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真成開発(株)ほか1名による審決取消請求事件

独禁法3条後段,独禁法7条の2

平成24年(行ケ)第23号

判決

川崎市多摩区菅3丁目11番6号
原告 真成開発株式会社
同代表者代表取締役 金森幸宗
川崎市多摩区登戸1768番地
原告 株式会社吉孝土建
同代表者代表取締役 吉澤敏行
上記2名訴訟代理人弁護士 網取孝治
同 髙井信也
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 中里浩
同 北脇俊之
同 瀨島由紀子
同 堤勝利
同 藤本哲也

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告が,原告らに対する公正取引委員会平成22年(判)第8号ないし第11号排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,平成24年11月26日付けでした審決を取り消す。
第2 事業の概要
1 被告は,原告らを含む別紙1記載の24社(以下,単に「24社」という。これらの会社については,別紙1の「略称」欄による略称を用いる。)が,川崎市が一般競争入札の方法により発注する下水管きょ(汚水や雨水を集め,これらを下水処理場や放流先まで導くための排水管又は溝状の水路である排水きょ)の新設又は補修工事(以下「下水管きょ工事」という。)について,平成20年3月12日から平成21年3月31日までの間(以下「本件期間」という。)に行われた,Aランクの事業者及びAランクの市内業者を代表者とする特定建設工事共同企業体(以下「JV」という。)のみを入札参加者とする別紙2のとおりの工事(以下「本件特定下水管きょ工事」という。)の入札に際し,その都度,あらかじめ入札参加を申し込んだ者の間の話合いによって受注予定者を決定し,受注価格はその受注予定者が自己の希望で定めるものとし,他の者はその受注価格以上で入札するか入札を辞退するなどにより受注予定者が受注価格で落札できるように協力することを互いに合意(以下「本件基本合意」という。)し,実際に,この合意に基づいた受注調整(以下「本件違反行為」という。)をすることによって,公共の利益に反して競争を実質的に制限したものであり,これは私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するとして,平成22年4月9日,24社のうち,本件期間中にすでに廃業した関トウを除く23社に対し,それぞれ,同法7条2項に基づく排除措置を命じた(公正取引委員会平成22年(措)第9号。以下「本件排除措置命令」という。)。
また,被告は,同日,本件排除措置命令に係る本件違反行為は独占禁止法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,同条同項に基づき,原告吉孝土建に対し課徴金471万円の納付(公正取引委員会平成22年(納)第40号)を,原告真成開発に対し課徴金346万円の納付(同第45号)をそれぞれ命じた(以下「本件課徴金納付命令」という。)。
原告らは,被告に対し,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消しを求めて各審判請求(公正取引委員会平成22年(判)第8号~11号)をしたが,被告は,争いない事実及び証拠等によれば次のとおり認められるとして,平成24年11月26日,各審判請求をいずれも棄却する審判審決(以下「本件審決」という。)をした。
⑴ 原告らを含む24社は,本件特定下水管きょ工事について,本件基本合意をした。
⑵ 本件基本合意は,本件特定下水管きょ工事における競争を実質的に制限するものであった。
⑶ 本件違反行為の期間は,平成20年3月12日から平成21年3月31日までと認められ,別紙2記載の一連番号欄(以下単に「番号」という。)6の工事及び番号24の工事は,いずれも本件違反行為期間中に発注された本件特定下水管きょ工事であると認められる。
⑷ 原告吉孝土建は番号24の工事を,原告真成開発は番号6の工事をそれぞれ本件基本合意により受注した。
⑸ 原告吉孝土建がJVの構成員として受注した番号24の工事について,独占禁止法施行令6条1項にいう「契約により定められた対価」は1億4742万円であった。
原告らは,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 前提事実(争いのない事実及び本件審決記録から容易に認められる事実)
⑴ 当事者等
原告らを含め,24社のうち関トウを除く23社は,別紙1中「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,建設業法の規定に基づき国土交通大臣又は神奈川県知事の許可を受け,建設業を営む者である。関トウは,同様に許可を受けて建設業を営んでいたが,平成21年1月28日神奈川県知事から許可を取り消され,以後建設業を営んでいない。
⑵ 川崎市の下水管きょ工事の発注方法等
ア 発注方法
川崎市は,下水管きょ工事の発注方法として,平成18年度以降は,予定価格がおおむね1000万円以上の工事は一般競争入札の方法により,1000万円未満の工事は指名競争入札の方法により発注している。
イ ランクの格付等
川崎市は,下水管きょ工事について,「川崎市競争入札参加者選定規程」に基づき,同市の一般競争入札及び指名競争入札への参加を希望する事業者に対して,資格審査を行い,A,B,C又はDのいずれかのランクに格付けるとともに,川崎市内に本店を置く事業者(以下「市内業者」という。),川崎市内に本店を置かないが事業所を置く事業者,川崎市内に本店及び事業所のいずれも置かない事業者に分けて,これを登録した名簿を作成していた(以下,川崎市がこの名簿に登録している事業者を「有資格者」という。)。
川崎市は,有資格者のランクを2年に1度改訂しており,平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間,川崎市から市内業者に区分され,かつ,下水管きょ工事についてAランクに格付けられていたのは,31社であった。前記24社はいずれもこの間,Aランクの市内業者であったが,関トウは平成20年5月20日以降有資格者でなくなった。
ウ 一般競争入札参加の条件
(ア) 川崎市は,一般競争入札の方法により発注する下水管きょ工事について,原則として,市内業者であるとともに,当該工事の予定価格に対応するランクの有資格者であることを入札参加の条件としており,予定価格がおおむね7000万円以上である工事については,Aランクの市内業者であることを入札参加の条件としていた。
