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日新製鋼(株)に対する件

独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)

平成21年(判)第31号及び第32号

審判請求棄却審決(審判審決,課徴金の納付を命ずる審決)

東京都千代田区丸の内三丁目4番1号
被審人 日新製鋼株式会社
同代表者 代表取締役 三 喜 俊 典
同代理人 弁 護 士 野 村 晋 右
同          池 原 元 宏
同          賜   保 宏
上記被審人代理人野村晋右復代理人
          神 尾 大 地

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官後藤健,審判官真渕博及び審判官三輪睦から提出された事件記録並びに規則第75条の規定により被審人から提出された異議の申立書及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成24年6月13日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  竹  島  一  彦
委 員  神  垣  清  水
委 員  濵  田  道  代
委 員  小 田 切  宏  之

平成21年(判)第31号及び第32号

審   決   案

東京都千代田区丸の内三丁目4番1号
被審人 日新製鋼株式会社
同代表者 代表取締役 三 喜 俊 典
同代理人 弁 護 士 野 村 晋 右
同          池 原 元 宏
同          賜   保 宏
上記被審人代理人野村晋右復代理人
           神 尾 大 地

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
1 平成21年(判)第31号審判事件
平成21年(措)第21号排除措置命令の取消しを求める。
2 平成21年(判)第32号審判事件
平成21年(納)第59号課徴金納付命令の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,他の事業者と共同して,別紙記載の溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(以下「特定カラー鋼板」という。)のうち建材製品製造業者向けに販売されるもののひも付き取引(建材製品製造業者が定めた仕様に基づき製造した特定カラー鋼板を,当該建材製品製造業者に対して,直接又は販売業者を通じて販売する取引)での販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引の販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであるとして,平成21年8月27日,被審人を含む3社に対し,排除措置を命じた(平成21年(措)第21号。以下「本件排除措置命令」という。)。排除措置命令書の謄本は,同年8月28日,被審人に対し送達された。
2 公正取引委員会は,本件排除措置命令に係る違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,平成21年8月27日,被審人に対し,14億6062万円の課徴金の納付を命じた(平成21年(納)第59号。以下「本件課徴金納付命令」という。)。課徴金納付命令書の謄本は,同年8月28日,被審人に対し送達された。
3 被審人は,公正取引委員会が前記1のとおり認定した違反行為を否認するなどして,平成21年10月1日,本件排除措置命令の取消しを求めて審判請求をするとともに(平成21年(判)第31号審判事件),本件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をした(平成21年(判)第32号審判事件)。
第3 前提となる事実等(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。)
1 本件排除措置命令における違反行為者
(1) 被審人,日鉄住金鋼板株式会社,株式会社淀川製鋼所(以下「淀鋼」という。)及びJFE鋼板株式会社(以下「JFE鋼板」という。)は,特定カラー鋼板の製造販売業を営む者である。
なお,日鉄住金鋼板株式会社は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいた日鉄鋼板株式会社が,平成18年12月1日付けで住友金属建材株式会社(以下「住金建材」という。)から同社の特定カラー鋼板の製造販売事業を承継し,現商号に変更したものである(以下「日鉄鋼板」という。)。また,JFE鋼板は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいた川鉄鋼板株式会社(以下「川鉄鋼板」という。)が,平成16年4月1日付けでエヌケーケー鋼板株式会社(以下「エヌケーケー鋼板」という。)との間で川鉄鋼板を存続会社として合併し,同日付けで現商号に変更したものである。
(2) 住金建材は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいたが,平成18年12月1日付けで日鉄鋼板に対し吸収分割により同事業を承継させ,以後,同事業を営んでいない。
(3) エヌケーケー鋼板は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいたが,平成16年4月1日付けで川鉄鋼板との間で川鉄鋼板を存続会社として合併したことにより消滅した。
2 特定カラー鋼板について
(1) 特定カラー鋼板は,亜鉛等から成るめっき浴において溶融めっきした溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(以下「めっき鋼板」ともいう。)の表面に合成樹脂塗料を塗装・焼付けした製品のうち,別紙に記載されたものである。特定カラー鋼板は,めっき層の成分内容により,日本工業規格(JIS)においてその規格が詳細に定められており,その用途は屋根材や壁材,ドア材といった建材製品等の多岐にわたっている。
なお,特定カラー鋼板のうち,別紙の1に記載のものは「GIカラー」,別紙の2に記載のものは「GFカラー」,別紙の3に記載のものは「GLカラー」と称されている。
(2) 被審人ら特定カラー鋼板の製造販売業を営む者は,建材製品製造業者が定めた仕様に基づき製造した特定カラー鋼板を,当該建材製品製造業者に対して,直接又は販売業者を通じて販売するといういわゆる「ひも付き取引」により販売していた。
また,被審人らは,汎用品として製造した特定カラー鋼板を,板金店等の不特定多数の需要者向けに販売するといういわゆる「店売り取引」によっても販売していた(査第1号証,第4号証,第101号証,第102号証)。
なお,被審人らは,特定カラー鋼板に加えてめっき鋼板も製造し,特定カラー鋼板と同様に,ひも付き取引及び店売り取引によってこれを販売していた(査第4号証,第101号証,第102号証)。
(3) 特定カラー鋼板を製造販売する鋼板メーカーとしては,溶鉱炉などの製鉄設備を所有し,鉄鉱石や石炭等の原料を購入して製鉄を行い,原板(ホットコイルと呼ばれる熱延鋼板やコールドコイルと呼ばれる冷延鋼板)を自社で製造している「高炉メーカー」及び溶鉱炉を持たず,高炉メーカーから購入した原板(鋼板)に,溶融亜鉛めっきした溶融亜鉛めっき鋼板や,それに塗装したカラー鋼板を製造する「専業メーカー」がある。特定カラー鋼板を製造販売する高炉メーカーは,被審人,新日本製鐵株式会社(以下「新日鐵」という。),住友金属工業株式会社(以下「住金工業」という。)及び株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼」という。)等であり,特定カラー鋼板を製造販売する専業メーカーは,日鉄鋼板,淀鋼,JFE鋼板,住金建材及びエヌケーケー鋼板等である(査第20号証,第91号証,第100号証)。
3 被審人,日鉄鋼板,淀鋼,JFE鋼板,住金建材及びエヌケーケー鋼板の6社(平成16年4月1日以降は合併により消滅したエヌケーケー鋼板を除く5社,平成18年12月1日以降は吸収分割により事業承継をさせた住金建材を更に除いた4社であり,以下「6社」又は「5社」という。)のひも付き取引による建材製品製造業者向け特定カラー鋼板(以下「本件ひも付きカラー鋼板」ともいう。)の販売量の合計は,我が国における本件ひも付きカラー鋼板の総販売量の大部分を占めていた。
我が国における本件ひも付きカラー鋼板の総販売量のうち,被審人の販売量の占める割合は,平成15年度は21.8パーセント,平成16年度は20.2パーセント,平成17年度は18.1パーセント,平成18年度は15.7パーセントであり,平成15年度は業界第2位,平成16年度ないし平成18年度は業界第3位の地位にあった(査第9号証)。
我が国における本件ひも付きカラー鋼板の総販売量のうち,被審人を除く高炉メーカーの販売量の占める割合は,平成15年度から平成18年度までの間は,合計4パーセント未満にすぎなかった(査第9号証,第20号証)。
4 平成15年3月以前の協調関係等
(1) 被審人を含む6社は,平成15年3月以前,かねてから各社の本社及び東京支社の営業担当の部長級又は課長級の者による会合を開催するなどして,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格等について情報交換を行っていた。
この会合には,被審人からは,主に小脇修(平成15年6月までは被審人の塗装・建材販売部塗装・外装建材チームリーダー,同月から平成16年3月までは被審人の塗装・建材販売部長,同年4月1日から平成19年3月31日までは被審人の建築建材販売部長〔査第6号証,審第29号証〕。以下「小脇」という。)が出席し,同会合において他社の担当者と価格等に関する情報交換を行っていた。
被審人以外の高炉メーカーである新日鐵,住金工業,神戸製鋼等は,前記3のとおりシェアは低いものの本件ひも付きカラー鋼板において6社と競合しており,平成15年3月以前には,上記各社の担当者も上記会合に参加して価格等に関する情報交換を行っていた(査第4号証,第9号証,第21号証)。
(2) 6社は,平成15年3月以前,①上記(1)の建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引のみならず,②軽量天井メーカー等を需要者とするめっき鋼板のひも付き取引並びに③めっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引の3分野について,従前から販売価格等の情報交換を行っていた。6社は,上記3つの分野ごとに会合を開催するなどして協調関係を築き,平成14年以降は上記3分野について共同して値上げを実施していた。
なお,店売り取引の分野とひも付き取引の分野では,各社とも社内で組織が分かれており,その担当者も異なっていることが多かった。(査第4号証,第12号証,第14号証,第15号証,審第29号証)
5 ステンレス鋼板立入検査後の状況
(1) 公正取引委員会は,平成15年3月,被審人を含む高炉メーカーに対し,冷間圧延ステンレス鋼板等の価格カルテルの疑いで立入検査(以下「ステンレス鋼板立入検査」という。)を行った。
なお,その後,被審人は,冷間圧延ステンレス鋼板の取引分野におけるカルテルへの参加を認め,公正取引委員会は,平成16年1月27日,被審人に対し,排除措置を命ずる勧告審決をした(査第91号証,第92号証,第102号証,小脇修参考人)。
(2) 被審人においては,ステンレス鋼板立入検査の後,法令遵守の観点から,販売価格に関する情報交換を行うための同業他社との会合への出席を禁止する旨の指示が出され(査第6号証,第92号証,第101号証,審第29号証),被審人の小脇は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格に関する他社との会合への出席を控えるようになった。
(3) 被審人以外の高炉メーカーは,ステンレス鋼板立入検査を契機に,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格に関する会合に出席することはなくなった(査第3号証,第4号証,第17号証,第20号証,第21号証)。
6 本件排除措置命令の対象とされる違反行為(合意)
6社のうち被審人を除く5社(平成16年4月1日以降は,合併により消滅したエヌケーケー鋼板を除く4社であり,以下「専業メーカー5社」又は「専業メーカー4社」という。)は,下記(1)ないし(4)のとおり,建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引での販売価格について合意をした(以下「本件合意」という。)。
被審人の担当者は下記(1)ないし(4)に記載の各会合のいずれにも出席しておらず,被審人が本件合意に加わったと認められるか否かは本件における争点であり,下記第6の1において判断する。
(1) 第1次合意
専業メーカー5社は,平成16年1月20日及び同年2月19日,東京都千代田区一ツ橋に所在する日本教育会館の会議室において担当者による会合を開催するなどして協議をし,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した(以下「第1次合意」といい,この合意に基づく値上げを「第1次値上げ」という。査第4号証,第8号証,第19号証,第20号証,第22号証ないし第33号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)。
(2) 第2次合意
専業メーカー4社は,平成16年7月12日,東京都中央区築地に所在する築地市場厚生会館の会議室において担当者による会合を開催するなどして協議をし,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年10月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した(以下「第2次合意」といい,この合意に基づく値上げを「第2次値上げ」という。査第4号証,第21号証,第45号証ないし第51号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)。
(3) 第3次合意
専業メーカー4社は,平成17年1月25日,東京都中央区日本橋室町に所在するJFE鋼板本社の会議室において担当者による会合を開催するなどして協議をし,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり15円引き上げることを合意した(以下「第3次合意」といい,この合意に基づく値上げを「第3次値上げ」という。査第4号証,第53号証ないし第64号証,第80号証,菊池格志参考人,長谷川純一参考人)。
(4) 第4次合意
専業メーカー4社は,平成18年4月17日及び同年6月1日,東京都中央区日本橋本町に所在する飲食店「喫茶室ルノアール日本橋本町店」の会議室において担当者による会合を開催するなどして協議をし(ただし,この2回の会合には住金建材の担当者は参加していない。),本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年8月出荷分から,厚さ0.3ミリメートル以下のもの(以下「薄物」ともいう。)にあっては現行価格より1キログラム当たり15円引き上げること及び厚さ0.3ミリメートルを超えるもの(以下「厚物」ともいう。)にあっては現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した(以下「第4次合意」といい,この合意に基づく値上げを「第4次値上げ」という。査第4号証,第66号証ないし第80号証,菊池格志参考人,長谷川純一参考人)。
7 本件合意(違反行為)の終了
日鉄鋼板は,住金建材との事業統合に当たって独占禁止法遵守体制に係る社内調査を行ったことを契機として,平成18年9月7日,淀鋼,JFE鋼板及び住金建材に対し,本件合意から離脱する旨を通告し,同日以降は鋼板メーカーらにより本件ひも付きカラー鋼板の販売価格についての情報交換は行われておらず,同日以降,本件合意は事実上消滅した(査第3号証,第20号証,荒木善行参考人)。
8 本件合意(違反行為)に係る処分等
公正取引委員会は,本件合意について,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであるとして,平成21年8月27日,被審人,日鉄鋼板及び淀鋼に対し,本件排除措置命令を発令するとともに,それぞれ課徴金納付命令を発令した。
JFE鋼板は,公正取引委員会による上記処分に先立ち,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号。以下「平成21年改正法」という。)による改正前の独占禁止法第7条の2第7項が規定する調査開始日前の課徴金減免申請を行ったため,課徴金の納付を免除された。また,日鉄鋼板及び淀鋼は,同条第9項が規定する調査開始日以後の課徴金減免申請を行ったため,納付すべき課徴金の額がいずれも減額された。
淀鋼及び日鉄鋼板は,上記排除措置命令及び課徴金納付命令に対して審判請求をしなかったため,両社については各命令が確定している。
9 別件について
公正取引委員会は,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令と同時に,以下のとおり,6社等による別の取引分野における不当な取引制限について,各処分を行った。
(1) 公正取引委員会は,6社等がGL鋼板(質量分率で約55パーセントのアルミニウム,1.6パーセントのシリコン及び残部亜鉛から成るめっき浴において溶融めっきを行った鋼板及び鋼帯をいい,めっき鋼板の一種である。)及びGLカラー(別紙の3。特定カラー鋼板のうち,GL鋼板に合成樹脂〔ポリ塩化ビニルを除く。〕を塗覆装したもの)の店売り取引での販売価格につき,平成14年8月下旬頃から平成18年6月中旬頃までカルテルを行っていた件(以下「別件店売り取引カルテル事件」という。)について,平成21年8月27日,被審人,日鉄鋼板及び淀鋼に対し,排除措置命令及び各課徴金納付命令を発令した。被審人,日鉄鋼板及び淀鋼はいずれも,上記排除措置命令及び各課徴金納付命令に対して審判請求をしなかったため,各命令は確定している。
別件店売り取引カルテル事件では,被審人においては被審人の小脇が担当者として関与していたが,専業メーカーにおいては,特定カラー鋼板のひも付き取引の担当者とは別の社員が担当していることが多かった(査第91号証)。
なお,被審人,日鉄鋼板,淀鋼及び各社の従業員(被審人の小脇を含む。)は,別件店売り取引カルテル事件について,刑事事件として起訴され,平成21年9月15日,東京地方裁判所により有罪判決を受け,同判決は確定した。
(2) 公正取引委員会は,6社のうち住金建材を除く5社が軽量天井メーカー向けのめっき鋼板(GI鋼板)のひも付き取引での販売価格につき,平成15年8月下旬頃から平成18年8月上旬頃までカルテルを行っていた件(以下「別件めっき鋼板カルテル事件」という。)について,平成21年8月27日,被審人,日鉄鋼板及び淀鋼に対し,排除措置命令及び各課徴金納付命令を発令した。被審人,日鉄鋼板及び淀鋼はいずれも,上記排除措置命令及び各課徴金納付命令に対して審判請求をしなかったため,各命令は確定している。
別件めっき鋼板カルテル事件では,被審人においては,特定カラー鋼板のひも付き取引の担当とは異なる部署である鋼板販売部が関与した(査第95号証)。
10  課徴金算定の基礎となる事実
(1) 売上額
審査官が被審人の違反行為の実行期間であると主張している平成16年4月1日から平成18年9月6日までの期間における本件ひも付きカラー鋼板に係る被審人の売上額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条第1項の規定に基づき算定すると,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)の施行日である平成18年1月4日前に係るものが134億8061万8226円,上記施行日以後に係るものが43億4526万6255円である。
(2) 繰り返し違反の加重算定率
被審人は,公正取引委員会による調査開始日である平成20年1月24日から遡り10年以内に平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定による命令を受けており,当該命令についての審判手続の開始を請求することなく同法第48条の2第5項に規定する期間を経過しているので,当該命令は,平成17年改正法附則第6条の規定により独占禁止法第7条の2第1項の規定による命令であって確定しているものとみなされる。したがって,被審人は,平成21年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第6項第1号に該当する事業者であり,5割の加重がされた課徴金算定率が適用されることとなる。
第4 本件の争点
1 被審人の違反行為(独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限)の存否
