取り扱い又は取り扱おうとする利用形態において被審人が利用者団体との使用料徴収方法の変更に関する交渉に応じない場合には,独占禁止法上問題となるおそれがあることを口頭で指摘し,それについて,平成16年4月13日付け資料により被審人の総務本部企画部から役員会に対して報告がされた。
(カ) 以上の事実によれば,被審人は,本件行為により他の管理事業者が市場から排除されることが独占禁止法上問題となることについて,十分認識していた。
イ  イーライセンスの参入への対応
イーライセンスは,平成17年7月頃,民放連に対し,放送等使用料の徴収方法に係る協議の開始を申し入れ,これを受けて民放連が,同年9月頃,被審人に対し,イーライセンスの参入に伴って放送等使用料を減額する意向があるか確認したところ,被審人は,減額する意向がない旨回答した。
当時被審人の常任理事であった菅原瑞夫(以下「被審人の菅原」という。)は,平成18年11月15日に開催した通常評議員会において,①イーライセンスが同年10月から放送,有線放送等についても管理事業を開始すると聞いている,②現状ではその管理楽曲数が50曲程度なので,NHK,民放とも被審人とのブランケット契約に影響を及ぼすものではないと考えていると聞いている,③将来的に,イーライセンスのレパートリーが半分になるようなことがあれば,何らかの影響はあると思うと発言した。
ウ  前記ア及びイによれば,被審人は,本件包括徴収により他の管理事業者が市場から排除されることは独占禁止法上問題となることを認識し,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業に現実に参入することを知っていたにもかかわらず,民放連に対して放送等使用料を減額する意向がない旨回答し,前記第3の5(2)のとおり,平成18年9月21日,民放連との間で民放連平成18年協定を締結し,同月28日,各民間放送事業者との間で利用許諾契約を締結したものであり,イーライセンスの参入後も本件包括徴収を内容とする利用許諾契約を漫然と実施し続けたといえる。
加えて,①我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において,被審人が極めて強固な地位を有すること,②被審人のこのような地位は,競争の結果ではなく,法制度を背景として得られたものであること等を考慮すると,被審人の本件行為は,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有していたといえる。
(2) 被審人の主張
ア  本件行為及びその効果についての被審人の認識
審査官の主張ア(ア)について,被審人が管理事業法の施行に伴って他の管理事業者が参入した場合の対応を一般的に検討していたことは事実であるが,具体的に利用許諾契約中の包括徴収について検討していたわけではないし,イーライセンスが新規参入する5年以上も前のことであるから,被審人が本件包括徴収及びその効果について認識していたこととは全く関係がない。
審査官の主張ア(イ)について,デジタルコンテンツと競争政策に関する研究会報告書は,放送等利用割合を反映しない包括徴収が問題であるとは述べておらず,追加負担の問題に言及していない。同報告書には,独占禁止法の規律の観点から,複数の管理事業者の存在を前提とした将来の取引ルール形成についての要望が記されているだけである。
審査官の主張ア(ウ)について,被審人の独占禁止法検討会議は,イーライセンスが新規参入する4年以上も前に開催されたものである上,被審人が独占禁止法を遵守するためにその事業において同法上の問題がないかを一般的に検討した会議であり,そのような会議の存在をもって被審人において本件行為が同法に違反するとの認識を有していたことの根拠とすることはできない。
審査官の主張ア(エ)について,弁護士の意見書の内容は,被審人の業務全般と独占禁止法との関係を述べたものであって,そのごく一部に包括徴収と独占禁止法との関係について論じた部分はあるが,放送等利用割合を反映しない包括徴収に言及したものではない。
審査官の主張ア(オ)について,公正取引委員会による指摘は,利用者団体との使用料徴収方法の変更に関する交渉に応じない場合には,独占禁止法上問題となるおそれがあるというものであって,本件行為と排除効果との因果関係につき説明するものではないから,被審人がこの指摘によって本件行為が独占禁止法上問題であると認識することは不可能である。
以上のとおり,上記の諸点を根拠に,被審人が,本件行為により他の管理事業者が排除され,それが独占禁止法上問題であると認識していたということはできない。
イ  イーライセンスの参入への対応
被審人が民放連に対し,放送等使用料を減額する意向がない旨を回答したとの事実は否認する。
イーライセンスが民放連との交渉の中で,放送等利用に係る管理事業に参入した後,被審人と協議して放送事業者が既に被審人に支払った放送等使用料の一部を被審人から受け取る予定である旨述べたので,民放連は,平成17年9月頃,被審人に対し,そのような方法が可能であるかを確認したところ,被審人は,イーライセンスが民放連に対して説明したような形での放送等使用料を減額する意向はない旨回答したにすぎない。
ウ  審査官が被審人においてイーライセンス参入後も維持したと主張する利用許諾契約は,平成17年4月から民放連との間で協議を開始し,平成18年9月28日に各放送事業者との間で締結したものである。この契約は,イーライセンスが参入するかどうか確実でない時期に交渉が開始され,イーライセンスが参入した平成18年10月1日より前に締結されたのであるから,この契約の締結をもって,被審人が本件行為を漫然と実施し続けたとはいえない。
審査官が主張する①我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において,被審人が極めて強固な地位を有すること,②被審人の地位が,競争の結果ではなく法制度を背景として得られたものであることは,いずれも事業者の属性であるから,本件行為が正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するかどうかの判断には関係がない。また,本件行為が正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するかどうかは,被審人の市場における現在の地位を前提として,その支配力を形成,維持,強化するかどうかという観点から判断されるものであって,現在の地位がどのようにして得られたのかは無関係であるから,②は,この意味でも,上記人為性の有無を判断するに当たって関係がない。
放送等使用料の包括徴収は,下記3(2)のとおり,合理性と効率性を有するものであり,市場支配力を形成,維持,強化する以外に自己の利益とならない行為とはいえないから,この点からも,本件行為は,正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するとはいえない。
3 争点3(本件行為が一定の取引分野における競争を実質的に制限するものか)について
(1) 審査官の主張
独占禁止法第2条第5項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,「競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者団体がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態を形成,維持,強化すること」と解される(東京高等裁判所平成21年5月29日判決・公正取引委員会審決集第56巻第2分冊262頁〔東日本電信電話株式会社による審決取消請求事件〕)ところ,被審人が我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において極めて強固な地位を有すること,被審人の本件行為により被審人以外の管理事業者は放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態となっていること等の事実からすれば,被審人が,本件行為により,我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限していることは明らかである。
(2) 被審人の主張
ア  最高裁判所第二小法廷平成22年12月17日判決・民集64巻8号2067頁は,「競争を実質的に制限すること」の意義について,市場支配力の形成,維持ないし強化という結果が生じることをいうとし,市場支配力とは,上記東京高等裁判所判決で示されたとおり,「競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者団体がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態」をもたらすことができる力をいうところ,以下のとおり,被審人には市場支配力がない。
(ア) 被審人は,管理事業法に基づき,使用料規程について利用者団体等と協議しなければならず,合意に基づき届け出た使用料規程についても文化庁長官による業務改善命令の対象となることがあるなど,放送等使用料について被審人がその意思で自由に左右することはできない。また,放送事業者に許諾する音楽著作物の品質や数量についても,管理事業法上の応諾義務(第16条)により,その管理する音楽著作物の利用の許諾を拒否することはできず,利用許諾の対象となる音楽著作物の品質や数量を被審人がその意思で自由に左右することはできない。
(イ) 音楽著作物は個性が強く代替性の極めて低いものであるため,代替性のある商品を購入するかどうかが主にその価格により決定されるのとは異なり,音楽著作物を利用するかどうかは,聴衆が欲する楽曲かどうかという音楽著作物の個性如何によって決定される。したがって,管理事業において利用者に音楽著作物を利用してもらうための競争は,使用料をどれだけ低額にして提供できるかという点ではなく,利用者の欲する音楽著作物をどれだけ提供できるかにより行われる。被審人が管理する音楽著作物の数量がいかに多くても,それを利用して音楽著作物の利用許諾分野を支配することができる状態をもたらすことができる力があるとはいえない。
(ウ) 利用許諾契約の締結によって利用者において当然に管理事業者の管理楽曲を利用する義務が生じるわけではないから,被審人が利用許諾契約を締結している放送事業者の数も,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における被審人の支配力の根拠となるものではない。
イ  上記のとおり,利用者に音楽著作物を利用してもらうための競争が,使用料の多寡ではなく,利用者の欲する音楽著作物をどれだけ提供できるかにより行われることからすると,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争には,同一の著作権者から音楽著作権の管理の委託を受けることを競う管理受託分野の競争の結果が反映されるにすぎないのであって,利用許諾分野で本件行為を行うことによって,被審人が利用許諾分野における市場支配力を形成,維持,強化することはできない。
放送等利用に係る管理受託分野において,被審人は,多くの著作権者から音楽著作権の管理を受託しているが,イーライセンスも,複数のタイアップや全曲報告をセールスポイントとして,多くの人気楽曲を擁するエイベックス・グループから音楽著作権の管理の委託を受けることができたのであるから,被審人とイーライセンスは,管理受託分野において有効な競争をしていたといえる。よって,利用許諾分野において被審人に市場支配力はなく,被審人の市場支配力が維持又は強化されたこともない。
イーライセンスは,放送等利用に係る管理事業に円滑に参入することができなかったが,これは,イーライセンスが十分な準備をして管理事業を開始しなかったからであり,イーライセンスは,独占禁止法において市場が競争制限状態にあるかどうかを判断する前提とすべき「同等に効率的な事業者」とはいえないから,イーライセンスの放送等利用に係る管理事業への参入の失敗をもって,被審人の利用許諾分野における市場支配力の維持又は強化という結果が生じたということはできない。
ウ  本件行為を違法というためには,被審人の本件行為がなければ利用許諾分野における競争制限状態が生じなかったという条件関係の存在が必要であるところ,本件においては,唯一上記分野に参入してきたイーライセンスは放送等利用に係る管理事業を開始できる体制を構築できていなかったから,被審人の本件行為がなかったとしても,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業に円滑に参入するのが困難であるという外観上の競争制限状態は生じ得たこと,既述のとおり,本件行為と審査官の措定する排除効果との間に因果関係が全くないこと,JRCを始めとする他の管理事業者は,利用実態が把握できないという放送等利用に係る管理事業における業務の特殊性を考慮した合理的な経営判断の結果,この事業に参入していないのであって,被審人の本件行為とその経営判断の間には何らの関係もないことからすれば,上記のような条件関係は存在しない。
エ  競争の実質的制限の存否を検討するには,競争制限又は阻害効果とともに,競争促進効果及び社会的必要性などそれ以外の正当化事由を併せて斟酌すべきところ,仮に,本件行為に競争制限又は阻害効果があるとしても,包括徴収は,管理事業にとって歴史的にみて長期に,世界的にみて広範に実施されてきた効率的かつ合理的な使用料の徴収方法であって,以下のように,競争制限又は阻害効果を凌駕する正当化事由がある。
(ア) 放送事業者は,毎日大量の音楽著作物を利用しているが,その量(利用曲数・利用回数)を把握することは事実上困難であるところ,放送事業者にとって,包括徴収には,個別の楽曲利用を把握する必要がなく,利用楽曲の把握に要するモニタリングコストを減らすことができ,かつ,使用料が固定されているため,使用料を事前に予算化できるという利点がある。
