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独禁法7条の2(独禁法3条後段)
東京高等裁判所
平成20年(行ケ)第25号,第26号,第32号及び第38号
請求認容
兵庫県西宮市池田町12番20号
第25号事件原告 株式会社新井組
同代表者代表取締役 酒井松喜
同訴訟代理人弁護士 青木武男
同 千葉睿一
同 森 葉子
同 杉森洋平
大阪市阿倍野区松崎町二丁目2番2号
第26号事件原告 株式会社奥村組
同代表者代表取締役 奥村太加典
同訴訟代理人弁護士 俵谷利幸
同 伴 義聖
東京都新宿区西新宿一丁目25番1号
第32号事件原告 大成建設株式会社
同代表者代表取締役 山内隆司
同訴訟代理人弁護士 竹内 淳
同訴訟復代理人弁護士 柏原智行
東京都千代田区三番町2番地
第38号事件原告 飛島建設株式会社
同代表者代表取締役 池原年昭
同訴訟代理人弁護士 加瀬洋一
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 竹島一彦
同指定代理人 南 雅晴
同 高原慎一
同 秋沢陽子
同 佐藤真紀子
同 大谷美穂
同 渡辺健一
平成20年(行ケ)第25号審決取消請求事件(第25号事件),第26号審決取消請求事件(第26号事件),第32号審決取消請求事件(第32号事件),第38号審決取消請求事件(第38号事件)
主文
被告が原告らに対し平成20年7月24日付けでした公正取引委員会平成14年(判)第1号ないし第34号課徴金納付命令審決のうち,原告株式会社新井組に対して課徴金1374万円,原告株式会社奥村組に対して課徴金2986万円,原告大成建設株式会社に対して課徴金5046万円及び原告飛島建設株式会社に対して課徴金1348万円の納付を命じる部分を取り消す。
訴訟費用はいずれも被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 請求の趣旨(各原告該当部分)
主文同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 事案の概要
被告は,財団法人東京都新都市建設公社(以下「公社」という。)が東京都の区域のうち区部及び島しょ部を除く区域(以下「多摩地区」という。)において平成9年10月1日から平成12年9月27目までの問(以下「本件対象期間」という。)に発注した土木工事について,原告らを含む33社が平成17年法律第35号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)3条に違反する不当な取引制限を行ったとして,上記33社のうち原告らを含む30社に対して課徴金の納付を命じる審決(公正取引委員会平成14年(判)第1号ないし第34号。以下「本件審決」という。)をした。
本件は,原告らが本件審決のうち原告ら各自に対する課徴金納付命令部分の取消しを求める事案である。
1 前提事実等(当事者間に争いがない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認める事実等)
(1) 当事者等
原告らは,いずれも建設業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受け,国内の広い地域において総合的に建設業を営む者(このような総合的広域建設業者を以下「ゼネコン」という。)であり,多摩地区に営業所を置くなどして同地区で営業活動を行っている。
公社は,東京都並びに八王子市,青梅市,町田市,福生町,羽村町及び日野町(当時の市町名)により昭和36年7月20日に設立された財団法人であり,多摩地区に所在する市町村から委託を受けるなどして,多摩地区において公共下水道の建誰等の都市基盤整備事業を行う者である。
(2) 公社による工事の発注(指名競争入札の方式(会計法29条の3第3項参照)による受注者の決定)について
公社は,昭和59年6月以降,公共下水道の建設等の工事を建設業者に発注する場合,公社が算出した予定価格が500万円以上となる工事(工種を問わない。)については,発注予定工事公表制度に基づく指名競争入札の方式,すなわち,あらかじめ工事件名,工事概要,工事の格付等級(詳細は後述)及び申込期限等を公示して,発注対象となる工事と同等の建設業者格付等級(詳細は後述)を有する競争入札参加有資格者に入札参加指名について希望を申し出させる,つまり競争入札参加希望者を公募し,応募者の中から競争入札の参加者を選定して指名し,競争入札を執行する方式を採用している(査共64)。平成6年には工事価格について,平成14年には選定事業者数について改正がされたが,上記の指名競争入札方式の基本的部分は,昭和59年以降変わっていない(査共439)。
公社は,上記の指名競争入札において,予定価格以下最低制限価格(予定価格の約8割)以上の価格幅の中で最低金額で入札した建設業者を落札者とし,同建設業者に対して当該工事を発注する。公社は,この方法により,本件対象期間中,別紙1「財団法人東京都新都市建設公社発注の特定土木工事(平成9年10月1日~平成12年9月27日)」(本件審決の審決案別紙6に同じ。以下「別紙1」という。)記載の72件の工事を発注している。
工事内容等が公示され,指名競争入札を経て工事が発注されるまでの詳細は次のとおりである。
ア 入札参加資格及び建設業者格付等級
公社は,その契約規程第10条による「東京都新都市建設公社工事請負指名業者選定基準」により,東京都財務局が作成する建設工事等競争入札参加有資格者名簿(査共469,470)に基づいて,経営状況や技術力を基に適格性がある建設業者を入札参加資格者とし,工種区分ごとに用いられるAからEまでのランク及びランク内の順位を格付けして登録している(査共436,438,439,464から466)。
イ 工事の格付等級及び入札参加者の指名
公社は,発注しようとする工事について,独自に算出した予定価格を基準として,工事の施工技術の難易性等を勘案しながら,AからEまでの格付けを行う。公社の発注する工事には,1社のみに請け負わせる場合(以下「単独施工工事」という。)と,共同企業体(以下「JV」という。)に請け負わせる場合(以下「共同施工工事」という。)があり,工事の予定価格が5億6000万円以上のものをAAランク(Aランクの建設業者2社のJVで施工する。),3億円以上5億6000万円未満のものをABランク(Aランクの建設業者1社とBランクの建設業者1社のJVで施工する。),2億6000万円以上3億円未満のものをACランク(Aランクの建設業者1社とCランクの建設業者1社のJVで施工する。),1億7000万円以上2億6000万円未満をAランク(Aランクの建設業者1社で単独施工する。)と格付ける。(以上査共64,439)
次に公社は,「工事発注表」をもって,発注する工事の件名,概要,上記の方法によって行った格付等を公示し,入札参加希望者には工事希望票(自社名,今回希望する工事及び希望理由,自社等級及び等級内の順位,公社が発注した別の工事を施工中であればその内容及び工期を記載する。査共124参照)を公社に提出するよう促す。
公社は,本件対象期間を含む平成14年6月までは,総務担当理事及び各部長並びに総務部総務課長,総務部経理課長を構成メンバーとする指名業者選定委員会によって,工事希望票を提出してきた建設業者の中から,単独施工工事の場合は10社の,2社による共同施工工事の場合は20社の建設業者を選定して指名する(指名された建設業者を,以下「指名業者」ともいう。)。その選定は,工事の格付けに対応する格付けを有する建設業者であることを前提として,工事の規模,施工技術の難易性,地域性,経営状況,工事施工成績,既発注の工事の進捗状況,これまでの工事希望票提出回数等の公社が独自に収集保持している情報に基づいて行われる。公社は,地元の建設業者(全国の広域で総合的に建設業を営むゼネコンに対して限定された地域で特定の建設業を営む建設業者。以下「地元業者」という。)の育成を図る観点から,地元業者を優先的に指名したり,地元業者が建設業者としての格付けが工事の格付けよりも下のランクであってもその能力等にかんがみ選定指名したりすることもあったが,高度な施工技術を要するものや比較的規模の大きいものについては,技術力及び信用力が高くかつ豊富な工事経験を持っているとの信頼感から,ほとんどないしすべてゼネコンを選定指名するのが実際であった。(以上査共439)
指名された建設業者は,単独施工工事の場合はそのまま入札参加者となり,共同施工工事の場合は,指名された建設業者同士で結成したJVが入札参加者となる。
ウ 入札手続と落札
公社は,入札参加者に対して現場説明会を行った後,入札手続を行う。ABランク,ACランクの場合はAランクの建設業者,AAランクの場合は主導権を握るAランクの建設業者をJVのメインと呼び,B又はCランクの建設業者あるいは他方のAランク建設業者をJVのサブと呼んでいるが,入札金額はJVのメインが決定する。
公社は,予め算出した当該工事の予定価格と約8割である最低制限価格の価格幅の中で最も低い金額で入札した者を落札者としているため,各入札参加者の入札金額の全部が予定価格を上回る場合はその場で3回まで入札手続を行うこととし,他方で最低制限価格を下回る金額で入札した者は失格としている。
平成13年9月以前(本件対象期間が含まれる。)は公社の算出した予定価格は公表されていなかったが,建設業者は,過去の公社の発注工事の事例を分析することなどにより,公社の算出する予定価格や最低制限価格を,ゼネコンにおいてはほぼ正確に,地元業者であってもおおむね正確に推計することができていた。
(3) 本件対象期間に入札に参加した業者
ア 多摩地区で下水道工事の営業を行っていたゼネコンのうち,本件対象期間中公社から入札参加資格を有する者として登録されていたゼネコンは,別紙2「被審人目録」(本件審決の審決案別紙1に同じ。以下「別紙2」という。)及び別紙3「その他のゼネコン46社」(本件審決の審決案別紙4に同じ。以下「別紙3」という。)記載の合計80社であり,いずれもその格付けはAランクである。
なお,別紙2の目録中,① 株式会社CKプロパティー(本件の法人はいずれも株式会社か協同組合であるため,以下では株式会社についてはその標記を省略する。)は本件対象期間当時地崎工業の商号であったが現商号に変更しかつ建設業を廃業し,② 大木建設及びクボタ建設は既に解散を決議し,③ 三井住友建設は,本件対象期間当時三井建設の商号であったがその後住友建設を吸収合併して現商号に変更し,④ みらい建設グループは,本件対象期間当時日東建設の商号であったところ大都工業を吸収合併して日東大都工業に商号を変更し更に現商号に変更し,⑤ JFE工建は,本件対象期間当時日本鋼管工事の商号であったところ現商号に変更し,⑥ 青木あすなろ建設は,本件対象当時当時小松建設工業の商号であったが,青木建設を吸収合併して現商号に変更しており,⑦ 不動テトラは,本件対象期間当時不動建設の商号であったが,テトラを吸収合併して現商号に変更し,⑧ オリエンタル白石は,本件対象期間当時オリエンタル建設の商号であったが白石を吸収合併して現商号に変更した。また,別紙3の目録中の三井建設は,その後③のとおり住友建設を吸収合併して現商号に変更しているため,その意味では重複記載となる。
また,被告はゼネコン80社を,本件対象期間中公社から工事を受注できたゼネコン34社(別紙2記載の34社から三井住友建設及びオリエンタル白石を除き,住友建設及び白石を含めた34社。以下単に「34社」という。)と受注できなかったゼネコン46社(別紙3記載の46社。以下「その他のゼネコン46社」という。)とに分けて論じている。また,被告は34社のうち,最終的には徳倉建設を34社から分離し(その後に残ったゼネコンを以下「33社」という。),これをその他のゼネコン46社と同様に扱っている(以下これを「その他のゼネコン47社」あるいは「その他のゼネコン」という。)。徳倉建設のみを最終的に分離したのは,本件対象期間中公社から受注した物件の入札手続に,33社が入札参加者となっていないためである。
イ 本件対象期間中公社から入札参加資格者として登録を受けていた地元業者は別紙4「地元業者の概要」(本件審決の審決案別紙5に同じ。)の165社である。このうち,下水道工事の工種区分においてAランクに格付けされていた地元業者は74社である。
(4) 原告らが受注した工事
本件対象期間中に公社が発注したAランク以上の格付けを有する各工事,入札日,予定価格,落札金額,工事の格付け,各工事の入札に参加した業者は,別紙1のとおりである。そのうち,原告らが落札して受注して課徴金の算定対象物件とされた工事は次のとおりである(以下工事を特定する場合には,別紙1の番号に従い「番号○の物件」などと表記する。)。
ア 番号11の物件
公社は,番号11の物件について,ACランクの共同施工工事として平成10年4月16日付工事発注予定表により入札予定を公表し,Aランクの建設業者とCランクの建設業者を各10社指名して,同年5月26日に入札を実施した。
番号11の物件の予定価格,入札結果(落札者,入札者,各入札金額)は別紙5(1)記載のとおりであるが,JV結成後のメインはゼネコン8社と地元業者2社であり,原告株式会社新井組(以下「原告新井組」という。)と新開工業のJVがこれを落札した。なお,地元業者がJVのメインとなったJV2組は最低制限価格を下回る金額で入札したため失格となった。
