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エア・ウォーター(株)による審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成25年(行ケ)第120号

判決

札幌市中央区北三条西一丁目2番地
原告 エア・ウォーター株式会社
同代表者代表取締役 青木弘
同訴訟代理人弁護士 飯村北
細野敦
浦野祐介
川村興平
坪井崇
同訴訟復代理人弁護士 廣田雄一郎
長澤哲也
木下清太
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 岩下生知
北脇俊之
瀨島由紀子
堤勝利
塚田益徳

主文
1 被告が原告に対し平成25年11月19日付けでした公正取引委員会平成23年(判)第81号課徴金納付命令審判事件についての審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 請求の趣旨
主文同旨
2 答弁
⑴ 原告の請求を棄却する。
⑵ 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の骨子
被告は,原告が岩谷産業株式会社(以下「岩谷産業」という。)等と共同して遅くとも平成20年1月23日までに別紙記載のエアセパレートガス(以下「特定エアセパレートガス」という。)の販売価格を同年4月1日出荷分から現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを合意した行為(以下「本件違反行為」という。)が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)3条に違反するものであるとして,原告に対し,平成23年5月26日,法7条の2第1項に基づき,課徴金算定率を100分の10として計算した36億3911万円の課徴金(以下「本件課徴金」という。)の納付を命ずる課徴金納付命令(以下「本件課徴金納付命令」という。)を発した。これに対し,原告は,本件課徴金納付命令のうち,課徴金算定率を100分の2として計算した7億2782万円を超えて課徴金の納付を命じた部分の取消しを求めて審判請求をした。これに係る審判開始決定,審判手続を経て,被告は,原告に対し,平成25年11月19日,原告の審判請求を棄却する公正取引委員会平成23年(判)第81号審決(以下「本件審決」という。)をした。
本件は,原告が,被告に対し,本件審決は,原告が,株式会社クリオ・エアー(以下「クリオ・エアー」という。)が製造し原告が購入して販売する特定エアセパレートガス(以下「クリオ・エアー製造分」という。)について,製造業の事業活動を行っていたと認められる特段の事情を基礎付けるに足りる実質的証拠が存在しないにもかかわらず,特段の事情を認定し,法7条の2第1項に規定する小売業又は卸売業以外の業種に係る課徴金算定率100分の10を適用して本件課徴金の金額を計算したなどと主張して,法82条1項に基づき,本件審決の取消しを求める事案である。
2 適用法令(課徴金納付命令の根拠規定)
事業者が,不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で,商品若しくは役務の対価に係るもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に係るものをしたとき,公正取引委員会は,第8章第2節に規定する手続に従い,事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間((中略)以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(中略)に100分の10(小売業については100分の3,卸売業については100分の2とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。(以下略)(法7条の2第1項)
3 前提事実(当事者間に争いのない事実及び被告が本件審決で証拠により認定した事実のうち原告が実質的証拠の不存在を主張しておらず,適法な認定と認められる事実)
⑴ 当事者
原告は,産業ガス関連事業,化学品関連事業,医療関連事業,エネルギー関連事業,農業・食品関連事業その他の事業を営む総合ガス企業であり,法7条の2第1項に規定する「事業者」に該当する。
⑵ 原告が販売する特定エアセパレートガスの内訳
ア 原告は,他社から特定エアセパレートガスを仕入れるとともに,自らも特定エアセパレートガスを製造して,これらを他の業者に対して販売していた。原告の販売する特定エアセパレートガスのうち,第三者から購入して販売するもの(以下「他社製造分」という。)の割合は約88.4パーセント,原告自ら製造して販売するもの(以下「原告自社製造分」という。)の割合は約11.6パーセントである。したがって,原告は,特定エアセパレートガス事業に関して,法7条の2第1項に規定する「卸売業」に係る事業活動と,同項に規定する「卸売業」又は「小売業」以外の事業活動の双方を行っている。
