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ケイラインロジスティックス(株)による審決取消請求事件

独禁法3条後段,独禁法7条の2

平成23年(行ケ)第24号

判決

東京都中央区日本橋本町1丁目8番16号KLL日本橋ビル
原告 ケイラインロジスティックス株式会社
同代表者代表取締役 勝瑞護
同訴訟代理人弁護士 矢吹公敏
同 髙木加奈子
同 加藤彰仁
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長代理委員 濵田道代
同指定代理人 中里浩
同 島崎伸夫
同 藤原昌子
同 坪田法
同 小髙真侑
同 渡辺健一
同 北脇俊之

主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告が,公正取引委員会平成21年(判)第21号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件について,平成23年10月17日付けで原告に対してした審決を取り消す。
2 被告が,公正取引委員会平成21年(判)第26号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件について,平成23年10月17日付けで原告に対してした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
被告は,国際航空貨物利用運送事業者である原告が,他の事業者と共同して,他人の需要に応じ有償で航空運送事業を営む者(航空会社)の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送(これに先行及び後続する当該貨物の集配のためにする自動車による運送を併せて行う場合には当該運送を含む。以下これを「本件業務」という。)の運賃及び料金について,①ハウスエアウェイビル(荷主との間で作成される航空運送状)の発行日が平成14年10月16日以降である貨物を対象に,利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該燃油サーチャージに相当する金額を荷主に対して新たに請求する旨の合意(以下この請求に係る料金を「荷主向け燃油サーチャージ」といい,当該合意を「本件荷主向け燃油サーチャージ合意」という。)をした,②ハウスエアウェイビルの発行日が原則として平成16年12月13日以降である貨物であって,アメリカ合衆国を仕向地(貨物の到着地)とするもの及び同国を経由して運送されるものであってヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とするものを対象に,ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上を,AMSチャージ(アメリカ合衆国の税関当局が実施する貨物情報事前申告制度に伴う費用を荷主に請求するもの)として荷主に対して新たに請求する旨の合意(以下「本件AMSチャージ合意」という。)をした,③ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上を,セキュリティーチャージ(上記事業者が新航空貨物保安措置の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するもの)として荷主に対して新たに請求する,爆発物検査を実施したときは,上記のセキュリティーチャージに加えて,ハウスエアウェイビル1件当たり1500円以上を,爆発物検査料(上記事業者が爆発物検査の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するもの)(以下,セキュリティーチャージと爆発物検査料を総称する場合には「セキュリティーチャージ等」という。)として荷主に対して新たに請求する旨の合意(以下「本件セキュリティーチャージ等合意」という。)をしたとし(以下,荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料を総称する場合には「本件4料金」という。),これらが不当な取引制限(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条6項,3条)に当たるとして,原告に対し,同法7条1項に基づき排除措置を命じるとともに(以下これを「本件排除措置命令」という。),同法7条の2第1項に基づき3億2078万円の課徴金の納付を命じた(以下これを「本件課徴金納付命令」という。)。本件は,原告が被告に対して本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消しを求めて各審判請求をしたのに対し,被告がこれらの請求をいずれも棄却する旨の各審決(以下「本件各審決」という。)をしたので,原告がこれを不服としてその取消しを求めた事案である。
2 前提となる事実関係(当事者間に争いのない事実及び被告が本件各審決で証拠により認めた事実で原告も実質的な証拠がないことを主張していない事実)
(1) 当事者
ア 原告は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて本件業務を営む者である。
イ 被告は,我が国において独禁法を執行する独立行政委員会である。
(2) 本件業務の概要
ア 本件事業者について
貨物利用運送事業とは,他人の需要に応じ,有償で,利用運送(運送事業者の行う実運送を利用してする貨物の運送)を行う事業であって,第一種貨物利用運送事業と第二種貨物利用運送事業とがあり,後者は,船舶運航事業者,航空運送事業者又は鉄道運送事業者の行う運送(実運送に係るものに限る。)に係る利用運送と当該利用運送に先行し又は後続する当該利用運送に係る荷物の集貨及び配達のためにする自動車(軽自動車を除く。)による運送とを一貫して行う事業をいい,前者は,後者を除く利用運送事業をいう(貨物利用運送事業法2条)。貨物利用運送事業を営もうとする者は,第二種貨物利用運送事業については国土交通大臣の許可を受けなければならず(同法20条),第一種貨物利用運送事業については国土交通大臣の登録を受けなければならない(同3条1項)。(査共1)
国際航空貨物利用運送事業(以下「本件事業」といい,この事業を営む者を「本件事業者」という。)は,貨物利用運送事業のうち,国際航空運送事業を営む者(航空会社)が我が国と外国との間で運航する航空機による航空運送を利用してする事業であり,我が国では,原告のほか,西日本鉄道株式会社(以下「西鉄」という。),株式会社バンテック(以下「バンテック」という。),郵船ロジスティクス株式会社(以下「郵船」という。),日本通運株式会社(以下「日本通運」という。),株式会社近鉄エクスプレス(以下「近鉄」という。),株式会社日新(以下「日新」という。),ヤマトグローバルロジスティクス株式会社(以下「ヤマト」という。),商船三井ロジスティクス株式会社,阪神エアカーゴ株式会社及びユナイテッド航空貨物株式会社(以下「ユナイテッド」という。)(以上を原告も含めて「11社」という。)並びにDHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社(以下「DHL」という。)が本件事業を営んでおり,株式会社阪急阪神交通社ホールディングス(以下「阪急交通社」)という。)は,本件事業を営んでいたが,平成20年4月1日に株式会社阪急エクスプレスに対して吸収分割により当該事業を承継させてからはこれを営んでおらず,エアボーンエクスプレス株式会社(以下「エアボーン」という。)も,本件事業を営んでいたが,平成15年12月31日に当該事業を廃止し,以後これを営んでいない。以上の14社(以下「14社」という。)のうち,ユナイテッドのみが第一種貨物利用運送事業を営んでおり,その余の13社はいずれも第二種貨物利用運送事業を営んでいた。(査共1,2)
イ 本件業務の具体的内容について
本件事業者である14社が荷主に提供していた本件業務の内容は,不特定多数の荷主との間で,輸出に係る個々の荷物について利用運送契約を締結した上で,同一の仕向地の貨物をまとめて混載貨物として仕立て,これについて荷送人として航空会社との間で利用運送契約を締結し,我が国発の航空機による航空運送を利用して仕向地の空港まで運送するというものであり,14社は,おおむね,国内で荷送人からの貨物の集貨,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への引渡し及び航空機への搭載を行い,その後,航空機による輸送を経て仕向地の空港に到着した後,航空機からの取卸し,混載貨物の仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの貨物の配達を行っている。(査共2ないし10,審D2)
国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(ワルソー条約)は,航空機により有償で行う貨物の国際運送については航空運送状が交付されるとしているところ,荷主と本件事業者との間で利用運送契約が締結される場合,運送を引き受けた貨物1件ごとに航空運送状(ハウスエアウェイビル)が作成され,また,本件事業者と航空会社との間で利用運送契約が締結される場合,航空機に搭載される混載貨物1件ごとに航空運送状(マスターエアウェイビル)が作成されるところ,14社は,いずれもハウスエアウェイビル及びマスターエアウェイビルを自社の名で作成し発行していた。(査共4,6,11)
ウ 本件業務に係る運賃及び料金
平成14年法律第77号による改正(平成15年4月1日施行)前の貨物運送取扱事業法は,本件事業者に対し,運賃及び料金を設定又は変更する場合には,あらかじめ,運輸大臣(国土交通大臣)に届け出ることを義務付けていたが,上記改正後の貨物利用運送事業法には,運賃及び料金の届出に係る規定はなく,14社は,貨物利用運送事業報告規則(平成2年運輸省令第32号)の規定に基づき,原則として,本件業務の運賃及び料金を設定又は変更したときは,その設定又は変更の後,国土交通大臣に対し,運賃及び料金設定(変更)届出書を提出していた。(査共6,12,13,15ないし17,218)
14社は,荷主に請求する本件業務の運賃及び料金を前記イで述べた個々の作業に対応する形で定めており,航空運賃(以下「本体運賃」という。)並びに燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ,爆発物検査料等の料金で構成されていた。そして,14社は,本体運賃について,航空会社が設定する航空運賃の区分及び計算方法に準じて設定していたが,混載貨物から生じる混載差益を利用して,原則として,同一の重量区分でみた場合,航空会社の航空運賃より安い本体運賃を設定していた。混載差益には,航空会社が設定する航空運賃についての重量逓減制により生じるものと,実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物とを組み合わせることにより生じるものがある。すなわち,航空会社は,路線ごとかつ重量区分ごとにあらかじめ定めた賃率(貨物1キログラム当たりの航空運賃額)によって航空運賃を定めており,賃率は,一般に,貨物の重量が増加するのに比例して賃率が低くなる重量逓減制が採用され,また,賃率を適用すべき貨物の重量については,一般に,実重量(貨物の実際の重量)と容積重量(貨物の容積が6000立方センチメートルを超える場合には6000立方センチメートルを1キログラムとして得た重量)のいずれか大きい方の重量に賃率を適用することとされていたところ,14社は,重量逓減制を利用し,又は実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物を組み合わせることにより,重量の大きい混載貨物を仕立てて,これにより,荷主からは高い賃率が適用される本件運賃を請求し収受する一方,航空会社に対しては安い賃率が適用される航空運賃を支払うことにより,その差額(混載差益)を利益としていた。(査共3ないし6,12,13,15,18ないし21,248,審D2)
(3) 社団法人航空貨物運送協会の国際部会役員会について
社団法人航空貨物運送協会(以下「協会」という。)は,航空に係る利用運送事業等の健全な発達を図るための調査研究,指導等を行い,これらの事業の発展を通じて航空貨物輸送の円滑な提供を確保し,もって利用者の保護及びその利便の増進に寄与することを目的とする,国土交通大臣の許可又は登録を受けた本件事業者等を正会員とする事業者団体である。11社及びDHLは協会の正会員であり,阪急交通社及びエアボーンは本件事業を営んでいた当時は協会の正会員であった。協会には,業務執行の意思決定機関として理事会が置かれ,その下に国際部会等の部会が設置されていたところ,各部会には役員会と称する組織が置かれていたが,協会の定款その他の規程等には役員会に関する規程はなく,役員会は協会の公式の組織ではなかった。(査共30ないし33,審B1,2)
国際部会は,主として国際航空貨物利用運送に関わる事項を取り扱う部門であり,国際部会役員会は,14社で構成されていたが,平成16年以降は,エアボーンが本件事業を廃止したため,構成員は残る13社となった(以下これを「13社」という。)。国際部会長は,遅くとも平成14年6月以降は,近鉄の当時の代表取締役であった辻本博圭(以下「辻本」という,)あり,平成18年6月以降は,近鉄の当時の専務取締役であった田中洋一(以下「田中」という。)であった。国際部会役員会は,従前は年に1,2回開催される程度であったが,燃油サーチャージの問題が発生した平成13年度以降は,2,3か月に1回の割合で開催されるようになった。国際部会役員会は,構成員である各社の役員クラスの者が出席予定者とされていたところ,これらの者は理事会の構成員であることも多かったことから,理事会が開催された当日に引き続いて国際部会役員会が開催されることが多かったが,実際には出席予定者が出席するとは限らず,出席予定者の指示を受けた代理の者が出席したり,1つの会社から複数の者が出席することもあった。国際部会役員会の会合は,協会の会議室で開催され,平成18年5月以前は辻本が,平成18年6月以降は田中がそれぞれ議事進行を担っていた。(査共26ないし33,52,136,187)
(4) 燃油サーチャージについて
燃油サーチャージとは,航空会社が,航空機の燃料として使用する航空燃油の価格(燃油価格)の高騰時に限り,同価格の変動の程度に合わせて設定し,航空運賃に付加して顧客に請求するものである。(査共25,44,48,62,審D2)
平成8年ころから,航空燃油が高騰したことから,航空会社が燃油サーチャージ方式の導入を求める機運が高まり,日本航空株式会社(以下「日本航空」という。)は,我が国発の航空機に搭載される貨物について,平成13年5月16日以降,1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,14社が日本航空が運航する航空機を利用した場合に14社に対する燃油サーチャージの請求を開始し,日本航空以外の航空会社も,それぞれ,燃油サーチャージを設定,変更又は廃止する基準を定めて,順次,国土交通大臣の認可を得て,燃油サーチャージを設定し,14社が当該航空会社が運航する航空機を利用した場合に14社に対する燃油サーチャージの請求を開始した。燃油サーチャージの額は,原則として,航空会社が運送を引き受けた貨物の重量(賃率適用重量)に基づき,その時点で適用される燃油サーチャージの料率(1キログラム当たりの額)を乗じて算出されていた。(査共4,6,12,13,15,22ないし25,44,46,48,49,62,218)
14社は,上記の航空会社による燃油サーチャージの請求開始に先立って,請求が開始された場合には,航空会社から請求される燃油サーチャージに相当する金額を,荷主向け燃油サーチャージとして荷主に請求することを検討し,14社とも,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用する場合には,賃率適用重量に航空会社が適用する料率を乗じた額を荷主向け燃油サーチャージの額とする,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用しない場合あるいは廃止した場合にはこれを適用しないとの概ね同じ内容の届出書を国土交通大臣に提出した。(査共18ないし21,25,44,48,62)
その後,燃油価格が下落し,燃油サーチャージを廃止する基準を満たしたことから,ほとんどの航空会社は,遅くとも平成14年1月1日までに,燃油サーチャージを一旦廃止し,14社に対する請求を取りやめ,これを受けて,14社は,荷主に対する荷主向け燃油サーチャージの請求を取りやめた。(査共25,44,48,54,61,62)
平成14年8月ころ,燃油価格が上昇し始めたことから,航空会社は,再び燃油サーチャージを設定して(以下「本件再設定」という。)顧客に対する請求を開始し,同年9月中旬,航空会社は,大手3社である郵船,日本通運及び近鉄(以下「大手3社」という。)に対し同年10月16日以降に我が国発の飛行機に搭載する貨物について燃油サーチャージを設定する予定である旨説明した上で,順次,国土交通大臣の認可を受けて,同日以降,本件事業者に対する燃油サーチャージの請求を開始した。(査共25,48ないし52,62)
(5) AMSチャージについて
アメリカ合衆国において,平成13年9月11日に発生したいわゆる同時多発テロ事件を契機として設置された国土安全保障省税関・国境警備局(以下「アメリカ合衆国税関当局」という。)は,航空運送に関する保安対策の一環として,同国外に所在する空港を離陸して同国内に所在する空港に着陸する航空機に搭載された貨物についての情報を,航空会社から,オートメイテッド・マニフェスト・システムと称する通関システム(以下「AMS」という。)を通じて電子的に送信する方法により,同局に対し事前に申告させる制度(以下「航空貨物情報事前申告制度」という。)を平成16年8月13日以降段階的に実施することとし,同年12月13月以降は,同国内に所在する全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に,航空機情報事前申告制度を実施することとした。(査共112ないし122)
航空会社は,航空貨物事前申告制度に対応するため,平成16年8月13日以降,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビルに記載された情報(以下「ハウスエアウェイビル情報」という。)について,当該事業者から提供を受けて,これをAMSを通じて電子的に送信する方法により,アメリカ合衆国税関当局に申告することとし,また,同日以降,本件事業者に対し,あらかじめ定められた一定の額のハウスエアウェイビル情報をAMSを通じて電子的に送信するための手数料(以下「ハウスエアウェイビル情報送信手数料」という。)を請求することとし,同年7月中旬以降,近鉄に対し,その旨を説明した。(査共112,113の1,2,114ないし122)
そこで,協会では,国際部会運送委員会及び国際宅配便部会運送委員会が合同して,AMSワーキンググループ(以下「ワーキンググループ」という。)を設置し,対応策等を検討するとともに,各事業者においても,ハウスウェイビル情報送信手数料に係る費用を荷主に請求する方法(AMSチャ一ジの請求方法)について検討した。(査共113の1,2,114,116,17,119ないし121)
(6) セキュリティーチャージ及び爆発物検査料について
国土交通省は,航空運送に関する保安対策の一環として,平成16年12月27日付けの航空保安対策基準を発出し,本件事業者に対し,原則として,航空会社が運航する航空機に搭載される全ての貨物について,爆発物検査(貨物の安全を確認するために行う爆発物検査装置による検査又は開披検査)を行うことを義務付けるとともに,保安教育訓練,施設の管理,貨物の取扱い等について適切な保安措置を講じていると認められる本件事業者を特定航空貨物利用運送事業者(レギュレーテッドエージェント,以下「特定事業者」という。)として認定し,特定事業者と取引を行っている荷主が,貨物の安全を確保するための体制を講じており,当該特定事業者がその安全性を確認した場合には,この荷主を特定荷主(ノウンシッパー)として取り扱い,特定荷主から運送を引き受けた貨物であって,特定荷主から出荷して航空会社へ引き渡すまでを当該特定事業者が一貫して取り扱うものについては,原則として,爆発物検査を免除するというノウンシッパー・レギュレーテッドエージェント制度(以下「RA制度」という。)を導入することとし,これらの措置は,平成17年10月1日から試行的に実施され,平成18年4月1日から本格的に実施された。(査共159ないし165,168)
原告らは,平成18年3月31日までに,国土交通省から特定事業者としての認定を受け,また,爆発物検査を行う必要がある貨物について,自ら又は他の事業者に委託して爆発物検査を行うこととし,そのための体制を整備したが,このような体制の維持及び爆発物検査の実施に伴って,新たな費用が生ずることとなった。(査共159ないし165,168)
(7) 原告の売上額
原告の違反行為の実行期間であるとされる平成16年11月12日から平成19年11月11日までの間の原告の本件業務に係る荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に相当する金額を合計すると,平成18年1月3日以前は8億0935万3754円であり,同月4日以降は27億2221万2917円である。
(8) 本件各審決に至る経緯
平成21年3月18日,被告は,原告を含む11社及び阪急交通社に対し,本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意が独禁法2条6項所定の不当な取引制限に当たるとして,排除措置命令を発令し(このうち原告に対する排除措置命令が本件排除措置命令に当たる。),同命令は,同月18日又は19日に原告ら12社に送達された。
また,同月18日,被告は,上記違反行為が独禁法7条の2第1項1号所定の役務の対価に係るものであるとして,原告を含む11社及び阪急交通社に対し,それぞれ,課徴金納付命令を発令し(このうち原告に対する課徴金納付命令が本件課徴金納付命令に当たる。),同命令は,同月18日又は19日に原告ら3社に送達された。
原告は平成21年5月13日に,西鉄及びバンテックは同月15日に,それぞれ,被告に対し,上記の排除措置命令及び課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をし,審判手続を経て,被告は,原告ら3社に対し,平成23年7月6日付けで審決案を送付したところ,原告ら3社はこれに対し異議を申し立て,被告は,同年10月17日付けで,審決案のとおり原告ら3社の審判請求をいずれも棄却するとの審決(このうち原告に対する審決が本件各審決に当たる。)をした。
3 本件各審決の事実認定及び法令の適用
(1) 認定事実
ア 14社の市場における地位について
