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菱和建設(株)に対する件

独禁法7条の2(独禁法3条後段)

平成23年(判)第6号

課徴金の納付を命じない審決

盛岡市みたけ一丁目6番30号
被審人 菱和建設株式会社
同代表者 代表取締役 及 川   力
同代理人 弁 護 士 東海林 利 哉
同          東海林 智 恵

 公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官後藤健,審判官原一弘及び審判官多田尚史から提出された事件記録及び規則第84条の規定により審査官から提出された異議の申立書に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

             主       文
被審人に対して,課徴金の納付を命じない。

             理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,後記第2項のとおり訂正するほかは,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第6と同一であるから,これらを引用する。
2 別紙審決案を以下のとおり訂正する(ページ数は,同審決案のページ数を指す。)。
13ページ21行目から14ページ16行目までを次のように改める。
「(3) この場合でも,①研究会等において被審人若しくは他の事業者が受注予定者として決定され,その他の会員入札参加者が受注予定者の受注に協力したこと(このような場合として,被審人が受注予定者に決定され,阿部工務店及び佐藤建設工業が本件基本合意に反して受注目的で被審人より低額で入札したが,低入札価格調査の結果失格したため,被審人が落札した場合と,阿部工務店又は佐藤建設工業が受注予定者に決定されたが,両社は低入札価格調査の結果失格したため,被審人が落札した場合が考えられる。),又は,②研究会等において複数の事業者(阿部工務店,佐藤建設工業及び被審人のほか,高光建設,吉田組及び大丸建設も含まれ得る。)の間で競争をすることが決定され,他の会員入札参加者はこの競争に協力したこと等が認められ,かつ,③被審人が受注調整に直接又は間接に関与したことが認められれば,本件物件について具体的な競争制限効果が発生したといえる場合がある。
(4) 本件物件については,前記(1)②のとおり,研究会が開かれたこと,また,前記(1)③のとおり,会員入札参加者のうち7社の入札価格が設計金額の94パーセントを超え,被審人の入札価格から大きくかい離していたこと及び会員入札参加者のうち2社が入札に参加しなかったことが認められ,これは,上記9社が受注予定者の受注に協力したことをうかがわせる事実である。しかし,前記(2)のとおり,会員入札参加者である阿部工務店,佐藤建設工業,被審人,高光建設,吉田組及び大丸建設の6社が価格競争をしていること,前記(1)①のとおり,本件物件は多くの事業者が受注を希望すると考えられる新規物件であったことなどに照らせば,上記研究会において本件物件について合意に至ることができず,いわゆるフリー物件(各事業者が基本合意に拘束されず,自社の判断で入札価格を決める物件)になった可能性も十分にあったというべきである。そうすると,本件物件については,上記研究会等において,会員入札参加者の間で,上記6社ないしその一部が本件物件を受注することが決定され,他の事業者がこれに協力した事実(前記(3)①,②)を認めることはできない。」
3 ところで,審査官はその異議の申立書において,被審人が受注した物件91(以下「本件物件」という。)について
(1) 本件基本合意の下では,受注調整の結果,必ず受注予定者が1社に決定されるとは限らず,複数の受注希望者のうちのいずれかの者が受注予定者と決定される場合もあるが,そのような場合でも,それ以外の会員入札参加者は,上記受注希望者のうちのいずれかの者が受注できるように協力することとされていた
(2) 本件物件の入札結果等をみると,会員入札参加者の中には高価格で入札した者や入札を辞退した者がおり,これらの者は被審人及び低価格で入札した会員入札参加者の受注に協力したと推認できる
(3) 以上によれば,本件物件については,本件基本合意に基づいて受注調整が行われた結果,少なくとも,被審人及び低価格で入札した会員入札参加者のうちのいずれかの者が受注することが決定され,かつ,他の会員入札参加者がその受注に協力したとみることができるから,具体的な競争制限効果が発生したと認められ,独占禁止法第7条の2第1項の「当該・・・役務」に該当する
と主張する。
確かに,上記(1)及び(2)の事実が認められれば,具体的な競争制限効果が発生したといえる場合があると考えられる。
しかしながら,上記(1)については,受注予定者が1社に決定されず複数の受注希望者のうちのいずれかの者が受注予定者と決定される場合にも,他の会員入札参加者が受注に協力することになっていたことを示す具体的な証拠はない。かえって,本件基本合意は,受注価格の低落防止等を図るため,受注希望者が複数ある場合には受注予定者を1社に絞ることを定めるのみであって,受注予定者を1社に絞れなかった場合については定めていないこと,担当者の供述(査第26号証,第36号証)等の証拠によれば,受注予定者が1社に決定できない場合にはフリー物件として各社が自由に入札することになっており,実際に133物件のうち株式会社石川工務所が受注した「県営仙北アパート集会所他建設工事」(物件107,査第19号証)がフリー物件になったとうかがわれることなどに照らせば,上記(1)の事実を認めることはできない。
上記(2)については,本件物件について,他の会員入札参加者が被審人より低い価格で入札している事実から,受注予定者を1社に決定することができなかったことが明らかであり,その結果,本件物件については,上記のとおりフリー物件となり,会員入札参加者が自由に入札することとなった可能性が十分にあったといえる。したがって,一部の会員入札参加者が高価格で入札したことや入札を辞退したことをもって,これらの者が受注予定者の受注に協力したと推認することはできない。
したがって,審査官の主張は採用できない。
4 よって,被審人に対し,主文のとおり審決する。