イ 他社製造分約88.4パーセントの内訳は,原告の子会社である福島液酸株式会社,東海液酸株式会社,新潟液酸株式会社,泉北酸素株式会社及び静岡液酸株式会社が製造し,原告が購入して販売するもの(以下「原告子会社5社製造分」という。)が約15.1パーセント,大阪ガス株式会社(以下「大阪ガス」という。)の100パーセント子会社である株式会社リキッドガス(以下「リキッドガス」という。)と原告との合弁会社であるクリオ・エアーが製造し,原告が購入して販売するもの(クリオ・エアー製造分)が約25.7パーセント,それ以外の第三者から購入して販売するものが約47.6パーセントである。
⑶ 原告とクリオ・エアーとの関係
ア クリオ・エアーは,原告が45パーセント,リキッドガスが55パーセントの割合によりそれぞれ出資し,平成3年4月12日に設立されたエアセパレートガスの製造及び販売等を目的とする株式会社である。クリオ・エアーでは,特定エアセパレートガスを製造する過程において,リキッドガスが供給する液化天然ガスの冷熱を利用することにより,電力のみを使用する場合よりも低いコストで特定エアセパレートガスを製造することができる。クリオ・エアーは,リキッドガスが供給する液化天然ガスの冷熱を上記のとおり利用することなどにより競争力のある製造コストを実現するとともに,原告の販売力を活用することなどによって相乗効果が発揮されることを目的に設立された会社である。
イ クリオ・エアーでは,設立以来,原告とリキッドガスがそれぞれ決められた人数の取締役を指名しており,平成20年度及び平成21年度におけるクリオ・エアーの取締役7人中3人は原告の,4人はリキッドガスの指名した者であった。そのうち,常勤の代表取締役はリキッドガスの,非常勤の代表取締役は原告の指名した者であった。
ウ クリオ・エアーの特定エアセパレートガス製造工場は,大阪ガスの工場敷地内にあり,その使用する土地及び建物も全て大阪ガスが所有している。
エ 原告は,クリオ・エアーが製造する製品の総量を引き取る権利及び義務を有し,リキッドガスが例外的に引き取る若干の製品を除いては,原告以外の者が引き取ることは予定されていなかった。原告は,平成20年度及び平成21年度において,クリオ・エアーが製造した特定エアセパレートガスの9割程度を引き取った。
オ クリオ・エアーが製造する特定エアセパレートガスの販売価格(単価)は,クリオ・エアーの費用とクリオ・エアーが当該年度に期待する経常利益の合計を,当該年度に原告及びリキッドガスが引き取ることを予定している特定エアセパレートガスの数量で除する方法により決定されていた。
カ 原告は,クリオ・エアーが原告及びリキッドガスに販売する特定エアセパレートガスの販売価格を決定するに当たり,クリオ・エアーから,当該年度における費用(電力従量量,冷熱費等の比例費及び電力基本料,労務費等の固定費),当期利益等の情報開示を受けた上で,クリオ・エアー,原告及びリキッドガスにより構成される運営協議会に出席して協議をしていた。原告は,クリオ・エアーが年間生産計画を策定するに当たり,クリオ・エアーに対し,当該年度の引取予定数量を提示するとともに,クリオ・エアーの月次の需要調整会議に出席し,翌月の生産計画に関与していた。
キ クリオ・エアーには,大阪ガスから95人が出向し,他方,原告は,特定エアセパレートガスの製造に関する技術を提供するため,クリオ・エアーの技術管理部に原告の従業員二人を出向させている。
ク クリオ・エアーの製造設備については,原告の筆頭株主であり,技術援助契約を締結していたエアプロダクツアンドケミカルズ社製の機器を優先的に起用するものとされ,実際に同社製の機器が一部導入された。また,クリオ・エアーの機械設備の修繕は,原告の完全子会社であるエア・ウォーター・プラントエンジニアリング株式会社及びエア・ウォーター・メンテナンス株式会社に発注されている。
4 本件審決等
⑴ 本件審決は,①原告は,クリオ・エアー製造分について,外形的には,クリオ・エアーから購入してこれを他の業者に販売しているものの,実質的にみて製造業の事業活動を行っていると認められる特設の事情を認めることができ,②原告自社製造分及び上記特段の事情が認められる取引であることに争いのない原告子会社5社製造分に,このクリオ・エアー製造分を加えると,原告の特定エアセパレートガスの取引量の過半(約52.40パーセント)に達するので,課徴金の算定においては,小売業又は卸売業以外の事業活動を行っているものとして,100分の10の課徴金算定率を適用すべきであるとし,③本件違反行為の実行期間を平成20年4月1日から平成22年1月18日までと認定し,④上記期間における特定エアセパレートガスに係る原告の売上額を独占禁止法施行令5条1頂に基づいて363億9114万0159円と算定した上,⑤法7条の2第1項に基づき,上記売上額に100分の10の課徴金算定率を乗じて得た額から,第23項により1万円未満の端数を切り捨てて,本件課徴金の額を36億3911万円と算出し,⑥したがって,本件課徴金納付命令のとおり本件課徴金の納付を命ずるべきであるとして,本件課徴金納付命令のうち課徴金算定率を100分の2として計算した課徴金の額7億2782万円を超えて課徴金の納付を命ずる部分の取消しを求める原告の審判請求を棄却した。
