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(株)高光建設による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成25年(行ケ)第62号

判決

盛岡市上堂2丁目4番15号
原告 株式会社高光建設
同代表者代表取締役 高橋精一
訴訟代理人弁護士 奥毅
同 妹尾佳明
同 小根山祐二
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 中里浩
同 北脇俊之
同 瀨島由紀子
同 堤勝利
同 岩下生知

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 公正取引委員会平成23年(判)第1号ないし第3号及び第7号課徴金納付命令審判事件について,被告が平成25年5月22日付けで原告に対してした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
被告は,原告が,他の事業者と共同して,岩手県が行っていた条件付一般競争入札,指名競争入札等の方法により,同県が建築一式工事についてAの等級に格付している者(以下「A級建築業者」という。)のうち同県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体(以下「JV」という。)を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事(以下「特定建築工事」という。)について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,基本合意の下に,受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものであり,同法7条の2第1項の「実質的に」「役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」であるとして,原告に対し,課徴金の納付を命じたところ,原告が審判手続の開始を請求し,審判手続を経て,平成25年5月22日付けで,原告に対し412万円の課徴金の納付を命ずる審決(公正取引委員会平成23年(判)第1号ないし第3号及び第7号。以下「本件審決」という。)をした。
本件は,原告が,被告に対し,本件審決について,独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務の該当性に関する実質的証拠の不存在等の違法事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
第3 前提事実等(争いのない事実及び本件審決が認定した事実で原告が実質的な証拠の不存在を主張せず,弁論の全趣旨により認められる事実)
1 当事者等
原告は,盛岡市を本店とし,建築一式工事等を目的とする会社であり,独占禁止法7条の2第2項1号に該当する事業者である。
トラスト・メンバーズは,平成6年11月,原告を含む岩手県内の建設業者らによって結成された任意団体であり,平成14年12月にTST親交会と改称するなどし,平成16年10月28日に解散するまで活動を継続してきた。原告は,上記結成時から解散時に至るまで,継続してトラスト・メンバーズないしTST親交会(以下,併せて「TST親交会等」という。)の会員であった者であり,原告代表者(代表取締役)高橋精一は,平成12年頃からTST親交会等の運営副委員長を,平成14年頃から同幹事を務めていた者である。
2 岩手県の特定建築工事の発注の方法等
⑴ 入札の方法等
ア 入札の種類
岩手県は,発注する建築一式工事の大部分を,次の条件付一般競争入札,指名競争入札又は受注希望型指名競争入札のいずれかの方法で発注していた。
(ア) 条件付一般競争入札
岩手県は,条件付一般競争入札に付する工事については,入札参加資格要件を設定の上,対象工事の概要と併せて事前に公告し,入札参加希望者を募り,条件付一般競争入札参加資格確認申請書を提出した者の中から入札参加資格要件を充足する者全てを入札参加者としていた。また,公告において,工事の設計金額が事前に公表されており,原則として設計金額が工事の予定価格とされた。そして,予定価格の範囲内で最低の価格で入札した者が落札者とされた。
(イ) 指名競争入札
岩手県は,指名競争入札に付する工事については,資格者の中から,施工成績,技術的適性,地理的条件,手持ち工事量等を総合的に勘案して,原則として10社を入札参加者として指名していた。予定価格及び指名業者名の入札前の公表は行われなかった。
(ウ) 受注希望型指名競争入札
岩手県は,受注希望型指名競争入札に付する工事については,個々の工事ごとに地域要件,施工実績要件といった入札参加資格要件を事前に公表して,入札参加希望者を募り,入札参加希望者のうち入札参加資格要件を充足する者の中から,地理的条件を優先しつつ,施工成績,技術的適性,手持ち工事量等を総合的に勘案して,20社を上限として入札参加者を指名していた。予定価格及び指名業者名の入札前の公表は行われなかった。
イ 再度入札
岩手県は,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札において,1回目の入札で予定価格に達しない場合は,参加者に対し当該入札における最低入札価格を告知した後,原則2回を限度として再度入札を実施し,3回目の入札で予定価格に達しない場合は,指名業者を選定し直して改めて入札を実施する,あるいは予定価格と最低入札価格との差が少ないなどの場合には,一部の入札参加者から見積書を徴した上で随意契約に移ることとしていた。