イ 番号24の物件
公社は,番号24の物件について,AAランクの共同施工工事として平成10年8月27日付工事発注予定表により入札予定を公表し,Aランクの建設業者を20社指名して,同年9月28目に入札を実施した。
番号24の物件の予定価格,入札結果(落札者,入札者,各入札金額)は別紙5(2)記載のとおりであるが,JV結成後のメインはゼネコン10社であり,原告大成建設株式会社(以下「原告大成建設」という。)と不動テトラのJVがこれを落札した。
ウ 番号26の物件
公社は,番号26の物件について,AAランクの共同施工工事として平成10年11月26日付工事発注予定表により入札予定を公表し,Aランクの建設業者を20社指名して,同年12月25日に入札を実施した。
番号26の物件の予定価格,入札結果(落札者,入札者,各入札金額)は別紙5(3)記載のとおりであるが,JV結成後のメインはゼネコン10社であり,原告大成建設と不動テトラのJVがこれを落札した。
エ 番号30の物件
公社は,番号30の物件について,AAランクの共同施工工事として平成11年2月25日付工事発注予定表により入札予定を公表し,Aランクの建設業者を20社指名して,同年3月29目に入札を実施した。
番号30の物件の予定価格,入札結果(落札者,入札者,各入札金額)は別紙5(4)記載のとおりであるが,JV結成後のメインはゼネコン10社であり,原告飛島建設株式会社(以下「原告飛島建設」という。)と高松建設のJVがこれを落札した。
オ 番号34の物件
公社は,番号34の物件について,AAランクの共同施工工事として平成11年4月1日付工事発注予定表により入札予定を公表し,Aランクの建設業者を20社指名して,同年5月6日に入札を実施した。
番号34の物件の予定価格,入札結果(落札者,入札者,各入札金額)は別紙5(5)記載のとおりであるが,JV結成後のメインはゼネコン10社であり,1回目の入札では予定価格を下回るJVがなく,2回目の入札において原告大成建設と不動テトラのJVがこれを落札した。
カ 番号52の物件
公社は,番号52の物件について,AAランクの共同施工工事として平成11年11月25日付工事発注予定表により入札予定を公表し,Aランクの建設業者を20社指名して,平成12年1月6日に入札を実施した。
番号52の物件の予定価格,入札結果(落札者,入札者,各入札金額)は別紙5(6)記載のとおりであるが,JV結成後のメインはゼネコン10社であり,原告飛島建設と高松建設のJVがこれを落札した。
キ 番号71の物件
公社は,番号71の物件について,AAランクの共同施工工事として平成12年7月21日付工事発注予定表により入札予定を公表し,Aランクの建設業者を20社指名して,同年8月23日に入札を実施した。
番号71の物件の予定価格,入札結果(落札者,入札者,各入札金額)は別紙5(7)記載のとおりであるが,JV結成後のメインはゼネコン10社であり,原告株式会社奥村組(以下「原告奥村組」という。)と都南建設のJVがこれを落札した。
2 本件審決
被告は,多摩地区のゼネコン80社のうち33社の問では,本件対象期間中,公社の発注する下水道工事中AAランク,ABランク及びACランクの共同施工工事並びにAランクの単独施工工事のうち,指名競争入札者に2社以上ゼネコンが含まれている72物件において,受注をめぐる「条件」といわれる事項を比較して優位にあるゼネコンを受注予定者とし,当該ゼネコンから工事希望票の提出を促された場合や入札手続において入札価格に関して連絡や確認がある場合にはこれに応じる,との合意(被告はこれを「基本合意」と称している。)が締結されたこと,上記72物件中31物件においてこの合意が実施された結果,原告ら33社が物件を受注できたことを認定し,以上によれば,原告らを含む33社は,上記の合意に基づく個別物件の受注調整によって物件(原告新井組は番号11の物件,原告大成建設は番号24,26,34の物件,原告飛島建設は番号30,52の物件,原告奥村組は番号71の物件)を受注した,すなわち「事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限」(独占禁止法2条6項)するという「不当な取引制限」(同法3条)をしたことにより物件を受注したということができるとした。
被告は以上の認定事実を基礎として独占禁止法7条の2第1項を適用し,原告らそれぞれが受注した物件の金額に応じて,原告新井組に対して1374万円の,原告奥村組に対して2986万円の,原告大成建設に対して5046万円の,原告飛島建設に対して1348万円の各課徴金の納付を命じた(本件審決)。
以上の認定の詳細は次のとおりである。
(1) 背景事情
多摩地区に営業所を置くゼネコンは,これらの営業所において土木工事を担当する営業責任者をメンバーとする「三多摩建友会」と称する組織に参加していた。同会は昭和54年ころに発足し,平成4年ころまで存続していたが,被告が同年5月15日に同会の会員を含む埼玉県発注の土木工事の入札参加者に対して勧告を行った(いわゆる埼玉土曜会事件)のを機に解散した。
しかし三多摩建友会の解散後も,旧会員らのほか,解散後に多摩地区に進出したゼネコンや多摩地区に営業所を置かずに事業活動を行っているゼネコンの営業担当者を含めて,懇親会が開催されていた。また,同会の解散以前には,ゼネコン各社の営業担当者の名簿が作成されていたところ,解散後もほぼ同様の内容の名簿が作成されていた。
三多摩建友会存続当時,上記の名簿に掲載されているゼネコンの間では,工事の入札に当たって,受注意欲を持つ者や,発注される工事との関連性を持つ者がある場合には,当該受注意欲や関連性を尊重することによって競争を避けることが望ましいとの認識が存していたため,受注を希望する者同士が話し合って受注予定者を定めることにしており,受注希望者同士の受注調整の話合いが難航した場合には,同会の会長等の役員がその調整に当たっていた。同会の解散後においても,多摩地区において事業活動を行うゼネコン各社は,上記と同じ認識を有していた。
(2) 違反行為
ア 基本合意
34社のうち徳倉建設を除く33社は,遅くとも平成9年10月1日以降,公社発注の特定土木工事,すなわち,公社が「本件対象期間中,Aランクの格付けの単独施工工事並びにAA,AB及びACランクの格付けの共同施工工事の土木工事で,入札参加者の少なくとも一部の者につき34社及びその他のゼネコンのうち複数の者を指名し,又はこれらのいずれかの者をJVのメインとする複数のJVを指名して指名競争入札の方法により発注する工事」について,受注価格の低落防止を図るため,
a 公社から指名競争入札の参加者として指名を受けた場合(自社が構成員であるJVが指名を受けた場合を含む。)には,当該工事若しくは当該工事の施工場所との関連性が強い者若しくはJV又は当該工事についての受注の希望を表明する者若しくはJV(以下「受注希望者」という。)が1名のときは,その者を受注予定者とし,受注希望者が複数のときは,それぞれの者の当該工事又は当該工事の施工場所との関連性(以下「条件」という。)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する
b 受注すべき価格は受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意をしていた(以下この合意を「本件基本合意」という。)。
イ 本件基本合意の具体的実施方法
(ア) 33社のうち受注希望者は,当該工事の発注が予測された時点,あるいは公社が入札の執行を公示(入札参加希望者を公募)した時点で,ゼネコン又はゼネコンの多摩地区における営業担当者のうちの有力者(以下「有力者」という。)に対して,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることを必要に応じてアピール(注記:被告はその「アピール」と称するものの内容や態様について定義しておらず,その具体的内容は,以下のような資料を用いる手法を使用していること以外は,証拠上不明である。)していた。
受注希望者は,アピール方法の一つとして,地図に工事予定箇所及び近隣における自社の施工実績等を記入した資料又は予定工事に関連する設計業務等に係る資料(以下「PR紙」という。)を用いることがあった。PR紙は,特に,業界の有力者に相談する際に条件を有することをアピールするための手段として,しばしば用いられていた。
業界の有力者とは,三多摩建友会の最後の会長で,原告大成建設多摩営業所の所長であった大木正毅(以下「原告大成建設の大木」という。)のほか,原告大成建設土木営業本部の営業担当部長の中西豊(以下「原告大成建設の中西」という。)及び原告大成建設の大木の部下であった多摩営業所の次長の松本洋一(以下「原告大成建設の松本」という。)並びに原告飛鳥建設多摩営業所の所長であった丸山正文(以下「原告飛島建設の丸山」という。)であった。
各社の担当者は,原告大成建設の大木に対しては,PR紙を提出したり,口頭で受注希望を表明したりして,これに対する同人の反応,すなわち同人からの「受注活動を続けたらよい。」,「他の有力な条件を持つ者がいる。」などの示唆があるのを踏まえて,発注される工事について受注活動を継続するか受注活動を中断するかなどの判断をしていたが,平成12年2月29日に同人が退職した後,被告が同年3月29日に町田市発注工事の入札参加者に対して立入検査を行ったことから,原告大成建設の中西と松本に対しては,PR紙を提出することが少なくなった。
受注希望者が他の33社にアピールをした場合において,33社のうちの他の建設業者も受注希望を表明したときは,アピールをした者とアピールを受けた者の間で,いずれの者の条件が強いかについて話合いを行っていた。アピールを受けた33社の他の建設業者すべてが受注希望を表明しなかったときは,この段階すなわち公社が入札参加者を選定指名する前の段階で,受注希望者が1社に絞り込まれていた。
(イ) 受注希望者は,前記のアピールに代えて,又はこれと併せて,ゼネコンに対して,公社に工事希望票を提出するよう依頼していた。この依頼は,ゼネコンに対して入札に参加して自社の受注に協力してほしいという趣旨で行われるものであるが,同時に当該入札の参加者のうち,自社の受注への協力を見込めるゼネコンが占める割合を多くすることにより,自社が受注できる可能性を高めることも目的としていた。
(ウ) 受注希望者は,公社の指名により入札参加者が確定した以降において,必要に応じて,相指名業者に対して,改めて,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることをアピールし,自社が受注できるよう入札での協力を依頼していた。この依頼は,現場説明会のために相指名業者がそろった際に口頭で行われたり,個別訪問又は電話により行われたりしていた。この時点で,ほかにも受注希望者がいる場合には,受注希望者の間でいずれの条件が強いかを話し合うことにより,受注予定者が決定した。
条件は,具体的には,① 当該工事が過去に自社が施工した工事の継続工事であること,② 自社と特別な関係にある建設コンサルタント業者(以下「ダミコン」という。)が当該工事の調査又は設計の入札に参加していること,③ 当該工事の施工場所又はその近隣で施工実績があること,④ 当該工事の施工場所の近隣に自社の資材置き場や営業所等の施設があること,⑤ 自社又は関連会社が当該工事の施工場所の地権者であること(賃借権者であること及び施工場所の近隣の土地の所有権者であることを含む。以下同じ。)等である。これらの条件の中では,自社が施工した工事の継続工事であることや当該工事の施工場所の地権者であることがそれ以外の条件よりも強い条件であり,その他の条件については強さの順序が明確ではなく,受注希望者間で条件の強弱について話合いが行われ,その結果,受注予定者が決められていた。なお,当該工事について強い条件を持つJVのメインがいない場合においては,当該工事の施工場所の近くに事業所を有するなどの強い条件を持つ地元業者等とJVを結成したJVのメインが,強い条件を持っていると主張し得ることとなっていた。
また,受注希望者間の話合いにおいて,受注希望者の受注希望ないし受注努力の強さなどが反映される場合があった。
さらに,発注される工事について,自社に強い条件があり,他社に条件がない場合には,他社に対して直接の受注希望の表明ないし入札における協力の依頼をしなくとも,自社に強い条件があるということを他社が認識していれば,受注予定者とされていた。したがって,当該工事を受注しようとする者は,自社に強い条件があることが他の相指名業者にも明らかであると考える場合には,その相指名業者に対し入札における協力を依頼しないこともあり,他方,自社に条件があることを相指名業者に認めてもらうことが必要と判断した場合には,その条件を相指名業者に認めてもらうよう働きかけていた。
なお,JVを結成して入札に参加する場合には,JVの受注への協力の依頼,受注予定者を決めるための話合いは,通常JVのメインの間で行われていた。
(エ) 受注予定者が決定された場合には,受注予定者がゼネコンのうち相指名業者となった者に対して,入札価格を連絡し,連絡を受けたこれらの者は受注予定者の入札価格より高い価格で入札していた。また,相指名業者となったこれらの者は,経験的に発注工事と同等の過去の工事の入札結果等を勘案して積算することにより予定価格を推計できることから,受注予定者から入札価格の連絡がなくても,受注予定者の受注を妨げないであろう価格を比較的容易に予測し得たので,そのような価格で入札していた。このような入札価格の連絡を受けることにより,指名を受けた業者が受注予定者を知ることもあった。
