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日本エア・リキード(株)に対する件

独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)

平成23年(判)第79号及び第80号

審判請求棄却審決(排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決)

東京都港区芝浦三丁目4番1号グランパークタワー
被審人 日本エア・リキード株式会社
同代表者 代表取締役  矢 原 史 朗
同代理人 弁 護 士  雨 宮   慶
上記被審人代理人雨宮慶復代理人
弁護士          斎 藤 三 義
同           佐 藤 恭 子

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官伊藤繁,審判官酒井紀子及び審判官數間薫から提出された事件記録に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,別紙審決案の58頁29行目から30行目にかけての「なく,形式的なチア・リーディングを行うものにすぎなかった」を「なかった」に改めるほかは,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第8と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成27年9月30日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  杉  本  和  行
委 員  小 田 切  宏  之
委 員  幕  田  英  雄
委 員  山  﨑     恒
委 員  山  本  和  史

平成23年(判)第79号及び第80号

審   決   案

東京都港区芝浦三丁目4番1号グランパークタワー
被審人 日本エア・リキード株式会社
同代表者 代表取締役  矢 原 史 朗
同代理人 弁 護 士  雨 宮   慶
上記被審人代理人雨宮慶復代理人
弁護士          斎 藤 三 義
同           佐 藤 恭 子

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主         文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理         由
第1 審判請求の趣旨
1 平成23年(判)第79号審判事件
平成23年(措)第3号排除措置命令の全部の取消しを求める。
2 平成23年(判)第80号審判事件
平成23年(納)第59号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 排除措置命令(平成23年(措)第3号)
公正取引委員会は,被審人が,遅くとも平成20年1月23日までに,他の事業者と共同して,別紙記載のエアセパレートガス(以下「特定エアセパレートガス」という。)の販売価格を引き上げる旨を合意することにより(以下,この合意を「本件合意」という。),公共の利益に反して,我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成23年5月26日,被審人,大陽日酸株式会社(以下「大陽日酸」という。),エア・ウォーター株式会社(以下「エア・ウォーター」という。)及び岩谷産業株式会社(以下「岩谷産業」という。)の4社(以下「4社」という。)に対して,排除措置を命じた(平成23年(措)第3号。以下,この処分を「本件排除措置命令」という。)。本件排除措置命令書の謄本は,同月27日,被審人に対して送達された。
2 課徴金納付命令(平成23年(納)第59号)
公正取引委員会は,本件排除措置命令に係る違反行為(以下「本件違反行為」という。)は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであり,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が平成20年4月1日から平成22年1月18日まで(以下「本件実行期間」という。)であるとして,平成23年5月26日,被審人に対して,48億2216万円の課徴金の納付を命じた(平成23年(納)第59号。以下,この処分を「本件課徴金納付命令」という。)。本件課徴金納付命令書の謄本は,同月27日,被審人に対して送達された。
なお,本件課徴金納付命令は,被審人が特定エアセパレートガスの製造業を営んでいたとの判断の下,算定率10パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)を適用して課徴金を算定している。
3 審判請求
被審人は,平成23年7月25日,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の全部の取消しを求めて各審判請求をした(平成23年(判)第79号及び第80号)。
4 予備的主張の追加
審査官は,平成26年5月20日,第16回審判期日において,本件における一定の取引分野を「液化酸素」,「液化窒素」及び「液化アルゴン」のガス種別に画定しても,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令が適法であることを予備的に主張した。
第3 前提となる事実(各項末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。)
1 当事者等
(1) 被審人の概要
被審人は,酸素,窒素,アルゴンその他各種圧縮又は液化ガスの製造販売業等を営む者であり,平成19年9月1日,東京都江東区東雲一丁目9番1号に本店を置いていたジャパン・エア・ガシズ株式会社(以下「JAG」という。)を吸収合併したものである。(査第1号証)
(2) 4社のうち被審人以外の概要
大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業は,それぞれ,酸素,窒素及びアルゴン等の産業ガスの製造販売業等を営む者である。(査第144号証,第145号証)
2 エアセパレートガスについて
(1) 酸素
酸素は,強い支燃性を利用した鉄鋼分野等における溶接及び切断,酸化力を利用した化学製品製造の酸化反応工程等に幅広く利用されているものである。
(2) 窒素
窒素は,常温下での不活性を利用した化学製品や半導体の製造分野における酸化防止,液体での極低温性を利用した食料品の急速冷凍等に幅広く利用されているものである。
(3) アルゴン
アルゴンは,高温高圧下でも化学反応を起こさないという特性を利用し,酸化及び窒化を嫌うアルミニウム等の非鉄金属の溶接加工や金属精錬加工,半導体加工等に幅広く利用されているものである。
(4) エアセパレートガスの製造方法
酸素,窒素及びアルゴンは,空気を唯一の原料とし,それぞれの沸点の違いを利用して蒸留分離することにより,それぞれ製造される。これらは,空気から製造するため原料費が必要でなく,製造費用のうち電気代が大きな比率を占めている。
製造方法には,深冷分離方式,膜式製造法,吸着分離法などがあるが,液化酸素や液化アルゴンを製造する場合には,一般的に深冷分離方式が用いられる。
深冷分離方式とは,空気を冷やして液化した上で蒸留し,酸素,窒素及びアルゴンの沸点の違いを利用して酸素,窒素及びアルゴンを分離して取り出すという製造方法である。すなわち,酸素の沸点はマイナス183度,窒素の沸点はマイナス195.8度,アルゴンの沸点はマイナス185.9度であるところ,深冷分離方式では,まず空気を熱交換と圧力調整によりマイナス200度前後まで冷却して液化させ,精留塔という縦長の箱の中に送り込む。そして液化された空気の温度を徐々に上げることにより,上記各物質の中では最も沸点の低い窒素が先に気化する性質を利用して,窒素成分を多く含む気体を精留塔の上方に発生させて収集し,下方には酸素成分を多く含む液体を収集する。その過程を幾度も繰り返し,窒素や酸素の純度を上げていくことにより,純度の高い窒素ガス(気体)と液化酸素(液体)を製造する。ところが,これだけでは,気体の窒素の純度をほぼ100パーセントにすることができる一方で,精留塔の下方に集まる液体は純度100パーセントの酸素とはならないので,酸素を製造する場合には,同じ原理で蒸留を行う精留塔を,下の精留塔の上にもう一つ重ねて,圧力を調整するとともに,下の精留塔の最上部の温度も利用してさらに蒸留を繰り返すことにより,酸素の純度を上げていく過程が必要となる。このように精留塔を二つ重ねる方法を複式精留(複式精留塔)という。したがって,精留塔が一つである単式精留の場合には窒素しか製造することができず,複式精留を用いて初めて窒素と酸素の双方を製造することができる。アルゴンを製造する場合,複式精留塔の上の塔の中段にある比較的アルゴンの含有率が高い混合液体を抜き出し,その混合液体に多く含まれる酸素を取り除いた後,さらなる蒸留を行う。複式精留塔の上の塔の中段から抜き出すアルゴンの含有率が比較的高い混合液体においてもアルゴンの含有率はせいぜい7から8パーセントで,相当程度の酸素を含む。そのため,アルゴンの含有率が比較的高い混合液体から酸素を除去する過程が必要であり,デオキソ塔(デオキソユニット)において当該混合液体を水素ガスと接触させ,水素と酸素を結合させて水にすることにより酸素成分を取り除くことができる。そのように酸素が除去された混合液体から,さらにアルゴンとその他の物質を分離するため,アルゴン向けの特別の精留塔(アルゴン精留塔)において精留を行う。このようにして製造されるアルゴンは液体である。アルゴンは,空気中の含有率が1パーセント未満と非常に少ないため,アルゴンが特別に必要とされない工場などでは,あえてコストを掛けてアルゴンの精留のための設備を設置するような投資をしてまでアルゴンを製造しない。
(査第2号証,第134号証,審第140号証)
(5) エアセパレートガスの供給形態
エアセパレートガスの供給形態としては,一般的に,ローリー供給,シリンダー供給,パイピング供給及びオンサイト供給の4つの方法が存在する。
ア ローリー供給
液化した酸素,窒素又はアルゴンをタンクローリーによる輸送によって供給する方法。
イ シリンダー供給
液化した酸素,窒素又はアルゴンを充てん所において気化させ,シリンダー容器に充てんしてから供給する方法。
ウ パイピング供給
製造業者の製造プラントから直接配管で気体状の酸素,窒素又はアルゴンを供給する方法。
エ オンサイト供給
需要者の工場の敷地内に酸素,窒素又はアルゴンの製造プラントを設置して製造供給する方法。
(6) 特定エアセパレートガスの販売経路
特定エアセパレートガスの販売経路としては,製造業者が需要者に対し直接販売する場合,ディーラー(専ら他社から特定エアセパレートガスを仕入れて販売する者をいう。以下同じ。)を通じて販売する場合,グループ会社を通じて販売する場合,他の製造業者を経由して販売する場合などがある。(査第2号証,第5号証,第152号証)
3 立入検査
平成22年1月19日,本件について,公正取引委員会が独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行ったところ,4社は,同日以降,特定エアセパレートガスの販売価格についての情報交換を行っていない。
4 売上額
平成20年4月1日から平成22年1月18日までの間,被審人がタンクローリーによって被審人以外の者(ディーラー,被審人の子会社,最終需要者等を含む。)に対して供給(配送)した酸素,窒素及びアルゴン(粗アルゴン〔通常のアルゴンよりも多少純度が低く,一部用途が異なるもの。以下同じ。〕を除く。以下同じ。)の売上額から,同期間における被審人の,①大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業に対する売上額,②バーター取引(ある地域に製造設備を有していないA社に対して,同地域で製造設備を有するB社が商品を販売する一方で,他の地域においてA社がB社に対して,原則として等量等価の商品を販売するという取引をいう。以下同じ。)の売上額(ただし,大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業とのバーター取引の売上額を除く。以下同じ。),並びに③ダイサンガスセンター株式会社に対する売上額を除いた金額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)第5条第1項の規定に基づき算定すると,482億2164万7933円であった。
第4 本件の争点
1 4社は共同して相互にその事業活動を拘束したか(争点1)
(1) 本件合意の有無
(2) 本件合意の対象範囲
ア エレクトロニクス産業向け及び大規模顧客向けの特定エアセパレートガスは本件合意の対象に含まれるか
イ オンサイト供給及びパイピング供給においてガスの発生装置の例外的な運転の停止に備えて準備しておくこと(狭義のバックアップ)並びにオンサイト供給におけるガスの発生装置による製造量の不足分を補うために供給すること(ピークシェイブのバックアップ。以下,狭義のバックアップと併せて単に「バックアップ」という。)に係る特定エアセパレートガスは本件合意の対象に含まれるか
ウ 通常の酸素や窒素と比べて純度が相当高い(99.7パーセント以上あるいは99.9999パーセント以上)など,特別の仕様及び品質が求められる製品(以下「超高純度ガス」という。)は本件合意の対象に含まれるか
2 本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するか(争点2)
(1) 特定エアセパレートガスの販売分野という取引分野の画定の可否
(2) 本件合意により影響を受ける取引段階
(3) 市場占有率の算定方法の相当性
3 本件排除措置命令の必要性及び相当性(争点3)
4 課徴金算定の対象(争点4)
特定エアセパレートガスのうち,次に掲げるものが独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当するか
(1) エレクトロニクス産業向けのもの,大規模顧客向けのもの,バックアップに係るもの及び超高純度ガスに該当するもの
(2) シリンダー充てん業者に対して販売するもの
(3) 全額出資子会社等に対して販売するもの
5 課徴金算定率(争点5)
本件違反行為に係る取引について,被審人の業種を小売業又は卸売業以外と認定して10パーセントの課徴金算定率を適用すべきか,それとも,卸売業と認定して2パーセントの課徴金算定率を適用すべきか
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(4社は共同して相互にその事業活動を拘束したか)について
(1) 審査官の主張
ア 本件合意の有無
以下の事実によれば,4社は,遅くとも平成20年1月23日までに,特定エアセパレートガスの販売価格について,同年4月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを合意したことが認められる。
(ア) 値上げの背景事情
4社は,平成17年秋頃に特定エアセパレートガスの値上げを行ったが,その後も原油価格の上昇により,特定エアセパレートガスの製造に必要な電力の料金,自家発電に用いる重油の価格及びタンクローリー車の燃料となる軽油の価格が上昇していた。
(イ) 4社の個別の面談における情報交換
前記(ア)の原油価格上昇の状況を受けて,当時大陽日酸の常務執行役員ガス事業本部副本部長であった伊藤彬(以下「大陽日酸の伊藤」という。)及び大陽日酸のガス事業本部セパレートガス事業部長兼セパレートガス営業部長であった佃淳一(以下「大陽日酸の佃」という。)並びに被審人の上席常務執行役員営業本部長であった島谷友博(以下「被審人の島谷」という。)及び被審人の営業本部営業部長であった木本州保(以下「被審人の木本」という。)は,平成19年10月16日,大陽日酸の本社において面談し,互いに特定エアセパレートガスの値上げに向けて動くことを確認し合った。
その後,大陽日酸の伊藤は,同年11月頃,当時エア・ウォーターの専務取締役産業事業本部長兼産業事業部長であった角谷登(以下「エア・ウォーターの角谷」という。)及び岩谷産業の専務取締役兼産業ガス・溶材本部本部長であった宮川隆史(以下「岩谷産業の宮川」という。)ともそれぞれ個別に面談し,各社とも特定エアセパレートガスの値上げを実施する意向であることを確認し合った。
大陽日酸の伊藤は,大陽日酸の佃に対し,エア・ウォーター及び岩谷産業も,大陽日酸及び被審人と同様に特定エアセパレートガスについて値上げする意向を持っている旨伝え,各社と情報交換を行い,値上げに向けた動向を把握するよう指示した。
(ウ) 平成19年11月の被審人,大陽日酸及びエア・ウォーターの面談
前記(イ)の指示を受けた大陽日酸の佃は,被審人の木本及び当時エア・ウォーターの産業事業本部産業事業部エアガス部長であった白井清司(以下「エア・ウォーターの白井」という。)に連絡し,平成19年11月15日,大陽日酸の新橋ビルにおいて面談を行い,被審人,大陽日酸及びエア・ウォーターの3社が,特定エアセパレートガスの値上げを実施する意向を有していることを確認し合った。
(エ) 平成19年12月18日の4社の会合
大陽日酸の佃は,大陽日酸の伊藤からの前記(イ)の指示を踏まえ,被審人の木本,エア・ウォーターの白井及び当時岩谷産業の産業ガス・溶材本部エアガス部長であった岩永友孝(以下「岩谷産業の岩永」という。)に連絡し,平成19年12月18日,大陽日酸の新橋ビルにおいて会合を行い,4社が特定エアセパレートガスを値上げする意向を持っていることを確認し合った上で,大陽日酸は平成20年4月から特定エアセパレートガスを平均10パーセント値上げする意向である旨を述べたところ,エア・ウォーターの白井及び被審人の木本は,それぞれ自社も大陽日酸と同様の値上げを行う意向である旨を述べ,岩谷産業の岩永も,同様の値上げに賛成する旨の発言をし,4社の間で,特定のエアセパレートガスの販売価格について,同月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを確認し合った。
(オ) 平成20年1月23日の4社の会合
被審人の木本,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永は,平成20年1月23日,エア・ウォーターの本社において会合を行い,4社の特定エアセパレートガスの値上げに向けた社内での取組状況等について話し合った。
エア・ウォーターの白井が,エア・ウォーターは同年4月から平均10パーセント値上げする意向である旨を述べ,大陽日酸の佃が,同年4月から平均10パーセント値上げすることを社内で説明した旨を述べ,岩谷産業の岩永が,同年4月から平均10パーセント値上げすることに向けて社内で準備している旨を述べたところ,被審人の木本がこれらの発言に異議を述べることなく同意し,4社の間で,特定エアセパレートガスの販売価格について,同月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを確認し合った。
また,上記会合において,被審人の木本と大陽日酸の佃との間で,値上げのプレスリリースを予定していた被審人と大陽日酸のどちらが先にプレスリリースを行うのかについてのやり取りも行われた。
イ 本件合意の対象範囲
以下の事実によれば,本件合意の対象範囲は,特定エアセパレートガス,すなわち,医療に用いられるものとして販売されるものを除く,空気から製造される酸素,窒素及びアルゴンのうち,タンクローリーによる輸送によって供給するものであり,一般産業向けのものに限られず,①エレクトロニクス産業向けのもの,②大規模顧客向けのもの,③バックアップに係るもの,④超高純度ガスに該当するものも,本件合意の対象に含まれることは明らかである。
(ア) エレクトロニクス産業向け及び大規模顧客向けの特定エアセパレートガスについて
a 役員級の者による事前の了解及びこれに対する報告
本件合意が行われた平成19年12月18日及び平成20年1月23日の4社の各会合は,被審人の島谷や大陽日酸の伊藤らによる面談をはじめとする4社の役員級の者による個別の面談を受けて実現したものであり,4社の役員級の者は,各社の部長級の者が特定エアセパレートガスの値上げについて協議して検討することを了解していた。そして,これら4社の会合や本件合意の内容は,それぞれ4社の役員級の者に報告されており,被審人についてみても,被審人の木本は,被審人の島谷に対し,平成19年12月18日の4社の会合の内容を報告していた。
b 被審人の木本の所掌ないし影響力を行使できる範囲
本件合意当時の被審人の木本の肩書は,被審人の営業本部営業部長であったところ,被審人の営業本部は,事業部門及び地域別に組織された全国の支社(後の地域本部及び支店。以下「支社」という。)を横断した,営業活動全般を担当する部門であった。
そして,この営業本部の下の営業部は,被審人におけるバルクガス(タンクローリーで供給する液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンをいう。以下同じ。)の主要顧客に対する値上げの交渉窓口になっていたのであるから,営業本部営業部(後の営業統括本部ガス営業部)は,被審人において,一般産業向けのガスを取り扱う工業・販売ネットワークと称する事業部門(後の工業事業本部。以下「IM事業本部」という。)に限らず,エレクトロニクス産業向けのガスを取り扱うエレクトロニクス事業本部(以下「EL事業本部」という。)及び大規模顧客向けのガスを取り扱うラージインダストリー事業本部(以下「LI事業本部」という。)が所管するバルクガスを含め,特定エアセパレートガス全般の営業を統括していたと認められる。被審人の木本は,このような「営業本部営業部」の部長として,被審人における特定エアセパレートガス全般の営業責任者の地位にあった。
以上のように,特定エアセパレートガス全般の営業責任者の地位にあった被審人の木本の所掌からすれば,被審人の木本が,本件合意に際して,その対象からEL事業本部やLI事業本部が所管する特定エアセパレートガスを除外するという認識を有していたとは考えられない。
c 平成19年12月18日及び平成20年2月28日の4社の会合の内容
平成19年12月18日の4社の会合において,特定の販売先に対してエアセパレートガスの値上げの対象から除外するといった話は出ていなかった。
また,被審人の木本,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永は,平成20年2月28日,4社のうち複数の者が特定エアセパレートガスを納入している需要者(以下「共納先」という。)に対する値上げ交渉の状況等について情報交換を行ったことが認められるところ,これら共納先の被審人における所管は,IM事業本部に限られるものではなかった。
d スクラム1250における被審人の島谷及び被審人の木本の役割
被審人は,本件合意当時,特定エアセパレートガスを含む被審人が取り扱う商品に係る値上げ活動である「スクラム1250」と称するキャンペーンに即した社内プロジェクト(以下「スクラム1250」という。)を実施していたところ,スクラム1250は,被審人の島谷をリーダーとする全社的なプロジェクトであり,EL事業本部やLI事業本部も同プロジェクトを実行する立場にあった。そして,被審人の木本は,スクラム1250のアクションマネージャーとして,同プロジェクトにおいて組織横断的な役割を担っていた。
実際にも,スクラム1250のプロジェクトリーダーである被審人の島谷は,EL事業本部長であり,価格改定の責任者の一員でもある守舎明彦(以下「被審人の守舎」という。)に対し,EL事業本部が所管する特定エアセパレートガスの値上げの打診を行い,EL事業本部としてもそれに賛成し,これを受けて,EL事業本部は,顧客に値上げのアナウンスをし,全ての顧客についてではないにしろ,値上げの折衝を行い,EL事業本部が所管する特定エアセパレートガスについて,本件合意に沿った値上げの申入れがなされた。
e 4社の部長級の者による認識
大陽日酸の佃を始め,4社の部長級の者らは,各自の社内での形式上の所掌にかかわらず,エレクトロニクス産業向けの特定エアセパレートガス及び大規模顧客向けの特定エアセパレートガスを,本件合意の対象に含まれると認識していた。
(イ) バックアップに係る特定エアセパレートガスについて
a 4社の部長級の者による認識
岩谷産業の岩永を始め,4社の部長級の者らは,本件合意に際し,バックアップに係る特定エアセパレートガスも本件合意の対象として念頭に置いていた。
b 過去にもバックアップに係る特定エアセパレートガスについて値上げ交渉を行っていたこと
被審人は,平成17年に実施していた「リカバリー2000」と称する値上げキャンペーン(以下「リカバリー2000」という。)において,バックアップに係る特定エアセパレートガスについて,顧客との間に価格改定条項が存在する場合には時期を見計らい,価格改定が厳格に制限されている場合には価格に関する条項を改定した上で,値上げ交渉を行っていた。
c 本件合意後,バックアップに係る特定エアセパレートガスについて値上げを申し入れていたこと
被審人は,スクラム1250に即して実施された値上げについて,ポーライト株式会社(以下「ポーライト」という。)熊谷工場等の顧客の多くに対し,バックアップに係る特定エアセパレートガスの値上げを申し入れていたのであり,一部値上げの申入れがされなかった顧客や,値上げが奏功しなかった顧客がいたにせよ,少なくともバックアップに係る特定エアセパレートガスが一律に値上げの対象外であったとはいえない。
d バックアップに係る特定エアセパレートガスが他社との競争の対象となること
岩谷産業は,被審人との間で,日立粉末冶金株式会社(以下「日立粉末冶金」という。)に対するバックアップ用としての液化窒素の値上げの実施に関し,調整を行った。また,被審人の木本と大陽日酸の佃が平成20年2月28日の会合において値上げ幅について情報交換を行った共納先であるTDK株式会社(以下「TDK」という。)との取引の対象は,被審人についてはバックアップ用の液化窒素であった。
