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郵船ロジスティクス(株)による審決取消請求事件

独禁法3条後段,独禁法7条の2

平成23年(行ケ)第16号

判決

東京都港区芝公園二丁目11番1号
原告 郵船ロジスティクス株式会社
代表者代表取締役 倉木博光
訴訟代理人弁護士 阪田裕一
同 池山明義
同 伊藤弐
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
代表者委員長代理委員 濵田道代
指定代理人 中里浩
同 島崎伸夫
同 北脇俊之
同 藤原昌子
同 坪田法
同 小髙真侑
同 渡辺健一

主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が原告に対し公正取引委員会平成21年(判)第18号及び第22号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について平成23年7月6日付けでした各審決をいずれも取り消す。
第二 事案の概要
一1 被告は,原告が他の事業者と共同して,航空運送事業を営む者の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送業務(国際航空貨物利用運送業務。以下「本件業務」という。)の運賃及び料金(以下「運賃等」ともいう。)について,燃油サーチャージ(燃油価格が高騰している期間に限り本体の航空運賃とは別建てで顧客に負担を求める燃油価格相当の料金。以下「燃油SC」ともいう。後記5参照),一定額以上のAMSチャージ(後記6参照〉,セキュリティーチャージ(以下「セキュリティーC」ともいう。)及び爆発物検査料(後記7参照。これらの4料金を一括して,以下「本件4料金」ともいう。)について荷主に新たな負担を求める旨を合意する(以下「本件各合意」という。)ことにより,公共の利益に反して,我が国における本件業務の取引分野における競争を実質的に制限し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限を行い,同法3条に違反したとして,原告ほか11社に対し,同法7条2項に基づき,違反行為が排除されることを確保するために必要な措置を命じる(平成21年(描)第5号。以下「本件措置命令」という。)とともに,原告に対し,同条の2第1項に基づき,17億2828万円の課徴金の納付を命じた(平成21年(納)第7号。以下「本件納付命令」といい,本件措置命令と一括して「本件各命令」という。)。
2 原告は,①本件4料金について不当な取引制限に当たる本件各合意をした事実はない,②本件各合意は不当な取引制限に当たらない,③本件各合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではない,④原告の本件業務は小売業に当たるから課徴金の算定率を3%とするべきであるなどと主張し,本件各命令の取消を求めて,被告に対し審判を請求した(公正取引委員会平成21年(判)第18号,同第22号)ところ,被告は,審判手続を経た上,原告と他の事業者との間の本件各合意の成立を認めた上で,本件各合意が本件4料金についての「価格の決定カルテル」に当たり,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであり,原告の本件業務は小売業には当たらないから,原告の各審判請求には理由がないとして,これらをいずれも棄却するとの審決をした(以下「本件審決」という。)。
3 本件は,原告が,本件審決を不服として,被告に対し,その取消を求めた事案である。
二 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び被告が本件審決で証拠に基づき認定し,原告も実質的な証拠の欠缺を主張していない事実)
1 当事者(原告に関する事実は当事者間に争いがなく,その余の事実は,査共5ないし10,33,50により容易に認められるか,公知の事実である。)
(一) 原告(平成22年10月1日以前の旧商号は,「郵船航空サービス株式会社」である。),日本通運株式会社(以下「日通」という。),株式会社近鉄エクスプレス(以下「近鉄」という。),西日本鉄道株式会社(以下「西鉄」という。),株式会社日新(以下「日新」という。),株式会社バンティック(旧商号は,「東急エアカーゴ株式会社」,「バンテックワールドトランスポート株式会社」であるが,一連の商号変更の前後を通じて「バンテック」という。),ケイラインロジスティックス株式会社(旧商号は「川崎航空サービス株式会社」であるが,商号変更の前後を通じて,「ケイライン」という。),ヤマトグローバルロジスティクス株式会社(旧商号は「ヤマト・ユーピーエス・インターナショナル・エアカーゴ株式会社」,「ヤマトグローバルフレイト株式会社」,「ヤマトロジスティクス株式会社」であるが,一連の商号変更の前後を通じて「ヤマト」という。),商船三井ロジスティクス株式会社(以下「商船三井」という。),阪神工アカーゴ株式会社(以下「阪神エアカーゴ」という。〉及びユナイテッド航空貨物株式会社(以下「ユナイテッド」という。)の11社(以下「11社」という。)並びにDHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社(「ダンザス丸全株式会社」が「エクセルジャパン株式会社」から事業譲渡を受けて事業許可も承継し,現商号に変更したもの。以下「DHL」という。)は,貨物利用運送事業法(平成元年法律第82号)の規定に基づき国土交通大臣の行う登録又は許可を受けて,本件業務(国際航空貨物利用運送業務)を営む者である。
(二) 株式会社阪急阪神交通社ホールディングス(以下「阪急交通」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,本件業務を営んでいたところ,全額出資している株式会社阪急エクスプレス(以下「阪急エクスプレス」という。)に本件業務を承継させ,以後,本件業務を営んでいない。また,エアボーンエクスプレス株式会社(以下「エアボーン」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,本件事業を営んでいたが,その後,本件事業を廃止し,以後,本件業務を営んでいない。
(三) 11社,DHL,阪急交通及びエアボーン(以下「14社」という。)のうちユナイテッドは第一種貨物利用運送事業を,原告を含むその余の13社はいずれも第二種貨物利用運送事業を営んでいた。
2 国際航空貨物利用運送事業の概要等
(一) 貨物利用運送事業とは,他人の需要に応じ,有償で,利用運送を行う事業であり,第一種貨物利用運送事業と第二種貨物利用運送事業とがあるところ,これを営もうとする者は,貨物利用運送事業法の規定に基づき,第二種貨物利用運送事業については国土交通大臣の許可(20条)を,第一種貨物利用運送事業については国土交通大臣の登録(3条)を受ける必要がある。(争いがない)
(二) 国際航空貨物利用運送事業(以下「本件事業」という。)は,貨物利用運送事業のうち国際航空運送事業を営む者(以下「航空会社」という。)が我が国と外国との間で運航する航空機による航空運送(実運送)を利用して行う事業であり,本件事業に係る業務が前記本件業務である。
14社の本件業務に関する貨物量は,我が国の本件業務に関する総貨物量の大部分を占めており(平成13年から平成20年までの「我が国の本件業務における総貨物量」に対する「14社の貨物量」の占める割合は,最小で72.5%,最大で75.0%である。),また,そのうちの原告,日通及び近鉄の3社(以下「大手3社」という。)の本件業務に関する貨物量は,14社の本件業務に関する貨物量の大部分を占めていた(平成13年から平成20年までの「我が国における本件業務における14社(平成16年以降は,14社のうちエアボーンを除く13社。以下「13社」という。)の貨物量」に対する「大手3礼の貨物量」の占める割合は,最小で61.6%,最大で64.9%である。)。
(査共1,2,35,公知の事実)
3 14社の事業内容,運賃等
(一) 具体的な業務内容等(査共2ないし10)
(1) 本件事業を営む者(以下「本件事業者」という。)である14社が荷主(荷送人又は荷受人をいう。)に提供する本件業務の内容は,不特定多数の荷主との問で,輸出に係る貨物について利用運送契約を締結し,同一の仕向地(貨物の到着地をいう。)の貨物をまとめて「混載貨物」として仕立て,航空運送を利用して仕向地の空港まで運送するというものであり,14社は,概ね国内で荷送人からの集貨,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への引渡し,航空機への搭載を行い,その後,航空機による運送を経て外国(仕向地)の空港に到着後,航空機からの取り下ろし,混載貨物の仕分け,輸入通関手続,荷受人までの配達を行っている。(争いがない)
(2) (1)の「混載貨物」とは,利用運送約款に基づき,不特定多数の荷主から引き受けた貨物を同一の仕向地ごとの貨物に一括して仕立てた上で,自らが「荷送人」となって,航空運送を利用して運送する貨物をいう。混載貨物については,本件事業者と荷主との間では個々の貨物について利用運送契約が締結され,さらに,仕向地ごとに仕立てた混載貨物について本件事業者が自ら荷送人となる航空会社との間の実運送契約が締結されることになる。(争いがない)
(二) ハウスエアウェイビル及びマスターエアウェイビル(争いがない)
(1) 「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(ワルソー条約)は,航空機による貨物の有償国際運送については航空運送状が交付されるとしている(4条)。そして,同条約7条は,荷送人が航空運送状の原本3通を作成し,そのうちの第1の原本には「運送人用」と記載して荷送人が署名し,第2の原本には「荷受人用」と記載して荷送人及び運送人が署名し,第3の原本には運送人が署名して貨物を引き受けた後に荷送人に手交すると規定しているが,荷送人の要請がある場合には,運送人が作成することもできるとされている。
(2) 荷送人と運送人との間で利用運送契約を締結する場合に作成される航空運送状であるハウスエアウェイビル(以下「HAWB」という。)は,実際の取引においては運送人が荷送人に代わって作成・発行しており,14社の場合もいずれもHAWBを自社の名で作成・発行していた。
(3) また,本件事業者(運送人)と航空会社との間で実運送契約を締結する場合に作成される航空運送状であるマスターエアウェイビル(以下「MAWB」という。)は,本件事業者が作成・発行しており,14社の場合もいずれもMAWBを自社の名で作成・発行していた。
(三) 荷主に請求する運賃等(争いがない)
(1) 法令による規制の概要
ア 貨物利川運送事業法は,貨物運送取扱事業法が改正・改称されたものであり,平成15年4月1日から施行されているところ,貨物運送取扱事業法9条1項では,本件事業者に対し,運賃等を設定変更する場合には,あらかじめ運輸大臣(現国土交通大臣)に届け出ることを義務付けており(いわゆる「事前届出制」),また,同法64条2号では,同法9条1項の規定による届出をしないで運賃等を収受した者は罰金に処する旨を規定していた。
イ 貨物利用運送事業法には,運賃等の届出に係る規定はなく,貨物利用運送事業報告規則(平成2年運輸省令第32号)に基づき,14社は,原則として,本件業務の運賃等を設定変更したときに,国土交通大臣に対し「運賃及び料金設定(変更)届出書」を提出していた。
(2) 運賃等の内容
ア 14社は,荷主に請求する本件業務の運賃等を個々の作業に対応する形で定めており,その名称は異なるものの,主として航空運賃(以下「本体運賃」という。)のほか,本件4料金(荷主向け燃油SC(後記5参照),AMSチャージ(後記6参照),セキュリティーC及び爆発物検査料(後記7参照))などにより構成されていた。
イ 14社は,本体運賃を航空運賃の区分及び計算方法に準じて設定していたが,混載貨物から生ずる混載差益を利用して,同一の重量区分の場合には航空運賃より安く設定するのが原則的な取扱いであった。
ウ 航空会社は,路線及び重量区分ごとに定める賃率(貨物1kg当たりの運賃額)によって航空運賃を定めており,賃率に貨物の重量を乗じて航空運賃の額を算出していた。
この賃率は,一般に貨物の重量区分により異なり,重量の増加に比例して賃率が低くなる重量逓減制を採用していたが,一定額に満たない場合には,重量に関係なく定められる「最低料金」を航空運賃として適用していた。
賃率を適用する貨物の重量(賃率適用重量)には,実際の重量を基準とする「実重量」と,容積を基準とする「容積重量」とがあり,航空運賃の計算に当たっては,実重量と容積重量のいずれか大きい方の重量に賃率を適用することとされていた。
(3) 混載差益
混載差益には,重量逓減制により生じるものと,実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物とを組み合わせることにより生じるものがあり,14社も,不特定多数の荷主から運送を引き受けた比較的重量の小さい貨物について,この仕組みを利用して混載差益を得ていた。すなわち,14社は,荷主から高い賃率による本体運賃を収受する一方,航空会社に対しては安い賃率による航空運賃を支払うことにより,この差額を利益(混載差益)として取得していた。
(4) 荷主に請求する運賃等の計算方法
14社は,運送を引き受ける貨物について,荷主の求めに応じて,荷渡場所から荷受場所までの一貫した運送又はその一部の運送という業務を提供し,個々の作業の価額を合算した金額を業務の運賃等として荷主に請求していた。
4 社団法人航空貨物運送協会の国際部会役員会の概要等
(一) 社団法人航空貨物運送協会(以下「協会」という。)は,国土交通大臣の許可又は登録を受けた本件事業者等を正会員とする事業者団体であり,11社及びDHLはその正会員であり,阪急交通及びエアボーンは本件業務を営んでいた当時の正会員であった。(争いがない)
(二) 協会には,業務執行の意思決定機関として理事会があり,その下に,国際部会,国際宅配便部会,国内部会等が設置されていた。そして,各部会には役員会と称する組織が置かれていたが,協会の定款等には役員会に関する定めはなく,役員会は協会の公式の組織ではなかった。
国際部会は,主として国際航空貨物利用運送に関することを担当する部門であり,国際部会の役員会(以下「国際部会役員会」という。)は14社により構成されていた(ただし,エアボーンが本件業務を廃止したことにより,平成16年1月以降の構成員は13社となった。)。(争いがない)
(三)(1) 国際部会役員会は,従前は年に1,2回開催される程度であったが,燃油SCの問題が発生した平成13年度以降は,2,3か月に1回程度の割合で開催されるようになった。(争いがない)
(2) 国際部会役員会には,原則として構成員の役員クラスの者が出席しており,出席者は理事会のメンバーも少なくなかったことから,理事会の開催に引き続いて開催されることが多かったものの,実際には出席予定者が出席するとは限らず,出席予定者の指示を受けて代理の者が出席したり,一つの会社から複数の者が出席したりすることもあった。
(査共26ないし33)
(四)(1) 平成14年6月以降の国際部会の長である国際部会長には,近鉄の代表取締役であった辻本博圭(以下「辻本」という。)が就任し,また,平成18年6月以降には,近鉄の専務取締役であった田中洋一(以下「田中」という。)が就任しており,協会の会議室において開催されていた役員会では国際部会長が議事進行を主宰していた。(争いがない)
(2) 少なくとも,平成14年9月18日,平成16年11月22日及び平成18年2月20日には,国際部会役員会の会合が開催されており,いずれの会合においても,近鉄の辻本が議事進行役を務めた。(平成14年9月18日の国際部会役員会を除き,当事者間に争いがなく,同役員会の開催等について査共31,50ないし52,57ないし62及び弁論の全趣旨により認められる。)
5 燃油SC
(一) 燃油SCとは,航空燃油の価格高騰時に限り,その変動に合わせて設定し,航空運賃に付加して顧客に請求されるものであり,平成8年頃に航空燃油が高騰したことから,航空会社は,顧客に対して,燃油SC方式の導入を求めるようになった。(争いがない)