平成25年5月22日

委員長  杉  本  和  行
委 員  濵  田  道  代
委 員  小 田 切  宏  之
委 員  幕  田  英  雄
委 員  山  﨑     恒

平成23年(判)第6号

審   決   案

盛岡市みたけ一丁目6番30号
被審人 菱和建設株式会社
同代表者 代表取締役 及 川   力
同代理人 弁 護 士 東海林 利 哉
同          東海林 智 恵

 上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人に対して,課徴金の納付を命じない。

理       由
第1 本件審判事件の概要
1 排除措置命令
公正取引委員会は,別添平成17年(判)第14号審決書(写し)記載のとおり,被審人が,他の事業者と共同して,岩手県が条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により,同県が建築一式工事についてAの等級に格付している者のうち同県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事(以下「岩手県発注の特定建築工事」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであるとして,被審人を含む79社に対し,平成22年3月23日,審判審決にて排除措置を命じた(以下,この審決を「本案審決」といい,本案審決で認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。被審人に対する本案審決は確定している。
2 課徴金納付命令
公正取引委員会は,本案審決に基づき,本件違反行為は,独占禁止法第7条の2第1項に規定する役務の対価に係るものであるとして,被審人に対し,平成22年12月20日,課徴金納付命令を発し,平成23年3月7日に同課徴金納付命令に係る審判開始決定をした。
第2 前提となる事実等(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実,公知の事実又は本案審決により認定された事実である。)
1 本件違反行為の概要等
(1) 被審人の概要
被審人は,建設業を営む者であり,独占禁止法第7条の2第2項第1号に該当する事業者である。(争いがない。)
(2) 岩手県の建築一式工事の発注方法等
ア 岩手県は,同県が発注する建築一式工事の大部分を,条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札のいずれかの方法で発注していた。
イ 岩手県は,条件付一般競争入札に付する工事については,入札参加資格要件を設定の上,対象工事の概要と併せて事前に公告し,入札参加希望者を募り,条件付一般競争入札参加資格確認申請書を提出した者の中から入札参加資格要件を充足する者全てを入札参加者としていた。
また,公告において,工事の設計金額が事前に公表されており,原則として設計金額が工事の予定価格とされた。そして,予定価格の範囲内で最低の価格で入札した者が落札者とされた。(査第36号証,第45号証)
ウ 岩手県は,低価格による入札への対応として,条件付一般競争入札については,全て低入札価格調査制度を適用し,入札の結果,あらかじめ設定した調査基準価格を下回る価格で入札した者がいる場合は落札者の決定を保留することとし,当該入札価格によって契約の内容に適合した履行がなされるか否かを,最低価格入札者から順次調査した上で,履行可能である者を落札者としていた。その際,履行可能な者がいないときは,調査基準価格以上で入札した者のうち入札価格の一番低い者を落札者としていた。
(3) 本件違反行為
被審人を含む105社(本案審決の別紙1記載の80社から大森工業株式会社を除いた79社,別紙3記載の5社,別紙4記載の10社及び別紙5記載の11社を合わせたもの。以下「105社」という。)は,いずれも建設業を営み又は営んでいた者であるが,遅くとも平成13年4月1日(本案審決の別紙6記載の事業者〔大森工業株式会社を除く。〕にあっては,遅くとも各「期日」欄記載の年月日頃)以降,岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため
ア 当該工事について受注を希望する者又は受注を希望する特定共同企業体(以下まとめて「受注希望者」という。)は,105社が会員となっていた「トラスト・メンバーズ」又は「TST親交会」と称する会(平成14年12月1日に前者から後者に名称が変更された。以下まとめて「TST親交会等」という。)の会長又は地区役員(以下まとめて「TST等世話役」という。)に対して,その旨を表明し
(ア) 受注希望者が1名のときは,その者を受注予定者とする
