公正取引委員会審決等データベース

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(社)大阪バス協会に対する件

独禁法8条1項1号,独禁法8条1項4号

平成3年(判)第1号

審判審決

大阪市北区堂島浜2丁目1番25号
中央電気倶楽部4階414号室
被審人 社団法人大阪バス協会
右代表者 理事 小林 公平
右代理人 弁護士 石川 正
同 上田 裕康
同 平野 惠稔

 公正取引委員会は、右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第66条の規定により審判官成田喜達、同大録英一及び同森原征二から提出された事件記録並びに規則第68条の規定により被審人から提出された異議の申立書に基づいて、同審判官らから提出された別紙審決案を調査し、次のとおり審決する。
主文
一 被審人は、別紙審決案中の別紙目録記載の限度において、一般貸切旅客自動車運送事業に関する、平成元年4月24日に行った平成元年度春季の、同年5月19日に行った平成元年度秋季の、いずれも幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の遠足向け輸送の運賃及び料金に関する決定を既に破棄したことを、大阪府の旅行業者及び一般利用者に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
二 被審人は、前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
三 審判開始決定に係る被審人のその余の本件行為については、独占禁止法第8条第1項第1号又は同条第1項第4号に違反する事実を認めることはできない。
理由
一 当委員会の認定した事実、証拠、判断及び法令の適用は、別紙審決案の理由第1ないし第5と同一であるから、これを引用する。
二 よって、被審人に対し、独占禁止法第54条第2項及び第3項並びに規則第69条第1項の規定により、主文のとおり審決する。

平成7年7月10日

委員長 小粥 正巳
委員 佐藤 勲平
委員 植松 敏

別紙
平成3年(判)第1号
審決案
大阪市北区堂島浜2丁目1番25号
中央電気倶楽部4階414号室
被審人 社団法人大阪バス協会
右代表者 理事 小林 公平
右代理人 弁護士 石川 正
同 上田 裕康
同 平野 惠稔
右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第26条の規定により、担当審判官に指定された本職らは、審判の結果、次のとおり審決することが適当であると考え、規則第66条及び第67条の規定により本審決案を作成する。
主文
一 被審人は、別紙目録記載の限度において、一般貸切旅客自動車運送事業に関する、平成元年4月24日に行った平成元年度春季の、同年5月19日に行った平成元年度秋季の、いずれも幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の遠足向け輸送の運賃及び料金に関する決定を既に破棄したことを、大阪府の旅行業者及び一般利用者に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
二 被審人は、前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
三 審判開始決定に係る被審人のその余の本件行為については、独占禁止法第8条第1項第1号又は同条第1項第4号に違反する事実を認めることはできない。
理由
第一 事実及び証拠
(被審人等について)
一(一) 被審人は、肩書地に主たる事務所を置き、大阪府を事業区域とし、その区域内において一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業又は特定旅客自動車運送事業(以下これらを総称して「バス事業」という。)を営む者を会員とし、バス事業の経営基盤の強化を図るとともに利用者に対するサービスの改善を促進することによってバス事業の発展を図り、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的として、昭和23年6月14日に設立された社団法人である。
被審人の会員数は、平成2年7月1日現在69名であり、このうち一般貸切旅客自動車(以下「貸切バス」という。)の運送事業(以下「貸切バス事業」といい、これを営むものを「貸切バス事業者」という。)を営む者は59名であって、これらの者が保有する貸切バスの車両数は、地区内における貸切バスのほぼ全部を占めている。
(争いがない。)
(二) 被審人には、総会、理事会が置かれているほか、事業の円滑な運営を図るため、8つの専門委員会が設置されている(争いがない。)。その1つである貸切バス委員会は、会員のうち貸切バス40車両以上を保有している貸切バス事業者の経営貴任者段階の者により構成され、貸切バスの運賃及び料金(以下合わせて「運賃等」という。)に関する事項等は、同委員会の分掌事項とされている。
被審人は、大阪府をAからEまでの5つのブロックに分け、それぞれ会員のうち当該ブロック内に事務所を有する貸切バス事業者(限定免許を受けている者ら13名を除く。以下「会員貸切バス事業者」という。)をもってブロック会を組織している(争いがない。)。昭和63年8月以降、貸切バス委員会の下部組織として、右のブロック会ごとに選出された者で構成される貸切バス小委員会が置かれている。
右のブロック会を通じて貸切バス小委員会の決定事項が会員貸切バス事業者に通知、連絡されるほか、同小委員会の開催に先立ってブロック内の意見を集約するためブロック会が開かれ、各ブロック会には、世話役としてブロック長が置かれている。
(査第5号証、第8、第9号証、第15、第16号証、第20号証、第31号証、第38、第39号証、第65号証)
(三) 貸切バス事業者は、貸切バス運賃等を変更しようとするときは、道路運送法第9条第1項に基づき運輸大臣の認可を受けなければならないこととされている。
なお、貸切バスの運賃は、従来、認可された基準の運賃率によって計算した金額(以下「標準運賃」という。)の上下それぞれ10パーセントの範囲内で貸切バス事業者が自由に設定できることとされていたが、昭和63年5月24日の認可以降はこれが上下それぞれ15パーセントに拡大されている。
(争いがない。)
(本件各決定に至る背景事情について)
二(一) 大阪府の貸切バス市場では、かねてから、貸切バス事業者と旅行業者との取引上の力関係、旅行シーズンオフの需給関係の緩和、各事業者間の競争などの理由により、旅行業者が旅行を主催し旅行者を募集して行う貸切バス旅行向け輸送を中心とし、会員貸切バス事業者のほぼ全体を通じて、認可された運賃等(以下「認可運賃等」という。)の額を大幅に下回る運賃等による取引が大規模かつ経常的に行われていた。しかし、個々の会員貸切バス事業者が運賃等の引上げを図ることは、大手旅行業者に対する取引の依存度が大きいことなどから、困難な状況にあった。
そして、被審人は、近畿運輸局長から、昭和59年度及び昭和60年度自動車運送事業等監査計画に基づく監査結果として、収受している運賃等の中で認可によらないものなどがあったので会員貸切バス事業者に今後そのようなことがないように周知徹底すべきことが記載された書面の交付を受けたが、また、会員貸切バス事業者の中にも、近畿運輸局長から、収受している運賃等の中で認可によらないものがあったとして書面で警告された者もあった。
(査第21、第22号証、審第1ないし第3号証、第35号証、参考人湯峰弘(第1回、第2回)、同澤秀司)
(二) このような状態の中で、昭和62年8月4日には従前被審人に置かれていた貸切バス部会の第159回部会が開かれたが、その揚で、前記のとおり認可運賃等が収受できない現状及びその原因を分析した上で、会員貸切バス事業者に認可運賃等を収受させるべきこと、その収受をしない場合に制裁を科すべきこと、当面輸送の対象となる旅行の類型ごとに最低運賃等を決定すべきことが提案され、被審人の貸切、バス運賃対策委員会で協議することとされた。そこで、同年8月11日には貸切バス運賃対策委員会において旅行類型ごとに具体的に運賃等の額が検討された。
また、同年8月27日及び昭和63年5月13日には、被審人の貸切バス営業担当責任者会議が開かれ、同様の協議検討がされた。
このように、被審人の担当者間においては、昭和62年以降、事態を打開し、会員貸切バス事業者の収支の改善を図ることが検討されてきた。
(査第21、第22号証、第66、第67号証)
(三) 被審人においては、既存の専門委員会の設置要項を整備、統一するため専門委員会規程の制定作業を進めていたが、併せて従来置かれていた貸切バス部会が経営責任者から営業実務担当者まで様々な者によって構成されていたため、構成員の全体を通ずると運賃等に関する問題意識が低く、貸切バス運賃等の引上げ等を図るために指導力を発揮するには問題があった。また、前述のとおり、認可運賃等の幅も拡大され、ますます会員貸切バス事業者間の競争が激化することも予想されたことから、同部会を改組し、貸切バス運賃等の適正収受などを図るための指導態勢を確立、強化することとした。そこで、昭和63年6月7日、第42回通常総会において専門委員会規程が制定され、貸切バス委員会が設置されることが決定された。また、同通常総会において、被審人理事長南川年男から、同年5月24日の貸切バスの運賃等の改定申請が認可されたのを機会に貸切バス委員会の積極的な指導により被審人のいわゆる適正な運賃を収受することを図るように努める方針であることが報告された。
(査第3、第4号証、第6号証、第8号証、第21号証、第64号証)
(四) 貸切バス委員会の委員を委嘱するのは、会員貸切バス事業者の経営責任者段階の者とされたが、経営責任者は、日常の業務、運賃等の具体的水準等を細部まで知り抜いておらず、適正運賃等収受の具体策を検討するのに最適ではなかった。そのため、貸切バス委員会の下に実務責任者段階の者で構成する貸切バス小委員会を設置して適正運賃等収受の具体的検討を行わせる必要性があった。
昭和63年8月11日に第1回貸切バス委員会が開かれたが、その場で、同委員会の下部組織として貸切バス小委員会を設置するために「貸切バス小委員会設置要綱」及び「貸切バス委員会が貸切バス小委員会に付託する事項」と題する内部規則が採択され、同小委員会に貸切バス運賃等の引上げ額の算定、その収受に関する方策等に関する検討をさせることが決定された。
この「貸切バス委員会が貸切バス小委員会に付託する事項」と題する規則により、貸切バス小委員会で審議される事項は、専門委員会規程第4条による貸切バス委員会の分掌事項のうち、貸切バス事業経営の基本に係るものを除いた事項とされ、また、審議を付託された事項は、重要な事項については貸切バス委員会に対し報告、承認を要するとされたほかは、貸切バス小委員会での審議決定をもって貸切バス委員会の決定とみなすこととされた。
(査第5号証、第8ないし第10号証、第12号証、第15、第16号証、第19号証、第21号証、第64号証、参考人南川年男)
(五) 昭和63年7月21日、近畿運輸局梅田分室会議室において、貸切バス部会として最後のものとなった第163回部会が開かれ、旅行業者又は会員貸切バス事業者が自ら旅行を主催し、旅行者を募集して行うバス旅行(以下「主催旅行」という。)に向けた輸送について収受すべき運賃等の最低額に関し、標準運賃からの割引率をシーズン別に決定するなどの方針が取りまとめられ、次に開かれるべき会合で早急に決定するため会員貸切バス事業者において検討するよう話合いがされた。
(査第27号証、第68、第69号証)
(六) 右の検討とは別に、貸切バス小委員会委員である湯峰弘(南海観光バス株式会社観光部長)は、大手旅行業者中でも特に運賃等の低かった株式会社読売旅行と取引のある会員貸切バス事業者らに対し、同社の主催する旅行向け輸送の運賃等の引上げを図る13社による会議を呼びかけ、昭和63年7月20日ころ大阪球場会議室において第1回の会議を開いた後、同年8月29日に近畿日本鉄道株式会社内近鉄観光バスセンター会議室において、湯峰自身のほか、阪急観光バス株式会社、近畿日本鉄道株式会社及び大阪名鉄観光バス株式会社から貸切バス小委員会の委員に選任されていた者を含む各社担当者の出席を得て、第2回の会議を開いた。
第1回、第2回の会議を通じて、出席各社から、従前余りに相互の連絡が欠如していたため、運賃等が株式会社読売旅行主導により低い額に決定されているので、今後連絡を密にするとともに、検討対象を同社との取引のみに限定しないこととするとの考えが出された。そこで、湯峰は、第2回の会議の場で、同社との取引のみに限らず、旅行業者の主催旅行向け輸送の運賃等の最低額として、シーズンを3分割し、貸切バス輸送の需要の多いAシーズンは標準運賃の30パーセント引き、需要の少ないCシーズンは50パーセント引き、その他のシーズンは40パーセント引きとし、これに認可された料金を加算することを提案し、出席者の間で検討を加えた。
(査第19、第27号証、参考人湯峰弘(第1回))
(第1回貸切バス小委員会)
三(一) 被審人は、会員貸切バス事業者各社の部長、課長段階の指導的地位にある実務担当者を貸切バス小委員会の委員に委嘱したが、昭和63年8月30日、大阪市北区所在の中央電気倶楽部において、それら貸切バス小委員会の各委員、被審人理事長の南川年男、専務理事の加古熙及び業務課長の中辻寛が出席して、第1回貸切バス小委員会が開催された。同小委員会では、副委員長の指名、担当委員の運賃委員と輸送委員への振り分けがされたが、「適正運賃の収受対策について」という議題に関しても話し合われた。その際、湯峰は、前記二(六)の会合において提案したのとほぼ同様の案を説明し、この考えを他の旅行業者にも及ぼすことを提案した。貸切バス運賃等をできるだけ引き上げることは、会員貸切バス事業者の共通の関心事であり、湯峰のこの提案は、前記の第163回貸切バス部会で示された基本的方向にも沿ったものであった。この提案に基づいて主催旅行向け輸送の貸切バスの運賃等について検討を加えた結果、貸切バス輸送の需要の多い期間をAシーズン、需要の少ない期間をCシーズン、それ以外の期間をBシーズンとし、各シーズン期間の設定及び各シーズン期間における大型車1両当たりの最低運賃等を別紙1のとおりとし、これを昭和64年(平成元年)4月1日から実施することが決定された。
この決定の際、「貸切バスご利用の手引き」と題する冊子を作成して新たに認可された貸切バスの運賃等を登載し、各貸切バス事業者の担当者に周知徹底させた上、各担当者において、各旅行業者を訪問し、適正運賃等の収受を依頼することなども、併せて決定された。
これらの決定は、各ブロック長を通じて各会員貸切バス事業者に通知された。
(査第11ないし第13号証、第19ないし第21号証、第23ないし第27号証、第30、第31号証、第60号証、第64号証、第68号証、第71号証、参考人湯峰弘(第1回))
(第2回貸切バス小委員会)
(二)ア その後、昭和63年9月8日、湯峰ほか貸切バス小委員会の委員3名及び被審人の職員らが出席して粁程地図の校正作業会が開かれ、祝祭日及びバスの稼働率等を勘案して、前記(一)の決定のうち、期間の点について、Aシーズンを5月10日から6月20日まで及び9月20日から11月20日までと、Bシーズンを3月16日から5月9日まで、6月21日から8月10日まで、12月30日から1月4日まで及び2月8日から2月13日までと、Cシーズンを8月11日から9月19日まで、11月21日から12月29日まで、1月5日から2月7日まで及び2月14日から3月15日までと、それぞれ修正することを予定する話がまとまった。
そして、同年9月22日、26日、27日の3日間にわたり、前記中央電気倶楽部において、会員貸切バス事業者の営業担当者を集めて営業担当者研修会が開かれたが、その研修会の場で、湯峰は、第1回貸切バス小委員会で決定された主催旅行向け輸送の運賃等(ただし、期間については右のとおり修正を予定されたもの)について説明した。
そのうち同年9月26日の研修会が終了した後に、貸切バス小委員会の各委員が集まり、前記の「貸切バスご利用の手引き」と題する冊予と第1回貸切バス小委員会における決定(ただし、期間については右のとおり修正を予定されたもの)を記載した「ツアー運賃」と題するメモの配付を受けた上で、各委員が手分けし各旅行業者にこれらを持参して説明することを合意した。
(査第11ないし第13号証、第18号証、第27、第28号証、第31号証、第55ないし第60号証、第63号証、第71号証)
イ その合意に従って各委員が各旅行業者に対して説明をした後、説明の結果を踏まえて、昭和63年10月12日、前記近鉄観光バスセンター会議室において、貸切バス小委員会の各委員、被審人理事長の南川、専務理事の加古らが出席して、第2回貸切バス小委員会が開かれた。説明の際に旅行業者の多くからCシーズンの最低運賃をもっと引き下げるべきだとの意見が寄せられていたことから、Cシーズンの最低運賃を標準運賃の40パーセント(日曜日を含む場合は50パーセント)とし、また、各シーズンの期間を前記アの修正予定どおり修正することとし、結局、別紙2のとおり、第1回貸切バス小委員会の決定を修正することが決定された。
この決定は、各ブロック長から各ブロックごとに会員貸切バス事業者に通知された。
(査第11号証、第28ないし第32号証、第70、第71号証)
(第5回貸切バス小委員会)
(三) 昭和63年12月8日、大阪市南区所在の大成閣という料理店で第4回貸切バス小委員会が開催されたが、その場で、貸切バス小委員会委員の豊田次朗(近畿日本鉄道株式会社業務部長)は、旅行業者から長距離の主催旅行向け輸送において最低運賃等と実勢運賃等とが大きく乖離しているという意見が寄せられていることを紹介して、この部分について前記(二)の決定を見直すことを提案した。
この提案に基づき、同年12月19日、前記中央電気倶楽部会議室において、貸切バス小委員会の各委員、被審人理事長の南川、専務理事の加古、業務課長の中辻が出席して、急拠第5回貸切バス小委員会が開かれ、検討の結果、第2回貸切バス小委員会の決定のうち、1運行距離900キロメートル以上の主催旅行向け輸送の運賃等についてのみ別紙3のとおり変更することが決定された。
この決定は、各ブロック長から各ブロックごとに会員貸切バス事業者に通知された。
(査第11、第12号証、第33号証、第45号証)
(第8回貸切バス小委員会)
(四) 平成元年2月22日及び同年4月20日に前記中央電気倶楽部会議室においてブロック長会議が開かれ、また、同年3月13日に同会議室において営業配車責任者会議が開かれたが、これらの会議の場で、平成元年度春季の幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の遠足向け(以下「学校遠足向け」という。)輸送の最低運賃等に関し検討が行われ、成案が作成された。
この検討を踏まえて、同年4月24日、前記中央電気倶楽部会議室において、貸切バス小委員会の各委員、被審人理事長の南川、専務理事の加古、業務課長の中辻が出席して、第8回貸切バス小委員会が開かれた。同小委員会では、学校遠足向け輸送の貸切バス運賃等に関し検討がされた結果、右の成案を若干修正し、平成元年度春季の学校遠足向けの輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を別紙4のとおりとすることが決定された。
この決定は、各ブロック長から各ブロックごとに会員貸切バス事業者に通知された。
(査第21号証、第34ないし第36号証、第54号証、第61号証)
(第9回貸切バス小委員会)
(五)ア 第9回貸切バス小委員会の開催に先立ち、各ブロックでブロック会議が開かれ、平成2年度の主催旅行向け輸送の最低運賃等及びそのシーズン期間の設定、平成元年度冬季の社会見学及び冬山耐寒登山向け輸送の最低運賃等、平成元年度秋季の学校遠足向け輸送の最低運賃等について検討され、それらの意見が取りまとめられて、その結果が被審人事務局に連絡された。
(査第12号証、第38、第39号証)
イ 右の各意見を踏まえて、平成元年5月19日、大阪市平野区所在の帝産観光バス株式会社大阪支店会議室において、貸切バス小委員会の各委員、被審人専務理事の加古、業務課長の中辻が出席して、第9回貸切バス小委員会が開かれた。同小委員会では、平成2年度の主催旅行向け、平成元年度冬季の社会見学及び冬山耐寒登山向け並びに平成元年度秋季の学校遠足向け各輸送(以下これらの各輸送を総称して「主催旅行向け輸送等各旅行向け輸送」という。)の貸切バスの運賃等について検討され、次のとおり決定された。
平成2年度の主催旅行向け輸送の各シーズン期間及び各シーズン期間における大型車1両当たりの最低運賃等を別紙5のとおりとし(Cブロック案。ただし、期間はEブロック案。)、これを平成2年5月10日から実施する。また、平成元年度冬季の社会見学及び冬山耐寒登山向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を4万5000円から5万円までの範囲内とする(Cブロック案)。さらに、平成元年度秋季の学校遠足向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を別紙6のとおりとする(月曜日の割引を除きCブロック案)。