(イ) また,川崎市は,予定価格がおおむね2億円以上のもので,工事内容等を総合的に勘案し,JVによる施工が適当と認める下水管きょ工事については,当該工事の予定価格に対応するランクの有資格者を構成員とするJVであることを入札参加条件とし,予定価格がおおむね2億円以上7億円未満の工事については,Aランクの市内業者を代表者とするJVであることを入札参加の条件としていた。
エ 入札の辞退
下水管きょ工事の入札参加申込者は,入札を行うまでの間は,いつでも辞退届を提出し,入札参加を辞退することができた。
⑶ 平成5年の勧告審決
24社の一部を含む市内業者69社は,一部の下水管きょに係る工事について,共同してあらかじめ特定の受注予定者を決定しその者が受注できるよう受注調整していたことが独占禁止法に違反するとして,平成5年11月12日,公正取引委員会から,平成17年法律第35号による改正前の独占禁止法48条4項に基づく勧告審決を受けた。
⑷ 平成17年以降のAランク市内業者らによる会合
平成17年以降,Aランクの市内業者らは,以下のとおり会合を持った(原告らの出席の有無については争いのある部分がある。)。
ア 平成17年6月10日,Aランクの市内業者らは,社団法人川崎建設業協会(以下「協会」という。)において会合を持った。
イ 平成19年4月3日,同月20日及び同年7月24日,川崎市の中原区,高津区,宮前区,多摩区及び麻生区(以下「5区」という。)のAランクの市内業者らは,麻生区所在のホテルモリノ新百合丘(以下「ホテルモリノ」という。)において会合を持った。
ウ 平成20年2月22日,Aランクの市内業者は,ホテルモリノにおいて会合を持った。
エ 同月26日,Aランクの市内業者は,協会において会合を持った。
⑸ 本件期間内における入札の実施状況
ア 本件特定下水管きょ工事は,別紙2のとおりの42件である。
イ 原告吉孝土建は,番号12,19,24,32,35,42の6件に入札参加の申込みを行い,このうち番号24の工事を藤木工業とのJVとして受注した。
ウ 原告真成開発は,番号4ないし7,11,12,17ないし26,28,29,32ないし35,38,39,41の25件に入札参加の申込みを行い,このうち番号6の工事を藤原建設とのJVとして受注した。
3 争点
⑴ 本件基本合意の存否及び原告らの参加の有無
原告らを含む24社は,本件特定下水管きょ工事について,本件基本合意をしたか。
⑵ 本件基本合意による競争の実質的制限の有無
本件基本合意は,本件特定下水管きょ工事における競争を実質的に制限するものであったか。
⑶ 本件違反行為の始期及び終期
ア 本件基本合意に基づき本件違反行為が開始されたのは,平成20年2月26日の会合以降の最初の入札(番号1の工事)からか,岡村建興も本件基本合意に参加したといえる番号9の工事の入札からか。
イ 本件違反行為は,平成21年3月の入札(番号42)まで続いたか,重田組が低価格入札の態度を明らかにし,これを他の事業者も認識したといえる番号17の入札を最後に,本件基本合意の効力は失われ,本件違反行為は終了したか。
⑷ 原告らが受注した工事は,本件基本合意のもとに受注したものとして,独占禁止法7条の2第1項の課徴金納付命令の対象となるか。
⑸ 原告吉孝土建が受注した番号24の工事について,同原告に売上げがあったか。
番号24の工事の請負代金を,原告吉孝土建と藤木工業が届け出たJV比率により按分した額が,同原告の売上額であったといえるか,両者のその後の合意によって原告吉孝土建の請負代金取得額は0円になり,同原告の売上げはなくなったか。
4 争点についての当事者の主張
⑴ 本件基本合意の存否及び原告らの参加の有無について
(原告らの主張)
ア 本件審決は,本件基本合意があったと認定した理由を,主として他の多数の事業者の供述に求めている。しかし供述の信用性を多数決で決しようとの認定態度は誤りである。原告ら以外の22社の供述は,見込み捜査に基づく審査官の誘導により作成されており信用性が低い。また本件審決は,原告ら以外の21社(22社から廃業したため命令を受けなかった関トウを除く。)が審判請求をしていないことも理由としているが,そのことも認定の理由にならないというべきである。
イ 平成17年6月10日の協会における会合,平成19年から平成20年までのホテルモリノにおける会合,平成20年2月26日の協会における会合を通じて,24社には受注調整に実効性がないことについて相互の了解があったのであって,いずれの会合でも各社の願望を述べ合ったにすぎず,受注調整に向けて何らかの具体的,基本的な合意が成立したとはいえない。本件審判は,平成17年6月10日の協会における会合が既に本件基本合意形成の一環であると認定しているが,特定の会合で合意が成立したのであれば,その直近の入札から効果が発現するのが通常であるから,平成20年3月まで2年9か月もその効果が発現しなかったのは不自然である。
ウ 平成20年2月26日の協会における会合には原告らは出席していない。原告吉孝土建の代表者吉澤敏行(以下,同種の表示においては,原則として「代表者」などの肩書を省略するとともに姓のみを表示することにして「原告吉孝土建の吉澤」などとする。)は,同日,宿河原・バラ園アクセスロード整備工事の工事現場で景観ブロックの据付作業をしていた。原告真成開発の金森は,同日,千葉県大網白里の工事現場で施工していた。これらの事実は,写真や日報などから裏付けられるし,両名が上記会合に出席していないことは大恵建設の管も明確に述べている。出席を裏付けるとされている澤田組の澤田,ヤマチョウの山本,生田建設のAの供述は信用性に欠ける。
エ 本件審決の論調は,原告ら24社は,平成5年の勧告審決にもかかわらず,これに懲りずに同審決内容と同様に談合に向けての基本合意の形成と受注調整を行ったとするものである。しかし,本件審決がその存在を指摘している本件基本合意及び本件違反行為の内容は,平成5年の勧告審決のそれとは比較できないほど大きく異なるものである。平成5年の勧告審決の事案においては,指名競争入札等の参加者69社間にあらかじめ受注予定者を決定し受注調整をすることの基本合意の成立と,受注予定者を1人に絞り込むための談合の存在を否定し得べくもなかった。当時は指名競争入札であったため,川崎市から入札参加の指名を受けた者が69社にあらかじめ明らかにされるので,受注を希望する者の調整が比較的容易に行い得たのである。
しかし,一般競争入札である本件においては,入札参加者間でアウトサイダーを含めて受注予定者を1社に絞り込むための合意形成は困難であり,現にそれが行われたとの具体的立証は何らされていない。本件で提出された証拠において,各地区に連絡員なるものを置いて,連絡員による調整によって受注調整が行われたとの供述が散見されるが,その供述内容は抽象的あるいは一般的であり,連絡員の役割や権限も不明確であって,具体的な工事案件について,受注予定者を一人に絞り込むためにどのような調整が行われたかを立証する証拠は存在しない。
(被告の主張)
