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(株)協和エクシオによる審決取消請求事件

独禁法3条後段
東京高等裁判所

平成6年(行ケ)第80号

審決取消請求訴訟事件判決

言渡平成8年3月29日交付平成8年3月29日裁判所書記官

東京都港区赤坂4丁目13番13号
原告 株式会社協和エクシオ
右代表者代表取締役 村上 治
右訴訟代理人弁護士 増岡 章三
同 對崎 俊一
同 増岡 研介
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
右代表者委員長 小粥 正巳
右指定代理人 山上 秀明
同 原 敏弘
同 橋本 寿恵光
同 伊藤 敏治
同 宮崎 紀男
同 松山 隆英

東京高等裁判所平成6年(行ケ)第80号 審決取消請求事件
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告に対する公正取引委員会平成3年(判)第4号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、平成6年3月30日にした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因並びに被告の主張に対する反論
1 原告は、各種電気通信設備、電気設備及びこれらの付帯設備の建設、保守等を業とする株式会社である。
2 被告は、原告に対し、平成3年5月8日、独占禁止法48条の2第1項、7条の2に基づき、公正取引委員会平成3年(納)第31号納付命令をもって、金2212万円の課徴金の納付を命じた。
3 原告は、これを不服として、同年同月27日、被告に対し審判手続の開始を請求した。被告は、同年7月9日審判開始決定をし(平成3年(判)第4号)、平成6年3月30日原告に対し課徴金として金2212万円の納付を命ずる旨の別紙のとおりの本件審決をした。
4 しかし、本件審決は以下(一)に述べるとおり認定事実を立証する実質的証拠がなく、かつ、(二)に述べるとおり法令に違反する。
(一) 本件審決は、間接事実によって主要事実である本件基本合意が暗黙の合意として成立したと認定した。しかし、本件基本合意は、それ自体に矛盾を含むものであって存在が疑わしく、また、本件審決が挙げる間接事実も、これらを認めるべき実質的証拠がなく、仮に認められるとしても、これをもって主要事実を推認し得るとするには足りないものである。以下詳論する。
(1) 本件基本合意の主体と合意内容との矛盾
本件審決は、日本電気インフォメーションテクノロジー株式会社(以下「日電インテク」という。)及びいわゆる1級9社(本件審決の引用する審決案(以下単に「審決案」という。)4頁参照。なお、以下においてこれらを総称して「10社」という場合がある。)が本件基本合意の主体であるとし、本件基本合意の内容は、「あらかじめ入札に参加するかぶと会会員の話合いにより当該発注物件を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決めること、受注予定者以外の入札参加会員は、受注予定者が受注できるように協力すること」であるという。しかし、昭和57年10月ころには大興電子通信株式会社(以下「大興電子」という。)が、昭和58年11月ころには株式会社富土通ビジネスシステム(以下「富士通ビジネス」という。)が、それぞれかぶと会に入会しているから、10社すなわちかぶと会会員ではない。そうすると、10社で、10社以外の業者に関する事項をも合意したことになるが、このようなことは通常はあり得ない。また、本件審決は、後に12社に増えたところのかぶと会会員による個々の話合いから遡って本件基本合意を推認し得るとするのであるから、本件基本合意の主体は10社ではなくかぶと会となるはずであり、10社を主体とするのはおかしい。
本件審決は、大興電子及び富士通ビジネスがそれぞれ本件基本合意を了承した上で話合いに参加することとし、かぶと会に入会したと認め、その根拠として査第85号証を挙げている。しかし、これは、この種の業界で会を作ることはすなわち談合を意味するという誤った見解を押し付け、その上で得た供述を録取したものにすぎない。また、本件審決は、昭和58年の三沢基地物件に関する話合いの際に、富士通ビジネスが本件基本合意が存在することを直ちに了解したとするものであるが、同物件に関する話合いにはかぶと会会員でない大和電設工業株式会社(以下「大和電設」という。)も参加していたから、富士通ビジネスとしてそのように了解できるはずもない。他にこの点について証拠の摘示、説明はない。
(2) 本件基本合意を推認し得る事実の存否
イ かぶと会設立の経緯、目的
被告は、本件審決に先立つ課徴金納付命令においては、数回にわたる会合を通じて暗黙の本件基本合意を成立させたとしていたものを、本件審決においては、かぶと会を設立すること等により暗黙の本件基本合意を成立させたと認めた。しかし、同会設立と右の暗黙の合意との関係については、これを表裏一体であると抽象的にいうに過ぎず、暗黙の合意の成立を推認するに足る具体的事実、特に同会設立の経緯を明らかにする具体的、外形的な事実の立証はなく、設立の目的についても、継続的に話合いを行い、信頼関係を形成、維持するために設立する、というものの、これを直接に立証すべき証拠を示していない。
本件審決は、設立の経緯を明らかにする証拠として、池野通建株式会社(以下「池野通建」という。)の増川重雄(以下引用するときは「増川」という。)の供述調書を挙げる。そして、同人は、1級9社がすべてアメリカ合衆国空軍に所属するパキャフ・コントラクティング・センター・ジャパン(以下「契約センター」という。)に業者登録をしたものの、それまで日電インテクの一人舞台であったという状況のもとでは、契約センターが発注する物件について同社と競争して直ちに受注を図れば、契約履行上多大の困難に直面することが予測される上、受注価格の低落を招く等の問題もあるから、それよりも、当面は同社に協力して貸しを作り、将来貸しを返して貰うことにし、そのために継続的に話し合う会を設立することが必要であり、得策であると判断して、同社の松田清に働きかけたものであり、他方で、これを受けた同社も、1級9社の参入により従前の受注価格より相当低い価格での受注を余儀なくされることを危惧していた折でもあり、1級9社と競争して受注価格を下げるよりも協調関係を保持することが必要だと考えたものであると認定している。
確かに査第10号証の増川の供述調書には右認定に沿う部分があるが、同人の内心の事情、認識をいうに止まるものであり、これがそのまま1級9社の認識となるわけではないし、かぶと会の設立の目的、会の性質、さらに本件基本合意の存在を明らかにするというものではない。増川は、審判手続において、会社の経費で担当者が遊ぶ会をつくる目的で同会を設立したと述べており、こちらの方が信用できるし、本件審決も、同会設立にあたって同人から日電インテクの松田に伝えられたのは、情報交換をしたいとか忘年会を開きたいという程度の趣旨に止まっていたとしている。また、本件審決は、同会設立の背景として、1級9社が日本電信電話株式会社(以下当時の名称を用い「電電公社」という。)からの受注の先細りを予想して、同公社との取引以外の分野への業務拡大を希望していたという事情を挙げるが、同公社の民営化が取り沙汰されていた折から、1級9社において同公社以外の発注物件にも取り組んで行こうという傾向にあったと推測することはできるにしても、それはあくまでも風潮に止まり、かぶと会設立の動機と認めるには足りない。他方、日電インテクとしても、新たに業者登録をした他の業者とことさら協調関係を保つ必要があると判断したとも思われない。1級9社が日電インテクと受注競争をすれば価格の低落を招くという懸念があったというが、それは競争すれば価格は下がるという観念を述べるのと異ならず、本件基本合意の存在を推認するに足りる事実とはいえない。
