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大東建設(株)による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成25年(行ケ)第115号

判決

石川県鳳珠郡穴水町字川島ロ10番地1
原告 大東建設株式会社
同代表者代表取締役 白坂政治
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 中里浩
同 北脇俊之
同 瀨島由紀子
同 堤勝利
同 今野敦志

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告が平成24年(判)第3号について平成25年9月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 原告は,石川県が指名競争入札又は制限付一般競争入札(以下「指名競争入札等」という。)の方法で発注した別紙1のとおりの土木一式工事(以下「特定土木一式工事」という。)につき,被告から,他の事業者と共同して受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにして,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当する行為(その具体的内容は後記3⑶イのとおり。)をし,法3条の規定に違反すると認定されて排除措置命令(平成23年(措)第11号。以下「本件排除措置命令」という。)を受け,同命令は確定した。原告は,併せて被告から法7条の2第1項1号の規定に基づき,同項所定の実行期間を平成19年6月12日から平成22年6月10日までの間(以下「本件実行期間」という。)と認定して算定した135万円の課徴金の納付を命じる課徴金納付命令(平成23年(納)第237号。以下「本件課徴金納付命令」という。)を受けた。
原告は,被告に対し,上記違反行為の実行は遅くとも平成21年9月ころまでには終わっており,原告が受注した別紙2(ただし,「被審人」とあるのを「原告」と読み替える。以下同じ)記載の石川県発注の4件の特定土木一式工事に係る物件(以下「本件4物件」といい,個別の物件については別紙2の番号欄記載の番号に従って「物件1」等という。)については完全に自由な競争が行われていたと主張し,本件4物件の特定土木一式工事が上記違反行為に該当するとしてされた本件課徴金納付命令は違法であるとして,その取消しを求める審判請求をした。被告は,原告の主張を退けて審判請求を棄却するとの審決(以下「本件審決」という。)をした。
本件は,原告が,被告に対し,本件審決の取消しを求める事案である。
2 関係法令等の定め
⑴ 法2条
(第1項ないし第5項省略)
第6項 この法律において「不当な取引制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義をもつてするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
(以下省略)
⑵ 法3条
事業者は,私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
⑶ 法7条の2
第1項
事業者が,不当な取引制限(中略)で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは,公正取引委員会は,第8章第2節に規定する手続に従い,当該事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは,当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼって3年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(括弧内略)に100分の10(括弧内略)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし,その額が100万円未満であるときは,その納付を命ずることができない。
1 商品又は役務の対価に係るもの
(以下第4項まで省略)
第5項 第1項の場合において,当該事業者が次のいずれかに該当する者であるときは,同項中「100分の10」とあるのは「100分の4」と,(中略)する。
1 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人であって,製造業,建設業,運輸業その他の業種(括弧内略)に属する事業を主たる事業として営むもの
(以下第22項まで省略)
第23項 第1項,第4項から第9項まで,第11項,第12項又は第19項の規定により計算した課徴金の額に1万円未満の端数があるときは,その端数は,切り捨てる。
(以下省略)
⑷ 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「施行令」という。)6条
第1項 法第7条の2第1項に規定する違反行為に係る商品又は役務の対価がその販売又は提供に係る契約の締結の際に定められる場合において,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額の合計額と実行期間において締結した契約により定められた商品の販売又は役務の提供の対価の額の合計額との間に著しい差異を生ずる事情があると認められるときは,同項に規定する売上額の算定の方法は,実行期間において締結した契約により定められた商品の販売又は役務の提供の対価の額を合計する方法とする。
第2項 前条第1項第3号の規定は,前項に規定する方法により売上額を算定する場合に準用する。
(参考)施行令5条第1項第3号 法第7条の2第1項(括弧内省略)に規定する政令で定める売上額の算定の方法は,次条第1項及び第2項に定めるものを除き,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法とする。この場合において,次の各号に掲げる場合に該当するときは,当該各号に定める額を控除するものとする。
3 商品の引渡し又は役務の提供を行う者が引渡し又は提供の実績に応じて割戻金の支払を行うべき旨が書面によつて明らかな契約(一定の期間内の実績が一定の額又は数量に達しない場合に割戻しを行わない旨を定めるものを除く。)があつた場合 実行期間におけるその実績について当該契約で定めるところにより算定した割戻金の額(一定の期間内の実績に応じて異なる割合又は額によつて算定すべき場合にあつては,それらのうち最も低い割合又は額により算定した額)
