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(株)匠建設による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成25年(行ケ)第63号

判決

岩手県大船渡市盛町宇内ノ目12番地13
原告 株式会社匠建設
同代表者代表取締役 中嶋豊
同訴訟代理人弁護士 奥毅
同 妹尾佳明
同 小根山祐二
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 中里浩
同 北脇俊之
同 瀨島由紀子
同 堤勝利
同 岩下生知

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 公正取引委員会平成23年(判)第1号ないし第3号及び第7号課徴金納付命令審判事件について,被告が平成25年5月22日付けで原告に対してした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 被告は,原告が,岩手県が行っていた条件付一般競争入札,指名競争入札,受注希望型指名競争入札等の方法により,同県が建築一式工事についてAの等級に格付している者のうち同県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体(以下「JV」という。)を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事(以下「岩手県発注の特定建築工事」という。)につき,他の事業者と共同して,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,基本合意の下に,受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当し,独占禁止法3条に違反するものであり,同法7条の2第1項に規定する「役務の対価に係るもの」であるとして,平成22年12月20日,原告に対し,課徴金納付命令を発し,平成23年3月7日,同課徴金納付命令に係る審判開始決定をし,審判手続を経て,平成25年5月22日付けで原告に対し,2111万円の課徴金の納付を命ずる審決(公正取引委員会平成23年(判)第1号ないし第3号及び第7号。以下「本件審決」という。)をした。
2 本件は,原告が,被告に対し,本件審決について,独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」の該当性に関する実質的証拠が存在しないこと等の違法事由があると主張して,独占禁止法82条に基づき,本件審決の取消しを求めた事案である。
第3 前提事実等(争いのない事実及び本件審決の認定事実のうち原告が実質的証拠の不存在を主張しない事実並びに弁論の全趣旨によって認められる事実)
1 当事者等
原告は,岩手県大船渡市を本店所在地とし,土木建築請負業等を目的とする株式会社であり,独占禁止法7条の2第2項1号の「事業者」に該当する。
「トラスト・メンバーズ」は,平成6年11月,原告を含む岩手県内の建設業者らによって結成された任意団体であって,平成14年12月には「TST親交会」と改称し,平成16年10月28日に解散するまで,その活動を継続してきた。
原告は,上記結成から解散までの間,継続して,「トラスト・メンバーズ」又は「TST親交会」(以下,両者を併せて「TST親交会等」という。)の会員であった。
2 岩手県の特定建築工事の発注の方法等
⑴ 入札の方法等
ア 入札の種類
岩手県は,同県が発注する建築一式工事の大部分を,後記(ア)から(ウ)までのいずれかの方法で発注していた。
(ア) 条件付一般競争入札
岩手県は,条件付一般競争入札に付する工事については,入札参加資格要件を設定の上,対象工事の概要と併せて事前に公告し,入札参加希望者を募り,条件付一般競争入札参加資格確認申請書を提出した者の中から入札参加資格要件を充足する者全てを入札参加者としていた。
また,公告において,工事の設計金額が事前に公表されており,原則として設計金額が工事の予定価格とされた。そして,予定価格の範囲内で最低の価格で入札した者が落札者とされた。
(イ) 指名競争入札
岩手県は,指名競争入札に付する工事については,資格者の中から,施工成績,技術的適性,地理的条件,手持ち工事量等を総合的に勘案して,原則として10社を入札参加者として指名していた。
予定価格及び指名業者名の入札前の公表は,行われなかった。
(ウ) 受注希望型指名競争入札
岩手県は,受注希望型指名競争入札に付する工事については,個々の工事ごとに地域要件,施工実績要件といった入札参加資格要件を事前に公表して,入札参加希望者を募り,入札参加希望者のうち入札参加資格要件を充足する者の中から,地理的条件を優先しつつ,施工成績,技術的適性,手持ち工事量等を総合的に勘案して,20社を上限として入札参加者を指名していた。
予定価格及び指名業者名の入札前の公表は,行われなかった。
イ 再度入札
岩手県は,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札において,1回目の入札で予定価格に達しない場合には,参加者に対し当該入札における最低入札価格を告知した後,原則2回を限度として再度入札を実施し,3回目の入札で予定価格に達しない場合には,指名業者を選定し直して改めて入札を実施する,あるいは予定価格と最低入札価格との差が少ない等の場合には,一部の入札参加者から見積書を徴した上で,随意契約に移ることとしていた。
⑵ その他
ア くじ引き
岩手県は,落札となるべき価格で入札した者が2社以上いる場合は,同額で入札した者にくじを引かせて落札者を決定していた。
イ 低入札価格調査制度等
岩手県は,低価格による入札への対応として,条件付一般競争入札については,全て低入札価格調査制度を適用し,入札の結果,あらかじめ設定した調査基準価格を下回る額で入札した者がいる場合には,その者を直ちに失格とするのではなく,落札者の決定を保留することとし,当該入札額によって契約の内容に適合した履行がされるか否かを,最低額入札者から順次調査した上で,履行可能である者を落札者とし,その際,履行可能な者がいないときは,調査基準価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。
