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(株)ベイクルーズに対する件

景品表示法第4条第1項第3号

平成17年(判)第3号

審判審決

東京都渋谷区神南一丁目5番6号
被審人 株式会社ベイクルーズ
同代表者 代表取締役 窪 田   祐
同代理人 弁 護 士 鈴 木 勝 利
同          丸 山 恵一郎
同          大 野 徹 也
同          佐 野 知 子
同          崔   宗 樹
同          増 渕 勇一郎
同          渡 邉 宙 志
同復代理人 弁護士  池 田 千 絵
同          渡 邉   迅

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)(以下「独占禁止法改正法」という。)附則第22条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)に基づく平成17年(判)第3号景品表示法違反審判事件について,独占禁止法改正法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官鵜瀞恵子及び審判官高橋省三から提出された事件記録並びに規則第84条の規定により被審人から提出された異議の申立書及び規則第86条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
1 被審人は,自社の小売店舗において販売したジー・ティー・アー モーダ社製のズボンの取引に関し,一般消費者の誤認を排除するために,平成12年2月ころから平成16年7月ころまでの間に被審人が行った,当該ズボンの原産国がルーマニアであるにもかかわらず,あたかも,原産国がイタリア共和国であるかのように示した表示は,事実と異なるものであり,かかる表示は,当該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示である旨を速やかに公示しなければならない。この公示の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
2 被審人は,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,原産国がイタリア共和国でないのにイタリア共和国であるかのように示す表示が行われることを防止するために必要な措置を講じ,これを自社の役員及び従業員に周知徹底させなければならない。
3 被審人は,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,原産国がイタリア共和国でないのにイタリア共和国であるかのように示す表示を行うことにより,当該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示をしてはならない。
4 被審人は,第1項に基づいて行った公示及び第2項に基づいて採った措置について,速やかに文書をもって当委員会に報告しなければならない。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,別紙審決案の理由第1ないし第4と同一であるから,これを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第54条第2項,景品表示法第7条第1項及び第2項並びに規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成19年1月30日

公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委員 三谷 紘
委員 山田 昭雄
委員 濱崎 恭生

別紙
平成17年(判)第3号
審   決   案

東京都渋谷区神南一丁目5番6号
被審人 株式会社ベイクルーズ
同代表者 代表取締役 窪 田   祐
同代理人 弁 護 士 鈴 木 勝 利
同          丸 山 恵一郎
同          大 野 徹 也
同          佐 野 知 子
同          崔   宗 樹
同          増 渕 勇一郎
同          渡 邉 宙 志

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)(以下「独占禁止法改正法」という。)附則第22条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)に基づく平成17年(判)第3号景品表示法違反審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法改正法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定により担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定により本審決案を作成する。

主       文
1 被審人は,自社の小売店舗において販売したジー・ティー・アー モーダ社製のズボンの取引に関し,一般消費者の誤認を排除するために,平成12年2月ころから平成16年7月ころまでの間に被審人が行った,当該ズボンの原産国がルーマニアであるにもかかわらず,あたかも,原産国がイタリア共和国であるかのように示した表示は,事実と異なるものであり,かかる表示は,当該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示である旨を速やかに公示しなければならない。この公示の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
2 被審人は,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,原産国がイタリア共和国でないのにイタリア共和国であるかのように示す表示が行われることを防止するために必要な措置を講じ,これを自社の役員及び従業員に周知徹底させなければならない。
3 被審人は,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,原産国がイタリア共和国でないのにイタリア共和国であるかのように示す表示を行うことにより,当該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示をしてはならない。
4 被審人は,第1項に基づいて行った公示及び第2項に基づいて採った措置について,速やかに文書をもって公正取引委員会に報告しなければならない。

