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サムスン・エスディーアイ・カンパニー・リミテッドに対する件

独禁法66条3項(独禁法3条後段),独禁法66条4項

平成22年(判)第6号

排除措置命令を取り消し,違反行為があった旨等を明らかにする審決

大韓民国 キョンギド ヨンインシ キフング コンセロ 150-20(コンセドン)
被審人 サムスン・エスディーアイ・カンパニー・リミテッド
同代表者 代表理事 パク・サンジン
同代理人 弁護士 内 田 晴 康
同          伊 藤 憲 二
同          関 戸   麦
同          宇都宮 秀 樹
同          眞 鍋 佳 奈
同          池 田   毅
同          川 原 健 司
上記被審人代理人内田晴康復代理人
弁護士        横 田 真一朗
同          市 川 雅 士
同          竹 腰 沙 織

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官伊藤繁,審判官原一弘及び審判官多田尚史から提出された事件記録,規則第75条の規定により審査官及び被審人から提出された各異議の申立書並びに独占禁止法第63条及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づき,同審判官らから提出された審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
1 被審人に対する平成21年10月7日付け排除措置命令(平成21年(措)第23号)を取り消す。
2 被審人が,別紙1記載の10社と共同して,遅くとも平成15年5月22日頃までに(ただし,MT映像ディスプレイ・マレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,MT映像ディスプレイ・タイは遅くとも同年4月23日までにそれぞれ後記合意に加わったものである。),別紙2記載の事業者が同別紙の「東南アジア地域の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社の所在国」欄記載の国に所在する当該事業者の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管について,おおむね四半期ごとに次の四半期における上記製造子会社,関連会社又は製造委託先会社向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,上記合意は,平成19年3月30日になくなっていると認める。

理       由
第1 審判請求の趣旨
主文第1項と同旨。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,別紙1記載の事業者と共同して,おおむね四半期ごとに次の四半期における別紙2記載の事業者(以下「我が国ブラウン管テレビ製造販売業者」という。)が同別紙の「東南アジア地域の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社の所在国」欄記載の国に所在する当該事業者の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社(以下「現地製造子会社等」という。)に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管(以下「特定ブラウン管」という。)の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意することにより,公共の利益に反して,特定ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成21年10月7日,被審人に対して,排除措置を命じた(平成21年(措)第23号。以下,この処分を「本件排除措置命令」という。)。
2 公正取引委員会は,同年12月24日,独占禁止法第70条の18の規定に基づき,本件排除措置命令に係る排除措置命令書の謄本(以下「本件排除措置命令書謄本」という。)につき公示送達の手続を採った(以下,この送達を「本件公示送達」という。)。
3 被審人は,本件公示送達は違法である上,本件については独占禁止法が適用されないなどと主張して,平成22年4月2日,本件排除措置命令の取消しを求めて本件審判請求をした。
第3 前提となる事実等(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。)
1 当事者等
 ⑴ 被審人及びサムスンSDIマレーシアの概要
ア 被審人は,肩書地に本店を置き,電子機器等の製造販売等を業とする者である。
イ サムスンSDIマレーシアは,被審人の子会社であり,マレーシアに本店を置き,テレビ用ブラウン管の製造販売業を営む者である。
⑵ 被審人及びサムスンSDIマレーシア以外のテレビ用ブラウン管製造販売業者等の概要
ア(ア) MT映像ディスプレイは,大阪府門真市に本店を置く事業者である。
(イ) MT映像ディスプレイ・インドネシアは,MT映像ディスプレイの子会社であり,インドネシア共和国に本店を置き,少なくとも後記4の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(ウ) MT映像ディスプレイ・マレーシアは,MT映像ディスプレイの子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記4の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(エ) MT映像ディスプレイ・タイは,MT映像ディスプレイの子会社であり,タイ王国に本店を置き,少なくとも後記4の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
イ(ア) 中華映管は,台湾に本店を置く事業者である。
(イ) 中華映管マレーシアは,中華映管の子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記4の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
ウ(ア) LGフィリップス・ディスプレイズは,大韓民国に本店を置き,少なくとも後記4の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(イ) LPディスプレイズ・インドネシアは,LGフィリップス・ディスプレイズの関連会社であり,インドネシア共和国に本店を置き,少なくとも後記4の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
なお,LPディスプレイズ・インドネシアの役員や従業員のほとんどはLGフィリップス・ディスプレイズから派遣されていた。(査第32号証の1及び2)
エ タイCRTは,タイ王国に本店を置き,少なくとも後記4の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
⑶ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の概要
我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,別紙2記載のとおり,我が国に本店を置き,東南アジア地域に製造子会社,関連会社又は製造委託先会社を有して,少なくとも後記4の日までブラウン管テレビの製造販売業を営んでいた者である。
2 テレビ用ブラウン管に関する取引について
⑴ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,それぞれ,被審人,MT映像ディスプレイ,中華映管,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT(以下「被審人ほか4社」という。)ほかのテレビ用ブラウン管製造販売業者の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様のほか,おおむね1年ごとの購入予定数量の大枠やおおむね四半期ごとの購入価格及び購入数量について交渉していた(以下,この我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による選定及び交渉のことを「本件交渉等」という。なお,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の選定及び交渉への関与の程度及び内容については争いがあり,この点は後記第6の1において判断する。)。
なお,本件交渉等は,被審人が選定された場合にはサムスンSDIマレーシアが,MT映像ディスプレイが選定された場合にはMT映像ディスプレイ・インドネシア,MT映像ディスプレイ・マレーシア及びMT映像ディスプレイ・タイ(以下「MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社」という。)が,中華映管が選定された場合には中華映管マレーシアが,LGフィリップス・ディスプレイズが選定された場合には同社及びLPディスプレイズ・インドネシアが,タイCRTが選定された場合には同社が,それぞれ現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を販売することを前提として行われていた。
(査第2号証ないし第4号証の2,第27号証の1ないし第32号証の2,第63号証ないし第67号証)
⑵ 現地製造子会社等は,本件交渉等を経た後,主にサムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT(以下「サムスンSDIマレーシアほか7社」という。)からテレビ用ブラウン管を購入していた(以下,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する別紙3記載のテレビ用ブラウン管を「本件ブラウン管」という。なお,本件排除措置命令及び審査官の主張する「特定ブラウン管」は,前記第2の1のとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管と定義されているが,上記定義のうち,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に「購入させる」との部分は後述するように当事者間に争いがある。そこで,上記認定のとおり,現地製造子会社等が本件交渉等を経て後記3の合意の対象となっている別紙3記載のテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められるので,「本件ブラウン管」を上記のとおり定義したものであるが,後記第6の1⑶ウのとおり,「特定ブラウン管」と商品の範囲としては同一である。)。(査第2号証ないし第4号証の2,第27号証の1ないし第32号証の2,第63号証ないし第67号証,第69号証,第92号証,第93号証,第97号証,第113号証,第114号証)
⑶ 平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,サムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額の合計の割合は約83.5パーセントであった。(査第36号証)
3 本件合意
⑴ 被審人ほか4社並びにサムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシア,中華映管マレーシア及びLPディスプレイズ・インドネシアは,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため,遅くとも平成15年5月22日頃までに,日本国外において,本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し,おおむね四半期ごとに次の四半期における本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した(以下,この合意を「本件合意」という。)。(査第2号証ないし第4号証の2,第27号証の1及び2,第39号証,第40号証,第42号証,第47号証,第49号証,第50号証の1及び2,第60号証の1及び2,第75号証)