被審人が本件合意に参加していたか。
2 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」該当性の有無
被審人が販売した本件ひも付きカラー鋼板のうち,被審人が三和シヤッター工業株式会社(以下「三和シヤッター」という。)向けに販売した本件ひも付きカラー鋼板が,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」に該当するか。
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(違反行為の存否)について
(1) 審査官の主張
ア 本件合意成立前の事情等
(ア) 6社は,かねてから建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引での販売価格等について情報交換を行っていたところ,平成15年3月のステンレス鋼板立入検査を受けた後,被審人は6社の会合への出席を控えるようになった。もっとも,被審人が,ひも付き取引による建材製品製造業者向け特定カラー鋼板(本件ひも付きカラー鋼板)について相応のシェアを有しており,また,三和シヤッターなど特定カラー鋼板の市況に影響力を持つ需要家にも本件ひも付きカラー鋼板を販売していることなどから,鋼板メーカーが共同して値上げを行うためには,被審人も含めて値上げに係る合意を行う必要があった。
(イ) そこで,6社のうち被審人を除く専業メーカー5社が平成15年春頃行った会合において,日鉄鋼板の荒木善行(以下「荒木」という。)が,被審人の小脇は今後も専業メーカー5社との間で値上げについての連絡を取り合うことは問題がない旨の発言をしていることを述べた上で,今後は荒木が小脇に対し専業メーカー5社による合意内容を伝達する旨提案したことを受けて,専業メーカー5社は,今後,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格を引き上げる際は,まず専業メーカー5社が値上げの実施時期や値上げ幅について合意した上で,当該合意内容を被審人に伝達することにより,値上げを実施することにした。
(ウ) また,被審人の小脇は,ステンレス鋼板立入検査後に行われた6社による会合において,今後は6社による会合に参加することはできないが,本件ひも付きカラー鋼板の値上げに関する専業メーカー5社の合意内容等を連絡してもらうことは構わないし,夜の飲み会に誘ってもらっても構わないなどと,専業メーカー5社の合意内容等の連絡を受ける意思がある旨の発言をした。
イ 第1次合意について
(ア) 上記第3の6(1)のとおり,専業メーカー5社は,平成16年1月20日及び同年2月19日,日本教育会館において担当者による会合を開催するなどして協議をし,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について第1次合意をした。
平成16年2月19日の日本教育会館における会合において,日鉄鋼板の荒木は,第1次合意の内容(値上げの実施時期及び値上げ幅)について,同人が被審人に伝達する旨発言した。そして,上記会合の後,日鉄鋼板の荒木は,被審人の小脇に対し,第1次合意の内容を伝達し,小脇はこれを了承した。
(イ) その後の事情等
a 平成16年2月19日の日本教育会館における会合の終了後,同会合の出席者らは,東京都中央区八重洲に所在する飲食店「海女小屋」において懇親会を行った。この「海女小屋」での懇親会には,被審人の小脇も出席した。そして,この懇親会においては,同日の会合で専業メーカー5社による第1次値上げに関する話題も出たが,被審人の小脇は,そのような話題を拒否することはなかった。
b 6社は,本件合意の実効を確保するため,複数の鋼板メーカーが競合して取引している需要家について,個別の需要家ごとに値上げを実現させるための値上げ交渉の方法などの方針を検討するために,「相対」と称して,会合を催したり,電話等で連絡を取り合うなどして調整を繰り返しながら値上げ交渉を進めた。
被審人の小脇は,JFE鋼板の菊池格志(以下「菊池」という。)らとの間で,両社が競合する需要家であるYKKAP株式会社(以下「YKKAP」という。)に関して,値上げの実施方法を調整するなど相対を行った。具体的には,小脇及び菊池は,平成16年5月31日,飲食店「旬三昧うるわし」において会合を行い,相対を行った。また,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池並びにそれぞれ両社においてYKKAPに対する営業を担当する被審人の北陸支店長脇村司郎(以下「脇村」という。)及びJFE鋼板の北陸営業所長馬場功(以下「馬場」という。)の4名は,同年6月22日,飲食店「小洞天有楽町店」において会合を行い,相対を行った。その他,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池と,被審人の脇村及びJFE鋼板の馬場は,それぞれ会合を行ったり,電話で連絡を取り合うなどして,お互いのYKKAPに対する値上げ交渉の状況を報告し合いながら,YKKAPとの価格交渉を進めた。
また,被審人の小脇は,淀鋼の石田正人(以下「石田」という。)との間で,両社が競合する需要家である三和シヤッターに関して値上げの実施方法を調整するなど相対を行った。
c 6社は,第1次合意の実効を確保するため,おおむね月に1回程度,値上げの進捗状況を確認する会合を開催し,ここで,相対の調整を含めて,全体の値上げ進捗についての議論を行った。
ウ 第2次合意について
(ア) 上記第3の6(2)のとおり,専業メーカー4社は,平成16年7月12日,築地市場厚生会館において会合を開催するなどして協議をし,第2次合意をした。
上記会合において,日鉄鋼板の荒木は,第2次合意の内容について,同人が被審人に伝達する旨表明した。そして,上記会合の後,荒木は,被審人の小脇に対し,第2次合意の内容を伝達し,小脇はこれを了承した。
(イ) その後の事情等
被審人を含む5社は,第2次合意の実効を確保するために相対を行いながら値上げを進めた。
被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成16年7月下旬から同年8月中旬頃までの間,YKKAPに対する値上げについて相対を行った。そして,小脇及び菊池は,それぞれのYKKAPに対する値上げ交渉の状況を連絡し合った上,同人らが合意した内容をそれぞれ被審人の脇村又はJFE鋼板の馬場に指示し,YKKAPに対する値上げ交渉を進めた。
被審人の小脇及び淀鋼の石田は,三和シヤッターに対する値上げについて,電話で連絡を取り合い,値上げの実施方法や進捗状況を調整した。
エ 第3次合意について
(ア) 上記第3の6(3)のとおり,専業メーカー4社は,平成17年1月25日,JFE鋼板本社において会合を開催するなどして協議をし,第3次合意をした。
上記会合の席上,日鉄鋼板の荒木は,第3次合意の内容について,同人から被審人に伝達する旨の発言をした。そして,上記会合後,荒木は,被審人の小脇に対し,第3次合意の内容を伝達し,小脇はこれを了承した。
(イ) その後の事情等
被審人を含む5社は,第3次合意の実効を確保するために相対を行いながら値上げを進めた。
被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成17年2月上旬から同月中旬頃までの間,YKKAPに対する値上げについて,相対を行った。そして,小脇及び菊池は,それぞれのYKKAPに対する値上げ交渉の状況を連絡し合った上,同人らが決定した内容をそれぞれ被審人の脇村又はJFE鋼板の馬場に指示し,YKKAPに対する値上げ交渉を進めた。
オ 第4次合意について
(ア) 上記第3の6(4)のとおり,専業メーカー4社は,平成18年4月17日及び同年6月1日,「喫茶室ルノアール日本橋本町店」において会合を開催するなどして協議をし,第4次合意をした。
第4次合意の内容は,従来と異なり,本件ひも付きカラー鋼板の板厚により値上げ幅に差を設けており,しかも期中に値上げを行うものであるため,被審人の協調が重要であることから,日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池及び淀鋼の保知昇(以下「保知」という。)は,平成18年6月9日,被審人の本社に赴き,被審人の小脇の部下である末次力(以下「末次」という。)等と面談し,第4次合意における値上げの内容を伝え,被審人もこれに沿って値上げを実施するように求めたところ,末次はこれに同意した。
(イ) その後の事情等
被審人を含む5社は,第4次合意の実効を確保するために相対を行いながら値上げを進めた。
カ 6社の値上げ状況
6社(第2次ないし第4次値上げについては5社)は,第1次値上げから第4次値上げまで,それぞれ建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引での販売価格を引き上げたが,その内容は,各社とも本件合意の内容におおむね沿ったものであった。
キ まとめ
以上のとおり,6社がかねてから本件ひも付きカラー鋼板の販売価格等について情報交換を行っていたこと,我が国における本件ひも付きカラー鋼板の取引分野において被審人が重要な地位にあること,ステンレス鋼板立入検査後に日鉄鋼板の荒木が今後は同人が被審人の小脇に対し専業メーカー5社による合意内容を伝達する旨の発言をしたこと,ステンレス鋼板立入検査後に小脇が今後も専業メーカー5社の合意内容等の連絡を受ける意思がある旨の発言をしたこと,小脇が平成16年2月19日の「海女小屋」における会合に出席し,同日専業メーカー5社が合意した第1次値上げに関する話題を拒否することもなく会話を交わしたこと,被審人がJFE鋼板及び淀鋼との間で度々相対を行っていたこと,上記相対において,小脇が専業メーカー5社の合意内容を知らず相対にそごを来すという事態は生じなかったこと,6社の値上げの内容が本件合意の内容におおむね沿ったものであったこと等の事情に照らせば,被審人は,ステンレス鋼板立入検査後においても,単に,6社の会合への出席を控えるようになったというにすぎず,「懇親会等のような場で少しくらい販売価格に関する情報交換をしても,現実に独占禁止法違反として問題となるまでには至らないのではないかと考えておりました。」(査第91号証)などという小脇の認識の下,専業メーカーとの協調関係を続け,第1次合意ないし第4次合意について,専業メーカーの合意内容の伝達を受けてこれに同意し,本件合意に加わっていたことが認められる。
(2) 被審人の主張
ア 以下の各事情等に照らせば,被審人の社員は,本件合意がされた専業メーカー5社の会合には一切参加しておらず,専業メーカー5社が本件合意により決定した値上げ幅や値上げ時期等の内容が被審人には伝えられていないから(第4次合意に関しては,仮に,その旨伝えられたとしても被審人は歩調をそろえて値上げすることを拒否した。),被審人と専業メーカー5社との間に意思の連絡はなく,被審人が本件合意に加わったとは認められない。
イ 被審人の小脇の絶縁宣言等
(ア) 上記第3の5(2)のとおり,ステンレス鋼板立入検査後,被審人の社内では,コンプライアンス体制が厳格化され,独占禁止法違反行為を一掃すべく,各営業部門に対し他社との会合等への出席を控えるよう指示が出された。そこで,被審人の小脇は,平成15年頃,日鉄鋼板の乃万克也(以下「乃万」という。)に対し,今後は専業メーカー5社との会合への出席は不可能であり,絶縁する旨述べ,このような絶縁の意思を他社の担当者にも伝えるよう依頼した。
その後,実際に,被審人と専業メーカー5社との間の連絡は途絶え,被審人はカルテルから離脱し,専業メーカー5社との協調関係は解消された。
(イ) 審査官は,被審人の小脇が専業メーカー5社の合意内容等の連絡を受ける意思がある旨発言したと主張するが,否認する。
被審人の小脇は,別件店売り取引カルテル事件に係る会合において,上記のような発言をしたことはあるが,本件ひも付きカラー鋼板に関してそのような発言をしたことはない。被審人における本件ひも付きカラー鋼板の販売量は店売り取引の販売量に比べて極めて小さかった上,本件ひも付きカラー鋼板の取引については,小脇と専業メーカーの担当者との間に良好な人間関係が形成されていなかったので(専業メーカーにおいては,店売り取引の担当者とは異なる人物が本件ひも付きカラー鋼板の取引の担当者であった。),小脇が,あえて上記のような発言をしてまで他社との協調関係を続ける必要性もなかった。小脇が店売り取引の担当者に述べた言葉が,社内の本件ひも付きカラー鋼板の担当者に伝わり,最終的に本件ひも付きカラー鋼板の取引についてもかかる発言をしたと勘違いされているものと考えられる。
ウ 日鉄鋼板の荒木は連絡役を務めていないこと
日鉄鋼板の荒木は,専業メーカー5社の会合等の場において,被審人に対する連絡役を引き受ける旨の発言を一切していないし,また,実際にそのような連絡役としての行動はなく,被審人の小脇に対し専業メーカー5社による本件合意の内容を伝えたことはない。
日鉄鋼板の荒木が被審人の小脇に対する本件合意の連絡役を務めたことについては,小脇及び荒木が共に否定している。他方,荒木が連絡役であった旨の専業メーカーの担当者らの供述は,荒木が連絡役であることを推測するにすぎないものも多く,審査官による根拠の乏しい推論に基づく強い誘導によってされた供述であると考えられ,その信用性には疑問がある。
エ 被審人の参加が必須のものではなかったこと
本件ひも付きカラー鋼板の販売において,被審人のシェアは低く,YKKAP及び三和シヤッターとの関係を除けば,被審人は専業メーカー5社から重視されておらず,被審人が本件合意に加わらなくとも,専業メーカー5社による値上げの実施は困難ではなかった。
また,本件合意の当時,カラー鋼板の原材料である鉄鉱石,石炭又はホットコイルの価格が右肩上がりに上昇し,カラー鋼板の需給がひっぱくしており,市場及び需要家もある程度値上げに同意せざるを得ない状況であったことから,本件合意を実現する上で被審人が同調する必要はなかった。
さらに,専業メーカー5社による会合(進捗会議等)において,被審人が本件合意の内容に沿った値上げをしているか否か等についての確認あるいは報告があったとは認められない。専業メーカー5社の担当者は,被審人の値上げ状況を確認しようとしなかったのであって,専業メーカー5社は被審人をカルテルのメンバーとして扱っていなかったといえる。
オ 被審人におけるひも付き取引の扱い
被審人の小脇は,カラー鋼板及びめっき鋼板の店売り取引については,他社に対し協調関係を断絶する意思を伝えたものの,ファインスチール分科会において他社の担当者と会う機会も多く,他社の担当者との間で相互に人間関係が構築されており,また,同取引が小脇の業務部門が利益を確保する上で重要であったため,ステンレス鋼板立入検査以後も他社との関係を終わらせる明確な行動を採ることができなかった。
他方,本件ひも付きカラー鋼板の取引においては,被審人の小脇と他社の担当者との関係は,店売り取引のように密ではなく,むしろ,本件ひも付きカラー鋼板の取引では過去にも他社の裏をかいてシェアを奪おうとするケースが頻発していたことから,小脇は,専業メーカーの担当者(特に川鉄鋼板の担当者)を信用していなかった。また,本件ひも付きカラー鋼板の取引のうち,被審人の最重要顧客である三和シヤッターとの取引については,被審人が約90パーセントのシェアを有しており,かつ,三和シヤッターと被審人との間に特別な関係があったことから,他社の動向を気にする必要がなかったこと,小脇は,自らが三和シヤッターとの取引を担当しているわけではなかったこと,本件ひも付きカラー鋼板の取引は,店売り取引と比較すると,利益率が低く,取引量も少なかったことから,小脇の本件ひも付きカラー鋼板の取引についての関心は極めて低かった。そのため,小脇は,ステンレス鋼板のカルテルが発覚する頃には,既に本件ひも付きカラー鋼板に関する会合にほとんど出席しない状態であり,ステンレス鋼板立入検査後は,少なくとも,本件ひも付きカラー鋼板のカルテルに,あえて法を犯してまで参加する意思を有していなかった。
カ 第1次合意について
(ア) 被審人は,平成16年1月20日及び同年2月19日の日本教育会館における専業メーカー5社の会合には出席していないし,第1次合意の内容について伝達を受けておらず,専業メーカー5社との間に第1次合意につき意思の連絡はなかった。
(イ) その後の事情等について
a 被審人の小脇は,平成16年2月19日の飲食店「海女小屋」における懇親会に出席したが,この懇親会において本件ひも付きカラー鋼板の値上げに関する話題は出ておらず,この懇親会で第1次合意の内容が小脇に伝達されたとは認められない。小脇は,親睦を深めるための懇親会又は新年会に出席したにすぎない。
なお,上記懇親会が開催された平成16年2月19日は,被審人において平成16年度上期(4月ないし9月)予算に関する建築建材販売部の予算ヒアリングが実施された当日であり(審第5号証),被審人の小脇が上記懇親会に出席した時点では,被審人において,既に平成16年度上期予算が事実上確定していたことになる。よって,仮に被審人の小脇が上記懇親会において第1次合意の内容を聞いたとしても,被審人がこれに応じることのできる状況ではなかった。
b 被審人の小脇らは,JFE鋼板の菊池らと共に,平成16年5月31日に飲食店「旬三昧うるわし」において,同年6月22日に飲食店「小洞天有楽町店」において会食をしたが,これは,JFE鋼板が,被審人とJFE鋼板それぞれの北陸支店間の関係が良好ではなかったのを改善しようとして,積極的に被審人に接近しようとして設けられた会食であり,この場において,被審人とJFE鋼板との間でYKKAPに対する値上げに関して具体的な協議も合意もされなかった。
これらの会食も含め,YKKAPとの取引に関してJFE鋼板の菊池から被審人の小脇へのアプローチがあったが,それは,本件合意とは別途独立して,YKKAPとの取引のみに限定して持ち掛けられたものであり,両者の間で具体的な情報交換がされたとしても,YKKAPという特定の需要家に対する具体的な値上げ幅や値上げ時期の情報交換をしたにすぎず,これを本件合意に基づく相対と理解すべきではない。このことは,菊池が,小脇に接触するに際して,専業メーカー間の本件合意の内容に触れていないことからもうかがわれる。
また,被審人における平成16年度上期予算は平成16年2月19日に事実上確定し,同年5月から6月の時点でほとんどの需要家との間で値上げの合意を済ませており,YKKAPについても,平成16年度上期における値上げ交渉が既に終了して,同年4月末時点で被審人の社内における決裁を経ていた(審第31号証の1及び2)。このように既に予算が確定し,需要家との値上げ交渉もほとんど終了していた同年5月以降に,被審人とJFE鋼板が平成16年度上期の値上げ(第1次値上げ)に関する相対を行ったとする審査官の主張は,時期的にみて非現実的であり,客観的事実に反している。
c 審査官は,被審人の小脇が,淀鋼の石田との間で,三和シヤッターに関して相対を行ったと主張するが,そのような事実はない。
キ 第2次合意について
(ア) 被審人は,平成16年7月12日の築地市場厚生会館における専業メーカー4社の会合には出席していないし,第2次合意の内容について伝達を受けておらず,専業メーカー4社との間に第2次合意につき意思の連絡はなかった。
(イ) その後の事情等について
a 審査官は,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池が,YKKAPに対する値上げにつき相対を行ったと主張するが,そのような事実はない。被審人は,平成16年11月頃から,暗黙裏に,YKKAPに対する販売商品をGTカラーからZAMカラー(めっき鋼板の一種で被審人が特許権を有するZAMに塗装をしたもの)に切り替える作業を進めており(ただし,全面的にZAMカラーに切り替えられたのは平成18年6月である。),当時の状況に鑑みれば,被審人がJFE鋼板と協調関係を築くような行動に出ることは考えられない。
また,仮にYKKAPとの取引に関してJFE鋼板の菊池と被審人の小脇との接触があったとしても,上記カ(イ)bのとおり,それはYKKAPという特定の需要家に対する値上げ幅や値上げ時期の情報交換をしたにすぎず,これを本件合意に基づく相対と理解すべきではない。
b 審査官は,被審人の小脇が,淀鋼の石田との間で,三和シヤッターに関して相対を行ったと主張するが,そのような事実はない。
c 第2次合意がされた後の平成16年7月16日及び同年10月7日に専業メーカーが行った会合において,第2次合意に基づく値上げの進捗状況が相互に確認されたが,被審人に関する言及はなかった。このことからも,被審人が本件合意によるカルテルに関与していなかったこと,また,専業メーカー4社が被審人をカルテルのメンバーとは認識していなかったことが明らかである。
ク 第3次合意について
(ア) 被審人は,平成17年1月25日のJFE鋼板本社における専業メーカー4社の会合には出席していないし,第3次合意の内容について伝達を受けておらず,専業メーカー4社との間に第3次合意につき意思の連絡はなかった。
(イ) その後の事情等について
a 審査官は,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池が,YKKAPに対する値上げにつき相対を行ったと主張するが,そのような事実はない。北陸においてYKKAPに対する営業を担当していた被審人の脇村とJFE鋼板の馬場は,平成16年12月24日の電話を最後に連絡を一切していないから,両者の間で相対や情報交換がされることはあり得ない。
