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サムスン・エスディーアイ・カンパニー・リミテッドによる審決取消請求事件

独禁法3条後段

平成27年(行ケ)第36号

判決

大韓民国 キョンギド ヨンインシ キフング コンセロ 150-20(コンセドン)

原告 サムスン・エスディーアイ・カンパニー・リミテッド

同代表者代表理事 チョ・ナムソン

同訴訟代理人弁護士 内田 晴康

              伊藤 憲二

              関戸 麦

              宇都宮 秀樹

              池田 毅

              竹腰 沙織

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号

被告 公正取引委員会

同代表者委員長 杉本 和行

同指定代理人 岩下 生知

          榎本 勤也

          多賀井 満理

          山崎 利恵

          銭場 忠夫

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

 公正取引委員会平成22年(判)第6号について,被告が平成27年5月22日付けで原告に対してした審決の主文第2項を取り消す。

第2 事案の概要

1 被告は,原告に対し,平成21年10月7日,排除措置を命じた(以下「本件排除措置命令」という。)。その理由は,原告が,別紙1記載の事業者と共同して,おおむね四半期ごとに次の四半期における別紙2記載の事業者(以下「我が国ブラウン管テレビ製造販売業者」という。)が別紙2の「東南アジア地域の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社の所在国」欄記載の国に所在する当該事業者の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社(以下「現地製造子会社等」という。)に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管(以下「特定ブラウン管」という。)の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意すること(以下「本件合意」という。)により,公共の利益に反して,特定ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,平成25年法律第100号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要がある(同法7条2項),というものであった。
 被告は,平成21年12月24日,同法70条の18の規定に基づき,本件排除措置命令に係る排除措置命令書の謄本(以下「本件排除措置命令書謄本」という。)につき公示送達の手続を執った(以下,この送達を「本件公示送達」という。)。
 原告は,平成22年4月2日,本件排除措置命令の取消しを求めて本件審判請求をした。
 これに対し,被告は,平成27年5月22日,次の内容の審決(以下「本件審決」という。)をした。すなわち,①我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,それぞれ,原告,MT映像ディスプレイ,中華映管,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT(以下「原告ほか4社」という。)ほかのテレビ用ブラウン管製造販売業者の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様のほか,おおむね1年ごとの購入予定数量の大枠やおおむね四半期ごとの購入価格及び購入数量について交渉し,現地製造子会社等が上記交渉等を経て本件合意の対象となっている別紙3記載のテレビ用ブラウン管を購入していた,②しかし,本件合意は,平成19年3月30日になくなっており,特に排除措置を命ずる必要があるとは認められないと判断して,主文第1項において,本件排除措置命令を取り消し,同法66条4項の規定により,主文第2項において,原告が,別紙1記載の10社と共同して,遅くとも平成15年5月22日頃までに(ただし,MT映像ディスプレイ・マレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,MT映像デイスプレイ・タイは遅くとも同年4月23日までにそれぞれ本件合意に加わったものである。),我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管について,おおむね四半期ごとに次の四半期における現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の本件合意をした行為は,同法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ,本件合意は,平成19年3月30日になくなっていると認める旨を明らかにした。
 本件は,①原告が,本件公示送達は,違法である,②本件には,我が国の独占禁止法は適用されない,③原告が我が国に所在する需要者に係る一定の取引分野における競争を実質的に制限した事実を立証する実質的な証拠はないと主張して,被告に対し,本件審決の主文第2項の取消しを求めた事案である。

2 関係法令の定め
(1) 独占禁止法
ア 1条
 この法律は,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,事業支配力の過度の集中を防止して,結合,協定等の方法による生産,販売,価格,技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇傭及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
イ 2条4項1号
 この法律において「競争」とは,二以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく次に掲げる行為をし,又はすることができる状態をいう。
1号 同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること
ウ 2条6項
 この法律において「不当な取引制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し, 若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
エ 3条
 事業者は,私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
オ 10条1項
 会社は,他の会社の株式を取得し,又は所有することにより,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には,当該株式を取得し,又は所有してはならず,及び不公正な取引方法により他の会社の株式を取得し,又は所有してはならない。
カ 49条6項
 排除措置命令に不服がある者は,公正取引委員会規則で定めるところにより,排除措置命令書の謄本の送達があつた日から60日以内(天災その他この期間内に審判を請求しなかったことについてやむを得ない理由があるときは,その理由がやんだ日の翌日から起算して1週間以内)に,公正取引委員会に対し,当該排除措置命令について,審判を請求することができる。
キ 66条3項
 審判請求が理由があるときは,公正取引委員会は,審判手続を経た後,審決で,原処分の全部又は一部を取り消し,又はこれを変更する。
ク 66条4項
 公正取引委員会は,前項の規定により原処分の全部又は一部を取り消す場合において,当該原処分の時までに第3条…(略)…の規定に違反する行為があり,かつ,当該原処分の時において既に当該行為がなくなっていると認めるときは,審決で,その旨を明らかにしなければならない。
ケ 70条の17
 書類の送達については,民事訴訟法…(略)…第108条…(略)…の規定を準用する。この場合において,同法…(略)…第108条中「裁判長」とあ…(略)…るのは「公正取引委員会」と読み替えるものとする。
コ 70条の18第1項
 公正取引委員会は,次に掲げる場合には,公示送達をすることができる。
1号 送達を受けるべき者の住所,居所その他送達をすべき場所が知れない場合
2号 外国においてすべき送達について,前条において読み替えて準用する民事訴訟法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
3号 前条において読み替えて準用する民事訴訟法108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
サ 70条の18第2項
 公示送達は,送達すべき書類を送達を受けるべき者にいつでも交付すべき旨を公正取引委員会の掲示場に掲示することにより行う。
シ 70条の18第3項
 公示送達は,前項の規定による掲示を始めた日から2週間を経過することによって,その効力を生ずる。
ス 70条の18第4項
 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては,前項の期間は,6週間とする。
(2) 民事訴訟法108条
 外国においてすべき送達は,裁判長がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使,公使若しくは領事に嘱託してする。

3 前提事実(当事者間に争いのない事実若しくは公知の事実又は被告が本件審決で証拠により認定した事実のうち原告が実質的な証拠の欠けつを主張しておらず,適法な認定と認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告及びサムスンSDIマレーシアの概要
(ア) 原告は,肩書地に本店を置き,電子機器等の製造販売等を業とする者である。
(イ) サムスンSDIマレーシアは,原告の子会社であり,マレーシアに本店を置き,テレビ用ブラウン管の製造販売業を営む者である。
イ 原告及びサムスンSDIマレーシア以外のテレビ用ブラウン管製造販売業者等の概要
(ア)a MT映像ディスプレイは,大阪府門真市に本店を置く事業者である。
b MT映像ディスプレイ・インドネシアは,MT映像ディスプレイの子会社であり,インドネシア共和国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
c MT映像ディスプレイ・マレーシアは,MT映像ディスプレイの子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
d MT映像ディスプレイ・タイは,MT映像ディスプレイの子会社であり,タイ王国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(イ)a 中華映管は,台湾に本店を置く事業者である。
b 中華映管マレーシアは,中華映管の子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(ウ)a LGフィリップス・ディスプレイズは,大韓民国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
b LPディスプレイズ・インドネシアは,LGフィリップス・ディスプレイズの関連会社であり,インドネシア共和国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
 なお,LPディスプレイズ・インドネシアの役員や従業員のほとんどはLGフィリップス・ディスプレイズから派遣されていた。
(エ) タイCRTは,タイ王国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
ウ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の概要
 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,別紙2記載のとおり,我が国に本店を置き,東南アジア地域に現地製造子会社等を有して,少なくとも後記(4)の日までブラウン管テレビの製造販売業を営んでいた者である。
(2) テレビ用ブラウン管に関する取引について
ア 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,それぞれ,原告ほか4社ほかのテレビ用ブラウン管製造販売業者の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様のほか,おおむね1年ごとの購入予定数量の大枠やおおむね四半期ごとの購入価格及び購入数量について交渉していた(以下,この我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉相手事業者の選定及び当該事業者との交渉のことを「本件交渉等」という。ただし,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の本件交渉等への関与の程度及び内容については争いがある。)。
 なお,本件交渉等は,その相手方に原告が選定された場合にはサムスンSDIマレーシアが,MT映像ディスプレイが選定された場合にはMT映像ディスプレイ・インドネシア,MT映像ディスプレイ・マレーシア及びMT映像ディスプレイ・タイ(以下「MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社」という。)が,中華映管が選定された場合には中華映管マレーシアが,LGフィリップス・ディスプレイズが選定された場合には同社及びLPディスプレイズ・インドネシアが,タイCRTが選定された場合には同社が,それぞれ現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を販売することを前提として行われていた。
イ 現地製造子会社等は,本件交渉等を経た後,主にサムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT(以下「サムスンSDIマレーシアほか7社」という。)からテレビ用ブラウン管を購入していた(以下,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する別紙3記載のテレビ用ブラウン管を「本件ブラウン管」という。なお,本件排除措置命令及び審査官の主張する「特定ブラウン管」は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管と定義されているが,この定義のうち,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に「購入させる」との部分は当事者間に争いがある。そこで,本件審決は,上記のとおり,現地製造子会社等が本件交渉等を経て本件合意の対象となっている別紙3記載のテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められるので,「本件ブラウン管」を上記のとおり定義したものであるが,被告は,「本件ブラウン管」と「特定ブラウン管」とは商品の範囲としては同一であると判断している。)。
ウ 平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,サムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額の合計の割合は約83.5パーセントであった。
(3) 本件合意の成立
ア 原告ほか4社並びにサムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシア,中華映管マレーシア及びLPディスプレイズ・インドネシアは,テレビ用ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため,遅くとも平成15年5月22日頃までに,日本国外において,テレビ用ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し,おおむね四半期ごとに次の四半期におけるテレビ用ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の本件合意をした(ただし,本件合意の対象が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管に限定されていたかについては,争いがある。)。
イ MT映像ディスプレイ・マレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,MT映像ディスプレイ・タイは遅くとも同年4月23日までに,それぞれ本件合意に加わった。
(4) 本件合意の消滅
 中華映管及び中華映管マレーシアが,平成19年3月30日,競争法上の問題によりテレビ用ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨表明し,その後,MT映像ディスプレイも同様の対応を採ったことなどにより,それ以降,上記会合は開催されていないことから,同日以降,本件合意は事実上消滅している。
(5) 本件排除措置命令
 被告は,原告に対し,平成21年10月7日,独占禁止法7条2項により,同法3条に違反する行為が既になくなっているが, 「特に必要があると認めるとき」に当たると判断して,本件排除措置命令を発した。本件排除措置命令は,原告に対し,主文第1項において,本件合意が消滅していることの確認及び今後は特定ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,他の事業者と共同して決定せず,自主的に決める旨を業務執行の決定機関において決議することを,主文第2項において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者等に対し,主文第1項に基づいて採った措置を通知することなどを,主文第3項において,今後他の事業者と共同して特定ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格を決定してはならないことを,主文第4項において,主文第1項及び第2項に基づいて採った措置を公正取引委員会に報告することを,それぞれ命ずるものであった。
(6) 本件公示送達 
 被告は,平成21年12月24日,独占禁止法70条の18の規定に基づき,本件排除措置命令書謄本につき公示送達の手続を執った。
(7) 審判請求
 原告は,平成22年4月2日,本件排除措置命令の取消しを求めて本件審判請求をした。被告は,平成27年5月22日,本件審決をした。