入札価格の連絡・確認方法は一様ではなく,受注予定者が相指名業者の入札価格を決めた上で連絡する方法,受注予定者が相指名業者の積算価格を問い合わせて自社の入札価格より高い価格であることを確かめ,その積算価格に基づき入札するよう依頼する方法,相指名業者が自社の入札価格を受注予定者に連絡し,受注予定者が異議を述べなければそのままの価格で入札する方法等が取られていた(以下「入札価格の連絡・確認」というときは,これら等の方法によるものを指す。)。
なお,JVを結成して入札に参加する場合には,入札価格の連絡・確認は,通常JVのメイン間で行われていた。
公社は,予定価格を下回る入札がなかった場合には,入札において3回まで入札を行っているため,受注予定者は3回分の入札価格を連絡することがあった。
ウ 個別物件の受注調整の状況
(本件審決は,本件対象期間中の公社発注の特定工事72物件中31物件が上記の方法で落札されたとする。本件ではそのうち原告らが落札した以下の7物件について記載する。)
(ア) 番号11の物件
公社は,番号11の物件について,ACランクの共同施工工事として,平成10年4月16日付工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき建設業者を指名して,同年5月26日に入札を実施した。指名業者によるJV結成後のメインは,33社の中からは4社,その他のゼネコンからは4社,地元業者からは2社であった。
八王子市の業者である新開工業は,番号11の物件の施工場所の近くに本社を置き,また,その施工場所の近隣において施工実績を有していた。このため,原告新井組は,新開工業とJVを組んで同物件を受注しようと,新開工業にJVを組むことを要請し,その承諾を得た。
原告新井組は,公社が番号11の物件の入札予定を公表した後,大豊建設及び松村組に対して,工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けたゼネコン各社は,原告新井組が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告新井組は,新開工業とJVを組んだ。
原告新井組は,入札までに,ゼネコンのうち大豊建設,大本組及びアイサワ工業との間で入札価格の連絡・確認をした。
指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告新井組・新開工業JVが番号11の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。
指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告新井組・新開工業JVの入札価格よりも高く予定価格を上回る価格で入札した。地元業者がメインである2組のJVは,入札価格が最低制限価格を下回ったため,失格した。この結果,原告新井組・新開工業JVが落札した。
(イ) 番号24の物件
公社は,番号24の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成10年8月27日付工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき建設業者を指名して,同年9月28日に入札を実施した。
指名業者によるJV結成後のメインは,33社の中から4社,その他のゼネコンの中から6社であった。
原告大成建設は,番号24の物件の施工場所である残堀川の護岸等河川工事を施工した実績があるため,同物件の受注を希望していた。
不動テトラは,番号24の物件の施工場所の近隣において施工実績を有していたため,原告大成建設とJVを組んで同物件を受注することを希望し,同原告の了解を得た。
原告大成建設は,公社が番号24の物件の入札予定を公表した後,ゼネコンである大豊建設,竹中土木,古久根建設及び東急建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けたゼネコン各社は,原告大成建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告大成建設と不動テトラはJVを組んだ。
原告大成建設は,入札までに,指名を受けたJVのメインであるゼネコン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。
指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告大成建設・不動テトラJVが番号24の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。
指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告大成建設・不動テトラの入札価格より高く予定価格を上回る価格で入札した結果,同JVが落札した。
(ウ) 番号26の物件
公社は,番号26の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成10年11月26日付工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき建設業者を指名して,同年12月25日に入札を実施した。
指名業者によるJV結成後のメインは,33社の中から4社,その他のゼネコンから6社であった。
原告大成建設と不動テトラは,番号24の物件を受注した実績があったところ,番号26の物件は番号24の物件の継続工事であったため,両社でJVを組んで番号26の物件を受注することを希望していた。
原告大成建設は,公社が番号26の物件の入札予定を公表した後,ゼネコンである大豊建設,日特建設,東急建設及び大本組に対して,工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けたゼネコン各社は,原告大成建設が同物件の受注を希望していると認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告大成建設と不動テトラはJVを組んだ。
原告大成建設は,入札までに,指名を受けた奥村組及び西松建設に対して,自社が番号26の物件の受注を希望している旨を伝え,また,JVのメインであるゼネコン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。
指名を受けたJVのメインであるゼネコン各社は,以上の過程で原告大成建設・不動テトラJVが番号26の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。
指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告大成建設との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告大成建設・不動テトラJVの入札価格より高く予定価格を上回る価格で入札した結果,同JVが落札した。
(エ) 番号30の物件
公社は,番号30の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成11年2月25日付工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき業者を指名して,同年3月29日に入札を実施した。
指名業者によるJV結成後のメインは,33社の中から3社,その他のゼネコンから7社であった。
番号30の物件は,立川市の業者である高松建設の所有する道路を使用しないと施工することが困難であった。このため,原告飛島建設は,高松建設とJVを組んで同物件を受注しようと,高松建設に対してJVを組むことを要請し,その承諾を得た。
原告飛島建設は,公社が番号30の物件の入札予定を公表した後,ゼネコンである淺沼組及び大本組に対して工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けたゼネコン各社は,原告飛島建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告飛島建設は,高松建設とJVを組んだ。
原告飛島建設は,入札までに,指名を受けた鉄建建設及び熊谷組に対して,自社が番号30の物件の受注を希望している旨を伝え,また,熊谷組の入札価格を確認した。
指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告飛島建設・高松建設JVが番号30の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。
指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告飛島建設・高松建設の入札価格よりも高く予定価格を上回る価格で入札した結果,同JVが落札した。
(オ) 番号34の物件
公社は,番号34の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成11年4月1日付工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき建設業者を指名して,同年5月6日に入札を実施した。
指名業者によるJV結成後のメインは,33社の中から4社,その他のゼネコンから6社であった。
原告大成建設と不動テトラは,番号24の物件及び番号26の物件をJVを組んで受注した実績があったところ,番号34の物件は番号24及び番号26の各物件の継続工事であったため,両社でJVを組んで番号34の物件を受注することを希望していた。
原告大成建設は,ゼネコンである淺沼組,奥村組,若築建設及び竹中土木に対して,工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けたゼネコン各社は,原告大成建設が番号34の物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告大成建設と不動テトラは,JVを組んだ。
原告大成建設は,入札までに,JVのメインであるゼネコン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。
指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告大成建設・不動テトラJVが番号34の物件の受注を希望していることを詔識し,それに異議を唱えなかった。
指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告大成建設との間で,入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告大成建設・不動テトラJVの入札価格より高い価格で入札した結果,1回目の入札において,同JVの入札価格は最低であったが,予定価格を上回っていたところ,2回目の入札において同JVが落札した。
(カ) 番号52の物件
公社は,番号52の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成11年11月25日付工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき建設業者を指名して,平成12年1月6日に入札を実施した。
指名業者によるJV結成後のメインは,33社の中から3社,その他のゼネコンから7社であった。
原告飛島建設は,番号30の物件を高松建設とJVを組んで受注した実績があったところ,番号52の物件は番号30の物件と一体の工事であったため,両社でJVを組んで番号52の物件を受注することを希望していた。
原告飛島建設は,公社が番号52の物件の入札予定を公表した後,ゼネコンである大本組及び若築建設に対して工事希望票の提出を依頼した。依頼を受けたゼネコン各社は,原告飛島建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告飛島建設と高松建設は,JVを組んだ。
原告飛島建設は,入札までに,奥村組との間で入札価格の連絡・確認をした。
指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告飛島建設・高松建設JVが番号52の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。
指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告飛島建設・高松建設JVの入札価格より高い価格で入札した結果,入札価格が予定価格を下回ったのは同JVのみであったので,同JVが落札した。
(キ) 番号71の物件
公社は,番号71の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成12年7月21日付工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき建設業者を指名して,同年8月23日に入札を実施した。