⑵ MT映像ディスプレイ・マレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,MT映像ディスプレイ・タイは遅くとも同年4月23日までに,それぞれ本件合意に加わった。(査第3号証の1及び2,第4号証の1及び2,第47号証,第51号証の1及び2,第77号証,第79号証)
4 本件合意の消滅
中華映管及び中華映管マレーシアが,平成19年3月30日,競争法上の問題により本件ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨表明し,その後,MT映像ディスプレイも同様の対応を採ったことなどにより,それ以降,上記会合は開催されていないことから,同日以降,本件合意は事実上消滅している。(査第3号証の1及び2,第27号証の1及び2,第50号証の1及び2,第58号証の1及び2)
第4 本件の争点
1 本件に独占禁止法第3条後段を適用することができるか否か。
2 被審人に対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」(独占禁止法第7条第2項本文〔平成21年法律第51号による改正前のもの〕)に当たるか否か。
3 本件公示送達は適法になされたか否か。
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(本件に独占禁止法第3条後段を適用することができるか否か)について
⑴ 審査官の主張
ア 本件における独占禁止法の適用についての考え方
独占禁止法第3条後段の場所的適用範囲については,少なくとも,「相互にその事業活動を拘束し,又は遂行する」,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」などの同条後段違反の不当な取引制限の成立要件の全部又は一部が日本国内で実現している場合には,同条後段を適用することが可能であると解される。
本件においては,後記イ及びウのとおり,本件合意が日本を含む特定ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限するものであったところ,「一定の取引分野」としての「特定ブラウン管の販売分野」に日本が含まれることを踏まえると,本件合意により,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という不当な取引制限の成立要件の一部が日本国内で発生していることから,本件違反行為に対して,独占禁止法第3条後段を適用することができる。
イ 本件における「一定の取引分野」
(ア) 独占禁止法第2条第6項における「一定の取引分野」の画定は,取引の対象・地域・態様等に応じて,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定して行うとされている(東京高等裁判所平成5年12月14日判決・高等裁判所刑事判例集第46巻第3号322頁〔トッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕等参照)。
本件合意が対象とした取引及びこれにより影響を受け,その競争が実質的に制限される範囲は,日本に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が取引の数量や価格等の交渉及び決定を行い,東南アジア地域に所在する現地製造子会社等はその決定されたところに従って購入するという地域及び態様で行われていた特定ブラウン管の販売に係る取引,つまり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者に対する関係において,被審人及び別紙1記載の10社(以下「11社」という。)がその受注獲得及び価格を競い合うという関係にあった特定ブラウン管の販売に係る取引であり,これが本件における「一定の取引分野」として画定される。したがって,本件における一定の取引分野には日本が含まれる。
(イ) また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等を実質的な製造拠点として,現地製造子会社等に設計,仕様等を指示してブラウン管テレビを製造させるに当たり,主に被審人ほか4社の中から選定した事業者との間で,特定ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定し,それに従って当該事業者又はその子会社等から特定ブラウン管を購入するよう現地製造子会社等に指示して,特定ブラウン管を購入させるなどといった一定の役割分担の下に特定ブラウン管に係る一連の事業活動を行っていたものであること,本件合意は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に示されるべき最低目標価格等を設定し,競争を回避することを意図するものであったことなどに照らせば,自由競争経済秩序を直接の保護法益とする独占禁止法の目的の観点から,本件においては,現地製造子会社等のみならず,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者をも需要者として捉えることができ,この意味においても,本件における一定の取引分野には日本が含まれるといえる。
ウ 特定ブラウン管の販売分野における競争が実質的に制限されていたこと
(ア) 独占禁止法第2条第6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」とは,カルテル等の事業者間の相互拘束等により,当該行為が対象とする一定の取引分野において機能する需要者群と供給者群との間の自由な競争によって価格その他の取引条件が決定される過程を歪め,当該取引分野(市場)を支配することができる状態(市場支配的状態の形成・維持・強化)をもたらすこと,すなわち一定の取引分野において機能する自由競争の過程が保たれている状態(自由競争経済秩序)に対して上記のような悪影響を及ぼすことであると解される。
(イ) 本件においては,平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の特定ブラウン管の総購入額のうち,サムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額の合計の割合は約83.5パーセントとその大部分を占めていた。
したがって,本件合意の形成により,特定ブラウン管の販売分野における競争が全体として減少し,11社が,その意思で,ある程度自由に,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間の交渉によって決定されていた特定ブラウン管の価格等の取引条件を左右することによって,特定ブラウン管の販売分野という市場を支配することができる状態に至っていたと認められる。
また,11社は,本件合意に基づき,継続的に会合を開き,おおむね四半期ごとに,日本に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉において示されるべき最低目標価格等を設定し,また,被審人ほか4社は,当該最低目標価格等を踏まえた特定ブラウン管の価格交渉を日本に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で日本国内外において実施していた。
以上によれば,本件合意が特定ブラウン管の販売分野という「一定の取引分野における競争を実質的に制限」していたことが明らかである。
⑵ 被審人の主張
ア 本件における独占禁止法の適用についての考え方について
(ア) 独占禁止法の究極の目的が「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する」ということにあることからすれば,日本市場に相応の効果・影響があって初めて独占禁止法を域外適用する必要性が認められること,また,そのような場合に限って域外適用を認めるのが,日本及び他国の実務と整合することなどに照らせば,独占禁止法を自国領域外に適用することができるのは,反競争的行為により日本の国内市場に相応の効果・影響が生じた場合に限られると解すべきである(効果主義)。そして,他国の主権(管轄権)を尊重し,域外適用による法適用の衝突を防止するとともに,行為者の権利を保障するためには,効果主義における効果とは,実質的,直接的かつ行為者にとって予見可能なものでなければならないと解すべきである。
実質的,直接的かつ行為者にとって予見可能な効果が生じたといえるか否かを判断するに当たっては,購入者の所在地,商品が供給された地,商品が加工又は消費された地を考慮すべきである。取引条件の交渉に関与した者の所在地や交渉が行われた地を考慮することは,他国の法規制との衝突や二重処罰を生じさせることになるから妥当ではない。
(イ) 本件では,本件ブラウン管の購入者は東南アジア地域に所在する現地製造子会社等であり,本件ブラウン管が供給されたのも,ブラウン管テレビへと加工されたのもいずれも東南アジア地域である。
したがって,日本の国内市場に実質的,直接的かつ行為者にとって予見可能な効果が生じたとはいえないから,本件に独占禁止法は適用されない。
イ 一定の取引分野に日本が含まれないこと
(ア) 一定の取引分野の画定は,企業結合規制においては,一定の取引の対象となる商品又は役務の範囲,取引の地域の範囲(地理的範囲)等に関して,基本的に需要者にとっての代替性という観点から判断され,また必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮された上で行われるというのが基本的かつ原則的な考え方である。不当な取引制限における一定の取引分野も企業結合規制におけるのと同様に上記考え方に基づき画定されるべきである。
そして,一定の取引分野の地理的範囲が日本である又は日本を含むといえるのは,需要者が日本に所在する場合をいうと解される。
需要者とは,商品又は役務の供給を受ける者と位置付けられていることからすれば(独占禁止法第2条第4項第2号),需要者の所在地は商品又は役務が供給される場所によって決定されると考えるべきである。
(イ) したがって,本件において,本件ブラウン管の供給を受けているのは,東南アジア地域に所在する現地製造子会社等であって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者ではないから,本件における一定の取引分野に日本は含まれない。
(ウ) 仮に,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の需要者であるとしても,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の需要者としての所在地は,本件ブラウン管が供給される東南アジア地域であって,日本ではない。したがって,本件における一定の取引分野に日本が含まれることにはならない。
ウ 競争の実質的制限について
本件合意の対象となった本件ブラウン管を実際に購入し,その代金を支払っているのは東南アジア地域に所在する現地製造子会社等であるから,本件ブラウン管を巡る競争は東南アジア地域で行われている。したがって,本件合意により競争の実質的制限が生じたとしても,それは日本国内におけるものではなく,東南アジア地域におけるものである。
よって,日本における競争の実質的制限が認められないため,不当な取引制限の成立要件を満たさない。
エ 審査官の主張について
審査官は,特定ブラウン管を我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管と定義した上で,本件に独占禁止法が適用できる根拠として,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が取引条件を交渉して決定し,現地製造子会社等にその決定内容に従って購入させるなどといった一定の役割分担の下に一体となって特定ブラウン管の購入に係る事業活動を行っていたことを主張する。