これらの実例からすれば,バックアップに係る特定エアセパレートガスは他社との競争の対象となるものであり,本件合意の対象であったことは明らかである。
(ウ) 超高純度ガスについて
a エレクトロニクス産業向けの特定エアセパレートガスが本件合意の対象に含まれていること
超高純度ガスは,主にエレクトロニクス産業向けの商品であるが,エレクトロニクス産業向けの特定エアセパレートガスが本件合意の対象に含まれていたことは前記(ア)のとおりである。
b 超高純度ガスが他の特定エアセパレートガスと区別される基準や特性について,4社の間に共通の認識があったことはうかがえないこと
4社の部長級の者は,それぞれが明確に粗アルゴンが何であるかを意識して,液化アルゴンと区別し,あるいは液化アルゴンと異なる商品であると認識していたのに対し,超高純度ガスについては,明確な定義もなく,特定エアセパレートガスと区別される基準や特性について,4社の間に共通の認識があったことをうかがわせる事情は何ら存しない。したがって,超高純度ガスと粗アルゴンを同列に扱うことはできず,ローリー供給に係る超高純度ガスが本件合意の対象に含まれていたことは明らかである。
(2) 被審人の主張
ア 本件合意の有無
本件合意の存在を否認する。以下の事実によれば,審査官の主張する本件合意が存在したと認めるに足りない。
(ア) 値上げの背景事情について
平成17年12月頃から平成19年秋頃までの間,電気料金,重油価格及び軽油価格は特に上昇を続けていたわけではない。
(イ) 大陽日酸の伊藤及び大陽日酸の佃と被審人の島谷及び被審人の木本の面談について
被審人の島谷及び被審人の木本が,平成19年10月16日,大陽日酸の本社において,大陽日酸の伊藤及び大陽日酸の佃と面談したことは認める。しかしながら,面談の目的は,被審人がパイプラインで酸素を供給していた日本冶金工業株式会社(以下「日本冶金」という。)に対する大陽日酸のビジネスの方法について苦情を言うことにあった。
被審人の島谷が,上記面談の際に,将来にわたって電気料金の上昇が見込まれるなど値上げをしたい状況にあることに言及し,大陽日酸の伊藤がこれに同意したことはあるかもしれないが,それは業界の一般的な世間話の域を出るものではない。
(ウ) 平成19年11月の被審人,大陽日酸及びエア・ウォーターの面談について
被審人の木本,大陽日酸の佃及びエア・ウォーターの白井が,平成19年11月15日,大陽日酸の新橋ビルにおいて面談したことは認める。しかしながら,被審人,大陽日酸及びエア・ウォーターの3社が,特定エアセパレートガスの値上げを実施する意向を有していることを確認し合ったとの点については否認する。被審人の木本は,大陽日酸の佃やエア・ウォーターの白井の話に関心はなく,両名との会合は,自社の交際費又は他社の交際費による「ただ酒」を飲むための口実にすぎなかったので,両名の話をほとんど聞いていなかった。
(エ) 平成19年12月18日の4社の会合について
大陽日酸の佃,被審人の木本,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永が,平成19年12月18日,大陽日酸の新橋ビルにおいて会合を行ったことは認める。しかしながら,被審人の木本が,被審人も大陽日酸と同様の値上げを行う意向である旨を述べたこと,4社の間で,特定エアセパレートガスの販売価格について,平成20年4月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを確認し合ったことについては否認する。審査官は,被審人の木本が,抜け駆けはいけないと発言し,そこで全員で協力することを再確認した旨主張するが,本気でカルテルを行おうとする者が,そのような子供じみた発言をするはずがなく,現実味のない主張である。
(オ) 平成20年1月23日の4社の会合について
被審人の木本,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永が,平成20年1月23日,エア・ウォーターの本社において会合を行ったことは認める。しかしながら,4社の間で,特定エアセパレートガスの販売価格について,同年4月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを確認し合ったことについては否認する。少なくとも被審人の木本は,他の3名の話をまともに聞いていないし,話合いにも参加していない。プレスリリースに関する被審人の木本と大陽日酸の佃の会話については知らないし,仮にあったとしても,いわゆる「お戯れ」の類であり,真剣な話ではなかった。
イ 本件合意の対象範囲
仮に,4社間に何らかの合意があったとしても,以下の事実からすれば,その合意は一般産業向けローリー供給の液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンより広い範囲を対象とするものではなく,①エレクトロニクス産業向けのもの,②大規模顧客向けのもの,③バックアップに係るもの,④超高純度ガスに該当するものは含まれていなかった。
したがって,審査官の主張する本件合意は存在しないから,本件合意に基づいてなされた本件排除措置命令はその全部について根拠を欠いており,取り消されるべきである。
(ア) エレクトロニクス産業向けの液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,本件合意の対象に含まれていないこと
a 被審人の木本の所掌範囲
被審人の木本は,平成19年当時の肩書きこそ営業本部営業部の部長であるが,ガスの価格について社内に指示を出したり,影響力を行使できるのは,被審人のIM事業本部あるいは地方の支社の営業担当者に限られていた。
b エレクトロニクス産業向けの酸素,窒素及びアルゴンの価格決定プロセス
被審人において,エレクトロニクス産業関係の顧客に対するガスの販売を所管しているのはEL事業本部であるところ,EL事業本部の取り扱うガスは,大部分がESGと呼ばれる特殊ガスであり,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンを取り扱う割合は,極めて低かった。また,顧客ごとに出荷元工場を指定されたり,純度の要求等も詳細であるため,EL事業本部の取り扱う酸素,窒素及びアルゴンは,一般産業用の酸素,窒素及びアルゴンとは異なっていた。さらに,EL事業本部の顧客の多くは,特殊ガスと酸素,窒素又はアルゴン,とりわけ窒素の双方を購入しているところ,そのような顧客に対して窒素の値上げを提案すると,それを受諾する代わりに特殊ガスの値下げを要求されるので,EL事業本部は,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの値上げにはむしろ消極的であった。しかも,EL事業本部の顧客は,特定の大規模な企業が中心で,多くの顧客が固定客となっているため,顧客に対する価格交渉は不定期に行われていた。
このようなEL事業本部の取引の特性から,EL事業本部においては,特殊ガス,酸素,窒素及びアルゴンを問わず,値上げの方針について,営業本部やIM事業本部とは別に方針を立てることになっていた。
c EL事業本部の酸素,窒素及びアルゴンの値上げの方針
被審人の経営方針を実質的に決定しているのはフランスに所在する被審人の親会社(以下「フランスの親会社」という。)であるところ,フランスの親会社によるエレクトロニクス産業向けの値上げの決定は,被審人のEL事業本部に直接連絡されることが多かった。
また,EL事業本部においては,所管するガスの価格改定の可否を独自に検討し,営業本部やIM事業本部の方針とは無関係に結論を出していた。実際,平成19年秋頃,営業本部及びIM事業本部所管の液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの値上げの際には,営業本部やIM事業本部とは異なる方針を表明していた。
d 被審人の木本がEL事業本部の所管する酸素,窒素及びアルゴンを念頭に置くはずがないこと
仮に被審人の木本が,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永との間で,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格の引上げについて合意し,それに従ってIM事業本部の所管する一般産業用の液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格を変更したとしても,IM事業本部とは無関係にEL事業本部が決定する同本部所管の酸素,窒素及びアルゴンの価格に影響が及ぶことはない。被審人の木本も,実質的にはIM事業本部のバルク担当部長として,そのことを十分に理解していたことは当然である。
e 大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永の各所掌事項
大陽日酸においても,一般事業用に液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンを取り扱う産業ガス事業部門と,エレクトロニクス関連事業部門が分離されていたところ,大陽日酸の佃は,産業ガス事業部門であるガス事業本部セパレートガス事業部長兼セパレートガス営業部長であった。
エア・ウォーターにおいては,エレクトロニクス産業向けの酸素,窒素及びアルゴンは,別の関連会社である大同エアプロダクツ・エレクトロニクス株式会社(以下「大同エアプロダクツ」という。)が主に取り扱っていた。
岩谷産業の岩永は,産業ガス・溶材本部のエアガス部長であり,エレクトロニクス産業の顧客を所掌とする電子材料ガス部ではなかった。
f まとめ
以上述べたとおり,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井,岩谷産業の岩永及び被審人の木本の各人は,いずれもエレクトロニクス産業の顧客に対する酸素,窒素及びアルゴンについての価格決定権や実質的な影響力を持っていないから,その4名が仮に酸素,窒素及びアルゴンの価格を改定する旨の合意をしたとしても,その際に,エレクトロニクス産業向けの酸素,窒素及びアルゴンについて合意の対象として念頭に置いていたはずがない。
したがって,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井,岩谷産業の岩永及び被審人の木本が仮に液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの価格を改定する旨の合意をしたとしても,その範囲にエレクトロニクス産業向けの液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは含まれていなかった。
(イ) 大規模顧客向けの特定エアセパレートガスについて
a 被審人の木本の所掌事項
被審人の木本の所掌業務は,IM事業本部の所管する酸素,窒素,アルゴン及びその他のガスであり,ガスの価格について社内に指示を出したり,影響力を行使できるのは,被審人のIM事業本部あるいは地方の支社の営業担当者に限られていた。
b LI事業本部が所管するガスの供給形態
LI事業本部は,大規模顧客に対するガスの供給がその所管業務であるが,その供給形態はパイピング供給とオンサイト供給が中心であり,そこではガスを気体のまま供給することが基本であった。
c LI事業本部の所管するガスの価格決定プロセス
LI事業本部の取り扱うガスについては,基本的にはその価格がエスカレーションフォーミュラ(主要なコストである電気代に連動して,ガスの価格が自動的に算出される価格算定方式をいう。以下同じ。)で自動的に決まるため,定期的な価格交渉は皆無に等しく,価格交渉によってガスの価格を変動させるような性質のものではなかった。
d 被審人の木本がLI事業本部の所管する酸素,窒素及びアルゴンを合意の対象として念頭に置くはずがないこと
被審人の木本が,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永との間で,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格の引上げについて合意し,それに従ってIM事業本部の所管する一般産業用の液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格を変更したとしても,LI事業本部においてエスカレーションフォーミュラで自動的に決まる同本部の所管する酸素,窒素及びアルゴンの価格に影響が及ぶことはない。被審人の木本も,実質的にはIM事業本部のバルク担当部長として,そのことを十分に理解していたことは当然である。
e 大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永の所掌事項
大陽日酸やエア・ウォーターにおいても,大規模顧客向けの酸素,窒素又はアルゴンの供給形態は,オンサイト供給又はパイピング供給が基本である。
そして,大陽日酸において大規模顧客向けのオンサイト供給又はパイピング供給を所管するのは,オンサイト事業部オンサイト営業部やプラント事業部プラント営業部であり,大陽日酸の佃の所属するガス事業本部セパレートガス事業部ではなかった。
エア・ウォーターにおいて大規模顧客向けのオンサイト供給又はパイピング供給を所管するのは,プラント事業部オンサイト部やエンジニアリング部であり,エア・ウォーターの白井の所属する産業事業本部産業事業部ではなかった。
岩谷産業には,大規模かつ大量使用を行う顧客層がなかった。
f まとめ
以上のとおり,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井,岩谷産業の岩永及び被審人の木本の各人は,いずれも大規模顧客に対する酸素,窒素及びアルゴンについての価格決定権や影響力を持っていなかったのであるから,仮に液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの価格を改定する旨の合意をしたとしても,その際に大規模顧客に対する酸素,窒素及びアルゴンを念頭に置いていたはずがない。
したがって,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井,岩谷産業の岩永及び被審人の木本が仮に液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの価格を改定する旨の合意をしたとしても,その範囲に大規模顧客(被審人であればLI事業本部が所管する顧客)に対する酸素,窒素及びアルゴンは含まれていなかった。
(ウ) バックアップに係る特定エアセパレートガスについて
オンサイト供給取引においては,その契約期間中(通常10年間)供給するガスの価格は固定価格として変動させないのが通常であり,また,バックアップに係るガスの価格も固定価格とされ,その契約期間中に改定することは予定されていない。
そもそもバックアップは,オンサイト供給やパイピング供給においてガスの発生装置から供給する気体の酸素,窒素及びアルゴンと全く同一の仕様のものを,ガスの発生装置を設置して供給している製造業者が,タンクローリーを使って補充的に供給するものであり,タンクローリーでの供給部分についてのみ他の製造業者に変更することはそもそも予定されていない。
したがって,ローリー供給を行う製造業者同士が仮にローリー供給の液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格の引上げについて何らかの合意をしたとしても,バックアップに係る液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの価格が影響を受けることはないから,被審人の木本が,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永との間で,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格の引上げについて合意していたとしても,その範囲にバックアップとして供給する液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの価格は含まれていなかった。
(エ) 超高純度ガスについて
a 超高純度ガスの特質
超高純度ガスたる酸素や窒素は,製造工程が複雑になるばかりでなく,その品質管理も当然厳格なものが求められるので,一般産業向けの液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンとは全く異なる性質を持つ。そのため,価格水準も一般産業向けの液化酸素や液化窒素とは大きく異なる。このような性質の超高純度ガスたる酸素や窒素の顧客数は限定されており,価格の決定や改定の交渉は,仕様の変更,指定工場の変更というきっかけとなる事象が起こった場合に行い,通常の液化酸素,液化窒素のそれとは無関係に別途行う。現に,被審人がスクラム1250を行った際にも,超高純度の酸素や窒素について具体的な値上げ目標額を設定したり,実際に値上げ活動を行ったことはないし,実際に値上げを行おうと考えていた者もいなかった。
b 被審人の木本が超高純度ガスたる酸素及び窒素を合意の対象として念頭に置くはずがないこと
被審人の木本は,超高純度ガスたる酸素及び窒素が前記aのような特質を有するものであることを十分に理解しており,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永も同様であった。したがって,被審人の木本が,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永との間で,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格の引上げについて合意したとしても,その合意の対象に超高純度ガスたる酸素及び窒素の価格が含まれていたはずがない。
c 粗アルゴンは合意の対象でないこと
審査官は,粗アルゴンを本件合意の対象に含まれないと認定している。この粗アルゴンについての審査官の認定に鑑みると,超高純度ガスたる酸素及び窒素が,本件合意の対象に含まれていたという認定が誤っていることは明らかである。
d まとめ
したがって,被審人の木本が,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永との間で,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格の引上げについて合意していたとしても,その範囲に超高純度ガスの価格は含まれていなかった。
2 争点2(本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するか)について
(1) 審査官の主張
ア 主位的主張
以下のとおり,本件合意により,我が国における特定エアセパレートガスの販売分野(特定エアセパレートガスの製造業者から需要者への直接の販売,製造業者からディーラーを通じた需要者への販売,製造業者から他の特定エアセパレートガスの製造業者を通じた需要者への販売等,全ての販売が含まれる。)における取引が実質的に制限されたといえる。
(ア) 特定エアセパレートガスの販売分野という取引分野
独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野」とは,特定の行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり,その成立する範囲は,取引の対象・地域・態様等に応じて,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定することにより,相対的に決定されるべきものである(東京高等裁判所昭和61年6月13日判決・公正取引委員会審決集第33巻79頁〔旭砿末資料合資会社による審決取消請求事件〕,同裁判所平成5年12月14日判決・高等裁判所刑事判例集第46巻第3号322頁〔トッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕参照)。
したがって,このような検討の結果として画定された「一定の取引分野」に,結果的に,需要者からみて相互に代替し得ない製品が含まれることはあり得るし,そのような製品が含まれたとしても何ら不合理ではない。
タンクローリーによって輸送される液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンの販売価格は,いずれも一様に電気料金,重油価格及び軽油価格の影響を大きく受ける。また,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,同一の製造方法及び製造工程によって製造されるものであり,かつ,同一の設備(プラント)において,その沸点の差を利用して併産することが可能であって実際に併産されることがある。さらに,我が国における液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの供給者の状況を見ると,4社による販売金額の合計が我が国における総販売金額の大部分を占めていることなどの事情も存在する。
以上の各事情に照らせば,三つのガス種の市場における価格競争機能が相互に関連し合っており,三つのガス種を一体として同時かつ同内容の値上げを打ち出す必要があることは明らかである。すなわち,電気料金及び軽油価格等の高騰を理由に値上げを打ち出す際,三つのガス種は上記のように併産することが可能であり,製造及び輸送に係る費用が共通する以上,三つのガス種の値上げ幅が同程度になることは当然であり,一つ又は二つのガス種について値上げを打ち出すことは合理的でない。
本件合意は,4社が,特定エアセパレートガス全般に共通する上記各事情のもと,上記必要性から,同一の機会に,同一の当事者によって,三つのガス種を一体不可分のものとして行われたものである。したがって,本件合意が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲が,一体のものとして製造され,供給者及び値上げ要因が共通する特定エアセパレートガス全般の販売分野であり,本件合意により特定エアセパレートガスの販売分野における競争が実質的に制限された,と捉えることは何ら問題ではない。
(イ) 本件合意により影響を受ける取引段階について
本件合意は,4社からの特定エアセパレートガスの出荷価格の引上げを合意したものである。しかし,前記(ア)のとおり,独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野」とは,特定の行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり,その成立する範囲は,取引の対象・地域・態様等に応じて,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定することにより相対的に決定されるべきものであるから,4社が合意した取引段階に限らず,その影響が及ぶ取引段階を包含して販売分野が画定されるのは当然である。そして,4社の特定エアセパレートガスの市場占有率は後記(ウ)のとおり約9割に及ぶこと,特定エアセパレートガスは輸入品がほとんど存在しないこと,4社の特定エアセパレートガスの販売先をみると,値上げの影響を直に受ける最終需要者への直接販売や自社の意向を反映しやすいグループ会社への販売が約半数を占めることからすれば,4社が足並みをそろえて値上げを実施すれば,その影響が容易にディーラーやグループ会社(以下「ディーラー等」という。)から需要者への取引に及ぶものであったことは明らかである。
以上によれば,本件における一定の取引分野を,ディーラー等から需要者への取引を含めた全体の市場をもって画定することに何ら問題はない。
(ウ) 4社の市場占有率との関係について
我が国における大手ガス製造業者と目される13社(以下「13社」という。)の商流上における直接の販売相手(当該販売相手が需要者,ディーラー,他の製造業者のいずれであるかを問わない。)に対する特定エアセパレートガスの総販売金額を算出し(ただし,13社間の売買に係る販売金額は除外する。),これに対する4社の各販売金額の割合を計算すると,4社による我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における市場占有率は約9割に達し,現に4社が,その実効を確保する措置を伴って,本件合意に沿った値上げを申し入れてこれを実施していたことに照らせば,本件合意は事実上の拘束力をもって有効に機能しており,4社は,本件合意により特定エアセパレートガスの販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたといえる。したがって,4社は,本件合意をすることにより,共同して,我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における競争を実質的に制限していたものである。
これに対し,被審人は,4社による我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における市場占有率が約9割であるとする審査官の算定方法は相当でないため,4社による市場占有率は明らかでないから,本件合意によって競争が実質的に制限されたと認めることはできないと主張する。
しかしながら,4社による市場占有率の算定は,各製造業者の直接の販売相手に対する販売金額をもって市場規模算出の基礎としており,この方法は,市場支配力を対比すべき製造業者別に,その販売金額を直接的に把握することができる点で,需要者に対する販売金額を集計する方法より,正確性や利便性の点で優れており,合理的である。
