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オリエンタル白石(株)による審決取消請求事件

独禁法3条後段,独禁法7条の2

平成24年(行ケ)第15号

判決

東京都江東区豊洲五丁目6番52号
原告 オリエンタル白石株式会社
同代表者代表取締役 井岡隆雄
同訴訟代理人弁護士 井上展成
北 秀昭
濱口善紀
北川恵子
古澤陽介
東京都千代田区霞が関一丁日1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 中里浩
島崎伸夫
北脇俊之
瀨島由紀子
小髙真侑
佐久間正哉

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律に基づく課徴金納付命令審判事件(公正取引委員会平成23年(判)第76号ないし第78号)について,平成24年9月25日付けで原告に対してした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
被告は,国及び地方公共団体がプレストレスト・コンクリート工事(以下「PC工事」という。)として発注する橋梁の新設工事について原告が談合を行っていたとして,原告の更生管財人に対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)54条2項の規定に基づき,排除措置を命ずる審判審決を行い,これが確定した。被告は,同審決を前提として,原告に対し,独占禁止法54条の2第1項に基づき,5億3730万円の課徴金の納付を命ずる審判審決を行った。
本件は,原告が,被告に対し,上記の課徴金の納付を命じた審決が違法であるとして,その取消しを求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実)
(1) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は,PC工事の請負等を業とする株式会社である。
被告は,独占禁止法27条1項により,内閣府設置法49条3項に基づいて,独占禁止法1条の目的を達成することを任務として設置された独立行政委員会である。
イ 被告は,平成16年10月15日,国及び地方公共団体がPC工事として発注する橋梁の新設工事の入札参加業者が,共同して,受注予定者を決定していたなどとして,原告外22社(以下「23社」という。)に対し,3件の独占禁止法に違反する行為について,それぞれ排除措置を採るべきことを勧告した(平成16年(勧)第27号ないし第29号)。
23社が上記の勧告をいずれも応諾しなかったことから,被告は,平成16年11月18日,23社に対して,審判開始決定をした。
ウ 東京地方裁判所は,平成20年12月31日午前10時,原告に対して,更生手続開始の決定をし,更生債権等の届出をすべき期間を平成21年3月31日までと定めた。原告に係る更生手続において,被告は,課徴金債権について届出をしなかった。
東京地方裁判所は,平成22年2月28日,原告に係る更生計画認可の決定をし,同決定は同年7月1日に確定した。
エ 被告は,平成22年9月21日,23社の3件の独占禁止法に違反する行為(後記⑵アないしウ)について,それぞれ排除措置を命ずる審判審決をし(平成16年(判)第26号ないし第28号),これらの審決は,いずれも平成22年10月22日に確定した。
オ 被告は,上記の排除措置を命ずる審決を前提として,平成23年6月15日,原告の更生管財人に対し,独占禁止法48条の2第1項の規定に基づき,合計5億3730万円(平成23年(納)第63号につき1億0574万円,同第72号につき3億7581万円,同第81号につき5575万円)の課徴金納付命令を発した。同管財人が,同年7月14日,本件における課徴金に係る請求権(以下「本件課徴金債権」という。)は,会社更生法の定めるところにより既に失権しており,課徴金納付命令を発することはできないことを理由として,同条5項の規定に基づく審判手続の開始をいずれも請求したことから,被告は,同法49条第2項の規定により,各審判手続を開始した(本件審判事件)。
東京地方裁判所は,平成23年10月24日,原告に係る更生手続を終結する旨の決定をした。そこで,原告は,同年11月2日,本件審判事件について,原告の更生管財人を受継した。
カ 被告は,平成24年9月25日,独占禁止法54条の2第1項に基づき,合計5億3730万円(平成23年(判)第76号につき1億0574万円,同第77号につき3億7581万円,同第78号につき5575万円)の課徴金の納付を命ずる審判審決(以下「本件審決」という。)をした。
原告は,同年10月17日,本件訴えを提起した。
(2) 本件の独占禁止法に違反する行為
ア 平成23年(判)第76号事件
原告は,他の事業者と共同して,遅くとも平成13年4月1日以降,平成16年3月31日まで,国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりPC工事として発注する橋梁の新設工事(以下「関東地整発注の特定PC橋梁工事」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,関東地整発注の特定PC橋梁工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
イ 平成23年(判)第77号事件
原告は,他の事業者と共同して,遅くとも平成12年4月1日以降,平成15年12月3日まで,国土交通省(ただし,平成13年1月5日までは建設省)が近畿地方整備局(ただし,平成13年1月5日までは近畿地方建設局)において一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりPC工事として発注する橋梁の新設工事(以下「近畿地整発注の特定PC橋梁工事」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,近畿地整発注の特定PC橋梁工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
ウ 平成23年(判)第78号事件
原告は,他の事業者と共同して,遅くとも平成13年4月1日以降,平成15年12月3日まで,福島県が条件付き一般競争入札,技術評価型意向確認方式指名競争入札,希望工種反映型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりPC工事として発注する橋梁の新設工事(以下「福島県発注の特定PC橋梁工事」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,福島県発注の特定PC橋梁工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。
