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独禁法3条後段
平成16年(判)第26号
被審人 別紙1(被審人目録)のとおり
代理人 別紙2(代理人目録)のとおり
公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく平成16年(判)第26号独占禁止法違反審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判官中出孝典及び同秋吉信彦から提出された事件記録並びに規則第84条の規定により被審人ら(別紙1被審人目録記載の被審人らのうち被審人SMCコンクリート株式会社を除く。)から提出された異議の申立書及び規則第86条の規定により被審人ら(別紙1被審人目録記載の被審人らのうち被審人SMCコンクリート株式会社を除く。)から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙4審決案を調査し,次のとおり審決する。
主 文
1 被審人らのうち被審人常磐興産ピーシー株式会社,同株式会社KCK及び同SMCコンクリート株式会社を除く8社(以下「8社」という。)は,それぞれ,自社,被審人更生会社オリエンタル白石株式会社管財人河野玄逸及び富永宏(以下「被審人更生会社オリエンタル白石管財人ら」という。)並びに被審人SMCコンクリート株式会社を除く被審人ら並びに東京都千代田区平河町二丁目1番1号所在のオリエンタル白石株式会社(以下「オリエンタル白石」という。),常磐興産株式会社,住友建設株式会社,日本鋼弦コンクリート株式会社及び別紙3記載の事業者と共同して,遅くとも平成13年4月1日(ただし,被審人三井住友建設株式会社にあっては平成15年4月1日)以降,平成16年3月31日まで行っていた(ただし,被審人更生会社オリエンタル白石管財人らにあってはオリエンタル白石が行っていた),国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋梁の新設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行機関において決議しなければならない。
2 8社は,それぞれ,次の事項を,8社のうち自社を除く7社及び別紙3記載の事業者並びに国土交通省関東地方整備局に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 前項に基づいて採った措置
(2) 今後,共同して,国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
3 8社は,「関東PCクラブ」又は「S会」と称する組織への参加を取りやめる旨を,8社のうち自社を除く7社及び別紙3記載の事業者に通知しなければならない。
4 8社は,今後,それぞれ,相互の間において又は他の事業者と共同して,国土交通省が関東地方整備局において競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定してはならない。
5 8社は,今後,それぞれ,相互の間において又は他の事業者と共同して,国土交通省が関東地方整備局において競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定しないよう,プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修,法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
6 8社は,前記1,2,3及び5に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
7 被審人常磐興産ピーシー株式会社及び同株式会社KCKが,それぞれ,自社,被審人更生会社オリエンタル白石管財人ら及び被審人SMCコンクリート株式会社を除く被審人ら並びにオリエンタル白石,常磐興産株式会社,住友建設株式会社,日本鋼弦コンクリート株式会社及び別紙3記載の事業者と共同して,遅くとも平成13年4月1日(ただし,被審人常磐興産ピーシー株式会社にあっては平成14年8月1日)以降,平成16年3月31日まで行っていた,前記1の工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為は,独占禁止法第3条の規定に違反するものであり,かつ,当該行為は,既になくなっていると認める。
8 被審人常磐興産ピーシー株式会社及び同株式会社KCKの前記7の違反行為については,同被審人らに対し,格別の措置を命じない。
9 被審人SMCコンクリート株式会社については,独占禁止法第3条に違反する行為があったと認めることはできない。
理 由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,後記2のとおり加えるほかは,いずれも別紙4審決案の理由第1ないし第6と同一であるから,これらを引用する。
なお,別紙4審決案中の被審人川田建設株式会社,同ピーシー橋梁株式会社,同株式会社安部日鋼工業,同株式会社日本ピーエス,同昭和コンクリート工業株式会社,同日本高圧コンクリート株式会社,同コーアツ工業株式会社及び同日本サミコン株式会社に対しては,審決案を送達した後,上記被審人らから同意審決の申出が行われ,平成22年5月26日,独占禁止法第53条の3の規定に基づき,同意審決を行った。
2 被審人である更生会社オリエンタル白石株式会社管財人河野玄逸は,平成20年12月31日,東京地方裁判所の決定に基づき,オリエンタル白石について会社更生手続が開始されたことに伴い,同社の管財人に選任され,さらに,被審人である更生会社オリエンタル白石株式会社管財人富永宏は,平成22年2月28日,同社の管財人に選任された。両管財人は,共同して,同社の事業の経営並びに財産の管理及び処分を行っている者である。
3 よって,8社に対し,独占禁止法第54条第2項及び規則第87条第1項の規定により,被審人常磐興産ピーシー株式会社,同株式会社KCK及び同SMCコンクリート株式会社に対し,独占禁止法第54条第3項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。
平成22年9月21日
公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委 員 後藤 晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代
別紙1
被審人目録
被審人 所在地 代表者
1 株式会社ピーエス三菱 東京都中央区晴海二丁目5番24号 代表取締役 勝木 恒男
2 更生会社オリエンタル白石株式会社管財人河野玄逸 東京都港区赤坂二丁目17番22号
赤坂ツインタワー本館15階
更生会社オリエンタル白石株式会社管財人富永宏 東京都世田谷区駒沢二丁目23番8号
3 三井住友建設株式会社 東京都中央区佃二丁目1番6号 代表取締役 則久 芳行
4 株式会社富士ピー・エス 福岡市中央区薬院一丁目13番8号 代表取締役 長尾 德博
5 ドーピー建設工業株式会社 札幌市中央区北一条西六丁目2番地 代表取締役 荒木 映世
6 極東興和株式会社 広島市東区光町二丁目6番31号 代表取締役 長谷部正和
7 常磐興産ピーシー株式会社 福島県いわき市常磐湯本町辰ノ口1番地 代表取締役 鈴木 榮一
8 株式会社KCK 東京都千代田区麴町四丁目2番地6 代表清算人 池田 靖
9 前田製管株式会社 山形県酒田市上本町6番7号 代表取締役 前田 直之
10 機動建設工業株式会社 大阪市福島区福島四丁目6番31号 代表取締役 桐野 誠和
11 SMCコンクリート株式会社 栃木県下野市仁良川1700番地 代表取締役 山田 晴雄
別紙2
代理人目録
被審人 代理人
更生会社オリエンタル白石株式会社管財人河野玄逸
更生会社オリエンタル白石株式会社管財人富永宏
代理人弁護士 井上 展成
復代理人弁護士 洞 敬
三井住友建設株式会社
SMCコンクリート株式会社
代理人弁護士 畠山 保雄
同 松井 秀樹
同 大庭浩一郎
株式会社ピーエス三菱
株式会社富士ピー・エス
ドーピー建設工業株式会社
極東興和株式会社
常磐興産ピーシー株式会社
株式会社KCK
前田製管株式会社
機動建設工業株式会社
代理人弁護士 岩下 圭一
同 佐藤 水暁
別紙3
事業者 本店の所在地
1 川田建設株式会社 東京都北区滝野川六丁目3番1号
2 ピーシー橋梁株式会社 大阪市西区西本町一丁目3番15号大阪建大ビル
3 株式会社安部日鋼工業 岐阜市六条大溝三丁目13番3号
4 株式会社日本ピーエス 福井県敦賀市若泉町3番地
5 昭和コンクリート工業株式会社 岐阜市香蘭一丁目1番地
6 日本高圧コンクリート株式会社 札幌市中央区南二条西三丁目8番地
7 コーアツ工業株式会社 鹿児島市伊敷五丁目17番5号
8 日本サミコン株式会社 新潟市中央区弁天橋通一丁目8番23号
別紙4
平成16年(判)第26号
審 決 案
被審人 別紙1(被審人目録)のとおり
代理人 別紙2(代理人目録)のとおり
上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく平成16年(判)第26号独占禁止法違反審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。
主 文
1 被審人らのうち被審人常磐興産ピーシー株式会社,同株式会社KCK及び同SMCコンクリート株式会社を除く16社(以下主文において「16社」という。)は,それぞれ,被審人らのうち自社及び被審人SMCコンクリート株式会社を除く17社並びに常磐興産株式会社,住友建設株式会社及び日本鋼弦コンクリート株式会社と共同して,遅くとも平成13年4月1日(ただし,被審人日本サミコン株式会社にあっては平成14年3月12日ころ,同三井住友建設株式会社にあっては平成15年4月1日)以降,平成16年3月31日まで行っていた,国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法によりプレストレスト・コンクリート工事として発注する橋梁の新設工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている旨を確認することを取締役会において決議しなければならない。
2 16社は,それぞれ,次の事項を,16社のうち自社を除く15社及び国土交通省関東地方整備局に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 前項に基づいて採った措置
(2) 今後,共同して,国土交通省が関東地方整備局において一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
3 16社は,「関東PCクラブ」又は「S会」と称する組織への参加を取りやめる旨を,16社のうち自社を除く15社に通知しなければならない。
4 16社は,今後,それぞれ,相互の間において又は他の事業者と共同して,国土交通省が関東地方整備局において競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定してはならない。
5 16社は,今後,それぞれ,相互の間において又は他の事業者と共同して,国土交通省が関東地方整備局において競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定しないよう,プレストレスト・コンクリート工事の営業担当者に対する独占禁止法に関する研修,法務担当者による定期的な監査等を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
6 16社は,前記1,2,3及び5に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
7 被審人常磐興産ピーシー株式会社及び被審人株式会社KCKが,それぞれ,被審人らのうち自社及び被審人SMCコンクリート株式会社を除く17社並びに常磐興産株式会社,住友建設株式会社及び日本鋼弦コンクリート株式会社と共同して,遅くとも平成13年4月1日(ただし,被審人常磐興産ピーシー株式会社にあっては平成14年8月1日)以降,平成16年3月31日まで行っていた,前記1の工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為は,独占禁止法第3条の規定に違反するものであり,かつ,当該行為は,既になくなっていると認める。
8 被審人常磐興産ピーシー株式会社及び被審人株式会社KCKの前記7の違反行為については,被審人常磐興産ピーシー株式会社及び被審人株式会社KCKに対し,格別の措置を命じない。
9 被審人SMCコンクリート株式会社については,独占禁止法第3条に違反する行為があったと認めることはできない。
理 由
第1 違反行為となる事実
被審人ら(以下,それぞれ別紙1の各「事業者」欄内の括弧書のとおり略称する。)のうち被審人SMCコンクリートを除く18社(以下「被審人18社」という。),常磐興産株式会社(以下「常磐興産」という。),住友建設株式会社(以下「住友建設」という。)及び日本鋼弦コンクリート株式会社(以下「日本鋼弦コンクリート」という。)の計21社(以下「21社」という。)は,いずれもプレストレスト・コンクリート工事業(以下「PC工事業」という。)を営む者又は営んでいた者であるが,遅くとも平成13年4月1日(ただし,被審人日本サミコンにあっては平成14年3月12日ころ,同常磐興産ピーシーにあっては同年8月1日,同三井住友建設にあっては平成15年4月1日)以降,平成16年3月31日(ただし,常磐興産にあっては平成14年7月31日,住友建設にあっては平成15年3月31日)まで,国土交通省が関東地方整備局(以下「関東地整」という。)において一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札(以下まとめて「競争入札」ともいう。)の方法によりプレストレスト・コンクリート工事(以下「PC工事」という。)として発注する橋梁の新設工事(以下,PC工事として発注される橋梁の新設工事を「PC橋梁新設工事」といい,国土交通省が関東地整において競争入札の方法により発注するPC橋梁新設工事を「関東地整発注の特定PC橋梁工事」という。)について,受注価格の低落防止を図るため
(1) 自社が受注を希望する工事又は自社が受注を希望する工事額を,「関東PCクラブ」又は「S会」と称する組織(以下「本件組織」という。)の「主幹事」,「当番幹事」又は「幹事」と称する者(以下まとめて単に「幹事」という。)に表明し,幹事は,各社の過去の受注実績,受注希望等を勘案して,受注予定者を決定する
(2) 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する
旨の合意(以下「本件基本合意」という。)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,関東地整発注の特定PC橋梁工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものである(以下,本件基本合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を「本件行為」といい,個別の物件において受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにする行為を「受注調整」という。)。
他方,被審人SMCコンクリートに関しては,本件行為をしていたものとは認められない。
(本項の事実認定の理由等は後記第2以下のとおりである。)
第2 具体的事実
後掲の各証拠等によれば,以下の事実が認められる。
1 21社及び被審人SMCコンクリート(以下合わせて「22社」という。)の概要
(1) 被審人らの概要
ア 被審人らのうち被審人常磐興産ピーシー及び同KCKを除く17社は,それぞれ別紙1の各「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,国土交通大臣(平成13年1月5日までは建設大臣。以下同じ。)から建設業の許可を受け,関東地整の管内においてPC工事業を営む者である。(争いがない。)
イ 前記アの17社の商号変更等の状況は,以下のとおりであった。(以下,商号変更前の会社についても現商号で表記する。)
(ア) 被審人ピーエス三菱は,平成14年10月1日まで「株式会社ピー・エス」との商号であったが,同日,三菱建設株式会社を吸収合併するとともに,現商号に変更した。(争いがない。)
(イ) 被審人三井住友建設は,平成15年4月1日まで「三井建設株式会社」との商号であったが,同日,住友建設を吸収合併するとともに,現商号に変更した(以下,上記吸収合併前の住友建設も含めて「被審人三井住友建設」と表記することがある。)。(争いがない。)
(ウ) 被審人SMCコンクリートは,平成17年11月1日まで「住建コンクリート工業株式会社」との商号であったが,同日,現商号に変更した。(査第337号証)
(エ) 被審人安部日鋼工業は,平成18年7月1日まで「株式会社安部工業所」との商号であったが,同日,日本鋼弦コンクリートを吸収合併するとともに,現商号に変更した。(査第338号証,第339号証)
(オ) 被審人オリエンタル白石は,平成19年10月1日まで「オリエンタル建設株式会社」との商号であったが,同日,株式会社白石(以下「白石」という。)を吸収合併するとともに,現商号に変更した。(査第361号証)
(カ) 被審人極東興和は,平成20年4月1日まで「極東工業株式会社」との商号であったが,同日,後記エの新興和コンクリートを吸収合併するとともに,現商号に変更した。(査第363号証)
ウ 被審人常磐興産ピーシーは,別紙1の「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,平成20年9月30日まで,国土交通大臣から建設業の許可を受け,関東地整の管内においてPC工事業を営んでいた者であるが,同日付けで,関東地整に対して建設業の廃業届を提出し,上記許可を取り消され,PC工事の競争入札に参加する資格を喪失した。また,同被審人を連結子会社としていた常磐興産は,上記廃業届提出等に先立ち,関係者に対して,同被審人につき,平成20年9月ころまでに既存の建設工事を完成させた上で,解散決議をして清算手続に入る予定である旨を告知していた。(審A第4号証ないし第6号証)
エ 被審人KCKは,別紙1の「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,平成17年5月31日まで,「興和コンクリート株式会社」との商号で,国土交通大臣から建設業の許可を受け,関東地整の管内においてPC工事業を営んでいた者であるが,同日をもって建設業を廃止し,同年6月1日,そのPC工事業を含む建設事業を,その完全子会社であった株式会社KCK(同年6月1日,その商号を「興和コンクリート株式会社」に変更した。以下「新興和コンクリート」という。)に,吸収分割の方法により承継させるとともに,現商号に変更した。同被審人は,同年8月23日,株主総会の決議により解散した。(査第332号証ないし第335号証)
(2) 常磐興産,住友建設及び日本鋼弦コンクリートの概要
ア 常磐興産は,平成14年8月1日まで,東京都中央区東日本橋三丁目7番19号に本店を置き,国土交通大臣から建設業の許可を受け,関東地整の管内においてPC工事業を営んでいた者であるが,同日,PC工事に係る事業部門を分割し,被審人常磐興産ピーシーに承継させ,以後,PC工事業を営んでいない(以下,常磐興産も含めて「被審人常磐興産ピーシー」と表記することがある。)。(争いがない。)
