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エア・ウォーター(株)に対する件

独禁法66条3項(独禁法7条の2)

平成23年(判)第81号

審判請求認容審決(課徴金納付命令の一部を取り消す審決)

大阪市中央区南船場二丁目12番8号
(商業登記簿上の本店所在地 札幌市中央区北三条西一丁目2番地)
被審人 エア・ウォーター株式会社
同代表者 代表取締役 青 木   弘
同代理人 弁 護 士 飯 村   北
同          細 野   敦
同          廣 田 雄一郎
同          浦 野 祐 介
同          川 村 興 平
同          坪 井   崇
上記被審人代理人飯村北復代理人
弁護士        長 澤 哲 也
同          木 下 清 太

公正取引委員会は,上記被審人に対する平成23年(判)第81号審判事件について,平成25年11月19日,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)第66条第2項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第78条第1項の規定により,被審人の審判請求を棄却する審決をしたところ,同年12月19日,上記被審人から審決取消しの訴えが東京高等裁判所に提起され(平成25年(行ケ)第120号),同裁判所は,平成26年9月26日,上記審決を取り消す旨の判決をし,同年10月10日の経過をもって同判決は確定した。
公正取引委員会は,上記被審人に対する独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,規則第73条の規定により審判長審判官真渕博,審判官酒井紀子及び審判官多田尚史から提出された事件記録,規則第75条の規定により被審人から提出された異議の申立書並びに独占禁止法第63条及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,独占禁止法第82条第2項の規定により,同審判官らから提出された別紙審決案を更に新たに調査し,次のとおり審決する。

主       文
平成23年5月26日付けの課徴金納付命令(平成23年(納)第60号)のうち,7億2782万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。