ア 本件審決は,本件基本合意があったとの認定を多数決で決したわけではない。この点の原告らの主張は前提を欠いており誤りである。また審査官の見込み捜査や誘導により供述調書が作成されたということについて,原告らは具体的な根拠を示しておらず,単なる憶測をいうものにすぎない。原告らを除く21社が排除措置命令を受けながら審判請求をしていない事実は,当該事業者が排除措置命令に記載された事実を認めていることを推認させ,更にこのことは同事実の存在を推認させるから,原告ら以外の事業者が審判請求をしていないことを認定の根拠とすることに誤りはない。
イ 本件証拠を総合すれば,Aランクの市内業者らは,平成17年6月10日から平成20年2月22日にかけて会合を重ね,受注調整に向けた話合いを行い,工事の履行場所の近くに所在する受注希望者が優先して受注することができるようにお互いに協力して受注調整を行っていくことを確認した事実が認められる。また,合意の形成過程は様々であるから,一般的に違反行為に近接した会合において基本合意と因果関係のある議論や合意がされるのが通常であるということはできないし,本件のように,受注調整に向けて複数回にわたって会合を重ねているような場合には,それだけ受注調整の願望が当事者において強かったこともうかがわせるから,過去の会合が基本合意の成立の根拠とならないとはいえない。
ウ 平成20年2月26日の協会における会合当日,原告らの代表者がそれぞれ工事現場にいたことを示すものとして原告らが証拠提出した写真や日報,両名が前記会合に出席していないとの管の供述は,いずれも信用性に欠ける。同会合に出席していたことを述べる澤田,山本の供述は,時期や出席者について記憶が曖昧のところがあるが,そうであるからといって信用できないとすることはできない。むしろ,澤田や山本は,自身の記憶に曖昧な部分があることを認めた上で,記憶している事実についてはその範囲内で正直に供述しているというべきである。
エ 本件審決は,平成5年の勧告審決をもって本件基本合意の存在の認定の根拠としているものではなく,また,原告らが上記勧告審決と同様の違反行為を行ったと認定しているものでもない。また,原告らは,上記勧告審決の事案と対比し,本件基本合意について24社間でそれが成立したことを明らかにする証拠はないとしているが,本件基本合意の内容は証拠上明らかであるし,その成立の日時,場所等が具体的に特定されていないとしても,入札に先立って各事業者間で相互にその行動に事実上の拘束を生じさせ,実質的に競争を制限する意思の連絡が相互に形成されていることが認められればよいと解すべきである。本件証拠によれば,本件基本合意に係る事業者らの具体的な認識内容や,平成17年6月10日以降数度にわたり受注調整を機能させるための会合が開催されていたこと,本件期間中個別案件において事業者の認識に沿った行動がとられていたことなどが認められる。
なお,原告らの主張は,入札談合事案における基本合意は,アウトサイダーを含めて受注予定者を1社に絞り込む合意でなければならないことを前提としているが,そのような前提に立つことは誤りである。
⑵ 本件基本合意による競争の実質的制限の有無について
(原告らの主張)
次の事情からして,本件では,落札者及び落札価格は,あるときは自由競争により,あるときは工事自体の内在的制約や地域性を尊重する事業者らの判断により受注者が落札者以外にいなかったことによって決まったのであって,本件基本合意によるものではなかった。
ア フリー物件が存在すること
本件期間中に,受注調整が行われず自由な価格競争が行われた,いわゆるフリー物件が複数存在した。すなわち,低価格入札を行う者と認識されていた株式会社トモエコーポレーションがAランクの事業者の中に含まれていたことが判明した平成21年2月13日の入札以降を除いたとしても,全35件の入札のうち,6件(番号7,17,28,31,32,35)を占めている。全体の2割弱について自由な価格競争を行っていた事実は,当該取引に係る市場が有する競争機能が損なわれたとの事実が存しないことを如実に示している。
イ 落札者以外に受注希望者がいなかった工事が,審査官が本件違反行為と認定した28件のうち22件(番号1~4,8~16,18~20,23,25~27,30,34)の多数を占めること。その原因としては次のものがあげられる。
(ア) 工事の内容
利幅が少ないこと(番号1,8,19など),施工方法が専門的であること(SPR工法が必要な同3,4,更生工事が含まれる同20など),工事の施工場所に問題があること(同23,26など)などがある。
(イ) 地域性の尊重
24社は,各工事の施工場所の地元の事業者や継続物件を有する事業者を優先し,これが明確な工事については他の事業者は受注を希望しないことが多かった(番号2,12,27など)。本件審決においては,このような地元や継続物件を優先すること自体を受注調整と論難したが,24社が経済合理性に基づいて地元や継続物件を優先する限り,競争機能は損なわれていないと考えるべきである。
ウ 落札率に変化がないこと
本件審決も受注調整が行われなかったと認定する番号36の工事以降も,それ以前と比べて落札率は変わらずに高く,本件期間前の平成17年1月1日から平成20年3月11日までの間においても,低価格入札を繰り返すと認識されていた関トウが入札参加していない4つの工事については落札率はやはり高いのであって,これらの事実は,入札結果が本件基本合意に左右されていないことをうかがわせる。
(被告の主張)
ア フリー物件の存在について
原告らの主張する6件のうち,番号7は受注希望者間の話合いにより小沼工務店が受注予定者になり,入札参加申込者のうち少なくとも3社は小沼工務店が受注できるように協力したことが認められるのであって,フリー物件であったとはいえない。また番号32については受注調整が行われており,これもフリー物件であったとはいえない。他の4件について受注調整が行われなかったとしても,本件基本合意が受注予定者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしており,競争を実質的に制限していたとの認定を覆すものではない。
イ 落札者以外に受注希望者がいない工事が多数を占めることについて
落札者以外に受注希望者がいなかったと原告らが主張する工事についても,24社は,その履行場所等も踏まえ,受注希望者が1社だけであることを確認して受注予定者を決定し,また,受注価格はその受注予定者が決めるものとし,他の入札参加者は,受注予定者が定めた価格を上回る価格で入札したり入札を辞退するなどの方法で受注予定者の受注に協力したのであって,本件基本合意が,これらの場合においても,受注者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたといえる。