この決定は、被審人事務局においてタイプ浄書され、同年5月22日、ファクシミリにより被審人から各ブロック長に送信され、更に各ブロック長から各ブロックの会員貸切バス事業者に通知された。
(査第12号証、第21号証、第31号証、第37ないし第39号証、第42号証)
(第12回貸切バス小委員会)
(六) 平成元年9月26日、前記中央電気倶楽部会議室で貸切バス小委員会の各委員、被審人理事長の南川、専務理事の加古、業務課長の中辻が出席して、第12回貸切バス小委員会が開かれ、平成元年度の冬山耐寒登山向け輸送の貸切バスの運賃等について再検討された結果、同年度冬季の冬山耐寒登山向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を4万5000円と修正することが決定された。
この決定は、各ブロック長を通じて、各ブロックの会員貸切バス事業者に通知された。
(査第12号証、第40ないし第42号証)
(貸切バス委員会への報告)
(七) 前記のとおり、第1回貸切バス委員会において同委員会から貸切バス小委員会に付託された事項のうち重要な事項は、貸切バス委員会に報告、承認を要するとされていたが、貸切バス小委員会は、現実に開催の都度、審議事項を審議事項報告書に取りまとめ、小委員会委員長である田村幸三の決裁を経てその直近に開かれた貸切バス委員会に報告していた。
(査第9、第10号証、第21号証)
(実効性確保のための手段)
(八) 前記最低運賃等を取り決めた各決定(以下「本件各決定」という。)の実効性を確保するため、
ア 前記第5回貸切バス小委員会において、会員貸切バス事業者から、貸切バス委員会委員長をあて名とした被審人が決定した貸切バスの最低運賃等を遵守するとの趣旨の誓約書を、各ブロック長を通じて貸切バス委員会委員長に提出させることが決定された。
(査第21号証、第33号証、第43ないし第45号証)
イ 前記第9回貸切バス小委員会において、事務局の原案に基づき「運送予約取消し等に対処するための申し合せ」と題する文書による申合せが承認された。その申合せによれば、運送予約の取消し又は低価格の運賃等による運送の申込みを受けた会員貸切バス事業者は、所定の様式文書により所属ブロック長に連絡すべきこととされ、ブロック長は調査の必要があると認めるものは被審人に連絡するとともに調査を遂げ、調査結果により会員貸切バス事業者が低運賃等で運送契約を締結したことが判明した場合、貸切バス小委員会委員長においてその事業者に貸切バス小委員会に出席を求め、説明させることができ、その結果何らかの措置を要すると判断されたときは貸切バス委員会の議を経て改善勧告することととされ、また、会員貸切バス事業者は、旅行業者が低価格の運賃等で募集をしているなどの情報を入手した場合には所属ブロック長を通じて被審人に連絡することとし、被審人は貸切バス小委員会副委員長と協議して必要な場合にはその情報を各ブロック長に通知するとともに、会員貸切バス事業者にその運送を引き受けないように求めることとされた。
(査第21号証、第34号証、第38、第39号証、第46ないし第54号証)
四 会員貸切バス事業者は、本件各決定に基づき、主催旅行向け輸送等各旅行向け輸送の貸切バスの運賃等を旅行業者らと交渉し、収受するための努力をしていた。
ところが、公正取引委員会から貸切バスの最低運賃等について協定したとの疑いに基づき立入検査を受けたため、被審人は、平成2年10月18日、会長の久万俊二郎、理事長の南川年男ほかの理事が出席して開かれた理事会において、直ちに本件各決定を含む独占禁止法違反の疑いのある協定、申合せ等の一切を破棄する決議をした。そして、同年10月24日、会員貸切バス事業者の各担当者を集めて開かれた貸切バス全体会議においてその旨が報告された。また、被審人からの同日付け書面により、会員貸切バス事業者に対し、右の破棄決議があったことが報告されるとともに今後運賃等は会員貸切バス事業者により自主的に決定されるべきことが通知された。さらに、その後開かれた総会の場でも役員等の挨拶において同様の話が繰り返されて、被審人により会員貸切バス事業者に対し右の破棄決議の趣旨が周知徹底されるように図られている。
(査第21号証、第45号証、第54号証、審第55ないし第62号証、参考人湯峰弘(第1回)、審判の全趣旨)
第二 事実認定上の被審人の主張及びこれに対する審判官の判断の補足説明
(被審人の事実認定上の主張)
一 事業者団体である被審人が、運賃等の金額について決定することはいかなる意味でも不可能であるから、本件各決定をすることはあり得ない。
すなわち、被審人は、運輸局の指導に従い、会員貸切バス事業者に対し認可運賃等を収受するように指導する立場にあり、道路運送法の趣旨を周知徹底させ、認可運賃等を収受するようにするために必要な啓蒙活動は、このような指導として正当なものである。しかし、これらの啓蒙活動が効を奏しなかったときには、被審人がこれ以上の措置を採ることはできない。被審人が認可運賃等以外の運賃等の決定をすることは明らかに違法であり、このような運賃等の決定が道路運送法上許される余地はないから、被審人が貸切バス委員会又は貸切バス小委員会に対してこのような違法な行為の授権をすることはあり得ない。
二 貸切バス委員会が貸切バス小委員会に付託した事項は、貸切バス委員会の分掌事項のうち貸切バス事業経営の基本に係るものを除いた事項とされているが、ここで「貸切バス事業経営の基本に係るもの」とは運賃及び増車であるから、貸切バス小委員会に対して付託された事項には貸切バス運賃等の額を決定することは含まれていない。したがって、貸切バス小委員会が本件各決定をすることを付託されたことはない。
なお、昭和63年8月から平成元年9月までの間において被審人の理事会は3回開かれているが、貸切バス委員会所掌事項関係で理事会に報告があったのは、昭和63年10月20日の第318回理事会の1回だけであり、しかも、その理事会で報告された内容には、貸切バス運賃等について最低運賃等を決定したことは全く含まれていない。会員貸切バス事業者は認可運賃等を収受することが法律により義務付けられており、それを周知徹底することが被審人の責務と認識されていた以上、貸切バス小委員会で最低運賃等が決定されたとすれば当然に理事会に報告されたはずであるのに、その報告がないことは、貸切バス小委員会にこのような授権がされていないことの証左である。
三 貸切バス小委員会が最低運賃等を取り決める決定をしたことはない。
すなわち、第1回小委員会において真実されたことは、湯峰が認可運賃等を収受するための一方策として目安運賃等を提案したにすぎず、これに対し、小委員会の他の出席者は、特に異論を唱えなかったが、一部の賛同者以外は、大手旅行業者に提案した場合注文を受けられなくなるとのおそれがあったため、果たして旅行業者からその目安運賃等を収受することができるか疑問を有していた。したがって、貸切バス小委員会が最低運賃等の決定をしたというような状況にはなかった。現に、その後湯峰提案に係る目安運賃等について大手旅行業者の反応を聴取していることは、最低運賃等の決定がされていないことを示す。
その上、湯峰の提案に対して湯峰以外の出席者が湯峰提案を指針として認可運賃等収受に向けて努力する意向を持ったとしても、まず、この提案は、会員貸切バス事業者の担当者に対して、現状を厳しく認識し、法によって義務付けされた認可運賃等を収受させることを自覚させ、旅行業者との運賃等の交渉をするに当たって可能な限りその金額以下では受注しないように努力させるとともに、少なくとも目安運賃等を収受するという法遵守のための1つの方策を示したにすぎない。また、湯峰以外の出席者の努力の意向は、法律によって認可運賃等を収受すべき法的義務を負担しているため、この法的義務を履行する過程で各人が最低でも目安運賃等を収受するように努力すれば、認可運賃等の収受が容易になることから、会員貸切バス事業者の担当者が、湯峰個人の提案に個人的に賛同したにすぎない。このような事実によれば、目安運賃等とは、収受すべき最低運賃等を決定するものではなく、あくまでも会員貸切バス事業者の担当者が旅行業者との運賃等の交渉の場で認可運賃等を収受する一助として提案されたものにすぎず、したがって、第1回小委員会においてされたことは、最低運賃等を決定し、この最低運賃等を遵守すべきことを会員貸切バス事業者に義務付けようとしたものではない。
なお、目安運賃等が貸切バス小委員会での場で湯峰により提案されたことにより会員貸切バス事業者の担当者にこの目安運賃等を遵守すべきことについて心理的拘束力が生じる可能性はあるが、本来各担当者により自由に決定され得ない貸切バス運賃等について適法な行為をするために作用する心理的な拘束であって、このような心理的な拘束が生じるとしても、何ら法的に問題となり得ない。
また、会員貸切バス事業者の各担当者が目安運賃等をできるだけ守らなければならないとの意識を有していたとしても、それは被審人の意思が貸切バス小委員会において決定されたからではなく、実勢運賃等が認可運賃等を著しく下回っており、このまま放置すれば、会員貸切バス事業者の経営に著しい障害が発生することを認識しており、生残りのために旅行業者との間において目安運賃等以下の運賃等で受注してはならないとの意識を覚醒されたことによるにすぎない。したがって、目安運賃等の遵守に被審人が関与したとしても、被審人において決定された事項を実効あらしめるために関与したものではない。
その後の各小委員会における決定なるものもすべて同様である。
四 なお、貸切バス小委員会が会員貸切バス事業者の営業担当者から誓約書を取ることを決定したことはない。
すなわち、まず、誓約書の提出は、各ブロック長の独自の判断により求めたものにすぎず、第5回貸切バス小委員会において決定をしたことはない。そして、もし貸切バス小委員会において最低運賃等の決定がされたとするならば、誓約書を提出すべき者は、各営業担当者ではなく、被審人の構成員である会員貸切バス事業者となるべきである。しかし、査第21号証、第44号証の各誓約書によれば、作成名義人は末端の各営業担当者であり、しかもあて名も誤ったものが記載されている。これらは、被審人の構成員である会員貸切バス事業者を拘束する趣旨ではなく、単に日々旅行業者と個別的に交渉して安値の運賃等でも受注している末端の責任者の自覚を促すものでしかなかったことを示す。
五 また、運送予約取消し等に対処するための申合せは、被審人が決定したとされる最低運賃等の収受を実効あらしめるための手段ではない。
すなわち、違法に2つ以上の貸切バス事業者に対して予約を持ちかけて旅行日の直前にキャンセルをするなどの方法で運賃等の額を低く抑えていた、商道徳に違反する悪質な旅行業者又はエージェントがあったことから、この申合せは、それらの者についての情報を収集し、違法な運送契約の取消しを摘発するためにされたもので、認可運賃等を収受することとは直接的な関係はない。そうであるからこそ、この申合せには、運送秩序維持という語は用いられているが、最低運賃等遵守という語は用いられていない。
(事実認定に関する審判官の判断の補足説明)
一 被審人は、被審人が認可運賃等以外の運賃等の決定をすることは違法であるから、このような決定を貸切バス委員会又は貸切バス小委員会に授権することはあり得ず、被審人が運賃等の額について決定することは不可能であるとの趣旨の主張をする。
しかしながら、この主張は、要するに違法なことはあり得ないとするものであるが、法規範的に許されないことを理由にその事実があり得ないということができないことは自明であり、後記2及び3並びに前記第1の3のとおり、十分被審人が本件各決定をしたと認めることができるから、この主張は理由がない。
二 被審人は、また、被審人が最低運賃等に関する本件各決定をしたことがない理由として、貸切バス小委員会が運賃等の決定の授権をされたことはない、と主張する。
しかしながら、事業者団体の何らかの機関で決定がされた場合において、その決定が構成員により実質的に団体の決定として遵守すべきものとして認識されたときは、定款又は寄付行為上その機関が団体の正式意思決定機関であるか否かに係わりなく、その決定を団体の決定というのに妨げはないと解するのが相当である(公正取引委員会昭和45年2月17日審決・昭和42年(判)第1号兵庫県牛乳商業組合に対する件・審決集16巻145頁参照)。
後記三において検討するところに前記第一の二ないし四の認定事実を総合すれば、現実に前記の貸切バス小委員会において審議検討の上最低運賃等に関する本件各決定がされ、それらの決定は、いずれも会員貸切バス事業者に周知徹底され、また現に会員貸切バス事業者は、これらの決定を遵守して、旅行業者と運賃等の交渉をし、収受するための努力をしたことが明らかであり、これらの決定に加わった貸切バス小委員会の各委員が会員貸切バス事業者の指導的な実務担当者であったことをも考慮すれば、各決定が会員貸切バス事業者により被審人の決定として遵守すべきものと認識されていたことは否定しようがないから、貸切バス小委員会による各決定は、同小委員会がその決定をすべき正式意思決定機関であるかどうかと係わりなく、被審人の決定と判断するのを妨げないというべきである。
なお、証拠(査第8、第9号証、第15、第16号証)及び前記第一の二(二)ないし(四)の事実によれば、貸切バス委員会は、適正運賃等収受の指導態勢を確立するなどの目的で、昭和63年6月開催の第42回通常総会で承認された「専門委員会規程」の第3条に基づいて設置されたが、同規程第4条、別表には同委員会の分掌事項として「貸切バス事業の運賃及び料金に関する事項」等が掲げられており、他の専門委員会の分掌事項に貸切バスの運賃等に関する事項は挙げられていないこと、同規程第10条には、「委員会は、必要があると認めるときは委員会の決議を経て、小委員会を設置することができる。」との規定があること、貸切バス委員会を構成する経営責任者段階の者は被審人のいわゆる適正な運賃等収受の具体策を検討するのに最適ではなかったため、その具体的検討を行わせるために同委員会の下に実務責任者段階の者で構成する貸切バス小委員会を設置して右の適正な運賃等収受の具体的検討を行わせる必要性があったことから、同年8月11日開かれた第1回貸切バス委員会で「貸切バス小委員会設置要綱」及び「貸切バス委員会が貸切バス小委員会に付託する事項」と題する内部規則が採択されたが、前者には、「小委員会は、次の事項を審議する。1.貸切バス委員会から審議を付託された事項(後略)」(第2)との定めがあり、また、副委員長の職務の項に「副委員長は、(中略)次の事項を担当する。1.運賃料金額の算定及び適正額の収受に関すること(後略)」(第6の3)との規定もあり、後者には、「1 貸切バス小委員会に審議を付託する事項は、次のとおりとする。(1) 専門委員会規定第4条の規定による分掌事項のうち、貸切バス事業経営の基本に係るものを除いた事項(中略) 2 貸切バス小委員会委員長は、重要な事項について審議したときはその概要を貸切バス委員会へ報告し、承認を得なければならない。 3 審議を付託した事項は、貸切バス小委員会での審議決定(重要な事項については前号の承認をしたとき)をもって貸切バス委員会の決定とみなす。」との定めがあることが認められる。この認定事実によれば、被審人において貸切バスの運賃等に関する事項は貸切バス委員会の分掌事項であったところ、貸切バス小委員会は、その貸切バス委員会の権限に基づいて設置され、少なくとも、貸切バスに係る被審人のいわゆる適正な運賃等を試算しその収受の具体的方策を検討して、実行に移すことを決定する程度の権限を与えられていたということができる。確かに、審第8号証、参考人南川年男の供述と対比すると、貸切、バス小委員会に厳密な意味で運賃等の最低額を決定する権限があったといってよいかどうかは、なお検討の余地があるが、その点はともかく、少なくとも右のような権限がある貸切バス小委員会によりされた本件各決定を、会員貸切バス事業者が被審人の決定として遵守すべきものとして認識したことをとらえて不自然であってあり得ないということはできない。
さらに、被審人は、貸切バス小委員会に最低運賃等の決定権限が与えられていないことは、理事会において報告されていないことにも現れている、との趣旨の主張をしており、査第8号証、第18号証、参考人南川年男の供述によれば、昭和63年10月20日開かれた第138回理事会において、認可運賃等の認可の経過と貸切バス委員会、貸切バス小委員会での協議の結果会員貸切バス事業者に対し原価意識と適正運賃等授受の研修を行うことになったなどの包括的な報告がされたものの、本件各決定について具体的個別的な報告はされなかったことが認められる。しかしながら、事業者団体としての決定は前記のとおり解されるから、理事会への個別的な報告の有無とは関わりを持たない上に、本件全証拠によっても貸切バス小委員会の決定事項を理事会に報告すべきことを定めた規定があるとは認められないこと、前記第一の三(一)ないし(七)において認定したとおり、本件各決定は決定後直ちに会員貸切バス事業者に通知されている一方で、貸切バス小委員会での審議事項は、貸切バス小委員会の開催の都度審議事項報告書に取りまとめられ、小委員会委員長の決裁を経てその直近に開かれた貸切バス委員会に報告されていたことをも考慮すれば、この主張も失当というほかはない。
三 被審人は、さらに、貸切バス小委員会が最低運賃等に関する本件各決定をしたことはない、と主張する。
(一) そこで、まず、第1回貸切バス小委員会において最低運賃等に関する決定がされたかどうかを検討する。
査第27号証は、貸切バス小委員会の委員湯峰弘の審査官に対する供述調書であるが、同証には、前記第一の三(一)のとおり、第1回の同小委員会において主催旅行について最低運賃等が決定されたことなどの供述内容が明記され、なお、査第24号証は被審人事務局員が作成したものであろうとの供述も記載されており、また、査第24号証には査第27号証の供述内容を裏付けるような記載がある。
これに対し、参考人湯峰弘(第1回)の陳述中には、湯峰は、会員貸切バス事業者における実勢運賃等が認可運賃等を大幅に割り込んでいることに対して強い危機感を持ち、認可運賃等を収受すべきであるとの個人的信念を抱いていたことから、第1回の同小委員会の席上において、専らその個人的信念に基づき単なる努力目標として、前記第一の二(六)のとおり株式会社読売旅行の主催する旅行対策で検討した目安運賃等の案を提示したが、その案は、あくまでも旅行業者との交渉をする際の目安にとどまり、何ら会員貸切バス事業者を拘束するものではないし、まして決定などは全くされておらず、査第27号証において審査官に対し運賃等が決定されたよう供述しているのは、審査官の誘導に対し根負けしたからにすぎない、との供述部分があり、参考人澤秀司の陳述中にもこれに沿う供述部分がある。
しかしながら、査第30、第31号証、第45号証、参考人湯峰弘(第1回)の供述(ただし、後記採用しない部分を除く。)に前記第一の認定事実を総合すれば、大阪府の貸切バス市場では旅行業者との力関係などから認可運賃等を大幅に下回る取引が経常的に行われており、会員貸切バス事業者が旅行業者に対し共同歩調を取ろうと考えても不思議ではないだけの下地があったこと、被審人においては、かねてから認可運賃等を収受できるようにするために会員貸切バス事業者に対して指導態勢整備の一連の方策を採ってきたこと、湯峰は、被審人において、貸切バス部会副部会長、貸切バス小委員会委員、ブロック長等を務めるなど長期間運賃等の検討作業に加わっており、適正運賃等の収受に関する指導者として信頼され重きをなしていたこと、第1回貸切バス小委員会において話し合われた運賃等の収受に関する事項は各ブロック長を通じて会員貸切バス事業者に通知されており、現実に会員貸切バス事業者の担当者は、円滑に運賃等の引上げを実施するために、手分けして取引先旅行業者の下に赴いてこれらの事項を説明していること、この説明を聞いた旅行業者らは、「バス屋が全部守るのか。」、「皆さん守れるか。ぬけがけのないように。」などと述べて、説明された事項を被審人の決定であると理解する反応を示したこと、湯峰が第5回貸切バス小委員会の後勤務先に対して提出した報告書に後記(二)のとおりの記載があることが明らかであり、これらの事実によれば、被審人が第1回の同小委員会において主催旅行について最低運賃等の決定をしたという査第27号証の内容は極めて自然であって、同号証の供述内容の信用性に疑問を容れる余地はなく、査第27号証により真正に成立したものと認められる査第24号証(「第1回貸切バス小委員会議題」との表題のある文書)には、議題2の「適正運賃の収受対策について」の「旅行業対策」の欄に「ツアーの運賃申合せ」との記載及び前記認定に沿うシーズンごとの記載があることをも考慮すれば、右の参考人湯峰弘(第1回)、同澤秀司の供述部分は採用の限りではなく、前記第一の三(一)末尾記載の証拠(ただし、参考人湯峰弘(第1回)の陳述中、右の採用しない部分を除く。)を併せれば、前記第一の三(一)のとおり認定するのに何らの妨げもない。
