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独禁法7条の2
平成3年(判)第4号
東京都港区赤坂4丁目13番13号
被審人 株式会社協和エクシオ
右代表者 代表取締役 村上 治
右代理人 弁護士 増岡 章三
同 對崎 俊一
同 増岡 研介
公正取引委員会は、右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第66条の規定により審判官滿田忠彦、同大録英一及び同鈴木恭蔵から提出された事件記録並びに規則第68条の規定により被審人から提出された異議の申立書及び規則第68条の3の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて、同審判官らから提出された別紙審決案を調査し、次のとおり審決する。
主文
被審人株式会社協和エクシオは、課徴金として金2212万円を平成6年5月31日までに国庫に納付しなければならない。
理由
一 当委員会の認定した事実、証拠、判断及び法令の適用は、次に付加、訂正するほかは、いずれも別紙審決案と同一であるから、これを引用する。
別紙審決案中「独占禁止法施行令第5条」とあるのを、「独占禁止法施行令第6条」に改める。
同「第一事実」中11頁12行目の「設立されたものであるところ、」の次に「1級9社及び日電インテクは、」を付け加える。
二 よって、被審人に対し、独占禁止法第54条の2第1項及び規則第69条第1項の規定により、主文のとおり審決する。
平成6年3月30日
委員長 小粥 正巳
委員 股野 景親
委員 佐藤 勲平
委員 植松 敏
別紙
平成3年(判)第4号
審決案
東京都港区赤坂4丁目13番13号
被審人 株式会社協和エクシオ
右代表者 代表取締役 村上 治
右代理人 弁護士 増岡 章三
同 對崎 俊一
同 増岡 研介
右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令事件について、公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第26条の規定により、担当審判官に指定された本職らは、審判の結果、次のような審決をすることが適当であると考え、規則第66条及び同67条の規定により本審決案を作成する。
主文
被審人株式会社協和エクシオは、課徴金として金2212万円を国庫に納付しなければならない。
理由
第一 事実
(課徴金に係る違反行為)
一(一) 被審人株式会社協和エクシオ(協和電設株式会社が平成3年5月17日に現商号に変更した。以下「被審人」という。)は、肩書地に本店を置き、電気通信設備(電話回線設備及びマイクロ無線設備をいう。以下同じ。)の工事等を営む者である。
(二) 日本電気インフォメーションテクノロジー株式会社(日本電気海外市場開発株式会社が昭和59年11月1日に日本電気市場開発株式会社に商号を変更し、さらに平成元年2月1日に現商号に変更した。以下「日電インテク」という。)、大明電話工業株式会社(以下「大明電話」という。)、日本コムシス株式会社(日本通信建設株式会社が平成2年7月1日に現商号に変更した。以下「日本コムシスという。)、東洋電機通信工業株式会社(以下「東洋電機」という。)、三和大榮電氣興業株式会社(以下「3和大榮」という。)、株式会社ジェイコス(目黒通信建設株式会社が平成2年7月1日に現商号に変更した。以下「ジェイコスという。)、新興通信建設株式会社(以下「新興通信」という。)、池野通建株式会社(以下「池野通建」という。)、大和通信建設株式会社(以下「大和通信」という。)、大興電子通信株式会社(以下「大興電子」という。)及び株式会社富士通ビジネスシステム(富士通興業株式会社が昭和60年4月1日に現商号に変更した。以下「富士通ビジネス」という。)は、電気通信設備の工事等を営む者である。
被審人、大明電話、日本コムシス、東洋電機、三和大榮、ジェイコス、新興通信、池野通建及び大和通信の9社(以下「1級9社」という。)は、日本電信電話公社(昭和60年4月1日に日本電信電話株式会社に移行した。以下「電電公社」という。)から通信線路、通信機械又は伝送無線の工事について1級工事業者としての格付けを受けている事業者であり、全国又は関東地区を主たる営業地域とする有力事業者である。
(三) 前記(一)、(二)の12社(以下「12社」という。)は、アメリカ合衆国空軍に所属するパキャフ・コントラクティング・センター・ジャパン(昭和62年に475エア・ベース・ウィング・コントラクティング・センターに名称を変更し、さらに平成2年2月に東京エリア・コントラクティング・センターに名称を変更した。以下「米国空軍契約センター」という。)に業者登録している有力事業者のほとんどであり、その中、被審人、日電インテク及び大明電話の3社は、同契約センターがわが国において発注する電気通信設備の運用保守に関する物件のほとんどすべてを受注していた。
二(一) 米国空軍契約センターの発注及び契約は、米国法(連邦法及び連邦調達規則等)に基づくところ、同法では、調達の方法として、封印入札を行い、最も低い価格で入札した事業者に発注することを原則とする方法(以下「封印入札方式」という。)と、初回入札を行い、入札者の中から受注する可能性のある入札価格の低い2〜3の者を選定し、それぞれについて入札価格の積算根拠の監査を実施(米国国防総省契約監査局において実施)することを原則とし、右監査結果を受けて監査対象者と個別に価格交渉(以下「ネゴシエーション」という。)を行った後、米国空軍契約センターにおいて再度入札価格を呈示させて、最も有利な条件を呈示した事業者、すなわち、最も低い価格で入札した事業者に発注することを原則とする方法(以下「ネゴシエーション方式」という。)の2種類が定められているが、米国空軍契約センターは、海外における調達については、一般的方針として、ネゴシエーション方式を採ることとしている。そして、同契約センターがネゴシエーション方式によって調達する場合には、連邦法及び連邦調達規則によって競争をできるだけ反映するように努めることが義務づけられている。
(二) 米国空軍契約センターは、わが国において電気通信設備の運用保守のサービスを調達するに当たり、それまで在日米軍が自ら実施し又は同契約センターが随意契約の方法によって発注していたものを、昭和43年ころから、ネゴシエーション方式に改め、同54年以降はそのほとんどすべてを同方式により発注している。
三(一) 米国空軍契約センター発注物件の入札に参加する事業者は、ネゴシエーション方式による発注物件が増加するにつれて、徐々に増加してきたが、従来、日電インテクが右発注物件のほとんどすべてを受注していた。
(二) 1級9社は、昭和54、55年ころから電電公社からの工事の受注量が減少するなどしてきたことから、電電公社との取引以外の分野に進出して、業務の拡大を図る必要性を感じていた。1級9社は、従来から電電公社などが発注する電気通信設備の工事等について、情報交換を行う等親密な関係にあったところ、前記状況の下で、右情報交換の場において、米国空軍契約センター発注物件は金額的にも大きく、魅力のある市場であることが話題となり、右のように電電公社との取引以外の分野にも進出しようという各社の方針もあり、同センター発注物件の受注を希望するようになった。
四(一) そこで、1級9社は、昭和55年ころまでには全社が同センターに業者登録を行い、米国空軍契約センター発注物件を受注するための方策を検討してきたが、従来、同センター発注物件のほとんどを受注していた日電インテクと競争をして直ちに受注を図ることは、入札に関するノウハウに通じていないこと及び技術的能力の違い等から困難な面があり、また、受注価格の低落を招く等の問題があった。
他方、日電インテクは、昭和55年前後ころ、1級9社の他にも中小の事業者が、米国空軍契約センターに業者登録を行い、同センター発注物件の入札に参加し、その結果、従前の受注価格より相当低い価格での受注を余儀なくされたこともあり、1級9社の同市場への参入により右のような事態になることを危惧していた。
(二) 右状況の下で、池野通建の開発部営業課長であった増川重雄は、日電インテクと競争するよりも話し合って受注すべき者を決める等協力関係を密にすることを通じて、同社から米国空軍契約センターの入札方法及びその業務についてのノウハウを学び、また当面は同社に協力して「貸し」をつくり、将来その「貸し」を返してもらうという形で受注の機会を増やし、日電インテクと協力関係を持つためには、同社を仲間に入れて親睦を図りつつ継続的に話し合う会を設立することが必要と考え、昭和55年12月ころ、日電インテクの取締役であった松田清に対して、入札業者も増えてきたので1度集まって情報の交換をしたい旨、また米国空軍契約センターの入札等に関する指導等を受けたいので1級9社の営業担当者を交えて忘年会を開きたい旨の呼びかけを行った。日電インテクも、1級9社と競争し、受注価格を下げるよりも、協調関係を保持することが必要と考え、右呼びかけに応ずることとした。