イ 住友建設は,平成15年4月1日まで,東京都新宿区荒木町13番地の4に本店を置き,国土交通大臣から建設業の許可を受け,関東地整の管内においてPC工事業を営んでいた者であるが,同日,被審人三井住友建設(当時の商号は「三井建設株式会社」)に吸収合併されたことにより消滅した。(争いがない。)
ウ 日本鋼弦コンクリートは,平成18年7月1日まで,東京都新宿区市谷砂土原町二丁目7番地に本店を置き,国土交通大臣から建設業の許可を受け,関東地整の管内においてPC工事業を営んでいた者であるが,同日,被審人安部日鋼工業(当時の商号は「株式会社安部工業所」)に吸収合併されたことにより消滅した。(査第338号証,第339号証)
2 関東地整におけるPC橋梁新設工事の発注等について
(1) プレストレスト・コンクリート(以下「PC」という。)とは,コンクリートに入れたPC鋼材と呼ばれる高強度の鋼材を引っ張り,引っ張られた鋼材が元に戻る力を利用してコンクリートに圧縮力を加えたものである。PCの大部分は橋梁に使用されている。(査第93号証,第94号証)
(2) 平成13年4月1日から平成16年3月31日までの期間(以下「本件期間」という。)において,国土交通省は,関東地整において発注するPC橋梁新設工事のすべてを競争入札の方法により発注していた。
国土交通省は,関東地整において,PC工事の競争入札への参加を希望する者について,原則として2年ごとに,申請日が属する営業年度の開始日の直前の2年又は3年の各営業年度の年間平均完成工事高等を基に資格審査を実施し,経営事項評価点数と技術評価点数からなる総合評価点数(以下「ランク」という。)を算出し,これを記載した有資格者名簿(以下「有資格者名簿」という。)を作成するとともに,同名簿に登載されている者(以下「有資格者」という。)であることを,関東地整において発注するPC橋梁新設工事の競争入札への参加資格条件としている。
(査第95号証,第97号証ないし第99号証,第318号証,第319号証,第321号証,第325号証,第326号証)
(3) 本件期間中の関東地整におけるPC橋梁新設工事の発注は,その予定価格に応じて,以下のように行われていた。
ア 一般競争入札
予定価格が7億5000万円以上(ただし,平成14年4月1日以降は6億6000万円以上)のPC橋梁新設工事は,一般競争入札の方法により発注されていた。同入札は,公告により入札参加希望者を募り,そのうち所定の入札参加資格の条件を満たす者すべてを入札参加者とする,という方法で実施されていた。当該入札参加資格の条件としては,一定の施工実績があること等があった。
なお,一般競争入札の方法により発注されるPC橋梁新設工事の一部については,いわゆる総合評価落札方式(各入札参加者の提示する性能,機能,技術等に対する評価に応じて各入札参加者に得点を与え,それを当該入札参加者の入札価格で除して得られる数値の最も高い者を落札者とする方式)が採用されていた。
(査第95号証ないし第99号証,第340号証)
イ 公募型指名競争入札
予定価格がおおむね2億円以上7億5000万円未満(ただし,平成14年4月1日以降は6億6000万円未満)のPC橋梁新設工事は,公募型指名競争入札の方法により発注されていた。同入札は,有資格者のうち技術資料の提出を求める対象者の範囲を定めて公告し,その対象者から提出された技術資料を審査した上で,その提出者の中から入札参加者を10名程度指名する,という方法で実施されていた。
なお,公募型指名競争入札の方法により発注されるPC橋梁新設工事の一部についても,総合評価落札方式が採用されていた。
(査第95号証,第96号証,第98号証,第99号証,第324号証,第325号証)
ウ 工事希望型指名競争入札
予定価格がおおむね1億円以上2億円未満のPC橋梁新設工事は,工事希望型指名競争入札の方法により発注されていた。同入札は,有資格者の中から,当該工事の規模,有資格者名簿登載時の評価等を勘案して,技術資料の提出を求める事業者を十数名ないし20名程度選定し,それらの事業者から提出された技術資料を審査した上で,その提出者の中から入札参加者を10名程度指名する,という方法で実施されていた。(査第95号証,第96号証,第98号証,第99号証,第319号証)
エ 指名競争入札
予定価格がおおむね1億円未満のPC橋梁新設工事は,指名競争入札の方法により発注されていた。同入札は,有資格者の中から,手持ち工事の状況,当該工事の施工についての技術的適性等を勘案して,入札参加者を10名程度指名する,という方法で実施されていた。(査第96号証,第98号証,第99号証,第319号証)
3 関係する各種団体について
(1) 社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会について
PC工事業を営む者によって構成される社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会(以下「PC建協」という。)という団体が存在し,その地方支部として関東支部ほか8支部が存在する。PC建協関東支部の会員は,平成15年7月1日時点で,22社のうち常磐興産,住友建設及び被審人SMCコンクリートを除く19社,株式会社エム・テック(以下「エム・テック」という。),白石,鉄建建設株式会社,東日本コンクリート株式会社及びフドウ建研株式会社の計24社であった。
同支部は,総会及び役員会を置くほか,広報部会等の部会を置いている。同支部の広報部会は,関東地整その他の発注官庁に対して橋梁の工事がPC工事として発注されるよう要望したり,PC工事の発注実績や発注が予想されるPC工事の総発注金額等を取りまとめたりしている。
(査第49号証ないし第58号証)
(2) 関東PC建友会について
PC建協関東支部は,広報部会の下に,関東地整において勤務していた国土交通省の退職者で22社に在籍する者(以下「関東地整OB」という。)によって構成される「関東PC建友会」を置いている。
同会における関東地整OBは,関東地整におけるPC工事の発注に関する情報交換を行っている。また,同会は,関東地整に対し,橋梁の工事がPC工事として発注されるよう要望する活動等も行っている。
(査第53号証ないし第57号証,第173号証,第174号証)
4 本件行為について
21社は,本件行為を,以下のような態様で行っていた。
(1) 21社は,相互の親睦,関東地整発注の特定PC橋梁工事に関する情報交換,さらには同工事についての受注調整を行うことを目的として,かねてから,それぞれ,関東地整を担当する営業所におけるPC工事の営業担当部長級の者を「専任者」(「業務屋」と呼ばれることもあった。)に選任し,かつ,専任者で構成される本件組織を設けていた。被審人SMCコンクリートも本件組織に参加していた。(査第66号証ないし第70号証,第74号証,第75号証,第79号証ないし第82号証,第85号証ないし第87号証,第90号証ないし第92号証,第101号証ないし第107号証,第109号証,第120号証ないし第129号証,第136号証,第155号証ないし第157号証,第162号証,第206号証,第220号証,第224号証,第236号証,第254号証,第258号証,第265号証,第280号証,第298号証,第342号証)
平成13年4月,平成14年4月及び平成15年4月における21社の専任者は,別紙3のとおりであった(以下,別紙3記載の各専任者を,それぞれの氏名の後の括弧書のとおり略称する。また,以下,個人名を挙げる際には,適宜,その本件期間当時の所属会社の略称を括弧書で付する。)。(査第71号証ないし第80号証,第85号証,第86号証,第88号証,第89号証,第104号証ないし第106号証,第109号証,第126号証,第129号証,第148号証,第203号証,第298号証,第343号証)
(2) 21社の専任者らは,本件行為に係る受注調整の窓口としての役割を担っていた(その詳細及び証拠は後記(3)以下のとおり。)。
21社の専任者らは,上記役割の一環として,「PC会館」と呼ばれるPC建協関東支部の建物(東京都新宿区新小川町1番15号所在。その最寄り駅はJR線「飯田橋」駅である。)における会合や,親睦会,ゴルフ会等に出席して,関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る発注,各社の受注意欲,各社のシェア,入札に低価格で臨んでくる事業者等に関する情報交換をしたりしていた。(査第53号証,査第80号証,第81号証,第85号証ないし第87号証,第107号証,第109号証,第128号証,第148号証ないし第162号証,第328号証,第342号証)
また,21社の専任者らは,上記役割の一環として,受注予定者を決定する役割等を担う幹事を,2年に1回,専任者の中から互選で選出していた。具体的には,平成12年4月ころから平成14年3月ころまでは,「主幹事」として廣川(ピーエス三菱),河原(オリエンタル白石)及び西村(三井住友建設)の3名が,「当番幹事」として南(日本ピーエス),吉田(ドーピー建設工業),阿部(日本鋼弦コンクリート)及び下野川(極東興和)の4名が選出されていた。同年4月ころから平成16年3月ころまでは,「幹事」として廣川,河原及び西村の3名が選出されていた。(査第101号証,第104号証ないし第107号証,第126号証,第130号証ないし第146号証,第224号証,第236号証,第241号証,第244号証,第331号証)
関東PC建友会の会員である関東地整OBらは,会合等において関東地整発注の特定PC橋梁工事の発注に関する情報交換等を行ったり,次年度において発注が予想される当該工事の工事名,概要,予想金額等を「物件調書」として取りまとめたり,当該「物件調書」をPC建協関東支部広報部会の役員との会合において配布したりするとともに,それらの情報を自分の在籍する会社に持ち帰って専任者等に報告していた。(査第56号証ないし第58号証,第64号証,第65号証,第164号証ないし第187号証,第195号証,第196号証,第223号証)
(3) 21社は,専任者や関東地整OBを通じて得た関東地整発注の特定PC橋梁工事の発注情報を踏まえ,自社の過去の受注実績,国土交通省が有資格者に付したランク等を勘案して,自社の受注目標を設定し,それを,自社の専任者を通じて幹事に表明していた。
21社の中には,自社の受注希望物件を,被審人ピーエス三菱に在籍する関東地整OBでありPC建協関東支部の事務局長を務めていた高野康男(以下「高野」という。)に伝える者もおり,高野は,そのような受注希望の表明を受けた場合には,それを幹事に伝えていた。
21社は,自社が関東地整から一般競争入札への参加の通知や指名競争入札等に係る指名を受けた場合には,その旨を,専任者を通じて幹事に連絡していた。
幹事は,関東地整発注の特定PC橋梁工事について,当該年度における発注予定工事,追加発注予定工事,発注が取り消された工事等の状況,21社の過去の受注実績,関東地整が有資格者に付したランク,表明された各社の受注希望等を勘案して,受注予定者を決定していた。その際,高野が行っていた「シミュレーション」と呼ばれる作業(各発注予定工事ごとに受注者となるPC工事業者を割り振る作業。以下「シミュレーション」という。)の内容が参考にされることもあった。
幹事は,受注予定者として決定した者に対し,受注予定者となった旨を連絡していた。
(査第84号証,第101号証,第104号証ないし第107号証,第109号証,第111号証ないし第113号証,第117号証,第138号証,第145号証,第162号証,第174号証,第188号証,第194号証ないし第196号証,第206号証ないし第227号証,第231号証ないし第240号証,第242号証,第243号証,第245号証ないし第254号証,第275号証,第277号証,第311号証,審A第1号証,廣川義次参考人)
(4) 前記(3)において受注予定者となった者は,当該工事に係る入札までの間に,当該工事についての積算作業を行い,自らの入札価格を決定するとともに,21社のうち自社を除く他の入札参加者に対し,受注予定者となった旨及び自社の入札価格又は各入札参加者が入札すべき価格を連絡していた。
当該入札において,受注予定者は自ら決定した入札価格で入札し,他の入札参加者は,受注予定者から連絡を受けるなどした価格で入札することにより,受注予定者が受注できるよう協力していた。
(査第104号証,第105号証,第109号証,第110号証,第116号証,第126号証,第255号証,第256号証,第267号証)
(5) 21社は,前記(2)ないし(4)の受注調整に関する,21社以外の入札参加者(21社は,これを「アウト」あるいは「ゼネコン」と呼ぶこともあった。以下「アウトサイダー」という。)との連絡の窓口を,被審人三井住友建設としており,同被審人の西村が,アウトサイダーとの連絡の窓口としての役割を果たすことがあった。
21社は,前記(3)において受注予定者を決定した物件の入札にアウトサイダーが参加する場合には,当該アウトサイダーに対する,当該受注予定者が受注することへの協力要請及び入札価格等の連絡を,当該受注予定者自身又はその他の者において,幹事等から当該アウトサイダーの連絡先を聞くなどした上で当該アウトサイダーに連絡を取るなどの方法により,行うこととしていた。
上記協力要請を受けたアウトサイダーは,大抵の場合,同要請に応じて協力していた。
(査第104号証,第107号証,第108号証,第140号証,第207号証,第210号証,第221号証,第224号証,第227号証,第230号証,第239号証,第257号証ないし第263号証)
5 本件期間における関東地整発注の特定PC橋梁工事について
(1) 本件期間における関東地整発注の特定PC橋梁工事は,別紙4の78物件(以下,個々の物件を別紙4の「物件番号」欄記載の番号に従って「物件1」等といい,まとめて「本件発注物件78物件」という。)であった。
本件発注物件78物件の,工事名は別紙4の「工事名」欄記載のとおりであり,発注方法の別は同別紙の「発注方法」欄記載のとおりであり(「一般」は一般競争入札を,「公募」は公募型指名競争入札を,「希望」は工事希望型指名競争入札を,「指名」は指名競争入札を,それぞれ指す。),入札に係る公告(一般競争入札の場合)又は指名通知(公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札又は指名競争入札の場合)が行われた日は同別紙の「指名通知(公告)年月日」欄記載のとおりであり,入札が行われた日は同別紙の「入札年月日」欄記載のとおりであり,受注した事業者は同別紙の「落札業者」欄記載のとおりであり(ただし,いずれも「株式会社」の表記を省略したものであり,かつ,「三井住友建設」は平成15年3月31日以前においては住友建設を,「常磐興産ピーシー」は平成14年7月31日以前においては常磐興産を指す。後記「入札状況」欄の記載についても同様。),予定価格(ただし消費税相当額を控除したもの)は同別紙の「税抜予定価格(円)(A)」欄記載のとおりであり,落札価格は同別紙の「落札価格(円)(B)」欄記載のとおりであり,落札率は同別紙の「落札率(%)(B/A)」欄記載のとおりであり,入札の回数並びに各入札における入札参加者及びそれぞれの入札価格等は同別紙の「入札状況」欄記載のとおりであった。
そのうち,21社が受注したのは65物件(別紙4の「受注調整対象物件」欄に「○」を付したもの。「落札業者」欄も参照。以下「本件受注物件65物件」という。)であった。
(査第311号証)
(2) 本件受注物件65物件の全部又は大部分について,本件行為に係る受注調整が,おおむね前記4の方法に沿う態様で行われていた。(前記2ないし4及び前記(1)の各認定事実からの推認,以下の各物件についての具体的な受注調整の存在及び態様を示す各括弧内の各証拠並びに査第311号証。物件16〔査第209号証,第214号証〕。物件20〔査第104号証ないし第106号証〕。物件27〔査第104号証,第105号証,第126号証〕。物件29〔査第104号証,第105号証〕。物件45〔査第243号証,第245号証,第248号証〕。物件48〔査第206号証,第207号証,第210号証,第214号証,第252号証〕。物件56〔査第104号証,第105号証,第250号証,第254号証〕。物件62〔査第211号証,第215号証,第249号証,第253号証,第275号証,第277号証〕。物件72〔査第104号証,第106号証〕。物件77〔査第104号証〕。物件19,21,26,32,47,51,55及び57〔査第104号証,第105号証,第126号証〕。)
6 立入検査
公正取引委員会は,平成15年12月3日,本件行為の関係で,22社に対する立入検査(以下「本件立入検査」という。)を実施して審査を開始した。(争いがない。)
第3 争点
1 本件審判に係る平成16年11月18日付け審判開始決定(以下「本件開始決定」という。)が,独占禁止法第49条第1項を根拠としている点において違法か否か。
2 22社が本件行為を行ったか。
3 本件行為は平成16年3月31日まで継続されたか。
4 本件行為が「競争を実質的に制限」(独占禁止法第2条第6項)するものであったか否か。
5 被審人らに対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」(独占禁止法第54条第2項)に当たるか否か。
第4 争点に関する双方の主張(なお,証拠の評価等に関する被審人らの主張の詳細については,後記第5における各争点に関する判断の説示において適宜摘示する。)
1 争点1(本件開始決定が違法か)について
被審人らのうち被審人オリエンタル白石,同三井住友建設及び同SMCコンクリートを除く16社(以下「被審人16社」という。)の主張
本件開始決定は独占禁止法「第49条第1項の規定に基づき,審判手続を開始する。」としているが,同法第49条第1項は勧告を行わずに審判開始決定をする場合についての規定であり,勧告不応諾の場合には,それが審判手続による審理を求める意思であるとの理解の下で審判開始決定が行われる(独占禁止法第48条第4項の反対解釈)。仮に勧告不応諾の場合にも同法第49条第1項によるとの解釈を採るとすると,公正取引委員会は,違反行為があると認めて勧告を行った場合等においても審判手続を開始しないという選択もできることになるが,そのような裁量を与えられていないことは明らかである。
したがって,本件開始決定は,誤った法解釈に基づく,法的根拠を欠くものであるから,本件審判手続を打ち切るべきである。
2 争点2(22社による本件行為の有無)について
(1) 審査官の主張
ア 22社は,本件組織において本件行為をしていた。
本件組織の概要,専任者,幹事及び関東地整OBの役割,本件行為に係る受注調整の流れ,実際の受注調整の態様等は,基本的には前記第2の4及び5(2)のとおりであった(ただし,本件行為等の主体は被審人SMCコンクリートを含む22社である。また,アウトサイダーへの協力要請等は,アウトサイダーとの連絡窓口とされていた被審人三井住友建設の西村において行うこともあった。)。
イ 本件行為への途中参加の経緯等は,以下のとおりであった。
(ア) 被審人日本サミコンは,平成14年3月ころから本件組織の会員に入会の意思を伝え,同月12日に入札が行われた物件26及び27について,受注予定者から入札価格等の連絡を受け,その価格で入札することにより,受注予定者が受注できるよう協力し,同年5月ころ本件組織に入会しており,遅くとも同年3月12日以降,本件行為に参加していた。
(イ) 被審人常磐興産ピーシーは,平成14年8月1日に常磐興産のPC工事に係る事業部門を承継し,それ以降,本件行為に参加していた。
(ウ) 被審人三井住友建設は,平成15年4月1日に住友建設を吸収合併し,それ以降,本件行為に参加していた。