また,仮にYKKAPとの取引に関してJFE鋼板の菊池と被審人の小脇との接触があったとしても,上記カ(イ)bのとおり,それは,YKKAPという特定の需要家に対する値上げ幅や値上げ時期の情報交換にすぎず,これを本件合意に基づく相対と理解すべきではない。
なお,この時期には既にYKKAPによる被審人のZAMカラーの採用が内部で決定されており,第3次合意に基づく相対を含めてJFE鋼板が被審人にアプローチをするような状況にはなかった。
b 審査官は,被審人の小脇が,淀鋼の石田との間で,三和シヤッターに関して相対を行ったと主張するが,そのような事実はない。
c 第3次合意がされた後の平成17年3月3日及び同月23日に専業メーカーが行った会合において,第3次合意に基づく値上げの進捗状況が相互に確認されたが,被審人に関する言及はなかった。このことからも,被審人が本件合意によるカルテルに関与していなかったこと,また,専業メーカー4社が被審人をカルテルのメンバーとは認識していなかったことが明らかである。
ケ 第4次合意について
(ア) 被審人は,平成18年4月17日及び同年6月1日の「喫茶室ルノアール日本橋本町店」における専業メーカーの会合には出席していない。
被審人の末次は,平成18年6月9日,日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池及び淀鋼の保知の訪問を受けて同人らと面会したが,この3名による訪問を単なる挨拶と考えていたし,本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて同調を求められているとは感じず,一般的な市況の話に終始させる対応を採った。また,チームリーダーの立場にある末次は,本件ひも付きカラー鋼板について専業メーカー間でカルテルが行われていることを認識していなかったところ,それに参加する結果となる重要な決定について,部長である小脇に何ら相談することもなくその場で回答するはずがない。上記のとおりの末次の対応から,専業メーカーの担当者3名は,被審人が第4次値上げに同調する意向がないものと認識した。
よって,第4次合意についても,被審人と専業メーカー4社との間に意思の連絡はない。
なお,第4次値上げは,板厚に応じて値上げ幅が異なる等という初めての試みが含まれた内容であるため,専業メーカーの担当者らは,被審人にも足並みをそろえてもらう必要があると考えて被審人を訪問したのであり,専業メーカーの担当者らが,第4次値上げに際して被審人の担当者に直接会って同調を求めようとしたこと自体,当時,専業メーカー4社が被審人を本件合意によるカルテルの参加者であるとは認識していなかったことを示すものである。
(イ) その後の事情等について
a 被審人は,第4次合意に関して,他の事業者との間で相対又は情報交換を行ったことはなく,値上げの進捗状況に関する会合にも出席していない。
b 被審人は,平成18年6月,YKKAPに対する販売商品のGTカラーからZAMカラーへの切替えを完了し,YKKAPに対するシェアの大部分をJFE鋼板から奪っていたから,JFE鋼板と相対や情報交換をするような状況にはなかった。
JFE鋼板の菊池は,被審人によるZAMカラーへの切替えの結果,YKKAP向けのシェアを奪われたにもかかわらず,被審人の小脇に事実関係を確認するにとどまり,専業メーカー4社の全体会議に報告して対策を検討したり,他の専業メーカーの担当者と共に業界として被審人に抗議するといった行動は一切していない。このことは,YKKAPに関する菊池と小脇とのやり取りが,本件合意に基づくカルテルとは独立したものであることを裏付けている。
コ 被審人における値上げ状況
(ア) 各期における値上げ状況
a 平成16年度上期(第1次合意関係)
被審人における平成16年度上期の個別の需要家に対する値上げ方針(審第4号証の「H16上期予算織込み状況」欄)によると,本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅はおおむね1円から4円であり,他方で,予算において値上げが計画されていない需要家の方が,計画されている需要家よりも多い。平成16年度上期予算においては,一部需要家に対する「陥没価格」(市況価格よりも著しく低く設定され,採算割れとなっている販売価格)の是正による採算の改善を主眼とし,予算において計画された値上げは,取引が赤字となっていた需要家を対象とするものがほとんどである。また,値上げが計画された需要家についても,需要家ごとに値上げ幅及び値上げ時期は異なり一律ではない。このように,被審人において決定された各需要家の値上げ幅及び値上げ時期は,平成16年4月出荷分から1キログラム当たり10円値上げするという第1次合意の内容とはほど遠い。
b 平成16年度下期(第2次合意関係)
被審人における平成16年度下期の個別の需要家に対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ方針(審第7号証の「H16下期予算織込(案)」欄)によると,平成16年度下期予算においては,おおむね3円から5円の値上げが計画されており,値上げ時期は統一されていない。他方で,予算において値上げが計画されていない需要家も少なくない。このように,平成16年度下期においても,需要家ごとに値上げ幅及び値上げ時期は一律ではなく,また,必ずしも全ての需要家について値上げが計画されているわけではなく,決定された各需要家の値上げ幅及び値上げ時期は,平成16年10月出荷分から1キログラム当たり10円値上げするとの第2次合意の内容とはほど遠い。
c 平成17年度上期(第3次合意関係)
被審人における平成17年度上期の個別の需要家に対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ方針(審第11号証の「H17上期予算折込(案)」欄)によると,ひっぱくした需給動向を背景としてコストアップ幅に応じた値上げの実施が主眼とされたため,ほとんどの需要家に対して値上げが計画されている。ただし,値上げ幅は3円から18円まで(6円の値上げが最も多い。),値上げ時期も平成17年4月出荷分から同年9月出荷分までと,需要家によってばらつきがある。このように決定された各需要家の値上げ幅及び値上げ時期は,同年4月出荷分から1キログラム当たり15円値上げするとの第3次合意とはほど遠い。
d 平成18年度上期(第4次合意関係)
被審人においては,平成18年度上期には亜鉛価格が高騰したためカラー鋼板の値上げを検討し,店売り取引によるものについては平成18年7月出荷分からの値上げを決定したが,本件ひも付きカラー鋼板については,値上げを需要家に応じてもらうのは困難であると考え,平成18年度上期中には値上げをしなかった。また,被審人において,本件ひも付きカラー鋼板の板厚により価格差を設ける考えはなかった。
第4次合意は,①期中の値上げであること及び②板厚により値上げ幅に差を設けていることの2点において従前の値上げと異なるものであったが,上記のとおり,実際の被審人の各需要家に対する値上げ方針において上記2点はいずれも採用されておらず,第4次合意の内容とは全く異なっている。
(イ) 主な需要家に対する値上げ状況
a YKKAPに対する値上げ状況
被審人におけるYKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格については,平成16年度上期の予算では,同年4月から1キログラム当たり3円の値上げが計画され(審第5号証),平成16年度下期の予算では,シャッター雨戸に使用する特定カラー鋼板については1キログラム当たり合計5円(同年10月から3円,平成17年1月から2円)の値上げ,横引き雨戸に使用する特定カラー鋼板については1キログラム当たり合計3円(平成16年10月から2円,平成17年1月から1円)の値上げがそれぞれ計画され(審第8号証),平成17年度上期の予算では,1キログラム当たり合計7円(同年6月から3円,同年9月から4円)の値上げが計画され(審第10号証),平成18年度上期の予算では,同年4月から5円の値下げが計画され(審第13号証),計画に従った値下げを実施しているところ(審第26号証),これらの被審人における値上げ等の状況は,本件合意の内容と大幅に異なっている。
b 三和シヤッターに対する値上げ状況
被審人における三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格については,平成16年度上期の予算では同年7月から3円の値上げが(審第20号証),同年度下期の予算では同年12月から4円の値上げが(審第21号証),平成17年度上期の予算では同年5月から5円及び同年8月から5円の値上げが(審第22号証),同年度下期の予算では同年10月から3円の値上げが(審第23号証),それぞれ計画されていたのであって,これらはいずれも,第1次合意ないし第3次合意の内容と全く一致していない。また,被審人は,平成18年度上期においては,三和シヤッターに対して本件ひも付きカラー鋼板の期中の値上げを実施しておらず,同年度下期の予算において,同年12月出荷分から6円の値上げを計画していたのであり(審第24号証),やはり第4次合意の内容と異なっている。
(ウ) 以上のとおりであり,平成16年度上期以降の被審人における本件ひも付きカラー鋼板の販売価格の値上げ等については,いずれも,被審人の社内における価格決定のプロセスにのっとり,原材料等の価格の上昇への対応やいわゆる「陥没価格」等の赤字解消を目的として,他の事業者の行動とは無関係に,取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によりなされたものである。
サ 被審人のシェアの下落
上記第3の3のとおり,我が国における本件ひも付きカラー鋼板の総販売量のうち,被審人の販売量の占める割合(シェア)は,平成15年度は21.8パーセント,平成16年度は20.2パーセント,平成17年度は18.1パーセント,平成18年度は15.7パーセントであり,僅か4年間で6ポイント強も下落し,被審人は約25パーセントものシェアを落としている。本件合意に基づくカルテルの大原則は「シェア移動の禁止」であったのだから(査第1号証,第4号証,第14号証,菊池格志参考人等),仮に被審人が本件合意によるカルテルに参加していたならば,このようなシェアの下落はなかったはずである。実際に,別件店売り取引カルテル事件において被審人がカルテルに参加していたと認定された店売り取引では,被審人のシェアはほぼ変動していなかったことと対比すると(審第34号証),上記のような本件ひも付きカラー鋼板におけるシェアの下落の事実は,平成15年以降,被審人が専業メーカーとのカルテルから離脱したことを強く裏付けるものである。
シ 違反行為の終了時の状況
上記第3の7のとおり,日鉄鋼板は,平成18年9月7日,淀鋼,JFE鋼板及び住金建材に対し,本件合意から離脱する旨を通告したが,被審人に対してはこのような通告はなかった。また,別件店売り取引カルテル事件においては,日鉄鋼板の高内一郎(以下「高内」という。)から被審人の小脇へ連絡があったのに対し(査第91号証),本件ひも付きカラー鋼板に関してはそのような連絡はなかったのである。かかる事実も,店売り取引とは異なり,本件ひも付きカラー鋼板の分野については,被審人がカルテルに参加していると認識されていなかったことを裏付けている。
2 争点2(「当該商品」該当性)について
(1) 審査官の主張
独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限等をしたときは,公正取引委員会は,事業者に対し「当該行為の実行としての事業活動」が行われた期間における「当該商品」の売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定しているところ,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当し,課徴金の算定対象に含まれるものと推定して妨げないものと解される(公正取引委員会平成11年11月10日審決・公正取引委員会審決集第46巻119頁〔東京無線タクシー協同組合に対する件〕)。
しかるに,三和シヤッター向けに販売された本件ひも付きカラー鋼板も,ひも付き取引による建材製品製造業者向け特定カラー鋼板であり,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明らかである。
そして,前記のとおり,三和シヤッターに対する販売に関し,被審人は競合する淀鋼との間で相対を行っていたのであり,他の事業者が参入する余地がないとか,他の事業者の動向を気に掛ける必要がないとの被審人の主張は事実に反しており,事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情は認められない。
(2) 被審人の主張
ア 仮に被審人の違反行為が認められる場合であっても,以下のとおり,被審人と三和シヤッターとの間の取引関係,当該取引の担当部門,価格決定方法等が他の取引先とは大きく異なっていることを考慮すれば,被審人が三和シヤッター向けに販売した本件ひも付きカラー鋼板については,黙示的に本件合意の対象から除外したことをうかがわせる特段の事情が認められ,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」には該当しないから,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。
(ア) 両社の取引関係の特異性
被審人と三和シヤッターとの取引は,被審人の前身である日亜製鋼株式会社の工場が兵庫県尼崎市に所在し,三和シヤッターの創業地と近接していたという経緯もあって,昭和31年の三和シヤッターの設立以降,現在まで50年以上の長期に及んでおり,両社は,単なる取引先としての関係を超えた極めて密接で特殊な取引関係にある。そして,本件ひも付きカラー鋼板の取引においても,このような両社間の取引関係が色濃く反映され,両社の経営者レベルの政策的な配慮が働くことも多く,単純に市況や原材料の上昇を反映させるのではなく,中長期的な視点から,販売価格の設定を通じて,被審人から三和シヤッターに対する実質的な金融的協力がされる場合もある。
また,被審人は,三和シヤッターが購入する本件ひも付きカラー鋼板について,およそ90パーセントという圧倒的なシェアを有している。
(イ) 担当部門の違い
上記(ア)のような取引関係を反映して,被審人の社内では,平成19年4月まで,被審人の小脇等が所属する部門とは異なる鋼板販売部が,三和シヤッターとの取引を担当していた。三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格交渉についても,鋼板販売部が担当し,場合によっては両社間の役員レベルにおいて協議されることもあった。このように,被審人においては,本件ひも付きカラー鋼板の取引を担当している部門とは全く別の鋼板販売部により三和シヤッターとの取引が維持されていたのであり,両部門間で頻繁に情報が交換されることはなかった。
(ウ) 価格の決定方法
a ベースメタルとしてのペンタイトについて
被審人と三和シヤッターとの価格交渉においては,被審人が取り扱っている全ての品種について個別に交渉されるのではなく,ベースメタル(基本となる鋼板)であるGA鋼板(合金化溶融亜鉛めっき鋼板。被審人における商品名は「ペンタイト」)の価格変動幅を交渉し,その決定された変動幅に連動して,ペンタイト以外の製品の価格変動幅も自動的に決定されることになっていた。三和シヤッターに販売する本件ひも付きカラー鋼板の価格の変動幅についても,ペンタイトの価格変動幅に連動して決定されていた。ペンタイトに対応するGA鋼板を製造しておらず,三和シヤッターとの間では特定カラー鋼板の販売価格のみを交渉の対象としている専業メーカーとは状況が大きく異なっている。
このように,被審人と三和シヤッターとの間の価格交渉は,専らペンタイトの価格を巡る交渉に終始しており,被審人としては,ペンタイトの価格について,被審人が意図した値上げを実現できるか否かが最大の関心事であった。そして,ペンタイトの価格交渉においては,原材料価格の状況や鋼板需給の動向,従前の価格改定の状況,競合する高炉メーカーとの競争状況等が考慮されたが,ペンタイトに対応するGA鋼板を三和シヤッターに納入していない専業メーカーにおける本件ひも付きカラー鋼板の値上げの動向が考慮されることは全くなかった。
b 実質価格と伝票価格について
被審人と三和シヤッターとの間の価格交渉においては,上記aのとおり決定されたペンタイトの価格変動幅をベースとして,本件ひも付きカラー鋼板の価格(「実質価格」)が決定される。ただし,「実質価格」は,これまでの両社間の歴史的な経緯から,金融的協力その他の政策的な配慮を織り込んで決められることもあり,また,三和シヤッターが,被審人に対して,他品種における販売価格の引上げを実施する代わりに,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格の引上げを見送るよう要求することもあった。このように,三和シヤッターに対する価格設定においては,市況とは全く別の要素が働く領域が極めて広く,上記のとおり決定されたペンタイトの変動幅から大きくかい離することがあった。
こうして「実質価格」が決定されると,それに一定の割戻金を上乗せした金額が「伝票価格」として,課長レベルで決定される。このように,「伝票価格」と「実質価格」をかい離させるのは,三和シヤッターの要請によるところが大きい。なお,実際の実務においては,三和シヤッターから被審人に対して一旦「伝票価格」が支払われた後,被審人から三和シヤッターに対し「伝票価格」と「実質価格」の差額(割戻金)が支払われている。以上からも明らかなとおり,被審人と三和シヤッターとの間で合意され,適用される価格は「実質価格」であって,「伝票価格」ではない。
そして,本件で問題となっている平成16年度から平成18年度の三和シヤッター向けの本件ひも付きカラー鋼板の実質価格についてみると,本件合意の内容とは全く異なっている(審第25号証,第36号証,第37号証の1ないし10)。
(エ) 他の事業者との競合性
上記のとおり,被審人と三和シヤッターとの間には,極めて密接で特殊な取引関係があるため,同社に対する本件ひも付きカラー鋼板の取引に関し,被審人以外の他の事業者が参入する余地は極めて乏しく,実際にも,被審人の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアは90パーセントを超えている。したがって,三和シヤッターとの取引については,もはや他の事業者との競争を通じてより低い価格が形成されるという競争のメカニズムが働き得ない状況にあり,他の事業者との競合性はない。
日鉄鋼板及び淀鋼も,三和シヤッターと取引をしているが,両社が三和シヤッターに販売しているのは,ドア面材用のカラー鋼板(プリント鋼板)であり,被審人が販売している軽量シャッター用又は窓シャッター用のカラー鋼板と比較すると,意匠性が高いなど商品性が全く異なり,販売価格の絶対値や取引量も異なっている。このように,日鉄鋼板及び淀鋼が三和シヤッターとの間でプリント鋼板を取引しているとしても,被審人が三和シヤッターに対して販売している軽量シャッター用又は窓シャッター用のカラー鋼板と,これらプリント鋼板との間には商品としての代替性はなく,何らの競合性もない。
(オ) 他社の認識
専業メーカー5社も,三和シヤッターとの関係について,被審人は別格であり,他の需要家に対する関係とは違うと認識していた。この点に関しては,三和シヤッターの購買担当者も同様の認識である。
イ 課徴金算定の基礎から除外すべき売上額
被審人が三和シヤッター向けに販売した特定カラー鋼板の売上額は,合計76億4728万5020円(うち平成16年4月1日から平成18年1月3日までが57億5718万1610円,平成18年1月4日から同年9月6日までが18億9010万3410円)であるから,上記金額は,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。
第6 審判官の判断
1 争点1(違反行為の存否)について
(1) 認定事実
前記第3で認定した事実及び証拠等(各項末尾に括弧書きで掲記)によれば,以下の事実が認められる。
ア ステンレス鋼板立入検査前の協調関係等
(ア) 平成12年頃,いわゆる「ゴーンショック」と呼ばれる日産自動車株式会社による鋼材の調達先の見直しや鉄鋼メーカーへの値下げ要求を契機として,鋼板メーカー間で激しい価格競争が生じ,カラー鋼板やめっき鋼板の販売価格が著しく下落して,鋼板メーカーの業績が悪化していたところ,平成13年後半から平成14年初め頃にかけて,当時の激しい価格競争による市況の低迷を打破するため,鋼板メーカーが業界を挙げて値戻しをするために協調体制を確立しようとする動きが強くなった。