3 前提事実(当事者間に争いがないか,又は弁論の全趣旨ないし括弧内掲記の審判手続提出証拠により容易に認められる。)
⑴ 原告の地位
原告は,石川県鳳珠郡穴水町に本店を置き,本件実行期間を通じて資本金の額が3億円以下の会社で,石川県知事の許可を受けて建設業を営んでいた者であり,法7条の2第5項1号に該当する事業者である。穴水町の区域(以下「穴水地区」という。)は中居トンネルと呼ばれるトンネルを境に西側の地区と東側の地区(以下,それぞれ「穴水西地区」,「穴水東地区」という。)に分かれていて,原告の本店は穴水西地区内にあった。(査38)
⑵ 石川県における特定土木一式工事の発注方法等
ア 石川県は,建設工事の競争入札に参加する者に必要な資格を定め,土木一式工事への参加資格を有するとして名簿に登載した事業者をその事業規模等により発注金額の区分に対応するA,B,C,Dの4等級に格付けし,この格付けを毎年見直していた。
イ 石川県は,特定土木一式工事のすべてにおいて,制限付一般競争入札又は指名競争入札のいずれかを実施していた。指名競争入札の暢合は,石川県輪島市,珠洲市,鳳珠郡穴水町及び同郡能登町の区域(以下,一括して「奥能登地域」という。)に本店又は主たる事務所を有するA及びBの等級に格付けされた事業者のうち,発注金額の区分に対応する者の中から工事の施工場所や安定的施工を考慮して,当該工事の入札参加者を最低で10名指名することを原則とし,所定の条件を満たす場合は発注金額の区分に対応する等級に関係なく入札参加者を指名していた。また,各工事の指名業者とその入札価格は,契約締結後に石川県のホームページ等で公表されていた。(査31,33,34)
ウ 原告は,本件実行期間を通じてBの等級に格付けされていたが,平成22年6月1日の石川県の見直しでCの等級に変更され,同月10日の開札期日を最後に石川県の発注する特定土木一式工事の入札参加資格を失った。本件実行期間にA又はBの等級に格付けされていた事業者のうち,穴水西地区に本店又は主たる営業所を有する者(以下「穴水西地区の事業者」といい,他の地域や地区についてもこの例による。)は原告に昭和建設株式会社(以下「昭和建設」といい,その余の会社名についてもこの例により会社の種類を示す部分を省略して表記する。),伸栄建設,三興建設及び苗代建設を加えた5名,穴水東地区の事業者は高田,藏谷工務店及び河端組の3名であった。(査30,38)
エ 指名競争入札の方法で発注される工事には予定価格及び最低制限価格(予定価格のおおむね66%ないし90%の範囲内)が設定され,最低制限価格以上予定価格以下の範囲内で入札価格が最も低額の者が落札者とされて工事を受注するものとされた。予定価格は当該工事の指名通知書に記載されて指名業者には事前に告知されており,契約締結後は石川県のホームページ等でも公表された。最低制限価格は契約締結後に初めて石川県のホームページ等で公表された。(査33,34)
⑶ 本件排除措置命令等
ア 原告を含む上記⑵ウの穴水地区の事業者8名を始めとする合計79名の奥能登地域に本店又は主たる事務所を置いて建設業を営んでいた会社又は個人(以下,一括して「本件79名」という。)のうち,原告ほか66名は,被告から,平成23年10月6日付けで,本件排除措置命令を受けた。
イ 本件排除措置命令において認定された法2条6項に規定する不当な取引制限に該当する行為の内容は次のとおりである。
原告を含む本件79名は,共同して,遅くとも平成19年6月1日から平成22年7月13日までの間(以下「本件違反行為期間」という。ただし,事業者によってはその一部の期間),石川県発注の特定土木一式工事について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を決定し,受注すべき価格は受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意(以下「本件基本合意」という。)の下に,受注希望者が1名のときはその者を受注予定者とし,受注希望者が複数名のときは,当該工事の施工場所,過去に受注した工事との継続性等を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定するなどにより,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにし,公共の利益に反して,石川県の発注する特定土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下,上記のとおり本件基本合意の下に受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を「本件違反行為」といい,個別の物件について受注予定者を決定して受注予定者が受注できるようにすることを「受注調整」という。)。
ウ 原告は,所定期間内に本件排除措置命令に対する審判請求(法49条6項)を行わず,本件排除措置命令は確定した。
エ 本件違反行為期間において石川県発注の特定土木一式工事の入札参加資格を有していた奥能登地域の建設業者(以下「入札資格者」という。)は86名であり,本件79名はその9割以上を占めていた。(査30)
オ なお,昭和建設は,平成19年11月ころ,石川県七尾市の発注する工事に係る談合事件で摘発され,指名停止処分を受けたことを契機として,以後は受注調整やそのための情報提供には一切応じない旨を宣言した。本件排除措置命令においても,同社は本件基本合意から離脱する旨の表明をして平成20年6月30日以降は本件違反行為を取りやめたと認定されている(以下,このことを「昭和建設の離脱」という。)。(原告代表者審尋調書)
⑷ 本件課徴金納付命令及び本件審決
ア 被告は,平成23年10月6日付けで,本件4物件が課徴金の対象となることを前提に,原告に対し課徴金として135万円の納付を命ずる本件課徴金納付命令を発した。
イ 原告は,同年11月8日,被告に対し,本件課徴金納付命令の取消しを求める審判請求をし,審判手続が開始された。この審判手続において,原告は,要旨,平成20年6月30日の昭和建設の離脱後,遅くとも平成21年9月ころまでには穴水地区では完全な自由競争となり,本件実行期間において原告が受注した本件4物件については受注調整は行っておらず,これらは課徴金の対象とならないとして,本件課徴金納付命令は取り消すべきであると主張した。
