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都タクシー(株)ほか14名に対する件

独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)

平成24年(判)第8号ないし14号,第16ないし第30号及び第32号ないし第39号

審判請求棄却審決(排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決)

被審人  審決書別紙1(被審人目録)のとおり
代理人  審決書別紙2(代理人目録)のとおり

公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官伊藤繁から提出された事件記録,規則第75条の規定により被審人らから提出された異議の申立書並びに独占禁止法第63条及び規則第77条の規定により被審人らから聴取した陳述に基づいて,同審判官から提出された別紙3審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙3審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人らに対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成27年2月27日

公 正 取 引 委 員 会

委員長  杉  本  和  行

委 員  小 田 切  宏  之

委 員  幕  田  英  雄

委 員  山  﨑     恒

委 員  山  本  和  史

別紙1 被審人目録
1 都タクシー株式会社  新潟市中央区礎町通二ノ町2142番地1  代表取締役 高橋 良樹
2 富士タクシー株式会社  新潟市東区木工新町1193番地8  代表取締役 川口 栄介
3 さくら交通株式会社  新潟市東区豊一丁目11番43号  代表取締役 三田 啓祐
4 第一タクシー株式会社  新潟市中央区上近江四丁目11番13号  代表取締役 金井 正志
5 昭和交通観光株式会社  新潟市江南区東船場五丁目3番25号  代表取締役 吉川 典雄
6 県都タクシー株式会社  新潟市中央区下所島二丁目2番12号  代表取締役 佐藤 真一
7 星山工業株式会社  新潟市中央区沼垂東六丁目1番19号  代表取締役 星山 健佑
8 株式会社小針タクシー  新潟市西区西有明町10番2号  代表取締役 横木 幸一
9 東港タクシー株式会社  新潟市北区太郎代71番地3  代表取締役 山口 道夫
10 光タクシー有限会社 新潟市西区内野町525番地  代表取締役 石川 誉士
11 株式会社NK交通  新潟市江南区亀田大月二丁目1番32号  代表取締役 田中 恵子
12 ハマタクシー株式会社  新潟市北区松浜東町二丁目4番58号  代表取締役 小林 信太郎
13 株式会社聖篭タクシー  新潟県北蒲原郡聖籠町大字網代浜904番地1  代表取締役 高橋 高一
14 都タクシー株式会社  新潟市北区白新町一丁目9番6号  代表取締役 高橋 良樹
15 有限会社東重機運輸  新潟市東区一日市1番地2  代表取締役 飯田 嘉昭

別紙2 代理人目録
被審人ら代理人弁護士  飯 村   北
同           宮 塚   久
同           廣 田 雄一郎
同           浦 野 祐 介
同           川 村 興 平
同           曽根原   稔
同           福 嶋 美 里
同           纐 纈 岳 志