そもそも、1級9社及び日電インテクの相互間には、談合ないしこれに類する取引制限行為を成立させるべき共通の基盤はなかったし、利益を相互に分かち合う関係や一方が他方に貸しを作る関係が成立する余地もなかった。先ず、1級9社は発注者毎に担当者は別であって、たとえ本件審決のいうように各社が電電公社が発注する電気通信設備の工事等について工事業者として同じ立場に立っていたことがあったにしても、そのことが契約センターの発注する本件の各物件の受注に影響するということはない。また、暗黙の基本合意が成立したとされている昭和56年3月以前の段階で、日電インテクは大明電話工業株式会社(以下「大明電話」という。)がすでに受注していた横田基地物件を除くすべての物件を独占的に受注してきた業者であり、他方、1級9社は大明電話を除いて在日アメリカ合衆国軍の通信施設の運用保守業務を経験したことは全くないのみならず、ほとんどの業者にその能力もなかったのであるから、その間に貸し借りの関係が成立することなど考えられない。本件審決は、進んで、10社が昭和55年12月15日かぶと家に忘年会と称して集い、継続的に協調関係、信頼関係を維持するための共通の場として、集りの会を設けることを合意し、さらに、10社の営業担当部課長級の者が昭和56年2月5日かぶと家に集り、同年3月1日かぶと会を発足させたとし、右忘年会の席等の機会に1級9社側の者から、契約センター関係の仕事を受注したい旨、同会自体が受注予定者を決める等して会員を統制することはしない旨を発言したことがあり、日電インテク側の者からも、同社は順番制で仕事を他の業者に回すようなことはしない旨発言する等して、以後契約センター発注物件をどのように受注して行くかについての意見が交わされた、と認めた。しかし、かぶと会は総会と銘打って旅行会やゴルフコンペを催すのを専らとしていたのであり、これには、昭和55年か56年ころに契約センターから指名を受けたのを最後に指名を受けることもなくなった三和大榮電氣興業株式会社(以下『三和大榮」という。)のような業者も参加していた。また、本件審決は現場説明会等が終了した後の飲食の席で話合いがなされたというが、かぶと会がそのような席について費用を負担したことは一度もなく、機会は何であれ、同会の名で受注予定者を決めることに関わる話合いが招集、運営されたことはない。これらのことを総合すれば、同会が、親睦的な意味において協調関係、信頼関係を維持しようとしたことはあったにしても、競争制限行為を維持するための共通の場として設けられたものでないことは明らかであり、この点についての本件審決の認定はこれを立証する実質的証拠を欠くものである。また、1級9社側の者から受注調整に関する発言があったかにいう部分は、発言の機会を特定していない点において不当であるし、かぶと家に限っていえばそのような発言が出たことを示す証拠はない。仮にかぶと会が受注者を決定するなどして統制しないとか、日電インテクも順番制で仕事を回すようなことはしないとかの発言があったとすれば、それらはむしろ同会を通じて本件基本合意が成立した事実がないことを示している。
本件審決は、かぶと会は、被告が在日アメリカ合衆国軍関係の建設工事業者ら及び業者が構成する団体に対する審査を開始したことを知り、それが本件事案にも波及することを恐れて解散したというが、かぶと会はそもそも違法、不当な団体ではなく、誤解を避けるために解散したにすぎない。
ロ 1級9社の受注能力、受注意思
本件審決は、暗黙の本件基本合意並びにこれに基づく話合いが競争制限的性質を有するとしながら、競争関係の前提となる参加各社の受注能力を十分明らかにしていない。
本件各物件は在日アメリカ合衆国軍の軍事施設の運用保守であって、その業務を全うするためには英語に堪能な多数の操作技術者、保守技術者その他の人員の確保が不可欠である。また、施設の運用保守には設備に関する知識も必要となるために、実際に当該施設の設置工事を担当した業者でなければ、業務の遂行そのものが困難である。ところが、1級9社のうち原告、日本コムシス株式会社(以下「日本コムシス」という、)、大明電話を除く6社は、昭和56年当時、線路と土木、又はせいぜいこれに機械を加えたものを事業内容とする業者であって、電話局の運用保守の経験はなかったし、無線局に関しては、1級9社とも全く受注能力を欠いていた。本件審決も、少なくとも右の6社に関しては、電話、マイクロ通信分野のいずれについても、受注能力があったことを確
定していない。
受注能力があると判断された業者にとっても、新たな物件の受注には大きな困難を伴う。審決は、現実には一度も受注したことのない業者でも、実際に業務に携わったことのある下請を利用すれば受注することができるという。しかし、それでは、契約センターに登録した以上は運用保守の能力があるものとみなすというのと同じことである。また、単独で受注する能力のない業者が、競争関係にある他の業者が受注していた物件を、その業者が下請として利用していた系列下の業者をそのまま自らの下請として引き継ぐことによって、新規に受注することなどできるはずがない。本件において唯一の新規受注物件となった昭和56年11月の横須賀・横浜の物件は、たまたま原告にも運用保守ができる日立製交換機に替わり、かつ、設置工事も原告がし、それまで運用保守にあたっていた日電インテクの下請会社が原告の協力会社でもあったという事情にも助けられ、かつ、経営努力もしてはじめて原告が受注できたものであり、しかも大幅な赤字だったのであって、これを一般化することはできない。
本件審決は、先のとおりの背景事情から、1級9社のすべてが、業務の拡大を図る必要を感じていた折から、契約センター発注物件が魅力ある市場だと考え、その結果受注意思をもつに至ったかのごとくいう。しかし、本件審決が根拠として挙げる証拠は、かぶと会会員である業者のうち何社かの担当者が、「1級9社は」として抽象的な供述を繰り返しているにすぎないものであり、会社の方針がどのように決定されたのか、また、それが現場の担当者にどのように指示されたのかなどの点で具体性に欠けるものである。それらは、1級9社においても電電公社以外の発注物件にも取り組んで行こうという当時の風潮を示すものではあっても、具体的に受注意思があったことを明らかにするものではない。
そもそも、各物件の現場はいずれも在日アメリカ合衆国軍の基地内にあり、指定された日時以外に見ることはできないから、それまで当該物件を受注したことのない業者が受注しようと考えるならば、工事内容を理解し、見積書を作成するために現場説明会に技術者を同行することが必要不可欠である。それにもかかわらず、ほとんどの業者は現場説明会に技術者を同行しなかった。
右のとおり日電インテク、大明電話及び原告を除く各社には受注能力がなかったこと、現場説明会等に技術者を全く同行しなかったこと、昭和56年3月から昭和63年6月までの7年間に、契約センターの発注した27物件のうち、熾烈な競争の末に原告が受注した昭和56年11月の横須賀・横浜の物件1つを除いては受注業者に変更がなかったこと、などの客観的な事情に照らせば、入札の方法が採用される以前から各物件を受注していた日電インテク、大明電話及び1件について新規受注した原告を除いては、1級9社の他の入札参加業者には契約センターの発注する物件を受注する意思はなかったというべきである。3社以外の入札参加業者は、入札に参加しておかなければ次から指名を受けられず、対外的評判を失うに至ることもあり得たから、形式的に入札に参加したまでである。また、中には、入札に参加しておけば、自らは受注しなくとも実際に受注した業者の下請として参入することができるのではないかと考えた業者もいた。発注者である契約センターにしても、それまで7年間にわたり受注者の変更のほとんどない状態を容認してきており、入札方式により業者を決めることになったのも、単に形式を整えるためであり、実際には入札によって業者を絞った後、さらにネゴシエーションと称する手続きを経て受注業者を決めていた。
このように、受注能力、受注意思がない業者によって基本合意が成立することなどあり得ないのに、本件審決は、将来の営業の拡大を図るため、異なった分野での仕事を取れる体制、機会を作る必要などから本件基本合意をしたということも考えられるとし、また、話合いに参加した事業者の隠された意図がどうであったかは直接関係がなく、本件基本合意が成立したとの認定を左右しないとしている。これは、憶測に基づいて判断し、あるいは結論を先に決めた上で重要な間接事実を否定する不合理な判断といわざるを得ない。
ハ 個々の話合いの参加者及び内容
