公正取引委員会審決等データベース

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(株)日本交通公社に対する件

景表法4条1号

平成2年(判)第1号

審判審決

東京都千代田区丸の内1丁目6番4号
被審人 株式会社 日本交通公社
右代表者 代表取締役 松橋 功
右代理人 弁護士 風間 克貫
同 同 三浦 雅生
同 同 畑 敬
同 同 熊谷 信太郎

 公正取引委員会は、右被審人に対する不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)違反事件について、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第66条の規定により審判官山木康孝から提出された事件記録並びに規則第68条の規定により被審人から提出された異議の申立書及び規則第68条の3の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて、同審判官から提出された別紙審決案を調査し、次のとおり審決する。
主文
一 被審人は、
(一) 「白い浪漫を求めて 白夜の北極圏と北欧4カ国フィヨルドの旅 11日間」と称する主催旅行の取引に関し、平成元年2月から同年7月までの間に配布した「熟年海外旅行 想い出の旅 季節特選1989年5月〜8月 白い浪漫を求めて白夜の北極圏と北欧4ヵ国フィヨルドの旅 11日間」と題するリーフレットの見開き部分(別紙審決案別添写し1)の表示のうち、沈まない太陽の観光に関する記載
(二) 「魅惑の四大都市を巡る ヨーロッパ周遊の旅10日間 ロンドン・マドリード・ローマ・パリ」と称する主催旅行の取引に関し、平成元年10月から同年12月までの間に配布した「華紀行 欧羅巴」と題するパンフレットの2枚目左側部分(別紙審決案別添写し2)の表示のうち、プラド美術館の見学及び同美術館の見学の前後の日程表の日次2ないし5の旅行サービスの内容に関する記載
(三) 「ジョーイオーストラリア シドニー・パース8日間」及び「ジョーイオーストラリア 西オーストラリア・パース8日間」と称する主催旅行の取引に関し、平成元年4月10日発行「エイビーロード4月号」に掲載した広告(別紙審決案別添写し3)の表示のうち、ワイルドフラワーの観光に関する記載
が、いずれも実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示であった旨を、速やかに公示しなければならない。この公示の方法については、あらかじめ、当委員会の承認を受けなければならない。
二 被審人は、今後、海外主催旅行の取引に関し、パンフレット、雑誌、新聞その他これらに類似する物による広告をするときは、本件記載事実と同様の表示をすることにより、その内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない。
三 被審人は、第1項に基づいて行った公示について、速やかに、文書をもって、当委員会に報告しなければならない。
理由
一 当委員会の認定した事実、証拠、判断及び法令の適用は、次に付加、訂正、削除するほかは、いずれも別紙審決案と同一であるから、これを引用する。
別紙審決案「第1 事実」中6頁最後の行及び同7頁1行目から2行目に「イヴァロにおいて沈まない太陽」とあるのを、「イヴァロにおいて24時間沈まない太陽」と改める。
別紙審決案「第3審判官の判断」中16頁2行目を「イ 「白夜」か「沈まない太陽」、すなわち「24時間沈まない太陽」のいずれが観光内容かについて」と改める。
同16頁3行目から同19頁9行目までを次のように改める。
「(イ) 被審人の主張の要旨
第1の主催旅行において、本件リーフレットによって表示している被審人が手配すべき旅行サービスの内容、すなわち旅行参加者の観光内容は、リーフレット等において重要な地位を占める日程表の予定欄に沈まない太陽を見学する旨の記載がないことなど本件リーフレット全体の記載からみて、単に、日本では通常太陽が沈んでいる夜遅い時刻でも薄明かりの状態、という意味での「白夜」を体験することであり、24時間沈まない太陽を見学することは観光内容にはなっていない。本件リーフレットの「ミッドナイト・サン」、「沈まない大陽」という表現は、「花の都パリ」、「霧の摩周湖」といった表現と同様に、白夜をいわば象徴的にイメージする表現として使用したものであり、一般消費者も本件リーフレットを読んで24時間沈まない太陽が観光内容となっているとは受け取らない。
(ロ) 審判官の判断
第1の主催旅行の主要な観光内容は、本件リーフレット全体の記載からみて、北極圏を訪れること、北欧4ヵ国の首都を訪れること及びフィヨルドを訪れること、と認められる(査第2号証)。このうち、北極圏を訪れる主要な目的が被審人が主張する内容での白夜を体験することであるか、24時間沈まない太陽を見ることであるかを検討する。
本件リーフレットがどのような観光内容を表示しているかは、日程表の記載のみでなく、リーフレット全体の記載から判断すべきものと解せられるべきである。そして、もとより、被審人の主張するような「花の都パリ」、「霧の摩周湖」といったリーフレット全体の記載から判断して一般消費者に観光内容について誤認を生ぜしめることのない表現自体は許容されるところであり、また、本件リーフレットに白夜を訪ねるとのみ記載してあれば、一般消費者は、太陽が地平線下に沈まない現象を訪ねる意味にも日没後から日の出までの間の薄明かりの状態を体験する意味にも受け取るものと認められるが、以下のaないしeの各事実を考慮すると、一般消費者は、本件リーフレットにおける「ミッドナイト・サン・・・・・を求めて」、「沈まない太陽を訪ねる」等の記載を、被審人が主張するがごとき単なるイメージ表現とは受け取らず、本件観光内容が単に右薄明かりの状態を体験することにとどまらず、文字どおり24時間沈まない太陽を訪ねることにあると受け取るものと認められる。これに反する、横松和夫参考人の陳述は採用の限りでない。
a 第一の主催旅行の旅行期間が、夏至の前後という1年の間でも最も日の長い時期に設定されており、本件リーフレット掲載の全13回実施予定のコースのうち、9コースにおいては実際に24時間沈まない太陽を見ることができるものであること。