別紙3
平成24年(判)第8号ないし第14号,第16号ないし第30号及び第32号ないし第39号

審   決   案

被審人  別紙1(被審人目録)のとおり
代理人  別紙2(代理人目録)のとおり

上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
別紙3のとおり
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実。以下,文中に定義が付されていない用語については別紙4記載の定義による。)
公正取引委員会は,被審人らを含む26社(別紙1及び別紙5記載の事業者であり,以下「26社」という。)が,共同して,小型車,中型車,大型車及び特定大型車の距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び待料金(以下「特定タクシー運賃」という。)を平成21年10月1日付けで改定された新潟交通圏に係る自動認可運賃(以下「新自動認可運賃」という。)における一定の運賃区分として定められているタクシー運賃とし,かつ,小型車については初乗距離短縮運賃を設定しないこととする旨を合意(以下「本件合意」という。)することにより,公共の利益に反して,新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,同法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,平成23年12月21日,26社のうち株式会社三洋タクシーを除く25社に対し,排除措置及び課徴金の納付を命じ(以下,同排除措置命令を「本件排除措置命令」,同命令中で認定された不当な取引制限に該当する行為を「本件違反行為」といい,上記25社に対する同課徴金納付命令をまとめて「本件課徴金納付命令」という。),この排除措置命令書及び課徴金納付命令書の謄本は,同月22日,それぞれ上記25社に対して送達された。
これに対して,被審人らは,平成24年2月17日,それぞれ,当該被審人に対する本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消しを求めて本件審判請求をした。
なお,東新タクシー株式会社(以下「東新タクシー」という。)は,被審人らとともに審判請求を行ったが,本件審判手続中の平成24年9月12日付けで破産手続開始決定を受け,その破産管財人が同年12月19日に審判手続を受継したものの,平成25年10月15日に全ての審判請求を取り下げ,これにより東新タクシーに対する本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令は確定した。
また,上記25社のうち被審人ら及び東新タクシー以外の者は審判請求を行わず,これらの者に対する本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令は確定した。
第3 前提となる事実(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。また,時期を明示していない事実は,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令発出時点までの事実である。)
1 新潟交通圏においてタクシー事業を営む者(以下,タクシー事業を営む事業者を「タクシー事業者」という。)
(1) 法人タクシー事業者(以下「法人タクシー」という。)
ア 被審人ら(以下,別紙1の「被審人」欄記載の略称を用いる。)
被審人都タクシー,被審人富士タクシー,被審人さくら交通,被審人第一タクシー,被審人昭和交通観光,被審人県都タクシー,被審人星山工業,被審人小針タクシー,被審人東港タクシー,被審人光タクシー,被審人NK交通,被審人ハマタクシー,被審人聖篭タクシー,被審人都タクシー(豊栄)及び被審人東重機運輸は,それぞれ,別紙1の各被審人に係る「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,道路運送法の規定に基づき国土交通省北陸信越運輸局長(以下「北陸信越運輸局長」といい,同運輸局を「北陸信越運輸局」という。)の許可を受けている新潟交通圏におけるタクシー事業者である。
なお,被審人東重機運輸は,平成20年2月19日に事業の許可を受け,同年7月24日からタクシー事業を開始した。(査第68号証,第70号証)
イ 被審人ら以外の違反行為者(以下,別紙5の「違反行為者」欄記載の略称を用いる。)
万代タクシー,はとタクシー,四葉タクシー,三和交通,太陽交通,東新タクシー,太陽交通新潟,新潟あさひタクシー,港タクシー,コバト交通及び三洋タクシーは,それぞれ,別紙5の上記各社に係る「本店の所在地」欄記載の地に本店を置く新潟交通圏におけるタクシー事業者である。
なお,太陽交通新潟は,平成20年10月9日に事業譲受の認可を受け,同年11月21日からタクシー事業を開始した。(査第68号証,第69号証)
ウ 違反行為者以外の法人タクシー
日の出交通株式会社(以下「日の出交通」という。)は,別紙6の「本店の所在地」欄記載の地に本店を置く新潟交通圏におけるタクシー事業者である。
(2) 個人タクシー事業者(以下「個人タクシー」という。)
新潟交通圏を営業区域(後記4(1)ア参照)とする個人タクシーは,平成22年3月31日時点で404名であった。(査第41号証)
2 事業者団体等
(1) 新潟市ハイヤータクシー協会
ア 新潟市ハイヤータクシー協会(以下「市協会」という。)は,新潟交通圏に本社を有する法人タクシーを会員として設立された任意の事業者団体である。
26社及び日の出交通の27社(以下「27社」という。)は全て市協会の会員であり,27社以外に市協会の会員はいない。
イ 市協会の役員等
(ア) 市協会には,役員として会長,副会長,専務理事,理事及び監事が置かれている。市協会の会合には,全会員を構成員として毎月開催される例会,全会員を構成員として必要の都度開催される臨時例会,会長,副会長等の役員で構成される正副会長会議等がある。これらの会合には,原則として会員各社の代表取締役級の者が出席していた。
(イ) 平成19年5月に開催された市協会の総会の時点においては,被審人都タクシー代表取締役高橋良樹(以下「被審人都タクシーの高橋」あるいは単に「高橋」という。)が市協会の会長を務めていたが,同人が,上記総会において会長への再任を断ったことから,上記総会の後,市協会の会長等の役員が空席となった。この時以降,当時の市協会の専務理事佐藤正巳(以下「市協会の佐藤専務理事」という。)が市協会の会長代行を務めていたが,平成21年10月9日に開催された市協会の連絡会議(市協会の会長等が空席であった期間,例会は連絡会議と称されていた。)において,高橋が再び会長に選出された。また,この時,被審人第一タクシー代表取締役金井正志(以下「被審人第一タクシーの金井」という。),三和交通取締役小林稔(以下「三和交通の小林」という。)及び太陽交通代表取締役佐藤友紀(以下「太陽交通の佐藤」という。)が副会長に選出された。
(ウ) 市協会の会合の議長は,会長がなるとされている。(査第1号証)
会長等の役員が空席となっていた間は,市協会の佐藤専務理事が会長代行として議事進行を担っていたが,前記(イ)の連絡会議において高橋が再び会長に就任した後は,同人が議事進行を担っていた。
(2) 新潟県ハイヤー・タクシー協会
新潟県ハイヤー・タクシー協会(以下「県協会」という。)は,新潟県内に所在する法人タクシーを会員とする任意の事業者団体であり,行政機関からの情報の会員への伝達,行政機関への各種申請・届出に係る会員からの相談への対応,会員に代わっての行政機関への申請・届出書類の作成・提出等の業務を行っている。県協会は,市協会の上部団体であり,27社は,全て県協会の会員でもある。
県協会においては,新潟県長岡市(以下「長岡市」という。)に所在する旭タクシー株式会社代表取締役土屋蔵三(以下「県協会の土屋会長」という。)が会長を務め,27社の中では,被審人都タクシーの高橋が副会長,東新タクシーの当時の代表取締役である菊地晴彦(以下「東新タクシーの菊地」という。)及び被審人富士タクシー代表取締役川口栄介(以下「被審人富士タクシーの川口」という。)が理事,被審人第一タクシーの金井が監事をそれぞれ務めていた。また,県協会の事務局長は,竹谷耕作(以下「県協会の竹谷事務局長」という。)が務めていた。
(3) 個人タクシーの協同組合
新潟交通圏には,個人タクシーで組織された事業協同組合として,新潟市個人タクシー事業協同組合(以下「新潟市個人タクシー組合」という。),新潟地区個人タクシー協同組合及び新潟中央個人タクシー協同組合の3つの協同組合が存在している。このうち,新潟市個人タクシー組合には,新潟交通圏における個人タクシーの約7割が加入している。
3 一般乗用旅客自動車運送事業に関する制度の概要
(1) 一般乗用旅客自動車運送事業
一般乗用旅客自動車運送事業とは,一個の契約により道路運送法第3条第1号ロの国土交通省令で定める乗車定員未満の自動車を貸し切って旅客を運送する事業をいう(同号ハ。なお,以下,本文で引用するタクシー事業関連の法律,政令,規則,通達,公示等は,いずれも,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令発出時点までのものである。)。
一般乗用旅客自動車運送事業を営もうとする者は,道路運送法の規定に基づき,国土交通大臣の許可を受けなければならない(同法第4条第1項)。そして,上記許可を受けようとする者は,路線又は営業区域,営業所の名称及び位置,営業所ごとに配置する事業用自動車の数等に関する事業計画等を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない(同法第5条第1項第3号)。
一般乗用旅客自動車運送事業に関する道路運送法第2章(第3条ないし第43条)に規定されている国土交通大臣の権限は,一部のものを除き,地方運輸局長に委任されている(道路運送法施行令〔昭和26年政令第250号〕第1条第2項。以下,地方運輸局長への権限の委任については特に断らない。)。
(2) タクシー運賃
ア タクシー運賃の認可等
(ア) タクシー事業者は,旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除き,旅客の運賃及び料金(タクシー運賃)を定め,国土交通大臣(地方運輸局長)の認可を受けなければならず,また,これを変更しようとするときも同様とされている(道路運送法第9条の3第1項)。
なお,旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金としては,時間指定配車料金及び車両指定配車料金があり,これらの料金は国土交通大臣(地方運輸局長)に対する届出制とされている(道路運送法第9条の3第3項,道路運送法施行規則第10条の4)。
タクシー事業者がタクシー運賃の設定又は変更の認可を申請する場合には,設定又は変更しようとするタクシー運賃の種類,額及び適用方法(変更の認可申請の場合は,新旧のタクシー運賃を明示することとされている。),変更を必要とする理由等を記載した運賃及び料金設定(変更)認可申請書を国土交通大臣(地方運輸局長)に提出することとされている(道路運送法施行規則第10条の3第1項。以下,タクシー事業者が同項に基づき国土交通大臣〔地方運輸局長〕に提出する運賃及び料金変更認可申請書を「運賃変更認可申請書」といい,当該申請行為を「運賃変更認可申請」という。)。
タクシー運賃の設定又は変更の認可申請書には,原価計算書その他タクシー運賃の額の算出の基礎を記載した書類(以下「原価計算書類」という。)を添付することとされている(道路運送法施行規則第10条の3第2項)が,申請するタクシー運賃が地方運輸局長が原価計算書類の添付の必要がないと認める場合として公示したものに該当するときは,原価計算書類の一部又は全部の添付を省略することができるとされており(同条第3項),後記ウの自動認可運賃がこれに該当する。
(イ) タクシー運賃の認可の基準
国土交通大臣(地方運輸局長)は,タクシー運賃の設定又は変更の認可をしようとするときは,以下の基準によってしなければならない(道路運送法第9条の3第2項)。
① 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。
② 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと。
③ 他の一般旅客自動車運送事業者(道路運送法第3条第1号の規定による一般旅客自動車運送事業を経営する者をいう。以下同じ。)との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること。
④ タクシー運賃が対距離制による場合であって,国土交通大臣(地方運輸局長)がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること。
ただし,後記(5)アのとおり,平成21年10月1日に「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」(平成21年法律第64号。以下「タクシー特別措置法」という。)が施行されたことに伴い,同イ(エ)のとおり,同法附則第5項により,上記①の基準は,当分の間,「加えたものを超えないもの」とあるのを「加えたもの」と読み替えることとされた。
イ タクシー運賃の種類等
(ア) タクシー運賃の種類については,国土交通省自動車交通局長(平成23年7月1日以降「自動車局長」。以下同じ。)の各地方運輸局長等宛て通達(平成13年10月26日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第100号「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について」。以下「国自旅第100号通達」という。)により定められており,運賃の種類は距離制運賃(時間距離併用制運賃を含む。),時間制運賃,定額運賃とされ(同通達1.(1)),料金の種類は待料金,迎車回送料金,サービス指定予約料金及びその他の料金とされている(同通達2.)。
(イ) 距離制運賃の初乗距離は,各運賃適用地域ごとに地方運輸局長が定める距離により設定するものとされている(国自旅第100号通達1.(3)イ①。査第20号証)。
また,初乗距離を短縮する場合は,初乗距離の短縮が現行の当該運賃適用地域(運賃適用地域については後記ウ記載のとおり)において適用している初乗距離の半分程度で地方運輸局長が定めた距離により設定する場合に限るものとされている(国自旅第100号通達1.(3)イ⑤)。
ウ 自動認可運賃制度
タクシー運賃については,国土交通省自動車交通局長の各地方運輸局長等宛て通達(平成13年10月26日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第101号「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」。以下「国自旅第101号通達」という。)に基づき,運賃適用地域(需要構造,原価水準等を勘案して運賃改定手続をまとめて取り扱うことが合理的と認められる地域として地方運輸局長が定める地域をいう。以下同じ。)ごとに,一定の条件の下で初乗運賃額の上限運賃及び下限運賃を算出し,当該範囲内の初乗運賃額並びに当該初乗運賃額に対応した加算距離及び加算運賃額として設定されるタクシー運賃を自動認可運賃として設定するとともに,道路運送法施行規則第10条の3第3項の規定に基づき,タクシー運賃の設定又は変更の認可申請に当たって原価計算書類の添付の必要がないと認める場合として事前に公示するものとされている(同通達4.(1))。
なお,その詳細は,後記(6)で述べる。
(3) 緊急調整地域,特別監視地域,特定特別監視地域の指定等
ア 道路運送法の規定により,国土交通大臣(地方運輸局長)は,特定の地域においてタクシー事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって,当該供給輸送力が更に増加することにより,輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは,当該特定の地域を,期間を定めて「緊急調整地域」として指定することができる(同法第8条第1項)。
イ 国土交通省は,緊急調整地域の指定に至る事態を未然に防止するための運用上の措置として,供給過剰の兆候のある地域を「特別監視地域」に指定し,重点的な監査や行政処分の厳格化等の措置を講じるほか,特別監視地域のうち,供給拡大によりタクシー運転者の労働条件の悪化等を招く懸念がある地域を「特定特別監視地域」に指定し,タクシー運転者の労働条件の悪化や不適切な事業運営の下で行われる供給の拡大について,タクシー事業者の慎重な判断を促すための試行的な措置を講じている。これらの地域の指定要件は,国土交通省自動車交通局長通達(平成13年10月26日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第102号「緊急調整措置の発動要件等について」)により規定されている。
特定特別監視地域における具体的な措置としては,当該地域に存するタクシー事業者をその会員とする事業者の団体に対し,①利用者サービスの改善等によるタクシーの需要喚起に関する事項,②タクシー運転者の労働条件の改善に関する事項,③違法・不適切な経営の排除に関する事項,④その他必要と認められる事項を内容とするタクシー事業構造改善計画(以下「構造改善計画」という。)の作成を求めるものとされている。
(4) 道路運送法と独占禁止法の関係
道路運送法には,タクシー事業者の共同行為に関して,独占禁止法の適用を除外する旨の規定は定められていない。
(5) タクシー特別措置法
ア タクシー特別措置法の制定経緯及び目的
タクシー事業については,平成14年2月に道路運送法が改正され,需給調整規制の廃止等の規制緩和が行われた。しかし,その後,長期的な需要の減少傾向の中,タクシー車両の大幅な増加等により,タクシー事業者の収益基盤の悪化やタクシー運転者の賃金等の労働条件の悪化等の問題が生じた地域があったことから,平成20年12月18日の交通政策審議会答申「タクシー事業を巡る諸問題への対策について」において,過度な運賃競争への対策等に関する指摘が行われた。そして,この答申を受けて,タクシー車両の供給過剰によって生じるタクシー事業者の経営状況の悪化,タクシー運転者の労働条件の悪化,事故の増加等の問題を解消するための対策を講じることを目的として,平成21年6月26日にタクシー特別措置法が制定され,同年10月1日に施行された。
イ タクシー特別措置法の内容
(ア) タクシー特別措置法において,国土交通大臣は,供給過剰の進行等によりタクシー事業が地域公共交通としての機能を十分に発揮できていない地域を「特定地域」として指定し(以下,これにより指定された地域を「特定地域」という。),当該特定地域におけるタクシー事業の適正化及び活性化に関する基本方針を定めるものとされている(同法第3条,第4条)。
(イ) 特定地域においては,地方運輸局長,地方公共団体の長,タクシー事業者,タクシー運転者の組織する団体,地域住民等の地域の関係者が,当該特定地域におけるタクシー事業の適正化及び活性化の推進に関し必要な協議を行うための協議会(以下「地域協議会」という。)を組織することができる(タクシー特別措置法第8条)。
そして,地域協議会は,前記(ア)の基本方針に基づき,特定地域におけるタクシー事業の適正化及び活性化を推進するための計画(以下「地域計画」という。)を作成することができ,地域計画においては,①タクシー事業の適正化及び活性化の推進に関する基本的な方針,②地域計画の目標,③地域計画の目標を達成するために行う特定事業その他の事業等に関する事項,④上記①ないし③のほか地域計画の実施に関し地域協議会が必要と認める事項について定めるものとされている(タクシー特別措置法第9条)。
(ウ) 特定地域のタクシー事業者は,単独で又は共同して,地域計画に即して特定事業を実施するための計画(以下「特定事業計画」という。)を作成し,国土交通大臣の認定を受けることができ,特定事業計画においては,事業譲渡,合併,減車等の「事業再構築」について定めることができる(タクシー特別措置法第11条)。
国土交通大臣は,タクシー事業者が共同して行う事業再構築(以下「共同事業再構築」という。)について認定しようとする場合において,共同事業再構築を行うタクシー事業者と他の一般乗用旅客自動車運送事業者との間の適正な競争が確保されるものであることを認定の要件(タクシー特別措置法第11条第4項第4号イ)とするとともに,必要があると認めるときは,公正取引委員会に対して当該共同事業再構築がタクシー事業における競争に及ぼす影響等について意見を述べることとされ,公正取引委員会においても,必要があると認めるときは,国土交通大臣に対し,共同事業再構築に係る特定事業計画について意見を述べることとされている(同法第12条)。
(エ) 道路運送法に基づくタクシー運賃の認可の基準のうち,前記(2)ア(イ)の①の基準は,タクシー特別措置法附則第5項により,当分の間,「加えたものを超えないもの」とあるのを「加えたもの」と読み替えることとされた。このため,平成21年10月1日の同法施行後は,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」が認可の基準とされている。
この改正により,上記①の基準は,認可されるタクシー運賃の上限を画する基準から,下限を画する基準へと性格を変え,認可されるタクシー運賃の下限を画する基準は,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」(同①の基準)及び「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」(同③の基準)となった。
(オ) タクシー特別措置法には,独占禁止法の適用を除外する旨の規定は定められていない。
国土交通省の通達においては,タクシー特別措置法は,タクシー事業者が独占禁止法に違反することなく,運賃及び供給輸送力の適正化や事業の活性化等を図る仕組みを設けているものであり,独占禁止法に違反する行為を容認するものではないとされている(平成23年2月10日付け国土交通省自動車交通局長通達・国自旅第200号「タクシー事業の適正化及び活性化に係る取組みに際しての留意点について」)。
(カ) タクシー特別措置法については,成立の際に,衆議院及び参議院それぞれにおいて附帯決議がなされており,これらの附帯決議においては,政府がタクシー特別措置法の施行に当たって留意すべき点として,タクシー事業の健全な競争を図るため,同一地域同一運賃の実現が必要との意見を踏まえつつ,適切な運賃制度及びその運用を検討し,必要な措置を講じること,自動認可運賃の幅を縮小するとともに下限割れ運賃(自動認可運賃の下限運賃を下回る運賃のことをいう。以下同じ。)の審査を厳格化する措置を講じること,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対して定期的に報告を求め,その事業運営につき適切なチェックを行うこと等が指摘されている。
ウ その他
前記アのとおり,交通政策審議会答申「タクシー事業を巡る諸問題への対策について」を受けてタクシー特別措置法が制定されたものであるが,同時に,国土交通省は,上記答申の指摘を踏まえ,平成21年4月に「タクシー運賃制度研究会」を設置し,タクシー運賃の審査の在り方について検討し,前記イ(エ)のとおりタクシー特別措置法附則第5項において道路運送法の運賃認可基準の読替規定が設けられたことなどを受け,同研究会は,同年8月,「タクシー運賃の今後の審査のあり方について」と題する報告書を取りまとめた。
上記報告書においては,①地域の実情に即した自動認可運賃の幅を設定すべきこと,②下限割れ運賃の審査を慎重に行うべきこと,③下限割れ運賃を採用するタクシー事業者等に対する事後チェックを強化すべきこと(報告徴収,重点監査)等が指摘されている。
そして,上記報告書を踏まえ,国自旅第101号通達が改正され,平成21年10月1日以降に処分するものから適用されることになった。(査第15号証)
(6) 自動認可運賃制度及びタクシー特別措置法施行後の同制度の内容等
ア 前記(2)ウのとおり,タクシー運賃については,国自旅第101号通達に基づき,運賃適用地域ごとに,一定の条件の下で初乗運賃額の上限運賃及び下限運賃を算出し,当該範囲内の初乗運賃額並びに当該初乗運賃額に対応した加算距離及び加算運賃額として設定される運賃を自動認可運賃として設定するとともに,道路運送法施行規則第10条の3第3項の規定に基づき,タクシー運賃の設定又は変更の認可申請に当たって原価計算書類の添付の必要がないと認める場合として事前に公示するものとされている(同通達4.(1))。
イ 自動認可運賃は,制度導入当時,各地域における標準的,能率的な経営を行っている複数のタクシー事業者の全体の収支が償う水準の額を上限とし,全国一律で上限運賃から10パーセント下回る額を下限運賃として設定されていた。その後,平成21年10月1日にタクシー特別措置法が施行されたことを受けて,下限運賃が「地域の実情に即した額」に変更された。
ウ 自動認可運賃の上限運賃と下限運賃の範囲内には,初乗運賃額並びに当該初乗運賃額に対応した加算距離及び加算運賃額について,初乗運賃額10円ごとに,タクシー事業者が選択することのできる複数の運賃区分の自動認可運賃が設定されている(国自旅第101号通達別紙3の1(2))。
エ タクシー運賃の申請処理等
