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(株)吉孝土建ほか1名に対する件

独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)

平成22年(判)第8号ないし第11号

審判請求棄却審決(審判審決,課徴金の納付を命ずる審決)

川崎市多摩区登戸1768番地
被審人 株式会社吉孝土建
同代表者 代表取締役 吉 澤 敏 行
川崎市多摩区菅三丁目11番6号
被審人 真成開発株式会社
同代表者 代表取締役 金 森 幸 宗
上記2名代理人弁護士 綱 取 孝 治
同          髙 井 信 也

公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官後藤健,審判官真渕博及び審判官原一弘から提出された事件記録並びに規則第75条の規定により被審人らから提出された異議の申立書及び規則第77条の規定により被審人らから聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人らに対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成24年11月26日

公 正 取 引 委 員 会
委員長代理委員  濵  田  道  代
委     員  小 田 切  宏  之
委     員  幕  田  英  雄

平成22年(判)第8号ないし第11号

審   決   案

川崎市多摩区登戸1768番地
被審人 株式会社吉孝土建
同代表者 代表取締役 吉 澤 敏 行
川崎市多摩区菅三丁目11番6号
被審人 真成開発株式会社
同代表者 代表取締役 金 森 幸 宗
上記2名代理人弁護士 鈴 木 秀 男
同          綱 取 孝 治
同          髙 井 信 也

 上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
1 株式会社吉孝土建
(1) 平成22年(判)第8号審判事件
平成22年(措)第9号排除措置命令の取消しを求める。
(2) 平成22年(判)第10号審判事件
平成22年(納)第40号課徴金納付命令の取消しを求める。
2 真成開発株式会社
(1) 平成22年(判)第9号審判事件
平成22年(措)第9号排除措置命令の取消しを求める。
(2) 平成22年(判)第11号審判事件
平成22年(納)第45号課徴金納付命令の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人株式会社吉孝土建(以下「被審人吉孝土建」という。)及び被審人真成開発株式会社(以下「被審人真成開発」といい,被審人吉孝土建と併せて「被審人2社」という。)を含む別紙1記載の24社(以下「24社」という。略称は別紙1の「略称」欄による。)が,川崎市が一般競争入札の方法により発注する下水管きょ工事について,平成20年3月12日から平成21年3月31日までの期間(以下「本件違反行為期間」という。),共同して受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して競争を実質的に制限したものであり,これは独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するとして,平成22年4月9日,24社のうち関トウを除く23社に対し,排除措置を命じた(平成22年(措)第9号。以下「本件排除措置命令」という。)。排除措置命令書の謄本は,同月10日,被審人2社に対してそれぞれ送達された。
2 公正取引委員会は,本件排除措置命令に係る違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,平成22年4月9日,被審人吉孝土建に対し,471万円の課徴金の納付を命じ(平成22年(納)第40号),被審人真成開発に対し,346万円の課徴金の納付を命じた(平成22年(納)第45号。以下,平成22年(納)第40号と併せて「本件各課徴金納付命令」という。)。課徴金納付命令書の謄本は,同月10日,被審人2社に対してそれぞれ送達された。
3 被審人2社は,上記1の違反行為を否認するなどして,平成22年6月9日,本件排除措置命令の取消しを求めて各審判請求をするとともに(平成22年(判)第8号及び第10号),本件各課徴金納付命令の取消しを求めて各審判請求をした(平成22年(判)第9号及び第11号)。
第3 前提となる事実等(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。)
1 当事者等
(1) 24社のうち関トウを除く23社は,別紙1中「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,建設業法(昭和24年法律第100号)の規定に基づき国土交通大臣又は神奈川県知事の許可を受け,建設業を営む者である。
(2) 関トウは,別紙1中「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,建設業法の規定に基づき神奈川県知事の許可を受け,建設業を営んでいた者であるが,平成21年1月28日に神奈川県知事から建設業法の規定に基づく許可を取り消され,以後,建設業を営んでいない。
2 川崎市の下水管きょ工事とその発注方法等
(1) 下水管きょ工事
下水管きょ工事(川崎市が公告等において業種を「下水管きょ」として発注する工事をいう。以下同じ。)は,下水管きょ(汚水や雨水を集め,これらを下水処理場や放流先まで導くための排水管又は溝状の水路である排水きょ)を新設又は補修する工事である。(査第1号証,第2号証)
(2) 下水管きょ工事の発注方法等
ア 発注方法の区分
川崎市は,下水管きょ工事の発注方法として,平成6年度から平成15年度までは,予定価格が3億円以上の工事を一般競争入札の対象とし,同じく3億円未満の工事については公募型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注していたが,平成16年度からは,予定価格が3000万円以上の工事は一般競争入札の方法により,同じく3000万円未満の工事は指名競争入札の方法により発注し,さらに,平成18年度以降は,予定価格がおおむね1000万円以上の工事は一般競争入札の方法により,同じく1000万円未満の工事は指名競争入札の方法により発注している。(査第1号証,第2号証,第3号証)
イ ランクの格付等
川崎市は,下水管きょ工事について,「川崎市競争入札参加者選定規程」に基づき,同市の一般競争入札及び指名競争入札への参加を希望する事業者に対して,資格審査を行い,A,B,C又はDのいずれかの等級(以下「ランク」という。)に格付するとともに,市内業者(川崎市内に本店を置く事業者をいう。以下同じ。),準市内業者(川崎市内に本店を置かないが事業所を置く事業者)又は市外業者(川崎市内に本店及び事業所いずれも置かない事業者)に分けて,これを登録した有資格業者名簿を作成していた(以下,川崎市が有資格業者名簿に登録している事業者を「有資格者」という。)。
川崎市は,有資格者のランクを2年に1度改定しており,平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間,川崎市から市内業者に区分され,かつ,下水管きょ工事についてAランクに格付されていた事業者(以下「Aランクの市内業者」という。)は31社であった。24社は,いずれも,この間,Aランクの市内業者であったが,関トウは,平成20年5月20日以降,有資格者でなくなった。
(査第1号証,第2号証,第4号証,第5号証)
ウ 一般競争入札参加の条件
(ア) 川崎市は,一般競争入札の方法により発注する下水管きょ工事について,原則として,市内業者であるとともに,当該工事の予定価格に対応するランクの有資格者であることを入札参加の条件としており,予定価格がおおむね7000万円以上である工事については,Aランクの市内業者であることを入札参加の条件としていた。
(イ) また,川崎市は,予定価格がおおむね2億円以上のもので,工事内容等を総合的に勘案し,特定建設工事共同企業体(以下「JV」という。)による施工が適当と認める下水管きょ工事については,当該工事の予定価格に対応するランクの有資格者を構成員とするJVであることを入札参加条件とし,予定価格がおおむね2億円以上7億円未満の工事については,Aランクの市内業者を代表者とするJVであることを入札参加の条件としていた。
(査第1号証,第2号証,第3号証,第4号証,第6号証)
エ 入札の辞退
下水管きょ工事の入札参加者は,入札を行うまでの間は,いつでも辞退届を提出し,入札を辞退することができた。(査第7号証,第8号証)
3 平成20年2月までの状況
(1) 平成5年の勧告審決
市内業者69社(24社のうち別紙2記載の14社を含む。)は,遅くとも平成3年4月1日以降,川崎市が指名競争入札又は指名見積り合わせの方法により発注する下水管きょに係る工事(シールド工事,ミニ・シールド工事並びに開削工事のうち取付管布設工事及び下水管きょ緊急補修工事を除く。)について,共同して,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていたことが独占禁止法に違反するとして,平成5年11月12日,公正取引委員会から勧告審決を受けた。
なお,この審決において,平成4年10月12日以降,上記違反行為は取りやめられていると認定されている。
(2) 平成17年以降のAランクの市内業者等による会合
平成17年以降,Aランクの市内業者等は,以下のとおり,会合を開いた。
ア 平成17年6月10日,Aランクの市内業者は,川崎区に所在する社団法人川崎建設業協会(以下「協会」という。)において会合を開いた。
イ 平成19年4月3日,同月20日及び同年7月24日,川崎市に存在する7区のうち,川崎区及び同区に隣接する幸区を除いた中原区,高津区,宮前区,多摩区及び麻生区(以下「5区」という。)のAランクの市内業者等は,麻生区に所在するホテルモリノ新百合丘(以下「ホテルモリノ」という。)において会合を開いた。
ウ 平成20年2月22日,Aランクの市内業者は,ホテルモリノにおいて会合を開いた。
エ 平成20年2月26日,Aランクの市内業者は,協会において会合を開いた。
4 本件違反行為期間における入札の実施状況
(1) 平成20年3月12日から平成21年3月31日までの期間(本件違反行為期間)に川崎市が一般競争入札の方法により発注した,Aランクの市内業者又はAランクの市内業者を代表者とするJVのみを入札参加者とする下水管きょ工事(以下「川崎市発注の特定下水管きょ工事」という。)は42件であり,その概要は別紙3のとおりであった。
