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日新製鋼(株)による審決取消請求事件

独禁法3条後段,独禁法7条の2

平成24年(行ケ)第10号

判決

東京都千代田区丸の内3丁目4番1号
原告 日新製鋼株式会社
同代表者代表取締役 三喜俊典
同訴訟代理人弁護士 野村晋右
同 池原元宏
同 賜保宏
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 中里浩
同 北脇俊之
同 瀨島由紀子
同 堤勝利
同 関尾順市

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
第1 被告が,公正取引委員会平成21年(判)第31号及び第32号日新製鋼株式会社に対する件について,原告に対し平成24年6月13日付けでした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,鉄鋼及び非鉄金属の製造,加工,販売等の事業を営む原告が,被告から,平成16年4月から平成18年9月までの間,他の事業者と共同して,別紙記載の溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(以下「特定カラー鋼板」という。)のうち建材製品製造業者が定めた仕様に基づき製造したものを当該建材製品製造業者に対して販売する取引(以下,このような形態の取引を「ひも付き取引」という。)での販売価格を引き上げる旨の合意をすること(カルテル)により競争を実質的に制限していたとして,平成21年8月に,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令及び課徴金14億6062万円の納付命令を受けたために,上記各命令の取消しを求めて審判請求をしたが,いずれの審判請求についてもこれを棄却する旨の本件審決を受けたことから,被告に対し,その取消しを求めた事案である。
2 前提となる事実等(掲記の証拠により認められるか又は争いのない事実)
⑴ 排除措置命令における違反行為者
ア 原告,日鉄住金鋼板株式会社(以下「日鉄鋼板」という。),株式会社淀川製鋼所(以下「淀鋼」という。)及びJFE鋼板株式会社(以下「JFE鋼板」という。)は,特定カラー鋼板の製造販売業を営む会社である。
日鉄鋼板は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいた日鉄鋼板株式会社が,平成18年12月11日付けで住友金属建材株式会社(以下「住金建材」という。)から同社の特定カラー鋼板の製造販売事業を承継し,現商号に変更したものである。また,JFE鋼板は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいた川鉄鋼板株式会社(以下「川鉄鋼板」という。)が,平成16年4月1日付けでエヌケーケー鋼板株式会社(以下「エヌケーケー鋼板」という。)との間で川鉄鋼板を存続会社として合併し,同日付けで現商号に変更したものである。
イ 住金建材は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいたが,平成18年12月1日付けで日鉄鋼板に対し吸収分割により同事業を承継させ,以後,同事業を営んでいない。
ウ エヌケーケー鋼板は,特定カラー鋼板の製造販売業を営んでいたが,平成16年4月1日付けで川鉄鋼板との間で川鉄鋼板を存続会社として合併したことにより消滅した。
⑵ 特定カラー鋼板について
ア 特定カラー鋼板は,亜鉛等から成るめっき浴において溶融めっきした溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(以下「めっき鋼板」ともいう。)の表面に合成樹脂塗料を塗装・焼付けした製品のうち,別紙に記載されたものである。特定カラー鋼板は,めっき層の成分内容により,日本工業規格(JIS)においてその規格が詳細に定められており,その用途は屋根材や壁材,ドア材といった建材製品等の多岐にわたっている。
特定カラー鋼板のうち,別紙の1に記載のものは「GIカラー」,別紙の2に記載のものは「GFカラー」,別紙の3に記載のものは「GLカラー」と称されている。
イ 原告のほか特定カラー鋼板の製造販売業を営む会社は,建材製品製造業者が定めた仕様に基づき製造した特定カラー鋼板を,当該建材製品製造業者に対して,直接又は販売業者を通じてひも付き取引によって販売していた。
また,原告のほか特定カラー鋼板の製造販売業を営む会社は,汎用品として製造した特定カラー鋼板を,板金店等の不特定多数の需要家向けに販売するという「店売り取引」と称される取引形態によっても販売していた(査1,4,101,102)。
なお,原告のほか特定カラー鋼板の製造販売業を営む会社は,特定カラー鋼板に加えてめっき鋼板も製造し,特定カラー鋼板と同様に,ひも付き取引又は店売り取引によってこれを販売していた(査4,101,102)。
ウ 特定カラー鋼板を製造販売する鋼板メーカーには,溶鉱炉などの製鉄設備を所有し,鉄鉱石や石炭等の原料を購入して製鉄を行い,原板(ホットコイルと呼ばれる熱延鋼板やコールドコイルと呼ばれる冷延鋼板)を自社で製造している「高炉メーカー」と,溶鉱炉を持たず,高炉メーカーから購入した原板(鋼板)に,溶融亜鉛めっきした溶融亜鉛めっき鋼板や,それに塗装したカラー鋼板を製造する「専業メーカー」がある。特定カラー鋼板を製造販売する高炉メーカーとしては,原告のほか,株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼」という。)等があり,特定カラー鋼板を製造販売する専業メーカーとしては,日鉄鋼板,淀鋼,JFE鋼板,住金建材及びエヌケーケー鋼板等がある(査20,91,100)。
⑶ 原告,日鉄鋼板,淀鋼,JFE鋼板,住金建材及びエヌケーケー鋼板の6社(平成16年4月1日以降は合併により消滅したエヌケーケー鋼板を除く5社,平成18年12月1日以降は吸収分割により事業承継をさせた住金建材を除いた4社であり,以下時期に応じて「6社」又は「5社」という。)のひも付き取引による建材製品製造業者向け特定カラー鋼板(以下「本件ひも付きカラー鋼板」という。)の販売量の合計は,我が国における本件ひも付き特定カラー鋼板の総販売量の大部分を占めていた。
我が国における本件ひも付きカラー鋼板の総販売量のうち,原告の販売量の占める割合は,平成15年度は21.8%(業界第2位),平成16年度は20.2%(業界第3位),平成17年度は18.1%(同),平成18年度は15.7%であった(同)(査9)。
我が国における本件ひも付きカラー鋼板の総販売量のうち,原告を除く高炉メーカーの販売量の占める割合は,平成15年度から平成18年度までの間は,合計4%未満にすぎなかった(査9,20)。
⑷ 平成15年3月以前の協調関係等
ア 原告を含む6社は,平成15年3月以前,かねてから各社の本社及び東京支社の営業担当の部長級又は課長級の者による会合を開催するなどして,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格等について情報交換を行っていた。
この会合には,原告からは,主に小脇修(平成15年6月までは原告の塗装・建材販売部塗装・外装建材チームリーダー,同月から平成16年3月までは原告の塗装・建材販売部長,同年4月1日から平成19年3月31日までは原告の建築建材販売部長。以下「小脇」という。)が出席し,同会合において他社の担当者と価格等に関する情報交換を行っていた。原告以外の高炉メーカーである神戸製鋼等は,上記⑶のとおりシェアは低いものの,本件ひも付きカラー鋼板において6社と競合しており,平成15年3月以前には,上記各社の担当者も上記会合に参加して価格等について情報交換を行っていた(査4,9,21)。
イ 6社は,平成15年3月以前,①上記アの建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引のみならず,②軽量天井メーカー等を需要家とするめっき鋼板のひも付き取引及び③めっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引の3分野について,従前から販売価格等について情報交換を行っていた。6社は,上記3つの分野ごとに会合を開催するなどして協調関係を築き,平成14年以降は上記3分野について共同して値上げを実施していた。
なお,店売り取引の分野とひも付き取引の分野では,各社とも社内で組織が分かれており,その担当者も異なっていることが多かった(査4,12,14,15,審29)。
⑸ ステンレス鋼板立入検査後の状況
ア 被告は,平成15年3月,原告を含む高炉メーカーに対し,冷間圧延ステンレス鋼板等の価格カルテルの疑いで立入検査(以下「ステンレス鋼板立入検査」という。)を行った。原告は,冷間圧延ステンレス鋼板の取引分野におけるカルテルヘの参加を認め,被告は,平成16年1月27日,原告に対し,排除措置を命ずる勧告審決をした(査91,92,102)。
イ 原告においては,ステンレス鋼板立入検査の後,法令遵守の観点から,販売価格に関する情報交換を行うための同業他社との会合への出席を禁止する旨の指示が出され(査6,92,101,審29),小脇は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格に関する他社との会合への出席を控えるようになった。
ウ 原告以外の高炉メーカーは,ステンレス鋼板立入検査を契機に,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格に関する会合に出席することはなくなった(査3,4,17,20,21)。
⑹ 本件排除措置命令の対象とされる違反行為(合意)
6社のうち原告を除く5社(平成16年4月1日以降は,合併により消滅したエヌケーケー鋼板を除く4社であり,以下「専業メーカー5社」又は「専業メーカー4社」という。)は,下記のア~エのとおり,建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引での販売価格について合意した(以下,これらを「本件合意」という。)。
原告の担当者はこれらの会合のいずれにも出席していない。
ア 第1次合意
専業メーカー5社は,平成16年1月20日及び同年2月19日,東京都千代田区一ツ橋所在の日本教育会館の会議室において,担当者による会合を開催するなどして協議をし,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1kg当たり10円引き上げることを合意した(以下,これを「第1次合意」といい,これに基づく値上げを「第1次値上げ」という。)(査4,8,19,20,22~33)。
イ 第2次合意
専業メーカー4社は,平成16年7月12日,東京都中央区築地所在の築地市場厚生会館の会議室において,担当者による会合を開催するなどして協議をし,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年10月出荷分から,現行価格より1kg当たり10円引き上げることを合意した(以下,これを「第2次合意」といい,これに基づく値上げを「第2次値上げ」という。)(査4,21,45~51)。
ウ 第3次合意
専業メーカー4社は,平成17年1月25日,東京都中央区日本橋室町所在のJFE鋼板本社の会議室において,担当者による会合を開催するなどして協議をし,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から現行価格より1kg当たり15円引き上げることを合意した(以下,これを「第3次合意」といい,これに基づく値上げを「第3次値上げ」という。)(査4,53~64,80)。
エ 第4次合意
専業メーカー4社は,平成18年4月17日及び同年6月1日,東京都中央区日本橋本町所在の飲食店「喫茶室ルノアール日本橋本町店」の会議室において,担当者による会合を開催するなどして協議をし(ただし,この2回の会合には住金建材の担当者は参加していない。),本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年8月出荷分から,厚さ0.3mm以下のもの(以下「薄物」ともいう。)にあっては現行価格より1kg当たり15円引き上げること及び厚さ0.3mmを超えるもの(以下「厚物」ともいう。)にあっては現行価格より1kg当たり10円引き上げることを合意した(以下,これを「第4次合意」といい,これに基づく値上げを「第4次値上げ」という。)(査4,66~80)。
⑺ 本件合意(違反行為)の終了
日鉄鋼板は,住金建材との事業統合に当たって独占禁止法遵守体制に係る社内調査を行ったことを契機として,平成18年9月7日,淀鋼,JFE鋼板及び住金建材に対し,本件合意から離脱する旨を通告し,同日以降は鋼板メーカーらにより本件ひも付きカラー鋼板の販売価格についての情報交換は行われておらず,同日以降,本件合意は事実上消滅した(査3,20)。
⑻ 本件合意(違反行為)に係る処分等
被告は,本件合意について,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものであるとして,平成21年8月27日,原告,日鉄鋼板及び淀鋼に対し,排除措置を命じた(平成21年(措)第21号。以下,これを「本件排除措置命令」という。)。
また,被告は,本件排除措置命令に係る違反行為は独占禁止法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,同月27日,原告に対し,14億6062万円の課徴金の納付を命じた(平成21年(納)第59号。以下,これを「本件課徴金納付命令」という。)。
本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の謄本は,同月28日,原告に送達された。
⑼ 原告による審判請求
原告は,平成21年10月1日,本件排除措置命令の取消しを求めて審判請求をするとともに(平成21年(判)第31号審判事件),本件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をした(平成21年(判)第32号審判事件)。
これに対し,被告は,平成24年6月13日,原告の請求をいずれも棄却する旨の本件審決を行った。
⑽ 課徴金算定の基礎となる事実
ア 売上額
被告が原告の違反行為の実行期間であると主張している平成16年4月1日から平成18年9月6日までの期間における本件ひも付きカラー鋼板に係る原告の売上額は,独占禁止法施行令5条1項の規定に基づき算定すると,同法の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)の施行日である平成18年1月4日前に係るものが134億8061万8226円,上記施行日以後に係るものが43億4526万6255円である。
イ 繰り返し違反の加重算定率
原告は,被告による調査開始日である平成20年1月24日から遡り10年以内に平成17年改正法による改正前の独占禁止法7条の2第1項の規定による命令を受けており,当該命令についての審判手続の開始を請求することなく同法48条の2第5項に規定する期間を経過しているので,当該命令は,平成17年改正法附則6条の規定により独占禁止法7条の2第1項の規定による命令であって確定しているものとみなされる。したがって,原告は,平成21年改正法による改正前の独占禁止法7条の2第6項1号に該当する事業者であり,5割の加重がされた課徴金算定率が適用される。
3 本件審決における争点及びこれに関する原告の主張
本件審決においては,主として,①原告の違反行為(独占禁止法2条6項の不当な取引制限)の存否(原告が本件合意に参加していたか否か,すなわち担当者が会合に参加していないにもかかわらず,本件合意の内容が原告に伝達されたのか,されたとすればどのようにして伝達されたのか),②独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」該当性の有無(原告が販売した本件ひも付きカラー鋼板のうち,原告が三和シヤッター工業株式会社(以下「三和シヤッター」という。)向けに販売した本件ひも付きカラー鋼板が,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」に当たるか否か,すなわち本件ひも付きカラー鋼板のうち,三和シヤッター向けに販売されたものについて黙示的に本件合意の対象から除外したことをうかがわせるに足りる特段の事情が認められるか)の2点が争点とされ,これらに関して原告はおおむね以下のとおり主張した。
⑴ 争点⑴(原告の違反行為の存否)について
ア 以下に述べる各事情に照らし,原告の従業員は,本件合意がされた専業メーカー5社の会合には一切参加しておらず,専業メーカー5社が本件合意により決定した値上げ幅や値上げ時期等の内容が原告には伝えられていないから(第4次合意に関しては,仮に,その旨伝えられたとしても原告は歩調をそろえて値上げすることを拒否した。),原告と専業メーカー5社との間に意思の連絡はなく,原告が本件合意に加わったということはできない。
イ 小脇の絶縁宣言等
上記2⑸イのとおり,ステンレス鋼板立入検査後,原告の社内では,コンプライアンス体制が厳格化され,独占禁止法違反行為を一掃すべく,各営業部門に対し他社との会合等への出席を控えるよう指示が出された。そこで,小脇は,平成15年頃,日鉄鋼板の担当者に対し,今後は専業メーカー5社との会合へ出席することは不可能となり,絶縁する旨述べ,このような絶縁の意思を他社の担当者にも伝えるよう依頼した。その後,実際に,原告と専業メーカー5社との間の連絡は途絶え,原告はカルテルから離脱し,専業メーカー5社との協調関係は解消された。
ウ 日鉄鋼板の荒木は連絡役を務めてはいないこと
日鉄鋼板の荒木善行(日鉄鋼板における建材製品製造業者向けカラー鋼板のひも付き取引の担当者であり,同社の鋼板営業部第二鋼板営業グループ長。以下「荒木」という。)は,専業メーカー5社の会合等の場において,原告に対する連絡役を引き受ける旨の発言を一切していないし,また,実際にそのような連絡役としての行動はなく,原告の小脇に対し専業メーカー5社による本件合意の内容を伝えたことはない。荒木が,小脇に対する本件合意の連絡役を務めたことについては,小脇及び荒木の両者が共に否定している。他方,荒木が連絡役であった旨の専業メーカーの担当者らの供述は,荒木が連絡役であることを推測させるにすぎないものも多く,審査官による根拠に乏しい推論に基づく強い誘導によってされた供述であると考えられ,その信用性には疑問がある。
エ 原告の参加が必須のものではなかったこと
本件ひも付きカラー鋼板の販売において,原告のシェアは低く,YKKAP株式会社(以下「YKKAP」という。)及び三和シヤッターとの関係を除けば,原告は専業メーカー5社から重視されておらず,原告が本件合意に加わらなくとも,専業メーカー5社による値上げの実施は困難なことではなかった。
