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奥村組土木興業㈱による執行停止申立事件

独禁法3条後段,行政事件訴訟法25条

平成28年(行ク)第279号

決定

大阪市港区三先1丁目11番18号
申立人 奥村組土木興業株式会社
同代表者代表取締役 奥村安正
同代理人弁護士 岩城本臣
同 加藤幸江
同 岩城方臣
同 飯村北
同 宮塚久
同 國友愛美
同 纐纈岳志
同 東大貴

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
相手方 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 塚田益徳
同 大澤一之
同 福井香奈
同 神野耕輔
同 本郷正憲
同 能地裕之
同 石原一棋
同 大胡勝
同 田原秀範
同 岡村佳明
同 西本良輔
同 曽根裕貴
同 村上亮
同 戸田康雄
同 久野慎介

主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。

理由
第1 申立て
相手方が平成28年9月6日付けでした排除措置命令(平成28年(措)第9号)のうち,申立人に対して排除措置を命ずる部分は,本案判決の確定に至るまでその効力を停止する。
第2 事案の概要
1 相手方は,平成28年9月6日,申立人を含む20社の建設業者(以下「申立人ら20社」という。)に対し,申立人ら20社が,東日本高速道路株式会社(以下「NEXCO東日本」という。)東北支社の発注に係る東日本大震災により被災した高速道路の舗装本復旧工事(以下「本件舗装災害復旧工事」という。)について,共同して,受注予定者を決定するなど私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)3条に違反する行為を行っていたなどとして,同法7条2項に基づき,今後は本件舗装災害復旧工事について各社が自主的に受注活動を行うこと等を取締役会で決議すること,当該決議等について自社を除く19社や自社の従業員に周知徹底すること等を命ずる排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)をした。
本件は,申立人が,相手方に対し,本件排除措置命令のうち,申立人に係る部分の取消しを求める訴訟(本案事件)を提起した後,本件排除措置命令により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると主張して,行政事件訴訟法25条2項本文に基づき,同部分の効力の停止を求める事案である。
2 前提事実(後掲の疎明資料等により一応認められる。)
(1)申立人ら20社
別表記載の申立人ら20社は,いずれも,建設業法の規定に基づき許可を受け,舗装工事の請負等を行う株式会社である。(疎甲2,審尋の全趣旨)
(2)本件舗装災害復旧工事の一般競争入札に係る状況
ア NEXCO東日本は,平成23年7月8日,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の規定に基づき,東日本大震災により被災した高速道路の舗装本復旧工事合計12件(本件舗装災害復旧工事)に係る発注の見通しを公表した。
NEXCO東日本東北支社は,本件舗装災害復旧工事について,同月15日及び同年8月10日に入札公告し,総合評価落札方式による条件付一般競争入札の方法(公告により所定の参加資格条件を付して入札の参加希望者を募り,競争参加資格確認申請を行わせた上で,参加資格条件を満たしていると認められたものを当該入札の参加者とする入札方法)により発注した。
イ 申立人ら20社は,平成23年7月中旬頃から同年9月20日までの間,本件舗装災害復旧工事の入札に参加した。なお,申立人は,本件舗装災害復旧工事の受注には至らなかった。(審尋の全趣旨)
(3)本件排除措置命令
相手方は,平成28年9月6日,申立人ら20社に対し,申立人ら20社が,本件舗装災害復旧工事について,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を行っており,当該行為は,独禁法2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反する行為であるところ,当該違反行為は既になくなっているが,特に排除措置を命ずる必要があるとして,同法7条2項に基づき,以下の内容の本件排除措置命令をした。(疎甲1)