(ア) 地方運輸局長は,タクシー事業者から設定又は変更の認可申請のあったタクシー運賃が自動認可運賃に該当する場合には,道路運送法施行規則第10条の3第3項の規定に基づき,認可申請書に原価計算書類の添付を省略することを認め,また,当該認可申請に係る公示を省略するとともに,標準処理期間によることなく速やかに認可を行うものとされている(国自旅第101号通達4.(1),別紙4第2の2)。
(イ) 平成21年10月1日のタクシー特別措置法施行後に前記(ア)により新たに認可されたタクシー運賃については,その後の自動認可運賃の改定の際に,運賃変更認可申請を行わなかった結果,当該タクシー運賃が実質的に改定後の自動認可運賃の下限を下回る運賃となった場合には,その時点において認可に原則1年の期限を付すこととする旨及び自動認可運賃に該当しない運賃と同様に取り扱う旨の条件を付すこととされている(国自旅第101号通達別紙4第2の2)。
(ウ) 下限割れ運賃について
a 下限割れ運賃には,自動認可運賃の下限運賃を下回るタクシー運賃が設定された場合のほか,自動認可運賃の改定時に従来のタクシー運賃を据え置いたことにより,実質的に改定後の自動認可運賃の下限運賃を下回ることとなったものも含まれる。
b タクシー特別措置法施行後も,下限割れ運賃は否定されていない。
タクシー特別措置法施行後の下限割れ運賃の取扱いは,次のとおりである。
(a) タクシー事業者が新たに下限割れ運賃の認可を申請した場合には,原価計算書類の提出を求め,運賃認可基準に照らし個別に審査を行うことになる。
そして,平成21年10月1日のタクシー特別措置法施行後は,「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」との基準が「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」と読み替えられることとなったが,当該認可申請運賃が運賃査定額(平年度における収支率が100パーセントとなる変更後の運賃額をいう。)以上である場合は,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものとして,当該地域において不当な競争を引き起こすおそれがない限り,当該申請額で認可されることとされている(国自旅第101号通達4.(2)及び(3),別紙4第3の1,2,3(1)及び(2))。
また,平成21年10月1日のタクシー特別措置法施行後は,新たに申請された下限割れ運賃を認可するに当たり,①認可の期限は原則1年間とすること,②人件費,一般管理費,走行距離等について毎月報告すること,③関係法令違反により車両停止以上の行政処分を受けた場合には認可を取り消す場合があることを条件として付すとともに,タクシー事業者に対し,タクシー運転者の労働条件の確保のために必要な措置を講じることや,しかるべき時期にタクシー運転者の労働条件の確保の状況を公表すること等を指導することとされている(国自旅第101号通達別紙4第3の3(4))。
上記②は,前記(5)アの交通政策審議会答申において「下限割れ運賃を採用している事業者の経営実態を詳細に把握」する必要性が指摘されるとともに,タクシー特別措置法の附帯決議においても,「人件費,一般管理費,走行距離等,必要な指標につき定期的に報告を求め,その事業運営につき適切なチェックを行うこと」が指摘されたことを踏まえ,同ウのタクシー運賃制度研究会報告書において,自動認可運賃改定時にタクシー運賃を据え置いたことにより実質的に下限割れ運賃となっている従前の自動認可運賃の採用事業者等を含め下限割れ運賃を採用しているタクシー事業者に対しては,当該運賃認可後の需要への影響(増収効果),タクシー運転者の労働条件(賃金等)の変化,収支率の変化,利用者及び他事業者との混乱の有無等の検証を行う必要があると指摘されたことを受けて,平成21年9月29日に改正された国自旅第101号通達に盛り込まれたものである。(査第15号証,第25号証の4)
(b) 自動認可運賃の改定が行われた場合,従来自動認可運賃制度を利用していたタクシー事業者に対して,改定後の自動認可運賃への移行義務は課されておらず,改定後の自動認可運賃への移行を行わなかった結果,従前のタクシー運賃が改定後の自動認可運賃との関係で下限割れ運賃となる場合においても,当該タクシー運賃を適用し続けることは可能である。この場合,平成21年10月1日以降に新たに認可されたタクシー運賃がその後の自動認可運賃改定の際に実質的な下限割れ運賃となる場合(前記(イ)の場合)を除き,原則1年の認可期限が付されたり,自動認可運賃に該当しないタクシー運賃と同様に取り扱う旨の条件が付されたりすることはない。
ただし,平成21年10月1日のタクシー特別措置法施行後は,前記(a)のタクシー運賃制度研究会報告書における指摘を踏まえ,自動認可運賃改定時にタクシー運賃を据え置いたことにより実質的に下限割れ運賃となっている従前の自動認可運賃の採用事業者に対しても,人件費,一般管理費,走行距離等に関する報告を毎月求めることとなった。(査第17号証,第25号証の4)
(c) そして,平成21年10月1日のタクシー特別措置法施行後は,前記(a)若しくは(b)の報告を行わない者又は報告内容により法令違反の疑いがある者に対して巡回監査(重点事項を定めて法令遵守状況を確認するもの)が行われることとなった(平成21年9月29日付け国土交通省自動車交通局安全政策課長,同旅客課長及び同技術安全部整備課長通達・国自安第57号,国自旅第125号及び国自整第51号「旅客自動車運送事業の監査方針の細部取扱いについて」1.(2)⑦)。これは,前記(5)ウのタクシー運賃制度研究会報告書において,自動認可運賃改定時にタクシー運賃を据え置いたことにより実質的に下限割れ運賃となっている従前の自動認可運賃の採用事業者等を含め下限割れ運賃を採用している事業者については,下限割れ運賃を背景にした違法行為(労働基準法〔昭和22年法律第49号〕違反,最低賃金法〔昭和34年法律第137号〕違反,社会保険等未加入,道路交通法〔昭和35年法律第105号〕違反,改善基準告示違反等)が懸念されることから,重点的な監査を実施することが適当であるとされたからである。(査第25号証の4,審第17号証,第18号証)
この監査の結果,違法行為が確認された場合,当該タクシー事業者に対し,口頭注意,勧告,警告又は行政処分(自動車その他の輸送施設の使用の停止処分,事業の停止処分,許可の取消処分等)が行われることになる。(審第19号証)
(d) また,現に認可されている下限割れ運賃のうち,認可後の経済社会情勢の変化などにより,不当な競争を引き起こすこととなるおそれが生じていると認められるものについて,それが旅客の利便その他公共の福祉を阻害している事実があると認められる場合には,道路運送法第31条に基づく事業改善命令により,当該運賃の変更を命ずることとされている(国自旅第101号通達別紙4第3の3(5)。査第15号証)。
オ 運賃改定手続
タクシー事業者が,運賃適用地域における自動認可運賃の上限を超える運賃の改定を地方運輸局長に申請した場合には,原則として最初の申請があったときから3か月の期間内に申請率(当該運賃適用地域における法人タクシー全体の車両数に占める申請があった法人タクシーの車両数の合計の割合をいう。以下同じ。)が7割以上となった場合に,運賃改定手続を開始することとされている(国自旅第101号通達2.(1))。この運賃改定手続開始後において,申請の取下げにより申請率が7割を下回る事態となった場合には,その時点で運賃改定手続を一時的に中断するとともに,当該中断から3か月の期間内に追加的な申請により申請率が7割以上となった場合には,直ちに当該運賃改定手続を再開することとされている(同(2))。
カ 距離制運賃の初乗距離の短縮について
前記(2)イ(イ)のとおり,距離制運賃の初乗距離は,各運賃適用地域ごとに地方運輸局長が定める距離により設定するものとされているが,初乗距離を短縮することもでき,その場合は,初乗距離の短縮が現行の当該運賃適用地域において適用している初乗距離の半分程度で地方運輸局長が定めた距離により設定する場合に限るものとされている。タクシー事業者が,地方運輸局長が定めた短縮距離を初乗距離として設定した上で,自動認可運賃の本来の初乗距離に達した際に,自動認可運賃の初乗運賃と同一となるように,初乗運賃及び本来の初乗距離に至るまでの加算運賃を定めた場合には,自動認可運賃に係る認可申請があったものとみなされる(国自旅第101号通達別紙4第4の1)。
4 新潟交通圏におけるタクシー事業
(1) 営業区域及び運賃適用地域
ア 営業区域
新潟市が含まれる営業区域については,北陸信越運輸局長の公示(平成14年7月1日付け公示第12号「一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシーを除く。)の許可申請に対する審査基準について」)により,「新潟交通圏」,「新潟市B」,「新潟市C」及び「新潟市F」の4区域が定められている。このうち新潟交通圏は,平成17年3月21日に他の市町村と合併する前の新潟市,同日に新潟市に編入された新潟県豊栄市及び同県中蒲原郡亀田町並びに同県北蒲原郡聖籠町の区域である。
イ 運賃適用地域
新潟県の運賃適用地域については,北陸信越運輸局長の公示(平成14年7月1日付け公示第15号「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」)により,「新潟県A地区」及び「新潟県B地区」の2地区が定められている。このうち新潟県A地区は,新潟交通圏と同じ区域を定めるものである。
ウ 27社は,いずれも,新潟交通圏を営業区域とし,新潟県A地区を運賃適用地域としている。
(2) 車種区分
新潟交通圏(新潟県A地区)におけるタクシー事業に係る車種区分は,北陸信越運輸局長の公示(平成14年7月1日付け公示第14号「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について」。以下「公示第14号」という。)により,「小型車」,「中型車」,「大型車」及び「特定大型車」の4区分とされている。
(3) タクシー運賃の状況
ア タクシー運賃の種類
新潟交通圏(新潟県A地区)におけるタクシー運賃については,公示第14号により,運賃の種類が距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び定額運賃とされ,料金の種類が待料金,迎車回送料金,サービス指定予約料金及びその他の料金とされている。
イ 新潟交通圏における自動認可運賃
(ア) 旧々自動認可運賃
北陸信越運輸局長は,自動認可運賃制度が導入されたことを受け,平成14年7月1日付けで,車種区分ごとに,前記アのタクシー運賃のうち距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び待料金について,自動認可運賃を定め公示した(同日付け公示第16号「一般乗用旅客自動車運送事業の自動認可運賃等について」。以下「公示第16号」という。また,同日に公示された新潟交通圏に係る自動認可運賃を以下「旧々自動認可運賃」という。)。
(イ) 旧自動認可運賃
旧々自動認可運賃は,新潟交通圏の法人タクシーがその上限運賃を超える運賃変更認可申請を行ったことを受けて,平成20年7月2日に北陸信越運輸局長公示により改定された(同日付け公示第40号により改正された公示第16号。同日に公示された新潟交通圏に係る自動認可運賃を以下「旧自動認可運賃」という。)。
旧自動認可運賃は,旧々自動認可運賃における初乗距離を1.5キロメートルから1.3キロメートルに設定し直すとともに,上限運賃及び下限運賃を引き上げたものである。(査第33号証,第34号証)
(ウ) 新自動認可運賃
旧自動認可運賃は,タクシー特別措置法の施行日と同じ平成21年10月1日に,同法の趣旨を踏まえ北陸信越運輸局長公示により改定された(同日付け公示第67号により改正された公示第16号。新自動認可運賃の具体的内容は別紙7のとおりである。)。新自動認可運賃は,旧自動認可運賃における上限運賃を据え置いたまま,約10パーセントであった上限運賃と下限運賃の幅を約5パーセントに縮小することにより,下限運賃を引き上げるとともに,上限運賃から下限運賃までの運賃区分の種類を減らしたものである。
下限運賃が引き上げられたことにより,新自動認可運賃が公示された時点では,旧自動認可運賃等を適用していた27社の小型車及び中型車の特定タクシー運賃は,いずれも新自動認可運賃に対して下限割れ運賃となった。
ウ 27社が適用しているタクシー運賃の種類
27社は,車種区分ごとに,いずれも自動認可運賃制度の対象とされている距離制運賃,時間制運賃,時間距離併用制運賃及び待料金を適用している。自動認可運賃制度の対象とされていないタクシー運賃については,万代タクシーのみがサービス指定予約料金のうちの車両指定配車料金を適用している。
エ 初乗距離の短縮
新潟交通圏(新潟県A地区)においては,北陸信越運輸局長の公示(平成20年7月2日付け公示第41号により改正された平成14年7月1日付け公示第18号「一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー)の運賃及び料金に係る初乗距離及び初乗距離を短縮する場合の距離について」)により,本来の初乗距離である1.3キロメートルに対し,初乗距離を短縮する場合の距離が700メートルと定められている。
そして,前記3(6)カのとおり,タクシー事業者は,自動認可運賃制度の下でも,初乗距離短縮運賃を設定するか否かを自由に選択することができるところ,初乗距離短縮運賃の設定を希望する場合には,短縮された初乗距離である700メートルに対応する初乗運賃及び700メートルから本来の初乗距離である1.3キロメートルまでの加算運賃について認可を受け,設定することができる。
(4) 新潟交通圏におけるタクシー車両の数
ア 車種別の車両数
新潟交通圏におけるタクシー車両数(福祉自動車を除く。)の合計は,平成22年3月31日時点で,1,573台であり,そのうち法人タクシーが1,169台,個人タクシーが404台であった。その車種別の車両数の内訳は下表のとおりであり,小型車が全体の9割以上を占めていた。(査第41号証,第42号証)
(表省略)
イ 初乗距離短縮運賃適用事業者の車両数
なお,新潟交通圏における法人タクシー27社のうち,新自動認可運賃の公示の時点で,小型車について初乗距離短縮運賃を設定していたタクシー事業者は,被審人昭和交通観光,被審人NK交通,被審人東重機運輸,太陽交通,太陽交通新潟,新潟あさひタクシー,港タクシー,三洋タクシー及び日の出交通の9社であった。これら9社の平成22年3月31日時点での小型車の車両数の合計は376台であり,法人タクシー27社の同区分の車両数1,105台に占める割合は約34.0パーセントであった。
また,上記9社から日の出交通を除いた場合,8社の上記時点での小型車の車両数の合計は292台であり,26社の同区分の車両数1,021台に占める割合は約28.6パーセントであった。
(査第36号証の1及び2,第42号証,第58号証,第177号証)
(5) 新潟交通圏におけるタクシー事業に係る26社のシェア等
平成22年度の新潟交通圏における法人タクシー及び個人タクシーのタクシー事業に係る営業収入の合計額は,約92億2000万円であった。このうち,26社の新潟交通圏におけるタクシー事業に係る営業収入の合計額は,約74億7000万円であり,新潟交通圏におけるタクシー事業に係る営業収入について,26社の占める割合は,約81.0パーセントであった。
(6) 特定特別監視地域の指定
新潟交通圏は,平成20年7月11日に北陸信越運輸局長により特定特別監視地域に指定された。
市協会は,これを受けて,後記第6の1(1)ア(イ)aのとおり,構造改善計画を作成した。
(7) 新潟交通圏地域計画等
ア 新潟交通圏は,タクシー特別措置法に基づき,平成21年10月1日に特定地域に指定された。また,新潟交通圏においては,同年11月6日,同法に基づき「新潟交通圏特定地域協議会」(以下「新潟地域協議会」という。)が組織された。
新潟地域協議会は,北陸信越運輸局自動車交通部長が会長を務め,法人タクシーからは,県協会の土屋会長,市協会会長である被審人都タクシーの高橋,同副会長である被審人第一タクシーの金井及び太陽交通の佐藤が構成員となっていた。また,個人タクシーからは,新潟市個人タクシー組合の理事長である山口廣(以下「新潟市個人タクシー組合の山口」という。)が,新潟地域個人タクシー連合会の会長の肩書きで構成員となっていた。
イ 新潟地域協議会は,3回の会合(平成21年11月6日,同年12月24日及び平成22年3月31日)を経て,平成22年3月31日付けで「新潟交通圏地域計画」(以下「新潟地域計画」という。)を作成し,同年4月9日に公表した。
新潟地域計画においては,タクシー運賃に関し,「2.地域計画の目標及び目標を達成するために行う事業」の中に「(7)過度な運賃競争への対策」として,北陸信越運輸局が下限割れ運賃に対する審査を厳格化すること,現に下限割れ運賃を採用している事業者に対する輸送実績等の報告徴収を行うことなどが記載されている。(査第45号証)
第4 本件の争点
1 26社は本件合意をしたか。
2 本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するか。具体的には,26社の共同行為に正当化理由があるか。
3 被審人らに対し排除措置を特に命ずる必要があるか。
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(26社は本件合意をしたか。)
(1) 審査官の主張
ア 26社のうち欠席した被審人小針タクシー,被審人聖篭タクシー及び港タクシーを除く23社は,平成21年11月27日に開催された市協会の臨時例会(以下「平成21年11月27日開催の臨時例会」といい,また,他の特定の日に開催された市協会の会合についても同様の方法で表記することがある。)において,特定タクシー運賃を新自動認可運賃に該当するものとする運賃変更認可申請を行うことを合意し,新自動認可運賃の運賃区分のうち,上限運賃から下限運賃までのどの運賃区分に移行するかなど,運賃変更認可申請に係る具体的内容については,その後の市協会の会合で検討することとした。
イ 26社のうち欠席した四葉タクシー,太陽交通新潟,被審人NK交通及び港タクシーを除く22社は,平成21年12月10日開催の例会において,新潟交通圏における運賃多重化の問題を解消するために,同年11月27日開催の臨時例会の場において確認されたとおり,26社が新自動認可運賃に移行することを改めて確認した。また,同年12月10日開催の例会においては,新自動認可運賃への移行に当たり,初乗距離短縮運賃の取扱い及び個人タクシーの新自動認可運賃への移行に関する意向確認について検討する必要があるとの問題提起がなされた。
ウ 26社のうち欠席した港タクシーを除く25社は,平成22年1月20日開催の臨時例会において,小型車の特定タクシー運賃について,新自動認可運賃の下限運賃とし,かつ,初乗距離短縮運賃は設定しないこととする旨を合意した。この合意は,同月27日開催の臨時例会においても確認された。
エ 26社のうち欠席した港タクシーを除く25社は,平成22年2月17日開催の例会において,小型車の特定タクシー運賃について新自動認可運賃の下限運賃とし,かつ,初乗距離短縮運賃を設定しないこととする前記ウにおける合意事項を再度確認し合った上で,中型車の特定タクシー運賃については新自動認可運賃の下限運賃とし,大型車及び特定大型車の特定タクシー運賃についてはいずれも新自動認可運賃の上限運賃とすることを合意した。
オ 港タクシー代表取締役鈴木寛(以下「港タクシーの鈴木」という。)が平成22年2月17日開催の例会を欠席したことから,被審人第一タクシーの金井は,同月20日までに,港タクシーの鈴木に対して,上記例会で前記エの25社が合意した内容を伝えた上で,港タクシーの分として,被審人第一タクシーのものと同一内容の運賃変更認可申請書類を作成し,同月20日,港タクシーの鈴木に対して,ファクシミリで送信した。
カ 前記アないしオのとおり,26社は遅くとも平成22年2月20日までに,特定タクシー運賃について,
(ア) 小型車については,新自動認可運賃における下限運賃として定められているタクシー運賃とし,かつ,初乗距離短縮運賃を設定しないこととする
(イ) 中型車については,新自動認可運賃における下限運賃として定められているタクシー運賃とする
(ウ) 大型車については,新自動認可運賃における上限運賃として定められているタクシー運賃とする
(エ) 特定大型車については,新自動認可運賃における上限運賃として定められているタクシー運賃とする
旨を合意した。
(2) 被審人らの主張
前記(1)は否認する。
27社は,新潟地域協議会において,運賃多重化の解消や過度な運賃競争を避けるための対策について議論されていたことを受けて,市協会を代表して同協議会に出席する被審人都タクシーの高橋が市協会として述べるべき一般的な意見を取りまとめる必要があったことから情報や意見を交換しただけであり,具体的なタクシー運賃,ましてや特定タクシー運賃についての協議や合意は行っていない。
2 争点2(本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するか。具体的には,26社の共同行為に正当化理由があるか。)
(1) 審査官の主張
ア 一定の取引分野における競争を実質的に制限するとは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい(最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決・民集第66巻第2号796頁〔株式会社新井組ほか3名による審決取消請求事件〕),具体的には,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすことをいう(東京高等裁判所昭和28年12月7日判決・公正取引委員会審決集第5巻118頁〔東宝株式会社ほか1名による審決取消請求事件〕)。
本件においては,平成22年度の営業収入ベースで約81.0パーセントもの市場占有率を持つ26社が,本件合意をしたものであるから,かかる状態がもたらされていることは明らかである。
イ 行政指導による強制等の観点から正当化理由がある旨の被審人らのの主張について
後記(2)アにおいて被審人らが行政指導であると主張する国土交通省,北陸信越運輸局及び同新潟運輸支局(以下「新潟運輸支局」といい,これらを併せて「新潟運輸支局等」という。)の担当官らの各発言内容は,運賃認可制度の趣旨・目的の解説の域を出るものではなく,新潟運輸支局等が,26社に対し,収支状況等を勘案することなく一律に新自動認可運賃に移行することや,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを求める行政指導を行った事実は認められない。
また,新潟運輸支局等による道路運送法及びタクシー特別措置法の運用状況や,タクシー特別措置法の説明会等における新潟運輸支局等の担当官らの発言等に照らしても,26社が,新自動認可運賃への移行等について意思決定の自由を失っていたとは認められない。
さらに,仮に新潟運輸支局等が何らかの行政指導を行った事実があるとしても,それは新自動認可運賃への移行を求める限度のものであって,26社が,新自動認可運賃の枠内の特定の運賃区分に移行し,小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないこととしたことは,行政指導に従ったものではなく,自らの判断で取り決めたものである。
したがって,被審人らの主張する正当化理由は認められない。
ウ 専門的な政策判断の観点からの正当化理由がある旨の被審人らの主張について
前記イのとおり,新潟運輸支局等が26社に対し収支状況等を勘案することなく一律に新自動認可運賃に移行することや,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを求める行政指導を行った事実は認められない。
仮に被審人らが主張する行政指導があったとしても,道路運送法,タクシー特別措置法及びこれらに基づく運賃認可制度は,所定の幅にあるタクシー運賃の認可申請については適切なものとして自動的に認可することとし,それに該当しない下限割れ運賃の認可申請については,原価計算書類の提出を求めて,能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであるか否かなど運賃認可基準に照らし個別に審査することを予定しているのであって,下限割れ運賃を許容しないものではないし,特定のタクシー運賃の採用を求めるものでもない。したがって,被審人らの主張する行政指導は,すなわち,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対し,収支状況等を勘案することなく一律に新自動認可運賃に移行することや特定のタクシー運賃を採用することを求めるというものであり,道路運送法,タクシー特別措置法及びこれらに基づく運賃認可制度に反するものであって,新潟運輸支局等が社会公共的な目的を達成するためにした専門的な政策判断を体現したものとはいえない。