(二) 日本航空株式会社(以下「日航」という。)は,平成13年5月16日以降,我が国発の航空機に搭載される貨物について1kg当たり12円の燃油SCを設定して,14社に対してもその請求を始め,それ以外の航空会社もそれぞれ設定等の基準を定め,国土交通大臣の認可を得て,燃油SCを設定し,14社に対する請求を開始した。(争いがない)
(三) 燃油SCが設定された場合の14社に対する請求額は,航空会社が運送を引き受けた貨物の重量(賃率適用重量)に基づき,その時点で適用する燃油SCの料率(1kg当たりの額〉を乗じて算出されていたが,賃率による航空運賃が最低料金を満たさず,重量に関係のない最低料金が適期される場合には,14社には燃油SCを請求しない取扱いにすることが多かった。(争いがない)
(四) 14社は,航空会社からの燃油SCの請求が始まった場合には,これに相当する額を,荷主向け燃油SC(以下「本件燃油SC」ともいう。)として荷主に負担を求めることとし,貨物運送取扱事業法の規定に基づき,国土交通大臣に届け出ていた。
14社が届け出ていた本件燃油SCの内容は概ね同様であり,「利用する航空運送事業者が燃油SCを適用する場合には,賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額を本件燃油SCとする。なお,利用する航空運送事業者が燃油SCを適用しない場合,あるいは廃止した場合には,適用しない。」というものであった。
(原告に関する事実は当事者間に争いがなく,その余の事実は査共18ないし21,25,44,48,62及び弁論の全趣旨により認められる。)
(五) その後,燃油価格が下落して,燃油SCの廃止基準に達したことから,遅くとも平成14年1月1日までには,航空会社のほとんどが燃油SCを一旦廃止し,14社に対する請求も取り止めたのを受けて,14社も,荷主に対する本件燃油SCの請求を取り止めたが,その際,国土交通大臣に対する届出を取り下げる必要はなかったことから,この届出はそのままにされた。(原告に関する事実は当事者間に争いがなく,その余の事実は査共25,44,48ないし54,61,62及び弁論の全趣旨により認められる。)
(六)(1) 平成14年8月頃,燃油価格が再び上昇を始めたため,航空会社は,顧客に対して,燃油SCを設定して請求することになり,同年9月中旬頃,大手3社は,航空会社から,燃油価格の上昇が続いており,同年10月16日以降には燃油SCを設定する予定である旨の説明を受けた。(原告に関する事実は当事者間に争いがなく,その余の事実は査共25,48ないし52,62及び弁論の全趣旨により認められる。)
(2) そして,航空会社は,国土交通大臣の認可を受けて,同日以降に燃油SCを再設定して(以下「本件再設定」という。),本件事業者に対する燃油SCの請求を始めた。(争いがない)
(七) 平成17年9月,原告らは,航空会社から請求される燃油SCについて,航空会社に手数料の支払を求めることを検討していた。これに対し,日通は,本件燃油SCについては,本件事業者の独自の料金として国土交通大臣に届け出ており,航空会社に代わって収受しているものではなく,本件事業者が独自に荷主に請求し収受しているものである旨の意見を述べた。(査共217,弁論の全趣旨)
6 AMSチャージ
(一) アメリカ合衆国の国土安全保障省税関・国境警備局(以下「アメリカ税関当局」という。)は,平成16年8月13日以降,航空運送に関する保安対策の一環として,国外の空港から国内の空港に着陸する航空機に搭載された貨物についての情報を,航空会社からオートメイテッド・マニフェスト・システムと称する通関システム(以下「AMS」という。)を通じて電子的に送信する方法により事前に申告させる制度(以下「AMS制度」という。)を段階的に実施し,同年12月13日以降は,国内の全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象として実施することとした。(争いがない)
(二)(1) 航空会社は,この制度に対応するため,平成16年8月13日以降,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るHAWB(ハウスエアウェイビル)に記載された情報(以下「HAWB情報」という。)の提供を受けて,AMSによりアメリカ税関当局に申告することとした。(争いがない)
(2) 航空会社は,同日以降,本件事業者に対し,一定の額のHAWB情報の送信手数料(AMSを通じてHAWB情報を電子的に送信するための手数料)を請求することとし,同年7月中旬頃,近鉄にその旨の説明をした。(査共113ないし117,119ないし122)
(三) AMS制度の導入に伴う新たな費用が本件事業者に発生することになったことから,協会では,国際部会と国際宅配便部会が合同でAMS制度についての対応策等を検討するとともに,各事業者においても,費用の負担を荷主に求める方策について検討した(AMS制度の実施によって本件事業者に生ずる費用を,以下「AMSチャージ」という。)。(争いがない)
7 セキュリティーC及び爆発物検査料
(一) 国土交通省は,航空運送に関する保安対策の一環として,平成16年12月27日付けの航空保安対策基準(以下「保安対策基準」という。)を定めて,本件事業者に対し,原則として全ての貨物について爆発物検査の実施を義務付けるとともに,ノウンシッバー・レギュレーテッドエージェント制度(以下「RA制度」という。)を導入し,適切な保安措置を講じていると認められる特定航空貨物利用運送事業者(レギュレーテッドエージェント。以下「特定事業者」という。)と取引を行っている荷主が,貨物の安全を確保する体制を講じており,特定事業者がその安全性を確認した場合には,この荷主を特定荷主(ノウンシッパー)として取り扱い,原則として爆発物検査を免除することとした。そして,これらの措置は,平成17年10月1日から試行的に実施され,平成18年4月1日からは本格的に実施された。(争いがない)
(二) 13社は,平成18年3月31日までに特定事業者としての認定を受けるとともに,爆発物検査の必要な貨物については,自ら又は他の事業者に委託して検査を実施する体制を整備したものの,このような体制の維持及び検査の実施に伴う新たな費用負担が生ずることとなった。(争いがない)
8 本件各命令の発令等(原告に関する事実は当事者間に争いがなく,その余の事実は弁論の全趣旨により認められる。)
(一) 本件措置命令
(1) 被告は,平成21年3月18日,11社及び阪急交通に対して,排除措置を命じた(本件措置命令)ところ,このうち,日通,近鉄,日新,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド及び阪急交通の8社は,審判を請求せず,本件措置命令が確定した。
(2) 本件措置命令(主文)のうち原告に関する主要な部分の内容は,以下のとおりであった。
ア 原告は,次の(ア)及び(イ)の事項を,取締役会において決議しなければならない。
(ア) 本件業務の運賃等について,14社が平成14年9月18日に共同して行った荷主向け燃油SCを荷主に対して新たに請求する旨の本件燃油SC合意(日通及びDHLについては遅くとも同年11月8日までに加わったもの。),13社が平成16年11月22日に共同して行った一定額以上のAMSチャージを荷主に対して新たに請求する旨の本件AMSチャージ合意,11社,DHL及び阪急交通が平成18年2月20日に共同して行った一定額以上のセキュリティーC及び爆発物検査料を荷主に対して新たに請求する旨の本件セキュリティーC等合意(本件燃油SC合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意が「本件各合意」である。)が消滅している旨を確認すること
(イ) 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,本件業務の運賃等を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決めること
イ 11社はそれぞれ,前項に基づいて採った措置について,自社を除く10社及び阪急エクスプレスに通知するとともに,荷主に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知,周知,周知徹底及び指導の方法については,あらかじめ被告の承認を受けなければならない。
ウ 11社はそれぞれ,今後,相互の問において,又は他の事業者と共同して,本件業務の運賃等を決定してはならない。
エ 11社及び阪急交通は,それぞれ,一ヒ記ア及びイに基づいて採った措置を速やかに被告に報告しなければならない。
(二) 本件納付命令
被告は,平成21年3月18日,「本件排除措置命令書に係る違反行為は,独占禁止法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものである」として11社及び阪急交通に対し,それぞれ課徴金の納付を命じた(なお,原告に対する課徴金の額は17億2828万円である。)ところ,日通,近鉄,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド及び阪急交通の7社は,これについて審判を請求せず,それぞれ課徴金納付命令が確定した。
なお,日通は,本件措置命令の違反行為に係る事実を被告に報告したことにより,課徴金の減額の措置を受けた。
9 原告の売上額
原告の違反行為の実行期間(本件実行期間)とされる平成16年11月12日から平成19年11月11日までの間の本件業務に係る本件4料金(本件燃油SC,AMSチャージ,セキュリティーC及び爆発物検査料)の合計額は,平成18年1月3日以前の分が合計54億6047万5472円であり,同月4日以降の分が合計140億0656万0651円である。(争いがない)
三 本件審決
1 本件審決は,前記二の事実を前提とした上で,争点を,①本件各合意の内容等(争点1),②本件各合意の成否(争点2),③本件各合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否か(争点3),④本件各合意の対価性及び役務の売上額(争点4)及び⑤本件業務は小売業に当たるか否か(争点5)と整理しているところ,原告は,これらの争点について,概略,以下のとおり主張した。
(一) 争点1(本件各合意の内容等)について
(1) 本件各合意の内容について
ア 本件措置命令に記載されている燃油SCについての合意(本件燃油SC合意),AMSチャージについての合意(本件AMSチャージ合意),セキュリティーC及び爆発物検査料についての合意(本件セキュリティーC等合意)に係る本件各合意は,いずれも,「航空会社から請求を受けた金額に相当する額を荷主に対して請求する」という実施行為についての合意に止まり,請求する金額を決定することは合意の内容に含まれていないのであるから.本件各合意によって請求する金額が決定されたわけではない。
価格カルテルは,対価を決定し,維持し又は引き上げるものであるところ,本件各合意は「金額(対価)を決定する」ものではないから,価格カルテルには該当せず,したがって,不当な取引制限にも当たらない。
イ 本件各合意の内容である「請求する」とは,原告その他の合意者に法律上の請求権があることを前提とするところ,権利を有する者がこれを行使することは当然のことであるから,権利の行使を合意したからといって,不当な取引制限には当たらない。
(2) 主張の変更について
審査官は,当初,本件各合意の内容について,「荷主に対し,当該航空会社から請求を受ける燃油SC等に相当する金額の支払を求める合意である。」と主張していたが,その後,「燃油SC等の金額を合意し,荷主に対し,その支払を求める合意である。」と主張を変更した。
審査官の当初の主張は,独占禁止法に反しない合意を主張するものであり,その変更によって独占禁止法に違反する内容の合意を主張することになったものであるところ,不当な取引制限が争点となっている本件において,合意の内容は最も重要な中核をなすものであるから,これについて主張を変更することは,事件の同一性の範囲を超えるものであり,また,主張の変更により,新たな要証事実が生じて,審理を著しく遅延させることにもなる。
したがって,上記の本件各合意の内容についての主張の変更は許されないものである。
(二) 争点2(本件各合意の成否〉について
(1) 本件燃油SC合意の成否について
ア 平成14年9月18日に開催された国際部会の役員会(以下「14.9役員会」という。)には,原告を含む14社のうち日通及びDHLを除く12社の担当者が出席し,航空会社が燃油SCを設定することに対する自社の対応を報告した上で,ユナイテッドを除く11社の間では,同年10月16日以降,航空会社から請求を受けることになる燃油SCに相当する額の全額を本件燃油SCとして荷主に負担を求めることとし,荷主とそのための交渉を行う方針で一致し,ユナイテッドも,荷主である請求先が株主でもあることから事前に説明して,理解を得る必要があるというものであり,11社の方針自体については反対しなかった等の事実経過を立証する証拠はないし,仮にそのような事実経過があったとしても,その程度では不当な取引制限に当たる合意が成立することにはならない。
そもそも,本件業務の取引分野において最大のシェアを有する日通が出席していない14.9役員会において,価格カルテルが成立するなどということは経験則上あり得ないことである。また,14.9役員会におけるユナイテッドの言動は,その時点での合意への参加を拒否したものというべきであり,その後にユナイテッドが合意に参加したことについての立証はない。
イ 日通及びDHLの合意への参加について
平成14年11月8日に開催された協会の理事会の会合(以下「14.11理事会」という。)一には日通及びDHLも出席し,その席上,14.9役員会において,航空会社から請求される燃油SCに相当する額の全額の負担を荷主に求めるとの方針で出席した12社が一致したとの報告がされ,日通及びDHLはいずれも反対意見を述べなかったとの事実経過を立証する証拠はない。
ウ 本件燃油SCの請求等に係る事情について
(ア) 14社が荷主に本件燃油SCの請求を開始した時期及び内容が概ね一致しているという事情は,本件燃油SC合意の存在を裏付けるものとはいえない。
(イ) 原告を含む13社の本件燃油SCの請求開始日がいずれも平成14年10月16日となったのは,航空会社が同日から燃油SCを適用したことによるものであり,本件燃油SC合意が存在していたことによるものではない。原告も自らの判断により荷主から燃油SCを回収すべく努力したにすぎず,他社との合意に基づいて荷主に本件燃油SCを請求したわけではない。
(ウ) 原告を含む14社が国際部会役員会において本件燃油SCの収受率等を報告したとの事実があったとしても,それが不当な取引制限の実効性確保の手段となり得るものではなく,本件燃油SC合意の存在を裏付ける事情とはいえない。
(2) 本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意について
ア 合意の成否について
平成16年11月22日に開催された国際部会役員会(以下「16.11役員会」という。)には原告を含む構成員13社が全て出席し,AMSチャージについて,荷主に対する請求額や請求開始時期に関する方針を報告し合い,多数決により請求額を定め,これを競争の手段としないことが提案されたが,反対した出席者はいなかったことや,平成18年2月20日に開催された国際部会役員会(以下「18.2役員会」という。)には原告を含む構成員13社が出席し,国土交通省の保安対策基準や,これに伴い導入されたRA制度に対する各社の対応方針を報告し合ったところ,請求額を除き,荷主にセキュリティーC及び爆発物検査料を新たに請求する点では概ね一致し,その請求額についての多数決の結果により最低請求額及び請求開始時期が提案され,これに異を唱える者はいなかった等の事実経過を立証する証拠はないし,仮にそのような事実経過があったとしても,その程度では不当な取引制限に当たる合意が成立することにはならない。
イ AMSチャージ及びセキュリティーC等の請求等に係る事情について
(ア) 原告を含む13社のAMSチャージの請求開始時期が一致しており,その内容も最低額が500円以上と概ね一致していること,セキュリティーC及び爆発物検査料の請求開始時期が一致しており,その内容も概ね一致していることは,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意の存在を裏付けるものとはいえない。