ア 申立人ら20社は,それぞれ,次の事項を取締役会において決議しなければならない。
(ア)本件舗装災害復旧工事について,申立人ら20社が共同して行っていた,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を行っていないことを確認すること。
(イ)今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,NEXCO東日本東北支社が発注する舗装工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行うこと。
イ 申立人ら20社は,それぞれ前記アに基づいて採った措置を,自社を除く19社及びNEXCO東日本東北支社に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,相手方の承認を受けなければならない。
ウ 申立人ら20社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,NEXCO東日本東北支社が発注する舗装工事について,受注予定者を決定してはならない。
エ 申立人ら20社のうち,常盤工業株式会社及び大有建設株式会社は,次の(ア)から(エ)までの事項を行うために必要な措置を,前田道路株式会社,株式会社NIPPO,株式会社佐藤渡辺及び申立人は,次の(ア)から(ウ)までの事項を行うために必要な措置を,株式会社伊藤組は,次の(ア),(イ)及び(エ)の事項を行うために必要な措置を,その余の会社は,次の(ア)及び(イ)の事項を行うために必要な措置を,それぞれ講じなければならない。この措置の内容については,前記ウで命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,相手方の承認を受けなければならない。
(ア)官公需の受注に関する独禁法の遵守についての行動指針の自社の従業員に対する周知徹底(ただし,申立人を含む7社にあっては,当該行動指針の作成及び自社の従業員に対する周知徹底)
(イ)官公需の受注に関する独禁法の遵守についての,NEXCO東日本東北支社が発注する舗装工事の営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査
(ウ)独禁法違反行為に関与した従業員に対する処分に関する規程の作成又は改定
(エ)独禁法違反行為に係る通報又は調査への協力を行った者に対する適切な取扱いを定める規程の作成又は改定
オ 申立人ら20社は,それぞれ,前記ア,同イ及び同エに基づいて採った措置を速やかに相手方に報告しなければならない。
(4)訴えの提起及び本件申立て
申立人は,東京地方裁判所に対し,平成28年9月28日,申立人には独禁法に違反する行為がないとして,本件排除措置命令のうち,申立人に係る部分の取消しを求める訴訟(本案事件)を提起し,同月29日,同部分の効力の停止を求める本件申立てを行った。(当裁判所に顕著な事実)
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)本件排除措置命令により「重大な損害」が生ずるか,また,「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するか。
(申立人の主張)
ア 本件排除措置命令により「重大な損害」が生ずること
(ア)官公庁からの受注機会を喪失し,受注高の大幅な減少が見込まれること
a事業者に対して独禁法に基づく排除措置命令がされた場合,工事を発注する官公庁は,同命令がされたことを知った後速やかに,排除措置命令を受けた事業者の入札参加資格を停止(以下,本文中において「指名停止」という。)することとしている。なお,地方公共団体は,独禁法違反行為が発生したときには,当該違反行為が発生した地域に関係なく,違反者に対し指名停止をすることとしている。
指名停止がされた場合,事業者は,官公庁が発注する工事を受注することはできず,仮に,既に受注していた場合には,これが取り消され,かつ,違約金の支払を求められることになり得る。
b申立人の事業のうち最も大きな割合を占めるのは,官公庁が発注する土木・舗装工事及び建築工事であり,平成27年度(平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度)における申立人の受注高のうち,官公庁工事による受注高は,全体の約47.7%を占めていた。