エ 以上は,いずれも,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ,同法7条の2第1項に規定する役務の対価に係るものである。
(3) 本件課徴金の計算の基礎
ア 平成23年(判)第76号事件
(ア) 本件違反行為の実行期間
原告が違反行為の実行としての事業活動を行った日は,前記⑵アの違反行為に基づき原告が最初に関東地整発注の特定PC橋梁工事の入札に参加した平成13年10月25日である。また,原告は,平成16年4月1日以降,当該違反行為を取りやめており,同年3月31日にその実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,原告については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成13年10月25日から平成16年3月31日までとなる。
(イ) 原告の売上額
原告の上記(ア)の実行期間における関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る売上額は,改正法附則第2条のなお従前の例によることとする規定により,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)第6条の規定に基づき算定すべきところ,当該規定に基づき算定すると,4件の契約により定められた対価の額を合計した17億6242万5000円である。
イ 平成23年(判)第77号事件
(ア) 本件違反行為の実行期間
原告が違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成12年12月3日以前である。また,原告は,平成15年12月4日以降,当該違反行為を取りやめており,同月3日にその実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,原告については,前記(2)イの違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成12年12月4日から平成15年12月3日までの3年間となる。
(イ) 原告の売上額
原告の上記(ア)の実行期間における近畿地整発注の特定PC橋梁工事に係る売上額は,独占禁止法施行令第6条の規定に基づき算定すべきところ,当該規定に基づき算定すると,7件の契約により定められた対価の額を合計した62億6356万5000円である。
ウ 平成23年(判)第78号事件
(ア) 本件違反行為の実行期間
原告が違反行為の実行としての事業活動を行った日は,前記(2)ウの違反行為に基づき原告が最初に福島県発注の特定PC橋梁工事の入札に参加した平成13年4月10日である。また,原告は,平成15年12月4日以降,当該違反行為を取りやめており,同月3日にその実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,原告については,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成13年4月10日から平成15年12月3日までとなる。
(イ) 原告の売上額
原告の上記(ア)の実行期間における福島県発注の特定PC橋梁工事に係る売上額は,独占禁止法施行令第6条の規定に基づき算定すべきところ,当該規定に基づき算定すると,3件の契約により定められた対価の額を合計した9億2932万7962円である。
第3 争点及びこれに対する当事者の主張
原告は,本件課徴金債権は会社更生法の定めるところにより失権しており,本件の課徴金の納付を命じる審決は違法であると主張し,被告はこれを争う。
個別の争点及びこれに対する当事者の主張は,以下のとおりである。
1 本件課徴金債権は,更生債権に該当するか。
(1) 被告の主張
更生債権は,更生会社に対し更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であるが(会社更生法2条8項柱書),以下の理由から,本件課徴金債権は,「更生手続開始前の原因に基づく」ものといえないため,会社更生法上の更生債権に該当せず,共益債権あるいは開始後債権に該当する。
ア 「更生手続開始前の原因に基づく」とは,意思表示等の債権発生の基本的構成要件該当事実が更生手続開始決定前に存在することを意味し,当該債権自体が更生手続開始の時点で既に成立していることまでは要しないが,その債権発生の基本となる法律関係が更生手続開始前に生じ,債権の成立に必要な事実の大部分が更生手続開始前に具備されていることが必要と解される(一部具備説)。一部具備説の根拠は,更生手続開始決定前に更生会社との間に債権発生の基本となる法律関係が生じていて,将来,更生会社に対して請求権を有するに至る強度の可能性のある者は,債権の発生前であっても,既に債権として成立している場合と同様の利益状況にあると考えられることにある。そして,独占禁止法は,被告に対し,カルテル等の違反行為を被告レベルで確定した場合には,課徴金の納付を命ずることを義務付けているのであって,単に独占禁止法の規定に違反すると評価され得る行為が客観的に存在しただけで,被告に課徴金納付命令を発する義務が生じるものではないこと,事件の調査に当たって被告に裁量が存在すること,違反行為に係る審判手続において,違反行為の存在が認定されず,課徴金納付命令が発令されないことがあること等からすれば,独占禁止法上の課徴金債権について,その基本となる法律関係が生じ,課徴金債権の成立に必要な事実の大部分が具備され,課徴金納付命令が行われるに至る強度の可能性が認められるのは,早くとも,違反行為が被告レベルで確定した時点である。
したがって,独占禁止法上の課徴金債権についての債権発生の基本的構成要件該当事実は,違反行為の認定が被告レベルで確定したことであり,本件においては,被告が違反行為を認める審判審決をしたことである。その時期は,被告が排除措置を命ずる審判審決をした平成22年9月21日である。
イ(ア) 独占禁止法は,複雑な経済現象を対象とするものであり,多くの場合,違反行為の存在,市場効果等は慎重な判断を経なければ認定することができず,これらが確認されなければ,当該違反行為が課徴金の対象となるかどうかも判断することができない。このため,独占禁止法は,課徴金納付命令又は課徴金の納付を命ずる審決を行う前に被告レベルでの違反行為の確定を先行させている。被告レベルで違反行為を確定していない段階で,被告に対して,更生手続において本件課徴金債権を届け出るように求めることは,額未定という届出が許容されるとしても,理不尽かつ非現実的である。
(イ) 被告は,公正かつ中立な機関として,被審人の防御権を十分に保障する対審構造の審判手続(独占禁止法52条及び54条の3)において,課徴金の対象となる違反行為の有無を判断するものとされるところ,違反行為の存否について審判手続を行っている間に,被告が,違反行為の存在を前提として,独占禁止法上の課徴金債権を更生債権として届け出ることは,その公正・中立性に疑義を持たれることとなるから,行うべきではない。
