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独禁法3条後段
昭和59年(判)第1号
東京都千代田区大手町2丁目6番2号
被審人 三菱電機ビルテクノサービス株式会社
右代表者 代表取締役 小林 凱
右代理人 弁護士 鈴木 秀雄
同 藤堂 裕
同 寺上 泰照
東京都千代田区神田錦町1丁目6番地
被審人 株式会社日立ビルシステムサービス
右代表者 代表取締役 深山 俊彦
右代理人 弁護士 本林 徹
同 久保利 英明
同 小林 啓文
同 古曳 正夫
同 内田 晴康
東京都品川区北品川6丁目5番27号
被審人 東芝エレベータテクノス株式会社
右代表者 代表取締役 長原 武光
右代理人 弁護士 西 迪雄
同 向井 千杉
同 富田 美栄子
東京都新宿区西新宿2丁目4番1号
被審人 日本オーチス・エレベータ株式会社
右代表者 代表取締役 小本 允
右代理人 弁護士 長島 安治
同 伊集院 功
同 内藤 潤
大阪府茨木市庄1丁目28番10号
被審人 フジテック株式会社
右代表者 代表取締役 内山 正太郎
右代理人 弁護士 青野 正勝
東京都千代田区東神田1丁目9番9号
被審人 日本エレベーター製造株式会社
右代表者 代表取締役 池田 泰三
右代理人 弁護土 岡村 了一
同 前嶋 繁雄
同 鈴木 勝利
同 齋藤 大
公正取引委員会は、右被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第66条の規定により審判官滿田忠彦、同森原征二及び同鈴木恭蔵から提出された事件記録に基づいて同審判官らから提出された別紙審決案を調査し、次のとおり審決する。
主文
被審人らの本件行為については、独占禁止法第3条の規定に違反する事実を認めることはできない。
理由
一 当委員会の認定した事実、証拠、判断及び法令の適用は、いずれも別紙審決案と同一であるから、これを引用する。
二 よって、被審人らに対し、独占禁止法第54条第3項及び規則第69条第1項の規定により、主文のとおり審決する。
平成6年7月28日
委員長 小粥 正巳
委員 股野 景親
委員 佐藤 勲平
委員 植松 敏
別紙
昭和59年(判)第1号
審決案
東京都千代田区大手町2丁目6番2号
被審人 三菱電機ビルテクノサービス株式会社
右代表者 代表取締役 小林 凱
右代理人 弁護士 鈴木 秀雄
同 藤堂 裕
同 寺上 泰照
東京都千代田区神田錦町1丁目6番地
被審人 株式会社日立ビルシステムサービス
右代表者 代表取締役 深山 俊彦
右代理人 弁護士 本林 徹
同 久保利 英明
同 小林 啓文
同 古曳 正夫
同 内田 晴康
東京都品川区北品川6丁目5番27号
被審人 東芝エレベータテクノス株式会社
右代表者 代表取締役 長原 武光
右代理人 弁護士 西 迪雄
同 向井 千杉
同 富田 美栄子
東京都新宿区西新宿2丁目4番1号
被審人 日本オーチス・エレベータ株式会社
右代表者 代表取締役 小本 允
右代理人 弁護士 長島 安治
同 伊集院 功
同 内藤 潤
大阪府茨木市庄1丁目28番10号
被審人 フジテック株式会社
右代表者 代表取締役 内山 正太郎
右代理人 弁護士 青野 正勝
東京都千代田区東神田1丁目9番9号
被審人 日本エレベーター製造株式会社
右代表者 代表取締役 池田 泰三
右代理人 弁護士 岡村 了一
同 前嶋 繁雄
同 鈴木 勝利
同 齋藤 大
右被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第26条の規定により、担当審判官に指定された本職らは、審判の結果、次のような審決をすることが適当であると考え、規則第66条及び第67条の規定により本審決案を作成する。
主文
被審人らの本件行為については、独占禁止法第3条の規定に違反する事実を認めることはできない。
理由
第一 事実
(被審人6社等について)
一(一) 被審人三菱電機ビルテクノサービス株式会社(菱電サービス株式会社が平成2年6月1日に商号変更したものである。以下「被審人三菱」という。)は、昇降機(エレベーター、エスカレーター及びダムウェーターをいう。以下同じ。)等の製造販売を行っている三菱電機株式会社の全額出資により設立され、肩書地に本店を置き、昇降機の保守(点検を含む。以下同じ。)業等を営む者である。
被審人株式会社日立ビルシステムサービス(日立エレベータサービス株式会社が平成3年4月1日に商号変更したものである。以下「被審人日立」という。)は、昇降機等の製造販売を行っている株式会社日立製作所の全額出資により設立され、肩書地に本店を置き、昇降機の保守業等を営む者である。
被審人東芝エレベータテクノス株式会社(東芝昇降機サービス株式会社が平成4年3月1日に商号変更したものである。以下「被審人東芝」という。)は、昇降機等の製造販売を行っている株式会社東芝の全額出資にょり設立され、肩書地に本店を置き、昇降機の保守業等を営む者である。
被審人日本オーチス・エレベータ株式会社(以下「被審人日本オーチス」という。)、同フジテック株式会社(以下「被審人フジテック」という。)及び同日本エレベーター製造株式会社(以下「被審人日エレ」という。)の3社は、いずれも肩書地に本店を置き、昇降機の製造販売業、保守業等を営む者である。
(二) 被審人三菱、同日立、同東芝、同日本オーチス、同フジテック及び同日エレの6社(以下「被審人6社」という。)が保守を行っている昇降機の保守台数の合計は、我が国における昇降機の総保守台数の大部分を占めている。
昇降機に関する顧客との保守契約には2種類あり、フルメンテナンス契約(以下「FM契約」という。)は、給油、調整、清掃の外、意匠部品等の若干の部品を除き、他のすべての部品交換を含めた長期間の点検、検査、修理に至る一連の保守業務を平準化された料金によって行うものであり、パーツ・オイル・グリース契約いわゆる点検契約(以下「POG契約」という。)は、点検、給油、調整、清掃の外、若干の消耗品の交換、オイル類の補充を平準化された料金で行い、部品や大量のオイルの交換は別途料金を徴収するものである。
(三) 被審人6社は、昭和52年ころから「二十日会」と称する各社の営業担当課長級の者による会合を設け、おおむね月1回の会合を開き、被審人三菱、同日立、同東芝、同日本オーチスの業界上位4社(以下「被審人4社」という。)は、昭和56年ころから「十日会」と称する各社の営業担当部長級の者による会合を設け、おおむね2月に1回会合を開き、それぞれ、昇降機の保守の料金、中小の保守業者の動向、安全対策等に関する情報の交換を行っていた。
(被審人6社の昇降機の保守料金体系)
二 被審人6社が顧客に提示する昇降機保守料金(各社の計算上の提示額をいう。以下「見積料金」という。)は、それぞれ、次のとおりの方法で算出される。
(一) 被審人三菱
代表的な昇降機を17機種に分類し、各機種に応じて標準的な階床(階高)を定め、それぞれに対応した月額料金を定めたMM契約(「FM契約」と同じ。)とPOG契約に分けた「標準保守料金一覧」表を作成し、保守料金を改定する場合、右一覧表を改定し、同一覧表を添付した昇降機本部長名義の料金を改定する旨の通達を各支社、営業所に配布している。そして、見積料金(被審人三菱では「基準料金」と呼ばれている。)を算出するには、当該昇降機の階床(階高)が右一覧表のそれと一致すれば、その月額料金(以下「三菱標準料金」という。)に、その他の階床(階高)の場合は、右一覧表に表示された三菱標準料金に一定の階床(階高)に係る増減等を行って算出した当該昇降機の階床(階高)に応じた月額料金(以下「修正三菱標準料金」という。)(なお、高速エレベーター、特殊な操作方式のエレベーターについては、8ランクのシステム条件と4ランクの速度条件に応じた係数を乗ずる。)に、機種や使用条件に応じて定められた保守料金係数(エレベーターの場合の保守料金係数は、i.環境、起動回数及び台数に応じた係数、ii.積載容量に応じた係数、iii.操作方式に応じた係数〔ただし、前記高速エレベーター等には適用しない。〕の三種類となっている。)及び定時外保守割増係数を乗ずる。すなわち、「見積料金」(基準料金)は、以下のとおりの算式によって算出される。
見積料金(基準料金)=三菱標準料金(修正三菱標準料金を含む。)(エレベーターの場合は、階床増減、通過階床減を行い、エスカレーターの場合は、階高増減を行う。)×保守料金係数(エレベーターの場合は、環境起動回数グレード及び台数係数、積載容量係数、操作方式係数〔ただし、前記のように高速エレベーター等には適用しない。〕・エスカレーターの場合はビル用途、台数条件、運転時間による係数)×定時外保守割増係数(休祭日、早朝、夜間保守に伴う割増係数)
さらに、当該昇降機に故障自動通報システム、地震時管制運転装置等の付加装置、非常用、車椅子用等の特殊仕様がある場合には、付加料金として割増料金が加算等される。
そして、別紙添付の保守標準料金表(以下「本件標準料金表」という。)の11機種の被審人三菱の欄の月額料金と昭和58年度の「標準保守料金一覧」表記載の11機種に対応する月額料金である三菱標準料金とは一致する。
被審人三菱は、前記一覧表の外、「三菱メンテナンス・三菱点検契約標準料金表」を作成しているが、右表記載の11機種、階床数、月額料金は、前記一覧表記載の17機種から抽出したものであり、右表に記載されている機種、階床数、月額料金額は、本件標準料金表の被審人三菱のそれと一致することになる(ただし、昭和58年度の「三菱メンテナンス・三菱点検契約標準料金表」は作成されていない。)。
そして、前記「標準保守料金一覧」(三菱標準料金)が、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者に対する見積料金算出の基礎となることは、後記「審判官の判断」のとおりである。
(二) 被審人日立
乗用、人貨共用で定格速度、積載量が標準的な昇降機につき、12機種を定め、それに対応したHM契約(「FM契約」と同じ。)及びPOG契約の月額料金を定めた「保守標準料金表」を作成し、保守料金を改定する場合、右料金表を改定し、右改定保守標準料金表を業務部通達に添付し、各営業所に配布している。そして、見積料金を算出するには、当該昇降機の階床(階高)に対応した右保守標準料金表の階床の月額料金(右料金表のうち、太枠部分の月額料金を「日立標準料金」という。)に、不停止階、背面出入口、地震管制運転装置等の仕様項目ごとに、また、休日時間外作業項目ごとに定められた割増料金を加算等する。そして、本件標準料金表の12機種の被審人日立の欄の月額料金と前記保守標準料金表(ただし、昭和58年度の保守標準料金表は作成されておらず、右料金表〔太枠部分〕と同じ意味、内容を有する「保守標準料金表(改訂案)」)の同じ12機種の月額料金とは、後記のとおり5箇所を除けば一致する(階床が異なる場合は、階床増減を行えば一致する。)。
そして、前記「保守標準料金表」(日立標準料金)が、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者対する見積料金算出の基礎となることは、後記「審判官の判断」のとおりである。
(三) 被審人東芝
特殊仕様等がない代表的な昇降機の機種につき、それぞれの台数分布上最も多い階床(階高)を基準とし、それに応じた月額料金を定めた「東芝メンテナンス(保守)標準料金表」及び「東芝メンテナンス(点検)標準料金表」を作成し、保守料金を改定する場合、右標準料金表を改定し、右改定標準料金表を保守営業部通達として各支店、営業所に配付している。そレて、見積料金を算出する旨、当該昇降機の階床(階高)が右標準料金表のそれ一致すれば、その月額料金(以下「東芝標準料金」という。なお、被審人東芝では「見積基準料金」と呼ばれている。)に、その他の階床(階高)の場合には、右標準料金表に表示された月額料金(東芝標準料金)に一定の階床(階高)に係る増減を行って算出した当該昇降機のその階床(階高)に対応した月額料金に、仕様(不停止階床数、積載量等)、特殊仕様(車椅子仕様、非常用、防滴型等)、付加装置(地震管制運転装置、故障時自動通話装置等)、その他の条件(点検時間帯、設置環境等)等の項目に応じて定められた増減比率に応じ加算等する。
本件標準料金表の11機種の被審人東芝の欄の月額料金と昭和57年10月付けの「東芝メンテナンス(保守・点検)標準料金表」の11機種の月額料金(東芝標準料金)とは、階床(階高)が同じものは一致し、階床の異なるものは1階当たり3パーセントの階床に係る増減をして換算すると一致する(なお、計算上の誤りがあり一致しない箇所があることは後記のとおりである。)。
そして、前記「東芝メンテナンス(保守・点検)標準料金表」(東芝標準料金)が、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者に対する見積料金算出の基礎となることは、後記「審判官の判断」のとおりである。
(四) 被審人日本オーチス