なお,官公庁の競争入札においては,工事実績が落札者を決定する一つの要素となっているため,指名停止期間中に工事の実績を得られないことにより,その後の競争入札において不利になる可能性もある。加えて,指名停止を受けると,一部の官公庁では,数年間に及び技術点や加算点が減点されることとなり,その結果,指名停止期間経過後の落札も困難となる。
現に,申立人は,平成15年頃にも排除措置命令を受けたことがあり,その際,各官公庁から指名停止を受けたところ,それにより,土木・舗装工事の受注高は,平成16年度までに,平成14年度に比し約50億円,割合にして約20%減少した。
c以上によれば,申立人は,本件排除措置命令により受注機会を喪失し,受注高の大幅な減少が見込まれることとなる。
そして,受注機会の喪失は,人身の自由に係る損害,名誉権や信用に係る損害と同様,具体的な金銭的評価に馴染まない非財産的な損害であり,原則として後日の回復はおよそ困難である。
したがって,本件排除措置命令により喪失した受注高が明らかにならずとも,「重大な損害」が発生したと認められる。
(イ)申立人の社会的及び業務上の信用が毀損されること
申立人は,本件排除措置命令の内容の履行を余儀なくされるところ,申立人が本件排除措置命令の内容を履行した場合,申立人は違反行為の存在を争っているにもかかわらず,取引先や世間一般からは,申立人が違反行為を自認したと受け止められ,申立人の評判や企業イメージ等が低下し,取引先の信頼や企業としての社会的信用を失うことになる。
これにより生ずる損害は,回復が著しく困難であり,重大な損害というべきである。
(ウ)過料の支払を命じられること
申立人が自らの正当性と本件排除措置命令の違法性を一貫して訴えるには,あえて本件排除措置命令を無視しなければならないところ,これにより,最大で50万円の過料の支払を命じられることになるほか,法令を遵守しないとして信用が毀損されることから,重大な損害が生ずることになる。
(エ)排除措置命令の特殊性を考慮すべきであること
前記(イ),同(ウ)のとおり,本件排除措置命令が効力を有する限り,申立人がその内容を履行してもしなくても,申立人には,自らの行為によって社会的評価や企業イメージの低下という結果がもたらされることになる。
また,平成25年法律第100号による改正前の独禁法(以下「改正前独禁法」という。)においては,裁判所の定める保証金を供託することで排除措置命令等の執行を免れる執行免除の制度が存在し,執行免除の申立ては,原則として認められてきたところ,改正後においても,執行免除の制度との均衡を考慮すべきである。
これらの排除措置命令の特殊性からすれば,「重大な損害」の要件は柔軟に認められるべきである。
(オ)まとめ
以上の各事情に照らせば,本件排除措置命令により申立人に重大な損害が生ずるといえる。
イ「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」こと
(ア)受注機会の喪失との関係では,裁判所が本件排除措置命令の効力を停止する旨の決定をすれば,指名停止措置がされないか,仮に既にされていたとしても,申立人が「責を負わないことが明らかとなったと認められた」(指名停止措置要領第3の6)として,解除される可能性が十分にある。
(イ)また,信用の毀損との関係では,申立人は,民間の取引先に,申立人が本件舗装災害復旧工事の受注調整について他社と意思を確認したり他社が受注するよう協力したりしたという違反行為がないこと及び本件排除措置命令を履行しないのは適法であることを説明する必要があるが,これが奏効するためには,違反行為の存在を自認させる旨の本件排除措置命令の効力が停止されていることが不可欠となる。
(ウ)そして,前記のとおり,申立人は,本件排除措置命令が効力を有する限り,その内容の履行の有無にかかわらず,重大な損害を被ることとなるのであるから,これを回避するためには,執行停止が早急にされる必要がある。
(エ)以上によれば,本件排除措置命令により生ずる重大な損害を避けるため,その効力を停止する緊急の必要があるというべきである。
(相手方の主張)
ア 本件排除措置命令により「重大な損害」が生ずるとはいえないこと
(ア)受注高の減少の程度は明らかでなく,それにより重大な損害が生ずるともいえないこと