(イ) 受注希望者が複数のときは,「継続性」(主として過去に自社が施工した建築物の工事であること。),「関連性」(主として過去に自社が施工した建築物と関連する建築物の工事であること。),「地域性」(主として工事場所が自社の事務所に近いこと。)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する
イ 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する
旨の合意(以下「本件基本合意」という。)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものである。
(4) 被審人受注物件
ア 被審人が,平成13年4月1日から平成16年10月25日までの期間(以下「本件違反行為期間」という。)中に受注した岩手県発注の特定建築工事は,別紙1記載の番号83及び番号91の各物件であり,工事名,発注方法,予定価格,落札価格,落札率,入札参加者等の詳細は,別紙1のとおりである(以下,番号83の物件を「物件83」,番号91の物件を「本件物件」という。)。被審人は,これら2物件のうち,物件83を本件基本合意に基づく受注調整により落札したことを認めている。
イ 本件物件は,条件付一般競争入札の方法により入札が行われた物件であり,本件物件の入札には,被審人のほか,105社に含まれる株式会社タカヤ(当時の商号は「高弥建設株式会社」)等15社と,105社以外の者(以下「アウトサイダー」という。)である日本住宅株式会社及び株式会社野方建設の計18社が参加申込みをした(以下,別紙1記載の入札参加者については,株式会社を省略して表記する。)。
ウ 本件物件の入札は平成15年6月9日に行われた。石川工務所及び高建工業は入札に参加しなかったため,実際に入札したのは,前記18社のうち16社であった(以下,本件物件の入札に参加した事業者のうち105社に含まれる事業者を「会員入札参加者」という。)。
各社の入札価格は別紙2のとおりであり,野方建設が最低価格の1億9501万円(設計金額〔本件物件では予定価格と同一であった。〕に対する入札価格の割合は73.87パーセント)で,以下順に,阿部工務店が2億1000万円(同79.55パーセント)で,佐藤建設工業が2億2176万円(同84.00パーセント)で,被審人が2億2440万円(同85.00パーセント)で入札した。
野方建設,阿部工務店及び佐藤建設工業の入札価格がいずれも低入札価格調査の調査基準価格である2億2440万円を下回っていたため,上記3社が低入札価格調査を受けたところ,いずれも失格となり,被審人が本件物件を受注した。
(査第2号証,第3号証)
2 課徴金の計算の基礎となる事実
(1) 被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成13年10月25日以前であると認められる。また,被審人は,平成16年10月26日以降,本件違反行為を取りやめており,同月25日にその実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。したがって,被審人については,前記第1の違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成13年10月26日から平成16年10月25日までの3年間となる。(争いがない。)
(2) 被審人の実行期間における岩手県発注の特定建築工事に係る売上額は,改正法附則第2条のなお従前の例によることとする規定により,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第6条の規定に基づき算定すべきところ,当該規定に基づき算定すると,別紙1のとおり,物件83の契約により定められた対価の額は231万円,本件物件の契約により定められた対価の額は2億5107万8100円である。(本件物件の対価を課徴金の算定の基礎とすることを除き,実行期間内の売上額については争いがない。)
第3 本件の争点
本件の争点は,本件物件が独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該・・・役務」に該当するものとして,課徴金算定の対象となるか否かである。
第4 争点についての双方の主張
1 審査官の主張
(1) 違反行為の対象となった岩手県発注の特定建築工事については,特段の事情がない限り,競争制限効果が及んでいるものと推認され,課徴金の算定対象に含まれること
ア 当該商品又は役務の意義
独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品又は役務」とは,違反行為の対象商品又は対象役務の範ちゅうに属する商品又は役務であって,違反行為による相互拘束を受けたものをいうところ(東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊194頁等参照),本件のような受注調整事案の場合には,自由な競争を行わないという不当な取引制限に該当する意思の連絡による相互拘束たる基本合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において,基本合意に基づいて受注予定者が決定されるなど,基本合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解されている(東京高等裁判所平成24年3月2日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」等参照)。