指名業者によるJV結成後のメインは,33社から3社,その他のゼネコンから7社であった。
原告奥村組は,番号71の物件の施工場所の近隣において八王子市発注の下水道工事の施工実績があるため,同物件の受注を希望していた。
原告奥村組は,公社が番号71の物件の入札予定を公表した後,ゼネコンである戸田建設,安藤建設,真柄建設,松村組,大木建設,白石,徳倉建設,森本組,前田建設工業,フジタ,間組,三井建設,青木建設,日産建設,西武建設,アイサワエ業及び三菱建設に対して,自社が同物件の受注を希望している旨を伝えた上で,工事希望票の提出を依頼した。
依頼を受けたゼネコン各社は,原告奥村組が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。
公社が指名を行った後,原告奥村組は,地元業者である都南建設とJVを組んだ。
原告奥村組は,入札までに,指名を受けたJVのメイン各社に対して,自社が番号71の物件の受注を希望している旨伝え,また,指名を受けたJVのメイン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。
指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告奥村組・都南建設JVが番号71の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。
指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告奥村組・都南建設JVの入札価格よりも高く予定価格を上回る価格で入札した結果,同JVが落札した。
エ 受注結果
33社は,本件基本合意に基づき,72物件のうち,31物件を落札,受注した。31物件は,件数では,公社発注の特定土木工事の約43.1パーセントを占め,落札金額では,合計200億7575万4000円のうち113億914万1000円(約56.3パーセント)を占める。
33社が本件基本合意に基づき落札・受注した工事の全体に占める割合を工事の格付けごとにみると,次のとおりである。
<AAランク>
11件中9件(81.8パーセント)
51億3250万円中48億0220万円(93.5パーセント)
<ABランク>
15件中12件(80.0パーセント)
48億7648万4000円中39億7964万1000円(81.6パーセント)
<ACランク>
16件中5件(31.3パーセント)
41億9202万2000円中13億7630万円(32.8パーセント)
<Aランク>
30件中5件(16.7パーセント)
58億7474万8000円中11億5100万円(19.6パーセント)
オ 被告が平成12年9月27日,本件について独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,同日,本件基本合意は事実上消滅した。
(3) 課徴金の基礎となる事実
33社は本件対象期間中,本件基本合意に基づく落札・受注を行った。
33社が落札・受注した工事に係る売上額は,平成17年政令第318号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第6条の規定に基づき算定すべきところ,この規定により算定すると,各物件については,別紙6「課徴金算定対象物件一覧」(本件審決の審決案別紙7に同じ。)の「実行期間内の契約金額(消費税込み,円)」欄に記載した金額,売上額は別紙7「被審人ごとの売上額及び課徴金額」(本件審決の審決案別紙3に同じ。以下「別紙7」という。)の「売上額(円)」欄記載の金額となる(ただし,冨士工,真柄建設,オリエンタル白石については売上額が認定できないとした。)。
したがって国庫に納付されなければならない課徴金の額は,独占禁止法7条の2第1項の規定により,それぞれ別紙7の「売上額」欄記載の金額に100分の6を乗じて得た金額から,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された別紙7の「課徴金額(万円)」欄の記載の金額となる。
3 当事者の主張
(1) 原告らの主張
本件審決は,原告らを含む33社において,不当な取引制限(独占禁止法3条),すなわち「事業者が,契約,協定その他何らかの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,整備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(同法2条6項)を行ったとし,具体的には本件基本合意に基づき個別物件を受注したと主張し,課徴金の納付を命ずるものである。
しかしながら,本件審決は,上記の認定をするに当たり立証する実質的な証拠を欠いているものであり,また証拠の評価を誤っているので法令に違反するものであるから,取り消されるべきである。
ア 一定の取引分野において事業者を相互にその事業活動を拘束等すること(独占禁止法2条6項)がないこと
本件における「一定の取引分野」とは,公社が実施する各物件の入札をいう。入札の場合はその性質上入札参加者の全員が当事者とならない限り,合意は意味を成さない。本件基本合意は,入札参加者全員による合意ではないから,独占禁止法2条6項にいう事業者の相互拘束等に該当するということができない。
また,「事業者を相互に拘束する」(独占禁止法2条6項)ためには,受注調整を行う具体的実施方法が定まっており,合意からの離脱者に対する制裁などのルールが明確でなければならない。本件基本合意は,具体的な実施方法も離脱者に対する制裁も定まっていないから,相互拘束性がなく,その点でも独占禁止法2条6項にいう合意ということができない。
イ 本件基本合意そのものが存在しないこと
本件審決は,本件基本合意の当事者が33社のみであると認定する。
しかしながら,その他のゼネコンも本件基本合意に沿った行動を採っていたのであり,本件対象期間に限らなければ本件基本合意と同種の合意に,従って公社から工事を受注していたのである。そうすると,本件基本合意の当事者を33社に限定し,その他のゼネコンを当事者ではないとする本件審決の認定は,採証法則・経験則に反する恣意的かつ不当な認定であるというべきである。
ウ 競争が実質的に制限されているということはできないこと
本件基本合意の当事者とされる33社は,同合意によっても72物件中,物件数において約4割(地元業者が入札に参加したものに限れば約3割),落札金額において約5割程度の工事しか受注できていない。そうすると,33社が市場を支配していたということはできない。
本件審決は,その他のゼネコンが33社を一方的に協力することにしていたいわゆる「協力者」と位置付け,また地元業者も受注を回避する行為に出ることが期待される者と位置付けることで,競争が実質的に制限されているとの結論を導いている。しかしながら,「協力者」なる概念を導入すること自体,本件審決の本件基本合意の認定に関する恣意性を裏付けるものといえるし,そもそもその他のゼネコンが33社に対して一方的な協力関係に及ぶということは,営業的に余りに不自然な行動である上,これを裏付ける証拠がない。また,地元業者が受注を回避する行動に出たことについての証拠はない。なお,被告は,地元業者が競争を回避する理由として,公社の入札手続では,工事希望票の提出回数や指名業者となった回数がその後の工事において指名業者となるかの判断基準とされているため,工事の受注を希望しないが当該工事の入札手続で指名業者となることを目的として工事希望票を提出し指名業者となっている建設業者がいること(このような行動を「指名稼ぎ」という。),地元業者も受注予定者の有する条件について認識し得たこと,ゼネコンである受注予定者の要請に応じるとJVを組むなどの恩恵にあずかることがあったことなどを摘示しているが,いずれの事情についてもこれを裏付ける証拠がない。
72物件中件数において約4割,金額において約5割の受注の事実をもって,市場において競争が実質的に制限されたと評価し,刑事罰や高額の課徴金を課すことは,独占禁止法2条6項の拡大解釈によって社会的に違法と評価できないような行為を違法として,合理性も必要性もない刑事罰や課徴金を課すものであり,法律解釈として不当であり,その認定判断こそが違法である。
エ 個別受注について
(ア) 原告新井組
原告新井組は,番号11の物件について,適切な積算をし,また地元業者との間に熾烈な競争が予想されたことから,コストの削減に優位にあると思われる新開工業とJVを組み,更に工事原価や各種経費を節減するなどの尽力をした上で,本件基本合意とは無関係に,入札行為に及んだ。このことは原告新井組が予定価格をはるかに下回る金額で入札していることからしても明らかである。
番号11の物件では,33社のうち4社しかJVのメインにはなっていないこと,地元業者をJVのメインとする2組が原告新井組の入札金額よりも低い金額で入札していること(最低制限価格を下回ったため失格となり落札できなかっただけであること)からしても,番号11の物件において本件合意に基づき競争が制限されたということはできない。
(イ) 原告飛島建設
原告飛島建設が,高松建設とJVを組んで受注した番号30の物件及び番号52の物件は,同一の施設(雨水ポンプ場)の第1期工事と第2期工事に該当する(以下「本件雨水ポンプ場工事」という。)。本件雨水ポンプ場の工事現場は,国道等工事車両が通行することができる道路に面しておらず,工事車両が工事現場に入るためには高松建設の敷地を利用しなければ工事資材の搬出入をすることができなかったとの事情があった。すなわち,本件雨水ポンプ場工事は,高松建設の敷地を利用できる原告飛島建設と高松建設のJVしか施工することができない工事であり,したがってその入札においては他のJVには受注能力がなく,競争関係が存在し得なかった。
したがって,原告飛島建設と高松建設のJVが落札できたのは,本件基本合意なるものに従った競争制限が行われたためではない。
(2) 被告の主張
ア はじめに
独占禁止法2条6項は,① 事業者が,② 他の事業者と共同して相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することによって,③ 公共の利益に反して,④ 一定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすこと,が「不当な取引制限」(同法3条)であるとする。
①については,原告らを含む33社がこれに該当することは争いがない。
②については,まず「共同して」,「相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することによって」とは,いずれも,複数の事業者の間に「意思の連絡」,すなわち複数事業者間で相互にその行動に事実上の拘束を生じさせることを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があることを意味するものであり,明示的又は黙示的になされる。本件基本合意というときの「基本合意」とはこの「意思の連絡」のことをいう。
③については,原則として独占禁止法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することをいい,競争制限のみを目的とする談合がされた場合には公共の利益に反することになる。
④については,「一定の取引分野」とは,競争の実質的制限がもたらされる範囲であり,取引の対象・地域・態様等に応じて,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定して決定するものである。本件のような入札の場合は,官公庁等が売買や請負等の契約を締結する場合に,競争の方法として入札の方法を選んだ以上,これにより競争市場が形成されるところ,本件基本合意は公社発注の特定土木工事を対象とし,公社発注の特定土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであるから,公社発注の特定土木工事,すなわち公社が「本件対象期間中,Aランクの格付けの単独施工工事並びにAA,AB及びACランクの格付けの共同施工工事の土木工事で,入札参加者の少なくとも一部の者につき34社及びその他のゼネコンのうち複数の者を指名し,又はこれらのいずれかの者をJVのメインとする複数のJVを指名して指名競争入札の方法により発注する工事」の取引分野が本件における一定の取引分野とされる。「競争の実質的制限」とは,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすことをいう。ここでいう「市場を支配」とは,市場の完全な支配を意味するものでないことはいうまでもないが,さらに,特定の事業者又は事業者集団が他の事業者との競争がおよそ期待できないほどに市場を支配することによって,市場における競争自体がほとんど行われなくなることまでを求めるものではなく,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態にあると評価できればよい。以上からすれば,基本合意の当事者及びその合意への協力が一般的に見込まれる者(以下「協力者」という。)の数,その当該市場における全事業者の数に占める割合等に照らして,当該市場における競争自体が減少して,基本合意の当事者たる事業者集団がその意思で,ある程度自由に,受注予定者及び価格を左右することができる状態をもたらしているか否かによって判断するのが相当である。本件審決では「受注調整」という言葉を使用しているが,これは官公庁等から個別物件の発注があるごとに「基本合意」の参加者が当該「基本合意」に基づいて具体的に当該個別物件の受注予定者を決め,受注予定者以外の「基本合意」の参加者は当該受注予定者が受注できるように協力する行為をいうところ,「受注調整」そのものはその過程等について細部にわたり立証する必要はなく,基本合意がその内容のとおり機能し,競争を実質的に制限していたとの事実を認定する上で必要な範囲で立証されれば足りるのである。