理       由
第1 事実及び証拠
1 被審人等の概要
(1) 被審人は,肩書地に本店を置き,衣料品の小売業等を営む事業者である。(争いがない。)
(2) 八木通商株式会社(以下「八木通商」という。)は,大阪市中央区今橋三丁目2番1号に本店を置き,衣料品の輸入卸売業等を営む事業者である。(争いがない。)
(3) ジー・ティー・アー モーダ社はイタリア共和国(以下「イタリア」という。)に所在する衣料品の製造業者である。(争いがない。)
2 違反行為
(1) 被審人は,八木通商が輸入したジー・ティー・アー モーダ社製のズボンを購入して,平成12年2月ころから平成16年7月ころまでの間,被審人の小売店舗において一般消費者向けに販売を行った(被審人が購入・販売したこれらのズボンを,以下「本件商品」という。)。(争いがない。)
被審人が上記期間に販売のために仕入れた本件商品の数は約5,700着であった。(査第10号証)
(2) 本件商品には,八木通商の社名とともに「イタリア製」と記載された品質表示タッグ(以下「本件品質表示タッグ」という。)並びに被審人の社名及び商標とともに「イタリア製」と記載された下げ札(以下「本件下げ札」という。)が取り付けられており,これらは原産国がイタリアである旨の表示であると認められる。(査第3号証。これらの表示を,以下「本件原産国表示」という。)
しかし,本件商品は,実際にはルーマニアで縫製されたものであると認められるところ(査第4号証,第7号証,第9号証,第13号証),「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号。以下「原産国告示」という。)において,原産国とは,その商品の内容について実質的な変更をもたらす行為が行われた国をいう旨規定されていることから,本件商品の原産国はルーマニアと解されるものであった。
(本件品質表示タッグ及び本件下げ札の例は,別紙のとおりである。)
第2 本件の争点及び双方の主張
1 本件の争点
本件の争点は,被審人は景品表示法上の表示を行った者(表示の主体)に該当するか(争点1),本件原産国表示が景品表示法上の「表示」に当たるか否か(争点2),排除措置の要否(争点3),被審人に対して排除措置を命じることが平等原則違反といえるか(争点4)の4点である。
2 表示の主体について(争点1)
(1) 審査官の主張
景品表示法の目的は,商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止することにより,公正な競争を確保し,もって一般消費者の利益を保護すること(同法第1条)であり,事業者が不当な表示等により顧客を誘引することを防止することにある。すなわち,事業者は,自己の商品又は役務を供給するに際し,一般消費者を誘引するために,自己の供給する商品若しくは役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について,一般消費者に示す様々な表示を作成するところ,景品表示法は,これらの表示が不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる場合に,規制の対象としている。このような観点から,景品表示法第4条における「表示を行った者」とは,「表示の作成に関与し,当該表示を自ら又は第三者を通じて一般消費者に示した事業者」と解され,「作成に関与」とは,自ら積極的に表示を作成する形での関与のみならず,他の者の表示内容に関する説明を受容してその内容どおりの表示を作成することや,表示の作成を白紙委任的に他の事業者に任せることを含むと解される。
本件において,被審人は,八木通商に対し,購入申込書兼契約書を渡し,同購入申込書兼契約書に基づいて,本件品質表示タッグ及び本件下げ札の作成及び取付けを依頼し,八木通商は,この依頼に基づいて,本件品質表示タッグ及び本件下げ札を東京吉岡株式会社に作成させ,丸二倉庫株式会社において本件商品に取り付け,被審人に納入していた。被審人は,これらを「EDIFICE(エディフィス)」,「DEUXIEME CLASSE(ドゥーズィエム クラス)」等と称する被審人直営の小売店舗において一般消費者に販売した。
したがって,被審人は,本件品質表示タッグ及び本件下げ札の作成に関与し,それらを一般消費者に示したものであって,景品表示法上の表示をした者に該当する。