また,本件合意の当時,カラー鋼板の原材料である鉄鉱石,石炭又はホットコイルの価格が右肩上がりに上昇し,カラー鋼板の需給がひっぱくしており,市場及び需要家もある程度値上げに同意せざるを得ない状況であったことから,本件合意を実現する上で原告が同調する必要はなかった。
さらに,専業メーカー5社による会合(進捗会議等)において,原告が本件合意の内容に沿った値上げをしているか否か等についての確認あるいは報告などはされておらず,専業メーカー5社は原告をカルテルのメンバーとして扱っていなかった。
オ 原告における本件ひも付き取引の扱い
小脇は,カラー鋼板及びめっき鋼板の店売り取引については,他社に対し協調関係を断絶する意思を伝えたものの,ファインスチール分科会において他社の関係者と会う機会も多く,他社の担当者との間で相互に人間関係が構築されており,また,同取引が小脇の業務部門が利益を確保する上で重要であったため,ステンレス鋼板立入検査後も他社との関係を終わらせる明確な行動をとることができなかった。
他方,本件ひも付きカラー鋼板の取引においては,小脇と他社の担当者との関係は,店売り取引のように密ではなく,むしろ,本件ひも付きカラー鋼板の取引では過去にも他社の裏をかいてシェアを奪おうとするケースが頻発していたことから,小脇は,専業メーカーの担当者(特に川鉄鋼板の担当者)を信用していなかった。また,本件ひも付きカラー鋼板の取引のうち,原告の最重要顧客である三和シヤッターとの取引については,原告が約90%のシェアを有しており,かつ,三和シヤッターと原告との間に特別な関係があったことから,他社の動向を気にする必要がなかったこと,小脇は,自らが三和シヤッターとの取引を担当しているわけではなかったこと,本件ひも付きカラー鋼板の取引は,店売り取引と比較すると,利益率が低く,取引量も少なかったことから,小脇の本件ひも付きカラー鋼板の取引についての開心は極めて低かった。そのため,小脇は,ステンレス鋼板のカルテルが発覚する頃には,本件ひも付きカラー鋼板に関する会合にほとんど出席していない状態であり,ステンレス鋼板立入検査後は,少なくとも,本件ひも付きカラー鋼板のカルテルに,あえて法を犯してまで参加する意思を有していなかった。
カ 第1次合意について
原告は,第1次合意の内容について伝達を受けておらず,原告と専業メーカー5社との間に意思の連絡はなかった。
小脇は,平成16年2月19日の飲食店「海女小屋」における懇親会には出席したが,その目的はあくまでも親睦を深めるというものにすぎず,また,この懇親会において本件ひも付きカラー鋼板の値上げに関する話題は出ておらず,同懇親会で第1次合意の内容が小脇に伝達された事実はない。
小脇は,JFE鋼板の菊池格志(以下「菊池」という。)らと共に,同年5月31日に飲食店「旬三昧うるわし」で,同年6月22日に飲食店「小洞天有楽町店」で,それぞれ会食をしたが,これは,JFE鋼板が,原告とJFE鋼板それぞれの北陸支店間の関係が良好ではなかったのを改善しようとして,積極的に原告に接近しようとして設けられた会食であり,この場において,原告とJFE鋼板との間でYKKAPに対する値上げについて具体的な協議も合意もされなかった。
キ 第2次合意について
原告は,平成16年7月12日の築地市場厚生会館における専業メーカー4社の会合には出席していないし,第2次合意の内容について伝達を受けておらず,専業メーカー4社との間に第2次合意について意思の連絡はなかった。
ク 第3次合意について
原告は,平成17年1月25日のJFE鋼板本社における専業メーカー4社の会合には出席していないし,第3次合意の内容について伝達を受けておらず,専業メーカー4社との間に第3次合意について意思の連絡はなかった。
ケ 第4次合意について
原告は,平成18年4月17日及び同年6月1日の「喫茶室ルノアール日本橋本町店」における専業メーカーの会合には出席していない。
原告の小脇の部下である末次力(以下「末次」という。)は,同年6月9日,日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池及び淀鋼の保知昇(以下「保知」という。)の訪問を受けて同人らと面会したが,この3名による訪問を単なる挨拶と考えていたし,本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて同調を求められていると感じることはなく,一般的な市況の話に終始させる対応をとった。また,チームリーダーの立場にある末次は,本件ひも付きカラー鋼板について専業メーカー間でカルテルが行われていることを認識していなかったところ,それに参加する結果となる重要な決定について,部長である小脇に何ら相談することもなくその場で回答するはずがない。上記のとおりの末次の対応から,専業メーカーの担当者3名は,原告が第4次値上げに同調する意向がないものと認識した。
よって,第4次合意についても,原告と専業メーカー4社との間に意思の連絡はない。
なお,第4次値上げは,板厚に応じて値上げ幅が異なる等という初めての試みが含まれた内容であるため,専業メーカーの担当者らは,原告にも足並みを揃えてもらう必要があると考えて原告を訪問したのであり,専業メーカーの担当者らが,第4次値上げに際して原告の担当者に直接会って同調を求めようとしたこと自体,当時,専業メーカー4社が原告を本件合意によるカルテルの参加者であるとは認識していなかったことを示すものである。
コ 原告における値上げ状況
原告における各期の値上げ状況は,いずれも本件合意とはほど遠いものだった。特に,第4次合意については,①期中の値上げであること及び②板厚により値上げ幅に差を設けていることの2点において従前の値上げと異なるものであったところ,原告においては,店売り取引によるものについては平成18年7月出荷分からの値上げを決定したが,本件ひも付きカラー鋼板については,値上げを需要家に応じてもらうのは困難であると考え,同期中には値上げをせず,板厚により価格差を設けることはしなかった。このように,実際の原告の各需要家に対する値上げ方針において上記2点はいずれも採用されておらず,第4次合意の内容とは全く異なっている。
また,原告の需要家であるYKKAP,三和シヤッターに対する値上げ状況についても同様であり,いずれも本件合意とは全く一致していない。
サ 原告のシェアの下落
上記2⑶のとおり,我が国における本件ひも付きカラー鋼板の総販売量のうち,原告の販売量の占める割合(シェア)は,平成15年度は21.8%,平成16年度は20.2%,平成17年度は18.1%,平成18年度は15.7%であり,わずか4年間で6ポイント強も下落し,原告は約25%ものシェアを落としている。本件合意に基づくカルテルの大原則は「シェア移動の禁止」であったのであり,仮に原告が本件合意によるカルテルに参加していたならば,このようなシェアの下落はなかったはずである。
シ 違反行為の終了時の状況
上記2⑺のとおり,日鉄鋼板は,平成18年9月7日,淀鋼,JFE鋼板及び住金建材に対し,本件合意から離脱する旨を通告したが,原告に対してはこのような通告はなかった。
⑵ 争点⑵(「当該商品」該当性)について
ア 仮に,原告の違反行為が認められる場合であっても,以下のとおり,原告と三和シヤッターとの間の取引関係,当該取引の担当部門,価格決定方法等が他の取引先とは大きく異なっていることを考慮すれば,原告が三和シヤッター向けに販売した本件ひも付きカラー鋼板については,黙示的に本件合意の対象から除外したことをうかがわせる特段の事情が認められ,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないから,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。
(ア) 両社の取引関係の特異性
原告と三和シヤッターとの取引は,原告の前身の日亜製鋼株式会社の工場が兵庫県尼崎市に所在し,三和シヤッターの創業地と近接していたという経緯もあって,昭和31年の三和シヤッターの設立以降,現在まで50年以上の長期に及んでおり,両社は,単なる取引先としての関係を超えた極めて密接で特殊な取引関係にある。そして,本件ひも付きカラー鋼板の取引においても,このような両社間の取引関係が色濃く反映され,両社の経営者レベルの政策的な配慮が働くことも多く,単純に市況や原材料の上昇を反映させるのではなく,中長期的な視点から,販売価格の設定を通じて,原告から三和シヤッターに対する実質的な金融的協力がされる場合もある。
また,原告は,三和シヤッターが購入する本件ひも付きカラー鋼板について,およそ90%という圧倒的なシェアを有している。
(イ) 担当部門の違い
上記のような取引関係を反映して,原告の社内では,平成19年4月まで,原告の小脇が所属する部門とは異なる鋼板販売部が,三和シヤッターとの取引を担当しており,両部門間で頻繁に情報が交換されることはなかった。
(ウ) 価格の決定方法
原告と三和シヤッターとの価格交渉においては,原告が取り扱っている全ての品種について個別に交渉されるのではなく,ベースメタル(基本となる鋼板)であるGA鋼板(合金化溶融亜鉛めっき鋼板。原告における商品名は「ペンタイト」。以下「ペンタイト」という。)の価格変動幅を交渉し,その決定された変動幅に連動してペンタイト以外の製品の価格変動幅も自動的に決定されることになっていた。したがって,ペンタイトに対応するGA鋼板を製造しておらず,三和シヤッターとの間では特定カラー鋼板の販売価格のみを交渉の対象としている専業メーカーと原告とでは状況が大きく異なっている。
ペンタイトの価格交渉においては,原材料価格の状況や鋼板需給の動向,従前の価格改定の状況,競合する高炉メーカーとの競争状況等が考慮されたが,ペンタイトに対応するGA鋼板を三和シヤッターに納入していない専業メーカーにおける本件ひも付きカラー鋼板の値上げの動向が考慮されることは全くなかった。
(エ) 他の事業者との競合性
上記のとおり,原告と三和シヤッターとの間には,極めて密接で特殊な取引関係があるため,同社に対する本件ひも付きカラー鋼板の取引に関し,原告以外の他の事業者が参入する余地は極めて乏しく,実際にも,原告の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアは90%を超えている。したがって,三和シヤッターとの取引については,もはや他の事業者との競争を通じてより低い価格が形成されるという競争のメカニズムが働き得ない状況にあり,他の事業者との競合性はない。
日鉄鋼板も淀綱も,三和シヤッターと取引をしているが,両社が三和シヤッターに販売しているのは,ドア面材用のカラー鋼板(プリント鋼板)であり,原告が三和シヤッターに対して販売している軽量シャッター用又は窓シャッター用のカラー鋼板との間には商品としての代替性はなく,何らの競合性もない。
(オ) 他社の認識
専業メーカー5社も,三和シヤッターとの関係について,原告は別格であり,他の需要家に対する関係とは違うと認識していた。この点に関しては,三和シヤッターの購買担当者も同様の認識である。
イ 課徴金算定の基礎から除外すべき売上額
原告が三和シヤッター向けに販売した特定カラー鋼板の売上額は,合計76億4728万5020円(うち平成16年4月1日から平成18年1月3日までが57億5718万1610円,平成18年1月4日から同年9月6日までが18億9010万3410円)であり,上記金額は,課徴金の算定の基礎から除外されなければならない。
4 本件審決の判断
被告は,本件審決において,上記の争点について,おおむね以下のとおり判断した。
⑴ 争点⑴(原告の違反行為の存否)について
ア 認定事実
(ア) ステンレス鋼板立入検査前の協調関係等
a 6社等は,平成14年1月又は2月頃から,①建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引(本件ひも付きカラー鋼板の取引),②軽量天井メーカー等向けのめっき鋼板のひも付き取引及び③めっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引という分野ごとに会合を開催するようになり,めっき鋼板,カラー鋼板等の値上げの実施時期,値上げ幅等について合意し,共同して値上げを実施していた。
この頃は,原告以外の高炉メーカーである神戸製鋼等も上記会合に参加していた。(査2,12,14,15,17~19,91,92,100,101)
b 小脇は,ステンレス鋼板立入検査前は,上記①本件ひも付きカラー鋼板の取引及び③めっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引を担当し,いずれの分野においても,鋼板メーカーの会合に出席するなどして,専業メーカーを含む他社の担当者との間で値上げに関する情報交換をしたり,他社と競合して本件ひも付きカラー鋼板を販売している場合に,個別の需要家ごとに値上げを実現させるための値上げ交渉の方法(値上げ交渉に行く時期や順番等)について,「相対」と称して,個別に面会したり電話をかけたりして連絡を取り合い,相互に調整を繰り返しながら値上げ交渉を行ったりしていた(査6,11,15,17,18,100,審29,参考人菊池格志,同石田正人)。
原告の大口需要家である三和シヤッターについては,小脇が所属していた塗装・建材販売部ではなく,鋼板販売部が担当していたが,小脇は,他の鋼板メーカーとの合意内容等を鋼板販売部の担当者に伝えたり,鋼板販売部の担当者から聞いた三和シヤッターとの交渉状況等の情報を他の鋼板メーカーに伝えるなどして,三和シヤッターについても他社と共同して値上げ交渉を実施していた(査6,審27,29,参考人小脇修)。
(イ) ステンレス鋼板立入検査後の状況等
a 原告以外の高炉メーカーは,平成15年3月のステンレス鋼板立入検査を契機に,本件ひも付きカラー鋼板等の販売価格に関する鋼板メーカーによる会合に出席せず,価格に関する情報交換等をしなくなり,鋼板メーカー間の従前からの協調関係から離脱した(査1~4,10,17,19~21,参考人菊池,同荒木)。
b 上記第2の2⑸イのとおり,ステンレス鋼板立入検査後,原告においても,法令遵守の観点から,販売価格に関する情報交換を行うための同業他社との会合への出席を禁止する旨の指示が出され,小脇は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格に関する他社との会合への出席を控えるようになった。
また,原告においては,ステンレス鋼板のカルテルについて被告の排除措置命令が出された平成16年1月27日以降,改めて,社内でコンプライアンスに関する文書を回覧させるなど従業員に対する教育が行われた(参考人小脇)。
c 原告は,高炉メーカーではあるものの,前記第2の2⑶のとおり,本件ひも付きカラー鋼板の販売分野において,他の高炉メーカーのシェアが合計4%未満にすぎないのに対し,原告1社で約15~21%で業界2位ないし3位という相応のシェア及び地位を有している。また,本件ひも付きカラー鋼板の市況に影響力を持つ需要家であるYKKAP及び三和シヤッターにも販売していることなどから,専業メーカー5社の担当者は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格の値上げを実現するに当たっては,値上げに係る合意に原告が加わることが必要不可欠であると考えており,このような事情は,ステンレス鋼板立入検査の前後で変わらなかった(査1,2,9,19,20,参考人菊池,同石田,同荒木,同長谷川純一)。
d 小脇は,ステンレス鋼板立入検査の後,淀鋼の石田正人(以下「石田」という。)等に対し,原告においてコンプライアンスが厳しくなったため,専業メーカー5社との会合に参加することはできなくなったが,1対1で専業メーカーの担当者と会って話したり,電話で話すことは構わないし,夜の飲み会に誘ってもらうことも構わない等の発言をした。これにより,専業メーカー5社の担当者らは,ステンレス鋼板立入検査後,原告は,会合には出席しないものの,従前からの専業メーカーらとの協調関係から離脱することはなく,合意内容等の連絡を受けるなどして引き続き値上げの合意に加わる意思があるものと認識した。(査4,8,19~21,24,参考人菊池,同石田,同長谷川)
e 日鉄鋼板の荒木は,ステンレス鋼板立入検査後,専業メーカー5社による会合等の場において,同人が原告に対し専業メーカー5社による合意内容等を伝達する旨発言したことがあった(査3,19~21,46,53,79,審30,参考人石田,同長谷川)。
(ウ) 第1次合意について
a 平成16年1月20日の専業メーカーによる会合
平成16年1月20日,日本教育会館において専業メーカー5社の担当者による会合が開催された。この会合には,原告の従業員は出席しなかった。
専業メーカーの会合においては,日鉄鋼板の荒木又はJFE鋼板の菊池が幹事役を務めることが多かった。この会合においては,専業メーカー5社の担当者らは,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1kg当たり10円の値上げをすることとし(第1次合意),上記値上げについて各社が需要家の感触を得た上で,約1か月後に再度専業メーカーの担当者による会合を開催することを決めた。(査4,8,19,20,22,24~28,参考人菊池,同石田)
b 平成16年2月19日の専業メーカーによる会合
平成16年2月19日,日本教育会館において専業メーカー5社の担当者による会合が開催された。
この会合においては,専業メーカー5社の担当者らは,前記aの同年1月20日の会合で合意した値上げ方針に対する需要家の反応について確認した上,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から現行価格より1kg当たり10円値上げすることを合意した。(査4,8,22,23,29~33,参考人菊池,同石田)
c 平成16年2月19日夜の「海女小屋」での懇親会
上記bの日本教育会館における会合の終了後,同会合の出席者らは,東京都中央区八重洲に所在する飲食店「海女小屋」において懇親会を行った。小脇は,日本教育会館における会合には出席していなかったが,この「海女小屋」における懇親会には参加した(当事者間に争いがない。)。
この懇親会においては,カラー鋼板等の値上げに関する話題が出ていたし,第1次合意に関する話題も出ていた。これに対し,小脇は,カラー鋼板等の価格に関する話題を拒絶するような言動をとることはなかった。(査4,20,22~24,参考人菊池,同石田)
d 専業メーカー5社は,個別の需要家に対して他社と競合して本件ひも付きカラー鋼板を販売している場合に,相対により,個別の需要家ごとに値上げを実現させるための値上げ交渉の方法(値上げ交渉に行く時期や順番等)について,競合する会社間で面会したり電話をかけたりして連絡を取り合い,相互に調整を繰り返しながら値上げ交渉を進めた(査52)。
e 原告とJFE鋼板の接触状況等
(a) 平成16年5月31日の「旬三昧うるわし」での会食
原告とJFE鋼板は,特定カラー鋼板のひも付き取引の需要家であるYKKAPに対して競合しているところ,小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成16年5月31日,東京都千代田区鍛治町に所在する飲食店「旬三味うるわし」において,会食をした(当事者間に争いがない。)。