申立人は,平成27年度の官公庁発注工事の受注高を挙げ,競争入札では工事実績が落札者決定の要素であること等を主張するが,これらからは,本件排除措置命令によって生ずる受注高の減少の規模は判明しない。
したがって,本件排除措置命令に伴う指名停止により申立人の受注高が大幅に減少するという申立人の主張には理由がない。
そもそも,指名停止による受注高の減少は,あくまで財産的損害にすぎない。仮に,本件排除措置命令によって,申立人に平成15年度及び平成16年度と同程度の受注高の減少が生ずるとしても,その結果,申立人の事業活動の継続が困難になるとか,将来において事業規模を縮小せざるを得なくなるといった事態に発展するという主張や疎明はない。
(イ)信用が毀損されるとはいえないこと
本件排除措置命令は,申立人に違反行為の自認を求めるものでないから,本件排除措置命令の内容を履行することが違反行為の自認に当たることを前提とする申立人の主張は失当である。仮に,取引先等からの誤解を懸念するのであれば,本件排除措置命令の内容を履行しつつ,違反行為を行っていない旨を別途公表すれば足りる(このような公表行為は本件排除措置命令に反するものではない。)。
また,本件排除措置命令は,本件排除措置命令に基づいて採った措置を,申立人ら20社(ただし,自社を除く。)及びNEXCO東日本東北支社に通知し,自社の従業員に周知徹底するよう求めているにすぎず,通知又は周知徹底の範囲は限定されている。
以上によれば,本件排除措置命令の内容を履行することにより申立人の信用が毀損される可能性は低く,仮に毀損されるとしても損害の程度は極めて低いというべきである。
(ウ)過料の支払を命じられることが本件排除措置命令による重大な損害とはいえないこと
本件排除措置命令に従わないことにより科される過料金は,申立人の事業規模に比し少額である上,そもそも,本件排除措置命令に従わないことにより生ずる損害を,本件排除措置命令により生ずる損害として考慮すべきでない。
(エ)まとめ
以上のとおり,本件排除措置命令により申立人に重大な損害が生ずるとはいえず,仮に損害が生ずるとしても,わずかであり,相応の金銭賠償により回復可能である。
イ「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」とはいえないこと
仮に,本件排除措置命令に係る執行停止が認められたとしても,それにより指名停止が行われなくなるとか,既にされた指名停止が解除されるとは考え難い。また,申立人が本件排除措置命令に従ったとしても,更なる信用の毀損は発生しない。
したがって,本件排除措置命令の効力を停止するか否かにかかわらず,申立人にもたらされる結果に違いはない。
また,本件排除措置命令は,違反行為によって生じた違法状態を除去し,競争秩序の回復を図るとともに,違反行為の再発を防止するという極めて重要な行政目的を達成するためのものであり,行政目的の達成の必要性を一時的に犠牲にしてもなおこれを停止して申立人を救済しなければならない緊急の必要性はない。
以上のとおりであるから,本件において,重大な損害を避けるため緊急の必要があるとはいえない。
(2)「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に該当するか。
(相手方の主張)
本件排除措置命令により生ずる損害はわずかであり,また,相応の金銭賠償により回復可能である。他方,申立人が,NEXCO東日本東北支社に虚偽の誓約書を提出したこと,自発的に違反行為を取りやめたものではなかったこと,以前にも同種の違反行為を理由に勧告審決を受けたことに鑑みれば,違反行為が排除されたことを確保し,競争秩序の回復及び再発防止を確固たるものとするためには,本件排除措置命令に基づく措置を履行させる必要性が高い。
そうである以上,執行停止を認めると公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるといえる。
(申立人の主張)
本件舗装災害復旧工事に係る入札は既に終了していること,相手方の主張を前提としても申立人の関与の度合いは低いこと,申立人は,社内規程の整備や弁護士によるコンプライアンスセミナー等を実施するなどしており,本件排除措置命令を履行させるまでもなく,独禁法違反行為の再発防止措置は十分に講じられていること,既に相手方により本件排除措置命令に係る各種報道資料が公表されていること等の事情に照らせば,本件排除措置命令の効力を停止しても,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとはいえない。