本件審決は、右27物件に関する話合いの参加者から遡って、10社により結成されたかぶと会と結び付いた暗黙の本件基本合意を推認するものであるから、単に参加者を特定するだけでは足りず、その参加者が同会会員であるが故に話合いを行ったことを認定することが不可欠である。しかしながら、本件審決は、27の物件のうちほとんどのものについて話合いの主体すら特定していない。
また、本件審決は、右各物件のうち電話局関係で13件、マイクロ関係で8件について日電インテクのほかにかぶと会会員中には積極的に受注を希望する者が存在せず、話合いによって受注予定者を決定するまでもなく同社が受注予定者に決まったことを認めているから、話合いによって受注予定者が決められたといっても6件しかないことになる。しかも、本件審決が具体的に特定しているのは、昭和56年の横須賀・横浜基地物件、昭和59年の横田基地物件、昭和61年の三沢基地物件、同年の横田基地物件に関する話合いのみであり、他の2件ははっきりしない。判明したそれら4件についてさえ個々の話合いによって受注予定者が決められたとはいえず、これらの話合いから遡って本件基本合意が成立したと認めることはできない。
本件審決は、昭和61年の三沢基地物件以外にはかぶと会会員以外の業者が話合いに参加した事実は認められないことに照らすと、1つの業者が他の入札参加者に、眞に受注を希望するかどうかを聞いたということも、受注予定者を決めるための前段階での広い意味での話合いとして、ここにいう話合いに含まれるとまでいうが、それでは話合いによって受注予定者を決めたことにならず、そのように広い意味での話合いから何らかの合意を推認することはできないし、仮にこれを目的とする基本合意が成立したとしても、それ自体として不当な取引制限行為には当たらない。
本件審決は、話合いによって受注予定者となった者は、入札予定額を他の会員に通知し、特定の会員には監査やネゴシエーションを受ける際の対応を依頼し、場合によっては入札関係書類の作成も代わってするなどして、受注への協力を得ていたとする。しかし、入札に参加した多くの会員が受注意思を有せず、ただ形式を整えるために参加していたという実情のもとでは、実際に受注した日電インテクが他の入札参加者に代わって手続書類を作成したなどのことがあったからといって、基本合意の実現としての協力行為とみることはできず、担当者同士の単なる便宜供与の域を出ないものである。
ニ 昭和56年の横須賀・横浜物件
本件審決は、本件基本合意に基づく話合いがなされた例として昭和56年の横須賀・横浜基地物件における入札を挙げ、これを、たまたま右基本合意の趣旨に反し入札予定者を1社に絞ることができなかった事案であると説明しているが、原告が日電インテクとの激しい受注競争をしたのは同年11月である。本件審決が認めるとおり、同年3月ころに本件基本合意が成立していたとすれば、事態はそのような展開にはならず、10社間で何らかの利害調整をして収拾をはかる努力がなされたはずである。しかし、その形跡はない。したがって、そもそも本件基本合意が成立していたとは認められないというべきであるが、仮に成立していたとしても、同年11月の段階では破棄されたものと認めるべきである。
ホ 昭和59年の横田基地物件等3件
個々の話合いから主要事実である本件基本合意を認定するためには、かぶと会の会員のうち何社かがたまたま話合いをしたと認められるだけでは足りず、同会会員であるが故に話合いをした、と認められるのでなければならない。この点でその余の3物件についても次のとおり問題がある。
昭和59年の横田基地物件
本件審決は、昭和59年の横田基地物件の初回入札期限を同年1月17日としながら、話合いがなされたのは同月18日の現場説明会の後であるとする点においてすでに矛盾しているが、この点はおくとしても、本件審決が根拠として掲げる査第53、54号証は、相互に食い違う点が多く、いかなる話合いがなされ、どのようにして受注者が決まったのかという肝心な点については具体性を欠いている。また、大明電話、池野通建及び日本コムシス以外の参加者が不明である。この様な状況にあるから、右物件については、話合いで受注者が決まったという点についてこれを立証する実質的証拠を欠くし、それが暗黙の本件基本合意に基づく話合いによったものであるということもできない。
昭和61年の三沢基地物件
本件審決は、昭和61年の三沢基地物件についての話合いに仙台市の大和電設が参加したと認めている。しかし、同社はかぶと会会員でもなく、また、同会の存在すら知らなかった。そのような参加者を含む話合いから本件基本合意の存在を推認することもできない。
昭和61年の横田基地物件
昭和61年の横田基地物件についての話合いには大明電話以外に大興電子、池野通建及び日本コムシスの3社も参加したが、仮にこれら3社に受注能力があり、かつ、眞に受注する意思があったとしても、それはせいぜいかぶと会設立の5年後に至って受注意思を持つに至ったということを意味するにすぎないし、また、株式会社ジェイコス(以下「ジェイコス」という。)、三和大榮及び10社以外のかぶと会会員であった富士通ビジネスが参加していないことを考えると、話合いに参加した大明電話、大興電子、池野通建及び日本コムシスがたまたま同会会員であったというだけのことであり、同会と結びついた暗黙の本件基本合意を推認させる間接事実とみることはできない。
(3) 結論
本件審決は、かぶと会会員が昭和56年3月から昭和63年6月15日までの間、暗黙の本件基本合意に基づいて継続して話合いをして受注予定者を決めていたとするのであるが、その判断は、本件基本合意があるのだから、それゆえに前段階の話合いと評価できる、とするなど、要証事実である本件基本合意を推認させる間接事実の認定をするといいながら、間接事実を認定する理由として本件基本合意を援用するという本末転倒をしており、結局、全体として、証拠に基づかない認定、判断といわざるを得ない。
問題となる話合いを個別的にみれば、既に除斥期間の経過等により、原告に対して課徴金の納付を命ずることは不可能である。それゆえ、本件審決は、かぶと会の解散時を実行行為の終期、すなわち除斥期間の始期とするために、個々の話合いを同会、暗黙の本件基本合意なるものと結び付けようとしているのである。
(二) 本件審決には次のとおり法令違反がある。
(1) 原告の行為には不当な取引制限となる性質が欠けている。
本件審決がいう暗黙の本件基本合意は、成立したとしても、その内容が具体的でなく、規範性はおろか拘束力もないものであって、その主体とされる業者の大多数が受注能力も受注意思もない業者であったこと、他方で、先に述べたとおり、本件における契約センターの発注方法もいわゆる競争入札とは本質を異にし、入札によっていったん業者を絞り、その後に各業者とのネゴシエーションと称する協議をして受注業者を決めるものであったことからすると、一定の取引分野における競争を実質的に制限したとは考えられない。原告のこのような行為に対し課徴金を課する本件審決は、独占禁止法2条6項、7条の2第1項に違反する。
(2) 除斥期間の経過
仮に本件基本合意が昭和56年3月ころまでに成立したとしても、同年11月の横須賀・横浜物件において、原告と日電インテクが激しく受注を争い、昭和57年4月に原告が受注するに至った経過を考えると、暗黙の本件基本合意は、昭和56年11月の時点、遅くとも昭和57年4月の時点で破棄されたと認めるべきである。そうでなくとも、原告はこれから脱退したと認めるべきである。その後の個別的な話合いの違法性等は本件と関係がない。そうすると、独占禁止法7条の2第6項にいう「実行期間の終了した日」は遅くとも同年4月には到来しているから、平成3年5月8日付をもってなされた本件課徴金納付命令は、除斥期間経過後になされた違法な命令であり、これを是認した本件審決は同項に違反する。
5 よって、本件審決は、同法82条1号、2号により取り消されるべきである。
二 請求原因事実に対する認否並びに被告の主張
1 請求原因事実1は認める。
2 請求原因事実2は認める。
3 請求原因事実3は認める。
4 本件審決が、その基礎となる事実を立証する実質的な証拠を欠き、又は、法令に違反するとの主張を争う。