五(一) 1級9社及び日電インテクの営業担当部課長級の者は、増川の右呼びかけに応じて、昭和55年12月15日、東京都港区六本木所在の「かぶと家」に集まり、その際、会員相互間の親睦及びその意思の疎通を図り、米国空軍契約センター発注物件について情報を交換し、継続的に協調関係、信頼関係を維持するための共通の場として、「集まりの会」を設けることを合意した。右会合には、被審人から、官公庁の電気通信設備の工事及び保守の営業部門の担当社員である内田源也(昭和61年6月から第2営業部課長代理)が出席し、当日欠席したジェイコスに対しては、増川から「集まりの会」を設立する等の会合の内容が通知されている。
(二) その後、池野通建の増川、日本コムシスの原田洋雄、大明電話の安部正二が中心となり、会則案を作成するなど「集まりの会」の設立準備を進めてきた。そして、日電インテク及び1級9社の営業担当部課長級の者は、昭和56年2月5日、前記かぶと家で再度会合を開催し、遅くとも2月19日ころまでには、右「集まりの会」の名称を「かぶと会」とするとともに、かぶと会会員間の親睦を深める目的に充てるため、米国空軍契約センター発注物件を受注した会員に対し、当該物件の契約金額に所定の率を乗じた額の金員を特別会費としてかぶと会に供出させる旨等を内容とする会則及び役員等を定め、同年3月1日にかぶと会を発足させた。
前記忘年会等の席上、1級9社側の出席者から電電公社関係の仕事が減少してきているので、米国空軍契約センター関係の仕事を是非受注したい旨、かぶと会は会自体が受注予定者を決める等して会員を統制しない旨、日電インテク側の出席者から順番制で仕事を回すようなことはしない旨等、今後米国空軍契約センター発注物件についてどのように受注していくかについての意見が出された。
(三) 後記「審判官の判断」で説示するように、日電インテクも参加して設立されたかぶと会は、単に会員の親睦を図る会に止まるものではなく、米国空軍契約センター発注物件を受注するに当たり、1級9社及び日電インテクが円滑に受注できるようにするため、継続的に話し合い、信頼関係を形成し、維持するため設立されたものであるところ、右かぶと会の設立等につき協議し、かぶと会を設立すること等により、もって、遅くとも、右設立するころまでには、米国空軍契約センター発注物件について、あらかじめ入札に参加するかぶと会会員の話合いにより右発注物件を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決めること、受注予定者以外の入札参加会員は、受注予定者が受注できるように協力することとする共通の認識(以下「本件基本合意」という。)を相互に形成するに至った。
六(一)イ かぶと会会員は、かぶと会設立後の昭和56年3月から後記認定の昭和63年6月15日のかぶと会の解散に至るまでの間、継続して、本件基本合意に基づき、別紙一記載の米国空軍契約センター発注の27物件について、同契約センターが入札前に開催する入札説明会又は現場説明会の終了後において、飲食店等で会合し、当該入札に参加する会員間で受注予定者を決める「話合い」(後記「審判官の判断」で説示する意味での受注予定者を決めるための前段階での広い意味での「話合い」を含む。以下、右の意味での「話合い」については括弧をつけて表示する。)を行い、受注予定者を決めていた。
ロ また、当該入札に参加するかぶと会会員は、受注予定者を決めた後、受注予定者以外の入札参加会員の入札価格が受注予定者の入札価格以上の価格となるように、受注予定者が他の入札参加会員にその者が入札すべき価格を通知する等の方法により、受注予定者が受注できるようにし、また、受注予定者は、あらかじめ監査の対象になった場合の対応を特定の入札参加会員に依頼し、依頼を受けた会員は、監査やネゴシエーションの結果、入札価格の変更があっても、受注予定者が受注できるように協力していた。
(二) 大興電子は、昭和57年10月ころ、富士通ビジネスは、昭和58年11月ころ、それぞれ本件基本合意を了承し受注予定者を決める本件「話合い」に参加することとして、かぶと会に入会し、入会後は、前記のように受注予定者を決定するための会員間の「話合い」に参加し、受注予定者が受注できるように協力してきた。
七(一) 公正取引委員会が在日米軍関係建設工事事業者ら及びこれらの団体に対する審査を開始したことが、昭和63年5月新聞等で報じられたところから、右審査が本件事案にも波及することをおそれた12社は、昭和63年6月15日、東京都品川区所在の大明電話の会議室でかぶと会の臨時総会を開催し、同日付けでかぶと会を解散した。
(二) その後、12社は、会員による受注予定者を決める「話合い」や、入札金額の連絡等の調整を行っていない。
(課徴金の計算の基礎)
八(一) 被審人が、本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は、本件基本合意に基づき、米国空軍契約センター発注物件について最初に入札に参加した昭和56年4月1日である。
(二) 被審人らは、昭和63年6月15日かぶと会を解散することにより、本件基本合意を破棄し、以降、被審人は、右合意に基づく実行としての事業活動を行っておらず、本件違反行為の実行としての事業活動のなくなった日は前記昭和63年6月15日である。
(三) したがって、被審人が本件違反行為の実行として事業活動を行った期間は昭和56年4月1日から同63年6月15日までである。
九(一) 被審人は、本件基本合意に基づき、米国空軍契約センターから、同契約センター発注物件の中、別紙二記載の昭和56年、同59年及び同61年の横須賀・横浜基地の各物件を受注した。
(二) 米国空軍契約センター発注に係る電気通信設備の運用保守は、受注から契約の終了までに相当の期間を要する等のため、実行期間内において提供した役務の対価の額の合計額と実行期間内に締結した契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ずる事情があり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)第5条の規定により、課徴金対象売上額は、実行期間内において締結した契約により定められた対価の額を合計する方法によって算定することが相当である。
被審人の前記期間における米国空軍契約センターが発注する電気通信設備の運用保守の売上額は、独占禁止法施行令第5条の規定に従い算定すると、別紙二記載の契約により定められた対価の額を合計した14億7516万4753円である。
一〇 よって、被審人が、国庫に納付しなければならない課徴金の額は、前記14億7516万4753円に百分の3を乗じた額の2分の1に相当する額から、1万円未満の端数を切り捨てて算出された2212万円である。
第二 証拠
第一の一(一)及び(二)の各事実は、被審人が認めて争わないところである。
第一の一(三)の事実中、12社が米国空軍契約センターに業者登録している有力な事業者のほとんどであることは査第3号証ないし同5号証、同9号証及び同10号証から認めることができ、その余の事実は被審人も認めて争わないところである。
第一の二(一)の事実は、査第97号証及び同98号証から認めることができる。
第一の二(二)の事実は、査第9号証、同13号証、同30号証、同98号証及び同115号証並びに参考人後藤芳樹の陳述から認めることができる。
第一の三(一)の事実中、日電インテクが米国空軍契約センター発注物件のほとんどすべてを受注していたことは被審人が認めて争わず、その余の事実は、査第9号証、同10号証及び同13号証並びに参考人松田清の陳述から認めることができる。
第一の三(二)の事実は、査第9号証、同10号証、同13号証及び同69号証並びに参考人幅田義男の陳述から認めることができる。
第一の四(一)の事実は、査第9号証、同10号証、同13号証、同31号証、同61号証及び同115号証から認めることができる。
第一の四(二)の事実は、査第9号証ないし同13号証、同16号証及び同31号証から認めることができる。
第一の五(一)の事実中、昭和55年12月15日、1級9社及び日電インテクの営業担当部課長級の者が、「かぶと家」において会合を行ったことは被審人も認めて争わず、その余の事実は、査第9号証ないし同17号証、同31号証、同115号証及び同127号証から認めることができる。
第一の五(二)の事実中、「集まりの会」を「かぶと会」とし、会則及び役員等が定められたこと並びに昭和56年3月1日付で「かぶと会」が発足したことは、被審人も認めて争わず、その余の事実は、査第9号証ないし同14号証、同16号証ないし同18号証、同27号証、同28号証、同30号証、同33号証、同115号証及び同127号証から認めることができる。
第一の六(一)イの事実は、査第9号証、同10号証、同12号証、同29号証、同30号証、同32号証ないし同34号証、同38号証ないし同44号証、同46号証、同49号証ないし同54号証、同56号証ないし同71号証、同82号証、同109号証、同111号証ないし同113号証、同116号証ないし同123号証及び同126号証ないし同134号証並びに参考人松田清の陳述から認めることができる。
第一の六(一)ロの事実は、査第30号証、同34号証、同49号証、同67号証、同68号証、同70号証、同117号証、同118号証及び同121号証から認めることができる。