また,岩手県は,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札については,あらかじめ最低制限価格を設定する場合があり,設定した工事については,入札の結果,最低制限価格を下回る額で入札した者がいる場合には,当該入札者を失格とし,最低制限価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。
3 本件審決に至る経緯
⑴ 排除措置命令と審決
被告は,原告を含む被審人80社が,それぞれ,自社を除く被審人ら等と共同して,遅くとも平成13年4月1日(ただし,9社については中途参加した日)以降行っていた岩手県が指名競争入札等の方法により発注する岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,基本合意の下に受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものであるとして,平成22年3月23日付けで,原告を含む被審人79社(上記被審人80社から,特別清算が開始された1社を除いたものである。)に対し,排除措置を命ずる審決(公正取引委員会平成17年(判)第14号。以下「本案審決」という。)をした。
これに対し,原告は,本案審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起したが,同裁判所は,平成24年12月20日,原告の請求を棄却する判決を言い渡した。
これに対し,原告は,最高裁判所に対し,上記判決に対する上告及び上告受理の申立てをしたが,同裁判所は,平成25年7月5日,原告の上告を棄却するとともに,上告受理の申立てについて上告不受理の決定をしたため,本案審決は確定した。なお,本案審決のうち,大森工業株式会社(以下「大森工業」という。)に係る審決については,大森工業の訴えを受けて,東京高等裁判所が審決を取り消す旨の判決を言い渡し,同判決は上告されることなく確定した(本案審決が認定した違反行為(ただし,大森工業に係る部分を除く。)を,以下「本件違反行為」という。)。
⑵ 課徴金納付命令と本件審決
被告は,本案審決に基づき,本件違反行為は,独占禁止法7条の2第1項に規定する「役務の対価に係るもの」であるとして,原告に対し,平成22年12月20日付けで課徴金納付命令を発し,審判手続を経て,平成25年5月22日付けで本件審決をした。
4 本件審決の前提となる本件違反行為の概要
本件審決の前提となる本件違反行為の概要は,次のとおりである。
原告を含む105社(本案審決別紙1記載の80社から大森工業を除いた79社,同別紙3記載の5社,同別紙4記載の10社及び同別紙5記載の11社を合わせたものであり,以下「105社」という。)は,いずれも建設業を営み又は営んでいた者であるが,遅くとも平成13年4月1日(同別紙6記載の事業者のうち大森工業を除く事業者については中途参加した日)以降,岩手県発注の特定建築工事につき,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,下記の合意(以下「本件基本合意」という。)の下に受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。


⑴ 当該工事について受注を希望する者又はJV(以下,両者を併せて「受注希望者」という。)は,105社が会員となっていたTST親交会等の会長又は地区役員に対し,その旨を表明し,
ア 受注希望者が1名のときは,その者を受注予定者とする。
イ 受注希望者が複数のときは,「継続性」(主として過去に自社が施工した建築物の工事であること),「関連性」(主として過去に自社が施工した建築物と関連する建築物の工事であること),「地域性」(主として工事場所が自社の事務所に近いこと)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する。
⑵ 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する。
5 課徴金の計算の基礎となる事実及び課徴金額の算定
⑴ 課徴金の計算の基礎となる事実(原告の受注物件等)
原告が,本件違反行為の実行期間である平成13年10月26日から平成16年10月25日までの3年間(以下「本件実行期間」という。)に受注した岩手県発注の特定建築工事は,下記アからオまでのとおりであり(別紙1参照),これらの各工事(以下「本件各物件」という。)が,課徴金の計算の基礎とされた。
ア 物件35
(ア) 物件35は,岩手県立大船渡病院(以下「大船渡病院」という。)調乳室その他改修工事であり,その入札は,平成13年12月3日,指名競争入札の方法により,原告を含む10社が参加して行われ,原告が,予定価格(消費税額を含まない額である。以下同じ。)939万円の85.20パーセントに相当する入札価格800万円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格(消費税額を含まない額である。以下同じ。)等は,別紙2-1に記載のとおりである。
(イ) 原告は,岩手県との間で,同月11日,上記入札価格800万円に消費税額を加算した840万円の代金により物件35の工事請負契約を締結し,その後,平成14年3月8日,上記契約金額は,1077万0900円(税込)に増額変更された。
イ 物件37
物件37は,県営赤沢アパート4・5号棟外壁等改修工事であり,その入札は,平成13年12月14日,指名競争入札の方法により,原告を含む10社が参加して行われ,原告が,予定価格1208万円の99.34パーセントに相当する入札価格1200万円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-2に記載のとおりである。
ウ 物件58