保守料金を改定する場合、OM契約(「FM契約」と同じ。)とPOG契約とに分けた新標準料金表等を内容とする通達(SSCL−xix.xix.xix.)が各支店、営業所に発せられるが、これとは別に発せられ同様に各支店、営業所に配付される「オーチス昇降機保守標準料金表」、「オーチス昇降機点検(消耗部品付)標準料金表」の機種、開閉箇所、月額料金(以下「日本オーチス標準料金」という。)は、右通達に添付されている標準料金表のそれと同一である。そして、見積料金を算出するには、当該昇降機の階床(階高)が右標準料金表のそれと一致する場合にはその月額料金(日本オーチス標準料金)を、その他の階床(階高)の場合には、右標準料金表に表示された月額料金(日本オーチス標準料金)に一定の階床(階高)増減を行って算出した月額料金をそれぞれ基準として、さらに、当該機種の特性に応じて群管理運転、非常用エレベーターの運転方式、地震管制運転装置等の管制運転装置、二方向出入口等の付加装置等の付加項目ごとに付加料金を加算等する。本件標準料金表の11機種の被審人日本オーチスの欄の月額料金と前記「オーチス昇降機保守標準料金表」及び「オーチス昇降機点検(消耗部品付)標準料金表」(いずれも、昭和57年9月1日付け)の11機種の月額料金(日本オーチス標準料金)とは、後記のとおり一箇所を除き一致する(階床が異なる場合は階床増減を行えば一致する。)。
そして、前記「オーチス昇降機保守標準料金表」及び「オーチス昇降機点検(消耗部品付)標準料金表」(日本オーチス標準料金)が、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者に対する見積料金算出の基礎となることは、後記「審判官の判断」のとおりである。
(五) 被審人フジテック
代表的な昇降機を10機種に分類し、各機種に応じて標準的な階床(階高)を定め、それぞれに対応した月額料金を定めた「フジテックメンテナンス契約標準料金表」及び「フジテック昇降機点検契約標準料金表」を作成し、保守料金を改定する場合、右標準料金表を改定し、右改定標準料金表を各支店、営業所に配付している。そして、見積料金(被審人フジテックでは「保守標準料金」と呼ばれている。)を算出するには、右標準料金表記載の月額料金(以下「フジテック標準料金」という。)に、当該昇降機に応じた階床(階高)増減、点検回数増減、積載量割増を行い、さらに、地震管制、停電時自動着床装置、非常時通報等の付加割増項目あるいは群管理方式、非常用エレベーター等の付加装置がある場合には、割増料金を加算等する。そして、本件標準料金表の被審人フジテックの欄の月額料金と、前記標準料金表(昭和57年10月1日付け)記載の月額料金額(フジテック標準料金)とは、後記14箇所を除き一致する(階床が異なる場合は一定の階床増減を行えば一致する。)。なお、「フジテックメンテナンス契約標準料金表」及び「フジテック昇降機点検契約標準料金表」と本件標準料金表とを比較すると、油圧式、エスカレーターについては、いずれも後者は2機種あるところ、前者は1機種になっているが、これは、前者においては、いずれの2機種も料金が同一であることから、1機種にまとめたものと思われる。他方、前者には、交流式「スーパーダイ150m/min」の機種が記載されているが、これは被審人フジテックが昭和56年に発売した新製品の高速エレベーターであることから、後者からは除外されている。
そして、「フジテックメンテナンス契約標準料金表」及び「フジテック昇降機点検契約標準料金表」(フジテック標準料金)は、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者に対する見積料金算出の基礎となることは、後記「審判官の判断」のとおりである。
(六) 被審人日エレ
代表的な昇降機を8機種に分類して、各機種に応じて標準的な階床(階高)を定め、それぞれに対応した月額料金を定めた「エレベータ・エスカレータ保守料金表」及び「エレベータ・エスカレータ点検(消耗部品付)料金表」を作成し、保守料金を改定する場合は、右料金表を改定し、改定料金表を各営業所に配付している。そして、見積料金を算出するには、当該昇降機の階床(階高)が右標準料金表のそれと一致すれば、右料金表の月額料金(以下「日エレ標準料金」という。)に、その他の階床(階高)の場合には、右料金表記載の月額料金(日エレ標準料金)に階床(階高)に応じた階床増減を行い算出した月額料金に、群管理方式、非常用、地震時管制運転、大型貨物等の付加項目がある場合には、定められた割増料金を加算等する。本件標準料金表の被審人日エレの欄の月額料金と昭和58年度料金表(案)記載の右機種に対応する月額料金(日エレ標準料金)とは一致する。なお、本件標準料金表記載の機種は9であるのに対し、前記保守料金表記載の機種は8であるが、これは、前者では交流を4機種に区分しているのに対し、後者では交流を3機種、すなわち、中速及び2段式を一括して中速としていることによる。
そして、「エレベータ・エスカレータ保守料金表」及び「エレベーター・エスカレータ点検(消耗部品付)料金表」(日エレ標準料金)が、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約考に対する見積料金算出の基礎となることは、後記「審判官の判断」のとおりである。
(被審人6社の昭和58年度の昇降機の保守料金改定に関する行為)
三(一) 昭和57年3月末ころ、東京都内の割ぽう葵で、被審人三菱の昇降機本部副本部長大沼豊、同日立の業務部長山村馨、同日本オーチスのサービス部長中山通泰の3名が会談し、その席上、大沼は、昭和57年度の保守の標準料金は据置きとしたが、昭和58年度の保守の標準料金は改定の必要がある、昭和55、56年度はいずれも被審人三菱がトップを切って値上げを実施しているので、昭和58年度の改定は、昭和57年10月ころまでに、被審人日立にトップを切って実施してもらいたい旨要望したところ、被審人日立の山村はこれを了承した。
(二) 昭和57年6月23日、東京都中央区日本橋所在のいずもやで、被審人三菱の昇降機本部部長代理橋本尊音及び昇降機本部部長代理小川哲朗、同日立の山村、業務部部長代理斉藤尚司及び営業部副部長水戸景之、同東芝の保守営業部長中島昌一、保守営業部課長代理進藤敏雄及び東京支店営業課長飯塚康夫、同日本オーチスの中山、サービス部第2課長武藤邦夫及び東京支店サービス販売部長山本隆の11名の出席の下で十日会が開催され、その席上、昭和58年度の保守の標準料金の引上げ幅が話題になった。
(三) 昭和57年7月22日、東京都品川区五反田所在の全社連会館で、被審人6社の二十日会のメンバーの出席の下で二十日会が開催され、その席上、昭和58年度の保守の標準料金の引上げ幅について意見交換がされた。
(四) 被審人三菱の昭和58年度保守の標準料金をFM、POG各契約とも加重平均で2.4パーセント引上げをする旨の原案が、昭和57年8月2日付けで、昇降機本部部長代理の岩間義隆によって作成されたところ、大沼は同人に対し、もう少し強気で引上げ幅を考えるように指示した。
被審人三菱の橋本は、昭和57年8月初旬から半ばにかけて、被審人日立を訪問する等し、同社の保守の標準料金の改定案の情報を収集し、その結果、被審人三菱は、被審人日立の右改定案を参考にし、自社の前記改定案を調整し、昭和57年8月13日ころ、いずれも加重平均でFM契約で3.1パーセント、POG契約で3.3パーセント各引き上げる案を作成し、同年8月19日ころ山崎昇降機本部長の決裁を経て右改定案は担当部署で内部的に確定した。
一方、被審人日立は、昭和57年7月20日に引上げ幅を2.33パーセントとする案を計画していたが、前記被審人三菱と情報交換をするころまでには、引上げ幅を3パーセント台にすることを考えていた。
(五) 昭和57年8月17日、東京都千代田区大手町所在の日本ビルディング内の喫茶店ハイマートで、二十日会のメンバーである被審人三菱の橋本、同日立の斉藤、同東芝の進藤及び同日本オーチスの武藤が集まり、昭和58年度の保守の標準料金の引上げ幅をどの程度にするかについて話し合い、被審人日立の斉藤は、本体の昇降機が値下げになっている現状で保守料金を上げることにやや慎重な姿勢をとり、被審人日本オーチスの武藤は5パーセント程度、被審人東芝の進藤は最低4パーセントを確保したい旨の話をした。
(六) 橋本は、昭和57年8月18日に被審人日立の斉藤、同月20日に被審人日本オーチスの武藤、同月23日に被審人東芝の進藤をそれぞれ訪問し、被審人三菱の昭和58年度の保守の標準料金案(前記(四)の最終案)を記入した用紙を相手方に差し出すとともに、あらかじめ作成した「保守標準料金表」と題する料金表の月額料金欄に、それぞれの会社の昭和58年度の各機種ごとの保守標準料金案の具体的な数値の記入を求めた。右斉藤、武藤、進藤は、それぞれ各社の改定案を記入して橋本に交付した。
(七) その後、同年8月25日ころまでに、橋本に教えた自社の標準料金案につき、被審人日立の斉藤は、FM契約の直流GLを100000(円)から100500(円)に、交流高速を78000(円)から77500(円)に、POG契約の油圧直接式を39500(円)から40200(円)に、エスカレーター1200を59500(円)から60000(円)に変更する旨、被審人日本オーチスの武藤は、POG契約の交流中速・低速、交流2段式を各47000(円)から47500(円)に変更するかもしれない旨、被審人東芝の進藤は、FM契約で直流GL(12階)を102000(円)から101000(円)に、直流GD(10階)を87000(円)から86500(円)に、交流高速(10階、被審人東芝は9階)を80300(円)から76100(円)に、POG契約の直流GD(10階)を60000(円)から59000(円)に、交流高速(10階、被審人東芝は9階)を57700(円)から55000(円)に、エスカレーター1200及び800をいずれも62000(円)から61000(円)に、外6機種につき変更する旨(進藤は前記改定案を橋本に交付したときは被審人三菱の階床に換算し、訂正の連絡をしたときは右の換算をしなかった。)、橋本に連絡した。
橋本は、右訂正(ただし、被審人日本オーチスの前記交流中速・低速は訂正していない。)をした上で、その結果を同年8月25日に「昇降機業界(6社)標準保守料金調査一覧表」にまとめ、被審人三菱、同日立、同日本オーチス、同東芝の4社(被審人4社)の昭和58年度の保守の標準料金案を大沼に報告した。
(八) 橋本は、前記一覧表を作成後、昭和57年8月25日から30日までの間、被審人フジテックの東サービス部部長補石本昌一及び被審人日エレのサービス部長田賀利彦に対し、それぞれ電話で被審人三菱の昭和58年度の改定案を伝え、右各人からそれぞれの被審人の昭和58年度の改定案の連絡を受けた。また、そのころ、田賀は、別途、昭和58年度の自社の改定案を橋本に届けた。
その後、被審人日エレの田賀は、前記案のうち、POG契約の直流GLにつき70500(円)から71500(円)に訂正する旨橋本に連絡した。
(九) 昭和57年8月31日、東京都港区芝公園に所在する東京郵便貯金会館で被審人三菱の橋本、特販部部長代理加藤正明、同日立の斉藤、水戸、同東芝の進藤、飯塚、同日本オーチスの武藤、山本、同フジテックの石本、同日エレの田賀らの外関係者14名の出席の下で会合が開かれ、他の13の議案とともに昭和58年度の保守の標準料金案について話し合った(詳細は後記「審判官の判断」のとおりである。)。
(一〇) 橋本は、昭和57年9月1日付けで被審人6社の昭和58年度の保守の標準料金の改定案を記入した「昇降機業界(6社)標準保守料金調査一覧表」を作成し、上司の大沼に報告し、さらに、その後、被審人フジテック、同日エレらから改定案の訂正の連絡を受け、9月10日付けで「昇降機業界(6社)標準保守料金調査一覧表」を作成し上司の大沼及び山崎に報告した。
(各社の昭和58年度の標準料金改定の状況)
四(一) 被審人三菱では、昭和57年9月13日、14日に開催された第5回エレベーター業務運営会議、同月21日、22日に開催された第70回支社長会議で昭和58年度の標準料金改定案が概略報告され、同月29日付けで「58年度標準保守料金取り扱いに係る件」と題する「昇HB」発信名義の文書で保守料金引上げが各支社、営業所に通知された。右文書は、「改定時期、昭和58年3月1日」と記載され、「昭和58年度標準保守料金一覧」と題する表が添付され、前記のように、同表に記載されている17機種のうち11機種の月額料金(三菱標準料金)は、本件標準料金表の被審人三菱の欄の月額料金と一致している。
(二) 被審人日立では、昭和57年9月10且の4部連絡会議で業務部長の山村が、自社の保守の標準料金を同年11月に約3パーセント値上げする旨説阻し、同年10月25日付け業務部作成の「保守標準料金改定について」と題する書面には、「保守標準料金表(改訂案)業務部」と題する表が添付され、前記のように、同表の月額料金(日立標準料金)と本件標準料金表の被審人日立の欄の月額料金とを比較すると、後記5箇所を除き一致している。
(三) 被審人東芝は、昭和57年10月中旬ころ標準料金表を印刷注文し、同月27日に「東芝メンテナンス(保守)標準料金表昭和57年10月」及び「東芝メンテナンス(点検)標準料金表昭和57年10月」が納入された。前記のように、右標準料金表の月額料金(東芝標準料金)と本件標準料金表の被審人東芝の欄の月額料金とは、被審人東芝の標準的な階床(階高)に合わせて階床(階高)増減を行い、100円未満を四捨五入した数値と比較すると若干の計算上の誤り(後記のように9箇所)がある外は一致している。
(四) 被審人日本オーチスは、昭和58年度の標準料金について、「オーチス昇降機保守標準料金表昭和57年9月1日」及び「オーチス昇降機点検(消耗部品付)標準料金表昭和57年9月1日」を印刷し、各支店、営業所に配付した。前記のように、同表の月額料金(オーチス標準料金)と本件標準料金表の被審人日本オーチスの欄の月額料金とは、同被審人の標準的な階床(階高)に合わせて換算した数値とを比較してみると、後記1箇所を除き一致している。