しかし,必ずしも,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が取引の数量や価格等の交渉及び決定を行っていたわけではなく,また,現地製造子会社等も上記決定に従ってテレビ用ブラウン管を購入していたわけではなかったのであって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を購入させていたのではない。また,被審人は,審査官の主張する一定の役割分担を認識していたわけではないし,そもそも,本件合意は審査官が主張するような態様・役割分担で行われていた取引を対象とするものではない。
2 争点2(本件排除措置命令の必要性)について
⑴ 審査官の主張
被審人が特定ブラウン管の製造販売業者等の営業担当者による会合の開催を提案していたこと,被審人が約3年半の長期にわたり継続的に違反行為を行っていたこと,被審人が自主的に上記会合への出席を取りやめたわけではないこと,今後被審人が本件と同様の違反行為を行う可能性を否定できないこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,被審人に対して排除措置を命ずることについて「特に必要がある」と認められる。
⑵ 被審人の主張
ア 外国事業者である被審人に対して排除措置を命じても,執行して履行を確保することができず,競争秩序の回復につながるものとはいえないから,排除措置を命じる特段の必要性に欠ける。
イ 本件排除措置命令時には既にブラウン管テレビは薄型テレビに取って代わられ,日本国内ではほぼ販売されなくなっていた上,11社も,多くが操業停止,清算手続開始,事業譲渡等により市場から事実上退出し,テレビ用ブラウン管製造販売事業を継続していた残りの事業者も同事業を大幅に縮小していたことからすれば,本件違反行為による競争制限効果は解消されており,今後本件同様の違反行為が行われることはあり得ない。このような状況下で,11社のうち被審人を含む2社のみに排除措置を命じるという特異な取扱いをしたこと自体,被審人に対し排除措置を命じる特段の必要性の存在について強い疑問を生じさせるものである。また,平成18年10月までに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者のうち2社は,現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を購入させることを取りやめたというのであるから,本件排除措置命令時において,審査官の主張する特定ブラウン管の販売分野が存続していたか明らかでなく,特定ブラウン管の販売分野における競争秩序を回復させる必要性は認められない。
ウ 被審人は,本件合意の消滅から本件排除措置命令に至る2年超の間に,独占禁止法コンプライアンスのための十分な取組を自主的に実施しており,既に被審人においては独占禁止法遵守の意識が十分に浸透している。また,被審人は,本件調査開始後にコンプライアンスを重視する姿勢から課徴金減免申請を行い,その後の長期にわたる調査にも最大限協力してきた。
エ 本件排除措置命令は,主文第2項において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者に対し,排除措置を採った旨を通知するよう命じているが,本件排除措置命令時において特定ブラウン管の購入者でなくなっている日本ビクター及び三洋電機に対する通知は将来の競争秩序の回復と無関係であるから,両社に対する通知を行うことについて特段の必要性は認められない。
3 争点3(本件公示送達の適法性)について
⑴ 審査官の主張
公正取引委員会は,本件排除措置命令書謄本について,外務省を通じて大韓民国政府に対し,相手国に駐在する日本の大使,公使又は領事に嘱託してする送達(独占禁止法第70条の17,民事訴訟法〔平成8年法律第109号〕第108条。以下「領事送達」という。)の応諾を求めたところ,大韓民国政府はこれを許可することはできない旨明確に回答した。よって,本件排除措置命令書謄本については,領事送達によって送達をすることができないといえる。
また,相手国の管轄官庁に嘱託してする送達(独占禁止法第70条の17,民事訴訟法第108条。以下「管轄官庁送達」という。)については,大韓民国との間で送達を実施できる管轄官庁を定めた条約や取決めがないため,行うことができない。
したがって,本件排除措置命令書謄本については,外国においてすべき送達について,民事訴訟法第108条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合(独占禁止法第70条の18第1項第2号)に当たるから,本件公示送達は適法である。
⑵ 被審人の主張
ア 公正取引委員会は,大韓民国政府に対し,外務省経由で本件排除措置命令書謄本の領事送達を認めるか一度だけ照会しているが,大韓民国政府から拒否されると,それ以上の協議や説得をしていない。また,管轄官庁送達が試みられた形跡もない。したがって,公示送達以外の送達をするために十分な手段を尽くしていないから,本件公示送達は,外国においてすべき送達について民事訴訟法第108条の規定によることができないという要件(独占禁止法第70条の18第1項第2号)を満たしていない。
イ 本件のように大韓民国政府の同意がないのに,公示送達をすることによって大韓民国領域内に所在する被審人に送達の効力を発生させることは,実質的には大韓民国政府の同意がないのに大韓民国領域内において日本の国家管轄権を行使することと同様の結果になり,大韓民国の主権を侵害することになるから許されない。
第6 当委員会の判断
1 争点1(本件に独占禁止法第3条後段を適用することができるか否か)について
⑴ 本件は,東南アジア地域に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の現地製造子会社等向けテレビ用ブラウン管の販売価格について,被審人を含む11社が最低目標価格等を設定する旨合意した価格カルテルの事案である。
本件では,被審人が外国事業者である上,本件合意が日本国外において形成され,本件合意の対象となったテレビ用ブラウン管(本件ブラウン管)の直接の購入者である現地製造子会社等も日本国外に所在することから,このような場合にも独占禁止法第3条後段を適用することができるか否かが争点となっている。
⑵ 本件における独占禁止法の適用についての基本的な考え方
事業者が日本国外において独占禁止法第2条第6項に該当する行為に及んだ場合であっても,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法第3条後段が適用されると解するのが相当である。
なぜならば,独占禁止法は,我が国における公正かつ自由な競争を促進するなどして,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするところ(第1条),同法第3条後段は,不当な取引制限行為を禁止して,我が国における自由競争経済秩序を保護することをその趣旨としていることからすれば,同法第2条第6項に該当する行為が我が国でなされたか否か,あるいは,当該行為を行った事業者が我が国に所在するか否かに関わりなく,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができ,同法第3条後段を適用するのがその趣旨に合致するからである。
以上を前提にして,まず,本件における一定の取引分野を画定した上で,当該一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったか,また,当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたかを検討する。
⑶ 本件における一定の取引分野について
ア 独占禁止法第2条第6項における「一定の取引分野」は,原則として,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して画定すれば足りるものと解される(前記東京高等裁判所平成5年12月14日判決参照)。
本件合意は,前記第3の3のとおり,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,11社のした共同行為が対象としている取引は,本件ブラウン管の販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,本件ブラウン管の販売分野が一定の取引分野であると認められる。
イ ところで,被審人は,本件における一定の取引分野の画定は,企業結合規制におけるのと同様に,一定の取引の対象となる商品又は役務の範囲,取引の地域の範囲(地理的範囲)等に関して,基本的には需要者にとっての代替性という観点から判断され,必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮された上で行われるべき旨主張する。
しかし,独占禁止法第2条第6項における「一定の取引分野」は,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定するものであるところ,不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としているのであるから,通常の場合,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りると解される。
一方,企業結合規制においては,企業結合が通常それ自体で直ちに特定の取引分野における競争を実質的に制限するとはいえない上,特定の商品又は役務を対象とした具体的な行為があるわけではないから,企業結合による市場への影響等を検討する際には,商品又は役務の代替性等の客観的な要素に基づいて一定の取引分野を画定するのが一般的となっている。
このように企業結合規制と具体的な行為によって既に生じている競争の実質的制限が問題となる不当な取引制限とでは性質上の違いがあるのであるから,企業結合規制及び不当な取引制限における一定の取引分野は,それぞれにふさわしい方法で画定すれば足りると解される。
ウ なお,本件排除措置命令では,「特定ブラウン管」について,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管と定義しているところ,これは,その定義表現の中には含まれていないものの,その理由説示から,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の範囲について,本件交渉等を経たものを前提としていることが明らかである。したがって,「本件ブラウン管」を本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する別紙3記載のテレビ用ブラウン管と定義したことにより,「特定ブラウン管」と「本件ブラウン管」は商品の範囲としては同一であるから,審査官が本件における一定の取引分野であると主張している特定ブラウン管の販売分野と本件ブラウン管の販売分野は同一のものである(被審人が争っている「購入させた」ものであるか否かについては,後記⑷の中で判断する。)。
⑷ 本件の一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったかについて
ア 以上を前提に,まず我が国ブラウン管テレビ製造販売業者各社ごとに本件ブラウン管の取引の実態を検討する。
(ア) オリオン電機
a 認定事実
後掲各証拠並びに丹羽順一参考人審尋速記録及び査第230号証(同参考人の平成22年(判)第2号ないし第5号事件〔以下「第2号ないし第5号事件」という。〕における参考人審尋速記録写し)によれば,次の事実が認められる。
(a) 製造委託先会社との関係
ⅰ WORLD ELECTRIC (THAILAND) LTD.は昭和63年に,KORAT DENKI LTD.は平成7年に,オリオン電機の海外におけるブラウン管テレビの製造拠点としてタイ王国において設立されたブラウン管テレビの製造販売を業とする会社である(以下,上記2社を併せて「ワールド等」という。)。