(ア) 物件58は,大船渡病院診療棟増築等(建築)工事であり,その入札は,平成14年6月25日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む13社が参加して行われ,原告が,予定価格3億4100万円の87.76パーセントに相当する入札価格3億0005万4000円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-3に記載のとおりである。
(イ) 原告は,岩手県との間で,同年7月8日,上記入札価格3億0005万4000円に消費税額を加算した3億1505万6700円の代金により物件58の工事請負契約を締結し,その後,同年12月16日から平成16年1月13日にかけて,上記契約金額は,3億4168万1550円(税込)に増額変更された。
エ 物件101
(ア) 物件101は,県営長谷堂アパート(5号棟)建設(建築)工事であり,その入札は,平成15年8月6日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む12社が参加して行われ,原告が,予定価格1億6517万7000円の95.00パーセントに相当する入札価格1億5715万4000円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-4に記載のとおりである。
(イ) 原告は,岩手県との間で,同月20日,上記入札価格1億5715万4000円に消費税額を加算した1億6501万1700円の代金により物件101の工事請負契約を締結し,その後,平成16年1月14日及び同年3月5日,上記契約金額は,2億0494万7400円(税込)に増額変更された。
オ 物件103
(ア) 物件103は,県営長谷堂アパート(6号棟)建設(建築)工事であり,その入札は,平成15年9月19日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む11社が参加して行われ,原告が,予定価格1億4307万4000円の88.00パーセントに相当する入札価格1億2609万4000円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-5に記載のとおりである。
(イ) 原告は,岩手県との間で,同年10月2日,上記入札価格1億2609万4000円に消費税額を加算した1億3239万8700円の代金により物件103の工事請負契約を締結し,その後,平成16年3月8日,上記契約金額は,1億3393万6950円(税込)に増額変更された。
⑵ 課徴金額の算定
独占禁止法7条の2第1項及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第318号)による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)6条の規定により,本件実行期間における本件各物件に係る原告の売上額の合計7億0393万6800円に,100分の3を乗じて得た額から,独占禁止法7条の2第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出した課徴金の額は,2111万円となる。
第4 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点
⑴ 本件各物件が独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」に該当するか(本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠(独占禁止法80条1項)の有無)
⑵ 4物件に係る契約金額の増額分が課徴金の算定の基礎に含まれるか
⑶ 本件各物件に係る消費税相当額が課徴金の算定の基礎に含まれるか
2 原告(本件審決の違法事由)
⑴ 本件各物件は独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」に該当しない(本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠の不存在)。
ア 原告は,TST親交会等の会員ではあったものの,本件基本合意を認識しておらず,本件基本合意の存在を争うが,本案審決において本件基本合意が認定されたからといって一律に具体的な競争制限効果が発生したものと推認することは不当である。本件各物件について,本件基本合意に基づき受注調整がされ,具体的に競争制限効果が発生したことを立証する証拠は存在しない。本件審決が事実認定の根拠とした証拠は,いずれも,本件各物件について本件基本合意に基づく受注調整があったことを立証する証拠とはいえないし,本件審決は本件各物件の低落札率を考慮しないで具体的な競争制限効果が生じたことを認定しており,不当である。また,本件審決は入札記録における「最低より○円下げ」等の記載を受注調整の証拠としているが,これも失当である。
むしろ,原告は独自に積算して本件各物件の入札に参加したこと,本件各物件の中には,原告に継続性,地域性及び関連性が認められない物件もあること等,受注調整を否定する事情が存在する。
このように,本件基本合意に基づく受注調整は存在しなかったのであるから,本件各物件は,独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」に該当しない。
イ 物件101について
本件審決が受注調整の根拠として指摘する「毎週定例役員会」と題する書面(査B6)の「札廻し」等の記載は,積算の内訳を社内に回して金額をチェックする社内対応を記載したものであって,他の入札参加者に対し入札してもらう価格を連絡するなどの本件基本合意に沿った一連の作業を行うことを社内で確認したものではないこと,受注調整を示す関連証拠は存在しないことから,受注調整はなかったというべきである。
ウ 物件103について
本件審決が受注調整の根拠として指摘する被審人株式会社タカヤ(以下「被審人タカヤ」という。)の常務取締役であった佐々木憲雄(以下「被審人タカヤの佐々木」という。)の供述調書(査共4)には,原告から受注価格の連絡を受けた旨の記載はなく,本件基本合意に基づく受注調整が行われたことの具体的証拠とはいえない上,同人は,当時,被審人タカヤの北上支店長にすぎず,被審人タカヤの営業業務全般の責任者ではなかったから,その供述は全く信用できない。