ウ 独占禁止法上の課徴金は,違反行為の摘発に伴う不利益を増大させてその誘因を少なくして違反行為を抑止することを目的とする行政上の措置であり(最高裁平成17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照),独占禁止法上の課徴金債権が執行されることは,更生会社も参加する市場の公正の確保という公共の利益の実現に不可欠である。独占禁止法上の課徴金債権の上記の公益的性質に鑑みれば,免責や権利内容の変更の対象とされる範囲は,できる限り狭くなるよう解釈すべきである。
エ 原告の主張ウについて
罰金等の請求権(会社更生法204条1項3号)及び租税の逋脱等に係る租税債権(同項4号)について,債権の届出をしない場合にも更生会社は免責されず,更生会社の利害関係人に影響を及ぼすことになっているのであり,独占禁止法上の課徴金債権について届出がなく免責されないとしても,不当とはいえない。
オ 原告の主張エについて
独占禁止法上の課徴金債権は,課税要件を充足したときに納税義務が生じ,その後の確定手続によって納税義務の内容が具体化される租税債権とは異なり,客観的に独占禁止法7条の2第1項所定の行為があったとしても,被告レベルでそれを確定しなければ,具体的な納付義務はもとより,抽象的な納付義務も生じないのであるから,独占禁止法上の課徴金債権を租税債権と同様に考えることはできない。
カ 原告の主張オについて
会社更生法上の罰金等の請求権は,更生債権となる場合でも,一般的な更生債権特有の性質をほとんど具備していないため,更生債権に該当するかどうかにより生じる取扱いの差が小さいのに対して,独占禁止法上の課徴金債権は,更生手続開始前の原因に基づくものとして更生債権に該当するかどうかにより生じる取扱いの差が非常に大きい。したがって,罰金等の請求権において用いられている更生債権への該当性についての判断基準を,独占禁止法上の課徴金債権にそのまま適用することはできない。仮に,会社更生法上の罰金等の請求権において用いられる更生債権への該当性についての判断基準を,独占禁止法上の課徴金債権に適用するのであれば,後記2(1)のとおり,独占禁止法上の課徴金債権についても,罰金等の請求権と同様に免責されることはないと考えるべきである。
キ 原告の主張カについて
金融商品取引法上の課徴金債権は,投資家の損害賠償請求権よりも劣後的な扱いを受けさせるという政策的要請から,租税等の請求権ではなく過料の請求権とされた(同法185条の16)。しかし,金融商品取引法上の課徴金債権に関して,更生手続開始前の原因といえるかどうかの判断基準につき,確定的な解釈があるわけではない。
(2) 原告の主張
以下の理由から,本件課徴金債権は,「更生手続開始前の原因に基づく」ものであり,更生債権である。
ア 被告の主張アについて
(ア) 「更生手続開始前の原因に基づく」とは,意思表示等債権発生の基本的構成要件該当事実が更生手続開始決定前に存在することを意味し,飽くまでも事実が客観的に存在するか否かが問題とされる。そして,本件課徴金債権の基本的構成要件該当事実とは,独占禁止法7条の2第1項所定の違反行為に係る事実であり,本件では,前記第2の2(2)の事実である。これらの事実のすべてが更生手続開始前に客観的に存在していたものである以上,本件課徴金債権は「更生手続開始前の原因に基づく」ものである。このように判断することが,会社更生法2条8項の条文解釈として明確かつ条文の文理にかなう。
(イ) 更生手続開始前の原因に基づくか否かを違反行為が被告レベルで確定したかどうかにより決定するという考え方は,違反行為が被告レベルで確定した時点という内容そのものが著しく不明確であるし,事実の客観的な存在のレベルと事実の調査,評価・認定,法令の適用等のレベルを混同するものである。被告レベルで違反行為を確定するかどうかは,被告内部の問題にすぎないし,被告の審判手続にどのくらい時間を要するかという偶然的な要素によって,更生債権か共益債権かが決まるのは不当である。
イ 被告の主張イについて
本件課徴金債権については,更生手続において届出さえ行われていれば,更生債権として取り扱われたものであり,額未定としての届出は認められている。被告と原告との間で事実の存否や法令の適用をめぐる争いが存在していたとしても,被告が債権届出を行うこと自体は可能であった。
ウ 被告が,本件課徴金債権の届出という会社更生法上の手続を行わなかったにもかかわらず,被告内部の事情や裁量によって,更生手続開始前に既に客観的に存在していた事実を根拠として,共益債権として,いつまでも更生会社に課徴金を請求できるということになれば,事業の維持更生という会社更生手続の目的が達成し得なくなる。また,潜在的な債務の遮断も行われないことになって,他の更生債権者等の更生会社の利害関係人の予測可能性や法的安定を著しく害する。
エ 租税債権が更生手続開始前の原因に基づくといえるためには,更生手続開始前に課税要件の全てを充足し,将来,一定金額の具体的租税債権として確定されるべき状態であること,すなわち,会社の納税義務が成立していることを要し,また,これをもって足りる。租税債権においては,客観的に課税要件に係る事実が存在しているか否かと,その後の賦課・徴収の手続は区別されるのであって,前者の客観的に課税要件に係る事実が存在していることが「原因」として捉えられている。独占禁止法上の課徴金債権は,会社更生法上は租税等の請求権として取り扱われるのであるから,同様の判断基準が用いられるべきである。
オ 会社更生法上の罰金等の請求権が更生手続開始前のものであるといえるためには,罰金,科料,追徴金若しくは過料を科された,又は刑事訴訟の対象となった当該犯罪行為若しくは法令違反行為自体が更生手続開始前に成立していれば足り,罰金等を科する裁判若しくは行政処分が,更生手続開始前に効力を生じ,あるいは確定している必要はないと解されている。更生手続開始前の罰金等の請求権(会社更生法142条2号)の「更生手続開始前の」と会社更生法2条8項の「更生手続開始前の原因に基づいて生じた」は同様に解釈すべきであり,独占禁止法上の課徴金債権についても,違反行為自体が更生手続開始前に客観的に成立していれば足りると解するべきである。
カ 金融商品取引法上の課徴金債権については,会社更生法上,租税等の請求権として扱われることに不都合があるとして,更生手続上過料とみなす旨の規定が設けられている(金融商品取引法上85条の16)。したがって,金融商品取引法上の課徴金債権については,会社更生法上の罰金等の請求権に関しての判断基準が適用され,更生手続開始前の罰金等の請求権といえるためには,法令違反行為自体が更生手続開始前に成立していれば足り,課徴金を課する行政処分が,更生手続開始前に効力を生じ,あるいは確定したものである必要はないこととなる。
