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MT映像ディスプレイ(株)ほか3名による審決取消請求事件

独禁法3条後段・独禁法7条2

平成27年(行ケ)第38号

判決

大阪府門真市松生町1番15号
原告 MT映像ディスプレイ株式会社
(以下「原告MT」という。)
同代表者代表取締役 久米 基夫

インドネシア共和国 ブカシ カブパテン スラタン チカラン
ケカマタン スカレスミ デサ イージェイアイピー インダストリアル パーク プロット3-G カワサン
原告 ピーティー・エムティー・ピクチャー・ディスプレイ・インドネシア
(以下「原告MTインドネシア」という。)
同代表者清算人 家垣 吉孝

マレーシア セランゴール ペタリング ジャヤ 47400 デマンサラ ジャヤ エスエス 22/21 ジャラン セカンドフロアー 60 62 アンド 64 ウィスマ ゴシェン
原告 エムティー・ピクチャー・ディスプレイ(マレーシア)・エスディーエヌ・ビーエイチディー
(以下「原告MTマレーシア」という。)
同代表者清算人 ユー・サウ・イン

タイ王国 ノンタブリ プロビンス アンファー ムアン ノンタブリ タンボル タラナン ムー 6 ナンバー81/3
原告 エムティー・ピクチャー・ディスプレイ(タイランド)・カンパニー・リミテッド
(以下「原告MTタイ」という。)
同代表者清算人 チョムマニー・カンカム

上記4名訴訟代理人弁護士 佐賀 義史
同 長澤 哲也
同 木田 晃一

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本 和行
同指定代理人 岩下 生知
同 榎本 勤也
同 多賀井 満理
同 山崎 利恵
同 銭場 忠夫

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

 公正取引委員会平成22年(判)第2号ないし第5号審判事件について,被告が平成27年5月22日付けで原告らに対してした審決のうち,主文第1項(2)及び第2項を取り消す。

第2 事案の概要

1 被告は,原告らが,別紙1記載の事業者と共同して,おおむね四半期ごとに次の四半期における別紙2記載の事業者(以下「我が国ブラウン管テレビ製造販売業者」という。)が同別紙の「東南アジア地域の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社の所在国」欄記載の国に所在する当該事業者の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社(以下「現地製造子会社等」という。)に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意することにより,公共の利益に反して,上記ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ,原告MTについては,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成21年10月7日,原告MTに対して,排除措置を命じた(平成21年(措)第23号。以下,この処分を「本件排除措置命令」という。)。排除措置命令書の謄本は,同月8日,原告MTに対して送達された。これに対して,原告MTは,同年11月6日,本件排除措置命令の取消しを求めて審判請求をした(平成22年(判)第2号)。
 また,被告は,上記合意は独占禁止法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,平成21年10月7日,原告MTインドネシアに対し5億8027万円(平成21年(納)第62号),原告MTマレーシアに対し6億5083万円(同第63号),原告MTタイに対し5億6614万円(同第64号)の各課徴金の納付を命じた。各課徴金納付命令書の謄本は,同月8日,上記各原告ら(以下「原告MTインドネシアほか2社」ということがある。)に対してそれぞれ送達された。これに対して,原告MTインドネシアほか2社は,同年11月6日,それぞれ各自に対する課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をした(平成22年(判)第3号ないし第5号)。
 原告MTのした審判請求と原告MTインドネシアほか2社のした各審判請求は併合して審理された(以下「本件審判手続」という。)。そして,被告は,平成27年5月22日,原告MTの審判請求に対しては,独占禁止法66条3項,4項に基づき,本件排除措置命令を取り消した上(主文第1項(1)),要旨,原告MTが原告MTインドネシアほか2社及び別紙1記載の7社と共同してした上記合意は,同法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し同法3条の規定に違反するものであり,かつ,上記合意は平成19年3月30日になくなっている旨を明らかにし(主文第1項(2)),原告MTインドネシアほか2社の各審判請求に対しては,独占禁止法66条2項に基づき,いずれも棄却する(主文第2項)旨の審決をした(以下「本件審決」という。)。
 本件は,原告らが,本件合意は不当な取引制限には該当しないと主張して,本件審決のうちこれに該当することを前提とする部分の取消しを求めた事案である。

2 前提事実(本件審決で認定された事実で原告らが実質的な証拠の欠缺を主張していない事実及び本件審決記録から容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告らの概要
(ア) 原告MTは,肩書地に本店を置く事業者であり,松下電器産業株式会社(平成20年10月1日付けでパナソニック株式会社に商号変更)と株式会社東芝(以下「東芝」という。)のテレビ用ブラウン管に係る事業の統合についての合意に基づき,平成15年3月20日付けで松下電器産業株式会社から,同月31日付けで東芝から,それぞれテレビ用ブラウン管に係る事業を吸収分割により承継した。
 なお,原告MTの商号は,同日までは「エムティ映像ディスプレイ株式会社」であったが,同年4月1日付けで「松下東芝映像ディスプレイ株式会社」に変更され,更に平成19年3月30日付けで現商号に変更されたものである。
(イ) 原告MTインドネシアは,原告MTの子会社であり,肩書地に本店を置き,テレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者であるが,平成19年9月28日付けで操業を停止し,清算手続を開始した。
 なお,原告MTインドネシアは,東芝の子会社であったところ,平成15年6月19日,東芝の保有する原告MTインドネシアの株式全てが原告MTに譲渡されたことにより,原告MTの子会社となった。また,原告MTインドネシアは,同年9月17日付けで商号をピーティー・トウシバ・ディスプレイ・デバイシズ・インドネシアから現商号に変更したものである。
(ウ) 原告MTマレーシアは,原告MTの子会社であり,肩書地に本店を置き,テレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者であるが,平成19年10月8日付けで解散の決議を行い,清算手続を開始した。
(エ) 原告MTタイは,原告MTの子会社であり,肩書地に本店を置き,テレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者であるが,平成21年5月13日付けで解散の決議を行い,清算手続を開始した。
イ 原告ら以外のテレビ用ブラウン管製造販売業者の概要
(ア) サムスンSDIは,大韓民国に本店を置く事業者である。
 サムスンSDIマレーシアは,サムスンSDIの子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(イ) 中華映管は,台湾に本店を置く事業者である。
 中華映管マレーシアは,中華映管の子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(ウ) LGフィリップス・ディスプレイズは,大韓民国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
 LPディスプレイズ・インドネシアは,LGフィリップス・ディスプレイズの関連会社であり,インドネシア共和国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
 なお,LPディスプレイズ・インドネシアの役員や従業員のほとんどはLGフィリップス・ディスプレイズから派遣されていた。
(エ) タイCRTは,タイ王国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
ウ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の概要
 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,別紙2記載のとおり,我が国に本店を置き,東南アジア地域に製造子会社,関連会社又は製造委託先会社を有して,少なくとも後記(4)の日までブラウン管テレビの製造販売業を営んでいた者である。
(2) テレビ用ブラウン管に関する取引について
ア 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,それぞれ,原告MT,サムスンSDI,中華映管,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT(以下「原告MTほか4社」という。)ほかのテレビ用ブラウン管製造販売業者の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様のほか,おおむね1年ごとの購入予定数量の大枠やおおむね四半期ごとの購入価格及び購入数量について交渉していた(以下,この我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による選定及び交渉のことを「本件交渉等」という。)。
 なお,本件交渉等は,原告MTが選定された場合には原告MTインドネシアほか2社が,サムスンSDIが選定された場合にはサムスンSDIマレーシアが,中華映管が選定された場合には中華映管マレーシアが,LGフィリップス・ディスプレイズが選定された場合には同社及びLPディスプレイズ・インドネシアが,タイCRTが選定された場合には同社が,それぞれ現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を販売することを前提として行われていた。
イ 現地製造子会社等は,本件交渉等を経た後,主に原告MTインドネシアほか2社,サムスンSDIマレーシア,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT(以下「原告MTインドネシアほか7社」という。)からテレビ用ブラウン管を購入していた(以下,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する別紙3記載のテレビ用ブラウン管を「本件ブラウン管」という。)。
ウ 平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,原告MTインドネシアほか7社からの購入額の合計の割合は約83.5パーセントであった。
(3) 本件合意
ア 原告MTほか4社並びに原告MTインドネシア,サムスンSDIマレーシア,中華映管マレーシア及びLPディスプレイズ・インドネシアは,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため,遅くとも平成15年5月22日頃までに,日本国外において,本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し,おおむね四半期ごとに次の四半期における本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した(以下,この合意を「本件合意」という。)。
イ 原告MTマレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,原告MTタイは遅くとも同年4月23日までに,それぞれ本件合意に加わった。
(4) 本件合意の消滅
 中華映管及び中華映管マレーシアが平成19年3月30日,競争法上の問題により本件ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨表明し,その後,原告MTも同様の対応を採ったことなどにより,それ以降,上記会合は開催されていないことから,同日以降,本件合意は事実上消滅している。