(2) 被審人の主張
景品表示法第4条の規制を受ける表示主体とは,表示内容を決定し,ないしは決定に実質的に関与した者のことをいい,その内容の決定に関与した者が複数いるときは,その中のいずれか実質的な決定者が表示主体として取り扱われるべきである。
被審人は,本件商品について,八木通商に対し,品質表示タッグ及び下げ札の作成と取付けを依頼したにすぎない。品質表示タッグ及び下げ札に原産国表示が付されることは,商慣習上了解していたが,原産国表示を付してほしいとの積極的な指示はしていない。また,原産国表示の内容は八木通商が自らの判断と責任で決定することが,商慣習上の扱いになっていたし,八木通商と被審人との暗黙の了解事項でもあった。
以上のように,被審人が行った品質表示タッグ及び下げ札の作成依頼は,原産国表示の内容決定に当たって,その表示内容を左右し得るような実質的な影響力は皆無であって,本件原産国表示について,表示の内容を決定し,ないしは決定に実質的に関与した者とはいえない。
3 本件原産国表示が景品表示法上の「表示」に当たるか否か(争点2)
(1) 被審人の主張
景品表示法にいう「表示」とは,「①顧客を誘引するための手段であること,②事業者が行うものであること,③自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行うものであること,④広告その他の表示であって,公正取引委員会が指定するものであること」の4つの要件を満たすことが必要である。
しかし,本件原産国表示は,上記①の要件を満たさない。
被審人は,本件商品のデザイン,品質に着目して販売しているのであり,「イタリア製」であることを顧客誘引の手段と考えていない。このことは,被審人が,八木通商に対し,品質表示タッグ及び下げ札を発注する際に,「イタリア製」であるとの原産国表示を求めていないことからも明らかである。
実際に,一般消費者が,本件品質表示タッグ及び本件下げ札に小さく記載された原産国を基準にして商品を購入する実態はない。
また,被審人は,平成16年9月1日以降,「ルーマニア製」と表示してジー・ティー・アー モーダ社製のズボンの販売を再開したが,消費者に対する売上げに変化はないのであって,「イタリア製」である旨の本件原産国表示が,顧客誘引の手段となり得ないことは明らかである。
(2) 審査官の主張
原産国告示は,景品表示法第4条第1項第3号により,「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがある」表示として指定されたものであり,その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの(原産国告示第2項)が不当表示となるとする類型的な指定であって,本件表示は,同告示に該当する表示である以上,不当に顧客を誘引するものであることは明らかである。
したがって,被審人の主張は失当である。
4 排除措置の要否について(争点3)
(1) 被審人の主張
ア 被審人の対応について
被審人は,原産国誤記表示の疑念が生じた段階で,直ちに本件商品の販売を中止し,平成16年9月から平成17年1月25日までの間,被審人のウェブサイト及び店頭告知により,事実経緯について一般消費者に告知し,本件商品の回収と代金の返金を行っている。そして,被審人は,現在,ジー・ティー・アー モーダ社製のズボンを「ルーマニア製」と表示して,販売を再開している。
ウェブサイトは,一般消費者に対する情報提供手段としては有効な手段として社会的に認知されており,被審人の商品に興味を持っている一般消費者の多くが,被審人のウェブサイトを参照することが容易に予想されるのであって,日刊新聞紙に掲載する方法よりも効果的な広告がされているものといえる。
また,被審人の顧客は,何度も被審人の店舗を訪れるリピーターと呼ばれる顧客が非常に多く,本件商品を購入した一般消費者の多くが再び店舗を訪れる。そして,店頭告知は,本件商品が陳列されていた場所と同じ陳列棚付近とレジカウンターの上に設置されていたもので,一般消費者の多くの目に留まっていることが確実である。
そして,本件で問題となった表示を「ルーマニア製」との表示に改めた後であっても,被審人におけるジー・ティー・アー モーダ社製のズボンの売上げに変化がみられないことからみても,本件における原産国誤記の表示が消費者に与えた影響は小さかったものといえる。