むしろ,同じ県営長谷堂アパートの工事である物件101と物件103の落札率の大幅な相違(前者は予定価格の95.00パーセント,後者は予定価格の88.00パーセント)から,原告と被審人タカヤが競争関係にあったことは明らかであるから,受注調整はなかったというべきである。
エ 物件35について
原告は,物件35の予定価格を相当正確に積算することができたところ,最低価格ぎりぎりの低落札率で落札したこと,入札に参加した株式会社佐賀組(本件審決では,原告が所在する大船渡地区において受注希望を取りまとめる役割等を果たしていたTST親交会等の世話役であり,その代表取締役である金野勇一は,TST親交会等の副会長も務めていたと認定されている。以下「佐賀組」という。)の関係者も含めて,受注調整を示す関連証拠は存在しないことから,受注調整はなかったというべきである。
オ 物件37について
本件審決が受注調整の根拠として指摘する関連性及び入札率は,受注調整がなかったとしても矛盾しない整合的な事情であること,入札に参加した佐賀組の関係者も含めて,受注調整を示す関連証拠は存在しないことから,受注調整はなかったというべきである。
カ 物件58について
本件審決が受注調整の根拠として指摘する関連性及び入札率は,受注調整がなかったとしても矛盾しない整合的な事情であること,仮に,物件35で受注調整があったならば,同じく大船渡病院の工事である物件58を低落札率で落札するはずはないこと,入札に参加した佐賀組の関係者も含めて,受注調整を示す関連証拠は存在しないことから,受注調整はなかったというべきである。
⑵ 本件各物件のうち物件35,58,101及び103(以下「4物件」という。)に係る契約金額の増額分は課徴金の算定の基礎に含まれない。
4物件については,岩手県から,原告に対し,当初の工事とは別の新たな変更・追加工事が発注され,契約金額が増額変更されたものであるところ,この増額変更は,岩手県が,直接,当初契約を締結した事業者との間で合意したものであり,当初の契約と一体となるものとして本件違反行為の効果が及んでいるとはいえないから,不当な取引制限による経済的利得として擬制される売上げないし役務の対価とはいえない。しかるに,本件審決は,上記増額変更分を課徴金の算定の基礎に含めており,違法である。
⑶ 本件各物件に係る消費税相当額は課徴金の算定の基礎に含まれない。
消費税は,商品,役務等の消費者の消費に対して課税され,その商品等の提供を行った事業者が消費者から受領し,預かった消費税相当額を納付する間接税であって,商品,役務等の「対価」ということはできず,会計上も,預り金ないし負債であって,売上額には含まれておらず,役務に対する対価の一部として社会的に認識されているわけでもない。また,岩手県の入札も,税抜き価格で行われている。よって,消費税は,不当な取引制限による経済的利得として擬制される売上げないし役務の対価とはいえない。しかるに,本件審決は,本件各物件に係る消費税相当額を課徴金の算定の基礎に含めており,違法である。
3 被告(本件審決の適法性)
⑴ 本件各物件は独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」に該当する(本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠の存在)。
ア 本件基本合意は,岩手県発注の特定建築工事の全物件を受注調整の対象とするものであったと推認することができるから,岩手県発注の特定建築工事であり,かつ,105社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,特段の事情がない限り,本件基本合意に基づいて受注予定者が決定され,具体的な競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるところ,アウトサイダーの参加も含め,本件各物件につき,同推認を覆すに足りる特段の事情はなく,本件基本合意に基づく受注調整につき実質的証拠が存在することは,後記のとおりである。したがって,本件各物件は独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」に該当する。
なお,原告が,本件訴訟において,本件基本合意を認識していないとし,本件違反行為の存在を争うことは,同一事業者に関する同一事実についての審理の重複及び認定の不統一並びに同一行政庁による審理の重複による手続上の不経済を回避する見地から,許されない(上記平成17年法律第35号による改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律59条2項)。
イ 物件101について
継続性の存在,「毎週定例役員会」と題する書面の「札廻し」等の記載は,本件基本合意に沿った一連の作業を行うことを社内で確認したものであること,原告の入札価格と他の入札参加者の入札率との比較に照らせば,原告は本件基本合意に基づく受注調整により物件101を受注したものと推認することができ,推認を覆すに足りる特段の事情は存在しない。
ウ 物件103について
継続性の存在,被審人タカヤの佐々木の供述調書には,原告が継続性を有することを尊重して応札した旨の供述があること,入札の状況(原告の入札価格の低さは,アウトサイダーとの競争によるものであり,他の入札参加者は,原告の受注に協力したものと窺われる。)に照らせば,原告は本件基本合意に基づく受注調整により物件103を受注したものと推認することができ,推認を覆すに足りる特段の事情は存在しない。
エ 物件35について
関連性の存在,他の物件の入札において原告の受注に協力した佐賀組も入札に参加していたこと,原告の入札価格と他の入札参加者の入札率との比較に照らせば,原告は本件基本合意に基づく受注調整により物件35を受注したものと推認することができ,推認を覆すに足りる特段の事情は存在しない。
オ 物件37について