理       由
第1 審判請求の趣旨等
審判請求の趣旨,事案の概要,前提となる事実等,本件の争点及び争点についての双方の主張は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第5と同一であるから,これらを引用する。
第2 当委員会の判断
1 争点1(課徴金算定率)について
(1) 課徴金の計算における業種の認定について
ア 課徴金の計算に当たり,違反行為に係る取引について,小売業又は卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合には,実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種を決定すべきである(東京高等裁判所平成24年5月25日判決・公正取引委員会審決集第59巻第2分冊1頁〔昭和シェル石油株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
イ また,独占禁止法第7条の2第1項が小売業又は卸売業について例外的に軽減した課徴金算定率を規定したのは,小売業や卸売業の事業活動の性質上,売上高営業利益率が小さくなっている実態を考慮したためであるから,課徴金の計算に当たっては,一般的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情(以下,単に「特段の事情」という。)があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うべきである(東京高等裁判所平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁〔東燃ゼネラル石油株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
ウ そして,独占禁止法第7条の2第1項が小売業及び卸売業について例外的に軽減算定率を採用することにした趣旨が,事業活動の実態を反映させるためであることに鑑みれば,特段の事情の有無は,仕入先への出資比率や役員構成,あるいは,運営への関与,出向者数,技術・設備の供与,利益構造などのうちの一つの観点のみから認定すべきものではなく,これらの点や,製造面での関与,業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性その他の要素を考慮し,事業活動の実態を総合的に検討する必要がある。
(2) 本件における検討対象について
本件では,被審人は,自ら特定エアセパレートガスを製造して顧客に販売していた(別紙審決案別紙2の①。争いがない。)ほか,子会社,関係会社及びその他仕入先から特定エアセパレートガスを購入してこれを顧客に販売していた(同②ないし④。争いがない。)のであるから,後者の取引については,前記特段の事情が認められない場合には,いずれも卸売業の事業活動というべきである。
審査官は,被審人が自ら製造した特定エアセパレートガスの数量(別紙審決案別紙2の①)と特段の事情が認められる取引によるものであることについて争いがない被審人が福島液酸ほか4社から仕入れた特定エアセパレートガスの数量(同②A)との合計数量のほか,クリオ・エアー,相模原液酸及び三国液酸から仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引(同③A)についても特段の事情が認められるとして,その数量を加えると,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量の合計の過半に達するから,被審人の業種を製造業と認定すべきであると主張するところ,相模原液酸及び三国液酸から仕入れた特定エアセパレートガスについては数量が小さく,本件において被審人の業種認定の結論を左右するものではない。
そこで,以下,被審人がクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引について特段の事情が認められるか否か検討する。
(3) 認定事実
被審人とクリオ・エアーとの間の特定エアセパレートガスの取引等に関して,次の事実が認められる。(当事者間に争いがないか又は末尾記載の証拠により認定できる事実)
ア クリオ・エアーは,被審人が45パーセント,大阪ガスの100パーセント子会社であるリキッドガスが55パーセントの割合でそれぞれ出資して,平成3年4月12日に設立されたエアセパレートガスの製造及び販売等を目的とする株式会社である。
クリオ・エアーでは,特定エアセパレートガスを製造する過程において,リキッドガスが供給する液化天然ガスの冷熱を利用することにより,電力のみを使用する場合よりも低いコストで特定エアセパレートガスを製造することができる。
クリオ・エアー設立の際には,リキッドガスが供給する液化天然ガスの冷熱を有効利用することなどにより競争力のある製造コストを実現するとともに,被審人の販売力を活用することなどによって相乗効果が発揮されることが目的とされた。
(査第6号証,第8号証,第12号証,第14号証,審第4号証,第46号証)
イ 被審人は,クリオ・エアーが製造する製品の総量を引き取る権利及び義務を有し,リキッドガスが例外的に引き取る若干の製品を除いては,被審人以外の者が引き取ることは予定されていなかった。
被審人は,平成20年度及び平成21年度において,クリオ・エアーが製造した特定エアセパレートガスの9割程度を引き取った。
(査第6号証,第8号証,第15号証ないし第17号証)
ウ クリオ・エアーが製造する特定エアセパレートガスの販売価格(単価)は,クリオ・エアーの費用とクリオ・エアーが当該年度に期待する経常利益の合計を,当該年度に被審人及びリキッドガスが引き取ることを予定している特定エアセパレートガスの数量で除する方法により決定されていた。(審第9号証,第14号証,第15号証)
エ 被審人は,クリオ・エアーが被審人及びリキッドガスに販売する特定エアセパレートガスの販売価格を決定するに当たり,クリオ・エアーから,当該年度における費用(電力従量料,冷熱費等の比例費及び電力基本料,労務費等の固定費),当期利益等の情報開示を受けた上で,クリオ・エアー,被審人及びリキッドガスにより構成される運営協議会に出席して協議をしていた。(査第19号証)
オ 被審人は,クリオ・エアーが年間生産計画を策定するに当たり,クリオ・エアーに対し,当該年度の引取予定数量を提示するとともに,クリオ・エアーの月次の需給調整会議に出席し,翌月の生産計画に関与していた。(査第6号証,第18号証)
カ クリオ・エアーにおいては,設立以来,被審人とリキッドガスがそれぞれ決められた人数の取締役を指名しており,平成20年度及び平成21年度におけるクリオ・エアーの取締役7名のうち3名は被審人の,4名はリキッドガスの指名した者であった。そのうち,常勤の代表取締役はリキッドガスの,非常勤の代表取締役は被審人の指名した者であった。(査第8号証ないし第10号証)
キ 被審人は,特定エアセパレートガスの製造に関する技術(深冷蒸留分離技術)を提供するため,クリオ・エアーの技術管理部に被審人の社員2名を出向させている。(審第4号証)
他方,大阪ガスは,その社員3名をクリオ・エアーに出向させ,大阪ガスとの兼務発令を受けた95名にクリオ・エアーの製造設備の運転等を担当させている。(審第4号証,第7号証,第31号証,第45号証)
ク クリオ・エアーのエアセパレートガス製造設備については,被審人の筆頭株主であり,技術援助契約を締結していたAPCI社製の機器を優先的に起用するものとされ,実際に同社製の空気液化分離器及び液化アルゴン貯槽が導入された。(査第12号証,第14号証,第50号証)
ケ クリオ・エアーの機械設備の修繕は,被審人の完全子会社であるエア・ウォーター・プラントエンジニアリング株式会社及びエア・ウォーター・メンテナンス株式会社に発注されている。(査第35号証,審第4号証)
コ クリオ・エアーの特定エアセパレートガス製造工場は,大阪ガスの工場敷地内にあり,その使用する土地及び建物も全て大阪ガスが貸与している。(査第8号証,第12号証)
(4) 検討
ア 審査官は,クリオ・エアーの設立の経緯,クリオ・エアーにおける被審人の出資比率,被審人出身の取締役の数,クリオ・エアーの製造した特定エアセパレートガスの引取義務の存在及び引取状況,被審人のクリオ・エアーにおける生産計画及び販売価格の決定並びに製造工程への関与の程度,状況等,前記認定事実を総合的に考慮すると,クリオ・エアーは被審人の生産拠点とみることができるから,特段の事情があると主張する。