第一の六(二)の事実中、大興電子及び富士通ビジネスがかぶと会に入会したことは、被審人も認めて争わず、その余の事実は、査第82号証ないし同85号証及び同126号証から認めることができる。
第一の七(一)の事実中、昭和62年6月15日、大明電話の会議室において、かぶと会の臨時総会が開催され、かぶと会を解散したことは、被審人も認めて争わず、その余の事実は、査第69号証、同87号証、同88号証、同90号証及び同114号証から認めることができる。
第一の七(二)の事実は、査第29号証、同69号証、同90号証、同102号証及び同114号証から認めることができる。
第一の八(一)の事実は、査第138号証から認めることができる。
第一の八(二)の事実は、査第29号証、同69号証、同90号証、同102号証及び同114号証から認めることができる。
第一の九(一)の事実は、査第39号証、同41号証、同93号証ないし同95号証から認めることができる。
第一の九(二)の事実中、本件運用保守に係る業務が受注から契約の終了までに相当の期間を要する事情にあることは、被審人も認めて争わないところであるが、その余の事実は、査第91号証及び同93号証ないし同97号証から認めることができる。
第三 審判官の判断
(本件基本合意の成立)
一 前記認定一ないし七の各事実によれば、かぶと会設立当時、1級9社は、米国空軍契約センターの発注物件の入札に際し、当時の各社の技術的能力、右物件に対する知識等からみて、当面は日電インテクと競争して受注することは困難な面があり、また無理をして受注しても受注価格の低落を招く等のおそれがあったところから、同社と競争するよりも協調しながら右業務を遂行するためのノウハウを学び、また当面、同社に協力して「貸し」を作り、将来「貸し」を返してもらう形で受注することを考え、他方、日電インテクも、受注価格の低落を防ぎ受注価格を安定させるためには、有力な競争相手と思われ、また近い将来そうなると思われる1級9社と競争するよりも協調しながら、その出方、考え方を知りそれに対応していくことの方が得策と考え、1級9社及び日電インテクとも、米国空軍契約センターの発注物件につき競争するよりも協調して受注価格を安定させる必要性を強く感じていたこと、そのため、1級9社は池野通建の増川の発案で、日電インテクとの話合いのきっかけを掴むため、忘年会を開き、その結果、1級9社と日電インテクは、集まりの会(かぶと会)を設立することとし、右設立までの間に今後米国空軍契約センターの発注物件をどのように受注していくか等につき協議し、かぶと会を設立したこと、かぶと会設立後、前記認定(詳細は後記説示する。)のように本件27物件のすべてについてかぶと会の会員中の入札参加者は受注予定者を決めるための「話合い」を行い、受注予定者を決め(ただし、昭和56年の横須賀・横浜基地物件については後記のとおり1社に受注予定者を決めることはできなかった。)、受注予定者以外の他の入札参加会員は受注予定者が受注できるように協力し、後日かぶと会に入会した大興電子及び富士通ビジネスも、入会後右「話合い」に参加し受注予定者を決める等していたが、かぶと会解散後は右受注予定者を決める等の「話合い」は行われなくなったことが認められ、右各事実及び査第9号証、同28号証(いずれも内田源也の供述調書)、同10号証(増川重雄の供述調書)、同11号証(松田清の供述調書)、同13号証、同127号証(いずれも冨山浩邦の供述調書)、同36号証(安部正二の供述調書)を総合すれば、1級9社と日電インテクは、会員相互の親睦を図るとともに継続的に米国空軍契約センターの発注物件の受注を円滑にし受注価格を安定させるための「話合い」をする前提として、信頼関係、協調関係を維持するため、かぶと会を設立すること等を協議し、かぶと会を設立することにより、遅くとも、昭和56年2月末ころまでには、米国空軍契約センター発注物件の入札について、あらかじめ入札に参加するかぶと会会員の「話合い」により右発注物件の受注予定者を決め、受注予定者以外の他の入札参加会員は、受注予定者が受注できるように協力して入札に参加する旨の黙示の合意である本件基本合意が形成されるに至ったことが認められる。
また、かぶと会は、親睦の会、営業担当者の遊びの会という一面を有することが認められるが(参考人内田源也、同原田洋雄の各陳述)、右事実は、かぶと会が本件基本合意を形成、維持、遂行する目的のため設立されたこととは相容れないものではなく、前記認定を妨げるものではない。
なお、参考人内田源也、同増川重雄、同冨山浩邦は、当審判廷において、前記各供述調書中のかぶと会の設立目的、性格あるいは本件基本合意に関し供述した部分につき供述した覚えは無い趣旨の陳述をするが、いずれの供述調書も、供述者は、読み聞かせを受け又は閲読し、内容について訂正、異議を述べる機会が与えられた上で署名、捺印したものであり、特段違法不当な事情聴取が行われたとする証拠は無く、また、いずれの供述調書も何故そのような内容の調書が作成されたのか合理的な説明は無く、その内容自体も首尾一貫し、前記査第11号証、同36号証及び前記認定第一、三及び四(一)の各事実に照らしても、信用できるものである。他に右各供述調書の信用性に疑いを抱かせる事実は無い。また、被審人は、内田源也は査第9号証で本件基本合意が明示的にされた趣旨の供述をしており、審査官の黙示であるとの主張と齟齬しているばかりでなく、右内田は、同号証において当時から1級9社は電話局の保守を行っていた旨供述するが、日本電信電話株式会社(電電公社の時代を含め)の電話局の保守は一貫して電電公社時代から同会社が自ら行っており、内田がそのように供述するはずがなく、これらのことを考慮すると、同人の供述調書は審査官の誘導のまま作成されたもので、全体として証明力は無い旨主張するが、ある意思表示(合意)が明示的なものか、黙示的なものかは、それを受け取る者がどのように感じたかという主観的な評価の面が強く、必ずしも、どちらかに割り切って判断することが困難な場合も少なくなく、また、右供述調書は、具体的な事実の経過、経緯を省略して結論、結果のみの供述を記載した可能性も否定できない。そして、電話局の保守に関する供述については、被審人を含め、少なくとも1級9社の一部が、日本電信電話株式会社以外の他の小規模の電話局の保守を行っていた趣旨の供述とみることができ(1級9社の一部が小規模の電話局の保守を行っていたことは、参考人冨山浩邦、同小林満春の各陳述により認めることができる。)、いずれも被審人の主張する事実をもって、内田の供述調書が信用できないとするのは相当ではない。
(本件基本合意の存否)
二(一) 被審人は、本件基本合意が認められないことは、以下のイないしハの各事実からみても明らかである旨主張する。
イ 米国空軍契約センター発注物件の合計27物件への各社の営業担当者の関与状況からみると、そのほとんどが話合いなどするまでもなく、無競争で日電インテクに受注することが決まり、また、日電インテク以外の他の会員が受注を希望した場合であっても、真に受注する意思は無く形だけにすぎない。本件では、被審人が昭和56年に横須賀・横浜基地物件を受注したとき以外に現場説明会に技術者を同行した会社は無かったが、受注するか否かを判断するには技術者の立場からのチェックは不可欠であり、現場説明会に技術者を伴わない会社は、それだけで受注意思の無いことを表明しているのであり、そのような会社が現場説明会後の「話合い」に参加しても何らの意味が無く、さらにいえば、仮に技術者の参加があったところで、現場説明会に参加したその場で受注意思を決定できる道理はなく、入札説明会や現場説明会の直後の各担当者の言動の如何は、そもそも審査官が主張する本件黙示の基本合意の存在を立証するための重要な間接事実となり得ない。また、「話合い」のメンバーは、特定しているわけではなく、かぶと会会員以外の事業者も随時「話合い」に参加している。これらの点からみれば、前記各社の営業担当者の関与状況は、本件基本合意を推認させるに足るものではなく、かえって、本件基本合意など存在しなかったことを推認させるものである。
なお、本件では、受注者が、他の入札者にその者が入札すべき価格を連絡し、あるいは入札書を代わって作成しているが、右はかぶと会の会員以外の者に対しても行ったことであり、受注能力(本件米国空軍契約センター発注物件についての業務を遂行する能力をいう。以下同じ。)も受注意思も無く入札書も作成できない事業者が実績作りのため形だけ入札に参加するのを手伝ったにすぎず、審査官が主張するように受注予定者以外の者が受注予定者を受注できるように協力したものではなく、右のことから本件基本合意の存在を推認することはできない。
ロ(イ) 昭和56年3月ころ当時の日電インテクは、従来から米国空軍契約センター発注物件をほぼ独占的に受注してきており、右当時、1級9社とは能力的にも格段の差があり、他に格別の業務を行っていない運用保守専業者として引き続き受注しなければならない立場であった。また、1級9社とは、相互間で取引が競合するという関係もなく、いわば他人同士の間柄であり、基本的に立場が異なった。