ウ 被告は,原告の主張を退けて,平成25年9月30日,原告の審判請求を棄却する本件審決をし,本件審決の謄本は同年10月2日,原告に送達された。
⑸ 本件訴訟の提起
原告は,平成25年10月12日,本件訴訟を提起した。
⑹ 本件4物件に関する事情
ア 本件実行期間中,穴水地区における入札資格者は原告を始めとする上記⑵ウの8名であった。本件4物件の入札には別紙2の「入札参加者」欄のとおり上記8名全員が指名を受けて参加し,さらに物件1については林工務店と三浦建設こと三浦雄幸(以下「三浦」という。)が,物件2については宝建設と三浦が,物件3及び4については林工務店と宝建設が指名を受けて参加したが,これら3名はいずれも石川県輪島市の旧門前町の区域(以下「門前地区」という。)の事業者であった。なお,奥能登地域は,上記2地区の他に石川県輪島市のその余の区域,珠洲市の区域,鳳珠郡能登町の旧柳田村の区域,同町の旧内浦町の区域,同町のその余の区域(以下,それぞれ「輪島地区」,「珠洲地区」,「柳田地区」,「内浦地区」,「能登地区」という。)に大別されていた。(査30,38,39,40,42)
イ 本件4物件の施工場所はいずれも穴水西地区内にあった上,物件1及び2は原告が従前から工事実績を有していたのと同じ道路の災害復旧工事であり,他の入札参加者もこのことを認識していた。また,物件3については施工場所近くに一定の作業場所が必要であったところ,原告は施工場所に隣接して資材置場を有していた。物件4については原告は施工場所から数百mの位置に事務所を有していた。(原告代表者審尋調書)
ウ 本件4物件の入札年月日,予定価格,落札価格,落札率(予定価格に対する落札価格の割合),契約金額等は別紙2のとおりであり,原告を含む入札参加者の入札金額及び入札率(予定価格に対する入札価格の割合)は別紙3(ただし,「被審人」とあるのを「原告」と読み替える。以下同じ)のとおりであった。
エ 物件4に係る指名競争入札執行通知書(平成22年5月18日付けで石川県奥能登土木総合事務所長が作成した原告宛の通知書で,指名競争入札の対象案件,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札日時,工事場所を含む入札・契約の条件等の記載があり,原告を指名業者とする旨や税込みの予定価格等が記載されたもの)に原告代表者が税抜きの予定価格,原告の入札価格に加え,入札参加者全員の頭文字等の略称を書き,さらに高田,藏谷工務店,河端組,林工務店及び宝建設については各社に対応する価格(うち高田を除いては各社の入札価格に一致し,高田については現実の入札価格の方が高額である。)を記載して宝建設,林工務店の電話番号を併記したメモ書き(以下「本件メモ」という。)が存在する。(査50)
オ 本件4物件を対象に施行令6条1項,2項に基づく本件実行期間における売上額を計算すると,本件4物件の税込み契約金額(物件3については変更後のもの)を合計した3395万4900円となり,これを基に法7条の2第1項,第5項,第23項の規定により課徴金の額を算出すると135万円となる。
⑺ 本件審決の認定判断の概要
ア 本件基本合意は,法7条の2第1項1号にいう「不当な取引制限」で「役務の対価に係るもの」に当たるところ,本件のようないわゆる入札談合の事案において,同項所定の課徴金の対象となる「当該役務」とは,本件基本合意の対象とされた工事であって,本件基本合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいう。
イ 本件基本合意は,石川県発注の奥能登地域の特定土木一式工事の全てを受注調整の対象とするものであったと推認されるから,石川県発注の特定土木一式工事であり,かつ,本件79名のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,特段の事情がない限り,本件基本合意の下に受注予定者が決定され,具体的な競争制限効果が発生したと推認するのが相当である。昭和建設の離脱後は穴水地区では完全な自由競争となったとする原告の主張は採用することができない。
ウ 本件79名は,本件基本合意の下で,穴水地区,門前地区など自らが本店又は主たる事業所を有する地区と異なる地区を施工場所とする工事については受注を目指さないものとしており,各地区内でも,発注物件について特定の事業者の事務所又は資材置場が工事の施工場所に近いといった地域性や当該事業者が同種工事を前に手がけたといった継続性がある場合は,同地区内の他の事業者は受注を目指さないということを業者相互間で認識していて,このようにして受注予定者が明らかに定まる場合には具体的な話合いや連絡等は行わないことがあった。また,指名競争入札においては,受注予定者が他の入札参加者に受注予定者としての入札価格や入札すべき価格の連絡(以下「価格連絡」という。)をしない場合においても,受注予定者は予定価格の95%程度に相当する価格で,他の入札参加者はこれよりも高い価格で入札することを目安としていた。
エ 本件4物件のうち,物件4については,本件メモの記載内容及び原告代表者や他の入札参加者の代表者等の被告の審査官に対する供述調書(以下,単に「供述調書」という。)により,少なくとも穴水西地区以外の5名に対し,原告が予め受注希望の連絡や価格連絡をしていたほか,原告以外の入札参加者9名中,少なくとも7名が原告の受注に協力したと認められる。また,物件1ないし3についても,上記⑹イによれば原告に継続性や地域性があったことに加え,ほぼ同一の事業者が入札に参加していて受注調整が容易と見られること,伸栄建設,高田,林工務店,宝建設の各代表者が受注に協力した旨を供述していることなど,本件基本合意の下で原告が受注予定者に決定されて受注したとの推認を強める事情があり,これを覆すに足りる事情はない。
オ 本件4物件の入札には受注調整に参加しない意思を明確に表明した事業者(以下「アウトサイダー」という。)1名(昭和建設)が参加しているが,この場合でも特段の事情がない限り,競争単位の減少により具体的な競争制限効果が発生したということができ,本件でかかる特段の事情は認められない。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
本件では,本件4物件が法7条の2第1項で課徴金の対象とされる「当該商品又は役務」(以下「当該役務」という。)に当たるか否かを巡り,本件4物件について本件基本合意に基づいて受注調整が行われたかが争点となっており,これに関する当事者の主張は,次のとおりである。