b 夏至の前後の時期に北極圏を訪れる主要な目的は、24時間沈まない太陽を見ることにあり、24時間沈まない太陽を見ることと右被審人が主張する内容での白夜を体験することとでは観光価値に差があること(査第6号証187ページ、査第9号証2ページ等)。したがって、一般消費者は、本件主催旅行の目的の1つが24時間沈まない太陽を見ることにあるか否かについては関心を持っていると思われること。
c 本件リーフレット見開き部分の中央のページ上段部分(以下「中央上段部」という。)が第1の主催旅行中の北極圏旅行の観光内容について具体的に説明している箇所であり、前記bのように一般消費者が関心を持ち、本件主催旅行に参加するか否かの情報を提供すべき箇所であるところ(他に右観光内容について具体的に説明した箇所はない。)、その中に「ミッドナイト・サン−白夜の浪漫を求めて」、「沈まない太陽を訪ねるラップランドでの1日のフィナーレは、ホテルの近くの丘陵地より望むミッドナイトサン(白夜)です。地平線の彼方に映えるその姿は言葉ではたとえようのない美しさです。」と「沈まない太陽」、「ミッドナイトサン」を訪れる等と記載されていること(査第2号証)。」
同20頁8行目及び同20頁12行目から13行目の「認められること」の次に、「(査第2号証)」を付け加える。
同21頁3行目に「沈まない太陽」とあるのを、「24時間沈まない太陽」と改める。
同29頁2行目から8行目までを、「b そして、本件において、本件パンフレットの「表示」と比較すべき「実際のもの」とは、前記異なった旅行サービスのうち、本件パンフレット記載の日程に最も類似し、変更や異同が最も少ない、いわば次善の旅行サービスと考えるのが相当である。そこで、次に次善の旅行サービスと本件パンフレットの「表示」とを具体的に比較すると次のようになる(いわば次善の旅行サービスとして次の3つが考えられることは、片山彰参考人の陳述(第4回審判速記録11ページ以下)及び本件主催旅行において実際に催行された5コースの実施状況からも明らかである。)。すなわち、」と改める。
同30頁1行目に「実際のものi.」とあるのを、「実際のものi.及び右表示との相違」と、同9行目に「実際のものii.」とあるのを、「実際のものii.及び前記表示との相違」と、それぞれ改める。
同31頁4行目から5行目の「というリスクを伴った不確実な旅行サービスとなる」を削る。
同31頁8行目に「しかるところ」とあるのを、「以上の事実から」と改める。
同37頁6行目の末尾に、「そして、本件違反行為が認定できることは前記説示のとおりであり、被審人の右主張は失当である。」を付け加える。
二 よって、被審人に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第54条第2項、景品表示法第7条第2項及び規則第69条第2項の規定により、主文のとおり審決する。

平成3年11月21日

委員長 梅澤 節男
委員 佐藤 徳太郎
委員 宇賀 道郎
委員 佐藤 謙一

別紙
平成2年(判)第1号
審決案
東京都千代田区丸の内1丁目6番4号
被審人 株式会社 日本交通公社
右代表者 代表取締役 松橋 功
右代理人 弁護士 風間 克貫
同 同 三浦 雅生
同 同 畑 敬
同 同 熊谷 信太郎
右被審人に対する不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)違反事件について、公正取引委員会から、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第51条の2及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第26条の規定により、担当審判官に指定された本職は、審判の結果、次のような審決をすることが適当であると思料し、同規則第66条及び第67条の規定により、本審決案を作成する。
主文
一 被審人は、
(一) 「白い浪漫を求めて 白夜の北極圏と北欧4ヵ国フィヨルドの旅11日間」と称する主催旅行の取引に関し、平成元年2月から同年7月までの間に配布した「熟年海外旅行 想い出の旅 季節特選1989年5月〜8月 白い浪漫を求めて 白夜の北極圏と北欧4ヵ国フィヨルドの旅  11日間」と題するリーフレットの見開き部分(別添写し1)の表示のうち、沈まない太陽の観光に関する記載
(二) 「魅惑の4大都市を巡る ヨーロッパ周遊の旅10日間 ロンドン・マドリード・ローマ・パリ」と称する主催旅行の取引に関し、平成元年10月から同年12月までの間に配布した「華紀行 欧羅巴」と題するパンフレットの2枚目左側部分(別添写し2)の表示のうち、プラド美術館の見学及び同美術館の見学の前後の日程表の日次2ないし5の旅行サービスの内容に関する記載
(三) 「ジョーイオーストラリア シドニー・パース8日間」及び「ジョーイオーストラリア西オーストラリア・パース8日間」と称する主催旅行の取引に関し、平成元年4月10日発行「エイビーロード4月号」に掲載した広告(別添写し3)の表示のうち、ワイルドフラワーの観光に関する記載
が、いずれも実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示であった旨を、速やかに公示しなければならない。この公示の方法については、あらかじめ、当委員会の承認を受けなければならない。
二 被審人は、今後、海外主催旅行の取引に関し、パンフレット、雑誌、新聞その他これらに類似する物による広告をするときは、本件記載事実と同様の表示をすることにより、その内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない。
三 被審人は、第1項に基づいて行った公示について、速やかに、文書をもって、当委員会に報告しなければならない。
理由
第一 事実
一 被審人は、肩書地に本店を置き、旅行業法に基づき運輸大臣の行う登録を受け、一般旅行業を営む事業者である。
二 被審人は、自己の実施する主催旅行(旅行業法第2条第3項に規定するものをいう。)への参加者の募集に関し、
(一) 平成元年2月から同年7月までの間に、「熟年海外旅行 想い出の旅 季節特選1989年5月〜8月 白い浪漫を求めて 白夜の北極圏と北欧4ヵ国フィヨルドの旅 11日間」と題するリーフレット(以下「本件リーフレット」という。)約6万6千部を、被審人の支店の店頭に置くこと等により、