平成13年から平成20年までの我が国における本件業務の総貨物量に対して,14社(平成16年以降は13社)の貨物量の合計は,最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセントを占めており,14社の本件業務の貨物量の合計は,我が国における本件業務の総貨物量の大部分を占めていた。
イ 平成14年9月18日に開催された国際部会役員会(以下「14.9役員会」という。)において,原告を含む11社及び阪急交通社の間に,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立した。その後,平成14年11月8日までの間に,日本通運及びDHLは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わった。
ウ 本件AMSチャージ合意について
平成16年11月に開催された国際部会役員会(以下「16.11役員会」という。)において,原告を含む13社の間に,本件AMSチャージ合意が成立した。
エ 本件セキュリティーチャージ等合意について
平成18年2月20日に開催された国際部会役員会(以下「18.2役員会」という。)において,原告を含む13社の間に,本件セキュリティーチャージ等合意が成立した。
オ 平成19年11月12日,当時の日本通運の代表取締役副社長であった中谷桂一,近鉄の田中,当時の郵船の代表取締役であった矢野俊一,当時の協会の理事長であった土橋正義及び当時の協会の事務局長であった髙橋武は,東京都港区に所在する日本通運の本社の会議室において,国際部会役員会の会合の在り方について話し合い,アメリカやヨーロッパにおいて本件事業者に対する独禁法違反の調査が及んでいるとの情報を得たこと等から,当面は同会合を開催しないことを申し合わせ,同日以降,国際部会役員会の会合は開催されていない。
カ 本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意(以下,これらの合意を総称する場合には「本件合意」という。)は,14社(平成16年以降は13社)が,航空業界等において新しい制度等が導入されることにより本件事業者において次々と新たに負担せざるを得なくなった本件4料金を荷主に転嫁することを企図するとともに,各社独自の経営判断に基づいて行動するリスクを回避するために,合意を形成し,互いの競争を回避してきたものであって,これは,本件4料金それぞれの個別の作業の取引分野の存在を前提に当該個別の取引分野での競争を回避するためのものではなく,本件業務という1個の役務の取引分野についての競争を回避するためのものであるから,本件合意は本件業務の取引分野における競争を回避するために行われた一連の1個の不当な取引制限に該当する。
(2) 法令の適用
ア 不当な取引制限該当性と本件排除措置命令の必要性について
本件合意は,公共の利益に反して,我が国における本件業務の取引分野における競争を実質的に制限したものであり,独禁法2条6項所定の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものであって(以下これを「本件違反行為」という。),原告に対し,本件違反行為が既になくなっている旨の周知措置その他本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置等を命ずる必要がある。
イ 本件課徴金納付命令について
(ア) 独禁法7条の2第1項該当性
本件違反行為は,独禁法7条の2第1項1号所定の本件業務(役務)の対価に係るものであって,原告は,同項の事業者に該当する。
(イ) 本件違反行為の実行期間
前記(1)によれば,本件違反行為は,前記(1)イのとおり平成14年9月18日に開始され,前記(1)オによると平成19年11月12日以降事実上消滅しているものと認められるから,本件違反行為の実行期間は,平成16年11月12日から平成19年11月11日までの3年間(平成17年法律第35号附則5条2項及び3項の規定により変更して適用される独占禁止法7条の2第1項の規定により計算したもの)である。
(ウ) 課徴金の算定率
平成17年法律第35号の施行日(平成18年1月4日)よりも前の平成18年1月3日までの売上額については,平成17年法律第35号附則5条2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年法律第35号による改正前の独禁法7条の2第1項により6パーセントの算定率が適用され,平成17年法律第35号の施行日である平成18年1月4日以後の売上額については,現行の独禁法7条の2第1項により10パーセントの算定率が適用される。
(エ) 課徴金額
本件違反行為の実行期間における原告の売上高は前記2(7)のとおりであり,これに前記(ウ)の算定率を適用すると,原告が納付すべき課徴金額は合計3億2078万円となる。
第3 争点
1 原告が他の11社と本件荷主向け燃油サーチャージ合意(「他の事業者と共同して」(独禁法2条6項),利用する航空会社から請求を受けることとなる燃油サーチャージに相当する金額を請求することを決定したもの。以下同じ。)をしたことについて,これを立証する実質的な証拠があるか
(1) 原告の主張
原告が他の11社と本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠がない。
ア 本件各審決は,査共第50号証(バンテックのシニア社員の益子和夫の供述調書),査共第51号証(近鉄の総務部秘書グループ担当課長の佐伯和重の供述調書),査共第52号証(近鉄の代表取締役社長の辻本博圭の供述調書),査共第61号証(日新の東京航空第二部部長の山本明彦の供述調書),査共第62号証(ヤマトの従業員のAの供述調書)を証拠として,14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意がされたと認定するが,これらの証拠には信用性がない。
(ア) バンテックの当時のシニア社員の益子和夫(以下「益子」という。)は,本件審判手続の参考人審尋において,査共第50号証の内容は自分の認識とは異なると供述しているところ,当該供述は,14.9役員会から6年経過後に作成された査共第50号証の作成からわずか2年経過後にされたものであって,2年で記憶が著しく減退するとは考え難く,また,後記イのとおり,査共第50号証の元となった査共第58号証(益子が作成したメモ)自体に正確性が認められないから,査共第50号証は信用できない。
(イ) 近鉄の当時の総務部秘書グループ担当課長の佐伯和重(以下「佐伯」という。)は,本件審判手続の参考人審尋において,14.9役員会に出席したこと自体に記憶がないのに査共第51号証が作成されたと供述しているから,査共第51号証は信用できない。
(ウ) 辻本は,本件審判手続の参考人審尋において,査共第52号証が辻本の記憶に基づくものではなく審査官の誘導に従って作成された旨を供述しているから,査共第52号証は信用できない。
(エ) 日新の当時の東京航空第二部部長の山本明彦(以下「山本」という。)は,本件審判手続の参考人審尋において,14.9役員会の特定した記憶はないと供述していることから,査共第61号証は,山本の記憶に基づくものとはいえず,信用できない。
(オ) ヤマトの当時の従業員のA(以下「A」という。)は,本件審判手続の参考人審尋において,14.9役員会の特定の記憶はなく,審査官の高圧的な態度により記憶に基づかない事実を供述させられた旨を供述していることから,査共第62号証は信用できない。
イ 本件各審決は,査共第58号証添付のメモ(益子が作成したメモ。以下「益子メモ」という。)及び査共第59号証添付のメール(原告の当時の代表取締役社長であった森光雄(以下「森」という。)が送信したメール。以下「森メール」という。)を証拠として,原告の担当者が14.9役員会に出席していたと認定するが,これらの証拠からでは理性ある人が合理的に考えて原告の担当者が14.9役員会に出席していたと認定することはできない。
(ア) 益子メモには,14.9役員会の出席者として,原告を指す「K-LINE」という記載があるが,そもそも,益子は,14.9役員会に日本航空のBは出席していなかったと記憶しているにもかかわらず,益子メモには出席者として「JL/B取締役説明」との記載があり,同号証は出席者とそうでない者を正確に分けて記載していなかったと考えられること,また,益子は14.9役員会の出席が役員会会合の2回目の出席であって,出席者を判別することができるとは考え難いことから,益子メモが,14.9役員会の出席者がだれであるかについての証明力を有しないことは明らかである。
(イ) 本件各審決は,森メールについて,益子メモ及び査共第60号証添付のメモ(日新の山本が作成したメモ。以下「山本メモ」という。)の記載内容と比較した上で,原告の役員である森が,14.9役員会の議事内容を踏まえずに,その前に行われた理事会(以下「14.9理事会」という。)の議事内容のみから森メールを作成したのは不自然であるとして,森メールは14.9役員会の議事内容を踏まえて作成されたものであるとし,これにより原告の担当者が14.9役員会に出席していたことを推認する。
しかし,森メールには,「JALがFuel Surcharge Kilo12円を」賦課する決定をした旨の「連絡」があったこと,「JAL」が「国土交通省」に届出を行うことが記載されている一方,査共第57号証添付の14.9理事会の議事録には,「日本航空より(略)国土交通省へ(略)¥12/kgのFuel Surcharge適用を申請する旨の連絡があった。」との記載があり,このように,森メールの記載内容は,14.9理事会の議事録の記載内容と同じであることから,森メールは,14.9理事会の議事内容を記録したものであることが明らかである。
また,森メールの送信時刻は15時39分であることから考えて,森又は原告の役員等が14.9役員会に出席し,その出席者が帰社した後に森が森メールを作成したとは考え難く,この点からも,森メールは14.9役員会ではなくこれに先立つ14.9理事会の議事内容を記載したものといえる。
したがって,森メールは,森又は原告の他の役員等が14.9役員会に出席した結果を送信したものではなく,森メールから,原告の担当者が14.9役員会に出席した事実を認定することはできない。
ウ 本件各審決は,原告が14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたことを認定するに当たり,原告の14.9役員会出席者を具体的に特定する必要はないとした上で,査共50号証ないし第52号証,第57号証ないし第62号証,辻本参考人,佐伯参考人,益子参考人,山本参考人によれば,原告の担当者も,その個人名を特定するまでには至らないものの,14.9役員会に出席していたことが認められるとする。
しかし,原告は,本件審判手続において,原告の担当者のうち14.9役員会に出席した可能性がある者を全て挙げた上で,実際にこれらの者が出席していなかった事実を主張立証しているにもかかわらず,これらの者の出席の可能性の有無を検討することなく,個人名を特定しないで原告の担当者が14.9役員会に出席していたと認定することは許されない。本件各審決は,原告の役員等が国際部会役員会に度々出席するなどして,14社間で長期間にわたる協調関係を続けてきたことから,価格決定権限のある原告の担当者が14.9役員会に出席していたと推認できるとするが,原告は,協会から国際部会役員会の開催通知が来ていたために会員としてこれに参加していたにすぎず,これを長期間にわたる協調関係を続けてきたと評価するのは何ら合理性がなく,また,このような認定から価格決定権限のある原告の担当者が14.9役員会に出席していたと推認するのは論理の飛躍がある。
エ 本件各審決は,国際部会役員会での情報交換の対象となった情報が他者に秘密にすべき企業秘密であることを前提に,このような情報交換は自由競争がされていれば到底あり得ないとして,これを本件荷主向け燃油サーチャージ合意成立の間接事実として挙げている。しかし,国際部会役員会において交換された情報は過去の収受率等であって,例えば近鉄では投資家向けにホームページで公表されているものであり,営業秘密ではないのであって,国際部会役員会で交換された情報が営業秘密であるとの認定には実質的な証拠がない。
オ 本件各審決は,平成14年11月8日に開催された国際部会理事会(以下「14.11理事会」という。)の議事内容として,近鉄の辻本が,14.9役員会において,燃油サーチャージの再設定が開始された場合には国際部会役員会のメンバー各社が荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することになったことなどを報告したと認定し,これを本件荷主向け燃油サーチャージ合意成立の間接事実として挙げている。しかし,査共第63号証(14.11理事会の議事録)には上記認定に係る記載はなく,上記認定には実質的な証拠がない。
カ 本件各審決は,査共第74号証の1及び2により,平成15年4月2日に開催された国際部会役員会(以下「15.4役員会」という。)の議事内容として,出席者の中には,荷主向け燃油サーチャージの収受率を引き上げるためには,14社が協力し合う必要があるとか,14社が足並みをそろえて荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求する必要があるなどとする意見を述べた者もあった,14社は,会合の最後に,利用する航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり18円に値上げした場合,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージとして,その同額を請求し,全額を収受するように交渉していくことを確認したと認定しているが,査共第74号証の1及び2にはこの認定事実に係る記載はなく,このような認定には実質的な証拠がない。
キ 本件各審決は,査共第75号証及び第76号証により,平成16年3月5日に開催された国際部会役員会(以下「16.3役員会」という。)の議事内容について,近鉄の佐伯及び協会事務局の担当者は,協会の顧問弁護士に確認した結果として,航空会社が13社に請求する燃油サーチャージの額については減額の交渉が可能である旨を報告し,この点については,荷主には知られないようにする必要がある旨述べて,出席した各社に注意を喚起したと認定しているが,査共第75号証3枚目には「要は,航空会社とのネゴ可能ということであるが,このことは荷主に対しては要注意。」と記載されているのみであって,上記認定に係る事実は記載されていないし,査共76号証には荷主への注意に関連する記載は全くないことから,上記の認定には実質的な証拠がない。
ク 本件各審決は,査共第25号証,第49号証ないし第52号証により,航空会社が平成13年5月16日以降に設定した燃油サーチャージについて,14社全体としては,荷主から燃油サーチャージに相当する金額を収受することはほとんどできなかったと認定している。しかし,上記の証拠のうち,査共第50号証ないし第52号証が信用できないことは前記アで述べたとおりであり,また,その余の査共第25号証及び査共第49号証には平成13年の燃油サーチャージの収受状況についての記載はないから,上記の認定には実質的な証拠がない。
ケ 本件各審決は,査共第219号証(郵船の内部文書)により,原告が,日本通運及び郵船とともに,荷主であるファナックに対し,荷主向け燃油サーチャージにつき共同して申入れをしたことを認定しているが,原告の当時の取締役である荒巻長正(以下「荒巻」という。)が平成14年11月当時の原告の荷主との交渉の状況を最も良く知る者である原告の当時の取締役である松倉孝明(以下「松倉」という。)に改めて確認したところ,当時ファナックヘの共同申入れの事実はなかったと陳述していること(審D12の5頁),査共第219号証を作成した郵船においてもその作成経緯や記載の意味等は不明であるとしていることから考えて,査共第219号証の証拠価値は極めて低く,上記の認定には実質的な証拠がない。
(2) 被告の主張
原告が他の11社と本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠がある。
ア 査共第50号証ないし第52号証,第61号証,第62号証の各供述調書は,いずれも,14.9役員会についての客観的証拠(益子メモ,佐伯が作成し辻本が協会の理事会の会合で国際部会の活動報告を行う際に参考にしていた査共第51号証添付資料3枚目及び査共第52号証添付資料2枚目,査共第60号証添付の山本メモ,査共第62号証添付の平成14年11月8日の理事会議事録,査共第63号証)に沿う内容であり,いずれも,14.9役員会において各社足並みをそろえて荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求することを話し合ったという点で整合している。また,上記各供述調書の供述者は,ぞれぞれ,審査官から読み聞かせを受け,かつ閲読もした上で誤りのないことを確認して署名押印しているのであって,供述者が陳述書や参考人審尋においてその供述内容が記憶に基づかないものであると供述したからといって,その信用性が否定されるものではない。
イ 益子メモは,14.9役員会の内容等を記載したものであり,原告を含む各社の担当者らによる発表内容等が記載されており,その記載について誤認,誤記や何らかの作為の介在をうかがわせる事情は認められない。原告の主張に係る「JL/B取締役説明」との記載は,日本航空のBから辻本に説明があった燃油サーチャージの再設定について報告がされたことを意味するのであって,日本航空のBを会合の出席者として記載したものではない。
また,森メールについても,「本日のJAFAの国際部会で」という14.9役員会を指すと思われる記載があること,14.9役員会に出席した際に作成された益子メモや山本メモの記載内容等と重なっており,しかも14.9理事会の議事録(査共57)にはみられない内容であることから,森自らが14.9役員会に出席したのか森が出席した従業員から報告を聞いたのかは明らかではないものの,森メールは14.9役員会の内容を踏まえて作成されたものと推認される。森メールの送信時刻の点についても,14.9役員会は午後2時から3時までの間に開催される予定であり(査共222),14.9役員会の開催場所である八丁堀から当時の原告の森の執務場所である田町まではタクシーで30分程度の距離であって当日森がタクシーで帰社していること(審D11)に照らせば,森メールの送信時刻が15時39分であっても,同メールは14.9役員会の議事内容を踏まえて作成されたものであることと矛盾しない。
ウ 原告は,原告から14.9役員会に出席した者が存在しないことを主張立証しているにもかかわらず,原告からの出席者を具体的に特定せず,原告の担当者のだれかが出席していたと認定することは許されないと主張する。しかし,不当な取引制限に該当するためには,事業者が相互に事業活動を拘束することにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することが認められれば足り,当該拘束に係る合意をした会合の出席者を特定する必要があるとはいえないのであって,排除措置命令は,刑事罰のように行為者である自然人を処罰した上で両罰規定によって事業者を処罰するものとは異なり,事業者の違反行為を認定して措置を講ずることを命ずるにすぎないものであり,また,カルテルのための会合等は,その性質上,秘密裏に行われることが多く,常に会合の出席者が特定されなければ不当な取引制限に該当しないということになれば,不当な取引制限をした事業者に対する排除措置命令により自由競争秩序の回復等を図ろうとした独禁法の趣旨を実現することが困難になることを踏まえれば,不当な取引制限に該当するためには14.9役員会に出席した原告の担当者を特定する必要はないと解すべきである。
エ 原告は,国際部会役員会で交換されていた情報は,公表されていた過去の荷主向け燃油サーチャージの収受率等であるから,企業秘密ではないと主張するが,国際部会役員会において各社が交換していた情報は,過去の収受率のみならず,自社の取引先との交渉内容,交渉経過及び交渉結果等であり,14社の間に自由な競争が行われていたとすれば競争相手に対して秘密にするはずのものである。
オ 原告は,14.11理事会のほか国際部会役員会の議事内容についても本件各審決が証拠に基づかない認定をしていると主張するが,本件各審決に引用されている証拠に認定事実がそのとおり記載されていないというにすぎず,これらの証拠を評価すれば,議事内容について本件各審決が認定する事実を認めることができる。
カ 本件各審決が認定するとおり,査共第50号証ないし第52号証によれ,ば,平成13年の燃油サーチャージについて14社全体としては荷主から燃油サーチャージに相当する金額をほとんど収受できなかったことが認められる。原告は,査共第50号証ないし第52号証に信用性がなく,査共第25号証及び査共第49号証には収受状況の記載がないから,上記の認定は実質的な証拠がないと主張するが,査共第50号証ないし第52号証が信用できることは前記アで述べたとおりである。
キ 本件各審決が認定するとおり,査共第219号証(郵船の内部文書)によれば,原告が,日本通運及び郵船とともに,荷主であるファナックに対し,荷主向け燃油サーチャージにつき共同して申入れをしたことが認められる。原告は,松倉がファナックヘの共同申入れの事実はないと陳述していると主張するが,松倉の陳述を裏付ける具体的証拠はない上に,原告の荒巻が松倉からそのように聞いたという伝聞にすぎず,また,当時原告におけるファナックとの取引担当者は松倉以外にも存在していたのであって(審Dl2の5頁),併せて,査共第219号証には,日本通運が平成14年11月5日までに既に特定の荷主に対し14社の一部と歩調を合わせて荷主向け燃油サーチャージ全額の支払の交渉をしていたことが記載されているところ,14.9役員会以降14社が交渉担当会社を決めて支払を拒否する荷主との交渉に当たっていたことからすれば,上記の記載のとおりの共同の申入れがされたことは十分にあり得ることであって,上記の松倉の陳述によってファナックに対する共同申入れの認定が覆ることはない。
2 本件各審決が,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を裏付けるものとして挙げる事情は,この合意の成立を推認させるものか
(1) 原告の主張
本件各審決が,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を裏付けるものとして挙げる事情は,この合意の成立を推認させるものではない。