エヌケーケー鋼板との合併によりJFE鋼板となる前の川鉄鋼板は,以前,鋼板メーカー間の合意に反し,YKKAPに安値を提示して,原告のYKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアを奪ったことがあったため,川鉄鋼板と原告との関係は,この分野に関しては険悪となっていた。菊池は,平成16年4月1日に新たに発足したJFE鋼板の第二鋼板営業部長となったため,原告との関係を修復し,YKKAPに対し,原告と共同して本件ひも付きカラー鋼板の値上げに取り組もうと考え,同年5月頃,小脇に電話をして会食の約束をした。(査20,24,参考人菊池,同小脇)
この会食の席において,菊池が,小脇に対し,YKKAPに対する販売価格が低迷して収益が悪化していることから,JFE鋼板と原告とが協調してYKKAPに対する値上げを実現していくことを求めたところ,小脇は,これに同意し,原告においてもYKKAPについては収益が悪化しているため,むしろ積極的に共同して値上げをやってほしい旨述べた。また,YKKAPの購買窓口は富山県に所在しているため,原告においては北陸支店,JFE鋼板においては北陸営業所がそれぞれYKKAPに対する実際の値上げ交渉等を行っているところ,小脇及び菊池は,近いうちに,北陸支店等の責任者を交えて再度懇親会を行うことを約束した。(査20,24,参考人菊池,同小脇)
(b) 平成16年6月22日の「小洞天」での会食
小脇及びJFE鋼板の菊池並びに両社の北陸支店等においてYKKAPに対する営業を担当する原告の脇村司郎(原告の北陸支店長。以下「脇村」という。)及びJFE鋼板の馬場功(JFE鋼板の北陸営業所長。以下「馬場」という。)の4名は,平成16年6月22日,東京都千代田区有楽町に所在する飲食店「小洞天有楽町店」において会食を行った(当事者間に争いがない。)。
この会食は,小脇及び菊池が,上記(a)の「旬三昧うるわし」での会食の際に約束したとおり,両社の北陸支店等の責任者である脇村及び馬場を交えた懇親会であり,脇村及び馬場は,いずれも富山から東京まで出張した扱いとされている。この会合において,上記4名は,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて,収益改善のため,お互いに価格の目標値を共有して協調していくことを確認し,具体的にYKKAPに申し入れる値上げ幅として1kg当たり15円から20円を目標にする旨を確認した。(査20,21,24,40,42,参考人菊池)
(c) 原告の脇村及びJFE鋼板の馬場は,上記(b)の「小洞天」における会食の後,富山市内のホテルで面会したり,電話で連絡を取り合うなどし(当事者間に争いがない。),YKKAPに対する特定カラー鋼板の価格交渉等について情報交換をした(査44)。
(d) 上記(b)の「小洞天」における会食の後,小脇及びJFE鋼板の菊池は,菊池が原告の本社を訪問したり,電話で連絡を取り合うなどして,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の取引について,用途別に具体的な値上げの目標値を設定し,お互いの値上げ交渉のスケジュールを個別に打合せ,お互いの交渉状況についても情報交換をしながら,YKKAPとの価格交渉を進めた(査20,参考人菊池,同小脇)。
(e) 原告は,本件ひも付きカラー鋼板の需要家である日軽パネルシステム株式会社(以下「日軽パネルシステム」という。)に対してもJFE鋼板と競合しているが,その販売シェアはJFE鋼板と比較すると小さく,JFE鋼板等と日軽パネルシステムの間の値上げの決着を待ってから,日軽パネルシステムに対する値上げ交渉を進めることが多かったことから,原告の小脇がJFE鋼板の菊池に電話をかけ,日軽パネルシステムに対するJFE鋼板の値上げ交渉の進捗状況を尋ね,菊池がこれに回答したことが2度ないし3度はあった(査20,参考人菊池)。
f 原告と淀鋼の接触状況等
小脇及び淀鋼の石田は,電話で連絡を取り合い,本件ひも付きカラー鋼板について両社が競合する取引先である三和シヤッターに対する値上げ交渉について情報交換等をしていた。原告の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の販売シェアは圧倒的に大きいため,淀鋼としては,三和シヤッターと値上げ交渉を進める上で,原告と三和シヤッター間の値上げ交渉の情報が必要であったことに加えて,他のシャッターメーカーとの価格交渉においても,シャッターメーカー業界の最大手である三和シヤッターに対する値上げ状況が影響を及ぼすことから,原告の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉に関する情報を入手する必要性が高かった。(査19,21,80,参考人石田)
また,淀鋼の石田は,小脇から,電話によってYKKAPなど三和シヤッター以外の需要家との交渉状況等についての情報も得ていた(参考人石田)。
(エ) 第2次合意について
a 平成16年7月12日の専業メーカーによる会合
平成16年7月12日,築地市場厚生会館において専業メーカー4社の担当者による会合が開催された。この会合には,原告の従業員は出席しなかった。
この会合においては,専業メーカー4社の担当者らは,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年10月出荷分から,現行価格より1kg当たり10円の値上げをすることを合意した(第2次合意)。(査4,21,45~51,参考人菊池,同石田)
b 原告とJFE鋼板の接触状況等
(a) 小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成16年7月中旬頃から8月頃までの間,菊池による原告本社の訪問又は電話で連絡を取り合うなどして,YKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板の取引について,具体的な値上げの目標値を設定し,お互いの値上げ交渉のスケジュールを打合せ,お互いの交渉状況についても情報交換をしながら,YKKAPとの価格交渉を進めた(査20,52,参考人菊池,同小脇)。
(b) 北陸においては,JFE鋼板の馬場が,YKKAPに対する特定カラー鋼板の値上げに関して,原告が合意のとおりに動いていない旨発言したことを契機として,両社の北陸支店等の責任者である馬場及び脇村の人間関係が悪化し,平成16年12月24日に電話で話したのを最後に,両社の北陸支店等間でYKKAPに対する取引に関する情報交換等ができない状態となった。
そこで,JFE鋼板の菊池は,原告の小脇に電話で連絡し,東京にいる同人らが「ブリッジ」する,すなわち,YKKAPに対する値上げ交渉の状況等を連絡し合った上で,その内容をそれぞれ北陸の責任者(馬場及び脇村)に指示することによりYKKAPに対する値上げ交渉を進めることを提案したところ,小脇はこれに同意し,実際にそのような形でYKKAPとの交渉が進められた。(査44,52,審29,参考人菊池)
(オ) 第3次合意について
a 平成17年1月25日の専業メーカーによる会合
平成17年1月25日,JFE鋼板本社の会議室において専業メーカー4社の担当者による会合が開催された。この会合には,原告の従業員は出席しなかった。
この会合においては,専業メーカー4社の担当者らは,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,同年4月出荷分から,現行価格より1kg当たり15円の値上げを行うことを合意した(第3次合意)。(査4,53~64,80,参考人菊池,同長谷川)
この会合の席で,日鉄鋼板の荒木は,会合の内容については同人から原告に伝えておく旨の発言をした(査3,53,79,80,参考人長谷川)。
b 平成17年2月2日のエキストラ価格に関する会合
専業メーカー4社の担当者は,平成17年2月2日,ホテルイースト21東京において会合を開催し,本件ひも付きカラー鋼板のベース価格に関する値上げ幅に加えて,それまで統一されていなかったエキストラ価格(特殊なロット,縮みの加工,メタリック塗装などの付加価値に応じたオプション価格)についても見直しを実施することとし,具体的には,複数社が同じような仕様で本件ひも付きカラー鋼板を納入していることから比較しやすいユーザーであるアイジー工業株式会社(以下「アイジー工業」という。)について,各社のエキストラ価格を披露し合い,値上げの目標価格を設定するなどした(査53,54,62,64,参考人菊池)。
c 平成17年3月23日の専業メーカーによる会合
専業メーカー4社の担当者らは,平成17年3月23日,飲食店「喫茶室ルノアール秋葉原店」において,会合を行ったが,その席上で,原告のYKKAPに対する値上げ交渉の状況について報告がされた(査53,109,参考人長谷川)。
d 原告とJFE鋼板の接触状況等
小脇及びJFE鋼板の菊池は,平成17年2月の上旬から中旬頃までの間,頻繁ではなかったが,電話で連絡するなどして,YKKAPに対する平成17年4月出荷分からの特定カラー鋼板の値上げについて,情報交換等を行った(査52,54,参考人菊池)。
(カ) 第4次合意について
a 平成18年4月17日の専業メーカーによる会合
平成18年4月17日,「喫茶室ルノアール日本橋本町店」において専業メーカー4社のうち住金建材を除く3社の担当者による会合が開催された。この会合には,原告の従業員は出席しなかった。
この会合においては,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,①従前は上期の始まりである4月又は下期の始まりである10月のいずれかを実施時期として値上げの合意をしていたが,この第4次合意においては平成18年度上期の期中に値上げを行うこと,②特定カラー鋼板は,重量で換算すると,板厚が薄くなるほど亜鉛の使用量が多くなり,亜鉛価格高騰によるコストの増加が大きいことから,本件ひも付きカラー鋼板の板厚により値上げ幅に差を設けることという2点において,従前とは異なる基本方針が決定された。具体的な値上げ幅や値上げの実施時期などについては,他分野(めっき鋼板のひも付き取引やめっき鋼板及びカラー鋼板の店売り取引)における値上げの状況を確認した上で,後日,再度会合を行い決定することとされた。(査66~72,79,参考人菊池,同長谷川)
b 平成18年6月1日の専業メーカーによる会合
平成18年6月1日,「喫茶室ルノアール日本橋本町店」において専業メーカー4社のうち住金建材を除く3社の担当者による会合が開催された。この会合には,原告の従業員は出席しなかった。
この会合においては,専業メーカーの担当者らは,上記aのとおり決定された基本方針に基づき,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,①平成18年8月出荷分から,厚さ0.3mm以下の特定カラー鋼板(薄物)にあっては,現行価格より1kg当たり15円引き上げる,②平成18年8月出荷分から,厚さ0.3mmを超える特定カラー鋼板(厚物)にあっては,現行価格より1kg当たり10円引き上げることを合意した(第4次合意)。(査4,66,67,72~80)
専業メーカーの担当者らは,この第4次合意は,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,期中である8月から値上げをし,薄物と厚物の値上げ幅に格差を付けるという初めての試みが含まれていたことから,これを確実に原告に伝える必要があり,また,高炉メーカーである原告は,専業メーカーとはコスト構造が異なることから,本件ひも付きカラー鋼板の値上げに消極的な姿勢を示されるのではないかという懸念があったため,原告を訪問して第4次合意の内容等について説明をすることとした(査4,67,72,76,79,80,参考人菊池)。
c 日鉄鋼板の荒木は,その後,原告の小脇に電話をし,本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨伝えたところ,小脇は,部下である末次(平成18年4月1日から店売り取引とひも付き取引のカラー鋼板の営業責任者である建築建材販売部塗装・建材チームリーダー)を紹介し,荒木は,末次に,本件ひも付きカラー鋼板の値上げについて話をしたい旨伝えたところ,末次はこれに応じ,両者は,平成18年6月9日午後2時から原告の本社において面談をすることを約束した(査72,78,108,審28,30,参考人荒木,同末次)。
d 専業メーカー担当者による原告への訪問
日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池及び淀鋼の保知の3名は,平成18年6月9日,原告の本社を訪問して,末次及び太田恵久(原告の建築建材販売部塗装・建材チーム主任部員。以下「太田」という。)と面談し,値上げの方針について述べた(当事者間に争いがない。)。
荒木,菊池及び保知の3名は,末次及び太田に対し,亜鉛の高騰等に対応するため,本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,期中である同年8月から値上げをし,薄物と厚物の値上げ幅に格差を設けることなど第4次合意の内容を説明した上で,原告においても是非同調して値上げ交渉をしてほしい旨を伝えた。これに対し,末次は,やはり亜鉛の高騰によるコスト増は非常に影響が大きいと述べ,他の高炉メーカーの状況を専業メーカーの担当者らに尋ねるなどし,第4次合意の内容については,特に薄物の15円の値上げや値上げ時期が8月であることに対して違和感があるといった反応を示したものの,専業メーカー4社と同調することについて拒絶をすることはなく,菊池及び保知は,原告も第4次合意に加わり値上げに同調してくれるものと認識した。(査4,65,67,79,80,審28,参考人菊池,同荒木,同末次)
なお,上記面談の際,菊池は,末次に対し,原告が製造販売しているZAMカラー(下記(キ)のとおり。)も値上げの対象となることについて確認をした(査67)。
e 平成18年6月19日の専業メーカーによる会合
平成18年6月19日,「喫茶室ルノアール日本橋本町店」において,専業メーカーの担当者による会合が行われ,淀鋼の長谷川純一(以下「長谷川」という。),同社の保知,日鉄鋼板の髙橋功治(以下「髙橋」という。),JFE鋼板の室伏秀雄及び同社の上坂卓也(以下「上坂」という。)らが出席した。この会合においては,大手の需要家に対してはトップシェアの鋼板メーカーがまず交渉に行き,その他の需要家に対しては相対で話し合って値上げ交渉の順番を決めるという方法で値上げしていくことが改めて確認されるなどした。その中で,原告がYKKAPや三和シヤッターに対して値上げ交渉に動くことやその時期についての報告がされた。(査72,80,参考人長谷川)
(キ) ZAMカラーについて
a ZAMカラーとは,アルミニウム及び亜鉛に加えてマグネシウムが含まれる合金でめっきしたZAMというめっき鋼板に塗装したもので,JIS規格には対応していない製品であり,原告が特許権を有し,原告のみが製造している製品である。ZAMカラーは,GIカラーなどJIS規格に対応する製品とはめっきの成分に違いはあるものの,GIカラーなどと同様に建材製品製造業者向けに販売され,同じような用途に用いられていることから,専業メーカーが販売するGIカラーなどJIS規格に対応する製品と競合している。(査3,20)
b 原告は,平成16年11月26日,YKKAPに対し,それまで販売していた特定カラー鋼板のうちGFカラー(原告における通称は「GTカラー」)について,ZAMカラーへ切り替えることを提案し,YKKAPは,平成17年6月にGTカラーを全てZAMカラーに切り替えることに応じた。実際のZAMカラーヘの切替えは,平成17年後半から開始され,平成18年6月にZAMカラーヘの切替えが全て終了した。その結果,原告は,競合するJFE鋼板のYKKAPに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアの半分以上を奪うこととなった。(審29,参考人菊池,同小脇)
c JFE鋼板の菊池は,上記bのとおり,YKKAPに対する特定カラー鋼板のシェアの半分以上を原告に奪われたことから,平成17年末頃,原告がYKKAPに対し安値を提示してシェアを奪ったのではないかと疑い,原告の本社を訪問して,小脇に対しその旨抗議をした。
これに対し,小脇は,YKKAPに対して安値を提示したことを否定し,両者は言い合いのような状態となった。(査67,審29,参考人菊池)
(ク) 本件合意(違反行為)の終了
上記第2の2⑺のとおり,日鉄鋼板は,住金建材との事業統合に当たって独占禁止法遵守体制に係る社内調査を行ったことを契機として,平成18年9月7日,淀鋼,JFE鋼板及び住金建材に対し,本件合意から離脱する旨を通告し,同日以降,本件合意は事実上消滅した。
日鉄鋼板は,本件ひも付きカラー鋼板の取引に関する本件合意のみならず,他分野の合意(カルテル)からの離脱も表明しており,カラー鋼板等の店売り取引の分野における合意については,日鉄鋼板の担当者が,原告の小脇に対し,離脱の意思を表明した。(査91)
(ケ) 別件について
a 別件店売り取引カルテル事件
専業メーカーでは,店売り取引の分野においては,本件ひも付きカラー鋼板の担当者とは別の従業員が担当することが通常であったが,原告の小脇及び淀鋼の保知のみは上記両分野を担当していた(ただし,保知が上記両分野を担当するようになったのは平成16年9月16日以降であり,その前は店売り取引の分野のみを担当していた。)。店売り取引の分野では,建材製品分野におけるめっき鋼板及びカラー鋼板の普及活動を行う社団法人日本鉄鋼連盟の内部組織であるファインスチール分科会が頻繁に開催されており,各社の店売り取引の担当者が接触する機会が多かった。(査80,91,審29,参考人小脇)
6社等は,平成15年3月のステンレス鋼板立入検査の前から,店売り取引の分野においても,価格に関する情報交換を行い,共同して値上げを実施していたところ,原告の小脇は,鋼板メーカーによる会合に幹事役として出席するなどし,同社の取締役である淺沼斎(同社の取締役塗装・外装建材事業部長兼塗装・外装建材販売部長。以下「淺沼」という。)とともに,各鋼板メーカーの担当者の中でも中心となってカルテルを行っていた(査91,101,102)。
ステンレス鋼板立入検査後,原告においては,販売価格に関する情報交換を行うための同業他社との会合への出席を禁止する旨の指示が出され,淺沼及び小脇は,店売り取引に関する他社との会合への出席を控えるようになった。しかし,淺沼及び小脇は,相談の上,他社との会合には出席しないものの,店売り取引の価格カルテルには参加し続けることとし,他社の担当者に対しては,会合には出席することはできないが,「今後も酒席には付き合いますし,一対一なら会うこともできます」,「電話でもよいので話合いの状況を教えて欲しい」などと価格カルテルを継続する意思を伝え,他社の合意内容については,淀鋼の保知が小脇に対して伝達する伝達役を務めた。さらに,淺沼及び小脇は,自ら幹事として他社の担当者に声を掛け,原告の本社近くの「小洞天有楽町店」において「グルメ会」と称する食事会を開催し,その場で店売り取引の価格に関する情報交換を行ったり,平成16年2月14日には他社の担当者を招いてゴルフコンペを行い,そこで淺沼が作成しカラー鋼板等の値上げ幅等が記載された書面を配布し,価格に関する情報交換を行うなどし,その後も価格カルテルを継続した。(査80,91,101,102,審29)