(二) 平成元年10月から同年12月までの間に、「華紀行 欧羅巴」と題するパンフレット(以下「本件パンフレット」という。)約3万3千部を、被審人の支店の店頭に置くこと等により、
(三) 平成元年4月10日発行の「エイビーロード4月号」の「海外旅行情報」の部852ページ及び853ページに「とっておきのオーストラリアリゾート・パース」と題する広告(以下「本件エイビーロード広告」という。)を掲載することにより、
一般消費者に広告した。
三 被審人は、前記二(一)の本件リーフレットの見開き部分(別添写し1)において、平成元年5月24日を最初の、同年8月16日を最後の出発日として全13回実施する予定の本件リーフレット表題の主催旅行(以下「第1の主催旅行」という。)について、「ミッドナイト・サン−白夜の浪漫を求めて真の北極圏イヴァロヘ。」、「●沈まない太陽を訪ねるラップランドでの1日のフィナーレは、ホテルの近くの丘陵地より望むミッドナイトサン(白夜)です。」と記載することにより、あたかも本主催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても、イヴァロにおいて沈まない太陽を見ることができるかのように表示しているが、実際には、イヴァロにおいて沈まない太陽は、5月22日ごろから7月22日ごろまでの期間にのみ見ることができる現象であるため、全13回実施予定のコースのうち、7月26日以降に日本を出発する4回のコースにおいては見ることができないものである。したがって、かかる表示は、被審人の供給する役務の取引の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるものである。
四 被審人は、前記二(二)の本件パンフレットの2枚目左側部分(別添写し2)において、平成元年11月24日を最初の、平成2年2月4日を最後の出発日として全19回実施する予定の「魅惑の4大都市を巡る ヨーロッパ周遊の旅10日間 ロンドン・マドリード・ローマ・パリ」と称する主催旅行(以下「第2の主催旅行」という。)について、日程表の4日目に「1日:マドリード市内及びトレド観光プラド美術館など」と、日程表外に「華紀行だから・・・・・2・有名な美術館も訪問・・・・・●マドリード/プラド美術館 マドリード市内観光のハイライト。『裸のマハ』に代表されるゴヤの作品やべラスケス、エルグレコの代表作をご覧下さい。」と記載することにより、あたかも本主催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても、4日目にプラド美術館を見学できるかのように表示しているが、実際には、全19回実施予定のコースのうち10回の実施予定コースにおいては4日目は同美術館の定期休館日に当たるため、日程表どおり4日目に同美術館を見学することはできないものである。同美術館を見学するためには泊地等の変更を伴う日程変更をせざるを得ないため、旅行サービスの内容、その順序等に変更や異同を生じ、本件パンフレット記載の旅行サービスとは異なった旅行参加者にとって不利な旅行サービスとなるものである。したがって、かかる表示は、被審人の供給する役務の取引の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるものである。
五 被審人は、前記二(三)の本件エイビーロード広告(別添写し3)において、
(一) 平成元年4月5日を最初の、同年9月27日を最後の出発日として全26回実施する予定の「ジョーイオーストラリア シドニー・パース8日間」と称する主催旅行(以下「第3の主催旅行」という。)について、「パースは春に向かうこれからの季節がベストシーズン。なぜなら西オーストラリア州の野山が1面のワイルドフラワーの大群落で飾られ、しかもパース市内の広大なキングスパークが最も美しい姿を見せてくれるからです。」と記載することにより、あたかも本主催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても、パース及びその周辺においてワイルドフラワーの咲き乱れる美しい光景を見ることができるかのように表示しているが、実際には、パース及びその周辺においてこのような光景を見ることができるのは、おおむね8月以降に限られるため、それ以前に日本に帰着する過半の実施予定コースにおいては見ることができないものである。したがって、かかる表示は、被審人の供給する役務の取引の内容について、実際ものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるものである。
(二) 平成元年4月3日を最初の、同年9月27日を最後の出発日として全52回実施する予定の「ジョーイオーストラリア 西オーストラリア・パース8日間」と称する主催旅行(以下「第4の主催旅行」という。)について、「パースはワイルドフラワーの咲き乱れるこれからが観光シーズン。」と記載することにより、あたかも本主催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても、パースにおいてワイルドフラワーの咲き乱れる美しい光景を見ることができるかのように表示しているが、実際には、パースにおいてこのような光景を見ることができるのは、おおむね8月以降に限られるため、それ以前に日本に帰着する過半の実施予定コースにおいては見ることができないものである。したがって、かかる表示は、被審人の供給する役務の取引の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるものである。
第二 証拠
第一の一及び二の事実は、被審人も認めてこれを争わないところである。
第一の三の事実のうち、本件リーフレットの見開き部分に前記第一の三記載の記載をしたこと及び沈まない太陽という表現を「24時間地平線下に沈まない太陽」と解した場合に、イヴァロにおいて沈まない太陽は、5月22日ごろから7月22日ごろまでの期間にのみ見ることができる現象であるため、全13回実施予定のコースのうち、7月26日以降に日本を出発する4回のコースにおいては見ることができないものであることは、被審人も認めてこれを争わないところであるが、その余については、左の証拠を総合して後記の判断のとおり、これを認めることができる.