(3)「本案について理由がないとみえるとき」に該当するか。
(相手方の主張)
申立人の従業員2名は,本件舗装災害復旧工事について,他の19社と共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする,いわゆる受注調整行為を行ったところ,上記従業員2名の当時の経歴,職位,把握していた情報及びその行動内容等に照らせば,同人らは,申立人の官公庁工事の競争入札に係る事業活動に関与し得る立場にあったと認められ,申立人の業務として上記受注調整行為を行ったとみるのが合理的である。
そうすると,申立人は,不当な取引制限に該当する行為をしたものと解される。そして,申立人が,NEXCO東日本東北支社に虚偽の誓約書を提出したこと,自発的に違反行為を取りやめたものではなかったこと,以前にも同種の違反行為を理由に勧告審決を受けたことに鑑みれば,申立人には特に排除措置を命ずる必要がある。
以上のことから,本件は,「本案について理由がないとみえるとき」に該当する。
(申立人の主張)
本件舗装災害復旧工事に係る受注調整行為に関わったとされる申立人の従業員2名は,何の職責も権限もなく,申立人の入札価格の決定プロセスに関与できる立場になかったのであって,実際にも決定プロセスに関与していない。仮に,相手方の指摘する上記従業員2名の当時の経歴等を考慮しても,上記従業員2名の行為を申立人に効果帰属するに足りる事情があったと認めるに足りず,本件排除措置命令は,独禁法2条6項に定める「不当な取引制限」の要件である意思の連絡を欠くのにされたものといえる。
以上のことから,「本案について理由がないとみえるとき」に該当しないことは明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件排除措置命令により「重大な損害」が生ずるか,また,「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するか。)について
(1)認定事実
後掲の疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,次の事実を一応認めることができる。
ア 申立人の経営状況(疎甲3,4,8)
(ア)平成24年度(平成24年4月1日から平成25年3月31日まで)
受注高 450億8779万5000円
売上高 447億3312万8000円
当期純利益 1億4943万7000円
総資産 390億2286万7000円
純資産 103億8161万8000円
(イ)平成25年度(平成25年4月1日から平成26年3月31日まで)
受注高 452億3336万8000円
売上高 477億7847万7000円
当期純利益 -25億7179万4000円
総資産 385億2591万9000円
純資産 76億5259万3000円
(ウ)平成26年度(平成26年4月1日から平成27年3月31日まで)
受注高 478億9316万5000円
売上高 529億4119万8000円
当期純利益 10億3371万5000円
総資産 426億7095万3000円
純資産 86億9140万8000円
(エ)平成27年度(平成27年4月1日から平成28年3月31日まで)
受注高 644億4389万4000円
このうち,官公庁工事による受注高は,307億円あまりであった。
売上高 501億4171万6000円
営業利益 8億7772万2000円
当期純利益 5億1206万2000円
総資産 359億2092万3000円
純資産89億3642万6000円
(オ)申立人の平成27年度期末従業員数は,778人であった。
イ 過去の排除措置命令の影響等(疎甲7,8,審尋の全趣旨)
申立人は,平成15年頃,大阪市水道局が発注する工事について,不当な取引制限をしたとして,排除措置命令を受けたところ,その際,大阪市,羽曳野市及び箕面市から1年間の指名停止を受けたほか,大阪府から6か月間,国土交通省,日本道路公団(当時)及び東京都から各2か月間の指名停止を受け,また,その他の各官公庁からも,1か月間ないし9か月間の指名停止を受けた。
申立人の土木・舗装工事(申立人の環境開発本部においてされたもの。)の受注高は,平成14年度は200億円強であったが,平成16年度は,平成14年度に比し約50億円(割合にして20%強)減少した。