また,販売金額による市場規模算出の対象とした13社間相互に売買があるときは,各社の総販売金額の13社の合計額には,①当該13社間売買における売主の当該販売金額と,②当該13社間売買における買主(製造業者がディーラー的な地位に立つことからディーラーポジションといわれる。)から13社以外の第三者に対する転売金額の双方が二重に計上されていることになるから,13社から市場に流通した特定エアセパレートガスの市場規模を求めるという観点からは,上記①又は②のいずれかを控除しなければならないところ,金額の把握が容易かつ確実である①を控除する方法により算出したものであり,合理的である。
イ 予備的主張
以下のとおり,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンの各ガス種の特性や取引の実態等に着目すれば,本件合意により,我が国における,タンクローリーによって輸送される①液化酸素,②液化窒素,③液化アルゴンの各販売分野における取引が実質的に制限されたといえる。
(ア) ガス種別の取引分野
液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンの各ガス種の特性や取引の実体等に着目すれば,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンといったガス種別の販売分野を,それぞれ一定の取引分野と画定することもできる。
(イ) 相互拘束
被審人を含む4社が,本件合意に際し,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンの各ガス種について,販売価格の引上げを実施することを相互に認識ないし予測し,他社の価格引上げの方針と歩調をそろえる意思を有していたこと,少なくとも相互に他の事業者が販売価格を引き上げることを認識して,これを暗黙のうちに認容するという意思の連絡が存在する状態にあったことは明らかであり,かつ,これによって,特定エアセパレートガスを構成する液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンのそれぞれを対象とする販売価格の引上げに関し,相互にその事業活動を拘束していたことが,ガス種ごとにそれぞれ個別に観念できないわけではない。したがって,本件合意について,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンのそれぞれを対象とする販売価格の引上げを内容とするものであったと認めることも可能である。
(ウ) 競争の実質的制限
平成20年度における4社による液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンの各市場占有率は,それぞれ約9割に達しており,4社の前記ガス種別の販売金額の合計は,我が国における液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンそれぞれの総販売金額の大部分を占めていた。
そうすると,本件合意により,4社が,その意思で,ある程度自由に,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンのそれぞれの販売価格を左右することによって,各ガス種の販売市場を支配することができる状態が生じていたと認められ,前記ガス種別の3つの取引分野それぞれについて,競争が実質的に制限されていたということができる。
(2) 被審人の主張
ア 主位的主張に対して
以下のとおり,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令は,違反行為により取引の制限を受ける一定の取引分野の画定及び市場規模の算定方法に誤りがあり,本件合意によりどのような取引が実質的に制限されたかについて正しく検討されていないのであるから,取り消されるべきである。
(ア) 特定エアセパレートガスの販売分野という取引分野が成立し得ないこと
a 独占禁止法第2条第6項からすれば,競争がないところに一定の取引分野が成立しないことは文理上明らかである。したがって,競争が行われていないところに一定の取引分野が画定されることはない。
本件においては,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの相互間には,一般に需要の代替性はなく,その意味において各ガス種間に直接の競争関係は存在しないのであるから,これらを合わせた特定エアセパレートガスという1個の取引分野は成立し得ない。
b 液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,必ずしも同一の製造方法及び製造工程によって製造されるものではなく,同一の設備(プラント)において併産することが可能なものでもない。
また,複数の異なる商品に共通するコストが上昇した場合に,製造業者が商品の価格を上げるかどうかは,その製造業者の業界でのポジショニングや戦略によって決定するのであって,全部の商品の価格を同時に上げなければコストが上昇していないことが顧客に知られてしまうなどといった理由で値上げをするはずがない。
さらに,合意の事実自体が一つであった場合にも,それが法律上一つの市場の競争を制限すると評価するのか,複数の市場の競争を制限すると評価するのかという点は別問題である。
したがって,本件合意が特定エアセパレートガス全般について一体不可分のものとして行われたという審査官の主張には理由がなく,特定エアセパレートガスという1個の取引分野を観念することはできない。
(イ) 本件合意により影響を受ける取引段階についての具体的検討がなされていないこと
液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの取引の実態は,製造業者から最終需要者への直接取引のほか,ディーラー等,ディーラーポジションを持つ製造業者に対する取引も存在し,後者の取引は更に種々の類型に分かれているものであるが,このような取引の対象・地域・態様等に応じて,本件合意が,ディーラー等から需要者への取引にまで影響を及ぼすものであったことについての具体的事実の検討がなされていない。それにもかかわらず,本件合意の影響がディーラー等から需要者への取引まで及ぶとして,本件の一定の取引分野を我が国における特定エアセパレートガスの販売分野全体と捉えるのは適切ではない。
(ウ) 市場占有率の算定方法が不相当であること
以下のとおり,審査官が画定した市場における競争の実質的制限,とりわけ4社による市場占有率についての審査官の主張は,論理的に破綻している上,事実としても,競争の実質的制限があると認めることはできない。
a 相互拘束する行為の対象が直接の販売相手に対する取引だとしてもその影響がディーラー等から需要者への取引における価格,数量等にも影響が及ぶという点に着目するのであれば,市場規模や違反行為者の市場占有率をみるには,影響を受けた需要者に対する販売金額でみるのが論理的であるにもかかわらず,審査官は,製造業者の直接の販売相手に対する取引における販売金額を捕捉することにより,市場規模を算出しており,このような市場占有率の算定方法は不相当である。
b 仮に審査官のいう製造業者の直接の販売相手に対する取引の数字を用いた算出方法を前提としても,13社間売買に係る販売金額を除外したことの根拠が不明である。審査官は,製造業者からディーラーへの販売金額を課徴金の賦課される売上額に含め,製造業者からディーラーポジションを持つ製造業者に対する販売金額は売上額に含めず,ディーラーポジションを持つ製造業者から最終需要者への販売金額は売上額に含めている。これらの取扱いには一貫性がない。
イ審査官の予備的主張に対して
(ア) 手続的な観点から違法又は著しく不当であること
以下のとおり,審査官の予備的主張の追加は,違法であるか少なくとも著しく不当であり,許されるものではない。
a 審査官の予備的主張の追加は,審判官による実質的な命令に基づくものであるところ,審判官がこのような命令を行うことは,主張の変更ができるのは審査官と規定する独占禁止法第58条第2項,審査官が原処分を維持するため原処分が相当であることを主張することを規定する同条第1項,審判官に公正中立な判断者としての役割を期待している同法の趣旨に反するものであり,違法ないし著しく不当である。
b 特定エアセパレートガスという一定の取引分野をガス種別の取引分野に変更して認定することは,取引分野の数のみならず,取引分野の内容,違反行為の数,合意の内容も全て本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令とは異なる処分となるものであるが,独占禁止法は,審決においてこのような新たな別の排除措置命令を行うことを予定していないし,事件の同一性を害するものであるから,規則第28条第1項で許される範囲を超えている。したがって,審判官が審査官の予備的主張を求めることは,本来認定し得ないものを主張させるものであり,違法ないし著しく不当である。
c 審査官の予備的主張の追加は,被審人の防御権を侵害するものであり,違法である。
d ガス種別の取引分野を認定するとすれば,取引分野の数のみならず,取引分野の内容も,違反行為の数も合意の内容も,全て本件排除措置命令におけるそれとは異なってくる。一方で,大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業に対しての排除措置命令の内容は,本件排除措置命令と同じである。そうすると,被審人と大陽日酸,エアウォーター及び岩谷産業は,同一の違反行為の参加者といいながら,大陽日酸,エアウォーター及び岩谷産業に対しての排除措置命令の内容たる違反行為と,被審人の参加した違反行為は,別のものということになり,全く説明のつかないおかしな結果となる。
e 本件排除措置命令における「特定エアセパレートガス」なるものと,「液化酸素」,「液化窒素」,「液化アルゴン」は,文言も内容も異なることが明らかである。そうすると,ガス種別の取引分野を認定しつつ「特定エアセパレートガス」を対象とした本件排除措置命令の主文各項を維持することができないことは明らかである。
f 本件においてガス種別の取引分野を認定するとすれば,取引分野の数も内容も,違反行為の数も合意の内容も,本件課徴金納付命令の内容である「課徴金に係る違反行為」とは異なることになるので,それだけで,本件課徴金納付命令の内容を維持することができないし,課徴金の計算の基礎も本件課徴金納付命令のそれとは全く異なることになる。
(イ) 実体的な観点からの主張
a 酸素,窒素又はアルゴンのいずれについても,オンサイト供給の供給者,可搬容器における供給者,及びそれらの供給とローリー供給それぞれがその合計に占める割合を検証しなければ,酸素,窒素又はアルゴンそれぞれにおける競争を正しく反映したものとはいえない。さらに,エレクトロニクス産業向けのものや大規模顧客向けのもの,バックアップに係るもの,超高純度ガスに該当するものは,それぞれの競争がいずれも異なるものであり,これらについても検証を行わなければならない。ところが,審査官は,これらの観点について全く言及していないのであり,この点において主張自体失当である。
b 被審人が従前から特定エアセパレートガスなるものについて主張している市場の定義が不明確であることや,事業者の選択の基準が不明であることに基づく矛盾は,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンというガス種別の取引分野を主張することにより,一層程度の高い矛盾となる。したがって,審査官のガス種別の取引分野の主張は,この点からも主張自体失当である。
c 審査官が提出した証拠のうち,セパレートガスという表現をしているものは,酸素,窒素又はアルゴンの各ガス種についての証拠とはならず,形式的な証拠力がないか,仮に形式的証拠力があっても実質的証拠力(証拠価値)がない。
3 争点3(本件排除措置命令の必要性及び相当性)について
(1) 審査官の主張
ア 排除措置を命ずるにつき「特に必要があると認めるとき」に該当すること
(ア) 「特に必要があると認めるとき」の意義
独占禁止法第7条第2項は,違反行為が既になくなっている場合においても,「特に必要があると認めるときは」,事業者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定している。
同項にいう「特に必要があると認めるとき」とは,排除措置を命じた時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される(東京高等裁判所平成20年9月26日判決・公正取引委員会審決集第55巻910頁〔JFEエンジニアリング株式会社ほか4名による審決取消請求事件〕参照)。
(イ) 本件における事情
本件合意は,平成22年1月19日以降,事実上消滅し,その結果,被審人の違反行為もなくなっている。
しかしながら,4社は長年にわたり強固な協調関係にあり,本件違反行為もこのような協調関係の下で行われたものであって,本件違反行為が消滅するまでの期間も2年間と短期間とはいえないものであった。また,4社は,平成20年当時,特定エアセパレートガスの販売分野において約9割もの市場占有率を有していたところ,このような寡占状態は,本件排除措置命令時においても,将来相当期間継続することが容易に予想されたところであって,4社が協調的な行動を取りやすく,同種の違反行為が行われやすい環境であったといえる。さらに,被審人を含む4社が平成22年1月19日に本件違反行為を取りやめたのは,公正取引委員会が,同日,本件違反行為について立入検査を行ったことを契機とするものであり,被審人の自発的な意思に基づくものではなかった。
(ウ) 小括
以上を総合すれば,4社が当該違反行為を繰り返すことは容易であり,そのおそれは払拭できない上,本件合意が消滅したことのみをもって,特定エアセパレートガスの販売分野における競争秩序の回復が十分とはいえない。
したがって,本件は,被審人に対して排除措置を命ずるにつき,「特に必要があると認めるとき」に該当するものであり,本件排除措置命令をもって本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命じたことは相当である。
イ本件排除措置命令の主文が相当であること
(ア) 公正取引委員会に裁量が認められていること
排除措置命令の主文には,公正取引委員会が名宛人に命ずる措置の具体的内容が現れるところ,独占禁止法の運用機関として競争政策に専門的な知見を有する公正取引委員会は,命ずる措置の内容について,専門的な裁量が認められており,裁量権の範囲の逸脱又は濫用がない限り,排除措置命令の主文の内容を違法ということはできない。
(イ) 主文第1項(2)及び第3項並びに第1項(3)及び第4項について
被審人は,本件排除措置命令の主文第1項(2)及び第3項並びに第1項(3)及び第4項は,いずれも「他の事業者」に限定がなく,「販売価格」の意味も不明であるため,その適用範囲が過度に広範で不明確である旨主張する。
しかしながら,本件排除措置命令は,特定エアセパレートガスの販売分野において競争関係にある4社が,共同して特定エアセパレートガスの販売価格を引き上げる旨の合意をしたことを違反行為として,当該違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命じたものである。このような本件排除措置命令の趣旨,目的と社会通念に従って,本件排除措置命令の主文の上記各条項を合理的に判断すれば,販売価格の決定やその改定に関する情報交換が禁止される「他の事業者」とは,競争関係に立つ事業者を指し,ここで禁止される「販売価格」の決定やその改定に関する情報交換とは,競争事業者間における競争手段となるはずの,自社の直接又は間接の販売先に対する「販売価格」に関する決定やその改定に関する情報交換を当該競争事業者間ですることを意味することは明らかである。
このように,本件排除措置命令の主文の上記各条項の適用範囲は,おのずと明らかであり,過度に広範でも不明確でもない。
(ウ) 主文第2項について
被審人は,本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置の周知を命ずる同主文第2項は,その周知先である「販売業者」の範囲が明らかでなく,同じく周知先である「製造業者」には,文理上,仕入先が含まれるが,仕入先に周知する根拠も必要もないとして,同主文第2項は過度に広範かつ不明確な措置である旨主張する。
しかしながら,同主文第2項によって周知が命じられる「製造業者及び販売業者」とは,同主文第2項に「自社の取引先である特定エアセパレートガスの製造業者及び販売業者」とあるとおり,取引関係の存することが前提となっているから,被審人自身の特定エアセパレートガスの取引関係に照らせば,その範囲はおのずと明らかである。
また,本件違反行為は,特定エアセパレートガスの販売価格の引上げカルテルであるから,同主文第2項を,本件排除措置命令の趣旨,目的と社会通念に従って合理的に判断すれば,「取引先である・・・製造業者及び販売業者」には,仕入先を含まないことは明らかである。
さらに,同主文第2項は,その周知の方法について,あらかじめ公正取引委員会の承認を受けなければならないところ,周知先や周知文案を含め,周知方法は,公正取引委員会による本件排除措置命令の趣旨,目的と社会通念に従って導かれる客観的基準に即した裁量に基づく承認によって確定されるのであるから,同主文第2項が過度に広範で不明確であるということはできない。
(2) 被審人の主張
ア 排除措置を命ずるにつき「特に必要があると認めるとき」に該当するとの審査官の主張について
審査官の主張に全面的によったとしても,本件違反行為の終了から5年以上経過し,取引分野をどう捉えるかはともかく,ローリー供給の酸素,窒素及びアルゴンについて現在熾烈な競争が行われていることからすれば,排除措置を命ずる特別の必要性は認められない。
独占禁止法第7条第2項は,単に必要性があることではなく,特に必要があるかどうか,つまり単なる必要性を超えた特別の必要性を要求しており,そこまでの必要性が本件にあるとも思われない。この点,被審人の島谷も被審人の木本も被審人を退職していること,大陽日酸においては,大陽日酸の伊藤は完全に引退しており,大陽日酸の佃も関連会社に異動していること等にも留意されるべきである。
イ 本件排除措置命令の主文の不当性
(ア) 主文第1項(2)及び第3項並びに第1項(3)及び第4項について
本件排除措置命令の主文第1項(2)及び第3項並びに第1項(3)及び第4項は,「他の事業者」と共同して,「特定エアセパレートガス」の「販売価格」を決定することを禁じるものである。
しかし,そもそも「他の事業者」には限定がないため,文理上,それには被審人の顧客その他の取引先や子会社,合弁会社のパートナーも含まれる。また,「販売価格」の範囲についても無限定であり,被審人の直接の販売先に対する販売価格であるのか,最終需要者に対する販売価格であるのか,あるいはディーラーポジションにある被審人に対する製造業者の販売価格であるのか,いかなる段階の販売価格であるのかが不明である。
このような過度に広範かつ不明確な内容の本件排除措置命令は,その一事をもって取消しを免れない。
(イ) 主文第2項について
本件排除措置命令の主文第2項は,同主文第1項に基づいて採った措置を販売業者及び製造業者に周知することを命じるものであるが,ここでいう「販売業者」の範囲が明らかでない。
また,「自社の取引先である特定エアセパレートガスの製造業者」には,文理上,被審人に対して各種のガスを販売する製造業者が含まれる。しかし,被審人が,その仕入先に対して同主文第1項に基づいて採った措置を周知する根拠も必要性もない。
以上のとおり,同主文第2項は,過度に広範かつ不明確な内容であり,取り消されるべきである。
4 争点4(課徴金算定の対象)について
(1) 審査官の主張
ア 特定エアセパレートガスのうち,エレクトロニクス産業向けのもの等が独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当すること
特定エアセパレートガスのうち,①エレクトロニクス産業向けのもの,②大規模顧客向けのもの,③バックアップに係るもの,④超高純度ガスに該当するものは,いずれも本件合意の対象商品の範疇に属する商品であって,かつ,本件合意による拘束を受けたものであるから,独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当する。
イ シリンダー充てん業者に対して販売した特定エアセパレートガスが独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当すること
特定エアセパレートガスについてみると,シリンダー充てん業者は,需要者に当たる。
したがって,最終的に最終需要者に対しシリンダー供給されるものであったとしても,シリンダー充てん業者に対しローリー供給されるものであれば,特定エアセパレートガスに該当するものであるから,課徴金算定の対象となる「当該商品」に該当する。
ウ 全額出資子会社等に対して販売した特定エアセパレートガスが独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当すること
被審人の全額出資子会社や,エアセパレートガスを製造し,被審人に販売している被審人の子会社である株式会社水島オキシトン,北九州オキシトン株式会社,鹿児島オキシトン株式会社,熊本オキシトン株式会社,川崎オキシトン株式会社,四日市オキシトン株式会社及び製鉄オキシトン株式会社(以下,これらを「オキシトン7社」といい,「オキシトン7社」以外の全額出資子会社と併せて「全額出資子会社等」という。)に対して販売した特定エアセパレートガスも,課徴金算定の対象である独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当する。
(2) 被審人の主張
ア ローリー供給に係る液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンのうち,エレクトロニクス産業向けのもの等が独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当しないこと
仮に,4社間に何らかの合意があったとしても,ローリー供給に係る液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンのうち,①エレクトロニクス産業向けのもの,②大規模顧客向けのもの,③バックアップに係るもの,④超高純度ガスに当たるものは,その合意の対象商品の範疇に属しないから,独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当しない。したがって,それらについての販売額は,それぞれ課徴金の計算の基礎たる当該商品の売上額から控除されるべきである。
イ シリンダー充てん業者に対して販売したローリー供給に係る液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当しないこと
本件排除措置命令が製造業者又は販売業者と並ぶ「需要者」として前提にしていたのは,「化学製品製造業者,食料品製造業者,鉄鋼・非鉄金属製造業者等」の最終需要者であり,シリンダーの充てん業者は含まれない。また,シリンダーの充てん業者は,ローリー供給によって液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンを供給するものではないから,特定エアセパレートガスの製造業者又は販売業者にも含まれない。
したがって,シリンダーの充てん業者に対する取引(製造業者からシリンダーの充てん業者への供給がローリー供給によるものであり,かつ,シリンダーの充てん業者から需要者への供給がシリンダー供給によるものである特定エアセパレートガスの取引をいう。)は,審査官の主張する特定エアセパレートガスの販売分野という一定の取引分野ではないから,シリンダーの充てん業者に対して販売したローリー供給に係る液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当しない。
ウ 全額出資子会社等に対して販売したローリー供給に係る液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンが独占禁止法第7条の2第1項所定の「当該商品」に該当しないこと
全額出資子会社に対する売上げは,経理上売上げとしているものの,同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るから,課徴金の算定の基礎となる当該商品の売上額からは控除されるべきである。
また,審査官は,オキシトン7社が実質的に被審人の製造拠点とみることができるというが,仮にそうであるとすれば,自社の製造拠点とみたオキシトン7社に対する売上額は,課徴金の計算の基礎としての当該商品の売上額からは控除されるべきである。
そうだとすると,仮に4社が液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの価格について何らかの合意をしたとしても,被審人の全額出資子会社及びオキシトン7社に対して販売した液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは「当該商品」に該当せず,課徴金の計算の基礎たる当該商品の売上額から控除されるべきである。
5 争点5(課徴金算定率)について
(1) 審査官の主張
違反行為に係る取引について,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合には,実行期間における違反行為に係る取引について,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定すべきである(以下,この考え方を「過半理論」という。)。