また,被審人らは,その主張する行政指導は新潟地域協議会における議論及び要請を踏まえて新潟運輸支局等が社会公共的な目的達成のためにした専門的な政策判断を体現するものであると主張するが,地域協議会は各タクシー事業者が適用すべき具体的なタクシー運賃について協議する場ではなく,実際,新潟地域協議会がまとめた新潟地域計画では,「過度な運賃競争への対策」の中で,行政側の対応として下限割れ運賃に対する審査の厳格化等が定められているが,それ以上にタクシー事業者が適用すべき具体的なタクシー運賃や新自動認可運賃に移行すべきことが定められているものではないから,被審人らが主張する行政指導は新潟運輸支局等が社会公共的な目的を達成するためにした専門的な政策判断を体現したものであるとはいえない。
したがって,被審人らの主張する正当化理由は認められない。
(2) 被審人らの主張
ア 新潟交通圏においては,新自動認可運賃が定められた後,全ての法人タクシーの運賃が下限割れ運賃となっており,過度な運賃競争が生じていたところ,このような運賃競争は,各タクシー事業者を厳しい経営状態に陥らせるとともに,タクシー運転者に低賃金かつ長時間労働を強い,その結果,タクシー事業の安全性の低下がもたらされ,タクシー利用者たる国民の生命又は身体に重大な悪影響を及ぼしかねない事態となることが合理的に予測された。そこで,新潟運輸支局等は,そのような過度な運賃競争を解消させるべく,次のとおり,監査や行政処分を背景として,収支状況等を勘案することなく一律に新自動認可運賃に移行すること並びに新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを求める行政指導を行い,また,タクシー特別措置法に基づいて設置された新潟地域協議会においても,同一地域同一運賃となること及び初乗距離短縮運賃は設定しないことが望ましいなどといった意見が出されたため,26社は,これらの行政指導及び地域協議会の意見に従って特定タクシー運賃に関する情報や意見の交換を行ったものである。
① 平成21年6月10日開催の社団法人全国乗用自動車連合会(以下「全国乗用自動車連合会」という。)正副会長会議における国土交通省の本田勝自動車交通局長(以下「本田自動車交通局長」という。)の発言
② 平成21年7月1日開催の全国乗用自動車連合会全国協会長会議における国土交通省の本田自動車交通局長の発言
③ 平成21年10月9日開催の市協会の連絡会議における報告
④ 平成21年10月13日開催のタクシー特別措置法説明会における新潟運輸支局の坂本巧首席運輸企画専門官(以下「坂本首席専門官」という。)の発言
⑤ 平成21年12月24日開催の第2回新潟地域協議会における北陸信越運輸局の担当官の発言
⑥ 平成21年10月以降の新潟運輸支局の坂本首席専門官の県協会に対する新自動認可運賃への移行のための働きかけ
イ したがって,仮に26社が本件合意をしたと評価されるとしても,26社による共同行為には次のとおり正当化理由がある。
(ア) 行政指導による強制等の観点からの正当化理由の存在
新潟運輸支局等の前記アの行政指導は,これに従わない場合,監査や処分といった厳しい措置が予想されるものであったため,26社は,新潟運輸支局等の上記行政指導によって強制され,又は新潟運輸支局等の指示,要請若しくは主導の下に,やむを得ず当該共同行為を行ったものであるところ,26社は,かかる強制又は指示,要請若しくは主導の下で自由に意思決定をすることができない状況であった(行政指導に従わないタクシー運賃による自由競争の余地が失われていた)から,当該共同行為には正当化理由がある。
(イ) 専門的な政策判断の観点からの正当化理由の存在
a 新潟運輸支局等は,新潟交通圏において過度な運賃競争が生じており,タクシー事業の安全性の低下等が懸念されたことから,そのような過度な運賃競争を解消させるべく前記アの行政指導を行い,26社は,それに従ったものであるが,26社による共同行為を独占禁止法に違反するとして排除し,自由な競争をもたらしてみても,一般消費者の利益及び国民経済の民主的で健全な発達に資するところはなく,独占禁止法の究極目的に合致しない。したがって,26社に対する上記行政指導は,監督官庁がその所掌する分野の社会公共的な目的を達成するためにした専門的な政策判断を体現するものであり,これに反して競争状態を確保することは独占禁止法の究極目的に沿うものではないから,上記行政指導に従った26社による共同行為には正当化理由がある。
b また,前記アの行政指導は,新潟運輸支局等が,タクシー特別措置法に基づき設置され,消費者代表,地域代表,労働基準監督署その他の監督官庁も参加した新潟地域協議会における議論及び要請を踏まえ,輸送の安全,道路運送の利用者の利益保護,新潟交通圏内における交通の健全な発展等の社会公共的な目的達成のために行った専門的な政策判断を体現するものであり,これに反して競争状態を確保することは独占禁止法の究極目的に沿うものではないから,上記行政指導に従った26社による共同行為には正当化理由がある。
ウ このように26社による共同行為には正当化理由があるから,26社は新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野における競争を実質的に制限していない。
3 争点3(被審人らに対し排除措置を特に命ずる必要があるか。)
(1) 審査官の主張
以下の事実を総合的に考慮すると,本件違反行為は既になくなっているものの,違反行為が繰り返されるおそれがあり,また,本件違反行為の結果が残存しており新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野における競争秩序の回復が不十分であることは明らかであるから,被審人らに対しては,特に排除措置を命ずる必要がある。
ア 本件違反行為以前の26社等の協調関係
新潟交通圏における法人タクシーは,平成18年12月以降,特定タクシー運賃に関する話合いを行い,運賃変更認可申請を行った上で,改定後の自動認可運賃への移行やその後に生じた運賃多重化の解消について継続的に話し合うなど,協調関係にあり,本件違反行為はそのような協調関係の下に行われた。
イ 本件違反行為の具体的状況等
26社は,前記2(1)アのとおり,新潟交通圏において約81.0パーセントの市場占有率を有しており,今後,違反行為を繰り返すのは困難ではない。また,26社は,日の出交通及び個人タクシーを違反行為に巻き込もうとしており,極めて強固な競争回避の意図をもって本件違反行為を行った。
ウ 本件違反行為の取りやめの経緯
本件合意は,平成23年1月26日以降,事実上消滅しているものの,これは26社の自発的意思に基づくものではなく,公正取引委員会が本件違反行為についての立入検査を行ったという外部的な要因によるものにすぎない。
エ 新潟交通圏におけるタクシー事業の市場環境
新潟交通圏においては,法人タクシーの新規参入が極めて困難であり,今後,下限割れ運賃を採用する法人タクシー等の新規参入によって,26社が違反行為を繰り返すことを妨げる市場環境が出現する可能性は低い。
オ 本件違反行為の結果が残存していること
26社は,本件合意に基づき,遅くとも平成22年4月17日以降,認可を受けた特定タクシー運賃を適用した。その後,三洋タクシーが小型車及び中型車について初乗距離短縮運賃を適用するとの運賃変更認可申請を行い,平成23年5月12日以降,当該変更運賃を適用しているが,同社を除く25社は,本件排除措置命令の時点において,平成22年3月26日に認可された特定タクシー運賃の適用を続けており,本件違反行為の結果のほとんどが残存している。
カ 新潟交通圏におけるタクシー事業者の過去の違反行為
市協会ないし新潟交通圏のタクシー事業者は,①公正取引委員会昭和56年4月1日勧告審決,②公正取引委員会平成19年6月25日排除措置命令の2回の法的措置を受けているにもかかわらず,本件違反行為に及んだ。しかも,新潟交通圏のタクシー事業者は,上記②の事件に対する公正取引委員会の調査の最中から,自動認可運賃の引上げを図るための話合いを始め,同事件の排除措置命令を受けた後も話合いを継続するなどにより,本件違反行為に及んだのであり,独占禁止法に係る遵法意識に著しく欠けている。
キ 今後の違反行為を確実に抑止するに足る事情の不存在(被審人らの後記(2)の主張について)
市協会の平成23年2月18日付け決議及びこれと同旨の各社の取締役会決議は,本件違反行為を行ったことを明確に否定するものであり,また,法令遵守に関して極めて抽象的な内容を確認するにとどまっている。また,市協会の同年4月7日付け決議は上記同年2月18日付け決議を撤回するものではなく,依然として本件違反行為を行ったことはないとの前提に立つものである。したがって,上記各決議は,被審人らによる今後の違反行為を確実に抑止するに足る事情ということはできない。
(2) 被審人らの主張
前記(1)は争う。
市協会及び被審人らは,市協会の平成23年2月18日付け決議及びこれと同旨の各社の取締役会決議並びに市協会の同年4月7日付け決議を行い,今後,特定タクシー運賃について,他の事業者との間で事業活動を相互に拘束する行為を行わない旨を明確にしている。したがって,審査官が指摘する前記(1)アの協調関係,同イの競争回避の意図及び同カの過去の協調関係は断絶されている。
審査官が指摘する前記(1)ウについては,公正取引委員会が本件違反行為について立入検査を行ったことが報道等によって広く知らしめられ,各タクシー事業者に対する市民や監督官庁等からの注目が集まっているから,今後,26社が違反行為を繰り返すことは極めて困難である。
また,審査官が指摘する前記(1)エ及びオについては,事実を曲解するもの又は抽象的な可能性を殊更に強調するものである。
したがって,被審人らに対し排除措置を特に命ずる必要はない。
第6 審判官の判断
1 争点1(26社は本件合意をしたか。)
(1) 認定事実
当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠(括弧書きで掲記)によれば,以下の事実が認められる。
ア 平成21年10月頃までの状況
(ア) 平成20年7月の自動認可運賃改定の際の状況
a 平成18年頃,タクシーの燃料価格の高騰により,新潟交通圏の法人タクシーの多くは,タクシー運賃を値上げする必要性に迫られ,同年12月頃,市協会の例会等の会合の場において話合いを行い,日の出交通を除く法人タクシーの多くが旧々自動認可運賃の上限運賃よりも高い運賃への運賃変更認可申請を行うこととした。(査第47号証,第48号証,第62号証)
b 前記aの話合いを受けて,平成19年1月から同年4月までの間に,27社(ただし,平成20年7月にタクシー事業を開始した被審人東重機運輸及び同年11月に同事業を開始した太陽交通新潟を除く。)のうちの19社と当時新潟交通圏で事業を営んでいた法人タクシー2社が旧々自動認可運賃の上限運賃を超える運賃での運賃変更認可申請を行ったところ,申請率が7割以上となったため,北陸信越運輸局は,自動認可運賃の改定手続を開始した。しかし,平成19年9月までの間に上記21社の中から運賃変更認可申請を取り下げる者が出たため,申請率が7割を下回ることとなり,北陸信越運輸局は,自動認可運賃の改定手続を中断した。その後,運賃変更認可申請を取り下げなかった者が,申請を取り下げた者に対し,再度,申請を行うよう働きかけたところ,平成20年1月頃に申請率が再び7割以上となったことから,北陸信越運輸局は,自動認可運賃の改定手続を再開し,その結果,同年7月2日に旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃へ改定され,公示された。(査第34号証,第47号証ないし第55号証,第62号証)
c 前記bの旧自動認可運賃の公示後,新潟交通圏における法人タクシーは,市協会の会合において,特定タクシー運賃を旧自動認可運賃に移行することについて話し合った。しかし,これに同調しない法人タクシーもいたことから,一旦は特定タクシー運賃を旧自動認可運賃に該当するものに変更する旨の運賃変更認可申請を行ったものの,当該申請を取り下げる者が出るなどしたため,最終的に,旧自動認可運賃の運賃区分での認可を受けた法人タクシーは8社にとどまった。その結果,それまでも新潟交通圏における法人タクシーのタクシー運賃は多種類のものが併存するいわゆる運賃多重化の状態であったが,更にその程度が増した。(査第8号証,第47号証,第48号証,第56号証ないし第63号証,第64号証の1,第65号証)
(イ) 運賃多重化の解消に向けた話合い
a 前記第3の4(6)のとおり,新潟交通圏は,平成20年7月11日,特定特別監視地域に指定された。これを受けて,新潟交通圏における法人タクシーは,市協会の会合において協議を行い,同年9月末に「特定特別監視地域の指定に伴うタクシー事業構造改善計画について」と題する構造改善計画を作成し,その中で,成果目標の一つとして「運賃多重化の解消」を盛り込んだ。
b その後,新潟交通圏における法人タクシーは,平成21年10月頃までの間,旧自動認可運賃への移行についての各社の意向を確認し合い,これを取りまとめ,市協会の場等において旧自動認可運賃への移行について話合いを行っていたが,当時採用していたタクシー運賃を維持する旨を表明していた者,全社が旧自動認可運賃へ移行するのであれば移行する旨を表明していた者等がおり,足並みはそろわなかった。
(査第48号証,第66号証,第67号証,第71号証ないし第84号証〔枝番を含む。〕)
(ウ) 小括
前記(ア)及び(イ)のとおり,被審人らを含む新潟交通圏における法人タクシーは,平成18年以降,特定タクシー運賃に関する話合いを行い,平成20年7月の旧自動認可運賃の公示後には協調してそれに移行しようとの動きがあったが,これに同調しない者がいたため運賃多重化の状態が生じることとなった。そして,被審人らを含む新潟交通圏における法人タクシーは,これを解消するために,構造改善計画に運賃多重化の解消を盛り込むとともに,旧自動認可運賃への移行について各社の意向を確認し合うなどの行為を継続的に行っていたが,足並みをそろえて旧自動認可運賃に移行するには至らず,運賃多重化の状態が続いていた。
イ 平成21年10月1日の新自動認可運賃の公示
前記第3の4(3)イ(ウ)のとおり,新潟交通圏において,平成21年10月1日,新自動認可運賃が公示された。
新自動認可運賃は,旧自動認可運賃における上限運賃を据え置いたまま,下限運賃を引き上げるものであったところ,小型車及び中型車について,旧々自動認可運賃又は旧自動認可運賃を適用していた27社の特定タクシー運賃は,全て新自動認可運賃に対して下限割れ運賃となった。
(査第35号証,第36号証の1及び2,第58号証)
ウ 平成22年2月20日頃までの新潟交通圏のタクシー事業者間の話合いの状況等
(ア) 平成21年10月9日開催の連絡会議
a 開催日及び出席者
平成21年10月9日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の連絡会議が開催された。
上記連絡会議には,27社のうち被審人ハマタクシーを除く26社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
b 話合いの内容等
平成21年10月9日開催の連絡会議においては,第1回新潟地域協議会の開催日が同年11月6日に決定されたことを受けて,市協会から新潟地域協議会の構成員となるメンバーが前記第3の4(7)アのとおり選出された。また,空席となっていた市協会の会長には被審人都タクシーの高橋が選出され,同様に副会長には被審人第一タクシーの金井,三和交通の小林及び太陽交通の佐藤が選出された。
被審人都タクシーの高橋は,前記イのとおり新自動認可運賃が公示されたところ,平成20年7月の旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃への移行が不調に終わったことの二の舞となることを避けたいと考え,市協会の会長就任に際し,新潟地域協議会での議論を受けて市協会で行うこととなる運賃問題に関する話合いに会員の協力を得たい旨の挨拶を行った。
(査第4号証,第6号証,第8号証,第48号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第85号証ないし第87号証の1)
(イ) 平成21年11月10日開催の例会
a 開催日及び出席者
平成21年11月10日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の例会が開催された。
上記例会には,27社のうちはとタクシー,港タクシー,コバト交通及び三洋タクシーを除く23社と市協会の佐藤専務理事が出席した。
(査第63号証)
b 話合いの内容等
平成21年11月10日開催の例会においては,新潟地域協議会への対応等について意見交換がなされ,運賃に関しては,「運賃の多重化をなぜ解消しなければならないか」,「一定水準の運賃に集約して,サービス向上を目指すべき」等運賃多重化の解消に向けた意見が出された。(査第63号証,第87号証の1)
(ウ) 平成21年11月16日開催の正副会長会議
a 開催日及び出席者
平成21年11月16日,新潟東急インにおいて,市協会の正副会長会議が開催された。
上記正副会長会議には,被審人都タクシーの高橋その他市協会の役員が出席した。
(査第63号証)
b 話合いの内容等
平成21年11月16日開催の正副会長会議において,被審人都タクシーの高橋は,出席者に対して,運賃多重化の解消のための検討項目を記載した文書及び同一地区同一運賃の必要性について記載した文書を配布した上で,市協会の会員全社が新自動認可運賃の下限運賃を下回った下限割れ運賃となっているので,今後,全社が新自動認可運賃ゾーンに入って値上げしていく必要があること,下限割れ運賃を採用しているタクシー事業者には,運輸局が経営状況の定期的な報告を求めたり,監査を行って行政処分を行うこともあること等の話をした。その上で,上記正副会長会議の出席者は,皆で新自動認可運賃に移行して値上げをすることを確認し合った。(査第63号証)
(エ) 平成21年11月27日開催の臨時例会
a 開催日及び出席者
平成21年11月27日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の臨時例会が開催された。
上記臨時例会には,27社のうち被審人小針タクシー,被審人聖篭タクシー及び港タクシーを除く24社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
b 話合いの内容等
(a) 平成21年11月27日開催の臨時例会において,被審人都タクシーの高橋は,新潟交通圏における認可運賃,増減車等に関する資料や同月6日の第1回新潟地域協議会において配布された資料を配布して,その説明をした。
(b) そして,被審人都タクシーの高橋は,27社が足並みをそろえて新自動認可運賃に移行することを提案し,出席者に対し,座席順に新自動認可運賃への移行についての意見を求めたところ,多くの出席者は,新自動認可運賃に移行する旨を述べ,日の出交通を除き,高橋の上記提案に反対する者はいなかった。これに対して,日の出交通専務取締役坂井鶴美(以下「日の出交通の坂井」あるいは単に「坂井」という。)は,個人タクシーを含め新潟交通圏における全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行するならば,同社も移行を検討する旨を述べた。
(c) また,前記臨時例会に出席した24社のうち日の出交通を除く23社は,新自動認可運賃の運賃区分のうち上限運賃から下限運賃までのどの運賃区分に移行するかなどについては,その後の市協会の会合で検討することとした。
(査第5号証,第7号証,第47号証,第48号証,第62号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第86号証,第87号証の1,第88号証ないし第90号証,第92号証ないし第94号証)
c 前記臨時例会を欠席した3社については,当該臨時例会の後,被審人小針タクシー及び被審人聖篭タクシーの2社に対しては市協会の佐藤専務理事から,港タクシーに対しては被審人第一タクシーの金井から,それぞれ当該臨時例会の内容を連絡し,新自動認可運賃への移行について了承を得た。市協会の佐藤専務理事は,「平成21年11月 臨時例会の概要」とのタイトルで,①協議の結果,参加した全社とも新自動認可運賃に移行することが確認されたこと,②新自動認可運賃への移行の個別具体的な内容は,後日検討することが記載されている文書を作成し,市協会の会員に対して送付した。(査第7号証,第88号証,第89号証,第94号証)
(オ) 平成21年12月10日開催の例会
a 開催日及び出席者
平成21年12月10日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の例会が開催された。
上記例会には,27社のうち被審人NK交通,四葉タクシー,太陽交通新潟及び港タクシーを除く23社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
b 話合いの内容等
平成21年11月27日開催の臨時例会に引き続き,同年12月10日開催の例会において,出席者らは,新自動認可運賃に移行することを確認した。
また,上記例会において,被審人都タクシーの高橋は,新自動認可運賃への移行に当たり,初乗距離短縮運賃の取扱いについて検討する必要があるとの問題提起をした。
(査第97号証ないし第99号証,第180号証の1及び2,第181号証)
(カ) 第2回新潟地域協議会における被審人都タクシーの高橋の発言
平成21年12月24日に開催された第2回新潟地域協議会において,新潟地域計画の素案が同協議会事務局から示されたところ,同協議会の会長であり議事進行を務めていた北陸信越運輸局の岡田博自動車交通部長(以下「岡田自動車交通部長」という。)は,同計画の目標や目標達成のために行う事業について構成員に対し意見を求めた。
これを受け,複数の構成員が意見を述べる中,被審人都タクシーの高橋は,「11月27日に市の協会,ということは新潟A地区の関係している地区の全員が集まるわけですが,その臨時例会の席で,運賃について運輸局より公示があった新しい運賃に皆で入るということが決まりました。」と発言するとともに,個人タクシーにも法人タクシーの値上げに同調して値上げをしてほしい旨を要望した。
(査第63号証,第87号証の1,第92号証ないし第96号証)
(キ) 平成22年1月13日開催の正副会長会議
a 開催日及び出席者
平成22年1月13日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の正副会長会議が開催された。
上記正副会長会議には,被審人都タクシーの高橋,被審人第一タクシーの金井,三和交通の小林,太陽交通の佐藤,東新タクシーの菊地,被審人富士タクシーの川口及びはとタクシー代表取締役斎藤章(コバト交通代表取締役としての出席を兼ねる。)のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
b 話合いの内容等
平成22年1月13日開催の正副会長会議において,被審人都タクシーの高橋は,運賃多重化の解消についての検討項目について記載した文書を配布して説明を行い,その後,出席者の間で,新自動認可運賃のいずれの運賃区分に移行するか,初乗距離短縮運賃を採用するか否か,いつ新自動認可運賃に移行するか等について話合いが行われた。話合いの中で,小型車の運賃区分を上限運賃にしたいとの意見があったが,高橋は,経済環境やタクシー業界の現実を考えると足並みをそろえて新自動認可運賃に移行するには下限運賃への移行を提案するしかない旨述べ,結局,下限運賃へ移行することを市協会の例会において提案することで話がまとまり,また,新自動認可運賃への移行については同年3月の第3回新潟地域協議会の前に移行することを市協会の例会において提案することで話がまとまった。ただし,初乗距離短縮運賃を採用するか否かについては,出席者から採用しないとの意見,採用するとの意見が出て,話がまとまらなかった。(査第5号証,第63号証,第100号証ないし第102号証)
(ク) 平成22年1月20日開催の正副会長会議及び臨時例会
a 開催日及び出席者
平成22年1月20日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の正副会長会議及び臨時例会が開催された。
上記正副会長会議には,被審人都タクシーの高橋その他市協会の役員が出席した。
また,上記臨時例会には,27社のうち港タクシーを除く26社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
(査第3号証,第5号証,第47号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第86号証,第87号証の1,第102号証ないし第107号証〔枝番を含む。〕)
b 正副会長会議における話合いの内容等
平成22年1月20日開催の正副会長会議において,出席者は,同日開催の臨時例会において,小型車について新自動認可運賃の下限運賃に移行することを提案することを確認した。また,初乗距離短縮運賃については,出席者から採用しないとの意見,採用するとの意見及び採用するかどうかは各社の自由判断に任せるとの意見が出たが,被審人都タクシーの高橋は,上記臨時例会で初乗距離短縮運賃を採用している会社から話を聞くことにする旨を述べた。(査第63号証)
c 臨時例会における話合いの内容等
(a) 平成22年1月20日開催の臨時例会において,被審人都タクシーの高橋は,自ら作成した運賃多重化の解消に係る資料等を配布して説明し,これまでの話合いで市協会会員の皆が行うのであれば新自動認可運賃に移行することになっていることを確認した上で,小型車について新自動認可運賃のいずれの運賃区分に移行するかが問題となるが,できるだけ統一運賃に近づける努力が必要であること,初乗距離短縮運賃の設定をどうするか検討する必要があること,運賃を統一し値上げすることをマスコミに対しどのように説明するか検討する必要があること等を述べた上で,出席者に意見を求めた。