一 査第2号証
一 査第6号証187ページ等
一 査第9号証2ページ等
一 査第10号証15ページ
第一の四の事実のうち、本件パンフレットの2枚目左側部分に前記第一の四記載の記載をしたこと、全19回実施予定のコースのうち10回の実施予定コースにおいては4日目はプラド美術館の定期休館日に当たるため、日程表どおり4日目に同美術館を見学することはできないものであること及び同美術館を見学するためには泊地等の変更を伴う日程変更をせざるを得ないため、旅行サービスの内容、その順序等に変更や異同を生じることは、被審人も認めてこれを争わないところであるが、その余については、左の証拠を総合して後記の判断のとおり、これを認めることができる。
一 査第3号証
一 査第12号証298ページ
一 参考人片山彰の第4回審判における陳述(速記録11ページ等)
第1の5の事実のうち、本件エイビーロード広告に前記第一の五(一)及び(二)記載の記載をしたこと及び当該記載により、あたかも本主催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても、パースにおいてワイルドフラワーの咲き乱れる美しい光景を見ることができるかのように表示しているが、実際には、パースにおいてこのような光景を見ることができるのは、おおむね8月以降に限られるため、それ以前に日本に帰着する過半の実施予定コースにおいては見ることができないものであることは、被審人も認めてこれを争わないところであるが、その余については、左の証拠を総合して後記の判断のとおり、これを認めることができる。
一 査第4号証
一 査第15号証62ページ等
一 査第16号証
第三 審判官の判断
一 景品表示法第4条第1号の構成要件の解釈について
被審人は、本件審判手続において審査官は、「実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される」ものであるとの要件に関する主張立証をなすのみで、「不当に顧客を誘引」するとの要件、「公正な競争を阻害するおそれがある」との要件の立証を行っておらず、不当な表示であることの証明がないと主張するので、まずこの点を判断する。
景品表示法第1条の規定の趣旨や同法の制定経過からみるに、景品表示法第4条第1号の「不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがある」との要件は、同法が、不当な景品及び表示による不当顧客誘引行為を独占禁止法に定める規制手続の特例により適切かつ迅速に規制するために制定された法律であることから、そのことを明確にするために規定されたもので、顧客を誘引する手段として事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示で「実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される」ものは、通常「不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがある」ものと解される。
しかるところ、本件いずれの主催旅行の表示も、事業者である被審人が不特定多数の顧客を対象に、自己の主催旅行に参加させる目的で募集広告をし、まさに顧客を誘引していたもので、景品表示法に規定する表示に該当することは明らかであるので、当該主催旅行の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるものであることが立証されれば、当該表示は、当然に不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがある、と認められるところである。
二 したがって、以下各主催旅行について、「実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される」との要件に該当するか否かについて検討する。
(一) 第一の主催旅行の件について
イ 「白夜」か「沈まない太陽」のいずれが観光内容かについて
(イ) 被審人の主張の要旨
第一の主催旅行において、本件リーフレットによって表示している被審人が手配すべき旅行サービスの内容、すなわち旅行参加者の観光内容は、リーフレット等において重要な地位を占める日程表の予定欄に「沈まない太陽」を見学する旨の記載がないことなど本件リーフレット全体の記戴からみて、単に、日本では通常太陽が沈んでいる夜遅い時刻でも薄明かりの状態、という意味での「白夜」を体験することであり、「沈まない太陽」を見学することは観光内容にはなっていない。一般消費者も「白夜」をメインイメージとして打ち出している本件リーフレットを読んで「沈まない太陽」が観光内容となっているとは受け取らない。
(ロ) 審判官の判断
第一の主催旅行の主要な観光内容は、本件リーフレツト全体の記載からみて、北極圏を訪れること、北欧4ヵ国の首都を訪れること及びフィヨルドを訪れること、と認められる(査第2号証)。このうち、北極圏を訪れる主要な目的が被審人が主張する内容での「白夜」を体験することであるか、「沈まない太陽」を見ることであるかを検討する。