イ 本件では,被審人のクリオ・エアーに対する出資比率は45パーセントであるところ,一般に,出資者の出資先会社の事業活動への関与の程度ないし出資先会社の事業との一体性は,出資比率のみで定まるものではなく,また,過半を超える出資比率を有していなければ支配的ないし主導的な立場での関与を認めることができないわけではない。
しかしながら,本件では,前記認定事実によると,クリオ・エアーヘの出資者として,被審人以外に,出資比率55パーセントの会社,すなわち,大阪ガスの100パーセント子会社であるリキッドガスが存在するのであり,また,クリオ・エアーの取締役7名中被審人の指名による者が3名であるのに対し,4名がリキッドガスの指名した者である。したがって,リキッドガスは,クリオ・エアーの議決権の過半数を有し,同社の役員の過半数を確保している。しかも,同社の常勤の代表取締役もリキッドガスの指名した者であって,被審人の指名した者は非常勤の代表取締役にすぎない。
そうすると,株主としてのクリオ・エアーに対する支配権という観点から見た場合,また,取締役会における支配構成という観点から見た場合に,クリオ・エアーの事業活動に主導的な役割で関与している者としてリキッドガスが存在しており,そうである以上,これらの観点から,被審人がクリオ・エアーに対して支配的な立場を有しているとか,主導的な役割で関与していると認めることは困難である。
ウ ただ,前記認定事実によると,被審人は,クリオ・エアーから特定エアセパレートガスの販売価格決定に必要な当該年度における費用や当期利益等の情報開示を受け,価格決定のための運営協議会等で協議をするとともに,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取っていることが認められ,クリオ・エアーの販売価格等について相当程度の影響力を行使できた可能性があるということができる。
しかし,前記認定事実によると,リキッドガスないし大阪ガスグループ(大阪ガス及びその子会社〔リキッドガスを含む。〕をいう。以下同じ。)という企業グループは,単なる資本関係のみの出資者ではなく,販売価格低減の原因であってそもそもの合弁事業の目的である冷熱の利用について,その冷熱を供給している者であって,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造はこの冷熱供給に依存しており,製造工場も,大阪ガスの工場敷地内にあり,建物・土地ともに大阪ガスから貸与されたものであって,従業員の大多数も大阪ガスグループからの出向者又は兼務者であるというのであるから,そもそもクリオ・エアーによる特定エアセパレートガスの製造は大阪ガスグループにおける冷熱利用の一環として行われているというべきである。
そして,上記のような事実関係の下,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスの販売価格の決定等についてはリキッドガスも関与していること,及び前記イに説示したところからすると,販売価格等についての協議においても,その主導権を握りやすい立場にあるのは,被審人ではなくリキッドガスないし大阪ガスグループである。
また,被審人がクリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取っていること自体も,被審人のクリオ・エアーに対する相当程度の影響力をうかがわせる事情の一つであるが,これのみから被審人のクリオ・エアーに対する支配的又は主導的立場を導くことはできない。
これらを考え合わせると,被審人が,クリオ・エアーの生産計画や販売価格について主導的な影響力を行使することができたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,クリオ・エアーが,特定エアセパレートガスの製造について,被審人の支配の下にある生産拠点であるとみることはできない。
なお,冷熱利用によるメリットの享受という観点からみても,確かに,本件合弁事業の仕組み上,クリオ・エアーの製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取る被審人は冷熱利用によるコスト低減メリットを享受できる立場にあったといえるが,他方で,リキッドガスもクリオ・エアーに対する冷熱の供給に係る収入を得られるというメリットを享受できる立場にあったといえることからすれば,本件の事実関係の下,被審人による上記コスト低減メリットの享受のみをもって,被審人が自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様の実態にあったと認めることはできず,他にそのような事実を認めるに足りる的確な証拠もない。
エ さらに,前記認定事実によると,被審人は従業員の出向や製造設備及び技術の供与等を行い,クリオ・エアーの運営や同社における特定エアセパレートガスの製造に一定程度関与していると認めることができるものの,前記ウのとおり,本件の事実関係においては,クリオ・エアーによる特定エアセパレートガスの製造は大阪ガスグループにおける冷熱利用の一環として行われているというべきであり,リキッドガスによるクリオ・エアーの運営や同社における特定エアセパレートガスの製造への関与を考慮すれば,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガス事業は,製造の実態からみても,被審人における事業活動の一環として行われているとか,被審人の一部門と同視し得るほどに被審人と密接な関係があるとか,被審人が自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様ないしはそれに近い実態があるなどということはできない。
オ 以上に検討したところを総合考慮すると,被審人が,クリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引につき,実質的にみて小売業又は卸売業以外の業種,すなわち製造業としての事業活動を行っていると認められる特段の事情を認定することはできない。
カ なお,審査官は,被審人がクリオ・エアー,相模原液酸及び三国液酸の3社以外の関係会社から仕入れた特定エアセパレートガス(別紙審決案別紙2の③B)並びに子会社及び関連会社以外の仕入先から仕入れた特定エアセパレートガス(同④)に係る取引について,特段の事情が認められると具体的に主張しておらず,これらの取引について特段の事情を認めるに足りる証拠もない。
(5) 被審人に対する課徴金算定率
以上によれば,少なくとも,被審人がクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガス(数量:3億2126万5068S㎥),クリオ・エアー,相模原液酸及び三国液酸の3社以外の関係会社から仕入れた特定エアセパレートガス(数量:2億2382万4688S㎥〔別紙審決案別紙2の③B〕)並びに子会社及び関連会社以外の仕入先から仕入れた特定エアセパレートガス(数量:2億3732万4501S㎥〔同④〕)に係る取引については特段の事情が認められず,それらの合計(7億8241万4257S㎥)は,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量の合計(12億4766万1284S㎥)の過半(約62.71パーセント)に達する。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被審人に対する課徴金の計算に当たっては,被審人が卸売業に係る事業活動を行っているものとして,2パーセントの課徴金算定率を適用すべきこととなる。
2 被審人が納付すべき課徴金の額
以上を前提にすると,被審人が独占禁止法第7条の2第1項により国庫に納付すべき課徴金の額は,被審人の売上額363億9114万159円(別紙審決案の理由第3の4(3))に対し,卸売業に係る2パーセントの課徴金算定率を乗じて得た額から,同条第23項により1万円未満の端数を切り捨てて算出した7億2782万円となる。
第3 法令の適用
よって,被審人の本件審判請求は理由があるから,被審人に対し,独占禁止法第66条第3項及び規則第78条第2項の規定により,主文のとおり審決する。