オリオン電機は,ワールド等に出資することはしなかったが,ワールド等を自社の製品を製造するグループ企業と位置付け,ワールド等と技術援助契約を締結した上,ワールド等の設立以来,自社の従業員をワールド等の会社代表者,役員及び従業員として派遣している。
(査第1号証,第63号証,第83号証ないし第86号証,第88号証,第89号証,第153号証の1及び2,第154号証の1及び2,第176号証ないし第183号証)
ⅱ オリオン電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成7年頃以降は行っておらず,専ら,ワールド等といった製造委託先会社に設計や仕様を指示してブラウン管テレビの製造を委託していた。
なお,オリオン電機は,ブラウン管テレビの製造販売について,量販店の卸売業者や相手先商標製品製造(OEM)の相手先等からの注文を受けてから,製造委託先会社に製造を委託する受注生産方式を採っていた。
(査第1号証,第63号証,第83号証ないし第85号証,第88号証,第89号証,第176号証ないし第181号証,第186号証の1及び2)
ⅲ オリオン電機は,価格交渉力を向上させることや受注したブラウン管テレビの販売価格を管理することを目的として,企画部等の部署において,原価計算をした上,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格及び購入数量の決定等の購買業務等を行っていた。(査第63号証,第178号証,第179号証,第183号証,第186号証の1及び2,第187号証)
なお,前記ⅰの技術援助契約の第1条において,ワールド等は必要な資材についてオリオン電機を通じて購入することに協力する旨定められている。(査第88号証,第89号証,第153号証の1及び2,第154号証の1及び2)
ⅳ オリオン電機は,ワールド等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの全てを購入し,北米,欧州及び日本など国内外に販売していた。
なお,ワールド等はオリオン電機以外からも委託を受けるなどして製品を製造していたが,その割合は売上げの1割にも満たない程度であった。
(査第63号証,第87号証,第178号証ないし第181号証,第183号証ないし第185号証)
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ オリオン電機は,主に被審人ほか4社の中から一又は複数の事業者を選定し,その事業者との間で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。(査第2号証,第3号証の1及び2,第5号証ないし第8号証の2,第28号証,第31号証,第63号証,第90号証ないし第93号証の2,第178号証,第179号証)
ⅱ オリオン電機は,ワールド等に対し,テレビ用ブラウン管の仕様,購入価格,購入数量等を記載した部品表若しくは仕様書を送付し,又はそれらのデータを送信することにより,本件ブラウン管を含むテレビ用ブラウン管を前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から購入するよう指示していた。(査第63号証,第88号証ないし第90号証,第153号証の1及び2,第154号証の1及び2,第178号証,第179号証,第187号証)
ⅲ ワールド等は,前記ⅱの指示に従い,オリオン電機により選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社との間の関係では,MT映像ディスプレイ・マレーシア,MT映像ディスプレイ・タイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管を発注し,購入していた。(査第2号証,第32号証の1及び2,第63号証,第178号証,第179号証,第187号証)
b 前記認定事実によれば,オリオン電機は,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格,購入数量等の決定等の業務を行っており,被審人ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをワールド等に伝え,ワールド等は,それに従ってオリオン電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはオリオン電機であって,ワールド等はオリオン電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,オリオン電機は,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
これに対し,被審人は,オリオン電機が本件ブラウン管の購買業務に関与していたことについて,法的な又は契約上の根拠はなかったし,オリオン電機とワールド等との間を規律する唯一の契約である技術援助契約(査第88号証,第89号証,第153号証の1及び2,第154号証の1及び2)をみても,ワールド等が上記価格交渉の結果やオリオン電機の指示に拘束されるという条項もなかったから,オリオン電機が本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を交渉の上,決定し,ワールド等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
しかし,前記a(a)ⅲのとおり,オリオン電機において,ワールド等が製造するブラウン管テレビの原価計算をして販売価格を管理していたことなどに照らせば,オリオン電機がブラウン管の調達からブラウン管テレビの製造及び販売について実質的に決定していたと認められるのであって,本件ブラウン管の取引条件の交渉や価格の決定方法等について,明確な定めがないことは上記認定の妨げとなるものではない。むしろ,技術援助契約第1条(前記 a(a)ⅲ)をみれば,オリオン電機が本件ブラウン管の取引条件の交渉や決定に関与することも同契約で想定されている範囲内であるといい得る。
したがって,前記のとおり,オリオン電機が,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(イ) 三洋電機
a 認定事実
後掲各証拠並びに古賀一路参考人審尋速記録及び査第223号証(同参考人の第2号ないし第5号事件における参考人審尋速記録写し)によれば,次の事実が認められる。
(a) 現地製造子会社との関係
ⅰ 三洋電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,平成8年にインドネシア共和国にP.T. SANYO Electronics Indonesia(以下「三洋電子インドネシア」という。)を設立し,同社にブラウン管テレビの製造業務を移管した。(査第190号証)
なお,三洋電子インドネシアの議決権については,三洋電機の完全子会社でシンガポール共和国に所在するSANYO Asia Pte. Ltd.が,平成14年4月から平成16年3月まではその82パーセントを,同年4月以降はその全てを保有していた。(査第1号証,第64号証,第68号証,第189号証)
ⅱ 三洋電機は,平成18年9月30日まで,「マルチメディアカンパニー」,「AVソリューションズカンパニー」又は「AVカンパニー」(時期により名称が異なる。)の中の専門部署(例えば「AVカンパニー」のときは「テレビ統括ビジネスユニット」)において,三洋電子インドネシアを含む現地製造子会社(以下「三洋電子インドネシア等」という。)が使用するテレビ用ブラウン管の仕様,製造するブラウン管テレビの仕様,製造方法等に関する規格や検査基準を設定したり,毎年の事業計画,四半期ごとの確認,月次の報告等を通じて三洋電子インドネシア等に対して事業上の指示及び管理を行うなど,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。また,三洋電機は,上記各カンパニー内の購買部門において,同社及び三洋電子インドネシア等が使用するテレビ用ブラウン管について,購買業務の効率性を高めるとともにボリューム・ディスカウントによるスケール・メリットの獲得等を目的として,まとめて購買業務を行い,一括して交渉を行っていた。(査第64号証,第68号証,第188号証ないし第191号証)
ⅲ 三洋電子インドネシアには,製造したブラウン管テレビを顧客に直接販売するための販売部門がなかったため,三洋電子インドネシアが本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,三洋電機が承認した事業計画に従い,同社の販売子会社である三洋セールスアンドマーケティング株式会社及びP.T. Sanyo Sales Indonesiaに販売され,これらの会社により国外向けに販売されていた。(査第64号証,第68号証,第189号証)
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 三洋電機は,平成18年9月30日まで,主に被審人,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から一又は複数の事業者を選定し,その事業者から仕様書の提出を受けるなどした上で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。(査第2号証,第10号証の1及び2,第28号証,第31号証,第64号証,第68号証,第92号証及び同枝番2,第93号証及び同枝番2,第97号証及び同枝番2,第98号証の1及び2,第188号証ないし190号証,第192号証)
ⅱ 三洋電機は,決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,三洋電子インドネシアの担当者に電子メールで伝え,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。(査第29号証,第64号証,第189号証,第190号証)
ⅲ 三洋電子インドネシアは,三洋電機が決定した取引条件に従い,同社により選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社の関係では,サムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシア,MT映像ディスプレイ・タイ,LGフィリップス・ディスプレイズ及びLPディスプレイズ・インドネシア)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金を支払っていた。(査第2号証,第32号証の1及び2,第64号証,第68号証,第189号証,第190号証)
b 前記認定事実によれば,三洋電機は,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,被審人,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを三洋電子インドネシアに伝え,同社は,それに従って三洋電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは三洋電機であって,三洋電子インドネシアは三洋電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
これに対し,被審人は,三洋電機が本件ブラウン管の購買業務に関与していたことについて根拠となる契約書や規則等がないこと,三洋電機は価格交渉の際に三洋電子インドネシアの意向を確認しながら進めていたこと,サムスンSDIマレーシアと三洋電子インドネシアとの間で,それぞれの親会社が関与しないで本件ブラウン管の価格が決められたこともあった旨サムスンSDIマレーシアの当時の担当者である李大儀が供述していることなどからすれば,三洋電機が本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を交渉の上,決定し,三洋電子インドネシアに指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