そして,課徴金制度の趣旨,受注調整の性質等からすれば,基本合意の対象となった商品又は役務については,当該基本合意の参加者が,明示的又は黙示的に当該基本合意の対象から除外するなど,当該商品又は役務が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,競争制限効果が及んだものと推定され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品又は役務」に該当するものとして課徴金の算定対象に含まれる(公正取引委員会平成22年12月14日審決・公正取引委員会審決集第57巻第1分冊398頁等参照)。
イ 前記アからすれば,本件において違反行為の対象となった岩手県発注の特定建築工事については,特段の事情がない限り,競争制限効果が及んでいるものと推認され,課徴金の算定対象に含まれる。
ウ 本件で認められる以下の具体的事実からも,本件物件を含む本件違反行為期間における岩手県発注の特定建築工事の全物件で受注調整が行われ競争制限効果が及んでいたことは明らかである。
(ア) 本案審決において認定されたとおり,岩手県発注の特定建築工事133物件(以下「133物件」という。)中,本件基本合意の当事者である105社が受注したのは118物件(以下「118物件」という。)であり,そのうち,58物件(以下「58物件」という。)について本件基本合意に基づく受注調整が行われた。また,118物件から58物件を除いた60物件(以下「60物件」という。)の全部又は大部分においても,本件基本合意に基づく受注調整が行われていたことが推認される。
(イ) 133物件のうち,受注調整が行われた63物件(58物件に,受注調整は行われたがアウトサイダーが受注した5件を加えたもの。以下「63物件」という。)は,条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札及び指名競争入札のいずれの発注方法も含み,新築工事のみならず改築工事,改修工事,増築工事,解体工事等の多様な種別の工事を含む。63物件の工事は特定の地域に偏ることなく県内全域において実施されており,実施された時期も,本件違反行為期間中の特定の時期に偏っていない。
(ウ) トラスト・メンバーズが受注調整を行っているとの情報が岩手県に寄せられ,トラスト・メンバーズの会長の稲垣孝一(以下「稲垣」という。)らが岩手県の事情聴取を受けたにもかかわらず,105社は,受注調整をやめることなく,平成14年12月1日からトラスト・メンバーズの名称をTST親交会に変更する等の発覚防止のための措置を講じて受注調整を継続した。また,TST親交会等は,毎年の総会において,受注調整の継続の確認を行っていた。
(エ) 105社は,公共工事の受注機会の均等を図るとともに,各工事を利益が得られる価格で受注するために受注調整を行っていたこと,貸し借りの関係にある者同士で受注調整を行っていたことなどからすれば,105社には,本件違反行為期間における岩手県発注の特定建築工事の全物件で受注調整を行う動機があった。
(2) 本件物件に係る具体的事実からみた競争制限効果
本件物件に係る下記の具体的事実に照らすと,本件物件について本件基本合意に基づく受注調整が行われ,競争制限効果が及んでいたことが認められる。
ア 本件物件に関しては,地域性を有する吉田組が受注を希望し,受注予定者を決定するための研究会が平成15年6月4日に開催された。同研究会には,吉田組,東野建設工業及び石川工務所が出席したことが明らかであるところ,年度当初から本件物件の受注を希望していた被審人も参加したものとみるのが合理的である。
イ 本件物件の入札参加者のうち,東野建設工業,石川工務所,タカヤ,タカヨ建設及び恵工業の5社(以下「5社」という。)が岩手県発注の特定建築工事について受注調整を行っていたことを認める旨の供述をしている。
ウ 本件物件の入札参加者18社のうち16社は,63物件の入札及び60物件の入札に共に参加したことがある95社に属する者である。
エ 被審人は,本件基本合意の存在及び物件83を本件基本合意に基づく受注調整により受注したことを認めているところ,本件物件は物件83の僅か3か月後に入札のあった物件である。
オ 5社のうち,本件物件に係る研究会に参加した東野建設工業や石川工務所は,設計金額に近接した高い入札価格で入札するか入札に参加しないといった対応をとっており,その他のタカヤ,タカヨ建設及び恵工業も,設計金額に近接した高い入札価格で入札しており,少なくともこれら5社については,受注予定者の受注に協力したことが見て取れる。