(2) 別紙3の42件のうち,被審人吉孝土建は,一連番号12,19,24,32,35及び42の6件に入札参加の申込みを行い,このうち,一連番号24の工事をJVの構成員として受注した。
(3) 別紙3の42件のうち,被審人真成開発は,一連番号4,5,6,7,11,12,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,28,29,32,33,34,35,38,39及び41の25件に入札参加の申込みを行い,このうち,一連番号6の工事をJVの構成員として受注した。
5 課徴金の計算の基礎
(1) 被審人吉孝土建について
ア 被審人吉孝土建は,審査官が同被審人の本件における実行期間(独占禁止法第7条の2第1項)であると主張している平成20年7月8日から平成21年3月31日までの期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた。
イ 上記アの平成20年7月8日から平成21年3月31日までの期間に被審人吉孝土建が契約を締結した川崎市発注の特定下水管きょ工事は,藤木工業・吉孝土建JVが受注した一連番号24の工事1件であり,この工事の請負代金総額は4億9140万円であった。
同工事について,被審人吉孝土建と藤木工業は共同企業体協定書を締結し,構成員の出資割合を藤木工業70パーセント,被審人吉孝土建30パーセントとすることを取り決めた。
(2) 被審人真成開発について
ア 被審人真成開発は,審査官が同被審人の本件における実行期間(独占禁止法第7条の2第1項)であると主張している平成20年3月19日から平成21年3月31日までの期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた。
イ 上記アの平成20年3月19日から平成21年3月31日までの期間に被審人真成開発が契約を締結した川崎市発注の特定下水管きょ工事は,藤原建設・真成開発JVが受注した一連番号6の工事1件であり,この工事の請負代金総額は2億7090万円であった。被審人真成開発の上記工事に係る出資割合は40パーセントであるから,その売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)第6条第1項の規定に基づき算定すると,1億836万円である。
第4 本件の争点
1 本件基本合意の存否及び被審人2社の本件基本合意への参加の有無
被審人2社を含む24社は,川崎市発注の特定下水管きょ工事について,受注予定者の決定等に関する合意(以下「本件基本合意」という。)をしたか。
2 本件基本合意による競争の実質的制限の有無
本件基本合意は川崎市発注の特定下水管きょ工事における競争を実質的に制限するものであったか。
3 本件違反行為の始期及び終期
被審人2社が本件基本合意の下に受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為(以下「本件違反行為」という。)の始期は,岡村建興が,他の違反行為者と意思の連絡を行った一連番号9の工事の入札締切日である平成20年5月23日か。また本件違反行為の終期は,重田組が低入札価格の態度を明らかにした一連番号17の工事の入札締切日である同年8月6日か。
4 被審人2社が受注した物件の「当該役務」該当性
被審人吉孝土建が一連番号24の工事を,被審人真成開発が一連番号6の工事をそれぞれ本件基本合意により受注したか。
5 被審人吉孝土建の売上額
被審人吉孝土建がJVの構成員として受注した一連番号24の工事について,独占禁止法施行令第6条第1項にいう「契約により定められた対価」はいくらであるか。
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(本件基本合意の存否及び被審人2社の本件基本合意への参加の有無)について
(1) 審査官の主張
ア 本件違反行為に至る経緯
(ア) 前記第3の3(1)のとおり,市内業者69社は,川崎市が発注する下水管きょ工事について,遅くとも平成3年4月1日以降,受注調整を行っていたが,平成5年11月12日,公正取引委員会から勧告審決を受けた。
(イ) 受注調整は,平成4年頃には取りやめられたが,平成10年頃,Aランクの市内業者は,川崎市発注の下水管きょ工事について,再び受注調整を継続して行うようになった。ところが,平成17年頃以降,川崎区の一部のAランクの市内業者が,受注調整に参加せず,低価格による入札を行うようになった結果,Aランクの市内業者の間において受注調整が機能しなくなった。
(ウ) 被審人2社を含むAランクの市内業者は,平成17年頃からしばしば行われていた低価格による入札をやめ,受注調整を再開するため,平成17年6月10日に協会において会合を開き,川崎市発注の特定下水管きょ工事について,互いに協力して受注調整を行っていくことを確認し,「連絡員」,「調整役」等と称する連絡係(以下「連絡員」という。)を,各地区に1,2名置くこととし,被審人吉孝土建は,多摩区・麻生区の連絡員となった。ところが,川崎区の一部のAランクの市内業者が受注調整に参加せずに低価格による入札を続けたため,受注調整が機能しない状態が続いた。
(エ) 被審人2社を含む5区のAランクの市内業者は,平成19年4月3日,同月20日及び同年7月24日,ホテルモリノにおいて,会合を開き,5区のAランクの市内業者において受注調整を行うとともに,川崎区のAランクの市内業者に対して受注調整を行うよう働きかけることとした。
(オ) 低価格による入札を続けていた川崎区のAランクの建設業者が倒産又は廃業したことから,被審人2社を含むAランクの市内業者は,平成20年2月22日,ホテルモリノで会合を開き,川崎市発注の特定下水管きょ工事について,受注調整を行っていくことを確認した。
(カ) 被審人2社を含む川崎市のAランクの市内業者は,平成20年2月26日,協会で会合を開き,川崎市発注の特定下水管きょ工事について受注調整を行うこと及び各地区の連絡員を再度確認するとともに,欠席したAランクの市内業者に対して,連絡員を通じて会合の内容を伝達した。
イ 本件違反行為の内容
24社は,遅くとも平成20年3月12日以降(関トウにあっては同年5月19日までの間,岡村建興にあっては遅くとも同月23日以降),川崎市発注の特定下水管きょ工事について,受注価格の低落防止を図るため,
(ア) 受注を希望する者又はJVは,自己以外の入札参加の申込みを行った者に対して受注を希望する旨表明し,
a 受注希望者が1社のときは,その者を受注予定者とする
b 受注希望者が複数のときは,工事の履行場所,過去に受注した工事との継続性等を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する
(イ) 受注すべき価格は,受注予定者(受注予定者がJVである場合にあってはその代表者)が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格を上回る価格で入札する,入札を辞退するなどにより,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意(本件基本合意)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
ウ 本件違反行為の実施状況
24社は,本件違反行為期間中に発注された別紙3記載の川崎市発注の特定下水管きょ工事42件のうち,28件(別紙3の一連番号1ないし6,8ないし16,18ないし20,22ないし27,30,32ないし34の各工事。以下「別紙3の28件」ともいう。)において,本件基本合意の下に受注調整を行い,落札した。
(2) 被審人2社の主張
ア 本件違反行為に至る経緯に関する審査官の主張について
(ア) 審査官の主張ア(ア)は認める。
(イ) 審査官の主張ア(イ)は否認する。
被審人真成開発は平成17年にAランクの市内業者になったところ,平成17年度にAランクの市内業者が川崎市発注の下水管きょ工事について受注調整を行った事実はないし,それ以前に受注調整があったかどうかは知らない。
被審人吉孝土建は平成11年にAランクの市内業者になったが,下水管きょ工事はほとんど受注しなかったから,Aランクの市内業者が川崎市発注の下水管きょ工事について受注調整を行った事実は知らない。
(ウ) 審査官の主張ア(ウ)のうち,Aランクの市内業者が平成17年6月10日に協会において会合を開いたこと,被審人吉孝土建が出席したこと,この会合後も受注調整が行われなかったことは認めるが,その余の事実は否認する。被審人真成開発はこの会合には出席していない。出席した各社は,現状の報告をしただけであって,受注調整を含む具体的な対応策は話し合っていない。また,連絡員を置くことも,被審人吉孝土建を連絡員とすることも決めていない。この会合では,地元優先で受注したいが,実効的な方法はないという結論になったのである。
(エ) 審査官の主張ア(エ)のうち,被審人2社を含む5区のAランクの市内業者が,平成19年4月3日,同月20日及び同年7月24日にホテルモリノにおいて会合を開いたことは認めるが,その余の事実は否認する。これらの会合は,いずれも親睦のためのものであって,特別な目的のために集まったわけではない。これらの会合において,当時,川崎区のAランクの市内業者が5区の工事を落札するようになっていたため,5区のAランクの業者が従前から有していた地元の物件を受注する方針を維持する方策がないかも話題に上り,被審人真成開発が,5区の業者も川崎区の工事の入札に参加することで対応するべきである旨発言した。しかし,地元の物件にのみ入札する方針であった他の出席者の賛同は得られず,結局,地元優先で受注することについて実効的な方法はないという結論になった。
(オ) 審査官の主張ア(オ)のうち,被審人2社を含むAランクの市内業者が,平成20年2月22日,ホテルモリノで会合を開いたことは認めるが,その余の事実は否認する。
(カ) 審査官の主張ア(カ)の事実は不知ないし否認する。被審人2社は,この会合に出席していないし,この会合の内容について連絡を受けていない。被審人吉孝土建代表取締役吉澤敏行(以下「被審人吉孝土建の吉澤」という。)は,同日,川崎市宿河原・バラ園アクセスロードの工事の現場で作業に従事していた。被審人真成開発代表取締役金森幸宗(以下「被審人真成開発の金森」という。)は,千葉県大網白里における工事現場で作業に従事していた。
(キ) 上記(ア)ないし(カ)のとおり,24社の中には地元優先の受注調整を実現したいと願った事業者もいたものの,その願望をかなえる具体的な方途はなく,むしろ受注調整に実効性がないことについて24社相互の了承があったのであって,受注調整に向けての具体的・基本的な合意が成立したとはいえない。