管理事業者としては,包括徴収には,利用楽曲の量(利用曲数・利用回数)の管理監視費用を減らせる利点があるだけでなく,個別徴収によるよりも全体として低廉な使用料を設定することにより,放送事業者に事前に利用許諾を受けるインセンティブを与えるという意味合いがある。
一定の料金を支払えば使い放題という料金設定方式は,音楽著作物の利用許諾契約以外でも,携帯電話利用料金など通信サービス利用契約に多く採用されているもので,このような料金設定は,いわゆるヘビーユーザーにとっては経済的に有利であることから,競争市場における顧客誘引方法,マーケティング方法としても有用である。
(イ) 現時点でも,放送番組で利用された楽曲数を正確に把握して報告することは,放送分野の一部でしか実現しておらず,平成18年10月の時点において,放送等利用割合を厳密に反映する包括徴収を放送分野の全体で実施することは物理的・技術的に不可能であり,そのような技術を開発する経済的負担も過大であった。
(ウ) 包括徴収は,著作権者にとって使用料が迅速に分配されるために有効に機能するところから,著作権者の創作のインセンティブになっている。
(エ) 放送等利用割合を厳密に反映するためには,管理事業者は,放送事業者からの膨大な利用実績報告を受理した上で処理するシステムを構築するのに要する費用を負担しなければならず,かえって管理事業者間の競争を制限してしまう可能性がある。包括徴収は,そのような投資を管理事業者に求めずに管理事業に参入することを可能にするという意味で,競争促進的な使用料の徴収方法ということができる。
(オ) 本件行為により,被審人の管理事業の効率性が向上したことは明らかであり,著作権という公共財の効率的な権利の実現に寄与している。
(カ) 本件行為は,管理事業法を遵守した行為であり,被審人は,同法を潜脱したり逸脱したりしていない。
4 争点4(本件行為が公共の利益に反するものか)について
(1) 審査官の主張
 独占禁止法第2条第5項に規定する「公共の利益」とは,独占禁止法の直接の保護法益である自由競争秩序の維持それ自体をいい,「現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても,右法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して,『一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という同法の究極の目的(同法1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合」(最高裁第二小法廷昭和59年2月24日判決・刑集38巻4号1287頁)を除いては,「公共の利益に反して」の要件を欠くものではないと解されるところ,本件行為は,独占禁止法の直接の保護法益である自由競争秩序に反しており,また,上記の例外的な場合に当たらず,「公共の利益に反して」の要件を充足することは明らかである。
(2) 被審人の主張
公共の利益を自由競争秩序の維持それ自体と解するとしても,競争の実質的制限が自由競争秩序の維持という観点から実質的に評価して非難に値する行為により生ずる場合のみを公共の利益に反すると解すべきである。
ストリーム型インタラクティブ配信に係る利用分野において,管理事業者の管理楽曲の利用割合を反映しない包括徴収が採用されているが,他の管理事業者が円滑に参入していること,放送等利用に係る管理事業を2団体が行っている米国の音楽著作権管理の実務においても,放送等利用割合を厳密に反映しない包括徴収が採用されてきたこと,本件行為は,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における放送等使用料の徴収方法として適正かつ合理的・効率的であるとして,30年以上前から実施されてきたこと等に照らし,本件行為に自由競争経済秩序の維持という観点から実質的に評価して非難に値すべき点のないことは明らかである。
管理事業者の行為は管理事業法によって規制されているところ,管理事業法を遵守し,これについて文化庁の業務改善命令等の介入がなされていない使用料規程に基づく契約の締結とその実施である被審人の本件行為は,管理事業法の目的である権利者及び利用者双方の利益保護,ひいては文化の発展に寄与するという利益に資するものであって,「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という独占禁止法の目的にも合致するものであるので,公共の利益に反しない。
大量の音楽著作物を放送番組で利用する放送事業者からみた場合,利用許諾を受ける対象たる音楽著作物につき効率的な管理がなされており,また,利用したいときに円滑かつ迅速に利用できることが必要である。音楽著作物の管理を管理事業者に委託する委託者からみれば,自らが著作権を有する音楽著作物が放送番組において利用され,これに対して適切な放送等使用料が支払われ,これについて適正に分配を受けられることが必要である。このような,権利者・利用者双方の利益を保護する目的にかない,音楽著作物を集中管理する際の効率的かつ合理的な方法として包括徴収が採用されているのであり,この徴収方法は,諸外国のほとんどの音楽著作物管理団体が採用しているものである。
したがって,このように合理的な本件行為は,独占禁止法の目的である「国民経済の民主的で健全な発達を促進する」もの(法第1条)であり,公共の利益に反しない。
5 争点5(原処分の内容は,競争制限状態の回復のために必要な措置であり,かつ,被審人に実施可能であるか)について
(1) 被審人の主張
ア  放送事業者が被審人に支払う放送等使用料は,被審人の管理楽曲の利用の対価であって,放送事業者が他の管理事業者に支払う放送等使用料とは無関係であるので,放送等利用割合を反映した徴収方法を被審人が採用したとしても,放送事業者が被審人に支払う放送等使用料の額は,他の管理事業者に支払う放送等使用料の額だけ減額されるわけではない。
そうすると,被審人が放送等使用割合を反映した徴収方法を採用したとしても,そのことにより放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用するという結果にはならないから,本件排除措置命令は,放送等利用許諾分野における競争制限状態の回復のために必要な措置とはいえず,違法である。
イ  本件排除措置命令は,放送等利用割合を反映した放送等使用料の徴収方法をとるように命ずるが,これだけでは,内容が余りにも抽象的であり,被審人が採用すべき方法が特定されていないこと,この徴収方法を実施するには,放送事業者からの音楽著作物の利用状況についての報告方法を変更することが必要であるが,これは被審人のみで履行できるものではないこと,そのような報告方法を実施するためのシステムの構築には多大な時間と費用を要するものであってその履行が不能あるいは著しく困難であることからすると,本件排除措置命令は違法である。
(2) 審査官の主張
ア  本件排除措置命令は,本件行為を排除することを目的に行われたものであり,放送等使用料の減額を企図するものではない。
被審人が本件排除措置命令に従い,放送等利用割合を反映した徴収方法を採用すれば,放送事業者が被審人以外の管理事業者にも放送等使用料を支払うと,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額が,当該放送事業者が他の管理事業者に支払う放送等使用料の額だけ増加することはなくなり,追加負担は生じなくなるのであって,本件排除措置命令により違反行為が是正される。
イ  本件排除措置命令は,放送等利用割合を反映した包括徴収を命じているのであって,命令の内容が不特定とはいえない。また,平成18年10月時点でも,相当数の放送事業者が被審人に対し,放送等利用実績の全曲報告をしていたのであるから,被審人が放送等利用割合を反映した徴収方法を採用することが不可能であったとはいえない。また,その履行に一定の負担を強いるものであったとしても,そのことによって,本件排除措置命令が違法とはいえない。
第6 審判官の判断
1 争点1(本件行為が,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するか)について
(1) 本件行為の影響
被審人が,ほとんど全ての放送事業者との間で,放送等使用料の徴収方法を包括徴収とする利用許諾契約を締結していること,これらの契約における包括徴収は,当該年度の前年度の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で放送等使用料の額を算定するものであることについては,当事者間に争いがない。
放送事業者は,被審人の管理楽曲を利用する限り,上記算定基準に基づく定額の放送等使用料を支払うことで足り,それ以上の費用負担は存しないが,被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用すれば,その管理事業者との利用許諾契約に従って別途放送等使用料を支払うことになるのであるから,放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用するかどうかを決定するに当たっては,別途の放送等使用料の負担を考慮する必要がある。
その意味で,被審人が上記の内容の利用許諾契約を締結して放送等使用料を徴収すること(本件行為)は,放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し,被審人が,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において,平成13年10月1日の管理事業法施行の前後を通じて,一貫してほぼ唯一の事業者であったことを併せ考えると,本件行為が他の事業者の同分野への新規参入について,消極的要因となることは,否定することができない。
そして,被審人が,管理事業者の新規参入を可能にした管理事業法の施行後も,新規参入について消極的要因となる本件行為を継続し,上記第3の6(2)のとおり,平成18年9月まで放送等使用料を徴収して管理事業を行う事業者が現れなかったことは,本件行為が他の事業者の上記分野への新規参入を困難にする効果を持つことを疑わせる一つの事情ということができる。
他方,証拠(査第100号証,審第20号証,第33号証)によれば,放送事業者が音楽著作物を放送番組において利用する際には,放送等使用料の負担の有無及び多寡は考慮すべき要素の一つであり,番組の目的,内容,視聴者の嗜好等を勘案して適切な楽曲を選択するものと認められる。また,楽曲の個性や放送等使用料の負担をどの程度考慮するかについては,放送等使用料の負担を考慮して楽曲を選択することは考えられない旨述べる者もあれば,カウントダウン番組(CDの売上げ,視聴者のリクエスト等を基に楽曲の順位を発表する番組)のように必然的に特定の楽曲を利用する場合を除き,幅広い選択肢の中から楽曲を選んで利用すると述べる者もあって,放送事業者や番組の内容により大きく異なると認められる。
そして,本件行為が独占禁止法第2条第5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,「本件行為・・・が,・・・自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,競業者の・・・参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである」から(前記最高裁平成22年12月17日第二小法廷判決),上記のとおり被審人の本件行為が放送事業者による他の管理事業者の楽曲の利用を抑制する効果を有し,競業者の新規参入につき消極的要因になることから,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果があると断定することができるかどうかは,本件行為に関する諸般の事情を総合的に考慮して検討する必要がある。
上記の諸般の事情としては,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における市場の構造,音楽著作物の特性(代替性の有無,その程度等),競業者の動向,本件行為及びその効果についての被審人の認識,著作権者から音楽著作権の管理の委託を受けることを競う管理受託分野との関連性等,多様な事情が考えられるが,審査官は,イーライセンスが平成18年10月に放送等利用に係る管理事業を開始するに際し,被審人の本件行為が実際にイーライセンスの管理事業を困難にし,イーライセンスの参入を具体的に排除した等として,それを根拠に本件行為に排除効果があったと主張するので,以下,その主張の成否を検討する。
(2) FMラジオ局を中心とした放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の利用回避の有無
審査官は,排除効果の点に関し,まず,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業に参入した平成18年10月上旬以降,FMラジオ局を中心とした放送事業者が,イーライセンス管理楽曲を放送で利用すると追加負担が生じることから,自ら制作する放送番組において,放送等利用が見込まれる大塚愛の「恋愛写真」を含むイーライセンス管理楽曲をほとんど利用しなかったと主張し,その根拠として,①放送事業者15社の著作権関連部門,編成部門等の役職員が,追加負担を回避するためイーライセンス管理楽曲の放送での利用を自粛したなどと述べる供述調書,②これら15社のうち数社の放送事業者が作成し,イーライセンス管理楽曲の放送における利用を控えるよう呼びかける社内通知文書,③イーライセンスの三野及びエイベックス・グループの役職員の供述調書,④民放連の町田のアドオン発言を挙げる。
ア  イーライセンス管理楽曲の利用状況
(ア) 大塚愛の「恋愛写真」の利用状況