また、受注予定者を決定することを目的とする合意は、会員相互間の受注が均等になることを目的とするものであるところ、本件は「点数制・順番制」等の取決めもなく、審査官が主張するように「貸し・借り」を精算する仕組みになっておらず、現実にかぶと会設立後の約7年間にわたって日電インテクがほとんど独占的に本件物件を受注している。そして、「貸し・借り」の駆け引きをしようとするならば、少なくとも毎回「話合い」に参加した上で譲歩し、「貸し」を作ってこそ意味があるにもかかわらず、かぶと会の会員の中には、個々の物件に参加していない事業者、なかんずく途中から全く参加しなくなった事業者(三和大榮)もいる。
これらの点からみても、1級9社及び日電インテクは、ともに本件合意をする動機はなく、右合意が存在しないことは明らかである。
(ロ) 他方、1級9社相互の間でも会社の規模、業務内容、技術的能力等に著しい差があり(大明電話は本件基本合意が成立した当時、既に横田基地物件(電話局)について受注していたが、他の1級9社は1件の実績もなかった。)、そのほとんどの事業者は、米国空軍契約センター発注物件について、受注能力も受注意思も無かった。すなわち、1級9社は、工事業者であり、電話局及びマイクロ通信の運用保守を業務内容としておらず、特に池野通建、大和通建は線路、土木のみが業務内容であり、電話局の設置工事に関連する機械部門や無線部門すらもたない事業者であり、到底本件業務を施工する技術的能力はないばかりか、一般に、電気通信の運用保守業務は、新規受注をする場合には、車両や大型精密測定器や試験器の新規手配等の契約金でカバーされない多額の初期投資が必要なこと、受注決定から短時間のうちに要員を準備する等業務遂行体制を整えて、円滑に仕事を進めることが困難であること等から、継続受注されることが多く、また、米国空軍契約センター発注物件は、英語力を有する要員の配置が欠かせず、規模が大きく多数の要員の確保が必要である上、万一事故が発生した場合には、米国空軍の電気通信という業務の性質上莫大な損害賠償を請求される可能性もあり、そのようなことになれば、企業規模の小さい事業者は、その存亡にもかかわることになる。そして、下請を使用し元請として受注するには、元請自身の業務管理能力、責任負担能力、資金力、技術力等が必要である上に、米国空軍契約センター発注物件についてはこれを遂行できる下請業者も限られており、それらのほとんどは現に業務遂行に当たっている業者であり、色々の意味合いにおいて系列化し、簡単に下請を使用することはできない。
なお、前記のように1級9社は、被審人が昭和56年の横須賀・横浜基地物件を受注した以外、本件現場説明会に技術者を同行していなかった。
右の各事実に照らすと、多くのかぶと会会員に受注能力が無く、また受注意思も無かったことは明らかである。特に、マイクロ通信業務については、日電インテクを除くかぶと会会員の全員が受注能力が無かったといえる。
(ハ) 右各点を考慮すると、1級9社と日電インテクとが共同して本件基本合意をすることは、およそ経験則に反する。
ハ かぶと会は、親睦の会、営業担当者の遊びの会にすぎず、現場説明会等の後の各社の営業担当者の集まりはかぶと会の名で招集されたものではなく、その際の飲食費等も一切かぶと会の会費から支出されておらず、また、かぶと会の会費は受注者が得た利益を会員事業者に対し再分配する仕組みになっていない。審査官が受注予定者の決定が行われたと主張する右会合は、かぶと会とは、何らの関係もなく、かぶと会が設立されたことをもって、本件合意がされ たとみることはできない。また、黙示の合意である本件基本合意が成立したと審査官が主張する昭和55年12月の忘年会の参加の呼びかけから同56年3月1日のかぶと会設立までの間、右合意の存在を基礎づけるような具体的な事実は何ら存在しない。
(二) 次に被審人の右主張につき順次判断する。
イ 本件27物件の中、電話局関係は13件、マイクロ通信関係は8件全部につき、日電インテクの他にかぶと会会員中には積極的に受注を希望する者が存在せず、話合いによって受注予定者を決定するまでもなく、短時間にいわば無競争で日電インテクが受注予定者に決まったこと(もっとも、昭和58年の三沢基地物件は、かぶと会会員間で受注予定者が決まっていたが、かぶと会会員以外の仙台市所在の大和電設工業株式会社(以下「大和電設」という。)が受注を希望して入札に参加したため、大和電設を交えて改めて話し合い、日電インテクが受注予定者に決まるのに多少日時を要した(査第46号証、同109号証)。)が認められるが(参考人松田清の陳述)、他方、別紙一記載の昭和59年の横田基地物件では、同年1月18日の現場説明会の後、かぶと会会員の入札参加者が入札予定者を決めるため話し合い、大明電話、池野通建、日本コムシスが受注を希望し、さらに右3社間で話し合った結果、最後に大明電話が、受注予定者に決まり、受注し(査第53号証、同54号証)、同一記載の昭和61年の三沢基地物件では、同年3月3日の入札説明会の後、かぶと会会員の入札参加者及び大和電設が受注予定者を決めるため話し合ったが、日電インテク、池野通建、大和電設の3社に絞られたが受注予定者が決まらず、後日、3社が話合いを行い、日電インテクが受注予定者に決まり、受注し(査第49号証、同51号証、同111号証ないし同113号証、同123号証)、同一記載の昭和61年の横田基地物件では、現場説明会の後である同年3月4日、かぶと会会員の入札参加者が受注予定者を決めるため話し合い、大明電話、大興電子、池野通建、日本コムシスが受注を希望し、結局、大明電話、大興電子の2社に絞られたが受注予定者が決まらず、さらに右2社が話し合って大明電話が受注予定者に決まり、同社が受注し(査第58号証、同59号証)、同一記載の昭和56年の横須賀・横浜基地物件では、同年11月4日の現場説明会の後、かぶと会会員の入札参加者が、受注予定者を決めるための話合いをした結果、被審人と日電インテク以外は積極的に受注を希望せず、右2社に絞られ、最終的には右2社の間で話合いがつかず、1社には受注予定者が決まらなかったが、他の入札参加者は、右2社のいずれかと入札価格について連絡した上で入札に参加し、受注予定者である2社のいずれかが受注できるように協力したことが各認められる(査第38号証ないし同41号証)。
右各事実と前記日電インテクがあたかも無競争で受注予定者に決まった物件においても、必ず入札するに先立ってかぶと会の会員の入札参加者に受注意思の有無を聞いていること(査第70号証、同127号証)(電話局の運用保守の物件では司会者を立てて受注意思の有無を聞いている(査第61号証、参考人松田清の陳述)。)、右各物件では、日電インテクが、本件業務の特殊性(本件業務を遂行するため技術者等の要員を多数雇用するため、継続して受注できないと右の者の生活に影響を及ぼすことになること、新規に機械等の買入れをする等初期投資を要するため、継続して受注をしないと利益が上がらないこと等)から、継続して受注することを強く主張して譲らなかったため、その立場を尊重せざるを得なかったこと(査第13号証、参考人松田清、同高原美明の各陳述)、また、本件業務を円滑に遂行するためには、下請業者を利用することが必要であり、そのためには、1級9社(後に2社加わる。)は、そのほとんどが本件業務に慣れておらず、相当無理をしないと受注できる体制になく、日電インテクと競争するよりも、日電インテクの協力を得て同社から元請の立場を譲り受けるような形で受注することが営業上得策と考えていたが(査第9号証、同13号証)、1級9社等の当初の予想に反して、日電インテクは前記の事情等から継続受注を強く望み譲歩しなかったこと(査第11号証)等に起因し、日電インテクがあたかも無競争で受注予定者に決まったものと考えられる。そして、昭和61年の三沢基地の電話局物件における「話合い」でかぶと会会員以外の事業者の大和電設が参加したことは認められるが(参考人山田政彦の陳述)、本件全証拠によるも、右以外にかぶと会会員以外の事業者が本件「話合い」に参加した事実は認められないこと(なお、参考人内田源也、同原田洋雄の各陳述によれば、他の物件においても、現場説明会後、入札に参加するかぶと会の会員と地元の事業者と食事をしたことが認められるが、右各証拠によるも、右認定を出て「話合い」が行われた事実を認めることはできない。)に照らすと、本件のように入札参加者に真に受注を希望するかどうかを聞くことは、仮にその段階で真に受注を希望する者が無く、その結果、あたかも競争することなく日電インテクに受注予定者が決まったとしても、話し合って受注予定者を決定することが必要かどうかを判断するための前提行為としての「話合い」であり、本件基本合意に基づいて当該物件につき受注予定者を決める具体的交渉の場に上程する行為の一環と評価することができる。
右によれば、被審人主張のように、話合いによって受注予定者を決定するまでもなく、いわば無競争で日電インテクが受注予定者になることが多かったとしても、右は本件基本合意を認定する妨げにならず、右各社の本件27物件についての対応は本件基本合意の存在を推認する事実といえる。