⑵ その他
ア くじ引き
岩手県は,落札となるべき価格で入札した者が2社以上いる場合は,同額で入札した者にくじを引かせて落札者を決定していた。
イ 低入札価格調査制度等
岩手県は,低価格による入札への対応として,条件付一般競争入札の全てについて,入札の結果,あらかじめ設定した調査基準価格を下回る額で入札した者がいる場合は,その者を直ちに失格とはせず,落札者の決定を保留して,当該入札額によって契約の内容に適合した履行がされるか否かを,最低額入札者から順次調査した上で,履行可能である者を落札者とし,その際,履行可能な者がいないときは,調査基準価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。
また,岩手県は,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札については,あらかじめ最低制限価格を設定する場合があり,設定した工事については,入札の結果,最低制限価格を下回る額で入札した者がいる場合は当該入札者を失格とし,最低制限価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。
3 本件審決に至る経緯
⑴ 排除措置命令と審決
被告は,原告を含む被審人80社が,それぞれ,自社を除く被審人ら等と共同して,遅くとも平成13年4月1日(ただし,9社については中途参加した日)以降行っていた,岩手県が指名競争入札等の方法により発注する特定建築工事について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,基本合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであるとして,平成22年3月23日付けで,原告を含む被審人79社(上記被審人80社から,特別清算が開始された1社を除いた者)に対し,排除措置を命ずる審決(公正取引委員会平成17年(判)第14号。以下「本案審決」という。)をした。
原告は,本案審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起し,同裁判所は,平成24年12月20日,原告の請求を棄却する判決をし,最高裁判所は,平成25年7月5日,上記判決に対する原告の上告を棄却するとともに,上告受理の申立てについて上告不受理の決定をし,本案審決は確定した。なお,本案審決のうち,大森工業株式会社(以下「大森工業」という。)に係る審決については,大森工業の訴えを受けて東京高等裁判所が審決を取り消す旨の判決をし,同判決は上告されることなく確定した(本案審決が認定した違反行為(ただし,大森工業に係る部分を除く。)を,以下「本件違反行為」という。)。
⑵ 課徴金納付命令と本件審決
被告は,本案審決に基づき,本件違反行為は,独占禁止法7条の2第1項に規定する役務の対価に係るものであるとして,原告に対し,平成22年12月20日付けで課徴金納付命令を発し,審判手続を経て,平成25年5月22日付けで本件審決をした。
4 本件審決の前提となる本件違反行為の概要
本件審決の前提となる本件違反行為の概要は,次のとおりである。原告を含む106社から大森工業を除いた105社(以下「105社」という。)は,いずれも建設業を営み又は営んでいた者であるが,遅くとも平成13年4月1日(物件50の入札に参加した株式会社高橋建設については,平成13年11月8日頃)以降,岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,下記の合意(以下「本件基本合意」という。)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

⑴ 当該工事について受注を希望する者又は受注を希望するJV(以下まとめて「受注希望者」という。)は,105社が会員となっていたTST親交会等の会長又は地区役員に対して,その旨を表明しア 受注希望者が1名のときは,その者を受注予定者とする。
イ 受注希望者が複数のときは,「継続性」(主として過去に自社が施工した建築物の工事であること),「関連性」(主として過去に自社が施工した建築物と関連する建築物の工事であること),「地域性」(主として工事場所が自社の事務所に近いこと)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する。
⑵ 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する。
5 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
⑴ 課徴金の計算の基礎となる事実(原告の受注物件等)原告が,その実行期間である平成13年10月26日から平成16年10月25日までの3年間(以下「本件実行期間」という。)に受注した岩手県発注の特定建築工事(JVを組んで受注したものを含む。)は,下記アないしエのとおり(別紙1参照)であり,課徴金の計算の基礎とされた工事は,そのうちア,イ(以下「本件各物件」という。)である。
ア 物件50
(ア) 物件50は,岩手県立沼宮内病院新築(附属棟等)工事で,その入札は,平成14年5月7日,指名競争入札の方法により,原告を含む9社が参加して行われ,原告が,予定価格(消費税額を含まない額。以下同じ。)7660万円の97.26パーセントに相当する入札価格7450万円で落札し,これを受注した。なお,各入札参加者の入札価格(消費税額を含まない額。以下同じ。)等は,別紙2-1に記載のとおりである。
