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(株)タカヤによる審決取消請求事件

独禁法7条の2

平成25年(行ケ)第64号

判決

盛岡市本宮5丁目5番5号
原告 株式会社タカヤ
同代表者代表取締役 望月郁夫
同訴訟代理人弁護士 奥毅
同 妹尾佳明
同 小根山祐二
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 岩下生知
同 北脇俊之
同 瀨島由紀子
同 堤勝利
同 天田弘人

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
公正取引委員会平成23年(判)第1号ないし第3号及び第7号課徴金納付命令審判事件について,被告が平成25年5月22日付けで原告に対してした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
被告は,原告が,他の事業者と共同して,岩手県が条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により,同県が建築一式工事についてAの等級に格付している者のうち同県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体(以下「JV」という。)を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事(以下「岩手県発注の特定建築工事」という。)について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,基本合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたところ,これは,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)2条6項所定の「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反するものであり,また,同法7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」であり,そして,原告が岩手県から受注した4物件が同項所定の「当該…役務」に該当するとして,原告に対し,課徴金納付命令を発し,審判手続を経て,平成25年5月22日付けで原告に対し2068万円の課徴金の納付を命ずる旨の本件審決をした。
本件は,原告が,上記4物件について,原告が上記基本合意に基づく受注調整を経て受注したのではなく,この点に関する実質的な証拠がないなどと主張して,本件審決の取消しを求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実,本件審決が認定した事実で原告が実質的な証拠の不存在を主張しない事実,弁論の全趣旨により認められる事実及び当裁判所に顕著な事実)
⑴ 当事者等
原告は,本店所在地を盛岡市とし,建築工事及び土木工事の総合請負等を目的とする会社であり,独占禁止法7条の2第2項1号に該当する事業者である。原告は,平成14年4月26日,再生手続開始の申立てをし,同年12月2日,再生計画の認可の決定を受けているところ,同年2月27日の入札に参加してから同年12月26日の入札に参加するまでの間,岩手県発注の特定建築工事の入札に参加しなかった。原告は,平成20年9月12日,商号を高弥建設株式会社から現商号に変更した。
トラスト・メンバーズは,平成6年11月に原告を含む岩手県内の建設業者らによって設立された任意団体であり,平成14年12月にTST親交会と名称を変更するなどし,平成16年10月に解散した(以下,トラスト・メンバーズとTST親交会を併せて「TST親交会等」という。)。原告は,トラスト・メンバーズ設立時の会員であった。原告の従業員であった稲垣孝一(以下「稲垣」という。)は,上記設立から解散まで,TST親交会等の会長を務めた。稲垣は,上記設立当時,原告の取締役であり,その後,平成12年4月に原告を退職したが,TST親交会等の会長職は継続した。原告の従業員であった細川勉(以下「細川」という。)は,平成12年頃から細川が原告を退職する平成14年8月末まで,トラスト・メンバーズの副幹事長であった。なお,平成14年12月に上記名称変更等がされた際,TST親交会等の年次総会資料に含まれていた会員名簿の記載が会社名から個人名に変更されたところ,平成15年度及び平成16年度の会員名簿(それぞれ平成15年10月現在及び平成16年10月現在のものとされている。)には,原告については,原告の常務取締役であった佐々木憲雄(以下「佐々木」という。)が記載されている。
⑵ 岩手県の建築一式工事の発注方法等
ア 岩手県は,同県が発注する建築一式工事の大部分を,条件付一般競争入札,指名競争入札又は受注希望型指名競争入札のいずれかの方法で発注していた。
  具体的には,岩手県は,条件付一般競争入札に付する工事については,入札参加資格要件を設定の上,工事の概要と併せて事前に公告し,入札参加希望者を募り,条件付一般競争入札参加資格確認申請書を提出した者の中から入札参加資格要件を充足する者全てを入札参加者としていた。また,公告において,工事の設計金額が事前に公表されており,原則として設計金額が工事の予定価格とされた。そして,予定価格の範囲内で最低の価格で入札した者が落札者とされた。
岩手県は,指名競争入札に付する工事については,資格者の中から,施工成績,技術的適性,地理的条件,手持ち工事量等を総合的に勘案して,原則として10社を入札参加者として指名していた。予定価格及び指名業者名の入札前の公表は行われなかった。
岩手県は,受注希望型指名競争入札に付する工事については,個々の工事ごとに地域要件,施工実績要件といった入札参加資格要件を設定の上,工事の概要と併せて事前に公表して,入札参加希望者を募り,入札参加希望者のうち入札参加資格要件を充足する者の中から,地理的条件を優先しつつ,施工成績,技術的適性,手持ち工事量等を総合的に勘案して,20社を上限として入札参加者を指名していた。予定価格及び指名業者名の入札前の公表は行われなかった。
イ 岩手県は,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札において,1回目の入札で予定価格に達しない場合は,参加者に対し当該入札における最低入札価格を告知した後,原則2回を限度として再度入札を実施し,3回目の入札で予定価格に達しない場合は,指名業者を選定し直して改めて入札を実施し,又は,予定価格と最低入札価格との差が少ないなどの場合には一部の入札参加者から見積書を徴した上で随意契約に移ることとしていた。