(二) 次いで、第2回、第5回、第8回、第9回、第12回の貸切バス小委員会において最低運賃等に関する決定がされたかどうかをみてみる。
参考人湯峰弘(第1回)の陳述中には、第2回の同小委員会にはたまたま葬式参加のため遅れて終了間際に参加したため詳細は知らないが、第2回の同小委員会で運賃等について決定がされたことはないし、第5回の同小委員会において会員貸切バス事業者が尊重するように、第163回貸切バス部会当時に出した目安運賃等を指針として提示したことはあるが、第5回の貸切バス小委員会において運賃等について決定がされたこともない、との供述部分があり、参考人澤秀司の陳述中にも、第2回以降の同小委員会で最低運賃等について何らかの決定をしたことはないとの供述部分がある。
しかしながら、前記(一)のとおり、十分第1回の同小委員会において運賃等に関し決定がされたと認めることができるから、それに引き続いて開かれた第2回の同小委員会においてその決定を修正変更し、又は決定を補充する決定がされても不自然ではないところ、証拠によれば、第2回の同小委員会に出席した同小委員会委員平野明弘が記した「小委員会、旅行業対策連絡会議」と題する書面には「企画募集について、(中略)Cシーズンの商品作りが出来ないと云う意見が多く本日の小委員会で協議の結果来年度については運賃の60%引きとし料金を加算する。但し日曜日は50%引きとする。受注した企画商品は大阪バス協会に届出る。バス会社の主催旅行も同様扱いとする。」との記載があり(査第28号証)、また、第4回の同小委員会が開かれた昭和63年12月8日の当日、全く同じ構成員により、引き続いて被審人の営業担当者会議が開かれ、南海観光バス株式会社から出席した湯峰が同会議について同社に報告して同社内を回覧させた「貸切バス営業担当者会議出席ご報告」と題する書面には、第2回の同小委員会において話し合われた事項について「改定実施後、確実には取れていない。しかし、協定した運賃については、各社共守っている。」との記載があり(査第45号証)、第2回の同小委員会に参加した委員らに同小委員会で審議された事項が被審人の決定、協定に達しているとの認識があったこと、湯峰は、第5回の同小委員会に出席した後、同社に対し「貸切バス小委員会報告」と題する書面により、第5回の同小委員会の内容を報告したが、その書面中には、会員貸切バス事業者の帝産観光バス株式会社が協定された運賃等を下回る運賃等による取引を拒絶したところ他の事業者によりその取引を横取りされるなどの事態が発生し、問題視されたことに関し、「ジェット観光が帝産観光バスへ別紙を申し込んだ所ほとんど40,000円で43,000円以下なしのバス会社協定運賃を下廻っている」との記載があり、またそれに対する対策に関して、「直ちにブロック会議を行い、確認と今後必ず守る事を再度徹底する。各社営業責任者の誓約書を取る。又違反すると責任者は小委員会に呼び出しを受け全員の中で事情を説明する、等について決議する。」、「2ツアー運賃の一部変更(暫定特例措置)1運行900km以上の場合……別紙添付」との記載があり、別紙3同旨の表が添付されており(査第33号証、第45号証)、第1回、第2回の同小委員会で審議された事項が協定であり、第5回の同小委員会での運賃等に関する協議も決定にまで達しているとの湯峰の認識が示されていること、湯峰は、第8回の同小委員会に出席した後、南海観光バス株式会社に対し「貸切バス小委員会実施報告」と題する書面により、第8回の同小委員会の内容を報告したが、その書面中には「遠足バス運賃、料金の一部改正表改正点Cシーズンの期間設定」との記載があり、別紙4と同一内容の表が添付されており(査第36号証)、第8回の同小委員会で改正決定がされたとの湯峰の認識が表されていること、第9回貸切バス小委員会において前記第一の三(五)イのとおり検討の対象とされた内容が、被審人から「平成2年度ツァー等適正運賃について」と題して各ブロック長に対してファクシミリで送信され、また、貸切バス委員会委員長と同委員でEブロック長とを出している日本交通株式会社からEブロック会員貸切バス事業者に対し冒頭に「去る5月19日開催の小委員会に於て次の通り決定(一部修正)しましたので連絡します。」との記載を付されてファクシミリで送信されており(査第13号証、第31号証、第39号証、参考人澤秀司の供述)、被審人関係者に第9回の貸切バス小委員会での審議事項も決定であると認識されていたこと、第12回の同小委員会において前記第一の三(六)のとおり決定された内容については、被審人の職員が作成したものと認められる「第12回貸切バス小委員会議題」と題する書面には「金剛山 45,000円以上」「申し合せ」との記載があり(査第41号証)、同様被審人関係者に第12回の同小委員会での審議事項が決定であると認識されていたことが認められ、第2回、第5回、第8回、第9回、第12回の同小委員会においてされた審議検討の結果が被審人関係者に被審人の協定、決定として遵守すべきものと認識されていたことが明らかであり、参考人湯峰弘(第1回)、同澤秀司の陳述中、前記供述部分は採用の限りでなく、右の認定事実に前記一の三(二)ないし(六)の各末尾に掲記の各証拠を総合すれば、優に前記第一の三(二)ないし(六)の各事実を認定することができる。
(三) なお、被審人は、前記第一の三(八)アの事実に関して、貸切バス小委員会が誓約書を取ることを決定したことはない、と主張している。
そして、参考人湯峰弘(第1回)、同澤秀司は、会員貸切バス事業者の担当者から目安運賃等を守らせるために誓約書を提出させたが、それらは、各営業責任者の自覚を促す目的で各ブロック長の判断に基づき各ブロック単位で提出されたものであるにすぎず、貸切バス小委員会が誓約書の提出を決定したことはない、と右の主張に沿う供述をする。
しかしながら、証拠(査第43、第44号証)によれば、現に会員貸切バス事業者から事業者名と営業責任者名とを明記した誓約書が提出されているが、それらには、「大阪バス協会運賃小委員会で決定した事項については厳守します。なお、違反した場合には営業責任者が運賃小委員会の呼出しに応じ実情を説明いたします。」、「貸切バス全体会議で決定した運賃の取り決めを厳正に遵守することを誓約致します。万一、違反した場合は貸切部会に出席して事情説明等を行う事に同意致します。」等の記載があり、「社団法人大阪バス協会貸切バス専門委員長殿」又は「貸切バス委員会委員長殿」というあて名が記載されていることが認められる。これらの事実によれば、これらの誓約書は、いずれも被審人の機関の決定を遵守し、もし違反したときはブロック長より上位の被審人の機関の呼出しに応ずる旨を明記したもので、被審人の機関あてであることが明らかであり、被審人の機関の表示に多少正確性を欠く部分があることを考慮に入れても、これらの誓約書は会員貸切バス事業者から被審人にあてたものということができ、これらが単に各ブロック長の判断で提出されたにすぎないとの右の参考人らの供述は、採用することができない。
そして、前記(二)において認定した事実によれば、会員貸切バス事業者のうちに協定運賃等を遵守せず、他の会員貸切バス事業者の取引を横取りしたものがあったこと、第5回貸切バス小委員会においてそのことが取り上げられて誓約書を提出させることが協議された経過があり、第5回の同小委員会の内容が報告された書面に「直ちにブロック会議を行い、確認と今後必ず守る事を再度徹底する。各社営業責任者の誓約書を取る。又違反すると責任者は小委員会に呼び出しを受け全員の中で事情を説明する、等について決議する。」と記載されていることを認定することができ、前記第一の三(八)ア末尾に掲記の証拠を総合すれば優に前記第一の三(八)ア認定の事実を認めることができるから、被審人の主張は理由がない。
(四) また、被審人は、前記第一の三(八)イの事実に関連し、最低運賃等の収受の実効性を確保する目的で運送予約取消し等に関する申合せをしたことはない、と主張する。
そして、前記第一の三(八)イに係る第9回貸切バス小委員会での申合せに関し、参考人湯峰弘(第1回)は、会員貸切バス事業者が運送契約を締結したにもかかわらず、旅行業者が契約の相手方に安価な別の契約をさせることにより一方的に取り消させながら違約金も払わせないという商道徳に反する違法な行為をした事例が重なったことから、湯峰は、同小委員会の場で、このような商道徳に反する行為を防ぐ目的のみで、このような取消しのあった場合には被審人事務局に連絡してほしいと、専ら情報収集のための要請をしたことはあるが、それ以上の要請をしたことはないし、同小委員会で最低運賃等収受を確実にする目的の決定をしたことはない、と供述し、参考人澤秀司もほぼ同旨の供述をする。
しかしながら、証拠(査第34号証、第39号証、第54号証)によれば、会員貸切バス事業者が旅行業者から平成元年4月実施予定の生命保険会社の旅行に係る貸切バス輸送を被審人が協定した運賃等で受注していたところ、他の会員貸切バス事業者が協定運賃等を下回るより安い運賃等で受注し、先に受注した輸送契約が一方的に取り消される事態が発生したこと、取り消された会員貸切バス事業者からの抗議に基づき、同年4月13日にブロック長会議が開かれ、その事態の善後策が話し合われたが、その場で他にも同種の運送契約の一方的な取消しの事例があることが紹介されたことから、「予約取消等の情報について」との文書を作成して会員貸切バス事業者に取消し事例の報告を求めることが合意されたこと、報告された取消し事例においては、それぞれ別の事業者による協定運賃等を遵守しない新たな運賃等による運送契約の申込みがあったことが判明したこと、第8回貸切バス小委員会において「運送予約取消し等に対処するための申し合せ(案)」が提出されて検討されたが、次回の同小委員会で決定することとして継続審議の扱いとされたこと、右の申合せの案の字句のごく一部が手直しされて成案ができ、前記第一の三(八)イのとおり、第9回の同小委員会において申合せが承認されたこと、この申合せの中には、「運送予約の取消し、又は、低価格での運送申し込みを受けた事業者は、直ちに所属する貸切バスブロックの長(中略)に連絡する。」との文言が含まれていることが認められ、第9回の同小委員会において申合せどおり決定されたことを認定するのに妨げはないし、また、協定運賃等に達しない低い運賃等による新たな運送契約の申込みがされたためにいったん締結された運送契約が相手方から取り消された事例が続いたことから、このような運送契約の申込みとその結果の契約の取消しとを報告させることとされたことが明らかであって、同小委員会において、最低運賃等の収受の実効性を確保するために運送予約取消し等に関する申合せをしたと認めることができ、参考人湯峰弘(第1回)の右の供述は採用できず、被審人の主張は失当というほかはない。
第三 法律適用上の争点
(被審人の法律上の主張)
一 仮に、審判開始決定書記載の事実が認められても、次のとおりであって、本件各決定に独占禁止法は適用されず、又は本件各決定は、同法違反の行為を構成せず、若しくは違法性を阻却されるというべきである。
(一) 独占禁止法は経済法の基本法として、原則的にすべての事業分野に自由な競争のルールを適用する一般法である。これに対し、道路運送法は、特別にバス事業、タクシー事業等を規制対象とし、全面的に自由な競争に委ねることをしないで免許制による参入規制、認可制による運賃等の規制など自由な競争に制限を加える規制を定める特別法である。言い換えれば、道路運送法と独占禁止法とは運賃競争という側面においては、保護法益が共通であるか、又は、一方の法の下での保護法益が他方の法の立法目的達成のために限定され、又は縮小されるという関係にある。したがって、特別法である道路運送法が自由な競争を否定する範囲においては一般法である独占禁止法の適用は及ばない(もっとも、道路運送法も一定の限度において自由な競争に委ねる余地を認め、かつ、要請しており、その限度では道路運送法と独占禁止法とは相互に補完する面を併せ持っている。)。
このような現行の法制度を前提とすると、貸切バス事業者により認可運賃等収受のためにとられた方策を違法として非難することは、公正取引委員会が技術的専門官庁である近畿運輸局による運輸行政に対して不当に容喙することとなる。他の行政法規によって正当なものとされ、かつ、当該法規により罰則によって強制されている認可運賃等の収受という行為に対して公正取引委員会が介入することは、仮に当該行為が違法であるとしても極めて例外的な場合を除いて許容されない。
なお、独占禁止法の適用を考えるには、道路運送法の趣旨、目的を考慮することなく独占禁止法の観点から独自に競争秩序を考えるべきである、との趣旨に見受けられる見解がある。しかし、道路運送法は、運輸大臣が運賃競争の範囲を定めることとし、その範囲外の競争は道路運送事業の適正と公共の福祉(安全性等)の観点から禁止しているのであり、貸切バス事業を含め道路運送事業における運賃の競争範囲(秩序)は、運輸大臣が認可した運賃体制で決められているのであるから、我が国の組織法上も作用法上も、運輸大臣が道路運送事業を規制の下に置き、運賃をも規制の対象にし、その規制内容をも所掌している。したがって、我が国において、道路運送法における、また同法に基づく運輸大臣が認可した運賃競争の範囲に関し、公正取引委員会が独自の判断基準により競争秩序を設定することは、予定されておらず、公正取引委員会が道路運送事業に独占禁止法を適用する場合には道路運送法により設定された競争秩序を基準としなければならない。このことは、国家行政組織法第2条第2項の行政機関は一体として行政機能を発揮すべきであるとの規定に照らしても明らかである。
また、認可運賃等が道路運送法上適法であるだけでなく、それが、社会の全体的法秩序からみて実質的に適法妥当視されるときに限り、カルテルも実質的違法性を欠くという見解がある。しかし、この見解は、専門技術的に運輸当局がした認可運賃等の判断と別個に、公正取引委員会又は裁判所が実勢運賃等がコスト割れであるかどうかの判断を独自にすることを認めることとなり、不当である。殊に、専門技術的な知見を有する運輸当局が、道路運送法第9条第2項第1号の要件の判断のために、安全輸送の確保という点からも審査して認可運賃等を決定するのに対し、何らの専門的技術的知見を有しない公正取引委員会が判断を加え得るとは考えられない。
(二) 認可運賃等を下回る運賃等による競争は法的に保護される競争ではないから、本件各決定がそのような競争を制限するような合意をしたからといって、その合意に独占禁止法が適用されるべきいわれはない。
もし仮に、会員貸切バス事業者が認可運賃等を遵守することを内容とする合意をしたら、その内容はまさに法律を守ろうとすることにある。これに対し、事実上認可運賃等を下回る運賃等により競争状態があるとしても、これは、単に各事業者が違法に旅行業者から買いたたかれ、法律上の義務を履行していない結果にすぎない。したがって、右のような法律を遵守するような合意をも独占禁止法に違反するというのは不当である。
(三) 仮に、形式的には本件各決定に独占禁止法が適用され得るとしても、次のとおり、本件各決定は、同法第8条第1項第1号又は第4号に該当しないというべきである。
すなわち、認可運賃等を下回る運賃等の収受は明らかに道路運送法上違法であり、本件各決定は、認可運賃等の下限より下の一定額以下の運賃等の収受をしない旨の共同行為であって、その違法な範囲の競争を制限(減少)しようとしたにすぎない。したがって、本件各決定は、独占禁止法所定の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものではないし、同法第1条所定の「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的に違反しないと認められる例外的な場合に該当するから、同法第8条第1項第1号又は第4号に該当しない。
また、本件において、道路運送法所定の「道路運送事業の適正な運営の確保」という目的は、独占禁止法第1条所定の究極の目的のうち「国民経済の民主的で健全な発達を促進する」との目的と合致すると解すべきであるが、本件各決定にすら従わないときは、会員貸切バス事業者は、道路運送法第9条第2項第1号に認可基準として定められた「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含む」運賃等から著しく離れたことが明らかな運賃等の収受を余儀なくされるのであり、大幅な赤字を呈して企業維持ができず、又は著しく困難になるおそれがあったから、本件各決定は、同法所定の「道路運送事業の適正な運営の確保」の目的に合致するものとして独占禁止法第1条所定の右の究極の目的に違反しないと認められる例外的な場合に当たり、同法第8条第1項第1号又は第4号に該当しないともいい得る。
(なお、本件と異なり、認可運賃等が幅又は一定額により定められている場合において事業者が認可運賃等を上回る又は下回る一定額の運賃等の協定をしたときは、この共同行為は認可運賃等による競争を制限しているということができるので、「一定の取引分野における競争を実質的に制限」することになるし、また、独占禁止法に基づいて排除措置が命じられても、道路運送法の趣旨、目的に反しないから、排除措置を命じ得ると考える。)
(四) 仮に、本件各決定が独占禁止法第8条第1項第1号又は第4号に該当するとしても、次のとおりであって、本件各決定は違法性を阻却するというべきである。
すなわち、本件において、最も問題とされる主催旅行向け輸送については、大手旅行会社から認可運賃等を大幅に下回って標準運賃等の5割どころか3割を切るような低額な運賃等の要求がされ、その要求に応じないと主催旅行ばかりか手配旅行その他の旅行も引合いをしないと脅かされたため、会員貸切バス事業者はその要求に応じざるを得ない事態に追い込まれた。その結果、大手旅行会社以外の旅行会社の事業が困難になる一方で、従来顧客が自由に決定した旅行、手配旅行が大手旅行会社の主催旅行に組み込まれて、近年、主催旅行の割合が増大し、また、認可運賃等を大幅に割った運賃等が強要された結果、会員貸切バス事業者の経営は確実に逼迫してきた。そのようにして、会員貸切バス事業者の事業の健全性は著しく損われていた。
本件各決定は、このような大手旅行業者に対抗する目的で道路運送法により禁止された運賃等の一部を収受しないために採られた措置であり、同法の趣旨目的に反せず、独占禁止法の目的にも反しない。
その上、前記のとおり、認可運賃等の収受は、道路運送法という自らの事業の基礎である法律に基づき刑罰によって貸切バス事業者に強制された法律上の義務でもあるから、事業者団体である被審人がその事業者の義務を実現するための一手段として認可運賃等以下の運賃を収受してはならないと合意したとしても、その合意は目的に照らして正当なものとして違法性を阻却する、というべきである。
もっとも、道路運送法には認可運賃等の収受を強制するための手段として、事業停止等の経営面からの手段と罰則という刑事罰による裏付けがあるが、これらの強制手段は、行政庁によって発動される手段であって、常に発動できるものではない。また、バス事業者に対してのみ罰則を適用してもその実効性は疑わしく、認可運賃等以下で発注をする旅行業者をも処罰すべきであるが、旅行業者に対するそのような罰則規定はない。貸切バス事業者として、道路運送法上の規制手段以外の手段により認可運賃等収受という義務を履行することも、当該手段が社会的に相当性を有する限り、違法視されるいわれはない。
(五) なお、仮に、被審人によりされた本件各決定に係る運賃等の額の一部が認可運賃等の範囲内に入っていたとしても、本件審判開始決定において、認可運賃等の幅内に入る運賃等の額が決定されたことが違法とされているわけではなく、また、審判手続においても、いずれの決定によって認可運賃等の幅内に入る運賃等の額が決定されたかどうかは争点となっていないから、当該部分に関する決定のみを違法視することは、本件審判開始決定において主張されていない事実について判断することになるから、許されない。
また、認可運賃等を収受できたいためにこれに対する対策を講じている過程においてたまたまごく一部に認可運賃等の幅の範囲内に入るような運賃等の額が含まれていたとしても、現実に認可運賃等の最下限を上回る運賃等を収受できる可能性はないし、独占禁止法違反として問責すべきほどの違法性もない。
二 仮に、本件審判開始決定書記載の事実が認められて本件各決定があったと認定されても、次のとおり、本件各決定は、各事業者の運賃等に係る認可申請行為を制限するものではないから、この観点から独占禁止法第8条第1項第4号が適用される余地はない。
(一) 本件各決定に係る最低運賃等は、実際に貸切バス事業者が受け取る収受運賃等についての最低額に関するものにすぎず、被審人において、新たな認可運賃等の申請についてもまた新たに申請する認可運賃等の額についても、話合いがされたことはない。
しかも、この最低運賃等の協議決定は、道路運送法で認可を得た運賃等の全てについてその収受運賃等の最低額を協議決定したものではない。