(イ) 原告は,自らの判断でAMSチャージ等を荷主に請求し,収受していたのであって,他社との合意に基づいて行っていたわけではない。
(3) 会合出席者の価格決定権限について
不当な取引制限に当たる本件各合意が成立するためには,本件4料金について価格決定権限を有する者又はその者から権限を付与された者が会合に出席している必要があるところ,原告を含む14社(ないし13社)において本件4料金の価格決定権限を有する者は,国際部会役員会に出席していないのであるから,本件審決が認定するような不当な取引制限に当たる本件各合意が成立する余地はない。
(三) 争点3(本件各合意による競争の実質的制限の有無)について
(1) 本件燃油SC合意について
ユナイテッド,日通及びDHLは,本件燃油SC合意に参加していない。そして,業界最大手である日通などが参加していないため,本件燃油SC合意に参加したとされる14社(前記二の1(三)参照)から上記の3社を除いた11社の本件業務における市場占有率は50%に達しておらず,ユナイテッドが合意に参加していたとしても,市場占有率は50%を僅かに超える程度にすぎなかった。
したがって,本件燃油SC合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではなかった。
(2) 本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意について
AMSチャージ,セキュリティーC及び爆発物検査料の本件業務の対価(運賃等)に占める割合は,AMSチャージが年平均0.0046%,セキュリティーCが年平均0.296%,爆発物検査料が年平均0.011%にすぎず,これらを合計しても運賃等の0.5%にも満たないものである。
したがって,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではなかった。
(3) 運賃等の価格競争について
14社を含む事業者の間では,本体運賃及び本件4料金以外の運賃等について熾烈な価格競争が行われていたから,本件各合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではなかった。
(4) 需要者の圧力について
本件業務の需要者は輸出関係の全事業者であり,その価格競争力は強く,取引先である運送人を切り替えることも容易であったし,その競争も激しかったから,本件各合意が本件業筋の取引分野における競争を実質的に制限するものではなかった。
(四) 争点4(本件各合意の対価性及び役務の売上額)について
本件各合意は,航空会社から請求を受けた金額に相当する額を荷主に対し「請求する」という実施行為を対象とするものであり,価格については合意の対象とはされていない以上,本件各合意が価格カルテルに当たるとはいえず,本件業務の対価を決定したものではないから,「対価に係るもの」にも当たらない。また,対価とは,提供した役務を対象として顧客から受領する役務と等価の報酬であり,提供した役務が可分な場合には分割されるそれぞれの役務に対する対価が存在するとしても,不可分な役務の場合には一つの対価しか存在し得ないから,対価の構成要素の一部にすぎないものを対価ということはできない。そして,本件4料金は,本件業務という不可分な役務の対価である運賃等の構成要素の一部にすぎないのであるから,それ自体が対価には当たらず,本件各合意は役務の「対価に係るもの」ではない。
そして,本件4料金が役務の対価ではない以上,それについてだけの売上額というものは存在しないのであり,また,本件4料金について,粗利益,営業利益,経常利益というようなものを観念する余地もないから,不当利得を観念することもできない。したがって,本件においては不当利得が存在しないのであるから,課徴金を課すことも許されないことになる。
(五) 争点5(本件業務は小売業に当たるか)について
小売業は,有体的な商品を購入して販売する事業に限定されるわけではなく,役務についても成立する。そして,本件業務は,航空会社が創造した運送役務を購入して需要者に提供し,マージンを得るものであって,その性質は小売業そのものである。本件業務には,航空運送に前後する陸上運送,混載仕立て,ラベル貼付なども含まれるものの,いずれも航空運送に付随する従たるものにすぎず,本件業務の性質を変更するものではない。
したがって,本件業務は小売業に該当し,課徴金の算定率も,平成18年1月3日以前の売上額については2%(平成17年改正法附則5条2項により従前の例によることとされる同法による改正前の独占禁止法7条の2第1項),同月4日以降の売上額については3%(独占禁止法7条の2第1項)とされるべきである。
2 本件審決は,上記1の各争点について,概略,次のとおり認定判断した上で,原告の各審判請求には理由がないとして,これらをいずれも棄却した。
(一) 争点1(本件各合意の内容等)について
本件各合意のうち本件燃油SC合意は,航空会社から燃油SCとして請求される金額に相当する額を荷主向け燃油SC(本件燃油SC)の額として決定し,同額を荷主に対して請求することを内容とするものであり,これを請求するに当たっては,請求する額の決定が当然の前提となる。本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意も同様に解することができる。
したがって,本件各合意は,本件4料金のそれぞれについて請求する金額を決定した「価格の決定カルテル」であり,独占禁止法2条6項の「対価を決定する」ものに当たり,本件各合意の内容について,審査官がその主張を変更した事実もない。
(二) 争点2(本件各合意の成否)について
本件各合意の成立に至るまでの経緯や,その後の原告を含む14社ないし13社の本件4料金の請求状況などから,ユナイテッド,日通及びDHLも参加した本件各合意の成立が認められる。
なお,本件各合意の成立に至るまでに開催された国際部会役員会の出席者は,14社(平成16年以降は13社)を代表する権限を有する代表者又は役員クラスの者であり,これに出席して価格等についての情報交換を行い,共通認識を形成して,その結果を持ち帰ることを任されていた者であったことが推認できるから,必ずしも上記の会合の出席者に価格決定権限があったわけではないことは,本件各合意が成立したとの認定を左右するものではない。
(三) 争点3(本件各合意による競争の実質的制限の有無)について
平成13年から平成20年までの本件業務における14社(平成16年以降は13社)の貨物量が総貨物量の72.5%から75.0%を占めており,このような14社の市場占有率に照らすと,本件業務に関して不当な取引制限に当たる本件各合意を14社が成立させれば,この取引分野における競争が実質的に制限されることが認められる。
なお,本件各合意は,本件業務の取引分野における競争を回避するために行われた一個の不当な取引制限行為に当たるのであり,このうちの本件燃油SC合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意を個別に不当な取引制限行為とするのは相当ではないから,AMSチャージ,セキュリティーC及び爆発物検査料の本件業務の対価に占める割合が低いことをもって本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されていることを否定することはできず,また,平成16年11月から平成19年11月までの本件実行期間における13社全体の売上額に占める本件4料金の割合は12%程度と推認することができるから,本件4料金の売上額の全体に占める割合も低いとはいえず,競争を実質的に制限していたことが認められる。
(四) 争点4(本件各合意の対価性及び役務の売上額)について
本件4料金は,本件業務の運賃等の一部であることが明らかであるから,本件業務という役務の対価であり,本件各合意は,独占禁止法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当する。また,本件各合意は,14社(又は13社)が本件4料金だけを対象として成立させた合意であり,それだけを対象として請求額を決定し,これを請求することにより相互に事業活動を拘束していたものと認められる。
他方,本件各合意が本体運賃及びその余の料金を対象として決定し請求することにより相互に事業活動を拘束していたことをうかがわせる証拠はない。本件業務の取引分野においては,少なくとも違反行為の期間中においては,本体運賃及びその余の料金について競争が行われていなかったものと推認されるところ,この状態が不当な取引制限行為によってもたらされていたことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,本件各合意の対象とされていたのは,本件業務の対価の一部である本件4料金だけであり,その売上額は,本体運賃及びその余の料金と区別することができるから,本件4料金の売上額について課徴金を課すことについても何ら違法な点はないというべきである。
(五) 争点5(本件業務は小売業に当たるか)について
独占禁止法7条の2第1項は,課徴金の算定率を原則として10%とした上で,例外として「小売業」に該当する場合は3%,「卸売業」に該当する場合は2%と規定するところ,課徴金制度は,一律的な非裁量的制度として法定されており,「卸売業」及び「小売業」だけを明示して例外的な算定率を定めている独占禁止法の下では,本件業務に流通業的性格があるとか,国際航空貨物利用運送業と卸・小売業の各売上高営業利益率が近似しているという点を捉えて,本件業務に卸・小売業に係る算定率を準用することは許されない。
本件違反行為の対象となった本件業務は役務であり,「役務の提供」は,商品の販売とは異なるものとされるのが通常であるから,商品を買い入れてそれを販売する「小売業」及び「卸売業」とは業種が異なることは明らかである。また,本件業務は,運輸業の一種であるところ,日本標準産業分類によれば,「小売業,卸売業」と「運輸・通信業」とは別のものとして分類されている。したがって,本件業務は,小売業及び卸売業のいずれにも当たらないというべきである。
よって,独占禁止法の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)の施行日である平成18年1月4日より前の売上額(54億6047万5472円)については,平成17年改正法附則5条2項の規定により従前の例によることとされる同法による改正前の独占禁止法7条の2第1項の規定により6%の算定率が適用され,施行日以後の売上額(140億656万651円)については,独占禁止法7条の2第1項の規定により10%の算定率が適用されることになるから,原告の納付すべき課徴金の額は17億2828万円となる(独占禁止法7条の2第18項の規定により1万円未満の端数は切り捨て)。
四 本件審決の取消事由についての当事者の主張
1 原告の主張
(一) 取消事由1
(1) 本件各合意の内容(本件各合意には請求合意のほかに価格合意が含まれるかという本件審決の争点1に相当する。)
本件審決は,本件措置命令における本件各合意のうち本件燃油SC合意を,「航空会社から請求を受ける燃油SCの金額に相当する額を,本件燃油SCとして荷主に対して新たに請求すること」,すなわち,本件燃油SCの価格の合意(価格合意)と,それを請求する合意(請求合意)とにより構成されるとしている。
しかし,排除措置命令は,名宛人に対して,主文に記載された排除措置の実施を命ずるものであるから,その内容は,主文の記載それ自体から一義的に確定されている必要があり,命令の主文に記載されていない語句又は事実による補充を認めることは,その解釈を不安定にするとともに,解釈の危険を国民に転嫁するものであり許されないことである。
そのような観点からすると,本件措置命令の主文は,本件燃油SC合意について,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・利用する航空会社から燃油SCの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油SCの額に相当する額を,荷主に対する燃油SCとして荷主に対し新たに請求する」合意であると記載されているだけであるから,ここにいう本件燃油SC合意に価格合意が含まれていないことは明らかである。そして,このことは,本件燃油SC合意以外のその余の本件各合意についても同様というべきである。
したがって,価格についての合意は,本件審判の対象とはなっておらず,審査官が主張を変更しない限り,この価格合意が本件各合意に含まれるものとは判断できないにもかかわらず,本件審決では,主張の変更手続がされないまま,本件各合意には価格合意も含まれるとして判断しているのであり,違法に審判対象を変更した法令違反がある。
(2) 実質的な競争制限についての実質的証拠の欠缺(本件審決における争点3に相当する。)
本件燃油SC合意は,燃油SCの負担を荷主に求めるという実施行為についての合意に止まるから,このような共同行為により実質的な競争制限がもたらされることを具休的に立証する必要があるにもかかわらず,本件審決では,この事実を証拠によって全く認定していない。
(二) 取消事由2
(1) 本件燃油SC合意の不存在(本件審決が価格合意をも含む内容のも のとして本件各合意の成立を認定していないとするものであり,本作審決における争点2に相当し,争点1を前提とする。)
本件審決は,本件各合意が価格合意と請求合意とにより構成されるとする以上,14.9役員会において,本件燃油SCの額を航空会社から請求を受ける金額と同額とするとの価格合意と,本件燃油SCとして同額の負担を荷主に求めるとの請求合意とを12社が合意したことについて,実質的な証拠により認定する必要があるところ,本件審決では,価格合意の成立が全く認定されていない。本件審決においては,14.9役員会において12社間に「航空会社から燃油SCの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油SCの額に相当する額を,荷主に対する燃油SCとして荷主に対し新たに請求する」との合意が成立したと認定されているものの,これは,請求合意の成立を認定しているにすぎないのであり,価格合意の成立を認定したものではない。
また,14.11埋事会までに日通及びDHLがこの価格合意に参加したことも証拠により認定していない。
したがって,本件審決には理由不備の法令違反がある。
(2) 実質的な競争制限についての実質的証拠の欠缺(本件燃油SC合意が価格合意を含まない請求合意だけを内容とすること(争点1)を前提として,そのような本件燃油SC合意による実質的な競争制限を立証する実質的証拠の欠缺を主張するものであり,本件審決の争点3に相当する。)
本件燃油SC合意は,価格合意を含まない請求合意だけを内容とするものであるところ,このような請求合意だけの本件燃油SC合意でも実質的に競争制限を生ずることが具体的に立証されることを要するにもかかわらず,本件審決では,この事実を全く認定しておらず,これを立証する実質的な証拠もない。
(三) 取消事由3
(1) 本件燃油SC合意の成立(本件審決における争点2に相当し,争点1を前提とする。)
本件燃油SC合意のうち請求合意の成立を認定することはできると しても,本件審決は,価格合意が成立したことについて実質的な証拠によって認定していない。
(2) 実質的な競争制限についての実質的証拠の欠缺(本件審決における争点3に相当し,争点1を前提とする。)
請求合意だけを内容とする本件燃油SC合意が本件業務の取引分野 における競争を実質的に制限することについての実質的な証拠がない。
(四) 取消事由4
(1) 本件燃油SC合意の成立(本件審決における争点2に相当する。)
本件審決は,①14.9役員会で示されたユナイテッドの方針について,「燃油SCの請求対象である荷主が株主であることから,燃油SCを請求する前に,これらの株主に説明して理解を得ておく必要がある」というものであったと認定する一方で,②ユナイテッドも,荷主に対して本件燃油SCを請求するとの方向性に反対するものではなかったと認定して,ユナイテッドの本件燃油SC合意への参加を認定した。
