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独禁法8条1項4号
平成11年(勧)第24号
東京都江東区千石1丁目9番28号
社団法人教科書協会
右代表者 理事 丁子 惇
公正取引委員会は、平成11年10月8日、右の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ、右の者がこれを応諾したので、同条第4項の規定に基づき、次のとおり当該勧告と同趣旨の審決をする。
主文
一 社団法人教科書協会は、会員が発行する予定の小学校用、中学校用及び高等学校用の教科書について、会員にそのページ数、本文ページ数に占める色刷りページ数の割合等を記入した教科書体様届と称する届出書を提出させるなど、当該教科書の規格が、同協会が決定した編集・製作上の標準的な規格に適合しているか否かを調査し、同規格に適合していない教科書を発行しようとする会員に対し、同規格に適合するように当該教科書の規格を変更するよう要請し、当該教科書の規格を変更させている行為を取りやめなければならない。
二 社団法人教科書協会は、前記の標準的な規格は教科書の編集・製作上の単なる参考となるものであって、会員の自主的な編集・製作活動を制限するものではないことを確認しなければならない。
三 社団法人教科書協会は、前二項に基づいて採った措置を会員に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については、あらかじめ、当委員会の承認を受けなければならない。
四 社団法人教科書協会は、今後、第一項と同様の方法により、会員の自主的な教科書の編集・製作活動を制限する行為を行ってはならない。
五 社団法人教科書協会は、前各項に基づいて採った措置を速やかに当委員会に報告しなければならない。
事実
当委員会が認定した事実は、次のとおりである。
一1 社団法人教科書協会(以下「教科書協会」という。)は、肩書地に事務所を置き、検定教科書の発行会社を会員とし、検定教科書の質的向上と教科書発行事業の合理化に関する調査研究を行うなどして学校教育の充実発展に寄与することを目的として、昭和28年3月14日に設立された社団法人であり、会員数は、平成11年9月1日現在、55名である。
2 教科書協会は、意思決定機関として定款上定められている理事会等のほか、教科書の検定制度、編集・製作上の規格等に関わる事項を検討するための検定専門委員会及び教科書協会の事務を行わせるための事務局を設置している。
3 教科書協会の会員は、我が国で発行される小学校用、中学校用及び高等学校用の教科書(以下「教科書」という。)のほとんどすべてを供給している。
二1 教科書協会は、かねてから、教科及び種目ごとに教科書の編集・製作上の標準的な規格を理事会において決めてきたところ、平成元年3月15日に改正された学習指導要領(平成元年文部省告示第24号、第25号及び第26号)に基づく教科書について、教科及び種目ごとに教科書のページ数、本文ページ数に占める色刷りページ数の割合(以下「色刷り度数」という。)、折り込みページ数等の編集・製作上の標準的な規格(以下「体様のめやす」という。)を、小学校用教科書については同年5月26日ころ、中学校用教科書については同年9月22日ころ、高等学校用教科書については同年12月22日ころに開催した理事会においてそれぞれ決定し、小学校用教科書についての体様のめやすを記載した「小学校教科書の体様のめやす」と題する文書を平成元年6月23日付け、中学校用教科書についての体様のめやすを記載した「中学校教科書の体様のめやす」と題する文書を同年10月23日付け、高等学校用教科書についての体様のめやすを記載した「高等学校教科書の体様のめやす」と題する文書を平成2年5月23日付けで、それぞれ、郵送するなどの方法により、会員に周知した。
2 教科書協会は、教科書の編集・製作上の規格面での競争を回避する観点から、毎年、会員が発行する予定の教科書について、会員にそのページ数、色刷り度数等を記入した教科書体様届と称する届出書を提出させるなど、当該教科書の規格が体様のめやすに適合しているか否かを調査し、体様のめやすに適合していない教科書を発行しようとする会員に対し、体様のめやすに適合するように当該教科書の規格を変更するよう要請し、当該教科書の規格を変更させている。その状況について、教科書協会は、毎年、理事会において、検定専門委員会を担当する理事(以下「担当理事」という。)から報告を受け、了承している。