1 認定方法の合理性
(原告の主張)
前記第2の3⑺イの本件審決の認定判断は,推認によって受注調整を認定し,原告に不存在の事実の証明という不可能を強いるものであって,不合理である。(被告の主張)
奥能登地域の建設業者の間では相当以前から石川県が発注する特定土木一式工事について受注調整が行われてきたこと,本件79名は,入札資格者の9割超を占めており,上記特定土木一式工事のすべてを対象に受注調整を行い得る立場にあってこれを行うことは容易であったこと,本件79名が実際に本件違反行為期間内に本件基本合意の下に地域性や継続性を考慮して,多数の物件について受注調整を行ってきたこと等を総合すると,前記第2の3⑺イのとおり,本件基本合意は石川県の発注する奥能登地域の特定土木一式工事の全てを対象とするものであったと推認するのが相当であり,この推認は合理的である。自社が入札に参加して受注した工事についての事実関係を最もよく把握しているのは本件排除措置命令に違反した違反行為者であり,当該入札について基本合意の対象から除外された事実等を具体的に主張立証して十分に反証をすることが可能であって,そのことは不存在事実の証明を強いるものではないから,確定した本件排除措置命令で違反行為者と認定された原告に上記のような反証を求めることは不合理ではない。
2 本件4物件が本件基本合意の対象外とされたことを示す事情の有無
(原告の主張)
⑴ 穴水地区では,かつては入札参加者の間で入札に先立って受注希望の連絡をするなどして受注予定者を決定し,受注予定者が他の入札参加者に対して価格連絡をし,他の入札参加者は受注予定者が落札できるよう協力するといった受注調整を行っていた。しかし,平成20年6月30日に同地区の最大手の事業者であった昭和建設の離脱があり,その後,他にもこれに追随して受注調整に応じない事業者が現れたことから,同地区では遅くとも平成21年9月ころまでには完全な自由競争となったのであって,その後に入札が実施された本件4物件については本件基本合意の下での価格連絡その他の受注調整は行われていない。
なお,本件メモは,入札締切り後開札までの間に原告代表者が知り得た他の入札参加者の入札価格を記載したものにすぎない。本件審決が認定するように入札前の価格連絡に関するメモであれば全ての入札参加者の入札価格を記載するはずであって,本件メモをもって物件4についての受注調整を認定することはできない。
また,本件4物件についての受注調整を認めるかのような記載のある原告代表者の供述調書(査35)は,被告の審査官(以下,単に「審査官」という。)に都合の良いことだけを一方的に記載したもので,原告代表者は,審査官に署名押印しなければ帰さないなどと強制され,ろくな法律知識もないために署名押印したにすぎず,これを証拠とすることはできない。この供述調書は,供述者1名に対して審査官2名により密室でメモも録音も許されない状態で行われた事情聴取に基づいて作成されたことからしても,中立性,客観性を欠き,証拠として不十分なものである。昭和建設の離脱後も本件4物件につき受注調整が行われていたかのような記載のある他の入札参加者の代表者等の供述調書についても,同様に審査官の言い分を一方的に記載したものにすぎず,証拠とすることはできない。
⑵ 本件4物件については指名を受けた事業者が誰かが明らかでなかったから,そもそも原告が受注調整を行うことは不可能であった。
⑶ 本件審決は予定価格に対する落札率をもって受注調整を認定しているが,予定価格は積算によって定められるところ,土木一式工事の現場の条件は土質や天候など不確定要素が多く,積算による予定価格以上に工事費がかかる場合もあり,このような認定は非現実的である。
(被告の主張)
⑴ 本件メモの記載は,物件4について原告が明示的に受注調整を行っていたことを裏付けるものであること,伸栄建設の代表者が供述調書において昭和建設が離脱した後も穴水西地区と穴水東地区の事業者の住み分けは機能していた旨明言していること(査38)等に照らし,昭和建設の離脱後も本件基本合意の下に受注調整が行われていたことは明らかである。
なお,本件メモについては,入札締切日の翌朝には原告の受注の成否は明らかになるし,他の入札参加者の入札価格もいずれ公表されるにもかかわらず,開札までの短時間の内に入札価格について情報収集をしてその結果を記載したとする原告の説明は不合理であり,原告の主張するように事前に連絡したメモであれば他の入札参加者すべての入札価格を記載するはずであるともいえず,事前の価格連絡の内容を記載したものと認めるのが相当である。
また,原告代表者の供述調書(査35)を始めとする本件審決が事実認定に用いた供述調書は,審査官が供述者の発言内容を要約して記載し,内容について供述者に間違いがないか否かを確認の上で署名押印を得て作成されたものであり,その信用性に疑いをはさむべき事情はない。供述者と審査官の数が同数でないなど原告の主張するような点は記憶に基づく正確な供述を妨げるような事情ではなく,その信用性を左右するものではない。
⑵ 本件4物件についてはほぼ同一の事業者が入札に参加しており,穴水地区の入札参加者は固定されていたから,原告は,指名を受けた事業者を容易に予測できる状況にあった。
⑶ 本件審決は入札率(落札率)を受注調整の推認を強める事情と位置付けており,原告が主張するように予定価格が積算によって定められたか否かは明らかでないし,仮に積算によって定められたとしてもこのことは受注調整を否定する根拠とはならないから,原告の主張は失当である。
3 受注希望の連絡や価格連絡の存在が認定されなくても黙示の受注調整を認定して課徴金の対象とすることの合理性
(原告の主張)
本件4物件については,原告による他の入札参加者への受注希望の連絡や価格連絡は行われていない。それにもかかわらず,本件審決は,何の連絡がなくても本件基本合意に含まれて原告が受注調整によって受注したものと認定しており,不当である。奥能登地域では建設業者の団体である建設業協会が輪島市と珠洲市に存在し,さらに下部組織として地区毎に6つの地区協会が存在しており,これは各地区で習慣や考え方が違うからであり,一部の地区で黙示的に受注調整が行われているとしても,これを奥能登地域全体に当てはめることはできず,穴水地区では明示的な受注希望の連絡や価格連絡がない限りは自由競争であると認識されていた。そもそも課徴金の対象は,具体的な受注調整が認められる物件に限るべきであり,本件審決が受注希望の連絡や価格連絡が認定できない物件を課徴金の対象としたのは不当である。