以上を前提に,本件基本合意及びこれに基づく競争の実質的制限について述べる。
イ 本件基本合意について
(ア) 本件における背景事情,33社間に本件基本合意が存在したこと,本件基本合意の具体的実施方法は,本件審決に掲記されている直接証拠によって認定することができる。
33社は,本件基本合意に基づき,公社発注の特定土木工事について,必要に応じて業界の有力者の助言を得るなどして,受注予定者を決定し,受注予定者は,指名競争入札の参加者として指名を受けた33社のうちの他の建設業者やその他のゼネコンの協力を得て,72物件中31物件を受注した。これは件数でみれば全体の約43.1パーセント,落札金額では約56.3パーセントを占めた。
したがって,33社は,本件基本合意に基づき,共同して,公社発注の特定土木工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,公社発注の特定土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ同法7条の2第1項に規定する役務の対価に係る行為であることは明らかである。
(イ) 原告らの主張に対する反論
a その他のゼネコン47社を本件基本合意の当事者としていないことについて
その他のゼネコン47社は,受注予定者からの協力依頼に応じて協力したのみであり,本件対象期間中公社発注の特定土木工事において本件基本合意に基づいて落札・受注した物件はないのであるから,自社が受注意欲や物件との関連性を有するときに33社と協力すべきことについて相互に認識認容していたとまでいうことはできない。このため,その他のゼネコン47社は本件基本合意の当事者とまで認めることはできないのである。
被告としては,不当な取引制限に対して,排除措置の執行及び課徴金の賦課に必要な範囲で審査すれば足りるのであるから,本件対象期間中に公社の発注する特定土木工事について落札・受注していない者を本件基本合意の当事者とせず,したがって排除措置の執行及び課徴金の賦課の対象者としても,そのことをもってその認定が恣意的であるとか,したがって本件基本合意が存在しないことになるなどということはできない。
b 原告らは,基本合意が存在するというためには,受注調整を行う具体的実施方法を始めとして,合意からの離脱者に対する制裁についてもルールが明確であることが必要であるなどと述べる。
しかしながら,独占禁止法の規制対象たる不当な取引制限における意思の連絡の認定に際しては,合意の形成過程を具体的に特定する必要はなく,複数事業者間で相互に同内容の競争制限行為をすることを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があればよいのであるから,上記の主張は失当である。
c 原告らは,公社の入札に関しては約150社の建設業者が参加資格を有しているのであるから,仮に33社がその中で受注予定者を決定しても,受注予定者は受注できないと主張する。
しかしながら,33社は72物件中31物件を落札・受注しているのであり,規模が大きい工事ほど落札率が高くなっていることをみれば,上記の主張は失当である。
また,その他のゼネコンは,本件基本合意の当事者ではないが,背景事情にも指摘されているとおり,多摩地区におけるゼネコンは,公社の発注する土木工事の入札に当たって,条件又は受注希望を有する者がある場合には,当該条件又は受注希望を尊重することによってゼネコン同士で競争を避けることが望ましいとの認識を有しており,また実際の入札に際しては受注予定者からの依頼に応じて工事希望票を公社に提出したり,受注希望表明を受けたり,受注予定者よりも高い価格で入札したりすることによって,受注予定者が受注できるよう協力していたのである。したがって,その他のゼネコンも本件基本合意の協力者として考慮することができたのであるから,その点においても上記の主張は失当である。
ウ 本件基本合意による競争の実質的制限
(ア) 独占禁止法2条6項の「競争を実質的に制限する」とは,「競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすこと」をいう。
いわゆる談合の基本合意による競争の実質的制限の有無は,基本合意の当事者及び基本合意への協力が一般的に見込まれる者(協力者)の数,その当該市場における全事業者の数に占める割合等に照らして,当該市場における競争自体が減少して,基本合意の当事者たる事業者集団がその意思で,ある程度自由に,受注予定者及び価格を左右することができる状態をもたらしているか否かによって判断するのが相当である。この場合,必ずしも基本合意の当事者ないし協力者が当該市場における全事業者のすべて又は大部分を占め,あるいは発注が予想される物件のすべて又は大部分について基本合意に基づき受注予定者及び価格を左右する状況になっている必要はないのであって,基本合意に基づいて受注予定者及び価格を左右し得ることが見込まれる物件が,発注の予想される物件のすべて又は大部分でなくても相当程度の割合を占めている場合には,そのような基本合意を違法と評価できないことは不合理といわざるを得ない。
本件基本合意の当事者は33社であるが,その他のゼネコンも,かつて共に受注調整を行っていた建設業者であり,またゼネコン同士で競争を避けることが望ましいとの認識を有していたのであるから,受注予定者からの依頼に応じて,工事希望票を公社に提出し,受注予定者が受注できるよう受注予定者よりも高い価格で入札出来るよう協力するいわゆる協力者ということができる。そして,協力者を含めて検討すれば,公社が下水道工事の工種区分においてAランク格付けをしていた建設業者のうちの47.9パーセントが本件基本合意の当事者あるいはその協力者となる。
また,地元業者は,入札に際してはいわゆる指名稼ぎのために受注を希望しなくても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくなかったこと,受注予定者の要請によりJVを組むことにより受注の恩恵にあずかることがあったことなどから,入札に参加しても受注予定者の依頼に応じて協力したり,自主的に高めの価格で入札して競争を回避することがある程度期待できる状況にあった。
そうすると,本件基本合意によって,公社発注の特定土木工事の市場における競争自体が減少して,本件基本合意の当事者である33社がその意思で,ある程度自由に,受注予定者及び価格を左右することができる状態がもたらされていたと認めることができる。
(イ) 原告らの主張に対する反論
a 原告らは,Aランクの建設業者でない者もその母体に含めて占有率を算定しているが,公社はAランク以上の格付けを有する工事の場合はAランクの建設業者を指名しているのであるから,公社発注の特定土木工事における建設業者にAランクでない建設業者を含めることは不適切である。
b 原告らは,地元業者が指名稼ぎをしていたことを示す証拠がないと主張する。
しかしながら,公社における指名業者選定委員会の事務担当者が,工事の入札参加建設業者を指名するための考慮要素として工事希望票の提出回数を勘案していることや,建設業者の中にはいわゆる指名稼ぎのために受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくない旨供述(査共439)しているし,ゼネコンの関係者の,いわゆる指名稼ぎのために受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名を受けることがある旨の供述(査共79,91,176,203,327,352)がある。
c 原告らは,地元業者が受注予定者であるゼネコンとのJV結成を期待して33社との競争を回避していたことを示す証拠がないと主張する。
しかしながら,地元業者は,受注予定者の要請によりJVを組むことにより受注の恩恵にあずかることがあったのであるから,受注予定者が協力的な建設業者との問でJVを組むことを想定し,競争を回避することは何ら不自然なことではない。受注予定者の中には,地元業者に対して協力を依頼した旨供述(査共4,66,67,72,81,113,164,173,238)する者がいる。
また,地元業者が予定価格を超える価格あるいは予定価格に近い価格で入札している場合が20物件中12物件において認められるが,公社発注の特定土木工事は,そのほとんどが下水道工事に該当する定型性及び類似性の高いものであって,通常の建設業者であれば,公刊されている積算資料及びソフトウェアを用いることにより,予定価格の推計を比較的正確に行うことができると考えられる。このことは,本件対象期間中の公社発注の特定土木工事72物件のうち,予定価格の98パーセント以上となったものが47物件,最低制限価格に近傍する予定価格の81パーセント以下のものが15件と,そのほとんどが予定価格又は最低制限価格に張り付くという極めて不自然な結果となっていることからしても,入札参加者はほぼ全員予定価格と最低制限価格を認識しており,入札参加者が競争回避的な入札行動に出たときには入札価格が予定価格付近に貼り付き,競争的な入札行動に出た場合には入札価格が最低制限価格付近に貼り付いたものとみるのが合理的である。そうすると,あえて予定価格を超える価格で入札した地元業者は,ゼネコンとの競争を回避したものと推認できる。
なお,不当な取引制限は,事業者の意思の連絡により一定の取引分野において,競争が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすことによって成立するのである。したがって,不当な取引制限の成立において,個別物件のすべてにおいて地元業者が競争回避的行動をとることを受注予定者があらかじめ認識していることが必要となるものではない。
d 原告らは,地元業者が受注回避的行動に出ることもまた競争であると主張する。
しかしながら,地元業者までもが高めの価格で入札すれば,当該物件について競争は全く生じていないことになるのであるから,そのような場合になお競争の実質的制限があったことを否定する主張は誤りである。
e 原告らは,競争の実質的制限の意義は,特定業者の事業者又は事業者集団がその意思で市場を支配することができる状態をもたらすことであると主張する。
しかしながら,独占禁止法の目的は,「公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇用及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」(独占禁止法1条)にあるのであるから,市場が支配されていなくても,事業者間の意思の連絡によって競争自体が減少して特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態がもたらされている場合には,排除措置命令及び課徴金納付命令といった独占禁止法違反行為から競争秩序を維持・回復するための行政上の措置を採ることができるといわなければならないのである。
33社は,受注意欲の表明,工事希望票の提出依頼,入札価格の連絡・確認,原告大成建設の大木に対するPR紙の提出といった,入札手続において価格競争が有効に機能していれば本来行う必要の全くない行為を反復継続的に行っているが,このことは,33社にとって,完全な市場支配はできないものの,ある程度の割合で,価格競争を回避して,受注希望物件を希望価格で受注できるという優位性があると認識していたことにほかならない。
f 原告らは,入札の場合は落札者は1社しかいないという特性があることから,入札に参加する可能性のある者をほとんどすべて含んで合意をしない限り意味がないと主張する。
しかしながら,過去の裁判例からすれば,そのようにいうことはできない。
g 原告らは,33社が落札した物件数や受注金額の全体に占める割合からすれば,33社が本件基本合意によって市場を支配したと評価することはできないと主張する。