(イ) 原告は,岩手県との間で,同月17日,上記入札額7450万円に消費税額を加算した7822万5000円の代金により物件50の工事請負契約を締結し,その後同年8月5日から7日にかけて,上記契約金額は7897万6800円(税込)に増額変更された。
イ 物件86
(ア) 物件86は,旧岩手県立沼宮内病院解体工事で,その入札は,平成15年5月16日,指名競争入札の方法により,原告を含む10社が参加して行われ,原告が,予定価格5513万4800円の96.49パーセントに相当する入札価格5320万円で落札し,これを受注した。なお,各入札参加者の入札価格等は,別紙2-2に記載のとおりである。
(イ) 原告は,岩手県との間で,同月22日,上記入札額5320万円に消費税額を加算した5586万円の代金により物件86の工事請負契約を締結し,その後同年10月17日に,上記契約金額は5868万4500円(税込)に増額変更された。
ウ 物件122
物件122は,岩手県立盛岡第二高等学校校舎改築(建築)工事で,その入札は,平成16年5月25日,JVを対象とする条件付一般競争入札の方法により,原告及び株式会社阿部工務店(以下「阿部工務店」という。)のJVを含む8JVが参加して行われ,最低の入札価格7億4056万2000円(設計金額の79.33パーセント)で入札した東野建設工業株式会社(以下「東野建設工業」という。)及び昭栄建設株式会社(以下「昭栄建設」という。)のJVが低入札価格調査を受けて失格し,設計金額の81.29パーセントに相当する7億5880万円で入札した原告及び阿部工務店のJVが,低入札価格調査を受けた結果履行可能と判断されて落札し,これを受注した。なお,各入札参加者の入札価格等は,別紙2-3に記載のとおりである。
エ 物件127
物件127は,岩手県立盛岡工業高等学校第一体育館改築(建築等工事で,その入札は,平成16年8月24日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む14社が参加して行われ,最低の入札価格1億5577万円(設計金額の83.52パーセント)で入札した大平建設株式会社(以下「大平建設」という。)が低入札価格調査を受けて失格し,これに次ぎ低額の入札者として設計金額の85.00パーセントに当たる1億5852万5000円で入札した原告と中亀建設株式会社(以下「中亀建設」という。)がくじ引きを行った結果,原告が,落札し,これを受注した。なお,各入札参加者の入札価格等は,別紙2-4に記載のとおりである。
⑵ 課徴金額の算定
独占禁止法7条の2第1項及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)6条の規定により,本件実行期間における岩手県発注の特定建築工事(物件50,物件86)に係る原告の売上額1億3766万1300円(物件50につき7897万6800円,物件86につき5868万4500円の合計)に,100分の3を乗じて得た額から,独占禁止法7条の2第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出した課徴金の額は412万円となる。
第4 当事者の主張及び争点
1 原告(本件審決の違法事由)
⑴ 本件各物件が独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務に該当しないこと(本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠の不存在)
ア 原告は,本件基本合意を認識しておらず,本件審決が事実認定の根拠とした証拠は,本件各物件について,本件基本合意に基づく受注調整があったことを立証する内容の証拠とはいえない。本件各物件について,原告が会長ないし地区役員に受注希望を表明し,研究会の開催等により受注調整がされて受注予定者が決定されたことなど,本件基本合意に基づき受注調整がされ,具体的に競争制限効果が生じたことを立証する証拠はない。
本件において,本件基本合意に基づき原告が受注予定者と決定されるに至った具体的経緯は明らかにされておらず,本件各物件につき受注調整がされたことを裏付ける直接証拠も存在せず,後記イ,ウのとおり,本件受注調整を否定する事情が存在することからすると,本件基本合意に基づく受注調整は存在しなかったとみるべきであるから,本件各物件は,独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務に該当しない。
イ 物件50について
(ア) 原告による独自の積算と入札参加の経緯等
物件50は,平成13年8月頃,原告と千田工業株式会社(以下「千田工業」という。)のJVが受注した本体工事である岩手県立沼宮内病院新築(建築)工事(物件9)と同一敷地内に計画されていたものであるところ,本体工事が平成14年8月の完成に向けて進捗していた同年4月11日,岩手県から原告宛てに指名入札通知書が届き,その際,原告において,工事の内容(車庫棟と自動車棟のみ)や金額等からみてA級建築業者対象の物件ではないと考えたが,上記通知後に示された図面から,工事の内容に舗装工事等の外構工事が含まれており,これらの工事全体の工期が本体工事の工期と同一の同年8月19日であって,同業他社が落札した場合,本体工事の進捗にも支障が生ずるおそれがあると考えたため,急遽受注を希望することとしたものである。このような経緯により日程的にも厳しい状況の下,原告は見積作業を行い,入札価格については,施工中の本体工事と共用できる仮設物があることなどを踏まえて7450万円とし,1回目の入札で落札しなかった場合の2回目の入札価格については落札代理人に任せることとして,同年5月7日の入札に参加し,1回目の入札で落札したのであって,受注調整に関する指示や連絡などなかった。