そして,6社等は,平成14年1月又は2月頃から,①建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引(本件ひも付きカラー鋼板の取引),②軽量天井メーカー等向けのめっき鋼板のひも付き取引及び③めっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引という分野ごとに会合を開催するようになり,めっき鋼板,カラー鋼板等の値上げの実施時期,値上げ幅等について合意し,共同して値上げを実施していた。具体的には,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格については,6社は,平成14年4月出荷分から1キログラム当たり10円の値上げ,平成15年4月出荷分から1キログラム当たり10円の値上げをすることを合意し,共同して値上げを実施した。
この頃は,被審人以外の高炉メーカーである新日鐵,住金工業,神戸製鋼等も上記会合に参加していた。(査第2号証,第12号証,第14号証,第15号証,第17号証ないし第19号証,第91号証,第92号証,第100号証,第101号証)
(イ) 被審人の小脇は,ステンレス鋼板立入検査前は,上記①本件ひも付きカラー鋼板の取引及び③めっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引を担当し,いずれの分野においても,鋼板メーカーの会合に出席するなどして,専業メーカーを含む他社の担当者との間で値上げに関する情報交換をしたり,個別の相対を行っていた(査第6号証,第11号証,第15号証,第17号証,第18号証,第100号証,審第29号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)。
被審人の大口需要家である三和シヤッターについては,被審人の小脇が所属していた塗装・建材販売部ではなく,被審人の鋼板販売部が担当していたが,小脇は,他の鋼板メーカーとの合意内容等を鋼板販売部の担当者に伝えたり,鋼板販売部の担当者から聞いた三和シヤッターとの交渉状況等の情報を他の鋼板メーカーに伝えるなどして,三和シヤッターについても他社と共同して値上げ交渉を実施していた(査第6号証,審第27号証,第29号証,小脇修参考人)。
イ ステンレス鋼板立入検査後の状況等
(ア) 新日鐵,住金工業,神戸製鋼等の被審人以外の高炉メーカーは,平成15年3月のステンレス鋼板立入検査を契機に,本件ひも付きカラー鋼板等の販売価格に関する鋼板メーカーによる会合に出席せず,価格に関する情報交換等をしなくなり,鋼板メーカー間の従前からの協調関係から離脱した(査第1号証ないし第4号証,第10号証,第17号証,第19号証ないし第21号証,菊池格志参考人,荒木善行参考人)。
(イ) 上記第3の5(2)のとおり,ステンレス鋼板立入検査後,被審人においても,法令遵守の観点から,販売価格に関する情報交換を行うための同業他社との会合への出席を禁止する旨の指示が出され,被審人の小脇は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格に関する他社との会合への出席を控えるようになった。
また,被審人においては,ステンレス鋼板のカルテルについて公正取引委員会の排除措置命令が出された平成16年1月27日以降,改めて,社内でコンプライアンスに関する文書を回覧させるなど社員に対する教育が行われた(小脇修参考人)。
(ウ) 被審人は,高炉メーカーではあるものの,前記第3の3のとおり,本件ひも付きカラー鋼板の販売分野において,他の高炉メーカーのシェアが合計4パーセント未満にすぎないのに対し,被審人1社で約15ないし21パーセントで業界2位ないし3位という相応のシェア及び地位を有している。また,本件ひも付きカラー鋼板の市況に影響力を持つ需要家であるYKKAP及び三和シヤッターにも販売していることなどから,専業メーカー5社の担当者は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格の値上げを実現するに当たっては,値上げに係る合意に被審人が加わることが必要不可欠であると考えており,このような事情は,ステンレス鋼板立入検査の前後で変わらなかった(査第1号証,第2号証,第9号証,第19号証,第20号証,菊池格志参考人,石田正人参考人,長谷川純一参考人,荒木善行参考人)。
(エ) 被審人の小脇は,ステンレス鋼板立入検査の後,淀鋼の石田等に対し,被審人においてコンプライアンスが厳しくなったため,専業メーカー5社との会合に参加することはできなくなったが,1対1で専業メーカーの担当者と会って話したり,電話で話すことは構わないし,夜の飲み会に誘ってもらうことも構わない等の発言をした。これにより,専業メーカー5社の担当者らは,ステンレス鋼板立入検査後,被審人は,会合には出席しないものの,従前からの専業メーカーらとの協調関係から離脱することはなく,合意内容等の連絡を受けるなどして引き続き値上げの合意に加わる意思があるものと認識した。(査4号証,第8号証,第19号証ないし第21号証,第24号証,菊池格志参考人,石田正人参考人,長谷川純一参考人)
(オ) 日鉄鋼板の荒木(日鉄鋼板における建材製品製造業者向けカラー鋼板のひも付き取引の担当者であり,同社の鋼板営業部第二鋼板営業グループ長)は,ステンレス鋼板立入検査後,専業メーカー5社による会合等の場において,同人が被審人に対し専業メーカー5社による合意内容等を伝達する旨発言したことがあった(査第3号証,第19号証ないし21号証,第46号証,第53号証,第79号証,審第30号証,石田正人参考人,長谷川純一参考人)。
ウ 第1次合意について
(ア) 平成16年初め頃,特定カラー鋼板の原材料である鋼板(原板)の価格が,同年4月から上昇することが見込まれていた。また,鋼板製品全般について,中国国内の需要が急増するなどしたため,本件ひも付きカラー鋼板の値上げを行いやすい状況がみられるようになった(当事者間に争いがない。)。
(イ) 平成16年1月20日の専業メーカーによる会合
平成16年1月20日,日本教育会館において専業メーカー5社の担当者による会合が開催された。この会合には,日鉄鋼板の荒木,同社の髙橋功治(同社の鋼板営業部第二鋼板営業グループ部長代理。以下「髙橋」という。),淀鋼の石田(同社の東京支社鋼板部鋼板課PCMグループ課長代理),川鉄鋼板の永島範夫(同社の第二鋼板営業部カラー鋼板グループ長であり,その後,JFE鋼板の第二鋼板営業部カラー鋼板営業室長。以下「永島」という。),住金建材の片山和寛(同社の鋼板建材部長であり,その後,平成17年5月1日から平成18年11月30日まで鋼板建材部長兼鋼板営業室長。以下「片山」という。),同社の村上一義(同社の鋼板建材部鋼板営業室配属であり,その後,平成16年6月30日から平成17年4月30日まで鋼板建材部鋼板営業室長。以下「村上」という。),エヌケーケー鋼板の菊池(同社の第二営業部長であり,川鉄鋼板とエヌケーケー鋼板が合併してJFE鋼板となった平成16年4月1日から同社の第二鋼板営業部長)及びエヌケーケー鋼板の上坂卓也(同社の第二営業部主任部員であり,平成16年4月1日からJFE鋼板の第二鋼板営業部めっき鋼板営業室主任部員兼カラー鋼板営業室主任部員。以下「上坂」という。)らが出席したが,被審人の社員は出席しなかった。
専業メーカーの会合においては,日鉄鋼板の荒木又はJFE鋼板の菊池が幹事役を務めることが多かった。この会合においては,専業メーカー5社の担当者らは,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり10円の値上げをすることとし,上記値上げについて各社が需要家の感触を得た上で,約1か月後に再度専業メーカーの担当者による会合を開催することを決めた。(査第4号証,第8号証,第19号証,第20号証,第22号証,第24号証ないし第28号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)
(ウ) 平成16年2月19日の専業メーカーによる会合
平成16年2月19日,日本教育会館において専業メーカー5社の担当者による会合が開催された。この会合には,前記(イ)の同年1月20日の会合の出席者(ただし,住金建材の片山を除く。)が出席した。
この会合においては,専業メーカー5社の担当者らは,前記(イ)の同年1月20日の会合で合意した値上げ方針に対する需要家の反応について確認した上,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から現行価格より1キログラム当たり10円値上げすることを合意した。(査第4号証,第8号証,第22号証,第23号証,第29号証ないし第33号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)
(エ) 平成16年2月19日夜の「海女小屋」での懇親会
上記(ウ)の日本教育会館における会合の終了後,同会合の出席者らは,東京都中央区八重洲に所在する飲食店「海女小屋」において懇親会を行った。被審人の小脇は,日本教育会館における会合には出席していなかったが,この「海女小屋」における懇親会には参加した。(当事者間に争いがない。)
この懇親会においては,例えば,JFE鋼板の菊池は,他社の担当者から,それまで川鉄鋼板はカラー鋼板等の値上げに消極的だったが,同年4月に同社とエヌケーケー鋼板が統合してJFE鋼板となった後には,しっかり値上げをするように求められるなど,カラー鋼板等の値上げに関する話題が出ていたし,第1次合意に関する話題も出ていた。これに対し,被審人の小脇は,カラー鋼板等の価格に関する話題を拒絶するような言動を採ることはなかった。(査第4号証,第20号証,第22号証ないし第24号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)
なお,日鉄鋼板の荒木は,この懇親会の当日,「海女小屋」における飲食費用の全額を同店に支払った。また,被審人の小脇は,この「海女小屋」における自己の飲食代について,接待費として被審人に請求し,被審人から支払がされている。(査第34号証ないし第38号証,荒木善行参考人)
(オ) 専業メーカー5社は,個別の需要家に対して他社と競合して本件ひも付きカラー鋼板を販売している場合に,個別の需要家ごとに値上げを実現させるための値上げ交渉の方法(値上げ交渉に行く時期や順番等)について,競合する会社間で面会したり電話をかけたりして連絡を取り合い,相互に調整を繰り返しながら値上げ交渉を進めた(相対)。(査第52号証)
(カ) 被審人とJFE鋼板の接触状況等
a 平成16年5月31日の「旬三昧うるわし」での会食
被審人とJFE鋼板は,特定カラー鋼板のひも付き取引の需要家であるYKKAPに対して競合しているところ,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成16年5月31日,東京都千代田区鍛治町に所在する飲食店「旬三昧うるわし」において,会食をした(当事者間に争いがない。)。
エヌケーケー鋼板との合併によりJFE鋼板となる前の川鉄鋼板は,以前,鋼板メーカー間の合意に反し,YKKAPに安値を提示して,被審人のYKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアを奪ったことがあったため,川鉄鋼板と被審人との関係は,この分野に関しては険悪となっていた。菊池は,平成16年4月1日に新たに発足したJFE鋼板の第二鋼板営業部長となったため,被審人との関係を修復し,YKKAPに対し,被審人と共同して本件ひも付きカラー鋼板の値上げに取り組もうと考え,同年5月頃,小脇に電話をして会食の約束をした。(査第20号証,第24号証,菊池格志参考人,小脇修参考人)
この会食の席において,菊池が,小脇に対し,YKKAPに対する販売価格が低迷して収益が悪化していることから,JFE鋼板と被審人とが協調してYKKAPに対する値上げを実現していくことを求めたところ,小脇は,これに同意し,被審人においてもYKKAPについては収益が悪化しているため,むしろ積極的に共同して値上げをやってほしい旨述べた。また,YKKAPの購買窓口は富山県に所在しているため,被審人においては北陸支店,JFE鋼板においては北陸営業所がそれぞれYKKAPに対する実際の値上げ交渉等を行っているところ,小脇及び菊池は,近いうちに,北陸支店等の責任者を交えて再度懇親会を行うことを約束した。(査第20号証,第24号証,菊池格志参考人,小脇修参考人)
なお,この会食費用は,小脇の飲食分も含めて,JFE鋼板が接待費用として負担した(査第20号証,第24号証,第41号証)。
b 平成16年6月22日の「小洞天」での会食
被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池並びにそれぞれ両社の北陸支店等においてYKKAPに対する営業を担当する被審人の脇村(被審人の北陸支店長)及びJFE鋼板の馬場(JFE鋼板の北陸営業所長)の4名は,平成16年6月22日,東京都千代田区有楽町に所在する飲食店「小洞天有楽町店」において会食を行った(当事者間に争いがない。)。
この会食は,小脇及び菊池が,上記aの「旬三昧うるわし」での会食の際に約束したとおり,両社の北陸支店等の責任者である脇村及び馬場を交えた懇親会であり,脇村及び馬場は,いずれも富山から東京まで出張した扱いとされている。この会合において,上記4名は,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて,収益改善のため,お互いに価格の目標値を共有して協調していくことを確認し,具体的にYKKAPに申し入れる値上げ幅として1キログラム当たり15円から20円を目標にする旨を確認した。(査第20号証,第21号証,第24号証,第40号証,第42号証,菊池格志参考人)
なお,この会食が行われた会場は被審人側が準備し,飲食費用は,JFE鋼板の2名分も含めて,被審人が交際費として負担している(査第24号証,第39号証,菊池格志参考人)。
c 被審人の脇村及びJFE鋼板の馬場は,上記bの「小洞天」における会食の後,富山市内のホテルで面会したり,電話で連絡を取り合うなどし(当事者間に争いがない。),YKKAPに対する特定カラー鋼板の価格交渉等について情報交換をした(査第44号証)。
d 上記bの「小洞天」における会食の後,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,菊池が被審人本社を訪問したり,電話で連絡を取り合うなどして,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の取引について,用途別に具体的な値上げの目標値を設定し,お互いの値上げ交渉のスケジュールを個別に打合せ,お互いの交渉状況についても情報交換をしながら,YKKAPとの価格交渉を進めた(査第20号証,菊池格志参考人,小脇修参考人)。
e 被審人は,本件ひも付きカラー鋼板の需要家である日軽パネルシステム株式会社(以下「日軽パネルシステム」という。)に対してもJFE鋼板と競合しているが,その販売シェアはJFE鋼板と比較すると小さく,JFE鋼板等と日軽パネルシステムの間の値上げの決着を待ってから,日軽パネルシステムに対する値上げ交渉を進めることが多かったことから,被審人の小脇がJFE鋼板の菊池に電話をかけ,日軽パネルシステムに対するJFE鋼板の値上げ交渉の進捗状況を尋ね,菊池がこれに回答したことが2度ないし3度はあった(査第20号証,菊池格志参考人)。
(キ) 被審人と淀鋼の接触状況等
被審人の小脇及び淀鋼の石田は,電話で連絡を取り合い,本件ひも付きカラー鋼板について両社が競合する取引先である三和シヤッターに対する値上げ交渉について情報交換等をしていた。被審人の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の販売シェアは圧倒的に大きいため,淀鋼としては,三和シヤッターと値上げ交渉を進める上で,被審人と三和シヤッター間の値上げ交渉の情報が必要であったことに加えて,他のシャッターメーカーとの価格交渉においても,シャッターメーカー業界の最大手である三和シヤッターに対する値上げ状況が影響を及ぼすことから,被審人の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉に関する情報を入手する必要性が高かった。(査第19号証,第21号証,第80号証,石田正人参考人)
また,淀鋼の石田は,被審人の小脇から,電話によってYKKAPなど三和シヤッター以外の需要家との交渉状況等についての情報も得ていた(石田正人参考人)。
エ 第2次合意について
(ア) 平成16年下期以降においても,引き続き原板の価格が上昇することが見込まれるとともに,本件ひも付きカラー鋼板の値上げを行いやすい状況が続いていた(当事者間に争いがない。)。
(イ) 平成16年7月12日の専業メーカーによる会合
平成16年7月12日,築地市場厚生会館において専業メーカー4社の担当者による会合が開催された。この会合には,日鉄鋼板の荒木,同社の髙橋,淀鋼の石田,JFE鋼板の菊池,同社の上坂及び住金建材の村上らが出席したが,被審人の社員は出席しなかった。
この会合においては,専業メーカー4社の担当者らは,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年10月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり10円の値上げをすることを合意した。また,専業メーカー4社の担当者らは,特定の需要家に対する本件ひも付きカラー鋼板の販売価格が著しく低調なことを捉えて「陥没」と称し,この陥没に当たる需要家に対する値上げ幅は1キログラム当たり10円以上とする旨を確認した。(査第4号証,第21号証,第45号証ないし第51号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)
(ウ) 被審人とJFE鋼板の接触状況等
a 被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成16年7月中旬頃から8月頃までの間,菊池による被審人本社の訪問又は電話で連絡を取り合うなどして,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の取引について,具体的な値上げの目標値を設定し,お互いの値上げ交渉のスケジュールを打合せ,お互いの交渉状況についても情報交換をしながら,YKKAPとの価格交渉を進めた(査第20号証,第52号証,菊池格志参考人,小脇修参考人)。
b 北陸においては,JFE鋼板の馬場が,YKKAPに対する特定カラー鋼板の値上げに関して,被審人が合意のとおりに動いていない旨発言したことを契機として,両社の北陸支店等の責任者である馬場及び脇村の人間関係が悪化し,平成16年12月24日に電話で話したのを最後に,両社の北陸支店等間でYKKAPに対する取引に関する情報交換等ができない状態となった。
そこで,JFE鋼板の菊池は,被審人の小脇に電話で連絡し,東京にいる同人らが「ブリッジ」する,すなわち,YKKAPに対する値上げ交渉の状況等を連絡し合った上で,その内容をそれぞれ北陸の責任者(馬場及び脇村)に指示することによりYKKAPに対する値上げ交渉を進めることを提案したところ,小脇はこれに同意し,実際にそのような形でYKKAPとの交渉が進められた。(査第44号証,第52号証,審第29号証,菊池格志参考人)
オ 第3次合意について
(ア) 平成17年1月以降,原板の価格が同年4月から更に上昇することが見込まれており(当事者間に争いがない。),鋼板メーカーらにおいては,本件ひも付きカラー鋼板の更なる値上げの機運が高まっていた(査第52号証,第54号証)。
(イ) 平成17年1月25日の専業メーカーによる会合
平成17年1月25日,JFE鋼板本社の会議室において専業メーカー4社の担当者による会合が開催された。この会合には,日鉄鋼板の荒木,同社の髙橋,淀鋼の長谷川純一(同社の東京支社鋼板部鋼板課PCMグループ課長代理であり,淀鋼の石田の後任者である。以下「長谷川」という。),同社の保知(同社の東京支社鋼板部鋼板課店売・PCM・めっき統括課長。その後,平成17年9月16日から平成18年9月15日まで東京支社鋼板部鋼板課店売・PCMめっき統括次長),JFE鋼板の菊池,同社の永島,住金建材の片山,同社の村上らが出席したが,被審人の社員は出席しなかった。
この会合においては,専業メーカー4社の担当者らは,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1キログラム当たり15円の値上げを行うことを合意した。また,専業メーカー4社の担当者らは,上記の陥没に当たる需要家に対する値上げ幅は,1キログラム当たり15円から更に上乗せして,収益を改善することを確認した。(査第4号証,第53号証ないし第64号証,第80号証,菊池格志参考人,長谷川純一参考人)
この会合の席で,日鉄鋼板の荒木は,会合の内容については同人から被審人に伝えておく旨の発言をした(査第3号証,第53号証,第79号証,第80号証,長谷川純一参考人)。
(ウ) 平成17年2月2日のエキストラ価格に関する会合
専業メーカー4社の担当者は,平成17年2月2日,ホテルイースト21東京において会合を開催し,本件ひも付きカラー鋼板のベース価格に関する値上げ幅に加えて,それまで統一されていなかったエキストラ価格(特殊なロット,縮みの加工,メタリック塗装などの付加価値に応じたオプション価格)についても見直しを実施することとし,具体的には,複数社が同じような仕様で本件ひも付きカラー鋼板を納入していることから比較しやすいユーザーであるアイジー工業株式会社について,各社のエキストラ価格を披露し合い,値上げの目標価格を設定するなどした(査第53号証,第54号証,第62号証,第64号証,菊池格志参考人)。