ア 本件各審決は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立をうかがわせる事実として,平成13年に燃油サーチャージが設定されたときには,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求するか否かについて各社の対応にばらつきがあったが,本件再設定に際しては,14.9役員会を経て,14社のうちDHLを除く13社がほぼ同時期に同内容の燃油サーチャージの請求を開始し,DHLも請求開始時期は他社より2か月遅れているものの他社と同内容の請求をしており,14社の行動が平成13年当時と比べて明らかに協調的になっていること,日本通運及びDHLが本件違反行為の排除措置命令及び本件違反行為に係る課徴金納付命令に対して審判請求をせず同命令等が確定したことを挙げる。しかし,本件事業者のうち本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加しなかったとされる他の29社も,13社とほぼ同時期に同内容の燃油サーチャージの請求を開始しているのであって,14社の請求内容等が同様であったことが特段の意味をもつとは解されないし,また,審判請求をしないという判断は,争うことの時間的,経済的損失,あるいは社会的影響に対する考慮等から,違反行為の存否とかかわりなく行われることもあるのであって,日本通運及びDHLが審判請求をしなかったからといって,同2社が本件違反行為をしたと認定することはできない。
イ 本件各審決は,14.9役員会後の役員会の議事内容や個別の荷主との交渉等の事実から,14社が国際部会役員会における方針に従って荷主に対し一貫して荷主向け燃油サーチャージ全額の支払を求めて交渉し,国際部会役員会で決定された交渉担当会社が実際に荷主との交渉に当たり,必要に応じて個別の荷主に対する交渉を共同で行うなどしていたことが推認され,このような事情は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を強く裏付けるとする。
しかし,不当な取引制限に当たる事業者間の意思の連絡を推認するための間接事実としての結果(行動)の一致は,不自然なものであって初めて意味を持つのであり,意思の連絡がなかったと仮定しても同じような行動の一致が見られるといえる場合には,このような一致は意思の連絡の間接事実とはならないところ,本件においては,平成14年10月16日以降の荷主向け燃油サーチャージの荷主への請求は,14.9役員会の1年半以上前に14社が14社以外の本件事業者とともに国土交通省に届け出て開始した請求と同じであって,航空会社が燃油サーチャージの請求を一旦停止し,平成14年10月16日に請求を再開したため,14社だけでなくそれ以外の本件事業者も同日以降同じ内容の請求を荷主に対して再開したのであるから,14社においては,本件荷主向け燃油サーチャージ合意がなかったと仮定しても,行動の一致が見られたはずであって,14社の行動が一致していたとしても,これにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意が推認されるものではない。
また,14社のうち他社と共同して荷主と交渉した事実があったとしても,これは14社各社が独自の判断で荷主向け燃油サーチャージを請求することを決定した上での行動であって,これにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意が推認されるものではない。
ウ 本件各審決は,平成14年11月から平成19年11月までの間に14社のうちいずれかの会社が荷主向け燃油サーチャージを競争の手段にして荷主と交渉し他社から顧客を奪おうとしたり従前と比べて取引量を増やそうとした具体的事例があったことをうかがうことができないとする。
しかし,14社は,荷主の強硬な姿勢による,取引を打ち切られるのを恐れて,本件4料金の一部しか収受できなかったのであって,これは競争のための値引きにほかならない。
(2) 被告の主張
本件各審決が,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を裏付けるものとして挙げる事情は,この合意の成立を推認させるものである。
ア 原告は,本件合意に参加しなかった29社もほぼ同時期に同内容の荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しているから,14社の請求内容が同一であったことから本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したと認定することはできないと主張する。しかし,平成13年に航空会社が燃油サーチャージを設定した際には,14社の間では,荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求するかどうかという最も基本的な点ですら対応が分かれていたのに対し,平成14年の燃油サーチャージの再設定に際しては,荷主に対して請求するという方向で一致したばかりでなく,請求内容までも一致していたということは,人為的な作為があったことをうかがわせるものであって,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を推認させるものである。
イ 原告は,日本通運及びDHLが審判請求をしなかったことをもって同2社が違反行為をしていたことを認定することができないと主張する。しかし,日本通運は,課徴金減免申請において,排除措置命令記載の本件違反行為に係る事実(14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意がされ日本通運が遅くとも平成14年11月8日までにこれに加わったとの事実)を自ら被告に報告しているのであって(なお,DHLに対しては排除措置命令及び課徴金納付命令は出されていない。),日本通運がこのような事実を被告に報告したことにより課徴金の減額の措置を受け,排除措置命令及び課徴金納付命令に対して審判請求をしなかったことは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意がされたことを推認させるものである。
ウ 原告は,14社が荷主向け燃油サーチャージの一部しか請求しなかったり一部しか収受しなかったのは,値引きにほかならず,14社が荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として荷主と交渉していたと評価できるから,これにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立の推認が妨げられると主張する。しかし,仮にこのような主張事実を前提にするとしても,14社は,荷主から取引を打ち切られるのを恐れて,やむなく一部しか請求しなかったり一部しか収受できなかったというにすぎず,一部請求,一部収受することによって他の事業者から取引先を奪おうとするものではないから,これにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立の推認が妨げられることはない。
3 本件セキュリティーチャージ等合意のうち,原告による爆発物検査料の設定に関し,原告が18.2役員会において合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠があるか,原告が他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって行ったことを示す特段の事情(東京高等裁判所平成7年9月25日判決・判例タイムズ906号136頁)があるか
(1) 原告の主張
原告による爆発物検査料の設定に関し,原告が18.2役員会において合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠はなく,原告が他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められるから,原告は他の事業者と「共同」(独禁法2条6項)して爆発物検査料を設定していない。
ア 本件各審決は,査共第165号証(原告の営業管理部購買課長の井坂修の供述調書),査共第170号証のうち井坂修(以下「井坂」という。)が作成したメール,査共203号証添付の井坂が作成したメールにより,原告の井坂が荒巻に連絡することなく18.2役員会の決定とは無関係に独自の判断で爆発物検査料の決定を行ったとするのは不自然であるとし,原告が18.2役員会の決定とは無関係に独自の判断で爆発物検査料の決定をしたとは認められないとする。
しかし,査共第165号証は,これと異なる内容の審D第13号証添付の事情聴取メモ(原告の井坂が被告による事情聴取を受けた当日に作成し社内報告をしたメモであり,①爆発物検査料金に関する協会のアンケート調査は知らなかった,②平成16年12月12日の国際部会について荒巻が作成した議事録は見ていない,③既に開披手数料としてMIN¥2000,¥500/1個を請求していた,④国際部会の議事録のメール回覧が直接自分に来ることはなかった,⑤国際部会から爆発物検査料の料金を具体的にいくらという指示が出た認識はない,⑥爆発物検査料の料金は自分が設定していた,との記載がある。)が作成されていた以上,査共165号証の信用性をそのまま認めることはできない。また,査共第165号証には,原告設定の最低2000円という料金は18.2役員会で決まっていた1ハウスエアウェイビル当たり最低1500円を上回っていたため料金を変更する必要はないと判断した旨の供述部分があるが,査共第164号証添付の報告書2枚目によれば,原告の荒巻は,1ハウスエアウェイビル当たりではなく1個当たり1500円と社内報告しているのであり,査共第165号証の上記供述部分はこれに反するものであって,その信用性は認められない。
また,査共170号証は,その文面からは,井坂がその後18.2役員会の決定に従って爆発物検査料を設定した事実を推認させる証拠になり得るものであるが,上記のとおり,実際には井坂が18.2役員会の決定とは無関係に爆発物検査料を設定したことは明らかであり,井坂は査共第170号証の文面どおりの爆発物検査料を設定しなかったものと考えられるのであって,18.2役員会の3か月も前の連絡メールである査共第170号証はその証拠価値が低い。
さらに,査共第203号証は,セキュリティーチャージに関するものであって,爆発物検査料に関するものではない。
以上のとおり,原告による爆発物検査料の設定に関し,原告が18.2役員会において合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠はない。
イ 査共第164号証,審D第12号証,第13号によれば,原告は,平成17年12月6日に特定航空貨物利用運送事業者の認定を受けた時点から,保安計画に従い開披検査を開始し,ハウスエアウェイビル1件当たり最低2000円の開披検査料を荷主から徴収しており,この額は開披検査料の決定権限を有していた井坂が検査に係るコストにかんがみ独自に設定したものであるところ,井坂は,爆発物検査料についても決定権限を有し,これについても開披検査料と同額の検査料を荷主に請求することを予定していたことから,平成17年11月25日,協会事務局からの問合せに対し,その旨を連絡するとともに,業界での統一料金が設定されればもちろん統一料金を請求することとする旨を付言したが,その後,井坂は,18.2役員会で決定された爆発物検査料の額を知らされないまま,原告における爆発物検査料の金額を決定したこと,国際部会役員会に出席していた原告の荒巻は,井坂に料金額を確認することなく,アンケート用紙に爆発物検査料1個当たり1000円,上限10000円と記入し,13社が出席した18.2役員会において,出席者の多数決により,爆発物検査料は1件当たり1500円とされたところ,荒巻は,爆発物検査料を1個当たり1500円とするものと理解し,その旨を原告の社内に報告したものの,これが井坂に伝達されることはなかったことが認められ,これによれば,原告の井坂は,18.2役員会とは無関係に爆発物検査料を設定したのであるから,原告には,他の事業者の行動と無関係に,取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められる。
(2) 被告の主張
原告による爆発物検査料の設定に関し,原告が18.2役員会において合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠があり,原告が他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって行われたことを示す特段の事情は認められない。
ア 井坂が「新保安措置に関するSC関連会議」の平成17年11月25日の会合に欠席する旨を同会議の事務局に連絡したメール(査共170)には,セキュリティーチャージ等に係る原告の方針とともに,業界で統一料金が設定された場合にはその料金を荷主に請求することとする旨が記載されていること,井坂が同メールをそのまま荒巻に転送して,荒巻に対して協会に対し上記内容を伝えた旨を報告したことが認められ,また,井坂が平成18年7月24日に送信した社内メール(査共203添付のメール)には,セキュリティーチャージに関するものではあるが,実質は協会で決めた料金であるが協会で決めたと言うと独禁法に触れるらしいので顧客への説明では協会で決めたと言わないでほしい旨の記載があることが認められ,これらの事実に,荒巻が,18.2役員会の前後を通じて国際部会役員会に出席して他社と情報交換や議論をし,平成17年12月12日に開催された国際部会役員会(以下「17.12役員会」という。)において業界での統一料金が出ればそれに従う旨発言し,18.2役員会においてセキュリティーチャージ等の内容を決めるための挙手による多数決に参加したこと,また,原告主張の爆発物検査料の内容(最低料金2000円,1個当たり500円)が本件セキュリティーチャージ等合意における爆発物検査料に係る合意内容(ハウスエアウェイビル1件当たり最低1500円)と何ら矛盾しないことを併せ考えると,原告は18.2役員会の決定に基づき爆発物検査料を決定したと認めることができる。
イ 原告は,査共第170号証添付のメール及び査共第203号証添付のメールは信用性がないと主張する。しかし,査共第170号証添付のメールは,そのメールの記載自体から,上記アで認定したように,井坂が,荒巻に対し,業界で統一料金が設定された場合にはその料金を荷主に請求することを協会に伝えた旨を報告したことが認められるのであって,原告の主張は理由がない。また,査共第203号証添付のメールも,その記載自体から,実質は協会で決めた料金であるが協会で決めたと言うと独禁法に触れるらしいので顧客への説明では協会で決めたと言わないでほしい旨の記載が認められるのであり,これによれば,井坂が国際部会役員会においてセキュリティーチャージ等が決定されたことを十分に認識した上で行動していることがうかがわれるのであって,その記載内容が爆発物検査料に関するものかセキュリティーチャージに関するものかで左右されるものではない。また,査共165号証(井坂の供述調書)の信用性について,原告は井坂の陳述書添付のメモ(査D13)の記載と一致しないから信用できない旨主張するが,上記のメモは荒巻作成の議事録を見ていないなどというものにすぎず,井坂が荒巻と連絡を取ったことを否定するものではなく,また,記載が一致していないからといって直ちに査共第165号証の信用性が否定されるわけではないのであって,査共第165号証の「1HAWB(ハウスエアウェイビルの意味)当たり1500円」との記載は,18.2役員会で決定された本件セキュリティーチャージ等合意の内容のとおりであり,その信用性は否定されない。
4 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について,他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって荷主に対する請求が行われたことを示す特段の事情があるか
(1) 原告の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意について,14社は各社独自の判断で荷主向け燃油サーチャージの請求及び収受をしていたのであり,他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められるから,原告は他の事業者と「共同」(独禁法2条6項)して合意をしていない。
ア 14社は,荷主向け燃油サーチャージを,航空会社から請求される燃油サーチャージの立替金であると認識し,営業上の損失を回避するためその全額を荷主から収受する必要があったことから,他社に確認するまでもなく,各社において燃油サーチャージを全額荷主に請求することを決定していたのであって,国際部会役員会で互いの意思を確認する必要はなかった。
イ 14社は,各社個別に,本件再設定以前から,燃油サーチャージを全額荷主に請求するという方針を一貫して有しており,本件再設定の際も,既に届け出ていた内容に従って荷主向け燃油サーチャージの請求を再開したにすぎず,その際改めて意思決定を行っていない。
ウ 本件再設定に際し,14社と同じ開始時期に同じ内容の荷主向け燃油サーチャージの請求をした29社は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加していないというのであるから,独自の判断によって請求を決定したことになるところ,この29社と同じ行動をした14社も,独自の判断で請求を決定したことになる。
エ 本件事業者は,荷主から燃油サーチャージを回収しなければ,それがそのまま損失となるのであるから,そのような状態が続けば本件事業者の事業が立ち行かなくなるのは明らかであって,14社は,燃油サーチャージについて値引きの自由を認識することはなかったのであるから,荷主向け燃油サーチャージを競争手段とはしない旨の確認をしたからといって,その前提として戦略的に値引きして荷主を獲得することができると考えていたわけではない。
(2) 被告の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意について,他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって行われたことを示す特段の事情は認められない。
ア 原告は,14社が燃油サーチャージを立替金と認識していたこと,その全額を回収しなければ損失となるから値引きの自由を認識することはなかったことから,14社が互いに意思を連絡することなく独自の判断で荷主向け燃油サーチャージを請求していたこと推認されると主張する。しかし,14社が損失を回避等するために燃油サーチャージを荷主に請求したい意向を持っていたからといって,14社が本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしなかったということになるわけではなく,むしろ,14社が上記のような意向を共通に有していたのであれば,各社が独自で判断して荷主との交渉に支障を来したり,荷主向け燃油サーチャージを請求しない競争相手に顧客を奪われたりしないように,本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたことと整合的である。
イ 原告は,14社が従前の国土交通省への届出のとおりに荷主向け燃油サーチャージを請求し,改めて意思決定をしなかったこと,14社の請求時期及び請求内容が本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加しなかったとされる29社と同じであることから,14社が独自の判断で荷主向け燃油サーチャージをしたことが推認されると主張する。しかし,国土交通省への届出のとおりに荷主向け燃油サーチャージを全額請求しなければならないわけではないから,従前の届出のとおりの請求であるからといって各社が独自の判断で行ったことにはならないのであって,また,平成13年に航空会社が燃油サーチャージを設定した際には,14社の間では,荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求するかどうかという最も基本的な点ですら対応が分かれていたのに対し,平成14年の燃油サーチャージの再設定(本件再設定)に際しては,荷主に対する請求内容までも一致していたということは,人為的な作為があったことをうかがわせるといえる。
5 本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「対価」(独禁法2条6項)の決定に当たるか
(1) 原告の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「対価」の決定に当たらないから,不当な取引制限に該当しない。
ア 荷主向け燃油サーチャージは,本件事業者の個々の業務のいずれかに対応して設定されているものではなく,これに対応する特別な業務もないし,また,燃油サーチャージの額の変動が本件事業者の業務の内容に影響を与えるものでもなく,このように荷主向け燃油サーチャージと本件事業者の業務との間には何ら関連性はないから,荷主向け燃油サーチャージは本件事業者の業務の対価ではない。
イ 燃油サーチャージは,航空会社が航空機の運航に要する燃油費用として設定したものであり,航空運送サービスの提供によって利益を受ける荷主が本来負担すべきものであるから,本件事業者の航空会社に対する燃油サーチャージの支払は荷主のための立替払いであり,荷主向け燃油サーチャージの請求はこのような立替金の請求であって業務の対価の請求ではない。
ウ 旅行業においては,燃油サーチャージは旅行業者のサービスの対価ではないと解されているところ,その仕組みも賦課根拠も同様である本件業務においても,燃油サーチャージは本件事業者の業務の対価ではないと解すべきである。
エ 独禁法2条6項所定の対価を決定する合意とは,市場における価格を支配し得る程度の力を形成する取り決めだけがこれに該当するところ,本件では,航空会社による燃油サーチャージの賦課がいつまで続くのか否かすら不明であり,かつその額の運賃及び料金に占める割合も不明であって,実際にも荷主向け燃油サーチャージの額は本件業務全体の運賃及び料金の1割に満たなかったのであるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,市場における価格を支配し得る程度のカを形成するような対価を決定する合意であったということはできず,独禁法2条6項の「対価」の決定とはいえない。
(2) 被告の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「対価」の決定に当たる。
本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,荷主向け燃油サーチャージについて金額を決定したものであるから,独禁法2条6項の「対価」を決定するものに当たることは明らかである。
ア 原告は,荷主向け燃油サーチャージは,本件事業者の個々の業務のいずれかに対応して設定されたものではなく,本件事業者の業務との間に何ら関連性はないと主張する。しかし,荷主向け燃油サーチャージは,本件業務を遂行したことに伴いその需要者である荷主に対して請求するものであるから,本件事業者の業務との間に関連性があるといえる。