すなわち、前述のとおり、貸切バス事業者と旅行会社との取引上の力関係、旅行シーズンオフの需給関係の緩和等から、旅行会社の主催旅行向け輸送を中心として認可運賃等を大幅に下回る取引が経常的に行われていたため、本件各決定がされたのであるから、本件各決定の最低運賃等の対象範囲は、主催旅行向け輸送及び旅行シーズンオフの需給関係の緩和等による一部の輸送を中心とするものに限られていた。しかし、その主催旅行向け輸送の取引が全観光バス旅行に対して占める割合は、それほど多いものではなかった。これに対し、主催旅行向け輸送及び旅行シーズンオフの需給関係の緩和等による一部の輸送を除いた輸送は、現実にほぼ認可運賃等の幅の中で現実の収受が行われており、その割合は高かった。ところが、他方で、貸切バスの運賃の認可に際して主催旅行向け輸送と他のものとを区別して認可する体系は採られておらず、認可運賃等はすべて一律に適用される。
したがって、多くを占める主催旅行向け以外の輸送の運賃等をわざわざ大幅に下回る水準に改定する申請をする会員貸切バス事業者はあり得ないから、本件各決定に係る最低運賃等の決定は、新たな認可運賃等の申請とは関係ないというほかはない。
(二) また、各事業者が本件各決定に係る最低運賃等を下回る額を収受し得ることとなる運賃等の認可申請をしたとしても、現実に認可を受けられる可能性はなかったから、本件各決定は、運賃等の申請とは客観的にも主観的にも全く関係がない。
すなわち、道路運送法上新たな運賃等を定め、又は変更するときは運輸大臣の認可を受けるべきであるとされ、その認可基準は同法第9条第2項に規定されており、なお、現行運賃等の体系は、基本的に旅客の種別を問わない。
そして、現行の運賃等認可においては、同法第9条第2項第1号の「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること」という基準が一番の基本となっており、その基準を運用するために、運輸省では、貸切バス事業者等の一般貸切旅客自動車運送事業の運賃等に関して「一般貸切旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準ならびに運賃及び料金に関する制度について」(昭和47年10月21日自旅378号運輸省自動車局長から陸運局長、沖縄総合事務局長あて通達)を定めて、通達している。この通達には、別紙(1)として、「運賃改定要否の検討基準」が付され、現行の運輸省の運用が同一地域同一運賃の原則を採っているため、陸運局長が同一運賃等を適用する事業区域として定めた地域を単位とし、その地域内で抽出された標準能率事業者を対象として実績年度の原価に適正利潤を加えた原価と営業収入との加重収支率が100パーセント以下の場合又は実績年度の翌年度の原価に適正利潤を加えた原価と営業収入との加重収支率が100パーセント以下と推定される場合に運賃改定が認められることとされ、また、別紙(3)が付されて、運賃改定率、原価計算事業者の原価計算期間(3年)の原価対象部門に係る運賃原価を所定の計算式で算定し、所要増収率を所定算式で計算して、運賃改定率を算出すべきことが定められているから、実績年度及びその翌年度の原価計算をして3年目の原価を推定するためには、運賃等の改定後2年を経過しなければ基準を満たす申請をすることができない。
本件各決定に係る最低運賃等は、平成元年度のものであるが、当時の認可運賃等は、前年の昭和63年5月24日に認可され、同年6月1日から実施されたばかりであったから、事業者は新たな運賃等の改定を申請することができず、仮に申請したところで、認可を受けられなかった。現に、事業者らは、直近の運賃等の認可から2年を経過した後の平成3年5月23日から同年6月18日までに新たな運賃等改定の認可申請をしている。
そして、被審人の構成員である各事業者関係の平成3年度における申請において、原価計算書の運賃改定率(増収率)は、プラス22.1ないし8.45パーセントとなっており、平成3年8月20日に改定率をプラスの8パーセントとする認可がされた。平成3年当時、各事業者の収支状況は悪化し、貸切バス事業者の健全な経営の観点から運賃の増収が必要とされる状態に立ち至っていたと判断されたことが示されている。
これに対し、主催旅行向け輸送の割合が少ない事業者においても、この主催旅行向け輸送の認可運賃等の下限の大幅割れは、収支を圧迫しており、これを是正する必要があったが、本件各決定に係る具体的基準、金額は、当時の標準運賃の0.3倍ないし0.8倍に料金を加えたもので、当時の認可運賃等の下限を大幅に下回り、このような具体的基準、金額で新たな認可申請がされても、認可がされるはずはなかったことが明らかである。
(三) なお、そもそも、当初の審判開始決定には独占禁止法第8条第1項第4号は記載されておらず、新たに審判開始決定により同号を追加したときは、違反行為の終了から1年間を経過していたから、公正取引委員会は排除措置を命ずることができない。
三 仮に、本件各決定が独占禁止法に該当し、違法であり、又はそのような部分を含むとしても、公正取引委員会は、現時点において被審人に対し排除措置を命ずることはできない。
(一) 本件各決定は、昭和63年5月24日認可された運賃制度の下で、平成元年度及び平成2年度の運賃等についてされた限時的なものであるが、その後、平成3年8月28日に値上げを内容とする運賃等が認可実施されており、また、年度、社会状況も既に異なっている。
したがって、旧認可運賃等の下での過去の最低運賃の協議、決定は、既に効果を失っており、前提を欠くから、現在では意味がない。
(二) 被審人は、平成2年10月18日の理事会において破棄決議をし、同年10月24日公正取引委員会に上申し、その後全構成員に従前の協議、協定を破棄し、各自自主的に収受運賃を決定すべきことを周知徹底して、既に確認的に本件最低運賃に係る協議、決定を破棄している。そして、本件は、違反行為がなくなった後にも排除措置を命ずるための要件である「特に必要があると認めるとき」に当たらないから、仮に本件各決定が独占禁止法違反と評価されるとしても、排除措置を命ずることはできない。
(審査官の法律上の主張)
一 本件各決定には独占禁止法は適用されず、本件各決定は、同法違反を構成せず、又は違法性を阻却するとする被審人の主張は、いずれも失当である。
(一) 道路運送法においては貸切バスの運賃等について認可制度が採用されているが、そうではあっても、同法が自由な運賃等の設定を容認している分野における共同行為は事業者の自由な運賃等の設定を拘束するものとして、同法上認可を受けることが必要となる事項を内容とする共同行為は自由な認可申請を制限するものとして、いずれも独占禁止法が適用され得るから、貸切バスの運賃等に関する共同行為に独占禁止法の適用が排除されるべき理由はない。
そして、本件各決定が行われた当時の大阪地区における貸切バス運送取引は、旅行業者との取引が大部分を占めていたが、旅行業者が合見積りを出すため会員貸切バス事業者は運賃等で競争することとなり、運賃等を安くしないと受注できないこと、主催旅行等の団体客を対象とするものは運賃等を安くしないと集客できないこと、シーズンオフには需要が減退し遊休車両が多くなることなどから、特に、本件各決定の対象である主催旅行向け、冬山耐寒登山向け等の取引においては、旅行業者と個別に交渉して運賃等が決定され、その結果恒常的に認可運賃等を大幅に下回る運賃等による取引が行われ、これらが全取引の相当部分を占めていた。しかも、その実勢運賃たるや、取引の主要なものを占める大型バスでは認可運賃において基準とされる標準運賃の50パーセントを超えることはほとんどなく、極端な例では、その70ないし80パーセント引きというものもあった。また、その私法上の効力が否定されたこともなかった。そして、実際取引において、取引の相手方、時期等により運賃の水準は異なっており、1社だけで認可運賃等を守ることは不可能であった。
これに対し、運輸当局は、本件取引分野の実態を承知しながら、会員貸切バス事業者及び被審人に対し認可運賃等を下回る運賃等の収受に対し警告等を行ったことはあるものの、刑事告発をした例がないのはもちろん、業務停止等の行政上の処分をしたこともなく、一切の法的処置をしていない。
このように、本件取引分野においては、認可運賃等を大幅に下回る運賃等での取引がかなりの期間にわたり経常的に行われ、実勢運賃等は認可運賃等とは別に需給の状況、取引上の関係等を考慮して個別の交渉により私法上有効に決定されており、このような実態に対し、運輸当局も法的処置を全く講じないで競争の存在を容認していたのであるから、このような取引の実態の下での競争についてまでも、道路運送法上違法であって法的に保護に値しないとの理由で独占禁止法の適用を排除するのは、正当ではなく、実態に即して、適正な事業活動の維持、一般消費者、利用者の利益の確保を図るために、同法が適用されるべきことは当然である。
(二) 被審人は、独占禁止法が一般法であるのに対し、道路運送法は特別法であるから、道路運送法の適用領域においては基本的に独占禁止法の適用はない、との趣旨の主張をする(被審人の法律上の主張一(一))。
しかしながら、この点は、立法的に明確に解決されている。
すなわち、独占禁止法は特別法との間の適用排除について第22条に明文で、「この法律の規定は、特定の事業について特別の法律がある場合において、事業者又は事業者団体が、その法律又はその法律に基く命令によって行う正当な行為には、これを適用しない。前項の特別の法律は、別に法律を以てこれを指定する。」と定め、この別の法律として「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外等に関する法律」が設けられている。この法律によって独占禁止法が適用除外される行為、団体には、道路運送法に係るものは挙げられていない。また、道路運送法には、第19条に一定の場合に独占禁止法の適用を除外する規定が定められているが、運賃等の共同行為は除外規定に該当せず、他に独占禁止法の除外規定はない。したがって、運賃等に関する共同行為には独占禁止法が全面的に適用されると解すべきである。
(三) 被審人は、本件各決定は法的に保護される競争を制限するものではないから、独占禁止法の適用対象とならない、と主張する(被審人の法律上の主張一(二))。
しかしながら、本件においては、前記(一)の事実関係があって、事業者が認可運賃等と異なる運賃等による取引が常態化しており、自由に対価を決定して行う取引と全く同様で、実態として認可運賃等の規制が行われていなかったから、法的に保護される競争がなかったというのは、失当である。
(四) 被審人は、認可運賃等を下回る運賃等の収受は道路運送法上違法であり、本件各決定は、その違法な範囲の競争を制限したにすぎないから、独占禁止法の究極の目的の規定と対照して、同法第8条第1項第1号又は第4号に該当しない、と主張する(被審人の法律上の主張一(三))
しかしながら、前記(一)の本件の事実関係の下においては、本件各決定に係る競争は、違法な取引条件についてのものであっても、同法第1条所定の「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」との究極の目的に照らしても、肯定的に評価することができるから、被審人の主張は失当というべきである。
なお、被審人の主張は、独占禁止法第8条第1項第1号違反の場合についても、「公共の利益に反して」の要件が適用されるとの前提に立ち、本件は公共の利益に反しない場合に該当する、との趣旨にも解されないではない。
しかし、同法にいう公共の利益とは、同法第1条に掲げられた法の目的とこれを基礎とする法全体の構造からみて自由競争を基礎とする経済秩序そのものと解するのが相当であり、一定の取引分野における競争の実質的制限は、それ自体公共の利益に反する。
(五) 被審人の法律上の主張一(四)及び(五)の主張は、いずれも争う。
二 仮に、本件各決定が独占禁止法第8条第1項第1号に該当しないとしても、会員貸切バス事業者が運賃等の改定の認可申請をして改定運賃等で競争する自由は認められ、本件各決定は、次のとおり、この認可申請を妨げ、構成事業者の機能又は活動を不当に制限するものとして、同法第8条第1項第4号に該当するというべきである。
(一) 本件各決定の趣旨は、決定に係る運賃等を下回る運賃等を収受する取引を禁止することにある。他方、道路運送法上、貸切バス事業者は収受する運賃等について認可を受けなければならず、認可を受けない運賃等の収受は禁止されている。したがって、道路運送法の遵守を前提とする限り、決定運賃等より低い額を収受する会員貸切バス事業者の認可申請を制限するものである。また、前記のとおり、本件各決定は、経済的な面からシーズン別の需給関係等の実態を踏まえた現実的なものであることなどを考慮すると、決定に係る最低運賃等より低い額を収受することができる認可申請をも禁止していると解される。
当然、被審人の法律上の主張二(一)の主張が失当であることは、明らかである。
なお、本件各決定のうち、春季及び秋季の学校遠足向け輸送の運賃等についての決定の中には、所定の認可運賃等の下限を上回るものがあり、当該決定は、各事業者が自由に運賃等を決定して取引することを拘束するものであり、独占禁止法第8条第1項第4号に該当することは明らかである。
(二) 被審人は、当時運輸当局が同一地域同一運賃の原則等を採用し、また、運賃値上げが認可されたばかりであったことなどから、運輸当局が値下げ申請を認可することはありえず、また、各事業者も値下げのための認可申請の意思を有していたとは到底考えられない、との趣旨の主張をする(被審人の法律上の主張二(二))。
しかしながら、単なる推測を超えて値下げ申請をしても認可されることはあり得ないとする根拠はないし、認可制度を前提とする限り各事業者が認可申請の意思がなかったということはできない。貸切バスの運賃等について認可運賃と実勢運賃等との乖離がある場合、道路運送法の遵守を前提とする限り、認可運賃等の改定を申請しないで実勢運賃等を認可運賃等の範囲内にするか、それとも既認可運賃等の改定を申請し実勢に即した認可運賃とする必要があるが、各事業者は自主的にこのような判断をすべきであり、法律上、本件各決定に係る最低運賃等を下回る運賃等について認可申請をすることは何ら支障ない。他方、前記のとおり、当該最低運賃等を下回る取引が長期間にわたり経常的に行われていたこと、本件各決定がシーズン別の需給関係等の実態を踏まえた現実的なものであること、当時の認可運賃自体が主催旅行向け輸送等については実勢運賃等しか収受できないことを前提として適正な原価、利潤が確保できるように設定されていることなどをも考慮すると、各決定に係る最低運賃等より低い額を収受することができる認可申請をする可能性は否定されない。個別申請、個別認可制度の下において、認可申請の自由は確保される必要があり、本件各決定は、法律的にも実態的にも可能性のある認可申請行為を制限する不当なものである。
なお、主催旅行向け輸送等についての認可運賃等を実態に即したものとすることを内容とする申請が認可されるかどうかは、道路運送法に規定されている認可要件に照らして個別的具体的に判断され、申請却下処分については、当該処分の取消請求訴訟の提起も可能であり、あらかじめ認可される可能性がまったくないということはできない。もっとも、申請の内容が道路運送法所定の認可要件を満たしていないことが明らかな場合は認可の可能性は全くないことになるが、貸切バスの認可運賃等に関し、同法上本件各決定の対象である主催旅行向け等の輸送について他と区別して特別の運賃又は割引制度を設けることが禁止されているとはいえないことは、同じく同法の規制を受けている貸切バス以外の運送事業の例をみても明らかである。さらに、同一地域、同一運賃の原則が、個々の事業者の自主的判断による値下げ申請そのものを禁止していないことはいうまでもなく、また、このような申請が全く認可される可能性がないとはいえないことは、同じく同法の規制を受けているタクシー事業の例をみれば明らかである。
三 被審人は、公正取引委員会は、現時点において被審人に対し排除措置を命ずることはできない、と主張する(被審人の法律上の主張三)が、そのように解すべき根拠はなく、排除措置を命ずるのに何らの妨げもない。
第四 法律適用上の争点に対する審判官の判断
一 主催旅行向け輸送に関する本件各決定が独占禁止法第8条第1項第1号に該当するものとして同法上の排除措置命令の対象となるかどうかについて
(一) 道路運送法と独占禁止法との適用関係について
ア 被審人は、特別法である道路運送法が自由な競争を否定する範囲においては、明文の除外規定のないときも、一般法である独占禁止法の適用は及ばず、また、道路運送事業に同法を適用するにしても道路運送法に基づく認可制度により設定された競争秩序に拘束される、との趣旨の主張をする。
通常、特定の人、事物、行為又は地域に限り適用される法が特別法と呼ばれ、それらの制限なく一般に適用される法が一般法と呼ばれて、特別法は一般法中から特定の事項を取り出し、それを特別に取り扱おうとする趣旨に出るものであるため、特別法は一般法に優先するのが原則であり、一般法は特別法に規定がないものについてだけ補充的に適用されることとなるから、両者を区別することは、法の効力及び適用の順序を明確にさせる上で実益がある(新法律学辞典第3版40頁)、とされている。
そして、被審人の主張に沿うように、審第51号証には、事業法である道路運送法は一般法である独占禁止法に対し特別法の関係にあり、道路運送法に基づく競争制限的規制によって自由競争の余地を否定している範囲、領域においては、特別法である同法が優先し、一般法である独占禁止法の適用の余地はなく、同法違反を構成することはないとの趣旨が記載されているが、その意味は、道路運送法の定める認可運賃等の制度により独占禁止法が妥当する一般的に自由な競争秩序は内容を規定、拘束される、との趣旨にも言い換えることができる。同証は、同法の解釈運用の発展について功績が大きい有力な学者による学問的蓄積に基づく見解で、道路運送法と独占禁止法とが同一の社会関係について抵触する複数の法律であるとみる限り、形式的効力が同等な法令間の一般原理に基づく議論として論理的整合性に欠けるところは全くなく、排斥できるような理論的難点をすぐには見いだしにくく、法論理的な議論であって実質的な議論ではないものの、相当の説得力を有しているように見える。
イ とりわけ、本件で問題となる道路運送法の条文を具体的に検討してみると、同法は、「道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立することにより、道路運送の総合的な発達を図り、もって公共の福祉を増進すること」を目的としており(第1条)、この目的を達するために様々な立法上の措置が採られているが、本件に関連する運賃等の関係では、事業者が運賃等を定め、又は変更しようとするときは、運輸大臣の認可を受けるべきこととされており(第9条第1項)、運輸大臣の認可の際によるべき基準として、「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること」(同条第2項第1号)、「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと」(同項第2号)、「旅客の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ、旅客が当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであること」(同項第3号)、「運賃及び料金が対距離制による場合であって、運輸大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは、これによるものであること」(同項第5号)と並んで、「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」(同項第4号)も定められている。そして、運輸大臣は、事業者に対し運賃等について変更を命ずる事業改善命令を発することができる(第31条第1項第2号)し、その命令に違反したとき又は正当な理由がないのに認可を受けた運賃等を実施しないときには、輸送施設の使用停止、事業の停止、免許取消し等の措置を講ずることができ(第40条第1号、第2号)、さらに、認可を受けないで運賃等を収受し、又は認可を受けない運賃等を収受することを処罰する規定(第99条第1号)を置いている。その上、同法第30条第2項は、「一般旅客自動車運送事業者は、一般旅客自動車運送事業の健全な発達を阻害する結果を生ずるような競争をしてはならない。」とも規定している。
そうしてみると、同法は、事業者が運賃等を自由に決定することを認めておらず、その決定を認可に係らしめて、事業者が認可によらない運賃等の収受をすることを刑罰で禁じており、また、一般的に自由な事業者間の競争も完全には認めていないことは否めない。
したがって、道路運送法は、運賃等の競争秩序に対しても法規範として変更を加えているような外見を呈している。言い換えれば、本件で問題とされる事業者団体による運賃等の価格協定行為が独占禁止法第8条第1項第1号に該当するものとして同法上の排除措置命令の対象となるかどうかの問題の解決に当たっても、道路運送法があらかじめ競争に関する法秩序を形成しているかのような外見を呈していることは否定することができない。