(被告の主張)
入札談合の当事者が,違反行為の発覚を防ぐため,受注予定者を簡単に判断できるような場合に受注予定者を決定するための話合い等を行わないことは一般的に珍しくない。穴水地区でも,本件4物件についてほぼ同一の事業者が入札に参加して入札参加者が固定化されていたこと,工事の内容や施工場所からどの事業者が地域性や継続性を有して受注予定者となるかが容易に判断できる状況にあったこと,受注予定者が価格連絡をしない場合には受注予定者は予定価格の95%程度に相当する価格で,他の入札参加者はそれよりも高い価格で入札することが目安とされていたことが認められ,明示的な入札希望の連絡や価格連絡を必ずしも行わなくても,受注調整をして受注予定者に受注をさせることが可能な状況にあった。そして,本件基本合意の下で地域性や継続性を考慮して暗黙の了解によって受注希望者が決定され,他の入札参加者が受注に協力する場合も,本件基本合意の下での受注調整により具体的な競争制限効果が発生していることに変わりはないから,受注希望の連絡や価格連絡の有無が明らかでないことをもって,当該物件を課徴金の対象外とすべきであるとはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 本件においては,本件排除措置命令で,原告を始めとする穴水地区の事業者8名を含む奥能登地域に本店ないし主たる事業所を有する本件79名が,共同して,遅くとも平成19年6月1日から平成22年7月13日までの間(本件違反行為期間。ただし,原告についてはそのうち本件実行期間),石川県が指名競争入札等の方法で発注する特定土木一式工事について,受注予定者を決定し,受注すべき価格は受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意(本件基本合意)の下に,受注予定者を決定して受注予定者が受注できるようにする行為(本件違反行為)をしていたことが認定されている。そして,本件排除措置命令は,原告が審判請求を行うことなく,確定したのであるから,これを前提とする本件課徴金納付命令に対する審判手続において,本件違反行為の不存在を主張することはできず(法59条2項1号),上記審判手続に基づいてされた本件審決の取消しを求める本件訴訟においても,上記審判手続が適法にされたか否かを審理するものである以上,同様の制約が働くのであって,本件訴訟において原告が本件違反行為の内容をなす本件基本合意の存在自体を争うことはできないというべきである。
しかるところ,本件基本合意は,法7条の2第1項1号にいう「不当な取引制限」で「役務の対価に係るもの」に当たるところ,本件のようないわゆる入札談合の事案において,同項所定の課徴金の対象となる「当該役務」とは,本件基本合意の対象とされた工事物件であって,本件基本合意の下での受注調整の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解するのが相当である。そして,もとより原告は,本件訴訟において,個々の工事物件が本件基本合意の対象か否かや個々の物件に関する本件基本合意の下での受注調整の有無を争うことはできるというべきである。
もっとも,法82条1項によれば,公正取引委員会のした審決が取り消されるのは,審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない場合又は審決が憲法その他の法令に違反する場合のいずれかの場合に限られ,また,この審査に当たっては法80条が適用されて,裁判所は,独自の立場で認定をやり直すのではなく,本件審決において被告が認定した事実につき,これを立証する実質的な証拠があるか否か,換言すれば,本件審決の審判手続で取り調べられた証拠から上記のような事実を認定することが合理的と認められるか否かという観点から検討すべきものである(最高裁昭和46年(行ツ)第82号同50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁参照)。
そこで,以下,これらの観点から検討する。
2 争点(本件4物件について本件基本合意に基づいて受注調整が行われたか)について
原告を含む本件79名は,共同して,遅くとも平成19年6月1日以降,石川県発注の特定土木一式工事について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を決定し,受注予定者が受注すべき価格を定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意(本件基本合意)をし,本件基本合意の下に本件違反行為をしていた(原告が本件基本合意の存在自体を争うことができないことは,前記のとおりである。)。
しかるところ,本件79名は,本件違反行為期間中の入札資格者86名の実に9割以上を占めており(前記第2の3⑶エ),石川県が,特定土木一式工事の指名競争入札の方法による発注に当たり,地域性や工事の継続性を重視して,入札資格者から最低10名を指名することを原則としていたこと(同3⑵イ)にも照らすと,上記特定土木一式工事については,本件79名のいずれかが入札に参加し,入札参加者の大半を占めていたということができる。加えて,奥能登地域の地区を異にする複数の事業者の代表者等が,供述調書において,各地区では既に昭和の時代には石川県が発注する土木一式工事について受注調整を行っていたことを供述し(査6〔A(輪島地区)〕,査17〔B(門前地区)〕,査21〔C(内浦地区)〕),原告代表者も,少なくとも昭和建設の離脱まではほとんどの工事で受注調整が行われていたと自認している(原告代表者審尋調書)。また,各地区の事業者の代表者等は,受注調整の方法につき,概ね,受注を希望する者が,指名を受けたと推測される者に電話等で入札参加の有無を確認したり,地区内外の指名業者に関する情報を集約している地区の建設業協会に照会するなどして入札参加者を把握した上,希望者が複数いる場合は建設業協会や商工会の建物に集合して話合いをしたり電話連絡等を行って受注予定者を決定し,受注予定者が他の入札参加者に対し,「札」と称する短冊状の紙片を渡す方法や電話等で口頭で伝える方法によって価格連絡を行っていたこと,ただし,施工場所の属する地区以外の地区の事業者は原則として受注を目指さないという了解があったこと,また,事務所等の所在地と施工場所との近接性といった地域性や以前に施工した工事との継続性等を考慮して入札予定者が明らかなときは,必ずしも入札希望の連絡を行わないことがあったこと,さらに,指名競争入札においては,入札予定者は予定価格の95%程度で,それ以外の入札参加者はこれよりも高い価格で入札することが目安とされ,価格連絡が行われない場合も少なからずあったこと等,ほぼ同旨の供述をしていて(上記査6,査17,査21に加え,査9〔D(能登地区)〕,査13〔E(柳田地区)〕,査23〔F(珠洲地区)〕,査26〔G(珠洲地区)〕),これらの内容に特に不自然な点等信用性を疑わせる事情はない。