ウ 岩手県は,落札となるべき価格で入札した者が2社以上いる場合は,同額で入札した者にくじを引かせて落札者を決定していた。
エ 岩手県は,低価格による入札への対応として,条件付一般競争入札については,全て低入札価格調査制度を適用し,入札の結果,あらかじめ設定した調査基準価格を下回る額で入札した者がいる場合は,その者を直ちに失格とするのではなく,落札者の決定を保留し,当該入札額によって契約の内容に適合した履行がされるか否かを,最低額入札者から順次調査した上で,履行可能である者を落札者とし,その際,履行可能な者がいないときは,調査基準価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。また,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札については,あらかじめ最低制限価格を設定する場合があり,設定した工事については,入札の結果,最低制限価格を下回る額で入札した者がいる場合は当該入札者を失格とし,最低制限価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。
⑶ 本件に係る排除措置命令及び課徴金納付命令等
被告は,原告が,他の事業者と共同して,岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,基本合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下「本件違反行為」という。)とし,これは独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反するものであるとして,平成22年3月23日付けで,原告を含む79社に対し,排除措置を命ずる審決(公正取引委員会平成17年(判)第14号。以下「本案審決」という。)をした。
原告は,本案審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起したが,同裁判所は,平成23年11月11日,原告の請求を棄却する旨の判決をし,同判決に対し,原告は,上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,平成25年7月5日,上告を棄却し,上告審として受理しない旨の決定をし,本案審決は確定した。
被告は,本案審決に基づき,本件違反行為は,同法7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」であるとして,原告に対し,平成22年12月20日付けで課徴金納付命令を発し,審判手続を経て,平成25年5月22日付けで本件審決をした。
原告は,本件審決の取消しを求めて,同年6月20日,本件訴えを提起した。
⑷ 本件違反行為の概要
原告を含む105社は,いずれも建設業を営み又は営んでいた者であるが,遅くとも平成13年4月1日(本件基本合意に中途参加した事業者については,遅くとも中途参加したとされている日頃)以降,岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,以下の合意(以下「本件基本合意」という。)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していた(以下,本件違反行為をした上記105社を「105社」という。)。
ア 当該工事について受注を希望する者又は受注を希望するJV(以下まとめて「受注希望者」という。)は,105社が会員となっていたTST親交会等の会長又は地区役員に対し,その旨を表明し,
(ア)受注希望者が1名のときは,その者を受注予定者とする。
(イ)受注希望者が複数のときは,「継続性」(主として過去に自社が施工した建築物の工事であること),「関連性」(主として過去に自社が施工した建築物と関連する建築物の工事であること),「地域性」(主として工事場所が自社の事務所に近いこと)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する。
イ 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する。
⑸ 105社の受注物件
平成13年4月1日から平成16年10月25日までの間における岩手県発注の特定建築工事は133物件あり,このうち,105社が受注した物件は118物件である。
⑹ 本件審決に係る課徴金の計算の基礎となる事実及びその額の算定
ア 原告が,実行期間である平成13年10月26日から平成16年10月25日までの3年間(以下「本件実行期間」という。)に受注した岩手県発注の特定建築工事は,次の物件34,88,114及び125の4件であり(以下「本件各物件」という。別紙1参照),以下のとおり,本件各物件が本件審決において課徴金の計算の基礎とされている。
(ア)物件34
物件34は,岩手県立黒沢尻工業高等学校産業教育施設大規模改造(建築)工事であり,その入札は,平成13年11月20日,条件付一般競争入札の方法により,原告を含む11社が参加して行われ,原告が,設計金額の96.85パーセントに相当する入札価格1億2000万円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-1のとおりである。
原告は,岩手県との間で,同月27日,上記1億2000万円に消費税相当分を加算した金額である1億2600万円で物件34の契約を締結し,その後,契約金額は,平成14年3月1日及び同年10月4日にそれぞれ増額変更され,1億3795万6350円(税込み)とされた。
(イ)物件88
物件88は,岩手県立紫波高等学校校舎・産振棟改築(建築)工事で,JVを対象とするものであり,その入札は,平成15年5月23日,条件付一般競争入札の方法により,株式会社平野組(以下「平野組」という。)を代表者とする平野組,原告及び橘建設株式会社(以下「橘建設」という。)のJVを含む6JVが参加して行われ,平野組,原告及び橘建設のJVが,設計金額の97.24パーセントに相当する入札価格13億4000万円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-2のとおりである。