そもそも,落札者以外に受注希望者がいなかったと原告らが主張する工事についても,落札者以外に入札参加の申込みをした事業者がいたことはその他の工事の入札の場合と同様である。原告らは,受注を希望していないはずの事業者が入札参加の申込みをした上で辞退したり,実際に入札した理由について,独自に主張を補足することをせず,かえって,受注調整の実施状況についての審査官の主張を引用するのみである。そうすると,結局のところ,原告らのいう「落札者以外に受注希望者がいなかった」とは,本件基本合意に基づく受注調整が行われた中で受注を希望した事業者が1社のみであったことをいうにすぎない。そのような入札が多数を占めていたからといって,本件基本合意による競争の実質的制限に関する本件審決の判断が左右されるものではない。
ウ 落札率に変化がないことについて
原告らは番号36以降の入札や本件期間前の入札についても落札率が高いことを指摘するが,本件審決は,落札率の高さのみをもって本件基本合意が受注予定者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたと認定しているものではない。その上,本件期間前の落札結果については,関トウは本件基本合意の当事者なのであるから,関トウを除外して落札率を比較するのは不当であるし,番号36の工事以降の落札率と比較しても,受注調整が行われた28件の平均落札率が98.0%と極めて高い水準であったことが左右されるものではない。
⑶ 本件基本合意の成立時期及び終了時期について
(原告らの主張)
ア 本件基本合意の成立時期について
平成20年2月26日の会合には,岡村建興や熊谷建設が加わらなかったため,出席者の大半は本件基本合意のような合意をすることによって受注調整の効果が生ずるかについては疑問を持っており,その意味で願望にすぎなかった。そしてこの会合後の番号7の工事は,岡村建興が独自に落札しており,受注調整が機能しなかったことが明らかとなっている。本件基本合意の成立は,早くとも,岡村建興が他の23社と意思を通じたといい得る同年5月23日を入札締切日とする番号9の工事の入札以後と考えるべきである。
したがって,同年3月19日を入札締切日とする番号6の工事を藤原建設とのJVで受注した原告真成開発は,本件基本合意に基づく本件違反行為により受注したとはいえない。
イ 本件基本合意の終了時期について
重田組は,指名停止処分を契機として経営が悪化し,平成20年8月頃から本件基本合意を無視した低価格入札によってでも受注しようとの態度を明らかにするようになった。同月6日が入札締切日の番号17の工事を,重田組は落札率82%で受注したが,低価格入札によるものであったことは明らかである。他の23社も,重田組が本件基本合意を無視した低価格入札を始めた事実を認識した以上,本件基本合意の効力は切れたとみるべきである。
同年9月以降は,フリー物件が多発するようになった。同年11月19日が入札締切日の番号28の工事について,小沼工務店が本件基本合意を無視した入札をして落札した。重田組が落札した同年12月10日が入札締切日の番号31の工事,平成21年1月20日が入札締切日の番号32の工事も同様である。
本件審判においては,平成21年3月以降に入札締切日を迎える物件を基本的にフリー物件であったと認定している。本件審判はその理由について,この時期には,23社は,低価格入札を行う者と認識されていた市内業者がAランク事業者に含まれており,その事業者が入札に参加すれば本件違反行為を行うことが困難になると認識していたことを挙げている。すなわち,低価格による入札を行う者が存在すれば本件違反行為を行うことが困難になると入札参加者らが認識するという関係は,本件審判も認めているのであり,そうであれば,振り返って,平成20年8月6日の重田組の低価格入札の入札態度を23社が認識した時点で,23社は違反行為を行うことが困難であると認識して本件基本合意を取りやめたと認定するのが素直である。
したがって,同年10月9日を入札締切日とする番号24の工事を藤木工業とのJVで受注した原告吉孝土建は,本件基本合意に基づく本件違反行為により受注したとはいえない。
(被告の主張)
ア 本件基本合意の成立時期について
平成20年3月12日に行われた番号1の工事の入札については大栄建設が,同2の工事の入札については月野建設が,それぞれ入札を希望し,他の入札参加申込者の協力を得て入札したことが認められるから,本件基本合意のもとで受注調整が行われたといえる。その後の同月19日が入札締切日の工事(番号3~8)についても同様であることが証拠上認められる。
原告らは,岡村建興や熊谷建設が同年2月26日の会合に参加しなかったから,参加した事業者らは受注調整の効果が生じるか疑問視していたと主張するが,岡村建興及び熊谷建設が参加しなかったからといって,岡村建興を除く23社の間で本件基本合意が成立していなかったとはいえない。
イ 本件基本合意の終了時期について
証拠によれば,番号17の工事の入札後,平成21年3月31日までの間に発注された川崎市の特定下水管きょ工事は24件あったところ,重田組はこのうち12件について入札参加の申込みをし,番号18,25~27,30,32~34の8件の工事について受注調整がされたことが認められ,26,30,33,34の工事について,各工事の受注予定者が重田組から協力を得て受注したことが認められるから,17の工事以後重田組が受注調整に協力しなくなったとはいえない。
⑷ 原告らが受注した工事の独占禁止法7条の2第1項(課徴金納付命令)該当性について
(原告らの主張)
争点⑴~⑶について,前記原告らの主張のとおりであるから,原告らが番号6及び24の工事を受注して施工したことは独占禁止法7条の2第1項に該当しない。
(被告の主張)
ア 証拠によれば,原告らを含む23社は,平成20年3月19日を締切日とする番号3~8の工事の受注予定者を決定するため,同月18日,協会で会合を開いたこと,この会合において,番号6の工事については,受注希望者間の話合いにより,工事の履行場所と同じ宮前区に本店を置く藤原建設を代表者とする藤原建設・真成開発JVが受注予定者になり,同JV以外の入札参加申込者である6JVの協力を得た結果,予定価格の98.7%に相当する2億5800万円で同工事を落札したことが認められる。これは,本件基本合意に基づく個別の受注調整である本件違反行為の結果であるから,独占禁止法7条の2第1項に該当し課徴金納付命令の対象になる。
イ 証拠によれば,番号24の工事は,藤木工業・吉孝土建JVのほか,6JVが入札参加の申込みをしたこと,平成20年10月2日,これらの事業者は,受注予定者を決定するため,川崎市中原区所在の会館とどろきで会合を開いたこと,この会合において,受注希望者間の話合いにより,かねてから多摩区登戸地区を工事の履行場所とする工事を継続して受注していた藤木工業を代表者とする藤木工業・吉孝土建JVが受注予定者になり,同JV以外の入札参加申込者6JVの協力を得た結果,予定価格の99.5%に相当する4億6800万円で同工事を落札したことが認められる。これは,本件基本合意に基づく個別の受注調整である本件違反行為の結果であるから,独占禁止法7条の2第1項に該当し課徴金納付命令の対象になる。