また,被審人2社は,平成20年2月26日の協会における会合に出席しておらず,それ以前に受注調整のための会合を持ったこともないから,仮に本件基本合意が存在したとしても,被審人2社は本件基本合意に参加していない。
イ 審査官の主張イは否認する。
ウ 審査官の主張ウのうち,24社が別紙3の28件を落札した事実は認めるが,その余の事実は否認する。24社は,本件基本合意による受注調整の結果,別紙3の28件を落札したわけではない。
エ 仮に,審査官の主張イの合意が成立したとしても,後記2(2)の「競争を実質的に制限する」ことの意義からすれば,基本合意は,自由で自主的な営業活動上の意思決定を将来にわたって拘束するほどの合意であることを要するところ,審査官の主張イの程度の認識を建設業者らが有していたことをもって,直ちに自由で自主的な営業活動上の意思決定を将来にわたって拘束するほどの合意の成立があったということはできない。したがって,本件において基本合意は存在しない。
2 争点2(本件基本合意による競争の実質的制限の有無)について
(1) 審査官の主張
ア 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,市場における価格,品質,数量等の競争条件をある程度自由に左右することによって,市場を支配できる状態がもたらされることをいうのであり,競争が完全に制限あるいは消滅した状態をいうものではない。
イ 24社が,本件違反行為により,本件違反行為期間中における川崎市発注の特定下水管きょ工事の大部分を受注していたこと,その平均落札率が極めて高いこと,落札価格の合計額の割合が相当程度高いことも踏まえれば,本件違反行為により,24社が,川崎市発注の特定下水管きょ工事の取引分野において,価格等の競争条件をある程度自由に左右することによって市場を支配することができる状態がもたらされていたことは明らかである。一部の工事において,本件基本合意に参加しない者が入札参加申込みを行い,また落札したとしても,競争の実質的制限が否定されるものではない。
ウ 24社が本件違反行為により受注した川崎市発注の特定下水管きょ工事28件のうち,落札者以外に受注希望者がいなかった工事は22件存在するが,これらの工事の全てにおいて受注調整が行われ,受注予定者を決定し,受注予定者以外の入札参加申込者は受注予定者の受注に協力していた。したがって,上記22件の工事において落札者以外に受注希望者がいなかったことは,「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」を否定する事情とはなり得ない。
(2) 被審人2社の主張
ア 本件において,一定の取引分野における「競争を実質的に制限する」とは,川崎市発注の特定下水管きょ工事に関し,自社で決定した金額で入札することに関してAランクの市内業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除することによって,特定の建設業者が,ある程度自由に当該工事の受注者又は受注価格を左右することができる状態に至っていることをいう。
イ 下記ウ及びエのとおり,複数のフリー物件が存在すること及び落札者以外に受注希望者が存在しなかった工事が多数を占めることから,自由で自主的な営業活動を行うことが停止あるいは排除されていない。
ウ フリー物件について
本件違反行為期間中,受注調整が行われず自由な価格競争が行われた物件(以下「フリー物件」ともいう。)が複数存在する。フリー物件の数は,平成20年3月19日から,低価格による入札を行う者であると認識されていた株式会社トモエコーポレーションが平成21年度からAランクに格付されることが判明した平成21年2月13日までに入札が行われた35件中6件を占める(一連番号7,17,28,31,32及び35の工事)。
エ 落札者以外に受注希望者が存在しなかった工事について
審査官が,本件違反行為期間中に24社が本件違反行為により受注したと主張する28件のうち一連番号5,6,22,24,32及び33の工事を除く22件において,落札者以外に受注希望者がいなかった。
(ア) 上記の22件のうち多数の物件において,工事の内容又は施工方法から利幅が少ないこと,工事の履行場所に問題があり,工事が困難であること等を理由として,多くの事業者が受注を希望しなかった。このような理由で,受注を希望する事業者が1社のみであった場合には,自由で自主的な営業活動が停止されていたとはいえない。
(イ) 地元の物件や継続物件については,①資材置き場の確保,輸送費等の点でコストが抑えられること,②ノウハウの蓄積があることから高度の完成度や安全性を実現できること,③地元における信頼を増加させることなどの経済的合理性があるため,24社は,各工事の履行場所の地元の事業者や継続性を有する事業者を優先し,これが明確な工事については,他の事業者は受注を希望しないことが多かった。24社がこのような経済的合理性に基づく自由で自主的な判断に基づいて地元の事業者や継続性を有する事業者を優先した場合には,自由で自主的な営業活動が停止あるいは排除されたとはいえない。
3 争点3(本件違反行為の始期及び終期)について
(1) 審査官の主張
ア 本件違反行為の始期について
(ア) 前記1(1)イのとおり,24社は,遅くとも平成20年3月12日以降(岡村建興にあっては遅くとも同年5月23日以降),本件基本合意の下,受注調整を行っていたから,本件違反行為の始期は,平成20年3月12日である。
(イ) 一連番号7の工事については,平成20年3月18日,協会で開かれた会合において,受注予定者を決定するための話合いが行われた。なお,一連番号7の工事については,入札締切日の時点では本件基本合意に参加していなかった岡村建興が予定価格の85.0パーセント相当額で落札したが,だからといって,この工事について受注調整が行われたことが否定されるわけではない。
イ 本件違反行為の終期について
(ア) 24社のうち関トウを除く23社は,本件違反行為を継続したが,低価格による入札を行う者であると認識されていた市内業者が新たにAランクに格付され,川崎市発注の特定下水管きょ工事の入札に参加することができるようになったこと等から,平成21年4月1日以降,本件違反行為を取りやめている。したがって,本件違反行為の終期は平成21年3月31日である。
(イ) 平成20年8月6日が入札締切日である一連番号17の工事においては,重田組を含めた入札参加申込者9社の間で話合いが行われたのであって,重田組が基本合意を無視する態度をとったとはいえない。また,一連番号28,31及び32の各工事については,それぞれ,入札参加申込者間で受注予定者を決定するための話合いが行われており,これらの工事はフリー物件ではなかった。
一連番号17の工事の入札締切日の後,同年8月7日から平成21年3月31日までの間に発注された工事24件のうち(入札不調となった一連番号21の工事を除く。),重田組が入札参加の申込みを行ったものは12件であるが(一連番号18,25,26,27,28,30,31,32,33,34,35及び41),このうち,8件の工事(一連番号18,25,26,27,30,32,33及び34)について受注調整が行われ,受注予定者は,重田組を含む入札参加申込者の協力を得た結果,各工事を受注している。さらに,重田組は,一連番号24の工事について,平成20年10月2日の川崎市中原区に所在する会館とどろき(以下「会館とどろき」という。)における会合の会議室を自ら予約した上で,同会合に出席し,受注調整のための話合いに参加している。
このように,重田組は,同年8月6日以降,受注調整に多数回参加したり,受注調整のための会合を催したりしたのであるから,同日以降,基本合意を無視した低価格入札の態度を明らかにしていたとはいえない。
(2) 被審人2社の主張
ア 本件違反行為の始期について
(ア) 平成20年2月26日の協会における会合には,Aランクの市内業者である岡村建興や熊谷建設株式会社(以下「熊谷建設」という。)が参加しなかったため,他のAランクの市内業者は,この会合により受注調整の効果が生じるか疑問視していた。例えば,同年3月12日が入札締切日の一連番号2の工事について,藤原建設代表取締役社長藤原秀幸(以下「藤原建設の藤原」という。)は,同年2月26日の協会における会合を経た直後の入札でありながら,フリー物件となる可能性が十分にあるとの認識を示している。
また,同年3月19日が入札締切日の一連番号7の工事について,岡村建興は受注調整に参加せず,受注調整が機能しなかった。このため,審査官も,一連番号7の工事については,本件違反行為により受注されたものとは認定していない。
(イ) 以上から,基本合意の成立は,早くとも岡村建興が他のAランクの市内業者と意思を通じたといい得る平成20年5月23日が入札締切日の一連番号9の工事以後と考えるべきであり,被審人真成開発が受注した入札締切日が同年3月19日である一連番号6の工事は,課徴金の対象とならない。
イ 本件違反行為の終期について
(ア) 平成20年5月頃,川崎市の指名停止処分を契機として,重田組の経営が急速に悪化した。そして,平成20年8月6日が入札締切日の一連番号17の工事について,重田組は落札率82パーセントで受注し,低価格入札の態度を明らかにした。審査官の主張では,重田組は中原区の連絡員であったところ,連絡員が自らこのような態度を明らかにした以上,基本合意の効力は失われたとみるべきである。
加藤土建専務取締役加藤健一は,一連番号17の工事について,小沼工務店と重田組とが話合いを行ったが調整がつかず,くじ引きにより重田組が受注したことがあったと述べるなど,24社から重田組と関トウを除く22社も,経営の悪化した重田組が基本合意を無視した低価格入札を始めた事実を認識していたから,基本合意の効力は失われたとみるべきである。
(イ) 重田組が低価格入札を始めた後,川崎市発注の特定下水管きょ工事においてフリー物件が多発するようになった。入札締切日がそれぞれ平成20年11月19日と同年12月10日であった一連番号28及び31の工事はいずれもフリー物件であり,審査官も両工事については本件違反行為により受注されたものと認定していない。
また,平成21年1月20日が入札締切日の一連番号32の工事は,重田組代表取締役重田洋一が述べるとおりフリー物件であった。
(ウ) 前記(1)イ(ア)のとおり,24社において,低価格による入札を行う者が存在すれば本件違反行為を行うことが困難になると認識されていたことは審査官も認めている。