平成26年10月14日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  杉  本  和  行
委 員  小 田 切  宏  之
委 員  幕  田  英  雄
委 員  山  﨑     恒
委 員  山  本  和  史

平成23年(判)第81号

審   決   案

大阪市中央区南船場二丁目12番8号
(商業登記簿上の本店所在地 札幌市中央区北三条西一丁目2番地)
被審人 エア・ウォーター株式会社
同代表者 代表取締役 青 木   弘
同代理人 弁 護 士 飯 村   北
同          細 野   敦
同          廣 田 雄一郎
同          浦 野 祐 介
同          川 村 興 平
同          坪 井   崇

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人の審判請求を棄却する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
平成23年(納)第60号課徴金納付命令のうち,7億2782万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,他の事業者と共同して,別紙1記載のエアセパレートガス(以下「特定エアセパレートガス」という。)の販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであるとして,平成23年5月26日,被審人を含む4社に対し,平成23年(措)第3号排除措置命令書により排除措置を命じた(以下「本件排除措置命令」という。)。
2 公正取引委員会は,本件排除措置命令において認定された違反行為(以下「本件違反行為」という。)について,被審人に対し,小売業又は卸売業以外の課徴金算定率(独占禁止法第7条の2第1項が不当な取引制限等に係る課徴金の額を計算するに当たって,実行期間における当該商品又は役務の売上額に乗じることとしている一定の率をいう。以下同じ。)である10パーセントを適用して,課徴金を36億3911万円と計算し,平成23年5月26日,平成23年(納)第60号課徴金納付命令書により課徴金の納付を命じた(以下「原処分」という。)。課徴金納付命令書の謄本は,同月27日,被審人に対し送達された。
3 被審人は,本件排除措置命令に対して審判を請求しなかったので,本件排除措置命令は確定した。
4 被審人は,平成23年7月22日,課徴金の額を計算するに当たって,卸売業に係る課徴金算定率である2パーセントを適用すべきであるとして,原処分のうち,7億2782万円を超えて課徴金の納付を命じた部分の取消しを求めて本件審判請求をした。
第3 前提となる事実等(本件排除措置命令において認定された事実及び当事者間に争いがない事実)
1 エアセパレートガスについて
エアセパレートガスは,空気から分離,抽出して製造された酸素,窒素及びアルゴンの総称である。
エアセパレートガスの製造方法の1つとして,空気を圧縮して冷却することにより液化した上,空気の構成要素である酸素,窒素及びアルゴンの沸点の差を利用してそれぞれを分離,抽出する方法(深冷蒸留分離法)がある。
このようにして製造された酸素,窒素及びアルゴンは,それぞれの特性に応じて化学製品の製造等の幅広い分野において利用されている。
2 本件違反行為者
(1) 被審人は,特定エアセパレートガスを自ら製造するとともに,子会社,合弁事業によって設立した関係会社等から特定エアセパレートガスを仕入れ,これらを他の特定エアセパレートガスの製造業者若しくは販売業者又は化学製品製造業者,食料品製造業者,鉄鋼・非鉄金属製造業者等の需要者(以下,これらをまとめて「顧客」という。)に対して販売していた。
(2) 大陽日酸株式会社(以下「大陽日酸」という。)及び日本エア・リキード株式会社(以下「日本エア・リキード」という。)は,いずれも特定エアセパレートガスの製造業を営む者であり,顧客に対し,特定エアセパレートガスを販売していた。
(3) 岩谷産業株式会社(以下「岩谷産業」という。)は,顧客に対し,特定エアセパレートガスを販売していた。
(4) 被審人,大陽日酸,日本エア・リキード及び岩谷産業(以下「4社」という。)による特定エアセパレートガスの販売金額の合計は,我が国における特定エアセパレートガスの総販売金額の大部分を占めていた。
3 本件違反行為
4社は,共同して,遅くとも平成20年1月23日までに,特定エアセパレートガスの販売価格について,同年4月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。
4 課徴金の計算の基礎
(1) 本件違反行為の実行期間
被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,前記3の合意に基づき被審人が最初に特定エアセパレートガスの販売価格の引上げを実施することとした平成20年4月1日である。また,被審人は,平成22年1月19日以降,当該違反行為を取りやめており,同月18日にその実行としての事業活動はなくなっている。
したがって,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は平成20年4月1日から平成22年1月18日までとなる。
(2) 前記(1)の実行期間において,被審人が製造し,又は子会社及び関連会社等から仕入れた特定エアセパレートガスの数量等は別紙2記載のとおりである。
(3) 被審人の売上額
前記(1)の実行期間における特定エアセパレートガスに係る被審人の売上額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号)第5条第1項の規定に基づき算定すると,363億9114万159円である。
第4 本件の争点
1 課徴金算定率(争点1)
本件違反行為に係る取引について,被審人の業種を小売業又は卸売業以外と認定して10パーセントの課徴金算定率を適用すべきか,それとも,卸売業と認定して2パーセントの課徴金算定率を適用すべきか。
2 平等原則違反(争点2)
本件違反行為者である岩谷産業の業種を卸売業と認定したのに,被審人の業種を小売業又は卸売業以外と認定して,異なる課徴金算定率を適用することは,憲法第14条第1項に違反するか。
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(課徴金算定率)について
(1) 審査官の主張
ア 課徴金の計算に当たり,違反行為に係る取引について,小売業又は卸売業と認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合には,実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定すべきであり,また,いかなる事業活動を行っているかについては,一般的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うべきである。
イ 被審人は,別紙2記載のとおり,本件実行期間中に,自社工場で特定エアセパレートガスを製造して販売していたほか,子会社及び関係会社等から仕入れた特定エアセパレートガスを販売していたものである。そのうち,被審人が株式会社クリオ・エアー(以下「クリオ・エアー」という。)ほか7社から仕入れて販売した特定エアセパレートガスに係る取引については,後記ウのとおり,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種(製造業)の事業活動を行っていたと認められる特段の事情がある。
そして,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量とクリオ・エアーほか7社から仕入れて販売した特定エアセパレートガスの数量の合計(6億9575万8832S㎥)は,本件実行期間中の被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量の合計(12億4766万1284S㎥)の過半(約55.77パーセント)を占めていたから,課徴金の計算に当たっては,被審人の業種を製造業と認定した上で,10パーセントの課徴金算定率を適用すべきである。