①金融商品取引法上の課徴金も独占禁止法上の課徴金も法律用語として同一の名称の債権であって,違反行為の抑止を目的とした行政上の制裁であるという性質は何ら異ならないこと,②証券取引法の平成16年改正で独占禁止法上の制度を参考として金融商品取引法の課徴金制度(第6章の2)が創設されたこと,③金融商品取引法172条ないし175条において,独占禁止法における課徴金納付命令の羈束性と同様の規定が設けられていること等からすると,独占禁止法上の課徴金債権が更生手続開始前の請求権といえるかどうかについては,上記のとおり,金融商品取引法上の課徴金債権と同様の判断基準によるべきである。
キ 違反事業者に対する被害者の損害賠償請求権(独占禁止法25条,民法709条)については,更生手続開始前に存在していた違反行為によるものであれば,更生債権として取り扱われることとなる。被告の主張によれば,全く同じ原因に基づく被害者の損害賠償請求権が更生債権として取り扱われるにもかかわらず,本件課徴金債権については共益債権として優先的な取扱いを受けることとなり,債権者間の衡平を著しく害する結果となる。
2 本件課徴金債権は,更生計画認可の決定により免責されるか。
(1) 被告の主張
ア 独占禁止法上の課徴金は,昭和52年の独占禁止法改正により,独占禁止法に違反する行為による経済的利得を徴収し,違反行為者が違反行為による経済的利得を保持し得ないようにすることによって,違反行為の抑止を図り,違反行為の禁止規定の実効性を確保し,もって競争秩序を維持するための行政上の措置を定めた制度として導入された。独占禁止法上の課徴金は,違反行為を抑止するため,違反行為者に対して経済的な不利益を課する点において,行政上の制裁としての性質を有する。
独占禁止法上の課徴金と罰金とを比較すると,罰金は,不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目して,道義的・社会的非難として科される刑罰であり,独占禁止法上の課徴金とはその趣旨,目的,手続等を異にするが,両者は,違反行為を抑止する機能を有し,違反行為者に対する制裁としての性質を有する点において共通するといえる。
独占禁止法は,課徴金の納付の督促を受けたものが指定された期限までに納付すべき金額を納付しないときは「国税滞納処分の例により,これを徴収することができる」旨を規定しており(同法64条の2第4項),独占禁止法上の課徴金債権は,会社更生法上は「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」として,租税等の請求権(会社更生法2条15項)に該当する。しかし,これは,独占禁止法上の課徴金の徴収方法について,租税等と同様にする旨を定めたものにすぎない。上記のとおり,独占禁止法上の課徴金は,罰金と同様に制裁としての性質を有するのであって,この点,租税等と性質を異にする。
そして,会社更生法204条1項3号及び4号は,罰金等の請求権及び制裁としての性質を有する租税等の請求権について更生計画認可の決定によっても当然に免責されないとの取扱いをしているところ,これは,当該請求権の制裁としての性質に基づくものであるから,制裁としての性質を有し,罰金等の請求権と同様の扱いをすることが適当な租税等の請求権については,明文の規定がないものであっても,免責されないと解することが同法204条1項3号及び4号の趣旨に合致する。上記のとおり,独占禁止法上の課徴金は,制裁としての性質を有し,また,違反行為を抑止するという機能を有する点で罰金と共通していることからすると,独占禁止法上の課徴金については,会社更生法204条の定める免責との関係では,罰金等の請求権と同様に扱うのが相当である。また,金融商品取引法上の課徴金債権は更生計画認可の決定により免責されないところ,金融商品取引法上の課徴金と独占禁止法上の課徴金は,違反行為を抑止するための行政上の措置であるという点で共通であるから,両者の間で異なる取扱いをする理由はない。
以上からすると,独占禁止法上の課徴金については,届出がなかった場合であっても,会社更生法204条1項3号又は4号を類推適用して,更生計画認可の決定によっても免責されないと解すべきである。
イ 原告主張アについて
会社更生法上の失権効の原則が,解釈上,例外を一切許容しないものとはいえない。独占禁止法上の課徴金は,罰金との間に性質,機能等の共通性が存在すること,金融商品取引法上の課徴金とは違反行為を抑止するための行政上の措置であるという点で共通であることを考慮して,免責との関係でこれらを同様に取り扱うことは,むしろ会社更生法204条1項の趣旨に合致するものである。
また,更生計画認可の決定の失権効は,更生会社の利害関係人の予測可能性の確保に資するものであるが,被告は,平成16年10月15日,原告を含む事業者に排除措置を採ることを勧告し,この事実は公表されていたから,平成20年12月31日に更生手続開始の決定があった原告及びその利害関係人は,将来原告に対して課徴金債権が発生することは容易に予測することができたのであって,本件課徴金債権が更生計画認可の決定により免責されないと解したとしても,利害関係人の予測可能性を著しく害するとはいえない。さらに,失権しないとしても,会社更生法204条2項により,更生計画で定められた弁済期間満了までの間は,弁済等の債権消滅行為をすることができないのであるから,本件課徴金債権について免責されないとしても,事業の維持更生という会社更生手続の目的を害するともいえない。課徴金制度の趣旨・目的に照らしても,課徴金債権の届出がなかったことを奇貨として原告が課徴金を免れることを許すべきではない。
(2) 原告の主張
ア 会社更生法204条1項各号は,同項柱書が規定する厳格かつ強力な失権効の原則に対する特別な例外が限定的に規定されたものである。更生計画認可の決定により,会社更生法204条1項各号に掲げられている権利以外のすべての更生債権等が失権することは,当該条文の規定振りからも明らかである。会社更生法において明文の規定が設けられていない限りは,更生計画に定めのない更生債権等は失権するという会社更生法の根本的な原則に対する例外は認められるべきではなく,会社更生法204条1項各号を類推適用すること自体が許されない。本件審決の判断内容は,法令の解釈の域を逸脱するものであり,立法によらずに被告が独自の新たな規定を創設することに他ならない。このことは,財政法3条の観点からも許されない。
この点,本件課徴金債権については,被告から額未定としての更生債権の届出が行われてさえいれば,更生計画の中で,本件課徴金債権の存否,額等が独占禁止法所定の手続を通じて具体的に確定した場合の措置を定めておくことが十分に可能であった。本件は,被告が行うべき本件課徴金債権の届出を懈怠したという個別事案に過ぎない。
イ 本件課徴金債権は,会社更生法上の「租税債権等の請求権」に該当する。会社更生法上「租税等の請求権」に該当する場合には,所定の届出が行われなかった以上は失権効の対象となるのが制度の原則とされているのであり,それに対する例外も同項4号のとおり極めて限定的かつ明確に規定されている。同項4号は,免責されない代わりに,本来届け出れば通常の優先的更生債権であるのに,届出を怠ると劣後的な取扱いがなされるという,真に特殊な性格付けを与えられており,その例外の質においては際だっているのであり,そのような特殊な性格を有する例外規定の類推適用等というものは許されない。
