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独禁法3条後段
平成11年(判)第5号
東京都渋谷区幡ヶ谷2丁目16番1号三和ビル
被審人 技研システム株式会社
右代表者 代表取締役 脇坂 嘉紀
公正取引委員会は、右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第66条の規定により審判官金子順一及び同栗田誠から提出された事件記録に基づいて、同審判官らから提出された別紙審決案を調査し、次のとおり審決する。
主文
被審人の本件行為については、独占禁止法第3条の規定に違反する事実を認めることはできない。
理由
一 当委員会の認定した事実、証拠、判断及び法令の適用は、いずれも別紙審決案理由第一ないし第三と同一であるから、これを引用する。
二 よって、被審人に対し、独占禁止法第54条第3項及び規則第69条第1項の規定により、主文のとおり審決する。
平成12年8月8日
公正取引委員会
委員長 根來 泰周
委員 柴田 章平
委員 糸田 省吾
委員 黒河内 久美
委員 本間 忠良
別紙
平成11年(判)第5号
審決案
東京都渋谷区幡ヶ谷2丁目16番1号三和ビル
被審人 技研システム株式会社
右代表者 代表取締役 脇坂 嘉紀
右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第26条の規定により担当審判官に指定された本職らは、審判の結果、次のとおり審決することが適当であると考え、規則第66条及び第67条の規定により本審決案を作成する。
主文
被審人の本件行為については、独占禁止法第3条の規定に違反する事実を認めることはできない。
理由
第一 事案の概要
一 判断の基礎となる事実
1(一) 被審人は、肩書地に本店を置き、測量法の規定に基づき建設大臣の登録を受け、千葉市の区域において測量業を営む者である。
(二) 別紙一記載の90社(以下「90社」という。)は、それぞれ、同別紙の「本店の所在地」欄に記載された場所に本店を置き、測量法の規定に基づき建設大臣の登録を受け、千葉市の区域において測量業を営む者である。
(三) 千葉市及び同市水道局(以下「千葉市等」という。)は、測量業務のほとんどを指名競争入札又は見積り合わせ(以下「指名競争入札等」という。)の方法により発注しており、指名競争入札等に当たっては、千葉市が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から指名競争入札等の参加者を指名している。
(争いがない。)
2(一) 90社は、遅くとも平成7年4月1日以降(90社のうち別紙二記載の事業者にあっては、それぞれ、同別紙の「期日」欄に記載された年月日ころ以降)、千葉市等が指名競争入札等の方法により発注する測量業務(以下「千葉市等発注の特定測量業務」という。)について、受注機会の均等化及び受注価格の低落防止を図るため
(1) 千葉市等から指名競争入札等の参加の指名を受けた場合には、次の方法により、当該業務を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定する
ア 当該業務について受注を希望する者(以下「受注希望者」という。)が1名のときは、その者を受注予定者とする
イ 受注希望者が複数のときは、千葉市等の測量業務に係る発注事務担当者に対する営業活動の実績、過去の受注物件との関連性等の事情を勘案し、又は持ち点(指名実績を基に指名1回を1点とするなどして算出した点数)を勘案して、受注希望者の間の話合いにより受注予定者を決定する
ウ 受注希望者がいないときは、指名を受けた者の間の話合いにより受注予定者を決定する
(2) 受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意(以下「本件合意」という。)の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。
(査第7ないし第9、第11ないし第15号証)
(二) 90社は、前記(一)により、千葉市等発注の特定測量業務のほとんどすべてを受注していた。
(査第8、第11、第16号証)
(三) 平成10年9月10日、本件について、公正取引委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ、90社は、同月11日以降、本件合意に基づき受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。