⑵ これに対し,原告は,上記⑴①,②,⑤及び⑥のうちクリオ・エアー製造分に係る上記特段の事情の認定とこれによる原告の業種の認定及び課徴金算定率を争い,その余の課徴金の算定過程については認めている。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点
⑴ 争点1
クリオ・エアー製造分について,実質的にみれば原告が製造業の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認めることができるか。
⑵ 争点2
本件違反行為に関する審決における課徴金の算定について,岩谷産業の業種が原告と同様に製造業と認定されたか。仮に岩谷産業について製造業と認定されていなかった場合,原告の業種を製造業と認定した本件審決は,平等原則(憲法14条1項)に違反するか。
2 争点1に関する当事者の主張
(原告の主張)
原告子会社5社製造分に前記特段の事情があることは争わないが,クリオ・エアー製造分に関しては,次のとおり,前記特段の事情を認めることはできない。
⑴ クリオ・エアーの事業主体性
合弁会社が製造業者としての利益を確保できていたか否かを認定するためには,各合弁当事者が合弁会社の利益配分についてどのような方針を採用していたか,また,各合弁当事者の利益配分方針が合弁会社における利益配分方針にどのように反映していたかを検討しなければならない。
原告は,クリオ・エアーの利益を低く抑えようとしていたのに対し,リキッドガスは,クリオ・エアーの利益をより多くかつ安定的に確保しようとしており,利益配分に関する原告の方針は,クリオ・エアーの株式の過半数を保有するリキッドガスの反対の結果,クリオ・エアーの採用するところとならなかった。実際にも,クリオ・エアーは,相当程度の利益を計上し,原告から独立した意思決定により独立した製造販売事業者として利益を確保していた。
しかし,本件審決は,上記の事実を見過ごし,実質的な証拠に基づかずに特段の事情があると認定した。
⑵ クリオ・エアーの事業活動に対する原告の関与
ア クリオ・エアー設立の経緯
原告は,クリオ・エアーが設立された平成3年当時,特定エアセパレートガスの製造技術を保有しておらず,製造は大阪ガスとその子会社(以下,これらを併せて「大阪ガスグループ」という。)が担い,販売は原告が担うという役割分担を前提に,クリオ・エアーが設立された。したがって,原告は,クリオ・エアーの事業活動において主導権を握ることはできず,この関係は,その後も基本的に変わらなかった。
イ クリオ・エアーの意思決定
クリオ・エアーの議決権の構成は,リキッドガスが55パーセント,原告が45パーセントである。また,取締役会の構成も,リキッドガスの指名する取締役4人及び原告が指名する取締役3人である。代表取締役は,リキッドガスの指名する者及び原告が指名する者それぞれ一人で,そのうち,リキッドガスの指名する者が常勤で,原告が指名する者は非常勤であった。
ウ クリオ・エアーの従業員及び施設
クリオ・エアーの従業員のうち,原告からの出向者は二人にすぎず,ほとんどは大阪ガスグループから派遣された者であり,人的側面からも,大阪ガスグループの関与が大きく,原告の関与は,限定的である。
また,クリオ・エアーの施設は,全て大阪ガスの工場の敷地内にあり,その使用する土地及び建物は,大阪ガスがクリオ・エアーに貸与している。特定エアセパレートガスを製造するための機械設備も,一部は原告の株主であった会社の製品が導入されているが,そのほかの重要な機器は,大阪ガスの関連会社から調達され,物的な側面からも大阪ガスの関与が大きく,原告の関与は,極めて限定的である。
したがって,クリオ・エアーは,人的にも物的にも大阪ガスグループに依存して事業を行っている。
エ クリオ・エアーにおける冷熱利用と特定エアセパレートガスの関係
クリオ・エアーは,大阪ガスの都市ガス製造過程で発生する冷熱を利用することで製造コストを抑えて価格競争力のある特定エアセパレートガスを製造し,販売力のある原告がこれを販売するというもので,大阪ガスが発生させる冷熱の利用と特定エアセパレートガスの製造とは,合弁事業の仕組み上,切り離せない関係にあり,製造工程において,両者は表裏一体の関係にある。
オ 小括
合弁会社である場合,当該合弁会社が合弁当事者のうち1社との関係について「独立した事業体」として事業を行っていなかったと認定するためには,当該合弁当事者が他の合弁当事者からほとんどせいちゅうされることなく合弁会社の事業活動ないしその意思決定を左右できることが必要である。また,合弁会社の場合,合弁当事者が合弁会社の経営に積極的に関与するのは当然の前提であるから,製造業を営む合弁会社を取引先とする場合,特段の事情があるというためには,合弁会社の製造に対する当該合弁当事者の強い関与が必要である。