さらに,本件のごとく違反状態作出に対する責任を負っている国内の中間輸入業者が存在している場合には,当該中間輸入業者に対する処分のみを下せば,行政処分の効果(違反状態の是正と予防)を十分に挙げることができ,その目的は十分に達成されることになる。
以上のとおり,被審人の適切な対応により,一般消費者の誤認はすべて排除され,かつ,その影響も比較的軽微なものにとどまっており,本件は,八木通商に対する処分で必要かつ十分であるから,さらに被審人に行政処分を課す必要はない。
また,仮に被審人にも処分が必要だとしても,警告などの処分を超えて排除命令を出す必要性はない。
イ 排除命令が不当であることについて
そもそも違反状態を阻止することが不可能な者について,その違反状態を生じさせた責任を問うことはできないし,結果として小売業者に不可能を強いるような行政処分は比例原則に反する。
本件商品は,輸入業者が買い付けてきた商品の中から小売業者が気に入った商品を選別して購入する取引によって購入したものであり,このような取引において原産国表示の内容を決定しているのは輸入業者である。被審人のような小売業者はこれを決定する立場になく,決定する能力もなく,表示内容の真実性を確認する能力がない。また,仮に小売業者が,決定された表示内容が真実と異なることに気づいたとしても,輸入業者に対してその表示内容の是正を求める権限を有していない。
さらに,アパレル業界において,商慣習上,被服の輸入販売に当たり,輸入業者にインボイスの提示を求める慣行は存在せず,また,インボイスは,輸入業者の営業上の秘密に属するため開示を強制することは不可能であり,開示されたとしても,その記載内容が正確であるか否かを小売業者が検証する手段はないから,インボイスを確認することにより,原産国の誤記を防止できるとか,原産国誤記の再発を防ぐことができるということはない。
以上からみても,被審人に対し,排除命令を下すことは,被審人に不可能を強いるものであって不当である。
なお,被服の輸入販売について,公正取引委員会は,原産国表示の表示者の判断基準や被服の輸入販売に当たって販売業者が尽くすべき調査内容についてのガイドラインを示していないため,被服の販売業者は,原産国表示の内容についてどこまで調査し,確認する必要があるのか分からない状況にある上,販売業者が,自らの責任で輸入業者の説明を検討するにはコストがかかり,輸入品の価格は上昇する。本件において被審人に排除命令を下すことは,見えざる輸入障壁を設ける結果となるというべきで,国内外の経済に多大な悪影響を与えることになることにかんがみれば,本件について排除命令を下すことは明らかに不当である。
(2) 審査官の主張
ア 審判手続の開始の請求は,当該排除命令に係る行為自体についてするものであり,その請求によって開始される審判手続における審判対象も当該排除命令に係る行為の存否等であって,当該排除命令の当否ではない(東京高等裁判所平成8年3月29日判決・公正取引委員会審決集第42巻457ページ,最高裁判所平成12年3月14日判決・公正取引委員会審決集第46巻581ページ)。
したがって,被審人の主張は本件審判の対象とならない。
イ 景品表示法は,同法の目的を効果的に達成するために,公正取引委員会に対して同法第4条の違反行為に対する排除命令に関し広範な裁量権を付与しており,排除命令を行う際に,どのような内容を命じるかについても公正取引委員会に広い裁量が認められている。
また,排除命令において命じる公示は,一般消費者に対し,事実と異なる表示の存在及び当該事業者が誤認される表示を行っていたことを広く知らせ,一般消費者の誤認を排除することを目的としたものであるところ,被審人のウェブサイトや店頭ポップの文面は,自らが誤認される表示を行ったということが明確にされていないなど,上記の目的に照らし不十分な内容である。そして,被審人が文面を掲載したウェブサイトは,閲覧者の意思によりアクセスされるという性質上,告知方法として不十分であり,また,新聞日刊紙のように広く一般消費者に閲覧されるものでもない。
したがって,被審人による前記文面のウェブサイトへの掲載は,一般消費者の誤認を排除するための十分な内容及び方法を共に満たしていないことから,被審人に対しては同社に対する本件排除命令のとおり公示を求める必要がある。
