公正取引委員会審決等データベース

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三菱電機ビルテクノサービス(株)に対する件

独禁法19条15項

平成14年(勧)第7号

勧告審決

東京都千代田区大手町二丁目6番2号
三菱電機ビルテクノサービス株式会社
同代表者 代表取締役 寺園 成宏

公正取引委員会は,平成14年6月11日,上記の者に対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,上記の者がこれを応諾したので,同条第4項の規定に基づき,次のとおり当該勧告と同趣旨の審決をする。

主文
1 三菱電機ビルテクノサービス株式会社は,三菱電機株式会社の製造に係る昇降機(エレベーター,エスカレーター及び小荷物専用昇降機をいう。)の所有者,管理者等から委託を受けて同昇降機の保守業務を行う独立系保守業者(昇降機の保守業務を行う事業者のうち昇降機メーカー及び昇降機メーカーが子会社として設立した者以外の者をいう。)に対して,同昇降機の保守用部品を供給するに当たり
(1) 納入し得る部品があり,遅滞なく納入できるにもかかわらず,原則として部品製造業者等へ発注した場合に要する納期により納入する
(2) 合理的理由なく,自社と保守契約を締結している顧客向けの販売価格を著しく上回る価格により販売する
ことにより,前記独立系保守業者と同昇降機の所有者,管理者等との保守の取引を不当に妨害している行為を取りやめなければならない。
2 三菱電機ビルテクノサービス株式会社は,今後,前項の行為と同様の行為を行わないよう「未契約昇降機への部品販売等に関する取扱い」と題する社内文書の規定のうち
(1) 納期は,原則として,受注後部品製造業者等へ発注することを前提に対応する
(2) 販売価格は,部品製造業者等からの自社の購入価格の3倍とする
旨を規定した条項を削除しなければならない。
3 三菱電機ビルテクノサービス株式会社は,次の事項を前記昇降機の所有者,管理者等から委託を受けて同昇降機の保守業務を行う前記独立系保守業者に通知するとともに,自己の従業員に周知徹底させなければならない。この通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
(1) 前2項に基づいて採った措置
(2) 今後,第1項の行為と同様の行為を行わない旨
4 三菱電機ビルテクノサービス株式会社は,今後,第1項の行為と同様の行為により,前記昇降機の所有者,管理者等から委託を受けて同昇降機の保守業務を行う前記独立系保守業者と同昇降機の所有者,管理者等との保守の取引を不当に妨害してはならない。
5 三菱電機ビルテクノサービス株式会社は,前各項に基づいて採った措置を速やかに当委員会に報告しなければならない。