また,一般的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的に見て卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うべきである(以下,この考え方を「実質製造業理論」という。)。そして,各子会社等について,被審人が保有する議決権の有無及びその割合,被審人出身の取締役の有無及びその割合,当該子会社等の設立経緯,被審人の当該子会社等からの特定エアセパレートガスの引取義務の有無及び当該子会社等の生産量に占める被審人の引取量の割合,被審人の当該子会社等からの特定エアセパレートガスの実際の引取状況,被審人の当該子会社等における特定エアセパレートガスの生産計画への関与の有無及びその程度,被審人の当該子会社等における特定エアセパレートガスの製造工程等への関与の状況,当該子会社等における被審人に対する特定エアセパレートガスの販売価格の決定方法等の事情を総合的に考慮すると,被審人がオキシトン7社から購入して販売していた特定エアセパレートガスに係る取引については,いずれも実質的にみて被審人が卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情が存在する。
そして,本件実行期間において,被審人が自ら製造し販売した特定エアセパレートガス及び被審人がオキシトン7社から購入して販売した特定エアセパレートガスの数量の合計は,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び購入数量の合計の約56.37パーセントに相当し,過半を占めていたことから,被審人については,オキシトン7社以外の生産子会社及び合弁事業によって設立された生産会社から購入して販売していた特定エアセパレートガスの取引について検討するまでもなく,課徴金の算定に当たっては,被審人の業種を製造業と認定すべきである。
(2) 被審人の主張
ア 卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合に,過半理論を用いて単一の業種認定を行うのは誤りであり,卸売業又は小売業としての事業活動の売上高に卸売業又は小売業の算定率を,それ以外の業種としての事業活動の売上高に卸売業又は小売業以外の業種の算定率を,それぞれ乗じて課徴金を算定すべきである(以下,この考え方を「按分理論」という。)。また,按分理論を用いる以上,単一の業種に認定するための基準如何という実質製造業理論は不要・不当である。
イ 仮に,実質製造業理論が採用されるとしても,審査官が本件における特段の事情の判断基準として挙げたものは,単に考慮要素を列挙したにすぎず,基準の提示になっていないばかりか,それぞれがいずれも個別にみて不当かつ現実を無視したものであって採用されるべきでなく,また,個別の要素同士の関係や整合性も明らかでないので,それぞれの考慮要素を組み合わせたとしても,やはり適切なものとはいえない。
さらに,審査官の被審人とオキシトン7社の関係についての認定事実や法律評価は誤っているものであるから,これを前提として過半理論を適用し被審人を製造業と認定することはできない。
第6 審判官の判断
1 争点1(4社は,共同して相互にその事業活動を拘束したか)について
(1) 4社による本件合意の成立
ア 認定事実
当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 4社による会合に至る経緯
a 過去の値上げにおける情報交換
4社は,製造コストに影響する電気料金や原油価格の上昇を原因とする平成17年の特定エアセパレートガスの値上げ及び供給量不足による長距離輸送コストの上昇を原因とする平成18年の液化アルゴンの値上げに際し,各社の部長級の者が個別に面談するなどして,各社の値上げ方針等について情報交換を行っていた。(査第25号証ないし第32号証,第36号証,第37号証)
b 値上げの背景事情
電気料金,重油価格及び軽油価格は,平成17年秋頃から平成19年秋頃までの間,一時的に下落することはあるものの,全般的には上昇傾向にあった。(査第38号証ないし第40号証)
c 4社の個別の面談における情報交換
(a) 被審人の島谷及び被審人の木本は,平成19年10月16日,同人らの働きかけにより,大陽日酸の伊藤及び大陽日酸の佃と,大陽日酸の本社において面談した。被審人の島谷は,上記面談において,大陽日酸の伊藤に対し,特定エアセパレートガスの値上げを検討している旨を伝え,大陽日酸の伊藤も,被審人の島谷に対し,被審人と同様に値上げの検討をしている旨を伝え,特定エアセパレートガスの値上げに向けて動くことを相互に確認した。(査第41号証,第42号証,第45号証ないし第47号証)
(b) 大陽日酸の伊藤は,その後,エア・ウォーターの角谷と個別に面談し,大陽日酸とエア・ウォーターの2社が特定エアセパレートガスの値上げを行う意向であることを相互に確認した。
そして,大陽日酸の伊藤は,大陽日酸の佃に対し,エア・ウォーターも特定エアセパレートガスについて値上げする意向を有していることを伝えた上,被審人及びエア・ウォーターと情報交換を行い,値上げに向けた動向を把握するよう指示した。
(査第45号証,第47号証)
(c) 大陽日酸の佃は,平成19年11月頃,被審人の木本及びエア・ウォーターの白井に連絡し,特定エアセパレートガスの値上げの具体策について話し合う場を持つこととした。
そして,被審人の木本,大陽日酸の佃及びエア・ウォーターの白井は,同月15日,大陽日酸の新橋ビルにおいて面談を行い,被審人,大陽日酸及びエア・ウォーターの3社が,特定エアセパレートガスの値上げを行う意向を有していることを相互に確認した。
(査第45号証,第49号証ないし第54号証)
(d) 大陽日酸の伊藤は,平成19年11月中旬から下旬頃,岩谷産業の宮川とも個別に面談し,大陽日酸及び岩谷産業の2社が特定エアセパレートガスの値上げを行う意向であることを相互に確認した。
そして,大陽日酸の伊藤は,大陽日酸の佃に対し,岩谷産業も特定エアセパレートガスについて値上げする意向を有していることを伝え,同社とも情報交換を行って値上げに向けた動向を把握するよう指示した。
(査第45号証,第47号証)
(イ) 平成19年12月及び平成20年1月の4社による会合の状況
a 大陽日酸の佃は,平成19年12月18日,4社の特定エアセパレートガスの値上げの実施について話し合うため,大陽日酸の新橋ビルにおいて,被審人の木本,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永と会合を行った。
同会合において,大陽日酸の佃は,大陽日酸は平成20年4月から特定エアセパレートガスを平均10パーセント値上げする意向であると述べたところ,エア・ウォーターの白井及び被審人の木本は,それぞれ自社も同様の値上げを行う意向である旨を述べ,岩谷産業の岩永も,岩谷産業も同様の値上げに賛成する旨の発言をし,被審人の木本ら上記4名は,4社が特定エアセパレートガスを値上げする意向を有していることを相互に確認した上で,同月1日出荷分から,4社で足並みをそろえて,現行価格より10パーセント(液化酸素及び液化窒素についてはそれぞれ1立方メートル当たり3円前後,液化アルゴンについては同15円前後)を目安に引き上げることを確認し合った。そして,上記4名は,同年1月に再度会合を行うことを決めた。
(査第45号証,第55号証ないし第61号証,第63号証)
b 大陽日酸の佃,被審人の木本,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永の4名は,平成20年1月23日,エア・ウォーターの本社において会合を行い,4社の特定エアセパレートガスの値上げに向けた社内での取組の状況等について話し合った。
同会合において,エア・ウォーターの白井は,エア・ウォーターにおいては過去の値上げができていない取引先を中心に,同年4月から平均10パーセント値上げする意向である旨を述べ,大陽日酸の佃は,大陽日酸においては同月から平均10パーセント値上げすることが社内会議で決定され,全国の営業担当者に対して値上げ指示を行った旨を述べ,岩谷産業の岩永は,岩谷産業においては同月から平均10パーセント値上げすることに向けて社内で準備している旨を述べ,被審人の木本は,これに異議を唱えることはなく,上記4名は,特定エアセパレートガスの販売価格について,4社が足並みをそろえて,同月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを相互に確認した。
また,同会合において,被審人の木本と大陽日酸の佃との間で,値上げのプレスリリースをどちらが先に行うのかについてのやり取りも行われた。
(査第45号証,第60号証,第65号証ないし第71号証)
(ウ) 販売価格引上げの交渉状況に関する情報交換等
a 4社は,共納先に対して特定エアセパレートガスの販売価格の引上げを実施するに当たり,各支社や各支店の営業担当者間を中心に,また,一部の需要者に対する値上げ実施に当たっては本社の部長級の者である被審人の木本,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永の間で,値上げの申入れ額,値上げの実施方法,妥結額等について情報交換を行い,値上げ実施のための調整を行った。(査第11号証,第73号証ないし第76号証)
b 被審人の木本,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永は,平成20年2月28日及び同年8月22日,それぞれ会合を行い,また,4社は個別にも面談を行い,特定エアセパレートガスの値上げ交渉の状況等について情報交換を行った。(査第76号証ないし第95号証)
c 4社は,特定エアセパレートガスの販売価格の引上げを阻害する行動を取った他社に対して抗議を行うとともに,特定エアセパレートガスの販売価格の引上げを阻害することがないよう,新規発注の引き合いに応じて受注調整を行った。(査第96号証ないし第101号証)
(エ) 4社の値上げ申入れの状況
a 4社はそれぞれ,平成20年1月ないし同年3月頃,顧客に対して特定エアセパレートガスの販売価格の引上げを申し入れたところ,その内容は,各社とも本件合意の内容に沿ったものであった。(査第126号証ないし第131号証)
b 被審人の木本が所属する被審人の営業本部営業部の者は,平成20年1月下旬頃から,被審人の各支社に対し,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンにつきそれぞれ1立方メートル当たり3円,3円,15円といった,本件合意において目安とされた10パーセントの値上げ幅と符合する値上げの指示や説明を行うとともに,自身が担当する顧客に対してもそれと同内容の値上げの申入れをした。また,その頃から,営業本部営業企画部長であった竹中郁(以下「被審人の竹中」という。)らは,被審人の各支社を訪問し,上記値上げの内容や方法を説明した。そして,これらの指示・説明を受けた被審人の各支社の営業担当者は,上記内容で顧客との値上げ交渉を行った。(査第133号証,第138号証,第141号証ないし第143号証)
c 被審人の営業本部は,当初,平成20年4月1日納入分からの値上げを各支社に指示するなど,同日からの値上げを予定していたが,同年2月18日に開催されたプライスコミッティと称する被審人の社内会議において,被審人の役員級の者らによって,プレスリリースにおいては値上げの開始時期を同年3月1日とすることが決定された。ただし,この決定によって具体的な値上げ開始時期が変更されたわけではなく,実際にも,被審人は,各支社に変更を指示しておらず,顧客に対して行った値上げ活動においても,同年4月1日納入分からの値上げを申し入れていた。(査第128号証,第132号証の1及び2,第133号証,竹中郁参考人審尋速記録)
イ 判断
前記アの認定事実によれば,4社は,平成17年及び平成18年頃から,特定エアセパレートガスや液化アルゴンの値上げに関して情報交換を行うなどしていたところ,このような関係にあった4社の各役員級の者が,個別の面談において,相互に,特定エアセパレートガスの販売価格の引上げを検討していることを確認し,さらに,役員級の者からの指示を受けた4社の各部長級の者が,上記役員級の者の意向を踏まえ,個別の面談による情報交換,意見交換を行い,平成19年12月18日及び平成20年1月23日の各会合において,4社が足並みをそろえて,特定エアセパレートガスの販売価格を同年4月1日出荷分から現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを相互に確認し,その後も,4社において,実際の値上げ交渉の状況等について情報交換や調整行為が行われ,実際に,上記各会合において確認された内容に符合する需要者に対する特定エアセパレートガスの販売価格の引上げの申入れが行われたことが認められる。
このような事実からすれば,4社間において,遅くとも同年1月23日までに,特定エアセパレートガスの販売価格を同年4月1日出荷分から現行価格より10パーセントを目安に引き上げる旨の本件合意が成立したものと認められる。
ウ 被審人の主張について
(ア) 4社による会合について
a 被審人は,被審人の島谷及び被審人の木本が,平成19年10月16日,大陽日酸の伊藤及び大陽日酸の佃と面談したことは認めながらも,その目的は,日本冶金についての大陽日酸のビジネスの方法について苦情を言うことにあり,特定エアセパレートガスの値上げの検討に関する話が出たことを否認した上,将来,電気料金の上昇が見込まれること,製造業者であれば値上げをしたい状況にあることを言及したことはあるが,それは業界の一般的な世間話の域を出るものではないと主張する。
しかしながら,大陽日酸の佃の手帳に「セパ 陥没」などと記載されているところ(査第41号証),大陽日酸の佃は,上記手帳の記載について,上記面談において,被審人の島谷が話した値上げに関する話の一部をメモしたものであり,上記メモのとおり,被審人の島谷らから,被審人が陥没ユーザー(以前の値上げ活動においても値上げを失敗してきた相手先のことを意味する。)を主なターゲットとするエアセパレートガス等の値上げを検討中である旨伝えられ,大陽日酸からも,同様にエアセパレートガス等の値上げを検討中である旨伝えたと供述している(査第45号証)。大陽日酸の佃の上記供述は,独占禁止法違反行為が認定されることに伴う法的・社会的責任の負担を課されるリスクがあるにもかかわらず,あえて自己又は大陽日酸が独占禁止法違反行為に関与していたことを認めるものであり,その供述内容は,上記客観的証拠(査第41号証)と合致し,また,具体的かつ合理的であることからして,十分に信用できるものといえる。
そして,大陽日酸の佃は,わざわざこれらの値上げに関するメモを自身の手帳に残していたこと,しかも,エアセパレートガス以外のガス種に関するものではあるが,値上げに関する情報を具体的な数値等を用いて記載していたこと(査第41号証)からすると,上記面談における値上げの話題が,一般的な世間話の域にとどまるものではなかったことが認められる。
以上によれば,仮に,上記面談の目的の一つが,日本冶金に対する大陽日酸のビジネスの方法について苦情を言うものであったとしても,上記面談において,特定エアセパレートガスの値上げに関する話がなされたことは認められるのであり,被審人の上記主張には理由がない。
b 被審人は,平成19年11月15日に,被審人の木本が大陽日酸の佃及びエア・ウォーターの白井と面談したことは認めながらも,被審人の木本にとって,上記面談は,自社又は他社の交際費によるいわゆる「ただ酒」を飲むための口実にすぎず,大陽日酸の佃やエア・ウォーターの白井の話に関心はなかった旨,仮に値上げの話をしていたとしても真意ではなかった旨主張する。
しかしながら,前記アの認定事実及び前記aのとおり,同年10月16日に行われた被審人と大陽日酸の2社による面談において,特定エアセパレートガス等の値上げに関する話がなされたこと,その後,同年11月15日の面談を含め,平成20年1月23日までの間に毎月,特定エアセパレートガスの値上げに関して面談や会合が行われたことに鑑みれば,平成19年11月15日の上記面談も,特定エアセパレートガスの値上げの実施に向けた話合いであったと認められる。また,大陽日酸の佃も,上記面談において,被審人,大陽日酸及びエア・ウォーターの3社が特定エアセパレートガスの値上げについて具体的な検討に入っていることを確認し合った旨供述しているところ(査第45号証),大陽日酸の佃の供述が具体的かつ合理的であり信用できることは前記aで述べたとおりである。
そうだとすれば,上記面談に出席した被審人の木本も,特定エアセパレートガスの値上げに向けた各社の動向について情報交換するために出席したと認められるのであり,被審人の上記主張には理由がない。
c 被審人は,平成19年12月18日に行われた4社による会合について,被審人の木本が「みんなで価格改定するときに安売りや抜け駆けはいけませんよ」と発言したことはなく,それによって共通の認識を醸成するなどということはあり得ず,仮にそのような発言をしていたとしても,冗談か皮肉であってまともに取り合う者はいないと主張する。
しかしながら,岩谷産業の岩永は,上記会合において,被審人の木本が「みんなで価格改定をするときに安売りや抜け駆けはいけませんよ」という発言をしたと供述しているところ(査第60号証),岩谷産業の岩永は,独占禁止法違反行為の存在が認定されることに伴う法的・社会的責任の負担を課されるリスクがあるにもかかわらず,あえて自己及び岩谷産業が独占禁止違反行為に関与したことを認める供述をしていること,その供述内容は具体的かつ合理的であること,大陽日酸の佃の「被審人の木本も,同様に足並みを揃えて値上げをすると答えた」旨の供述とも整合しており,その大陽日酸の佃の供述は前記aで述べたとおり信用できることからすると,岩谷産業の岩永の前記供述もまた十分に信用できる。
また,前記aで述べたとおり信用できる大陽日酸の佃の供述によれば,上記会合が特定エアセパレートガスの値上げについて話し合うために開催されたものであり,被審人の木本が,上記会合を含め,平成20年10月16日以降に行われた特定エアセパレートガスの販売価格の引上げに関する面談及び会合に全て出席していること,大陽日酸の佃が,上記会合の冒頭において,被審人の木本を含む他の3社の出席者に対し,値上げの検討をされているかを尋ねたところ,いずれの出席者も特に否定しなかったことが認められ,これに加えて,被審人の木本が上記発言をしたことを併せ鑑みると,上記会合において,出席者4名が,4社が特定エアセパレートガスを値上げする意向を有していることを相互に確認し合ったことが認められる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
d 被審人は,被審人の木本が平成20年1月23日の会合に出席したことは認めながらも,同人は,他の出席者3名の話をまともに聞いておらず,話合いに参加していなかった旨主張する。
しかしながら,前記a及びcで述べたとおり信用できる大陽日酸の佃及び岩谷産業の岩永の各供述によれば,上記会合が,平成19年12月に行われた4社による会合において4社が特定エアセパレートガスを値上げする意向を有していることを相互に確認し合ったことを前提として開催されたものであること,被審人の木本が,上記会合を含め,平成19年10月16日以降に行われた特定エアセパレートガスの販売価格の引上げに関する面談及び会合に全て出席していること,被審人の木本は,上記会合において,他社からの具体的な価格引上げの提案に対し,特段異議を述べていないこと,被審人の木本が,上記会合において,大陽日酸の佃との間でプレスリリースをどちらが先に行うかについて話し合ったことが認められるのであり,これらの事実によれば,被審人が,他社の方針を認識・認容してこれに歩調を合わせる意思を有していたこと,他社も,被審人が同様に値上げをする方針であり,これを認識・認容して歩調を合わせる意思を有していたことが認められる。
したがって,被審人の上記主張は,上記認定事実と整合しないものであり,理由がない。
(イ) 平成20年4月からの値上げについて
a 被審人は,平成20年4月からの特定エアセパレートガスを含む商品の値上げは,平成19年10月末頃から同年11月初旬にかけて,フランスの親会社から被審人に対して伝達されたスクラム1250の方針を受けてなされたものであり,本件合意に基づいて行われたものではない旨主張する。
しかしながら,4社において本件合意がなされたことと,被審人においてフランスの親会社から伝達された方針に従いスクラム1250を実施したことは,矛盾するものではない。むしろ,本件合意に基づく値上げの実行がスクラム1250のプロジェクト期間内である同年11月から平成20年12月31日までの間に行われたこと(査第155号証,第156号証),スクラム1250によって社内に指示された特定エアセパレートガスの値上げ幅及び単位当たりの値上げ額が本件合意の内容と一致していること(査第138号証,第141号証ないし第143号証),値上げの背景事情が本件合意とスクラム1250で共通していること(査第155号証)からすると,本件合意の存在は,特定エアセパレートガスの値上げの実現可能性を高めてスクラム1250の目標達成に資するものであり,スクラム1250は,本件合意に基づく被審人の値上げ活動を軌道に乗せるものであって,本件合意とスクラム1250は,相互に特定エアセパレートガスの値上げの実行に資するものとして実施されたものと認められる。
したがって,同年4月からの特定エアセパレートガスの値上げが本件合意と無関係であるとの被審人の上記主張には理由がない。
b 被審人は,本件合意が成立し,それに基づいて値上げ活動が行われたのであれば,被審人の島谷や被審人の木本が本件合意の成立を踏まえた行動をとるのが当然であるが,同人らはそのような行動をとっていないと主張する。
しかしながら,前記アの認定事実のとおり,被審人の営業本部営業部は,平成20年1月下旬頃から,被審人の各支社に対し,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンについて本件合意において目安とされた値上げ幅と符合する値上げの指示や説明を行い,その内容に沿った値上げ交渉が行われたこと,被審人の営業本部が作成し,同年2月18日に開催されたプライスコミッティにおいて承認されたプレスリリースの内容が本件合意の内容に概ね沿っていることが認められるところ,これらと本件合意の成立時期との時間的接着性に鑑みれば,これらのことは,被審人の島谷や被審人の木本が被審人の営業本部等の内部組織に対して本件合意を前提とした意向を伝達したことにより行われたものと推認できるから,被審人の島谷や被審人の木本が本件合意の成立を踏まえた行動をとっていないという被審人の上記主張には理由がない。
c 被審人は,平成20年2月18日に開催されたプライスコミッティにおいて承認された値上げのプレスリリースは,被審人の竹中の発案によるものであり,被審人の島谷からの指示や被審人の木本との相談,営業部等の営業現場の意向に基づくものではないから,これらの値上げは本件合意とは無関係である旨主張し,被審人の竹中も陳述書及び参考人審尋において同旨の陳述をする(審第142号証,竹中郁参考人審尋速記録)。
しかしながら,被審人の竹中は,審査段階において,被審人の島谷の指示で上記プレスリリースの原案を作成し,その作成に当たっては,平成19年末から平成20年1月中旬頃に被審人の木本に相談し,その後,被審人の島谷に値上げの時期や幅についての意向を確認した上で作成した旨供述しており(査第133号証),被審人の竹中の陳述書及び参考人審尋における上記陳述は,これと矛盾している。また,営業本部内の一部長にすぎない被審人の竹中が,営業本部の上司である被審人の島谷や同じく営業本部営業部長である被審人の木本に何ら相談することなく,同部等の営業現場の意向を聴取することもなく,全くの独断でプレスリリースの原案を作成し,そのまま役員級の者による社内会議に上程するなどということは,およそ会社組織として考え難い。前記ア(エ)の認定事実のとおり,被審人の営業本部営業部は,同月下旬頃から,被審人の各支社に対し,10パーセント程度の値上げの指示や説明を行っていたことからすれば,遅くともその頃までには,営業本部営業部内において,被審人の島谷及び被審人の木本の関与のもとで,上記値上げ幅で値上げ交渉を行う方針が決定・周知され,被審人の竹中は,このような方針に沿って,前記プレスリリースの原案を作成したものと推認できる。
したがって,被審人の竹中の陳述書及び参考人審尋における上記陳述は容易く信用することができず,被審人の上記主張には理由がない。
(ウ) 以上のとおり,被審人の前記各主張にはいずれも理由がないから,4社による本件合意が成立したとの認定は妨げられない。
(2) 本件合意の対象範囲について
ア エレクトロニクス産業向け及び大規模顧客向けの特定エアセパレートガスについて
(ア) 認定事実
当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠によれば,以下の事実が認められる。
a 4社の部長級の者による会合開催の経緯及び役員級の者への報告
前記(1)アの認定事実のとおり,4社の部長級の者による平成19年12月18日及び平成20年1月23日の各会合は,平成19年10月の被審人の島谷や大陽日酸の伊藤らによる面談をはじめとする4社の役員級の者による個別の面談を受けて実現されたものであった。
そして,これらの会合や本件合意の内容は,それぞれ4社の役員級の者に報告されており,被審人の木本も,被審人の島谷に対し,同年12月18日に行われた会合の内容を報告していた。
(査第47号証,第48号証,第60号証,第63号証)
b 被審人の営業本部の所掌事項
(a) 被審人の営業本部は,実際に顧客に対し営業活動を行う全国の支社を総括する部門であった。そして,被審人の営業本部営業部は,被審人におけるバルクガスの主要顧客に対する値上げの交渉窓口や支社の相談窓口となっており,被審人の木本は,被審人の営業本部営業部長として,同業他社との調整,話合いの窓口業務を担当していた。(査第13号証,第32号証,第63号証,第98号証,第138号証,第141号証,審第46号証の1ないし3)