ウ しかしながら、本件のように運賃等が現実に主務官庁による認可を経ている場合において事業者団体の行為に対して独占禁止法所定の排除措置を命ずることができるかどうかを検討すべきときに、明示的な適用除外規定がないにもかかわらず、当然に独占禁止法の適用が排除されて終わる、ということはできないし、また、この問題を検討する場面で道路運送法の関係規定が当然に独占禁止法の関係規定の内容、趣旨を規定し、拘束するものではなく、この問題は、専ら同法の見地から判断すべきであると解するのが相当である(もっとも、このようにいっても、後記(二)アのとおり、主催旅行向け輸送に関する本件各決定においては、道路運送法に基づく認可運賃等を下回る運賃等が定められ、各決定が制限しようとしている価格競争は同法上違法な取引条件に係るので、そのような競争が常に独占禁止法第8条第1項第1号等に定められた構成要件に該当するかどうかの問題は残るから、上記判断だけから本件の結論が導かれることはない。)から、結局は審第51号証の見解は採用することができず、被審人の主張も採用することができない。
右のように解される理由は、以下のとおりである。
エ 本件において問題とされる貸切バスに係る運賃等とは、元来、商法上の典型契約である旅客運送契約(更に一般法である民法上の請負契約に属する。)の一種である道路運送契約において個々の貸切バスの旅客が自動車運送事業者に対して個々に運送労務の対価として支払を約する報酬であり、事業者が旅客との間で締結する道路運送契約を構成する要素である。そして、道路運送法においては、前述のとおり、事業者は運賃等を定めるに当たり認可を受けることを要するとの制度が採用されている。ここで、運賃等の認可は、行政法学上いわゆる認可に属する行政行為であり、私人間の行為を補充してその法律上の効力を完成させる補充行為と呼ばれる行政行為であって(大阪高等裁判所平成5年(ネ)第730号平成6年12月13日判決・公刊物未登載参照)、形成的行政行為に属するが、行政主体が一般統治権に基づき国民に対し作為、不作為、給付、受忍の義務を命ずる下命と呼ばれる類型の行政行為には属しないことが明らかである(なお、道路運送法は運賃等のみを独立して認可に係らせているが、対価は有償契約の要素であり、価格を欠く有償契約は成り立ち得ないから、価格の一般的禁止ということはあり得ず、統制価格の適用の例外許可というような場面を除き価格自体について行政法学上の許可という概念が成立すると考えることは難しく、したがって運賃等の認可が許可の性質を帯びることはないと考えられる。しかし、後記のとおり、このことにより結論が左右されるものではない。また、刑罰の制裁を伴っている場合でも行政行為の性質が補充行為であり得ることは、農地法第3条所定の農地の権利移動に関する県知事の許可に関する最高裁判所昭和38年11月12日判決・民集17巻11号1545頁に示されている。)。
このように、道路運送法における認可運賃制度は、道路運送契約が有効であるために特別の行政行為を要求しているのであるから、商法第569条(更に民法第632条)に対し特別法の地位に立つことは否定することができない。また、前述のとおり、道路運送法は、個々の事業者に対し、旅客と道路運送契約を締結する前に運賃等を定め、あらかじめ認可を受ける義務を課してもいる(第9条第1項)。
しかしながら、認可は、法形式的にあくまでも補充行為でしかなく、法理論的には、私人間の個別的な契約締結行為を論理的に前提とするもので、その契約に効力を付与するために申請に基づいてされる行政行為という以外に説明することはできない。ただ、旅客は不特定で極めて多数であるため個々の契約締結行為の後にいちいち認可を受けることが不可能であるという、専ら法技術的な理由で補充行為を契約に先行させたにすぎないというべきである(その意味からも、個別申請、個別認可の原則は、運賃等の認可制度において必然的である。)。そして、刑罰の制裁を設けた(同法第99条第1号)のも、専ら認可運賃等の収受を実効あらしめるためであると解するほかはない(なお、前述のとおり、運賃等の認可は許可の性質をもたないと思われるが、仮にその性質を許可であると考えても、法論理的には、一方で契約当事者間において契約締結のために準備行為がされることを前提とし、他方で準備された具体的内容により一般的には禁止された契約締結に係る禁止の解除を申請して許可を受けるべきである(契約締結に関する行政処分の性質を許可と仮定して各種の制度を概観してみると、不特定多数人が関係しない制度では順序としても前者を当然に先行させるべきものとされていることが多い。)ところ、旅客の不特定多数性から法技術的に許可が先行されたにすぎない、と考えることができれば、全く同様となる。)。
ところで、競争(ここでは、独占禁止法第8条第1項第1号又は第2条第6項に定められた「競争」の概念を念頭に置いて考えざるを得ない。)とは、独占禁止法第2条第4項所定の競争の関係がある場合に複数の事業者が相互に他を排して第三者との取引の機会を獲得するために行う努力を意味すると解すべきである。法理論的にいう限り、一方で事業者が道路運送という取引を獲得するために他の事業者を排して旅客との取引の機会を得ようとする努力をすることが想定され、その結果契約が締結された状態が得られる。他方で、その状態に対して、法律上の効果を与えるために認可申請がされ、認可という行政行為がされるにすぎない(仮に運賃等の認可が法律的に許可の性質をもつとみても、それは、前述のとおり、一般的には禁止されたところを、論理的に前提とされる契約締結の準備行為の結果調えられた具体的内容により個別の申請に基づいて禁止の解除をする行政処分である、と考えることができれば、議論は共通する。)。その意味で、法形式的な本質的性質として、運賃等の認可は、統制下命(あらかじめ不特定多数人に対して義務を命ずる一般下命の一種であるが、道路運送法が運賃等の認可にこの性格を与えていないことは規定上自明である。)の場合と異なり、元来あらかじめ一般的に事業者に義務付けすることにより契約締結に係る競争秩序について規範を定立する行政行為としての性質をもち得る可能性がないのであるから、この場面での競争をも考慮に入れる独占禁止法が定める競争秩序(とりわけここで問題となるのは、価格協定行為に対する秩序付けである。なお、ここで、公正取引委員会昭和27年4月4日審決・昭和25年(判)第59号野田醤油株式会社ほか4名に対する件・審決集4巻1頁に示されたように、独占禁止法において事業者による価格協定等が禁じられた根拠は、私的企業が恣意的に価格を支配する力を有すること自体の危険な力にあり、協定等に係る具体的な価格支配の態様(その中には具体的な価格も含まれる。)は当然にはこのような危険な力の存在を容認する理由とはなり得ないことをも想起しておくべきである。)に対して、直接に何の関係ももたないことが明らかである(以上の議論は、補充行為の典型と目される農地法第3条若しくは第5条による県知事等の許可又は同様の性質をもつと考えられる国土利用計画法第14条による県知事の許可の場合について他の条件が満たされると仮定した上で同様の考察をすれば、より明白になると思われる。県知事等が価格の点を重視して許可処分(場合によれば不許可処分の方が問題を考えやすい。)をいかに数重ねた場合であっても、それらの処分が競争秩序に影響をもたらすと考えることは無理である。)。
もっとも、補充行為である運賃等の認可制度は刑罰の制裁まで伴っており、認可運賃等以外の運賃等の収受が法律的に禁止されていることからすると、前にも述べたとおり、一見したところ認可制度が法律的な秩序そのもの、したがって競争秩序の特例をも形作っているかのような外観を呈することは確かである。
しかしながら、認可制度により結果的に運賃等の競争が事実上その認可運賃等の範囲内に入るように強制されることにはなっても、それは、認可制度に実効性を与えるために刑罰による禁止規定が加えられたことによる付随的反射的なことにすぎず、認可制度により法律的な秩序そのものが形成されることはないと理解すべきである(なお、右のことは、2つの法律が一般法、特別法の関係にあるかどうか、また、道路運送法の関係規定が他の点を一切考慮するまでもなく当然に独占禁止法の関係規定が定める秩序を規定、拘束するかどうかを議論する関係において述べているのであるから、道路運送法に違反する取引条件に係る競争を制限する行為が常に独占禁止法第8条第1項第1号に該当するといい得るかどうかの問題はなお別に残り、後記において検討の対象となる。)。
この理解は、行政法学上の許可の性質についてであるが、許可は、その根拠となった法令による禁止を解除し、その法令との関係において適法に特定の行為をなす自由を回復するにとどまり、その法令とは別の法令による制限を当然には解除しない、と説かれている(田中二郎・行政法総論306頁参照)こととも整合している。
また、例えば、法律において認可又は許可と名付けられた制度が刑罰による制裁規定を伴っている場合においてその規定が講学上いわゆる単なる警察上の取締法規にすぎないときの私法秩序を思い浮べてみると、右の理解が正当であることが容易に明らかにされ得る。このようなときにも、制度が刑罰を伴うことにより、付随的反射的に事実上その制度に反する取引、取引条件は、法律的に存在を許されず、あたかも法秩序全体が変更を加えられたかのような外観を呈することは否定し難い。しかし、このような場合に私法上の効果が否定されることがないのは、道路運送法第4条第1項に反する運送契約に関する最高裁判所昭和39年10月29日判決・民集18巻8号1823頁等多数の判例が示すとおりであり、法秩序の一部というべき私法秩序が影響を受けないことが明示されている。
さらに、右のような理解は、例えば、許可制度を定める法規の存在により、ある区域の事業が独占される結果が生じても、それは原則的に反射的なものである、とされている(田中二郎・新版行政法上巻第2版36頁参照)ことにも対応している。もし、認可制度が法形式的に競争に関する法秩序自体を規制していると仮定するならば、他の点を検討するまでもなく、そのことだけから当然に当該行政処分を受けた事業者以外の事業者に処分取消訴訟においてその認可の不当、違法を争う当事者適格を付与すべきであるということにもなりかねない。しかし、行政処分の取消訴訟の原告適格を定める行政事件訴訟法第9条にいう「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合に当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、原告適格を肯定されると解すべきであるが、そのような趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨、目的、当該行政法規が当該処分を通じて保護しようとしている利益の内容、性質等を総合して判断すべきであって(最高裁判所昭和53年3月14日判決民集32巻2号211頁、最高裁判所平成元年2月17日判決民集43巻2号56頁、最高裁判所平成4年9月22日判決民集46巻6号571頁等参照)、より高い次元からの総合的な判断が求められ、右のように単純に決せられるべきではないというべきである。
その上、認可処分に瑕疵がある場合又は認可そのものは適法であっても競争秩序から明らかに不当な場合を考えてみると、事態をよりはっきりさせることができる。すなわち、理論的には、主務官庁が道路運送法に定められた認可基準を誤って適用して認可処分をした場合、申請事業者が認可申請資料を故意に改ざんするたど詐欺行為に基づいて認可処分がされた場合等認可に瑕疵のある場合を設例することができる。これらの場合にも、認可に行政処分としての公定力があることは否定できないから、もし、認可制度が競争秩序そのものを形作っているとするならば、抗告訴訟(その主体として当然に予定されるのは認可申請をした事業者自身であるから、訴訟提起そのものがあまり考えられないことになる。)によって取り消されるまではそのような認可も競争秩序の特例を形成していると扱わざるを得なくなる。さらに、認可申請がいわゆるカルテル行為に属する協定価格に基づいてされその結果認可処分が得られた場合など、申請が競争政策からは明らかに不当視されるが認可自体は十分主務官庁の裁量の範囲内にあるときを想定することができる。このようなときはおそらく抗告訴訟で取り消される可能性は全くないから、認可制度が競争秩序を示しているとみる限り、競争秩序がこの場面で特に問題とする法秩序には縁の薄い認可によってのみ形成されるということになりかねない。
しかしながら、立法者は、同法における運賃等の認可制度において、主務官庁に対し、競争に関する法秩序を直接形成すべき法形式でなく、単なる補充行為である認可という法形式によって運賃等を規制するという控え目な立法方法(認可の法的性質が許可であると仮定しても、統制下命のような強力な行政処分の性格を与えられていないという意味で控え目であることは否めない。なお、同法は、前述のとおり主務官庁に直接運賃等の変更命令を発することを認めているが、本件はその場合でないから、ここでの議論の対象外である。)を採用しているにすぎない(なお、前述のとおり、立法府は、高度な立場から総合的に検討して運賃等の規制方式として認可という補充行為の規制方法を選択したと考えられるが、その結果、別段の規定がない以上修正認可処分が許されないこととなる(美濃部達吉・日本行政法総論138頁、前掲大阪高等裁判所平成6年12月13日判決参照)など、法律効果において、下命に属する行政処分による規制方式による場合(この場合でも職権発動の開始を申立てに係らせることは不可能でない。)と異なる場面が生じ得ることは、必然的である。)のであるから、主務官庁がその方法の範囲で規制するにとどまる場合にも、このように過大で不当な効果を与えてまで競争の基礎を定めるのが法の趣旨であると考えることは難しい。
そうしてみると、道路運送法の定める運賃等の認可制度が独占禁止法の規律する競争秩序を規定、拘束することはないという意味においては、双方の法律に一般法と特別法との関係はないといわなければならない。
オ 翻って、本件に関連する法律の条文を検討してみるに、まず、道路運送法第1条の目的規定を精査すると、同法は、最終的な目的である「公共の福祉を増進する」ために「道路運送の総合的な発達を図」ることを直接の目的とするものであり、ただ道路運送事業の分野において公正な競争を確保することをも目的としているが、その規定において、公正な競争の確保は、上記の最終的な目的である「公共の福祉を増進する」ための直接的な目的である「道路運送の総合的な発達を図」るための手段的な目的として掲げられているにすぎないことを見て取ることができる。言い換えれば、経済法の基本法として一般的に公正かつ自由な競争の促進を目的としている独占禁止法の場合と異なり、道路運送法において公正な競争の確保は、道路運送に関する秩序維持のための規制と並んで公的な規制の手段として採用されているにとどまることが明らかであるから、道路運送法と独占禁止法との間には保護法益としての公正な競争の確保の扱い方に差異があり、おのずから規制の手段にも差異が生じても何ら異とするには足りないということができる。
このことは、道路運送法が公共の福祉を増進することを目的としながら、運輸大臣が運賃の認可をする際に、競争政策との関係では、前記のとおり、適正な原価を償いかつ適正な利潤を含むものであること、特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと、旅客の運賃等を負担する能力にかんがみ旅客が当該事業を利用することを困難にするおそれがないこと、他の事業者との間に不当な競争を引き起こすことになるおそれがないものであること等を要求しているにすぎないこと、すなわち、道路運送という特別な分野にあることを踏まえて、一方で不公正な取引方法の排除に関連する制度を用意する(その意味では、道路運送法は、独占禁止法の不公正な取引方法の規制の特別法的な色彩を帯びているといえないこともない。しかし、民法第709条の不法行為に対し特別法の性格をもつ独占禁止法第25条や自動車損害賠償保障法第3条の規定があるからといって、民法第709条の規定の適用が排除されないことと対比すれば、道路運送法の規定があるからといって独占禁止法の関連規定の適用が当然に排除されるかどうかはまだ検討すべき問題として残る。)とともに、他方で、競争の程度が特にその分野固有の目からみて相当性があるというべき最大の幅を超えて行き過ぎ、経済学上いわゆる破滅的競争の域に入ることを未然に防止するよう配慮すべきことなどを要求しているにとどまり、競争の幅が公共の福祉に反するほど人為的に狭められているような場合に道路運送法自体としてはその状態の排除をするとの観点を用意していないことからも明らかである。同法にいう「健全な発達を阻害する結果を生ずるような競争」に達しない程度の競争までもが不当に制限された場合については、同法第30条第2項はもちろん同法の他の条文も触れているとみることはできない。
そうすると、同法は、公正な競争の確保を目的としつつも、公正かつ自由な競争の確保のすべてを同法の規制手段のみに頼ることをもくろんでいるものではない(競争には、独占的濫用、弊害を除去するという消極的機能とともに効率化、技術革新等を促進する積極的機能があるといわれるが、事業法である道路運送法にこのような競争の機能、殊に競争の後者の機能を期待してみても難しいというほかはない。)、と解することができる(このようにいうことが道路運送法の具体的な規定の解釈に当たってできるだけ経済法の基本法である独占禁止法の趣旨を参酌するとの立場を排除しないことは、いうまでもない。)。
したがって、道路運送法が運賃等の認可制度を採用しているからといって、同法が明示的な条文を置いている場合でもないのに、また、その制度に係る行政行為の趣旨から明らかである場合でもないのに、たやすく同法上の認可制度が当然に独占禁止法の適用を排除し、又は自由な競争の回復のために同法が用意する排除措置命令の要件等を定める条文の内容を規定し、拘束する、と断定するのにはまだ足りないといわなければならない。
前記エにおいて検討した点をも対照すれば、結局、道路運送法の運賃等に関する認可制度は、独占禁止法の定める排除措置命令の制度に関する事項の中から特定の事項を取り出し、それを特別に取り扱おうとする趣旨に出るとはいえないし、同一の社会関係について複数の法律が抵触する場合にも該当しないというほかはない。
カ なお、独占禁止法は、独占的要素を本来的に包蔵している不完全市場に機能的競争又は有効競争をできる限り維持するための私的独占禁止政策、すなわち不完全市場という経済の実態を十分に認識した上で自由かつ公正な競争という機能がもたらす経済的社会的効果を最大限に発揮させようという政策を実現するために特に立法された法律であって、一般消費者の利益を確保するとともに、国内的にも国際的規模においても開かれた市場の下で経済の拡大化により我が国経済の健全な発展を図ることを目的とするもので、更に経済的民主主義の実現の役割をも担うものとして、我が国における自由競争経済を支える基本法であることを肯定することができ、現今の時点で国内的にもまた国際的にも、同法の遵守がますます強く要請されている(なお、東京高等裁判所平成5年5月21日判決・判時1474号31頁参照)。
言い換えれば、あたかも民法第1条の公共の福祉の原則、権利濫用禁止の原則又は民法第90条の公序良俗の原則が、社会全体の立場から私法関係一般のよって立つ基本原則を宣明しているため、これらの原則を定めた規定は、民法に対し特別法の関係に立つ商法の規定が特則を定めている場面でも適用を排除されないという意味で基本法としての性格を失わないのと同様、独占禁止法は、企業一般の組織及び活動に関する基本的な在り方、現代企業一般のよって立つ基本原則を宣明するものであり、したがって、企業の具体的性格に着目し、その全体経済における具体的地位ないし機能に即して規制を行うにすぎない事業法に対し、経済法における基本法としての性格をもっている(なお、大隅健一郎・商法総則新版52頁参照)。
そして、同法は、他の法律との関係について、第22条に「この法律の規定は、特定の事業について特別の法律がある場合において、事業者又は事業者団体が、その法律又はその法律に基く命令によって行う正当な行為には、これを適用しない。前項の特別の法律は、別に法律を以てこれを指定する。」との規定を置き、同法と別に「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外等に関する法律」(以下「適用除外法」という。)が定められている。また、いわゆる法令調整作業を経て個々の事業法において煩雑なまでに個別的、明示的に要件を限って、独占禁止法の除外規定が定められてきている。現に道路運送法も、第19条に、事業者間でする設備の共用等に関する運輸協定に対し認可を受けてする正当な行為及び運輸大臣の事業改善命令によって行う正当な行為についてのみ独占禁止法の適用を除外する規定を設けている。一般法学上、前法に対する後法優先、一般法に対する特別法優先の原則があるのにかかわらず、立法府が複雑な立法作業を厭わずにあえてこのような立法態度を採り続けていることは、法が事業法を包括した経済法体系において独占禁止法に基本法としての性格を与えていることの証左ということができる。