(査第8、第11号証)
3 90社は、指名競争入札等の参加の指名を受けた発注物件の現場説明の場で又は業界紙に掲載される発注物件情報により相指名業者を把握して、電話連絡又は現場説明終了後に会合を開催することにより相指名業者間で受注希望を確認していた。そして、90社は、受注希望者が複数のときは、前記2(一)(1)イ記載の事情又は持ち点のほか、千葉市等の測量業務に係る発注事務担当者から伝えられる特定の業者に受注してほしい旨の意向をも勘案して、受注希望者の間の話合いにより受注予定者を決定していた。
(査第7ないし第9、第11ないし第15号証)
4 平成7年4月1日から平成10年9月10日までの期間(以下「本件期間」という。)において、被審人が千葉市等から指名競争入札等の参加の指名を受けた測量業務は、平成7年8月14日に入札が行われた「下田最終処分場境界確定測量業務委託」の物件(以下「下田物件」という。)及び同年12月8日に入札が行われた「千葉市航空写真撮影及び写真図作成(カラー)業務委託」の物件(以下「航空写真物件」という。)の2件のみである。
(争いがない。)
このうち、航空写真物件については、審査官から、本件合意に基づく受注予定者の決定が行われたとの主張はされていない。
5(一) 下田物件は、千葉市が民間からの借上げ地に設けた埋設の方法による廃棄物の最終処分場(下田最終処分場)を整地して地権者に返還するに際し、整地後の土地の総面積を測量するとともに、借上げ前の各筆ごとの土地の面積及び位置を特定するための測量を行い、各地権者から各筆ごとの境界の確認を得た上で、境界杭を打設して境界を現地に復元するという境界確定測量業務である。
(査第30、第32、第33号証、審第7号証)
(二) 千葉市は、下田物件の指名競争入札に当たり、平成7年8月14日を指名競争入札の入札日と定めるとともに、同月1日、被審人、国際測地株式会社(以下「国際測地」という。)、三和航測株式会社(以下「三和航測」という。)、株式会社創和測量コンサルタンツ(以下「創和測量」という。)、第一航業株式会社(以下「第一航業」という。)、株式会社地計社(以下「地計社」という。)、株式会社冨岡測量設計事務所(以下「冨岡測量設計」という。)、内外地図株式会社(以下「内外地図」という。)、富士総合コンサルタント株式会社(以下「富士総合」という。)及び東京技工株式会社(以下「東京技工」という。)の10社(以下「10社」という。)に対して入札参加の指名を通知し、同月2日、現場説明を行った。
(査第17、第34号証)
(三) 平成7年8月14日、被審人が下田物件を落札した。
(争いがない。)
二 争点
本件の争点は、被審人が本件合意に加わっていたか否かである。
(審査官の主張)
1 被審人は、次のとおり、本件合意に基づき、相指名業者の間で受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにすること(以下「受注調整」という。)により下田物件を受注したものであり、本件合意に加わっていたことは明らかである。
(一) 被審人の杉山到課長(以下「杉山課長」という。)は、本件合意の内容を把握していた。
(二) 千葉市は、下田物件について、平成7年8月14日を指名競争入札の入札日と定めて、同月1日、10社に対して指名通知をした。
(三) 冨岡測量設計は、下田物件の受注を希望していたことから、同社の広坂道雄部長(以下「広坂部長」という。)は、平成7年8月2日ころから同月7日ころまでの間に、相指名業者である被審人ら9社に対して受注調整のための会合への出席を依頼した。
(四) 10社の営業担当者は、平成7年8月9日、千葉市所在の百貨店「千葉そごう」内の料理店で下田物件について話合いを行った(以下、これを「本件会合」という。)。
本件会合は下田物件の受注調整を行う目的で開催されたものであるところ、被審人の杉山課長は、本件会合が右目的で開かれるものであることを認識した上で、これに出席した。
本件会合では、冨岡測量設計が、本件合意に基づき過去の受注物件との関連性等を説明し、更に千葉市の測量業務に係る発注事務担当者から同社に受注してほしい旨の意向が示されたと発言することにより、同社を下田物件の受注予定者とするよう主張したので、被審人以外の相指名業者は、冨岡測量設計を受注予定者とすることに同意した。しかし、被審人も下田物件の受注を希望したため、同会合の結論として、被審人と冨岡測量設計の2社で更に話合いの上、うち1社を受注予定者とし、他の相指名業者は右受注予定者が受注できるよう協力することとなった。