(b) 被審人の営業本部は,スクラム1250において,全国展開の顧客,大口・共納顧客に対する取組,支社のヘルプデスクや情報提供,値上げに関する全事業本部,各支社の進捗データの集計を担う部署とされており,EL事業本部との関係についてみても,営業本部がEL事業本部所管の「バルク」に係る値上げの実施状況に関する各支社からの報告を受付・集計することとなっていた。(査第155号証)
(c) 被審人の木本がその任にあった営業本部営業部長は,エレクトロニクス部門案件を含めた,取引高3億円以上の大口継続取引契約の締結等の取引の開始,取引の廃止,売上げ1000万円以上のスポット取引,取引経路の改定,販売価格の改定等の営業実務に関し,広く主管部長として関与する立場にあった。
また,被審人の島谷は,被審人の上席常務執行役員で営業全般を統括する営業本部長であり,エレクトロニクス部門案件を含めた上記営業実務の必須回議者又は最終承認者とされていた。
(査第194号証,第195号証,審第68号証)
(d) 被審人の営業本部営業企画部は,スクラム1250における値上げの実施状況を集計し,随時進捗状況としてまとめ,営業本部長である被審人の島谷に報告していた。
被審人の島谷は,これを,被審人の社長を始めとする経営層によって毎月1回開催され,スクラム1250に基づく活動の進捗状況の確認,問題点についての議論,必要なアクションの検討が行われるプライスコミッティに報告しており,被審人の竹中は,そのプライスコミッティにおける値上げの説明資料の作成,各支社への値上げの内容や方法の説明に当たり,被審人の島谷に相談し,その了解を得ていた。
(査第133号証,第208号証,審第69号証,竹中郁参考人審尋速記録)
c スクラム1250
(a) スクラム1250は,被審人の島谷をリーダーとする全社的なプロジェクトであり,EL事業本部やLI事業本部も同プロジェクトを実行する立場にあった。そして,被審人の木本は,同プロジェクトにおいて,アクションマネージャーとして,各支社を総覧し,各事業本部と連携するという組織横断的な役割を担っており,スクラム1250に関する支社からの問い合わせは,被審人の木本が窓口になっていた。(査第155号証,第156号証,第198号証,第204号証,第226号証)
(b) スクラム1250に関する一連の社内会議には,EL事業本部の者が営業本部やIM事業本部の者とともに出席していたほか,各支社に対する説明会においても,営業本部の者が説明者,各支社のエレクトロニクス営業部長が説明を受ける者として出席していた。(査第153号証)
(c) スクラム1250に関する被審人の社内報であるニュースレターは,当時LI事業本部長であった河村秀樹にも配信されていた。同ニュースレターにおいて,スクラム1250のプロジェクトリーダーである被審人の島谷は,平成20年2月13日に発行されたニュースレターにおいて,プロジェクトへの協力が当然必要となる事業本部として,IM事業本部やEL事業本部と並んでLI事業本部についても挙げていた。また,同ニュースレターの紙面右寄りに掲載された円グラフには「Target of Scrum1250」として「ラージインダストリー」も記載されていた。(査第199号証)
(d) 平成20年2月18日に開催されたプライスコミッティにおいて,LI事業本部からも価格改定に向けた進捗状況が報告されたほか,同年6月16日付けのスクラム1250の進捗報告書においても,LI事業本部からその後の値上げ活動の進捗状況の報告がなされていた。しかも,同報告書には,LI事業本部所管のバルクガスについても報告がされており,LI事業本部所管の特定エアセパレートガスについても,スクラム1250による値上げの対象とされていた。(査第132号証の1,第200号証,第201号証の1ないし3)
(e) EL事業本部所管のバルクガスは,スクラム1250において,値上げの対象とされており,スクラム1250のプロジェクト期間中,顧客に対する値上げの申入れがなされ,値上げが実行されていた。また,LI事業本部所管のバルクガスについても,スクラム1250に基づいて顧客に対する値上げの申入れがなされ,値上げが実行されていた。(査第191号証,第192号証,第198号証,第220号証)
d 営業本部の値上げ方針のEL事業本部への反映
(a) 被審人の島谷は,スクラム1250のプロジェクトリーダーとして,当時EL事業本部長であった被審人の守舎に対し,EL事業本部所管の製品について値上げを打診したところ,EL事業本部は,これに賛成し,同事業本部が所管する特定エアセパレートガスについて,顧客に対して本件合意に沿った値上げの申入れをしていた。(査第157号証,審第47号証)
(b) 被審人の木本は,本件合意後の平成20年2月1日,各支社の営業担当者に対し,値上げ活動に向けての指示を与える電子メールを送付しているが,同メールは,当時のEL事業本部長であった被審人の守舎や,同事業本部副本部長であった難波太郎(以下「被審人の難波」という。)にも送信されていた。(査第205号証)
(c) 被審人においては,平成20年11月11日に開催された支社長会議において,平成21年1月からのバルクガスの値上げを行うに当たり,EL事業本部がIM事業本部と同様の方針を採ることとされていた。(査第202号証)
e プレスリリース
被審人は,平成20年2月26日,特定エアセパレートガスを含むガス種の販売価格の引上げに関するプレスリリースを公表したが,被審人の島谷は,上記プレスリリースの原案の作成に際し,「平成20年4月1日納入分より」,「10%以上」と指示しており,この指示は本件合意の内容と符合していた。そして,同案は,同年2月18日に開催されたプライスコミッティにおいて,外国人役員の意見により価格改定時期を「2008年3月1日納入分より」,「酸素・窒素・アルゴン」の価格改定率を「10~20%」と変更されたが,その趣旨に実質的な変更はなく,各支社に対する実際の値上げ実施時期の指示は変更行われなかった。
また,上記プレスリリースにおいては,「対象製品」について,事業本部の所管による限定は示されていなかった。
(査第128号証,第132号証の1及び2,第133号証)
f 被審人の木本ら4社の部長級の者が情報交換を行った共納先
被審人の木本,大陽日酸の佃,エア・ウォーターの白井及び岩谷産業の岩永は,平成20年2月28日,会合を開き,特定エアセパレートガスの共納先13社(①東邦チタニウム株式会社,②マツダ株式会社,③関東電化工業株式会社,④TDK,⑤株式会社村田製作所,⑥三洋化成工業株式会社,⑦株式会社クボタ,⑧ソニー株式会社,⑨アステラス製薬株式会社,⑩カルソニックカンセイ株式会社,⑪サントリー株式会社,⑫松下電器産業株式会社及びその関連会社〔以下「松下グループ」という。〕及び⑬花王株式会社。以下,これらをまとめて「共納先13社」という。)に対する本件合意に基づく値上げの交渉状況等について情報交換を行ったが,これら共納先13社の被審人における所管は,IM事業本部に限られるものではなく,④TDK,⑤株式会社村田製作所,⑧ソニー株式会社,⑫松下グループの一部に対する特定エアセパレートガスの供給は,EL事業本部が所管していた。(査第83号証,第93号証,第154号証)
g 被審人以外の3社の部長級の者の所掌事項
(a) 大陽日酸の佃は,ガス事業本部セパレートガス事業部に属していたが,大陽日酸のエレクトロニクス産業向けのエアセパレートガスを取り扱う電子機材事業本部が所管するユーザーであっても,電子機材事業本部からの要請を受ければ,他の3社の部長級の担当者と連絡を取り,また,同3社から,電子機材事業本部のユーザーに関する話があった場合には,その情報を電子機材事業本部に取り次ぐなど,電子機材事業本部が所管する特定エアセパレートガスについても,同業他社に対する窓口となっていた。
そして,大陽日酸においては,本件合意に基づく値上げの実施に向けた具体策の検討や進捗状況の確認を,電子機材事業本部を交えて行っていた。例えば,平成20年1月19日,大陽日酸社内で開催された収益改善会議において,ガス事業本部セパレートガス事業部作成の資料に基づき,本件合意と同旨の特定エアセパレートガスの値上げ方針が,電子機材事業本部長出席のもと,全国の営業担当者に示されているところ,その後,電子機材事業本部半導体ガス事業部は,上記収益改善会議の概要発表を受け,同年2月1日,上記収益改善会議での指示及び本件合意と同旨の値上げ方針を周知した。また,上記収益改善会議において値上げの対象として示された特定エアセパレートガスには,「電子機材事業本部」の所管するものに限られず,「プラントバックアップ」といった同社「オンサイト・プラント事業本部」の所管ともみられるものが含まれていた。
(査第45号証,第94号証,第158号証,第206号証)
(b) エア・ウォーターにおいては,半導体メーカーなどエレクトロニクス産業向けのエアセパレートガスについては,エア・ウォーターの前身会社である大同ほくさん株式会社とアメリカのエアープロダクツ社による合弁会社大同エアプロダクツを販売窓口としてきた。すなわち,エア・ウォーターが,半導体メーカーなどエレクトロニクス産業向けのエアセパレートガスを大同エアプロダクツに販売し,大同エアプロダクツが,半導体メーカーなどに対し,これを販売していた。
エア・ウォーターの白井は,本件合意以前から平成22年3月末までの間,大同エアプロダクツに対する価格交渉を担当しており,実際にも,大同エアプロダクツに対して,平成20年4月からの特定エアセパレートガスの値上げを交渉し,その結果,価格引上げを実現していた。
(査第159号証,審第56号証の1ないし3)
(c) 岩谷産業においては,本件合意当時,エレクトロニクス産業向けを含めた全ての特定エアセパレートガスの顧客を支社・支店が担当しており,これをサポートするのが岩谷産業の岩永が部長を務める「エアガス部」であった。なお,岩谷産業の「電子材料ガス部」は,一般の特定エアセパレートガスを扱う「エアガス部」と同じ「産業ガス・溶材本部」の傘下にあり,岩谷産業の岩永から,本件合意がなされた4社の会合の内容の報告を受けていた専務取締役兼産業ガス・溶材本部本部長(当時)の岩谷産業の宮川の所掌に属していた。(査第4号証,第60号証,審第55号証の1及び2)
(イ) 判断
前記(ア)の認定事実によれば,被審人の木本は,当時,顧客に対し営業活動を行う全国の支社を総括する被審人の営業本部の営業部長として,エレクトロニクス部門案件を含めた販売価格の改定等の営業実務に関し,主管部長として関与する立場にあり,加えて,どの事業本部の所管の商品であるかにかかわらず,対象となる商品の値上げを全般的に実施するプロジェクトであるスクラム1250のアクションマネージャーとして,IM事業本部に限らず,EL事業本部やLI事業本部所管の特定エアセパレートガスの販売価格について影響力を行使できる立場にあったといえる。
また,前記(ア)の認定事実のとおり,本件合意の成立に至った平成19年12月18日及び平成20年1月23日の4社の部長級の者による各会合は,被審人の島谷ら4社の役員級の者による個別の情報交換,意見交換を経て実現したものであり,被審人の木本をはじめとする4社の部長級の者は,各社の役員級の者に対し,上記各会合の内容を報告していたという経緯からすれば,上記各会合に出席した4社の部長級の者は,4社の役員級の者の所掌範囲内の事項において合意を成立させることができたものと認められる。すなわち,被審人の木本に対し4社による会合への出席等を指示し同会合の内容を報告させていた被審人の島谷は,当時,被審人の上席常務執行役員であり,かつ,営業全般を統括する営業本部長として,エレクトロニクス部門案件を含めた営業実務の必須回議者又は最終承認者であった上,どの事業本部の所管の商品であるかにかかわらず,対象となる商品の値上げを全般的に実施するプロジェクトであるスクラム1250のプロジェクトリーダーとして,本件合意の内容を同プロジェクトに反映させることができる立場にあり,実際にも,スクラム1250に基づいて,EL事業本部及びLI事業本部所管の特定エアセパレートガスについて,顧客に対して本件合意と同内容の値上げの申入れが行われていたのである。このように,被審人の島谷は,EL事業本部やLI事業本部所管のガスの販売価格についても影響力を行使できる立場にあったと認められるのであり,被審人の島谷から4社による会合への出席等の指示を受けて同会合の内容を報告していた被審人の木本は,被審人の島谷の所掌範囲内であるEL事業本部やLI事業本部所管の特定エアセパレートガスについても,本件合意の対象とすることができたといえる。
さらに,前記(ア)の認定事実によれば,被審人以外の3社の部長級の者も,各自の社内での形式上の所掌範囲にかかわらず,それぞれ特定エアセパレートガスの値上げに関し影響力を行使できる立場にあり,4社の販売する特定エアセパレートガス全般を本件合意の対象と認識していたことが認められる。
加えて,本件合意の成立に至った平成19年12月18日及び平成20年1月23日の4社の部長級の者による各会合において,エレクトロニクス産業向けの特定エアセパレートガスについては本件合意の対象から除外するなどといった話が出ていなかったこと(査第63号証),前記(ア)の認定事実のとおり,本件合意成立後,共納先に対する特定エアセパレートガスの値上げの交渉状況について4社間で情報交換及び調整行為が行われているおり,その共納先には,被審人のEL事業本部所管のものも含まれていたことが認められるところ,これらの事実は,4社の部長級の者が,エレクトロニクス産業向け又は大規模顧客向けの特定エアセパレートガスについても合意の対象に含まれていることを前提として,本件合意に及んだことを推認させるものである。
そして,前記(ア)の認定事実のとおり,被審人のEL事業本部及びLI事業本部が所管する特定エアセパレートガスが,スクラム1250において値上げの対象とされていたこと,スクラム1250に関する一連の社内会議において,EL事業本部の者が営業本部の者と共に出席し,各支社に対する説明会においても,各支社のエレクトロニクス営業部長が説明を受ける者として出席していたこと,被審人の木本が,EL事業本部長であった被審人の守舎や同事業本部副本部長の被審人の難波に対しても,各支社の営業担当者に対して値上げ活動の指示を与えるメールを送信していたこと,実際に,EL事業本部所管の特定エアセパレートガスについて,顧客に対して本件合意の内容と同様の値上げの申入れがなされていたこと,LI事業本部所管の特定エアセパレートガスについてもスクラム1250の実施期間中に顧客に対して値上げの申入れがなされ,実際に値上げが実施されていたことが認められるところ,これらの事実によれば,特定エアセパレートガスの値上げに関する被審人の営業本部の意向は,EL事業本部及びLI事業本部にも反映される関係にあったことが推認できるのであり,このことに加え,被審人の島谷が被審人の営業本部長,被審人の木本が被審人の営業本部営業部長であったことを併せ鑑みると,EL事業本部及びLI事業本部の特定エアセパレートガスは本件合意の対象であったことが推認できる。
以上のことからすれば,エレクトロニクス産業向け又は大規模顧客向けのものであっても,特定エアセパレートガスである限り,本件合意の対象であったと認められる。
(ウ) 被審人の主張について
a 被審人の木本の所掌範囲について
(a) 被審人は,被審人の木本の所掌ないし影響力の行使できる範囲が被審人のIM事業本部所管のバルクガスに限られている上,被審人の木本はエレクトロニクス産業についての知識を有しておらず,エレクトロニクス産業向けや大規模顧客向けのガス,これらの顧客に対する営業活動に関与することはなく,その関心もないから,これらを本件合意の対象とする認識も有していないと主張し,被審人の難波及び被審人の竹中も,同旨の陳述をする(審第142号証,第143号証,難波太郎参考人審尋速記録,竹中郁参考人審尋速記録)。
しかしながら,前記(ア)の認定事実のとおり,被審人の営業本部が各地の支社を横断した営業活動全般を担当する部門であったこと,営業本部営業部が被審人におけるバルクガスの主要顧客に対する値上げの交渉窓口であったこと,被審人の木本が営業本部営業部長として,同業他社との調整,話合いの窓口業務を担当していたこと,被審人社内の決裁基準表(査第194号証,第195号証)をみると,被審人の木本がその任にあった営業本部営業部長は,エレクトロニクス部門案件を含めた,取引高3億円以上の大口継続取引契約の締結等の取引の開始,売上げ1000万円以上のスポット取引,取引経路の改定,販売価格の改定等の営業実務に関して広く主管部長として関与する立場にあったこと,被審人の木本がスクラム1250において組織横断的な役割を担っていたこと,本件合意後において,被審人の木本を始めとする4社の部長級の者がEL事業本部が所管するとみられる顧客に対する値上げの交渉状況等について情報交換を行っていたことからすれば,被審人の木本の所掌ないし影響力の行使できる範囲が,被審人のIM事業本部の所管するバルクガスに限られず,EL事業本部やLI事業本部が所管するバルクガスも含まれていたことが認められる。
なお,被審人は,決裁基準表(査第194号証,第195号証)について,社内では機能していないと主張し,被審人の難波も,同基準表は請求書等発行のためのシステム登録に必要な情報を回覧するルートにすぎない旨陳述するが(難波太郎参考人審尋速記録),システム登録に必要な情報の回覧などという事務的な内容について営業本部長の承認まで逐一必要であるとは考え難く,被審人の難波の上記陳述はにわかに信用できない。したがって,決裁基準表が社内で機能していないとの被審人の主張には理由がない。
さらにいえば,本件合意当時,被審人において「バルク」と称されている特定エアセパレートガス(査第138号証)は,被審人のIM事業本部のみならず,EL事業本部等の他の事業本部においても取り扱われており(査第191号証,第192号証),TDKや松下グループなどに対しては,複数の事業本部から同一の顧客に納入されていたことが認められる(査第154号証)ところ,このような販売状況の下では,IM事業本部所管のエアセパレートガスの値上げが他の事業本部所管のエアセパレートガスの販売価格に影響を与えるであろうことからすれば,エアセパレートガスの営業を所掌するに当たっては,事業本部の枠を超えて所掌するか,他の事業本部と緊密に連携を取っていたことが推認できる。そして,前記(ア)の認定事実のとおり,被審人の営業本部営業部は,エアセパレートガスの主要顧客に対する値上げの交渉窓口となっていたことからすれば,同営業部長であった被審人の木本は,IM事業本部の所管に限らず,事業本部の枠を超えたエアセパレートガス一般の営業を所掌していたか,少なくとも他の事業本部所管のエアセパレートガスの販売価格について影響力を有していたものと推認できる。
また,被審人の木本は,平成7年9月から平成12年6月までの間,エレクトロニクス関連の部署に在籍した経歴があること(審第45号証),スクラム1250のニュースレターにおいて,半導体関連の顧客に対して多く販売するレアガスについて言及していること(査第204号)からすれば,被審人の木本はエレクトロニクス産業についての知識を有していなかったとは必ずしも認め難く,エレクトロニクス産業向けや大規模顧客向けのガス,これらの顧客に対する営業活動に関心がなかったともいい難い。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
(b) 被審人は,スクラム1250において被審人の木本はEL事業本部の顧客に対する値上げ活動に介入しておらず,アクションマネージャーとはEL事業本部やLI事業本部に関与する役割ではなく,形式的なチア・リーディングを行うものにすぎなかった旨主張する。
しかしながら,被審人の木本の所掌ないし影響力が及ぶ範囲がIM事業本部に限られるものでないことは前記(イ)及び前記(a)のとおりであるところ,このような被審人の木本が,スクラム1250においても,アクションマネージャーとして,各支社を総覧し,各事業本部と連携する組織横断的な役割を任されていたのであり(査第155号証,第156号証),当然にEL事業本部やLI事業本部における値上げの実施に関与していたものと認められる。
この点,被審人は,スクラム1250に関するプレゼンテーション資料(査第155号証,第156号証)の形式的な様式からアクションマネージャーの権限を認定するのは誤りである旨主張するが,同資料は,スクラム1250の目標,対象項目,遵守事項,スケジュール,チームの役割等を各支社に認知してもらうために作成されたものであり,殊更実際と異なる内容を記載する必要性もないことからすれば,同資料の記載に基づいて認定をするのが相当である。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
(c) 被審人は,平成20年1月に行われた4社の部長級の者による会合において,本件合意の対象となるガス種について話合いが行われていないこと,仮に本件合意の対象にEL事業本部及びLI事業本部所管のガスが含まれているとすれば,被審人の木本がEL事業本部やLI事業本部との事前打合せや事後の連絡をしているはずであるのに,これらがなされていないのは不自然であり,このことは,被審人の木本の所掌範囲がIM事業本部に関するものに限られており,本件合意の対象もその範囲であることを示すものであると主張する。
しかしながら,上記会合において値上げの対象となるガス種の範囲について明示的に協議していないからといって,その範囲が明らかでないとはいえない。また,前記(1)ウ(イ)aのとおり,本件合意に基づく値上げとスクラム1250は,相互にエアセパレートガスの値上げに資するものとして併せて実施されていたものであるところ,前記(ア)の認定事実のとおり,スクラム1250に関する一連の社内会議にはEL事業本部の者も出席していたほか,各支社に対する説明会においても各支社のエレクトロニクス営業部長が出席していたこと,被審人の島谷が,スクラム1250に際して,EL事業本部長であった被審人の守舎に値上げの打診をし,了承を得ていたこと,被審人の木本は,本件合意成立後の同年2月1日,各支社の営業担当者宛の値上げ活動に向けての指示を記載した電子メールを,被審人の守舎やEL事業本部副本部長であった被審人の難波にも送信していたことからすれば,上記事前打合せや事後の連絡は行われていたものと認められる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
b 被審人の島谷の所掌範囲について
(a) 被審人は,会社の年次予算から各事業本部あるいはガス種ごとに目標額を割り振ることは被審人の島谷の役割であったものの,具体的にその予算を達成するための事業計画は,EL事業本部やLI事業本部など各事業本部において独自に内容を検討し立案されており,EL事業本部やLI事業本部における個別の顧客に対する具体的な値上げ状況は営業本部に知らされなかったことからすれば,被審人の島谷の被審人における実際の役割は限定的であり,被審人の島谷の所掌範囲は本件合意の対象範囲を基礎付ける根拠たり得ないと主張する。
しかしながら,前記(ア)の認定事実のとおり,被審人の島谷は,被審人の業務執行の一翼を担う上席常務執行役員であり,営業全般を統括する営業本部長であったこと,被審人社内の決裁基準表(査第194号証,第195号証)をみても,営業本部長は,エレクトロニクス部門案件を含めた各営業実務の最終承認者とされていたことからすれば,被審人の島谷の役割が限定的であったとは到底いえない。また,被審人の主張によれば,被審人の年次予算を事業本部ごとに割り振り,あるいは特定のガスに目標額を割り振るのは,被審人の島谷の役割であったとのことであるところ,このような役割を有する者は,各事業本部に対し,目標額を達成させるために,必要に応じて指示を出したり意見を述べたりする権限も有していたものと推認できる。なお,決裁基準表(査第194号証,第195号証)が社内では機能していないとの被審人の主張に理由がないことは,前記a(a)のとおりである。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
(b) 被審人は,スクラム1250に関し,売上げ達成分(目標額)の事業本部ごとの配分案は被審人の島谷が作成するものの,その達成方法は各事業本部が独自に決定することとされていたこと,被審人の島谷は,スクラム1250の枠組みを周知・説明するために本社で行う支社会議において,プロジェクトの全体像について説明するものの,個別の顧客に対する価格設定や値上げの申入れ方法について言及することはなく,各支社を訪問して値上げの方針説明を行うこともほとんどなかったこと,被審人の島谷は,営業本部営業企画部が集計したスクラム1250による値上げの進捗状況のデータを,プライスコミッティにおいてそのまま報告していただけであることからすれば,スクラム1250における被審人の島谷の役割も相当限定されていたと主張する。
しかしながら,前記(a)のとおり,目標額を事業本部ごとに割り振る役割を有する者は,各事業本部に対し,目標額を達成させるために,必要に応じて指示を出したり意見を述べたりする権限を有しており,被審人の島谷は,スクラム1250においても,そのような権限を有していたものと推認できる。また,前記(ア)の認定事実のとおり,プロジェクトマネージャーとして値上げの説明資料を作成し,各支社に対し値上げの内容・方法を説明した被審人の竹中は,上記説明資料の作成や各支社に対する説明に当たり,被審人の島谷と相談し,その了解を得ていたのであるから,被審人の島谷自らが各支社に対して個別の顧客に対する価格設定や値上げの申入れ方法について言及したり各支社を訪問したりして具体的な値上げ方針を説明しなかったからといって,スクラム1250において被審人の島谷の関与が否定されるわけではない。さらに,被審人の島谷は,経営層により毎月1回開催され,スクラム1250に基づく活動の進捗状況の確認,問題点についての議論,必要なアクションの検討等が行われるプライスコミッティに毎回出席し,進捗状況の報告やプレスリリース案の提案などを行っていたのであり,出席しこれらの報告・提案を行うに当たっては,事前に営業本部営業企画課の作成した集計データ等の進捗状況の情報,プレスリリースの原案を自ら検討し,必要であれば意見をしていたであろうことが推認できる。