しかし,三洋電機が交渉の当事者として最終的に取引条件を決定するに当たり,その過程において,三洋電子インドネシアや他の子会社等の意向を集約し,集中購買によるグループ全体の利益を図りつつ,三洋電子インドネシアや他の子会社等の個々の意向に沿うように配慮あるいは調整することは,むしろ,最終的に取引条件の決定を行う三洋電機としては当然のことであるといえる。また,被審人が指摘する李大儀の供述内容(李大儀参考人審尋速記録及び審第7号証)は,単にサムスンSDIマレーシアと三洋電子インドネシアとの間で本件ブラウン管の価格を決めたこともあった旨供述するにすぎず,具体性に乏しく信用することはできない上,前記認定事実を裏付ける掲記の証拠に照らして採用できない。
なお,三洋電機が本件ブラウン管の取引条件の交渉に関与することについて,三洋電子インドネシアとの関係で何らかの契約や規則等がないことは,前記認定を妨げる事情とは認められない。
したがって,前記認定事実に照らせば,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(ウ) シャープ
a 認定事実
後掲各証拠及び川口泰弘参考人審尋速記録によれば,次の事実が認められる。
(a) 現地製造子会社又は関連会社との関係
ⅰ シャープは,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成13年頃以降は行っておらず,専ら,後記①ないし⑤の現地製造子会社又は関連会社5社(以下「SREC等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。
なお,シャープは,自社又は子会社の役員又は従業員をSREC等の役員等として派遣していた。
① マレーシア所在のSharp-Roxy Electronics Corporation (M) Sdn.Bhd.(シャープが議決権の50パーセントを保有していた。)
② フィリピン共和国所在のSharp (Philippines.) Corporation(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
③ タイ王国所在のSharp Manufacturing Thailand Co., Ltd.(シャープが,平成17年3月末までは議決権の33パーセントを保有し,同年4月以降は議決権の全てを保有していた。)
④ インドネシア共和国所在のP.T. Sharp Electronics Indonesia(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
⑤ マレーシア所在のSharp Electronics (Malaysia) Sdn.Bhd.(以下「SEM」という。シャープが議決権の全てを保有していた。)
(査第1号証,第65号証,第100号証の1ないし3,第193号証)
ⅱ シャープは,「AVシステム事業本部液晶デジタルシステム第4事業部」等の部署において,同社の連結子会社等である現地製造子会社又は関連会社が策定する,主要部品の調達数量を含む生産計画,販売計画,人員及び在庫についての計画等を含む,現地製造子会社又は関連会社の経営計画に事前の承認を与えていた。また,シャープは,価格交渉力の向上を目的に,現地製造子会社又は関連会社が製造するブラウン管テレビの製造に必要なテレビ用ブラウン管について,取引先を選定し,購入価格,購入数量等の取引条件についてのテレビ用ブラウン管メーカーとの間の交渉を取りまとめ,テレビ用ブラウン管の購入を統括して一元管理するなどして,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。(査第65号証,第150号証,第193号証ないし第195号証)
ⅲ シャープ及び同社の国外の販売子会社等は,SREC等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの大部分を購入して国内外に販売していた。(査第65号証,第69号証)
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ シャープは,被審人ほか4社等からテレビ用ブラウン管の価格トレンド(テレビ用ブラウン管のインチサイズ別,シャープの現地製造子会社又は関連会社別及びテレビ用ブラウン管の管種別の売買価格及び売買台数並びに貿易条件〔TRADE TERM〕等)の情報を収集し,当該情報とテレビ用ブラウン管業界の動向やテレビ用ブラウン管の新規開発状況等の情報を基に,SEMの設計・開発部門及びSREC等と協議し,その結果を踏まえて,主に被審人ほか4社との間で,テレビ用ブラウン管の仕様や翌半期のテレビ用ブラウン管の価格トレンド等の調整を行い,これらの事業者の中から選定した事業者との間で,毎年1月から2月頃と毎年7月から8月頃にかけて,それぞれ各年度の上期(4月から9月)及び下期(10月から翌年3月)において取引される本件ブラウン管のSREC等全体の購入価格,購入数量等について,交渉の相手方である事業者から仕様等の技術情報を収集しつつ,自ら交渉して,取引条件の取りまとめを行っていた。(査第2号証,第3号証の1及び2,第11号証ないし第18号証の2,第28号証,第65号証,第92号証及び同枝番2,第93号証及び同枝番2,第97号証及び同枝番2,第105号証ないし第109号証,第193号証ないし第195号証)
ⅱ シャープは,SREC等に対し,前記ⅰの交渉により調整されたSREC等全体の価格トレンドを伝達するとともに,SREC等に対し,SREC等が,固有の貿易条件,支払条件等を加味して更に前記ⅰのとおり選定された事業者又はその子会社等と交渉するか,又は,当該価格トレンドの購入価格に従って本件ブラウン管をそれらの者から購入するか確認していた。(査第65号証,第195号証)
ⅲ SREC等は,シャープから伝達された前記ⅰの交渉により調整済みのSREC等全体の価格トレンドが,既に貿易条件を加味したものであったことから,前記ⅱの確認を受けて更に前記ⅰのとおり選定された事業者又はその子会社等と交渉する場合であっても,多くは支払通貨等の支払条件について交渉するのみで,基本的には,シャープから伝達された前記ⅰの交渉により調整済みの価格トレンドどおりの価格を本件ブラウン管の購入価格としていた。(査第195号証)
ⅳ シャープは,前記ⅰのとおり選定した事業者に対し,前記ⅰの交渉及び前記ⅱの確認を受けて更に調整された価格トレンドに従って,本件ブラウン管の購入価格を記載した正式な価格見積書をSREC等に発行するよう依頼していた。(査第195号証,第196号証)
ⅴ SREC等は,シャープにより選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社の関係では全社)から正式な価格見積書を入手し,当該価格見積書の記載に基づきこれらの者に対し本件ブラウン管を発注し,納品,検収及び支払という購買発注及び納入進度管理業務を行っていた。(査第2号証,第32号証の1及び2,第65号証,第195号証)
b 前記認定事実によれば,シャープはSREC等との協議の結果を踏まえて被審人ほか4社との交渉に臨んでいること,SREC等は貿易条件や支払条件については,個別にサムスンSDIマレーシアほか7社と交渉する余地があったことが認められるものの,シャープは,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,被審人ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等を決定していたこと,SREC等はシャープの指示に基づき,上記交渉を経て決定された価格トレンド(購入価格,購入数量等)に従ってシャープが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはシャープであったと認められるのであって,同社がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,SREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
これに対し,被審人は,シャープの担当者であった川口泰弘の供述(川口泰弘参考人審尋速記録)によれば,本件ブラウン管の取引条件の最終的な決定権はSREC等にあったこと及びシャープは,本件ブラウン管の購入先の選定や購入価格等について,SREC等の意向を踏まえて,価格交渉に関与していたことが認められ,これらによれば,シャープが本件ブラウン管の購入価格等の取引条件を交渉の上,決定し,SREC等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
確かに,シャープの子会社又は関連会社とはいえ,SREC等はシャープとは別個の法人格を有するものであることや,SREC等の名義で本件ブラウン管を発注していたことなどからすれば,形式的には,SREC等に本件ブラウン管の取引条件の決定権があることは否定し難いものの(川口泰弘が本件ブラウン管の取引条件の最終的な決定権がSREC等にある旨供述している点も,他の供述部分を含めて全体としてみれば,このような趣旨をいうものと解される。),前記認定事実によれば,シャープは,SREC等に必要なテレビ用ブラウン管の購入等を一元管理していたのであるから,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件の実質的な決定権はシャープにあったと認められる。また,シャープが被審人ほか4社との交渉の際,価格トレンドの情報についてSREC等と協議していたとしても,飽くまで,SREC等の意向を踏まえ,調整を図っていたにすぎないと認められるのであって,その結果,SREC等の意向どおりに本件ブラウン管を購入することがあったとしても,そのことをもってSREC等が本件ブラウン管の取引条件について実質的に決定していたとみることはできない。
したがって,前記認定事実に照らせば,シャープがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,SREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(エ) 日本ビクター
a 認定事実
後掲各証拠及び宮﨑孝志参考人審尋速記録によれば,次の事実が認められる。
(a) 現地製造子会社又は関連会社との関係
ⅰ 日本ビクターは,自社又は自社の子会社若しくは関連会社である販売会社が販売するブラウン管テレビを製造するために,直接又は間接的に出資して,タイ王国にJVC Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.(以下「JMT」という。)及びJVC Electronics (Thailand) Co., Ltd.(以下「JET」という。)を,ベトナム社会主義共和国にJVC Vietnam Limited(以下「JVL」という。)をそれぞれ設立し,設計や仕様等を指示してブラウン管テレビを製造させていた。
なお,JMTは,日本ビクターの完全子会社であり,JETは,JVC Sales and Service (Thailand) Co., Ltd.(日本ビクターの完全子会社でシンガポール共和国に所在するJVC ASIA Pte. Ltd.〔以下「JVCアジア」という。〕が50パーセントの議決権を保有している。)が議決権の99パーセントを保有し,JVLは,JVCアジアが議決権の70パーセントを保有していた。
また,日本ビクターの完全子会社でシンガポール共和国に所在するJVC Electronics Singapore Pte. Ltd.(以下,JMT,JET及びJVLと併せて「JMT等」という。)は,音響機器の製品開発等を事業内容としていたが,その外に,自社の一部門であるJVC Procurement Asia(A Division Company of JVC Electronics Singapore Pte. Ltd.)において日本ビクターのブラウン管テレビ製造子会社が使用するテレビ用ブラウン管の一部を調達していた。