(五) 杉山課長と広坂部長は、平成7年8月9日の本件会合以降同月14日の入札までの間に、電話で又は面会して何度か話合いをしたが、不調に終わり、被審人又は冨岡測量設計のうち1社を受注予定者とするには至らなかった。
(六) 冨岡測量設計は、平成7年8月11日ころ、被審人以外の相指名業者8社(以下、冨岡測量設計及び被審人以外の指名業者8社を「相指名業者8社」という。)に対し、自社の入札価格である7600万円より高い価格で入札するように依頼していたが、同月14日の入札に際して、相指名業者8社に対し、被審人との話合いがつかないので、7600万円を大幅に下回る価格で入札することを伝えて改めて協力を依頼した。右入札においては、冨岡測量設計は4990万円で入札し、相指名業者8社はこれに協力したが、被審人は4780万円で入札し、被審人が落札した。
(七) 以上のとおり、10社は、下田物件について、本件会合で、本件合意に基づき受注予定者を決定するための話合いを行い、受注予定者を被審人又は冨岡測量設計のいずれか1社とすることにしたものであり、また、相指名業者8社は、右2社のいずれか1社が受注できるように協力することを確認し、実際に価格連絡を受け、右2社よりも高い価格で入札し、協力したのであるから、被審人は、本件合意に基づく受注調整を行ったものである。
さらに、平成7年8月9日の本件会合以降同月14日の入札までの間の被審人と冨岡測量設計との話合いは、本件会合の結論に基づき受注予定者を右2社のうちいずれとするかを決定するために行われたものであり、結果として1社に絞ることができなかったとしても、この話合いは本件合意による受注調整に該当する。
(八) なお、株式会社協和エクシオに対する審決(平成6年3月30日審決・公正取引委員会審決集第40巻49頁)では、受注予定者を1社に決めていない物件についても具体的に競争制限効果を発生させたものとされており、右審決に照らしても、下田物件についての被審人の行為が独占禁止法上問題とされるものであることは明らかである。
2 被審人は、本件会合に、受注調整に反対する立場で、あるいは情報収集の目的で出席していたと主張する。しかし、被審人の杉山課長は、本件合意の内容を把握した上で、下田物件を受注するために右会合に出席しており、受注調整そのものに反対したわけではない。また、被審人に情報収集の目的があったとしても、下田物件の受注調整と相反するものではない。
(被審人の主張)
1 被審人は、当初から下田物件の受注を最優先としており、受注調整のための話合いをする考えを有していなかった。
2 被審人は、受注調整には反対の立場を採っており、本件会合には、受注調整を壊す目的、あるいは相指名業者の技術力、受注希望の熱意、積算金額等の情報収集を行う目的で出席したものである。
3 相指名業者8社は冨岡測量設計の要望に応えて同社に協力したのであって、被審人が相指名業者8社に協力を求めたことはない。被審人は、独自の判断で入札し、下田物件を受注したのである。
第二 争点に対する判断
一 本件合意に関する被審人の認識
審査官は、被審人の杉山課長が本件合意の内容を把握していたと主張し、被審人が本件合意に加わっていたことは明らかであると主張する。
確かに、被審人の杉山課長が本件合意の内容を認識していたことは、杉山課長自らが供述するところである(査第10号証、参考人杉山到)。しかし、杉山課長の右供述は、千葉市等から指名を受けた業者が一定の方法により受注調整を行っていたことを営業活動の過程で他の業者から聞くなどして知った旨を述べているにとどまり、このことから直ちに被審人が本件合意に加わっていたとは認めるに足りない。
したがって、被審人が本件合意に加わっていたか否かは、個別物件についての受注調整に被審人がどのようにかかわっていたかを具体的に検討することにより判断せざるを得ない。本件期間中に被審人が千葉市等から指名を受けた物件は、下田物件と航空写真物件の2件であるが、審査官は、航空写真物件については本件合意に基づく受注調整が行われたとは主張していない。そこで、以下では、下田物件について、被審人が落札するまでの経緯を詳細に認定し、これを踏まえ、被審人が本件合意に加わっていたか否かを判断することとする。
二 下田物件の落札までの経緯