なお,原告の末次は,平成18年4月1日に店売り取引及びひも付き取引のカラー鋼板の営業責任者となった後,同年4月下旬頃,小脇により,淀鋼の保知など専業メーカーの店売り取引の担当者らを紹介され,店売り取引のカラー鋼板等について原告と専業メーカーらがカルテルを行っていることを認識し,同年5月下旬に行われた淀鋼及び取引先との会合において,小脇が淀鋼の担当者と共同で取引先に値上げを依頼する席に同席するなどして,原告における平成18年7月出荷分からの値上げに関与していた(査108,参考人末次)。
b 別件めっき鋼板カルテル事件
平成15年3月のステンレス鋼板立入検査の前から鋼板メーカーが協調関係を築いていた軽量天井メーカー等を需要家とするめっき鋼板のひも付き取引の分野においても,原告の鋼板販売部の担当者は,ステンレス鋼板立入検査の後は,他社との会合への出席は控え,できる限り電話による連絡のみで済ませるようにしながら,他社とのカルテルに参加し続けていた。
なお,別件めっき鋼板カルテル事件では,原告においては,特定カラー鋼板のひも付き取引の担当とは異なる部署である鋼板販売部が関与した。(査95)
イ 原告に対する合意内容の伝達について
小脇が,ステンレス鋼板立入検査後,専業メーカーらとの会合に参加することはできないが,電話等の手段により合意内容等の伝達を受ける意思がある旨発言したこと,荒木が専業メーカーの会合において,合意内容等を原告に伝達する旨発言していたこと,専業メーカーらの会合等において原告の価格交渉等に関する報告がされていたこと,専業メーカーと原告が相対等を行うに際してそごを来すことはなかったこと,原告と専業メーカーとは本件ひも付きカラー鋼板の取引について複数回にわたって接触し,従前からの協調関係を継続していたことを併せ考慮すれば,原告は,主として日鉄鋼板の荒木を通じ,本件合意の伝達を受け,本件合意に参加していたものと認めることができる。
ウ 第1次値上げないし第3次値上げの状況
原告における本件ひも付きカラー鋼板の販売価格について,平成16年度上期,平成16年度下期及び平成17年度上期については,おおむね第1次合意ないし第3次合意の内容に沿った値上げ又は値上げ交渉が行われ,専業メーカーらの値上げ状況ともおおむね一致していることが認められ,各値上げ状況は,原告が第1次合意ないし第3次合意に加わっていたとして矛盾のないものといえる(査6,88~90,97,99)。
エ 第4次値上げの状況
原告が平成18年度上期の期中に本件ひも付きカラー鋼板の値上げを実施したことを認めるに足りる証拠はないが,平成18年6月16日に開催された原告の販売担当者会議における,カラー鋼板の店売り取引について,期中である同年7月出荷分から1kg当たり10円の値上げを予定している,ひも付き取引についても,コスト増加分に対して価格改定及びコスト改善を需要家ごとにみて検討する旨の末次の発言(審14,28)から,原告において,本件ひも付きカラー鋼板についても,店売り取引と同様に,平成18年度上期中の値上げ(価格改定及びコスト改善)が検討されたことがうかがわれる。
次に,第4次合意において,板厚(薄物又は厚物)に応じて値上げ幅に差を設けるとされた点については,専業メーカーの会合において,本件ひも付きカラー鋼板の薄物と厚物とで値上げ幅に差を設ける方法として,個々のカラー鋼板の実際の板厚に応じて価格差を設けるのではなく,薄物を多く使う業界(サイディング,シャッター,雨戸等の業界)に対しては一律に薄物として決めた値上げ幅(15円)を目指し,厚物を多く使う業界(ガス器具,パネル,屋根,物置等の業界)に対しては一律に厚物として決めた値上げ幅(10円)を目指すというように,需要家の業種によって値上げ幅に差を設ける方法が示された事実が認められること(査72)からすると,同一の需要家に対する値上げ額が薄物と厚物とで同額であったとしても,第4次合意の内容と矛盾するとはいえない。
オ 小括
原告は,専業メーカーとの従前からの協調関係を継続して本件ひも付きカラー鋼板の取引について複数回にわたって接触し,主として日鉄鋼板の荒木を通じ,本件合意の伝達を受け,本件合意に参加していたものと認めることができる。
⑵ 争点⑵(「当該商品」該当性)について
ア 独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」とは,一定の取引分野における競争を実質的に制限する違反行為が行われた場合において,その対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいう。そして,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一般的に当該違反行為の影響が及ぶものといえるから,当該行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束を受けたものと推認され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するものと解される。
イ 担当部門の違いについて
①ステンレス鋼板立入検査の前には,小脇は,専業メーカーらとの合意内容を鋼板販売部に伝えたり,鋼板販売部から聞いた三和シヤッターとの交渉状況等の情報を専業メーカーらに伝えるなどして,三和シヤッターについても他社と共同して値上げ交渉を実施していたと認められ,ステンレス鋼板立入検査の前後で,原告における建築建材販売部と鋼板販売部との関係に変化があったとは認められないこと,②原告の鋼板販売部は,軽量天井メーカー向けのめっき鋼板のひも付き取引について,別件めっき鋼板カルテル事件(同事件において違反行為がなされたとされる期間は平成15年8月下旬頃から平成18年8月上旬頃までであり,本件違反行為の期間と重複している。)で認定されたとおりカルテルを行っていたのであるから,鋼板販売部が建築建材販売部による本件ひも付きカラー鋼板の取引に関する本件合意の締結,実施等について積極的に協力したことは十分に考えられること,③実際に,ステンレス鋼板立入検査の後においても,小脇は,淀鋼の石田との間で,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等について,電話で情報交換等をしていたことから,鋼板販売部と建築建材販売部は,本件合意の内容や,本件ひも付きカラー鋼板の価格等に関して,本件合意当時も情報交換をしていたことを推認することができる。よって,上記のとおり担当部署が異なることをもって,原告の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板につき,違反行為による拘束から除外されていることを示す上記特段の事情があるとは認められない。
ウ 価格の決定方法について
(ア) ペンタイトについて
原告の三和シヤッターに対するペンタイトの値上げ幅と本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅が完全に連動していたわけではなく,両社が,ペンタイトの価格とは別に,特定カラー鋼板の値上げ交渉を行ったこともあったことに照らせば,両社間における本件ひも付きカラー鋼板の価格決定に際して,たとえペンタイトの価格を参考にすることがあったとしても,違反行為(本件合意)による影響を受けない状況で価格決定がされていたものと認めることはできない。よって,原告の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板について,ベースメタルであるペンタイトの価格に連動して自動的に価格を決定しているため,本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとすることはできない。
(イ) 実質価格と伝票価格について
原告においては,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の価格について,「実質価格」と「伝票価格」という二元的な価格設定を行っていること,本件ひも付きカラー鋼板の価格の支払については,三和シヤッターが,原告に対して一旦「伝票価格」を支払い,その後,原告が三和シヤッターに対して「伝票価格」と「実質価格」の差額である割戻金を支払っていること,割戻金の金額は基本的には一定であるが,両社の経営幹部レベルでの協議を踏まえた原告から三和シヤッターに対する実質的な金融的協力等の政策的な観点が加味されて変動し,例えば,金融的協力の観点から「実質価格」が値下げされ(割戻金が増額される。),その後,その回収のために「実質価格」が値上げされる(割戻金が減額される。)などしている(審25,27,36,37の1~10)。
そうすると,原告の三和シヤッターに対する「実質価格」は,「伝票価格」からほぼ一定額の割戻金を控除した価格に,金融的協力等の事情を加味したものと評価することができるところ,「伝票価格」の動向は,本件合意の内容及び専業メーカーらの値上げ状況におおむね沿ったものであると認められるから(査88,89),上記のとおり「伝票価格」と関連していると認めることができる「実質価格」が違反行為(本件合意)による影響を受けない状況で決定されていたということはできない。よって,「実質価格」の変動等が本件合意の内容とは全く異なっているとして,本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとすることはできない。
エ 他の事業者との競合性について
原告の三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板のシェアが90%を超えること,原告が三和シヤッターに販売している軽量シャッター用等のカラー鋼板と,他社が三和シヤッターに販売しているドア面材用のカラー鋼板は商品としての代替性が低いことは認められるが,原告が淀鋼から同社など専業メーカーと文化シヤッター株式会社(以下「文化シヤッター」という。)間の価格交渉に関する情報を入手し,それが,原告と三和シヤッター間のカラー鋼板等の価格についての交渉材料の一つとして扱われており,三和シヤッターが,原告の提示する価格次第では,軽量シャッター用等のカラー鋼板を専業メーカーから購入する可能性があったこと,このような三和シヤッターに関する原告と専業メーカーとの競争関係が平成16年以降に何らかの変化があったといった事情はうかがわれないこと,淀鋼の石田は,小脇との間で,第1次合意の後,三和シヤッター等に対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等につき情報交換等をしていたことに照らすと,原告と専業メーカーは,三和シヤッターとの本件ひも付きカラー鋼板の取引に関して競争関係にあったものと認めることができる。
したがって,三和シヤッターに対して原告と他社との競合性はないことを理由に本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとすることはできない。
オ 小括
以上のとおり,原告と三和シヤッターとの間の取引関係,当該取引の担当部門,価格決定方法,他社との競合性等に関する事情を検討しても,原告の三和シヤッター向け本件ひも付きカラー鋼板については,当該行為(本件合意)を行った事業者が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められず,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当する。
5 本件訴訟における原告の主張
⑴ 本件審決の認定した事実が実質的証拠を欠いており,独占禁止法82条1項1号により本件審決は取り消されなければならないこと
本件審決は,原告がステンレス鋼板立入検査後にカルテルから離脱した事実についての証拠の評価を誤るものである。また,それ以外にも本件審決が指摘する事実は,原告に本件合意が伝達されたこと,原告が本件合意に参加していたことを裏付けるものではない。
他方で,原告が指摘した,原告が本件合意に参加していなかったと考えければ理解し得ない事実について,正当な理由もなく全て排斥している。その結果,本件審決は,原告が本件合意に参加していたという誤った結論を導き出している。特に,原告に対する合意内容の伝達に関しては,荒木が連絡役であったことさえ裏付ける客観的な証拠は存在せず,また,同人自身が連絡役であったことを最初からほぼ一貫して明確に否定している。参考人審尋で,同人は,ステンレス鋼板立入検査後,「海女小屋」で顔を合わせた以外,第4次値上げに際して小脇に訪問について電話連絡したことを除き,小脇とは会ったことも話したこともないと明確に証言しているのに対し,これに反する証拠は一切存在しない。
他方で,伝達を受けたとされる小脇も,参考人審尋で,本件合意の期間中,「海女小屋」で顔を合わせた以外,第4次値上げに際し荒木から電話連絡を受けたことを除き,同人とは会ったことも話したこともないと述べており,これに反する証拠も一切存在しない。
荒木が連絡役であったか否かにつき,本件審決は,同人以外の専業メーカーの担当者の供述及び証言を根拠として挙げるが,これらはいずれも内容に具体性を欠き,信用性に欠けるものであるから,これらを事実認定の根拠とすることは認められるべきではない。
また,本件審判において,原告は,荒木以外の専業メーカーの担当者6名について参考人審尋の申出をしたにもかかわらず,被告は,菊池,石田及び長谷川の3名を「代表選手」として採用したにとどまり,その他の者については参考人審尋が認められなかった。このため,原告は,これらの者に対する反対尋問の機会が失われた。
そもそも,本件は,課徴金減免申請手続を端緒とするものであり,課徴金の減免という恩恵を維持するために,当該申請手続を行った事業者の担当者は,取調べに際して被告に迎合するおそれがあった。課徴金減免申請手続の際に提出された陳述書や関係者の供述で,たまたま原告に関して誤った認識の下でされたものがあり,これに依拠してされた被告の取調べにより,他の専業メーカーの担当者が取調べ担当者による誘導に迎合していったということが十分に考えられる事案である。
以上のような本件の特質及び本件審判の経緯に照らせば,本来審査官が本件審判に提出した専業メーカーの担当者の供述調書の内容は,より一層批判的かつ懐疑的に吟味され,かつ,参考人審尋を実施した者については,その供述調書の内容を参考人審尋における証言と対比するなどして信用性を十分に吟味,検討すべきである。その際,当事者及び審判官が立ち会い,公開された審判廷において虚偽の証言をしない旨の宣誓がされ,かつ,反対尋問の機会が与えられた状況下での証言の方が,密室での取調べで作成された供述調書よりも信用性が高いことはいうまでもない。
しかし,本件審決においては,そのような吟味,検討がされた痕跡は一切うかがわれない。参考人審尋において,取調べ段階から一貫しておりかつ極めて具体的で明確な証言をした荒木の証言は,なぜか,専業メーカーの他の担当者の供述,証言に反するという理由のみで排斥されてしまった。他方で,本件審決では,参考人審尋において連絡役に関する供述調書の内容をあからさまに変更した菊池の証言は,なぜそのように変更したのかも含め,十分な検討がされることなく,同人の供述調書の内容がほぼそのまま採用されている。また,本件審決は,参考人審尋における証言態度が極めて不自然であった石田の証言や,内容的に矛盾し,かつ具体性が全くない同人の調査段階での供述調書の内容を安直に採用している。その結果,本件審決は,証拠の評価を誤り,著しい事実誤認を犯している。
⑵ 本件審判手続には,法令違反があるから本件審決は独占禁止法82条1項2号により取り消されなければならないこと
本件審判手続において,原告の申請した参考人審尋が却下されたことは上記のとおりであるが,参考人審尋を却下したこと及び同人らの供述調書を証拠として採用して重要な事実認定に供していることは,以下に述べるとおりの法令違反に当たるから,本件審決は,独占禁止法82条1項2号により取り消されなければならない。
独占禁止法における審判手続は,被告が行った排除措置命令,課徴金納付命令の違法性,不当性についての審査を行うための事後手続である。
具体的な審判手続の内容をみると,独占禁止法61条は公開の口頭審理の機会を保障しており,同法62条は審判手続において参考人を審尋し又は鑑定人に鑑定を命ずる手続について刑事訴訟法の規定の一部を準用している。また,同法76条1項に基づいて制定された公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年10月19日公正取引委員会規則第8号)は,審判手続の開始から審判期日における各種手続,証拠の取扱い等につき,民事訴訟法や刑事訴訟法の規定内容と類似した規定を設けている。このような審判手続を経た被告の審決に不服がある場合の審決取消訴訟は東京高等裁判所の専属管轄とされている(同法85条)。また,審決取消訴訟ではいわゆる実質的証拠法則が採用されるとともに(同法80条),原則として新たな証拠の申出が制限されている(同法81条)。
審判手続及び審決取消訴訟に関する各種規定によれば,審判手続は,司法手続と同等又はこれに準じた手続としての性質を帯びており,審決取消訴訟の事実上の第一審としての機能を有している。行政事件訴訟法上,原処分について直ちに裁判所に司法審査を求めるか,行政庁の段階で審査請求をするか,原処分を受けた者の選択によるのが原則であるところ(同法8条1項本文),被告の行った排除措置命令及び課徴金納付命令に対しては司法審査に先立って審判請求を行わなければならない(裁決主義。独占禁止法77条3項)。さらに,審決取消訴訟において裁判所の判断の根拠となる資料は,審判手続において取り調べられた証拠に限られる。このような裁決主義及び実質的証拠法則を採用する以上は,審決取消訴訟の当事者(特に原告)に対し,審判手続の時点で証拠に関する十分な防御の機会が与えられることが不可欠の前提となる。
このように考えると,審判手続においても適正手続の保障は当然に要請され,これを規定する憲法31条は審判手続についても適用ないし準用されるものと解すべきである。この要請は,平成17年の独占禁止法の改正によって一層強まった。