なお,原告が物件50について,継続性,関連性を有していたとしても,指名業者は,独自の積算をして予定価格を予測すれば競争上有利な価格で入札に臨むことができるため,受注調整を行うメリットもなかったものである。
(イ) 他の入札参加者関係の証拠について
物件50については,入札に参加した各社において,1回目の入札で落札されなかった場合の2回目の入札価格について,「○○円以下」などとする旨が記載された書面もない。入札に参加した株式会社阿部建設から,他の物件(本案審決の理由中で「物件129」と記載されている工事)については,2回目以降の予定価格が記載された「入札記録」が証拠(査共125)として提出されているのに対し,物件50についてはそのような「入札記録」が提出されていないことも,本件基本合意に基づく受注調整が存在しなかったことを示すものといえる。
(ウ) 関連物件からの推認について
本件審決が物件50の関連物件であるとする物件86及びその他物件(本案審決の理由中で「物件9」,「物件53」と記載されている工事)については,関係証拠の有無,内容等からみて受注調整の対象とされたとはいえないから,物件50に係る受注調整の事実を推認する根拠とすることはできない。特に,物件53については,大蔵建設株式会社(以下「大蔵建設」という。)が低価格調査の結果,失格となり,大蔵建設に次ぐ低価格で入札した千田工業が予定価格の87.79パーセントの入札価格で落札したところ,大蔵建設の入札価格は千田工業の予想した価格を下回っており,このことは,物件53が受注調整の対象でない,いわゆるフリー物件であったことを示すものといえる。
ウ 物件86について
(ア)原告による独自の積算と入札参加の経緯等
物件86について,原告は,次の経緯により独自の積算をして入札に参加したものである。すなわち,物件86は,原告と千田工業のJVが新築本体工事を施工中にその計画が予想されていた工事であったが,当初金額的にA級建築業者対象の物件になるのかが不明であったため,原告は,さほど高い関心を有しておらず,平成15年5月1日の指名通知を受けてA級建築業者対象の物件であることを知り,以後担当者において見積り等を行った。その結果,原告は,あまり無理をしない方針で臨むこととし,1回目の入札期日の担当従業員に対し,1回目で入札不奏功の場合は,岩手県から入札参加者に告知される最低入札価格を睨みながらも100万円を目途に2日目の入札も念頭に置くよう指示して入札に参加させたもので,入札に当たりダイオキシンの処分量を過少に計上したため,結果的に落札することができたものである。
(イ) 他の入札参加者に関する証拠について
物件86に関し,東野建設工業から留置された入札記録確認書(査A4)及び菱和建設株式会社(以下「菱和建設」という。)から留置された「引合カード」と題する綴り(査A5)に,2回目の入札価格に関し,「最低より○○万円以内下げ」,「○○万以内」などといった記載があるのは,入札後に結果を記録したものであり,査A4に,顧客のニーズや人員の配置や工期等の受注後の対応を検討している記載があることからしても,受注調整による記載とは考えられない。なお,被告が援用する東野建設工業,菱和建設の各取締役の供述(査共2,3)は,いずれも自社に関する文書を示されて行ったものではないから,物件86に関する受注調整の事実を立証するものとはいえない。
⑵ 本件各物件に係る契約金額の増額分は課徴金の算定の基礎に含まれないこと
本件各物件については,岩手県から原告に対し,当初の工事とは別の新たな変更・追加工事が発注され,契約金額が増額変更されたものであり,この増額変更は,岩手県が直接,当初契約を締結した事業者との間で合意したもので,当初の契約と一体をなすものとして本件違反行為の効果が及んでいるとはいえず,不当な取引制限による経済的利得として擬制される役務の対価に当たらない。ところが,本件審決は,上記増額変更部分を課徴金の算定の基礎に含めている点で違法である。
⑶ 本件各物件に係る消費税相当額は課徴金の算定の基礎に含まれないこと
消費税は,商品,役務等の消費者の消費に対して課税され,その商品等の提供を行った事業者が消費者から受領し,預かった消費税相当額を納付する間接税であり,商品,役務等の対価ということはできず,岩手県の入札も税抜き価格で行われている上,会計上,消費税は,売上げではなく,預り金,負債とされ,役務の対価の一部として社会的に認識されているわけではない。ところが,本件審決は,本件各物件に係る消費税相当額を課徴金の算定の基礎に含めている点で違法である。
2 被告(本件審決の適法性)
⑴ 本件各物件が独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務に該当すること(本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠の存在)