4 争点
(1) 本件公示送達は適法か
(2) 本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか

5 本件審決の事実認定及び判断
 被告は,上記4の争点について以下のとおり認定判断し,また,本件合意の消滅後も原告に対し本件排除措置命令を命ずることについては「特に必要がある」とは認められないと判断して,独占禁止法2条6項,3条,66条3項及び4項を適用して,主文第1項において,本件排除措置命令を取り消すとともに,主文第2項において,原告が他の事業者と共同して本件合意をした行為は同法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものであり,かつ,本件合意は平成19年3月30日になくなっていると認めることを明らかにする旨の本件審決をした。
(1) 争点(1)(本件公示送達は適法か)について
 独占禁止法49条6項の規定による審判請求に基づく審判手続は,原処分の適法性及び相当性を再審査する手続である。原告は,本件公示送達が違法である旨主張するが,原処分に係る命令書謄本の送達が適法になされたか否かは原処分の効力発生の有無に関する問題であって,原処分自体の適法性や相当性には関係がないから,本件審判手続において本件公示送達の違法性を主張することは失当というほかない。
 ただし,念のため,本件公示送達の適法性について検討する。関係証拠によれば,原告が平成21年10月5日,当時の日本国内における代理人及び復代理人全員を解任し,原告の日本国内における代理人に対して本件排除措置命令書謄本を送達することができなくなったことから,被告は,外務省を通じて,大韓民国政府に対し,本件排除措置命令書謄本を領事送達することについて同意するよう求めたが,大韓民国政府(外交通商部)が領事送達に同意しなかったことが認められる。そうすると,本件排除措置命令書謄本を領事送達によって送達することができない場合に当たることが明らかである。また,管轄官庁送達については,大韓民国において,これを実施する権限のある管轄官庁を定めた条約等がないため,実施することができない。したがって,大韓民国においてすべき本件排除措置命令書謄本の送達について,同法70条の17の規定により読み替えて準用される民事訴訟法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達することができないと認めるべき場合(独占禁止法70条の18第1項2号)に該当する。なお,本件公示送達により,大韓民国に所在する原告に対して送達の効力が生じたとしても,大韓民国の領域内において我が国の公権力を行使するものではないから,大韓民国の主権を侵害しないことは明らかである。よって,本件公示送達は適法になされたものと認められる。
(2) 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか)について
ア 本件審決が認定した事実
(ア) オリオン電機
a 認定事実
(a) 製造委託先会社との関係
ⅰ WORLD ELECTRIC(THAILAND)LTD.は昭和63年に,KORAT DENKI LTD.は平成7年に,オリオン電機の海外におけるブラウン管テレビの製造拠点としてタイ王国において設立されたブラウン管テレビの製造販売を業とする会社である(以下,上記2社を併せて「ワールド等」という。)。
 オリオン電機は,ワールド等に出資することはしなかったが,ワールド等を自社の製品を製造するグループ企業と位置付け,ワールド等と技術援助契約を締結した上,ワールド等の設立以来,自社の従業員をワールド等の会社代表者,役員及び従業員として派遣している。
ⅱ オリオン電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成7年頃以降は行っておらず,専ら,ワールド等といった製造委託先会社に設計や仕様を指示してブラウン管テレビの製造を委託していた。なお,オリオン電機は,ブラウン管テレビの製造販売について,量販店の卸売業者や相手先商標製品製造(OEM)の相手先等からの注文を受けてから,製造委託先会社に製造を委託する受注生産方式を採っていた。
ⅲ オリオン電機は,価格交渉力を向上させることや受注したブラウン管テレビの販売価格を管理することを目的として,企画部等の部署において,原価計算をした上,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格及び購入数量の決定等の購買業務等を行っていた。
 なお,前記ⅰの技術援助契約の第1条において,ワールド等は必要な資材についてオリオン電機を通じて購入することに協力する旨定められている。
ⅳ オリオン電機は,ワールド等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの全てを購入し,北米,欧州及び日本など国内外に販売していた。なお,ワールド等はオリオン電機以外からも委託を受けるなどして製品を製造していたが,その割合は売上げの1割にも満たない程度であった。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ オリオン電機は,主に原告ほか4社の中から一又は複数の事業者を選定し,その事業者との間で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。
ⅱ オリオン電機は,ワールド等に対し,テレビ用ブラウン管の仕様,購入価格,購入数量等を記載した部品表若しくは仕様書を送付し,又はそれらのデータを送信することにより,本件ブラウン管を含むテレビ用ブラウン管を前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から購入するよう指示していた。
ⅲ ワールド等は,前記ⅱの指示に従い,オリオン電機により選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社との間の関係では,MT映像ディスプレイ・マレーシア,MT映像ディスプレイ・タイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管を発注し,購入していた。
b 前記認定事実によれば,オリオン電機は,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格,購入数量等の決定等の業務を行っており,原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをワールド等に伝え,ワールド等は,それに従ってオリオン電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはオリオン電機であって,ワールド等は,オリオン電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,オリオン電機は,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
 これに対し,原告は,オリオン電機が本件ブラウン管の購買業務に関与していたことについて,法的な又は契約上の根拠はなかったし,オリオン電機とワールド等との間を規律する唯一の契約である技術援助契約をみても,ワールド等が上記価格交渉の結果やオリオン電機の指示に拘束されるという条項もなかったから,オリオン電機が本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を交渉の上,決定し,ワールド等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
 しかし,前記a(a)ⅲのとおり,オリオン電機において,ワールド等が製造するブラウン管テレビの原価計算をして販売価格を管理していたことなどに照らせば,オリオン電機がブラウン管の調達からブラウン管テレビの製造及び販売について実質的に決定していたと認められるのであって,本件ブラウン管の取引条件の交渉や価格の決定方法等について,明確な定めがないことは上記認定の妨げとなるものではない。むしろ,技術援助契約第1条(前記a(a)ⅲ)をみれば,オリオン電機が本件ブラウン管の取引条件の交渉や決定に関与することも同契約で想定されている範囲内であるといい得る。
 したがって,前記のとおり,オリオン電機が,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(イ) 三洋電機
a 認定事実
(a) 現地製造子会社との関係
ⅰ 三洋電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,平成8年にインドネシア共和国にP.T.SANYO Electronics Indonesia(以下「三洋電子インドネシア」という。)を設立し,同社にブラウン管テレビの製造業務を移管した。
 なお,三洋電子インドネシアの議決権については,三洋電機の完全子会社でシンガポール共和国に所在するSANYO Asia Pte.Ltd.が,平成14年4月から平成16年3月まではその82パーセントを,同年4月以降はその全てを保有していた。
ⅱ 三洋電機は,平成18年9月30日まで,「マルチメディアカンパニー」,「AVソリューションズカンパニー」又は「AVカンパニー」(時期により名称が異なる。)の中の専門部署(例えば「AVカンパニー」のときは「テレビ統括ビジネスユニット」)において,三洋電子インドネシアを含む現地製造子会社(以下「三洋電子インドネシア等」という。)が使用するテレビ用ブラウン管の仕様,製造するブラウン管テレビの仕様,製造方法等に関する規格や検査基準を設定したり,毎年の事業計画,四半期ごとの確認,月次の報告等を通じて三洋電子インドネシア等に対して事業上の指示及び管理を行うなど,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。また,三洋電機は,上記各カンパニー内の購買部門において,同社及び三洋電子インドネシア等が使用するテレビ用ブラウン管について,購買業務の効率性を高めるとともにボリューム・ディスカウントによるスケール・メリットの獲得等を目的として,まとめて購買業務を行い,一括して交渉を行っていた。
ⅲ 三洋電子インドネシアには,製造したブラウン管テレビを顧客に直接販売するための販売部門がなかったため,三洋電子インドネシアが本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,三洋電機が承認した事業計画に従い,同社の販売子会社である三洋セールスアンドマーケティング株式会社及びP.T.Sanyo Sales Indonesiaに販売され,これらの会社により国外向けに販売されていた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 三洋電機は,平成18年9月30日まで,主に原告,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から一又は複数の事業者を選定し,その事業者から仕様書の提出を受けるなどした上で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。
ⅱ 三洋電機は,決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,三洋電子インドネシアの担当者に電子メールで伝え,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。
ⅲ 三洋電子インドネシアは,三洋電機が決定した取引条件に従い,同社により選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社の関係では,サムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシア,MT映像ディスプレイ・タイ,LGフィリップス・ディスプレイズ及びLPディスプレイズ・インドネシア)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金を支払っていた。
b 前記認定事実によれば,三洋電機は,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを三洋電子インドネシアに伝え,同社は,それに従って三洋電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは三洋電機であって,三洋電子インドネシアは,三洋電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
 これに対し,原告は,三洋電機が本件ブラウン管の購買業務に関与していたことについて根拠となる契約書や規則等がないこと,三洋電機は価格交渉の際に三洋電子インドネシアの意向を確認しながら進めていたこと,サムスンSDIマレーシアと三洋電子インドネシアとの間で,それぞれの親会社が関与しないで本件ブラウン管の価格が決められたこともあった旨サムスンSDIマレーシアの当時の担当者である李大儀が供述していることなどからすれば,三洋電機が本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を交渉の上,決定し,三洋電子インドネシアに指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
 しかし,三洋電機が交渉の当事者として最終的に取引条件を決定するに当たり,その過程において,三洋電子インドネシアや他の子会社等の意向を集約し,集中購買によるグループ全体の利益を図りつつ,三洋電子インドネシアや他の子会社等の個々の意向に沿うように配慮あるいは調整することは,むしろ,最終的に取引条件の決定を行う三洋電機としては当然のことであるといえる。また,原告が指摘する李大儀の供述内容は,単にサムスンSDIマレーシアと三洋電子インドネシアとの間で本件ブラウン管の価格を決めたこともあった旨供述するにすぎず,具体性に乏しく信用することはできない上,前記認定事実を裏付ける証拠に照らして採用できない。
 なお,三洋電機が本件ブラウン管の取引条件の交渉に関与することについて,三洋電子インドネシアとの関係で何らかの契約や規則等がないことは,前記認定を妨げる事情とは認められない。
 したがって,前記認定事実に照らせば,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(ウ) シャープ
a 認定事実
(a) 現地製造子会社又は関連会社との関係
ⅰ シャープは,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成13年頃以降は行っておらず,専ら,後記①ないし⑤の現地製造子会社又は関連会社5社(以下「SREC等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。なお,シャープは,自社又は子会社の役員又は従業員をSREC等の役員等として派遣していた。
① マレーシア所在のSharp-Roxy Electronics Corporation(M)Sdn.Bhd.(シャープが議決権の50パーセントを保有していた。)
② フィリピン共和国所在のSharp(Philippines.)Corporation(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
③ タイ王国所在のSharp Manufacturing Thailand Co.,Ltd.(シャープが,平成17年3月末までは議決権の33パーセントを保有し,同年4月以降は議決権の全てを保有していた。)
④ インドネシア共和国所在のP.T.Sharp Electronics Indonesia(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
⑤ マレーシア所在のSharp Electronics(Malaysia)Sdn.Bhd.(以下「SEM」という。シャープが議決権の全てを保有していた。)
ⅱ シャープは,「AVシステム事業本部液晶デジタルシステム第4事業部」等の部署において,同社の連結子会社等である現地製造子会社又は関連会社が策定する,主要部品の調達数量を含む生産計画,販売計画,人員及び在庫についての計画等を含む,現地製造子会社又は関連会社の経営計画に事前の承認を与えていた。また,シャープは,価格交渉力の向上を目的に,現地製造子会社又は関連会社が製造するブラウン管テレビの製造に必要なテレビ用ブラウン管について,取引先を選定し,購入価格,購入数量等の取引条件についてのテレビ用ブラウン管メーカーとの間の交渉を取りまとめ,テレビ用ブラウン管の購入を統括して一元管理するなどして,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
ⅲ シャープ及び同社の国外の販売子会社等は,SREC等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの大部分を購入して国内外に販売していた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ シャープは,原告ほか4社等からテレビ用ブラウン管の価格トレンド(テレビ用ブラウン管のインチサイズ別,シャープの現地製造子会社又は関連会社別及びテレビ用ブラウン管の管種別の売買価格及び売買台数並びに貿易条件(TRADETERM)等)の情報を収集し,当該情報とテレビ用ブラウン管業界の動向やテレビ用ブラウン管の新規開発状況等の情報を基に,SEMの設計・開発部門及びSREC等と協議し,その結果を踏まえて,主に原告ほか4社との間で,テレビ用ブラウン管の仕様や翌半期のテレビ用ブラウン管の価格トレンド等の調整を行い,これらの事業者の中から選定した事業者との間で,毎年1月から2月頃と毎年7月から8月頃にかけて,それぞれ各年度の上期(4月から9月)及び下期(10月から翌年3月)において取引される本件ブラウン管のSREC等全体の購入価格,購入数量等について,交渉の相手方である事業者から仕様等の技術情報を収集しつつ,自ら交渉して,取引条件の取りまとめを行っていた。
ⅱ シャープは,SREC等に対し,前記ⅰの交渉により調整されたSREC等全体の価格トレンドを伝達するとともに,SREC等に対し,SREC等が,固有の貿易条件,支払条件等を加味して更に前記ⅰのとおり選定された事業者又はその子会社等と交渉するか,又は,当該価格トレンドの購入価格に従って本件ブラウン管をそれらの者から購入するか確認していた。
ⅲ SREC等は,シャープから伝達された前記ⅰの交渉により調整済みのSREC等全体の価格トレンドが,既に貿易条件を加味したものであったことから,前記ⅱの確認を受けて更に前記ⅰのとおり選定された事業者又はその子会社等と交渉する場合であっても,多くは支払通貨等の支払条件について交渉するのみで,基本的には,シャープから伝達された前記ⅰの交渉により調整済みの価格トレンドどおりの価格を本件ブラウン管の購入価格としていた。
ⅳ シャープは,前記ⅰのとおり選定した事業者に対し,前記ⅰの交渉及び前記ⅱの確認を受けて更に調整された価格トレンドに従って,本件ブラウン管の購入価格を記載した正式な価格見積書をSREC等に発行するよう依頼していた。
ⅴ SREC等は,シャープにより選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社の関係では全社)から正式な価格見積書を入手し,当該価格見積書の記載に基づきこれらの者に対し本件ブラウン管を発注し,納品,検収及び支払という購買発注及び納入進度管理業務を行っていた。
b 前記認定事実によれば,シャープはSREC等との協議の結果を踏まえて原告ほか4社との交渉に臨んでいること,SREC等は,貿易条件や支払条件については,個別にサムスンSDIマレーシアほか7社と交渉する余地があったことが認められるものの,シャープは,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等を決定していたこと,SREC等は,シャープの指示に基づき,上記交渉を経て決定された価格トレンド(購入価格,購入数量等)に従ってシャープが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはシャープであったと認められるのであって,シャープが,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,SREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
 これに対し,原告は,シャープの担当者であった川口泰弘の供述(川口泰弘参考人審尋速記録)によれば,本件ブラウン管の取引条件の最終的な決定権はSREC等にあったこと及びシャープは,本件ブラウン管の購入先の選定や購入価格等について,SREC等の意向を踏まえて,価格交渉に関与していたことが認められ,これらによれば,シャープが本件ブラウン管の購入価格等の取引条件を交渉の上,決定し,SREC等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
 確かに,シャープの子会社又は関連会社とはいえ,SREC等はシャープとは別個の法人格を有するものであることや,SREC等の名義で本件ブラウン管を発注していたことなどからすれば,形式的には,SREC等に本件ブラウン管の取引条件の決定権があることは否定し難いものの(川口泰弘が本件ブラウン管の取引条件の最終的な決定権がSREC等にある旨供述している点も,他の供述部分を含めて全体としてみれば,このような趣旨をいうものと解される。),前記認定事実によれば,シャープは,SREC等に必要なテレビ用ブラウン管の購入等を一元管理していたのであるから,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件の実質的な決定権はシャープにあったと認められる。また,シャープが原告ほか4社との交渉の際,価格トレンドの情報についてSREC等と協議していたとしても,飽くまで,SREC等の意向を踏まえ,調整を図っていたにすぎないと認められるのであって,その結果,SREC等の意向どおりに本件ブラウン管を購入することがあったとしても,そのことをもってSREC等が本件ブラウン管の取引条件について実質的に決定していたとみることはできない。