平野組,原告及び橘建設のJVは,岩手県との間で,同年6月25日,上記13億4000万円に消費税相当分を加算した金額である14億0700万円で物件88の仮契約を締結し,同契約は同年7月9日に岩手県議会の議決を得て効力を生じ,その後,契約金額は,平成16年3月23日に増額変更され,14億2224万2850円(税込み)とされた。原告のJV出資比率は38パーセントであり,物件88に係る原告の売上額は,上記契約金額に上記出資比率を乗じた5億4045万2283円であった。
(ウ)物件114
物件114は,都南の園地震災害復旧工事であり,その入札は,平成15年12月8日,指名競争入札の方法により,原告を含む9社が参加して行われ,1回目の入札以降,予定価格を下回る額での入札がなかったことから,3回目まで入札が実施されたところ,3回の入札において,いずれも原告の入札価格が入札参加者の中で最も低かったものの,入札価格が3回目の入札においても予定価格を下回らなかったため,原告との随意契約に移り,原告が予定価格の98.47パーセントに相当する245万円で受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-3のとおりである。
(エ)物件125
物件125は,県立産業技術短期大学校本館塔屋ガラス屋根改修及び喫煙室設置工事であり,その入札は,平成16年8月9日,指名競争入札の方法により,原告を含む10社が参加して行われ,原告が,予定価格の90.15パーセントに相当する入札価格760万円で落札し,これを受注した。各入札参加者の入札価格等は,別紙2-4のとおりである。
原告は,岩手県との間で,同月17日,上記760万円に消費税相当分を加算した金額である798万円で物件125の契約を縮結し,その後,契約金額は,同年9月30日及び同年10月4日にそれぞれ増額変更され,859万2150円(税込み)とされた。
イ 以上を前提として,被告は,本件審決において,独占禁止法7条の2第1項,2項及び4項並びに私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(平成17年政令第318号による改正前のもの。以下「独占禁止法施行令」という。)6条に基づき算定したものとして,本件実行期間における本件各物件に係る売上額の合計6億8957万3283円(契約金額の増額分及び消費税相当分を含む金額である。)に100分の3を乗じて得た額から1万円未満の端数を切り捨てた2068万円をもって課徴金の額とした。
2 争点
⑴ 原告が本件各物件について本件基本合意に基づく受注調整を経て受注したか(独占禁止法7条の2第1項所定の「当該…役務」該当性に関する実質的な証拠の有無)。
(原告の主張)
ア 本案審決で本件基本合意が認定されているからといって,本件審決が本件基本合意により一律に具体的な競争制限効果が発生したと推認することは不当であり,本件各物件について本件基本合意に基づく受注調整により具体的な競争制限があったか否かを問わなければならない。原告は,TST親交会等の会員ではあったが,本件基本合意を認識しておらず,本件各物件について,本件基本合意は機能しなかった。また,原告らは,独自に積算し入札に参加したのであり,各入札者が独自に積算し入札に臨んでいたことは自由競争があったことを示す重要な点である。そして,落札者に継続性,関連性,地域性があることは,本件基本合意に基づく受注調整の根拠にはならない。本件審決は,各社の入札記録等において「最低より0万円下げ」等と記載されている点を受注調整行為を認定する根拠としているが,失当である。入札物件において,1社でも,105社以外の者(以下「アウトサイダー」という。)がいれば,具体的な競争制限効果など挙げられず,現実にアウトサイダーと意思を通じていなければ競争制限したことにはならない。
本件各物件について,原告が本件基本合意に基づいて受注調整したこと又はTST親交会等の会長ないし地区役員に受注希望を表明し,研究会の開催等により受注調整がされ,受注予定者が決定され,本件基本合意が実施されたことについて実質的な証拠はない。そして,本件各物件については,後記イからオまでのとおり,本件基本合意に基づく受注調整等は存在しなかったというべきである。
イ 物件34について
本件審決は,細川の供述調書(査共5)を根拠としているが,原告において,建築工事の営業を担当していたのは原告代表者であって細川ではなかった上,細川は,原告を退職後,競争会社である菱和建設株式会社(以下「菱和建設」という。)に就職しており,細川は,入札調書の落札業者を受注予定者であったと述べたにすぎず,細川の供述は,信用できない。また,本件審決は,千田工業株式会社(以下「千田工業」という。)の千田三義(以下「千田」という。)の供述調書(査共6)を根拠としているところ,物件34について,千田は原告に継続性があった旨供述するが,千田工業等が以前に施工しており,千田工業が一番近い位置にあったのであり,千田は,入札調書の落札業者を受注予定者であったと述べたにすぎず,千田の供述は信用できない。
物件34では,入札参加業者が11社であるところ,アウトサイダーが5社も入札に参加しており,具体的に競争制限効果が発生したと認めることはできない。
条件付一般競争入札では,設計金額(予定価格)が公表されており,本件基本合意に基づく受注調整が行われたならば,原告の落札率(入札価格の予定価格に対する割合をいう。以下同じ。)は100パーセントに近い価格になったはずであるが,物件34の原告の落札率は,96.89パーセントであり,本件基本合意に基づく受注調整が行われていなかったことを示している。
ウ 物件88について
(ア)原告は,物件88の入札が行われた平成15年5月23日以前にTST親交会等を脱退しており,本件基本合意の拘束を受ける立場になかった。実際,株式会社匠建設(以下「匠建設」という。)が落札した物件101(県営長谷堂アパート(5号棟)建設(建築)工事)(平成15年8月6日に入札実施)と物件103(県営長谷堂アパート(6号棟)建設(建築)工事)(同年9月19日に入札実施)は,両物件とも,県営長谷堂アパートの物件で,入札の方法が条件付一般競争入札であり,入札参加事業者もほぼ同じであるところ,異なるのは,物件101における匠建設の入札率(入札方法が条件付一般競争入札の場合は,入札価格の設計金額に対する割合をいう。以下同じ。)が95パーセントであったのに対して物件103における匠建設の入札率が88パーセントであったこと及び物件103の入札参加者に原告が加わっていたことである。両物件とも本件基本合意に基づく受注調整が行われていたとすれば,両物件の入札率の大きな違いを説明することが困難であり,実際は,物件103は,TST親交会等を脱退していた原告が,入札に参加していたため,落札できないことを恐れた匠建設が,調査基準価格に近い88パーセントの価格で入札したのであり,この点から,匠建設と原告との間には競争関係にあったといえる。また,平成15年10月7日に原告も参加して入札が行われ,樋下建設株式会社(以下「樋下建設」という。)が落札した物件108(県営内丸駐車場整備工事)について,本件審決は,本件基本合意に基づく受注調整が行われなかった物件(以下「フリー物件」という。)であるとして,課徴金の納付を命じておらず,この点からも,原告が本件基本合意に基づく受注調整に参加していないことは明らかである。