後述のとおり信用性の認められる原告代表者の供述調書(査35)や穴水地区の他の事業者代表者等の供述調書(査18,査25,査38)も,穴水地区でも「札」と称する紙片を使用するなどして価格連絡をし,明示の価格連絡を要しない場合は予定価格の95%程度を入札予定者の入札価格の目安とするなど概ねこれらと同様の方法で受注調整を行っていたとしている。加えて,石川県の発注する奥能登地域の工事の多くは過去に行われた工事と何らかの関係を有し,同地域の事業者は,いずれも地区内の実情や過去の施工実績等について熟知していて,工事の内容や施工場所からどの事業者が地域性や継続性を有するかを比較的容易に判断することができ,受注予定者を簡単に決定できる場合が多かったとする供述があり(上記査23・2ないし3頁),弁論の全趣旨によれば,原告も少なくとも昭和建設の離脱までは上記のような実情があったことを否定していない。
以上によれば,石川県が指名競争入札等の方法で発注した奥能登地域の特定土木一式工事について,そのすべてに本件79名のいずれかが参加し,入札参加者の大半を占めていて,本件79名は,上記工事の全てを対象に受注調整を行うことが容易な立場にあったところ,奥能登地域では既に昭和の時代から相当長期間にわたり多数の特定土木一式工事において受注調整が繰り返されてきており,受注調整の実態は,事業者は自らが本店又は主たる事務所を有する地区内を施工場所とする工事について受注を目指し,これと異なる地区内を施工場所とする工事については受注を目指さず,自らが本店又は主たる事務所を有する地区内を施工場所とする工事であっても,施工場所が特定の事業者の事務所又は資材置場に近いときや,当該工事と同種の工事を前に手がけたことがある事業者がいるときは,他の事業者は受注を目指さないというものであって,地区及び場所により事業者が受注する領域を区分し,工事の種別に応じた実績や継続性を考慮して受注を分かち合っていたということができるから,地元の業者間で上記のように受注調整することを長期間反覆継続することにより強固な結び付きが形成され,上記のように受注調整することが暗黙の了解となり,場合によっては受注意思や価格について明示的な連絡をしなくても受注調整をすることが可能な状態にまで至っていたということができる。このような地区及び場所等に応じた受注調整による地元業者間の利益の分配は,石川県が指名競争入札等の方法で発注した奥能登地域の特定土木一式工事の全てを等しく対象とし得るものであるから,一部の事業者が受注調整の構成員から抜けたというだけでなく,当該事業者が上記のような受注調整に反する入札に及んだために他の事業者間で受注調整を行うことができなくなったなど,当該物件について本件基本合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情がない限り,当該物件についても本件基本合意の対象とされたものと推認することができる。したがって,本件実行期間内に原告が指名競争入札において受注した物件についても,たとえ受注調整の具体的方法が明らかでなくても,上記入札に係る物件につき本件基本合意の下に受注調整が行われたと認められない特段の事情がない限り,本件基本合意の下での受注調整によって原告が受注予定者として決定されて受注したものと推認することができる。現に,物件4については,原告自身が入札に先立って宝建設に指名の有無を問い合わせたことを認めている上(原告代表者審尋調書),前記第2の3⑹エのとおりの記載のある本件メモ(査50)が存在し,穴水東地区(高田,藏谷工務店,河端組)と門前地区(林工務店,宝建設)の各事業者について記載された価格は,高田を除き現実の入札価格に一致する(高田については現実の入札価格の方がさらに高額である)。これらの事実によれば,原告は,物件4の入札前に少なくとも穴水西地区以外の入札参加者の全員に当たる上記5名に対して価格連絡をするなどして明示的に受注調整を行ったものと認められる。そうすると,原告は,本件実行期間の最後に指名競争入札が実施された物件4について上記のとおり明示的に受注調整を行っていたのであるから,物件1,物件2及び物件3についても,本件基本合意の下で受注調整を行って受注予定者として決定されて受注したものと推認するのが相当である。
これに対し,原告は,上記のような推認により受注調整を認定することは,原告に不存在の事実の証明という不可能を強いるものであり,不合理である,穴水地区では,かつては受注希望の連絡や価格連絡といった受注調整が行われていたが,石川県七尾市の発注した工事に係る談合事件の摘発を契機とする昭和建設の離脱に続き,これに追随して受注調整を拒否する事業者が現れたことから,遅くとも平成21年9月ころまでには完全な自由競争となった,その後に指名競争入札が実施された本件4物件については受注調整は行っていない,以上のとおり主張する。そして,原告代表者審尋調書には,昭和建設に追随して受注調整をやめると宣言したのは苗代建設である旨を補足した上で,これに沿う部分があり,本件メモの上記記載は,入札の締切り後開札までの間に上記各事業者から入札価格を聞いて記載したものと供述する部分がある。
しかし,最後の点については,物件4の入札書提出締切りは平成22年6月1日午後3時とされ,翌2日の午前9時15分には開札されていたのであって(査50),原告の入札の成否は翌朝には明らかとなり,また,他の入札参加者の入札価格もいずれは石川県のホームページ等で公開されるにもかかわらず,原告が殊更にこの間の1日足らずの短時間に他の事業者に入札価格を聞いたというのはいささか不自然である上,高田についてなぜ現実の入札価格よりも低い価格が記載されているのかについても説明がつかない。原告は,受注調整のためのメモであれば,他の入札参加者すべての入札価格が記載されるはずであるとも主張するが,そのように断言することはできず,原告代表者審尋調書のこの点に関する記載は採用することができないのであり,本件審決が本件メモをもって原告が明示的に受注調整を行ったことを示す証拠と認定したことには合理性がある。そうすると,前記のとおり,原告は本件実行期間の最後に指名競争入札が実施された物件4について明示的に受注調整を行っていたといわざるを得ないのであるから,本件4物件すべてについて本件基本合意の下で受注調整が行われて原告が受注予定者として決定されて受注したものと認定ないし推認することができるのであり,昭和建設の離脱後は穴水地区では完全な自由競争となって受注調整は行われていないとする原告の主張は,採用することができない。