関連性及び地域性の存在,佐賀組も入札に参加していたこと,原告以外の入札参加者の入札価格は,全て予定価格を超えるものであったことに照らせば,原告は本件基本合意に基づく受注調整により物件37を受注したものと推認することができ,推認を覆すに足りる特段の事情は存在しない。
カ 物件58について
関連性の存在,佐賀組も入札に参加していたこと,入札の状況(原告の入札価格の低さは,アウトサイダーとの競争によるものであり,他の入札参加者は,原告の受注に協力したものと窺われる。)に照らせば,原告は本件基本合意に基づく受注調整により物件58を受注したものと推認することができ,推認を覆すに足りる特段の事情は存在しない。
⑵ 4物件に係る契約金額の増額分は課徴金の算定の基礎に含まれる。
4物件について,変更・追加後の工事は,当初の工事と一体となるものであり,本件審決が本件各物件に係る契約金額の増額分を課徴金の算定の基礎となる売上額に含めたことに,違法はない。
⑶ 本件各物件に係る消費税相当額は課徴金の算定の基礎に含まれる。
消費税相当額は,消費税法上も社会通念上も,役務の売上高の一部であるといえるから,独占禁止法7条の2第1項の「売上額」の一部に含まれると解すべきである。また,本件各物件の入札は,消費税抜きの価格で行われているが,各物件の工事請負契約は,請負代金額に消費税を含めて締結されている。よって,本件審決が本件各物件に係る消費税相当額を課徴金の算定の基礎に含めたことに,違法はない。
第5 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件各物件が独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」に該当するか(本件基本合意に基づく受注調整についての実質的証拠の有無))について
⑴ 本件基本合意は,独占禁止法7条の2第1項に規定する「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ,同項所定の課徴金の対象となる「当該…役務」とは,本件のような入札談合の場合には,本件基本合意の対象とされた工事であって,本件基本合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解すべきである(最高裁判所平成24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。
そして,①本件基本合意の存在及び内容は,上記「第3 前提事実等」の4記載のとおりであるところ,本件基本合意の対象となる岩手県発注の特定建築工事の時期,地域等は,特に限定されていないこと(査共38,164),②平成13年4月1日から平成16年10月25日までの期間(以下「本件違反行為期間」という。),岩手県発注の特定建築工事133物件中118物件を,TST親交会等の会員である105社が受注し(当事者間に争いがない。),上記133物件中63件については,本件基本合意に基づき実際に受注調整が行われており(別紙3及び4),上記63物件は,特定の地域や時期に偏ることなく,岩手県内の全域において,本件違反行為期間全般にわたって実施されたこと,③TST親交会等が,会員間の親睦を深めつつ,岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落の防止及び受注機会の均等化を図ることを目的として結成され,会員間で受注の確率を高めるために本件基本合意をし,本件基本合意に基づき,臨時役員会や「研究会」等の会合による協議や電話連絡の方法を使用することにより,継続的に受注調整を行ってきたこと(TST親交会等の会長であった稲垣孝一の被告審査官に対する供述調書(査共40,158,159)のほか,TST親交会等の会員である多数の会社の役員や従業員の供述(査共2から6まで,20から37まで,41,84,97,100,160,165から168)によって,認めることができる。これらの証拠は,具体的かつ整合性があり,信用性を疑うべき事情も見当たらない上,他の証拠(査共65,137から157まで,162,163)によって補強されている。これらの証拠に照らすと,上記認定に反する原告代表者の陳述書(審B1,査B8),本案審決に係る審判手続における審訊調書(査B7)及び本件審決に係る審判手続における竹鼻義徳の参考人審訊調書及び原告代表者の被審人代表者審訊調書は,採用することができない。),④原告が,TST親交会等の結成から解散までの間,継続して,TST親交会等の会員であったこと(上記「第3 前提事実等」の1)に照らすと,入札の対象物件が,本件基本合意の対象となり得る岩手県発注の特定建築工事であり,かつ,105社のいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該物件が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情のない限り,本件基本合意に基づく受注調整がされて受注予定者が決定され,具体的な競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であり,このような推認の下では,独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」の該当性を認めるためには,必ずしも本件基本合意に基づき受注予定者が決定されるに至った具体的経緯が明らかにされることや,当該物件につき受注調整がされたことを裏付ける直接証拠が存在することを要しないというべきである。
なお,原告は,本件基本合意の存在を認識していないと主張するが,上記「第3 前提事実等」の3によれば,原告が参加した本件基本合意の存在を認定した本案審決が確定したことが認められるところ,本件審決は,本件違反行為に関し,審判手続を経た上で,被告が本件違反行為の存在を認定し,独占禁止法54条2項の規定により本案審決を行った後,本件違反行為について原告に対する課徴金納付命令が発せられたことに由来する課徴金に対する審決であって,原告は,本案審決に係る審判手続において本件違反行為の存在を争い,被告は,原告の主張立証を踏まえて本件違反行為の存在を認定して本案審決を行い,上記のとおり本案審決が確定したのであるから,このような場合には,原告が本件基本合意を含む本件違反行為の存在について,その認識を欠くとして争うことは許されず(上記平成17年法律第35号による改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律59条2項参照),原告の上記主張は,失当である。