以上によれば,被審人の島谷が,スクラム1250において,プロジェクトリーダーとして深く関与していたことが認められるのであるから,被審人の上記主張には理由がない。
c スクラム1250について
(a) 被審人は,スクラム1250はフランスの親会社から被審人に対して伝達された値上げ方針を受けて企画されたプロジェクトであって,本件合意とは無関係であるから,スクラム1250における被審人の島谷及び被審人の木本の役割は,本件合意の対象範囲に影響を与えない旨主張する。
しかしながら,前記(1)ウ(イ)aのとおり,本件合意に基づく値上げの実行とスクラム1250の実施は何ら矛盾するものではなく,むしろ,本件合意とスクラム1250は,相互に,特定エアセパレートガスの値上げの実行に資するものとして実施されたと認められるから,スクラム1250が本件合意とは無関係であるとの被審人の上記主張には理由がない。
(b) 被審人は,LI事業本部がスクラム1250による値上げプロジェクトの対象部門ではなかった旨主張し,被審人の竹中も,同旨の陳述をするとともに,ニュースレター(査第199号証)や進捗報告書(査第201号証の2)等にLI事業本部に係る記載があることについて,「LIの数字を入れると,全体の数字が大きくなる」などと,フランスの親会社向けに,プロジェクトの成果を水増しするよう記載した旨陳述する。
しかしながら,被審人の竹中によれば,スクラム1250における目標額はフランスの親会社と被審人の代表取締役社長が相談して決定し,それを各事業本部に配分するのも被審人の代表取締役社長とフランスの親会社から派遣された経営陣が行ったとのことである。そうだとすると,仮に,LI事業本部がスクラム1250の対象部門ではなかったとすると,上記ニュースレターや上記進捗報告書にLI事業本部に係る記載があった場合,フランスの親会社は,その記載がおかしいことに容易に気が付くはずであり,このような容易に判明してしまう水増しの記載をするとはにわかに考え難く,被審人の竹中の上記陳述は信用できない。また,スクラム1250に関するプレゼンテーション資料(査第155号証,第156号証)によれば,LI事業本部もスクラム1250において役割を与えられていたことからすると,LI事業本部がスクラム1250による値上げプロジェクトの対象部門ではなかったとはいい難い。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
d 被審人以外の3社の部長級の者の所掌事項及び認識について
(a) 被審人は,大陽日酸の佃による自身の所掌事項等に関する供述(査第45号証,第94号証,第158号証)が信用できず,また,同供述による認定事実からは,大陽日酸の佃が,エレクトロニクス関連市場向けのエアセパレートガスを本件合意の対象として認識していたとは推認できない旨主張する。
しかしながら,大陽日酸の佃の供述が信用できることは前記(1)ウ(ア)aのとおりであり,大陽日酸が,課徴金減免制度に関し,当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者であることは,大陽日酸の佃の供述の信用性に影響を及ぼすものではない。
また,大陽日酸の佃の供述によれば,大陽日酸社内において,平成19年から値上げの検討が行われており,平成20年4月からの特定エアセパレートガスの値上げの実施に向けた具体的な方策や進捗状況の確認を,ガス事業本部セパレートガス事業部のみならず,電子機材事業本部等他の事業部を交えて行っていたこと(査第45号証,第94号証),大陽日酸の佃が,本件合意の成立及び本件合意に基づく値上げの実施について,他の3社の者と情報交換しながら,並行して,自社の値上げの具体策について,社内で検討していたこと(査第45号証),本件合意成立後の同年1月19日に実施された「収益改善会議」において決定された値上げの方針が本件合意と同旨であったこと(査第45号証,査第206号証)が認められるところ,これらのことからすれば,大陽日酸においては,本件合意に基づく値上げの実施に向けた具体策の検討を,ガス事業本部セパレートガス事業部のみならず,電子機材事業本部等の他の事業部とも連携して行っていたと認められる。そしてこのことからすれば,大陽日酸の佃が,本件合意において,ガス事業本部セパレートガス事業部以外が所管する特定エアセパレートガスも,その対象範囲内として認識していたものと推認できる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
(b) 被審人は,エア・ウォーターの白井がエレクトロニクス産業向けの特定エアセパレートガスの販売を所管していたからといって,所掌の範囲であることが本件合意の範囲に含まれていたことを意味しない旨主張する。
しかしながら,エア・ウォーターの白井が大同エアプロダクツを介してエレクトロニクス産業向け特定エアセパレートガスの販売を所掌していたことは前記(ア)の認定事実のとおりであるところ,4社による会合等において値上げの対象であるエアセパレートガスの範囲がとりわけ限定されなかったことからすると,同人は,自身の所掌範囲に含まれるエレクトロニクス産業向けの特定エアセパレートガスも念頭に置いて,本件合意に及んだものと認められる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
(c) 被審人は,特定エアセパレートガスにはエレクトロニクス産業向けや大規模顧客向けの酸素,窒素及びアルゴンを含むから,岩谷産業の岩永がサポートしていたガスの顧客は,エレクトロニクス産業向けや大規模顧客向けの酸素,窒素及びアルゴンの顧客を含むというのはトートロジーである旨主張する。
しかしながら,前記(ア)の認定事実のとおり,岩谷産業においては,特定エアセパレートガスについては,エレクトロニクス産業や大規模顧客であるか,それ以外の顧客であるかに関わらず,全ての顧客を支社・支店が担当し,これをエアガス部がサポートしていたというのであって,これは何らトートロジーとなるものではないから,被審人の上記主張には理由がない。
(d) 被審人は,4社の部長級の者が,平成20年2月28日の会合において,共納先13社に対する値上げの交渉状況等について情報交換が行われたとしても,そのことが論理必然的に本件合意の対象にエレクトロニクス産業向けや大規模顧客向けのエアセパレートガスが含まれることにはならない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)の認定事実のとおり,岩谷産業の岩永の供述(査第93号証)によれば,同日の会合が,平成19年12月18日及び平成20年1月23日に行われた4社による会合において成立した本件合意を受け,各社で足並みを揃えて値上げ交渉に当たるために開催されたことが認められるのであり,そうであれば,同年2月28日の会合で情報交換が行われた共納先13社に対する値上げ交渉は,本件合意に基づくものと認めるのが相当である。そして,共納先13社には,EL事業本部所管の取引先が含まれていたことからすると,本件合意は,EL事業本部所管の特定エアセパレートガスも対象としていたことは容易に推認できる。これに対し,被審人は,岩谷産業の岩永の供述が信用できない旨縷々主張するが,同人の供述が信用できることは前記(1)ウ(ア)cのとおりである。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
e EL事業本部所管の特定エアセパレートガスの値上げについて
被審人は,EL事業本部が所管する特定エアセパレートガスの値上げは,同事業本部の被審人の守舎を中心に独自に決定したものであって,被審人の島谷や被審人の木本らの影響を受けて行ったものではない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)の認定事実のとおり,スクラム1250に関する被審人の一連の会議に,EL事業本部の者が営業本部やIM事業本部の者と共に出席し,各支社に対する説明会にも,各支社のエレクトロニクス営業部長が説明を受けに来ていたこと,当時EL事業本部の本部長であった被審人の守舎は,被審人の島谷から値上げの打診を受け,EL事業本部としてもこれに賛成し,値上げを実施していたこと,EL事業本部所管の特定エアセパレートガスの値上げ幅が,本件合意の内容と同様であったことからすれば,EL事業本部所管の特定エアセパレートガスの値上げ方針が,被審人の島谷や被審人の木本の意向に影響されることなく独自に決定されたものとは考え難く,被審人の上記主張には理由がない。
f 以上のとおり,被審人の前記各主張にはいずれも理由がないから,本件合意の対象にEL事業本部又はLI事業本部が所管する特定エアセパレートガスも含まれるという認定は何ら妨げられない。
イ バックアップに係る特定エアセパレートガスについて
(ア) 認定事実
当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠によれば,以下の事実が認められる。
a 4社の部長級の者による認識
岩谷産業の岩永をはじめ,4社の部長級の者は,平成19年12月18日及び平成20年1月23日の各会合の際,バックアップに係るものかどうかを特に区別することなく,本件合意の成立に向けて話をしていた。(査第93号証)
b リカバリー2000における交渉状況
被審人が平成17年に実施したリカバリー2000においては,バックアップに係る特定エアセパレートガスについて,価格改定条項が存する場合には時期を見計らって,価格改定が厳格に制限されている場合には価格に関する条項を改定した上で,値上げ交渉を行っていた。(査第160号証)
c バックアップに係る契約条項及び値上げの申入れ状況
(a) 大王製紙株式会社
大王製紙株式会社(以下「大王製紙」という。)との間の同社三島工場に係るオンサイト契約においては,バックアップとして供給する液化酸素の価格は1キログラム当たり16.00円と定められているものの,同契約には「契約開始年度より当該地域の電力価格の±5%変動があった場合」等には協議の上で変更することができるものとされていた。(査第182号証の1ないし4)
(b) 戸田マテリアル株式会社
戸田マテリアル株式会社との間の同社北九州工場に係るオンサイト契約においては,バックアップとして供給する気化酸素(バックアップ設備内の液化酸素受入装置にタンクローリーで供給する液化酸素から気化される酸素をいう。)の価格は1キログラム当たり25.00円と定められているものの,同契約には「消費者物価指数が契約開始年度より±5%変動があった場合または供給設備に変更が生じた場合」には協議の上で変更することができるものとされていた。(査第183号証)
(c) 旭硝子株式会社
旭硝子株式会社との間の同社高砂工場FPDガラス部所管に係るオンサイト契約においては,バックアップとして供給する液化酸素及び液化窒素の価格は1N立方メートル(当該契約において,「N立方メートル」とは温度が摂氏0度,圧力1気圧の状態におけるガス容量を立方メートルで表したものをいう。)当たり19円と定められているものの,同契約には「経済情勢に著しい変動があった場合」には協議の上で変更することができるものとされていた。(査第184号証の1及び2)
(d) ポーライト
ポーライトとの同社熊谷工場に係るオンサイト契約においては,バックアップとして供給する液化窒素の価格について,「協議の上決定する。」こととされていた。
被審人は,本件合意成立後,ポーライトに対し,同社熊谷工場に係るバックアップとして供給される液化窒素について,1立方メートル当たり3円の値上げを申し入れ,同2円の値上げを実施していた。
(査第161号証,第185号証の1及び2,審第43号証)
(e) 東芝シリコーン株式会社
東芝シリコーン株式会社(後に「モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社」に組織及び商号を変更。以下「旧東芝シリコーン」という。)との同社太田事業所に係るオンサイト契約においては,バックアップとして供給する液化窒素の価格について明確な定めがなかった。
被審人は,本件合意成立後,旧東芝シリコーンに対し,バックアップとして供給する液化窒素について,1立方メートル当たり4円の値上げを申し入れ,同2円の値上げを実施していた。
(査第161号証,第186号証の1ないし3,審第43号証)
(f) 日立粉末冶金
日立粉末冶金との同社松戸工場及び香取事業所に係る各オンサイト契約においては,いずれについても,バックアップ設備に供給する液化窒素の価格について,「別途見積書により取り決める」とされていた。
被審人は,本件合意成立後,日立粉末冶金に対し,バックアップ設備に供給する液化窒素について,同社松戸工場については1立方メートル当たり3円の値上げを申し入れ,平成20年7月から1立方メートル当たり1円,同年10月からさらに1立方メートル当たり50銭の値上げを実施し,同社香取事業所についても1立方メートル当たり3円の値上げを申し入れ,少なくとも同1円の値上げを実施していた。
(査第74号証,第161号証,第162号証,第187号証の1ないし4,審第43号証)
(g) 川鉄鋼板株式会社
川鉄鋼板株式会社(後に「JFE鋼板株式会社」と商号変更した。以下「旧川鉄鋼板」という。)との同社千葉工場松戸地区に係るオンサイト契約においては,バックアップとして供給する液化窒素の価格について,明確な定めがなされていなかった。
被審人は,本件合意成立後,旧川鉄鋼板に対し,同社千葉工場松戸地区に係るバックアップとして供給する液化窒素につき,1立方メートル当たり2円の値上げを申し入れ,これを実施していた。
(査第161号証,第188号証の1ないし3,審第43号証)
(h) 合同製鐵株式会社
合同製鐵株式会社(以下「合同製鐵」という。)とのオンサイト契約においては,バックアップ用酸素ガス(工場内に設置した液化酸素貯蔵タンクから蒸発器を通じ供給される酸素ガスをいい,被審人から合同製鐵へ供給されるのは特定エアセパレートガスである。)の価格は,合鐵商事株式会社の一般酸素価格変動による価格改定を前提とする内容になっていた。
被審人は,本件合意成立後,合同製鐵に対し,バックアップとして供給する液化アルゴンにつき,1立方メートル当たり10円の値上げを申し入れ,これを実施していた。
(査第161号証,第189号証の1及び2,審第43号証)
d バックアップに係る特定エアセパレートガスについての同業他社との調整及び情報交換
前記c(f)のとおり,被審人と日立粉末冶金との同社松戸工場における特定エアセパレートガスの取引は,窒素ガス発生装置のバックアップ用としての液化窒素の取引であるが,被審人は,岩谷産業との間で,日立粉末冶金の松戸工場に対するバックアップ用としての液化窒素の値上げの実施に関して,調整を行っていた。(査第74号証,第162号証)
(イ) 判断
前記(ア)の認定事実のとおり,被審人と各需要者の契約内容をみる限り,バックアップに係る特定エアセパレートガスの価格は,固定価格として規定されておらず,オンサイト契約期間中改定が予定されていないものではなく,実際に一部の需要者との間で値上げ交渉が行われていたことが認められるところ,これらの事実からは,バックアップに係る特定エアセパレートガスの販売価格が値上げの対象となり得たことが認められる。
また,バックアップに係る特定エアセパレートガスの値上げの実施に関し,4社間で情報交換や調整行為が行われていたことが認められるところ,4社間に競争状態がなければ,共同で価格引上げを行うための情報交換や調整行為を行うことなど無意味であるから,このような情報交換や調整行為がなされているということは,バックアップに係る特定エアセパレートガスの販売が他社と競争関係にあることを推認させる。
そして,4社の部長級の者らは,平成19年12月18日及び平成20年1月23日の各会合において,上記のとおり値上げ交渉の余地があり,他社と競争関係にあるバックアップに係る特定エアセパレートガスについて,これを他の特定エアセパレートガスと特に区別することなく本件合意を成立させたのであり,本件合意の成立において,バックアップに係る特定エアセパレートガスも念頭に置いていたものと認められる。
以上によれば,バックアップに係るものであっても,特定エアセパレートガスである限り,本件合意の対象であったと認められる。
(ウ) 被審人の主張について
a 被審人は,バックアップに係る特定エアセパレートガスの価格について一部で値上げ又は値上げの申入れがなされたとしても,バックアップに係る特定エアセパレートガスの価格が本件合意の対象の範囲内であったことを意味しないし,また,バックアップについては他社と競争になるようなものではないから,仮にバックアップに係る特定エアセパレートガスの価格改定がなされたとしても,他社との競争がないこととは両立するものであると主張する。
しかしながら,前記(イ)のとおり,バックアップに係る特定エアセパレートガスの価格の一部について値上げ又は値上げの申入れがなされた事実のみで本件合意の対象に含まれていたと認定するものではない。また,前記(ア)の認定事実のとおり,バックアップに係る特定エアセパレートガスの販売価格の値上げの実施について4社の間で情報交換を行っていたことからすれば,バックアップに係る特定エアセパレートガスが他社と競争になっていたことが認められる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
b 被審人は,査第160号証からは,リカバリー2000において実際にバックアップに係る特定エアセパレートガスに関して値上げ交渉が行われたか明らかとはいえないし,仮にそうであっても,それがスクラム1250においても同様であったとはいえないと主張する。
しかしながら,査第160号証は,リカバリー2000に関する社内プレゼンテーション用の資料と思われるものであり,同資料に記載されていることが社内の営業担当者に周知され,これが実践されたものと推認できる。また,少なくとも,バックアップに係る特定エアセパレートガスについて,他の特定エアセパレートガスと同様に値上げが検討されたことは認定できる。
また,スクラム1250においては,リカバリー2000で価格改定できなかった顧客に対する特定エアセパレートガスの販売価格を値上げの対象として掲げていること(査第155号証)からすれば,リカバリー2000において値上げの対象として挙げられていたバックアップに係る特定エアセパレートガスのうち実際に値上げが実施されなかったものについては,スクラム1250において値上げの対象になっていたものと認められる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
c 被審人は,査第161号証で挙げられている特定エアセパレートガスは,バックアップに係るものは含まれていないため,バックアップに係るものについて値上げがなされたことの証拠にはならない旨主張する。
しかしながら,被審人の工業事業本部オンサイト部長の篠本光弘は,ポーライト熊谷工場,旧東芝シリコーン,日立粉末冶金,旧川鉄鋼板,合鐵産業株式会社へのバックアップに係る特定エアセパレートガスの売上げは「バルク」として分類されている旨述べているところ(審第43号証),査第161号証は,これらの需要者に対し,「バルク」と分類されているガスについて,スクラム1250に基づいて値上げの申入れを行い,その一部について実際に値上げが行われたことを示すものであるから,バックアップに係る特定エアセパレートガスについて値上げの申入れがなされ,その一部について実際に値上げが行われたことを示す証拠といえる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
d 被審人は,本件合意の対象にバックアップに係るものも含まれていたとする岩谷産業の岩永の供述は信用できない上,同人からも,平成20年2月28日の4社による会合において「バックアップ」という言葉が出ておらず,同人以外に「バックアップ」について供述している者がいないのは,バックアップに係る特定エアセパレートガスの販売価格を共同で値上げしようという認識を有していなかったからであると主張する。
しかしながら,岩谷産業の岩永の供述の信用性が高いのは前記(1)ウ(ア)cのとおりであるし,バックアップに係る特定エアセパレートガスも本件合意の対象に含まれていたからこそ,他の一般の特定エアセパレートガスと区別する必要がないため,「バックアップ」という言葉を使わなかったと考えることもできるのであり,むしろ前記(ア)の認定事実と併せ考えれば,そのように推認するのが自然である。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
e 以上のとおり,被審人の前記各主張にはいずれも理由がないから,本件合意の対象にバックアップに係る特定エアセパレートガスも含まれるという認定は何ら妨げられない。
ウ 超高純度ガスについて
(ア) 判断
被審人の主張によれば,超高純度ガスとは,純度が99.7パーセント以上又は99.9999パーセント以上など,特別の仕様又は品質が求められるエアセパレートガスをいうとのことである。
このようないわゆる超高純度ガスは,製造工程において通常のエアセパレートガスと異なった前工程や精留過程を経るなどの相違があったとしても(審第62号証),液化した空気を精留して分離するという基本的な製造工程は通常のエアセパレートガスと異なることはなく,輸送においても,超高純度ガスについては特殊なタンクローリーが用いられるという相違があったとしても(審第62号証),タンクローリーによって供給を行うという点において異なるところはない。また,コスト構造においては,製造や運搬に要するエネルギーコストが主たる費用を占めるという点において通常のエアセパレートガスと共通している。以上のことからすれば,特定エアセパレートガスの値上げを検討するに当たっては,通常のエアセパレートガスのみならず超高純度ガスも同様に値上げを検討するのが合理的であって,上記の相違点を強調して超高純度ガスを本件合意の対象から除外していたとは考え難い。
また,超高純度ガスはエレクトロニクス産業に多く用いられるものであるところ,エレクトロニクス産業向けのものが本件合意の対象に含まれていたことは前記ア(イ)のとおりである。さらに,4社の部長級の者による会合において,本件合意の対象から超高純度ガスに該当するものを除くなどの意見が出ていたことは何らうかがわれないし,被審人は,本件合意後,他の特定エアセパレートガスと同様,ローリー供給に係る超高純度ガスの需要者に対し,値上げの申入れ及び値上げの実施を行っていたことが認められる(査第163号証)。
以上によれば,超高純度ガスであっても,ローリー供給に係るものである限り,特定エアセパレートガスに該当するのであり,本件合意の対象であったと認められる。
(イ) 被審人の主張について
被審人は,超高純度ガスについて値上げの申入れや値上げの実施が行われていたとしても,値上げをしたからそれらが本件合意の対象に含まれるというのは論理の飛躍があると主張するが,本件合意の内容に即した値上げの申入れや値上げの実施がなされていたことは,超高純度ガスが本件合意の対象に含まれていたことを補強する重要な間接事実である上,前記(ア)のとおり,値上げの申入れ及び値上げの実施がなされていたことのみをもって,超高純度ガスが本件合意の対象に含まれていたと認定したものではないから,被審人の当該主張には理由がない。
(3) 本件合意が「共同して相互にその事業活動を拘束」するものであること
以上によれば,4社の間で,特定エアセパレートガスの販売価格を引き上げる旨の本件合意が成立したことが認められるところ,このような本件合意により4社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法第2条第6項の「その事業活動を拘束し」の要件を充足する。
また,本件合意の成立により,4社の間に,本件合意の内容に基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,同項の「共同して・・・相互に」の要件も充足する。
2 争点2(本件合意は一定の取引分野における競争を実質的に制限するか。)について
(1) 特定エアセパレートガスの販売分野という取引分野の画定の可否
ア 独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される(最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決・民集第66巻第2号796頁〔株式会社新井組ほか3名による審決取消請求事件〕参照)。
そして,この「一定の取引分野」は,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されている否かを判断するために画定するものであるところ,不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としているものであるし,また,行政処分の対象として必要な範囲で市場を画定するという観点からは,共同行為の対象外の商品役務との代替性や対象である商品役務の相互の代替性等について厳密な検証を行う実益は乏しいのであるから,通常の場合,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りると解される(前記東京高等裁判所平成5年12月14日判決参照)。
本件においては,本件合意がタンクローリーによって供給される液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの総称である特定エアセパレートガスの販売価格の引上げに関するものである以上,特定エアセパレートガスの販売分野という一定の取引分野を画定し,このような取引分野において競争が実質的に制限されているかを検討するのが相当であり,かつ,それで足りるというべきである。
