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シャープ(株)に対する件

独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)

平成21年(判)第1号及び第3号

審判請求棄却審決(排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決)

大阪市阿倍野区長池町22番22号
被審人 シャープ株式会社
同代表者 代表取締役 髙 橋 興 三
同代理人 弁 護 士 伊集院   功
同          木 村 久 也
同          渡 辺 惠理子
同          柳 澤 宏 輝
同          田 中 亮 平
同          清 水 美彩惠
同          小 松 隼 也

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官後藤健,審判官山田健男及び審判官酒井紀子から提出された事件記録並びに規則第75条の規定により被審人から提出された異議の申立書及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,後記第2項のとおり訂正するほかは,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 別紙審決案を以下のとおり訂正する(ページ数は,同審決案のページ数を指す。)。
(1) 5ページ19行目から20行目にかけての「電子デバイス営業本部第四統括営業部第三営業部長であった丸井戸英俊」を「電子デバイス営業本部第四統轄営業部第三営業部長であった丸井戸秀年」に改める。
(2) 13ページ16行目及び78ページ22行目から23行目にかけての「平成18年12月8日」を「平成18年12月6日」に改める。
(3) 20ページ20行目及び79ページの下から4行目の「同年12月8日」を「同年12月6日」に改める。
(4) 41ページ9行目から10行目を削除する。
3 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成25年7月29日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  杉  本  和  行
委 員  濵  田  道  代
委 員  小 田 切  宏  之
委 員  幕  田  英  雄
委 員  山  﨑     恒

平成21年(判)第1号及び第3号

審   決   案

大阪市阿倍野区長池町22番22号
被審人 シャープ株式会社
同代表者 代表取締役 奥 田  司
同代理人 弁 護 士 伊集院   功
同          木 村 久 也
同          渡 辺 惠理子
同          柳 澤 宏 輝
同          田 中 亮 平
同          清 水 美彩惠
同          小 松 隼 也

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
1 平成21年(判)第1号審判事件
平成20年(措)第20号排除措置命令の取消しを求める。
2 平成21年(判)第3号審判事件
平成20年(納)第62号課徴金納付命令の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 排除措置命令(平成21年(判)第1号審判事件)
公正取引委員会は,被審人が,株式会社日立ディスプレイズと共同して,平成19年第1四半期(平成19年1月から3月までの間をいう。以下同じ。)受注分のニンテンドーDS Lite用TFT液晶ディスプレイモジュールの任天堂株式会社に対する販売価格について,株式会社日立ディスプレイズが平成18年9月11日頃に任天堂株式会社に対して提示した価格を目途とする旨の共通の意思を形成することによって,公共の利益に反して,ニンテンドーDS Lite用TFT液晶ディスプレイモジュールの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであるとして,平成20年12月18日,被審人及び株式会社日立ディスプレイズに対し,排除措置を命じた(平成20年(措)第20号。以下「本件排除措置命令」という。)。排除措置命令書の謄本は,同月19日,被審人に対し送達された。
これに対して,被審人は,平成21年2月2日,本件排除措置命令の取消しを求めて審判請求をした(以下,本審判請求事件を「1号事件」という。)。
2 課徴金納付命令(平成21年(判)第3号審判事件)
公正取引委員会は,被審人が,株式会社日立ディスプレイズと共同して,平成17年度下期(平成17年10月6日頃以降の直近の価格改定日から平成18年3月31日までの間をいう。以下同じ。)受注分のニンテンドーDS用TFT液晶ディスプレイモジュールの任天堂株式会社に対する販売価格について,現行価格から100円を超えて下回らないようにする旨の共通の意思を形成することによって,公共の利益に反して,ニンテンドーDS用TFT液晶ディスプレイモジュールの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであり,かつ,同法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,平成20年12月18日,被審人に対し,2億6107万円の課徴金の納付を命じた(平成20年(納)第62号。以下「本件課徴金納付命令」という。)。課徴金納付命令書の謄本は,同月19日,被審人に対し送達された。
これに対して,被審人は,平成21年2月2日,本件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をした(以下,本審判請求事件を「3号事件」という。)。
第3 前提となる事実等(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。なお,3号事件の査号証は,「3号事件の査第○号証」と記載し,その他の査号証は全て単に「査第○号証」と記載する。)
1 違反行為者
(1) 被審人
被審人は,肩書地に本店を置き,京都市南区に本店を置く任天堂株式会社(以下「任天堂」という。)が製造販売する「ニンテンドーDS」及び「ニンテンドーDS Lite」と称する携帯型ゲーム機(以下,ニンテンドーDSを「DS」,ニンテンドーDS Liteを「DS Lite」という。)の表示画面に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュール(以下「液晶モジュール」という。)の製造販売業を営む者である。
(2) 株式会社日立ディスプレイズ
株式会社日立ディスプレイズ(以下「日立DP」という。)は,千葉県茂原市早野3300番地に本店を置き,本件当時,前記(1)の任天堂が製造販売する携帯型ゲーム機の液晶モジュールの製造販売業を営んでいた。
なお,公正取引委員会は,平成20年12月18日,日立DPに対し,前記第2の1と同様の事実関係に基づき,日立DPが被審人との間でDS Lite用液晶モジュールについて不当な取引制限を行ったとして本件排除措置命令を行ったところ,日立DPは,平成21年2月13日,審判請求をしたが,同年9月25日,この審判請求を取り下げ,排除措置命令は確定した。
2 DS用液晶モジュールに係る取引について
(1) DS用液晶モジュール
DSには,上側と下側の2枚の液晶モジュールが組み込まれているが,上側と下側の液晶モジュールの仕様が同じなので,任天堂は,メーカーから上側,下側の区別をすることなく購入している。(査第2号証)
(2) DS用液晶モジュールの取引
ア 任天堂は,平成16年12月,DSの販売を開始した。
イ これに先立ち,被審人は,平成16年9月頃から,任天堂に対し,直接,DS用液晶モジュールを販売していた。
日立DPは,平成17年2月頃から,東京都港区に本店を置く八洲電機株式会社(以下「八洲電機」という。)を通じて,任天堂に対し,DS用液晶モジュールを販売していた。(査第1号証,第19号証)
ウ 被審人及び日立DPの2社(以下「2社」ともいう。)は,DS用液晶モジュールの任天堂に対する販売価格(以下「任天堂渡し価格」という。)について,おおむね同時期に,改定していた。任天堂渡し価格は,2社がそれぞれの交渉の過程で任天堂に対して提示する価格(以下「提示価格」という。)に基づき決定されており,日立DPにあっては,任天堂渡し価格から八洲電機の口銭を差し引いた価格を自らの販売価格としていた。(査第1号証,第2号証)
エ 2社の任天堂に対するDS用液晶モジュールの販売量の合計は,DS用液晶モジュールの総販売量の全てを占めていた。(査第2号証)
オ 任天堂は,携帯型ゲーム機の市場で圧倒的なシェアを有しており,任天堂に対する売上げは,被審人の液晶事業本部の国内顧客の中で第1位であったため,被審人は,任天堂とのDS用液晶モジュールの取引を極めて重視していた。(審第56号証)
3 DS Lite用液晶モジュールに係る取引について
(1) DS Lite用液晶モジュール
DS Liteは,DSの後継機種で,形状及びその構造等はDSと同様であったが,携帯性を高めるため,DSよりも小型化,軽量化された。
DS Liteには,上側と下側に2枚の液晶モジュールが組み込まれており,上側の液晶モジュールと下側の液晶モジュールとでは仕様が異なるため価格も異なっていた。任天堂は,異なるメーカーの液晶モジュールを組み合わせると残像が出るため,上側の液晶モジュールと下側の液晶モジュールを同一のメーカーからセットで購入していた(以下,上側の液晶モジュールと下側の液晶モジュールを合わせて「キット」ともいう。)。(査第2号証)
(2) DS Lite用液晶モジュールの取引
ア 任天堂は,平成18年3月,DS Liteの販売を開始した。
イ これに先立ち,被審人は,平成18年1月頃から,任天堂に対し,直接,DS Lite用液晶モジュールを販売していた。
日立DPは,同年2月頃から,八洲電機を通じて,任天堂に対し,DS Lite用液晶モジュールを販売していた。(査第1号証,第19号証)
ウ 2社と任天堂との販売価格の決定方法は,前記2(2)ウと同じである。
エ 2社の任天堂に対するDS Lite用液晶モジュールの販売量の合計は,DS Lite用液晶モジュールの総販売量の全てを占めていた。(査第2号証)
オ 前記2(2)オの事情は,DS Lite用液晶モジュールについても同様であった。
4 任天堂,被審人及び日立DPの価格交渉の体制等
(1) 任天堂
任天堂の主たる交渉担当者は,購買管理部のグループマネージャーであった石川考治(以下「任天堂の石川」又は「石川」という。),価格決定の責任者は取締役製造本部長であった太田孝雄(以下「任天堂の太田本部長」又は「太田本部長」という。)であり,専務取締役であった永井信夫(以下「任天堂の永井専務」又は「永井専務」という。)が関与することもあった。(査第2号証)
(2) 被審人
被審人における任天堂の石川の交渉の相手方は,電子デバイス営業本部第四統括営業部第三営業部長であった丸井戸英俊(以下「被審人の丸井戸」又は「丸井戸」という。)で,任天堂の太田本部長の交渉の相手方は,平成17年3月頃までは,峰崎茂平(下記方志教和の前任者)又は片山幹雄(同月頃までモバイル液晶事業本部本部長,後に常務取締役。以下「被審人の片山本部長」又は「片山本部長」という。),同年4月頃から方志教和(平成16年10月1日から平成18年3月31日までモバイル液晶事業本部副本部長,同年4月1日から平成19年3月31日までモバイル液晶第2事業本部本部長,同年4月1日以降モバイル液晶事業本部本部長。以下「被審人の方志」又は「方志」という。)であったが,中武成夫(平成17年5月から専務取締役電子デバイス営業本部長,平成18年4月から取締役副社長デバイス事業担当兼電子デバイス営業本部長,平成19年4月から取締役副社長デバイス事業担当。以下「被審人の中武専務」又は「中武専務」という。)が対応することもあった。方志は,平成17年4月から任天堂を担当するようになり,同年夏頃から,被審人におけるDS及びDS Lite用液晶モジュールの価格決定の実質的な責任者となった。
多田誠(以下「被審人の多田」又は「多田」という。)は,平成16年4月1日以降,被審人のモバイル液晶事業本部マーケティングセンター第一CE部長,平成18年10月1日以降,MB液晶マーケティングセンター副所長兼第一CE部長,平成19年4月1日以降,モバイル液晶事業本部国内マーケティング戦略室長として液晶モジュールのマーケティング業務を行っていた。
(査第2号証,第6号証,第7号証,審第2号証,第3号証,第57号証)
(3) 日立DP
日立DPにおける任天堂の石川の交渉の相手方は,森野秀之(平成17年4月から平成18年3月まで国内営業本部西日本営業部長,同年4月以降同本部西日本支社長。以下「日立DPの森野」又は「森野」という。)で,任天堂の太田本部長の交渉の相手方は,国内営業本部本部長であった唐弓幸一(以下「日立DPの唐弓本部長」又は「唐弓本部長」という。)及び常務取締役であった大谷浩美(以下「日立DPの大谷常務」又は「大谷常務」という。)であった。
熊沢雄一(以下「日立DPの熊沢」又は「熊沢」という。)は,平成16年10月から平成17年3月まで日立DPの戦略事業本部部長代理,同年4月以降は同本部マーケティング部部長として,液晶ディスプレイのマーケティング業務を行っていた。日立DPにおいて,同業務を中心となって行っていたのは熊沢であった。
(査第1号証,第2号証,第18号証,第25号証,3号事件の査第13号証,審第56号証)
第4 本件の争点
1 2社は,共同して相互にその事業活動を拘束したか。
(1) 3号事件
2社は,平成17年10月6日頃,DS用液晶モジュールの平成17年度下期受注分の任天堂渡し価格(以下「平成17年度下期価格」ともいう。)について,意思の連絡を形成し,共同して相互にその事業活動を拘束したか。
(2) 1号事件
2社は,平成18年11月7日頃,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期受注分の任天堂渡し価格(以下「平成19年第1四半期価格」という。)について,意思の連絡を形成し,共同して相互にその事業活動を拘束したか。
2 本件各意思の連絡は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するか。
(1) 3号事件
2社の平成17年10月6日頃の意思の連絡の形成は,平成17年度下期受注分のDS用液晶モジュールの取引分野における競争を実質的に制限するか。
(2) 1号事件
2社の平成18年11月7日頃の意思の連絡の形成は,平成19年第1四半期受注分のDS Lite用液晶モジュールの取引分野における競争を実質的に制限するか。
3 本件各意思の連絡は,公共の利益に反するか。
4 1号事件について,被審人に対し,本件排除措置を特に命ずる必要があるか。
5 3号事件について,実行としての事業活動の終期は,日立DPが任天堂との間でDS用液晶モジュールの改良品であるNTR-2の価格交渉を始めたため,本件DS用液晶モジュールに係る意思の連絡がなくなった時点か。
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(2社は,共同して相互にその事業活動を拘束したか。)
(1) 審査官の主張
ア 事実
(ア) 3号事件
任天堂は,平成17年9月末頃,DS用液晶モジュール160万個を平成17年度下期に追加発注することとし,2社に対し,その価格を提示するように求めた。被審人の多田及び日立DPの熊沢は,このDS用液晶モジュールの任天堂渡し価格について,情報交換を行った。
被審人の多田及び日立DPの熊沢は,同年10月6日,被審人の事務所内会議室において面談をし,DS用液晶モジュールの当時の任天堂渡し価格(以下「現行価格」ともいう。)が1,900円であることを確認し,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格を現行価格から100円を超えて値下げしない旨の話合いを行った。
2社は,それぞれ,任天堂に対し,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について,現行価格である1,900円から100円を下回らない価格を提示して交渉し,1,820円で妥結した。
以上のとおり,2社は,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について,1,900円から100円を超えて値下げしない旨の意思の連絡をし,共同して相互にその事業活動を拘束したものである。
(イ) 1号事件
被審人の多田及び日立DPの熊沢は,平成18年7月頃から,DS Lite用液晶モジュールの任天堂渡し価格について,情報交換を行った。
日立DPの熊沢は,同年9月5日,被審人の多田に対して電話をかけて尋ねたところ,多田は,熊沢に対し,被審人が任天堂に対して同月7日に,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格として,上側と下側の2個を合わせて3,430円(以下「キット3,430円」等と表記する。)を提示する予定であることを伝えた。
日立DPは,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格をキット3,300円とすることを検討していたが,上記の被審人の多田からの情報を基にこれを引き上げ,同月11日,任天堂に対し,キット3,390円を提示した。
日立DPの熊沢は,平成18年11月7日頃,被審人の多田に対し,日立DPのDS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期受注分の任天堂渡し価格(以下「平成18年第4四半期価格」ともいう。)がキット3,440円であること,平成19年第1四半期価格をキット3,390円で提示したことを伝えた。被審人の多田は,同日頃,日立DPの熊沢に対し,被審人のDS Lite用液晶モジュールの現行価格がキット3,470円であること,平成19年第1四半期価格は未提示であることを伝えた。
被審人は,同月17日,任天堂に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,発注数量に応じてキット3,430円,3,390円及び3,370円の3案を提示し,キット3,390円で妥結した。
日立DPは,上記の被審人との情報交換以降,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格としてキット3,390円を3度にわたって提示し,平成18年12月4日,キット3,390円で妥結した。
以上のとおり,2社は,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について情報を交換し,被審人にあっては,日立DPの提示価格がキット3,390円であることを踏まえて,これに合わせた価格を任天堂に提示して価格交渉を行い,日立DPにあっては,被審人の提示予定価格であるキット3,430円を基に提示価格をキット3,390円と決定して,これに基づいて価格交渉を行ったのであるから,2社は平成18年11月7日頃までに,任天堂渡し価格をキット3,390円を目途とする旨の意思の連絡をし,共同して相互にその事業活動を拘束したものである。
イ 事業者の行為
被審人の多田は,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの提示価格の決定過程に関与していたのであるから,同人の行為は被審人の行為と評価できる。
(2) 被審人の主張
ア 情報交換
東京高等裁判所平成7年9月25日判決(公正取引委員会審決集第42巻393頁〔東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件高裁判決〕)によれば,情報交換を基に意思の連絡を推認するためには,情報交換が協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける内容,程度であることが要求されるところ,被審人と日立DPの情報交換は,仮にこれが認められるとしても,①価格決定を行う権限のない被審人の多田及び日立DPの熊沢の間のものであること,②重要な部分について不正確な事実や虚偽の事実が含まれていること,③頻度が少なく,価格カルテルを行ったのであれば必要となる時期に行われていないこと等からすると,協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける内容,程度ということはできない。具体的には,各事件について次の事情が認められる。
(ア) 3号事件について
a 被審人の多田及び日立DPの熊沢が行ったとされる情報交換は,現行価格から「100円を超えて下回らない」ようにするというものであり,これでは抽象的に過ぎ,また,価格に幅があり過ぎるため,価格情報としては意味がなく,対価引上げに関する情報交換たり得ない。
b 日立DPの熊沢は,平成17年10月6日の面談に際し,被審人の多田に対し,任天堂との交渉の窓口は八洲電機であり,コントロールするのは難しいと述べたが,実際には,日立DPが主体となって交渉を行い,条件についての最終決定権限も日立DPが有していた。また,日立DPの熊沢は,同月13日の電話において,被審人の多田に対し,日立DPがDS用液晶モジュールの平成17年度下期価格として1,820円を提示済みであるのに,1,850円を提示しているかのように述べた。
他方,被審人の多田は,同月6日の面談に際し,日立DPの熊沢に対し,具体的な提示価格を伝えず,同月7日の電話においても,被審人が同日,任天堂に提示した価格を伝えなかった。また,被審人の多田は,同月13日に任天堂に対して価格を提示した事実を日立DPの熊沢に伝えていない。
その後,被審人の多田と日立DPの熊沢は,双方が任天堂に対して価格を提示した後の任天堂の反応や,その後の価格交渉の状況について連絡し合っていない。
このように,被審人の多田及び日立DPの熊沢は,平成17年10月6日の面談,同月7日及び同月13日の電話において,お互いに不正確な情報や虚偽の情報を相手に伝えたり,当然伝えるべき情報を伝えなかったりしたこと,価格提示後の価格交渉の状況という価格カルテルの実効性を確保するために必要な情報を交換していないことが認められるから,このような情報交換をもって,協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換ということはできない。
c 日立DPは,平成17年12月末以降,任天堂に対してDS用液晶モジュールの改良品であるNTR-2を納入する予定であり,同年10月の時点でその価格交渉をしていたにもかかわらず,日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,このような重要な情報について何ら伝えなかったのであるから,熊沢と多田との間に協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換があったとはいえない。
(イ) 1号事件について
a 日立DPの熊沢及び被審人の多田は,一方的に情報を伝えたことはあっても,相互に情報を交換したことはなかった。DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格に関して,平成18年9月5日に被審人の多田が日立DPの熊沢に対してキット3,430円を提示する予定であることを伝え,同年11月7日頃に日立DPの熊沢が被審人の多田に対してキット3,390円を提示したことを伝えた事実があったとしても,その間隔は2か月以上も開いており,その間に提示価格について大きな変動が起きる事態が生じているから,このような各別の情報の伝達をもって協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換と評価することはできない。
b 平成18年9月5日にあったとされる被審人の多田と日立DPの熊沢の情報交換の後,熊沢は被審人がDS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期価格としてキット3,480円を提示すると推測していたが,実際には被審人は既にキット3,470円を提示していた。また,日立DPの熊沢は,被審人が平成19年第1四半期価格としてキット3,430円を提示すると推測していたが,実際には,被審人は平成18年9月15日に数量に応じてキット3,410円及び3,430円を提示し,更に数量が増えれば価格を下げる余地があることを提示した。また,被審人の多田は,同年11月7日にあったとされる情報交換において,日立DPの熊沢に対し,同年9月15日に価格を提示済みであるにもかかわらず,未提示であるかのように伝えていた。このように,日立DPの熊沢が同月5日に得た情報は推測に過ぎないのであるから,被審人の多田は,熊沢に対して具体的な価格の情報を伝えていなかったと認められるし,また,伝えていたとしてもその情報は不正確なものであったから,このような情報交換をもって,協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換とはいえない。
c 被審人の多田は,平成18年9月15日に被審人が任天堂に価格を提示した際の商談の状況について,日立DPの熊沢に伝えていない。また,被審人は,同年8月頃,任天堂から液晶の画面上に発生する輝点を無くす無輝点化に対応するよう求められ,大幅な製造原価の低減を実現したが,被審人の多田は,このことについても日立DPの熊沢に伝えていない。逆に,日立DPの熊沢は,日立DPが任天堂に同月29日に平成18年第4四半期価格としてキット3,540円を提示したこと,同年9月11日に平成19年第1四半期価格としてキット3,390円を提示したこと等を伝えていない。このように,2社は,価格カルテルを行っていたのであれば,当然に情報交換を行うであろう時期に,重要な事実について情報交換を行っていないから,被審人の多田と日立DPの熊沢の間には,互いの協調的行動を期待し合う関係を基礎付ける情報交換が存在したとはいえない。