(五) 被審人フジテックは、昭和58年度の標準料金について、「フジテックメンテナンス契約標準料金表昭和57年10月1日」及び「フジテック昇降機点検契約標準料金表昭和57年10月1日」を印刷し、各支店、営業所に配付した。前記のように、同表の月額料金(フジテック標準料金)と本件標準料金表の被審人フジテックの欄の月額料金とは、同被審人の標準的な階床(階高)に合わせて換算した数値とを比較してみると、後記14箇所を除き一致している。
(六) 被審人日エレは、昭和58年度の標準料金について、「昭和58年度エレベータ・エスカレータ保守・点検料金表(案)」を作成した(正式な昭和58年度の標準料金表は作成していない。)。前記のように、同表の月額料金(日エレ標準料金)と本件標準料金表の被審人日エレの欄の月額料金とは、同被審人の標準的な階床(階高)に合わせて換算した数値を比較してみると一致している。
第二 証拠
第一の一(一)の事実は、被審人が認めて争わない。
第一の一(二)の事実については、査第2号証、同4号証、同6号証、同8号証、同10号証、同12号証、同13号証、同27号証、同35号証の1、2から認めることができる。
第一の一(三)の事実については、査第14号証、同15号証、同97号証、同106号証から認めることができる。
第一の二(一)の事実については、査第27号証目、同43号証、同44号証、同58号証、同71号証の1、審A第9号証の1ないし3、参考人岩間義隆の陳述から認めることができる。
第一の二(二)の事実については、査第18号証の2、同45号証(1)ないし(9)、同74号証、同75号証、同182号証の3から認めることができる。
第一の二(三)の事実については、査第47号証の1、2、同51号証、同91号証から認めることができる。
第一の二(四)の事実については、査第15号証、同48号証の1ないし4、同79号証、同152号証、審D第16号証から認めることができる。
第一の二(五)の事実については、査第20号証(5)、同49号証(3)、同83号証の1、同216号証、審E第1号証から認めることができる。
第一の二(六)の事実については、査第50号証の1ないし5、同101号証、同217号証から認めることができる。
第一の三(一)の事実については、査第87号証、同104号証の5、同169号証、参考人橋本尊音の陳述から認めることができる。
第一の三(二)の事実については、査第15号証、同51号証、同155号証(1)、同156号証から認めることができる。
第一の三(三)の事実については、査第159号証(1)、同175号証から認めることができる。
第一の三(四)の事実については、査第56号証の2(2)、(3)、(10)、(13)、(20)、同59号証、同182号証の1、同184号証の3、同185号証(1)、審A第11号証、同12号証から認めることができる。
第一の三(五)の事実については、査第116号証、同159号証(2)、同175号証から認めることができる。
第一の三(六)の事実については、査第56号証の2(4)ないし(9)、同59号証、同91号証、同125号証、同157号証、同169号証、同185号証(1)、同187ないし同190号証、参考人橋本尊音、同斉藤尚司、同進藤敏雄の各陳述から認めることができる。
第一の三(七)の事実については、査第56号証の2(4)ないし(9)、同59号証、同186号証、参考人橋本尊音、同斉藤尚司、同進藤敏雄の各陳述から認めることができる。
第一の三(八)の事実については、査第56号証の2(18)、(19)、同59号証、同100号証、同165号証、同169号証、同181号証、同192号証、参考人橋本尊音、同石本昌一の各陳述から認めることができる。
第一の三(九)の事実については、査第56号証の2(1)、同59号証、同98号証、同125号証、同133号証、同137号証、同159号証(四)、同188号証、同200号証、同201号証から認めることができる。
第一の三(一〇)の事実については、査第56号証の2(1)、同70号証の3、参考人橋本尊音の陳述から認めることができる。
第一の四(一)の事実は、査第86号証、同205号証ないし同207号証、審A第13号証から認めることができる。
第一の四(二)の事実は、査第182号証の2、3、同209号証、同210号証から認めることができる。
第一の四(三)の事実は、査第51号証、同91号証から認めることができる。
第一の四(四)の事実は、査第48号証の1、2、同55号証、同133号証、同135号証、同213号証の1、2から認めることができる。
第一の四(五)の事実は、査第97号証、同158号証、同216号証から認めることができる。
第一の四(六)の事実は、査第16号証、同50号証の1、同217号証から認めることができる。
第三 審判官の判断
一 被審人6社の主張は、概略左記のとおりである。
(一) 昇降機の保守を供給する市場においては、少なくとも被審人6社間では、お互いに顧客を争奪する競争はなく、被審人6社は競争関係にはない。
(二) 被審人6社が共同して決定したと審査官が主張する標準料金(被審人6社の標準料金を総称して、以下「標準料金」という。)は、被審人6社が有している保守料金体系との関係が不明であり、被審人6社間には料金協定を行う前提となる料金体系の共通性が存在しない。
(三) 被審人6社は審査官が主張する料金協定を行っていないし、また、右料金協定は証拠上認めることはできない。
(四) 被審人6社は、昭和57年12月14日の弁護団会議において、各社が保守料金の改定を中止すること及び以後各社独自の判断で必要に応じ料金を改定することを確認した。したがって、仮に、審査官主張の料金協定が認められるとしても、右協定は破棄されたものであり、本件勧告がされた昭和59年3月の時点では、独占禁止法第7条第2項に規定する「当該行為がなくなつた日から1年」以上が経過したことは明白であるから、本件勧告は違法である。したがって、本件審判開始決定も違法であり取り消されるべきものである。
二 まず、本件昇降機の保守に係る競争の有無、被審人6社の昇降機保守の料金体系、標準料金の性格について検討する。
(一) 本件昇降機の保守に係る競争の有無について
(審査官の主張)
イ 審査官は、次のように被審人6社の行っている昇降機の各保守は同一市場にあり、相互に競争関係にあると主張する。
被審人6社は、後記のように被審人6社の行っている昇降機の保守業務が、その技術的特殊性により、独占禁止法第2条第6項に規定する「一定の取引分野」を構成するものではたく、料金協定が成立する余地がない旨主張するが、本来、技術は対価を支払うことにより自由に移転するものであり、また、技術開発、能力の向上によって高めることができるものであるから、その限界が設けられる性質のものではなく、技術的な問題が独占禁止法上、競争関係あるいは不当な取引制限の成否に影響を及ぼすことはない。
また、被審人6社は、被審人らのようにメーカーあるいはメーカー系列の事業者が行う保守のみが真の保守であるかのような主張をするが、保守に値するか否かは、保守の需要者が自由な判断において、保守の内容、サービス、料金等を比較考量して行う選択、すなわち市場の競争に委ねられるべきものであって、市場において選択される保守こそが経済上、取引上の意味において保守に値するものである。このことは、現状において、メーカーあるいはメーカー系列以外の保守業者(以下「独立保守業者」という。)が市場の需要にこたえ、また、百貨店等が自家保守を行っていることからみても明らかである。
(被審人6社の主張)
ロ 被審人6社は、昇降機保守業務の特殊性により、それぞれ他社系列メーカー製昇降機については、利用者の安全を確保した保守を行うことは不可能であるから、昇降機の保守業務は独占禁止法第2条第6項に規定する「一定の取引分野」を構成するものではなく、したがって、被審人6社が行う保守業務に関しては、独占禁止法にいう競争が行われる場としての同一の市場は存在しないのであり、料金協定が成立する余地がない旨、次のように主張する。
昇降機は、高度の安全性と作動上の高度の精確性が要求される機械であって、関連する技術分野も機械、電気(重電、弱電)、電子等広範囲にわたるものであり、その内容も各メーカーごとに長年の研究開発の蓄積の結果であることから、設計上の考え方(設計思想)が各メーカーによって全く異なるものとなっている。そのため、昇降機の保守技術は、昇降機の本体と分かち難く結合しており、本体と離れた技術開発はあり得ず、常に、昇降機メーカーとの関係を保ち、考慮しなければ、技術を吸収することができず、各メーカーの昇降機の保守を行うためには、各社ごとに異なる技術的特徴を的確に把握し、理解しなければならない。被審人らは、自社又は自社系列メーカー製の昇降機の保守を完全に行うため、自社又は自社系列メーカーから、昇降機の構造、配線、回路等の図面、仕様書、部品や機器類の設計図、管理限界値等の各種のデータの開示を受ける一方、新型機種の開発に技術者を参加させ、保守に必要な技術情報の収集を行っている。また、被審人らは技術者を養成するため、教育センター等と現場における教育を組み合わせ、体系だった教育を実施している。このような高度で精密な保守は、自社又は自社系列メーカー製の昇降機についてのみできるのであって、他社製昇降機を右と同様の内容、程度に保守することは、資料等の入手が不可能であり、技術的にみても、経済的にみても到底できるものではない。要するに、審査官の主張するような、あらゆるメーカー製の昇降機について一定水準の保守(現在我が国で要求されている安全性と精確性を維持するに足るだけの保守)を行うだけの技術力を有する保守業者は存在しない。
審査官は技術は容易に移転し、取得し得るものであるから、被審人6社間の競争は可能であるとするが、右主張は、企業秘密ないし経済合理性を無視した机上の空論にすぎない。
他方、独立保守業者の行っている保守は、各メーカー製昇降機固有の技術情報が得られないこと及びそれを行使し得る技術能力を有しないため、昇降機に故障が発生した場合には、その故障に対応できず、その場しのぎの処置をすることによって、当該昇降機を危険な状態に置くことがあり、また、定期検査すら満足にできない実情であるので、到底、保守の名に値しないものである。
(審判官の判断)
ハ 昇降機は、長期間の使用を予定された機械であり、いったん事故が発生すると人命に影響を及ぼすおそれが大きく、経年変化による構造機能の低下がないように、常時、納品時における機能、性能、安全性を確保するために、適切な保守が要求される。保守には、故障が発生しないように整備、点検する事前保守と故障が発生した場合に的確、迅速に修理、補修する事後保守とがある(審A第6号証、同15号証、参考人小川哲朗の陳述)が、法律等でその内容が一義的に定まっているわけではなく、具体的にどのような内容の保守をするかは、当事者間の契約内容によって定まるものであるところ、前記のように保守にはFM契約とPOG契約の2種類があり、被審人6社と独立保守業者の行っている保守は、契約上はほぼ同一内容のものであるが(査第35号証の1、2、同220号証)、具体的には、後記認定のような差異がある。
ところで、適切な保守をするためには、当該昇降機の構造、配線、回路等の各種の図面、仕様書、部品や機器類等の設計図を備え、右各図面を理解できることが必要であり、設計値、管理限界値等のデータを把握し、保守に必要な当該機種専用の計器類及び故障したときの部品類を常備することが望ましいこと、また、当該昇降機の機能、構造を理解しその機種に慣れることが必要であり、そのためには、当該昇降機を保守するに必要な教育、訓練を受け経験を積むことが重要であること、特に、故障が発生した場合には、配線図等の図面類がないと、的確、満足な修理ができず、故障の原因を把握し不良原因を除去する等根本的な修理もできないことが各認められる(参考人福森清、同斉藤忠義、同安西伸夫、同遠藤和男、同古市和久、同河端耕二、同榊原義雄の各陳述)。
被審人6社は、それぞれ自社あるいは自社系列メーカー製の昇降機のみに限定して保守を行っているが、右メーカーから、保守に必要な昇降機の構造、配線、回路等に関する図面類、仕様書、部品や機器類の設計図を譲り受け、また、管理限界値等の各種データの開示を受け、これらのデータ等を整理し保守マニュアル等を作成する等、保守技術の開発と蓄積を行っていること、自社あるいは自社系列メーカー製の昇降機の機種に応じた保守技術開発のための系統だった研究、開発体制を整え、そのため相当額の資金を投入していること、その結果、相当高い水準の保守を行っていることが各認められる(審A第6号証、同15号証、参考人小川哲朗、同大沼豊、同斉藤忠義の各陳述)。そして、被審人6社は、設立から現在に至るまで、前記のように自社あるいは自社系列メーカー製の昇降機のみを対象として保守を行っており、他社製昇降機につき前記と同様の内容、程度の保守を行うことは、他社系列メーカーからの技術情報等が得られないため技術的にも困難な面があること、また、そのための継続的、体系的な教育をすることは経済的にも人員的にも無理があること(参考人大沼豊、同小川哲朗、同岩間義隆、同安西伸夫、同遠藤和男、同河端耕二、同古市和久、同榊原義雄の各陳述)に照らすと、客観的な条件の面からみても、経済的にみても、困難であるといわざるを得ない。