そして,本件においては,同項4号が規定する要件を明らかに充足しないものであり,類推適用の手掛かりも存在しない。
ウ 本件課徴金債権は,会社更生法上の「租税等の請求権」に該当するものであって,会社更生法204条1項3号が規定する「更生手続開始前の罰金等の請求権」には明らかに該当しない。
本件審決のように,独占禁止法上の課徴金と罰金との間に制裁としての性質の共通性が存在する等として,独占禁止法上の課徴金と罰金とを同視することは,二重処罰の禁止(憲法39条),財産権保障(同法29条),罪刑法定主義(同法31条)の観点からも許されない。
独占禁止法上の課徴金債権については,金融商品取引法上の課徴金債権とは異なり,「会社更生法の規定の適用については,過料の請求権とみなす」(金融商品取引法185条の16)などといった特別の立法措置は講じられていないのであるから,過料と同視することは許されず,他方で,独占禁止法には同法64条の2第4項の規定が存在していることから,会社更生法上は「租税等の請求権」として取り扱われなければならないのである。
3 本件課徴金債権が更生計画認可の決定により免責されるかどうかにかかわらず,被告は,課徴金の納付を命ずることができるか。
(1) 被告の主張
ア 課徴金納付命令の対象となる違反行為がされた場合には,独占禁止法7条の2所定の要件を満たす限り課徴金の納付を命ずることが被告に義務付けられていることや,課徴金制度は違反行為禁止規定の実効性を確保するという同法の目的達成のために課徴金の納付を機動的・効率的に命じられる制度となっていることなどを考慮すれば,更生計画認可の決定による課徴金債権の免責は課徴金の徴収の問題であり,被告は課徴金債権が免責されるか否かを考慮することなく課徴金の納付を命ずることができると解する余地もあるように思われる。
そして,そのように解した場合,課徴金の納付を命ずる審決がされても,同法64条の2第4項の規定は適用されず,その強制徴収ができなくなるものの,違反行為を行った事業者に課徴金の納付を命ずることができ(そして,課徴金債権が免責されていることは審決の取消事由とはならない。),事実上のインパクトという意味でも,また,次のとおり,当該事業者が繰り返し違反行為を行った場合に繰り返しの違反に対する割増し算定率を適用することが可能になるという意味でも,違反行為抑止効果は認められることとなる。
すなわち,現行独占禁止法(平成21年法律第51号による改正後のもの。以下同じ。)附則7条1項は,現行独占禁止法により課徴金納付命令を受ける事業者が過去10年以内に独占禁止法54条の2第1項に基づき課徴金の納付を命ずる審決を受けたことがあるときには,現行独占禁止法7条の2第7項及び9項(繰り返しの違反に対する割増し算定率)を適用することを定めており,本件課徴金債権に係る課徴金の納付を命ずることは,原告の今後の違反行為を抑止する観点からも必要である。
イ 原告の主張オについて
更生計画認可の決定によって課徴金債権が免責されてしまうことを避けるためには常に更生債権としての届出をしなければならないとすれば,被告による審査の進捗状況如何にかかわらず更生債権の届出をしなければならないことになり,事案によっては,違反行為や違反行為者の確定が十分に行われていない状況で更生債権の届出を余儀なくされたり,その結果,額未定とはいえ,その時点での被告の認識や手の内情報について事業者らが知り得るようになるなどして,被告による独占禁止法違反事件の審査に重大な支障が生じるおそれがある。さらに,独占禁止法上の課徴金について,常に更生債権としての届出を求めて一律に優先的更生債権として取り扱うこととし,それ以外の取扱いを一切認めないような解釈をすることが,会社更生手続にとって真に有益であるかについても疑問がある。
(2) 原告の主張
ア 独占禁止法上の課徴金債権について,その納付を命ずる審決が行われる場合,被告には国税滞納処分の例による強制徴収権限が付与されることとなるが,更生計画認可の決定によって既に自然債務に変容された本件課徴金債権については,当該債権の履行を請求し,強制的な権利実現を図ることはできないはずであって,強制徴収権限が付与されることになるような本件課徴金債権の納付を命ずる審決等は行い得ないはずである。
イ 独占禁止法7条の2第1項,48条の2第1項及び54条の2第1項の規定は,会社更生法204条1項柱書の規定に基づき失権している本件課徴金債権についても,他の法令を無視して課徴金の納付を命じなければならないということまで被告に求めているものではない。被告の裁量権が認められていないのは,事案の軽重による納付命令の可否や課徴金の額についてであり,法令の解釈適用に関しては,法律による行政の原理から,そもそも,被告の裁量の余地が観念される領域ではなく,これらの規定の存在とはまったく関係がない。
ウ 独占禁止法上の課徴金債権が既に失権しているにもかかわらず,課徴金の納付を命ずる審決が一旦出されてしまえば,当該審決は行政行為としての公定力を否定しがたいこと,その後国税滞納処分の例による強制徴収手続が開始され,納期限の翌日から年14.5パーセントもの延滞金が徴収されることから,事実上強制的に納付を迫られることとなってしまう。この点,強制徴収手続に対する不服申立て手段を執るとしても,課徴金の納付を命ずる審決が審決取消訴訟によって取り消されない限り,違法性の承継はされないことから,執行段階ではその基礎となった当該審決を争うことができない。実際に,本件でも,原告は本件課徴金債権の納付を一旦余儀なくされている。本件審決の取消しが確定すれば,原告は被告に対する不当利得返還請求を直ちに行う予定であるが,そもそも,失権効に基づき不当利得返還請求が当然に認められなければならないようなものについてまで,納付を一旦迫られなければならないというのは,著しく不合理である。
エ 独占禁止法54条の2第2項,48条の2第3項では,審決には具体的な納期限を定めなければならないとされているが,既に失権効が及んで強制的な権利実現を図ることが許されなくなっているはずの本件課徴金債権について具体的な納期限を定めるなどといったことは許されない。自力執行力もなく,具体的な納期限も定めない審決を出すことは,独占禁止法のまったく想定しないところである。
オ 原告の今後の違反行為を抑止する観点から,現行独占禁止法附則7条1項の規定を適用する目的で,課徴金の納付を命ずる外形を作出する必要があるというのであれば,そもそも,本件課徴金債権の額未定での届出といった会社更生法所定の手続を履践しておくべきであったのであり,そのような手続の懈怠によって本件課徴金債権の納付を命ずる審決を行い得なくなったとしても,会社更生法の定める手続を執らなかったのであるからやむを得ない。本件は,被告が本来行うべきであった会社更生法上の届出を行わなかったという単なる個別の事案に過ぎず,被告が届出を行ってさえいれば,現行の会社更生法及び独占禁止法の範囲内で解決され,何らの問題も生じなかったのである。