a  証拠(審第1号証,第8号証)によれば,被審人のJ-BASSに報告されたデータにより,下記の表のとおり,①平成18年10月25日がCD発売日であった大塚愛の「恋愛写真」は,同年10月1日から12月31日までの間に,放送事業者の放送番組において729回(うちFMラジオ局では705回)利用されたこと(なお,同年10月に限ると,第1週に4回,第2週に85回,第3週に132回,第4週に215回利用された。),②「恋愛写真」は,同月1日からイーライセンス管理楽曲の無料化措置を民放連に加盟する放送事業者に通知する文書の作成日付の前日である平成18年10月17日までに128回利用され,同月18日から25日までの間に193回(うち首都圏以外の放送事業者において184回)利用されたことが認められる。
後記(4)ア(イ)のとおり,首都圏以外の放送事業者が上記通知文書を受領したのは,同月25日以降であるから,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の無料化措置を知り,そのことを,利用する楽曲の選択に反映させる前に「恋愛写真」を放送した回数は,首都圏以外の全ての放送事業者が上記通知文書を同月25日に受領し,翌26日からこれを踏まえて楽曲を選択したと仮定しても312回(同月17日までの利用回数である128回に同月18日から25日までの首都圏以外の放送事業者の利用回数である184回を加えた。)ということになる。この回数は,同年10月1日から12月31日までの3か月間の利用回数729回の42パーセントに及ぶものであり,「恋愛写真」が無料化措置の通知の前後を問わず,広く放送事業者に利用されていたことを認めることができる。
この点に関し,審査官は,審査官が利用回避があったと主張しているのはFMラジオ局を中心とする放送事業者による自ら制作する放送番組における放送等利用であり,JFNネット番組及びJFNC番組については,FMラジオ局が楽曲の選択に関与できず,放送をとりやめたり内容を変更したりすることが事実上不可能であって,自ら制作する放送番組に当たらないから,これらの番組における利用実績を除外すべきであると主張する。そして,証拠(査第71号証,第72号証,審第8号証)によれば,上記番組を除外した場合を含む放送事業者による「恋愛写真」の利用実績は,下記の表のとおりであることが認められる。

        番組属性
期 間 JFNネット番組又はJFNC番組以外の番組 JFNネット番組及びJFNC番組 合計(審第1号証記載の利用回数)
平成18年10月1日~12月31日 357 372 729
10月1日~10月17日  30  98 128
10月18日~10月25日 70(63) 123(121) 193(184)
10月26日~12月31日 257 151 408
平成19年1月1日~5月31日  51  54 105
(注)10月18日~10月25日欄の括弧内の数字は,首都圏以外の放送事業者の利用回数

しかし,証拠(査第68号証,審第35号証)によれば,ほとんどのJFNネット番組のキー局はエフエム東京であり,個別の番組の具体的な内容はエフエム東京に任せられているため,具体的な楽曲の選択についてもエフエム東京の意向が反映されていること,JFNCのスタジオは,エフエム東京の社内にあり,エフエム東京の社員がJFNCに出向して番組制作のノウハウを提供し,エフエム東京がJFNCの番組編成について相談を受けるなど,JFNCの番組制作についてもエフエム東京の意向が相当の影響を及ぼしていることが認められる(なお,JFNCの全ての株式をJFN加盟放送事業者が保有し,JFNCの役員の大多数をJFN加盟放送事業者の役員が兼任している(審第12号証ないし第13号証の2)から,JFN加盟放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を回避する意思があれば,それをJFNCに指示することが可能な立場にあったと認められる。)。証拠(査第68号証,審第35号証,吉田乾朗参考人審尋速記録)によれば,実際にも,エフエム東京は,平成18年9月28日,イーライセンスの放送等利用に係る管理事業の開始について,社内への連絡と同時にJFN及びJFNCに対しても連絡を行うなど,エフエム東京の当時の編成部長である吉田乾朗(以下「エフエム東京の吉田」という。)は,JFNネット番組及びJFNC番組を自社制作番組として扱っていることが認められる。
以上によれば,JFNネット番組とJFNC番組は,ほぼエフエム東京の制作番組と同視することができるのであって,審査官が主張するように,JFNネット番組及びJFNC番組を除いた番組を自ら制作する放送番組とし,これに限定してイーライセンス管理楽曲の利用回避の有無を検討し,これについて利用回避があれば,各放送事業者が利用回避を行ったと評価することについては疑問がある。
さらに,証拠(審第6号証)によれば,平成18年10月当時は,民放連に加盟するFMラジオ局の数は53社で,民間放送事業者194社の27.3パーセントにすぎず,また,FMラジオ局が放送する番組のうち,審査官が自ら制作する放送番組と称するものの割合はおおむね20パーセントないし40パーセントにすぎないことが認められる(査第50号証ないし第52号証,第54号証,第55号証)から,FMラジオ局の自ら制作する放送番組においてイーライセンス管理楽曲がほとんど利用されなかったとしても,それをもって,一般的にイーライセンス管理楽曲が放送事業者の放送番組においてほとんど利用されなかったとか,そのためにイーライセンスの放送等利用に係る管理事業が困難になると評価することには疑問がある(例えば,自ら制作する放送番組より多数を占めるJFNネット番組やJFNC番組で利用回避がなければ,イーライセンスは相当額の放送等使用料を取得できるはずである。)。そうすると,放送事業者による利用回避の有無を論ずる際に,FMラジオ局を中心とした放送事業者が自ら制作する放送番組に限定する理由については合理性がないといわざるを得ない。そして,FMラジオ局以外の放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を回避した事実を認めるに足りる証拠はない。
加えて,上記の表によれば,放送事業者が無料化措置を楽曲の選択に反映させる前に自ら制作する番組において「恋愛写真」を利用した回数は,JFN番組及びJFNC番組で利用された回数より少ないものの,少なくとも93回(平成18年10月1日から同月17日までの利用回数30回に,同月18日から同月25日までの間の首都圏以外の放送事業者による利用回数63回を加えたもの。)であり,これは同年10月から12月までの3か月の利用回数357回の約26パーセントに及ぶのであって,自ら制作する放送番組に限っても,「恋愛写真」が無料化措置の通知の前後を問わず,相当程度放送事業者に利用されていたことを認めることができる。
b  また,被審人のJ-BASSに報告されたデータにより,「恋愛写真」(平成18年10月25日CD発売で,同月第4週時点のオリコンチャート2位)の利用状況と,「恋愛写真」とCD発売日が近接し,「恋愛写真」と同様に同年10月第4週のオリコンチャートで5位以内に入っていた「SAYONARA」(同年10月25日CD発売で,同月第4週時点のオリコンチャート3位),「夢のうた」(同年10月18日CD発売で,同オリコンチャート5位)及び「シーサイドばいばい」(同年10月25日CD発売で,同オリコンチャート1位)の3曲(いずれも被審人の管理楽曲である。なお,オリコンチャート4位に入っていた「セーラー服と機関銃」は,新曲ではないため比較の対象から除外した。)の利用状況を比較すると,利用のピーク時期とその時期における利用回数が,「恋愛写真」では10月第4週の約210回であるのに対して,「SAYONARA」では10月第3週の約370回,「夢のうた」では10月第3週の約300回,「シーサイドばいばい」では11月第1週の約190回となっており,これら4曲は,いずれも,CD発売日の前後に利用のピークを迎え,その後急激に利用回数が減少しており,その前後の利用回数を含めて,イーライセンス管理楽曲である「恋愛写真」と被審人管理楽曲である他の3曲との利用回数の推移は,相当程度類似しているといえる。(審第2号証,第8号証)
この点に関して,審査官は,「恋愛写真」の利用のピーク時期が,上記無料化通知文書の発出時期の後である10月第4週で,他の3曲と異なること,「恋愛写真」の利用回数の総数は,他の3曲と比べて少ないことを指摘する。
しかし,「恋愛写真」のCD発売日が10月25日で利用のピーク時期が10月第4週であることと,「夢のうた」のCD発売日が10月18日で,利用のピークが10月第3週であることは,むしろ整合性があるといえるし,「SAYONARA」と「シーサイドばいばい」のCD発売日がともに10月25日であるのに対し,利用のピーク時期がそれぞれ10月第3週,11月第1週となっていることをみても,利用回数の推移にはある程度のばらつきがあるものと認められるから,「恋愛写真」の利用回数の推移について特異な点があるとは認められない。また,4曲の利用回数の総数は,「恋愛写真」が836回,「SAYONARA」が1,665回,「夢のうた」が1,190回,「シーサイドばいばい」が750回であることが認められる(審第8号証)が,もともと個別の楽曲がどの程度の人気を博するかには相当のばらつきがある上,上記4曲は,アーティストもプロモーションを行う事業者も異なるのであるから,上記の程度の利用回数総数の差異をもって,「恋愛写真」の利用回数について特異な点があるとはいえない。
c  さらに,被審人のJ-BASSに報告されたデータにより,大塚愛の「恋愛写真」の利用状況と,大塚愛自身の他の楽曲(「フレンジャー」,「ユメクイ」,「CHU-LIP」及び「PEACH」の4曲であり,いずれも被審人の管理楽曲である。)の利用状況を比較すると,「フレンジャー」のピーク時の1週間の利用回数が300回を超えているほかは,いずれの4曲もピーク時の1週間の利用回数は200回前後となっている上,これら5曲はいずれも,CD発売日の前後に利用のピークを迎え,その後に急激に利用回数が減少するという点で共通していることが認められる(審第3号証,第8号証)。
この点に関して,審査官は,「恋愛写真」の利用回数をFMラジオ局が自ら制作する番組における利用回数とそれ以外の番組(JFNネット番組及びJFNC番組)における利用回数に分類すると,「恋愛写真」については自ら制作する番組における利用回数の割合が他の曲と比べて低いと主張する。
しかし,上記のとおり,放送事業者による利用回避の有無を検討するに際して自ら制作する放送番組に限定すべきとの主張には合理性がない上,証拠(審第8号証,第18号証の1)によれば,FMラジオ局の自ら制作する放送番組における利用回数とJFNネット番組及びJFNC番組における利用回数の割合は,次の表のとおりになるのであって,FMラジオ局が自ら制作する放送番組における「恋愛写真」の利用回数の割合が特に低いとはいえない。

      番組属性

楽 曲 JFNネット番組又はJFNC番組以外の番組
(A) JFNネット番組及びJFNC番組
(B) 全体(A+B)に占める(A)の割合
フレンジャー 693 633 52.3%
ユメクイ 501 601 45.5%
恋愛写真 404 523 43.6%
CHU-LIP 445 477 48.3%
PEACH 562 569 49.7%

また,審査官は,オリコンチャート最高位が2位,登場回数が20回である「恋愛写真」のJ-BASS報告実績は合計974回であるのに対し,同最高位が2位,登場回数が19回で,登場回数が「恋愛写真」に及ばない「フレンジャー」の報告実績が合計1,511回であり,同最高位が5位,登場回数が17回でいずれも「恋愛写真」に及ばない「ユメクイ」の報告実績が合計1,376回であって,「恋愛写真」の利用回数が「フレンジャー」及び「ユメクイ」を下回っていることをもって,「恋愛写真」の利用回数は,他の大塚愛の楽曲と比べて少ないと主張する。
しかし,楽曲のCDやDVD等の音楽ソフトの販売数を基に計算されるオリコンチャートの順位や登場回数と放送等における利用回数との間に明確な相関関係があることを認めるに足りる証拠はなく,この程度の利用回数の差異をもって,「恋愛写真」の利用回数に特異な点があるとはいえない。
d  小括
以上によれば,大塚愛の「恋愛写真」については,それと同時期にCDが発売されて同程度のヒットとなった他の楽曲及び大塚愛自身の他の楽曲と比較して,遜色のない形で放送事業者による放送番組において利用されており,放送事業者に対する無料化措置の通知の前後において,その利用状況に格別の変化はなかったものと認められる。
(イ) イーライセンス管理楽曲の利用状況
エイベックス・グループがイーライセンスに対し,平成18年10月1日の時点で放送等利用に係る管理を委託した60曲(エイベックス60曲)及び10月中旬の時点で管理を委託した67曲(エイベックス67曲)については,被審人のJ-BASSに報告されたデータによれば,平成18年10月時点で被審人に対して全曲報告を行っていたFMラジオ局39社において,同月1日から17日(上記無料化通知文書の作成日付けの前日)までの間にエイベックス60曲が218回,エイベックス67曲が166回,同年10月18日から12月31日までの間にエイベックス60曲が768回,エイベックス67曲が644回,合計でエイベックス60曲が986回,エイベックス67曲が810回,それぞれ利用されたことが認められる(審第7号証の1及び2,第8号証)。よって,エイベックス楽曲は,無料化措置の通知の前後を問わず,広く放送事業者に利用されたと評価できる。
また,後記(3)イ(エ)及び(オ)のとおり,イーライセンスは,エイベックス67曲の他に,平成18年10月20日頃には5曲,同年12月21日頃には48曲について,放送等利用に係る音楽著作権を管理していた(審第33号証,第35号証)が,これらの楽曲は,もともと放送で利用される可能性の乏しいものであったと認められる(なお,これらの楽曲が相当な回数にわたって放送事業者によって利用されたことを認めるに足りる証拠はない。)(三野明洋参考人審尋速記録)。