d 被審人と日立DPは,価格提示後の価格交渉の状況という価格カルテルの実効性を確保するために必要な情報を交換していないから,このような情報交換をもって,協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換ということはできない。
イ 同一又は類似の行動
(ア) 情報交換の後に行われた行動が,同一又はこれに準ずる行動であることから意思の連絡を推認するには,情報交換と任天堂との商談の経過を全体として鳥瞰(ちょうかん)した上で,2社の行動が通常は一致していたことが必要であるところ,仮に審査官の主張が認められるとしても,被審人の多田と日立DPの熊沢の間の情報交換の後に,被審人及び日立DPが,それぞれ,情報交換の相手から伝えられた価格と同一の価格を任天堂に提示又は妥結した回数は,情報交換の回数に比べて極めて限定されている(DS用液晶モジュールに関しては,平成16年10月,同年12月,平成17年2月,同年3月25日及び同年10月の5回の情報交換に対して1回の価格の一致,DS Lite用液晶モジュールに関しては,平成17年10月,平成18年4月6日頃及び18日頃,同年9月5日並びに同年11月7日の4回の情報交換に対して1回の価格の一致であった。)から,この程度の価格の一致をもって意思の連絡を推認することはできない。
(イ) さらに,1号事件については次の事情が認められる。
a 被審人は,平成18年11月17日の任天堂との間の商談において,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格として,納入数量によって,キット3,410円,3,390円及び3,370円の三つの価格を提示して,任天堂が数量により価格を選択できるようにしたのである。このような被審人の提示価格のうちの一つが日立DPの提示価格であるキット3,390円と同じであるに過ぎないから,これをもって,被審人が日立DPと同一又はこれに準ずる行動に出たものとはいえない。
また,被審人は,平成18年12月8日の商談において,キット3,370円を提示し,同月20日の商談において,納入数量によって,キット3,370円及び3,350円を提示したのであり,これらは日立DPの提示価格と異なるから,この事情を考慮すれば,被審人の行動が日立DPの行動と同一又はこれに準ずる行動とはいえない。
審査官は,意思の連絡の内容をキット3,390円を目途とする旨の合意であると主張するが,数量と価格の差によって総額では大きな差異が生じるのであるから,目途とするというような曖昧かつ不明確な共通の意思の設定をすることは許されない。
b 被審人が任天堂との間で妥結したDS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格は,平成18年12月20日に妥結したキット3,350円であり,被審人の多田が日立DPの熊沢から伝えられた価格であるキット3,390円ではないから,被審人が,日立DPと同一又はこれに準ずる行動に出たとはいえない。
ウ 特段の事情
(ア) 特段の事情の枠組み
東芝ケミカル事件判決によると,対価引上げ行為に関する情報交換及び同一又はこれに準ずる行動により「意思の連絡」が推認されたとしても,価格の決定が他の事業者の行動と無関係に取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断により行われたことを示す特段の事情が認められる場合には,意思の連絡の存在が否定される。
また,意思の連絡が認められるためには,対価引上げ行為に関する情報交換と同一又はこれに準ずる行動の間に因果関係が必要であり,因果関係を否定する事情が認められる場合には,意思の連絡の存在は否定される。
(イ) 3号事件については,以下のとおり特段の事情がある。
a 価格決定の経緯は以下のとおりである。
(a) 任天堂は,平成17年10月5日の商談において,同月7日までに価格を提示するように求めた。被審人の平成17年第4四半期の製造原価は1,839.30円,平成18年第1四半期の製造原価は1,806.01円であり,多項式近似法により得られた任天堂予想要望価格は1,820円であった。被審人の方志は,この結果,粗利を確保できる1,840円以上で妥結することが望ましいと考えたが,値下げ要求があることを見据えて1,850円で提示することとした。被審人の方志は同月7日の商談に出席できなかったため,被審人の丸井戸を通じて,この価格を任天堂に提示した。
(b) 被審人の方志は,平成17年10月13日の商談に出席する被審人の中武専務に対し,原価割れしない1,840円で妥結することが望ましいが,最終的には,1,820円で妥結することも覚悟していることを伝えた。
同日の商談において,任天堂は,日立DPが被審人の提示価格である1,850円より安い価格を提示しているので,1,820円を下回る価格を提示しなければ,被審人の納入シェアは,62パーセントまで下がると発言した。これに対し,被審人の中武専務は,納入シェア70パーセントを確保すべく,1,820円を提示したところ,任天堂はこれを受け入れ,被審人と任天堂は1,820円で妥結した。
(c) 被審人の方志は,被審人の多田らが送付した電子メールを見ておらず,多田が日立DPの熊沢から得た情報に接していない。したがって,方志は,提示価格の決定に当たり,これらの情報を利用しなかった。
(d) 被審人は,提示価格及び妥結価格の決定に当たり,日立DPの価格に関する情報も参考にしていたが,これらは任天堂及び部材の納入業者などから入手したものであって,日立DPから入手したものではなかった。
b 以上によれば,被審人は,納入シェアの減少を危惧(きぐ)して,任天堂との価格の合意に至ったものであって,情報交換の結果は,提示価格及び妥結価格に影響していない。
c 任天堂は,日立DPの提示価格を被審人に伝え,自己の希望する価格へと被審人を強く誘導し,それに従って被審人は任天堂と交渉し妥結した。これは,液晶モジュールの価格が終始一貫して下落していたことからも明らかである。そうすると,仮に,被審人と日立DPが情報交換を行った事実が認められるとしても,被審人はそれと無関係に任天堂の誘導する価格で交渉を妥結せざるを得なかったのであるから,価格は,被審人と日立DPとの情報交換とは無関係に決定されたといえる。
d 日立DPは,平成17年10月6日の被審人多田との情報交換に先立って,任天堂から平成17年度下期のDS用液晶モジュールについて,1,800円を提示するよう求められており,日立DPの森野は,任天堂の石川との協議の感触に基づいて提示価格を1,830円ないし1,850円とすることを決めたのであるから,日立DPは同日の被審人との情報交換に基づいて提示価格を決定したとはいえない。これも,被審人が日立DPとの情報交換と無関係に価格を決定していたことを示す事情である。
e 被審人の多田と日立DPの熊沢は,平成17年10月6日,DS用液晶モジュールのほか,DS Lite用液晶モジュール及びAGT(ゲームボーイアドバンス)用液晶モジュールについても情報交換をしており,熊沢は,多田に対し,DS Lite用液晶モジュールについてキット3,930円を任天堂に提示した旨伝えたが,被審人は,同月13日,DS Lite用液晶モジュールについてキット3,780円を提示した。日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,AGT用液晶モジュールについても,同様に提示済みの価格を伝えたが,被審人はこれを大幅に下回る価格を任天堂に提示した。このように,同時期に行われたDS Lite用液晶モジュール及びAGT用液晶モジュールについて,被審人は,情報交換の結果と無関係に提示価格を決定していたのであるから,DS用液晶モジュールについても情報交換と無関係に提示価格を決定していたと認められる。
(ウ) 1号事件については,以下のとおり特段の事情がある。
a 価格決定の経緯は以下のとおりである。
(a) DS Lite用液晶モジュールの平成18年第3四半期受注分の価格(以下「平成18年第3四半期価格」という。)については,被審人が追加発注を要請し,任天堂が120円の大幅な値引きを要求した結果,任天堂と被審人は,平成18年7月10日,キット3,510円で妥結した。任天堂は,被審人の工場の操業度不足に乗じる形で,DS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期価格と平成19年第1四半期価格の提示を求めた。
そこで,被審人は,平成18年第3四半期価格を織り込んで任天堂予想要望価格を計算したところ,平成18年第4四半期についてキット3,470円,平成19年第1四半期についてキット3,363円と推定された。被審人は,平成18年第4四半期価格については,予想要望価格であるキット3,470円と平成18年第3四半期価格であるキット3,510円の差が40円に過ぎなかったことから,キット3,470円をそのまま提示価格と決定し,平成19年第1四半期価格については,価格決定までに執拗(しつよう)な値引きが予想されたことからバッファーをとる(余裕を持たせる)こととして,平成18年第4四半期の提示価格であるキット3,470円と予想要望価格であるキット3,363円の中間値であるキット3,416.8円の端数を四捨五入したキット3,420円を求めた上,平成18年第4四半期価格からの最小値引き単位として40円を値引いたキット3,430円を提示価格と決定し,平成18年7月12日にこれを提示した。任天堂からは,この時点では回答はなかった。
(b) 被審人は,平成18年8月,任天堂の要請に応じて無輝点化に対応することになった。同年9月当時のDS Lite用液晶モジュールの製造原価は,無輝点化を考慮しない場合キット3,165.43円であり,このまま無輝点化を実現した場合228円増加することが見込まれたが,液晶パネル設計の見直し(基板上のパネル数の増加)及び歩留まり率の向上により,製造原価はキット3,149.73円になると推定した。この製造原価を基に被審人が黒字を確保できる価格はキット3,370円であった。他方,任天堂予想要望価格については,キット3,350円と推定された。任天堂のDS Lite用液晶モジュールの需要は伸びると予想され,被審人の工場の生産稼働率からみて生産余力はあったことから,被審人の方志は,可能な限り多くの数量の発注を受けるべきであると考え,受注数量の条件と価格を絡めた提案をして納入シェアアップを図ることにした。
(c) 被審人の方志は,平成18年9月15日の商談において,前記(b)の判断に基づき,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について月間300万個を条件にキット3,410円,270万個を条件にキット3,430円を提示した。被審人と任天堂は,まだ時間的余裕があったため,平成19年第1四半期価格は決定せずに様子を見ることとし,平成18年第4四半期受注分について,月間270万個をキット3,470円で発注することで妥結した。任天堂は,被審人が努力不足であると述べたので,被審人は,300万個の受注が可能であればキット3,410円を下回る検討をすると述べた。
被審人の方志は,平成18年11月9日頃,製造原価と採算を再検証した。同年10月の実績を踏まえたこの時点における平成19年第1四半期の見込原価は,平成18年9月のキット3,149.73円より約42円高くなることが予想され,これを基に税込み利益がゼロとなる売価を計算したところ,キット3,390円となった。他方,任天堂予想要望価格は,同月時点と同様にキット3,350円と推定された。任天堂の需要及び被審人の工場の生産稼働率に変化はなかった。
そのため,被審人は,受注数量を増やすほかないと考え,可能な限り,受注数量を確保するために受注数量と価格を絡めたパターンを提示することとした。
(d) 被審人は,平成18年11月17日の任天堂との商談において,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,1か月270万個の発注があれば,キット3,430円,1か月300万個の発注があれば,キット3,390円,1か月350万個の発注があれば,キット3,370円とすることを提示したところ,任天堂は,1か月300万個の発注を前提にキット3,390円を採用した。しかし,任天堂は,その後の実売状況によっては数量をアップする可能性があると述べた。被審人は,1か月300万個の発注を前提にキット3,390円とすることを確保し,更に数量アップを目指し,平成18年12月に再度商談を行うとの合意をした。
(e) 被審人は,平成18年12月6日の任天堂との商談において,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,1か月350万個の発注を前提にキット3,370円とすることを提示したところ,任天堂は受け入れなかった。このため,被審人は,1か月330万個の発注を前提にキット3,370円とすることを提示した。任天堂は検討すると述べた。
(f) 被審人は,平成18年12月20日の任天堂との商談において,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,平成19年1月及び2月は1か月330万個,同年3月は1か月350万個の発注を前提にキット3,370円とする旨提示したが,任天堂は数量が多いことから更に価格を引き下げることを求めた。被審人は,上記の数量を前提にキット3,350円を提示した。これに対し,任天堂は,キット3,350円であれば,同年1月から3月まで通して350万個を発注すると述べた。被審人と任天堂は,平成19年第1四半期について,1か月350万個を発注することを前提としてキット3,350円で妥結した。
(g) 被審人の方志は,被審人の多田が日立DPから得た情報を見ておらず,したがって,価格の決定に当たりこれらの情報を利用しなかった。
(h) 被審人は,提示価格及び妥結価格の決定に当たり,日立DPの価格に関する情報も参考にしていたが,これらは任天堂及び部材の納入業者などから入手したものであって,日立DPから入手したものではなかった。
b このように,被審人は,製造原価,採算状況,任天堂予想要望価格を中心に多面的な複数の価格決定要因を考慮した上で,提示価格,妥結価格を決定していたものであり,情報交換の結果は,提示価格及び妥結価格に影響していない。
c 仮に,被審人と日立DPが情報交換を行った事実が認められるとしても,被審人は任天堂の誘導する価格で交渉を妥結せざるを得なかったのであるから,価格は,被審人と日立DPとの情報交換とは無関係に決定されたといえる。
エ 被審人及び日立DPには価格競争を回避し,価格カルテルを行う意思がなかったこと
(ア) 被審人は,DS用液晶モジュールについて,当初100パーセントの納入シェアを有していたが,その後,日立DPの参入により納入シェアが減少したことから,任天堂への納入シェアを伸ばすことを最大の関心事としていた。日立DPも,同様にできるだけ多くの受注量を確保しようとしていたから,2社が価格カルテルを行うことは考えられない状況であった。
(イ) 3号事件について
被審人の多田が,平成17年3月25日,日立DPの熊沢に対して,DS用液晶モジュールの同年6月以降納入分について,2,400円を下回る価格を提示する必要がないと言ったとされる部分については,被審人は,その後の同年5月30日の商談において,任天堂に対し,同年6月以降の価格を2,400円から2,350円に引き下げることを提案している。被審人は,日立DPに2,400円以下にする必要はないと告げておきながら,その一方で2,350円で任天堂と妥結して数量を確保しようとしたのであるから,被審人に競争を回避しようとする意思はなかった。
(ウ) 3号事件について
平成17年10月当時は,DS用液晶モジュールの需要がほぼ無くなることが見込まれた時期であり,発注者である任天堂も価格の改定を求める意欲を失っていた。したがって,被審人及び日立DPは,この時期にDS用液晶モジュールについて価格カルテルを行う動機及びメリットを有していなかった。
(エ) 1号事件について
a 平成18年9月5日にあったとされる被審人の多田と日立DPの熊沢の情報交換の後,被審人は,同月15日,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,任天堂に対し,多田が熊沢に伝えたとされるキット3,430円より低いキット3,410円を提示した。また,被審人の多田は,日立DPの熊沢から平成18年11月7日に日立DPの提示価格がキット3,390円であることを聞いたが,被審人は,同年12月8日にキット3,370円を提示し,同月20日にキット3,370円及び3,350円を提示した。
このように,被審人は,被審人の多田が日立DPの熊沢に伝えた被審人の提示価格や,多田が熊沢から聞いた日立DPの提示価格より低い価格を任天堂に提示したのであるから,日立DPとの競争を回避する意図はなかった。
b 平成18年9月5日にあったとされる被審人の多田と日立DPの熊沢の情報交換の後,日立DPは,同月11日,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,任天堂に対し,多田が熊沢に伝えたとされるキット3,430円より低いキット3,390円を提示した。また,日立DPは,平成18年10月24日頃,提示価格を3,290円とすることを検討した。
このように,日立DPは,日立DPの熊沢が被審人の多田から聞いた被審人の提示価格より低い価格を任天堂に提示したのであるから,被審人との競争を回避する意図はなかった。
オ 事業者の行為
被審人の行為というには,価格決定権のある者が行為したことが必要である。被審人において,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの任天堂渡し価格について決定権を有し,実際に任天堂との交渉を行い,提示価格・妥結価格を決定していたのは,方志であり,多田ではない。
また,仮に審査官の主張によるとしても,被審人の方志は,被審人の多田の得た情報を全く知らないのであり,多田は,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの任天堂渡し価格の決定に関与していない。
よって,仮に,被審人の多田の行為が認定できるとしても,被審人の行為とは評価できない。
2 争点2(本件各意思の連絡は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するか。)
(1) 審査官の主張
ア 一定の取引分野における競争の実質的制限の意義
(ア) 一定の取引分野
独占禁止法第2条第6項における一定の取引分野の画定は,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲等を検討し,その競争が実質的に制限される範囲において画定される(東京高等裁判所平成5年12月14日判決・高刑第46巻第3号322頁〔トッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕。以下「トッパン・ムーア事件判決」という。)。
(イ) 競争の実質的制限
独占禁止法第2条第6項における競争を実質的に制限するというためには,一定の取引分野における競争を完全に排除し,価格等を完全に支配することまで必要なく,一定の取引分野における競争自体を減少させ,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすことで足り,このような趣旨における市場支配的状態を形成・維持・強化することをいうものと解される(東京高等裁判所平成22年12月10日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊222頁〔三菱レイヨン株式会社ほか1名による審決取消請求事件〕。以下「モディファイヤー事件判決」という。)。
イ 3号事件
(ア) 一定の取引分野
前記1(1)ア(ア)の事実によれば,被審人及び日立DPは,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について意思の連絡を行ったものであって,違反行為者のした共同行為が対象としている取引はDS用液晶モジュールの任天堂への販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲は2社の任天堂に対するDS用液晶モジュールの販売に関する取引であるから,その競争が実質的に制限される範囲は,任天堂に対するDS用液晶モジュールの販売分野であるといえ,DS用液晶モジュールの販売分野が独占禁止法第2条第6項所定の一定の取引分野である。
DS Lite用液晶モジュールとDS用液晶モジュールの照明方法は異なり,ガラスの厚み,液晶ディスプレイと本体の接続方法等の仕様も異なること,DS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールは,それぞれの取引方法が別個に交渉決定されていたことから,DS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールの販売分野を別個の取引分野とすることは合理的である。需要者である任天堂にとって,DS用液晶モジュール,DS Lite用液晶モジュール及びその他の液晶モジュールの間に代替性はないから,需要者にとっての代替性の観点から見てもDS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールの販売分野は別個に画定されるべきである。
NTR-2は,通常のDS用液晶モジュールのガラス部分の強度を高めた商品であって,その意味で通常のDS用液晶モジュールではなかったが,NTR-2の価格は通常のDS用液晶モジュールの価格に強度対策費を上乗せして決定されていた商品であり,通常のDS用液晶モジュールと共にDSに用いられる液晶モジュールであり,需要者である任天堂において通常のDS用液晶モジュールとの間で代替性があり,意思の連絡の対象からNTR-2を除外したことをうかがわせる事情もないから,NTR-2も意思の連絡の対象に含まれ,一定の取引分野もNTR-2が含まれるDS用液晶モジュールの販売分野として画定される。
(イ) 競争の実質的制限
前記1(1)ア(ア)の事実によれば,一定の取引分野である任天堂に対するDS用液晶モジュールの販売分野において,全ての供給者である被審人及び日立DPが意思の連絡を行ったものであるから,この意思の連絡を行ったことにより,DS用液晶モジュールの販売分野における競争自体が減少して,特定の事業者である2社が,その意思で,ある程度自由に,価格その他の条件を左右することによって,当該市場を支配することができる状態をもたらしていたものであり,上記の意思の連絡は,競争を実質的に制限するものといえる。
ウ 1号事件
(ア) 一定の取引分野
前記1(1)ア(イ)の事実によれば,被審人及び日立DPは,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について意思の連絡を行ったものであって,違反行為者のした共同行為が対象としている取引はDS Lite用液晶モジュールの任天堂への販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲は2社の任天堂に対するDS Lite用液晶モジュールの販売に関する取引であるから,その競争が実質的に制限される範囲は,任天堂に対するDS Lite用液晶モジュールの販売分野であるといえ,DS Lite用液晶モジュールの販売分野が独占禁止法第2条第6項所定の一定の取引分野である。
(イ) 競争の実質的制限
前記1(1)ア(イ)の事実によれば,一定の取引分野である任天堂に対するDS Lite用液晶モジュールの販売分野において,全ての供給者である被審人及び日立DPが意思の連絡を行ったものであるから,この意思の連絡を行ったことにより,DS Lite用液晶モジュールの販売分野における競争自体が減少して,特定の事業者である2社が,その意思で,ある程度自由に,価格その他の条件を左右することによって,当該市場を支配することができる状態をもたらしていたものであり,上記の意思の連絡は,競争を実質的に制限するものといえる。
(2) 被審人の主張
ア 一定の取引分野における競争の実質的制限の意義
(ア) 一定の取引分野
a 審査官の主張は争う。
独占禁止法は,一定の取引分野を行為とは独立した要件として規定しているのであるから,一定の取引分野は,意思の連絡とは独立して画定するべきである。意思の連絡を認定すれば,一定の取引分野の認定を不要とするというのは,一定の取引分野の画定に際して考慮すべき事実を無視することになるので不当である。
トッパン・ムーア事件判決は,取引段階を異にする市場を併せて一定の取引分野とすることの当否を判断するに当たり,一定の取引分野を判断するに当たっては,取引段階等の概念によって固定的に理解するのは適当ではないと判示したものであり,事案を異にする。
b 一定の取引分野は,一定の需要者群と供給者群の間に成立し,その画定は,需要者と供給者にとっての代替性の観点から,より具体的には,製品市場については,機能・効用や価格帯等が同種である製品ごとに画定されるべきある。