ウ 被審人は八木通商に対し,例えば,インボイス等の輸入関係書類の確認を求めること等を通じて,本件行為が再び行われることを防止するために必要な措置を採ることは可能であり,被審人に対し,本件排除命令どおりの再発防止策を求める必要がある。
なお,公正取引委員会が景品表示法に基づく排除措置を命じるに当たって,事前に被審人が主張するようなガイドラインを定めることが,法律上の要件とされていないことは論ずるまでもない。
5 本件処分の平等原則違反について(争点4)
(1) 被審人の主張
ア 他の小売業者との平等性について
本件おいて,八木通商を通じて本件商品を購入して一般消費者に販売した会社は,被審人ら5社のほか33社あり,公正取引委員会では,すべて社名と取引内容をすべて把握しているにもかかわらず,被審人ら5社のみを明確な基準もなく選別して排除命令を出したものであって,他の会社に対しては警告すら出さず,調査も十分に行わないまま放置している。
仮に,各社の本件商品の販売量について差があるとしても,被審人ら5社のみに対しては排除命令という厳罰に処し,他の会社については違反行為のすべてを不問にするということは著しくバランスを欠き,被審人ら一部の業者を見せしめとして処罰しようという恣意的,差別的な意図が強く感じられる。
公正取引委員会のした排除命令が平等原則違反の違法なものであるといえるのは,「処分の相手方である事業者以外の違反行為をした事業者に対しては行政処分をする意思がなく,右処分の相手方である事業者に対してのみ,差別的意図をもって当該行政処分をした」場合とする判例(東京高等裁判所平成8年3月29日判決)があるが,本件はこれに該当するものであって,本件における被審人に対する処分は,処分を免れた他の33社に対する対応に比べ,著しく不平等で違法なものである。
イ 過去の事例との平等性について
被審人に対する本件排除命令は,次に掲げる過去の事例と比べても,処分対象の選別範囲,処分内容の重さとの関係において,著しく均衡を欠き,平等性を欠いている。
公正取引委員会が,平成15年11月10日,株式会社ウルシハラ(以下「ウルシハラ」という。)に対して行った排除命令は,ウルシハラが輸入したニット製手袋,繊維製手袋について,輸入される際に付されていた「中国製」との記載がある表示物を取り去り,新たに「日本製」の記載がある下げ札を取り付けたという事例であったが,同事例においてはウルシハラに対してのみ排除命令を行い,ウルシハラから購入した国内の販売業者やウルシハラに商標使用を認めたライセンサーに対しては警告すら出していない。
本件における被審人は,八木通商から本件商品を購入しただけにすぎず,ウルシハラにおける国内販売業者と異ならない立場にあるから,処分対象から除外されるべきである。
また,公正取引委員会は,平成15年10月31日,被服を輸入した後「中国産」と記載された表示物を故意に取り除いて(あるいはさらに「日本製」と表示する表示物を故意に取り付けて),販売した婦人服販売業者3社に対し,警告処分をしているところ,本件における被審人の行為は,単に八木通商に品質表示タッグ及び下げ札の取付けを依頼しただけであって,原産国表示については,過失さえなかったもので,上記のような悪質な業者に対して軽い警告処分でとどめながら,被審人に対しては重い排除命令を出すのは不当である。
(2) 審査官の主張
景品表示法は,同法の目的を効果的に達成するために,公正取引委員会に対して同法第4条の違反行為に対する排除命令に関し広範な裁量権を付与しているところ,当該行政処分が平等原則に違背する違法なものとなるのは,公正取引委員会が,処分の相手方である事業者以外の違反行為をした事業者に対しては行政処分をする意思がなく,処分の相手方である事業者に対してのみ,差別的意図をもって当該行政処分をしたような場合などに限られるものと解すべきである(東京高等裁判所平成8年3月29日判決・公正取引委員会審決集第42巻457ページ,最高裁判所平成12年3月14日判決・公正取引委員会審決集第46巻581ページ)。
一方,公正取引委員会は,排除命令の措置を採るに当たっては,違反事業者の規模,違反行為の地域,違反内容の程度等から,一般消費者の誤認の程度や市場に与える影響等を総合的に考慮して合理的な判断を行っている。