上記のとおり,仮にクリオ・エアーが自ら実質的に販売活動の自由を有しておらず,独立の事業主体とみることが困難であるとしても,外形的にも実質的にも,その事業運営を支配することができる事業体は,原告ではなく,大阪ガスグループである。原告は,あくまでクリオ・エアーの製造した特定エアセパレートガスを仕入れて販売する役割を担っていたにすぎず,製造に対する強い関与はなかった。したがって,クリオ・エアーは,原告から独立した事業体であり,前記特段の事情を認めることはできない。
しかし,本件審決は,原告が他の合弁当事者であるリキッドガスからほとんどせいちゅうされることなく合弁会社であるクリオ・エアーの事業活動ないしその意思決定を左右できるか,また,原告がクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造に強い関与があるかという点の証拠の有無について検討を怠ったまま,前記特段の事情を認めており,このような事実認定は,実質的な証拠に基づくものということはできない。
⑶ 原告がクリオ・エアーから得ていた利益
合弁事業は,合弁当事者が合弁会社から一定の利益を取得することを目的とするから,合弁当事者がどの段階で利益を受けるかは実質的な意義を有しない。当該合弁事業から,誰が「製造業と同視できる利益」を最終的に得ていたかを問題とすべきである。
クリオ・エアーは,液化天然ガスの冷熱を利用することにより,特定エアセパレートガスの製造における電力コストを大幅に低減させているところ,この低減コスト相当額のうち原告が享受しているのは,半分に満たないものであり,過半はリキッドガスが享受している。すなわち,リキッドガスは,原告との間の契約に基づき,クリオ・エアーが冷熱を利用することにより低減されるコスト相当額の2分の1を下限とする金員を「冷熱費」としてクリオ・エアーから収受するとされており,実際には,リキッドガスは,低減コスト相当額の57パーセントを「冷熱費」名目でクリオ・エアーから収受している。また,原告は,クリオ・エアーの株主配当金としてクリオ・エアーから利益を享受しているが,その割合は出資比率に応ずるものであり,必ずリキッドガスヘの配当額が原告に対する配当額よりも高くなっている。
したがって,合弁事業から原告が利益を享受しているのは事実であるが,これは一面のみを捉えた見方にすぎず,このような事実のみから,原告がクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造販売事業に関する利益を専ら享受していることにはならない。
以上のとおり,原告の得ていた利益は,製造業者と同視できる利益ということができないことは明らかである。
⑷ まとめ
特段の事情は,本来小売業又は卸売業とされる事業者を他業種の事業者として取り扱う例外的な事情であるから,厳格に判断されなければならない。また,小売業又は卸売業とされる事業者の課徴金を他業種の事業者よりも低額とした趣旨は,小売業又は卸売業とされる事業者が他業種の事業者と比べて利益率が低いという実情を考慮したものであるから,特段の事情の判断については,利益構造を重視すべきである。したがって,クリオ・エアーのような合弁会社が,出資元会社と実質的に一体となって事業活動を行っていたと認められるためには,出資元会社が,合弁会社に対して支配権を有し,かつ,合弁事業によって得られる利益の少なくとも過半を得ていることが必要である。
しかし,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造販売事業に関して強く関与し,主として利益を得ていたのは,リキッドガスであって,原告ではない。したがって,クリオ・エアーが原告と実質的に一体であるということはできないから,クリオ・エアー製造分について,原告が製造業の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認めることはできない。
(被告の主張)
次のとおり,クリオ・エアーは原告と実質的に一体であるということができるから,クリオ・エアー製造分について,原告が製造業の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認めることができる。
⑴ クリオ・エアーの事業主体性
原告は,クリオ・エアーの45パーセントの議決権を保有するとともに,クリオ・エアーにおける費用等の情報開示を受け,かつ,クリオ・エアーが製造する特定セパレートガスの販売価格を,原告,リキッドガス及びクリオ・エアーの間の協議により決定していた。また,クリオ・エアーが製造する特定セパレートガスはすべて原告が引き取るという取決めとなっており,実際にも,原告がそのほぼ全部を引き取っていた。
したがって,クリオ・エアーは,実質的に販売活動の自由を有しておらず,クリオ・エアーを独立した事業主体とみることはできない。
⑵ クリオ・エアーの事業活動に対する原告の関与
原告は,上記⑴に記載したとおり,クリオ・エアーの事業活動に強く関与していた。そもそも,本件審決は,原告が単独でクリオ・エアーの事業運営を全般的に支配していたと認定するものではないところ,原告がリキッドガスのクリオ・エアーに対する関与として主張する事実は,主として冷熱利用事業の観点から中心的に関与していたことを示すにすぎないのであり,原告によるクリオ・エアーに対する強い関与が否定されるものではない。