前記の解釈は、このような独占禁止法の性格に適合しやすいというべきである(なお、実方謙二「産業別規制と競争維持政策の調整」法学志林69巻1・2合併号59頁、根岸哲・規制産業の経済法研究xix.127頁に紹介されているように、アメリカ合衆国においては、独占禁止法に相当する反トラスト法の適用を除外する明文の規定がいくつかの法律に置かれているが、反トラスト法による競争条件の維持という政策目的は一般法としての基本原則であり、適用除外はその例外であるため、適用除外の範囲は厳格に解されるべきであるとされていることも、参照されるべきである。)。
キ 以上の解釈は、次のとおり、実質論の観点からも基礎付けられるというべきである すなわち、公正取引委員会の審決例(公正取引委員会平成2年2月2日勧告審決・平成元年(勧)第9号社団法人三重県、バス協会に対する件・審決集36巻35頁)に照らすと、道路運送法による認可制度の下で認可運賃等に一定の幅がある場合において、事業者団体によりその幅の中で運賃等に関する協定がされたときは、独占禁止法第8条第1項第1号に該当するとの判断は妨げられず、同法に基づき排除措置を命じ、課徴金の納付を命令する可能性も否定されないといってよく、その結論の妥当なことは、現在では学説上論者を問わずほば異論がないことからも裏付けられているといって差し支えがない。
ところで、認可運賃等の幅の上限を超えた一定の額で運賃等の協定がされた場合又はその幅の上限を超えた一定の額を上限若しくは下限として協定がされた場合において外形的に独占禁止法第3条又は第8条第1項第1号等に該当する要件のあるときを想定してみると、これらの協定に従って事業者が運賃等を収受した場合には、道路運送法により改善命令等の行政措置が採られ得るし、刑罰(同法第99条第1項第1号に該当し、30万円以下の罰金に処せられる。)による制裁もされ得るけれども、道路運送法には、独占禁止法上の課徴金に相当する制度は全く設けられていないし、同法ほどの刑罰(独占禁止法第89条第1項第1号、第2号によれば、3年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処せられる。)も用意されていない。また、協定が実効性確保のために様々な事実上の手段を伴っている場合にも、道路運送法には当然にそれを排除する方法の準備はない(協定においてそれに違反する事業者があったときは他の事業者が何らかの妨害行為を行うとの実効性確保手段が定められている場合を考えてみると、同法に基づく行政措置によってこのような実効性確保手段を排除し得るとは考えにくい。)。したがって、もし、道路運送法の適用により独占禁止法の適用が排除され、又は同法の関連条文の内容が規定、拘束されると解釈するならば、道路運送法上違法との評価を受けるべき認可運賃等の幅の上限を超えたということがまさしく根拠となって、認可運賃内で協定した場合には当然課され得る課徴金や刑罰が、常に適用を免れ、又は軽い刑罰しか受けないですむという結果を生じるし、実効性確保の手段を排除する方法が失われるということが起き得るが、他の要件等の検討すら許さずに、被審人に自らの違法を示して処分を免れることとなるこのような指摘を常に許すことが実質的に合理的であるとは思われない(認可運賃等の幅の下限をも下回る一定の額で運賃等の協定がされた場合にもほぼ同様なことがいい得る。)。
また、認可運賃等と異なる運賃等が協定されながら、まだ外部的に実施される以前に発覚した段階では、道路運送法第99条第1号違反の罪は成立し得ないであろうし、同法に基づく行政措置が発動されることも期待しにくい。道路運送法の適用が独占禁止法の適用を排除するとの見解では、このような場合にも独占禁止法による排除措置命令がされ得ないことは明らかであるが、その結論が妥当であるかは、疑問である。
さらに、認可運賃等の下限を下回る額で現実に運賃等の競争がされている場合でも個々の事業者の誰もがおよそ認可運賃等の変更を申し立てる可能性のないときを想定してみれば、認可申請を制限することを理由に同法第8条第1項第4号に該当する可能性も否定されるのであるから、前記の独占禁止法の適用排除説に立つ限り、取引の実態、主務官庁による規制の実態等の実情がどのようなものであるかを一切問わず、例外なく常に同法による規制がされ得ないこととなりかねない。後記のとおり、同法の適用を一応認めた上で、道路運送法の規定をも考慮した解釈が可能である以上、右の説がより実質的な相当性に富むともいいにくい。
ク しかも、前述のとおり、独占禁止法は、適用除外に関する第22条を置き、適用除外法が定められ、個々の事業法でも個別に明示して独占禁止法の除外規定が定められている。
事業法において独占禁止法の適用除外規定を設けることは、もとより立法府の裁量に属することであり、前述のとおり、道路運送法は第19条において事業者間の運輸協定に対し認可を受けてする正当な行為及び運輸大臣の事業改善命令によって行う正当な行為について独占禁止法の適用除外規定を設けている。ところが、道路運送法には運賃等に関する協定について独占禁止法の適用を除外する規定は設けられていない。
このような立法経過に照らしても、道路運送法によって明示的に適用除外された場合以外の場面であるにもかかわらず、同法が定める運賃等の認可制度が特別法として一般法である独占禁止法の排除措置命令の制度を排除し、又は当然に独占禁止法の定める競争秩序の内容を規定、拘束する、とまで解することは難しく、結局において前記の被審人の見解を採用することはできない。
なお、このようにいっても、同法の適用により競争制限行為が排除されて自由な競争が回復された結果生ずる場面で、改めて道路運送法に基づく事業者に対する規制の適用が否定されないことは当然であり、その規制の下で新たに自由な競争がされるべきこととなるのである。逆にこのことからも、独占禁止法と道路運送法とが矛盾低触しないことが裏付けられており、また、この解釈が何らの違法をも助長するものでないということができる。
(二) 道路運送法に基づく認可運賃等を下回る運賃等を定めた事業者団体による最低運賃等に関する協定に関して独占禁止法上の排除措置を命ずることの一般的可能性について
ア 前記(一)において詳述したとおり、道路運送法は運賃等を主務官庁の認可に係らせ、また、完全には自由な事業者間の競争を認めない条文を置いているが、そのことから無条件に当然に、独占禁止法の適用が排除され、又は同法上の排除措置命令に関連する規定の内容が規定、拘束されるものではなく、この排除措置命令の可否は、専ら同法の見地から判断すべきである。もっとも、本件において、そのことから直ちに、事業法である道路運送法上の認可運賃等を下回る内容の協定が常に独占禁止法上の排除措置命令の対象となるとの結論が導かれると断ずるのは、まだ早計というべきである。
なぜならば、独占禁止法上の排除措置命令の可否を専ら同法独自の見地から判断するとはいっても、主催旅行向け輸送に関する本件各決定は、道路運送法に基づく認可運賃等を下回る運賃等を定めており、各決定が制限しようとしている価格競争は同法上違法な取引条件に係るから、そのような競争でも常に独占禁止法第8条第1項第1号等に定められた「競争」の構成要件に該当するかどうか、したがって各決定行為が常に同条同号等所定の「競争を実質的に制限すること」という構成要件に当たるとして同法上の排除措置命令を採り得るときに該当するかどうかの問題は、依然として残らざるを得ないのであり、この問題に限定する限りは、同法の立法の趣旨、目的、殊に同法第1条に定められた目的規定にまで立ち返って解釈する必要性があるからである。
(もとより、経済法の基本法であるとの独占禁止法の性格を考慮すると、同法の適用範囲を不当に狭めるような解釈態度を採ることはできないし、また、このように意識的に同法の立法の趣旨、目的に立ち返って判断することが必要な場面が全く例外的であることは、明らかである。すなわち、最高裁判所昭和59年2月24日第2小法廷判決・刑集38巻4号1287頁は、行政指導に関連してではあるが、同法の趣旨、目的から、行政は価格形成にみだりに介入すべきではないとしつつ、価格に関する行政指導も、当該行為の必要性、手段、方法の相当性が肯定される場合において、なおかつ、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的に実質的に抵触しないときに厳格に限定して、一種の緊急措置として是認され、価格に関する事業者間の合意も、適法な行政指導に従い、これに協力して行われた場合に限り、違法性が失われ得ると判断している。このように、意識的に同法の立法の趣旨、目的に照らして判断することを要する場面は、当然極めて限定された場合に限られてくるということができる。しかし、特に限定された場合に限られるとはいっても、判例法によれば、独占禁止法の立法の趣旨、目的と対比して判断すべき場面が生じ得ることは否めず、本件のように違法な取引条件に係る競争が独占禁止法第8条第1項第1号等に定められた「競争」の構成要件に該当するかどうかの判断に限っては、同法の趣旨、殊に同法第1条の目的規定の趣旨を考えに入れる必要があることを否定することはできない。)
イ そこで、前記の立場に立ちつつ審判における証明の負担の観点をも考慮して、運賃等に限らず事業者又は事業者団体により価格協定がされた場合に独占禁止法による排除措置命令をすることができるかどうかを一般的に検討してみると、通常であれば「一定の取引分野における競争を実質的に制限」しているとされる外形的な事実が調っている限り、このような場合は、原則的に同法第3条(第2条第6項)又は第8条第1項第1号の構成要件に該当すると判断され、同法第7条又は第8条の2に基づく排除措置命令を受けるのを免れないのがあくまでも原則であると考えられる。
ウ もっとも、その価格協定が制限しようとしている競争が刑事法典、事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止されている違法な取引(典型的事例として阿片煙の取引の場合)又は違法な取引条件(例えば価格が法定の幅又は認可の幅を外れている場合)に係るものである場合に限っては、別の考慮をする必要があり、このような価格協定行為は、特段の事情のない限り、独占禁止法第2条第6項、第8条第1項第1号所定の「競争を実質的に制限すること」という構成要件に該当せず、したがって同法による排除措置命令を受ける対象とはならない、というべきである。
なぜならば、前記(一)において詳しく検討したとおり、同法による排除措置を命ずることができるかどうかは、専ら同法の見地から判断すべきであって、道路運送法の認可制度を定める規定により当然に判断の拘束を受けるものではないが、独占禁止法の直接及び究極の目的、すなわち、同法第1条に記載された、公正かつ自由な競争を促進し、もって、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進するという目的をも考慮してみると、これらの場合には、他の法律により当該取引又は当該取引条件による取引が禁止されているのであるから、独占禁止法所定の構成要件に該当するとして排除措置命令を講じて自由な競争をもたらしてみても、確保されるべき一般消費者の現実の利益がなく、また、国民経済の民主的で健全な発達の促進に資するところがなく、公正かつ自由な競争を促進することにならず、要するに同法の目的に沿わないこととなるのが通常の事態に属するといい得るため、特段の事情のない限り、その価格協定を取り上げて同法所定の「競争を実質的に制限する」ものに該当するとして同法による排除措置命令を受ける対象となるということができないからである。
なお、ここで価格協定が制限しようとしている競争が他の法律により刑事罰等をもって禁止されている違法な取引又は違法な取引条件に係るものであることの証明責任についても検討しておくと、これらの事実は通常の事態との関係では例外に属するから、審査官の主張自体から明らかでない限り、被審人の側からこれらの点を指摘する主張がなければ、これらの点をあえて審判において考慮する必要がない(その意味では、指摘ないし特定の負担が被審人の側にあるといってもよい。)と思われる。しかし、これらの事実は、告発を経て刑事訴訟事件となったときは、法律的に違法性阻却原因、処罰条件事由等と同様の意味をもち、真偽不明の場合検察官が客観的挙証責任を負うことになるのではないかと予想されることとの権衡から、いったん被審人からこれらの事実の指摘がされた場合(もとより審査官の主張自体から窺われる場合も同様である。)には、審査官が価格協定が制限しようとしている競争が法律により禁止されている違法な取引又は違法な取引条件に係るものでないことの最終的な証明責任を負担すると考えてよいと思われる。したがって、この点について真偽不明となったときは、審査官により後記エの事実が主張立証されない限り、独占禁止法所定の「競争を実質的に制限する」との構成要件該当事実の証明がないことに帰するから、排除措置を命ずることはできないと解すべきである。
(この関係で、認可運賃等を上回る額で運賃等の協定がされたときは、特段の事情の主張立証がない限り、その協定は、認可運賃等による競争をも制限しようとしていると認めるほかはないから、その協定が制限しようとしている競争は冒頭に記載した違法な取引条件に係るものには該当しないというべきである。
これに対し、認可運賃等が確定額により定められている場合においてその確定額で価格協定がされたとき又は認可運賃等が最高額及び最低額により定められている場合においてその最低額で価格協定がされたときは、通常の事例においては特別の立証を要しないで、その価格協定が制限しようとしている競争は、その確定額又は最低額より低い額での競争であって専ら違法な取引条件に係ることが事実上推定される、といって差し支えないと思われる。)
エ 以上のようにいうことができる反面、全く同じ理由に基づき、価格協定が制限しようとしている競争が事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止された取引条件に係る場合であっても、当該価格協定に対して独占禁止法上の排除措置を命ずることが、同法の直接及び究極の目的、すなわち同法第1条に記載された、公正かつ自由な競争を促進し、もって、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する、という目的から首肯され得る、特段の事情のあるときは、このような価格協定行為が同法第2条第6項、第8条第1項第1号の構成要件に該当するということを妨げる理由はないのであるから、同法の見地に立って排除措置を命ずることができる、と判断される。
このように、事業法等により禁止された取引条件に係る競争を制限しようとする価格協定も、特段の事情のあるときには独占禁止法所定の構成要件に該当するものとして排除措置命令の対象となり得る場合があるとの判断は、繰り返しになるが、前記(一)において詳述したとおり、同法による排除措置を命ずることができるかどうかは専ら同法の見地から判定すべきであることに根ざしている。
そして、前記の特段の事情のある場合の典型的な例として、当該取引条件を禁止している法律が確定した司法部における判断等により法規範性を喪失しているときを掲げることができる。
その外に、本件での被審人、審査官双方の主張に即して、右の特段の事情のある場合の例を挙げれば、i.事業法等他の法律の禁止規定の存在にもかかわらず、これと乖離する実勢価格による取引、競争が継続して平穏公然として行われており(以下この点を「(二)エのi.の点」という。)、かつ、ii.その実勢価格による競争の実態が、公正かつ自由な競争を促進し、もって、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する、という独占禁止法の目的の観点から、その競争を制限しようとする協定に対し同法上の排除措置を命ずることを容認し得る程度までに肯定的に評価される(以下この点を「(二)エのii.の点」という。)ときを挙げることができる(なお、ここでは、前述のとおり、専ら独占禁止法に基づく排除措置命令の可否の判断をする前提として同法の前記の特定の構成要件を解釈するに当たって、競争の実態が同法の目的から肯定的に評価されるかどうかを問題としているにすぎないから、このことが肯認された場合であっても、事業法等による認可制度の運用の当否が問題とされるものではなく、まして認可制度による禁止の効力等は全く影響を受けないことは、当然である。また、ある事業が事業法により主務官庁の規制下に置かれている場合において、その事業法上の警察目的による禁止規定に反してされた契約が私法上効力を否定されず、したがって、主務官庁以外の他の行政庁はその契約の効力を無視できないときがあり得ることと対比すれば、国家行政組織法第2条第2項を根拠に当然に本文のような判断を排除することは無理というべきである。)。このような場合には、排除措置命令により価格協定を排除すれば、かえって、公正かつ自由な競争を促進し、もって、一般消費者の利益を確保し、国民経済の民主的で健全な発達の促進に資することになるからである。
(三) 主催旅行向け輸送に係る本件各決定に関して独占禁止法上の排除措置を命ずることの可否について
ア 前記第一の三における認定事実によれば、平成元年度分について別紙1ないし30とおり決定、変更がされ、平成2年度分について別紙5のとおり決定されて、主催旅行向け輸送の運賃等については、被審人により最低運賃等に関する決定がされたことは、否定することができない。
イ そして、査第71号証及び前記第一の一(三)の事実と対比してみると、これらの決定に係る主催旅行向け輸送についての運賃等は、すべて運輸大臣により認可された最低額より低い金額であることが認められ、これらの決定により制限が図られている競争は、元々道路運送法上禁止された取引条件に係るものであることが明らかである。
したがって、前記(二)ウにおいて検討したとおり、主催旅行向け輸送に関するこれらの決定は、特段の事情のない限り、独占禁止法違反行為として同法による排除措置命令を受ける対象とはならないので、進んで、前記(二)エの検討に従って、右の特段の事情の有無について判断する。
ウ 道路運送法による認可運賃等の制度が法規範性を失っていることを窺わせる証拠はないので、まず、前記(二)エのi.の点を見てみると、前記第一の二における認定のとおり、大阪府の貸切バス市場においては、かねてから主催旅行向け輸送を中心として認可運賃等を大幅に下回る取引が大規模かつ経常的に行われており、しかも、そのことは会員貸切バス事業者のほぼ全体を通じていたことが明らかであり、認可運賃等から乖離してそれを下回る実勢価格による取引、競争が継続して平穏公然として行われていたことを認めることができる。
エ 次いで、前記(二)エのii.の点について検討すべきこととなるが、この点についても、前記(一)及び(二)において詳述したとおり、道路運送法を主管する主務官庁の立場ではなく、あくまでも独占禁止法適用のため同法固有の見地から評価すべきである。
もっとも、前記イ及び前記(二)ウにおいて述べたとおり、元来道路運送法により認可運賃等以外の運賃等による取引が違法とされているからこそ排除措置命令の適用除外が考慮されるのであるから、同法の適用関係、殊にその適用の実態が重要な判断資料となり、中でも同法の運用を主管する主務官庁による同法の現実の運用状況が判断に当たり極めて重要な役割を果たすことは否定することができない。
そして、同法は、認可運賃等と異なる運賃等が実際に行われたときは当然に主務官庁の手によりそれに対する法律的な効果を伴う措置が採られることを予定しているのであるから、そのような実勢運賃等による取引が平穏公然としてしかも継続的に行われながら主務官庁により法律的に効果のある措置が相当期間にわたり全く講じられていない場合には、特別の理由が見当たらない限り、認可運賃等と乖離した実勢運賃等も、現実の事業法に基づく取引秩序の下で法的に直ちに排除すべきものとして取り扱われていない運用の実情が示されているというべきであり、しかも、その場合において法律的措置が講じられていないことにそれなりの合理的な理由があると認められるならば、その実勢運賃等による競争の実態は、特段の事情のない限り、公正かつ自由な競争を促進し、もって、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進するという独占禁止法の目的の観点から、同法上の排除措置命令の採用を容認する程度までには肯定的に評価される、といって十分差し支えないと考えられる。
本件において、証拠(審第1ないし第5号証、第28号証、第35号証、第37号証、参考人湯峰弘(第1回)、同澤秀司、同加古熙)によれば、主務官庁は、本件各決定の前後を通じて違反を繰り返す会員貸切バス事業者に対して一応の警告書を送付し、被審人に対して監査結果を通知して周知徹底を求める文書を送付していたことが認められるが、これら証拠上明らかな主務官庁の対応は法律的には何らの効果も生じ得ない行政指導の範囲内であることが明らかである。