そうすると,イーライセンス管理楽曲全体について,平成18年10月から同年12月にかけて,広く利用されており,放送事業者に対する無料化措置の通知の前後において,その利用状況に特別な変化はなかったものと認められる。
なお,審査官は,「恋愛写真」の場合と同様に,エイベックス楽曲についても,上記の利用回数からJFNネット番組及びJFNC番組の利用回数を除いた数字を基に利用状況を検討すべきであると主張し,この点については具体的な利用回数が明らかではない。しかし,上記のとおり,放送事業者による利用回避の有無を検討するに際して自ら制作する放送番組に限定すべきとの主張には合理性がない上,平成18年10月時点で被審人に対して全曲報告を行っていたFMラジオ局39社における平成18年10月1日から12月31日までの間のエイベックス60曲及びエイベックス67曲の利用回数はそれぞれ986回,810回であるところ,このうち両リストに含まれる「恋愛写真」の利用回数は700回で多数を占めており(審第8号証),前記のとおり「恋愛写真」についてJFNネット番組及びJFNC番組を除いても相当程度使われていたことからすると,審査官の主張は失当である。
イ  放送事業者の役職員の供述調書及び社内周知文書
(ア) テレビ朝日
a  証拠(査第23号証,第36号証,審第34号証)によれば,テレビ朝日の髙橋は,平成18年9月27日付けで「連絡票」と題する社内通知文書を作成し,社内の番組制作担当者に配布したことが認められる。
テレビ朝日の髙橋の供述調書(査第23号証)中には,上記の「連絡票」の配布により,イーライセンス管理楽曲を放送で利用する場合には,番組制作費から放送等使用料を支出する必要があることが周知されたため,番組制作担当者に対してイーライセンス管理楽曲の利用を差し控えさせる効果があったことは結果として否定できないとする部分がある。
しかし,この供述自体が「結果として否定できない」という曖昧な表現である上,テレビ朝日の髙橋は,陳述書(審第34号証)において,①上記「連絡票」の趣旨は,イーライセンスが新たに放送等利用に係る管理事業を開始すること及びイーライセンス管理楽曲を利用する場合の具体的な手続等をあらかじめ社内に周知させ,番組制作担当者がイーライセンス管理楽曲を利用する場合に混乱が生じないようにする点にあった,②番組制作現場においてどの楽曲を利用するかは演出上の問題であり,それについて自分の地位にある者には口出しする権限はない,とした上で,③「連絡票」により番組制作担当者がイーライセンス管理楽曲の利用を差し控えることはないと思う旨述べ,参考人審尋においても同旨の供述をしている。
加えて,「連絡票」には,①別紙の楽曲を利用する場合は,使用報告書の提出と放送等使用料の支払が必要となる旨,②使用報告書には,楽曲名,アーティスト名,放送日時等を記入して放送日から1か月以内に提出してほしい旨,③放送等使用料の額,④放送等使用料は番組負担となる旨,また,使用報告書の提出が遅れると一般料金の6万円の支払が課せられる旨,⑤これらの楽曲には大塚愛,倖田來未らの楽曲が含まれているので十分注意してほしい旨,等が記されているのみで,放送での利用回避を要請する文言は記載されていない。また,番組制作担当者が現実に「連絡票」の趣旨をどのように理解し,「連絡票」によりどのような影響を受けたかを示す証拠はない。
b  そうすると,「連絡票」及びテレビ朝日の髙橋の供述調書の上記部分の記載をもって,「連絡票」が番組制作担当者にイーライセンス管理楽曲の利用を差し控えさせる効果を有していたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(イ) TBSテレビ
a  証拠(査第24号証,第37号証,審第33号証)によれば,TBSの深尾は,平成18年9月29日頃,番組制作担当者等に対し,「(株)イーライセンスによる楽曲の著作権管理について」と題する社内通知文書を配布したことが認められる。
TBSの深尾の供述調書(査第24号証)中には,上記文書にイーライセンス管理楽曲を利用する場合は1曲ごとに放送等使用料を支払う必要があるので注意するようにと記載したことは,番組制作担当者にとって,イーライセンス管理楽曲の利用を自粛させる効果があったといえると供述する部分がある。
しかし,TBSの深尾は,陳述書(審第33号証)において,①社内通知文書を作成した趣旨は,新たに定めた実務上の手順を確認することにあった,②自分は,民放連を代表してイーライセンスと交渉に当たった立場上,イーライセンス管理楽曲の利用をむしろ期待しており,利用が自粛されることは全く想定していなかった,③音楽には個性があるから放送等使用料の多寡のみを理由に被審人の管理楽曲をもってイーライセンス管理楽曲を代用することはできず,イーライセンス管理楽曲を利用する必要があれば,番組制作現場では当然利用するのであって,放送等使用料の負担を理由として利用を自粛することはあり得ない,等と述べ,参考人審尋においても同旨の供述をしている。
また,上記の社内通知文書には,①イーライセンスが平成18年10月1日から放送における楽曲の著作権管理を独自に開始することとなった旨,②別紙の楽曲を放送で利用する場合は,1曲ごとに放送等使用料を支払う必要があるので注意されたい旨,③放送等使用料については,確定次第連絡する旨,④別紙の楽曲を利用する際は報告用紙に必要事項を記入の上,担当部署に提出してほしい旨が記されているのみで,放送における利用の自粛を要請するような文言は記載されていない。また,番組制作担当者が現実に上記文書の趣旨をどのように理解し,どのような影響を受けたかを示す証拠はない。
b  さらに,査第24号証によれば,東京放送が平成18年10月1日から20日まではイーライセンス管理楽曲を利用せず,同月21日から同年12月末日までの間に「恋愛写真」等のイーライセンス管理楽曲を19回利用したことが認められるが,それらの多くは,カウントダウン番組又はそれに類似する番組で利用されたものであるから,この事実をもって,上記社内通知文書による自粛効果の表れということはできない。
そうすると,上記通知文書及びTBSの深尾の供述調書の上記部分の記載をもって,上記通知文書が番組制作担当者にイーライセンス管理楽曲の利用を差し控えさせる効果を有していたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) J-WAVE
証拠(査第38号証,第40号証)によれば,J-WAVEの阿瀬川は,平成18年10月頃,「イーライセンス社 放送使用楽曲の管理業務開始のお知らせ」と題する社内通知文書を作成し,番組制作担当者に配布したことが認められる。
J-WAVEの阿瀬川の供述調書(査第40号証)中には,①被審人が自らの管理楽曲の放送での使用割合を反映しない包括徴収を維持する中で,イーライセンス管理楽曲が増え,他の管理事業者も放送等利用に係る管理事業に参入してくれば,放送等使用料は,2倍,3倍へと膨らんでしまうことになるので危機感を持った,②そのため,同人は,編成局次長として,番組制作担当者に向け,イーライセンス管理楽曲を利用するのを自粛するよう,上記社内通知文書を送付して周知した,③上記社内通知文書では,極力利用を避けることを求めているが,イーライセンス管理楽曲の放送での利用を自粛するよう周知する趣旨であった,④このような編成局の方針は,番組制作担当者に行き渡り,J-WAVEの放送番組においてイーライセンス管理楽曲を利用することはなかった,などと供述する部分がある。
しかし,証拠(審第27号証)によれば,J-WAVEは,平成18年10月から12月までの間にエイベックス60曲又はエイベックス67曲を平成18年10月に5回,11月に0回,12月に2回利用したこと,平成18年10月1日から20日(イーライセンス管理楽曲の無料化措置が首都圏のラジオ局8社に対してファクシミリで通知された日)の間の自ら制作する放送番組に限っても,4回(うち「恋愛写真」は1回)利用したことが認められるから,上記供述部分のうち,J-WAVEがイーライセンス管理楽曲を利用しなかったとの部分は事実に反する。
また,証拠(査第38号証)によれば,上記社内通知文書において,①イーライセンスが平成18年10月1日から放送使用楽曲の管理業務を開始した旨,②イーライセンス管理楽曲は一曲ごとの報告・支払となる旨,③放送等使用料の額,④将来的に楽曲数が増えたケースを考慮し,現在,ライブラリーで検索時に確認できる方法を業者に研究してもらっている旨が記され,イーライセンス管理楽曲の将来的な利用を前提とした事項が周知されているほか,「選曲時のお願い」として,「別途報告・支払いなど煩雑な作業が発生します。」「やむを得ない場合を除いて,当面は極力使用を避けるよう,お願いします。」「なお,使用した場合は,必ず記録を残し(使用時間も必要になる可能性あり),事後報告に備えてください(報告方式は未定)」と枠で囲んだ形で記載されていることが認められるものの,この文書においてイーライセンス管理楽曲の利用回避を求める理由は,別途報告・支払など煩瑣な作業が発生することとされているのであって,追加負担の発生が理由とはされていない。
以上の事実に照らせば,上記の社内通知文書及びJ-WAVEの阿瀬川の供述調書の上記部分の記載をもって,上記通知文書が番組制作担当者にイーライセンス管理楽曲の利用を差し控えさせる効果を有していたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(エ) ベイエフエム
証拠(査第42号証)によれば,ベイエフエムの当時の編成部長であった国広俊樹(以下「ベイエフエムの国広」という。)は,平成18年10月初め頃,イーライセンス管理楽曲に関し,番組制作担当者に対する社内通知文書を掲示したことが認められる。
ベイエフエムの国広の供述調書(査第42号証)中には,①被審人が放送等使用料を包括徴収しているため,イーライセンス管理楽曲を利用するとイーライセンスへの放送等使用料が追加負担となり,それは,受け入れられないことであった,②そこで,同人は,上記文書を掲示し,イーライセンスが管理事業を開始したことと,イーライセンス管理楽曲を放送で利用すると追加費用がかかるから,放送で利用したい場合には,事前に報告して了解を得るよう周知した,③上記文書の内容は,事前に了解を得るよう求めるものであったが,同人としては,番組制作担当者が,大塚愛の「恋愛写真」を含むイーライセンス管理楽曲を放送で利用しないようにするつもりであった,④その結果,ベイエフエムでは,大塚愛の「恋愛写真」も含め,イーライセンス管理楽曲の放送を自粛した,という部分がある。
しかし,上記文書は,ベイエフエムの国広の意図はともかく,イーライセンス管理楽曲を放送で利用する場合の事前の了解を求めるものにすぎず,明確に放送での利用自粛を求めるものではないこと,証拠(審第27号証)によれば,ベイエフエムの平成18年10月から12月までの間のエイベックス60曲又はエイベックス67曲の利用実績は,平成18年10月が33回,11月が19回,12月が0回であり,イーライセンス管理楽曲の無料化措置の通知を受けた同年10月20日までの間の自ら制作する放送番組における利用に限っても11回(うち「恋愛写真」は8回)の利用実績が認められることからすると,ベイエフエムの国広の供述をもってベイエフエムにおいてイーライセンス管理楽曲の利用が回避されたとの事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(オ) 株式会社ZIP-FMほか6社
株式会社ZIP-FM(以下「ZIP-FM」という。),Kiss-FM,株式会社エフエム富士(以下「エフエム富士」という。),株式会社エフエム岩手(以下「エフエム岩手」という。),株式会社エフエム山形(以下「エフエム山形」という。)及びエフエム青森の担当者の供述調書(査第49号証,第50号証,第52号証ないし第55号証)中には,平成18年10月,追加負担を避けるためイーライセンス管理楽曲の利用を回避することとして,その旨を番組制作担当者に周知し,イーライセンス管理楽曲の無料化措置後も利用回避を続け(エフエム富士及びエフエム岩手は,無料化措置後に利用回避を決定した。),イーライセンス管理楽曲を利用しなかった,と供述する部分があり,株式会社エフエム佐賀(以下「エフエム佐賀」という。)の担当者の供述調書(査第51号証)中には,無料化措置終了後の平成19年1月以降,イーライセンス管理楽曲の利用を回避することを決定して周知し,イーライセンス管理楽曲を利用しなかったと供述する部分がある。
しかし,これらの7社については,上記供述調書以外には,利用回避を指示した文書その他の客観的な証拠がない上(エフエム佐賀についてはイーライセンス管理楽曲の利用実績を記録するよう要請した文書があるが,利用回避については触れていない。),証拠(審第7号証の1ないし4,第27号証)によれば,ZIP-FMほか5社については,利用回避したと担当者が供述している平成18年10月以降,エフエム佐賀については,同じく平成19年1月以降,それぞれ「恋愛写真」を含むエイベックス60曲又はエイベックス67曲を相当程度利用したことが認められるから,これらの担当者の供述をもって,これらの7社がイーライセンス管理楽曲の利用を回避した事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(カ) 横浜エフエム
横浜エフエムの役員の供述調書(査第48号証)中には,被審人の管理楽曲の放送等使用料が毎年増額になっているから,他の管理事業者への放送等使用料が追加的に発生することは避けたいとの供述部分があるが,具体的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したことを明言した部分はない上,証拠(審第27号証)によれば,横浜エフエムが無料化措置の通知の前後を問わず,エイベックス60曲又はエイベックス67曲を相当程度利用したことが認められるから,上記供述をもって横浜エフエムがイーライセンス管理楽曲の利用を回避した事実を認めることはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