本件において,被審人は,平成16年9月時点で判明していた直近の年間売上高で260億円もの売上げを上げており(査第10号証3ページ),セレクトショップと呼ばれる高級衣料品専門店の中でも,消費者や市場に与える影響の大きい有数な事業者であることは明らかである。しかも,被審人は,八木通商にとって,株式会社ビームス及び株式会社トゥモローランドとともに,ジー・ティー・アー モーダ社製ズボンの有力な販売先であり(査第9号証4ページ),平成12年春夏シーズン物から平成16年春夏シーズン物までの長期にわたり,合計約5,700着もの大量のジー・ティー・アー モーダ社製ズボンを販売していることを考慮すれば,景品表示法の趣旨・目的を効果的に達成する観点から,排除措置を命じることには十分な合理性がある。
第3 審判官の判断
1 表示の主体について(争点1)
(1) 景品表示法は,不当な表示による顧客の誘引を防止するため,事業者に自己の供給する商品等の取引について一定の不当な表示をすることを禁止し(同法第4条第1項),公正取引委員会は,これに違反する行為を行った事業者に対し,その行為の差止め又はその行為が再び行われることを防止するために必要な事項等を命ずべきこととしており(同法第6条第1項),このような規制の趣旨に照らせば,当該不当な表示についてその内容の決定に関与した事業者は,その規制の対象となる事業者に当たるものと解すべきであり,そして,この場合の「決定に関与」とは,自ら若しくは他の者と共同して積極的に当該表示の内容を決定した場合のみならず,他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた場合や,他の者にその決定を委ねた場合も含まれるものと解すべきである。この場合において,当該表示が同法第4条第1項に規定する不当な表示であることについて,当該決定関与者に故意又は過失があることを要しない。
(2) これを本件についてみると,査第7号証ないし査第11号証によれば,被審人は,被審人独自の視点から選択した商品群を消費者に提示するいわゆるセレクトショップという業態で衣料品の小売業を営んでいるところ,平成11年に本件商品の購入を始めるに当たり,八木通商の説明に基づき本件商品がイタリア製であると認識し,その認識の下に,本件品質表示タッグ及び本件下げ札の作成及び取付けを八木通商に委託して,八木通商がこれに応じ,「イタリア製」と記載した本件品質表示タッグ及び本件下げ札を作成し,本件商品に取り付けたこと,並びに,被審人は,その後平成16年までの間,累次にわたり本件商品を購入し,上記と同様の方法により上記の表示を付した本件商品の販売を継続して行ったものであることを認めることができ,また,これらの事実に照らせば,被審人は,本件品質表示タッグ及び本件下げ札の作成を八木通商に委託するに当たり,これにイタリア製である旨の記載がされることを認識していたものと推認することができる。
以上からすると,被審人は,本件品質表示タッグ及び本件下げ札の表示内容の決定に関与した者に該当することは明らかというべきである。
被審人が八木通商に対し,原産国表示を付してほしいとの積極的な指示はしていないこと,被審人と八木通商との間で,原産国表示の内容は八木通商の判断と責任で決定することになっているのが商慣習上の扱いであり,双方の暗黙の了解事項であったこと,及び,本件品質表示タッグには,会社名としては八木通商のみ記載され,被審人の社名等が記載されていないことは,いずれも上記判断を左右しない。
2 本件原産国表示が景品表示法上の「表示」に当たるか否か(争点2)
被審人は,本件商品は,デザイン等に着目して販売しているのであり,一般消費者も原産国の表示を見て本件商品を購入する実態はなく,本件原産国表示が顧客を誘引するための手段に当たらず,景品表示法第2条第2項に規定する「表示」に当たらないと主張して,「イタリア製」から「ルーマニア製」に表示を改めた後も被審人の売上げに変化がないことを示す審第3号証を提出する。
しかし,一般に,原産国に関する表示は,一般消費者の商品選択に資する情報提供の一つとしてされるものであって,その商品選択に係る資料としての重要性の大小の違いはあっても,およそ顧客を誘引する手段に当たらないということはできない。
したがって,上記被審人の主張は採用できない。
3 排除措置の要否について(争点3)
被審人は,既に被審人が自主的に十分な排除措置を採っていると主張する。不当表示行為が認められる場合の排除措置としては,景品表示法第6条第1項に照らし,一般に,当該行為を取りやめること(差止め),当該行為によって生じた一般消費者の誤認を排除すること(誤認排除)及び被審人における同様の行為の再発を防止すること(再発防止)が考えられるところ,本件においては不当表示行為はなくなっているので,誤認排除及び再発防止の観点から,排除措置を命じることの要否を検討する。