ウ 被審人が製造業の機能に属する事業活動を行っていたと認められる特段の事情
(ア) 特定エアセパレートガスの製造業者が,自ら特定エアセパレートガスを製造するとともに,これを第三者から仕入れて販売している場合には,当該第三者が当該製造業者の子会社や合弁事業によって設立した会社(以下「子会社等」という。)であって,当該製造業者の事業活動の実態に照らすと,当該子会社等を当該製造業者の生産拠点とみることができるのであれば,前記特段の事情があると判断すべきである。
また,特定エアセパレートガスの製造業者の生産拠点とみることができる場合とは,特定エアセパレートガスの仕入先である子会社等の設立の経緯,当該子会社等について当該製造業者が保有する議決権の有無及びその割合,当該子会社等における当該製造業者出身の取締役の有無及びその割合,当該製造業者の当該子会社等からの特定エアセパレートガスの引取義務の有無及び引取状況,当該製造業者の当該子会社等の特定エアセパレートガスの生産計画及び販売価格の決定への関与の有無及びその程度,当該製造業者の当該子会社等における特定エアセパレートガスの製造工程等への関与の状況等の事情を総合的に考慮して判断することが合理的である。
(イ) クリオ・エアーからの仕入分について
a クリオ・エアーの設立経緯
クリオ・エアーは,被審人の前身である大同酸素株式会社(以下,時期を問わず「被審人」という。)が,大阪ガス株式会社(以下「大阪ガス」という。)の子会社である近畿冷熱株式会社(後の株式会社リキッドガス。以下,時期を問わず「リキッドガス」という。)が供給する冷熱を有効利用することで,電力を使用して製造する場合よりも特定エアセパレートガスの製造コストを低減させることにより,被審人の特定エアセパレートガスの製造における競争力を高めることを目的として設立された合弁会社である。
b 被審人におけるクリオ・エアーの位置付け
クリオ・エアーは,被審人の社内資料において「供給拠点」の1つとして記載されているなど,設立から現在に至るまで,被審人の重要な生産拠点と位置付けられており,被審人の近畿圏における特定エアセパレートガスの重要な生産拠点としての役割を果たしている。
c 議決権の保有及び取締役の構成
被審人は,クリオ・エアーの議決権の45パーセントを保有している。また,クリオ・エアーの取締役7名のうち3名(うち1名は代表取締役)は被審人の出身者である。被審人は,議決権の保有割合に応じて,クリオ・エアーの取締役の選任等の重要事項の決定について影響力を有している。
d クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの生産計画の策定及び販売価格の決定等への被審人による関与
被審人は,クリオ・エアーにおける生産計画の策定,製品販売価格及び設備投資などの決定に関与しており,その際には,被審人がクリオ・エアーに対し,引取予定数量を示したり,クリオ・エアーが被審人に対し,製造コスト,当期利益等の通常の取引先には開示されない情報を開示したりしていた。なお,クリオ・エアーの特定エアセパレートガスの製造に必要な固定費について,被審人が全て負担することがあらかじめ定められていた。
e 被審人の製造工程への関与の状況
被審人は,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの主要な製造設備について,被審人の筆頭株主であり,業務の一部について技術提携関係にあり,役員の派遣も受けていたエアプロダクツアンドケミカルズ社(以下「APCI社」という。)製の空気液化分離器等を自社の製造設備や製造技術と同視し得るものとして主導的に導入した。
被審人は,特定エアセパレートガスの製造において重要な深冷蒸留分離の技術を提供するために,クリオ・エアーの技術管理部に2名の出向者を派遣し,特定エアセパレートガスの製造工程に深く関与している。
クリオ・エアーの機械設備の修繕については,被審人の完全子会社であるエア・ウォーター・プラントエンジニアリング株式会社やエア・ウォーター・メンテナンス株式会社に発注されている。
f 特定エアセパレートガスの引取状況等
被審人は,クリオ・エアーが製造する特定エアセパレートガスの全量を引き取る権利及び義務を有しており,実際にそのほとんどを引き取っていた。
(ウ) 福島液酸株式会社,東海液酸株式会社,新潟液酸株式会社,泉北酸素株式会社(以下「泉北酸素」という。)及び静岡液酸株式会社(以下,上記5社をまとめて「福島液酸ほか4社」という。)からの各仕入分について
福島液酸ほか4社は,いずれも被審人の子会社で,代表取締役を含む取締役の全員又は過半数が被審人の出身者であった。被審人は,泉北酸素を除く4社がそれぞれ製造する液化酸素及び液化窒素の全量を引き取ることとされているほか,泉北酸素が製造する液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの大半を引き取る義務を負うこととされている。また,被審人は,それぞれの生産計画の策定又は販売価格の決定について協議に加わるなどして関与している。
(エ) 相模原液酸株式会社(以下「相模原液酸」という。)及び三国液酸株式会社(以下「三国液酸」という。)からの各仕入分について
 相模原液酸は,被審人と田邊工業株式会社(以下「田邊工業」という。)が出資して設立した液化酸素及び液化窒素の製造販売を目的とする株式会社であり,三国液酸は,被審人と宇野酸素株式会社(以下「宇野酸素」という。)が出資して設立した液化酸素及び液化窒素の製造販売を目的とする株式会社である。相模原液酸は被審人と田邊工業に対し,三国液酸は被審人と宇野酸素に対し,それぞれ継続的に安定して廉価で液化酸素及び液化窒素を供給するために設立された。
被審人は,相模原液酸の議決権の49パーセント,三国液酸の議決権の40パーセントを保有し,それぞれ取締役の半数は被審人の出身者であった。相模原液酸が製造する液化酸素及び液化窒素については,被審人と田邊工業が,三国液酸が製造する液化酸素及び液化窒素については,被審人と宇野酸素が,それぞれ折半して引き取ることとされているほか,その販売価格の決定については被審人も関与している。また,被審人は,液化酸素及び液化窒素の製造に関するノウハウを提供するなどしている。
(2) 被審人の主張
ア 課徴金の計算における業種認定について
審査官の主張のうち,アは争わない。ただし,イ及びウに関しては,以下のとおり,審査官が主張する特段の事情の判断基準について争う。
(ア) 独占禁止法第7条の2第1項が小売業及び卸売業についての課徴金算定率を軽減した趣旨は,小売業及び卸売業の取引が商品を右から左へ流通させることによってマージンを受け取るという側面が強く,そのような事業活動の性質上,売上高営業利益率が小さくなっていることを考慮したことにある。また,課徴金の計算に当たっては簡明性が要請されるのであるから,第三者から購入して販売しているのに,例外的に小売業又は卸売業以外の業種であると認定する場合の判断基準も簡明性が求められる。
したがって,違反行為者が実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情の有無を判断するに当たっては,第三者の製造に係る利益を違反行為者が自らの利益と同視し得る程度に取得し得る利益構造となっていたか否かを基準とすべきである。
(イ) クリオ・エアーにおける利益構造について
a クリオ・エアーから被審人とリキッドガスに対して利益が移転するのは,①株主である被審人とリキッドガスに対して利益配当をする場合,②クリオ・エアーが製造した特定エアセパレートガスを被審人とリキッドガスに対して,冷熱を利用することによるコスト低減分を前提とした安価で売却する場合及び③クリオ・エアーがリキッドガスに対し,冷熱の対価(冷熱費)を支払う場合である。
上記①についてみると,リキッドガスがクリオ・エアーの株式の55パーセントを保有し,被審人は45パーセントを保有するにとどまるため,リキッドガスに対する配当額のほうが多くなる。