(キ) 静岡朝日テレビ及び茨城放送
証拠(査第43号証ないし第47号証)によれば,静岡朝日テレビにおいて,番組制作担当者に対し,平成18年10月12日付け及び同年12月27日付けでイーライセンス管理楽曲に関する社内通知文書が配布され,この文書中には,放送等使用料の追加負担を避けるため,できるだけイーライセンス管理楽曲の利用を避けることを指示する旨の記載があること,地方AM放送局である茨城放送において,平成18年10月初め頃,イーライセンス管理楽曲を利用しないよう番組制作担当者に通知したが,無料化措置については通知せず,同年12月下旬頃,同年末で無料化措置が終了することから,平成19年1月以降イーライセンス管理楽曲を利用しないように注意することを改めて文書で周知したことが認められる。
しかし,これらの2社については,被審人のJ-BASSへの楽曲の全曲報告のシステムを採用していないため,社内における上記の通知の後にイーライセンス管理楽曲がどの程度利用されたかを示す客観的な証拠がないこと,上記(ア)ないし(カ)のとおり,著作権管理担当者等が番組制作担当者にイーライセンス管理楽曲の利用を控えるよう指示したと供述した9社の放送事業者について,客観的データによれば,イーライセンス管理楽曲が相当程度利用されていたことに照らすと,静岡朝日テレビ及び茨城放送において,上記の社内通知文書及び担当者の供述によって,イーライセンス管理楽曲の利用が差し控えられたという事実を認めるには足りないというべきである。
(ク) NACK5
証拠(査第39号証,第41号証)によれば,NACK5の田中は,番組制作担当者に対し,平成18年10月12日付けの「緊急のお知らせ」と題する社内通知文書を配布したことが認められる。
証拠(査第39号証)によれば,この通知文書には,①NACK5ではエイベックス60曲のオンエアを当面見合わせることとした旨,②ゲスト出演などでこれらの楽曲をオンエアする際は事前に編成部に知らせてほしい旨,③これらの楽曲をオンエアした場合は必ず番組名とオンエア日時を報告してほしい旨などが記されている。
さらに,NACK5の田中の供述調書(査第41号証)中には,①被審人が包括徴収をしているため,放送でイーライセンス管理楽曲を利用すると,イーライセンスへの放送等使用料の支払が新たな費用負担となること,②イーライセンスへの支払が被審人への支払の上乗せとなることが,イーライセンスなどの新規事業者の管理楽曲を放送する上でのネックとなっていること,③その他に全曲報告の作業上の手間もあるため,NACK5は,平成18年10月当時,イーライセンス管理楽曲の放送を見合わせることとしたこと,④以上に加えて,事前にイーライセンスに通知せずイーライセンス管理楽曲を放送すると,ペナルティとして,1曲当たり5万円の請求があるのではないかと懸念したこともあって,NACK5は,上記の社内通知文書を配布してイーライセンス管理楽曲を放送しないように伝えたこと,⑤大塚愛は,平成18年11月1日の番組にゲスト出演する予定となっていたが,ゲスト出演が決まった後,「恋愛写真」がイーライセンス管理楽曲であるという事実が判明したため,出演自体を取りやめることとしていたこと,等を供述する部分がある。
また,証拠(審第27号証)によれば,NACK5の平成18年10月から12月までの間のエイベックス60曲又はエイベックス67曲の利用実績は,平成18年10月に0回,11月に11回,12月に0回であり,同年10月時点では,社内通知文書のとおりイーライセンス管理楽曲の利用は差し控えられていたものと認められる。
そうすると,NACK5は,イーライセンス管理楽曲を利用することにより追加の放送等使用料の負担が発生すること,イーライセンス管理楽曲を利用するには全曲報告という作業上の手間がかかること,報告をせずに利用すると高額のペナルティを請求される懸念があることから,イーライセンス管理楽曲の利用を差し控えたことが認められる。
なお,証拠(査第4号証,第34号証,第96号証,第98号証,審第37号証)によれば,平成18年10月20日頃には,エイベックス・グループからの無料化措置の通知はNACK5にも到達していたにもかかわらず,同月25日にイーライセンスの三野とイーライセンスの名越が,同月30日にイーライセンスの名越が,さらには,別途エイベックスの西牟田が,それぞれNACK5を訪問して協議を行った結果,NACK5は,同月31日になって,イーライセンス管理楽曲の放送自粛を解除し,同年11月1日の番組に大塚愛を出演させた(査第41号証)こと,NACK5の田中は,イーライセンスからも民放連からもイーライセンスの管理事業開始に関する具体的な説明がないままに,両者の合意書が送付されてきたことから,同月25日に長い付き合いのあったイーライセンスの三野らと面談した際に,「何時来るかと思っていた」との挨拶を交わしている(査第41号証)こと,イーライセンスが管理事業を開始するに際し,民放連経由で文書を送付するのみで直接訪問しないことに首都圏の放送事業者の上層部が立腹しているとの情報がエイベックス・グループに寄せられていたこと(査第34号証)に照らすと,NACK5が平成18年10月31日までイーライセンス管理楽曲の利用を自粛した理由としては,追加負担,全曲報告の手間及びペナルティの懸念以外にも,イーライセンス役員とNACK5の田中は従前から個人的な知己であった(査第41号証)のに,イーライセンスがNACK5を直接訪問せず,放送等使用料を負担させられることに対するNACK5側の反発もあったことが認められる。
(ケ) 小括
以上のとおり,審査官の挙げた放送事業者15社のうち,NACK5については,追加負担が発生すること,全曲を報告する手間がかかること,報告漏れがあると高額のペナルティを課せられる危険があることを理由にして,イーライセンスとNACK5との経営者間の軋轢もあって,利用の回避を指示したため,イーライセンス管理楽曲は実際に利用されなかったことが認められる。
しかし,それ以外の14社については,①そもそもイーライセンス管理楽曲の利用を回避する旨の意思決定があったことを認めるに足りる証拠はないか(3社),②イーライセンス管理楽曲の利用回避の意思決定があったとの供述はあるが,それを具体的に指示したことについて客観的な社内通知文書等による裏付けがなく,実際には相当程度イーライセンス管理楽曲が利用されていたか(9社),③実際にイーライセンス管理楽曲の利用回避があったかどうかについての客観的なデータがないか(2社),のいずれかであって,これらの放送事業者において,イーライセンス管理楽曲について何らかの利用回避の動きがあった可能性はあるものの,具体的に利用回避があったことを認めるには足りない。
ウ  イーライセンスの三野及びエイベックス・グループの役職員の供述
(ア) イーライセンスの三野は,供述調書(査第4号証)において,①「恋愛写真」が首都圏のラジオ局,テレビ局で全く放送されないという事態が生じた,②エイベックス・グループのプロモーターから,首都圏のFMラジオ局の番組制作ディレクターらに対して「恋愛写真」を利用するように要請したところ,追加負担がかかること,編成から利用の自粛を指示されていることを理由に拒絶されたとの報告を受けた,と供述する。
しかし,イーライセンスの三野は,参考人審尋において,イーライセンス管理楽曲の利用が実際に拒絶されたかどうかを放送事業者に確認したことはないことを認める供述をしているから,同人の供述調書の上記部分は,エイベックス・グループのプロモーターの話を伝聞として聞いたことを示すにとどまるものである。
(イ) エイベックスの谷口,エイベックスの西牟田及びエイベックス・エンタテインメント株式会社プロモーション部メディアルーム課長代理の本橋卓は,各供述調書(査第33号証ないし第35号証)において,①イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始すると,各放送局は,イーライセンス管理楽曲を一切放送しないという対応に出た,その原因は被審人が包括徴収を行っていることにあった,②エイベックス・グループのプロモーターは,エイベックスの谷口らに対し,首都圏のFMラジオ局,AMラジオ局を中心とした放送事業者の番組制作プロデューサーや番組制作ディレクターから,追加負担が生じるためイーライセンス管理楽曲を利用できないと言われたと報告した,③その後,地方の放送局のプロモーターを統括する者は,エイベックスの谷口らに対し,地方のFMラジオ局,AMラジオ局やテレビ局においても,首都圏と同様にイーライセンス管理楽曲の放送での利用が自粛されていると報告した,等と供述する。
他方,エイベックスの谷口は,陳述書(審第37号証)において,供述調書で述べた上記①の内容のうち,放送事業者がイーライセンス管理楽曲を放送しなかったという部分は,放送局の一部に利用を躊躇するような言動が見られたことを念頭に置いて述べたもので,全放送局における実際の利用状況を客観的に確認した上で述べたわけではないと述べ,供述調書で述べた①の内容のうちの放送事業者による利用回避の原因が被審人による包括徴収であるという部分については,当時はそのように断定的に考えていたわけではなく,そのように断定的に述べたとすれば,論理の飛躍があり,放送等使用料をめぐる実務の状況を反映した正確な説明ではなかった,などと陳述し,参考人審尋においても同趣旨のことを述べている(谷口元参考人審尋速記録)。
そうすると,上記の3名の供述調書における①の部分は,断定的な表現となっているものの,②や③のプロモーター等からの伝聞をもとに3名が判断したことを述べたものにとどまるといえる。
エ  民放連の町田によるアドオン発言
(ア) 平成17年10月11日に行われた民放連とイーライセンスとの交渉において,民放連の町田が「放送において,音楽に支払うパイは一定です。そのため,民放連としては,e-Licenseへの放送使用料が,現状のJASRACへお支払いしている使用料にadd-onする形なら,むしろe-Licenseの曲を使いません。」とのアドオン発言を行った事実については,争いがない。
審査官は,この発言に関し,放送事業者がイーライセンスに支払う放送等使用料が被審人に支払う放送等使用料に追加負担となるのであれば,放送事業者はイーライセンス管理楽曲を利用しないという民放連としての意思の表明であると主張する。
(イ) 下記の証拠によれば,アドオン発言に至る経緯と発言がされた状況は次のとおり認められる。
a  イーライセンスは,平成17年8月,放送等利用に係る管理事業への参入のため,民放連との協議を開始し,同月行われた民放連との会合において,イーライセンスの放送等利用に係る管理事業への新規参入については多くの著作権者から賛同を得ており,被審人の管理楽曲が1万曲程度同社に移動する予定であること,音楽著作権の利用許諾の方式を包括許諾,放送等使用料の徴収方式を包括徴収とした上で,放送等使用料は,イーライセンスと被審人の録音権の使用料徴収額の比率に基づいた「管理事業者係数」を乗ずることで決定し,それをイーライセンスが被審人と交渉して被審人から受け取ろうと考えていること,したがって,放送事業者には放送等使用料の点で負担をかけないつもりであること,イーライセンスと被審人との話合いには文化庁が間に入ってくれるので安心であること等の説明をした。(査第4号証,第23号証,第24号証,審第33号証,第34号証,髙橋英夫参考人審尋速記録)
b  民放連は,イーライセンスの説明が余りにも楽観的なものであったため,関係者を訪問して調査した。その結果,被審人は,イーライセンスの参入によって被審人の管理楽曲が大幅に変動しないのであれば,放送等使用料を減額する意向はないこと,放送等使用料について管理事業者同士が取り決めることは独占禁止法上問題があるから,管理事業者同士の話合いの間に文化庁が立つことはないこと,インタラクティブ配信事業者の団体であるネットワーク音楽著作権連絡協議会によると,インタラクティブ配信分野では,各管理事業者の管理楽曲数の比率である「品揃え比率」により使用料を算定し,被審人に減額措置を実施してもらったことがあるものの,むしろ品揃え比率の算出作業の負担が大きいことが判明したため,減額措置は1回実施されただけであること等が判明した。(査第89号証,審第33号証,第34号証,髙橋英夫参考人審尋速記録)
c  民放連は,平成17年10月11日に行われたイーライセンスとの交渉の冒頭において,上記bの調査結果を説明し,イーライセンスの当初の説明の実現可能性に疑問を呈した。
そうすると,その場に同席したイーライセンスの顧問弁護士が,①イーライセンスは,放送等利用に係る管理事業に参入すれば,放送事業者から放送等使用料を徴収すること,②民放連が,現在被審人に支払っている放送等使用料とは別に,イーライセンスへの放送等使用料をアドオンして支払うのか,被審人に支払っている放送等使用料の一部をイーライセンスに回すのかは民放連に選択してもらうこととなるが,イーライセンスとしては,どちらの場合でも,直接イーライセンスに支払ってもらいたいと考えていること,③イーライセンスとしては,楽曲の著作権の管理を委託される以上,最後の手段としては,裁判手続も考えられること等を説明した。
これに対し,民放連の町田は,①管理事業法が施行された以上,放送等使用料の支払が,被審人への支払のみでよいのか,現在の金額である117億円の範囲内で収まるのかという疑問はある,②しかし,被審人が現在被審人に支払っている放送等使用料からイーライセンスに支払うべき放送等使用料を除くことを拒絶した場合,民放連は困る,よって,今までの被審人への支払からシェアするというのは,良い考えなのだが,その線で進めるための知恵がほしい,③放送等使用料についてのイーライセンスの提案を被審人が拒絶しているので民放連としては動きようがない,などと発言したのと並んで,上記のアドオン発言を行った。
イーライセンスは,このアドオン発言に対し,同日の交渉の中では,民放連に対してその趣旨を確認したり,反論をしたりせず,イーライセンスの側で包括許諾・個別徴収の方法による利用許諾契約の締結について再検討した上で,日を改めて交渉を行うこととなった。