(1) 誤認排除のための措置
ア 被審人の対応について
審第9号証,審第10号証及び被審人役員の和田健(以下「和田」という。)の参考人審訊における供述(第8回審判における同人の参考人審訊速記録)によれば,本件商品がルーマニア製であることが被審人に判明した後,被審人は,次の対応を採ったことが認められる。
被審人は,被審人が開設しているウェブサイトに,「GTA MODA社製品の原産国誤記表示について お詫びとお知らせ」と題し,「・・・弊社が日本総輸入代理店である八木通商株式会社より仕入れ,・・・販売致しました,イタリア国GTA MODA社の製造にかかる「商品」の原産国の表示につきまして,・・・・お客様に誤解を与える表示がありました。このイタリア国GTA MODA社の製造による商品は,実際の生産国がルーマニア国生産であるにも拘わらず,当該輸入代理店の事実誤認によるイタリア国生産との報告のもとにイタリア国の原産国表示にて販売していたことが判明致しました。・・・」と記載した上,対象商品の商品名,ブランド名,販売期間,ブランドネームの写真等を掲載した。さらに,被審人は,本件商品取扱店舗のレジカウンター上に,「GTA MODA社製品の原産国誤記表示について お詫びとお知らせ」と題し,「・・・下記の商品に付記しておりました原産国の表示に誤りがありました。(正 ルーマニア国生産 誤 イタリア国生産)・・・」と記載し,対象商品の商品名,ブランド名,販売期間,ブランドネームの写真等を掲載したA4判の大きさの店頭告知を設置し,同内容の告知を店舗内の本件商品販売コーナーにも設置した。
イ 上記の被審人の対応により,被審人は,消費者の誤認はすべて排除されたとし,また,八木通商に対する排除命令も出されている以上,さらに被審人に対し,行政処分を課す必要はない旨主張する。
ウ 不当表示行為によって生じた誤認を排除するために,当該不当表示によって誘引された顧客の少なくとも大部分が不当表示の事実を知ることができるような適切な方法・内容の告知が行われる必要がある。
本件のようなセレクトショップで販売される商品については,顧客は,当該小売業者が販売する商品として商品選択をしているものと考えられ,そのような購買行動を踏まえると,別途,輸入業者により誤認排除のための措置が講じられるとしても,当該小売業者において誤認排除のための措置を講ずることが必要である。
エ 誤認排除のために採るべき告知の方法については,当該不当表示によって誘引された顧客の範囲及び購買行動によって異なり,ウェブサイト又は店頭表示によって当該顧客の大部分に告知する効果があると認められる場合がないとはいえない。しかし,本件については,本件商品を購入した消費者の購買行動等から被審人のウェブサイト又は店頭における訂正告知により,不当に誘引された顧客の大部分に告知されたと認めるに足る証拠がない。
オ 被審人は,ウェブサイトにおける掲載方法は社会的に認知されている方法であり,また,被審人の顧客にはリピーターの顧客が非常に多いとも主張するが,本件商品を購入した消費者のうち,被審人のウェブサイトを見ている者,あるいはいわゆるリピーターと呼ばれる顧客がそれぞれどの程度存在するかについて判断するに足りる証拠がない(なお,和田は,参考人審訊において,本件商品のようなズボンについてはリピーターの顧客がかなり多いと認識している旨供述している(第8回審判における同人の参考人審訊速記録)が,リピーターの顧客の割合を判断するには足りない。)のであるから,これらの者を合わせても,本件原産国表示によって誘引された顧客の大部分に告知されたということはできない。
(2) 再発防止のための措置について
ア 不当表示を行ったか否かの認定においては行為者の故意・過失の有無を問うものではないが,再発防止のための措置が必要か否かについては,対象商品・役務の取引実態から求められる注意義務を当該行為者が果たしたかも勘案して判断すべきと考えられる。
イ 小売業者が一般消費者に対しイタリア製であるとして販売することを予定して商品を輸入業者から購入する場合には,原産国に係る不当表示を防止するため,小売業者は当該商品が真にイタリア製であるか否かを確認する注意義務がある。