(査第1号証,第66号証,第71号証,第111号証の1ないし第114号証,第197号証,第198号証)
ⅱ 日本ビクターは,「AV&マルチメディアカンパニーディスプレイ統括カテゴリー」等の部署において,各地の販売拠点からの注文を取りまとめ,それに基づいてJMT等に生産の指示を出し,完成したブラウン管テレビを上記販売拠点から販売するなどして,ブラウン管テレビの生産,販売及び在庫に関する管理をしていたほか,価格交渉力の向上を目的として,JMT等が使用するテレビ用ブラウン管の調達業務を行うなど,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。(査第66号証,第197号証)
ⅲ JVLは製造していたブラウン管テレビを自らベトナム社会主義共和国内において販売していたが,JMT及びJETにはブラウン管テレビを販売するための営業部門が存在しなかったため,JMTが製造したブラウン管テレビのほとんど全てを日本ビクターが買い上げて国内外に販売し,また,JETが製造したブラウン管テレビの全量を日本ビクターのタイ王国所在の販売子会社であるJVC Sales and Service (Thailand) Co., Ltd.が買い上げて同国において販売していた。このように,JMT等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,日本ビクターが取りまとめた事業計画に沿って,国内外に販売されていた。(査第66号証,第71号証,第197号証,第199号証)
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 日本ビクターは,平成17年4月30日まで,同社の設計部門が設計したブラウン管テレビに適合する仕様のテレビ用ブラウン管について,性能及び品質面,テレビ用ブラウン管メーカーの生産ラインの状況,引渡しに要する時間,価格,それまでの取引状況等を総合的に勘案し,主に被審人ほか4社の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,JMT等の各地の製造拠点におけるブラウン管テレビの生産台数に応じたテレビ用ブラウン管を確保するため,年間の購入予定数量の大枠を交渉して決定していた。(査第198号証,第200号証の1及び2)
なお,日本ビクターは,被審人及びLGフィリップス・ディスプレイズとの間で,JMT等を含む現地製造子会社及び関連会社が購入するテレビ用ブラウン管について,年間の購入量の目標とそれを達成した場合の報奨金(インセンティブ)についての合意を交わしていた。(査第198号証,第200号証の1及び2)
ⅱ 日本ビクターは,前記ⅰのとおり選定した事業者との間で,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格等の取引条件について交渉して,決定していた。(査第2号証,第3号証の1及び2,第19号証の1ないし第24号証,第28号証,第66号証,第92号証及び同枝番2,第93号証及び同枝番2,第198号証)
ⅲ 日本ビクターは,JMT等に対し,前記ⅰ及びⅱのとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話,電子メール,ファクシミリ等で伝え,それに従って,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示した。(前記ⅰ及びⅱの各事実と査第66号証を総合すれば当該事実が認められる。)
ⅳ JMT等は,前記ⅲの取引条件に従い,日本ビクターにより選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社の関係では,サムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・マレーシア,MT映像ディスプレイ・タイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。(査第2号証,第23号証の1及び2,第32号証の1及び2,第66号証,第113号証及び同枝番2,第114号証,第198号証)
b 前記認定事実によれば,日本ビクターは,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,被審人ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをJMT等に伝え,JMT等は,それに従って日本ビクターが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは日本ビクターであって,JMT等は日本ビクターの指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,日本ビクターがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。   
これに対し,被審人は,日本ビクターが関与して交渉する価格は,目標にすぎず,その後,JMT等がサムスンSDIマレーシアほか7社と交渉して本件ブラウン管の具体的な価格が決定されていたのであって,日本ビクターが本件ブラウン管の購入価格等の取引条件を交渉の上,決定し,JMT等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
確かに,日本ビクターの担当者であった宮﨑孝志の供述(宮﨑孝志参考人審尋速記録)によれば,本件ブラウン管について,日本ビクターが被審人ほか4社と交渉した後に,JMT等が更にサムスンSDIマレーシアほか7社と価格交渉をしていたことがうかがわれる。しかし,宮﨑孝志の供述によれば,上記価格交渉は,日本ビクターが被審人ほか4社と交渉して決定した購入価格を前提に,更に若干の値引きを求めるといった程度のものであったと認められる。
したがって,JMT等が,本件ブラウン管の仕様,購入数量及び購入先について日本ビクターの決定に従っていたことや,上記のとおり,購入価格についても日本ビクターの決定したものを前提としていたことなどに照らせば,日本ビクターがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(オ) 船井電機
a 認定事実
後掲各証拠並びに井土周次参考人審尋速記録及び査第227号証(同参考人の第2号ないし第5号事件における参考人審尋速記録写し)によれば,次の事実が認められる。
(a) 現地製造子会社との関係
ⅰ 船井電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成5年頃以降は行っておらず,専ら,完全子会社であるマレーシアに所在するFUNAI ELECTRIC (MALAYSIA) SDN.BHD.及びタイ王国に所在するFUNAI (THAILAND) CO., LTD.(以下,上記2社を併せて「船井電機マレーシア等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。(査第1号証,第67号証,第201号証,第202号証)
ⅱ 船井電機は,前記ⅰのとおり,船井電機マレーシア等にブラウン管テレビの製造業務を移管した後も,引き続き,「テレビ事業本部」等の下の「テレビ事業部」等の部署において,ブラウン管テレビの製造以外の研究開発,技術・生産管理,品質管理,品質保証,マーケティング,営業,購買等の業務を管轄,運営するなど,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。(査第67号証,第149号証,第156号証の1及び2,第157号証の1及び2,第202号証,第203号証)
ⅲ 船井電機は,船井電機マレーシア等が製造するブラウン管テレビの製品仕様書や製造指導書等を作成し,船井電機マレーシア等に送付していた。(査第116号証の2,第117号証,第202号証,第203号証)
ⅳ 船井電機は,船井電機マレーシア等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビを全て購入し,自社の完全子会社であるフナイ販売株式会社,DXアンテナ株式会社及びFUNAI CORPORATION INC.を通じて,国内外の顧客に販売していた。(査第67号証,第201号証ないし203号証)
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 船井電機は,価格及び供給の安定を目的として,主に被審人ほか4社の中から選定した事業者との間で,翌年1年間において取引される本件ブラウン管の仕様及び購入予定数量の大枠を交渉して,決定し,おおむね四半期ごとに,翌四半期に実際に適用される本件ブラウン管の購入価格及び購入数量について交渉して,決定していた。(査第2号証,第3号証の1及び2,第25号証,第26号証,第28号証,第67号証,第92号証及び同枝番2,第93号証及び同枝番2,第97号証及び同枝番2,第201号証,第202号証,第204号証)
なお,船井電機は,MT映像ディスプレイとの間で,本件ブラウン管の購入数量の大枠について,管種ごとに,事業年度単位で交渉していた。(査第118号証)
ⅱ 前記ⅰの交渉の相手方は,船井電機に対して製品仕様書の案を提出し,船井電機の技術部門は,当該仕様書の案を確認及び承認して,当該仕様書を完成させていた。(査第119号証の1ないし第121号証の2,第202号証,第203号証)
ⅲ 船井電機は,船井電機マレーシア等に対し,前記ⅰのとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話や電子メールによって伝え,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。(査第67号証,第202号証)
ⅳ 船井電機マレーシア等は,前記ⅲのとおり船井電機から伝達及び指示された本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件に従い,船井電機により選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社との関係では,サムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社,中華映管マレーシア,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。(査第2号証,第32号証の1及び2,第67号証,第201号証ないし第203号証)
b 前記認定事実によれば,船井電機は,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,被審人ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを船井電機マレーシア等に伝え,船井電機マレーシア等は,それに従って船井電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは船井電機であって,船井電機マレーシア等は船井電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,船井電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
これに対し,被審人は,本件ブラウン管の購入先の選定に関して船井電機マレーシア等の意向が尊重されていたほか,本件ブラウン管の品質や納期に関しては船井電機マレーシア等とサムスンSDIマレーシアほか7社との間で独自にやり取りがされていた旨主張する。
しかし,本件ブラウン管の購入先について,船井電機マレーシア等の意向を尊重することと,船井電機が交渉の当事者として最終的に取引条件を決定することは矛盾しない。また,本件合意は,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格に関するものであるから,価格以外の品質や納期について,船井電機マレーシア等とサムスンSDIマレーシアほか7社との間で交渉があったとしても,船井電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができることは明らかである。