被審人は、受注希望を持つ者が話合いをしたかのような場合であっても、当時1級9社の大部分は受注能力が無く、また、受注意思が無かったことは、現場説明会に技術者を同行しないことからみても明らかであり、また、現場説明会に行ったり、上司の決裁をとったりする前の入札説明の終了した段階では、各社とも受注の意思を固めようがないのであるから、話合いは茶番であり、そのような話合いがあったからといって、審査官が主張する本件基本合意の存在を認定することはできない旨主張するが、本件業務については下請業者を利用して遂行するのが通常であり(査第9号証、同104号証、参考人後藤芳樹の陳述)、当初は赤字覚悟で、技術的にも金銭的にも多少の無理、冒険をして仕事を取りにくる事業者も当然考えられ、まして入札する他の事業者の受注能力、受注意思を正確に推し量ることは不可能であるから、ある事業者が入札に参加し是非受注したい旨表明すれば、他の入札参加事業者は、特段の事情が無いかぎり、その事業者に受注能力、受注意思が有るものとして行動すると考えられ、仮に、現場説明会に技術者を同行して技術面等のチェックをし、受注するかどうか、いくらで入札するか等を検討するのが通常であるとしても、同行していないからといって直ちに受注意思が無いと断定できず(事前にある程度検討することも可能であるし、また、いわば元請の地位をそのまま譲り受け、下請業者をそのまま引き継ぐ形をとれば、現場説明会の段階で技術的チェックをしなくともよい場合も考えられる。)、また、入札説明会等の段階から受注意思が明確な事業者も当然予想されないわけではなく、右段階で受注予定者を決めることは何ら異とするに足りない。被審人は前記話合いは茶番にすぎないと主張するが、何故、入札に参加する事業者がそのような茶番をしなければならないのか合理的な理由は見当たらず、被審人の右主張は失当である。
もっとも、受注を希望する者の中には、真に受注する意思は無く、下請として使ってもらう手段として受注を強く希望した者がいたことが認められるが(査第10号証、同37号証)、本件基本合意の存否を裏付ける事実として、右基本合意に基づく話合いが行われたかどうかの問題については、話合いに参加した事業者の隠された意図がどうであったかは直接関係がなく、右事実もまた前記認定の妨げにはならない。
また、被審人が主張するように、本件受注をした日電インテク等が、不慣れのためどのように入札したらよいか分からないかぶと会の会員及び会員以外の入札者にその者が入札すべき入札価格を連絡し、あるいは入札書を代わって書いたこと及び右は本件受注をした日電インテク等が受注意思の無い業者の単に実績作りのため形だけ申込みに参加するのを手伝ったにすぎない面があることが認められるが(査第131号証、参考人松田清の陳述)、他方、受注予定者は、2番札、3番札の入札者に対しても監査及びネゴシエーションが実施されることから、その対策としてあらかじめ入札に慣れた事業者に対し監査を受けることを依頼し、その入札価格(受注予定者の入札価格より1O〜15パーセント上乗せした価格)を連絡し、右連絡を受けた事業者は、その価格で入札し、ネゴシエーションの結果、受注予定者の入札価格よりも低い価格になるおそれが生じた場合には、事前に連絡すること等し、受注予定者が予定通り受注できるように協力していたことが認められるのであり(査第49号証、同67号証、同68号証)、右事実もまた本件基本合意を認定する妨げにはならない。
ロ(イ) 1級9社と日電インテクが、それぞれの置かれた状況下でそれぞれの営業方針、考えの下に相互に競争して受注するよりは協調し話し合って受注予定者を決めていく方が営業上得策と考え、かぶと会の設立等を協議し、かぶと会を設立することにより、もって、米国空軍契約センターの発注物件について話合いにより受注予定者を決定し、受注予定者以外の他の入札参加会員は受注予定者が受注できるように協力する旨の本件基本合意を形成するに至ったことは前記説示のとおりである。
他方、日電インテクは、1級9社の参入による受注価格の低落を防止するため受注予定者を決めるべく一応は話し合うが、受注予定者を決めるに当たっては、本件業務の特殊性を含め自社の運用保守能力の優位性を強く主張して、できるかぎり受注の独占を図り、少なくとも当分の間は1級9社に仕事を譲る意思が無く、1級9社と日電インテクとの間に、今後の具体的な受注見通しについて思惑の違いがあったことが認められる(査第11号証、参考人松田清、同後藤芳樹の各陳述)。しかし、前記のとおり1級9社と日電インテクは、それぞれの立場から会員間の話合いで受注予定者を決定し、受注価格を安定させることが必要であるとし、より長期的な観点をも視野に入れて利益の確保を図ろうとしたものであり、右の点においては考えが一致していたものである。そして、日電インテクの右独占する意図が伝わったとしても、1級9社は、日電インテクは当初はそのように考えていてもいずれは仕事を譲らざるを得ないことになるのであり(査第10号証、同13号証)、いずれにしてもかぶと会設立当時における日電インテクの優位性を考慮すると、同社と協調するのが得策と判断したものと思われ、前記のような認識、思惑の違いは、前記基本合意の成立を妨げるものでない。
また、当時、1級9社相互間に規模、業務内容、技術的能力等に差があったことが認められるが(審第16号証)、1級9社は、後記(ロ)の考えの下に行動したものであり、右のような差があること自体は本件基本合意の成立を妨げるものではない。
本件基本合意には、誰を受注予定者にするかについて「点数制・順番制」等の会員相互が公平に受注できるような制度を採り入れていないことは、被審人が主張するとおりであるが(査第9号証、同13号証)、当時の1級9社は、米国空軍契約センター発注の物件の運用保守に通じておらず、また、日電インテクは、右物件の継続受注を強く望んでいたところから、直ちに右物件を受注すること及び右制度を本件合意の内容に採り入れることは日電インテクが強く反対することが予想され、いずれも困難な面があった状況(査第11号証)に鑑み、かぶと会の会員という枠を通じて、日電インテクが円滑に受注できるように協力し、また継続的に顔を合わせ接触すること等により同社と親しくなることにより、日電インテクに多少心理的な負担をかけることができ(日電インテクとしても、かぶと会会員の協力によって受注価格が低落しないで受注でき利益を受けることになる。)、仕事を譲るように要求し易くなる等の心理的な面を重視して合意をしたものと考えられ(査第10号証、同32号証)、また、後記認定の昭和61年3月4日の大興電子の会議室で数社から特定の事業者、特に日電インテクが本件業務を独占していることについて不満が出た事実も、「貸し・借り」の精算を期待していたことを示すものであり、右のような制度がないことの故をもって本件基本合意の認定ができないとするのは相当ではない。なお、三和大榮は、当初本件入札に参加していたが、その後は参加しなくなったことが認められるが(参考人山田喜文の陳述)、右の事実は本件基本合意の認定を左右するに足りないことは明らかである。
また、受注事業者に変更があったのは、前記横須賀・横浜基地物件を被審人が受注した場合のみであり、それ以外は、本件課徴金賦課の対象とされた約7年間にわたって日電インテクが米国空軍契約センター発注物件のほとんど全部を受注してきたことは、被審人の主張するとおりであるが(査第13号証)、右事実は、前記説示のとおり、本件業務の特殊性から既に受注している日電インテクが強く継続して受注することを主張し、1級9社(後に2社加わる。)は譲歩せざるを得なかったこと等に起因するものであり、また、昭和61年3月4日の大興電子の会議室において、昭和61年の横田基地物件でかぶと会会員の中の入札参加者が受注予定者を決めるため集まった際、池野通建及び日本コムシスの営業担当者から本件物件を回すようにとの不満が出されたこと(査第9号証、同31号証、同58号証、同60号証、同73号証)からみても、右事実の故に本件合意が認定できないとするのは、これまた相当ではない。被審人は、「話合い」で受注予定者を決めていたとすれば、右のような不満が出るはずはなく、右のような不満が出たとすれば、本件合意に基づく「話合い」など無かったことを示すものである旨主張するが、かぶと会の会員の中、受注を希望する事業者が「話合い」をして受注予定者を決め、受注予定者が受注できるように協力してきたことは、前記認定のとおりであり、話合いの場で、日電インテク等本件物件を受注している事業者は、本件業務の特殊性等から継続して受注することを強く希望したため、他の事業者は譲らざるを得ず、そのため受注できなかったことに不満を持つに至ったことが認められ(査第9号証、同13号証、同54号証)、右主張は当を得ないものである。
(ロ) 次に、被審人は、本件業務の特殊性から1級9社の多くは受注能力が無く、特にマイクロ通信関係については、全社に受注能力が無かった旨主張するが、1級9社の本件業務についての受注能力の有無の点については後記判断するとおりであるが、本件事案に即して検討すると、仮に、本件基本合意の時点で1級9社の一部の事業者に受注能力が無かったとしても、右基本合意を認定する妨げにはならないと解すべきである。けだし、米国空軍契約センター発注物件は、相当程度将来にわたって継続して入札の対象となることが見込まれるものであるところ、前記のように1級9社の各社は、それぞれ最終的には自己の判断に基づき営業の拡大を図るため業者登録をしたものであり、仮に、本件基本合意時点において、すぐに受注し本件業務を遂行することが技術的能力等からみて無理であったとしても、将来の営業の拡大を図るため、異なった分野での仕事をとれる体制、機会を作る必要等から本件基本合意をしたということも考えられ、本件基本合意の時点での受注能力の有無は、右合意の認定に直接影響を及ぼすものではないと解すべきである。