事実
当委員会が認定した事実は,次のとおりである。
1(1) 三菱電機ビルテクノサービス株式会社(以下「三菱ビルテクノ」という。)は,肩書地に本店を置き,昇降機(エレベーター,エスカレーター及び小荷物専用昇降機をいう。以下同じ。)の保守業,昇降機専用の取替部品の販売業等を営む者である。
(2)ア 昇降機は,耐用年数が長いことから,経年変化による構造機能の低下がないようにするために,常時,当該昇降機の機能,性能及び安全性を確保するべく,適切に保守することが必要であり,また,昇降機の所有者,管理者等(以下「所有者等」という。)は,建築基準法等の関係法令に基づき,所有し,又は管理する昇降機を適切な状態に維持するよう努めることとされている。
イ 昇降機の所有者等は,通常,昇降機の保守業を営む者(以下「保守業者」という。)との間で保守契約を締結して,昇降機の保守業務を委託している。
ウ 前記イの保守契約には,フルメンテナンス契約(以下「FM契約」という。)及びパーツ・オイル・グリース契約(いわゆる点検契約。以下「POG契約」という。)の2種類があり,FM契約は,給油,調整,清掃,部品取替えを含む定期点検,機能維持のための修理工事等の一連の保守業務を行うことを内容とするものであり,POG契約は,点検,給油,調整,清掃,若干の消耗品の交換及びオイル類の補充を行うこと(部品取替え,オイルの交換等は別途料金を徴収する。)を内容とするものである。昇降機の機能維持のために部品取替え又は修理工事を行った場合,これらに要する費用は,FM契約では保守業者が,POG契約では所有者等がそれぞれ負担することとなる。
エ 昇降機の構成部品は,昇降機メーカー又は昇降機の機種ごとに仕様が異なる設計となっているものが多いことから,昇降機を適切に保守するためには,昇降機メーカー等が製造する当該昇降機専用の取替部品(以下「保守用部品」という。)を必要とすることが多く,特に,昇降機の制御機構に用いられる基板等の重要部品に不具合が生じた場合には,昇降機メーカー等が製造する保守用部品との取替えが必要不可欠とされている。
オ 昇降機は中高層の建物等における昇降の手段として不可欠なものとなっており,故障等が発生した場合,保守業者は建物等の所有者等から迅速な修理を求められている。
(3)ア 昇降機の保守取引の大部分については,当該昇降機を製造した昇降機メーカー自ら又は昇降機メーカーが子会社として設立した保守業者(以下「メーカー系保守業者」という。)が昇降機の所有者等と保守契約を締結しているが,一部については,メーカー系保守業者以外の保守業者(以下「独立系保守業者」という。)が所有者等と保守契約を締結している。
イ 昇降機メーカー及びメーカー系保守業者は,自社又は親会社たる昇降機メーカーの製造に係る昇降機のみを対象として保守業務を行い,他の昇降機メーカーが製造する昇降機については積極的な保守業務の受注活動を行っていない状況にある。
ウ 独立系保守業者は,そのほとんどが,複数の昇降機メーカーの昇降機の保守業務を行っており,特定地域において保守業務を行う中小規模の事業者である。また,独立系保守業者は,メーカー系保守業者と比べて低廉な料金により昇降機の所有者等と保守契約を締結しており,当該契約は,保守料金が低額であるPOG契約によるものが多い状況にある。
(4)ア 三菱ビルテクノは,昇降機等の製造販売を行っている三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)が全額出資により設立したメーカー系保守業者であり,三菱電機が製造する昇降機(以下「三菱電機製昇降機」という。)の大部分の保守業務を行っており,我が国における昇降機保守の市場において第1位の地位を占めている。三菱ビルテクノは,三菱電機製昇降機の保守用部品の販売を行っており,三菱電機製昇降機専用に製造された保守用部品について,一元的に国内に供給しており,当該保守用部品は三菱ビルテクノ以外からは入手できない状況にある。
イ 三菱ビルテクノは,保守用部品について,同部品の製造業者等に発注してから自社に納品されるまでに要する標準的な日数(以下「標準納期」という。)を定めている。
ウ 三菱ビルテクノは,自社と保守契約を締結している顧客(以下「自社の保守契約顧客」という。)向け保守用部品の販売価格について,同部品の製造業者等からの購入価格の約2倍とする旨定めている。
エ 三菱ビルテクノは,保守用部品のうち,継続して使用が見込まれるもの,緊急性が高いものなどについて,自社の物流センター,資材センター等において計画的に在庫として保有し,自社の保守契約顧客等に供給している。
オ 三菱ビルテクノは,平成9年3月14日,自社の事業活動における諸業務の基本となる考え方や標準的な手順・方法など業務運営に関する取扱いについて定めた「営業・生産・技術運営ノート」と題する社内文書を作成し,これを同社の各支社,支店,営業所等(以下「各支社等」という。)に通知し,各支社等は同社内文書に基づいて業務を運営している。
2(1) 三菱ビルテクノは,かねてから,三菱電機製昇降機の保守は自社が行うべきものとの考えに基づき業務を行ってきたところ,平成7年ころから,独立系保守業者の台頭等により,同昇降機の所有者等との保守契約率(同昇降機の国内設置台数に占める三菱ビルテクノの保守契約台数の割合)の低下及び自社の保守契約料金の低下傾向がみられるようになったことにかんがみ,保守契約率の維持及び向上並びに保守契約料金の低下防止を目的とするマーケットシェアキープ活動(以下「MSK」という。)と称する活動を業務運営の基本方針として,全社的な取組を開始し,各支社にMSKの推進者を置いて,この者を中心に,保守契約の解約等の防止及び独立系保守業者からの契約奪回を図るため,MSK対策商品と称する低価格の保守商品の開発及び販売,迅速な部品確保ができることなど自社の保守業務の優位性を主張する各種パンフレット類の配布等を実施している。
(2)ア 三菱ビルテクノは,前記2(1)の状況の下,かねてから,保守用部品の供給に関して,自社の保守契約顧客向けと独立系保守業者向けとで取扱いに差異を設けていたところ,平成10年4月28日に前記「営業・生産・技術運営ノート」の一部である「未契約昇降機への部品販売等に関する取扱い」と題する社内文書を改定し,三菱ビルテクノとの間で保守契約を締結していない顧客(独立系保守業者を含む。)への保守用部品の販売について