企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針及び排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針によれば,一定の取引分野は,商品の需要者からの代替性及び供給者にとっての代替性の観点から判断するとされているところ,独占禁止法における一定の取引分野の解釈は同じであるべきであり,不当な取引制限における一定の取引分野も同様に判断するべきである。
c 一定の取引分野の画定に当たっては,潜在的供給者及び潜在的需要者にとっての代替性も考慮すべきである(東京高等裁判所昭和61年6月13日判決・公正取引委員会審決集第33巻79頁〔旭砿末(あさひこうまつ)資料合資会社による審決取消請求事件判決〕参照。以下「旭砿末(あさひこうまつ)事件判決」という。)。
液晶モジュールの潜在的供給者として,被審人及び日立DP以外に少なくとも東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社(以下「TMD」という。)が存在し,また,携帯型ゲーム機の液晶モジュールの潜在的需要者としてソニー株式会社(以下「ソニー」という。)が存在していたのであるから,これらの事情を考慮せずに一定の取引分野を画定するのは不適切である。
d DS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールは,基本的な機能・効用が共通しており,需要者から見て同種の商品といえること,DS用液晶モジュールの需要は,DS Lite用液晶モジュールの需要に代替される関係にあること,DS Lite用液晶モジュールの価格は,おおむねDS用液晶モジュールの価格と継続性を有しており,価格における代替性も認められることからすると,両者について各別の取引分野を画定するのは不当である。
e 仮に,DS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールの仕様の差異を理由に,両者について各別の取引分野が成立するのであれば,NTR-2は,通常のDS用液晶モジュールとは仕様の異なる独自の製品であるから,NTR-2については,DS用液晶モジュールとは別の一定の取引分野が画定されるべきである。
また,前記1(2)ア(ア)cのとおり,NTR-2についての情報は,被審人と日立DPとの間で全く交換されておらず,NTR-2を含むDS用液晶モジュールについては,意思の連絡が全体として認められないことになるから,意思の連絡の対象としている取引をもって一定の取引分野を画定するのであれば,NTR-2を含むDS用液晶モジュールの販売分野をもって,一定の取引分野ということはできない。
f 民間企業は,その購入する商品・役務に関し,相手方の選択,価格水準,価格形成過程について,本来自らの意思で自由に処分できる地位にあるから,一民間企業の取引を対象とする一定の取引分野を画定することは,保護に値する公的利益がなく,不当である。
(イ) 競争の実質的制限
a 任天堂は,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの独占的な買い手であったばかりでなく,DS及びDS Liteの需要の爆発的な増加等を背景に,強大な価格交渉力を有していた。加えて,TMDをはじめとして,任天堂に対して液晶モジュールを供給し得る事業者群が存在し,任天堂は,いつでもこれらの競争事業者の製品を採用することができる状態にあり,これが強力な参入圧力となって,任天堂の強大な価格交渉力を裏付けていた。他方,被審人及び日立DPは,液晶モジュールの製造が一定規模の供給を続けざるを得ない装置産業であることから,任天堂に対して相対的に弱い立場に立っていた。
任天堂は,被審人及び日立DPから取引に必要な価格,数量等の情報を取得して独占的に保有し,その情報を操作することが容易な立場にあり,実際に一方の価格等の情報を他方に伝達することで交渉を有利に進めた。
任天堂は,このように強大な価格交渉力の下で,被審人及び日立DPとの取引において価格も数量もほぼ完全に自由に決定していたから,被審人と日立DPの間には正常な競争関係は存在しなかった。
このように,任天堂による競争圧力と任天堂向け液晶モジュールの参入圧力は極めて強力であったから,仮に被審人と日立DPとの間で情報交換があったとしても,被審人と日立DPの意思で,任天堂向け液晶モジュールの価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことはできなかった。したがって,競争を実質的に制限したとは認められない。
b 審査官は,被審人の多田及び日立DPの熊沢の間の情報交換によって競争が実質的に制限されたこと,つまり,本来下がるべき価格が維持されたこと又は本来値下げされるべきところ高値で維持されたことを具体的に主張立証していない。
イ 3号事件
前記アのとおりであり,DS用液晶モジュールの販売分野は一定の取引分野ではなく,競争を実質的に制限するものでもない。
ウ 1号事件
前記アのとおりであり,DS Lite用液晶モジュールの販売分野は一定の取引分野ではなく,競争を実質的に制限するものでもない。
3 争点3(本件各意思の連絡は,公共の利益に反するか。)
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法第2条第6項の「公共の利益に反して」とは,原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが,現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても,右法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して,一般消費者の利益を確保すると共に,国民経済の民主的で健全な発達を促進するという同法の究極の目的(同法第1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には右規定にいう不当な取引制限行為から除外する趣旨と解すべきである(最高裁判所昭和59年2月24日判決・刑集第38巻第4号1287頁〔出光興産株式会社ほか25名に対する独占禁止法違反被告事件〕。以下「石油価格カルテル事件最高裁判決」という。)。
イ 被審人及び日立DPは,本件において,2社間の競争を回避し,任天堂渡し価格の低落を防止するために本件違反行為を行ったのであるから,本件違反行為が自由経済秩序に反するものであることは明らかである。
ウ 被審人の主張する利益は認められないし,仮にそれらの利益が認められるとしても,本件違反行為は2社間の競争を回避する意図のためになされたものであることからすれば,本件違反行為によって守られる利益と独占禁止法の直接の保護法益である自由競争経済秩序という法益とを比較衡量して,実質的に同法の究極の目的に反しないような場合に当たるとはいえない。
(2) 被審人の主張
ア 石油価格カルテル事件最高裁判決によれば,行為に何らかの妥当性があり,これによって得られる価値と,競争を行わしめることによって得られる価値とを比較衡量し,実質的に独占禁止法の目的に反しないと認められる場合には,例外的に「公共の利益」に反せず,「不当な取引制限」から除外されるべきである。
イ ①任天堂は液晶モジュールの独占的買い手であり,DS及びDS Liteの圧倒的な需要を背景に強大な価格交渉力を有しており,自ら誘導する価格で交渉を妥結していたこと,②任天堂は圧倒的な価格交渉力で厳しく値下げを求めていたため,被審人は売り手としての立場を保全することに集中しており,被審人と日立DPの競争関係が希薄になっていたこと,③DS及びDS Liteの希望小売価格に液晶モジュールの値下げ分が反映されたとは認められず,任天堂が高い利潤を得たとみざるを得ないこと,④任天堂が,2社との関係で競争事業者の情報を独占的に保有し,その操作を容易に行い得る立場にあったことに鑑みると,被審人と日立DPの情報交換は,売り手としての立場を保全するための受動的・防衛的行為であり,独占禁止法第1条の目的に反しない。
ウ 取引上強力な地位を有する相手方に対する自衛措置に相当する事業者の合理性を有する行為については,独占禁止法を適用せず,許容するべきである。このことは,全国醬油(しょうゆ)醸造協同組合からの事前相談に対する公正取引委員会の回答の事案において,公正取引委員会の先例として認められている。
4 争点4(1号事件について,被審人に対し,本件排除措置を特に命ずる必要があるか。)
(1) 審査官の主張
ア 以下の事実を総合的に考慮すると,本件排除措置を特に命ずる必要がある。
(ア) 違反行為が行われやすい市場環境が依然として存在したこと
DS Lite用液晶モジュールを製造できる事業者は被審人及び日立DPに限られ,2社は,情報交換等により意思の連絡を容易にすることができる状況にあったところ,排除措置命令の時点でもその状況に変化がない。
(イ) 違反行為の取りやめが自発的意思に基づくものでなかったこと
被審人が本件違反行為を取りやめたのは,公正取引委員会が平成18年12月8日にTFT液晶ディスプレイ製造業者らに対する件について,被審人らに報告命令を発出し,同日その旨,電話で連絡したことを契機とする外部的要因によるものであった。
(ウ) 情報交換が行われていた期間が長期にわたること
被審人と日立DPは,先行機種であるDS用液晶モジュールも含めると,平成16年10月頃から平成18年12月頃までの2年余りにわたり,液晶モジュールの任天堂渡し価格について,恒常的に情報交換をしていた。
(エ) 確実に違反行為を抑止するに足る事情があるとはいえないこと
被審人は,独占禁止法の遵守に関する行動指針等を作成し,公開し,また,研修等を行っていたが,それにもかかわらず,本件が引き起こされたことからすると,被審人の独占禁止法遵守活動が十分実効性を有するものではなかったのであり,排除措置を命じて,独占禁止法の遵守に向けた啓蒙(けいもう)等が行われる必要がある。
イ 排除措置命令の必要性は,処分時(命令時)を基準として判断すべきであるところ,平成21年7月にTMDが任天堂に対して液晶モジュールの販売を開始したことは本件排除措置命令後の事情であるから,排除措置命令の必要性の判断に当たり,考慮するべきではない。
ウ 被審人の求める独占禁止法第70条の12第2項による排除措置命令の取消しの適否は,原処分の当否のみが審理の対象となる本件審判手続の審理の対象とはならない。
(2) 被審人の主張
ア 仮に,違反行為があったとしても,被審人に対し,本件排除措置を特に命ずる必要があるとの判断を基礎付ける事実はない。
(ア) 任天堂は,平成20年12月18日の排除措置命令の時点で,TMD製のDS Lite用液晶モジュールについて評価試験を行っており,TMDは,この時点で任天堂に対する液晶モジュールの販売市場に参入を開始していたから,排除措置命令時には,既に2社のみで違法な価格カルテル行為を容易に行うことができる状況ではなくなっていた。さらに,TMDは,平成21年7月から,実際にDS Lite用液晶モジュールを販売したから,この時点では2社で違法行為を容易にできる状態にはなかった。
(イ) 情報交換の取りやめの際の事情は,終了後約2年が経過した排除措置命令の時点における排除措置命令の必要性の判断に際し考慮されるべき事情ではない。公正取引委員会の審査開始という外部的要因により情報交換を取りやめたのであれば,被審人は,二度と違反行為を繰り返さないという意識に至ったといえるのであり,その後も違反行為を行う意欲を有していたとはいえない。
(ウ) 公正取引委員会による審査が開始され,違反行為が取りやめられてから,排除措置命令が発令されるまでに2年が経過しており,違反行為の存続期間と同じ期間にわたって違反行為が行われなかったのであるから,違反行為が繰り返されるおそれが高いとはいえない。また,そもそも,2社間には協調的関係はないから,2社の協調関係を理由に違反行為が繰り返されるおそれがあるとはいえない。
(エ) 被審人の社内において,本件に関する審査の前後にわたって,役員及び従業員に対する啓蒙活動が十分に行われており,法令遵守の体制はできている。
イ 排除措置命令の必要性は,審判手続の終結時を基準に判断すべきである。
排除措置命令は,私人の経済活動における違法状態を排除するための手段として位置付けられる処分であり,処分時の事情のみでその必要性を判断することは合理性を欠く。
行政処分のうち,その根拠規範の基本的な目的が私人の社会・経済活動における違法な状態を排除することにあり,当該の行政処分は単にそのための手段として位置付けられているに過ぎない場合には,判断する時点における法令・事実を前提とすることも合理的というべきである。
ウ TMDの参入により,処分後に経済状況が変化したということができ,排除措置命令を維持することが不適当な場合に該当するから,排除措置命令は,独占禁止法第70条の12第2項によって,取り消されるべきである。
5 争点5(3号事件について,実行としての事業活動の終期は,日立DPが任天堂との間でNTR-2の価格交渉を始めた時点か。)
(1) 審査官の主張
前記2(1)イ(ア)のとおり,NTR-2は,通常のDS用液晶モジュールのガラス部分に強化対策を施した製品で,通常のDS用液晶モジュールと共にDSに用いられており,DS用液晶モジュールに含まれていたから,日立DPが任天堂とNTR-2についての価格交渉を開始したことによって意思の連絡が終了することはない。
(2) 被審人の主張
NTR-2は,DS用液晶モジュールと異なるが,同じ最終製品であるDSにおいて用いられる製品であって,NTR-2の存在は,DS用液晶モジュールの価格交渉に影響を与える重要な事情であったから,被審人がその存在を認識していない状況においては,被審人と日立DPの間にDS用液晶モジュールについて協調的な価格行動を期待することができなくなる。したがって,NTR-2を含むDS用液晶モジュールの販売分野をもって一定の取引分野とする場合には,日立DPが任天堂との間でNTR-2について価格交渉を開始した時点において,DS用液晶モジュールについての被審人と日立DPの間の意思の連絡は失われ,カルテルの実行期間は終了したというべきである。
日立DPは,遅くとも平成17年10月11日の時点で,任天堂との間でNTR-2についての価格交渉を開始したから,この時点で違反行為の実行としての事業活動は終了した。
第6 審判官の判断
1 争点1(2社は,共同して相互にその事業活動を拘束したか。)
(1) 3号事件について
ア 認定事実
当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠によれば以下の事実が認められる。
(ア) DS用液晶モジュールについての事前の情報交換
a DS用液晶モジュールの販売開始
任天堂は,被審人から長年にわたって液晶ディスプレイを購入していたところ,DS用液晶モジュールについても,開発段階から被審人に対して協力を依頼し,技術仕様を開示し,評価試験を経て,平成16年9月頃,被審人との間で,DS用液晶モジュールを購入することについて合意し,被審人は,任天堂に対し,同月頃からDS用液晶モジュールを販売した。任天堂は,同年12月,DSの販売を開始した。
任天堂は,開発段階から,競争により価格を下げるため,DS用液晶モジュールを複数社から購入することにしていたが,日立DPに対する開発依頼を行った時期は,被審人に対する依頼時期より遅れたため,日立DPは,任天堂に対し,評価試験を経て,平成17年2月頃からDS用液晶モジュールを販売した。
その後,任天堂と被審人及び日立DPは,原則として四半期に一度,おおむね同じ時期に交渉をして液晶モジュールの価格及び購入数量を決定するようになった。
(査第1号証,第2号証,第19号証,審第56号証)
b 情報交換の開始
日立DPは,自社の参入により必要以上に価格が下がることを防止し,数量と価格のバランスをとる必要があると考えていた。任天堂は,日立DPに対し,既にDS用液晶モジュールを販売している被審人の任天堂渡し価格や数量を引き合いに出して価格の引下げを求めた。日立DPは,被審人より高い価格を提示すると発注数量を減らされるおそれがあり,また,任天堂が被審人の提示価格を実際より低く示唆することがあり,任天堂の示唆のままに自社の提示価格を下げると必要以上に価格を下げてしまうことになることから,被審人の任天堂渡し価格について確認したいと考えた。一方,被審人も,任天堂の意向により被審人1社の供給体制が日立DPとの2社の供給体制となり,任天堂が2社に対し,他社の価格を引き合いに出して,DS用液晶モジュールの価格を引き下げようとすることから,価格が必要以上に下がることを懸念しており,また,任天堂が示す日立DPの価格が正しいかどうかについて疑問を持ち,日立DPの価格について情報を得たいと考えていた。このような状況の下,被審人の多田及び日立DPの熊沢は,相互に情報を得るために接触し,後記c及びdのとおり情報交換を行うようになった。
(査第1号証,第6号証,第7号証)
c 日立DPの当初販売価格に関する情報交換
(a) 日立DPの熊沢は,平成16年10月14日,日立DPが取引当初の販売価格を決めるに先立ち,被審人の多田から,DS用液晶モジュールの被審人の提示価格は2,800円であるが,納入数量によっては2,700円としている旨,被審人の提示価格を2,400円とすることは絶対にない旨の情報を得た。日立DPの熊沢は,日立DPの唐弓本部長に対し,この情報を電子メールで報告した。(査第3号証)
日立DPの森野は,同月22日,上記の情報を踏まえ,DS用液晶モジュールの価格を,平成17年3月から同年9月は2,550円,同年10月以降は2,500円とする案を作成し,日立DPの大谷常務及び唐弓本部長に対し電子メールで伝えた。(査第4号証)
(b) 被審人の多田及び日立DPの熊沢は,平成16年12月から平成17年1月にかけて,何度か電話で話をした。
被審人の多田が日立DPによる任天堂へのDS用液晶モジュールの供給の意思を改めて確認したところ,日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,日立DPは任天堂に対しDS用液晶モジュールを販売するつもりであること,被審人に迷惑はかけないつもりであること,任天堂から被審人より低い価格で納入するように言われていること等を述べた。日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,自ら推測した被審人のDS用液晶モジュールの価格を示し,被審人の価格を確認しようとした。これに対し,被審人の多田は,日立DPの熊沢に対し,そのようなものであると述べ,その推測がおおむね正しいことを示唆した。
被審人の多田は,日立DPの熊沢に対し,日立DPがDS用液晶モジュールを被審人の現行価格からどれくらい下げた価格で供給するつもりなのかを確認しようとし,熊沢の発言から,日立DPのDS用液晶モジュールの価格が2,500円台であると推測し,被審人の丸井戸に対し,その旨報告した。
(査第6号証,第7号証)
(c) 被審人は,平成16年12月29日,任天堂と商談を行った。任天堂は永井専務,被審人は多田及び丸井戸が出席した。その際,任天堂の永井専務は,日立DPのDS用液晶モジュールに関する情報として,日立DPのサンプル評価がほぼ終了したこと,平成17年2月末から納入可能であること,数量は月間100万個であることを述べた。(査第5号証,第6号証)
(d) 被審人の多田は,平成17年1月5日,被審人の片山本部長に対し,前記(c)の商談の結果に加えて,前記(b)の情報収集の結果について,DS用液晶モジュールに関する日立DPの動きが非常に気掛かりであること,日立DPにコンタクトしたが,日立DPは本気で任天堂参入を目指していること,日立DPは価格も数量も任天堂の永井専務の言いなりに対応すると言っていること,任天堂は片山本部長に会えないことのフラストレーションもあって危険な状況にきていると考えること,早いタイミングで片山本部長と任天堂の永井専務の面談をしていただいた方がよいと考えること等を記した電子メールを送信し,報告等した。(査第6号証)
(e) 被審人の丸井戸も,前記(c)の平成16年12月29日の任天堂との商談について,任天堂の永井専務から得た情報と共に,被審人の多田が日立DPから確認した前記(b)の情報として,日立DPのDS用液晶モジュールの価格が2,500円台であることを記載した報告書を作成し,平成17年1月5日頃,被審人の片山本部長に対して報告した。(査第5号証,第6号証)
d 平成17年4月以降納入分の販売価格についての情報交換
(a) 日立DPの熊沢は,平成17年2月上旬頃,被審人の多田に対し,日立DPの同年4月以降納入分のDS用液晶モジュールの提示価格が2,400円であることを示唆した。これを受けて,被審人の多田は,被審人の片山本部長に対し,平成17年2月11日頃,自らが部長を務めるモバイル液晶事業本部マーケティングセンター第一CE部名義の「ニンテンドーDS/PSP最新動向」と題する文書によって,日立DPからの聞取り情報として,日立DPがDS用液晶モジュールについて2,400円を提示している旨を報告した。(査第8号証)
同年3月16日,被審人は,任天堂と商談を行い,任天堂に対し,DS用液晶モジュールの4月納入分150万個を2,400円で3月中に納入することを提案したところ,任天堂は承諾した。(審第4号証)
(b) 被審人の多田は,平成17年3月25日,日立DPの熊沢に対し,電話で,被審人のDS用液晶モジュールの提示価格が2,400円であること,任天堂から同年6月以降も更なる引下げを求められていること,日立DPも任天堂から被審人の提示価格である2,400円より下げろと要求があっても2,400円より下げる必要はないこと,提示価格を下げなくとも日立DPとして取引数量を確保できること等を伝えた。(査第1号証)
これを受けて,日立DPの熊沢は,日立DPの設計部門の取締役である青木典夫らに対し,被審人の多田から得た上記の情報を電子メールで報告した。(査第1号証,第9号証)
この点に関して,被審人は,上記電子メール(査第9号証)には被審人の多田の関知しない事実が含まれているから,これは日立DPの熊沢と被審人の多田の会話を記載したものではないと主張する。しかし,この電子メールは,文面上,熊沢が多田との会話を含め,情報収集した内容を関係者に報告したものであると認められるから,多田の関知しない事実が含まれているとしても,多田から聴取した内容を記載したものであるとの認定は左右されない。
e 小括
(a) 前記aないしdによれば,被審人の多田と日立DPの熊沢は,日立DPによるDS用液晶モジュールの任天堂への販売開始に当たり,任天堂が他社の価格を示して価格の引下げを求めることへの対応等のために,DS用液晶モジュールの現行価格や提示価格に関する情報交換を開始し,その後も,前記d(b)に現れているように,DS用液晶モジュールの任天堂渡し価格の低落を防止するため,この情報交換を継続したことが認められる。
(b) 熊沢は,日立DPにおいて,製品の設計試算によるコスト,顧客の要求価格,市場価格の動向等を勘案してその製品の最低制限販売価格(営業担当者が顧客に提示できる最低の価格)を設定して営業担当者に提示する業務であるマーケティング業務を行う部門に所属して,平成16年2月頃から,液晶ディスプレイのマーケティング業務を行っており,平成17年4月1日以降は,前記第3の4(3)のとおり,戦略事業本部マーケティング部部長の立場にあった。日立DPにおいて,同業務を中心となって行っていたのは熊沢であった。マーケティング業務において,同業他社の価格動向を把握することは,最低制限販売価格設定のための重要な業務であり,熊沢は,同業他社との間で液晶ディスプレイの価格に関する情報交換を行い,この情報を踏まえて最低制限販売価格を決定することもあった。(査第1号証,第18号証)
このようなことから,前記c及びdのとおり,熊沢は,DS用液晶モジュールの価格に関する被審人の多田との情報交換の結果を営業担当部長である森野,国内営業本部長の唐弓,常務取締役の大谷,青木等に伝達し,日立DPは,これらの情報もふまえて任天堂に対する提示価格及び妥結価格を決定していた。
(c) 多田は,平成16年4月1日以降,被審人の液晶事業本部の部長職にあって,マーケティング業務を行っており,その業務の一環として,営業部門が顧客に提示できる下限の価格である最低仕切価格の設定に関与していた。そして,多田は,前記c及びdのとおり,平成17年1月及び同年2月,当時,液晶事業本部の本部長で,任天堂との価格の決定権限のあった片山に対して,日立DPから収集した情報を少なくとも2度にわたって報告した。平成17年1月5日の報告(前記c(d))は,多田が日立DPとの情報交換の結果,日立DPがDS用液晶モジュールへの参入について本気であることを伝え,永井専務との面談の感触も踏まえて片山本部長が永井専務と面談することを勧めるなど,組織としての対応を求めるものであり,前記c(e)のとおり,丸井戸も別途書面で同じ内容を片山本部長に報告している。また,2回目の報告(前記d(a))は,多田の所属していたモバイル液晶事業本部マーケティングセンター第一CE部として片山本部長に対して提出する書面の中で,日立DPから聞き取った内容を記載する形で行われている。
(d) このように,被審人の多田と日立DPの熊沢の情報交換は,任天堂からの価格引下げ要求に対抗し,DS用液晶モジュールの任天堂渡し価格の低落を防止するために行われていたこと,情報交換の相手方である日立DPにおいて,被審人との情報交換をマーケティング業務の一環として行い,実際に被審人からの情報を上司に伝え,提示価格や妥結価格の決定に当たって参考にしていたこと,多田は被審人のマーケティング部門の液晶モジュールの担当部長として任天堂との液晶モジュールの取引に関与し,価格の実質的な決定権者であった片山本部長等に対して日立DPから得た情報を伝達すると共に,併せて片山本部長に対して任天堂との交渉を勧めるなどしたことがあったこと,その情報伝達は,多田からの電子メールのほか,丸井戸からの文書,所属部署としての文書によっても行われていたことを総合すれば,多田による日立DPの熊沢との情報交換は,DS用液晶モジュールの任天堂渡し価格の低落を防止する目的で,被審人の業務の一環として行われていたものと認めるのが相当である。