イ 原告は,燃油サーチャージは立替金の性質を有し,旅行業においては燃油サーチャージは旅行業者のサービスの対価とされていない旨を主張する。しかし,本件業務に係る契約関係をみると,荷主と本件事業者の間で貨物の利用運送契約が締結され,本件事業者と航空会社の間で実運送契約が締結されるのであって,航空会社と荷主との間には何らの契約関係も存在しないのであるから,立替払いという法律関係は成立しないのであって,また,荷主向け燃油サーチャージは,航空会社から請求される燃油サーチャージについて,利益の減少を避けるために,できる限りその全額を荷主に転嫁しようとするものであり,本体運賃と同じく混載差益が生じ得るのであって,航空会社に支払う額と荷主に請求する額が必ずしも一致するものとはなっていないことからみても,実質的にみて立替金の回収という性質を有していない。なお,旅行業においては,通常,旅行業者は,航空会社との間で契約を締結せず,代理店として媒介するにすぎず,旅行者自身が航空会社との間で旅客運送契約を締結するのであって,本件業務とは契約関係が異なっている。
ウ 原告は,航空会社による燃油サーチャージの賦課がいつまで続くのか不明であり,かつその額の運賃及び料金に占める割合も不明であるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は.市場における価格を支配し得る程度の力を形成するような対価を決定する合意ではなかったと主張する。しかし,本件荷主向け燃油サーチャージ合意においては,航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときという条件が付され,対価につき,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額とされているところ,金額は確定されていないが容易に確定され得る内容であるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が独禁法2条6項の「対価」の合意であることは明らかであって,市場における価格を支配し得る程度の力を形成するような合意である必要はない。
6 本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「相互にその事業活動を拘束」(独禁法2条6項)するものか
(1) 原告の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「相互にその事業活動を拘束」するものではないから,不当な取引制限に該当しない。
ア 14.9役員会における意思の連絡はなかったこと,国際部会役員会における営業秘密ではない燃油サーチャージの収受率等の情報交換が14社の事業活動に影響を与えなかったこと,制裁措置を含め合意を実行するための何らかの具体的措置がされなかったこと,14社と合意に参加しなかった29社との間で燃油サーチャージの収受状況に差異がないこと,合意の消滅を各社が認識し得なかったことから,14社は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意により「相互にその事業活動を拘束」していたとはいえない。
イ 本件各審決は,意思の連絡が認められれば相互拘束性が認められるとするが,合意に参加しなかった本件事業者も荷主向け燃油サーチャージを請求していることから考えれば,荷主向け燃油サーチャージの請求は本件事業者として当然の行動であったと解されるのであって,14社のみが相互拘束性のある合意に基づいて請求していたと解するのは不自然である。
ウ 本件荷主向け燃油サーチャージ合意の消滅後に,14社が荷主向け燃油サーチャージの値引きを始めた事実はなく,むしろ原告における荷主向け燃油サーチャージの収受率が上昇していることからも,14社の請求が相互拘束性のある合意に基づくものであったものではないことは明らかである。この点,本件各審決は,14社はもともと荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することを企図していたのであるから,合意が終了した後においても顧客である荷主が応じる限り荷主向け燃油サーチャージを請求するのは不自然ではないから,合意消滅の前後で14社の荷主に対する請求行為に変化がなかったとの事情は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を妨げるものではないとする。しかし,合意の有無によっては14社の行動に変わりはないことを認める一方で,拘束力のある合意があったことを認定することは,明らかに論理矛盾である。また,本件各審決は,14社において61.4パーセントないし64.9パーセントのシェアを占める大手3社が申し合わせれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の実効性が失われ,違反行為が事実上消滅することは一般にみられることであるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が大手3社のみの申合せにより事実上消滅したからといって,これにより当該合意が拘束力を持たなかったことにはらないとする。しかし,合意によって14社が相互拘束されていたのであれば,参加したとされる14社全社が合意の消滅の事実を認識しなければ,14社のうち事実を知らされなかった事業者において合意の拘束力が存続してしまうはずであり,一部の業者の申合せで合意が消滅したことは,当該合意が拘束力を持たなかったことを示すものである。
(2) 被告の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「相互にその事業活動を拘束」するものである。
ア 不当な取引制限において,事業者間における意思の連絡が認められれば,その実行を担保するための制裁の定めがなくても,「相互にその事業活動を拘束」する場合に該当すると解されるところ,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立が認められる以上,これが相互拘束性を持たないということはできない。
イ 原告は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意によって14社が相互拘束されていたのであれば,参加したとされる14社全社が大手3社の申合せによる合意の消滅の事実を認識しなければ,14社のうち事実を知らされなかった事業者において合意の拘束力が存続してしまうはずであると主張する。しかし,大手事業者による申合せを知らない事業者が本件荷主向け燃油サーチャージ合意に沿う行動を執っても,大手事業者は合意とは無関係に独自の判断で行動する状態となっていることから,合意の実効性が失われ,違反行為が事実上消滅することは一般にみられることであり,このことから当初の合意が拘束力を持たなかったということはできない。
7 本件合意が本件業務における競争を実質的に制限することと実質的証拠について
(1) 原告の主張
本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することについて,これを立証する実質的証拠がない。
ア 本件各審決は,仮に本件4料金部分について競争が制限されたとしても本件4料金は運賃及び料金の約12.2パーセントにすぎず本件4料金以外の部分で値下げを行うことにより競争を行うことが可能であるから競争を実質的に制限するものではないとの原告の主張に対し,本件4料金以外の部分の競争が存在したことについての具体的な提出証拠がなく,被審人らも具体的事実を主張していないことを理由に,本件4料金以外の部分の競争は行われていなかったものと推認している。しかし,このような認定は,審判において立証責任を負う審査官が争わずかつ主張していない事実を認定するものであり,実質的にみて被審人らに主張の機会を与えずその防御権を著しく侵害する不意打ちの認定であり,何ら証拠に基づかない経験則に反する認定であって,実質的な証拠がないことは明らかである。
さらに,本件各審決は,14社が本件4料金以外の部分で自由な競争をしていたとすれば,本件4料金について14社が不当な取引制限を行う必要がないはずであるところ,これを行ったのであるから,本件4料金以外の部分についても自由な競争はなかったと認定する。しかし,これは,不当な取引制限の成否を判断するための事実である本件4料金以外の部分の自由な競争の有無を不当な取引制限が成立するとの結論を根拠になかったとするものであり,このような認定は理性ある人が合理的に考えて行い得るものではなく,本件4料金以外の部分について自由な競争がなかったとの認定について実質的な証拠はない。
イ 原告は,本件審判手続において,違反行為とされた期間中の原告の荷主向け燃油サーチャージの収受状況はマイナスであり毎年1億円から2億円程度の損失を生じていたことから,荷主の競争圧力が存在したと主張したところ,審査官は,14社の荷主向け燃油サーチャージの収受状況からすれば14社が取引する全ての荷主が原告の主張するするような荷主ではなかったと主張するのみで,何ら具体的な反論,立証をしなかったにもかかわらず,本件各審決は,原告が具体的な反証をしないとして原告の主張は理由がないとする。しかし,このような認定は,立証責任を正当な理由なく転換するばかりか,原告の真摯な主張立証を殊更に無視するものであり,荷主の競争圧力を否定する本件各審決の認定は,実質的な証拠がない。
(2) 被告の主張
本件合意は,本件業務の72.5パーセントないし75.0パーセントの市場占有率を有する14社が,本件4料金について不当な取引制限に当たる合意をしたものであるから,このような合意の成立が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することは明らかである。
ア 本件各審決は,14社のいずれかが荷主に対して本件運賃等を値引きすることによって取引先を奪おうとしたり取引数量を増やそうとしたりしたことをうかがわせる証拠がなく,原告もそのような具体的な事実の主張立証をしなかったということだけで,本件業務の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分において競争が行われなかったと推認しているわけではなく,上記の事情に加えて,14社において本件4料金以外の部分で自由な競争が行われていたとすれば,運賃及び料金のごく僅かの割合を占めるにすぎないAMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に関して14社が不当な取引制限をする必要はないはずであるにもかかわらず,14社は,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意を成立させて,その後も国際部会役員会において協調行動を取ってきたというのであるから,このような14社の行動にかんがみて,本件業務の取引分野においては,少なくとも本件違反行為期間中は,本件4料金以外の部分で競争が行われることはほとんどなかったものと推認され,少なくとも本件合意が無意味となるような程度の競争は行われていなかったと推認しているのであり,その判断は合理的である。
原告は,本件各審決が,本件業務の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分において競争が行われていなかったと認定した点について,審判手続において立証責任を負う審判官が争わずかつ主張もしていない事実を認定している,実質的に見て原告らの主張の機会を与えておらずその防御権を著しく侵害する不意打ちの認定であると主張する。しかし,本件審判手続においては,本件4料金部分のみではなく本件業務全体に係る取引分野における競争を実質的に制限するか否かが争われていたのであるから,原告は,審査官の主張立証にかかわらず,本件4料金以外の部分の競争の有無を主張立証することが可能であったのであるから,原告の主張は失当である。
イ 原告は,本件審判手続において,本件取引分野における競争圧力が存在することを主張立証したにもかからわず,本件各審決はこの点について原告の主張立証がないと判断していると主張する。しかし,本件各審決は,原告が単に抽象的に需要者の価格競争力が強いとか取引先の切替えも容易であったなどと主張するのみであって,本件合意があるにもかかわらず本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されなかったことについて具体的な反証をしないとし,加えて,本件合意をした14社の本件業務の取引分野における市場占有率,本件合意の対象となった本件4料金の売上額に占める割合に照らして,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであることは明らかであると判断しているのであって,原告の主張は失当である。
8 本件合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するか
(1) 原告の主張
本件合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限しない。
ア 本件合意は,本来的な費用の負担者である役務の利用者に負担を依頼し請求する合意であるから,独禁法上,当然違法の原則により違法性が判断されるハードコア・カルテル(競争制限のみを目的とし,あるいは,客観的に反競争効果が明白で,しかも,これを補うような競争促進効果ないし正当化事由を持ち得ないことが外見上明らかなカルテル)ではなく,反競争効果と競争促進効果を慎重に比較考量して違法性を判断すべき合理の原則によりその違法性が判断されるべき非ハードコア・カルテルである。
そして,荷主向け燃油サーチャージについては,本件事業者がこれを荷主に請求する以外に代替的手段がなく,本件合意がなかったと仮定すると本件業務に係る市場がより競争的になるとはいえないし,また,本件合意は,単に請求する旨の合意であって価格についての合意ではなく,合意に違反した事業者を罰則などを課して束縛することもなく,さらに,実際に14社は本件4料金全額を収受しておらず,しかも,本件合意に参加していなかった本件事業者の収受状況も14社と近似しているのであり,一方で,本件事業者は,荷主向け燃油サーチャージを収受することによって,自らの赤字を減らし,本件の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分でサービスの品質や運賃額の値下げをする合理的な企業活動がされるという競争促進効果を生じさせるものであるから,競争阻害性が上記の企業活動の合理化を上回るほどのものではなく,合理の原則によれば,本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するとは認められない。
イ 本件各審決は,本件合意は本件4料金それぞれの個別の作業の取引分野の存在を前提に当該個別の取引分野での競争を回避するためのものではなく,本件業務という1個の役務の取引分野についての競争を回避するためのものであるから,本件合意を本件業務の取引分野における競争を回避するために行われたものとしている。しかし,本件4料金は,その性質及び設定の根拠が異なるのみならず,相互の関連性もないし,また,合意が成立したとされる時期も異なっているのであるから,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否かは,次にみるとおり,本件4料金ごとに個別に検討されるべきである。
(ア) 本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
本件各審決は,荷主向け燃油サーチャージが立替金の性質を有するものではく,国土交通大臣に対する届出の有無やその時期等にかかわらず,平成13年当時にほとんど収受できなかった荷主向け燃油サーチャージにつき,14社の協調行為によってこれを収受することができるようになったのであり,荷主との交渉力の差により合意内容のとおりの値上げ等が実現できなくても,合意の存在により,自己の判断により取引条件を決定する競争単位が減少したのであるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は競争を実質的に制限するとする。しかし,本件荷主向け燃油サーチャージ合意により荷主向け燃油サーチャージの部分の競争が制限されても,荷主が本件事業者に支払う運賃及び料金の額全体についての競争が制限されることにはならないのであるから,運賃及び料金の競争単位の減少が競争の実質的制限に直結するものではない。
(イ) 本件AMSチャージ合意について
AMSチャージの本件運賃及び料金に占める割合は0.1パーセントに満たないのであり,しかも,13社は,請求額のうち荷主が応じる額だけをAMSチャージとして収受しており,最低額の遵守もされなかったのであるから,本件AMSチャージ合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではない。本件各審決は,荷主からAMSチャージの一部しか請求,収受できなかった点について,単に合意を下回る金額を請求している例にすぎず,実際に合意どおりの値上げが実現できない場合でも競争の実質的制限は否定されないとするが,14社が荷主の強硬な姿勢によりAMSチャージの一部しか請求,収受できなかったのは,競争のための値引きにほかならない。
ウ 本件各審決は,本件違反行為の実行期間における売上額に占める本件4料金の割合が12パーセント程度であることからしても,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していると評価できるとする。しかし,本件4料金は運賃及び料金の8分の1にも満たず,この部分の競争が停止しても,残りの8分の7以上において競争を行うことが可能であって,本件4料金に係る本件合意によって本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないことは明白である。仮に本件4料金以外の部分についても競争がなく,このため本件合意によって本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されていたのであれば,本件課徴金納付命令の算定の基礎となる売上額は,本件4料金だけでなく,競争が制限された本件業務の売上額全体となるはずである。
エ 前記7(1)イのとおり,本件では需要者である荷主による競争圧力があるのであるから,本件業務の取引分野における競争の実質的制限の効果が否定される。
(2) 被告の主張
本件合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限する。
本件合意は,本件業務の総貨物量の72.5パーセントないし75.0パーセントの市場占有率を有する14社によってされた不当な取引制限に該当する合意であるから,これにより本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することは明らかである。
ア 原告は,本件合意は,本来的には費用の負担者である荷主に負担を依頼するために請求する旨の合意であり,効率性を求める企業活動としての合理性が認められるから,ハードコア・カルテルとして当然違法の原則により判断されるものではなく,非ハードコア・カルテルとして合理の原則により判断されるべきであると主張する。しかし,本件業務の総貨物量の72.5パーセントないし75.0パーセントの市場占有率を有する14社によって,不当な取引制限に当たる本件合意がされれば,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであって,独禁法2条6項の要件に該当することは明らかであるから,更に原告が主張するような基準によって判断する必要はない。また,荷主向け燃油サーチャージの請求は立替金の回収という性質を有するものではなく,本件合意が本来的に費用の負担者である荷主に負担を依頼するために請求する旨の合意であるということはできず,他に本件合意が合理的な企業活動であると認め得る事情は存在しない。
イ 原告は,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否かは,本件4料金ごとに個別に検討されるべきであると主張する。しかし,14社は,航空業界において新しい制度等が導入されることによって本件事業者が次々と新たに負担することを余儀なくされるに至った本件4料金について,これを荷主に転嫁しようと企図するとともに,各社独自の経営判断で行動することによるリスクを回避するために本件合意をし,互いの競争を回避してきたものであるところ,14社がこのような行動に出たのは,本件業務という1個の取引分野についての競争を回避するためであったと認められるから,本件合意は一連の1個の不当な取引制限に該当する行為と評価するのが相当であって,競争の実質的制限の有無も,本件4料金ごとに個別に検討すべきものではない。
ウ 原告は,本件4料金は運賃及び料金の8分の1にも満たず,この部分の競争が停止しても,残りの8分の7以上において競争を行うことが可能であって,本件4料金に係る本件合意によって本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないことは明白であると主張する。しかし,本件業務の総貨物量の72.5パーセントないし75.0パーセントの市場占有率を有する14社によって,不当な取引制限に当たる本件合意がされれば,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであることは明らかであり,併せて,本件4料金の売上高に占める割合が12パーセント程度であることから考えても,本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していると評価できる。なお,原告は,本件4料金以外の部分についても競争がないために本件合意により本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されていたというのであれば,課徴金納付命令の算定の基礎となる売上額は,本件4料金だけでなく,それ以外の部分も含めた本件業務の売上額になるのが当然の帰結であると主張するが,課徴金納付命令の算定の基礎となる売上額は,違反行為の対象となった商品役務の売上額をいうのであって,本件合意は本件4料金のみを対象としたものである以上,本件4料金が課徴金納付命令の算定の基礎となる売上額となる。
エ 原告は,本件では需要者である荷主による競争圧力があるのであるから,本件業務の取引分野における競争の実質的制限の効果が否定されると主張するが,需要者による競争圧力が存在したとしても,そのことから直ちに本件業務の取引分野における競争の実質的制限がないと認められるわけではない。
9 本件排除措置命令の必要性について,これを立証する実質的な証拠があるか
(1) 原告の主張
本件排除措置命令の必要性について,これを立証する実質的な証拠がない。