(エ) 平成17年3月23日の専業メーカーによる会合
専業メーカー4社の担当者らは,平成17年3月23日,飲食店「喫茶室ルノアール秋葉原店」において,会合を行ったが,その席上で,被審人のYKKAPに対する値上げ交渉の状況について報告がされた。(査第53号証,第109号証,長谷川純一参考人)
(オ) 被審人とJFE鋼板の接触状況等
被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成17年2月の上旬から中旬頃までの間,電話で連絡するなどして,YKKAPに対する平成17年4月出荷分からの特定カラー鋼板の値上げについて,情報交換等を行った。ただし,この時期には,両者のやり取りは頻繁なものではなくなった。(査第52号証,第54号証,菊池格志参考人)
(カ) 被審人と淀鋼の接触状況等
第3次合意に関して,当時の担当者であった淀鋼の長谷川は,被審人との間で,相対や価格の情報交換等を行っていない。これは,この時期には,被審人が速やかに三和シヤッターに対する特定カラー鋼板の値上げに動き,淀鋼はそれに追随して容易に値上げをすることができたことから,特に被審人に連絡をしたり情報交換をする必要性がなかったためである。(長谷川純一参考人)
なお,第3次値上げの時期には,カラー鋼板やめっき鋼板の取引分野においては,需要に対し供給可能な商品の量が不足している「玉不足」の状態であり,需要家がカラー鋼板等の確保に重点を置き,値上げが受け入れられやすい状況であったことから,専業メーカーらは,頻繁に相対を行わなくとも,速やかに需要家に対する値上げを実現することができていた(査第63号証)。
(キ) 住金建材の担当者は,平成17年9月又は10月頃,同社の親会社である高炉メーカーの住金工業が,鋼製橋梁の談合について公正取引委員会から処分を受けたことを契機として,住金建材の上層部からの指示により,以後の専業メーカー間の会合への出席を控えるようになった。もっとも,住金建材は,これまでと同様に,個別の需要家に関する相対など必要がある場合には他社から連絡を受け,他社と共同して値上げをしていた。(査第63号証,第87号証)
カ 第4次合意について
(ア) 特定カラー鋼板の製造に必要となる亜鉛の価格が,平成17年後半頃から平成18年にかけて上昇傾向にあったところ,平成18年春頃にはさらに急騰し,また,同じく特定カラー鋼板の製造に必要となるアルミニウムの価格も上昇していた(当事者間に争いがない。)。
(イ) 平成18年4月17日の専業メーカーによる会合
平成18年4月17日,「喫茶室ルノアール日本橋本町店」において専業メーカー4社のうち住金建材を除く3社の担当者による会合が開催された。この会合には,日鉄鋼板の荒木,同社の髙橋,淀鋼の長谷川,JFE鋼板の菊池,同社の上坂及び同社の室伏秀雄(同社の第二鋼板営業部カラー鋼板営業室長。以下「室伏」という。)らが出席したが,被審人の社員は出席しなかった。
この会合においては,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,①従前は上期の始まりである4月又は下期の始まりである10月のいずれかを実施時期として値上げの合意をしていたが,この第4次合意においては平成18年度上期の期中に値上げを行うこと,②特定カラー鋼板は,重量で換算すると,板厚が薄くなるほど亜鉛の使用量が多くなり,亜鉛価格高騰によるコストの増加が大きいことから,本件ひも付きカラー鋼板の板厚により値上げ幅に差を設けることという2点において,従前とは異なる基本方針が決定された。具体的な値上げ幅や値上げの実施時期などについては,他分野(めっき鋼板のひも付き取引やめっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引)における値上げの状況を確認した上で,後日,再度会合を行い決定することとされた。(査第66号証ないし第72号証,第79号証,菊池格志参考人,長谷川純一参考人)
(ウ) 平成18年6月1日の専業メーカーによる会合
平成18年6月1日,「喫茶室ルノアール日本橋本町店」において専業メーカー4社のうち住金建材を除く3社の担当者による会合が開催された。この会合には,日鉄鋼板の荒木,同社の髙橋,淀鋼の保知,同社の長谷川,JFE鋼板の菊池及び同社の上坂らが出席したが,被審人の社員は出席しなかった。
この会合においては,専業メーカーの担当者らは,上記(イ)のとおり決定された基本方針に基づき,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,①平成18年8月出荷分から,厚さ0.3ミリメートル以下の特定カラー鋼板(薄物)にあっては,現行価格より1キログラム当たり15円引き上げる,②平成18年8月出荷分から,厚さ0.3ミリメートルを超える特定カラー鋼板(厚物)にあっては,現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した。(査第4号証,第66号証,第67号証,第72号証ないし第80号証)
専業メーカーの担当者らは,この第4次合意は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,期中である8月から値上げをし,薄物と厚物の値上げ幅に格差を付けるという初めての試みが含まれていたことから,これを確実に被審人に伝える必要があり,また,高炉メーカーである被審人は,専業メーカーとはコスト構造が異なることから,本件ひも付きカラー鋼板の値上げに消極的な姿勢を示されるのではないかという懸念があったため,被審人を訪問して第4次合意の内容等について説明をすることとした。(査第4号証,第67号証,第72号証,第76号証,第79号証,第80号証,菊池格志参考人)
(エ) 日鉄鋼板の荒木は,その後,被審人の小脇に電話をし,本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨伝えたところ,小脇は,部下である末次(平成18年4月1日から店売り取引とひも付き取引のカラー鋼板の営業責任者である建築建材販売部塗装・建材チームリーダー)を紹介し,同人の連絡先を教示した。そこで,荒木は,末次に電話をし,本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨伝えたところ,末次はこれに応じ,両者は,平成18年6月9日午後2時から被審人の本社において面談をすることを約束した。(査第72号証,第78号証,第108号証,審第28号証,第30号証,荒木善行参考人,末次力参考人)
(オ) 専業メーカー担当者による被審人への訪問
日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池及び淀鋼の保知の3名は,平成18年6月9日,被審人の本社を訪問して,末次及び太田恵久(被審人の建築建材販売部塗装・建材チーム主任部員。以下「太田」という。)と面談し,値上げの方針について述べた(当事者間に争いがない。)。
荒木,菊池及び保知の3名は,被審人の末次及び太田に対し,亜鉛の高騰等に対応するため,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,期中である同年8月から値上げをし,薄物と厚物の値上げ幅に格差を設けることなど第4次合意の内容を説明した上で,被審人においても是非同調して値上げ交渉をしてほしい旨を伝えた。これに対し,被審人の末次は,やはり亜鉛の高騰によるコスト増は非常に影響が大きいと述べ,JFEスチールや新日鐵など他の高炉メーカーの状況を専業メーカーの担当者らに尋ねるなどし,第4次合意の内容については,特に薄物の15円の値上げや値上げ時期が8月であることに対して違和感があるといった反応を示したものの,専業メーカー4社と同調することについて拒絶をすることはなく,菊池及び保知は,被審人も第4次合意に加わり値上げに同調してくれるものと認識した。(査第4号証,第65号証,第67号証,第79号証,第80号証,審第28号証,菊池格志参考人,荒木善行参考人,末次力参考人)
なお,上記面談の際,菊池は,末次に対し,被審人が製造販売しているZAMカラー(下記キ参照)も値上げの対象となることについて確認をした(査第67号証)。
(カ) 日鉄鋼板の荒木は,平成18年4月頃及び同年6月頃,上記(イ)及び(ウ)の専業メーカー担当者による会合に出席していなかった住金建材の片山に対し,第4次合意の内容等を伝え,片山はこれに同意した。このように荒木が住金建材に伝達する役目を引き受けることになったのは,日鉄鋼板及び住金建材が同年10月頃に合併することが既に公表されていたためであった。(査第66号証,第67号証,第78号証,第87号証)
(キ) 平成18年6月19日の専業メーカーによる会合
平成18年6月19日,「喫茶室ルノアール日本橋本町店」において,専業メーカーの担当者による会合が行われ,淀鋼の長谷川,同社の保知,日鉄鋼板の髙橋,JFE鋼板の室伏及び同社の上坂らが出席した。この会合においては,大手の需要家に対してはトップシェアの鋼板メーカーがまず交渉に行き,その他の需要家に対しては相対で話し合って値上げ交渉の順番を決めるという方法で値上げしていくことが改めて確認されるなどした。その中で,被審人がYKKAPや三和シヤッターに対して値上げ交渉に動くことやその時期についての報告がされた。(査第72号証,第80号証,長谷川純一参考人)
(ク) 被審人とJFE鋼板の接触状況等について
JFE鋼板の菊池は,上記(オ)のとおり平成18年6月9日に被審人の末次等と面談した後,被審人との間で,本件ひも付きカラー鋼板の価格の情報交換等を行っていない。これは,この時期においては,YKKAPなど被審人と競合している需要家に対する値上げが容易に実現できたことから,あえて被審人と連絡をとって調整する必要性がなかったためである。(菊池格志参考人)
(ケ) 被審人と淀鋼の接触状況等について
淀鋼の長谷川も,第4次合意に関して,被審人との間で,相対や価格の情報交換等を行っていない。これは,被審人が速やかに三和シヤッターに対する特定カラー鋼板の値上げに動き,淀鋼はそれに追随して容易に値上げをすることができたことから,特に被審人に連絡をしたり情報交換をする必要性がなかったためである。(長谷川純一参考人)
キ ZAMカラーについて
(ア) ZAMカラーとは,アルミニウム及び亜鉛に加えてマグネシウムが含まれる合金でめっきしたZAMというめっき鋼板に塗装したもので,JIS規格には対応していない製品であり,被審人が特許権を有し,被審人のみが製造している製品である。ZAMカラーは,GIカラーなどJIS規格に対応する製品とはめっきの成分に違いはあるものの,GIカラーなどと同様に建材製品製造業者向けに販売され,同じような用途に用いられていることから,専業メーカーが販売するGIカラーなどJIS規格に対応する製品と競合している。(査第3号証,第20号証)
(イ) 被審人は,平成16年11月26日,YKKAPに対し,それまで販売していた特定カラー鋼板のうちGFカラー(被審人における通称は「GTカラー」)について,ZAMカラーへ切り替えることを提案し,YKKAPは,平成17年6月にGTカラーを全てZAMカラーに切り替えることに応じた。実際のZAMカラーへの切替えは,平成17年後半から開始され,平成18年6月にZAMカラーへの切替えが全て終了した。その結果,被審人は,競合するJFE鋼板のYKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアの半分以上を奪うこととなった。(審第29号証,菊池格志参考人,小脇修参考人)
(ウ) JFE鋼板の菊池は,上記(イ)のとおり,YKKAPに対する特定カラー鋼板のシェアの半分以上を被審人に奪われたことから,平成17年末頃,被審人がYKKAPに対し安値を提示してシェアを奪ったのではないかと疑い,被審人の本社を訪問して,小脇に対しその旨抗議をした。これに対し,小脇は,YKKAPに対して安値を提示したことを否定し,両者は言い合いのような状態となった。(査第67号証,審第29号証,菊池格志参考人)
ク 本件合意(違反行為)の終了
上記第3の7のとおり,日鉄鋼板は,住金建材との事業統合に当たって独占禁止法遵守体制に係る社内調査を行ったことを契機として,平成18年9月7日,淀鋼,JFE鋼板及び住金建材に対し,本件合意から離脱する旨を通告し,同日以降,本件合意は事実上消滅した。
日鉄鋼板は,本件ひも付きカラー鋼板の取引に関する本件合意のみならず,他分野の合意(カルテル)からの離脱も表明しており,カラー鋼板等の店売り取引の分野における合意については,日鉄鋼板の高内が,被審人の小脇に対し,離脱の意思を表明した(査第91号証)。
ケ 日鉄鋼板の荒木の減免申請に係る陳述書
日鉄鋼板は,上記第3の8のとおり課徴金減免申請を行うに際し,公正取引委員会に対し,日鉄鋼板の荒木が作成した平成20年1月24日付け陳述書(査第103号証)を提出した。
この荒木の陳述書には,「日新製鋼は,ステンレス事件以後会合には参加しなくなりました。」と記載されている一方で,一貫して,本件ひも付きカラー鋼板の価格カルテルの共同行為者としては,専業メーカー4社とともに被審人が挙げられている。また,同陳述書においては,第2次合意について,専業メーカーらが「平成16年8月ころに,築地市場内の料理屋で」会合を開催して合意をした上で,「住金建材及び日新製鋼の担当者はこの会合に参加していなかったため,アイジー工業への納入シェアが一番大きい当社とトステムに対する納入シェアが一番大きいJFE鋼板が両社の担当者に会合での打合せ結果を電話で連絡しました。両社の担当者からは特に異議が出ませんでした。」と記載され,さらに,第3次合意について,専業メーカーらが「平成17年2月ころに,都内(日本橋か神田近辺)の喫茶店」において会合を開催して合意をした上で,「目標値については,平成16年のときと同じく,当社とJFE鋼板が,会合に参加しなかった日新製鋼と住金建材に電話で連絡しています。」とされ,日鉄鋼板及びJFE鋼板が,被審人及び住金建材に対し,専業メーカーの合意内容を伝達していた旨が記載されている。(査第103号証,荒木善行参考人)
コ 別件について
(ア) 別件店売り取引カルテル事件
専業メーカーでは,店売り取引の分野においては,本件ひも付きカラー鋼板の担当者とは別の社員が担当することが通常であったが,被審人の小脇及び淀鋼の保知のみは上記両分野を担当していた(ただし,保知が上記両分野を担当するようになったのは平成16年9月16日以降であり,その前は店売り取引の分野のみを担当していた。)。店売り取引の分野では,建材製品分野におけるめっき鋼板及びカラー鋼板の普及活動を行う社団法人日本鉄鋼連盟の内部組織であるファインスチール分科会が頻繁に開催されており,各社の店売り取引の担当者が接触する機会が多かった。(査第80号証,第91号証,審第29号証,小脇修参考人)
上記第3の4(2)のとおり,6社等は,平成15年3月のステンレス鋼板立入検査の前から,店売り取引の分野においても,価格に関する情報交換を行い,共同して値上げを実施していたところ,被審人の小脇は,鋼板メーカーによる会合に幹事役として出席するなどし,同社の取締役である淺沼斎(同社の取締役塗装・外装建材事業部長兼塗装・外装建材販売部長。以下「淺沼」という。)とともに,各鋼板メーカーの担当者の中でも中心となってカルテルを行っていた(査第91号証,第101号証,第102号証)。
ステンレス鋼板立入検査後,被審人においては,販売価格に関する情報交換を行うための同業他社との会合への出席を禁止する旨の指示が出され,被審人の淺沼及び小脇は,店売り取引に関する他社との会合への出席を控えるようになった。しかし,淺沼及び小脇は,相談の上,他社との会合には出席しないものの,店売り取引の価格カルテルには参加し続けることとし,他社の担当者に対しては,会合には出席することはできないが,「今後も酒席には付き合いますし,一対一なら会うこともできます」,「電話でもよいので話し合いの状況を教えて欲しい」などと価格カルテルを継続する意思を伝え,他社の合意内容については,淀鋼の保知が小脇に対して伝達する伝達役を務めた。さらに,淺沼及び小脇は,自ら幹事として他社の担当者に声を掛け,被審人の本社近くの「小洞天有楽町店」において「グルメ会」と称する食事会を開催し,その場で店売り取引の価格に関する情報交換を行ったり,平成16年2月14日には他社の担当者を招いてゴルフコンペを行い,そこで淺沼が作成しカラー鋼板等の値上げ幅等が記載された書面を配布し,価格に関する情報交換を行うなどし,その後も価格カルテルを継続した。(査第80号証,第91号証,第101号証,第102号証,審第29号証)
別件店売り取引カルテル事件においては,被審人を含む6社等は,GL鋼板及びGLカラーの店売り取引での販売価格について,平成16年4月出荷分から1キログラム当たり10円,同年10月出荷分から1キログラム当たり10円,平成17年4月出荷分から厚物を1キログラム当たり15円,薄物を1キログラム当たり10円,平成18年7月出荷分から1キログラム当たり10円値上げすることを合意した(査第91号証)。
なお,被審人の末次は,平成18年4月1日に店売り取引及びひも付き取引のカラー鋼板の営業責任者となった後,同年4月下旬頃,小脇により,淀鋼の保知など専業メーカーの店売り取引の担当者らを紹介され,店売り取引のカラー鋼板等について被審人と専業メーカーらがカルテルを行っていることを認識し,同年5月下旬に行われた淀鋼及び取引先との会合において,小脇が淀鋼の担当者と共同で取引先に値上げを依頼する席に同席するなどして(なお,この会合には,淀鋼の保知も同席していた。),被審人における平成18年7月出荷分からの値上げに関与していた(査第108号証,末次力参考人)。
(イ) 別件めっき鋼板カルテル事件
平成15年3月のステンレス鋼板立入検査の前から鋼板メーカーが協調関係を築いていた軽量天井メーカー等を需要者とするめっき鋼板のひも付き取引の分野においても,被審人の鋼板販売部の担当者であった河原孝彦等は,ステンレス鋼板立入検査の後は,他社との会合への出席は控え,できる限り電話による連絡のみで済ませるようにしながら,他社とのカルテルに参加し続けていた。
なお,別件めっき鋼板カルテル事件では,被審人においては,特定カラー鋼板のひも付き取引の担当とは異なる部署である鋼板販売部が関与した。(査第95号証)
(2) 被審人と専業メーカーとの接触状況等について
ア 上記(1)のとおり,ステンレス鋼板立入検査の後,被審人と専業メーカー各社は,本件ひも付きカラー鋼板に関して,複数回にわたって接触している。
(ア) 「海女小屋」での懇親会について
上記(1)ウ(エ)のとおり,被審人の小脇は,第1次合意後の平成16年2月19日,専業メーカー5社の担当者らとの「海女小屋」での懇親会に出席し,そこでは本件ひも付きカラー鋼板の値上げや第1次合意に関する話題も出たが,小脇がそのような話題を拒絶するような言動を採ることはなかった。
これに対し,日鉄鋼板の荒木及び被審人の小脇は,陳述書又は参考人審尋において,この懇親会においては,本件ひも付きカラー鋼板の価格に関する話題は出ていない旨陳述又は供述する(査第6号証,審第29号証,第30号証,荒木善行参考人,小脇修参考人)。しかし,被審人の小脇の陳述又は供述は,この懇親会に出席した経緯や内容については覚えがないという曖昧なものである上,専業メーカーの担当者らは,本件ひも付きカラー鋼板の値上げを実現する目的で日本教育会館で会合を開いたのに,その直後に催された懇親会で第1次合意や本件ひも付きカラー鋼板の価格に関する話題が一切出なかったとするのは不自然であって,他の専業メーカーの担当者らの供述内容(査第4号証,第20号証,第22号証ないし第24号証,菊池格志参考人,石田正人参考人)に照らしても,荒木及び小脇の上記各陳述又は供述を信用することはできない。
そうすると,上記(1)イ(イ)のとおり,被審人においては,平成15年3月以降,同業他社との会合への出席が禁止され,平成16年1月27日以降,コンプライアンスに関する社員教育が行われ,競業他社との接触については慎重にすべきとされていたにもかかわらず,被審人の小脇は,上記懇親会に出席し,専業メーカーの担当者らによる特定カラー鋼板の値上げや第1次合意に関する話題を拒絶しなかったこととなる。
(イ) JFE鋼板との接触について
上記(1)ウ(カ)a及びbのとおり,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,第1次合意後の平成16年5月31日に「旬三昧うるわし」での会食の席において,JFE鋼板と被審人とが協調してYKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げを実現していくことを相互に確認し,同年6月22日には,上記両名に加えて,両社の北陸支店等の責任者である被審人の脇村及びJFE鋼板の馬場をも交えた「小洞天」での会食の席において,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格の具体的な目標値を共有するとともに,協調して値上げ交渉をすることを確認した。