この点に関して,被審人の多田は,日立DPの熊沢から聞いたことを基に推測した内容を社内の関係者に電子メール等で送っていたにすぎず,その目的は,一層のコストダウンが避けられないことを示すことと,自己の熱心さを見せて,自己の存在を示すことにあり,会社から日立DPの情報を収集するよう指示されたことはなく,被審人が会社として情報を取得しようとしたものではないと供述する(審第57号証,多田誠参考人審尋速記録)。しかし,被審人のマーケティング部門の部長を務めていた多田が,他社との情報交換を,組織としてではなく自己アピールのために個人的に行っていたというのは,明らかに不自然かつ不合理であって,上記の多田の報告の内容や事実関係に照らしても,上記の多田の供述は到底信用できない。
(イ) 平成17年度下期価格についての情報交換等
a 事実関係
(a) 任天堂は,DSの後継機種であるDS Liteの販売を平成17年末までに開始したいと考え,これに伴って,DS用液晶モジュールの発注は,同年9月頃までは縮小傾向にあった。しかし,同年5月頃に発売したDS用ゲームソフトが同年10月頃になって流行し出したこと等によりDSの販売が伸び続けたこと,DS Liteの販売開始が平成18年3月にずれ込む見通しとなったことから,任天堂は,平成17年9月30日,同年10月から平成18年3月末までにDSを100万台追加販売することを決定した。任天堂は,この追加販売に伴ってDS用液晶モジュール約200万個が必要となったことから,既に発注していた約40万個を除く約160万個を追加発注することとし,2社との間で価格を交渉することとなった。(査第2号証,3号事件の査第13号証)
(b) 日立DPは,平成17年10月4日頃,同月7日の任天堂との商談において任天堂からDS用液晶モジュールの平成17年度下期価格を提示するよう求められた場合に備え,当初の提示価格を1,800円とすることを社内で決定した。(査第14号証,3号事件の査第17号証)
(c) 任天堂の太田本部長は,平成17年10月5日の商談において,被審人に対し,DS用液晶モジュールを追加発注する見込みであると述べ,同月7日までに価格を提示するように求めた。(査第2号証,第15号証,3号事件の査第14号証,3号事件の査第15号証)
(d) 被審人の多田及び同人の部下であった被審人の大崎秀男(以下「被審人の大崎」又は「大崎」という。)は,平成17年10月6日午後,東京都港区所在の被審人の事業所内の会議室において日立DPの熊沢と面談をした。まず,被審人の多田及び日立DPの熊沢は,2社のDS用液晶モジュールの現行価格がいずれも1,900円であることを確認した。被審人の多田は,任天堂との価格交渉において,被審人が平成17年度下期価格として,1,850円を提示する旨示唆し,これに対し,日立DPの熊沢は,任天堂との価格交渉で,日立DPも,基本的に1,850円を提示するよう営業担当者に伝えるが,少なくとも1,800円から1,850円の範囲で提示すると述べた。さらに,被審人の多田及び日立DPの熊沢は,任天堂から値下げ要求があっても,現行価格1,900円から100円を超えて値下げしないことを確認し合った。
なお,被審人の多田は,前記(c)の商談において,任天堂との商談が7日に行われることとなったことから,出席予定であった方針発表会(被審人のモバイル液晶事業本部の管理職全員が出席して半期ごとの事業方針を発表する会)を欠席し,6日に急きょこの面談を行った。被審人の多田は,方針発表会を欠席することについて,被審人のモバイル液晶事業本部長であった今矢明彦(以下「被審人の今矢」又は「今矢本部長」という。)の了解を得た上,他の関係者に対しても日立DPの動向を探る目的であることを明示して報告していた。
(査第10号証,第11号証,第12号証,第13号証,第14号証,第15号証,第18号証)
(e) 被審人の大崎は,この面談の後である平成17年10月6日午後5時過ぎ頃,被審人の多田の指示により同日の2社の会合の内容について,被審人の方志らに対し電子メールで報告した(査第11号証,第15号証,多田誠参考人審尋速記録)。被審人の大崎は,同日午後8時過ぎ頃にも,「ご報告(CE部/多田)」との件名で,同様の内容の電子メールを作成し,被審人の方志の携帯電話に送信した。(査第12号証,第15号証)
日立DPの熊沢も,同日,日立DPの森野に対し,同日の2社の面談の内容について電子メールで報告した。(査第13号証,第14号証,3号事件の査第13号証)
(f) 被審人の方志は,平成17年10月7日,製造原価,採算状況及び任天堂予想要望価格等を検討し,被審人の多田が日立DPの熊沢から得た情報を踏まえて,任天堂との商談において提示するDS用液晶モジュールの平成17年度下期価格を1,850円と決定し,被審人の中武専務の了承を得た。(3号事件の査第15号証,審第21号証の1及び2)
被審人は,同日,任天堂と商談を行い,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格として1,850円を提示したが,任天堂からの回答はなかった。(3号事件の査第24号証,3号事件の査第25号証)
他方,日立DPも,同日,任天堂との間で,商談を行った。任天堂は太田本部長,日立DPは大谷常務と森野が出席した。任天堂の太田本部長は,DS用液晶モジュールの平成17年度下期の追加発注分について,発注枚数の概要,在庫状況,発注数等について説明したが,日立DPに価格の提示を求めず,同月11日の商談で価格を提示するよう求めた。(査第14号証,3号事件の査第13号証,3号事件の査第26号証)
被審人の多田及び日立DPの熊沢は,同月7日,それぞれの商談の状況について電話で情報を提供しあった。被審人の多田は,同日の自社の営業担当者と任天堂との商談の報告はまだ入っていないこと,営業担当者に対し,任天堂に1,850円で提示するようしっかり指示したことを伝えた。日立DPの熊沢は,任天堂から同月11日に価格の提示を求められたこと,日立DPは,1,850円を提示価格とすることを基本と考えているが,被審人の提示価格とはぴったり合わないようにして1,820円のような端数にするかもしれないことを伝えた。(査第14号証,第15号証,第16号証,第17号証,第18号証,3号事件の査第13号証)
被審人の多田は,同月7日午後10時頃,被審人の方志及び今矢本部長に対し,日立DPの熊沢から得た上記の情報について電子メールで連絡した。(査第15号証,第16号証)
日立DPの熊沢は,日立DPの森野に対し,被審人の多田から得た情報について連絡した。日立DPの森野は,この情報を踏まえて,前記(b)の当初の提示価格1,800円を1,830円ないし1,850円に変更して任天堂に提示する旨決定した。(査第14号証,第17号証,3号事件の査第13号証)
(g) 日立DPは,平成17年10月11日,任天堂との間で商談を行った。任天堂は石川,日立DPは森野が出席した。日立DPは,任天堂に対し,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格として,1,830円を提示した。しかし,任天堂から更に値下げを要請され,最終的には1,820円を提示した。(査第14号証,3号事件の査第13号証,3号事件の査第28号証)
(h) 被審人の多田及び日立DPの熊沢は,平成17年10月13日,任天堂との間のDS用液晶モジュールの平成17年度下期の追加受注分の商談の状況について,再度電話で情報交換をした。日立DPの熊沢は,被審人の多田に対して,任天堂に対し1,850円と回答したこと,任天堂に見直しを求められたこと,最終的には1,850円を下回らざるを得ないが1,800円は切らない価格を提示することを伝えた。
他方,被審人の多田は,日立DPの熊沢に対して,任天堂に対し1,850円と回答したと伝えた。
(査第14号証,第17号証,3号事件の査第13号証)
被審人は,同日,任天堂と商談を行った。任天堂は太田本部長,石川,被審人は中武専務,丸井戸が出席した。
任天堂は,品質とコストで平成17年度下期受注分のDS用液晶モジュールの被審人と日立DPとの数量のバランスを決めるが,現状では日立DPの方がコストが低いと述べ,被審人の価格が提示済みの1,850円のままであれば数量を減らすことを示唆した。そこで,被審人は,任天堂に対し,価格を1,820円とすることを提示して,数量を増やすことを求めた。
(査第2号証,3号事件の査第25号証,3号事件の査第29号証,審第62号証)
(i) 日立DPは,平成17年10月14日,任天堂と商談を行った。任天堂は太田本部長,日立DPは森野が出席した。日立DPは,任天堂との間で,DS用液晶モジュールの平成17年度下期の追加受注分について,数量を11月に20万個,12月に40万個とし,価格を1,820円で妥結した。(3号事件の査第13号証,3号事件の査第32号証)
被審人も,同日,任天堂と商談を行った。任天堂は太田本部長,被審人は丸井戸が出席した。
被審人は,任天堂との間で,DS用液晶モジュールの平成17年度下期の追加受注分について,数量を約100万個とし,価格を1,820円で妥結した。
(3号事件の査第25号証,3号事件の査第29号証,3号事件の査第30号証,3号事件の査第31号証)。
(j) 平成17年10月28日,被審人及び日立DPは,いずれも,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格を1,820円とする見積書(なお,日立DPについては,八洲電機を通じて販売していたため八洲電機の見積書が提出されている。)を任天堂に提出し,同日以降,DS用液晶モジュールを1,820円で任天堂に販売した。(査第14号証,3号事件の査第13号証,3号事件の査第25号証,3号事件の査第33号証)
b 小括
以上によれば,①被審人の多田と日立DPの熊沢は,平成17年10月6日,DS用液晶モジュールの現行価格が1,900円であることを確認した上,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格を1,900円から100円以上値下げしないことを確認し合ったこと,②被審人の多田は被審人の方志らに対し,日立DPの熊沢は日立DPの森野らに対し,①の内容をそれぞれ報告したこと,③同月7日,被審人及び日立DPは,それぞれ任天堂と商談を行い,その後,被審人の多田と日立DPの熊沢が情報交換を行ったこと,④日立DPは,②及び③を受けて,既に1,800円に決定していた任天堂に対する上記モジュールの提示価格を1,830円ないし1,850円に変更し,それを基に任天堂と折衝し,最終的に1,820円で妥結したこと,⑤被審人は,①の情報を踏まえて任天堂への上記モジュールの提示価格を1,850円と決定し,それを基に任天堂と折衝し,1,820円で妥結したことが認められる。
イ 被審人の多田及び日立DPの熊沢の行為の評価
①前記ア(ア)eのとおり,被審人の多田による日立DPの熊沢との情報交換は,日立DPの任天堂との取引開始時から,任天堂からの価格引下げ要求に対抗し,DS用液晶モジュールの任天堂渡し価格の低落を防止する目的で,被審人の業務の一環として行われていたこと,②被審人の多田は,被審人の液晶事業本部のマーケティング部門の担当部長として任天堂との液晶モジュールの取引に関与し,上記①の情報交換の結果を実質的な価格決定権者に伝えると共に,任天堂との価格交渉に先立って行われる打合せや,任天堂とのDS用液晶モジュールの価格改定のための交渉に出席していたこと(査第52号証,審第56号証),前記ア(イ)aのとおり,③被審人は,平成17年10月5日に任天堂からDS用液晶モジュールについて同月7日に価格を提示することを求められ,被審人の多田は,同月6日,今矢本部長の了解を得て管理職全員が出席すべき方針発表会を欠席し,急きょ,日立DPの熊沢と面談を行ったこと,④③の面談には被審人の多田だけでなく,その部下の大崎も同席し,大崎は,被審人の方志らに対し,2度にわたり,面談の結果を電子メールで報告したこと,したがって,この面談は多田が個人的に行ったものではないこと,⑤被審人は,同月6日の面談の結果を考慮して任天堂に対する提示価格を決定したこと,⑥被審人の多田は,同月7日以降も,日立DPの熊沢との情報交換を継続し,その内容を方志らに報告したこと,以上の事実が認められるから,平成17年10月5日に行われた熊沢との面談は多田が個人的に行ったものではなく,その面談で行われた合意も被審人の意思に合致するものであって,この合意を含む多田の熊沢との情報交換に係る行為は,いずれも被審人の行為と評価することができる。
他方,前記アの事実によれば,日立DPの熊沢が,日立DPの意向を受けて被審人の多田との間で情報交換を行い,同月6日の面談及び合意を行ったものであって,熊沢の多田との合意を含む情報交換に係る行為が日立DPの行為と評価されることは明らかである。
ウ 結論
そうすると,被審人と日立DPは,平成17年10月6日,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について,1,900円を100円を超えて下回らないようにする旨の合意をしたものということができるから,2社の間に,この合意に基づいた行動をとることを互いに認識し,認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえる。
エ 事実認定の補足説明
(ア) 被審人の方志が,被審人の多田が日立DPから取得した情報が記載された電子メールを読み,この情報に接したかどうかについて(前記ア(イ)a(e),(f))
a 被審人は,被審人の方志は,被審人の多田らが送付した電子メール3通(被審人の大崎が,平成17年10月6日の会合の結果を連絡したパソコン宛ての電子メール(査第11号証。以下「本件メール1」という。),ほぼ同じ内容の携帯電話宛ての電子メール(査第12号証。以下「本件メール2」という。)及び多田が同月7日の情報交換の結果を連絡した電子メール(査第16号証。以下「本件メール3」という。)を読んでおらず,多田が日立DPの熊沢から得た情報に接していないとし,その根拠を次のとおり主張し,方志及びその秘書であった室山瑞穂(以下「室山」という。)はこれに沿う供述をする。(審第56号証,第59号証,方志教和参考人審尋速記録)
(a) 被審人の方志は多忙であったため,自らパソコンを起動する余裕がなく,自分のメールアドレスに送信された電子メールを全て秘書に転送して,方志が自ら確認する必要が高い一定の類型の電子メールのみをプリントアウトして持参するように指示していた。多田及び大崎を含む方志の部下が送付する電子メールは,方志がプリントアウトを指示した類型に属する電子メールに当たらなかった。よって,方志は,本件メール1及び3を読まなかった。
(b) 被審人の方志は,携帯電話の電子メールの受信画面において,メールアドレスが登録されていない者からの電子メールについてはメールアドレスを表示し,名前を表示しない設定にしており,名前が表示されない受信メールについては,ウィルスへの感染等を恐れて内容を確認することなく削除していた。方志は,被審人の大崎とは直接の接触がほとんどなかったため,大崎のメールアドレスを登録しておらず,したがって,本件メール2については内容を確認することなく消去し,内容を読まなかった。
b 前記a(a)について,被審人の方志は,部下からの電子メールを読まないこととしていた事実を公表しておらず,よって,部下は方志が電子メールを読んでいると認識していたと思われるが,それにより不都合な事態は起きなかった旨供述し,被審人の多田も,方志が電子メールを読んでいると思っていたと供述する(審第56号証,方志教和参考人審尋速記録,多田誠参考人審尋速記録)。しかし,被審人の方志の供述を前提とすれば,方志と多数の部下の間で,電子メールにより連絡をしたかどうかについて,数年間にわたって認識の相違が生じたことになるが,それにより何らの混乱も起きなかったというのは不自然である。被審人の方志が秘書に電子メールの選別をさせていたというのが事実であるとしても,部下からの電子メールを一切読まないような選別の仕方をしていたことは考え難い。
前記a(b)について,仮に,被審人の方志に,名前の登録されていない着信メールについて内容を確認しない習慣があったとしても,本件メール2については,メールアドレス中にsharpと表示され,件名が「ご報告(CE部/多田)」とされていること(査第12号証)からすると,その内容を確認せず消去したという供述は不自然である。
c 加えて,前記アのとおり,被審人は,DS用液晶モジュールについての価格の低落を防止するために,日立DPとの情報交換を行っていたのであって,被審人の実質的な価格決定権限を有していた方志においても,日立DPから収集する価格情報の重要性を認識していたといえること,前記ア(イ)a(c)及び(d)のとおり,被審人は,任天堂から平成17年10月5日に同月7日までに価格を提示するよう求められ,被審人の多田は,同月6日に急きょ情報収集のため日立DPの熊沢と面談をすることになったものであるから,この面談は被審人の多田が被審人の提示価格の決定のために行ったものであり,実質的な価格決定権限を有する被審人の方志もこの事実を当然知っていたと認められること,したがって,方志は,多田が日立DPから収集する情報が特に重要であると認識し,その内容について報告があることを予期していたと認められることからすれば,本件メール1及び2を読まなかったことは考え難い。同様に,被審人の方志は,同月7日以降も被審人の多田が日立DPから収集する情報に留意していたものと認められるから,本件メール3を読まなかったことも考え難い。
d さらに,後記(イ)のとおり,被審人の方志名義の平成17年10月7日付けの中武専務宛ての文書(3号事件の査第15号証。以下「本件文書」という。)中には,被審人が日立DPの提示価格に合わせて平成17年度下期のDS用液晶モジュールの価格を1,850円としたい旨の記載があり,方志が同日,日立DPの価格に関する情報を踏まえて,提示価格を決定していたことが認められるから,この点からも,方志が同日の時点で本件メール1及び2の内容を知っていたことは明らかである。
e 以上によれば,本件メール1ないし3を読まなかった旨の前記aの被審人の方志の供述は,到底信用できず,方志は,本件メール1及び2を読んだ上で,その内容を踏まえて提示価格を決定したこと,その後も本件メール3を読んで,日立DPについての情報を把握していたことが認められる。
(イ) 被審人の方志が本件文書を作成したかどうかについて(前記ア(イ)a(f))
a 本件文書は,中武専務の後任者が所持していたものであって,中武専務に提出されたものである。また,本件文書は,任天堂から平成17年10月7日までに提示を求められたDS用液晶モジュールの提示価格について,同日付けで,被審人の実質的な価格決定権者であった方志が中武専務に対して報告及び了承を求める文書であるところ,中武専務は,前記ア(イ)a(h)のとおり,同月13日に任天堂との商談に出席したのであるから,本件文書が被審人の内部において作成されたことに何ら不自然な点はない。加えて,本件文書の記載のうち,任天堂に対する提示価格は,DS用液晶モジュールが1,850円,DS Lite用液晶モジュールが上側1,990円,下側1,940円,AGT用液晶モジュールが1,850円であるところ,これらの価格は,同日被審人が任天堂に提示した価格といずれも一致している(3号事件の査第24号証,3号事件の査第25号証)ほか,本件文書の内容に,特段不自然な部分はないものと認められる。(方志教和参考人審尋速記録)
b 以上によれば,本件文書は,被審人の内部において,平成17年10月7日に事業活動上作成された文書であって,名義人である被審人の方志の意思に基づいて作成されたものと認められる。
c これに対し,被審人は,本件文書について,被審人の方志はその作成を許可していないし,見たこともないと主張し,その根拠として,①被審人において,方志名義で作成され,上司に回付される文書は方志が決裁することになっており,その際方志の押印が必要とされていたところ,本件文書には方志の押印がないから被審人の方志が決裁していたとは認められないこと,②本件文書には「中武専務殿」という手書き部分が存在するが,この部分は方志が書いたものではないことを挙げ,方志はこれに沿う供述をし,審第69号証(鑑定書)にはこれに沿う記載がある。(審第56号証,第69号証,方志教和参考人審尋速記録)
d しかし,本件文書は,前記b及びcのとおり,被審人の実質的な価格決定権者であった方志が中武専務に対して報告及び了承を求める重要な文書であり,これを方志以外の者が方志の同意なく作成して中武専務に提出することは考えられず,また,本件のような価格カルテル事件の調査においてそのような事実が発覚したのであれば,作成者,作成経緯等について徹底的に調査した上,事実関係を明らかにするのが当然であると考えられるが,そのような事実を認めるに足りる証拠はないから,前記cの方志の供述は信用できない。そして,①については,本件文書に被審人の方志の押印がないのは事実であるが,方志が供述する事実を裏付ける客観的な証拠はなく,方志の押印がないからといって本件文書が方志の意思に基づいて作成されたことが直ちに否定されるわけではないから,前記bの認定は左右されない。②については,本件文書の宛名部分を被審人の方志が記載したことを認めるに足りる証拠はないが,宛名部分について名義人が自ら記載しなかったからといって,名義人が作成した事実が否定されるわけではないから,上記認定は左右されない。
e 被審人は,本件文書のうち,日立DPの提示価格に関する部分は,その情報源が不明であり,日立DPの提示価格を予想してそれへの対応を検討したものに過ぎないから,被審人が独自に提示価格を決定した事実と矛盾しないと主張する。しかし,本件文書には,日立DPの提示価格に合わせて被審人の提示価格案を決定するとの記載があり,その日立DPの提示価格は,DS用液晶モジュールが1,850円,DS Lite用液晶モジュールが上側1,990円,下側1,940円,AGT用液晶モジュールが1,850円であるところ,これらの記載は,本件文書の作成日である平成17年10月7日の前日に日立DPの熊沢が被審人の多田に伝えたDS用,DS Lite用及びAGT用の液晶モジュールの提示価格といずれも一致するから(査第11号証,第12号証,第14号証,第15号証。前記ア(イ)a(d),後記オ(カ)参照),被審人の主張は理由がない。
オ 被審人の主張について
(ア) 平成17年10月7日の提示価格の決定の過程について(前記第5の1(2)ウ(イ)aないしe)
a 被審人は,①被審人の方志は,多項式近似法により得られた任天堂予想要望価格である1,820円と当時の製造原価であった1,839.30円(平成17年第4四半期),1,806.01円(平成18年第1四半期)を検討して,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格として1,840円が望ましいが,値下げ要求があることを見据えて平成17年10月7日に1,850円を提示した,②任天堂が商談において日立DPの価格を引き合いに出し,価格を引き下げなければシェアを減らす旨発言したため,被審人は,同月13日に1,820円を提示し,この価格で妥結した,③このように,被審人の方志は,任天堂の予想要望価格と製造原価を重視して提示価格を決定した上,納入シェアの減少を危惧(きぐ)して任天堂と価格について妥結したものであり,被審人の多田が日立DPから得た情報には接しておらず,この情報は提示価格や妥結価格の決定には関係しなかった,と主張し,方志はこれに沿う供述をする。(審第56号証,第63号証,方志教和参考人審尋速記録)
しかし,被審人の多田が同月6日に日立DPの熊沢から得た情報を記載した本件メール1及び2を被審人の方志が読んだと認められることは前記エ(ア)のとおりである。
被審人の方志が多項式近似法を用いて予想要望価格を推定していたという主張に沿う客観的な証拠はなく,これに沿う証拠は,上記の方志の供述のみであるところ,方志の供述は,前記エのとおり,信用性に乏しいものであるから,方志が多項式近似法を用いていたという事実自体に疑問がある上,多項式近似法による予想値に相当程度の誤差があることは方志も自認するところであり(方志は,参考人審尋においてDS用液晶モジュールの価格の標準偏差が約60円,DS Lite用液晶モジュールの価格の標準偏差が約20円であると供述している。〔方志教和参考人審尋速記録〕),多項式近似法を用いて予想要望価格を求めた場合,予想要望価格は相当程度の誤差のある数値となるから,方志が予想要望価格を価格決定の一要素とするだけでなく,これを価格決定に当たって重視したという供述にも疑問がある。
また,上記①の任天堂の予想要望価格について,審第56号証中には,平成17年度下期のDS用液晶モジュールの追加発注数量が160万個であり,それが被審人の通常の1か月分の受注数量であることから,追加発注分に適用される期間を30日と仮定して,予想要望価格を1,820円と推定したという部分があるが,任天堂は,平成17年10月5日に上記の追加発注の事実を告げた際,追加発注数量は被審人と日立DPの合計で160万個であるとしていたのであるから,被審人の方志が同月7日の提示価格を決定するに当たり,発注数量を被審人のみで160万個と仮定し,さらに,その発注数から値引きする期間を30日と仮定するのは不合理であるし,そのような不合理な仮定に基づいて推測した予想要望価格の信頼性は低く,そのことは方志も容易に認識できたはずであるが,方志は,何らの留保なく,この予想要望価格と製造原価を基に提示価格を決定したと供述している。そうすると,被審人の方志が上記の経過で予想要望価格を推定し,提示価格を決定したという点にも疑問がある。