(エ) 以上から,遅くとも,平成20年8月6日までには基本合意は消滅しており,被審人吉孝土建が受注した入札締切日が同年10月9日である一連番号24の工事は課徴金の対象とならない。
4 争点4(被審人2社が受注した物件の「当該役務」該当性)について
(1) 審査官の主張
ア 一連番号6の工事について
(ア) 一連番号6の工事については,藤原建設・真成開発JV(藤原建設を代表者とし,被審人真成開発を構成員とするJVをいう。以下同じ。)のほか,6JVが入札に参加した。
(イ) この工事については,平成20年3月18日に協会で開かれた会合において,受注希望者間の話合いにより,藤原建設・真成開発JVが受注予定者となった。
(ウ) 被審人真成開発の金森は,この会合に出席し,途中で退席したが,会合終了後,藤原建設の藤原は,金森に対し,藤原建設・真成開発JVが一連番号6の工事の受注予定者となった旨を連絡した。
(エ) 藤原建設・真成開発JVは,他の入札参加JVの協力を得た結果,本工事を落札した。
(オ) よって,一連番号6の工事は,本件基本合意に基づく受注調整の結果,藤原建設・真成開発JVが落札したものであって,当該役務に該当する。
イ 一連番号24の工事について
(ア) 一連番号24の工事については,藤木工業・吉孝土建JVのほか,6JVが入札に参加した。
(イ) この工事については,平成20年10月2日に会館とどろきで開かれた会合において,受注希望者間の話合いにより,藤木工業・吉孝土建JVが受注予定者となった。被審人吉孝土建の吉澤もこの会合に出席した。
(ウ) 藤木工業・吉孝土建JVは,他の入札参加JVの協力を得た結果,本工事を落札した。
(エ) よって,一連番号24の工事は,本件基本合意に基づく受注調整の結果,藤木工業・吉孝土建JVが落札したものであって,当該役務に該当する。
(2) 被審人2社の主張
ア 一連番号6の工事について
被審人真成開発は,藤原建設とJVを組んだ際,一連番号6の工事の入札についてJVの代表者である藤原建設に一任しており,入札後に受注の連絡を受けた。そのため,藤原建設が他の入札参加申込者と協議を持ったか否かを知らない。
被審人真成開発の金森は,同工事について藤原建設の藤原に一任した上,他の入札参加申込者との協議などなくとも,地域性や工種によっておそらく藤原建設が受注できる工事であろうと認識していた。
イ 一連番号24の工事について
被審人吉孝土建は,平成20年10月2日に開催された会館とどろきでの会合に出席したが,受注希望者間の話合いには参加しなかった。藤木工業・吉孝土建JVにおいて,応札するか辞退するか,応札する場合に金額をいくらとするかなどの決定権は全てJVの代表者である藤木工業にあった。
5 争点5(被審人吉孝土建の売上額)について
(1) 審査官の主張
ア 前記第3の5(1)イのとおり,藤木工業・吉孝土建JVが受注した一連番号24の工事について,被審人吉孝土建と藤木工業は共同企業体協定書を締結し,構成員の出資割合を藤木工業70パーセント,被審人吉孝土建30パーセントとすることを取り決めた。
イ 共同企業体方式によって請負契約が締結された場合に課徴金を算定するに当たっては,請負代金額全体をJV比率で按分した額ないしは共同企業体内部で取り決めた各構成員の請負代金取得額をもって,独占禁止法施行令第6条第1項所定の「契約により定められた対価」とすべきである(東京高等裁判所平成20年6月20日判決・公正取引委員会審決集第55巻856頁参照)。一連番号24の工事に係る被審人吉孝土建の「契約により定められた対価」を請負代金全体をJV比率で按分した額により求める場合には,一連番号24の工事の請負代金総額は4億9140万円であり,同工事に係る被審人吉孝土建の出資割合は30パーセントであるから,上記請負代金総額に上記出資比率を乗じた1億4742万円となる。
ウ また,前記アの共同企業体協定書には,各構成員の請負代金取得額について直接定める規定はないが,構成員が出資割合に応じた出資を行った上で,出資割合により利益金の配当又は欠損金の負担を行うと規定されているから,同協定書は,藤木工業及び被審人吉孝土建がそれぞれの出資割合に応じて請負代金を取得する旨を取り決めたものといえる。
したがって,一連番号24の工事に係る被審人吉孝土建の「契約により定められた対価」を共同企業体内部で取り決めた各構成員の請負代金取得額により求める場合にも,一連番号24の工事の請負代金総額4億9140万円に被審人吉孝土建の出資割合である30パーセントを乗じた1億4742万円となる。
エ 被審人吉孝土建は,藤木工業と被審人吉孝土建との間で,被審人吉孝土建の請負代金取得額を0円とするとの取決めがあったと主張し,その根拠として覚書を挙げるが,当該覚書は,一連番号24の工事の請負代金の配分については何ら言及しておらず,藤木工業と被審人吉孝土建との間で,上記工事に係る被審人吉孝土建の請負代金取得額を0円とすることを取り決めたとする被審人2社の主張の根拠となるものではない。
(2) 被審人吉孝土建の主張
ア 被審人吉孝土建は,一連番号24の工事に関し,藤木工業との間で,JVを結成すること,藤木工業をJVの代表者とすること,藤木工業と被審人吉孝土建のJV比率を7:3とすることに同意し,平成20年9月16日,この合意内容に基づき共同企業体協定書を作成した。
同年10月9日,藤木工業・吉孝土建JVは,一連番号24の工事を落札した。
イ 落札から1週間程度後,被審人吉孝土建は,藤木工業から,一連番号24の工事は外注業者の施工部分がほとんどであり,自社施工部分は少なく,藤木工業と被審人吉孝土建の2社で分けるほどの工事ではないので,同工事は藤木工業の「一完施工」とし,請負代金についても藤木工業のみが受領したいとの申入れを受け,被審人吉孝土建は了承した。その際,藤木工業は,一連番号24の工事の経費については被審人吉孝土建に負担は求めない,被審人吉孝土建は名前だけ貸してくれれば300万円を支払う,ついてはこの点について覚書を締結したいと申し入れた。藤木工業は,平成20年11月7日,被審人吉孝土建宛てに,覚書作成依頼の件として,上記申入れ内容を確認する文書をファクシミリで送信し,両社は,その後,覚書を締結した。
ウ 上記イの合意内容に基づき,被審人吉孝土建は,藤木工業に対し,平成20年11月30日に315万円(税込金額)を請求し,支払いを受けたが,それ以外は藤木工業から何らの金員も取得していない。
エ 以上のとおり,一連番号24の工事について,被審人吉孝土建と藤木工業の間で,藤木工業が全ての施工を請け負う代わりに売上げも全額取得する,すなわち被審人吉孝土建の請負代金取得額を0円とするとの取決めがあった。被審人吉孝土建の「共同企業体内部で取り決められた各構成員の請負代金取得額」は0円であるから,被審人吉孝土建が支払うべき課徴金の額もまた0円である。
第6 審判官の判断
1 争点1(本件基本合意の存否及び被審人2社の本件基本合意への参加の有無)について
(1) 認定事実
当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠(括弧書きで掲記)によれば,以下の事実が認められる。
ア 平成10年頃から平成17年頃までにおける受注調整の状況
前記第3の3(1)のとおり,24社のうち別紙2記載の14社を含む市内業者69社は,川崎市が発注する下水管きょ工事について,遅くとも平成3年4月1日以降,受注調整を行っていたが,平成5年11月12日,公正取引委員会から勧告審決を受けた。
この受注調整は,平成4年10月頃には取りやめられたが,Aランクの市内業者は,平成10年頃には,川崎市が発注する下水管きょ工事について,再び受注調整を継続して行うようになった。川崎市は,平成15年度まで,川崎市が発注する下水管きょ工事については,主として指名競争入札の方法により発注していたところ,上記受注調整に当たり,指名業者らは,工事の履行場所,工事の継続性等の事情を勘案して受注予定者について話合いを行っていた。
その後,前記第3の2(2)のとおり,平成16年度以降,川崎市が,予定価格が3000万円以上の下水管きょ工事については一般競争入札の方法により発注することとし,その結果,川崎市が発注する下水管きょ工事が原則として一般競争入札の方法により発注されることとなったところ,平成17年頃以降,川崎区の一部のAランクの市内業者が,受注調整に参加せず,低価格による入札を行うようになり,その他のAランクの市内業者もこれに対抗して低価格による入札を行わざるを得ない状態となった結果,Aランクの市内業者の間において受注調整が機能しなくなった。
(査第10号証)
イ 平成17年6月10日から平成20年2月22日までの会合について
(ア) 平成17年6月10日の協会における会合
平成17年頃から行われるようになった低価格入札について話し合うため,Aランクの市内業者が,平成17年6月10日,協会において会合を開いた。被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森も出席した。
この会合においては,低価格入札への対応策が話し合われ,工事の履行場所の近くに所在する事業者の受注希望を尊重し,地元の受注希望者が優先して受注することができるように,お互いに協力して受注調整を行っていくことが確認された。また,受注調整を行いやすくするため,連絡員を川崎市の区ごとに1名又は2名置き(ただし,多摩区及び麻生区は事業者数が少ないことから合わせて1つの区の扱いとされた。),入札参加申込みや受注希望の有無を区ごとに連絡員が取りまとめ,連絡員同士でそれら情報を交換することとした。多摩区・麻生区の連絡員は,被審人吉孝土建の吉澤とされた。
(査第10号証,第11号証,第12号証,第13号証,第14号証,第15号証,第16号証,第17号証,第18号証,第19号証,第20号証)
なお,被審人真成開発の金森は,この会合に出席しなかったと供述する(査第46号証)が,この供述は,この会合の出席者等を記した手帳に基づき金森が出席していたとする河合土木代表取締役社長河合德治の供述(査第14号証)に照らすと採用できない。
また,被審人吉孝土建の吉澤は,陳述書(審第14号証)及び代表者審尋において,自分は多摩区・麻生区の連絡員ではなかった旨陳述及び供述する。しかし,これらの陳述及び供述は,区ごとに連絡員が置かれたことは明らかであること(査第11号証,第12号証,第14号証,第19号証。被審人吉孝土建の吉澤も明確に否定する供述をしていない。),藤木工業,藤原建設及び小沼工務店の同会合の出席者は多摩区・麻生区の連絡員が吉孝土建であると記憶していること(査第11号証,第12号証,第19号証),吉澤自身,審尋において,他の事業者から多摩区・麻生区の入札参加状況について問い合わせを受けたことを認める供述をし,供述調書(査第45号証)において連絡員の役割を担っていたことを認めていることに照らすと,採用できない。