第4 当裁判所の判断
1 争点3(本件課徴金債権が更生計画認可の決定により免責されるかどうかにかかわらず,被告は,課徴金の納付を命ずることができるか。)について
(1) 独占禁止法48条の2第1項は,公正取引委員会は,同法7条の2第1項(同法8条の3において準用する場合を含む。)に規定する事実があると認める場合には,事業者又は事業者団体の構成事業者に対し,同法7条の2第1項又は2項に定める課徴金を国庫に納付することを命じなければならないと規定し,同法54条の2第1項は,公正取引委員会は,審判手続を経た後,同法7条の2第1項(同上)に規定する事実があると認めるときは,審決をもって,被審人に対し,当該違反行為に係る課徴金を国庫に納付することを命じなければならないと規定するのであって,公正取引委員会は,同法7条の2第1項所定の違反行為があると認めるときは,課徴金の納付を命じなければならないものとされている。
一方,会社更生法204条1項は,更生計画認可の決定があったときは,同項1号ないし4号の権利を除き,更生会社は,すべての更生債権等につきその責任を免れると規定する。これは,「窮境にある株式会社について」,「当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的」として,「債権者,株主その他の利害関係人の利害を適切に調整」する(同法1条)ために,上記更生債権等は免責されて自然債務となることを規定するものである。
以上によれば,公正取引委員会は,独占禁止法7条の2第1項所定の違反行為があると認めるときは,当該課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるかどうかといったことは考慮することなく,課徴金の納付を命じなければならず,当該納付命令により具体的に発生した課徴金債権につき,その徴収をすることができるかどうかという場面で初めて,上記「調整」のための同法204条1項の規定により免責されるかどうかが問題となる(免責されるとすれば,強制徴収をすることができず,自然債務となる。)と解するのが相当であり,同法204条1項の規定は,公正取引委員会が課徴金の納付を命ずること自体には何ら影響を及ぼさないものと解される。
(2) 上記(1)の解釈について
ア 独占禁止法54条の2第2項,48条の2第3項は,課徴金の納付を命ずる審決には具体的な納期限を定めなければならない旨規定し,同法64条の2第1項は,公正取引委員会は,課徴金をその納期限までに納付しないものがあるときは,督促状により期限を指定してその納付を督促しなければならないと規定し,同法64条の2第4項は,公正取引委員会は,上記督促を受けたものがその指定する期限までにその納付すべき金額を納付しないときは,国税滞納処分の例により,これを徴収することができると規定する。
しかして,仮に当該課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるとすると,同債権については,少なくとも上記のような強制徴収(国税滞納処分の例による徴収)はすることができないことになる。このように強制徴収をすることができないものについて,その納付を命ずる審決をすることができるのかということが問題となる。
確かに,納付を命ずる審決をしても,強制徴収をすることができず,他にも法的な効力がないとすれば,そのような審決はすべきでない(被告の主張する「事実上のインパクト」は,まさに事実上のものであって,法的な意味はない。)。しかし,免責されるとしても,自然債務としての効力はあるし,次のような決して軽視することのできない法的な効力もあるから,強制徴収をすることができないからといって,納付を命ずる審決をすべきでないということはできない。
すなわち,現行独占禁止法附則7条1項は,現行独占禁止法により課徴金納付命令を受ける事業者が過去10年以内に独占禁止法54条の2第1項に基づき課徴金の納付を命ずる審決を受けたことがあるときには,現行独占禁止法7条の2第7項及び9項(繰り返しの違反に対する割増し算定率)を適用すると規定しており,納付を命ずる審決がされていた場合には,将来において繰り返しの違反行為があったとき,これに対する課徴金につき割増し算定率が適用されることになる(納付を命ずる審決がされていなかった場合には,割増し算定率は適用されない。)から,強制徴収をすることができないとしても,納付を命ずる審決をすることには決して軽視することのできない法的な効力ないし意味があるというべきである。ここで,強制徴収をすることができないものについては納付を命ずる審決をすべきでないという見解を採ると,将来において繰り返しの違反行為があったとき,かつて更生計画認可の決定があった者とそうでない者との間で不公平が生ずることが明らかであるから,この意味においても,上記のような見解を採ることはできない。
なお,原告は,強制徴収をすることができない課徴金債権については,その納付を命ずる審決において具体的な納期限を定めることはできないとして,具体的な納期限を定めない審決は独占禁止法の全く想定しないところであると主張するが,強制徴収をすることができないということは,上記の督促以降の措置を執ることができないということであって,具体的な納期限を定めることとは矛盾しないというべきである。
イ 原告は,前記第3の3(2)ウにおいて,課徴金の納付を命ずる審決がされると,免責されているにもかかわらず,事実上強制的に納付を迫られることになって不都合である旨主張する。
しかし,原告の主張するような事態は,独占禁止法上の課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるものであるかどうかについての解釈が固まっていない(最高裁判例がない。)ことにより生ずる事実上のものであって,直ちに上記(1)の解釈を左右するものではない。
ウ 他に,上記(1)の解釈をすることの妨げとなる事由は見当たらない。
(3) そうとすると,被告は,本件課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるものであるかどうかにかかわらず,本件課徴金債権につき独占禁止法の規定に従ってその納付を命ずる審決をすべきことになり,したがってまた,本件課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるものであるということは,本件審決の違法事由たり得ないというべきである。
2 本件審決について原告が違法事由として主張するところは,本件課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるものであるから違法であるという点のみであるが,この主張が失当であることは上記1に説示したところから明らかである。