ウ 本件行為の存在を基礎付ける証拠等は,主として以下のとおりである。
(ア) 佐藤(前田製管),森(日本サミコン)及び平成14年3月まで被審人日本サミコンの専任者を務めていた冨山力(以下「冨山」という。)が,本件行為及び受注調整の存在を認める内容の供述をしている。
被審人ピーシー橋梁から留置された「アンケート票(東北地区)」と書き出しの文書綴り(査第107号証,以下「本件アンケート綴り」という。)のうち「アンケート票(関東地区)」と題する書面(以下「本件アンケート票」という。)や,被審人川田建設から留置された「営業部長会議及び全国担当者会議ついて」と書き出しの文書綴り(査第224号証,以下「本件会議文書」という。)には,本件行為に係る受注調整の存在を直接的に裏付ける内容の記載がある。
(イ) 前記第2の4及び5(2)の各事実を裏付ける内容の,22社から留置された文書その他の証拠が多数存在する。
(ウ) 本件受注物件65物件の平均落札率は約96.33%という高水準であり,その内訳は,落札率99%以上のものが13物件,98%以上99%未満のものが15物件,97%以上98%未満のものが11物件,96%以上97%未満のものが6物件,95%以上96%未満のものが3物件,90%以上95%未満のものが13物件,90%未満のものが4物件であった。他方,本件行為終了後の平成16年4月1日から平成19年3月31日までの間の関東地整発注の特定PC橋梁工事の発注件数は70物件であり,そのうち60物件を22社が落札しているところ,その60物件の平均落札率は約86.11%であり,本件期間中に比して顕著に低下している。
(エ) 本件受注物件65物件のうち22物件について,2回以上の入札が行われたが,そのすべてにおいて,1回目の入札で最低価格で入札した者が,その後の入札においても最低価格で入札し,最終的に落札している。
(オ) 関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る総発注金額(ただし消費税相当額を控除した後のもの)に占める22社各社の受注金額(ただし消費税相当額を控除した後のもの)の割合(以下「税抜受注実績シェア」という。)は,受注物件1物件当たりの工事金額に違いがあるために各年度ごとでは多少のばらつきがあるものの,5年間ごとの推移では,22社の間において大きな変動はない。
(カ) 22社の中には,自社及び他の入札参加者の入札価格を決定する際に受注調整をしていることが分からないような価格とするよう担当者に指示していた者,公正取引委員会による立入検査への対応として受注調整に関するメモを残さない等の対策を講ずるよう担当者に注意喚起していた者,受注調整ができなくなった場合を懸念して対策を検討する必要性を議論していた者,公正取引委員会による事情聴取への非協力的対応や関連書類の隠蔽を検討していた者があった。
エ 被審人SMCコンクリートが本件行為の参加者であったことは,以下の事実から明らかである。
(ア) 被審人SMCコンクリートは,本件組織の会員であった。
(イ) 被審人SMCコンクリートの営業担当者であった大島功(以下「大島」という。)や藤枝伸二(以下「藤枝」という。)が所持していたノート等によれば,大島は,同被審人の専任者として受注調整の窓口の役割を担い,本件行為に関する情報交換を行っていた。
(ウ) 被審人SMCコンクリートは,関東地整発注の特定PC橋梁工事に配置可能な技術者を抱えており,同工事の施工能力を有していた。実際にも,同被審人は,本件行為の前の平成9年度から平成14年度までの間に,関東地整以外の者が発注した同工事と同種の工事を17件受注しており(そのうち2件は平成14年度のものである。),そのうち14件は自ら元請として受注している。
(エ) 被審人SMCコンクリートは,関東地整発注の特定PC橋梁工事の有資格者であり,実際に同工事に係る競争入札に参加し得る立場にあった。
(オ) 被審人SMCコンクリートは,物件63について入札参加申込みを行っており,関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る競争入札に参加する意思も有していた。
(2) 被審人16社の主張
ア 22社が受注調整を行うための組織として本件組織を設けていたという事実はなく,そこで本件行為が行われた事実もない。前記第2の4の各事実はいずれも存在しない。
イ 審査官が挙げる各証拠等については,いずれも信用性がないか,又は本件行為を推認させるものではない。
税抜受注実績シェアについては,平成7年度ないし11年度のそれと平成11年度ないし15年度のそれとを比較した場合に,被審人オリエンタル白石,同川田建設及び同富士ピー・エスのそれは大きく減少し,他方,被審人三井住友建設のそれは5.3%も増加している。
ウ むしろ,本件行為が存在しないことを示す以下の証拠等がある。
(ア) 本件行為の直接証拠は極端に少ない。
(イ) 22社の多数の関係者が,本件行為は存在しない旨供述している。
(ウ) 本件行為が行われていたのであれば,受注予定者が最低制限価格を下回る価格で入札することはあり得ないところ,審査官が本件行為に係る受注調整の対象物件であると主張している物件73について,最低制限価格を下回る価格での入札があったことにより低入札価格調査が行われている。
(エ) 審査官が,本件受注物件65物件のうち47物件について,受注調整が行われた旨を具体的に主張できないこと自体,本件行為の不存在を強く推認させる。
(3) 被審人オリエンタル白石の主張
ア 審査官の主張はいずれも争う。
イ 審査官が挙げる各証拠等については,いずれも信用性がないか,又は本件行為を推認させるものではない。
なお,佐藤(前田製管)の平成16年5月12日付け供述調書(査第105号証)は「変造公文書」であり,違法証拠として排除されなければならない。
税抜受注実績シェアの「大きな変動がみられない」というのは単なる感覚的な主張であるし,受注の「アローワンス」が会社の規模によって異なることもある。
(4) 被審人三井住友建設及び同SMCコンクリート(以下「被審人三井住友建設ら」という。)の主張
ア 「S会」というのは親睦ゴルフ会の名称にすぎず,そこで受注調整が行われていた事実はない。
イ 審査官が挙げる各証拠等については,いずれも信用性がないか,又は本件行為を推認させるものではない。
ウ 特に,被審人SMCコンクリートに関しては,以下のとおりであって,関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る受注調整には一切関与していない。仮に「S会」が受注調整を目的とするものであったとすれば,同被審人が「S会」に参加するはずがない。
(ア) 被審人SMCコンクリートは,関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る一般競争入札,指名競争入札,工事希望型指名競争入札及び公募型指名競争入札のいずれについても,入札参加資格条件を欠くためそもそも入札に参加できないか,又は仮に入札に参加し得る可能性があったとしても技術審査を経て指名を受ける可能性がほとんどなかったものであり,実際にも,指名を受けたことも入札に参加したことも一度もなかった。
仮に審査官主張の受注調整が行われていたのであれば,被審人SMCコンクリートが全く入札に参加できないということはあり得ない。
(イ) 被審人SMCコンクリートは,極めて小規模な会社であり,その主たる業務はコンクリート2次製品の製造・販売である。同被審人において,現場施工の担当部署や工事量はもともと小さかった上,平成10年ころ以降は同部署が縮小され,平成15年度以降は現場工事専属の技術職員が置かれなくなり,現場施工を要する橋梁工事も平成15年以降は一切行われなくなった。このように,本件期間当時の同被審人には,関東地整発注の特定PC橋梁工事を施工する余裕はなかった。
審査官の指摘する平成9年度から平成14年度までに同被審人が受注した橋梁工事は,元請のものはいずれも地方公共団体発注のものであって,国土交通省(関東地整)発注の工事ほど要求水準の高いものではないし,平成14年度の元請工事(1件)の内容も,「ボックスカルバート」(コンクリート部材)の製作・運搬・据付けという極めて単純なものであった。
(ウ) 審査官が指摘する大島及び藤枝のノート等は,いずれも,被審人SMCコンクリートが受注調整に関与していた事実を推認させるものではない。被審人SMCコンクリートは,「S会」の参加者からPC工事の下請工事を受注するための営業を行っていた。
3 争点3(本件行為の終期)について
(1) 審査官の主張
ア 本件行為がなくなったのは,早くとも平成16年4月1日以降である。
イ その主たる証拠等は以下のとおりである。
(ア) 佐藤(前田製管)は,本件立入検査後も平成16年3月ころまで本件行為を行っていた旨供述している。
(イ) 平成16年3月5日に入札が行われた物件72及び同月15日に入札が行われた物件77に関しては,前記第2の5(2)のとおり,本件基本合意に基づく受注調整が行われていたことが具体的に認められる。
(2) 被審人16社の主張
ア 仮に本件立入検査の時点まで本件行為が行われていたとしても,同検査の日以降はそれが取りやめられていることが強く推認される。
イ 審査官が証拠として挙げる佐藤(前田製管)の供述調書については,信用性がない。物件72及び77について受注調整が行われたという証拠はないし,仮にそれらが行われたとしても本件行為が継続されていたという証拠にはならない。
ウ さらに,本件立入検査の後には本件行為が継続されていなかったことを示す事実及び証拠が,以下のとおり多数存在する。
(ア) 本件立入検査後の平成16年3月8日に物件73の入札が行われているところ,少なくとも同入札に関しては,最低制限価格を下回る価格での入札があり,それによる低入札価格調査が行われ,落札率が79.15%となったことからして,受注調整が行われていないことは疑いない。
(イ) 本件発注物件78物件のうち,本件立入検査後に入札が行われたものは物件64ないし78であるが,その平均落札率は顕著に低下しており,落札率70%台のものが1件,80%台のものが4件存在する。
(ウ) 廣川(ピーエス三菱)は,本件立入検査後のピーエス三菱内部の状況について,非常にバタバタしていた,談合するなどというような雰囲気は全くなかった等と述べている。
(エ) 審査官は,高野によるシミュレーションの結果と実際の落札業者が一致しなかったのは本件立入検査後に入札が行われた物件64,68,74及び77の4件である旨主張しており,このことは,本件立入検査後には本件行為が存在しないことを意味している。
(3) 被審人オリエンタル白石の主張
審査官が証拠として挙げる佐藤(前田製管)の供述調書については,信用性がない。
4 争点4(競争の実質的制限の有無)について
(1) 審査官の主張
以下の諸事情に照らせば,22社の本件行為により,関東地整発注の特定PC橋梁工事の取引分野における競争自体が減少し,22社が,その意思である程度自由に価格等の条件を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらしていたことは明らかである。
ア 22社は,関東地整発注の特定PC橋梁工事における平成7年度から平成15年度までの5年間ごとの税抜受注実績シェアに関して,そのいずれの期間においても8割以上を占めていたのであり,同工事に係る取引分野において有力な事業者たる地位にあった。
イ 22社は,本件発注物件78物件に係る延べ80件の入札(物件56及び64については入札不調により2度目の入札が行われた。)における延べ入札参加業者数(延べ876社)の約80.8%(延べ708社)を占めており,かつ,当該78物件(発注総額222億350万円)のうち,件数ベースで約83.3%(65物件),発注総額ベースで約77.5%(172億260万円)を,本件行為に基づいて受注している。
ウ 22社が本件受注物件65物件を本件行為に基づいて受注していたことは,以下のとおり明らかである。
(ア) 物件16,19,20,21,26,27,29,32,45,47,48,51,55,56,57,62,72及び77の計18物件について,本件基本合意に基づく受注調整が行われたことは証拠上明らかである。
(イ) 各証拠によれば,本件行為が組織的なものであり,22社が共に本件基本合意に従って受注調整を行っていくという強固な意思を有していたこと,22社が,入札において同業者間の取決めを無視できないと強く認識していたことが認められる。そうである以上,22社が入札に際して本件基本合意に基づく受注調整に相反する行動をとっていなかったことは明らかであり,本件受注物件65物件のうち前記(ア)の18物件を除く47物件についても,本件基本合意に基づく受注調整が行われている。
(ウ) 本件受注物件65物件の中には,アウトサイダーが存在したものが50物件含まれるが,アウトサイダーからもおしなべて本件基本合意に基づく受注調整に対する協力が得られていたのであり(本件期間中の関東地整発注の特定PC橋梁工事の入札におけるアウトサイダー66社〔以下「アウトサイダー66社」という。〕のうち,少なくとも32社が,本件基本合意に基づく受注調整に協力していた。),アウトサイダーの存在は,本件受注物件65物件すべてにおいて本件基本合意に基づく受注調整を行うことの妨げにならなかった。
(2) 被審人16社の主張
ア 入札競争については,たとえ参加者の大半が合意により相互拘束しても,1社でもその枠組みから外れて競争を仕掛ければ,直ちに競争制限状態が崩壊するという顕著な性質がある。
関東地整発注の特定PC橋梁工事に関しては,その入札参加資格を有する者として有資格者名簿に登載されている有資格者が1233社(平成13年4月1日現在)あるいは1347社(平成15年4月1日現在)も存在し,そのうちアウトサイダー66社が,実際に22社と同等又はそれ以上の回数にわたって同工事の入札に参加しているのであるから,22社の合意及びその実行のみによって同工事の取引分野における競争を実質的に制限することは不可能である。
イ 前記(1)ウ(ウ)については,本件発注物件78物件のうち,アウトサイダーが存在した物件が63物件あるところ,そのうち13物件をアウトサイダーが受注しているのであるから,「おしなべて協力が得られていた」という事実はない。そのような事実が存在したのであれば,審査官において,数多く存在するアウトサイダーから直接にその旨の供述を得ること等は容易であったはずであるにもかかわらず,審査官は,6年間にわたる本件審判手続において,そのような証拠は一切提出しなかった。
(3) 被審人オリエンタル白石の主張
ア 前記(1)イの各数字は恣意的かつ片面的である。例えば,延べ708社の受注金額が172億260万円(1社当たり2430万円)とすれば,残りの延べ168社のそれは50億90万円(1社当たり2977万円)となり,22社よりアウトサイダーの方が市場において強力な存在であったことが示される。
イ 前記(1)ウ(イ)及び(ウ)の事実は,いずれも存在しない。
ウ 企業規模において格段に力のあるゼネコンが存在する以上,22社による市場の支配は,「ある程度自由に」もできるものではなかった。
(4) 被審人三井住友建設らの主張
ア 被審人三井住友建設がアウトサイダーに協力を要請していた事実及びその協力が得られていた事実は,いずれも存在しない。
イ 仮に被審人三井住友建設がそのような協力要請をしていたとすれば,同被審人は,個々の入札においてアウトサイダーが誰であるかを事前に把握できていたということになるが,一般競争入札,公募型指名競争入札の一部,平成13年3月以前の工事希望型指名競争入札及び指名競争入札で予定価格が3000万円を超えないものについては,入札参加者が公表されていない以上,アウトサイダーを把握することはできなかったはずである。審査官は,同被審人において上記アウトサイダーを把握する手段があったことを何ら立証していない。
ウ また,仮に被審人三井住友建設がそのような協力要請をしたとしても,アウトサイダーは本件基本合意の当事者ではなく,自社が受注予定者となった際に他の入札参加者から協力を得られるという関係がないのであるから,アウトサイダーが上記要請に応じる保証は全くない。仮にアウトサイダーの協力が得られた事例があったとしても,22社が落札した物件の全部についてアウトサイダーの協力が得られたという根拠にはならない。
本件発注物件78物件の中には,22社のいずれかが入札に参加したにもかかわらずアウトサイダーが落札した物件が10物件あるところ,これらの物件については,アウトサイダーの協力が得られなかったことは明らかである。
5 争点5(「特に必要があると認めるとき」該当性)について
(1) 審査官の主張
ア 本件行為のような入札談合は,特定の業界において長期間にわたり継続的・恒常的に行われる性格のものであり,その過程で,競争を回避することによって利益を得ることを志向する個々の事業者の意識及びこれを共同して行うことを容易にする事業者間の協調的関係が強固に形成される。違反行為がいったん終了しても,一般的には,上記の意識や関係は直ちには解消されない。
本件行為に関しても,上記のような事情がある。
イ 被審人らの中には,独占禁止法違反の行為を繰り返してきた者や,本件行為の隠蔽を図っていた者がいる。本件行為は本件立入検査後も継続されている。被審人らには,独占禁止法を遵守する姿勢が欠けている。
ウ 本件行為終了後の関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る市場において,被審人らは依然として有力な事業者たる地位にあり,本件行為と同様の違反行為の実行が困難となるような状況変化はない。
エ 以上によれば,いまだ競争秩序の回復は不十分であり,本件行為と同様の違反行為が再び行われるおそれがあり,被審人KCKを除いては,独占禁止法第54条第2項の「特に必要があると認められるとき」に当たる。
他方,被審人KCKは,平成17年6月1日にPC工事を含む事業を他社に承継させて以降,同事業を営んでおらず,かつ現在は清算手続中であることから,同被審人に対して何らかの排除措置を命じることが特に必要であるとまでは認められない。
(2) 被審人16社の主張
ア 本件行為の終了後,特に改正独占禁止法の施行後には,関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る落札率が顕著に低下している。
すなわち,審査官の主張によれば,本件期間における本件受注物件65物件の平均落札率やその内訳は高水準であったところ,改正独占禁止法が施行された平成18年1月1日以降平成19年3月31日までに入札が行われた関東地整発注の特定PC橋梁工事(全42物件)の落札率をみると,その平均落札率は81.76%であり,そのうち,落札率90%以上のものはわずか5物件にすぎず,逆に,落札率50%台のものが1物件,60%台のものが2物件,70%台のものが11物件もある。しかも,平成17年9月1日以降に入札が行われた関東地整発注の特定PC橋梁工事のうち一般競争入札に付されたものについては,すべて総合評価落札方式が採用されており,実際には落札者より低い価格で入札していた者も多数存在する。
このような著しい状況変化に加えて,本件行為の終了後既に5年以上が経過していることも併せて考えれば,仮に本件行為が存在していたとしても,もはや本件行為と同様の違反行為が再び行われるおそれはなく,既に競争秩序の回復も十分なされており,被審人らに対して排除措置を命ずる必要性は認められない。
イ 特に,被審人常磐興産ピーシー及び被審人日本サミコンに関しては以下の各事情があるので,両被審人に対して排除措置を命ずる必要性は認められない。
