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コスモ石油(株)に対する保証金没取申立事件

独禁法旧63条

平成23年(行タ)第20号

決定

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
申立人 公正取引委員会
代表者委員長代理委員 濵田道代
指定代理人 中里浩
同 島崎伸夫
同 北脇俊之
同 藤原昌子
同 小髙真侑
東京都港区芝浦一丁目1番1号
相手方 コスモ石油株式会社
代表者代表取締役 木村彌一
代理人弁護士 宮代力
同 西山彬
同 石田英遠
同 中野雄介
同 佐橋雄介
復代理人弁護士 津田顕一郎

主文
申立人が平成19年2月14日にした審決(平成11年(判)第7号)につき,相手方がその執行を免れるために供託した保証金800万円のうち500万円を没取する。
理由
1 申立人は,「申立人が平成19年2月14日にした審決(平成11年(判)第7号)につき,相手方がその執行を免れるために供託した保証金800万円の全部を没取する。」との決定を求め,その理由を別紙「保証金没取の申立書」(写し)の埋由欄に記載するとおり主張した。
これに対し,相手方は,「本件申立てを却下する。」との決定を求め,その理由を別紙「意見書」(写し)の第2の理由欄に起載するとおり主張した。
2(1) 本件審決(平成11年(判)第7号事件)は,防衛庁調達実施本部(以下「調達本部」という。)が指名競争入札の方法により発注する石油製品について,相手方を含む石油業者12社が,平成7年4月以降,共同して油種ごとに受注予定者を決定し,その者が受注できるようにしてきたこと(以下「本件違反行為」という。)が,公共の利益に反して,当該取引分野における競争を実質的に制限し,平成17年法律第35号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)2条6項所定の不当な取引制限に該当し,法3条に違反するとして,申立人が,上記12社のうち相手方を含む11社に対して,法48条2項に基づく排除勧告を行い,これに応諾しなかった相手方を含む3社について,法49条1項に基づき審判手続を開始して,審理した上で,相手方らの行為が法2条6項に該当し,法3条に違反するとして,相手方を含む3社に対し,①調達本部が指名競争入札の方法により発注する航空タービン燃料について,遅くとも平成7年4月以降に行っていた受注予定者を決定し,その者が受注できるようにする行為を取り止めていることを確認すること,②上記①に基づいて採った措置及び調達本部が競争入札の方法により発注する航空タービン燃料について,今後共同して受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を調達本部に通知し,自社の従業員に周知徹底させること,③上記②の通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ申立人の承認を受けること等を内容とする排除措置(以下「本件排除措置」という。)を命じたものである。
(2) 相手方は,本件審決を不服として,平成19年3月15日,当庁に対して,本件審決の取消しを求める訴え(平成19年(行ケ)第9号。以下「本件審決取消訴訟」という。)を提起するとともに,同月30日,審決の執行免除を申し立てたので,当庁は,同年11月13日,保証金として800万円を供託させて,審決の確定までその執行を免除する旨を決定し,相手方は,同年12月7日,東京法務局に保証金として800万円を供託した(平成19年度金第48644号。以下「本件保証金」という。)。
(3) 相手方は,本件審決取消訴訟において,①発注機関である調達本部が自ら指名競争入札における競争を形骸化させ,競争のできない市場を作り上げたのであるから,法2条6項の「一定の取引分野」が形成されているとはいえず,また,調達手続は調達本部の指示,要請ないし主導により実施されたのであるから,「不当な取引制限」もなかった,②相手方によって本件違反行為と社会通念上同一性を有する行為が繰り返されるおそれは全くないから,法54条2項所定の「特に必要があると認めるとき」には該当しないなどとして,本件排除措置を命じた本件審決には裁量権の逸脱濫用がある等と主張した。
(4) 当庁は,本件審決取消訴訟について,平成21年4月24日,本件に係る全ての物件の調達手続の流れにおいて,3回の指名競争入札がいずれも不調に終わり,これに続く随意契約手続である商議も全て不調となり,その後の新たな入札の1回目において商議権者が最低商議価格で落札するという不自然な経過が踏襲されたことについては,調達本部の深い関与を認定したものの,このような入札手続の運用は,調達本部と相手方らの双方にとってそれぞれのメリットがあったため長年にわたって繰り返され,定着して慣行化したものとみられるのであり,調達本部が上記のような運用を指示ないし主導したものではなく相手方らの意思に基づくものであるから,競争市場は消滅しておらず,相手方らの本件違反行為は不当な取引制限に当たるとしたが,平成10年11月中旬以降,相手方も本件違反行為を取り止めているとした上で,このような違反行為(入札談合行為)は・事業者間の協調的な関係が解消されなければ,再び行われるおそれがあり,航空タービン燃料の分野については,法54条2項所定の「特に必要があると認めるとき」に該当するとして,この分野について排除措置を命じた本件審決の判断が合理性を欠くとはいえず,裁量権の逸脱濫用があったものとはいえないとして,相手方の請求を棄却した(以下「本件判決」という。)。