他方、独立保守業者(独立保守業者は、経営規模、技術能力が様々であるが、ここでは主要な独立保守業者を前提に論ずる。)は、保守に必要な配線図等の図面類については、過去にメーカー等の昇降機の保守の下請あるいは据付け工事等をしていた関係から、あるいは同業者仲間、エレベーター保守事業協同組合、当該昇降機の所有者(顧客)等から入手する等してまかなっているが、配線図等の図面類を確保する手段、方法が確立しているわけではないこと、計器類は市販のものを独自に工夫したものを利用しているが、当該昇降機に固有の計器類等の器具を有していない場合がほとんどであること、管理限界値等のデータを必ずしも正確に把握していないため、保守を引き受けた際、昇降機の必要な各部分を測定してその数値を基準にするか、あるいは、耳、目、乗車しての感じで異常、故障の発見に努めていること、部品については、一般の市販のものあるいは前記協同組合から購入する等してまかなっているが、当該メーカー独自の部品が必要なときは、昇降機の所有者(顧客)等を通じてメーカーに依頼して当該部品を取り寄せており、そのような場合、時間がかかり修理に手間取ることが多いこと、特に安全性に係わる大きな修理や重要な部品の取替え工事の場合には、メーカーあるいはメーカー系列の保守業者に依頼するときもあることが各認められる(査第218号証、同223号証、同225号証、同226号証、参考人笹原博保、同高木章一郎、同高橋道憲、同鈴木康司、同伊藤数雄の各陳述)。
また、いわゆる自家保守の場合は、保守に必要な図面類等はメーカー等から提供される場合が多く、日常の点検、給油、調整、清掃等は行っているが、構成部品の修理を要する場合には、簡単な故障の修理はできるが、手に余るものも少なくなく、そのような場合はメーカー等に依頼しており、全面的に自家保守をすることは困難であり、メーカー等との協力体制をとっていることが認められる(参考人渋谷功、同来代定一、同高橋哲夫、同永井昭治の各陳述)。
そして、独立保守業者の多くは、あらゆるメーカー製の昇降機を一応保守の対象としているが、図面等が揃っていないため保守ができない機種もあり、一般的には、交流規格型、油圧式の中低階床のエレベーターとダムウェーター、エスカレーターの保守がほとんどであり、.直流式のエレベーターは、交流式よりも技術的にも難しく、これを保守することは少ないが、独立保守業者の中には直流エレベーターを保守している業者もあるので、本件標準料金表記載の機種については、保守できるものと認めることができる(査第22号証の1、2、同24号証、同220号証ないし同225号証)。
以上によれば、独立保守業者の行っている保守は、被審人6社のそれと比較すると、一般的には、配線等の図面類、計器類、保守のマニュアル、部品を十分に備えていないこと、管理限界値等のデータを正確に把握していない場合が多く、振動計や乗車した感じ等で異常の有無を判断していること、当該昇降機の機能、構造について一貫的、体系的な教育体制を備えていないことから、清掃、給油、調整等の日常の点検保守はさほどの差はないが、故障が発生したときの対応(可及的速やかに補修、修理ができるか等)、原因の把握、,再発防止、部品の手当てができるか等に、あるいは、地震等の緊急時の対応に差があることが認められる(したがって、FM契約において特に差がでることになる。)。
右のように被審人6社が行う保守と独立保守業者のそれとは、その内容、程度において差があるものであるが、i.独立保守業者の中には、保守料金を安くすることにより被審人6社のようなメーカーあるいはメーカー系列保守業者に対抗し、顧客を次第に増加させている業者も少なくなく、また、一般的に、昇降機は、日常的な給油、清掃等の保守、点検が適切に行われていれば、それほど故障が発生しない構造になっていることもあり、独立保守業者自体も徐々に増加する傾向にあり、顧客の間でも独立保守業者の行う保守も保守として認知され(本件全証拠によるも、独立保守業者が保守を行っている昇降機につき特に故障の発生率が高い事実は認められない。)、保守業者としての地位をそれなりに確立してきていること(査第86号証、同220号証、同221号証、同223号証、同229号証、同231号証、参考人今井政之、同南園良三郎の各陳述)、ii.顧客である昇降機の所有者等についてみれば、保守について考え方も様々であり、保守料金、保守の技術、当該昇降機の機種、階床数、使用頻度、設置年数、使用状況等を勘案して、保守業者を選択する者も少なくなく、一般的には、顧客がメーカーあるいはメーカー系列の保守業者を選択するか独立保守業者を選択するかは固定的ではなく、前記のような様々な条件に応じて流動的であること(査第228号証ないし同231号証、参考人村上正義、同南園良三郎、同関利重、同今井政之、同小坂晋三、同佐藤賢一の各陳述)、iii.被審人6社は、独立保守業者に自社の昇降機の保守の顧客を奪われることから、その対策のための会合を開き情報の交換をし、技術の差異を強調するのみでは独立保守業者に対抗できず、保守料金を下げることもまれではないこと(査第17号証の1、2、同19号証、同21号証、同22号証の1、2、同86号証、同104号証の1、同118号証、同215号証、同223号証、参考人大沼豊の陳述)が各認められる。
右各事実によれば、被審人6社のようなメーカーあるいはメーカー系列保守業者と独立保守業者とは、その行っている保守は機能的、効用的にみて代替性があり、それぞれ自己の顧客を増大しようと努力することによって、相手の顧客を奪い得る関係にあり、右両事業者間には競争があると解することができる。
そして、被審人6社は、現時点では他社製の昇降機の保守を行っていないが、これは、昇降機の保守は自社製品の品質を維持するというメーカーのサービス業務から発生したという沿革的な理由、メーカーあるいはメーカー系列保守業者の他社製品の保守は行わないという営業政策、昇降機の所有者(顧客)の保守に対する考え方等様々な理由によるものと考えられるが(参考人小川哲朗、同塩原穣二の各陳述)、被審人6社の規模、技術能力からみて、また、保守に必要な限度で配線等の図面類を備えること等も独立保守業者が現に保守を行っていることからみてさほど困難ではないことを考えると、被審人6社が他社製の昇降機について、少なくとも主要な独立保守業者が行っている程度の保守を行うことは、客観的に十分可能であると認めることができる。
以上説示したところによれば、被審人6社は、他社製の昇降機について、少なくとも主要な独立保守業者が行っている程度、内容の保守を行うことができ、そして、被審人6社の行っている保守と主要な独立保守業者の行っている保守とは、競争関係にあるのであるから、結局のところ、昇降機の保守という一定の取引分野において、被審人6社相互の間には競争があると認めることができる。
(二) 本件昇降機の保守の料金体系及び標準料金の性格について
(被審人6社の主張)
イ 審査官が被審人6社間に形成されたと主張する「意思の連絡」の対象は、被審人6社間において各社が作成している「標準料金表」の記載の標準料金にとどまると解せられるところ、「標準料金表」は営業活動の場において顧客に提示される価格表ではなく、官公庁の予算見積りの資料にすぎないものであり、実際の営業活動に利用されることはない。
被審人6社の保守料金体系はそれぞれ独自の考えの下に構成されているところ、見積料金を決定する要素には、大別して部品コストに係る要素と労務コストに係る要素とがある。部品コストに係る要素としては、駆動方式、運行速度、積載荷重、用途、制御方式、操作方式、使用環境、起動回数等があり、労務コストに係る要素、すなわち、保守サービスに要する作業時間についても、昇降機の機種、構造及び使用目的、使用頻度により部品点数、点検箇所等の要素が変動し、その点検回数、修理頻度等が異なることによって作業時間に大きな影響を与えることとなる。右のような基本的な要素を踏まえて被審人6社は、それぞれの過去における点検実績、故障実績、修理実績、労務単価等を斟酌し、さらに、地震管制運転装置、非常通報装置等の付加装置を考慮して独自の料金体系を構成している。そして、このようにして算出された見積料金と顧客との契約上の保守料金(以下「契約料金」という。)との間には、顧客との交渉が入り、更に修正されることになる。
右のように被審人6社の保守料金体系は、自社あるいは自社系列メーカー製昇降機の保守という役務の特性に応じて極めて複雑になっており、被審人は相互に容易に他社の料金体系を推測することはできない。そして、このような被審人6社の保守料金体系が適用されるのは、昇降機が新設された場合であるが、昇降機はそれぞれが固有の条件を備え前記保守料金に影響を与えるコスト要素が異なるため、その見積料金は当該昇降機ごとに個別に見積り算出される(例えば、被審人日本オーチスの昇降機の見積料金は、米国オーチスが定めた積算マニュアルに従い、顧客に設置された各昇降機の用途、マシーンタイプ、定格、積載量、速度、階床、昇降行程、制御方式等の具体的な仕様を「オーチス・メイソテナンス・エスティメート」と呼ばれる見積表に当てはめて個別に積算したもの〔以下「OSSP」という。〕であり、本来的に同業他社との料金協定になじむものではない。)。また、既契約者に対しては、従来の契約料金に対する上昇幅を示して(物価指数等が参考にされる場合が多い。)交渉が行われ、据置期間及び契約当事者相互の事情等が斟酌され決定されるのである。
このように昇降機の保守料金体系は、被審人6社が作成している「標準料金表」によって示されるような単純なものではなく、各社各様に極めて複雑な仕組みになっており、被審人6社は、相互に右仕組みを認識しておらず、そもそも「標準料金表」に掲げた保守スペックの内容についてすら共通の認識はないのである。したがって、被審人6社間において、各社の保守料金体系の中における「標準料金表」の位置付けは相互に不明であり、被審人6社は、「標準料金表」から他社の顧客に対する見積料金を推察することは不可能である。さらに、この見積料金と契約料金との間には、顧客との交渉が入り、見積料金に様々な要素が加味されて個別具体的に契約料金が決定されるのであり、相互に拘束性をもって共同遂行し得る料金協定を成立させることは不可能である。したがって、審査官が主張する「標準料金表」についての料金協定は、到底、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に当たらない。
例えば、昭和57年9月ころ、新設新規納入、機種交流2段、積載量450キログラム、停止階6箇所、通過階2箇所、使用頻度は中程度のやや少なめ、付加装置はビブラインS波(地震管制装置)、保守台数1台、保守回数月1回等のエレベーターについての被審人6社の見積料金は、FM契約の場合は、被審人三菱は5万4700円、同日立は5万2500円、同東芝は6万3600円、同日本オーチスは6万3700円、同フジテックは5万6900円、同日エレは6万500円となり、最高額の被審人日本オーチスと最低額の被審人日立との差は1万1200円であり、また、月2回とした場合は、最高額は被審人フジテックの6万4500円、最低額は被審人三菱の5万4700円で、その差は約1万円になる。また、POG契約の場合は、保守回数月1回で、最高額は被審人東芝で4万5500円、最低額は被審人日エレで2万7000円で、その差は1万8500円に達する。被審人6社は、各社の具体的な見積料金が右のように差があることを予想することができなかったし、また、結果としてその差があまり大きいならば、そもそも料金協定をすること自体意味がないことになる。
他方、「標準料金表」は、もっぱら官公庁の予算手続の便宜に協力して作成されているものであり、実際の営業活動の場において利用されることはなく、各社の「標準料金表」は、一見似ているが実は内容が異なるものである。例えば、停止階床数等の欄の数字は、ある被審人では、開閉箇所であり、別の被審人では当該昇降機が備え付けられたビルの階高を示し、昇降機の分類も異なり、また同じ高速の表示でも具体的な速度区分が異なっている。
そして、実際にも過去数年間の事例からみても、「標準料金表」の標準料金の引上げ率は現実の契約料金に反映されず、右両者間には、有意た関連性がない。右のことからみても、「標準料金表」は、単に官公庁の予算用に提出する参考資料にすぎないことは明らかである。
以上によれば、「標準料金表」から特定の機種、使用状況に応じた他社の見積料金を知ることはできず、「標準料金表」についての共通認識が形成されたとする審査官の主張は、それが相互に拘束力を有し、昇降機保守料金についての競争を実質的に制限するような共同行為たり得ないのであるからその前提において誤りである。
(審判官の判断)
ロ(イ) (標準料金を共同で決定することは、独占禁止法第2条第6項に該当するものかどうか。)