上記①の事実は,ユナイテッドが本件燃油SC合意に参加することについて結論を留保したことを示しており,上記②の事実を認めるに足りる実質的証拠はない。したがって,ユナイテッドが14.9役員会において本件燃油SC合意に参加したとの事実については実質的な証拠がないというべきである。また,日通及びDHLが14.11理事会までに本件燃油SC合意に参加したことを証する実質的な証拠もない。
(2) 実質的な競争制限についての実質的証拠の欠缺(本件審決における争点3に相当する。)
一定の取引分野における競争を実質的に制限すると認めるためには,違反行為者の市場占有率が少なくとも50%を超えることを要するものと解されるところ,14社のうちユナイテッド,日通及びDHLを除く11社の市場占有率は49.93%に止まり,50%には達していないのであるから,11社の間で成立した本件燃油SC合意が,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限したとは認定することができないはずである。
(五) 取消事由5
実質的な競争制限についての実質的証拠の欠缺(本件審決における争点3に相当する。)
(1) 本件審決は,13社の運賃等に占める本件4料金の割合を12%程度としているところ,事業の一部の共通化の割合が約10%の共同行為については,被告自身も「共通化されるコストの割合は大きいものとはいえず,製品市場の競争に及ぼす影響は間接的である」(独占禁止法に関する相談事例集(平成21年度)事例12)とし,共通化割合が約30%の共同行為についても「価格競争の余地がある」(事例4)として,市場における競争を実質的に制限するものではないとしている,これらの事例と対比すると,共通化割合が12%程度であるにもかかわらず,本件の違反行為が競争を実質的に制限するとした本件審決の判断は矛盾しているというべきであり,競争を実質的に制限していることり実質的証拠はなく,理由不備の違法がある。
(2) 本件燃油SC合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものとは認められない以上,その余の本件各合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するか否かについても,本件燃油SC合意とは別に,その余の本件各合意だけを対象として判断される必要があるところ,仮に本件AMSチャージ合意や本件セキュリティーC等合意の成立が実質的証拠によって認められるとしても,本件4料金のうち本件燃油SCを除く3料金の運賃等に占める割合は極小なものであるから,本件燃油SC合意を除くその余の本件各合意により本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されることにはならない。
(六) 取消事由6
本件各合意の内容(本件審決における争点1に相当する。〉
本件各合意は,価格カルテルが認められた場合におけるその実施行為にすぎない「請求」という行為についての合意に止まり,対価に係る不当な取引制限行為,すなわち,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,又は引き上げる行為には当たらないから,本件各合意に課徴金を課すことは許されない。
(七) 取消事由7
本件燃油SC等と役務との関係(本件審決における争点4に相当する。)
独占禁止法7条の2第1項所定の「役務の売上額」及び同法施行令5条の「提供した役務の対価の額」の対価とは,役務という給付についての等価の反対給付をいうのであるから,提供した役務が単一の場合には当該役務の対価の全部がこれに当たることとなる。
ところで,燃油SCは,本体運賃とは別個の費目で勘定処理されているものの,本体運賃と燃油SCとの各々に対応する固有の役務というものは存在しないのであり,これらに係る費用が渾然一体となって航空運送役務の対価を構成しているのであるから,燃油SCに対応する部分の額だけを対価とする役務はない。そして,対価の一部について課徴金を課すことはできないから,そのような対価の一部についての共同行為が,対価に係る不当な取引制限に当たることもあり得ないことである。
したがって,本件4料金に係る金額を売上額として課徴金を算定するのは不当である。
(八) 取消事由8
本件業務が小売業に当たるか(本件審決における争点5に相当する。)
原告を含む本件事業者は,自ら国際航空運送役務を創造せず,航空会社による運送役務を購入して需用者に提供し,そのマージンを得ているにすぎないから,その実質は小売業に当たるというべきである。そして,本件事業には,航空運送に前後して陸送運送,混載仕立て,ラベル貼付等の業務が付随してはいるものの,そうであるからといって小売業としての実質が失われることにはならない。したがって,課徴金の算定率は売上額の3%とするべきである。
2 被告の主張
(一) 取消事由1について
(1) 荷主に燃油SCを請求するに当たっては,請求する金額を決定することが当然の前提となるところ,本件措置命令の主文に記載された本件燃油SC合意の趣旨も,要するに,航空会社が決めた燃油SCの額と同額を荷主向け燃油SC(本作燃油SC)として荷主に請求することにより,新たに発生した費用を本件事業者が負担せずに,実際の役務の利用者である荷主の負担に転嫁することにあると解されるのであるから,本件燃油SC合意は,荷主に負担を求める燃油SCの額を決定し,それを荷主に請求する旨の合意であり,このことは本件措置命令の記載自体からも明らかである。
本件燃油SC合意以外のその余の本件各合意についても同様であり,いずれも,新たに発生した費用について,その額を決定して,荷主に負担を求めることを合意したものであるから,これらは,AMSチャージやセキュリティーC等の料金の額を決定し,それに相当する額の負担を荷主に求める旨の合意であり,このことは本件措置命令の記載自体からも明らかというべきである。
したがって,本件審決の認定は,何ら排除措置命令の解釈を不安定なものにするものではなく,また,審査官による主張の変更手続がないまま審判対象を変更したものでもないから,原告の主張は失当である。
(2) 原告主張の取消事由1の(2)は,本件各合意の内容が請求合意だけを内容とするものであり,価格合意を含まないということを前提とするものであるが,上記(1)のとおり,本件各合意は価格合意と請求合意とを内容とするものであるから,その前提において誤りである。
(二) 取消事由2について
(1) 本件燃油SC合意の内容である「航空会社から請求を受ける燃油SCの額に相当する額を荷主に対する燃油SCとして荷主に対し新たに請求する」とは,航空会社から燃油SCとして請求される金額に相当する額を本件燃油SCの額として決定し,その負担を荷主に求めることであるところ,本件審決は,14.9役員会において,12社の間で本件業務の運賃等について,HAWBの発行日が平成14年10月16日(本件再設定の実施日)以降である貨物を対象として,航空会社から燃油SCを請求されたときには,これに相当する額を荷主に対して新たに請求する旨の合意(本件燃油SC合意)が成立し,また,日通及びDHLも,遅くとも14.11埋事会のころまでには,本件燃油SC合意に参加したと認定しているのであるから,本件燃油SCを一定金額とすることにする価格合意の成立も認定しているというべきである。
(2) 原告の主張は,本件燃油SC合意が請求についての合意に止まり,価格についての合意を含まないことを前提とするものであるが,本件燃油SC合意は,荷主に負担を求める燃油SCの額を決定する価格合意と,これを請求する請求合意とを内容とするものであるから,原告の主張はその前提を欠き理由がない。
(三) 取消事由3について
(1) 本件審決は,燃油SC導入の経緯や,その後の協会及び14社の対応等の事実経過から本件燃油SC合意の成立を認定したものである。本件燃油SC合意は,請求合意だけでなく,価格合意をも含むものとして認めることができ,実質的証拠に欠けるところはない。
(2) 本件燃油SC合意が,荷主に負担を求める燃汕SCの額を決定する価格合意とこれを請求する請求合意とを内容とするものであることは,前述したとおりであるところ,本件燃油SC合意が請求についての合意に止まることを前提として,この請求合意だけの本件燃油SC合意が競争を実質的に制限することを立証する実質的証拠がないとする原告の主張は,その前提を欠くものである。
(四) 取消事由4について
(1) 燃油SC導入の経緯や,その後の協会及び14社の対応等,特に,DHLは,平成14年12月16日から本件燃油SCの請求を始め,13社より2か月遅れてはいるものの,その請求内容も他社と同じであったこと,日通は,本件各命令について審判を請求せず,同社に対する本件各命令はいずれも確定していることからすると,14.9役員会において,12社の間に本件燃油SC合意が成立し,また,日通及びDHLも遅くとも14.11理事会のころまでに本件燃油SC合意に参加したものと認めることができる。
(2) 原告の主張は,ユナイテッド,日通及びDHLが本件燃油SC合意に参加していたことを実質的証拠により認めることができないことを前提とするものであるが,ユナイテッド,日通及びDHLが本件燃油SC合意に参加していたことは実質的証拠により認められるのであるから,原告の主張はその前提を欠き理由がない。
(五) 取消事由5について
(1) 原告が挙げる相談事例は,事業の共通化の割合だけで競争の実質的制限の有無を判断しているものではない上,本件審決も13社全体における本件実行期間(平成16年11月から平成19年11月まで)における「本件4料金の売上の合計額」が「本件業務の売上額」に占める割合だけで競争の実質的制限の有無を判断しているのではないのであり,これらを単純に比較して論じること自体が不相当であり,原告の主張はその前提において失当というべきである。
そして,本件審決は,14社(平成16年以降は13社)の「本件業務における貨物量の合計」が,平成13年から平成20年までの「我が国における本件業務における総貨物量」に対して,最小で72.5%,最大で75.0%を占めていたことから,このような市場占有率を有する14社によって本件業病に関する不当な取引制限に当たる合意が成立すれば,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することとなることは明らかであるとした上で,本件業務の売上額に占める3料金の割合が小さい旨の原告の主張に応答する形で,13社全体における本件4料金の割合を検討し,これを12%程度と推認できるとし,この割合からしても,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していると評価できると判断しているのであるから,本件各合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することになるとの本件審決の判断は,実質的証拠を欠くものではないというべきである。
(2) 原告の主張は,ユナイテッド,日通及びDHLが本件燃油SC合意に参加していない本件燃油SC合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないことを前提としているところ,その前提自体が誤りであることは前述したとおりである。
(六) 取消事由6について
原告の主張は,本件各合意が請求合意だけを内容とするものであり,価格合意がこれに含まれないことを前提とするものであるところ,前述したとおり,本件燃油SC合意は,荷主に負担を求める燃油SCの額を決定する価格合意と,その負担を荷主に求める請求合意とにより構成されているのであるから,原告の主張はその前提において誤っており,失当である。また,その余の本件各合意についても同様に解するべきである。
(七) 取消事由7について
本件4料金は,本件業務の運賃等の一部であるから,本件業務という役務の対価であり,本件4料金に係る本件各合意は,独占禁止法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当する。
本件各合意は,14社(又は13社)が本件4料金だけを対象として成立させた合意であり,本件4料金だけを対象として決定し,荷主にその負担を求めることによって相互にその事業活動を拘束していたのである。このような合意ができたのは.本件4料金がその余の運賃等とは区別が可能であったからにほかならず,本件4料金が本件業務という役務の渾然一体となった対価の一部であるということにはならない。
本件各合意の対象とされていたのは,本件業務の対価の一部である本件4料金だけであり,その売上額は,本体運賃及びその余の料金とは区別することが可能であるから,本件4料金の売上額について課徴金を課すことにも何ら違法な点はない。
(八) 取消事由8について
違反行為の対象となった本件業務は役務であり,通常,「役務の提供」は,商品の販売とは異なるものとされているから,商品を買い入れてそのまま販売する「小売業」ないし「卸売業」とは異なる業種であることが明らかである。また,本件業務は,運輸業の一種であると認められるところ,日本標準産業分類によれば,「小売業,卸売業」と「運輸・通信業」とは明らかに別個のものとして分類されている。したがって,本件業務は,小売業及び卸売業のいずれにも当たらないというべきである。
なお,本件業務は,荷主と本件事業者との間の契約に基づくものであり,その内容は,荷主からの集荷,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物の仕立て,航空会社への貨物の引渡し,航空機への搭載,航空機による運送,仕向地の空港への到着後の航空機からの取り下ろし,混載貨物の仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等の業務から成り,アメリカ合衆国のAMS制度の導入に伴う作業や,保安対策基準によるRA制度の導入に伴う作業などもこれらに含まれるところ,これらを全体としてみると,その実質からしても小売業や卸売業の実態があるなどとは到底いうことができない。
五 取消事由に係る前記四1の原告の主張の実質的な重複等を整理すると,本件における主要な争点は,次のとおりとなる。
1 本件各合意は,請求合意に止まらず,価格合意をも含むか(取消事由2の(1)),本件各合意の内容についての実質的証拠の有無(取消事由3及び4の各(1))
2 審査官による主張の変更手続がないまま本件各合意に価格合意が含まれると認定したことの適法性(取消事由1の(1))
3 本件各合意による競争の実質的制限の存否についての実質的証拠の有無(取消事由1ないし4の各(2),5)
4(一) 本件各合意は「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)に当たるか(取消事由6)
(二) 本件燃油SCは本件業務に対する対価(運賃等)の一部として本体運賃等と渾然一体となっているか(取消事由7)
5 原告の本件業務は小売業に当たるか(取消事由8)
第三 当裁判所の判断
一 争点1(本件各合意は,請求合意に止まらず,価格合意をも含むか【取消事由2の(1)】,本件各合意の内容についての実質的証拠の有無【取消事由3及び4の各(1)】)
1 本件燃油SC合意の成立について
(一) 前記前提となる事実(第二の二参照)及び本件審決に挙げられた証拠によれば,本件審決が挙げている次のような事実を認定することは合理的である。
(1) 平成13年の燃油SC導入の経緯及びこれに対する協会の対応等
ア 平成8年以降,燃油価格が短期的に乱高下を繰り返す不安定な状態となり,多大なコスト負担を強いられるようにならた航空会社は,航空運賃とは別建てで顧客に燃油価格の負担を求めるSC方式(燃油価格が高騰している期間に限って利用者から特別の運賃を付加的に徴収し,価格が元に戻った場合には徴収をやめるという仕組みであり,本体の航空運賃自体の変動を抑えながら,燃油価格の変動にも機動的に対応するシステム)の導入を求めるようになった。そして,これを受けた国際航空運送協会は,平成9年8月,燃油SC制度の導入を決議したものの,結果的には,決議の発効には至らず,燃油SC制度の導入が実現するまでには至らなかった。(査共25,44,48,62)
イ 平成12年,燃油価格が再び上昇を始め,航空会社は,航空運賃の値上げによりこれに対応したところ,14社を含む本件事業者も,本体運賃の値上げを踏まえて運賃等の値上げを図ったものの,荷主の了解が得られず,本体運賃の値上げによる経費増をそのまま本件事業者が負担する結果となった。このような経緯を踏まえ,本件事業者の業界では,航空会社に対し,燃油価格の高騰への対応として,本体運賃の値上げによるのではなく,それとは別のSC方式の採用を検討するよう要望していた。(査共44,47,48)
