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(株)三井住友銀行に対する件

独禁法19条一般指定14項1号

平成17年(勧)第20号

勧告審決

東京都千代田区有楽町一丁目1番2号
株式会社三井住友銀行
代表取締役 奥  正 之

公正取引委員会は,上記の者に対し,平成17年12月2日,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第48条第1項の規定に基づき,次のとおり勧告を行ったところ,上記の者がこれを応諾したので,同条第4項の規定に基づき,次のとおり当該勧告と同趣旨の審決をする。

主文
1 株式会社三井住友銀行は,自行と融資取引関係にある事業者であって,その取引上の地位が自行に対して劣っているものに対して,融資に係る手続を進める過程において,事業者との間で設定される想定元本(金利計算のための計算上の元本。以下同じ。)を基礎として算定された異なる種類の金利を契約期間において交換することを内容とする金融派生商品(以下「金利スワップ」という。)の購入を提案し,金利スワップを購入することが融資を行うことの条件である旨又は金利スワップを購入しなければ融資に関して不利な取扱いをする旨を明示又は示唆することにより金利スワップの購入を要請し,金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を取りやめなければならない。
2 株式会社三井住友銀行は,次の事項を融資取引関係にある事業者に周知するとともに,自行の行員に周知徹底しなければならない。これらの方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
(1) 前項に基づいて採った措置
(2) 今後,前項の行為を行わない旨
3 株式会社三井住友銀行は,今後,第1項の行為を行ってはならない。
4 株式会社三井住友銀行は,今後,第1項の行為を行うことのないよう,次の(1)及び(2)の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
(1) 次の事項を含む独占禁止法の遵守の観点からの金利スワップの取扱いに関する内部規定の整備
ア 自行と融資取引関係にある事業者であって,その取引上の地位が自行に対して劣っているものに対して,変動金利の上昇による借入れに係る支払金利の増加リスクを軽減(以下「金利上昇リスクのヘッジ」という。)する手段として金利スワップの購入を提案する際には,金利スワップの想定元本及び契約期間を,当該事業者が金利上昇リスクのヘッジの対象とする借入れの元本及び契約期間に対して必要な範囲内で設定すること
イ 自行と融資取引関係にある事業者であって,その取引上の地位が自行に対して劣っているものに対して,金利スワップを販売する際には,当該金利スワップの購入が融資を行うことの条件となるものではない旨及び当該金利スワップを購入しなくとも融資に関して不利な取扱いをしない旨を当該事業者に明確に知らせること
(2) 各地域に所在する法人営業部の行員に対する前記内部規定及び独占禁止法の遵守に関する定期的な研修並びにそれらの遵守に関する法務担当者による定期的な監査
5 株式会社三井住友銀行は,第1項,第2項及び第4項に基づいて採った措置を速やかに当委員会に報告しなければならない。