本件各審決は,本件排除措置命令の必要性について,国際部会役員会は平成19年11月12日以降開催されていないものの未だ存続していると認定するが,このような事実を立証する証拠はない。
(2) 被告の主張
本件排除措置命令の必要性について,これを立証する実質的な証拠がある。
原告は,本件各審決による国際部会役員会は平成19年11月12日以降開催されていないものの未だ存続しているとの認定について,実質的な証拠がないと主張するが,査共第231号証(協会の事務局長である髙橋武の供述調書)の14頁には,国際部会役員会の会合は平成19年9月18日の会合を最後に開催されていないが役員会そのものが廃止されたわけではないとする同人の供述があるのであって,原告の主張は失当である。
10 本件排除措置命令について,裁量権の逸脱又は濫用があるか
(1) 原告の主張
本件排除措置命令について,裁量権の逸脱又は濫用がある。
違反行為が既に消滅している場合に,独禁法7条2項により排除措置を命ずることができる「特に必要な場合」とは,違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,違反行為の結果が残存し競争秩序の回復が十分でない場合に限られるところ,本件では,原告において本件合意を繰り返すおそれはなく,また,本件違反行為の期間は長期間ではなく,本件合意は拘束力の極めて弱いものであり,国際部会役員会も平成19年11月12日以降開催されず既に存続していないし,そもそも本件合意に係る本件4料金が本件業務の売上額の1割強にすぎないことから,本件合意の結果が残存し競争秩序の回復が十分でないとはいえない。にもかかわらず更なる排除措置を命じた本件排除措置命令は,裁量権の逸脱又は濫用によるものであって違法である。
(2) 被告の主張
本件排除措置命令について,裁量権の逸脱又は濫用は認められない。
独禁法7条2項において違反行為が既になくなっている場合においても排除措置命令が発令できる「特に必要があると認めるとき」とは,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解され,この要件の該当性の判断については被告の専門的な裁量が認められると解される(最高裁平成19年4月19日判決・裁判集民事224号123頁)。
本件では,違反行為は平成14年9月18日の本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立時から平成19年11月12日の消滅までの間5年以上の長期間にわたって行われており,その間,原告を含む14社(平成16年以降は13社)は度々国際部会役員会等を開いて情報交換や意思の確認を繰り返して違反行為を継続していたのであって,本件違反行為が消滅したのも,大手3社の代表者等がアメリカやヨーロッパにおいて本件事業者に対する独禁法違反の調査が及んでいるとの情報を得たこと等から当面は国際部会役貴会の会合を開かないことを申し合わせたことによるものであり,自発的な意思に基づき終了させたものではない。加えて,本件違反行為は各社の役員クラスの者が多く関与していたこと,本件違反行為の場として利用されていた国際部会役員会は開催されないまでも未だ存続していること,本件事業者の業界においては需要者である荷主及び供給者である航空会社の双方による競争圧力が大きく,一般的にみて違反行為を行い易い環境のあることなど,本件の一切の事情を総合考慮すれば,本件違反行為が繰り返されるおそれを否定することはできない。
したがって,本件では独禁法7条2項の「特に必要があると認めるとき」に該当するのであって,本件排除措置命令が被告の裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用したものとはいえない。
11 本件合意(あるいは本件荷主向け燃油サーチャージ合意)は,本件業務の「対価」(独禁法7条の2第1項)に係るものに当たるか
(1) 原告の主張
本件合意のうち,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,本件業務の「対価」に係るものに当たらない。
ア 燃油サーチャージは,立替金の性質を有するものであるから,荷主向け燃油サーチャージは「対価」には当たらない。
イ 燃油サーチャージは立替金の性質を有するものであって,原告は荷主向け燃油サーチャージを収受しても何ら経済的利得はなく,むしろ損失を被っているのであるから,本件において原告に課徴金を課すことは,不当な経済的利得の剥奪を趣旨とする課徴金制度の趣旨に照らし妥当でない。
ウ なお,14社と他の29社の本件事業者の荷主向け燃油サーチャージの収受状況は同じであったのであるから,このうち14社に対してのみ課徴金を課すことは,社会正義に著しく反するものである。
(2) 被告の主張
本件合意は,「対価」に係るものである。
ア 本件違反行為は,本件4料金について個別の取引分野を前提とするものではなく,本件業務という1個の役務の取引分野を前提に,当該取引分野における競争を回避するために行われた一連,1個の行為であると評価すべきところ,本件4料金は,本件業務の運賃及び料金の一部であるから,本件業務という役務の「対価」である。
イ 原告の主張は,いずれも,本件合意のうち本件荷主向け燃油サーチャージ合意のみを取り出したものであって,失当である。
12 本件業務は,「小売業」(独禁法7条の2第1項)に当たるか
(1) 原告の主張
本件業務は「小売業」に当たるから,課徴金額の算定率は3パーセントである。
ア 独禁法7条の2第1項所定の「卸売業」「小売業」に当たるか否かについては,事業の実態を分析して判断すべきところ,本件業務は,利用運送契約を締結した不特定多数の荷主から貨物を集貨し,同一の仕向地の貨物をまとめて混載貨物として仕立てた上で,運送契約を締結した航空会社に引き渡して航空機に搭載し,航空運送を利用して仕向地の空港まで運送し,さらに,航空機から取り卸して,混載貨物を仕分けし,荷受人まで配達するというものであり,これは,多数の荷主から集貨した多くの貨物を同一地域あてに一括して輸送するための航空機内のスペースを航空会社から仕入れ,これを不特定多数の荷主に販売するものであるから,本件業務は,その実態から,「小売業」に該当する。
イ 法が「卸売業」「小売業」において課徴金額の算定率を軽減している趣旨は,これらが商流の中で商品役務を転売して手数料を稼ぐ業態であって売上額に対する利益率が小さいことからこれに見合った不当な経済的利得を剥奪すること,課徴金を課する事業者間の衡平を図ることにあるところ,原告の売上高に対する営業利益率は,平成18年が1.42パーセント,平成19年が1.15パーセントであるのに対し,法人企業統計上の卸売業・小売業の売上高に対する営業利益率は,平成16年から平成19年まで各年でそれぞれ1.2パーセント,1.4パーセント,1.2パーセント,1.2パーセントであり,原告の営業利益率に近似しており,一方で,同統計の運輸業の売上高に対する営業利益率は,平成16年から平成19年まで各年でそれぞれ4.8パーセント,5.0パーセント,4.9パーセント,4.9パーセントであり,原告の営業利益率と大きく乖離している。このように,原告の本件業務の営業利益率が運輸業の営業利益率と大きく異なることは,本件業務が一般的な運輸業とは全く異なる業態であることを現しているのであって,その実質は商況の中で役務を転売して手数料を稼ぐ「小売業」であることは明らかである。
(2) 被告の主張
本件業務は「小売業」にも「卸売業」(独禁法7条の2第1項)にも当たらず,課徴金額の算定率は10パーセント(平成17年法律第35号の施行日よりも前においては6パーセント)である。
ア 軽減された算定率が適用される独禁法7条の2第1項の「小売業」「卸売業」に当たるか否かについては,個別の事業者ごとに,当該事業者の事業全体ではなく,違反行為の対象となる業務に限って判断されるべきであるところ,消費税法施行令(平成22年3月31日政令第71号)57条6項によれば,卸売業とは,他の者が購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうものとされ,小売業とは,他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で卸売業以外のものとされているところ,このように,買い入れた商品をその同一性を保持したままで流通させる場合には,商品を流通させることによりマージンを受けるという側面が強いことから,法は課徴金額の算定率を軽減したものと解される。
イ 本件業務は役務であって,通常,役務の提供は商品の販売とは異なるものとされていること,本件業務は運輸業の一種であると認められるところ,日本標準産業分類によれば,小売業・卸売業と運輸・通信業とは別個の分類とされており,本件業務が小売業,卸売業とは異なる業種であることは明らかである。
ウ 課徴金制度は一律的な非裁量的制度として法定されており,「卸売業」「小売業」のみを明示して例外的な算定率を定めている法の下では,本件業務に流通業的性格があるとか,国際航空貨物利用運送業と卸売業,小売業の売上高に対する営業利益率が近似しているという点を捉えて,本件業務に「卸売業」「小売業」に係る算定率を準用することは許されないのであって,課徴金制度は,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的とするものであり,強制的行政措置としての非裁量性,簡明性,明確性,透明性及び迅速性の要請から,「卸売業」「小売業」のみを例外として一律の算定率を定めるものであり,その結果,課徴金の額が現実の不当利得の額とかい離し,そのかい離の幅にも業種によって差が生じる可能性があるが,この差は行政措置としての上記の要請に基づいて生じるものであって,合理性を有するものである。
エ 本件業務の内容は,荷主からの貨物の集貨,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等という業務から成り,AMS制度導入に伴う作業,新航空貨物保安措置の実施に伴う作業もこの運送業務に含まれるものであって,これらの本件業務を全体としてみれば,その実質からも小売業や卸売業の実態があるとはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 事実関係その1―本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
(1) 本件各審決に挙示された証拠から本件各審決挙示の次のような事実を認定することは合理的である。
ア 平成8年以降,燃油価格が高騰したことから,航空業界では,燃油価格について航空運賃とは別建てで顧客に請求できるようにするサーチャージ方式(燃油価格が高騰している期間に限って利用者から特別の運賃を付加的に徴収し,燃油価格が元に戻った場合には徴収をやめるという仕組みであり,本体の航空運賃自体の変動を抑えつつ,燃油価格の変動にも機動的に対応することができるシステム)の導入を求める声が高まった。これを受けて,国際航空運送協会(国際線を運航する航空会社が加盟する国際団体)は,平成9年8月,サーチャージ方式による燃油サーチャージ制度を決議したが,結果として,この決議は発効するには至らず,燃油サーチャージ制度の導入が実現するまでには至らなかった。(査共25,44,48,62)
イ 平成12年になると燃油価格が再び上昇し始めたため,航空会社は,航空運賃の値上げによってこれに対応し,14社を含む本件事業者は,この航空運賃の値上げに対処するため,荷主に対する本件業務の運賃及び料金を値上げしょうと取り組んだが,ほとんどの荷主に対応してもらえず,結果として,航空運賃の値上げによる損失をそのまま負担する状況となった。こうした状況を踏まえて,本件事業者の業界は,航空会社に対して,燃油価格の高騰に対応する場合には航空運賃本体を値上げするのではなく航空運賃とは別に燃油サーチャージ方式による値上げにしてほしい旨を要望した。(査共44,47,48)
ウ 我が国の航空会社(日本航空を含む5社)は,平成13年3月,国土交通省航空局に対し,我が国発の航空機に搭載される貨物について,航空運賃とは別に燃油サーチャージを設定することについての認可を申請し,同月中に認可を受けて,同年5月16日から,本件事業者らに対し燃油サーチャージを請求できることになった。上記燃油サーチャージの内容は,基準価格を1995年から1999年までのシンガポールのケロシン(航空燃油)の平均価格である1バレル当たり23.20アメリカドルとし,燃油価格が基準価格の130パーセントつまり30.16アメリカドル以上を20営業日連続して超えた場合に,1キログラム当たり12円を設定する,燃油価格が基準価格を20営業日連続して下回った場合には燃油サーチャージを廃止する,というものであった。(査共25,44,47,48,62)
エ 航空会社の燃油サーチャージの導入が決まったことにより,本件事業者は,航空会社から航空運賃に付加して新たに燃油サーチャージの請求を受け,これを支払うこととなったため,本件事業者としては,荷主から従前の代金に付加して燃油サーチャージに相当する金額を収受できなければ,燃油サーチャージに相当する金額を自社で負担することとなるため,その金額次第では経営上深刻な問題をもたらす可能性があったことから,協会の国際部会役員会において,その対応策が話し合われるようになった。平成13年3月16日及び同月27日に開催された国際部会役員会では,本件事業者が荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求し収受できるようにしておくために,各社において当時の貨物運送取扱事業法に基づく国土交通大臣への運賃及び料金の変更の届出をすること等が確認され,その後,14社を含む協会の会員47社は,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用する場合には賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額を荷主向け燃油サーチャージとし,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用しない場合あるいは廃止した場合には適用しない旨の概ね同じ内容の上記の変更の届出をした。(査共18ないし21,36ないし38,44ないし46,48,62)
オ 平成13年4月26日及び同年5月14日に国際部会役員会が開かれ,燃油サーチャージの導入に対する対応策が議論されたが,荷主向け燃油サーチャージの請求について各社の対応が分かれ,同月17日,西鉄,バンテック,近鉄,日本通運,郵船及び阪急交通社の6社の担当者が集まり,荷主向け燃油サーチャージヘの対応について話し合ったが,各社が足並みをそろえるという方向性を打ち出すことはできなかった。平成13年5月16日以降,我が国の航空会社は,我が国発の航空機に搭蔵される貨物について1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,これを14社に請求し,14社は航空会社に対してその支払を余儀なくされた。荷主向け燃油サーチャージについては,14社の中には,これを荷主に請求した会社もあったが,その全額ではなく一部のみを請求した会社や,請求をしない会社もあったことから,荷主向け燃油サーチャージの負担について荷主の理解を得られず,これを請求した会社も含めて,業界全体としては荷主から燃油サーチャージ相当額を収受することはほとんどできなかった。(査共25,39の1及び2,40ないし43,46,49ないし52,230)
カ その後,燃油価格が下落したことから,我が国の航空会社は,遅くとも,平成14年1月1日までに,燃油サーチャージを一旦廃止し,14社に対する請求を取りやめ,これを受けて,14社は,荷主向け燃油サーチャージの請求を取りやめた。(査共25,44,48,49,51ないし54,61,62)
キ 平成14年8月ころ,燃油価格が再び上昇し始めたことから,日本航空は,国土交通大臣の認可を受けて,我が国発の航空機に搭載される貨物について1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,平成14年10月16日以降,14社に対してこれを請求し,その他の航空会社も,国土交通大臣の認可を受けて,同様の燃油サーチャージを設定し,同日以降,14社に対してこれを請求した。日本航空の担当者は,上記の再度の燃油サーチャージの設定(本件再設定)に先立ち,平成14年9月10日から13日ころにかけて,大手3社に対し,日本航空が国土交通大臣に対して申請をしている燃油サーチャージの内容を説明した。(査共25,4,48ないし52,55,62)
ク 日本航空から本件再設定の説明を受けた近鉄の辻本は,平成13年に各社の取組みがまちまちであったことが大きく影響して業界全体として荷主向け燃油サーチャージの収受に成功しなかったと考え,本件再設定の開始に先立って,業界全体で足並みをそろえて荷主と交渉することについて統一を図るべく,国際部会の会合において各社に働きかけをすることとし,平成14年9月10日付けで,協会事務局は,国際部会役員会の各社に対し,同月18日に国際部会役員会を開催する旨及び燃油サーチャージを議題とする旨を通知した。(査共51,52,222)
ケ 平成14年9月18日,14.9役員会が開催され,12社が出席し,近鉄の辻本の議事進行の下,12社の出席者は,それぞれ,自社の本件再設定への対応方針を発表し,ユナイテッドを除く11社の方針は,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受するために荷主と交渉するというものであり,ユナイテッドの方針は,同社の荷主が同社の株主であることから,これらの株主に説明し理解を得るというものであったが,荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求し収受する方向性に反対するものではなかった。以上の発表を受けて,近鉄の辻本は,12社の出席者に対して,各社足並みをそろえて荷主に対して荷主向け燃油サーチャージ全額を請求していくこと,荷主向け燃油サーチャージを請求しなかったり一部しか請求しなかったりすることで荷主との間の貨物の取引量を増やしたり新たな取引先を開拓したりしないことを提案したところ,12社の出席者は,これにだれも反対意見を述べなかった(以上の合意が本件荷主向け燃油サーチャージ合意に当たる。)。(査共50ないし52,57ないし62,参考人辻本,参考人佐伯,参考人益子,参考人山本)
コ 平成14年11月8日,14.11埋事会が開催され,14社のうち14.9役員会に欠席した日本通運及びDHLを含みヤマトとエアボーンを除く各社が出席し,近鉄の辻本は,国際部会の活動報告として,14.9役員会において出席した12社の方針を確認しその上で本件再設定が開始された場合には国際部会役員会のメンバー各社が荷主に荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することとなったことなどを報告したところ,日本通運の担当者及びDHLの担当者は何ら反対意見を述べなかった。(遅くともこれにより日本通運及びDHLが本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わった。)(査共63)(なお,原告は,本件各審決が,日本通運とDHLが本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したと認定したことについて,関係証拠から理性ある人が合理的に考えて到達することができない事実認定であって,実質的な証拠がないと主張するが,14.11理事会の議事録(査共63)には,14.11理事会における14.9役員会の結果の報告内容として,燃油サーチャージの導入については14.9役員会で協議する揚を設け各社の方針を互いに認識した,今回の導入については前回の実施時よりも徴収率を上げる旨の意見が大半を占めた,という記載があり,これに,前記ケでみた14.9役員会の内容を併せると,14.11理事会において上記のとおりの経過により日本通運及びDHLが本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わったとの本件各審決の認定は合理的である。)
サ 14社のうちDHLを除く各社は,いずれも,本件再設定に係る平成14年10月16日又はこれに近接した日から,我が国の航空会社を利用する貨物に関して荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し,その請求内容も,賃率適用重量に利用する航空会社が適用する利率を乗じた額で一致していた。また,DHLも,平成14年12月16日から,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し,その請求内容も他社と一致していた。(査共64ないし71,249)
シ 平成14年11月15日,協会において,国際部会・国際宅配便部会代表役員会(以下「14.11代表役員会」という。)が開催され,14社のうち日本通運,近鉄,郵船,西鉄,阪急交通社,バンテック,日新及び原告の8社が出席し,互いに荷主向け燃油サーチャージの収受率や荷主からの収受状況を発表し合ったところ,その内容は,収受状況は全般的に良好ではなく,特に大手の荷主からは収受できていないというものであった。(査共72)
ス 平成15年3月17日,国際部会役員会が開催され,14社が出席し,出席者は,自社の平成15年1月及び同年2月の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表した。(査共44,73)
セ 平成15年4月2日,15.4役員会が開催され,14社が出席し,原告からは当時の代表取締役である濱田一壽(以下「濱田」という。)が出席した。出席者は,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり18円に値上げすることを受けての各社の対応方針等を発表し,最後に,利用する航空会社が値上げをした場合には,荷主に対してその同額を請求し全額を収受するよう交渉していくことを確認した。(査共74の1及び2)
ソ 平成16年3月5日,16.3役員会が開催され,13社のうちDHLを除く各社が出席し,原告からは濱田が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率,荷主向け燃油サーチャージを全額又は一部支払わない荷主(以下「支払拒否荷主」という。)の名称,支払拒否の理由,航空会社の担当者を同行しての支払交渉の状況などを発表した。近鉄の辻本は,交渉相手となる荷主(以下「対象荷主」という。)ごとに交渉を担当する会社(以下「交渉担当会社」という。)及び同行する航空会社を決めておくことを提案し,その具体案も提示したところ,反対意見を述べた者はいなかった。さらに,近鉄の佐伯及び事務局の担当者は,協会の顧問弁護士に確認した結果として,航空会社が13社に請求する燃油サーチャージの額については減額の交渉が可能であることを報告し,この点については荷主に知られないようにする必要がある旨述べて出席者に注意を喚起した。(査共75,76)