(一) 本件基本合意が本件審決における主要事実であるとの原告の主張は認める。原告は、右事実に関する本件審決の理由づけが実質的な証拠を欠くものであると主張し、本件審決において証拠に基づいて詳細に検討された点を攻撃するが、いずれも原告独自の証拠判断による見解であり、賛成し難い。以下原告の主張について反論する。
(1) 本件基本合意の主体並びに合意内容が不明であるとの主張について
原告は、本件基本合意の主体並びに合意内容があいまいであり、かつ、相互に矛盾すると主張するが、将来他の事業者が参加することをも念頭において合意が成立し、かつ、その後実際に他の事業者が参加した事実があったとしても、右基本合意の性質、内容は変らない。本件審決は、査第82ないし第85号証、第126号証により、かぶと会会員10社によって本件基本合意が成立し、その後、大興電子及び富士通ビジネスの2社が、それぞれ本件基本合意を了承した上で受注予定者を決める話合いに参加することになったと認定しているのであり、何ら矛盾していない。
(2) 本件基本合意を推認させる事実の存否について
イ かぶと会設立の経緯、目的について
原告は、かぶと会設立に至る事実経過、とりわけ10社の動機について認定した部分を、証拠に基づかないものと非難する。
しかし、1級9社が、それまで日電インテクが大半を受注していた契約センター発注物件を受注する方策として、池野通建の増川を仲介として、日電インテクをも含めた話合いの場を設けようとしたものであること、現実に1級9社が話合いを通じて日電インテクに貸しを作り、やがて見返りを得られると期待していたこと、同社としても、当面は同業他社に仕事を譲る意思がなかったにしても、さらに進んで受注価格の低落をも辞さないとまでは考えず、1級9社と協調関係を維持しようと考えていたことなどの事実は、本件審決が挙げる査第9ないし第11号証、第13号証、第16号証、第31号証、第61号証、第73号証、第115号証等により十分に認められ、かつ、関係者の考え方としても合理的なものである。
また、かぶと会設立の趣旨、目的が10社が円滑に受注できるようにするため、継続的に話し合い、信頼関係を形成し、維持するというものであったこと、しかも、それが競争を制限する効果を有するものであったことは、審決案第2、第3掲記の各証拠、就中、査第9ないし第13号証、第16号証、第17号証、第31号証、第115号証、第127号証により明らかである。
原告は、池野通建の増川個人の考え方がかぶと会会員全員の意見を反映しているとはいえないと主張するけれども、同人の社内における地位(査第10号証)、ジェイコスの冨山から契約センターの通信保守に参入できないかと照会を受けた経緯、その後のかぶと会設立にいたるまでに増川が果たした役割を総合的に観察すれば、同人がどのように考えていたかは、本件基本合意に至る経過を推認させる重要な間接事実である。原告はまた、貸し借りの関係について主張するが、本件審決が認めるとおり、査第9号証、第73号証などによれば、話合いが続くうちに、かぶと会会員の中から、時期をみて他社にも仕事が回るように配慮して貰いたいとの意見が出るようになったことが認められ、貸し借りの考えが同会会員にとっては現実的な意味を有していたことは明らかである。その後も貸し借りの清算がなされなかったのは、経済環境の変化に帰することができるのであって(査第9号証)、右の認定を左右するものではない。
なお、原告は、かぶと会自体が受注予定者を決める等して会員を統制しない旨の1級9社側の者の発言、日電インテク側としては順番制で仕事を回すつもりはない旨の同社側の者の発言をとらえて、それが本件基本合意の成立を否定する事実であるというけれども、査第9号証、第10号証等により十分証明されているとおり、かぶと会は、談合組織であると疑われないように、協調関係、信頼関係を維持するための共通の場とするにとどめ、会自体で受注者を輪番制で決めるなどの統制をしないことに決めたものである。
原告は、かぶと会の名で話合いが招集、運営されたことはないし、話合いの費用が同会から拠出されたこともないと主張するけれども、本件審決は、現場説明会の後などの会合を同会が会として主催したことを前提として本件基本合意を認定しているわけではないから、原告の主張は理由がない。
ロ 1級9社の受注能力、受注意思について
原告は、契約センター発注物件に関するかぶと会会員各社の受注能力を問題とするけれども、各社は、それぞれ最終的には自己の判断に基づき営業の拡大を図るために契約センターに業者登録をしたものであり、仮に、本件基本合意成立時点において、直ちに受注し本件業務を遂行することが技術的能力等からみて無理であったとしても、将来の営業の拡大を図るため、従来と異なった分野での仕事をとれる体制、機会を作る必要などを考慮して本件基本合意に至ったということも考えられるから、本件基本合意成立の時点での受注能力の有無は、本件基本合意の認定に直接影響を及ぼすものではない。
また、かぶと会の解散は、本件基本合意の時点であらかじめその時期が定められていたものではなく、被告公正取引委員会が在日アメリカ合衆国軍関係工事業者ら及びこれらの団体に対する審査を開始したことが新聞等で報じられ、かぶと会会員12社が、右審査が本件事案にも波及することを恐れたという偶発的な事由に基づくものであるから、これを予想しなかった本件基本合意成立の時点において右12社の一部の事業者がいまだ受注能力を備えるに至っていなかったとしても、本件基本合意の認定には影響しないし、右各社による話合いの存在を本件基本合意を推認する間接事実の1つととらえることも不合理ではない。また、会員のうち原告、大明電話及び日本コムシスの3社が電話局、無線局の運用保守についての受注能力を有すること及び日電インテクが受注能力を有することが明らかである以上、受注競争のあったことも疑いがない。
原告は、1級9社が業務拡大の必要を感じ、契約センター発注物件が魅力ある市場であると考えるに至った事情や、それが現場担当者にどの様に伝えられていたのかを会社毎に個別に認定するのでなければならないと主張するが、本件審決の挙げる査第9、10号証、第13号証、第30、31号証、第69号証によれば、各社の営業分野における重要な地位を占める人物がいずれも右のような事情を具体的に供述しているほか、かぶと会の設立経過について自社の上司に対する報告を行っている例のあることも認められ、ことがらが現場の一担当者の思惑にとどまるものでなかったことは明らかである。
なお、1級9社の者から、電電公社の仕事が減少してきているので、契約センター関係の仕事を受注したい旨の意見が出されたのが忘年会の席上であったことを直接に証明する証拠はないが、査第9ないし第12号証、第28号証、第30号証等を合理的に解釈すれば、それが池野通建の増川が昭和55年12月ころ日電インテクの松田清に対して忘年会を開きたいと呼びかけた時期から昭和56年3月1日にかぶと会が発足するまでの間の時期における会合その他の相互通信の折になされたことは容易に認められる。
こうして、本件基本合意に基づく個々の話合いにおいて、その話合いに参加した事業者が、当面は受注意思を持たないものであったとしても、このことが本件基本合意の認定を左右するものではない。契約センター発注物件は、相当程度将来にわたって継続して入札の対象となることが見込まれるものであり、1級9社は、契約センター発注物件に関する技術的能力、同物件に関する知識等に違いがあることを前提にして、それぞれの立場から、自己の判断に基づいて営業を拡大するために業者登録をしたものであり、より長期的な視野から、自己の利益を図るために会員間の話合いで受注予定者を決めることとし、この点で各社の考えが一致していたものである。したがって、本件基本合意成立の時点において、直ちに本件各物件を受注し、その業務を遂行することが技術的能力等からみて無理であるとしても、将来の営業の拡大を図るためには、異なった分野での仕事を取れる体制、機会を作っておく必要があり、そのために本件基本合意をしたということも十分に考えられる。
ハ 個々の話合いの参加者及び内容