カ 以上によれば,本件物件に係る研究会における話合いの結果,受注予定者が1社に絞られなかった可能性は必ずしも否定できないが,少なくとも,被審人は,研究会に参加し,そこでの受注調整を踏まえて設計金額の85パーセントに相当する価格で入札し,落札したものであり,受注調整の結果,競争単位が減少し,入札参加者全員の間で行われるべき本来の競争が行われない状態となっていたのであるから,本件基本合意の成立によって発生した競争制限効果が本件物件に及んでいたものといえる(公正取引委員会平成22年11月10日審決・公正取引委員会審決集第57巻第1分冊303頁,公正取引委員会平成20年7月24日審決・公正取引委員会審決集第55巻174頁)。
2 被審人の主張
(1) 審査官の主張(1)及び(2)は否認ないし争う。
    以下のとおり,本件物件は,各事業者が基本合意に拘束されず,自社の判断で入札価格を決める物件(以下「フリー物件」という。)であった。被審人は,本件物件について,本件基本合意とは関係なく自社の判断により入札価格を決めて落札した。
したがって,本件物件の入札において,基本合意の成立によって発生した競争制限効果が及ばなかったと認める特段の事情がある。
(2) 本件物件がフリー物件であったことについて
ア フリー物件の存在
公共工事が減少するなど,建築業界全体の景気が減退していったことに加え,遅くとも平成12年2月以降,参加事業者が限られる指名競争入札から,より多くの事業者が参加できる条件付一般競争入札に移行し始めたことにより,アウトサイダーや受注調整に非協力的な会員が増えてきた。そのような背景もあり,受注調整をしたのに受注予定者が決まらなかった物件や受注調整をしても受注予定者を決めることができないと予測される物件については受注調整行為をせず,基本合意による拘束がない状態で自由競争を行うことが許容されていた。
イ 本件物件について
(ア) 本件物件は新規物件のため,受注調整の際に最も重視される継続性や関連性を主張できる事業者はいない上,条件付一般競争入札によるものであったため,強い受注意欲を持った事業者が多数現れ,入札において激しい競争が行われる可能性が高い物件であった。
(イ) 本件物件は,アウトサイダーが多い盛岡地区と受注調整に非協力的な事業者が多い二戸地区に挟まれる八幡平地区にあったため,それらの者が入札に参加することが予想された。
(ウ) 本件物件については,地域性の要素を満たす吉田組が強い受注意欲を有していた。
(エ) 以上によれば,本件物件については,受注調整を行おうとしても,できない可能性が高いし,仮に,受注調整により受注予定者が決まったとしても,アウトサイダーや受注調整に非協力的な会員が落札する可能性が高かったといえる。
よって,本件物件は,受注調整を行っても受注予定者を決めることができないか,初めから受注調整を諦めることになる可能性が極めて高い物件であった。
なお,本件物件についての研究会が開催されたか否かについては知らない。被審人は,本件物件についての研究会に参加していない。
ウ 本件物件の入札状況について
被審人は,設計金額の85パーセントという低入札価格調査が行われる限界の非常に低い価格で落札している。
本件物件の入札においては,被審人より低い価格で入札した会員入札参加者が2社(阿部工務店及び佐藤建設工業)いたほか,被審人の入札価格よりも1000円あるいは10万円のみ上回る会員入札参加者が3社いるなど,少なくとも6社もの会員入札参加者により激しい競争が繰り広げられており,受注予定者が決まっていなかったことは明白である。
また,前記(2)イ(ウ)のとおり,地域性の要素を満たす吉田組が本件物件の受注を強く希望していたにもかかわらず,吉田組よりも低い価格で入札した会員入札参加者が3社もおり,そのために吉田組が落札できなかったことからすれば,本件物件について受注調整が成立していなかったことは明らかである。
エ 被審人には,本件物件につき,継続性,関連性,地域性の3要素ともなかったのであるから,本件物件は基本合意に基づかず落札したものというべきである。
オ 被審人は,本件物件の受注を希望していることをTST等世話役に連絡しておらず,また,他の事業者からも本件物件の受注に関して連絡を受けていない。
カ 本件物件は,その工事の特殊性から工事原価を下げることが難しく,赤字工事又は利幅の薄い工事と判断されやすい。したがって,石川工務所及び高建工業は,採算が合わないとして,入札に参加しなかったことが考えられる。また,入札と同時に提出しなければならない設計内訳書の提出が間に合わないので,不提出のペナルティを避けるために入札に参加しなかったことも考えられる。
本件物件の入札においては,高額の入札をした事業者がいる。しかしながら,採算が合わないなど,受注意欲のない物件については,不参加として県の印象を悪くするよりも,入札には参加するが,実際には受注意欲がないので高い価格で入札した可能性があるし,あるいは,単に積算の結果算出された高額な金額をそのまま入札価格として入札した可能性も十分ある。