本件審決は,佐々木の供述調書(査共4)を根拠としているが,佐々木は,物件88の入札当時,原告の北上支店長にすぎず,営業業務全般の責任者であったことはなく,佐々木は,審査官から入札調書を見せられて,そこに記載されている落札者が受注予定者であったと述べたにすぎず,佐々木の供述は信用できない。条件付一般競争入札では,設計金額(予定価格)が公表されており,本件基本合意に基づく受注調整が行われたならば,原告の落札率は100パーセントに近い価格になったはずであるが,物件88の原告の落札率は,97.30パーセントであり,この落札率は,本件基本合意に基づく受注調整が行われていなかったことを示している。
(イ)物件88はJV対象物件であり,平野組,原告及び橘建設のJVが落札したところ,原告はJVの子にすぎず,何ら入札に関与すべき立場になく,入札価格の判断,決定は,JVの代表者である平野組が行っていたものである。そもそも平野組が本件基本合意に基づく受注調整をしていたことを証する証拠はない上,JVの子にすぎない原告に課徴金を課すことは極めて不当である。
エ 物件114について
本件審決は,佐々木の供述調書(査共4)を根拠としているが,前記ウのとおり,佐々木の供述は信用できない。
物件114の入札参加者には菱和建設がいるところ,本件審決は,菱和建設が入札参加した他の物件については,菱和建設の引合カードの記載を受注調整の証拠としているところ,引合カード等が受注調整の証拠となるものではないが,その点を措くとしても,物件114については,受注調整されていれば当然存在するはずの菱和建設の引合カードが証拠提出されておらず,このことは,物件114については受注調整がなかったことを示す重要な事実である。また,菱和建設は,物件91について,本件基本合意に基づく受注調整がなかったとして,課徴金の納付を命じられておらず,原告と菱和建設との間で受注調整がされたとは考えられない。
本件審決は,物件114について,3回入札が実施されたが,3回とも原告が入札参加者の中で最も低い価格であったことを指摘しているが,少額の改修工事で他社が以前に施工した物件である場合,施工内容が把握できないため,以前に施工した事業者以外の者が進んで受注することはなく,複数回の入札において前回の最低価格入札者が再び最低価格入札者となるのは極めて自然なことであり,この事実をもって,物件114について受注調整があったとは認められない。
物件114は,入札価格が3回目の入札においても予定価格に達せず,随意契約物件となり,その結果,原告が岩手県との間で契約を締結したもので,本件基本合意に基づく受注調整の結果として契約を締結したものではなく,対価関係にないことは明らかであり,これに対して,課徴金の納付を命ずるのは極めて不当である。
指名競争入札では,条件付一般競争入札と異なり,設計金額(予定価格)が公表されていないが,物件114は請負金額が1億円以下の物件であり,各指名業者が積算した価格から,予定価格を予想できるものである。物件114に係る原告と岩手県との随意契約の金額の予定価格に対する割合は,結果的に,98.47パーセントになったが,本件基本合意に基づく受注調整が行われていたならば,予定価格の100パーセントに近い価格で入札したはずである。物件114に係る上記割合が結果として98.47パーセントであることは,本件基本合意に基づく受注調整が行われていなかったことを示している。
オ 物件125について
本件審決は,佐々木の供述調書(査共4)を根拠としているが,前記ウのとおり,佐々木の供述は信用できない。
本件審決は,菱和建設の引合カード(査C6)を根拠とするが,査C6をみれば,2回目と3回目の記載は,入札後に結果の記録として記載したものである。受注調整があれば,1回目で終了した入札後に,わざわざ自社の入札価格に加え,2回目の欄に743万円,3回目の欄に710万円と記載する必要はない。この記載は,入札結果の記録として,落札できなかった案件についても,自社の1回目の入札価格と2回目以降の方針を一体のものとして自社が入札に臨んだいわば読みを記録し,事後的に自社の方針の妥当性を確認し,今後の参考にするためのものであったとしかみることができず,まさに受注調整がなかったことを示す記載というべきである。また,菱和建設は,物件91について,本件基本合意に基づく受注調整がなかったとして,課徴金の納付を命じられておらず,原告と菱和建設との間で受注調整がされたとは考えられない。  
指名競争入札では,条件付一般競争入札と異なり,設計金額(予定価格)が公表されていないが,物件125は請負金額が1億円以下の物件であり,各指名業者が積算した価格から,予定価格を予想できるものである。原告の物件125の落札率は,90.15パーセントになっており,本件基本合意に基づく受注調整が行われていたならば,予定価格の100パーセントに近い価格で入札したはずである。物件125の原告の落札率が90.15パーセントであることは,本件基本合意に基づく受注調整が行われていなかったことを示している。
(被告の主張)
ア 原告は,本件違反行為の存在を認定した本案審決についてるる論難するとともに,原告はTST親交会等の会員であったが本件基本合意を認識していなかったとして本件違反行為の存否を争っているが,本件訴訟において原告が重ねて本件違反行為の不存在等を主張することは許されない。また,原告は,原告らが独自に積算し入札に参加し,各入札者が積算し入札に臨んでいたことは自由競争があったことを示す重要な点であると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない上,仮に原告が受注予定者として独自に積算し入札に参加したとしても,一般に独自の積算をした上で受注調整を行うことは考えられるのであって,これをもって,受注調整を否定する事情とはいえない。そして,本件審決は,継続性等の存否のみをもって個別物件における受注調整の存否等を判断しているわけではない。さらに,基本合意の当事者間で受注予定者が決定された物件については,アウトサイダーが入札に参加した場合でも,特段の事情がない限り,競争単位の減少により具体的な競争制限効果が発生したということができ,本件各物件については,アウトサイダーの参加の状況等に照らすと,上記特段の事情があるということはできない。