査第9、10号証、第12号証、第29、30号証、第33号証、第127号証によれば、同会会員が、かぶと会設立から解散に至るまでの間、話し合って受注予定者を決定することが必要かどうか判断するための前提行為としての話合いを含む広い意味での話合いを行っていたことが認められるし、それらの話合いを通じて、日電インテクにとっては競争することなく自社が受注予定者に決まり、その反面で他の事業者にとってあえて競争することなく同社の受注に協力したという状況が続くなかで、協力した事業者から「貸し借り」の清算がなされていないことについての不満が出た事実は前掲の証拠から認められるから、たとえ他の業者が、日電インテクから受注するかどうかを聞かれた際に、単に受注を希望しないと答えたのみであるとしても、見返りも期待せず、単純にそうしたというものではない。
原告は、話合いが行われ、受注予定者が決まると、受注予定者は他の入札参加者と連絡し合って、監査やネゴシエーションに対する対応などを考慮し、予定者の受注が円滑にできるようにしていたとの本件審決の認定を証拠に基づかない判断であるとして非難するが、この事実は査第30号証等により十分認められるところである。
また、内心において受注意思のない事業者が個々の話合いに参加していたとしても、そのことは他の事業者にはわからないことであり、本件業務が下請業者を利用して遂行することを常態とするものであることからすれば、当初は採算を度外視して落札を求める事業者もあると考えられるところであって、特段の事情のない限り、受注意思のある事業者は他の事業者が受注能力、受注意思があるものと予測して行動すると考えるのが自然である。
以上のところから、個々の話合いは形式的なものにとどまらず、実質を有するものであったことが明らかである。
原告は、話合いに参加した業者の特定が不十分であるともいうが、右の批判は、結局話合いの存在及びその内容に関する証明の程度を問題とするにすぎない。本件基本合意との関係では、話合いが行われたことが認定できれば足り、他の事業者が参加して話合いの趣旨が異なるものになった等の事情が存在しないことまで証明する必要はない。また、話合いにかぶと会会員が全員出席しなければ、当該話合いがかぶと会、さらに本件基本合意に結び付けられないということになるものでもなく、会員の中で入札参加者のみが話合いに出席すれば目的を達し得るし、入札参加者であっても当該物件の受注を希望しない事業者にあってはあえて話合いの場に出席する必要がないことはいうまでもない。
ニ 昭和56年の横須賀・横浜物件
昭和56年の横須賀・横浜物件は、本件基本合意に基づく話合いにも関わらず受注予定者が1社に絞られなかったものであり、本件基本合意と矛盾するものではない。また、他の入札参加者は、日電インテクと原告のいずれかと入札価格について連絡した上で入札に参加し、受注予定者である右2社のいずれかが受注できるように協力したものである。この点は本件審決が挙げる査第38、39号証、第41号証により十分証明される。
ホ 昭和59年の横田基地物件等3件について
原告は、昭和56年の横須賀・横浜基地物件だけでなく、昭和59年の横田基地物件、昭和61年の三沢基地物件、同年の横田基地物件に関する話合い等についても、証拠に基づかない旨、あるいは本件基本合意を推認する間接事実たり得ない旨を主張するが、いずれも理由がない。
昭和59年の横田基地物件
なるほど本件審決は、昭和59年の横田基地物件の初回入札期限である同年1月17日の後に現場説明会及び話合いが行われたような表現をしており、その点で不正確であるが、査第53、54号証によれば、話合いの際の費用について、入札説明と現場説明の後に話合いをし、その後最終的に1社に受注予定者を決める話合いを何度か行っていること、話合いに参加した業者の担当者が入札の数日後に会社に対して費用を請求した事実もあることが認められ、他の話合いの経過と合せるときは、入札の前に話合いが行われたことは明らかであり、審決の認定の基礎となった査第53号証の記載は、費用の請求日にすぎないと理解することができるから、何ら問題がない。
昭和61年の三沢基地物件
本物件については、かぶと会会員でない大和電設が参加しているが、同会会員が本物件を確実に、かつ、受注価格を低落させることなく受注しようとするとき、もし他に本物件の受注を希望する事業者があれば、たとえそれが同会会員でなくとも、当該事業者を説得して自社の受注に協力させようとすることは合理的な判断であり、査第51号証によれば、同会会員は、このようにして大和電設に受注されないように企図して同社を話合いの場に加えたものであることが認められる。大和電設が加わっていたからといって本件基本合意に基づく話合いでなかったことにはならない。
昭和61年の横田基地物件
本物件の受注に際して、大和電設が話合いに加わったことについては前項で述べたとおりで問題がなく、査第58号証によれば、そこで実質的な話合いが行われたことも明らかである。
(3) 結論
原告が結論として述べる主張は争う。
(二) 法令違反の主張について
(1) 不当な取引制限となる性質が欠けているとの主張について
本件基本合意が具体性を有するものであることは本件審決が詳細に説くとおりであり、結果として一部物件において受注予定者を1社に絞るまでに至らなかったことはあるにせよ、話し合いの結果に従って受注予定者以外の事業者が受注予定者の受注が可能になるように協力していたのであって、規範性、拘束力も十分に認められる。また、合意の実効性を確保するために制裁等の定めが置かれなければその合意に規範性、拘束力が認められないわけではない(最高裁判所昭和59年2月24日第1小法廷判決・刑集38巻4号1287頁参照)。
原告は、本件における入札の方法が特殊であると主張するが、本件各物件における発注方法が、価格を中心とする競争によって受注すべき者を決定する仕組であることは本件審決が詳細に判断しているとおりであり、不当な取引制限となる行為がなされたと認めることを何ら妨げない。
(2) 除斥期間が経過しているとの主張について
原告の主張には理由がない。話合いが本件基本合意に基づいてなされたものであり、除斥期間が経過していないことについては、本件審決の掲げる証拠により十分証明されている。
理由
一 請求原因1ないし3項の事実は当事者間に争いがない。
二 まず、原告が本件審決の認定した事実がこれを立証する実質的な証拠を欠くものであることの根拠として挙げる点について順次判断する。
1 本件基本合意の主体と合意内容とが矛盾するとの主張について
原告は、暗黙の本件基本合意が成立したとの本件審決の認定について、その合意を成立させた主体と合意内容に食い違いがあると指摘するけれども、本件審決が認定するのは、かぶと会会員となった10社間には、同会の設立準備の過程において、遅くとも同会設立の日である昭和56年3月1日直前までには本件基本合意が成立し、その後、大興電子及び富士通ビジネスの2社が、それぞれ本件基本合意の趣旨を理解して、同会に参加し、以後受注予定者を決める話合いに加わったという事実であって、予め将来参加する事業者のことを予定して本件基本合意を成立させたとも、あるいは右の2者が参加するようになって初めて本件基本合意が成立したとも認定するものではないから、この間になんら理由の不備、矛盾はない。もっとも、新たに他の参加者が加わることによって当初の合意の趣旨が変わることも考えられないではなく、その場合には新たな合意として別途証拠によりこれを認定する必要があることはいうまでもないが、本件においては、右の2社が本件基本合意の趣旨とは別の思惑をもって話合いに参加したなど、当初の合意の趣旨が変わり、新たな合意が成立したことを窺わせる事情を認めるべき証拠はない。
原告は、昭和58年の三沢基地物件に関する話合いにはかぶと会会員でない大和電設が加わっていたから、右話合いに新たに加わった富士通ビジネスが本件基本合意の存在を了解できたはずがないと主張するが、大和電設を除外して富士通ビジネスのみに対し本件基本合意の存在を伝え、これへの参加を勧誘する機会がなかったとは到底考えられないから、右主張は理由がない。
そして、大興電子が昭和57年10月ころ、富士通ビジネスが昭和58年11月ころ、それぞれかぶと会に入会し、以後契約センター発注物件の受注予定者決定に関し他の会員と同様の行動をとったことは、査第82ないし第85号証、第126号証等の証拠により十分に認められる。原告は、査第85号証の述べるところが審査官から押しつけられた見解であるようにいうけれども、同調書は、富士通ビジネスの社員である杉村が、三沢基地の現場説明会に同行した他の業者の担当者から「何だ、かぶと会を知らなかったのか」と言われたとか、親会社の者にも入会をすすめたところ、逆に業種が異なってだめだと言われたとか詳細な点にわたっており、かぶと会の趣旨目的についてすぐに理解したとの供述部分が審査官の見解の押しつけによるものであると疑わせるような点は認められない。