⑸ 原告吉孝土建が受注した番号24の工事の売上額について
(原告吉孝土建の主張)
ア 原告吉孝土建は,平成20年10月9日の入札期日の約1か月前,藤木工業からJVの打診を受けた。川崎市による工事の公告後,原告吉孝土建の吉澤は,藤木工業の藤木会長とJVの比率について協議した。吉澤は吉孝土建が親になりたいと打診したが,藤木会長が継続物件であるからと強硬に主張したため,藤木工業70%,原告吉孝土建30%のJV比率で藤木工業が親となることに同意し,同年9月16日,同意内容に基づいて藤木工業との間で共同企業体協定書(審16)を作成した。
イ 落札後1週間ほどしてから,吉澤は藤木会長から,番号24の工事は外注業者の施工部分がほとんどであり,自社施工は竪杭しかなく藤木工業と原告吉孝土建の2社で分けるほどの工事ではない。ついては本件工事は藤木工業の一完施工として請負代金についても藤木工業のみが受領したい旨の申入れがあった。吉澤は反対したが,藤木会長に押し切られた。その際,藤木会長は,工事の経費について負担は求めない,名前だけ貸してくれれば300万円は払う。この点について覚書を締結したいと述べ,同年11月7日,藤木工業から原告吉孝土建宛てに打合わせ内容を確認するファックス文書(審17)が送られ,これに基づいて両社の間で覚書(審18,23)を締結した。
ウ 原告吉孝土建は,同年11月30日,この合意に基づいて,藤木工業に315万円を請求し,同金額について入金を受けた(審19・20)。原告吉孝土建はこれ以外に藤木工業から何らの金員も受領していない。
エ 独占禁止法7条の2第1項にいう実行期間内の売上額は請負契約を基準とするものであり,JVの場合は請負金額をJV比率で按分した額ないし取り決められた各構成員の請負代金取得額による。前記イ,ウの経緯があるので,原告吉孝土建の売上額は0円である。本件審決はこの点を認めなかったが,覚書(審18,23)等の客観的証拠に反する認定であって不当である。
オ なお,この点についての原告吉孝土建の主張を採用できない理由として,本件審決は,この主張が審判手続終結直前にされたことを挙げるが,誤りである。原告吉孝土建は審判手続の当初から違反行為はないとの主張で一貫してきたところ,本争点は原告吉孝土建に違反行為があることを前提とした主張であるから,手続終結直前まで提出を留保することがむしろ主張の性質上も合理的だからである。
力 請負代金取得についてのJV間での契約後の変更は課徴金納付命令において考慮されないとする被告の仮定的主張は争う。課徴金制度の趣旨からすれば,不当な経済的利得を得たJVの構成員からそれを奪えば足りるから,発注者への通知を要求する必要はない。また,本件において,藤木工業が発注者に変更の通知をしていないからといって,同社に対する受注額全額を前提とした課徴金を請求できないとすれば,藤木工業が利益を得ながら当初契約の持分の範囲で責任を負えばよいとの結論になって,かえって課徴金制度の実効性確保が失われる。
(被告の主張)
ア 原告吉孝土建が藤木工業と交わした共同企業体協定書(審16)によれば,出資割合は藤木工業70%,原告吉孝土建30%である。この協定書には請負代金取得額についての直接の定めはないが,それぞれの出資割合に応じて請負代金を取得する旨合意したものと認めることができる。したがって,原告吉孝土建の売上額は当該工事の請負代金4億9140万円(税込み)をJV比率で按分した額のうち30%相当額の1億4742万円(同)である。
イ 原告吉孝土建は,藤木工業との間で,藤木工業が全ての工事を行い,請負代金を全部取得し,経費も全額負担する,藤木工業は原告吉孝土建に対し名義貸しの対価として315万円(税込み)を支払うとの取決めをした旨主張するが,その主張の根拠としている覚書(審18)の第1項には,「当該工事は分割施工が不可能な為,一完施工を原則とする。」とあるところ,「一完施工」の意味が明確でない上,外注業者の施工部分がほとんどであった場合になぜ藤木工業と原告吉孝土建とで施工部分を分割することが不可能になるのか不可解であるし,上記記載は,請負代金や経費については何ら触れていないから,この記載が上記取決めがあったことを裏付けるというには疑義が残る。また,第2項に施工費用について原告吉孝土建に持分相当の負担を求めること,構成員である原告吉孝土建に利益を生ませるよう努めることとされているのは,藤木工業が代金を全額取得し,費用も全額負担するという原告吉孝土建の主張する取決めの内容と明らかに矛盾する。また上記覚書の第3項も内容が不明確である。
ウ 原告吉孝土建が藤木工業に対し支度金として315万円を請求し支払を受けたとする証拠(審19,20)も,仮にその事実が認められるとしても,原告吉孝土建が同金額以外の支払を藤木工業から受けていないことを示すものとはいえない。
エ さらに,原告吉孝土建の吉澤は,上記取決めに関し,陳述書(審14)においては何ら述べておらず,代表者審尋の最後に唐突に供述を始め,原告吉孝土建はこの供述に基づいて審判手続終結直前の第9回審判期日において初めて上記取決めに関する主張を始めたものであって,このような経緯は不自然さを免れず信用できない。
オ 仮に藤木工業と原告吉孝土建とが原告吉孝土建の請負代金取得額を0円とする取決めをした事実が認められるとしても,平成20年9月16日に共同企業体協定書を作成するに際して出資割合を藤木工業70%,原告吉孝土建30%と合意し,この協定書を提出して番号24の工事の入札に参加し,同年10月9日にこの工事を落札し,同年11月4日に川崎市と請負契約を締結した後,同月13日(審23)に上記合意をしたことになるが,このような請負契約時の届出以後の請負代金取得額の変更は課徴金納付命令に当たって考慮されない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件審決には独占禁止法82条1項の定める取消事由は存在しないものと判断する。その理由は以下のとおりであり,被告が本件審決において各争点に関して認定した事実について,これらを立証する実質的な証拠があると解されることも以下に述べるとおりである。
2 争点⑴ 本件基本合意の存否及び原告らの参加の有無について
⑴ 前記前提事実及び証拠(括弧内に掲記)によれば,次の事実が認められる。