タ 平成16年4月6日,国際部会役員会が開催され,13社のうち日本通運及びバンテックを除く各社が出席し,原告からは当時の常務取締役である赤岡輝男(以下「赤岡」という。)が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率,支払拒否荷主の名称及び支払拒否の理由,航空会社の担当者を同行しての支払交渉の状況などを発表した。近鉄の辻本は,その発表内容により13社が協調的に行動していることが確認できたことから,足の引っ張り合いがなかったことはよいことである旨を述べた。(査共77ないし80)
チ 平成16年6月3日,国際部会役員会が開催され,13社が出席し,原告からは当時の取締役である佐藤市郎が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表するとともに,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり24円に値上げすることに対する自社の対応方針を発表した。最後に近鉄の辻本は,各社ともに,荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり24円に値上げし,荷主に対してその全額の支払を交渉するという対応をとること,交渉に際しては,航空会社の担当者から荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを全額支払わない場合には航空機に貨物を搭載できないこともあり得ることを説明させることを検討すべきことなどを述べ,また,荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり24円に値上げするに当たって,各社とも,荷主と新たに取引を開始したり既存の貨物取扱量を増やしたりするための手段として荷主向け燃油サーチャージを値引きすることはせず,その全額を請求することなどを述べて,各社一致して協調行動を取ることを要請したところ,これに反対意見を述べた者はいなかった。(査共81ないし86)
ツ 平成17年1月28日,国際部会役員会(以下「17.1役員会」という。)が開催され,13社が出席し,原告からは当時の取締役である荒巻が出席した。出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表したが,これに加えて荷主から収受できるようになった具体的な金額を発表した者もいた。(査共118,134,151ないし154)
テ 平成17年4月18日,国際部会役員会(以下「17.4役員会」という。)が開催され,13社が出席し,原告からは当時の取締役である松倉が出席した。この会合では,航空会社が同年5月16日又は同年6月1日から燃油サーチャージを1キログラム当たり30円から36円に値上げすることを受けて,荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり36円に値上げして請求することを確認したほか,各社の荷主向け燃油サーチャージの収受率が発表された。(査共122,155ないし158)
ト 平成17年8月3日,国際部会役員会(以下「17,8役員会」という。)が開催され,13社が出席し,原告からは荒巻が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は,航空会社の燃油サーチャージの値上げに伴い荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり42円に値上げすることに対する荷主の反応状況,支払拒否荷主の具体的な名称や交渉状況を発表した。原告の荒巻は,大手荷主から荷主向け燃油サーチャージを収受するに当たっては,中小の事業者の対応には限界があり,まず,13社のうち大手の事業者が大手荷主との間で交渉し全額収受できるようにしてもらいたい旨発言した。そこで,近鉄の辻本は,支払拒否荷主のうち,各社に共通する荷主を10社程度選定し,原則として,当該荷主との間で貨物の取引量が最も多い者を交渉担当会社とすること,それぞれの荷主に対する対応については当該荷主と取引のある事業者の間で協議することなどを提案し,その具体案が決定された。また,近鉄の辻本は,13社の間で荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求し収受するに当たって足の引っ張り合いはないと発言した。(査共87ないし93,211)
ナ 平成17年9月8日,近鉄の佐伯は,17.8役員会における検討を踏まえて,近鉄,郵船,日本通運,阪急交通社の各担当者に対し,対象荷主及び交渉担当会社,交渉の実施方法等について,電子メールで連絡した。(査共94,210ないし213)
二 平成17年12月12日,17.12役員会が開催され,13社が出席し,原告からは荒巻が出席した。出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率及び未収受額,支払拒否荷主の名称と当該荷主との間の交渉状況や交渉結果を発表した。(査共44,163,164,168,170,172ないし180)
ヌ 平成18年9月19日,国際部会役員会が開催され,13社が出席し,原告からは赤岡が出席した。辻本に代わって国際部会長に就任していた近鉄の田中の議事進行の下,航空会社の燃油サーチャージの新たな設定等(全日本空輸株式会社は平成18年9月16日から,日本貨物航空株式会社は同年10月16日から,いずれも燃油サーチャージを1キログラム当たり60円にし,日本航空は同日から目的地ごとに燃油サーチャージの金額を設定する距離制を採用することとなっていた。)についての各社の意見交換がされ,さらに,各社の荷主向け燃油サーチャージの収受率が発表された。近鉄の田中は,日本航空が距離制を導入すれば,燃油サーチャージの額が目的地によっては他の航空会社を利用する場合よりも安くなることから,これを営業のツールつまり競争の手段として使用しないことを提案したところ,これに反対意見を述べた者はいなかった。(査共95ないし100)
ネ 平成19年7月17日,国際部会役員会が開催され,13社のうち日本通運を除く各社が出席し,原告からは荒巻が出席した。近鉄の田中の議事進行の下,出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの平成19年5月及び同年6月の収受率及び未収受額を発表した。出席者は,航空会社の新たな値上げ(日本航空は平成19年8月1日から燃油サーチャージを値上げし,他の航空会社もこれに追随することが見込まれた。)に対し,再度荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを全額請求することを確認した。阪急交通社の担当者が,荷主向け燃油サーチャージを全額収受できない理由の1つとして,13社のうち同一の荷主と取引している者が複数いることを指摘し,これを受けて,近鉄の田中は,次回の国際部会役員会において,支払拒否荷主の具体的な名称を挙げてその対応策を検討することを提案したところ,これに反対意見を述べた者はいなかった。(査共62,101ないし106)
ノ 平成19年9月18日,国際部会役員会が開催され,13社のうちバンテック及びヤマトを除く各社が出席し,原告からは荒巻が出席した。近鉄の田中の議事進行の下,出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率及び未収受額を発表し,その後,荷主向け燃油サーチャージ収受の方策について意見交換をし,日本通運の担当者が,かつて実施した対象荷主を選定し交渉担当会社を決めて交渉する方法により一定の成果が上がったことから再び同様の方法を実施してみてはどうかと提案し,これを受けて,近鉄の田中は,次回の国際部会役員会において,各社の荷主向け燃油サーチャージの収受状況を具体的な荷主名を挙げて発表することを提案したところ,これに反対意見を述べた者はいなかった。(査共44,106ないし111)
(2) 前記(1)の事実によれば,平成13年に我が国の航空会社が燃油サーチャージを設定してこれを本件事業者に請求し,本件事業者も国際部会役員会においてこれを荷主に転嫁するための対策を話し合ったが,結果として14社が一致して協調行動を取ることができず,業界としては荷主向け燃油サーチャージの収受に成功しなかったこと,平成14年の燃油サーチャージの再設定(本件再設定)に際しては,前年度の経験を踏まえて,14社のうち日本通運及びDHLを除く12社が出席した14.9役員会において,各社足並みをそろえて荷主に対して荷主向け燃油サーチャージ全額を請求すること及び荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として用いないことが提案され,出席した各社がこれに反対しなかったこと,日本通運及びDHLが出席した14.11理事会において,14.9役員会の内容が報告され,日本通運及びDHLからの出席者がこれに反対しなかったこと,燃油サーチャージが再設定された平成14年10月16日から14社のうちDHLを除く各社がいずれも荷主に対し荷主向け燃油サーチャージの請求を始め,その請求内容も同じであり,DHLも同年12月16日から同内容の荷主向け燃油サーチャージの請求を始めたこと,平成14年11月から平成19年11月までの間に度々開催された国際部会役員会等において,14社等が荷主向け燃油サーチャージの収受状況等について情報交換をし,繰り返し14社が協調行動を取り燃油サーチャージを競争の手段として用いないことを確認し,荷主ごとに14社の中から交渉担当会社及び交渉に同行する航空会社を決めるなど荷主から荷主向け燃油サーチャージを収受するための方策等を検討し決定してきたことが認められるのであって,これによれば,14.9役員会において,原告を含む12社の間で,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立し,日本通運及びDHLが遅くとも14.11理事会までに本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したとする本件各審決の認定判断は合理的である。
2 事実関係その2―本件AMSチャージ合意について
(1) 本件各審決に挙示された証拠から本件各審決挙示の次のような事実を認定することは合理的である。
ア アメリカ合衆国税関当局は,航空貨物情報事前申告制度の実施を決定し同制度は平成16年8月13日以降段階的に実施され,同年12月13日以降は,アメリカ合衆国内に所在する全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に実施されることとなったところ,これに先立つ平成15年,協会は,航空貨物情報事前申告制度の実情の問題点や対応策を検討するため,同年9月18日に開催された理事会において,国際部会運送委員会及び国際宅配便部会運送委員会の合同によるAMSチャージに関するワーキンググループ(ワーキンググループ)を設置し,13社のうち西鉄,バンテック,近鉄,日本通運,郵船,阪急交通社及び日新の7社を含む11社がワーキンググループの委員会社となり,近鉄が委員長会社となった,ワーキンググループの会合には,委員会社の実務担当者及び情報処理システム関係者が出席し,航空貨物情報事前申告制度の内容の確認,実務上の問題点や対応策等の検討が重ねられた。(査共112ないし122)
イ 平成16年8月13日以降,航空会社は,航空貨物事前申告制度に対応するため,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビル情報について,当該事業者から提供を受け,これをAMSを通じて電子的に送信する方法によりアメリカ合衆国税関当局に申告することとし,これに先立つ同年7月12日,日本航空の総販売代理店である株式会社ジャルカーゴセールス(以下「ジャルカーゴ」という。)の担当者は,近鉄の佐伯らに対し,上記の申告に係る手数料であるハウスエアウェイビル情報送信手数料をジャルカーゴが本件事業者に対して請求する旨を説明した。(査共113の1及び2,114,117ないし119,124)
ウ 13社は,航空貨物情報事前申告制度への対応に伴い発生する費用(アメリカ合衆国税関当局が要求するハウスエアウェイビル情報を提供できるよう自社の既設の航空貨物情報処理システムを改良するための費用,ハウスエアウェイビル情報の自社の航空貨物情報処理システムヘの入力作業に伴う費用,航空会社等に支払うハウスエアウェイビル情報送信手数料等)の全部又は一部を荷主に負担してもらうことを検討し,平成16年9月21日,国際部会役員会(以下「16.9役員会」という。)が開催され,13社のうちヤマトを除く各社が出席し,近鉄の辻本の議事進行の下,AMSチャージの荷主への請求に係る方針につき各社の方針が説明されたが,請求額が各社まちまちであり,荷主に請求する金額が定まっていない会社もあったことから,引き続き各社で検討し,国際部会役員会でも検討を続けることとなった。(査共114,116ないし122,125ないし129)
エ 平成16年10月26日,郵船の営業総括部営業企画課に所属する曽根広則と近鉄の佐伯は,電子メールで,AMSチャージを荷主に請求し収受するための施策について意見交換等をし,16.11役員会に先立ってワーキンググループの会合を開催しそこで13社が足並みをそろえてAMチャージを請求することやその金額等の方向性を出し,それを踏まえて16.11役員会で決定するという段取りにすること,各社の暗黙の了解として共同歩調を取ることを確認することが重要であること,荷主に請求するAMSチャージの金額に幅を持たせる場合には下限に落ち着くことが容易に想像できるため下限だけは設定すべきことなどを確認した。(査共114,119,130)
オ 平成16年11月12日,ワーキンググループの会合(以下「16.11ワーキンググループ会合」という。)が開催され,委員会社11社のちティエヌティエクスプレス株式会社を除く各社が出席し,協議の結果,AMSチャージの請求対象貨物をアメリカ合衆国及び同国を経由し第三国を仕向地とする貨物とすること,請求金額を1ハウスエアウェイビル当1り最低1000円とすること,請求開始時期を平成17年1月1日をすることを16.11役員会に提案することを決めた。(査共114,117,120,121,131ないし134)
カ 16.11役員会に先立って,近鉄の佐伯は16.11ワーキンググループ会合の協議結果を取りまとめた役員会用の説明資料(査共135)を作成し,近鉄の辻本に提出したところ,同資料には,上記会合での各社の意見が表になってまとめられているほか,請求金額については下限の設定が必要であること及び各社が値引きをサービスの対象としないことの記載があり,また,問題点として会員への周知徹底をどのように図るかなどの記載があるほか,末尾には「公取への配慮からレターは出せない,電話による対応か」との記載もあった。(査共134,135)
キ 平成16年11月,16.11役員会が開催され,13社が出席し,原告からは荒巻が出席した。議事進行役の近鉄の辻本が,16.11ワーキンググループ委員会社である11社のうち国際部会所属の7社が発表した意見を取りまとめた結果を報告し,続いて,各社の担当者が荷主に対するAMSチャージの請求額や請求開始時期についての各社の考えを述べ,原告の荒巻は,何らかの費用は荷主から収受したいが,未だ社内で議論を終えておらず,役員会で出た方針に従いたい旨を述べた。その後,荷主に請求する額について挙手による採決がされ,ハウスエアウェイビル1件当たり1000円とする者が多数を占めたが,近鉄の辻本が,荷主向け燃油サーチャージを収受する必要もありその金額との調整も考慮して,AMSチャージについてはハウスエアウェイビル1件当たり最低500円を請求めることを提案し,出席者の賛同を得た。また,近鉄の辻本は,AMSチャージの請求対象貨物をアメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物とすること,請求開始時期を平成17年1月1日とすることを提案したところ,原告の荒巻は,航空会社からハウスエアウェイビル情報送信手数料を平成16年12月13日から請求されるのにあえて荷主への請求時期を遅らせる必要はない旨を述べ,請求開始時期を平成16年12月13日とすることを提案し,最終的に,請求開始時期を同日とするか遅くとも平成17年1月1日とすることで出席者の賛同が得られた。最後に,近鉄の辻本は,AMSチャージを荷主に請求し収受することを絶対に守ることとし,これを請求しない又は値引きすることにより荷主と新たに取引を開始したり既存の貨物取扱量を増やしたりする手段として使用しないことを提案し,これに反対意見を述べた者はいなかった(以上の合意が本件AMSチャージ合意に当たる。)。(査共114,116,118,120,122,132,134,136ないし146)
ク 平成16年12月13日又は平成17年1月1日,13社は,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及びアメリカ合衆国を経由してカナダ及び中南アメリカを仕向地とする貨物に係るAMSチャージ相当額として,1エアウェイビル当たり500円又は1000円の荷主への請求を始めた。(査共71,116,147ないし150)
ケ 平成17年1月28日,17.1役員会が開催され,13社が出席し,原告からは荒巻が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は,自社の荷主に対するAMSチャージの請求額,収受率,AMSチャージを支払わない荷主の名称等を発表し,最後に,近鉄の辻本は,荷主からAMSチャージを全額収受できるよう努力する必要があること等を確認した。(査共114,118,134,151ないし154)
コ 平成17年4月18日,17.4役員会が開催され,13社が出席し,原告からは松倉が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は自社のAMSチャージの荷主に対する請求額及び収受率を発表し,最後に,近鉄の辻本は,AMSチャージを全額請求し,これを請求しない又は値引きすることにより荷主と新たに取引を開始したり既存の貨物取扱量を増やしたりする手段として使用しないことを確認し,これに反対意見を述べた者はいなかった。(査共122,155ないし158)
(2) 前記(1)の事実によれば,平成16年からの航空貨物情報事前申告制度の導入により,本件事業者は,航空会社等から請求されることとなるハウスエアウェイビル情報送信手数料その他の費用を負担することになり,13社はこれを荷主に転嫁できないか検討し,協会が平成15年にワーキンググループを設置してその会合や国際部会役員会で航空貨物情報事前申告制度の対応策等を話し合ったこと,16.9役員会においてはAMSチャージについての各社の対応は一致していなかったが,その後,16.11ワーキンググループ会合及びこれを受けた16.11役員会において,請求対象貨物,請求金額及び請求開始時期について意見が一致し,16.11役員会の最後にAMSチャージを競争の手段としないことが提案され,これに反対意見を述べた者がいなかったこと,その後13社は16.11役員会の決定内容とほぼ一致する請求対象物,請求金額,請求開始時期をもって荷主に対してAMSチャージの請求を始めたことが認められるのであって,これによれば,16.11役員会において,原告を含む13社の間で,本件AMSチャージ合意が成立したとする本件各審決の認定判断は合理的である。
3 事実関係その3―本件セキュリティーチャージ等合意について
(1) 本件各審決に挙示された証拠から本件各審決挙示の次のような事実を認定することは合理的である。
ア  国土交通省は,平成16年12月27日付けで新航空保安対策基準を発出するとともに,RA制度を導入し,これらの措置は,平成17年10月1日から試行的に実施され,平成18年4月1日から本格的に実施されたところ,国土交通省は,13社に対し,平成18年3月31日までに,RA制度における特定事業者の認定をした。13社は,それぞれ,自社の倉庫の施設が上記の基準を満たすよう保安対策措置など必要な措置を講じたり,必要に応じてX線検査装置又は爆発物探知装置を購入の上配備し又は他社に爆発物検査を委託したりなどしたことから,新たな費用を負担し,また,保安措置を維持し爆発物検査を行うために,今後も費用を負担し続けることになったため,このような費用の全部又は一部を荷主に請求して収受することを検討するようになり,平成17年11月25日,13社のうち原告及び日新を除く各社の実務担当者が出席して新保安措置に関するSC連絡会議(以下「17.11連絡会議」という。)が開催され,出席者は,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料(セキュリティーチャージ等)の請求内容や請求開始時期について検討した。(査共159ないし165,166ないし168)
イ 原告における当時の成田ロジスティックスセンター輸出混載課長兼輸出業務課長兼東京営業本部仕入課長であった井坂は,17.11連絡会議に欠席したが,協会の事務局に対し電子メールで欠席の連絡をした際に,当該メールに,X線検査装置又は爆発物探知装置を設置するまでは開披検査を実施することとし,その料金設定を最低2000円,1個当たり500円とし,爆発物検査料も同様に設定する方針であること,業界での統一料金が設定された場合にはその料金を荷主に請求するとの原告の方針を記載した。(査共165,168,170)
ウ 協会のC事務局次長(以下「C次長」という。)は,近鉄の佐伯の依頼を受けて,13社に対し,17.12役員会において,13社各社から,セキュリティーチャージ等について荷主に対する対応方針,検討状況,請求する対象貨物又は対象荷主,新航空貨物保安措置に関して各社が検討している具体的内容,請求開始日等を発表してもらう旨を電子メールで連絡した。(査共第168号証,第171号証)
エ 平成17年12月12日,17.12役員会が開催され,13社が出席し,原告からは荒巻が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は,自社の新航空貨物保安措置に対する対応方針や検討状況について発表し,原告の荒巻は,開披手数料として最低2000円,1個当たり500円としていることからこれをそのまま爆発物検査料とする案もあるものの社内で洋細な検討はしておらず,業界での統一料金が出ればそれに従うと述べた。各社においてはいまだ対応方針が決まっていなかったり請求方法や請求額もまちまちであったことから,近鉄の辻本は,13社に対する原価等についてアンケート調査を実施することを提案し,その結果を踏まえて平成18年2月に国際部会役員会を開催してセキュリティーチャージ等の請求方法や請求額を検討することとした。(査共44,163,164,168,170ないし180)