⑶ 原告がクリオ・エアーから得ていた利益
クリオ・エアーは,上記⑴のとおり,本来,製造業者として期待される利益を自らの意思に基づき獲得することができない立場に置かれており,原告の得ていた利益は,クリオ・エアーを自己の製造部門の一つとして位置付けた場合に近く,卸売業で得る利益にとどまらない。さらに,原告の得ていた利益は,電力のみを使用していた場合に比べて液化天然ガスの冷熱の利用により低減したコスト相当額を含むものであり,この低減したコスト相当額は,クリオ・エアーが製造する特定セパレートガスの販売価格の低減として反映されるところ,原告は,クリオ・エアーが製造する特定セパレートガスのほぼ全てを引き取ることにより,販売価格低減による利益のほぼ全てを享受していた。
仮に原告が主張するようにリキッドガスが原告よりも多くの利益をクリオ・エアーから受けていたとしても,構造的に,クリオ・エアーが製造業者として期待される利益を獲得できない立場に置かれ,原告が得ていた利益が卸売業で得る利益にとどまらないことに変わりはないから,原告の上記主張は,失当である。
⑷ まとめ
以上のことから,特定エアセパレートガスの製造販売についてみると,原告はクリオ・エアーと実質的に一体となって事業を行っていたと認めることができる。また,原告とクリオ・エアーとの間の特定エアセパレートガスの取引において原告が得ていた利益は,クリオ・エアーを自己の製造部門の一つとして位置付けた場合に近く,卸売業で得る利益にとどまらないということができる。したがって,本件において前記特段の事情を十分に認定することができる。
なお,特段の事情は,利益構造のみならず,製造面での関与や製品の引取りなどの業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性その他の要素を総合考慮し,事業活動の実態を総合判断するものである。したがって,取引先が当該事業者を含む複数の会社による合弁会社である場合における特段の事情の判断も,当該事業者が,合弁会社に対して支配権を有し,合弁事業によって得られる利益の少なくとも過半を得ている必要があるものではない。
3 争点2に関する当事者の主張
(原告の主張)
岩谷産業は,特定エアセパレートガスに関する事業形態が原告と酷似しているから,本件違反行為に関する課徴金の算定において製造業と認定された原告とは異なる業種と認定される可能性は極めて低いはずであるが,被告から卸売業と認定されている。
したがって,原告の事業形態を製造業と認定した本件審決は,平等原則(憲法14条1項)に違反する。
(被告の主張)
原告と他の事業者が共同して違反行為に及んだ場合であっても,課徴金を計算するに当たっては,それぞれの事業活動の実態に照らして,個別に業種を認定した上で,法7条の2第1項所定の課徴金算定率を適用すべきである。すなわち,業種認定に当たって考慮すべき事業活動の実態が各違反行為者によって異なる場合には,違反者ごとに異なる業種が認定され,それぞれに対応する課徴金算定率が適用されることも当然あり得る。
本件の争点は,原告に対する課徴金の計算に当たり,原告の業種を製造業と認定した本件審決の当否であって,その認定が相当であることは前記のとおりであるから,他の事業者である岩谷産業に対する業種認定は無関係であり,岩谷産業の業種認定を理由に本件審決が憲法14条1項に違反するという原告の主張は,失当である。
第4 当裁判所の判断
1 争点1について
⑴ 法7条の2第1項は,売上額に乗ずる課徴金算定率について,100分の10を原則としつつ,小売業については100分の3,卸売業については100分の2と定めており,違反行為者の業種により,適用される課徴金算定率が異なる。したがって,違反行為者が,当該違反行為に係る取引について,小売業又は卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方を行っている場合には,実行期間における違反行為に係る取引において,過半数を占めていたと認めることができる事業活動に基づいて,違反行為者の業種を認定すべきである。
また,同項が,課徴金算定率について,例外的に,小売業及び卸売業について軽減した算定率を設定した趣旨は,小売業及び卸売業の取引が商品を右から左に流通させることによりマージンを受け取るという側面が強く,事業活動の性質上,売上高営業利益率も小さくなっている実態を考慮したためである。したがって,外形的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業と異なる他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認めることができるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うのが相当である。
そこで,本件における原告とクリオ・エアーとの関係について,上記特段の事情を認め得るか否かを検討する。