2 本件基本合意を推認し得る事実の存否について
注文者が競争入札等の競争的方法によって請負人を決定しようとしている場合において、その注文に係る工事又は役務等の取引分野に属する請負業者が、その受注をするに当たり、受注予定者を協議して定める旨の合意をし、又はかかる合意とともに、受注予定者とならない者は受注予定者が受注できるように入札価格等の点で協力することを約する旨の合意をすること(いわゆる受注調整カルテル)は、独占禁止法2条6項、3条、7条の2第1項にいう不当な取引制限に該当する共同行為というべきである。そして、特定の注文者が継起的に発注する工事又は役務等につき、その取引分野に属する請負業者が、受注予定者を協議して定める旨の抽象的・包括的な内容の協定をするとともに、個々の工事又は役務等の受注に当たって、右の協定に基づいて別途協議をして特定の受注予定者を定める旨を約することは、右の抽象的・包括的な内容の協定のみによっては、特定の受注予定者が直ちに定まるものではなく、また、個々の工事又は役務等の受注に当たっての協議において、特定の受注予定者を決定することのできないことがあり得ることを考慮しても、なお右のような目的をもって受注を希望する者の間で話合いをすること自体に相当な競争を制限する効果があるというべきであるから、当該協定は、前記合意に該当するものと解すべきである。
イ かぶと会設立の経緯、目的
原告は、かぶと会が設立された経緯について本件審決の認定した事実は、本件基本合意が暗黙裡に成立したことを推認させるような実質を有せず、また、証拠を欠くものである旨主張する。
しかし、査第9ないし第13号証、第16、17号証、第28号証、第31号証、第36号証、第54号証、第61号証、第69号証、第73号証、第90号証、第96号証、第98号証、第115号証、第127号証等によれば、契約センターは、昭和55年以前から、その電気通信施設(電話回線設備及びマイクロウエーブ通信設備)の運用保守業務を発注するに当たり、アメリカ合衆国連邦法の定めるところにより、初回入札を行い、入札者の中から入札価格が低く、受注適性が比較的高いと思われる者2、3名を選定し、それぞれについて入札価格の積算根拠の監査及び個別的な価格交渉を行った上、再度入札価格を呈示させて、最も低い価格で入札した者に発注する方法(以下「ネゴシエーション方式」という。)をとっていたこと、1級9社のうち大明電話は昭和50年ころから契約センター発注物件のうち横田基地の電話回線設備の運用保守業務を受注していたが、その他の各社も、従来の主要な受注先であった電電公社からの発注の減少が予想された折から、他の方面にも広く顧客を求めたいという希望を有し、昭和55年12月までにはいずれも契約センターに対し受注業者としての登録を終えていたところ、このような気運を見て、同月ころ池野通建の増川が、それまで日電インテクがほとんど独占的に受注していた契約センター発注物件に係る市場に参入し、いささかでも事業拡大に資することを考えて他の各社に呼びかけたのに応じて意見交換を行い、将来を見越して日電インテクを同じテーブルに着かせた上で、受注予定者を話合いによって決めるという実績を積み重ねて行く方針を採ることとしたこと、他方、日電インテクも、それまで競争することなく受注してきたが、新たに契約センターが実質的な競争関係の下に受注者を決定する方針を徹底させようとしていた折でもあり、1級9社の右の意向を察知して、無益な競争により受注価格を低下させる結果となることを避けたいと考えていたこと、このように各社の思惑が合致した結果、各社の受注に関する意思疎通を円滑にし、かつ、各社担当者の親睦を図る目的でかぶと会が設立されたものであることを認めることができる。
もっとも、かぶと会そのものの会合において本件基本合意が成立したものと認めるに足りる証拠はなく、また、個々の物件の受注予定者決定のための話合いについては、そのような話合いを発議する者が同会の役員ではなかったこと、個々の話合いに参加するのは、当該物件に関心のある業者のみで、同会の会員全員ではなかったことに加え、これら会合の費用は原則として受注予定者に決まった業者が負担していたこと(査第38号証、第40号証、第42、43号証、第46号証、第53号証、第61ないし第63号証、第65号証、第70号証等)などからみて、これを同会そのものの会合とみるべきものとは思われないが、前記のような同会設立の経緯に加えて、同会の発足後に個々の契約センター物件の受注についての話合いないしその前段階としての受注意思の事前打診や受注予定者に対する初回入札以後の段階での協力がなされるようになり、同会解散後はこれらが行われなくなったこと及び右話合い等が原則として同会会員の間でされていたこと(査第9、10号証、第12、13号証、第29ないし第34号証、第49号証、第61号証、第69号証、第90号証、第114、115号証、第127号証等)に照らせば、同会の設立目的が前記のようなもので、その設立は本件基本合意の成立を認定する上で有力な間接事実であるということができ、このことと、同会が親睦的な性質を有することとはなんら矛盾するものではない。
なお、査第102、103号証によれば、1級9社のうち三和大榮については、将来においても果して自ら受注する意欲を有していたのかどうか明確でなく、付合いとしてかぶと会に参加したにすぎないともみられるが、右は同社の内部事情の問題であり、対外的には同社も他の各社と同一歩調をとって行動していたのであるから、右の点から直ちに同社の立場を他の各社と異なるものとみるのは相当でない。
参考人内田源也、同原田洋雄、同増川重雄、同冨山浩邦の審判手続における供述中には、かぶと会設立の目的がもっばら会員相互の親睦にあるとか、従前作成された供述調書中の会設立の趣旨等に関わる部分は眞意を伝えていないとかいう部分があるが、これについての当裁判所の判断は、本件審決の判断(審決案24頁、25頁)と同じであり、審判手続における前記各供述はにわかに採用することができない。
原告はまた、日電インクと他の1級9社のそれまでの受注実績からして、受注に関し、右各社の間に増川の考えたような貸し借りの関係が成立する余地はないと主張するけれども、査第10、11号証、第13号証、第115号証によれば、1級9社側の者は、競争入札となれば、結局入札額が相対的に低くなる傾向を招き、やがて業者全体にとっても好ましくない事態に至るおそれがあるが、そのことはとりもなおさず、日電インテクにとっても、受注に成功したところで相当に低い額で請け負わざるを得ないことを意味するから、同社もこのような事態を避けたい考えであるに違いないと判断しており、話合いの実績を作ることによって同社に利益を与えておき、いずれは見返りを得ることができると期待したこと、同社の側も、話合いに応ずることで円満に受注することができ、相応の差益を取得できると考えたことが認められる。また、査第9号証、第11号証、第13号証、第31号証、第57、第58号証、第60号証、第73号証等によれば、かぶと会会員の各社は話合いによって受注予定者を決定する方式を繰り返してきたものの、結果的には昭和57年以降の横田基地物件(大明電話)、昭和56年以降の横須賀・横浜基地物件(原告)以外はすべて日電インテクが受注していたため、次第に受注実績のない会員の中から、これら会員にもなんらかの形で仕事が得られるようにして貰いたいとの不満が出るようになったこと、同社としても、当面は独占的受注を継続することができるであろうが、いずれは他社から受注予定者を自分たちにも回してくれとの要求が出てくるであろうと予想していたことが認められ、このことは、話合いを始めるに当たって、参加者が受注協力に対する実質的な見返りを具体的に期待していたことを示すものであり、日電インテクと1級9社との間でその点について著しく理解を異にしたことを窺わせる証拠はない。1級9社側の者が、かぶと会自体で受注予定者を決めることはしない意向を示し(査第9、10号証)、日電インテクの担当者も、順番制で仕事を回すつもりはない旨を明らかにした(査第11号証)という事実も、かぶと会結成の目的が競争回避に存しないことを示すものではなく、各社の技術力等の格差や個々の発注物件に対する受注意欲の程度等を考慮しつつ、物件ごとに個別的に競争回避のあり方を決定して行く方式を採ることを表現したものと理解することができる。なお、前掲証拠によれば、実際には貸し借りの関係が清算されるに至らなかったことが認められるが、査第9号証によれば、それには、かぶと会設立後の経済情勢(円高及び国内経済の好況)により契約センター物件に対する各社の受注意欲が低下したことが多分に影響しているものと認められるから、これによって本件基本合意の存在に関する認定の当否が左右されるものではない。