(ア) 被審人常磐興産ピーシーは,平成20年9月30日付けで関東地整に対して建設業の廃業届を提出し,同日付けで特定建設業の許可を取り消され,PC工事の競争入札に参加する資格を喪失しており,施工中であった既存の建設工事も平成20年9月ころまでにすべて完了して引渡しも終了し,今後は解散決議を行って通常清算手続に入ることが予定されている。
(イ) 被審人日本サミコンは,平成7年度以降,PC橋梁事業から撤退している。
(3) 被審人オリエンタル白石の主張
被審人オリエンタル白石については,平成20年12月31日に会社更生手続開始決定を受け,管財人も選任されているから,排除措置の必要性はなくなったというべきである。
第5 審判官の判断
1 争点1(本件開始決定が違法か)について
独占禁止法第49条第1項は「第48条第1項若しくは第2項に規定する場合…において,事件を審判手続に付することが公共の利益に適合すると認めるときは,公正取引委員会は,当該事件について審判手続を開始することができる。」と規定しており,ここで引用されている同法第48条第1項は「公正取引委員会は,第3条…の規定に違反する行為があると認める場合には,当該違反行為をしているもの…に対し,適当な措置をとるべきことを勧告することができる。」と規定しているところ,これらの規定文言や同法のその他の規定内容からしても,同法第49条第1項について,勧告を行わずに審判開始決定を行う場合のみを規定したものと解すべき根拠は全く見いだせないのであり,本件開始決定について審判手続を打ち切るべき違法事由がある旨の被審人16社の主張は到底採用できない。
2 争点2(22社による本件行為の有無)について
(1) 本件行為の有無について
ア まず,以下のとおり,本件行為の存在を認める内容の供述証拠が複数存在する。
(ア) 佐藤(前田製管)は,平成8年ころ以降,本件組織において,被審人前田製管を含む20社(22社から常磐興産及び住友建設を除いたもの)の間で,関東地整発注の特定PC橋梁工事についての受注調整が行われていたこと,佐藤自身も専任者として当該受注調整に関与していたこと,当該受注調整の態様等が大筋として前記第2の4のとおりであったこと(一部異なる点はあるものの,いずれも佐藤の供述調書の信用性,本件行為の存否等に関する判断を左右するものではない。詳細は後記(3)以下のとおり。),当該受注調整が実際に物件19,20,21,27,29,32,47,51,55,56,57,58,63,72及び77について実施されたこと等を述べる内容の3通の供述調書に署名押印している(査第104号証ないし第106号証)。
また,森(日本サミコン)及び冨山(日本サミコン)は,本件組織において関東地整発注のPC工事についての受注調整が行われていたこと,被審人日本サミコンは,平成14年5月までは本件組織に参加していなかったものの,本件組織の会員会社から,上記工事について受注を希望する旨の連絡及び入札に関する協力依頼を受けており,それを受けた場合には当該会社が受注できるよう協力していたこと,同月に本件組織に入会したこと,森及び冨山自身も専任者等として上記受注調整等に関与していたこと,被審人日本サミコンに対する上記協力依頼等が実際に物件26及び27について行われたこと等を述べる内容の供述調書に署名押印している(査第109号証,第126号証)。
(イ) 前記(ア)の3名のうち,まず佐藤(前田製管)については,その供述調書3通(平成16年5月12日付け,同月26日付け及び同年6月21日付け)に係る事情聴取は,本件立入検査から5か月以上経過した時期に,3回にわたり,2週間及び約1か月間の間隔を空けて行われており,その間に佐藤において会社の上司や弁護士等と相談する機会は十分にあったと考えられるところ,そのいずれの事情聴取においても,佐藤は一貫して本件行為の存在を認める内容の供述調書に署名押印しているのであり,佐藤に対する事情聴取及び同人の供述調書作成を担当した審査官である石垣照夫(以下「石垣」という。)の供述内容(参考人石垣照夫)を踏まえても,佐藤において上記各供述調書への署名押印を拒否することが事実上困難であった等の事情はうかがわれない。
佐藤の各供述調書の内容は,具体的な会社名(本件組織の会員会社20社,幹事会社3社等),個人名(各会員会社の専任者,幹事等),発言内容(「この物件をいきなさい」,「うちで行かせてもらうことになりました」等)等を挙げたり,他の資料や供述からは通常導かれないような特徴的なエピソードを交えるなど(例えば,平成16年2月及び3月の「当番幹事」が西村〔三井住友建設〕であったこと,受注調整が平成16年3月ころまで行われていたこと,被審人前田製管が幹事会社3社に対して「発注金額が1億円程度の物件が出たら受注したい旨」を伝えるという「事前運動」をしていたこと等),具体的かつ迫真的なものであり,また,見たことがあっても不思議ではないような証拠書類について見覚えがない等と述べるものであって,このような上記各供述調書の内容が審査官の創作や誘導によるものであるなどとは考え難い。
(ウ) 森(日本サミコン)及び冨山(日本サミコン)において,各供述調書への署名押印を拒否することが事実上困難であった等の事情は全くうかがわれない(森及び冨山の供述調書作成当時の勤務先である被審人日本サミコンを含む被審人16社も,そのような具体的事情を特に主張していない。)。
上記の各供述調書の内容は,具体的な会社名,個人名(本件組織のゴルフコンペの参加者,受注希望を伝える相手,入札価格を連絡してきた専任者等)等を挙げたり,他の資料や供述からは通常導かれないような特徴的なエピソードを交えるなど(例えば,森が,被審人日本サミコンの得意とする「防災関係のPC工事」の発注があれば西村〔三井住友建設〕に受注意欲がある旨を伝えるつもりであること,冨山からPC工事についての受注調整の存在等を内容とする「引継ぎ」を受けたという認識であること,冨山が,当初はPC工事についての受注調整に係る「業界の慣行」を知らなかったが協力依頼等の連絡を何度か受けるうちに当該慣行の存在を知ったこと,森が冨山の近くの席で同人と同業者との「電話でのやり取り」を聞いていたこと等),具体的かつ迫真的なものであり,また,両者間の引継ぎの有無等に関して互いに一見整合しないかのような事実を述べるものであって,このような上記各供述調書の内容が審査官の創作や誘導によるものであるなどとは考え難い。
(エ) そして,佐藤,森及び冨山の各供述調書の内容は,自社が公共工事についての受注調整に参加しており,自らもそれに関与していたという,自己に不利益かつ重大な事実を述べるものであり,上記3名において,実際にはそのような事実が存在しないにもかかわらずあえて上記のような内容の供述を行う理由は全くうかがわれない。上記各供述には,審査官から提示された書面について,見たことがない,記憶がないと答える(査第106号証,第126号証)など,自己の記憶にないことは話さないようにしようという姿勢を示す部分も見受けられる。
(オ) 以上によれば,上記3名の各供述調書の信用性は高いといえる。
イ 被審人ピーシー橋梁の大阪支店営業部営業課長等を務めたことのある細井康充(以下「細井」という。)が,平成20年1月29日,公正取引委員会の審査官からの事情聴取に対し,国土交通省近畿地方整備局発注のPC工事について同被審人を含む17社による受注調整が行われていたこと及び自分が同被審人の専任者を務めていたことを認めるとともに,平成15年4月ころ,同被審人の本社において,自分を含む全国の各地区の専任者が出席して各地区における受注調整の状況を報告する営業会議が開催され,東京支店からも橋口(ピーシー橋梁)及び藤代(ピーシー橋梁)が出席していたこと,同会議において,自分を含む各地区の専任者が順次,事前に作成されていた本件アンケート綴り(後記ウ参照)に基づいて,各地区における受注調整の状況を報告したことを述べている(査第343号証)。かかる事実は,関東地整発注のPC工事についても受注調整が行われていたことを示すものといえる。
細井において上記供述を余儀なくされた等の事情は全くうかがわれない(むしろ,同人に対する事情聴取は,本件行為に関する審査が一通り終了し本件審判手続が開始された後,同人の方からあえて公正取引委員会に申し出たことにより行われたものである。〔査第343号証〕)。細井は,平成19年4月に被審人ピーシー橋梁からいわゆるリストラの一環としての退職勧告を受けて退社しており,その後に上記供述をしたものであるが,上記供述をするに至った経緯について,「私は,平成16年当時の事情聴取の際は,ピーシー橋梁の『協力せず一切をしゃべらない』との対応策に従い,受注調整をしていたことはしゃべらない方針で事情聴取に対応しておりました。…『うそつき』のままでいるということに気持ちのどこかにいつも引っかかるものがあり嫌でありました。ピーシー橋梁を退職後は,機会があれば,受注調整の事実をお話しようと考えておりましたが,退職後は転職先の仕事に慣れるのに忙しく,時間的にも気持ちの上でも余裕がありませんでした。転職先でも半年以上たち仕事にも慣れ,時間的にも気持ちの上でも余裕が出てきましたので,今回,公正取引委員会に連絡をとり,受注調整をしていたことを正直にお話することにしたのです」と述べている(査第343号証)。細井の上記供述が,自分が専任者として受注調整という重大な違法行為の中核を担っていたという,細井自身にとっても不利益がないとはいえない事実を述べるものであること,上記供述や本件アンケート綴りに関する後記ウの供述の内容が,具体的な会社名,個人名,物件名,発言内容を挙げたり,他の資料や供述からは通常導かれないような特徴的なエピソードを交えるなど(例えば,公正取引委員会の審査への対応策の検討状況及びその対応策等),具体的かつ迫真的なものであること等も考慮すれば,細井の上記供述内容について,被審人ピーシー橋梁を陥れる目的で創作されたものである等とは考え難い。
以上によれば,細井の上記供述調書の信用性は高いといえる。
ウ 本件アンケート綴り(査第107号証)は,被審人ピーシー橋梁から留置されたものであり,同被審人の取締役営業統括部長であった森茂久が,平成15年3月20日ころ,全国の各地区における営業の状況を把握するために,各支店の営業部長等に「アンケート票」の様式を送付等してその記入・提出を指示し,これに応じて東北,関東,北陸,中部,関西,中国,四国及び九州の各地区の支店の営業部長等が当該「アンケート票」に記入して提出し,それらの「アンケート票」8通が綴られ,森茂久が所持していたものであるところ(査第108号証,第343号証),そのうち本件アンケート票には,別紙5のとおりの記載がある(なお,各項目番号及び項目名は不動文字であり,その余の記入部分は手書きである。また,同書面中には「プレテン」及び「ポステン」との記述があるが,PCには「プレテンション方式」のものと「ポストテンション方式」のものがあり〔査第93号証〕,上記各記述はこれらの略称と解される。)。その余の7通にも,同じ様式及び項目に係る記載がある。
被審人ピーシー橋梁の関東地区の営業担当者において,上記のとおり営業統括部長からの業務上の指示に応じて文書を作成・提出するに当たり,あえて事実と異なる記載を行う理由があったことは全くうかがわれないのであるから,本件アンケート票の記載内容は,細部において不正確な点等を含むことはあり得るとしても,少なくとも大筋では事実を報告するものと認めるのが相当である。
そして,本件アンケート票の上記記載は,本件組織の概要及びそこでのPC工事等に関する受注調整の状況を報告したものとしか解しようがない。本件アンケート綴りの各項目名からすれば,森茂久自身も,各地区において受注調整が行われているとの認識を前提に,その具体的状況の報告を求めたものと考えるほかない。本件アンケート綴りのうち関西地区に係るものの作成者は細井(ピーシー橋梁)であるところ,同人は,同書面に,前記イのとおり国土交通省近畿地方整備局発注のPC工事について行っていた受注調整の状況を記入して提出した旨述べている(査第343号証)。
そもそも,本件アンケート綴りが被審人ピーシー橋梁において上記のような経緯で作成・所持・留置されたものであることは動かし難いところ(査第108号証〔森茂久の供述調書〕。同調書については,その信用性を疑うべき事情は全く見当たらず,被審人ピーシー橋梁を含む被審人16社も特段その信用性等を争う主張はしていない。),同被審人を含む被審人16社は,同綴りを何のために作成・所持していたのか,「国交省の決め方」とは何のことか等の点について,何ら合理的な説明をしない。
エ 本件会議文書(査第224号証)は,被審人川田建設から留置されたものであり,同被審人の営業本部長名義の「営業部長会議」及び「全国担当者会議」の開催通知並びに同「全国担当者会議」の議事内容のメモ等であり,同被審人の取締役東京支店長を務めていた高橋常之(以下「高橋」という。)が手書きして所持していたものであるところ(査第236号証,第237号証),そこには,議事項目名として「3.各地方整備局の受注分配方法について」との記載,「クラブで調整」,「国交省,→割り振っているのは,だれか?」,「クラブで決めるな」,「支店長→クラブの内容がわかっていない」,「クラブでどんなことをやっているのか?」との記載,「東京支店」の項における「ピーエス,住友,オリエンタル(幹事)」との記載,「関東」の項における「ピーエス」,「オリエンタル」,「住友」及び「高野氏」との記載等がある。
上記の記載は,被審人川田建設の東京支店長その他の営業担当者らが,「国交省」の「各地方整備局」発注の工事について,「東京支店」との関係では「クラブ」と呼ばれ「ピーエス」,「オリエンタル」及び「住友」を「幹事」とする団体において,「受注分配」や「調整」や「割り振」りが行われているとの認識を有していたことを示すものといえる。
本件会議文書に関しても,上記のとおり被審人川田建設における会議の議事内容のメモ等であること自体は動かし難いところ,同被審人を含む被審人16社は,上記「受注分配」,「クラブで調整」,「割り振っている」等の文言の意味について,何ら合理的な説明をしない。
オ 高野によるシミュレーション(前記第2の4(3))に関しても,以下のような事実が認められる。
(ア) 高野は,遅くとも本件期間の初期以降,関東地整発注の特定PC橋梁工事についてシミュレーションを行っていた。(査第233号証,第234号証,審A第1号証,廣川義次参考人)
実際に,高野は,「平成15年度 工事発注(関東地方整備局)7月公表分」と題する書面(査第232号証,以下「本件シミュレーション書面」という。)において,平成15年度発注予定の工事延べ20物件の「工事名」,「型式」,「規格・数量等」,「金額」等の一覧表を作成するとともに,各物件ごとに,シミュレーションの結果としての21社等の事業者名の略称を記載している。同20物件のうち16物件が実際に発注されている(物件56,57,58,60,61,62,63,64,65,66,67,68,71,73,74及び77。残りの4物件のうち,2物件は統合されて物件62として発注され,2物件は最終的に発注されなかった。)。(査第232号証ないし第234号証)
上記20物件のうち,高野が所属する被審人ピーエス三菱の略称である「PS」が記載された物件は1つだけであり,その余の19物件には,それぞれ,「OKK」,「SOW」,「FPS」等,他の多数のPC工事業者の略称が記載されている。また,上記20物件の中には,いったんPC工事業者の略称が記載された後,それが1ないし3回,横線抹消及び追加記入により修正されているものも10物件存在する。
以上のような内容の書面が被審人ピーエス三菱において作成されていたこと自体,関東地整発注の特定PC橋梁工事についての受注調整の存在を疑わせるものといえる。
なお,上記書面について,被審人16社は高野の「個人的なシミュレーション結果」である旨主張するが,真に価格競争が行われる将来の入札について,入札に参加し得る多数の事業者らのいずれが落札・受注するかを具体的に予測することは,たとえ1件であっても困難と思われるところ(被審人らが受注調整の不存在を主張している本件発注物件78物件に係る入札結果〔別紙4〕をみても,その大部分において,最低の入札価格と2番目に低い入札価格の差は大きなものではなく,わずかな価格の付け方の違いによって容易に結果が変わり得るものとなっている。),被審人ピーエス三菱に所属する高野において,少なくとも,自社による受注を想定しない多数の物件について,20社以上に上る同業他社のいずれが落札・受注するかという具体的な予測を,上記のような困難性があるにもかかわらず「個人的」に行う実益があったとは考え難い。
(イ) 本件シミュレーション書面に記載されている前記(ア)の16物件のうち,21社のいずれかが受注した物件は11物件(物件56,57,60,62,64,66,67,68,73,74及び77)であった。そして,同11物件のうち少なくとも3物件(物件66,67及び73)については,いずれも,本件立入検査が実施され被審人ピーエス三菱から本件シミュレーション書面が留置された平成15年12月3日より後に入札が行われているところ,同書面の記載内容において割り振られている事業者が実際に受注している。
かかる事実は,前記(ア)のような落札者予測の困難性等も踏まえれば,高野によるシミュレーションが関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る入札参加者らの入札行動に何らかの影響を及ぼしていたことを疑わせるものといえる。
なお,上記11物件のうち上記3物件を除く8物件をみても,そのうち4物件(物件56,57,60及び62)については,本件シミュレーション書面の最終的な記載内容において割り振られている事業者が実際に受注している(ただし,それらの入札はいずれも本件シミュレーション書面が留置される前に行われている。)。上記8物件のうち残り4物件(物件64,68,74及び77)については,本件シミュレーション書面の最終的な記載内容において割り振られている事業者とは異なる事業者が受注しているが,この4物件はいずれも,本件シミュレーション書面が留置された後に入札が行われたものであり,21社において,同書面が留置されたことを踏まえて方針を再考する余地のあるものであった。(査第232号証,第311号証)
以上のように,上記8物件の入札結果等に関しても,幹事が受注予定者決定の際にシミュレーションの内容を「参考にすることがあった」(平成20年9月1日付け審査官意見85頁)という審査官の主張内容と矛盾するような事情はうかがわれない。
(ウ) 被審人日本ピーエスから留置された「平成14年度 第3回 関東・東北地区ブロック会議」と題する文書綴り(査第227号証)には,同会議での発言内容として(査第239号証),「関東地整:シュミレーション→高野氏→役(問題なければ決定)」,「高野氏のシュミレーションが強い」,「相談:対策(高野氏の件)」との記載がある。
上記記載は,関東地整発注の特定PC橋梁工事に関する何らかの判断において,高野のシミュレーションが強い影響力を有していたことを示すものといえる。
カ 22社の役員や従業員の一部が,以下の各文書を作成・所持していた。これらの文書の記載内容は,その作成者等が関東地整発注の特定PC橋梁工事又はそれを含むPC工事一般についての受注調整の存在を認識していたことを示すものといえる。
(ア) 被審人日本ピーエスの取締役東京支店長を務めていた渡辺國臣(以下「渡辺」という。)が所持・使用していたノートの写しである「1/23.①東京本部会ギ」と書き出しの書面(査第111号証,第117号証)。「関東地整仕組み-上位からPS,OKK,住友,富士,川田,PC,NPSに配ける」との記載がある。
(イ) 被審人ドーピー建設工業から留置された「中期営業戦略」と題する文書綴り(査第116号証)。「入札前調査」・「管理職」として,「競合業者及び見積金額等の調査をし,競合業者からの合意を得るよう最大限の努力をする」との記載がある。