 したがって,前記認定事実に照らせば,シャープが,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,SREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(エ) 日本ビクター
a 認定事実
(a) 現地製造子会社又は関連会社との関係
ⅰ 日本ビクターは,自社又は自社の子会社若しくは関連会社である販売会社が販売するブラウン管テレビを製造するために,直接又は間接的に出資して,タイ王国にJVC Manufacturing(Thailand)Co.,Ltd.(以下「JMT」という。)及びJVC Electronics(Thailand)Co.,Ltd.(以下「JET」という。)を,ベトナム社会主義共和国にJVC Vietnam Limited(以下「JVL」という。)をそれぞれ設立し,設計や仕様等を指示してブラウン管テレビを製造させていた。なお,JMTは,日本ビクターの完全子会社であり,JETは,JVC Sales and Service(Thailand)Co.,Ltd.(日本ビクターの完全子会社でシンガポール共和国に所在するJVC ASIA Pte.Ltd.(以下「JVCアジア」という。)が50パーセントの議決権を保有している。)が議決権の99パーセントを保有し,JVLは,JVCアジアが議決権の70パーセントを保有していた。また,日本ビクターの完全子会社でシンガポール共和国に所在するJVC Electronics Singapore Pte.Ltd.(以下,JMT,JET及びJVLと併せて「JMT等」という。)は,音響機器の製品開発等を事業内容としていたが,その外に,自社の一部門であるJVC Procurement Asia(ADivision Company of JVC Electronics Singapore Pte.Ltd.)において日本ビクターのブラウン管テレビ製造子会社が使用するテレビ用ブラウン管の一部を調達していた。
ⅱ 日本ビクターは,「AV&マルチメディアカンパニーディスプレイ統括カテゴリー」等の部署において,各地の販売拠点からの注文を取りまとめ,それに基づいてJMT等に生産の指示を出し,完成したブラウン管テレビを上記販売拠点から販売するなどして,ブラウン管テレビの生産,販売及び在庫に関する管理をしていたほか,価格交渉力の向上を目的として,JMT等が使用するテレビ用ブラウン管の調達業務を行うなど,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
ⅲ JVLは製造していたブラウン管テレビを自らベトナム社会主義共和国内において販売していたが,JMT及びJETにはブラウン管テレビを販売するための営業部門が存在しなかったため,JMTが製造したブラウン管テレビのほとんど全てを日本ビクターが買い上げて国内外に販売し,また,JETが製造したブラウン管テレビの全量を日本ビクターのタイ王国所在の販売子会社であるJVC Sales and Service(Thailand)Co.,Ltd.が買い上げて同国において販売していた。このように,JMT等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,日本ビクターが取りまとめた事業計画に沿って,国内外に販売されていた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 日本ビクターは,平成17年4月30日まで,同社の設計部門が設計したブラウン管テレビに適合する仕様のテレビ用ブラウン管について,性能及び品質面,テレビ用ブラウン管メーカーの生産ラインの状況,引渡しに要する時間,価格,それまでの取引状況等を総合的に勘案し,主に原告ほか4社の中から一又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,JMT等の各地の製造拠点におけるブラウン管テレビの生産台数に応じたテレビ用ブラウン管を確保するため,年間の購入予定数量の大枠を交渉して決定していた。
 なお,日本ビクターは,原告及びLGフィリップス・ディスプレイズとの間で,JMT等を含む現地製造子会社及び関連会社が購入するテレビ用ブラウン管について,年間の購入量の目標とそれを達成した場合の報奨金(インセンティブ)についての合意を交わしていた。
ⅱ 日本ビクターは,前記ⅰのとおり選定した事業者との間で,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格等の取引条件について交渉して,決定していた。
ⅲ 日本ビクターは,JMT等に対し,前記ⅰ及びⅱのとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話,電子メール,ファクシミリ等で伝え,それに従って,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示した。
ⅳ JMT等は,前記ⅲの取引条件に従い,日本ビクターにより選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社の関係では,サムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・マレーシア,MT映像ディスプレイ・タイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。
b 前記認定事実によれば,日本ビクターは,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをJMT等に伝え,JMT等は,それに従って日本ビクターが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは日本ビクターであって,JMT等は,日本ビクターの指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,日本ビクターが,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
 これに対し,原告は,日本ビクターが関与して交渉する価格は目標にすぎず,その後,JMT等がサムスンSDIマレーシアほか7社と交渉して本件ブラウン管の具体的な価格が決定されていたのであって,日本ビクターが本件ブラウン管の購入価格等の取引条件を交渉の上,決定し,JMT等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
 確かに,日本ビクターの担当者であった宮﨑孝志の供述によれば,本件ブラウン管について,日本ビクターが原告ほか4社と交渉した後に,JMT等が更にサムスンSDIマレーシアほか7社と価格交渉をしていたことがうかがわれる。しかし,宮﨑孝志の供述によれば,上記価格交渉は,日本ビクターが原告ほか4社と交渉して決定した購入価格を前提に,更に若干の値引きを求めるといった程度のものであったと認められる。
 したがって,JMT等が,本件ブラウン管の仕様,購入数量及び購入先について日本ビクターの決定に従っていたことや,上記のとおり,購入価格についても日本ビクターの決定したものを前提としていたことなどに照らせば,日本ビクターが,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(オ) 船井電機
a 認定事実
(a) 現地製造子会社との関係
ⅰ 船井電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成5年頃以降は行っておらず,専ら,完全子会社であるマレーシアに所在するFUNAI ELECTRIC(MALAYSIA)SDN.BHD.及びタイ王国に所在するFUNAI(THAILAND)CO.,LTD.(以下,上記2社を併せて「船井電機マレーシア等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。
ⅱ 船井電機は,前記ⅰのとおり,船井電機マレーシア等にブラウン管テレビの製造業務を移管した後も,引き続き,「テレビ事業本部」等の下の「テレビ事業部」等の部署において,ブラウン管テレビの製造以外の研究開発,技術・生産管理,品質管理,品質保証,マーケティング,営業,購買等の業務を管轄,運営するなど,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
ⅲ 船井電機は,船井電機マレーシア等が製造するブラウン管テレビの製品仕様書や製造指導書等を作成し,船井電機マレーシア等に送付していた。
ⅳ 船井電機は,船井電機マレーシア等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビを全て購入し,自社の完全子会社であるフナイ販売株式会社,DXアンテナ株式会社及びFUNAI CORPORATION INC.を通じて,国内外の顧客に販売していた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 船井電機は,価格及び供給の安定を目的として,主に原告ほか4社の中から選定した事業者との間で,翌年1年間において取引される本件ブラウン管の仕様及び購入予定数量の大枠を交渉して,決定し,おおむね四半期ごとに,翌四半期に実際に適用される本件ブラウン管の購入価格及び購入数量について交渉して,決定していた。
 なお,船井電機は,MT映像ディスプレイとの間で,本件ブラウン管の購入数量の大枠について,管種ごとに,事業年度単位で交渉していた。
ⅱ 前記ⅰの交渉の相手方は,船井電機に対して製品仕様書の案を提出し,船井電機の技術部門は,当該仕様書の案を確認及び承認して,当該仕様書を完成させていた。
ⅲ 船井電機は,船井電機マレーシア等に対し,前記ⅰのとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話や電子メールによって伝え,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。
ⅳ 船井電機マレーシア等は,前記ⅲのとおり船井電機から伝達及び指示された本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件に従い,船井電機により選定された事業者又はその子会社等(サムスンSDIマレーシアほか7社との関係では,サムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社,中華映管マレーシア,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。
b 前記認定事実によれば,船井電機は,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを船井電機マレーシア等に伝え,船井電機マレーシア等は,それに従って船井電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは船井電機であって,船井電機マレーシア等は,船井電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,船井電機が,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
 これに対し,原告は,本件ブラウン管の購入先の選定に関して船井電機マレーシア等の意向が尊重されていたほか,本件ブラウン管の品質や納期に関しては船井電機マレーシア等とサムスンSDIマレーシアほか7社との間で独自にやり取りがされていた旨主張する。
 しかし,本件ブラウン管の購入先について,船井電機マレーシア等の意向を尊重することと,船井電機が交渉の当事者として最終的に取引条件を決定することは矛盾しない。また,本件合意は,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格に関するものであるから,価格以外の品質や納期について,船井電機マレーシア等とサムスンSDIマレーシアほか7社との間で交渉があったとしても,船井電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができることは明らかである。
(カ) 本件合意の成立
a 原告ほか4社並びにサムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシア,中華映管マレーシア及びLPディスプレイズ・インドネシアは,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため,遅くとも平成15年5月22日頃までに,日本国外において,本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し,おおむね四半期ごとに次の四半期における本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の本件合意をした。
b MT映像ディスプレイ・マレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,MT映像ディスプレイ・タイは遅くとも同年4月23日までに,それぞれ本件合意に加わった。
(キ) 本件合意の消滅
 中華映管及び中華映管マレーシアが,平成19年3月30日,競争法上の問題により本件ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨表明し,その後,MT映像ディスプレイも同様の対応を採ったことなどにより,それ以降,上記会合は開催されていないことから,同日以降,本件合意は事実上消滅している。
イ 本件審決の判断
(ア) 本件における独占禁止法の適用についての基本的な考え方
 事業者が日本国外において独占禁止法2条6項に該当する行為に及んだ場合であっても,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法3条後段が適用されると解するのが相当である。なぜならば,独占禁止法は,我が国における公正かつ自由な競争を促進するなどして,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするところ(1条),同法3条後段は,不当な取引制限行為を禁止して,我が国における自由競争経済秩序を保護することをその趣旨としていることからすれば,同法2条6項に該当する行為が我が国でなされたか否か,あるいは,当該行為を行った事業者が我が国に所在するか否かにかかわりなく,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができ,同法3条後段を適用するのがその趣旨に合致するからである。
(イ) 本件における一定の取引分野について
a 独占禁止法2条6項における「一定の取引分野」は,原則として,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して画定すれば足りるものと解される。 
 本件合意は,前記3(3)のとおり,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,11社のした共同行為が対象としている取引は,本件ブラウン管の販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,本件ブラウン管の販売分野が一定の取引分野であると認められる。
b なお,本件排除措置命令では,「特定ブラウン管」について,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管と定義しているところ,これは,その定義表現の中には含まれていないものの,その理由説示から,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の範囲について,本件交渉等を経たものを前提としていることが明らかである。したがって,「本件ブラウン管」を本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する別紙3記載のテレビ用ブラウン管と定義したことにより,「特定ブラウン管」と「本件ブラウン管」は商品の範囲としては同一であるから,審査官が本件における一定の取引分野であると主張している特定ブラウン管の販売分野と本件ブラウン管の販売分野は同一のものである(原告が争っている「購入させた」ものであるか否かについては,後記(ウ)の中で判断する。)。
(ウ) 本件の一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったかについて
a 前記アの認定事実によれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともにブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしていたことが認められる。
b また,前記aに加え,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,原告ほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたことが認められ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉・決定及びそれに基づく指示なくしては,現地製造子会社等が本件ブラウン管を購入し,受領することはできなかったといえる。
 そうすると,直接に本件ブラウン管を購入し,商品の供給を受けていたのが現地製造子会社等であるとしても,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の果たしていた上記役割に照らせば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたということができる。
c さらに,本件合意が原告ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることも併せて考えれば,11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,自社グループが購入先として選定されること及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を競い合う関係にあったということができ,購入先や重要な取引条件の決定者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったということができる。
d これらの点を考慮すれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は本件ブラウン管の需要者に該当するものであり,本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったということができる。
(エ) 競争の実質的制限について
 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される(最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決・民集第66巻2号796頁(以下「最高裁平成24年判決」という。)参照)。
 前記3(2)ウのとおり,平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,サムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額の合計の割合は,約83.5パーセントとその大部分を占めていたこと,本件違反行為者である原告を含む11社は,本件合意に基づき設定された最低目標価格等を踏まえて,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で,本件ブラウン管の価格交渉をしていたこと等に照らせば,本件合意により,本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたといえるから,11社は,本件合意により,本件における一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限したと認めることができる。
(オ) まとめ
 以上検討したところによれば,一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったと認められ,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたと認められる。
 原告は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていないとして,需要者に当たらないことを前提に,本件には独占禁止法3条後段を適用することができないと主張するが,以上説示したとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は需要者であると認められるのであるから,その主張は前提を欠くものであるし,また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていなかったとしても,その事実は,当該事業者が原告に対して独占禁止法違反を理由に損害賠償請求訴訟等を提起した場合に考慮されるべき事情になることがあり得るのは格別,本件のように,一定の取引分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,そこにおける競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができるから,これに対して自由競争経済秩序の回復を図る観点から独占禁止法を適用することができるのは当然である。
 したがって,本件に独占禁止法第3条後段を適用することができるものというべきである。