前記認定の被審人6社の料金体系からみれば、被審人各社が保守料金を改定する際に発行する標準料金表の機種と階床(階高)が、当該昇降機のそれと同一の場合は、各被審人の見積料金算出の基礎となる月額料金は、右標準料金表の月額料金(標準料金)であり(階床〔階高〕が一致しない場合は、標準料金に一定の階床〔階高〕増減を行った月額料金が見積料金算出の基礎となる。)、審査官は、被審人6社は右月額料金である標準料金を共同で定めた旨主張するところ(審査官主張の料金協定が認められるかどうかは後に判断する。)、右標準料金は見積料金算出の基礎とたるものであり、標準料金の引上げをすれば、それに応じて見積料金も上昇することが認められるのであるから(なお、査第47号証の2によれば、被審人東芝の場合は、見積積算項目に定められた増減比率を事情に応じて、各項目の「±50%」の増減ができること及び右項目中の増減比率には「都度対応」とあり確定数値で定められていないものが相当数あることが認められるが、右事実の下でも、前記関係にあることは明らかである。)、標準料金を共同で引き上げる旨の協定をすることは、協定当事者の昇降機の見積料金の決定に対し直接的な支配力、影響力を与えるものであり、独占禁止法第2条第6項に該当するものである。また、被審人らは特殊仕様あるいは付加装置の割増、付加料金についての情報の交換をしていること及び同業者として各社の料金体系の詳細はともかく大筋の仕組みは知っていること(査第61号証の3、同159号証(5)、同161号証の1、同162号証の3、同165号証、同179号証)からみれば、被審人6社は、標準料金から算出される見積料金の具体的な金額はともかく、標準料金と見積料金との前記関係を了知していたものと認められる。
被審人6社は、被審人らが作成している標準料金表は単に官公庁の予算の参考資料にすぎない旨主張するが、右標準料金表がどのような目的で作成されているのかはさておき、右表の月額料金である標準料金が見積料金の基礎となっていることは前記のとおりであり、前記説示のように右標準料金を共同で引き上げる旨の協定をすることは、独占禁止法第2条第6項に該当するものである。
なお、被審人日本オーチスは、新規に保守契約をする場合、各昇降機ごとに「オーチス・メインテナンス・エスティメート」に当てはめて算出したOSSPに、付加仕様がある場合には付加料金を加算して見積料金を算出する旨主張するが、通常の仕様の昇降機については、前記認定のように標準料金表を作成し、付加仕様がある場合には付加料金を加算して見積料金を算出できる仕組みになっており、保守料金を改定する場合、改定した標準料金表等を各支店、営業所に配付し、右に基づき算出した新見積料金で顧客と折衝する旨通達していることからみると、OSSPによる見積料金と標準料金表に基づき算出した見積料金とは、ごく特殊な仕様の昇降機を除き多くの場合同一であることが認められる。
また、被審人らは、被審人6社が昇降機につき見積料金を見積ると、被審人6社間で大きな差がある旨主張するが、右主張は、要するに右のような事実があれば、被審人6社が審査官主張の料金協定をするはずがないとの主張と解せられるところ、右料金協定が認められるかどうかについては、後記判断するとおりであるが、前記認定の被審人6社の料金体系からみれば、各社の見積料金は標準料金を基礎として算出できる関係にあり、仕様等の異なる昇降機について見積料金を一定の方針で全般的に一斉に引き上げるためには、まず標準料金を一斉に引き上げる必要があり、顧客に対しては標準料金の値上げという形式で説明することとなり、そのためには、被審人6社が同時にほぼ一定額・率で標準料金を引き上げることにした方が顧客の納得を得やすいこと、特に中央官庁関係では、被審人6社が一斉に値上げをしないと値上げが困難な状況であったこと(査第165号証)に照らすと、被審人6社が共同で本件標準料金表記載の標準料金を引き上げる意味は十分にあったものであり、また、現実に見積料金を算定する場合、当該昇降機によって、標準料金をほぼそのまま適用するものから、各種の割増、付加料金を加算するものまで様々であることを考えると、前記事実は、審査官主張の料金協定を認定する上で障害にならない。そして、右協定を認定するためには、被審人6社が相互に本件標準料金表に表示された機種が被審人6社のどの機種に対応しているかを了知していれば十分であるところ、被審人らは各社の標準料金表の内容を統一するために打合せを行っていること(査第15号証、同165号証、参考人橋本尊音の陳述)、従前から標準料金を改定した場合には、その改定額につき情報の交換をし被審人6社の改定額の一覧表を作成していること(査第46号証の4、同56号証の2、同90号証、同152号証)からみても、被審人6社は、右事実を了知していたことが認められる。
顧客との契約料金が、契約当事者間の折衝で決まり、必ずしも見積料金どおり決まるものでないことは当然であり、右のことの故に審査官主張の料金協定が認められない、あるいは右協定に拘束力が認められないとはいえないことは明らかである。また、仮に、被審人が主張するように標準料金の引上げと契約料金とが必ずしも有意な関連をもっていないとしても(どのような基準で有意な関連性があるかどうかを判断するかは問題ではある。)、標準料金を基礎に見積料金が決まる関係にあることは前記認定のとおりであり、また、契約料金は契約当事者間で様々な事情によって決定されるものであり、見積料金と契約料金とは必ずしも一致するものではないことに照らすと、右事実をもって標準料金が契約料金と関係がなく単に官公庁に提出する予算用の資料(もっとも、予算用の資料であるからといって、直ちに契約料金と関係がないとはいえない。)にすぎないものであるとは認められない。
(ロ) (標準料金の適用範囲)
(被審人三菱)
審査官は、被審人三菱が保守料金を改定する場合に発行する「標準保守料金一覧」のうち、11機種の昭和58年度の月額料金(標準料金)を共同して定めた旨主張するので、右一覧表がどの範囲の顧客の見積料金の算定に適用されるかについて検討する。
査第27号証(3)(営業ガイドブック)、同71号証の1(昭和55年10月20日付け「標準料金改訂に係る件」と題する書面)、同号証の2(「昭和57年度昇降機標準保守料金に係る件(通知)」と題する書面)、同88号証、同89号証(いずれも大沼豊の供述調書)、参考人岩間義隆の陳述によれば、右一覧表の月額料金(標準料金)ひいては、右料金を基礎として算出された見積料金は、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者を間わず適用されることが認められる。なお、査第58号証(岩間義隆の供述調書)によれば、民間の既契約者に関しては、値上げ対象顧客に対し見積料金を提示する場合と見積料金の範囲内での料金を提示する場合があることが認められるところ、後者の場合でも、見積料金(標準料金)を基準に提示額を決定していることが認められ(参考人小川哲朗の陳述)、標準料金が右提示額に直接影響力を持っていることが認められる。もっとも、契約料金が見積料金から大きく乖離している顧客に対しては、右見積料金を基準にせず、物価の上昇等その他の事情を勘案して値上げの折衝をしていることが認められるが、右は例外的な対応であると認められる(参考人小川哲朗の陳述)。
(被審人日立)
審査官は、被審人日立が保守料金を改定する場合に発行する「保守標準料金表」の昭和58年度の月額料金(標準料金)を共同で定めた旨主張するので、右標準料金表がどの範囲の顧客の見積料金の算定に適用されるのかについて検討する。
査第18号証の2(「保守料金表利用上の注意」と題する書面)、同60号証(田山耕の供述調書)、同73号証(「保守標準料金表(80SP)の適用について」と題する保守本部通達)によれば、右標準料金表の月額料金(標準料金)、ひいては,前記認定のように右料金を基礎として算出された見積料金は、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者を問わず適用されることが認められる。
なお、査第75号証(「標準料金表(80SP)の運用について」と題する保守本部通達)によれば、昭和55年度の標準料金表については、民間の顧客については新規物件のみに適用し、PA(既契約者の契約料金を改定することをいう。以下同じ。)については適用しないことにしたことが認められるが、他方、査第73号証(「保守標準料金表(80SP)の適用について」と題する保守本部通達)によれば、昭和55年度の標準料金表については、民間のPAについては適用を差し控える旨の通達をしたが、昭和55年7月1日以降、同料金表を民間のPAにも適用することにし、前記の通達の処置は一時的なものであったことが認められる。なお、査第74号証(「81年度保守料金に関する件」と題する業務部通達)によれば、右業務部通達に伴い80年(昭和55年)の保守標準料金に関する業務部通達は廃棄されたことが認められるが、これは、81年(昭和56年)の標準料金表の発行に伴い、当然に前年度の料金表が廃棄されたことを確認したにすぎず(このことは、査第75号証により、80年の保守標準料金を改定した業務部通達で78年の改定に関する業務部通達等を廃棄していることからも明らかである。)、右業務部の通達が廃棄されたからといって、当然にその運用細則を定めた保守本部通達が廃棄されたことにならないことは当然である。
なお、審B第1号証ないし同4号証(「56年/上期予算編成について」と題する保守本部通達等)、参考人田山耕の陳述によれば、標準料金表の料金改定の有無及びその率と関係が無く、毎年本社でPAの年間目標値(パーセント)を定めて各営業所に保守本部通達として通知していることが認められるが、年間目標値をいくらに決めることと、右目標値を達成するために具体的に各顧客にどのような基準でいくらの値上げ額を提示するかということとは、直接関係が無いことであり、右事実は前記認定の妨げとはならない。
(被審人東芝)
審査官は、被審人東芝が保守料金を改定する場合に発行する「東芝メンテナンス(保守・点検)標準料金表」の昭和58年度の月額料金(標準料金)を共同で定めた旨主張するので、右料金表がどの範囲の顧客の見積料金の算定に適用されるかについて検討する。
査第47号証の2(メンテナンス料金の見積基準」と題する保守営業部の通達)、同66号証(進藤敏雄の供述調書)、同51号証(中島昌一の供述調書)、同92号証(古屋洲一の供述調書)、同93号証(立石宏幸の供述調書)にょれば、右「東芝メンテナンス(保守`点検)標準料金表」の月額料金(標準料金)、ひいては、前記認定のまうに右料金を基礎として算出された見積料金は、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者を問わず適用されることが認められる。
なお、査第47号証の1(「新メンテナンス標準料金表送付の件」と題する保守営業部通達)には、「適用は官公庁の昭和57年度予算編成上の資料とします。」との記載があるが、右に続いて、「既に御存知の通り、メンテナンスは請負契約ですから物件毎に見積り、見積書を提出して契約交渉に入るのが原則です。故にこの標準料金表は客先への呈示、提出は極力避け、官公庁、大手顧客等でやむを得ない場合のみ提出するように願います。」とあること及び査第47号証の2(「メンテナンス料金の見積基準」と題する保守営業部通達)によれば、見積料金を算出する場合には、最新の「東芝メンテナンス(保守・点検)標準料金表」の該当機種の月額料金を基礎とすることが認められることからみると、予算編成上の参考資料としては(付加仕様、付加装置等の加算等をせず標準料金をそのまま使用することから前記のような文言になったものと思われ、前掲各証拠に照らすと右標準料金表を官公庁の予算編成上の資料のみに限定するものとは認められず、標準料金に「見積積算項目及び増減比率」に応じた増減比率をした見積料金は、官公庁、民間を問わず適用されるものと認められる。
また、「東芝メンテナンス(保守)標準料金表」の備考欄の「(5)」には、「本料金は新規東芝昇降機に対するメンテナンス標準料金です。」との記載があるが(査第91号証)、右は、既契約者に対しても、見積料金を基準にして提示料金を算出するが、標準料金から算出した見積料金をそのまま提示できないことがまれではないことから、代表的な適用事例の新規の場合を記載したものであり、新規の場合のみに限定したものではないとも考えられ、査第91号証の右記載の一事をもって前記認定を覆すに足りない。
(被審人日本オーチス)
審査官は、被審人日本オーチスが保守料金を改定する場合に発行する「オーチス昇降機保守標準料金表」及び「オーチス昇降機点検(消耗部品付)標準料金表」の昭和58年度の月額料金(標準料金)を共同で定めた旨主張するので、右標準料金表がどの範囲の顧客の見積料金の算定に適用されるかについて検討する。
査第15号証(武藤邦夫の供述調書)、同48号証の1(昭和57年9月1日付けのオーチス昇降機保守標準料金表)、同号証の2(昭和57年9月1日付けのオーチス昇降機点検(消耗部品付)標準料金表)、同78号証の2、3(新規保守契約承認申請書)、同79号証(「保守契約締結の申請手続」と題する通達)、同81号証(1)、(2)(いずれも、「大口顧客カード(1)」と題する書面)(なお、同号証(2)には、OSSPに基づき見積書を作成とあるが、標準料金から見積料金を算出できることは前記のとおりであることからみると、右の記載は、OSSPに特段の意味をもたせたものと解することは相当ではない。)、同152号証(「新保守標準料金の設定」と題する通達等)、同214号証の1(「昇降機保守ご契約に関するお願い」と題する書面等)、同号証の2(御見積書)によれば、右各標準料金表の月額料金(標準料金)、ひいては、右料金を基礎として算出された見積料金は、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者を問わず適用されることが認められる。
なお、被審人日本オーチスは、被審人日本オーチスにおいて本社が、毎年のPA目標総額を算定し、右目標総額を各支店・営業所ごとにその請求高に応じて割り振り、各支店・営業所は割り振られた目標額をさらにその支店・営業所に所属する各セールスマンに割り振っていたものであり、PA目標額が前記標準料金記載の料金の改定とは全く無関係に決められていた旨主張する。