さらに,被審人の方志が,提示価格の決定に当たり,製造原価のほかに,推定した予想要望価格を何らかの形で考慮したことはうかがえるものの,被審人の主張によっても,上記①のとおり,方志は,製造原価及び予想要望価格を考慮して定めた1,840円に任天堂による値下げ要求に備えて10円を上乗せして提示価格を決定したというのであるから,方志が提示価格の決定に当たって,予想要望価格と製造原価のみを重視したとはいえない。
かえって,被審人の方志は,提示価格の決定に当たり,日立DPの価格に関する情報を検討したことを認める供述をしている上(査第52号証),証拠(3号事件の査第29号証,3号事件の査第30号証)によれば,被審人の丸井戸は,任天堂向けの液晶モジュール等について,被審人と日立DPの価格及び数量の推移を記載した表を作成し,それに基づいて平成17年10月13日の任天堂との交渉結果を説明する文書を作成し,これを方志を始めとする社内の関係者に送付していることが認められ,これによれば,被審人の提示価格及び妥結価格の決定に当たり,日立DPの数量及び価格が重要な要素と考えられていたことは明らかである。加えて,前記ア(ア)e(d)のとおり,被審人は,日立DPと任天堂が取引を開始した頃から,DS用液晶モジュールの価格の低落を防止するため,日立DPとの情報交換を継続し,同月6日の日立DPとの話合いも被審人の事業活動として行われていたのであって,被審人の方志も日立DPから得た情報の重要性を十分認識していたと認められるのであるから,方志が予想要望価格や製造原価を考慮していたからといって,上記のとおり日立DPから得た情報を知りながら,それを利用しなかったことは考え難い。よって,方志が日立DPから得た情報と無関係に提示価格及び妥結価格を決定していたとはいえない。
b 被審人は,提示価格及び妥結価格の決定に当たり,日立DPに関する情報も参考にしていたが,これらは任天堂及び部材の納入業者から入手したものであって,日立DPから入手したものではなかったと主張し,被審人の方志はこれに沿う供述をする。(審第15号証,第56号証,方志教和参考人審尋速記録)
しかし,仮に,被審人が日立DPに関する情報を任天堂や部材の納入業者から入手していたとしても,前記ア(ア)bのとおり,被審人は,その情報の正しさを確認する必要があると考えていたのであるから,被審人が日立DPから入手した情報を利用していた旨の前記aの認定を左右しない。
c 被審人は,任天堂は,日立DPの提示価格を被審人に伝え,自己の希望する価格へと被審人を強く誘導したため,被審人はその誘導に従って任天堂との交渉を妥結したものであり,仮に,被審人と日立DPが情報交換を行ったとしても,被審人はそれとは無関係に任天堂の誘導する価格で交渉を妥結せざるを得なかったから,被審人と任天堂の妥結価格は,被審人と日立DPとの情報交換とは無関係に決定されたと主張する。
前記の具体的な交渉の経緯(前記ア(ア)c(c),ア(イ)a(h)等)並びに太田本部長及び熊沢の供述(査第1号証,第2号証)によれば,任天堂が被審人及び日立DPとの交渉において,他社の提示価格を示唆し,交渉を優位に進めようとすることがあったこと,妥結価格の決定に当たり,任天堂の意向がある程度反映されたことは認められるが,各期の価格は,任天堂の要請に応じて被審人及び日立DPが価格を提示し,その後の折衝を経て決定されたものであること,任天堂は,被審人及び日立DPの対応により,発注数量の割合を変化させており,被審人及び日立DPとの妥結価格が常に同一であったわけではないこと(査第2号証),実際にも,被審人は,重要な局面において,中武専務を交渉に当たらせ(査第2号証),任天堂に対して圧力をかけるようなこともあったことがうかがわれること(3号事件の査第32号証)を考慮すれば,任天堂が当初から被審人及び日立DPと妥結すべき価格を決定済みで,誘導の結果,その価格で妥結しており,その後の被審人及び日立DPの対応が価格決定に無関係であったことを認めることはできない。
なお,証拠(査第2号証,審第1号証)によれば,液晶モジュールの価格は一貫して下落していたことが認められるが,その下落の幅や下落の時期はまちまちであるし,被審人と日立DPの価格が常に同一であったわけでもないから,このことが直ちに,任天堂が価格を一方的に決定していたとか,被審人と日立DPの情報交換が価格の決定と無関係であったという結論に結びつくものではない。
d 被審人は,日立DPは,平成17年10月6日の被審人の多田と日立DPの熊沢の情報交換に先立って,任天堂から平成17年度下期のDS用液晶モジュールについて,1,800円を提示するよう求められており,日立DPの森野は,任天堂の石川との協議の感触に基づいて提示価格を1,830円ないし1,850円とすることを決めたのであって,日立DPが上記の被審人との情報交換に基づいて提示価格を決定したとはいえないと主張する。
証拠(3号事件の査第13号証)によれば,日立DPは,当初,任天堂から1,800円を要求され,これを基に提示価格を検討していたことが認められ,また,日立DPの森野は,日立DPの熊沢から送られてきた被審人との情報交換に関する同月7日の電子メールの内容を承知しつつも,任天堂の石川と協議したときの感触から,提示価格を当初検討していた1,800円からもう少し上乗せした価格であっても妥結に至ることができるのではないかと考え,そのため,提示価格を1,830円ないし1,850円にしたい旨の電子メールを熊沢に送ったと供述する(3号事件の査第13号証)。しかし,この電子メールは,日立DPと被審人の同月6日及び7日の情報交換の内容を報告するために日立DPの熊沢が森野に対して送付した電子メールに対する森野からの返信であって,その内容も,この情報交換の内容に沿ったものであるから,日立DPの森野は,任天堂の石川の感触だけでなく,被審人からの情報を踏まえて提示価格を決定したと認めることができるのであって,日立DPが被審人からの情報と関係なく提示価格を決定したとはいえない。
(イ) 被審人及び日立DPに,価格競争を回避し,価格カルテルを行う意思があったかどうかについて(前記第5の1(2)エ(ア),(イ),(ウ))
a 被審人は,DS用液晶モジュールについて,当初100パーセントの納入シェアを有していたが,日立DPの参入により納入シェアが減少したことから,任天堂への納入シェアを伸ばすことを最大の関心事としており,日立DPも,同様にできるだけ多くの受注量を確保しようとしていたのであって,2社が価格カルテルを行うことは考えられない状況にあったと主張する。しかし,前記ア(ア)bないしdのとおり,被審人と日立DPは,DS用液晶モジュールに関し,日立DPの任天堂との取引開始の頃から,任天堂の価格引下げ要求に対抗し,価格の低落を防止するために情報交換を行っていたのであって,2社がいずれも納入シェアを伸ばすことを強く希望していたとしても,2社が不当な取引制限を行った旨の認定は左右されない。
b 被審人の多田が,平成17年3月25日,日立DPの熊沢に対して,DS用液晶モジュールの同年6月以降納入分について,2,400円を下回る価格を提示する必要はないと言ったとされる点について(前記ア(ア)d(b)),被審人は,同年5月30日の商談において,任天堂に対し,上記の多田の発言の内容に反して,DS用液晶モジュールの6月以降納入分について,2,400円から2,350円に引き下げることを提案したのであるから,被審人は,日立DPに2,400円より価格を下げる必要はないと言っておきながら,自社は2,350円で任天堂と妥結して数量を確保しようとしたものであり,被審人には,価格の下落を回避する意思はなかったと主張する。
しかし,2,400円を下回る必要がないとの発言から平成17年5月30日の商談までに2か月以上経過しており,この間の事情の変更によっては,被審人が2,400円を下回る価格を提示することもあり得ること,実際に日立DPも価格を下げたとみられること(3号事件の査第28号証)からすると,被審人が上記のとおり提示価格を引き下げる提案をしたことをもって,上記の多田の発言が,価格の下落を阻止しようとする被審人の意図の現れであったとの前記ア(ア)e(a)の認定を覆すには足りない。
c 被審人は,平成17年10月当時は,DS用液晶モジュールの需要がほぼ無くなることが見込まれた時期であったため,任天堂はDS用液晶モジュールの価格の改定を求める意欲を失っており,被審人及び日立DPも,価格カルテルを行う動機及びメリットを有していなかったと主張する。
しかし,市場の需要が無くなることが見込まれるからといって,一般的に売買の当事者の利益を増加させようとする意欲が無くなるとはいえないし,実際にも,前記ア(イ)a(f),(g)及び(i)のとおり,日立DPは,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について,当初1,800円を提示しようとしていたが,1,830円に変更して提示し,任天堂から値下げを要求されて1,820円で妥結したこと,前記ア(イ)a(f),(h)及び(i)のとおり,被審人も,当初は1,850円を提示したが,任天堂からその価格のままだと数量を減らすことを示唆されて,1,820円を提示して同価格で妥結したことに照らせば,日立DP及び被審人と任天堂は,10円単位の価格の値下げの可否を巡って厳しい折衝をした結果,妥結に至った事実が認められるのであって,任天堂が価格の改定を求める意欲を失っていたとか,被審人及び日立DPが価格カルテルを行う動機及びメリットを有していなかったとはいえない。
(ウ) 被審人と日立DPの合意の内容について(前記第5の1(2)ア(ア)a)
被審人は,被審人の多田と日立DPの熊沢による情報交換は,現行価格から「100円を超えて下回らない」ようにするというものであり,これでは抽象的に過ぎ,価格に幅があり過ぎるため,価格情報として意味がなく,対価引上げに関する情報交換たり得ないと主張する。
しかし,被審人と日立DPの合意は,DS用液晶モジュールの現行価格である1,900円を起点にして100円より下げない,つまり,1,800円より価格を下げないようにするというものであって,合意の内容は明確であるし,任天堂から値下げ要求があることを想定した上で,任天堂からそれ以上の金額の値下げ要求があっても応じないようにするという内容であって,実際に被審人及び日立DPが合意の範囲内である1,820円で交渉を妥結したことに照らしても,合意として十分に意味のあるものと評価できるのであって,被審人の主張は理由がない。
(エ) 被審人と日立DPが虚偽の内容を伝え合ったり,重要な情報を伝えなかったとの主張について(前記第5の1(2)ア(ア)b)
a 被審人は,①平成17年10月6日の面談において,日立DPの熊沢が被審人の多田に対し,日立DPと任天堂の交渉の窓口は八洲電機であり,コントロールするのは難しいと述べたが,実際には,日立DPが主体となって任天堂との交渉を行い,価格等の最終決定権限も日立DPが有していたこと,②この面談において,多田は,熊沢に対し,具体的な提示価格を伝えなかったこと,③熊沢は,同月13日の電話において,多田に対し,日立DPが平成17年度下期価格として1,820円を提示済みであるのに,1,850円を提示しているかのように述べたこと,④多田は,熊沢に対し,同日に被審人が任天堂に価格を提示した事実を伝えておらず,それ以降,多田と熊沢はDS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について情報交換をしていないことから,多田と熊沢は,虚偽の内容を伝え合ったり,重要な情報を伝えなかったりした上,価格カルテルの実効性を確保するための情報交換をしなかったものであって,このような情報交換により,被審人と日立DPの間に協調的な行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換があったとはいえないと主張する。
b 査第11号証によれば,前記a①の事実は認められ,熊沢が,日立DPに決定権限がないかのような情報を伝えることにより,何らかの事情で日立DPの価格が被審人の価格を下回る結果になった場合でも,日立DPに非がないことを主張できるようにしたものであることがうかがわれる。
前記a②については,査第13号証及び第14号証によれば,被審人の多田は,日立DPの熊沢に対し,被審人の提示価格が1,850円であることを示唆したにとどまり,明確にその金額であることまでは伝えなかったことが認められる。しかし,上記証拠によれば,被審人の多田の言動は,日立DPの熊沢が被審人の提示価格を予想できるようなものであったといえるから,情報の伝達としては十分であって,金額を明確にしたかどうかは重要ではない。
査第14号証によれば,前記a③のとおり,日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,1,820円を提示済みであることを伝えずに,1,850円を提示したことを伝えた事実が認められるが,前記ア(イ)a(h)のとおり,熊沢は,日立DPが1,850円の提示について任天堂から見直しを求められ,1,850円を切らざるを得ないが,1,800円は切らない価格を提示すると多田に伝えているのであるから,熊沢の情報には,一部正確ではない部分があるものの,熊沢の情報は,重要な点では事実と一致していたといえる。
そうすると,①ないし③の事実は,前記ア(イ)a(d)及び(e)のとおり,被審人の多田と日立DPの熊沢がDS用液晶モジュールの現行価格が1,900円であることを確認の上,それを100円を超えて下回らないようにするという重要な点について確認し合い,上司に連絡したという事実と矛盾するとまではいえず,この認定を覆すには足りない。
また,前記a④について,被審人の多田が,日立DPの熊沢に対し,平成17年10月13日に被審人が任天堂に価格を提示した事実を伝えたこと,その後,被審人の多田と日立DPの熊沢が平成17年度下期の価格について情報交換をしたことを認めるに足りる証拠はないが,この事情も前記ア(イ)の認定を左右するには足りない。
(オ) 日立DPがNTR-2に関する情報を被審人に伝えなかったことについて(前記第5の1(2)ア(ア)c)
被審人は,日立DPが平成17年12月末以降,任天堂に対しDS用液晶モジュールの改良品であるNTR-2を納入する予定であり,同年10月の時点でその価格交渉をしていたにもかかわらず,日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,この情報について伝えなかったことから,熊沢と多田の間に協調的行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換があったとはいえないと主張し,証拠(多田誠参考人審尋速記録)によれば,熊沢は多田に対し,NTR-2について情報を提供していなかったことが認められる。
証拠によれば,①任天堂は,DS用液晶モジュールについて,両面テープによりガラス部分の強度を高めることを被審人及び日立DPに提案したところ,日立DPについては効果があったが被審人については効果がなかったため,任天堂は,日立DPからのみこの改良を行ったDS用液晶モジュールであるNTR-2を購入することとしたこと(査第2号証),②NTR-2は,平成17年度下期受注分のDS用液晶モジュールの一部として納入され,価格は,通常のDS用液晶モジュールの価格に,上記①の強化対策費の30円を上乗せして1,850円とされたこと(査第56号証,第57号証),③任天堂は,通常のDS用液晶モジュールを用いて製造したDSとNTR-2を用いて製造したDSを特に区別することなく,同一の商品として販売したこと(査第2号証),以上の事実が認められる。
そうすると,NTR-2は,両面テープにより強化されたという点以外に通常のDS用液晶モジュールと異なるところはなく,通常のDS用液晶モジュールと同等の製品として取引され,価格もDS用液晶モジュールの価格を基に強化対策費を上乗せして定められたことが認められ,任天堂と日立DPの価格交渉において,日立DPが納入するDS用液晶モジュールの中にNTR-2が一部含まれていたことが実質的な意味を有していたとはいえないから,日立DPが被審人に対してNTR-2について情報提供をしなかったことは,被審人と日立DPとの間の前記ア(イ)の認定について影響を及ぼすものとはいえない。
(カ) 被審人と日立DPが価格カルテルを行ったとされる時期に,被審人は,DS用液晶モジュール以外の製品について日立DPから提供された情報と無関係に価格を決定したとの主張について(前記第5の1(2)ウ(イ)e)
被審人は,日立DPの熊沢は,平成17年10月6日,被審人の多田に対し,DS用液晶モジュールのほか,DS Lite用液晶モジュール及びAGT用液晶モジュールについても任天堂に提示済みの価格を伝えたが,被審人はこれと無関係に提示価格を決定したことから,被審人がDS用液晶モジュールについても,日立DPからの情報と無関係に価格を決定したことが認められると主張する。
しかし,DS Lite用液晶モジュールについては,後記(2)ア(ア)b(b)ないし(e)のとおり,日立DPの熊沢が同日に被審人の多田に対し,日立DPの提示予定価格を上側1,990円,下側1,940円と伝えたところ,被審人は,同月7日,同額を任天堂に提示したことが認められ,また,AGT用液晶モジュールについても,証拠(査第11号証,第12号証,3号事件の査第15号証,3号事件の査第24号証,3号事件の査第25号証)によれば,熊沢が同月6日,多田に対し,日立DPの提示予定価格を1,900円から50円ないし100円下げた価格と伝えたところ,被審人は同月7日,これを踏まえて現行価格の1,920円を下回る1,850円を任天堂に提示した事実が認められるから,被審人の提示価格の決定について,日立DPからの情報が影響したことが認められるのであって,被審人がDS Lite用液晶モジュール及びAGT用液晶モジュールについて日立DPとの情報交換と無関係に提示価格等を決定したとはいえない。
(キ) 被審人及び日立DPが相手方から得た情報と同一又は類似の価格を提示した回数が少ないとの主張について(前記第5の1(2)イ(ア))
a 被審人は,①情報交換の後に行われた行動が同一又はこれに準ずる行動であることから意思の連絡を推認するには,情報交換と任天堂との商談の経過を全体として鳥瞰(ちょうかん)した上で,2社の行動が通常一致していたことが必要である,②審査官は,DS用液晶モジュールに関して,平成16年10月,同年12月,平成17年2月,同年3月25日及び同年10月の5回,被審人の多田と日立DPの熊沢の間で情報交換が行われたと主張するが,そのうち,提示価格又は妥結価格が一致すると主張するのは平成17年10月の情報交換についてのみであって,2社の行動が通常一致していたとはいえない,③よって,2社の情報交換の後に行われた行動が同一又はこれに準ずる行動であったとはいえないから,意思の連絡を推認することはできないと主張する。
b 平成16年10月の情報交換に係る事実関係は,前記ア(ア)c(a)のとおりであって,日立DPは,被審人の提示価格が2,700円又は2,800円であり,2,400円とすることはないとの情報を踏まえて,提示価格を2,550円及び2,500円としたというものである。
c 平成16年12月の情報交換に係る事実関係は,前記ア(ア)c(b)ないし(e)のとおりであって,被審人が日立DPからDS用液晶モジュールの納入価格が2,500円であるとの情報を得たというものであり,その後の被審人の対応は明らかではない。
d 平成17年2月の情報交換に係る事実関係は,前記ア(ア)d(a)のとおりであって,被審人は,日立DPの提示価格が2,400円であるとの情報を得て,同年4月納入分について2,400円で納入することを提案したというものである。
なお,この点に関して,被審人は,任天堂から日立DPの提示価格が2,400円であることを示されたから,被審人の多田が日立DPから情報を得たとしても,被審人の提示価格の決定とは無関係であると主張するが,被審人が任天堂から日立DPの提示価格を示されたとしても,多田が日立DPから得た情報は,任天堂から得た情報を確認するために使われたと認められるから,被審人における価格決定に無関係とはいえない。
e 平成17年3月25日の情報交換に係る事実関係は,前記ア(ア)d(b)のとおりであって,日立DPは,被審人から提示価格を2,400円より下げる必要はないとの情報を得たというものであり,その後の被審人の対応は明らかではない。
f 前記bないしeのとおり,各情報交換の後の被審人及び日立DPの行動に不明なところはあるものの,格別不自然な点はない。被審人と日立DPは,競争を回避する目的で情報交換をしていたものの,各期の納入価格の全てについて価格を一致させることとしていたわけではないから,上記の各情報交換の内容とその後の提示価格又は妥結価格が一致しなかったとしても,前記ア(イ)のとおり,被審人と日立DPがDS用液晶モジュールの価格について合意をしたとの認定判断は何ら左右されるものではない。
(2) 1号事件について
ア 認定事実
当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠によれば以下の事実が認められる。
(ア) DS Lite用液晶モジュールについての事前の情報交換
a DS Lite用液晶モジュールの販売開始
平成18年3月のDS Liteの発売に先立ち,被審人は同年1月頃から,日立DPは同年2月頃から,それぞれ,任天堂に対して,DS Lite用液晶モジュールを販売した。(査第2号証,第19号証)
b 情報交換の開始
(a) 被審人は,平成17年10月5日,任天堂と商談を行った(前記(1)ア(イ)a(c)参照)。任天堂は,この商談において,被審人に対し,DS用液晶モジュールに加えて,DS Lite用液晶モジュールについても,同月7日に価格の提示をするよう求めた。(査第15号証,3号事件の査第14号証,3号事件の査第15号証)
(b) 被審人の多田及び日立DPの熊沢は,平成17年10月6日に面談をした。(前記(1)ア(イ)a(d)参照)
被審人の多田は,この面談において,日立DPの熊沢に対し,被審人が同月7日の任天堂との商談でDS Lite用液晶モジュールの価格を提示することになっている旨伝えた。
日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,日立DPは任天堂にDS Lite用液晶モジュールの価格として片側2,050円を提示したが,更に引き下げるように要求があり,上側1,990円,下側1,940円を提示するつもりであることを伝えた。
(査第11号証,第12号証,第13号証,第14号証)
前記(1)ア(イ)a(e)のとおり,被審人の大崎は,同月6日,被審人の方志らに対し,この会合の内容について2度にわたって電子メールで報告し(本件メール1及び2),日立DPの熊沢も,同日,森野に対し,上記の会合の内容について電子メールで報告した。
(c) 被審人は,平成17年10月7日の任天堂との商談(前記(1)ア(イ)a(f)参照)において,DS Lite用液晶モジュールの価格として,上側1,990円,下側1,940円を提示した。(3号事件の査第15号証,3号事件の査第24号証,3号事件の査第25号証)
日立DPは,同日,任天堂と商談をした(前記(1)ア(イ)a(f)参照)が,任天堂から,DS Lite用液晶モジュールの価格を提示することを求められなかった。(査第14号証,第17号証,3号事件の査第13号証,3号事件の査第26号証)
被審人の多田及び日立DPの熊沢は,これらの商談の終了後,電話で情報交換をした(前記(1)ア(イ)a(f)参照)。被審人の多田は,日立DPの熊沢に対し,同日の商談の結果について同人のもとへ報告が入ってきていないと伝えた。日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,DS Lite用液晶モジュールについては,何の要請もなかったと伝えた。(査第14号証,第15号証,第16号証,第17号証,3号事件の査第13号証)
前記(1)ア(イ)a(f)のとおり,被審人の多田は,同日,被審人の方志らに対し,この会合の内容について電子メールで報告し(本件メール3),日立DPの熊沢も,森野に対し,上記の会合の内容について電子メールで報告した。
(d) 被審人は,平成17年10月13日,任天堂と商談を行い,DS Lite用液晶モジュールの価格について,上下平均で1,890円とし,累計納入数量が200万個以降の製品については,下側を1,870円とすることを提案した。(3号事件の査第25号証,3号事件の査第29号証,3号事件の査第30号証)
(e) 平成17年10月14日,日立DPは,任天堂と商談を行った(前記(1)ア(イ)a(i)参照)。日立DPと任天堂は,DS Lite用液晶モジュールの当初納入価格を上側1,950円,下側1,870円(キット3,820円)で妥結した。(査第25号証)
同日,被審人も任天堂と商談を行った(前記(1)ア(イ)a(i)参照)。被審人と任天堂は,DS Lite用液晶モジュールの当初納入価格を,上側1,920円,下側1,890円(キット3,810円)とすること,ただし,下側については,累計納入数量200万個以降の製品は1,870円で妥結した。(3号事件の査第25号証,3号事件の査第29号証,3号事件の査第30号証,審第1号証)
c 平成18年第3四半期(平成18年7月から9月まで)受注分についての情報交換
(a) 日立DPの熊沢は,平成18年4月6日頃,被審人の多田に対し,DS Lite用液晶モジュールの任天堂渡し価格について,同年4月から6月の間は同年3月時点の価格である上側1,950円,下側1,870円(キット3,820円)を維持すること,平成18年第3四半期価格として上側1,900円,下側1,835円(キット3,735円)を提示していること及び営業担当者に伝えた任天堂に対する提示可能な下限価格が上側1,850円,下側1,800円(キット3,650円)であることを伝えた。