ハ 前記のように、かぶと会が親睦のため、営業担当者の遊びのための会の一面があったことが認められ、また、現場説明会後の集まりがかぶと会の名で招集されていないこと、その際の飲食費等がかぶと会の会費から出費されていないこと、受注者の得た利益を会員に再配分される仕組みになっていないことは、いずれも被審人の主張するとおりであるが(査第81号証、参考人内田源也、同増川重雄の各陳述)、他方、前記のように、かぶと会は、本件基本合意を形成、維持、遂行するために設立されたという面もあり、本件基本合意は、右のようなかぶと会が設立されたことと表裏一体をなし形成されたものであり、かぶと会が前記のような状況、経緯で設立されたこと、その後の米国空軍契約センター発注の27物件について、かぶと会の会員の中、当該物件の入札参加者が受注予定者を決めるため話し合ってきた等の経緯、かぶと会を設立する過程で、かぶと会は会自体が受注予定者を決める等会員を統制しない旨、参加者で情報の交換をして米軍関係の仕事を円滑にしたい旨等、今後米国空軍契約センターの発注物件をどのように受注していくかについての話が出ていたこと及び前掲査第9号証ないし同11号証、同13号証、同28号証、同36号証、同127号証によれば、本件基本合意を十分に認めることができることは前記説示のとおりである。
なお、本件全証拠によるも、かぶと会が会として本件現場説明会後等の会合を主催したことは認定できないが、前記説示のように右事実を前提として本件基本合意を認定しているわけではなく、右のことは前記認定の妨げとはならない。
三(一) 被審人は、仮に、本件基本合意が認められるとしても、右合意は、以下のイないしハの各事実からみて、到底、独占禁止法第2条第6項に規定する「不当な取引制限」に当たるものとはいえない旨主張する。
イ 本件基本合意は、受注予定者を決める具体的な方法を欠き、「話合い」の主体も不明であり、具体性、規範性が欠如した茫漠とした内容であり、また、拘束性も欠如している。しかも、黙示の合意であることは、本件基本合意の内容がいかに空疎なものであるか如実に示している。
ロ 本件各物件の発注方法は、米国連邦法等に基づくネゴシエーション方式であり、入札的な方法を加味しているものの、本質的には個別交渉による随意契約にすぎず(米軍契約官は、契約に先立って、価格分析、原価分析のほか技術分析を行い、最も有利な業者を選択し落札することになるが、その選択は、価格と価格以外の要素を考慮するものであり、最低価格入札者に落札させる競争入札と本質的に異なるものである。)、前記のとおり監査、ネゴシエーションが実施され、価格は実質的には交渉によって決定され(ベスト・アンド・ファイナルは、実態としては米軍契約官との間で事前に合意した最終確認にすぎない。)、発注者のリスクを回避し(申込者(入札者)は監査を受け、交渉により見積(入札)価格を引き下げられ、場合によっては受注に関する能力検査を受け、それにもかかわらず、発注者は最終的に受注者を決めないことさえできる。)、申込者(入札者)の話合いによる受注者の決定を極めて困難にした発注方法である。そして、本件基本合意が極めて漠然とした無内容なものであることを考え合わせると、右合意は可罰的な意味での競争制限性はない。すなわち、本件のように発注者側にとって適正な価格を超えた価格での受注を余儀なくされる危険性の無い、発注者に一方的に有利な発注方法の下においては、申込者(入札者)の行為を「不当な取引制限」として罰するには、少なくとも一般の競争入札の下における「不当な取引制限」行為とは類型的に異なり、相当程度違法性ないし不法性の高いものでなければならない。
なお、本件発注方法の本質が随意契約であることは、前記のように契約金額が事前の折衝により決定されていたこと、現実の実績において、前記のように、日電インテクが従前受注していた横須賀・横浜基地物件を被審人が新たに受注するに至った以外は受注業者に変更がなく、事実上契約の更新が繰り返されており、実態は既契約業者との契約更改の一変形にすぎず、発注者である米軍もそのような実態を是認していたことからも明らかである。
ハ 1級9社の大多数は、前記二(一)ロ(ロ)のように本件各物件につき受注能力も受注意思も無い事業者であった。このような状況の下では、仮に、審査官主張のような具体性の無い茫漠とした本件基本合意なるものがされたとしても意味が無く、少なくとも可罰的な意味での不当な競争制限性が無い。特にマイクロ通信物件では、日電インテク以外の業者には受注能力も受注意思も無く、実質的にみて競争自体が無かったものである。
(二) 被審人の右主張につき順次判断する。
イ 本件基本合意は、その内容自体及び査第12号証(原田洋雄の供述調書)、同82号証(内田源也の供述調書)に徴すれば、「話合い」の当事者は、原則としてかぶと会の会員で当該入札に参加する事業者であることは明かであり(前記説示のとおり本件27物件の中、本件「話合い」にかぶと会会員以外の事業者が参加したことが、証拠上認められるのは、昭和61年の三沢基地物件(電話局)において大和電設が参加した以外はない。)、また、米国空軍契約センター発注物件についての入札手続の流れ等からみて、どのような時期等に「話合い」をするかについてあらかじめ具体的に詳細に決定するまでの必要はなく、そして、本件基本合意は、「話合い」の具体的な方法、手順等について取り決めていないが、入札に参加する同業者が集まって受注予定者を決める話合いをする本件のような場合には、本件基本合意の当事者は、おのずから通常考えられる具体的な方法については、おおよそのことについては予想し理解しているものと解され、本件基本合意当時、明示的、具体的に「話合い」の方法等が決められていないものであっても、当然に一般的かつ通常予想される具体的な方法等は、右合意の具体的な内容に含まれるものと解すべきものである。本件に即していえば、司会者を立てて各入札参加者に対し受注意思を確認すること、受注希望者が競合する場合はトーナメント方式等により受注予定者を決めること、2番札、3番札等に当たる事業者に監査、ネゴシエーションに備えるように依頼等し、受注予定者が受注できるような協力体制をとること等は、本件基本合意の具体的な内容と考えるべきである。そして、不当に競争を制限したかどうかは、競争入札によらず「話合い」であらかじめ受注すべき者を決めていたか否かにあるものであり、必ずしも「話合い」で決まらなかった場合の仲裁機関の設置、決定に従わなかった場合の罰則等の取決めが無くとも、被客人の主張するように具体性、規範性に欠けるものとはいえないことは当然である。
また、本件は決定に従わなかった場合の罰則等の定めは無いが、罰則等の定めが無ければ、当該合意に拘束性が認められないというわけではなく、前記認定のように、本件基本合意に基づいて別紙一記載の米国空軍契約センター発注の27物件について、「話合い」を継続してきたものであり、本件基本合意は、実効性、拘束性を有していたことは明らかである。なお、本件は、いわゆる黙示の合意であるが、本件基本合意が認められることは、前記のとおりであり、右合意が認められる以上、明示でも黙示でもその効力、効果に関係がなく、その実効性等において欠けるところが無いことは前記説示のとおりである。
ロ 本件米国空軍契約センターの発注手続きについては前記のとおりであり、米国法(連邦法、連邦調達規則等)では、封印入札方式が適当でない場合には(米国空軍契約センターにおいては、一般的な方針として海外における調達については、ネゴシエーション方式を採ることとされている。)、ネゴシエーション方式が完全かつ公開の競争を確保する一方法として認められており、右方式を採る場合においても、実行可能な限り最大限に競争を基礎として行うことが義務づけられており(連邦調達規則第6章、査第98号証)、右ネゴシエーション方式は、発注者側で労働賃金等の原価等について監査をし、それを踏まえてさらに発注者と受注予定者間で価格等についてネゴシエーションするものではあるが、法令上は、監査及びネゴシエーションを受けた事業者(まだ競争範囲内にあると認められるすべての応札者。具体的には、原則として初回入札の参加事業者の中、入札価格が低い1名ないし3名である。)は自らの判断で最終価格を設定して入札(ベスト・アンド・ファイナル)するものであり(査第98号証)(なお、参考人内田源也、同松田清の各陳述によれば、実際は、被審人の主張するように、ネゴシエーションで折り合った価格がベスト・アンド・ファイナルになっていた例が多かったことが認められるが、右事実は、本件が競争入札の一類型であるかどうかの判断に影響を及ぼすものではない。)、発注者は右入札した者の中から、発注者にとって最も有利な条件の者と契約するのを原則、すなわち、工事遂行能力等の問題がない限り、入札価格が最も低い事業者に落札するのを原則としており(査第97号証、同98号証)、価格を中心に競争によって受注すべき者を決める仕組みであることが認められる。また、発注者が発注前に受注可能性のある事業者に対して、財務上及び技術面からみて業務遂行能力が有るかどうかを調査し、その結果、業務遂行能力に欠けると認められた事業者を契約対象から除外することは、業務を円滑に遂行するためには当然のことであり、競争入札と矛盾するものではない。