そこで,以下,当該物件が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情の有無を,本件各物件毎に検討する。
⑵ 物件101について
ア 上記「第3 前提事実等」の5⑴エ及び証拠(査共4,26,29,30,40,査B5,6,10,原告代表者の審訊速記録)によれば,物件101は,県営長谷堂アパート5号棟の建設(建築)工事であるところ,同アパートの1号棟から4号棟までは原告が受注しており,このことは他の事業者も認識していたこと,物件101の入札は,平成15年8月6日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む12社が参加して行われ,原告が,予定価格1億6517万7000円の95.00パーセントに相当する入札価格1億5715万4000円で落札し,これを受注したこと,他の入札参加者の入札価格は全て設計金額の97.00パーセントから98.85パーセントの範囲内であったこと,原告から留置された「毎週定例役員会」と題する書面には,同年7月22日に開催された原告の会議の記録として,「長谷堂AP → 数のハアク 協力対応 札廻し(内訳)」等の記載があるところ,上記記載は本件基本合意に沿った一連の作業を行うことを原告の社内で確認したものであること(本件基本合意に基づく受注調整において,受注予定者が他の入札参加者に入札してもらう価格を連絡する際,原告らは「札」ないし「協力札」と称する紙片を用いて連絡することがあったこと及び本件基本合意の内容に照らすと,上記のとおり認定するのが相当である。)が認められる。
このように,原告が同アパートについて継続性を有していること,他の入札参加者の入札行動は競争的なものとはいい難いこと,本件基本合意に沿った一連の作業を行うことを原告の社内で確認した上記書面が存在することが認められるところ,これらの事情は,物件101について,原告を入札予定者とする受注調整が存在したことを推認させる具体的事情というべきである。
イ これに対し,原告は,上記「札廻し」等の記載は,積算の内訳を社内に回して金額をチェックする社内対応を記載したものであって,本件基本合意に沿った一連の作業を行うことを社内で確認したものではないなどと主張するが,上記主張は,「札」及び「廻し」との呼称について合理的に説明するものとはいえないから,上記主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,物件101が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情を認めることはできず,むしろ,同物件については,上記⑴の推認を補強する具体的事情が存在するというべきである。
⑶ 物件103について
ア 上記「第3 前提事実等」の5⑴オ及び証拠(査共4,6,36,84,97,100,査B5,原告代表者の審訊速記録)によれば,物件103は,物件101と同じ県営長谷堂アパートの6号棟の建設(建築)工事であるところ,上記⑵のとおり,同アパートの1号棟から4号棟までは原告が受注しており,このことは他の事業者も認識していた上,同アパートの5号棟である物件101も,原告が落札したこと,物件103の入札は,物件101の入札の約1月半後である平成15年9月19日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む11社が参加して行われ,原告が,予定価格1億4307万4000円の88.00パーセントに相当する入札価格1億2609万4000円で落札し,これを受注したこと,2番札は被審人タカヤであるところ(入札価格は設計金額の91.77パーセント),被審人タカヤの佐々木の供述調書には,原告が継続性を有することを尊重して応札した旨の供述があること,3番札及び4番札はアウトサイダーであり(それぞれの入札価格は,設計金額の94.00パーセント及び94.22パーセント),他の入札参加者は,全て設計価格の97.01パーセント以上であったこと,アウトサイダーが入札に参加した物件については,常にアウトサイダーの協力が得られるとは限らないことが認められる。
このように,原告を入札予定者とする受注調整の存在を推認させる事情を認めることができる物件101(上記⑵)と同様,原告が同アパートについて継続性を有していること,アウトサイダー以外の入札参加者の入札行動は競争的なものとはいい難いことが認められるところ,これらの事情は,物件103について,原告を入札予定者とする受注調整の存在を推認させる具体的事情というべきである。
イ これに対し,原告は,本件審決が受注調整の根拠として指摘する被審人タカヤの佐々木の供述調書(査共4)には,原告から受注価格の連絡を受けた旨の記載はなく,本件基本合意に基づく受注調整が行われたことの具体的証拠とはいえない上,同人は,当時,被審人タカヤの北上支店長にすぎず,被審人タカヤの営業業務全般の責任者ではなかったから,上記供述調書は全く信用できないと主張する。
しかし,被審人タカヤの佐々木は,記憶が定かでない点についてはこれを率直に認める一方で,入札調書からは明らかにならない事実を供述していること,TST親交会等における受注調整は,被審人タカヤの適法かつ通常の業務ではないのであるから,被審人タカヤの佐々木の当時の肩書が北上支店長であったことが,直ちにその供述の信用性に影響を与えるものではなく,かえって,被審人タカヤの佐々木は,TST親交会等及びその受注調整について深く関与していたこと(査共24,38,42,113ないし120)に照らすと,上記供述調書は信用することができる。
また,原告は,同じ県営長谷堂アパートの工事である物件101と物件103の落札率の大幅な相違(前者は予定価格の95.00パーセント,後者は予定価格の88.00パーセント)から原告と被審人タカヤが競争関係にあったことは明らかであるとも主張する。