⑵ 本件審決は,その引用する審決案の「理由」欄の第6の1⑶の認定事実(その概要は前記第2の3の「前提事実」欄に掲記してある。)を前提に,次のアからカまでに記載のとおり,クリオ・エアー製造分について,実質的にみて原告が製造業の事業活動を行っていると認められる特段の事情があると認めた。
ア クリオ・エアーの設立とクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造は,原告がその製造された特定エアセパレートガスのほとんどを引き取ることを前提としたものであり,原告とリキッドガス以外の者がこれを引き取ることは予定されておらず,実際に,原告は,クリオ・エアーで製造された特定エアセパレートガスのほとんどを引き取ることにより冷熱利用によるコスト低減のメリットを継続的に享受してきたのであり,出資割合に応じて取締役を出向させたり,製造技術の提供のために二人の従業員を出向させるなどしたほか,クリオ・エアーの特定エアセパレートガスの製造設備の一部の導入にも関与しており,クリオ・エアーの運営やクリオ・エアーでの特定エアセパレートガスの製造に相当程度関与していたことを認めることができる。
イ 原告の保有するクリオ・エアーの議決権割合は45パーセントにとどまり,出向させている取締役も全取締役の過半数に満たない。しかし,上記のとおり,原告は,クリオ・エアーで製造される特定エアセパレートガス全部を引き取る権利を確保し,実際にほとんどを引き取っており,この点でクリオ・エアー設立の目的である冷熱利用による製造コスト低減のメリットを継続的かつ安定的に享受しているのであり,このようなクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造から原告による引取りという過程について,原告の議決権割合や出身取締役の数が過半数に満たないことが影響していると認めることはできない。
ウ リキッドガスがクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造計画や販売価格等の最終的な意思決定について主導的な立場にあったということもできるが,原告も共同出資者として協議に参加するなどして,上記意思決定過程に関与しているのであって,これが卸売業としての事業活動の範囲にとどまるものと認めることはできない。
エ これらの事実を踏まえれば,クリオ・エアーは実質的に販売活動の自由を有しておらず,クリオ・エアーを独立の事業主体とみることは困難であり,その事業活動について原告の強い関与が認められる。さらに,原告は,クリオ・エアーが製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取ることにより,冷熱利用による販売価格低減の利益のほぼ全てを享受しており,他方,クリオ・エアーは,本来製造業者として期待される利益を自らの意思に基づき獲得することができない立場におかれていた。
オ このような原告のクリオ・エアーに関する事業活動の実態に照らすと,クリオ・エアーについて,これを原告の単なる仕入れ先と見ることは相当ではなく,原告は,クリオ・エアーと実質的に一体となって事業を行っていたものと認められ,原告が自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様の実態があったということができる。また,原告がクリオ・エアーとの取引において得ていた利益は,クリオ・エアーを自己の製造部門の一つとして位置付けた場合に近く,卸売業で得る利益にとどまらないものといえる。
カ よって,原告は,外形的には,クリオ・エアーから特定エアセパレートガスを購入してこれを第三者に販売しているものの,実質的にみて原告が小売業又は卸売業以外の業種,すなわち製造業の事業活動を行っていると認められる特段の事情があると認めることができる。
⑶ しかしながら,以下に説示するとおり,本件審決が認定した前記事実から,クリオ・エアー製造分につき,原告が実質的にみて小売業又は卸売業以外の業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認定することはできないというべきである。
ア 一般に,出資者の出資先会社の事業活動への関与の程度ないし出資先会社の事業との一体性は,出資比率のみで定まるものではなく,また,過半を超える出資比率を有していなければ支配的ないし主導的な立場での関与を認めることができないわけではないことは,いうまでもないところである。しかしながら,本件では,前記第2の3の前提事実によると,クリオ・エアーヘの出資者として,原告以外に,持株比率55パーセントの会社,すなわち,大阪ガスの100パーセント子会社であるリキッドガスが存在するのであり,また,クリオ・エアーの取締役7人中4人がリキッドガスの指名した者であり,常勤の代表取締役もリキッドガスの指名した者である。したがって,リキッドガスは,クリオ・エアーの議決権の過半数を有し,クリオ・エアーの役員の過半数を確保している。そうすると,株主としてのクリオ・エアーに対する支配権という観点から見た場合,また,取締役会における支配構成という観点から見た場合に,クリオ・エアーの事業活動に主導的な役割で関与している者としてリキッドガスが存在しており,そうである以上,これらの観点から,原告がクリオ・エアーに対して支配的な立場を有しているとか,主導的な役割で関与していると認めることは困難である。