しかしながら,独占禁止法2条6項の「競争を実質的に制限する」とは,「競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思である程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすこと」をいうものであり,そのような状態がもたらされているというためには,必ずしも,基本合意の当事者ないし協力者が当該市場における全事業者のすべて又は大部分を占め,あるいは発注が予想される物件のすべて又は大部分について基本合意に基づき受注予定者及び価格を左右する状況になっている必要はないと解されるのであり,公社が工事の入札参加事業者を指名するための考慮要素として,工事希望票の提出回数を勘案していることから,地元業者を含め,公社発注の特定土木工事の入札に参加する業者は,いわゆる指名稼ぎのために,受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくないのであって,そもそも33社にとっては,本件対象期間中の公社発注の特定土木工事72物件すべてを受注することまでは必要なく,そのうち各社が受注することを希望する物件を希望する価格で受注することができる確率を高めることができれば,本件基本合意に基づく受注調整の目的を達せられるのである。したがって,落札した物件数や受注金額の全体に占める割合のみで,直ちに本件基本合意による競争の実質的制限が否定されるということになるものではない。規模が大きい工事ほど33社が落札した件数も落札金額も高くなっていることをも考慮するならば,33社がその意思である程度自由に受注予定者及び価格を左右することができる状態にあったと認定することに何ら差し支えがないことは明らかである。
エ 課徴金対象性について
(ア) 独占禁止法7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限をしたときは,被告は,事業者に対し,当該行為の実行としての事業活動が行われた期間における当該商品又は役務の売上額を基礎として算定された額の課徴金の納付を命じなければならない旨規定している。本件の場合には,基本合意に基づいて受注予定者が決定されることによって競争制限効果が具体的に生じた場合(基本合意当事者以外の者が入札に参加している物件であっても,基本合意の当事者間で受注予定者が決定されたことにより競争単位が減少したものについては,原則として,競争単位の減少それ自体をもって上記の競争制限効果が具体的に生じたことになる。)には,課徴金の対象となるというべきである。
(イ) 原告新井組は,番号11の物件の落札・受注に関して本件基本合意に基づく受注調整は行われていないと主張する。
しかし,番号11の物件の現場は,原告新井組とJVを組んだ新開工業がその近くに本社を置き,その施工場所の近隣において施工実績があるという条件を有していたことから,その他のゼネコンは競争する意思をなくして原告新井組・新開工業JVが受注予定者となることを承認していたと認められることからすれば,本件基本合意に基づく受注調整行為が行われたというべきである。
原告新井組は,地元業者が最低制限価格を下回ったため失格となった点を指摘するが,そのことをもって競争制限効果が具体的に生じたと認めることができないとの結論に至るものではない。
(ウ) 原告飛島建設は,番号30及び52の物件の落札・受注に関して,JVを組んだ高松建設の敷地を工事車両の通行路として使用しなければ工事現場に工事資材の搬出入をすることができなかったとの事情があるため,競争が存在する余地はないのであって,他のJVが受注を諦めたのは本件基本合意に基づく競争制限効果ではないと主張する。
しかしながら,原告飛島建設が,他のゼネコンに対して受注希望を伝えたり,入札価格を確認したりするなどの本件基本合意に沿った行為に及んでいること,落札したJVは高松建設から敷地の使用許諾を得れば足りたことなどからすれば,原告飛島建設の上記主張は失当である。
また,公社が競争入札という方法を選択したということは,公社は,事前調査等の結果から,高松建設の所有する土地を使用しないと資材搬入ができず施工できないとしても,何らかの方法によって高松建設以外の建設業者であっても施工が可能であり競争に付すべきと判断したことが明らかである。競争が存在し得ないことを前提とする原告飛島建設の主張はその意味においても失当である。
第3 当裁判所の判断
1 被告は,第2の2に記載した事実を認定し,本件審決をした。
被告の審決の取消しの訴えにおいては,被告の認定した事実はこれを立証する実質的な証拠があるときには裁判所はこれに拘束される(独占禁止法80条1項)が,実質的証拠の有無の判断は裁判所が行い(同法同条2項),事実を立証する実質的な証拠がないと判断される場合には裁判所はこれを取り消すことができる(同法82条1号)。また,行政機関は,終審として裁判を行うことができないから(憲法76条2項),裁判所は,事実認定について被告の第一次的判断を尊重するとしても,法令の適用及び解釈の問題については裁判所が被告の見解及びこれを前提とする認定事実に拘束されることはない。
そこでまず独占禁止法の違反行為を定義づける法律の要件の解釈及び本件への適用を確認した後,本件審決について検討することとする。
2(1) 独占禁止法2条6項は,事業者が「一定の取引分野」における「競争」を「実質的に制限」する行為を,「不当な取引制限」(同法3条)すなわち違反行為の核としている。そこで以下,本件における「一定の取引分野」,「競争」及び「競争」を「実質的に制限」する行為の解釈について検討する。
ア 「一定の取引分野」について
独占禁止法上,「一定の取引分野」の内容あるいは画定方法を定める規定はない。
そこで,独占禁止法の目的規定である1条及び各用語の定義規定である2条をみてみると,まず同法は,1条において,「この法律は,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,事業支配力の過度の集中を防止して,結合,協定等の方法による生産,販売,価格,技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇用及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」を同法の目的と定めている。そして,この中の「事業者」については,2条1項で「商業,工業,金融業その他の事業を行う者」と定め,「競争」については,同条4項において「二以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく次に掲げる行為をし,又はすることができる状態をいう。」,「一 同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること」,「二 同一の供給者から同種又は類似の商品又は役務の供給を受けること」と定めている。
このような独占禁止法の条項を踏まえれば,競争の実質的制限の有無が判断される「一定の取引分野」とは,同種又は類似の商品又は役務について,需要者あるいは供給者として二以上の商業等の事業を行う者が存在し,その者らが生産,販売,価格,技術等について事業活動を行うことができる場ということができる。
本件の場合,前提事実等によれば,公社は,多摩地区において公共下水道工事の建設等の都市基盤整備事業を行っていたこと,公社は多摩地区における下水道工事を建設業者に発注する場合,本件対象期間である平成9年から平成12年ころは,その算出した予定価格が1億7000万円以上となる工事について,算出した予定価格に応じてAA,AB,AC及びAとのランク付けを行い(以下これを単に「Aランクの工事」ともいう。),工事件名,工事概要,工事の格付等級及び申込期限等を公示して,競争入札参加希望者を公募し,応募者の中から公社が入札参加者を選定指名して競争入札を執行する方式を採用していたこと,競争入札参加希望者になることができる者は,予め公社によって東京都財務局が作成する建設工事等競争入札参加有資格者名簿に基づいて経営状況や技術力の観点から適格性があると判断され登録により入札参加資格者となっている者であって,下水道工事に関しAランクに格付けされている建設業者(ABランクの工事についてはBランクに格付けされている建設業者,ACランクの工事についてはCランクに格付けされている建設業者を含む。公社は地元業者を育成するとの観点からBランクの地元業者であってもAランクの工事の入札参加者として指名することがあったことがうかがわれるが,そのような取扱いがされた場合にはこれをAランクの建設業者に含むものとして以下検討する。)であること,工事希望票を提出して応募し,入札参加者として指名された建設業者あるいはJVは,当該工事の入札手続において金額を入札するが,その入札金額を決定するのはAランクの単独施工工事は当該Aランクの建設業者,AA,AB,ACランクの共同施工工事の場合はJVのメインすなわちいずれもAランクの建設業者であること,公社は,予め算出した予定価格以下で,最低制限価格(予定価格の約8割)以上の価格幅の中で最も低い金額で入札していた入札参加者を当該工事の落札者として当該工事を発注したこと,以上の事実を指摘することができる。
そうすると,本件における「一定の取引分野」,すなわち,同種又は類似の商品又は役務について,需要者あるいは供給者として二以上の商業等の事業を行う者が存在し,その者らが生産,販売,価格,技術等について事業活動を行い競争を行うことが予定されている場とは,一方当事者を公社,他方当事者を公社によってAランクに格付けされた建設業者とし,公社が算出した予定価格が1億7000万円以上となる多摩地区の下水道工事のAランクの工事について受発注をめぐる事業活動が行われる場と解するのが相当である。
イ 「競争」について
独占禁止法は,その2条4項において「「競争」とは,二以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく次に掲げる行為をし,又はすることができる状態をいう。」,「一 同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること」,「二 同一の供給者から同種又は類似の商品又は役務の供給を受けること」と定義している。「生産,販売,価格,技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇用及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する」との独占禁止法の目的(1条)も踏まえるならば,同法における「競争」とは,二以上の事業者が,同種又は類似の商品又は役務の供給において,受注等の獲得のために,価格,品質,技術その他各般の事項について,他の同業者との間で自由で自主的な営業活動を行って競い合うことであり,かつ,それは当該商品等に関する営業活動全般において行われ得るものとなる。
ただし本件の場合,「一定の取引分野」,すなわち,一方当事者を公社,他方当事者を公社によってAランクに格付けされた建設業者とし,公社が発注する多摩地区の下水道工事のうちのAランクの工事の受発注をめぐる事業活動が行われる場ではいわゆる指名競争入札の方法が採用されていたため,Aランクの建設業者が工事を受注するには,まず公社によって入札参加者として選定指名されなければならず,次に公社が設定した予定価格以下最低制限価格以上の価格幅の内で最低の金額で入札しなければならないことになっていた。
そうすると,本件における「一定の取引分野」における「競争」とは,公社によって下水道工事のうちのAランクの特定の工事に関して行われる入札手続に入札参加者として選定指名されること,及び入札金額を決定することに関して,当該工事を受注すべくAランクの建設業者間に自由で自主的な営業活動が行われることをいうと解するのが相当である。
ウ 以上によれば,本件において「一定の取引分野」において「競争」を「実質的に制限」するとは,公社が発注する多摩地区の下水道工事のうちのAランクの工事に関し,入札参加者となることや自社で決定した金額で入札することに関して,Aランクの建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除すること(ただし,指名競争入札という手続上の制約から,公社が選定指名しなかったという意味での営業活動の停止や排除は除く。)によって,特定の建設業者が,ある程度自由に公社の発注するAランク工事の受注者あるいは受注価格を左右することができる状態に至っていることをいうものと解される。
エ そこで本件において,以上のような意味での「一定の取引分野」における「競争」を「実質的に制限」する行為があったとの事実を証拠によって認定できるか検討する。
本件審決が認定する番号11,24,26,30,34,52,71の各物件における工事希望票の提出,入札,落札に至る経緯は,おおむね被告が掲記する証拠により認定することができる。しかしながら,被告が認定した事実をもって「競争」を「実質的に制限」したと断ずるには論理の飛躍があることは否めず,更に建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除されたというような,その結果競争が実質的に減少したと評価できるだけの事実も認定されなければならないというべきところ,そのような事実までを認定するに足りる証拠はないというべきである。これを詳述すると次のとおりである。
(ア) 番号11の物件についてみれば,被告の認定及び証拠によれば,原告新井組,地元業者に該当するイワキ工業及び工藤工業が受注希望を有していたこと,原告新井組から工事希望票の提出の依頼を受けたために同票を公社に提出したと述べるゼネコンの建設業者の入札参加者は10社中2社(査共62,164)にすぎないこと,公社は,工事希望票を提出したAランクの建設業者19社の中から,Aランクの準地元業者(八王子市に契約先を登録している建設業者)1社,隣接の市の建設業者(町田市に契約先を登録している建設業者)1社を優先して選定し,その余のAランク建設業者枠8社については平成9年度において工事希望票の提出回数が多いものの指名回数の少なかったAランクの建設業者を格付上位から選定したこと(査共374,440),原告新井組,イワキ工業及び工藤工業以外で同物件について受注希望を有しているAランクの建設業者が公社の選定指名を受けなかったこと以外の理由で入札参加者のJVメインとなれなかったとの事実をうかがうことはできないこと,原告新井組,イワキ工業及び工藤工業が価格についてなんらかの合意を形成した上で入札に及び,その結果として原告新井組が落札して受注したとの事情はないこと,以上の点を指摘することができる。