この場合において,原産国の確認の方法としては,輸入業者を経由するという取引の実態からすれば,自ら当該商品の製造場所を現認することまで要するものではなく,輸入業者に対し確認すれば足りると解されるが,その際,どの国の製品であるかと漫然と尋ねるのでは不十分であって,当該商品の実質的変更行為として何がどこで行われたかを質し,疑わしい場合にはその根拠を求める必要があるというべきである。
ウ 被審人は,本件商品の取引を開始する前に,八木通商の担当者から,本件商品がイタリア製であることを聞いたにすぎず,その後においても,原産国がどこであるかについては,八木通商に確認したことはなかったものと認められる(和田の参考人審訊における供述(第8回審判における同人の参考人審訊速記録3ページ))。
したがって,被審人が本件商品の原産国に係る不当表示を防止するため必要な注意をしていたものと評価することはできない。
(3) 小括
以上からすると,被審人に対して,本件違反行為によって生じた誤認の排除及び同様の行為の再発の防止のための措置を命じることが必要である。
4 本件処分の平等原則違反について(争点4)
(1) 景品表示法は,同法の趣旨・目的を効果的に達成するために,公正取引委員会に対し,当該不当な表示行為の実態に即応して規制権限を行使することができるように,排除措置を命じるについても,また,いかなる内容の措置を採るか等についても,広範な裁量権を付与している。(東京もち事件判決(東京高等裁判所平成8年3月29日判決・公正取引委員会審決集第42巻457ページ))
(2) 景品表示法に違反する特定の表示を行っている事業者が多数あると考えられる場合に,公正取引委員会が上記の裁量権を行使して,違反行為の規模,市場に与える影響,措置の実効性等を考慮して,一部の違反行為者にのみ措置を命じることがあることは当然であり,そのこと自体何ら公平を欠くものではない。
(3) しかも,被審人は平成12年2月ころから平成16年7月ころまでの長期にわたり,約5,700着の本件商品を仕入れて販売している。また,被審人は有力なセレクトショップであって若年層に名が知られた存在である。これらの事実を考慮すれば,被審人の本件違反行為の及ぼした影響は軽微とはいえず,排除措置を命じることが不当であるとは到底いえない。
(4) 行政処分が平等原則に違背する違法なものとなるのは,公正取引委員会が,処分の相手方である事業者以外の違反行為をした事業者に対しては行政処分をする意思がなく,処分の相手方である事業者に対してのみ,差別的意図をもって当該行政処分をしたような場合に限られるものと解される(上記東京もち事件判決)ところ,本件において,このような事実を裏付けるような事情は認められない。
また,被審人は,過去の事例との平等性についても主張するが,この点についても,上記(3)の事実を前提に,本件違反行為の規模,本件違反行為が市場に与える影響,措置の実効性等を考慮すると,被審人に対し,排除措置を命ずることが不当とはいえない。
第4 法令の適用
以上によれば,被審人は,本件商品の原産国について,商品の原産国に関する不当な表示(昭和48年公正取引委員会告示第34号)第2項第1号に該当する表示をしていたものであって,これは,不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律(平成15年法律第45号)附則第2条の規定により,同法附則第1条ただし書に規定する施行の日(平成15年11月23日)前に係る表示についてなお従前の例によることとされる同法による改正前の景品表示法第4条第3号の規定に,また,同施行の日以後に係る表示について適用することとされる景品表示法第4条第1項第3号の規定にそれぞれ違反するものである。
よって,被審人に対し,独占禁止法第54条第2項並びに景品表示法第7条第1項及び第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成18年11月21日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  鵜 瀞 恵 子

審判官  高 橋 省 三

審判官鈴木千帆は,差し支えのため,署名押印できない。

審判長審判官  鵜 瀞 恵 子

※別紙は省略。

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