イ もっとも,本件審決は,上記の持株比率や役員構成のみではなく,原告が,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスの全部について引取権と引取義務を有しており,実際にも,その9割程度を購入している事実を,特段の事情を認める大きな根拠に挙げている。しかしながら,卸売業者が特定の製造業者からその製造する商品の大多数を引き取ることができる立場にあるという関係自体は,通常の大口顧客と製造業者との関係,あるいは出資者でもある卸売業者と出資先の製造業者との関係と何ら異なるものではなく,そのこと自体から,直ちに前記特段の事情を導くことはできない。
また,本件審決は,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスの販売価格の決定の仕方や,原告が,クリオ・エアーから,当該年度における費用及び当期利益等の情報開示を受けた上,クリオ・エアー,原告及びリキッドガスにより構成される販売価格を決定するための運営協議会に参加していること,クリオ・エアーの月次の需要調整会議に出席して生産計画に関与していたこと等も,前記特段の事情を認める根拠としていると考えられ,さらには,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取っているということをもって,冷熱利用による販売価格低減の利益のほぼ全てを享受しているものと評価した上,これは,クリオ・エアーを自己の製造部門の一つとして位置付けた場合に近いとしている。確かに,上記販売価格の決定方式や情報開示・運営協議会等での協議などにより,原告は,クリオ・エアーの販売価格等について一定の影響力を行使できた可能性があるということはできる。しかしながら,こういった関係は,クリオ・エアーの共同出資者であるリキッドガスにおいても同様である上,上記アに説示したところからすると,販売価格等についての協議においても,その主導権を握りやすい立場にあるのは,原告ではなくリキッドガスないし大阪ガスグループである。しかも,前記第2の3の前提事実によると,このリキッドガスないし大阪ガスグループという企業グループは,単なる資本関係のみの出資者ではなく,販売価格低減の原因であってそもそもの合弁事業の目的である冷熱の利用について,その冷熱を供給している者であって,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造はこの冷熱供給に依存しており,製造工場も,大阪ガスの工場敷地内にあり,建物・土地ともに大阪ガスの所有であって,従業員の大多数も大阪ガスグループからの出向者であるというのである。これらを考え合わせると,原告が,クリオ・エアーの生産計画や販売価格について主導的な影響力を行使することができたと認めることはできず,この点でも,より大きな影響力をクリオ・エアーに対し行使し得るのはリキッドガスである。また,これらの事実関係と出資比率及び役員構成等を考え合わせると,原告が大阪ガスグループの供給する冷熱利用によるコスト低減から生じる利益の過半を取得していたと推認することはできず,そのほか,本件の審判手続において取り調べられた全証拠中にも,そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。なお,冷熱利用による利益の享受を検討する際に,販売価格の低減による利益なる概念を持ち出して,これのみを論ずることに合理性はない。
そうすると,このようなリキッドガスの存在や利益構造を考え合わせると,クリオ・エアーが,原告との関係において,実質的に事業活動の自由を有していないとか,クリオ・エアー製造分につき原告の得ていた利益が,クリオ・エアーを自己の製造部門の一つとして位置付けた場合に近いなどと認めることはできず,他にこれらの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ また,本件審決は,原告が,技術提供のために従業員を出向させるなどして,クリオ・エアーの運営やクリオ・エアーでの特定エアセパレートガスの製造に関与している事実も,特段の事情を認める根拠としている。しかしながら,会社間において何らかの業務提携があれば,両社間において従業員の出向や製造設備及び技術の供与などが行われるのは,一般的に認められることであるから,原告からクリオ・エアーヘの従業員の出向等の事実があることから,直ちに,原告がクリオ・エアーと実質的に一体となって事業を行っていたとか,原告の一部門と同視し得るほどに密接な関係があるなどといえないことは明らかである。