そして、本件基本合意は、前記説示のとおり、その内容は明白であり、特段、規範性、具体性に欠けることがなく、その実効性、拘束性もある。もっとも、ネゴシエーション方式は、封印入札方式に比較すると、ある意味では、発注者にとって有利な価格で発注できる制度ではあるが、本件基本合意の下では、それはあくまでも右合意によって決められた受注予定者との関係のものにすぎず、入札市場においては保護されるべき価格とは、入札者が自由に自己の判断に基づいて入札し、競争することにより形成されるべき価格であり、被審人と日電インテク、あるいは日電インテクとハワイアンテレフォンカンパニーが最終的に2社で競争入札した結果でも、従前の落札価格(話合いで受注予定者を決めていた落札価格)よりも約15〜20パーセント下がったことが認められるところである(査第40号証、参考人松田清の陳述)。また、受注予定者となった者は、監査手続に慣れた特定の入札参加会員に対して監査及びネゴシエーションヘの対応を依頼し、依頼された会員は監査及びネゴシエーションがあっても受注予定者が受注できるように協力してきたことは前記認定のとおりであり、そして、本件では、昭和63年の嘉手納基地物件を除いた物件において、決められた受注予定者が受注していることが認められ(査第29号証、なお、昭和56年の横須賀・横浜基地物件においては、受注予定者は1社に決められず、2社であった。)、本件基本合意が競争によって受注者を決めることを制限しており、独占禁止法に違反することは明らかである。
よって、被審人の前記主張はその余の点を判断するまでもなく理由が無い。
ハ 電気通信設備の運用保守の業務については、被審人が主張するように、一般的に新たな事業者が受注した場合には、多額の初期投資を要すること及び要員確保の関係で短期間での引き継ぎが困難であるとの特色を有することが認められるが(参考人後藤芳樹の陳述)、右のような事情は、ある程度の規模で継続性のある事業の場合には、多かれ少なかれ見られるところであり、受注する事業者があらかじめ計画を立てて対応すれば、さほどの障害になるものではなく、右特色を有することの故を以て、本件業務について、1級9社に受注能力が無いと考えるのは相当ではない。また、被審人は、受注した業務について万一事故を起こした場合には、その業務内容等からみて、発注者である米国から莫大な損害賠償を要求されるおそれがあり、右事情も受注する場合に無視できぬ要素であり、規模の小さい事業者が遂行できる業務ではない旨主張するが、事業者が、事故が発生しないように細心の注意を払って業務を遂行することは当然であり、また、事業活動をする上である程度の経営上の危険はつきものであり、本件全証拠によるも本件業務が特段右の意味での危険性が高いものとは認められず、被審人が主張する事情は、受注に際し、ある程度考慮されるにしても、受注能力を判断する上で決定的な理由にならないことはいうまでもない。
ところで、独占禁止法第2条第6項に規定する「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、本件では、米国空軍契約センター発注に係る電気通信設備の運用保守の取引分野において、本来自由な競争による入札によって受注者を決定すべきであるのに、あらかじめ登録事業者中のほとんどの有力事業者が話合いにより受注すべき者を決定し、それによって受注予定者と決められた者が受注するおそれがあるような状態をもたらすことを意味するが、自由な競争によって受注者を決定する前提として、当然、米国空軍契約センターに登録した事業者間で受注競争があることが前提となる。
そこで、本件基本合意がされた時点で受注競争があったかどうかについて検討するに、まず、右競争をするには、事業者が受注能力を有することが前提になるところ、本件基本合意の拘束の内容・程度、拘束の継続する期間を考えると、本件事案において、受注能力とは、仮に、本件業務を本件基本合意の時点で現実に行っていない場合でも、市場の状況により、何時でも計画的にその市場に参加して本件業務を遂行することができるときはもとより、近い将来本件業務を遂行する能力を備える蓋然性が高いときにも、受注能力が有ると解するのが相当である。
右観点から、まず、1級9社のマイクロ通信関係の運用保守についての受注能力について検討する。
一般的には、ある事業者が入札に参加するため業者登録をし、入札に参加すれば、当該事業者は受注能力が有るものと一応推定できるが、本件業務は国内では例がない大規模な電話局及びマイクロ通信関係の運用保守業務であり、1級9社といっても会社の規模、業務内容、技術的能力等は様々であり、その中には登録業者の名前を得るために取りあえず登録はしたが、当面は、会社の体制を整えないと受注することが困難であった者、元請として受注する意思は無く、専ら下請として使ってもらう手段として入札に参加していた者、マイクロ通信関係業務については受注する意思は無く、電話局業務を受注する手段として入札に参加していた者の存在が窺われるところである(査第13号証、同104号証、同136号証、参考人松田清の陳述)。そうであるとすると、本件では直ちに、前記推定をすることは相当ではない。
そして、マイクロ通信関係の業務内容は、発信・受信基地や各地の中継所の通信設備の点検・整備や故障の復旧、修理であるところ(査第136号証、同137号証)、右業務を遂行するために各基地や中継所に相当数の技術者を配置する必要があるが、現に右業務を受注している日電インテクは下請業者を使用してその業務に当たっていること(査第136号証、参考人後藤芳樹の陳述)、そして、元請として業務を遂行するには、業務の全体を監督する者の他、少数ではあるが技術者を派遣し、配置することが必要であり、システム全体を運用管理する能力が必要とされること(参考人後藤芳樹の陳述)、1級9社の中、被審人、大明電話、日本コムシスは、電電公社からマイクロ通信関係の工事について専属の工事業者としての認可を受け、電電公社のマイクロ通信関係の工事を遂行していること(審第12号証)及び査第9号証(内田源也の供述調書)、同13号証(冨山浩邦の供述調書)、参考人原田洋雄の陳述を総合すれば、本件基本合意をした当時、少なくとも、前記3社は、元請業者として下請業者を指揮、監督してマイクロ通信関係の運用保守の業務を遂行する技術的能力を有し、関連下請業者あるいは日電インテクの下請として現にマイクロ通信関係業務を遂行している三和エンジニアリング株式会社、株式会社東京日放等の業者を用いれば、マイクロ通信関係の業務を受注し遂行することが十分可能であったものと認められる。そして、受注する決定をし、事前に右下請業者と折衝すれば、前記の下請業者は米国空軍契約センター発注物件の業務を主たる仕事としているのであるから、元請となる受注者が替わった場合、新たな受注者と契約をすることは十分に考えられるところである。
以上によれば、1級9社の中、少なくとも被審人を含めた前記3社は、マイクロ通信の分野においても受注能力を有していたものと認めることができ(他の6社については、本件全証拠によるもマイクロ通信関係の運用保守について受注能力が有ったかどうかは不明である。)、マイクロ通信関係は日電インテクのみが受注能力を有する趣旨の被審人の主張は失当である。
なお、審第11号証(吉田義一作成の意見書)、同12号証(梶原明作成の意見書)は、米国空軍契約センター発注の物件に通暁した下請業者を使用する場合のことを想定していないものと考えられ、右認定の妨げにはならない。
そして、本件事案において「一定の取引分野」を電話局及びマイクロ通信関係の運用保守とを併せた米国空軍契約センター発注物件に関する取引分野と考えるとき(本件基本合意は電話局とマイクロ通信関係の運用保守の両分野を対象として合意されたものであり(査第9号証、同13号証)、本件審判開始決定は、米国空軍契約センター発注物件に関する右両分野を「一定の取引分野」として構成しているが、本件取引の実態からみると右構成は是認できるものである。)、本件基本合意が右取引分野における競争を実質的に制限している必要があるところ、まず、前記3社が電話局の運用保守についても受注能力が有るかどうかについて判断するに、前記のように大明電話と被審人は本件電話局の運用保守につき受注していること、前記3社は電話局を含めた機械工事関係を営業していること(審第16号証)及び査第9号証(内田源也の供述調書)、同13号証(冨山浩邦の供述調書)によれば、少なくとも前記3社は、電話局の運用保守をする能力は十分に有ることが認められる(他の6社が本件電話局の運用保守について受注能力が有るかどうかについては、本件結論に直接影響を及ぼすことはないので判断しない。)。
以上によれば、本件基本合意は、米国空軍契約センター発注の電気通信設備の運用保守に係る物件の取引分野の競争を実質的に制限したものである。
三 3年の期間の経過
(一) 被審人は、公正取引委員会が平成3年5月8日に命じた本件課徴金納付命令は、独占禁止法第7条の2第5項(平成3年法律第42号により同条第6項に繰下)に規定する「実行期間の終了した日」から3年を経過している旨次のように主張する。