本件基本合意は,岩手県発注の特定建築工事の全物件を受注調整の対象とするものであったと推認されるから,岩手県発注の特定建築工事であり,かつ,105社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,特段の事情のない限り,本件基本合意に基づいて受注予定者が決定され,具体的な競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。また,本件各物件については,後記イからオまでのとおり,本件基本合意に基づく受注調整により原告が受注予定者に決定され受注したことが認められる。
イ 物件34について
物件34について,本件基本合意に基づく受注調整により原告が受注予定者に決定され,受注したことが認められることは,本件審決が認定したとおりである。
細川の原告の配属先の推移等が記されている社員台帳(審C4の2)には,細川が営業本部に所属していたことを示す記載はあるものの,土木工事の担当だったことを示す記載はなく,細川が土木工事の営業担当であったという原告代表者の供述は客観的裏付けを欠く上,TST親交会等における受注調整は,事業者の適法な業務ではなく,通常の業務とは別の体制で行うことも考えられるから,仮に,原告の細川の担当が土木工事の営業であったとしても,担当の違う建築工事の受注調整を行うことが格別不自然とはいえない。また,細川がTST親交会等の副幹事長であったこと,吉武建設株式会社の吉田悦子(以下「吉武建設の吉田」という。)が平成11年10月19日に入札が行われた建築工事について,価格連絡をした他社の営業者を列挙し,その中で原告の担当が細川であると供述していること(査共22)に照らせば,原告代表者の供述は採用できない。
原告は,千田の供述が信用できないと主張するが,理由がない。
基本合意の当事者間で受注予定者が決定された物件について,アウトサイダーが入札に参加した場合でも,特段の事情がない限り,競争単位の減少により具体的な競争制限効果が発生したということができ,アウトサイダーが結果として競争的な行動を取っていない場合にアウトサイダーの存在のみをもって上記特段の事情があるということはできない。
ウ 物件88について
(ア)物件88について,本件基本合意に基づく受注調整により平野組,原告及び橘建設のJVが受注予定者に決定され,受注したことが認められることは,本件審決が認定したとおりである。
原告は,物件88の入札が行われた平成15年5月23日以前にTST親交会等を脱退しており,本件基本合意の拘束を受ける立場になかった旨主張しているが,本件審決は,原告が遅くとも平成15年10月1日以降はTST親交会等の会員であったことは動かし難いとしたもので,同日以前にTST親交会等の会員ではなかったと認定しているのではない。原告は,原告がTST親交会等から脱退した根拠として,匠建設が落札した物件101と物件103について,物件101における匠建設の入札率が95パーセントであるのに対して物件103における匠建設の入札率が88パーセントになっているのは,匠建設と原告が競争関係にあったからである旨主張するが,佐々木は,物件103について,入札前に匠建設が受注予定者になっていたと認識し,匠建設が継続性を有することを尊重して応札した旨供述しており(査共4),物件103の入札率如何にかかわらず,物件103について匠建設と原告が競争関係にあったとは認められない。また,原告は,原告がTST親交会等から脱退した根拠として,原告も参加して入札が行われ,樋下建設が落札した物件108がフリー物件であることを主張するが,物件108がフリー物件である可能性があるからといって,原告がTST親交会等から脱退していた根拠にはならない。かえって,平成15年8月8日に入札が行われた物件102(県営松園東アパート(12号棟)ライフアップ・リフレッシュ建築工事)についてみると,落札者である東野建設工業株式会社(以下「東野建設工業」という。)の吉田耕二(査共2,100)及び佐々木(査共4)が本件基本合意に基づく受注調整が行われた旨供述し,また,佐々木,樋下建設の竹鼻義徳及び東野建設工業の阿部正昭の各手帳及び東野建設工業のカレンダー(査共102から105まで)には,同月4日午後1時30分から物件102に関する研究会を開催する旨の記載があり,さらに,原告の同年7月22日付け指名競争入札通知書に「①80,300,000」「②最低札より100万円以内引」という記載や入札参加者名の記載等があり(査共106),原告がTST親交会等の会員と本件基本合意に基づく受注調整をしていたことは証拠上明らかである。
原告は,佐々木の供述が信用できないと主張するが,理由がない。
(イ)物件88はJV対象物件であり,落札した平野組,原告及び橘建設のJVの代表者は平野組であったが,原告は,本件基本合意に参加していた者であるところ,物件88は,本件基本合意に基づき受注調整が行われ,受注予定者となった同JVが受注したことで具体的な競争制限効果が生じ,課徴金の対象となるものであるから,原告が直接受注調整を行わなかったとしても,課徴金の納付義務を負う。共同企業体方式によって請負契約が締結された場合においては,各構成員が現実に取得する代金は,JV比率で按分した額ないし共同企業体内部で取り決めた各構成員の請負代金取得額になるところ,課徴金制度の趣旨は,違反行為による不当な経済的利得を違反行為をした事業者から奪うことによって社会的公正を確保するととともに,違反行為の抑止を図り,不当な取引制限禁止の実効性を確保することにあるから,共同企業体方式請負契約が締結された場合に課徴金を算定するに当たっては,請負代金額全体をJV比率で按分した額ないし共同企業体内部で取り決めた各構成員の請負代金取得額をもって各構成員の売上額とするのが相当である。
エ 物件114について
物件114について,本件基本合意に基づく受注調整により原告が受注予定者に決定され,受注したことが認められることは,本件審決が認定したとおりである。
原告は,佐々木の供述が信用できないと主張するが,理由がない。
菱和建設が入札に参加した認定物件の全てに菱和建設の引合カードが証拠提出されたわけではなく,物件114について菱和建設の引合カードが証拠提出されていないからといって受注調整が行われなかったとはいえない。また,物件91がフリー物件になった可能性があるからといって,原告が入札に参加した他の物件について,原告と菱和建設が本件基本合意に基づく受注調整を行っていないことにはならない。