(査第4号証,第23号証,第24号証,第29号証,第30号証,審第33号証,第34号証)
(ウ) 民放連を代表してイーライセンスとの交渉に臨んでいたテレビ朝日の髙橋及びTBSの深尾は,各供述調書(査第23号証,第24号証)において,このアドオン発言は,イーライセンスへの放送等使用料が被審人への放送等使用料に追加した負担となるのであれば,これを避けるためにイーライセンス管理楽曲の利用を自粛させる効果を持つという意味であり,民放連に加盟する放送事業者の共通の考えを述べたものであるという趣旨の供述をしたが,その後提出した陳述書(審第33号証,第34号証)及び参考人審尋(深尾隆一参考人審尋速記録,髙橋英夫参考人審尋速記録)において,このアドオン発言は,民放連の町田がイーライセンスの顧問弁護士の挑発的な発言に対して深く考えずに返答したものであって,民放連全体の意思ではないなどと述べている。
(エ) 以上によれば,民放連の町田は,イーライセンスによる放送等使用料に関する説明が大きく変化したことに対して困惑してアドオン発言をしたものと認められ,加えて,民放連の町田がこのような発言をすることについて民放連として意思決定したことを認めるに足りる証拠はないことに照らすと,アドオン発言をもって,民放連又は民放連に加盟する放送事業者のイーライセンス管理楽曲の利用回避の意思の表れであると評価することはできない。
オ  小括
以上によれば,①放送事業者全体についてみると,大塚愛の「恋愛写真」は,同時期にCDが発売された他の楽曲や大塚愛自身の他の楽曲と比較して,遜色のない形で放送事業者に利用され,それ以外の楽曲を含むイーライセンス管理楽曲も放送事業者に相当程度利用されており,放送事業者に対する無料化措置の通知の前後において,その利用状況に格別の変化はなかったものと認められ,②15社の個別の放送事業者についてみても,実際にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したことが認められるのは経営者間の感情的軋轢も一因となったNACK5だけであり,その他の放送事業者については,具体的に利用回避があったことを認めることはできず,③エイベックス・グループのプロモーター等からの伝聞や放送事業者の編成部門担当者等の供述によれば,放送事業者の間に,イーライセンス管理楽曲について何らかの利用回避の動きがあったことは窺われるものの,実際にどの程度利用が回避されたのかは明らかではない。
そうすると,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したことを認めることはできず,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことが認められるにとどまる。
(3) イーライセンスの管理事業の実態
以上のとおり,平成18年10月,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業に参入した直後の時期において,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したことを認めるに足りる証拠はないが,被審人は,仮に,利用回避があったと認められるとしても,その原因はイーライセンスが準備不足のまま放送等利用に係る管理事業を開始したことにあると主張するので,この点につき検討する。
ア  イーライセンスと民放連との契約締結の経緯
下記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) イーライセンスは,平成17年8月,民放連との協議を開始し,同月の会合でイーライセンスの立場を説明し,同年10月の会合で民放連からアドオン発言があった(前記(2)エ)後も,平成18年2月末までに数回の交渉を行った。(査第30号証)
イーライセンスは,当初,放送等利用に係る管理事業を平成18年4月に開始すると述べていたため,民放連がイーライセンスに対して同社の管理楽曲を明らかにするよう求めたところ,イーライセンスは,同年3月末になって,同年4月1日の時点では放送等利用に係る管理楽曲はない旨回答し,放送等利用に係る管理事業の開始は同年10月1日からとされた。(審第33号証,第34号証,髙橋英夫参考人審尋速記録)
(イ) イーライセンスと民放連は,平成18年4月以降,楽曲の利用許諾の方式を包括許諾,放送等使用料の徴収を個別徴収とすることを前提に,個別徴収の場合の1曲当たりの使用料を,イーライセンスの使用料規程の上限額からどの程度下げるかを中心に交渉を続けた。
平成18年9月初め頃には,個別徴収の放送等使用料の額のうち,テレビ局に適用されるものについて概ね合意に達したが,ラジオ局に適用されるものについては,同月中に合意できなかった。
イーライセンスは,平成18年10月1日,放送等利用に係る管理事業を開始し,民放連は,加盟する放送事業者に対し,平成18年10月6日付けで「イーライセンス社の音楽著作物管理事業開始と民放連の対応について」と題する文書を送付した。この文書には,イーライセンスが管理事業を開始したこと,イーライセンスの管理楽曲は別紙の60曲のリストのとおりであり,この楽曲の利用の有無について確認してほしいこと,イーライセンスと民放連は合意書案について協議中であり,合意書が締結できたら,各放送事業者においてイーライセンスと直接契約書を交わすこととなること等が記載されたほか,合意書案の骨子も記載されていた。
(審第33号証ないし第35号証)
(ウ) イーライセンスと民放連は,平成18年10月半ばにようやく合意に達し,民放連の内部手続を経た上,同月31日に「音楽著作物の利用に関する合意書」(査第31号証)を締結した。この合意書の作成日付は,既に同年10月1日からイーライセンスの放送等利用に係る管理事業が開始されていたこと等を踏まえ,イーライセンス側の要望により同年9月28日付けとされた。(審第33号証ないし第35号証,三野明洋参考人審尋速記録,深尾隆一参考人審尋速記録,髙橋英夫参考人審尋速記録,吉田乾朗参考人審尋速記録)
この合意書には,①イーライセンスは民放連に加盟する放送事業者がイーライセンス管理楽曲を利用することを包括的に許諾すること,②各放送事業者は使用した楽曲を全曲報告すること,③各放送事業者が楽曲の利用を報告しなかった場合には,使用料規程(査第30号証〔第11条〕)に定める使用料(1曲5分以内の全国放送での利用について6万円)を支払うこと,④使用料については,1曲ごとに定めることとし,別表のとおりとするが,その金額は上限であること,等が記載されていた。そして,その別表においては,放送事業者の類別に使用料が定められているが,具体的にどの放送事業者がどの類に該当するかは定められておらず,合意書においては,取扱基準,報告事項,放送事業者の類別,実施細則等に関し,覚書を締結することとされていた。
民放連は,加盟する放送事業者からイーライセンスとの合意書の締結について委任を受けておらず,上記合意は,個々の放送事業者とイーライセンスとの契約内容を拘束するものではなく(合意書中にも,各放送事業者は,この合意の規定にかかわらず,自らイーライセンスと協議ができる旨の条項がある。),各放送事業者は,この合意書及び覚書の内容を参考にして,個別にイーライセンスと利用許諾契約を締結することが予定されていた。
ところが,上記合意書の締結の時点では,覚書の内容については何も決まっていなかった。例えば,利用楽曲をイーライセンスに対して報告する様式について,イーライセンスは,統一のフォームを作成する予定であるとしていたが,平成18年10月に入っても報告フォームを提示しなかった。そのため,テレビ朝日の髙橋がイーライセンスに問い合わせたところ,イーライセンスが被審人への報告の用紙を流用するようにと回答したため,テレビ朝日の髙橋は,社内において被審人への報告とイーライセンスへの報告の混乱が生じることを避けるため,イーライセンスに対する報告用として独自の報告様式を作成してイーライセンスに提出した。イーライセンスはこの報告書を若干修正して他の放送事業者に使用させている。(査第23号証,第24号証,第31号証,審第33号証,第34号証,三野明洋参考人審尋速記録,深尾隆一参考人審尋速記録,髙橋英夫参考人審尋速記録)
(エ) イーライセンスと民放連は合意書の締結後も交渉を継続し,平成19年2月の後半になって,ようやく,取扱基準,報告事項,放送事業者の類別,実施細則等に関し,平成18年10月1日付けの覚書(審第36号証)を締結した。(審第33号証,第34号証,深尾隆一参考人審尋速記録,髙橋英夫参考人審尋速記録)
なお,イーライセンスと民放連に加盟する放送事業者は,上記合意書の締結後に個別に交渉を行い(吉田乾朗参考人審尋速記録),前記第3の7(2)イのとおり,イーライセンスとテレビ朝日,東京放送及びKiss-FMは利用許諾契約を締結したが,エフエム東京,J-WAVE,NACK5,ベイエフエム,静岡朝日テレビ,横浜エフエム,エフエム富士,エフエム山形,株式会社文化放送(以下「文化放送」という。)を含む大多数の放送事業者は,イーライセンスと利用許諾契約を締結していない。
(オ) イーライセンスは,民放連との上記合意が未だ成立していない平成18年10月初め頃,民放連に加盟する放送事業者に対して「音楽著作物に関します『放送権』管理事業開始のご連絡」と題する文書を送付した。この文書においては,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始した旨,民放連と続けてきた協議が合意に至り調印に向かっている旨,添付した契約書案は民放連との合意内容を前提として作成したものであり,その内容を確認の上,連絡してほしい旨が記されていた。なお,契約書案の内容は,上記の合意書に沿うものであった。(審第33号証)
また,イーライセンスは,平成18年10月9日発行のオリジナルコンフィデンス(オリコン)誌に,放送等使用料について民放連と合意して放送等利用に係る管理事業を開始したとの広告を掲載し,同時に,同誌にイーライセンスの三野のインタビュー記事が掲載された。(審第30号証,第31号証)
民放連は,未だ両者の間で合意書が締結されておらず,合意の内容に関する民放連内部の正式な意思決定もされていない段階で,イーライセンスがこれらの行為をしたことについて,同年10月20日,イーライセンスとの交渉の席上で抗議し,イーライセンスの三野は謝罪した。(審第33号証,第34号証,三野明洋参考人審尋速記録,深尾隆一参考人審尋速記録)
イ  イーライセンス管理楽曲の確定に至る経緯
下記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) エイベックス・グループは,平成18年7月終わりないし8月初め頃,イーライセンスから放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託するよう勧誘を受けたことから,大塚愛,倖田來未,hitomi,Every Little Thingらエイベックス・グループの人気歌手の楽曲の中から,イーライセンスに対して音楽著作権の管理を委託する楽曲を選定することとし,検討を進めた。(査第33号証,第34号証,審第37号証,谷口元参考人審尋速記録)
(イ) イーライセンスは,管理楽曲を早期に提示するよう民放連から求められていたところ,平成18年9月26日頃,合意書の締結に向けて協議を続けていた民放連に対して,管理楽曲の一覧表として58曲のリストを提示した。この58曲リストは,イーライセンスがエイベックス・グループの意向を確認せずに作成したものであり,その中には,エイベックス・グループが当初,管理委託の候補曲と考えていたが,後に管理委託を取りやめることとした大塚愛の「ユメクイ」及び「tears」が含まれていた。58曲リストは,民放連の内部において,一部の会員に限って配布され,前記のとおり,これを入手したテレビ朝日,TBSテレビ及びFM東京では,このリストを添付した社内通知文書が作成された。(審第33号証ないし第35号証,谷口元参考人審尋速記録)
(ウ) エイベックス・グループは,平成18年9月末の時点になって,イーライセンスに対し委託範囲変更申込書を提出することにより,正式に放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託した。この時点におけるイーライセンスの管理楽曲数は60曲であり,これは上記の58曲に,大塚愛の「恋愛写真」と「ハニカミジェーン」をそれぞれ加えたものであった。(査第4号証,第33号証,第34号証,審第37号証)
イーライセンスは,平成18年10月5日頃,この60曲のリスト(「恋愛写真」については「予定」,「ハニカミジェーン」については「未定」と付記されている。)を作成して民放連に提出し,これが上記のとおり民放連が各放送事業者に送付した平成18年10月6日付けの「イーライセンス社の音楽著作物管理事業開始と民放連の対応について」と題する文書に添付された。(査第4号証,審第35号証)
(エ) エイベックス・グループは,その後この60曲のリストを見直し,「ユメクイ」と「tears」のほか,「未定」とされていた「ハニカミジェーン」と他の2曲の計5曲を除外する一方,別の楽曲12曲を追加することとした。こうして,エイベックス・グループは,平成18年10月中旬頃,イーライセンスに管理委託する楽曲を67曲に確定した。
この67曲のリストは,平成18年10月20日頃以降,エイベックス・グループとイーライセンスが放送等使用料の無料化措置を民放連に加盟する放送事業者に通知する際に,これに添付する形で配布された。なお,この際,イーライセンスは,無料化する上記67曲以外に5曲を管理している旨通知している。
(査第34号証,審第33号証,第35号証,第37号証,谷口元参考人審尋速記録)
(オ) イーライセンスは,平成18年10月から12月までの管理楽曲については,平成18年12月20日ないし31日までに確定すればよいと考えており,民放連に対し,平成18年12月21日付けで,無料化措置の対象である上記67曲に加えて48曲を管理している旨記載したリストを提出し,民放連は,各放送事業者に対し,同月25日付けでこのリストを配布した。(審第35号証,三野明洋参考人審尋速記録)