したがって,5社が受注予定者の受注に協力したとはいえない。
第5 審判官の判断
1 当該役務について
(1) 本件基本合意は,独占禁止法第7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ,同項所定の課徴金の対象となる「当該・・・役務」とは,本件のような入札談合の場合には,本件基本合意の対象とされた工事であって,本件基本合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される(最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決・民集第66巻第2号796頁)。
(2) 岩手県発注の特定建築工事全般における受注調整について
ア 証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 133物件中,63物件について,実際に本件基本合意に基づき受注調整が行われた。これら63物件は,条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札及び指名競争入札の全ての発注方法と新築工事,改築工事等多様な工事を含み,特定の地域や時期に偏ることなく県内全域において本件違反行為期間全般にわたって実施された。(査第40号証)
63物件について認定の根拠となった証拠は,別紙3及び4のとおりである。
(イ) 平成14年10月に稲垣らが岩手県の事情聴取を受けたにもかかわらず,105社は,平成14年12月1日から会の名称をTST親交会に変更し,対外的には役員が存在しないことにする等の発覚防止のための措置を講じて,受注調整を継続した。(査第143号証ないし第149号証)
(ウ) TST親交会等の毎年の総会において,受注調整を継続することが確認されていた。(査第36号証,第67号証,第150号証ないし第174号証)
(エ) 105社は,公共工事の受注機会の均等を図り,各工事を利益が得られる価格で受注するために受注調整を行っていたのであって(査第20号証,第23号証,第28号証,第33号証,第34号証,第37号証),これは,岩手県発注の特定建築工事の全物件に当てはまる。また,105社は,受注調整を行うことにより相互に貸し借りを作っており(査第23号証,第178号証),受注希望者だけでなく,他の事業者も受注調整に協力することにより何らかの見返りを期待できる関係にあったことからすると,105社には,本件違反行為期間における岩手県発注の特定建築工事の全物件について受注調整を行う動機があったといえる。
(オ) 全ての案件について受注調整を行っていたと供述している者(査第25号証),基本合意を破れば他の事業者からの協力が得られなくなるばかりでなく,報復措置を受けるおそれがあるため基本合意を守っていかざるを得ないと供述している者(査第35号証,千葉健三参考人審訊速記録)がいる。
イ 以上によれば,本件基本合意は,岩手県発注の特定建築工事の全物件を受注調整の対象とするものであったと推認されるから,岩手県発注の特定建築工事であり,かつ,105社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,特段の事情がない限り,本件基本合意に基づいて受注予定者が決定され,具体的な競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である(前掲東京高等裁判所平成24年3月2日判決参照)。
2 本件物件への具体的な競争制限効果について
(1) 証拠によれば,①本件物件は,新規物件であり,継続性を有する者がおらず,被審人が受注を強く希望していたこと(審第2号証,千葉健三参考人審訊速記録),②本件物件に関して,平成15年6月4日に受注予定者を決定するための研究会が開催され,吉田組,東野建設工業及び石川工務所が出席したこと(査第11号証ないし第13号証),③別紙2のとおり,会員入札参加者のうち7社が設計金額の94パーセントを超える価格で入札し,会員入札参加者のうち2社が入札に参加しなかったことが認められる。
(2) 前記1(2)イのとおり,本件物件は岩手県発注の特定建築工事であり,被審人が入札に参加して受注した工事であるから,特段の事情がない限り,本件基本合意に基づいて被審人が受注予定者になったことが推認されるほか,前記(1)②及び③はこの推認を強める事情である。
しかし,本件物件の入札結果は別紙2のとおりであって,実際に入札に参加した16社のうち,入札価格の低い方から野方建設(アウトサイダー),阿部工務店及び佐藤建設工業の3社が順次低入札価格調査を受けて失格したこと,その結果,低入札価格調査の基準価格(予定価格の85パーセント)と同額で入札した被審人が本件物件を受注したこと,会員入札参加者3社(高光建設,吉田組及び大丸建設)とアウトサイダー1社(日本住宅)が,被審人の入札価格に極めて近い価格(1000円ないし49万5000円高い価格であり,いずれも設計金額の約85パーセントに相当する価格である。)で入札したことが認められる。