(ウ) 被審人日本ピーエスから留置された「大阪支店 都道府県別受注額(業界)」と書き出しの文書綴り(査第206号証)。そのうち「3-4 国土交通省の目標物件と営業作戦」と題する書面(ただし右上に「東京支店」とあるもの)に,「目標物件」として「関東地整 矢切高架橋」,「営業作戦(OB,専任者の意見も含めて)」・「関東地整」の項として「発注時期が4/4に予定されている為,幹事会社に対するPRも時間をかけて着実に行う必要がある」との記載がある。
なお,上記「矢切高架橋」は物件46を指すものと解される(査第221号証)。
(エ) 被審人日本ピーエスから留置された「平成14年度 第8回 関東・東北地区ブロック会議」と題する文書綴り(査第207号証)。その2枚目に,「国土交通省の受注対策について」・「①関東地整」の項として,「年度当初東京支店の受注対策として矢切高架橋(約3.7億)を目標としていたが,発注が深まるにつれその目標をほんの少し修正し現実に即した目標に設定し直す」,「※未受注会社の顔ぶれを見て修正する。PC業者上位より PS,OKK,住友,FP,川田,PC,NP,DPS…」,「修正後の目標として以下の2物件をあげ,幹事会社へPRを行う。①大宮国道 上広谷高架橋上部その1 約3.4億(公募) ②横浜国道 山崎高架橋上部その2 約3.4億(詳細条件)」との記載がある。
なお,上記「矢切高架橋」は物件46,「上広谷高架橋」は物件68,「山崎高架橋」は物件48を指すものと解される(査第221号証)。物件48については後記キ(イ)のとおりである。
(オ) 被審人KCKから留置された「77期工場製品受注及び製品予定」と題する文書綴り(査第208号証)。そのうち「国土交通省受注目標」と題する書面に,「業界全体を見ると,受注額上位の会社には必ず在籍している。業界で受注の希望を当社が話した時に,興和にOBがいるかという話しが必ずでる」との記載がある。
(カ) 被審人日本ピーエスから留置された「会議資料提出のお願い」と題する文書綴り(査第217号証)。「国土交通省の未受注物件名と不足対策」として,「関東地整」,「3.業界に調整をお願いしていく」との記載がある。
(キ) 被審人ピーシー橋梁から留置された「各支店概況表」と題する文書綴り(査第225号証)。同被審人の各支店の事業計画を取りまとめた資料であり,その4枚目は東京支店に係るものであるところ(査第84号証,第238号証),そこには「営業部(国交省)」・「今年度受注目標に対する具体的方策」として,「PS.基本は業界にてタタキ台作成.アナウンス待ち」との記載がある。
(ク) 大島(SMCコンクリート)が所持・使用していたノートの写しである「1.8タイプに」と書き出しの書面(査第250号証)。「PC桁で極東工業から,国交省(首都国道事務所)の原木大橋208t受注予定。国交省は2回で,入札打切り,指名替えになり,極東が一回で落せず地元発注になると,業界に対する責任の問題が出るので,2回目10%切って落した。→当番幹事のPSから話があり事情を考え」との記載がある。
なお,上記「原木大橋」は物件56を指すものと解される(査第254号証,第311号証)。物件56については後記キ(ウ)のとおりである。
(ケ) 被審人日本ピーエスから留置された「平成15年度 第3回 関東・東北地区ブロック会議議事録」と題する文書綴り(査第251号証)。「国土交通省の受注対策 関東地整」として,「本年の受注アナウンスがあったら,支店一丸となって関係者の所に,早々に受注に向けて挨拶等行動を起こしてください」との記載がある。
(コ) 被審人ピーエス三菱から留置された「年初め 改革 → 現在 激動」と書き出しの文書(査第255号証)。同被審人の神原俊彦(平成2年4月に旧建設省を退職し,平成4年11月に被審人ピーエス三菱に入社し,本件期間中には同被審人の専務,副社長及び特別顧問を順次務めていた者。以下「神原」という。)が,同被審人において競争入札に参加する際に注意すべき点等を記載したものであるところ(査第256号証),同文書には,「たとえば,入札札の問題である。指名業者が全社が,等間隔で,すべて金額が,異なるとか,1回目の順位,と,2回目の順位が,同じというよな,1目で,談合をした事が,わかるような事では困ります」,「もしわが社が,本命で,札を,作る時10社が,同じ間隔で,全部金額が,異るような事は,しないでもらいたい,同じ金額の札が,何枚もなってもよいでしょう。1回目と2回目が,同じ,順番というのも困ります,これからは,入札札を見た時一目で,談合をしたというのが,判るのは,大変困ると思います。何か,工夫をしていただきたいと思います」との記載がある。
(サ) 被審人三井住友建設から留置された「2002.8.土木営業会議」と題する文書(査第258号証)。「①PC建協」の項に,「当社 ゼネコン窓口として 関東地建,中部地建,JH等々,各支店の人と連携をもってやっている。関東PCクラブ 東京支店西村がPS,OKKと三社でやっている」との記載がある。
(シ) 被審人オリエンタル白石から留置された「9/18営業勉強会議事録(抄)」と題する文書綴り(査第267号証)。「(1)日常の営業活動での危機管理(税務対策・公取対策)」の項に,「ⅱ.業界(業務)」として「・合見積等やばい書類の処分 → シュレッダーの設置」との記載があり,「ⅲ.入札行為」として「・札の連絡,確認(入札前を含む)時の注意点を再徹底」との記載がある。
(ス) 被審人ピーシー橋梁から留置された「公正取引委員会」と題する文書(査第268号証)。「・問題点 業者選定,価格調整」の項に,「4 業界の会合での飲食を各社割で領収書を取る(pc建協を除く)」,「5 手帳に細かく書かない。1年以上のものは処分する 当社の手帳は提出を求められたら拒否できない」,「6 業者間の会議メモ,価格調整のメモを残さない 特に見積関係に配慮」,「8 ゴルフのメンバー表等を残さない」,「9 営業関係のフロピーデスクなどデーターに十分に注意すること メール関係の消去,faxの通信記録にも注意のこと」との記載がある。
(セ) 被審人オリエンタル白石から留置された平成15年8月19日付けの「1.八田部長 議事次第について」と書き出しの文書(査第271号証)。柿塚専務の発言として,「公取げんげん強化」,「業界に談が無くなった時 →体力?」(ただし,「談」の字は○で囲まれており,「体」と「力」の間には「耐」の字が二重斜線で抹消された記載がある。)との記載がある。
(ソ) 被審人ピーエス三菱から平成16年4月5日に留置された文書のうち「リスクマネジメント委員会 12/15」と書き出しの部分(査第285号証)。同被審人の「東京土木支店管理部長代理兼総務グループリーダー兼事務管理グループリーダー」の地位にあった者が所持していたノートの一部であるところ,その中には,同被審人が本件立入検査を受けた経緯,公正取引委員会による事情聴取の見込み等の記載の後に,「岩下弁護士に対応説明会」,「細かい指導まであった」,「岩下→ 人格を変えてくれ。まじめに答えるな。短かく答弁する。知りません,わかりません。忘れましたでいく。公取のシナリオにのるな」,「供述調書に署名捺印したものをくすがえすのはむづかしい。(供述調書)は作らせない」,「何の資料か等は答えない」,「PS三菱,OKK,三井住友をターゲットにしてくる。…公取・残りの10数社は3社を見ている。対応間違えると全体でずっこける。…行く前に話し込みの必要あり」,「同業他社,外堀から埋られた場合もつっぱねる。きょぎの証言に対する制裁はない。(弁ゴ士)」,「メモを捨てる(書類整理)」,「同業者との負担(金)の書いたもの・抜けるものなら抜く 沢山なければ,整理 部長,GL 担当者が持っている」,「書類整理とは,連続もの(平成○○年度)について,H12の半分かくしたら言われる,かくなら全部かくす」との記載がある。
キ 以下の各物件に関して,以下のとおり,受注調整の存在を具体的にうかがわせる事実が認められる。
(ア) 物件45に関して
被審人機動建設工業は,平成15年2月24日,物件45に係る指名通知を受けた。福島(機動建設工業)は,同月25日,発注者である宇都宮国道事務所に挨拶しに行くとともに,その日のうちに,支社長とともに被審人ピーエス三菱に挨拶しに行った。その際に廣川(ピーエス三菱)らが不在であったため,福島は,同年3月3日に1人で再び廣川に挨拶しに行き,同人に会って名刺を渡し,「機動建設工業の福島です。よろしくお願いします。」と挨拶した。同月4日にはPC会館で「PC会議」が開催され,福島もこれに出席した。
同月5日に物件45の入札が行われ,被審人機動建設工業が1回目の入札で落札した。
福島は,その後すぐに,廣川,西村(三井住友建設)及び河原(オリエンタル白石)の3名に電話をかけ,物件45を受注できたことを伝えた。
(査第243号証,第248号証,第311号証)
(イ) 物件48に関して
被審人日本ピーエスは,平成14年5月ころ,物件46を受注目標としており,そのために「幹事会社に対するPR」を行っていた。
その後の同年11月ころ,同被審人は,上記受注目標を物件48又は物件68に変更することとし,そのためにも「幹事会社へPR」を行っていた。
その後に行われた物件48の入札において,被審人日本ピーエスが落札した。
(査第206号証,第207号証,第210号証,第214号証,第220号証,第252号証,第311号証)
(ウ) 物件56に関して
物件56については,平成15年8月27日に入札が行われたものの,税抜予定価格を下回る価格での入札がなかったため不調となり,後日,当初の入札参加者とは異なる10社が指名された上で再入札が行われることとなった。
上記再入札が行われる前に,被審人極東興和が「受注予定」者となった。「当番幹事」であった被審人ピーエス三菱の関係者は,被審人極東興和の担当者に対し,上記再入札も不調になると「地元発注」になり「業界に対する責任の問題が出る」という趣旨のことを伝えた。同被審人は,被審人前田製管その他の入札参加者に対し,自社の入札価格又は各参加者において入札すべき価格を連絡した。
同年10月21日に改めて物件56の入札が行われ,被審人極東興和が,その2回目の入札において,1回目の入札価格の約91.5%に相当する価格で入札し,落札した。
(査第104号証,第105号証,第250号証,第254号証,第311号証)
ク 本件受注物件65物件に係る入札の結果等をみても,以下のような事情が認められる。これらの事情は,それだけで受注調整の存在を推認するに足りるとまではいえないとしても,受注調整の存在を疑わせる事情の1つになることは明らかである。
(ア) 本件受注物件65物件の落札率の平均値は約96.33%であった。その内訳は,100%のものが1物件,99%以上100%未満のものが12物件,98%以上99%未満のものが15物件,97%以上98%未満のものが11物件,96%以上97%未満のものが6物件,95%以上96%未満のものが3物件,90%以上95%未満のものが13物件,90%未満のものが4物件であった。(査第311号証〔別紙4〕)
このように,2年半以上の期間にわたる,多種多様なPC工事に係る,65という決して少なくない数の物件の落札率分布状況が,(落札率98%以上の物件が28〔約43.1%〕に上るなど)非常に高いものとなっている。
(イ) 本件受注物件65物件のうち23物件について,2回以上の入札が行われたが,そのすべてにおいて,1回目の入札で最低価格で入札した者が,その後の入札においても最低価格で入札し,最終的に落札している。(査第311号証〔別紙4〕)
ケ 以上のような証拠関係に照らせば,前記アの各供述は十分な信用性を有するものと認められ,審査官の挙示するその余の証拠等について検討するまでもなく,本件組織において本件基本合意の下に関東地整発注の特定PC橋梁工事に関する受注調整が行われていたことは優に認められる。
そして,当該受注調整の具体的な態様は,前記第2の4掲記の各証拠により,同4のとおりであったと認められる。なお,審査官は,前記第2の4(5)に関して,アウトサイダーへの協力要請等はアウトサイダーとの連絡窓口とされていた被審人三井住友建設の西村において行うこともあった旨主張しているが,審査官の挙示する全証拠によっても,同(5)において認定されている以上の具体的事実を認定することはできない。この点について同(5)の限度でしか認定できないことは,本件行為の存否等に関する前記認定判断を左右するものではない。
本件行為の参加者は,前記アないしクにおいて検討した証拠等(取り分け査第104号証ないし第107号証)によれば,他に特段の事情のない限り,佐藤(前田製管)の供述(査第104号証ないし第106号証)及び本件アンケート票(別紙5)において本件組織の参加者として挙げられている20社に常磐興産及び住友建設(又は被審人三井住友建設)を加えた22社と認めるのが相当である。そのうち被審人SMCコンクリートに関しては,後記(2)のとおり上記特段の事情が認められるものの,その余の21社に関しては,上記特段の事情は認められず,本件行為の参加者であったと認められる。
(2) 被審人SMCコンクリートが本件行為に及んでいたか否かについて
ア 前記(1)の認定及び証拠(査第70号証,第83号証,第104号証ないし第107号証,第250号証,第254号証,第286号証,第298号証ないし第300号証,大島功参考人)によれば,被審人SMCコンクリートが本件組織に参加していたこと及び同被審人の大島その他の関係者が本件組織において本件行為が行われていることを認識していたことは明らかである。これに反する被審人三井住友建設らの主張及び大島(SMCコンクリート)の供述は,いずれも採用できない。
イ しかし他方,後掲の各証拠によれば,以下の事実等も認められる。
(ア) 被審人SMCコンクリートは,本件発注物件78物件のうち,物件63については,入札参加申込みを行ったものの指名を受けず,その余の77物件については,入札参加申込みをせず指名も受けなかった。そのため,同被審人が本件期間中に入札に参加したことは一度もなかった。(査第254号証,第311号証,大島功参考人)
本件行為の態様,別紙4でみられるような本件発注物件78物件に関する21社の入札行動等に照らせば,本件行為に参加している事業者が,2年半以上の期間にわたって行われた78物件に係る競争入札について,たとえ結果的に自ら受注を目指す意思を生ずることがなかったとしても,参加申込みをしたことが1度しかなく,指名を受けたことも入札に参加したことも1度もないというようなことは,想定しにくいといわざるを得ない。
(イ) 被審人SMCコンクリートは,被審人三井住友建設の100%子会社であり,その年間売上高は70億円弱,従業員数は66名(平成20年3月31日現在)である。(審C第8号証,大島功参考人)
被審人SMCコンクリートは,平成4年度以降,平成8年3月5日までの間に,関東地整発注の特定PC橋梁工事に係る競争入札に指名を受けて参加したことが6回あるが,いずれも受注には至らず,その後は,本件期間も含めて,少なくとも平成19年3月31日まで,同工事に係る競争入札に参加していない。(査第292号証,第311号証,第341号証)
被審人SMCコンクリートが平成9年度以降に受注した現場施工を要する橋梁工事たるPC工事の件数は,平成9年度は3件,平成10年度は2件,平成11年度は5件,平成12年度は4件,平成13年度は1件,平成14年度は2件,平成15年度及び平成16年度は0件,計17件であった。上記各工事のうち,平成12年度の(4件中)1件,平成13年度の1件及び平成14年度の(2件中)1件は下請工事であった。その余の14件の元請工事のうち,1件は日本道路公団(当時)の発注に係るものであるが,その余の13件はいずれも地方公共団体又は民間の発注に係るものであった。また,上記の平成14年度の元請工事1件の工事内容は,「道路用プレキャスト ボックスカルバートの製作・運搬・据え付け工事」というものであった。(審C第5号証,第8号証,大島功参考人)
これらの事情及び前記(ア)の事情も踏まえると,本件期間当時の被審人SMCコンクリートにおいて,関東地整発注の特定PC橋梁工事を元請として受注して問題なく完成させ得る態勢を実質的に保持していたか否かについては,疑問が残る。
(ウ) 被審人SMCコンクリートが,親会社である被審人三井住友建設を含む21社から,橋梁工事たるPC工事の下請工事を受注することも,少なくなかった。(審C第5号証,第8号証,大島功参考人)
そうすると,被審人SMCコンクリートが本件組織に所属し,大島がその会合等に参加する動機について,本件行為に参加すること以外にはなかったとまでは断じられない。
ウ これらの事情も踏まえると,前記アの各事実のみをもって被審人SMCコンクリートが本件期間中に本件行為に及んでいたことを推認することはできず,その他,同被審人が本件行為に及んでいたことを認めるに足りる証拠はない。
エ これに対し,審査官は,被審人SMCコンクリートが関東地整発注の特定PC橋梁工事の入札に参加する能力及び意思を有していたことを示す事実として,同被審人が,①前記イ(イ)のとおり,平成9年度から平成14年度までの間に現場施工を要する橋梁工事たるPC工事を計17物件,元請工事に限っても計14物件受注していること,②物件63について実際に入札参加申込みを行っていること,③平成15年ころ関東地整に対する申請によりPC工事に係る有資格者(2年ごとの更新を要する。)となっていること(査第291号証),④大島(SMCコンクリート)その他の被審人SMCコンクリートの従業員等において,「当社はBランクでありランク的には国土交通省出先発注の指名競争入札1億円までのPC上部工であれば指名に個入る可能性あり」,「国土交通省は小さい物件でも1件/年は継続的に受注できる様に松橋部長のアドバイスを頂きながら」(なお,「松橋部長」とは,被審人三井住友建設に在籍していた国土交通省のOBである。),「国交省~指名=どうやって取るか?」,「毎日の様に名刺配り.と.指名を稼ぐ」,「今迄何の役にも立たなかった経審の点数 国交省の出先発注…指名競争入札であり,当社の◎は2年平均18億であり,ひょっとしたら,今后楽しみになる」など,関東地整発注の特定PC橋梁工事の受注を目指すことを前提とする種々の発言等をしていること(査第250号証,第290号証,第294号証,第297号証,大島功参考人)を挙げる。
しかしながら,被審人三井住友建設らは,上記①については,当該14物件はいずれも関東地整発注の特定PC橋梁工事と同等の規模のものではない旨主張し,上記②については,親会社(住友建設)からいわゆる電子入札システムに対応するよう指示されていたため,入札に参加できる可能性はないと考えつつも練習程度のつもりで入札参加申込みを行ったにすぎない旨主張し,上記③については,有資格者でなければ関東地整発注のPC工事について下請業者としても使ってもらえない可能性が高いからである,登録更新自体は2年に1回申請するだけであってさほど手間はかからない旨主張し,上記④については,そもそも関東地整発注の特定PC橋梁工事についての受注意欲とは関連しないか,又は,親会社から国土交通省発注物件の入札に積極的に参加するよう求められていたため,その努力をしているというポーズをとるために発言等したものにすぎない,そもそもPC工事にはAランク・Bランクの区別はなく,その点で「当社はBランク…」の発言がいい加減なものであることは明らかである等と主張しており,これらの弁解内容を不合理なものとして排斥することは困難といわざるを得ない。
上記④の各発言等の内容からすれば,被審人SMCコンクリートにおいて,関東地整発注の特定PC橋梁工事の受注を実際に目指していたとみる余地も十分あるが,仮にそうであったとしても,前記イの諸事情(特に同イ(ア))も踏まえれば,少なくとも本件期間においては,実際に入札に参加して受注を狙い得る立場にあるという前提で21社との受注調整に臨むような段階には達していなかった,という可能性を排除できない。
以上によれば,上記①ないし④の事情はいずれも前記ウの判断を左右するものではない。