6 争点に関する原告の主張
(1) 争点(1)(本件公示送達は適法か)について
ア 独占禁止法49条6項は,審判手続において主張できる原処分の有効性を争う理由について何ら規定していない。原処分の効力を争う場合,別途排除措置命令の不存在確認訴訟や無効確認訴訟を提起しなければならないというのは迂遠かつ不合理である。したがって,排除措置命令書謄本の送達の適法性は当然に審判手続の審理の対象となると解される。本件審決も本来効力を有しない本件排除措置命令が有効であることを前提としているから,本件訴訟において本件公示送達の違法性を主張できることは当然である。
イ 被告は,本件排除措置命令書謄本の領事送達は認められない旨の大韓民国政府の回答を得ているが,大韓民国政府に対し,本件排除措置命令の意義を説明し,領事送達を認めるよう協議,説明を尽くした形跡は認められない。また,管轄官庁を経由しての送達が試みられた形跡も全く認められない。したがって,本件排除措置命令について公示送達以外の手段によるための十分な手段を尽くしているとはいえない。
ウ 外国での送達について外国政府が不応諾の意思を明確に表明した場合に公示送達による送達を認めることは,当該外国政府との無用な衝突を生じさせ,国際礼譲にも反するから,独占禁止法上の外国送達及び公示送達制度の趣旨に反して許されない。
(2) 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか)について
ア 一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われたとの本件審決の事実認定は,以下のとおり,実質的な証拠に基づくものではない。
 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の取引先の決定並びに価格や数量等の交渉及び決定を行っていたわけではなく,現地製造子会社等も我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の決定に従っていたわけではない。我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等がボリュームディスカウントを享受できるようにするために交渉の一部に関与したにすぎず,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の指示なしには現地製造子会社等がブラウン管を購入したり受領したりすることができなかったとはいえないから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が不可分一体となって本件ブラウン管を購入していたとはいえない。
 また,本件ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の購入先,購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定していたとはいえないから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が原告らに対し競争を期待し得る地位にあったとはいえない。
 さらに,原告のグループに属するテレビ用ブラウン管製造販売業者であるサムスンSDIマレーシアの実情を見ても,その取引相手は現地製造子会社等であり,現地製造子会社等へのテレビ用ブラウン管の販売をめぐって競争をしていたのであり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者をめぐって競争が行われていたとは認められない。
 以下,本件審決の事実認定の問題点を指摘する。
(ア) ワールド等(オリオン電機)
 ワールド等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人であり,独立採算で損益計算を行い,独立した企業として備えるべき部署及び実体を有していた。
 テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管はワールド等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビの大部分は日本国外に供給されていた。
 オリオン電機とワールド等との間には資本関係がなかった。
 また,オリオン電機がワールド等のテレビ用ブラウン管の購買業務に関与したことについて,法的な又は契約上の根拠はなかった。
 さらに,オリオン電機の担当者は,ワールド等の担当者が独自にテレビ用ブラウン管製造販売業者と交渉することは禁止されておらず,ワールド等の担当者が独自にテレビ用ブラウン管製造販売業者と交渉して,オリオン電機が交渉した場合よりも安い価格を実現できればオリオン電機としてもメリットがあると供述している。
 以上によると,実質的かつ最終的な価格決定を行っていたのは,オリオン電機ではなく,ワールド等であった。
(イ) 三洋電子インドネシア(三洋電機)
 三洋電子インドネシアは,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である。
 テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管は三洋電子インドネシアが所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビのほとんどは日本国外に供給されていた。
 三洋電機が三洋電子インドネシアのテレビ用ブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となる契約書や規則等の文書はなかった。
 また,三洋電子インドネシアのテレビ用ブラウン管の購買業務は,三洋電子インドネシアが作成した同社の事業計画に基づいて行われていた。
 さらに,三洋電子インドネシアとサムスンSDIマレーシアとの間でも,親会社のいずれもが全く関与しないまま価格が決められたこともあった。
 以上によると,実質的かつ最終的な価格決定を行っていたのは,三洋電機ではなく,三洋電子インドネシアであった。
(ウ) SREC等(シャープ)
 SREC等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である。
 テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管はSREC等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビの大部分は日本国外に供給されていた。
 SREC等においては,テレビ用ブラウン管の価格交渉はSREC等の収益に直結することから,SREC等が最終的な決定権を有していた。
 シャープが関与する場合でも,シャープはSREC等の意向を踏まえて調整を行っていた。
 また,SREC等が必要とするテレビ用ブラウン管について,シャープの担当者であった川口泰弘は,社内の規定上,価格決定権を有しておらず,むしろテレビ用ブラウン管の調達先の決定の場面では,現地法人の在庫管理上価格のみならずリードタイム(配達までの時間)も重要となり,多少価格が高くても現地法人が選定した調達先からテレビ用ブラウン管を購入することがあったと述べている。
 さらに,タイCRTとのテレビ用ブラウン管取引については,価格決定にシャープは関与せず,Sharp Manufacturing Thailand Co.,Ltd.のみで行っており,この取引では,シャープは何らの役割も果たしていない。
 以上によると,実質的かつ最終的な価格決定を行っていたのは,シャープではなく,SREC等であった。
(エ) JMT等(日本ビクター)
 JMT等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である。
 テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管はJMT等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビのほとんどは日本国外に供給されていた。
 JMT等によるテレビ用ブラウン管の購買活動では,日本ビクターの担当者が関与していたものの,その役割はテレビ用ブラウン管製造販売業者との購買交渉の支援にすぎず,日本ビクターが購入価格を決定していたわけではない。例えば,JMTによる具体的なテレビ用ブラウン管の購買活動のプロセスは,JMTの購買担当者又は日本ビクターの購買担当者がテレビ用ブラウン管製造販売業者又はその親会社の販売担当者と電話,メール,ファックス等により数回交渉した後,JMTの購買担当者又は日本ビクターの購買担当者の一方又は双方がテレビ用ブラウン管製造販売業者又はその親会社の販売担当者との会議を開催し,最終的にはJMTの購買担当者がテレビ用ブラウン管製造販売業者と交渉して実際の取引価格が最終決定されていた。また,日本ビクターの購買担当者は,日本ビクターが関与して交渉している価格はガイドラインにすぎなかったこと,JMT等による価格交渉の結果,日本ビクターが関与した購入価格よりも1ドルも安い金額で購入する例があったことを参考人審尋で認めている。日本ビクターが関与した購買価格がJMT等の事後交渉により遡及的に変更されることもあった。
 また,日本ビクターがJMT等の購入するテレビ用ブラウン管の購買業務に関与することについて,日本ビクターやJMT等の内規に根拠となる規定はなかった。
 さらに,JETやJVLは,JMTの購買価格を参考にしていたにすぎず,日本ビクターの購買担当者は,JETやJVLの購買価格を把握すらしていなかったことを参考人審尋で認めている。
 以上によると,実質的かつ最終的な価格決定を行っていたのは,日本ビクターではなく,JMT等であった。
(オ) 船井電機マレーシア等(船井電機)
 船井電機マレーシア等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である。
 テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管は船井電機マレーシア等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビの大部分は日本国外に供給されていた。
 また,船井電機が船井電機マレーシア等のテレビ用ブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となるグループ間の規則や契約上の規定はなかった。
 さらに,本社同士の価格交渉が長引き,所定の価格改定時期を過ぎても妥結されない場合は,本社間での交渉の妥結を待たずに現地法人間で取引することもあった。
 以上によると,実質的かつ最終的な価格決定を行っていたのは,船井電機ではなく,船井電機マレーシア等であった。
イ 本件合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたとの本件審決の事実認定は,以下のとおり,実質的な証拠に基づくものではない。
 原告らがした本件合意の対象は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させる本件ブラウン管に限定されていなかったから,本件合意とはおおむね四半期ごとに次の四半期における本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であるとの本件審決の認定は,実質的証拠を欠いている。
 テレビ用ブラウン管製造販売業者は,現地製造子会社等以外の事業者も含めた東南アジア地域の需要者に対して競争を行っていたから,需要者を現地製造子会社等に限る理由はない。しかし,本件審決は,東南アジア地域における需要者全体のテレビ用ブラウン管の購入量のうち現地製造子会社等がサムスンSDIマレーシアほか7社から購入していた本件ブラウン管が占めるシェア等については何も認定していないから,他の需要者も含めた実際の供給の取引において競争の実質的制限が生じていることを認定するに足りる実質的証拠を欠いている。
 また,本件審決が認定しているのは,現地製造子会社等がサムスンSDIマレーシアほか7社から購入していた本件ブラウン管が占めるシェア(約83.5パーセント)であるが,残りの約16.5パーセントは,現地製造子会社等がサムスンSDIマレーシアほか7社以外から購入していたテレビ用ブラウン管であり,これは本件ブラウン管又は特定ブラウン管ではないから,上記約83. 5パーセントというシェアは,一定の取引分野における競争の実質的制限を認定する上で無意味な数値であり,これをもって競争の実質的制限を基礎付ける実質的証拠とはなり得ない。
ウ 独占禁止法の適用範囲に関する要件について
 国家がその主権を及ぼすことのできる範囲としての管轄権は,国際法上,国家の領域内に限定されるという属地主義が原則である。しかし,事業活動が国際化する中で,厳密に独占禁止法違反の行為や結果の全てが 1つの領域内で完結しない事案については,各国の独占禁止法を適切な範囲内で適用しつつ,複数の法域の独占禁止法が重複して適用されることによる政策の衝突や重複した処分等の弊害を避けるために,国家の領域内に相応の効果や影響が生じた場合に当該国家の独占禁止法が適用できるという考え方(以下「効果主義」という。)が,米国や欧州等の主要な法域のほか,明文で独占禁止法の適用範囲を規定している法域(大韓民国,中国,インド等)において広く承認されている。独占禁止法は,各国固有の競争政策を実現するための強行法規であり,その過剰な適用は他国の競争秩序や経済秩序への不当な介入であり,他国の主権を侵害することになるから,我が国の独占禁止法の適用範囲は,諸外国の独占禁止法の適用範囲と整合させるべきであり,その適用範囲は効果主義によるべきである。その要件は,他国の独占禁止法との衝突や重複適用による二重処罰を回避する観点から,米国が採用するように,自国領域内において直接的,実質的かつ予見可能な効果が発生していることと解すべきである。効果主義により独占禁止法の適用を制限的に解することは,日本政府のこれまでの立場とも整合する。
 効果主義にいう効果が生じた場所は,商品又は役務の供給地及び当該商品又は役務に対する実際の出えんをした購入者の所在地が第一義的に考慮されるべきである。供給地の決定では当該商品又は役務が加工又は費消された場所も考慮できる。しかし,取引条件の決定や商品購入の指示だけをする者の所在地は効果主義の効果において考慮されるべきではない。決定や指示をする者とそれを受ける者との間に親子会社等の関係があっても,考慮されるべきではない。
 ところが,本件審決は,前記5(2)イ(ア)のとおり,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法3条後段が適用されると解している。しかし,本件合意は日本国外で行われ,本件ブラウン管は日本国外で購入され,これを使用したブラウン管テレビの製造は日本国外で行われ,このブラウン管テレビはその一部しか我が国に輸入されていない。そうすると,本件審決は,日本の領域外において行われた本件ブラウン管の購入に対する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の関与について述べるだけで,日本の領域内における効果について何も認定せず,その証拠も示していないから,我が国の独占禁止法を適用する基礎についての実質的証拠を欠いている。
エ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,以下のとおり,需要者に当たらない。
 独占禁止法の重複適用による二重処罰の回避という観点及びリニエンシー制度(課徴金減免制度(独占禁止法7条の2第10項以下)又は海外においてこれに相当する制度を含む。)の実効的な活用という観点から,需要者の範囲は明確にされるべきである。独占禁止法2条4項1号によると,需要者とは,商品又は役務の供給を受ける者をいうと解される。そうすると,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,本件ブラウン管の供給を受けていないから,需要者に当たる余地はない。
 本件審決は,1つの商品の供給について,当該商品の供給を受ける者のほかに,それとは別の者も需要者として重複的に認定することを認めているが,これは,現在一般化している多国籍企業グループにおける国際的な購買活動において,必然的に同一の商品の供給に対して複数の法域の独占禁止法の適用を許容する結果をもたらし,他国の独占禁止法との衝突や重複適用による二重処罰を回避するために独占禁止法の適用範囲を限定すべきであるとの域外適用における要請に根本的に反している。
 また,本件において,需要者は,テレビ用ブラウン管の供給を受けた現地製造子会社等であって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者ではない。我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,間接的にも本件ブラウン管の供給を受けていないから,需要者に該当する余地もない。本件合意によって侵害されたのは,現地製造子会社等にとっての自由競争経済秩序であって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者にとっての自由競争経済秩序ではない。
 さらに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等とは,別個の法人格を有しており,オリオン電機とワールド等との間には資本関係すらないのであるから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管を購入していたということはできない。この点について,モトローラ事件の米国連邦第7巡回区控訴裁判所大合議による決定は,2014年11月26日,モトローラ社の外国子会社が購入し海外において最終製品である携帯電話の部品として組み込まれた液晶パネル(LCD)について,モトローラ社とその外国子会社とを明確に区別した上で,当該最終製品は米国のモトローラ社に出荷されモトローラ社が当該最終製品を米国内で販売されたにもかかわらず,当該LCDに関する米国独占禁止法に基づく請求を排斥している。また,欧州司法裁判所は,2015年7月9日,①EEA(欧州経済領域)域内で第三者に販売されたLCD及び②イノラックス社の子会社がEEA域外で部品としてLCDを組み込んだ最終製品がEEA域内で販売された場合の当該LCDについて,制裁金を賦課した。これらは,価格カルテルの対象となった商品又はこれを部品として組み込んだ最終製品が独占禁止法の適用が問題となった法域内で供給,販売されたものだけを独占禁止法適用の対象としている。
 したがって,本件審決は,需要者の解釈を誤るものである。
オ 仮に我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が需要者に当たるとしても,その所在地は我が国ではない。
 競争は,自らにより良い条件となるよう,供給者及び需要者がそれぞれ商品や役務を提供し,その供給を受けることに向けられたものであることからすると,商品や役務が提供された場所を需要者の所在地と解すべきである。これは,被告の過去の先例にも整合する。ところが,本件ブラウン管は日本国内に一切供給されておらず,代金の支払もこれを使用したブラウン管テレビの製造も全て東南アジアで行われている。
 また,本件審決は,需要者の所在地の認定の基準について何も述べていないが,これを善解すれば,需要者とされた者の本店所在地又は購買部門の所在地に所在すると捉えていると考えられる。しかし,本店や各部署の所在地は,税制や資金調達の便宜等の様々な考慮において決せられており,ビジネスの実態とは無関係であるから,これらを需要者の所在地の基準とするのは妥当ではない。
 さらに,事業活動や調達業務の本拠地をどこに置くかは購入者側の企業グループの内部的な事情にすぎないから,供給者側の企業がその本拠を知っていたか否かにかかわりなく,それを基準にどの国の独占禁止法が適用されるのかを判断するのは妥当ではない。
 ところが,本件審決の考えによれば,「購入させる権能」が日本国外の別の法人に移転するなどすれば,競争の実態は変わっていないのに,需要者であった者が需要者ではなくなるということになるが,需要者側の内部の事情によって独占禁止法の適用の可否が変わるのは,法的安定を著しく欠くとともに,リニエンシー制度の実効性も大きく損なうことにもなる。
カ 本件は,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という成立要件を満たしていない。
 不当な取引制限における一定の取引分野の画定について,最高裁平成24年判決は,「共同行為が対象としている取引」=「競争が実質的に制限される範囲」をもって「一定の取引分野」を画定するという考え方(東京高裁平成5年12月14日判決・高刑集46巻3号322頁で示された考え方。以下「トッパン・ムーア高裁判決の考え方」という。)を一般的な考え方として採用していない。ところが,本件審決は,最高裁平成24年判決が否定したトッパン・ムーア高裁判決の考え方に従って「一定の取引分野」を画定しており,誤りである。
 不当な取引制限について定める独占禁止法2条6項と企業結合審査について定める同法10条1項は,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という文言は同じであるから,画定のアプローチが異なっても,最終的に認定される一定の取引分野は原則として同じものになるはずである。しかし,画定のアプローチが異なるからといって,不当な制限取引の場合の一定の取引分野の地理的範囲が企業結合審査の場合よりも拡大することは許されない。本件で不当な取引制限の対象となっている本件ブラウン管は東南アジアに所在する事業者に対して供給されたものであるから,企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針(企業結合ガイドライン)に基づいて取引分野を画定すれば,その地理的範囲は東南アジアとなる。一定の取引分野の画定方法の相違により,不当な取引制限の場合に限って,地理的範囲が日本に拡張されるのは明らかに誤っている。
 独占禁止法を適用するには,競争の実質的制限が日本の領域内で生じていなければならないから,日本に所在する事業者をめぐって行われる競争であっても,その競争の実質的制限が全て日本国外で生じているのであれば,独占禁止法を適用することはできない。競争の実質的制限とは,価格を左右できる状態をもたらすことをいう。本件で価格を左右できる状態である競争の実質的制限は,当該価格が東南アジアで供給される本件ブラウン管についてのものであることからすれば,本件ブラウン管が供給された東南アジアにおいてのみ生じている。
 また,不当な取引制限の対象となった本件ブラウン管は,現地製造子会社等によりその価値が費消されてブラウン管テレビという別の商品へと姿を変えており,本件ブラウン管それ自体は日本には供給されていない。本件審決は,原告らによる不当な取引制限による競争の実質的制限の効果が完成品たるブラウン管テレビに対して及んでいるか否かについて何も認定していないが,完成品たるブラウン管テレビのほとんどは,一度も日本国内に物理的に供給されることなく海外で販売されている。
 さらに,本件審決は,「一定の取引分野」とは「競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるもの」であれば足りると解しているが,「めぐって」の意味は不明朗であり,極めて広範に適用される危険がある。
 以上によると,本件では一定の取引分野に日本を含まないのであり,本件合意によって競争の実質的制限が生じたとしても,それは日本国内で生じていないから,不当な取引制限の成立要件を欠いている。