そして,前記前提事実によれば,本件についての独占禁止法7条の2第1項の規定による課徴金の額は,平成23年(判)第76号事件分が1億0574万円,同第77号事件分が3億7581万円,同第78号事件分が5575万円となり,本件審決は適法であるということができる。
3 以上の次第で,原告の本訴請求は,争点1(本件課徴金債権は,更生債権に該当するか。)及び争点2(本件課徴金債権は,更生計画認可の決定により免責されるか。)について検討するまでもなく,理由がないというべきである。
なお,本件訴訟に至る経緯及び本件審理の経過に鑑み,争点1及び争点2についての当裁判所の判断を別紙で示すこととする。
4 よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

平成25年5月17日

裁判長裁判官 貝阿彌 誠
裁判官 生島弘康
裁判官 土田昭彦
裁判官氏本厚司及び同木山智之は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 貝阿彌 誠

(別紙)
争点1及び争点2についての判断
1 争点1(本件課徴金債権は,更生債権に該当するか。)について
会社更生法2条8項は,更生債権とは,更生会社に対し更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権又は同項1号ないし8号に掲げる権利であって,更生担保権又は共益債権に該当しないものをいうと規定する。そして,更生手続開始前の原因に基づく請求権とは,債権発生の基本的構成要件に該当する事実が更生手続開始前に存在するものであることを意味し,当該債権自体が更生手続開始の時点で既に成立していることまでは要しないが,その債権発生の基本となる法律関係が更生手続開始前に生じ,債権の成立に必要な事実の基本的部分が更生手続開始前に具備されていることが必要であると解される。
被告は,独占禁止法上の課徴金債権についての債権発生の基本的構成要件該当事実は,独占禁止法に違反する行為の認定が被告レベルで確定したことであり,本件においては,被告が違反行為を認める審判審決をしたことであると主張する。
しかし,被告が主張する独占禁止法上の課徴金納付命令発令手続の特殊性,被告が一定の手続段階を経る前に債権届出をすることの困難性などを考慮しても,違反行為の認定が被告レベルで確定したということは,その内容が著しく不明確であり,その要件成就の可否がもっぱら被告に委ねられることとなり,その確定の時点も被告の内部的な調査手続や審判手続の推移によって必ずしも予見可能性のないまま決定されることとなるのであるから,更生会社を巡る権利関係,利害関係の調整にとって極めて重要である更生債権と共益債権とを画する規準としては相当でなく,被告の主張は採用できない。
独占禁止法上の課徴金債権についての債権発生の基本的構成要件に該当する事実とは,独占禁止法7条の2第1項所定の違反行為に係る事実であると解するのが,明確かつ文理にかなうもので,相当である。したがって,課徴金の対象となる独占禁止法に違反する行為が更生手続開始前にされた場合には,課徴金納付命令が更生手続開始後にされたとしても,更生手続開始前の原因に基づく請求権に該当するものというべきである。
租税債権については,更生手続開始前に,課税要件のすべてを充足し,将来一定額の具体的租税債権として確定されるべき状態があれば,更生手続開始前の原因に基づくものとして更生債権として取り扱い,申告納税方式や賦課課税方式によって確定すべき租税につき,更生手続開始後に納税申告や賦課決定があっても更生債権とすること,罰金については,犯罪行為が更生手続開始前に成立していれば,罰金を科す裁判が更生手続開始前に効力を生じ,又は確定していなくとも,更生債権として取り扱うことが,会社更生法上の手続において確立した取扱いとなっており,上記の解釈はこのような取扱いとも整合する。なお,金融商品取引法上の課徴金についても,金融商品取引法違反行為が更生手続開始前にされた場合には,課徴金納付命令が更生手続開始後にされたとしても,更生債権として扱うべきものと解するのが相当である。
原告の更生管財人が平成23年(納)第63号,第72号及び第81号納付命令をもって納付を命じられた課徴金に係る独占禁止法に違反する行為は,本判決の「事実及び理由」欄の第2の2⑵アないしウのとおり,いずれも原告の更生手続開始前にされたものであるから,本件課徴金債権は,更生手続開始前の原因に基づく請求権に該当するものである。そして,本件課徴金債権が,更生担保権に該当しないこと,更生手続開始前の原因に基づく請求権であるものの衡平の見地や政策的見地から共益債権とされるもの(会社更生法61条4項,62条2項,127条4号,128条ないし130条等)に該当しないことは,明らかである。したがって,本件課徴金債権は更生債権に該当する。
本件審決も,その引用する審決案(18頁19行目から20行目まで)において,「本件課徴金債権は,会社更生法上の租税等の請求権に該当する」と説示しているところであり,本件課徴金債権が,更生手続開始前の原因に基づく請求権に該当し,共益債権ではなく更生債権であることを当然の前提としているといわざるを得ない。
2 争点2(本件課徴金債権は,更生計画認可の決定により免責されるか。)について
(1) 独占禁止法は,課徴金の納付の督促を受けたものが指定された期限までに納付すべき金額を納付しないときは,「国税滞納処分の例により,これを徴収することができる」旨を規定している(同法64条の2第4項)。会社更生法2条15項は,この法律において「租税等の請求権」とは,国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権であって,共益債権に該当しないものをいうと規定している。
これらによれば,上記1のとおり更生債権に該当する本件課徴金債権は,会社更生法上は「租税等の請求権」に該当することが明らかである。
会社更生法は,更生債権である租税等の請求権につき,更生手続において次のような取扱いをすることとしている。
① 更生手続開始の決定があったときは,当該決定の日から1年間は,更生会社の財産に対する国税滞納処分をすることができず,更生会社の財産に対して既にされている国税滞納処分は中止する(同法50条2項)。1年間の期間は伸長可能であるが,この期間経過後は,禁止・中止の効果は当然消滅するため,従前の処分を再開することができるほか,更生手続中に弁済を得ることもできる(同法47条7項)。
② 当該債権の額,原因及び担保権の内容を裁判所に届け出なければならないが,債権届出期間に従う必要はなく,遅滞なく届け出れば足りる(同法142条1号)。調査期間における調査の対象とはならず,その確定も,通常の査定手続等によらない(同法164条1項)。
③ 優先的更生債権として,更生計画による権利変更の対象となり,減免を定めるには原則として徴収権者の同意を要するが,一定限度内の減免の場合には意見を聞くだけで足りる(同法169条)。変更条項は,議決権行使の対象とされない(同法136条2項4号)。