また,上記(1)ウ(カ)d,e,(1)エ(ウ)a及び(1)オ(オ)のとおり,被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池は,第1次合意ないし第3次合意の後,面会又は電話により連絡を取り合い,需要家であるYKKAPや日軽パネルシステムに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等について情報交換や打合せを行った。
さらに,上記(1)ウ(カ)c及び(1)エ(ウ)bのとおり,被審人の脇村及びJFE鋼板の馬場は,第1次合意の後,富山市内で面会又は電話で連絡を取り合うなどして,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格交渉等について情報交換をしていたが,平成16年末頃に両者の人間関係が悪化して情報交換が不可能になったため,小脇及び菊池が東京において「ブリッジ」と称して情報交換をしていた。
(ウ) 淀鋼との接触について
上記(1)ウ(キ)のとおり,被審人の小脇及び淀鋼の石田は,第1次合意の後,電話で連絡を取り合い,三和シヤッター等に対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等について情報交換や打合せを行った。
これに対し,被審人は,淀鋼の石田との接触について否認し,小脇も参考人審尋においてこれに沿う供述をするが,石田は,参考人審尋において,第2次合意以降には被審人との間で具体的な情報交換を行ったことを否定しており(石田正人参考人),第1次合意後の情報交換についてのみ殊更に虚偽の供述をする理由は考え難いこと,上記のとおり,被審人は,JFE鋼板とは本件ひも付きカラー鋼板について情報交換をしているのであるから,淀鋼と接触したのは何ら不自然ではないことを考慮すれば,石田の供述(査第19号証,石田正人参考人)は信用することができ,この供述と対比すると,小脇の上記供述は信用することができず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(エ) 専業メーカー担当者と被審人の末次らとの面談について
上記(1)カ(ウ)ないし(オ)のとおり,専業メーカーの担当者らは,第4次合意が従前の合意とは異なる内容を含むものであることなどから,被審人を訪問して合意内容を説明することとしたこと,日鉄鋼板の荒木は,被審人の小脇に電話をして本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨伝えたところ,小脇が部下である末次を紹介したため,同人に電話をして本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨を伝え,同人との面談の約束を得ることができたこと,日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池及び淀鋼の保知の3名は,平成18年6月9日,被審人の本社を訪問して末次等と面談し,第4次合意の内容を説明した上で被審人に同調を求めたところ,末次は,専業メーカー4社と同調することについて拒絶することはなかったことが認められる。
被審人の末次は,この面談について,新任である末次に対する挨拶の趣旨であると理解しており,面談の内容についての記憶がほとんどない,板厚に応じて本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅に差を設けるなど第4次合意の内容の説明は受けておらず,そもそも合意を持ち掛けられたという認識がない以上,それを拒絶する態度も採らなかった等と陳述又は供述し(審第28号証,末次力参考人),これに対し,日鉄鋼板の荒木は,この会談において第4次合意の内容を説明したところ,末次から合意への参加を拒絶された旨陳述又は供述している(査第78号証,審第30号証,荒木善行参考人)。しかし,これらの陳述又は供述は相互に矛盾する上,末次が第4次合意について拒絶しなかったと述べるJFE鋼板の菊池及び淀鋼の保知の供述(査第4号証,第67号証,第79号証,第80号証,菊池格志参考人)と相反するものである。また,上記のとおり,荒木は,本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をする目的で被審人の小脇に電話をし,小脇はこれを受けて末次との面談を設定し,荒木は末次に対して面談の目的を直接伝えたのであるし,上記(1)コ(ア)のとおり,末次は,平成18年5月下旬頃,店売り取引について,淀鋼の担当者と小脇が共同で取引先に値上げを依頼する場に保知とともに同席し,店売り取引について被審人が専業メーカーとカルテルを行っていることを認識していたと認められるから,同年6月9日の面談が単なる挨拶の趣旨であると理解したとの末次の陳述又は供述は不自然である(末次は,参考人審尋において,この面談の時点で,店売り取引についてカルテルを行っていることを認識していなかったと供述するが,末次が上記の5月下旬の会合に同席していたことに照らすと信用することができない。)。さらに,荒木は,参考人審尋において,この面談の終了後,菊池及び保知とは,ほとんど何も話さずに別れてしまったと供述し,その後,これらの3名がこの面談について相談をしたり,善後策を講じたりした形跡はないところ,これらの3名は,第4次合意の実現のためには高炉メーカーである被審人にもこの合意に参加してもらうことが重要であると考えて,わざわざ被審人に面談を申し入れたのであるから,仮に,面談において被審人がこれを拒絶したのであれば,相談の上,何らかの手だてを講じるものと考えられることに照らすと,この荒木の供述も不自然というほかない。以上のとおり,末次及び荒木の上記各陳述又は供述は,いずれも信用することができない。
このように,被審人の小脇は,日鉄鋼板の荒木から電話で本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨伝えられたにもかかわらず,これを拒絶することなく,同人に対して部下である末次を紹介した。また,末次も,荒木から電話で本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨伝えられたにもかかわらず,これを拒絶することなく,同人との面談の約束をし,専業メーカー担当者3名との面談の際にも,本件ひも付きカラー鋼板の価格につき専業メーカー4社と同調することについて拒絶することはなかった。
イ 以上のとおり,被審人と専業メーカー各社のカラー鋼板のひも付き取引の担当者らが,複数回にわたって接触していたことが認められる。
ところで,上記(1)アのとおり,6社等は,ステンレス鋼板立入検査の前,①本件ひも付きカラー鋼板の取引,②軽量天井メーカー等向けのめっき鋼板のひも付き取引及び③めっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引という3つの分野ごとに会合を開催し,価格について合意(カルテル)を行っていた。被審人は,上記3分野のいずれにおいてもカルテルに加わっており,被審人の小脇は,そのうち①の本件ひも付きカラー鋼板の取引及び③のめっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引の2分野を担当し,自ら他社との会合にも出席していた。その後,上記(1)イ及びコのとおり,ステンレス鋼板立入検査を契機として,被審人においては,法令遵守の観点から他社との会合に出席することが禁止され,上記3分野の担当者(うち上記2分野については小脇)は,いずれも他社との会合に出席することを控えるようになった。
しかし,上記(1)コのとおり,被審人は,②の軽量天井メーカー等向けのめっき鋼板のひも付き取引並びに③のめっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引の分野においては,担当者が会合に出席しないものの引き続きカルテルには加わっており(別件めっき鋼板カルテル事件及び別件店売り取引カルテル事件),③の店売り取引の分野においては,被審人の小脇が,淀鋼の保知を連絡役として(なお,上記(1)コ(ア)のとおり,同人は,平成16年9月16日以降,本件ひも付きカラー鋼板の取引と店売り取引の担当を兼務していた。),積極的にカルテルに参加し続けていたのである。
このように,被審人が,ステンレス鋼板立入検査後も,②の軽量天井メーカー向けのめっき鋼板の取引並びに③のめっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引について,カルテルに加わっていたことは,被審人において,ステンレス鋼板立入検査後も,カルテルを拒絶する方針を徹底していなかったことをうかがわせる事実であって,被審人が①の本件ひも付きカラー鋼板の取引においても他社との協調関係を継続していたことを推認させる事実ということができる。
そして,①の本件ひも付きカラー鋼板の取引の分野において,被審人は,他社との会合に出席しなくなったものの,それ以上に他社との協調関係から離脱することを示す具体的な行動を採っておらず,かえって,被審人の小脇及び末次らは,ステンレス鋼板立入検査後も,専業メーカーの担当者らと複数回にわたって接触し,本件ひも付きカラー鋼板の価格に関する情報交換を行ったり,共同して値上げをすることを求められたのに対し明確に拒絶する態度を採らないなどしていたのであるから,被審人は,他社との協調関係を継続していたものと認めることができる。小脇の陳述又は供述(審第29号証,小脇修参考人)中には,被審人の鋼板に関する取引のうち,本件ひも付きカラー鋼板取引は,取引量,利益率がいずれも低く,他社との間に信頼関係もなかったため,小脇は,この取引の業界の会合に関心がなかったとする部分があるが,小脇は,上記のとおり,専業メーカー担当者と実際に接触をしていたのであるから,この陳述又は供述部分を信用することはできない。また,被審人は,小脇が,日鉄鋼板の乃万に対し,絶縁の意思を伝えた旨主張するが,下記(3)ア(イ)のとおりそのような事実を認めることはできないし,小脇が他の専業メーカーの担当者らに絶縁の意向を周知したことを認めるに足りる証拠もない。
(3) 被審人に対する合意内容の伝達について
上記のとおり,被審人の社員は,専業メーカー担当者らによる本件合意に係る会合には出席しておらず,被審人が,何らかの手段で専業メーカーらの合意内容について伝達を受けていなければ,本件合意に加わったとは認められないため,以下この点について検討する。
ア 被審人の小脇の発言等について
(ア) 上記(1)イ(エ)のとおり,被審人の小脇は,ステンレス鋼板立入検査後,淀鋼の石田等に対し,被審人においてコンプライアンスが厳しくなったため,専業メーカー5社との会合に参加することはできなくなったが,1対1で専業メーカーの担当者と会って話したり,電話で話すことは構わないし,夜の飲み会に誘ってもらうことも構わない等の発言をした。
被審人はこの事実を否認し,被審人の小脇もこのような発言をしたことを否定する陳述又は供述をする(審第29号証,小脇修参考人)。
しかし,小脇は,供述調書(査第6号証)において,ステンレス鋼板立入検査以降,本件ひも付きカラー鋼板の取引の価格について他社との情報交換を控えるようになったとしつつ,立入検査を境にきっぱりと連絡を絶ったとは断定できないと供述し,実際に,上記(1)ウ(エ)のとおり,「海女小屋」における懇親会に参加したこと,淀鋼の石田(査第19号証,石田正人参考人),JFE鋼板の菊池(査第4号証,第20号証,第24号証,菊池格志参考人),JFE鋼板の上坂(査第21号証)及び住金建材の村上(査第8号証)はいずれも小脇の発言があったことを前提とする供述をしており,特に,石田は,小脇が,会社から会合に出ることは禁じられているが,同時にカラー鋼板の値上げはするように指示されている等と非常に辛い発言をしていたことが印象に残っている,などと具体的に供述していることに照らせば,上記の小脇の陳述又は供述は信用することができず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,小脇は,上記(1)コ(ア)のとおり,別件店売り取引カルテル事件において,店売り取引の担当者らに対しても,上記と同様の発言をしているところ,被審人は,このような店売り取引の担当者に対する小脇の発言が,同じ社内のひも付き取引の担当者に伝わり,ひも付き取引についてもかかる発言をしたと勘違いされているものと考えられる等と主張する。しかし,上記(1)コ(ア)のとおり,専業メーカー各社においてひも付き取引と店売り取引では担当者が基本的に異なることからすると,カラー鋼板のひも付き取引の担当者らが,自らが担当していない店売り取引における話をひも付き取引のものと混同して認識し,しかも淀鋼の石田,JFE鋼板の菊池及び上坂,住金建材の村上がそろって同様の勘違いをしていたとするのは不自然であるから,被審人の主張は採用することができない。
(イ) 被審人は,小脇は,平成15年頃,日鉄鋼板の乃万に対し,特定カラー鋼板のひも付き取引について,今後は専業メーカー5社との会合へは出席せず,絶縁する旨述べ,これを他社の担当者にも伝えるよう依頼したと主張し,小脇はこれに沿う供述又は陳述をするが(審第29号証,小脇修参考人),他にこれを裏付け得る的確な証拠はなく,単に会合への出席を控えるという以上に,特定カラー鋼板のひも付き取引の分野における専業メーカーとの協調関係を一切絶つという趣旨まで含んだ発言があったと認めることはできない。
イ 日鉄鋼板の荒木による伝達について
(ア) 会合における荒木の発言について
上記(1)イ(オ)で認定のとおり,日鉄鋼板の荒木は,ステンレス鋼板立入検査後,専業メーカー5社による会合等の場において,同人が被審人に対し専業メーカー5社による合意内容等を伝達する旨発言したことがあった。
この点の証拠としては専業メーカーの担当者らの供述がある。淀鋼の石田は,平成15年春頃の会合又は懇親会において,荒木が,カルテルの内容を被審人に連絡する旨述べた旨供述している(査第19号証,石田正人参考人)。
なお,被審人は,査第46号証(石田の供述調書)においては,荒木又はJFE鋼板の菊池のいずれかが被審人に連絡していた旨記載されており,上記供述と矛盾していると主張するが,査第46号証の上記記載は第2次値上げに関するものであるから,被審人が主張するような矛盾はない。JFE鋼板の上坂は,上記石田の供述と同旨の供述をするほか,平成16年2月19日の第1次合意に関する会合及び同年7月12日の第2次合意に関する会合において,菊池か石田が荒木に被審人への合意内容の伝達を依頼したところ,荒木はこれを承諾したと供述している(査第21号証)。淀鋼の長谷川は,平成17年1月25日の会合において,荒木が合意内容を被審人に伝えておくと述べた旨供述し(査第53号証,長谷川純一参考人),淀鋼の保知は,上記長谷川と同旨の供述をしている(査第79号証,第80号証)。このように,専業メーカーの担当者4名が,発言を聞いた時期や場所はそれぞれ異なるものの,合意内容等を被審人に伝達するという荒木の発言等を聞いたとする点ではほぼ一致する供述をしていることから,その時期や場所を特定することはできないとしても,少なくとも,荒木が,ステンレス鋼板立入検査後,専業メーカー5社の会合等において,同人が被審人に対し合意内容等を伝達する旨発言したことがあったという上記事実が認められる。
これに対し,被審人は,同一の会合に出席していた専業メーカー担当者のうちの一部の者のみが,荒木の発言を聞いたと供述していることが不自然であるとして,上記各供述は信用することができないと主張するが,上記のとおり,専業メーカーの担当者らが長期間にわたって会合や相対を繰り返していたことを考慮すれば,それぞれの会合における個々の出席者の発言内容を記憶していないことは十分にあり得ることであり,被審人が指摘する事情によって上記各供述の信用性が否定されることはない。
また,被審人は,専業メーカー担当者らの上記各供述は,審査官による根拠の乏しい推論に基づく強い誘導によってなされた供述であって信用することができないと主張する。しかし,専業メーカーの担当者のうち参考人審尋を実施したJFE鋼板の菊池,淀鋼の石田及び長谷川の審判廷における各供述と各供述調書の内容を比較すると,内容の一部に食い違いがみられるものの,それらは,いずれも時の経過による記憶の減退や,経験した事実と推測した事実との区別が不十分であったことなどの事情により了解可能であって,それを超えて信用性に疑義が生じるほど供述内容が大きく変遷しているとはいえず,審査官による根拠の乏しい推論に基づく誘導があったとは認められない。
(イ) 荒木の陳述書(査第103号証)について
上記(1)ケのとおり,日鉄鋼板の荒木が作成した公正取引委員会に対する減免申請に係る陳述書(査第103号証)には,本件合意をした違反行為者として被審人が挙げられている上,特に第2次合意及び第3次合意については,日鉄鋼板及びJFE鋼板が,被審人及び住金建材に対し,専業メーカーの合意内容を伝達していた旨が記載されている。
この陳述書の記載について,荒木は,作成当時,本件合意について刑事事件として立件される可能性があると聞いて精神状態が混乱していた上,速やかに課徴金減免申請をするために短時間で陳述書を作成したことから,ステンレス鋼板立入検査前に被審人もカルテルに参加していたことと混同して記載したものであると供述している(荒木善行参考人)。
しかし,上記(1)ケのとおり,上記陳述書においては,本件合意をした違反行為者として,ステンレス鋼板立入検査後に会合に出席しなくなった被審人以外の高炉メーカーは挙げられていない上,「日新製鋼は,ステンレス事件以後会合には参加しなくなりました。」との記載のとおり,ステンレス鋼板立入検査後の事実であることを明確にしつつ,本件合意をした違反行為者として,専業メーカー4社とともに被審人が挙げられている。加えて,第2次合意及び第3次合意については,会合が行われた日(「平成16年8月ころ」,「平成17年2月頃」)及び場所(「築地市場内の料理屋」,「都内(日本橋か神田近辺)の喫茶店」)が特定された上で,その会合に出席していなかった被審人及び住金建材に対しては,日鉄鋼板及びJFE鋼板が,専業メーカーの合意内容を伝達していた旨が記載されている。このような陳述書の記載内容によれば,荒木が,被審人の合意(カルテル)への参加に関して,ステンレス鋼板立入検査の前後を取り違え,ステンレス鋼板立入検査前に被審人がカルテルに参加していたことを誤って記載したものとは到底考えられない。
さらに,この陳述書は,日鉄鋼板が公正取引委員会に対する課徴金減免申請を行うに際して,荒木が弁護士とやり取りをしながら任意に作成したものであること(荒木善行参考人)を併せて考慮すれば,荒木の上記供述は信用できず,この陳述書は,荒木が,ステンレス鋼板立入検査後に成立した本件合意について,当時認識していた事実を正しく記載したものであるといえる。
また,上記(1)カ(エ)のとおり,平成18年6月9日に専業メーカーの担当者3名が,被審人を訪問して末次と面談した際,事前に被審人の小脇及び末次に電話で連絡し,面談する日時の調整等を行ったのが日鉄鋼板の荒木であったという事実も,荒木が,ステンレス鋼板立入検査以後も,小脇らと連絡を取っていたことを推認させる一つの事情といえる。
ウ 会合等で被審人の話題が出ていたことについて
上記(1)オ(エ)のとおり,平成17年3月23日の専業メーカーらの会合において,被審人のYKKAPに対する値上げ交渉の状況につき報告がされ,上記(1)カ(キ)のとおり,平成18年6月19日の会合において,被審人がYKKAPや三和シヤッターに対して値上げ交渉に動くことやその時期についての報告がされた。なお,淀鋼の長谷川は,参考人審尋において,同会合で自ら作成したメモ書きにおける「N」の記載(査第72号証資料5)に関して,被審人ではなく日鉄鋼板が三和シヤッターへの値上げ交渉に動くという趣旨かもしれない旨供述するが(長谷川純一参考人),大手の需要家にはトップシェアのメーカーがまず交渉に行くことが確認されたという同会合の流れ(上記(1)カ(キ)のとおり)からすると,上記記載は,三和シヤッターに対して圧倒的に大きなシェアを有する被審人(上記(1)ウ(キ)のとおり)に関する記載であると認められる。
また,上記2回の会合のほかにも,専業メーカーらの会合等の場において,YKKAPや三和シヤッターに対する被審人の価格交渉等に関して,報告があったという事実が認められる(査第19号証,第63号証,石田正人参考人,長谷川純一参考人)。
このように,専業メーカーらの会合等において,被審人の価格交渉等に関する報告がされていたことは,専業メーカーの担当者が,被審人から価格交渉等の情報を得たり,被審人に対し専業メーカーらの合意内容等を伝達するなど,相互に情報交換を行っていたことを推認させるものである。
これに対し,被審人は,被審人と需要家との交渉状況については,需要家の購買部や商社経由でも情報の入手が容易であり,専業メーカーらの会合において被審人に関する話が出たからといって,被審人に本件合意の内容が伝わっていたことにはならない旨主張し,日鉄鋼板の荒木は,参考人審尋において,被審人の動向について商社あるいは需要家の購買担当から聞いて会合で話したことがあると供述する。しかし,特に,平成18年6月19日の会合で報告された被審人が値上げ交渉に動くことやその時期に関する情報は,被審人と接触せずに容易に入手できる情報とは考えられないから,専業メーカーと被審人が相互に情報を伝達し合っていたことを推認させるものといえるのであって,荒木の上記供述はこれを左右するに足りるものではない。