3 争点
 本件の争点は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が独占禁止法上の需要者に該当するとして,本件に同法3条後段を適用することができるか否かである。

4 争点についての本件審決の判断
(1) 本件審決が認定した事実
ア オリオン電機
(ア) 認定事実
a 製造委託先会社との関係
(a) WORLD ELECTRIC(THAILAND)LTD.は昭和63年に,KORAT DENKI LTD.は平成7年に,オリオン電機の海外におけるブラウン管テレビの製造拠点としてタイ王国において設立されたブラウン管テレビの製造販売を業とする会社である(以下,上記2社を併せて「ワールド等」という。)。
 オリオン電機は,ワールド等に出資することはしなかったが,ワールド等を自社の製品を製造するグループ企業と位置付け,ワールド等と技術援助契約を締結した上,ワールド等の設立以来,自社の従業員をワールド等の会社代表者,役員及び従業員として派遣している。
(b) オリオン電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成7年頃以降は行っておらず,専ら,ワールド等といった製造委託先会社に設計や仕様を指示してブラウン管テレビの製造を委託していた。
 なお,オリオン電機は,ブラウン管テレビの製造販売について,量販店の卸売業者や相手先商標製品製造(OEM)の相手先等からの注文を受けてから,製造委託先会社に製造を委託する受注生産方式を採っていた。
(c) オリオン電機は,価格交渉力を向上させることや受注したブラウン管テレビの販売価格を管理することを目的として,企画部等の部署において,原価計算をした上,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格及び購入数量の決定等の購買業務等を行っていた。
 なお,前記(a)の技術援助契約の1条において,ワールド等は必要な資材についてオリオン電機を通じて購入することに協力する旨定められていた。
(d) オリオン電機は,ワールド等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの全てを購入し,北米,欧州及び日本など国内外に販売していた。
 なお,ワールド等はオリオン電機以外からも委託を受けるなどして製品を製造していたが,その割合は売上げの1割にも満たない程度であった。
b 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
(a) オリオン電機は,主に原告MTほか4社の中から一又は複数の事業者を選定し,その事業者との間で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。
(b) オリオン電機は,ワールド等に対し,テレビ用ブラウン管の仕様,購入価格,購入数量等を記載した部品表若しくは仕様書を送付し,又はそれらのデータを送信することにより,本件ブラウン管を含むテレビ用フラウン管を前記(a)のとおり選定した事業者又はその子会社等から購入するよう指示していた。
(c) ワールド等は,前記(b)の指示に従い,オリオン電機により選定された事業者又はその子会社等(原告MTインドネシアほか7社の関係では,原告MTマレーシア,原告MTタイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管を発注し,購入していた。
(イ) 前記認定事実によれば,オリオン電機は,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格,購入数量等の決定等の業務を行っており,原告MTほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをワールド等に伝え,ワールド等は,それに従ってオリオン電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはオリオン電機であって,ワールド等はオリオン電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,オリオン電機は,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
イ 三洋電機
(ア) 認定事実
a 現地製造子会社との関係
(a) 三洋電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,平成8年にインドネシア共和国にP.T.SANYO Electronics Indonesia(以下「三洋電子インドネシア」という。)を設立し,同社にブラウン管テレビの製造業務を移管した。
 なお,三洋電子インドネシアの議決権については,三洋電機の完全子会社でシンガポール共和国に所在するSANYO Asia Pte.Ltd.が,平成14年4月から平成16年3月まではその82パーセントを,同年4月以降はその全てを保有していた。
(b) 三洋電機は,平成18年9月30日まで,「マルチメディアカンパニー」,「AVソリューションズカンパニー」又は「AVカンパニー」(時期により名称が異なる。)の中の専門部署(例えば「AVカンパニー」のときは「テレビ統括ビジネスユニット」)において,三洋電子インドネシアを含む現地製造子会社(以下「三洋電子インドネシア等」という。)が使用するテレビ用ブラウン管の仕様,製造するブラウン管テレビの仕様,製造方法等に関する規格や検査基準を設定したり,毎年の事業計画,四半期ごとの確認,月次の報告等を通じて三洋電子インドネシア等に対して事業上の指示及び管理を行うなど,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。また,三洋電機は,上記各カンパニー内の購買部門において,同社及び三洋電子インドネシア等が使用するテレビ用ブラウン管について,購買業務の効率性を高めるとともにボリューム・ディスカウントによるスケール・メリットの獲得等を目的として,まとめて購買業務を行い,一括して交渉を行っていた。
(c) 三洋電子インドネシアには,製造したブラウン管テレビを顧客に直接販売するための販売部門がなかったため,三洋電子インドネシアが本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,三洋電機が承認した事業計画に従い,同社の販売子会社である三洋セールスアンドマーケティング株式会社及びP.T.Sanyo Sales Indonesiaに販売され,これらの会社により国外向けに販売されていた。
b 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
(a) 三洋電機は,平成18年9月30日まで,主に原告MT,サムスンSDI及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から一又は複数の事業者を選定し,その事業者から仕様書の提出を受けるなどした上で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。
(b) 三洋電機は,決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,三洋電子インドネシアの担当者に電子メールで伝え,前記(a)のとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。
(c) 三洋電子インドネシアは,三洋電機が決定した取引条件に従い,同社により選定された事業者又はその子会社等(原告MTインドネシアほか7社の関係では,原告MTインドネシア,原告MTタイ,サムスンSDIマレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ及びLPディスプレイズ・インドネシア)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金を支払っていた。
(イ) 前記認定事実によれば,三洋電機は,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告MT,サムスンSDI及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを三洋電子インドネシアに伝え,同社は,それに従って三洋電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは三洋電機であって,三洋電子インドネシアは三洋電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
ウ シャープ
(ア) 認定事実
a 現地製造子会社又は関連会社との関係
(a) シャープは,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成13年頃以降は行っておらず,専ら,後記①ないし⑤の現地製造子会社又は関連会社5社(以下「SREC等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。
 なお,シャープは,自社又は子会社の役員又は従業員をSREC等の役員等として派遣していた。
 ① マレーシア所在のSharp-Roxy Electronics Corporation (M) Sdn.Bhd.(シャープが議決権の50パーセントを保有していた。)
 ② フィリピン共和国所在のSharp(Philippines.)Corporation(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
 ③ タイ王国所在のSharp Manufacturing Thailand Co.,Ltd.(シャープが,平成17年3月末までは議決権の33パーセントを保有し,同年4月以降は議決権の全てを保有していた。)
 ④ インドネシア共和国所在のP.T.Sharp Electronics Indonesia(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
 ⑤ マレーシア所在のSharp Electronics(Malaysia)Sdn.Bhd.(以下「SEM」という。シャープが議決権の全てを保有していた。)
(b) シャープは,「AVシステム事業本部液晶デジタルシステム第4事業部」等の部署において,同社の連結子会社等である現地製造子会社又は関連会社が策定する,主要部品の調達数量を含む生産計画,販売計画,人員及び在庫についての計画等を含む,現地製造子会社又は関連会社の経営計画に事前の承認を与えていた。また,シャープは,価格交渉力の向上を目的に,現地製造子会社又は関連会社が製造するブラウン管テレビの製造に必要なテレビ用ブラウン管について,取引先を選定し,購入価格,購入数量等の取引条件についてのテレビ用ブラウン管メーカーとの間の交渉を取りまとめ,テレビ用ブラウン管の購入を統括して一元管理するなどして,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
(c) シャープ及び同社の国外の販売子会社等は,SREC等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの大部分を購入して国内外に販売していた。
b 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
(a) シャープは,原告MTほか4社等からテレビ用ブラウン管の価格トレンド(テレビ用ブラウン管のインチサイズ別,シャープの現地製造子会社又は関連会社別及びテレビ用ブラウン管の管種別の売買価格及び売買台数並びに貿易条件〔TRADE TERM〕等)の情報を収集し,当該情報とテレビ用ブラウン管業界の動向やテレビ用ブラウン管の新規開発状況等の情報を基に,SEMの設計・開発部門及びSREC等と協議し,その結果を踏まえて,主に原告MTほか4社との間で,テレビ用ブラウン管の仕様や翌半期のテレビ用ブラウン管の価格トレンド等の調整を行い,これらの事業者の中から選定した事業者との間で,毎年1月から2月頃と毎年7月から8月頃にかけて,それぞれ各年度の上期(4月から9月)及び下期(10月から翌年3月)において取引される本件ブラウン管のSREC等全体の購入価格,購入数量等について,交渉の相手方である事業者から仕様等の技術情報を収集しつつ,自ら交渉して,取引条件の取りまとめを行っていた。
(b) シャープは,SREC等に対し,前記(a)の交渉により調整されたSREC等全体の価格トレンドを伝達するとともに,SREC等に対し,SREC等が,固有の貿易条件,支払条件等を加味して更に前記(a)のとおり選定された事業者若しくはその子会社等と交渉するか,又は,当該価格トレンドの購入価格に従って本件ブラウン管をそれらの者から購入するか確認していた。
(c) SREC等は,シャープから伝達された前記(a)の交渉により調整済みのSREC等全体の価格トレンドが,既に貿易条件を加味したものであったことから,前記(b)の確認を受けて更に前記(a)のとおり選定された事業者又はその子会社等と交渉する場合であっても,多くは支払通貨等の支払条件について交渉するのみで,基本的には,シャープから伝達された前記(a)の交渉により調整済みの価格トレンドどおりの価格を本件ブラウン管の購入価格としていた。
(d) シャープは,前記(a)のとおり選定した事業者に対し,前記(a)の交渉及び前記(b)の確認を受けて更に調整された価格トレンドに従って,本件ブラウン管の購入価格を記載した正式な価格見積書をSREC等に発行するよう依頼していた。
(e) SREC等は,シャープにより選定された事業者又はその子会社等(原告MTインドネシアほか7社の関係では全社)から正式な価格見積書を入手し,当該価格見積書の記載に基づきこれらの者に対し本件ブラウン管を発注し,納品,検収及び支払という購買発注及び納入進度管理業務を行っていた。
(イ) 前記認定事実によれば,シャープはSREC等との協議の結果を踏まえて原告MTほか4社との交渉に臨んでいること,SREC等は貿易条件や支払条件については,個別に原告MTインドネシアほか7社と交渉する余地があったことが認められるものの,シャープは,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告MTほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等を決定していたこと,SREC等はシャープの指示に基づき,上記交渉を経て決定された価格トレンド(購入価格,購入数量等)に従ってシャープが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはシャープであったと認められるのであって,同社がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,SREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
エ 日本ビクター
(ア) 認定事実
a 現地製造子会社又は関連会社との関係
(a) 日本ビクターは,自社又は自社の子会社若しくは関連会社である販売会社が販売するブラウン管テレビを製造するために,直接又は間接的に出資して,タイ王国にJVC Manufacturing(Thailand)Co.,Ltd.(以下「JMT」という。)及びJVC Electronics(Thailand)Co.,Ltd.(以下「JET」という。)を,ベトナム社会主義共和国に(JVC Vietnam Limited(以下「JVL」という。)をそれぞれ設立し,設計や仕様等を指示してブラウン管テレビを製造させていた。
 なお,JMTは,日本ビクターの完全子会社であり,JETは,JVC Sales and Service(Thailand)Co.,Ltd.(日本ビクターの完全子会社でシンガボール共和国に所在するJVC ASIA Pte.Ltd.〔以下「JVCアジア」という。〕が50パーセントの議決権を保有している。)が議決権の99パーセントを保有し,JVLは,JVCアジアが議決権の70パーセントを保有していた。