原告は,物件114の入札において3回とも最も低い入札価格であったのであり,このことは受注調整の根拠となる。そして,原告が物件114の受注予定者であったと認められるのであり,原告は,他の入札参加者の協力を得ることで,1番札の立場を継続し,最終的に岩手県との間で物件114の受注契約を締結する機会を得たのであるから,物件114について受注調整による具体的な競争制限効果が生じたといえる。
オ 物件125について
物件125について,本件基本合意に基づく受注調整により原告が受注予定者に決定され,受注したことが認められることは,本件審決が認定したとおりである。
原告は,佐々木の供述が信用できないと主張するが,理由がない。
物件125について作成された菱和建設の引合カードと題する綴り(査C6)には,物件125における同社の3回分の入札価格がそれぞれ具体的金額で記載されており,本件基本合意に基づく価格連絡が行われたことを推認させるものといえる。
⑵ 物件34,88及び125(以下「本件3物件」という。)に係る契約金額の増額分が課徴金の算定の基礎に含まれるか。
(原告の主張)
本件3物件については,岩手県から原告に対し,当初の工事とは別の新たな変更・追加工事が発注され,契約金額が増額変更されたものであり,この増額変更は,岩手県が直接,当初契約を締結した事業者との間で合意したもので,本件違反行為の結果とみることはできず,課徴金の算定対象とすべきではない。契約金額の増額変更は,当初の工事とは別の新たな変更・追加工事による増額変更である。契約金額の増加分は,本件基本合意に基づく受注調整による落札額と対価関係にはなく,擬制される経済的利得の対象となるものではない。
(被告の主張)
当該役務に該当する工事について実行期間内に契約金額が変更された場合には,違反行為の実行期間中の事業活動の結果を反映させることを図る独占禁止法施行令6条の趣旨に照らし,変更後の契約金額をもって,契約により定められた対価の額に該当すると解すべきである。また,本件3物件の契約の変更について,原告と岩手県の間で協議がされていることは認められるものの,当初の工事があって初めて発注されたものであって,当初の工事と一体となるものと認められるので,当初の工事の変更に係る契約金額に本件違反行為の効果が及んでいるといえ,本件3物件における変更に係る契約金額は,全てが課徴金の算定の基礎となる売上額に含まれる。
⑶ 本件各物件に係る消費税相当額が課徴金の算定の基礎に含まれるか。
(原告の主張)
消費税は,商品,役務等の消費者の消費に対して課税され,その商品等の提供を行った事業者が徴収・納税する間接税であり,商品,役務等の「対価」ということはできず,また,岩手県の入札は税抜き価格で行われており,会計上,消費税は,預り金,負債とされ,売上げに含まれず,役務等の対価の一部として社会に認識されているわけではない。このような消費税は,本件基本合意に基づく受注調整による落札額と対価関係にはなく,擬制される経済的利得の対象とならず,消費税に対して課徴金を課すのは不当である。
(被告の主張)
消費税法は,役務の提供を行った事業者を消費税の納税義務者としており(消費税法2条1項,5条1項),役務の提供を受ける側は消費税相当額を経済的に転嫁されて負担する立場にとどまり,法的には納税義務者ではなく,役務の受益者が支払う消費税相当額は請負等の代金相当額の金員と同一の法的性質を有する金員として一体的に事業者に支払われ,事業者が,当該受益者から受領した金員の中から,自らの義務として消費税を納付することが予定されているのである。したがって,消費税相当額は,法的には役務に対する対価の一部であり,また,当該役務の対価の一部を構成するものとして社会的に認識されており,このように,消費税相当額は,法的にも社会通念上も役務に対する対価の一部であるといえるから,独占禁止法7条の2第1項の「売上額」に含まれると解すべきである。また,本件各物件の入札は,消費税抜きの価格で行われていても,本件各物件の工事請負契約は,請負代金額に消費税を含めて締結されている。したがって,本件各物件に係る消費税相当額は,課徴金の算定の基礎となる売上額に含まれる。
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴について
⑴ 本件違反行為は,独占禁止法7条の2第1項所定の「役務の対価に係るもの」に当たるものであるところ,同項所定の課徴金の対象となる「当該…役務」とは,本件においては,本件基本合意の対象とされた工事であって,本件基本合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。
ところで,本件基本合意の存在及び内容は,前記第2の1⑷のとおりであるところ,本件基本合意の対象となる岩手県発注の特定建築工事の時期,地域,発注方法等について特に限定されていない(査共38,164等)。また,前記第2の1⑸のとおり,平成13年4月1日から平成16年10月25日までの間,TST親交会等の会員であった105社が,岩手県発注の特定建築工事の133物件中,118物件を受注した。TST親交会等が,会員間の親睦を深めつつ,岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落の防止及び受注機会の均等化を図ることを目的として結成され,会員間で受注の確率を高めるために本件基本合意をし,本件基本合意に基づき,臨時役員会や「研究会」等の会合による協議や電話連絡の方法を使用することにより,継続的に受注調整を行ってきたことはTST親交会等の会長であった稲垣の供述(査共40,158,159)及びTST親交会等の会員である多数の会社の役員や従業員の供述(査共2から6まで,20から37まで,41,84,97,100,160,165,166)によって認めることができる。これらの供述は,その内容が具体的で相互に整合しており,特に信用性を疑うべき事情も見当たらず,他の多くの証拠(査共58,64,65,82,83,87,96,106,108,111,112,127,137から157まで,査C7から9まで等)で補強されている。そして,前記第2の1⑴のとおり,原告は,トラスト・メンバーズ設立時の会員であったこと,TST親交会等の会長は,トラスト・メンバーズ設立時に原告の取締役であった稲垣が就任し,原告退職後も継続して務めていたこと,原告の従業員であった細川が原告を退職するまでトラスト・メンバーズの副幹事長を務めていたこと,少なくとも,平成15年度及び平成16年度の会員名簿には,原告の常務取締役の佐々木が記載されていることが認められる。