(ア) 納期は,原則として,受注後部品製造業者等へ発注することを前提に対応する
(イ) 販売価格は,部品製造業者等からの自社の購入価格の3倍とする
旨等の指針を規定し,MSKの推進者が各支社等における同指針の遵守徹底を行うこととし,これらの内容を各支社等に通知した。
イ 三菱ビルテクノは,各支社等において,前記2(2)アの指針に基づき,次のとおり独立系保守業者に対する保守用部品の販売を行っている。
(ア) 独立系保守業者から受注した保守用部品を在庫として保有し独立系保守業者に対しても在庫の中から納入している場合など,標準納期より短期間に納入し得る場合であっても,原則として標準納期である60日,120日等を納期として納入している。
(イ) 独立系保守業者に対する保守用部品の販売に当たっては,同部品の自社の購入価格の多寡にかかわらず,一律に自社の保守契約顧客向け販売価格の約1.5倍に相当する購入価格の3倍の価格で販売している。
(3) 三菱ビルテクノの前記2(2)イの行為を例示すると次のとおりである。
ア 新潟県に本店を置く独立系保守業者は,平成11年2月ころ,保守契約先である同県内の商業施設の三菱電機製エスカレーターが一時的に停止する故障が発生したため,三菱ビルテクノ北陸支社に対し保守用部品である基板を注文したところ,これに対し,同支社は,受注してから約20日後に,当該部品の販売価格を自社の購入価格の3倍である約20万円とし,また,当該部品の納期を自社の標準納期である80日後とする旨回答した。その後,同支社は,当該部品の社内手配を行い,2週間程度で同支社資材センターに入荷したものの,直ちには納品せず,また,上記独立系保守業者からの再三にわたる督促を受けたにもかかわらず,入荷後約3週間を経過してから同独立系保守業者に納品し,受注から納品までに約70日を要する対応をした。
上記独立系保守業者は,当該エスカレーターの管理者から当該部品を調達できないことを理由に,当該部品が納品される約2週間前に保守契約の解除の通知を受けた。その後,三菱ビルテクノ新潟営業所は,上記管理者と当該エスカレーターの保守契約を締結した。
イ 長崎県に本店を置く独立系保守業者は,平成12年5月ころ,保守契約先である同県内のホテルの三菱電機製エレベーターが故障により停止したため,三菱ビルテクノ長崎支店に対し保守用部品である基板等を注文したところ,これに対し,同支店は,当該部品の納期を自社の標準納期である120日後と回答した。その翌日,同支店は,当該エレベーターの所有者からの緊急対応依頼に対し当該依頼に応じる条件として保守契約を自社に変更するよう申し出たところ,同所有者から当該申出について前向きな回答を得たことから,在庫として保有していた当該部品を取り寄せ,翌々日当該エレベーターの修理工事を行い,復旧させた。この際,上記独立系保守業者は,当該部品代金(三菱ビルテクノの購入価格の3倍である約86万円)を含めた前記修理工事の費用である約122万円を負担している。
上記独立系保守業者は,平成12年5月末日をもって上記所有者から当該エレベーターの保守契約を解除された。その後,三菱ビルテクノ長崎支店は,上記所有者と当該エレベーターの保守契約を締結した。
ウ 北海道に本店を置く独立系保守業者は,平成11年9月ころ,保守契約先である道内のホテルの三菱電機製エレベーターが基板故障により停止したため,三菱ビルテクノ北海道支社に対し緊急修理を依頼したところ,これに対し,同支社は,所有者等からの依頼でないことを理由に断る一方で,当該エレベーターの管理者からの緊急修理依頼に対し当該依頼に応じる条件として保守契約を自社に変更するよう申し出たところ,同管理者から当該申出を拒否された。その翌々日,同支社は,上記独立系保守業者から保守用部品である基板の見積依頼を受け,当該部品の販売価格を自社の購入価格の3倍である約70万円とし,また,納期を自社の標準納期である90日後と回答した際,同独立系保守業者から当該部品を至急納品するよう依頼を受けたことから,改めて納期を30日後と回答した。しかし,翌日,上記独立系保守業者が,三菱電機北海道支社に対し当該部品の早急な納品を求めて強く抗議したため,三菱ビルテクノ北海道支社は数日後当該部品を納品した。
エ 東京都に本店を置く独立系保守業者は,平成12年4月ころ,保守契約先である都内の専門学校の三菱電機製エレベーターの押しボタンスイッチが破損したため,三菱ビルテクノ東京東支社に対し保守用部品である押しボタンスイッチを注文したところ,これに対し,同支社は,当該部品の自社の標準納期が60日であることから2か月後を納品予定日として当該部品の社内手配を行った。同支社は,当該部品の在庫があったことから受注後1か月以内に入荷し引渡し可能であったにもかかわらず,直ちには納品せず,上記納品予定日以後に上記独立系保守業者に納品した。
(4) 三菱ビルテクノの前記2(2)及び(3)の行為により,独立系保守業者は,三菱電機製昇降機の保守業務を迅速かつ低廉に行うことが困難となっており,このため,同昇降機の保守契約を解除され,又は保守用部品の調達能力に関する信用を失うことなどにより,同昇降機の所有者等との同昇降機についての保守契約の締結及び維持並びに保守業務の円滑な遂行が妨げられている。

法令の適用
上記の事実に法令を適用した結果は,次のとおりである。
三菱ビルテクノは,自己と三菱電機製昇降機の保守分野において競争関係にある独立系保守業者と同昇降機の所有者等との取引を不当に妨害しているものであって,これは,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第15項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって,主文のとおり審決する。

平成14年7月26日

委員長  根來泰周
委員  本間忠良
委員  小林惇
委員  柴田愛子
委員  三谷紘

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