3 前記2の行為について具体的に示すと、次のとおりである。
(一) 教科書協会は、東京都千代田区神田神保町所在の会員が平成9年度に発行する予定の中学校用地図帳(以下「中学校用地図帳」という。)の折り込みページ数が体様のめやすで定められた折り込みページ数を超過していたため、事務局から同会員に対し、体様のめやすに適合するように折り込みページ数を削減するよう要請したが、同会員がこれに応じず、更に検定専門委員会と同会員との間で話合いを行ったが、話合いは平行線のまま推移した。このため、教科書協会は、同会員に対し担当理事及び検定専門委員会委員長の連名による平成7年12月6日付けの文書をもって、体様のめやすに適合するように中学校用地図帳の折り込みページ数を削減するよう要請したところ、同会員は、同年12月15日ころに教科書協会の会議室で開催された理事会において、これを受け入れる旨回答した。
その結果、同会員は、教科書協会の要請に従い、中学校用地図帳の折り込みページ数を削減することとし、当初、中学校用地図帳を利用する生徒にとって地理的関係の理解が容易になるであろうとして折り込みを行うこととしていた部分の一部について、折り込みを行うことを取りやめて、中学校用地図帳を発行した。
(二) 教科書協会は、東京都千代田区九段北所在の会員が平成11年度に発行する予定の高等学校用数学教科書(以下「高等学校用数学教科書」という。)の色刷り度数が体様のめやすで定められた色刷り度数を超過していたため、事務局から同会員に対し、高等学校用数学教科書の色刷り度数が体様のめやすに適合するように色刷りページ数を削減するよう要請した。
その後、教科書協会は、同会員に対し、検定専門委員会委員長名による平成9年7月8日付け文書をもって、高等学校用数学教科書の色刷り度数が体様のめやすに適合するように色刷りページ数を削減するよう具体的に数字を示して要請したが、同会員がこれに応じず、更に検定専門委員会と同会員との間で話合いを行った。しかし、話合いは平行線のまま推移し、最終的に、同年9月11日ころ、教科書協会の応接室において担当理事が同会員の代表取締役社長と話合いを行った結果、同社長は、体様のめやすで定められた色刷り度数に近づけるよう努力する旨回答した。
教科書協会は、同年9月19日ころに教科書協会の会議室で開催された理事会において、担当理事から、右経緯について報告を受けた。
同会員は、教科書協会の要請に沿って、高等学校用数学教科書の色刷り度数を体様のめやすで定められた色刷り度数に近づけることとし、平成9年10月16日付けの文書をもって、高等学校用数学教科書の色刷りページ数を削減する旨を具体的な数字を示して、検定専門委員会委員長に報告した。
その結果、同会員は、当初、高等学校用数学教科書を利用する生徒にとって当該教科書の内容をより理解しやすいものにするために色刷りをすることとしていた部分の一部について、色刷りをすることを取りやめて、高等学校用数学教科書を発行した。
三 教科書協会の前記二2及び3の行為により、会員は、おおむね、体様のめやすに従って教科書を編集・製作している。
法令の適用
右の事実に法令を適用した結果は、次のとおりである。
教科書協会は、独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ、会員が発行する予定の教科書について、当該教科書の規格が、教科書協会が決定した体様のめやすに適合しているか否かを調査し、体様のめやすに適合していない教科書を発行しようとする会員に対し、体様のめやすに適合するように当該教科書の規格を変更するよう要請し、当該教科書の規格を変更させることにより、会員の自主的な教科書の編集・製作活動を制限しているものであり、これは、構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって、独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反するものである。
よって、主文のとおり審決する。
平成11年11月2日
委員長 根來 泰周
委員 柴田 章平
委員 糸田 省吾
委員 黒河内 久美
委員 本間 忠良