(イ) 平成19年4月3日のホテルモリノにおける会合
上記(ア)の会合以降も,低価格で入札を行っていた川崎区所在の事業者が受注調整に応じず,川崎区以外の地区の下水管きょ工事についても引き続き低価格による入札を行ったため,他の事業者もこれに対抗せざるを得ず,受注調整が機能しない状態が続いた。その対応策を話し合うため,川崎区とそれに隣接する幸区を除く5区に所在するAランクの市内業者等10社が,平成19年4月3日,ホテルモリノにおいて会合を開いた。被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森も出席した。
同会合においては,5区のAランクの市内業者の間だけでも,工事の履行場所の近くに所在する受注希望者が優先して受注することができるように,お互いに協力して受注調整を行っていくことが確認されるとともに,川崎区のAランクの市内業者に対して協力が得られるよう働きかけを行っていくこととされた。
(査第13号証,第21号証,第23号証,第24号証,第26号証,第27号証,第28号証,第29号証,第31号証)
(ウ) 平成19年4月20日のホテルモリノにおける会合
5区のAランクの市内業者等11社は,平成19年4月20日にもホテルモリノにおいて会合を開いた。被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森も出席した。
同会合では,上記(イ)と同様の確認を行ったが,平成19年4月の2回の会合の後も,川崎区の一部のAランクの市内業者による低価格入札により受注調整が機能しない状態が続いた。
(査第13号証,第22号証,第23号証,第24号証,第25号証,第26号証,第27号証,第28号証,第29号証,第30号証)
(エ) 平成19年7月24日のホテルモリノにおける会合
受注調整が機能しない状態が続いていたことへの対応策を話し合うため,5区のAランクの市内業者等10社は,平成19年7月24日,ホテルモリノにおいて会合を開いた。被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森も出席した。
同会合では,上記(ウ)と同様の確認を行った。
(査第23号証,第32号証)
(オ) 平成20年2月22日のホテルモリノにおける会合
この頃までの間,低価格での入札を行っていた川崎区の一部のAランクの市内業者が倒産又は廃業するなどした結果,川崎区のAランクの市内業者も含め受注調整に向けた話合いを行いやすい状態となったことから,川崎市のAランクの市内業者12社は,平成20年2月22日,ホテルモリノにおいて会合を開いた。ホテルモリノの予約は被審人真成開発の金森が行った。被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森も出席した。
同会合では,川崎区及び幸区の事業者を含め,川崎市のAランクの市内業者の間において,工事の履行場所の近くに所在する受注希望者が優先して受注することができるようにお互いに協力して受注調整を行っていくことを確認した。
(査第11号証,第19号証,第20号証,第23号証,第33号証,第34号証)
(カ) 上記(ア)ないし(オ)に関し,被審人2社は,これらの会合は,親睦のために開かれたものであり特別の目的のために開かれたものではない,これらの会合においては,各社が地元優先の受注調整を実現したいという願望を述べ合ったにすぎず,その願望を具体的に実現する方策は見つからず,むしろ,受注調整に実効性がないことについて24社が相互に了承した,などと主張し,被審人吉孝土建の吉澤は,これに沿う陳述ないし供述をする(審第14号証,吉澤敏行代表者審尋速記録)。しかし,被審人吉孝土建の吉澤は,これらの会合において,他社が受注予定の工事についてその下請となれないか打診するなどの情報交換を行ったり,地元優先のルールが望ましい旨発言したと陳述している(審第14号証)のであって,これらの会合が親睦のために開かれたとは考えられない。
また,大恵建設取締役社長管金継(以下「大恵建設の管」という。)も,審尋において,これらの会合はまとまりもなく解散しており,お互い協力し合って受注予定者を決めようという話は一切出なかったなどと供述する。しかし,大恵建設の管は,反対尋問において自己の供述調書(査第34号証)の記載を示されると,予定価格に近い価格で受注しようという意見があったことは事実だが,そのような意見が大勢であったかどうかは記憶がないと述べるに至っており,その供述は信用性に乏しい。
加えて,会合の趣旨を上記のとおり述べる藤原建設,河合土木,織戸組,月野建設,宮田土建工業,生田建設,大山組,小沼工務店等の代表者等の前記の各供述(査第11号証,第12号証,第13号証,第14号証,第15号証,第16号証,第17号証,第18号証,第19号証,第20号証,第24号証,第25号証,第26号証,第27号証,第28号証,第29号証,第30号証,第31号証)に照らすと,上記の被審人吉孝土建の吉澤及び大恵建設の管の供述は採用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ 平成20年2月26日の協会における会合
Aランクの市内業者は,平成20年2月26日,協会において会合を開いた。被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森も出席した。
同会合の出席者は,川崎市発注の特定下水管きょ工事について,工事の落札率が低く,工事を受注しても利益が出ず,このままでは共倒れになるなど経済的に厳しい現状にあることとその対応策を話し合い,Aランクの市内業者の間において,工事の履行場所の近くに所在する事業者が優先して受注できるように,お互いに協力して受注調整を行っていくことを確認した。また,これまで連絡員が十分にその役割を果たしていないことが多かったとして,各地区の連絡員を再度確認した。このとき確認した連絡員は,川崎区は大恵建設の管及び小沼工務店代表取締役社長小沼保,幸区は大栄建設代表取締役社長福島圭一,高津区は月野建設代表取締役月野宏一,中原区は重田組代表取締役重田洋一,宮前区は藤原建設の藤原,多摩・麻生区は被審人吉孝土建の吉澤であった。
また,同会合に欠席していたAランクの市内業者に対しては,同会合後,各地区の連絡員等から会合の内容が連絡された。
(査第24号証,第25号証,第26号証,第31号証,第35号証,第36号証,第37号証,第38号証,第39号証,第40号証,第41号証,第42号証,第43号証)
もっとも,同日の会合について,被審人2社は,被審人吉孝土建の吉澤は同日,川崎市宿河原・バラ園アクセスロードの工事の現場で作業に従事していたと主張し,工事現場で撮影された工事の進ちょく状況を写した写真(審第4号証の1ないし12,第24号証の1ないし12)が存在する。しかし,これらの写真中の黒板の撮影月日欄は空欄であるから,これらの写真が同日に撮影されたことを認めるに足りない上,これらの写真に被審人吉孝土建の吉澤が写っているわけではなく,また,これらの写真を同人が撮影したことを認めるに足りる証拠もないから,これらの写真の存在をもって被審人吉孝土建の吉澤が上記会合に出席しなかったとはいえない。また,被審人吉孝土建の吉澤は,被審人吉孝土建作成の原価表(審第3号証)の平成20年2月26日欄に「一般世話役」「1.0」と記載されていることをもって,同日,被審人吉孝土建の吉澤が一般世話役として工事現場にいたことを示すと陳述するが(審第14号証),同人は,審尋において,2月27日も一般世話役として現場にいたはずであると供述しているのに,上記原価表の2月27日欄には一般世話役としての経費が計上されていないことに照らすと,上記原価表の2月26日欄に「一般世話役」「1.0」と記載されていることをもって,同日,被審人吉孝土建の吉澤が上記工事現場にいたと認めるに足りない。
また,被審人真成開発の金森は,同日,千葉県大網白里における工事現場で作業に従事していたと主張し,被審人真成開発の同日の日報(審第6号証)の大網白里の工事に関する総括担当者の欄に「カナモリ」という記載があることは認められる。しかし,この日報上,同一の総括担当者が複数の工事の欄に記載されていることからすれば,総括担当者の欄に記載のある者が当該工事の現場にいることを示すとはいえないから,上記記載をもって被審人真成開発の金森が大網白里の工事現場にいたと認めるに足りない。
さらに,大恵建設の管は,同日の協会における会合に被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森は出席していなかったと陳述及び供述する。しかし,大恵建設の管の供述は,上記イ(カ)のとおり供述を変遷させたり,陳述書(審第13号証)を自らが書いたのか,他の者が書いたものに署名したのかについて曖昧な供述を繰り返すなど信用性に乏しい上,大恵建設の管は,被審人真成開発の金森が出席していなかったことを記憶している根拠として,会合の直前に被審人真成開発の金森と意見交換をしたと述べるが,同人はそれを否定しており(代表者審尋),裏付けを欠くこと,この会合に出席した澤田組代表取締役社長澤田英樹及びヤマチョウ代表取締役社長山本栄次が被審人吉孝土建の吉澤及び被審人真成開発の金森も出席していたことを述べていること(査第35号証,第39号証)に照らすと,大恵建設の管の陳述及び供述は採用することができない。
エ 受注調整の実施状況
(ア) 24社は,本件違反行為期間中,受注調整を行い,川崎市発注の特定下水管きょ工事のうち,別紙3の28件を受注した。その受注調整の方法は,①受注希望者が1社のときは,その者を受注予定者とし,受注希望者が複数のときは,工事の履行場所,過去に受注した工事との継続性等を基に受注予定者を決定する,②受注すべき価格は受注予定者が定める,③受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格を上回る価格で入札する,入札を辞退するなどの方法により受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する,という,前記第5の1(1)イの審査官主張に係る本件基本合意の内容に沿ったものであった。(別紙3掲記の各証拠)
(イ) 上記(ア)の28件が別紙3記載の42件に占める割合は66.7パーセントであり,その平均落札率は98.0パーセントである。また,当該28件の落札価格の総額は38億8735万円であり,これは,上記42件のうち不調となった一連番号21の工事を除いた41件の落札価格の総額59億7672万3000円の65.0パーセントを占める。
(2) 検討