上記②及び③についてみると,冷熱費は,電力のみを使用する場合の製造コストと冷熱を利用する場合の製造コストとの差額(メリット差)の2分の1を下限とする旨覚書で定められていたことから,冷熱を供給し,冷熱費を取得するリキッドガスが常に多くの利益を得られる仕組みになっている。
実際に,リキッドガスは,クリオ・エアーから取得する冷熱費としてメリット差の約57パーセントを得ていた。
以上を前提に,被審人がクリオ・エアーから上記①及び②により得る利益を計算すると,リキッドガスが上記①ないし③により得る利益の約3分の2にすぎない。
b リキッドガスが供給する冷熱の供給条件については,リキッドガスとクリオ・エアーが協議して定めることとされており,被審人は協議に参加できない。被審人がリキッドガスに対して再三にわたり冷熱費の減額を申し入れているが,応じてもらったことがない。
また,被審人は,クリオ・エアーにおけるその他の製造費用に関する交渉についても,リキッドガスとの間で実効的にすることができず,クリオ・エアーの利益配分について全くコントロールできていない。
c クリオ・エアーの運営や操業,特定エアセパレートガスの生産,仕様及び販売価格といった主要な意思決定においては,リキッドガスが主導権を握っており,被審人は主導的な立場で関与していない。
d 以上によれば,被審人がクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造に係る利益を被審人が自らの利益と同視し得る程度に得る利益構造になっていたとはいえないし,費用や利益を含む販売価格等の主要な意思決定に主導的立場で関与したともいえない。
したがって,被審人がクリオ・エアーから仕入れて販売した特定エアセパレートガスに係る取引については,前記特段の事情が認められない。
(ウ) 相模原液酸及び三国液酸との各取引について
 被審人の相模原液酸又は三国液酸に対する出資比率はいずれも過半に満たず,被審人は,両社の運営や操業,特定エアセパレートガスの生産や販売価格等の製造事業に関する主要な意思決定について主導的な立場で関与していない。したがって,被審人が相模原液酸及び三国液酸における特定エアセパレートガス製造に係る利益を自らの利益と同視し得る程度に取得し得る利益構造になっていない。
よって,被審人が相模原液酸及び三国液酸から仕入れて販売した特定エアセパレートガスに係る各取引については,いずれも前記特段の事情が認められない。
イ 審査官の主張に対する反論
(ア) 審査官の主張する判断基準(前記(1)ウ(ア))は,論理的に矛盾しているだけではなく,基準として曖昧で,独占禁止法第7条の2第1項の立法趣旨にも反しており,到底採用できないが,仮に,審査官の主張する判断基準によったとしても,下記のとおり,前記特段の事情は認められない。
(イ) クリオ・エアーからの仕入分について
a クリオ・エアーの設立経緯
クリオ・エアー設立の経緯は,本件実行期間中の事実ではないから,前記特段の事情を基礎付ける事実として考慮することはできない。
仮に,考慮できるとしても,被審人は,クリオ・エアー設立時に,同社から特定エアセパレートガスを購入すること以外の目的を有しておらず,そのような事情が被審人の業種認定に影響することはない。
b 被審人におけるクリオ・エアーの位置付け
審査官が指摘する社内資料は,クリオ・エアーが生産した特定エアセパレートガスについて,被審人が供給を受けているという事実を示すものにすぎず,前記特段の事情の判断にとって意味のある事実ではない。
c 議決権の保有及び取締役の構成
被審人の保有するクリオ・エアーの議決権も被審人出身の取締役の数も過半数に満たず,リキッドガスがいずれも過半数を占めていることからすれば,クリオ・エアーにおける被審人の影響力は限定的である。
d クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの生産計画の策定及び販売価格の決定等への被審人による関与
卸売業者でも,一定程度の数量の商品を継続的に購入する場合には,生産計画について製造業者と協議をすることは実務上当然に考えられることであり,それをもって卸売業の実態からかけ離れているということはできない。
被審人は,単に特定エアセパレートガスの販売価格についての交渉に参加したにすぎず,これは,商取引においては当然のことである。また,審査官の主張する情報開示は株主であれば当然に得られるであろう程度のものであり,被審人の事業活動の実態とは何ら関係がない。
e 被審人の製造工程への関与の状況
クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの主要な製造設備は空気液化分離器に限られるものではなく,その他の設備については,被審人の関与なく調達した。
APCI社製の空気液化分離器の導入についてみても,被審人はAPCI社を紹介したにすぎず,被審人が提供したものと同視することはできない。
クリオ・エアーにおける製造設備の運転や日常的な保守・点検業務についてはクリオ・エアーの従業員(リキッドガス又はその親会社である大阪ガスの従業員と兼務)が行っており,被審人の関与は限定的である。
被審人が技術提供のためにクリオ・エアーに2名の従業員を出向させていることについてみても,クリオ・エアーの運転に大阪ガスの従業員が兼務で95名(フルタイムに換算すると15名)も関与していることと比較すれば,被審人の関与は限定的である。
f 特定エアセパレートガスの引取状況等
被審人が,特定エアセパレートガスの引取義務を負い,実際にクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスを第三者に販売していたことは,リキッドガスが製造を,被審人が販売を担うという役割分担に基づくものであり,被審人の事業活動の実態が卸売業であることを基礎付ける事実である。
(ウ) 相模原液酸及び三国液酸からの各仕入分について
被審人は,相模原液酸及び三国液酸の議決権の過半数に満たない議決権を保有し,過半数に満たない取締役を送り込んでいるにすぎず,事業運営上の意思決定における被審人の影響力は限定的である。また,相模原液酸及び三国液酸の設立の経緯,被審人の引取義務及び引取量,販売価格の決定についての被審人の関与,製造工程への被審人の関与など,審査官の主張する事実はいずれも前記特段の事情を判断する上で積極的に作用するものではない。
(エ) まとめ
以上によれば,被審人がクリオ・エアー,相模原液酸及び三国液酸からそれぞれ仕入れて販売した特定エアセパレートガスに係る取引については前記特段の事情が認められない。
したがって,被審人の本件実行期間における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量のうち製造業として認定されるべき分は過半に至らず,被審人の業種が卸売業に当たることは明らかである。よって,課徴金の計算に当たっては,卸売業に係る課徴金算定率(2パーセント)を適用すべきである。
なお,被審人がその子会社である福島液酸ほか4社から仕入れて販売した特定エアセパレートガスに係る取引について,前記特段の事情が存することは争わない。
2 争点2(平等原則違反)について
(1) 被審人の主張
ア 本件の違反行為者である岩谷産業は,子会社及び関連会社等から特定エアセパレートガスを購入して販売しているが,そのうち岩谷産業の生産拠点と目される6拠点の生産能力と合理的な稼働率を前提に,岩谷産業が当該6拠点から購入した特定エアセパレートガスの数量を試算すると,岩谷産業の総販売数量の過半に達する。
被審人と岩谷産業とは,業種認定の前提となる事実関係に合理的な差異がなく,同じ基準を用いれば,両社とも製造業と認定されることになるが,岩谷産業は卸売業と認定されている。
岩谷産業の業種を卸売業と認定するのが正しいのであれば,被審人についても岩谷産業と同様に卸売業と認定すべきである。
したがって,被審人のみを製造業と認定することは憲法第14条第1項が保障する法の下の平等に反する。