付言するに,高田,伸栄建設,林工務店,宝建設の各代表者が,昭和建設が離脱した平成20年6月以降も,必ずしも明示的な受注希望の連絡や価格連絡を行うことなく受注調整を行っていたことを認め,本件4物件を含む自社が落札しなかった工事については受注予定者の受注に協力した旨を供述し(査25・20頁,査38・4頁,査39・23頁,査42・13頁),特に伸栄建設の代表者は,昭和建設の離脱後も中居トンネルを境とした穴水西地区と穴水東地区の建設業者の住み分けは機能していたと明言している(査38・4頁)。また,苗代建設の代表者も,昭和建設が本件基本合意から離脱する契機となった石川県七尾市発注の工事に係る談合事件の摘発後において,今後の受注予定者の入札率をどうするかについて協議して受注予定者につき入札率を95%とすることを目安としたとの供述をしており(査8・9頁),藏谷工務店や高田の代表者等も価格連絡のない場合には受注予定者が予定価格の95%程度の額で入札することを目安に,これより高い価格で入札して受注予定者の受注に協力していた旨の供述をしている(査18・7頁,査25・6頁)。さらに,原告代表者自身,供述調書においては,受注希望者が石川県の予定価格の95%くらいの価格で入札しておけば,価格連絡を行うまでもなく,それ以外の入札参加者はこれを超える価格で入札して受注希望者に協力することができた旨のこれに沿う供述をし(査35・8頁),また,本件4物件につき,穴水西地区以外の事業者が(落札が見込まれるような)安い価格を入札することはないだろうと予想することができたなどとして,昭和建設の離脱後も地域性や継続性を重視して入札予定者を黙示的に決定していたことを認める供述もしている(査35・14頁,16頁,19ないし22頁)。原告は,この原告代表者の供述調書につき,審査官の言い分を一方的に記載したもので,審査官から署名押印しないと帰さないと強要され,ろくな法律知識もないので署名押印したと主張し,原告代表者の審尋調書中にもこれに沿う部分があるが,上記供述調書には昭和建設の離脱後は苗代建設とは連絡を取っていないなど原告の言い分に沿う記載もあり,審査官の言い分を一方的に記載したとは認められず,審査官が何らかの強制をしたことをうかがわせる証拠もない。その他審査官と供述者の人数が異なっていたなど事情聴取の状況等について原告の主張する点は,上記供述調書の信用性を左右するものではない。また,原告は,上記の穴水地区の他の事業者の代表者等の供述調書についても同じく審査官の言い分を一方的に記載したとの主張をするが,同様にこれを認める証拠はなく,本件審決が上記各供述調書の信用性を認めたことには合理性が認められる。
以上によれば,本件4物件について完全な自由競争が行われていたと認めることはできず,これらの物件につき本件基本合意の下に受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるということもできない。この点に関する原告の主張は理由がない。
3 原告のその余の主張について
⑴ 原告は,本件4物件については指名を受けた事業者が誰かが明らかでなかったから,そもそも受注調整を行うことは不可能であったと主張する。
しかし,従前石川県が実施した特定土木一式工事の指名競争入札で指名を受けた事業者の名称は石川県のホームページ等で公開されていた上,もともと本件実行期間中の穴水地区の入札資格者は原告を始めとする8名(うち穴水西地区5名,穴水東地区3名)しかおらず,本件4物件のいずれについても上記8名全員が指名を受けて参加しており,原告代表者自身も入札参加者はほぼ正確に予測することができた旨を供述しているのであって(査35・6頁),指名を受けた事業者が明らかでないから受注調整が不可能であったとする原告の主張は前提を欠き,採用することができない。
⑵ 原告は,土木一式工事の現場の条件は不確定要素が多く,積算による予定価格以上に工事費がかかる場合もあり,本件審決が予定価格を基礎にした落札率をもって受注調整を認定したことは非現実的であると主張する。この主張の趣旨は必ずしも判然としないが,石川県が予定価格を積算によって決定しているという前提のもとに,この積算が事業者側で見積もった工事費に比較して安い場合には入札価格は高めとなり,入札率(落札率)も高くなるから,落札率をもって受注調整を認定することはできないという趣旨と解される。
しかしながら,本件審決は落札率を本件基本合意の下で受注がされたことの推認を強める一事情として考慮しているにとどまるし,原告の主張するような点は本件4物件が本件基本合意の対象外であったことを示すものではない。そして,前述のとおり原告代表者及び穴水地区やその他の地区の複数の事業者の代表者等が入札率95%程度を入札予定者の入札価格の目安とし,他の入札参加者はこれを上回る価格で入札することによって入札予定者が受注できるよう協力していた旨を供述していること,現に本件4物件についての原告の入札率(落札率)が最低で90.89%(物件2),最高で94.82%(物件4)といずれも95%を下回っていること,他の入札参加者の入札率は後述の物件1における苗代建設と物件4における三興建設を除き,いずれも95%を上回っていることからすれば,入札率を受注調整を認定する一事情として考慮することが合理性を欠くとはいえず,原告の主張は採用することができない。なお,物件1の苗代建設の入札率は94.95%であるが,四捨五入すれば95%で,95%を目安としたとの原告代表者等の供述調書と矛盾するとまではいえない上,物件1における原告の落札率が91.70%と比較的低く,昭和建設というアウトサイダーが参加することによる同社との競争の可能性等を考慮してもともと低価格での落札が予想されたとも考えられるから,上記の事実をもって苗代建設が原告の受注に協力しなかったとまで認定することはできない(仮に物件1に関し,苗代建設が原告の受注に協力せずに同社との間では競争関係が生じていたとしても,他の入札参加者が本件基本合意の下で原告の受注に協力したことを否定するに足りる証拠はなく,なお競争制限効果は生じていたというべきである。)。また,物件4については,三興建設の入札率が95%ちょうどで,原告の落札率(94.82%)との差が僅かであったことからすると,三興建設との間では競争関係が生じていた可能性もあるが,前示のとおり,原告は少なくとも入札参加者のうち5名との間で明示的に受注調整を行っており,伸栄建設の代表者も物件4の受注に協力したと認められる上,同社と苗代建設の入札率が同一であることに照らすと苗代建設も同様に協力していたとうかがわれるのであって,原告を除く入札参加者9名中,三興建設とアウトサイダーの昭和建設を除く7名は原告の受注に協力していたと認めることができ,なお競争制限効果が生じていたということができる。