ア Aランクの市内業者らは,平成17年頃から行われるようになった低価格入札について,対策を話し合うため,同年6月10日,協会において会合を開いた。この会合においては,低価格入札を繰り返す事業者が参加しないための,有効な対策を検討することはできなかったが,参加した事業者間では,工事の履行場所の近くに所在する事業者の受注希望を尊重して当該入札の受注予定者を決め,これが受注できるよう互いに協力すること,そして,このような受注調整を効果的に行うために,川崎市の各区ごとに1名又は2名の連絡員を置き(ただし,多摩区及び麻生区は併せて1名),入札参加申込みや受注希望の有無を区ごとに連絡員が取りまとめ,連絡員同士でそれらの情報を交換し,受注希望者が複数の場合には受注予定者の決定のための協議を行うことが合意された。しかし,この後も川崎区などには受注調整に従わずに低価格入札を繰り返す事業者がいたため,受注調整したとおりに落札できない事態も生じた。平成19年4月3日,ホテルモリノにおいてAランクの市内業者のうち川崎区及び幸区を除く5区に所在する事業者らが会合を開き,5区の事業者らの間だけでも受注調整を行っていくこと,川崎区の市内業者に対しても協力の働きかけを行っていくことが確認され,同月20日,同年7月24日にも同趣旨の会合が持たれた。更に平成20年2月22日には川崎区の小沼工務店にも声をかけた上で,ホテルモリノで同趣旨の会合を持った。以上の会合には原告吉孝土建の吉澤及び原告真成開発の金森も出席した。(以上につき,査10~34)
イ 平成20年2月26日,5区の事業者らに加え,川崎区,幸区の事業者らも加わって,協会において会合が開かれた。この会合においては,前記受注調整を徹底することが合意され,連絡員も,川崎区は大恵建設と小沼工務店,幸区は大栄建設,中原区は重田組,高津区は月野建設,宮前区は藤原建設,多摩区と麻生区は原告吉孝土建の各代表者と,改めて明確に確認された。当日の出席者は20社ほどであり,23社(24社のうち岡村建興を除く。)のうち欠席した者に対しては,各地区の連絡員等から会合の内容が連絡され,了解を得た。川崎区の岡村建興は,平成17年頃以来受注調整に参加しない方針を立てていたことから,連絡を受けることはなかった。(審24~26,31,35~43)
ウ 上記会合後に最初に行われた同年3月12日を入札締切日とする番号1及び2の工事の入札においては,それぞれの入札参加申込みをした事業者間が協議をして,番号1の工事については大栄建設と,番号2については月野建設と受注予定者を決めた。他の入札参加申込者はこれら受注予定者の入札価格より高額の入札をしたり入札を辞退するなどの協力をすることによって,それぞれの受注予定者の落札を実現した。(大栄建設につき査36,53,55,59~62。月野建設につき査36,57,60,61,63~66)
以後の入札についても,番号3~6,8~16,18~20,22~27,30,32~34の工事につき,同様の受注調整が行われた(各番号の工事につき,別紙2の各番号に対応する「当該工事の受注調整に係る証拠」欄記載の証拠)。こうして受注調整が行われた工事は本件期間中28件にのぼる。なお岡村建興は,当初はこうした受注調整に加わらず,番号7の工事の入札に関し独自に入札して落札するなどしていたが,番号9の入札に際し他の事業者の協力のもとに落札できたことから,以後の入札に関しては本件基本合意に沿った受注調整に参加することにした。(査38)
⑵ 以上の認定事実によれば,遅くとも番号1の入札が行われた平成20年3月12日までに,同年2月26日の会合に欠席した者も含め,24社中,岡村建興を除く23社の間で,本件基本合意が成立したことを認めることができる。
⑶ 原告らは,本件基本合意の成立及び同人らの出席を否認するが,次のとおり認めることができない。
ア 原告らは,前記各会合においては,受注調整に実効性がないことは相互に了解しており,各社は願望を述べ合ったにすぎず,受注調整に向けての具体的,基本的な合意が成立したとはいえないと主張する。しかし,会合の中で受注調整に実効性がないことが話題になっていたというのは,調整活動を無視して低価格の入札をする事業者が川崎区などに数社あり,その者が入札に参加していた場合には,受注予定者を決めていても落札できない事態が生じ,そのことがしばしば会合において問題とされていたというにすぎず,本件基本合意の成立の認定を左右するものではない。また,原告らは,平成17年6月10日の会合で本件基本合意が成立したのであれば,その直近の入札から効力が生ずるのが通常であるのに,平成20年3月まで2年9か月も効果が発現しないというのは不自然であるとも主張するが,上記と同様,平成17年以降会合が重ねられている間,受注調整をしても効力が生じない事態がしばしば生じていたことは,何ら不自然とはいえない。
イ 原告らは,原告ら代表者らは本件基本合意について最終的な確認をした場である平成20年2月26日には,それぞれが工事現場で仕事をしており,協会における会合には出席していないと主張する。しかし,澤田組の澤田及びヤマチョウの山本は,平成19年の年末か平成20年の初め頃,川崎市の下水管きょ工事のAランク事業者が一堂に会する会合が協会において行われた際に,原告らも出席していた旨を供述している(査35,39)。また吉澤の出席に関しては,生田建設のAも供述している(査41)。これらの供述においては,正確な開催日については記憶がないとして述べられていないが,それが平成20年2月26日であることは,加藤土建の加藤がメモに基づいて供述していること(査36)から明らかである。
以上に対し,原告ら代表者らが前記平成20年2月26日にはそれぞれの工事現場にいたからこの会合に出席できたはずはないとの趣旨で,原告らから提出されている証拠(審2~6,13~15,21,24(以上の書証につき枝番があるものはその全部を含む。))及び同趣旨を述べる参考人管金継,原告代表者金森,同吉澤の審尋結果は,前記証拠と対比しにわかに措信できない。
もっとも,この平成20年2月26日の会合に原告ら代表者らが出席していなかったとしても,吉澤に関しては,同年同月以降受注調整がうまく行くようになったことや自らが多摩区・麻生区の連絡員をしていたこと,番号12の入札に関して同人が藤木工業が受注予定であることを知って協力する意味で入札を辞退したことなどを自ら述べていること(査45,92),金森に関しては,同人は否定しているものの,番号32及び33の入札に関し入札参加申込者らの受注調整の場として使用した川崎市内の「会館とどろき」内の一室を,同人が予約して借りていることが証拠上明らかであること(査117,127~130)などからすれば,前記会合の内容は他の出席者から聞かされるなどして,受注調整を行うことは同人らも了解していたと考えられるから,本件基本合意の成立の認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,原告ら代表者らの供述も含め,関係者の供述は見込み捜査に基づく誘導により作成されたもので信用できないとも主張するが,そのように主張する理由が十分に説明されているとはいい難く,直ちに採用することはできない。その他原告らは,本件審決は多数決によって事実認定をするものであり不当であるとか,排除措置命令を受けた者の中で原告ら以外は異議を申し立てなかったことは事実を認定する理由にはならない,などと主張するが,いずれも失当であって採用することのできないものであることは明らかである。