(b) その際,出席者から,タクシー特別措置法施行後であっても,初乗距離短縮運賃を申請した場合,申請は受け付けられるのか改めて確認を求める質問があったため,市協会の佐藤専務理事は,前記臨時例会を中座し,北陸信越運輸局へ電話を掛けて確認したところ,同運輸局から,初乗距離短縮運賃の申請があれば受け付けること,その場合は公示が必要であることの回答を得たため,これを出席者に報告した。
これに対し,高橋は,「まあ,言うなれば,業者,業者,にお任せということなんですね。」と初乗距離短縮運賃は事業者の判断により申請の上で適用可能である旨を述べるとともに,法人タクシーで1,2社でも初乗距離短縮運賃を適用する事業者が残れば,結局個人タクシーも全て初乗距離短縮運賃を適用することとなる旨の懸念を述べた。
(c) その後,出席者からは,①値上げするのであれば上限運賃に移行し,初乗距離短縮運賃の設定をやめてはどうか,②皆で下限運賃に移行し,初乗距離短縮運賃の設定は各社の判断でよい,③上限運賃に移行したいが困難であろう,④初乗距離短縮運賃の廃止にはこだわっていない,⑤新自動認可運賃の範囲内である限り下限運賃に集約する必要はない,⑥運賃を上げることには異議がない等の意見が出された。これらの意見が述べられる中で,高橋は,初乗距離短縮運賃に固執している事業者ばかりではないため今回がチャンスであり後はない,今回は地域協議会も設けられ業界の健全化,適正化に向けてやっていこうということであるから,自分としては統一した運賃でやるという形でお願いしたいなどと述べ,出席者に対して,小型車について新自動認可運賃の下限運賃に統一すること及び初乗距離短縮運賃を設定しないことを提案した。
他方,日の出交通の坂井は,同社の考えは従前どおりであり,個人タクシーが新自動認可運賃に移行することが担保されない限り,同社は新自動認可運賃に移行することはできない旨を述べた。
これに対し,高橋は,坂井に対し,統一歩調をとらなければならない旨を述べたり,個人が決まれば法人がする,法人が決まれば個人がするということでは,いつまでたっても決まらない旨を述べたりした。
(d) そこで,高橋は,坂井が個人タクシーが新自動認可運賃に移行することの担保が必要だと述べるので,その担保を取ってくると述べた上で,出席者に対し,小型車について,新自動認可運賃の下限運賃に移行すること,初乗距離短縮運賃は設定しないこととすることを決定する旨を述べたところ,さらに,数社から値上げの時期,内容等について意見が出された。
以上を踏まえ,高橋が,再度,小型車について,新自動認可運賃の下限運賃に移行し,初乗距離短縮運賃は設定しないことについて同意を求めるとともに,平成22年2月末頃までに申請することについても同意を求め,また,個人タクシーの協同組合に対し新自動認可運賃に移行するよう働きかける旨を述べ,出席者の意見を聞いたところ,これに異論を述べる者はなかった。
(e) その後,中型車,大型車及び特定大型車の運賃についてはどうするのか出席者から質問が出されたが,市協会会員のうち保有するものが限られ,その車両数が少ないことなどから,十分に議論されることなく,これらの車種区分につき新自動認可運賃のどの運賃区分に移行するかは各社の自由とすることとされた。
(f) 最後に,市協会の佐藤専務理事が,小型車については新自動認可運賃の下限運賃とし,中型車,大型車及び特定大型車については各社が新自動認可運賃の中で自由に決めることとすることを市協会から県協会に報告する旨を述べたところ,これに異論を述べる者はなかった。
県協会の竹谷事務局長は,市協会の佐藤専務理事から報告を受け,その内容をメモにまとめた。そのメモには,「20日の臨時定例会での結論」として,「運賃関係:自動認可運賃のD運賃(下限)に移行することで合意した。距離短縮はやめる。(300円)」,「ジャンボ,大型,中型の運賃区分は各社の自由とする。」などと記載されている。
(g) また,市協会の佐藤専務理事は,前記臨時例会での協議検討の結果,小型車については,新自動認可運賃の下限運賃(1.3キロメートル570円)とし,初乗距離短縮運賃は設定しないこと,中型車,大型車及び特定大型車については,各社が新自動認可運賃のゾーンの中で個別に設定することで調整されたことなどを記載した文書(市協会名義の平成22年1月22日付け「運賃の新々ゾーンへの移行について」と題する文書〔査第113号証〕)を作成し(この文書については,同日開催の正副会長会議において,会員に配布することが了承された。),それを会員各社に対してファクシミリ送信してその内容を周知した。
(査第3号証ないし第5号証,第47号証,第62号証ないし第65号証〔枝番を含む。〕,第86号証,第87号証の1,第102号証ないし第114号証〔枝番を含む。〕)
(ケ) 個人タクシー組合への要請
被審人都タクシーの高橋は,平成22年1月21日に,市協会の相談役である東新タクシーの菊地とともに,新潟市個人タクシー組合を訪問し,新潟市個人タクシー組合の山口及び同組合の副理事長であるのぞみタクシーこと阿部政信と面談した。高橋らは,法人タクシーとしては新自動認可運賃に移行する方向になっているので,個人タクシーも新自動認可運賃に移行するよう要請した。
これに対し,新潟市個人タクシー組合の山口らは,法人タクシーが先に新自動認可運賃に移行するのであれば,個人タクシーも新自動認可運賃に移行する旨回答した。
以上については,平成22年1月22日開催の正副会長会議で,高橋から市協会の役員に対して報告された。
(査第40号証,第61号証,第63号証,第115号証ないし第117号証)
(コ) 平成22年1月27日開催の臨時例会
a 開催日及び出席者
平成22年1月27日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の臨時例会が開催された。
上記臨時例会には,27社のうち被審人ハマタクシー及び港タクシーを除く25社が出席した。
b 話合いの内容等
(a) 平成22年1月27日開催の臨時例会において,被審人都タクシーの高橋は,タクシー運賃に関して残っている問題は,小型車以外の車種について新自動認可運賃のどの運賃区分に移行するかという点と,いつ実行していくかという点である旨を発言した。また,高橋は,同月21日に新潟市個人タクシー組合の山口らを訪問した結果について,担保のない紳士協定ではあるが,法人タクシーが値上げすれば,個人タクシーも追従することは間違いないという判断をしている旨を報告した。
そして,高橋は,小型車については,新自動認可運賃の下限運賃に移行し,かつ,初乗距離短縮運賃は設定しないこととなっている旨を述べた上で,同年2月中には上記内容での運賃変更認可申請を行い,同年3月からタクシーメーターを交換して新たなタクシー運賃の適用を始めたい旨の提案をし,これについて各社からの意見を求めた。
(b) 日の出交通の坂井は,同社としては,個人タクシーが1台も残らず新自動認可運賃の下限運賃に移行するのであれば,それをみてから移行したい旨を述べた。
これに対し,東新タクシーの菊地が,「もう言葉遊びはいいんですって。みんなでやる。協調していきましょうと。」と発言し,高橋が,できそうにない条件を出して,その条件が満たされなければ同調しないというのはあきれ返る話である旨,独りよがりな話はやめてもらいたい旨及び前回の運賃値上げの際にも日の出交通等が「ゴタゴタゴタゴタ」言った結果,値上げが失敗し燃料費の上昇分を負担せざるを得なくなった旨の発言をし,被審人東港タクシー代表取締役山口道夫(以下「被審人東港タクシーの山口」という。)が,個人タクシーのうち数台が反対しても全く影響はないのであるから,何とか了解して皆と同様の運賃にしてもらいたい旨の発言をし,被審人さくら交通の者が,被審人東港タクシーの山口の上記発言に賛同する旨の発言をしたほか,他の出席者から,坂井の発言を非難する発言がなされた。また,被審人県都タクシー代表取締役佐藤真一(以下「被審人県都タクシーの佐藤」という。)が,坂井に対し,個人タクシーに新自動認可運賃に移行しない者がいた場合,日の出交通は現行の運賃を継続するのか,新自動認可運賃に移行するが初乗距離短縮運賃を設定するのかを確認する質問をしたが,坂井は,現行の運賃を継続する旨を回答した。
その後,坂井は,運転代行業者が増加してタクシー事業者と競合しているため,この点についても調査・検討して,運賃を上げるにしてもいつにするのかを検討すべき旨を述べた。
これに対して,東新タクシーの菊地が,「話し合いで1つの答えを出してみんなでやるよ,とこういうこと。話し合いつかなければ,極端な話,多数決でもいいわけでしょ。それでそれに従っていけばいいわけですから。」と発言し,被審人県都タクシーの佐藤が,「不承不承のある中で折り合いつけて,まとめていこうよっていう格好じゃないと何にも決まらないと思いますよ。」と発言したほか,他の出席者から,坂井の発言を非難する発言がなされた。また,高橋が,坂井に対し,なぜ新自動認可運賃に移行しない数台の個人タクシーを重要視するのか,なぜ皆で決めた話に乗れないのかなどの質問をしたが,坂井は,それには答えなかった。
(c) 結局,高橋は,坂井に対し,全ての個人タクシーが新自動認可運賃に移行しない限り日の出交通も新自動認可運賃に移行しないというのは,現実性のない話であるから,再考してもらいたい旨を述べた。その上で,高橋は,出席者に対し,平成22年1月20日開催の臨時例会では,個人タクシーが新自動認可運賃に移行するとの保証が取れれば,小型車については,新自動認可運賃の下限運賃とし,初乗距離短縮運賃は設定しないということになったが,日の出交通が新自動認可運賃に移行せず,そうすると個人タクシーも移行しないことになるかもしれないが,考え方としては,上記臨時例会で決まったとおりとすることで異存がないかという趣旨の質問をした。
これに対して,複数の者が異存がない旨を発言した。これを受けて,高橋が「皆さんは,Dゾーンの距離短縮なく,というお考えで決まったと。」と発言した(なお,「Dゾーン」とは,新自動認可運賃における小型車の下限運賃のことである。)ところ,日の出交通や個人タクシーは新自動認可運賃に移行しないで,自分たちが移行するとしたことだけはそのままにしてくれということでは話が違うなどと述べた者がいたが,高橋がまず自分たちの意思をはっきりさせないと前に進まないと述べたところ,最終的に出席者から異論は出なかった。
(査第5号証,第61号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第86号証,第92号証,第118号証の1及び2,第119号証ないし第121号証)
(サ) 平成22年2月2日の個人タクシー組合からの連絡
被審人都タクシーの高橋は,平成22年2月2日,新潟市個人タクシー組合の山口から,新潟交通圏における個人タクシーの3つの協同組合は,法人タクシーの新自動認可運賃への運賃変更認可申請を待たずに,新自動認可運賃の下限運賃で,かつ,初乗距離短縮運賃は設定しないとの内容で運賃変更認可申請を行うことになった旨の連絡を受けるとともに,その内容を市協会の役員へ伝えた。(査第40号証,第61号証,第123号証)
(シ) 平成22年2月17日開催の正副会長会議及び例会
a 開催日及び出席者
平成22年2月17日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の正副会長会議及び例会が開催された。
上記正副会長会議には,被審人都タクシーの高橋その他市協会の役員が出席した。
また,上記例会には,27社のうち港タクシーを除く26社が出席した。なお,被審人ハマタクシーは,上記例会に遅れて参加した。
(査第4号証,第5号証,第47号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第86号証,第87号証の1,第117号証,第124号証の1及び2,第125号証ないし第132号証,第134号証,第140号証,査141号証,第158号証)
b 正副会長会議における話合いの内容等
平成22年2月17日開催の正副会長会議において,被審人都タクシーの高橋は,市協会の役員に対して,会員各社の特定タクシー運賃を新自動認可運賃に移行することを確認した上で,①中型車の特定タクシー運賃の認可申請額については新自動認可運賃の初乗距離短縮運賃なしの下限運賃とすること,②大型車の特定タクシー運賃の認可申請額については新自動認可運賃の上限運賃とすること,③特定大型車の特定タクシー運賃の認可申請額については新自動認可運賃の上限運賃とすることの確認を求めたところ,どの役員も異論を述べることなく了承した。(査第63号証)
c 例会における話合いの内容等
(a) 平成22年2月17日開催の例会において,被審人都タクシーの高橋は,前記(サ)の新潟市個人タクシー組合の山口からの連絡を踏まえ,個人タクシーの協同組合は法人タクシーを待たずに運賃変更認可申請を行う見込みである旨を述べた。
そして,高橋は,出席者に対し,新自動認可運賃に移行するか否かを明確にしてほしい旨を述べた上で,小型車について,新自動認可運賃の下限運賃に移行し,かつ,初乗距離短縮運賃は設定しないこととすることについて,各社の意見を述べるよう求めた。
これに対し,出席者のうち数人が高橋の上記提案に賛成する旨の発言を行ったが,途中,中型車等の運賃について質問が出たことから,高橋は,中型車については新自動認可運賃の下限運賃に移行し,大型車及び特定大型車についてはいずれも新自動認可運賃の上限運賃に移行することを提案した。その後,高橋のこの提案に異論を述べる者はなかった。
この後,高橋が,引き続き各社に意見を述べるよう促した。その結果,それまでに意見を述べていた出席者も合わせて,着席位置の順に,被審人第一タクシー,東新タクシー,被審人さくら交通,太陽交通新潟,新潟あさひタクシー,被審人東港タクシー,四葉タクシー,被審人東重機運輸,被審人星山工業,被審人小針タクシー,被審人聖篭タクシー,はとタクシー及びコバト交通(上記例会に出席した斎藤章は両社の代表取締役である。),被審人光タクシー,被審人昭和交通観光,被審人NK交通,万代タクシー,三洋タクシー,被審人県都タクシー,被審人富士タクシー,三和交通並びに太陽交通の計22社(すなわち,27社のうち日の出交通,上記例会を欠席した港タクシー,上記例会に遅刻した被審人ハマタクシー,高橋が代表取締役を務める被審人都タクシー及び被審人都タクシー(豊栄)を除く全社)の出席者が上記高橋の提案に賛成する発言又は賛成を前提とする発言をした。なお,新潟あさひタクシー代表取締役大倉忠夫(以下「新潟あさひタクシーの大倉」という。)が「僕も上げる方向で。」と述べたのに対し,高橋が「方向じゃなくて上げるという。」と修正を求めたため,新潟あさひタクシーの大倉は,「上げる。」と発言を修正している。
他方,日の出交通の坂井は,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行するのであれば移行する旨を発言した。
(b) 以上の発言を受けて,高橋が,「取りあえずじゃあ全員,上げるということで,えー,日の出さんがはたして条件付きのような話になるんですけど,・・・運賃のほうはそういうことでよろしいですね」などと発言をしたところ,これに対して異論を述べる者はなかった。
(c) その後,運賃変更認可申請の時期について,数名の出席者が発言したが,高橋が平成22年2月25日までに行う旨の発言をしたところ,これに異論を述べる者はなかった。
(d) この段階で,被審人ハマタクシー代表取締役小林信太郎(以下「被審人ハマタクシーの小林」という。)が前記例会に出席した。高橋が,被審人ハマタクシーの小林に対し,日の出交通は今までと同じ意見だが,日の出交通が上げなくても運賃を上げていく旨,また,平成22年2月25日までに運賃変更認可申請書を提出していただきたい旨述べたところ,被審人ハマタクシーの小林は,これに異論を述べなかった。
(e) その後,会員各社の申請を取りまとめて行うか,会員各社がそれぞれ行うかという質問が出されたところ,高橋は,「協会へ出していただいて,24日集まった段階で,25日でも持っていきます。」と発言したところ,これに異論を述べる者はなかった。
(査第4号証,第5号証,第47号証,第61号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第86号証,第87号証の1,第117号証,第122号証,第124号証の1及び2,第125号証ないし第157号証〔枝番を含む。〕)
d 市協会は,前記例会において決定された車種区分ごとの特定タクシー運賃の内容を記載するとともに,運賃変更認可申請書の作成に関しては県協会の後藤恵子監理課長(以下「県協会の後藤課長」という。)が担当すること,会員各社の上記申請書類は県協会で作成して会員各社にファクシミリ送信するので,会員各社は添付書類の内容を確認し,それでよければ1枚目の書類(鑑の部分)に署名押印して県協会へ持参してほしいことなどを記載した市協会名義の平成22年2月19日付け「新々ゾーンへの移行申請について」と題する文書(査第133号証)を作成し,それを会員各社に対しファクシミリ送信してその内容を周知した。(査第4号証,第5号証,第129号証,第133号証,第140号証,第141号証)
e 平成22年2月17日開催の例会を欠席した港タクシーへの連絡等
(a) 港タクシーの鈴木は,高齢のため,市協会の例会等の会合に欠席することが多かったが,かねてから,被審人第一タクシーの金井と懇意であったこともあり,被審人第一タクシーの金井が,市協会における話合いの状況を港タクシーの鈴木に随時報告していた。港タクシーの鈴木は,被審人第一タクシーの金井に対し,市協会の会合の場における港タクシーの意向表明を任せ,市協会の会合の場で会員である法人タクシーの意見が集約された場合には,それに従うとの意思を伝えていた。また,市協会の会員である他の法人タクシーからも,市協会の会合の場における港タクシーの意向表明は被審人第一タクシーの金井に一任されているものと受け止められていた。
(b) 港タクシーの鈴木が平成22年2月17日開催の例会を欠席したことから,被審人第一タクシーの金井が遅くとも同月20日までに上記例会で日の出交通を除く出席者が決定した内容を伝えたところ,港タクシーの鈴木は,同社もそれに同調する旨述べた。
(査第63号証,第129号証,第134号証,第157号証,第158号証)
(ス) 小括
 以上のとおり,26社は,旧自動認可運賃公示後も解消されず,更に程度を増した運賃多重化の解消のために話合いを継続的に行ってきたところ,新潟地域協議会への対応について話し合う必要が生じたことを契機として,タクシー運賃の変更についての話合いを行い,平成21年11月27日開催の臨時例会において,被審人都タクシーの高橋は,27社が足並みをそろえて新自動認可運賃へ移行することを提案し,多くの出席者が新自動認可運賃に移行する旨を述べ,日の出交通の坂井を除き,これに反対する者はいなかった。26社は,同年12月10日開催の例会においても,新自動認可運賃へ移行することを確認した。その後,平成22年1月20日開催の臨時例会においては,上記のとおり確認された新自動認可運賃への移行を前提として,出席者は,新自動認可運賃へ移行する際にどの運賃区分に移行するかを話し合い,話合いの過程においては,移行する新自動認可運賃の運賃区分についていくつかの意見が出されたが,最終的には,小型車について,新自動認可運賃の下限運賃に移行し,初乗距離短縮運賃は設定しないこと,同年2月末までに運賃変更認可申請をすることで各社の方針を集約し,これを決定した。このことは,同年1月27日開催の臨時例会においても再確認された。その後,同年2月17日開催の例会において,26社のうち同例会に欠席した港タクシーを除く25社は,最終的に,特定タクシー運賃について,小型車については,新自動認可運賃の下限運賃に移行し,かつ,初乗距離短縮運賃は設定しないこととすること,中型車についても新自動認可運賃の下限運賃に移行すること,大型車及び特定大型車については新自動認可運賃の上限運賃に移行することを決定し,上記例会を欠席した港タクシーの鈴木も,同月20日までの間に,被審人第一タクシーの金井からその旨の連絡を受けて,これに同調することを伝えた。これにより,26社は,新自動認可運賃への移行と全車種について移行すべき運賃区分を合意するとともに,小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを合意した。
この間,26社は,新自動認可運賃に移行するには個人タクシーを含め新潟交通圏の全てのタクシー事業者が移行する必要があるなどとして,事実上新自動認可運賃への移行を拒絶していた日の出交通に対して,再三,足並みをそろえて移行するように申し入れた。また,26社は,日の出交通を説得するために,個人タクシーの事業協同組合と連絡を取り,個人タクシーに対して新自動認可運賃への移行を働きかけていた。
エ 平成22年2月20日頃以降の状況
(ア) 新潟市個人タクシー組合への連絡
被審人都タクシーの高橋は,平成22年2月18日,新潟市個人タクシー組合の山口に対して,同月17日に市協会で話し合った結果,新自動認可運賃への移行について,日の出交通以外の全社が同月25日までに県協会に運賃変更認可申請書を提出することとなった旨を連絡した。(査第61号証,第139号証)
(イ) 運賃変更の状況
a 運賃変更認可申請書の提出等
被審人都タクシーの高橋は,平成22年2月17日開催の例会の後,運賃変更認可申請書の作成及び提出の業務を県協会に依頼し,県協会の後藤課長は,26社が書類(変更後の運賃表を含む。)を確認し,上記申請書の表紙に代表者印あるいは社判及び代表者印を押印すれば足りる状態にまで準備した。
そして,26社は,同月25日から同年3月5日にかけて,直接又は県協会を通じて,特定タクシー運賃について,小型車については,新自動認可運賃の下限運賃とし,かつ,初乗距離短縮運賃を設定しない,中型車については新自動認可運賃の下限運賃とする,大型車及び特定大型車については新自動認可運賃における上限運賃とする内容の運賃変更認可申請書類一式を新潟運輸支局へ提出した。
なお,26社は,実際に保有する車種区分に関係なく,小型車以外の全ての車種区分についても認可申請を行った。
(査第5号証,第36号証の1及び2,第42号証,第62号証,第133号証,第140号証,第141号証)
b 北陸信越運輸局の認可及び認可された特定タクシー運賃の適用
26社は,前記aの運賃変更認可申請について,いずれも平成22年3月26日付けで北陸信越運輸局の認可を受け,同月29日から同年4月17日にかけて認可を受けた特定タクシー運賃を適用した(このうち,被審人らが認可を受けた特定タクシー運賃を適用した日は,それぞれ別紙8の各被審人に係る「事業活動を行った日」欄記載の日である。)。この結果,同年4月17日以降,26社の車種区分ごとの特定タクシー運賃は,全て同一運賃となった。日の出交通を含めた27社の初乗運賃は,下表のとおりである。
(表省略)
また,新潟交通圏における個人タクシーは,新自動認可運賃に改定される前から新自動認可運賃に該当する特定タクシー運賃を適用していた6名を除き,平成21年10月から平成23年2月までの間に北陸信越運輸局に対し新自動認可運賃に該当する特定タクシー運賃に変更する運賃変更認可申請を行い,平成21年10月から平成23年3月までの間に認可を受けた。その結果,新潟交通圏における全ての個人タクシーは,新自動認可運賃に該当する特定タクシー運賃を適用している(同年5月末日現在,小型車351台のうち,下限運賃を適用するものが336台,上限運賃を適用するものが15台である。)。
(査第40号証,第47号証,第62号証,第173号証ないし第175号証)
(ウ) 日の出交通に対する働きかけ
被審人都タクシーの高橋は,平成22年3月1日,日の出交通の坂井と電話で話し,26社と同一の特定タクシー運賃とするよう求めた。これに対し,坂井は,従前どおり,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行しない限り,日の出交通は新自動認可運賃に移行しないので,様子を見させてもらう旨を述べた。(査第48号証,第162号証,第165号証)
(エ) 平成22年3月9日開催の例会
a 開催日及び出席者
平成22年3月9日,新潟市ハイヤータクシー会館において,市協会の例会が開催された。
上記例会には,27社のうち港タクシー及び日の出交通を除く25社のほか,市協会の佐藤専務理事が出席した。
(査第48号証,第87号証の1,第161号証ないし第164号証)
b 話合いの内容等
(a) 平成22年3月9日開催の例会において,被審人都タクシーの高橋は,26社の全てが新潟運輸支局に運賃変更認可申請書を提出済みであることを報告した。
また,高橋は,同月1日に日の出交通の坂井と電話で話し,26社と同一の特定タクシー運賃にするよう求めたところ,坂井からは,従前どおり,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行しない限りは日の出交通も新自動認可運賃に移行しない旨の回答があったことを報告するとともに,「皆さん足並みそろえてですね,やっていただきたい」と述べて,上記例会の出席者に対し,運賃変更認可申請が認可された場合には,各社とも認可された特定タクシー運賃どおり値上げするよう求めた。
さらに,高橋は,個人タクシーのうち50台が運賃変更認可申請書を提出済みであり,個人タクシーで組織する3つの協同組合も,また,これら3つの協同組合に所属していない個人タクシーも,新自動認可運賃に移行するとの意思表示をしており,日の出交通を除く法人タクシー,個人タクシーとも新自動認可運賃に移行する見込みである旨報告した。