ア ①24社のうち,被審人2社を除く建設業者の従業員の多数が,24社の間に基本合意が存在し,基本合意の下で受注調整を行っていたことを自認する旨の供述をし(査第13号証,第16号証,第19号証,第20号証,第47号証,第48号証,第49号証,第50号証,第51号証,第52号証,第53号証,第57号証,第61号証,第62号証,第83号証,第84号証,第120号証,第126号証),本件排除措置命令を受けた23社のうち,被審人2社を除く21社は,審判請求をしていないこと,②前記(1)イ及びウのとおり,Aランクの市内業者は,平成17年6月10日から平成20年2月26日まで,数度にわたり,川崎市発注の特定下水管きょ工事について,受注調整を機能させるための会合を開催し,被審人2社もそれらの会合に出席していたこと,③前記(1)エのとおり,24社は,本件違反行為期間中,本件基本合意の内容に沿った方法で受注調整を行い,川崎市発注の特定下水管きょ工事42件のうち,別紙3の28件を受注したことを総合すれば,24社は,遅くとも平成20年3月12日以降(関トウにあっては同年5月19日までの間,岡村建興にあっては遅くとも同月23日以降),川崎市発注の特定下水管きょ工事について,前記第5の1(1)イの内容の本件基本合意をし,本件基本合意の下で,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていたことが認められる。
イ 被審人2社は,いわゆる入札談合事案における基本合意は,自由で自主的な営業活動上の意思決定を将来にわたって拘束するほどの合意であることを要するところ,本件基本合意はこの要件を満たさないと主張する。しかし,本件基本合意の内容は,前記第5の1(1)イのとおり,受注予定者を決定し,受注すべき価格は受注予定者が定め,受注予定者以外の者は受注予定者が定めた価格で受注できるように協力するというものであり,本件基本合意に参加する事業者は,本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところを本件基本合意に制約されて意思決定を行うことになるという意味で,各社の事業活動が事実上拘束される結果となるから,本件基本合意は,独占禁止法第2条第6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を満たすということができる(最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決・裁判所時報第1550号97頁)。したがって,被審人2社の主張は理由がない。
2 争点2(本件基本合意による競争の実質的制限の有無)について
(1) 独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(前掲最高裁判所平成24年2月20日判決)。
前記第3の2(2)イ及び前記1(1)エのとおり,本件基本合意をした24社は,本件違反行為期間中Aランクの市内業者であった31社の77.4パーセントを占めていたこと,24社は,本件基本合意に基づいて,本件違反行為期間中に発注された川崎市発注の特定下水管きょ工事42件のうち別紙3の28件(42件の66.7パーセント)について受注調整を行い,受注予定者とされた者がこれらを受注したこと,別紙3の28件の入札参加者のほとんどは24社の一部であり,それ以外の事業者は熊谷建設などごく僅かであったこと,また,別紙3の28件の平均落札率は98.0パーセントと極めて高く,当該28件の落札価格の総額は38億8735万円であり,これは,上記42件のうち不調となった一連番号21の工事を除く41件の落札価格の総額59億7672万3000円の65.0パーセントであったことからすれば,本件基本合意は,24社が川崎市発注の特定下水管きょ工事の取引分野において,受注予定者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたということができる。そうすると,本件基本合意は,独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するものといえる。
(2) 被審人2社は,本件において,一定の取引分野における「競争を実質的に制限する」とは,川崎市発注の特定下水管きょ工事に関し,自社で決定した金額で入札することに関してAランクの市内業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除することによって,特定の建設業者がある程度自由に上記工事の受注者又は受注価格を左右することができる状態に至っていることをいうと主張する。しかし,独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」の意義は上記(1)のとおりであり,事業者の自由で自主的な営業活動の停止又は排除を要するものではない。
(3) また,被審人2社は,本件においては,複数のフリー物件が存在すること及び落札者以外に受注希望者が存在しなかった工事が多数を占めることから,落札者及び落札価格は基本合意の影響を受けて左右される状態にはなかったというべきであると主張し,一連番号7,17,28,31,32及び35の6件の工事はフリー物件であったと主張する。
しかし,証拠(査第43号証,第52号証,第55号証)によれば,一連番号7の工事については,被審人真成開発,澤田組,加藤土建,岡村建興,渡辺土木,小沼工務店,関トウ及び熊谷建設の8社が入札参加の申込みを行っていたところ,平成20年3月18日,協会において開かれた会合において,受注希望者間の話合いにより,小沼工務店が受注予定者となったこと,入札参加申込者のうち,少なくとも澤田組,加藤土建及び関トウの3社が,小沼工務店が受注できるように協力したことが認められるのであって,一連番号7の工事がフリー物件であったとはいえない。
また,証拠(査第34号証,第117号証,第120号証,第121号証,第127号証ないし第141号証)によれば,一連番号32の工事については受注調整が行われたことが認められ,この工事がフリー物件であったとはいえない。
そして,他の4件について受注調整が行われなかったとしても,前記(1)のとおり本件基本合意が受注予定者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたとの判断を左右するものではない。
被審人2社は,28件のうち22件の工事については落札者以外に受注希望者がいなかったと主張する。しかし,別紙3掲記の各証拠によれば,これらの工事において,24社は,工事の履行場所等も踏まえ,受注希望者が1社だけであることを確認して受注予定者を決定し,また,受注すべき価格は受注予定者が定め,受注予定者以外の入札参加者は,本件基本合意に基づき,受注予定者が定めた価格を上回る価格で入札する,入札を辞退するなどの方法で受注予定者の受注に協力したことが認められるから,本件基本合意がこれらの22件の受注者及び受注価格についても,ある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたといえる。したがって,被審人2社の主張は採用することができない。
3 争点3(本件違反行為の始期及び終期)について
(1) 本件違反行為の始期について
ア 当事者間に争いのない事実及び証拠(括弧書きで掲記)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 前記1(1)イ及びウのとおり,Aランクの市内業者により一連の会合が開かれた後,平成20年3月12日に,一連番号1及び2の工事の入札が行われた。
(イ) 一連番号1の工事には,重田組,藤原建設,澤田組,加藤土建,大栄建設,岡村建興,小沼工務店,喜美代建設及び関トウの9社が入札参加の申込みを行った。
本工事の履行場所は幸区であったため,同区に本店を置く大栄建設がその受注を強く希望し,他の事業者に受注希望を表明する連絡を行ったところ,同社以外に受注希望者がいなかったことから,同社が受注予定者となった。
大栄建設は,同社以外の入札参加申込者のうち岡村建興を除く7社の協力を得た結果,予定価格の97.1パーセントに相当する6625万円で本工事を落札した。
(査第5号証,第36号証,第53号証,第55号証,第59号証,第60号証,第61号証,第62号証)
(ウ) 一連番号2の工事には,重田組,藤原建設,月野建設,加藤土建,京浜メンテナンス,小田土木,小沼工務店,宮田土建工業及び関トウの9社が入札参加の申込みを行った。
本工事の履行場所は高津区であり,同区に本店を置く月野建設は,過去に本工事と継続性のある工事を受注したこともあり,本工事の受注を強く希望した。月野建設が受注を希望する旨の連絡を行ったところ,同社以外に受注希望者がいなかったことから,同社が受注予定者となった。
月野建設は,同社以外の入札参加申込者8社の協力を得た結果,予定価格の98.8パーセントに相当する8550万円で本工事を落札した。
(査第5号証,第36号証,第57号証,第60号証,第61号証,第63号証,第64号証,第65号証,第66号証)
イ 上記アによれば,上記2件の工事における受注調整は,本件基本合意の内容に沿ったものであるから,遅くとも平成20年3月12日までには本件基本合意が成立し,同日以降が入札締切日の工事については,本件基本合意の下で受注調整が行われたことが認められる。
ウ 被審人2社は,①岡村建興や熊谷建設が平成20年2月26日の協会における会合に参加しなかったため,この会合の後も,Aランクの市内業者は受注調整の効果が生じるか疑問視していたこと,②一連番号7の工事について岡村建興が参加せず,受注調整が機能しなかったことを理由に,仮に本件基本合意が存在していたとしても,それは,被審人真成開発が受注した一連番号6の工事の入札締切日である平成20年3月19日より後に成立したと主張する。
エ しかし,①については,前記イのとおり,24社から岡村建興を除く23社が平成20年3月12日以降,本件基本合意の下で受注調整を行った事実が認められるのであって,岡村建興及び熊谷建設が上記会合に参加しなかったからといって,23社の間で基本合意が成立しなかったとはいえない。また,②については,一連番号7の工事について岡村建興が受注調整に参加しなかったこと,岡村建興が落札したことは認められるが,前記2(3)のとおり,一連番号7の工事については,受注希望者間の話合いにより,小沼工務店が受注予定者となったこと,入札参加申込者のうち,少なくとも澤田組,加藤土建及び関トウの3社が,小沼工務店が受注できるように協力したことが認められるのであるから,一連番号7の工事の入札締切日である平成20年3月19日の時点で本件基本合意が成立していなかったとはいえない。