本件リーフレットがどのような観光内容を表示しているかは、日程表の記載のみでなく、リーフレット全体の記載から判断すべきものと解せられるべきである。そして、本件リーフレットに「白夜」を訪ねるとのみ記載してあれば、一般消費者は、太陽が地平線下に沈まない現象を訪ねる意味にも日没後から日の出までの間の薄明かりの状態を体験する意味にも受け取るものと認められるが、以下のaないしeの各事実を考慮すると、本件リーフレットにおいて「ミッドナイト・サン・・・・・を求めて」、「沈まない太陽を訪ねる」等と記載してあれば、単に右薄明かりの状態を体験することにとどまらず、文字どおり「真夜中になっても沈まない太陽」を訪ねることが観光内容となっているものと受け取るものと認められる。これに反する、横松和夫参考人の陳述は採用の限りでない。
a 第1の主催旅行の旅行期間が、夏至の前後という1年の間でも最も日の長い時期に設定されており、全13回実施予定のコースのうち、9コースにおいては沈まない太陽を見ることができるものであること。
b 夏至の前後の時期に北極圏を訪れる主要な目的は、沈まない太陽を見ることにあり・沈まない太陽を見ることと右被審人が主張する内容での「白夜」を体験することとでは観光価値に差があること(査第6号証187ページ、査第9号証2ページ等)。
c 本件リーフレット見開き部分の中央のページ上段部分(以下「中央上段部」という。)が前記の北極圏を訪れることについての具体的な説明であり、その中に「ミヅドナイト・サンー白夜の浪漫を求めて」、「沈まない太陽を訪ねるラップランドでの1日のフィナーレは、ホテルの近くの丘陵地より望むミッドナイトサン(白夜)です。地平線の彼方に映えるその姿は言葉ではたとえようのない美しさです。」と「沈まない太陽」、「ミッドナイトサン」を訪れる等と具体的に記載されていること。
d 第一の主催旅行の日程についてみると、本件リーフレットの日程表や中央上段部を総合して見れば、2日目はヘルシンキを午後出発し、イヴァロに到着した後、イヴァロから数十キロメートル程離れたイナリ湖やイナリ湖畔の野外博物館を訪ね、夜はラップ民族村で白夜の儀式、ラップ民族音楽を聞きながらラップ料理を食べた後、イヴァロから数十キロメートル程離れたサーリセルカのホテルの近くの丘陵地で「沈まない太陽を訪ね」、サーリセルカの木造り別荘風ホテルで宿泊する予定であり、観光地間の移動時間や観光の時間等を勘案すると「ラップ料理の夕べ」が終了する時刻は早い時刻ではなく、したがって、サーリセルカのホテルの近くに着くのはかなり遅い時刻となることが予定されていると認められること。
e 第一の主催旅行は、11日間で北極圏、北欧4都市、フィヨルドを訪れるという濃密な日程が組まれている割には3日目つまり翌日の午前中は、休養及び自由行動とされているところをみると、2日目の夜は、かなり遅い時刻までの行動が予定されていると認められること。
ロ 以上のとおり、本件リーフレットは、あたかも本主催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても、イヴァロにおいて、主要な観光内容である沈まない太陽を見ることができるかのように表示しているが、実際には、全13回実施予定のコースのうち、7月26日以降に日本を出発する4回のコースにおいては見ることができないものであるから、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示であると認められる。
(二) 第二の主催旅行の件について
イ 本件パンフレットの「表示」の不確定性等について
(イ) 被審人の主張の要旨
a 一般に、旅行業者が旅行者を募集するのは主催旅行の1年ないし6か月前からで、手配内容は、募集から出発日までの間に段階的に確定していき、確定後も、旅行サービス提供機関の都合によって旅行日程が変更される可能性がある、といった主催旅行の特性、
b 10日間程度で休館日のある幾つかの美術館・宮殿等を訪問する企画を19まとめて1つの募集パンフレットに載せる場合、ある1つの施設でみると休館日をその訪問日とするような記載が日程に出てくることは広告媒体の制約上避けられない、という事情
から、募集パンフレットに確定的な日程を記載することはできず、当該パンフレットの日程は、旅行内容の枠組みを示したものに過ぎない。また、一般消費者も、本件パンフレットの記載の具体性の程度や日程表の下に「交通機関の都合等やむをえない事情により、日程の1部に変更を生じることがあります。」と記載されていることから、当該パンフレットの日程を確定的なものと受け取らない。したがって、役務の内容の「表示」としては、単に募集用パンフレットに記載された表示だけでなく、これと同一性の枠内にある最終日程表に記載された表示を合わせたものをもって「表示」と理解すべきであるところ、本件においては最終日程表ではすべて3日目にプラド美術館を見学するように「表示」しており、実際にも3日目に同美術館を見学しているので、表示と実際との間には差はない。
(ロ) 審判官の判断
一般消費者が主催旅行のようなサービスの提供を受けようとする場合、一般の有形の商品と異なり手に取って見ることができない無形の商品であることから、パンフレット、旅行情報誌等の旅行募集に関する広告が商品選択に重要な役割を持つものであり、一般消費者は、募集用パンフレットを見て主催旅行という商品を選択し、参加するよう申し込むのであるのであるから、不当表示か否かは、本件パンフレットの表示で判断される。また、一般消費者は、募集用パンフレットに特段の記載がない限り、天変地異、戦争、交通機関や宿泊機関等の争議行為等のやむを得ない事情による日程の変更を除き、通常、パンフレット記載どおりの旅行サービスの提供を受けられるものと受け取るものと認められるところであって、本件パンフレットについても日程表の4日目に「1日・・マドリード市内及びトレド観光 プラド美術館など」と、日程表外に「華紀行だから・・・・・2・有名な美術館も訪問。・・・・・●マドリード/プラド美術館 マドリード市内観光のハイライト。『裸のマハ』に代表されるゴヤの作品やベラスケス、エルグレコの代表作をご覧下さい。」と具体的に記載されているのであるから、一般消費者は、当該パンフレットどおり、どの実施予定コースを選択しても同質の旅行サービスの提供を受けられるものと理解するものと認められる。また、一般消費者は、「交通機関の都合等やむをえない事情」とは、パンフレット作成後の被審人の責に帰すべきでない事情を指し、定期休館日のようなパンフレット作成段階で明らかな事情は「交通機関の都合等やむをえない事情」には含まれないと受け取るものと認められる。