 また,日本ビクターの完全子会社でシンガポール共和国に所在するJVC E1ectronics Singapore Pte.Ltd.(以下,JMT,JET及びJVLと併せて「JMT等」という。)は,音響機器の製品開発等を事業内容としていたが,そのほかに,自社の一部門であるJVC Procurement Asia(A Division Company of JVC Electronics Singapore Pte.Lte.)において日本ビクターのブラウン管テレビ製造子会社が使用するテレビ用ブラウン管の一部を調達していた。
(b) 日本ビクターは,「AV&マルチメディアカンパニーディスプレイ統括カテゴリー」等の部署において,各地の販売拠点からの注文を取りまとめ,それに基づいてJMT等に生産の指示を出し,完成したブラウン管テレビを上記販売拠点から販売するなどして,ブラウン管テレビの生産,販売及び在庫に関する管理をしていたほか,価格交渉力の向上を目的として,JMT等が使用するテレビ用ブラウン管の調達業務を行うなど,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
(c) JVLは製造していたブラウン管テレビを自らベトナム社会主義共和国内において販売していたが,JMT及びJETにはブラウン管テレビを販売するための営業部門が存在しなかったため,JMTが製造したブラウン管テレビのほとんど全てを日本ビクターが買い上げて国内外に販売し,また,JETが製造したブラウン管テレビの全量を日本ビクターのタイ王国所在の販売子会社であるJVC Sales and Service(Thailand)Co.,Ltd.が買い上げて同国において販売していた。このように,JMT等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,日本ビクターが取りまとめた事業計画に沿って,国内外に販売されていた。
b 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
(a) 日本ビクターは,平成17年4月30日まで,同社の設計部門が設計したブラウン管テレビに適合する仕様のテレビ用ブラウン管について,性能及び品質面,テレビ用ブラウン管メーカーの生産ラインの状況,引渡しに要する時間,価格,それまでの取引状況等を総合的に勘案し,主に原告MTほか4社の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,JMT等の各地の製造拠点におけるブラウン管テレビの生産台数に応じたテレビ用ブラウン管を確保するため,年間の購入予定数量の大枠を交渉して決定していた。
 なお,日本ビクターは,サムスンSDI及びLGフィリップス・ディスプレイズとの間で,JMT等を含む現地製造子会社及び関連会社が購入するテレビ用ブラウン管について,年間の購入量の目標とそれを達成した場合の報奨金(インセンティブ)についての合意を交わしていた。
(b) 日本ビクターは,前記(a)のとおり選定した事業者との間で,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格等の取引条件について交渉して,決定していた。
(c) 日本ビクターは,JMT等に対し,前記(a)及び(b)のとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話,電子メール,ファクシミリ等で伝え,それに従って,前記(a)のとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示した。
(d) JMT等は,前記(c)の取引条件に従い,日本ビクターにより選定された事業者又はその子会社等(原告MTインドネシアほか7社の関係では,原告MTマレーシア,原告MTタイ,サムスンSDIマレーシア,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。
(イ) 前記認定事実によれば,日本ビクターは,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告MTほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをJMT等に伝え,JMT等は,それに従って日本ビクターが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは日本ビクターであって,JMT等は日本ビクターの指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,日本ビクターがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
オ 船井電機
(ア) 認定事実
a 現地製造子会社との関係
(a) 船井電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成5年頃以降は行っておらず,専ら,完全子会社であるマレーシアに所在するFUNAI ELECTRIC(MALAYSIA)SDN.BHD.及びタイ王国に所在するFUNAI(THAILAND)CO.,LTD.(以下,上記2社を併せて「船井電機マレーシア等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。
(b) 船井電機は,前記(a)のとおり,船井電機マレーシア等にブラウン管テレビの製造業務を移管した後も,引き続き,「テレビ事業本部」等の下の「テレビ事業部」等の部署において,ブラウン管テレビの製造以外の研究開発,技術・生産管理,品質管理,品質保証,マーケティング,営業,購買等の業務を管轄,運営するなど,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
(c) 船井電機は,船井電機マレーシア等が製造するブラウン管テレビの製品仕様書や製造指導書等を作成し,船井電機マレーシア等に送付していた。
(d) 船井電機は,船井電機マレーシア等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビを全て購入し,自社の完全子会社であるフナイ販売株式会社,DXアンテナ株式会社及びFUNAI CORPORATION INC.を通じて,国内外の顧客に販売していた。
b 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
(a) 船井電機は,価格及び供給の安定を目的として,主に原告MTほか4社の中から選定した事業者との間で,翌年1年間において取引される本件ブラウン管の仕様及び購入予定数量の大枠を交渉して,決定し,おおむね四半期ごとに,翌四半期に実際に適用される本件ブラウン管の購入価格及び購入数量について交渉して,決定していた。なお,船井電機は,原告MTとの間で,本件ブラウン管の購入数量の大枠について,管種ごとに,事業年度単位で交渉していた。
(b) 前記(a)の交渉の相手方は,船井電機に対して製品仕様書の案を提出し,船井電機の技術部門は,当該仕様書の案を確認及び承認して,当該仕様書を完成させていた。
(c) 船井電機は,船井電機マレーシア等に対し,前記(a)のとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話や電子メールによって伝え,前記(a)のとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。
(d) 船井電機マレーシア等は,前記(c)のとおり船井電機から伝達及び指示された本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件に従い,船井電機により選定された事業者又はその子会社等(原告MTインドネシアほか7社との関係では,原告MTインドネシアほか2社,サムスンSDIマレーシア,中華映管マレーシア,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。
(イ) 前記認定事実によれば,船井電機は,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告MTほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを船井電機マレーシア等に伝え,船井電機マレーシア等は,それに従って船井電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは船井電機であって,船井電機マレーシア等は船井電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,船井電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(2) 本件審決の判断
ア 事業者が日本国外において独占禁止法2条6項に該当する行為に及んだ場合であっても,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法3条後段が適用されると解するのが相当である。
 なぜならば,独占禁止法は,我が国における公正かつ自由な競争を促進するなどして,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするところ(1条),同法3条後段は,不当な取引制限行為を禁止して,我が国における自由競争経済秩序を保護することをその趣旨としていることからすれば,同法2条6項に該当する行為が我が国でなされたか否か,あるいは,当該行為を行った事業者が我が国に所在するか否かに関わりなく,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができ,同法3条後段を適用するのがその趣旨に合致するからである。
イ 本件における一定の取引分野について
 独占禁止法2条6項における「一定の取引分野」は,原則として,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して画定すれば足りるものと解される。
 本件合意は,前記2(3)のとおり,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,原告ら及び別紙1記載の7社(以下「11社」という。)のした共同行為が対象としている取引は,本件ブラウン管の販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,本件ブラウン管の販売分野が一定の取引分野であると認められる。
ウ 本件の一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったかについて
(ア) 前記(1)の認定事実によれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともにブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしていたことが認められる。
(イ) また,前記(ア)に加え,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,原告MTほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたことが認められ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉・決定及びそれに基づく指示なくしては,現地製造子会社等が本件ブラウン管を購入し,受領することはできなかったといえる。
(ウ) そうすると,直接に本件ブラウン管を購入し,商品の供給を受けていたのが現地製造子会社等であるとしても,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の果たしていた上記役割に照らせば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたということができる。
(エ) さらに,本件合意が,原告MTほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることも併せて考えれば,11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,自社グループが購入先として選定されること及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を競い合う関係にあったということができ,購入先や重要な取引条件の決定者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったということができる。
(オ) これらの点を考慮すれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は本件ブラウン管の需要者に該当するものであり,本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったということができる。
エ 競争の実質的制限について
 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される。
 前記2(2)ウのとおり,平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,原告MTインドネシアほか7社からの購入額の合計の割合は,約83.5パーセントとその大部分を占めていたこと,本件違反行為者である原告らを含む11社は本件合意に基づき設定された最低目標価格等を踏まえて,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で,本件ブラウン管の価格交渉をしていたこと等に照らせば,本件合意により,本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたといえるから,11社は,本件合意により,本件における一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限したと認めることができる。
オ まとめ
 以上検討したところによれば,一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったと認められ,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたと認められる。
 原告らは,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていないとして,需要者に当たらないことを前提に,本件には独占禁止法3条後段を適用することができないと主張するが,以上説示したとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は需要者であると認められるのであるから,その主張は前提を欠くものであるし,また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていなかったとしても,その事実は,当該事業者が原告らに対して独占禁止法違反を理由に損害賠償請求訴訟等を提起した場合に考慮されるべき事情になることがあり得るのは格別,本件のように,一定の取引分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,そこにおける競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができるから,これに対して自由競争経済秩序の回復を図る観点から独占禁止法を適用することができるのは当然である。
 したがって,本件に独占禁止法3条後段を適用することができるものというべきである。