事実
当委員会が認定した事実は,次のとおりである。
1(1) 株式会社三井住友銀行(以下「三井住友銀行」という。)は,肩書地に本店を置き,銀行法の規定に基づき内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者であって,平成15年3月17日に株式会社わかしお銀行が,株式会社三井住友銀行(平成13年4月1日に株式会社住友銀行が株式会社さくら銀行を吸収合併して商号変更したもの。以下「旧三井住友銀行」という。)を吸収合併し,現商号に変更したものである。
(2) 三井住友銀行の平成17年3月末日現在における総資産額は約91兆円であり,総資産額につき我が国の銀行業界において第1位の地位にある。
(3) 平成11年3月,株式会社住友銀行及び株式会社さくら銀行がそれぞれ金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律(平成10年10月22日法律第143号)に基づき,預金保険機構から両行の優先株式の引受けによる公的資金の注入を受けたため,両行の事業を承継した三井住友銀行は,同法第5条の規定に基づき,内閣総理大臣に対して,経営の合理化,資金の貸付けその他信用供与の円滑化,財務内容の健全性,業務の健全かつ適切な運営の確保等のための方策を定めた計画を提出し,同計画に従って資産の圧縮や収益力強化に向けた経営の合理化を推進し,収益の向上に努めている。
(4)ア 金融機関は,特に中小事業者に対して変動金利により融資を行う場合,最優遇顧客に対する貸出金利として自行で設定している短期プライムレートと称する基準金利に,融資を受ける事業者の信用状況等を踏まえて一定の利率を上乗せした貸出金利を設定している。
イ 我が国では,長らくデフレ状況にあり,消費者物価指数は前年比マイナス傾向が続いていることから,短期金利は長期的に低い水準にあり,平成8年9月以降,主要な都市銀行の短期プライムレートは1.5パーセント前後で推移しており,特に,平成13年3月以降は1.375パーセントという極めて低い水準で推移している。
(5) 三井住友銀行は,主として変動金利で融資を行う機会を利用して,融資とは別の商品である金利スワップを販売しているところ,金融機関から変動金利による借入れを受けている事業者は,三井住友銀行から変動金利を受け取り,固定金利を支払うことを内容とする金利スワップを購入することによって,金融機関からの借入れに係る変動金利を固定化することが可能となり,金利上昇リスクのヘッジをすることができる。
(6) 三井住友銀行と融資取引を行っている事業者,特に中小事業者の中には
ア 金融機関からの借入れのうち,主として三井住友銀行からの借入れによって資金需要を充足している
イ 三井住友銀行からの借入れについて,直ちに他の金融機関から借り換えることが困難である
ウ 事業のための土地や設備の購入に当たって三井住友銀行からの融資を受けられる旨が示唆された後,当該土地や設備の購入契約を進めたことから,当該融資を受けることができなければ他の方法による資金調達が困難である
など,当面,三井住友銀行からの融資に代えて,三井住友銀行以外の金融機関からの融資等によって資金手当てをすることが困難な事業者(以下「融資先事業者」という。)が存在する。融資先事業者は,三井住友銀行から融資を受けることができなくなると事業活動に支障を来すこととなるため,融資取引を継続する上で,融資の取引条件とは別に三井住友銀行からの種々の要請に従わざるを得ない立場にあり,その取引上の地位は三井住友銀行に対して劣っている。
(7)ア(ア) 旧三井住友銀行は,平成13年度以降,金利スワップの購入実績がない取引先に対して積極的に金利スワップの販売を推進すること等を内容とする,金利スワップの販売による収益の増加を目的とした事業計画を策定するなどして,金利スワップの販売に係る営業活動を積極的に行っていた。
(イ) 三井住友銀行は,旧三井住友銀行の前記(ア)の金利スワップの販売に係る営業活動の方針を引き継ぐとともに,金利スワップの契約期間が終了する事業者に対して金利スワップを再購入するよう積極的に要請すること等を内容とする,金利スワップの販売による収益の増加を目的とした事業計画を策定するなどして,金利スワップの販売に係る営業活動を積極的に行っている。
イ 三井住友銀行(平成15年3月16日以前は,旧三井住友銀行。以下同じ。)は,前記アの事業計画に基づき各法人営業部(三井住友銀行が日本国内の各地域に置いている,事業者に対する営業活動の拠点。以下同じ。)の収益目標を設定し,同目標に基づき各法人営業部の営業担当者(以下「担当者」という。)に対し,一定の収益目標を課している。
三井住友銀行においては,前記収益目標の達成度を判断する場合,金利スワップの想定元本に一定の利率及び契約年数を乗じた額を当該金利スワップが販売された年度の収益として計算しており,担当者は,課せられた収益目標を達成するため,事業者に対して金利スワップを積極的に販売している。
ウ 三井住友銀行は,事業者における金融機関からの借入れ(特に,他の金融機関からの借入れ)に係る支払金利の種類,弁済条件等の個別の借入れの内容及び事業者における将来の金融機関からの借入れの予定について十分に検討することなく,また,金利スワップの想定元本又は契約期間が,金利上昇リスクのヘッジの対象となる借入れの元本又は契約期間を上回る設定(金利スワップの想定元本が契約期間中に金利上昇リスクのヘッジの対象とした借入れの元本を上回ることになる設定も含む。以下「オーバーヘッジ」という。)となる金利スワップの購入を提案し,販売している場合がある。
2(1) 三井住友銀行は,融資先事業者から新規の融資の申込み又は既存の融資の更新の申込みを受けた場合に,融資に係る手続を進める過程において,融資先事業者に対し,金利スワップの購入を提案し,融資先事業者が同提案に応じない場合に
ア 金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨,又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資のイ 条件よりも不利な取扱いをする旨明示する
担当者に管理職である上司を帯同させて重ねて購入を要請するなどにより,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨,又は金利スワップを購入しなければ融資に関して通常設定される融資の条件よりも不利な取扱いをする旨示唆する
ことにより金利スワップの購入を要請し,融資先事業者に金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を行っている。