イ これに対し,被審人は,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴン相互間には需要の代替性がなく,各ガス種間に競争関係が存在しないから,これらを合わせた特定エアセパレートガスという1個の取引分野は成立し得ない旨主張する。
しかしながら,本件において,4社は,いずれも液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの製造及び販売を営む者であり,平成20年度の我が国において,13社の商流上における直接の販売相手(当該販売相手が需要者,ディーラー,他の製造業者のいずれであるかを問わない。)への特定エアセパレートガスの総販売金額(ただし,13社間の売買に係る販売金額は除外する。)に対する4社の各販売金額の割合を計算すると,以下の表のとおりであることが認められるから,4社は,我が国における特定エアセパレートガス全体についても,それぞれのガス種のいずれについても,90パーセント弱の高い市場占有率を有するものである。(査第6号証の2,第144号証,第145号証)
(※表は省略)
このような4社が,これらのガスの製造費用のうち大きな比率を占めている電気料金,重油価格及び軽油価格の高騰を背景に,タンクローリーによる輸送によって供給される液化酸素,液化窒素及び液化アルゴン(ただし,医療に用いられるものとして販売するものを除く。)の販売価格を引き上げる旨の本件合意を行ったものである。そして,前記第3のとおり,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,いずれも空気を唯一の原料とするものである上,深冷分離方式という同一の製造方法によって製造されるものであり,デオキソユニット及びアルゴン精留塔が設置された複式精留塔が設備されている工場において併産することが可能なものであって,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,原料,製造方法において共通する部分が多い。これらの事情を併せ考慮すれば,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,相互に需要の代替性がないものであるとしても,これらの総称である特定エアセパレートガス全体を一個の取引分野として画定することについて,特に不都合は見当たらず,むしろ,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンに共通する値上げ要因である電気料金,重油価格及び軽油価格の高騰を背景に,いずれのガス種についても高い市場占有率を有する4社により本件合意が行われた,という本件の社会的実態に即した形で,取引の実質的制限の判断が可能になるものである。
したがって,特定エアセパレートガスの販売分野という1個の取引分野は成立し得るのであり,この点に関する審査官の主張は相当である。
(2) 本件合意が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲について
前記(1)のとおり,独占禁止法第2条第6項にいう「一定の取引分野」とは,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,画定されるものである。
前記第3のとおり,特定エアセパレートガスの販売経路は,製造業者が直接需要者に販売する場合のほか,製造業者がディーラーに販売し,ディーラーがそれを需要者に販売する場合,製造業者がグループ会社に販売し,グループ会社が需要者に販売する場合,製造業者がディーラーポジションになり,他の製造業者から特定エアセパレートガスを購入し,それを直接又はディーラーを通じて需要者に販売する場合など様々なものがあるところ,本件合意は,4社の取引先に対する特定エアセパレートガスの販売価格を引き上げる旨の合意である。そして,本件合意は,ディーラー又はグループ会社から需要者への販売価格まで制限するものではないが,4社による特定エアセパレートガスの総販売金額は,我が国における大手のガス製造業者13社による特定エアセパレートガスの総販売金額の約9割を占めているのであるから,4社の取引先に対する特定エアセパレートガスの販売価格が引き上げられると,ディーラー又はグループ会社から需要者への販売価格にも影響を与えることは明らかである。
したがって,本件における一定の取引分野を,製造業者による出荷から需要者の購入に至るまでの特定エアセパレートガスの販売分野全体としたのは相当である。
(3) 市場占有率の算定方法について
本件における4社の市場占有率については,4社を含む大手ガス製造業者13社の直接の販売相手(需要者,ディーラー,他の製造業者のいずれかを問わない。)に対する販売金額を算出し(ただし,13社間売買に係る販売金額は除外する。),これに対する4社の各販売金額の割合を計算する方法により算定した。
本件のように,一定の取引分野が,製造業者から需要者への直接販売のほか,製造業者がディーラーへ直接販売し,ディーラーがそれを需要者へ販売するもの,製造業者がグループ会社に直接販売し,グループ会社がそれを需要者に販売するもの,製造業者がディーラーポジションになり,他の製造業者から特定エアセパレートガスを購入し,それを直接又はディーラーを通じて需要者に販売するものなど,複数の取引段階を包含して画定される場合,取引段階を異にする全ての販売に係る販売金額を合計することは,一つの商品の販売金額が重複して計上される場合もあることから,これを避ける必要がある。
この場合,製造業者の市場占有率が問題なのであるから,4社を含む大手ガス製造業者13社の直接の販売相手に対する取引段階を捕捉して算定する方法が,製造業者別にその販売金額を直接的に把握することができる点で,多数存在するディーラーや需要者からその取引金額を集計する方法よりも,正確性や簡便性の点で優れており,さらに,13社各社の総販売金額を単純に合計すると,13社間の売買部分について一つの商品の販売金額が重複して計上されることになるから,当該13社間の売買における売主の販売金額を控除したものである。
このような,本件における4社の市場占有率の算定方法は合理的であり,これに対して被審人は,上記算定方法が不相当である旨縷々主張するが,いずれも合理的理由に乏しいものであり,上記判断を妨げるものではない。
(4) 本件合意が一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであること
以上によれば,我が国における大手ガス製造業者13社による特定エアセパレートガスの総販売金額の約9割を占めていた4社が本件合意をしたものであり,これにより4社がその意思で我が国における特定エアセパレートガスの取引分野における販売価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされたことが認められるから,本件合意は,独占禁止法第2条第6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足する。
3 争点3(本件排除措置命令の必要性及び相当性)について
(1) 排除措置を命ずるにつき「特に必要であると認められるとき」に該当するか否か
ア 「特に必要があると認めるとき」の意義
独占禁止法第7条第2項は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,事業者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定している。
同項にいう「特に必要があると認めるとき」とは,排除措置を命じた時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される(前記東京高等裁判所平成20年9月26日判決参照)。
また,「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する公正取引委員会の専門的な裁量が認められているというべきである(最高裁判所第一小法廷平成19年4月19日判決・公正取引委員会審決集第54巻657頁〔株式会社東芝ほか1名による審決取消請求事件〕参照)。
イ 本件における事情
本件合意は,平成22年1月19日以降,事実上消滅し,その結果,被審人の違反行為もなくなっている。
しかしながら,本件違反行為の実行期間は約1年9か月と決して短くない。また,4社は,平成20年当時,我が国における大手のガス製造業者13社による特定エアセパレートガスの総販売金額の約9割を占めており,このような寡占状態は,本件排除措置命令時においても,将来相当期間継続することが容易に予想されたところであって,4社が協調的な行動を取りやすく,同種の違反行為が行われやすい環境であったといえる。さらに,被審人を含む4社が,平成22年1月19日に本件違反行為を取りやめたのは,公正取引委員会が,同日,本件違反行為について立入検査を行ったことを契機とするものであり,被審人らの自発的な意思に基づくものではなかった。
以上によれば,被審人らによって本件違反行為と同様の違反行為が繰り返されるおそれがあると認められる。
したがって,本件において,被審人に対して排除措置を命ずるにつき「特に必要がある」と認められる。
(2) 本件排除措置命令の主文の相当性
ア 公正取引委員会の裁量
排除措置命令の主文には,公正取引委員会が名宛人に命ずる措置の具体的内容が現れるところ,独占禁止法の運用機関として競争政策に専門的な知見を有する公正取引委員会には,「特に必要がある」と認めて排除措置命令を行うべきか否かという点だけでなく,命ずる措置の内容についても,専門的な裁量が認められているというべきである(不当景品類及び不当表示防止法違反に係る事件における東京高等裁判所平成20年5月23日判決・公正取引委員会審決集第55巻842頁〔株式会社ベイクルーズによる審決取消請求事件〕参照)。
イ 主文第1項(2)及び第3項並びに第1項(3)及び第4項について
被審人は,本件排除措置命令の主文第1項(2)及び第3項並びに第1項(3)及び第4項は,いずれも「他の事業者」に限定がなく,「販売価格」の意味も不明であるため,その適用範囲が過度に広範で不明確である旨主張する。
しかしながら,本件排除措置命令は,特定エアセパレートガスの販売分野において競争関係にある4社が,共同して特定エアセパレートガスの販売価格を引き上げる旨の合意をしたことを違反行為として,当該違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命じたものである。このような本件排除措置命令の趣旨,目的に鑑み,社会通念に従って合理的に解釈すれば,本件排除措置命令の主文の上記各条項において販売価格の決定やその改定に関する情報交換が禁止される「他の事業者」とは,競争関係に立つ事業者を意味し,ここで禁止される「販売価格」の決定やその改定に関する情報交換とは,競争事業者間における競争手段となるはずである自社の販売先に対する「販売価格」に関する決定やその改定に関する情報交換を当該競争事業者間ですることを意味するということはおのずと明らかであり,本件排除措置命令の主文の上記各条項の内容は何ら不明確とはいえない。
また,「他の事業者」や「販売価格」の意味内容について,上記のとおり解される以上,本件排除措置命令の主文の上記各条項の適用範囲が過度に広範ということもない。なお,本件合意は4社による直接の販売先に対する販売価格の引上げの合意であるが,4社が特定エアセパレートガスの販売分野全体に与える影響を鑑みると,ここでいう「販売価格」とは,直接の販売先のみならず,ディーラー等を介した間接の販売先である最終需要者等に対する販売価格を含むものと解するのが相当であるし,このような範囲についてまで販売価格に関する決定や情報交換を行うことを禁止することが,過度に広範な規制であるということはできない。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
ウ 主文第2項について
被審人は,本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置の周知を命ずる同主文第2項は,その周知先である「販売業者」の範囲が明らかでなく,同じく周知先である「製造業者」には,文理上,仕入先が含まれるが,仕入先に周知する根拠も必要もないとして,同条項は過度に広範かつ不明確な措置である旨主張する。
しかしながら,上記主文第2項によって周知が命じられる「製造業者及び販売業者」とは,同項に「自社の取引先である特定エアセパレートガスの製造業者及び販売業者」とあるとおり,取引関係の存することが前提となっているから,被審人自身の特定エアセパレートガスの取引関係に照らせば,その範囲はおのずと明らかである。
また,本件違反行為は,特定エアセパレートガスの販売価格の引上げカルテルであるところ,これを排除するための本件排除措置命令の趣旨,目的に鑑み,社会通念に従って合理的に解釈すれば,同主文第2項における「取引先である・・・製造業者及び販売業者」に仕入先を含まないことは明らかである。
さらに,同主文第2項は,その周知の方法について,あらかじめ公正取引委員会の承認を受けなければならないところ,周知先や周知文案を含め,周知方法は,公正取引委員会による本件排除措置命令の趣旨,目的と社会通念に従って導かれる客観的基準に即した裁量(最高裁判所第二小法廷昭和52年4月13日決定・公正取引委員会審決集第24巻234頁〔共同石油株式会社に対する件〕参照)に基づく承認によって確定されるのであるから,同項が過度に広範で不明確であるということもない。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
エ 以上のとおり,本件排除措置命令の主文は,何ら過度に広範で不明確なものとはいえず,違法とはいえない。
4 争点4(課徴金算定の対象)について
(1) 独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範疇に属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであるが,違反行為の対象商品の範疇に属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる当該商品に含まれ,違反行為者が,実行期間中に違反行為の対象商品の範疇に属する商品を引き渡して得た対価の額が,課徴金の算定の基礎となる売上額となると解すべきである(東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊194頁〔出光興産株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
そして,本件における特定エアセパレートガスのうち,被審人が「当該商品」に該当しないと主張する,①エレクトロニクス産業向けのもの,大規模顧客向けのもの,バックアップに係るもの,超高純度ガスに当たるもの,②シリンダー充てん業者に対して販売したもの,③全額出資子会社等に対して販売したものは,いずれも特定エアセパレートガスである以上,本件違反行為の対象商品の範疇に属する商品であることは明らかである。
そこで以下,上記①ないし③について,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が存在するか否かを検討する。
(2) 特定エアセパレートガスのうち,エレクトロニクス産業向けのもの等について
前記1(2)のとおり,特定エアセパレートガスのうち,エレクトロニクス産業向けのもの,大規模顧客向けのもの,バックアップに係るもの及び超高純度ガスに該当するものは,いずれも本件合意の対象に含まれており,本件合意による相互拘束から除外されていることを示す事情は見当たらない。
したがって,これらは「当該商品」に含まれる。
(3) 特定エアセパレートガスのうち,シリンダー充てん業者に対して販売したものについて
被審人は,シリンダー充てん業者に対する取引は,特定エアセパレートガスの販売分野という一定の取引分野に含まれないから,シリンダー充てん業者に対して販売したエアセパレートガスは「当該商品」に該当しない旨主張する。
しかしながら,前記2(2)のとおり,本件における「一定の取引分野」は,特定エアセパレートガスの販売分野全体であり,ローリー供給によって供給されるエアセパレートガスの販売であれば,取引段階を問わず本件における「一定の取引分野」に含まれるものである。そして,被審人からシリンダー充てん業者に対しローリー供給によって供給されるエアセパレートガス,すなわち特定エアセパレートガスの販売も当然にこれに含まれるものであり,これを別異に解する理由はない。
被審人は,エアセパレートガス一般の需要者にまでローリー供給によって供給されるものでない限り「特定エアセパレートガスの販売分野」に当たらないと主張するが,これは本件における「一定の取引分野」に対する理解を誤っているものである。すなわち,シリンダー充てん業者からエアセパレートガス一般の需要者への販売はシリンダー供給であるため,本件の一定の取引分野には当たらないが,その前段階である特定エアセパレートガスの製造業者からシリンダー充てん業者への販売はローリー供給であるため,特定エアセパレートガスの販売分野に含まれるものである。
したがって,被審人の上記主張には理由がなく,シリンダー充てん業者に対して販売した特定エアセパレートガスについて,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は存在しない。
したがって,これらは「当該商品」に含まれる。
(4) 特定エアセパレートガスのうち,全額出資子会社等に対して販売したものについて
被審人は,全額出資子会社等に対する売上げは,経理上売上げとしているものの,同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るものであるから,対象商品の範疇に属しないか,少なくとも違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が存在する旨主張する。
しかしながら,全額出資子会社等であるとはいえ,被審人とは別個の法人格を有し,法律上も独立の取引主体として活動しているものである以上,そのような子会社に販売した商品が違反行為の対象である商品から除外されているものと認めることはできない。全額出資子会社等に対する商品の販売が,同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るような事情が存在する場合には,そのような子会社へ販売した商品が,違反行為の対象となる商品から除外され,その商品の売上額が,課徴金算定の基礎となる売上額から除外されると解すべき余地はあるが(前記東京高等裁判所平成22年11月26日判決参照),本件においては,被審人から全額出資子会社等への特定エアセパレートガスの販売が同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るような事情は見当たらない。
以上のとおり,全額出資子会社等に対して販売した特定エアセパレートガスについて,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は存在しない。
したがって,これらは「当該商品」に含まれる。
5 争点5(課徴金算定率)について
(1) 課徴金の計算における業種の認定について
ア 課徴金の計算に当たり,違反行為に係る取引について,小売業又は卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合には,実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種を決定するのが相当である(東京高等裁判所平成24年5月25日判決・公正取引委員会審決集第59巻第2分冊1頁〔昭和シェル石油株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
また,独占禁止法第7条の2第1項が小売業又は卸売業について例外的に軽減した課徴金算定率を規定したのは,卸売業や小売業の事業活動の性質上,売上高営業利益率が小さくなっている実態を考慮したためであるから,課徴金の計算に当たっては,外形的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情(以下,単に「特段の事情」という。)があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うことが相当である(東京高等裁判所平成18年2月24日判決・公正取引委員会審決集第52巻744頁〔東燃ゼネラル石油株式会社による審決取消請求事件〕,同裁判所平成26年9月26日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」〔エア・ウォーター株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
そして,特段の事情の有無は,仕入先への出資比率や役員構成,運営への関与,出向者数,技術・設備の供与,利益構造,製造面での関与,業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性,その他の要素を考慮し,事業活動の実態を総合的に検討する必要がある(前記東京高等裁判所平成26年9月26日判決,公正取引委員会平成26年10月14日審決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」〔エア・ウォーター株式会社に対する件〕参照)。
イ これに対し,被審人は,過半理論を用いて単一の業種認定を行うのは誤りであり,按分理論を用いるべきであるとして,過半理論が誤りである理由を縷々主張する。
しかしながら,独占禁止法施行令第5条第1項前段及び第6条第1項は,実行期間における違反行為の対象商品又は役務の売上額(対価を合計した結果としての売上額)を算定し,これに,原則として100分の10,小売業については100分の3,卸売業については100分の2と,業種に応じた一つの課徴金算定率を乗じることにより,課徴金額を算定することを規定している。これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準が明確であることが望ましく,また,課徴金制度の積極的かつ効率的な運営により違反行為の抑止効果を確保するためには,算定が容易であることが必要であることが考慮されたものと解される。このような独占禁止法及び同法施行令の趣旨に鑑みれば,業種ごとに売上額を計算し,業種ごとの各売上額にそれぞれ業種に応じた課徴金算定率を乗じた上で,その結果を合算するとの方式を同法が予定していると解することはできない。したがって,違反行為に係る取引について,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合にも,一つの課徴金算定率が用いられるべきであるが,その場合,当該事業活動全体で,どの業種の事業活動の性格が強いかにより,業種の認定をせざるを得ず,そうすると,実行期間における違反行為に係る取引において,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて業種を決定するのが相当である。
このように解すると,認定されなかった業種に係る事業活動について,認定された業種に応じた課徴金算定率を乗ずることになるが,課徴金制度は,個々の事案ごとに経済的利益を算定することを予定しておらず,課徴金の額は「不当な取引制限」行為によって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないから,問題はないというべきである(最高裁判所第三小法廷平成17年9月13日判決・民集第59巻第7号1950頁〔東京海上日動火災保険株式会社ほか13名による審決取消請求事件〕参照)。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
(2) 本件における検討対象
被審人が,本件実行期間中に,自ら製造し販売した特定エアセパレートガス及びオキシトン7社から購入して販売した特定エアセパレートガスを合算した数量は,同期間の被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び購入数量の合計の約56.37パーセントに相当し,過半を占めていたことが認められる(査第170号証)。
そこで,以下,オキシトン7社からから購入して販売した特定エアセパレートガスに係る取引について,特段の事情があるか検討する。
ア エアセパレートガスの製造拠点
エアセパレートガスの製造業者は,エアセパレートガスを顧客に安定的に供給し,また,その輸送等に係る費用を削減するため,顧客の所在する地域に合わせて,国内の各地に製造拠点を設けていた。すなわち,エアセパレートガスの製造業者は,国内の各地に自らエアセパレートガスの製造工場を設置するのみならず,設備投資に対する過大なリスクを回避し,かつ,エアセパレートガスの製造に掛かる費用を削減するという経済合理性等の観点から,子会社を設立して製造工場を設置させたり,他の事業者との合弁事業により別法人を設立して製造工場を設置したりするなどして,製造拠点を設けていた。(査第164号証ないし第169号証)
イ 株式会社水島オキシトン(以下「水島オキシトン」という。)
水島オキシトンは,被審人(正確には,いずれも被審人の前身である,大阪酸素工業株式会社〔被審人が吸収合併したJAGの変更前の商号。以下「大阪酸素工業」という。〕及び帝国酸素株式会社〔被審人の変更前の商号。以下「帝国酸素」という。〕であるが,吸収合併によりいずれの権利義務関係も被審人が承継していることから,以下,当時の主体が大阪酸素工業や帝国酸素であっても「被審人」と称する。)が岡山県倉敷市水島地区にあるコンビナートに供給する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして設立された会社であり,本件実行期間中,被審人の販売する特定エアセパレートガスである液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの一部を製造していたものであって,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったと認められる。(査第170号証,第172号証,第174号証の1及び2)