7 争点に関する被告の主張
(1) 争点(1)(本件公示送達は適法か)について
ア 原処分に係る本件排除措置命令書謄本の送達が適法になされたか否かは原処分の効力発生の有無に関する問題であって,原処分自体の適法性や相当性には関係がないから,本件審判手続において本件公示送達の違法性を主張することは失当である。
イ 本件公示送達は,有効である。すなわち,①原告が,平成21年10月5日,当時の日本国内における代理人及び復代理人全員を解任したため,原告の日本国内における代理人に対して本件排除措置命令書謄本を送達することができなくなったこと,②被告は,外務省を通じて,大韓民国政府に対し,本件排除措置命令書謄本を領事送達することについて同意するよう求めたが,大韓民国政府(外交通商部)が領事送達に同意しなかったこと,③管轄官庁送達については,大韓民国において,これを実施する権限のある管轄官庁を定めた条約等がないため,実施することができなかったことによれば,本件は,「民事訴訟法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合」(独占禁止法70条の18第1項2号)に該当することは明らかである。
ウ 本件公示送達により,大韓民国に所在する原告に対して送達の効力が生じたとしても,大韓民国の領域内において我が国の公権力を行使するものではないから,大韓民国の主権を侵害しないことは明らかである。また,外国での送達について外国政府が不応諾の意思を明確に表明した場合に公示送達による送達は認められないというのは,原告の独自の見解であり,失当である。
(2) 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか)について
ア 一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われたとの本件審決の事実認定は,実質的な証拠に基づくものである。
 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者各社ごとの現地製造子会社等との関係及び本件ブラウン管に関する取引の実態は,本件審決の認定(前記5(2)ア及びイ(ウ))のとおりである。それによると,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを現地製造子会社等に伝え,現地製造子会社等は,それに従って我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたものといえる。したがって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の購入先の決定並びに価格や数量等の交渉及び決定を行っていたのであり,現地製造子会社等も我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の決定に従っていたのである。
 また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,原告ほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は原告らに対し競争を期待し得る地位にあったといえる。
 さらに,サムスンSDIマレーシアの実情を見ても,同社の営業部長等を務めたことがある李大儀の陳述書(査第27号証の1添付)によると,原告グループにおいても原告と我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で最終的な交渉,妥結が行われていたのであるから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者をめぐって競争が行われていたことが認められる。
 以下,原告が本件審決の事実認定の問題点として指摘する点について反論する。
(ア) ワールド等(オリオン電機)
 本件審決は,原告の主張も踏まえて,前記5(2)ア(ア)bのとおり,オリオン電機が,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたと認定判断している。
(イ) 三洋電子インドネシア(三洋電機)
 本件審決は,原告の主張も踏まえて,前記5(2)ア(イ)bのとおり,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたと認定判断している。
(ウ) SREC等(シャープ)
 本件審決は,前記5(2)ア(ウ)bのとおり,川口泰弘の供述等を全体的に踏まえた上で,「形式的には,SREC等に本件ブラウン管の取引条件の決定権があることは否定し難い」としつつも,「本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはシャープであった」こと,「シャープが」原告「ほか4社との交渉の際,価格トレンドの情報についてSREC等と協議していたとしても,飽くまで,SREC等の意向を踏まえ,調整を図っていたにすぎない」こと,「その結果,SREC等の意向どおりに本件ブラウン管を購入することがあったとしても,そのことをもってSREC等が本件ブラウン管の取引条件について実質的に決定していたとみることはできない」ことを合理的に認定判断している。すなわち,SREC等が選定した調達先からテレビ用ブラウン管を購入していたことも,シャープがSREC等の意向を踏まえた結果であって,本件ブラウン管の取引において,SREC等に重要な取引条件についての実質的な最終決定権があったとはいえない。
 また,タイCRTとのテレビ用ブラウン管取引についても,シャープは,タイCRTから価格トレンドの情報を入手し,Sharp Manufacturing Thailand Co.,Ltd.との合意の下で,タイCRTからの購入数量を割り振っていたから,シャープがタイCRTと上記現地製造子会社等との取引においても重要な役割を果たしていないとはいえない。
(エ) JMT等(日本ビクター)
 本件審決は,前記5(2)ア(エ)bのとおり,宮﨑孝志の供述等を全体的に踏まえた上で,「日本ビクターが」原告「ほか4社と交渉した後に,JMT等が更にサムスンSDIマレーシアほか7社と価格交渉をしていたことがうかがわれる」としつつも,JMT等による価格交渉は,「日本ビクターが」原告「ほか4社と交渉して決定した購入価格を前提に,更に若干の値引きを求めるといった程度のものであった」こと,「日本ビクターが…(略)…JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる」ことを合理的に認定判断している。日本ビクターとJMT等との間に契約や内規による明確な定めがなかったからといって,日本ビクターが本件ブラウン管の調達業務へ実質的に関与していた事実を否定することにはならない。したがって,本件ブラウン管の調達業務において,日本ビクターの役割はテレビ用ブラウン管メーカーとの交渉の支援にすぎないとはいえないし,実質的かつ最終的な価格決定を行っていたのがJMT等であったともいえない。
(オ) 船井電機マレーシア等(船井電機)
 本件審決は,原告の主張も踏まえて,前記5(2)ア(オ)bのとおり,船井電機が,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたと認定判断している。
イ 本件合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたとの本件審決の事実認定は,実質的な証拠に基づくものである。
 本件合意とはおおむね四半期ごとに次の四半期における本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であるとの本件審決の認定は,査第3号証の1,第27号証の1,第39号証を始めとする多数の証拠によって認定することができるから,実質的証拠を欠いていない。
 一定の取引分野は,原則として,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して画定される。本件合意,すなわち,11社のした共同行為が対象としている取引は,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する本件ブラウン管の販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,本件における一定の取引分野は本件ブラウン管の販売分野である。そうすると,現地製造子会社等以外の需要者が購入したテレビ用ブラウン管を本件ブラウン管の販売分野におけるシェア算定の基礎に算入する必要はない。
 また,現地製造子会社等がサムスンSDIマレーシアほか7社から購入していた本件ブラウン管が占めるシェア(約83.5パーセント)は,本件ブラウン管について,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者からの報告等に基づき,現地製造子会社等のサムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額とそれ以外のテレビ用ブラウン管製造販売業者からの購入額を含む総購入額を集計して算出したものである。したがって,残りの約16.5パーセントも本件ブラウン管であるから,原告の主張はその前提を欠いている。
 さらに,本件ブラウン管の取引の実態によれば,本件合意により,11社がその意思で本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらした場所は我が国であり,我が国の領域内において競争の実質的制限が生じていた。
ウ 独占禁止法の適用範囲に関する要件について
 独占禁止法の直接の目的が「公正且つ自由な競争」,すなわち,自由競争経済秩序の保護にあることは明らかである(1条)から,同法2条6項に該当する行為が日本国外の地域でされても,我が国における自由競争経済秩序が侵害されている限り,同法3条後段を適用できるとすることは同法の目的に沿うものであり,正当である。また,市場における供給者間の競争が,需要者に対する取引の獲得をめぐって行われることからすれば,需要者においてかかる競争の結果に基づく自由な取引が侵害されていれば,当該需要者を取り巻く自由競争経済秩序が侵害されたということができる。そうであるとすれば,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為(不当な取引制限に該当する行為)により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合であれば,我が国に所在する需要者の取引の自由が侵害されているのであるから,我が国における自由競争経済秩序が侵害されているということができる。したがって,本件審決が「少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法3条後段が適用される」との規範(以下「本件規範」という。)を導いたことは正当である。
 本件審決は,我が国の領域外に独占禁止法を適用することの可否を判断するという方法を採っていないが,その理由は,次のとおりである。すなわち,我が国にはその領域外に我が国の法律を適用する場合の一般原則について定めた法律はないから,独占禁止法の解釈として我が国の領域外に同法を適用することができるか否かを判断すれば足りる。同法3条後段で禁止する不当な取引制限行為には,同法2条6項により「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」という我が国の市場に対する効果に係る要件が定められているから,この要件の解釈問題として,同要件を充足するのであれば,同法3条後段が適用できるのであり,これとは別に,効果主義における効果の存否等を検討する必要はない。したがって,本件審決が効果主義等に関する一般的な立場を明示しなかったことに法令の解釈適用の誤りはない。
 そもそも複数の法域が同一事案を取り上げること自体が禁止されているわけではないから,他国の競争法との衝突や重複適用による二重処罰の回避といった要請は,自国の競争法の適用を妨げるものではない。我が国の領域外の行為であっても,我が国の競争政策を体現した独占禁止法が容認しない事態であるならば,我が国の国家主権の行使として同法の適用が是認されることは当然である。本件審決は,本件の事実関係を踏まえて必要な限度で本件規範を示しており,本件規範も「少なくとも」との修辞を伴った限定的なものである。本件規範は,その内容からすれば,属地主義や効果主義等とも矛盾するものではない。そして,現に,本件では東南アジア地域の関係国との間に競争法の重複といった問題は生じていない。
 また,本件規範の適用に当たっては,我が国の領域外の競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われていると認定できるか否か,ひいては保護されるべき我が国の自由競争経済秩序が侵害されていると認定できるか否かが検討されるから,本件規範によって独占禁止法の適用範囲が際限なく広がることはない。
エ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,需要者に当たる。
(ア) 需要者の機能には,取引の交渉をして取引条件を決定する側面,商品や役務の供給を受ける側面,対価を支払う側面,供給された商品や役務を使用収益する側面など多面的であり,他方で,社会経済取引が複雑化し,その流通過程も多様化する現状にある。例えば,商品の製造及び販売を自ら行っている事業者が,事業の効率化等を目的として,製造部門を子会社として分社化した上,親会社として自ら製造販売計画を策定するなど事業全体を統括し,子会社が購入する原材料の購入交渉を行うなどしている例は,日常的に散見されるところである。このような現状を考えると,自由競争経済秩序に関わる需要者側の主体は,現実の商品や役務の提供を受けた者に限られない。ここで問題なのは,具体的事案に応じて,独占禁止法が保護すべき自由競争経済秩序の下における需要者として何に注目すべきであるかということであり,独占禁止法上の需要者に該当するか否かは,問題となる取引の実態に即して判断する必要がある。
 本件においては,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,原告ほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたものであり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたといえる。
 また,本件合意は原告ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることも併せて考えれば,本件合意をした11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,自社グループが購入先として選定されること及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を競い合う関係にあったということができ,購入先や重要な取引条件の決定者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったということができる。
 このような本件ブラウン管の取引の実態をみれば,直接に本件ブラウン管を購入してその供給を受けていたのが現地製造子会社等であったとしても,本件ブラウン管の取引の獲得をめぐる原告ほか4社(あるいは11社)の攻防は,上記のように重要な取引条件等を実質的に決定している我が国ブラウン管テレビ製造販売業者に対して行われていたといえ(だからこそ本件合意の内容は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき最低目標価格等を設定するものであった。),取引の獲得に向けた事業活動という競争の本質からすれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,本件ブラウン管の取引に係る需要者側の主体として不可欠かつ極めて重要な存在だったのであり,これを需要者側から除外して考えることは相当ではない。
 さらにいえば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対して競争を期待し得る地位にあったところ,本件合意の内容が,原告ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の最低目標価格等を設定するものであったこと(このことは,11社が,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等と「一体不可分となって本件ブラウン管を購入していた」ことを十分に認識していたことを強く推認させるものである。)からすれば,本件合意によって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の本件ブラウン管の価格交渉の自由や価格決定の自由が侵害されたことが極めて明白であるのに,これを需要者から除外して考えることは相当ではない。
 したがって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,本件ブラウン管の需要者に該当する。
(イ) 独占禁止法2条4項は,競争を定義した規定であり,需要者の範囲を規律するものではないから,同項1号の需要者からは,一定の取引分野を構成する需要者の範囲を確定することはできない。また,取引獲得に至るまでの過程こそが競争の本質であり,多様な流通過程と複雑な取引形態を内包する現代の社会経済取引においては,競争は,現実かつ直接に商品や役務の供給を受ける者のみに対して行われるものではない。したがって,一定の取引分野を構成する需要者を現実かつ直接に商品や役務の供給を受ける者に限定する根拠はない。需要者は,実質的な観点から認定されるべきである。なお,需要者を実質的な観点から認定した先例はこれまでにはなかったが,供給者についてはこれを実質的な観点から認定した先例が多数ある。
(ウ) 日々競争に接している事業者(供給者)は,自己の取引における競争状況を最も熟知しており,需要者とはかかる供給者の直接又は間接の取引相手である。このような供給者にとって需要者側の関係者が取引上いかなる役割を果たしているか(例えば,誰に売り込めば取引を獲得できるか)は容易に知り得るところである。そうであるとすれば,本件審決のように取引の実態を踏まえて需要者に該当するか否かを認定することは,需要者の範囲を不明確にするものではない(11社が,本件ブラウン管の購入を需要者側において実質的に決定しているのが我が国ブラウン管テレビ製造販売業者であることを知悉していたからこそ,本件合意の内容は,原告ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の最低目標価格等を設定するものであったのである。)。
(エ) 需要者が複数の法域にまたがって存在し,複数の所在国を観念できる一定の取引分野は,一般的に想定し得るから,複数の法域にまたがって需要者を認定することには何ら問題はない。また,本件規範にのっとった独占禁止法3条後段の適用は,我が国の自由競争経済秩序が害される範囲に自ずと限定されるから,いたずらに他国との衝突や重複適用の事態を招来するものではない。現に本件ではかかる事態は生じていない。
(オ) 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等とは別の法人格を有し,サムスンSDIマレーシアほか7社と直接の契約関係にないことを踏まえても,本件ブラウン管の取引の実態をみれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は不可分一体となって本件ブラウン管を購入していたといえるから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を需要者と認定したのである。本件審決は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管を購入していたと擬制しわけではないし,法人格を無視して我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等をあたかも同一法人であると認定したわけでもない。
オ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,我が国に所在する。
 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,いずれも我が国に本店を置き,我が国の法律に準拠して設立された法人である。また,ビジネスの実態を見ても,東南アジア地域で生産されるブラウン管テレビに係る事業の統括部門を我が国に置いて,生産,販売,在庫等を管理し,現地製造子会社等にブラウン管テレビの設計や仕様を指示し,同統括部門の担当者が我が国内外において原告ほか4社と本件交渉を行い,基幹部品である本件ブラウン管の重要な取引条件等を決定した上,これを同統括部門から現地製造子会社等に指示して本件ブラウン管を購入させた。このようにブラウン管テレビに係る事業活動や本件ブラウン管の調達業務に係る活動の本拠地が我が国に存したことは明らかであるから,この点に依拠して我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が我が国に所在すると認定判断した本件審決に誤りはない。
 需要者の所在地は,取引の実態を踏まえて判断すべきであり,商品や役務が供給された場所のみを需要者の所在地と画一的に判断するのは妥当ではない。なぜなら,例えば,ある事業者(違反行為者)と我が国に所在する需要者との間の取引において,当該事業者が外国所在の商社等を介在させて,一旦これに商品を引き渡すこととし,あるいは,我が国に所在する事業者(違反行為者)と需要者との間で完結する取引において,需要者の外国所在の工場で商品を引き渡すこととすれば,容易に独占禁止法の適用を潜脱できる結果となるからである。
カ 本件は,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という成立要件を満たしているか。
 トッパン・ムーア高裁判決の考え方及び本件審決は,「違反行為者のした共同行為が対象としている取引」及び「それにより影響を受ける範囲」を検討して一定の取引分野を画定している。最高裁平成24年判決も,「本件基本合意の当事者及びその対象となった工事の規模,内容」等,当該共同行為が対象としている取引を考慮した上で,「本件基本合意は…(略)…公社発注の特定土木工事を含むAランク以上の土木工事に係る入札市場の相当部分において…(略)…有効に機能し」と説示していることからすると,「違反行為者のした共同行為が対象としている取引」及び「それにより影響を受ける範囲」を検討して一定の取引分野を画定しているものと考えられるから,トッパン・ムーア高裁判決の考え方と相反するものとは考えられない。
 また,企業結合審査における一定の取引分野と不当な取引制限における一定の取引分野は,その画定の手法の相違から画定の過程において考慮すべき事情が異なるから,最終的に画定される一定の取引分野も原則として同一のものとはならない。すなわち,不当な取引制限における一定の取引分野は,自己を取り巻く競争圧力を熟知した事業者等による具体的な共同行為が既に行われているため,通常は,取引の対象,地域及び態様等に応じて,当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討することによって画定される。これに対し,企業結合審査では,具体的な競争制限行為が行われていないから,商品の代替性等の客観的な要素に基づき,経済分析等を用いて純粋に将来起こり得る効果を予測して企業結合により競争に影響が及び得る範囲を画定する。このような考慮要素の相違を勘案すれば,両者の一定の取引分野が原則として同一のものになるとはいえない。また,本件における一定の取引分野は,本件ブラウン管の販売分野であり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を需要者と認定するか否かによって本件ブラウン管の販売分野には何らの変容も来さないから,本件審決が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を需要者と認定したことによって本件ブラウン管の販売分野の地理的範囲が拡大されることにはならない。
 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合,その当事者である事業者らがその意思で当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される(最高裁平成24年判決参照)。本件合意の内容が,原告ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉に際して提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の最低目標価格等を設定することであることからすれば,本件ブラウン管の価格交渉の自由や価格決定の自由が侵害されたのは,我が国に所在して我が国の内外で本件交渉等をしていた我が国ブラウン管テレビ製造販売業者である。そうだとすれば,本件合意により本件ブラウン管の取引に係る市場が有する競争機能が損なわれた場所,すなわち11社がその意思で本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらした場所は,我が国というべきである。
 さらに,本件ブラウン管や完成品たるブラウン管テレビの物流いかんにかかわらず,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の需要者と認められるから,本件ブラウン管や完成品たるブラウン管テレビの自国流入の有無は問題とならない。
 以上によると,本件では一定の取引分野に日本を含み,本件合意によって生じた競争の実質的制限は日本国内で生じているから,不当な取引制限の成立要件を満たしている。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件公示送達は適法か)について
(1) 証拠(査第160号証及び第161号証の各1,2,第163号証,第232号証)によれば,①原告が,平成21年10月5日,当時の日本国内における代理人及び復代理人全員を解任したため,原告の日本国内における代理人に対して本件排除措置命令書謄本を送達することができなくなったこと,②被告は,外務省を通じて,大韓民国政府に対し,本件排除措置命令書謄本を領事送達することについて同意するよう求めたが,大韓民国政府(外交通商部)が領事送達に同意しなかったこと,③独占禁止法70条の17において準用する民事訴訟法108条に規定する管轄官庁に嘱託してする送達については,大韓民国において,これを実施する権限のある管轄官庁を定めた条約等がないため,実施することができなかったことが認められる。
 そうすると,本件排除措置命令書謄本の送達について「民事訴訟法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合」(独占禁止法70条の18第1項2号)に該当することは明らかである。本件公示送達は,その要件に欠けるところはない。
(2) これに対し,原告は,外国政府が当該外国での送達を応諾しない旨の意思を明確に表明した場合に公示送達することは,民訴法108条及び独占禁止法70条の18の趣旨に反し許されないと主張する。
 しかし,外国政府が領事送達を認めないため民訴法108条の規定により送達をすることができない場合に公示送達をすることは,同条及び独占禁止法70条の18の趣旨に何ら反しない。原告の主張は理由がない。