3 争点⑵ 本件基本合意による競争の実質的制限の有無について
⑴ 独占禁止法2条6項の意義と本件の該当性
独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される。
本件基本合意をした24社は,本件期間中Aランクの市内業者であった31社中の77.4%を占めており,本件期間中に発注された川崎市発注の特定下水管きょ工事42件のうち別紙2記載の28件(42件の66.7%)の競争入札につき,本件基本合意に基づき,受注予定者をその都度決めた上でその受注予定者が落札できるように協力し合う受注調整を行っていたものである。受注調整をした入札への参加者は,ほとんどがこの24社のうちの者であり,それ以外の者の入札参加は,熊谷建設株式会社が28件中5件(うち1件は小沼工務店とのJV),河﨑組建設業株式会社が1件(織戸組とのJV),光洋重機建設株式会社が1件(加藤土建とのJV)と,ごく僅かであった。そして,受注調整が行われた入札の落札率は,別紙2のとおり,最低でも96%台であり,大部分が97%以上という高率であった。
以上によれば,24社がこれらの受注調整を行うもとになった本件基本合意は,当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたものと認められ,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものとして,同条同項の「不当な取引制限」に該当するものということができ,またそのような合意が,一般競争入札により自由な競争のもとに適正な価格形成をはかることを妨げる点で公共の利益に反することも明らかである。
⑵ 原告らの主張について
ア 原告らは,本件基本合意が存在したとしても,本件特定下水管きょ工事における競争を実質的に制限するものではなかったとし,その根拠として,本件期間中の入札にも複数,受注調整が行われず自由な価格競争が行われたフリー物件が存在し,その数は,受注調整が行われていたとされる番号1から35までの工事の入札がなされた期間の中で,2割弱に当たる6件あること,落札者以外に受注希望者がいなかった工事が,本件審決において受注調整がされたとされる28件のうち22件の多数を占めていること,本件期間以前や番号36以降の工事の入札においても,落札率は受注調整がなされた入札と変わりないことなどを主張する。
イ 原告らがフリー物件であったと主張する6件のうち番号7については,平成20年3月18日に協会で開かれた会合において,受注希望者らの話合いにより小沼工務店が受注予定者となり,少なくとも澤田組,加藤土建,関トウの3者は,小沼工務店が入札できるように協力したのであり,岡村建興が落札したのは独自に低価格入札をしたことと,これに対抗しようとした小沼工務店が最低制限価格以下の入札をしたために失格となったことによるものであると認められる(査38,43,52,55)から,この番号7が純粋なフリー物件であったとはいえない。また,番号32についても,受注調整がされたことが認められる(査34,117,120,132~141)から,フリー物件とはいえない。
以上の外の,番号17,28,31,35の4件はいずれも24社のうちの重田組と小沼工務店とが落札率80%台の低価格で落札しており,受注調整が行われた様子はうかがわれないから,フリー物件であったと認められるが,この期間中に受注調整がなされ,予定どおりの者がその希望価格で落札したことが認められるものが前述のとおり28件あったことと対比すれば,全体としては,本件基本合意によって競争が実質的に制限されていたものといえる。
ウ 落札者以外に受注希望者がいなかった工事が28件中22件もの多数を占めるとの点について,原告らは,その原因について,利幅の少なさや施工方法の専門性などの工事内容,業者間で互いに地域性を尊重したことなどの原因をあげているが,別紙2のとおり,原告ら主張の22件(番号1~4,8~16,18~20,23,25~27,30,34)についても,すべて,落札者以外に複数名の入札参加申込者がいたのであるから,原告らの前記22件について落札者以外に受注希望者がいなかったという主張は理解し難いものというほかない。
もっとも,原告らの主張は,入札参加申込者間の協議によって受注希望者が1社に絞られる際,工事の場所と営業場所との距離関係などを理由に最終的な受注予定者以外の者は辞退するなどしたことを指しているものとも見受けられる。しかし,その点を踏まえても,受注予定者が最終的に1社に絞られたのは,本件基本合意に基づき入札参加申込者間で協議をした結果にほかならないし,そのように1社に絞られた受注予定者が,入札価格を自らの希望によって定め,他の者はその入札価格でその受注予定者が落札できるよう,より高額で入札するか,又は入札を辞退して協力していたのであるから,競争を実質的に制限していたといえることに変わりはない。
エ 原告らは,本件期間前や受注調整が行われていない番号36以降と比べて落札率に変化がない旨主張するが,受注調整が行われたと認められる前記28件と番号36以降の工事の入札とを比較すると,前者の落札率は最低でも96%台であり,98%以上が28件中13件と半数近くに達するのに対し,後者では7件中に98%以上は1件もなく,80%が1件,82%が2件と,明らかに落札率には差がある。また本件期間前の川崎市のAランク事業者による下水管きょ工事も,全10件中97~98%に達するものは2件であり,70%台が5件,80%台が1件ある(審12)など,本件期間中の前記28件の落札率の傾向との差は顕著である。なお,原告らは,この審12号証中の関トウが入札に参加していない4件のみを取り上げて落札率は同様に高いと主張するが,本件基本合意の24社のうちに含まれている関トウを除外するのは公正な比較といえないし,原告ら主張の4件のみについて見ても,本件期間中の前記28件の方が全体的に高いことは明らかである。
オ 以上から,本件基本合意が本件特定下水管きょ工事における競争を実質的に制限するものでなかったとはいえず,この点の原告らの前記主張も採用できない。
4 争点⑶ 本件基本合意の成立時期及び終了時期について
⑴ 本件基本合意の成立時期について
原告らは,岡村建興や熊谷建設が平成20年2月26日の会合に加わらなかったこと,番号7の工事の入札は,岡村建興が独自に落札しており受注調整が機能しなかったことから,本件基本合意の成立は早くとも岡村建興が他の23社と意思を通じたといい得る番号9の工事の入札以降であると主張する。しかし,岡村建興が当初本件基本合意に参加せず,独自に低価格入札をした工事があったとしても,そのような行動は同社1社のみであり,他の23社は本件基本合意に基づき受注調整を行い,受注予定者が他の事業者の協力によって番号1~6及び8の工事を落札していたのであるから,この時期においても既に競争を実質的に制限する状態にあったといえるのであって,本件基本合意の成立を番号9の工事の入札以降であるとすべき理由はない。