そうすると番号11の物件においては,入札参加や入札金額の決定に関してAランクの建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除されたとの事実を認定あるいは推認する実質的証拠があるということができない。
(イ) 番号24,26及び34の物件についてみれば,被告の認定及び証拠によると,これら各物件は一連の工事(立川市公共下水道上水雨水第2幹線築造工事。以下「甲工事」という。)の一部であること,原告大成建設及び西松建設は平成8年ごろから甲工事を受注したいと考えて営業活動を開始し継続していたこと,入札参加者18社(落札したJVである原告大成建設及び不動テトラを除く。)中,原告大成建設から工事希望票の提出の依頼を受けたため同票を公社に提出したと述べるゼネコンは,番号24の物件については4社(査共56,152,164,184),番号26の物件については4社(査共62,89,152,164。なお,その他のうち5社(査共79,82,86,105,137,147)は,指名稼ぎや情報収集等各自の営業活動上の目的を持って工事希望票を提出した後入札参加者になった旨述べている。),番号34の物件については3社(査共79,93,184)にすぎないこと,公社は,番号24の物件については,工事希望票を提出したAランクの建設業者29社のうち他の物件について選定時指名中であった建設業者を除いた後のAランクの建設業者13社をそのまま選定し,選定業者数が不足していたため公社の基準において同物件を受注するにふさわしい技術力や資金力を有しているにもかかわらず工事希望票を提出していない建設業者を任意に逆指名し,番号26の物件については,工事希望票を提出したAランクの建設業者38社の中から,物件の施工場所と同一箇所で立坑築造工事を施工している工事関連業者2社(原告大成建設及び不動テトラ)及びAランクの準地元業者4社を優先して選定し,残り14枠については,同物件が規模が大きく工事の難度が高いため技術力及び信用力が高くかつ豊富な工事経験を持っているなど全体として能力が高く安定した建設業者に発注したいとの観点から,Aランクの建設業者を格付上位から選定し,番号34の物件については,工事希望票を提出したAランクの建設業者28社の中から1社を除いた上で,同物件が規模が大きく工事の難度が高いため技術力及び信用力が高くかつ豊富な工事経験を持っているなど全体として能力が高く安定した建設業者に発注したいとの観点から,Aランクの格付上位から20社を選定したこと(査共387,389,397,439,440),原告大成建設及び西松建設以外で甲工事の受注を希望しているAランクの建設業者が存在したことをうかがうことはできないこと,西松建設は甲工事に関する物件の発注公示前の段階で,大成建設が西松建設よりも同工事に関し多くの情報を収集している結果積算で有利な立場にあることを認識したため,甲工事の受注を諦め,事件番号24の物件については工事希望票を提出したものの公社が選定に当たって排除したため入札参加者となれず,番号26及び34の物件については原告大成建設に何かの手違いが起こることを期待して入札参加者になり,その観点から計算した金額で入札して落札できなかったこと(査共147,358,387,440),番号24の物件の場合,日特建設が得意な工法が入っている可能性があると判断して工事希望票を提出して入札参加者となったところ,その経緯を知らない原告大成建設から入札価格についての連絡を受けて,同原告に対して日特建設も同物件に興味があることや日特建設の「条件」等を明らかにすることなく受注しないことにしたこと(査共89,99),番号26及び34の物件の場合,個別にこれを受注したいと希望しているAランクの建設業者が存在したことをうかがうことができないこと,以上の事実を指摘できる。
そうすると,甲工事に関する番号24,26及び34の物件については,入札参加や入札金額の決定に関してAランクの建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除されたとの事実を認定あるいは推認するに足りる実質的証拠があるということができないというべきである。
なお西松建設は,工事発注公示前に上記の経緯により受注を諦めているが,受注のための営業活動を行う中で入手した情報からこれ以上営業活動を継続しても受注する可能性が低いために当該物件を諦めて別の物件の受注に目標を変更することは通常行われる健常な営業活動であるとみるべきところ(物件の受注に向けて営業活動を続行するか,続行の場合の受注見込み等と経費等の諸事情とを比較考量して当該物件の受注に向けた営業活動を諦めて別の物件の受注に向けた営業活動に切り替えるかは営業活動上常に行われる選択判断であり,当初受注に向けて営業活動を行っていても諸事情から自主的にこれを諦めることもまた自由で自主的な営業活動の一環というべきであるから,建設業者が自社の抱える様々な事情を総合的に考察した上一度開始した特定物件の受注に向けた営業活動を停止したとしても,これを異とするには当たらない。したがって,そのような選択判断をしたことのみではその建設業者が非難される理由はないし,ましてやその選択判断を違法と評価する余地はない。),上記の西松建設の受注を諦めたことがそのような通常行われる営業判断の領域を越え,自由で自主的な営業判断を停止ないし排除された結果であることを認定あるいは推認するに足りる証拠はない。
また日特建設は,番号24の物件について上記の経緯により受注を諦めているが,「得意な工法が入っているかも知れない」程度の理由で工事希望票を提出して入札に参加したにすぎない建設業者が,他の指名業者から入札価格に関して連絡を受けたことにより,当該物件を受注したいとの強い意思を有する建設業者が存在することを知ってその物件の受注を諦めたとしても,その程度では未だ自由かつ自主的な営業活動が停止あるいは排除されたとまで評価することは困難である(受注に向けて営業活動を行おうとしたところ,自社よりも受注希望が強そうな建設業者が存在することを知り,早々に当該物件の受注に向けた営業活動をやめて別の物件の受注に向けた営業活動に切り替えることもまた自由で自主的な営業活動の一環というべきであって,これもまた異とする行為ということはできない。)。
(ウ) 番号30及び52の物件についてみれば,被告の認定及び証拠によれば,各物件は一連の工事(立川市公共下水道上砂町雨水ポンプ場築造工事。以下「乙工事」という。原告飛島建設の主張において「本件雨水ポンプ場工事」と称された工事である。)であること,原告飛島建設及び鉄建建設は乙工事について受注希望を有していたこと,入札参加者18社(落札したJVである原告飛島建設及び高松建設を除く。)中,原告飛島建設から工事希望票の提出の依頼を受けたため同票を公社に提出したと述べるゼネコンは,番号30の物件では2社(査共62,79),番号52の物件では3社(査共62,63,93)にすぎないこと,公社は,番号30の物件については,工事希望票を提出したAランクの事業者26社,Bランクの事業者1社のうち,2社を除外した上で,Aランクの準地元業者(立川市に契約先を登録している建設業者)5社及びBランクの地元業者1社を選定し,残りの14枠について,同物件が規模が大きく工事の難度が高いため技術力及び信用力が高くかつ豊富な工事経験を持っているなど全体として能力が高く安定した建設業者に発注したいとの観点から,Aランクの格付上位から選定し,番号52の物件については,工事希望票を提出したAランクの建設業者21社及びBランクの建設業者1社のうち,Aランクの建設業者19社及びBランクの建設業者1社を選定したこと(査共393,415,439,440),原告飛島建設及び鉄建建設以外で乙工事あるいはその個別物件について受注希望を有するAランクの建設業者が,公社の選定指名を受けなかったこと以外の理由で入札参加者になれなかったとの事実をうかがうことはできないこと,原告飛島建設及び鉄建建設はいずれも高松建設とJVを組むことができれば乙工事の受注が可能であると判断していたところ,高松建設が原告飛島建設とJVを組むことに決定したため,鉄建建設は原告飛島建設が指名業者となれなかった場合に高松建設とJVを組むことのみを期待して工事希望票を提出したこと,原告飛島建設はいずれの物件においても指名を受けて高松建設とJVを組んだため,鉄建建設はいずれの物件においても受注を諦めたこと,鉄建建設は原告飛島建設から工事希望票の提出を依頼されておらず,入札価格に関して原告飛島建設から連絡を受けていないこと(査共325,326),以上の事実を指摘できる。
そうすると乙工事に関する番号30及び52の物件については,入札参加や入札金額の決定に関してAランクの建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除されたという事実を認定あるいは推認するには足りないというべきである。
なお鉄建建設は,前記の経緯のとおり,高松建設とJVを組むことを受注の前提として工事希望票を提出し,同社とJVを組むことができなかったため受注を諦めているところ,このような対応をとることもまた,公社の採用する共同施工工事の指名競争入札制度においては営業活動として合理的な判断であって通常行われている健常な営業判断というべきであり,これをもって自由で自主的な営業活動が停止あるいは排除されて競争が制限されたと評価することは困難というべきである。
(エ) 番号71の物件についてみれば,被告の認定及び証拠によれば,原告奥村組は同物件について受注希望を有していたこと,入札参加者18社(落札したJVである原告奥村組及び都南建設を除く。)中,原告奥村組から工事希望票の提出の依頼を受けたため同票を公社に提出したと述べるゼネコンは2社(査共5,92)であり,またその他の建設業者の中には,指名稼ぎのため等の各自の営業活動上の目的を持って工事希望票を提出して入札に参加し,入札価格の連絡を受けておらずあるいは受けていても自社で積算した金額で入札したと述べる者(査共78,291,327)がいること,公社は,工事希望票を提出したAランクの建設業者24社及びBランクの建設業者1社の中から,技術的に困難な工事であることを踏まえてAランクの建設業者19社を優先して選定し,次いでBランクの地元業者1社を選定したこと(査共433,440),同物件について受注希望を有しているAランクの建設業者が公社の選定指名を受けなかったこと以外の理由で入札参加者になれなかったとの事実をうかがうことはできないこと,以上の事実を指摘することができる。
そうすると,番号71の物件においては,入札参加や入札金額の決定に関してAランクの建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除されたとの事実を認定あるいは推認するに足る証拠があるということはできない。
(オ) 以上のとおりであって,原告らが違反行為(独占禁止法3条,2条6項)の結果受注したとされる番号11,24,26,30,34,52,71の各物件において,「一定の取引分野」における「競争」が「実質的に制限」された,すなわち建設業者が入札参加や入札金額に関して,自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除されたとの事実について,これを認めるに足りる実質的な証拠はないというほかない。
(2)ア 被告は,前記(1)アで検討した本件における「一定の取引分野」の内容とは異なり,公社が「本件対象期間中,Aランクの格付けの単独施工工事並びにAA,AB及びACランクの格付けの共同施工工事の土木工事で,入札参加者の少なくとも一部の者につき34社及びその他のゼネコンのうち複数の者を指名し,又はこれらのいずれかの者をJVのメインとする複数のJVを指名して指名競争入札の方法により発注する工事」の取引を本件における「一定の取引分野」であると主張する。
「一定の取引分野」の画定は,競争に対する実質的制限の有無を判断する際の前提の認定であり,これが異なれば競争の実質的制限の有無の判断も異なってくることにもなるのである。しかしながら,被告は「一定の取引分野」について前記のとおり主張するが,結局その内包と外延は明らかではなく,また,競争の実質的制限の有無の判断の場として,前記(1)アで検討した本件における「一定の取引分野」から更に,本件対象期間中であること,ゼネコンが2社以上入札参加者となっていることなどの事情による限定を行わなければならないことにいかなる合理的事情があるのかについても説明をするところがない。そして,本件において取調済みの証拠によっても,被告の採るような限定を行わなければならない事情のあることをうかがうことはできない。
したがって,被告の認定する本件における「一定の取引分野」には,実質的な証拠の裏付けがないというほかない。