イ よって,原処分のうち,卸売業として課されるべき課徴金額を超える部分は憲法第14条第1項に違反し,無効又は取り消されるべきである。
(2) 審査官の主張
ア 岩谷産業に対する課徴金を計算するに当たっては,被審人に対するのと同様の基準に基づき,岩谷産業の業種を卸売業と認定したのであり,何ら不合理な点はない。
なお,被審人が前記(1)アで主張する試算には,その前提及び過程において不明瞭又は不合理な点が多々存在し,その合理性,正確性について疑問がある。
イ 本件における争点は,被審人に対する課徴金の計算に当たり,被審人の業種を小売業又は卸売業以外の他の業種(製造業)と認定したことの当否であるから,岩谷産業に対する業種認定は本件とは関係がなく,憲法第14条第1項違反は問題とならない。
第6 審判官の判断
1 争点1(課徴金算定率)について
(1) 課徴金の計算における業種の認定について
ア 課徴金の計算に当たり,違反行為に係る取引について,小売業又は卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合には,実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種を決定すべきである(東京高等裁判所平成24年5月25日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」〔昭和シェル石油株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
イ また,独占禁止法第7条の2第1項が小売業又は卸売業について例外的に軽減した課徴金算定率を規定したのは,卸売業や小売業の事業活動の性質上,売上高営業利益率が小さくなっている実態を考慮したためであるから,課徴金の計算に当たっては,一般的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情(以下,単に「特段の事情」という。)があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うべきである(東京高等裁判所平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁〔東燃ゼネラル石油株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
ウ なお,被審人は,独占禁止法第7条の2第1項が小売業及び卸売業についての軽減算定率を認めた趣旨からすれば,子会社等による製造に係る利益を違反行為者が自らの利益と同視し得る程度に得る利益構造となっていた場合にのみ特段の事情が認められるべきである旨主張する。
しかし,独占禁止法第7条の2第1項において,小売業及び卸売業についてのみ軽減した課徴金算定率が設けられた趣旨は,小売業及び卸売業は売上高営業利益率が小さいという事業活動の実態を反映させるためであるから,被審人のいう利益構造が事業活動の実態を判断する一要素となることはあり得るとしても,それが唯一の判断要素であると解することは相当でない。
したがって,業種認定に当たっては,違反行為者の事業活動の実態を考慮して,小売業又は卸売業の機能に属するのか,それ以外の業種の機能に属するのかを実質的に判断すべきである。このように解すると,どのような場合に小売業又は卸売業に係る課徴金算定率を適用すべきかについては個々の事案において,違反行為者の事業活動の実態を考慮することになるため,必ずしも一義的で明確とはいい難いが,業種認定に当たり,事業活動の実態を反映させるという独占禁止法第7条の2第1項の趣旨からすればやむを得ないものである。
よって,この点に関する被審人の主張は採用できない。
(2) 本件における検討対象について
本件では,被審人が自ら製造した特定エアセパレートガスの数量(別紙2の①。争いがない。)と被審人が福島液酸ほか4社から仕入れた特定エアセパレートガスの数量(別紙2の②A。特段の事情が認められる取引によるものであることについて争いがない。)に,審査官が特段の事情が認められる取引によるものであると主張するクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスの数量を加えると,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量の合計の過半に達するため,以下,被審人がクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引について特段の事情が認められるか否か検討する。
(3) 認定事実
被審人とクリオ・エアーとの間の特定エアセパレートガスの取引等に関して,次の事実が認められる。(当事者間に争いがないか又は末尾記載の証拠により認定できる事実)
ア クリオ・エアーは,被審人が45パーセント,リキッドガスが55パーセントの割合でそれぞれ出資して,平成3年4月12日に設立されたエアセパレートガスの製造及び販売等を目的とする株式会社である。
クリオ・エアーでは,特定エアセパレートガスを製造する過程において,リキッドガスが供給する液化天然ガスの冷熱を利用することにより,電力のみを使用する場合よりも低いコストで特定エアセパレートガスを製造することができる。
クリオ・エアー設立の際には,リキッドガスが供給する液化天然ガスの冷熱を有効利用することなどにより競争力のある製造コストを実現するとともに,被審人の販売力を活用することなどによって相乗効果が発揮されることが目的とされた。
(査第6号証,第8号証,第12号証,第14号証)
イ 被審人は,クリオ・エアーが製造する製品の総量を引き取る権利及び義務を有し,リキッドガスが例外的に引き取る若干の製品を除いては,被審人以外の者が引き取ることは予定されていなかった。
被審人は,平成20年度及び平成21年度において,クリオ・エアーが製造した特定エアセパレートガスの9割程度を引き取った。
(査第6号証,第8号証,第15号証ないし第17号証)
ウ クリオ・エアーが製造する特定エアセパレートガスの販売価格(単価)は,クリオ・エアーの費用とクリオ・エアーが当該年度に期待する経常利益の合計を,当該年度に被審人及びリキッドガスが引き取ることを予定している特定エアセパレートガスの数量で除する方法により決定されていた。(審第9号証,第14号証,第15号証)
エ 被審人は,クリオ・エアーが被審人及びリキッドガスに販売する特定エアセパレートガスの販売価格を決定するに当たり,クリオ・エアーから,当該年度における費用(電力従量料,冷熱費等の比例費及び電力基本料,労務費等の固定費),当期利益等の情報開示を受けた上で,クリオ・エアー,被審人及びリキッドガスにより構成される運営協議会に出席して協議をしていた。(査第19号証)
オ 被審人は,クリオ・エアーが年間生産計画を策定するに当たり,クリオ・エアーに対し,当該年度の引取予定数量を提示するとともに,クリオ・エアーの月次の需給調整会議に出席し,翌月の生産計画に関与していた。(査第6号証,第18号証)
カ クリオ・エアーにおいては,設立以来,被審人とリキッドガスがそれぞれ決められた人数の取締役を指名しており,平成20年度及び平成21年度におけるクリオ・エアーの取締役7名のうち3名(うち1名は代表取締役)は被審人の出身者であった。(査第8号証ないし第10号証)
キ 被審人は,特定エアセパレートガスの製造に関する技術(深冷蒸留分離技術)を提供するため,クリオ・エアーの技術管理部に被審人の社員2名を出向させている。(審第4号証)
ク クリオ・エアーのエアセパレートガス製造設備については,被審人の筆頭株主であり,技術援助契約を締結していたAPCI社製の機器を優先的に起用するものとされ,実際に同社製の空気液化分離器及び液化アルゴン貯槽が導入された。(査第12号証,第14号証,第50号証)
ケ クリオ・エアーの機械設備の修繕は,被審人の完全子会社であるエア・ウォーター・プラントエンジニアリング株式会社及びエア・ウォーター・メンテナンス株式会社に発注されている。(査第35号証,審第4号証)
(4) 検討