審D第12号証、同13号証、参考人中山通泰の陳述によれば、被審人日本オーチスでは、本社で毎年PAの目標総額を決定し、各支店・営業所に割り振りをしていたことが認められるが、右の事実と、各顧客に対して、どのような基準で値上げ幅を決めるのかということとは別問題であり、右事実は前記認定の妨げにはならない。
(被審人フジテック)
審査官は、被審人フジテックが保守料金を改定する場合に発行する「フジテックメンテナンス契約標準料金表」及び「フジテック昇降機点検契約標準料金表」の昭和58年度の月額料金(標準料金)を共同で定めた旨主張するので、右標準料金表がどの範囲の顧客の見積料金の算定に適用されるかについて検討する。
査第83号証の2ないし4(「保守契約料金値引承認願」と題する書面)、同82号証の1(被審人フジテック西サービス部作成の報告メモ)、同97号証、同98号証(いずれも石本昌一の供述調書)によれば、「フジテックメンテナンス契約標準料金表」及び「フジテック昇降機点検契約標準料金表」の月額料金(標準料金)、ひいては、前記認定のように右料金を基礎として算出された見積料金は、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者を問わず適用されることが認められる。
(被審人日エレ)
審査官は、被審人日エレが保守料金を改定する場合に発行する「エレベータ・エスカレータ保守料金表」及び「エレベータ・エスカレータ点検(消耗部品付)料金表」の料金(標準料金)を共同で定めた旨主張するので、右標準料金がどの範囲の顧客の見積料金の算定に適用されるかについて検討する。
査第16号証(田賀利彦の供述調書)によれば、「エレベータ・エスカレータ保守料金表」及び「エレベータ・エスカレータ点検(消耗部品付)料金表」の月額料金(標準料金)、ひいては、前記認定のように右料金を基礎として算出された見積料金は、原則として、官公庁、民間、新規契約者、既契約者を問わず適用されることが認められる。
なお、被審人6社においては、標準料金を引上げ改定しない場合でも、保守料金の引上げ交渉をしていることが認められるが(参考人岩間義隆、同田山耕、同山本隆、同大森実の各陳述)、これは標準料金から算出される見積料金と契約料金との差を少しでもうめるため、現在の見積料金を基準として値上げの折衝をしているものであり、右の事実は、前記各認定と矛盾するものではない。
三 審査官は、昭和57年8月31日の本件会合において、被審人6社は、昇降機の保守標準料金につき料金協定をした旨主張するので判断する。
(一) 前記第一の事実で認定した三(一)ないし(一〇)の各事実からみると、まず業界一位のシェアを占める被審人三菱(査第2号証、同13号証)は、業界二位の被審人日立(査第4号証、同13号証)と標準料金の改定案につき情報の交換をし、右被審人日立の改定案を参考に調整し、自社の改定案を一応担当部署において内部的に決定し、しかる後、被審人三菱以外の被審人5社は、各自右三菱の改定案を参考、基準にして自社の標準料金を決定したかのようでもあるので、まず、被審人らは、他の被審人の改定案を基準にして自社の改定案を調整したと認めることができるかどうか、さらに、被審人6社間に標準料金の引上げにつき意思の連絡があったかどうかについて検討する。
前記認定事実によれば、i.被審人三菱と同日立は、相互に標準料金の改定案を調整したことが認められる、ii.被審人日本オーチスの武藤が、橋本に変更予定として連絡した部分はPOG契約の交流中速、同交流2段式の2箇所で、その金額もごくわずかであるが、右武藤は、8月17日の前記ハイマートの会合では、5パーセント引き上げたいとの趣旨の発言をしているところ、橋本の収集した結果では、単純平均でFM契約で約2.8パーセント、POG契約で約2.5パーセントとなっていること(査第184号証の1、2)、被審人日本オーチスは、橋本から被審人三菱の改定案を受けた後、2、3日経ってから自社の改定案を橋本に連絡していること(査第59号証、同157号証)に照らすと、被審人日本オーチスは、被審人三菱の改定案の交付を受けてから自社の改定案を調整したことが認められる、iii.被審人東芝の進藤は、被審人三菱の橋本に自社の改定案を連絡した後、FM契約の直流GL、直流GD、交流高速、POG契約の直流GD、交流高速、エスカレーター1200及び同800、ほか6機種の計13箇所を変更する旨の連絡をしており、被審人東芝は標準料金を改定するにつき被審人三菱の改定案を参考に調整したことが認められる、iv.被審人日エレの田賀は、被審人三菱の橋本に自社の改定案を連絡した後、POG契約の直流GLにつき70500(円)から71500(円)に変更しているが、右70500(円)は被審人日エレの昭和57年度の標準料金(昭和56年度も同一である。)であるところからみると、右は田賀が誤って昭和57年度の料金をそのまま伝えたのを訂正したにすぎないものと思われ、被審人日エレについては、被審人三菱の改定案を参考に調整したとみることはできない、v.被審人フジテックは、後記のように8月31日以降ではあるが、自社の改定案を後記のとおり変更しており、被審人三菱の改走案を参考にして調整したものと認めることができる。
以上によれば、被審人日立は同三菱と相互に標準料金の改定案を調整し、被審人東芝、同日本オーチス、同フジテック(ただし、8月31日以降である。)は被審人三菱の改定案を参考にしてそれぞれ自社の改定案を調整したことが各認められる。
被審人日立は、昭和58年度の保守の標準料金の改定案については昭和57年7月20日ころ、値上げ率3.23パーセントにする旨の業務部の案が内定しており、右案は被審人日立が独自に算定したものである旨主張し、右主張に沿う参考人田山耕の陳述及び査第184号証の3(「S58年度、SP改定の検討(案)」と題する書面)も存在するが、前記第1、3(4)(6)(7)の認定事実に照らすと、右田山耕の陳述は信用できず、また右査第184号証の3は、同号証と同一の日付けである査第182号証の1(「S58年度、SP改定の検討(案)」と題する書面)に値上げ率2.33パーセントとあることに照らすと、なぜ同一日付けで値上げ率の異なる2通の書面が作成されたか疑問があるばかりでなく、右値上げ率3.23パーセントは、被審人日立の最終案(査第182号証の3)と異なり、右は業務部の一つの案にすぎず、前記認定と抵触するものではない。
なお、本件全証拠によるも、橋本が具体的にどのような書面で被審人三菱の改定案を被審人3社(被審人日立、同日本オーチス、同東芝。以下同じ。)に連絡したか明確ではないが、審査官は、橋本は被審人3社に対し、査第56号証の2(2)(「FM保守標準料金表」と題する書面)、同号証の2(3)(「POG保守標準料金表」と題する書面)と同一内容の書面(ただし、備考欄の数値を除く。)を交付し、被審人3社と協議、調整して被審人三菱の標準料金を同号各証の備考欄の料金額に変更したかの趣旨の主張をするが、他方、審査官は、被審人三菱が前記のように被審人日立と協議、調整した結果、8月13日までに同号各証の備考欄の料金額を被審人三菱の担当部署における最終案とすることを内部的に確定した旨主張し、その主張自体不明確なものであり、本件全証拠によるも、8月18日以降、被審人三菱が他の被審人と協議、調整して右備考欄記載の料金額に変更したものと認めることができず、前記のように、被審人三菱の改定案は、8月13日には担当部署で原案がほぼ確定していたことが認められる。
(二) そこで、更に進んで、被審人6社は、8月31日の本件会合において共同して審査官主張の料金協定(確定額)をしたものであるかどうかを検討する。
イ 8月31日の本件会合は、橋本が被審人5社の改定案を収集した直後の会合であり、標準料金の話が出て(当日標準料金に関する話が出たことが認められるのは後記のとおりである。)、審査官が主張するように本件会合で被審人6社間で共同して本件標準料金表どおりの料金協定(ただし、被審人フジテックの「レ」の機種については引き上げる旨の協定)をしたというのであれば、当然に、橋本は、被審人5社に対して被審人各社の改定案を具体的に報告し、被審人各社は、その報告に基づき各社の改定案について検討してしかるべきものと思われるが、右事実を直接認めるに足る証拠はなく、本件全証拠によるも、事前にあるいは8月31日の本件会合において、橋本が被審人6社の改定案をとりまとめた一覧表等を配付した事実は認められず、右会合における議題数(13議題)と会合の開催時間(本件会合は昼食をとりながら、12時ころから14時ころまで開催された〔参考人斉藤尚司の陳述〕。)を考慮すると時間的にも被審人各社の改定案を詳細に検討する余裕はなかったと思われること、したがって、仮に8月31日の本件会合で審査官主張の料金協定がされたとしても、その内容について実質的に討議、検討されたとみることは困難であり、実質的な討議、検討がされたとすれば8月31日前に行われていたとみるのが相当であるが、本件全証拠によるも、右のような事実を認めることができないこと、前記認定の本件昇降機の保守に係る競争の実態及び標準料金の性格、機能からみれば、被審人6社は、料金協定をするにしても相互に他社のおおよその値上げ状況を知れば十分であり、被審人各社は他社の個々の具体的な改定案について、それ程の関心を持っていないとも思われること、前記認定のように、橋本は8月25日に被審人4社の改定案を一覧表にまとめ上司の大沼に報告し、右4社の改定案はその後もほとんど変更されず、被審人4社の正式な改定標準料金になっていることからみると、橋本自身も、右の段階で被審人4社については、改定案はほぼ決まっていたと考えていたとも思われること、また、現実に8月31日の本件会合で被審人各社の改定案は被審人フジテックが一部の機種について値上げをすること(査第56号証の2(1)、審判の全趣旨)とした以外は全く変更されていないこと等に照らすと、被審人6社は、8月31日の本件会合において橋本の収集した各社の改定案を検討し、本件標準料金表どおりの料金(確定額)に改定することを決定したとは考え難い面があることは否定できない。
また、前記認定のように、橋本は、被審人5社を訪問する等して被審人三菱の改定案を教える代わりに被審人5社からそれぞれの改定案を収集し、その結果、被審人のうち前記4社は被審人三菱の改定案を基準にして各社の改定案を調整しているが、右が審査官主張の料金協定の前提、準備行為として行われたものであれば、事前に被審人三菱の改定案を参考、基準にして、他の被審人の改定案を調整し決定するという趣旨の話合いがあってしかるべきである(本件全証拠によるも、被審人三菱の改定案を参考、基準にして他社が標準料金を改定するという慣行があった事実を認めることはできない。)。そして、右のような話合いがされたとすれば、本件証拠上は、少なぐとも被審人4社間では、前記ハイマートにおける会合以外には考えられないところ、審査官は、右会合でそのような方針が打ち出されたとの趣旨の主張を全くしておらず(本件審判開始決定書では、右会合で約3パーセントを目途に値土げをすることを検討した趣旨の記載がされていたが、審査官最終意見書では右記載に沿う主張をしていない。)、査第159号証(2)(橋本尊音のノート)及び参考人橋本尊音の陳述、同人の供述調書等によるも、右会合で被審人らにおいてどの程度の値上げ幅を考えているのか各社の立場につき意見を述べた以上の事実を認めることはできないこと、また、前記認定のように被審人6社が自社又は自社系列メーカー製の昇降機のみを保守している現状では、事前の話合いもなく、被審人5社が被審人三菱の改定案を知るのと引換えに自社の改定案を教えることは有り得ないことではないこと、橋本は、被審人5社の改定案を収集するのが主で、その見返りとして自社の改定案を教えたとも思われること(査第59号証、同180号証)、他の被審人自身も被審人三菱の改定案を知る前にそれぞれ独自の改定案を作成しており、被審人三菱の改定を知って自社の改定案を調整したとは認められない被審人(日エレ)も存在すること等を考えると、被審人各社は、被審人6社間との料金協定を前提とすることなく個別に自社の改定案を調整したと考える余地もある。
ロ 右のことに加えて、本件標準料金表どおりの料金(確定額)で料金協定が成立した旨審査官が主張する8月31日以降も、被審人の一部は、右料金額を変更している事実が認められる。すなわち、8月31日に協定したとされる料金と9月10日の一覧表の料金及び最終的に確定した被審人6社の標準料金(以下「最終案」という。)とは次の点で異なっている(なお、本件審判開始決定書添付の標準料金一覧表の料金は、9月10日に橋本が作成した一覧表のそれと同一であり、8月31日に決定したとされる料金と一部異なる。審査官は8月31日に料金協定がされたと主張しているのであるから、なぜ、9月10日作成の一覧表と同一内容の標準料金表が本件審判開始決定書に添付されたのか不可解であるが、ここでは審査官の主張に沿って8月31日に決定されたとする料金を前提に検討する。)。
被審人日立は、POG契約の直流GL(12階床)で69500(円)(本件協定、9月10日の一覧表の数値)が69000(円)(最終案)に、同油圧直接式(5階床)で40200(円)(本件協定、9月10日の一覧表)が40000(円)(最終案)に、同油圧間接式(5階床)で39500(円)(本件協定、9月10日の一覧表)が40000(円)(最終案)になっており(査第56号証の2(1)、同70号証の3、同182号証の3)、POG契約の直流GLについては、正しくは69500(円)となるべきところ最終案の誤記と認められるが、他の2機種については審査官主張の料金協定がその後変更されたとまでは認定できないが、変更されたとみる余地は十分ある。