(b) 前記例会においては,新自動認可運賃に移行しない日の出交通を非難する発言をする会員がいた。
(c) また,前記例会においては,特定タクシー運賃の変更が認可された後,変更後の特定タクシー運賃を適用する時期,すなわちタクシーメーターを交換する時期についても話合いが行われた後,高橋が平成22年3月末でよいか確認を求め,特段の異論がなかったため,同月末を目途に変更後の特定タクシー運賃の適用を開始することで一致した。
(査第87号証の1,第161号証ないし第163号証,第182号証の1及び2,第183号証)
(オ) その後の日の出交通に対する働きかけ
26社は,平成22年4月以降も,市協会の例会の場において,日の出交通の坂井に対し,26社と足並みをそろえて新自動認可運賃へ移行することを求めたり,日の出交通の代表取締役である都築雅夫に対して,書面で面談の機会を設けるよう申入れを行うなどして,同社に対し働きかけを続けた。(査第4号証,第166号証,第169号証ないし第172号証,第184号証の1及び2,第185号証)
(カ) 小括
前記(ア)ないし(オ)のとおり,26社は,平成22年2月17日開催の例会に欠席した港タクシーを除く25社が最終的に決定し,その後遅くとも同月20日までに港タクシーが同調する旨表明したとおりの内容で運賃変更認可申請を行ったことが認められる。また,26社は,26社と足並みをそろえない日の出交通に対し,同月17日開催の例会以降も,26社と足並みをそろえるよう度々要求していたことが認められる。
(2) 検討
ア 前記(1)の認定事実によれば,26社は,遅くとも平成22年2月20日までに,特定タクシー運賃について,
① 小型車については,新自動認可運賃における下限運賃として定められているタクシー運賃とし,かつ,初乗距離短縮運賃を設定しないこととする
② 中型車については,新自動認可運賃における下限運賃として定められているタクシー運賃とする
③ 大型車については,新自動認可運賃における上限運賃として定められているタクシー運賃とする
④ 特定大型車については,新自動認可運賃における上限運賃として定められているタクシー運賃とする
旨の合意,すなわち本件合意をしたことが認められる。
なお,日の出交通の坂井は,平成21年11月から平成22年2月にかけて開催された市協会の例会等において,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行するならば,日の出交通も新自動認可運賃への移行を検討する,あるいは,移行する旨を繰り返し述べているが,坂井は,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行することは現実的ではないと認識しており,そのような条件を付すことによって,一貫して新自動認可運賃への移行を事実上拒否していたものであり(査第48号証,第89号証),他方,同年1月27日開催の臨時例会において,高橋が個人タクシーが全て新自動認可運賃に移行することは無理である,日の出交通が新自動認可運賃への移行について個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者の移行を条件としていることは日の出交通が新自動認可運賃へ移行しないことについての便法であるという趣旨の発言をし,その他の出席者も坂井が述べる条件が現実的でないという認識を前提に坂井を非難したり,坂井を説得していること(査第120号証)からすると,26社も坂井が個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行するという現実的でない条件を付すことによって新自動認可運賃への移行を事実上拒否していると認識していたと認められる(なお,前記(1)エ(イ)bのとおり,結果的に新潟交通圏の全ての個人タクシーが平成23年3月までに新自動認可運賃へ移行しているが,そのことは上記認定に係る平成22年2月頃までの坂井及び26社の認識に影響を与えるものではない。)から,日の出交通は本件合意には参加していないものと認められる。
イ そして,本件合意により,26社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法第2条第6項の「その事業活動を拘束し」の要件を充足する。また,本件合意の成立により,26社の間に,本件合意の内容に基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,同項の「共同して・・・相互に」の要件も充足する。
(3) 被審人らの主張について
ア 審査官作成の供述調書の任意性及び信用性に関する被審人らの主張について
被審人らは,被審人ら代表者等役職員の供述調書(査第4号証,第8号証,第61号証,第112号証,第129号証,第142号証ないし第154号証,第158号証),日の出交通及び三洋タクシーを除く市協会会員各社の役職員の供述調書(査第5号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第86号証,第87号証の1及び2,第117号証,第131号証,第140号証,第141号証,第155号証ないし第157号証)並びに市協会の佐藤専務理事の供述調書(査第3号証,第7号証,第102号証)につき,市協会の会員各社が,市協会の例会の場において,新潟地域協議会に参加するに当たっての一般的な意見を取りまとめる目的で運賃多重化の解消についての情報や意見を交換していたことを審査官の理詰めの誘導等によって対価の引上げと結び付けられた結果作成されたものであり,供述の任意性及び信用性は認められない旨を主張し,被審人都タクシーの高橋及び被審人さくら交通代表取締役三田啓祐(以下「被審人さくら交通の三田」という。)も自らの説明内容が正確に記録されていない旨の陳述をし(審第64号証,高橋良樹代表者審尋速記録,三田啓祐代表者審尋速記録),また,被審人ら代表者等の陳述書にも上記被審人らの主張に沿う記載がある(審第79号証の1ないし13)。
しかし,被審人都タクシーの高橋及び被審人さくら交通の三田に対する代表者審尋の結果並びに上記被審人ら代表者等作成の陳述書によっても,審査官作成の供述調書の任意性及び信用性を疑わしめる事情は認められず,むしろ,これらの多くの供述調書の内容は,相互に内容がおおむね一致するとともに,前記(1)掲記の多数の証拠の記載と合致するものであり,その信用性は高いものと認められるから,被審人らの上記主張は採用できない。
イ その他の証拠に関する被審人らの主張について
(ア) 被審人らは,前記(1)ウ(ク)c(g)のとおり,平成22年1月20日開催の臨時例会の協議の結果について市協会の佐藤専務理事が作成し市協会の会員各社にファクシミリ送信した文書である査第113号証について,同人の個人的意見が記載されたものである旨を主張する。
しかし,市協会の専務理事の立場にあった同人が市協会名義で作成し,会員各社にファクシミリ送信して内容を周知する文書に個人的意見を記載することは考えられず,また,査第113号証の文書に記載された内容は,同人の供述調書(査第102号証)や,上記臨時例会に係る前記(1)ウ(ク)c掲記の証拠ともその内容が合致すること,高橋が同月22日開催の正副会長会議において査第113号証の文書を会員全社に配布することの了承を得ていること(査第63号証)からすると,査第113号証は,上記臨時例会についての正確な内容を記載したものであり,市協会の佐藤専務理事の個人的意見を記載したものとは認められないから,被審人らの上記主張は採用できない。
(イ) 被審人らは,前記(1)ウ(ク)c(f)のとおり,県協会の竹谷事務局長が市協会の佐藤専務理事から受けた平成22年1月20日開催の臨時例会の協議の結果についての報告をまとめた査第114号証の内容について,県協会の竹谷事務局長の主観・見込みに基づく記載であり,実際に市協会の佐藤専務理事からの連絡内容を正確に表現したものではない旨を主張し,県協会の竹谷事務局長の陳述書(審第20号証)にもそれに沿う記載がある。
しかし,査第114号証は,前記(ア)と同様,前記(1)ウ(ク)c掲記の各証拠とその内容が合致することからすると,市協会の佐藤専務理事からの連絡内容を正確に記載したものと認められるから,被審人らの上記主張は採用できない。
(ウ) 被審人らは,被審人第一タクシーの金井が,平成22年1月27日開催の臨時例会に関して,手帳(査第121号証)に「運賃統一化は日の出だけが難クセを付けて同調せず・・・流れ」と記載しているから,仮に同月20日開催の臨時例会で何らかの確認がなされたとしても,同月27日開催の臨時例会でそれは覆されたと解するのが自然である旨を主張する。
しかし,同月27日開催の臨時例会の状況は前記(1)ウ(コ)で認定したとおりであり,同月20日開催の臨時例会の確認事項を覆した事実はないから,被審人らの上記主張は採用できない。
(エ) 被審人らは,平成22年2月19日に市協会が会員にファクシミリ送信した文書である査第133号証について,被審人都タクシーの高橋が自社の申請内容を例示したものにすぎず,また,申請は各社の自主判断によるべきであることから,高橋が「あくまでも申請は自主的な決定による。」との記載を加えた旨を主張し,被審人都タクシーの高橋の陳述書(審第64号証)にもそれに沿う記載がある。
そこで,検討するに,査第133号証は,市協会が会員各社に対して発出した運賃変更認可申請書の作成に関する依頼文書であり,文中には,運賃変更認可申請書の作成については県協会の後藤課長が担当し,平成22年2月23日までに会員各社の申請書類を作成してファクシミリ送信するので,添付書類の内容がそれでよければ,一緒に送った1枚目の書類(鑑の部分)に署名押印の上,それを県協会へ持参してほしいことなどが記載された後に,各車種について同月17日開催の例会で合意されたとおりの運賃区分と初乗距離短縮運賃設定の有無が記載されており,最後に「あくまでも申請は自主的な決定による。」と記載されている。
査第133号証は,26社のうち欠席した港タクシーを除く25社が最終的に新自動認可運賃への移行等を合意した上記例会の直後に市協会の名義で発出されたものであること,それに記載された運賃区分等は上記例会で合意されたとおりであること,会員各社の申請書類は県協会が作成し,会員各社はその内容を確認するという内容になっていること,査第133号証を作成した高橋は,会員各社に対し,かねてから新潟交通圏の法人タクシーが足並みをそろえて新自動認可運賃に移行することや適用する運賃区分等をそろえることを求めていたこと,査第133号証には被審人都タクシーの申請内容である旨の記載はなく,また,高橋が会員各社に対し同被審人の申請内容を例示として示さなければならない理由がないことからすると,査第133号証は,上記例会での合意事項を確認してこれを会員各社に周知するとともに,会員各社に対して爾後の運賃変更認可申請の手続の進め方を知らせたものと認められるのであって,高橋が自社の申請内容を例示したものと認めることはできない。
また,「あくまでも申請は自主的な決定による。」との記載についても,上記の点に加え,高橋が太陽交通の佐藤に対し,運賃変更認可申請について,「一度に申請書を提出すると談合をしているといった疑いを持たれるので,申請日をバラしたい。」と話していたこと(査第87号証の1),高橋が平成22年3月9日開催の市協会の例会において「日の出さんが承知しているのは,私らは何もできないと思っているから,いろんなことを言ってくるんですけど,確かに,独禁法からいうと,・・・運賃安いの引き上がって,また,同じ話になりますから,なかなか難しいと思いますけど」と発言していること(査第183号証),同年2月17日開催の例会に出席した太陽交通の佐藤及び太陽交通新潟代表取締役髙松勝男(以下「太陽交通新潟の髙松」という。)が査第133号証の「あくまでも申請は自主的な決定による。」との記載は独占禁止法違反を隠蔽するためのものであるとの認識を示していること(査第140号証,第141号証)を併せて考慮すると,高橋が26社の行為が同法に違反する旨の指摘を受けることを懸念して査第133号証の文書に上記記載を入れたものと認められる。
したがって,被審人らの上記主張は採用できない。
ウ 平成21年10月頃までの状況に関する被審人らの主張について
(ア) 被審人らは,平成20年7月の旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃への改定時の経緯は本件とは無関係であり,また,同改定以降,運賃多重化の解消のために話し合ったのは,構造改善計画の作成又は実行に必要な範囲で行ったものにすぎない旨を主張する。
(イ) しかし,前記(1)ア及びウ(ア)のとおり,旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃への改定が,一度の手続中断を経ながら実現されたにもかかわらず,実際に旧自動認可運賃に移行する事業者が市協会会員の一部にとどまったことは,被審人都タクシーの高橋にとって繰り返してはならない失敗と認識されていたのであり,そのことを踏まえ,市協会の会長の就任に際して,会員に対し運賃多重化の解消のための話合いへの協力を要請したものと認められる。したがって,旧々自動認可運賃から旧自動認可運賃への改定時の経緯は本件合意の成立と無関係とはいえない。
また,平成20年7月以降,運賃多重化の解消のための話合いが継続して行われていたことが,本件合意の成立と関係すると考えられるのであって,その話合いが構造改善計画の作成又は実行に関連するとしても,上記関係が否定されるものではない。
したがって,前記(ア)の被審人らの主張は採用できない。
エ 日の出交通への働きかけに関する被審人らの主張について
(ア) 被審人らは,26社が,日の出交通に対して,26社と足並みをそろえて新自動認可運賃へ移行するよう求めていた事実はなく,日の出交通に対する対応は,新自動認可運賃への移行について,同社の坂井の発言が一貫せず,趣旨を図りかねていたことから,その態度を明確にするよう求めたものである旨を主張する。そして,被審人らは,坂井の発言が一貫しなかった点について,坂井が平成22年1月20日開催の臨時例会までは「1台も残らず」個人タクシーが新自動認可運賃に移行しなければならないとの発言をしていなかったにもかかわらず,同月27日開催の臨時例会になって初めて「1台も残らず」との条件を追加し,さらに運転代行業についても言及するに至ったと主張する。
(イ) しかし,坂井は,次のとおり,平成21年11月27日開催の臨時例会から既に個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行することを条件としていたと認められる。すなわち,①坂井は,同日開催の臨時例会を含め同月から平成22年2月までに開催された市協会の例会等において,平成20年7月に旧自動認可運賃への移行が話し合われた際と同様に,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が移行すれば日の出交通も移行を検討すると,現実的でない条件を付けて運賃を値上げしないようにしてきた旨を供述していること(査第48号証,第89号証),②実際,坂井又は日の出交通の当時の代表取締役である福島は,平成20年7月に旧自動認可運賃への移行が話し合われた際にも,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が旧自動認可運賃に移行するならば日の出交通も移行を検討する旨述べ(査第48号証,第59号証),また,坂井は,平成22年1月27日開催の臨時例会及び同年2月17日開催の例会においても,個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行することが日の出交通の移行ないしその検討の条件であることを繰り返し述べているのであって(査第120号証,第126号証),日の出交通が個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新しい自動認可運賃に移行することを同社の移行ないしその検討の条件とすることで一貫していたこと,③平成21年11月27日開催の臨時例会に出席した三洋タクシー代表取締役伊藤稔,太陽交通の佐藤,四葉タクシー専務取締役豊田耕祐,太陽交通新潟の髙松及び新潟あさひタクシーの大倉が,一致して,坂井が個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行するならば日の出交通も移行を検討する旨述べたと供述していること(査第47号証,第63号証,第64号証の1,第65号証,第86号証,第90号証)からすれば,同日開催の臨時例会において坂井が同旨のことを述べたことは明らかである(なお,「平成21年11月 臨時例会の概要」と題する書面〔査第88号証〕には「中には,個人タクシーのほとんどが移行することを条件としている社もあり」と記載されているが,不正確な記載である。)。
そして,坂井は,平成22年1月20日開催の臨時例会において,「私,まだあのー,前からお話させていただいてるように,個人タクシーさんがどうなされるのかっていうのが,・・・きちっとした話がどうなってるのかなっていうのがよく分からなくて。」,「うちは前から同じようなことしか言ってません。・・・先ほどお話させていただいたように個人タクシーさんがきちっと担保されるような形じゃないと,なかなか踏ん切りがつかない。」などと述べており,坂井が上記臨時例会において,平成21年11月27日開催の臨時例会で述べたことを踏まえた話をしていることは明らかである。したがって,坂井は,一貫して個人タクシーを含む新潟交通圏の全てのタクシー事業者が新自動認可運賃に移行することを条件としていたものであり,また,坂井は,平成22年1月27日開催の臨時例会において運転代行業についても言及しているが,前記(2)アのとおり,坂井は現実的でない条件を付することによって新自動認可運賃への移行を事実上拒否し,26社も同様の認識を有している中で,坂井は更に条件を厳しくして,新自動認可運賃への移行を拒否する姿勢をより強く示したにすぎないことは明らかであるから,26社が坂井の発言が一貫しないとしてその趣旨を確認しなければならない状況にはなかったと認められる。
(ウ) そして,実際に平成22年1月27日開催の臨時例会における話合いの状況は前記(1)ウ(コ)bのとおりであり,坂井に対する僅かな質問はあったものの,坂井に対する発言は専ら坂井を非難するか26社と足並みをそろえるよう説得する内容であり,坂井の発言が一貫しないとしてその趣旨を確認するような内容ではなく,また,それ以外の機会における坂井に対する発言も同様である。
(エ) したがって,前記(ア)の被審人らの主張は採用できない。
オ 市協会の例会等における話合いの内容に関する被審人らの主張について
(ア) 被審人らは,27社は新潟地域協議会において運賃多重化の解消や過度な運賃競争を避けるための対策について議論されていたことを受けて,市協会を代表して同協議会に出席する被審人都タクシーの高橋が市協会として述べるべき一般的な意見を取りまとめる必要があったことから情報や意見を交換したものである旨を主張し,高橋も,「協会で決まったというのは,行政が自動認可運賃に入るのがベターだということであれば,全員で検討してみてもいいねというような軽い話なんですね。」などとそれに沿う陳述をする(高橋良樹代表者審尋速記録)。
(イ) 確かに,被審人都タクシーの高橋は,前記第3の4(7)アのとおり新潟地域協議会の構成員であり,同協議会において意見を求められる場合があったと認められる。
しかし,前記(1)の認定事実によれば,26社は新自動認可運賃への移行,車種区分ごとの移行する運賃区分及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを具体的に話し合っていること,その際,事業者によっては異なる意見があったにもかかわらず,26社は全く同一のタクシー運賃に収れんさせていること,同一のタクシー運賃に収れんさせるに当たり,被審人都タクシーの高橋が市協会の例会等に出席した会員に対しその意思を個別に確認して,当該会員に意思を明らかにさせるとともに,他の会員にとっても他社の意向を認識することが可能な状況にしていること,26社は最終的な話合いをした平成22年2月17日開催の例会において,その僅か8日後である同月25日を運賃変更認可申請書の提出時期としていること,市協会は26社によって最終的に収れんされたタクシー運賃の内容を書面化して,会員各社にファクシミリ送信し,その周知をしていること,高橋は上記例会の後,運賃変更認可申請書の作成及び提出の業務を県協会の後藤課長に依頼し,県協会の後藤課長は,26社が書類(変更後の運賃表を含む。)を確認し,上記申請書の表紙に代表者印あるいは社判及び代表者印を押印すれば足りる状態にまで準備していること,26社は同一内容でほぼ一斉に運賃変更認可申請書を提出していること,26社は事実上新自動認可運賃への移行を拒否している日の出交通に対し執拗に26社と足並みをそろえるように説得していること,そのために高橋らは個人タクシーの協同組合に対しても新自動認可運賃への移行を働きかけていることが認められるのであって,これらの事実によれば,26社は,新潟地域協議会で表明するための一般的な意見の取りまとめの範囲を超えて,各社が適用する具体的なタクシー運賃について合意したことは明らかである。
したがって,前記(ア)の被審人らの主張は採用できない。
2 争点2(本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するか。具体的には,26社の共同行為に正当化理由があるか。)
(1) 一定の取引分野における競争の実質的制限について
独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される(前記最高裁判所平成24年2月20日判決参照)。この「一定の取引分野」は,原則として,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,画定されるものと解される(東京高等裁判所平成5年12月14日判決・高等裁判所刑事判例集第46巻第3号322頁〔トッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕参照)。
そして,一定の取引分野を画定するに当たっては,現実に行われている競争関係のみならず,潜在的な競争関係も考慮される(東京高等裁判所昭和61年6月13日判決・公正取引委員会審決集第33巻79頁〔旭砿末資料合資会社による審決取消請求事件〕,同裁判所平成20年12月19日判決・公正取引委員会審決集第55巻974頁〔株式会社東芝ほか1名による審決取消請求事件〕参照)。
(2) 本件における一定の取引分野について
前記1(2)のとおり,26社は,小型車,中型車,大型車及び特定大型車の全ての車種区分に係る特定タクシー運賃を,新自動認可運賃における一定の運賃区分として定められているタクシー運賃とし,かつ,小型車については初乗距離短縮運賃を設定しないこととする旨の本件合意を行った。すなわち,本件合意は,小型車,中型車,大型車及び特定大型車の全ての車種区分に係る特定タクシー運賃を対象としている。
また,前記1(1)エ(イ)aのとおり,26社は,一部の車種区分に係るタクシー車両を保有していないタクシー事業者も含め,本件合意に基づき,小型車,中型車,大型車及び特定大型車の全ての特定タクシー運賃について,本件合意のとおり運賃変更認可申請を行い,当該申請のとおり認可されたところ,運賃変更認可申請を行って認可されていれば,当該申請時点において保有していない車種区分に係るタクシー車両についても,その後当該車種区分に係るタクシー車両を保有するに至った際,特定タクシー運賃に関する新たな申請を要することなく,直ちに当該申請済みの特定タクシー運賃を適用することができるのであるから,本件合意が,潜在的な競争関係も含めて,小型車,中型車,大型車及び特定大型車の全ての車種区分に係るタクシー事業についての競争関係に影響を及ぼすことは明らかである。
したがって,26社が行った本件合意の対象である取引及びそれにより影響を受ける範囲は,新潟交通圏における小型車,中型車,大型車及び特定大型車を包含するタクシー事業の取引分野であるから,本件における一定の取引分野は,「新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野」である。
(3) 本件における競争の実質的制限について
本件においては,前記第3の4(5)のとおり,平成22年度の営業収入ベースで約81.0パーセントもの市場占有率を持つ26社が,本件合意をしたものであるから,これにより,26社がその意思で,新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野における特定タクシー運賃をある程度自由に左右することができる状態がもたらされたことが認められる。
ところで,被審人らは,26社の共同行為には正当化理由があるので,26社が新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野における競争を実質的に制限していないと主張するので,以下,この点について検討する。
(4) 行政指導による強制等の観点からの正当化理由が存在するから一定の取引分野における競争を実質的に制限していない旨の被審人らの主張について
ア 被審人らは,26社は新潟運輸支局等の行政指導によって強制され又はその指示,要請若しくは主導の下にやむを得ず共同行為を行ったものであるところ,26社はかかる強制又は指示,要請若しくは主導の下で自由に意思決定をすることができない状況であったから,当該共同行為には正当化理由が存在するので,一定の取引分野における競争を実質的に制限していない旨主張する。