確かに,原告は,平成14年4月に再生手続開始の申立てをし,同年12月に再生計画の認可の決定を受け,同年2月27日の入札に参加してから同年12月26日の入札に参加するまでの間の岩手県発注の特定建築工事の入札に参加しなかったことが認められるが,これを契機にTST親交会等を脱退するなどした形跡は見当たらず,佐々木の供述(査共4)等に照らせば,原告は,上記入札に参加しなかった期間はともかく,TST親交会等設立時から解散まで,その会員として活動していたと認めるのが相当である。なお,原告は,本件基本合意を認識していなかった旨主張しているが,前記第2の1⑶のとおり,被告は,本案審決に基づき,本件違反行為に関し,課徴金納付命令を発し,同命令に係る審判手続を経た上で本件審決をしているところ,原告は,本案審決に係る審判手続において本件違反行為の存在を争い,被告は,原告の主張立証を踏まえて本件違反行為の存在を認定して本案審決をし,本案審決は確定しているのであるから,このような場合には,原告が本件基本合意を含む本件違反行為の存在について,その認識を欠くなどとして争うことは許されず(平成17年法律第35号による改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律59条2項参照),原告の主張は失当である。 
以上に照らすと,入札の対象物件が本件基本合意の対象となり得る岩手県発注の特定建築工事である場合には,当該物件が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情のない限り,本件基本合意に基づく受注調整がされ,具体的な競争制限効果が発生したと推認するのが相当であり,このような推認の下では,独占禁止法7条の2第1項所定の「当該…役務」の該当性を認めるために,必ずしも本件基本合意に基づき受注予定者が決定されるに至った具体的経緯が明らかにされることや,当該物件につき受注調整がされたことを裏付ける直接証拠が存在することを要しないというべきであり,これに反する原告の主張は採用することができない。
そこで,以下,本件各物件が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情があるかについて,本件各物件ごとに検討する。
⑵ 物件34について
物件34について,細川は,原告に継続性があるとして,稲垣に対し,受注希望を表明し,稲垣から受注予定者となった旨の連絡を受け,他の入札参加者に入札価格を連絡し,当該価格以上の価格で応札してもらうことで,原告が確実に受注することができた物件である旨供述し(査共5),また,千田は,原告に継続性があり受注予定者となり,価格連絡を受け応札に協力することによって,受注予定者である原告が確実に受注できた旨供述している(査共6)。そして,原告は,別紙2-1のとおり,物件34を設計金額の96.85パーセントに相当する価格で入札して受注した。
以上によれば,物件34が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情はなく,むしろ,前記⑴の推認を補強する事情が認められる。
これに対し,原告は,細川は建築工事の営業を担当しておらず,細川の供述は信用できない旨主張するが,細川はTST親交会等の副幹事長であった上,吉武建設の吉田は,平成11年10月当時ではあるが,原告の営業者の担当が細川である旨供述しており(査共22),原告の主張は採用できない。そのほか,原告は,細川及び千田の各供述が信用できない旨主張するが,両者の供述に特段不自然不合理な点は見当たらず,また,上記認定に反する原告代表者の供述(審C1,2,原告代表者の審訊調書)は採用できない。そして,物件34では,入札参加業者が11社でアウトサイダーが5社入札に参加しているが,当該アウトサイダーが競争的な行動を取ったとはうかがわれず,上記アウトサイダーの入札参加は,上記判断に影響しない。
⑶ 物件88
ア 原告は,物件88の入札が行われた平成15年5月23日以前にTST親交会等を脱退していた旨主張するが,前記⑴のとおり,原告は,TST親交会等設立時から解散まで,その会員として活動していたと認めるのが相当であり,物件88の入札が行われた平成15年5月23日においても,本件基本合意の下に受注調整等を行い得る立場にあったといえる。そして,現に,その直前の同年7月22日付けの原告宛ての指名競争入札通知書には,「①80,300,000」「②最低札より100万円以内引」という記載や入札参加者名の記載等があり(査共106),その当時,原告がTST親交会等の会員と本件基本合意に基づく受注調整をしていたことがうかがわれる。なお,原告は,匠建設が落札した物件101及び物件103について,物件101における匠建設の入札率が95パーセントで,物件103における匠建設の入札率が88パーセントであることを根拠に,物件103において,匠建設と原告が競争関係にあった旨主張するが,佐々木は,物件103について,匠建設に継続性があり,匠建設が受注予定者となり,原告はこれを尊重して応札した旨供述しており(査共4),上記入札率の違いをもって,原告がTST親交会等から脱退していたと認めることはできない。また,原告は,物件108がフリー物件であり,原告が本件基本合意に基づく受注調整に参加していない旨主張するが,仮に物件108がフリー物件であったとしても,このことから直ちに原告がTST親交会等から脱退していたと認めることはできない。
他方,物件88について,佐々木は,原告に継続性があり,橘建設に継続性及び地域性があり,入札に参加したJVのうち平野組,原告及び橘建設のJVのみが継続性や地域性を有していたことから,同JVが受注予定者となり,他のJVの協力を得て受注することができた旨供述し(査共4),また,吉武建設の吉田は,原告に継続性があり,平野組,原告及び橘建設のJVが受注予定者となり,他のJVの協力を得て受注した旨供述している(査共22)。そして,平野組,原告及び橘建設のJVは,別紙2-2のとおり,物件88を設計金額の97.24パーセントに相当する価格で入札して受注した。
以上によれば,物件88が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情はなく,むしろ,前記⑴の推認を補強する事情が認められる。
これに対し,原告は,佐々木の供述が信用できない旨主張するが,その供述に特段不自然不合理な点は見当たらず,また,上記認定に反する原告代表者の供述(審C1,2,原告代表者の審訊調書)は採用できない。