(5) 相手方は,これを不服として,上告の提起及び上告受理の申立てを行ったものの,最高裁判所第一小法廷は,平成22年11月25日,この上告を棄却するとともに,上告審として受理しない旨を決定し,本件審決は確定した。
3(1) 審決の執行免除と審決の確定による保証金没取の制度は,裁判所の定める保証金又は有価証券(以下「保証金等」という。)を供託させて,審決の確定までその執行を免れることができることとする一方で,審決が確定したときは,供託に係る保証金等の全部又は一部を没取することができるとすることにより,安易な執行免除の申立てを牽制するとともに,法に違反する行為の速やかな排除という公益上の要請と審決の執行による回復困難な損害の回避という相手方保護の要請との調和を図ろうとするものであるところ,本件審決において相手方に命じられた排除措置の内容やその執行を免れた期間,執行免除の申立ての要否や程度及び保証金等の額等に照らすと,本件については,本件保証金800万円のうち500万円を没取するのが相当と判断される。
すなわち,相手方は,本件審決取消訴訟において敗訴し,本件審決が取り消されることはなかったものの,本件審決取消訴訟を提起し,本件判決を不服として上告の提起及び上告受理の申立てをしたこと自体は,上記2(3)の①及び②の点などについての司法判断を求めて裁判を受ける権利を行使したものであり,本件判決においても,本件に係る全ての物件の調達手続の流れにおいて,不自然な経過が踏襲されていたことについて,調達本部の深い関与が認定されていることからしても,相手方の主張にもそれ相応の論拠の存在がうかがわれるのであり,本件審決取消訴訟を提起する一方で,本件審決の執行免除を申し立てたことが申立権の濫用であったとまでは解することができず,他に相手方が裁判を受ける権利を濫用して訴訟活動をしたり,不当に訴訟を遷延させるような不適切な訴訟活動をしたことをうかがうに足りる事情も認めることはできない。したがって,相手方には,本件審決取消訴訟を提起するとともに本件審決の執行免除を申し立てる必要があったということができる。
他方,本件審決は,航空タービン燃料の取引分野について,法54条2項所定の「特に必要があると認めるとき」に該当するとして,相手方らに対し,本件排除措置を命じたのであるから,本件審決の早期執行の必要があったというべきところ,本件違反行為自体は,前記のとおり,平成10年11月中旬以降は実質的に行われなくなっており,執行が免除されていた問に再開されたともうかがわれないものの,執行の免除により,その執行が約2年1か月にわたり妨げられたことも否定できない事実であり,その間,本件審決において命じられた本件排除措置の内容を相手方が事実上実施したことを認めるに足りる証拠もないから,審決の速やかな執行という公益上の要請が害された程度は決して小さくはないというべきである。
以上のような事情を総合考慮した上で,相手方の企業規模をも併せ考慮すると,前述したとおり,本件においては本件保証金800万円のうち500万円を没取するのが相当と判断される。
(2) なお,相手方は,①相手方が本件審決取消訴訟を提起し,本件判決に対しても上告の提起及び上告受理の申立てを行って司法による判断を求めたことは,合理的な論拠に基づく正当な権利の行使であり,本件審決の執行免除も安易に申し立てたものではないから,本件保証金の没取という不利益を課すのは不当である,②相手方に本件保証金を供託させて,その運用利益を凍結させたことにより,保証金制度の目的を十分に達成しており,さらにこれを没取するまでの必要はないなどと主張する。
しかしながら,執行免除の制度は,保証金等の全部又は一部の没取により安易な申立ての抑制を図っていることに照らすと,審決の執行免除を申し立てるとともに,審決取消しの訴えを提起したものの,その主張が容れられず,請求を棄却する旨の判決があり,審決が確定したときは,執行の免除を受けるために供託した保証金の全額ないし一部を没取することが法の趣旨に合致すると解されるから,前記3(1)のとおり,審決の執行免除を申し立てたことが申立権の濫用には当たらず、他に裁判を受ける権利を濫用するような訴訟活動をしたり,不当に訴訟を遷延させるような不適切な訴訟活動をしたことをうかがわせる事情も認められないからといって,本件保証金を没取することができなくなるものではない。そして,本件審決の執行が結果的に約2年1か月間にわたり妨げられた以上,本件保証金の一部を没取するのはむしろ当然のことと解するべきである。また,保証金没取制度の趣旨及び機能については前述したとおりであり、保証金等の運用利益を得させないという不利益を課すことによって安易な申立てを牽制するというに止まるものではないことは明らかであるから,この点に関する相手方の主張も採用することができない。
4 以上によれば,申立人の本件申立ては,相手方が供託した800万円のうち500万円を没取する限度で理由があるから,本件保証金のうち500万円を没取することとして,主文のとおり決定する。

平成25年2月22日

裁判長裁判官 奥田隆文
裁判官 渡邉弘
裁判官 片山憲一
裁判官 齊藤顕
裁判官 清藤健一

別紙<略>

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