イ 新潟運輸支局等の担当官のタクシー特別措置法や新自動認可運賃に関する発言等については,本件合意成立後のものを含め,以下のものが認められる。
なお,被審人らは,平成21年10月9日に開催された市協会の連絡会議における報告,平成22年3月31日に開催された第3回新潟地域協議会における北陸信越運輸局の岡田自動車交通部長の発言も行政指導が行われたことの根拠となる旨を主張するが,前者は,上記連絡会議においてなされた,運輸局から新潟地域協議会の設置に当たり会員各社の意向を確認してほしいことなどの要請を受けたことの報告であり(査第6号証),後者は,北陸信越運輸局の岡田自動車交通部長が地域計画に基づく特定事業計画の策定及び実施の重要性等について述べたものであって(審第14号証),新自動認可運賃への移行との関連性が極めて乏しいと認められるので,本件で問題となる行政指導といえないことは明らかである。また,被審人らは,新潟運輸支局の坂本首席専門官の平成21年10月以降の県協会に対する働きかけについても行政指導の一部であると主張するが,その点については後記エのとおりである。
(ア) 本件合意成立前のもの
a 平成21年6月10日開催の全国乗用自動車連合会正副会長会議
平成21年6月10日に開催された全国乗用自動車連合会の正副会長会議において,国土交通省の本田自動車交通局長は,タクシー特別措置法附則第5項による道路運送法第9条の3第2項第1号の読替特例措置に関し,当該読替特例措置は非常に大きな改正であると国土交通省では考えていること,具体的な運用の大きな変更は自動認可運賃の幅の縮小の検討,個別審査基準の明確化と厳格化の2点であることを述べた。そして,下限割れ運賃については,現在,不正競争防止の見地から原則として収支率100パーセント以上であるかどうかをその基準としているところ,これに加えて,「適正な原価に適正な利潤を加えたもの」かどうかを審査することになるので,この場合の「適正な原価」とは何か,「適正な利潤」とは何かについて,例えば,労働条件の悪化の防止,改善を図る見地等から,検討を行う必要が生じるものと考えている旨を説明した。(審第41号証)
b 平成21年7月1日開催の全国乗用自動車連合会全国協会長会議
平成21年7月1日に開催された全国乗用自動車連合会の全国協会長会議において,国土交通省の本田自動車交通局長は,タクシー特別措置法の概要と施行に向けた今後のスケジュール,同法案の附帯決議等について説明し,「法律同様附帯決議においても全会一致で可決されたので,非常に重みがあり,現場で運用する担当官としては,国会の意思としてこういった方針が示されたことは業務運営の大きな自信となる。」,「附帯決議においては,自動認可の幅を縮小すべきだとされている。」,「下限割れ運賃については自動認可をせず,事業内容をチェックした上で個別認可を行っている。現在の基準は,収支率が100%以上かどうかという点と労働条件で労使合意がなされているかという点である。現在,指摘されているように低額運賃が乗務員の労働条件を悪化させ,タクシーの機能の低下に繋がっている。このため,下限割れ運賃については,もっと厳しい基準で対応すべきだと考えている。」,「今回の基準により適正原価,適正利潤がクローズアップされてきたので審査基準を明確化して,適正な原価とは何かを議論していく。仮に,収支率が100%以上であっても経営に違法性,不適切な問題が絡んでいる場合の対応についても議論していく。」旨の発言を行った。(審第41号証)
c 平成21年8月28日開催のタクシー特別措置法説明会
平成21年8月28日に新潟市において,タクシー特別措置法説明会が開催された。同説明会において,北陸信越運輸局自動車交通部の高橋清吉旅客課長(以下「高橋旅客課長」という。)は,新自動認可運賃を下回る下限割れ運賃について,今後,①新たに下限割れ運賃への運賃変更認可申請がある場合は厳格に審査する,②各社が適用している現行のタクシー運賃が,新自動認可運賃の下限運賃より低い額の場合,適正な原価に適正な利潤を加えたものとなっているかどうか,定期的に収支状況等の報告を求める旨を説明した。また,高橋旅客課長は,タクシー事業者は新自動認可運賃に移行しなければならないのかという趣旨の出席者からの質問に対して,当局としては,平成21年10月に公示される新自動認可運賃に移行するために,運賃を値上げしろとはいえない,新自動認可運賃へ移行することを強制するものではなく,移行するかどうかは個々の事業者の判断であるという趣旨の回答をした。(査第18号証,第178号証,第179号証)
d 平成21年10月13日開催のタクシー特別措置法説明会
平成21年10月13日に長岡市でタクシー特別措置法の説明会が開催された。同説明会において,坂本首席専門官は,「タクシー特別措置法が成立した時に出された附帯決議につきましては・・・今後の運賃の在り方や,地域計画,特定事業計画の内容に大きな影響力がありますので,重く受け止めていただきたいと思います。」と発言し,その後の質疑応答で「法の施行の趣旨からいえば,私どもからは自動認可の幅運賃の所へ移行して下さいというお願いと指導をしていくという形になります。指導に従わない方には,調査を求めるとか監査をするとかいう措置が取られるかと思いますが,旧運賃そのものを否定するものではありませんが,だからと言って立場的には旧運賃でいいですとはいえませんのでご理解下さい。」,「直ちにとか,いつまでにというような申請期日の記載もないので,とにかく新ゾーンに入っていただければと考えております。」などと述べ,当該発言を記載した会員通報は26社を含めた県協会の会員に配布された。(審第6号証)
また,上記説明会において,坂本首席専門官は,「本来はゾーンに移ってもらう必要があるのですが,今までに認可をもらった300円運賃でやりたいという事であれば,新ゾーンに入らないという形も可能ではあります。しかし皆さんに法の趣旨というものを理解してもらって,新しいゾーンに移ってもらいたいと思います。」とも述べたが,この発言は上記会員通報に記載されていない。(審第6号証,第42号証)
e 平成21年12月24日開催の第2回新潟地域協議会
平成21年12月24日に開催された第2回新潟地域協議会において,北陸信越運輸局の担当官は,「繰り返しにもなりますが,運輸局のほうでも施策として二つ挙げさせていただきました。ひとつは下限割れ運賃に対する審査の厳格化。現在公示しております自動認可運賃を下回る運賃申請等が出てきた場合に,我々としましては21年10月のタクシー適正化・活性化法の施行以降,新たな基準を設けまして,厳格な審査を行うこととしております。併せて,ふたつめの施策として,現在下限を下回る運賃を採用している事業者につきましては,輸送実績等の報告徴収を図ってまいりたいと考えております。下限割れの事業者に対しまして,人件費であるとか,一般管理費,走行距離等,輸送実績等につきまして報告を毎月求めるということにしております。実施時期としましては,本協議会の地域計画策定後速やかに実施したいと考えております。」と述べた。(査第95号証)
(イ) 本件合意成立後のもの
a 平成23年8月26日の県協会の土屋会長らと国土交通省の中田徹自動車局長との面談
平成23年8月26日,県協会の土屋会長のほか,全国交通運輸労働組合総連合信越地方総支部ハイタク部会,全国自動車交通労働組合連合会新潟地連の役員等が国土交通省を訪問し,同省の中田徹自動車局長(以下「中田自動車局長」という。)と面会した。その際,中田自動車局長は,「2月10日発出の通達(タクシー事業の適正化及び活性化に係る取組みに際しての留意点について)に関して改めて説明すると,『適正化新法は独禁法を邪魔しない』『独禁法の枠内に適正化新法がある』ということ。つまり『適正化新法に従ったからといって,独禁法に触れないとは必ずしもならない』ということだ。その上で,われわれが運賃適正化を指導すること,その指導を踏まえて,事業者が自分の判断で運賃を変更することは問題ない,としている。新潟の地域協議会の特定事業計画を読めば分かるが,そもそも運賃の話は地域協議会ではしないことになっている」,「『下限割れを認めない』のではない。『審査を厳格化する』という趣旨だ」,「適正化新法下での適正化は,『独禁法に触れないようにやってください』ということが前提だったはず。にもかかわらず独禁法違反の疑いを抱かれてしまったということを反省してもらいたいとさえ思っている」と述べた。(審第43号証)
なお,上記面会の状況を報じた審第43号証には,訪問者の一人が中田自動車局長から「運賃適正化を強く指導した」との言質を得たと述べた旨の記載があるが,それは,あくまで訪問者の一人の発言を紹介したものであり,同自動車局長の発言を直接報じたものではない。
b 平成24年3月14日開催の第5回新潟地域協議会
平成24年3月14日に開催された第5回新潟地域協議会において,北陸信越運輸局の斉藤旅客課長は,「いわゆる下限割れというのは,私どもの自動認可運賃の公示を下回る運賃を採用すること自体は,これは各事業者の判断だ。」,「自動認可運賃への国の指導の部分だが,・・・私ども当局としてはタクシー適正化活性化法により運賃の認可基準等が改正された部分については主旨や経緯等を踏まえて,安全性等を確保するために適切な運賃水準というものが確保されるよう,適正化に向けた個々の事業者に対する自動認可運賃への移行を促す指導は行ってきている。これについては,私ども国が指導していないというものを私どもがそれを認めているという部分ではない。私どもは指導している。ただ私どもについてはその指導については,個々に対する移行を促す指導はしているしその部分は今後も堅持していきたいと思っている。」と発言した後に,「従来から私ども行政としては各社が共同して自動認可運賃に移行するよう促すような指導を行っているという事実はないという部分についてはご理解をいただきたい。」と述べた。(審第44号証)
c 平成25年1月31日開催の第6回新潟地域協議会
平成25年1月31日に開催された第6回新潟地域協議会において,北陸信越運輸局の斉藤旅客課長は,「現在の道路運送法,この特措法,この協議会のあり方については法的強制力は備わっておりません。法的強制力が備わっていないということは,事業者自らの経営判断の元で事業再構築,減車に取り組んでいただくことが前提となります。そういった中で,行政として示しただけで私どもの業務が終了したとも思っていないので,それについては第4回時にもご説明しておるかと思いますが,私どもも取り組みはやっています。減車に非協力的な事業者に対するヒアリング調査,事情聴取して経営実態の把握をさせていただいており,それは報告もいただいています。その中でもし,違法性,極端な例で言えば安全管理等を会社としての部分で違法性があれば監査という形で行っています。ご存知のとおり,下限割れという事業者と同じ部分もありますが,そういう中で調査をやって,監査に結び付けてしている部分もあります。」と述べた。(審第59号証の1)
ウ ところで,行政指導とは,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう(行政手続法〔平成5年法律第88号〕第2条第6号)。また,行政指導は拘束力を有するものではなく,相手方の任意の協力によってのみ実現されるべきものとされる(同法第32条第1項)。したがって,行政指導は,行政目的を実現するために,一定の作為又は不作為を現に行っていない特定の者に対して当該一定の作為又は不作為を働きかける行為等をいうのであり,その態様,程度も様々なバリエーションがあり得,幅のあるものであるが,単に法令の解釈,制度の仕組み等を紹介する行為は,行政指導には該当しないものと解される。
エ 前記イで認定した新潟運輸支局等の担当官の発言からは,新潟運輸支局等が新潟交通圏のタクシー事業者が新自動認可運賃に移行することが望ましいとの考えを有していたことが認められ,このことと,新潟運輸支局の坂本首席専門官が,長岡市におけるタクシー特別措置法に関する説明会(これは新潟交通圏のタクシー事業者を対象としたものではない。)におけるものとはいえ,同支局の管轄内の説明会において前記イ(ア)d記載の発言をしていることや,同(イ)b記載の北陸信越運輸局の斉藤旅客課長の発言も考慮すれば,新潟運輸支局等の担当官が,新潟交通圏のタクシー事業者又はそれを構成員とする事業者団体に対し,具体的な状況は明らかでないものの,新自動認可運賃へ移行することを促す方向で何らかの働きかけをしたことがうかがわれる。被審人らはこれを行政指導と主張し,審査官は行政指導ではないと主張するが,行政指導自体が前記ウのとおり幅のあるものであるから,上記認定の新潟運輸支局等の行為を行政指導というかどうかは本件では本質的な問題ではなく,上記行為の具体的な事柄,内容に即してその性格,効果を検討すれば足りるというべきである。この観点から本件をみると,新潟運輸支局等の担当官の発言は,新潟交通圏のタクシー事業者を強制的に新自動認可運賃に移行させるような内容のものであったとは認められず,前記イ(ア)d記載の坂本首席専門官の発言内容からみても,新潟運輸支局等の上記行為は,新自動認可運賃への移行を促す方向での要望ないし一般的指導の範囲にとどまるものであり,これを超えて監査や行政処分を背景として,収支状況等を勘案することなく一律に新自動認可運賃への移行を強制するようなものであったとは認めることができない(以下,上記認定の新潟運輸支局等の行為を便宜「本件指導」ということがある。)。
なお,被審人らは,平成21年10月以降の坂本首席専門官の県協会への働きかけについても主張するが,被審人らの上記主張は,県協会の鈴木久夫専務理事(以下「県協会の鈴木専務理事」という。)の陳述書(審第75号証)の記載及び同人の参考人審尋における陳述並びに県協会の後藤課長の陳述書(審第56号証)の記載に依拠するものであり,他にこれを裏付ける証拠がないところ,県協会は,市協会の上部団体であるとともに,26社を構成員に含む事業者団体であり,かつ,26社による本件合意に基づく運賃変更認可申請について申請書の作成及び提出に関与していることからすると,他の裏付け証拠もない中で同人らの陳述書の記載等のみから直ちに被審人らが主張する事実を認定することはできず,また,仮に被審人らの主張する事実が認められるとしても,それが制度の説明又は要望ないし一般的指導の範囲を超えるものとは認められない。
オ この点,被審人らは,新潟運輸支局等が新自動認可運賃へ移行するよう行政指導を強力に推し進めていたこと,下限割れ運賃を採用する者に対しては,報告義務が課され,報告内容によっては監査が行われ,監査により違法が発見された場合には行政処分が行われるという行政指導の実効性を確保するための枠組みが整備されていたこと,タクシー事業が規制業種であり,被審人らは監督官庁である新潟運輸支局等から行政指導を受けたことに鑑みれば,各タクシー事業者は行政指導に従わなければならないという心理的な圧迫が加えられ,自由に意思決定をすることができない状況であった旨を主張し,被審人ら代表者等もこれに沿う陳述をする(審第64号証ないし第72号証,第74号証,高橋良樹代表者審尋速記録,三田啓祐代表者審尋速記録,鈴木久夫参考人審尋速記録)。
しかし,次のとおり,26社が新自動認可運賃へ移行するか否かについて自由に意思決定をすることができない状況にあったとは認められない。
(ア) 前記エのとおり,新潟運輸支局等の担当官の発言は新潟交通圏のタクシー事業者を強制的に新自動認可運賃に移行させるような内容のものであったとは認められず,むしろ,前記イ(ア)cのとおり,新潟交通圏のタクシー事業者に対して直接タクシー特別措置法の説明がなされた平成21年8月28日開催の新潟市における説明会において,北陸信越運輸局の高橋旅客課長は,新自動認可運賃への移行を強制するものではなく,移行するかどうかは個々の事業者の判断であるという趣旨の発言をしており,また,同dのとおり,坂本首席専門官が長岡市におけるタクシー特別措置法の説明会において新自動認可運賃に関する発言をした際にも,新自動認可運賃に移行しないことも可能であることを説明している。
(イ) また,日の出交通は,本件合意が行われた際には新自動認可運賃に移行せず,平成24年5月頃に新自動認可運賃の下限の運賃区分に移行するまで下限割れ運賃を採用しており(査第58号証,審第52号証),新潟交通圏の法人タクシーの中に,新自動認可運賃の公示後も実際に新自動認可運賃に移行しない事業者が存在したことが認められる。
この点に関し,被審人らは,日の出交通がその後間もなく行政処分を受けていることから,同社の下限割れ運賃は健全な経営とは程遠い無理を伴うものであったことは明らかであると主張する。しかし,被審人らが主張する行政処分とは,日の出交通が平成22年8月27日に北陸信越運輸局及び新潟運輸支局による巡回監査を受けた結果,①認可を受けていない運賃を収受した,②運転者に対する過労防止措置を怠っていた,③運転者に対する点呼の適正な記録を行っていなかった,④運転者に対する乗務前後の点呼の実施を怠っていた,⑤監査に際して虚偽の陳述をした,⑥事業に関する虚偽の報告を行った等の道路運送法違反の事実が確認されたとして,平成23年5月30日,北陸信越運輸局からタクシー車両を延べ205日間使用停止とし,違反点数を21点とする行政処分を受けたこと(審第47号証)を指すが,そのことが,直ちに日の出交通の下限割れ運賃が健全な経営とは程遠い無理を伴うものであったことと結び付くものではない。また,日の出交通は,平成24年5月頃に自発的に新自動認可運賃に移行するまで,新潟運輸支局からの人件費,一般管理費,走行距離等に関する報告の徴収(査第19号証)並びに北陸信越運輸局及び新潟運輸支局からの上記巡回監査を受けたにもかかわらず,不当な競争を引き起こすこととなるおそれが生じていると認められるとして道路運送法第31条に基づく業務改善命令を受けた事実も認められない。したがって,被審人らの上記主張は採用できない。
(ウ) さらに,被審人都タクシーの高橋でさえ,代表者審尋において,新自動認可運賃への変更申請は独自の判断で行ったものかそれとも運輸局等から強制されたものかとの審査官からの質問に対し,当然自分の経営判断で行った旨を明確に陳述しているところである(高橋良樹代表者審尋速記録)。
(エ) なお,新潟運輸支局等の担当官は,前記イ(ア)c,d及びeのとおり,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対して,報告徴収や監査を行う方針であることを述べている。
しかし,報告徴収は,収支状況,輸送実績,運転者の拘束時間・走行距離の実績等の労働状況等について,一定の様式により,毎月報告を求めるものであり(査第19号証),監査は,報告内容を踏まえて,法令違反の疑いがある等監査を行う必要があると認められるタクシー事業者に対し,タクシー運賃の収受状況その他財務状況,賃金の支払い状況,運行管理の実施状況,点検整備の実施状況等の重点事項を定めて法令遵守状況を確認するために行われるものである(審第17号証,第18号証)ところ,報告徴収については,毎月報告を要するものの,報告事項は,通常の経営,労務管理等に関連するものであり,継続して客観的に把握することが難しいなど対応が事実上不可能であったり,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対して制裁的意味合いを有するようなものとは認められず,また,監査についても,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対し,監査の実施の要否や法令違反の有無の判断等が恣意的に行われたことをうかがわせる証拠はないのであって,結局,下限割れ運賃を採用するタクシー事業者に対する報告徴収及び監査の実施がこれらのタクシー事業者に対し一定の負担を負わせるものであるとは考えられるものの,新自動認可運賃への移行を強制等し,意思決定の自由を失わせるものであったとは認められない。
この点に関し,被審人らは,日の出交通及び三洋タクシーが監査の結果重い処分を受けたことは,その当時の行政指導が強制にわたると評価するに値するものであったことを裏付けていると主張する。確かに,日の出交通は,前記(イ)のとおり,北陸信越運輸局及び新潟運輸支局による巡回監査を受けた結果,道路運送法違反の事実が確認されたとして,平成23年5月30日,北陸信越運輸局からタクシー車両を延べ205日間使用停止とし,違反点数を21点とする行政処分を受け,三洋タクシーは,北陸信越運輸局及び新潟運輸支局による巡回監査を受けた結果,道路運送法違反の事実が確認されたとして,平成24年2月6日,北陸信越運輸局からタクシー車両を延べ465日間使用停止とし,違反点数を47点とする行政処分を受けている(審第60号証)が,被審人らの上記主張は,それらの違反事実の内容を考慮せずに処分の軽重だけを論ずるものであって,失当である。
カ ところで,本件において,26社は,新自動認可運賃に移行することを合意したばかりでなく,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことまで合意しているが,次のとおり,新潟運輸支局等が新潟交通圏のタクシー事業者に対し,新自動認可運賃の枠内の特定の運賃区分に移行することや小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを求める行政指導をした事実は認められない。
(ア) 被審人らは,小型車及び中型車に関し,行政指導の内容が新自動認可運賃へ移行することを促すものであったとしても,激しい価格競争の中で値上げをする以上,下限運賃に移行する以外に実質的に選択肢はなく,新自動認可運賃に移行することは小型車及び中型車について新自動認可運賃の下限運賃に移行することと実質的に同内容であり,そのことは新潟運輸支局等の担当官らと各タクシー事業者との間の共通の認識であったから,小型車及び中型車について「新自動認可運賃における下限運賃に移行すること」も含めて行政指導の対象であったというべきであると主張し,また,大型車及び特定大型車に関し,従前各タクシー事業者が大型車及び特定大型車について上限運賃を採用してきたことや,新潟交通圏において小型車が大半を占め,大型車及び特定大型車は僅かな台数しか保有されておらず,そのタクシー運賃について各タクシー事業者が大きな関心を持っていなかったことは,新潟運輸支局等も承知していることであり,新自動認可運賃に移行することは大型車及び特定大型車について新自動認可運賃の上限運賃を採用することを実質的に意味することは新潟運輸支局等の担当官らと各タクシー事業者との間の共通の認識であったから,大型車及び特定大型車について「新自動認可運賃における上限運賃に移行すること」も含めて行政指導の対象であったというべきであると主張する。
しかし,他方で,被審人らは,自動認可運賃の幅の枠内でタクシー運賃が多重化されることは元々想定されていたことであることを自認しており,被審人都タクシーの高橋も,運輸局等の指導は新自動認可運賃へ移行することであって,運賃多重化の解消までは指導していなかったこと,新自動認可運賃へ移行しても,その枠内で運賃が多重化することはあり得ることを陳述しているところである(高橋良樹代表者審尋速記録)。また,前記1(1)アのとおり,新自動認可運賃公示前には,自動認可運賃の範囲内でも多様なタクシー運賃が存在していたことや,同ウ(キ)bのとおり,平成22年1月13日開催の正副会長会議において,小型車について上限運賃に移行したいと述べた者がいたこと,同(ク)cのとおり,同月20日開催の臨時例会において,小型車については,新自動認可運賃の上限に移行することを提案した事業者や新自動認可運賃の範囲内である限り下限運賃に集約する必要はないと述べた事業者がおり,また,中型車,大型車及び特定大型車については,後に異なる内容の合意がされているものの,上記臨時例会においては,新自動認可運賃のいずれの運賃区分にするかは各社が自由に決定することとされたことからすると,新自動認可運賃に移行することが,直ちにその枠内での特定の運賃区分に移行することを意味しないことは明らかである。
したがって,新潟運輸支局等が新潟交通圏のタクシー事業者に対し,新自動認可運賃の枠内の特定の運賃区分に移行することを求める行政指導をした事実は認められない。
(イ) 次に,被審人らは,前記イ(ア)dのとおり,坂本首席専門官が「本来はゾーンに移ってもらう必要があるのですが,今までに認可をもらった300円運賃でやりたいという事であれば,新ゾーンに入らないという形も可能ではあります。しかし皆さんに法の趣旨というものを理解してもらって,新しいゾーンに移ってもらいたいと思います。」との発言を行っていることを捉えて,初乗距離短縮運賃の採用が行政指導により困難であったと主張する。
しかし,坂本首席専門官の上記発言は,その内容からすると,新自動認可運賃への移行に力点を置いていることは明らかであり,新自動認可運賃の下での初乗距離短縮運賃の適否を直接問題にしたものとは解し難い。実際,その直後に,県協会の鈴木専務理事も,「短縮は今後,見直されていく方向で行くと思いますが,現段階では新ゾーンに移っても短縮運賃の申請はできるというのが,私どもの見解です。もちろん自動的には認可されませんが,手順を踏んで認可申請をすれば可能かと思います。」と発言し,新自動認可運賃に移行しても初乗距離短縮運賃の申請は可能であるとの認識を示している(審第42号証)。
また,そもそも,坂本首席専門官の上記発言は,被審人らが長岡市のタクシー特別措置法の説明会における坂本首席専門官の発言を確認することができた根拠とする県協会の平成21年11月27日付け会員通報(審第6号証)には記載されておらず,むしろ,上記会員通報には,「Q:初乗短縮運賃及び迎車回送料金はどうなりますか?」との質問に対する回答として,「A:初乗短縮運賃の変更はなく,初乗短縮公示を満たし,かつ初乗距離に達した際に自動認可運賃と同一となる場合には,自動認可運賃に係る認可申請があったものとみなして処理します。」と記載されている(審第6号証)。