5 争点に関する被告の主張
 以下に述べるとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は独占禁止法上の需要者に該当し,本件に同法3条後段を適用することは可能である。よって,本件審決に違法はない。
(1) 独占禁止法上の需要者の解釈について
ア 独占禁止法3条後段の解釈について,本件審決が示した規範(前記4(2)ア)は正当なものである。
 独占禁止法の直接の目的は,「公正且つ自由な競争」,すなわち,自由競争経済秩序の保護にあるから(同法1条),同法2条6項に該当する行為が我が国以外の地域でなされても,我が国の自由競争経済秩序が侵害されている限り,同法3条後段を適用できるとすることは同法の目的に沿うものである。そして,市場における供給者間の競争が,需要者に対する取引の獲得をめぐって行われることからすれば,需要者においてかかる競争の結果に基づく自由な取引が侵害されていれば,当該需要者をとりまく自由競争経済秩序が侵害されたということができる。
イ 独占禁止法上の「需要者」を,原告らのように,「対象となる商品の供給を受けて対価を支払い,これを使用収益する者」のみと狭く解するのは妥当ではない。
 一口に需要者といっても,その機能は,原告らも主張するように,取引の交渉をして取引条件を決定するといった側面や,商品・役務の供給を受ける側面,対価を支払う側面,さらにはこれを使用収益する側面など多面的である。
 独占禁止法は,「公正且つ自由な競争を促進」すること,すなわち,自由競争経済秩序を確保することが,一般消費者の利益や国民経済の健全な発達に寄与するという経済法則に裏打ちされた政策判断の下,直接的には自由競争経済秩序を確保することをもって,一般消費者の利益の確保及び国民経済の健全な発達の促進という究極目的の実現を図っているものである。同法3条後段が不当な取引制限行為を禁止する趣旨は,同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序を維持するためであって,市場における需要者の保護を主眼とするものではない。そして,自由競争経済秩序とは,市場が有する価格形成メカニズム(市場メカニズム)が機能している状態であり,それは,市場において供給者と需要者の双方がそれぞれ自主的な判断により取引の交渉をし,意思決定をするという過程の中,初めて機能するものであるところ,このような経済秩序の下では,供給者のみならず需要者においても自主的な判断に基づく交渉・意思決定をすることが予定されている。通常,市場における取引においては,供給競争と需要競争が並存しており,供給者が供給競争を制限することは,自らの自主的な判断を制約するほか需要者の自主的な判断を不能に陥れることから,双方の行動秩序を害するものであるといえる。
 このことからすれば,供給者と需要者が自主的な判断により取引の交渉をし,意思決定をするという過程自体を保護することが,自由競争経済秩序の維持に不可欠であり,かかるプロセスにおいて取引上の重要な意思決定に関わる者を取引の主体とみることには理由があるといえる。したがって,需要者側において重要な取引条件等を実質的に決定する者を「需要者」と認定し,かかる「需要者」の重要な取引上の意思決定の自由を侵害する行為を規制することは,同法の目的に適うものである。
ウ 本件では,どのような者が「需要者」に該当するかが争点となっているが,違反行為者の範囲を画する観点から,どのような者が「供給者」に該当するかという点が論じられた事例は数多い。例えば,東京高等裁判所平成5年12月14日判決(高等裁判所刑事判例集46巻3号322頁)では,独占禁止法2条4項1号における「同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給する」行為について,現実に商品又は役務を供給することと限定的に解さず,対象商品の供給に係る意思決定を行っていたことをもって,実質的に「供給者」該当性を認めて,同一需要者に供給する際の形式的な名義人となっていない者であっても,実質的にそれと同視し得る者であるならば「供給者」に該当するという考え方が示されている。こうした考え方と対比すれば,同号にいう「需要者」,あるいは同項2号にいう「同一の供給者から同種又は類似の商品又は役務の供給を受ける」者(すなわち「需要者」)についても,現実に商品又は役務の供給を受ける者であると限定的に解する必然性がないことは明らかである。
 また,現実に対象商品の供給を受ける者でなく,購入の指示や購入価格の決定等を行っていた者を需要者側におけるカルテル(購入カルテル)の違反行為者と認定して行政処分を行った先例(公正取引委員会平成20年10月17日排除措置命令,同審決集55巻692頁)もある。
 このように,「供給者」や「需要者」を,現実に対象商品を供給する者や現実にその供給を受ける者に限定することなく,具体的な事実関係に即して実質的に認定することは,過去の裁判例やこれまで被告において積み重ねられてきた実務に照らしても妥当である。
エ 原告らは,後記6(1)イにおいて,独占禁止法及び「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請,報告及び届出等に関する規則」(昭和28年公正取引委員会規則1号,平成21年公正取引委員会規則13号により改正。以下「企業結合届出規則」という。)に基づく企業結合規制を原告らの主張を裏付ける根拠として主張する。
 しかし,企業結合規制に係る届出制度は,それ自体が企業結合に対する独占禁止法の適用範囲を画すものではなく,企業結合規制を実効性あるものとするため,我が国における自由競争経済秩序が害される可能性が類型的に高いと考えられる一定規模以上の国内売上高のある企業結合について,公正取引委員会への届出義務を課すものにすぎない。そのため,ある企業結合が所定の国内売上高を満たさず,かかる届出義務がない場合であっても,「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」(同法10条1項等)に,同法の適用を妨げるものではないし,逆に届出義務があったとしても,審査の結果,当該企業結合は「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に該当しないと判断されることがあり得るものである。
 そして,上記「国内売上高」は,「当該会社等の供給する商品又は役務に係る取引・・・に係る売上高」(企業結合届出規則2条1項2号等)であって,届出後の企業結合審査において画定される「一定の取引分野」における商品又は役務の売上高を意味しない。このように,届出義務の有無を決する「国内売上高」は,企業結合により影響を受ける「一定の取引分野」の売上高とも異なるものである。
 そうであるとすれば,企業結合規制の届出義務の範囲は,企業結合により影響を受ける「一定の取引分野」の範囲を画するものではなく,上記届出義務の基準となる「国内売上高」をもって,一定の取引分野における「需要者」の範囲を規律することはできない。ましてや,企業結合届出規則における「国内売上高」の判断枠組みから,不当な取引制限による影響を受ける「一定の取引分野」における需要者を画することはできない。
オ 原告らは,後記6(1)ウにおいて,①意思決定を重視して需要者の範囲を決定することは,需要者の範囲を不明確にし,法的安定性を低下させるし,②競争法執行の国際的衝突を招くものであって妥当でないと主張する。
 しかし,①については,日々競争に接している事業者(供給者)は,自己の取引における競争状況を最も熟知しているものであり,需要者とは,かかる供給者の直接又は間接の取引相手である。このような供給者にとって,需要者側の関係者が取引上いかなる役割を果たしているかは容易に知り得るところである。したがって,取引の実態を踏まえて需要者に該当するか否かを認定することは,需要者の範囲を不明確にするものではないし,法的安定性を損なうものでもない。
 ②については,同一事案を複数の法域が取り上げること自体が禁止されていることはなく,違反が問われている行為の我が国市場経済に与える影響が独占禁止法の容認しない事態であるならば,我が国の国家主権の行使として同法の適用が是認されることは当然であるから,他国の競争法との衝突や重複の回避といった要請は,自国の競争法の適用を妨げるものではない。なお,本件について,東南アジア地域の関係国との間で,競争法の重複適用は生じていない。
(2) 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者に該当すること
ア 本件審決が,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたものであり,また,11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,本件ブラウン管の購入先として選定されることやその重要な取引条件を競い合う関係にあり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったと認定,判断したことは,実質的な証拠に基づく合理的な認定,判断である。
イ 本件ブラウン管の取引の実態をみれば,直接に本件ブラウン管を購入してその供給を受けていたのが現地製造子会社等であったとしても,本件ブラウン管の取引の獲得をめぐる原告MTほか4社(あるいは11社)の攻防は,上記のように重要な取引条件等を実質的に決定している我が国ブラウン管テレビ製造販売業者に対して行われていたといえ,取引の獲得に向けた事業活動という競争の本質からすれば,これら我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,本件ブラウン管の取引に係る需要者側の主体として不可欠な極めて重要な存在だったのであり,これを需要者から除外して考えることは相当ではない。
 また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対して競争を期待し得る地位にあったところ,本件合意の内容が,原告MTほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の最低目標価格等を設定するものであったことからすれば,本件合意によって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の本件ブラウン管の価格交渉の自由や価格決定の自由が侵害されたことは極めて明白であるのに,これを需要者から除外して考えることも相当ではない。
 自由競争経済秩序を侵害する競争制限行為は,これを規制することが,実質的にみて,かえって一般消費者の利益や国民経済の民主的で健全な発達という独占禁止法の究極の目的に反するといった例外的な事情がない限り,規制を免れないというべきであるが,本件においては,こうした事情は何ら見当たらない。むしろ,我が国の国民経済の担い手である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による本件ブラウン管の取引における自由な意思決定を侵害する行為を規制することは,同法1条が規定する我が国における「事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇傭及び国民実所得の水準を高め」るといった政策的効用をもたらし,ひいては,我が国の「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的に適うものである。