ここで、もし、仮に、主務官庁が、本件各決定のころまで長期にわたり右の行政指導を超えて道路運送法に基づく事業改善命令、事業の停止命令若しくは免許取消し等の行政処分をする権限又は刑事告発をする権限など、主務官庁が行政庁として有する法律上の効果をもたらす権限を行使したことが全くなかった、との事実が認定できたと仮定すれば、主務官庁も、認可運賃等と乖離した実勢価格による取引、競争が継続して平穏公然として行われていることに対し裁量権の発動を極めて消極的に止めた、という評価をし得ることとなる。その場合、裁量措置発動の制度に特に困難な問題が潜んでいるなどの特別の理由がない限り、専門的行政機関として所掌事務をつかさどるために設置され、広く法律的に効果をもたらす権限を付与されている主務官庁が、裁量によりあえてその権限の発動をこのように消極的に止めていること自体から、法律的措置が講じられていないことが主務官庁としての立場において当然に何らかの合理的理由に基づくと推定できる蓋然性が相当高くなる(例えば、同法は、前記のとおり、第9条第2項各号所定の運賃等の認可基準を要求しており、同法の立法目的によればそれなりの根拠があったと思われる。しかしながら、他方、本件では証拠(参考人湯峰弘(第2回)、同加古熙)によれば、会員貸切バス事業者の貸切バス事業の対象中には、運賃等の額が低いときは顕著に顧客の最終需要が多くなり、逆に運賃等の額が高いときは明らかに需要が少なくなって、価格弾力性が顕著なものが存在することが認定できそうであり、そうであれば、そのようなものについて同法第9条第2項各号の観点を満たす認可運賃等を杓子定規に厳格に遵守するときは、かえって顧客の絶対数の大幅な低下を招き、売上総額を顕著に減少させる結果を招来し、結果的には貸切りバス業者による事業運営を妨げる効果をもたらしかねないことを推測することができ、主務官庁がこのような点と実勢運賃等が認可運賃等より低いことにより旅客の利益が害されることはほとんどない点などを総合して配慮しているとの憶測が成り立つ余地が生ずる。とはいえ、公正取引委員会は、同法の運用の主務官庁ではないから、原則的にこのようた点に具体的に立ち入って云々するまでもない。)。したがって、認可運賃等と乖離した実勢価格による取引、競争が継続して平穏公然として行われていることについて、主務官庁もそれを知悉しながら裁量権の発動を極めて消極的に止めており、かつ、そのことには当然合理的な理由があったと認定すべき蓋然性が高いということになる。
しかしながら、本件全証拠によっても、主務官庁が本件各決定のころまでに会員貸切バス事業者に対し行政指導の域を超えて道路運送法に基づく事業改善命令、事業の停止命令若しくは免許取消し等の行政処分をする権限又は刑事告発をする権限など、行政庁として法律上の効果をもたらす権限を行使したことが全くないとの事実を確定するには足りない(本件各決定当時の主務官庁の担当者を調査することによりその事実の有無は容易に判明し得るし、またそれが最良の証拠であると考えられるが、本件において審査官からその関係の証拠申出は全くない。)。
そして、審判開始決定から既に約4年半を経過しており、いったん審判手続を終結し、被審人の行為は独占禁止法第8条第1項第1号には該当しないが、同法第8条第1項第4号には該当するとの審決案が出され、被審人から直接陳述がされた後に、審判手続の再開が命令され、かつ、同法第8条第1項第4号の点について審判開始決定が追加されて審理が尽くされ再度審判手続が終結されたという、本件審判事件特有の審理経過と、被審人が既に本件各決定を全部破棄して構成事業者に周知徹底している事実とを考慮すると、現時点で再度審判を再開して右の点について更に新たに審査官に立証を促し、被審人に反証を促すことが審判指揮の在り方として相当であるとは考えられない。
このような特質のある本件においては、右の点について審査官の立証が不足しているというほかはないから、結局、主催旅行向け輸送に関する本件各決定について前記(二)エのii.の要件が充足されているというには、証明が足りず、他に前記(二)エ冒頭記載の特段の事情のあることについては主張立証がない。
オ そうすると、主催旅行向け輸送に関する本件各決定が制限しようとしている競争は道路運送法により禁止されている違法な取引条件に係るものであることが肯定される一方で、本件各決定に対して独占禁止法上の排除措置を命ずることが同法第1条記載の目的から首肯できる特段の事情のある場合に当たることの証明がないのであるから、被審人による本件各決定の行為は、独占禁止法第8条第1項第1号の構成要件に該当しない、というべきである。
(なお、以上によれば、主催旅行向け輸送に関する本件各決定が構成事業者の自由な運賃等の設定を拘束するものとして同法第8条第1項第4号の構成要件に該当する可能性も、排除される。)
二 主催旅行向け輸送に関する本件各決定が構成事業者による運賃等の認可申請を制限するものとして独占禁止法第8条第1項第4号に該当するかどうかについて
(一) 審査官は、仮に本件各決定が独占禁止法第8条第1項第1号に該当しないとしても、構成事業者が運賃等の改定の認可申請をして改定運賃等で競争することを制限することによりその機能又は活動を不当に制限するものとして、同法第8条第1項第4号に該当する、と主張しているので、次に、この点について検討する。
(二) 道路運送法が採用している認可運賃制度の下では、前述のとおり、事業者は、運賃等を定め又は変更しようとするときは、運輸大臣に対し認可申請をすることが義務付けられている(同法第9条第1項)のであるから、事業者団体により運賃等の協定を内容とする決定がされたときは、特段の事情のない限り、通常、事業者が協定と異なる運賃等による認可申請を止めさせる趣旨を含むと解されるから、その協定に係る運賃等以外による認可申請をも制限するものと事実上推定して差し支えないということができる。
もっとも、通常の事業者であればまず当該運賃等の変更の申請行為をしないであろうと認めるべき特段の事情があれば、協定がこれと異なる運賃等による認可申請を止めさせる趣旨まで含むとはいえないから、右の推定も破れるというべきである。
(三) そこで、本件において前記(二)の特段の事情があるかを検討してみる。
証拠(査第74号証、審第63号証、第65ないし第67号証、第69、第70号証、参考人加古熙、同湯峰弘(第1回、第2回))に前記第一における認定事実と審判の全趣旨を総合すれば、会員貸切バス事業者の営む貸切バス事業において、いわゆる大手旅行業者との取引の占める割合が高かったところ、その中には、主催旅行を典型とする認可運賃等を下回る常況にあるものの外に、特定の旅行を計画している顧客からの注文を旅行業者が会員貸切バス事業者に手配する形態のいわゆる手配旅行と呼ばれるものが相当大きな程度の比率で含まれていた(もっとも、本件全証拠によっても、この手配旅行の中にどのような具体的類型の旅行を含めることができるのかを正確に確定することはできない。)こと、この手配旅行においては認可運賃等がほぼ遵守されていたため、会員貸切バス事業者がその関係でのみ認可運賃等の値下げ申請をする意思を抱くことは全く考えられない状態にあり、また、手配旅行にまで効果の及ぶ全旅行を通じた認可運賃等の一括値下げの認可申請をすることもあり得なかったこと、貸切バスの運賃等については、「一般貸切旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準ならびに運賃及び料金に関する制度等について」と題する運輸省自動車局長から陸運局長、沖縄総合事務局長あて通達(昭和47年10月21日自旅第378号、最近改正平成元年12月27日)があり、その中に運賃改定を検討する場合として「陸運局長が同一運賃を適用する事業区域として定めた地域(運賃適用地域)を単位とする。」(同通達別紙(1)の1)との基準が定められ、しかも標準的経営を行っている事業者を基準(同2)に選定して、いわゆる同一地域同一運賃の方針が採用されていること、同通達において運賃の種類として時間制運賃、粁制運賃及び行先別運賃の3種類のみが認められている(同通達別紙(2)の1(1))こと、また、同通達では原価計算対象事業者を選定して原価計算期間の原価対象部門に係る運賃原価を原価要素の分類に従って算定すべきこととされ、原価算定期間は、実績年度(最近の実績年度1年間)、翌年度(実績年度の翌年度1年間)、平年度(実績年度の翌々年度1年間)の3年度単位で算出することとされている(同通達別紙(3)の第1ないし第3)ので、実績年度及びその翌年度の原価計算をして3年目の原価を推定するためには運賃等の改定後2年間以上の期間を経過しなければ基準を満たす申請書類を作成することができないこと、会員貸切バス事業者に対しては、昭和63年5月24日に運賃等の変更が認可され、同年6月ころからその変更が実施されたばかりであり、現実にその後平成3年5月から6月にかけて新たに運賃等の変更の認可申請をするまで、運賃等変更の認可申請をした会員貸切バス事業者はないこと、タクシー事業については平成5年10月4日に「タクシー事業に係わる今後の行政方針について」と題する通達(運輸省自動車交通局)が発せられ、運賃等を事業者ごとに判定し、多様化した運賃等を認可する方針が採用されたこと、しかし、貸切バスの運賃等については、その後も主務官庁により同一地域同一運賃の原則が維持されていること、貸切バス事業者は、これらの通達の下で、貸切バスの主催旅行等に限定した運賃等の値下げの認可申請をしても主務官庁から認可を得られる見込みは全くないと認識していたこと、本件各決定に至るまでにも現実にこのような認可申請をした貸切バス事業者はなかったことが認められる。
この認定事実によれば、会員貸切バス事業者の営む貸切バスの取引には、認可運賃等を大幅に下回る運賃等が収受される常況にある主催旅行等と認可運賃等がほぼ収受されている手配旅行とがあったが、時間制運賃、粁制運賃及び行先別運賃の3種類の運賃のいずれについても会員貸切バス事業者が手配旅行にまで影響が生ずる運賃等の一括値下げの認可申請をすることはあり得なかったこと、主務官庁が同一地域同一運賃の方針、3種類の運賃以外に運賃種類を認めたい方針を固く維持しており、また、運賃原価算定の技術的理由に基づき前回の運賃等変更から一定期間が経過するまで運賃等変更の認可申請書類を作成することができない制度にあったのに、本件各決定当時その期間がまだかなり残っていたことから、本件各決定当時、主催旅行等のみについて運賃等の値下げの認可申請をしてみても認可を得る現実的可能性は全くなく、したがって、通常の貸切バス事業者であれば、本件各決定当時手配旅行を通じた全旅行についてはもちろん、主催旅行のみについて本件各決定に係るように当該運賃等の値下げ申請行為をすることもまずあり得なかったということができる。そして、前記第一における認定事実及び参考人加古熙、同湯峰弘(第2回)の各供述に表れた本件各決定のされた経緯、本件各決定の内容、本件取引分野の特色等を総合すれば、このことは、本件における特質として、本件各決定当時に限らず将来にわたっても十分いい得ることであると認められる。
そうすると、本件においては、通常の事業者であれば将来にわたり当該運賃等の変更の認可申請行為をしなかったというべき特段の事情があったと認めることができ、前記(二)記載の推定は破れるというほかはなく、他に被審人が本件各決定により主催旅行について協定運賃等以外による認可申請を制限したことを認めるに足りる証拠はない。
もっとも、証拠(査第72、第73号証、参考人加古熙)によれば、乗合バス及びハイヤーについては、主務官庁から運賃割引制度、運賃制度の多様化を内容とする通達が出されていることが認められるし、右の認定どおり、タクシー事業において多様化した運賃等を認可する方針が採用されるに至ってもいる。また、司法部により同一地域同一運賃の原則が合理的な根拠をもたないとの趣旨の判決が出されている(大阪地方裁判所昭和60年1月31日判決・判時1143号46頁)ことは公知でもある。けれども、ここで問題となるのは、客観的に主催旅行について運賃等の値下げ申請が認められるべきかどうかの点ではなく、事業者団体である被審人が構成事業者の申請行為を制限したと認め得るかどうかの判断に結びつく会員貸切バス事業者が本件各決定の時点で将来にわたり主催旅行に関して運賃等の値下げの認可申請をする見込みがあったかどうかの点であるから、右のようにいうことを何ら妨げない。
(四) したがって、主催旅行向け輸送に関する本件各決定は、構成事業者による運賃等の認可申請を制限するものであることを理由として独占禁止法第8条第1項第4号に該当することもない、というべきである。
三 学校遠足向け輸送並びに社会見学及び冬山耐寒登山向け輸送に関する決定が独占禁止法第8条第1項第1号又は第4号に該当するかどうかについて
(一) 査第71号証と前記一の一(三)、三(四)ないし(六)における認定事実によれば、次のとおりであって、前記認定の別紙4及び別紙6に係る平成元年度の春季及び秋季の学校遠足向け輸送の運賃等についての各決定は、別紙目録記載の限度で、いずれも認可運賃等の上限以下でかつ下限を上回る運賃等を協定したことが認められるが、右の各決定のうち別紙目録記載に係るもの以外並びに平成元年度冬季の社会見学及び冬山耐寒登山向け輸送の運賃等に関する各決定について認可運賃等の下限を上回っていると認めるには足りない。
すなわち、査第71号証に示された昭和63年5月24日付け近畿運輸局長認可に係る認可運賃等の基準(以下単に「基準」という。)によれば、別紙4の1及び別紙6に記載された運送のうち、出発地ゾーンを大阪北部とする学校遠足向け輸送では、目的地ゾーンを京都(ただし、主な観光地を三千院、鞍馬、貴船、高雄、嵐山、城南宮、宇治とするもの。以下「京都甲ゾーン」という。)とする場合、認可運賃及び料金の額は10万3000円であるが、上下幅15パーセントの範囲内が許され、更に学校教育法による学校に通学する者の団体として2割引を受け得るから、結局その68パーセント(0.85×0.8)である7万0040円を基準に基づき端数処理した7万円が基準の下限額であり、一方上限額は、10万3000円に0.92(1.15×0.8)を乗じた9万4760円に所定の端数処理をした9万5000円であるということができる。
ところが、別紙4のxix.の注記によれば、春季学校遠足向けのものでは、行先を府下近郊の京都、奈良、須磨等とされた大型車1両当たりの協定運賃等は、月曜日は5000円割引、幼稚園を対象とする場合は5000円ないし1万円割引の扱いを受けるから、高等学校、中学校、小学校を対象とする場合は、Aシーズンでは、月曜日は8万円、それ以外の曜日では8万5000円となり、Bシーズンでは、月曜日は7万円、それ以外の曜日では7万5000円となり、Cシーズンでは、月曜日は6万円、それ以外の曜日では6万5000円となり、幼稚園を対象とする場合の下限は、Aシーズンでは、月曜日は7万円、それ以外の曜日では7万5000円となり、Bシーズンでは、月曜日は6万円、それ以外の曜日では6万5000円となり、Cシーズンでは、月曜日は5万円、それ以外の曜日では5万5000円となる。また、別紙6の注記によれば、秋季の学校遠足向けのものでは、協定運賃等は、月曜日は5000円割引、幼稚園及び小学校を対象とする場合は1万円割引の扱いを受けるから、高等学校、中学校を対象とする場合は、Aシーズンでは月曜日は8万円、それ以外の曜日では8万5000円となり、Bシーズンでは、月曜日は7万円、それ以外の曜日では7万5000円となり、Cシーズンでは、月曜日は6万円、それ以外の曜日では6万5000円となり、幼稚園及び小学校を対象とする場合は、Aシーズンでは、月曜日は7万円、それ以外の曜日では7万5000円となり、Bシーズンでは、月曜日は6万円、それ以外の曜日では6万5000円となり、Cシーズンでは、月曜日は5万円、それ以外の曜日では5万5000円となる。
したがって、協定運賃等は、高等学校、中学校及び小学校(ただし、小学校については春季に限る。)を対象とする場合はAシーズン及び月曜日を除くBシーズンにおいて、小学校及び幼稚園を対象とする場合(ただし、小学校については秋季に限る。)は月曜日を除くAシーズンにおいて、それぞれ基準の上限額以下で、かつ、基準の下限額を上回っていることが明らかである。
そして、基準によれば、同じ出発地ゾーンで目的地ゾーンを京都(ただし、主な観光地を嵐山、金閣寺、銀閣寺、二条城、清水寺、三千院、桃山城、平等院とするもの。以下「京都乙ゾーン」という。)とする場合、認可運賃の額は7万2600円、料金は3万3000円であるから、運賃の額の68パーセントに料金額を加え、端数処理した8万2000円が基準の下限額で、運賃額の92パーセントに料金額を加え、端数処理した10万円が上限額である。したがって、協定運賃等は、高等学校、中学校及び小学校(ただし、小学校については春季に限る。)を対象とする場合、月曜日を除くAシーズンにおいて、それぞれ基準の上限額以下で、かつ、基準の下限額を上回っている。
同じように、基準によれば、同じ出発地ゾーンで目的地ゾーンを奈良とする場合、認可運賃の額は7万2600円、料金は3万3000円であるから、運賃の額の68パーセントに料金額を加え、端数処理した8万2000円が基準の下限額であり、同様にして10万円が上限額となる。したがって、協定運賃等は、高等学校、中学校及び小学校(ただし、小学校については春季に限る。)を対象とする場合、月曜日を除くAシーズンにおいて、基準の上限額以下で、かつ、基準の下限額を上回っているということができる。
基準によれば、同じ出発地ゾーンで目的地ゾーンを須磨とする場合、認可運賃及び料金の額は10万3000円であるから、前同様に計算した7万円が基準の下限額で、9万5000円が上限額である。したがって、協定運賃等は、高等学校、中学校及び小学校(ただし、小学校については春季に限る。)を対象とする場合はAシーズン及び月曜日を除くBシーズンにおいて、小学校及び幼稚園を対象とする場合(ただし、小学校については秋季に限る。)は、月曜日を除くAシーズンにおいて、それぞれ基準の上限額以下で、かつ、基準の下限額を上回っている。
基準によれば、同じ出発地ゾーンで目的地ゾーンを彦根とする場合、認可運賃の額は12万9800円、料金は2万2000円であるから、運賃の額の68パーセントに料金額を加え、端数処理した11万円が基準の下限額であり、協定運賃等が基準の下限額を上回ることはなく、全く同様に、目的地ゾーンを姫路とする場合、認可運賃の額は10万7800円、料金は2万7500円であるから、運賃の額の68パーセントに料金額を加え、端数処理した10万1000円が基準の下限額であり、協定運賃等が基準の下限額を上回ることはない。同じ出発地ゾーンで目的地ゾーンを希望ケ丘とする場合については、本件全証拠によっても認可運賃等の額が明らかでなく、協定運賃等が基準の下限額を上回る事実を認めることはできない。
基準に基づき、出発地ゾーンを大阪中部、大阪南部とするものについて、全く同様の計算を施し、別紙4の1及び別紙6の各注記に基づいて計算した学校の種別、各シーズン別の協定運賃と対比してみる。すると、出発地ゾーンを大阪中部で目的地ゾーンを奈良とする場合、認可運賃の額は6万3800円、料金は3万3000円であるから、運賃の額の68パーセントに料金額を加え、端数処理した7万6000円が基準の下限額である(上限額は9万2000円)。したがって、協定運賃等は、高等学校、中学校及び小学校(ただし、小学校については春季に限る。)を対象とする場合、Aシーズンにおいて、基準の上限額以下で、かつ、基準の下限額を上回っていることが明らかである。同じ出発地ゾーンで目的地ゾーンを須磨とする場合、認可運賃及び料金の額は10万3000円であるから、その額の68パーセントを端数処理した7万円が基準の下限額である(上限額は9万5000円)。したがって、協定運賃等は、高等学校、中学校及び小学校(ただし、小学校については春季に限る。)を対象とする場合はAシーズン及び月曜日を除くBシーズンにおいて、小学校及び幼稚園を対象とする場合(ただし、小学校については秋季に限る。)は、月曜日を除くAシーズンにおいて、それぞれ基準の上限額以下で、かつ、基準の下限額を上回っていることが認められる。出発地ゾーンを大阪南部で目的地ゾーンを須磨とする場合、認可運賃及び料金の額は11万3300円であるから、その額の68パーセントを端数処理した7万7000円が基準の下限額である(上限額は10万4000円)。したがって、協定運賃等は、高等学校、中学校及び小学校(ただし、小学校については春季に限る。)を対象とする場合はAシーズンにおいて基準の下限額を上回っていることが認められる。しかしながら、出発地ゾーンを大阪中部及び大阪南部とするものではこれら以外については、同様の計算をして基準の下限額を上回っていると認めることができない。
また、基準と別紙4とを対比すれば、平成元年度春季の学校遠足向け輸送のうちxix.xix.の目的地を神鍋、鉢伏とするものの協定価格は、基準の下限額を下回っていることが認められ、さらに、本件全証拠によっても、平成元年度冬季の社会見学及び冬山耐寒登山向け輸送について本件各決定に係る協定運賃等が基準の下限額を上回る事実を認めるに足りない。
(二) ところで、道路運送法による認可制度の下で認可運賃等一定の幅がある場合において、事業者団体によりその上限額以下でかつ下限額を上回った運賃等に関する協定がされたときは、前記一(一)キにおいても触れたとおり、独占禁止法所定の構成要件に該当するとして同法上の排除措置を命令するのに何らの妨げもないと解すべきである。