⑵ 本件基本合意の終期について
原告らは,重田組が落札した番号17の工事は,低価格入札であったことが明らかで,これ以降他の事業者は,重田組が本件基本合意を無視した低価格入札を始めたと認識したのであり,そうである以上本件基本合意の効力は切れたとみるべきである旨主張する。しかし,前記認定のとおりこの番号17の工事の後の入札においても受注調整は続けられ,合意により決まった受注予定者が落札できるよう他の入札参加申込者が協力していたのであり,重田組が番号17の工事の入札の後,低価格入札を繰り返すようになったことを示す証拠はなく,そのように他の入札参加者らが認識し,そのことが入札に影響を与えていたことを示す証拠もない。重田組も,少なくとも番号30,33,34の各工事の入札において,入札を辞退するなどして受注予定者に協力したことが認められる(査125,126,134,144)。以上からすれば,重田組が基本合意を無視した低価格入札を始めたと他の事業者らが認識したために番号17の工事の入札以降は本件基本合意の効力が切れたとみるべきである旨の原告らの前記主張は採用できない。
5 争点⑷ 原告らが受注した工事の独占禁止法7条の2第1項(課徴金納付命令)該当性について
⑴ 前述のとおり,原告らが受注した工事についても,以下のとおり,本件基本合意に基づく受注調整がされたことが認められ,これらはいずれも,本件基本合意に基づく受注調整の結果であるから,独占禁止法7条の2第1項に該当し,同項に定める課徴金納付命令の対象となる。
⑵ア 平成20年3月19日を入札締切日とする6件の工事(番号3~8)につき,24社のうち岡村建興以外の入札参加を申し込んでいる事業者らが,同月18日協会で会合を持ったこと,この会合において,番号6の工事については,受注希望者間の話合いによって,工事の履行場所と同じ宮前区に本店を置く藤原建設を代表者とする同社と原告真成開発とのJVを受注予定者とすることに決まったこと,翌19日の入札において,それ以外の入札参加申込みをしたJVが,藤原建設・真成開発JVの落札に協力するために,入札辞退あるいは同JVの入札価格を超える入札をするなどした結果,藤原建設・真成開発JVが予定価格の98.7%に相当する2億5800万円で落札したことが認められる(査43,52,60,69,70,73,76,77)。
イ 平成20年10月9日を締切日とする番号24,25の工事の受注予定者を決定するため,24社のうち入札参加を申し込んでいる事業者らが,同月2日,会館とどろきで会合を持ったこと,この会合において,番号24の工事については,受注希望者間の話合いにより,従前の工事からの継続性のある藤木工業を代表者とする同社と原告吉孝土建のJVを受注予定者とすることに決まったこと,同月9日の入札において,同JV以外の入札参加申込みをしたJVが,藤木工業・吉孝土建JVの落札に協力するために,入札辞退あるいは同JVの入札価格を超える入札をするなどした結果,同JVが予定価格の99.5%に相当する4億6800万円で同工事を落札したことが認められる(査52,93,105,114~121)。
6 争点⑸ 原告吉孝土建が受注した番号24の工事の売上額について
⑴ 原告吉孝土建は,番号24の工事について,落札後1週間ほどしてから,JVの相手方である藤木工業の藤木会長から,藤木工業だけがこの工事の施工をし,請負代金も藤木工業のみが受領したい旨の申入れを受けたところ,これを承知し,名前を貸す代金として315万円の入金を受けたとし,これ以外に藤木工業から金員は取得しておらず,番号24の工事により原告吉孝土建が取得した請負代金額は0円であり,売上額はない旨主張する。
⑵ しかしながら,原告吉孝土建が藤木工業と交わした共同企業体協定書においては,出資割合は藤木工業70%,原告吉孝土建30%である(査151)。通常であれば請負代金額は,この割合で按分されたと解されるから,落札価格4億6800万円の30%に当たる1億4040万円(税込みで1億4742万円)の売上げを得られたことになる。原告吉孝土建は,同割合で経費を負担したとしても,この売上金額からして相応の利益を見込めるはずであったのに,藤木工業側だけの都合を一方的に言われて,315万円の名義貸料のみで手を引くというのはにわかに信用できないところである。しかも,同原告が証拠として提出する藤木工業との覚書(審18,23)は,端的に原告吉孝土建が契約から離脱し経費も負担せず請負代金も取得しないことを確認する内容ではなく,その第1項は「当該工事は分割施工が不可能な為,一完施工を原則とする。」と,工事の施工方法についてのみの,それも原則的な定めを合意するにすぎないもののようにもとれる表現である。その上,第2項では,「持分以上の出資を必要とする場合はその都度協議とする。」とあって原告吉孝土建が持分に従った出資をすることを前提とした合意をしており,一切出資しないことにしたという同原告の主張とは明らかに矛盾する。
⑶ さらに,原告吉孝土建は,このようにJVの相手方から要請されて出資をしないことにしたという主張を,平成23年11月2日に行われた同原告代表者吉澤の審尋において最後に述べているが,平成22年9月9日に第1回審判が開始されて以降,準備書面に記載することもなく,陳述書(審14)においても述べていなかった。このことも極めて不自然であるといわなければならない。
なお,この点につき,原告吉孝土建は,この主張は,原告吉孝土建に違反行為があることを前提とするものであるから,手続終結直前まで提出を留保することが主張の性質上合理的であるとしているが,本件審判において原告らが平成23年4月28日付けで提出した準備書面(第3回)には,仮に基本合意が存在するとしても番号6及び24の工事の入札行為は課徴金対象とはならないとして,「課徴金対象非該当性」との表題を掲げて論じている。このように,本件基本合意が成立していたとしても課徴金納付は命ぜられないとの仮定的主張は,他の論点においては既にしているのであるから,上記の争点については手続終結直前まであえて提出を留保していたという前記主張も不自然である。
⑷ 以上によれば,吉澤の前記審尋における供述は信用できず,原告吉孝土建が提出する証拠(審17~20,23)によっても,同原告が番号24の工事の落札後に請負金額の取得は0と変更されたとの事実は認められないから,この点の同原告の主張は採用できない。
7 以上のとおりであって,本件審決の取消しを求める原告らの本件請求は理由がないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

平成26年1月31日

裁判長裁判官 佐久間邦夫
裁判官 林正宏
裁判官 蓮井俊治
裁判官 関口剛弘
裁判官 齋藤憲次

別紙〈略〉

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