(3) 被審人16社の主張について
ア 被審人16社は,①本件行為の存在を示す直接証拠が極端に少ない,特に「幹事」とされる者に係る本件行為の存在を裏付ける供述は全くない,②むしろ「幹事」とされる廣川(ピーエス三菱),河原(オリエンタル白石)及び西村(三井住友建設)の3名並びに大島(SMCコンクリート)は,いずれも本件行為や前記第2の4の各事実が存在しない旨積極的に述べている等と主張する。
しかしながら,入札談合という重大な違法行為が行われた場合に,そのことを素直に認める関係者が少数にとどまり,当該行為において主導的役割を果たしたとされる者をはじめとする多数の関係者が否認を貫くことがあり得ないとはいえないから(前記(1)カ(ソ)のような文書も存在する。),上記①及び②の事情は前記(1)の判断を左右するものではない。
イ 被審人16社は,佐藤(前田製管)の供述調書(査第104号証ないし第106号証)に関して,①その大部分が審査官から見せられた資料について憶測を述べたものにすぎない,②当初は受注調整を認めていなかったのに途中からそれを認めるに至った経緯や動機が記載されておらず,担当の審査官も不明である旨述べており,審査官の誘導に迎合したことにより供述調書が作成された可能性も十分にある等と主張する。
しかしながら,上記①については,佐藤の供述内容(査第104号証ないし第106号証)からして,その大部分が資料に基づく憶測であるなどとは到底いえない。上記②については,ある時点で違反行為を認めるに至った者がその動機等を常に述べるとは限らないし,審査官においてその点を常に聴取するとも限らないのであり,佐藤の供述調書の信用性に関する前記(1)の判断を左右するものではない。
ウ 被審人16社は,森(日本サミコン)及び冨山(日本サミコン)の供述調書(査第109号証,第126号証)に関して,森は冨山からPC工事に係る受注調整に関する引継ぎを受けた旨述べているのに,冨山はPC業界の慣行について森に特段引き継いでいない旨述べており,最も重要な部分において決定的な矛盾がある旨主張する。
しかしながら,森のいう冨山の「引継ぎ」が,具体的に,いつ,どこで,どのような経緯で行われた冨山のどのような言動を指すのかは明らかでなく,他方,冨山は,「『特段』引き継いでおりませんが」というように,「引継ぎ」の範囲をある程度限定的にとらえるかのような表現をとっており,両名が想定する「引継ぎ」の意味内容に差異が存する可能性がある。また,冨山の供述内容を前提とすれば,森は,冨山の近くの席で,同人と同業者との間の受注調整に関する「電話でのやりとり」を聞いており,冨山もそれを認識していたのであるから(査第126号証),それに加えて客観的に「引継ぎ」と評価され得る事実があったか否かについて,印象に残りにくい面があることは否定できない。
以上の点も踏まえれば,上記「引継ぎ」に関する森と冨山の供述内容に一致しない点があるというだけでは,本件組織において受注調整が行われており自社もそれにアウトサイダー又は会員として関与したという両名の供述の基本部分の信用性についての前記(1)の判断を左右するものではない。
エ 被審人16社は,本件アンケート票に関して,①いつ,誰が,何を根拠に,どういう趣旨で記載したものか全く不明である,②本件アンケート綴りのうち東北地区に係る書面には,「福島県だけは県物件に関して当局からの指導がある」,「福島県の場合は,…県発注物件に限り当局からの意向がでる」と明確に記載されているところ,審査官は,福島県発注のPC工事についての入札談合に係る平成16年(判)第28号審判事件において,いわゆる官製談合の事実を一切主張していない,③本件アンケート票にも「案件毎にPSのOBが当局と突き合せを行い決定している」と記載されており,幹事が受注予定者を決定していた旨の審査官の主張内容と矛盾する等と主張する。
しかしながら,上記①については,本件アンケート票を含む本件アンケート綴りの作成経緯等は前記(1)ウのとおりであり,本件アンケート票に実際に記入した者の個人名等が不明であることは,その信用性の評価に何ら影響を及ぼすものではない。
上記③については,まず,本件アンケート票の該当箇所の全文は別紙5の11項のとおりであるところ,「突き合せを行い」と「決定している」の間に若干の空白があること(被審人16社は,この程度の空白は他にもあり,例えば文頭の「幹事会社3社が」と「OBの有無…」との間にも同程度の空白がある旨主張するが,当該空白には読点が存在するから,「決定している」の前の空白の意味を推し量る根拠にならないことは明らかであり,その他,少なくとも本件アンケート票の11項において,読点等のない純然たる空白で同程度の大きさのものは見当たらない。),文脈からして文頭の「幹事会社3社」は「PSのOB」を含む意味で使用されているものと解されること(本件アンケート票において「幹事会社3社」が「ショミレーション」を行っていたとされているところ,実際にシミュレーションを行っていたのは「PSのOB」である高野であり〔このこと自体は,高野自身の供述や廣川の陳述書から明らかである。〕,また,「PS」すなわち被審人ピーエス三菱は「幹事会社」の1つと認識されている〔別紙5の4項参照〕。)も踏まえれば,上記「決定している」の主体は,「PSのOB」を包含する「幹事会社3社」であると解するのが相当であり,そうである以上,審査官の主張内容と矛盾するということはできない。そして,仮に上記「突き合せ」と呼ばれ得る何らかの行為が存在し,その結果等(又はその結果等を踏まえての高野のシミュレーションの結果)も勘案しつつ幹事が受注予定者を決定していたことがあったとしても,「各社の過去の受注実績,受注希望『等』」を勘案して決定していた旨の審査官の主張内容と矛盾するものではない。
さらに,仮に上記11項の記載内容に事実と異なる点があったとしても,そもそも,受注調整の参加者の全員がその仕組み等の全部について正確な認識を有しているとは限らないし,一部の関係者の認識が一部異なっていたというだけで不当な取引制限に係る意思の連絡が否定されるものでもないところ,高野が関東地整OBであり,さらに,関東地整OBの集まりである関東PC建友会において「取りまとめ的な役目」を果たしていた者であること(査第214号証),PC工事業者の一部が,高野のシミュレーションが関東地整発注のPC工事に関して特に強い影響力をもつとの認識を有していたことがうかがわれること(査第227号証,第239号証),高野や幹事においても,その受注予定者決定等が発注官庁たる関東地整の意向を踏まえたものであるかのように本件行為の参加者らに受け止められることは,当該決定等を権威付ける上で望ましいことであったと考えられること等も踏まえれば,なお,前記(1)ウのような諸事情のある本件アンケート票のその余の部分の信用性を否定することはできない。
上記②については,そもそも,仮に東北地区に係るアンケート票の記載内容に不正確な点があったとしても,それをもって本件アンケート票の記載内容の信用性が否定されるとはいえないし,その点を措くとしても,該当箇所の具体的な文面は「原則的に図面優先。…但し,福島県だけは県物件に関して当局からの指導がある」,「福島県の場合は,地元の会津工建社・常磐興産PCの2社が主体となり,県発注物件に限り当局からの意向が出る」というものであり(査第107号証),ここでいう「指導」や「意向」が具体的に何についてのどのような(どの程度の)ものを指すのかは明らかでなく,その他,受注予定者の最終的な決定主体が「当局」であったという趣旨であると断ずるに足りる根拠はない。仮に平成16年(判)第28号審判事件の審判開始決定にいう「福島県発注の特定ピー・シー橋梁工事」の受注予定者の決定方法に関して,「当局からの指導」ないし「当局からの意向」の内容等も勘案しつつ「入札参加者間の話合いにより」受注予定者を決定したことがあったとしても,「設計図面の作成などの設計協力を行ったかどうか『等』」を勘案して決定していた旨の上記審判開始決定の内容(顕著な事実)と矛盾するものではない。
オ 被審人16社は,本件会議文書における「国交省,→割り振っているのは,だれか?」,「支店長→クラブの内容がわかっていない」,「クラブでどんなことをやっているのか?」等の記載について,被審人川田建設が受注調整のルールや本件組織の活動内容等を全く認識していなかったことを裏付けるものである旨主張する。
しかしながら,前記(1)エのような本件会議文書記載の各発言内容それ自体が,被審人川田建設の営業担当者等が「クラブ」における「受注分配」,「調整」,「割り振」りの存在等を認識していたことを示すものであり,ただ,その具体的な内容等について,当該会議の時点において十分な知識を有していなかった者もいたというにすぎない。被審人16社の上記主張は採用できない。
カ 被審人16社は,高野のシミュレーションを参考にして受注予定者が決定されていた事実はない旨の主張の根拠として,①シミュレーションを参考にして受注予定者が決定されたという具体的な物件名が明らかにされていない点,②本件シミュレーション書面で挙げられている物件の中に,「M・T」(エム・テックを指すものと解される。)や「MAT」(丸孝建設株式会社〔以下「丸孝建設」という。〕を指すものと解される。)など,22社に含まれない事業者の略称が記載されているものがある点を指摘する。
しかしながら,上記①については,前記(1)オにおいて指摘した本件シミュレーション書面の内容等に照らせば,具体的な物件名が明らかにされていないことをもって同書面の証拠価値を否定することはできない。
上記②については,佐藤(前田製管)が,物件58について,アウトサイダーである丸孝建設から価格連絡及び協力要請を受け,同社が受注できるように協力した旨を述べていること(査第104号証),冨山(日本サミコン)も,被審人日本サミコンが本件組織に加入していなかった時期において,将来自社が得意とする工事について自社の受注に協力してもらえることを期待して,本件組織の会員からの協力要請に応じていた旨を述べていること(査第126号証),実際問題としても,21社においてアウトサイダーから安定的に協力を得るためにはそれなりの見返りが必要と考えられること等も勘案すれば,21社及び高野において,関東地整発注の特定PC橋梁工事の一部につき,最終的に,その受注を特定のアウトサイダーに譲るという判断をすることもあったとみる余地も十分あるから,本件シミュレーション書面にアウトサイダーの略称があることは,本件シミュレーション書面の証拠価値や審査官の主張事実を否定する根拠となるものではない。
キ 被審人16社は,前記第2の4(5)のアウトサイダーとの連絡の窓口及び協力要請等に関して,①佐藤(前田製管)は,被審人三井住友建設がアウトサイダーとの連絡窓口であった等とは一切述べておらず,むしろ,受注予定者自らアウトサイダーに連絡していたと供述している,②一般競争入札,公募型指名競争入札の一部,平成13年3月以前の工事希望型指名競争入札及び指名競争入札の方法により発注される予定価格が3000万円を超えない工事については,入札参加者が公表されていなかったから,22社においてアウトサイダーを把握することは不可能であった等と主張する。
しかしながら,前記(1)掲記の本件行為の存在に関する各証拠等及び前記第2の4(5)末尾掲記の各証拠等,取り分け,被審人ピーエス三菱の神原や被審人日本ピーエスの営業担当者が,自社を含む「PC業者」とその他のいわゆる「ゼネコン」との間でPC工事の受注を取り合っているとの認識を複数の場面で示しているところ(査第207号証,第210号証,第221号証,第227号証,第228号証,第230号証),前記(1)ウのとおり本件組織におけるPC工事に関する受注調整の状況を報告したものとしか解しようのない本件アンケート票(査第107号証)に「13.中央ゼネコンとの接点」という項があり,そこに「住友が窓口」との記載があること(別紙5),被審人川田建設から留置された「営業担当会ギ 10・21」と書き出しの文書(査第140号証)の「東京」の項に「ゼネコンは窓口がある。そこと調整」との記載があること,同被審人から留置された本件会議文書(査第224号証)の「東京支店」の項に「①ゼネコン参入,-地区,の窓口で調整」との記載があること,被審人ピーシー橋梁から留置された「営業関係討議資料(参考)」と題する文書(査第257号証)に「GCとの協議の窓口が当社にはない(他社に依存)」との記載があること,被審人三井住友建設から留置された同被審人における会議の内容を書き取ったものと認められる複数の文書(査第258号証ないし第262号証)に「当社ゼネコン窓口として 関東地建,中部地建,JH等々,各支店の人と連携をもってやっている」,「皆さんのおかげで現在…PC業界,ゼネコン業界の接点の窓口は全国一部を除き当社がとっております」,「皆さん方が技術陣と団結し各地でゼネコン,PC専業者の接点となられ」等というような記載があること,同じく被審人三井住友建設から留置された「土木営業三部」作成の「業務引継書」と題する文書綴り(査第263号証)の「西村」の項に「・PC,ゼネコン窓口及び情報収集」との記載があること,そして,これらの被審人三井住友建設から留置された複数の文書に記載されている「窓口」ないし「接点」という語句の具体的な意義について,同被審人が何ら合理的な説明をしないこと(なお,大島〔SMCコンクリート〕は,被審人SMCコンクリートから留置されたノート〔査第299号証〕の「住友でGCの窓口」との記載に関して,住友建設が5社JVの一員となったので,同JVにおいてPC製の梁等を買い付ける際の窓口になるという意味で書いたのだと思う旨述べているが,その真偽は措いても,被審人三井住友建設がJVの一員となっていない物件に関する説明にはならないことは明らかである。)からすれば,21社が本件行為に係る受注調整におけるアウトサイダーとの連絡の「窓口」を被審人三井住友建設としていた事実は優に認められる。被審人三井住友建設の当該「窓口」としての役割の詳細は,同被審人や西村が受注調整の存在自体を否認していることもあって,明らかになっていないが,そうであるからといって上記認定が左右されるものではない(一般論として,組織外の者との連絡,交渉等の窓口となる者を定めておくことは,組織外の者との間の意思疎通の円滑化,トラブル防止等のために有意義なことといえる。)。
上記①については,そもそも,受注調整の参加者の全員がその仕組み等の全部について正確な認識を有しているとは限らないし,一部の関係者の認識が一部異なっていたというだけで不当な取引制限に係る意思の連絡が否定されるものでもないところ,上記のとおり「窓口」としての役割の詳細は明らかでないこと,佐藤が本件組織において幹事その他の中心的役割を務めたことはうかがわれないこと等も勘案すれば,被審人16社の指摘するような佐藤の供述状況だけでは,21社が「窓口」を置いていたという上記認定判断を覆すに足るものではない。
上記②については,関東地整発注の特定PC橋梁工事についての本件期間中の入札について,新たな参加者が出現し,しかもその者が最低価格で入札して受注する,というような事態が頻発する状況にあったとはみられない上,上記入札に恒常的に参加して受注を狙う有力なアウトサイダーの数は限られており(別紙4参照),それらのアウトサイダーに対する問い合わせや協力要請を行うだけでも本件行為の目的は相当程度達成され得るのであるから(未知の参加者が出現して受注を奪われる可能性が絶無ではないからといって,本件行為を行う意味がない等とはいえない。),仮に21社において上記入札の参加者を事前にすべて確実に把握することはできなかったとしても,そのことは,前記(1)及び前記第2の4(5)の認定判断を左右するものではない。実際にも,本件シミュレーション書面にはアウトサイダーの略称が複数記載されており,被審人ピーエス三菱に属する高野が,何らかの方法で主たるアウトサイダーを把握していたことがうかがわれる。
ク 被審人16社は,個別の受注調整に関して,①審査官が本件受注物件65物件のうち18物件についてしか受注調整の事実を主張できないということ自体が,本件行為の不存在を強く推認させるものである,②物件58(丸孝建設が受注したもの)についても,佐藤(前田製管)の供述によれば本件基本合意に基づく受注調整が行われたことになるにもかかわらず,審査官は本件受注物件65物件に含まれないとしており,その主張は支離滅裂である,③物件73について,被審人ピーエス三菱が最低制限価格を下回る価格で入札しているところ,受注調整が行われていたのであればこのようなことはあり得ない等と主張する。
しかしながら,上記①については,前記アのとおり,入札談合という重大な違法行為を素直に認める関係者が少数にとどまることがあり得ないとはいえず,そうである以上,具体的な受注調整の状況に関する証拠のある物件が少数にとどまったとしても不自然とはいえない。上記②については,審査官は,本件受注物件65物件に含まれない物件については(本件行為に係らないものも含めて)受注調整の性質を有する行為が一切なかったなどと主張しているわけではないから,同65物件に含まれない物件について本件行為に係る受注調整に類似する事実があったとしても,それゆえに審査官の主張が支離滅裂であるということにはならない。上記③については,後記3(3)イのとおり,いずれにせよ,物件73の入札の当時においても本件行為が存在していたという認定判断を左右するものではない。
ケ 被審人16社は,本件発注物件78物件のうち本件受注物件65物件に含まれない13物件の落札率の状況(平均95.6%)をみても,同65物件のそれと何ら違いがない旨主張する。
しかしながら,前記クのとおり,審査官は,本件受注物件65物件に含まれない物件については(本件行為に係らないものも含めて)受注調整の性質を有する行為が一切なかったなどと主張しているわけではないのであり,残り13物件の落札率が高いという事実は,それらの物件についても何らかの受注調整が行われたのかもしれないとの疑いを生じさせるものではあっても,本件受注物件65物件の落札率の高さに対する評価を変更させるものではない。
コ 被審人16社は,2回以上の入札が行われた23物件において1回目の入札で最低価格で入札した者がその後の入札においても最低価格で入札していることに関して,①1回目の入札で最低価格で入札したことはその者の受注意欲が非常に強いことを意味するから,何ら不自然ではない,②前記ケの13物件をみても,2回以上の入札が行われた4物件のすべてについて,1回目の入札で最低価格で入札した者がその後の入札においても最低価格で入札しており,何ら違いがない等と主張する。
しかしながら,上記①については,23という決して少なくない数の物件について,等しく前記(1)ク(イ)のような入札状況が生じたという事情に対する十分な説明となるものではない。上記②については,前記クのとおり,審査官は,本件受注物件65物件に含まれない物件については(本件行為に係らないものも含めて)受注調整の性質を有する行為が一切なかったなどと主張しているわけではないのであり,残り13物件についても同様の入札状況が生じているという事実は,それらの物件についても何らかの受注調整が行われたのかもしれないとの疑いを生じさせるものではあっても,本件受注物件65物件の入札状況に対する評価を変更させるものではない。
(4) 被審人オリエンタル白石の主張について