1 被審人が下田物件の受注を希望した事情等
被審人は、平成7年8月1日、下田物件について指名通知を受け、同月2日、杉山課長が現場説明に赴いて下田物件の設計書を受領し、千葉市の発注事務担当者から業務内容の説明を受けた。それによると、下田物件は測量面積が広く高額な予定価格が見込まれる物件であったことから、被審人の小林準代表取締役会長は杉山課長に対し、下田物件を受注するように指示した。
(審第7号証、参考人杉山到)
2 冨岡測量設計が下田物件の受注を希望した事情等
冨岡測量設計は、かつて、民間事業者の発注により、下田最終処分場の隣接地の測量業務を行ったことがあり、この測量の際の資料を下田物件の測量業務に利用することができること、また、隣接地の地権者と下田最終処分場の地権者とがほぼ同一であり、円滑に業務を遂行することができること、下田物件を受注できれば下田最終処分場の跡地を含むゴルフ場開発事業を進展させることができることなどから、下田物件の受注を強く希望していた。
ところが、冨岡測量設計は、官公庁発注物件の受注実績に乏しく、千葉市等から指名を受けるのも下田物件が初めてであり、本件合意の内容を承知していなかったので、平成7年6月ころ、同社の広坂部長は、千葉市等からの指名実績があり、下田物件についても相指名業者になると予想された第一航業の花田章千葉営業所長に本件合意の内容を照会した。
その際、同所長は広坂部長に対し、本件合意の内容を説明し、冨岡測量設計が下田物件の受注予定者となることができるよう協力する旨を約した。
(査第29、第30、第39、第40号証)
3 相指名業者8社の事情等
相指名業者8社のうち、国際測地、三和航測、創和測量、内外地図、富士総合及び東京技工の6社は、下田物件の指名を受けた際、下田物件と類似の測量業務の経験がない、他の業務で多忙である、千葉市の測量業務に係る発注事務担当者の意向がほかの会社にあるらしいなどの理由から、下田物件の受注を希望していなかった。
また、国際測地、創和測量及び地計社の3社は、本件期間中に千葉市等から指名を受けたのが下田物件のみであり、しかも本件合意の内容を知らなかった。
(査第32ないし第38号証)
4 本件会合
(一) 冨岡測量設計の広坂部長は、下田物件の受注について相指名業者間で話合いの機会を持つために会合場所と時間を定めて、平成7年8月4日ころから同月7日ころまでの間に、相指名業者である被審人ら9社の営業担当者に連絡した。
(査第29号証)
(二) 本件会合は、平成7年8月9日、千葉市に所在する百貨店「千葉そごう」内の料理店「桃源」で、引き続き同「桃山」で開催された。
被審人の杉山課長は、営業活動の過程で他の業者から聞くなどして本件合意の内容を認識しており、また、本件会合が下田物件に関する受注調整の目的で開かれることをも認識した上で、これに出席した。
本件会合には10社の営業担当者が出席したところ、右席上で、冨岡測量設計の広坂部長は、下田最終処分場の隣接地について民間事業者発注の測量業務を行ったことがあることを理由に受注希望を表明し、相指名業者に協力を求めたが、富士総合の営業担当者らは、右業務は千葉市等発注のものではないなどとしてこれに反対した。そこで、広坂部長は、千葉市の測量業務に係る発注事務担当者が冨岡測量設計に受注してほしい旨の意向を示していることを更に説明し、被審人以外の相指名業者の営業担当者らは、冨岡測量設計が受注予定者となることを了承した(なお、下田物件の受注を希望していなかった国際測地ら数社の営業担当者は、途中で退席していた。)。ところが、杉山課長は、被審人の受注希望を表明する趣旨で、会社に戻り上司と相談しなければ冨岡測量設計の受注希望を了承できないと発言した。このため、広坂部長は、相指名業者に対し、冨岡測量設計と被審人の間でどちらが受注予定者となるかを決め、その結果を連絡するので、これに協力するよう依頼し、また、これを受けて、第一航業の営業担当者は、冨岡測量設計と被審人の間で話し合い、その結果を相指名業者に連絡するよう提案した。相指名業者の営業担当者はこの依頼及び提案を了承し、杉山課長もその場では異を唱えなかった。
なお、本件会合の飲食代は、冨岡測量設計が負担した。
(査第10、第28、第29、第32ないし第40号証、参考人杉山到)
5 冨岡測量設計から被審人への協力依頼
平成7年8月9日の本件会合以降同月13日までの間に、冨岡測量設計の広坂部長は被審人の杉山課長に対し、再三、電話で、冨岡測量設計を受注予定者としてこれに協力するよう依頼したが、杉山課長はこれに応じなかった。