ウ 排除措置命令の履行状況等(疎乙11,12)
改正前独禁法に基づく排除措置命令(平成18年3月29日から平成26年6月19日までにされたもの)を受けた事業者が,その内容を履行しつつ,違反行為を争って審判請求を行った例は36例あり,そのうち,審決取消訴訟を提起した例は13例あった。
改正後においては,本件申立て以前に,計3件の排除措置命令取消訴訟が提起されているところ,各訴訟に係る排除措置命令は,いずれも提訴時において履行済みであった。
エ 指名停止措置要領及びその運用基準等
別紙「指名停止措置要領及びその運用基準等」記載のとおりである。(疎甲5,6,26)
(2)検討
ア 申立人は,本件排除措置命令により,①官公庁からの受注機会を喪失し,受注高の大幅な減少が見込まれること,②申立人の社会的及び業務上の信用が毀損されること,③過料の支払を命じられること等となり,その結果,重大な損害が生ずる旨主張する。
そこで,以下,これらの点について検討する。
イ 受注機会の喪失,受注高の減少について
官公庁は,排除措置命令を知った後速やかに,違反業者に対し,それぞれ,おおむね1か月間から1年間の指名停止を行うこととしており,また,指名停止を受けた違反業者には,その指名停止期間中,指名競争入札,一般競争入札及び随意契約による官公庁工事を受注させないこととしている(前記(1)エ,審尋の全趣旨)。そうすると,申立人は,本件排除措置命令により,各官公庁から,それぞれ1か月間から1年間程度の指名停止を受けることとなり,その結果,指名停止期間中に当該官公庁が発注する工事を受注する機会を失うことになるといえ,本件排除措置命令が,申立人の受注機会や受注高に影響を及ぼす可能性は否定できない。
しかし,申立人が受けた過去の指名停止の状況(前記(1)イ)においては,大阪市など一部の官公庁において1年間の指名停止期間としているものの,その多くは1か月間から数か月間にとどまっており,本件排除措置命令後においても,申立人が1年間にわたり全ての官公庁工事に係る受注機会を失うことになるものとはいえず,むしろ官公庁工事全体としてみれば指名停止期間は1年間より相応に短い期間に限局されるものとも考えられる。このような事情を踏まえると,申立人の平成27年度の1年間における受注高約644億円のうち官公庁工事によるものが307億円あまり(全体の約47.7%)を占めていたとしても,本件排除措置命令によって申立人が官公庁工事の受注機会を失うことによる受注高の減少幅は,上記金額には到底及ばないものといわざるを得ない。そして,申立人が,年間で600億円を超える受注高を有し,平成24年度以降の状況を通じて見ても,約350億円から約400億円の総資産及び約75億円から約100億円の純資産を有するほか,平成27年度末時点で800人近い従業員を抱える大規模な事業者であること(前記(1)ア)や,一件記録上,申立人が平成15年頃に排除措置命令を受けた際に,申立人の経営が特段困難な状況に陥った等の事情は認められないことをも併せ考慮すると,指名停止により喪失する受注機会や受注高を具体的に主張,疎明することが困難であること,指名停止が将来にわたって申立人の受注高に影響を与えうること(疎甲31から34まで)等,申立人の指摘する事情を考慮しても,本件において,本件排除措置命令を理由として指名停止を受けたことにより申立人が被る受注高の減少の程度が,申立人の事業活動の継続を困難にする等の程度のものであると認めるには至らず,上記損害が,事後的な金銭賠償等によって回復することが困難な損害に当たることの疎明があったとまでいうことはできない(なお,申立人は,受注機会の喪失が非財産的な損害であるとも主張するが,本件における受注機会の喪失は,これに伴う受注高の減少という財産的損害を発生させるものにほかならず,申立人の主張は採用できない。)。
よって,受注機会の喪失や受注高の減少により重大な損害が生ずるとの疎明があったとは認められない。
ウ 申立人の社会的及び業務上の信用の毀損について
申立人は,本件排除措置命令を履行することにより,申立人が本件排除措置命令に係る違反行為を自認したと取引先等から受け止められ,社会的評判や信用が毀損する旨主張する。