(2) 三井住友銀行の前記(1)の行為について例示すると次のとおりである。
ア 三井住友銀行は,平成14年,借入れの大部分を同行から受けており,定期的に生じる資金需要に係る融資を受けるために融資枠の更新を申し込んだ事業者に対して,当該事業者における個別の借入れの内容について十分に検討することなく,オーバーヘッジとなる金利スワップの購入を提案した。
三井住友銀行は,当該事業者が,金利スワップを必要としておらず,また,金利スワップに係る支払いによる金銭的負担も大きいと考え,複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず,金利スワップを購入しなければ融資枠の更新に関して不利な取扱いを行う旨明示し,担当者に管理職である上司を帯同させるなどして重ねて金利スワップの購入を要請した。これにより,当該事業者は,融資枠の更新を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え,金利スワップを購入することを余儀なくされた。
イ 三井住友銀行は,平成15年,借入総額の半分以上を同行から受けており,運転資金の融資を申し込んだ事業者に対して,当該事業者における個別の借入れの内容について十分に検討することなく,オーバーヘッジとなる金利スワップの購入を提案した。
三井住友銀行は,当該事業者が既に同行から金利スワップを購入しており,新たな金利スワップを購入すれば融資に係る支払金利以外の金銭的負担が増加することとなり,また,金利上昇リスクのヘッジを行う必要があるほど変動金利が上昇することは当面ないと考え,複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず,担当者に管理職である上司を帯同させるなどして重ねて金利スワップの購入を要請することにより,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨示唆した。これにより,当該事業者は,融資を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え,金利スワップを購入することを余儀なくされた。
ウ 三井住友銀行は,平成15年,借入れの相当額を同行から受けており,支払手形の決済資金を手当てするために短期融資を申し込んだ事業者に対して,支払手形の決済日までに他の金融機関から融資を受けることが困難である時期に,当該事業者における個別の借入れの内容について十分に検討することなく,オーバーヘッジとなる金利スワップの購入を提案した。
三井住友銀行は,当該事業者が,融資に係る支払金利以外の金銭的負担が増加することとなり,また,金利上昇リスクのヘッジを行う必要があるほど変動金利が上昇することは当面ないと考え,複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず,金利スワップを購入することが融資を行うことの条件であるように認識させる文書を提示し,担当者に管理職である上司を帯同させるなどして重ねて金利スワップの購入を要請することにより,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨示唆した。これにより,当該事業者は,融資を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え,金利スワップを購入することを余儀なくされた。
エ 三井住友銀行は,平成16年,借入れのすべてを同行から受けており,設備資金等の手当てのために融資を申し込んだ事業者に対して,当該事業者における個別の借入れの内容について十分に検討することなく,当該融資を行う旨示唆した後,当該事業者に既に販売していた金利スワップがオーバーヘッジとなっていたにもかかわらず,新たな金利スワップの購入を提案した。
三井住友銀行は,当該事業者が既に同行から金利スワップを購入しており,新たな金利スワップを購入すれば金銭的負担が増加することとなり,また,金利上昇リスクのヘッジを行う必要があるほど変動金利が上昇することは当面ないと考え,複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず,融資実行日の前日に至るまで金利スワップを購入するよう重ねて要請することにより,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨示唆した。これにより,当該事業者は,融資を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え,金利スワップを購入することを余儀なくされた。
(3) 三井住友銀行のこれらの行為の結果,金利スワップの購入を余儀なくされた融資先事業者は,融資に係る支払金利に加えて,当該金利スワップの契約期間において金利スワップに伴う固定金利と変動金利の差額を支払い続けなければならず,また,当該金利スワップを契約期間中に解約しようとするには一括して所要の解約清算金を支払わなければならず,融資に係る支払金利以外の金銭的負担を強いられることとなっている。

法令の適用
上記の事実に法令を適用した結果は,次のとおりである。
上記の事実の1(6)記載のとおり融資先事業者の取引上の地位は三井住友銀行に対して劣っているところ,三井住友銀行が,上記の事実の2(1)のとおり,融資先事業者に対して,融資に係る手続を進める過程において,金利スワップの購入を提案し,金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨又は金利スワップを購入しなければ融資に関して不利な取扱いをする旨明示又は示唆することにより,融資先事業者に金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を行っていることは,自己の取引上の地位が融資先事業者に対して優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,融資先事業者に対し,融資に係る商品又は役務以外の金利スワップを購入させているものであり,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項第1号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって,主文のとおり審決する。

平成17年12月26日

委員長 竹島一彦
委員 柴田愛子
委員 三谷紘
委員 山田昭雄
委員 濱崎恭生

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