なお、プラド美術館の休館日(本件パンフレット作成時にプラド美術館の休館日が毎週月曜日であることは、被審人において明らかに争わない。)は、豊富な情報網、経験、ノウハウを有する被審人であれば、表示段階で容易に了知し得る事実であって、パンフレット作成時に表示できることであり、手配内容が段階的に確定していくことや交通機関の都合等被審人の責に帰すべきでない事情により日程変更を余儀なくされることによりパンフレット作成時に表示できないこととは次元を異にする問題である。現に、ルックJTBヨーロッパ等のパンフレット(査第11号証8ページ、査第18号証9ページ)においては、プラド美術館の月曜休館の場合の代替スケジュールが明示されており、本件においても同様の表示を容易になし得たはずである。しかも、当該ルックJTBヨーロッパのパンフレットは160ページに百数十種類を超える主催旅行を記載しているのに対し、本件パンフレットは、8ページでたかだか3種類の主催旅行を掲載するものであり、正確な表示をするについて広告媒体上の制約があるとも認められない。
ロ 本件で「実際のもの」とは何か及び本件で問題の表示は「実際のもの」よりも著しく優良か否かについて
(イ) 被審人の主張の要旨
審査官は、本件において、「日程表どおり4日目にプラド美術館を見学することはできず、見学するためには旅行参加者にとって不利な日程変更を余儀なくされることが当然に予定されるという事実」という審査官の主観的評価の入った事実を「実際のもの」ととらえて比較しているが、比較の対象としての事実は純然たる客観的事実でなければならない。しかるところ、主催旅行において「実際のもの」とは、一次的には「手配可能性のあるすべての旅行サービス」をいい、そもそも表示時点で手配可能性がないサービスについては一次的に比較する対象がないので、二次的に「実際に催行された旅行」をもって実際のものと理解すべきである。しかるとき、本件において旅行全体の日程と何を見るかの点において表示(4日日にプラド美術館見学の日程を内容とする旅行)と実際のもの(3日目にプラド美術館見学の日程を内容とする旅行)は同じであり、表示が実際のものよりも著しく優良と評価されることはない。
(ロ) 審判官の判断
a 本件のような旅行サービスの供給についての表示において、景品表示法第4条第1号に規定する「実際のもの」とは、「『表示』がなされた時点において、表示を行った事業者が、当該サービスの性質に即し、その客観的かつ通常の事業活動の能力、事業活動の施設等の範囲内で提供、確保、手配等をし得るサービス」をいうものと解すべきである。
これを、本件第二の主催旅行に即して考えれば、理論的には「実際のもの」は、被審人が主張する「実際に催行された旅行」それ自体ではなく、全19回実施予定のコースのうち10回の実施予定コースにおいては、4日目はプラド美術館の定期休館日に当たるため、日程表どおり4日目にプラド美術館を見学することはできない、という事実及び向美術館を見学するためには泊地等の変更を伴う日程変更をせざるを得ないため、旅行サービスの内容、その順序等に変更や異同を生じ、本件パンフレット記載の旅行サービスとは異なった旅行サービスとなる、という事実である。
b この異なった旅行サービスのうち、本件パンフレット記載の日程に最も類似し、変更や異同が最も少ない、いわば次善の旅行サービスと本件パンフレットの「表示」とを具体的に比較すると次のようになる(いわば次善の旅行サービスとして次の3つが考えられることは、片山彰参考人の陳述(第4回審判速記録11ページ以下)及び本件主催旅行において実際に催行された5コースの実施状況からも明らかである。)。すなわち、
表示:10日間でロンドン、マドリード、ローマ及びパリの4都市、その近郊及び大英博物館等の有名な美術館等を各都市それぞれ2泊ずつして巡る(全食事付)なかで、4日目にプラド美術館を見学する。
実際のものi.:4日目はプラド美術館の定期休館日に当たるため同美術館を見学できない。同美術館を見学するためには、泊地(ロンドン)を変更して3日目に見学することとなるが、そのためには、ロンドンでの2日目の宿泊及び夕食はカットされ、ロンドンでの自由行動の時間は短縮又はカットされることとなる。
又は
実際のものii.:4日目はプラド美術館の定期休館日に当たるため同美術館を見学できない。泊地(ロンドン又はローマ)を変更せずに同美術館を見学するためには、3日目又は5日目に見学することとなるが、3日目にプラド美術館を見学するためにはロンドンを早朝に発つこととなるし、その早朝の状況によってはホテルでの朝食がカットされ、また、航空機等交通機関の連行状況いかんによっては同美術館を見学することができなくなるというリスクを伴った不確実な旅行サービスとなる。5日目に同美術館を見学するためには同日のローマでの予定がカットされるか、相当制約されたものとなる。