ウ  民放連に加盟する放送事業者の困惑,混乱
上記ア及びイによれば,①イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始した平成18年10月1日の時点では,民放連との合意ができておらず(形式的に合意書が作成されていないばかりか,実質的にもラジオ局の放送等使用料の額について合意できていなかった。),個々の放送事業者との間で利用許諾契約が全く締結されていなかったこと,②イーライセンスと民放連は平成18年10月31日にようやく合意書を締結したが,その時点では,後に覚書で決定する予定の取扱基準,報告事項,放送事業者の類別等の内容について全く定まっておらず,したがって,この段階でも個々の放送事業者との利用許諾契約の締結は事実上不可能であったこと,また,個々の放送事業者の放送等使用料の額も定まっていなかったこと,③イーライセンスは,民放連に加盟する放送事業者に対し,同月上旬,民放連との合意に基づいて作成したとされる契約書案を送付したが,各放送事業者別の放送等使用料の額は定まっておらず,また,全曲報告が義務化され,報告義務に違反すると多額の放送等使用料を徴収すると記載されていたが,利用楽曲についての報告の様式も決まっていなかったこと,④他方,民放連は,③と同じ頃,各放送事業者に対し,イーライセンスとの合意書について交渉中である旨の文書を送付したこと, ⑤イーライセンス管理楽曲のリストについても,短期間の間に,民放連に加盟する放送事業者に対して58曲リスト,60曲リスト,67曲リストの3種類が順に提示され,その中には管理楽曲に含まれるかどうかが予定や未定とされる楽曲が含まれていたほか,人気のある楽曲が差し替えられていたことが認められる。
これらの事情及び証拠(審第33号証)によれば,多くの放送事業者は,平成18年10月1日以降,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業に参入したことを知ったが,同年10月の時点では,イーライセンス管理楽曲の範囲が明確ではなく,これらを放送した場合の放送等使用料の額が不明であり,全曲報告に必要な報告の様式も定まっておらず,報告漏れがあった場合に高額の放送等使用料の支払義務を負う可能性があったことから,相当程度困惑し,混乱しており,それが前記(2)オの放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の利用についての慎重な態度(ただし,前記のとおりNACK5を除いては,実際にどの程度利用が回避されたかは,証拠上明らかではない。)の原因となったことが認められる。
以上によれば,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用につき慎重な態度をとったことの主たる原因が,被審人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による追加負担の発生にあったと認めることはできず,むしろ,イーライセンスが準備不足の状態のまま放送等利用に係る管理事業に参入したため,放送事業者の間にイーライセンス管理楽曲の利用に関し,相当程度の困惑や混乱があったことがその主たる原因であったと認めるのが相当である。
(4) エイベックス・グループのイーライセンスとの管理委託契約の解約
イーライセンスとエイベックス・グループが平成18年10月16日頃に協議をして,イーライセンス管理楽曲の放送等使用料を同年10月1日から12月末までの3か月間に限って無料にすることを決定し,民放連に加盟する放送事業者に伝えたこと,エイベックス・グループがイーライセンスとの管理委託契約を平成18年12月末限りで解約したことについては,当事者間に争いがない。
管理委託契約の解約に至る経緯,原因等に関し,審査官は,被審人による放送等使用料の徴収方法が変更されない中で,放送事業者による楽曲の利用回避がなくなり,エイベックス・グループが放送等使用料の分配を受けられるようになることがほとんど見込まれなかったことから解約に至ったなどと主張する。これに対し,被審人は,解約に至った原因は被審人による放送等使用料の包括徴収とは関係なく,イーライセンスの放送等利用に係る管理事業への参入の準備が不十分であり,平成18年12月末頃になっても,管理事業を遂行できる状態になかったことにあるなどと主張するので,この点について検討する。
ア  解約に至る経緯
下記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 平成18年10月1日にイーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始し,同月5日以降,民放連がエイベックス60曲のリストを各放送事業者に送付した後,大塚愛の「恋愛写真」のプロモーションを行っていたエイベックス・グループのプロモーターから,エイベックスの谷口らに対し,①首都圏のラジオ局を中心に,イーライセンス管理楽曲を利用しない放送事業者が存在する,②これらの放送事業者の番組制作プロデューサーや番組制作ディレクターは,上層部から,イーライセンスに対する放送等使用料が追加負担となり,放送局全体の予算からではなく個々の番組制作経費から支払わなければならないことから,イーライセンス管理楽曲を利用しないように言われている,との報告があった。その具体的な放送事業者としては,エフエム東京,J-WAVE,NACK5,ベイエフエム等が挙げられていた。(査第4号証,第33号証,第34号証,三野明洋参考人審尋速記録,谷口元参考人審尋速記録)
(イ) この事態を受けて,平成18年10月16日頃,エイベックスの谷口及びエイベックスの西牟田並びにイーライセンスの三野及びイーライセンスの名越の4名が協議をした。エイベックスの谷口は,イーライセンスの三野に対し,イーライセンス管理楽曲の利用回避について同年12月末までに何らかの決着をつけるよう求めた。イーライセンスの三野は,民放連とは話がついているのであるが,その状況が各放送事業者に下りていないことが利用回避の原因ではないかと説明した。エイベックスの谷口は,イーライセンスが管理事業を開始するに際し,民放連経由で文書を送付するのみで直接訪問しないことに首都圏のラジオ局を中心とする放送事業者の上層部が腹を立てているとの情報が寄せられていたこともあり,イーライセンスの三野に対し,放送事業者と直接話をするなどの方法でその理解を得て,滞りなくイーライセンス管理楽曲が利用され,放送等使用料の徴収が始められるようにすることを要請し,イーライセンスの三野は,早急に,首都圏に所在するFMラジオ局を訪問する等して,イーライセンス管理楽曲の利用回避を止めるように説得することを約束した。また,上記4名は,民放連に加盟する放送事業者に対し,同年10月1日に遡り,12月31日までの期間,エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とすることを決定した。(査第4号証,第33号証,第34号証,審第37号証,三野明洋参考人審尋速記録,谷口元参考人審尋速記録)
エイベックス・グループにおいては,民放連に加盟する放送事業者に対し,プロモーターを通じて無料化措置につき口頭で伝えたほか,平成18年10月19日及び20日頃,追加負担を強いることになったことを謝罪し,エイベックス楽曲の放送等使用料を3か月間に限り無料にするので放送してもらえるよう依頼する文書を添えて,イーライセンスと共同で作成した「『放送権』管理事業に伴う特別利用に関するご報告」と題する文書を首都圏のラジオ局8社(エフエム東京,J-WAVE,NACK5,ベイエフエム,横浜エフエム,株式会社ニッポン放送(以下「ニッポン放送」という。),文化放送及び株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ)に対してファクシミリで送信した。この文書には,67曲リストが添付されていた。(査第34号証,第35号証,第96号証,第98号証,審第35号証,第37号証,三野明洋参考人審尋速記録,谷口元参考人審尋速記録)
イーライセンスは,平成18年10月20日頃,民放連に対し,上記文書を送付したところ,民放連は,同月25日,一部修正し,同日以降,各放送事業者に対してこの文書を送付した。(査第4号証,第34号証,三野明洋参考人審尋速記録)
(ウ) 平成18年10月下旬から11月上旬にかけて,イーライセンスの三野らは,ベイエフエム,NACK5,ニッポン放送及び横浜エフエムを訪問し,イーライセンス管理楽曲の放送での利用について折衝したが,予定していた大阪と名古屋に所在する放送事業者への訪問は行わなかった。
イーライセンスの三野らが訪問した放送事業者のうち,大塚愛のゲスト出演のキャンセル問題が発生していたNACK5については,平成18年10月25日にイーライセンスの三野及びイーライセンスの名越が,同月30日にイーライセンスの名越が,さらには,別途エイベックスの西牟田が,それぞれ訪問して協議を行った結果,NACK5は,平成18年12月までに限り,イーライセンス管理楽曲の放送での利用回避を解除し,同年11月1日,同社の番組に大塚愛をゲスト出演させるとともに「恋愛写真」を放送した。
エイベックスの西牟田は,イーライセンスの三野が平成18年11月2日にイーライセンス管理楽曲の利用回避を続けているJ-WAVEの放送番組にゲスト出演していたとの情報に接したことから,同月6日,イーライセンスの名越に対し,放送事業者との交渉状況を報告するよう求めるとともに,イーライセンスへの音楽著作権の管理委託を取りやめることを検討している著作者もいることを伝えた。そこで,平成18年11月9日頃,イーライセンスの名越は,エイベックスの西牟田に対し,ベイエフエム,NACK5,ニッポン放送及び横浜エフエムとの交渉状況に関し,各放送事業者とも追加負担が発生することを非常に厳しいと受け止めており,無料化措置の終了する平成19年1月以降,各放送事業者がイーライセンス管理楽曲を利用するとの確証を得ることはできなかった旨を説明した。
エイベックスの西牟田は,イーライセンスによるNACK5とベイエフエムへの訪問先が各放送事業者の編成部門であったことから,エイベックス・グループのプロモーターに指示して,イーライセンスの訪問が各放送事業者の番組制作現場にどの程度伝わっているか確認させたところ,編成部門から番組制作の現場には情報が伝わっていないということが判明したほか,イーライセンスと民放連に加盟する放送事業者との間の利用許諾契約の締結は遅々として進んでいない状況であることを知った。
(査第4号証,第33号証,第34号証,第57号証,三野明洋参考人審尋速記録)
(エ) 平成18年12月,イーライセンスの名越がエイベックス・グループを訪問して,状況が改善しないので,音楽著作権の放送等利用に係る管理委託は被審人にしてもらって構わない旨の申出をした。(査第34号証)
エイベックス・グループは,上記の放送事業者との交渉状況に係るイーライセンスからの報告等を基に検討した結果,イーライセンスの放送等利用に係る管理事業への参入後,放送事業者は追加負担を理由としてイーライセンス管理楽曲の利用を回避した事実があり,無料化措置の終了する平成19年1月以降,再び利用を回避するのではないかと考えられたこと,イーライセンスの放送等利用に係る管理事業への参入に当たっての準備不足のため,混乱が生じているが,イーライセンスは各放送事業者に対して利用許諾契約の内容等について説明し,使用料を徴収できる体制を整えるに至っていないこと等を勘案して,イーライセンスに対し,エイベックス67曲について,平成18年12月末限りでイーライセンスへの放送等利用に係る管理委託契約を解約し,録音権とインタラクティブ配信に係る管理委託を残すという内容の作品解約届を提出し,イーライセンスもこれを了承した。(査第4号証,第33号証,第34号証,第58号証,第96号証,第99号証,審第37号証,三野明洋参考人審尋速記録,谷口元参考人審尋速記録)
(オ) なお,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業に参入した平成18年10月1日からエイベックス・グループが管理委託契約を解約した同年12月末までの間,エイベックス・グループもイーライセンスも,放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の実際の利用状況については調査していなかった。(審第37号証,三野明洋参考人審尋速記録,谷口元参考人審尋速記録)
イ  小括
以上によれば,エイベックス・グループは,放送事業者が,追加負担を理由としてイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと信じ,平成19年1月以降,再び利用を回避すると予想してイーライセンスとの放送等利用に係る管理委託を解約したが,エイベックス・グループは,イーライセンス管理楽曲の客観的な利用状況を把握していなかった。そして,前記(2)オのとおり,現実には,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したということはできず,イーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことが認められるにとどまるから,エイベックス・グループが正確な情報に基づいてイーライセンスとの委託契約を解約したとはいえない。
また,前記(3)ウのとおり,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用に慎重な態度をとった主たる原因は,被審人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による追加負担の発生にあったとはいえず,イーライセンスによる準備不足のままの状態での参入とそれに伴う放送事業者の困惑,混乱等であったと認められる。