6 争点に関する原告らの主張
 以下に述べるとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は独占禁止法上の需要者に該当せず,本件に同法3条後段を適用することはできない。よって,本件審決の主文のうちこれに反する部分は取り消されるべきである。
(1) 独占禁止法上の需要者の解釈について
ア 独占禁止法が禁止する不当な取引制限によって実質的に制限される「競争」は,我が国に所在する需要者をめぐって行われることが必要であり,商品の供給についていうと,競争の対象となる「一定の取引分野」(同法2条6項)を構成する需要者は,我が国において対象商品を需要する者でなければならない。
 そこで,どのような行為をする者が独占禁止法上の需要者と認定されるかが問題となるが,同法3条後段の不当な取引制限の禁止は,自由競争経済秩序を維持することを通じて,我が国に生ずべき消費者の利益や国民経済の健全な発達を確保しようとするものであること,商品の供給を受けて対価を支払う者は,通常は当該商品を使用収益する者でもあり,我が国において使用収益される商品の価格を不当に引き上げる行為は,我が国において当該商品を使用収益する者が購入価格に見合った価値を享受できないという効果を我が国において生じさせるものであることからすれば,同法2条6項該当性が認められる要件として我が国に所在すべき「需要者」とは,対象となる商品の供給を受けて対価を支払い,これを使用収益する者でなければならないと解すべきである。
 上記のとおり,自由競争経済秩序の維持によって実現される消費者の利益や国民経済の健全な発達こそが,同法の下で究極的に重要な価値であって,取引上の重要な意思決定過程に関わりさえすれば需要者に当たるとする被告の見解は誤っている。すなわち,競い合いのプロセスに関与したかということは,需要者に当たるか否かの判断に当たっては全く意味を持たない。供給者間での競い合いのプロセスの相手方が外国に所在する場合であっても,我が国において商品の供給がされて対価が支払われ,使用収益されるならば,我が国の独占禁止法を適用する必要があるし,反対に,競い合いのプロセスの相手方が我が国に所在するとしても,我が国において商品の供給がされず,使用収益されない場合には,同法を適用する必要はない。
イ 以上のような考え方は,被告が自ら採用した企業結合規制の制度設計に反映されている。すなわち,独占禁止法における企業結合規制は,競争に影響を与える蓋然性があると考えられる一定規模以上の会社同士の企業結合を届出の対象とした事前規制を採用しているところ,企業結合の規模が競争に影響を与える蓋然性があると考えられるかどうかは,「国内売上高」をもって画される(例えば同法10条2項)。そして,「国内売上高」の算定方法を定めた企業結合届出規則では,原則として,我が国において供給された商品等をもって「国内売上高」とするが,例外的に,商品の性質又は形状を変更しないで外国を仕向地として転売されることが供給者によって把握されていた場合には当該商品の売上高は「国内売上高」から除外され,また,外国において供給されたものであっても,商品の性質又は形状を変更しないで我が国を仕向地として転売されることが供給者によって把握されていた場合には,当該商品の売上高は「国内売上高」に加えられるものとされている(企業結合届出規則2条1項)。このように,被告は,企業結合規制において競争に影響を与える蓋然性を画する「国内売上高」の算定についても,我が国において商品等が供給されるか否かを第一次的な判断基準とし,当初から転売目的で供給された商品については,使用収益活動の有無をもって第二次的な判断基準とする枠組みを採用している。
 企業結合届出基準は,競争当局が重要な企業結合案件を見逃さず捕捉できるようにするために設けられているものであり,違反となるものを全て網羅していないことは確かであるとしても,そこには違反要件に関する基本的な考え方が反映されているはずである。
ウ(ア) 被告は,需要者側において重要な取引条件等を実質的に決定する者を需要者と認定すべきであると主張するが(前記5(1)イ),一つの取引において,複数の場所で複数の関与者により競い合いのプロセスが生じることもあるため,競い合いのプロセスがされる場所やそのプロセスに関与する者は一義的に定まるものではない。取引条件の交渉や決定という調達業務を外部に委託・一任することは広く行われるようになっているし,取引条件の交渉や決定という競い合いのプロセスは,世界中,更にはインターネットを利用してバーチャルな空間へと移転させることが容易になっている。意思決定を重視して需要者の範囲を決定することは,需要者の範囲を不明確なものとし,結果として,供給者側にとっての予見可能性や法的安定性を低下させるものである。
(イ) また,意思決定を重視して需要者を決定することは,競争法執行の国際的衝突を招くものであって,妥当ではない。米国や欧州等の外国競争当局は,自国に供給される商品について競争制限行為が行われた場合には,自国の競争法を適用している。それにもかかわらず,我が国のみが,日本国外に供給される商品の取引条件等の決定を行う者が自国に所在することを重視して我が国の独占禁止法を適用することは,単一の商品・役務の取引に対して複数国の競争法が重複適用されてしまう可能性を招来するものである。
(2) 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者に該当しないこと
ア 本件ブラウン管は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の現地製造子会社等が,外国において,原告MTインドネシアほか2社らから供給を受け,ブラウン管テレビの製造に使用したものである。本件ブラウン管を需要する者は,外国に所在する現地製造子会社等であるから,本件ブラウン管を需要する者は我が国に所在しない。
イ 本件審決は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等と一体不可分であるという理由により,これを本件ブラウン管の需要者であると認定した。
 しかし,需要者性を判断するに際しては,上記(1)アのとおり,本件ブラウン管の供給を受け,対価を支払い,これを使用収益しているかという点が問題とされるべきである。現地製造子会社等は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者とは全く別の法人格であって,現地製造子会社等が所在する国の主権に服する外国法人であり,また,本件では法人格否認の法理が適用されるような事情も存在しない。我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,せいぜい,現地製造子会社等が購入して使用する本件ブラウン管の取引条件について交渉等していたにすぎない。このような我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,独占禁止法上,本件ブラウン管の需要者であるとは認められない。
ウ そもそも,下記エで述べるとおり,現地製造子会社等が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と「一体不可分」であるとの認定自体,不合理なものであって,実質的証拠を欠くというほかない。したがって,「需要者」についてどのように解釈するにせよ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の需要者に該当するとの認定は誤りである。
エ 現地製造子会社等は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者とは独立した別法人であり,本件ブラウン管の購入に関しても,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,ブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管については,価格交渉力の向上等のメリットがあったことから,自社において調達業務を行うこととしていたものであり,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながら,取引条件の交渉がされていたものである。このように,現地製造子会社等が本件ブラウン管の購入に関しても独自の判断によって事業活動を行っていたことは明らかである。
 とりわけ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者のうち,少なくとも三洋電機,シャープ及び日本ビクターの3社については,下記のとおり,現地製造子会社等と「一体不可分」となって本件ブラウン管を購入していたと評価することを許さない積極的な事実が存在する。
(ア) 三洋電機について
a ブラウン管テレビ事業の統括
(a) 三洋電子インドネシアの事業計画は,同社が,三洋電機の指示や承諾を受けることなく独自に策定していた。また,三洋電機インドネシアの損益や資金繰りの管理は同社が自主的に行っており,同社の事業計画を達成するための責任は同社が負い,三洋電機が関与するのは連結ベースでの調整程度であった。三洋電子インドネシアは,総務,財務,設計,製造,品質管理,営業企画,購買の各部門を有しており,それぞれが三洋電機からの拘束を受けることなく,独自に業務を行っていた。