査第11号証中には、日電インテクとしては、話合いの機会があれば他の受注希望者の状況を一々さぐる必要もなくなり、便宜であるし、他社に日電インテクの立場を理解してもらえば、安んじて自社の相当と考える価格で入札できるからかぶと会に参加することにしたが、話合いによって自発的に受注を遠慮するつもりは全くなく、どうしても理解してもらえなければ競争入札となることもやむを得ないと考えていたと明言する部分があり、同人の考え方を前提とすれば、話合いによって受注予定者を決めることは、日電インテクが譲る気持ちがない以上客観的には不可能であったとみることもできないではない。しかし、右は同人ないし同社の内心の問題にすぎないから、これによって本件基本合意が有効に成立することが妨げられるものではない。なお、同社としても、さしあたり話合いで受注予定者を決定することにより、落札価格をある程度の水準に保つことができる利益があると考えていたことは前記のとおりである。
ロ 1級9社の受注能力、受注意思について
原告は、1級9社の受注能力が確定されていないのに本件基本合意が成立したというのは不当である、そもそも現場説明会に技術者を同行した業者がほとんどいなかったという事実に照らしても、大半の業者には受注する意思など初めからなかったというべきであると主張する。
なるほど、被告の指摘するとおり、かぶと会は、予めその存続期間が定められておらず、本件に対する被告の審査開始という偶発的な事由に促された結果解散に至ったものであるという事情はあるにせよ、同会設立当時に同会の会員に客観的に本件各物件を受注する能力がなく、かつ、解散に至るまでの7年の間に、その受注能力になんらの変化もなかったとすれば、それにもかかわらず本件基本合意が成立したとは考えられないとの原告の主張も理解できないではない。
しかしながら、そもそも本件審決は、かぶと会成立当時の状況では、1級9社にとっては、その技術的能力、入札対象物件に対する知識等からみて、直ちに日電インテクと競争をして受注することには困難があり、かつ、無理を押して受注すれば受注価格の低落を招くおそれがあったから、長期的視野のもとに、当面は協調して同社に受注させ、これを「貸し」として、将来はそれを返して貰う形で受注できると考えていたと認めたものであり(この認定が是認できることは前記のとおりである。)、客観的にはかぶと会会員の多くにとって従来から受注している業者を排除して自ら直ちに受注する条件は整っていなかったことを前提としているものである。そして、査第9、10号証、第13号証、第31ないし第33号証、第69号証、第114号証によれば、1級9社が契約センターに業者として登録したのは、それぞれに思惑(将来の営業の拡大を図るため、従来と異なった分野での受注の機会を作ることや、そのような受注に対応できる態勢を整備することなど)を持ってのことであり、その多くは、いずれは自ら受注したいとのもくろみを抱いてかぶと会に参集し、入札にも応じたものと認められる(もっとも、三和大榮については、その受注意思に問題のあることは前記のとおりである。)。しかも、仮に客観的には本件基本合意が成立した時点においては、運用保守の業務を受注することができない状態にある業者がいたとしても、その思惑を当然には知り得ない他社としては、契約センター発注物件が金額も大きく、継続性もあり、仕事として相当魅力があると考えられていた(査第13号証、第69号証)状況にあり、このような状況のもとでは、そこに受注競争の発生の可能性があると認め、互いに、他社がその程度に差はあれ、単独で又は別の会社と協力して受注する能力を備えているかも知れないと予測して臨むほかないわけである。査第115号証によれば、実際にも、1級9社が相次いで業者登録をしたことに対し、日電インテクの側でも競争激化による受注価格の低下の危険を予想し、受注調整を図る必要があると考えていたことが認められる。また、原告の主張するとおり、実際には従前から受注していない会社は現場説明会に技術者を同行しない例が多かったとしても、それは当該物件に関する限り、その会社が受注意欲をもたなかったことを意味するにとどまるというべきであるし、一応入札説明会や現場説明会に顔を見せていることは、状況いかんで次の機会には受注意思を固めてくる可能性を示すものとも考えられ、そうであるからこそ、実際にも、受注意思の強い者、本件では多くの場合に日電インテクは、現場説明会等に参加した会員らに対し、常になんらかの形で意見の聴取を行い、その意向の打診を怠らなかったものと考えられる。なお、受注実績のない会社が受注意欲を高めるに至らなかったことについては、経済事情の影響もあったことは前記のとおりである。しかも、査第9号証、査第126号証等によれば、日電インテクのほかに、原告、大明電話及び日本コムシスの3社もマイクロウエーブ通信設備及び電話回線設備の運用保守についての受注能力を有していたことは明らかであり、このように、現実に複数のかぶと会会員について受注能力のあることが認められる限り、本件基本合意成立の基盤となり得る受注競争関係があったというのを妨げないというべきである。
ハ 個々の話合いの参加者及び内容
原告は、本件審決の事実認定が個々の話合いにおける参加者の特定を欠いている点を非難するが、少なくとも会員相互の間で実質的な話合いが行われたと審決で具体的に認定されている4件(すなわち、昭和56年の横須賀・横浜基地、昭和59年の横田基地、昭和61年の三沢基地、同年の横田基地の各電話回線の運用保守義務)については話合いの当事者は特定されている(審決案34ないし36頁)のであり、かつ、右各物件について審決で認定された業者間で話合いが行われたことは、それぞれにつき本件審決の挙示する証拠によりこれを認定することができる。また、そのほかの受注意思の打診のみで終った場合についても、後記のとおり個々の発注物件に関心を示し、現場説明会に参加するなどした会員の間で受注意思の打診が行われたものであるところ、右意向打診の事実が本件基本合意の存在を推認する上で有する意味が後記のようなものであることにも照らせば、右以上に意向打診の当事者が特定されなければこれを本件基本合意の存在を推定する根拠となしえないものということはできない。
また原告は、本件審決において個々の話合いが行われたことが具体的に認定されているのは4件にすぎず、これらから遡って本件基本合意の存在を認めることはできないと主張する。しかし、現実に話合いが行われたのが4件にすぎないとしても、そのほかの物件についても、その都度現場説明会等の機会にかぶと会の会員が会合し、受注希望の有無の打診が行われたが、従前からの当該設備の受注者以外に受注を希望する者がなかったため話合いに入らずに終ったものであることは査第61号証、第70号証、第127号証等によって明らかであるから、同会会員の間では契約センター発注の全物件について話合いを行う体制が継続的に維持されていたものであり、この事実は本件基本合意の存在を推定する有力な根拠ということができる。
なお、原告は、受注予定者以外の者の協力を、そもそもそれらの者ははじめから受注意思がなかったのであるから、本件基本合意の立証との関係では意味を持たないようにいうけれども、その前提において理由のないことは先に判断したとおりである。
ニ 昭和56年の横須賀・横浜物件について