しかし,本件排除措置命令において申立人が行うことを命じられているのは,前記第1の3(3)のとおり,申立人の取締役会において,当該決議時現在において独禁法違反行為を行っていないこと等を決議し(同ア),そのような内容を同命令において名宛人となった同業他社及びNEXCO東日本東北支社に通知し,申立人の従業員に周知徹底すること(同イ)等であり,申立人が同命令を履行することにより通知がされるなど何らかの影響を直接受けるのは,同命令において問題となった工事の発注者,同業他社及び申立人の従業員にとどまる。そして,本件排除措置命令において,申立人ら20社が「共同して行っていた」違反行為を行っていないことを確認する旨求めている記載(排除措置命令書(疎甲1)主文1(1)項)も,同命令の対象となった違反行為を特定するための記載であって,同命令が,上記記載をもって,申立人に対し違反行為を自認するよう求めるものとは解されない(最高裁判所昭和51年(行ト)第18号同52年4月13日第二小法廷決定・裁判集民事120号451頁参照)のであって,申立人が同命令を履行しつつ,これとは別に,申立人が上記違反行為をしていないことを主張し,同命令を不服として訴訟を提起して争っていること等を上記関係者に説明することは同命令に反しない。そうすると,申立人が指摘するような社会的評判や信用の毀損は,相当程度回避することができるのであって,本件排除措置命令を履行することによる社会的評判や信用の毀損が重大なものであると認めることはできない。申立人は,上記同業他社への通知や従業員への周知徹底を含め,本件排除措置命令に係る違反行為を行っていないという一貫した態度を示し続けることが極めて重要である等とも述べるが,本件排除措置命令の履行により,申立人にその立場と矛盾する行動を強いるものとはいえず,上記判断を左右しない。
なお,申立人は,排除措置命令や指名停止が一般に公表されることや公表された排除措置命令の内容が正しいと受け止められるのが一般的であること等も指摘する。しかし,申立人が違反行為の不存在を主張していることや係争中であることを公表する等の方法をとることが禁止されず,社会的評判や信用の毀損の回避が相応に可能であることは上記の同業他社や従業員に対する場合と同様であるほか,本件排除措置命令は高速道路の舗装工事に関して受注調整等が行われたことを前提とするものであり,申立人が行う工事の品質自体を問題とするものではないこと,申立人の事業内容が土木,港湾・河川,建築工事やガス管敷設等の工事などを中心とするものであり,一般消費者に対して直接商品やサービスを提供することを中心とするものではないこと(疎甲2,審尋の全趣旨)等にも照らすと,申立人の上記指摘によっても,本件排除措置命令による申立人の信用の毀損が重大であるとは認められないとの上記判断を覆すに至らない。
よって,本件排除措置命令の内容を履行することにより,申立人の社会的及び業務上の信用が毀損され,重大な損害が発生するとは認められない。
エ 過料の支払について
申立人は,自らの立場を一貫するために本件排除措置命令に違反しなければならず,過料の支払を命じられることにより,過料相当額の財産的損害を被るほか,信用も毀損されると主張する。
しかし,前記ウにおいて説示したとおり,本件排除措置命令を履行しつつ,違反行為の不存在や訴訟により争っていることを対外的に説明したり,公表したりすることは禁止されず,申立人がその主張と矛盾した行動を強いられているものとは認められない。したがって,本件排除措置命令にあえて従わないために過料の支払が避けられないことを前提とする申立人の上記主張は理由がなく,採用できない。
オ 以上によれば,申立人の主張する各事情が重大な損害を生じさせると認めるに至らず,それらの事情を総合考慮しても,本件排除措置命令により申立人に重大な損害が生ずるおそれがあることについての疎明があるとはいえない。
カなお,申立人は,改正前独禁法における執行免除の制度との均衡から,「重大な損害」の要件について柔軟な対応をすべきであるとも主張するが,改正後の独禁法においては,あくまで行政事件訴訟法上の執行停止の要件を満たすか否かという観点から具体的な審理を行うべきところ,本件において「重大な損害」の要件に関する疎明がないことは,上記説示のとおりであるから,申立人の主張は採用できない。
2結論
以上によれば,本件申立ては,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを却下することとし,主文のとおり決定する。

平成28年12月14日

裁判長裁判官 小野寺真也
裁判官 千葉健一
裁判官 琴岡佳美

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