これを本件審判手続についてみると,当事者が申請した証拠は,当該事件に関連しかつ明白な違法ないし不当性が認められない限り,原則として採用されなければならない。特に,本件のように行政調査又は犯則調査段階における関係者の供述の信用性が問題となり,その評価が結論を左右するような事案において,原告の防御の機会を十分に保障するためには,これら供述の真実性,信用性を弾劾する機会が与えられなければならない。また,独占禁止法60条は,被告又は審判官が証拠を不採用とする場合には理由を付さなければならない旨を規定しており,被告又は審判官が例外的に証拠を不採用とする場合があることを予定しているが,本件のような行政調査又は犯則調査段階での関係者の供述の信用性が問題となり,その評価が結論を左右する事案においては,原告が当該供述者の参考人審尋を求める限り,これを採用しなければ原告の防御の機会を十分に保障し,適正手続を保障したことにはならない。また,供述者の供述の信用性の評価,その判断の前提としての当該供述の供述者の参考人審尋を行うか否かという判断は,被告の専門性を殊更尊重しなければならない理由はなく,むしろ事実認定の専門家である裁判所の事後審査が厳格に及ぼされるべき事項である。したがって,同法60条により,例外的に証拠を不採用とする場合があり得るとしても,それは例外的,特殊な場合に限られるというべきである。本件における参考人審尋の申出を却下したことは,そのような例外的,特殊な場合には当たらず,いずれも被告に認められた裁量の範囲を逸脱するものであり,憲法31条,準司法手続に関する法の基本原則に反し違法である。特に,本件では,原告は,小脇,末次,森谷英之(以下「森谷」という。)のほか,日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池,上坂及び馬場並びに淀鋼の長谷川,石田及び保知について参考人審尋の申出をしたところ,審判官は,小脇,末次及び荒木については同申出を採用したものの,その余については,JFE鋼板から菊池,淀鋼から長谷川及び石田を,それぞれの「代表選手」として参考人審尋を行い,それ以外の者については,「代表選手」の参考人審尋の結果を踏まえて審尋の要否を決定するものとしたが,その後の参考人審尋の結果,菊池,石田及び長谷川の供述調書の信用性は疑わしいものとなったばかりでなく,その他にも供述調書からはうかがい知ることのできない,本件合意に原告が参加していたとは到底考えられない事実が存在することが明らかになったのであるから,参考人審尋の採用を留保していたその余の者らについても,参考人審尋を実施し,その供述調書の信用性について検証することが必要不可欠であることがより一層明らかになっていたにもかかわらず,審判官は,必要性がないとしてこれらの者について参考人審尋の申出を却下した。このような状況でこれらの者について参考人審尋の申出を却下することは違法であるというべきである。
そして,原告に,このように参考人審尋が認められなかった専業メーカーの担当者の供述調書の内容に対する反対尋問の機会が与えられなかったにもかかわらず,これらの供述調書を証拠として採用し,これを原告に不利な重要事実の認定に供したことも,同様に憲法31条,準司法手続に関する法の基本原則に反し違法である。
⑶ 争点⑴について
ア 証拠の評価について
(ア) 荒木の陳述書及び証言について
本件審決は,原告は主として日鉄鋼板の荒木を通じて本件合意の伝達を受け,本件合意に参加していたものと認定して,その根拠として,荒木の被告に対する陳述書(査103)を挙げる。しかし,同陳述書は,課徴金減免申請手続に関して作成されたものであって,一刻も早く申請手続を行い,より上位の順位を確保しなければならないという,時間的にも精神的にも切迫し,かつ冷静さを維持するのが難しい状況で,転勤先である仙台で連絡を受けてその日のうちに慌ただしく上京し,急遽,極めて短時間のうちにゼロから作成されたものである。したがって,その内容の一部に,それも自社ではなく他社のことについて,誤りがあったとしても決して不自然なことではない。
荒木は,上記陳述書の提出から約1か月の間に,記載内容に誤りがあることに気付くと,自社の法務担当部門に対して自発的にその旨を報告し,被告による取調べの初日に,上記陳述書に記憶違いに基づく部分があると申し出てその訂正を求めているばかりでなく,その後の約1年間で15回にわたる被告の取調べにおいても,また,本件審判手続の参考人審尋においても,上記陳述書の内容は記憶違いによるものであって,原告は本件合意に参加していないと証言している。
荒木には,あえて原告に有利な供述をする動機は全くなく,むしろ陳述書に記載された内容を誤りであると申し出ることは,日鉄鋼板自体の課徴金減免申請が取り消され得るという重大なリスクを伴うものである。それにもかかわらず,「連絡役」であることを一貫して否認し続けた荒木の証言は,まさに真実を伝えたいという心情から発せられたものであって,その証言内容に信用性が認められるべきことは明らかである。
(イ) その他の証拠について
a 本件審決は,小脇が専業メーカー5社の会合に参加することができなくなった後も,1対1で専業メーカーの担当者と会って話したり,電話で話すことは構わないし,夜の飲み会に誘ってもらうことも構わない旨発言したと認定し,その根拠として,菊池,石田,上坂及び村上の調書並びに菊池及び石田の証言を挙げる。
しかし,小脇は,審判手続における参考人審尋において,この点を明確に否定し,反対尋問においてもこの点を疑わせるような発言や状況は全く示されていない。したがって,小脇が荒木から本件合意の内容の伝達を受けていないことは明らかである。
b 小脇から上記発言を直接に聞いたというのは,石田だけであるが,同人の供述は,小脇が上記発言をした際に荒木と菊池が同席していたとするが,小脇はもちろん,その場にいたとされる菊池及び荒木もそのような発言は聞いたことがないとしていること,小脇が上記発言をした場所について「はっきりとは思い出せない」とし,参考人審尋において,当初懇親会の時に聞いたとしながら,後にはもう思い出せないなどと曖昧な供述に変遷するなど,その供述内容は極めて不自然であることから,到底信用することができないにもかかわらず,本件審決はこれを極めて安直に採用しており,不当である。  
さらに,石田の証言は,小脇の発言について,発言の前後の文脈,経緯や発言時に立っていたか座っていたかについて明確に答えられず,具体的な場所や時期も特定することができないものであり,小脇の発言に関する石田の供述は信用することができない。
また,石田は,小脇の発言の時期について,「平成15年5月か6月ごろに小脇さんが値上げの協議をする会合に出ていた,そういうことですか。」と質問され,「はい。だと思います。」と証言するが(参考人審尋調書(以下「速記録」という。)25頁),これは,ステンレス鋼板立入検査後に小脇が専業メーカーとの全体会議に出席することを控えるようになったという客観的事実と整合しないものである。
さらに,石田は,参考人審尋において,原告代理人からの質問に答えて,供述調書で述べている,第1次値上げ及び第2次値上げに際して行った相対について(査19・15頁),ステンレス鋼板立入検査前のことである旨証言するが(速記録12頁),これは供述調書での供述内容と矛盾するものであり,同供述調書は本人の記憶に基づかずに作成されたものである。
また,石田は,第2次値上げに関する平成16年7月12日の魚四季での懇親会に小脇を誘ったか否かという点に関し,誘ったかどうかはっきりしないということかという質問に対して,「はい。」と証言しながら(速記録8頁),その直後に同人が「ちょっと行けないな。」と述べたなどと明らかに矛盾する内容をちゅうちょすることもなく証言するなどしており(同9頁),その信用性には疑問がある。
石田は,平成16年2月19日の海女小屋での懇親会について,同日の日本教育会館で合意した第1次値上げの内容が話題に出たか否かに関し,「出ていてもおかしくはないというふうに考えます。」と, 話題が出た具体的な記憶はない趣旨の証言をしながら,その直後に,値上げの内容が話題に出たときの小脇のそぶりや対応について,初めて聞いたようなそぶりを見せなかったとか,(値上げの話が出ても)途中で退席することはなかったかという質問に対して「はい。」と答えるなど,値上げの話題が出たことを肯定するかのような証言をしていること(同17頁)から,石田の証言には矛盾がある。
石田は,参考人審尋における証言態度が,落ち着きがなく,おどおどしたものであって,自らの記憶に基づかないと思われる内容について被告(審査官)の前で否定することもできず,曖昧にごまかそうとしていることが一見して明らかであった。
c 次に,菊池は,「この会合に出席していた方のうち誰かから,小脇さんは我々が日新に行って値上げについていろいろ打合せしたり,電話してもらうのは一向に構わないし,夜の飲み会にも誘ってもらって構わないと言っているよなどという発言がありました」と述べる(査20・8~9頁)。しかし,菊池は,同発言を直接聞いたのではなく,「誰かから」開いたにすぎないし,その時期,場所,その他については全く記憶にないと供述するのであり(速記録6~7頁),他の者と同発言について話したり確認したりしたことはないというのである(同6~8頁)。また,菊池は,他の調書では,同発言を小脇から直接聞いたかのような供述もしており(査4・48頁),その供述には一貫性がなく,信用性に疑義を生じさせるほど変遷している。
d また,荒木が連絡役を務める旨発言したのを聞いた旨の長谷川の供述調書は,同人の証言が荒木や菊池の証言と矛盾することから信用することができず,また,専業メーカーの会合において原告の価格交渉等に関する報告がされていたか否かに関する長谷川の供述調書の内容も,同人の参考人審尋での証言によって信用することができないものとなった。
e なお,参考人審尋を実施していない上坂,村上の供述をこのような重要な事実認定の根拠として用いるべきではない。
イ 原告に本件合意が伝達されたと認定した理由として本件審決の挙げる事実がいずれも認定の根拠とはなり得ないものであることについて原告に本件合意が伝達されたと認定した理由として本件審決の挙げる事実は,以下に述べるとおり,いずれも認定の根拠とはなり得ないものである。
(ア) 専業メーカーらの会合において原告の価格交渉等に関する報告がされていたという事実について
本件審決は,平成17年3月23日の専業メーカーらの会合及び平成18年6月19日の会合において,原告がYKKAPや三和シヤッターに対して値上げ交渉に動くことやその時期についての報告がされたこと,そのほかにも専業メーカーらの会合の場でYKKAPや三和シヤッターに対する原告の価格交渉等に関して報告があったことを認定する。
しかし,このような報告があったことの認定の根拠として本件審決が挙げる,その会合の参加者の作成したメモなどは,記載内容が多義的であり,必ずしも本件審決のような認定に結びつくものではない。また,専業メーカーらの間では,本件審決が指摘する会合以外にも多数の会合が行われており,仮に原告が本件合意に参加していたというのであれば,これらの会合についても原告に関する報告がされていたはずであるにもかかわらず,そのような報告はされていない。本件審決は,この点を看過し,ごくまれにされた原告に関する言及を根拠として,原告に対して本件合意が伝達されたことを認定するものであり,あまりにも安易であり,誤りである。
(イ) 専業メーカーと原告が相対等を行うに際してそごを来すことがなかったという指摘について
本件審決は,専業メーカーと原告が相対等を行うに際してそごを来すことがなかったことを原告が本件合意に参加していたことの根拠とする。また,菊池や石田が本件合意を当然の前提として小脇に接したのに対して小脇が事前に何らの情報も得ていないならば相互のやり取りの中で何らかの食い違いが生ずるのが通常であろうとも述べる。しかし,本件審決がいうところの「そご」,「何らかの食い違い」とは具体的に何を指すのか不明である。また,なぜそれが原告に合意内容が伝達されていたことの根拠となるのかも理解し難い。
仮に,「そご」,「何らかの食い違い」が値上げ幅についてのものであるとして,値上げ幅についてどの程度の金額の開きがあることを「そご」,「食い違い」といっているのかも明らかではない。
また,本件における値上げの理由は,原材料価格の上昇に対応しようというものであり,当該原材料価格の上昇分がそのまま製品の販売価格に転嫁されるのが通常であって,本件においてもそうであった。その結果,原材料市況が共通である以上,どの企業であってもある程度似たような値上げ幅とならざるを得ず,「そご」を来さなかったとしても何ら不思議ではない。したがって,このような大雑把な内容で「そご」が生じなかったことをもって原告に合意内容が伝達されていたことの根拠とするのは,余りに我田引水である。
(ウ) 原告が専業メーカーとは本件ひも付き取引について複数回にわたって接触していたとの指摘について
本件審決は,「海女小屋」での懇親会への出席並びにJFE鋼板及び淀鋼との接触を,原告に対して本件合意が伝達され,したがって,原告が本件合意に参加していたことの根拠として挙げる。しかし,これらは,いずれも,原告の本件合意への参加を裏付けるものではない。
a 海女小屋での懇親会について
小脇は,平成16年2月19日に海女小屋での懇親会に参加しているが,小脇としては,鋼板メーカーが毎年1月は需要家に対する新年の挨拶回りに追われ,2月になって時期遅れの新年会が開かれることもあったため,いわば新年会に出席するような感覚で海女小屋での懇親会に出席したにすぎないし,価格についての話をしたこともない旨証言もしている。
また,本件審決は,海女小屋での懇親会において,本件ひも付きカラー鋼板の値上げや第1次合意に関する話題も出たと認定するが,菊池はこれを否定し,石田も,値上げの話が出たとしてもおかしくない旨言及するにとどまっている。加えて,荒木は,海女小屋について,障子1枚を隔てた個室であるが,横に椅子席があって声が通り,料理を運ぶ店員も出入りするため,専業メーカーのメンバーで悪いことをしているという意識がある中で値上げの話をするような場所ではないこと,既に懇親会の前に1時間半から2時間にわたって行っており,懇親会で改めて値上げの話をする必要もなかったこと,会の趣旨は懇親を深めようというもので,一般的な世間情勢の話などに限られ,値上げを勝ち取ろうといった雰囲気ではなかったことなどから,値上げの話は全くされていない旨証言するが,本件審決は,同証言を不自然であるという一言により排斥する。しかし,同懇親会で値上げの話が出たと明確に証言する者がいないにもかかわらず,値上げの話が出たと認定する方がよほど不自然である。
b JFE鋼板との接触について
本件審決は,原告がJFE鋼板と接触していた事実として,平成16年5月31日の「旬三昧うるわし」での小脇と菊池の会食,同年6月22日の「小洞天有楽町店」での小脇及び脇村と菊池及び馬場の会食のほか,第1次値上げから第3次合意に際して,小脇と菊池との間でYKKAPや日軽パネルシステム株式会社に対する値上げについて相対がされたこと,同年末に脇村と馬場の関係が悪化して以降,小脇と菊池との間で東京においてブリッジと称して情報交換が行われていたことを指摘する。しかし,このようなJFE鋼板との接触は,本件カルテルとは別個独立して,YKKAPとの取引についてJFE鋼板から原告に持ち込まれたものであり,第1次値上げから第3次値上げに関する相対と位置付けられるべきではない。
その理由として,①菊池は本件合意における専業メーカー間の合意や協議を小脇に伝えていないこと,②菊池は他の専業メーカーの担当者に対して原告にアプローチしたことやYKKAPと原告との交渉状況等を伝えていないこと,③ZAMカラーの採用により大部分のシェアを原告に奪われた際もこれを本件合意の大原則であるシェア移動の禁止に反する行為として問題視していないことを挙げることができ,これらの事実は菊池及び荒木の参考人審尋における証言から明らかに認めることができる。
c 淀鋼との接触について
本件審決は,原告が淀鋼と接触していた事実として,第1次合意に際して小脇と石田が電話で連絡を取り合い,三和シヤッター等に対する値上げ交渉等について情報交換,打合せをしたことを指摘し,その根拠として,石田が第2次合意以降の原告との接触について否定しているのであるから,第1次合意の際の接触についてのみ虚偽の供述をすることは考え難いこと,原告はJFE鋼板とは情報交換しているから淀鋼とも接触があっても不自然ではないことを挙げる。
しかし,①参考人審尋における石田の証言態度は極めて不自然であり,同人の証言の信用性は乏しいから,第1次合意の際の接触についての証言についても信用性は乏しいというべきであるし,②淀鋼と原告との関係は,JFE鋼板と原告との関係とは異なり,淀鋼と原告には競合し得る共通の需要家は存在しないから,原告が石田と個別に接触する理由はないから,JFE鋼板と接触したことは淀鋼と接触したことの理由にはならないというべきである。
ウ 本件審決が,原告が本件合意のメンバーではないことを裏付ける専業メーカーの行動として原告が挙げた諸点を理由なく排斥し,合理的な説明をしていないことについて
本件審決は,原告が本件合意のメンバーではないことを裏付ける専業メーカーの行動として原告が挙げた諸点を理由なく排斥し,合理的な説明をしていない。
(ア) 進捗会議において原告に関する話題が挙がっていないことについて
本件合意では,まず全体会議において,各期の値上げに先立ち,業界ごとに具体的な値上げ幅,値上げ時期に関する合意がされ,その後の相対によって個々の需要家ごとの値上げ幅,値上げ時期,値上げ交渉の順番等が決まると,その後の値上げ状況の進捗をフォローアップし,本件カルテルの参加者が合意内容を遵守しているかを相互に確認するため,専業メーカーの担当者が一堂に会して進捗会議が開催されていたが,進捗会議において,原告が専業メーカー間の合意内容に沿った値上げをしているか否かの確認,あるいは報告があったとする専業メーカーの担当者の供述は一切存しない。本件審決は,上記のとおり,平成17年3月23日の専業メーカーの担当者の会合及び平成18年6月19日の会合において,原告の動向が報告されたと認定するが,この認定に根拠がないこと,上記会合以外の会合について原告についての言及がされたことがないことは既に述べたとおりである。また,本件審決は,このほかにも専業メーカーらの会合においてYKKAPや三和シヤッターに対する原告の価格交渉等について報告があった旨を認定し,石田(査19)及び片山和寛(以下「片山」という。)(査6)の供述並びに石田及び長谷川の証言をその根拠として挙げる。しかし,これらはいずれも信用性を欠き,かつ,時期及び内容について具体性を欠き曖昧であり,上記のような事実を認定するための根拠たり得ない。
(イ) 原告によるJFE鋼板のシェアの奪取行為が専業メーカー間の会合に報告されず,業界として全く問題とされなかったことについて
原告は,平成16年11月26日,YKKAPに対し,ZAMカラーへの切替えを提案し,平成17年6月,同社がZAMカラーヘの切替えに応じたことから,結果的に競合するJFE鋼板のシェアを奪うことになった。これは,JFE鋼板のシェアの半分以上を奪うものであり,本件カルテルの大原則であるシェア移動の禁止に反するものである。もし,原告が本件カルテルのメンバーであったならば,このような事態は業界全体の問題として直ちに他の専業メーカーの担当者に報告され,原告に対して厳重な抗議がされたはずである。しかし,シェアを奪われたJFE鋼板の菊池は,これを全体会議に報告して対策を検討したり,他の専業メーカーの担当者とともに原告に抗議するといった行動は一切していない。
この点について,本件審決は,原告が本件合意に加わっていたことと直ちに矛盾するものではないと述べるにとどまり,シェア移動の禁止という本件カルテルの大原則とこの時の専業メーカーの担当者の反応とが決定的に矛盾している点について合理的な説明を欠いている。
(ウ) 平成17年2月に合意されたエキストラ価格に関する専業メーカー間の合意内容が原告には連絡されていないことについて