原告の主張は、昭和56年3月にかぶと会が設立され、本件基本合意が成立したのであれば、同年11月に早くも原告と日電インテクとが熾烈な受注のための争いをするというのはいかにもつじつまがあわず、また、仮に右合意が成立していたとしても、同年11月の時点、遅くとも原告の受注が決まった昭和57年4月の時点で破棄されたとみるべきである、というものである。
しかし、かぶと会設立当時における10社の本件各物件に関わる業務の遂行能力にはかなりの格差があり、それに応じて個別の物件に対する受注意欲の程度もさまざまであったところから、機械的に受注の順番を割り振るという方法が採られなかったことは前記のとおりであるが、その当然の結果として、たまたま受注意欲の強い業者が複数現れるときには、その間の思惑の食違いから種々の駆け引きが行われ、それでも調整が着かなければ拘束関係がないままの状態で入札手続に移らざるを得ないことも起こり得る。そのような事態が予想され、また実際に生じたからといって、話合いによって受注予定者を決めようとする基本的合意が無意味なものとなるわけでないことはいうまでもなく、入札手続の前に話合いが行われたこと自体が重要であるし、競争者が2社に絞られることによってある程度の調整的効果はあったとみることもできる。査第9号証、第38ないし第41号証、第58号証、第73号証によれば、原告の挙げる物件の受注に際しても、まず入札意欲をもつかぶと会会員の間で働きかけがあり、意見交換が行われたが、やがて日電インテクと原告との意見の調整が着かないことになって、2社以外の会員は右話合いの結果に則り、2社のいずれかが受注できるよう協力したものであること、その他の物件、とりわけ原告がその後も受注することになった横須賀・横浜の物件についても会員による話合いが継続して行われたこと、さらに、受注実績のない会員から不満の出た昭和61年3月4日の大興電子における話合いにおいて、原告の担当者が出席し、今後は受注していない会員にも配慮して行きたいとの趣旨を述べていることが認められるところであって、これらの事実からも、原告を含む各社が話合いを有意義であると認め、昭和56年11月当時においてこれを破棄、中止することなど全く考えてはいなかったということができる。また、その当時、原告から会員各社に対して、以後の話合いには一切関わるつもりがないなどの意思が、どのような形にもせよ表明され、他の会員においてこれを了解したような事情を窺わせる証拠はない。
ホ 昭和59年の横田基地物件等3件について
昭和59年の横田基地物件
原告は、査第53、54号証の内容が矛盾しているとして批判するが、現場説明会およびこれに続いてされた話合いの時期については、第1回入札期限が昭和59年1月17日であることに照らせば、査第53号証の初めの部分にあるとおり、昭和58年12月中旬であったと認めるのが相当である。同号証中には「昭和59年の1月18日が正しいと思います。」との記載があるが、それは、単に、同号証に添付されている個別管理費元帳中の「58・1・18」という記入日付の記載は「59・1・18」とすべきところを誤記したものと思われるという供述者の供述を録取したものにすぎず、同人が現場説明会の時期を昭和59年1月18日と述べた趣旨を録取したものではないと認めることができる。したがって、本件審決が右現場説明会及び話合いの時期を昭和59年1月18日としたのは事実誤認であるが、これによって本件における主要事実である本件基本合意の同一性が左右されるものではないから、右事実誤認は本件審決を取り消すべき事由とはならない。なお、査第53号証と査第54号証とでは、現場説明会、話合いの時期及び場所が食い違っているが、これは日時の経過による記憶違いによるものとみることができ、査第53号証により訂正された日時、場所の点は別として、話合いの経緯の大要を査第54号証に記載されたところに拠った本件審決の認定は首肯することができる。
昭和61年の三沢基地物件
昭和61年の三沢基地物件についての話合いに仙台の大和電設が参加したことは例外的事象にすぎないから、本件話合いが本件基本合意に基づくものであるとの認定の妨げにはならないというべきである。
昭和61年の横田基地物件
原告は、右物件についての話合いはかぶと会設立から5年も後のことであるから、話合いに加わった者が同会会員であったとしても、それは偶然そうであったにすぎないというのであるが、右主張は、同会設立後、契約センター発注物件の入札ごとに受注意思の事前打診ないし話合いが継続して行われて来たという事情を無視するものであって、失当である。
3 結論
以上によれば、本件基本合意の成立を認めた本件審決の認定は、間接事実の認定に関しても、間接事実から主要事実を推認する過程に関しても、実質的証拠を欠くものではなく、この点の原告の主張は失当である。
三 次に、原告が、本件審決に法令違反があると主張する点について判断する。
1 原告の行為には不当な取引制限となる性質が欠けているとの主張について
本件基本合意の趣旨及びこれに参加した各社の思惑については先に判断したとおりであり、とくに話合いをして受注予定者を決めることが、実際の契約額の水準を落とさないという意味において10社全体の利益に適うものであったところから、10社がかぶと会会員となって話合いの体制を維持したものであることも明らかである。また、本件基本合意は制裁規定などを伴うものではなかったものの、規範性を有していたと認められるし、十分に拘束的なものであったということができる。原告の指摘する昭和56年の横須賀・横浜基地の物件についても、日電インテクと原告とは、話合いに利益を感ずればこそ最後まで話合いを重ねたものと考えられる。
原告は、本件各物件について、契約方法が特殊であり、その内容が発注者側の有利に決定される性質を有するから、本件基本合意はそもそも競争制限の性質を有しないとも主張するけれども、査第7ないし第9号証、第13号証、第30号証、第97、98号証、第115号証等によれば、契約センターにおいては、昭和43年頃から、それまで随意契約によって発注していた物件を次第にネゴシエーション方式によることに改め、昭和54年以降はほとんどの物件がこの方式によって発注されるようになったが、同方式による場合には、できるだけ価格競争を反映すべき方針が定められていたことが認められるから、右方式のもとにおいても、入札に応じた者同士の間の価格競争関係は維持されていたということができる(査第8号証によれば、競争関係にある業者は、受注者が決まった後に受注額に関する通知を受けることが認められる。)。なお、査第40号証によれば、昭和56年の横須賀・横浜基地物件についても、日電インテクは原告の強い受注意思に直面して、予定より15パーセント程度低い額をもって入札せざるを得なかった事実を認めることができる。
2 除斥期間が経過しているとの主張について
原告は、昭和56年11月の横須賀・横浜物件の受注競争が行われた段階、遅くとも原告が入札した昭和57年4月の段階で、本件基本合意は破棄され、すでに除斥期間が経過していると主張するが、右の当時において原告が本件基本合意を破棄、中止することなど考えてはいなかったこと、原告からかぶと会の他の会員に対して、以後は話合いには参加しないなどの意思を明らかにしたような事情が見当たらないことはさきに認定したとおりである(査第67号証も、解散に至るまで原告がかぶと会の会員として話合いに参加する意思であったことを認めている。)。そして、本件における個々の話合いは、成立した1個の本件基本合意に基づいて継続してなされたものであり、個々の話合いについて除斥期間が経過しているかどうかを問うべきものでないことはいうまでもない。原告のこの点の主張は理由がない。
四 以上のとおり、本件審決の認定した事実は、これを立証する実質的証拠に欠け、また、右事実から主要事実を推認することは許されず、かつまた本件審決が法令に違反するとの原告の主張はいずれも理由がなく、本件審決の取消しを求める原告の請求は失当として棄却を免れない。
よって、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3特別部

平成8年3月29日

裁判長裁判官 加茂 紀久男
裁判官 柴田 保幸
裁判官 伊藤 紘基
裁判官 曽我 大三郎
裁判官 三村 晶子

(別紙 審決略)

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