  そこで,原告からの従業員の出向や製造設備及び技術の供与等について,その内容をより具体的に検討してみる必要があるが,前記第2の3の前提事実によると,既に触れたように,①クリオ・エアーは,特定エアセパレートガスを製造する過程において,リキッドガスが供給する液化天然ガスによる冷熱を利用することにより,電力のみを使用する場合よりも低いコストで特定エアセパレートガスを製造しており,②クリオ・エアーの設立自体,もともとリキッドガス側が供給するこの冷熱を有効利用することなどにより競争力のある製造コストを実現するとともに,原告の販売力を活用することなどによって相乗効果が発揮されることが目的とされており,③特定エアセパレートガスの製造を行うクリオ・エアーの工場は,リキッドガスの親会社である大阪ガスの工場内にあり,敷地及び建物とも大阪ガスの所有であるというのであり,④クリオ・エアーの従業員のうち,原告がクリオ・エアーに出向させている従業員というのは二人だけであって,その余の大多数の従業員は,リキッドガス側からの出向者であり,⑤製造設備等の提供というのも,原告ではなく,原告の筆頭株主である会社の製造した空気液化分離機器及び液化アルゴン貯槽が導入されたにすぎず,また,機械設備の修繕は,原告の子会社に発注されているというのである。
これらを考え合わせると,原告のクリオ・エアーへの関与は,販売面が中心であり,特定エアセパレートガスの製造にも一部関与しているということはできるが,その関与の程度は,リキッドガスの方が圧倒的であり,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガス事業は,製造の実態からみても,リキッドガスないしはその親会社である大阪ガスにおける事業活動の一環として行われていると評価する余地はあるものの,原告における事業活動の一環として行われているとか,原告の一部門と同視し得るほどに原告と密接な関係があるとか,原告が自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様ないしはそれに近い実態があるなどということはできない。
エ 前記特段の事情の有無は,仕入先への出資比率や役員構成,あるいは,運営への関与,出向者数,技術・設備の供与,利益構造などのうちの一つの観点のみから認定すべきものではなく,被告も指摘するように,これらの点や,製造面での関与,業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性,その他の要素を考慮し,事業活動の実態を総合的に検討する必要があるといわなければならない。そこで,以上に検討したところを考え合わせるほか,本件審決の認定した事実全てを総合考慮すると,原告がクリオ・エアーの運営やクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造に相当程度関与していると認めることはできるものの,それを超えて,原告がクリオ・エアーと実質的に一体となって事業を行っていたとか,原告が,クリオ・エアー製造分につき,自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様の実態があったとか,それに近い利益を得ていたとか,これらに近い実態があったなどと認めることはできず,全体を併せ考えても,原告が,クリオ・エアー製造分につき,実質的にみて小売業又は卸売業以外の業種,すなわち製造業の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認定することはできない。したがって,本件審決が上記特段の事情を認めたのは,実質的証拠を欠くというほかない。そうすると,上記特段の事情が認められない以上,クリオ・エアー製造分についても,原告の業種は卸売業ということになる。
⑷ そうすると,原告の販売する特定エアセパレートガスのうち,他社製造分約47.6パーセントとクリオ・エアー製造分約25.7パ一セントの合計は,約73.3パーセントと過半数を大きく上回るのであるから,原告の業種は卸売業と認定されることとなり,本件に適用される課徴金算定率は100分の2である。
よって,これを100分の10として課徴金を計算した本件課徴金納付命令を是認した本件審決の判断は,これを是認することができない。
2 結論
以上のとおり,本件審決が,課徴金算定率の基礎となる事業者の業種につき,原告が小売業又は卸売業以外の業種に係る事業活動を行っていると認定した点については,結局,本件審決掲記の証拠によって合理的に認定することができないこととなるから,その余の原告の主張について判断するまでもなく,本件課徴金命令のうち課徴金の額7億2782万円を超えて課徴金の納付を命ずる部分の取消しを求める審判請求を棄却した本件審決には,法82条1項が規定する取消事由が存在するといわなければならない。
したがって,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

平成26年9月26日

裁判長裁判官 菅野博之
   裁判官 中村也寸志
   裁判官 永谷典雄
   裁判官 飯畑勝之
   裁判官 本田能久

【別紙添付省略】

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