ア 本件基本合意は,岩手県発注の特定建築工事の全物件を受注調整の対象とするもので,岩手県発注の特定建築工事であり,かつ105社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,特段の事情のない限り,本件基本合意に基づいて受注予定者が決定され,具体的な競争制限効果が生じたものと推認することができるところ,本件各物件につき,上記推認を覆すに足りる特段の事情はなく,本件基本合意に基づく受注調整について実質的証拠が存在することは,後記イ,ウのとおりであるから,本件各物件は,独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務に該当する。
なお,原告が,本件訴訟において,本件基本合意を認識していないとし,本件違反行為の存在を争うことは,平成17年改正法による改正後の独占禁止法59条2項の趣旨及び同一行政庁による審理の重複による手続上の不経済を回避する見地から許されないというべきである。
イ 物件50について
物件50は,本件基本合意に基づく受注調整により原告と千田工業のJVが受注した物件9(岩手県立沼宮内病院新築(建築)工事)の附帯工事として発注されたもので,原告は,物件9の受注後に物件50の受注を強く目指し,さらに,上記沼宮内病院の新築後に行われた旧病院の解体工事である物件86についても,後記ウのとおり本件基本合意に基づく受注調整により受注しているなど,原告は,継続性,関連性,地域性を有する物件について受注調整による受注を重ねていた。したがって,原告は,物件50についても,本件基本合意に基づく受注調整により受注したものと推認され,上記推認を覆すに足りる特段の事情はない。
ウ 物件86について
物件86の入札は,予定価格が事前に公表されない指名競争入札により行われたが,1回目の入札で原告が予定価格の96.49パーセントに相当する入札価格により落札したのに対し,原告以外の入札参加者9社の入札価格は全て予定価格の98パーセントを超えていた。また,本件基本合意に基づく受注調整における価格連絡の方法として,「2回目は1回目の最も低い額から○○円引き以内」等とする方法があった(査共26,84)ところ,物件86に関し,TST親交会等の会員である東野建設工業から留置された入札記録確認書(査A4)及び菱和建設から留置された「引合カード」と題する綴り(同5)には,それぞれ,物件86における各自の2回目の入札価格として,「最低より100万円以内下げ」又は「100万以内」との記載があり,東野建設工業及び菱和建設の各従業員は,それぞれ,上記のような内容が記載された文書が受注調整の存在を示すものといえる旨を供述している(査共2,3)。これらの証拠によれば,物件86について,本件基本合意に基づく受注調整が行われ,原告が受注予定者となって受注したものと認められる。
⑵ 本件各物件に係る契約金額の増額分は課徴金の算定の基礎に含まれること
本件各物件について,変更・追加後の工事は当初の工事と一体となるものと認められるから,本件審決が,本件各物件に係る契約金額の増額分を課徴金の算定の基礎となる売上額に含めたことに違法はない。
⑶ 本件各物件に係る消費税相当額は課徴金の算定の基礎に含まれること
消費税法は,役務の提供等を行った事業者を消費税の納税義務者としており(消費税法2条1項,5条1項),役務の提供を受ける側は消費税相当額を経済的に転嫁されて負担する立場にとどまり,法的には納税義務者ではなく,役務の受益者が支払う消費税相当額は請負等の代金相当額の金員と同一の法的性質を有する金員として一体的に事業者に支払われ,事業者が,当該受益者から受領した金員の中から,自らの義務として消費税を納付することが予定されているのであって,消費税相当額は,法的にも社会通念上も役務に対する対価の一部であるといえるから,独占禁止法7条の2第1項の「売上額」の一部に含まれると解すべきである。また,本件各物件の入札は,消費税抜きの価格で行われているが,各物件の工事請負契約は,請負代金額に消費税を含めて締結されている。したがって,本件審決が本件各物件に係る消費税相当額を課徴金の算定の基礎に含めたことに違法はない。
3 争点
本件審決の適法性の有無につき,原告主張の違法事由に係る以下の点が争点である。
⑴ 本件各物件が独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務に該当するか(本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠の有無)
⑵ 本件各物件に係る契約金額の増額分が課徴金の算定の基礎に含まれるか
⑶ 本件各物件に係る消費税相当額が課徴金の算定の基礎に含まれるか
第5 当裁判所の判断
1 争点1(本件各物件が独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務に該当するか―本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠の有無)について
⑴ 独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務とは,当該違反行為の対象とされた役務であって,本件のような入札談合の場合には,基本合意の対象となった役務全体のうち,個別の入札において,基本合意に基づく受注調整により当該事業者が受注予定者として決定されて受注するなど,基本合意による競争制限効果が及んでいるものをいうと解するのが相当である。