被審人の多田は,方志らに対し,この情報を電話及び電子メールで報告した。
(査第6号証,第21号証,多田誠参考人審尋速記録)
(b) 日立DPの熊沢は,平成18年4月18日頃,被審人の多田に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成18年第3四半期価格について,営業担当者に下限価格を上側1,850円,下側1,800円と伝えており,自社の営業担当者と任天堂との間で,この価格以上で交渉が行われていると理解している旨伝えた。
被審人の多田は,方志らに対し,この情報を電子メールで報告した。
(査第6号証,第22号証)
d 小括
(a) 前記aないしcのとおり,被審人の多田と日立DPの熊沢は,DS Lite用液晶モジュールの任天堂への販売開始前から,任天堂渡し価格の低落を防止するため,その価格等についての情報交換を行い,それを自社の価格決定権者等に報告しており,その態様もDS用液晶モジュールにおけるものと同様であった。
(b) 前記(1)ア(ア)e及び(1)イのとおり,被審人の多田と日立DPの熊沢は,DS用液晶モジュールの現行価格や提示価格についての情報交換を行っており,この情報交換は,DS用液晶モジュールの任天堂渡し価格の低落を防止するため,被審人及び日立DPの業務の一環として行われていたことに照らすと,DS Lite用液晶モジュールについての前記(a)の情報交換も,上記と同様の目的を持って被審人及び日立DPの業務の一環として行っていたものと認められる。
(イ) 平成18年第4四半期(平成18年10月から12月まで)受注分及び平成19年第1四半期(平成19年1月から3月まで)受注分の価格についての情報交換等
a 日立DPは,平成18年8月29日,任天堂と商談を行った。
日立DPは,任天堂に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期価格について,上側1,790円,下側1,750円(キット3,540円)を提示した。これに対し,任天堂は,日立DPに対し,被審人の提示した平成18年第4四半期価格は,日立DPの提示価格であるキット3,540円より数十円から100円程度安いこと,被審人の提示した平成19年第1四半期価格は,キット3,540円より200円以上安いことを示唆し,日立DPに対して,更に安い価格を提示するよう求めた。(査第23号証,第24号証,第25号証)
b 日立DPの森野は,平成18年9月5日,熊沢に対し,前記aの任天堂との商談状況を踏まえて,営業部門としては,DS Lite用液晶モジュールの受注数量を増やすため,平成18年第4四半期価格としてキット3,440円,平成19年第1四半期価格としてキット3,300円を提示することを希望していることを伝えた上,提示価格の検討を依頼した。(査第23号証,第25号証)
日立DPの熊沢は,この依頼を受けて,同日,被審人の多田に電話をした。多田は,熊沢に対し,平成18年第4四半期価格としてキット3,480円,平成19年第1四半期価格としてキット3,430円を同月7日に任天堂に提示する予定であると伝えた。
その後,熊沢は,森野に対し,多田から入手した上記の情報を伝えると共に,平成19年第1四半期価格について,任天堂が示唆した被審人の提示価格には疑いを持っている旨,営業部門の希望価格であるキット3,300円まで下げる必要はないと考えている旨を伝えた。
(査第24号証,第25号証,第27号証)
c 日立DPの熊沢は,平成18年9月6日,設計部門に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格については,任天堂との交渉を詰めるまでに時間が残されており,任天堂の希望価格まで直ちに下げるべきではないことを理由に,日立DPの最低制限販売価格を,被審人の多田から伝えられた被審人の提示価格であるキット3,430円から40円引き下げたキット3,390円とすることを提案した。熊沢は,平成18年第4四半期受注分の最低制限販売価格についても,被審人の提示価格から40円引き下げたキット3,440円とすることを提案した。(査第24号証,第28号証)
d 被審人は,平成18年9月7日,任天堂と商談を行ったが,任天堂の太田本部長に急用が入ったことから商談は中断し,同月15日に,再度,商談を行うこととなった。(審第12号証)
e 日立DPは,平成18年9月8日,熊沢の前記cの提案に従って,任天堂に対するDS Lite用液晶モジュールの最低制限販売価格を平成18年第4四半期受注分はキット3,440円,平成19年第1四半期受注分はキット3,390円とすることを決定し,これを受けて,同月11日,任天堂に対し,数量の積み上げを要請すると共に,これらの価格を提示した。任天堂と日立DPは,日立DPの提示のとおり,平成18年第4四半期価格をキット3,440円で妥結した。(査第24号証,第25号証,第29号証,第30号証,第31号証)
f 被審人は,平成18年9月15日,任天堂と商談を行った。任天堂は太田本部長,被審人は方志,多田,丸井戸が出席した。
被審人は,任天堂との間で,DS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期受注分について,数量を月間135万キット(上下計270万個)とし,価格を上側1,760円,下側1,710円(キット3,470円)で妥結した。また,被審人は,任天堂に対し,平成19年第1四半期価格について,月間270万個を前提にキット3,430円を提示し,300万個であれば更に値下げを検討する旨提示したが,まだ時間的余裕があったために,妥結しなかった。
(査第46号証,審第1号証,第13号証,第26号証)
g 日立DPの森野は,平成18年10月24日頃,日立DPの熊沢に対し,任天堂からのDS Lite用液晶モジュールの受注量を増やすために平成19年第1四半期受注分の提示価格をキット3,290円とするよう再考を求めた。これを受けて,日立DPの熊沢らは受注数量条件,価格提示方法等について検討し,日立DPは,一旦,上側1,660円,下側1,630円(キット3,290円)を提示価格とすることを容認することとし,任天堂への提示方法等については改めて検討することとした。(査第32号証,第33号証)
h 被審人の多田及び日立DPの熊沢は,平成18年11月7日,電話でDS Lite用液晶モジュールの提示価格等について情報交換をした。
日立DPの熊沢は,被審人の多田に対し,日立DPの平成18年第4四半期受注分の現行価格が上側1,740円,下側1,700円(キット3,440円)であること,日立DPの平成19年第1四半期受注分の提示価格が上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円)であることを伝えた。日立DPの熊沢は,数量についても,平成18年第4四半期受注分が月間150万個であり,平成19年第1四半期受注分について月間180万個を要望していることを伝えた。
(査第34号証,第35号証,第36号証)
他方,被審人の多田は,日立DPの熊沢に対し,平成18年第4四半期受注分の数量が月間135万キットであり,その価格が上側1,760円,下側1,710円(キット3,470円)であること,平成19年第1四半期受注分の数量が月間135万キットであるが2月以降は減少するとみていること,発注計画は近く示されるのではないかということ,提示価格は任天堂に対して未回答であることを伝えた。(査第36号証,第37号証,第38号証)
被審人の多田は,同日午後10時過ぎに,被審人の方志らに対し,日立DPの熊沢から得た上記の情報を電子メールにより報告した。(査第34号証,第35号証,第53号証)
日立DPの熊沢も,被審人の多田から得た上記の情報を日立DPの森野等に伝えた。(査第36号証,第37号証,第38号証)
i 日立DPは,平成18年11月9日,任天堂と商談を行い,日立DPの熊沢が多田から得た前記hの情報をふまえて,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,前記eの最低制限販売価格である上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円)を提示した。(査第47号証)
j 被審人は,平成18年11月13日,社内ミーティングを行い,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,被審人の多田が日立DPの熊沢から収集した前記hの情報をふまえて,上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円)とすること,価格を下げる場合には,上側1,710円,下側1,660円(キット3,370円)を下限とすること,数量としては月間350万個を要望することを決定した。(査第39号証,第40号証,第41号証,第42号証)
k 被審人は,平成18年11月17日,任天堂と商談を行った。任天堂は太田本部長,被審人は方志及び多田が出席した。
被審人は,任天堂に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,発注数量が上下合わせて月間270万個であれば平成18年9月に提示していた上側1,740円,下側1,690円(キット3,430円),発注数量が月間300万個であれば上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円),発注数量が月間350万個であれば上側1,700円,下側1,670円(キット3,370円)を提示し,交渉の結果,任天堂との間で,発注数量を月間300万個として,上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円)で妥結した。また,被審人と任天堂は,販売状況により数量が増える可能性があるため,同年12月に再度商談をすることとした。
(査第43号証,第44号証,第45号証,第46号証)
l 日立DPは,平成18年11月29日,任天堂と商談を行った。
日立DPは,任天堂に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格として,再度,前記eの最低制限販売価格である上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円)を提示した。
(査第48号証)
m 日立DPは,平成18年12月4日,任天堂と商談を行った。任天堂は太田本部長と石川,日立DPは大谷常務と森野が出席した。
日立DPは,任天堂に対し,この商談でも,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格として,上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円)を提示すると共に,発注数量を増やすことを要請した。これに対し,任天堂は,平成18年第4四半期受注分の数量が,毎月150万個(同年10月のみ140万個)であったのを,平成19年第1四半期受注分について毎月200万個とすることを提案し,その代わり,平成19年3月受注分については,実質的に同年4月受注分の発注の前倒しとなることを理由に,値引きを要求した。そこで,日立DPは,任天堂の提案した数量の増加を条件に,平成19年第1四半期価格のうち同年1月及び2月受注分については,上側1,710円,下側1,680円(キット3,390円),3月受注分については上側1,680円,下側1,650円(キット3,330円)とすることを提案し,同額で妥結した。
(査第25号証,第49号証)
n 被審人は,任天堂がDS Lite用液晶モジュールの発注数量を増加させることとなったことから,平成18年12月6日,任天堂と商談を行った。被審人は,月間数量を平成19年1月及び2月に330万個,3月に月間350万個とするのであれば,価格を上側1,700円,下側1,670円(キット3,370円)とすることを提示した。(審第30号証,第31号証)
o 被審人は,平成18年12月20日,任天堂と商談を行った。任天堂は太田本部長,被審人は方志,多田,丸井戸が出席した。被審人は,任天堂との間で,月間350万個を前提に,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格を上側1,700円,下側1,650円(キット3,350円)で妥結した。(審第32号証,第33号証,第34号証)
イ 被審人の多田及び日立DPの熊沢の行為の評価
①前記(1)のとおり,被審人及び日立DPは,DS用液晶モジュールの任天堂渡し価格の低落を防止するため,被審人の多田及び日立DPの熊沢を通じてDS用液晶モジュールの価格等について情報交換を行い,平成17年10月6日,多田及び熊沢を通じてDS用液晶モジュールの平成17年度下期の任天堂渡し価格について合意し,その後,合意に従って,任天堂との間で同価格について妥結したこと,②前記ア(ア)dのとおり,被審人の多田及び日立DPの熊沢は,DS Lite用液晶モジュールについても,任天堂への販売開始前から業務の一環として情報交換を行い,それを自社の価格決定権者等に報告していたこと,③被審人の多田は,DS Lite用液晶モジュールについても,提示価格決定のための打合せや,任天堂との交渉に出席していたこと(査第52号証,審第56号証),④前記ア(イ)b,f及び後記カ(ウ)bのとおり,被審人の多田は,平成18年9月5日,日立DPの熊沢に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期受注分及び平成19年第1四半期受注分の提示予定価格を伝えたところ,この価格は,被審人が同月15日に提示した価格と一致すること,⑤前記ア(イ)jのとおり,被審人は,平成18年11月7日に被審人の多田が日立DPの熊沢から得たDS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格についての情報を踏まえて,任天堂に対する提示価格を決定したこと,以上の事実が認められるから,被審人の多田の日立DPの熊沢との間の情報交換に係る行為は,いずれも被審人の事業活動として行われたものであって,被審人の行為と評価することができる。
他方,日立DPの熊沢は,日立DPの意向を受けて被審人の多田と情報交換を行ったものであって,日立DPの熊沢の情報交換に係る行為が日立DPの行為と評価されることは明らかである。
ウ 被審人と日立DPの情報交換の評価
前記アのとおり,①被審人は,平成18年9月5日,日立DPに対し,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,被審人がキット3,430円を任天堂に提示する予定であると伝えたこと,②日立DPは,この情報を基に,同モジュールの任天堂への提示価格を当初のキット3,300円からキット3,390円に変更し,同月11日にこれを任天堂に提示したこと,③被審人と日立DPは,平成18年11月7日に情報交換を行い,日立DPは,同モジュールの平成18年第4四半期価格がキット3,440円であること,平成19年第1四半期価格として3,390円を提示済みであることを伝え,被審人は,平成18年第4四半期価格がキット3,470円であること,平成19年第1四半期価格は未提示であることを伝えたこと,④被審人は,同月17日,任天堂に対し,日立DPの情報を踏まえて,平成19年第1四半期の価格として,発注数量に応じて,キット3,430円,3,390円及び3,370円の3案を提示し,交渉の結果,同日,任天堂との間でキット3,390円で妥結したこと,⑤日立DPは,同月9日,被審人の情報を踏まえて,任天堂に対し,平成19年第1四半期価格として,キット3,390円を提示し,同月29日及び平成18年12月4日にもこの価格を提示したが,任天堂が数量の増加を受け入れる代わりに,平成19年3月受注分について,同年4月の発注の前倒しとなることを理由に値引きを要求したため,平成18年12月4日,平成19年第1四半期のうち1月及び2月受注分についてキット3,390円,3月受注分についてキット3,330円で妥結したこと,以上の事実が認められるところ,これらの事実に加え,被審人と日立DPは,⑥前記(1)のとおり,価格についての競争を回避する目的で,DS用液晶モジュールについて情報交換を行い,平成17年10月6日,DS用液晶モジュールについて価格カルテルを行い,その後,価格カルテルに従って,任天堂との間で同一の価格を決定し,⑦DS Lite用液晶モジュールについても,任天堂への販売開始前から,任天堂渡し価格の低落を防止するため,DS用液晶モジュールと同様に情報交換を行ってきたことを総合すれば,被審人及び日立DPは,①ないし③の情報交換により,平成18年11月7日頃,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格としてキット3,390円を目途とする旨合意し,被審人は,これに基づいて,④のとおり,同月17日,任天堂に対してキット3,390円を中心とする3案を提示して任天堂との間でキット3,390円で妥結し,日立DPは,⑤のとおり,任天堂に対し,同月9日から3度にわたりキット3,390円を提示して,平成18年12月4日におおむねキット3,390円で妥結したものと推認するのが相当である。
エ 結論
そうすると,被審人と日立DPは,平成18年11月7日頃,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,キット3,390円を目途とする旨の合意をしたものということができるから,2社の間に,この合意に基づいた行動をとることを互いに認識し,認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえる。
オ 事実認定の補足説明(被審人の方志は,被審人の多田が日立DPから取得した情報が記載された電子メールを読み,この情報に接したかどうかについて〔前記ア(イ)h〕)
(ア) 被審人は,被審人の方志は,被審人の多田が送付した電子メールをいずれも読んでいないと主張し,特に,平成18年11月7日の情報交換の結果を連絡した方志ら宛ての電子メール(査第34号証。以下「本件メール4」という。)については,方志は同月8日から17日まで多忙であり,本件メール4が送付された多気事業所には同月10日及び15日しか出社しておらず,出社中も多忙であったため,パソコンで電子メールを見ることも,秘書がプリントアウトして自室のインボックスに入れた電子メールを見ることもなかったと主張し,方志及びその秘書業務を行っていた米澤みゆき(以下「米澤」という。)はこれに沿う供述をする。(審第56号証,第60号証)
(イ) 前記(1)エ(ア)のとおり,被審人の方志の供述のうち,方志が一般的に部下からの電子メールを読んでいなかったという部分は信用できず,被審人は,価格競争を回避する目的で日立DPとの情報交換を行っていたこと,方志は,日立DPから収集する情報の重要性を認識しており,本件メール1ないし3(これらの電子メールには,DS用液晶モジュールの価格情報だけでなく,DS Lite用液晶モジュールの価格情報が記載されていた。)を読んだことが認められる。
(ウ) そして,前記ア(ア)c(a)のとおり,被審人の多田は,被審人の方志に対し,平成18年4月6日に日立DPの熊沢から得た情報について電子メールを送付しているところ,この電子メールの冒頭に,「先ほど電話でお伝えしました件,電子メールにても報告させていただきます」と記載されていることから,電話及びこの電子メールにより多田が伝えた情報を方志が知ったことが推認される。また,被審人の多田が電話で既に伝えた件について再度電子メールを送付したのは,多田が電話で伝えようとした情報に被審人の方志が関心を有していたことをうかがわせる事実であって,前記(1)エ(ア)のとおり,方志が日立DPから得る情報の重要性を認識していたことを裏付けるものといえる。
また,前記ア(ア)c(b)のとおり,被審人の多田は,同月18日にも,被審人の方志に対し,日立DPの熊沢から得た情報について電子メールを送付しているところ,方志が日立DPから得る情報を重視しており,上記の各電子メールを読んでいたことからすれば,この電子メールを読んだことが推認される。
このように,被審人の方志は,日立DPからの情報の重要性を認識して,それまでも被審人の多田からの日立DPの情報に関する電子メールを読んでいたと認められることに加えて,同年11月2日の時点で,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期の価格交渉のために,方志が同月17日に任天堂を訪問すること,そのため同月13日に打合せをすることが決定しており(査第39号証),方志は,同月7日の時点では,平成19年第1四半期価格決定のための情報の重要性を十分認識していたことが認められる。また,被審人の多田は,被審人の方志の秘書であった室山に対して,本件メール4を本部長に届けてほしい旨の電子メールをわざわざ送付し,これに対し,休暇中の室山に代わって秘書業務を行っていた米澤は,プリントアウトして入れる旨を返信していたことが認められる(査第53号証)。そうすると,被審人の方志がメール4を読まなかったとは到底考えられず,多忙であったため,この電子メールを読まなかった旨の前記(ア)の方志の供述は到底信用できない。前記ア(イ)jのとおり,被審人の方志は,本件メール4を読んだ上で,その情報をふまえて,同月17日に任天堂に提示する価格を決定したことが認められる。
カ 被審人の主張について
(ア) 平成18年11月17日の提示価格の決定の過程について(前記第5の1(2)ウ(ウ))
a 被審人は,①被審人の方志は,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期受注分について,任天堂の予想要望価格をキット3,363円と推定したが,任天堂からの強い値引き要請があることを予想して,平成18年第4四半期受注分の提示価格から40円値引きしたキット3,430円を提示価格と決定し,平成18年7月12日にこの価格を提示した,②方志は,同年8月の時点で,無輝点化への対応を取り込んだ製造原価を基に黒字を確保できる価格はキット3,370円であったこと,任天堂の予想要望価格はキット3,350円と推定されたこと,DS Lite用液晶モジュールの需要は伸びると予想されたことから,できるだけ受注数量を増やすため数量と価格を絡めた提案をすることとし,同年9月15日,任天堂に対し,平成19年第1四半期価格について,月間270万個を条件にキット3,430円,月間300万個を条件にキット3,410円,月間300万個を上回れば,更に値下げを検討することを提案した,③方志は,平成18年11月の時点で,製造原価を基に税込み利益がゼロとなる価格がキット3,390円,任天堂予想要望価格がキット3,350円と推定されたことから,受注数量を増やすため数量と価格を絡めた提案をすることとし,同月17日,任天堂に対し,平成19年第1四半期価格について,月間270万個の場合キット3,430円,月間300万個の場合キット3,390円,月間350万個の場合キット3,370円を提案したところ,任天堂の意向で,月間300万個でキット3,390円で妥結し,数量が増加する可能性があるため,平成18年12月に再度商談を行うこととした,④被審人は,同月6日,任天堂に対し,月間350万個,キット3,370円を再度提示し,同月20日に任天堂との間で月間350万個,キット3,350円で妥結した,⑤このように,被審人の方志は,任天堂の予想要望価格と製造原価を重視して,提示価格及び妥結価格を決定していたのであり,被審人の多田が日立DPから得た情報には接しておらず,この情報は,提示価格や妥結価格の決定に関係しなかった,と主張し,方志はこれに沿う供述をする。(審第56号証,第63号証,方志教和参考人審尋速記録)
b しかし,被審人の多田が平成18年11月7日に日立DPの熊沢から得た情報を記載した本件メール4を被審人の方志が読んだと認められることは前記オのとおりであり,かつ,この情報を記載した価格ダウンの経緯に関する文書が,同月13日に開かれた社内ミーティングの資料として配布されている。(査第42号証)
また,前記(1)オ(ア)aのとおり,被審人の方志が多項式近似法を用いていたという供述や,多項式近似法を用いて求めた予想要望価格を重視していたという供述には疑問がある。
さらに,被審人の方志が提示価格を決定するに当たり,製造原価のほかに,何らかの形で推定した予想要望価格を考慮したことはうかがえるものの,前記a①ないし③の提示価格の決定の根拠をみると,①は,現行の提示価格であるキット3,470円から40円を値引きしてキット3,430円を提示価格と決定し,②は,黒字を確保できる金額であるキット3,370円を基にキット3,430円,キット3,410円を提示価格と決定し,③は,税込み利益がゼロとなる価格であるキット3,390円を基に提示価格をキット3,430円,3,390円及び3,370円と決定したというのであって,被審人の主張を前提としても,方志は,製造原価や任天堂の予想要望価格から基準となる価格を定めた上,任天堂が値引き要請をすることを予想した,数量を増やすことを重視した等の理由で数十円を加減して提示価格を決定したというのであり,基準となる価格は現行の提示価格,黒字を確保できる金額,税込み利益がゼロとなる金額と一定ではなく,その根拠となる理由もまちまちであるから,予想要望価格と製造原価だけを重視して価格を決定したとはいえない。
かえって,前記(1)オ(ア)aのとおり,被審人のDS Lite用液晶モジュールの価格の決定に当たり,日立DPの数量及び価格が重要な要素と考えられていたことは明らかである。加えて,前記ア(ア)dのとおり,被審人は,日立DPと任天堂の取引開始の頃から,DS Lite用液晶モジュールの価格の低落を防止するため,日立DPとの情報交換を継続しており,また,前記オ(ウ)のとおり,被審人の方志は,平成18年11月7日の時点では平成19年第1四半期価格の決定のための情報の重要性を十分認識していたのであるから,方志が予想要望価格や製造原価を考慮していたとしても,前記ア(イ)hのとおり日立DPから得た情報を知りながら,それを利用しなかったことは考え難い。よって,方志が日立DPから得た情報と無関係に提示価格や妥結価格を決定していたとはいえない。