しかし,被審人タカヤの佐々木の供述調書には,原告が継続性を有することを尊重して応札した旨の供述があるところ,上記のとおり同供述調書は信用することができるから,原告と被審人タカヤが競争関係にあったと認めることはできない。また,物件103と同様,物件101についてもアウトサイダーが入札に参加しており,両物件における原告の落札率には相違が見られるものの,アウトサイダーが入札に参加した物件の入札価格ないし落札率は,個々の物件ないし入札に係る状況により左右されるものであって,上記両物件における原告の落札率に相違が見られるとしても,上記アの認定を覆すに足りるものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,物件103が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情を認めることはできず,むしろ,同物件については,上記⑴の推認を補強する具体的事情が存在するというべきである。
⑷ 物件35について
ア 上記「第3 前提事実等」の5⑴ア及び証拠(査共28,65,査B5,6,査C7,9,原告代表者の審訊速記録)によれば,物件35は大船渡病院調乳室その他改修工事であるところ,原告は,同病院の関連工事を施工した実績があり,気仙地区の事業者がそのことを認識していたことは,当事者間に争いがないこと,物件35の入札は,平成13年12月3日,指名競争入札の方法により,原告を含む10社(そのうち8社が,TST親交会等の会員であった。)が参加して行われ,原告が,予定価格939万円の85.20パーセントに相当する入札価格800万円で落札し,これを受注したこと,その入札には,佐賀組が参加していることろ(原文ママ),佐賀組は,原告が所在する大船渡地区において受注希望を取りまとめる役割等を果たしていたTST親交会等の世話役であった上,その代表取締役である金野勇一は,TST親交会等の副会長を務めていたこと,他の入札参加者の入札価格は,全て設計金額の86.26パーセントから89.99パーセントの範囲内であったことが認められる。
このように,原告が上記病院について関連性を有していたこと,TST親交会等における重要な地位を占める佐賀組が入札に参加していること,佐賀組を含む他の入札参加者の入札行動は競争的なものとはいい難いことが認められるところ,これらの事情は,物件35について,原告を入札予定者とする受注調整の存在を推認させる具体的事情というべきである。
イ これに対し,原告は,物件35の予定価格を相当正確に積算することができたところ,最低価格ぎりぎりの低落札率で落札したこと,入札に参加した佐賀組の関係者も含めて,受注調整を示す関連証拠は存在しないことから,受注調整はなかったというべきであると主張する。
しかし,原告が物件35の予定価格を相当正確に積算することができたことを認めるに足りる証拠はなく,入札参加者の入札価格が一定の範囲内に収まっているとしても,そのことから直ちに上記積算が可能であったと認めることにはならない。かえって,物件35と同様に小規模物件である物件37の入札率は,原告を含め,全て99パーセントを超えていることに照らし,原告が物件35の予定価格を相当正確に積算することができたとはいい難い。また,佐賀組及びその代表取締役である金野勇一がTST親交会等における重要な地位にあったことは,既に説示したとおりである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,物件35が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情を認めることはできず,むしろ,同物件については,上記⑴の推認を補強する具体的事情が存在するというべきである。
⑸ 物件37について
ア 上記「第3 前提事実等」の5⑴イ及び証拠(査B5)によれば,物件37は県営赤沢アパート4・5号棟外壁等改修工事であるところ,原告は,同アパートの関連工事を施工した実績があり,気仙地区の事業者がそのことを認識していたことは,当事者間に争いがないこと,物件37の入札は,平成13年12月14日,指名競争入札の方法により,原告を含む10社(そのうち8社が,TST親交会等の会員であった。)が参加して行われ,原告が,予定価格1208万円の99.34パーセントに相当する入札価格1200万円で落札し,これを受注したこと,その入札には佐賀組が参加しており,上記⑶アで説示したとおり,佐賀組及びその代表取締役である金野勇一は,TST親交会等における重要な地位にあったこと,他の入札参加者の入札価格は,全て予定価格を超えるものであったことが認められる。
このように,原告が同アパートについて関連性を有していること,佐賀組が入札に参加していること,佐賀組を含む他の入札参加者の入札行動は競争的なものとはいい難いことが認められるところ,これらの事情は,物件37について,原告を入札予定者とする受注調整の存在を推認させる具体的事情というべきである。
イ これに対し,原告は,本件審決が受注調整の根拠として指摘する関連性及び入札率は,受注調整がなかったとしても矛盾しない整合的な事情であること,入札に参加した佐賀組の関係者も含めて受注調整を示す関連証拠は存在しないことから,受注調整はなかったというべきであると主張する。
しかし,物件37に係る原告の関連性及び佐賀組の参加を含む入札状況は,いずれも物件37について原告を入札予定者とする受注調整の存在を推認させる事情であることは,上記アで説示したとおりであって,原告の上記主張は,上記推認を覆すに足りるものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,物件37が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情を認めることはできず,むしろ,同物件については,上記⑴の推認を補強する具体的事情が存在するというべきである。
⑹ 物件58について