このような見地から検討するに,本件基本合意の存在及び内容は,前記第3の前提事実等4のとおりであるところ,本件基本合意の対象となる特定建築工事の時期や地域等について特に限定された形跡はなく(査共38,164),平成13年4月1日から平成16年10月25日までの間,岩手県発注の特定建築工事133物件中118物件をTST親交会等の会員が受注してきたことは当事者間に争いがない。なお,原告は,本件基本合意の存在を認識していなかったとも主張しているが,前記第3の前提事実等3によれば,原告が参加した本件基本合意の存在を認定した本案審決が確定したことが認められるところ,本件審決は,本件違反行為に関し,審判手続を経た上で,被告が本件違反行為の存在を認定し,独占禁止法54条2項の規定により本案審決を行った後,本件違反行為について原告に対して課徴金納付命令が発せられたことに由来する課徴金に対する審決であって,原告は,本案審決に係る審判手続において本件違反行為の存在を争い,被告は,原告の主張立証を踏まえて本件違反行為の存在を認定して本案審決を行い,上記のとおり本案審決が確定しているから,このような場合には,原告が本件基本合意を含む本件違反行為の存在について,その認識を欠くとして争うことは許されず(平成17年改正法により改正後の独占禁止法59条2項参照),原告の上記主張は失当である。
そして,TST親交会等が,会員間の親睦を深めつつ,岩手県発注の特定建築工事についての受注価格の低落の防止と受注機会の均等化を図ることを目的として結成され,会員間で受注の確率を高めるために本件基本合意をし,本件基本合意に基づき,臨時役員会や「研究会」等の会合による協議や電話連絡の方法を使用することにより,継続的に受注調整を行ってきたことについて,これに沿う証拠として,TST親交会等の会長であった稲垣孝一の被告審査官に対する供述調書(査共40,158,159)をはじめ,TST親交会等の会員である多数の会社の役員や従業員の供述(査共2ないし6,20ないし37,41,84,97,100,160,165ないし168)が存在し,その内容は具体的で,整合性があり,特に信用性を疑うべき事情も見当たらず,これを補強する引合カードないし入札結果等の記録(査共58,64,82,83,87,96,108,111,112,127)その他の総会資料やメモ,書簡等(査共65,137ないし157,163ほか)も存在する。これらの証拠に照らすと,上記認定に反する原告代表者高橋精一の陳述書(審A2,査A8),本案審決に係る審判手続における原告代表者の審訊調書(査A7),被告審査官に対する供述調書(査A9)及び本件審決に係る審判手続における参考人竹鼻義徳ないし原告代表者らの審訊調書の各記載は採用することができない。
上記認定のTST親交会等の結成及び本件基本合意の目的,TST親交会等の継続的な活動状況,受注調整における連絡方法,TST親交会等の会員による受注実績に加え,原告がTST親交会等の設立以来の会員であり,原告代表者高橋精一がTST親交会等の役員を務めてきたこと(前記第3の前提事実等1)に鑑みれば,入札の対象物件が本件基本合意の対象となり得る特定建築工事である場合には,当該物件が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情のない限り,当該物件について本件基本合意に基づく受注調整がされ,競争制限効果が発生したと推認するのが相当である。上記推認の下では,独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務の該当性を認めるために,必ずしも本件基本合意に基づき受注予定者が決定された具体的経緯が明らかにされることや,当該物件につき受注調整がされたことを裏付ける直接証拠が存在することを要しないというべきであり,以上の点に反する原告の主張は採用することができない。
そこで,以下,上記推認を覆すに足りる特段の事情の有無について,本件各物件毎に検討する。
⑵ 物件50について
ア 前記第3の前提事実等2,5⑴ア及び査A3によれば,物件50については,指名競争入札の方式により入札が行われ,事前に予定価格は公表されていなかったところ,原告が1回目の入札で落札し,その入札額は予定価格の97.26パーセントであったのに対し,原告以外の入札参加者8社の入札額は,いずれも予定価格の99パーセントを超えていたことが認められ,入札参加者の入札行動は競争的なものとはいい難く,これらの事実は,物件50につき原告を入札予定者とする受注調整が存在したことに沿うものといえる。
なお,上記証拠等によれば,物件50の入札には,TST親交会等の会員以外のいわゆるアウトサイダーに当たる入札参加者(山本建設株式会社(以下「山本建設」という。))が存在したことが認められるものの,それが1社で,その入札価格も入札の結果を左右するものではなく,上記アウトサイダーの存在から,物件50につき受注調整による競争制限効果が発生したことを否定することはできない。
イ 物件50に係る受注調整について,その連絡方法等を直接裏付ける個別具体的な文書等の証拠は見当たらないが,前記第3の前提事実等4のとおり,本件基本合意に基づく受注調整において,受注予定者決定の基準として,地域性のほか,継続性,関連性が考慮されていたところ,次のとおり,原告と物件50との間に継続性,関連性が強く認められ,これらの事情は,前記⑴の推認を補強するものということができる。
すなわち,査共42(岩手県作成の入札調書)及び原告代表者高橋精一の被審人代表者審訊調書によれば,物件50は,岩手県立沼宮内病院新築(建築)工事である物件9の附帯工事として発注されたもので,原告は,物件50の入札に先立つ平成13年7月31日,原告と千田工業のJVが物件9を落札し,受注したことから,物件50についても受注を目指したこと,物件50の入札後間もない平成14年5月28日には,物件50と関連する沼宮内病院合同公舎新築(建築)工事である物件53について,千田工業が受注したことが認められ,物件50は,原告にとって継続性,関連性の強い工事であったということができる。