本件基本合意によれば,受注予定者を決定し,他の会員入札参加者は受注予定者が受注できるように協力することになっているのであるから,本件基本合意に従って被審人が受注予定者に決定されたのであれば,会員入札参加者である阿部工務店及び佐藤建設工業は,被審人の入札価格より高額で入札する,入札を辞退するなどの方法で被審人による落札に協力したはずであるが,実際には被審人の入札価格より低額で入札し,低入札価格調査の結果失格になっている。このように,本件物件について,阿部工務店及び佐藤建設工業は,本件基本合意の当事者でありながらこれに反する行動をとっており,会員入札参加者が全員協力して受注予定者が落札するという本件基本合意の想定している状況とは異なる入札状況となっている。これは,本件基本合意に基づき受注予定者が決定されたという推認を揺るがす重要な事実といえる。
(3) この場合でも,研究会等において,①被審人若しくは他の事業者が受注予定者として決定され,その他の会員入札参加者が受注予定者の受注に協力することになったこと(このような場合として,被審人が受注予定者に決定され,阿部工務店及び佐藤建設工業が本件基本合意に反して受注目的で被審人より低額で入札したが,低入札価格調査の結果失格したため,被審人が落札した場合と,阿部工務店又は佐藤建設工業が受注予定者に決定されたが,両社は低入札価格調査の結果失格したため,被審人が落札した場合が考えられる。),又は,②複数の事業者(阿部工務店,佐藤建設工業及び被審人のほか,高光建設,吉田組及び大丸建設も含まれ得る。)の間で競争をすること及び他の会員入札参加者はこの競争に協力することが決定されたこと等が認められ,かつ,③被審人が受注調整に直接又は間接に関与したことが認められれば,本件物件について具体的な競争制限効果が発生したといえる場合がある。
(4) 本件物件については,前記(1)②のとおり,研究会が開かれたこと,また,前記(1)③のとおり,会員入札参加者のうち7社の入札価格が設計金額の94パーセントを超え,被審人の入札価格から大きくかい離していたこと及び会員入札参加者のうち2社が入札に参加しなかったことが認められ,これは,上記9社が受注予定者の受注に協力したことをうかがわせる事実である。しかし,前記(2)のとおり,会員入札参加者である阿部工務店,佐藤建設工業,被審人,高光建設,吉田組及び大丸建設の6社が価格競争をしていること,前記(1)①のとおり,本件物件は多くの事業者が受注を希望すると考えられる新規物件であったことなどに照らせば,上記研究会において本件物件について合意に至ることができず,いわゆるフリー物件(各事業者が基本合意に拘束されず,自社の判断で入札価格を決める物件)になった可能性も十分にあったというべきである。そうすると,本件物件については,上記研究会等において,会員入札参加者の間で,上記6社ないしその一部が本件物件を受注することに他の事業者が協力することを合意した事実(前記(3)①,②)を認めることはできない。
(5) また,本件物件については,被審人が受注調整に関与したこと(前記(3)③)を認めるに足りる証拠もない(なお,被審人が本件物件の受注を希望していたことや物件83等の研究会に参加していたことによっては被審人が本件物件の研究会に出席したことを推認するには足りない。)。
(6) したがって,本件物件については,本件基本合意に基づいて被審人が受注予定者となったとの推認を覆すに足りる特段の事情があり,具体的な競争制限効果が発生したとはいえない。
(7) よって,本件物件については具体的な競争制限効果が及んでいたと認めることができないから,本件物件は,独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該・・・役務」に該当せず,課徴金算定の対象とならない。
第6 法令の適用
以上によれば,被審人の実行期間における岩手県発注の特定建築工事に係る売上額は,前記第2の2(2)のとおり,物件83の契約により定められた対価の額の231万円である。そうすると,独占禁止法第7条の2第1項及び第2項の規定により,上記231万円に100分の3を乗じて得た額が50万円未満となるから,同条第1項ただし書の規定により,課徴金の納付を命ずることができないこととなる。
よって,被審人に対し,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成25年1月30日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  後 藤   健

審判官  原   一 弘

審判官  多 田 尚 史

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