被審人日本オーチスは、POG契約の交流2段式(8階床)で47500(円)(本件協定、9月10日の一覧表)が47000(円)(最終案)になっており(査第48号証の1、2、同56号証の2(1)、同70号証の3)、仮に審査官が主張するように、9月10日の一覧表を作成する時点で47000(円)と変更があり、その旨記載すべきであったとしても、審査官主張の料金協定が47000(円)に変更されていることが認められる。
被審人フジテックは、本件標準料金表の同被審人の月額欄の後記ハで説示するレの部分を除き、FM契約の直流GL(12階床)で100000(円)(本件協定、9月10日の一覧表)が102000(円)(最終案)に、同直流GD(10階床)で86500(円)(本件協定、9月10日の一覧表)が87000(円)(最終案)に、同油圧直接式(5階床)で58700(円)(本件協定)が59500(円)(9月10日の一覧表、最終案)に、同油圧間接式(5階床)で58700(円)(本件協定)が59500(円)(9月10日の一覧表、最終案)に、POG契約の直流GL(12階床)で71000(円)(本件協定、9月10日の一覧表)が73000(円)(最終案)に、同直流GD(10階床)で61800(円)(本件協定)が61500(円)(9月10日の一覧表)に、さらに62000(円)(最終案)に、同交流一段式(6階床)で39800(円)(本件協定)が40000(円)(9月10圧の一覧表、最終案)に、同ダムウェーター(3階床)で17800(円)(本件協定)が17500(円)(9月10日の一覧表、最終案)に各変更されていることが認められる(査第56号証の2(1)、同70号証の3、同216号証(1)、(2))。
被審人日エレは、FM契約の交流1段式(6階床)で58500(円)(本件協定)が59500(円)(9月10日の一覧表)に、さらに58500(円)(最終案)に、POG契約のエスカレーター1200(階高4m)で64500(円)(本件協定)が64000(円)(9月10日の一覧表)に、さらに64500(円)(最終案)に(査第56号証の2(1)、同62号証、同70号証の3、同217号証)、いずれも、最終的には、8月31日に決定したとされる数値は動いていないが、9月10日の段階では変更の予定であったことが認められる。
そして、本件全証拠によるも、以上の各変更が他の被審人らの了解の下に行われたとの事実を認めることはできない。
さらに、被審人東芝の最終的に確定した改定標準料金を本件標準料金表の階床に換算した際の計算上の誤りが9箇所あり(FM契約の交流高速78500(円)が78400(円)(100円未満を四捨五入。以下同じ。)、同交流中速66300(円)が66200(円)、同交流2段式66300(円)が66200(円)、同交流1段式59800(円)が59600(円)、同油圧直接式及び間接式各59500(円)が59400(円)、POG契約の交流1段式41300(円)が41100(円)、同油圧直接式及び間接式42200(円)が42100(円)の計算上の誤りがある。)、また、本件標準料金表記載の被審人日立のFM契約のダムウェーターの22500(円)は、4階床の料金であり、同表の基準階床である3階床に合わせるならば21500(円)になるべきであるに誤って記入されており、さらに、本件標準料金表には機種名ハイドロー、停止階4、FM月額料金55500(円)、POG月額料金38000(円)と記載されているが、実際は、機種名ハイドロー4、停止階4、FM月額料金54000(円)、POG月額料金37000(円)となるべきであり、確定額で料金協定をしたとすればややずさんなものであることが認められる(右のことは、事前に本件標準料金表と同様な内容の一覧表等が他の被審人に配付され、検討されていない事実をうかがわせる。)。
ハ また、査第56号証の2(1)(「昇降機業界(6社)標準保守料金調査一覧表」)の「8/31 6社打合せし、Fはレ・・UP方向に変更する。9/8決まる」との記載は、それ自体からは、8月31日の本件会合において被審人6社間で標準料金について何らかの打合せが行われたこと及び被審人フジテックが本件標準料金表の同社の月額欄のレの部分について、更に値上げをすることにしたことをうかがわせるが、右査号証及び右の作成者である橋本尊音の陳述、同人の供述調書、その他本件会合に出席した関係者の陳述、供述調書のみでは、右以上に被審人6社が本件標準料金表の料金につき協議、検討した結果、被審人フジテックはレの部分について更に値上げをすることにしたこと及び他の被審人らが前記認定の橋本に連絡した料金をそのまま値上げする旨の合意をした事実まで認めることはできない。
査第159号証(4)(橋本尊音のノート)の記載も、それ自体からは、8月31日の本件会合の席上、標準料金のことが話題になったことをうかがわせるが、右記載の発言内容からみると、被審人日立及び同日エレが自社の値上げの方針あるいは値上げについての総括的あるいは感想的な発言をしたものとも考えられ(被審人日立の「・2年間分といえども1年分としての考え方・実勢価格とのひらきの防止・3〜3.5%」との発言は、後記説示のように被審人6社の値上げ率が必ずしも全社が約3ないし3・5パーセント程度に収まっていないこと、また、被審人日エレの「FMは率が低く、POGは高くする」との発言は、本件標準料金表によれば被審人日本オーチス、同東芝はFM契約の方が、POG契約よりも値上げ率が高くなっていることに照らし、いずれも被審人6社全体の改定案の傾向について述べたものとは認め難い。)、右査号証及び右の作成者である橋本尊音の陳述、同人の供述調書、その他本件会合に出席した関係者の陳述、供述調書のみでは、右以上に被審人6社間で標準料金について何らかの決定が行われたことまで認定することはできない。査第198号証については後記説示のとおりである。
ニ 以上によれば、前記説示した8月31日の本件会合で標準料金表どおりの料金(確定額)で料金協定をしたとした場合の不自然、不合理な点及び前掲各証拠はそれ自体それほど証明方が強いわけではないことを考えると、前記各事実及び前掲各証拠を総合するも、審査官主張の料金協定(確定額)を認めるに十分ではなく、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
(三) 次に、被審人6社が、8月31日の本件会合において、共同で標準料金を約3ないし3.5パーセント程度引き上げる旨の、あるいは6社の値上げ率が約3ないし3.5パーセント程度の枠内に収まっていることを相互に認識してほぼその線で値上げする旨の協定をした事実が認められるかどうかについて検討する。
イ 査第198号証(被審人日本オーチス大阪支店サーピス部長鈴木茂雄の業務日誌)の「8/31東京サ販山本部長来年度保守標準料金は3〜3.5%UP内定、此れから詳細値段を設定する、実施は9/1よりの予定、」との記載は、右記載内容自体及び査第199号証(山本隆の供述調書)により、被審人日本オーチスの改定料金に関するものと解した場合、被審人日本オーチスの改定料金が内定したものであれば、なぜ3ないし3.5パーセントという漠然とした表現をしたのか不可解であり、また右の値上げ率が単純平均なのか加重平均なのか、あるいは主たる昇降機の機種の平均なのかは必ずしも明確でなく、単純平均であるとすると被審人日本オーチスの最終の改定標準料金の引上げ幅は、FM契約で約2.8パーセント、POG契約で約2.5パーセントであり(査第184号証の1、2)、右記載と一致しないこと、また、後段の「詳細値段を設定する」との文書は、9月1日に値上げを実施する予定である被審人日本オーチスの値上げ額は8月31日には各機種ごとに既にほぼ決定されていたこと(査第56号証の2(1)、同54号証)を考えると意味が不明であることを考慮すると、また、仮に、査第198号証の前記記載を被審人6社全体のことを述べたものと解し得たとしても、後記のように被審人6社の値上げ率は必ずしも右範囲内に収まっていないこと及び8月31日当時、被審人フジテックを除く他の被審人は、ほとんど改定案を具体的に決定していたことを考えると、前記「詳細値段を設定する」との文言は意味が不明であることを考慮すると、右査号証及び鈴木茂雄、山本隆の各供述調書並びに参考人山本隆の陳述のみでは、8月3日の本件会合で被審人6社あるいは被審人日本オーチスの改定料金が決定されたと認めることはできない。
また、査第195号証(右鈴木茂雄の「忘備録、会議録」と題するノート)、同196号証(武藤邦夫の供述調書)によれば、8月27日ころ被審人日本オーチスの武藤が同大阪支店サービス部長の鈴木に対し、被審人三菱、同日立、同日本オーチス、同東芝の本件保守標準料金の引上げ率が3ないし3.5パーセントになりそうだと伝えた事実が認められるが、武藤がいかなる経緯で右の事実を知ったかは、本件全証拠によるも明らかでなく(被審人4社の値上げ率が必ずしも右範囲に収まっていると認められないことは後記のとおりである。)、右は武藤が情報収集した結果であるかもしれず、右証拠は前記料金協定を認定するに足りず、査第56号証の2(1)及び査第159号証(4)については前記説示のとおりである。他に、事前あるいは8月31日の本件会合で被審人らがどの程度の率で値上げをするかについて検討し、決定したことを直接立証するに足る証拠はない。
ロ そして、本件全証拠によるも事前に値上げ率について具体的な取決めをした事実も認められず、また、8月31日の本件会合までに被審人各社の具体的な料金改定案が作成され、被審人三菱の橋本に連絡されていたと認められる本件においては、被審人6社の改定案が約3ないし3.5パーセント程度の値上げ率であるとして、右会合で右値上げ率で値上げをする旨を決定したと考える余地は乏しく、被審人各社の改定案で各社値上げをすることを決めたと考える方が合理的であるが、本件標準料金表どおりの内容の料金協定をしたことが認め難いことは前記説示のとおりである。また、被審人6社が、どのような経緯で各社の8月31日当時の各社の値上げ率を相互に知るに至ったのかについては、本件全証拠によるも明らかではない。
ハ また、前記値上げ率が、単純平均なのか加重平均なのか、あるいは主要な昇降機の機種についてのそれかについては本件全証拠によるも明らかではなく、本件標準料金表の被審人各社の各機種の値上げ率(単純平均か加重平均か等を問わず)の平均値が右範囲に収まっているとの証拠はなく、査第56号証の2(1)(「昇降機業界(6社)標準保守料金調査一覧表」)によれば、最高の値上げ率は、被審人三菱のPOG契約の3.3パーセントであり、他方、被審人日本オーチスのPOG契約が2.8パーセント、被審人日エレ、同フジテックがFM契約でそれぞれ2.5パーセント、2.6パーセント、POG契約でいずれも2.6パーセントであり、3パーセントを下回っていること(右数値が単純平均か加重平均か等は不明である。査第181号証において、橋本は、前記記載の数値は単純平均である趣旨の供述をするが、他方、査第207号証及び審A第12号証によれば、被審人三菱の場合は加重平均と認められ、結局、本件全証拠によるも不明である。)、被審人日立の最終の改定料金の値上げ率はFM契約で2.8パーセント、POG契約で3.2パーセント(査第182号証の3)、被審人日本オーチスはFM契約で2.8パーセント、POG契約で2.5パーセント(査第184号証の1、2)の値上げ率であること(ただし、2社とも全機種の単純平均である。)に照らすと、被審人6社が自社の改定料金を前記値上げ率の範囲内に収めることを企図し、また被審人6社間で各社の値上げ率が約3ないし3.5パーセント程度に収まっているとの共通の認識を形成するに至ったとは考え難い面がある。
ニ 以上によれば、被審人6社が前記約3ないし3.5パーセント程度の割合で値上げする旨の協定をした事実は、前記説示のように不自然、不合理な点があること及び前掲各証拠はそれ自体それほど証明力が強いわけではないことを考慮すると、本件全証拠によるも、これを認めるに十分ではない。
(四) さらに、被審人6社が、8月31日の本件会合において、共同して被審人三菱の改定案を動かぬ所与のものとして、右改定案を参考、基準にして各社の標準料金の引上げ幅を決定する趣旨の協定をした事実が認められるかどうかについて検討する。