また,水島オキシトンは,本件実行期間中,被審人が議決権の100パーセントを保有する被審人の完全子会社であり,水島オキシトンの取締役は1名であるところ,その者は被審人の従業員であった(査第173号証)。さらに,被審人は,水島オキシトンの必要とする設備の調達を一任されていたほか,工場の運転保守及び増設も,全て被審人の管理及び援助の下で行うこととされていた(査第174号証の1)。加えて,水島オキシトンは,自ら製造する特定エアセパレートガス等の製品を全て被審人に対して販売していた(旭化成水島コンビナートに供給するガス状窒素も,帝国酸素,すなわち被審人を介して同コンビナートに供給されていた。)(査第174号証の1及び2)。しかも,被審人は,水島オキシトンの工場運営のため,原則として,毎月分,毎週分等の製品引取計画を,各々定める期日までに,水島オキシトンに通知することとされていた(査第174号証の1及び2)。
以上の事実を総合的に検討すると,被審人による100パーセントの議決権保有率や取締役に対して被審人の支配が及んでいるという会社支配の観点,被審人により製造設備の設置管理が行われている状況,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の全量引取りの実態,被審人による水島オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,水島オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造については,被審人の支配下にあるといえるものであって,被審人自らが製造するのと同様の実態があったといえる。
ウ 北九州オキシトン株式会社(以下「北九州オキシトン」という。)
北九州オキシトンは,被審人及びエア・ウォーターが販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして設立された会社であり,本件実行期間中,被審人が販売する特定エアセパレートガスである液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの一部を製造していたものであって,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったと認められる。(査第170号証,第172号証,第175号証)
また,北九州オキシトンは,本件実行期間中,被審人が議決権の79パーセントを保有する被審人の子会社であり,北九州オキシトンの取締役2名中1名は被審人の従業員であって,平成21年1月1日時点における北九州オキシトンの代表取締役は,被審人の常務執行役員であった(査第173号証,第175号証,第181号証)。さらに,被審人は,北九州オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品のうち,出資割合に相当する概ね79パーセントを引き取ることとしていた(査第166号証,第175号証)。しかも,被審人は,北九州オキシトンに対し,年間,四半期ごとその他必要な製品引取計画を提出することとしていた(査第175号証)。
以上の事実を総合的に検討すると,被審人による79パーセントという高い議決権保有率や,取締役の半数及び代表取締役に対して被審人の支配が及んでいるという会社支配の観点,北九州オキシトンの製造する特定エアセパレートガス等の製品の約79パーセントを被審人が引き取っている実態,被審人による北九州オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,北九州オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造については,被審人の支配下にあるといえるものであって,被審人自らが製造するのと同様の実態があったといえる。
エ 鹿児島オキシトン株式会社(以下「鹿児島オキシトン」という。)
鹿児島オキシトンは,被審人が販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして,被審人及び京都セラミック株式会社(以下「京都セラミック」という。)によって設立された会社であり,本件実行期間中,被審人の販売する特定エアセパレートガスである液化酸素及び液化窒素の一部を製造していたものであって,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったと認められる。(査第170号証,第172号証,第176号証の1及び3)
また,鹿児島オキシトンは,本件実行期間中,被審人が議決権の75パーセントを保有する被審人の子会社であり,鹿児島オキシトンの取締役6名のうちの4名が被審人の従業員であり,代表取締役も被審人が指名することとされていた(査第173号証,第176号証の1)。さらに,被審人は,鹿児島オキシトンの本社事務及び工場の技術管理について委託を受けていたほか,工場設備の建設についても,設計から試運転までを総括的に引き受け,増設を含めた設備一式を建設した上で,これを鹿児島オキシトンに賃貸していた(査第176号証の1)。加えて,被審人は,鹿児島オキシトンの設立当初,鹿児島オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品の全てを引き受けており(被審人が,その中から,京都セラミックが同社の国分工場及び川内工場で必要とするガスを供給する。),岩谷産業による資本参加後は,被審人及び岩谷産業が引き受けていた(被審人が岩谷産業を通じて,京都セラミックへの上記供給を行い,その余の製品は被審人が74パーセント,岩谷産業が26パーセントの割合で引き取る権利及び義務を有していた。)(査第176号証の1及び2)。しかも,被審人は,鹿児島オキシトンに対し,製品ごとに,年間引取予定量及び月間引取予定量を通知することとしており,鹿児島オキシトンが製造して被審人に販売する特定エアセパレートガス等の製品の販売価格は,製造経費等を賄うよう,被審人と鹿児島オキシトンが協議の上決定することとされていた(査第176号証の3)。
以上の事実を総合的に検討すると,被審人による75パーセントという高い議決権保有率や,取締役の過半数及び代表取締役に対して被審人の支配が及んでいるという会社支配の観点,被審人により鹿児島オキシトンの事務管理や製造設備の設置管理が行われている状況,鹿児島オキシトンの製造する特定エアセパレートガス等の製品の74パーセントを被審人が引き取っている実態,被審人による鹿児島オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,鹿児島オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造については,被審人の支配下にあるといえるものであって,被審人自らが製造するのと同様の実態があったといえる。
オ 熊本オキシトン株式会社(以下「熊本オキシトン」という。)
熊本オキシトンは,被審人が販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造して,安定かつ廉価に供給することを目的の一つとして,被審人及びチッソ株式会社(以下「チッソ」という。)によって設立された会社であり,本件実行期間中,被審人が販売する特定エアセパレートガスである液化酸素及び液化窒素の一部を製造していたものであって,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったものと認められる。(査第170号証,第172号証,第177号証の1及び2)
また,熊本オキシトンは,本件実行期間中,被審人が議決権の70パーセントを保有する被審人の子会社であり,熊本オキシトンの取締役5名中3名は被審人の従業員であり,代表取締役も被審人が指名することとされていた(査第173号証,第177号証の1)。さらに,熊本オキシトンの工場,設備等は,被審人が建設,製作し,熊本オキシトンに賃貸することとされていた(査第177号証の1)。加えて,被審人は,熊本オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品の全てを引き取ることとしており,これを優先的にチッソに販売することとされていた(査第177号証の1及び2)。しかも,被審人は,熊本オキシトンに対し,年間月別引取計画,月間週別引取計画等を提示し,熊本オキシトンと協議の上,引取予定量を確定することとされており,また,被審人は,熊本オキシトンの必要な経費を賄うに足りる引取保証と製品価格の設定を行うこととされていたほか,製造した製品の実績数量が予定数量と著しく相違する場合,原価要素の増減に基づき製品価格を設定する場合について,被審人,チッソ及び熊本オキシトンが協議決定することとされていた(査第177号証の1及び2)。
以上の事実を総合的に検討すると,被審人による70パーセントという高い議決権保有率や,取締役の過半数及び代表取締役に対して被審人の支配が及んでいるという会社支配の観点,被審人により熊本オキシトンの製造設備の設置が行われている状況,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の全量引取りの実態,被審人による熊本オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,熊本オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造については,被審人の支配下にあるといえるものであって,被審人自らが製造するのと同様の実態があったといえる。
カ 川崎オキシトン株式会社(以下「川崎オキシトン」という。)
川崎オキシトンは,被審人,小池酸素工業株式会社(以下「小池酸素工業」という。)及び昭和電工株式会社(以下「昭和電工」という。)の3社が販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして,3社が共同して設立した会社であり,本件実行期間中,被審人が販売する特定エアセパレートガスである液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの一部を製造していたものであって,川崎オキシトンは,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったと認められる。(査第170号証,第172号証,第178号証の1及び2)
また,川崎オキシトンは,本件実行期間中,被審人が議決権の61パーセントを保有する被審人の子会社であり,川崎オキシトンの取締役4名中2名は被審人の従業員であり,代表取締役も被審人が指名することとされていた(査第173号証,第178号証の1)。さらに,被審人は,川崎オキシトンの運営を行っていたほか,工場の建設を試運転完了まで総括的に引き受け,これを被審人の神奈川工場内に建設し,所要の土地を被審人が川崎オキシトンに賃貸することとしていた(査第178号証の1)。加えて,川崎オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品のうち,液化酸素及び液化窒素については,被審人が約43パーセント,小池酸素工業が約36パーセント,昭和電工が約21パーセントを引き取り,液化アルゴンについては,被審人が約51パーセント,小池酸素工業が約30パーセント,昭和電工が約19パーセントを引き取ることとされていた(査第178号証の1及び2)。しかも,被審人は,川崎オキシトンに対し,月間,週間その他必要な製品引取計画を提出し,小池酸素工業及び昭和電工とともに,川崎オキシトンの製造計画と上記3社の引取計画の調整を,毎月定期的に又は随時必要に応じて協議しており,川崎オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品の販売価格は,固定代金と従量料金の合計額とされ,従量料金の単価については,川崎オキシトンの予算の変動費を賄えるように,被審人,小池酸素工業,昭和電工及び川崎オキシトンが協議の上決定することとされていた(査第178号証の2)。
以上の事実を総合的に検討すると,被審人による61パーセントという高い議決権保有率や,取締役の半数及び代表取締役に対して被審人の支配が及んでいるという会社支配の観点,被審人により川崎オキシトンの運営及び製造設備の設置が行われている状況,川崎オキシトンの製造する特定エアセパレートガス等の製品の4割ないし5割を被審人が引き取っている実態,被審人による川崎オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,川崎オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造については,被審人の支配下にあるといえるものであって,被審人自らが製造するのと同様の実態があったといえる。
キ 四日市オキシトン株式会社(以下「四日市オキシトン」という。)
四日市オキシトンは,その製造する特定エアセパレートガス等の製品の全てを被審人に販売することを目的の一つとして,被審人及び新大協和石油化学株式会社によって設立された株式会社であり,本件実行期間中,被審人の販売する特定エアセパレートガスである液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの一部を製造していたものであって,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったと認められる。(査第170号証,第172号証,第179号証の1及び2)
また,四日市オキシトンは,本件実行期間中,被審人が議決権の60パーセントを保有する被審人の子会社であり,四日市オキシトンの取締役2名中1名は被審人の従業員であり,代表取締役も被審人が指名することとされていた(査第173号証,第179号証の1)。さらに,被審人は,四日市オキシトンにおける工場の技術管理を含む本社事務の委託を受けていたほか,工場は被審人の四日市工場内とされ,被審人は,新たに空気分離装置を建設するとともに,四日市オキシトンに対し,既存の空気分離装置と所要の土地を賃貸することとしていた(査第179号証の1)。加えて,四日市オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品は,全て被審人に売り渡し,被審人以外に販売しないものとされていた(査第179号証の1及び2)。しかも,被審人は,四日市オキシトンに対し,月間,週間その他必要な液化ガス引取計画を提出していたほか,四日市オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品の販売価格は,製造経費等を賄うよう,被審人及び四日市オキシトンが協議の上決定することとされていた(査第179号証の2)。
以上の事実を総合的に検討すると,被審人による60パーセントという高い議決権保有率や,取締役の半数及び代表取締役に対して被審人の支配が及んでいるという会社支配の観点,被審人により四日市オキシトンの事務管理及び製造設備の設置管理が行われている状況,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の全量引取りの実態,被審人による四日市オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,四日市オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造については,被審人の支配下にあるといえるものであって,被審人自らが製造するのと同様の実態があったといえる。
ク 製鉄オキシトン株式会社(以下「製鉄オキシトン」という。)
製鉄オキシトンは,合併により新日本製鐵株式会社に承継される前の富士製鐵株式会社(以下「旧富士製鐵」という。)が必要とし,被審人が販売する特定エアセパレートガス等を,低廉かつ安定して製造することを目的の一つとして,被審人及び旧富士製鐵によって設立された株式会社であり,本件実行期間中,被審人が販売する特定エアセパレートガスである液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの一部を製造していたものであって,製鉄オキシトンは,被審人による特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったと認められる。(査第170号証,第172号証,第180号証の1及び2)
また,製鉄オキシトンは,本件実行期間中,被審人が議決権の60パーセントを保有する被審人の子会社であり,製鉄オキシトンの取締役5名中3名は被審人従業員であり,代表取締役も被審人が指名することとされていた(査第173号証,第180号証の1)。さらに,被審人は,製鉄オキシトンの経営を行い,空気分離装置一式についても,被審人が設計し製作するものとされていた(査第180号証の1)。加えて,被審人は,製鉄オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品を基準引取量に達するまで引き取ることとしているところ,そのうち液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンについては,被審人のみが基準引取量を設けており,液化窒素及び液化アルゴンについては被審人が優先的に引き取ることができるとされていた(査第180号証の1及び3)。しかも,被審人は,旧富士製鐵及び製鉄オキシトンとともに,毎四半期及び毎月の製造及び供給計画を協議決定し,製鉄オキシトンが製造する特定エアセパレートガス等の製品の販売価格は,諸経費を賄うこと等を勘案して,旧富士製鐵,被審人及び製鉄オキシトンが,四半期ごとに基準価格を協議決定することとされていた(査第180号証の1ないし3)。
以上の事実を総合的に検討すると,被審人による60パーセントという高い議決権保有率や,取締役の過半数及び代表取締役に対して被審人の支配が及んでいるという会社支配の観点,被審人により製鉄オキシトンの経営管理及び製造設備の設置が行われている状況,製鉄オキシトンの製造する特定エアセパレートガスを優先的に被審人が引き取っている実態,被審人による製鉄オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,製鉄オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造については,被審人の支配下にあるといえるものであって,被審人自らが製造するのと同様の実態があったといえる。
(3) 検討
以上のとおり,オキシトン7社による特定エアセパレートガスの製造分については,被審人が自ら特定エアセパレートガスを製造しているのと同様の実態があったといえるのであり,実質的に見て,小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情が認められる。
そして前記(2)のとおり,被審人が,本件実行期間中に,自ら製造し販売した特定エアセパレートガス及びオキシトン7社から購入して販売した特定エアセパレートガスを合算した数量は,同期間の被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び購入数量の合計の約56.37パーセントに相当し,過半を占めていたことが認められるから,過半理論により,被審人の業種を小売業又は卸売業以外の業種と認定し,課徴金算定率を100分の10とするのが相当である。
(4) 被審人の主張について
ア 被審人は,課徴金算定の対象である「当該商品」の認定においては,全額出資子会社も別個の法人格を有しており,独立の取引主体となることを理由として,全額出資子会社に対する売上げも課徴金算定の対象としている一方で,業種認定においては,子会社であることを理由として被審人の製造拠点と同視できるという判断をするのは矛盾である旨主張する。
しかしながら,違反行為の対象商品の範疇に属する「当該商品」に含まれるか否かの判断と業種認定の判断は全く異なる場面であるから,「特段の事情」の判断基準や考慮すべき具体的事情が異なるのも当然である。したがって,オキシトン7社の製造分について,小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認める一方で,被審人が全額出資子会社に販売した特定エアセパレートガスについては本件違反行為の対象から除外されたことを示す事情がないとして,「当該商品」に該当すると判断することは何ら矛盾するものではなく,この点に関する被審人の主張には理由がない。
イ 被審人は,オキシトン7社はいずれも主要顧客に対して酸素又は窒素をパイピング供給することを目的で設立された会社であるから,オキシトン7社から被審人に対する特定エアセパレートガスの販売は,オキシトン7社の設立の目的ではない旨主張する。
しかしながら,オキシトン7社はそれぞれパイピング供給される酸素又は窒素の製造のみならず,液化酸素や液化窒素などの液化ガスの製造販売を設立の目的に含んでおり(査第174号証の1,第176号証の1,第177号証の1,第178号証の1,第179号証の1,第180号証の1,審第82号証),現在も事業の目的に含んでいる(審第80号証,第85号証,第93号証,第96号証,第98号証,第100号証,第109号証)。このように,オキシトン7社は,パイピング供給のためのガス製造過程において生ずる余剰を液化ガスとして販売することを当初から予定していたのであり,それは現在の事業からも外れるものではない。そして,オキシトン7社は,被審人に対して特定エアセパレートガスを含む液化ガスを販売することにしていたのであるから,オキシトン7社は,被審人が販売する特定エアセパレートガスを製造することを設立の目的の一つとしていたということができる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
ウ 被審人は,オキシトン7社の事業活動において,被審人が一方的に自己の意のままにしていたわけではなく,主導権はオキシトン7社にあったこと,特に特定エアセパレートガス等の製品の価格設定においては,被審人のほか,オキシトン7社や共同出資者の意向を無視することはできなかったことからすれば,オキシトン7社からの特定エアセパレートガスの購入について,特段の事情を認めることはできない旨主張する。
しかしながら,特段の事情の判断に当たっては,必ずしもオキシトン7社の事業活動を被審人が一方的に意のままにしていることまで必要ではなく,前記(1)アのとおり,仕入先への出資比率や役員構成,運営への関与,出向者数,技術・設備の供与,利益構造,製造面での関与,業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性,その他の要素を考慮し,事業活動の実態を総合的に検討すべきである。そして,これらの要素を総合的に検討すれば,前記(2)のとおり,オキシトン7社のいずれからの特定エアセパレートガスの購入についても特段の事情が認められる。
したがって,被審人の上記主張には理由がない。
第7 被審人が納付すべき課徴金の額
1 本件違反行為の実行期間
前記第6の1によれば,被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,本件合意に基づき被審人が最初に特定エアセパレートガスの販売価格の引上げを実施することとした平成20年4月1日であると認められる。
また,前記第3のとおり,被審人は,平成22年1月19日以降,本件違反行為を取りやめており,同月18日にその実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。
したがって,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は平成20年4月1日から平成22年1月18日までとなる。
2 被審人の売上額
前記第3のとおり,被審人が,前記1の実行期間において,被審人以外の者に対して特定エアセパレートガスを販売した売上額から,同期間における被審人の,①大陽日酸,エア・ウォーター,岩谷産業に対する売上額,②バーター取引の売上額,③ダイサンガスセンター株式会社に対する売上額を除いた金額は,独占禁止法施行令第5条第1項に基づき算定すると,482億2164万7933円である。
3 課徴金算定率
課徴金算定率は,前記第6の5のとおり,100分の10を適用すべきである。
4 したがって,被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,前記482億2164万7933円に100分の10を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された48億2216万円である。
第8 法令の適用
以上によれば,被審人に対し,原処分のとおり排除措置及び課徴金の納付を命ずるべきであり,被審人の本件各審判請求にはいずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成27年3月30日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  伊 藤   繁

審判官  酒 井 紀 子

審判官  數 間   薫

別紙

エアセパレートガス(空気から製造される酸素,窒素及びアルゴンをいう。)のうち,タンクローリーによる輸送によって供給するもの(医療に用いられるものとして販売するものを除く。)

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