杉山課長は、本件会合及びその後の冨岡測量設計とのやり取りを通じ、冨岡測量設計は経費を節減でき、また受注意欲も強いので、相当廉価で入札するであろうと予測した。
(査第29号証、参考人杉山到)
6 相指名業者への協力依頼
(一) 冨岡測量設計の広坂部長は、平成7年8月11日ころ、相指名業者8社に、被審人との間でどちらが受注予定者となるか決まっていないものの、自社が7600万円で入札するので8000万円程度で入札するよう依頼した。
(査第29、第32、第34、第35号証)
(二) 他方、被審人の杉山課長は、冨岡測量設計及び相指名業者8社に対し、自社への受注協力の依頼をしなかった。
(参考人杉山到)
7 入札当日の行動
(一) 被審人の杉山課長は、下田物件の入札日である平成7年8月14日、冨岡測量設計の広坂部長の求めに応じて、入札前に千葉駅前の喫茶店「プロント」で面会した。その際、広坂部長は杉山課長に対し、冨岡測量設計を受注予定者としてこれに協力するよう依頼したが、杉山課長は自社の方針で協力できないと述べてこれを断ったところ、広坂部長は、杉山課長に対し、同人の上司と相談するよう強く求めた。そこで、杉山課長は、電話で上司と相談の上、明らかに冨岡測量設計にとって受け入れ難い条件であると考え、実際の仕事の8割を被審人に任せるのであれば冨岡測量設計を受注予定者としてこれに協力する旨を提案したところ、広坂部長は、自ら業務を遂行しなければ会社としての利点がないことから、これに応じなかった。また、広坂部長は杉山課長に被審人の入札価格を尋ねたが、杉山課長はこれに回答しなかった。
(査第29、第40号証、参考人杉山到)
(二) 広坂部長は、被審人との受注調整のための話合いができなかったので、入札直前に、相指名業者8社の担当者に対し、「フリーで入札することとなった」と伝え、以前連絡した7600万円を大幅に下回る価格で入札する旨述べた。
これを受けて、相指名業者8社のうち国際測地、創和測量、第一航業、内外地図、富士総合及び東京技工の6社はいずれも8000万円以上の価格で、地計社は6000万円で、三和航測は5800万円で、それぞれ入札した。また、冨岡測量設計は4990万円で入札したが、被審人が4780万円で入札したため、被審人が下田物件を落札した。
(査第29、第32、第34ないし第37号証、参考人杉山到)
三 被審人の本件合意への参加の有無についての判断
1 審査官は、被審人の杉山課長が本件合意の内容を把握しており、被審人は本件合意に基づく受注調整により下田物件を受注したものであって、本件合意に加わっていたと主張する。
しかしながら、被審人が下田物件について、本件合意による受注調整をしたとは認めるに足りない。すなわち、右の認定事実によれば、被審人の杉山課長は、本件会合で、冨岡測量設計の広坂部長から本件合意に沿った説明の下にされた、同社を受注予定者としてこれに協力するようにとの要請に対し、被審人の受注希望を表明したものの、本件会合以降入札までの間に、広坂部長から電話で繰り返しされた冨岡測量設計を受注予定者とするようにとの依頼に一切応ぜず、また、同部長の求めに応じて入札当日に面会した際にも、冨岡測量設計の受注への協力依頼を断るなどして、冨岡測量設計との受注調整のための話合いには応じなかったのである(このため、広坂部長は、相指名業者8社にその旨伝えた。)。このような被審人の行動は、受注希望者が複数のときは受注希望者の間の話合いにより受注予定者を決定するという本件合意に従ったものとは認められず、杉山課長が本件合意の内容を認識し、本件会合が下田物件に関する受注調整の目的で開かれることを認識した上で、これに出席したなどの事実を考慮しても、被審人が本件合意に基づき下田物件について受注調整を行ったものとは認めるに足りない。
2 これに加え、本件期間中に下田物件より後に被審人が指名を受けた航空写真物件については、被審人が受注調整をしたことをうかがわせる事実は見当たらない。
3 以上の次第で、被審人が本件合意に加わっていたものとは認められない。
なお、審査官は、株式会社協和エクシオに対する審決の趣旨が本件に及ぶと主張するが、同審決は受注予定者を決める基本合意の存在を認定した上で、課徴金の計算の基礎としての売上額の算定に際して受注予定者を1社に絞りきれなかった入札物件も売上額算定の対象になるとした事案であって、被審人が基本合意に加わっていたか否かを争点とする本件とは事案を異にするものであり、同審決の趣旨が本件事案に及ぶということはできない。