c 被審人が,提示価格及び妥結価格の決定に当たり,日立DPに関する情報も参考にしていたが,これらは任天堂及び部材の納入業者から入手したものであったとの主張及び被審人は任天堂の誘導する価格で交渉を妥結せざるを得なかった旨の主張(前記第5の1(2)ウ(ウ)a(h),第5の1(2)ウ(ウ)c)に理由がないことは,前記(1)オ(ア)b及びcで説示したとおりである。
(イ) 被審人の多田と日立DPの熊沢の情報交換の内容について(前記第5の1(2)ア(イ)a)
被審人は,仮に,審査官の主張のとおり,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期受注分について,被審人の多田が平成18年9月5日に日立DPの熊沢に対して被審人の提示価格を伝え,熊沢が同年11月7日に多田に対して日立DPの提示価格を伝えたとしても,同年9月5日に熊沢は日立DPの提示価格を伝えておらず,同年11月7日に多田は被審人の提示価格を伝えていないから,両日の被審人の多田と日立DPの熊沢のやりとりは,いずれも一方的な情報の伝達に過ぎず,相互の情報交換とはいえないし,同年9月5日と同年11月7日とでは2か月も間隔が開き,その間に提示価格に大きな変動が起きる事態が生じているから,上記2つの一方的な情報伝達を合わせて被審人と日立DPの間に協調的な行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換があったとはいえないと主張する。
確かに,同年9月5日の被審人の多田と日立DPの熊沢の電話において,熊沢が多田に話した内容を特定するに足りる証拠はないが,熊沢の手帳(査第26号証)には,日立DPの提示予定価格の記載もあり,この電話で熊沢が多田に何も情報を伝えなかったと認められるわけではない。
また,同年11月7日の電話においては,前記ア(イ)hのとおり,被審人の多田は,日立DPの熊沢に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期受注分の数量と価格を伝え,平成19年第1四半期受注分についても数量と価格に関する情報を伝えているから(なお,価格が未提示であると伝えた点については,後記(ウ)のとおり),この電話においては,相互の情報交換があったことが認められる。
そして,平成18年9月5日の情報交換と同年11月7日の情報交換の間に2か月の間隔が開いているのは,前記ア(イ)fのとおり,同年9月の段階では,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格を決定するまでに時間的余裕があったためであり,被審人及び日立DPが,平成18年11月までの間に,平成19年第1四半期価格について任天堂と商談を行った形跡はないから,平成18年9月5日の情報交換と同年11月7日の情報交換の間に2か月の間隔が空いていることは,同年11月7日の時点において,被審人と日立DPがDS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格についてキット3,390円を目途とする旨合意したとの事実を何ら左右するものではない。
(ウ) 被審人と日立DPが虚偽の内容を伝え合ったり,重要な情報を伝えなかったとの主張について(前記第5の1(2)ア(イ)b,c,d)
a 被審人は,①被審人の多田は,平成18年9月5日の情報交換において,日立DPの熊沢に対し,DS Lite用液晶モジュールの提示価格として,平成18年第4四半期受注分がキット3,480円,平成19年第1四半期受注分がキット3,430円であることを伝えていないし,仮に伝えたとしても,被審人が平成18年9月15日に任天堂に提示した額は,平成18年第4四半期受注分がキット3,470円,平成19年第1四半期受注分が数量に応じてキット3,430円及びキット3,410円であったから,正確な情報ではないこと,②多田は,平成18年11月7日の情報交換において,熊沢に対し,平成19年第1四半期価格について,既に平成18年9月15日に提示済みであったのに,未提示である旨伝えたこと,③被審人は,同年8月頃,任天堂から無輝点化への対応を求められ,それ以降,製造原価が大きく変化し,それが提示価格にも反映する状況にあったが,多田は,熊沢に対し,同年9月5日の情報交換以降,被審人の無輝点化への対応の状況や,被審人と任天堂の同月15日の商談の状況を含め,情報を伝えていないこと,④熊沢は,日立DPが任天堂に同年8月29日にDS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期価格としてキット3,540円を提示したこと,同年9月11日に平成19年第1四半期価格としてキット3,390円を提示したこと等を伝えていないこと,⑤被審人と日立DPは,価格提示後の価格交渉の状況という価格カルテルの実効性を確保するために必要な情報を交換していないことから,多田と熊沢は,虚偽の内容を伝え合い,また,多田は熊沢に具体的な価格を伝えておらず,重要な事実についての情報交換や価格カルテルの実効性を確保するための情報交換をしなかったものであって,このような情報交換により,被審人と日立DPとの間に協調的な行動をとることを期待し合う関係を基礎付ける情報交換があったとはいえないと主張する。
b 前記a①については,手帳の記載(査第26号証)を基に被審人の多田から情報を入手したことを認める日立DPの熊沢の供述内容(査第24号証)によれば,前記ア(イ)bのとおり,多田は熊沢に対してDS Lite用液晶モジュールの被審人の提示価格が平成18年第4四半期受注分についてキット3,480円,平成19年第1四半期受注分についてキット3,430円であることを伝えたことが認められる。査第27号証によれば,熊沢は,平成18年9月7日の情報交換について記載した電子メールにおいて,被審人の提示価格を推定価格と記載していることが認められるが,証拠(査第7号証,第35号証)によれば,多田と熊沢は,価格を伝達するに際し,金額を明示するのではなく,自己の推定価格を基に,「もう少し上である」,「10円玉何個分くらい上である」等と述べる形で行っていたことが認められ,そのため,推定価格と記載したものとみられるから,前記ウの認定は左右されない。
被審人は,平成18年9月15日の商談において,被審人がDS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期受注分について提示した額がキット3,470円であったことを理由に,被審人の多田が伝えたキット3,480円という情報が正確ではないと主張するが,被審人が任天堂に提示した金額がキット3,470円であったことを認めるに足りる証拠はない(審第13号証中には,被審人が交渉の過程でキット3,470円を提示したような記載はあるが,これが被審人による最初の提示額であるかどうかは不明である。)。また,被審人は,同日の商談において,被審人が平成19年第1四半期受注分について,数量に応じてキット3,430円及びキット3,410円を提示したことをもって,上記の情報が不正確であると主張するが,前記ア(イ)f認定のとおり,被審人の提案は,270万個を前提にキット3,430円を提示し,300万個であれば更に値下げを検討するというものであったと認められる(審第13号証,第26号証)から,被審人の多田が伝えた情報が不正確であったとまではいえない。
前記a②については,平成18年11月7日の情報交換において,被審人の多田が日立DPの熊沢に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について未提示である旨伝えたことが認められるが,上記のとおり,多田は,熊沢に対し,平成18年9月5日の情報交換において,被審人の平成19年第1四半期受注分の提示予定価格がキット3,430円であることを伝えてあったのであり,平成18年11月7日の段階では,同月17日の商談を控えて新たな価格の提示をしていなかったことをもって未提示と伝えたものとも解されるから,多田が虚偽の情報を伝えたとはいえない。
前記a③については,被審人の多田が日立DPの熊沢に対し,平成18年9月5日以降,同年11月7日まで情報を提供した事実を認めるに足りる証拠はない。しかし,証拠(査第24号証,第26号証,第27号証)によれば,被審人の多田は,同年9月5日,日立DPの熊沢に対し,無輝点化を前提とした被審人の提示価格を伝えていることが認められる上,前記(イ)のとおり,同日の情報交換から同年11月7日の情報交換まで間隔が空いているのは,同年9月の段階では価格決定までに時間的余裕があったからであるから,同月15日の商談の状況について伝えなかったことをもって,重要な情報を伝えていないとまではいえない。
前記a④及び⑤については,日立DPの熊沢が被審人の多田に対し,日立DPが任天堂に同年8月29日にDS Lite用液晶モジュールの平成18年第4四半期価格としてキット3,540円を提示したことや同年9月11日に平成19年第1四半期価格としてキット3,390円を提示したことを伝えたこと,被審人と日立DPが価格提示後の価格交渉の状況について情報交換をしたことを認めるに足りる証拠はない。
しかし,これらの事実は,前記ア(イ)のとおり,平成18年11月7日の時点において,被審人と日立DPが平成19年第1四半期価格としてキット3,390円を目途とする旨合意したとの事実と矛盾するとまではいえず,前記ウの認定を覆すには足りない。
(エ) 被審人と日立DPは競争を回避する意図を有していなかったとの主張について(前記第5の1(2)エ(エ))
a 被審人は,①被審人の多田は,平成18年9月5日,日立DPの熊沢に対し,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期受注分についての被審人の提示価格をキット3,430円と伝えていたのに,被審人は,平成18年9月15日,任天堂に対し,キット3,410円を提示したこと,②多田は,同年11月7日,熊沢から平成19年第1四半期受注分についての日立DPの提示価格をキット3,390円と聞いたのに,被審人は,平成18年12月8日にキット3,370円を提示し,同月20日にキット3,370円及び3,350円を提示したことを理由に,被審人には,日立DPとの競争を回避する意図はなかったと主張する。
しかし,前記ア(ア)dのとおり,被審人及び日立DPは,DS Lite用液晶モジュールについて,その販売開始前から価格競争を回避する目的で情報交換をしていたことに加え,①については,前記ア(イ)fのとおり,被審人は,同年9月15日,任天堂に対し,キット3,430円を提示し,数量が増えれば更に値下げを検討する旨述べたのであるから,被審人が日立DPから得た情報と異なる価格を提示したとはいえないし,②についても,被審人は,同年11月17日の時点で,任天堂との間で,平成19年第1四半期価格をキット3,390円で一旦妥結したのであるから,その後に数量を増やす前提で再度価格を提示したことは,被審人に競争を回避する意図があったとの認定を左右するものではない。
b 被審人は,①日立DPの熊沢は,平成18年9月5日,被審人の多田から,被審人の提示価格をキット3,430円と聞いていたのに,日立DPは,同月11日,任天堂に対し,キット3,390円を提示したこと,②日立DPは,同年10月24日頃,任天堂への提示価格をキット3,290円とすることを検討したことを理由に,日立DPには,被審人との競争を回避する意図はなかったと主張する。
しかし,前記ア(ア)dのとおり,被審人及び日立DPは,DS Lite用液晶モジュールについて,その販売開始前から任天堂の値下げ要求に対し価格の低落を防止するため,情報交換をしていたことに加え,①については,日立DPは,同年9月5日の情報を入手する前は,キット3,300円を提示価格とすることを考えていたが,同日の情報を得て提示価格をキット3,390円に引き上げたことから,日立DPに競争回避の意図があったことが認められるし,②については,日立DPは内部で提示価格の引下げを検討したが,同年11月7日の被審人の情報に基づいて提示価格を維持したのであるから,日立DPの競争回避の意図は否定されない。
(オ) 被審人の提示価格及び妥結価格が日立DPと同一とはいえないという主張について(前記第5の1(2)イ(イ))
a 被審人は,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格として,日立DPが3,390円を提示したのと比較して,被審人は,①平成18年11月17日には,数量に応じてキット3,410円,3,390円及び3,370円の三つの価格を提示したものであり,その一つが日立DPの提示価格と同じであるに過ぎないこと,②同年12月8日には,キット3,370円,同月20日には,納入数量に応じてキット3,370円及び3,350円を提示したのであり,いずれも日立DPの提示価格と異なることから,被審人の行動が日立DPの行動と同一又はこれに準ずる行動とはいえないと主張する。
しかし,前記ア(イ)jのとおり,被審人は,平成18年11月13日,提示価格をキット3,390円とすることを決定し,価格を下げる場合には数量を増やすことを希望してキット3,370円とすることとした上,同月17日,任天堂に対し,数量に応じてキット3,430円,3,390円及び3,370円を提示したのであり,この時点の提示価格の中心となっていたのはキット3,390円であったといえるから,このような被審人の行動は,被審人が同月7日頃に日立DPとの間で平成19年第1四半期価格についてキット3,390円を目途とする旨の合意をしたことを推認させる事実ということができる。
また,被審人は,任天堂との間で,同月17日の時点で,平成19年第1四半期価格をキット3,390円で一旦妥結したのであるから,平成18年12月6日及び同月20日に数量を増やす前提で再度価格を提示したことは,被審人が同年11月7日頃に日立DPとの間で前記エの合意をした旨の認定を左右するものとはいえない。
b 被審人は,任天堂との間で妥結したDS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格は,平成18年12月20日に妥結したキット3,350円であり,被審人の多田が日立DPの熊沢から伝えられた価格であるキット3,390円ではないと主張する。
しかし,前記aで説示したとおり,被審人は,同年11月17日の時点で,任天堂との間で,平成19年第1四半期価格をキット3,390円で一旦妥結したのであるから,その後,数量を増やす前提で価格を変更したことは,被審人が同月7日頃に日立DPとの間で前記エの合意をした旨の認定を左右するものとはいえない。
(カ) 被審人及び日立DPが相手方から得た情報と同一又は類似の価格を提示した回数が少ないとの主張について(前記第5の1(2)イ(ア))
被審人は,①情報交換の後に行われた行動が同一又はこれに準ずる行動であることから意思の連絡を推認するには,情報交換と任天堂との商談の経過を全体として鳥瞰(ちょうかん)した上で,2社の行動が通常一致していたことが必要である,②審査官は,DS Lite用液晶モジュールに関して,平成17年10月,平成18年4月6日頃及び18日頃,同年9月5日,同年11月7日の4回,被審人の多田と日立DPの熊沢の間で情報交換が行われたと主張するが,そのうち,提示価格又は妥結価格が一致すると主張するのは平成18年11月7日の情報交換についてのみであって,2社の行動が通常一致していたとはいえない,③よって,2社の情報交換の後に行われた行動が同一又はこれに準ずる行動であったとはいえないから,意思の連絡を推認することはできないと主張する。
平成17年10月の情報交換に係る事実関係は,前記ア(ア)bのとおりであって,日立DPは,同月6日,被審人に対し,DS Lite用液晶モジュールの当初価格として,上側1,990円,下側1,940円を提示する予定である旨伝え,被審人は,同月7日,任天堂に対し,同額を提示し,被審人は,同月14日,任天堂との間でキット3,810円(数量増加後は3,790円)で妥結し,日立DPは,同日,キット3,820円で妥結したというものである。
平成18年4月6日頃及び同月18日頃の情報交換に係る事実関係は,前記ア(ア)cのとおりであって,日立DPが被審人に対し,平成18年第3四半期価格としてキット3,735円を提示していること,提示可能な下限価格がキット3,650円であることを伝え,その後,キット3,650円以上で交渉していることを伝えたというものであって,その後の被審人と日立DPの具体的な交渉経緯は明らかではない。
平成18年9月5日の情報交換に係る事実関係は,前記ア(イ)bないしfのとおりであって,日立DPは,被審人から,被審人が平成19年第1四半期価格としてキット3,430円を提示する予定であるとの情報を得て,それまで考えていたキット3,300円の提示価格をキット3,390円に変更したというものである。
以上のとおり,各情報交換の後の被審人及び日立DPの行動には不明なところはあるものの,格別不自然な点はない。被審人と日立DPは,競争を回避する目的で情報交換をしていたものの,各期の納入価格の全てについて価格を一致させることとしていたわけではないから,上記の各情報交換の内容とその後の提示価格又は妥結価格が一致しなかったとしても,前記エのとおり,被審人と日立DPがDS Lite用液晶モジュールの価格について合意をしたとの認定判断は何ら左右されるものではない。
2 争点2(本件各意思の連絡は,一定の取引分野における競争を実質的に制限するか。)
(1) 一定の取引分野について
ア 独占禁止法第2条第6項における一定の取引分野は,原則として,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,画定されるものと解される(前掲トッパン・ムーア事件判決参照)。
イ 各事件の一定の取引分野について
(ア) 3号事件について
本件は,前記1(1)ウのとおり,被審人と日立DPが,任天堂に販売するDS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について合意したものであって,違反者のした共同行為が対象としている取引は,DS用液晶モジュールの任天堂への販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,DS用液晶モジュールの販売分野が独占禁止法第2条第6項所定の一定の取引分野である。
(イ) 1号事件について
同様に,本件は,前記1(2)エのとおり,被審人と日立DPが,任天堂に販売するDS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について合意したものであって,違反者のした共同行為が対象としている取引は,DS Lite用液晶モジュールの任天堂への販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,DS Lite用液晶モジュールの販売分野が独占禁止法第2条第6項所定の一定の取引分野である。
ウ 被審人の主張について
(ア) 被審人は,①一定の取引分野は,一定の需要者群と供給者群の間に成立し,需要者と供給者にとっての代替性の観点から画定されるべきである,②一定の取引分野の画定に当たっては,潜在的供給者及び潜在的需要者にとっての代替性も考慮すべきであり,液晶モジュールの潜在的供給者として,被審人及び日立DP以外に少なくともTMDが存在し,携帯型ゲーム機の液晶モジュールの潜在的需要者としてソニーが存在していたのであるから,これらの事情を考慮せずに一定の取引分野を画定するのは不適切であると主張する。
a 本件の一定の取引分野の画定に当たり,「需要者にとっての代替性」を考慮するとしても,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールは,いずれも任天堂が提示した仕様に基づいて製造されるいわゆるカスタム製品であって,他の携帯型ゲーム機等に使用することはできないから(査第1号証,第18号証),DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの需要者は,潜在的な者を含め任天堂以外に存在しなかった。
また,被審人の主張するソニーを含めた携帯型ゲーム機の液晶モジュールの取引分野の内容及び存在は明らかではなく,仮に,この取引分野が成立するとしても,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの販売分野が成立しないということにはならない。よって,前記イの各モジュールの取引分野の画定に当たり,ソニーを含め,前記イの各モジュールの任天堂以外の需要者の存在を考慮する必要はない。
b 本件の一定の取引分野の画定に当たり,「供給者にとっての代替性」を考慮するとしても,3号事件については,被審人と日立DPの間で合意が成立した平成17年10月6日から平成17年度下期の終わりである平成18年3月31日までの間,被審人と日立DP以外にDS用液晶モジュールを供給する事業者はなく,1号事件についても,被審人と日立DPの間で合意が成立した同年11月7日頃から平成19年第1四半期の終わりである平成19年3月31日までの間,被審人と日立DP以外にDS Lite用液晶モジュールを供給する事業者はなかった。
c また,任天堂は,新規取引先との間では秘密契約を締結した上で仕様を開示し,試作品を製作させて評価試験を実施し,この試験に合格した場合に取引を開始することにしていたため,任天堂のゲーム機に使用する液晶モジュールの取引を開始するためには相当な期間及びコストが掛かると認められること(査第2号証)からすると,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールを供給できる事業者は,被審人と日立DP以外に潜在的な者を含めて存在しなかったといえる。
この点について,被審人は,DSが発売された平成17年12月の2か月後である平成18年2月に,日立DPが任天堂に対してDS用液晶モジュールの販売を始めたことから,任天堂が日立DPに技術支援を行ったこと,任天堂が技術支援を行えば,液晶メーカーが任天堂に容易に液晶モジュールを販売できたことが認められると主張する。しかし,前記1(1)ア(ア)aのとおり,日立DPは,DSの発売前から任天堂による技術仕様の開示を受けて,DS用液晶モジュールの開発を行い,評価試験を経てDS用液晶モジュールの販売を開始したのであって,液晶メーカーが任天堂に対して,短期間で容易に液晶モジュールを販売できたとはいえない。
d また,証拠(査第2号証)によれば,TMDは,平成16年8月から平成19年3月まで,被審人からの技術供与及び製造委託を受けてDS用液晶モジュールを被審人に納入していたことが認められるところ,被審人は,この事実を根拠に,TMDは,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールを製造できたから,両モジュールについて潜在的供給者といえると主張する。
しかし,TMDは,平成15年12月24日付けの被審人との基本契約において,目的物に関連して任天堂と直接交渉すること(被審人の指示がある場合を除く。)及び目的物の意匠,技術資料,図面,設計,仕様等を自己又は第三者のために利用することを禁じられていたため(3号事件の査第3号証。なお,直接交渉禁止条項は,平成18年1月5日付けの基本契約で削除されている〔3号事件の査第4号証〕。),TMDは,任天堂とDS用液晶モジュールについて直接取引をすることは困難であったと認められる。加えて,任天堂も,被審人の提案を受けて,被審人がTMDに製造委託したDS用液晶モジュールを任天堂に納入することを了承しており,TMDとの直接取引を考えていなかったことが認められるから(査第2号証),TMDはDS用液晶モジュールの潜在的供給者として考慮する必要はない。
また,TMDは,平成19年6月頃,DS Lite用液晶モジュールについて評価試験を開始し,平成21年7月頃,実際にDS Lite用液晶モジュールの販売を開始したが(査第2号証,審第61号証),上記のとおり,1号事件の対象となった平成19年第1四半期受注分のDS Lite用液晶モジュールを供給することができなかったことは明らかであるから,TMDをDS Lite用液晶モジュールの潜在的供給者として考慮する必要はない。
なお,仮に,TMDが任天堂に対し,DS用液晶モジュール又はDS Lite用液晶モジュールを販売することが可能であったとしても,被審人,日立DP及びTMDの間で競争の対象とされる商品は,DS用液晶モジュール又はDS Lite用液晶モジュールであって,一定の取引分野はDS用液晶モジュールの販売分野及びDS Lite用液晶モジュールの販売分野と画定されることは変わらないから,被審人の主張は,この点からも理由がない。
(イ) 被審人は,①一定の取引分野は,一定の需要者群と供給者群の間に成立し,需要者と供給者にとっての代替性の観点から画定されるべきであり,製品市場については,機能・効用や価格帯等が同種である製品ごとに画定されるべきである,②DS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールは,基本的な機能・効用が共通しており,需要者からみて同種の商品といえること,DS用液晶モジュールの需要は,DS Lite用液晶モジュールの需要に代替される関係にあること,DS Lite用液晶モジュールの価格は,おおむねDS用液晶モジュールの価格と継続性を有しており,価格における代替性も認められることからすると,上記各モジュールについて各別の取引分野を画定するのは不当であって,上記各モジュールを併せた取引分野として画定すべきである,と主張する。