そうすると,エイベックス・グループは,被審人の本件行為を原因として,イーライセンスへの管理委託契約を解約したということは困難であり,被審人の本件行為にイーライセンスへの管理委託契約を解約させるような効果があったとまではいえない。
(5) エイベックス・グループ以外の著作権者とイーライセンスとの関係
ア  審査官は,エイベックス・グループ以外の著作権者も,被審人が本件行為を継続する中で,放送事業者がイーライセンス管理楽曲を利用することはほとんど見込まれないため,イーライセンスに対して,放送等利用に係る音楽著作権の管理を委託することはほとんどなく,そのため,イーライセンスは楽曲を確保できず,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態にあると主張し,音楽出版社である株式会社ドワンゴ・ミュージックパブリッシング(以下「ドワンゴ」という。),有限会社エレメンツ,株式会社ファンミュージック(株式会社エフエム沖縄の子会社)及びコロムビアソングス株式会社の担当者の供述調書(査第60号証ないし第62号証,第103号証)中には,平成18年10月頃,放送業界では,追加負担があるのでイーライセンス管理楽曲を使用しないという話があると聞いた,第三者を通じて放送事業者にイーライセンス管理楽曲を利用する意向の有無を照会したところ,追加負担を理由に放送できないと言われたのでイーライセンスへの管理委託を断念した,等と供述する部分がある。
また,証拠(査第64号証,三野明洋参考人審尋速記録)によれば,イーライセンスが実際に放送事業者から徴収した放送等使用料の額は,平成18年が6万6567円,平成19年が7万5640円,イーライセンスの三野に対する参考人審尋が行われた平成22年9月30日時点で年間20万円から30万円程度であることが認められる。
イ  しかし,証拠(審第21号証,第43号証の1ないし第49号証の2,三野明洋参考人審尋速記録)によれば,イーライセンスが放送等利用に係る音楽著作権の管理を行っている楽曲数は,平成19年3月31日時点で184曲,平成20年3月31日時点で1,566曲,平成21年3月31日時点で2,723曲,平成22年3月31日時点で3,242曲,平成22年9月30日時点で3,600曲強となっており,エイベックス・グループがイーライセンスに対する管理委託契約を解約した平成18年12月31日以降も,イーライセンスは着実に管理楽曲数を増やしている上,平成23年3月30日時点では,ドワンゴも含めた6社の音楽出版社がイーライセンスに楽曲の管理を委託している事実が認められる。しかも,審第44号証の1によれば,これらの楽曲の中には,生命保険会社のコマーシャルソングとして利用された「まねきねこダックの歌」が含まれていることが認められ,当該楽曲は,平成21年11月第3週のオリコンチャートの24位にランクインしていることからすると,放送でも相応の利用があったものと推認される。
このように,イーライセンスは,人気のある楽曲を含む相当数の管理楽曲の管理を受託している上,証拠(審第23号証ないし第25号証,第35号証)によれば,FMラジオ局(エフエム東京など),AMラジオ局(文化放送など),コミュニティ放送事業者,衛星放送事業者を含む相当数の放送事業者はイーライセンスと利用許諾契約締結のための交渉をする用意があると認められることからすると,イーライセンスは,放送事業者と利用許諾契約を締結することにより,相応の放送等使用料の徴収が可能であり,上記のように放送等使用料の収入が低い金額にとどまっている理由は,イーライセンスが放送事業者との間で利用許諾契約を締結していないことにあると考えられる。また,証拠(審第21号証,第32号証)によれば,イーライセンスがNHKとの間で平成20年3月以降も利用許諾契約を継続し,それに応じた放送等使用料を徴収していることが認められることを併せ考えると,イーライセンスが,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっていたというには疑問が残る。
加えて,前記(2)オのとおり,放送事業者の中で現実に利用回避があったことが認められるのは経営者間の感情的軋轢という特殊事情のあったNACK5の1社だけであり,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したことを認めることはできないこと,また,前記(3)ウのとおり,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用に慎重な態度をとっていた主たる原因は,被審人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による追加負担の発生にあったのではなく,イーライセンスによる準備不足のままの放送等利用に係る管理事業への参入とそれに伴う放送事業者の困惑,混乱等にあったことに照らすと,上記の著作権者らの供述のうち,被審人の包括徴収による追加負担が原因でイーライセンス管理楽曲が利用されないと聞いたという部分が真実であるかどうか疑問である。また,仮に,そのような内容の風聞があったとしても,その内容が事実に合致していたとはいえないから,エイベックス・グループ以外の著作権者が被審人の本件行為を原因としてイーライセンスに対して放送等利用に係る音楽著作権の管理委託をしなかったということは困難であり,被審人の本件行為にエイベックス・グループ以外の著作権者のイーライセンスへの音楽著作権の管理委託を控えさせる効果があったとまではいえない。
(6) その他の管理事業者の不参入
イーライセンス以外の管理事業者が放送等利用に係る管理事業に新規に参入していないことについては,当事者間に争いがない。
審査官は,その原因は,被審人が全ての放送事業者との間で本件包括徴収を内容とする利用許諾契約を締結し,この契約に基づき,放送等使用料を徴収し,放送事業者が追加負担の発生を理由に被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用しないことが見込まれるため,著作権者から放送等利用に係る音楽著作権の管理の委託が受けられないからであると主張し,管理事業者であるJRC及びダイキサウンドの代表者の供述調書(査第5号証,第6号証)中には,これに沿う部分があるほか,JRCの代表者は,供述調書(査第5号証)において,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始した際に,放送事業者が追加負担を嫌ってイーライセンス管理楽曲の利用を回避したため,イーライセンスの放送等利用に係る管理事業が困難になっていることをJRCが放送等利用に係る管理事業に参入しない理由として挙げている。
しかし,証拠(審第26号証)によれば,JRCの代表者は,雑誌のインタビュー記事において,JRCが放送等利用に係る管理事業に参入しない理由は,放送事業者の利用楽曲数を確実に数えることができず,JRCが権利者に使用料の適正な分配ができるという確証がないからであると述べていることに照らすと,JRC代表者の上記供述部分の信用性は低い。
また,このJRC代表者の供述及び査第28号証によれば,放送番組における楽曲の利用形態が数秒の利用から1曲の利用までまちまちであること,放送事業者が多数存在し,放送事業者同士で放送番組の譲渡や系列局への配信などが行われていること,放送事業者の楽曲の管理の電子化は余り進んでいないことから,放送等利用に係る楽曲の管理は非常に煩瑣で費用がかかることが認められ,これが管理事業者の放送等利用に係る管理事業への参入を控えさせる効果を有していると認められる。そうすると,上記のJRC及びダイキサウンドの代表者の供述部分は採用することができず,他に,審査官の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,イーライセンス以外の管理事業者が新規に放送等利用に係る管理事業に参入していない理由が本件行為にあると認めることはできない。
(7) 結論
前記(1)のとおり,被審人がほとんど全ての放送事業者との間で包括徴収を内容とする利用許諾契約を締結し,放送等使用料を徴収する行為(本件行為)は,放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用する際に別途の使用料の負担を考慮する必要を生じさせるという意味で,放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有しており,被審人が我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において一貫して強固な地位を有することを併せ考慮すると,競業者の放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野への新規参入について消極的要因となるといえる。そして,被審人が管理事業法の施行後も,新規参入について消極的要因となる本件行為を継続し,平成18年9月まで放送等使用料を徴収して管理事業を行う業者が現れなかったことは,本件行為が他の事業者の上記分野への新規参入を困難にする効果を持つことを疑わせる一つの事情ということができる。
しかし,具体的に,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始した際の事実関係を検討すると,①前記(2)オのとおり,実際にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと明確に認められるのは,1社の放送事業者にすぎず,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したと認めることはできない上,②前記(3)ウのとおり,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことは認められるものの,その主たる原因は,被審人による本件行為ではなく,イーライセンスが不十分な管理体制のままで放送等利用に係る管理事業に参入したため,放送事業者が困惑,混乱したことにあると認められる。また,③前記(4)のとおり,エイベックス・グループがイーライセンスに対する管理委託契約を解約したのは,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を一般的に回避し,しかもその原因が被審人による本件行為にあるとの認識に基づくものであるが,現実には,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したとはいえず,イーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことが認められるにとどまり,その主たる原因もイーライセンスによる準備不足の状態での参入とそれに伴う放送事業者の困惑,混乱等であったのであるから,被審人による本件行為にエイベックス・グループのイーライセンスへの管理委託契約を解約させる効果があったとまではいえない。さらに,④前記(5)のとおり,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっているとまでいえるかにつき疑問が残る上,イーライセンスが管理事業を営むことが困難な状態になっているとしても,それは,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用を一般的に回避し,その原因が本件行為にあるという認識に基づいて,著作権者がイーライセンスに音楽著作権の管理を委託しなかったためであるから,被審人による本件行為に,著作権者のイーライセンスへの管理委託を回避させるような効果があったとまではいえない。
上記①ないし④によれば,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始するに当たり,被審人の本件行為がイーライセンスの放送等利用に係る管理事業を困難にしたという審査官の主張について,これを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
また,前記(6)のとおり,イーライセンス以外の管理事業者が放送等利用に係る管理事業に新規に参入しない理由が本件行為にあると認めるに足りる証拠もない。
そして,他に,本件行為が競業者の放送等利用に係る管理事業への新規参入を著しく困難にすることを認めるに足りる主張立証はない。
以上によれば,本件行為は,放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し,競業者の新規参入について消極的な要因となることは認められ,被審人が管理事業法の施行後も本件行為を継続したことにより,新規参入業者が現れなかったことが疑われるものの,本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは,なお困難である。
2 結論
上記1のとおり,本件行為が他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有することを認めるに足りる証拠はないから,その余の点について判断するまでもなく,本件行為が独占禁止法第2条第5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当し,同法第3条の規定に違反するということはできない。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人の本件審判請求は理由があるから,独占禁止法第66条第3項の規定により,主文のとおり審決することが相当である。

平成24年2月1日

          公正取引委員会事務総局

審判長審判官 後 藤 健

審判官 真 渕 博

審判官 山 田 健 男

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