ウ これに対し,原告は,物件50について,本件基本合意に基づく受注調整の事実を否認し,原告代表者高橋精一において,これに沿う供述をする(審A2,高橋精一の被審人代表者審訊調書)が,上記主張ないし供述を裏付ける客観的証拠はなく,その供述を直ちに採用することはできない。
エ 原告は,物件50の入札に当たり独自の積算を行って入札に参加したものであるとしてその経緯を主張し,上記推認を争うが,その主張の経緯を認めるに足りる的確な証拠はない上,受注予定者が採算を検討する上で独自の試算をすることは格別不合理なこととはいえず,原告が独自の試算をしたことをもって前記推認を覆すに足りる特段の事情ということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は,当該物件との間で継続性,関連性を有していても,受注調整のメリットはない旨主張するが,受注をより確実にする上で受注調整を行うメリットがあることは否定できないから,原告の上記主張は失当である。
この点に関連して,原告代表者高橋精一は,その陳述書(審A2)の中で,原告以外にも,物件50について継続性,関連性,地域性を有する業者がいると述べているが,本件全証拠によっても,物件50について,原告を明らかに上回る継続性,関連性を有する業者が存在するとは認められず,原告代表者の上記供述も,前記認定を左右するものとはいえない。
カ なお,物件122(岩手県立盛岡第二高等学校校舎改築(建築)工事),物件127(岩手県立盛岡工業高等学校第一体育館改築(建築等)工事)については,条件付一般競争入札が実施されたところ,本件審決において本件基本合意に基づき受注予定者が決定されたことが否定されているが,物件122については,多くの事業者が受注を希望する物件でありながら,強い継続性を主張できる者がいない物件であることがうかがわれ(査共1),最低入札価格による入札者が,原告及び阿部工務店のJV以外の,TST親交会等の会員(東野建設工業,昭栄建設)から成るJVであって,その入札価格も,設計金額の79.33パーセントと相当低く,低入札価格調査の結果失格したことにより,次順位の原告及び阿部工務店のJVが低入札価格調査を受けて落札するに至ったこと(前記第3の前提事実等5⑴ウ),物件127については,過去に岩手県立盛岡工業高等学校に係る建築工事が発注されておらず,強い継続性を主張できる者がいなかったこと(査共1),最低入札価格による入札者が,原告以外のTST親交会等の会員(大平建設)であって,その入札価格も,設計金額の83.52パーセントと相当低く,低入札価格調査の結果失格し,これに次いで低い入札価格で入札した原告及びTST親交会等の会員である事業者(中亀建設)との間でくじ引きが実施された結果,原告が落札するに至ったものであること(前記第3の前提事実等5⑴エ)が認められ,いずれの物件についても入札参加者の入札行動が競争的なものであったということができるから,物件122,物件127と物件50を同視することはできない。
キ 以上のとおり,物件50について,前記⑴の推認に沿い,これを補強する事実及び証拠がある一方,この推認を覆すに足りる特段の事情があるとの証拠はなく,他に原告がるる主張する点も,上記推認を左右するものとはいえない。
⑶ 物件86について
ア 前記第3の前提事実等2,5⑴イ及び査A3によれば,物件86については,指名競争入札の方法により入札が行われ,事前に予定価格は公表されていなかったところ,原告が1回目の入札で落札し,その入札額は予定価格の96.49パーセントであったのに対し,原告以外の入札参加者9社の入札額は,いずれも予定価格の98パーセントを超えていたことが認められ,入札参加者の入札行動は競争的なものとはいい難く,これらの事実は,物件86につき原告を入札予定者とする受注調整が存在したことに沿うものといえる。
なお,上記証拠等によれば,物件86の入札には,TST親交会等の会員以外のいわゆるアウトサイダーに当たる入札参加者(山本建設)が存在したことが認められるものの,それが1社で,その入札額も入札の結果を左右するものではなく,上記アウトサイダーの存在から,物件86につき受注調整による競争制限効果が発生したことを否定することはできない。
イ そして,査共26(株式会社新田組取締役新田勝美の被告審査官に対する供述調書),84(被(原文ママ)式会社橋本工務店営業部課長Aの被告審査官に対する供述調書)によれば,本件基本合意に基づく受注調整を行う場合に,2回目の入札の際には1回目の入札における最低入札価格から「○○円引き以内」などとするよう連絡する方法があったことが認められるところ,物件86に関し,いずれもTST親交会等の会員であり,その入札に参加した東野建設工業から留置された入札記録確認書(査A4)及び菱和建設から留置された「引合カード」と題する綴り(同5)には,物件86における各社の2回目の入札価格として,「最低より100万円以内下げ」ないし「100万以内」との記載が存在することに加え,被告審査官に対し,東野建設工業の取締役が,最低いくらまでの入札価格であれば会社としての採算が取れるといった程度の準備はするが,入札会場での入札時の最低価格が分からないのに,あらかじめ「最低から○○万円以内」などと準備することはできず,そのようなことを行っていたとすれば,受注調整によるものである旨を供述し(査共2),菱和建設の取締役も,1回目の入札で落札されたにもかかわらず2回目以降の入札金額あるいはその上限金額について記載した文書が存在する場合には,受注調整が行われていたといえる旨を供述していること(同3)からすると,物件86について,本件基本合意に基づく受注調整が行われた事実が強く推認されるということができる。原告は,査A4,5に2回目の入札価格に関し,「最低から○○万円以内」などといった記載があるのは,入札の結果を記載したものであると主張するが,その記載の必要性という点からみて不合理であり,前記証拠(査共26,84)に照らし,採用の限りでない。