専業メーカーは,第3次値上げに際し,菊池の発案により,ベース価格に関する値上げ幅に加えてそれまで専業メーカー間で統一されていなかったエキストラ価格についても業界として見直しを実施するため,平成17年2月2日,専業メーカーの担当者がホテルイースト21東京で会合を開催し,各社のエキストラ価格を披露し合い,値上げの目標価格を具体的に設定している。しかし,このようなエキストラ価格の見直しについて,専業メーカーから原告に対しては何ら連絡がされていない。
この点について,本件審決は,エキストラ価格の値上げの問題は,アイジー工業など特定の需要家に対する値上げのみが取り上げられたものであり,原告は,その特定の需要家については専業メーカーらと競合していなかったため,直接の関係になかったものと認められると述べる。
しかし,上記の会合では,アイジー工業に限られることなく,業界の一般的ルールとしてエキストラ価格を見直すことにしたのであって,これは全ての需要家に関係するものである。本件審決の指摘する事実では,エキストラ価格に関する合意が原告に連絡されなかった矛盾を説明することができない。
また,本件審決は,専業メーカーらによるエキストラ価格等に関する合意は本件合意そのものに含まれるわけではないから,原告がこれに加わっていないからといって,直ちに原告が本件合意に加わっていなかったことにはならない旨も述べる。しかし,特定カラー鋼板の販売価格とは別に競争事業者間でエキストラ価格について合意をするのであれば,それを適用する事業者の範囲と本件合意における事業者の範囲が同一でないと功を奏しないことは当然である。したがって,もし原告が本件合意のメンバーであるとするならば,エキストラ価格についての合意についても原告に対して専業メーカーから何らかの協調が求められたはずであるが,実際には原告にはそのような要請は一切されていない。本件審決は,この点について正面からの説明を避けている。
(エ) 平成17年9月に合意されたクロムフリーのエキストラ価格に関する専業メーカー間の合意内容が原告には連絡されていないことについて
専業メーカーの担当者は,平成17年9月7日にホテルかずさやで会合を開催し,いわゆるクロムフリーのエキストラ価格についても,最低トン当たり5000円とすることを取り決めている。これは,建材業界におけるクロムフリー化の動きに業界として対処するため,業界として意思統一する目的でされたものであって,一部の専業メーカーのみの取決めではなく,また,価格も5000円と具体的な額まで合意している。したがって,同会合に出席しなかった本件カルテルのメンバーには連絡がされるはずであり,現に菊池は,同会合に出席していなかった住金建材の片山に自ら電話で上記合意内容を伝えている。ところが,本件審決では,クロムフリーのエキストラ価格に関する合意については全く言及されていない。
(オ) 日鉄鋼板が本件カルテルを離脱する際,原告には連絡されなかったことについて
原告は,平成18年9月に本件カルテルを含む一切のカルテルからの離脱を表明し,菊池,保知,片山など,カルテルに参加していた他の専業メーカーの担当者に対してその旨を連絡している。これに対し,日鉄鋼板の本件ひも付きカラー鋼板の担当者である荒木及び髙橋は,原告に対してそのような連絡をしておらず,原告も一切連絡を受けていない。
この点につき,本件審決は,原告がステンレス鋼板立入検査後も引き続き専業メーカーらとの協調関係を継続していたこと等に照らすと,何らかの手段によって日鉄鋼板が本件合意から離脱する旨が原告に伝達されたことは十分考えられるとした。
しかし,本件審決の上記認定は,具体的な根拠もないままに,勝手な憶測による認定であって,証拠に基づく事実認定の体裁を備えていない。
また,日鉄鋼板の担当者が原告の担当者に離脱の意思を伝えていないという事実が重要であるにもかかわらず,本件審決は,原告に事実上伝わったことが十分考えられるとするのみで,何ら根拠を示すことなく,この点に関する判断を回避している。
エ その他の事実誤認について
(ア) 第4次値上げについて
a 末次が荒木らからの要請を受け入れなかったことについて
第4次値上げに関して,本件審決は,末次が,平成18年6月9日の荒木らとの面談において,荒木らから第4次値上げの内容について説明を受けると,第4次合意の内容については,特に薄物の15円の値上げや値上げ時期が8月であることに対して違和感があるといった反応を示したものの,専業メーカー4社と同調することについて拒絶をすることはなく,菊池及び保知は,原告も第4次合意に加わり値上げに同調してくれるものと認識したと認定した。
しかし,荒木は,参考人審尋で,末次からはっきりと断られたと思ったと証言し,同行した菊池及び保知も,断られたという印象を受けたと思うと証言している。上記荒木の証言は,上記の認識について確信的なところと断言しているのであって,これを採用しなかった本件審決は証拠の評価を誤っている。
本件審決は,同日の面談を単なる挨拶の趣旨と捉えた末次の証言と荒木の証言が矛盾すること,これらの証言が菊池及び保知の証言と矛盾すること,当該面談に際して荒木が末次に連絡した際,荒木が末次に面談の目的を直接伝えたこと,末次は店売り取引においてカルテルが行われていたことを認識していたことを指摘し,末次が荒木から伝達された合意内容を拒絶したという末次及び荒木の証言は不自然であるとする。
しかし,当該面談の約2か月前の同年4月に建築建材販売部に異動し,初めて課長職となった末次は,当時,管理職としての業務の習得のために精一杯であり,本件ひも付き取引の需要家ごとの詳細まで十分に把握しておらず,当然ながら,専業メーカーの担当者とこれまで値上げの話について面談をした経験もなかった。したがって,たとえ末次が荒木から面談の目的を告げられていたとしても,それを市況一般に関する話を含めた挨拶の域を超えないものと認識することは不自然ではない。末次としては,値上げへの同調を求められているとは思わず,市況一般に関する話に終始させる対応をとり,そのような態度が荒木らには原告が値上げに同調する意思がないと伝わり,荒木らは末次に断られたものと認識したのである。したがって,荒木の証言と末次の証言は矛盾するものではない。
また,本件審決は,仮に面談において原告が同調することを拒否したのであれば,荒木において何らかの手だてを講ずるものと考えられることに照らすと,荒木の証言は不自然であるとする。しかし,荒木らは,原告は本件カルテルのメンバーではなかったと認識していたのであり,原告の反応は予想どおりのものであったから格別の手だてを講じなかったとしても何ら不思議ではない。
b 平成18年度の亜鉛価格の急騰に対応する各需要家に対する値上げ方針と第4次合意とが一致していないことについて
原告は,平成18年初頭から亜鉛価格の急騰に対応するため,本件ひも付き取引に関し,同年度下期の予算において値上げを実施することを決定し,同年7月18日開催の販売担当者会議において,各地区の担当者に対し,亜鉛価格の急騰という緊急的な事態に対処するため,板厚とは無関係に,需要家ごとに1kg当たり10円程度の値上げが必要であろうとの考え方を示した。これは,いわゆる薄物であっても,反対にいわゆる厚物であってもいずれについても1kg当たり10円程度の値上げが必要であろうという考え方であり,専業メーカー間の第4次合意とは異なって,板厚に応じて値上げ幅は設けられていないし,その検討もされていない。
本件審決は,同年6月16日開催の原告の販売担当者会議における末次の,カラー鋼板の店売り取引について,期中である同年7月出荷分から1kg当たり10円の値上げを予定している旨,本件ひも付き取引についてもコスト増加分に対して価格改定及びコスト改善を需要家ごとにみて検討する旨の発言内容から,原告において本件ひも付きカラー鋼板についても,店売り取引と同様に同年度上期中の値上げが検討されたことがうかがわれるとしている。しかし,店売り取引においては,7月出荷分からと明示されている一方で,本件ひも付き取引についてはそのような記載はされていない。期中の値上げは,専業メーカーの担当者がわざわざ原告を訪問して伝えようとするほど時間的に切迫したものであった。本件審決は,末次の上記発言内容から下期以降の値上げに限定する趣旨を読み取ることはできないとして,店売り取引と同様に本件ひも付き取引についても同年度上期中の値上げが検討されたことがうかがわれるとしているが,仮に同期中の値上げを実施するのであれば,少なくとも同年6月の時点で需要家ごとの値上げ方針を具体的に決定し,需要家に対する値上げの打診を開始しなければ間に合わないのであり,本件審決は,このような値上げに向けての実務的プロセスを理解しないものである。
このように,原告における同年度の値上げ方針は,期中の値上げであること,板厚に応じて値上げ幅に差を設けていることという第4次合意を特徴付ける2点のいずれにおいても一致しておらず,この点に関する本件審決の説明は極めてずさんである。
(イ) 原告のシェアの下落について
本件審決は,原告のシェアが下落したことは認めつつも,このことは原告が本件合意に参加していたとの認定を動かすには足りないとした。しかし,原告のシェアは,本件カルテルの期間を通じて約6ポイント強(約25%)下落しているのであって,仮に原告が本件合意のメンバーであるならば,シェア移動の禁止がその大原則である以上,このようなシェアの下落は考えられないところである。原告は,本件審判手続においてその旨を主張してきたのであるが,これに対する説示として,上記のような説示は何ら説得的ではない。
オ 小括
以上のとおりであり,原告の従業員は,本件合意がされた専業メーカーの会合には一切参加しておらず,その内容は原告には伝えられていないし,原告と専業メーカーとの間には意思の連絡はないから,原告が本件合意に加わったということはできない。
⑷ 争点⑵について
ア 専業メーカー間の合意内容との連動性について
本件審決は,原告が平成14年及び平成15年に三和シヤッターとの間でペンタイトの価格とは別に,特定カラー鋼板の値上げ交渉を行っていたことが認められる,平成18年のペンタイトと特定カラー鋼板の値上げ幅が異なっていることを指摘し,「原告の三和シヤッターに対するペンタイトの値上げ幅と,本件ひも付きカラー鋼板の値上げ幅が完全に連動していたわけではなく,両社がペンタイトの価格とは別に特定カラー鋼板の値上げ交渉を行ったこともあったことに照らせば,両社間の本件ひも付きカラー鋼板の価格決定に際して,たとえペンタイトの価格を参考にすることがあったとしても,本件合意による影響を受けない状況で価格決定がされていたものと認めることはできない」とした。また,原告の三和シヤッターに対する実質価格は,伝票価格からほぼ一定額の割戻金を控除した価格に,金融協力等の事情を加味したものと評価できるとして,伝票価格の動向は本件合意の内容及び専業メーカーらの値上げ状況におおむね沿ったものであると認められるとした。
確かに,同年度下期においてペンタイトと特定カラー鋼板の値上げ幅が分かれたことは確かであるが,これは,同年初頭以降の亜鉛価格の高騰という極めて例外的な状況下で,ペンタイトと特定カラー鋼板について異なる値上げ幅を設定せざるを得なかったものであり,その場合でも先にペンタイトの値上げ幅を検討し,それに基づいて特定カラー鋼板の特別な事情を加味して値上げ幅が決められたのであり,そこには本件合意は何ら考慮されていない。
また,伝票価格と実質価格の関係についても,実際には,まず実質価格が決定された後に伝票価格が算定されているのであり,本件審決の理解は本件の実態と正反対である。
イ 専業メーカーとの競合性について
本件審決は,原告と三和シヤッターとの平成14年及び平成15年における価格交渉の資料などにおける記載から,原告が淀鋼から専業メーカーと文化シヤッターとの間の価格交渉に関する情報を入手し,それが,原告と三和シヤッターとの間のカラー鋼板の価格についての交渉材料の1つと扱われていたということは,三和シヤッターが,原告の提示する価格次第では,軽量シャッター用等のカラー鋼板を専業メーカーから購入する可能性があったことを示すものであり,原告と専業メーカーとが三和シヤッターを需要家とする競争関係にあったことを推認させるものであるとした。しかし,平成14年及び平成15年当時と本件合意当時の取引交渉の担当者は異なるし,ステンレス鋼板立入検査という出来事もあり,原材料価格の高騰,海外における需要拡大等により売り手市場の様相を呈するなど,業界状況も変わっていたのであるから,平成14年及び平成15年当時の交渉をもって平成16年以降の交渉を推認することはできない。
また,本件審決は,三和シヤッターが他の専業メーカーから購入する可能性があったとするが,専業メーカーは,三和シヤッターにとって原告は別格であると認識していたのであって,本件審決は,その点を考慮していない。専業メーカーとして原告と三和シヤッターとの取引関係に新たに参入しようという意向がない以上,専業メーカーから購入する可能性はゼロであるか,仮にあるとしても極めてわずかにすぎない。
ウ 担当部門の違いについて
本件審決は,鋼板販売部と建築建材販売部は,本件合意の内容や,本件ひも付きカラー鋼板の価格等に関して,本件合意当時も情報交換をしていたことを推認することができるとした。しかし,この点に関して本件審決が挙げる根拠は,いずれも鋼板販売部と建築建材販売部との間の情報交換による本件合意への参加を基礎づけるものとはいえない。
まず,本件審決は,ステンレス鋼板立入検査以前に小脇は鋼板販売部との間で三和シヤッターに関する情報を交換する関係にあり,ステンレス鋼板立入検査後もそのような関係に変化はなかったとする。しかし,小脇は,ステンレス鋼板立入検査を受け,今後は業界の会合に出席すべきではないと認識するに至り,当該会合に出席しなくなった結果,専業メーカーから三和シヤッターに関する情報を聞かれることもなくなり,本件合意当時には,小脇から鋼板販売部に対して三和シヤッターに関する情報を確認することもなかったのであり,小脇と鋼板販売部との関係も,ステンレス鋼板立入検査の前後で大きく変化しているのである。
次に,鋼板販売部が他の事件においてカルテルに参加していたことは事実であるが,これをもって本件合意の締結,実施等についても積極的に協力したとするのは早計である。本件合意における鋼板販売部の関与を認めるためには,鋼板販売部の規模,人数,各担当者の職務権限の範囲,当時の実際の担当者の行動,同社との価格交渉における森谷との役割分担等について具体的な事実認定を行う必要があるところ,本件審決は,このような事実を何も認定しないまま上記の結論を導いており,説得力がない。
また,本件審決は,小脇と石田はステンレス鋼板立入検査後も三和シヤッターに関して情報交換をしていたとの事実を認定しているが,この点に関する石田の証言は,連絡の内容等の具体性を欠くものであり,到底信用することができないものであり,このような証言に依拠した認定は誤りである。
エ 小括
以上の各事情に照らせば,三和シヤッター向けに販売された特定カラー鋼板については,黙示にカルテルの合意から除外したことをうかがわせる特段の事情が存在することが明白であり,課徴金算定の基礎から除外されなければならない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件審決には独占禁止法82条1項の定める取消事由は存在せず,本件審決が認定したとおりの事実を認めることができるものと判断する。
2 実質的証拠(独占禁止法82条1項1号)が存在することについて
⑴ 独占禁止法は,被告のした審決の取消訴訟について,被告の認定した事実は,これを立証する実質的な証拠があるときは裁判所を拘束するものとし,実質的な証拠の有無は裁判所が判断するものとしている(同法80条1項, 2項)。そして,裁判所は,審決の認定事実については,独自の立場で新たに認定をやり直すのではなく,審判で取り調べられた証拠から当該認定をすることが合理的であるかという点のみを審査するものとされる(最高裁昭和50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁)。
したがって,本件においても,本件審決の事実認定に実質的な証拠の裏付けがあるか,すなわち,本件審決の事実認定が,本件審決の挙げる証拠に照らし,経験則,採証法則等に違反するところがなく,合理的であると認められるかどうかを審査すべきことになる。
⑵ これを本件に即していえば,本件の争点⑴は,原告が本件合意に参加していたか否か,すなわち本件合意の内容が原告に伝達されたのか,されたとすればどのようにして伝達されたのかという点であるが,この点に関して,直接伝達したとする者の供述及び伝達されたとする者の供述等は存在せず,そのような伝達がされたと認識した者の供述が存在するにとどまるから,これらの供述等について,上記のような観点から審査すべきことになる。また,争点⑵は,原告が販売した本件ひも付きカラー鋼板のうち,原告が三和シヤッター向けに販売した本件ひも付きカラー鋼板が,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」に当たるか否か,すなわち本件ひも付きカラー鋼板のうち,三和シヤッター向けに販売されたものについて黙示的に本件合意の対象から除外したことをうかがわせるに足りる特段の事情が認められるかという点であり,この点に関して,上記のような観点から審査すべきことになる。
⑶ 争点⑴について
ア 本件審決が争点⑴について認定した事実は,上記第2の4⑴のとおりであり,これらの事実は,いずれも各事実の末尾に掲記された証拠によって認定されたものであるところ,それらの証拠によって上記事実を認定したことには,本件審決のその余の判断を併せみれば,経験則,採証法則等に違反するということはできず,当該認定をすることに合理性があると認められる。
これに対し,原告は,本件審決には採用すべき証拠を排斥し,排斥すべき証拠を十分な検討もなく採用した誤りがある旨や証拠によって認定された事実の評価に誤りがある旨を主張するので,以下において,これらの諸点について検討する。
イ 証拠の評価に関する原告の主張について
(ア) 荒木の陳述書(査103)及び証言について
原告は,荒木の陳述書を排斥すべきであった証拠として挙げ,同人の証言を採用すべきであった旨主張する。
荒木は,原告をはじめとする犯則嫌疑事件に関して被告に提出した平成20年1月24日付け陳述書(査103)において,平成16年8月頃に築地市場内の料理屋で,JFE鋼板及び淀鋼の担当者と打合せをして,アイジー工業及びトステムに対する販売価格をトン当たり1万円引き上げるという目標値を確認し,この結果を同会合に出席していなかった住金建材及び原告の担当者に電話で連絡した旨,両社の担当者からは特に異議は出なかった旨,平成17年2月頃,日本橋又は神田近辺の喫茶店で,JFE鋼板及び淀鋼の担当者と打合せをし,前年と同様,アイジー工業及びトステムに対する販売価格をトン当たり1万円引き上げるという目標値を確認し,この結果を住金建材及び原告の担当者に電話で連絡した旨を述べている。これに対し,荒木は,参考人審尋では,上記陳述書の上記部分は誤りであったとして,おおむね原告の主張に沿う内容の証言をした。