エ 相対においてそごがなかったことについて
下記の証拠によれば,JFE鋼板の菊池は,被審人の小脇との間でYKKAPなど個別の需要家に関する相対や情報交換を行うに際し,小脇が第1次合意ないし第3次合意の内容を認識していることを当然の前提として接していたが,そのやり取りにおいて全くそごはなかったこと(査第47号証,菊池格志参考人),淀鋼の石田も同様に,小脇との間で三和シヤッターなどの需要家に対する相対等を行う際に,そごを来すことはなかったこと(査第19号証,石田正人参考人)が認められ,これらの事情によれば,本件合意の内容が被審人の小脇に伝達されていたことが推認される。
これに対し,被審人は,当時は原材料の価格が上昇し,カラー鋼板の需給もひっぱくしていたため,非常に値上げがしやすい環境にあり,こうした原材料価格の上昇幅を超えて大きく値上げがされたことはないから,菊池及び石田と小脇との話の中でそごがなかったとしても不思議ではなく,これにより被審人に合意内容が伝わっていたことにはならないと主張する。しかし,たとえ原材料価格の上昇等により値上げのしやすい環境にあったとしても,菊池や石田が本件合意を当然の前提にして小脇に接したのに対し,小脇が事前に何らの情報も得ていないのならば,相互のやり取りの中で何らかの食い違いが生じるのが通常であると考えられるから,そのやり取りの中でそごがなかったことは,本件合意の内容が小脇に伝達されていたことを推認させるものといえる。
オ 以上のとおり,被審人の小脇が,ステンレス鋼板立入検査後,専業メーカーらとの会合に参加することはできないが,電話等の手段により合意内容等の伝達を受ける意思がある旨発言したこと,本件合意をした違反者として被審人を挙げ,第2次合意及び第3次合意について日鉄鋼板及びJFE鋼板が被審人及び住金建材に対して合意内容を伝えたとする日鉄鋼板の荒木の陳述書(査第103号証)は荒木の認識した事実を正しく記載したものといえること,荒木が専業メーカーの会合において,合意内容等を被審人に伝達する旨発言していたこと,荒木は専業メーカー3社の担当者が被審人の末次と面談した際に被審人との面談日時の調整等をしたこと,専業メーカーらの会合等において被審人の価格交渉等に関する報告がされていたこと,専業メーカーと被審人が相対等を行うに際してそごを来すことはなかったこと,さらには,上記(2)のとおり被審人と専業メーカーとは本件ひも付きカラー鋼板の取引について複数回にわたって接触し,従前からの協調関係を継続していたことを併せ考慮すれば,被審人は,主として日鉄鋼板の荒木を通じ,本件合意の伝達を受け,本件合意に参加していたものと認めることができる。
なお,被審人は,各社の役員同士の連絡や,店売り取引の担当者を介した連絡などによっても(上記(1)コ(ア)のとおり,小脇は別件店売り取引カルテル事件に主体的に関与していた。)本件合意の内容を知った可能性がある(石田正人参考人)。
(4) 被審人における値上げ状況について
ア 第1次値上げないし第3次値上げの状況
証拠(査第6号証,第88号証ないし第90号証,第97号証,第99号証)によれば,被審人における本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,平成16年度上期,平成16年度下期及び平成17年度上期については,おおむね第1次合意ないし第3次合意の内容に沿った値上げ又は値上げ交渉が行われ,専業メーカーらの値上げ状況ともおおむね一致していることが認められ,各値上げ状況は,被審人が第1次合意ないし第3次合意に加わっていたとして矛盾のないものといえる。
なお,被審人が,三和シヤッターに対する販売価格は伝票価格ではなく実質価格である旨主張している点(査第88号証)については,下記2(3)イにおいて判断する。
イ 第4次値上げの状況
上記(1)カ(イ)及び(ウ)のとおり,第4次合意の内容は,①平成18年度上期の期中である平成18年8月出荷分から値上げをする点,②本件ひも付きカラー鋼板を板厚で区分し,薄物については1キログラム当たり15円の値上げとし,厚物については1キログラム当たり10円の値上げとする点において,第1次ないし第3次合意とは異なっていた。
まず,被審人が,平成18年度上期の期中において,本件ひも付きカラー鋼板の値上げを実施したことを認めるに足りる証拠はない。しかし,証拠(審第14号証,第28号証)によれば,平成18年6月16日に開催された被審人の販売担当者会議において,末次は,カラー鋼板の店売り取引について,期中である同年7月出荷分から1キログラム当たり10円の値上げを予定していることを述べるとともに,ひも付き取引についても,コスト増加分に対して価格改定及びコスト改善を需要家ごとにみて検討する旨述べていることが認められる。この末次の発言内容からは,被審人において,本件ひも付きカラー鋼板についても,店売り取引と同様に,平成18年度上期中の値上げ(価格改定及びコスト改善)が検討されたことがうかがわれる。末次は,上記発言は,本件ひも付きカラー鋼板については平成18年度下期からの値上げを検討するとの趣旨である旨供述するが(末次力参考人),上記発言内容から下期以降の値上げに限定する趣旨を読み取ることはできない。
次に,第4次合意において,板厚(薄物又は厚物)に応じて値上げ幅に差を設けるとされた点については,被審人は,本件ひも付きカラー鋼板の価格につき板厚によって格差を設けてはいないと主張し,被審人の社内で作成された販売条件改定伺(審第17号証ないし第19号証)によれば,同一の需要家に対する値上げ額が薄物と厚物とで同額であることが認められる。しかし,査第72号証によれば,専業メーカーの会合において,本件ひも付きカラー鋼板の薄物と厚物とで値上げ幅に差を設ける方法として,個々のカラー鋼板の実際の板厚に応じて価格差を設けるのではなく,薄物を多く使う業界(サイディング,シャッター,雨戸等の業界)に対しては一律に薄物として決めた値上げ幅(15円)を目指し,厚物を多く使う業界(ガス器具,パネル,屋根,物置等の業界)に対しては一律に厚物として決めた値上げ幅(10円)を目指すというように,需要家の業種によって値上げ幅に差を設ける方法が示された事実が認められる。そうすると,被審人が示すように,同一の需要家に対する値上げ額が薄物と厚物とで同額であったとしても,第4次合意の内容と矛盾するとはいえない。
ウ 被審人は,被審人における個別の需要家に対する値上げについての予算(審第4号証,第5号証,第7号証,第8号証,第10号証,第11号証,第13号証,第20号証ないし第24号証)を根拠に,被審人が決定した各需要家に対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅及び値上げ時期が,本件合意の内容とはほど遠い,等と主張している。
しかし,下記の証拠によれば,被審人においては,多くの需要家に対し,「予算外」の値上額などとして,予算の額を上回る値上げがされていること(査第96号証ないし第99号証,審第2号証,第7号証,第11号証,第21号証,第23号証),価格交渉において需要者に対し提示する(「アナウンス」)金額が予算より多額のものとされていること(審第7号証,第11号証),被審人の小脇が,社内の会議において,平成16年度下期のひも付き取引について,「予算折込」以上の値上げをしたいと発言していること(査第97号証)が認められ,これらの事情によれば,被審人の主張する値上げについての予算は,被審人の値上げの方針とは必ずしも一致していないから,予算の内容と本件合意の内容とに食い違いがあったとしても,被審人が本件合意に加わっていたことを否定することはできない。
エ 以上によれば,被審人における本件ひも付きカラー鋼板の値上げ状況は,被審人が本件合意に加わっていたことと矛盾するものとはいえず,被審人が主張するように,被審人が他の事業者の行動とは無関係に,独自の判断によって,本件ひも付きカラー鋼板の値上げ等を決定していたものと認めることはできない。
(5) その他の被審人の主張について
ア  他社と接触した時期について
(ア) 被審人は,「海女小屋」での懇親会が開催された平成16年2月19日の時点では,被審人において,既に平成16年度上期予算が事実上確定しており,仮に小脇が上記懇親会において第1次合意の内容を聞いたとしても,被審人がこれに応じることのできる状況ではなく,小脇が上記懇親会に出席したことは被審人が本件合意に加わっていたことを裏付けるものではない旨主張する。
しかし,上記(4)ウのとおり,被審人における予算(審第5号証)は,被審人の値上げ方針とは必ずしも一致せず,予算が事実上確定しているとしても,第1次合意を受けて,被審人が予算を上回る値上げをすることは可能であると認められるから,被審人の上記主張は理由がない。
(イ) また,被審人は,平成16年5月31日の「旬三昧うるわし」及び同年6月22日の「小洞天」における被審人の小脇及びJFE鋼板の菊池らの会食について,この時点では,被審人のYKKAPに対する平成16年度上期の値上げ交渉が既に終了し,同年4月末時点で被審人の社内における決裁を経ていたのであるから,この時期に第1次値上げに関する相対を行うのは非現実的であり,小脇らが上記会食に参加したことが被審人が本件合意に加わっていたことを裏付けるものではない旨主張する。
しかし,被審人がYKKAPとの交渉が既に終了していた根拠とする同年4月30日付けの販売条件改定伺(審第31号証の1及び2)には,「値戻しの最中,客先との交渉の結果上記の通り価格改訂することで合意を得ましたのでお伺い申し上げます。今後についても,引き続き更なる値戻しについて継続交渉の所存にあります。」との記載があること,また,平成16年度下期のものではあるが,平成16年10月25日付けの販売条件改訂伺(審第32号証)において同年10月,平成17年1月及び同年3月各納入ベースの価格について決裁が行われた後,同年3月15日付けの販売条件改訂伺(査第104号証。なお,この書証の作成日は平成16年3月15日と記載されているが,平成17年3月15日の誤記であると認められる。)により,同年3月納入ベースの価格が更に値上げされて再度の決裁が行われていることに照らせば,被審人においては,販売条件改訂伺において一旦決裁がなされても,その後の需要家との交渉により更なる値上げをすることも可能であると認められる。したがって,上記「旬三昧うるわし」及び「小洞天」での会食において第1次値上げに関する相対を行うことが非現実的であるとはいえず,被審人の上記主張は理由がない。
イ 被審人がJFE鋼板と接触した理由等について
被審人は,被審人(小脇及び脇村)とJFE鋼板(菊池及び馬場)が,上記「旬三昧うるわし」及び「小洞天」において会食をしたり,面会又は電話により本件ひも付きカラー鋼板の価格に関する情報交換等をしていたことについて,当時,被審人は,YKKAPに対して販売していたGTカラーをZAMカラーに切り替え,それを機にYKKAP向けのシェアを拡大しようと検討していたため,小脇及び脇村は,菊池及び馬場にそのような状況を勘付かれ,YKKAPによるZAMカラーの採用を妨害されないよう,JFE鋼板からの接触に応じ,一般的で当たり障りのない会話をしていただけであって,価格に関する情報交換をしていたとはいえない旨主張し,小脇もこれに沿う陳述及び供述をしている(審第29号証,小脇修参考人)。
しかし,被審人が本件ひも付きカラー鋼板の取引において,他社との協調関係から離脱したのであれば,他社からの接触を拒絶するのがむしろ自然であり,JFE鋼板との接触を拒絶したからといって直ちに同社にZAMカラーの導入を察知されるとは考えられないにもかかわらず,同社にZAMカラーの導入を勘付かれて妨害されたくないなどという理由のみから,同社との接触関係を続けたという主張は不合理である。
また,被審人の小脇の上記陳述及び供述は,上記各会食等の場における菊池らとの詳しい話の内容は余り覚えていない,価格の話が全然なかったとは思わないなどという曖昧なものであるから,直ちに採用することはできない。被審人がZAMカラーの導入についてJFE鋼板に察知されたくないという思惑を有していたとしても,被審人としては,JFE鋼板との間で本件ひも付きカラー鋼板(ZAMカラーもその競合製品として含まれる。)の価格に関する情報交換をすることにより,そこで得た情報等を利用してYKKAPを初めとする需要者と価格交渉をすることが可能となるのであるから,JFE鋼板との間で価格に関する情報交換を行う理由があったものといえる。したがって,被審人が上記の思惑を有していたことは,被審人とJFE鋼板が本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等について情報交換や打合せを行っていたとの上記(1)の認定を左右する事実とはいえない。
ウ  JFE鋼板との接触が本件合意とは無関係であるとの主張について
(ア) 被審人は,上記のとおり,被審人(小脇及び脇村)とJFE鋼板(菊池及び馬場)が値上げ交渉等の情報交換や打合せを行っていたことについて,本件合意とは別途独立して,YKKAPとの取引のみに限定してJFE鋼板との間で情報交換等を行ったものにすぎず,これを本件合意に基づく相対と理解すべきではないと主張する。
しかし,本件合意に加わっていたJFE鋼板が,本件合意の対象と同じ本件ひも付きカラー鋼板の値上げに関して被審人との間で行った情報交換等が,本件合意とは無関係の別途独立した情報交換等であったとする被審人の上記主張は,不自然であって採用することができない。JFE鋼板の菊池は,参考人審尋において,被審人の小脇と接する際に本件合意の存在を伝えた記憶はない旨供述しているが(菊池格志参考人),菊池において特に本件合意の存在を小脇に隠さなければならない理由があったともうかがわれず,菊池は,本件合意の存在についてあえて触れるまでもなくこれを当然の前提として小脇と情報交換等を行っていたものと認められる(菊池格志参考人)。また,小脇も,本件ひも付きカラー鋼板の分野において専業メーカーらが引き続きカルテルを行っていることについて薄々は知っていた旨供述していることに照らしても(小脇修参考人),両名が本件合意とは無関係に情報交換を行っていたと解することはできない。よって,被審人の上記主張は理由がない。
(イ) また,被審人は,JFE鋼板の菊池が,被審人によるZAMカラーへの切替えの結果,YKKAP向けの特定カラー鋼板のシェアを奪われたにもかかわらず,被審人の小脇に事実関係を確認するにとどまり,他社との全体会議に報告して対策を検討したり,他社の担当者とともに業界として被審人に抗議するなどの行動を一切しなかったことは,YKKAPに関する菊池と小脇とのやり取りが,本件合意に基づくカルテルとは独立したものであることを裏付けていると主張する。
JFE鋼板がYKKAPに対する特定カラー鋼板のシェアを被審人に奪われた際の菊池及び小脇のやり取りは,上記(1)キ(ウ)で認定のとおりであり,菊池は,小脇に対して個別に抗議をしたが,他社との全体会議に報告して対策を検討したり,他社の担当者とともに被審人に抗議をすることはなかったことが認められる。
しかし,JFE鋼板が,競争関係にある被審人に対し,シェアを奪われたことに関して,安値を提示したことを疑って抗議をした事実は,両社の間に,それまでの間,それなりの協調関係があったことを示すものであるということもできるし,JFE鋼板の菊池が,被審人が安値の提示を否定したことに対し,個別の抗議にとどめ,それ以上の措置を採らなかったことが,被審人が本件合意に加わっていたことと直ちに矛盾するとはいえない。
よって,この点を捉えて,YKKAPに関する菊池と小脇とのやり取りが,本件合意に基づくカルテルとは独立したものであるとする被審人の主張は理由がない。
エ エキストラ価格に関する合意について
被審人は,上記(1)オ(ウ)のとおり,専業メーカーの担当者らは,第3次合意の後,エキストラ価格の値上げの目標価格を設定するなどしたが,このような合意等の結果を,被審人に対し連絡しておらず,これは,専業メーカーの担当者らも被審人を本件合意のメンバーとして認識していなかったことを表していると主張する。
しかし,このエキストラ価格の値上げの問題は,アイジー工業株式会社など特定の需要家に対する値上げのみが取り上げられたものであり,被審人は,その特定の需要家については専業メーカーらと競合していなかったため,直接の関係がなかったものと認められる(菊池格志参考人)。また,専業メーカーらによるエキストラ価格等に関する合意は,本件合意そのものに含まれるわけではなく,被審人がその合意に加わっていなかったからといって,直ちに本件合意に加わっていなかったということはできない。よって,被審人の上記主張は理由がない。
オ 被審人のシェアの下落について
被審人は,我が国における本件ひも付きカラー鋼板の販売量の被審人のシェアが,平成15年以降の僅か4年間で6パーセント強も下落したことは,被審人が専業メーカーとのカルテルから離脱したことを強く裏付けるものであると主張する。確かに,上記第3の3のとおり,被審人の本件ひも付きカラー鋼板のシェアが下落している事実は認められるが,この事実は,被審人が本件合意に参加していたとの上記認定を動かすには足りない。
カ 違反行為の終了時の状況について
被審人は,本件合意(違反行為)の終了時において,日鉄鋼板は,淀鋼,JFE鋼板及び住金建材に対し,本件合意から離脱する旨を通告したが,被審人に対してはこのような通告をしなかったのであり,これは,被審人が本件合意に参加していると認識されていなかったことを裏付けるものであると主張する。
確かに,日鉄鋼板が被審人に対し,本件合意から離脱する旨通告したことを直接的に示す証拠はない。しかし,以上の判示のとおり,被審人がステンレス鋼板立入検査後も引き続き専業メーカーらとの協調関係を継続していたこと等に照らすと,本件合意(違反行為)の終了時においても,日鉄鋼板の荒木からの通告,各社の役員同士の連絡又は店売り取引の担当者を介した連絡など何らかの手段により,日鉄鋼板が本件合意から離脱する旨が被審人に伝達されたことは十分に考えられるのであって,これを示す直接的な証拠がないからといって,被審人が本件合意に参加していたとの上記認定が左右されるものではない。
(6) 小括
上記(2)及び(3)のとおり,被審人は,専業メーカーとの従前からの協調関係を継続して本件ひも付きカラー鋼板の取引について複数回にわたって接触し,主として日鉄鋼板の荒木を通じ,本件合意の伝達を受け,本件合意に参加していたものと認めることができる。上記(4)のとおり,被審人における本件ひも付きカラー鋼板の値上げ状況は,これと矛盾するものではなく,上記(5)のとおり,被審人のこの点に関する主張はいずれも理由がない。
2 争点2(「当該商品」該当性)について
(1) 独占禁止法第7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限等をしたときは,事業者に対し,「当該行為の実行としての事業活動」が行われた期間における「当該商品」の売上額を基礎として計算された額の課徴金の納付を命ずる旨規定している。この「当該商品」とは,一定の取引分野における競争を実質的に制限する違反行為が行われた場合において,その対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいうと解される。そして,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一般的に当該違反行為の影響が及ぶものといえるから,当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束を受けたものと推認され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するものと解される。
被審人は,三和シヤッターに対して販売した本件ひも付きカラー鋼板について,同項の「当該商品」に該当しない旨主張するが,この三和シヤッター向けの本件ひも付きカラー鋼板も,本件の違反行為(本件合意)の対象商品の範ちゅうに属することについては,当事者間に争いがない。そこで,被審人の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板について,本件合意を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められるか否かを以下において検討する。
(2) 担当部門の違いについて
被審人は,三和シヤッターとは密接で特殊な取引関係にあることから,被審人においては,特定カラー鋼板のひも付き取引を担当している部門とは全く別の鋼板販売部が,三和シヤッターとの取引を担当しており,両部門間で頻繁に情報が交換されることはなかった旨主張する。