仮に、本件基本合意が認められたとしても、右合意はかぶと会とは何の関係もないことは前記のとおりであり、審査官が本件基本合意を推認するに足る事実として主張する各個別物件の「話合い」はかぶと会が主催したものではなく、そして、前記のように「話合い」にはかぶと会会員以外の者が参加しているのである。したがって、かぶと会を解散したからといって、右合意が破棄されたことにならないことはいうまでもなく、被審人が日電インテクとの熾烈な競争のすえ横須賀・横浜基地物件を受注することによって本件基本合意が破棄されたとみられる昭和56年11月が、実行期間の終期と解するのが相当である。
(二) 被審人の右主張を判断する。
前記認定のように、かぶと会は、遊びの会、親睦の会という一面を有しており、また、本件各物件において行われた「話合い」は、かぶと会の名の下に招集され、同会が主催したものではなく、その費用もかぶと会が支払ったものではないが(本件「話合い」にかぶと会の会員以外の者が参加していたか否かについては前記認定のとおりである。)、他面では、かぶと会が本件基本合意を形成、維持、継続するための会であったこと、かぶと会設立後、米国空軍契約センター発注の物件について受注予定者を決めるための「話合い」が始まり、かぶと会を解散した後は右物件につき「話合い」が行われなくなったこと、かぶと会を解散したのは、公正取引委員会が在日米軍関係建設工事業者ら及びこれらの団体に対する審査を開始したことが新聞等で報じられたことからであり、右各事実からみると、かぶと会会員間では、右解散をする前提として、当然受注予定者を決めるとの「話合い」もやめるとの認識があったと思われること及び査第29号証、同90号証(いずれも松田清の供述調書)、同69号証(藤本一彦の供述調書)、同102号証(山田喜文の供述調書)を総合すると、昭和63年6月15日のかぶと会の臨時総会でかぶと会を解散することにより、本件基本合意が破棄されたものと認められ、前記の各事実は右認定を覆すに足りない。
そして、課徴金算定の基礎である実行期間の終期とは、独占禁止法第7条の2第1項に規定する「実行としての事業活動がなくなる日」、すなわち、その日以降は違反行為(本件でいえば本件基本合意)の実行としての事業活動がなくなる日を指すと解されるところ、本件では、かぶと会を解散することにより本件基本合意が破棄された日と解するのが相当である。
前記のように、被審人が主張するように被審人と日電インテクは、昭和56年の横須賀・横浜基地物件(電話局)について、本件基本合意による「話合い」がつかず、受注予定者が1社には決まらず、2社による競争入札が行われたことが認められるが、右は本件基本合意に基づいて話合いをしたが、結局最終的に受注予定者が1社に決定されなかったものであり、本件基本合意に反する行為と評価することはできず、また、右以降も、本件基本合意に基づく「話合い」が行われていたことは、前記認定のとおりであり、被審人の前記主張は失当である。
なお、昭和61年に被審人が受注した横須賀・横浜基地物件については、昭和62年9月30日に更新されず「オプション1」で終了し、右以降、被審人は米国空軍契約センター発注の物件を受注していないことが認められるが(参考人内田源也の陳述)、他方、被審人は、昭和63年5月の嘉手納基地物件について、入札説明会や現場説明会に出席し、同年5月10日に初回入札に参加した事実が認められるのであるから(参考人内田源也の陳述)、昭和62年9月30日をもって、「実行としての事業活動がなくなる日」とみれないことはいうまでもない。
四 本件課徴金の対象たる役務について
(一) 被審人は、昭和56年の横須賀・横浜基地物件の受注については、前記のように被審人と日電インテクとの競争入札によって被審人が受注したものであり、本件基本合意の実行に基づくものではなく、純然たる競争に基づくものであり、課徴金の対象になり得ないものである旨主張する。
(二) 右被審人の主張を判断する。
独占禁止法第7条の2に規定する「当該商品又は役務」とは、「当該違反行為」の対象になった商品又は役務全体を指し、本件のような受注調整の場合には、調整手続に上程されて、具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解されるところ、本件横須賀・横浜基地物件については、最終的には、被審人と日電インテクがお互いに譲らず受注予定者を1社に決めることはできなかったが、本件基本合意による調整手続に上程され、その結果右2社に受注希望者が選定され、また、2社を除くかぶと会会員中の入札参加者は2社のいずれかが受注できるように協力したものであることが認められる(査第38号証ないし同41号証)。してみると、右は、受注予定者を最終的に1社に決めてはいないが、当該市場に対し、具体的に競争制限効果を発生させたものであり、昭和56年の横須賀・横浜基地物件についても、本件課徴金の対象となる役務に当たると解すべきである。
五 課徴金の算定について
(一) 被審人は本件課徴金の算定について次のように主張する。
昭和56年、同59年、同61年の3回にわたり、被審人は、形式的には「入札」の形で横須賀・横浜基地の電話局の運用保守業務を受注したが、これらの受注は実質的には競争入札ではなく、本件基本合意は不当な取引制限には当たらず、右各受注行為が独占禁止法第7条の2に規定する役務に当たらないことは、前記のとおりである。
仮に、右主張が認められないとしても、本件課徴金の計算に次のような誤りがある。すなわち、被審人が受注した右運用保守業務中の特別工事、緊急工事、部材の供給の各契約は、実質的にも形式的にも随意契約であり、右各工事代金を本件課徴金の基礎とすることは誤りであり、右代金を控除した金額は次のとおりである。
F62562−82−DD032 3億3358万3000円
(昭和56年)
F62562−84−DF029 5億2545万5000円
(同 59年)
F62562−86−D0058 3億1733万4000円
(同 61年)
合計 11億7637万2000円
(二) 右被審人の主張につき判断する。
本件ネゴシエーション方式が競争入札の一種であり、本件基本合意が独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に当たり、本件各受注行為が同法第7条の2に規定する役務に当たることは、前記説示のとおりである。
本件各契約書は、運用及び保守の経常的業務以外にも、特別の保守及び修理、緊急の保守及び修理、部品及び材料の供給が対象業務として記載されており、当該契約の時点では、右経常的業務は確定的な対価が記載され他の業務は概算額が記載されているが(査第93号証ないし同95号証)、これら全部の業務が契約の対象であることは明らかであるばかりではなく、入札に際しても、右概算額を含め、契約対象期間全部における対象業務全体の対価の額の合計により入札金額の高低が判断され、米国政府が、右業務について、受注した契約者以外の他の業者と契約することは契約上できない(査第97号証)。以上の事実からみると、被審人の右主張は失当である。
そして、独占禁止法施行令第5条第1項に規定する「契約により定められた対価の額の合計」を計算する方法としては、本件事案においては、契約業者が作成、提出した請求書をすべて合計する方法と契約業者の作成した請求棄権証書及び同証書の受領後、米国空軍契約センターが作成する契約終了証の金額を用いる2つの方法が考えられるところ(査第91号証、同96号証、同97号証)、契約業者の請求書等がすべて保存されていないおそれがある本件においては、後者の方法によることが相当である。右により計算すると、被審人が、前記受注期間において受注した米国空軍契約センター発注に係る電気通信設備の運用保守業務の売上額は、
契約番号 F62562−82−DD032 4億7892万1633円
(昭和56年)
F62562−84−DF029 6億9572万4401円
(同 59年)
F62562−86−D0058 3億51万8719円
(同 61年)
であり、合計14億7516万4753円である(査第91号証)。
第四 法令の適用
以上によれば、被審人は、電気通信設備の工事等を営む者であるところ、日電インテクらと共同して、米国空軍契約センター発注に係る電気通信設備の運用保守の入札について、あらかじめ話合いにより受注予定者を定め、他の入札参加者は同受注予定者が受注できるように協力して入札する旨合意することにより、公共の利益に反して、米国空軍契約センター発注の電気通信設備の運用保守の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法第3条に違反するものであり、かつ、同法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる役務の対価に係る行為に該当するものであって、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成3年法律第42号)附則第2項の規定により、なお従前の例によることとされる独占禁止法第7条の2第1項及び第3項並びに独占禁止法施行令第5条の規定により、課徴金の額は前記計算のとおり2212万円である。
よって、独占禁止法第54条の2第1項の規定により、主文のとおり審決することが相当であると思料する。
平成5年12月15日
公正取引委員会事務局
審判官 滿田 忠彦
同 大録 英一
同 鈴木 恭蔵