ウ 平成13年3月,我が国の航空会社は,航空機に搭載される貨物に係る燃油SCの設定についての認可を受け,同年5月16日からは,本件事業者などの利用者に対する燃油SCの請求が可能になった。この燃油SCの内容は,「基準価格を,1995年から1999年までのシンガポールのケロシン(航空燃油)の平均価格である1バレル当たり23.20アメリカドルとし,燃油価格が基準価格の130%,つまり30.16アメリカドル以上を20営業日連続して超えた場合に,1kg当たり12円を設定する。燃油価格が基準価格を20営業日連続して下回った場合に燃油SCを廃止する。」というものであった。(査共25,44,47,48,62)
エ 航空会社による燃油SC制度の導入後には,本件事業者は,本体運賃に付加して新たに燃油SCの負担を求められることになり,その結果,荷主からは燃油SCに相当する額の支払を受けられず,これを自ら負担することになれば経営上深刻な影響が生ずる可能性もあったことから,燃油SC制度の導入が決定されたことを受けて,協会の国際部会役員会において,その対応策を協議した。そして,平成13年3月16日及び同月27日開催の国際部会役員会では,燃油SCを導入する航空会社に対しては本体運賃の値引きを交渉すること,荷主に対しては燃油SC相当額の負担に応ずるよう交渉すること,その交渉については業界が足並みを揃えて一斉に行うこと,燃油SC制への対応については今後2週間に1回程度の連絡会を開催することなどが提案されたほか,燃油SCが導入された場合に,本件事業者が荷主に燃油SC相当額の請求を可能にするために,本件事業者がそれぞれ,貨物運送取扱事業法に基づく国土交通大臣への運賃等の変更の届出を行うことが確認された。(査共36ないし38,44ないし46,48)
オ その後,14社を含む協会の会員47社は,運賃等の変更を国土交通大臣に届け出たところ,14社の届出の内容はほぼ同様であり,「利用する航空運送事業者が燃油SCを適用する場合には,賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額を燃油SCとする。なお,利用する航空運送事業者が燃油SCを適用しない場合,あるいは廃止した場合には,適用しない。」というものであった。
(査共43,46,62)
カ 国際部会役員会は,平成13年4月26日及び同年5月14日にも開催され(4月26日には,国際部会役員会の構成員である14社全てが参加し,原告からは曽根宏則(以下「曽根」という。)が出席した。),引き続き,燃油SCの導入への対応策が検討された。同年5月14日の会合では,出席者から燃油SC導入についての各社の対応方針が報告されたところ,その報告では,荷主に燃油SC相当額を請求するとする会社が多かったものの,請求は困難とする会社も数社あり,その対応は分かれた。そこで,議事進行役の近鉄の辻本は,会合の最後に,今回は会員各社の方針を統一しないものの,荷主向けの燃油SCを請求する方向で足並みを揃えるよう努力するとの方針をまとめた。(査共39の1,2,40ないし43,46)
キ 平成13年5月17日,原告のほか,西鉄,バンテック,近鉄,日通及び阪急交通の6社の担当者が集まり,本件燃油SCへの対応について協議した。近鉄の担当者を中心に,原告,バンテック及び阪急交通の4社の担当者は,各社がまとまって燃油SCの負担を荷主に求める方針を打ち出そうとしたものの,西鉄及び日通の対応は必ずしも一致しなかったことから,統一的な対応方針を確定することはできなかった。(査共230)
ク 航空会社は,我が国発の航空機に搭載される貨物について,平成13年5月16日以降,1kg当たり12円の燃油SCを設定し,14社にその請求を始めたことから,14社は,本体運賃に加えて燃油SCの負担を余儀なくされる状況となった。
これに対して,14社の中には,荷主に対して燃油SC相当額を請求した会社もあったものの,燃油SC相当額の一部だけを請求した会社や,請求を全くしない会社もあったことから,燃油SC相当額を荷主が負担することについての荷主側の理解を得るには至らず,業界全体としては,荷主に燃油SC相当額の負担を求めることはほとんど実現できなかった。(査共25,49ないし52)
ケ その後,燃油価格が下落し,燃油SCを廃止する基準に達したことから,遅くとも平成14年1月1日までには,航空会社のほとんど全てが燃油SCを一旦廃止し,14社に対する燃油SCの請求も取り止めたので,これを受けて,14社も荷主に対する燃油SCの請求を取り止めた。
(査共25,44,48,49,51ないし54,61,62)
(2) 平成14年の燃油SC再開の経緯及びこれに対する協会の対応等
ア 平成14年,再び燃油価格が上界を始め,燃油SCを設定する基準レベルに達することが見込まれたことから,日航は,国土交通大臣の認可を受けて,我が国発の航空機に搭載される貨物について,1kg当たり12円の燃油SCを設定し(本件再設定),同年10月16日以降,14社に対する燃油SCの請求を開始し,日航以外の航空会社もこれに追随した。(査共25,47ないし52,56,62)
イ 日航の担当者は,再度の燃油SCの設定(本件再設定)に先立つ平成14年9月10日頃,大手3社に対し,申請を予定している燃油SCの内容について説明した。
(査共44,50,51,55,56,62)
ウ 日航から本件再設定の説明を受けた近鉄の辻本は,平成13年に燃油SCが設定された際,荷主への負担の転嫁を業界全体として実現できなかった原因として,業界の足並みを揃えられなかったことが大きく影響していると分析していたこともあり,14社を含む業界全体が一致団結して,本件燃油SCの荷主負担に取り組む必要があると考え,本件再設定の開始に先立って,業界全体で足並みを揃えて荷主と交渉することについての意思統一を図るべく,理事会や国際部会などの会合において各社に働き掛けることとした。(査共52)
エ 協会事務局は,国際部会役員会の構成員に宛てて平成14年9月10日付け書面で,燃油SCへの対応を議題とする14.9役員会の開催を通知した。(査共222)
オ 平成14年9月18日,14.9役員会が開催され,近鉄の辻本や,近鉄の総務部秘書グループ担当課長であった佐伯和重(以下「佐伯」という。),バンテックの益子和夫(以下「益子」という。),日新の山本明彦(以下「山本」という。)など12社の担当者が出席し,出席者がそれぞれ各社の本件再設定への対応方針を報告した。そして,ユナイテッドを除く11社の対応方針は,燃油SC相当額の負担を求めるために荷主と交渉を行うというものであり,また,ユナイテッドも,この点については同様であるものの,同社の株主である運送業者からも貨物の利川運送を引き受けており,燃油SCを請求する前に荷主でもある株主に方針を説明して理解を得ておく必要があるというものであった。これらの報告を受けた近鉄の辻本は,12社の出席者に対して,各社の足並みを揃えて荷主に燃油SC相当額の全額の負担を求めていくこと,燃油SC相当額の負担を求めなかったり,一部しか請求しなかったりすることにより,貨物の取扱量の増加や,新規の取引先の開拓を図ることは止めること(燃油SC相当額の全額の負担を荷主に求める方針で各社が協調し,燃油SCを競争の手段として用いないこと)を提案したところ,出席者の全員が反対の意見を述べなかった。
(査共50ないし52,57ないし62)
カ 平成14年11月8日開催の14.11埋事会には,14社のうちヤマトとエアボーンを除く各社が出席し,14.9役員会を欠席していた日通からは代表取締役の浅田元紀が,DHLからはチーフオペレーションオフィサーの池田敏がそれぞれ出席した。近鉄の辻本は,国際部会の活動報告として,14.9役員会を開催し,12社が出席したこと,この役員会において,12社の方針を確認したこと,その上で本件再設定が開始した場合には,国際部会役員会の構成員は荷主に燃油SC相当額の負担を求める方針になったことなどを伝えたところ,浅田及び池田らはこれに何らの反対意見を述べなかった。
(査共62,63)
(3) 14社の燃油SCの収受状況等
ア 14社のうちDHLを除く各社は,いずれも本件再設定がされた平成14年10月16日から,我が国の航空会社を利用する貨物に関して,荷主に燃油SC相当額の負担を求め始めたところ,各社が荷主に請求した燃油SCの内容は,いずれも「賃率適用重量に利用する航空会社が適用する利率を乗じた額」であった。また,DHLは,同年12月16日から燃油SCの請求を開始したところ,その内容も同様であった。(査共64ないし71)
イ 平成14年11月15日,14社のうち原告,日通,近鉄,西鉄,阪急交通,バンテック,日新及びケイラインの8社が出席して「国際部会・国際宅配便部会代表役員会」と称する会合(以下「14.11代表役員会」という。)が開催され,出席者は,互いに燃油SCの収受率や収受状況を報告し合ったところ,その収受状況は,全般に良好とはいえず,特に大手の荷主からは収受できていないことが明らかになった。(査共72)
ウ 平成15年3月17日,14社の全てが出席して国際部会役員会 (以下「15.3役員会」という。)が開催され,出席者からは,同年1月及び2月の燃油SCの収受率が報告された。(査共44,73)
エ 平成15年4月2日,14社の全てが出席して国際部会役員会(以下「15.4役員会」という。)が開催され,原告の代表取締役である田中道生(以下「原告の田中」という。),曽根,西鉄の取締役である北古賀正司,バンテックの取締役である田村純一,ケイラインの代表取締役である濱田一壽(以下「濱田」という。)などが出席した。出席者からは,航空会社が燃油SCを1kg当たり18円に値上げすることを受けた各社の対応方針等が報告され,収受率の引上げには14社の協力が必要であるとか,14社が足並みを揃えて荷主に負担を求める必要があるなどとする意見が述べられた。また,14社は,会合の最後に,利用する航空会社が燃油SCを1kg当たり18円に値上げした場合には,荷主に燃油SC相当額の負担を求めて,その全額を収受するよう交渉することを確認した。(査共74の1,2)
オ 平成16年3月5日,13社のうちDHLを除く各社が出席して国際部会役員会(以下「16.3役員会」という。)が開催され,原告の曽根,西鉄の古賀柳治(以下「古賀」という。),バンテックの取締役である二宮誠人,ケイラインの濱田などが出席した。出席者からは,燃油SCの収受率,燃油SCの全額又は一部を支払わない荷主(以下「支払拒否荷主」という。)の具体的な名称,支払拒否の理白,航空会社の担当者を同行した支払交渉の状況などが報告され,本体運賃に燃油SCを含めている荷主に対しては,本体運賃と燃油SCとを個別に支払う「外出し」に応じるよう営業活動を徹底する必要があるとの意見も出された。議事を主宰した近鉄の辻本は,航空会社の担当者を同行して支払拒否荷主と交渉すること,交渉相手となる荷主(以下「対象荷主」という。)ごとに交渉担当の会社(以下「交渉担当者」という。)及び同行する航空会社を決めておくことを提案し,具体的な対象荷主ごとに交渉担当者と同行する航空会社を割り振ったところ,各社ともこれを了承した。さらに,近鉄の佐伯及び協会事務局の担当者は,協会の顧問弁護士に確認した結果として,航空会社が13祉に請求する燃油SCの額については減額の交渉が可能である旨を報告し,この点については,荷主には知られないようにする必要がある旨を述べて,各社に注意を喚起した。(査共75,76)
カ 平成16年4月6日,13社のうち日通及びバンテックを除く各社が出席して国際部会役員会(以下「16.4役員会」という。)が開催され,原告の代表取締役である大山愿太,曽根,西鉄の古賀,ケイラインの常務取締役である赤岡輝男(以下「赤岡」という。)などが出席した。出席者からは,燃油SCの収受率,支払拒否荷主の名称及び支払拒否の理由,航空会社の担当者を同行した交渉の状況などが報告され,燃油SCの収受について13社が協調的に行動していることが確認できたことから,議事を主宰した近鉄の辻本は,「足の引っ張り合いがなかったことは良いことである」旨の感想を述べた。(査共77ないし80)
キ 平成16年6月3日,13社が出席して国際部会役員会(以下「16.6役員会」という。)が開催され,原告の田口,曽根,西鉄の古賀,バンテックの専務取締役である木村弘(平成19年6月からは代表取締役社長。以下「木村」という。),ケイラインの取締役である佐藤市郎(平成18年3月から常務取締役)などが出席した。出席者からは,燃油SCの収受率が報告されるとともに,航空会社が燃油SCを1kg当たり24円に値上げすることに対する対応方針も報告された。最後に,議事を主宰した近鉄の辻本は,各社ともに本件燃油SCを1kg当たり24円に値上げし,荷主にその全額の負担を求めて交渉するとの対応方針を取ること,交渉に際しては航空会社の担当者を同行し,荷主が燃油SCを全額負担しない場合には,予定どおりに貨物が搭載されないこともあり得ることを担当者に説明させることを検討することなどを提案した。また,近鉄の辻本は,本件燃油SCを1kg当たり24円に値上げするに当たって,各社ともこれを競争の手段として利用しないこと,すなわち,荷主との新規取引の開拓や,既存の取引量の増加を図るための手段として本件燃油SCを値引きせず,全額の負担を荷主に求めることなどを各社の一致した方針として協調するよう要請した。これらの一連の近鉄の辻本の発言に対して,反対意見は出なかった。(査共81ないし86)
ク 平成17年1月28日,13社が出席して国際部会役員会(以下「17.1役員会」という。)が開催され,原告の田中,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの取締役である荒巻長正(以下「荒巻」という。)などが出席した。出席者からは,本件燃油SCの収受率等が報告されたが,これに加えて,荷主から収受できるようになった具体的な金額を報告した会社もあった。
(査共114,118,134,151ないし154)
ケ 平成17年4月18日,13社が出席して国際部会役員会(以下「17.4役員会」という。)が開催され,原告の代表取締役副社長である矢野俊一(平成17年6月から代表取締役社長。以下「矢野」という。),曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの取締役である松倉孝明(以下「松倉」という。)などが出席した。この役員会では,同年5月16日又は同年6月1日から燃油SCが1kg当たり30円から36円に値上げされることを受けて,荷主にも同額の負担を求める方針が提案され,値上げの時期についても意見交換が行われたほか,各社の本件燃油SCの収受率が報告された。
(査共122,155ないし158)
コ 平成17年8月3日,13社が出席して国際部会役員会(以下「17.8役員会」という。)が開催され,原告の執行役員である大森正博(平成19年6月から常務執行役員),曽根,西鉄の福間正憲,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。出席者からは,燃油SCの値上げに伴い,荷主に求めた負担増加に対する反応の状況,支払拒否荷主の具体的な名称や交渉状況等が報告され,大手の荷主に燃油SC相当額の負担を求めることは,中小の事業者では限界があり,まず13社のうち大手の事業者が大手の荷主との間で交渉をして,燃油SC相当額を全額収受できるようにしてもらいたい旨の希望も出された。そこで,議事を主宰した近鉄の辻本は,支払拒否荷主のうち各社に共通する荷主を10社程度選定し,原則として当該荷主との取引量が遍も多い会社を交渉担当者として,それぞれの荷主に対する対応については取引のある業者間で協議することなどを提案し,具体的な支払拒否荷主についてそれぞれ交渉担当者を定めた。
(査共87ないし93,211)
サ 近鉄の佐伯は,17.8役員会における検討を踏まえて,同年9月8日,対象荷主及び交渉担当者,交渉の実施方法等について,原告の曽根,西鉄の古賀,日通の赤井,阪急交通の和田彰に対して電子メールで連絡した。原告の曽根は,これに対応するため社内の担当者に報告を求めるなどした。(査共94,210ないし213)