しかし,DS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールは,いずれも携帯型ゲーム機用の液晶モジュールであり,大きさ(インチサイズ)及び視野角(画面を左右若しくは上下から見たときにどの角度まで表示内容が正確に見えるかを表す値)が同じであるが,照明方法が異なる上(DS用液晶モジュールは半透過型で,DS Lite用液晶モジュールは透過型),ガラスの厚み及び本体との接続部分の形状が異なっている。任天堂は,DS LiteはDSの後継機種であるとしており,両機種の液晶モジュールの仕様の違いを理由に,この2つの液晶モジュールを全く異なるものと考えており,取引価格も別々に交渉して決定していた。(査第2号証)
したがって,DS用液晶モジュールとDS Lite用液晶モジュールが需要者である任天堂からみて機能・効用の点で同種の商品とはいえないし,その需要が相互に代替できる関係にあったとか,価格における代替性があったともいえない。そうすると,上記各モジュールについては別々の取引分野として画定されるから,被審人の主張は採用できない。
(ウ) 被審人は,仮に,DS用液晶モジュールの取引について一定の取引分野が成立するのであれば,NTR-2は,通常のDS用液晶モジュールではなかったから,NTR-2については,DS用液晶モジュールとは別の取引分野が画定されるべきであると主張する。
しかし,前記1(1)オ(オ)のとおり,NTR-2は,両面テープにより強度を高めたこと以外に通常のDS用液晶モジュールと異なるところはなく,通常のDS用液晶モジュールと同等の製品として取引され,価格もDS用液晶モジュールの価格を基に強化対策費を上乗せして定められていたことからすると,NTR-2は通常のDS用液晶モジュールと代替性があり,被審人と日立DPの間の合意の対象に含まれていたということができ,一定の取引分野はNTR-2を含むDS用液晶モジュールの販売分野として画定されるといえる。
なお,被審人は,NTR-2についての情報は,被審人と日立DPとの間で全く交換されておらず,NTR-2を含むDS用液晶モジュールについては,意思の連絡が全体として認められないことになるから,NTR-2を含むDS用液晶モジュールの販売分野をもって,一定の取引分野ということはできないと主張するが,上記のとおり,NTR-2は,通常のDS用液晶モジュールと代替性があり,被審人と日立DPの間の合意の対象に含まれていたといえるから,被審人の主張は失当である。
(エ) 被審人は,民間企業は,その購入する商品・役務に関し,相手方の選択,価格水準,価格形成過程について,本来自らの意思で自由に処分できる地位にあるから,一民間企業の取引を対象とする一定の取引分野を画定することは,保護に値する公的利益がなく,不当であると主張する。
しかし,需要者が民間の一事業者のみであっても,その需要者に対して複数の供給者が同種又は類似の商品又は役務を供給する取引を行っていれば,その需要者との取引を巡って供給者間に競争関係が存在し,この競争が市場において機能する状態を保護する公的利益は存在するといえるから,被審人の主張は理由がない。
エ 結論
以上によれば,3号事件については,DS用液晶モジュールの販売分野が独占禁止法第2条第6項所定の一定の取引分野であり,1号事件については,DS Lite用液晶モジュールの販売分野が同項所定の一定の取引分野であるということができる。
(2) 競争の実質的制限について
ア 独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される(最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決・民集第66巻第2号796頁参照)。
イ 各事件の競争の実質的制限について
(ア) 3号事件
前記(1)イ(ア)のとおり,3号事件の一定の取引分野はDS用液晶モジュールの販売分野であり,前記第3の2(2)エのとおり,当該取引分野における供給者は被審人と日立DPの2社のみである。したがって,2社は,前記1(1)ウのとおり,DS用液晶モジュールの任天堂渡し価格を1,800円より下げない旨合意することにより,価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたと認められるから,本件合意は,DS用液晶モジュールの販売分野における競争を実質的に制限したということができる。
(イ) 1号事件
前記(1)イ(イ)のとおり,1号事件の一定の取引分野はDS Lite用液晶モジュールの販売分野であり,前記第3の3(2)エのとおり,当該取引分野における供給者は被審人と日立DPの2社のみである。したがって,2社は,前記1(2)エのとおり,DS Lite用液晶モジュールの任天堂渡し価格を3,390円を目途とする旨合意することにより,価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたと認められるから,本件合意は,DS Lite用液晶モジュールの販売分野における競争を実質的に制限したということができる。
ウ 被審人の主張について
(ア) 被審人は,①任天堂は,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの独占的買い手であり,強大な価格交渉力を有していたこと,②任天堂は,液晶モジュールを供給し得る競争事業者の製品を採用することができる状態にあり,これが強力な参入圧力となっていたこと,③任天堂は,被審人及び日立DPから必要な情報を取得し,その情報を操作することで交渉を有利に進めたことから,④任天堂は,被審人及び日立DPとの取引において,価格も数量もほぼ完全に自由に決定しており,したがって,被審人と日立DPの間に情報交換があったとしても,被審人と日立DPで価格をある程度自由に左右できる状態をもたらすことはできなかったと主張する。
(イ) 前記(ア)②については,前記(1)ウ(ア)b及びcのとおり,各事件の違反行為が行われた当時,任天堂にDS用液晶モジュール又はDS Lite用液晶モジュールを供給することができた事業者は存在しない。また,仮に,TMDあるいは他の事業者が,DS用液晶モジュール又はDS Lite用液晶モジュールを供給することが潜在的に可能であったとしても,当時,任天堂が被審人及び日立DPに対し,TMD等の参入可能性に言及して2社に対して値下げを迫ったり,2社がTMD等の参入可能性を考慮して価格を決定したことを認めるに足りる証拠はないから,各事件の違反行為が行われた時点で,TMD等の将来の参入の可能性が参入圧力になっていたとか,両モジュールの競争の実質的制限を妨げる要因になっていたということはできない。
(ウ) 前記(ア)③及び④については,前記1(1)オ(ア)c及び1(2)カ(ア)cのとおり,任天堂が当初から被審人及び日立DPと妥結すべき価格を決定済みで,誘導の結果,2社とその価格で妥結しており,任天堂が自由に価格を決定していたとはいえない。
(エ) 前記(ア)①については,任天堂はDS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの独占的な買い手であり,証拠(審第40号証,第43号証)によれば,各事件の違反行為が行われた頃,DS及びDS Liteが人気商品で,2社にとって,任天堂が重要な取引先であったことは認められるが,前記(1)ウ(ア)のとおり,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールを供給できる事業者は2社のみで,他の事業者が参入するには相当の時間を要しており,任天堂としても,需要の動向に応じてDS及びDS Liteを製造するには,2社の協力が不可欠であったと考えられることに照らせば,任天堂が2社に対して強大な価格交渉力により,被審人及び日立DPとの取引において価格も数量もほぼ完全に自由に決定していたとまではいえない。
(オ) 以上によれば,任天堂が強力な価格交渉力,参入圧力,情報の操作等により,2社との取引において価格等を自由に決定していたことを理由に,被審人と日立DPがDS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの価格をある程度自由に左右できる状態をもたらしたことを否定する被審人の主張は理由がない。
3 争点3(本件各意思の連絡は,公共の利益に反するか。)
(1) 独占禁止法第2条第6項の「公共の利益に反して」とは,原則として,独占禁止法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指し,現に行われた行為が形式的に不当な取引制限に該当する場合には,上記の保護法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して,一般消費者の利益を確保すると共に,国民経済の民主的で健全な発達を促進するという同法の究極の目的(同法第1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合に限って,同法第2条第6項にいう不当な取引制限行為から除外する趣旨と解すべきである(前掲石油カルテル事件最高裁判決参照)。
本件は,前記2(2)イのとおり,被審人及び日立DPが,DS用液晶モジュール及びDS Lite用液晶モジュールの任天堂渡し価格について,一定の価格より下げない又は一定の価格を目途とする旨の合意をすることにより,各取引分野における競争を実質的に制限したものであるから,2社の行為が自由経済秩序に反するものであることは明らかである。
(2) 被審人の主張について
ア 被審人は,①任天堂は,強大な価格交渉力を有しており,被審人及び日立DPとの交渉を自社が誘導する価格で妥結していたこと,②任天堂の強大な価格交渉力のため,被審人と日立DPの競争関係が希薄になっていたこと,③任天堂は,DS及びDS Liteの希望小売価格に液晶モジュールの値下げ分を反映しておらず,高い利潤を得ていたこと,④任天堂が,2社の情報を独占的に保有し,情報の操作を容易に行い得る立場にあったことから,被審人及び日立DPの情報交換は,売り手としての立場を保全するための受動的・防衛的行為であり,独占禁止法第1条の目的に反しないと主張する。
イ しかし,前記ア①,②及び④については,前記1(1)オ(ア)cのとおり,任天堂が被審人及び日立DPとの交渉において,他社の提示価格を示唆し,交渉を優位に進めようとすることがあったこと,妥結価格の決定に当たり,任天堂の意向がある程度反映されたことは認められるが,前記2(2)ウ(エ)のとおり,任天堂がDS及びDS Liteを製造するには,2社の協力が不可欠であったと考えられることに照らせば,任天堂が強大な価格交渉力を有しており,情報の操作を行い,一方的に価格を誘導して決定していたことを認めることはできない。
前記ア③についても,これを認めるに足りる証拠はないし,仮に,前記ア③の事実が認められたとしても,任天堂及び日立DPによる本件合意を正当化する要因とはいえない。
よって,被審人及び日立DPによる自由競争経済秩序に反することが明白な本件の不当な取引制限行為は,受動的・防衛的行為であることを理由に正当化されない。
ウ 被審人は,取引上強力な地位を有する相手方に対する自衛措置に相当する事業者の合理性を有する行為については,独占禁止法を適用すべきではないと主張し,この考え方に沿う公正取引委員会の先例として事前相談の事例を挙げるが,被審人の挙げる事例は,事案を異にするものであって,前記イの判断を左右するものとはいえない。
4 争点4(1号事件について,被審人に対し,本件排除措置を特に命ずる必要があるか。)
(1) 被審人及び日立DPは,平成18年12月8日,1号事件に係る違反行為(前記1(2)エ)を取りやめた。
独占禁止法第7条第2項は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,事業者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができると規定しているところ,同項の「特に必要があると認めるとき」とは,既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される(東京高等裁判所平成20年9月26日判決・公正取引委員会審決集第55巻910頁参照)。
(2) 本件において排除措置を命ずる必要性
ア 事実関係
(ア) 前記2(1)ウ(ア)のとおり,1号事件に係る違反行為が行われた平成18年11月頃,DS Lite用液晶モジュールを製造できる事業者は2社に限られ,2社は,情報交換等により容易に合意することができる状況にあったが,この状況は,本件排除措置命令が発せられた平成20年12月18日の時点においても変わりがなかった。
(イ) 被審人及び日立DPが,平成18年12月8日に本件違反行為を取りやめたのは,公正取引委員会が,同日,TFT液晶ディスプレイ製造業者らに対する件について被審人らに報告命令を発出し,その旨を電話で連絡したことを契機とするものであり,被審人の自発的意思に基づくものではなかった。
(ウ) 被審人及び日立DPは,前記1(1)のとおり,DS用液晶モジュールについて,平成16年10月頃から価格競争を回避する目的で情報交換を行い,平成17年10月6日に平成17年度下期価格について合意し,その後は,前記1(2)のとおり,DS Lite用液晶モジュールについて情報交換を継続し,平成18年12月頃まで2年余りにわたって情報交換を行っていた。
(エ) 被審人は,1号事件に係る違反行為より前から独占禁止法の遵守に関する行動指針等を作成し,役員及び従業員に対して独占禁止法に関する研修を行っていた(査第51号証)が,1号事件及び3号事件に係る違反行為が行われた。
(オ) 被審人は,本件審判手続において,被審人の多田と日立DPの熊沢の間で情報交換が行われていたにもかかわらず,実質的な価格決定権者であった被審人の方志が多田からの電子メールを読まなかったこと等を理由に日立DPとの意思の連絡を否定するなどして1号事件に係る違反行為の成立を争っている。
イ 判断
前記ア(ア)のとおり,1号事件に係る違反行為のような価格カルテルが行われやすい市場環境がこの違反行為終了後も継続していたこと,前記ア(イ)のとおり,2社が1号事件に係る違反行為を取りやめたのは自発的意思に基づくものではなく,この違反行為終了後も違反行為を行う意欲が消滅していたとは認められないこと,前記ア(ウ)のとおり,被審人と日立DPとの情報交換は長期にわたって行われており,2社の間には協調的な関係が形成されていたと認められること,前記ア(エ)のとおり,被審人は,独占禁止法の遵守に関する行動指針等を作成し,独占禁止法に関する研修を行っていたにもかかわらず,従業員が3号事件及び1号事件に係る違反行為を行ったのであって,これらの取組は不十分であったと認められること,前記ア(オ)のとおり,被審人は,本件審判手続において,従業員間の情報交換の結果を実質的な価格決定権者が知らなかったこと等を理由に価格カルテルが行われたことを否認しており,被審人が,従業員も含めて全社的に独占禁止法違反行為の再発防止に取り組んでいるといえるか疑問の余地があること,以上の状況が認められ,これらを総合すれば,被審人によって,同様の違反行為が繰り返されるおそれがあると認められるから,被審人に対しては,特に排除措置を命ずる必要がある(最高裁判所第一小法廷平成19年4月19日判決・公正取引委員会審決集第54巻657頁参照)。
(3) 被審人の主張について
ア 被審人は,任天堂は,平成20年12月18日の本件排除措置命令の時点で,TMD製のDS Lite用液晶モジュールについて評価試験を行っており,TMDは,この時点で液晶モジュールの販売市場に参入を開始していたから,既に被審人と日立DPのみで価格カルテルを容易に行うことができる状況ではなくなっていたと主張する。しかし,TMDが現実に市場に参入していない以上,被審人と日立DPは,なお2社間で容易に合意することができたと認められるから,被審人の主張は理由がない。
また,被審人は,TMDが,平成21年7月頃,任天堂に対し,DS Lite用液晶モジュールの販売を開始した事実を考慮すれば,市場の状況は大きく変わっており,被審人と日立DPが違反行為を容易に行い得なくなっていたと主張する。
しかし,排除措置命令の必要性は,処分(命令)時を基準に判断すべきであるところ,TMDが任天堂に対してDS Lite用液晶モジュールの販売を開始した事実は,命令後の事情であって,排除措置命令の必要性の判断に当たり,考慮すべきではないから,被審人の主張は理由がない。
さらに,被審人は,TMDが,同月頃,任天堂に対し,DS Lite用液晶モジュールの販売を開始したことにより市場の状況は大きく変化し,排除措置命令を維持することが不適当となったから,本件排除措置命令は,独占禁止法第70条の12第2項によって,取り消されるべきであると主張する。
しかし,独占禁止法第70条の12第2項は,排除措置命令が成立したことを前提として,公正取引委員会が,排除措置命令の発令後に事情の変化等があって,排除措置命令を維持することが不適当であると認めた場合,職権で審判手続を経ずに,これを全部ないし一部解除し得ることを定めたものであるのに対し,審判手続は,排除措置命令の当否を判断するための手続であるから,排除措置命令の発令後の事情変更を理由とした取消しの適否は,審判手続の審理の対象ではなく,被審人の主張は失当である。
イ 被審人は,情報交換の取りやめの際の事情は,1号事件に係る違反行為の終了後約2年が経過した本件排除措置命令の発令の時点における必要性の判断に際し考慮されるべき事情ではなく,また,仮に考慮するとしても,公正取引委員会による審査開始という外部的要因により情報交換を取りやめたのであれば,被審人は,二度と違反行為を繰り返さないという意識に至ったといえるのであり,その後も違反行為を行う意欲を有していたとはいえないと主張する。
しかし,被審人が外部的要因により1号事件に係る違反行為を取りやめた事実は,外部的要因によらなければ取りやめられない程度に被審人が違反行為を行う動機を有していることを示すものであって,違反行為が繰り返されるおそれがあることを基礎付ける事情ということができる。
ウ 被審人は,1号事件に係る違反行為を取りやめてから,本件排除措置命令発令までに2年経過し,被審人と日立DPの情報交換が行われた期間と同期間が経過したこと,被審人と日立DPの間に協調的な関係がないことから,被審人が違反行為を繰り返すおそれは高くないと主張する。
しかし,被審人と日立DPの間には,前記(2)ア(ウ)の2年余りの情報交換により協調的な関係が成立したのは明らかであり,その後の2年間の経過により,この関係が消滅したとはいえず,再び2社間で競争を回避するために本件と同様の違反行為を行うおそれはなお存在するというべきである。
エ 被審人は,被審人の社内において,独占禁止法の遵守に関する啓蒙活動が十分に行われてきたと主張するが,そのような活動が十分に実効性があるものといえるかについて疑問があることは,前記(2)イで説示したとおりである。
5 争点5(3号事件について,実行としての事業活動の終期は,日立DPが任天堂との間でNTR-2の価格交渉を始めた時点か。)
被審人は,NTR-2の存在は,DS用液晶モジュールの価格交渉に影響を与える重要な事情であり,被審人がその存在を認識していない状況では,被審人と日立DPの間にDS用液晶モジュールについて協調的な価格行動を期待することができなくなるから,日立DPが任天堂との間でNTR-2について価格交渉を開始した時点である平成17年10月11日の時点において,DS用液晶モジュールについての被審人と日立DPとの意思の連絡は失われ,カルテルの実行期間は終了したというべきであると主張する。
しかし,前記1(1)オ(オ)のとおり,NTR-2は,両面テープにより強度が高められたこと以外に通常のDS用液晶モジュールと異なるところはなく,通常のDS用液晶モジュールと同等の製品として取引されており,被審人と日立DPの間の合意の対象に含まれていたのであるから,日立DPが任天堂との間でNTR-2について価格交渉を開始することにより,被審人と日立DPの合意が終了したということはできない。よって,被審人の主張は理由がない。
6 結論
(1) 1号事件について
前記1(2)エのとおり,被審人と日立DPは,DS Lite用液晶モジュールの平成19年第1四半期価格について,キット3,390円を目途とする旨合意し,相互に事業活動を拘束することにより,前記3(1)のとおり,公共の利益に反して,前記2(2)イ(イ)のとおり,DS Lite用液晶モジュールの販売分野における競争を実質的に制限したものであるから,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものである。
また,被審人の違反行為は既に消滅しているが,前記4のとおり,被審人に対して特に排除措置を命ずる必要がある。
したがって,本件排除措置命令は適法であって,被審人の審判請求は理由がない。
(2) 3号事件について
ア 違反行為
前記1(1)ウのとおり,被審人は,日立DPとの間で,DS用液晶モジュールの平成17年度下期価格について,現行価格1,900円から100円を超えて下回らないようにする旨合意し,相互に事業活動を拘束することにより,前記3(1)のとおり,公共の利益に反して,前記2(2)イ(ア)のとおり,DS用液晶モジュールの販売分野における競争を実質的に制限したものであるから,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反する。そして,この違反行為が商品の対価に係るものであることは合意の内容から明らかである。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
(ア) 被審人は,DS用液晶モジュールの製造販売業を営んでいた者である。(争いがない。)
(イ) 被審人が,前記アの違反行為の実行としての事業活動を行った日は,前記1(1)ア(イ)a(j)のとおり,被審人が日立DPとの合意に基づきDS用液晶モジュールの価格改定を行った平成17年10月28日であると認められる。また,平成17年度下期を経過した平成18年4月1日以降,当該違反行為を行っておらず,同年3月31日にその実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。したがって,被審人については,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第5条第2項及び第3項の規定により変更して適用される独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成17年10月28日から平成18年3月31日までとなる。
(ウ) 前記実行期間におけるDS用液晶モジュールに係る被審人の売上額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条第1項の規定に基づき算定すべきところ,この規定に基づき算定すると,前記アの違反行為のうち改正法の施行日である平成18年1月4日(以下「施行日」という。)前に係るものについては16億100万5006円,前記アの違反行為のうち施行日以後に係るものについては20億6264万7024円である。(上記各期間中の売上額については争いがない。)
(エ) 被審人は,公正取引委員会による調査開始日である平成20年2月28日の1月前の日までに前記アの違反行為をやめており,当該違反行為に係る実行期間が2年未満であるので,独占禁止法第7条の2第6項に該当する事業者である。
(オ) 被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,
a 前記アの違反行為のうち施行日前に係るものについては,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,前記16億100万5006円に,改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる改正法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第7条の2第1項に規定する売上額に乗ずる率である100分の6を乗じて得た額
b 前記アの違反行為のうち施行日以後に係るものについては,独占禁止法第7条の2第1項及び第6項の規定により,前記20億6264万7024円に100分の8を乗じて得た額
を合計した額から,独占禁止法第7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された2億6107万円となる。
(カ) したがって,被審人に対してこれと同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令は適法であって,被審人の審判請求は理由がない。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人の本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令に係る各審判請求は,いずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成25年3月28日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  後 藤   健

審判官  山 田 健 男

審判官  酒 井 紀 子

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