(b) 三洋電子インドネシアは,市場に応じたブラウン管テレビの商品企画や開発を独自に行っていた。
 また,三洋電子インドネシアがテレビ用ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,平成14年1月から平成19年3月までの間,三洋セールスアンドマーケティング株式会社等に販売され,三洋電機はその商流には入っていなかった。三洋電子インドネシアの販売計画についても,三洋電機からは自主独立して行われていた。
(c) 三洋電子インドネシアは,調達業務についても,テレビ用ブラウン管の調達に係るテレビ用ブラウン管製造販売業者との交渉業務を三洋電機が集中的に行っていたことを除いては,独自に仕入計画を策定し,契約の締結,価格・取引条件の決定を自ら行っていた。
(d) このように,三洋電子インドネシアは,自ら事業計画を立案してそれを達成する責任を負い,独立した事業体としての組織を有して事業活動を自主的に営んでいたものであり,三洋電機が三洋電子インドネシアのブラウン管テレビ事業を統括していたものとは到底認められない。
b 本件ブラウン管の購入指示
(a) 三洋電子が価格交渉業務を担ったのは,交渉の相手方である原告MT,サムスンSDI及びLGフィリップス・ディスプレイズの所在地が日本及び韓国であって,三洋電子インドネシアと比較すると,三洋電機の方が距離的に近かったためである。東南アジア地域以外に所在する現地製造子会社が現地に近いテレビ用ブラウン管製造販売業者からテレビ用ブラウン管を調達する場合は,その交渉は現地製造子会社が自ら行っており,三洋電機はそれに関与していなかった。
 このことからしても,現地製造子会社がテレビ用ブラウン管を購入する場合に,これを三洋電機が指示することは三洋電機の方針ではなかったことが分かる。
(b) 三洋電機は,三洋電子インドネシアの使用するテレビ用ブラウン管の調達に係る計画を立案する際や,実際の調達交渉の過程において,三洋電子インドネシアとテレビ用ブラウン管の購入数量や購入価格について調整をしていたが,それは,テレビ用ブラウン管の調達条件が三洋電子インドネシアの負っている事業計画の達成責任に大きく関わるものであり,三洋電子インドネシアの意思に反して三洋電機の独断で進めることができないからであり,三洋電機は,三洋電子インドネシアに対して,三洋電機の決定した価格でテレビ用ブラウン管を購入することを指示する立場にはなかった。
(c) 本件ブラウン管の購入を三洋電機が三洋電子インドネシアに指示したものでなく,三洋電機が三洋電子インドネシアのために価格交渉を行っていたことは,原告MTの担当者が原告MTインドネシアの担当者等に送信したメールの記載からも明らかである。
(d) このように,三洋電機は,三洋電子インドネシアのために本件ブラウン管の価格交渉業務を行っていたにすぎず,三洋電機が,三洋電子インドネシアに指示して本件ブラウン管を購入させていたとは到底認められない。
(イ) シャープについて
a ブラウン管テレビ事業の統括
(a) マレーシア現地法人であるSEMは,ブラウン管テレビの設計及び開発を主として行う事業者であり,SREC等が製造するブラウン管テレビの仕様を決定していた。そのため,SEMは,技術的な見地からブラウン管テレビのトータルコストを検証するため,価格等の取引条件の決定にも関与していた。
 他方,SREC等の現地製造子会社等が共通して必要とするブラウン管テレビの部材のうち,テレビ用ブラウン管及び偏向コイルの調達に関しては,SREC等が個別に交渉するよりも一か所でまとめて交渉した方が簡便であり,また,購入単価を下げられるというメリットがあることから,数を背景とした効率的な価格交渉をするため,シャープにおいて,一括して交渉を行っていた。
 シャープは,SREC等の生産計画,販売計画といった経営計画に一定程度関与していたが,それはSREC等がシャープの連結対象となっていたことに伴うものであって,その関与は,SREC等が策定した経営計画を決裁するという概括的なものにすぎない。
(b) このように,SREC等,SEM及びシャープは,ブラウン管テレビ事業に関し,SEMがブラウン管テレビの仕様を決定し,シャープがテレビ用ブラウン管等の調達に係る交渉を一括して行い,SREC等がブラウン管テレビを製造するといったように,三者が相互に役割を分担してブラウン管テレビ事業を遂行していたものであって,シャープがSREC等のブラウン管テレビに係る事業を統括するといったような一方的な関係にあったとは到底認められない。
b 本件ブラウン管の購入指示
(a) テレビ用ブラウン管の調達は,SREC等の収益に直結することから,SREC等が最終的な決定権を有していたものであり,シャープは,SREC等によるテレビ用ブラウン管調達のコストを削減するためのアシストとして,集中交渉の役割を担っていたにすぎない。
 シャープが,SREC等の意向を集約し,調整して,テレビ用ブラウン管製造販売業者と交渉していたのは,集中交渉の目的がSREC等の利益に帰するものであるからであり,SREC等の意思に反して価格交渉を行うことは,シャープが価格交渉の役割を担う趣旨に反することとなるからである。
 シャープとテレビ用ブラウン管製造販売業者との間の集中交渉によっては価格等の条件に折り合いが付かない場合,SREC等とテレビ用ブラウン管製造販売業者の間で協議がなされることがあったことや,特定の現地製造子会社等のみが特定のテレビ用ブラウン管製造販売業者からテレビ用ブラウン管を購入していたところ,この場合には,集中交渉のメリットが妥当しないため,当該現地製造子会社等が独自にテレビ用ブラウン管を調達していたことは,シャープによる集中交渉が,SREC等の意思に基づくものであり,SREC等の利益になるという限りにおいてなされていたものであることを示している。
(b) このように,シャープの集中交渉によってテレビ用ブラウン管の価格が決定されたとしても,それは,決してシャープがSREC等に対して当該価格での購入を指示して購入させるという性質のものではなく,むしろ,SREC等の事実上の委託によってシャープが集中交渉を行った結果を享受するというべきものであるから,シャープがSREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたとは到底認められない。
(ウ) 日本ビクターについて
a ブラウン管テレビ事業の統括
(a) 日本ビクターグループにおいて,連結対象子会社であるJMT等の事業計画を最終的に取りまとめるのは日本ビクターであったが,JMT等の採算,すなわち事業計画の達成について責任を有しているのは,JMT等自身であった。JMT等の事業計画についても,日本ビクターとのすり合わせを経て,最終的に策定するのはJMT等自身であり,当該事業計画を実施する責任は,JMT等が負っていた。そして,テレビ用ブラウン管の購入価格の変動等によって損益に影響を受けるのは,JMT等であった。
 JMT等の事業計画の策定,遂行において,テレビ用ブラウン管の調達価格は重要な影響を与えるところ,JMT等が購入するテレビ用ブラウン管の購入価格の交渉については,日本ビクターの担当者とJMTの担当者とが共同して行っていた。
(b) このように,日本ビクターは,JMT等に対し,同社の購買力を高めるという観点からの一定の関与を及ぼしてはいたものの,JMT等のブラウン管テレビに係る採算上の責任を負担していたのはJMT等自身であり,日本ビクターがJMT等の事業を統括していたと到底評価できるものではない。
b 本件ブラウン管の購入指示
(a) 日本ビクターは,テレビ用ブラウン管の価格交渉に関与していたものの,JMT等の意向に反して取引条件を一方的に決定するということはなかった。また,JMTの担当者は,四半期ごとのテレビ用ブラウン管の取引条件の交渉に参加ないし関与し,JMT等が要求する価格等をテレビ用ブラウン管製造販売業者に直接伝えたり,日本ビクターの担当者を通じてJMT等の意向を伝えたりしていた上,JMT等は,支払の条件,納期及び品質等,日本ビクターとテレビ用ブラウン管製造販売業者の間のやり取りを経てもなお決まっていない部分につき更に交渉するということを頻繁に行っていた。
 のみならず,JMT等は,日本ビクターが四半期ごとに決めたテレビ用ブラウン管の価格について当該期間中に変更する必要があると判断し,日本ビクターに価格の再交渉を求めることもあり,また,集中購買で決定した価格よりも更に安い価格を求めて,独自に交渉等をすることもしていた。さらに,日本ビクターとテレビ用ブラウン管製造販売業者の親会社等との間では最終的な価格が決定されていない中で,現地法人間で話を詰めて価格を決める場合まであった。
(b) このように,JMT等は相当の独立性を持って本件ブラウン管の取引条件の交渉・決定等を行っており,日本ビクターが本件ブラウン管の取引条件の交渉に関与していたとしても,それは,JMT等のために日本ビクターが行った集中交渉の結果をJMT等が享受したというべきものであり,決して,日本ビクターがJMT等に対して当該価格での購入を指示して購入させたと評価できるものではない。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は,原告らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。