よって,本件基本合意は平成20年3月19日より後に成立したとする被審人2社の主張には理由がない。
オ なお,岡村建興は,入札締切日が平成20年5月23日である一連番号9の工事について受注調整に参加し,同日以降,本件違反行為を行っていた。(査第38号証,第52号証,第54号証,第55号証,第56号証,第57号証,第58号証)
(2) 本件違反行為の終期について
ア 当事者間に争いのない事実及び証拠(括弧書きで掲記)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 上記(1)のとおり,24社は,遅くとも平成20年3月12日以降,本件違反行為を継続した。
(イ) 平成21年に入ってから,24社のうち関トウを除く23社の中に受注調整の結果に従わない事業者が現れ,事業者間に不信感が生じたほか,低価格で入札を行う者であると認識されていた市内業者である株式会社トモエコーポレーションが,平成21年度から新たにAランクに格付され,入札に参加することとなったため,23社は,同社が入札に参加すれば,受注調整を行うことが困難になると考え,平成21年4月1日以降,本件違反行為を取りやめている。
(査第2号証,第27号証,第145号証,第146号証,第147号証)
イ 被審人2社は,中原区の連絡員である重田組が,経営悪化を契機に平成20年8月6日が入札締切日の一連番号17の工事において低価格入札の態度を明らかにし,24社から重田組と関トウを除いた22社もこれを認識し,それ以降,フリー物件が多発したから,本件基本合意の効力は失われており,一連番号24の工事の入札締切日である平成20年10月9日には本件基本合意は既に消滅していたと主張する。
しかし,別紙3掲記の証拠によれば,一連番号17の工事の入札締切日の後,平成21年3月31日までの間に発注された川崎市発注の特定下水管きょ工事は24件であり,重田組は,このうち12件について入札参加の申込みをし,一連番号18,25,26,27,30,32,33及び34の8件の工事について,受注調整が行われたことが認められる。また,証拠(査第36号証,第126号証,第134号証,第144号証)によれば,一連番号26,30,33及び34の工事について,各工事の受注予定者が重田組から協力を得て受注したことが認められるから,一連番号17の工事以降,重田組が受注調整に協力しなくなったとはいえない。
(3) 上記(1)及び(2)によれば,本件違反行為の期間は,平成20年3月12日から,平成21年3月31日までと認められ,平成20年3月19日を入札締切日とする一連番号6の工事及び平成20年10月9日を入札締切日とする一連番号24の工事は,いずれも,本件違反行為期間中に発注された川崎市発注の特定下水管きょ工事であると認められる。
4 争点4(被審人2社が受注した物件の「当該役務」該当性)について
(1) 本件基本合意は,独占禁止法第7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ,同項所定の課徴金の対象となる「当該・・・役務」とは,本件においては,本件基本合意の対象とされた工事であって,本件基本合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものである(前掲最高裁判所平成24年2月20日判決)。
(2) 一連番号6の工事について
ア 証拠(査第5号証,第24号証,第43号証,第52号証,第60号証,第69号証,第70号証,第73号証,第76号証,第77号証)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 一連番号6の工事には,藤原建設・真成開発JVのほか,6JVが入札参加の申込みを行った。
(イ) Aランクの市内業者は,平成20年3月19日を入札締切日とする一連番号3ないし8の工事の受注予定者を決定するため,同月18日,協会で会合を開いた。この会合において,一連番号6の工事については,受注希望者間の話合いにより,工事の履行場所と同じ宮前区に本店を置く藤原建設を代表者とする藤原建設・真成開発JVが受注予定者となった。
(ウ) 藤原建設の藤原は,同会合終了後,同会合の途中で退席した被審人真成開発の金森に対して,藤原建設・真成開発JVが受注予定者になった旨の連絡を行った。
(エ) 藤原建設・真成開発JVは,同JV以外の入札参加申込者6JVの協力を得た結果,予定価格の98.7パーセントに相当する2億5800万円で本工事を落札した。
イ 上記アによれば,一連番号6の工事は,本件基本合意に基づく個別の受注調整の結果,受注予定者とされた藤原建設・真成開発JVが受注したものであるから,本工事について個別の受注調整の結果として具体的な競争制限効果が生じたと認められる。したがって,一連番号6の工事は,課徴金の対象となる。
ウ これに対し,被審人2社は,被審人真成開発の金森は,藤原建設とJVを組んだ際,入札についてはJVの代表者である藤原建設の藤原に一任しており,入札後に受注の連絡を受けたため,藤原建設が他の入札参加申込者と協議を持ったか否かを知らないなどと主張し,金森はこれに沿う供述をする(査第46号証,金森幸宗代表者審尋速記録)。
前記1(2)のとおり,被審人真成開発は本件基本合意に参加している者であるところ,一連番号6の工事は,本件基本合意の下に受注調整が行われ,受注予定者となった藤原建設・真成開発JVが受注したことで具体的な競争制限効果が生じ,課徴金の対象となるものであるから,被審人真成開発は,直接受注調整を行わなかったとしても,課徴金の納付義務を負う。
なお,本件においては,被審人真成開発は,藤原建設に個別の受注調整を任せていたといえるから,この点からも,被審人真成開発は課徴金の納付義務を負う(東京高等裁判所平成20年9月12日判決・公正取引委員会審決集第55巻872頁,公正取引委員会平成20年1月23日審決・公正取引委員会審決集第54巻402頁参照)。
(3) 一連番号24の工事について
ア 証拠(査第5号証,第52号証,第93号証,第105号証,第114号証,第115号証,第116号証,第117号証,第118号証,第119号証,第120号証,第121号証)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 本工事には,藤木工業・吉孝土建JVのほか,6JVが入札参加の申込みを行った。
(イ) 入札参加の申込みを行ったAランクの市内業者は,平成20年10月2日,受注予定者を決定するため,中原区に所在する会館とどろきで会合を開いた。
(ウ) 本工事については,同会合において,受注希望者間の話合いにより,かねてから多摩区登戸地区を工事の履行場所とする下水管きょ工事を継続して受注していた藤木工業を代表者とする藤木工業・吉孝土建JVが受注予定者となった。
(エ) 藤木工業・吉孝土建JVは,同JV以外の入札参加申込者6JVの協力を得た結果,予定価格の99.5パーセントに相当する4億6800万円で本工事を落札した。
イ 上記アによれば,一連番号24の工事は,本件基本合意に基づく個別の受注調整の結果,受注予定者とされた藤木工業・吉孝土建JVが受注したものであるから,本工事について個別の受注調整の結果として具体的な競争制限効果が生じたと認められる。したがって,一連番号24の工事は,課徴金の対象となる。
ウ これに対し,被審人2社は,一連番号24の工事について,入札金額等の決定権は全てJVの代表者である藤木工業にあり,受注希望者間の話合いについては知らないなどと主張し,被審人吉孝土建の吉澤はこれに沿う供述をする(審第14号証,吉澤敏行代表者審尋速記録)。
前記1(2)のとおり,被審人吉孝土建は本件基本合意に参加している者であるところ,一連番号24の工事は,本件基本合意の下に受注調整が行われ,受注予定者となった藤木工業・吉孝土建JVが受注したことで具体的な競争制限効果が生じ,課徴金の対象となるものであるから,被審人吉孝土建は,直接受注調整を行わなかったとしても,課徴金納付義務を負う。
なお,本件においては,被審人吉孝土建は,藤木工業に個別の受注調整を任せていたといえるから,この点からも,被審人吉孝土建は課徴金の納付義務を負う。
5 争点5(被審人吉孝土建の売上額)について
(1) 被審人吉孝土建の独占禁止法第7条の2第1項所定の実行期間における売上額については,独占禁止法施行令第6条第1項が適用され,実行期間において締結した契約により定められた役務の提供の対価の合計額により求められる。そして,共同企業体方式によって請負契約が締結された場合に課徴金を算定するに当たっては,請負代金全体をJV比率で按分した額ないしは共同企業体内部で取り決めた各構成員の請負代金取得額をもって,同施行令第6条第1項所定の「契約により定められた対価」とすべきである(前掲東京高等裁判所平成20年6月20日判決参照)。
(2) 一連番号24の工事は,被審人吉孝土建が藤木工業とJVを組み,本件基本合意の下で受注したものであって,当該工事に具体的な競争制限効果が生じていることは前記4のとおりである。そして,当該JVを組むに当たり,被審人吉孝土建と藤木工業は平成20年9月16日に共同企業体協定書を締結しており,この共同企業体協定書では,構成員の出資割合を,藤木工業70パーセント,被審人吉孝土建30パーセントと定めている(査第150号証,第151号証)。
(3) この協定書によれば,藤木工業と被審人吉孝土建のJV比率は70パーセント対30パーセントであり,また,上記協定書には,各構成員の請負代金取得額についての直接の定めはないが,上記協定書において各構成員が出資割合に応じて出資を行った上で,出資割合により利益金の配当及び欠損金の負担を行うと規定されていることからすると,藤木工業と被審人吉孝土建は,それぞれの出資割合に応じて請負代金を取得する旨合意したものと認めることができる。
(4) 以上によれば,一連番号24の工事に係る独占禁止法施行令第6条第1項所定の「契約により定められた対価」は,当該工事の請負代金4億9140万円をJV比率30パーセントで按分した額ないし被審人吉孝土建の請負代金取得額であるから,1億4742万円となる。
(5) 被審人吉孝土建は,藤木工業との間で,一連番号24の工事について,藤木工業が全ての工事を行い,請負代金を全額取得し,経費も全額負担する,藤木工業は被審人吉孝土建に対し,名義貸しの対価として315万円を支払うという内容の共同企業体内部の取決めをしたと主張し,被審人吉孝土建の吉澤は代表者審尋においてこれに沿う供述をするほか,当該取決め内容を記載したとされる覚書(審第18号証,第23号証)及び藤木工業に対し工事支度金として315万円を請求した請求書控(審第19号証)が存在する。