(三) もっとも、別紙目録記載の限度における学校遠足向け輸送の取引に関しては、本件全証拠によっても、果たしてこの範囲のものが一定の取引分野を形成していたかどうかを確定するには足りない。また、貸切バス事業者は、発地及び着地のいずれもがその事業区域外に存する旅客の運送をすることは許されない(道路運送法第20条)が、証拠(参考人湯峰弘(第1回・第2回)、同澤秀司)によれば、発地又着地のいずれか一方を自らの事業区域内とする限りは輸送が許されることから、現実に発地のみを大阪府内とする貸切バスの運送事業に他の事業区域の貸切バス業者がかなり食い込んでいることが認められる。ところが、本件全証拠によっても、別紙目録記載の限度における学校遠足向け輸送の取引実績において会員貸切バス事業者がどの程度の比率を占めていたかを明らかにすることができない。したがって、別紙目録記載の限度における平成元年度の春季及び秋季の学校向け遠足向け輸送の運賃等に関する本件各決定(以下「別紙目録の限度における各決定」という。)により別紙目録記載のものについて一定の取引分野における競争が実質的に制限されたということは無理である。
これに対し、前記(一)及び第一の認定事実によれば、被審人が別紙目録の限度における各決定により、その限度で会員貸切バス事業者が認可運賃等の範囲内で自由に運賃等を設定するのを拘束し、会員貸切バス事業者の機能又は活動を不当に制限したことは、容易に肯定することができる。
(四) したがって、別紙目録の限度における各決定は、独占禁止法第8条第1項第1号に該当するとはいえないけれども、同項第4号に該当するものとして、排除措置命令を受け得るというべきである。
もっとも、被審人は、被審人によりされた本件各決定の一部に認可運賃等の幅の範囲内に入るような額のものがあるとしても、その部分だけが本件審判開始決定において違法とされているわけではないし、また、審判において争点となってもいないから、この一部のみを取り出すことは審判開始決定において主張されていない事実を判断することになり許されない、と主張する。しかし、本件審判開始決定が別紙目録の限度における各決定を完全に包含する本件各決定を審判の対象としていることは明らかであり、審判の全趣旨によれば、審判手続において、被審人は、積極的に認可運賃等を下回る額の運賃等があり得ることを前提とする主張をし、その幅のうちに含まれない部分があることも当然予期し、その部分についても主張立証をする機会があり、他方、審査官は、準備書面(平成6年1月12日付け準備書面)において認可運賃等の下限額を上回っている範囲のみが独立して独占禁止法違反事実に該当するとの主張をして争点として取り上げていることが認められるから、被審人の防禦の機会が不当に奪われたとの非難も当たらず、被審人のこの主張は採用することができない。
また、被審人は、認可運賃等を収受できないためにこれに対する対策を講じている過程においてたまたまごく一部に認可運賃等の幅の範囲内に入るような運賃等の額が含まれていたとしても、現実に認可運賃等の最下限を上回る運賃等を収受できる可能性はないし、独占禁止法違反として問責すべきほどの違法性もない、と主張する。しかしながら、前記第一の四の事実、殊に会員貸切バス事業者が本件各決定に基づき旅行業者と交渉し、各決定に係る運賃等を収受するための努力をしていた事実と対比すれば、現実に別紙目録記載の限度では認可運賃等の最下限を上回る運賃等を収受できる可能性はあったというべきであるし、独占禁止法違反としての違法性が欠けるといえないことも明らかであり、この主張は理由がない。
さらに、被審人は、本件各決定は、昭和63年5月24日認可された運賃制度の下で平成元年度、平成2年度の運賃等についてされた限時的なもので、平成3年8月に値上げを内容とする新たな運賃等が認可され、また、年度、社会状況も既に異なっているから、過去のものとして現在では意味がない、とも主張する。しかし、前述してきたとおり、別紙目録の限度における各決定をすることにより、被審人が会員貸切バス事業者の機能又は活動を不当に制限したことを肯定することができるところ、会員貸切バス事業者の事業は年度等が改まっても継続的に維持されるため、年度等が変わり、新たな運賃等が認可されたからといって、いったん制限された事業者の機能又は活動が当然に復旧されるものではないことは明らかであるから、それらのことによって採るべき排除措置命令の必要性又は内容に多少の影響があり得るかどうかはともかくとして、被審人のこの主張は失当というほかはない。
(なお、被審人は、当初の審判開始決定には独占禁止法第8条第1項第4号は記載されていないし、また、新たに審判開始決定により同号を追加したときは、違反行為の終了から既に1年間の除斥期間を経過していた、との趣旨の主張をしている。この主張は、必ずしも直接に、別紙目録の限度における各決定により被審人が会員貸切バス事業者の機能又は活動を不当に制限したことに係わる主張ではないが、念のためこの点についても触れておく。
平成3年1月7日付けの当初の本件審判開始決定書を精査してみると、本件審判開始決定は、事実の欄に、被審人が本件各決定をしたことを掲げ、法令の適用の欄に、被審人は会員貸切バス事業者の主催旅行向け輸送等各旅行向け輸送の貸切バスの運賃等を決定することにより大阪府における主催旅行向け、社会見学、冬山耐寒登山向け及び学校遠足向けの各輸送のそれぞれの取引分野における競争を実質的に制限したことを掲げているのであるから、被審人が別紙目録の限度における各決定によりその限度で会員貸切バス事業者が認可運賃等の範囲内で自由に運賃等を設定するのを拘束して会員貸切バス事業者の機能又は活動を不当に制限したことは、完全に本件審判開始決定の対象に包含されているというべきである。そうすると、別紙目録の限度における各決定を認定した上で、独占禁止法第8条第1項第1号には該当しないけれども同項第4号に該当すると判断しても、何ら審判開始決定の対象でない事実について判断を加えたことにはならないし、また、被審人の防禦権の行使を妨げたことにもならず、したがって、既に除斥期間の到来した事実について判断を加えたことにもならないというべきである。)
(五) これに対し、前記認定の別紙4及び別紙6に係る平成元年度の春季及び秋季の学校遠足向け輸送の運賃等に関する各決定のうち別紙目録の限度における各決定を除いたもの並びに平成元年度冬季の社会見学及び冬山耐寒登山向け輸送の運賃等についての各決定(以下これらを併せて「別紙目録以外の学校遠足向け輸送等に係る各決定」という。)については、前記(一)のとおり、協定運賃等が認可運賃等の下限額を上回る事実を認めるには足りない。
そして、本件全証拠によっても、これらの各輸送がそれぞれ一定の取引分野を形成していたかどうか、また、これらの各輸送の取引実績において会員貸切バス事業者がどの程度の比率を占めていたかどうかを確定することはできない。
したがって、別紙目録以外の学校遠足向け輸送等に係る各決定に関しては、一定の取引分野における競争を実質的に制限したというには足りないから、独占禁止法第8条第1項第1号の構成要件に該当する可能性は否定される。
(六) そこで、別紙目録以外の学校遠足向け輸送等に係る各決定が同法第8条第1項第4号の構成要件に該当するかどうかについて、前記一(二)イないしエにおけるのと同様の検討をしてみる。
まず、運賃等の設定を拘束したとの観点から考えてみると、別紙目録以外の学校遠足向け輸送等に係る各決定は、会員貸切バス事業者が自由に運賃等を設定するのを拘束する価格協定をしているのであるから、前記一(二)イにおいて前述したのと全く同様に、原則に従って一応会員貸切バス事業者の機能又は活動を制限したということができる。
しかしながら、この協定運賃等が認可運賃等の下限額を上回っていることは認められず、協定が制限しようとしている競争が違法な取引条件に係るものでないことは証明されていない(なお、別紙目録以外の学校遠足向け輸送等に係る各決定中には、認可運賃等の最低額そのものの部分があるが、前にも述べたとおり、その部分が制限しようとしている競争はその最低額より低い額での競争であって違法な取引条件に係ると推定されるから、この部分についても右のとおりいうのに妨げはない。)から、前記一(二)ウにおいて検討したのと全く同様の理由から、同法第1条の目的に照らして、特段の事情のない限り、同法第8条第1項第4号の構成要件には該当しないといわざるを得ない。
そこで、進んでその特段の事情の存在について前記一(二)エにおいて前述した観点から判断してみると、前記(二)エのi.の点は、前記一(三)ウと同様に一応肯定することができるけれども、前記(二)エのii.の点については、前記一(三)において詳述したとの全く同様の理由により、結局において本件ではその要件が充足されていると認めるには足りず、他に前記一(二)エ冒頭記載の特段の事情のあることについては主張立証がない。
このように、特段の事情が認められない以上、別紙目録以外の学校遠足向け輸送等に係る各決定は、会員貸切バス事業者が自由に運賃等を設定するのを拘束する価格協定をしたとの観点からは、同法第8条第1項第4号の構成要件にも該当しないというほかはない。
続いて、協定に係る運賃等以外による認可申請を制限したとの観点からも、別紙目録以外の学校遠足向け輸送等に係る各決定は、前記二において詳細に検討したとおりであって、同法第8条第1項第4号の構成要件に該当しないというべきである。
第五 法令の適用
前記第一の一(一)及び(二)の事実によれば、被審人は、独占禁止法第2条第2項にいう事業者団体に該当するということができ、前記第四における検討の結果の下で前記第一の三(四)及び(五)イの事実をみると、被審人は、別紙4の1及び別紙6のとおり、会員貸切バス事業者の平成元年度春季及び秋季の学校遠足向け輸送に係る貸切バスに関する最低運賃等をそれぞれ決定して構成事業者の自由な運賃の設定を拘束することにより、別紙目録記載の限度で、構成事業者の機能又は活動を不当に制限したものであって、これは同法第8条第1項第4号に違反するが、前記第一の四のとおりこの違反行為は既になくなっているところ、特に主文の範囲の措置をする必要性がある(前記第一の四の事実及び審判の全趣旨によれば、被審人は会員貸切バス事業者に対しては報告、通知等の方法により本件各決定を破棄したことを周知徹底したが、大阪府の旅行業者及び一般利用者に対してはこの事実を周知徹底していないことが認められるから、これらの者に対しては、主文第一項掲記の限度で協定破棄の事実を周知徹底する特別の必要性がある、と判断される。)と認める。
また、前記第四における検討の結果によれば、審判開始決定に係る被審人のその余の本件行為については、同法第8条第1項第1号又は同条第1項第4号に違反する事実を認めることはできない。
よって、被審人に対し、独占禁止法第54条第2項、第3項により主文のとおり審決することが相当であると判断する。
平成7年5月30日
公正取引委員会事務局
審判官 成田 喜達
審判官 大録 英一
審判官 森原 征二

別紙目録
一 出発地ゾーン大阪北部
(目的地ゾーン)
京都甲ゾーン(主な観光地を三千院、鞍馬、貴船、高雄、嵐山、城南宮、宇治とするもの)
高等学校、中学校及び小学校
(ただし、小学校については春季に限る。)
Aシーズン
月曜日を除くBシーズン
小学校及び幼稚園
(ただし、小学校については秋季に限る。)
月曜日を除くAシーズン
(目的地ゾーン)
京都乙ゾーン(主な観光地を嵐山、金閣寺、銀閣寺、二条城、清水寺、三千院、桃山城、平等院とするもの)
高等学校、中学校及び小学校
(ただし、小学校については春季に限る。)
月曜日を除くAシーズン
(目的地ゾーン)
奈良
高等学校、中学校及び小学校
(ただし、小学校については春季に限る。)
月曜日を除くAシーズン
(目的地ゾーン)
須磨
高等学校、中学校及び小学校
(ただし、小学校については春季に限る。)
Aシーズン
月曜日を除くBシーズン
小学校及び幼稚園
(ただし、小学校については秋季に限る。)
月曜日を除くAシーズン
二 出発地ゾーン大阪中部
(目的地ゾーン)
奈良
高等学校、中学校及び小学校
(ただし、小学校については春季に限る。)
Aシーズン
(目的地ゾーン)
須磨
高等学校、中学校及び小学校
(ただし、小学校については春季に限る。)
Aシーズン
月曜日を除くBシーズン
小学校及び幼稚園
(ただし、小学校については秋季に限る。)
月曜日を除くAシーズン
三 出発地ゾーン大阪南部
(目的地ゾーン)
須磨
高等学校、中学校及び小学校
(ただし、小学校については春季に限る。)
Aシーズン
参考
平成3年(判)第1号
審判開始決定書
大阪市北区堂島浜2丁目1番25号
中央電気倶楽部4階414号室
被審人 社団法人 大阪バス協会
右代表者 会長 久万 俊二郎
公正取引委員会は、右の者に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反被疑事件につき、審判手続を開始する。
第一 事実
一(一) 被審人社団法人大阪バス協会(以下「協会」という。)は、肩書地に事務所を置き、大阪府の区域を地区とし、地区内において一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業又は特定旅客自動車運送事業(以下これらを「バス事業」という。)を営む者を会員とし、バス事業の経営基盤の強化を図るとともに利用者に対するサービスの改善を促進することによってバス事業の発展を図り、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的として、昭和23年6月14日に設立された社団法人である。
協会の会員数は、平成2年7月1日現在69名であり、このうち一般貸切旅客自動車(以下「貸切バス」という。)の運送事業を営む者は59名であって、これらの者が保有する貸切バスの車両数は、地区内に舞ける貸切バスのほとんどすべてを占めている。
(二) 協会は、総会、理事会を置くほか、協会の事業の円滑な運営を図るため、8つの専門委員会を設置している。その1つである貸切バス委員会は、会員のうち貸切バス40車両以上を保有している貸切バス運送事業者の責任者クラスで構成され、貸切バスの運賃及び料金(以下「運賃等」という。)に関する事項等は、同委員会の分掌事項とされ、同委員会の決定は、事実上、協会の決定とされてきている。
協会は、大阪府を5つのブロックに分け、それぞれ、会員のうち当該ブロック内に事業所を有する貸切バス運送事業者(限定免許を受けている者等13名を除く。以下これを「会員貸切バス事業者」という。)をもってブロック会を組織している。協会は、昭和63年8月以降、貸切バス委員会の下部組織として、このブロック会ごとに選出された者で構成されている貸切バス小委員会(以下「小委員会」という。)を置き、貸切バスの運賃等に関する事項については小委員会に付託し、小委員会での審譲決定をもって貸切バス委員会の決定としている。
(三)貸切バス運送事業を営む者は、貸切バスの運賃等の変更をしようとするときは、道路運送法の規定に基づき認可を受けなければならないこととされている。
なお、貸切バスの運賃は、従来、認可された基準の運賃率によって計算した金額(以下「標準運賃という。)の上下それぞれ10パーセントの範囲内で貸切バス運送事業を営む者が自由に設定できることとされていたが、昭和63年5月24日の認可以降はこれが上下それぞれ15パーセントの範囲内に拡大されている。
二(一) 協会は、かねてから、会員貸切バス事業者の貸切バスの運賃等の低落に歯止めをかけ、かつ、これを引き上げるための方策について検討してきたところ、
イ 昭和63年8月30日、大阪市北区所在の中央電気倶楽部会議室で開催した第1回小委員会において、旅行業者又は会員貸切バス事業者が自ら旅行を主催し旅行者を募集して行うバス旅行(以下「主催旅行」という。)向け輸送の貸切バスの運賃等について検討した結果、貸切バス輸送の需要の多い期間をAシーズン、需要の少ない期間をCシーズン、それ以外の期間をBシーズンとし、各シーズン期間の設定及び各シーズン期間における大型車1両当たりの最低運賃等を別紙1のとおりとし、これを昭和64年(平成元年)4月1日から実施することを決定し、
ロ 次いで、昭和63年10月12日、大阪市天王寺区所在の近畿日本鉄道株式会社近鉄観光バスセンター会議室で開催した第2回小委員会において、旅行業者から主催旅行向け輸送の貸切バスのCシーズン期間における最低運賃等が高すぎるとの反応があったことから、Cシーズン期間における主催旅行向け輸送の大型車1両当たりの運賃を標準運賃の50パーセントから40パーセント(日曜日を含む場合は60パーセントから50パーセント)に修正すること及び第1回小委員会で決定した主催旅行向け輸送のシーズン期間の修正を行い、これを踏まえた主催旅行向け輸送の貸切バスの最低運賃等を別紙2のとおり修正することを決定し、
ハ さらに、昭和63年12月19日、前記所在の中央電気倶楽部会議室で開催した第5回小委員会において、長距離主催旅行向け輸送の貸切バスの運賃等について検討した結果、1運行が900キロメートル以上の主催旅行向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を別紙3のとおりとすることを決定した。
(二) 協会は、平成元年4月24日、前記所在の中央電気倶楽部会議室で開催した第8回小委員会において、幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の遠足向け(以下「学校遠足向け」という。)輸送の貸切バスの運賃等について検討した結果、平成元年度春季の学校遠足向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を別紙4のとおりとすることを決定した。
(三)イ 協会は、平成元年5月19日、大阪市平野区所在の帝産観光バス株式会社大阪支店会議室で開催した第9回小委員会において、主催旅行向け、社会見学・冬山耐寒登山向け及び学校遠足向け各輸送(以下「主催旅行向け輸送等」という。)の貸切バスの運賃等について検討した結果、
(イ) 平成2年度の主催旅行向け輸送の各シーズン期間及び各シーズン期間における大型車1両当たりの最低運賃等を別紙5のとおりとし、これを平成2年5月10日から実施すること
(ロ) 平成元年度冬期の社会見学・冬山耐寒登山向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を45,000円から50,000円までの範囲内とすること
(ハ) 平成元年度秋季の学校遠足向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を別紙6のとおりとすることを決定し、
ロ 次いで、平成元年9月26日、前記所在の中央電気倶楽部会議室で開催した第12回小委員会において冬山耐寒登山向け輸送の貸切バスの運賃等について再検討した結果、平成元年度冬期の冬山耐寒登山向け輸送の大型車1両当たりの最低運賃等を45,000円とすることを決定した。
三 協会は、同協会が行った主催旅行向け輸送等の貸切バスの最低運賃等に係る決定の実効を確保するため、
(一) 前記第5回小委員会において、会員貸切バス事業者から貸切バス委員会委員長あてに、同協会で決定した貸切バスの最低運賃等を遵守する旨の誓約書を提出させることを決定し、
(二) 次いで、前記第9回小委員会において、運送予約の取消し又は低運賃等での運送申込みを受けた会員貸切バス事業者は所属ブロック長を通じて協会に連絡を行い、調査の結果、会員貸切バス事業者が低運賃等で運送した事実が判明した場合には協会が改善を勧告する旨及び旅行業者による低運賃等での募集等の情報を入手した場合は所属ブロック長を通じて協会連絡を行い、必要な場合は、協会が会員貸切バス事業者にその運送引受けをしないように求める旨を内容とする「運送予約取消し等に対処するための申し合せ」を決定し、実施している。
四 しかして、協会は、会員貸切バス事業者の営業担当者会議等において又は所属ブロック長を通じて、前記各決定を会員貸切バス事業者に周知徹底している。
また、協会の会員貸切バス事業者は、前記各決定に基づき、主催旅行向け輸送等の貸切バスの運賃等を旅行業者らと交渉し、収受している。
第二 法令の適用
前記事実の一によれば、協会は、独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ、前記事実の二、三及び四によれば、協会は、会員貸切バス事業者の主催旅行向け輸送等の貸切バスの運賃等を決定することにより、大阪府における主催旅行向け、社会見学・冬山耐寒登山向け及び学校遠足向けの各輸送の貸切バスのそれぞれの取引分野における競争を実質的に制限しているものであって、これは、同法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。
平成3年1月7日
公正取引委員会
委員長 梅澤 節男
委員 伊従 寛
委員 佐藤 徳太郎
委員 宇賀 道郎
委員 佐藤 謙一

※別紙,別表は省略。

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