2 独占禁止法上の需要者の解釈について
(1)ア 独占禁止法1条の目的規定からすると,同法は,直接的には我が国における「公正且つ自由な競争を促進」すること,すなわち,我が国の自由競争経済秩序を維持することを目的とし,究極的には「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」を目的としているということができる(最高裁昭和59年2月24日第二小法廷判決・刑集38巻4号1287頁)。
イ 上記のとおり,独占禁止法が,我が国における自由競争経済秩序の維持をその直接の目的としていることに照らせば,事業者が,日本国外において,他の事業者と共同して同法2条6項に該当する行為(不当な取引制限)に及んだ場合であっても,当該行為が一定の取引分野における我が国に所在する需要者(同条4項1号にいう需要者)をめぐって行われるものであるときには,同法3条後段が適用されると解するのが相当である。
(2) そこで,独占禁止法2条4項1号にいう需要者とはどのような者を意味するのか(同法上の需要者の解釈)について検討する。
ア 需要者は,供給者から商品又は役務の供給を受ける者であるが,供給を受けるに当たっては,①供給者と取引交渉をして意思決定をし,②上記意思決定に基づき,対価を支払って商品等の供給を受け,これを使用収益するという過程を経ることになるところ,②の行為を行う者が需要者と認められることは,その行為内容からして明らかである。通常は,①と②の行為は同一の者により行われるため,その者が我が国に所在すれば,需要者が我が国に所在すると認めることができ,同法3条後段の適用が可能となるが,①の行為者は我が国に所在するものの,②の行為者は我が国に所在しないという場合において,①の行為者も需要者と認め,同法3条後段の適用を可能とすることができるのかが本件における争点となっている。
イ 独占禁止法2条4項は,二以上の事業者が,「同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給する」行為等をすることを「競争」と定めるところ,同条6項は,事業者が,他の事業者と共同して対価を決定するなどして,一定の取引分野における「競争」を実質的に制限することを「不当な取引制限」とし,同法3条後段はこの「不当な取引制限」を行うことを禁じている。上記のとおり,独占禁止法3条後段は,二以上の事業者による同一の需要者に対する供給行為を,事業者間で対価を決定するなどして実質的に制限することを禁じているものであるから,当該需要者は供給を受ける者と評価し得ることが必要となると解せられる。
 一方,独占禁止法が,我が国における自由競争経済秩序の維持をその直接の目的としていることは上記(1)アのとおりである。自由競争経済秩序の維持は,供給者と需要者の双方が,それぞれ自主的な判断により取引交渉をして意思決定をするという過程が,不当な行為により制限されないことが保障されることによって図られるものであり,自由競争経済秩序の維持を図る上で保護されるべき需要者の属性として重要なのは,意思決定者としての面と解せられる。
 以上を総合すると,意思決定者と,供給を受けこれを使用収益する者とが異なる場合であっても,両者が一体不可分となって供給を受けたと評価できる場合は,意思決定者についても需要者として認めることができ,我が国に所在する当該需要者について,独占禁止法3条後段の適用が可能となると解するのが相当である。
ウ これに対し,原告らは,前記第2の6(1)イ及びウで指摘する理由により,需要者とは,対象となる商品の提供を受けて対価を支払い,これを使用収益する者でなければならないと主張する。しかし,以下に述べるとおり,上記指摘に係る点は,上記イの解釈を左右するものとは認め難い。
(ア) 前記第2の6(1)イについて
 独占禁止法における企業結合規制は,競争に影響を与える蓋然性があると考えられる一定規模以上の会社同士の企業結合を届出の対象としているところ,現行の独占禁止法10条2項においては,当該蓋然性があると考えられる類型につき,当該会社の国内売上高(国内において供給された商品及び役務の価格の最終事業年度における合計額として公正取引委員会規則で定めるもの)を指標として定めていることは原告らの主張するとおりである。
 しかし,同条項は,届出義務が発生する会社の規模の基準を定めているにすぎず,届出義務が発生しない会社について独占禁止法3条の適用がないことまで定めているものではない。また,上記イの解釈は,意思決定者と供給を受けこれを使用収益する者とが一体不可分となって供給を受けたと評価できる場合は,意思決定者についても需要者として認めることができるとするものであって,供給の有無に関わりなく,意思決定をしたことのみで需要者として評価するものではないから,この解釈が,同法における企業結合規制の上記枠組みと矛盾するとは認め難い。
(イ) 前記第2の6(1)ウ(ア)について
 原告らは,意思決定を重視して需要者の範囲を決定することは,需要者の範囲を不明確なものとし,供給者側にとっての予見可能性や法的安定性を低下させると主張する。
 しかし,意思決定者と供給を受けこれを使用収益する者とが一体不可分となって供給を受けたと評価できる場合においては,供給者側は,意思決定者との交渉過程において,意思決定者側の関係を容易に把握し得ると考えられるから,意思決定者を需要者と認めることが,供給者側にとっての予見可能性や法的安定性を低下させるとは認め難い。
(ウ) 前記第2の6(1)ウ(イ)について
 原告らは,意思決定を重視して需要者を決定することは,競争法執行の国際的衝突を招くものであって妥当ではないと主張する。
 上記イの解釈によれば,意思決定者及び供給を受けこれを使用収益する者の双方についてそれぞれの所在国で競争法が適用され得ることとなる。しかし,同一事案を複数の法域で取り上げられること自体が禁じられているわけではないし,仮に,競争法が重複して適用されることにより何らかの弊害が生じるとしても,その弊害の回避は,法執行機関間における協力,調整等によって図り得る余地がある。以上によれば,競争法の重複適用の点は,上記イの解釈の妨げとなるものとは認め難い。