しかるところ、本件右「表示」が右「実際のものi.」又は「実際のものii.」よりも著しく優良であると認められるかを判断するに、本件主催旅行は、円滑かつ確実に、ロンドン、マドリード、ローマ、パリの4都市に2泊ずつ滞在し、各地の名物料理を含む全食事付で、各都市の市内観光等をし、有名な3つの美術館・博物館を訪れるという、密度の濃い周遊型の旅行であり(査第3号証、片山彰参考人陳述(第4回審判速記録16ページ))、各都市2泊、各地での食事、円滑かつ確実な旅行サービスの実施等のそれぞれが重要であると認められるので、本件パンフレットの表示と右実際のものi.又はii.との差は、一般に許容される範囲内のものではなく、右表示は、実際のものよりも著しく優良であると認められる。
ハ 以上のとおり、本件パンフレットは、あたかも本主催旅行のいずれの実施予定コースに参加しても、4日目に主要な旅行サービスの内容であるプラド美術館を見学できるかのように表示しているが、実際には、全19回実施予定のコースのうち10回の実施予定コースにおいては4日目は同美術館の定期休館日に当たるため、日程表どおり4日目に同美術館を見学することはできず、同美術館を見学するためには旅行参加者にとって不利な旅行サービスとなるものであるから、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示であると認められる。
(三) 第3及び第4の主催旅行の件について
イ 本件エイビーロード広告の記載が、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるかについて
(イ) 被審人の主張の要旨
本件エイビーロード広告のうち、問題とされている表現はわずか2行程度の日程表外の説明文に見いだされるにすぎず、852ページにおいて、パースの魅力を詳細かつ正確に述べているし、募集用パンフレットには問題となるような表示はない。こうした主催旅行の広告全体から見れば、第一の五(一)又は(二)の記載だけでは実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される程度の表示ではない。
(ロ) 審判官の判断
a 本件主催旅行において、「公園都市」あるいは「庭園都市」といわれるパースを訪れる主要な観光目的の1つは、「ワイルドフラワー」の咲き乱れる光景を見学することにあり、これが見られるかどうかは商品選択の重要な要素と認められること(査第4号証、同第15号証)、
b 本件エイビーロード広告の852ページにはパースの魅力を正確に記載しているというが、853ページの誤った記載を修正、補正する記載はなく、かえって、「●パースは大工業都市。キングズ・パークやモンガー湖などの自然との調和もとれていて見どころたくさん。詳しくは左ページをご参照下さい。」として事実に反する853ページの記載を読むように勧めていること、
から、主要な観光内容であるワイルドフラワーの咲き乱れる美しい光景について事実に反する記載をしていたものであって、かかる表示は、役務の内容について実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認を生ぜしめるものと認められる。
なお、本件エイビーロード広告が景品表示法に規定する「表示」に該当すること前記1のとおりであって、エイビーロード広告に旅行内容について同法第4条第1号の要件に該当する広告をすれば、不当表示とされるのであって、本件エイビーロード広告を見た一般消費者が後で募集用パンフレットを見ることがあるとしても、また、募集用パンフレットには問題となるような表示がなくとも、本件広告が不当表示であることには変わりがない。
ロ 本件排除命令の必要性について
(イ) 被審人の主張の要旨
第三及び第四の主催旅行の件は、エイビーロード誌の作成した原稿のチェックミスから生じた案件であり、また、本件排除命令が発せられた当時、被審人は旅行業界の指導的地位を有する企業として、旅行業の取引に係る表示を適正にするために、公正取引委員会事務局取引部景品表示指導課の指導の下、社団法人日本旅行業協会における表示に関する公正競争規約の策定作業に尽力していたものであり、仮に、現実の旅行広告に不適切な表現があるならば、問題点を指摘して個別に是正を求めるなり、公正競争規約の規制内容に含める等して是正指導が行われれば十分にその目的を達せられるものであるから、排除命令まで下す必要性はない。
(ロ) 審判官の判断
景品表示法第6条第1項は、「公正取引委員会は、・・・・・第4条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなっている場合においても、することができる。」と規定していることからも明らかなように、公正取引委員会が排除命令をすることができるのは、違反行為があるときであり、表示主体である事業者の故意・過失を含めこれ以外の要件は必要ではない。
第四 法令の適用
以上によれば、被審人は、第一から第四までの各主催旅行の内容について、それぞれ実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示をしていたものであって、かかる行為は、景品表示法第4条第1号の規定に違反するものである。よって、被審人に対し、独占禁止法第54条第2項及び景品表示法第7条第2項の規定により、主文のとおり審決することが相当であると思料する。