ア 被審人オリエンタル白石は,佐藤(前田製管)の平成16年5月12日付け供述調書(査第105号証,以下(4)項において「本件調書」という。)は「変造公文書」であり違法証拠として排除されなければならない旨主張する。これは,本件調書の4頁の「相指名業者は,連絡を受けた札の金額以上の価格でもって入札に臨む」という記述の中の「以上の価格」という文言を削除する訂正が行われていることに関して,作成者である石垣が,「佐藤の平成16年5月26日付けの供述調書(査第104号証)の作成時に,同人から『自分(佐藤)自身は連絡を受けた札の金額そのもので入札しており,他の会員間のやり取りは明確には分からないので,自分の体験だけで調書を作成してほしい』旨の要請を受けたため,同調書5頁の『相指名業者は,連絡を受けた札の金額以上の価格でもって入札に臨む』という記述の中の『以上の価格』という文言を削除する訂正をしたが,その後,それ以前に作成していた本件調書にも同様の記述があることに気付いたため,その次に佐藤が来庁した際,同人に対し,本件調書についても同様に訂正するということでよいかどうか確認し,同人の了承を得て,同人の面前で,当該訂正をした」という趣旨の供述をしていること(石垣照夫参考人5頁ないし7頁)を念頭に置くものと解される。
しかしながら,石垣の上記供述内容によれば,本件調書の訂正は,供述者である佐藤(前田製管)の了承を得て行われたものであり,それが公正取引委員会における供述調書の訂正の仕方として適切なものであったか否かはともかく,独占禁止法上の審判手続において違法な証拠として排除しなければならないような事情に当たるとは認められない。被審人オリエンタル白石の上記主張は採用できない。
なお,石垣の上記供述内容は具体的かつ合理的なものであり,上記訂正の内容自体が審査官にとって特段有利なものではないこと(むしろ,受注調整に関する供述範囲を実質的に狭めるものである。)からしても,その信用性を否定すべき事情はうかがわれない。
イ 被審人オリエンタル白石は,佐藤(前田製管)の供述調書(査第104号証ないし第106号証)に関して,①同人の評価や推測や感想が綴られているだけである,②本件組織の名称について,昔は「関東PCクラブ」でありその後は「S会」であったと述べているが,他の証拠と合致せず,そのため本件開始決定でも「『関東PCクラブ』又は『S会』」というように特定できない形で記載されているが,名称の違う組織が同じ組織であるはずがない,③幹事会社について,当初は期間を限定せず被審人ピーエス三菱,同オリエンタル白石及び同三井住友建設の3社である旨述べていたが,その後証拠(査第101号証)を示されると,平成12年4月から平成14年3月までは7社の時代があったとか,「当番幹事」ではなく「主幹事」に希望を伝えていた等と述べている,④アウトサイダーへの協力要請について,佐藤が自ら行っているはずであるのに個別具体的な事実の供述が一切出てこない,⑤入札価格の連絡について,「入札日の前日」の連絡で間に合うはずがないし,「自社と他の指名業者の1回目と2回目の入札の札」の両方を連絡しているとは考えにくいし,個別具体的な事実の供述が一切出てこない,⑥受注予定者の決定における勘案要素について,「OBの有無,過去の実績,関東PCクラブへの貢献度及び各社のランク」を挙げているが,それらをどう勘案するのか不明であるし,佐藤は「このような決定方法に対応するために事前運動をしていた」とも述べているところ,かかる「事前運動」は勘案要素に挙げられておらず,話がつながらない,⑦佐藤はストレスに弱く,前記アのような安易な供述調書の訂正まで行われていたことからすれば,審査官から責められないよう迎合していた状況が容易に推測される,⑧前記アのとおり「以上の価格」が削除された点について,石垣の供述によれば,佐藤が「自分のことは分かるが他社のことは分からないので自分の体験だけにして欲しい」旨述べたということであるが,佐藤には他社が「連絡を受けた札の金額」で入札していたかどうかも分からないはずであり,この点も佐藤が審査官の意に添っていたことを推測させる等と主張する。
しかしながら,上記①については,佐藤の供述内容の具体性等は前記(1)ア(イ)のとおりであり,評価や推測だけであるとはいえない。上記②については,本件組織が主として受注調整を目的とする非合法な性質のものであれば,正式な名称がないこと等により名称に関する共通認識が形成されなかったとしても不自然ではないし,「『関東PCクラブ』又は『S会』」というような特定の仕方になることもやむを得ない。上記③については,期間を特定して聞かれなければ,とりあえずその時点での状況を述べることは何ら不自然ではない。佐藤の各供述調書の内容をみても,幹事に関する同人の当初の供述はいずれも現在形で記述されており,その他,同供述時において平成14年3月以前の幹事会社も同様であったか否かが明示的に確認されていたものとみるべき事情はうかがわれない。上記④については,佐藤の供述内容を前提とすれば,受注予定者となった場合にアウトサイダーへの協力要請を行うのは特別な体験ではなく,その際のやり取りもトラブル等のない限り通り一遍のものとなるであろうし,個々の物件に関して要請先となったアウトサイダーの会社名や担当者名を記憶していなかったとしても不自然ではないから,佐藤がアウトサイダーへの協力要請等の際の具体的なやり取り等を挙げなかったからといって,その供述内容が信用できない等とはいえない。上記⑤については,「入札日の前日」の連絡では間に合わない,あるいは「自社と他の指名業者の1回目と2回目の入札の札」を連絡しているとは考えにくいとする根拠が明らかでない。上記⑥については,幹事において「OBの有無」等がどのように考慮されているのかというような言語化しにくい事柄について具体的な供述をしなかったからといって,その供述が根拠に基づかないものである等とはいえないし,「過去の実績」や「貢献度」から受注予定者を一義的に定めることはもともと困難であり,幹事の裁量に委ねられる部分がどうしても出てくると考えられる以上,佐藤やその他の参加者において幹事に対する「事前運動」に意味があると考えたとしても何ら不自然ではない。上記⑦については,佐藤からの申出に基づく本件調書の訂正を簡易な方法で行うことによって佐藤が何らかの不利益を被るとは考えられないし,公正取引委員会における供述調書の訂正に関するルール等について佐藤が関心をもっていたとも考えられないから,前記アの訂正が行われたことが佐藤の「迎合」的姿勢を示すものであるなどとはいえず,その他,被審人オリエンタル白石の主張するような事情を「推測」する根拠は全く見いだせない。上記⑧については,佐藤の体験のみに基づく内容に訂正するというのであれば,本来は「相指名業者は」という主語も訂正すべきであったと思われるが,そのような訂正がないからといって,佐藤が石垣の「意に添って」供述していたことが推測されるなどとは到底いえない。
ウ 被審人オリエンタル白石は,森(日本サミコン)の供述調書(査第109号証)に関して,①平成14年4月に「専任者」になり,冨山(日本サミコン)から受注調整に関する引継ぎを受けたと述べているが,被審人日本サミコンが本件組織に加入したのは同年5月であるとも述べており,本件組織への加入より前に引継ぎを受けたというおかしな話になっている,②冨山は森に引き継いでいない旨述べている,③受注意欲を伝える相手について,西村(三井住友建設)であると述べているが,佐藤(前田製管)は「当番幹事である」と述べている等と主張する。
しかしながら,上記①については,森の述べる「引継ぎ」の内容は「PC工事業界の昔からの流れとして,発注されたPC工事の受注を予定している会社から,『お願いします。』といった連絡とともに,その会社が落札できるよう当社が入札時において入れるべき価格の連絡が入るということと,もし,仮に,当社で,受注をしたいという工事があった場合には,…関東PCクラブの幹事の1人である三井住友建設株式会社の西村さんに,当社では,この物件について,先ほど申し上げた営業努力をしているということを主張して受注意欲があるという意思表示をするように」というものであって,その当時の被審人日本サミコンが本件組織の会員でなかったとして矛盾のないものである。上記②については,前記(3)ウのとおりである。上記③についても,当時の被審人日本サミコンがアウトサイダーであったとすれば,前記第2の4(5)の事情からしても何ら不自然ではない。
エ 被審人オリエンタル白石は,冨山(日本サミコン)の供述調書(査第126号証)に関して,自身は「関東PCクラブ」のルールを知らなかったと述べているのに,同人のそばでやり取りを聞いていた森がそのルールを「理解」したという,あり得ない伝達スタイルを語っている旨主張する。
しかしながら,冨山の供述内容(査第126号証)に照らせば,冨山が「森は理解していると思います」と述べている対象は,「関東PCクラブ」の内部の「ルール」などではなく,(冨山が)「これまでに経験した,これらのPC業界の慣行」(受注を希望する者が他の入札参加者に協力を依頼すること等)にすぎないことが明らかであり,被審人オリエンタル白石の上記主張は失当である。
オ 被審人オリエンタル白石は,本件アンケート票(査第107号証)に関して,①幹事が「シミュレーション」を行い,PSのOBが当局と付き合わせを行い決定していると記載されており,佐藤(前田製管)の供述と食い違い,シミュレーションをしていたのが高野であるという審査官の主張とも食い違うし,審査官は「PSのOB」が「当局と付き合せ」をしたという事実はないとしている,②被審人ピーシー橋梁と高野との間に特殊な関係があり,同被審人においては高野が当局の意向を伝える人物ということになっていたのではないかと推測される,③佐藤(前田製管)は平成8年ころから関東地区の営業を担当していたところ,「関東PCクラブ」がいつごろまでそういう名前だったかについて「詳しくは分からない」と述べていたのであるから(石垣照夫参考人),平成8年以降は「関東PCクラブ」という名称はなくなっていたということになり,本件アンケート票が平成14年時点で「関東PCクラブ」としているのと食い違う等と主張する。
しかしながら,上記①については,前記(3)エのとおりである。上記②については,そのような推測を裏付ける証拠はないし,本件アンケート票の記載内容に信用性がないという根拠にもならない。上記③については,石垣の供述内容に加えて佐藤の供述内容(査第104号証)も踏まえれば,同人の認識は「本件組織の名称が変わった時期については,平成8年の前か後かも含めて明確な記憶がない」というものであったと解されるから,本件アンケート票の内容と食い違うとはいえない。
カ 被審人オリエンタル白石は,本件会議文書に関して,「国交省,→割り振っているのは,だれか?」というように,割り振っている者等が分からない旨記述されており,それ以上の審査官の主張は不適切な解釈である旨主張するが,この点については前記(3)オのとおりであり,上記主張は採用できない。
キ 被審人オリエンタル白石は,細井の供述調書(査第343号証)に関して,同人は,他者や旧勤務先を悪く言うことに熱心であるが,自ら行った違反行為については具体的に語っておらず,強い自己保身があり,強い者におもねる傾向があるようであるなどとして,信用性がない旨主張する。
しかしながら,細井は,上記供述調書において,自らが被審人ピーシー橋梁の専任者として違法行為である受注調整に直接関与していた旨を明確に認めているのであり,それに加えて具体的なやり取り等に関する供述が録取されていないからといって,自分に都合の悪い事実を語ることを避けている等とは到底評価できない。前記(1)イにおいて引用した部分を含む上記供述調書の内容からしても,被審人ピーシー橋梁への悪意や「強い者におもねる傾向」によって事実をゆがめているおそれがあるとみるべき点は全くうかがわれない。
ク 被審人オリエンタル白石は,前記第2の4(5)のアウトサイダーとの連絡の窓口及び協力要請等に関して,佐藤(前田製管)は自ら協力を要請していたと述べており矛盾している旨主張するが,この点については,前記(3)キのとおりであって,前記(1)及び前記第2の4(5)の認定判断を左右するものではない。
ケ 被審人オリエンタル白石は,2回以上の入札が行われた23物件において1回目の入札で最低価格で入札した者がその後の入札においても最低価格で入札していることに関して,1回目の入札で最低価格で入札した者はもともと落札したいという強い意思を有することが想定される,落札優位性がある場合も多いと考えられる等と主張するが,この点については前記(3)コと同様である。
(5) 被審人三井住友建設らの主張について
ア 被審人三井住友建設らは,佐藤(前田製管)の供述調書(査第104号証ないし第106号証)に関して,①当初は被審人ピーエス三菱,同オリエンタル白石及び同三井住友建設の3社が幹事会社であった旨記載されており,これらの供述時には審査官が本件行為の始期であると主張する平成13年4月1日以降の幹事会社についても確認されているはずであるにもかかわらず,その後「則約」と題する書面(査第101号証)を見せられた時点で,平成12年4月から平成14年3月までの幹事会社は7社であったと述べるに至っている,②上記「則約」を見たことがないと述べつつ,「平成12年4月から平成14年3月までにルールとして使用されていたものと思います」と述べているが,見たことがない書類についてそのように言い切ること自体が極めて不自然である,③上記「則約」が実際に「S会」で用いられていたのであれば佐藤が見ていないはずがない等と主張する。
しかしながら,上記①については前記(4)イのとおりである。上記②については,佐藤の供述調書(査第106号証)は,「思います」と述べて推測である旨を明示した上で,その根拠として上記「則約」の記載内容と整合する事実が複数ある旨を述べているのであり,何ら不自然ではない。上記③については,上記「則約」と題する書面の内容は必ずしも複雑なものではなく,口頭で聞いたり実地に体験したりする中で要点を記憶していくことはさほど困難ではないこと,同書面の広範な配布は本件組織に関する情報漏えい等にもつながり得ること(同書面は「幹事」とされている被審人三井住友建設から留置されたものである。)も考慮すれば,佐藤の供述調書の信用性に関する前記(1)の判断を左右するものではない。
イ 被審人三井住友建設らは,前記第2の4(5)のアウトサイダーとの連絡の窓口及び協力要請等に関して,①一般競争入札,公募型指名競争入札の一部,平成13年3月以前の工事希望型指名競争入札及び指名競争入札の方法により発注される予定価格が3000万円を超えない工事については,入札参加者が公表されていなかったから,被審人三井住友建設においてアウトサイダーを把握することは不可能であった,②佐藤(前田製管)の供述からはゼネコンとの連絡窓口が存在するとの痕跡が全くうかがわれない等と主張するが,これらの点については,いずれも前記(3)キのとおりであって,前記(1)及び前記第2の4(5)の認定判断を左右するものではない。
ウ 被審人三井住友建設らは,本件行為が存在しなかったという主張の根拠として,大島(SMCコンクリート)及び西村(三井住友建設)が本件行為の存在を明確に否定する供述をしている点を指摘するが,前記(1)の多数の証拠等に基づく認定判断を左右するものとは解されない。
3 争点3(本件行為の終期)について
(1) 後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 被審人前田製管は,本件組織における受注調整を,「平成16年3月ころまで」行っていた。(査第104号証ないし第106号証。これらの佐藤〔前田製管〕の供述調書が十分な信用性を有することは前記2(1)のとおりである。)
イ 本件立入検査後においても,少なくとも物件72及び77の入札(その年月日は順に平成16年3月5日及び同月15日)については,被審人前田製管を含めて本件組織における受注調整が行われ,その結果,物件72は同被審人が,物件77は被審人常磐興産ピーシーが,それぞれ落札・受注している。(査第104号証,第311号証)
ウ 前記2(1)オ(イ)のとおり,本件立入検査後に入札の行われた物件66,67及び73を,本件シミュレーション書面において事前に割り振られていた事業者が落札・受注している。
エ 前記イのとおり受注調整が行われたと認められる物件77の入札が行われた平成16年3月15日以降,同月末日までの間に入札が行われた関東地整発注の特定PC橋梁工事は,物件78のみであるところ,同物件に関しても,その指名通知自体は物件77の入札日より前の同月3日に行われ,その入札参加者10社中9社が21社に含まれる者であり,21社に含まれる被審人川田建設が落札・受注しており,その他,本件行為に係る受注調整が行われなかったとみるべき事情は見当たらない。(査第311号証)
(2) これらの事情を踏まえれば,本件行為は,21社が平成15年12月3日に本件立入検査を受けた後も継続されており,少なくとも平成16年3月末日まで継続されていたものと認めるのが相当である。
(3) 被審人16社の主張について
ア 被審人16社は,佐藤(前田製管)の供述の信用性に関して,①供述調書作成時のわずか1か月半程度前まで本件行為を行っていたというのに受注調整に関する具体的な事実が全く述べられていない,②本件立入検査について何も触れられていない等と主張する。
しかしながら,上記①については,佐藤は「このような…受注調整は」平成16年3月ころまで行われていたと述べており(査第104号証),基本的に従前どおりの受注調整が行われたという趣旨と解されるところ,それは佐藤にとって特に印象に残りやすい事柄ではなく,その際のやり取りもトラブル等のない限り通り一遍のものとなるであろうから,佐藤が受注調整の具体的なやり取り等を挙げなかったからといって,その供述内容が信用できないとはいえない。上記②についても,佐藤の上記供述の信用性を否定するに足るものではない。
イ 被審人16社は,平成16年3月8日に行われた物件73の入札について,最低制限価格を下回る価格での入札があり,落札率が79.15%となったことからして,受注調整が行われていないことは疑いない旨主張する。
しかしながら,受注調整の全部又は一部が行われたにもかかわらず他の何らかの事情により落札率が低くなることもないとはいえないのであり,前記(1)イのとおり物件72及び77について受注調整が行われたと認められ,その間の物件73について別扱いとされるべき事情は何らうかがわれないこと,前記(1)ウのとおり物件66,67及び73の入札結果が本件シミュレーション書面の内容どおりになっていること等にもかんがみれば,そもそも物件73について受注調整が行われなかったとは断じられない。仮に同物件について本件行為に係る受注調整の全部又は一部が遂行されなかったとしても,そのことをもって,同物件の入札の当時において本件基本合意自体が実効性を失っていた等と推認することはできない。いずれにせよ,被審人16社の指摘する上記事情は,前記(1)の各事実に基づく前記(2)の判断を左右するものではない。
ウ 被審人16社は,本件立入検査後に入札が行われた物件64ないし78の落札率が顕著に低下している旨主張する。
しかしながら,当該15物件の中にも落札率96%を超えるものがなお7物件存在するのであり,本件立入検査の前に入札が行われた物件の中にも落札率90.43%のもの(物件4)や90.56%のもの(物件28)がみられることも考慮すれば,4か月弱の期間内の15物件のうちのいくつかの落札率が低かったことについて,本件立入検査に起因するものと即断することはできない。また,仮に本件立入検査により,アウトサイダーからの協力獲得その他の本件行為のプロセスにおける円滑性がいくらか損なわれ,それが平均落札率を押し下げる結果をもたらしたとしても,そのことをもって本件基本合意が実効性を失っていた等と推認することはできない。いずれにせよ,被審人16社の上記主張事実も,前記(1)の各事実に基づく前記(2)の認定判断を左右するものではない。
エ 被審人16社は,審査官が,本件シミュレーション書面の結果と実際の落札業者が一致しなかったのは本件立入検査の後に入札が行われた4物件であると主張しており,このことも本件立入検査の後には本件行為が存在しなかったことを意味している旨主張する。
しかしながら,本件立入検査の際に本件シミュレーション書面が留置されており,仮にその後その内容どおりの事業者が受注するということになると,同書面が受注調整の一環として作成されたものであることが一層明白になってしまうのであるから,本件立入検査の後に入札が行われた物件の一部について,同書面の結果とは異なる事業者が受注したことは,21社の間の意思の連絡が消滅したことを示す事実とはいえない。