④ 債権届出を怠れば,同法204条1項4号所定のもの(租税の逋脱等につき刑に処せられまたは通告処分を受けた場合の逋脱した租税の請求権)を除いては,一般の更生債権,更生担保権と同様に,更生計画認可決定により免責される(同法204条1項)。
(2) 原告が,本件課徴金債権は原告に係る更生計画認可決定により免責された旨主張するのに対し,被告は,本件課徴金債権については,会社更生法204条1項3号を類推適用して,更生計画認可決定によっても例外的に免責されないと解すべきであると主張する。以下,この点について検討する。
免責の例外として同号に定めるものは,「第142条第2号に規定する更生手続開始前の罰金等の請求権」であり,同法142条2号は,「更生手続開始前の罰金等の請求権(更生手続前の罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金又は過料の請求権であって,共益費用に該当しないものをいう。)」と規定する。
会社更生法は,更生債権である更生手続開始前の罰金等の請求権(以下「罰金等の請求権」という。)につき,更生手続において次のような取扱いをすることとしている。
① 罰金等の請求権の執行は,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従ってする(刑事訴訟法490条2項本文,非訟事件手続法163条1項本文)。更生手続開始の決定があったときは,強制執行をすることはできず,既にされている強制執行の手続は中止し(会社更生法50条1項),中止した強制執行の手続は更生計画認可の決定があったときはその効力を失う(同法208条)。弁済も禁止される(同法47条1項)。
② 当該債権の額,原因及び担保権の内容を裁判所に届け出なければならないが,債権届出期間に従う必要はなく,遅滞なく届け出れば足りる(同法142条2号)。調査期間における調査の対象とはならず,その確定も,通常の査定手続等によらない(同法164条5項)。
③ 更生計画において減免の定めその他権利に影響を及ぼす定めをすることはできない(同法168条7項)。
④ 債権届出がなくとも,更生計画認可決定により免責されることはない(同法204条1項3号)。しかし,更生計画で定められた弁済期間が満了するまでの間は,原則として,弁済等を受けることはできない(同条2項)。
被告は,独占禁止法上の課徴金が,制裁としての性質を有し,また,違反行為を抑止するという機能を有する点で罰金と共通していることからすると,独占禁止法上の課徴金については,会社更生法204条1項に定める免責との関係では,罰金等の請求権と同様に扱うのが相当であると主張する。
しかし,上記のとおり,本件課徴金債権が該当する租税等の請求権と罰金等の請求権とは,権利の強制的な実現の方法において,前者が自力執行が認められているのに対し,後者は強制執行手続によることとされていて,大きく異なる。また,会社更生法は,両請求権につき,更生手続において,更生手続と強制的な債権回収手続(国税滞納処分あるいは強制執行)との調整の在り方,更生計画の定めによる減免の可否,債権の満足の点での一般の更生債権との優劣,更生計画認可決定による免責の有無などの諸点につき,それぞれの請求権の性質,国法上の位置付けに応じて,まったく異なる取扱いをしている。すなわち,罰金等の請求権は,更生計画の定めによる減免の対象から除外され,債権届出がなくとも,更生計画認可決定により免責されることはない一方で,更生計画認可決定があったときは,債権満足の点では,他の更生債権等に基づき更生計画の定めにより認められた権利よりも劣位に置かれる。これに対し,租税等の請求権は,更生計画の定めによる減免の対象となり,債権の届出を怠れば,(同法204条1項4号所定のものを除き)更生計画認可決定により免責される一方で,債権の満足の点では,一般の更生債権に優先するものとして極めて強力な地位が与えられている。独占禁止法上の課徴金については,かかる法制度を前提として,同法64条の2第4項,会社更生法2条15項の規定により,更生手続においては租税等の請求権に該当するものと定められているのである。ちなみに,金融商品取引法上の課徴金は,これと異なり,金融商品取引法185条の16の規定により,会社更生法の規定の適用については,課徴金納付命令に係る課徴金の請求権及び第185条の14第2項の規定による延滞金の請求権は過料の請求権とみなすと定められているから,更生手続においては,罰金等の請求権に該当するものとして扱われることとなる。
以上のように,会社更生法は,更生手続において,租税等の請求権と罰金等の請求権とを,法的性格が異なるものとして明確に峻別し,類型を異にする完結した別個独立の請求権として,その取扱いをまったく異にしている。したがって,独占禁止法上の課徴金が,制裁としての性質を有し,また,違反行為を抑制するという機能を有する点で罰金と共通しているからといって,債権届出がされた場合には優先的更生債権として上記のような債権の満足の点で有利な取扱いをする租税等の請求権に該当するものとして位置付けられている本件課徴金債権について,債権届出がない場合に,明文の規定もないまま,債権届出の有無にかかわらず劣後的更生債権として扱われる罰金等の請求権について定められた免責の例外規定を類推適用して,更生計画認可決定によっても免責されないとすることは,法律の枠組みを恣意的に揺るがせるもので,法律解釈の限界を超えるものとして許されないといわざるを得ない。
したがって,被告の主張は採用できない。
(3) また,被告は,本件課徴金債権については,会社更生法204条1項4号を類推適用して,更生計画認可決定によっても例外的に免責されないと解すべきであると主張する。
しかし,同号所定の請求権は,更生手続開始前の租税等の請求権のうち,逋脱等につき刑に処せられまたは通告処分を受けた場合の,その逋脱した請求権で届出のないものであり,逋脱等につき刑に処せられまたは通告処分を受けた場合という要件があってはじめて,本来債権届出をすれば優先的更生債権であるのに,届出を怠っても,劣後的更生債権とはされるものの免責されないという,真に特殊な性格付けを与えられており,その例外性の質において際立っているといわねばならず,制裁という点で性質を同じくするとしても,明文の規定もないまま,本件課徴金債権について,上記のような特段の要件がないにもかかわらず,同号の規定を類推すべきであるとすることは,法律解釈の限界を超えるものであるといわざるを得ない。
したがって,被告の主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであり,原告は,平成22年7月1日に確定した更生計画認可の決定により,本件課徴金債権につきその責任を免れたものというべきである。

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