ウ さらに,物件86は,旧岩手県立沼宮内病院の解体工事であるところ,前記⑵イのとおり,原告は,物件86に先立ち,沼宮内病院の新築関係の工事である物件9や物件50を受注しており,こうして沼宮内地区に基盤ができたことから,物件86の受注を目指したものであることは,原告代表者高橋精一も認めるところである(高橋精一の被審人代表者審訊調書)から,原告は,物件86について関連性,継続性,地域性を有していたということができ,この事実も,物件86について,本件基本合意に基づき,原告を受注予定者とする受注調整が行われたとの推認を補強するものといえる。
エ これに対し,原告は,物件86について,本件基本合意に基づく受注調整の事実を否認し,原告代表者高橋精一において,これに沿う供述をする(審A2,高橋精一の被審人代表者審訊調書)が,上記主張ないし供述を裏付ける客観的証拠はなく,その供述を直ちに採用することはできない。
オ 原告は,物件86の入札に当たり独自の積算を行って入札に参加したものであるとしてその経緯等を主張し,上記推認を争うが,その主張の経緯を認めるに足りる的確な証拠がない上,受注予定者が採算を検討するために独自の試算をすることは格別不合理なこととはいえないから,原告の上記主張は採用することができない。
カ また,原告は,前記イの東野建設工業及び菱和建設の各取締役の供述が,いずれも自社の文書を示されて行ったものでないことを理由に,物件86に関する受注調整の事実を立証するものとはいえない旨を主張するが,上記各供述の内容は,物件86に関する査A4,5とも整合し,物件86につき受注調整の存在を推認させるものといえるから,原告の主張は採用することができない。
キ なお,物件86を,物件122,物件127と同視することができないことは,前記⑵カに説示したのと同様である。
ク 以上のとおり,物件86については,前記アないしウの各事情,特にイの事情が認められるのであるから,前記⑴の推認が働くだけではなく,本件基本合意に基づく受注調整が行われ,競争制限効果が発生したと直ちに推認することができるのであって,この推認を覆す事情を認めるに足りる証拠はなく,他に原告がるる主張する点も,上記推認を左右するものとはいえない。
⑷ そうすると,本件審決が,本件各物件につき,本件基本合意に基づく受注調整による競争制限効果が発生したと認定したことは,いずれも実質的証拠に基づく合理的な認定ということができるから,本件各物件は,独占禁止法7条の2第1項に規定する当該役務に該当する。したがって,この点に関する原告主張の違法事由は認められない。
2 争点2(本件各物件に係る契約金額の増額分が課徴金の算定の基礎に含まれるか)について
原告は,本件各物件に係る契約金額の増額分は,当初の工事とは別の新たな変更・追加工事が発注され,その代金について契約の変更がされたものであって違反行為の結果とみることはできないから課徴金の算定の基礎とすることができない旨を主張する。
しかし,査A1,2中の本件各物件の建設工事請負契約変更(第1回)請書によれば,増額分に係る工事は,当初の工事受注から数か月後に合意され,設計内容について変更図書及び仕様書が作成されているものの,工事場所,工期及び工事の名称は当初の契約と変わらず,当初の工事を前提とし,これと一体を成すものと認められるから,原告の主張は採用することができない。
したがって,この点に関する原告主張の違法事由は認められない。
3 争点3(本件各物件に係る消費税相当額が課徴金の算定の基礎に含まれるか)について
独占禁止法7条の2第1項は,課徴金算定の基礎となる「売上額」を定義しておらず,同法施行令5条も,同項の「売上額」から控除される対象に消費税相当額を明示していないが,消費税が,法的には役務の提供等を行った事業者が自らの納税義務に基づき納付するものとされ(消費税法2条1項,5条1項),役務提供の相手方の納めるべき税額を預かり納付するものではなく,社会通念上も代金の一部と認識されているということができる上,独占禁止法が,課徴金の算定について,違反行為により事業者が取得した現実の経済的利得額そのものとは別に,一律かつ画一的に算定する売上額に一定の比率を乗じて算出すべきものと定めていること(同法7条の2第1項,2項)に鑑みると,役務の提供等の対価の中から消費税相当額を控除するのがこれらの規定の趣旨であると解することはできず,消費税相当額を含む契約により定められた対価の額を合計する方法により算定した売上額に基づき課徴金の額を算出することが違法ということはできない(最高裁判所第3小法廷平成10年10月13日判決・裁判集民事190号1頁参照)。
したがって,この点に関する原告主張の違法事由は認められない。
4 結論
以上によれば,本件審決について,原告が主張する違法事由はなく,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

平成26年2月28日

裁判長裁判官 下田文男
裁判官 橋本英史
裁判官 関口剛弘
裁判官 森英明
裁判官 小野寺真也

別紙<略>

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