イ 被告は「競争を実質的に制限する」行為について,抽象的には,「競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらす」ことであり,より具体的には,基本合意が存在すると認定することができ,当該基本合意に基づいて受注予定者及び価格を左右し得ることが見込まれる物件が,発注の予想される物件のすべて又は大部分でなくても相当程度の割合を占めている場合をいうとし,取り分け本件の場合,受注できないような金額(予定価格を超える金額等)で入札することすなわち受注回避行為は,競争回避行為であって競争を制限する行為に該当すると主張するが,失当である。その理由は次のとおりである。
(ア) 抽象的な競争の実質的制限の概念を被告の主張のように観念することができるとしても,そのような事実が具体的に認定できるか否かは個別の物件受注に当たって考察するほかない。そして,前記の指摘のとおり,各物件においては,受注者とそれ以外の建設業者の間で,物件の受注をめぐる自由で自主的な営業活動が停止あるいは排除されたとの事実を認定あるいは推認するに足りる証拠はないのである。
のみならず,番号11の物件における原告新井組と地元業者に該当するイワキ工業及び工藤工業の間では,何ら合意に至ることなく各社共自社が落札すべく金額を決定して入札しているのであるから,いずれも自由で自主的な営業活動を行っていたとみることができるし,番号24,26及び34の物件(甲工事の物件)における原告大成建設と西松建設の間では想定される入札価格をめぐって西松建設が自社の営業力では原告大成建設に対して優位となるような金額をつけることができないと判断し,甲工事の物件の受注のための営業活動を終了したのであるから,西松建設は自由で自主的な営業活動を行ったとみることができるのであり,番号24の物件における原告大成建設と日特建設の間では,日特建設が自社よりも受注希望が強いと思われる原告大成建設の存在を知って受注に向けた営業活動を断念したにすぎないのであるから,日特建設もまた自由で自主的な営業活動を行ったとみることができるのであり,番号30及び52の物件(乙工事の物件)における原告飛島建設と鉄建建設の間では,高松建設とJVを組むことができるかが落札のための最大課題であったところ,高松建設が原告飛島組を選択したため鉄建建設は乙工事の物件の受注を諦めたのであるから,鉄建建設もまた自由で自主的な営業活動を行ったとみることができるのであり,そうしてみるといずれの受注においても本件における取引分野で予定されている競争は正常に行われたと評するのが相当とさえいうことができる。
(イ) 基本合意に基づいて全体の相当程度の割合の物件が受注されるときには一定の取引分野における競争の実質的制限があるというべきであるというのが被告の主張であるところ,確かに競争関係にある事業者同士が協力して各自の自由で自主的な営業活動上の意思決定を拘束し,同事業者間の競争の停止ないし排除を目的とする合意を締結したという事実が認められ,当該合意に基づき一定の取引分野における競争が停止ないし排除されたという事実を認めることができるのであれば,被告の立論に従い競争が実質的に制限されたとみることはできよう。
しかしながら,まず,被告主張に係る「公社の発注する特定土木工事」の定義内容及び原告らの主張に対する被告の反論を併せてみれば,被告の主張する本件基本合意とは,要は,公社の発注する土木工事の入札に関しては,「当事者」たる33社及び「協力者」たるその他のゼネコンの総体において,公社の発注するAランクの工事は受注希望を有する者が受注すればよい,受注希望者が複数いれば当該受注希望者同士で自社の事情等(被告はこれを「条件」と称する。)を話し合えばよい,その他の者は受注希望者から工事希望票の提出を求められたり入札する金額の連絡等がされた場合には,工事希望票を提出し受注希望者の落札を妨害する行為はしないという共通認識があったという程度のものにすぎず,この程度の認識を建設業者らが有していたことをもって直ちに自由で自主的な営業活動上の意思決定を将来にわたって拘束するほどの合意の成立があったと断ずることができるのか甚だ疑問というべきである(なお被告は,本件基本合意の「当事者」を原告らを含むゼネコン33社と限定し,その他のゼネコンと区別しており,その理由として,その他のゼネコンは本件対象期間中公社の発注する下水道工事を受注していないため上記の共通認識を「認容」したとの事実を認定できないと説明するが,入札前に形成されるはずの合意の当事者であるか否かをその後工事を受注したか否かで判断するというのは論理的に成り立たないし,被告は最終的にはその他のゼネコンを「協力者」と位置づけて各個別物件において合意の履行に寄与したと認定しているところ,それは結局その他のゼネコンも共通認識を「認容」したとの事実を認定しているというほかないから,被告の説明は成り立ち得ない。)。
また,本件において提出されている多摩地区の一部のゼネコンの営業担当者らの全供述証拠を検討してみると,多摩地区のゼネコンの営業担当者となった者は,本件対象期間よりはるか以前から,多摩地区において発注されることが予想される数多の建設工事のうち自社がその受注に向けて営業活動を展開する工事を絞り込んでいたこと,その絞込み及び営業活動の開始や続行の判断に当たっては,営業利益等の検討のほかにも,工事に関する情報を収集できるか(被告の指摘する条件の②「自社と特別な関係にあるダミコン(建設コンサルタント業者)が当該工事の調査又は設計の入札に参加していること」は非常に効果的な情報収集方法であり,また豊富な情報を有していることが次の経費削減等の積算事情に大きく影響する。査共8,56,70,87,139,145,158,174等),自社が当該工事において経費削減等有利な積算をする事情があるか(被告の指摘する条件の③「当該工事の施工場所又はその近隣で施工実績があること」,④「当該工事の施工場所の近隣に自社の資材置き場や営業所等の施設があること」,⑤「自社又は関連会社が当該工事の施工場所の地権者であること」などはより有利な積算を行うために有効な事情である。査共8,56,83,87,91,98,195,233,239,246,291等)を検討したり,発注される工事が建替工事や改修工事の場合には当初の工事を行った自社で受注する,縦に坑を掘る立坑工事,本体の築造工事,付帯工事(マンホール築造等)の一連の工事群である下水道工事が公社の予算等の都合により分断された場合には当初の立坑工事を受注した建設業者がその後の工事も受注する,自社が行った工事について延長工事が発注される場合にはその延長工事も受注するなどの方針(被告の指摘する条件の①「当該工事が過去に自社が施工した工事の継続工事であること」はこれに含まれる。査共83,87,98,116,135,192,193,248等)を立てたりしていたことがうかがわれる。受注対象工事の絞込みや営業活動の開始,続行及び中止の判断に際してこのような検討や方針を採用すること自体は,多摩地区であるとかゼネコンであるとかに限定される例外的なものではなく広く建設業者において通常の健全な営業活動として採り得るものであり,これを異とし,ひいては不当ないし違法と評価しなければならないとはいい難い。そうすると,特段の事情や更なる追加的事情が認められない限り,たとえ特定地域のほとんどあるいは相当数の建設業者が上記のような「条件」に該当する事項の存否優劣を営業活動の開始,継続,中止等を判断するに当たっての一考慮要素にしていたとしても,そのことをもって直ちに競争者同士が各自の自由で自主的な営業活動上の意思決定を拘束し合っているとか,更にはこれが競争者間の競争を停止ないし排除するものであるなどと評価することは経済活動の実際にそぐわない不合理な見方というほかなく,採用できない。
さらに,前提事実等及び被告の認定を踏まえれば,本件の場合,公社の発注する土木工事において入札参加者として選定指名されるためにはそれまでの物件の入札手続における工事希望票の提出回数等も考慮されるため,特定の物件について指名業者となり工事を受注することを目指して,予め別の物件において工事希望票を提出するといういわゆる指名稼ぎ(受注意思はないが工事希望票を提出し,入札参加者に選定指名されたときは受注することのないような金額で入札すること等)を行うゼネコンや地元業者が存在すること,前記のとおり指名稼ぎ以外にも公社の工事発注に関する情報収集等各社の事情に応じた営業上の目的をもって受注意思のないまま工事希望票を提出した旨明言する建設業者が存在することが認められるから,工事希望票を提出した建設業者がすべて受注を希望していたとの推認を前提とすることは困難である。なお,受注意思はなく,指名稼ぎや公社の工事発注に関する情報収集等各社の事情に応じた営業上の目的を持って工事希望票を提出し,指名業者となったときには入札に参加するという行為は,今後も建設業を継続していく意思のある建設業者がとり得る行為であって,これを不当であるとか違法であるとか断ずることはできない。したがって,公社が工事希望票を提出する建設業者の中から独自の判断基準によって入札参加者を選定指名していた本件において,受注意思もないのに工事希望票を提出した建設業者が入札参加者となり,受注を希望して工事希望票を提出した建設業者が入札参加者となることができなかったとの事実が認定できるとしても,そのことのみでは,受注意思のない建設業者の工事希望票の提出行為が受注希望のある建設業者の自由で自主的な営業活動を停止あるいは排除したことまで認定することは到底できないというべきである。
(ウ) 被告は,特に地元業者の行動のうち,指名稼ぎのために受注を希望しなくても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくなかったこと,受注しそうな建設業者とJVを組むことにより受注の恩恵にあずかることなどを期待して指名業者となったものの受注できないような金額で入札に及んだことなどの行動を受注回避行為と位置づけ,このような受注の回避は競争回避行為であって競争制限行為であると主張する。これは要するに,入札参加者となった以上は入札まで受注に向けた営業努力を継続し,落札可能な金額を入札すべきであり,受注を回避するような行為をとる建設業者は,競争を回避したという評価が当たりその意味において競争制限行為に荷担したのであるとの主張と解される。
しかしながら,入札参加者が建設業者として様々な目的をもって入札に参加することは前記のとおりであり,それ自体格別問題視すべき事象ではなく,また特定の工事の受注を目的として営業活動を開始しても自社を取り巻く諸事情を踏まえて入札手続が進む過程で当該工事の受注方針を変更し,これを断念するのもまた自由で自発的な営業活動の一環ということができることも前記のとおりである。したがって受注を回避する行為が,直ちに独占禁止法が禁止する競争制限行為になると評価することは一面的な見方にすぎ,採用は困難というべきである。
(エ) なお被告は,受注しようとする建設業者が,受注意欲を表明したり,他の建設業者に対し工事希望票を公社に提出するよう依頼したり,他の入札参加者に入札価格を連絡・確認したり,原告大成建設の大木に対するPR紙を提出したりするといった,入札手続において価格競争が有効に機能していれば本来行う必要のないはずの行為が行われていると指摘し,そのような必要性のない行為を行うのは,それが自社に有利であるため,すなわち価格競争を回避して受注希望物件を希望価格で受注するために必要な行為であると認識していたためであると主張する。
しかしながら,建設業者は営業活動を行うに際し営業上正確な意思決定を行うために情報提供・情報収集等を行うものであるし,取り分け被告の指摘する行為はいずれも第一次的には自社が当該物件について受注を強く希望していることを他の建設業者に印象づけることを目的とするものであるから,こうした行為が独占禁止法2条6項にいうところの不当な競争制限行為と評価される場合があるのは,あくまで当該情報提供・収集行為(受注意思表明行為を含む。)により競争が制限されるという結果が生じた場合に限られるのであって,情報提供・情報収集(受注意思表明行為を含む。)を行ったことから,競争制限結果の発生を推認するかのごとき被告の上記主張は経験則に反し合理性を欠くものであって採用できない。
(3) 以上のとおりであって,番号11,24,26,30,34,52,71の各物件の受注において,基本合意を立論の根拠に,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」における「競争」が「実質的に制限」された,すなわち同法3条にいう「不当な取引制限」があったとの事実を認定するに足りる実質的証拠があるとはいえず,したがってそのような不当な取引制限の結果原告らが各物件を受注したとの事実を認定するに足りる実質的証拠もないというほかない。
そうすると,上記の事実を基礎とする本件審決中原告らに課徴金の納付を命ずる部分は,その基礎となった事実を立証する実質的な証拠がないものであるから,取消しを免れない。
3 よって,本件審決のうち原告らに課徴金の納付を命ずる部分の取消しを求める原告らの請求には理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
別紙資料は省略させていただきます。
平成22年3月19日
裁判長裁判官 藤村 啓
裁判官 坂本宗一
裁判官 山口恭一
裁判官 大濱寿美
裁判官山本博は差し支えにより署名できない。
裁判長裁判官 藤村 啓