イ 前記認定のように、橋本は他の被審人5社を訪問する等して被審人三菱の改定案を教える代わりに被審人5社からそれぞれの改定案を収集し、その結果、被審人日エレを除く他の被審人らは被審人三菱の改定案を基準にして各社の改定案を調整しているものであるが、右が被審人6社の共同意思の下でされたとするならば、右一連の行為の後である8月31日の本件会合において、被審人6社間で被審人三菱の改定案を基準にして本件標準料金を改定する旨の合意がされたとみるのは不合理であり(8月31日の本件会合で協定がされたとするならば、右時点では橋本が各社の改定案の連絡を受けていたのであるから、被審人6社が本件標準料金表どおりの料金(確定額)で料金協定をしたとみる方が合理的であるが、右協定が認め難いことは前記説示のとおりである。)、事前に被審人三菱の改定案を参考、基準にして、他の被審人の改定案を調整し決定等するという趣旨の話合いがあってしかるべきである(前記のように本件全証拠によるも、被審人三菱の改定案を参考、基準にして他社が標準料金を改定するという慣行があった事実を認めることはできない。)。そして、前記説示のように、右のような話合いがされたとすれば、少なくとも被審人4社間では、前記8月17日のハイマートにおける会合以外には考えられないところ、右会合において、橋本が被審人日立と調整した被審人三菱の改定案が提示されたこと、他の被審人に対して被審人三菱の改定案を基準にして各社の改定案を調整することを明示または黙示的に提案したこと、被審人三菱の改定案を所与のものとして、右改定案を基準にして調整するといった趣旨の話合いがされたことあるいは右のような気運が醸成されたことをうかがわせる証拠はなく、加えて、被審人三菱の改定案を基準にするといっても値上げ幅自体漠然としたものであり(8月17日の前後のころにおいても、被審人三菱の改定案を基準にして調整する趣旨の話があったことをうかがわせる証拠は全くない。)、前記説示のように被審人6社が自社または自社系列メーカー製の昇降機のみを保守している現状では、事前の話合いもなく、被審人5社が被審人三菱の改定案を知るのと引換えに自社の改定案を教えることは有り得ないことではないこと、橋本は被審人5社の改定案を収集するのが日的で、その手段として自社の改定案を教えたとも思われること、他の被審人自身も被審人三菱の改定案を知る前にそれぞれ独自の改定案を作成しており、被審人三菱の改定案を知って自社の改定案を調整したとは認められない被審人(日エレ)も存在し、また、被審人三菱の改定案を参考にして調整した被審人についてもその調整の幅はそれほど大きいものでないこと、前記のように被審人東芝は、いったん橋本に自社の改定案を連絡した後に変更の連絡をしており、当初から調整する意思であれば、右のような被審人東芝の行動は若干理解し難いこと等を考えると、各被審人は個別に自社の改定案を調整したとも考える余地もあること等の本件事実関係の下では、前記認定の事実から直ちに、8月17日ころ被審人6社あるいは被審人4社間で被審人三菱の改定案を基準に自社の改定案を調整し決定する等の合意あるいは方針が打ち出されたとみることは困難である。
ロ 要するに、前記第一、三(一)ないし(九)の認定事実及び前掲査第56号証の2(1)の「8/31 6社打合せし、Fはレ・・UP方向に変更する。9/8決まる」との記載から、8月31日の本件会合で、被審人6社間で被審人三菱の改定案を基準にして他社が調整した改定案どおりに各社の標準料金を決定するとの合意がされたと考えることは、右合意内容自体及び前記認定の本件会合の状況からみて、唐突で不自然であり(前記のように8月31日には、橋本は被審人各社の改定案を取りまとめており、その段階で、いわば大雑把な、また被審人三菱を除く他の被審人相互間では具体的な改定額を知らず、協定の当時者が協定を遵守しているかどうか確認のしようがない内容の料金決定がされたとみるのは不自然であり、右のような決定をするのに8月31日まで待たなければならない理由はない。)、前記説示したように事前に右に関しなんらかの話があってしかるべきであるのに、そのような事実を認めることはできず、前記のような料金協定がされた旨認定することは、これまた困難といわざるを得ない。
(五) 最後に、審査官は、審査官主張の料金協定を裏付ける根拠として査第161号証の3等の証拠の存在を主張するので、この点につき検討する。
イ 査第161号証の3(橋本作成の「業績報告(57/4〜9)」と題する書面)の「2 58年度、標準保守料金並びに定検料金の他社調整とまとめ役となる」との記載は、それ自体抽象的で漠然としており、橋本が定検料金(建築基準法等の規定により昇降機を定期的に検査をした場合の料金を指すものと思われる。)についてどのような行為をしたか本件全証拠によるも明らかではなく(査第145号証、参考人橋本尊音の陳述によれば、財団法人日本昇降機安全センターの検査業務報酬標準部会において定期検査の料金について協議されたが、これは被審人日エレの田賀が同部会の委員となり昭和58年度の定検料金について検討したものであり、橋本は直接関与していなかったものと認められる。)、橋本本人が会社に対して自己の仕事の業績を報告したものであるという書面の性質自体からみて、前記査号証から前記認定の橋本の行為以上の事実を認定することはできない。
また、査第215号証(被審人フジテックのサービス事業部作成の「保守契約標準料金表改訂に関する件」と題する書面)は、本件料金協定を認めるに足りない。
ロ なお、昭和57年6月23日の十日会における話題も、わずかに、査第155号証(1)の被審人日本オーチスの武藤のノートに「P/A、標準料金、8/中、5」とあるのみであり、その記載した経緯について作成者である武藤の供述もなく、また、同年7月22日の二十日会における話も、わずかに査第159号証(1)の被審人三菱の橋本のノートに「7/下旬 5〜6%で話している。(T)R・・4%(R)ぐらい6%(N)」とあるのみであり、前記の場合と同様に、その記載した経緯について作成者である橋本の供述もなく、前記各証拠によるも、前記各会合において、標準料金の改定の話及びある被審人から値上げ率の話があったこと程度しか判明せず、それがどのような趣旨、日的で発言されたものか、それにより出席している被審人らの間にある日標が醸成され、あるいは設定されることになったのか明らかでなく、右各証拠から被審人各社の値上げ幅が話し合うに従がい徐々に収束していく過程を認定することはできない。また、同年8月17日のハイマートにおける会合も右と同様であり、査第159号証(2)及び参考人橋本尊音の陳述によるも被審人3社が値上げ案についてそれぞれ考えていることにつき発言をした事実を認めることができるが、それを基にして意見が収束される過程が明らかでない。
右は要するに、前掲各証拠により、被審人6社が、本件標準料金について被審人各社の改定するに当たっての考え、方針について意見を述べあったことは認められるが、右各証拠から認定できる事実は、内容も断片的で相互のつながりに乏しく、各社の標準料金の引上げ幅についての考えが収束する過程が全く現れておらず、審査官主張の料金協定を認定する上でそれ程重要な事実とみることはできない。
(六) 以上の次第であるから、本件は、前記認定の橋本の一連の標準料金についての収集行為及び被審人6社の本件昇降機の標準料金の引上げ決定等の経緯並びに橋本ら本件関係者の料金協定の有無等に関する核心部分についての供述の不自然さ等から考えると、被審人6社が、本件昇降機の標準料金につき何らかの料金協定をしているとの疑いは拭い切れないが、本件全証拠によるも、被審人6社が、いつ、どのように共同して、各社の標準料金につき、いかなる内容の共通の認識を形成するに至ったのか明らかではなく、その余の争点について判断するまでもなく、本件料金協定を認めることはできないといわざるを得ない。
第四 法令の適用
以上によれば、本件において審査官主張の違反事実を認めることはできず、独占禁止法第54条第3項の規定により、主文のとおり審決することが相当であると思料する。
平成6年6月2日
公正取引委員会事務局
審判官 森原 征二
審判官 鈴木 恭蔵
審判官滿田忠彦は転官につき署名押印することができない。
審判官 森原 征二
参考
昭和59年(判)第1号
審判開始決定書
東京都千代田区大手町2丁目6番2号
被審人 菱電サービス株式会社
右代表者 代表取締役 松尾 潔
東京都千代田区神田錦町1丁目6番地
被審人 日立エレベータサービス株式会社
右代表者 代表取締役 安藤 一男
東京都品川区西五反田7丁目9番5号
被審人 東芝昇降機サービス株式会社
右代表者 代表取締役 杉山 弘治
東京都新宿区西新宿2丁目4番1号
被審人 日本オーチス・エレベータ株式会社
右代表者 代表取締役 久米 稔
大阪府茨木市庄1丁目28番10号
被審人 フジテック株式会社
右代表者 代表取締役 内山 正太郎
東京都千代田区東神田1丁目9番9号
被審人 日本エレベーター製造株式会社
右代表者 代表取締役 堀川 智雄
公正取引委員会は、右の者らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反被疑事件につき、審判手続を開始する。
第一 事実
一(一) 被審人菱電サービス株式会社(以下「菱電サービス」という。)は、昇降機(エレベーター、エスカレーター及びダムウェーターをいう。以下同じ。)等の製造販売を行っている三菱電機株式会社の全額出資により設立され、肩書地に本店を置き、昇降機の保守(点検を含む。以下同じ。)業等を営む者である。
被審人日立エレベータサービス株式会社(以下「日立サービス」という。)は、昇降機等の製造販売を行っている株式会社目立製作所の全額出資により設立され、肩書地に本店を置き、昇降機の保守業等を営む者である。
被審人東芝昇降機サービス株式会社(以下「東芝サービス」という。)は、昇降機等の製造販売を行っている株式会社東芝の全額出資により設立され、肩書地に本店を置き、昇降機の保守業等を営む者である。
また、被審人日本オーチス・エレベータ株式会社(以下「日本オーチス」という。)、同フジテック株式会社(以下「フジテック」という。)及び同日本エレベーター製造株式会社(以下「日エレ製造」という。)の3社は、それぞれ、肩書地に本店を置き、昇降機の製造販売業、保守業等を営む者である。
菱電サービス、日立サービス、東芝サービス、日本オーチス、フジテヅク及び日エレ製造の6社(以下「6社」という。)が保守を行っている昇降機の保守台数の合計は、我が国における昇降機の総保守台数の大部分を占めている。
(二) 昇降機の所有者、管理者又は占有者(以下「昇降機の所有者等」という。)は、建築基準法第8条の規定により、昇降機について、常時適法な状態に維持するよう努めなければならないこととされており、また、その所有者は、同法第12条第2項により、昇降機について、定期に、建築士法で定められた建築士又は建設大臣が定める資格を有する者の検査を受けて、その結果を都道府県知事等に報告する義務がある。
昇降機の所有者等は、建築基準法第8条及び第12条第2項の義務を遂行するため、通常、昇降機の保守業を営む者との間に継続的な契約を締結し、昇降機の保守を行わせている。なお、保守の契約料金は、契約締結後の経済事情の変動に伴い、契約当事者間で変更されている。
(三) 6社の昇降機の保守の契約料金は、それぞれ、次のとおり定められている。
イ 昇降機の機種別に、最も標準的な停止階床等の区分に応じた標準料金を設定し、これに停止階床等に係る増減を行った料金表を作成する。
ロ 前記イの料金表記載の料金を基礎として契約対象の昇降機の利用状況等に係る割増額の付加を行い、これを基準として契約料金を定めている。
以上のとおり、6社の昇降機の保守の契約料金は、いずれも標準料金を基礎としているものである。
なお、前記イの標準料金に対する増減額及び同ロの料金表記載の料金に対する割増額は、6社間でおおむね一定である。
二(一) 6社は、昭和52年ごろから、二十日会と称する営業担当課長級の者(以下「二十日会構成者」という。)による会合を設け、おおむね毎月1回会合を開催しており、また、菱電サービス、日立サービス、東芝サービス及び日本オーチスの上位4社は、昭和56年ごろから、十日会と称する営業担当部長級の者(以下「十日会構成者」という。)による会合を設け、おおむね2か月に1回会合を開催しており、これらの会合等において、昇降機の保守の料金、中小の保守業を営む者の動向、安全対策等に関する情報の交換を行い、業界の協調を図っている。
(二) 6社は、昭和57年春ごろから、前記二十日会、十日会等の会合において、昭和58年度の昇降機の保守の標準料金の引上げについて、しばしば、情報の交換を行ってきていた。上位4社は、昭和57年8月17日、東京都千代田区所在の日本ビルディング内の喫茶店「ハイマート」で二十日会構成者の会合を開催し、昭和58年度の昇降機の保守の標準料金の引上げについて協議を行い、現行標準料金を約3パーセント引き上げることを目途として、検討を進めることとした。次いで、前記会合に出席していた菱電サービスの二十日会構成者、昭和57年8月8日から同月30日ごろまでの間に、菱電サービスを除く各社の二十日会構成者を訪問すること等により、自社の昭和58年度の昇降機の保守の標準料金案を提示した上、各社の現行標準料金から、おおむね3パーセント引至げることを内容とした標準料金案の提示を受け、これら原案を取りまとめた資料を作成した。
(三) しかして、6社は、昭和57年8月31日、東京都港区所在の東京郵便貯金会館会議室で十日会構成者も出席の上開催した二十日会において、昭和58年度の昇降機の保守の標準料金について、前記資料を原案として協議を行い、一部の者の一部機種の引上げ率を修正し、6社の昇降機の機種別に、最も標準的な停止階床等の区分に応じた昭和58年度の昇降機の保守の標準料金を別紙のとおりとすることを決定した。
(四) 6社は、前記昭和58年度の標準料金の引上げ決定に基づき、昇降機の保守の契約料金の引上げを図っている。
第二 法令の適用
前記事実によれば、6社は、共同して、昇降機の保守の料金を引き上げることにより、公共の利益に反して、我が国における昇降機の保守分野における競争を実質的に制限しているものであって、これは、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法第3条の規定に違反するものである。
昭和59年4月20日
公正取引委員会
委員長 高橋 元
委員 平田 胤明
委員 渡辺 豊樹
委員 大森 誠一
委員 宗像 善俊
※別紙省略。