イ 原告は,JV対象物件である物件88の入札価格の判断,決定は,平野組,原告及び橘建設のJVの代表者である平野組が行ったものであり,JVの子にすぎない原告に課徴金を課すことは極めて不当である旨主張する。しかし,課徴金制度の趣旨は,違反行為による不当な経済的利得を違反行為をした事業者から奪うことによって社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,不当な取引制限禁止の実効性を確保することにあるから,共同企業体方式で請負契約が締結された場合に課徴金を算定するに当たっては,契約金額にJV出資比率を乗じた額等をもってJVの各構成員の「売上額」とするのが相当というべきであり,物件88について,原告が直接受注調整等を行わなかったとしても,原告は,物件88の契約金額にJV出資比率を乗じた額の課徴金を納付すべき義務を負うべきである。
⑷ 物件114について
佐々木は,物件114について,原告に継続性があり,他社から尊重してもらい,受注予定者となった旨供述している(査共4)。また,物件114において,別紙2-3のとおり,3回の入札が実施されたが,いずれも原告の入札価格が入札に参加した9社の中で最も低かった。そして,入札価格が,予定価格を下回らなかったため,原告と岩手県との随意契約に移り,原告が予定価格の98.47パーセントに相当する価格で受注した。
以上に照らせば,物件114が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情はなく,むしろ,前記⑴の推認を補強する事情が認められる。なお,物件114については,原告は,最終的には随意契約で受注しているが,原告が受注できたのは,本件基本合意に基づく受注調整の結果,原告が最も低い入札価格で入札していたからであって,入札手続から随意契約に移行しているとはいえ,これにより具体的な競争制限効果が生じているのであって,原告は物件114についても課徴金を納付すべきことになる。
これに対し,原告は,佐々木の供述が信用できない旨主張するが,その供述に特段不自然不合理な点は見当たらず,また,上記認定に反する原告代表者の供述(審C1,2,原告代表者の審訊調書)は採用できない。そのほか,原告は,物件114について,入札に参加した菱和建設の引合カードが証拠提出されていないことは受注調整がなかったことを示す重要な事実である旨主張するが,審判手続において菱和建設が入札に参加した認定物件の全てに関して同社の引合カードが証拠提出されたわけではないことがうかがわれ,これが審判手続において証拠提出されなかったことが直ちには上記認定に影響しないし,また,原告は,菱和建設が物件91について本件基本合意に基づく受注調整がなかったとして課徴金の納付を命じられておらず,原告と菱和建設との間で受注調整がされたとは考えられないと主張するが,仮に物件91がフリー物件であったとしても,物件114に関する上記認定に影響しない。
⑸ 物件125について
佐々木は,物件125について,原告に継続性があり,他社から尊重してもらい,受注予定者となった旨供述している(査共4)。また,菱和建設から留置された引合カードには,物件125に係る同社の3回分の入札価格がそれぞれ具体的金額で記載されており(査C6),物件125について本件基本合意に基づく価格連絡が行われていたことをうかがわせる。そして,原告は,別紙2-4のとおり,物件125を予定価格の90.15パーセントに相当する価格で入札して受注した。
以上によれば,物件125が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情はなく,むしろ,前記⑴の推認を補強する事情が認められる。
これに対し,原告は,佐々木の供述が信用できない旨主張するが,その供述に特段不自然不合理な点は見当たらず,また,上記認定に反する原告代表者の供述(審C1,2,原告代表者の審訊調書)は採用できない。また,原告は,菱和建設が物件91について本件基本合意に基づく受注調整がなかったとして課徴金の納付が命じられておらず,原告と菱和建設との間で受注調整がされたとは考えられないと主張するが,仮に物件91がフリー物件であったとしても,物件125に関する上記認定に影響しない。
⑹ 以上によれば,本件各物件が本件基本合意に基づく受注調整の対象から除外されたと認めるに足りる特段の事情はなく,本件各物件について,前記⑴の推認を補強する事情が認められる。そうすると,本件審決が,本件各物件について,本件基本合意に基づく受注調整がされ,具体的な競争制限効果が発生したと認定したことは,いずれも実質的な証拠に基づく合理的な認定であるから,本件各物件は,独占禁止法7条の2第1項所定の「当該…役務」に該当するというべきである。
2 争点⑵について
原告は,本件3物件については,岩手県から原告に対し,当初の工事とは別の新たな変更・追加工事が発注され,契約金額が増額変更されたものであり,この増額変更は,岩手県が直接,当初契約を締結した事業者との間で合意したもので,本件違反行為の結果とみることはできず,課徴金の算定対象とすべきではない旨主張する。
しかし,前記第2の1⑹ア(ア),(イ)及び(エ)の事実並びに査C1,2及び4の県営建設工事請負変更契約書又は建設工事請負契約変更請書の記載内容によれば,本件3物件について,契約金額の増額に係る工事は,当初の工事受注から数か月から1年以内に合意され,設計内容について変更された設計図書又は仕様書が作成されていると認められるが,増額された金額が当初の契約金額に比較すれば高額とまではいえず,工事名,工事完成期限等は当初の契約と同じであり,当初の工事を前提としてこれと一体を成すものと認められるから,増額変更部分にも本件違反行為の効果が及んでいるというべきである。
3 争点⑶について
原告は,消費税は,本件基本合意に基づく受注調整による落札額と対価関係にはなく,擬制される経済的利得の対象とならず,消費税に対して課徴金を課すのは不当である旨主張する。
しかし,消費税相当額は,独占禁止法7条の2第1項にいう「売上額」に含まれると解するのが相当であり,本件審決が,課徴金の計算の基礎となる売上額を算定する際に消費税相当額を控除しなかったことは違法とはいえない(最高裁平成10年10月13日第三小法廷判決・集民190号1頁参照)。
4 結論
以上によれば,本件審決について,原告の主張する取消事由は存在せず,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成26年11月21日

裁判長裁判官 髙野伸
裁判官 塩田直也
裁判官 田辺暁志
裁判官内藤正之及び裁判官萩原秀紀は,いずれも転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官 髙野伸

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