確かに,上記1(1)ア(イ)のとおり,被審人において,本件ひも付きカラー鋼板の取引のうち,三和シヤッターとの取引については,小脇らが所属していた建築建材販売部(平成16年3月までは塗装・建材販売部)ではなく,鋼板販売部が担当していることが認められる。しかし,①上記1(1)ア(イ)のとおり,ステンレス鋼板立入検査の前には,小脇は,専業メーカーらとの合意内容を鋼板販売部に伝えたり,鋼板販売部から聞いた三和シヤッターとの交渉状況等の情報を専業メーカーらに伝えるなどして,三和シヤッターについても他社と共同して値上げ交渉を実施していたと認められるところ(上記のとおり,小脇もこの点を自認している。),ステンレス鋼板立入検査の前後で,被審人における建築建材販売部と鋼板販売部との関係に変化があったとは認められない。また,②上記第3の9(2)及び第6の1(1)コ(イ)のとおり,被審人の鋼板販売部は,軽量天井メーカー向けのめっき鋼板のひも付き取引について,別件めっき鋼板カルテル事件(同事件において違反行為がなされたとされる期間は平成15年8月下旬頃から平成18年8月上旬頃までであり,本件違反行為の期間と重複している。)で認定されたとおりカルテルを行っていたのであるから,鋼板販売部が建築建材販売部による本件ひも付きカラー鋼板の取引に関する本件合意の締結,実施等について積極的に協力したことは十分に考えられる。さらに,③実際に,ステンレス鋼板立入検査の後においても,上記1(1)ウ(キ)のとおり,小脇は,淀鋼の石田との間で,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等について,電話で情報交換等をしていた。これらの事情を考慮すれば,鋼板販売部と建築建材販売部は,本件合意の内容や,本件ひも付きカラー鋼板の価格等に関して,本件合意当時も情報交換をしていたことを推認することができる。
平成15年6月以降に被審人の鋼板販売部長であった森谷英之(以下「森谷」という。)は,このような情報交換があったことを否定する陳述をする(審第27号証,第33号証)。しかし,森谷は,審第27号証において,被審人と三和シヤッターとの長年の取引関係等を理由に,本件ひも付きカラー鋼板の価格の決定に当たり,鋼板販売部以外の部門が関与することは一切ないと一般的に陳述していたにもかかわらず,査第105号証ないし第107号証において,平成14,15年当時の被審人と三和シヤッターとのやり取りが具体的に明らかにされると,審第33号証において,前任者が担当していた頃には,専業メーカーからの情報を含む文化シヤッター株式会社(以下「文化シヤッター」という。)の情報について三和シヤッターとの間でやり取りがあったことを認めるような陳述をするなどしており,森谷のこの点に関する陳述は信用できない。他に建築建材販売部と鋼板販売部の情報交換に関する上記の認定を覆すに足りる証拠もない。よって,上記のとおり担当部署が異なることをもって,被審人の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板につき,違反行為による拘束から除外されていることを示す上記特段の事情があるとは認められない。
(3) 価格の決定方法について
ア ペンタイトについて
被審人は,三和シヤッターとの価格交渉においては,まずベースメタルであるペンタイト(GA鋼板)の価格変動幅を交渉し,その決定された変動幅に連動して,本件ひも付きカラー鋼板を含む他の製品の価格変動幅も自動的に決定されていたのであり,その価格交渉において,GA鋼板を三和シヤッターに納入していない専業メーカーにおけるカラー鋼板の値上げ動向が考慮されることは全くなかったと主張し,被審人の森谷は,同人が平成15年6月に鋼材販売部長に就任して三和シヤッターとの価格交渉を行うようになってからは,本件ひも付きカラー鋼板の価格をペンタイトの価格と別に交渉した事実を否定する陳述をする(審第33号証)。
しかし,被審人は,ペンタイトの値上げ幅と本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅が完全に連動していたわけではないことを認めている。加えて,被審人の森谷が平成20年3月に作成したメモ(審第33号証添付)には,①本件ひも付きカラー鋼板とペンタイトについて,値上げ要因が異なるときは別々に交渉したこともあること,②ペンタイトの価格は上げたが本件ひも付きカラー鋼板の価格は上げられないとか,その逆のケースはあったこと,③ペンタイトと本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅が,コスト等の問題から同じ値上げ幅ではなかったケースも多かったこと等が記載されており,平成18年度下半期の予算総括表(審第24号証)において,三和シヤッター向けのペンタイトと本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅は異なるものとされている。
また,証拠(査第105号証ないし第107号証)によれば,被審人が,平成14年8月21日,三和シヤッターに対し,カラー鋼板の値上げを要請したところ(両社の打合せ議事録〔査第105号証〕には,被審人側の発言として,「カラーについては,4.5+0.5→5円でお願いします。静岡は,3+0.5→3.5円でお願いします。」と記載されている。),三和シヤッターがその一部について回答を保留し(上記打合せ議事録には,三和シヤッター側の発言として,「カラーの回答については預らせて下さい。静岡は3円でお願いしたい。」と記載されている。),三和シヤッターは,同月30日,カラー鋼板の値上げを認める旨回答していること(両社の打合せ議事録〔査第106号証〕には,三和シヤッター側の発言として,「カラー5円(静岡3円)で値上げを認めます。」と記載されている。),また,被審人が,平成15年3月19日,三和シヤッターに対し,カラー鋼板の値上げについて提案したところ(両社の打合せ議事録〔査第107号証〕には,被審人側の発言として,「日新製鋼の要求額,実施時期」「日新製鋼の案①」が記載されている。),三和シヤッターは,上記被審人の提案を拒絶した上で対案を提示し(上記打合せ議事録には,三和シヤッター側の発言として,とても受け入られない旨や三和シヤッターの案が記載されている。),被審人は,上記三和シヤッターの提示を持ち帰って検討の上,回答する旨述べたことが認められる。これらの事実によれば,被審人が,三和シヤッターとの間で,ペンタイトの価格とは別に,特定カラー鋼板の値上げ交渉を行っていたことが認められ,このような被審人と三和シヤッターとの価格交渉の状況について,平成16年以降に変化があったといった事情はうかがわれない。
そうすると,上記の森谷の陳述は,同人作成のメモにおいて,ペンタイトと本件ひも付きカラー鋼板とで別に交渉をしたこともあったこと,それらの値上げ幅が同じでなかったケースも多かったことが記載されており,実際に,平成14年及び平成15年に本件ひも付きカラー鋼板についてペンタイトとは別に価格交渉が行われ,平成18年のペンタイトと本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅は異なるものとされたことと矛盾するから,到底採用することができない。
このように,被審人の三和シヤッターに対するペンタイトの値上げ幅と本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅が完全に連動していたわけではなく,両社が,ペンタイトの価格とは別に,特定カラー鋼板の値上げ交渉を行ったこともあったことに照らせば,両社間における本件ひも付きカラー鋼板の価格決定に際して,たとえペンタイトの価格を参考にすることがあったとしても,違反行為(本件合意)による影響を受けない状況で価格決定がされていたものと認めることはできない。よって,被審人の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板について,ベースメタルであるペンタイトの価格に連動して自動的に価格を決定しているため,本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとする被審人の上記主張は理由がない。
イ 実質価格と伝票価格について
被審人は,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格設定においては,これまでの両社間の歴史的な経緯から,金融的協力その他の政策的な配慮を織り込んだ「実質価格」が適用されており(これに一定の割戻金を上乗せしたのが「伝票価格」である。),この「実質価格」の変動等についてみると,本件合意の内容とは全く異なっていると主張する。
証拠(審第25号証,第27号証,第36号証,第37号証の1ないし10)によれば,被審人は,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格について,「実質価格」と「伝票価格」という二元的な価格設定を行っていること,本件ひも付きカラー鋼板の価格の支払については,三和シヤッターが,被審人に対して一旦「伝票価格」を支払い,その後,被審人が三和シヤッターに対して「伝票価格」と「実質価格」の差額である割戻金を支払っていること,割戻金の金額は基本的には一定であるが,両社の経営幹部レベルでの協議を踏まえた被審人から三和シヤッターに対する実質的な金融的協力等の政策的な観点が加味されて変動し,例えば,金融的協力の観点から「実質価格」が値下げされ(割戻金が増額される。),その後,その回収のために「実質価格」が値上げされる(割戻金が減額される。)などしていることが認められる。
そうすると,被審人の三和シヤッターに対する「実質価格」は,「伝票価格」からほぼ一定額の割戻金を控除した価格に,金融的協力等の事情を加味したものと評価することができるところ,証拠(査第88号証及び第89号証)によれば,「伝票価格」の動向は,本件合意の内容及び専業メーカーらの値上げ状況におおむね沿ったものであると認められるから,上記のとおり「伝票価格」と関連していると認めることができる「実質価格」が違反行為(本件合意)による影響を受けない状況で決定されていたということはできない。よって,「実質価格」の変動等が本件合意の内容とは全く異なっているとして,本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとする被審人の上記主張は理由がない。
(4) 他の事業者との競合性について
ア 被審人は,被審人と三和シヤッターとの密接で特殊な取引関係のため,三和シヤッターが使用する本件ひも付きカラー鋼板のうち90パーセントを超えるシェアを被審人が有しており,三和シヤッターが購入する本件ひも付きカラー鋼板に関して被審人以外の事業者が参入する余地は極めて乏しく,また,日鉄鋼板及び淀鋼が三和シヤッターとの間で取引しているプリント鋼板(ドア面材用のカラー鋼板)は,被審人が三和シヤッターに対し販売している軽量シャッター用又は窓シャッター用のカラー鋼板とは商品としての代替性がないから,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の取引について,被審人と他の事業者は競合しないと主張する。そして,被審人の森谷の陳述書(審第27号証)によれば,被審人の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアが90パーセントを超えること,被審人が三和シヤッターに販売している軽量シャッター用等のカラー鋼板と,他社が三和シヤッターに販売しているドア面材用のカラー鋼板は商品としての代替性が低いことが認められる。
イ 証拠(査第19号証,石田正人参考人)によれば,ステンレス鋼板立入検査の前,被審人の小脇は,被審人が三和シヤッターに対する値上げを進める上で必要であることから,淀鋼の石田に対し,同社の大口取引先である文化シヤッター(被審人は,文化シヤッターとは取引がない〔審第27号証〕。)の値上げに関する情報を伝えるよう求め,これを伝達してもらっていたことが認められる。また,証拠(査第105号証ないし第107号証)によれば,被審人は,平成14年8月21日,三和シヤッターに対してカラー鋼板等の値上げ交渉を行うに際し,文化シヤッターの価格に関する情報を伝達していること(両社の打合せ議事録〔査第105号証〕には,被審人側の発言として,「自信を持って,御社向け価格は最安値です。」,「カラーについては文化S対比15円~20円安く,トステム対比で5~6円,御社が安いです。」等と記載されている。),被審人は,同月30日の三和シヤッターとの価格交渉において,同社に対し,文化シヤッターの価格に関する情報を伝達し(両社の打合せ議事録〔査第106号証〕には,被審人側の発言として,「文化Sは10月から4円,カラーは11月~12月で5円で決着か?」と記載されている。),三和シヤッターは被審人に対し,文化シヤッターの価格に関する情報等を知らせるよう求めていること(上記打合せ議事録には,三和シヤッター側の発言として,「文化Sのカラーが上がらないときは,5円戻してもらいます。文化,トステムの情報は入り次第知らせて下さい。」と記載されている。),被審人は,平成15年3月19日の三和シヤッターとの価格交渉において,同社に対し,文化シヤッターの価格に関する情報を伝達していること(両社の打合せ議事録〔査第107号証〕には,被審人側の発言として,「文化S 4月~ カラー 5円UP決定」等と記載されている。)が認められる。すなわち,被審人は,自らは取引関係のない文化シヤッターと専業メーカーとのカラー鋼板等の価格交渉状況等について,淀鋼の石田から情報提供を受け,また,三和シヤッターとのカラー鋼板等の価格交渉の場においては,文化シヤッター等の価格に関する情報を示して,被審人の提示額がより安価であることを強調するなどし,三和シヤッターにおいても,被審人に対し,文化シヤッターの価格に関する情報提供を求めていた。このように,被審人が淀鋼から淀鋼など専業メーカーと文化シヤッター間の価格交渉に関する情報を入手し,それが,被審人と三和シヤッター間のカラー鋼板等の価格についての交渉材料の一つとして扱われていたということは,三和シヤッターが,被審人の提示する価格次第では,軽量シャッター用等のカラー鋼板を専業メーカーから購入する可能性があったことを示すものであり,被審人と専業メーカーとが三和シヤッターを需要者とする競争関係にあったことを推認させるものといえる。そして,このような三和シヤッターに関する被審人と専業メーカーとの競争関係について,平成16年以降に何らかの変化があったといった事情はうかがわれない(被審人の森谷の陳述書〔審第33号証〕の中には,森谷が平成15年6月に三和シヤッターとの価格交渉を行うようになってからは,文化シヤッターの情報を三和シヤッターに伝えることはなかった旨陳述する部分がある〔審第33号証〕が,上記(3)アのとおり,森谷の三和シヤッターとの交渉に関する陳述は採用できない。)。
ウ 上記1(1)ウ(キ)のとおり,淀鋼としては,三和シヤッターと値上げ交渉を進める上で,被審人と三和シヤッター間の値上げ交渉の情報が必要であったことに加えて,他のシャッターメーカーとの価格交渉においても,シャッターメーカー業界の最大手である三和シヤッターに対する値上げ交渉に関する情報を入手する必要性が高いことから,淀鋼の石田は,被審人の小脇との間で,第1次合意の後,三和シヤッター等に対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等につき情報交換等をしていたことが認められる。このように,被審人と淀鋼との間で,三和シヤッターに対する値上げ交渉に関する情報交換がされていたということは,被審人及び淀鋼がそれぞれ三和シヤッターに販売する本件ひも付きカラー鋼板の販売価格には相互に関連性があったことを示すものであり,淀鋼と被審人との間に三和シヤッターを需要者とする競争関係があったことを示すものといえる。
エ 上記イ及びウによれば,被審人と専業メーカーは,三和シヤッターとの本件ひも付きカラー鋼板の取引に関して競争関係にあったものと認めることができる。上記アのとおり,被審人の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアが90パーセントを超えること,被審人が三和シヤッターに販売している軽量シャッター用等のカラー鋼板と,他社が三和シヤッターに販売しているドア面材用のカラー鋼板は商品としての代替性が低いことは認められるが,上記イ及びウの情報交換の実情に照らすと,競争関係についての上記判断を左右するに足りるものではない。
したがって,三和シヤッターに対して被審人と他社との競合性はないことを理由に本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとする被審人の上記主張は理由がない。
(5) 小括
以上のとおり,被審人と三和シヤッターとの間の取引関係,当該取引の担当部門,価格決定方法,他社との競合性等に関する事情を検討しても,被審人の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板については,当該行為(本件合意)を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められず,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当する。
3 結論
(1) 本件排除措置命令に対する審判請求事件(平成21年(判)第31号)について
上記1のとおり,被審人は,第1次合意ないし第4次合意について,専業メーカー間の合意内容の伝達を受けて,本件合意に加わっていたものであり,公共の利益に反して,我が国における建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引の販売分野における競争を実質的に制限していたものと認められ,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものである。
また,上記のとおり,被審人の違反行為は既に消滅しているものの,違反行為が長期間にわたって行われていたこと,被審人が過去にも独占禁止法違反による処分を受けていること等の諸事情を総合的に勘案すれば,被審人については,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法第7条第2項)と認められる。
したがって,本件排除措置命令は適法であるから,本件排除措置命令に対する被審人の審判請求は理由がない。
(2) 本件課徴金納付命令に対する審判請求事件(平成21年(判)第32号)について
ア 被審人の違反行為が不当な取引制限に該当し,それが商品の対価に係るものであること(独占禁止法第7条の2第1項)は,上記1のとおりである。
イ 実行期間
被審人が上記違反行為の実行としての事業活動を行った日は,被審人が最初に販売価格の引上げを実施することとした平成16年4月1日であると認められ,平成18年9月6日にその実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。したがって,実行期間(独占禁止法第7条の2第1項)は,平成16年4月1日から平成18年9月6日までと認められる。
ウ 被審人の売上額及び繰り返し違反の加重算定率については,上記第3の10のとおりである。
エ 被審人が納付すべき課徴金の額
(ア) 平成17年改正法の施行日である平成18年1月4日前に係る売上額134億8061万8226円に対し,平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項に規定する算定率100分の6を乗じて得た額
(イ) 上記施行日以後に係る売上額43億4526万6255円に対し,独占禁止法第7条の2第1項及び平成21年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第6項の規定により算定率100分の15を乗じて得た額
を合計した額から,独占禁止法第7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された14億6062万円が,被審人が納付すべき課徴金の額となる。
オ したがって,被審人に対し,これと同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令は適法であって,本件課徴金納付命令に対する被審人の審判請求は理由がない。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人の本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令に対する各審判請求は,いずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。
   
平成24年3月22日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  後 藤   健

審判官  真 渕   博

審判官  三 輪   睦

別紙

溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯のうち次に掲げるもの
1 質量分率で97パーセント以上の亜鉛から成るめっき浴において両面等厚の溶融亜鉛めっき(合金化めっきを除く。)を行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの
2 質量分率で約5パーセントのアルミニウム及び残部亜鉛から成るめっき浴において溶融めっきを行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの
3 質量分率で約55パーセントのアルミニウム,1.6パーセントのシリコン及び残部亜鉛から成るめっき浴において溶融めっきを行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの

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