さらに,前記1(1)ウ(キ)bのとおり,平成22年1月13日開催の正副会長会議において,初乗距離短縮運賃を採用するとの意見と採用しないとの意見が出て,同(ク)bのとおり,同月20日開催の正副会長会議においては,それらの意見に加えて初乗距離短縮運賃を採用するかどうかは各社の自由判断に任せるとの意見が出ている上,同c(b)及び(c)のとおり,同日開催の臨時例会における話合いの際に,出席者からタクシー特別措置法施行後であっても初乗距離短縮運賃の申請が受け付けられるか改めて確認を求める質問があったため,市協会の佐藤専務理事が臨時例会の最中にわざわざ北陸信越運輸局に対して確認し,同運輸局から初乗距離短縮運賃の申請があれば受け付ける旨の回答があったことを上記臨時例会の出席者に伝えており,また,これを受けて,被審人都タクシーの高橋も,初乗距離短縮運賃は事業者の判断で申請の上で適用可能である旨を述べ,その後,実際に初乗距離短縮運賃の設定の有無について出席者から様々な意見が出ているのである。
したがって,新潟運輸支局等が新潟交通圏のタクシー事業者に対し,小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを求める行政指導をした事実は認められない。
また,前記1(1)アのとおり,新自動認可運賃の公示前には自動認可運賃の範囲内でも多様なタクシー運賃が存在していたことや,同ウ(キ)b記載の平成22年1月13日開催の正副会長会議並びに同(ク)b及びc記載の同月20日開催の正副会長会議及び臨時例会において述べられた出席者の意見や会合の状況からすれば,いかなる運賃区分に移行するかについても,初乗距離短縮運賃を設定するか否かについても,26社が意思決定の自由を失っていなかったことは明らかである。
キ 結論
以上の次第であり,26社が本件指導により新自動認可運賃へ移行するか否かについて意思決定の自由を失っていたとは認められず,また,新潟運輸支局等が本件指導を超える行政指導をした事実も認めることはできない。そして,26社は,新自動認可運賃への移行を合意したばかりでなく,その意思で新自動認可運賃の枠内の特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことまで合意したものであり,結局,26社は,新潟運輸支局等の行政指導による強制等により意思決定の自由を失った状況の下で本件合意をしたものではないから,前記アの被審人らの主張は採用できない。
(5) 政策判断の観点からの正当化理由が存在するから一定の取引分野における競争を実質的に制限していない旨の被審人らの主張について
ア 被審人らの前記第5の2(2)イ(イ)aの主張について
(ア) 被審人らは,新潟運輸支局等は新潟交通圏において過度な運賃競争が生じており,タクシー事業の安全性の低下等が懸念されたことから,そのような過度な運賃競争を解消させるべく,収支状況等を勘案することなく一律に新自動認可運賃に移行することなどを求める行政指導を行い,26社は,それに従ったものであるが,この行政指導は,監督官庁がその所掌する分野の社会公共的な目的を達成するためにした専門的な政策判断を体現するものであって,これに反して競争状態を確保することは独占禁止法の究極目的に沿うものではないから,行政指導に従った26社による共同行為には正当化理由があると主張する。
(イ) しかし,本件では,26社は新自動認可運賃に移行することを合意したばかりでなく,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことまで合意しているところ,前記(4)カのとおり,新潟運輸支局等が新潟交通圏のタクシー事業者に対し新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行することや,小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことを求める行政指導をした事実は認められず,26社が新自動認可運賃に移行することばかりでなく,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことまで合意したことは,本件指導の範囲を明らかに超えているから,その余の点について検討するまでもなく,到底正当化されるものではない。
(ウ) したがって,前記(ア)の被審人らの主張は採用できない。
イ 被審人らの前記第5の2(2)イ(イ)bの主張について
(ア) 被審人らは,新潟運輸支局等の行政指導は,タクシー特別措置法に基づき設置され,消費者代表,地域代表,労働基準監督署その他の監督官庁も参加した新潟地域協議会における議論及び要請を踏まえ,輸送の安全,道路運送の利用者の利益保護,新潟交通圏内における交通の健全な発展等の社会公共的な目的達成のために行った専門的な政策判断を体現するものであり,これに反して競争状態を確保することは独占禁止法の究極目的に沿うものではないから,行政指導に従った26社による共同行為には正当化理由があると主張する。
(イ) しかし,本件指導は前記(4)で認定したとおりの程度,内容であったところ,前記ア(イ)のとおり,26社が新自動認可運賃に移行することばかりでなく,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分に移行すること及び小型車について初乗距離短縮運賃を設定しないことまで合意したことは本件指導の範囲を明らかに超えているから,この点からみただけでも,26社による共同行為に正当化理由があるとはいえない。
(ウ) また,次の点からも,26社による共同行為に正当化理由があるとはいえない(新潟地域協議会における一部の委員の発言の内容に鑑み,念のため述べる。)。
a 地域協議会は特定地域におけるタクシー事業の適正化及び活性化の推進に関し必要な協議を行うことを目的とし(タクシー特別措置法第8条),同法により国土交通大臣が定める基本方針(同法第4条)に基づいて,地域計画を作成することができることとされている(同法第9条)ところ,上記基本方針においては,地域計画には「供給過剰の解消や過度な運賃競争の回避・・・のための対策について定めることが求められる。」とされているが(審第4号証〔二の2〕),それは同時に「法令に違反せず,法及び本方針に定める事項に逸脱しないもの」であることが求められている(同号証〔三〕)。しかも,タクシー特別措置法は,独占禁止法を排除していないから,独占禁止法に違反する行為はタクシー特別措置法が容認するものではないことが明らかである。そして,タクシー特別措置法は,下限割れ運賃であってもこれを禁止していないのであって,タクシー運賃を自動認可運賃の範囲内に収めることや,その範囲内の特定のタクシー運賃を採用することを求めておらず,タクシー事業者が協議して,タクシー運賃について互いに制約を行うことは全く予定していない。したがって,地域協議会においては,具体的なタクシー運賃について協議することが予定されていないことは明らかである。
b また,第1回新潟地域協議会において同事務局が配布した「地域計画 策定に関する概要」と題する書面(査第62号証〔資料4〕)は,新潟地域協議会における地域計画策定に関する基本的な考え方が記載されたものであるが,当該書面には,新自動認可運賃への移行や,新自動認可運賃の枠内での特定の運賃区分への移行及び初乗距離短縮運賃の設定の有無などタクシー事業者が適用すべき具体的なタクシー運賃に関することについては何ら触れられておらず,第2回新潟地域協議会において同事務局が配布した地域計画の素案(査第96号証)及び第3回新潟地域協議会において最終的に策定された地域計画(査第45号証)においても同様であるから(査第45号証,第96号証),新潟地域協議会では新潟交通圏のタクシー事業者が適用すべき具体的なタクシー運賃に関することは地域計画策定のための検討対象とはされていなかったものと認められる。なお,第1回新潟地域協議会において配布された市協会名義の「特定特別監視地域におけるタクシー事業構造改善計画=新潟交通圏=」と題する文書の中に運賃多重化の解消に関する記載はある(査第62号証〔資料5〕)が,そのような配布資料の中に「運賃多重化の解消」との記載があったからといって,新潟地域協議会においてタクシー事業者が適用すべき具体的なタクシー運賃に関することが地域計画策定のための検討対象とされたということはできない。
c もっとも,新潟地域協議会における協議の中で,一部の委員から,同一地域同一運賃となること及び初乗距離短縮運賃は設定しないことが望ましいなどという趣旨の具体的なタクシー運賃に関する発言がなされたことは事実である(査第95号証,審第15号証)が,地域協議会において具体的なタクシー運賃について協議することは予定されていないし(前記aのとおり),新潟地域協議会において具体的なタクシー運賃に関することは地域計画策定のための検討対象とはされておらず(前記bのとおり),その他新潟地域協議会として具体的なタクシー運賃に関し意思を表示したわけではない(査第95号証,審第15号証)から,一部の委員が具体的なタクシー運賃に関する発言をしたからといって,被審人らの主張する行政指導が新潟運輸支局等が社会公共的な目的達成のために行った専門的な政策判断を体現するものであるということはできず,26社の共同行為に正当化理由があるということはできない。
(エ) したがって,前記(ア)の被審人らの主張は採用できない。
(6) よって,前記(3)ないし(5)によれば,本件において競争の実質的制限が肯定される。
(7) 結論
以上の次第であるから,本件合意は,独占禁止法第2条第6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足する。
3 争点3(被審人らに対し排除措置を特に命ずる必要があるか。)
(1) 平成23年1月26日,本件について公正取引委員会が独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行ったこと,及び同日以降,市協会の会合の場で特定タクシー運賃についての話合いが行われていないことは当事者間に争いがないから,同日以降,本件合意は事実上消滅しているものと認められる。
(2) 独占禁止法第7条第2項本文は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,違反行為者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているところ,同項の「特に必要があると認めるとき」とは,原処分の時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される(東京高等裁判所平成20年9月26日判決・公正取引委員会審決集第55巻910頁〔JFEエンジニアリング株式会社ほか4名による審決取消請求事件〕参照)。
(3) 本件において排除措置を命ずる必要性
ア 本件においては,次の点を指摘することができる。
(ア) 本件違反行為は,被審人らが市協会の会合の場を利用して行ったものであったところ,本件排除措置命令が発せられた平成23年12月21日の時点においても,市協会は存続していた(審第57号証,第64号証,第65号証,高橋良樹代表者審尋速記録)から,上記時点においても,被審人らは市協会の会合の場を利用するなどして合意を形成することができる状況に変わりはなかった。
(イ) 本件合意は,平成23年1月26日に事実上消滅しているが,これは,公正取引委員会が,同日,本件違反行為について立入検査を行ったことによるものであり,被審人らの自発的意思に基づくものではなかった。
(ウ) 被審人らは,前記1(1)アのとおり,平成18年頃から本件合意の形成に至るまで,長期にわたり特定タクシー運賃に関する話合いを繰り返し行っていた。
(エ) 市協会は,一般乗用旅客自動車の増車又は営業所の新設若しくは位置の変更に係る事業計画変更の認可申請の制限に関する決定を行ったことが当時の独占禁止法第8条第1項第4号に違反するとして,昭和56年4月1日に公正取引委員会から勧告審決を受け(昭和56年(勧)第4号・公正取引委員会審決集第28巻3頁〔新潟市ハイヤータクシー協会に対する件〕),また,新潟交通圏における法人タクシー事業者(27社のうち18社を含む。)は,正当な理由がないのに,共同して株式会社新潟ハイタク共通乗車券センター及び共通乗車券事業者3社に,低額なタクシー運賃等を適用していたタクシー事業者3社に対して新潟交通圏における共通乗車券事業に係る契約を拒絶させていることが独占禁止法第19条に違反するとして,平成19年6月25日に公正取引委員会から排除措置命令を受けている(平成19年(措)第12号・公正取引委員会審決集第54巻485頁〔都タクシー株式会社ほか19社に対する件〕)。(争いがない。)
(オ) なお,公正取引委員会が前記(1)の立入検査を行った後,市協会は,平成23年2月18日付けで,法令遵守の更なる徹底に努めること,被疑事実とされる会員の運賃決定についてはそれぞれの経営判断に基づいて決定がなされていることを確認することなどの決議を行い,また,被審人のうち12社は,これと同旨の各社の取締役会決議を行っている。(審第7号証,第8号証,第9号証の1ないし12)
また,市協会は,同年4月7日付けで,会員は,今後,運賃の認可申請を行うに当たっては,何ら相互に拘束されることなく,各会員が自由な判断のもとで行うものとする旨を確認する決議を行っている。(審第10号証)
イ 判断
(ア) 前記ア(ア)のとおり,本件違反行為のような価格カルテルが行われやすい状況が本件違反行為終了後も継続していたこと,同(イ)のとおり,被審人らが本件違反行為を取りやめたのは自発的意思に基づくものではなく,本件違反行為終了後も違反行為を行う意欲が消滅していたとは認められないこと,同(ウ)のとおり,被審人らの協調的な関係は長期にわたって形成されていたと認められること,同(エ)のとおり,市協会及び被審人らの一部が過去に公正取引委員会から独占禁止法に基づく法的措置を受けていたにもかかわらず,被審人らは本件違反行為に及んでいること,以上の状況が認められ,これらを総合すれば,被審人らによって,本件違反行為と同様の違反行為が繰り返されるおそれがあると認められる。また,26社のうち三洋タクシーを除く25社は,本件排除措置命令の時点において,平成22年3月26日に認可された特定タクシー運賃の適用を続けており,本件違反行為の結果のほとんどは残存している。したがって,被審人らに対しては,特に排除措置を命ずる必要がある。
(イ) なお,被審人らは,市協会が平成23年2月18日付け決議及び同年4月7日付け決議を行い,また,被審人らがそれぞれ取締役会決議を行い,今後,特定タクシー運賃について,他の事業者との間で事業活動を相互に拘束する行為を行わない旨を明確にしており,被審人らの協調関係等は断絶されている旨を主張する。
しかし,これらの決議等は,法令遵守を確認するという抽象的な内容にとどまり,また,市協会の平成23年2月18日付け決議は,本件違反行為を行っていないことを前提とするものであり,同年4月7日付け決議も,上記同年2月18日付け決議を撤回するものではなく,依然として本件違反行為を行ったことはないとの前提に立つものであって,その実効性には疑問が残るものといわざるを得ないから,被審人らの上記主張は採用できない。
(ウ) また,被審人らは,本件によってタクシー事業者に注目が集まっており被審人らが違反行為を繰り返すことは極めて困難である旨を主張する。
しかし,被審人らは,新潟交通圏における多数の法人タクシー事業者(27社のうち18社を含む。)が平成19年6月25日に前記ア(エ)のとおり排除措置命令を受けたにもかかわらず,本件違反行為を行ったものであり,その他前記アに挙げた事実を総合的に考慮すれば,被審人らについて,本件違反行為と同様の違反行為が繰り返されるおそれがあると認められるから,被審人らの上記主張は採用できない。
4 結論
(1) 本件排除措置命令について
被審人らは,前記1及び2のとおり,他の事業者と共同して,小型車,中型車,大型車及び特定大型車の特定タクシー運賃を新自動認可運賃における一定の運賃区分として定められているタクシー運賃とし,かつ,小型車については初乗距離短縮運賃を設定しないこととする旨を合意することにより,公共の利益に反して,新潟交通圏におけるタクシー事業の取引分野における競争を実質的に制限していたものであるから,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものと認められる。
また,被審人らの違反行為は既に消滅しているが,前記3のとおり,被審人らに対して特に排除措置を命ずる必要がある。
したがって,本件排除措置命令は適法であるから,被審人らの本件排除措置命令に係る各審判請求はいずれも理由がない。
(2) 本件課徴金納付命令について
ア 前記(1)の違反行為が独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものであることは本件合意の内容から明らかである。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
(ア) 被審人らは,タクシー事業を営んでいた者である。(争いがない。)
(イ) 被審人らが,前記(1)の違反行為の実行としての事業活動を行った日は,前記(1)の合意に基づき被審人らがそれぞれ特定タクシー運賃の変更の認可申請を行い,平成22年3月26日に北陸信越運輸局長から認可を受けた特定タクシー運賃を適用した別紙8の各被審人に係る「事業活動を行った日」欄記載の日であると認められる。また,被審人らは,それぞれ平成23年1月26日以降,当該違反行為を取りやめており,同月25日にその実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。したがって,被審人らについては,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,別紙8の各被審人に係る「実行期間」欄記載のとおりとなる。
(ウ) 前記(イ)記載の各実行期間における新潟交通圏のタクシー事業に係る被審人らの売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号)第5条第1項の規定に基づき算定すると,それぞれ別紙8の各被審人に係る「売上額」欄記載のとおりである。(争いがない。)
(エ) 被審人らは,前記(イ)記載の各実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,運輸業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。(争いがない。)
(オ) 公正取引委員会は,平成23年1月26日,本件について独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行った。そして,被審人星山工業は,平成21年11月25日,課徴金納付命令(平成21年(納)第72号・公正取引委員会審決集第56巻第2分冊187頁〔新潟市が発注する建築一式工事の入札参加業者に対する件〕。以下「前回課徴金納付命令」という。)を受けているところ,当該命令は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)附則第2条のなお従前の例によることとする規定に基づく平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定によるものであり,当該命令についての審判手続の開始を請求することなく同改正前の独占禁止法第48条の2第5項に規定する期間を経過しているので,当該命令は確定している。(公正取引委員会が平成23年1月26日に本件について独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行ったこと及び被審人星山工業が平成21年11月25日に前回課徴金納付命令を受けたことについては争いがなく,前回課徴金納付命令が平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定によるものであることは,前回課徴金納付命令に係る違反行為の排除を命ずる平成21年5月19日審判審決〔平成16年(判)第20号・公正取引委員会審決集第56巻第1分冊68頁〔株式会社高健組ほか4名に対する件〕。この審判審決が前回課徴金納付命令に係る違反行為の排除を命ずるものであることについては争いがない。〕及び上記違反行為を理由として前回課徴金納付命令と同時になされた株式会社高健組に対する課徴金納付命令〔平成21年(納)第69号・公正取引委員会審決集第56巻第2分冊187頁及び188頁〔新潟市が発注する建築一式工事の入札参加業者に対する件〕〕の内容から明らかである。また,被審人星山工業は,前回課徴金納付命令について審判手続の開始を請求することなく私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律〔平成21年法律第51号。以下「平成21年改正法」という。〕による改正前の独占禁止法第50条第4項に規定する期間〔60日〕が経過して確定したとの審査官の主張について争っていないが,平成17年改正法による改正前の独占禁止法第48条の2第5項に規定する期間は,60日よりも短い30日である。)
したがって,被審人星山工業については,平成21年改正法附則第7条第1項の規定により独占禁止法第7条の2第7項が適用されることになる。
(カ) 以上によれば,被審人らが国庫に納付すべき課徴金の額は,それぞれ,独占禁止法第7条の2第1項及び第5項の規定により,前記(ウ)の各売上額に100分の4を乗じて得た額(ただし,被審人星山工業については,同条第1項,第5項及び第7項の規定により,同被審人に係る前記(ウ)の売上額に100分の6を乗じて得た額)から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された別紙8の各被審人に係る「納付すべき課徴金額」欄記載の金額である。(本件違反行為及び前記(イ)の各実行期間が認定された場合の被審人らの課徴金の額については争いがない。)
ウ よって,被審人らに対してこれと同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令はいずれも適法であるから,被審人らの本件課徴金納付命令に係る各審判請求はいずれも理由がない。
エ ところで,被審人星山工業に対する本件課徴金納付命令(以下「エ」において,単に「本件課徴金納付命令」という。)は,同被審人が公正取引委員会による調査開始日である平成23年1月26日から遡り10年以内に平成21年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定による命令(平成21年(納)第72号)を受けており,当該命令について審判手続の開始を請求することなく同改正前の独占禁止法第50条第4項に規定する期間が経過して,当該命令は確定しているから,同被審人は独占禁止法第7条の2第7項第1号に該当する事業者であるとしており,同被審人について独占禁止法第7条の2第7項が適用される過程の説明において誤った条文が記載されている。
しかしながら,被審人星山工業が,公正取引委員会による調査開始日である平成23年1月26日から遡り10年以内に,不当な取引制限をしたことにより課徴金納付命令を受け,同命令が確定していれば,同命令が平成17年改正法による改正前の独占禁止法の適条によるものであっても同改正後の同法の適条によるものであっても,本件課徴金納付命令においては,同被審人に対して独占禁止法第7条の2第7項が適用されることになるのであって,本件課徴金納付命令は,同被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額を算出するに当たって独占禁止法第7条の2第1項,第5項及び第7項を適用した点についても,算出された課徴金の額についても誤りがない。したがって,本件課徴金納付命令に被審人星山工業について独占禁止法第7条の2第7項が適用される過程の説明において誤った条文が記載されているとしても,本件課徴金納付命令を取り消さなければならないほどの瑕疵があったということはできない。
なお,被審人星山工業について独占禁止法第7条の2第7項が適用されることについては,同被審人が前回課徴金納付命令を受けたこと及び同命令が確定したことという客観的な事実により機械的に定まるものである上,同被審人は,上記各事実については争っておらず,また,本件違反行為及び同被審人に係る前記イ(イ)の実行期間が認定された場合の課徴金の額についても争っていないことからすると,上記判断は,同被審人に対し不当に不利益を与えるものとはいえない。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人らの本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令に係る各審判請求は,いずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成26年10月23日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  伊 藤   繁

審判官原一弘及び同多田尚史は転任のため署名押印できない。

審判長審判官  伊 藤   繁

※審決案別紙1ないし8は省略。

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