シ 平成17年12月12日,13社が出席して国際部会役員会(以下「17.12役員会」という。)が開催され,原告の田中,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。出席者からは,本件燃油SCの収受率や未収受額,支払拒否荷主の名称,支払に向けた交渉状況や交渉結果について報告がされた。
(査共44,163,164,168,170,172ないし180)
ス 平成18年9月19日,13社が出席して国際部会役員会(以下「18.9役員会」という。)が開催され,原告の矢野,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの赤岡などが出席した。この会合においては,近鉄の辻本に代わって同年6月に国際部会長に就任していた近鉄の田中が議事進行役を務めた。全日本空輸株式会社は同年9月16日から,日本貨物航空は同年10月16日から,燃油SCをいずれも1kg当たり60円とする予定であり,日航は同日から目的地ごとに燃油SCの額を設定する「距離制」を採用する方針となっていたところ,これらについて各社の意見交換が行われ,さらに,本件燃油SCの収受率が報告された。近鉄の田中は,日航が距離制を導入すると,本件燃油SC相当額も,目的地によって他の航空会社を利用する場合に比べて安くなるため,これを競争の手段として利用しないようにすることを提案したところ,反対意見は出なかった。
(査共95ないし100)
セ 平成19年7月17日,13社のうち日通を除く各社が出席して国際部会役員会(以下「19.7役員会」という。)が開催され,原告の矢野,曽根.バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。出席者からは,本件燃油SCの同年5月及び同年6月の収受率や未収受額が報告され,また,出席者は,日航が同年8月1日から燃油SCを値上げし,他の航空会社の追随も見込まれていたことから,これによる13社の負担も相当な額に上るため,再度,荷主に対して本件燃油SCの全額の負担を求める方針を確認した。その席上,阪急交通の専務取締役である多田尊則が,本件燃油SCを全額収受できない理由の一つとして,13社のうち同上の荷主と取引している者が複数社あることを指摘した。そこでこれを受けて,議事を主宰していた近鉄の田中が,次回の国際部会役員会において,支払拒否荷主の具体的な名称を挙げて,その対応策を検討することを提案したところ,反対意見は出なかった。(査共62,101ないし106)
ソ 平成19年9月18日,13社のうちバンテック及びヤマトの2社を除く各社が出席して国際部会役員会(以下「19.9役員会」という。)が開催され,原告の矢野,曽根,西鉄の古賀,ケイラインの荒巻などが出席した。出席者からは,本件燃油SCの同年7月及び同年8月の収受率及び未収受額が報告され,その後,その全額を荷主から収受するための方策についての意見交換がされた。その際,原告の矢野は,本件燃油SCを全額収受できないと経営に与える影響が大きいことから,各社とも経営者自らが本件燃油SCの全額収受を指導する必要がある旨発言した。また,日通の取締役常務執行役員である伊藤康生は,支払拒否荷主に対する対応として,近鉄の辻本が国際部会長を務めていた当時に実施した「対象荷主を選定し,交渉担当者を決めて交渉を行う」方法により一定の効果が上げられたことから,再び同様の方策を実施してはどうかと提案した。そこで,近鉄の田中は,次回の国際部会役員会において,各社が取引している荷主からの本件燃油SCの収受状況を具体的な荷主名を挙げて報告するよう提案したところ,反対の意見は出なかった。(査共44,106ないし111)
(二) 上記(一)の事実によれば,燃油SC導入の経緯と,その後の協会及び14社の対応等として,①平成13年頃,我が国の航空会社においても,航空運賃自体を変更せずに,燃油価格の変動に機動的に対応する方策として燃油SC方式の採用が検討され,顧客に対して本体運賃とは別に燃油SCを請求することになり,14社は,新たに航空会社に支払うことになる燃油SC相当額を可能な限り荷主の負担に転嫁するという共通の目的を有するに至り,燃油SCの導入に先立ち協会の国際部会役員会においてもその対策が話し合われたものの,結果的には,14社が一致した協調行動を取るには至らず,業界全体としては荷主向け燃油SC(本件燃油SC)の収受に失敗したこと,②平成14年に燃油SCが再設定される見通しとなり,近鉄の辻本は,前年度の経験から業界として一致した協調行動を取らなければ,本件燃油SCを荷主から収受することは難しいと考え,14.9役員会において,各社の対応方針を確認したところ,各社とも荷主に負担を求めるとする基本的な方針には違いがなかったことから,出席していた12社に対して,統一的に本件燃油SCの全額を請求するとともに,これを競争の手段として利用しないようにすることを提案したところ,これに反対する出席者はいなかったこと,③14社のうちDHLを除く各社は,我が国の航空会社を利用した貨物の契約について,いずれも平成14年10月16日から荷主に対して本件燃油SCの請求を始めており,その請求内容も同様であったこと,④近鉄の辻本が,14.11理事会において,14.9役員会の協議内容を伝えたのに対し,日通及びDHLの出席者は何ら反対意見を述べず,DHLは,平成14年12月16日から荷主に対して本件燃油SCの請求を始め,その内容も他の各社と同じであったこと,⑤平成13年に燃油SCが設定されたとぎには,本件燃油SCの荷主負担についての各社の対応にはばらつきがあったところ,本件再設定に際しては,14.9役員会を経て,14社のうちDHLを除く13社が同時期に同一内容の本件燃油SCの請求を開始しており,DHLも,開始時期は13社より2か月遅れてはいるものの,13社と同じ内容の請求をしており,14社の行動は,平成13年時とは異なり明らかに協調的なものになっていたこと,⑥14社は,平成14年11月から平成19年11月までの間に再三にわたり国際部会役員会を開催し,その時々における荷主からの本件燃油SCの収受状況,交渉状況及び支払拒否荷主の具体名などを報告し合い(14.11代表役員会,15.3役員会,16.3役員会,16.4役員会,17.1役員会,17.4役員会,17.8役員会,17.12役員会,18.9役員会,19.7役員会及び19.9役員会),役員会において,航空会社による燃油SCの値上げの度に,その対応を協議して,荷主に燃油SC相当額の負担を求め,これを収受する方向で協調した行動を取ることを確認した(15.4役員会,16.6役員会,17.8役員会及び18.9役員会)ほか,本件燃油SCの収受率を高める方策として,荷主ごとに14社の中から交渉担当会社や交渉に同行する航空会社を割り振り(16.3役員会及び17.8役員会),これらの役員会において,議事進行を主宰した近鉄の辻本や田中が,本件燃油SCを荷主に請求し,収受するという方向で14社が一致して協調行動を取ること,本件燃油SCを競争の手段に利用しないことを繰り返し確認したのに対して,反対の意見を述べたり,異議を申し立てたりする出席者は全くいなかったことからすると,14社は,これらの役員会で合意された方針に従い,荷主に対しては一貫して本件燃油SCの負担を求めて交渉することとし,実際にも役員会で決定された交渉担当会社が荷主との交渉に当たっていたものと認められること,⑦日通及びDHLは,本件措置命令及び本件違反行為に関して発令された課徴金納付命令に対して審判を請求せず,いずれも確定していること(なお,日通は本件違反行為に係る事実を被告に報告したことにより課徴金の減額の措置を受けている。)が認められるのであり,これらの事情を総合すると,14.9役員会において,12社間に,「本件業務の運賃等について,HAWBの発行日が平成14年10月16日(本件再設定の実施日)以降である貨物を対象として,航空会社から燃油SCを請求されたときは,請求を受けた燃油SCに相当する額を新たに請求する」旨の合意(本件燃油SC合意)が成立し,日通及びDHLも遅くとも14.11理事会までにはこの合意に参加したものとする本件審決の認定判断は合理的なものであり,実質的な証拠もあると判断するのが相当である。
(三) 原告は,ユナイテッドが14.9役員会において,本件燃油SC合意に参加したことを証する実質的証拠がなく,また,日通やDHLが14.11理事会までに本件燃油SC合意に参加したことを認めるに足りる実質的証拠もないと主張する(取消事由2(1))。
しかしながら,①14.9役員会においてユナイテッドが示した方針は,同社の株主である運送業者からも貨物の利用運送を引き受けており,本件燃油SCの請求対象となる荷主が株主でもあることから,本件燃油SCの負担を求めるに当たり事前に説明して理解を得ておく必要があるというものであり,荷主に負担を求めるという基本的な対応方針には同意していたものと解するのが相当であり,近鉄の辻本から,12社の出席者に対して,各社協調して荷主に本件燃油SCの全額を請求するとともに,これを競争の手段として利用しないとの方針が確認された際にも,ユナイテッドはこれに反対の意向を全く表明していないこと(前記1(一)(2)オ参照),②ユナイテッドは,14社のうちユナイテッドとDHLを除く12社と同じく,我が国の航空会社を利用した貨物の契約について,平成14年10月16日から荷主に対して本件燃油SCの請求を開始しており,その請求内容も同様であったこと,③ユナイテッドは,14.9役員会の後も,平成11年11月から平成19年11月までの間に開催された国際部会役員会に出席し,荷主からの本件燃油SCの収受状況等を報告し合い,航空会社による燃油SCの値上げに対しても,荷主から本件燃油SCを収受する方向で協調した行動を取っていたことなどからすると,ユナイテッドについても本件燃油SC合意に加わったとする本件審決の認定判断は合埋的なものであり,14.9役員会で,ユナイテッドが本件燃油SCを請求するには株主の理解を得ることが必要であるとの意向を表明したことが上記の認定判断を左右するものではないというべきである。
また,日通やDHLが14.11理事会までに本件燃油SC合意に参加したものとする認定が合理的なものであることも前記のとおりであって,実質的証拠もあるというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がなく,これを採用することはできない。
(四) 前記(一)及び(二)のとおり,14社の間で本件燃油SC合意が成立したとする本件審決の認定判断は合理的なものであり,実質的証拠もあると解するのが相当である。したがって,本件燃油SC合意の成立を認めるに足りる実質的証拠がないとの原告の主張(取消事由2ないし4の各(1))には理由がなく,これを採用することができない。
なお,原告の上記主張は,14社による本件燃油SC合意の内容について,荷主に本件燃油SCを請求するという請求合意だけが内容となっているとの前提に立って,請求合意に加えて価格合意をも認定できるとする本件審決の認定判断には実質的証拠がないと主張するものと解される。しかしながら,14社は,航空会社から支払を求められる新たな経費(燃油SC相当額)を自社で負担する結果となることを可能な限り回避して,荷主にその負担を転嫁することを目的として,本件燃油SC合意を成立させるに至っているのであり,これを容易にする日的で,役員会において,本件燃油SCを荷主に請求し,収受するという方針で14社が一致して協調し,本件燃油SCを競争の手段に利用しないことを繰り返し確認し,このことが14社の方針の前提となっているのであり,航空会社から請求される燃油SCに相当する額の全額を荷主向け燃油SC(本件燃油SC)とし,14社は,独自の判断でこれを割引きすることなどをしないと合意していたことに照らすと,本件燃油SC合意の内容である「航空会社から請求を受ける燃油SCの額に相当する額を荷主に対する燃油SCとして新たに請求する」とは,単に,荷主に燃油SCの負担を求めるというに止まらず,荷主に負担を求める本件燃油SCの額を,航空会社から燃油SCとして請求される金額と同額とするとの合意を含んでいるとする本件審決の認定判断は合理的なものというべきである。したがって,原告の上記主張は,そもそもその前提において採用することができず,理由がない。
2 本件AMSチャージ合意の成立について
(一) 前記前提となる事実(第二の二参照)及び本件審決に挙げられた証拠によれば,本件審決が挙げている次のような事実を認定することは合理的である。
(1) AMS制度の導入
アメリカ税関当局が航空運送に関する保安対策の一環として導入を決定した航空貨物情報の事前申告についてのAMS制度は,平成16年8月13日以降段階的に実施され,同年12月13日以降は同国内の全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に実施されることとなった(前記第二の二6(一)参照)。この制度においては,航空機に搭載される貨物のHAWB情報等をAMSを通じてアメリカ税関当局に事前に申告することが義務付けられた。(査共112,l13の1及び2,114,116,117,119,120,122)
(2) 協会のワーキンググループの設置及び検討
協会は,平成15年9月18日に開催された理事会において,AMS制度の導入による実務上の問題点や対応策を検討するため,国際部会及び国際宅配便部会が合同して,AMSチャージに関するワーキンググループ(以下「WG」という。)を設置した。WGの構成員は,13社のうち原告のほか近鉄,日通,西鉄,阪急交通,バンテック及び日新の7社であり,近鉄が委員長会社となった。WGの会合(以下「WG会合」という。)には,委員会社の実務担当者及び情報処理システム関係者が出席し,制度の内容の確認,実務上の問題点及び対応策等について検討を重ねた。
(査共114,116,117,119ないし121)
(3) 航空会社のAMS制度への対応内容
航空会社は,AMS制度の実施に対応するため,平成16年8月13日以降,本件事業者から運送を引き受けた場合には,当該貨物に係るHAWB情報の提供を受け,AMSを通じてアメリカ税関当局に申告することとした。同年7月12日,日航の総販売代理店である株式会社ジャルカーゴセールス(以下「ジャルカーゴ」という。)の田島らは,WGの委員長会社である近鉄の佐伯らに対し,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るHAWB情報をジャルカーゴ(日航を含む。)がAMSを通じて申告する場合には,本件事業者にHAWB情報の送信手数料を請求すると伝えた。
(査共113の1,2,114,117ないし119,124)
(4) AMS制度への対応に伴う費用の発生
13社は,アメリカ税関当局にHAWB情報を提供するための既設の航空貨物情報処理システムの改良費用,HAWB情報の入力作業に伴う費用,航空会社に支払うHAWB情報の送信手数料などのAMS制度の導入に伴う新たな費用負担が発生することになったことから,これらの費用の全部又は一部の負担を荷主に求めることを検討していた。(査共114,116ないし122)
(5) 国際部会役員会の会合及びWG会合における検討
ア 平成16年9月21日,13社のうちヤマトを除く各社が出席して国際部会役員会(以下「16.9役員会」という。)が開催され,原告の田中,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの赤岡などが出席した。議事進行役を務めた近鉄の辻本は,出席者に対して,AMS制度の導入に伴い,AMSチャージとして荷主に求める負担額等についての検討状況を尋ねたところ,原告の田中又は曽根は,HAWB1件当たり2000円の支払を荷主に請求する予定であるが,その全額の負担を求めることは困難と見込まれることから,最低でも1000円の負担を求めると説明した。また,西鉄の古賀及びバンテックの木村も検討状況を報告したものの,請求額にばらつきがあり,また,請求額が未定の会社もあったことから,検討を続け,国際部会役員会での協議も続行することになった。
(査共114,119,125ないし129)
イ 近鉄の佐伯と原告の曽根とは,平成16年10月26日,AMSチャージを荷主から収受する方策について意見を交換し,また,WG会合や国際部会役員会の段取り等について相談したところ,その内容は,概要次のとおりであった。(査共114,119,130)
(ア) 原告の曽根は,近鉄の佐伯に対して,同年12月13日からは全ての空港に到着する貨物に対してAMS制度が実施されることから,荷主にAMSチャージの負担を求めるためには,同年11月中旬にはその旨の通知を要すること,13社で一致して荷主に請求しないと自ら負担することになりかねないことを述べて,WG会合における早急な検討を希望する旨のメールを送信した。