原告は,上記陳述書は,課徴金減免申請手続に関して作成されたものであって,一刻も早く申請手続を行い,より上位の順位を確保しなければならないという,時間的にも精神的にも切迫し,かつ冷静さを維持するのが難しい状況で,転勤先で連絡を受けて急きょ上京し,極めて短時間のうちに作成されたものであり,その内容の一部に誤りがあったとしても不自然ではない旨主張する。しかし,同陳述書においては,本件合意に加わった違反行為者として,ステンレス鋼板立入検査後に会合に出席しなくなった原告以外の高炉メーカーは挙げられておらず,「日新製鋼は,ステンレス事件以後会合には参加しなくなりました。」という記載があることから,ステンレス鋼板立入検査後のことであることを明確にした上で,本件合意に加わった違反行為者として,専業メーカー4社と共に原告が挙げられている。また,第2次合意及び第3次合意については,会合が行われた日及び場所が特定され,その会合に出席していなかった原告及び住金建材に対しては,日鉄鋼板及びJFE鋼板が,専業メーカーの合意内容を伝達していた旨が記載されている。このような記載内容によれば,荒木が本件合意への原告の参加に関して,ステンレス鋼板立入検査の前後を取り違え,ステンレス鋼板立入検査の前に原告がカルテルに参加していたことを誤って記載したものと認めることはできない。
また,同陳述書について,荒木は,参考人審尋において,原告の主張に沿う証言をした上で,「パニック状態の中で,平成14年以前の会合,この辺が混同して,日新という名前が出てきたのではないかというふうに思われます。」と証言する。しかし,荒木と原告の従前の関わりからすると,このように原告についての印象が薄いということ自体疑わしいばかりか,海女小屋での懇親会に小脇が出席したことに驚いたなどと,本件合意のメンバーでないことを認識していたかのような証言をしていたことに照らすと,陳述書作成時に記憶が混同したなどということはにわかには考え難い。さらに,同審尋において,荒木は,同陳述書について,日鉄鋼板が被告に対する課徴金減免申請を行うに際して,弁護士とやり取りをしながら任意に作成したものであることを認めているのであり,このことも考え併せると,同陳述書は,荒木が,ステンレス鋼板立入検査後に成立した本件合意について,当時認識していた事実を正しく記載したものと認めるのが相当であり,これに反する上記証言は,採用することができないというべきである。
(イ) 石田の参考人審尋の証言及び供述調書(査19)について
原告は,石田の証言及び供述調書についても信用性がない旨主張する。
石田は,参考人審尋において,ステンレス鋼板立入検査後,荒木が原告に対する連絡を自分が引き受ける旨を事業メーカーの担当者が集まった席で発言したのを聞いた旨,その2か月くらい後に,小脇から,懇親会の席上,コンプライアンスがうるさいが,自分の首をかけて会合には出て値上げを一緒にやりたい旨の発言があったのを開いた旨,実際に小脇は,昼間の全体会議には出なくなったが,夜の懇親会には出てくることがあった旨などを証言する。
原告は,石田の証言は,小脇の発言について,発言の前後の文脈,経緯や発言時に立っていたか座っていたかについて明確に答えられず,具体的な場所や時期も特定することができず,かつ,後には,もう思い出せないなどと曖昧な供述に変遷するなど,小脇の発言に関する石田の供述は信用することができない旨主張する。また,石田が,小脇の発言の時期について,「平成15年5月か6月ごろに小脇さんが値上げの協議をする会合に出ていた,そういうことですか。」と質問され,「はい。だと思います。」と回答したことについて,同回答は,ステンレス鋼板立入検査後に小脇が専業メーカーとの全体会議に出席することを控えるようになったという客観的事実と整合しないものであるといわざるを得ないとも主張する。しかしながら,小脇は,ステンレス鋼板立入検査後に専業メーカーとの全体会議に出席することは控えるようになったものの,懇親会やゴルフであれば出席でき,その席上で販売価格の情報交換をすること自体は差し支えないと考えており(査91・24頁),実際にも出席を続けていた(例えば,平成16年2月の海女小屋,同年7月の魚四季)のであるから,平成15年5月か6月頃にそのような機会があったとしても何ら怪しむに足りないというべきである。そして,石田の同証言は,全体会議について述べたものではなく,飲み会や懇親会の席のことについて述べたものであることが明らかである(速記録5頁)。したがって,この証言を小脇が全体会議に出席した旨の証言と位置付け,当事者間に争いのない客観的事実に反するものであるとする原告の主張は失当である。かえって,証言時に小脇の発言から相当の年月が経過していたことや,石田らが長期間にわたって会合等を繰り返していたことを考慮すると,小脇の上記発言の時期を厳密に特定することができなかったとしても,そのことにより信用性が揺らぐものとはいえない。さらには,小脇の,会社から会合に出ることは禁じられている反面,カラー鋼板の値上げはするように指示されている旨の発言について,「サラリーマンとして非常につらい発言をされていて,その言葉が非常に残っています。」と,具体的かつ臨場感に満ちた表現をしており(速記録25頁),実際に体験したことに基づくものと考えざるを得ないことを考慮すると,発言の時期を特定することができなかったり,一部に整合しない事柄を述べているからといって,このことは同証言の信用性に影響を及ぼすものではない。
また,原告は,参考人審尋において,原告代理人からの質問に答えて,供述調書で述べている,第1次値上げ及び第2次値上げに際して行った相対について(査19・15頁),ステンレス鋼板立入検査前のことである旨証言したこと(速記録12頁)が,同供述調書での供述内容と矛盾するものであり,同供述調書は本人の記憶に基づかずに作成されたものである旨主張する。しかし,石田は,相対については,平成16年春までは行っていた旨を明確に証言しており(同10頁),その限りにおいては,供述調書の内容と証言内容との間にそごはない。そして,速記録12頁のやり取りというのは,小脇が中心的に動いていた時期について答えたものであるところ,石田が勘違いして,原告代理人の,上記の供述調書の相対についての記載が平成14年から平成15年にかけて,すなわちステンレス鋼板立入検査前のことという質問に乗って答えたものとしか解されない。このことは,その後の証言で,その(平成14年から平成15年にかけて)後も毎期確認している旨証言していることからも明らかである(速記録24頁)。したがって,この点について原告の主張するような矛盾があるということはできない。
また,原告は,石田が,第2次値上げに関する平成16年7月12日の魚四季での懇親会に小脇を誘ったか否かという点に関し,誘ったかどうかはっきりしないということかという質問に対して,「はい。」と証言しながら(速記録8頁),その直後に同人が「ちょっと行けないな。」と述べたなどと明らかに矛盾する内容をちゅうちょすることもなく証言するなどしていること(同9頁)から,石田の証言の信用性に疑問がある旨主張する。しかし,石田は,全体としては,誘ったことを前提にした証言をしており(同23頁など),証言に矛盾があるとまではいうことはできず,供述調書の内容とも矛盾はない。
また,原告は,石田が,平成16年2月19日の海女小屋での懇親会について,同日の日本教育会館で合意した第1次値上げの内容が話題に出たか否かに関し,「出ていてもおかしくはないというふうに考えます。」と,話題が出た具体的な記憶はない趣旨の証言をしながら,その直後に,値上げの内容が話題に出たときの小脇のそぶりや対応について,初めて聞いたようなそぶりを見せなかったとか,(値上げの話が出ても)途中で退席することはなかったかという質問に対して「いや。ないです。」と答えるなど,値上げの話題が出たことを肯定するかのような証言をしていること(速記録17頁)をとらえて,石田の証言に矛盾がある旨主張する。しかし,上記の「出ていてもおかしくはないというふうに考えます。」という証言は,懇親会の位置付けや当日の雰囲気がそうであった旨を答えたものであって,話題が出たか否かについて具体的な記憶がない旨を述べたものと解することはできない。そのことは,続けて,日本教育会館で合意した値上げの時期や内容について,全く話題に出なかったということは考えられるかと問われて,「それはないですね。」と答えていることからも明らかである。したがって,その後の証言で値上げの内容が出たことを前提とした証言をすることは何ら矛盾するものではない。
また,原告は,参考人審尋における石田の証言態度が,落ち着きがなく,おどおどしたものであって,自らの記憶に基づかないと思われる内容について被告(審査官)の前で否定することもできず,曖昧にごまかそうとしていることが一見して明らかであったとも主張するが,速記録を精査しても,そのように評価すべき事情をうかがうことはできず,この点に関する原告の主張は採用することができない。以上のとおりであり,石田の証言及び供述調書について,これを排斥すべき旨の原告の主張は,採用することができない。
(ウ) 菊池の参考人審尋における証言及び供述調書について
原告は,菊池の参考人審尋における証言及び供述調書について,排斥すべき証拠である旨主張する。
菊池は,参考人審尋において,原告が本件合意のメンバーであると思っていた旨,誰からどこで聞いたかという記憶はないものの,ステンレス鋼板立入検査後においても,全体的な会合には出席しないが,電話で話すことは構わないし,飲み会等には出ると言っていると聞いたので,実質的にはメンバーと変わらないと思っていた旨,ステンレス鋼板立入検査後他の高炉メーカーが会合に参加しなくなった中で,原告なしに本件合意を継続するのは大変だろうと思っていたので,小脇がそのように言っているというのを聞いて安心した旨,専業メーカーの会合で決まったことの原告への連絡役は荒木だと思っていた旨,本件合意の後小脇と個別のユーザーに関する相対を行ったが,その際に格別そごがなかったことから専業メーカーの会合で決まったことは荒木を通じて原告に伝わっているものと思っていた旨,第4次値上げに関して平成18年6月に原告を訪問した際,対応に出た末次は,明確に了解したわけではなかったが,拒否したわけでもなかったので,原告として実行してくれるものだと思った旨を証言する。
まず,本件合意の内容を原告に伝える担当メーカーを決めたか否かという点について,供述調書では「決めたように思います」と供述していたところ(査20・10頁),参考人審尋では「決めたと思い込んでいた」と供述したり,「荒木が連絡役であると思い込んでいた」と供述したりしている。これらの点を取り上げると,供述内容が参考人審尋において変遷したという原告の主張にもうなずける面がある。しかし,荒木が原告に対する連絡役であるという認識については,「個別の話をしたときに,その前提として,専業での決まった内容というのを理解していた,そごはなかった,私が話したかぎりにおいては,ということで,情報は伝わっていたと,このように思っておりました。」と述べているのであり(速記録9頁),荒木が原告に対する連絡役であると認識していたことの根拠について明確に供述している。また,そのことについては,「ずっと思っておりました。今もそう思っております。」と明確に供述しているのであり(同8頁),少なくとも菊池自身の認識において,参考人審尋において供述調書とは異なる供述をしているという認識はなかったことが認められる。
このように,菊池の供述調書と参考人審尋における証言とを比較した場合,参考人審尋において,信用性に疑義を生じさせるほど供述内容が大きく変遷しているとはいえない。また,同供述調書について,審査官から都合のいい供述を求められたことはない旨証言しているのであって(同22頁),同供述調書の信用性がないとはいえない。
次に,菊池は,供述調書において,会合への出席についての小脇の発言について,「小脇さんは,値上げについていろいろ打合せしたり,電話してもらうのは一向に構わないし,夜の飲み会に誘ってもらっても構わないと言っている」旨の発言が,会合に出席していた者のうちの誰かからあった旨述べ(査20・8~9頁),参考人審尋においても,「電話で話したり,あるいは飲み会,そういうところには出るということで,直接電話で話すということも構わないというような話を開いておりました。」と証言する(速記録6頁)。この点に関し,原告は,菊池が上記発言を聞いた時期,場所その他について,「記憶にありません。」と述べていることや(同頁),平成20年11月27日付け供述調書では「日新製鋼の小脇さんから,会合には出席できなくなりましたが,うちの会社に来てもらって値上げについて打ち合わせたり,電話をしてもらうことも一向に構いませんなどと,意思表示をされていました。」と小脇自身から直接聞いたかのように供述しているとして(査4・48頁),上記証言は一貫性を欠くものである旨主張する。しかし,査4の供述内容は,必ずしも小脇自身から直接聞いた旨の内容と解することはできず,発言を聞いた時期,場所その他について明確な記憶がないからといって,上記発言を開いたという記憶自体がないということはいえないのであるから,原告の主張は採用することができない。
菊池証言については,第4次合意の際の面談での末次の対応に関して,「最終的に何と言ったかということは,私は当時もはっきりした記憶がありませんでした。」,「はっきり,分かりましたというふうに言われたかどうかという記憶はありません。」,「特に薄物の15円ということに関して,はっきり言ったか,態度だったかは記憶にないんですけれども,ちょっと懸念が,それは厳しいなみたいな反応があったような記憶があります。あと,時期が8月にということに関しても何かちょっと違和感があったのかなという記憶は残っております。」と供述しており,同供述は,供述調書(査4・46頁,査67・43~44頁)との対比で,結局は末次の合意がなかったことをえん曲に述べているものと解する余地もあるが,同証言の中では,「拒絶はなかったという記憶はあります」とも述べていること,審判官からの質問に対して「やってくれるものだというふうに私は認識したと思います。」と明確に合意が得られた旨の証言をしているばかりでなく,原告の同意が得られていなかったとすれば,再度専業メーカーの方針の再確認や練り直しをする必要があったはずだとまで述べていることに照らすと,菊池の証言の上記部分をもって,末次の合意がなかったことを述べていると解することはできないというべきである。
以上によれば,菊池は,証言において供述調書の内容を覆したり,これと矛盾する内容の証言をしているわけではないから,そのいずれについても信用性に欠けるということはできないというべきである。
(エ) 長谷川の参考人審尋の証言及び供述調書について
原告は,長谷川の証言及び供述調書についても信用性がない旨主張する。
長谷川は,参考人審尋において,平成14年10月以降本件ひも付きカラー鋼板の担当となったが,専業メーカーの会合に出席するようになったのは前任者の石田が海外に赴任した後の平成17年以降である旨,石田から原告が本件合意のメンバーであることについて格別引継ぎはされなかったが,専業メーカーの会合で荒木が会合の内容について原告に伝える旨の発言をしていたことから,原告も本件合意のメンバーであると認識していた旨,個別のユーザーに関する打合せで日鉄鋼板と原告との間で情報交換がされていることが感じられた旨などを証言する。
原告は,長谷川の参考人審尋の証言によって,同人の供述調書が信用することができないものとなった旨主張する。しかし,長谷川については,供述調書の内容と参考人審尋における証言内容との間に格別のそごが見られるわけではないから,供述調書の信用性が減殺されたとはいえず,参考人審尋においても,原告は本件合意のメンバーだと思っている,原告が本件合意のメンバーから抜けたとは認識していないと明確に述べているのであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,長谷川の証言が荒木や菊池の証言と矛盾し,荒木が原告に対する連絡役を務める旨発言をしたという長谷川の供述調書は信用することができない旨主張する。しかし,長谷川の供述調書の内容は,発言を聞いた時期や場所はそれぞれ異なるものの,本件合意の内容を原告に伝達する旨の荒木の発言を聞いたとする点では,上坂,石田及び保知の供述とほぼ一致するということができるのであるから,この点の長谷川の供述調書の内容は信用することができるというべきである。
したがって,長谷川の証言及び供述調書についても信用性がない旨の原告の主張は,採用することができない。
ウ 原告に本件合意が伝達されたことの認定の根拠として本件審決の挙げた事実の評価について
(ア) 専業メーカーらの会合において原告の価格交渉等に関する報告がされていたという事実について
原告は,本件審決が,専業メーカーらの会合において原告の価格交渉等に関する報告がされていたという事実を認定したことについて,証拠に基づかない認定である旨主張する。しかし,同認定は,本件審決の挙げる証拠に基づく認定として,不自然なものということはできないから,原告の主張は,採用することができない。
(イ) 専業メーカーと原告が相対等を行うに際してそごをきたすことがなかったという指摘について
原告は,本件審決が,専業メーカーと原告が相対等を行うに際してそごをきたすことがなかったという事実を認定したことについて,そもそもなぜそれが原告に本件合意が伝達されていたことの根拠となるのか不明である,そごの内容が不明であるなどと主張する。しかし,原告が本件合意の内容を知らされていなければ,相対を行う専業メーカーとの間で認識にそごが生じることは明らかであり,このようなそごをきたすことがなかったことが原告に本件合意が伝達されていたことの根拠の1つとすることが誤りであるとはいえない。そして,そごの内容については,その1つ1つを認定する必要まではないと考えられるところ,この点に関する本件審決の認定が不合理であるとはいえないから,原告の主張は採用することができない。
(ウ) 原告が専業メーカーとは本件ひも付き取引について複数回にわたって接触していたという指摘について
a 海女小屋での懇親会について
原告は,本件審決が,海女小屋での懇親会において,本件ひも付きカラー鋼板の値上げや第1次合意に関する話題が出たと認定したことについて,値上げの話が出たと明確に証言する者がいないにもかかわらず,値上げの話が出たと認定することは不自然である旨主張する。しかし,同懇親会は,平成16年1月20日及び同年2月19日の会合によって第1次合意が成立したのに引き続いて行われたものであり,その日の議題であった値上げのことが話題に出たとしても何ら不合理ではないから,ここで上記のような値上げの話が出たと認定することが不自然であるとはいえない。
b JFE鋼板との接触について
原告は,本件審決が,原告がJFE鋼板と接触していた事実として挙げた,旬三昧うるわしでの会合等について,これらはいずれも本件合意とは別個独立のYKKAPとの取引についてJFE鋼板から持ち込まれたものであって,本件合意に関する相対と位置付けられるべきものではない旨主張する。しかし,原告がその根拠として挙げる①(菊池は本件合意における専業メーカー間の合意や協議を小脇に伝えていないこと)については,菊池の供述調書(査4)によって伝えていることを認めることができ,②(菊池は他の専業メーカーの担当者に対して原告にアプローチしたことやYKKAPと原告との交渉状況等を伝えていないこと)については,淀鋼の長谷川のメモ(査109)の記載から,平成17年3月23日の専業メーカーの会合において,原告のYKKAPに対する値上げ交渉の状況が報告されたことが認められ(長谷川の速記録16頁),③(ZAMカラーの採用により大部分のシェアを原告に奪われた際もこれを問題視していないこと)については,菊池の証言から,同人が小脇に対して抗議したところ,同人からデリバリーの対応とこれまでの全ての互恵関係によるもので,価格については一切動いていないと説明されて引き下がったものであることが認められるから(同18頁),本件審決の認定に誤りがあるとはいえない。