3 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者に該当することについて
(1) 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者について,各業者に関する個別の認定事実は次のとおりである。
ア オリオン電機
 本件審決は,査1ないし3,6ないし7の2,18,18の2,40ないし55の2,148ないし153,166,173ないし180の2,203及び丹羽順一参考人審尋速記録に基づき,前記第2の4(1)ア(ア)の事実を認定し,この事実に基づき同(イ)の事実を認めているところ,上記各証拠に基づき上記各事実を認定することは合理的であって,何ら経験則に反するものではないから,本件審決の上記事実認定は実質的証拠に基づくものと認めることができる。
イ 三洋電機
 本件審決は,査1ないし4,6,18,18の2,50,51,57,59ないし61の2,154,167,181ないし185,199及び古賀一路参考人審尋速記録に基づき,前記第2の4(1)イ(ア)の事実を認定し,この事実に基づき同(イ)の事実を認めているところ,上記各証拠に基づき上記各事実を認定することは合理的であって,何ら経験則に反するものではないから,本件審決の上記事実認定は実質的証拠に基づくものと認めることができる。
ウ シャープ
 本件審決は,査1ないし3,7,7の2,18,18の2,50,51,59,63,64,69,70ないし82の2,165,168,171,186ないし189,200によれば,前記第2の4(1)ウ(ア)の事実を認定し,この事実に基づき同(イ)の事実を認めているところ,上記各証拠に基づき上記各事実を認定することは合理的であって,何ら経験則に反するものではないから,本件審決の上記事実認定は実質的証拠に基づくものと認めることができる。
エ 日本ビクター
 本件審決は,査1ないし3,7,7の2,18,18の2,50,51,84ないし94,169,190ないし194の2,201によれば,前記第2の4(1)エ(ア)の事実を認定し,この事実に基づき同(イ)の事実を認めているところ,上記各証拠に基づき上記各事実を認定することは合理的であって,何ら経験則に反するものではないから,本件審決の上記事実認定は実質的証拠に基づくものと認めることができる。
オ 船井電機
 本件審決は,査1ないし3,7,7の2,18,18の2,50,51,59,96ないし104の2,156,160,163の1・2,164の1・2,170,195ないし197,202及び井土周次参考人審尋速記録によれば,前記第2の4(1)オ(ア)の事実を認定し,この事実に基づき同(イ)の事実を認めているところ,上記各証拠に基づき上記各事実を認定することは合理的であって,何ら経験則に反するものではないから,本件審決の上記事実認定は実質的証拠に基づくものと認めることができる。
(2) 本件審決は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者全体に関する事実として,上記(1)の各事実に基づき,下記アないしウの事実(前記第2の4(2)ウ(ア),(イ)の事実)を認めているところ,この認定も合理的であって,何ら経験則に反するものではないから,本件審決の上記事実認定も実質的証拠に基づくものと認めることができる。
ア 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともにブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしていた。
イ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,原告MTほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていた。
ウ 現地製造子会社等は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉・決定及びそれに基づく指示なくしては,本件ブラウン管を購入し,受領することはできなかった。
(3) 上記(2)の認定事実に照らせば,本件ブラウン管の取引条件を決定していた我が国ブラウン管テレビ製造販売業者とその供給を受けた現地製造子会社等とは,両者が一体不可分となって本件ブラウン管の供給を受けたものと合理的に評価することができ,以上を総合すれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者に該当するとした本件審決の認定は,実質的証拠に基づくものということができる。
(4) 上記認定に対し,原告らは,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者のうち,少なくとも三洋電機,シャープ及び日本ビクターの3社については,現地製造子会社等と一体となって本件ブラウン管を購入していたと評価することを許さない積極的事実があると主張する(前記第2の6(2)ウ,エ)ので,この点につき検討する。
ア 三洋電機に関する主張について
(ア) 原告らは,三洋電機が三洋電子インドネシアのブラウン管テレビ事業を統括していたとの事実は認められないと主張し,その根拠として,①三洋電子インドネシアの事業計画は,同社が,三洋電機の指示や承認を受けることなく独自に策定していたこと,また,三洋電子インドネシアは,総務,財務,設計,製造,品質管理,営業企画,購買の各部門を有しており,それぞれが三洋電機からの拘束を受けることなく,独自に業務を行っていたこと,②三洋電子インドネシアは,ブラウン管テレビの商品企画や開発,販売計画などを独自に行っていたこと,③三洋電子インドネシアは,調達業務についても,テレビ用ブラウン管の調達に係る交渉業務を除いては,独自に仕入計画を策定し,契約の締結,価格・取引条件の決定を自ら行っていたことなどを掲げ,その証拠として,古賀一路の参考人審尋速記録,査57,199,審16,54の2の記載部分を指摘する。
 しかし,査183には,現地法人が策定した事業計画案は最終的には三洋電機が承認することになっている旨の記載があるのであって,この記載は,原告らの上記①ないし③の主張のうち,三洋電子インドネシアが三洋電機からの拘束を受けることなく,独自で業務を行った旨の主張部分に沿わないものである。本件審決が上記査183も含めた証拠に基づき,三洋電機が三洋電子インドネシアのブラウン管テレビ事業を統括していたとの事実を認定し,その認定が合理的であることは前記(1)イで判示したとおりであって,原告らの指摘する上記各証拠はこの合理性を左右するものとは認め難いから,原告らの上記主張は採用できない。
(イ) 原告らは,三洋電機は,三洋電子インドネシアのために本件ブラウン管の価格交渉業務を行っていたにすぎず,三洋電機が,三洋電子インドネシアに指示して本件ブラウン管を購入させていたとの事実は認められないと主張し,その証拠として,古賀一路の参考人審尋速記録,査199,審2,4,5,17,18の記載部分を指摘する。
 しかし,古賀一路の参考人審尋速記録には,三洋電機は,三洋電機グループにおけるブラウン管テレビに係る事業を統括する会社として,集中購買によるスケールメリットを求め,テレビ用ブラウン管の購買業務を行っていた旨の記載があるのであって,この記載は,三洋電機が三洋電子インドネシアのために本件ブラウン管の価格交渉業務を行っていたにすぎないとの上記主張事実に沿わないものである。本件審決が,上記速記録も含めた証拠に基づき,三洋電機が三洋電子インドネシアに指示して本件ブラウン管を購入させていたとの事実を認定し,その認定が合理的であることは前記(1)イで判示したとおりであって,原告らの指摘する上記各証拠はこの合理性を左右するものとは認め難いから,原告らの上記主張は採用できない。
イ シャープに関する主張について
(ア) 原告らは,SREC等,SEM及びシャープは,三者が相互に役割を分担してブラウン管テレビ事業を遂行していたものであり,シャープがSREC等のブラウン管テレビに係る事業を統括するといったような一方的な関係にあったものではないと主張し,その証拠として,査63,188,200,審19ないし36の記載部分を指摘する。
 しかし,査186には,シャープが製造子会社等の行うブラウン管テレビの事業を統括していた旨の記載があるのであって,この記載は,シャープの統括者としての地位を否定する上記主張に沿わないものである。本件審決が,上記査186も含めた証拠に基づき,シャープがSREC等の行うブラウン管テレビに係る事業を統括していたとの事実を認定し,その認定が合理的であることは前記(1)ウで判示したとおりであって,原告らの指摘する上記各証拠はこの合理性を左右するものとは認め難いから,原告らの上記主張は採用できない。
(イ) 原告らは,①テレビ用ブラウン管の調達については,SREC等が最終的な決定権を有しており,シャープは,SREC等によるテレビ用ブラウン管調達のコストを削減するためのアシストとして集中交渉の役割を担っていたにすぎず,シャープによる集中交渉は,SREC等の意思に基づくものであり,SREC等の利益になるという限りにおいてなされていたものである,②したがって,シャープの集中交渉によってテレビ用ブラウン管の価格が決定されたとしても,それは,シャープがSREC等に対して当該価格での購入を指示して本件ブラウン管を購入させるという性質のものではない旨主張し,その証拠として,査63,188,200の記載部分を指摘する。
 しかし,査200には,シャープが統一的な購買業務を行っていた目的は,全体のボリュームの中で最有利価格をブラウン管メーカーから引き出して,シャープの収益を上げていくという点にあった旨の記載や,現地製造会社の意向よりもシャープとしていかに最安で買うかという点が交渉上重要であった旨の記載があるのであって,これらの記載は,上記①の主張に沿わないものである。本件審決が,上記査200も含めた証拠に基づき,シャープがSREC等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとの事実を認定し,その認定が合理的であることは前記(1)ウで判示したとおりであって,原告らの指摘する上記各証拠はこの合理性を左右するものとは認め難いから,原告らの上記主張は採用できない。
ウ ビクターに関する主張について
(ア) 原告らは,JMT等のブラウン管テレビに係る採算上の責任を負担していたのはJMT等自身であり,日本ビクターがJMT等の事業を統括していたと評価することはできないと主張する。
 しかし,日本ビクターは,各地の販売拠点からの注文を取りまとめ,それに基づいてJMT等に生産の指示を出し,完成したブラウン管テレビを上記販売拠点から販売するなどして,ブラウン管テレビの生産,販売及び在庫に関する管理をしていたほか,価格交渉力の向上を目的として,JMT等が使用するテレビ用ブラウン管の調達業務を行うなど,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していたことは前記認定((1)エ,第2の4(1)エ(ア)a(b))のとおりであって,JMT等のブラウン管テレビに係る採算上の責任を負担していたのがJMT等自身であることは,同認定を左右するものとは認め難いから,原告らの上記主張は採用できない。
(イ) 原告らは,①日本ビクターがJMT等の意向に反して取引条件を一方的に決定することはなかったこと,JMTの担当者もテレビ用ブラウン管の取引条件の交渉に参加,関与していたこと,②JMT等は,日本ビクターの交渉で決まらなかった部分について交渉していたこと,JMT等は,日本ビクターが決めた価格について再交渉を求めることもあるし,更に安い価格を求めて独自に交渉することもあったこと,日本ビクターによる交渉で最終的な価格が決定されていない場合に,現地法人間で価格を決める場合もあったことなどを根拠に,③JMT等は,相当の独立性を持って本件ブラウン管の取引条件の交渉・決定等を行っていたものであって,日本ビクターがJMT等に指示して本件ブラウン管を購入させたとは評価できない旨主張する。
 しかし,日本ビクターが,JMT等に対し,日本ビクターが事業者との交渉で決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話,電子メール,ファクシミリ等で伝え,それに従って本件ブラウン管を購入するよう指示していたことは前記認定((1)エ,第2の4(1)エ(ア)b(c))のとおりであるところ,上記①の各事実はこれと両立し得るものである。また,上記②の各事実は,日本ビクターが事業者との交渉で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定することを前提とした上で,その条件の再調整を行ったものとも評価し得るのであって,日本ビクターによる上記購入指示の事実を左右するものとは認め難い。したがって,原告らの上記③の主張は採用できない。

4 結論
 以上のとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者に該当するとした本件審決の認定は実質的証拠に基づくものであり,この認定は,独占禁止法上の需要者の正当な解釈を踏まえたものということができる。したがって,これに反する原告らの主張は採用できず,他に同法82条1項各号所定の取消事由は認められない。
 よって,本件審決の取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

平成28年4月13日

東京高等裁判所第3特別部

裁判長裁判官 山田 俊雄
裁判官 納谷 肇
裁判官 馬渡 直史

裁判官棚橋哲夫及び内田博久は,転補につき,署名押印することができない。

裁判長裁判官 山田 俊雄

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