平成3年8月20日
公正取引委員会事務局
審判官 山木 康孝
参考
平成2年(判)第1号
審判開始決定書
東京都千代田区丸の内1丁目6番4号
株式会社 日本交通公社
右代表者 代表取締役 松橋 功
公正取引委員会は、右の者から、平成2年(排)第4号について、平成2年7月17日、不当景品類及び不当表示防止法第8条第1項の規定に基づき、審判手続の開始の請求があったので、同条第2項の規定により、右の者に対する審判手続を開始する。
第一 事実
一 被審人株式会社日本交通公社(以下「日本交通公社」という。)は、肩書地に本店を置き、旅行業法に基づき運輸大臣の行う登録を受け、一般旅行業を営む事業者である。
二 日本交通公社は、自己の実施する主催旅行(旅行業法第2条第3項に規定するものをいう。)への参加者の募集に関し、
(一) 平成元年2月から同年7月までの間に、「熟年海外旅行 想い出の旅 季節特選 1989年5月〜8月 白い浪漫を求めて 白夜の北極圏と北欧4カ国フィヨルドの旅 11日間」と題するリーフレット約6万6千部を、同社の支店の店頭に置くこと等により、
(二) 平成元年10月から同年12月までの間に、「華紀行 欧羅巴」と題するパンフレット約3万3千部を、同社の支店の店頭に置くこと等により、
(三) 平成元年4月10日発行「エイビーロード4月号」の「海外旅行情報」の部852ページ及び853ページに「とっておきのオーストラリア リゾート・パース」と題する広告を掲載することにより、一般消費者に広告した。
三 日本交通公社は、前記二(一)のリーフレットの見開き部分(別添写し1)において、平成元年5月24日を最初の出発日とし同年8月16日を最後の出発日として全13回実施する予定の当該リーフレット表題の主催旅行について、「ミッドナイト・サン−白夜の浪漫を求めて真の北極圏イヴァロヘ。」、「●沈まない太陽を訪ねるラップランドでの1日のフィナーレは、ホテルの近くの丘陵地より望むミッドナイトサン(白夜)です。」と記載することにより、あたかもこの主催旅行が実施される期間はいつでもイヴァロにおいて「沈まない太陽」を見ることができるかのように表示しているが、実際には、イヴァロにおける「沈まない太陽」は5月22日ごろから7月22日ごろまでの期間にのみ見ることができる現象であり、したがって、全13回の実施予定コースのうち、7月26日以降に日本を出発する4回のコースにおいては見ることができないものである。
四 日本交通公社は、前記二(二)のパンフレットの2枚目左側部分(別添写し2)において、平成元年11月24日を最初の出発日とし平成2年2月4日を最後の出発日として全19回実施する予定の「魅惑の4大都市を巡るヨーロッパ周遊の旅10日間 ロンドン.マドリード・ローマ・パリ」と称する主催旅行について、日程表4日目に「1日:マドリード市内及びトレド観光 プラド美術館など」と記載し、かつ、「●マドリード/プラド美術館 マドリード市内観光のハイライト。『裸のマハ』に代表されるゴヤの作品やベラスケス、エルグレコの代表作をご覧下さい。」と記載することにより、あたかも4日目にプラド美術館を見学することができるかのように表示しているが、実際には、全19回のうち10回の実施予定コースにおいては、4日目は同美術館の定期休館日に当たるため、日程表どおり同美術館を見学することはできず、見学するためには旅行参加者にとって不利な日程変更を余儀なくされるものである。
五 日本交通公社は、前記二(三)の広告(別添写し3)において、
(一) 平成元年4月5日を最初の出発日とし同年9月27日を最後の出発日として全26回実施する予定の「ジョーイオーストラリア シドニー・パース8日間」と称する主催旅行について、「パースは春に向かうこれからの季節がベストシーズン。なぜなら西オーストラリア州の野山が1面のワイルドフラワーの大群洛で飾られ、しかもパース市内の広大なキングスパークが最も美しい姿を見せてくれるからです。」と記載し、あたかも本主催旅行が実施される期間中はワイルドフラワーが咲き乱れる美しい光景を見ることができるかのように表示しているが、実際には、このような光景が見られるのはおおむね8月以降に限られるため、それ以前に日本に帰着する大部分の実施予定コースにおいては見ることができないものである。
(二) 平成元年4月3日を最初の出発日とし同年9月27日を最後の出発日として全52回実施する予定の「ジョーイオーストラリア 西オーストラリア・パース8日間」と称する主催旅行について、「パースはワイルドフラワーの咲き乱れるこれからが観光シーズン。」と記載し、あたかも本主催旅行が実施される期間中はワイルドフラワーが咲き乱れる美しい光景を見ることができるかのように表示しているが、実際には、このような光景が見られるのはおおむね8月以降に限られるため、それ以前に日本に帰着する大部分の実施予定コースにおいては見ることができないものである。
第二 法令の適用
前記事実によれば、日本交通公社は、当該主催旅行の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示をしているものであって、かかる行為は、不当景品類及び不当表示防止法第4条第1号の規定に違反するものである。
平成2年8月10日
公正取引委員会
委員長 梅澤 節男
委員 宮代 力
委員 伊従 寛
委員 佐藤 徳太郎
委員 宇賀 道郎

※別紙は省略。

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