(イ) 近鉄の佐伯は,原告の曽根に対して,近鉄の辻本の指示により16.11役員会が開催されることになったこと,この役員会に先立ってWG会合を開催し,ある程度の方向性を出しておく必要があること,ポイントは,AMSチャージの請求対象貨物をアメリカ合衆国向けの貨物に限定するか否か,AMSチャージの額について幅を持たせるか全社で統一するか,幅を持たせる場合の上限と下限の設定をどうするかであること,役員会の前にWG会合を開催すべきことなどを記載したメールを送信した。
(ウ) 近鉄の佐伯からのメールを受けた原告の曽根は,同人に対して,提案に賛同するとともに,WG会合の開催にも同意すること,この会合で方向性を出しておいて役員会で決定するという段取りにすべきであること,各社の暗黙の了解として共同歩調を取ることの確認が重要であること,AMSチャージの請求対象貨物としては現時点ではアメリカ合衆国向けのものに限定すべきこと,AMSチャージの額に幅を持たせる場合には下限に落ち着くことが容易に予測されるため,下限だけは設定すべきことなどを記載したメールを返信した。
ウ 平成16年11月12日,WGの委員会社11社のうちティエヌテイエクスブレス株式会社を除く各社が出席してWG会合(イカ「16.11WG会合」という。〉が開催され,16.11役員会においてAMSチャージに関する13社の意見を一致させるための協議が行われ,①AMSチャージの請求対象貨物については,「アメリカ合衆国を仕向地とする貨物」とする意見と,「アメリカ合衆国及び同国を経由し第三国を仕向地とする貨物」とする意見に分かれ,②AMSチャージの請求額については,下限額を設定することでは一致したものの,「HAWBl件当たり500円」とする意見と,「HAWB1件当たり1000円」とする意見に分かれ,③AMSチャージの請求開始時期については,「平成16年12月13日」とする意見と,「荷主に対する案内期間を考慮して平成17年1月1日」とする意見に分かれた。そして,協議の結果,16.11WG会合の総括として,①については,「アメリカ合衆国及び同国を経由し第三国を仕向地とする貨物」とし,②については「HAWB1件当たり1000円」とすることが望ましいとし,③については,「平成17年1月1日」とすることを16.11役員会に提案することとなった。
(査共114,117,120,121,131ないし134)
エ 近鉄の佐伯が16,11役員会に先立って,16.11WG会合の協議結果等をとりまとめて作成し,近鉄の辻本に提出した役員会用の説明資料には,WG会合における各社の意見が表に整理されているほか,請求対象貨物,請求金額,請求開始時期のそれぞれについてポイントとなる事項(請求金額については,「下限の設定が必要であること」及び「各社が値引きをサービスの対象としないこと」)が記載されており,また,問題点として「ここでの決まり事をどのように会員に伝えるか」,「周知徹底をどのように図るか」との記載があった。また,この資料の末尾には,「公取への配慮からレターは出せない,電話による対応か」という記載もされていた。(査共134,135)
(6) 16.11役員会の開催
13社が出席した16.ll役員会には,原告の田中,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席していた。その冒頭,議事進行役を務める近鉄の辻本が,16.11WG会合において,11社のうち国際部会に所属する7社の意見を取りまとめた結果を報告し,続いて,出席者から,AMSチャージについて,荷主に対する請求額と,請求開始時期に関する各社の方針が表明された。原告の田中又は曽根は,請求額についてはHAWB1件当たり1000円,請求開始時期については平成17年1月1日とする方針で検討している旨を述べた。その後,AMSチャージとして請求する額について挙手による採決が行われ,HAWB1件当たり1000円とする会社が多数を占めたものの,近鉄の辻本は,燃油SC相当額を荷主から全額収受する必要もあり,その金額との調整も考慮して,AMSチャージについてはHAWB1件当たり最低500円の負担を求めるとの提案をしたところ,出席者も賛同した。
また,近鉄の辻本は,AMSチャージの請求対象貨物については,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物とすること,請求開始時期については,平成17年1月1日からとすることも提案した。そして,請求対象貨物の範囲については出席者も賛同したものの,請求開始時期については,ケイラインの荒巻が,航空会社からHAWB情報の送信手数料を平成16年12月13日以降に請求されることが判明しているにもかかわらず,あえて荷主への請求開始時期を遅らせる必要はないとして,同日からの請求を提案したところ,最終的に荒巻の提案が出席者の賛同を得た。
以上のとおり,16.11役員会では,AMSチャージの請求対象貨物は,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物とすること,請求金額は,HAWB1件当たり最低500円とすること,請求開始時期は,平成16年12月13日からとし,遅くとも平成17年1月1日には実施することとする方針で出席者の意見が一致した。そして最後に,近鉄の辻本が,AMSチャージを荷主に請求して収受することを絶対に遵守し,これを競争の手段として利用しないと確認したところ,出席者から反対の意見は出なかった。(査共114,116,118,120,122,132,134,136ないし146)
(7) 13社によるAMSチャージの請求の開始
13社のうち西鉄,バンテック及びヤマトを除く10社は,荷主に対して,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由するカナダ及び中・南アメリカを仕向地とする貨物について,平成16年12月13日からHAWB1件当たり500円以上のAMSチャージの請求を開始し,西鉄,バンテック及びヤマトも,同じ対象貨物について,平成17年1月1日からHAWB1件当たり500円以上のAMSチャージの請求を開始した。(査共71,116,147ないし150)
(8) 国際部会役員会の会合等における検討
ア 13社が出席した17.1役員会には,原告の田中,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。出席者からは,既に請求を始めていたAMSチャージについて,荷主への請求額,収受率,AMSチャージを支払わない荷主の名称等が報告され,その後,議事を主宰していた近鉄の辻本は,荷主からAMSチャージを全額収受できるよう努力する必要があること,収受率の計算については,件数により算出すること,すなわち,「荷主に対するAMSチャージを請求したHAWBの総件数」に対する「荷主からAMSチャ一ジを収受したHAWBの総件数」の割合により算出することが確認された。(査共114,118,134,151ないし154)
イ 17.4役員会には,原告の矢野,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの松倉などが出席し,AMSチャージの荷主に対する請求額及び収受率が報告され,その後,議事を主宰していた近鉄の辻本が,AMSチャージを競争の手段に利用しないことや,値引きをせずに,全額の負担を荷主に求めることを出席者に確認したところ,これに対して,出席者から反対意見は出なかった。
(査共122,155ないし158)
(二) 上記(一)の事実によれば,16.11役員会において,13社間に,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物を対象とし,HAWB1件当たり最低500円のAMSチャージを請求すること,請求開始時期は,平成16年12月13日からとし,遅くとも平成17年1月1日には実施することの合意が成立したとする本件審決の認定は合理的なものであり,実質的証拠もあると解するのが相当である。
3 本件セキュリティーC等合意の成立について
(一) 前記前提となる事実(第二の二参照)及び本件審決に挙げられた証拠によれば,本件審決が挙げている次のような事実を認定することは合理的である。
(1) 保安対策基準の導入の経緯等
ア 国土交通省は,平成16年12月27日付けの保安対策基準を定めるとともに,航空機に搭載する全ての貨物に爆発物検査の実施を義務付けた上,RA制度を導入して,特定荷主から運送を引き受けた貨物のうち,出荷から航空会社への引渡しまでを特定事業者が一貫して取り扱うものについては原則として爆発物検査を免除することとし,これらの措置を平成17年10月1日から試行的に実施し,平成18年4月1目から本格的に実施した。
(査共159,160,162ないし165,168)
イ 13社はいずれも,平成18年3月31日までに国土交通省から特定事業者としての認定を受けた。(査共161)
(2) 保安対策基準の実施に伴う費用の発生
13社は,それぞれ保安対策基準に対応するための必要な措置を講じて,X線検査装置又は爆発物探知装置を購入・配備し,爆発物検査を委託する体制を整備したりするなどした。そして,13社は,このような特定事業者として講じた保安措置の維持及び爆発物検査体制の整備等のために新たな費用を負担し,将来も負担を続けることを余儀なくされたことから,費用の全部又は一部の負担を荷主に求めることを検討した。(査共162ないし165,168)
(3) 国際部会役員会等における検討
ア 平成17年11月25日,13社のうちケイライン及び日新を除く各社の実務担当者が出席して「新保安措置に関するSC関連会議」と称する会合(以下「17.11SC会合」という。)が開催され,原告の曽根,西鉄の古賀などが出席した。17.12役員会においては保安対策基準への対応方針が協議されることになっており,17.11SC会合は,これに先立って,実務担当者間でその対応方針をあらかじめ検討することを目的としており,各社の実務担当者は,セキュリティーC及び爆発物検査料の請求内容や請求開始時期について検討を行った。(査共166ないし168)
イ ケイラインの井坂修は,17.11SC会合を欠席したものの,協会の事務局に欠席する旨を電子メールで連絡した際に,併せて,「X線検査装置又は爆発物探知装置を設置するまでは開披検査を実施することとし,その料金設定を最低料金2000円,1個当たり500円としており,爆発物検査料も同様に設定する方針である旨及び13社の間で統一料金が設定された場合には,その料金をもって荷主に請求することとする」旨を記載し,セキュリティーC等についてのケイラインの方針を表明した。(査共165,168,170)
ウ 協会事務局の髙橋成光事務局次長(以下「協会の髙橋次長」という。)は,近鉄の佐伯の指示に基づき,13社に対して,17.12役員会においては,セキュリティーC等についての荷主への対応方針,検討状況,請求対象貨物又は対象荷主,保安対策基準に関する各社の具体的な検討内容,請求開始日等を報告してもらう旨を電子メールで連絡した。(査共168,171)
エ 13社が出席した17.12役員会には,原告の田中,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。出席者からは,保安対策基準への対応方針や検討状況について報告がされ,原告の田中又は曽根は,方針は未定であるものの,航空会社が本件事業者に請求している保安確保のための措置の維持費用増加分を賄うためのインシュアランスSC(航空保険特別料金。以下「ISS」という。)に相当する額とセキュリティーCの額との合計額の負担を荷主に求め,爆発物検査に必要な額は,別途,荷主に請求することを検討している旨報告した。また,西鉄の古賀は,セキュリティーC等としてHAWB1件当たり300円を荷主に請求し,爆発物検査については500円を荷主に請求するとの方針を報告した。さらに,バンテックの木村及びケイラインの荒巻は,いずれも社内の検討は未了であるが,13社間で統一的な料金額が決定されればそれに従う旨表明した。
このように,各社の保安対策基準に対する検討状況は,対応方針が未定であったり,請求方法や請求額も不統一であったことから,議事を主宰した近鉄の辻本は,13社に対し,セキュリティーC等の請求方法や請求額を検討するための原価等についてアンケート調査を実施することを提案した。そして,アンケート調査の結果を踏まえて,平成18年2月20日に国際部会役員会を開催し,検討を続けることになった。(査共44,163,164,168,170ないし180)
オ 13社に対するアンケート調査の実施
協会の髙橋次長は,17.12役員会における協議を踏まえて,13社に対し,平成17年12月19日付けの「SC制度に関する調査」と題するアンケート調査票を送付した。この調査は,AMSチャージ及びISS(航空会社が本件事業者に請求している航空保険特別料金であり,前述のとおり,本件事業者は荷主に負担を転嫁することを検討していた。)の収受率,セキュリティーCの予想コスト,AMSチャージ,ISS,セキュリティーC,爆発物検査料の請求方法等を確認するものであり,未定との回答のほか,セキュリティーCとしてHAWBl件当たり500円,爆発物検査料としてHAWB1件当たり1500円を請求するとの回答,セキュリティーCとしてHAWB1件当たり300円,爆発物検査料として貨物1個当たり500円を請求するとの回答,セキュリティーCとしてHAWB1件当たり1000円,爆発物検査料としてHAWBl件当たり4000円を請求するとの回答やセキュリティーCとしてHAWB1件当たり500円,爆発物検査料として貨物1個当たり1000円(上限1万円)を請求するとの回答などが寄せられた。
(査共163,164,168,169,179,181ないし186)
カ 平成18年2月20日に開催された役員会(以下「18.2役員会」という。)には,13社が出席し,原告の田中,加藤和彦,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席し,保安対策基準への対応方針が報告された。
13社の報告の後,議事を主宰した近鉄の辻本の提案により,セキュリティーC等の請求額を多数決により決定することとなり,挙手を求めたところ,全ての荷主に対しHAWB1件当たり300円を請求する案に賛成したのが7社,500円を請求する案に賛成したのが5社,1000円を請求する案に賛成したのが1社という結果になった。
また,爆発物検査料の請求額についても同様の方法による多数決を行ったところ,HAWB1件当たり500円を請求する案に賛成するものはなく,1000円を請求する案に賛成したのが5社,1500円を請求する案に賛成したのが5社,2000円を請求する案に賛成したのが2社という結果となった。そして,HAWB1件当たり1000円を請求する案と1500円を請求する案がほぼ同数であったことから,再度,挙手の方法により多数決を行ったところ,HAWB1件当たり1000円を請求する案に賛成したのが4社,1500円を請求する案に賛成したのが9社となった。
これらの結果を踏まえて,近鉄の辻本から,13社としては,AMSチャージ,ISSとは別建てで,セキュリティーCを請求することとし,全ての荷主に対してHAWB1件当たり最低300円とすること,爆発物検査料についてはHAWB1件当たり最低1500円を請求すること,請求開始時期はセキュリティーC及び爆発物検査料とも平成18年4月1日からとすることが提案され,出席者から反対の意見は出なかった,
(査共146,163ないし165,168,169,179,187ないし195,199)
(4) 13社のセキュリティーC及び爆発物検査料の請求開始
ア セキュリティーC
13社は,平成18年4月1日ないし同年8月1日から,荷主に対するHAWB1件当たり300円以上のセキュリティーCの請求を開始した。なお,請求開始時期については,セキュリティーCに消費税が課されるのか否かについて国税当局の見解が明らかとなっていないこと,各社の貨物情報処埋システムの変更が遅れていること等の事情があったことから,遅くとも同年7月1日までに荷主に請求することに変更された。(査共71,200ないし203)
イ 爆発物検査料
阪神エアカーゴを除く13社は,いずれも平成18年4月1日から荷主に対し,非特定荷主の貨物を対象として,HAWB1件当たり1500円以上の爆発物検査料の請求を開始し,阪神エアカーゴも同年5月1日,同様に爆発物検査料の請求を開始した。