2 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか)について
(1) 事実関係
ア オリオン電機について
(ア) 査第1号証ないし第3号証,第5号証ないし第8号証,第28号証,第31号証,第32号証,第63号証,第83号証ないし第93号証,第153号証,第154号証,第176号証ないし第187号証,第230号証(以上は枝番を含む。以下オまでにおいて同じ。)及び丹羽順一参考人審尋速記録によると,前記第2の5(2)ア(ア)aの事実が認められる。
 上記認定事実によると,オリオン電機は,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するテレビ用ブラウン管等の部品の選定やその購入価格,購入数量等の決定等の業務を行っており,主に原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,テレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を全て決定してそれをワールド等に伝え,ワールド等は,それに従ってオリオン電機が決定した購入先からテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められる。
 そうすると,テレビ用ブラウン管の購入先及びテレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等といった全ての取引条件を決定していたのはオリオン電機であって,ワールド等は,オリオン電機の指示に従っていたにすぎず,テレビ用ブラウン管の購入先及び全ての取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められないのであり,したがって,オリオン電機は,その選定した事業者との間で交渉し,テレビ用ブラウン管の購入先及びテレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等の全ての取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示してテレビ用ブラウン管を購入させていたということができるのであって,これと同旨の事実を認めた本件審決の事実認定は,合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
(イ) これに対し,原告は,①ワールド等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人であり,独立採算で損益計算を行い,独立した企業として備えるべき部署及び実体を有していた,②テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管はワールド等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビの大部分は日本国外に供給されていた,③オリオン電機とワールド等との間には資本関係がなかった,④オリオン電機がワールド等のテレビ用ブラウン管の購買業務に関与したことについて,法的な又は契約上の根拠はなかった,⑤オリオン電機の担当者は,ワールド等の担当者が独自にテレビ用ブラウン管製造販売業者と交渉することは禁止されておらず,ワールド等の担当者が独自にテレビ用ブラウン管製造販売業者と交渉して,オリオン電機が交渉した場合よりも安い価格を実現できればオリオン電機としてもメリットがあると供述していると主張する。
 しかし,ワールド等がオリオン電機のために行っていたブラウン管テレビの受託製造とは,オリオン電機がブラウン管テレビの設計や仕様を指示し,テレビ用ブラウン管等の部品を全て選定し,その購入価格及び購入数量を全て決定し,ワールド等が上記選定及び決定に係るテレビ用ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは全てオリオン電機が購入するというものであったことは,前記第2の5(2)ア(ア)の認定事実のとおりである。また,上記(ア)に挙げた証拠によると,オリオン電機は,かつては国内でブラウン管テレビを製造販売していたが,その多くは海外市場向けであり,人件費と物流費を考えると,海外で製造した方が製造コストを安くすることができることから,海外事業が失敗したときのリスクを考えて出資はしないが人は出すという方針の下に,オリオン電機グループの海外拠点として,昭和63年にワールドを,平成7年にコラート(KORAT DENKI LTD.)を,それぞれ設立したことが認められる(前記第2の5(2)ア(ア)a(a)i及びiiの認定事実によると,本件審決も上記事実を前提としているものと認められる。)。そうすると,このようなワールド等の設立の経緯や製造委託の実体も踏まえると,ワールド等のブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の全ての取引条件に関する決定権は,上記(ア)のとおり,実質的にはオリオン電機にあったというべきであるから,原告の主張①ないし④が上記(ア)の認定を左右しないことは明らかである。
 また,上記(ア)に挙げた証拠によると,オリオン電機の担当者であった丹羽順ーは,ワールド等の担当者が独自にブラウン管メーカーと交渉することを禁止しており,また,ワールド等には独自に交渉するメリットがないので,交渉するはずがないと供述しているから,原告の主張⑤を認めることができない。
 原告の主張はいずれも理由がない。
イ 三洋電機について
(ア) 査第1号証,第2号証,第10号証,第28号証,第29号証,第31号証,第32号証,第64号証,第68号証,第92号証,第93号証,第97号証,第98号証,第188号証ないし第192号証,第223号証及び古賀一路参考人審尋速記録によると,前記第2の5(2)ア(イ)aの事実が認められる。
 上記認定事実によると,三洋電機は,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,主に原告,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から選定した事業者と交渉した上で,テレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを三洋電子インドネシアに伝え,同社は,それに従って三洋電機が決定した購入先からテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められる。
 そうすると,テレビ用ブラウン管の購入先及びテレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは三洋電機であって,三洋電子インドネシアは,三洋電機の指示に従っていたにすぎず,テレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められないのであり,したがって,三洋電機が,その選定した事業者との間で交渉し,テレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示してテレビ用ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は,合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
(イ) これに対し,原告は,①三洋電子インドネシアは,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である,②テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管は三洋電子インドネシアが所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビのほとんどは日本国外に供給されていた,③三洋電機が三洋電子インドネシアのテレビ用ブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となる契約書や規則等の文書はなかった,④三洋電子インドネシアのテレビ用ブラウン管の購買業務は,三洋電子インドネシアが作成した同社の事業計画に基づき行われている,⑤三洋電子インドネシアとサムスンSDIマレーシアとの間でも,親会社のいずれもが全く関与しないまま価格が決められたこともあったと主張する。
 しかし,上記(ア)に挙げた証拠によると,三洋電機は,かつては国内でブラウン管テレビを製造販売していたが,円高及び価格競争力の低下を理由に,東南アジア等向けの海外拠点として平成8年にインドネシアに三洋電子インドネシアを設立し,これに東南アジア等向けの製造業務を移管したことが認められる(前記第2の5(2)ア(イ)a(a)iの認定事実によると,本件審決も上記事実を前提としているものと認められる。)。そうすると,このような三洋電子インドネシアの設立の経緯のほか,三洋電機が三洋電子インドネシアの行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括していたこと(前記第2の5(2)ア(イ)a(a)ii)も踏まえると,三洋電子インドネシアのブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権は,上記(ア)のとおり,実質的には三洋電機にあったというべきであるから,原告の主張①ないし③が上記(ア)の認定を左右しないことは明らかである。
 また,三洋電子インドネシアとしての収益の有無及び額についての最終的な責任は三洋電子インドネシアが負うべきであるから,三洋電子インドネシアは自社の事業計画を策定していると考えられるが,三洋電機が三洋電子インドネシアの行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括しており,その一環としてブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権が実質的には三洋電機にある以上,三洋電子インドネシアの作成に係る事業計画も,三洋電機の決定に従った内容にならざるを得ないのであるから,原告の主張④は上記(ア)の認定を左右しない。
 さらに,李大儀の陳述書(審第7号証)には,原告の主張⑤に沿う部分があるが,これは,具体性に乏しく,また,これを裏付ける的確な証拠もないから,採用することができず,他に原告の主張⑤を認めるに足りる的確な証拠はない。
 原告の主張はいずれも理由がない。
ウ シャープについて
(ア) 査第1号証ないし第3号証,第11号証ないし第18号証,第28号証,第32号証,第65号証,第69号証,第92号証,第93号証,第97号証,第100号証,第105号証ないし第109号証,第150号証,第193号証ないし第196号証及び川口泰弘参考人審尋速記録によると,前記第2の5(2)ア(ウ)aの事実が認められる。
 上記認定事実によると,シャープはSREC等との協議の結果を踏まえて主に原告ほか4社との交渉に臨んでいること, SREC等は貿易条件や支払条件については,個別にサムスンSDIマレーシアほか7社と交渉する余地があったことが認められるものの,シャープは,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,主に原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,テレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等を決定していたこと,SREC等は,シャープの指示に基づき,上記交渉を経て決定された価格トレンド(購入価格,購入数量等)に従ってシャープが決定した購入先からテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められる。
 そうすると,テレビ用ブラウン管の購入先及びテレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはシャープであったと認められるのであって,同社が,その選定した事業者との間で交渉し,テレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上, SREC等に対し指示してテレビ用ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は,合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
(イ) これに対し,原告は,①SREC等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である,②テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管はSREC等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビの大部分は日本国外に供給されていた,③SREC等においては,テレビ用ブラウン管の価格交渉はSREC等の収益に直結することから,SREC等が最終的な決定権を有していた,④シャープが関与する場合でも,シャープはSREC等の意向を踏まえて調整を行っていた,⑤SREC等が必要とするテレビ用ブラウン管について,社内の規定上,シャープの担当者であった川口泰弘は価格決定権を有しておらず,むしろテレビ用ブラウン管の調達先の決定の場面では,現地法人の在庫管理上価格のみならずリードタイムも重要となり,多少価格が高くても現地法人が選定した調達先からテレビ用ブラウン管を購入することがあったと述べている,⑥タイCRTとのテレビ用ブラウン管取引については,価格決定にシャープは関与せず,Sharp Manufacturing Thailand Co.,Ltd.のみで行っていたと主張する。
 しかし,上記(ア)に挙げた証拠によると,シャープは,遅くとも1990年代後半から東南アジア地域でブラウン管テレビの製造を開始し,平成13年頃にはコスト高を理由に日本国内でのブラウン管テレビの製造を中止し,それ以降は東南アジア地域ではSREC等においてブラウン管テレビを製造していたことが認められる(前記第2の5(2)ア(ウ)a(a)iによると,本件審決も上記事実を前提としているものと認められる。)。そうすると,このようなSREC等の設立の経緯のほか,シャープがSREC等の行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括していたこと(前記第2の5(2)ア(ウ)a(a)ii)も踏まえると,SREC等のブラウン管テレビの製造においてテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権は,上記(ア)のとおり,実質的にはシャープにあったというべきである。そうである以上,原告の主張①及び②が上記(ア)の認定を左右しないことは明らかである。
 次に,原告の主張③及び④に係る交渉過程を経てSREC等が購入するテレビ用ブラウン管の取引価格が決定するとの原告の主張は,上記(ア)に挙げた証拠に照らし採用できない。また,シャープがSREC等の行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括しており,その一環としてブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権が実質的にはシャープにある以上,シャープがSREC等の意向を踏まえて調整するといっても,シャープがSREC等の意向に拘束されるというわけではないし,SREC等に最終決定権があるといっても,それは,SREC等が,固有の貿易条件,支払条件等を加味して更にシャープが選定した事業者又はその子会社等と交渉するか,又は,シャープから示された価格トレンドの購入価格に従ってテレビ用ブラウン管をそれらの者から購入するかについての最終決定権にすぎず(前記第2の5(2)ア(ウ)a(b)ii),いずれにせよ,SREC等は,価格トレンドに関するシャープの決定には従わざるを得なかったのである。原告の主張③及び④は,上記(ア)の認定を左右しない。
 また,上記(ア)に挙げた証拠によると,川口泰弘は,現地法人の在庫管理上価格のみならずリードタイムも重要となり,多少価格が高くても現地法人が選定した調達先からテレビ用ブラウン管を購入したいという希望が現地法人から寄せられたことがあると供述しているものの,その希望を認めた例があるとまで供述していないから,原告の主張⑤を認めることはできない。仮に,上記供述がその希望を認めた例があったとの趣旨の供述であったとしても,川口泰弘参考人審尋速記録からは,それは極めて例外的な事態であったことがうかがわれる。そうすると,シャープがSREC等の行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括しており,その一環としてSREC等のブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権が実質的にはシャープにある以上,仮に例外的に原告の主張⑤のような事態があったとしても,そのことは上記(ア)の認定を左右しないことは明らかである。