ア 上記「第3 前提事実等」の5⑴ウ及び証拠(査B5)によれば,物件58は大船渡病院診療棟増築棟(建築)工事であるところ,原告は,上記病院の関連工事を施工した実績があり,気仙地区の事業者がそのことを認識していたことは,当事者間に争いがないこと,物件58の入札は,平成14年6月25日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む13社(そのうち10社が,TST親交会等の会員であった。)が参加して行われ,原告が,予定価格3億4100万円の87.76パーセントに相当する入札価格3億0005万4000円で落札し,これを受注したこと,その入札には佐賀組が参加しており,上記⑶アで説示したとおり,佐賀組及びその代表取締役である金野勇一はTST親交会等における重要な地位にあったこと,2番札はアウトサイダーであり,その入札価格は,設計金額の88.04パーセントであったこと,他の入札参加者の入札価格は,全て設計価格の97パーセント以上であったことが認められる。
このように,原告が上記病院について関連性を有していること,佐賀組が入札に参加していること,佐賀組を含む他の入札参加者の入札行動は競争的なものとはいい難いことが認められるところ,これらの事情は,物件58について,原告を入札予定者とする受注調整の存在を推認させる具体的事情というべきである。
イ これに対し,原告は,本件審決が受注調整の根拠として指摘する関連性及び入札率は,受注調整がなかったとしても矛盾しない整合的な事情であること,仮に,物件35で受注調整があったならば,同じく大船渡病院の工事である物件58を低落札率で落札するはずはないこと,入札に参加した佐賀組の関係者も含めて,受注調整を示す関連証拠は存在しないことから,受注調整はなかったというべきであると主張する。
しかし,物件58に係る原告の関連性及び佐賀組の参加を含む入札状況は,いずれも物件58について原告を入札予定者とする受注調整の存在を推認させる事情であることは,上記アで説示したとおりであるし,同じく大船渡病院の工事である物件58の落札率が低いのは,アウトサイダーとの競争が理由であるものと推認することができるから,原告の上記主張は,いずれも上記推認を覆すに足りるものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,物件58が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情を認めることはできず,むしろ,同物件については,上記⑴の推認を補強する具体的事情が存在するというべきである。
⑺ 以上によれば,本件審決が,本件各物件について,本件基本合意に基づく受注調整による具体的な競争制限効果が発生したと認定したことは,いずれも実質的証拠に基づく合理的な認定であるから,本件各物件は,独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該…役務」に該当するというべきである。
以上検討した点のほか,原告がるる主張する点は,いずれも本件各物件が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情には当たらない。
したがって,この点に関する原告主張の違法事由は認めることができない。
2 争点⑵(4物件に係る契約金額の増額分が課徴金の算定の基礎に含まれるか)について
原告は,4物件については,岩手県から,原告に対し,当初の工事とは別の新たな変更・追加工事が発注され,契約金額が増額変更されたものであるところ,この増額変更は,岩手県が,直接,当初契約を締結した事業者との間で合意したものであり,当初の契約と一体となるものとして本件違反行為の効果が及んでいるとはいえないから,不当な取引制限による経済的利得として擬制される売上げないし役務の対価とはいえないと主張する。
しかし,査B1から4までの4物件の建設工事請負契約変更(第1回)請書によれば,増額分に係る工事は,当初の工事受注から数か月後に合意され,設計内容について変更図書及び仕様書が作成されているものの,工事場所,工期及び工事の名称は当初の契約と変わらず,当初の工事を前提とし,これと一体を成すものと認められるから,増額変更部分にも本件違反行為の効果が及んでいるというべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
したがって,この点に関する原告主張の違法事由も認めることができない。
3 争点⑶(本件各物件に係る消費税相当額が課徴金の算定の基礎に含まれるか)について
原告は,消費税は,不当な取引制限による経済的利得として擬制される売上げないし役務の対価とはいえないと主張する。
しかし,消費税法は,当該役務の提供を行った事業者を消費税の納税義務者とし(同法2条1項,5条1項),役務の提供を受けた者は,消費税相当額を転嫁されて負担するにとどまり,法律上の納税者とはされていないこと,消費税相当額は,請負代金等の金員と同一の法的性質を有する金員として一体的に事業者に支払われ,事業者が当該受領した金員の中から消費税を納付することが予定されていること等からすれば,消費税相当額は,独占禁止法施行令6条にいう役務の「対価」に含まれ,したがって,独占禁止法7条の2第1項所定の「売上額」に含まれると解すべきである(最高裁判所平成10年10月13日第三小法廷判決・裁判集民事190号1頁,東京高等裁判所平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集52巻744頁参照)。
したがって,この点に関する原告主張の違法事由も認めることができない。
4 結論
以上のとおり,本件審決の基礎となった事実は本件審決掲記の証拠によって合理的に認定することができるから,これを立証する実質的な証拠があるし,本件審決に憲法その他の法令違反も認めることができないから,本件審決には独占禁止法82条1項が規定する取消事由は存在しない。したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成26年3月28日

裁判長裁判官 荒井勉
裁判官 内藤正之
裁判官 森英明
裁判官 本田能久
裁判官 澤田久文

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