(査共71,196ないし199)
(5) 国際部会役員会の会合における収受の状況の報告と検討
ア 平成18年5月15日開催の国際部会役員会には13社が出席 し,原告の田中,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの濱田などが出席した。出席者からは,セキュリティーCについて,その請求状況や請求するに至っていない理由が報告され,爆発物検査料の請求内容について具体的な額を挙げて,収受状況が報告された。そして,出席者の報告を受けて,議事を主宰していた近鉄の辻本は,爆発物検査料についても収受率100%を目指す必要があるとの意見を述べた。
また,近鉄の辻本は,セキュリティーCについては,消費税が課税されるか免税となるのかについて国税当局の見解が明らかになっていないこと,各社の貨物情報処理システムの変更が遅れていること及び航空会社が本件事業者に請求を予定している「保安サーチャージ」(セキュリティSCとも称されている。)についての国土交通省の認可が遅れていることが障害となっていると指摘し,航空会社が「保安サーチャージ」の請求を開始する平成18年6月ないし同年7月に合わせて,荷主に対するセキュリティーCの請求を開始する方針に変更することを提案したところ,出席者から反対の意見は出なかった。
(査共204ないし209)
イ 18.9役員会には13社が出席し,原告の矢野,曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの赤岡などが出席した。出席者からは,セキュリティーCの収受率が報告された。(査共95ないし100)
ウ 19.7役員会には13社のうち日通を除く各社が出席し,原告の矢野,曽根,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。出席者からは,平成19年5月及び同年6月のセキュリティーCの収受率及び収受額が報告された。(査共62,101ないし106)
(二) 上記(一)の事実によれば,18.2役員会において,13社間に,セキュリティーCを請求することとし,全ての荷主に対してHAWBl件当たり最低300円とすること,爆発物検査料についてはHAWB1件当たり最低1500円を請求すること,請求開始時期はセキュリティーC及び爆発物検査料とも平成18年4月1日(ただし,その後,請求開始時期については,遅くとも同年7月1日と変更された。)からとすることの合意が成立したとする本件審決の認定は合理的なものであり,実質的証拠もあると解するのが相当である。
二 争点2(審査官による主張の変更手続がないまま本件各合意に価格合意が含まれると認定したことの適法性【取消事由1の(1)】)
1 原告は,本件措置命令の主文にある本件燃油SC合意としては請求合意だけが挙げられており,価格合意はこれに記載されていないのであるから,本件審判手続においては審判の対象とされていなかったにもかかわらず,本作燃油SC合意に価格合意も含まれると本件審決が認定判断したのは違法であると主張する(なお,原告は,本件燃油SC合意以外のその余の本件各合意についても同様の主張をしている。)。
しかしながら,本件措置命令の主文には,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,14社が平成14年9月18日に共同して行った荷主向け燃油SC(14社が利用する国際航空貨物利用運送業務を営む者が,我が国発の航空機に搭載される貨物を対象として14社に請求する燃油SCの額に相当する額を,14社が荷主に請求するものをいう。)を荷主に対し新たに請求する旨の合意(日通及びDHLにあっては,遅くとも同年11月8日までに加わったもの。)」を本件燃油SC合意として記載している(前記第二の二8参照)ところ,その記載自体及び本件措置命令の理由からも明らかなとおり,その内容は,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・利用する航空会社から燃油SCの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油SCの額に相当する額を,荷主に対する燃油SCとして荷主に対し新たに請求する」というものであることが明らかである。
そして,14社が荷主に燃油SCを請求するに当たっては,請求する金額を決定していることが当然の前提となるものというべきであり,14社が荷主に請求する本件燃油SCの額は,航空会社から請求される燃油SCの額に相当する額であるというのであるから,ここにいう「当該航空会社から請求を受ける燃油SCの額に相当する額を,荷主に対する燃油SCとして荷主に対し新たに請求する」とは,航空会社から燃油SCとして請求を受けることになる金額に相当する額を荷主向け燃油SCの額として決定した上で,荷主に同額の負担を求めることと解することになるのは明らかというべきである。
2 また,本件燃油SC合意以外のその余の本件各合意についても以上と同様に解するのが相当である。すなわち,本件AMSチャージ合意は,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上を,AMSチャージとして荷主に対し新たに請求する」というものであり,また,本件セキュリティーC等合意は「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上を,セキュリティーCとして荷主に対し新たに請求する」,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を,爆発物検査料として荷主に対し新たに請求する」というものであるから,いずれも新たに発生する費用について,当該費用の額を決定し,荷主に負担を求めることを合意したものであることは明らかである(その合意の趣旨は,新たに発生する費用を自らは負担せずに,実際の役務の利用者である荷主の負担に転嫁するものであると解される。)。
3 したがって,原告の前記主張を採用することはできず,本件違反行為に係る本件各合意は,本件4料金のそれぞれについて金額を決定した「価格の決定カルテル」であり,独占禁止法2条6項所定の「対価を決定する」ものに該当すると判断するのが相当である。
三 争点3(本件各合意による競争の実質的制限の存否についての実質的証拠の有無【取消事由1ないし4の各(2),5】)
1 14社(平成16年以降は13社)の本件業務における貨物量の合計は,平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における総貨物量の72.5%ないし75.0%を占めていたこと(前記第二の二2(二)参照)からすると,このような市場占有率を有する14社によって,本件業務に関する不当な取引制限に当たる合意が成立すれば,本件業務の競争を実質的に制限する結果となることは明らかというべきである。
2 原告は,請求合意だけを内容とする本件燃油SC合意が実質的に競争制限を生ずるものであることを本件審決が認定しておらず,また,これを認める実質的証拠もないとすると主張する(取消事由1ないし3の各(2))。しかしながら,これらの主張は,本件燃油SC合意が価格合意を含まない請求合意だけを内容とするものであることを前提とするものであるところ,本件燃油SC合意が価格合意をも含むものと本件審決が認定したことが合理的なものであることは,前記一の1(四)で判断したとおりであり,その実質的証拠もあるものと解するべきであるから,原告の上記主張はその前提を欠くものというべきであり,失当である。
3 原告は,ユナイテッド,日通及びDHLを除く11社の市場占有率が50%に達しておらず,11社だけの間で成立した本件各合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限したとは認めることができないとも主張する(取消事由4(2))。しかし,ユナイテッドや日通,DHLとの間においても本件燃油SC合意が成立したものと本件審決が認定したことが合理的なものであることは,前記一の1で判断したとおりであり,原告の上記主張は,この点についてもその前提を欠いているものといわざるを得ないから,これを採用することができない。
4 原告は,本件燃油SC合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではないことを前提として,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーC等合意だけでは,AMSチャージ,セキュリティーC及び爆発物検査料の3料金の運賃収益に占める割合が極めて少ないことから,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するとは認められないとも主張する(取消事由5(2))。しかしながら,本件燃油SC合意が本作業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであることは前述したとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き理由がないというべきである。
5 原告が指摘する相談事例は,事業の共通化の割合だけで競争の実質的な制限の有無を判断しているものとは解されない上,本件審決も,13社全体における本件実行期間(平成16年11月から平成19年11月まで)における「本作4料金の売上の合計額」が「本件業務の売上額」に占める割合だけで競争の実質的制限の有無を判断しているのではないから,原告の主張はその前提において失当というべきである。そして,本件審決は,14社(平成16年以降は13社)の「本件業務における貨物量の合計」が,平成13年から平成20年までの「我が国における本件業務における総貨物量」の72.5%ないし75.0%を占めていたことから,このような市場占有率を有する14社によって本件業務に関する不当な取引制限に当たる合意が成立したことにより,本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されることになると評価できると判断しているのであるから,本件各合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することになるとの本件審決の判断は,実質的証拠を欠くものではなく,この点に関する原告の主張(取消事由5(1))も埋由がないものというべきである。
四 争点4
1 本件各合意は不当な取引制限に当たるか【取消事由6】
原告は,本件各合意が請求合意だけを内容とするものであり,価格合意を含まないことを前提として,このような内容の本件各合意が,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,又は引き上げる行為に当たることはないと主張する。
しかしながら,本件各合意に価格合意が含まれるとの本件審決の認定判断が合理的なものであることは既に前述したとおりであり,その実質的な証拠もあるものと解されるのであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き失当である。
そして,本件4料金は,本件業務という役務の対価である運賃等の一部であるところ,これについての本件各合意は,本件事業者である14社(又は13社〉が共同して対価を決定したものであり,独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に当たることは明らかというべきである。
2 本件燃油SC等と役務との関係【取消事由7】
本件燃油SCは,本件事業者が荷主から委託を受けた本件業務の対価として本体運賃とともに徴収されるものであるから,本件燃油SC合意は,独占禁止法7条の2第1項1号の「役務の対価に係る」ものであることが明らかである。
原告は,本件燃油SC自体に対する固有の役務というものはなく,本件業務という1個の役務に対する対価として,本体運賃と本件燃油SCなどが渾然一体となった「運賃等」があるだけであるから,本件燃油SCに相当する額だけを対価として捉えて課徴金を課すことはできない旨主張する(取消事由7)。しかしながら,本件燃油SC合意は,14社が本件業務の対価である運賃等のうちの本件燃油SCだけを対象として合意を成立させたものであるところ,運賃等のうち本件燃油SCだけを区別することは可能であり,本件燃油SCが本件業務における役務に対する渾然一体となった対価の一部としてこれを区別することができないというのは原告独自の見解というべきである。実際にも,本件燃油SC合意は,運賃等のうち本件燃油SCだけを対象として合意を成立させているのであり,これによりこの合意に参加した各社が相互に事業活動を拘束して競争制限の効果を生じさせていたのであるから,本件燃油SCの売上額を基に課徴金を課すことには何らの違法もないというべきである。そして,不当な取引制限である本件燃油SC合意につき,本体運賃と区別される本件燃油SCの売上額を基礎として,課徴金額を算定することは,カルテルによる不当な利得を剥奪することにより社会的公正を図るとともに,カルテルの発生を抑止することを目的とする課徴金制度の趣旨にも合致するものというべきである。なお,このことは,本件燃油SC合意以外の本件各合意についても同様というべきである。
よって,原告の主張(取消事由7)も理由がなく,これを採用することはできない。
五 争点5(本件業務は小売業に当たるか【取消事由8】)
1 原告は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の行う許可を受けて,本件業務を営む者であり,本件業務の内容は,荷主からの集荷,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物の仕立て,航空会社への引渡し,航空機への搭載,航空機による運送,仕向地の空港への到着後の航空機からの取り下ろし,混載貨物の仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等のほか,アメリカ合衆国のAMS制度の導入に伴う手続や,保安対策基準によるRA制度の導入に伴う手続などもこれに含まれるというものであるから,原告を含む本件事業者が行う本件業務は運輸業に分類されるものと解するのが相当である。原告の行うこのような本件業務が,商品を仕入れて,これをさらに販売する小売業や卸売業に当たるものといえないことは明らかである。
2 原告は,自ら国際航空運送役務を創造するものではなく,航空会社が創造する運送役務を購入して需用者に提供し,マージンを得ているにすぎないから,その実質が小売業に当たると主張する(取消事由8)。
しかしながら,本件業務は,前記1のとおり,航空会社の運送を利用して輸出に必要な検査等の手続を行うことも含めて荷主の貨物を運送するという役務を提供することを内容としており,航空会社から一定の容量ないし重量の貨物を運送する役務を買い入れ,同一性を保持したままで荷主にこれを販売するというものではないことは明らかである。また,仮に航空会社による貨物運送についてはこれを仕入れて販売するものとみる余地があるとしても,本件事業者は,それ以外の貨物の運送に不可欠な作業をも付加して一体となった役務を提供しているのであり,航空会社による貨物運送とは別個の業務というべきものであることからすると,単に商品(役務)を流通させる事業とはいえず,「小売業,卸売業」には当たらないと解するのが相当である。これに反する原告の主張は,独自の見解というべきであるから,これを採用する余地はないといわざるを得ない。
第四 結論
よって,原告が他の本件事業者とともに不当な取引制限に当たる本件各合意をしたとの本件審決の認定は合理的なものであり,これを立証する実質的な証拠も具備されており,また,法令の適用にも違法な点は認められないと判断するのが相当であり,原告の主張する取消事由1ないし8はいずれも失当であり,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成24年11月9日

裁判長裁判官 奥田隆文
裁判官 渡邉弘
裁判官 片山憲一
裁判官 齊藤顕
裁判官 清藤健一

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