ア 以上によれば,クリオ・エアーの設立と同社における特定エアセパレートガスの製造は,被審人がそのほとんどを引き取ることを前提としたものであり,共同出資者であるリキッドガス以外の者が引き取ることは予定されておらず,実際に,被審人は,クリオ・エアーで製造された特定エアセパレートガスのほとんどを引き取ることにより冷熱利用によるコスト低減メリットを継続的に享受していたのであり,また,出資割合に応じて取締役を出向させたり,技術提供のために従業員を出向させたりすることなどにより,クリオ・エアーの運営や同社での特定エアセパレートガスの製造に相当程度関与していたことが認められる。
このような被審人のクリオ・エアーに関する事業活動の実態に照らせば,クリオ・エアーについて,これを被審人の単なる仕入先とみるのは相当でなく,被審人が自社で特定エアセパレートガスを製造しているのと同様の実態にあったということができる。
よって,被審人は,外形的には,クリオ・エアーから特定エアセパレートガスを購入してこれを第三者に販売しているものの,これを小売業又は卸売業の機能に属する事業活動を行っているにとどまるということはできず,実質的にみて,被審人が小売業又は卸売業の機能に属しない他業種,すなわち製造業の事業活動を行っていると認められる特段の事情があると認めることができる。
イ 被審人の主張について
(ア) 被審人は,クリオ・エアー設立の経緯は本件実行期間中の事実ではないから,被審人の業種認定に当たり当然には考慮できない旨主張する。
しかし,本件実行期間以前の事実であっても,本件実行期間中の被審人の事業活動に関連しているのであれば,その実態をみるに当たり考慮することはできるのであって,これができないと解すべき理由は見当たらない。
(イ) 被審人は,被審人の保有するクリオ・エアーの議決権割合は45パーセントにとどまり,出向させている取締役も全取締役の過半数に満たないから,被審人の影響力は限定的である旨主張する。
しかし,課徴金の計算において重要なのは,違反行為者の事業活動の実態を考慮して,その業種を認定することであり,このような観点から,被審人の保有するクリオ・エアーの議決権割合や被審人出身の取締役の割合が過半数に満たない点について検討すべきである。そうすると,前記(3)イのとおり,被審人は,クリオ・エアーで製造される特定エアセパレートガス全部を引き取る権利を確保し,実際にほとんどを引き取っており,この点でクリオ・エアー設立の目的である冷熱利用による製造コスト低減のメリットを継続的かつ安定的に享受しているのであり,このようなクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造から被審人による引取りという過程について,被審人の議決権割合や出身取締役の数が過半数に満たないことが影響しているとは認められない。すなわち,被審人とリキッドガスのみがクリオ・エアーの議決権を保有することにより,被審人がクリオ・エアーで製造される特定エアセパレートガスのほとんどを引き取る体制を確保しているのであって,議決権割合等が過半数に満たないことは,本件において特段の事情を認めるに当たって障害となるべき事情とは認められない。
(ウ) 被審人は,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの生産計画や販売価格といった主要な意思決定に関して,リキッドガスが主導権を握っており,被審人は主導的な立場で関与していない旨主張する。
確かに,出資割合等からすれば,リキッドガスが生産計画や販売価格等の最終的な意思決定について主導的な立場にあったということもできるが,被審人も共同出資者として協議に参加するなどして上記意思決定過程に関与しているのであって,これが小売業又は卸売業としての事業活動の範囲にとどまるものとは認められない。
(エ) 被審人は,クリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造工程に対する被審人の関与は限定的である旨主張する。
しかし,前記のとおり,被審人は,クリオ・エアーの特定エアセパレートガスの製造設備の一部の導入に関与したほか,製造技術の提供のために2名の従業員を出向させるなどしているのであって,被審人がクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造について,相当程度の関与をしているものと認められる。
したがって,上記の限度では,被審人がクリオ・エアーにおける特定エアセパレートガスの製造に関わる事業活動を行っていたということができるのであり,そのような事情を特段の事情を認めるに当たって考慮することに何ら問題はない。
(オ) 以上のほか,被審人が主張する点は,いずれも被審人が実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情があるとの判断を左右するものとは認められない。
(5) 被審人に対する課徴金算定率
以上によれば,被審人が自ら製造した特定エアセパレートガスの数量(1億4476万9084S㎥)並びに特段の事情が認められる取引によりクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスの数量(3億2126万5068S㎥)及び特段の事情が認められる取引によることにつき争いのない福島液酸ほか4社から仕入れた特定エアセパレートガスの数量(1億8779万6404S㎥)の合計(6億5383万556S㎥)は,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量の合計(12億4766万1284S㎥)の過半(約52.40パーセント)に達する。
したがって,被審人が相模原液酸及び三国液酸から仕入れた特定エアセパレートガスに係る取引について特段の事情が認められるか否か判断するまでもなく,被審人に対する課徴金の計算に当たっては,被審人が小売業又は卸売業以外の業種に係る事業活動を行っているものとして,10パーセントの課徴金算定率を適用すべきこととなる。
2 争点2(平等原則違反)について
被審人と他の事業者が共同して違反行為に及んだ場合であっても,課徴金を計算するに当たっては,それぞれの事業活動の実態に照らして,個別に業種を認定した上で,独占禁止法第7条の2第1項所定の課徴金算定率を適用すべきである。すなわち,業種認定に当たって考慮すべき事業活動の実態が各違反行為者によって異なる場合には,違反行為者ごとに異なる業種が認定され,それぞれに対応する課徴金算定率が適用されることも当然あり得るところである。
本件の争点は,要するに,被審人に対する課徴金の計算に当たり,被審人の業種を小売業又は卸売業以外の他の業種(製造業)と認定した原処分の当否であって,その認定が相当であることは前記1のとおりであるから,他の事業者である岩谷産業に対する業種認定は無関係であり,岩谷産業の業種認定を理由に原処分が憲法第14条第1項に違反するとの被審人の主張は失当である。
3 被審人が納付すべき課徴金の額
以上を前提にすると,被審人が独占禁止法第7条の2第1項により国庫に納付すべき課徴金の額は,被審人の売上額363億9114万159円(前記第3の4(3))に対し,小売業又は卸売業以外の業種に係る10パーセントの課徴金算定率を乗じて得た額から,同条第23項により1万円未満の端数を切り捨てて算出した36億3911万円となる。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人に対し,原処分のとおり課徴金の納付を命ずるべきであり,被審人の本件審判請求は理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決するのが相当であると判断する。

平成25年6月28日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  真 渕   博

審判官  酒 井 紀 子

審判官  多 田 尚 史

※ 審決案別紙1及び2は省略。

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