イ(ア) 前記アの認定事実によれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともにブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしていたことが認められる。
(イ) また,前記(ア)に加え,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,被審人ほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたことが認められ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉・決定及びそれに基づく指示なくしては,現地製造子会社等が本件ブラウン管を購入し,受領することはできなかったといえる。
そうすると,直接に本件ブラウン管を購入し,商品の供給を受けていたのが現地製造子会社等であるとしても,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の果たしていた上記役割に照らせば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたということができる。
(ウ) さらに,本件合意が被審人ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることも併せて考えれば,11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,自社グループが購入先として選定されること及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を競い合う関係にあったということができ,購入先や重要な取引条件の決定者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったということができる。
(エ) これらの点を考慮すれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は本件ブラウン管の需要者に該当するものであり,本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったということができる。
(オ) これに対し,被審人は,需要者とは商品又は役務の供給を受ける者と解すべきところ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は本件ブラウン管の供給を受けていないから,本件ブラウン管の需要者に該当しない旨主張する。
しかし,本件においては,実際に商品の供給を受ける者とは別に,商品の購入先を選定し,商品の価格や数量等の重要な取引条件について交渉し,決定している主体が存在するのであるから,当該商品の供給に係る競争が行われる取引の実態を踏まえて需要者について検討する必要があるところ,前記アで認定した本件ブラウン管の供給に係る競争が行われる取引の実態をみれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者がブラウン管の需要者であると認めるべきことは,前記説示のとおりである(なお,このことは,たとえ商品の供給を受ける現地製造子会社等もまた需要者に該当し得るとしても,変わるものではない。)。
したがって,被審人の上記主張は採用できない。
⑸ その余の被審人の主張について
ア 被審人は,仮に,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の需要者であるとしても,需要者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の所在地は商品である本件ブラウン管が供給される東南アジア地域であると考えるべきであるから,本件における一定の取引分野に日本が含まれることにはならない旨主張する。
しかし,需要者の所在地を商品が供給される場所によって決するとの考え方は,結局のところ,需要者とは商品の供給を直接受ける者であるとの見解と同旨であって,前記のとおり,採用できない。
イ また,被審人は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の取引条件を決定し,現地製造子会社等に指示して購入させていたことを被審人が認識していたわけではないから,本件合意は特定ブラウン管に係る取引を対象としていたとはいえない旨主張する。
しかし,本件においては,本件合意が対象としていた取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して一定の取引分野を画定した上,当該一定の取引分野における競争を実質的に制限していたかどうかが問題なのである。したがって,本件合意が本件ブラウン管の取引を対象としており,そのことを被審人が認識していれば足りるのであって(前記認定事実によれば,本件合意が本件ブラウン管の取引を対象としており,そのことを被審人が認識していたことは明らかである。),それ以上に,特定ブラウン管の定義に用いられている,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が取引条件を決定し,現地製造子会社等に指示して購入させていたことまでを被審人が認識していることが必要であるとはいえない。
よって,被審人の上記主張は失当である。
⑹ 競争の実質的制限について
ア 独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される(最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決・民集第66巻第2号796頁〔株式会社新井組ほか3名による審決取消請求事件〕参照)。
イ 前記第3の2⑶のとおり,平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,サムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額の合計の割合は,約83.5パーセントとその大部分を占めていたこと,本件違反行為者である被審人を含む11社は本件合意に基づき設定された最低目標価格等を踏まえて,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で,本件ブラウン管の価格交渉をしていたこと等に照らせば,本件合意により,本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたといえるから,11社は,本件合意により,本件における一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限したと認めることができる。   
⑺ まとめ
以上検討したところによれば,一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったと認められ,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたと認められる。
被審人は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていないとして,需要者に当たらないことを前提に,本件には独占禁止法第3条後段を適用することができないと主張するが,以上説示したとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は需要者であると認められるのであるから,その主張は前提を欠くものであるし,また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていなかったとしても,その事実は,当該事業者が被審人に対して独占禁止法違反を理由に損害賠償請求訴訟等を提起した場合に考慮されるべき事情になることがあり得るのは格別,本件のように,一定の取引分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,そこにおける競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができるから,これに対して自由競争経済秩序の回復を図る観点から独占禁止法を適用することができるのは当然である。
したがって,本件に独占禁止法第3条後段を適用することができるものというべきである。
なお,被審人は,いわゆる効果主義の観点から,本件において,日本の国内市場に実質的,直接的かつ行為者にとって予見可能な効果が生じたとはいえないから,独占禁止法は適用されない旨主張する。
しかし,前記のとおり,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法第3条後段を適用することができると解され,実際,本件においてはそれが肯定されるから,本件において被審人の主張するような効果の存否に関する検討をする必要性は認められない。
2 争点2(本件排除措置命令の必要性)について
⑴ 本件排除措置命令は,被審人に対し,主文第1項において,本件合意が消滅していることの確認及び今後は特定ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,他の事業者と共同して決定せず,自主的に決める旨を業務執行の決定機関において決議することを,主文第2項において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者等に対し,主文第1項に基づいて採った措置を通知することなどを,主文第3項において,今後他の事業者と共同して特定ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格を決定してはならないことを,主文第4項において,主文第1項及び第2項に基づいて採った措置を公正取引委員会に報告することを,それぞれ命ずるものである。
⑵ 独占禁止法第7条第2項本文(平成21年法律第51号による改正前のもの)は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,違反行為者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているところ,同項の「特に必要があると認めるとき」とは,原処分の時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される(東京高等裁判所平成20年9月26日判決・公正取引委員会審決集第55巻910頁〔JFEエンジニアリング株式会社ほか4名による審決取消請求事件〕参照)。
⑶ ところで,本件においては,前記⑴のとおり,本件違反行為が排除されたことを確保するために命ずる措置の内容が特定ブラウン管(前記第6の1⑶ウのとおり,本件ブラウン管〔我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉等を経て現地製造子会社等が購入する別紙3記載のテレビ用ブラウン管〕と商品の範囲としては同一である。)の現地製造子会社等向け販売価格の決定に関する事項とされている。また,前記1のとおり,一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったと認められ,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたことが認められることを根拠に,独占禁止法第3条後段を適用することができると解されるのである。そうすると,前記⑵の「当該違反行為が繰り返されるおそれがある」として本件排除措置命令の必要性を肯定するためには ,被審人が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,同様の違反行為を繰り返すおそれがあることが必要であると解されることから,以下,この点につき検討する。