第三 法令の適用
以上によれば、被審人について審査官主張の違反行為を認めることができず、独占禁止法第54条第3項の規定により、主文のとおり審決することが相当であると思料する。
平成12年7月21日
公正取引委員会事務総局
審判官 金子 順一
審判官 栗田 誠
審判官中出孝典は転任につき署名押印することができない。
審判官 金子 順一
五 技研システム(株)に対する件(関係法条3条後段)
平成2年(判)第5号
審判開始決定書
東京都新宿区西新宿3丁目6番17号昭和新宿ビル
被審人 技研システム株式会社
右代表者 代表取締役 脇坂 嘉紀
公正取引委員会は、右の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第49条第1項の規定に基づき、審判手続を開始する。
第一 事実
一1 被審人技研システム株式会社(以下「技研システム」という。)は、肩書地に本店を置き、測量法の規定に基づき建設大臣の登録を受け、千葉市の区域において測量業を営む者である。
2 別紙1記載の90社(以下「90社」という。)は、それぞれ、「本店の所在地」欄に記載された場所に本店を置き、測量法の規定に基づき建設大臣の登録を受け、千葉市の区域において測量業を営む者である。
90社のうち、ケーエス・コンサルタント株式会社は君津測量株式会社が平成8年4月9日に、新栄測量株式会社は株式会社新栄コンサルタントが平成8年2月21日に、それぞれ商号を変更したものであり、株式会社測地開発コンサルタントは有限会社測地開発コンサルタントが平成7年8月7日に組織を変更したものであり、株式会社ジオ・サーベイは株式会社東京測技が株式会社常葉測技を平成2年1月1日に吸収合併し、商号を変更したものである。
3 千葉市及び同市水道局(以下「千葉市等」という。)は、測量業務のほとんどを指名競争入札又は見積り合わせ(以下「指名競
争入札等」という。)の方法により発注しており、指名競争入札等に当たっては、干葉市が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から指名競争入札等の参加者を指名している。
二 技研システム及び90社は、遅くとも平成7年4月1日以降(別紙2記載の事業者にあっては、それぞれ、「期日」欄に記載された年月日ころ以降)、千葉市等が指名競争入札等の方法により発注する測量業務(以下「千葉市等発注の特定測量業務」という。)について、受注機会の均等化及び受注価格の低落防止を図るため
1 千葉市等から指名競争入札等の参加の指名を受けた場合には、次の方法により、当該業務を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定する
(一) 当該業務について受注を希望する者(以下「受注希望者」という。)が1名のときは、その者を受注予定者とする
(二) 受注希望者が複数のときは、千葉市等の測量業務に係る発注業務担当者に対する営業活動の実績、過去の受注物件との関連性等の事情を勘案し、又は持ち点(指名実績を基に指名1回を1点とするなどして算出した点数)を勘案して、受注希望者の間の話合いにより受注予定者を決定する
(三) 受注希望者がいないときは、指名を受けた者の間の話合いにより受注予定者を決定する
2 受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。
三 技研システム及び90社は、前記二により、千葉市等発注の特定測量業務のほとんどすべてを受注していた。
四 平成10年9月10日、本件について、当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ、技研システム及び90社は、同月11日以降、前記二の合意に基づき受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。
第二 法令の適用
前記事実によれば、技研システムは、90社と共同して、千葉市等発注の特定測量業務について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、千葉市等発注の特定測量業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
平成2年9月30日
公正取引委員会
委員長 根來 泰周
委員 柴田 章平
委員 糸田 省吾
委員 黒河内 久美
委員 本問 忠良