c 淀鋼との接触について
原告は,本件審決が,原告が淀鋼と接触したと認定したことについて,その根拠として挙げた事実は,いずれも原告が淀鋼と接触したことの理由とはならない旨主張する。しかし,原告がその根拠として挙げる①(石田の証言は信用性に乏しく,第1次合意の際の接触についての証言についても信用性は乏しいというべきであること)については,石田の参考人審尋における証言が信用性を有することは上記のとおりであるし,②(淀鋼と原告には競合する需要家はなく,原告が淀鋼と接触する理由はないから,JFE鋼板と接触したことは淀鋼と接触したことの理由にはならないというべきであること)については,本件審決が認定した上記の客観的事実から,原告と淀鋼とは,三和シヤッターとの本件ひも付きカラー鋼板の取引に関して競争関係になかったということはできないから,上記事実が,原告と淀鋼が接触したことの理由にならないとはいえない。
エ 原告が本件合意のメンバーでないことを裏付ける専業メーカーの行動として原告の挙げた諸点について
(ア) 進捗会議において原告に関する話題が挙がったか否かについて
原告は,本件審決が平成17年2月23日及び平成18年6月19日の会合において原告の動向が報告されたと認定したことに関し,同認定が誤りであり,同事実を認めるに足りる証拠はない旨主張する。しかし,平成17年3月23日の専業メーカーの会合において原告の動向が報告されたことについては,既に述べたとおりであるし,平成18年6月19日の会合においても,保知の供述調書(査80・23~24頁)及び長谷川の証言(速記録14~15頁)によって,原告がYKKAPや三和シヤッターに対して値上げ交渉に動くことやその時期について報告があったことが認められるから,原告の主張は,採用することができない。
(イ) 原告によるJFE鋼板のシェアの奪取行為が専業メーカー間の会合に報告されたか否か,業界として問題とされたか否かについて
原告は,原告がJFE鋼板のYKKAPのシェアを奪ったことに対し,JFE鋼板が一切抗議等をしなかったことが,原告が本件合意のメンバーでなかったことを示すものであると主張する。しかし,JFE鋼板の菊池が原告の小脇に抗議をしたこと,それに対する小脇の説明に菊池が納得したためにそれ以上の行動に出なかったことは既に述べたとおりであり,原告の主張は採用することができない。
(ウ) 平成17年2月に合意されたエキストラ価格に関する専業メーカー間の合意内容が原告に連絡されたか否かについて
原告は,平成17年2月に合意されたエキストラ価格に関する専業メーカー間の合意内容が原告には連絡されていないことが,原告が本件合意のメンバーでないことを示すものであるとして,本件審決の認定を非難する。しかし,菊池の供述調書(査54・22頁)及び参考人審尋における証言(速記録11~12頁)によれば,上記エキストラ価格に関する合意は,原告の関係しない特定ユーザーであるアイジー工業と専業メーカー4社だけを対象としたものであることが認められるし,アイジー工業が原告の関係しないユーザーである以上,原告と協調する必要がなく,その合意内容を連絡する必要性も乏しいと考えられるから,連絡されなかったことが,原告が本件合意のメンバーでないことを裏付けるものとはいえない。
(エ) 平成17年9月に合意されたクロムフリーのエキストラ価格に関する専業メーカー間の合意内容が原告に連絡されたか否かについて
原告は,平成17年9月に合意されたクロムフリーのエキストラ価格に関する専業メーカー間の合意内容が原告に連絡されていないことが,原告が本件合意のメンバーでないことを示すものであるとして,本件審決がこの点について言及していない点を非難する。しかし,クロムフリーのエキストラ価格に関する合意が本件合意に含まれない以上,これについて連絡がなかったことが,本件合意のメンバーであるか否かと直接の関連を有するとは解されないから,この点の連絡がされなかったことが,原告が本件合意のメンバーでないことを裏付けるものとはいえない。
(オ) 日鉄鋼板が本件合意から離脱する際に原告に連絡されたか否かについて
原告は,日鉄鋼板が本件合意から離脱する際に原告には連絡されなかったことが,原告が本件合意のメンバーでなかったことを示す事実であるとして,本件審決が,何らかの手段によってその旨が原告に伝えられたことが考えられるとしたことを非難する。しかし,本件審決は,原告がステンレス鋼板立入検査後も専業メーカーとの間で協調関係を継続していたことなどの事実を認定した上で,上記離脱の事実が原告に伝えられたことは十分に考えられるとしているのであり,その認定には十分合理性があるというべきであるし,仮に上記離脱の事実が伝えられなかったとしても,そのことが直ちに原告が本件合意のメンバーでなかったことを示すものとはいえないから,原告の主張は採用することができない。
オ その他の事実誤認の主張について
(ア) 第4次値上げについて
a 末次が荒木らからの要請を受け入れたか否かについて
原告は,本件審決が,荒木の証言を採用せず,平成18年6月9日の面談で,菊池及び保知が,原告も第4次合意に加わり値上げに同調してくれるものと認識したと認定したことが誤りであると主張する。しかし,この点に関する荒木の証言にはその信用性に関して疑問があることは上記のとおりであるし,菊池は,末次の返答は明確ではなかったが,拒絶はなかった,やってくれるものと認識した旨証言しているのであり(速記録20,34頁),同証言に信用性が認められることも上記のとおりであるから,同証言によって,菊池が,末次が同調してくれるものと認識した旨認定したことには合理性が認められる。
これに対し,末次は,荒木,菊池及び保知の訪問を単なる挨拶であると思った旨証言するが(速記録3頁),課長級の末次に対して部長級の3名がわざわざ訪問したことをとらえて単なる挨拶ととらえることは不自然さが拭えない上に,末次は,値上げの話があったか否かについては,覚えていない旨答えているのであるから(同5頁),同証言を採用しなかった本件審決の認定には合理性が認められる。この点に関する原告の主張は採用することができない。
b 平成18年度の亜鉛価格の急騰に対応する各需要家の値上げ方針と第4次合意とが一致しているか否かについて
原告は,平成18年度の亜鉛価格の急騰に対応する各需要家の値上げ方針と第4次合意とが一致していない点について,①期中の値上げを実施するには実務的なプロセスからいって無理であること,②板厚に応じて値上げ幅に差を設けるとされたことが原告においては実施されていないこととの2点において見られるにもかかわらず,本件審決は,この点についての検討がされていない旨主張する。
しかし,①については,平成18年6月16日に開催された原告の販売担当者会議の議事録(審14)に「当社としては,店売りについて以下内容にて7月1日出荷から価格改定を予定している。」との記載のすぐ後に,「紐付についてもコストUP分に対し,価格改定並びにコスト改善を検討する。紐付については需要家毎に見て検討する。収益改善についても市川と連携し,今月末を目処にまとめたい。」との記載があり,これを見れば,ひも付きについても店売りと同様7月1日出荷分から価格改定を予定している旨に読めるから,本件審決が,原告において本件ひも付きカラー鋼板について店売りと同様に平成18年度上期中の値上げが検討されたことがうかがわれるとしたことには十分合理性があるということができる。
また,②についても,長谷川の供述調書(査72・21頁)には,荒木の発言として,「実際にそれを実行していくために,例えば,実際の板厚に関わらず,薄物を多く使う業界については,一律に薄物として決めた値上げ幅を目指すこととし,厚物を多く使う業界については,一律に厚物として決めた値上げ幅を目指すというように,ユーザーの業種によって,温度差,つまり,値上げ幅に差を設けたいという趣旨のことを言っていました。」旨の記載があり,このように値上げが行われるのであれば,必ずしも板厚に応じて区別した値上げであるということが明白になる形で実施されなかったとしてもおかしくはないことになるから,同一の需要家に対する値上げ幅が薄物と厚物とで同額であったとしても第4次合意の内容と矛盾するとはいえないとした本件審決の判断には十分な合理性があるというべきである。
(イ) 原告のシェア下落について
原告は,シェア移動の禁止が本件合意の大原則であり,本件合意の期間中6ポイントもシェアが下落したことは,原告が本件合意に参加していないことを示すものであるにもかかわらず,本件審決が同事実は認定を動かすには足りないとしたことが不当である旨主張する。しかし,取引の内容は,最終的には需要家との個別の交渉によって決まるものであり,シェア移動をもたらす要因には様々なものがあり得るものと考えられることによれば,本件合意に参加していたからといってシェア移動がないとは言い切れないのであって,本件審決の判断に合理性がないとはいえない。
⑷ 争点⑵について
ア 本件審決が争点⑵についてした判断は,上記第2の4⑵のとおりであり,同判断は,各認定事実の末尾に掲記された証拠,前提となる事実等(同2)及び4⑴において認定された事実を総合してされたものであるところ,それらの証拠によって上記の各事実を認定したことには,本件審決のその余の判断を併せみれば,経験則,採証法則等に違反する点は見られず,当該判断をすることには合理性があると認められる。
これに対し,原告は,本件審決には証拠の評価に誤りがある旨や証拠によって認定された事実の評価に誤りがある旨を主張するので,以下において,これらの諸点について検討する。
イ 専業メーカー間の合意内容との連動性について
原告は,三和シヤッター向けの本件ひも付きカラー鋼板の価格については,ベースメタルであるペンタイトの価格変動幅に連動して自動的に変動幅が決定されることになっていたから,本件違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められる旨主張するが,ペンタイトと本件ひも付きカラー鋼板とで別個に交渉をしたこともあり,それらの値上げ幅が同じでなかったケースも多かったことなど(審33),本件審決の認定した事実関係の下では,ペンタイトの価格変動幅を参考にするとしても,本件合意による影響を全く受けない状況で価格決定がされていたものと認めることは困難であるから,本件審決の判断に合理性がないとはいえない。
また,原告は,伝票価格と実質価格の関係についても,本件審決は事実関係を見誤っている旨主張するが,本件審決は,そのいずれが先に決定されるかを問題としているのではなく,実質価格に上乗せされる割戻金を決定する際に本件合意の内容の影響を受ける余地がある旨を述べているにすぎないから,本件審決が価格決定過程における事実関係を見誤っているものということはできないし,その判断についても相当であるということができる。
ウ 専業メーカーとの競合性について
原告は,本件審決が,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等に関して,淀鋼との間で情報交換等をしていたことから,原告及び淀鋼がそれぞれ三和シヤッターに販売する本件ひも付きカラー鋼板の販売価格には相互に関連性があったことを示すものであり,両者の間に三和シヤッターを需要家とする競争関係があったものとしたことが誤りである旨主張する。しかし,本件審決は,上記4で認定した以外に,ステンレス鋼板立入検査の前には,小脇は,原告が三和シヤッターに対する値上げを進める上で必要であることから,淀鋼の石田に対し,同社の大口取引先である文化シヤッターの値上げに関する情報を伝えるよう求め,これを伝達してもらっていたこと,原告は,平成14年8月21日,三和シヤッターに対してカラー鋼板等の値上げ交渉を行うに際し,文化シヤッターの価格に関する情報を伝達していること,原告は,同月30日の三和シヤッターとの価格交渉において,同社に対し,文化シヤッターの価格に関する情報を伝達し,三和シヤッターは原告に対し,文化シヤッターの価格に関する情報等を知らせるよう求めていること,原告は,平成15年3月19日の三和シヤッターとの価格交渉において,同社に対し,文化シヤッターの価格に関する情報を伝達していること等の諸事実を認定し,これらの事実から,原告は,取引関係のない文化シヤッターと専業メーカーとのカラー鋼板等の価格交渉状況等について,淀鋼の石田から情報提供を受け,また,三和シヤッターとのカラー鋼板等の価格交渉の場においては,文化シヤッター等の価格に関する情報を示して,原告の提示額がより安価であることを強調するなどし,三和シヤッターにおいても,原告に対し,文化シヤッターの価格に関する情報提供を求めていたものと認定している。その上で,本件審決は,三和シヤッターが,原告の提示する価格次第では,軽量シャッター用等のカラー鋼板を専業メーカーから購入する可能性があったことを認定し,このことは,原告と専業メーカーとが三和シヤッターを需要家とする競争関係にあったことを示すものにほかならないとして,このような関係が,平成16年以降に変化があったという事情はうかがわれないことをも勘案すると,原告と専業メーカーとの間に競争関係があったものと認定している。このような事実の認定過程及び判断過程には合理性があるというべきであるから,原告の主張は採用することができない。
エ 担当部門の違いについて
原告は,三和シヤッターを担当していた鋼板販売部と本件合意に関与した建築建材販売部が,本件ひも付きカラー鋼板の価格等に関して本件合意当時も情報交換をしていたことが推認されるとした本件審決の判断が誤りである旨主張する。しかし,本件審決は,①ステンレス鋼板立入検査前には,小脇は,専業メーカーとの合意内容を鋼板販売部に伝えたり,鋼板販売部から聞いた三和シヤッターとの交渉状況等を専業メーカーに伝えるなどして,三和シヤッターについても他社と共同して値上げ交渉をしていたところ,ステンレス鋼板立入検査の前後で原告における両部の関係に変化があったとは認められないこと,②原告の鋼板販売部は,軽量天井メーカー向けのめっき鋼板のひも付き取引について,別件めっき鋼板カルテル事件で認定されたとおりカルテルを行っていたから,鋼板販売部が本件合意の締結,実施等について協力したことが十分に考えられること,③ステンレス鋼板立入検査後においても,小脇は,淀鋼の石田との間で,三和シヤッターに対する本件ひも付きカラー鋼板の値上げ交渉等について電話で情報交換等をしていたこと等の事情を考慮して,鋼板販売部と建築建材販売部が本件合意の内容や,本件ひも付きカラー鋼板の価格等に関して本件合意当時も情報交換していたものと推認したものであるところ,前提となる事実の認定に誤りはなく,このような推認過程にも誤りがあるとはいえないから,原告の主張は採用することができない。
⑸ 小括
以上のとおりであり,本件審決に実質的証拠が存在しない旨の原告の主張は,いずれも採用することができない。
3 憲法その他の法令違反(独占禁止法82条1項2号)がないこと
⑴ 参考人審尋の申出を一部却下したことについて
参考人審尋の採否については,審判官は,広範な裁量を有しており,原告が主張するように,当該事件に関連しかつ明白な違法ないし不当性が認められない限り原則として採用されなければならないという証拠法則が導かれるものではない。このことは,独占禁止法60条が被告又は審判官が証拠を不採用とする場合には理由を付さなければならないと定めていることからも明らかである。また,裁判所において行われる訴訟手続においてもそのような証拠法則は存在しないことに照らすと,このことは,被告における審判手続が準司法手続としての性格を有することを考慮しても,変わるものではない。さらには,本件の経過に照らしてみても,原告は,平成22年7月29日,本件審判手続の第5回審判期日において,小脇,森谷及び末次のほか,日鉄鋼板の荒木,JFE鋼板の菊池,上坂及び馬場,淀鋼の長谷川,石田及び保知の合計10名について参考人審尋の申出をしたところ,審判長は,同年9月29日の本件審判手続の第1回準備手続において,上記10名のうち,JFE鋼板及び淀鋼については各1名ずつ優先的に実施すべき者を絞り込むことを検討するよう求め,原告は,同年10月28日の本件審判手続の第2回準備手続において,JFE鋼板については菊池を,淀鋼については石田及び長谷川の参考人審尋を行いたい旨述べ,担当審判官は,これら3名について参考人として採用し,これら3名の外,その後,原告の小脇,末次,日鉄鋼板の荒木についても参考人として採用し,合計6名の参考人審尋を実施した。原告は,平成23年2月25日,本件審判手続の第8回審判期日において,再度,森谷及び上坂を参考人として採用することを求めたが,担当審判官はいずれも採用しなかったところ,原告はこれに対して異議を申し立てなかったというのであり,その経過自体に違法な点は見られないばかりか,実施された参考人審尋の内容及びこれらの者の供述調書の内容は上記2のとおりであり,合計6名の参考人の審尋を実施した結果,森谷,上坂,馬場及び保知についてこれを調べなければならない事態となったとはいえないから,これら4名について参考人審尋の申出を採用しなかったことが,裁量を逸脱又は濫用したものということはできない。
⑵ 参考人審尋の申出を却下した4名について供述調書を重要な事実の認定に供したことについて
反対尋問の機会を与えるということは,これによって真実性を担保しようというものであるが,刑事訴訟手続のように厳格な要請がされる手続とまではいえず,信用性の問題として判断すれば足りるところ,上記各供述調書は,一定程度の信用性があると認められることは上記のとおりであるから,これらを事実の認定に供したことが違法であるということはできない。
⑶ 小括
以上のとおりであり,本件審決に憲法31条その他の法令違反がある旨の原告の主張は,採用することができない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

平成25年12月13日

裁判長裁判官 佐久間邦夫
裁判官 林正宏
裁判官 蓮井俊治
裁判官 針塚遵
裁判官 齋藤憲次

別紙
溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯のうち次に掲げるもの
1 質量分率で97パーセント以上の亜鉛から成るめっき浴において両面等厚の溶融亜鉛めっき(合金化めっきを除く。)を行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの
2 質量分率で約5パーセントのアルミニウム及び残部亜鉛から成るめっき浴において溶融めっきを行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの
3 質量分率で約55パーセントのアルミニウム,1.6パーセントのシリコン及び残部亜鉛から成るめっき浴において溶融めっきを行った鋼板及び鋼帯に合成樹脂(ポリ塩化ビニルを除く。)を塗覆装したもの

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