オ C次長は,上記ウの結果を踏まえて,平成17年12月19日付けで,13社に対し,アンケート調査票を電子メールで送付し,13社は,それぞれ,協会の事務局に対し,自社のセキュリティーチャージ等の収受状況や検討している内容を回答したところ,原告の回答内容は,セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり500円,爆発物検査料として貨物1個当たり1000円(上限1万円)を請求するというものであった。(査共163,164,168,169,181ないし186,審D12)
カ 平成18年2月20日,18.2役員会が開催され,13社が出席し,原告からは荒巻が出席した。近鉄の辻本の議事進行の下,出席者は自社の新航空貨物保安措置に対する対応方針を発表し,原告は,セキュリティーチャージについてはハウスエアウェイビル1件当たり500円を請求し,爆発物検査料については1個当たり1000円を上限額1万円で請求する旨発表した。その後,セキュリティーチャージ等の請求額について挙手による多数決をし,その結果を踏まえて,近鉄の辻本が,13社としては,AMSチャージ等とは別建てにしてセキュリティーチャージを請求すること,セキュリティーチャージについては全ての荷主に対してハウスエアウェイビル1件当たり最低300円を請求すること,爆発物検査料についてはハウスエアウェイビル1件当たり最低1500円を請求すること,請求開始時期はともに平成18年4月1日とすることを提案し,これに反対意見を述べた者はいなかった(以上の合意が本件セキュリティーチャージ等合意に当たる。)。(査共146,163ないし165,168,169,179,187ないし195,199)
キ 平成18年4月から8月にかけて,13社は,荷主に対するセキュリティーチャージの請求を開始し,その請求額はいずれもハウスエアウェイビル1件当たり300円以上であった。また,平成18年4月又は5月,13社は,荷主に対する爆発物検査料の請求を開始した。(査共62,95ないし106)
(2) 前記(1)の事実によれば,平成18年から本格的に実施される新航空貨物保安措置の導入に伴って,本件事業者は,保安対策措置などの必要な措置を講じる等により新たな費用を負担することになり,13社はこれを荷主に転嫁できないか検討し,17.11連絡会議が開催され,これに出席した13社の担当者らが,セキュリティーチャージ等を荷主に対して請求することを前提に,請求対象貨物の範囲,請求内容や請求開始時期等について意見交換をしたこと,当初は13社の対応方針は必ずしも一致していなかったものの,その後,国際部会役員会における議論や協会によるアンケート調査を経て,13社の意見が徐々に集約され,18.2役員会において,請求対象貨物,請求金額及び請求開始時期について意見が一致し,その後13社は18.2役員会の決定内容とほぼ一致する請求対象物,請求金額,請求開始時期をもって荷主に対してセキュリティーチャージ等の請求を始めたことが認められるのであって,これによれば,18.2役員会において,原告を含む13社の間で,本件セキュリティーチャージ等合意が成立したとする本件各審決の認定判断は合理的である。
4 争点1(原告が他の11社と本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠があるかについて
(1) 前記1でみたとおり,本件各審決が挙示する証拠及びこれらの証拠から認定することが合理的であるといえる本件各審決の認定に係る事実経過から考えれば,14.9役員会において,原告を含む12社の間で,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したとする本件各審決の認定判断は合理的であって,本件各審決の当該認定を立証する実質的な証拠があるといえる。
(2) 原告は,本件各審決が,14.9役員会において本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したと認定したことについて,本件各審決が挙示する証拠(査共50ないし52,61,62,いずれも関係者の審査官に対する供述調書)は,供述者の本件審判手続における参考人審尋によれば,いずれも,供述者が記憶に基づいて供述した内容を録取したものではなく,審査官の誘導等によって作成されたものであることが認められるから,信用性がなく,したがって,本件各審決の上記認定はこれを立証する実質的証拠がないと主張する。
しかし,前記1でみたとおり,本件各審決が合理的に認定する本件の事実経過から考えれば,14.9役員会で本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したことが十分に推認できるのであって,このような推認に整合する上記の各供述調書は十分信用できるものと考えられる。
個別にみても,査共第50号証(益子の供述調書)は,益子が14.9役員会に出席した際にその場でダイアリーに会合の内容をメモしたものである益子メモ(査共58添付のメモ)を基に記憶を喚起して供述したものであって,その信用性は十分に認められる。なお,原告は,益子メモには14.9役員会に出席した各社の社名が記載されているものの,出席していなかった日本航空のB取締役の記載もあり,同メモは出席者そうでない者を正確に区別して記載していなかったと考えられること,益子は14.9役員会が2回目の国際部会役員会の出席であり出席者を判別することができたとは考え難いことから,益子メモは信用できないと主張する。しかし,益子メモにある「JL/B取締役説明」という記載は,益子の供述(査共50)に,よれば,14.9役員会の冒頭において,近鉄出身の国際部会部会長(辻本)が,日本航空のB取締役から説明を受けていた内容として日本航空が平成14年10月16日からの導入を予定している燃油特別付加運賃の制度の概要について報告したことをメモしたものであるというのであり,また,益子が14.9役員会に出席した各社の担当者の顔を判別できなかったとしても益子の供述(査共50)によれば,14.9役員会では各社の担当者が座っていた順番に自社の対応について発表したというのであり,その発言を順にメモしていけば担当者の顔が判別できなくても益子メモのように出席各社の社名をメモすることは十分に可能であると考えられるから,原告の上記主張は採用できない。なお,益子は,参考人審尋において,14.9役員会においては各社がそれぞれ発表をしたこと以外については記憶がない旨を供述しているが,益子メモには「協調(競合会社)」などの記載があり,査共第50号証では,このような記載を受けて,14.9役員会では前記1(1)ケで認定したように近鉄の辻本が議論を総括した旨を供述しているのであって,上記の参考人審尋の結果によっては査共第50号証の信用性は左右されない。
査共第51号証(佐伯の供述調書)中にも,前記1(1)ケの認定に整合する供述内容があるところ,これは,近鉄の辻本の報告用に佐伯が取りまとめたメモ(査共51添付の報告書等)における14.9役員会の協議結果に基づく供述であり,その信用性は十分認められるのであって,14.9役員会について近鉄の辻本の冒頭の発言以外は記憶がないとする参考人審尋における佐伯の供述によっては査共第51号証の信用性は左右されない。
査共第52号証(辻本の供述調書)中にも,前記1(1)ケの認定に整合する供述内容があるところ,これも,上記の佐伯の作成したメモ及び佐伯の供述と整合するものであり,その信用性は十分に認められるのであって,参考人審尋における辻本の供述中にも,査共第52号証の信用性を疑わせる部分はない。
査共第61号証(山本の供述調書)中にも,前記1(1)ケの認定に整合する供述内容があるところ,これは,山本が14.9役員会に出席した際にその場でノートに会合の内容をメモしたものである山本メモ(査共60添付のメモ)を基に記憶を喚起して供述したものであり,その信用性は十分に認められるのであって,14.9役員会についての具体的な記憶はないとする参考人審尋における山本の供述によっては査共第61号証の信用性は左右されない。
査共第62号証(A供述調書)中には,14.9役員会に先立ち開催された14.9理事会の内容についての供述があるところ,これは,Aが作成した同号証添付の14.9理事会の議事録(査共57)を基に記憶を喚起して供述したものであり,また,A自身は14.9役員会には欠席したが,同人作成の査共第62号証添付の14.11理事会の議事録中の国際部会の報告として各社の方針を互いに認識したとの記載を基に,14.9役員会の内容を供述しているのであり,これらの供述の信用性は十分認められるのであって,14.9役員会についての具体的な記憶がない旨の参考人審尋におけるAの供述によっては査共第62号証の信用性は左右されない。
(3) 原告は,本件各審決が,14.9役員会に原告の担当者が出席し,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わったと認定したことについて,これを立証する実質的な証拠はないと主張する。
しかし,益子が14.9役員会に出席した際に作成した益子メモには,14.9役員会の出席者として原告を指す「K-LINE」という記載があるところ,益子メモの信用性が認められることは前記(2)で説示したとおりであ
る。
また,14.9役員会の当日15時39分に原告の森が作成し送信した森メール(査共59添付のメール)には,各社とも航空会社がチャージするならそれを荷主に転嫁する以外ない旨の意見であったとの記載があるところ,査共第57号証(14.9理事会の議事録)によれば,14.9理事会では,日本航空が1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを導入する旨の説明があり,各社の協議は引き続き開催される14.9役員会で予定されているとの話がされたに止まっているのであり,そうすると,森メールの上記の記載は,14.9理事会の内容ではなく,14.9役員会の内容を踏まえたものであると認められる。この点,原告は,森メールの送信時刻が15時39分であることから,原告の担当者が14.9役員会に出席し,帰社した上でその内容を踏まえた森メールが作成されたとは考え難いと主張するが,査共第222号証(14.9役員会の開催案内)によれば,14.9役員会は14時から15時までの予定で開催されたことが認められ,開催場所から原告の本社まではタクシーで30分程度の距離であること(審D11)から考えれば,原告の担当者が14.9役員会から帰社してから森メールが作成されることは時間的に十分可能であったものと認められる。なお,森は,陳述書(審D11)において,森メールの上記の記載は14.9理事会を踏まえて作成したものであると陳述するが,これと整合する証拠はなく,採用できない。
したがって,これらの証拠により,本件各審決が,14.9役員会に原告の担当者が出席していた事実を認定することは合理的であり,当該認定について実質的な証拠があるといえる。
なお,原告は,本件各審決が14.9役員会における原告の出席者の氏名を特定しないで原告が本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したことを認定していることは許されないと主張するが,事業者における具体的な自然人としての行為者の氏名等が特定できなくても,当該事業者の意思を表明する者が不当な取引制限に該当する合意(意思の連絡)をすれば,当該事業者が不当な取引制限をしたものと解するのが相当であって,原告の上記主張は採用できない。
(4) 原告のその他の主張について
ア 原告は,国際部会役員会での情報交換の対象となった情報は,過去の燃油サーチャージの収受率など,既に公表されている情報であって,本件各審決が国際部会役員会において営業秘密に当たる情報の交換がされたと認定したことについて,このような認定事実を立証する実質的な証拠がないと主張する。しかし,前記1(1)でみたところによれば,14社が,国際部会役員会において,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率のみならず,自社の取引先の具体的な名称と交渉内容,交渉経過及び交渉結果等を発表し,これに基づき交渉担当会社等を決めるなど支払拒否荷主との交渉で実効性を上げるための方策を協議し,実践してきたとの認定は合理的であって,このような情報は,通常,競争関係にある事業者に対しては開示しないものであるということができるから,国際部会役員会で営業秘密に当たる情報交換がされていたとの本件各審決の認定は,これを立証する実質的な証拠があるといえるのであって,原告の上記主張は採用できない。
イ 原告は,本件各審決が,14.11理事会において,近鉄の辻本が,14.9役員会において,燃油サーチャージの再設定(本件再設定)が開始された場合には,国際部会役員会のメンバー各社が荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することになったことなどを報告したと認定するが,14.11理事会の議事録である査共第63号証には上記認定に係る記載はなく,上記認定事実を立証する実質的な証拠がないと主張する。しかし,査共第63号証には,14.11理事会における14.9役員会の結果の報告内容として,燃油サーチャージの導入については14.9役員会で協議する場を設け各社の方針を互いに認識した,今回の導入については前回の実施時よりも徴収率を上げる旨の意見が大半を占めた,という記載があり,これに前記1(1)でみた事実経過等を考え併せると,査共第63号証のこのような記載から本件各審決の上記のような認定をすることは合理的であるといえるから,上記認定事実には実質的な証拠があるといえるのであって,原告の上記主張は採用できない。
ウ 原告は,本件各審決が,査共第74号証の1,2(15.4役員会の議
事録)を挙示して,15.4役員会において,出席者の中には,荷主向け燃油サーチャージの収受率を引き上げるためには,14社が協力し合う必要があるとか,14社が足並みをそろえて荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求する必要があるなどとする意見を述べた者もあった,14社は,会合の最後に,利用する航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり18円値上げした場合,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージとして,その同額を請求し,全額を収受するようと交渉していくことを確認したと認定しているが,査共第74号証の1及び2にはこのような認定に係る記載はなく,このような認定には実質的な証拠がないと主張する。しかし,査共第74号証の2には,燃油サーチャージを1キログラム当たり6円値上げする点についての航空会社の説明内容が報告され,協会として顧問弁護士を持つこととし,その上で,各社が意見を述べたが,結論としては,荷主対策,航空会社対策の両面作戦で行かざるを得ない,本日の情報交換を参考に各社個別に対応することとする,協会としては頑強に支払を拒む顧客への対応として何ができるかを顧問弁護士に相談し,結果は分かり次第連絡するということになった,各社から出た主な意見としては,関西方面では横の連絡がうまくいっているので収受率が高く今後参考にしたいとの意見があった,との記載がある。そして,このような記載に,前記1(1)でみた事実経過を併せれば,14社としては1キログラム当たり18円げの値上げに際しても荷主との関係では引き続き協力し合って全額収受に努める旨の発言や確認がされたものと推認されるのであり,上記の査共74号証の1,2から,本件各審決が上記の事実を認定することは合理的であるといえるのであって,原告の上記主張は採用できない。
エ 原告は,本件各審決が,査共第75号証及び第76号証(いずれも16.3役員会の報告書)を挙示して,16.3役員会において,近鉄の佐伯及び協会事務局の担当者が,協会の顧問弁護士に確認した結果として,航空会社が13社に請求する燃油サーチャージの額については減額の交渉が可能である旨を報告し,この点については,荷主には知られないようにする必要がある旨述べて,出席した各社に注意を喚起したと認定していることについて,査共第75号証及び第76号証にはこのような認定に係る記載はなく,このような認定には実質的な証拠がないと主張する。しかし,査共第75号証には,協会の顧問弁護士に法的な面を確認した結果の報告として,「要は,航空会社とのネゴ可能ということであるが,このことは荷主に対しては要注意。」との記載があり,また,査共第76号証にも,事務局と近鉄の佐伯からの顧問弁護士に相談した結果の報告として,顧客から支払ってもらえない場合に航空会社に減額を交渉する方法もあり得る旨の記載があり,このような記載から本件各審決が上記のような事実を認定することは合理的であるといえるのであって,原告の上記主張は採用できない。
オ 原告は,本件各審決が,査共第25号証,第49号証ないし第52号証を挙示して,航空会社が平成13年5月16日以降に設定した燃油サーチャージについて,14社全体としては,荷主から燃油サーチャージに相当する金額を収受することはほとんどできなかったと認定していることについて,査共第50号証ないし第52号証は信用できず,その余の査共第25号証及び査共第49号証には平成13年の燃油サーチャージの収受状況についての記載はないから,上記の認定には実質的な証拠がないと主張する。しかし,査共第50号証ないし第52号証の信用性が認められることは前記(2)で説示したとおりであって,原告の上記主張は前提を欠く。
カ 原告は,本件各審決が,査共第219号証(郵船の社内の報告書)を挙示して,原告が日本通運及び郵船とともに荷主であるファナックに対して,荷主向け燃油サーチャージにつき共同して申入れをしたと認定していることについて,荒巻の陳述書(審D12)には,松倉に確認したところ,原告がファナックに共同で申入れをしたことはないとのことであったとの記載があることから,査共第219号証は信用できず,上記の認定には実質的な証拠がないと主張する。しかし,上記の記載は松倉からの伝聞にすぎず,松倉が荒巻に話した内容が査共第219号証の内容より信用できるとする根拠もないのであって,しかも,前記1(1)でみた事実経過によれば,14.9役員会以降,14社が担当交渉会社を決めて荷主との交渉に当たっていたというのであり,そうすると原告が他社と共同して荷主に対する申入れをしていたことは十分にあり得るものと考えられるから,審D第12号証によっては査共第219号証の信用性は左右されず,原告の上記主張は採用できない。
5 争点2(本件各審決が,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を裏付けるものとして挙げる事情は,同合意の成立を推認させるものか)について
(1) 原告は,本件事業者のうち本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加しなかった29社も,14社とほぼ同時期に同内容の荷主に対する請求を始めていると主張するが,29社においても,14社と同じく航空会社からの燃油サーチャージの請求に伴い,これを荷主に転嫁しようとして荷主への請求を開始したこと自体は何ら不自然なことではなく,29社は,14社のように請求することやその請求内容,荷主向け燃油サーチャージを競争の道具としないことなどの合意をしこれに基づいて請求をしたというわけではないというにすぎないのであって,29社の請求の事実があるとしても,そのことにより前記1で見た本件荷主向け燃油サーチャージ合意に係る本件各審決の事実認定が合理的でないとまでいうことはできず,また,14社が「他の事業者と共同して」価格の決定をしたものではないということもできない。
(2) また,原告は,14社の荷主に対する請求内容は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意がされたとされる14.9役員会よりも前に各社が国土交通省に届け出ていた請求内容と同じであるから,14.9役員会より後の14社の行動が一致しているからといって,これにより本件荷主向け燃油サーチャージ合意がされたことが推認されるわけではないと主張する。しかし,前記1(1)でみたところによれば,14社は,従前の個別の請求では荷主からの収受が困難であることにかんがみて,本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたというのであり,従前から国土交通省に請求内容を届け出たからといって,14社の間で意思疎通がないにもかかわらず,14社の行動が一致するとは考え難いのであって,原告の上記主張は採用できない。
(3) さらに,原告は,14.9役員会の後においても,荷主から荷主向け燃油サーチャージの一部しか収受できないこともあり,これは値引きによる競争が行われていたことを意味すると主張するが,14社が本件荷主向け燃油サーチャージ合意に基づき荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求しても,荷主によってはこれに強硬に抵抗したために,結果としてその一部しか収受できなかった場合があるというにすぎないのであって,原告の上記主張は失当である。
6 争点3(本件セキュリティーチャージ等合意のうち,原告による爆発物検査料の設定に関し,原告が18.2役員会において合意をしたことについて,これを立証する実質的な証拠はあるか,原告が他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって行ったことを示す特段の事情があるか)について
(1) 前記3でみたとおり,本件各審決が挙示する証拠及びこれらの証拠から認定することが合理的であるといえる本件各審決の認定に係る事実経過から考えれば,原告を含む13社の間で,爆発物検査料を含む本件セキュリティーチャージ等合意がされたとの本件各審決の認定判断は合理的であって,本件各審決の当該認定を立証する実質的な証拠があるといえる。併せて,次の(2)以下でみるとおり,原告が他の事業者の行動と無関係に独自の判断で爆発物検査料を設定したと認めることはできない。
(2) 原告の井坂が平成17年11月24日に「新保安措置に関するSC関連会議」の事務局あてに送信したメールには,「SECURITY SURCHARGEに関しては,弊社としては現在X―線,爆発物検査装置の導入はまだですが,導入までは別送品に関しては開披検査料金としてMIN¥2,000.―一個¥500―の検査料金を社内設定しております。爆破地(ママ)物検査料金としては同等の料金を考えておりました。業界での統一料金が設定されれば勿論統一料金を請求することにします。」との記載があり,井坂は,同日,国際部会役員会に出席していた荒巻に対し,上記のメールをそのまま転送し,協会には当該メールのとおり原告の料金設定(開披検査の場合)を連絡したことを伝えたことが認められ(査共170),また,井坂が平成18年7月24日に送信した社内メールには,本件セキュリティーチャージ等合意において爆発物検査料とともに合意の対象となったとされるセキュリティーチャージについて,「実質JAFA(協会)が決めた料金ですが,JAFAで決めたというと独禁法に触れるらしいのでお客さまへの説明ではJAFAで決めたといわないで下さい。」との記載があることが認められ(査共203添付のメール),これらの事実は,原告が本件セキュリティーチャージ等合意に基づき爆発物検査料を設定したことを推認させるものである。このような事実に,前記3(1)でみた事実経過,すなわち,荒巻が,国際部会役員会において,18.2役員会の前後を通じて役員会に出席して他社と情報交換や議論をし,17.12役員会において業界での統一料金が出ればそれに従う旨発言し,18.2役員会においてセキュリティーチャージ等の内容を決めるための挙手による多数決に参加したこと,原告主張の爆発物検査料の内容(最低料金2000円,1個当たり500円)が本件セキュリティーチャージ等合意における爆発物検査料に係る合意内容(ハウスエアウェイビル1件当たり最低1500円)と何ら矛盾しないことを併せ考えると,原告が本件セキュリティーチャージ等合意に基づき爆発物検査料を決定したとの本件各審決の認定は合理的であるといえる。