オ 被審人16社は,廣川(ピーエス三菱)が,本件立入検査後のピーエス三菱内部の状況について,談合するような雰囲気は全くなかったと述べている旨主張するが,前記(2)の判断を左右するものとは解されない。
4 争点4(競争の実質的制限の有無)について
(1) 独占禁止法第2条第6項の「競争を実質的に制限する」とは,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすことをいうものと解される(東京高等裁判所昭和28年12月7日判決・高民集6巻13号868頁)。
(2) 本件行為については,以下のような諸事情が存在する。
ア 21社は,前記第1のとおり,本件行為として,関東地整発注の特定PC橋梁工事について,「受注価格の低落防止を図るため」,「受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるように」していたものであり,その具体的態様(前記第2の4)も踏まえれば,同工事についての競争を制限することを目的として本件行為を開始(途中参加を含む。)したものであることは明らかであるし,その際,同工事の入札にアウトサイダーが参加する可能性があることを認識していたことも明らかである。そして,本件行為は,本件期間だけでも3年間にわたって,上記工事が78物件発注される中で,継続されている。
そうすると,21社自身,本件行為について,アウトサイダーの存在等を考慮してもなお上記工事についての競争を制限し得るものであると認識し,実際に受注調整を多数回実行した後もその認識を変えなかったことが明らかである。
イ 本件行為における受注予定者決定等の仕組みは前記第2の4のとおりであり,幹事及び専任者を通じて組織的に行われていること,高野をはじめとする関東地整OBを関与させていること等からしても,相応の持続性を有するものであったことは明らかである。
ウ 21社は,関東地整発注の特定PC橋梁工事について,非常に大きなシェアを有している。すなわち,21社は,本件発注物件78物件に係る延べ80件の入札(物件56及び物件64については入札不調により2度目の入札が行われた。)における延べ入札参加業者数(876社)のうち,約80.8%(708社)を占めており,かつ,当該78物件(発注総額222億350万円)のうち,件数ベースで約83.3%(65物件),発注総額ベースで約77.5%(172億260万円)を受注している。(査第311号証)
エ 本件行為には,前記第2の4(5)のとおり,アウトサイダーとの競争を回避するための仕組みもあった。
オ 以下の諸事情に照らせば,本件受注物件65物件の全部又は大部分について,実際に,本件行為に係る受注調整が行われたものと推認される。
(ア) 前記第2の5(2)並びに前記2(1)ア,キ及びケの各証拠等によれば,本件受注物件65物件のうち,少なくとも18物件(物件16,19,20,21,26,27,29,32,45,47,48,51,55,56,57,62,72及び77)について,本件行為に係る受注調整が行われたことが認められる。
上記18物件に係る指名等及び入札の時期は,本件期間の最初期を除く全般にわたっている(査第311号証〔別紙4〕。なお,物件1ないし15に関しては,そもそも被審人前田製管も被審人日本サミコンも入札参加者となっておらず,そのため,佐藤や冨山において受注調整の存否等を直接の体験として語る余地がなかった。)。本件受注物件65物件のうち,上記18物件とその余の47物件とで,本件行為の対象とされるか否かに関して区別される理由となるような事情は見当たらない。
(イ) 前記2の認定判断によれば,高野によるシミュレーションは,本件行為に係る受注調整の一環として行われたものであり,本件シミュレーション書面は,「平成15年度」に関東地整が発注する予定のPC工事に関するシミュレーションの過程等を記載したものと認められるところ,同書面の記載内容(前記2(1)オ参照)に照らせば,本件受注物件65物件のうち,少なくとも11物件(物件56,57,60,62,64,66,67,68,73,74及び77)について,本件行為に係る受注調整の一環としてのシミュレーションが行われたことが認められる。
上記11物件に係る指名等及び入札の時期は,平成15年度の全般にわたっている(査第311号証〔別紙4〕。本件受注物件65物件のうち,平成15年4月1日以降に指名通知等が行われた最初のものは物件56である。)。本件受注物件65物件のうち平成15年度のものは計18物件あるところ,上記11物件とその余の7物件とで,本件行為の対象とされるか否かに関して区別される理由となるような事情は見当たらない。
なお,本件シミュレーション書面が,当初は「7月公表分」に係る発注情報に基づいて作成され,その後の新たな発注情報に基づいて適宜追加・修正が行われ(査第233号証),平成15年度の途中である平成15年12月3日に突如留置されたものであること,高野が平成15年度の関東地整発注の特定PC橋梁工事に関するあらゆる発注情報を同日までに漏れなく把握できたとは限らず,シミュレーションに関する情報等を同日までに漏れなく本件シミュレーション書面に記載したとも限らないこと,実際には発注されなかった物件の記載もあること等も勘案すれば,本件受注物件65物件の中に,平成15年度中のものであるにもかかわらず本件シミュレーション書面に記載されていないものがあるからといって,それがそもそも本件行為の対象に含まれていなかった等とは断じられない。
(ウ) 前記2(1)ク(イ)のとおり,本件受注物件65物件のうち23物件について,2回以上の入札が行われたが,そのすべてにおいて,1回目の入札で最低価格で入札した者が,その後の入札においても最低価格で入札し,最終的に落札している。
上記23物件に係る指名等及び入札の時期は,本件期間の全般にわたっている。(査第311号証〔別紙4〕)
カ 以下の諸事情に照らせば,21社は,本件受注物件65物件の全部又は大部分について,アウトサイダーの協力を得ること等により,アウトサイダーとの競争を実質的に回避できていたものと推認される。
(ア) 本件発注物件78物件の中には,その入札に21社とアウトサイダーの双方が参加した物件が計61物件(唯一のアウトサイダーが辞退している物件を含む。)含まれているところ,そのうち50物件が,21社によって落札・受注されている。(査第311号証)
(イ) 平成12年度から平成15年度までの間に関東地整が発注し被審人前田製管が入札に参加して受注したPC工事は,物件20及び72を含む計4物件であるところ,それらすべてについて,すべてのアウトサイダー(物件20については丸孝建設及び白石の計2社であり,物件72については計3社であった。)からの協力が得られている。(査第104号証)
(ウ) 被審人日本サミコンは,本件組織に加入していなかった時期においても,本件組織において受注予定者になったとする事業者から協力要請及び入札価格の連絡を受けており,それを受けた際には,将来防災工事等の物件が発注されたときに同被審人の受注に協力してもらえるとの期待に基づいて,当該事業者が落札できるように協力していた。平成12年度から被審人日本サミコンが本件組織に加入するまでの間に関東地整が発注し同被審人が入札に参加したPC工事は,物件26及び27を含む計3物件であるところ,そのうち少なくとも2物件(物件26及び27)について,同被審人は,本件組織の会員から協力要請等を受け,これに応じて協力している。(査第126号証)
(エ) 前記(イ)のとおり,丸孝建設及び白石は21社からの協力要請に実際に応じたことのある者であるところ,前記(ア)の50物件のうち30物件については,アウトサイダーが,丸孝建設及び白石のいずれか又は双方のみであった。また,白石はいわゆるゼネコンであった。(査第311号証)
(3) 以上によれば,本件行為は,関東地整発注の特定PC橋梁工事について,「ある程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態」をもたらすもの,すなわち「競争を実質的に制限する」ものであったと認めるのが相当である。
(4) 被審人16社の主張について
ア 被審人16社は,関東地整発注の特定PC橋梁工事に関する有資格者が1233社あるいは1347社も存在し,そのうちアウトサイダー66社が,実際に22社と同等又はそれ以上の回数にわたって同工事の入札に参加しているのであるから,22社の合意及びその実行のみによって同工事の取引分野における競争を実質的に制限することは不可能である旨主張する。
しかしながら,そのようなアウトサイダーの数や入札参加回数の多さにもかかわらず,なお前記(2)ウのとおり21社のシェアは高いのであり,前記(2)のその余の事実等も踏まえれば,被審人16社の指摘する事情は前記(3)の判断を左右するものではない。
イ 被審人16社は,本件発注物件78物件のうち,アウトサイダーが存在した物件が63物件あるところ,そのうち13物件をアウトサイダーが受注しているのであるから,審査官主張の「おしなべて協力が得られていた」という事実はない旨主張する。
しかしながら,前記2(3)カにおいて論じたところに加えて,佐藤(前田製管)及び冨山(日本サミコン)の供述調書について前記2のとおり十分な信用性が認められることも考慮すれば,21社が,関東地整発注の特定PC橋梁工事の一部について,最終的に,その受注をアウトサイダーに譲るという判断をすることもあったと認めるのが相当であるから,アウトサイダーが受注した物件のすべてについて,アウトサイダーの協力が得られなかった物件であると断ずることはできない。そして,本件発注物件78物件の中に,結果としてアウトサイダーの協力が得られなかった物件もあったかもしれないというだけでは,前記第2の4(5)の認定判断は左右されず,本件行為が「ある程度自由に」価格等の条件を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらすものであったとの前記(3)の判断も左右されない。
(5) 被審人オリエンタル白石の主張について
ア 被審人オリエンタル白石は,前記(2)ウのシェアに関して,延べ708社の受注金額が172億260万円(1社当たり2430万円)とすれば,残りの延べ168社のそれは50億90万円(1社当たり2977万円)となり,22社よりアウトサイダーの方が市場において強力な存在であったことが示される旨主張する。
しかしながら,前記(2)ウの事情は,21社が「共同して」本件行為を行った場合の市場支配力の大きさを示す事情の1つであり,個々の事業者ごとの受注金額の多寡等は前記(3)の判断を左右するものではない。
イ 被審人オリエンタル白石は,企業規模において格段に力のあるゼネコンが存在する以上,21社による市場の支配は「ある程度自由に」もできるものではなかった旨主張する。
しかしながら,仮に企業規模において21社がゼネコンに劣っているとしても,21社のシェアはなお前記(2)ウのとおり高いのであり,前記(2)のその余の事実等も踏まえれば,被審人オリエンタル白石の指摘する事情は前記(3)の判断を左右するものではない。
(6) 被審人三井住友建設らの主張について
ア 被審人三井住友建設らは,前記2(5)イのとおり,アウトサイダーを把握することは不可能である旨主張するが,この点については同イのとおりである。
イ 被審人三井住友建設らは,アウトサイダーは自社が受注予定者となった際に他の入札参加者から協力を得られるという関係がないのであるから,22社からの協力要請に応じる保証は全くない,仮に協力に応じた事例があったとしても22社が落札した物件の全部についてアウトサイダーの協力が得られたという根拠にはならない旨主張する。
しかしながら,前記(4)イのとおり,21社が,関東地整発注の特定PC橋梁工事の一部について,最終的に,その受注をアウトサイダーに譲るという判断をすることもあったと認めるのが相当であるから,アウトサイダーにおいて21社からの協力要請に応じる理由がないとはいえないのであり,前記(2)カの諸事情も踏まえれば,同カの認定は左右されない。
ウ 被審人三井住友建設らは,本件発注物件78物件の中には,22社のいずれかが入札に参加したにもかかわらずアウトサイダーが落札した物件が10物件あるところ,これらの物件については,アウトサイダーの協力が得られなかったことは明らかである旨主張するが,この点については前記(4)イのとおりである。
5 争点5(「特に必要があると認めるとき」該当性)について
(1) 独占禁止法第54条第2項は,既に違反行為がなくなっているが,違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合,違反行為が将来繰り返されるおそれがある場合などには,なお違反行為の排除を命ずる必要があることから,このような場合を「特に必要があると認めるとき」として排除措置を命ずべきものとしたものと解される。
(2) 被審人18社については,以下の事実等が認められる。
ア 前記第2並びに前記2ないし4のとおり,被審人18社を含む21社は,関東地整発注の特定PC橋梁工事について,受注価格の低落防止を図ることによって利益を得る目的で,本件行為を開始し又はこれに参加し,本件期間だけでも3年にわたって同行為を継続していた(遅くとも平成8年ころ以降,本件行為と同様の行為が行われていた。〔査第104号証ないし第106号証〕)。その間,21社は実際に受注調整を行い,相当数の物件について受注予定者を決定してその者に受注させることに成功した。
イ 前記2の認定判断並びに前記2(1)カ(コ),(シ),(ス)及び(ソ)の各文書の記載内容によれば,被審人18社の関係者が,各文書に記載されているような,本件行為の発覚を免れるための措置を指示又は実行していたことが明らかである。かかる事実は,関東地整発注の特定PC橋梁工事についての受注調整を少しでも長く継続したいという強い意思をうかがわせるものといえる。
ウ 被審人18社は,前記3のとおり,本件立入検査後も本件行為を継続していた。かかる事実も,関東地整発注の特定PC橋梁工事についての受注調整を何とか継続したいという強い意思をうかがわせるものといえる。
エ 以下の各事業者は,各日付で,本件と同じく独占禁止法第3条後段違反(不当な取引制限)の事実があったとの理由により勧告審決(ただし,住友建設が平成13年12月14日付けで受けた処分は課徴金納付命令)を受けたことがあるところ(顕著な事実),さらに本件行為に及んでおり,同条後段に関する規範意識が欠如しているというほかない。
(ア) 被審人日本高圧コンクリート 昭和50年1月10日,昭和52年2月25日,同年7月12日及び平成12年6月16日
(イ) 被審人前田製管 昭和50年1月10日及び昭和52年2月25日
(ウ) 住友建設 平成4年6月3日及び平成13年12月14日
(エ) 被審人三井住友建設 平成4年6月3日
(オ) 被審人機動建設工業 平成4年6月3日
オ 本件行為終了後の平成16年4月1日から平成19年3月31日までの3年間における関東地整発注の特定PC橋梁工事の発注件数は70物件であるところ,同70物件のすべてにおいて,被審人18社から被審人日本サミコンを除いた17社及び日本鋼弦コンクリートの計18社のいずれかが入札に参加しており,そのうち19物件においては,アウトサイダーの参加がなく,同18社のみで入札が行われている。同18社は,上記70物件(発注総額229億2824万8000円)のうち,件数ベースで85.7%(60物件),発注総額ベースで79.5%(182億2634万円)を受注している。(査第341号証)
上記70物件において,入札に参加したアウトサイダーの総数は33社であり,本件期間における当該総数(66社)より少ない。同33社のうち,本件期間中に本件発注物件78物件の入札に参加した実績のない者は10社のみであり,上記70物件のうち同10社が落札・受注した物件は4物件のみであり,同4物件のうち3物件の受注者(共同企業体の一員としての受注者を含む。)は新興和コンクリート(前記第2の1(1)エのとおり被審人KCKからPC工事業を承継した者)であった。(査第341号証)
以上によれば,本件行為の終了後においても,関東地整発注の特定PC橋梁工事の取引分野における被審人18社の地位等に大きな変化はない。
(3) 以上のような諸事情に照らせば,被審人18社については,他に特段の事情のない限り,本件行為と同様の行為を繰り返すおそれがあり,独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当すると認められる。
ただ,被審人常磐興産ピーシー及び同KCKに関しては,前記第2の1(1)ウ及びエのような事情があることからすれば,上記特段の事情があるというべきであり,独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当するとは認められない。
(4) 被審人16社の主張について
ア 被審人16社は,①本件行為の終了後,特に平成18年1月1日から平成19年3月31日までの間に入札が行われた関東地整発注の特定PC橋梁工事(計42物件)について,平均落札率は81.76%であり,落札率90%以上のものはわずか5物件にすぎないなど,その落札率が顕著に低下していること,②本件行為の終了後5年以上が経過していること等を指摘する。
しかしながら,被審人16社の指摘する期間は,本件行為の終了後で,かつ本件行為の存否が本件審判手続において争われていた期間であり,他方において違反行為が繰り返されるおそれを基礎付ける前記(2)の各事情があることも踏まえれば,被審人16社の指摘する上記①及び②の各事情は前記(3)の判断を左右するものではない。
イ 被審人16社は,被審人日本サミコンは平成7年度以降PC橋梁事業から撤退している,このことは平成16年(判)第28号事件において審判官に顕著である旨主張する。
しかしながら,そのような事実が顕著であるとはいえず,被審人16社の上記主張は採用できない。
(5) 被審人オリエンタル白石の主張について
被審人オリエンタル白石は,同被審人は平成20年12月31日に会社更生手続開始決定を受け管財人も選任されているから,排除措置の必要性はなくなった旨主張する。
しかしながら,会社更生手続は「当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする」(会社更生法第1条)ものであり,同手続が開始されたことは被審人オリエンタル白石に対する前記(3)の判断を左右するものとは解されない。
第6 法令の適用
以上によれば,被審人18社は前記第1の行為に及んでいたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。
被審人18社のうち,被審人常磐興産ピーシー及び被審人KCKを除く16社については,同法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当すると認められるので,同項の規定により,主文第1項ないし第6項のとおり審決するのが相当であり,被審人常磐興産ピーシー及び被審人KCKについては,上記「特に必要があると認めるとき」に該当しないので,同条第3項の規定により,主文第7項及び第8項のとおり審決するのが相当であると判断する。
被審人SMCコンクリートについては,審査官主張の違反行為があったと認めることはできず,独占禁止法第54条第3項の規定により,主文第9項のとおり審決するのが相当であると判断する。
平成22年3月24日
公正取引委員会事務総局
審判官 中 出 孝 典
審判官 秋 吉 信 彦
審判長審判官寺川祐一は転任のため署名押印できない。
審判官 中 出 孝 典
※ 別紙1ないし5省略。