 さらに,上記(ア)に挙げた証拠によると,タイCRTはタイ国内にしか生産拠点がなく,タイ国内での需要を満たすにとどまっていたため,価格交渉力の向上を目的としたテレビ用ブラウン管の購入の一元管理の対象とはならなかったこと,その結果,タイCRTとのテレビ用ブラウン管取引については,その価格決定にシャープは直接には関与しなかったことが認められる(上記(ア)に関する本件審決の事実認定もこの事実が認められることを否定していないものと認められる。)。しかし,上記(ア)に挙げた証拠によると,タイ王国所在のSharp Manufacturing Thailand Co.,Ltd.は,本件交渉等を経て決定された価格トレンド(購入価格,購入数量等)をシャープから示され,それを踏まえてタイCRTからテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められる(前記第2の5(2)ア(ウ)a(b)ⅲの認定事実によると,本件審決も上記事実を前提としているものと認められる。)から,タイCRTとのブラウン管取引に係る価格決定にシャープが関与していなかったとはいえない。原告の主張⑥は上記(ア)の認定を左右しない。
 原告の主張はいずれも理由がない。
エ 日本ビクターについて
(ア) 査第1号証ないし第3号証,第19号証ないし第24号証,第28号証,第32号証,第66号証,第71号証,第92号証,第93号証,第111号証ないし第114号証,第197号証ないし第200号証及び宮﨑孝志参考人審尋速記録によると,前記第2の5(2)ア(エ)aの事実が認められる。
 上記認定事実によると,日本ビクターは,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,主に原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,テレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをJMT等に伝え,JMT等は,それに従って日本ビクターが決定した購入先からテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められる。
 そうすると,テレビ用ブラウン管の購入先及びテレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは日本ビクターであって,JMT等は,日本ビクターの指示に従っていたにすぎず,テレビ用ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められないのであり,したがって,日本ビクターが,その選定した事業者との間で交渉し,テレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示してテレビ用ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は,合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
(イ) これに対し,原告は,①JMT等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である,②テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管はJMT等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビのほとんどは日本国外に供給されていた,③JMT等によるテレビ用ブラウン管の購買活動では,日本ビクターの担当者が関与していたものの,その役割はテレビ用ブラウン管メーカーとの購買交渉の支援にすぎず,日本ビクターが購入価格を決定していたわけではない,④日本ビクターがJMT等の購入するテレビ用ブラウン管の購買業務に関与することについて,日本ビクターやJMT等の内規に根拠となる規定はなかった,⑤JETやJVLは, JMTの購買価格を参考にしていたにすぎず,日本ビクターの購買担当者は,JETやJVLの購買価格を把握すらしていなかったことを参考人審尋で認めていると主張する。
 しかし,上記(ア)に挙げた証拠によると,日本ビクターは,主に原告ほか4社との本件交渉等の妥結後に,海外の現地生産拠点がテレビ用ブラウン管製造販売業者との間で購入価格の更なる値下げの交渉を行うことを許容していたことがうかがわれる(前記第2の5(2)ア(エ)b参照)が,日本ビクターは,かねてから日本国内の工場及び海外の現地生産拠点においてブラウン管テレビを製造し,販売していたこと,JMT等は,そのような海外の現地生産拠点の1つにすぎないことが認められる(前記第2の5(2)ア(エ)a(a)iの認定事実によると,本件審決も上記事実を前提としているものと認められる。)。そうすると,このようなJMT等と日本ビクターとの関係のほか,日本ビクターがJMT等の行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括していたこと(前記第2の5(2)ア(エ)a(a)ii)も踏まえると,JMT等のブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権は,上記(ア)のとおり,実質的には日本ビクターにあったというべきである。JMT等は日本ビクターが決定した購入先からテレビ用ブラウン管を購入していたのであり,上記値下げの交渉も,日本ビクターに上記決定権があることを前提としてその枠組みの中で交渉をしていたにすぎない。日本ビクターの購買担当者であった宮﨑孝志が,参考人審尋において,〔ア〕日本ビクターが関与して交渉している価格はガイドラインにすぎなかった,〔イ〕JMT等による価格交渉の結果,日本ビクターが関与した購入価格よりも1ドルも安い金額で購入する例があった,〔ウ〕日本ビクターが関与した購買価格がJMT等の事後交渉により遡及的に変更されることもあったことを示唆する発言をしているが,これらは,いずれも上記値下げの交渉を前提とした発言にすぎない。そうである以上,原告の主張③は採用することができない。また,原告の主張①,②及び④が上記(ア)の認定を左右しないことも明らかである。
 次に,上記(ア)に挙げた証拠によると,宮﨑孝志は,日本ビクターが,主に原告ほか4社との本件交渉等の妥結後に,海外の現地生産拠点がテレビ用ブラウン管製造販売業者との間で購入価格の更なる値下げの交渉を行うことを許容していたことに関連して,JETやJVLがJMTの購買価格を参考にした交渉をしていた可能性があることを指摘するにすぎず,JETやJVLも基本的にはJMTの購買価格によりテレビ用ブラウン管を購入していたと述べている。また,上記(ア)に挙げた証拠によると,宮﨑孝志について参考人審尋がされたのは平成24年9月14日であり,尋ねられているのは平成15年から平成17年当時の取引についてであることが認められるから,同人がJETやJVLの具体的な購買価格を覚えていなかったとしても,無理からぬ面がある。原告の主張⑤も上記(ア)の認定を左右しない。
 原告の主張はいずれも理由がない。
オ 船井電機について
(ア) 査第1号証ないし第3号証,第25号証,第26号証,第28号証,第32号証,第67号証,第92号証,第93号証,第97号証,第116号証ないし第121号証,第149号証,第156号証,第157号証,第201号証ないし第204号証,第227号証及び井土周次参考人審尋速記録によると,前記第2の5(2)ア(オ)aの事実が認められる。
 上記認定事実によると,船井電機は,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,主に原告ほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,テレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを船井電機マレーシア等に伝え,船井電機マレーシア等は,それに従って船井電機が決定した購入先からテレビ用ブラウン管を購入していたことが認められる。
 そうすると,テレビ用ブラウン管の購入先及びテレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは船井電機であって,船井電機マレーシア等は,船井電機の指示に従っていたにすぎず,テレビ用ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められないのであり,したがって,船井電機が,その選定した事業者との間で交渉し,テレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示してテレビ用ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は,合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
(イ) これに対し,原告は,①船井電機マレーシア等は,日本国外に所在する法的に独立した法人であり,その規模,組織,損益管理,経営計画の作成等の点において事業主体としての実体を備えた法人である,②テレビ用ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,テレビ用ブラウン管は船井電機マレーシア等が所在する国で消費(加工)され,完成品であるブラウン管テレビの大部分は日本国外に供給されていた,③船井電機が船井電機マレーシア等のブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となるグループ間の規則や契約上の規定はなかった,④本社同士の価格交渉が長引き,所定の価格改定時期を過ぎても妥結されない場合は,本社間での交渉の妥結を待たずに現地法人間で取引することもあったと主張する。
 しかし,上記(ア)に挙げた証拠によると,船井電機は,かつては国内でブラウン管テレビを製造販売していたが,平成5年頃以降は専ら海外現地法人でブラウン管テレビを製造するようになったこと,船井電機マレーシア等は,そのような海外現地法人の1つにすぎないことが認められる(前記第2の5(2)ア(オ)a(a)iの認定事実によると,本件審決も上記事実を前提としているものと認められる。)。そうすると,このような船井電機と船井電機マレーシア等との関係のほか,船井電機が船井電機マレーシア等の行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括していたこと(前記第2の5(2)ア(オ)a(a)ii)も踏まえると,船井電機マレーシア等のブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権は,上記(ア)のとおり,実質的には船井電機にあったというべきである。そうである以上,原告の主張①ないし③が上記(ア)の認定を左右しないことは明らかである。
 また,上記(ア)に挙げた証拠によると,本社同士の価格交渉が長引き,所定の価格改定時期を過ぎても妥結されない場合は,従来の価格でテレビ用ブラウン管を納入させ,妥結後に遡って妥結した価格を適用することがあったが,それは極めて例外的な事態であったことが認められる(上記(ア)に関する本件審決の事実認定もこの事実が認められることを否定していないものと認められる。なお,このような例外的な取扱いも,最終的には本社同士で決定した価格によっていたことを意味する。)。そうすると,船井電機が船井電機マレーシア等の行うブラウン管テレビの製造も含めてブラウン管テレビの製造販売事業を統括しており,その一環として船井電機マレーシア等のブラウン管テレビの製造におけるテレビ用ブラウン管の購入先及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件に関する決定権が実質的には船井電機にある以上,原告の主張④が上記(ア)の認定を左右しないことは明らかである。
 原告の主張はいずれも理由がない。
カ 本件合意の成立及び消滅について
(ア) 査第2号証ないし第4号証の2,第27号証の1及び2,第39号証,第40号証,第42号証,第47号証,第49号証,第50号証の1及び2,第60号証の1及び2,第75号証によると,前記第2の5(2)ア(カ)aの事実が認められる。
 また,査第3号証の1及び2,第4号証の1及び2,第47号証,第51号証の1及び2,第77号証,第79号証によると,前記第2の5(2)ア(カ)bの事実が認められる。
 さらに,査第3号証の1及び2,第27号証の1及び2,第50号証の1及び2,第58号証の1及び2によると,前記第2の5(2)ア(キ)の事実が認められる。
(イ) これに対し,原告は,本件合意の対象は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管に限定されていなかったと主張する。
 しかし,証拠(査第3号証の1,2,第27号証の1,2,第39号証,第49号証,第50号証の1,2)によれば,原告ら11社の合意において,一時期我が国ブラウン管テレビ製造販売業者5社の現地製造子会社等以外のブラウン管テレビ製造販売業者も対象として話し合われたことがあったが,その主要な取引相手として恒常的に対象とされたのは我が国ブラウン管テレビ製造販売業者5社の関係であったことが認められる。そして,被告は,前記第2の5(2)ア(ア)ないし(オ)の各事実を踏まえて,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管(本件ブラウン管)に係る合意を本件合意と呼んでいるにすぎないから,原告ほか4社並びにサムスンSDIマレーシア,MT映像ディスプレイ・インドネシア,中華映管マレーシア及びLPディスプレイズ・インドネシアが本件合意をしたとの本件審決の認定が実質的証拠を欠いているとはいえない。
 なお,被告が原告ら11社による合意について本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管(本件ブラウン管)に係る部分を問題としているのは,当該合意が対象としている取引の実情等の事実関係を前提に,これに我が国の独占禁止法を適用するに当たって,我が国の自由競争経済秩序が侵害されているのはどの部分かという観点から検討した結果であり,このことにより本件審決が違法となるとは認められない。
キ 以上のアないしオの各認定事実に対し,原告からサムスンSDIマレーシアに出向して営業部長等を務めたことがある李大儀は,その陳述書(査第27号証の1,審第7号証,審第9号証の1及び2)及び参考人審尋調書において,ワールド等を除く現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件は,現地会社同士で話し合ったことを本社がそのまま了承することがほとんどであったと陳述,供述し,原告において我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の営業活動を担当していた[ A ]は,その陳述書(審第8号証)において,同様の陳述をしている。
 しかし,前記アないしオの各(ア)に挙げた証拠によれば,上記陳述,供述を採用することはできない。
(2) 本件合意は,原告ら外国のテレビ用ブラウン管製造販売業者5グループ(11社)によるテレビ用ブラウン管の販売価格の最低目標価格等を設定する合意であり,この合意は日本国外でされ,その対象となる販売先は我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の海外に所在する現地製造子会社等であって,現地製造子会社等とのテレビ用ブラウン管の売買契約は外国で締結され,テレビ用ブラウン管の引渡しや売買代金の支払も外国で行われたものである。このような渉外的要素を含む事案に我が国の独占禁止法が適用されるかについて明文の規定はないが,同法は,「公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇用及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」と定めて(1条),我が国における自由経済競争秩序を維持確保することを目的としているから,同法3条後段(不当な取引制限の禁止)についていえば,我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為に適用されるものと解するのが相当である。
 以下,この見地に立って検討する。
(3) 本件ブラウン管の取引の実態について