上記覚書の第1項には,「当該工事は分割施工が不可能な為,一完施工を原則とする。」と記載されており,これは,藤木工業から被審人吉孝土建に対し,一連番号24の工事は外注業者の施工部分がほとんどであり,自社施工部分が少ないため藤木工業の「一完施工」としたいとの申入れがあったという被審人吉孝土建の主張に沿うものといえよう。しかし,「一完施工」という言葉の意味が明確でない上,外注業者の施工部分がほとんどであった場合になぜ藤木工業と被審人吉孝土建とで施工部分を分割することが不可能になるのか不可解であるし(外注した場合でも,損益を出資割合により分割することが可能ではないかと考えられる。),上記第1項の記載は,請負代金や経費については何ら触れていないから,この記載が被審人吉孝土建と藤木工業との間に上記取決めがあったことを裏付けるものというには疑義が残る。そして,上記覚書の第2項に「施工途中に於ける持分以上の費用負担は求めないものとするが,持分以上の出資を必要とする場合はその都度協議とする。ただし,幹事会社は構成員に対して利益を生ませる努力はする。」と記載され,施工費用について被審人吉孝土建に持分相当の負担を求めること,構成員である被審人吉孝土建に利益を生ませるよう努めることとされているのは,藤木工業が代金を全額取得し,費用も全額負担するという被審人吉孝土建の主張する上記の取決めの内容と明らかに矛盾するものである。上記覚書の第3項には,「当該工事に対し,幹事会社から構成員に対し持分割合の注文書を発行するが,その内容が当該工事の施工その他に何ら影響をもたらすものでは無いことを,幹事会社と構成員に於いて互いに確認し同意したものである。」と記載されており,これは,第1項の「当該工事は・・・一完施工を原則とする」との記載と関係があるものとうかがわれるが,内容が不明確であり,一連番号24の工事の請負代金との関係でどのような意味があるのかは不明というほかない。
また,証拠(審第19号証,第20号証)によれば,被審人吉孝土建が藤木工業に対し支度金として315万円を請求し支払を受けたことがうかがわれるが,仮にその事実が認められるとしても,被審人吉孝土建が藤木工業から同金額以外に支払を受けていないことを示すものとはいえず,共同企業体内部で取り決められた被審人吉孝土建の請負代金取得額が0円であったことを示すに足りるものではない。
さらに,被審人吉孝土建の吉澤は,上記の取決めに関し,陳述書(審第14号証)においては何ら陳述せず,代表者審尋の最後に唐突に供述を始め,被審人吉孝土建は,この供述に基づいて審判手続終結直前の第9回審判期日において初めて上記取決めに関する主張を始めたものであって,このような経過は,不自然さを免れない。
以上によれば,共同企業体協定書の内容を変更することとなる被審人吉孝土建の上記取決めに関する主張にはこれに沿う十分な証拠がなく,理由がない。他に前記(4)の認定判断を覆すに足りる証拠はない。
(6) なお,仮に,被審人吉孝土建の主張が認められる場合には,被審人吉孝土建と藤木工業とは,平成20年9月16日に本件共同企業体協定書を作成するに際して出資割合(請負代金取得額)を3対7とすることに合意し,この協定書を提出して一連番号24の工事の入札に参加し,同年10月9日にこの工事を落札し,同年11月4日に川崎市とこの工事の請負契約を締結した後,同月13日に被審人吉孝土建の請負代金取得額を0円とする旨の合意をしたことになる。
前記のとおり,共同企業体方式によって請負契約が締結された場合に課徴金を算定するに当たっては,請負代金全体をJV比率で按分した額ないしは共同企業体内部で取り決めた各構成員の請負代金取得額をもって,独占禁止法施行令第6条第1項所定の「契約により定められた対価」とすべきであるが,独占禁止法の定める課徴金の制度がカルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるように定められたものであること(最高裁判所平成17年9月13日判決・民集59巻7号1950頁参照)に照らすと,共同企業体の内部の取決めの事後的な変更等の事実を考慮して,共同企業体の構成員の課徴金の額を算定するのは相当ではない。したがって,共同企業体が発注者との契約に当たり,JV比率や各構成員の請負代金取得額を明示している場合には,共同企業体が発注者に対し,代金受領時までにJV比率や請負代金取得額の変更を通知するなど特段の事情がない限り,契約時点におけるJV比率や各構成員の請負代金取得額をもって,上記の「契約により定められた対価」と解することができるというべきである。
上記の被審人吉孝土建の主張は,この請負代金取得額の事後的な変更の主張であり,本件において,藤木工業・吉孝土建JVは,発注者である川崎市と平成20年11月4日に請負契約を締結するに当たり,JV比率や請負代金取得額を70対30と明示しており,代金受領時までにこれらの変更を川崎市に対して通知したなどの事情は認められない。したがって,仮に,平成20年11月13日に被審人吉孝土建と藤木工業とが被審人吉孝土建の請負代金取得額を0円とする取決めをした事実が認められるとしても,上記契約の時点におけるJV比率や請負代金取得額である70対30を基に上記の「契約により定められた対価」を算定することができるというべきである。
6 結論
(1) 本件排除措置命令に対する審判請求事件(平成22年(判)第8号及び第10号)について
前記1のとおり,被審人2社は,本件基本合意に参加していたものであり,他の事業者と共同して,公共の利益に反して,川崎市発注の特定下水管きょ工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものと認められ,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものである。
また,被審人2社の違反行為は既に消滅しているものの,本件違反行為期間と,受注調整を機能させるための会合を繰り返し開催するなどした本件違反行為に至る期間を合わせると相当長期間にわたること,川崎市発注の特定下水管きょ工事については,市内業者が独占禁止法に違反するとして平成5年にも勧告審決を受けていること等の諸事情を総合的に勘案すれば,被審人2社については,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。
したがって,本件排除措置命令は適法であるから,本件排除措置命令に対する被審人2社の審判請求は,理由がない。
(2) 本件課徴金納付命令に対する審判請求事件(平成22年(判)第9号及び第11号)について
ア 被審人2社の違反行為が不当な取引制限に該当し,それが独占禁止法第7条の2第1項に規定する役務の対価に係るものであることは,前記4のとおりである。
イ 前記第3の5(1)ア及び(2)アのとおり,被審人2社は,本件違反行為の実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者であるから,独占禁止法第7条の2第5項第1号に該当する。また,被審人2社は,下記ウ(ア)及びエ(ア)のとおり,公正取引委員会による本件違反行為の調査開始日である平成21年7月22日の1月前の日までに当該違反行為をやめており,当該違反行為に係る実行期間が2年未満であるから,独占禁止法第7条の2第6項に該当する。
ウ 被審人吉孝土建が納付しなければならない課徴金の額
(ア) 被審人吉孝土建が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,前記第3の4(2)のとおり,本件基本合意に基づき同社が最初に入札参加申込みを行った一連番号12の工事の入札締切日である平成20年7月8日であると認められる。また,前記第6の3(2)アのとおり,被審人吉孝土建は,平成21年4月1日以降,当該違反行為を取りやめており,同年3月31日にその実行としての事業活動はなくなっていると認められる。したがって,被審人吉孝土建の独占禁止法第7条の2第1項に規定する実行期間は,平成20年7月8日から平成21年3月31日までとなる。
(イ) 上記実行期間における被審人吉孝土建の売上額は,前記第3の5(1)及び前記5(4)のとおり1億4742万円である。
(ウ) したがって,被審人吉孝土建が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項,第5項及び第6項の規定により,上記1億4742万円に100分の3.2を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された471万円である。
エ 被審人真成開発が納付しなければならない課徴金の額
(ア) 被審人真成開発が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,前記第3の4(3)のとおり,当該違反行為に基づき同社が最初に入札参加申込みを行った一連番号4の工事の入札締切日である平成20年3月19日であると認められる。また,前記第6の3(2)アのとおり,被審人真成開発は,平成21年4月1日以降,当該違反行為を取りやめており,同年3月31日にその実行としての事業活動はなくなっていると認められる。したがって,被審人真成開発の独占禁止法第7条の2第1項に規定する実行期間は,平成20年3月19日から平成21年3月31日までとなる。
(イ) 上記実行期間における被審人真成開発の売上額は,前記第3の5(2)のとおり,1億836万円である。
(ウ) したがって,被審人真成開発が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項,第5項及び第6項の規定により,上記1億836万円に100分の3.2を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された346万円である。
オ 以上のとおり,被審人2社に対し,上記ウ及びエとそれぞれ同額の課徴金の納付を命じた本件各課徴金納付命令は適法であって,本件各課徴金納付命令に対する被審人2社の各審判請求は,理由がない。
第7 法令の適用
以上判断したところによれば,被審人2社に対し,原処分のとおり排除措置及び課徴金の納付を命ずるべきであり,被審人2社の本件各審判請求はいずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成24年8月24日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  後 藤   健

審判官  真 渕   博

審判官  原   一 弘

※ 別紙省略

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