なお,原告は,上記のメールの送信等の経緯に係る井坂の供述調書(査共165)は,同人が被告による事情聴取を受けた際に社内報告用に作成した審D第13号証添付の事情聴取メモと矛盾するなどの理由で,信用できないと主張するが,事情聴取メモの記載と一致しない部分があるからといって,査共第165号証の信用性は左右されない。
(3) 原告は,爆発物検査料の決定権限を有していた井坂は,18.2役員会での本件セキュリティーチャージ等合意に係る爆発物検査料の額を知らされないまま,原告における爆発物検査料を決定し,一方,荒巻は,井坂に原告における爆発物検査料の金額を確認することなく,協会のアンケートに回答し,18.2役員会で多数決等に参加するなどし,その旨を原告の社内に報告したが,その内容が井坂に伝わらなかったとの事実が認められると主張するが,上記(2)でみたところに照らせば,井坂と荒巻が爆発物検査料に関する国際部会役員会のやりとりや原告での取扱いについて意思疎通していなかったとは考え難いのであって,原告の上記主張に係る事実を認めることはできない。
7 争点4(本件荷主向け燃油サーチャージ合意について,他の事業者の行動と無関係に独自の判断によって荷主に対する請求が行われたことを示す特段の事情があるか)について
(1) 前記1でみたところによれば,原告を含む14社は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意をし,これに基づいて荷主に対する荷主向け燃油サーチャージの請求をし,その後も引き続き14社は荷主向け燃油サーチャージの収受に向けて協調行動を取っていたというのであって,14社が独白の判断によって荷主に対する請求をしたことを示す特段の事情は認められない。
(2) 原告は,14社は荷主向け燃油サーチャージの請求を立替金の請求と考えていたから,14社間で何らの合意をするまでもなくその請求をする意思を有していたこと,請求内容については14.9役員会よりも前の時点で国土交通省に届け出られていたこと,14社と同じ時期に同じ内容の請求を始めた29社については何らの連携もなく請求を始めていること,14社としては燃油サーチャージを荷主に転嫁できなければこれがそのまま損失となって事業が遂行できなることから,荷主向け燃油サーチャージを値引きする自由を認識していなかったなどと主張し,14社が独自の判断によって荷主に対する請求をしたことを示す特段の事情があると主張する。しかし,前記1(1)でみたところによれば,14社は,いずれも,荷主向け燃油サーチャージを請求し収受する意向を有しながら,これを競争の手段として用いる事業者が出現することにより,業界として荷主向け燃油サーチャージを収受できなくなるおそれがあることを考えて,本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたというのであるから,立替金の請求であると認識していたとか,あらかじめ国土交通省に届け出ていた請求内容であったとか,値引きの自由を認識していなかったとかいった事情は,むしろ14社において相互に連携してでも荷主向け燃油サーチャージの収受を確実に達成する意向が強かったことをうかがわせるものであって,上記の特段の事情をうかがわせるものではないことは明らかである。また,29社が独自の判断により請求を始めたか否かにかかわらず,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立を妨げるものではないことは,前記5(1)で説示したとおりであって,このような事情によっては,14社が独自の判断で請求を始めたということはできない。
8 争点5(本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「対価」(独禁法2条6項)の決定に当たるか)について
(1) 前記第2の2の前提となる事実関係及び前記1(1)によれば,本件事業者は, 荷主から本件業務を委託され,その対価として運賃及び料金を請求し収受するのであって,粧向け燃油サーチャージは,この対価に含まれるものと解されるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が「対価」の決定に当たることは明らかである。
(2) 原告は,本件業務のうち荷主向け燃油サーチャージに対応する業務がないとか,同サーチャージは立替金の性質を有するなどと主張するが,上記(1)でみたとおり,荷主向け燃油サーチャージは一体としての本件業務の対価である運賃又は料金の一部であるといえるのであって,原告の上記主張は採用できない。
(3) また,原告は,航空会社がいつまで燃油サーチャージを請求するのか不明であり,その額の料金に占める割合も不明であって,実際にも荷主向け燃油サーチャージの額は本件業務全体の運賃及び料金の1割に満たなかったのであるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,市場における価格を支配し得る程度のカを形成するような対価を決定する合意であったということはできないと主張する。しかし,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の内容にもあるとおり,荷主向け燃油サーチャージの額は航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額とされていたのであって,その金額は確定されていないものの航空会社の請求内容に応じて容易に確定できる内容とされているのであり,また,本件業務の運賃及び料金の1割未満であっても,その部分の価格の合意が競争を制限すれば,これにより市場における本件運賃及び料金の価格に影響を与えるおそれがあるものといわざるを得ないのであって,原告の上記主張は採用できない。
9 争点6(本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「相互にその事業活動を拘束」(独禁法2条6項)するものか)について
(1) 前記1でみたところによれば,原告を含む12社(後日2社も参加)は,14.9役員会において,航空会社から請求される額に相当する額の荷主向け燃油サーチャージを荷主に対して請求すること,荷主向け燃油サーチャージを値引き等するなどしてこれを競争の手段として用いないことを合意し(本件荷主向け燃油サーチャージ合意),その後も引き続き荷主向け燃油サーチャージの収受に向けて協調行動を取っていたというのであるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が「相互にその事業活動を拘束」するものであることは明らかであり,原告が主張するような制裁措置等の合意実行のための具体的な措置がなければならないというわけではない。
(2) 原告は,14.9役員会において各社間に意思の連絡はなかった,国際部会役員会で交換された情報は営業秘密ではなく各社の事業活動に影響を与えなかったと主張するが,前記1(1)でみた事実経過及び前記4(4)アで説示したところに照らし,採用できない。
(3) また,原告は,14社と合意に参加していない29社との間で荷主向け燃油サーチャージの収受率に差異がなかったと主張するが,前記5(1)で説示したところに照らし,採用できない。
(4) さらに,原告は,大手3社の合意による本件荷主向け燃油サーチャージ合意の消滅(前記第2の3(1)オ)を合意に参加した他の会社が知らなかったにもかかわらず,合意の消滅の効果が生じているのであれば,そもそも合意に相互拘束性がなかったことになる旨主張する。しかし,本件各審決にあるとおり,大手3社は,14社において61.4パーセントないし64.9パーセントのシェアを占めるのであって,このような大手3社が本件荷主向け燃油サーチャージ合意の消滅を申し合わせれば,これを知らない他の会社が合意に基づいて行動をしても,大手3社が合意に基づく行動をしないことによって,合意の実効性が失われることになるのであり,そうであるからといってもともとの合意に相互拘束性がなかったということはできず,原告の上記主張は採用できない。
10 争点7(本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することと実質的証拠について)及び争点8(本件合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するか)について
(1) 査共第35号証(輸出に係る国際航空貨物の利用運送の貨物量の状況(年別・事業者別)と題する文書)に,より,前記第2の3(1)アでみたとおり,平成13年から平成20年までの我が国における本件業務の総貨物量に対して,14社(平成16年以降は13社)の貨物量の合計は,最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセントを占めていたとする本件各審決の認定は合理的である。
また,本件各審決は,本件審判手続において,審査官が本件違反行為の実行期間における13社全体での本件4料金割合を12.2パーセントと主張し,これを直接裏付ける証拠はないが,被審人らがこれを積極的に争っていないこと,審B第12号証によれば,上記期間における西鉄の本件4料金割合は約13パーセントであることが認められること(平成16年11月12日から平成17年4月15日までの間が約8.4パーセント,平成17年4月16日から平成18年1月3日までの間が約10.7パーセント,平成18年1月4日から平成19年11月11日までの間が約15.4パーセント,平成19年11月12日から平成20年4月15日までの間が約20.6パーセント),審D第10号証によれば,上記期間における原告の本件4料金割合も約13パーセントであることが認められることから(平成16年11月12日から平成17年4月15日までの間が約8.1パーセント,平成17年4月16日から平成18年1月3日までの間が約10.6パーセント,平成18年1月4日から平成19年11月11日までの間が約14.7パーセント,平成19年11月12日から平成20年4月15日までの間が約18.5パーセント),13社全体における本件4料金割合を12パーセント程度と推認しているところ,このような推認も合理的であるといえる。
そして,本件合意に参加した14社(13社)の本件事業における市場占有率が7割を超えていることや,本件合意の対象となった本件4料金の本件業務の運賃及び料金に占める割合が12パーセント程度に達していることを考え併せると,本件合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限する不当な取引制限に当たると認めるのが相当である。
(2) 原告は,本件4料金は本件の運賃及び料金の約8分の1にも満たず,本件4料金部分の競争が停止しても,残りの8分の7以上の部分において競争を行うことが可能であるから,本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないと主張し,併せて,この点について,本件各審決が,本件の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分について競争が存在していたことについての主張や具体的な証拠がなく,また,14社が仮に本件4料金以外の部分で自由な競争をしていたとすれば,本件4料金について不当な取引制限を行う必要がないはずであるのに,これを行ったことを根拠に,本件4料金以外の部分にも競争はなかったと認定したことについて,このような認定は,原告らの防御権を侵害する不意打ち的な認定であり,また,本件合意が不当な取引制限に当たるか否かを判断するための事実である本件4料金以外の部分の競争の有無を本件合意が不当な取引制限に当たるとの結論を先取りして判断するものであって,理性ある人が合理的に考えて行い得るものではなく,実質的な証拠はないと主張する。
しかし,前記1ないし3でみたところによれば,本件合意は,本件4料金についての競争を回避する趣旨の合意であるところ,本件の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分について競争がされていれば,全体の12パーセントを占めるに過ぎない本件4料金のみについて競争を回避するとの合意をしてみても,本件の運賃及び料金全体としては競争が回避されないことになるから,本件4料金のみについて競争を回避する合意をする動機に乏しいことになるといえなくはないのであって,このような観点からみれば,本件各審決の上記認定は合理性がないとまでいうことはできない。
一方で,仮に,本件の運賃及び料金のうち本件4料金以外の部分について競争がされていたとしても,本件合意により本件の運賃及び料金のうち12パーセント程度を占める本件4料金についての競争が回避される結果,本件合意がされない場合と比べて,本件の運賃及び料金についての競争が減殺する効果が生じることは否定できないのであって,本件4料金の本件の運賃及び料金に占める割合が12パーセント程度に達していることから考えて,上記の競争を減殺する効果は決して軽視できる程度のものではないと考えられる。もとより,本件合意により,本件の運賃及び料金全体について,上記の競争を減殺する効果を上回るような競争促進効果が生じるというのであれば,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないと評価することもあり得るところであって,原告も,本件合意のこのような競争促進効果を主張するものの,これを具体的に立証する証拠はない。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用できない。
(3) 原告は,本件においては荷主による競争圧力があるから,本件合意は本件業務の取引分野の競争を実質的に制限するものではないとし,併せて,この点についての本件各審決の荷主の競争圧力を否定する認定には実質的な証拠がないと主張する。しかし,荷主からの競争圧力があるため本件4料金を収受することが難しい状況にあるからこそ,14社は競争を回避してこれにより効果的に本件4料金の収受を実現すべく本件合意をしたとも考えられるし,また,本件4料金の収受が困難である荷主がいたとしても,そのことのみによって本件合意による14社全体の競争の制限効果が失われるとまでいうことはできないのであるから,荷主による競争圧力があるからといって,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないということはできないのであって,原告の上記主張は採用できない。
(4) 原告は,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するか否かについて,本件4料金ごとに個別に検討すべきであると主張する。しかし,本件4料金は,本件業務の対価である運賃及び料金の一部を構成するものであって,競争を実質的に制限するかについても,本件の運賃及び料金についての競争にその一部である本件4料金についての競争回避の合意がどのように影響するかという観点から検討すべきであって,原告の上記主張は採用できない。
(5) なお,原告は,本件の運賃及び料金以外の部分についても競争がなかったために本件合意により本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されるというのであれば,課徴金納付命令の算定の基礎となる売上額は本件4料金に係るものだけでなく本件の運賃及び料金全体に係る売上額となるはずであると主張するが,課徴金納付命令の算定の基礎となるべき「売上額」(独禁法7条の2第1項本文)は,違反行為の対象となった役務の対価に係る売上額すなわち本件4料金に係る売上額となることは明らかである。
11 争点9(本件排除措置命令の必要性について,これを立証する実質的な証拠があるか)及び争点10(本件排除措置命令について,裁量権の逸脱又は濫用があるか)について
(1) 査共第111号証,第231号証により,平成19年11月12日,当時の日本通運の代表取締役副社長であった中谷桂一,近鉄の田中,当時の郵船の代表取締役であった矢野俊一,当時の協会の理事長であった土橋正義及び当時の協会の事務局長であった髙橋武は,東京都港区に所在する日本通運の本社の会議室において,国際部会役員会の会合の在り方について話し合い,アメリカやヨーロッパにおいて本件事業者に対する独禁法違反の調査が及んでいるとの情報を得たこと等から,当面は同会合を開催しないことを申し合わせ,同日以降,国際部会役員会の会合は開催されていないと認定し,これにより本件合意は消滅したとする本件各審決の認定判断(前記第2の3(1)オ及び同(2)イ(イ))は合理的である。
(2) 独禁法7条2項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独禁法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められるものというべきであるところ(前記最高裁平成19年4月19日判決),前記1ないし3及び上記(1)でみたところにより,本件違反行為は平成14年9月18日の本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立した時から上記(1)の本件合意の消滅までの間の5年以上にわたっており,その間原告を含む14社(平成16年以降は13社)は度々国際部会役員会等を開催して互いに情報交換や意思の確認を繰り返し本件違反行為を継続していたこと,本件違反行為が消滅したのは大手3社の代表者等がアメリカやヨーロッパにおいて本件事業者に対する独禁法違反の調査が及んでいるとの情報を得たこと等から当面は国際部会役員会の会合を開催しないことを申し合わせたことによるものであり,自発的な意思に基づき終了させたものとはいえないこと,本件違反行為は各社の代表取締役を含む役員クラスの者が多く関与していたこと,本件違反行為の場として利用されていた国際部会役員会は平成19年11月12日以降開催されていないものの未だ存続はしていること(協会事務局長の髙橋武の供述調書である査共第231号証により,国際部会役員会自体は廃止されていないと認定する本件各審決の認定判断は合理的である。),本件事業者の業界においては本件事業者にとって需要者である荷主及び供給者である航空会社双方による競争圧力が大きく,一般的にみて違反行為を行いやすい環境にあるといえることなどから,「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するとした本件各審決における被告の判断について,合理性を欠くものであるということはできず,被告の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない。
  したがって,本件排除措置命令の必要性について実質的な証拠がない,あるいは本件排除措置命令には裁量権の逸脱又は濫用があるとの原告の主張は採用できない。
 12 争点11(本件合意(あるいは本件荷主向け燃油サーチャージ合意)は,本件業務の「対価」(独禁法7条の2第1項)に係るものに当たるか)について
  (1) 既に前記5で説示したとおり,本件事業者は,荷主から本件業務を委託され,その対価として運賃及び料金を請求し収受するのであって,荷主向け燃油サーチャージは,この対価に含まれるものと解されるから,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が「対価」の決定に当たることは明らかである。原告の主張は,本件荷主向け燃油サーチャージが立替金であるとの前提に立っており,失当である。
    また,前記第2の2でみたところによれば,荷主に対して請求するAMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料も,同じく本件業務の対価としての運賃及び料金に含まれるものであるから,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意のいずれも「対価」の決定に当たることは明らかである。
  (2) なお,原告は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加した14社と参加しなかった29社で荷主向け燃油サーチャージの収受状況は同じであったから,このうち14社に対してのみ課徴金を課すことは社会正義に反すると主張するが,14社は本件荷主向け燃油サーチャージ合意という独禁法違反の不当な取引制限をしたから課徴金を課されるのであって,原告の上記主張は失当である。
 13 争点12(本件業務は,「小売業」(独禁法7条の2第1項)に当たるか)について
  (1) 独禁法7条の2第1項は,小売業及び卸売業については課徴金の額の算定において軽減された算定率を用いることとされているところ,本件業務は,有償で航空会社の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送等の役務を荷主に提供するものであって,他から購入した商品を販売するという小売業に当たらないから,本件業務は「小売業」(独禁法7条の2第1項)に当たらない。
  (2) 原告は,本件業務の実態が小売業であるとか,原告における本件業務の営業利益率が法人統計上の卸売業・小売業に近似しているとして,本件業務が「小売業」(独禁法7条の2第1項)に当たると主張するが,上記(1)でみたとおり,本件業務が貨物の運送等という役務を提供するものであって,小売業に当たらないことは明らかであるから,原告の上記主張は採用できない。
 14 以上のとおりであるから,前記第2の3(1)の原告らが不当な取引制限に当たる本件合意をしたとの本件各審決の認定は,これを立証する実質的な証拠を具備し,合理的であるというべきであって,同(2)の法令の適用にも違法は認められない。
   よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

平成24年10月26日

裁判長裁判官 青柳馨
裁判官 生島弘康
裁判官 土田昭彦
裁判官 氏本厚司
裁判官 木山智之

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