 前記(1)アないしオの各認定事実によると,①現地製造子会社等は,平成15年から平成19年まで(ただし,三洋電子インドネシアは平成18年9月30日まで,JMT等は平成17年4月30日まで)の間,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の子会社若しくは関連会社又は我が国ブラウン管テレビ製造販売業者からブラウン管テレビの製造を委託された会社として,ブラウン管テレビを製造していたこと,②我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,いずれもかつては日本国内において自らブラウン管テレビを製造し,これを日本国内外において販売する事業を行っていたが,上記①の当時には,専ら又は主として現地製造子会社等にブラウン管テレビを製造させ,主としてこれを日本国外において販売する事業を自ら行い又は現地販売子会社に行わせていたこと,③このように,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,上記①の当時においても,ブラウン管テレビの製造販売事業を行っており,日本国内にある本社に置かれた当該事業の担当部署において,現地製造子会社等が行うブラウン管テレビの製造販売に係る事業を統括し,又はブラウン管テレビの製造を委託された現地製造子会社等がその製造に当たって使用するブラウン管等の部品,その購入先,購入価格,購入数量等を現地製造子会社等に代わって全て決定する等の業務を行っていたこと,④我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等によるブラウン管テレビの製造のための部品の購入に先立って,現地製造子会社等に代わって,自ら統括等していたブラウン管テレビ製造販売事業の一環として,ブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について主に原告ほか4社から選定した事業者と交渉した上で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の購入先を決定し,その購入先からの購入価格,購入数量等の取引条件も決定していたこと,⑤我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,決定した購入先,購入価格等を現地製造子会社等に伝え,現地製造子会社等は,テレビ用ブラウン管の購入先及びその購入先からの購入価格,購入数量等の取引条件については我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による決定に従い,購入先からの具体的な納期とその際の納入量については自らが立てた生産計画等に従って,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が決定した購入先(原告ほか4社の現地子会社を含む。以下同じ。)から本件ブラウン管を購入していたものである。
 そうすると,現地製造子会社等によるテレビ用ブラウン管の購入(売買契約の締結及びその履行)は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が決定した購入先と現地製造子会社等との間で行われ,その購入先からの購入価格,購入数量等の取引条件という売買契約の重要な事項も,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と当該業者が主に原告ほか4社から選定した事業者との間で行われる交渉によって決定されていたものである。このように現地製造子会社等によるテレビ用ブラウン管の購入に当たり,その購入先,購入価格,購入数量等を実質的に決定していたのは,現地製造子会社等ではなく,現地製造子会社等による事業を含めてブラウン管テレビ製造販売事業を統括等し,原告ほか4社と価格等につき交渉していた我が国ブラウン管テレビ製造販売業者であった。
(4) 「一定の取引分野における競争」と「需要者」について
ア 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」とは,同種又は類似の商品又は役務について需要者と供給者との間で形成される取引や競争が行われる場又は取引制限の行われる場をいい,商品又は役務の範囲と地理的範囲によって画される。
イ 独占禁止法2条4項1号は「同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること」と規定しているが,これは,「需要者」の定義規定ではなく,同法がいう競争にはいわゆる「売る競争」が含まれることを明らかにする趣旨であるから,同号を根拠に「需要者」が商品又は役務の受領者に限られると解することはできない。そもそも取引獲得に至るまでの過程こそが競争の本質であり,多様な流通過程と複雑な取引形態を内包する現代の社会経済取引においては,競争が現実かつ直接に商品又は役務の供給を受ける事業者(以下「商品等受領者」という。)に対してだけ行われるものとは限らない。例えば,商品等受領者が自らはどの供給者から当該商品又は役務の供給を受けるか及び供給を受ける場合の価格,数量等の取引条件を実質的には決定せず,商品等受領者と親子会社関係等一定の関係にある別の事業者がこれを決定し(以下,その決定をする別の事業者を「決定権者」という。),商品等受領者は決定権者のした決定に従ってその決定に係る供給者からその決定に係る価格等の取引条件により商品又は役務の供給を受けるという関係が成立している場合の「売る競争」は,誰から供給を受けるか等につき実質的な決定権を有する決定権者に向けて行われるのであり,そこに独占禁止法が保護しようとしている「公正且つ自由な競争」(同法1条),すなわち,自由競争経済秩序が成立するから,上記のような関係が成立している場合には,商品等受領者のみならず決定権者も「一定の取引分野における競争」における「需要者」に当たると解するのが相当である。
ウ そうすると,本件の場合,上記(3)で説示した本件ブラウン管の取引の実態によれば,現地製造子会社等が購入する本件ブラウン管については,その購入先,購入価格,購入数量等を実質的に決定していたのは我が国ブラウン管テレビ製造販売業者であるから,現地製造子会社等に対する本件ブラウン管の販売という一定の取引分野における競争においては,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者も需要者に当たると認められる。
 そして,上記(3)のとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が行っていたブラウン管テレビの製造販売事業は,日本国内にある本社に置かれた同事業の担当部署がこれを担当していた。そのため,原告ほか4社等とのテレビ用ブラウン管の購入価格等の交渉は,同部署との間で直接行われていた。この交渉を経た上での購入先,購入価格等の決定を行っていたのも我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の担当部署であった。このような我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉及びそれを経た上での購入先,購入価格等の決定の実情と「需要者」の意義(上記イ)を踏まえると,「需要者」である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は日本に所在していたというべきである。そして,原告ほか4社は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉により,当該業者から,その現地製造子会社等が自社から一定の価格・数量でテレビ用ブラウン管を購入するとの決定を得ることをめぐって競争していたものであり,その競争は我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が所在する我が国において行われたものである。
 そうすると,現地製造子会社等に対し本件ブラウン管を販売するという一定の取引分野における競争は,需要者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が所在する我が国において行われていたものと認められる。
(5) 競争の実質的制限について
ア 独占禁止法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,同法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件合意のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で当該市場における販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(最高裁平成24年判決参照)。
イ そうすると,本件合意は,原告ほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,査第36号証によると,平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の購入額を集計した結果を取りまとめたところ,サムスンSDIマレーシアほか7社からの購入額が全体の約83.5パーセントを占めていることが認められる(現地製造子会社等に対する本件ブラウン管の販売が一定の取引分野であるから,この割合が原告ら11社による一定の取引分野への影響力を測る指標のーつとなる。)。したがって,本件合意は,現地製造子会社等がテレビ用ブラウン管製造販売業者からテレビ用ブラウン管を購入するという市場において,本件合意の当事者である原告ら11社がその意思で販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすものであり,この状態は,当該販売価格が我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉によって決定されていたから,日本国内で生じていたということができる。
 したがって,本件合意は,我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものと認められる。
 なお,本件審決の「一定の取引分野である本件ブラウン管の取引分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったと認められ,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたと認められる」との説示は,以上と同趣旨をいうものと解される。
 以上によれば,本件に独占禁止法3条後段を適用することができ,原告が本件合意をしたことは,同法2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものである。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,渉外的要素を含む事案に我が国の独占禁止法を適用することができるか否かは,効果主義に基づくべきであり,本件合意が日本国外で行われ,本件ブラウン管が日本国外で購入され,これを使用したブラウン管テレビが日本国外で製造され,本件ブラウン管を使用したテレビはその一部しか我が国に輸入されておらず,我が国に直接的,実質的かつ予見可能な効果は発生していないから,本件に我が国の独占禁止法を適用することはできないと主張する。
 しかし,上記(2)のとおり,独占禁止法の目的に鑑み,同法3条後段(不当な取引制限の禁止)の規定は,我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為に適用されるものと解される。そして,以上に説示したとおり,原告らによる本件合意は,我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものと認定判断することができるから,本件においては,原告が主張する,本件合意の我が国における「効果」の有無・程度を判断する必要はない。
 また,原告は,独占禁止法のいわゆる域外適用は,諸外国と国際的調和を図り,各国独占禁止法の適用の矛盾抵触や重複適用を回避するため,多くの国で採用されている効果主義によるべきであると主張する。しかし,法の適用の国際的調和は,本来,条約その他の国家間の取決めにより図られるものであるが,これがない場合には,各国の競争当局及び裁判所がそれぞれその国内法に基づいて判断すべき問題であるところ,独占禁止法 3条後段の規定を我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為に適用することは,我が国における競争を制限する行為を対象にしてその限度で独占禁止法を適用するにすぎず,独占禁止法の適用の国際的調和の趣旨に反するものとはいえない。
イ 次に,原告は,「需要者」は商品又は役務の供給を受ける者をいうところ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,間接的にも本件ブラウン管の供給を受けていないから,「需要者」に該当する余地はない,仮に我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が「需要者」に該当するとしても,その所在地は我が国にはない,また,モトローラ事件の米国連邦第7巡回区控訴裁判所大合議による決定も,LCDに関する欧州司法裁判所の決定も,価格カルテルの対象となった商品又はこれを部品として組み込んだ最終製品が独占禁止法の適用が問題となった法域内で供給,販売されたものだけを独占禁止法適用の対象としていると主張する。
 しかし,上記(4)に説示したとおり,独占禁止法に「需要者」の定義規定はなく,我が国における自由経済競争秩序を維持確保するとの同法の目的に鑑み,「一定の取引分野における競争」における「需要者」は,商品の販売取引についていえば,商品の売買契約における買主という法形式,あるいは売買契約の履行としての商品の引渡しだけによって決まるのではなく,現実に競争の対象となる者は誰かとの実質的な観点も考慮して決定されるべきものである(同法2条6項も「不当な取引制限」とは,・・・・・・一定の取引分野における競争を「実質的に」制限することをいうと定めているところである。)。このような観点から,商品の売買契約の買主ではなく,商品の引渡しを受けるわけでもないが,商品の購入先,購入価格等取引条件の重要事項を実質的に決定している者も「需要者」に当たり,本件ブラウン管の取引の実態によれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者もこのような意味での「需要者」に当たること,「需要者」としての我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が我が国に所在していたことも,上記(4)で説示したとおりである。商品・役務の供給を受ける者だけが「需要者」であり,これを前提に我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は我が国に所在しない旨の原告の主張は,採用することができない。
 また,原告が指摘するモトローラ事件は,価格カルテルの対象となった液晶パネルを購入した会社の親会社による損害賠償請求が否定されたものであり,欧州の事例は,液晶パネルの価格カルテルをした会社に対する制裁金の対象範囲や制裁金額の算定が問題となった事案であり(弁論の全趣旨),いずれも本件とは事案や実質的争点を異にするものと考えられ,本件合意により我が国における競争が実質的に制限された本件事案に我が国の独占禁止法を適用することと相反する判断をしたものとは認め難い。原告指摘の欧米の事例をもって本件審決に違法がある旨の原告の主張は,採用することができない。
ウ 原告は,本件は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という不当な取引制限の成立要件を満たしていないと主張するが,本件合意が我が国における「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものであることは上記(5)で認定判断したとおりである。
 また,原告は,企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針(企業結合ガイドライン)に基づいて取引分野を画定すれば,その地理的範囲は東南アジアとなるのに,「一定の取引分野」の画定方法の相違により,不当な取引制限の場合に限って,地理的範囲が日本に拡張されるのは明らかに誤っていると主張する。
 しかし,企業結合の場合において「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」(独占禁止法10条1項, 15条1項1号等)に当たるかどうかは,不当な取引制限が行われた場合と異なり,審査の時点では競争を制限する行為はされておらず,企業結合により今後競争が制限されることとなるかどうか,競争が制限されるとしたらその範囲がどこまで及ぶかを取り扱っている商品の用途,代替性の有無等を考慮して理論的に予測するものであり,不当な取引制限の場合とは「一定の取引分野」の画定手法が異なるから,両者が同一であることを前提として,本件審決の認定判断が誤りである旨の原告の主張は,採用することができない。なお,本件ブラウン管の販売分野が「一定の取引分野」である旨の本件審決の判断が最高裁平成24年判決の趣旨に反するものとは認められない。

第4 結論
 以上のとおり,本件審決に違法はなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

平成28年4月22日

東京高等裁判所第3特別部

裁判長裁判官 菊池 洋一

裁判官 山口 均

裁判官 鈴木 正紀

裁判官 古田 孝夫

裁判官 工藤 正

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