⑶ 原告は,本件4物件については,原告による他の入札参加者への受注希望の連絡や価格連絡が行われておらず,穴水地区では奥能登地域の他の地区と異なって受注希望の連絡や価格連絡が明示的に行われない限りは,自由競争と認識されていたとして,それにもかかわらず本件基本合意の下で原告が受注したと認定することは不当であると主張し,また,受注希望の連絡や価格連絡が認定できない物件を課徴金の対象とするのは不当であるとも主張する。
しかし,物件4について原告が他の入札参加者のうち少なくとも5名に対して価格連絡といった明示的な受注調整を行っていたことは先に認定したとおりであって,原告の上記主張はこの限りでそもそも前提を欠く。そして,穴水地区においても,奥能登地域の他の地区と同様,本件基本合意の下で,地域性や継続性を考慮して入札予定者が明らかな場合には明示的な受注希望の連絡を行うことなく入札予定者を決定し,価格連絡を行わない場合には予定価格の95%程度を入札予定者の入札価格の目安として受注調整が行われてきたことは,前記2で摘示した原告代表者及びその他の同地区の事業者の代表者等の供述調書によって認められ,穴水地区では明示の受注調整がない限りは自由競争と認識されていたとの原告の主張は採用することができない。
また,本件基本合意と同種の基本合意に基づく建設業者の指名競争入札における受注調整による競争制限が認定された事案において,受注を希望する事業者に過去に実施した工事との継続性や当該工事の施工場所の近辺に自社の営業所や資材置場があるなどの地域性があり,他の入札参加者にこのような事情がなく,他の入札参加者が上記のような事情を既に認識している場合には,受注希望者から他の入札参加者に対し,直接の受注希望の連絡や協力依頼をしないことがあり,また,他の入札参加者において,受注希望者の受注を妨げない価格を比較的容易に予測し得る場合には,受注希望者から価格連絡がなくても,他の入札参加者が上記のような価格で入札することにより受注希望者に協力することがあって,これらの各場合においては,受注希望者からの明示的な受注希望の連絡や価格連絡がなくても,基本合意に基づく受注調整を認定することやこれによる競争制限効果を認定することは妨げられないというべきである(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。物件1ないし3についても,これらの各物件につき本件基本合意の下に受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるといえないことは前述のとおりであるところ,いずれも施工場所が穴水西地区内にあったこと,物件1及び2は原告が従前行ったのと同一の道路の災害復旧工事で継続性があり,物件3は原告が施工場所に隣接して資材置場を有して地域性で勝っていたこと,前述のとおり苗代建設の代表者が昭和建設の離脱後において,入札予定者の入札率の目安を予定価格の95%程度とする旨の話合いをしたと供述し,原告代表者や高田及び藏谷工務店の代表者もこれに沿う供述をしていること,物件1ないし3における原告以外の入札参加者の入札率は四捨五入して予定価格の95%以上であった一方,原告の落札率はこれを下回っていたことが認められる。これらの事実によれば,物件1ないし3につき,原告による明示的な受注希望の連絡や価格連絡の事実までは認められないとしても,少なくとも黙示的に本件基本合意の下で受注予定者の決定その他の受注調整がされたと推認することは合理的ということができる。そして,上記⑵によれば,入札参加者10名中,物件1ないし3についてはアウトサイダーの昭和建設を除く9名の,物件4については昭和建設と三興建設を除く8名の間で,本件基本合意の下での受注調整が行われ,これによる競争単位の減少により具体的な競争制限効果が発生したと認めることが合理的であるから,このような物件を課徴金の対象とすることは何ら憲法その他の法令に違反するものではなく,原告の主張は採用することができない。
4 その他原告の主張するところを考慮しても,本件審決がその基礎となった事実を立証する実質的証拠がない場合に該当するということはできず,本件審決が憲法その他の法令に違反する場合に該当するということもできないから,本件審決を取り消すべき理由はない。
第5 結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成26年4月25日

裁判長裁判官 髙世三郎
裁判官 瀬戸口壯夫
裁判官 針塚遵
裁判官 関口剛弘
裁判官 廣田泰士

別紙1
石川県が,石川県奥能登土木総合事務所又は石川県奥能登農林総合事務所において,制限付一般競争入札又は指名競争入札(いずれも総合評価方式によるものを含む。)の方法により土木一式工事として発注する工事であって,次のいずれかに該当するもの(同県による工事の設計上,作業船を使用して施工することとされるものを除く。)
一 奥能登地域(石川県輪島市,珠洲市並びに鳳珠郡穴水町及び能登町の区域をいう。以下同じ。)に本店又は主たる事務所を置き,石川県から土木一式工事についてAの等級に格付されている事業者のみを入札の参加者とするもの
二 奥能登地域に本店又は主たる事務所を置き,石川県から土木一式工事についてAの等級に格付されている事業者及びBの等級に格付されている事業者のみを入札の参加者とするもの
三 奥能登地域に本店又は主たる事務所を置き,石川県から土木一式工事についてBの等級に格付されている事業者のみを入札の参加者とするもの
別紙2及び別紙3は省略

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