ア 確かに,被審人は本件合意につながる会合の定期的な開催を提案した者であり(査第39号証),また,本件合意は約3年10か月の長期にわたり継続していた。しかも,前記第3の4のとおり,本件合意は,中華映管,中華映管マレーシア及びMT映像ディスプレイが上記会合に出席しない旨を表明したことから事実上消滅したものであり,被審人が自主的に上記会合への出席を取りやめたわけではない。そして,本件排除措置命令時に被審人の子会社であるサムスンSDIマレーシアがブラウン管の製造販売業を営んでいたという事実も認められる(当事者間に争いがない。)。
イ しかしながら,次のとおり,本件ブラウン管については,本件排除措置命令時において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者であったと認めることに疑問がある上,被審人及びその子会社であるサムスンSDIマレーシアが本件違反行為と同様の行為を共同で行うことが可能なテレビ用ブラウン管製造販売業者が存在していたと認めることができないこと等の事情に照らせば,被審人が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において本件違反行為と同様の行為を行うおそれがあったとまでは認められない。
(ア) まず,本件ブラウン管の需要者についてみた場合,次の点を指摘することができる。
我が国ブラウン管テレビ製造販売業者5社のうち,日本ビクターは平成17年5月以降,三洋電機は平成18年10月以降,それぞれ本件ブラウン管の売買について関与していない。
また,本件排除措置命令時において,既に世界的にブラウン管テレビからプラズマディスプレイや液晶ディスプレイを使用した薄型テレビへと需要がシフトし,テレビ用ブラウン管の需要が急激に衰退している状況にあったところ(査第183号証,第202号証,第227号証,宮﨑孝志参考人審尋速記録,丹羽順一参考人審尋速記録),船井電機は,本件排除措置命令前の平成21年6月頃にブラウン管テレビの製造販売に係る事業から撤退することを公表し(査第202号証),オリオン電機においても,その頃,現地製造子会社等であるワールド等におけるブラウン管テレビの売上げの割合が大幅に減少しており,僅かなものになっていた(査第183号証。なお,査第183号証はオリオン電機の従業員であった寺島俊一朗の供述調書であるが,これによれば,同人は,平成14年から平成17年頃にかけて,ワールド等が生産する製品の売上げ全体のうち,ブラウン管テレビの売上げは約7割程度を占め,残り約3割はビデオプレーヤー,テレビデオ及びDVD関連機器であったと記憶しているが,平成21年6月当時は,ブラウン管テレビの売上げの割合がそのまま液晶テレビの売上げの割合になった感じで,液晶テレビの売上げが全体の売上げの約7割を占めるようになっていたと記憶しており,ブラウン管テレビが占める売上げの割合はかなり減っていたはずであると思うと供述しているところ,その他の製品の存在も考えると,ブラウン管テレビの売上げの割合は僅かなものであったと推認される。)。
シャープ及びその現地製造子会社等であるSREC等については,本件排除措置命令時にブラウン管テレビの製造販売事業がどのような状況であったかを示す証拠はないが,上記のとおり既にテレビ用ブラウン管の需要が急激に衰退している状況にあったことや,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者5社のうちシャープを除く4社の状況が上記のとおりであったことからすると,シャープについても他の我が国ブラウン管テレビ製造販売業者とほぼ同じような状況にあったものと推認される。
したがって,本件ブラウン管の需要者についてみた場合,本件排除措置命令時において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者5社のうち日本ビクター及び三洋電機が需要者でないことは明らかであり,船井電機,オリオン電機及びシャープについても本件ブラウン管の取引が存在しないか,仮に存在したとしても僅かなものであったと認められることからすれば,上記3社が需要者であったと認めることには疑問がある。
(イ) また,本件ブラウン管の供給者についてみた場合も,次の点を指摘することができる。
MT映像ディスプレイ及びその子会社であるMT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社のグループでは,実際に本件ブラウン管を製造販売していたMT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社が本件排除措置命令前に既に清算手続を開始しており(審査官が自認するとおりである。),また,MT映像ディスプレイが他の子会社又は関連会社を使って本件違反行為と同様の行為を行うおそれがあったことを認めるに足りる証拠はない。
タイCRTも,本件排除措置命令前に既に清算手続を経て消滅している(審査官が自認するとおりである。)。
LGフィリップス・ディスプレイズ及びその関連会社であるLPディスプレイズ・インドネシアのグループでは,LGフィリップス・ディスプレイズが本件排除措置命令前に既にテレビ用ブラウン管の製造販売に係る事業を他に譲渡している(審査官が自認するとおりである。)。前記1⑷のとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は主に被審人ほか4社との間で本件ブラウン管の販売価格,販売数量等の取引条件の交渉を行っていたものであるが,LGフィリップス・ディスプレイズ及びLPディスプレイズ・インドネシアのグループでは,その取引条件の交渉を行っていたLGフィリップス・ディスプレイズが本件排除措置命令時には既にテレビ用ブラウン管製造販売に係る事業を他に譲渡しており,従前どおり我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と本件ブラウン管の販売価格,販売数量等の取引条件の交渉を行うことのできる状況ではなくなっていた。
また,中華映管及びその子会社である中華映管マレーシアは,前記第3の4のとおり,平成19年3月30日に競争法上の問題により本件ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨を表明し,本件合意を消滅させた者である。
これらの点に加え,前記(ア)のとおり,本件排除措置命令時において,既にテレビ用ブラウン管の需要が急激に衰退している状況にあったことを考慮すると,被審人の子会社であるサムスンSDIマレーシアが本件排除措置命令時にテレビ用ブラウン管の製造販売業を継続していたとしても,被審人及びサムスンSDIマレーシアが他の本件違反行為者と共同で再び本件違反行為と同様の行為を行うおそれはなかったと認められる。また,本件記録からは,本件違反行為者以外の事業者が,本件排除措置命令時において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉等を経て現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を販売していたこともうかがわれない。     
(ウ) したがって,本件ブラウン管の需要者及び供給者の状況をみると,被審人が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において同様の違反行為を繰り返すおそれがあったとまでは認められない。
⑷ また,本件合意が消滅してから本件排除措置命令までに約2年6か月が経過していることや前記⑶イの本件排除措置命令時におけるテレビ用ブラウン管の需要の状況及びサムスンSDIマレーシアほか7社の状況を考慮すると,本件違反行為の結果が残存していたのか,秩序を回復すべき競争自体が残存していたのかが不明であるから,「当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合」に当たると認めることも困難である。
⑸ したがって,被審人に対し本件排除措置を命ずることについて,「特に必要がある」と認めることはできない。
3 争点3(本件公示送達の適法性について)
⑴ 独占禁止法第49条第6項の規定による審判請求に基づく審判手続は,原処分の適法性及び相当性を再審査する手続である。
被審人は,本件公示送達が違法である旨主張するが,原処分に係る命令書謄本の送達が適法になされたか否かは原処分の効力発生の有無に関する問題であって,原処分自体の適法性や相当性には関係がないから,本件審判手続において本件公示送達の違法性を主張することは失当というほかない。
⑵ ただし,念のため,本件公示送達の適法性について検討する。
関係証拠によれば,被審人が平成21年10月5日,当時の日本国内における代理人及び復代理人全員を解任し,被審人の日本国内における代理人に対して本件排除措置命令書謄本を送達することができなくなったことから(査第160号証の1及び2,第161号証の1及び2),公正取引委員会は,我が国外務省を通じて,大韓民国政府に対し,本件排除措置命令書謄本を領事送達することについて同意するよう求めたが,大韓民国政府(外交通商部)が領事送達に同意しなかったことが認められる(査第163号証,第232号証)。そうすると,本件排除措置命令書謄本を領事送達によって送達することができない場合に当たることが明らかである。また,管轄官庁送達については,大韓民国において,これを実施する権限のある管轄官庁を定めた条約等がないため,実施することができない(公知の事実)。
したがって,大韓民国においてすべき本件排除措置命令書謄本の送達について,独占禁止法第70条の17の規定により読み替えて準用される民事訴訟法第108条の規定によることができず,又はこれによっても送達することができないと認めるべき場合(独占禁止法第70条の18第1項第2号)に該当する。
なお,本件公示送達により,大韓民国に所在する被審人に対して送達の効力が生じたとしても,大韓民国の領域内において我が国の公権力を行使するものではないから,大韓民国の主権を侵害しないことは明らかである。
よって,本件公示送達は適法になされたものと認められる。
4 結論
被審人は,前記第3の3のとおり他の事業者と共同して本件合意をすることにより,公共の利益に反して,本件ブラウン管の販売分野,すなわち特定ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限していたものであるから,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものと認められる。
しかし,本件合意は,前記第3の4のとおり,平成19年3月30日になくなっていると認められるところ,前記第6の2のとおり,被審人に対して,特に排除措置を命ずる必要があるとは認められない。
したがって,独占禁止法第66条第3項の規定により,本件排除措置命令を取り消すべきであるが,本件排除措置命令において認定された違反行為があったことは認められるのであるから,同条第4項の規定によりその旨を主文で明らかにする必要がある。
なお,被審人らの規則第75条に基づく審決案に対する異議の申立て並びに独占禁止法第63条及び規則第77条の規定に基づく当委員会に対する陳述の趣旨は,実質的に審判手続における主張の繰り返しであり,上記の結論を左右するものではない。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人の審判請求は本件排除措置命令の取消しを求める限度で理由があるが,本件排除措置命令の時までに独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し同法第3条の規定に違反する行為があり,かつ,本件排除措置命令の時において既に当該行為がなくなっていると認められるから,独占禁止法第66条第3項及び第4項並びに規則第78条第2項の規定により,主文のとおり審決する。

平成27年5月22日

公 正 取 引 委 員 会

委員長  杉  本  和  行

委 員  小 田 切  宏  之

委 員  幕  田  英  雄

委 員  山  﨑     恒

※審決書別紙1ないし3は省略。

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